診療ガイドライン

総論

A.診断

病態

リンパ浮腫の実態は,何らかの理由でリンパ管内に回収されなかった,アルブミンなどの蛋白を高濃度に含んだ体液が間質に貯留したものである(図1)。したがって,さまざまな理由で生じる,いわゆる浮腫(水分の貯留)とは異なる病態であることをまず認識し,適切に鑑別診断する必要がある。

図1 リンパ浮腫と浮腫の病態

分類

リンパ浮腫は原発性(一次性)と続発性(二次性)に大別される。

原発性(一次性)は原因が明らかでない特発性(35 歳未満を早発性,35 歳以上を晩発性という)と,遺伝子異常等による先天性に分類される。

続発性(二次性)の原因には癌治療後の後遺症として生じる場合のほか,外傷,フィラリア感染症(国内では1978 年以降発症者が出ていない)などがあり,全世界的にはフィラリア感染症の占める割合が大きいが,わが国で最も多くみられるのは領域リンパ節郭清(領域リンパ節は所属リンパ節と同義である)や術後照射,タキサン系薬剤など癌治療に伴うリンパ浮腫である。主な癌の種類は,乳癌,婦人科癌,前立腺癌,悪性黒色腫,直腸癌などが挙げられる。

解説

1.確定診断と鑑別診断

医学的アセスメントは,浮腫を生じるすべての疾患から鑑別してリンパ浮腫の確定診断を得るほかに,その原因を特定し,あるいはその他の原因を除外することを目的としている(表1)。ほとんどの場合,病歴(手術・照射の既往や外傷歴など)が大きな手がかりとなり,それに矛盾しない理学所見が伴っているかを精査する。したがって,注意深くきめ細かい病歴の聴取が必須である。リンパ浮腫以外の浮腫を惹起する疾患や癌の転移・再発を除外したのちに,リンパ浮腫の病期診断,さらなる精査へと進む。

表1 リンパ浮腫の鑑別診断

(1)原発性リンパ浮腫

原発性リンパ浮腫は一般に小児科領域の疾病であり,その頻度は20 歳未満の人口10 万人に1.15 人と非常に稀である 2)。早発性はそのほとんどが思春期に発症し,晩発性は原発性全体の約10%にあたる 3)。診断には,すべての続発性リンパ浮腫の可能性を除外する必要がある。問診などにより家族性発症の疑いがあれば,遺伝子スクリーニング検査や遺伝カウンセリングの適応となる。ちなみに原発性リンパ浮腫に関連する遺伝子の主な変異は,FOXC2(リンパ浮腫・睫毛重生症候群),VEGER-3(Milroy 病),SOX18(貧毛・乏毛・リンパ浮腫・毛細血管拡張症候群)などがあるが,それぞれの詳細については成書に譲る。

(2)リンパ浮腫の検査

診断に有用な検査を表2 に示す。リンパシンチグラフィはリンパ浮腫の確定診断を得るために最も有用で,国際リンパ学会(International Society of Lymphology;ISL)でも推奨される診断法である。確定診断を得る目的のほかに外科手術時の術前後の評価に多用されているが,わが国では保険収載されていない。インドシアニングリーン(ICG)を用いた蛍光リンパ管造影はphotodynamic eye(PDE)によって,体表から2 cm 程度の深さまでならリンパ管の走行や機能動態を観察することができ,リンパ管の弁逆流に伴うdermal backflow はリンパ浮腫に特有の所見である。超音波検査は簡便で非侵襲的に皮下の水分貯留の有無や程度を観察できる。さらに近年,生体インピーダンスを応用して開発されたリンパ浮腫診断機器(bioimpedance spectroscopy;BIS)は,米国では片側性乳癌に限りリンパ浮腫の検査手段として保険収載されているが,左右差を評価するため,両側性乳癌や下肢の診断に対する適否など課題も多く,今後の展開が待たれる。現時点では,ここに挙げたいずれの画像検査も,わが国ではリンパ浮腫の診断方法としての保険収載はなされていないのが現状である。

したがって,臨床現場ではリンパ浮腫の診断や治療評価には少なからず四肢周径の測定が用いられており,リンパ浮腫指導管理の際に術前からセルフケアの一環として自己測定の習得を徹底することが肝要である。

表2 リンパ浮腫の診断に有用な検査

2.リンパ浮腫のアセスメント

リンパ浮腫の診療においては,専門的な教育を受けた医療者(対象職種である医師,看護師,理学療法士,作業療法士を指す)がチーム医療の中心的役割を担う。診断,リンパ浮腫指導管理,セルフケア指導,治療効果の評価等については,専門的な教育(厚生労働省官報より,上記資格を有し,座学33 時間以上の研修の履修後に修了試験に合格した者)を受けた医療者によって行われる。発症後に複合的治療を行うにあたっては,弾性包帯や用手的リンパドレナージの施術等については指導要綱に沿った100 時間(座学33 時間と実習67 時間)以上の研修を履修し,修了試験に合格した者によって実施されなければならない 4)

(1)病期分類

リンパ浮腫の病期分類は複数存在するが,本書では広く普及している国際リンパ学会分類(表3)を用いる。0期は発症していないが,潜在性にリンパ流の領域的なうっ滞があり,将来的にリンパ浮腫のリスクを有する状態をいう。

表3 病期分類(国際リンパ学会)

(2)重症度分類

両側性の上肢・下肢や頭頸部,生殖器,体幹のリンパ浮腫に関する公式の重症度分類は存在しない。片側性四肢のリンパ浮腫に対しては,ISL の提唱する体積の左右差の程度による分類があるが,片側患肢の腫大のみが考慮されたものであり,評価の基準は施設によって異なるのが現状である。同様に重症度の評価に加味すべき項目を表4 に示すが,皮膚病変以外は病期分類に反映されない 5)。他の疾患同様,リンパ浮腫も早期発見,早期介入を目指すためには,これらを含んだ包括的でより繊細な分類が望ましく,かつ両側性の病態に対応するためにも術前後で同側・同部位を比較するという方法の普及が急務である。

表4 重症度の評価に加味すべき項目(国際リンパ学会)

(3)測定に関するアセスメント

患部の質量計測は診断や治療効果の判定に必須であるが,頸部や体幹部などは標準化された測定方法がない。

四肢については,Bioimpedance spectroscopy(生体インピーダンス法),Volumeter(体積置換法),Tape measurement(周径測定法),Perometer(赤外線法)などの測定精度が報告されている。四肢体積の変化が伴わない0 期の下肢リンパ浮腫に対して,生体インピーダンス法を推奨する先行研究も存在するが 6)7),Limited-no conclusion(証拠不十分)と考えられる。赤外線法についてはⅠ/Ⅱ期の上肢リンパ浮腫に対して,高い検者内信頼性(ICCintra=.99, 95% CI=.97, 1.00)と妥当性(SEM:2.1%,SDC:5.6%)が報告されているが 8)9),検者間信頼性(ICCinter)が報告されておらず,コストと簡便性という観点から日常診療での導入は推奨できない。一方,体積置換法は特に上肢において高い信頼性と妥当性が報告されている(ICCintra=.99, 95% CI=.99,.99/ICCinter=.99, 95% CI=.99,.99/SEM:0.7%,SDC:3.6%) 10)。しかしながら,簡便性という観点からは日常診療で有用とは言い難い。現在,日常診療で最も汎用されている周径測定法は,体積置換法と比較して,ほぼ同等の信頼性をもっているようにみえる(ICCintra=.99, 95% CI=.99,.99/ICCinter=.99, 95% CI=.98,.98) 10),そして,比較的高い妥当性も認められるので(SEM:2.8% , SDC:6.6%) 10),最も有用な四肢測定方法に位置付けられる。

したがって,四肢の周径測定は,計測時間や計測の際の体位を統一するなど,測定値の再現性を高める工夫をすることによって,早期発見や増悪・改善の一指標となし得る。両側四肢のいずれかの部位で2 cm 以上の左右差が出れば,臨床的に有意と判断できるという,従来汎用された基準も,①健常人の四肢左右差がいずれの部位でも1 cm 未満であること,②上肢・下肢とも両側にリンパ浮腫が発症した場合,左右差の評価は無意味であること,③早期発見・早期介入により,よりよい治療効果が得られることから,左右差ではなく治療前の周径を把握し,治療後は同側同部位について比較観察を行い,そのカットオフ値を1 cm とすることが望ましい。ちなみに,日本乳癌学会班研究による実態調査では健常人の上下肢における周径の左右差は平均3〜8 mm であった 11)

本ガイドラインでは日本人の体格を考慮して,上肢においてはMP 関節,尺側外顆─手関節,肘窩線を挾み末梢側5 cm,中枢側10 cmを,下肢においては足背(中足骨上の足弓起始部),足関節(外果・内果の上縁),膝窩線を挾み末梢側5 cm,中枢側10 cm,大腿根部(鼠径部)を計測部位と規定している(図2)。

図2 四肢における周径の計測部位


ICCinter=intraclass correlation coefficient for interrater reliability, ICCintra=intraclass correlation coefficient for intrarater reliability, CI=confidence interval, SEM=standard error of measurement, SDC=smallest detectable change

(4)皮膚のアセスメント

過角化,乳頭状増殖,リンパ小疱,リンパ漏など,皮膚症状を伴うリンパ浮腫はⅢ期である(表512)。軽微な所見も見逃さず早期に治療を行えば,続発する蜂窩織炎の抑止につながる。Ⅲ期のリンパ浮腫はスキンケア指導にも重点を置いた,より包括的な治療が必要である。また,白癬菌感染は蜂窩織炎の原因になりやすく,可能な限り術前から皮膚科医による徹底的な治療を行うよう指導する。

表5 皮膚所見

(5)血管のアセスメント

下肢リンパ浮腫の治療にあたっては,血管病変,特に閉塞性動脈疾患を除外しておく必要がある。血管病変の疑いがあれば,ただちに下肢動脈の状態を評価する。足関節/上腕血圧比(ankle-brachial pressure index;ABPI)によって,下肢の動脈開存を客観的に評価できるが,血管のアセスメントは測定方法と結果の解釈に専門的な知識やスキルを要するので,専門医への円滑なコンサルトが望ましい。通常の圧迫療法を行うためにはABPI が0.8 以上なければならず,末梢動脈の閉塞症が認められれば圧迫療法は禁忌,もしくは着圧レベルを下げなければならない。

深部静脈血栓症(deep vein thrombosis;DVT)についても,特に血流停滞,静脈内皮障害,血管凝固能亢進などの誘発因子をもつ症例はスクリーニングが必要である。Wells スコアのPCP(pretest clinical probability)スコアリング 13)表6)とDダイマーの測定が推奨される。Wells スコアはDVT の臨床確率を評価するツールで,陽性所見にそれぞれ1 点を加算し,その合計でDVT 罹患確率を3 つのリスク群に分類するもので,D ダイマーが正常の慢性期DVT を安全に除外できるといわれている(D ダイマーの上昇によって急性期DVT を確定できる)。急性DVT が強く疑われる場合は圧迫療法を行わず,静脈エコー(断層法,あるいは断層法にドプラ法を併用する超音波検査)などの画像検査を行う(ただし,D ダイマーは保険適用外である)。

表6 Wells スコア

(6)疼痛のアセスメント

痛みの評価には,原因,実態,頻度,タイミング,部位,程度と影響に注意を払う必要がある。効果的な治療戦略は,①リンパ浮腫治療に伴う痛み,②日々の活動に付随する痛み,③background pain(もともともっている断続的もしくは連続する安静時痛)など,痛みの種類によって異なる。いずれも患者の伝達能力がその精度に影響を及ぼす可能性があるので,医療者は患者の疼痛体験を正確に吸い上げて,最も効果的な疼痛管理方法を選択する必要がある。疼痛管理とその評価は,緩和ケアチームやペインクリニックの活用も考慮すべきである。

以上のように,より早期に正確な診断を行うことで,より適切なリンパ浮腫治療が行える。

B.予防と治療

背景

わが国における続発性(二次性)リンパ浮腫の原因は,前述のようにほとんどがリンパ節郭清や放射線治療,タキサン系薬剤の使用など,癌治療に関連している。リンパ浮腫を発症する可能性のある悪性腫瘍の手術を受けた患者に対して,予防のための患者指導を行うべく,2008 年度に乳癌,子宮・卵巣癌,前立腺癌など一部の悪性腫瘍を対象としてリンパ浮腫指導管理料が設定された。適正な患者指導がリンパ浮腫の発症を抑止することは,日本乳癌学会班研究による実態調査でも臨床的に十分示されており,今後適応癌腫が拡大することが期待されている 11)

治療においては前述のように専門の知識や技術を習得した医療者のチームによって集学的かつ包括的アプローチがなされるべきである。具体的には,有効性が示されている圧迫(原則として集中治療時には弾性包帯を用いた多層包帯法,維持期もしくは圧痕のある症例に対しては弾性着衣),圧迫下の運動に加え,線維化が進んだ症例に対しては必要に応じて用手的リンパドレナージも併用する。発症後のセルフケア指導としては,弾性着衣の着用・管理方法,スキンケア,体重管理や感染予防などのリスク管理を中心に,必要に応じて疼痛管理のほかに,心理社会的介入を行う。管理プログラムは,病変部位・病期,重症度,合併症の有無,心理社会的状態を考慮し,定期的な治療効果の評価に基づいた治療方針の再構築が必要となる。リンパ浮腫の病期によって治療方針は異なり,同一肢でも部位によって状態が異なる場合が少なくないので,個々の病状に応じたきめ細かなテーラーメード治療を要するが,いずれも効果・効率的な治療を常に心がける必要がある。

解説

1.予防〜リンパ浮腫指導管理〜

リンパ浮腫は発症すれば完治が困難である一方,適切なリスク管理は有効な発症抑止となることが明らかである。リンパ浮腫発症のリスクとなる癌治療を受けた患者に対して設定されている「リンパ浮腫指導管理」は,①リンパ浮腫の原因と病態,②発症した場合の治療選択肢の概要,③肥満予防(体重管理),感染予防など日常生活上の注意,④セルフケア指導などを網羅して個別指導を行うもので,手術のための入院時と退院後外来でそれぞれ1 回ずつ100 点の診療加算が認められている(表714)。セルフケア指導では,術前の段階で体重と両側上肢もしくは下肢の周径を測定し,術後は定期的に自身で周径と体重を測定し,早期に発症の兆候を発見できるようにすることの重要性を十分説明する。

表7 リンパ浮腫指導管理料

セルフケアで最も重要なのは,感染症(蜂窩織炎)予防と体重管理(肥満の予防)である。患肢の感染は,リンパ浮腫を増悪させるばかりでなく,リスクのある肢にリンパ浮腫を新たに発症するきっかけとなり得るので,外傷,火傷や虫刺されなどによる皮膚の傷害には十分注意し,受傷時には局所を洗浄し,場合によっては抗菌薬を内服する必要がある。また,肥満もリンパ浮腫の発症や増悪の一因となるので,標準体重を維持するよう心がける。

一方,発症予防を目的とした用手的リンパドレナージもしくは患者自身が行うセルフリンパドレナージの効果は科学的に証明されていないので不要であり,患者の負担をいたずらに増やすような指導はむしろ行うべきではない。予防的な弾性着衣の着用も現時点では十分な根拠が示されていないが,弾性着衣の装着下に,管理の行き届いた条件で負荷運動を行うことはリンパ浮腫の発症率を上げることなく患肢の運動能力を向上させ,QOL に貢献するという複数のランダム化比較試験が,特に上肢で数多く出ており,効果的な運動療法のプログラムの確立は今後喫緊の課題である。

2.治療

リンパ浮腫に対する複合的治療(複合的理学療法に日常生活上の指導やセルフケア指導を加えた,包括的な保存的治療)は,障害のあるリンパ経路に起きたうっ滞を解消することによって,組織間隙に貯留する体液をリンパ管に回収することを目的とするものである。リンパ浮腫はいったん発症すれば完治することは非常に困難であるため,継続的な治療と定期的な経過観察による増悪の回避が必須である。これをより効果的に実現するためには,患者の治療歴や原発巣の状態(転移・再発の有無など),浮腫の状態とその重症度に加え,ライフスタイルや理解力,嗜好,経済状態など種々の因子を考慮して,個々に適した治療法やフォローアップの方法を模索する必要がある。他の慢性疾患同様,リンパ浮腫の日常的な管理は患者の適切なセルフケアによるところが大きく,具体的には治療後に改善した状態を維持し,悪化や再燃を最大限抑止できるよう,患者本人はもとより時には家族への教育に注力しなければならないため,専門の知識や技術を習得した医療者のチームがこれにあたるべきである。

厚生労働省の助成研究として2004 年より発足し,次々と対象疾患を増やしながら展開してきた患者状態型適応型パス(Patient Condition Adaptive Path System;PCAPS)研究会(現日本臨床知識学会)のリンパ浮腫班で策定した基本的な診療の流れ(図3)と臨床プロセスチャート(図4)を示す 15)。リンパ浮腫を発症した患肢では同一肢でも病期が混在している症例があるので,画一的な治療は控えなければならない。

図3 クリニカルパスの基本

図4 リンパ浮腫の臨床プロセスチャート

(1)複合的治療(表8-1 16)8-2 14)17)18)

標準的な複合的治療は,弾性着衣・多層包帯法による圧迫,スキンケア,圧迫下の運動,用手的リンパドレナージ,セルフケア指導が基本となる。複合的治療は重症度に応じて外来治療と入院による集中治療に分けられる。発症後の期間が比較的短く,線維化を伴わない場合には弾性着衣の着用のみで外来通院で経過をみることが十分可能である。一方,線維化が進んで腫大や変形が著明な場合などは入院による集中治療が適している。集中治療の期間は重症度やセルフケアの達成度などに応じて,通常2〜4 週間で実施されることが多く,維持治療に移行したのちにも継続的な経過観察が必要であり,一定期間で期待した効果が上がらない場合には,治療方針の再考を考慮すべきである。変更にあたっては,現行治療の効果が思わしくない原因をチームで分析し,患者や家族の満足度や治療意欲なども勘案する。長期間にわたるリンパ浮腫治療は,患者のみならず家族にとっても心理的,経済的に大きな負担であることから,彼ら自身が治療に専念,協力する強い意志を有していることが前提である。

複合的治療は圧迫療法が主軸をなすため,末梢動脈の閉塞や虚血性変化の除外にあたっては,積極的にABPI の計測を行い,動脈硬化の有無,程度を確認しておく。ABPI が0.5 未満ではいかなる圧迫も禁忌,0.8 未満では着圧を減弱するなどの対応を要する。その他,重症心不全,重症の末梢性ニューロパチー,患肢の急性炎症時なども治療の禁忌となる。

表8-1 弾性着衣・弾性包帯の療養費払い

表8-2 リンパ浮腫複合的治療料と施設基準

(2)圧迫
①弾性着衣

Ⅰ期や四肢形状の歪曲がないISL Ⅱ期リンパ浮腫は,弾性着衣のよい適応である。療養費の対象となる着圧は原則として30 mmHg 以上とされているが,患者の状態や耐性によって適宜選択されなければならず,装着指示書に理由を明記すれば20 mmHg 以上の弾性着衣を処方することができる。正しい着脱の指導は非常に重要であるため,口頭のみでなく実際に患者自身が装着するのを視認しながら指導を行う。

