第Ⅱ章 リンパ腫
- 悪性リンパ腫 総論
わが国における悪性リンパ腫の新規罹患者数は,2011 年で24,778 人とされている。罹患率は,1985 年,1995 年,2005 年,2011 年で人口10 万人あたりそれぞれ5.5 人,8.9 人,13.3 人,19.4 人と,年々増加傾向にある。男女比は約3:2 と男性に多く,70 歳代が発症のピークである1)。
組織学的にホジキンリンパ腫(Hodgkin lymphoma:HL)と非ホジキンリンパ腫(non Hodgkin lymphoma:NHL)に大別されるが大半がNHL であり,わが国におけるHL の頻度は全悪性リンパ腫のうち5〜10%程度とされている。
1.診断・治療方針決定に必要な事項
1)病歴
問診により,既往症,治療中の疾患,合併症,初発症状,症状の出現時期,全身症状(発熱,体重減少,盗汗など)の有無,必要があれば出生地を記録する。
2)身体所見
診察により以下の所見を記録する。
- 身長,体重,体温,血圧,脈拍
- Performance Status
- 貧血,黄疸の有無,皮疹の有無,胸部・腹部の聴診・打診,腫大リンパ節の有無〔有りの場合,部位(リンパ節領域名,左右),個数,サイズ,性状(硬さ,可動性の有無など)〕,触知可能な肝腫大・脾腫大の有無,浮腫の有無
- 運動神経麻痺・異常知覚・髄膜刺激症状の有無
3)一般検査
以下の検査を行う。
- 末梢血血球算定,血液像(白血球数,好中球数,リンパ球数,腫瘍細胞数,赤血球数,ヘモグロビン値,血小板数)
- 生化学検査(TP,Alb,ALT,AST,LDH,ALP,γ-GTP,Na,K,Cl,Ca,P,BUN,Cr,FBS,UA)
- 血清学的検査(CRP,IgG,IgA,IgM,蛋白分画,可溶性IL-2R,β2 ミクログロブリン)
- ウイルス検査(HBs 抗原,HBs 抗体,HBc 抗体,HCV 抗体,HIV 抗体,HTLV-1 抗体)
- 尿検査(糖,蛋白,潜血,沈渣)
- 画像・その他の検査〔胸部X 線検査,十二誘導心電図,頸部・胸部・腹部・骨盤Computed Tomography(CT),(必要に応じ)上部・下部消化管内視鏡,骨髄穿刺・生検,心エコー,必要時にはPositron Emission Tomography(PET),頭部CT・Magnetic Resonance Imaging(MRI),髄液検査,動脈血ガス分析〕
4)病理組織診断
悪性リンパ腫の診断のためには生検による病理組織検査は必須であり,治療前に適切な病変より生検を行う。鼠径リンパ節や腋窩リンパ節は反応性腫大をきたすこと,腋窩や鼠径部では血管や神経の損傷,感染症などの合併症のリスクがあることなどから,全身にリンパ節腫脹が認められる場合には,生検部位の選択は鎖骨上,頸部,腋窩,鼠径リンパ節の順に考慮することが望ましい。開放生検が困難な場合を除いて,針生検のみの病理組織検査は診断には不十分であることが多い。
生検により得られた検体はホルマリン固定パラフィンブロックから薄切標本を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色を行う。その他にも以下のような免疫組織化学検査や,EBER in situ hybridization を行う。
- CD45
- 細胞質内CD3ε,CD5
- CD20,CD79a,CD10,免疫グロブリン(細胞質内免疫グロブリン)
- CD56
- CD15,CD30,cyclin D1,BCL2,BCL6,MIB1(Ki-67),IRF4/MUM1,MYC など
5)その他の検査
可能な限り検体より細胞を分離し,以下の検査を行う。
- フローサイトメトリー
- 染色体分析
- 遺伝子解析
- fluorescent in situ hybridization(BCL2, BCL6, MYC, CCND1, MALT1 など)
2.病型分類
悪性リンパ腫の分類としては,WHO 分類(2017)が広く用いられている。悪性リンパ腫が含まれるリンパ系腫瘍は以下の通りに分類されている2, 3)。
成熟B 細胞腫瘍
慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫(Chronic lymphocytic leukemia/small lymphocytic lymphoma)
単クローン性B 細胞リンパ球増加症(Monoclonal B-cell lymphocytosis)
B 細胞前リンパ球性白血病(B-cell prolymphocytic leukemia)
脾辺縁帯リンパ腫(Splenic marginal zone lymphoma)
有毛細胞白血病(Hairy cell leukemia)
脾B 細胞リンパ腫/白血病・分類不能型(Splenic B-cell lymphoma/leukemia, unclassifiable)
脾びまん性赤脾髄小型B 細胞リンパ腫(Splenic diffuse red pulp small B-cell lymphoma)
有毛細胞白血病・バリアント型(Hairly cell leukemia-variant)
リンパ形質細胞性リンパ腫(Lymphoplasmacytic lymphoma)
意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)・IgM 型(Monoclonal gammopathy of undetermined significance, IgM)
μ重鎖病(μheavy chain disease)
λ重鎖病(λheavy chain disease)
α重鎖病(αheavy chain disease)
形質細胞骨髄腫(Plasma cell myeloma)
骨孤在性形質細胞腫(Solitary plasmacytoma of bone)
骨外性形質細胞腫(Extraosseous plasmacytoma)
単クローン性免疫グロブリン沈着病(Monoclonal immunoglobulin deposition disease)
粘膜関連リンパ組織型節外性辺縁帯リンパ腫(MALT リンパ腫)(Extranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue)
節性辺縁帯リンパ腫(Nodal marginal zone lymphoma)
濾胞性リンパ腫(Follicular lymphoma)
小児型濾胞性リンパ腫(Pediatric type follicular lymphoma)
IRF4 再構成を伴う大細胞型B 細胞リンパ腫(Large B-cell lymphoma with IRF4 rearrangement)
原発性皮膚濾胞中心リンパ腫(Primary cutaneous follicle center lymphoma)
マントル細胞リンパ腫(Mantle cell lymphoma)
びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫・非特定型(Diffuse large B-cell lymphoma, NOS)
T 細胞/組織球豊富型大細胞型B 細胞リンパ腫(T-cell/histiocyte-rich large B-cell lymphoma)
原発性中枢神経系びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(Primary DLBCL of the central nervous system)
原発性皮膚びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫・下肢型(Primary cutaneous DLBCL, leg type)
EBV 陽性びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫・非特定型(EBV positive DLBCL, NOS)
EBV 陽性粘膜皮膚潰瘍(EBV positive mucocutaneous ulcer)
慢性炎症関連びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL associated with chronic inflammation)
リンパ腫様肉芽腫症(Lymphomatoid granulomatosis)
原発性縦隔(胸腺)大細胞型B 細胞リンパ腫(Primary mediastinal[thymic]large-B cell lymphoma)
血管内大細胞型B 細胞リンパ腫(Intravascular large B-cell lymphoma)
ALK 陽性大細胞型B 細胞リンパ腫(ALK positive LBCL)
形質芽球性リンパ腫(Plasmablastic lymphoma)
原発性体腔液リンパ腫(Primary effusion lymphoma)
HHV8 陽性びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫・非特異型(HHV8 positive DLBCL, NOS)
バーキットリンパ腫(Burkitt lymphoma)
11q 異常を伴うバーキット様リンパ腫(Burkitt-like lymphoma with 11q aberration)
MYC およびBCL2 とBCL6 の両方か一方の再構成伴う高悪性度B 細胞リンパ腫(High-grade B-cell lymphoma, with MYC and BCL2 and/or BCL6 rearrangement)
高悪性度B 細胞リンパ腫・非特異型(High-grade B-cell lymphoma, NOS)
びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫と古典的ホジキンリンパ腫の中間的特徴を伴うB 細胞リンパ腫・分類不能型(B-cell lymphoma, unclassifiable, with features intermediate between DLBCL and classical Hodgkin lymphoma)
成熟T 細胞およびNK 細胞腫瘍
T 細胞前リンパ球性白血病(T-cell prolymphocytic leukemia)
T 細胞大型顆粒リンパ球性白血病(T-cell large granular lymphocytic leukemia)
慢性NK 細胞リンパ増殖異常症Chronic lymphoproliferative disorder of NK-cells)
急速進行性NK 細胞白血病(Aggressive NK-cell leukemia)
小児全身性EBV 陽性T 細胞リンパ腫(Systemic EBV positive T-cell lymphoma of childhood)
種痘様水疱症様リンパ増殖異常症(Hydroa vacciniforme-like lymphoproliferative disorder)
成人T 細胞白血病/リンパ腫(Adult T-cell leukemia/lymphoma)
節外性NK/T 細胞リンパ腫・鼻型(Extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type)
腸症関連T 細胞リンパ腫(Enteropathy-associated T-cell lymphoma)
単形性上皮向性腸管T 細胞リンパ腫(Monomorphic epitheliotropic intestinal T-cell lymphoma)
胃腸管緩徐進行性T 細胞リンパ増殖異常症(Indolent T-cell lymphoproliferative disorder of the GI tract)
肝脾T 細胞リンパ腫(Hepatosplenic T-cell lymphoma)
皮下脂肪組織炎様T 細胞リンパ腫(Subcutaneous panniculitis-like T-cell lymphoma)
菌状息肉症(Mycosis fungoides)
セザリー症候群(Sézary syndrome)
原発性皮膚CD30 陽性T 細胞リンパ増殖異常症(Primary cutaneous CD30 positive T-cell lymphoproliferative disorders)
リンパ腫様丘疹症(Lymphomatoid papulosis)
原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫(Primary cutaneous anaplastic large cell lymphoma)
原発性皮膚γδT 細胞リンパ腫(Primary cutaneous gamma-delta T-cell lymphoma)
原発性皮膚CD8 陽性急速進行性表皮向性細胞傷害性T 細胞リンパ腫(Primary cutaneous CD8 positive aggressive epidermotropic cytotoxic T-cell lymphoma)
原発性皮膚先端型CD8 陽性T 細胞リンパ腫(Primary cutaneous acral CD8 positive T-cell lymphoma)
原発性皮膚CD4 陽性小型/中型T 細胞リンパ増殖性症(Primary cutaneous CD4 positive small/medium T-cell lymphoproliferative disorder)
末梢性T 細胞リンパ腫・非特定型(Peripheral T-cell lymphoma, NOS)
血管免疫芽球性T 細胞リンパ腫(Angioimmunoblastic T-cell lymphoma)
濾胞T 細胞リンパ腫(Follicular T-cell lymphoma)
濾胞ヘルパーT 細胞形質を伴う節性末梢性T 細胞リンパ腫(Nodal peripheral T-cell lymphoma with TFH phenotype)
未分化大細胞リンパ腫・ALK 陽性型(Anaplastic large cell lymphoma, ALK positive)
未分化大細胞リンパ腫・ALK 陰性型(Anaplastic large cell lymphoma, ALK negative)
乳房インプラント関連未分化大細胞リンパ腫(Breast implant-associated anaplastic large-cell lymphoma)
ホジキンリンパ腫
結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫(Nodular lymphocyte predominant Hodgkin lymphoma)
古典的ホジキンリンパ腫(Classical Hodgkin lymphoma)
結節性硬化型(Nodular sclerosis)
混合細胞型(Mixed cellularity)
リンパ球豊富型(Lymphocyte-rich)
リンパ球減少型(Lymphocyte depletion)
3.臨床分類
1982 年に提唱されたWorking Formulation 分類では,病型分類の他にNHL の自然史に基づき,無治療での予後が年単位で進行する低悪性度,月単位で進行する中悪性度,週単位で進行する高悪性度というように悪性度による分類がなされた。1989 年にはアメリカのNational Cancer Institute より,悪性度による分類に加えて疾患の悪性度,活動性や侵攻性といったaggressiveness の程度を考慮し,低悪性度をインドレント リンパ腫(indolent lymphoma),中悪性度をアグレッシブ リンパ腫(aggressive lymphoma),高悪性度を高度アグレッシブ リンパ腫(highly aggressive lymphoma)に分類した臨床分類が提唱され,この分類が臨床試験で広く用いられてきた。WHO 分類における病型を臨床分類に対応させると,概ね以下の通りとなる4)。
インドレント リンパ腫
B 細胞
慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫
リンパ形質細胞性リンパ腫
脾辺縁帯リンパ腫
粘膜関連リンパ組織型節外性辺縁帯リンパ腫(MALT リンパ腫)
節性辺縁帯リンパ腫
濾胞性リンパ腫
マントル細胞リンパ腫
T 細胞
T 細胞大型顆粒リンパ球性白血病
成人T 細胞白血病/リンパ腫(くすぶり型,慢性型の一部)
菌状息肉症/セザリー症候群
原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫
アグレッシブ リンパ腫
B 細胞
びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫
T 細胞
末梢性T 細胞リンパ腫・非特定型
腸症関連T 細胞リンパ腫
未分化大細胞リンパ腫
肝脾T 細胞リンパ腫
成人T 細胞白血病/リンパ腫(急性型,リンパ腫型,慢性型の一部)
節外性NK/T 細胞リンパ腫・鼻型
血管免疫芽球性T 細胞リンパ腫
高度アグレッシブ リンパ腫
B 細胞
バーキットリンパ腫/白血病
T 細胞
急速進行性NK 細胞白血病
4.病期分類
悪性リンパ腫の病変の広がりは治療選択,予後予測に大きく影響するため,病期を正確に把握することは極めて重要である。悪性リンパ腫の基本的な病期決定には,病歴と理学所見,血球算定・血液像,生化学検査,胸部X 線検査,頸部・胸部・腹部・骨盤CT,(必要に応じ)上部・下部消化管内視鏡,骨髄穿刺または生検にて行う。
かつては悪性リンパ腫の病期診断にガリウムシンチが用いられていたが,近年,PET-CT が感度,特異度とも優っていることより,ガリウムシンチに代わる検査となった。FDG uptake の程度は悪性リンパ腫の組織型により異なるため,FDG-PET を治療の効果判定に用いる場合には,より正確な判定のために可能であれば治療前の病期診断時にもFDG-PET を行い,病変の意義を評価しておくことが望ましい。
悪性リンパ腫に対する病期分類は,HL に対して開発されたAnn Arbor 分類5)がNHL に対しても用いられているが,2014 年に普遍的かつ曖昧さのない病期分類の作成を目的に,Ann Arbor 分類の修正版であるLugano 分類(2014)が国際悪性リンパ腫会議で作成された6)。Lugano 分類(2014)では,FDG 高集積の悪性リンパ腫で治療の効果判定にPET-CT を用いる場合には治療前にPET-CT を行って病期を決定する,NHL ではA,B の全身症状を記載しなくてもよい,HL とびまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫ではPET-CT を行った場合は骨髄生検を行わなくてもよいとされている。
消化管原発の悪性リンパ腫は節外病変が主病変であるため,Ann Arbor 分類では病期の進展と乖離することが多い。よって,消化管原発の悪性リンパ腫では,Ann Arbor 分類に加えて国際悪性リンパ腫会議で作成された,消化管原発悪性リンパ腫のLugano 病期分類(1994)7)が用いられている。
5.予後因子
悪性リンパ腫は,その組織型により低悪性度,中〜高悪性度と大きく2 つの予後グループに分けられる。組織学的な予後の分類の他にも,分子遺伝学的な区別や,病期や全身状態などの患者個々の状態によるさまざまな因子が知られている。アグレッシブ リンパ腫における予後予測モデルとしては国際予後指標(International Prognostic Index:IPI)8)が用いられている。近年,リツキシマブ時代のびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫に対する予後指標としてNational Comprehensive Cancer Network:NCCN-IPI が提唱されている9)。濾胞性リンパ腫では濾胞性リンパ腫国際予後指標(Follicular Lymphoma International Prognostic Index:FLIPI)10),進行期のホジキンリンパ腫に対しては国際予後スコア(International Prognostic Score:IPS)11)が用いられている。
アグレッシブ リンパ腫
IPI,年齢調整IPI とも予後因子の数によって以下の4 つのリスクグループに分類する。
- IPI
予後因子0 または1:低リスク(Low risk)
予後因子2:低中間リスク(Low-Intermediate risk)
予後因子3:高中間リスク(High-Intermediate risk)
予後因子4 または5:高リスク(High risk) - 年齢調整IPI
予後因子0:低リスク(Low risk)
予後因子1:低中間リスク(Low-Intermediate risk)
予後因子2:高中間リスク(High-Intermediate risk)
予後因子3:高リスク(High risk)※年齢調整IPI は,自家造血幹細胞移植のように,若年者のみで高齢者は対象とならない治療や,高齢者のみを対象とした治療の臨床研究への適応に用いられている。
びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫
スコアによって以下の4 つのリスクグループに分類する。
スコア0 または1:低リスク(Low risk)
スコア2 または3:低中間リスク(Low-Intermediate risk)
スコア4 または5:高中間リスク(High-Intermediate risk)
スコア6 以上:高リスク(High risk)
濾胞性リンパ腫
予後因子の数により,以下の3 つのリスクグループに分類する。
予後因子数0 または1:低リスク(Low risk)
予後因子2:中間リスク(Intermediate risk)
予後因子3 以上:高リスク(High risk)
FLIPI は,リツキシマブ(R)が導入される以前の時代の,後方視的な検討に基づいて作成された全生存期間の予後予測モデルであった。その後,R 時代に行われた前方視的試験の対象を基に無増悪生存期間の予測モデルとしてFLIPI2 が作成された12)。
予後因子の数により,以下の3 つのリスクグループに分類する。
予後因子数0:低リスク(Low risk)
予後因子1 または2:中間リスク(Intermediate risk)
予後因子3 以上:高リスク(High risk)
進行期ホジキンリンパ腫
予後因子の数がIPS と定義されている。
6.効果判定規準
悪性リンパ腫に対する治療の効果判定には,1999 年に公表された「NHL の効果判定規準の標準化国際ワークショップレポート」13)が広く用いられている。効果判定には通常はCT が用いられるが,近年のFDG-PET の普及度と有用性を示唆する検討結果を受けて,びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫とHL の効果判定にFDG-PET を導入した「改訂版NHL の効果判定規準の標準化国際ワークショップレポート」が2007 年に公表された14)。これらの効果判定規準は臨床試験の評価を国際的に統一する目的で作成されたものであるが,FDG-PET を用いた効果判定はCT のみで行う効果判定よりもその後の予後との相関がよい15)ため,日常診療における治療の効果判定にも有用である。PET-CT を用いた効果判定では5 ポイントスケールによる評価が推奨されている16)。
7.治療後のフォローアップ
治療後の追跡・評価の方法は,病型や,臨床試験のもとの診療か日常診療かなどにより異なる。血球算定,生化学検査や画像検査を適切に行い,注意深い病歴の聴取や診察を行うことが,適切な臨床的な判断に重要である。
フォローアップの頻度,期間に関する明確な指標を示すエビデンスは存在しないが,ホジキンリンパ腫や治癒の可能性があるアグレッシブ リンパ腫では,完全奏効が得られた場合は治療後の2 年間は2〜3 カ月毎,その後は最低でも3〜6 カ月毎の追跡を3 年間は行うことが推奨される。治癒が困難と考えられるインドレント リンパ腫では,治療後の1 年間は2〜3 カ月,その後は3〜6 カ月毎の追跡が推奨される。
悪性リンパ腫の再発は,8 割以上が臨床症状の出現により発見されるとされている17, 18)。定期的にCT を行うことで臨床症状が出現する前に再発が発見される場合もあるが,早期発見が予後改善につながるかは明確ではない19)。よって定期的なCT によるフォローアップは,コストを含めた患者利益を十分に検討した上で行うことが望ましい。定期的なPET によるフォローアップは有用性を示す根拠はなく,推奨されない20-23)。
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- 1 濾胞性リンパ腫
(follicular lymphoma:FL)
(follicular lymphoma:FL)
総論
濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma:FL)は,非ホジキンリンパ腫全体の10〜20%を占める,代表的なインドレント(低悪性度)B 細胞リンパ腫である1)。日本でのFL の罹患数は,最近増加しつつある2)。FL は,病理組織学的にグレード1, 2, 3A, 3B に分類されるが,グレード3B は,通常,アグレッシブ(中・高悪性度)リンパ腫として治療される。ほとんどの患者がリンパ節(LN)腫大をきたして診断に至るが,診断時70〜85%の患者が臨床病期Ⅲ・Ⅳの進行期であり,骨髄浸潤を高率に認める。最近,消化管あるいは皮膚に限局する節外性FL が注目されているが,本ガイドラインでは節性FL を主な対象とする。FL では,一般的に経過が緩徐であり,かつ当初は化学療法感受性が良好である。しかし,FL の患者では再発を繰り返すのが一般的で,その傾向は進行期において顕著である。リツキシマブ(R)導入後の解析では,5 年間で10%程度の患者がアグレッシブリンパ腫への組織学的形質転換(histologic transformation)をきたす。R 導入以前のデータではFL の患者の50%生存期間は7〜10 年とされていたが,最近の報告では診断時40 歳以下の患者においては50%生存期間が20 年を超えるとされている3)。
FL における病期分類はAnn Arbor 分類が用いられる。FL に特化した予後予測モデルとして,濾胞性リンパ腫国際予後指標(Follicular Lymphoma International Prognostic Index:FLIPI)4)とFLIPI2 がある5)(悪性リンパ腫・総論参照)。未治療の進行期FL の患者の一部では,診断後ただちに治療を開始せず,FL による臓器障害や症状をきたすまで無治療で経過観察を行う,watch fulwaiting がしばしば選択される。国内外の臨床試験で,個々の患者での治療開始(あるいはwatchful waiting が妥当と判断される)規準としては,FLIPI やFLIPI2 よりも,GELF(Groupe d’Etude des Lymphomes Folliculaires)6-8)やBNLI(British National Lymphoma Investigation)9)による腫瘍量の評価が用いられることが多い。一般の診療でもこれらの規準が参考となる。
1.GELF(Groupe d’Etude des Lymphomes Folliculaires)高腫瘍量規準6-8)
以下のいずれかに該当する場合は高腫瘍量と判断する。
- (1)節性病変,節外病変にかかわらず最大長径≧7 cm
- (2)長径3 cm 以上の腫大リンパ節領域が3 つ以上
- (3)全身症状(B 症状)
- (4)下縁が臍線より下の脾腫(CT 上≧16 cm)
- (5)胸水または腹水貯留(胸水・腹水中のリンパ腫細胞浸潤の有無にかかわらず)
- (6)局所(硬膜,尿管,眼窩,胃腸などの)の圧迫症状
- (7)白血化(リンパ腫細胞>5,000/μL)
- (8)骨髄機能障害(Hb<10 g/dL,好中球<1,000/μL,血小板<100,000/μL)
・LDH,β2 ミクログロブリン高値が加えられることもある6)。
2.BNLI(British National Lymphoma Investigation)の治療開始規準9)
- (1)B 症状または高度の搔痒症
- (2)急激な全身への病勢進行
- (3)骨髄機能障害(Hb≦10 g/dL,白血球<3,000/μL,または血小板<100,000/μL)
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アルゴリズム
初発進行期高腫瘍量FL では,抗CD20 抗体(リツキシマブまたはオビヌツズマブ)併用化学療法を行うことが推奨され,ドキソルビシン(DXR)を含まない併用化学療法[R-CVP(R, CPA,VCR, PSL)療法,ベンダムスチン・R(BR)療法,オビヌツズマブ-CVP 療法,オビヌツズマブ-B 療法など],DXR を含む併用化学療法[R-CHOP(R, CPA, DXR, VCR, PSL)療法,オビヌツズマブ-CHOP 療法など]などが主な治療選択肢となる(CQ1)。しかし,今のところ抗CD20 抗体と併用する化学療法の選択についてのコンセンサスはない(CQ1)。高腫瘍量の未治療進行期FL では,抗CD20 抗体併用化学療法により奏効が得られた場合,抗CD20 抗体維持療法が選択肢となる(CQ4)。リツキシマブ維持療法により,経過観察の場合と比較して無増悪生存期間が延長することが示されている。
一方,初発進行期低腫瘍量FL の患者では,診断後直ちに治療を開始せず,病勢の進行がみられたり,全身症状,臓器圧迫症状,血球減少などが出現した時点で治療を開始する無治療経過観察(watchful waiting)や1),R 単剤療法も選択肢となる(CQ2)。
限局期FL(Ⅰ期ないし隣接するⅡ期)では,放射線治療により少なくとも一部の患者で治癒が期待できるとされる2)。このため放射線療法が可能な限局期FL では,24〜30 Gy の放射線治療が推奨される(CQ3)。しかし,Ⅰ期の場合でも放射線治療によるリスクがベネフィットを上回ると考えられる場合には放射線治療を行わず,進行期FL と同様の治療も選択肢の一つである(CQ3)。
進行期FL の患者では,初回治療により完全奏効が得られた場合でも,多くの場合,いずれは再発をきたし,何らかの治療が必要となるため,病変の広がりや,前治療の内容や奏効期間,患者の希望を踏まえて治療法を選択する(CQ5)。組織学的形質転換をきたした患者では,アグレッシブリンパ腫と同様の多剤併用化学療法を行うことが推奨される(CQ7)。また,組織学的形質転換の有無に関わらず,一部の再発・難治性FL 患者では,化学療法後に地固め療法として造血幹細胞移植が行われる(CQ6)。
参考文献
- 1)
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- CQ1
- 初発進行期高腫瘍量のFL に対する治療は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー1
- 抗CD20 抗体(リツキシマブまたはオビヌツズマブ)併用化学療法が推奨される。
解説
初発進行期高腫瘍量FL では,リツキシマブ(R)併用化学療法により,化学療法単独と比べて全生存期間(OS)の延長が得られることが複数のランダム化比較試験とそのメタ解析により示されている1-3)。具体的な化学療法のレジメンとしては,R-CVP 療法(R, CPA, VCR, PSL)2, 4),R-CHOP 療法(R, CPA, DXR, VCR, PSL)1, 4)や,BR 療法(ベンダムスチン,R)5)などが代表的なものとして挙げられる。2018 年には,オビヌツズマブ併用化学療法としてオビヌツズマブ-CVP 療法,オビヌツズマブ-CHOP 療法,オビヌツズマブ-B 療法も承認された。
R-CHOP 療法,R-CVP 療法,R-FM 療法(R, FLU,MIT)の三者を比較したランダム化比較試験において,R-CHOP 療法とR-CVP 療法を比較すると,R-CHOP 療法は治療成功期間の点で優れていたが,血液毒性などの有害事象が多く,両者の3 年全生存割合(OS)には差がみられなかった4)。R-CHOP 療法とBR 療法を比較したランダム化比較試験では,BR 療法の無増悪生存期間(PFS)が優れていたが,OS は同等であった5)。有害事象では,R-CHOP 療法は好中球減少や末梢神経障害,感染症,脱毛などが主であり,BR 療法では消化器毒性や皮膚障害,リンパ球減少症,感染症などが主であり,有害事象のプロファイルが異なる5)。
参考文献
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- CQ2
- 初発進行期低腫瘍量のFL に対する治療は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー1
- 経過観察(watchful waiting)を選択肢としてもよい。
- 推奨グレードカテゴリー2A
- リツキシマブ単剤療法を選択肢としてもよい。
解説