弾性着衣の装着開始後は約4 週間後に評価し,効果が得られた場合は以降3〜6 カ月後に評価する。弾性着衣は経時的に着圧が弱まるので,少なくとも6 カ月着用したものは交換する必要があり,診察はそれ以上の間隔が空かないようにする。また,着衣の洗濯方法など,扱い方によってはより早く着圧の低下を招くことがあるので,劣化を最大限遅らせるための適切な管理方法についても十分指導しなければならない。

交換時期の診察では,患肢の周径や病期など,患肢の状態に変化がなく前回と同じ弾性着衣を選択してよいか否かとともに,正しい装着法が習得できているかどうかも必ず再確認するとよい。

②多層包帯法(multi-layer lymphoedema bandaging;MLLB)

四肢の形状に歪曲を生じている,あるいは浮腫が著明で弾性着衣の装着が困難なISL Ⅱ後期以降のリンパ浮腫は,多層包帯法による圧迫を中心とした集中治療を開始することが望ましい。MLLB は患肢がさらに大きくなるため,患者のQOL を著しく低下させる一方,弾性着衣に比べて短期に大きな効果を出せる利点がある。患者や家族がその利点と欠点について十分に理解ができている場合には積極的に行う価値がある。
※圧迫療法の際の標準的な装着圧

上肢・下肢リンパ浮腫の重症度に応じて弱圧から超強圧まで4 段階のスリーブ圧が経験的に使い分けられている。British Lymphology Society のガイドラインでは,上肢リンパ浮腫を軽度,中等度,重度に区分し,おのおのに弱圧(14〜18 mmHg),中圧(20〜25 mmHg),強圧(25〜30 mmHg)の弾性着衣を推奨しており,下肢リンパ浮腫を,早期あるいは軽度,中等度から重度,重度,重度難治性の浮腫に区分し,おのおのに弱圧(14〜21 mmHg),中圧(23〜32 mmHg),強圧(34〜46 mmHg),超強圧(49〜70 mmHg)の弾性着衣を推奨している 12)。処方された圧迫レベルに患者が耐えることができない場合には,やむを得ず低圧の弾性着衣に変更されることもある。

欧米では弾性着衣の標準規格(装着圧:クラスⅠ〜Ⅳ)が決められているが,各国ごとに規格が異なり,ストッキング以外の弾性着衣に関する規格はない(表9)。

表9 弾性ストッキングの標準規格

(3)用手的リンパドレナージ(manual lymphatic drainage;MLD)

MLD の目的は,組織間隙に貯留している高蛋白性の体液を起始リンパ管に取り込ませてリンパ液とし,さらにそのリンパ液を標的リンパ節へ向けて排液することである。皮膚浅層に分布する毛細リンパ管を標的としているので,潤滑剤をつけない手掌を患肢の皮膚面に密着させてストレッチするように施術するのが原則である。筋層に垂直方向に働きかけるいわゆるマッサージや,美容目的のもみ出すような「リンパドレナージ(ュ)」などとは本来の目的もその手技もまったく異なるものであるため,リンパ浮腫治療として用いられるのは,医療手技として専門的な教育を受けた医療者が医師の指示のもとに提供する用手的リンパドレナージである。

(4)運動療法

運動療法がリンパ浮腫の予防と治療に有効であることと証明する研究が近年急増している。特に弾性着衣や弾性包帯による圧迫下での荷重運動は,筋ポンプを利用したリンパドレナージである。その種類,実施時間,期間などについては現時点で標準化された指針はないが,発症予防効果に加え,発症後もリンパ浮腫の増悪なく患肢の運動機能が向上できるため,積極的な導入が勧められる。

(5)スキンケア

スキンケアの目的は,皮膚(爪も含む)の保清と保湿を維持し,健康な組織の状態を保つことによって感染の危険性を減少させることである。特に発症後は患肢の清潔を保持するとともに,保湿効果の高い皮膚軟化剤で十分な湿潤化を習慣化し,常に血行が良好な健全な状態を保つようにセルフケア指導を徹底する。また,皮膚や爪の損傷(切傷,火傷,虫刺され,ひび割れ,さか剝けなど)を避けることと,日常的に患肢を保護する(患肢を露出しない)習慣付けなどの指導も重要である。

近年,患肢上肢への予防接種,採血・点滴,血圧測定などについてはリンパ浮腫の発症因子とならないというレビューが散見されるが,発症後の患肢においてはその限りではない。

(6)外科的治療

リンパ浮腫に対する外科的治療は,リンパ管細静脈吻合術(lymphatic-venous anastomosis;LVA),血管柄付きリンパ節移植術(vascularized lymph node transfer;VLNT),脂肪吸引術,切除減量術などがある。特にLVA やVLNT ではマイクロサージャリー技術の進歩によって,超微細血管の吻合も可能となり,諸家がさまざまな術式を考案してその成績を報告している 19)。どの方法も手技の標準化には至っておらず,長期成績も乏しいが,複合的治療に難治性の症例や,蜂窩織炎を繰り返すISL Ⅱ期,Ⅲ期症例に対して有効性を示す報告が増えており,期待が高まっている。

(7)薬物治療

リンパ浮腫に対する薬物治療としては,漢方とそれ以外に大別できる。漢方薬や利尿剤は浮腫の改善を目的に処方されることがあるが,リンパ浮腫自体に対する効果は認められていない。漢方以外の薬剤にはクマリン,フラボンとその誘導体を含むベンゾピロン系薬剤などがあるが,いずれも効果に関する一定の科学的根拠はない。なお,クマリンは肝機能障害を生じることが明らかになっており,複数の国で使用禁止となっている。リンパ浮腫の根本的な治療としての薬物治療という選択肢はないといってよい。

3.治療方針の評価と変更

いずれの治療においても,前後の評価をすることなく漫然と開始・継続してはならない。複合的治療が,集中治療からセルフケアも含めた維持治療に移行する際はもちろん,維持治療中も必ずその効果を定期的に評価すべきである。評価にあたっては,周径に加えて,形状,皮膚の状態(色調,弾力,柔らかさ,傷の有無など),セルフケアの到達度や治療コンプライアンスなどを客観的かつ多角的に評価し,「不変」,「不安定」や「悪化」と判定された場合には管理方法を見直し,問題点を探して,改善の余地がなければ治療方針を変更する必要がある(図520)。その際は必ずインフォームド・コンセントを取得し,患者の個別性を十分考慮したうえで,変更する必要がある。

図5 治療経過のパターン分類

4.長期管理における心理社会的介入

リンパ浮腫は慢性疾患であるため,患者や介護者(ケアギバー)のセルフマネジメントの質を高め,適正なセルフケアを継続させることが長期管理成功の秘訣である。なかでも,圧迫療法のコンプライアンスを保つこと,体重管理,感染予防の徹底が重要であり,複合的治療と適切なセルフケアとの継続的連動がリンパ浮腫治療の成否を左右するといっても過言ではない 21)

他の疾患同様,「早期診断,早期介入」によって重症化を防ぎ,より高い治療効果が得られることを認識し,効果的な管理指導を行ってセルフケアの確立に努めると同時に,医療者自身もまた,定期的に知識のアップデートや技術のブラッシュアップを継続することが望ましい。

参考文献

1)
加藤征治,須網博夫.新しいリンパ学─微小循環・免疫・腫瘍とリンパ系.金芳堂,2015.
2)
Damstra RJ, Mortimer PS. Diagnosis and therapy in children with lymphoedema. Phlebology. 2008;23(6):276-86.[PMID:19029008]
3)
Rossy KM, Scheinfeld NS. Lymphedema. James WD ed. Medscape. http://emedicine.medscape.com/article/1087313-overview
4)
厚生労働省.平成28 年度診療報酬改定.https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000115977.pdf
5)
International Society of Lymphology. The diagnosis and treatment of peripheral lymphedema. Consensus document of the International Society of Lymphology. Lymphology. 2009;42(2):51-60[PMID:19725269].
6)
Gordon S, Melrose W, Warner J, et al. Lymphatic filariasis:a method to identify subclinical lower limb change in PNG adolescents. PLoS Negl Trop Dis. 2011;5(7):e1242.[PMID:21811644]
7)
Jain MS, Danoff JV, Paul SM. Correlation between bioelectrical spectroscopy and perometry in assessment of upper extremity swelling. Lymphology. 2010;43(2):85–94.[PMID:20848996]
8)
Deltombe T, Jamart J, Recloux S, et al. Reliability and limits of agreement of circumferential, water displacement, and optoelectronic volumetry in the measurement of upper limb lymphedema. Lymphology. 2007;40(1):26-34.[PMID:17539462]
9)
Czerniec SA, Ward LC, Refshauge KM, et al. Assessment of breast cancer-related arm lymphedema─comparison of physical measurement methods and self-report. Cancer Invest. 2010;28(1):54-62.[PMID:19916749]
10)
Hidding JT, Viehoff PB, Beurskens CH, et al. Measurement properties of instruments for measuring of lymphedema:Systematic Review. Phys Ther. 2016;96(12):65-81.[PMID:27340195]
11)
北村 薫,赤澤宏平.乳癌術後のリンパ浮腫に関する多施設実態調査と今後の課題.脈管学.2010;50(6):715-20.
12)
International Lymphedema Framework. Best Practice for the Management of Lymphedema. International consensus. MEP Ltd, London, 2006.
13)
Partsch H, Blättler W. Compression and walking versus bed rest in the treatment of proximal deep venous thrombosis with low molecular weight heparin. J Vasc Surg. 2000;32:861-9.[PMID:11054217]
14)
厚生労働省.診療報酬の算定方法の一部を改正する件(告示).平成28 年厚生労働省告示第52 号.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000114809.pdf
15)
北村 薫,河本美由紀,作田裕美,他.リンパ浮腫治療への新たな挑戦とその展望 リンパ浮腫診療におけるPCAPS(Patient Condition Adaptive Path System)の導入.リンパ学.2013;36(1):57-9.
16)
厚生労働省.課長通知:四肢のリンパ浮腫治療のための弾性着衣等に係る療養費の支給における留意事項について.保医発第0321001 号 平成20 年3 月21 日
http://www.mhlw.go.jp/topics/2008/03/dl/tp0325-1c.pdf
17)
厚生労働省.診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知).平成28 年3 月4 日 保医発0304 第3 号.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000114848.pdf
18)
厚生労働省.特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(通知).平成28 年3 月4 日 保医発0304 第2 号.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000114882.pdf
19)
Carl HM, Walia G, Bello R, et al. Systematic review of the surgical treatment of extremity lymphedema. J Reconstr Microsurg. 2017;33(6):412-5.[PMID:28235214]
20)
北村 薫,佐藤洋子,下野僚子,他.リンパ浮腫 リンパ浮腫診療における患者状態適応型パスシステム(PCAPS)の有用性について リンパ学.2017;40(1):57-9.
21)
Vignes S, Porcher R, Arrault M, et al. Long-term management of breast cancer-related lymphedema after intensive decongestive physiotherapy. Breast Cancer Res Treat. 2007;101:285-90.[PMID:16826318]

Ⅰ.疫学・予防 CQ1〜10

CQ1
セルフケアのためのリンパ浮腫指導は有用か?

推奨グレードC1
セルフケアは,十分な指導を受けた場合ではリンパ浮腫の発症予防や発症後の増悪予防となり得る。しかし,根拠となる論文ではインタビューや行動スコアなどを用いた評価が多く,客観的にリンパ浮腫の程度や頻度を述べたものは少ない。

背景・目的

リンパ浮腫の発症予防や治療には,日々の管理が重要であり,そのためにはセルフケアが必要となる。セルフケアには,さまざまな要素があるため,何が発症予防や発症後の増悪予防になり得るかの検討が必要である。また,セルフケアを行うには,その指導方法や患者の背景もかかわってくる。

解説

わが国では2008 年からリンパ浮腫指導管理料が保険収載となった。指導の具体的項目としては,①リンパ浮腫の病因と病態,②リンパ浮腫の治療方法の概要,③セルフケアの重要性と局所へのリンパ液の停滞を予防及び改善するための具体的実施方法,④生活上の具体的注意事項,⑤感染症の発症等増悪時の対処方法がある 1)。また,2016 年からはリンパ浮腫複合的治療が保険収載となったが,そこでも算定要件には,「弾性着衣または弾性包帯による圧迫,圧迫下の運動,用手的リンパドレナージ,患肢のスキンケア,体重管理等のセルフケア指導等を適切に組み合わせ行うこと」,「一連の治療において患肢のスキンケア,体重管理等のセルフケア指導は必ず行うこと」と明記されている 2)。これらからも,医療者が患者に対してセルフケアの指導を行うことは重要と考えられる。

Harris らは患者のセルフケアとして以下を挙げている 3)。すなわち,スキンケアとして,患肢の傷や針刺し,巻き爪,虫刺され,ペットの引っかき,やけどに注意することとその対処,皮膚感染したときの抗菌薬の使用,サウナやスチームバス,熱い風呂などに対する注意喚起,旅行時の注意事項,運動の推奨,体重管理である。これらのセルフケアを行うには,医療者からこの情報を伝える必要がある。

医療者がセルフケア教育にかかわることによる効果について,Ridner らは,リンパ浮腫のセルフケア教育についてのメリット,デメリットを検討した論文で,乳癌患者51 人がセルフケア教育を受けたが,うち18 人は弾性着衣に関しては何らかの援助が必要であったと述べている 4)。したがって,個々の患者に合ったさらなる指導が必要であることがわかる。

Fu らは,乳癌治療に関連したリンパ浮腫の情報を患者に与えることが,いかに患者の理解や症状に影響するかを調べた。乳癌治療を受けた患者136 人を,乳癌関連リンパ浮腫の情報を与えられた群と与えられていない群に分け,4 種類のインタビュー方式を用いて,知識の有無,症状の有無について調査した 5)。リンパ浮腫の情報を与えられた群は有意にリンパ浮腫の知識を有しており,またリンパ浮腫の症状は少なかった。

Sisman らは看護師によるエクササイズプログラム指導,Tidhar らは理学療法士によるバンデージの安全で効果的な使用方法の指導によって,自宅でのセルフケアに効果があったと報告している 6)7)

Kwanらは浸潤性乳癌患者389 人を対象として,乳癌治療後のリンパ浮腫に対する知識の有無をlymphedema awareness score,health literacy score を求めて検討した 8)。前者では,①治療を受けたときにリンパ浮腫のリスクを減らす方法について習いましたか? ②以下のリンパ浮腫リスクを減らす方法(怪我を避ける,患肢での血圧測定を避ける,熱さを避けるなど)を覚えていますか? ③乳癌と診断されたとき,ヘルスサービスを受けましたか?という質問に対する回答を点数化する。後者では,①書かれた情報が理解できないために自分の医学的コンディションを知るのに何回くらい問題がありましたか? ②自分で自信をもってmedical form を記入できますか? ③病院の書類などを理解するために何回誰かのヘルプが必要でしたか?という質問に対する回答を点数化する。その結果,70 歳以上の患者では,50 歳未満の患者と比べ,スコアが低かった。このことから,リンパ浮腫のリスクに関する教育は,年齢によってその内容を最適化することを勧めている。同様に,Armer らやAlcorso らはセルフケアには患者の教育や知識が必要であると述べている 9)10)

一方,Imamoğlu らは乳癌術後のリンパ浮腫の患者にインタビューし,リンパ浮腫に関する指導を受けているか調査した。この調査では指導の有無とリンパ浮腫の出現には有意差がなかったと述べているが,n=38 であり,またどの程度の指導を受けたかが明確でないため,信頼性に乏しい 11)

癌の治療前後の患者にリンパ浮腫についての情報を提供し,予防や発症時の対処について指導することは重要である。リンパ浮腫という病態は,癌に罹患するまでは患者にとって無関係であったことであり,すべての患者において初めて知る病態である。これらの指導は主に看護師が担うところであり,この指導の効果はさまざまなインタビューやスコアで評価される。したがって,リンパ浮腫の発症率の減少や程度の軽減などには直接表しにくい。しかし,今回種々の文献により,知識の重要性が再確認できた。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2003 年1 月から2017 年8 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND self care」とした。該当した228 編のうち,原発性とフィラリア症関連を削除し,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者におけるセルフケア,教育,指導に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験
  2. Primary endpoint がQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献11 編を得た。

文献

1)
厚生労働省.診療報酬の算定方法の一部を改正する件(告示).平成28 年厚生労働省告示第52 号.
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/hokkaido/iryo_shido/documents/h28-kouroushou52-hp.pdf
2)
厚生労働省:Ⅱ-3- ⑪リンパ浮腫の複合的治療等.中央社会保険医療協議会総会(第328 回)議事次第,総1, pp192-194, 2016.
3)
Harris SR, Hugi MR, Olivotto IA, et al;Steering Committee for Clinical Practice Guidelines for the Care and Treatment of Breast Cancer. Clinical practice guidelines for the care and treatment of breast cancer:11. Lymphedema. CMAJ. 2001;164(2):191-9.[PMID:11332311]
4)
Ridner SH, Dietrich MS, Kidd N. Breast cancer treatment-related lymphedema self-care:education, practices, symptoms, and quality of life. Support Care Cancer. 2011;19(5):631-7.[PMID:20393753]
5)
Fu MR, Chen CM, Haber J, et al. The effect of providing information about lymphedema on the cognitive and symptom outcomes of breast cancer survivors. Ann Surg Oncol. 2010;17(7):1847-53.[PMID:20140528]
6)
Sisman H, Sahin B, Duman BB, et al. Nurse-assisted education and exercise decrease the prevalence and morbidity of lymphedema following breast cancer surgery. J BUON. 2012;17(3):565-9.[PMID:23033300]
7)
Tidhar D, Hodgson P, Shay C, et al. A lymphedema self-management programme:report on 30 cases. Physiother Can. 2014;66(4):404-12.[PMID:25922562]
8)
Kwan ML, Shen L, Munneke JR, et al. Patient awareness and knowledge of breast cancer-related lymphedema in a large, integrated health care delivery system. Breast Cancer Res Treat. 2012;135(2):591-602.[PMID:22903688]
9)
Armer JM, Brooks CW, Stewart BR. Limitations of self-care in reducing the risk of lymphedema:supportive-educative systems. Nurs Sci Q. 2011;24(1):57-63. [PMID:21220577]
10)
Alcorso J, Sherman KA, Koelmeyer L, et al. Psychosocial factors associated with adherence for self-management behaviors in women with breast cancer-related lymphedema. Support Care Cancer. 2016;24(1):139-46. [PMID:25957012].
11)
Imamoğlu N, Karadibak D, Ergin G, et al. The effect of education on upper extremity function in patients with lymphedema after breast cancer treatments. Lymphat Res Biol. 2016;14(3):142-7.[PMID:27266576]

CQ2
センチネルリンパ節生検によって腋窩郭清を省略した乳癌患者に対して,リンパ浮腫ケアは必要か?

推奨グレードB
腋窩に対してセンチネルリンパ節生検のみ施行された乳癌患者は,低率であるが上肢リンパ浮腫を発症する可能性があるため,発症時に早期に対応できる診療体制が必要である。

背景・目的

乳癌手術においてセンチネルリンパ節生検が標準治療となって以降,乳癌術後の上肢リンパ浮腫は著明に減少した。近年では,センチネルリンパ節転移陰性の症例だけでなく,転移陽性の症例であっても一定の条件を満たせば腋窩郭清は省略される傾向であり,腋窩郭清を受ける乳癌患者は今後さらに少なくなると考えられる。乳癌術後リンパ浮腫指導は腋窩郭清を施行された患者が対象であり,センチネルリンパ節生検のみを施行された患者のリンパ浮腫ケアについては重要視されていない。本CQ ではセンチネルリンパ節生検後のリンパ浮腫の実態について文献的に検証し,このような患者に対するリンパ浮腫ケアの意義について考察した。

解説

センチネルリンパ節生検は,腋窩郭清と比較して,術後の合併症および上肢機能障害が少なく,有意にQOLを改善させる。特に術後リンパ浮腫の発症率が明らかに低下することがデータで示され,乳癌患者のQOL の向上に大きく寄与してきた。センチネルリンパ節転移陰性乳癌を対象として,腋窩郭清省略群と腋窩郭清群を比較したイタリアの多施設共同研究では,各群それぞれ連続した100 例を抽出して,腋窩の有害事象についても調査がなされた 1)。術後2 年目の両上肢の周径差が1 cm以上あった割合が,腋窩郭清群では37 例(37%)であったのに対して腋窩郭清省略群では1 例(1%)と極めて低率であった。腋窩の痛みや異常感覚も含めた有害事象は腋窩郭清省略群で有意に低率であった。センチネルリンパ節に微小転移を認めた場合の腋窩郭清省略群と腋窩郭清群の治療成績を比較したIBCSG 23-01 試験でも,副次的評価項目の一つとして各群のリンパ浮腫の発症率を比較している 2)。リンパ浮腫の評価はNCI のCTC ver.2 に基づいてなされたが,腋窩郭清省略群の術後5 年のリンパ浮腫発症率は3%(453 例中15 例)であり,腋窩郭清群の13%(447 例中59 例)と比較して非常に低率であった(p<0.0001)。オーストラリアで行われた,センチネルリンパ節生検後のリンパ浮腫の発症率を前向きに調査することを目的の一つとしたSNAC1 試験では,術後5 年目に患肢の体積が15%以上増加した頻度は,腋窩郭清省略群で1.7%であった(腋窩郭清群では5%,p=0.004) 3)。これら大規模臨床試験で,リンパ浮腫の定義や程度を客観的に規定した研究では,センチネルリンパ節生検のみを施行された乳癌患者の上肢リンパ浮腫の頻度は非常に低率であった。一方,リンパ浮腫の診断基準が明確にされていない実態調査も含めると,発症率は5〜8%との報告がある 4)〜6)

さらに近年では,センチネルリンパ節に転移を認めた場合に,腋窩郭清を省略する代わりに腋窩への照射を行うケースが増加しつつある。センチネルリンパ節転移陽性症例に対する腋窩照射の有効性を検証したAMAROS 試験では,術後5 年のリンパ浮腫発症率は,センチネルリンパ節生検後に腋窩照射を施行した群で11%(286 例中31 例),腋窩郭清群で23%(328 例中76 例),患肢の周径増加率が10%以上であった頻度はそれぞれ6%(16 例),13%(43 例)であった 7)

報告によって,あるいは腋窩照射の有無によって多少のばらつきはあるものの,センチネルリンパ節生検後のリンパ浮腫の発症率は1〜11%程度であり,腋窩郭清を行った症例と比べて明らかに低率であるが,わが国の年間の乳癌罹患者数〔89,100 人(2017 年予測値)〕を考慮すると,リンパ浮腫ケアはなお重要であると考えられる。医療者はリンパ浮腫の基本的な知識を身に付けておくべきであり,発症時に早期に対応できる体制を整えておくことが望ましい。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)〜3)の手順で行った。

1)センチネルリンパ節生検による腋窩郭清省略についての代表的な6 試験(センチネルリンパ節転移陰性症例を対象とした3 試験,センチネルリンパ節転移陽性症例を対象とした3 試験)の論文から,リンパ浮腫の発症状況のデータが示されていた3 論文を選択した。

2)2003 年1 月から2017 年8 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema after sentinel lymphnode biopsy AND breast cancer」とした。それぞれ該当した文献のなかから,臨床的に重要なものを抽出し,さらに以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. 乳癌に対するセンチネルリンパ節生検に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験で,リンパ浮腫のデータが示されているもの
  2. Primary endpointがQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

3)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献7 編を得た。

文献

1)
Veronesi U, Paganelli G, Viale G, et al. A randomized comparison of sentinel-node biopsy with routine axillary dissection in breast cancer. N Engl J Med. 2003;349(6):546-53.[PMID:12904519]
2)
Galimberti V, Cole BF, Zurrida S, et al; International Breast Cancer Study Group Trial 23-01 investigators. Axillary dissection versus no axillary dissection in patients with sentinel-node micrometastases(IBCSG 23-01):a phase 3 randomised controlled trial. Lancet Oncol. 2013;14(4):297-305.[PMID:23491275]
3)
Wetzig N, Gill PG, Espinoza D, et al. Sentinel-lymph-node-based management or routine axillary clearance? Five-year outcomes of the RACS sentinel node biopsy versus axillary clearance(SNAC)1 trial:Assessment and incidence of true lymphedema. Ann Surg Oncol. 2017;24(4):1064-70.[PMID:27848050]
4)
McLaughlin SA, Wright MJ, Morris KT, et al. Prevalence of lymphedema in women with breast cancer 5 years after sentinel lymph node biopsy or axillary dissection:objective measurements. J Clin Oncol. 2008;26(32):5213-9.[PMID:18838709]
5)
Bhatt NR, Boland MR, McGovern R, et al. Upper limb lymphedema in breast cancer patients in the era of Z0011, sentinel lymph node biopsy and breast conservation. Ir J Med Sci. 2017 Jul 27. [Epub ahead of print][PMID:28752233]
6)
Gebruers N, Verbelen H, De Vrieze T, et al. Incidence and time path of lymphedema in sentinel node negative breast cancer patients:a systematic review. Arch Phys Med Rehabil. 2015;96(6):1131-9.[PMID:25637862]
7)
Donker M, van Tienhoven G, Straver ME, et al. Radiotherapy or surgery of the axilla after a positive sentinel node in breast cancer(EORTC 10981-22023 AMAROS):a randomised, multicentre, open-label, phase 3 non-inferiority trial. Lancet Oncol. 2014;15(12):1303-10.[PMID:25439688]

CQ3
生活関連因子(採血・点滴,血圧測定,空旅,感染,温度差,日焼け)は続発性リンパ浮腫の発症,増悪の原因となるか?

採血,血圧測定,空旅がリンパ浮腫の発症や増悪の原因となる可能性は少ない。空旅と下肢の浮腫との関連については根拠が乏しい。化学療法の点滴はリンパ浮腫の発症や増悪の原因となる可能性があるが,通常の点滴については評価できる十分な根拠がない。感染はリンパ浮腫の発症や増悪の原因となる。高い気温や入浴は関連せず,日焼けやサウナの利用は関連する可能性があるが,いずれも根拠は十分ではない。

  1. 採血:Substantial effect on risk unlikely(大きな関連なし)
  2. 点滴:Limited-no conclusion(証拠不十分)
  3. 血圧測定:Substantial effect on risk unlikely(大きな関連なし)
  4. 空旅:上肢 Substantial effect on risk unlikely(大きな関連なし)
    下肢 Limited-no conclusion(証拠不十分)
  5. 感染:Probable(ほぼ確実)
  6. 温度差:Limited-no conclusion(証拠不十分)
  7. 日焼け:Limited-no conclusion(証拠不十分)

背景・目的

リンパ節を郭清した患者のリンパ浮腫発症リスクは生涯続くとされ,発症予防や発症後の重症化を防ぐことが重要とされている。そのため日常生活における注意事項や制限事項が経験的に示され,指導されている。一方で,過剰な制限事項は患者の日常生活の質を低下させることにもなる。本CQ では,日常生活における懸案事項がリンパ浮腫の発症や増悪の原因となるかを検討した。

解説

採血・点滴:採血や注射のための静脈穿刺や皮膚穿刺に関するシステマティック・レビューが1 編 1)とその引用文献が8 編ある。このうち4 編はリンパ浮腫発症との関連なしとしており,4 編は関連ありと報告している。なお,関連なしとするFerguson らの前向きコホート試験では,632 人のうち71%がセンチネルリンパ節生検のみで郭清は行われていなかった 2)。関連ありとする報告4 編のうち,3 編は1955 年,1962 年,1998 年の後ろ向き観察研究の結果であり,1 編は郭清患者が67%を占める188 人を対象とした前向きコホート試験の2005 年の報告であった 3)。点滴との関連については,Bevilacqua らが,1,054 人を対象としたヒストリカル・コホート試験のなかの検討で,患側からの点滴による化学療法はリンパ浮腫の要因となると報告している 4)

採血や注射がリンパ浮腫発症と関連するという評価は年々低下しているように思われるが,郭清した患者とセンチネルリンパ節生検のみを施行した患者を同一に扱うべきか検討の余地がある。点滴についても通常の点滴と化学療法の点滴は分けて評価する必要がある。

血圧測定:システマティック・レビューによると,2 編のコホート研究と1 編の症例対照研究が血圧測定はリンパ浮腫発症と関連しないと報告している 1)。関連なしとしたコホート研究2 編のうち,1 編はサブアナリシスにより10 人を対象としたものであり 5),もう1 編は632 人の対象患者のうち郭清を受けた患者は21%であった 2)。一方,Hayes らの176 人の乳癌患者を対象とした後ろ向き観察研究では,評価方法は異なるものの血圧測定による浮腫発症のリスクはオッズ比で1.1〜3.4 としている 6)。なお,血圧測定とは異なるが,3 編の後ろ向き観察研究では,腋窩郭清後の患者に手の手術を行う際に短時間の止血帯による圧迫を行っても浮腫の発症には影響しないとしている 1)

血圧測定など短時間の患肢の圧迫はリンパ浮腫の発症や増悪とは関連しないとする報告が多いが,郭清した患者とセンチネルリンパ節生検のみを施行した患者を同一に扱うべきかについては検討の余地がある。

空旅:3 編の前向き試験を含む6 編の報告が,空旅と乳癌術後のリンパ浮腫発症とは関連しないとしている 1)。うち1 編では搭乗回数や飛行時間とも関連なく,1 編では国内線利用と国際線利用による差はなかったと結論付けている 2)7)。また,Graham らは飛行中の弾性着衣の着用は不要と報告している 8)。一方,Casley-Smith によるリンパ浮腫患者490 人(上肢二次性163 人,下肢一次性136 人,下肢二次性191 人)を対象としたアンケート調査では,上肢については7.3%,下肢については4.6%の患者が空旅の後に浮腫を発症したと回答している 9)。Hayes らの報告では,6 カ月以内の空旅と上肢リンパ浮腫との関連はオッズ比で1.4〜2.5 だった 6)

種々の研究形態が混在しているが,研究の質を考慮すると,空旅と上肢浮腫との関連は低いと考える。下肢についての報告は乏しく,今後の検討が必要である。

感染:上肢についてのシステマティック・レビューによると7 編の報告があり,そのうち前向き試験1 編を含む5 編の報告で患肢の感染,蜂窩織炎とリンパ浮腫増悪の関連を示している 1)。このうちMak らは感染炎症のオッズ比を浮腫発症については3.8,重症化については4.49 と報告しており 10),Ferguson らは多変量解析でも蜂窩織炎とリンパ浮腫に有意な関連があったことを報告している 2)。これら7 編とは別に手術創の感染と上肢リンパ浮腫の関連を示す報告もある 4)。一方でPAL 試験のうち84 人を対象としたサブアナリシスでは,感染と上肢浮腫との関連はなかったと報告している 5)

患肢の感染や蜂窩織炎は上肢リンパ浮腫の発症や増悪と関連すると考えられる。下肢に関する報告は乏しいが,組織中のリンパ流のうっ滞や感染による炎症波及の機序を考えると下肢も同様と思われる。

温度差・日焼け:温度差に関連する報告としては,PAL 試験のサブアナリシスとして30 の生活関連因子と上肢リンパ浮腫との関連を検討した報告があるが,発熱,暑い日の激しい運動,高温地帯への旅行,日焼け,熱い湯への入浴はリンパ浮腫と関連しないとしている 5)。なお,サウナの利用は,多変量解析でも有意に関連あり(オッズ比6.67,p=0.01)としている。ただし,いずれの因子も対象者が5〜51 人の少数例での検討である。また,Hayes らの報告では,日焼けによる上肢リンパ浮腫発症のリスクはオッズ比で1.1〜3.6 としている 6)

サウナ以外では,温度差とリンパ浮腫との関連は乏しいと思われるが,単一での報告であり,今後の検討が必要である。下肢については報告がなく,上肢と条件も異なることから,判定はできない。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。
1)2008 年4 月から2017 年4 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND(precaution OR prevention) NOT filariasis」とした。該当した388 編のうち,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。加えて,これらの論文の引用文献をハンドリサーチした。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者における診断・治療に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化試験,システマティック・レビュー
  2. Primary endpointがQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library, UpToDate, Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献10 編を得た。

文献

1)
Asdourian MS, Skolny MN, Brunelle C, et al. Precautions for breast cancer-related lymphoedema:risk from air travel, ipsilateral arm blood pressure measurements, skin puncture, extreme temperatures, and cellulitis. Lancet Oncol. 2016;17(9):e392-405.[PMID:27599144]
2)
Ferguson CM, Swaroop MN, Horick N, et al. Impact of ipsilateral blood draws, injections, blood pressure measurements, and air travel on the risk of lymphedema for patients treated for breast cancer. J Clin Oncol. 2016;34(7):691-8.[PMID:26644530]
3)
Clark B, Sitzia J, Harlow W. Incidence and risk of arm oedema following treatment for breast cancer:a three-year follow-up study. QJM. 2005;98(5):343-8.[PMID:15820971]
4)
Bevilacqua JL, Kattan MW, Changhong Y, et al. Nomograms for predicting the risk of arm lymphedema after axillary dissection in breast cancer. Ann Surg Oncol. 2012;19(8):2580-9. [PMID:22395997]
5)
Showalter SL, Brown JC, Cheville AL, et al. Lifestyle risk factors associated with arm swelling among women with breast cancer. Ann Surg Oncol. 2013;20(3):842-9.[PMID:23054109]
6)
Hayes S, Cornish B, Newman B. Comparison of methods to diagnose lymphedema among breast cancer survivors: 6-month follow-up. Breast Cancer Res Treat. 2005;89(3):221-6.[PMID:15754119]
7)
Kilbreath SL, Ward LC, Lane K, et al. Effect of air travel on lymphedema risk in women with history of breast cancer. Breast Cancer Res Treat. 2010;120(3):649-54.[PMID:20180016]
8)
Graham PH. Compression prophylaxis may increase the potential for flight-associated lymphoedema after breast cancer treatment. Breast. 2002;11(1):66-71.[PMID:14965648]
9)
Casley-Smith JR, Casley-Smith JR. Lymphedema initiated by aircraft flights. Aviat Space Environ Med. 1996;67(1):52-6.[PMID:8929203]
10)
Mak SS, Yeo W, Lee YM, et al. Risk factors for the initiation and aggravation of lymphoedema after axillary lymph node dissection for breast cancer. Hong Kong Med J. 2009;15(3 Suppl 4):8-12.[PMID:19509430]

CQ4
乳癌患者に対する乳房再建術は,続発性リンパ浮腫の発症に影響しないか?

乳房再建術とリンパ浮腫発症の因果関係を検証した質の高い研究はないが,複数の症例対照研究が存在し,いずれも同様の結果を示しているため,乳房再建術はリンパ浮腫の発症に影響しないと思われる。
Substantial effect on risk unlikely(大きな関連なし)

背景・目的

乳癌に対する乳房切除術後にしばしば乳房再建術が行われるが,乳房再建がリンパ浮腫の発症に及ぼす影響については明らかになっていない。乳房再建の方法には,広背筋や腹直筋などの自家組織を用いる場合とシリコンインプラントを用いる場合がある。また,再建時期については,乳房切除と同時に乳房再建を行う一次再建と,乳房切除後に期間を空けて乳房再建を行う二次再建に分けられ,両者がさらに組織拡張器を用いず即時に乳房再建を完成させる一期再建と,組織拡張器をいったん大胸筋下に留置し,皮膚や大胸筋の伸展を待ってシリコンインプラントに入れ替える二期再建に分けられる。“immediate”や“simultaneous”と表現される,いわゆる同時再建とは,ほとんどが一次二期再建法を意味している。本CQ では,乳房再建がリンパ浮腫の発症率に関与するか否かを検証した。

解説

Avraham らは,乳房切除に加えセンチネルリンパ節生検か追加郭清を受けた乳癌術後患者を対象として,組織拡張器を用いた二期再建の有無によって,リンパ浮腫の発症率を比較検討した 1)。中央観察期間5 年において,リンパ浮腫の発症率は再建群では5%であったのに対し,非再建群では18%と,前者で有意に低く(p<0.004),センチネルリンパ節生検例のみならず,腋窩郭清例においても二期再建は術後のリンパ浮腫発症率を上昇させないと報告した。Lee らは,712 人の乳房再建患者をチャートレビューによって再建群と非再建群に分類し,多変量解析を用いてリンパ浮腫発症率を比較検討したところ,やはり再建群で有意に低かったと報告している(p=0.023) 2)。Cardらも同様のチャートレビューにより同様の結果を得ており,再建群におけるリンパ浮腫発症率は低く,発症時期が遅かったと報告している 3)

再建材料に焦点を当てた研究として,Miller らは乳房切除後の乳癌患者616 人891 乳房を対象に3 群比較試験を行った 4)。76%が同時再建(65%がシリコンインプラント群,11%が自家組織群),24%が再建なし群であったが,再建後2 年の経過観察期間中,リンパ浮腫発症率はインプラント群4.08%,自家組織群9.89%,再建なし群26.7%であった。多変量解析ではハザード比(hazard ratio;HR)がインプラント群は0.352(p<0.0001),自家組織群は0.706(p=0.2151)とインプラント群で有意に発症が少なかった。このことから,シリコンインプラントを用いた一次二期乳房再建は,リンパ浮腫のリスクを増加させることなく実施できると報告した。また,Blanchard らは,乳房切除後にリンパ浮腫を発症した20 人に対して乳房再建を行った 5)。再建方法は,3 人がTRAM(腹直筋)フラップ,5 人がLD(広背筋)フラップ+シリコンインプラント,12 人がシリコンインプラントを用いており,リンパ浮腫発症から乳房再建までの期間の中央値は21 カ月(四分位範囲IQR 17〜34 カ月)で,リンパ浮腫発症後は全例に用手的リンパドレナージ(MLD),19 人に弾性着衣を,14 人にローストレッチバンデージを用いた圧迫を行っていた。乳癌手術から再建までの期間の中央値は30 カ月(IQR 23〜56 カ月)であった。体積の中央値は再建前が378 mL(IQR 261〜459 mL),再建後5 カ月後が244 mL(IQR 159〜435 mL),22 カ月後が235 mL(IQR 146〜361 mL)と,再建後に有意に減少していた(p<0.02)ことから,今後は再建方法と再建時期についての比較試験が必要であるとしながらも,二期的乳房再建はリンパ浮腫発症例にも適応があると結論付けた。さらにCrosby らが1,117 人1,499 乳房に対して,再建方法別のリンパ浮腫発症率,治療成績,背景因子を比較検討している 6)。平均観察期間56 カ月において,リンパ浮腫発症の強い危険因子は,腋窩郭清(p<0.001),リンパ節転移陽性多数(p=0.004),術後照射(p=0.007),BMI≧25(p=0.001)であった。予防的乳房切除術に対する再建例と,再建方法の変更があった症例を除外すると,リンパ浮腫の発症率は1,013 乳房中4.0%であった。乳房再建の方法による発症率や発症時期の差はなく,腋窩郭清と再建方法との相関もなかった(p=0.799)と報告している。Menezes らは平均追跡期間57 カ月の乳癌術後患者について同様の比較検討を行っている 7)。622 人中94 人が乳房再建を受けており〔47 人(8%)が同時再建,47 人(8%)が二期再建〕,リンパ浮腫の発症率は全体で33%であった。乳房再建群では発症率は28%,発症時期は乳房切除後平均93 カ月後であったのに対し,非再建群では発症率は34%,発症時期は術後平均106 カ月後であった。乳房再建は術後のリンパ浮腫発症リスクを36%低下させた(HR 0.64,p=0.04)が,病理学的ステージと照射歴について調整すると有意差はなくなった(HR 0.79,p=0.28)。以上より,乳房再建は長期観察においてもリンパ浮腫のリスクを増やさないと報告した。