進行期FL では一旦治療が奏効しても再発を繰り返し,治癒は困難である。無症候性かつ低腫瘍量の進行期FL 患者では,診断後ただちに治療を開始しなくても,数年以上にわたって無症状の状態が維持できることが知られている。また,一部の患者では自然経過で一時的に腫瘍縮小がみられる。初発低腫瘍量FL 患者を対象としたランダム化比較試験のwatchful waiting 群では,1 年時点の全奏効(OR)割合が10%で,3 年時点で殺細胞性抗腫瘍薬や放射線療法の介入を必要としない患者割合が46%と高かった1)。このため,診断時に無症候性かつ低腫瘍量の進行期FL 患者では,watchful waiting(注意深い観察のもとに治療開始を延期すること)を行うことを選択肢の一つとしてよい。低腫瘍量の進行期FL 患者に対するwatchful waiting が,診断後ただちに治療を開始する場合と比較して全生存期間(OS)の点で不利ではないことが,複数のランダム化比較試験で示されている1-3)。
未治療進行期FL の患者を対象としたリツキシマブ(R)単剤療法の臨床試験は,主に低腫瘍量の患者を対象として行われた4)。Ⅱ-Ⅳ期低腫瘍量FL を対象として英国で行われたランダム化比較試験1)では,R 導入+R 維持療法群はwatchful waiting 群に比較して次治療(殺細胞性抗腫瘍薬または放射線療法)を開始するまでの期間が延長した。しかし,OS の改善は認められていないことから,低腫瘍量FL 患者においてwatchful waiting に対するR 単剤早期介入の優位性は未確定である。
参考文献
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- Brice P, et al. Comparison in low-tumor-burden follicular lymphomas between an initial no-treatment policy, prednimustine, or interferon alfa : a randomized study from the Groupe d’Etude des Lymphomes Folliculaires. Groupe d’Etude des Lymphomes de l’Adulte. J Clin Oncol. 1997 ; 15(3): 1110-7. (1iiA/1iiDiii)
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- CQ3
- 初発限局期FL に対する治療は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- Ⅰ期または隣接するⅡ期の場合,病巣部放射線治療が推奨される。
- 推奨グレードカテゴリー2B
- 放射線治療のリスクがベネフィットを上回ると考えられる場合には,進行期FL に準じた治療が推奨される。
解説
未治療限局期(Ⅰ期または隣接するⅡ期)FL で,巨大病変がない場合,病巣部放射線療法が推奨される1)。しかし,限局期FL は稀であり,放射線療法を行う際には,PET-CT や骨髄生検によって進行期であることを除外する必要がある。FL を含むB 細胞性インドレントリンパ腫に対する放射線療法では,局所制御に必要な照射線量は24〜30 Gy で十分であるとの国際的な放射線腫瘍医のコンセンサスがある2)。
限局期インドレントリンパ腫において,放射線療法と多剤併用化学療法とのcombined modality therapy がhistorical control の放射線療法単独よりも成績が良いとの報告もあるが3),限局期低悪性度リンパ腫を対象とした放射線療法単独と化学療法併用の比較では,化学療法の併用による予後の改善は示されなかった4)。
限局期FL に対する放射線療法の有用性については,ランダム化比較試験に基づく強い根拠はない。前方視的観察研究に登録されたⅠ期のFL の後方視的研究で,無治療経過観察や化学療法単独治療の患者の無増悪生存期間(PFS)は放射線療法が行われた患者と同様に良好であった5)。限局期FL で放射線療法を行わないことを支持する臨床試験の報告はないが,放射線療法のリスクがベネフィットを上回ると考えられる場合には放射線療法を行わず,進行期FL に準じた治療が推奨される。
参考文献
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- CQ4
- 初発進行期のFL に対してリツキシマブ維持療法を実施すべきか
- 推奨グレードカテゴリー1
- リツキシマブ併用化学療法により奏効がえられた場合,リツキシマブ維持療法は無増悪生存期間の延長を期待できる治療として推奨される。ただし初発進行期低腫瘍量では,リツキシマブ維持療法は推奨されない。
解説
初発進行期・高腫瘍量FL で,リツキシマブ(R)併用化学療法[主にR-CHOP(R, CPA, DXR,VCR, PSL)療法あるいはR-CVP(R, CPA, VCR, PSL)療法]により奏効が得られた患者で,R 維持療法と経過観察を比較したランダム化第Ⅲ相試験では,2 年間のR 維持療法を行った群において無増悪生存割合(PFS)の改善がみられた1)。しかし全生存割合(OS)の改善は示されていない。従って,リツキシマブ維持療法はPFS 改善を期待して行う治療として推奨される。なお,初回治療としてベンダムスチン・R(BR)療法を行った場合のR 維持療法の有用性については不明である。
一方,初発進行期・低腫瘍量FL においてR 併用化学療法後のR 維持療法の意義を評価した臨床試験の報告はない。未治療の進行期・低腫瘍量FL を対象として,R 単剤療法後にR 維持療法と再燃時のR 再治療を比較した臨床試験では,両者で治療成功期間(R の効果がみられる期間)には差がみられなかった2)。このため,初発進行期・低腫瘍量の患者ではR 維持療法は推奨されない。
参考文献
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- CQ5
- FL の初回再発時の治療として何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2B
- さまざまな治療選択肢があるが,その優劣は明らかでない。
解説
FL 初回再発時の治療は,初回治療の内容と再発までの期間,病変の広がり,組織学的形質転換の有無,患者の希望などを考慮して選択する。リツキシマブ(R)を含む治療に対して部分奏効(PR)未満の場合や,R を含む治療によりPR 以上が得られた後,半年以内に再燃した場合にはR 抵抗性と判断する1)。R 抵抗性でない場合にはR 単剤療法またはR 併用化学療法が推奨される。R 抵抗性の患者を対象に,ベンダムスチン単剤とオビヌツズマブ併用ベンダムスチン療法(奏効例ではオビヌツズマブ維持療法を実施)を比較したランダム化第Ⅲ相試験では,無増悪生存割合および全生存割合の改善がみられた2)。初回再発時の治療としての治療選択肢には以下のようなものが挙げられるが,その優劣は明らかでない。また,再発時においても無症状かつ低腫瘍量であれば,無治療経過観察(watchful waiting)がしばしば行われるが,その意義をみた臨床研究は報告されていない。
- ①無治療経過観察(watchful waiting)
- ②R 単剤療法3)
- ③ベンダムスチン単剤1)あるいはR またはオビヌツズマブ+ベンダムスチン2, 4)
- ④フルダラビン(FLU)単剤あるいはFLU を含む多剤併用療法5, 6)
- ⑤R-CHOP 療法(R, CPA, DXR, VCR, PSL)6)またはオビヌツズマブ-CHOP 療法(先行治療がアントラサイクリンを含まないレジメンの場合)
- ⑥多剤併用化学療法
- ⑦放射線療法
- ⑧RI 標識抗体療法(イブリツモマブ チウキセタン)7, 8)
参考文献
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- CQ6
- 再発FL に対して自家移植併用大量化学療法,同種造血幹細胞移植は勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 高リスク(初回抗CD20 抗体併用化学療法の奏効期間が短い,組織学的形質転換など)の若年者に対して自家移植併用大量化学療法は考慮されるべき治療選択肢である。
- 推奨グレードカテゴリー3
- 同種造血幹細胞移植は,一部の若年者(高リスク例や自家移植後再発例など)に対して治療選択肢となり得る。
解説
自家移植併用大量化学療法は,とくに初回リツキシマブ(R)併用化学療法の奏効期間が短いなどの高リスク例において考慮されるべき治療選択肢である1-3)。治療選択肢の増加につれてその意義は見直されつつあるが,組織学的形質転換例では有用性が示唆されている4, 5)。
自家移植併用大量化学療法と同種造血幹細胞移植では,後者のほうが治療関連死亡(TRM)は高いが再発が少ない。このため両治療間で生存においては差がない6)。骨髄非破壊的(Reduced-intensity conditioning:RIC)造血幹細胞移植が導入され,TRM の軽減が図られている。Center for International Blood and Marrow Transplant Research(CIBMTR)のレジストリー・データの多変量解析にてRIC では骨髄破壊的前処置を用いた場合よりも再発が多い可能性が報告されたが,予後に差は認められず,背景因子の群間差もあり両者間の優劣の判断は困難である7)。European Group for Blood and Marrow Transplantation(EBMT)のレジストリー・データから,再発FL に対する初回移植として自家移植とRIC を用いたHLA 一致血縁・非血縁者間の同種移植を比較すると,無再発死亡は同種移植群で高く,再発は自家移植群で高いことが報告された6)。同種移植は若年者で,早期再発の高リスク例や自家移植後再発例の治療選択肢のひとつと考えられている。
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- CQ7
- 組織学的形質転換をきたしたFL に対する治療として何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2B
- 未治療例もしくはアントラサイクリン治療歴がない患者が組織学的形質転換をきたした場合,R-CHOP 療法が推奨される。
- 推奨グレードカテゴリー2B
- R-CHOP 療法後に組織学的形質転換をきたした患者では,化学療法により奏効がえられた場合,若年者では自家移植併用大量化学療法を実施することが推奨される。
解説
FL における組織学的形質転換は年間2%とされ,組織学的形質転換後の予後は不良である1-3)。そのうち,特にR-CHOP(R, CPA, DXR, VCR, PSL)療法後の組織学的形質転換をきたした場合の予後は2 年未満と報告されている。しかし,形質転換時に初回R-CHOP 療法を実施した患者では,R-CHOP 療法後に形質転換したFL と比較して予後良好であり,初発びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL)に対するR-CHOP 療法と同等の全生存期間(OS)が期待できる2)。
形質転換をきたしたFL において,サルベージ化学療法が奏効した場合に地固め療法として自家移植併用大量化学療法を施行した場合,再発DLBCL と同等の予後が示されている4)。さらに,この群に対しても自家移植併用大量化学療法がOS の延長に寄与することが示唆されている5)。
参考文献
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- 2 辺縁帯リンパ腫(MALT リンパ腫/粘膜関連リンパ組織型節外性辺縁帯リンパ腫および脾辺縁帯リンパ腫を含む)
(extranodal marginal zone lymphoma of mucosa associated lymphoid tissue:MALT lymphoma/nodal marginal zone lymphoma/splenic marginal zone lymphoma)
(extranodal marginal zone lymphoma of mucosa associated lymphoid tissue:MALT lymphoma/nodal marginal zone lymphoma/splenic marginal zone lymphoma)
総論
辺縁帯リンパ腫は,発生部位により,節外性辺縁帯リンパ腫,節性辺縁帯リンパ腫,脾辺縁帯リンパ腫に分類される。辺縁帯リンパ腫のうちでリンパ節以外に発症する節外性辺縁帯リンパ腫は,粘膜関連リンパ組織,mucosa associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫と同義である。脾臓に生じる脾辺縁帯リンパ腫とリンパ節に生じる節性辺縁帯リンパ腫と合わせて,辺縁帯リンパ腫の3 病型を構成している。
MALT リンパ腫は,WHO 分類(2017)によると,胚中心細胞類似細胞(centrocyte-like cell),単球様B 細胞(monocytoid B cell),小型リンパ球,および,大型芽球様細胞など形態的に多彩な細胞が混在し,主に濾胞辺縁帯(marginal zone)から濾胞間に浸潤・増殖するリンパ腫と定義される1, 2)。一部は,形質細胞への分化を認めたり,上皮内に浸潤しlymphoepithelial lesion(LEL)を 形成したりする。さらに臨床的に胃原発の胃MALT リンパ腫と胃以外の節外原発の胃以外MALT リンパ腫とに分類する。
胃MALT リンパ腫は胃悪性リンパ腫の約40%を占める。病理組織学的検索と同時にHelicobacter pylori の有無を調べることが重要である2-4)。病期決定のための頸部〜鼠径部CT 検査,骨髄検査などを必ず実施する。PET 検査はFDG avidity が低く陰性となることが少なくない5)。超音波内視鏡により病変の深達度,所属リンパ節への浸潤有無の診断が可能である。病期分類は,Lugano 病期分類が使用されることが多く,Ann Arbor 病期分類での病期Ⅲ期がなく,Ⅳ期と扱われる(総論参照)。限局期は,この分類でのⅡ1 までが含まれる。また,深達度などを明確にしたTNM 分類が欧米では用いられることがある。
胃以外MALT リンパ腫は,大腸,肺,甲状腺,唾液腺,乳腺,眼科領域などに発生するものがある。これらは,他の低悪性度B 細胞リンパ腫と同様に治療される。注意深い経過観察は,症状がなく,慎重に腫瘍の消長をみることが出来る部位であれば選択肢の一つとなり得る。
MALT リンパ腫の病因の一部には,感染症・炎症が関係していると考えられており6),胃MALT リンパ腫でH. pylori の感染頻度は報告当初は90%以上であったが,現在では,32%まで低下したと欧米での報告がある1)。日本では90%の陽性率が報告されている2)。そのほかCampylobacter jejuni が小腸,Borrelia burgdorferi が皮膚,Chlamydia psittaci が眼付属器のMALT リンパ腫に関連していることが報告されている。唾液腺,甲状腺のMALT リンパ腫では自己免疫疾患を基盤に発症することが知られており,それぞれSjögren 症候群,橋本病などの自己免疫疾患に比較的高頻度に合併する。特有な染色体異常として,t(11;18)(q21;q21),t(1;14)(p22;q32),t(14;18)(q32;q21),t(3;14)(p14.1;q32),6q23欠失が知られている。
MALT リンパ腫での予後因子(MALT-IPI)が提唱された。無イベント生存(EFS)をエンドポイントとして,年齢(70 歳以上)Ann Arbor 病期分類(Ⅲ, Ⅳ),LDH(上昇)をそれぞれ1 点として足し合わせた数字で,low(0 点),intermediate(1 点),high(2, 3 点)と分類した7)。脾辺縁帯リンパ腫は細胞表面マーカーでCD5 が陰性,CD20 が強陽性であるのでCLL から区別できる。CD23 の発現程度はさまざまである。末梢血あるいは骨髄に出現するリンパ腫細胞の特徴的な絨毛様突起,あるいは,細胞表面マーカーでのIg 軽鎖の偏りが診断の契機となることがある。脾腫,汎血球減少が特徴的とされるが,認めないこともある8)。C 型肝炎合併例を認めることがある9)。摘出脾臓で診断されることも多く,脾腫による症状や汎血球減少がある場合に,治療を兼ねて行われる。
節性辺縁帯リンパ腫は極めて稀であり,MALT リンパ腫病変がないかどうかを慎重に評価する10)。
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アルゴリズム
アルゴリズム1
疾患の位置づけを示す。病変が胃に限局する胃MALT リンパ腫ではアルゴリズム2 で示し,進展期,無効の場合はアルゴリズム3 で示した。胃以外のMALT リンパ腫ではアルゴリズム4 参照。節性辺縁帯リンパ腫はFL に準じる。脾辺縁帯リンパ腫ではアルゴリズム5 を参照。
アルゴリズム2
胃MALT リンパ腫の治療アルゴリズムを示す。H. pylori 陽性例は 報告当初は90%以上であったが,現在では,32%まで低下している1)。日本では90%の陽性率が報告されている2)。除菌は,90%以上で成功する。除菌が成功すれば,MALT リンパ腫に対しても高率に奏効が得られ(50〜80%)3),60〜100%で長期完全奏効が得られる4)。完全奏効に至るまでの時間は数カ月から1 年の例もあり,長期に経過を観察することが重要である5)。
抗がん薬を追加するメリットは認められていない6)。
一次除菌失敗例では,二次治療を実施する。除菌療法で奏効が得られない場合には,放射線療法などが推奨される7)。厚生労働省がん研究助成金「消化管悪性リンパ腫に対する非外科的治療の適応と有効性の評価に関する研究班」によると,除菌療法無効例に対する放射線治療単独療法の第Ⅱ相試験では,90%以上で組織学的消失を認めている8)。
胃MALT リンパ腫のうち,H. pylori 陰性例は10〜40%と報告されている9)。H. pylori 陰性かつ限局期(総論 参照)の場合には,放射線療法10)を検討する.リツキシマブ(R)単剤治療の報告もある11)。
アルゴリズム3
胃のMALT リンパ腫の進展期の場合は,まず,全身化学療法を直ちに実施すべきか否かを判断する。他の低悪性度B 細胞リンパ腫と同様に,症状を有する場合,臓器障害(出血など)を認める場合,巨大腫瘤を有する場合,確実に進行を認める場合などが化学療法の適応となる。化学療法を行うのであれば,低悪性度B 細胞リンパ腫の代表的疾患である濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma:FL)に準じた治療が行われる。トランスフォームした可能性のある場合やbulky disease に対してはアントラサイクリンを含んだ併用療法を考慮すべきである。
再発時には,まず,その組織診断を実施することが必須である。初発診断時の病理組織が,必ずしも全体像を反映していなかった可能性[びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL)が混在]やトランスフォームする可能性があるためである。再生検の結果,DLBCL と診断された場合には,胃原発DLBCL として治療する。留意するべきことは,経過観察中の患者で胃がんの発生が認められた例があることである。これは,放射線による直接的影響なのか,H. pylori 感染者では胃がん発症リスクが高いためなのかは明らかではない12, 13)。
アルゴリズム4
胃以外のMALT リンパ腫で限局期の場合には,注意深い経過観察以外に,放射線治療や外科的摘出が考慮される。また,外科的に摘出された後で診断された場合には,完全に摘除されたか残存しているかの判定が重要である。残存があるようなら,放射線治療を考慮する。また,限局期再発の場合にも放射線治療は選択肢の一つとなる。
進行期の場合は,注意深い経過観察に加えて,化学療法も考慮される。化学療法はFL に代表される低悪性度B 細胞リンパ腫に準じた治療方針が推奨される。大型細胞が混じる組織型の場合には,DLBCL に準じた治療方針が推奨される14)。
アルゴリズム5
C 型肝炎合併の場合,C 型肝炎治療で奏効を得た報告例がある15, 16)。脾摘は,脾腫による症状や汎血球減少がある場合に,診断を兼ねて行われる。脾辺縁帯リンパ腫の薬物療法を行う場合には,まずR 単剤治療を考慮する。これにより長期の奏効が得られた例がある17)。これらの治療でも進行,再燃した場合にFL に準じた治療が行われる。
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- CQ1
- H. pylori 陽性限局期胃MALT リンパ腫の初期治療方針は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- H. pylori 陽性限局期MALT リンパ腫にはH. pylori 除菌療法が推奨される。
解説
胃MALT リンパ腫の治療方針を決定する上でH. pylori 感染の有無の確認は重要である。胃MALT リンパ腫患者におけるH. pylori の感染頻度は,以前は90%以上であったが最近は,低下しているとの報告がある1, 2)。H. pylori 陽性限局期MALT リンパ腫においては,H. pylori 除菌療法が第一選択である。除菌療法による全奏効(OR)割合は50〜80%で3-6),32 の報告をまとめた計1,408 例では77.5%の完全奏効割合であった7)。除菌治療により90%以上の長期生存割合が得られている。除菌療法成功後,MALT リンパ腫が消失するまでの期間は中央値で数カ月であるが,数年かかることもある。したがって,リンパ腫病変が残存しても,除菌が成功した場合には,無症状でリンパ腫の進展がなければ,定期的な内視鏡検査と生検による経過観察が推奨される4, 6)。除菌により奏効が得られた症例の再発割合は3%である3)。一方,除菌失敗例のうち,リンパ腫の進展を認めた割合は27%である4)。t(11;18)(API2-MALT1)を有する場合には,除菌療法の成功率は低い6, 8)。
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- CQ2
- H. pylori 陽性限局期胃MALT リンパ腫で除菌失敗の時の治療法は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- H. pylori 陽性限局期MALT リンパ腫で除菌失敗の時は,再度のH. pylori 除菌療法が推奨される。
解説
わが国では,プロトンポンプ阻害薬+アモキシシリン+クラリスロマイシンを1 週間投与する3剤併用療法が一次除菌治療として行われている1)。80〜90%の除菌率であり,除菌不成功の最大の原因はクラリスロマイシン耐性菌である。日本ヘリコバクター学会の耐性菌サーベイランス委員会の報告で2000 年には7%程度であったクラリスロマイシン耐性率が,2017 年には40%近くまで上昇している2)。一次除菌で不成功であった症例に対して,二次除菌として,クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変えたレジメンで除菌を行うことが推奨される1, 3)。
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- CQ3
- 除菌後にリンパ腫の残存がみられる場合の治療は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2B
- リンパ腫の残存がみられる場合,症状がなければ,慎重に経過観察,症状がある場合には,放射線療法またはリツキシマブ単剤か免疫化学療法を考慮する。
解説
除菌後寛解までに長期間を要する症例もあり,リンパ腫が残存していてもリンパ腫による症状がなければ経過観察を行う。一方で症状がある場合には,放射線療法1-4)またはリツキシマブ(R)単剤5)か免疫化学療法を考慮する6)。除菌後に残存するMALT リンパ腫に対する放射線療法の完全奏効割合は 98%であった7)。免疫化学療法に比べて,放射線療法の CR 割合は高い6)。t(11;18)/API2-MALT1 を有する症例は除菌療法に抵抗性であり8),除菌以外の治療を考慮する。いずれの場合でも,リンパ腫の残存が認められる場合には,MALT リンパ腫の残存の推移やDLBCL への進展の有無を確認するため,繰り返し生検を実施することが重要である。DLBCL への進展は約3%で,再発または除菌失敗例に限れば,約25%であった9)。
除菌成功により奏効が得られた後に追加の化学療法を行っても,再発は減らせないので,経過観察をする10)。また,除菌が成功し,胃MALT リンパ腫の奏効が得られても,遅発性再発が生じ得るため,長期の経過観察が必要である11)。また,胃がんが発見されることがある12)。
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- CQ4
- H. pylori 陰性限局期胃MALT リンパ腫の治療は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2B
- H. pylori 陰性限局期胃MALT リンパ腫には,放射線療法が推奨される。放射線療法が適応でない場合にはリツキシマブ単剤か免疫化学療法を行う。
解説
MALT リンパ腫において,H. pylori の感染を認めない症例も多くなってきている1)。H. pylori 陰性胃 MALT リンパ腫では,t(11;18)/API2-MALT1 を有している頻度が高い2)。この転座の有無にかかわらずH. pylori 陰性限局期MALT リンパ腫においては,放射線療法を考慮する3-5)。H.pylori 陰性限局期MALT リンパ腫でも除菌療法での有効例がある6)。11 の研究の110 例の検討では15.5%の寛解率であった7)。
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- CQ5
- 進行期胃MALT リンパ腫の治療は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 進行期胃MALT リンパ腫では,低悪性度B 細胞リンパ腫(FL など)に準じて,リツキシマブ±化学療法もしくは慎重な経過観察が推奨される。
解説
進行期胃MALT リンパ腫は,診断時から進展している場合と限局期から進展する場合の両者が考えられる。いずれの場合も,疾患の頻度が低く大規模な臨床試験実施が困難であるため,至適な治療方針は未確立である。十分なエビデンスレベルは得られていないものの,低悪性度B 細胞リンパ腫(FL など)に準じた治療方針が選択されている1, 2)。症状がない場合には,慎重な経過観察が推奨される。症状を有する場合,臓器障害(消化管出血など)を認める場合,巨大腫瘤を有する場合,確実に進行を認める場合,患者が希望する場合などが化学療法の適応となり,リツキシマブ(R)±化学療法が推奨される。シクロホスファミド(CPA)などのアルキル化剤単独療法3),フルダラビン(FLU)やクラドリビン(2-CdA)などのプリンアナログ剤単独療法4, 5),R 単剤6)の有効性も報告されているが,いずれの治療法が優れているかを比較した臨床試験の報告はない。プリンアナログでの二次性造血器腫瘍発症リスクの増加の可能性に注意が必要である7)。アントラサイクリンを含んだ併用療法は,再発例でも有効であったとの報告がある2)。
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- CQ6
- 胃以外のMALT リンパ腫の治療は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2B
- 限局期の場合には,放射線治療,外科切除,慎重な経過観察などが推奨される。進行期の場合には,FL に準じて,リツキシマブ±化学療法や慎重な経過観察が推奨される。
解説
疾患の頻度が低く,大規模な臨床試験実施が困難であるため,胃原発以外の節外臓器に発生したMALT リンパ腫の至適治療方針は確立されていない。各患者の病変部位,病期,臨床症状を考慮して治療方針を決定する。治療方法として,放射線療法,外科切除,抗体療法を含めた化学療法などが考慮されるが,どの方法を選択しても,5 年全生存割合(OS)は90%,10 年OS は80%と良好な予後が報告されている1, 2)。また,慎重な経過観察も選択肢の一つとなり得る。
限局期の場合には,放射線療法1-4),外科切除1, 2)による局所治療が主体となる。MALT リンパ腫は放射線感受性が高く,35 Gy までの放射線療法で良好なコントロールが可能であり,大部分の眼付属器発症例では25 Gy で,その他の部位でも30 Gy でコントロールされていた3)。日本でもおおむね30 Gy でコントロールされることが確認された5)。診断を兼ねて切除された場合には,残存がなければ経過観察も許容され,残存がある場合には局所放射線治療を考慮する。症状がない場合には慎重な経過観察も選択肢の一つである。これらの優劣を比較した試験はない。
一方,進行期として診断される患者は,約半数である6)。症状がなく腫瘍量が少ない場合には,注意深い経過観察やリツキシマブ(R)を含む治療を考慮する。症状がある場合,腫瘍による圧迫や浸潤による臓器障害を認める場合,もしくは腫瘍量が多い場合には,R 併用化学療法を考慮する。R 単剤治療の完全奏効(CR)割合は約75%である1)。R,chlorambucil(本邦未承認)の単剤に比べて,R とchlorambucil の併用療法は寛解率,PFS, EFS では優っていたが,生存割合では変わらなかった7)。イブリツモマブ チウキセタンは,初発のMZBCL,16 例を対象に単群の試験が行われ,PFS は47.6 カ月であった8)。あらたな薬剤では,ボルテゾミブ(BOR)9),エベロリムス10),レナリドマイド(LEN)11),での報告例があるがいずれも本邦では保険適用がない。症状がない場合には慎重な経過観察も選択肢の一つである。
参考文献
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- CQ7
- DLBCL との境界病変の場合の治療は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- DLBCL に準じた治療方針が推奨される。
解説
臨床的経過もびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL)と同様と考えられている1)。疾患の頻度が低く大規模な臨床試験が実施困難であり,十分なエビデンスは得られていないものの,大型細胞成分のシート状または充実性増殖を認めるMALT リンパ腫,および大細胞型へ組織学的進展したMALT リンパ腫においては,DLBCL に準じた治療が行われた報告がある2)。
参考文献
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- CQ8
- 節性辺縁帯リンパ腫の治療は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 節性辺縁帯リンパ腫の治療方針は,FL に代表される低悪性度B 細胞リンパ腫の治療選択が推奨される。
解説
疾患の頻度が低く,節性辺縁帯リンパ腫に限定した大規模な臨床試験の実施が困難であり,十分なエビデンスは得られていない。一般的に,FL に代表される低悪性度B 細胞リンパ腫に準じた治療が推奨される1-3)。
限局期の場合には,注意深い経過観察や放射線療法が考慮される。進行期で症状がなく腫瘍量が少ない場合には,注意深い経過観察やリツキシマブ(R)を含む治療を考慮する。症状がある場合,腫瘍による圧迫や浸潤による臓器障害を認める場合,もしくは腫瘍量が多い場合には,R 併用化学療法を考慮する。化学療法の内容としては,R-CVP 療法(R, CPA, VCR, PSL),R-CHOP 療法(R, CPA, DXR, VCR, PSL),BR 療法(ベンダムスチン,R)が挙げられる。第Ⅱ相試験ではフルダラビン(FLU)などのプリンアナログも使用されている4)が,初発例に対しては本邦では保険適用外である。
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- CQ9
- C 型肝炎ウイルス陽性の場合の脾辺縁帯リンパ腫の治療は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 無症状の場合には経過観察を行う。C 型肝炎ウイルス(HCV)陽性で,治療適応があれば,HCV に対する抗ウイルス療法を考慮する。症状を有する脾腫または血球減少などを呈する場合は,脾摘またはリツキシマブ±化学療法による治療が推奨される。
解説