このように,乳房再建とリンパ浮腫発症の相関については,ランダム化比較試験はないが,比較的母集団が大きくかつ長期観察を経た比較研究は複数存在し,いずれも同様の結果を示している。したがって,現時点では乳房再建は再建方法を問わず,リンパ浮腫の発症には影響しない。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2008 年1 月から2017 年8 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「“Lymphedema” AND breast reconstruction NOT “case report”」とした。該当した58 編のうち,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者に対する乳房再建に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験,システマティック・レビュー
  2. Primary endpoint が治療効果,身体的苦痛,精神的苦痛,QOL あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2) 二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献7 編を得た。

文献

1)
Avraham T, Daluvoy SV, Riedel ER, et al. Tissue expander breast reconstruction is not associated with an increased risk of lymphedema. Ann Surg Oncol. 2010;17(11):2926-32.[PMID:20499284]
2)
Lee KT, Mun GH, Lim SY, et al. The impact of immediate breast reconstruction on post-mastectomy lymphedema in patients undergoing modified radical mastectomy. Breast. 2013;22(1):53-7.[PMID:22595248]
3)
Card A, Crosby MA, Liu J, et al. Reduced incidence of breast cancer-related lymphedema following mastectomy and breast reconstruction versus mastectomy alone. Plast Reconstr Surg. 2012;130(6):1169-78.[PMID:22878475]
4)
Miller CL, Colwell AS, Horick N, et al. Immediate implant reconstruction is associated with a reduced risk of lymphedema compared to mastectomy alone: a prospective cohort study. Ann Surg. 2016;263(2):399-405.[PMID:25607768]
5)
Blanchard M, Arrault M, Vignes S. Positive impact of delayed breast reconstruction on breast-cancer treatment-related arm lymphoedema. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2012;65(8):1060-3.[PMID:22472052]
6)
Crosby MA, Card A, Liu J et al. Immediate breast reconstruction and lymphedema incidence. Plast Reconstr Surg. 2012;129(5):789e-95e.[PubMed PMID:22544109]
7)
Menezes MM, Bello MA, Millen E, et al. Breast reconstruction and risk of lymphedema after mastectomy:A prospective cohort study with 10 years of follow-up. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2016;69(9):1218-26.[PMID:27373492]

CQ5
弾性着衣は続発性リンパ浮腫の予防的治療として勧められるか?

推奨グレード

上肢:C2
下肢:C2
弾性着衣はリンパ浮腫の発症リスクの高い患者に対する発症予防効果が期待されるが,エビデンスが少なく,実施において適応症例の選択は慎重に行われるべきである。

背景・目的

リンパ節を郭清した患者のリンパ浮腫発症リスクは生涯続くとされ,発症予防のための対処が必要であり,重症化を防ぐためには早期発見と早期介入が重要とされている。弾性着衣はリンパ浮腫患者に対する圧迫療法の一方法として用いられ,治療維持期の有効性が報告されている。本CQ では,リンパ浮腫発症予防のための弾性着衣の有効性について検討した。

解説

Soran らは,乳癌腋窩郭清患者180 人を対象とした非ランダム化比較試験にて,上肢リンパ浮腫に対する予防的治療の重要性を検討した。介入群136 人では術後3〜6 カ月ごとにBIS(bioimpedance spectroscopy)法にて患肢の細胞外液量を測定し,無症状でも10 ユニット以上の増加がみられた場合には,短期間のリハビリテーションと浮腫予防の教育,弾性着衣の着用による予防的治療を行い,その後,患肢と健常肢の外周径の差が2 cm 以上となればリンパ浮腫と診断した。未介入群44 人には介入を行わず,術後12 カ月の時点で上肢の外周径によりリンパ浮腫の有無を判定し,患肢と健常肢の差が2 cm 以上あればリンパ浮腫と診断した。平均BMI は,介入群で28.9 kg/m2,未介入群で28.3 kg/m2であった。介入群で予防的治療を行った症例は33%(45/136)で,このうち2 人にリンパ浮腫が発症した。介入群と未介入群でのリンパ浮腫発症率は1.5%(2/136)と36.4%(16/44)で,定期観察と予防的治療を行うことで発症率は有意に減少した。

Hansdorfer-Korzon らは,乳房切除および腋窩郭清術施行後の患者37 人を対象とした,体幹の浮腫予防に関するランダム化比較試験を行い,術後1 カ月間低圧コルセットを着用する19 人と着用しない18 人の胸壁の皮下の厚さを超音波検査で測定し,左右差を比較した 2)。平均BMI は,着用群で28.4 kg/m2,非着用群で27.3 kg/m2であった。7 カ月後の胸壁の左右差は着用群にて有意に低く(p=0.009),着用群では放射線照射による体幹の浮腫も軽減された。

下肢に関しては,Sawan らが外陰癌13 人のランダム化比較試験にて,弾性着衣(class Ⅱ,15〜20 mmHg)を6 カ月間着用した6 人での患肢の体積増加は平均607 mLで,非着用群の平均953 mL よりも少なく(p=0.01),活動指標も良好であったと報告している 3)。ただし,測定者間で算出体積に大きな差があったことが問題点として指摘されている。Stuiver らによる鼠径リンパ節郭清術後の患者80 人に対するランダム化比較試験では,全員に浮腫予防のための指導を行ったのち,41 人は術翌日より6 カ月間,日中にストッキング(class Ⅱ, 23〜32 mmHg, graduated compression)を着用し,39 人は経過観察とした 4)。平均BMI は,着用群で27.7 kg/m2,非着用群で24.5 kg/m2であった。健側との比較で外周径の差が4 cm 以上あれば浮腫と診断した。6 カ月後のリンパ浮腫発症率は着用群で65%,未着用群で81%,12 カ月後の発症率は78%と84%で,着用群での発症率が低かったが,両群間に有意差は認めなかった。

上肢,下肢ともにBMI 高値例での検討であり,未発症時の着用に関するQOL の評価は行われていない。

以上のことから,弾性着衣はリンパ浮腫の発症リスクの高い患者に対する発症予防効果が期待されるが,質の高い研究に乏しく適応症例の選択基準も明らかでないため,現状での推奨度判定には慎重でありたい。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1) 2008 年4 月から2017 年4 月までに出版された英語の論文をPubMed によって検索した。検索語は,「lymphedema AND (precaution OR prevention) AND (compression OR garment OR sleeve)」とした。該当した58 編のうち,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者における診断・治療に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化試験,システマティック・レビュー
  2. Primary endpointがQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2) 二次資料として,Cochrane Library, UpToDate, Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献4 編を得た。

文献

1)
Soran A, Ozmen T, McGuire KP, et al. The importance of detection of subclinical lymphedema for the prevention of breast cancer-related clinical lymphedema after axillary lymph node dissection; a prospective observational study. Lymphat Res Biol. 2014;12(4):289-94.[PMID:25495384]
2)
Hansdorfer-Korzon R, Teodorczyk J, Gruszecka A, et al. Relevance of low-pressure compression corsets in physiotherapeutic treatment of patients after mastectomy and lymphadenectomy. Patient Prefer Adherence. 2016;10:1177-87.[PMID:27445465]
3)
Sawan S, Mugnai R, Lopes Ade B, et al. Lower-limb lymphedema and vulval cancer: feasibility of prophylactic compression garments and validation of leg volume measurement. Int J Gynecol Cancer. 2009;19(9):1649-54.[PMID:19955953]
4)
Stuiver MM, de Rooij JD, Lucas C, et al. No evidence of benefit from class-II compression stockings in the prevention of lower-limb lymphedema after inguinal lymph node dissection: results of a randomized controlled trial. Lymphology. 2013;46(3):120-31.[PMID:24645535]

CQ6
  1. a.用手的リンパドレナージ(MLD)は続発性リンパ浮腫の発症予防の一環として勧められるか?
  2. b.シンプルリンパドレナージ(SLD)は続発性リンパ浮腫の発症予防の一環として勧められるか?

推奨グレード

上肢:C2
下肢:推奨度評価なし
  1. a.用手的リンパドレナージ(MLD)が上肢リンパ浮腫の発症を予防するという質の高い根拠は示されておらず,予防的施行を行うことは勧められない。下肢リンパ浮腫患者に対するMLD の予防的施行の報告例は非常に少ないため,推奨度は評価できない。
推奨グレード

上肢:推奨度評価なし
下肢:推奨度評価なし
  1. b.上肢・下肢ともにシンプルリンパドレナージ(SLD)のエビデンスは乏しく,推奨度は評価できない。

背景・目的

リンパ浮腫に対するリンパドレナージについては数多くの報告がなされている。リンパドレナージには用手的リンパドレナージ(manual lymphatic drainage;MLD)とシンプルリンパドレナージ(simple lymphatic drainage;SLD)がある。MLD は障害のあるリンパ経路の活動を増やし,リンパ管を迂回することによって停滞しているリンパ流を改善することができる。さらに,SLD はより簡便で患者および家族が自宅で適切に行える方法である。しかしながら,MLD の有効性や適切な回数・方法は確立されていないのが実状である。本CQ ではMLD とSLD のリンパ浮腫予防効果について検討した。

解説

上肢リンパ浮腫の予防について,Devoogdt らは腋窩リンパ節郭清を受けた乳癌患者337 人のうち同意が得られた160 人で検討を行った 1)。術後早期から30 分間運動療法のみ(肩の運動,大胸筋のストレッチ,創部のマッサージ)を行う対照群と,30 分間運動療法(肩の運動,大胸筋のストレッチ,創部のマッサージ)+週1〜3 回程度40 項目のMLD 治療を行う治療群に分けた〔その際,BMI(25 以上と25 未満)と腋窩への放射線治療の有無を層別化因子とした〕。その結果,術後12 カ月でも対照群で19%,治療群で24%がリンパ浮腫を発症し,リンパ浮腫の発症率と発生期間に有意差はなかった。さらにQOL(mental health とphysical health)にも差はなかった。

Zimmermann らは,乳癌手術を受ける67 人をMLD 施行群33 人と対照群34 人にランダム化割り付けし,手術前,術後2 日目,7 日目,14 日目,3 カ月目,6 カ月目に健側と患側の浮腫を測定した 2)。結果として術後6 カ月目にMLD の介入によりリンパ浮腫の発症が有意に抑制された。ただし,上腕の浮腫の改善はなかった。

Torres Lacomba らは,2005〜2007 年に乳癌手術を受けた患者120 人をMLD および肩関節運動を行う群と対照群に分け,リンパ浮腫の発症率を比較した 3)。結果として術後1 年時点で116 人中18 人がリンパ浮腫を発症し,その内訳は治療群で4 人(7%),対照群で14 人(25%)と,治療群で有意に浮腫の発症を予防した。

このように上肢に対するMLD のリンパ浮腫予防効果は依然一定の見解が得られていない。したがって,予防としてのMLD およびSLD の実施は推奨されない。

下肢リンパ浮腫のMLD およびSLD の報告例は非常に少ない。研究論文(英文)は認めず,わが国における学会報告はあるものの,有効性については明らかでない。

なお,下肢浮腫を伴う心不全患者にMLD を行ったことで病状が悪化したという報告もあり,注意が必要である 4)

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手続きで行った。

1)2008 年1 月から2016 年12 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND (manual drainage OR MLD OR SLD)」とし,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者における診断・治療に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験
  2. Primary endpoint がQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,または生命予後のもの,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2) 二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献4 編を得た。

文献

1)
Devoogdt N, Christiaens MR, Geraerts I, et al. Effect of manual lymph drainage in addition to guidelines and exercise therapy on arm lymphoedema related to breast cancer: randomized controlled trial. BMJ. 2011;343:d5326.[PMID:21885537]
2)
Zimmermann A, Wozniewski M, Szklarska A, et al. Efficacy of manual lymphatic drainage in preventing secondary lymphedema after breast cancer surgery. Lymphology. 2012;45(3):103-12.[PMID:23342930]
3)
Torres Lacomba M, Yuste Sánchez MJ, Zapico Goñi A, et al. Effectiveness of early physiotherapy to prevent lymphoedema after surgery for breast cancer: randomised, single blinded, clinical trial. BMJ. 2010;340:b5396.[PMID:20068255]
4)
Vaassen MM. Manual lymph drainage in a patient with congestive heart failure: a case study. Ostomy Wound Manage. 2015;61(10):38-45.[PMID:26761960]

CQ7
  1. a.肥満は続発性リンパ浮腫発症の危険因子か?
  2. b.体重管理は続発性リンパ浮腫の発症率を下げる,あるいは浮腫を軽減するか?

  1. a.肥満は,乳癌あるいはその治療によって起こる上肢リンパ浮腫の危険因子であると考えられる。下肢に関しても肥満がリンパ浮腫の危険因子である可能性は高いが,エビデンスが少なく,さらなる研究が必要である。
    上肢:Probable(ほぼ確実) 下肢:Limited-no conclusion(証拠不十分)
  1. b.乳癌関連上肢リンパ浮腫患者に対する体重管理指導は,リンパ浮腫による上肢の体積増加を抑制し,浮腫を軽減する。下肢リンパ浮腫については,体重管理指導とリンパ浮腫についての論文が得られなかった。今後の研究が待たれる。
    上肢:Probable(ほぼ確実) 下肢:Limited-no conclusion(証拠不十分)

背景・目的

  1. a.肥満はリンパ浮腫の発症と関連しているとされ,乳癌術後患者指導の項目にも必ず含まれている。質の高い臨床研究の報告は少ないが,上肢に関しては近年,非ランダム化比較試験やコホート研究が増加し,一致した結果が得られてきている。本CQ では肥満・体重管理と続発性リンパ浮腫に関する最近の知見を整理した。
  2. b.肥満はリンパ浮腫の危険因子である(特に上肢)。したがって,体重を減らし,肥満を改善することによってリンパ浮腫発症頻度や浮腫の程度が減少することが期待される。これについての報告を調査した。

解説

a. 肥満について

最初に上肢についての報告をまとめた。Can らは乳癌手術を受けた84 例を,リンパ浮腫を有する群(34 例)と有していない群(50 例)の2 群に分けて比較した 1)。平均体重,BMI,リンパ節転移個数,術後放射線治療有の数はリンパ浮腫群で多かった(p<0.05)。Correlation analysis では,年齢,学歴,BMI,腫瘍径,リンパ節転移個数,放射線治療の有無がリンパ浮腫と関連があった。Logistic regression analysis では放射線治療のみが独立した危険因子であった。スキンケア,エクササイズ,圧迫包帯で治療を受けた14 例ではリンパ浮腫が著明に改善した。Fu らは,乳癌術後140 例を肥満群(BMI>30),過体重群(BMI 25〜30),正常/低体重群(BMI<25)の3 群に分け,体重の変化,浮腫の発症について比較した 2)。60%以上が肥満群(30.8%)か過体重群(32.4%)であった。35%が正常群,1.4%(2 例)だけが低体重群であった。12 カ月後では72.1%が体重を維持し,5%以上の体重減少が15.4%に,5%以上の体重増加が12.5%にみられた。彼らは生体インピーダンス測定値から換算したL-Dex ratio>7.1 をリンパ浮腫と定義し,肥満群ではそれ以外の群に比べてリンパ浮腫が有意に多かったと報告した。

Ridner らは乳癌症例38 例について,BMI とリンパ浮腫の関連を調べた 3)。乳癌術後6 カ月以降におけるリンパ浮腫の割合が,BMI 30 以上は30 未満の3.6 倍であった(95% CI 1.42-9.04, p=0.007)。Kwan らは乳癌症例997 例について検討を行った。133 例(13.3%)がリンパ浮腫を有しており,乳癌診断時の肥満はリンパ浮腫の危険因子とした(HR 1.43,95% CI 0.88-2.31) 4)。Swenson らの報告では,乳癌術後でリンパ浮腫のある94 例とリンパ浮腫のない94 例を比較し,単変量解析では,BMI>25(p=0.009),腋窩照射(p=0.011),乳房切除(p=0.008),化学療法(p=0.033),リンパ節転移個数(p=0.009),術後リンパ液吸引(p=0.005),癌の増殖性(p=0.008)で有意差があった 5)。多変量解析では肥満のみリンパ浮腫と関連していた(p=0.022)。腋窩郭清を伴う乳癌手術症例を検討したJohansson らによると,リンパ浮腫群で手術時(p=0.03)および試験登録時(p=0.04)のBMI が有意に高かった 6)。Helyer らは乳癌症例137 例について,乳癌と診断されてから3 カ月ごとに腕の体積を追跡した。24 カ月時点で16 例(11.6%)にリンパ浮腫がみられた 7)。単変量解析でリンパ浮腫のリスクはBMI と有意に関連していた(p=0.003)。多変量解析では,BMI>30 とBMI<25 の患者を比較するとオッズ比2.93(95% CI 1.03-8.31)であった。その他,BMI 高値がリンパ浮腫の高リスクであるとする報告が多数みられる 8)〜12)

センチネルリンパ節生検(sentinel lymphnode biopsy;SLNB)は腋窩郭清と比べ乳癌患者のリンパ浮腫の発症を減少させることが期待される。これに関しては,臨床的リンパ節転移陰性乳癌症例で,SLNB を行った600 例(SLNB 群)とSLNB 後に腋窩リンパ節郭清(axillary lymphnode dissection;AXLD)を行った336 例(SLNB/AXLD 群)について,リンパ浮腫のフォローを行った結果がMcLaughlin らによって示されている 13)14)。術後上肢の周径測定でSLNB 単独群の5%,SLNB/AXLD 群の16%にリンパ浮腫がみられた(p<0.0001)。リンパ浮腫の危険因子は体重(p<0.0001),BMI高値(p<0.0001),手術以降の患側上肢の感染(p<0.0001)および外傷(p<0.0001)であった 13)。同じ対象を上肢腫脹の診療録記載の有無で解析した場合も同様の結果であった 14)