脾腫や血球減少などのない無症状のC 型肝炎ウイルス(HCV)陽性脾辺縁帯リンパ腫では経過観察が行われる。治療を行わなくとも生存には影響しない1-4)。HCV の治療の適応があれば,HCV の治療を行う。脾腫を認めるHCV 陽性脾辺縁帯リンパ腫は,HCV の治療を実施する。HCV 陽性脾辺縁帯リンパ腫をインターフェロンα(IFNα)±ribavirine の治療により,HCV-RNA が陰性化した後に,脾辺縁帯リンパ腫の奏効が観察された5)。一方,HCV 陰性の患者はIFNαに対する奏効を認めていない。
参考文献
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- Berger F, et al. Non-MALT marginal zone B-cell lymphomas : a description of clinical presentation and outcome in 124 patients. Blood. 2000 ; 95(6): 1950-6.(3iiiDiii)
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- CQ10
- HCV 陰性脾辺縁帯リンパ腫の治療は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 症状を有する脾腫または血球減少などを呈するHCV 陰性脾辺縁帯リンパ腫は,脾摘またはリツキシマブ±化学療法による治療が推奨される。
解説
脾腫や血球減少などのない無症状の脾辺縁帯リンパ腫では経過観察が行われる。治療を行わなくとも,生存には影響しない1-4)。脾腫による圧迫症状や血球減少を認める場合には,治療を考慮する。治療は,脾摘またはリツキシマブ(R)単剤による治療を考慮する。脾摘は,治癒を目指すものではないが,診断確定,症状と血球減少が軽快する。R は脾辺縁帯リンパ腫に有効であり,小規模の第Ⅱ相試験であるが,高い奏効割合が報告されている5-7)。R は多剤併用療法との組み合わせで6 年全生存割合が72% 7)であった。
参考文献
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- 3 リンパ形質細胞性リンパ腫/ワルデンシュトレームマクログロブリン血症
(lymphoplasmacytic lymphoma/Waldenström’s macroglobulinemia:LPL/WM)
(lymphoplasmacytic lymphoma/Waldenström’s macroglobulinemia:LPL/WM)
総論
リンパ形質細胞性リンパ腫(lymphoplasmacytic lymphoma:LPL)は,WHO 分類(2017)によれば,小型B 細胞リンパ球,形質細胞への分化傾向にあるリンパ球,形質細胞が混在したリンパ系腫瘍と定義され,IgM 型M 蛋白の有無は問わない1, 2)。ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(Waldenström’s macroglobulinemia:WM)は,骨髄浸潤とIgM 型M 蛋白血症を伴うLPL のサブセットとして定義されている。IgM 型M 蛋白血症を伴うB 細胞リンパ腫はLPL 以外にも認められるため,診断上,注意が必要である。
臨床像としては,IgM 蛋白濃度が3 g/dL 以上になると,高頻度(10〜30%の症例)に過粘稠度症候群をきたす。この場合,赤血球凝集に伴って,視力障害(眼底網膜静脈ソーセージ様変化)や脳血管障害を起こしうる。自己免疫疾患の合併や,クリオグロブリン血症,ミエリンに対する抗体活性によるミエリン融解が原因の末梢神経障害,アミロイドーシス,M 蛋白が凝固因子・フィブリン・血小板と結合することによる凝固障害・出血症状を合併することがある。正常免疫グロブリンの抑制は多発性骨髄腫とは異なり軽度である。
IgM が3 g/dL 未満,骨髄中の腫瘍細胞の割合が10%未満で,かつ,症状のない場合,形質細胞腫瘍に準じて,IgM monoclonal gammopathy of undetermined significance(IgM-MGUS)と呼ぶが,non IgM-MGUS に比べて進展が速く,年に1〜5%がLPL/WM,その他のB 細胞リンパ腫に進展する3)。WM という視点からみた場合,リンパ節,脾臓,肝臓,末梢血へ高頻度に浸潤・出現する。臨床症状としては肝脾腫(15〜20%),リンパ節腫大(15%)を認める。
約90%の症例でMYD88 遺伝子の変異があり,約30%の症例でCXCR4 遺伝子の変異がある3)。
臨床経過は一般に緩徐であり,50%生存期間は5 年以上である。死因としては,原病の悪化,悪性度の高いリンパ腫への進展,感染,抗腫瘍療法に起因する二次性白血病などが挙げられる。
予後予測の指標として,International Prognostic Scoring System for WM(IPSSWM)が報告されている2, 4)。「年齢65 歳超」「ヘモグロビン値11.5 g/dL 以下」,「血小板数10 万/μL 以下」,「β2 ミクログロブリン3μg/mL 超」,「血清IgM 7,000 mg/dL 超」が予後不良因子として抽出され,5 年生存割合は,スコア0,1 が87%,2 で68%,3〜5 で36%であった。その他の予後不良因子として,汎血球減少,低アルブミン血症,末梢神経障害などが挙げられている。
治療の効果判定については,第6 回International Workshop on WM の判定規準が用いられている5)。
アルゴリズム
通常の化学療法では治癒は望めない1, 2, 7)。症状のない場合には,未治療で経過観察をおこない,症状がある,または,出現した場合に,治療開始を考慮する(CQ1)1, 2, 7)。初回,および,再燃・再発時の化学療法としては,①アルキル化剤を中心とした化学療法,②プリンアナログを中心とした化学療法,③抗体療法(リツキシマブ),④多剤併用化学療法(リツキシマブ併用も含む),⑤ボルテゾミブ,⑥サリドマイド・レナリドミド(未承認)が挙げられる(CQ2, CQ3)1, 2, 7)。大量化学療法/造血幹細胞移植は,若年のハイリスク患者や再発・再燃時の治療選択の一つとなり得るが,適応,実施時期,方法については未確立である(CQ3)1, 2)。
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- CQ1
- 原発性マクログロブリン血症の治療はどの時点で開始するのが適切か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 疾患関連の症状,合併症が出現した時点で治療を開始することが推奨される。
解説
原発性マクログロブリン血症の治療は,疾患に関連した症状が認められた時に開始を考慮する1)。具体的な症状としては,持続する発熱,盗汗,体重減少,倦怠感であり,リンパ節腫大や脾腫の出現やヘモグロビン値<10 g/dL や血小板<10 万/μL も開始を考慮する規準となる。また,過粘稠度症候群,末梢神経障害,アミロイドーシス,腎障害,クリオグロブリン血症などの合併症が出現した場合である。すなわち,治療開始はIgM 値のみに基づいて決定されるものではない1, 2)。IgM 値と臨床症状とは関連しない場合があるからである。もし,IgM 値が臨床所見・症状と関連するようであれば治療開始の参考になり得る。
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- CQ2
- 原発性マクログロブリン血症の初回治療として何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 原発性マクログロブリン血症の初回治療としては,過粘稠度症候群を認める場合には血漿交換を実施し,化学療法としては,アルキル化薬,プロテアソーム阻害薬,プリンアナログ,抗体薬(リツキシマブ)の単剤,または併用での実施が推奨される。
解説
過粘稠度症候群を認める場合には,まずは,血漿交換の実施を考慮する。
原発性マクログロブリン血症に対する大規模な比較試験は乏しい。以下の薬剤の単剤または併用での報告があり使用が推奨される1)。
単剤療法:
抗体薬:リツキシマブ(R)
併用療法:
R+ステロイド+アルキル化剤:DRC[(デキサメタゾン(DEX),R,シクロホスファミド(CPA)]
R+ベンダムスチン(BR 療法)
R+ボルテゾミブ(BOR)
R+プリンアナログ[フルダラビン(FLU)]
どのレジメンを選択するかは,血球減少の有無(血球減少がある場合はDRC,R+ベンダムスチン),IgM 量の多寡(多量のM 蛋白がある場合はR+ベンダムスチンまたはボルテゾミブ),年齢および合併症の有無(高齢者とくに合併症ある場合:R 単剤)を考慮して決定される1)。
R の使用に際して,IgM が一時的に増加することがあるため,過粘稠度症候群を認める場合やIgM≧4,000 mg/dL の場合には,治療前に血漿交換が推奨される1, 2)。
経口剤の単剤のFLU とchrolambucil(本邦未承認)との比較試験が初発例に対して行われ3),プライマリーエンドポイントの奏効割合だけではなく無増悪生存割合(PFS),全生存割合(OS)でもFLU が優れていた。しかし,将来的に自家造血幹細胞移植併用大量化学療法が考慮される場合には,造血幹細胞への毒性により自家末梢血幹細胞採取効率への悪影響が懸念される。さらに次治療の際に持ち込まれやすい遷延性の骨髄毒性,二次癌の発症もあることに留意する4)。
ベンダムスチン5)は単剤での効果が確認されており,比較試験での結果を待たず,有害事象が重ならないR との併用療法が行われている。BOR は単剤で有効であり同様にR との併用療法が行われる国も多い6)。DRC 療法は長期に使用された例がある7)。
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- CQ3
- 原発性マクログロブリン血症の再燃・再発時の救援治療として何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 初回治療後に再燃・再発した場合の救援療法として,アルキル化薬,プロテアソーム阻害薬,プリンアナログ,抗体薬の単剤,または併用,あるいは新規薬剤や大量化学療法/造血幹細胞移植の実施が推奨される。
解説
初回治療後に再燃・再発した場合の救援療法は,初回治療に対する反応の程度と奏効期間,忍容性,年齢や合併症など患者の身体状況,大量化学療法/造血幹細胞移植への適否,等を考慮して決定される1)。疾患関連の症状,合併症が出現した時点で治療を開始する。
初回治療が奏効し,無治療期間が比較的長く続いた場合(24 カ月以上)には,初回治療と同一の治療の再実施を考慮する。奏効期間が短い場合や抵抗性の場合は,初回治療とは異なる薬剤の単剤または併用治療が推奨される1)。
初回治療で推奨されている治療法以外では,ボルテゾミブ(BOR),サリドマイド(THAL)2),レナリドミド(LEN)3),ベンダムスチン4),イブルチニブ5)の有効性が報告されているが1),本邦ではボルテゾミブ,ベンダムスチン以外は保険適用外である。各治療法の優劣を比較した臨床試験や大規模な比較試験はない。
若年者に対して,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法や同種造血幹細胞移植の有効性を示す報告もあるが6, 7),適応や有効性に関するエビデンスに乏しく,適応,実施時期,方法については未確立である。したがって,臨床試験として実施するのが望ましい。自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法が考慮される場合には,プリンアナログの使用は避ける8)。
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- 4 マントル細胞リンパ腫
(mantle cell lymphoma:MCL)
(mantle cell lymphoma:MCL)
総論
リンパ節濾胞のマントル層(暗殻)を構成するB 細胞と同じ細胞表面形質を有する腫瘍である。免疫組織学的にはCD5 とcyclin D1 およびSOX11 が陽性で,分子遺伝学的には染色体転座t(11;14)(q13;q32)に伴うBCL-1(CCND1)遺伝子再構成を有する独立した疾患単位である1)。わが国での発症頻度は,全悪性リンパ腫の3%程度である2)。発症年齢中央値は60 歳代半ばで男性に多い1, 3)。約90%は初発時に病期Ⅲ,Ⅳの進行期で,表在リンパ節腫大以外に70%程度は節外病変を有し,骨髄浸潤は半数以上,脾腫は30%以上,消化管浸潤も30%以上に認められる3)。免疫組織化学染色ではcyclin D1 陰性例が15%程度存在し,cyclin D1 陽性例に比べ予後良好と報告されている4)。cyclin D1 陰性例も大半はSOX11 陽性で診断に有用である5)。WHO 分類(2017)では,分子亜型として新たにMCL, leukemic, non-nodal type が記載された。脾辺縁帯リンパ腫に類似した病態と比較的インドレントな臨床経過を特徴とする1)。また,従来in situ MCL と記載された初期病変は,in situ mantle-cell “neoplasia”として治療適応外病変と位置づけられた1)。MCL の病期分類には,他の非ホジキンリンパ腫と同様にAnn Arbor 分類が用いられる。予後予測モデルとして,International Prognostic Index(IPI)とは別に,年齢,Performance status(PS),血清LD,末梢血白血球数の4 因子について配点を規定し,総点数により予後をlow,intermediate,high の3 群に層別するsimplified MCL International Prognostic Index(MIPI)が提唱され,IPI より予後予測能が高いことが示されている6)。さらに,Ki-67 免疫染色陽性率(MIB-1 index)はMIPI の4 因子とは異なる独立した予後因子であり,Ki-67 免疫染色陽性率を加えたMIPIb も提唱されている6, 7)。また,リツキシマブ導入以降では年齢,PS,骨髄浸潤,末梢血白血球数,血清LD,血清アルブミンの6 因子を用い,予後をlow,low-intermediate,high-intermediate,high の4 群に層別するrevised MIPI も新たに提案されている3)。これらは一般臨床にはあまり用いられていないが,臨床研究の解析には広く導入されている。なお,MCL においても中枢神経系(CNS)再発が少なからず認められる。Ki-67 免疫染色高陽性率やblastoid variant などCNS 浸潤リスク8, 9)を有する例ではCNS 再発予防に留意する必要があるが,推奨されるCNS 予防治療法は確立していない。
参考文献
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アルゴリズム
MCL は標準治療が確立しておらず,現在も精力的に臨床試験が進められている。本項では日常診療として実施可能な治療をもとにアルゴリズムを作成した。
限局期ではinvolved-field radiotherapy(*IFRT)±化学療法群と,化学療法単独または経過観察群との治療成績の比較から,IFRT 単独もしくはIFRT と化学療法との併用が推奨される(CQ1)。進行期の治療の原則は多剤併用化学療法とリツキシマブ(R)との併用療法である。限られた症例ではあるが,極めてインドレントな臨床経過を示す群がある。これらはindolent MCL として,濾胞性リンパ腫などの低悪性度B 細胞リンパ腫と同様に無治療で経過観察することが可能であるが,診断時にこのよう症例を見出す方法は確立していない(CQ2)。進行期MCL に対しアグレッシブリンパ腫の標準的化学療法であるCHOP 療法(CPA,DXR,VCR,PSL)またはその類似療法単独での長期治療成績は不良である。これらにR を併用することで完全奏効割合が改善し良好な分子生物学的奏効も得られるが,長期無増悪生存割合の改善は十分ではない(CQ3,CQ4)。このため,65 歳以下の症例にはR と高用量シタラビンを組み込んだ強化型化学療法を実施し,奏効例には可能であれば第一奏効期に地固め療法として自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)を行うことが推奨される(CQ5, CQ6)。一方,66 歳以上あるいは強化型化学療法の適用が困難な場合は,R とCHOP 療法との併用および奏効例にはその後のR 維持療法,R とベンダムスチンとの併用(BR)療法,VR-CAP 療法(BOR, R, CPA, DXR, PSL)などが推奨される(CQ7)。初回治療に際しては臨床病態,病理組織学所見などを詳細に検討し,患者個々に最も有用性が高いと考えられる治療法を選択する必要がある。再発・初回治療抵抗例にはベンダムスチン,ボルテゾミブ,フルダラビンに加え,新たにイブルチニブが導入され良好な治療成績が報告されている(CQ8)。また,これら以外にも新規治療薬の臨床試験も展開されている。標準治療が確立していないMCL では,新規治療薬の臨床試験への登録も望まれる。これら救援療法が不応・不適応の場合は,緩和的なIFRT の適用も考慮される(CQ8)。
* IFRT:リンパ腫病変が確認されたリンパ節の所属リンパ節領域および,リンパ腫病変が確認された節外病変に一定のマージンを設定した部位に対して行われる放射線療法。
- CQ1
- 限局期MCL の初回治療として推奨される治療法は何か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 化学療法単独での治療効果は不良で,一方,放射線療法の感受性が高いことから,限局期の初回治療としてはIFRT 単独(30〜36 Gy),またはIFRT と化学療法との併用が推奨される。
解説
巨大腫瘤のない初発ⅠA,ⅡA 期のMCL において,IFRT±化学療法(アルキル化薬単独またはCHOP 療法(CPA, DXR, VCR, PSL)など)群と,化学療法単独または経過観察群とを比較検討した比較的少数例の後方視的解析の結果,無増悪生存(PFS)割合には年齢とIFRT 実施が有意な予後因子であった。5 年PFS 割合は,年齢60 歳以上に比べ60 歳未満は有意に優れていた。同様にIFRT 実施群のPFS 割合はIFRT 未実施群に比べ有意に優れる結果であり,照射野内には再発を認めていない。一方,5 年全生存(OS)割合は,IFRT 実施群と非実施群との間に有意な差はなかった1)。また,初発限局期および再発・治療抵抗例の後方視的解析でも,IFRT は15〜20 Gy の比較的低線量で完全奏効割合64%を含む100%の局所奏効割合と,無増悪生存期間の中央値は10 カ月との良好な局所コントロールが報告されている2)。MCL は化学療法単独での治療成績が不良であることから,初発限局期の治療としてIFRT 単独(30〜36 Gy),またはIFRT と多剤併用化学療法との併用が推奨される。しかし,限局期MCL の長期観察では,治癒指向性IFRT による治療例にしばしば遠隔再発を認めている3)。多くは診断時に標準的病期診断法で検出できなかった病変と考えられ,限局期MCL のIFRT 単独療法の治療効果には限界がある。
参考文献
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- CQ2
- MCL の初回治療として無治療経過観察は適切か
- 推奨グレードカテゴリー2B
- MCL の一部はインドレントな臨床経過を呈する。このような症例を診断時に同定するのは困難であるが,特に高齢でインドレントな臨床経過を呈する症例には,無治療経過観察も考慮すべき治療として推奨される。
解説
MCL の一部はインドレントな臨床経過を呈することが知られている。臨床情報が明らかな97例の後方視的解析では,31 例は無治療経過観察が可能であった。その期間は6 カ月以上が71%,1 年以上が14%,5 年以上は10%で,この群の全生存期間は診断後早期にCHOP 療法(CPA, DXR,VCR, PSL)を開始した群より良好であった1)。この研究ではインドレントな経過を呈する群(indolent MCL)を診断時に抽出する有意なマーカーは検出されていないが,一般に限局期,組織学的にはマントル層型,small cell 型,Ki-67 免疫染色陽性率(MIB-1 index)低値の例はインドレントな経過を呈しやすく,比較的長期間の無治療経過観察が可能である2)。また,indolent MCL はSOX11 の発現強度が低く3),染色体異常も付加異常が少なく極めて単純4)との報告もある。一方,免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子の再構成頻度の解析から,通常のMCL とは異なるsubtype の存在が報告されている。これらは節外病変主体(節病変はないか,あってもわずか),脾腫,白血化など脾辺縁帯リンパ腫に類似したインドレントな病態を呈し4),WHO 分類(2017)では「leukemic,non-nodal MCL」と記載された5)。特に高齢でインドレントな臨床経過を呈する症例は無治療経過観察の適応と考えられるが,indolent MCL を診断時に正しく鑑別する方法は未だ確立しておらず,無治療経過観察の適用には慎重な配慮が必要である6)。
参考文献
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- CQ3
- 初発進行期MCL の治療としてリツキシマブ単独療法は有用か
- 推奨グレードカテゴリー3
- 初回治療としてリツキシマブ単独療法は適切ではなく,多剤併用化学療法の適用が困難と判断される一部の例を除けば推奨されない。
解説
低悪性度B 細胞リンパ腫およびMCL に対するリツキシマブ(R)単独療法(375 mg/m2,週1 回,4 週間連続投与)の第Ⅱ相試験では,初発MCL の完全奏効(CR)割合は14%,部分奏効(PR)割合は37%であり,一方,既治療MCL のCR 割合は16%,PR 割合は38%で,R 単独療法はアルキル化薬単独療法に比べCR 割合,全奏効割合(ORR)とも改善していない1)。治療成功生存(FFS)期間の中央値は1.2 年で,未治療例と既治療例,CR 例とPR 例との間に有意な差を認めていない1)。また,R を標準投与(週1 回,4 週連続)した後,さらに8 週間隔でR の標準投与を3 回追加してもORR,FFS 期間,無イベント生存期間のいずれにも改善は得られていない2)。R 単独療法では十分な長期治療効果は期待できず,初発例の治療として適切ではない。多剤併用化学療法の適用が困難な一部の症例を除けば,R 単独療法は推奨されない。
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- CQ4
- 初発進行期MCL の化学療法にはリツキシマブを併用すべきか
- 推奨グレードカテゴリー1
- 初発進行期MCL の治療として,化学療法とリツキシマブとの併用は治療効果を改善するので,リツキシマブを併用することが推奨される。
解説
初発,Ⅱ〜Ⅳ期(80%は骨髄浸潤あり)を対象としたリツキシマブ(R)-CHOP 療法(R, CPA, DXR, VCR, PSL)の第Ⅱ相試験1)では,完全奏効(CR,CRu)割合は48%,全奏効割合(ORR)は96%で,48%には分子生物学的奏効が得られた。しかし,分子生物学的奏効例の無増悪生存(PFS)期間の中央値は16.6 カ月と改善が得られていない。R 併用化学療法は末梢血や骨髄の腫瘍細胞を消失させ良好な分子生物学的効果が得られるが,奏効持続期間は短い。また,R-CHOP 療法とCHOP 療法との第Ⅲ相試験においても,ORR,CR 割合,治療成功生存(FFS)期間は前者が有意に優れたが,全生存(OS)割合には有意な差はなかった2)。しかし,メタアナリシスの結果,R と化学療法との併用はORR,OS 期間を有意に改善することが示されている3)。高齢者(66 歳以上)を対象としたメタアナリシスでも,OS 期間と2 年OS 割合に関わる多変量解析の結果,R と化学療法との併用が最も強い予後良好因子であった[HR 0.58(95%CI:0.41-0.82),p<0.01]4)。初発MCL では,R と化学療法との併用は初期治療効果を有意に改善することから,両者の併用は強く推奨される。
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- CQ5
- 65 歳以下の初発進行期MCL に推奨される化学療法は何か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 初発進行期MCL に対するR-CHOP 療法は,初期治療効果を有意に改善し奏効割合を改善するが,奏効期間は比較的短く長期の治療成績は必ずしも改善していない。一方,リツキシマブと特に高用量シタラビンを含む治療強度(dose intensity)を高めた強化型化学療法との併用では長期治療成績の改善が得られる。65 歳以下の比較的若年者では,リツキシマブと高用量シタラビンとを併用した強化型化学療法が推奨される。
解説
初発進行期MCL のCHOP 療法(CPA, DXR, VCR, PSL)の成績は,完全奏効(CR)割合30%未満,10 年生存(OS)割合は8% 1)で,リツキシマブ(R)-CHOP 療法でも長期治療成績は必ずしも改善していない2, 3)。M.D. Anderson Cancer Center では,治療強度を高めたhyper-CVAD/MA 療法(CPA,VCR,DXR,DEX /高用量MTX,高用量AraC)の奏効例に自家または同種造血幹細胞移植を追加することで優れた治療成績を報告したが,適応は限られていた4)。また,R-hyper-CVAD/MA 療法は造血幹細胞移植なしで3 年無増悪生存(PFS)割合64%が得られたが,PFS 曲線は平坦化していない5)。Nordic Lymphoma Group が実施した65 歳以下を対象に地固め療法として自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation;HDC/AHSCT)を用いた2 つの第Ⅱ相試験(一方は寛解導入治療にR と高用量シタラビン(AraC)は用いておらず,他方はR と高用量AraC を組み込んでいる)の比較では,寛解導入治療にR と高用量AraC とを組み込んだ治療の方が6 年OS 割合,無イベント生存(EFS)割合,PFS 割合,分子生物学的奏効期間が有意に優れていた6)。同様にthe Groupe d’Etude des Lymphomes de l’Adulte(GELA)の第Ⅱ相試験 [CHOP 療法に続くR-DHAP 療法(R,DEX, 高用量AraC, CDDP)の奏効例にHDC/AHSCT 実施] や, わが国の第Ⅱ 相試験[JCOG 0406 試験:R-highCHOP/CHASER(CPA,高用量AraC,PSL,ETP,R)療法の奏効例にHDC/AHSCT 実施]でも高用量AraC の導入は良好なEFS 割合,OS 割合を示した7, 8)。また,European MCL Network の第Ⅲ相試験では,R-CHOP 療法(6 コース)に続くHDC(AraC を含まない)/AHSCT 群に比べ,R-CHOP/R-DHAP 交替療法(各3 コース)に続くHDC(高用量AraC を含む)/AHSCT 群の方が5 年治療成功期間,5 年PFS 期間が有意に優れた(5 年OS 期間には有意差なし)9)。R と高用量AraC とを含む強化型化学療法は,R-CHOP 療法に比べ優れた治療成績が得られるので,65 歳以下の初発進行期例に推奨され,その奏効例には引き続きHDC/AHSCT を実施することが推奨される。なお,最近HDC/AHSCT 実施を前提とする寛解導入治療として,R とベンダムスチン併用[RB(またはBR)]療法とR-hyper CVAD/MA 療法とを比較したSouthwest Oncology Group(SWOG)の第Ⅱ相試験では,RB 療法はR-hyper-CVAD/MA 療法と比べ血液学的有害事象が軽度で造血幹細胞採取効率に優れ,PFS 期間とOS 期間には有意差がなかったと報告された10)。今後の検証が望まれる。
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- CQ6
- 初回治療が奏効した比較的若年者(65 歳以下)のMCL には,地固め療法として自家造血幹細胞移植併用大量化学療法を実施すべきか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 初回治療奏効後の自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は無増悪生存期間を延長するので,地固め療法として実施することが推奨される。また,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法後のリツキシマブ維持療法はPFS 期間,OS 期間を改善し,推奨される。
解説
リツキシマブ(R)導入以前のM.D. Anderson Cancer Center(MDACC)での第Ⅱ相試験では,hyper-CVAD/MA 療法(CPA,VCR,DXR,DEX /高用量MTX,高用量AraC)の奏効例に造血幹細胞移植(55 歳以下は同種,56〜65 歳は自家)療法を追加することで,CHOP 療法(CPA, DXR, VCR, PSL)と比べ無イベント生存(EFS)割合,全生存(OS)割合が有意に優れることが示された1)。また,European MCL Network での寛解導入治療奏効例に対する地固め療法として自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)とインターフェロンα維持療法とを比較した第Ⅲ相試験では,無増悪生存(PFS)期間中央値はHDC/AHSCT 群が有意に延長した(3 年OS 割合は有意差なし)2)。一方,R-hyper-CVAD/MA 療法単独では65 歳以下でもPFS 曲線は平坦化していない3)。MCL は高率に骨髄,末梢血に浸潤を認めるが,CQ5 の解説のようにR と高用量シタラビンとの併用はin vivo purging 効果に優れ4),腫瘍細胞の混入が少ない良質な造血幹細胞の採取が可能である。MDACC の解析ではHDC/AHSCT によりPFS 期間が改善し,PFS 曲線が平坦化するのは第一奏効期での実施に限られており5),65 歳以下の初発進行期では寛解導入治療の第一奏効期にHDC/AHSCT を実施することが推奨される。なお,the Lymphoma Study Association(LYSA)group の第Ⅲ相試験の結果,HDC/AHSCT 後においてもR 維持療法はPFS 期間,OS 期間を有意に改善することが示され,推奨される6)。
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- CQ7
- 66 歳以上,あるいは65 歳以下でも強力な化学療法の適応とならない初発進行期MCL に対する標準治療は何か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 自家造血幹細胞移植併用大量化学療法を含む強力な化学療法の適応がない場合は,R-CHOP(またはその類似療法),VR-CAP,BR 療法が推奨される。また,R-CHOP 療法の奏効例にはリツキシマブ維持療法が全生存割合を改善し,推奨される。
解説
初発進行期MCL におけるCHOP 療法(CPA, DXR, VCR, PSL)とCVP 療法(CPA, VCR,PSL)との比較試験では,完全奏効(CR)割合,全奏効割合(ORR),全生存(OS)期間中央値,無再発期間中央値には有意差はない1, 2)が,ドキソルビシン(DXR)を含む治療は有意にCR 割合が高く,IPI でのlow およびlow-intermediate risk 群に限ればOS 割合,無病生存割合は有意に優れるとの報告3)があり,DXR は予後良好群には有用と考えられる。CHOP およびその類似療法はリツキシマブ(R)併用により分子生物学的奏効割合,ORR は改善する4, 5)が,長期の無増悪生存(PFS)割合やOS 割合の改善は必ずしも十分ではない。しかし,66 歳以上の高齢者に対するR-hyper-CVAD/MA 療法(R, CPA,VCR,DXR,DEX /R, 高用量MTX,高用量AraC)は,有害事象の頻度が高く奏効期間も若年者とくらべ不良であることから推奨されない6)。R-CHOP 療法は初期治療効果に優れ,66 歳以上または自家造血幹細胞移植併用大量化学療法が非適応の初発例において,R-FC 療法(R,Flu,CPA)との第Ⅲ相試験でもOS 割合が有意に優れた。また,サブグループ解析では,R-CHOP 療法に続くR 維持療法はOS 割合,無イベント生存割合を有意に改善した7)。近年,初発進行例に対するR-CHOP 療法との第Ⅲ相試験において,ボルテゾミブ(BOR)を含むVR-CAP 療法(BOR, R, CPA, DXR, PSL)はPFS 期間が有意に優れることが示された8)。また,当初はOS 期間には有意差はなかったが,最終解析ではOS 期間も有意に優れた9)。同様にベンダムスチンとR との併用療法(BR;ベンダムスチン,R)はR-CHOP 療法との非劣性試験のサブグループ解析ではOS 期間,PFS 期間がともに有意に優れることが報告され10),MCL の初回治療としてBOR,ベンダムスチンが新たに承認された。高用量シタラビンを含む治療強度を高めた化学療法の適応がない場合は,R-CHOP またはその類似療法と奏効例にはR 維持療法,あるいはVR-CAP 療法,BR 療法が推奨される(VR-CAP 療法,BR 療法後のR 維持療法はエビデンスがない)。