以上のように,上肢のリンパ浮腫に関しては,多くの後ろ向き研究や症例対照研究で肥満との相関がみられている。また,小規模の前向き研究でも同様の結果が観察されている。肥満がリンパ浮腫の危険因子であることはほぼ確実と考えられる。

次いで,下肢のリンパ浮腫に関してみると,肥満との関連について検討した研究は唯一,Yost らの報告のみであった 15)。子宮体癌手術後の1,048 人にリンパ浮腫スクリーニング質問票とQOL 測定表を送付し,参加した591 例について検討を行った。質問票からは103 例(17%)でリンパ浮腫あり,との回答であった。実際には47%にリンパ浮腫があったので,30%は自覚されていなかった。子宮摘出のみの症例では36.1%,リンパ節・付属器切除を伴う症例では52.3%にリンパ浮腫がみられた。多変量解析の結果,BMI,うっ血性心不全,リンパ節・付属器切除,放射線治療がリンパ浮腫と相関していた。QOL スコアは,リンパ浮腫のある患者が浮腫のない患者より悪かった。ただし,この論文ではリンパ浮腫の発症頻度がかなり高い結果であった。地域バイアスを考慮する必要がある。上肢と同様,下肢も肥満がリンパ浮腫の危険因子である可能性が高いと思われるが,これに関する報告が非常に少ないため,結論に至るためにはさらなる研究の集積が必要である。

b. 体重管理について

体重管理とリンパ浮腫に関する研究は,2007 年のShaw らの上肢に関する2 つの論文以降,報告がない。乳癌関連リンパ浮腫患者について,Shaw らはランダム化比較試験を行った。21 人の乳癌関連リンパ浮腫患者を,体重減少の食事指導を受ける群(食事指導群)と一般的な食事指導を受ける群(対照群)の2 群に分け,12 週間後の上肢の体積を測定した 16)。食事指導群において上肢の腫脹は有意に減少した(p=0.003)。

Shaw らは別の研究で,乳癌治療を受け,上肢にリンパ浮腫のある女性64 人を,摂取カロリー軽減による体重減少群(減量食群),低脂肪食ではあるが摂取カロリーは減らさない群(低脂肪群),食生活をまったく変えない群(対照群)の3 群に分け,24 週間後に上肢の体積を測定した 17)。対照群に対して減量食群,低脂肪群では,体重(p=0.006),BMI(p=0.008),皮膚厚(p=0.044)が有意に減少した。体重減少と浮腫の改善についての有意な相関関係が示された(r:0.423,p=0.002)。

下肢に関しては,体重管理とリンパ浮腫の関係を調査した論文(英文)はみつけられなかった。肥満とリンパ浮腫の関連と同様に,今後の研究が待たれる。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2003 年1 月から2017 年8 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,a に対しては「lymphedema AND obesity およびlymphedema AND BMI」,bに対しては「lymphedema AND weight reduction および lymphedema AND weight control」とした。それぞれ該当した447編,233 編のうち,原発性とフィラリア症関連を削除し,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者における肥満・BMI・体重管理に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験
  2. Primary endpoint がQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2) 二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ のa およびb に関係する文献17 編を得た。

文献

1)
Can AG, Ekşioğlu E, Bahtiyarca ZT, et al. Assessment of Risk Factors in Patients who presented to the Outpatient Clinic for Breast Cancer-Related Lymphedema. J Breast Health. 2016;12(1):31-6.[PMID:28331728]
2)
Fu MR, Axelrod D, Guth AA, et al. Patterns of obesity and lymph fluid level during the first year of breast cancer treatment:a prospective study. J Pers Med. 2015;5(3):326-40.[PMID:26404383]
3)
Ridner SH, Dietrich MS, Stewart BR, et al. Body mass index and breast cancer treatment-related lymphedema. Support Care Cancer. 2011;19(6):853-7.[PMID:21240649]
4)
Kwan ML, Darbinian J, Schmitz KH, et al. Risk factors for lymphedema in a prospective breast cancer survivorship study:the Pathways Study. Arch Surg. 2010;145(11):1055-63.[PMID:21079093]
5)
Swenson KK, Nissen MJ, Leach JW, et al. Case-control study to evaluate predictors of lymphedema after breast cancer surgery. Oncol Nurs Forum. 2009;36(2):185-93.[PMID:19273407]
6)
Johansson K, Ohlsson K, Ingvar C, et al. Factors associated with the development of arm lymphedema following breast cancer treatment:a match pair case-control study. Lymphology. 2002;35(2):59-71.[PMID:12081053]
7)
Helyer LK, Varnic M, Le LW, et al. Obesity is a risk factor for developing postoperative lymphedema in breast cancer patients. Breast J. 2010;16(1):48-54.[PMID:19889169]
8)
Ahmed RL, Schmitz KH, Prizment AE, et al. Risk factors for lymphedema in breast cancer survivors, the Iowa Women’s Health Study. Breast Cancer Res Treat. 2011;130(3):981-91.[PMID:21761159]
9)
Clark B, Sitzia J, Harlow W. Incidence and risk of arm oedema following treatment for breast cancer:a three-year follow-up study. QJM. 2005;98(5):343-8.[PMID:15820971]
10)
Dominick SA, Madlensky L, Natarajan L, et al. Risk factors associated with breast cancer-related lymphedema in the WHEL Study. J Cancer Surviv. 2013;7(1):115-23.[PMID:23212606]
11)
van der Veen P, De Voogdt N, Lievens P, et al. Lymphedema development following breast cancer surgery with full axillary resection. Lymphology. 2004;37(4):206-8.[PMID:15693539]
12)
Vignes S, Arrault M, Dupuy A. Factors associated with increased breast cancer-related lymphedema volume. Acta Oncol. 2007;46(8):1138-42.[PMID:17851861]
13)
McLaughlin SA, Wright MJ, Morris KT, et al. Prevalence of lymphedema in women with breast cancer 5 years after sentinel lymph node biopsy or axillary dissection:objective measurements. J Clin Oncol. 2008;26(32):5213-9.[PMID:18838709]
14)
McLaughlin SA, Wright MJ, Morris KT, et al. Prevalence of lymphedema in women with breast cancer 5 years after sentinel lymph node biopsy or axillary dissection:patient perceptions and precautionary behaviors. J Clin Oncol. 2008;26(32):5220-6.[PMID:18838708]
15)
Yost KJ, Cheville AL, Al-Hilli MM, et al. Lymphedema after surgery for endometrial cancer:prevalence, risk factors, and quality of life. Obstet Gynecol. 2014;124(2 Pt 1):307-15.[PMID:25004343]
16)
Shaw C, Mortimer P, Judd PA. A randomized controlled trial of weight reduction as a treatment for breast cancer-related lymphedema. Cancer. 2007;110(8):1868-74.[PMID:17823909]
17)
Shaw C, Mortimer P, Judd PA. Randomized controlled trial comparing a low-fat diet with a weight-reduction diet in breast cancer-related lymphedema. Cancer. 2007;109(10):1949-56.[PMID:17393377]

CQ8
続発性リンパ浮腫のリスクのある患者が運動(エクササイズ)を行った場合,行わなかった場合と比べてリンパ浮腫の発症率は減少するか?

乳癌術後上肢リンパ浮腫のリスクを有する患者において,運動はリンパ浮腫の発症率を下げる。また,乳癌術後の上肢リンパ浮腫に対する従来の複合的治療と負荷を伴う運動療法(弾性着衣の着用下での十分に吟味された運動プログラム)は,患肢の増悪を招くことなく筋力を向上させ,心身の生活の質を改善する。
一方,下肢リンパ浮腫については,予防・治療ともランダム化比較試験はないが,身体活動により発症率が下がるとする症例対照研究が存在する。ほぼ確実とまではいえないが,発症率を下げることを示唆する根拠があると判断した。
上肢:Probable(ほぼ確実) 下肢:Limited-suggestive(可能性あり)

背景・目的

リンパ浮腫の予防・治療において,正常な四肢の運動機能と活動性を維持・改善するためには,理学療法士など専門知識を有する介助者による受動運動も含めて術後早期からの運動療法が効果的であるといわれる一方で,術後早期の運動は体液貯留などの合併症が増えるとの懸念が根強く残っている。特に上肢では肩関節拘縮が術後のQOL 低下を招くことが知られているにもかかわらず,術後は患側肢で重いものを持たず酷使せぬようにという指導が普及しており,これが筋力低下や拘縮を助長する場合も少なくない。

これに関して,従来,質の高い臨床研究の報告がなかった。近年,特に上肢に関しては予防・治療のそれぞれにおいてランダム化比較試験が増加し,運動内容についても具体的に提案し得る材料が揃ってきた。上肢における論文数のほうが多いが,下肢に関しても症例対照研究で同様の結果が得られている。本CQ では具体的なレジメンを含めて最近の知見を検証した。

解説

術後の運動療法はリンパ浮腫を悪化させず安全である,という報告が増えてきている。

Dos Santos らは,乳癌サバイバーにレジスタンストレーニング(resistance training;RT)が及ぼす影響に関する研究についてシステマティック・レビューを行った 1)。選ばれた10 の研究から筋力,体組成,心理・社会的パラメーター,血液中のバイオマーカーが検討された。高負荷の場合には高度の筋力の向上が示されたが,ほとんどの研究では低〜中程度の筋力向上が報告されている。5 つの論文ではリンパ浮腫を評価していたが,いずれもリンパ浮腫の悪化のリスクは増えなかった。体組成の研究では1 つの論文を除いて,変化はみられなかったとされている。

Paramanandam らは,乳癌関連リンパ浮腫をすでに発症している,またはそのリスクがある女性を対象に,ウェイトトレーニングがリンパ浮腫に及ぼす影響を調べた研究についてシステマティック・レビューを行った 2)。計1,091 人を対象とした8 つの試験から11 論文が選択された。すべての臨床試験で圧迫下着をつけ,専門家の指導のもとにトレーニングが実行された。徐々に強度を上げる,低〜中等度の強さの上肢・下肢のウェイトトレーニングでは,上肢の体積を増やすことなく上肢・下肢の力が強化された。有意な体重増加もなかった。

Anderson らは,乳癌術後の中等度の運動プログラムがQOL や身体機能,リンパ浮腫発症に及ぼす影響を2 群各52 例のランダム化比較試験によって検証した 3)。術後4〜12 週間経過した患者に対して,一般的な予防指導や食事指導に運動療法による介入を加えた群と指導のみの群で比較した結果,18 カ月以降の評価で介入群のほうが6 分間で歩行できた距離と身体機能が有意に優れており,リンパ浮腫の発症率には両群間で差がなかった。

運動がリンパ浮腫の発症を減らすという報告もいくつかみられる。Lacomba らは,術後4 週目からのストレッチや肩関節運動などによる介入がリンパ浮腫発症率に及ぼす影響を,介入のない対照群と比較した 4)。リンパ浮腫の発症率は術後1 年の時点で介入群59 例中7%であったのに対して,対照群57 例では25%と有意に高く(p=0.001),発症例における浮腫の程度も対照群のほうが重症だった(体積:p=0.0065,周径:p=0.0207)。Schmitz らは術後1〜5 年経過した乳癌術後患者に対して,ベンチプレス,フットプレスをインストラクターの指導下に13 週間,自己実施で39 週間,一定のプログラムで実施した結果,1 年後の発症率は介入群11% vs. 対照群17%,さらに郭清個数5 個以上の症例ではそれぞれ7% vs. 22%(p<0.04,p<0.003)で,術後早期のウエイトリフティングは少なくとも1 年後のリンパ浮腫発症を予防すると報告した 5)。これは2006 年にAhmed らがランダム化比較試験を報告した研究 6)の続報で,症例数を増やし,介入期間と観察期間をそれぞれ半年から1 年に延ばしても初報同様の結果であった。Sagen らは,患側上肢の運動制限をせず,負荷運動を週2,3 回加えた介入群の上肢リンパ浮腫発症率を対照群とともに2 年後まで追跡したところ,いずれも有意差がなかったと報告している 7)。このほか,予防についてはChan らがランダム化比較試験7論文のデータを補正したうえで,早期の運動介入はリンパ浮腫を惹起しないという共通の結果を得ている 8)

下肢の予防については唯一,Brown らが報告している 9)。子宮癌サバイバー213 例を対象に,身体活動,ウォーキングがリンパ浮腫の発症に影響を与えるか検討された。自己記入質問票が使われ,身体活動量(カロリー消費量)はMET/時・週,ウォーキングのスケールはブロック/日で表された。身体活動が18MET/時・週以上のサバイバーの下肢リンパ浮腫の発症率は,3MET/時・週未満の場合に比べ,オッズ比が0.32(Ptrend=0.003)であった。身体活動と下肢リンパ浮腫の関連はBMI が30 kg/m2未満の群のみでみられた。12 ブロック/日以上のウォーキングをしている人たちは,4 ブロック/日未満に対してオッズ比が0.19 (Ptrend=0.0001)であった。ウォーキングと下肢リンパ浮腫に関してはBMI が30 kg/m2 未満でもそれ以上でも類似した結果であった。以上から,子宮癌サバイバーが身体活動,ウォーキングを高レベルで行うことは下肢リンパ浮腫を減らすことがわかった。

なお,本CQ に関連して,リンパ浮腫に対して術後のスポーツ(テニス,バレーボール,登山等)の影響を調査しようとPubMed を検索したが,対象となる論文がまったく得られなかったため,今回は検討しないこととした。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2003 年1 月から2017 年8 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND exercise」とした。該当した458 編のうち,原発性とフィラリア症関連を削除し,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者における運動に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験
  2. Primary endpointがQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paperのある同一著者による短報

2) 二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献9 編を得た。

文献

1)
Dos Santos WDN, Gentil P, de Moraes RF, et al. Chronic effects of resistance training in breast cancer survivors. Biomed Res Int. 2017;2017:8367803.[PMID:28835898]
2)
Paramanandam VS, Roberts D. Weight training is not harmful for women with breast cancer-related lymphoedema:a systematic review. J Physiother. 2014;60(3):136-43.[PMID:25086730]
3)
Anderson RT, Kimmick GG, McCoy TP, et al. A randomized trial of exercise on well-being and function following breast cancer surgery:the RESTORE trial. J Cancer Surviv. 2012;6(2):172-81.[PMID:22160629]
4)
Lacomba MT, Sánchez MJY, Goñi AZ, et al. Effectiveness of early physiotherapy to prevent lymphoedema after surgery for breast cancer:randomised, single blinded, clinical trial. BMJ. 2010;340:b5396.[PMID:20068255]
5)
Schmitz KH, Ahmed RL, Troxel AB, et al. Weight lifting for women at risk for breast cancer-related lymphedema:a randomized trial. JAMA. 2010;304(24):2699-705.[PMID:21148134]
6)
Ahmed RL, Thomas W, Yee D, et al. Randomized controlled trial of weight training and lymphedema in breast cancer survivors. J Clin Oncol. 2006;24(18):2765-72.[PMID:16702582]
7)
Sagen A, Kåresen R, Risberg MA. Physical activity for the affected limb and arm lymphedema after breast cancer surgery. A prospective, randomized controlled trial with two years follow-up. Acta Oncol. 2009;48(8):1102-10.[PMID:19863217]
8)
Chan DN, Lui LY, So WK. Effectiveness of exercise programmes on shoulder mobility and lymphoedema after axillary lymph node dissection for breast cancer:systematic review. J Adv Nurs. 2010;66(9):1902-14.[PMID:20626480]
9)
Brown JC, John GM, Segal S, et al. Physical activity and lower limb lymphedema among uterine cancer survivors. Med Sci Sports Exerc. 2013;45(11):2091-7.[PMID:23657171]

CQ9
放射線照射は続発性リンパ浮腫発症の危険因子か?

上肢
  1. 乳癌術後に領域リンパ節(腋窩・鎖骨下・鎖骨上窩)への照射を行うと,患肢のリンパ浮腫発症のリスクは高まる。
    Convincing(確実)
  2. 乳癌術後に領域リンパ節を含まない照射(温存乳房のみ,胸壁のみ)を施行した場合でも,リンパ浮腫発症のリスクは高まる。
    Limited-suggestive(可能性あり)
下肢
  1. 婦人科癌に対する骨盤リンパ節郭清術後の全骨盤照射はリンパ浮腫発症リスクとなる。
    Convincing(確実)
  2. 婦人科癌では,主治療として全骨盤照射を施行した場合でもリンパ浮腫発症リスクとなる。
    Probable(ほぼ確実)

背景・目的

一般的に,放射線照射によって引き起こされる組織の線維化がリンパ管を圧排し,リンパ浮腫発症に関与することは知られている。

乳癌に関しては,先行する手術術式,照射の部位によって,リンパ浮腫発症リスクが異なる。近年では,センチネルリンパ節生検が腋窩に対する標準的な術式となり,センチネルリンパ節に転移を認めた場合に腋窩郭清の代替手段として腋窩への照射を行うことも増えている。現在行われている照射範囲によるリンパ浮腫発症のリスクを検討した。

婦人科癌においては,子宮頸癌や子宮体癌の術後療法として,化学療法を行う場合と放射線照射をする場合がある。術後療法が必要となる危険因子には,ハイリスクとしてリンパ節転移陽性,子宮傍結合織浸潤などがあり,中リスクとして,深い間質浸潤,脈管侵襲,大きな腫瘍径などがある。リンパ節郭清後はリンパ浮腫が発生しやすいが,術後照射や化学放射線療法を加えることによるリンパ浮腫発症のリスクについて調査した。

なお,婦人科癌で初回治療として放射線治療を行うのは子宮頸癌である。『子宮頸癌治療ガイドライン』においても,IA2 期やIB1 期,IIA1 期で照射を選択する場合は放射線単独照射,IB2 期以上の症例では化学放射線療法を推奨している。リンパ節郭清を行わない状態での,放射線照射あるいは化学放射線療法でのリンパ浮腫発症について調査した。

解説

1)上肢について

乳癌術後の放射線療法は,乳房温存手術を行った場合の温存乳房への照射や,乳房切除後の胸壁照射,リンパ節転移が高度陽性である場合の領域リンパ節(腋窩・鎖骨下・鎖骨上窩)への照射などがある。また近年では,センチネルリンパ節に転移があった場合に腋窩リンパ節郭清の代替手段として腋窩への照射が施行されることが増えている。

Herd-Smith らは,イタリアのがん登録患者から1,278 人の乳癌患者を対象とし,上肢の周径差が5%以上あった場合をリンパ浮腫とし,乳癌の治療方法(術式や照射の有無,化学療法の有無など)とリンパ浮腫発症の相関について調査した 1)。全体の15.9%にリンパ浮腫を認め,術後照射と摘出リンパ節数がリンパ浮腫発症の独立した危険因子であったと報告した。一方,Clark らが,251 人の乳癌患者を3 年間フォローし,リンパ浮腫発症の危険因子について調べた結果では,術式(乳房切除術)はリンパ浮腫発症の危険因子であったが,術後照射の有無は相関しなかった 2)。これらの報告では,照射野に関しては検討されていなかった。Ozaslan らは乳房切除後の乳癌患者240 人を対象として,治療関連因子や臨床病理学的因子とリンパ浮腫発症について調査し,腋窩領域への照射とBMI が発症の危険因子であると報告した 3)。また,Tsai らは乳癌治療とリンパ浮腫発症との相関を調べたメタアナリシスで,乳房切除術,腋窩郭清の範囲,術後照射,リンパ節転移陽性が発症の危険因子であったとした 4)。このメタアナリシスのなかで,照射野の詳細が不明のものも含めた49 の研究では,術後照射を行った場合,行わなかった場合と比べてリンパ浮腫の発症は1.92 倍(95% CI 1.61-2.28,p<0.001),腋窩への照射に限ると14 の研究から2.97 倍(95% CI 2.06-4.28,p=0.0283)といずれも有意にリンパ浮腫が増加した。

Nguyen らは乳癌患者1,794 人を10 年以上フォローしたコホート研究の結果,5 年でのリンパ浮腫発症は全体の9.1%にみられたが,腋窩への術式,照射の有無,化学療法の有無やこれら治療法の組み合わせによってリンパ浮腫の発症率が異なっていた。照射の有無に関して,照射なしの場合は5 年で4.2%,乳房または胸壁のみの照射の場合は6.1%,それに加えて領域リンパ節への照射を行った場合は31.3%であった。多変量解析で,照射なしと比較して,乳房または胸壁のみの照射ではリンパ浮腫の発症リスクが1.55倍(95% CI 0.94-2.59,p=0.09),領域リンパ節を含めると1.91 倍(95% CI 1.19-3.08,p=0.008)と,領域リンパ節まで含めた照射で有意にリンパ浮腫発症のリスクが高まる結果であった 5)。Kilbreath らも同様に,腋窩への照射によってリンパ浮腫のリスクが2.6 倍(p=0.14)となることを報告している 6)

領域リンパ節への照射の範囲とリンパ浮腫についても多くの研究報告があり,Kim らは鎖骨上リンパ節を含めた乳房照射はHR 2.03,p=0.003 でリスクを高めるとしている 7)。Shaitelman らは領域リンパ節への照射についてネットワークメタアナリシスを行い,乳房照射や胸壁のみの照射に比べて,領域リンパ節への照射を加えることで,センチネルリンパ節生検の場合はリンパ浮腫発症のリスクは有意に増加しなかったが,腋窩郭清後では2.74倍(95% CI 1.38-5.44,p=0.0283)と有意にリスクが高まったとした 8)

このように,乳癌患者においては,照射の有無とリンパ浮腫の発症は関連するという報告が多数あり,メタアナリシスでも示されている。特に領域リンパ節への照射ではほとんどの研究で有意にリンパ浮腫発症のリスクが高まっており,放射線照射の影響は確実であると考えられる。

2)下肢について

次に,婦人科癌に対するリンパ節郭清術後の照射の影響について述べる。なお,術後照射は全骨盤照射が行われる。

Kuroda らは婦人科癌患者264 人に骨盤リンパ節郭清±傍大動脈リンパ節郭清を施行し,リンパ浮腫発症についてカルテ調査した 9)。リンパ浮腫の診断は,理学的所見,本人の症状をもとに行い,血栓との鑑別が必要な場合はD ダイマーや下肢超音波検査を施行した。ISL 分類にて評価し,Ⅱ期以上をリンパ浮腫として扱った。リンパ浮腫発症率は,1 年で23.1%,3 年で32.8%,10 年で47.7%であった。放射線照射を受けたのは264 人中17 人でそのうち9 人(52.9%)がリンパ浮腫を発症し,照射を受けていない247 人では88 人(35.6%)がリンパ浮腫を発症した。単変量解析ではp=0.298 であった。次にCox hazard analysis を行うとリンパ浮腫発症のリスクとして以下の4 項目が挙げられた。すなわち,BMI 25 以上はHR 1.616,p=0.037,骨盤リンパ節郭清+傍大動脈リンパ節郭清はHR 2.323,p=0.023,術後照射はHR 2.469,p=0.021,リンパ囊胞はHR 1.718,p=0.013であった。

また,Todo らは子宮体癌で系統的リンパ節郭清をした患者のリンパ浮腫発症について後ろ向きに検討した 10)。ISL 分類のⅡ期以上をリンパ浮腫と定義した。286 人中108 人(37.8%)に下肢リンパ浮腫が発生したと報告している。リンパ浮腫を発症したのは,術後照射を受けた28 人中19 人(67.9%)と,照射を受けていない258 人中89 人(34. 5%)であった(p=0.0005)。Logistic regression analysis では術後照射はオッズ比(odds ratio;OR)5.3,p=0.0003 であった。その他の因子では,リンパ節郭清個数31 個以上がOR 2.6,p=0.0034,鼠径上リンパ節の郭清がOR 6.1,p=0.023 であった。

Kim らは,子宮頸癌Ⅰ-ⅡA 期の広汎子宮全摘術後の患者596 人のうち129 人(21.6%)が術後照射を受け,そのうち33 人(25.5%)が下肢リンパ浮腫を発症したと報告している 11)。リンパ浮腫の診断は両下肢の周囲径で,Common Terminology Criteria for Adverse Event version 3.0 に基づき,mild からsevere に分類されている。術後照射による下肢リンパ浮腫のオッズ比は3.47 である。また,発症までの中央値は11 カ月で,1 年以内が42.7%,3 年以内が78.7%であったと述べている 11)

Hayes らは婦人科癌患者408 人のリンパ浮腫の発症について前向きに調査した 12)。セルフレポートと BIS を術前,術後6週間,3 カ月,6 カ月,12 カ月,15〜24 カ月で調査した。術前にすでにセルフレポートでは15%,測定上は27%にリンパ浮腫があった。術後24 カ月後ではセルフレポート,測定上のリンパ浮腫は45%,37%であった。75%の患者は術後1 年までに発症しており,また一部は一過性で消失するが60%で継続すると述べている。リンパ節郭清個数,化学療法,放射線照射,BMI,運動不足,腟癌/外陰癌,術前からのリンパ浮腫が危険因子(p<0.05)として挙げられている。BIS によるリンパ浮腫発症リスクは照射のみではOR 1.19,p=0.726,化学療法と照射の両方ではOR 1.64,p=0.162 であった。セルフレポートでは照射のみでOR 0.82,p=0.588,化学療法と照射の両方でOR 1.88,p=0.015であった。セルフレポートと実際のBIS 間では差があるが,照射のみでなく化学療法と併用することで,さらにリンパ浮腫が増えることが明らかである。

諸外国では子宮体癌術後にルーチンで腟断端照射をすることが多い。これは腟断端再発を予防するためであるが,日本では通常行わない。放射線深達度が浅いため,リンパ浮腫との関連は指摘されていない。Karabuga らが腟腔内照射についても報告しているので,ここで紹介する 13)。子宮体癌患者144 人のうち,術後照射として52 人が外照射,76 人が腟腔内照射,16 人は両方を受けた。照射後のQOL をEuropean Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire Core 30と24-item Cervical Cancer Module で評価した。外照射は長期QOL に対しネガティブな影響を与えるが,腔内照射はQOL スコアが良かった(p=0.026)。

ここからは,リンパ節郭清を伴わない主治療としての放射線治療後のリンパ浮腫を含めて検討する。

Nakamura らは,子宮頸癌Ⅰ,Ⅱ期の患者が治療後,復職までの期間について後ろ向きの調査をしており,そのなかでリンパ浮腫発症が復職までの期間を延ばしている因子であると述べている(p=0.049) 14)。なお,リンパ浮腫の定義はNational Lymphedema Network,USA 分類のⅡ期以上としている。患者97 人を,広範子宮全摘術のみ,放射線照射のみ,広範子宮全摘術+照射を行った群に分け,リンパ浮腫の発症について調査した。それぞれのリンパ浮腫発症率は3.4%,9.5%,51.1%で,手術+照射群で有意に高かった(p=0.001)。

Wang らは,FIGO IB-IVA 期で放射線照射あるいは化学放射線療法を受けた自施設患者1,621 人を後ろ向きに調査したところ,40 人に浮腫がみられた(浮腫の基準は述べられていない) 15)。このうち32 人(80%)は血栓関連浮腫で,リンパ浮腫は8 人(20%)であったと述べている。2 群間で有意差があったのは,血栓関連浮腫,リンパ浮腫の順に,年齢中央値51,60(p=0.004),民族,浮腫発現までの期間中央値が放射線照射群で4 カ月,24 カ月(p=0.002),化学放射線療法群で5.25 カ月,24 カ月(p=0.002),血小板数(×103/L)が332185.5(p=0.019)であった。この論文では,放射線治療後の浮腫が血栓関連浮腫かリンパ浮腫かの鑑別には,その発症時期や危険因子の有無が重要であると述べている。また,照射によるリンパ浮腫発症の原因は放射線による微小なリンパ管やリンパ節,周囲の軟部組織の壊死や肉芽化,照射をかけた周囲の正常組織のダメージによる線維化であるとしている。

Kirchheiner らはEMBRACE 試験の解析より,化学放射線療法を受けた患者744 人に対し,治療前,治療後3, 6, 9, 12, 18, 24, 30, 36, 48 カ月でEuropean Organization for Reseach and Treatment of Cancer Quality of Life core module 30(EORTC QLQ-C30)とEORTC cervical cancer module 24(CX24)を調査した 16)。General QOL やemotional and social functioning,腫瘍による症状は治療後6 カ月で治療前より改善するのに対し,治療関連症状(下痢,卵巣欠落症状,末梢神経症状,性機能障害)は治療後すぐに発現し長期に続くが,リンパ浮腫は治療後徐々に発現していくと述べている(頻度に関しては述べていない)。

以上をまとめると,リンパ浮腫発症頻度は,放射線を主治療とした場合は10%未満,リンパ節郭清のみの場合は約30%,術後療法としてリンパ節郭清術後に照射をした場合は約50%である。したがって,リンパ節郭清+照射はリンパ浮腫発症の頻度を高める。わが国でも子宮頸癌や子宮体癌において術後照射が多く行われていたが,現在では術後化学療法による治療が増えている。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2003 年1 月から2017 年8 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND radiation」とした。該当した559 編のうち,乳癌,婦人科癌に関連するもののなかから以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. 放射線治療とリンパ浮腫に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験
  2. Primary endpoint がQOL,リンパ浮腫の発症,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献16 編を得た。

文献

1)
Herd-Smith A, Russo A, Muraca MG, et al. Prognostic factors for lymphedema after primary treatment of breast carcinoma. Cancer. 2001;92(7):1783-7.[PMID:11745250]
2)
Clark B, Sitzia J, Harlow W. Incidence and risk of arm oedema following treatment for breast cancer:a three-year follow-up study. QJM. 2005;98(5):343-8.[PMID:15820971]
3)
Ozaslan C, Kuru B. Lymphedema after treatment of breast cancer. Am J Surg. 2004;187(1):69-72.[PMID:14706589]
4)
Tsai RJ, Dennis LK, Lynch CF, et al. The risk of developing arm lymphedema among breast cancer survivors:a meta-analysis of treatment factors. Ann Surg Oncol. 2009;16(7):1959-72. [PMID:19365624]
5)
Nguyen TT, Hoskin TL, Habermann EB, et al. Breast cancer-related lymphedema risk is related to multidisciplinary treatment and not surgery alone:results from a large cohort study. Ann Surg Oncol. 2017;24(10):2972-80.[PMID:28766228]
6)
Kilbreath SL, Refshauge KM, Beith JM, et al. Risk factors for lymphoedema in women with breast cancer:A large prospective cohort. Breast. 2016;28:29-36.[PMID:27183497]
7)
Kim M, Shin KH, Jung SY, et al. Identification of Prognostic Risk Factors for Transient and Persistent Lymphedema after Multimodal Treatment for Breast Cancer. Cancer Res Treat. 2016;48(4):1330-7.[PMID:26875199]
8)
Shaitelman SF, Chiang YJ, Griffin KD, et al. Radiation therapy targets and the risk of breast cancer-related lymphedema:a systematic review and network meta-analysis. Breast Cancer Res Treat. 2017;162(2):201-15.[PMID:28012086]
9)
Kuroda K, Yamamoto Y, Yanagisawa M, et al. Risk factors and a prediction model for lower limb lymphedema following lymphadenectomy in gynecologic cancer:a hospital-based retrospective cohort study. BMC Womens Health. 2017;17(1):50.[PMID:28743274]
10)
Todo Y, Yamamoto R, Minobe S, et al. Risk factors for postoperative lower-extremity lymphedema in endometrial cancer survivors who had treatment including lymphadenectomy. Gynecol Oncol. 2010;119(1):60-4.[PMID:20638109]
11)
Kim JH, Choi JH, Ki EY, et al. Incidence and risk factors of lower-extremity lymphedema after radical surgery with or without adjuvant radiotherapy in patients with FIGO stage Ⅰ to stage ⅡA cervical cancer. Int J Gynecol Cancer. 2012;22(4):686-91.[PMID:22398707]
12)
Hayes SC, Janda M, Ward LC, et al. Lymphedema following gynecological cancer:Results from a prospective, longitudinal cohort study on prevalence, incidence and risk factors. Gynecol Oncol. 2017;146(3):623-9.[PMID:28624154]
13)
Karabuga H, Gultekin M, Tulunay G, et al. Assessing the quality of life in patients with endometrial cancer treated with adjuvant radiotherapy. Int J Gynecol Cancer. 2015;25(8):1526-33. [PMID:26207785]
14)
Nakamura K, Masuyama H, Ida N, et al. Radical hysterectomy plus concurrent chemoradiation/radiation therapy is negatively associated with return to work in patients with cervical cancer. Int J Gynecol Cancer. 2017;27:117-22.[PMID:27668396]
15)
Wang PL, Cheng YB, Kuerban G. The clinical characteristic differences between thrombosis-related edema and lymphedema following radiotherapy or chemoradiotherapy for patients with cervical cancer. J Radiat Res. 2012;53(1):125-9.[PMID:22302053]
16)
Kirchheiner K, Pötter R, Tanderup K, et al; EMBRACE Collaborative Group. Health-related quality of life in locally advanced cervical cancer patients after definitive chemoradiation therapy including image guided adaptive brachytherapy:an analysis from the EMBRACE Study. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;94(5):1088-98.[PMID:26876955]

CQ10
タキサン系薬剤は続発性リンパ浮腫発症の危険因子か?

  1. タキサン系薬剤は浮腫発症の危険因子である。
    Convincing(確実)
  2. タキサン系薬剤はリンパ浮腫発症の危険因子である。
    Limited-suggestive(可能性あり)

背景・目的

乳癌や婦人科癌において,タキサン系の薬剤は予後改善に重要な役割を果たしており,術後にタキサン系の薬剤を投与されることが多い。腋窩リンパ節郭清後や骨盤リンパ節郭清後に補助療法としてタキサン系薬剤を投与した場合,四肢の浮腫の出現をしばしば経験する。しかし,リンパ節郭清を施行されていない患者でもタキサン系薬剤により四肢の浮腫が発生することがあるため,タキサン系薬剤投与による浮腫は必ずしもリンパ浮腫とはいえない。一般にタキサン系薬剤による浮腫は,血管透過性の亢進による特徴的な有害事象であり,四肢だけでなく体幹にも出現し,胸水や腹水貯留を引き起こすこともある。通常,タキサン系薬剤による浮腫は投与後6 カ月程度で消失するが,乳癌患者の場合は患肢にのみ,婦人科癌の場合は下肢にのみ浮腫が継続し,臨床的にリンパ浮腫と考えられるケースも経験する。血管透過性亢進による浮腫から引き続きリンパ浮腫となる可能性や,その鑑別がつかない場合もあり,十分な注意が必要である。静脈性の浮腫の場合はリンパ浮腫と異なった治療アプローチとなるので,両者に対する理解が必要である。

解説

癌治療に起因するリンパ浮腫発症の危険因子として,患者関連では体重やBMIの増加,治療関連ではリンパ節郭清や領域リンパ節への放射線照射があるが,化学療法も危険因子になり得ることが示されている 1)。特にタキサン系薬剤によるリンパ浮腫についての報告が増加している。文献的には単に浮腫として取り扱っている研究報告と,リンパ浮腫として論じている報告がある。また,タキサン系薬剤として挙げられている薬剤の多くはドセタキセルである。

Roché らは,手術可能なリンパ節転移陽性乳癌患者1,996 人に対する術後治療として,FEC 6 コースを施行する群とFEC 3 コース+ドセタキセル3 コースを施行する群を比較した。本研究の有害事象のデータでは,WHO 基準で分類された中等度から高度の浮腫は,FEC 群995 人中0.3% , FEC+ドセタキセル群1,001 人中4.8%(p<0.001)で,FEC+ドセタキセル群で有意に高かった 2)。Jones らは,Ⅰ-Ⅲ期で根治術が行われた乳癌患者1,016 人に対する補助化学療法で,AC 群(ドキソルビシン+シクロホスファミド)とTC 群(ドセタキセル+シクロホスファミド)を比較した 3)。NCI-CTC(National Cancer Institute-Common ToxicityCriteria) ver.1 で分類された浮腫は,すべてのグレードを合わせると,AC 群は510 人中22 人であったのに対してTC群は506 人中35 人と,有意にTC 群で高率であった。HER2 陽性乳癌に対するドセタキセル/トラスツズマブ(ドセタキセル群)とビノレルビン/トラスツズマブ(ビノレルビン群)を比較したHERNATA 試験では,浮腫の出現はドセタキセル群139 人で31.7%,ビノレルビン群138 人で3.6%(p=0.003)と,ドセタキセル群での浮腫が有意に多かった 4)。これらの研究では,リンパ浮腫ではなく単に浮腫として報告されている。

Lee らは,初期乳癌術後患者63 人に対し,アンスラサイクリンベースの化学療法後にタキサンベースの化学療法を追加し,それぞれの治療前,治療後,タキサン投与終了3 週間後,6 カ月後に,浮腫の程度をBIS および周囲径,症状チェックリストを用いて調べた 5)。その結果,治療後では上肢と下肢の細胞外液量が有意に増加したが,タキサン投与終了6 カ月後では,患肢以外の細胞外液量は治療前に戻ったと報告している。この論文はタキサンと浮腫に関して述べたものではあるが,対象患者の73%に腋窩リンパ節郭清,26%にセンチネルリンパ節生検,85%に照射が行われているため,患肢に関しては,他の四肢に比べ,浮腫が残存しやすく,リンパ浮腫に移行あるいは混合している可能性がある。Swaroop らは,術後のタキサン投与がリンパ浮腫発症のリスクを高めるのか,単に軽度のむくみなのかを明らかにするために,上肢の体積をペロメーターで測定した 6)。リンパ浮腫をrelative volume change(RVC)の術前の10%以上の増加と定義し,5〜10%は軽度浮腫として検討した。1,121 人中324 人(29%)でタキサンを含む化学療法を行った。2 年累積リンパ浮腫発症率は5.27%で,多変量解析では,腋窩郭清(p<0.0001),高い BMI(p=0.007),高齢(p=0.04)がリンパ浮腫発症と関与する因子であり,化学療法の有無やタキサン使用の有無は相関しなかった。ドセタキセルは軽度の浮腫には関与しており,化学療法なしあるいはタキサン以外の化学療法と比較して有意(HR 1.63, p=0.0098,HR 2.15,p=0.02)であった。筆者らは,タキサンの使用によって,浮腫が引き続きリンパ浮腫になることはないと結論付けているが,リンパ浮腫と浮腫の定義の違いがRVCの違いによるものであり,軽度浮腫が本当にリンパ浮腫でないのかは判断が難しい。