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- CQ8
- 再発・治療抵抗MCL に推奨される治療は何か
- 推奨グレードカテゴリー2B
- 再発・治療抵抗MCL に対し下記の治療法は高い奏効割合が報告されており,いずれも救援療法として推奨される。
- ベンダムスチン,ボルテゾミブ,フルダラビン,イブルチニブ,クラドリビンの各単独療法
- 上記抗腫瘍薬とリツキシマブまたは他の抗腫瘍薬との併用療法
- 放射免疫療法薬(90Y イブリツモマブ チウキセタン)単独療法
解説
再発・治療抵抗MCL の標準治療は確立していないが,ベンダムスチン,ボルテゾミブ(BOR),フルダラビン(Flu),クラドリビン1),およびイブルチニブは単独または他の抗腫瘍薬,特にリツキシマブ(R)との併用で高い全奏効割合(ORR)と比較的良好な治療成功期間(FFS)が得られている。少数例での検討が多いが,BR 療法(ベンダムスチン,R)の完全奏効(CR, CRu)割合は59%,ORR は92%で,R 既治療例にも有効であった2)。また,R-BAC 療法(R, ベンダムスチン,AraC)は70%のCR 割合を含む80%のORR と,70%の2 年無増悪生存(PFS)割合が得られている3)。ボルテゾミブは単独療法で33%のORR が報告されている4)。R-FCM 療法(R,Flu,CPA,MIT)はFCM 療法に比べORR は58%(vs 46%)で,PFS 期間には有意差はなかったが,全生存期間(OS)は有意に延長した5)。BR 療法とRF 療法(R, Flu)療法とを比較した第Ⅲ相試験では,BR 療法はRF 療法に比べPFS が有意に優れた6)。イブルチニブは単独でORR 68%,FFS 期間中央値17.5 カ月,18 カ月生存割合58%が得られ,BOR での既治療例にも良好なOS 期間,PFS 期間が得られており7),また,中枢神経浸潤にも有用との報告がある8)。患者の全身状態や臓器機能,各救援療法の特性,および初回(または前)治療法を検討の上,適切な救援療法を選択すべきである。一部の救援療法奏効例では,R 維持療法がFFS 期間を有意に延長する可能性がある9)。90Y イブリツモマブ チウキセタンも比較的高いORR が得られるが,PFS 期間は比較的短い10)。救援療法奏効例の地固め療法として用いた場合はPFS 期間の延長が期待されるが11),わが国では保険適用外である。いずれの抗腫瘍薬も使用に当たっては併用薬や適用上の制約についての確認が望まれる。これらの救援療法が不応の場合は,臨床試験への登録が推奨される。また,研究的治療ではあるが,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法後の再発・治療抵抗例も含め,上記の救援療法が奏効した例には骨髄破壊的または非破壊的処置(RIST)を用いた同種造血幹細胞移植も考慮しうる12, 13)。
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- 5 びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫
(diffuse large B-cell lymphoma, not otherwise specified:DLBCL,NOS)
(diffuse large B-cell lymphoma, not otherwise specified:DLBCL,NOS)
総論
WHO 分類(2017)1)におけるびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, not otherwise specified:DLBCL,NOS)は,本邦の全NHL のうち3 割強を占める2),もっとも発生頻度の高い病型である。DLBCL としての初発例の他に,他の低悪性度B 細胞リンパ腫から組織学的進展する例もあり,さまざまな病態を示す不均一な疾患群である。CD10,BCL6, IRF4/MUM1 などの免疫組織化学染色結果により,細胞起源に基づいて胚中心B 細胞型B 細胞リンパ腫と活性B 細胞型/非胚中心B 細胞型B 細胞リンパ腫の亜型(subtype)に分類される3)が,現在のところ臨床試験を除いて,亜型による治療の層別化は行われていない。
本項では,DLBCL,NOS に加え,DLBCL の亜型のうちT 細胞/組織球豊富型大細胞型B 細胞リンパ腫(T-cell/histiocyte-rich large B-cell lymphoma),原発性中枢神経系びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(Primary DLBCL of the central nervous system),原発性皮膚びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫・下肢型(Primary cutaneous DLBCL, leg type),およびEBV 陽性びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫・非特異型(EBV positive DLBCL, NOS),さらに類縁の病型である原発性縦隔(胸腺)大細胞型B 細胞リンパ腫[Primary mediastinal(thymic)large-B cell lymphoma],血管内大細胞型B 細胞リンパ腫(Intravascular large B-cell lymphoma),慢性炎症関連びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL associated with chronic inflammation),リンパ腫様肉芽腫症(Lymphomatoid granulomatosis),ALK 陽性大細胞型B 細胞リンパ腫(ALK positive LBCL)をまとめてDLBCL として取り扱う。
病期分類にはAnn Arbor 分類4)が,予後予測モデルとしては国際予後指標5)が広く用いられている。近年,リツキシマブ時代のDLBCL に対する予後指標としてNational Comprehensive Cancer Network の国際予後指標6)が提唱されている。これは年齢,血清LDH 値をより細分化したもので,かつての国際予後指標を用いるよりも低リスクと高リスクをより正確に区別することができるとされる。治療の効果判定には「NHL の効果判定規準の標準化国際ワークショップレポート」7)が用いられてきたが,近年のFDG-PET/CT の普及度と有用性を受けて,効果判定へFDG-PET/CT を導入した「改訂版NHL の効果判定規準の標準化国際ワークショップレポート」8, 9)が,広く用いられている。
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アルゴリズム
放射線療法の適応を考慮する場合,Ⅱ期では病変が連続性に存在して1 照射野として治療可能であることが必要である。よってここでの限局期は,Ann Arbor 分類での臨床病期Ⅰおよび連続性Ⅱ期を指す。
大規模なランダム化比較試験の結果により,限局期DLBCL に対する標準治療はCHOP 療法(CPA, DXR, VCR, PSL)3 コースに引き続いてinvolved-field radiotherapy(IFRT)を行うcombined modality treatment(CMT)であった1)。なお,bulky mass を有する場合はCHOP 療法3 コースとIFRT とのCMT は推奨されない。リツキシマブ(R)導入後は,bulky mass(最大腫瘍径が10 cm を超える,または縦隔病変の最大横径が最大胸郭内径の1/3 以上)を有しない限局期DLBCL に対してはR-CHOP 療法3 コースとIFRT のCMT,あるいはR-CHOP 療法6〜8 コースが,bulky mass を有する場合はR-CHOP 療法6〜8 コースが推奨される2, 3)。R-CHOP 療法3 コースとIFRT のCMT と,R-CHOP 療法6〜8 コースを使い分ける明確な指標はなく,6〜8 コースの化学療法の適否可能性を考慮して治療を選択する(CQ1)。化学療法の適応が困難な場合は,IFRT を行う。
化学療法後の地固め療法としての放射線照射については,8 コースのCHOP 療法後に30 Gy のIFRT を行っても生存が改善しないという比較試験が報告されている4)。しかし,比較試験のサブグループ解析および大規模な後方視的解析において放射線照射が行われた群では生存が改善しており5, 6),治療前に病変が存在していた部位,特にbulky mass の場合には,化学療法後にIFRT(従来の領域またはそれ以下)を考慮してもよいと考えられる。
治療後に完全奏効(complete response:CR)が得られた場合,無治療で経過観察する。部分奏効(partial response:PR)までの効果しか得られなかった場合,IFRT の後に照射部位に病変が残存し,総照射線量が40 Gy 未満の場合は,計50 Gy 程度までの追加のIFRT を行う。R-CHOP 療法6〜8 コース後PR で残存病変が1 照射野に限局している場合,IFRT を行う。SD,PD で救援化学療法の実施が困難な場合はIFRT を行い,それ以外では救援化学療法を行う。
CD20 陽性の進行期DLBCL に対する化学療法は,大規模な比較試験の結果により6〜8 コースのR-CHOP 療法が標準治療である7, 8)(CQ2)。6 コースと8 コースを使い分けるエビデンスもしくはその規準はなく,化学療法の適否可能性を考慮してコース数を決定する(CQ2)。化学療法後に放射線照射を追加することで全生存が改善する可能性があるため5),治療前に病変が存在していた部位,特にbulky mass が存在していた部位へは,化学療法後にIFRT を考慮してもよい。
R-CHOP 療法後にCR となった場合,R 維持療法による生存割合改善のデータは存在しないため,無治療経過観察とする9, 10)。若年者でIPI のhigh-intermediate, high risk 群では自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)による地固め療法により予後が改善する可能性があるが11),一般診療として推奨できるだけのエビデンスは不十分であり,実施する場合は適切に計画された臨床試験のもとで行う必要がある。その場合は,臨床試験の計画書で定められた治療レジメンを行う(CQ6)。
PR までの効果しか得られず救援療法の実施が困難な患者に対して,残存病変が1 照射野に限局している場合はIFRT を行う。
再発・再燃DLBCL に対しては,若年者(65 歳以下)で救援療法により奏効(CR,PR)が得られる場合には,HDC/AHSCT を実施することが推奨される(CQ7)。
初回治療不応/再発のDLBCL に対してはHDC/AHSCT 以外のエビデンスが存在しないため,各救援化学療法の優劣は明らかではなく,レジメンは以下のいずれかが選択される。
HDC/AHSCT 後の再発・再燃患者に対して同種造血幹細胞移植は考え得る治療選択の一つであるが,治療関連死亡が多く,有用性を示すエビデンスが乏しいため,臨床試験での実施が推奨される(CQ8)。
救援化学療法
DHAP 療法(DEX, CDDP, AraC)(+R)12, 13)
(R-)ESHAP 療法(mPSL, ETP, AraC, CDDP)14)
(R-)ICE 療法(IFM, CBDCA, ETP)15)
CHASE(R)療法(CPA, AraC, DEX, ETP)16)
Dose adjusted(DA)-EPOCH(-R)療法(ETP, PSL, VCR, CPA, DXR)17)
MINE 療法(MIT, IFM, メスナ,ETP)18)
GDP 療法(Gem, DEX, CDDP)19)
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- CQ1
- 初発限局期DLBCL に対する標準治療は何が推奨されるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- R-CHOP 療法を3 コース行った後にIFRT を追加するcombined modality treatment が推奨される。
- 推奨グレードカテゴリー1
- R-CHOP 療法6〜8 コースが推奨される。
解説
限局期はAnn Arbor 分類での臨床病期Ⅰおよび連続性Ⅱ期に該当する。放射線療法の適応を考慮する場合,Ⅱ期では病変が連続性に存在して1 照射野として治療可能であること,すなわちcontiguous stageⅡであることが必要である。
リツキシマブ(R)導入以前にいくつかの大規模ランダム化比較試験が行われた。Southwest Oncology Group(SWOG)で行われたS8736 試験ではCHOP 療法(CPA, DXR, VCR, PSL)8 コースと,CHOP 療法3 コースに引き続いてIFRT を行うcombined modality treatment(CMT)が比較され,無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)でCHOP 療法3 コース+IFRT の成績が有意に良好であった1)。一方Groupe d’Etude des Lymphomes de l’Adulte(GELA)では高齢者で年齢調節IPI の予後因子を有しない限局期アグレッシブリンパ腫を対象としたCHOP 療法4コース+IFRT とCHOP 療法4 コースのランダム化第Ⅲ相試験が行われたが,無イベント生存期間(EFS)およびOS において両群に有意差を認めなかった2)。
R 導入後に行われた限局期DLBCL に対する大規模試験の報告は乏しい。SWOG は,年齢が60 歳を超える,Ⅱ期,LDH 高値を予測因子とするstage-modified IPI で1 つ以上の因子を有する限局期DLBCL を対象にして,R-CHOP 療法3 コースと放射線治療併用療法の第Ⅱ相試験を施行して良好な治療成績を報告した3)。MabThera International Trial(MInT)は若年低リスクDLBCL を対象に施行された,R 併用化学療法6 コースとR 非併用化学療法のランダム化比較試験である。この試験では臨床病期Ⅰ/Ⅱ期の限局期患者が72%含まれていたが,R 併用化学療法がR 非併用化学療法にEFS,OS で優った4)。なお本試験ではbulky mass や節外病変部位に対して放射線療法が施行された。
その他に,GELA では若年限局期アグレッシブリンパ腫を対象にしてCHOP 療法3 コース+IFRT と治療強度を高めた併用化学療法であるACVBP 療法(DXR, CPA, VDS, BLM, PSL)とのランダム化第Ⅲ相試験が行われ,ACVBP 療法が優ることが報告された5)。また,若年アグレッシブリンパ腫を対象にして,R-ACVBP 療法とR-CHOP 療法のランダム化第Ⅲ相試験が行われ,R-ACVBP 療法が優ることが報告されたが6),いずれの試験においても,ACVBP 療法は治療強度が高く高毒性である。
2012 年にGELA とGroupe Ouest-Est des Leucémies et des Autres Maladies du Sang(GOELAMS)が合併し発足したThe Lymphoma Study Association(LYSA)では,7 cm 以上のbulky mass を有しない限局期DLBCL をランダム化し,R-CHOP-14 療法4 コース後の中間PET にて完全奏効に至った患者を対象に,stage-modified IPI で予後因子を有しない場合は,IFRT 追加の有無を比較し,有する場合は,R-CHOP-14 療法を2 コース追加後にIFRT 追加の有無を比較する非劣性試験を行った。この試験では,R-CHOP-14 療法4 コース後に完全奏効が得られた患者については,EFS およびOS ともに化学療法群がCMT 群に劣らないことが示された7)。
以上から限局期DLBCL に対してはR-CHOP 療法3 コース+IFRT のCMT, あるいはR-CHOP療法6〜8 コースが推奨される治療法である。
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- CQ2
- 初発進行期DLBCL に対する標準治療は何が推奨されるか
- 推奨グレードカテゴリー1
- 3 週間間隔のR-CHOP 療法6〜8 コースが推奨される。
解説
進行期DLBCL の標準治療はリツキシマブ(R)-CHOP 療法(R, CPA, DXR, VCR, PSL)である。これは,Groupe d’Etude des Lymphomes de l’Adulte(GELA)で行われた初発の60 歳以上の患者を対象としたR-CHOP 療法8 コースとCHOP 療法8 コースの比較試験1),ドイツを中心とした研究グループが行った若年者,IPI の予後因子数が0 または1,bulky mass を有するⅠ期またはⅡ〜Ⅳ期の初発患者を対象としたCHOP(またはCHOP 類似)療法とR-CHOP(またはR-CHOP 類似)療法との比較試験2)の結果に基づいている。
3 週間間隔の標準的なR-CHOP 療法(R-CHOP-21)に対してR-CHOP 療法を2 週間に短縮して治療強度を高めるR-CHOP-14 療法の効果を検証する大規模臨床試験は2 つ報告されている。UK National Cancer Research Institute Lymphoma Clinical Study Group は18 歳以上,全病期の未治療患者を対象としたR-CHOP-14 療法6 コース(+R 2 コース)とR-CHOP-21 療法8 コースとの第Ⅲ相比較試験を行い3),全奏効割合,無増悪生存割合,全生存割合で両群間に差がなかったことを報告している。GELA からは60〜80 歳,年齢調節IPI スコアが1 点以上の未治療患者を対象にしたR-CHOP-21 療法8 コースとR-CHOP-14 療法8 コースとの第Ⅲ相比較試験の結果4),無イベント生存割合と無増悪生存割合,全生存割合のすべてで両群間に差が認められなかったことが報告されている。これらのことより,R-CHOP 療法の治療強度を高めるために治療間隔を短縮する治療はR-CHOP-21 療法と比較して上乗せ効果が得られなかったことから,R-CHOP-21 療法が推奨される。R-CHOP-14 療法はその毒性と治療期間を考慮して選択される。米国から18 歳以上,Ⅱ期〜Ⅳ期の未治療患者を対象としたR-CHOP 療法6 コースとDA-EPOCH-R 療法(ETP, PSL,VCR, CPA, DXR, R)6 コースの第Ⅲ相比較試験の結果が報じられた5)。イベント数は最終解析予定数には到達していないため予備的な解析結果であるが,無イベント生存割合と全生存割合は両群間に差が認められず,毒性はDA-EPOCH-R 療法で高かった。この結果から,依然として標準治療はR-CHOP 療法であり,DA-EPOCH-R 療法の治療対象については十分に考慮して選択すべきである。
標準的なR-CHOP 療法のコース数は6〜8 コースであるが,6 コースと8 コースの差は不明である。German High-Grade Non-Hodgkin Lymphoma Study Group(DSHNHL)で行われた初発の高齢者患者を対象としたCHOP 療法の治療間隔を短縮したCHOP-14 療法6 コースまたは8 コース,それにR の併用の有無の4 群をを比較した試験6)では,R-CHOP-14 療法8 コースの治療成績は同6 コースと比較して上乗せ効果はなく,毒性は高かった。そのためR-CHOP-14 療法を選択する場合は6 コースでよい。R-CHOP-21 療法での6 コースと8 コースを比較した試験は存在せず明確な根拠が得られないため,至適コース数は未確定である。
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- CQ3
- DLBCL では中枢神経系再発予防のための髄注は必要か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 精巣原発のDLBCL では,中枢神経系再発予防のためR-CHOP 療法に予防的髄注を併用することが推奨される。
- 推奨グレードカテゴリー2B
- 進行期,骨髄浸潤陽性,節外病変を多数有するIPI 高リスク例,副鼻腔原発のDLBCL 例では,髄注を併用することで中枢神経系再発の頻度が下がる可能性があるが,有用性が確立しているわけではない。
解説
精巣原発のDLBCL に関しては,International Extranodal Lymphoma Study Group により大規模な後方視的解析が報告され,373 例のうち52%が再発し,10 年までの累積の中枢神経系再発は15%であった1)。同グループは,病期Ⅰ〜Ⅱ期の初発の精巣原発DLBCL 患者に対して,リツキシマブ(R)-CHOP 療法(R, CPA, DXR, VCR, PSL)6〜8 コースに4 回のメトトレキサート(MTX)の髄注,対側精巣への放射線照射(Ⅱ期の例では,リンパ節病変の領域にも照射)を併用するという前方視的第Ⅱ相試験を行い,5 年の累積中枢神経系再発割合が6%という結果を報告した2)。これらの結果より,精巣原発のDLBCL に対しては予防的髄注と放射線照射の併用が推奨される。
DLBCL では,2〜10%に中枢神経系再発が起こるとされている3-6)。発症頻度より,全患者に中枢神経系再発予防を行うことは推奨されず,骨髄,副鼻腔,眼窩,骨/椎体,末梢血に病変を有する場合は予防的に髄注を行うと中枢神経系再発の頻度が下がる可能性はあるが,定まった見解はない7, 8)。German High-Grade Non-Hodgkin Lymphoma Study Group(DSHNHL)とBritish Columbia Cancer Agency(BCCA)より,複数の前方向視臨床試験の併合解析が報告され,腎/副腎病変,年齢,LDH,PS,臨床病期,節外病変数を予測因子とする中枢神経再発予測モデルが提唱されている9)。高リスク群に中枢神経再発予防が考慮されるが,確立された予防治療法はない9)。R 併用化学療法下においては,相対的に中枢神経実質再発が多くなっており,髄注よりMTX 大量療法が有用である可能性があるが,MTX 大量療法を髄注に置き換えることが可能であるかどうかについても定まった見解はない4, 5, 10, 11)。
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- CQ4
- 心機能の低下が予想される初発DLBCL に対して適切な化学療法は何が推奨されるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- ドキソルビシンの投与量低減あるいは中止,持続投与への変更を考慮する。ドキソルビシンを他の薬剤へ変更した治療法は代替治療となる可能性があるが,有用性は証明されていない。
解説
ドキソルビシン(DXR)の代表的な毒性に心筋障害がある。心筋障害による心不全発症のリスクはDXR の累積投与量と相関しており,総投与量が400 mg/m2 未満では発症割合は0.14%程度であるが,550 mg/m2 になると7%,700 mg/m2 を超えると18%まで上昇する1)。DXR を含めた化学療法を投与されたがん患者49,017 例を対象としたメタアナリシスでは,観察期間中央値9 年における症候性心毒性発症割合は6%であったと報告されている2)。DXR を含めた化学療法を施行した65 歳以上の高齢者DLBCL 患者の大規模な後方視的研究において,化学療法のコース数が6 コース未満であった場合は心不全のリスクは増加せず,高血圧のみが心不全のリスク因子であることが示された3)。これは高齢DLBCL 患者において治療前に心機能が低下している割合が高く,高血圧,脂質異常症,糖尿病などの心不全発症リスク因子を合併していることが背景にある。米国での後方視的解析の結果,CHOP 療法(CPA, DXR, VCR, PSL)を受けた中悪性度NHL 患者において6 コース未満で早期治療中止群は6 コース以上治療完遂群との比較において,74 歳未満では生存期間が低下するが,75 歳以上では生存期間は低下しなかった4)。同様に米国の大規模コホート研究では,80 歳以上のDLBCL 患者において第1 コースに85%以上のDXR を投与された群と85%未満の投与群とを比較すると,85%以上の投与群において治療関連死が多く1 年生存割合が有意に不良であった5)。DLBCL に対する化学療法ではDXR のactual relative dose intensity が予後と相関するが6),これらのことより,心機能の低下が予想される高齢者に対しては,DXR による心筋障害の危険性軽減のための薬剤の減量を行うことが推奨される。
再発難治NHL を対象としたDA-EPOCH 療法(ETP, PSL, VCR, CPA, DXR)の第Ⅱ相試験の結果,臨床的に問題となる心毒性は観察されなかったことから7),DXR の投与法をボーラス投与から持続投与へ変更することで心毒性は軽減される可能性が示唆されている。DXR を他の薬剤に変更した治療法として,わが国からDXR をピラルビシンに変更したTHP-COP-14 療法(CPA,THP-DXR, VCR, PSL)とCHOP-14 療法とランダム化第Ⅱ相試験結果が報告され,THP-COP-14 療法群で治療効果は同等で重篤な心筋障害が1 例も観察されなかったことから8),代替治療となる可能性が示唆されている。他にはDXR をミトキサントロンへ変更したCNOP 療法(CPA, MIT,VCR, PSL)9, 10),非ペグ化リポソーマル・ドキソルビシンに変更したリツキシマブ(R)-COMP 療法(R,CPA, NPLD, VCR, PSL)11, 12)などの報告がある。いずれも効果はR-CHOP 療法と同等であるが,心毒性を軽減するという報告ではない。心機能が低下したDLBCL 患者を対象とした報告には,DXR をゲムシタビンに変更したR-GCVP 療法(R, Gem, CPA, VCR, PSL)の第Ⅱ相試験13),エトポシドに変更したR-CEOP 療法(R, CPA, ETP, VCR, PSL)の後方視的検討がある14)。これらでは比較的忍容性良好な結果と予後が示されており,代替治療法候補として期待される。
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- CQ5
- 高齢者DLBCL に対する標準治療は何が推奨されるか
- 推奨グレードカテゴリー1
- 80 歳未満に対しては標準量のR-CHOP 療法が推奨される。
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 80 歳以上の超高齢者に対しては,用量あるいはコース数を減らしたR-CHOP 療法も妥当な代替治療となる。
解説
WHO 分類では高齢者は65 歳以上と定義されている。高齢者DLBCL を対象とした多くの臨床試験は年齢上限を80 歳としており,フランス,ドイツ,イギリスのグループが行った比較試験の結果から,performance status および臓器機能が概ね良好で,重大な合併症を認めなければ,リツキシマブ(R)-CHOP 療法(R, CPA, DXR, VCR, PSL)が80 歳までのDLBCL の標準治療法といえる1-3)。
80 歳以上のDLBCL 患者は日常診療ではしばしば遭遇する。Groupe d’Etude des Lymphomes de l’Adulte(GELA)で行われた80 歳以上の全病期の初発超高齢患者を対象とした,低用量R-CHOP 療法6 コースに対する第Ⅱ相試験の結果,入院治療を必要とするような毒性の割合が低く,80 歳超の患者に対しても治癒を望めることが明らかになった4)。他には治療コース数を4 コース(R 4 コースの維持療法を追加)に減量したR-CHOP 療法5),ドキソルビシンを非ペグ化リポソーマル・ドキソルビシンに変更したR-CMyOP 療法(CPA, NPLD, VCR, PSL)6),DA-EPOCH-R 療法(ETP, PSL, VCR, CPA, DXR, R)7),ゲムシタビンに変更したR-GCVP 療法(R,Gem,CPA,VCR, PSL)8),R-ベンダムスチン療法9)などの第Ⅱ相試験の結果が報告されており,妥当な代替案とされている。しかし現在のところ高齢者を対象とした第Ⅲ相試験結果はまだ報告されていないため,R-CHOP 療法を減量もしくは,コース数を減らすなどの治療を行うことが一般的である。
IPI において年齢61 歳以上が予後不良因子の一つであり,高齢そのものが予後不良と関係している。高齢患者は臓器機能低下を認め,併存疾患・合併症の存在,認知機能低下,社会的問題が存在する。また若年者と比べて治療関連死亡割合および毒性が増加することが知られており,治療の個別化が必要とされる10)。支持治療薬としてのG-CSF・PEG-G-CSF 製剤,制吐剤,抗菌剤を適切に併用することが重要といえる。
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- CQ6
- 初回化学療法で奏効を得たDLBCL に対して引き続き自家造血幹細胞移植併用大量化学療法による地固め療法を行うことは勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー4
- 若年者高リスク群(IPI:High/Intermediate, High)においてもエビデンスは不十分であり,一般診療として行うことは勧められない。
実施する場合は臨床試験として実施することが望ましい。
- 推奨グレードカテゴリー4
- 高齢者および若年者低リスク群(IPI:Low, Low/Intermediate)には推奨されない。
解説
自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)が実施可能な対象は若年者(65 歳以下)であり,高齢者には推奨されない。国際予後指標(International Prognostic Index:IPI)低リスク群(Low, Low/Intermediate)では,標準的化学療法R-CHOP 療法(R, CPA, DXR, VCR, PSL)の4年全生存割合(OS)は80%以上と良好であり1),初回治療奏効後に組み込んだ(up front)HDC/AHSCT は推奨されない。一方,初回治療の地固めとしてHDC/AHSCT を検討する場合には,若年者IPI 高リスク群(High/Intermediate, High)が妥当であることが報告された2)。リツキシマブ(R)導入以前の比較試験においては,HDC/AHSCT の有効性が示された試験3, 4)と有効性が示されなかった試験5, 6)があり,有効性に関しての一定した結論は得られていなかった。
R 導入後には,中間解析も含めると4 つの第Ⅲ相比較試験の結果が発表されている7-10)。2 つの試験では2 年無増悪生存割合(PFS)でup front HDC/AHSCT の成績が優れているとの結果であったが9, 10),2 つの試験においては優位性が示されなかった7, 8)。いずれの試験においてもOS での有用性は示されていない。しかし探索的なサブグループ解析で,IPI-high リスク群は2 年PFS,OS が優れているとの結果が示されており9),HDC/AHSCT により成績の向上が期待できる患者群の存在が示唆されている。
以上より,若年者高リスク群に対してもup front HDC/AHSCT は未だ標準治療とは言えず,臨床試験での実施が推奨される。
参考文献
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- CQ7
- 再発・再燃DLBCL に対して自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー1
- 若年者(65 歳以下)で救援療法に奏効(完全奏効+部分奏効)が認められる場合には,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法を実施することが推奨される。
解説
再発・再燃DLBCL に対して通常の救援療法単独での長期予後は満足すべきものではなく,救援療法に引き続く地固め療法としての自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)による長期予後成績の改善が試みられてきた1)。
DLBCL を主体とする再発・再燃中高悪性度リンパ腫に対して,HDC/AHSCT の優位性を示した比較試験はPARMA 試験である2)。DHAP 療法(DEX, CDDP, AraC)2 コース後に奏効を認めた患者を,さらに4 コースのDHAP と放射線治療を実施する群とHDC/AHSCT と放射線療法を実施する群に割り付けを行い比較した。5 年全生存割合(OS),無イベント生存割合(EFS)ともにHDC/AHSCT 群が優れていた。
リツキシマブ(R)導入後のHDC/AHSCT の有無に関する比較試験は実施されていないが,診断後12 カ月以降の再発患者に関しては,初回治療のR 使用の有無は無イベント生存期間に影響を及ぼさず,R 導入後においても再発・再燃DLBCL に対してのHDC/AHSCT の実施は推奨される3)。
以上より,HDC/AHSCT の対象となる65 歳以下の再発・再燃DLBCL に対しては,救援療法に奏効(完全奏効+部分奏効)が認められる場合には,HDC/AHSCT を実施することが推奨される。
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- CQ8
- 再発・再燃DLBCL に対して同種造血幹細胞移植の適応はあるか
- 推奨グレードカテゴリー2B
- 自家造血幹細胞移植併用大量化学療法後の再発・再燃患者に対して同種造血幹細胞移植は考慮されるべき治療選択の一つだが,臨床試験での実施が推奨される。
解説
再発・再燃DLBCL に対しては,同種造血幹細胞移植(以下,同種移植)ではなく,まずは自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)の適応が考慮される。HDC/AHSCT 後の再発・再燃は絶対的予後不良であり,何らかの臨床試験による治療法が推奨されるが,その選択肢の一つに同種移植が挙げられる。また,自家末梢血幹細胞採取が不良な患者においても,同種移植が治療選択の一つとして考慮されるが,この場合にも臨床試験としての実施が推奨される。
DLBCL に対する同種移植に関する大規模な前方視的試験のデータは乏しく,多くは後方視的解析である。従来の骨髄破壊的同種移植は,再発は少ないものの,非再発治療関連死亡が50%と多いため,HDC/AHSCT に対する優位性は示されていない1, 2)。治療関連死亡を減らすため,HDC/AHSCT 後の再発患者に対して骨髄非破壊的同種移植を実施した症例の多施設および登録データによる後方視的解析では,非再発治療関連死亡が約30%,生存割合(OS)が37〜54%と報告されている3-5)。これらの結果からは,骨髄非破壊的同種移植により長期生存が得られる患者群が存在することが示唆される。
以上より,HDC/AHSCT 後の再発患者に対して同種移植は考慮されるべき治療選択の一つであるが,臨床試験での実施が推奨される。
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- CQ9
- 節外性リンパ腫など治療上の特別な配慮が必要なDLBCL の病態・病型には何があるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 原発性中枢神経系DLBCL に対してはメトトレキサート大量療法を基盤とする化学療法を先行し,引き続き全脳照射を行う治療が推奨される。ただし高齢者では全脳照射による遅発性中枢神経障害のリスクに注意を要する。精巣原発DLBCL に対しては中枢神経系および精巣の再発予防法を併用することが推奨される(CQ3)。
解説
DLBCL にはいくつかの亜型や類縁病型がある。また,WHO 分類(2017)では規定されない節外性DLBCL の中には特徴的な病態を示すものがある。これらのうち一部については治療上の特別な配慮が必要である。原発性中枢神経系DLBCL では中枢神経系への薬剤移行などを考慮して,メトトレキサート(MTX)大量療法を基盤とする化学療法を先行し,引き続き全脳照射を行う治療が推奨される1-3)。ただし高齢者では全脳照射による遅発性中枢神経障害の発生を軽減するため,初発時の治療として導入化学療法後に完全奏効が得られた患者については,全脳照射を減量ないし待機とした治療法を考慮する4-6)。原発性縦隔(胸腺)大細胞型B 細胞リンパ腫ではDA-EPOCH-R 療法(ETP, PSL, VCR, CPA, DXR, R)の良好な第Ⅱ相試験の治療成績が報告されており7),化学療法後の放射線照射の省略を含めその治療成績の向上が図られる可能性があるが,R-CHOP 療法(R, CPA, DXR, VCR, PSL)と比較した試験は行われておらず優位性が確立しているわけではない。CD5 陽性DLBCL や血管内大細胞型B 細胞リンパ腫は,通常のDLBCL と比較して中枢神経系再発リスクが高いことが示唆されている8, 9)。精巣原発DLBCL では中枢神経系および対側精巣での再発を予防するために,R-CHOP に加えて予防的な抗がん剤の髄腔内投与と健側を含む精巣への放射線照射が推奨される(CQ3)。胃原発DLBCL についてはCQ10 で解説する。
これら以外の節外性DLBCL,および総論でDLBCL として取り扱うと記載したものについてはDLBCL ガイドラインに従うことを推奨する。
参考文献
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- CQ10
- 胃原発DLBCL の治療方針は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 胃DLBCL については消化管原発悪性リンパ腫のLugano 病期分類(1994)に基づく病期分類を行い,限局期と進行期に区分して取り扱う。治療としてはDLBCL で推奨される治療法が推奨される。
解説
消化管悪性リンパ腫の臨床病期分類としては,Ann Arbor 分類に加えて消化管原発悪性リンパ腫のLugano 病期分類(1994)が用いられる1)。胃原発DLBCL については消化管原発悪性リンパ腫のLugano 分類(1994)でのⅠ期,およびⅡ1 期を限局期として取り扱う。
リツキシマブ(R)導入前に施行された,限局期胃DLBCL に対して外科手術,外科手術と放射線治療,外科手術と化学療法,および化学療法を比較するランダム化比較試験では,化学療法が全生存期間で優れ,かつ外科手術を含む治療法よりも治療関連死亡(TRM)が少ないことが報告された2)。また外科手術は行わずにCHOP 療法(CPA, DXR, VCR, PSL)に引き続いてinvolved field radiotherapy(IFRT)を行う治療について,良好な生存期間と胃穿孔・消化管出血など重篤な有害事象の頻度が低いことが報告された3, 4)。このため現在では胃切除術を行わずに化学療法,ないしは化学療法に引き続いて放射線療法を行う胃温存療法が標準治療と考えられる。R 導入後では後方視的な検討によってR-CHOP 療法もしくはR-CHOP 療法に引き続いてIFRT を行う治療法によって良好な生存期間が報告されている5, 6)。限局期DLBCL に対するR-CHOP 療法とCHOP 療法の比較試験はないが,限局期DLBCL と同様に,限局期胃DLBCL に対してもR-CHOP 療法3 コースに引き続いてIFRT を行うcombined modality treatment(CMT),あるいはR-CHOP 療法6〜8 コースが推奨される。
消化管原発悪性リンパ腫のLugano 病期分類(1994)でのⅡ2 期以上が該当する進行期胃DLBCL に対しては,進行期DLBCL と同様にR-CHOP 療法6〜8 コースが推奨される。
ただし,胃病変局所からの出血や深い潰瘍性病変を認める場合は,R-CHOP 療法などの化学療法開始後に大量出血や胃穿孔,狭窄による通過障害を併発するリスクが高くなるため,この点への注意が必要なことと緊急外科手術を要する状況が起こり得ることを患者・家族に十分に説明しておく必要がある。
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- CQ11
- DLBCL に対して初回治療中間でのPET 検査(interim PET)は予後予測に有用か
- 推奨グレードカテゴリー2B
- Interim PET 陰性の場合は予後良好であるが,陽性であっても予後不良とは限らないため予後予測における有用性は限定的である。一般診療として推奨できるだけのエビデンスは不十分であり,臨床試験での実施が推奨される。
解説
治療後のPET の結果が予後を反映することが報告されてから1),interim PET の有用性を検討した研究がDLBCL においても行われてきた。主にリツキシマブ(R)導入以前の後方視的検討では予後予測に有効であるとの報告2-4)があるが,近年の前方視的検討ではPET 陰性の場合は予後が良好であるもののPET 陽性の場合の予後は必ずしも不良ではないとするものが多い5-8)。これらの報告では,陰性適中率は70〜88%と高いものの陽性適中率は30〜50%しかないとされている。Memorial Sloan-Kettering Cancer Center のグループが行った,R-CHOP-14 療法(R, CPA, DXR,VCR, PSL)4 コース後にinterim PET が陽性の場合は生検を,さらに生検で陽性であった場合は自家造血幹細胞移植併用大量化学療法を行うという前方視的試験では,PET 陽性の38 例のうち33 例が生検で陰性で,PET 陰性群と陽性群では生存に差はなかったとされている9)。このように陽性適中率が低い理由については,R を含んだ化学療法では治療後期に奏効する場合もあること,抗体薬による局所の炎症の亢進により偽陽性となる場合があることなどが考えられている。一般的にPET の評価は視覚的になされるため,解釈にばらつきが生じる可能性がある。Groupe d’Etude des Lymphomes de l’Adulte(GELA)が行ったR-CHOP-14 療法とR-ACVBP 療法(R, DXR,CPA, VDS, BLM, PSL)のランダム化第Ⅱ相試験ではStandard Uptake Value(SUV)の低下率で定量的に評価する検討がなされた。そこでは視覚的評価では陰性群と陽性群で生存に差はなかったものの,低下率を用いた定量的評価では有意な差が認められたとされている10)。しかしこの試験のPET は統一された条件下での中央判定により行われたものであり,SUV 値による判定をそのまま一般診療に適用することはできない。
以上,interim PET は陰性の場合は予後良好である可能性があるが,陽性適中率が低いため陽性の場合が予後不良であるとは限らない。
また,ドイツのグループが行った,R-CHOP 療法2 コース後のinterim PET 陽性の場合に同じ治療を8 コースまで繰り返すか,強力な化学療法を行うかというランダム化比較試験では,治療を変更しても予後が改善しなかったことが示されており11),interim PET が陽性であっても治療を変更することは,臨床試験以外の一般診療では推奨されない。
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- 6 バーキットリンパ腫
(Burkitt lymphoma:BL)
(Burkitt lymphoma:BL)
総論
BL は腫瘤形成性の高悪性度(highly aggressive)B 細胞リンパ腫である。WHO 分類第3 版までは“Burkitt lymphoma/leukemia”と記載されていたが1),FAB 分類における急性リンパ性白血病のL3 はBL が白血化した状態(Burkitt leukemia)と同義であり,2008 年のWHO 分類第4版では“Burkitt lymphoma”との記載へ変更され,いわゆる白血病の状態を呈する場合は“Burkitt leukemia variant”とBL の臨床的亜型へ分類された2)。WHO 分類第4 版改訂版(2017)において,急性リンパ性白血病は「lymphoid neoplasms」から「myeloid neoplasms and acute leukemia」へカテゴリーが変更されたが,BL は成熟B 細胞腫瘍としてこれまで通りにlymphoid neoplasms に含まれている。BL にはアフリカの小児に好発するendemic BL(大半の患者で腫瘍細胞よりEBV が検出される),欧米や日本などで認められるsporadic BL およびhuman immunodeficiency virus(HIV)感染に関連して発症するimmunodeficiency associated BL の3 つの臨床病型が知られている。BL は小児と若年成人に好発し,発生頻度は成人では悪性リンパ腫全体の1 〜2%程度であるが,小児においては25〜40%を占め,男女比は2〜3:1 で男性に多い。回盲部腫瘤などの腹部腫瘤で発症することが多く,腹腔内リンパ節,卵巣,腎および乳房などへの浸潤も珍しくない。骨髄浸潤や中枢神経浸潤を来たした状態で診断されることもある。70%の患者が診断時にⅢ期以上の進行期であるとされる。臨床的には極めて進行が速いが,適切な治療を行うことで高率に治癒が期待できる病型でもある。すなわち,BL に対する初回治療の目的は治癒を目指すことにある。
BL における病期分類として,主に小児科領域ではMurphy 分類3)が用いられている。しかしながら,この分類はBL の診断や治療として手術が重要な役割を果たしていた時代に開発された病期分類であることや,成人のリンパ腫に対する病期分類として一般的ではないこと,などの理由により,成人BL に対する病期分類としては他のリンパ腫と同様にAnn Arbor 分類が用いられることが多い。予後因子としては,高齢,進行期,骨髄または中枢神経浸潤,巨大病変,あるいはLDH 上昇などが報告されている。予後予測モデルとしては国際予後指標(International Prognostic Index;IPI)4)が用いられる。効果判定規準はFDG-PET を組み込んだ改訂国際ワークショップ規準5)を用いる。
典型的なBL の組織標本では,小型から中型までの腫瘍細胞がびまん性かつ融合性増殖を示し,HE 染色では核片を貪食するマクロファージが淡く抜けてstarry sky appearance(星空像)を呈し,MYC 転座が認められる。ただしMYC 転座を含む遺伝子異常はBL に特異的ではなく,びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)や他の病型でも認められる。
WHO 分類第4 版改訂版(2017)では,形態,形質およびgene expression profiling では極めてBL に類似するが,MYC 遺伝子再構成が認められず,かつ11q 異常を有するものを“Burkitt-like lymphoma with 11q aberration”と暫定的な亜型としてBL から独立させた。また,WHO 分類第4 版(2008)ではB-cell lymphoma, unclassifiable, with features intermediate between DLBCL and BL(BCLU)に含まれていたが,予後不良であることが知られていたMYC/BCL2 and/or BCL6 転座を認める(いわゆるdouble/triple-hit)ものを“High-grade B-cell lymphoma, with MYC and BCL2 and/or BCL6 translocations”として独立させ,その他のBCLU は“High-grade B-cell lymphoma, NOS”と変更した。以上より,WHO 分類第4 版改訂版(2017)によってBL と診断されるものは,より典型的かつ画一的な病型となった。
High-grade B-cell lymphoma は多様な集団を含んだ暫定的な疾患群であり,その治療法に関するエビデンスが乏しく,本稿においてはclinical question の一つとしての扱いに留める。
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アルゴリズム
BL と診断された場合は上記のアルゴリズムに従うことが推奨される。BL に対して複数の標準的治療レジメンが報告されているが,それぞれの優劣は明らかでなく,リツキシマブ(R)併用の意義もレジメンにより異なる可能性がある(CQ1, CQ2)。腫瘍崩壊症候群の発症頻度が高く,特に初回化学療法施行時にその予防は必須である(CQ3)。地固め療法としての放射線照射や造血幹細胞移植の意義は不明であり,また予防的全脳照射は避けるべきである(CQ4, CQ5)。初回治療抵抗患者や再発患者に対する造血幹細胞移植の有用性は確立されていないが,救援療法感受性例に対しては,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法の効果が期待できる(CQ5)。
High-grade B-cell lymphoma は暫定的な疾患群であり,標準的治療アプローチは現時点で明確でないが,BL に準じた治療選択が妥当と考えられる(CQ6)。
- CQ1
- BL に対する初回治療は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 複数の治療レジメンが報告されており,それぞれの優劣は不明である。
Modified CODOX-M/IVAC 療法±R,あるいはR-hyper-CVAD 療法などが推奨される。
解説
BL に対してCHOP 療法(CPA,DXR,VCR,PSL)などを行った際の治療成績は,長期生存が10%未満と極めて不良であった。米国National Cancer Institute のMagrath らによって,CODOX-M/IVAC 療法(CPA, VCR, DXR, MTX/IFM, ETP, AraC)の有効性と安全性が報告された1)。欧州で成人BL に対するCODOX-M/IVAC 療法の追試(LY06)が行われ,その有用性が確認された2)。減量レジメンとして,一部の薬剤を減量したmodified CODOX-M/IVAC 療法が報告され,比較的高齢の患者でも有効性が示された3)。さらに,欧州を中心としたグループから同様の減量レジメン(LY10)が報告された4)。日本でも成人患者に対するmodified CODOX-M/IVAC 療法の安全性と有効性が報告された5)。その他にはR-hyper-CVAD 療法(R, CPA,VCR,DXR,DEX /高用量MTX,高用量AraC)6),CALGB9251 療法7)およびリツキシマブ(R)とG-CSF を併用したCALGB10002 療法8),dose-adjusted(DA)-EPOCH-R 療法(ETP, PSL, VCR, CPA,DXR, R)9)などが報告されている。これらのレジメンに関する比較試験は存在しないため,それぞれの優劣は不明である。実地診療においては,modified CODOX-M/IVAC±R 療法あるいはR-hyper-CVAD 療法などが推奨される。ただし,高齢者や合併症などでこれらの治療強度が高いレジメンの施行が困難な場合は,DA-EPOCH-R 療法が考慮される。
参考文献
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- 6)
- Thomas DA, et al. Chemoimmunotherapy with hyper-CVAD plus rituximab for the treatment of adult Burkitt and Burkitt-type lymphoma or acute lymphoblastic leukemia. Cancer 2006 ; 106(7): 1569-80.(3iiiD)
- 7)
- Lee EJ, et al. Brief-duration high-intensity chemotherapy for patients with small noncleaved-cell lymphoma or FAB L3 acute lymphocytic leukemia : results of Cancer and Leukemia Group B Study 9251. J Clin Oncol 2001 ; 19(20): 4014-22.(3iiiDiv)
- 8)
- Rizzieri DA, et al. Improved efficacy using rituximab and brief duration, high intensity chemotherapy with filgrastim support for Burkitt or aggressive lymphomas : Cancer and Leukemia Group B study 10 002. Br J Haematol. 2014 ; 165(1): 102-11.(3iiiDiv)
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- Dunleavy K, et al. Low-intensity therapy in adults with Burkitt’s lymphoma. N Engl J Med. 2013 ; 369(20): 1915-25.(3iiiDi)
- CQ2
- BL の初回治療にリツキシマブの併用は有効か
- 推奨グレードカテゴリー1
- 施行するレジメンによりリツキシマブ併用の意義が異なる可能性があるが,ランダム化比較試験の結果によりリツキシマブ併用化学療法が推奨される。
解説
BL に対するリツキシマブ(R)併用の有用性については,hyper-CVAD 療法(CPA,VCR,DXR,DEX /高用量MTX,高用量AraC)にR を併用した群が,hyper-CVAD 療法単独のhistorical control 群と比較して優れたと報告された1)。また,初発BL 患者に対するDA-EPOCH 療法(ETP, PSL, VCR, CPA, DXR, R)にR を併用した予備的な検討結果でも有効性が報告されている2)。CALGB9251 レジメンにG-CSF およびR を併用したCALGB10002 試験において,CALBG9251 のhistorical control より全生存割合で優れたことが報告された3)。また,高齢者においてメトトレキサート(MTX)やシタラビン(AraC)の投与量を減量してもリツキシマブを併用することで良好な治療成績が得られたと報告された4)。一方,CODOX-M/IVAC 療法(CPA,VCR, DXR, MTX/IFM, ETP, AraC)にR を併用した報告は5-7),いずれも後方視的かつ少数例での検討ではあるが,今のところR 併用による明らかな上乗せ効果は示されていない。逆に,R 併用による好中球回復遅延,遅発性好中球減少あるいは感染症が増加する可能性がある5-7)。最近,BL に対するR 併用療法の有効性を検証するランダム化第Ⅲ相比較試験結果がフランスのグループから報告された8)。18 歳以上の成人BL を対象として,短期集中型化学療法(LMB 療法)群とR 併用LMB 療法群とにランダム化割付を行った。260 人が登録され,観察期間中央値38 カ月で3年無イベント生存割合(EFS)はそれぞれ62%(95% CI:53-70)と75%(95% CI:66-82)と,有意にR 併用群で優れ,さらに3 年全生存割合(OS)でも有意にR 併用群が優れた(70% vs83%)。有害事象は両群間で明らかな差を認めなかった。この試験は,成人BL に対するR 併用の意義を検証した初めてのランダム化第Ⅲ相比較試験であり,BL においても他のB 細胞リンパ腫と同様に,化学療法へR を併用することによって治療成績が向上することが示された。BL に対するR 併用の意義は,併用する化学療法レジメンによって異なる可能性はあるが,この試験の結果を以てR を併用することが標準治療となったと考えられる。
参考文献
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- Thomas DA, et al. Chemoimmunotherapy with hyper-CVAD plus rituximab for the treatment of adult Burkitt and Burkitt-type lymphoma or acute lymphoblastic leukemia. Cancer. 2006 ; 106(7): 1569-80.(3iiiD)
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- CQ3
- BL に対して腫瘍崩壊症候群の予防は必須か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- BL は悪性腫瘍の中で腫瘍崩壊症候群のリスクが最も高い疾患の一つであり,特に初回化学療法施行時には輸液とラスブリカーゼによる予防が推奨される。
解説
ドイツのBerlin-Frankfurt-Munster グループが行った2 つの多施設共同試験に登録された小児非ホジキンリンパ腫患者1,791 例の解析では,大量補液,アロプリノールあるいはラスブリカーゼなどの予防のもと,患者全体では腫瘍崩壊症候群の発症割合は4.4%であったのに対し,BL 患者では8.4%と高率であった。さらにBL が白血化した状態(FAB 分類におけるL3,WHO 分類第4 版におけるBurkitt leukemia variant)では26.4%と最もリスクの高い病型であった。特にLDH が500 U/L 以上の患者では発症リスクが増加した1)。これらの結果を受けて,BL は腫瘍崩壊症候群のハイリスクとして挙げられており,予防として大量補液とラスブリカーゼの投与が推奨されている2, 3)。
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- CQ4
- BL に対して放射線治療は勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー4
- BL に対する追加的放射線治療の有用性は示されていない。また,中枢神経系浸潤予防を目的とした全脳照射は避けるべきである。
解説
1986 年にStanford 大学のグループが,18 例の成人BL を対象として,大量メトトレキサート(MTX)を含むCHOMP 療法(CPA, DXR, VCR, PSL, MTX)を行い,10 cm 以上のbulky mass を有する患者には追加的放射線照射を行った。3 例が腹部bulky mass に対して放射線照射を受けたが,うち2 例は照射野内に再発した1)。以降のBL に対する治療研究においては,放射線治療を含まず,化学療法の治療強度を強める方向で開発されており,現在においてもBL に対する放射線治療の有用性は示されていない。
また,CALGB9251 試験2)およびその長期追跡調査結果3)では,中枢神経系浸潤の予防として髄注と全脳照射との併用による重篤な神経毒性が問題となった。次いでリツキシマブ(R)とG-CSF を併用したCALGB10002 試験では予防的全脳照射は行われず,髄注のみが施行されたが中枢神経系再発の頻度はCALGB9251 試験と同程度(3〜4%)であった。以上より中枢神経系浸潤の予防には髄注および代謝拮抗剤(MTX やシタラビン(AraC))の大量投与で十分であり,予防的全脳照射は不要であると結論された4)。
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- CQ5
- BL に対して造血幹細胞移植は勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー4
- 第一寛解期における自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(自家移植)は推奨されない。
- 推奨グレードカテゴリー2B
- 再発患者のうち救援療法に感受性を示す患者では引き続く自家移植の効果が期待できる。
- 推奨グレードカテゴリー3
- 同種造血幹細胞移植(同種移植)の有効性を示唆する十分なデータは存在しない。
解説
第一寛解期における自家移植の有用性は確立されていない1, 2)。European Group for Blood and Marrow Transplantation(EBMT)からの報告では,第一寛解期で自家移植を施行したBL 患者の3 年全生存割合(OS)は72%であった2)が,この成績はCQ1 に示したようなBL タイプの強力な化学療法単独による治療成績と大差がない。一方,再発患者のうち救援療法に感受性を示した患者では3 年OS が37%だったが,治療抵抗性患者では7%に過ぎなかった2)。以上より,第一寛解期での自家移植の有効性を示唆する根拠は乏しく,再発後に救援療法に感受性を示す患者では自家移植の効果が期待できる2)。また,再発後の救援療法については,初回治療に用いられるレジメン(CQ1 参照),DHAP 療法(DEX, AraC, CDDP)2),R-ICE 療法(R, IFM, CBDCA, ETP)3),ドキソルビシン(DXR)とトポテカンの併用療法4)などが報告されているが,標準治療は存在しない。BL に対する同種移植はさらに報告が少ない。EBMT からの報告では,移植時に63%の患者が完全奏効(CR)の状態で同種移植を行っても,無増悪生存期間(PFS)およびOS 期間中央値はそれぞれ2.5 カ月および4.7 カ月と,効果は極めて限定的であった5)。
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- CQ6
- High-grade B-cell lymphoma に対する治療は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー3
- 現時点では,DLBCL,バーキットリンパ腫いずれかの治療を用いるかは推奨できないが,バーキットリンパ腫に準じた治療選択が妥当と考えられる。
解説
High-grade B-cell lymphoma は,WHO 分類(2008)のIntermediate DLBCL/BL,DLBCL の一部に相当する多様な疾患群であり,REAL 分類においてBurkitt-like lymphoma(BLL)と診断されていた集団の多くが含まれる。2001 年のWHO 分類第3 版のatypical BL を経て,2008 年のWHO 分類第4 版ではB-cell lymphoma, unclassifiable, with features intermediate between DLBCL and BL(BCLU)が新たな疾患群として記載された。BCLU に含まれていたが,予後不良であることが知られていたMYC/BCL2 and/or BCL6 転座を認めるもの(いわゆるdouble/triple-hit)をWHO 分類第4 版改訂版(2017)では “High-grade B-cell lymphoma, with MYC and BCL2 and/or BCL6 translocations”として独立させ,その他のBCLU は“High-grade B-cell lymphoma, NOS”と変更した。本疾患群に対する標準治療を一概に論ずることは困難であるが,highly aggressive な経過をとり,CHOP 療法(CPA,DXR,VCR,PSL)などのdiffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)タイプの化学療法による予後は不良で,BL タイプの化学療法が有効であったとの報告がある1, 2)。また,BL タイプの化学療法に関するいくつかの報告3-6)では,対象患者にBL だけでなくBLL が含まれている。したがって,High-grade B-cell lymphoma に対して,現時点ではBL に準じた治療選択が妥当である。ただし,High-grade B-cell lymphoma with MYC and BCL2 and/or BCL6 rearrangements は,BL タイプの化学療法を行ったとしても50%生存期間は2.4〜18 カ月と極めて予後不良であることが報告されている7)。
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- 7 末梢性T 細胞リンパ腫
(peripheral T-cell lymphoma:PTCL)
(peripheral T-cell lymphoma:PTCL)