タキサンとリンパ浮腫との相関について明記された報告も多数ある。Park らは乳癌患者406 人に対して,アンスラサイクリンとシスプラチンを投与した後,ドセタキセルを投与して手術を施行する術前化学療法のトライアルを実施した 7)。本研究では体重測定とリンパ浮腫に関するセルフレポートを電話によるインタビューで行っている。回答した270 人中97 人(35.9%)がリンパ浮腫を発症していた。体重増加はドセタキセル投与後から始まり,ドセタキセルがリンパ浮腫の発症にかかわっていると報告している。Nguyen らは,Olmsted County Rochester Epidemiology Project Breast Cancer Cohortの0-Ⅲ期の乳癌患者1,794 人を解析し,診療録に,浮腫,リンパ浮腫,上肢の重さ,張り感などと記載されている患者をリンパ浮腫として調査した 8)。累積リンパ浮腫発症率は2 年で6.9%,5 年で9.1%,10 年で11.4%との報告であった。多変量解析にて,化学療法を受けなかった場合と比較して,アンスラサイクリンとタキサンを含んだ化学療法ではリンパ浮腫の発症は2.25倍(p=0.001),アンスラサイクリンのみでは1.68 倍(p=0.04),タキサンのみでは2.65 倍(p=0.02),その他のレジメンでは0.7倍(p=0.5)と,タキサンの使用でリンパ浮腫が増えると報告している。

また,Cariati らは,リンパ節転移陽性で腋窩郭清を受けた乳癌患者273 人を後ろ向きに調査した 9)。リンパ浮腫の診断は理学的所見あるいはペロメーターでの測定による。ペロメーターでは健肢と比較し10%以上の体積増加をリンパ浮腫と定義している。273 人中74 人(27.1%)がリンパ浮腫を発症した。タキサン投与を受けた155 人では52 人(33.5%)がリンパ浮腫を発症し,タキサン投与を受けていない患者と比較して発症率は2.82 倍高かった。しかし,タキサンを術前投与した場合は有意な増加はなかったとしている。その他多くの後ろ向き研究では,タキサン投与がリンパ浮腫と関連していることを報告している 10)11)

タキサン系のドセタキセルとパクリタキセルの浮腫を比較した論文では,Ohsumi ら,Beuselinck らの報告でドセタキセル使用による浮腫が多かった 12)13)

婦人科癌とタキサンに関しての報告はなかった。婦人科癌でリンパ節郭清を施行した場合は両側性リンパ浮腫を発症する可能性があるため,タキサンによる浮腫かリンパ浮腫かは判別しにくい。乳癌の場合は主に一側性であるため,両上肢あるいは下肢まで周囲径が増加している場合は血管透過性亢進が考えられ,また化学療法後,他の部位の浮腫が消えているのに,患肢のみに浮腫が残るのであればリンパ浮腫と考えるべきであろう。

いずれにせよ,タキサン,特にドセタキセル投与後には浮腫が起こりやすく,リンパ浮腫に移行したり,あるいは両者が混在していることが考えられ,一過性の浮腫と考えず,その経過をよく観察し,治療を行うことが必要である。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2003 年1 月から2017 年8月までに出版された英語の医学論文をPubMed によって検索した。検索語は,「lymphedema AND Taxane」とした。該当した39 編のうち,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. タキサン系薬剤使用とリンパ浮腫に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験
  2. Primary endpoint がQOL,リンパ浮腫の発症,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. ④Full-length paper のある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献13 編を得た。

文献

1)
Kim M, Shin KH, Jung SY, et al. Identification of prognostic risk factors for transient and persistent lymphedema after multimodal treatment for breast cancer. Cancer Res Treat. 2016;48(4):1330-7.[PMID:26875199]
2)
Roché H, Fumoleau P, Spielmann M, et al. Sequential adjuvant epirubicin-based and docetaxel chemotherapy for node-positive breast cancer patients:the FNCLCC PACS 01 Trial. J Clin Oncol. 2006;24(36):5664-71.[PMID:17116941]
3)
Jones SE, Savin MA, Holmes FA, et al. Phase Ⅲ trial comparing doxorubicin plus cyclophosphamide with docetaxel plus cyclophosphamide as adjuvant therapy for operable breast cancer. J Clin Oncol. 2006;24(34):5381-7.[PMID:17135639]
4)
Andersson M, Lidbrink E, Bjerre K, et al. Phase Ⅲ randomized study comparing docetaxel plus trastuzumab with vinorelbine plus trastuzumab as first-line therapy of metastatic or locally advanced human epidermal growth factor receptor 2-positive breast cancer:the HERNATA study. J Clin Oncol. 2011;29(3):264-71.[PMID:21149659]
5)
Lee MJ, Beith J, Ward L, et al. Lymphedema following taxane-based chemotherapy in women with early breast cancer. Lymphat Res Biol. 2014;12(4):282-8.[PMID:25411764]
6)
Swaroop MN, Ferguson CM, Horick NK, et al. Impact of adjuvant taxane-based chemotherapy on development of breast cancer-related lymphedema:results from a large prospective cohort. Breast Cancer Res Treat. 2015;151(2):393-403.[PMID:25940996]
7)
Park S, Lee JE, Yu J, et al. Risk factors affecting breast cancer-related lymphedema:Serial body weight change during neoadjuvant anthracycline plus cyclophosphamide followed by taxane. Clin Breast Cancer. 2017 Jun 21. pii:S1526-8209(16)30518-3.[Epub ahead of print][PMID:28705541]
8)
Nguyen TT, Hoskin TL, Habermann EB, et al. Breast cancer-related lymphedema risk is related to multidisciplinary treatment and not surgery alone:results from a large cohort study. Ann Surg Oncol. 2017;24(10):2972-80.[PMID:28766228]
9)
Cariati M, Bains SK, Grootendorst MR, et al. Adjuvant taxanes and the development of breast cancer-related arm lymphoedema. Br J Surg. 2015;102(9):1071-8.[PMID:26040263]
10)
Jung SY, Shin KH, Kim M, et al. Treatment factors affecting breast cancer-related lymphedema after systemic chemotherapy and radiotherapy in stage Ⅱ/Ⅲ breast cancer patients. Breast Cancer Res Treat. 2014;148(1):91-8.[PMID:25253173]
11)
Zhu W, Li D, Li X, et al. Association between adjuvant docetaxel-based chemotherapy and breast cancer-related lymphedema. Anticancer Drugs. 2017;28(3):350-5.[PMID:27997437]
12)
Ohsumi S, Shimozuma K, Ohashi Y, et al. Subjective and objective assessment of edema during adjuvant chemotherapy for breast cancer using taxane-containing regimens in a randomized controlled trial:The National Surgical Adjuvant Study of Breast Cancer 02. Oncology. 2012;82(3):131-8.[PMID:22433221]
13)
Beuselinck B, Wildiers H, Wynendaele W, et al. Weekly paclitaxel versus weekly docetaxel in elderly or frail patients with metastatic breast carcinoma:a randomized phase-Ⅱ study of the Belgian Society of Medical Oncology. Crit Rev Oncol Hematol. 2010;75(1):70-7.[PMID:19651523]

Ⅱ.診断・治療 CQ 11〜21

CQ 11
続発性リンパ浮腫に対して,弾性着衣は標準治療として勧められるか?

推奨グレード

上肢:B
下肢:C1
上肢および下肢リンパ浮腫の患者に対して,弾性着衣は維持期の標準治療として勧められる。

背景・目的

弾性着衣(スリーブ,グローブ,ストッキングなど)は,リンパ浮腫患者に対する圧迫療法の一方法として用いられ,日常の重力による浮腫の増悪を抑制し,患肢の状態をより良好に保持するために着用する。弾性着衣は,主として圧迫療法導入時の集中治療の後にリンパ浮腫の長期管理を目的に用いられることが多い。弾性着衣単独で用いる場合もあるが,複合的治療の一つとして用いられることが多い。維持期の治療は長期に及ぶため,患者の生活パターンに合わせて一日中着用する場合もあれば運動時に着用することもあり,患者の身体的・社会心理的な必要性に応じた対応がなされている。弾性着衣には低圧から超強圧まで4 段階の標準規格が決められており,リンパ浮腫の重症度に合わせて選択されている。既製品,オーダーメイドともに弾性着衣のサイズ選択のための患肢の計測部位が厳格に決められており,サイズの合わないものや誤った着用方法は症状悪化の原因となるため,専門家の指導が必須となる。本CQ では,弾性着衣の有効性について検討した。

解説

上肢に関しては,Rogan らが乳癌術後の上肢リンパ浮腫治療に関する32 編の報告についてメタアナリシスを行い,そのうち9 編のランダム化比較試験でのスリーブ着用による患肢の体積減少効果は平均50 mL でSMD(standardized mean differences)は−0.44,19 編の前後比較試験でのSMD は−0.26 で,維持期における弾性着衣の有効性を示唆している 1)

個々の報告では,Vignes らが,532 人の上肢リンパ浮腫の患者に対する複合的治療の一環としての圧迫療法の有効性を検討している 2)。その報告では,患肢の体積は11 日間の集中治療期に407 mL 減少し,維持期の1 年間での体積の再増加量は84 mL であり,弾性着衣を使用した342 人に対し,使用しなかった34 人の体積増加の相対リスクは1.61 であった。Mestre らの報告では,乳癌術後ISL Ⅱ,Ⅲ期の重症上肢リンパ浮腫患者40 人を対象としたランダム化比較試験にて,日中のスリーブ(auto adjustable sleeve, class Ⅱ 15〜20 mmHg あるいはclass Ⅲ 20〜36 mmHg)の着用に加え,夜間に同一のスリーブを30 日間着用した20 人では,30 日後の患肢の体積増加は46.7 mL(1.8%)で,非着用群の92.2 mL(3.2%)より良好であり,その後60 日間効果が持続した 3)。これらの患者のうち90%は着用時の不快感はなく,70%は着脱が容易と評価していた。King らの,乳癌術後上肢リンパ浮腫の患者21 人を対象とした圧迫療法のランダム化比較試験では,患者をバンデージ(多層包帯)を着用する群とスリーブ(着圧20〜30 mmHg)とグローブを着用する群に分けて2週間の複合的治療を行い,その後,両群とも3 カ月間のスリーブとグローブの着用を行った 4)。10 日後の体積減少量は70 mLと5 mL,3 カ月後の体積減少量は97.5 mL と50 mL で,バンデージ着用群のほうが体積の減少量が多かった(p=0.18)が,スリーブ着用群のほうが着用時の可動性が良好であった(p=0.065)。

一方で,Maher らは,乳癌術後上肢リンパ浮腫の患者30 人に対し60 分間のリンパドレナージを行い,その後の30 分間の安静時に弾性着衣(class Ⅱ,20〜30 mmHg)を着用する群と着用しない群に分けて比較したが,浮腫の体積減少率は2%以下で短時間では両群間に差がなかったと報告している 5)

下肢に関しては,Sawan らが外陰癌13 人のランダム化比較試験にて,6 カ月間弾性着衣(class Ⅱ,15〜20 mmHg)を着用した6 人での患肢の体積増加は607 mL で非着用群の953 mL よりも少なく(p=0.01),着用群での活動指標も良好であったと報告している 6)。Sierakowski らは,続発性早期リンパ浮腫の患者9 人と同数の健常者との比較試験にて,トレッドミルでの運動時のスポーツタイツ(着圧:くるぶし19 mmHg, 臀部9 mmHg)着用の有効性を検討した 7)。BIS 法による測定で,両群とも運動により下肢の皮下水分量は増加したが,タイツ着用の有無で比較すると着用による抑制効果は浮腫の患者で47 mL(p=0.03),健常者で49 mL(p=0.18)だった。

上・下肢複合のシステマティック・レビューでは,Lasinski らが2011 年までの43 編の報告を検討し,複合的治療の一環としての圧迫療法が有効であることを示唆している 8)。Finnane らの弾性着衣に関する8 編の報告の検討では,弾性着衣(着圧:30〜40 mmHg)単独による体積減少効果は最大24%であった 9)。個々の報告では,上・下肢のリンパ浮腫患者49 人(下肢は16 人)に対する24 週間のストッキング着用にて患肢の体積減少率は15.8%との報告があり 10),5 カ国のリンパ浮腫患者94 人を対象とした夜間圧迫療法の有無による前後比較研究では,夜間の圧迫療法により80%の患者で浮腫の増悪が抑制できたが,圧迫療法を行わない場合は89%の患者で患肢の外周径が増加した 11)

以上のことから,少数例の検討も多く,検討方法もさまざまではあるが,弾性着衣は維持期における長期間の着用によりリンパ浮腫軽減効果あるいは増悪抑制効果があると考えられ,弾性着衣はリンパ浮腫に対する標準治療として勧められる。下肢については,上肢に比べ報告が少なく推奨度はC1 とした。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2013 年2 月から2017 年4 月までに出版された英語の論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND(compression OR MLLB OR bandage)」「lymphedema AND (compression OR garment OR sleeve)」とした。該当したそれぞれ300 編,302 編のうち重複を除外した計314 編から,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。さらに,本ガイドライン2014 年版の文献も引用した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者における診断・治療に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化試験,システマティック・レビュー
  2. Primary endpointがQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paperのある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献11 編を得た。

文献

1)
Rogan S, Taeymans J, Luginbuehl H, et al. Therapy modalities to reduce lymphoedema in female breast cancer patients:a systematic review and meta-analysis. Breast Cancer Res Treat. 2016;159(1):1-14.[PMID:27460637]
2)
Vignes S, Porcher R, Arrault M, et al. Long-term management of breast cancer-related lymphedema after intensive decongestive physiotherapy. Breast Cancer Res Treat. 2007;101(3):285-90.[PMID:16826318]
3)
Mestre S, Calais C, Gaillard G, et al. Interest of an auto-adjustable nighttime compression sleeve(MOBIDERM® Autofit)in maintenance phase of upper limb lymphedema:the MARILYN pilot RCT. Support Care Cancer. 2017;25(8):2455-62.[PMID:28281052]
4)
King M, Deveaux A, White H, et al. Compression garments versus compression bandaging in decongestive lymphatic therapy for breast cancer-related lymphedema:a randomized controlled trial. Support Care Cancer. 2012;20(5):1031-6.[PMID:21553314]
5)
Maher J, Refshauge K, Ward L, et al. Change in extracellular fluid and arm volumes as a consequence of a single session of lymphatic massage followed by rest with or without compression. Support Care Cancer. 2012;20(12):3079-86.[PMID:22410862]
6)
Sawan S, Mugnai R, Lopes Ade B, et al. Lower-limb lymphedema and vulval cancer:feasibility of prophylactic compression garments and validation of leg volume measurement. Int J Gynecol Cancer. 2009;19(9):1649-54.[PMID:19955953]
7)
Sierakowski K, Piller N. Pilot study of the impact of sporting compression garments on composition and volume of normal and lymphedema legs. Lymphology. 2014;47(4):187-95.[PMID:25915979]
8)
Lasinski BB, McKillip Thrift K, et al. A systematic review of the evidence for complete decongestive therapy in the treatment of lymphedema from 2004 to 2011. PM R. 2012;4(8):580-601. [PMID:22920313]
9)
Finnane A, Janda M, Hayes SC. Review of the evidence of lymphedema treatment effect. Am J Phys Med Rehabil. 2015;94(6):483-98.[PMID:25741621]
10)
Badger CM, Peacock JL, Mortimer PS. A randomized, controlled, parallel-group clinical trial comparing multilayer bandaging followed by hosiery versus hosiery alone in the treatment of patients with lymphedema of the limb. Cancer. 2000;88(12):2832-7.[PMID:10870068]
11)
Whitaker JC. Lymphoedema management at night:views from patients across five countries. Br J Community Nurs. 2016;21(Suppl 10):S22-S30.[PMID:27715142]

CQ 12
続発性リンパ浮腫に対して,多層包帯法(MLLB)は標準治療として勧められるか?

推奨グレード

上肢:B
下肢:C1
リンパ浮腫患者に対して,多層包帯法(MLLB)は特に集中治療期の標準治療として勧められる。

背景・目的

多層包帯法(multi-layer lymphedema bandaging;MLLB)はリンパ浮腫患者に対する圧迫療法の一方法で,複合的治療の一環として行われることが多く,リンパ浮腫患者の集中治療期において浮腫の速やかな軽減のために用いられている。治療期間は1〜6 週間と幅があるものの,週5 日以上,1 日中包帯を着用することが勧められており,リンパ浮腫の軽減による着圧の低下に対応するために短期間での巻き直しが必要とされている。通常,MLLB には非弾性包帯を使用するが,非弾性包帯着用による患者の生活行動の負担を軽減するために,弾性包帯を用いる試みや,新たな圧迫素材の開発も行われている。本CQでは,リンパ浮腫治療におけるMLLB の有効性を検討する。

解説

上肢に関しては,Rogan らが乳癌術後の上肢リンパ浮腫治療に関する32 編の報告についてメタアナリシスを行い,そのうち19 編の前後比較試験での体積減少効果に関するSMD(standardized mean differences)は,バンデージ(MLLB)−0.33,スリーブ−0.26,運動療法−0.074,間欠的空気圧迫療法0.013で,バンデージが最も良好であった 1)

個々の報告では,Smykla らが乳癌術後Ⅱ・Ⅲ期の重症リンパ浮腫患者65 人において,MLLB を1 カ月間着用した前後で患肢の体積が53%減少しており(p<0.001) 2),McNeely らも上肢リンパ浮腫患者50 人において4 週間のMLLB 着用により患肢の体積が平均38.6%減少した(p<0.001)と報告している 3)。King らは乳癌術後上肢リンパ浮腫の患者21 人を対象とした圧迫療法のランダム化比較試験にて,患者をバンデージを着用する群と弾性着衣を着用する群に分け2 週間の治療を行い,その後両群とも3 カ月間弾性着衣の着用を行った 4)。10 日目(70 mL vs. 5 mL,p=0.387),3 カ月目(97.5 mL vs. 50 mL,p=0.182)ともにバンデージ着用群において患肢の体積減少が多かった。Vignesらは乳癌術後リンパ浮腫患者537 人に低圧のMLLB 着用を含む複合的治療の前向き試験を行い,介入前は1,054±633 mL だった患肢の体積が介入後には647±351 mL に減少した(p<0.0001) 5)。また,維持期にリンパ浮腫が増悪するリスクは,MLLB とスリーブを用いた場合に比べ,用いなかった場合は50%増加することを示した(p<0.0001)。

上・下肢複合のシステマティック・レビューでは,Fu らがバンデージに関する5 編の研究と1 編のレビューを検討し,バンデージをリンパ浮腫の治療法として「推奨」と位置付けている 6)。Finnane らは7 編のレビューを中心とした報告からバンデージ単独の効果を評価し,体積減少効果は38%で,効果維持期間は6 カ月に達するとしている 7)

個々の報告では,Badger らが上・下肢リンパ浮腫患者83 人(下肢は29 人)を対象として18 日間のMLLB+24 週間の弾性着衣着用群と24 週間の弾性着衣単独着用群を比較し,24 週間後の体積減少率がMLLB 併用群にて高かった(31% vs 15.8%,p<0.001)と報告している 8)