総論
WHO 分類(2017)では約30 のPTCL およびNK 細胞腫瘍の疾患単位が掲載されている1)。成熟T/NK 細胞腫瘍では,世界の各地域間で病型相対頻度が異なることが知られている。International T-Cell Lymphoma Project として約1,300 例を対象として行われた多国間共同後方視的研究によると,欧米で頻度の高いPTCL 病型は頻度が高いものから順に,PTCL,非特定型(PTCL, not otherwise specified:PTCL-NOS),血管免疫芽球性T 細胞リンパ腫(angioimmunoblastic T-cell lymphoma:AITL),未分化大細胞リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma:ALCL),ALK 陽性とALCL, ALK 陰性である2)。本項では上述の4 病型について取り扱い,わが国で頻度の高い成人T 細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia-lymphoma:ATL)と節外性NK/T 細胞リンパ腫,鼻型(extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type:ENKL)については別項で取り扱う。皮膚T 細胞リンパ腫(CTCL)に関しては独自のガイドライン(科学的根拠に基づく皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2 版)3)が作成されている。
PTCL における病期分類は,ほかの非ホジキンリンパ腫と同様にLugano 分類(2014)が用いられる4)。予後予測モデルとしては国際予後指標(International Prognostic Index:IPI)が有用であり2),PTCL-NOS に関してはイタリアの研究グループから提唱された病型特異的予後予測モデルであるPIT(Prognostic Index for PTCL-U)がある。PIT では,年齢>60 歳,performance status(PS)>1,血清LDH 値>施設基準値上限,骨髄浸潤陽性の4 つが予後不良因子として規定されている5)。
PTCL に対する効果判定としては,positron emission tomography(PET)を組み込んだ規準がLugano 分類(2014)に含まれている4)。
補足:International T-Cell Lymphoma Project において全T/NK 細胞腫瘍に占める頻度が5%未満と報告された稀なPTCL 病型として,腸管症関連T 細胞リンパ腫(enteropathy-associated T-cell lymphoma:EATL),肝脾T 細胞リンパ腫(hepatosplenic T-cell lymphoma:HSTL),原発性皮膚ALCL,皮下脂肪織炎様T 細胞リンパ腫が挙げられる2)。EATL はCeliac 病の頻度の高い欧州では全悪性リンパ腫の9.1%を占め,北米でも5.8%を占めるもののアジアでは1.9%と頻度が低い6)。WHO 分類(2017)では,Celiac 病との関連がなく従来type Ⅱとされていたものがmonomorphic epitheliotropic intestinal T-cell lymphoma(MEITL)として分離された1)。HSTL は細胞傷害性T 細胞,通常はγδ型T 細胞に由来する腫瘍で,若年男性に多く,著明な肝脾腫を特徴とする1)。EATL, HSTL ともにCHOP(類似)療法による予後は不良であり,病型特異的治療は未確立である。その他の2 病型は皮膚/皮下組織を主な病変部位とするリンパ腫である。
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アルゴリズム
PTCL(本項では総論で指定した4 病型について取り扱う)は無治療で月単位の病勢進行を示すアグレッシブ リンパ腫(中悪性度リンパ腫)に分類され,リツキシマブ(R)導入以前は,アグレッシブ リンパ腫の約80%を占めるびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)とともに病態研究と治療開発がなされ,PTCL の標準治療は他のアグレッシブリンパ腫と同様とみなされてきた。
R 導入以前にREAL 分類の臨床的有用性の評価を試みた国際共同後方視的研究において,ALCL を除く全PTCL の予後がDLBCL より不良であることが指摘された1)。また,主にCHOP(類似)療法が実施された患者集団におけるPTCL 病型間の予後比較において,PTCL-NOS とAITL の予後はほぼ同様であり,ALCL のうちALK 陽性例の予後が良好であることが判明した2)。以上の背景から,現在では,ALK 陽性ALCL とそれ以外のPTCL との2 群に分けて治療方針が決定されている。
ALK 陽性ALCL では,DLBCL に匹敵する治療成績が得られているCHOP 療法[限局期ではinvolved-field radiotherapy(IFRT)を追加]が推奨される(CQ1)。PTCL-NOS, AITL, ALK 陰性ALCL においても,治療実績が最も多く報告されているCHOP 療法などの多剤併用化学療法が推奨される(CQ2)。ただしその治療効果は不十分であり,標準治療レジメンは確定しておらず,臨床試験への参加が推奨される(CQ2)。初発進行期PTCL の初回完全奏効(CR)例における自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)追加の意義は不明であり,一般診療として行うことは推奨されず,臨床試験として実施することが望ましい(CQ3)。初回治療後部分奏効(PR)以下の場合の治療選択に関するエビデンスは乏しく,現在新規化学療法レジメン,新規治療薬,HDC/AHSCT,同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation:allo-HSCT)の臨床試験が進行中である。
再発・難治性PTCL の救援療法としては他のアグレッシブ リンパ腫に対するものと同様の多剤併用救援化学療法のほか,再発または難治性のCD30 陽性ALCL では抗CD30 抗体薬物複合体であるブレンツキシマブ ベドチンも選択肢として挙げられる3)。
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- CQ1
- 初発ALK 陽性ALCL に対して最も勧められる治療は何か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- CHOP 療法が推奨される。限局期ではCHOP 短期コース後にIFRTを追加する治療法も選択肢となりうる。
解説
ALK 陽性ALCL は,ALK 陰性ALCL より若年者に多く,節外病変数2 以上の患者割合が低い1)。1999 年に報告された北米2 施設共同の後方視的研究により,ALK 陽性ALCL では従来のアグレッシブ リンパ腫に対する標準治療であるCHOP 療法(CPA, DXR, VCR, PSL)あるいはその類似療法による良好な治療成績が報告されている1)。全PTCL の中でCHOP 療法あるいはその類似療法により良好な治療効果が得られることがその後の複数の後方視的解析の結果から示されており2, 3),初回治療として推奨される。限局期の場合はほかのアグレッシブ リンパ腫に準じて,CHOP 短期コース後にinvolved-field radiotherapy(IFRT)を追加する治療法も選択肢となりうる。
参考文献
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- CQ2
- 初発PTCL-NOS, AITL, ALK 陰性ALCL に対して最も勧められる治療は何か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- CHOP 療法などの多剤併用化学療法による治療実績が最も多く,推奨される。ただし,標準治療レジメンは確定しておらず,臨床試験参加が推奨される。
解説
PTCL はアグレッシブ リンパ腫の10〜15%を占める。米国での大規模ランダム化比較試験1)においてCHOP 療法(CPA, DXR, VCR, PSL)がアグレッシブ リンパ腫に対する標準治療に位置づけられたことを受けて,PTCL の標準治療もCHOP 療法であるとみなされ,国内外の日常診療で広く行われてきた。
その後,国内外での複数の後方視的研究により,PTCL はDLBCL を代表とするアグレッシブB 細胞リンパ腫と比較して,CHOP またはその類似療法による治療成績が有意に不良であることが明らかにされた2-4)。さらに,PTCL の中でもALK 陽性ALCL はCHOP(類似)療法で良好な治療成績が得られることが明らかにされた(CQ1)。
PTCL,あるいはALK 陰性を除くPTCL 初発例を対象としたランダム化比較試験は少なく,これまでにCHOP 療法を凌駕する試験治療は報告されていない。国内ではDA-EPOCH 療法(ETP,PSL, VCR, CPA, DXR)が第Ⅱ相試験で検討され,日本人患者での安全性が確認されているが5),有効性に関してCHOP 療法との優劣は不明である。
以上より,初発PTCL-NOS, AITL, ALK 陰性ALCL における標準治療は未確立であり,CHOP 療法などの多剤併用化学療法がこれまでの治療実績から推奨される。初回化学療法後に部分奏効であった患者で,病変が限局している場合に他のアグレッシブ リンパ腫に準じてIFRT を追加することがあるが,その適応に関する明確なエビデンスはない。新規治療薬単独あるいは併用化学療法の臨床試験が国内外で進行中であり,標準治療が未確立であることから,臨床試験への参加が推奨される。
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- CQ3
- 初発進行期PTCL-NOS, AITL, ALK 陰性ALCL の化学療法後CR 例において地固め療法としての自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は必要か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 初発進行期PTCL-NOS, AITL, ALK 陰性ALCL の初回CR 例における自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は,一般診療として行うことは勧められない。実施する場合は臨床試験として実施することが望ましい。
解説
初発進行期PTCL-NOS, AITL, ALK 陰性ALCL の予後は不良であり,5 年全生存割合(OS)はいずれも50%未満である1)。初回完全奏効(complete response:CR)での自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)が検討されており,良好な治療成績を報告している後方視的研究が複数存在する。これを受けて,欧米でいくつかの第Ⅱ相試験が行われた。スペインから3 年OS 73% 2)と良好な治療効果が報告された一方で,他の試験での3〜5 年OS は50%程度であり3, 4),化学療法単独と比較して改善が示されたとは結論されていない。ランダム化比較試験の結果報告はないため,現時点での評価は困難である。以上より初発進行期PTCL の初回CR 例でのHDC/AHSCT は,一般診療として行うことは推奨されず,臨床試験として実施することが望ましい。しかしながら,T 細胞リンパ腫のような稀少病型に対する臨床試験は実施されていないのが現状である。このような比較試験のない状況下で,米国造血細胞移植学会(ASBMT)から推奨ガイドが参考として出版されている5)。このガイドではPTCL-NOS, AITL, ALK 陰性ALCL 進行期例の初回CR 後HDC/AHSCT は推奨とされているが,比較試験のエビデンスがない状況に変わりはない。優越性をもって推奨できる選択肢ではない点を注意して判断すべきである。
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- 8 成人T 細胞白血病・リンパ腫
(adult T-cell leukemia-lymphoma:ATL)
(adult T-cell leukemia-lymphoma:ATL)
総論
成人T 細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia-lymphoma:ATL)は,九州・沖縄地方を主とする西南日本に多発するT 細胞腫瘍として,1977 年内山,高月らによって提唱された疾患概念である1)。1980 年代のはじめには原因ウイルスとしてhuman T-cell leukemia virus type-I(HTLV-1)が発見された2-5)。WHO 分類(2017)においてATL は,高度の核異型を伴ったリンパ球よりなる,HTLV-1 によって引き起こされる末梢性T 細胞腫瘍と定義されている6)。
Flower cell と呼ばれる異常リンパ球の増殖を主体とした白血球増多,リンパ節腫脹,皮膚病変,ATL 細胞の浸潤による多臓器障害,高LDH 血症,高Ca 血症,日和見感染症などが出現する。日本以外では中央アフリカおよび中南米出身者に比較的高頻度に発生している。HTLV-1 キャリアは現在日本には西南日本沿岸部を主に110 万人程度存在し,キャリアからATL の発症率は年間1,000 人に0.6〜0.7 人とされる7, 8)。HTLV-1 の感染は感染細胞が正常リンパ球に直接接触して成立する。感染経路として輸血,性交,母乳が知られているが,日本では献血者の感染症スクリーニングにHTLV-1 が含まれている。感染から長期を要するATL 発症につながる重要な感染経路は母乳である。いくつかの多発地域では1990 年頃からHTLV-1 母子感染予防対策が行われており,6 カ月以上の長期授乳による母子感染率は20.5%であるのに対して人工栄養による母子感染率は2.4%と報告された。現在は日本全国の妊婦健診において抗HTLV-1 抗体検査が公費負担となり,陽性の場合は人工栄養などが推奨されている9)。一方水平感染については,日本で年間約4,000 人の青年期以降の新規HTLV-1 感染者が存在し,うち77%は女性であることが判明した10)。
ATL 発症は20 歳代までは極めて稀で,その後増加し,70 歳頃をピークにして以降徐々に減少する。1 人のHTLV-I キャリアが,生涯でATL を発症する確率は約5%である。HTLV-1 キャリアにおけるATL 発症の危険因子としては,多変量解析で,母子感染,高齢者,末梢血中の高ウイルス量,ATL の家族歴あり,他の疾患の治療中に初めて抗HTLV-1 抗体検査を受け陽性が判明した症例11)が報告されている。近年,HTLV-1 キャリアとATL 患者の高齢化が進んでいる12, 13)。
1991 年にJapan Clinical Oncology Group(JCOG)リンパ腫グループ(LSG)による813 例のATL 患者の全国実態調査をもとに,多変量解析による予後因子として,年齢,全身状態(performance status:PS),総病変数,高Ca 血症,高LDH 血症が同定された14-17)。そしてATL の予後因子解析,自然史と臨床病態の特徴から,白血化,臓器浸潤(リンパ節,皮膚,肺,肝脾,骨,消化管,胸水,腹水,中枢神経),高LDH 血症,高Ca 血症の有無と程度により「急性型」,「リンパ腫型」,「慢性型」,「くすぶり型」の4 臨床病型分類が提唱された18)。表1 に示すようにくすぶり型,慢性型,リンパ腫型は規定されており,急性型はその除外診断によりなる。これらの相対頻度は急性型57%,リンパ腫型19%,慢性型19%,くすぶり型6%であった。急性型,リンパ腫型,予後不良因子(LDH,アルブミン,BUN のいずれか1 つ以上が異常値)をもつ慢性型ATL は急速な経過を辿ることが多く,それぞれの50%生存期間は6 カ月,10 カ月,15 カ月であることから一括してアグレッシブATL と呼ばれる。一方,くすぶり型および予後不良因子を有していない慢性型ATL は比較的緩徐な経過を辿り,それぞれの4 年生存割合は約63%と約70%である19)ことから,インドレントATL と呼ばれる。
日本全国の調査で2000 年から2009 年に診断された急性型とリンパ腫型ATL の807 例を解析し,予後予測モデルが提唱された。An Arbor 臨床病期,PS,年齢,アルブミン,可溶性IL2 受容体(SIL2R)の5 因子の多寡により3 群に分けられ,そのMST は低,中,高リスク群でそれぞれ3.6,7.3,16.2 カ月であった20)。一方JCOG-LSG によるアグレッシブATL に対する3 つの臨床試験(JCOG9109, 9303, 9801)に登録された276 例の解析ではPS と高Ca 血症による組み合わせで2 群に分けられ,そのMST は6.3 カ月と17.8 カ月であった21)。前者は後方視的に各施設の全ての患者,後者は前方視的臨床試験に参加した年齢,臓器予備能などの適格患者で同定されたが,いずれもValidation set を用いてその有用性が確認されている。しかしながら両予後予測モデル共に予後良好群においてもその5 年生存割合は15%未満であることから,例えば“同種造血幹細胞移植のような毒性は高いが治癒が望める治療法の候補ではない患者群”を抽出できてはいない。
JCOG-LSG がアグレッシブATL を対象とし,継続して臨床試験を行ってきたことから,化学療法における反応性の評価では,JCOG 治療効果判定規準が広く使用されてきた15, 22)。近年では非ホジキンリンパ腫と慢性リンパ性白血病に対する効果判定規準23, 24)をもとに改変した修正版ATL に対するJCOG 治療効果判定規準25)が用いられている(表2)。
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アルゴリズム
急性型,リンパ腫型,予後不良因子(LDH,アルブミン,BUN のいずれか1 つ以上が異常値)をもつ慢性型,すなわちアグレッシブATL に対しては多剤併用化学療法を施行する(CQ1)。そして治療反応性が得られ,年齢・全身状態・主要臓器機能に問題がなく,適切なドナーが見つかった場合は同種造血幹細胞移植を検討する(CQ2, CQ4)。
くすぶり型,予後不良因子を有していない慢性型,すなわちインドレントATL に対してはアグレッシブATL へ進展するまで無治療経過観察する(CQ3, CQ5)。増悪した後は初発のアグレッシブATL と同様に抗腫瘍療法を開始する。
- CQ1
- 初発アグレッシブATL に対し最も推奨される治療法は何か
- 推奨グレードカテゴリー1
- VCAP-AMP-VECP療法が最も推奨される。
解説
1970 年代から1980 年代にかけて,JCOG-LSG による臨床試験ではATL に対し非ホジキンリンパ腫と同様の化学療法が行われ,その50%生存期間(MST)は約8 カ月と極めて予後不良であった1-3)。1991 年にJCOG-LSG よりATL の臨床病型分類が提唱された後,アグレッシブATL を対象とした臨床試験が継続的に行われてきた。まず1991 年から,単剤で再発・再燃ATL に対して治療反応性が見られた4)ペントスタチンを組み入れた化学療法の第Ⅱ相試験が行われたが,従来の治療成績を上回らなかった5)。1994 年から行われた8 つの抗がん剤を用い,G-CSF を用いて治療強度を高め,メトトレキサート(MTX)とプレドニゾロン(PSL)の髄注を併用したLSG15 療法の第Ⅱ相試験では,それまでのATL の治療成績と比較して良好な成績が得られた6)。そして1998 年からVCAP(VCR, CPA, DXR, PSL)-AMP(DXR, MCNU, PSL)-VECP(VDS, ETP, CBDCA,PSL)(modified LSG15)療法と,非ホジキンリンパ腫の標準治療の一つと当時みなされていたCHOP-14 療法(CPA, DXR, VCR, PSL)とを比較する第Ⅲ 相試験(JCOG9801)が行われ,VCAP-AMP-VECP 療法は 血液毒性は高いもののCHOP-14 療法よりも完全奏効(CR)割合と全生存割合(OS)に優れており,ATL に対する標準治療と考えられる7)。ただこの臨床試験は70歳未満を対象としたため,高齢者への適用の可能性に関しては不明である。
ケモカイン受容体のCCR4 はATL の90%以上で発現しており,約10%で変異を有し,その発現は予後不良因子である8)。初発アグレッシブATL を対象としたヒト化抗CCR4 抗体(モガムリズマブ)とVCAP-AMP-VECP 療法との併用療法に関するランダム化第Ⅱ相比較試験で,併用療法は化学療法単独よりCR 割合で上回った9)。この結果より2014 年12 月モガムリズマブは初発アグレッシブATL に対して適応拡大された。ただ併用療法により毒性が高まる可能性があり,OS の改善への寄与についてさらに検討が必要である。また同種造血幹細胞移植の先行化学療法としてモガムリズマブを使用した場合,移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)関連死亡の危険性が高まることが報告された10)。同種造血幹細胞移植の適応となる患者への移植前モガムリズマブ投与は,慎重に判断されなければならない。
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- CQ2
- アグレッシブATL に対する同種造血幹細胞移植は有用か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- アグレッシブATL で初回治療に反応性がみられた症例に対しては,HLA 一致血縁,非血縁ドナーが得られた場合,同種造血幹細胞移植は長期生存が期待できる治療法として推奨される。
解説
ATL に対する同種造血幹細胞移植は,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法では再発がきわめて高率であるのに対し,単施設からの少数例の報告で化学療法では得難い長期生存例が確認された。その後に多施設後方視的解析の結果から,1 年全生存割合(OS)50〜52%,3 年OS が45%と有望な成績が報告された1-4)。そして大規模な後方視的調査として日本のデータベースを基に,同種造血幹細胞移植が施行されたATL 386 例の3 年OS が33%と報告された5)。
これらは同種造血幹細胞移植を施行し得た選択された一群に対してではあるが,化学療法単独と比較して有望な治療成績である。移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)合併症例において再発率が低いこと6),移植後再発例において免疫抑制剤の減量・中止により再寛解に到達する症例があることなどから,移植片対ATL(graft-versus-ATL:GvATL)効果が有望な治療成績の要因の一つと考えられる。ATL に対する初回治療後に治療反応性が見られた症例には,HLA 一致血縁ドナー,非血縁ドナーが得られた場合,同種造血幹細胞移植は長期生存,さらには治癒が期待できる治療法として推奨される。ただしいずれの報告でもGVHD,感染症などによる高い治療関連死亡(TRM)が示されており,化学療法後に長期奏効が得られる場合も稀にあるため,患者へは十分な情報の提供が必要である。
同種造血幹細胞移植で骨髄破壊的前処置もしくは骨髄非破壊的前処置のいずれを選択するかについて明確なデータはないが,大規模な後方視的調査で両群間のOS に差はないことが報告された7)。ただ骨髄非破壊的前処置は骨髄破壊的前処置に比べTRM が低いものの再発割合が高く,現時点では年齢によって前処置法を選択することが一般的である。骨髄破壊的前処置の対象年齢の上限は55 歳,そして骨髄非破壊的前処置は50〜70 歳(非血縁の場合は65 歳まで)を対象とすることが実臨床と臨床試験で行われている8-10)。血縁HTLV-1 キャリアドナーからの同種造血幹細胞移植施行後に,ドナーHTLV-1 感染細胞由来の再発例が報告された11)。現在,日本造血細胞移植学会から,血縁キャリアをドナーとする場合には末梢血を用いたHTLV-1 サザンブロット解析でモノクローナル/オリゴクローナルなHTLV-1 感染細胞が検出されないこと,臨床的にくすぶり型を含めATL が発症していないHTLV-1 キャリアに留まっていることを確認することが推奨されている12)。
ATL に対する同種造血幹細胞移植は,化学療法で得難い長期生存例が観察されており有効な治療法と言える。しかし,ドナーの選択,前処置法,高いTRM を減少させる感染症予防の方法などコンセンサスが得られていない課題も多い。現在日本で,アグレッシブATL に対する同種造血幹細胞移植の検証的な臨床試験が進行中である。また臍帯血移植についても移植法の工夫により治療成績が改善する可能性が報告されており13, 14),臨床試験が進行中である。
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- CQ3
- インドレント(くすぶり型,予後不良因子を持たない慢性型)ATL の標準治療は無治療経過観察か
- 推奨グレードカテゴリー2B
- インドレントATL に対する化学療法は生存期間の延長にはつながらず,無治療経過観察もしくは皮膚局所治療が推奨される。
解説
九州および沖縄の40 施設におけるくすぶり型および慢性型ATL 337 例を対象とした後方視的解析では1),その50%生存期間(MST)はそれぞれ5.2 年と3.6 年であった。そのサブグループ解析では,くすぶり型での無治療群と抗がん剤投与群との間で全生存期間(OS)に差はなかった。一方,慢性型では無治療群の方が抗がん剤投与群よりも有意にOS が長かった(MST 7.4 年vs 2.0 年)。また,1988〜1997 年に九州の多施設でくすぶり型ATL と診断された26 例のMST は7.3 年(観察期間中央値6.5 年)であった2)。また,単施設での後方視的研究報告によると,1974 年から2003 年にくすぶり型(25 例),慢性型(予後不良因子を持つ慢性型37 例,予後不良因子を持たない慢性型26 例,不明2 例)と診断され,増悪するまで無治療経過観察が行われた計90 例では,観察期間中央値が4.1 年の時点で12 例が10 年以上生存していた。しかし,2 年,5 年,10 年,15 年OS 割合はそれぞれ約60%,47%,23%,13%と長期予後は不良であった3)。MST と無増悪MST はそれぞれ4.1 年と3.3 年であり,くすぶり型と慢性型の生存曲線がいずれもプラトーに到達せず下降していたことから,増悪後のMST は約1 年と推定され,MST は長く長期生存例が一定の割合で存在するものの,増悪後の予後は不良であることが示唆される。
以上のようにインドレントATL の長期予後は決して良好ではない。しかし有効な治療法がまだ見出されていないため,急性転化まで無治療で経過観察することが,わが国では現在コンセンサスとして定着している。
くすぶり型で皮膚病変のみを持つ症例の局所治療は,皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン4)の参照が推奨される。関連して,皮膚病変を有するATL 患者を血液内科医と皮膚科医が併診する場合のガイドライン解説書が出版された5)。皮膚病変を有するインドレントATL の多くが長期生存するが,腫瘤性などの皮膚病変を有するインドレントATL は予後不良であるとの報告が複数ある。皮膚原発の節外性のリンパ腫型ATL の可能性が提唱されているが,その皮膚病変の性状の定義などは未確立である6)。
参考文献
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- CQ4
- 再発・難治アグレッシブATL に対する治療法は何が勧められるか
- 推奨グレードカテゴリー2B
- 同種造血幹細胞移植が一部に長期生存をもたらす。モガムリズマブとレナリドミドは,それぞれ単剤で比較的高い奏効割合を示す。
解説
アグレッシブATL の再発・難治例に対してこれまでさまざまな化学療法レジメンが試みられてきたが,一旦治療効果が得られてもその持続期間は短く,その後は急速な経過を辿ることが多い。わが国におけるmodified EPOCH(ETP, PSL, VCR, CPA, DXR)1),ペントスタチン(DCF)2),ソブゾキサン(MST-16)3),イリノテカン(CPT-11)とシスプラチン(CDDP)併用4)などの小規模な第Ⅰ・Ⅱ相試験の結果が報告されている。いずれも全奏効(OR)割合は30〜40%であったが,効果持続期間は1〜6 カ月であった。
モガムリズマブの第Ⅰ相試験では再発のアグレッシブATL 13 例中4 例に治療反応性がみられ5),さらには至適投与量の単剤での第Ⅱ相試験で13/26 例(50%,うち8 例は完全奏効(CR))に奏効したことが報告され6),2012 年5 月はじめて再発・難治のアグレッシブATL に対して承認された。
レナリドミド(LEN)の第Ⅰ相試験では再発のアグレッシブATL 9 例中3 例にPR が得られ7),さらに単剤25 mg 連日内服での第Ⅱ相試験で11/26 名(42%,うち4 例はCR)に奏効したことが報告された8)。2017 年3 月わが国においてLEN は再発・難治のアグレッシブATL に対して承認された。
しかしいずれも奏効期間は比較的短く,CQ2 にあるように,同種造血幹細胞移植が化学療法後の再発・難治のアグレッシブATL の一部に長期生存をもたらすことが複数の報告で示されている9, 10)。
局所再発の場合,症状緩和を目的とした局所放射線療法を行ってもよい11)。
参考文献
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- CQ5
- ATL に対するインターフェロンαとジドブジンの併用療法は有用か
- 推奨グレードカテゴリー3
- ATL に対するインターフェロンα/ジドブジン療法は,一般診療としては推奨されない。
解説
ATL はCHOP 療法(CPA, DXR, VCR, PSL)などのリンパ腫に対する標準治療では有効性が低く,HTLV-1 が関与することから,欧米ではインターフェロンα(IFNα)とジドブジン(AZT)の併用療法が検討され,1995 年には2 つの小規模な臨床試験でアグレッシブATL に対する有望な全奏効(OR)割合が報じられた1, 2)。しかし,初発例に限るとその奏効割合と50%生存期間(MST)は当時のJCOG-LSG による化学療法より下回っていたこともあって,日本でこの治療法は本格的に検討されなかった1-3)。2010 年に,欧州と北中南米での後方視的統合解析において,リンパ腫型よりも白血化している急性型,慢性型,くすぶり型で本治療法が有用であったと報告された4)。これを受けてNCCN ガイドラインでは,リンパ腫型以外のATL に対してIFNα/AZT 療法を推奨している(NCCN ガイドライン:カテゴリー2A)。またこの報告では,IFNα/AZT 療法群での治療成績は白血化しているこれらの3 病型で化学療法群を上回っていた一方,急性型ATL に対する化学療法の治療成績は,日本での化学療法の成績を下回っていた。一方,慢性型とくすぶり型では,症例数は少ないものの観察期間中央値5 年で全例が生存しており,皮膚病変の改善にも有用と報告された4)。本併用療法は,長期にわたる治療が必要であり,倦怠感などの全身症状,造血障害など多様な有害事象を認めるものの,化学療法や同種造血幹細胞移植に比べて毒性は低いと報告されている。
以上よりIFNα/AZT 療法は,ATL に対して有望な治療法であるが,これまでの海外での小規模な臨床的検討と後方視的解析によるエビデンスが十分でないことから,一般診療としては推奨されない。なお,IFNα,AZT ともにATL は保険適用外である。現在わが国で,インドレントATL に対するIFNα/AZT 療法と無治療経過観察との比較試験が進行中である。
参考文献
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- 9 節外性NK/T 細胞リンパ腫,鼻型
(extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type:ENKL)
(extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type:ENKL)
総論
WHO 分類(2017)ではNK 細胞腫瘍として,節外性NK/T 細胞リンパ腫,鼻型(extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type:ENKL),アグレッシブNK 細胞白血病(aggressive NK-cell leukemia:ANKL),慢性NK 細胞増多症(chronic lymphoproliferative disorders of NK cells:CLPD-NK)の3 病型が記載されている1)。いずれも稀少病型であり,ANKL の頻度はENKL の7 分の1 以下であるため2),治療法に関するエビデンスは乏しい。このため本項ではENKL についてのみ取り扱う。
ENKL のほとんどはNK 細胞由来であり,鼻腔およびその周辺(以下本項では鼻腔周辺と記載)原発例においてT 細胞由来のリンパ腫が少数存在するとされている。パラフィン材料を用いた現在の病理組織学的手法ではNK 細胞型とT 細胞型の鑑別ができないため,NK/T との用語が採用されている。NK 細胞型とT 細胞型の識別はフローサイトメトリーあるいはT 細胞受容体再構成の遺伝子解析で可能であるため,鼻腔周辺以外の原発例およびANKL では十分な検体が採取可能であるため識別可能なことが多い。鼻腔周辺原発例ではCD56 発現に加えてEB ウイルスの存在や細胞傷害性分子の存在で他のPTCL との鑑別を行っているのが現状である。
病期分類には,ほかの悪性リンパ腫と同様にLugano 分類が用いられる。日本および韓国から予後予測モデルがそれぞれ提唱されている2-4)。他のリンパ腫と異なり診断時年齢は予後因子とならない。臨床病期は治療法の選択に重要である。治療効果の判定に際しては,特に鼻腔周辺は解剖学的に複雑であること,腫瘍が消失しても粘膜肥厚などの非腫瘍組織の残存があり得ること,ENKL ではpositron emission tomography(PET)において高率に18fluoro-2-deoxyglucose(FDG)の取り込みが認められることから5),FDG-PET が有用である。
参考文献
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アルゴリズム
ENKL では約7 割の患者が鼻腔あるいはその周辺組織を中心とする限局期病変を有する。鼻腔周辺原発例で病変が頸部リンパ節までにとどまっている患者では,わが国で実施された第Ⅰ/Ⅱ相試験の結果から同時化学放射線療法であるRT-2/3DeVIC 療法(DEX, ETP, IFM, CBDCA)を行うことが推奨され,また臨床試験への参加も勧められる(CQ1)。RT-2/3DeVIC 療法で完全奏効(CR)を得た場合,地固め療法としての自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)を行うことは推奨されない(CQ2)。
鼻腔周辺原発で病変が頸部リンパ節を超えて広がっている場合,鼻腔など上気道以外での発生例,初回治療後再発または部分奏効(PR)以下のENKL に対しては,第Ⅱ相試験の結果からSMILE 療法(DEX, MTX, IFM, L-Asp, ETP)を行うことが推奨される(CQ3)。
初発進行期ENKL の全例および初回再発/治療抵抗性ENKL で救援療法後CR 例では,現時点では前方視的臨床試験が存在しないため,エビデンスレベルは低いものの,移植後長期奏効を得ている患者が存在することから,年齢や全身状態などの問題がなければ,自家または同種移植が推奨される(CQ4)。救援療法によるPR 以下のENKL の予後は不良であり,年齢や全身状態などの問題がなければ,自家または同種造血幹細胞移植が推奨される(CQ5)。
- CQ1
- 初発鼻腔周辺限局期(ⅠE 期および頸部リンパ節浸潤までのⅡE 期)ENKL に対して最も勧められる治療は何か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 同時化学放射線療法であるRT-2/3DeVIC 療法が最も推奨される。
ただし最良の治療法についてはコンセンサスがなく,臨床試験への参加も推奨される。
解説
ENKL 患者の約7 割が鼻腔あるいはその周辺組織を中心とする限局期病変を有する。ENKL ではP 糖蛋白関連薬を主体とするCHOP 療法の有効性が低く,この理由として正常NK 細胞が多剤耐性(multi-drug resistance:MDR)に関与するP 糖蛋白を発現していることが関連していると考えられている。一方で病変部放射線治療単独により比較的良好な完全奏効(CR)割合(65%)が得られることが早くから知られており1),放射線治療とMDR 非関連薬を中心とする化学療法の併用療法が検討されてきた。
稀少疾患であり,ランダム化比較試験により確立された標準治療はない。国内では,鼻腔周辺原発で病変が頸部リンパ節までの限局期ENKL を対象とし,同時化学放射線療法であるRT-2/3DeVIC 療法(DEX, ETP, IFM, CBDCA)の第Ⅰ/Ⅱ相試験(JCOG0211-DI)が行われ2),OS が放射線治療単独の治療成績を上回り3),日常診療でも臨床試験と同様の効果および毒性であることが確認された4)。RT-2/3DeVIC 療法のほかに臨床試験で開発されたものとしては,韓国の研究グループによる[CCRT(RT, CDDP)-VIDL(ETP, IFM, DEX, L-Asp)療法]5)などがあり,香港の研究者らは調査研究の結果から,後述のSMILE 療法短期コース後に放射線治療を行う治療法を推奨している。最良の治療についてはコンセンサスがないものの,日常診療での安全性と有効性が確認されていることから4),RT-2/3DeVIC 療法が最も推奨される。ただし治療法の優劣は不明であり,臨床試験への参加も推奨される。化学療法の同時併用もしくは追加を行えない場合は,放射線治療単独もオプションの一つとなりうる。
鼻腔(周辺)原発で病変が鎖骨下リンパ節など頸部リンパ節領域を超えて認められる場合は,放射線治療による有害反応が懸念されることに加え,限局期に対する治療では予後不良であることから4),進行期に準じて化学療法を行う。
参考文献
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- CQ2
- 初発鼻腔周辺限局期のRT-2/3DeVIC 療法後CR 例に対して地固め療法としての自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は必要か
- 推奨グレードカテゴリー4
- 有用性を示すエビデンスは乏しく,推奨されない。
解説
初発鼻腔周辺限局期ENKL において,初回治療後完全奏効(CR)における地固め療法としての自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)の有用性について,十分なサンプルサイズで評価した研究は少ない1, 2)。さらに,多剤耐性(multi-drug resistance)克服を意図した化学療法,あるいはそれらの併用による同時化学放射線療法を受けた患者を対象とした同様の研究はほとんどない。
CQ1 にあるように,国内での初発鼻腔周辺限局期ENKL においてはRT-2/3DeVIC 療法が推奨される。この根拠となったJCOG0211-DI 試験では,治療後CR 例ではHDC/AHSCT などの後治療を行わず経過観察とされていた。また,国内31 施設で日常診療としてRT-DeVIC 療法を受けたENKL 患者150 例の後方視的研究では,初回治療後CR でHDC/AHSCT を受けたのはわずか2 例であり,そのうち1 例で照射体積内の二次がん発生を認めた3)。5 年全生存割合はJCOG0211-DI 試験で70%,後方視的研究で72%と良好であった。
以上よりRT-2/3DeVIC 療法でCR となれば,地固め療法としてのHDC/AHSCT を行わずに無治療経過観察することが推奨される。米国造血細胞移植学会(ASBMT)の推奨ガイドでは,初回CR 後HDC/AHSCT は実施すべきでないとされている4)。
参考文献
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- CQ3
- 初発進行期および初回再発/治療抵抗性ENKL に適した治療は何か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 多剤併用化学療法である SMILE療法が最も推奨される。
解説
初発ENKL では,約25%が骨髄浸潤などの全身播種を示し,アントラサイクリンを含む化学療法が行われていた時代の完全奏効(CR)割合は15%,50%生存期間は4 カ月と極めて予後不良であった1)。多剤耐性(multi-drug resistance:MDR)に関与するP 糖蛋白の影響を受けない薬剤を主体とするSMILE 療法(DEX, MTX, IFM, L-Asp, ETP)がわが国を中心として東アジアで開発され,年齢15〜69 歳,performance status(PS)0〜2 の初発Ⅳ期,初回治療後再発・治療抵抗性ENKL を対象として第Ⅱ相試験が行われ,既存の治療成績と比較して優れたCR 割合,1 年全生存割合(OS)を示した2)。
NCCN ガイドラインではpegaspargase を用いたSMILE 療法変法や,オキサリプラチンを含むレジメンを選択肢に挙げているが,本邦では使用できない。
GELA/GOELAMS による初回再発/治療抵抗性ENKL を対象としたAspaMetDex 療法(L-Asp,MTX, DEX)の第Ⅱ相試験の結果が報告されているが,対象19 例中12 例が限局期例であり,17 例はCHOP またはCHOP 類似療法を受けていた3)。日本の初回治療であれば予後良好な患者が含まれている可能性がある。初発進行期例に対するAspaMetDex 療法の第Ⅱ相試験も実施されたが,測定全例で抗アスパラギナーゼ抗体が生じ,全奏効割合は58%に留まった4)。このためいずれの状態でも,現時点ではSMILE 療法が最も推奨される。
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- CQ4
- 初発進行期ENKL 全例および初回再発/治療抵抗性ENKL で救援療法後CR 例では造血幹細胞移植を追加すべきか
- 推奨グレードカテゴリー2B
- 年齢や全身状態などの問題がなければ,自家または同種造血幹細胞移植が推奨される。
解説
予後不良とされてきた初回進行期および初回再発,治療抵抗性ENKL では,これまで造血幹細胞移植療法なしに長期生存は困難であった。後方視的解析の結果ではあるが自家移植1-3)もしくは同種移植2, 4)を受けた一部患者で長期生存が報告されている。
SMILE 療法(DEX, MTX, IFM, L-Asp, ETP)などL-アスパラギナーゼ(L-Asp)を含む新しい併用化学療法が行われる時代になってきたが,これまでに報告された臨床試験の成績は造血幹細胞移植が実施された患者を含むものである5)。選択バイアスの可能性もあるが,サブグループ解析では自家または同種移植を受けた患者の方が全生存割合(OS)は良好であった。化学療法のみで長期生存ないし奏効持続が得られるというデータはなく,現時点では前方視的臨床試験が存在しないためエビデンスレベルとしては低いが,患者の年齢や全身状態が問題なければ,自家または同種移植の実施が推奨される。
移植の種類に関しても選択バイアスの可能性はあるが,自家移植の成績は同種移植と同等かそれ以上であり6, 7),完全奏効(CR)で遂行可能な患者には自家移植実施の妥当性が示唆される。特に適切な同種骨髄・末梢血ドナーが存在しない場合,ドナー検索に時間をかけるより,CR での自家移植の実施が推奨される。米国造血細胞移植学会(ASBMT)の推奨ガイドでは,自家はstrong recommendation,同種はweak recommendation とされているが,これを支持するエビデンスはない8)。
参考文献
- 1)
- Au WY, et al. Autologous stem cell transplantation for nasal NK/T-cell lymphoma : a progress report on its value. Ann Oncol. 2003 ; 14(11): 1673-6.(3iiiA)
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- Suzuki R, et al. Hematopoietic stem cell transplantation for natural killer-cell lineage neoplasms. Bone Marrow Transplant. 2006 ; 37(4): 425-31.(3iiA)
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- Lee J, et al. Autologous hematopoietic stem cell transplantation in extranodal natural killer/T-cell lymphoma : a multinational, multicenter, matched controlled study. Biol Blood Marrow Transplant. 2008 ; 14(12): 1356-64.(3iiA)
- 7)
- Suzuki R, et al. Hematopoietic stem cell transplantation for extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal-type : The Japan Society for Hematopoietic Cell Transplantation(JSHCT)Lymphoma Working Party. Ann Oncol. 2011 ; 22(Suppl. 4): iv95.(3iiA)
- 8)
- Kharfan-Dabaja MA, et al. Clinical practice recommendations on indication and timing of hematopoietic cell transplantation in mature T-cell and NK/T-cell lymphomas : an international collaborative effort on behalf of the Guidelines Committee of the American Society for Blood and Marrow Transplantation. Biol Blood Marrow Transplant. 2017 ; 23(11): 1826-38.(ガイドライン)
- CQ5
- 初発進行期および初回再発/治療抵抗性ENKL の救援療法後非CR 例において造血幹細胞移植を追加する意義はあるか
- 推奨グレードカテゴリー3
- 救援療法後非CR のENKL は,患者の全身状態が良ければ同種移植の検討対象になり得る。
解説
救援療法後非完全奏効(CR)のENKL で造血幹細胞移植を行った前方視的臨床試験は存在しない。日本造血細胞移植学会のレジストリーデータには救援療法後非奏効ENKL 45 例が登録されており,その2 年全生存割合(OS)は同種移植・自家移植とも29%であった1)。選択バイアスの可能性はあるが,移植を実施しない場合のOS がゼロであることを考慮すると,何らかの造血幹細胞移植は選択肢になり得る。当然,議論の余地はあり,コンセンサスは得られていない。米国造血細胞移植学会(ASBMT)の推奨ガイドでは,自家移植は実施すべきでないとされているが,同種移植はweak recommendation となっている2)。
参考文献
- 1)
- Suzuki R, et al. Hematopoietic stem cell transplantation for extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal-type : The Japan Society for Hematopoietic Cell Transplantation(JSHCT)Lymphoma Working Party. Ann Oncol. 2011 ; 22(Suppl. 4): iv95.(3iiA)
- 2)
- Kharfan-Dabaja MA, et al. Clinical practice recommendations on indication and timing of hematopoieticcell transplantation in mature T-cell and NK/T-cell lymphomas : an international collaborative effort on behalf of the Guidelines Committee of the American Society for Blood and Marrow Transplantation. Biol Blood Marrow Transplant. 2017 ; 23(11): 1826-38.(ガイドライン)
- 10 ホジキンリンパ腫
(Hodgkin lymphoma:HL)
(Hodgkin lymphoma:HL)
総論
ホジキンリンパ腫(Hodgkin lymphoma:HL)は,欧米では悪性リンパ腫の約30%を占める。わが国での頻度は,全悪性リンパ腫の5〜10%程度である。
年齢分布は,若年者層(20 歳代)と中年層(50〜60 歳)にピークを有する二峰性を呈する。
初発症状は多くは無症候性,無痛性表在リンパ節腫脹で,約75%が頸部・鎖骨上窩リンパ節腫脹で発見される。結節硬化型HL は約60%に縦隔病変を認める。
血液検査所見は,白血球増多,リンパ球減少,好酸球増多,貧血,アルカリフォスファターゼ上昇,血液沈降速度亢進,CRP 高値,細胞性免疫能低下などを認める。
病理組織学的には,Hodgkin/Reed-Sternberg(HRS)細胞,lymphocyte predominant(LP)細胞(popcorn 細胞)などの腫瘍細胞の増生を特徴とするリンパ腫である。WHO 分類(2017)においてHL は結節性リンパ球優位型Hodgkin リンパ腫(nodular lymphocyte-predominant Hodgkin lymphoma:NLPHL)と古典的HL(classical Hodgkin lymphoma:CHL)の2 つに大別されている1, 2)。HRS 細胞はCHL,LP 細胞はNLPHL に特徴的とされる。CHL は結節硬化型HL(nodular sclerosis Hodgkin lymphoma),リンパ球豊富型HL(lymphocyte-rich classical Hodgkin),混合細胞型HL(mixed cellularity Hodgkin lymphoma),リンパ球減少型HL(lymphocyte depleted Hodgkin lymphoma)の4 つの準疾患単位に分類される。
HL はAnn Arbor 病期分類によりⅠ〜Ⅳ期に分類される。
1.限局期CHL の予後因子
限局期(Ⅰ,Ⅱ期)CHL の予後因子を表1 に示す。研究グループにより重視する予後因子が異なることに注意が必要である3-5)。
2.進行期CHL の予後因子
進行期CHL(Ⅲ,Ⅳ期)に用いられる予後予測モデルとしてはInternational Prognostic Score(IPS)がある6)。これは15〜65 歳までの進行期CHL でMOPP 療法[mechlorethamine(国内未承認),VCR, PCZ, PSL]やABVD 療法(DXR,BLM,VBL,DTIC)などによる治療を受けた4,695 例を対象とし解析を行い,無増悪期間(TTP)をエンドポイントとして7 つの予後因子を抽出した。これらの因子の数によって無増悪期間の予測が可能とされている。このシステムでは5 年での予測無増悪期間は,予後不良因子数0 の場合は84%であるのに対し,5 以上の場合は42%と不良である。
参考文献
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- Meyer RM, et al. Eastern Cooperative Oncology Group. Randomized comparison of ABVD chemotherapy with a strategy that includes radiation therapy in patients with limited-stage Hodgkin’s lymphoma : National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group and the Eastern Cooperative Oncology Group. J Clin Oncol. 2005 ; 23(21): 4634-42.(1iiDiii)
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- Hasenclever D, et al. A prognostic score for advanced Hodgkin’s disease. International Prognostic Factors Project on Advanced Hodgkin’s Disease. N Engl J Med. 1998 ; 339(21): 1506-14.(3iiiDiii)
アルゴリズム
HL の治療法はCHL とNLPHL とで異なる。CHL においては限局期および進行期とも放射線療法単独で治療することは推奨されない。化学療法単独または化学療法と放射線療法の併用が推奨される。NLPHL のうち,限局期例ではinvolved-field radiotherapy(IFRT)が標準治療である(CQ5)。
化学療法はABVD 療法(DXR, BLM, VBL, DTIC)が標準である。
また,拡大放射線療法(extended field radiation therapy:EFRT)であるマントル照射,亜全リンパ領域照射,全リンパ領域照射などに代表される系統的なリンパ節照射療法は,単独療法および化学療法との併用療法ともに推奨されない。化学療法と併用される場合はIFRT が推奨される。
1.限局期症例
限局期CHL では初回治療として化学療法と放射線療法との併用療法(combined modality therapy:CMT)が行われる(CQ1)。現在,用いられている代表的なレジメンはABVD 療法である(CQ1)。限局期CHL に対するABVD 療法4 コース後のIFRT の治療成績は10 年無増悪生存割合が90%以上である。放射線療法による晩期毒性,特に肺,乳房,消化管の二次がんや心血管系疾患による遅発性の死亡が問題となり,化学療法単独の治療方法も検討されている(CQ2)。近年,予後不良因子を持たない限局期CHL に対しては,有害事象の軽減のために化学療法の施行回数や照射量を減じる臨床試験が行われている。予後不良群に対してはABVD 療法4 コース後IFRT 30 Gy(CQ4)が推奨されるが,予後良好群に対してはABVD 療法2 コース後IFRT 20 Gy(CQ3)も推奨される治療法の一つである。CMT においてはABVD 療法終了時に明らかな進行(PD)と判定されない限り,IFRT を予定通り行い治療終了する。再発症例は進行期再発症例と同様の治療法がとられることが多い。
2.進行期症例
進行期CHL の初回治療としてはABVD 療法(6 もしくは8 コース)あるいはCD30 を標的とする抗体薬剤複合体であるブレンツキシマブ ベドチン(BV)併用AVD 療法(6 コース)が推奨される(CQ6, CQ7)。IPS によるリスク分類を用いて層別化して治療法を選択することは推奨されない(CQ8)。また,進行期症例においては初回治療中のinterim PET は予後予測に有用であるが,その結果により治療変更することの是非は臨床試験での検討段階であり,一般診療としては推奨されない(CQ9)。化学療法終了時にCT およびPET にて完全奏効(CR)であれば治療は終了することが推奨される(CQ10)。部分奏効(PR)の場合にはIFRT の追加が考慮される(CQ10)。初回化学療法で安定(SD)以下あるいは化学療法後の再発症例では救援化学療法が施行されるが,65 歳以下で救援化学療法に感受性がある場合は臓器機能が保たれていれば自家造血幹細胞移植併用大量化学療法が推奨される(CQ11)。また,再発・難治症例に対して,BV,抗PD-1 抗体であるニボルマブ,ペムブロリズマブの高い有効性が報告されている(CQ12, CQ13)。
- CQ1
- 限局期CHL に対する標準治療は化学療法と放射線療法の併用(CMT)か
- 推奨グレードカテゴリー1
- 限局期CHL に対する標準治療は,予後良好群,予後不良群ともにCMT である。
解説
限局期CHL 予後良好群を対象にしたランダム化比較試験(H8-F)では,3 コースのMOPP/ABV 療法(HN2, VCR, PCZ, PSL/DXR,BLM,VBL)+involved-field radiotherapy(IFRT)のcombined modality therapy(CMT)群と拡大放射線療法単独群(extended field radiation therapy:EFRT,当研究ではsubtotal lymphoid irradiation:STLI が用いられた)とが比較された。5年無イベント生存割合(EFS)および10 年全生存割合(OS)に関してCMT 群が優れていた1)。限局期CHL 予後不良群では,MOPP/ABV 療法6 コース,MOPP/ABV 療法4 コース+IFRT(30 Gy),MOPP/ABV 療法4 コース+STLI の3 群を比較したH8-U 試験において,MOPP/ABV 療法4 コース+IFRT の有効性は他の2 群と同等であり,有害事象は短期間の化学療法とIFRT のCMT が少なかった1)。これらの結果から,限局期CHL においてIFRT を用いたCMT は,EFRT 単独およびEFRT を用いたCMT に比べて有用性が高く,標準治療となった。
また,限局期CHL に対してCMT を施行する際の至適な化学療法レジメンについても検討されている。限局期CHL に対するABVD 療法(DXR,BLM,VBL,DTIC)4 コース後IFRT を行うCMT の12 年無増悪生存割合(PFS)は94%と良好な治療成績が示され,ABVD 療法4 コース後IFRT 療法が有効であることが報告されている2)。また,Japan Clinical Oncology Group(JCOG)は,病期Ⅱ〜Ⅳ期のCHL に対してABVd 療法(国内でのpilot study で観察された悪心を主とする消化器毒性の軽減のため,ダカルバジンを250 mg/m2 に減量)6〜8 コース施行し,bulky 病変が治療前に存在した場合には30〜40 Gy のIFRT を追加する第Ⅱ相試験を行った。この臨床試験における病期Ⅱ期の5 年PFS は86.8%,OS 97.4%と良好な治療成績であった(JCOG 9305 試験)3)。
限局期CHL 予後不良群に対してABVD 療法4 コースもしくはBEACOPP 療法(BLM, ETP,DXR, CPA, VCR, PCZ, PSL)4 コース,その後にIFRT 20 Gy あるいは30 Gy を行う2×2 ランダム化比較第Ⅲ相試験が行われ,ABVD 療法4 コース後の20 Gy IFRT 群は,他の群に比べてFFTF, PFS が劣ることが示された。また,急性毒性がBEACOPP 療法で有意に多いことが示された。この結果から,限局期CHL 予後不良群に対してABVD 療法4 コース後の30 Gy IFRT が推奨された(HD11 試験)4)。
限局期CHL のCMT に用いる化学療法としてはABVD 療法が推奨される。
参考文献
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- Fermé C, et al. EORTC-GELA H8 Trial. Chemotherapy plus involved-field radiation in early-stage Hodgkin’s disease. N Engl J Med. 2007 ; 357(19): 1916-27.(1iiDi)
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- CQ2
- Bulky 病変を認めない限局期CHL に対する化学療法単独療法は推奨されるか
- 推奨グレードカテゴリー2B
- Bulky 病変を認めない限局期CHL に対して,放射線療法を省略したABVD 療法6 コースの化学療法単独療法は推奨される治療法の一つである。
解説
限局期CHL 予後良好群に対するcombined modality therapy(CMT)の10 年無増悪生存割合(PFS)は約80〜90%,10 年生存割合は約85〜95%である。また,bulky 病変を認めない限局期CHL に対するABVD 療法(DXR,BLM,VBL,DTIC)6 コースのみの報告では,5 年PFS は約85〜90%とCMT と遜色ない結果であることも報告されている1, 2)。
Bulky 病変を認めない限局期CHL に対する化学療法と放射線療法との併用(CMT)と化学療法単独とを比較したいくつかの比較試験の結果,CMT は化学療法単独に比べて,PFS が有意に良好であるものの,全生存割合(OS)では有意差がないことが示されている3-7)。
カナダ国立がん研究所によるHD6 試験では,bulky 病変を持たない限局期CHL 予後良好群および予後不良群に対してABVD 療法4〜6 コースのみを施行する群と,限局期CHL 予後良好群に対してsubtotal lymphoid irradiation(STLI)のみを施行する群,もしくは限局期CHL 予後不良群に対してABVD 療法2 コース+STLI を施行する群におけるランダム化比較試験が行われた7)。12 年PFS はSTLI±ABVD 群で有意に良好な成績であったが,OS はABVD4〜6 コース群で有意に良好であった。この背景には,STLI 群では二次がんなどCHL 以外による死亡が高率であることが関与すると考察された。
放射線療法の毒性に関する報告では,重大な晩期毒性である二次がん,心血管イベント,脳血管障害の発生率は経時的に増加し,約2〜7 倍に達するとされる8, 9)。また,照射総線量を低減あるいは照射野を縮小しても,化学療法との併用で乳がんの発生リスクを高めることが報告されている9)。1965 年から2000 年の間にオランダで治療を受けたCHL 患者3,905 例(RT は87.8%の症例に施行)の観察研究では10),40 年における二次がん累積発症割合は48.5%であった。以上の結果から,bulky 病変を持たない限局期CHL に対して,二次がんなどの晩期毒性を最少化するために放射線療法を省略したABVD 療法6 コースの治療法は,推奨される治療法の一つと考えられる。
参考文献
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- Rueda Dominguez A, et al. Treatment of stage I and II Hodgkin’s lymphoma with ABVD chemotherapy : results after 7 years of a prospective study. Ann Oncol. 2004 ; 15(12): 1798-804.(3iiiDiii)
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- CQ3
- 限局期CHL 予後良好群ではABVD 療法2 コースとIFRT のCMT が推奨されるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 限局期CHL 予後良好群では,ABVD 療法2 コース後のIFRT は推奨される治療の一つである。
解説
German Hodgkin Study Group(GHSG)では,巨大縦隔腫瘤(胸郭横径比≧1/3),節外病変,血沈亢進(B 症状あり;≧30 mm/h,B 症状なし;≧50 mm/h),3 カ所以上の病変領域を限局期CHL の予後不良因子としている。限局期CHL 予後良好群では長期生存が得られるため,有害事象の軽減のために化学療法の施行回数や放射線照射量を減じる臨床試験が行われている。
GHSG は限局期CHL 予後良好群に対して,ABVD 療法(DXR,BLM,VBL,DTIC)2 コース対4 コースの比較と,その後のinvolved field radiotherapy(IFRT)20 Gy 対30 Gy との比較を行う2×2 ランダム化第Ⅲ相試験(HD10 試験)を行った1)。5 年全生存割合(OS)および治療成功割合(FFTF)は4 群間でほぼ同等であったが,毒性はABVD 療法4 コースで急性毒性および急性毒性死亡の発現頻度が高く,30 Gy IFRT は20 Gy に比べ急性毒性が多かった。そのため,毒性を考慮すると,ABVD 療法2 コース+IFRT 20 Gy が限局期予後良好CHL の新たな標準治療となるとした。
一方,European Organization for Research and Treatment of Cancer-Groupe d’Etude des Lymphomes de l’Adulte(EORTC-GELA)のH8 試験では,限局期CHL 予後良好群に対してMOPP/ABV 療法(HN2, VCR, PCZ, PSL/DXR,BLM,VBL)3 コースとIFRT(36 Gy)のCMT と放射線単独療法(subtotal lymphoid irradiation:STLI)のランダム化比較試験が行われた。10 年の無イベント生存割合(EFS),OS においてCMT 群がSTLI 群に優り,化学療法3 コースとIFRT(36 Gy)が限局期CHL 予後良好群に対する推奨療法であるとした2)。
また限局期CHL 予後良好群に対するABVD 療法2 コースとIFRT 30 Gy の併用療法においての有害事象を軽減する目的で,ブレオマイシン(BLM),ダカルバジン(DTIC)を除いた化学療法[ABV(DXR,BLM,VBL),AVD(DXR,VBL,DTIC),AV(DXR,VBL)] のABVD 療法に対する非劣性を確認するランダム比較試験(HD13)が行われた3)。5 年のFFTF の比較では,DTIC の省略はABVD 療法に対し劣性であることが示され,BLM の省略は非劣性が確認されなかった。限局期CHL 予後良好群に対する標準治療はABVD 療法とIFRT のCMT であると結論づけられた。
上記およびCQ1 にあるように,限局期CHL 予後良好群では短縮コースの化学療法とIFRT のCMT が標準治療である。化学療法のコース数,IFRT の照射量に関しては完全なコンセンサスが得られていないものの,有害事象の軽減と良好な治療成績を両立できるABVD 療法2 コース+IFRT 20 Gy は推奨される治療である。
参考文献
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- Engert A, et al. Reduced treatment intensity in patients with early-stage Hodgkin’s lymphoma. N Engl J Med. 2010 ; 363(7): 640-52.(1iiDiii)
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- CQ4
- 限局期CHL 予後不良群に対し推奨される治療法は何か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 限局期CHL 予後不良群では,ABVD 療法4 コース+IFRT のCMT が推奨される。
解説
限局期CHL 予後不良群に対する標準治療は,短期間の化学療法とinvolved field radiotherapy(IFRT)のcombined modality therapy(CMT)である(CQ1)1)。German Hodgkin Study Group(GHSG)は,限局期CHL 予後不良群に対してABVD 療法(DXR,BLM,VBL,DTIC)4 コース対BEACOPP 療法(BLM, ETP, DXR, CPA, VCR, PCZ, PSL)4 コース,その後にIFRT 20 Gy 対30 Gy を行う2×2 の比較試験(HD11)を施行した。治療成功期間(FFTF)がABVD4 コース+20 Gy IFRT で短い傾向(有意差はない)があったが,急性毒性はBEACOPP 群で有意に多いことが報告された。この結果から,限局期CHL 予後不良群においてはABVD 療法4 コース後の30 Gy IFRT が推奨された2)。また,限局期CHL 予後不良群に対するABVD 療法4 コース+IFRT(30 Gy)と増量BEACOPP 療法2 コース+ABVD 療法2 コース+IFRT(30 Gy)とを比較するランダム化比較試験(HD14)では3),5 年FFTF,無増悪生存割合(PFS)ともに増量BEACOPP 療法群で有意に良好であったが,全生存割合(OS)に有意差は認められず,急性毒性は増量BEACOPP 療法群でより多いことが確認された。
ABVD 療法6〜8 コース+IFRT(36 Gy)とStanford V 療法(DXR, VBL, HN2, ETP, VCR,BLM, PSL)12 週+IFRT(36 Gy)を比較するランダム化試験サブグループ解析では4),縦隔bulky 病変をもつ限局期CHL の5 年治療成功生存割合(FFS)およびOS はいずれもABVD 群でやや良好の傾向を示したが,有意差は確認されなかった。
以上の結果から,限局期CHL 予後不良群に対しては,有害事象をできる限り軽減するという点も踏まえ,ABVD 療法4 コース後の30 Gy IFRT が推奨される治療法と考えられる。
参考文献
- 1)
- Fermé C, et al. EORTC-GELA H8 Trial. Chemotherapy plus involved-field radiation in early-stage Hodgkin’s disease. N Engl J Med. 2007 ; 357(19): 1916-27.(1iiDi)
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- CQ5
- 限局期結節性リンパ球優位型HL(NLPHL)に対し推奨される治療法は何か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 限局期 NLPHL では,IFRTが推奨される。
解説
Joint Center for Radiation Therapy で治療された限局期NLPHL の後方視的解析が報告され,放射線療法のみの症例では10 年無増悪生存割合(PFS)および10 年全生存割合(OS)は良好であった1)。また,照射野に関してはinvolved field radiotherapy(IFRT),マントル照射または逆Y 照射,拡大放射線療法(extended field radiotherapy:EFRT)の比較ではPFS とOS のいずれにおいても有意差はなかった。Combined modality therapy(CMT)は放射線療法単独に比べPFS,OS の改善はもたらさなかった。
German Hodgkin Study Group(GHSG)で施行されたHD4, HD7, HD10, HD13, LP, LPHD,RIPL のいずれかの臨床試験に登録されたⅠA 期のNLPHL 256 症例についての後方視的解析では2),8 年におけるOS は,CMT 群,EFRT 群,IFRT 群ともに95%以上と良好であった。特にIFRT 群ではPFS も90%以上であった。死亡例12 例のうち1 例のみがNLPHL による死亡であった。急性毒性および二次がんなどの晩期毒性の可能性を考慮すると,IFRT(30 Gy)が最も推奨される治療法であると考察された。
以上の結果から,限局期NLPHL ではIFRT が推奨される治療法であり,IFRT は30 Gy で施行されることが多い。また,臨床病期Ⅰ期NLPHL で完全に病変が切除された症例においては注意深い経過観察が可能とされている3)。
参考文献
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- Chen RC, et al. Early-stage, lymphocyte-predominant Hodgkin’s lymphoma : patient outcomes from a large, single-institution series with long follow-up. J Clin Oncol. 2010 ; 28(1): 136-41.(3iiiDiii)
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- CQ6
- 進行期CHL の標準治療はABVD 療法か
- 推奨グレードカテゴリー1
- ABVD 療法は進行期CHL の標準治療である。
また,ブレンツキシマブ ベドチン併用AVD 療法は進行期CHL の標準治療の一つである。
解説
進行期CHL は化学療法が標準である。1960 年代にMOPP 療法(HN2, VCR, PCZ, PSL)が開発され,80%程度の奏効割合と約50%の長期生存が報告された1)。MOPP 療法と非交差耐性の薬剤で構成されたABVD 療法(DXR,BLM,VBL,DTIC)が開発され,Cancer and Leukemia Group B(CALGB)において,進行期CHL を対象としたMOPP 療法,ABVD 療法,MOPP/ABVD 交替療法の3 群間の第Ⅲ相比較試験が実施された。ABVD 療法およびMOPP/ABVD 療法はMOPP 療法に比べ治療成功生存割合(FFS)が優ることが報告され2),長期経過観察(観察期間中央値14.1 年)においてもABVD 療法の優位性が示された3)。全生存割合(OS)に有意差は認められなかったが,ABVD 療法はMOPP 療法およびMOPP/ABVD 療法に比べ血液毒性・感染症などの有害事象の発症頻度が有意に低く,進行期CHL の標準治療として確立された2)。
その後MOPP/ABV hybrid 療法(HN2, VCR, PCZ, PSL/DXR,BLM,VBL)4),Stanford V 療法(DXR, VBL, HN2, ETP, VCR, BLM, PSL)5, 6),MOPPEBVCAD 療法(HN2, CCNU, VDS,MEL, PSL, EPI, VCR, PCZ, VBL, BLM),Multidrug regimen(ChIVPP/PABIOE 交替療法(CLB,VBL, PCZ, PSL, DXR, BLM, VCR, ETP),ChIVPP/EVA hybrid 療法(CLB, VBL, PCZ, PSL,ETP, VCR, DXR)7),CEC 療法(CPA, CCNU, VDS, MEL, PSL, EPI, VCR, PCZ, VBL, BLM)8),BEACOPP 療法(BLM, ETP, DXR, CPA, VCR, PCZ, PSL)8, 9)などの治療法はABVD 療法とのランダム化比較試験において,いずれもOS の改善は示されなかった。無増悪生存割合(PFS)ではABVD 療法より優れている治療法も報告されているが,治療強度を上げることにより有害事象は増強することが示されている。ダカルバジン(DTIC)の消化器毒性の軽減目的で考案されたABVd 療法(DTIC を2/3 に減量)の良好な治療成績がわが国から報告された10)。単アームの臨床第Ⅱ相試験であり,ABVD 療法との比較はなされていない。また,DTIC の消化器毒性は近年の制吐剤の進歩により軽減されてきている。
以上より,進行期CHL における標準治療は6 もしくは8 コースのABVD 療法と考えられる。
また,未治療進行期CHL に対するBV 併用AVD 療法とABVD 療法とのランダム化比較試験の結果,主要評価項目の2 年修正PFS(病勢進行,死亡,治療後PET スコア3〜5,追加治療実施)割合はBV 併用AVD 療法が優れた(BV 併用AVD 療法82.1% vs. ABVD 療法77.2%)11)。ABVD 療法ではブレオマイシン関連肺毒性死亡を1.6%に認めたが,BV 併用AVD 療法では好中球減少関連合併症死亡を1.1%に認めた。BV 併用AVD 療法ではG-CSF の一次予防的投与が推奨される。
参考文献
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- CQ7
- 進行期CHL において増量BEACOPP 療法はABVD 療法より臨床的に優れているか
- 推奨グレードカテゴリー2B
- 進行期CHL において増量BEACOPP 療法のABVD 療法に対する優位性は証明されていない。
解説
BEACOPP 療法(BLM, ETP, DXR, CPA, VCR, PCZ, PSL)はGerman Hodgkin Study Group(GHSG)が開発した治療強度を高めたレジメンである。GHSG は標準BEACOPP 療法(8 コース),増量BEACOPP 療法(8 コース),COPP/ABVD 療法(CPA, VCR, PCZ, PSL/DXR, BLM,VBL, DTIC)(8 コース)の比較試験を報告した(HD9 試験)1)。対象は臨床病期ⅡB 以上で15 歳から65 歳の進行期症例である。この臨床試験はABVD 療法類似のCOPP/ABVD 療法に比べBEACOPP 療法群(標準BEACOPP 療法,増量BEACOPP 療法)が5 年治療成功割合(FFTF)において有意に優っていることを示した。また5 年全生存割合(OS)においても増量BEACOPP 療法がCOPP/ABVD 療法より優れていた。長期の観察においても同様の結果が得られている2)。しかし進行期CHL の標準治療であるABVD 療法と当試験で採用されたCOPP/ABVD 療法が同等の有効性を示すかは不明である。急性期の有害事象は増量BEACOPP 療法に高頻度に発生した。二次性MDS,AML の発症は標準BEACOPP 療法群と増量BEACOPP 療法群はCOPP/ABVD 療法群と比較して有意に頻度が高かった2)。その後,他のグループで行われたBEACOPP 療法の変法(4 コース増量レジメン+2 コース標準量レジメン,4 コース増量レジメン+4 コース標準量レジメン)とABVD 療法との4 つの第Ⅲ相比較試験では,BEACOPP 療法(変法)はABVD 療法に対してOS で優位性が示されなかった3-6)。
以上の臨床試験から,増量BEACOPP 療法がABVD 療法に優っていると結論することはできない。
高齢者(65 歳以上)を対象とした標準BEACOPP 療法とCOPP/ABVD 療法の比較試験では両群でFFTF,OS に有意差はなく,標準BEACOPP 療法群において血液毒性などの有害事象が高頻度で治療関連死亡も多い傾向にあった。高齢者でのBEACOPP 療法の有用性は示されていない7)。
わが国で標準BEACOPP 療法の臨床第Ⅱ相試験が施行された。69 歳までの症例が対象であり,Grade 4 の好中球減少を約60%に認めたものの,90%近い3 年無増悪生存割合(PFS)が報告されている8)。
参考文献
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- CQ8
- 進行期CHL において治療法を決定する際に国際予後スコアを考慮すべきか
- 推奨グレードカテゴリー3
- 国際予後スコアによる治療層別化の有用性を示唆する根拠はない。
解説
国際予後スコア(International Prognostic Score:IPS)により,進行期CHL を低リスク,高リスク2 グループに分類できることが報告されている。スコア0〜2 と3〜7 で分けた場合,両群にほぼ同数の症例が分布し,無増悪期間には有意な差が認められることが報告されている1)。IPS のリスク分類に基づいて治療効果のサブグループ解析を行っている第Ⅲ相比較試験の結果がいくつか報告されている。
German Hodgkin Study Group(GHSG)のHD9 はIPS スコア0〜1,2〜3,4〜7 の3 グループに分類し,増量BEACOPP 療法(BLM, ETP, DXR, CPA, VCR, PCZ, PSL)群,標準BEACOPP 療法群,COPP/ABVD 療法(CPA, VCR, PCZ, PSL/DXR, BLM, VBL, DTIC)群の5 年治療成功割合(FFTF)と全生存割合(OS)を評価している2)。この3 つの予後グループのすべてでFFTF,OS ともCOPP/ABVD 療法と比較し増量BEACOPP 療法が優っていることが示され,増量BEACOPP 療法はIPS のリスクグループに関わらず有効であるとされた。ABVD 療法とBEACOPP 療法(変法),CEC 療法(CPA, CCNU, VDS, MEL, PSL, EPI, VCR, PCZ, VBL, BLM)を比較したHD2000 試験3)およびmultidrug regimen とABVD 療法との比較試験4)では,IPS が高い群で治療強度を高めた治療がABVD 療法に比べ治療成功生存割合(FFS)が良好な傾向が認められたが,OS の改善は示されなかった。進行期CHL のIPS 0〜2 5)または3 以上6)の症例をそれぞれ対象とした,ABVD 療法とBEACOPP 療法(変法)の比較試験が報告されたが,両試験とも治療法間の無イベント生存(EFS)およびOS に有意差は示されなかった。また,化学療法薬の総投与量を減量し有害事象の低減が期待されるStanford V 療法(DXR, VBL, HN2, ETP, VCR, BLM, PSL)(大多数でinvolved field radiotherapy:IFRT 併用)とABVD 療法の比較試験が報告された7)。Stanford V はIPS 0〜2 の低リスクグループでABVD 療法と比較し,同等のFFS, OS を示したが,急性期の有害事象は高頻度であった。このようにIPS で低リスクと考えられる症例に対して,ABVD 療法と比較し,治療効果を保ち有害事象が低減できる治療法は確立していない。
IPS に基づく治療層別化の有用性については今後なお検証が必要であるが,現時点では推奨されない。
参考文献
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- Federico M, et al. ABVD compared with BEACOPP compared with CEC for the initial treatment of patients with advanced Hodgkin’s lymphoma : results from the HD2000 Gruppo Italiano per lo Studio dei Linfomi Trial. J Clin Oncol. 2009 ; 27(5): 805-11.(1iiDiii/2Diii)
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- Johnson PW, et al. Comparison of ABVD and alternating or hybrid multidrug regimens for the treatment of advanced Hodgkin’s lymphoma : results of the United Kingdom Lymphoma Group LY09 Trial(ISRCTN97144519). J Clin Oncol. 2005 ; 23(36): 9208-18.(1iiDi/2Di)
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- Gordon LI, et al. Randomized phase III trial of ABVD versus Stanford V with or without radiation therapy in locally extensive and advanced-stage Hodgkin lymphoma : an intergroup study coordinated by the Eastern Cooperative Oncology Group(E2496). J Clin Oncol. 2013 ; 31(6): 684-91.(1iiDiii)
- CQ9
- 進行期CHL において初回治療中間でのPET 検査(interim PET)は予後予測に有用か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- Interim PET は進行期 CHLの予後予測に有用である。
解説
CHL においては治療中間でのPET 所見(interim PET)が予後予測に有効であると報告されている。これらの研究の多くは初発進行期CHL で6〜8 コースの化学療法を施行した症例を対象としてinterim PET を評価している。ほとんどの試験ではinterim PET 評価は2 コース後に施行されている。Gallamini らによる報告(260 例:病期ⅡB〜IV および予後不良因子を有するⅡA)では,ABVD 療法(DXR, BLM, VBL, DTIC)で治療された場合,interim PET の陰性例と陽性例の2 年の無増悪生存割合(PFS)はそれぞれ95%と12.8%と有意な差が検出された1)。CHL におけるinterim PET の予後予測(進行および再発を評価)におけるメタ解析では,ランダム効果モデルで推定した特異度(negative predictive value:NPV)は極めて良好であった2)。Gallamini らの研究ではinterim PET の判定はInternational Harmonization Project in Lymphoma の基準を使用した1, 3)が,近年は5 points scale での判定が推奨されている4, 5)。また,interim PET の結果を治療介入に用いる手法は臨床試験中である。Southwest Oncology Group(SWOG)のS0816 試験はABVD 療法2 コース後interim PET 陽性の予後不良症例に対し増量BEACOPP 療法(BLM, ETP,DXR, CPA, VCR, PCZ, PSL)に治療変更することにより,予後を改善できる可能性があることを示した6)。同様の結果は,英国で行われたRAHTL 試験のinterim PET 陽性コホートでも示された7)。しかし,interim PET は臨床研究段階であり,現時点では日常診療においてはその結果を治療介入・変更の根拠とすることは推奨されない。
参考文献
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- CQ10
- 進行期CHL で化学療法によりCR に至った症例において地固め療法としてのIFRT は推奨されるか
- 推奨グレードカテゴリー4
- 進行期CHL で化学療法によりCR(CT またはPET 効果判定)が得られた症例に対するIFRT は推奨されない。
解説
これまでのCHL に対する多くの臨床試験での治療効果判定はCT で行われている。化学療法後に効果判定をCT で行い完全奏効(CR),部分奏効(PR)が得られた症例における地固め療法としての照射の意義についての検討結果が報告されている。化学療法でCR を得た症例に全初発部位へのinvolved field radiotherapy(IFRT)追加の有用性に関してはEuropean Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)から第Ⅲ相比較試験が報告されている。MOPP/ABV 療法(HN2, VCR, PCZ, PSL/DXR,BLM,VBL)で治療された進行期CHL 739 症例でCR となった症例が地固め目的のIFRT(24 Gy)施行群と観察群に割りつけられた。両群において5 年無イベント生存割合(EFS)に有意差は認められなかった1)。この臨床試験の長期観察においても同様の結果が得られている2)。Southwest Oncology Group(SWOG)からも化学療法後のCR 例をIFRT 追加群(全初発部位)と観察群に割りつけた臨床試験結果が報告されている。この試験においてもIFRT の追加による無再発生存割合(RFS),全生存割合(OS)の改善は示されなかった3)。また,治療終了後の効果判定目的のPET のnegative predictive value(NPV)は良好であり4),効果判定CT で残存病変が認められる症例でPET 陰性であれば,残存病変に対しIFRT を追加することは不要であると報告されている5)。進行期CHL においてCR(CT またはPET での診断)を示した症例に対する地固め療法目的のIFRT は推奨されない。
German Hodgkin Study Group(GHSG)では第Ⅲ相試験にてBEACOPP 療法(BLM, ETP,DXR, CPA, VCR, PCZ, PSL)(増量8 コースまたは増量4 コース+標準量4 コース)後のCT 評価の残存病変へのIFRT の省略により治療成功割合(FFTF)が悪化すると報告した(HD12)6)。このことから初回化学療法後のPR 例に対するIFRT 追加の有用性が示唆される。
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- CQ11
- 若年者再発CHL に対して自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は推奨されるか
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 若年者初回再発CHL では,救援化学療法が奏効した場合,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は推奨される。
解説
再発CHL に対する通常量の救援化学療法と自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)との比較に関する臨床試験結果が報告されている。German Hodgkin Study Group(GHSG)とEuropean Group for Blood and Marrow Transplantation(EBMT)の共同研究として,救援化学療法(Dexa-BEAM)を4 コース施行する群とDexa-BEAM 2 コース後にHDC/AHSCT(大量化学療法:BEAM[BCNU(国内未承認),ETP,AraC,MEL])を施行する群との比較試験が行われた1)。救援化学療法に感受性があると判断された症例を対象にした場合,治療成功割合(FFTF)はHDC/AHSCT 群が有意に優れていた。全生存割合(OS)には有意差は認められなかった。ただし,第2 再発以降の症例ではHDC/AHSCT の優位性は示されていない。また,British Lymphoma National Investigation(BLNI)での通常救援化学療法とHDC/AHSCT の比較試験は,40 例のみの登録で早期終了となっているが,無イベント生存割合(EFS)と無増悪生存割合(PFS)においてHDC/AHSCT が良好な傾向を示した2)。Stanford 大学からは後方視的解析でHDC/AHSCT の有用性(初回再発または初回非奏効例)を示した研究も報告されている3)。以上より65 歳以下のCHL の初回再発で救援化学療法が奏効した場合,HDC/AHSCT は推奨される治療法である。ただし,初発時限局期で短縮化学療法を用いたcombined modality therapy(CMT)により治療された症例の再発においては,HDC/AHSCT の有用性のエビデンスはないため,適応は慎重に判断されなければならない。
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- CQ12
- 再発・難治性CD30 陽性CHL に対してブレンツキシマブ ベドチンは有効か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- ブレンツキシマブ ベドチンは,再発・難治性CD30 陽性CHL に有効である。
解説
ブレンツキシマブ ベドチンは,CD30 を標的とする抗体薬剤複合体であり,CD30 陽性の再発・難治性CHL 患者において第Ⅰ相臨床試験が行われた1)。自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)の治療歴を有する再発・難治性CD30 陽性CHL を対象とした第Ⅱ相多施設共同試験では,全奏効割合(OR)は75%であり,34%の症例で完全奏効(CR)が得られた2)。5 年の経過観察では全患者における無増悪生存期間(PFS)の中央値は9.3 カ月であった3)。わが国では第Ⅰ/Ⅱ相試験が施行され,同等のOR が得られた4)。
再発・難治性のCD30 陽性CHL においては,HDC/AHSCT が不成功であった患者およびHDC/AHSCT の適応にかかわらず2 レジメン以上の化学療法による前治療が不成功であった患者の治療選択肢として,ブレンツキシマブ ベドチンが考慮される。他の化学療法との併用のエビデンスは極めて少なく,単剤で使用される。
参考文献
- 1)
- Younes A, et al. Brentuximab Vedotin(SGN-35)for Relapsed CD30-Positive Lymphomas. N Engl J Med. 2010 ; 363(19): 1812-21.(3iiiDiv)
- 2)
- Younes A, et al. Results of a Pivotal Phase II Study of Brentuximab Vedotin for Patients With Relapsed or Refractory Hodgkin’s Lymphoma. J Clin Oncol 2012 ; 30(18): 2183-9.(3iiiDiv)
- 3)
- Chen R, et al. Five-year survival and durability results of brentuximab vedotin in patients with relapsed or refractory Hodgkin lymphoma. Blood. 2016 ; 128(12): 1562-6.(3iiiDiv)
- 4)
- Ogura M, et al. Phase I/II study of brentuximab vedotin in Japanese patients with relapsed or refractory CD30-positive Hodgkin’s lymphoma or systemic anaplastic large-cell lymphoma. Cancer Sci. 2014 ; 105(7): 840-6.(3iiiDiv)
- CQ13
- 再発・難治性CHL に対して抗PD-1 抗体は有効か
- 推奨グレードカテゴリー2A
- 抗PD-1 抗体は,再発・難治性 CHL に有効である。
解説
再発・難治性CHL に対して抗PD-1 抗体(ニボルマブ,ペムブロリズマブ)の第Ⅰ相試験,第Ⅱ相試験が報告された。ニボルマブの第Ⅰ相試験は23 例の再発・難治CHL を対象として行われた1)。78%の症例で大量化学療法,78%の症例でブレンツキシマブ ベドチンの既治療歴があるコホートであるが,奏効割合(OR)は完全奏効割合(CR)17%を含む87%であった。残りの13%の症例は奏効とは判定されなかったが,効果判定は全例病勢安定(SD)であり,病勢進行(PD)は認められなかった。また,大量化学療法,ブレンツキシマブ ベドチン後の再発・難治性CHL 80 例を対象としたニボルマブ単剤治療の第Ⅱ相試験では,66.7%のOR が得られている2)。Grade3 以上の有害事象は,好中球減少,リパーゼ上昇,感染症などであったが,頻度は5%以下であった。また,ペムブロリズマブも同様な効果が報告されている。大量化学療法,ブレンツキシマブ ベドチン治療後に再発・再燃を認めたホジキンリンパ腫210 例を対象とした臨床第Ⅱ相試験では,OR は69.0%,CR は22.4%であった3)。
抗PD-1 抗体は,再発・難治性CHL に対して高い有効性を示した。安全性においては免疫関連の有害事象が特徴的であり,重篤なものも報告されているため注意を要する。
参考文献
- 1)
- Ansell SM, et al. PD-1 blockade with nivolumab in relapsed or refractory Hodgkin’s lymphoma. N Engl J Med. 2015 ; 372(4): 311-9.(3iiiDiv)
- 2)
- Younes A, et al. Nivolumab for classical Hodgkin’s lymphoma after failure of both autologous stem-cell transplantation and brentuximab vedotin : a multicentre, multicohort, single-arm phase 2 trial. Lancet Oncology. 2016 ; 17(9): 1283-94.(3iiiDiv)
- 3)
- Chen R, et al. Phase II Study of the Efficacy and Safety of Pembrolizumab for Relapsed/Refractory Classic Hodgkin Lymphoma. J Clin Oncol. 2017 ; 35(19): 2125-32.(3iiiDiv)