また,最近では従来のMLLB 素材に代わる新素材の検討も行われており,Smile らのレビューではkinesiology tape による上肢リンパ浮腫に対する体積減少効果を示す報告が2 編ある 9)。また,Kasseroller らが乳癌患者61 人に対しランダム化比較試験を行い,alginate semi-rigid bandage の体積減少効果と着用の快適性を報告している 10)。Damstra らは下肢リンパ浮腫の患者30 人に対するランダム化比較試験にてACW(adjustable compression wrap divices)と従来のバンデージを比較し,24 時間の着用にて患肢の体積減少はACW では339 mL(10.3%),バンデージでは190 mL(5.9%)と有意差を認め(p<0.05),ACW は看護師による装着でも患者自身による装着でも着圧に差はなかったと報告している 11)

なお,重症動脈閉塞〔ankle brachial pressure index(ABPI)0.5 未満,また足尖の動脈圧30 mmHg 未満の状態〕は圧迫療法の禁忌となる 12)。ABPI 0.5 以上でも,0.8 未満の場合には着圧に注意が必要である。また,バンデージによる上肢の末梢神経麻痺の報告もあり,注意が必要である 13)

以上のことから,質の高い研究は少ないが,多くの報告でMLLB のリンパ浮腫に対する体積減少効果が示されており,MLLBはリンパ浮腫の特に集中治療期における標準治療として勧められる。下肢については,上肢に比べ報告が少なく推奨グレードはC1 とした。新素材については,着用時の快適性や簡便性を検討した報告もみられるが,単一の報告が多く,現時点では有効性に言及するエビデンスに乏しい。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2013 年2 月から2017 年4 月までに出版された英語の論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND(compression OR MLLB OR bandage)」「lymphedema AND(compression OR garment OR sleeve)」とした。該当したおのおの300 編,302 編のうち重複を除外した計314 編から,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。さらに,本ガイドライン2014 年版の文献も引用した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者における診断・治療に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化試験,システマティック・レビュー
  2. Primary endpointがQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paperのある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library, UpToDate, Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献13 編を得た。

文献

1)
Rogan S, Taeymans J, Luginbuehl H, et al. Therapy modalities to reduce lymphoedema in female breast cancer patients:a systematic review and meta-analysis. Breast Cancer Res Treat. 2016;159(1):1-14.[PMID:27460637]
2)
Smykla A, Walewicz K, Trybulski R, et al. Effect of Kinesiology Taping on breast cancer-related lymphedema:a randomized single-blind controlled pilot study. Biomed Res Int. 2013;2013:767106.[PMID:24377096]
3)
McNeely ML, Magee DJ, Lees AW, et al. The addition of manual lymph drainage to compression therapy for breast cancer related lymphedema:a randomized controlled trial. Breast Cancer Res Treat. 2004;86(2):95-106.[PMID:15319562]
4)
King M, Deveaux A, White H, et al. Compression garments versus compression bandaging in decongestive lymphatic therapy for breast cancer-related lymphedema:a randomized controlled trial. Support Care Cancer. 2012;20(5):1031-6.[PMID:21553314]
5)
Vignes S, Porcher R, Arrault M, et al. Long-term management of breast cancer-related lymphedema after intensive decongestive physiotherapy. Breast Cancer Res Treat. 2007;101(3):285-90.[PMID:16826318]
6)
Fu MR, Deng J, Armer JM. Putting evidence into practice:cancer-related lymphedema. Clin J Oncol Nurs. 2014;18 Suppl:68-79.[PMID:25427610]
7)
Finnane A, Janda M, Hayes SC. Review of the evidence of lymphedema treatment effect. Am J Phys Med Rehabil. 2015;94(6):483-98.[PMID:25741621]
8)
Badger CM, Peacock JL, Mortimer PS. A randomized, controlled, parallel-group clinical trial comparing multilayer bandaging followed by hosiery versus hosiery alone in the treatment of patients with lymphedema of the limb. Cancer. 2000;88(12):2832-7.[PMID:10870068]
9)
Smile TD, Tendulkar R, Schwarz G, et al. A review of treatment for breast cancer-related lymphedema:Paradigms for clinical practice. Am J Clin Oncol. 2018;41(2):178-90.[PMID:28009597]
10)
Kasseroller RG, Brenner E. A prospective randomised study of alginate-drenched low stretch bandages as an alternative to conventional lymphologic compression bandaging. Support Care Cancer. 2010;18(3):343-50.[PMID:19484485]
11)
Damstra RJ, Partsch H. Prospective, randomized, controlled trial comparing the effectiveness of adjustable compression Velcro wraps versus inelastic multicomponent compression bandages in the initial treatment of leg lymphedema. J Vasc Surg Venous Lymphat Disord. 2013;1(1):13-9. [PMID:26993887]
12)
Flour M, Clark M, Partsch H, et al. Dogmas and controversies in compression therapy:report of an International Compression Club(ICC)meeting, Brussels, May 2011. Int Wound J. 2013;10(5):516-26.[PMID:22716023]
13)
Kara M, Ozçakar L, Malas FU, et al. Median, ulnar, and radial nerve entrapments in a patient with breast cancer after treatment for lymphedema. Am Surg. 2011;77(2):248-9.[PMID:21337898]

CQ 13
  1. a.続発性リンパ浮腫に対して,用手的リンパドレナージ(MLD)は標準治療として勧められるか?
  2. b.続発性リンパ浮腫に対して,シンプルリンパドレナージ(SLD)は標準治療として勧められるか?

推奨グレード

上肢:C1
下肢:C1
  1. a.リンパ浮腫患者に対する用手的リンパドレナージ(MLD)の有効性に関する質の高い根拠は上肢・下肢ともに少なく,症例の選択は慎重に行われるべきである。
推奨グレード

上肢:C2
下肢:C2
  1. b.シンプルリンパドレナージ(SLD)はMLDと併用されることが多く,単独のSLD は上肢・下肢ともにさらに科学的根拠に乏しく勧められない。

背景・目的

リンパ浮腫に対するリンパドレナージについては数多くの報告がなされている。リンパドレナージには用手的リンパドレナージ(manual lymphatic drainage;MLD)とシンプルリンパドレナージ(simple lymphatic drainage;SLD)がある。MLD は障害のあるリンパ経路の活動を増やし,リンパ管を迂回することによって停滞しているリンパ流を改善することができる。さらに,SLD はより簡便で患者および家族が自宅で適切に行える方法である。しかしながら,MLD の有効性や適切な回数・方法は確立されていないのが実状である。本CQ ではMLD とSLD の治療効果について検討した。

解説

1)上肢について

上肢リンパ浮腫に対するMLD とSLD の治療効果について,Williams らは乳癌治療に伴うリンパ浮腫を有する女性患者31 人を,MLD 治療を3 週間毎日行い,無治療期間6 週間を経て,SLD 治療を3 週間毎日行う群と,SLD 治療を3 週間毎日行い,無治療期間6 週間を経て,MLD 治療を3 週間毎日行う群にランダムに割り付け,浮腫の改善率をみた 1)。結果として,MLD とSLD の統計的有意差はみられなかったが,ともに介入前に比べ有意にリンパ浮腫の改善はみられた。

Andersen らは乳癌に伴うリンパ浮腫を有する女性患者42 人を2 群に分けた 2)。標準療法群は弾性スリーブ,スキンケア,運動療法を行い,治療群は標準療法にリンパドレナージ(2 週間に8 回MLD を受け,自宅で毎日SLD を行う)を追加することによりリンパドレナージの効果を検討した。結果は両群ともに浮腫の軽減はみられたが,両群間に有意差はなかった。

Gradalski らは,乳癌術後にリンパ浮腫になった51 人をMLD+複合的治療施行群(25 人)と複合的治療施行のみの群(26 人)に分け,26 週間後の治療効果を前向きに判定した 3)。結果,MLD の上乗せ効果はみられなかった。

以上のように,上肢に対するMLD の治療効果はおのおの症例数も少なく,見解が分かれていたが,2016 年にShao らが,乳癌術後のリンパ浮腫に対する圧迫療法にMLD を追加する効果について,PubMed, EMBASE, Cochrane Library からシステマティック・レビューを行った 4)。“lymphedema”と“lymphoedema”というキーワードで1990〜2015 年から抽出した732 論文中,評価し得る論文は4 編あった。結果として,圧迫療法にMLD を追加する効果は統計学的に有意に認められた。

以上より,上肢リンパ浮腫に対する治療としてMLD とSLD 単独の効果はいまだ不明瞭であるが,圧迫療法を含む標準療法にMLD の追加効果はある可能性が高い。その結果,推奨としてMLD は患者の意向に一致し効果が期待される場合にのみ行うとし,その実施の可否は主治医の判断にゆだねられる。SLD 単独による効果はさらに報告数が少ないため勧められない。

2)下肢について

次に,下肢に対するMLD とSLD の治療効果として,Szuba らは四肢リンパ浮腫に対する複合的治療(MLD と弾性包帯による圧迫)について前向き試験を行った 5)。治療は四肢リンパ浮腫患者79 人に対してMLD を30〜60 分間行い,治療3 日目からSLD を開始した。MLD 後は弾性包帯による圧迫を行った。結果として,浮腫の減少は上肢が38%±56%,下肢が41%±27%であった。

また,Liao らは四肢リンパ浮腫に対する複合的治療(MLD と弾性包帯による圧迫)について前向き試験を行った 6)。四肢リンパ浮腫患者30 人に対して複合的治療を行い,治療前と後では有意に改善を認めた。

よって,下肢リンパ浮腫に対する治療としてのMLD は,患者の意向を十分に検討し,かつ効果がはっきりと評価される場合に限り行うことを推奨する。SLD 単独施行は報告例も少なく勧められない。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2008 年1 月から2016 年12 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND(manual drainage OR MLD OR SLD)」とし,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者における診断・治療に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験
  2. Primary endpoint がQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,または生命予後のもの,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paperのある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン・レビュー論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献6 編を得た。

文献

1)
Williams AF, Vadgama A, Franks PJ, et al. A randomized controlled crossover study of manual lymphatic drainage therapy in women with breast cancer-related lymphoedema. Eur J Cancer Care(Engl). 2002;11(4):254-61.[PMID:12492462]
2)
Andersen L, Højris I, Erlandsen M, et al. Treatment of breast-cancer-related lymphedema with or without manual lymphatic drainage-a randomized study. Acta Oncol. 2000;39(3):399-405.[PMID:10987238]
3)
Gradalski T, Ochalek K, Kurpiewska J. Complex decongestive lymphatic therapy with or without vodder Ⅱ manual lymph drainage in more severe chronic postmastectomy upper limb lymphedema:a randomized noninferiority prospective study. J Pain Symptom Manage. 2015;50(6):750-7.[PMID:26303187]
4)
Shao Y, Zhong DS. Manual lymphatic drainage for breast cancer-related lymphoedema. Eur J Cancer Care(Engl). 2017;26(5).[PMID:27167238]
5)
Szuba A, Cooke JP, Yousuf S, et al. Decongestive lymphatic therapy for patients with cancer-related or primary lymphedema. Am J Med. 2000;109(4):296-300.[PMID:10996580]
6)
Liao SF, Huang MS, Li SH, et al. Complex decongestive physiotherapy for patients with chronic cancer-associated lymphedema. J Formos Med Assoc. 2004;103(5):344-8.[PMID:15216399]

CQ 14
  1. a.続発性リンパ浮腫に対して,圧迫療法や用手的リンパドレナージ(MLD)に間欠的空気圧迫療法(IPC)を加えることは予防の一環として勧められるか?
  2. b.続発性リンパ浮腫に対して,圧迫療法や用手的リンパドレナージ(MLD)に間欠的空気圧迫療法(IPC)を加えることは標準治療として勧められるか?

推奨グレード

上肢:推奨度評価なし
下肢:推奨度評価なし
  1. a.間欠的空気圧迫療法(IPC)の上肢・下肢リンパ浮腫の予防に関しては論文が得られなかったため,推奨度は評価できない。
推奨グレード

上肢:C2
下肢:C2
  1. b.間欠的空気圧迫療法(IPC)の上肢リンパ浮腫の治療効果については一定の見解が得られていない。そのため患者の意向に一致し,効果が期待される場合にのみ行うことが推奨され,その実施の可否は主治医の判断にゆだねられる。下肢についても有効性がある可能性はあるが,エビデンスが少なく,さらなる研究が必要である。

背景・目的

間欠的空気圧迫療法(intermittent pneumatic compression;IPC)は通常,患者をバッグに包み,空気圧によってリンパ管の流れを促すもので,浮腫治療に有効であるとされてきた。通常,1 サイクル30 分,圧は30〜40 mmHg で行われ,末梢側から腋窩に向かって圧をかける。しかしながら,MLDのように腋窩(中枢側)に近いところから圧をかける場合と異なるため,IPC の有効性や適切な回数・方法が確立されていないのが実状である。本CQ ではIPC の治療効果について検討した。

解説

1)上肢について

上肢リンパ浮腫に対する治療として,IPC については以前より数多くの報告がなされてきた。Haghighat らは,乳癌術後上肢リンパ浮腫患者に対するIPC について,圧迫療法単独と圧迫療法とIPC を併用した場合の安全性と効果について比較・調査するため,ランダム化前向き試験を行った 1)。リンパ浮腫になった112 人の乳癌術後の患者をランダム化割り付けし,グループ1 は圧迫療法のみ,グループ2 では圧迫療法と圧迫施術の間にIPC を毎日行った。結果として,両群ともに治療前より浮腫は軽減していたが,圧迫療法単独よりIPC を併用するほうが改善率は低かった(43.1% vs. 37.5%;p=0.036)。

Szolnoky らは,乳癌術後上肢リンパ浮腫患者に対して,MLD 療法単独とMLD とIPC を併用した場合の安全性と効果について比較・調査するため,ランダム化前向き試験を行った 2)。リンパ浮腫になった乳癌術後の患者27 人を2 群に分けた。グループ1はMLD 60 分を1 日1 回,グループ2 ではMLD 30 分とIPC 30 分を1 日1 回毎日行った。結果として両群ともに治療前より浮腫は軽減し,MLD 単独よりIPC を併用するほうが14 日目から有意に改善した。

Fife らは,乳癌術後上肢リンパ浮腫患者に対して,通常のIPC〔a standard pneumatic compression device(SPCD)〕とプログラム化できるIPC〔an advanced pneumatic compression device(APCD)〕の安全性と効果について比較・調査するため,ランダム化前向き試験を行った 3)。乳癌術後にリンパ浮腫になった患者36 人を2 群に分けた。グループ1 はSPCD を1 日1 回1 時間,グループ2はAPCD を1 日1 回1 時間,両群ともに12 週間毎日行った。結果は両群ともに治療前より浮腫は軽減し,SPCD では16%,APCD では29%,浮腫が軽減した。

Uzkeser らは,リンパ浮腫になった患者31 人を2 群に分け,前向きに検討した 4)。グループ1(15 人)は複合的治療を行い,グループ2(16 人)は複合的治療とIPC を行い,IPC は週5 回×45 分間(40 mmHg)で行った。両群ともに治療前と開始後3,7 週間後で評価を行った。結果は両群ともに治療前より浮腫は軽減したが,IPC の上乗せ効果はなかった。

Shao らは,乳癌術後上肢リンパ浮腫患者に対するIPC のランダム化比較試験のメタアナリシスを行った 5)。1990〜2013 年の1,663 論文を抽出し,そのうち最終的に7 つのランダム化比較試験を選び,検討を行った。結果としてIPC の有意な上乗せ効果は認めなかった。

以上より,IPC による治療の有効性には一定の見解が得られていない。そのため患者の意向に一致し,効果が期待される場合にのみ行うことが推奨され,その実施の可否は主治医の判断にゆだねられる。また,IPC による増悪予防に関する論文(英文)はみつからず,今後の研究が待たれる。

2)下肢について

Taradaj らは,下肢リンパ浮腫患者81 人を3 群に分け,圧を変えたIPC の効果を12-chamber apparatus Lymphatron DL1200(Technomex LLC, Gliwice, Upper Silesia, Poland)を用いて前向きに検討した 6)。グループAでは通常の圧迫療法にIPC(120 mmHg)を併用,グループB では通常の圧迫療法にIPC(60 mmHg)を併用,グループC では圧迫療法のみとして検討した。結果として,圧迫療法にIPC(120 mmHg)を併用することで効果が認められた。

Blumberg らは,続発性下肢リンパ浮腫を発症した患者70 人にIPC を用い,有意に軽減効果を認め,蜂窩織炎や潰瘍も軽減したと報告している 7)

Kitayama らは,下肢リンパ浮腫患者に対するIPC を用いたリアルタイムな効果について検討した 8)。患者17 人(婦人科癌14 人,大腸癌3 人)に対してメドマーPM8000® を着用し,ICG 0.05 mL を皮内注射し,PDE にて流れを観察し,実際のICG の蛍光を測定した。結果としてIPC を行うことによってICG は流れており,リンパ浮腫の治療になり得る可能性を示唆した。

以上より,近年下肢リンパ浮腫に対するIPC による治療の有効性を示す報告がなされてきてはいるが,報告が少ないためさらなる研究の集積が必要である。また,上肢と同様に,下肢リンパ浮腫に対するIPC による増悪予防に関する論文(英文)はみつからず,今後の研究が待たれる。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2008 年1 月から2016 年12 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND Intermittent Pneumatic compression」とした。
該当した3,995 編のうち,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者における診断・治療に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験
  2. Primary endpoint がQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,または生命予後のもの,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン・レビュー論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献8 編を得た。

文献

1)
Haghighat S, Lotfi-Tokaldany M, Yunesian M, et al. Comparing two treatment methods for post mastectomy lymphedema:complex decongestive therapy alone and in combination with intermittent pneumatic compression. Lymphology. 2010;43(1):25-33.[PMID:20552817]
2)
Szolnoky G, Lakatos B, Keskeny T, et al. Intermittent pneumatic compression acts synergistically with manual lymphatic drainage in complex decongestive physiotherapy for breast cancer treatment-related lymphedema. Lymphology. 2009;42(4):188-94.[PMID:20218087]
3)
Fife CE, Davey S, Maus EA, et al. A randomized controlled trial comparing two types of pneumatic compression for breast cancer-related lymphedema treatment in the home. Support Care Cancer. 2012;20(12):3279-86.[PMID:22549506]
4)
Uzkeser H, Karatay S, Erdemci B, et al. Efficacy of manual lymphatic drainage and intermittent pneumatic compression pump use in the treatment of lymphedema after mastectomy:a randomized controlled trial. Breast Cancer. 2015;22(3):300-7.[PMID:23925581]
5)
Shao Y, Qi K, Zhou QH, et al. Intermittent pneumatic compression pump for breast cancer-related lymphedema:a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Oncol Res Treat. 2014;37(4):170-4.[PMID:24732640]
6)
Taradaj J, Rosińczuk J, Dymarek R, et al. Comparison of efficacy of the intermittent pneumatic compression with a high- and low-pressure application in reducing the lower limbs phlebolymphedema. Ther Clin Risk Manag. 2015;11:1545-54.[PMID:26504396]
7)
Blumberg SN, Berland T, Rockman C, et al. Pneumatic compression improves quality of life in patients with lower-extremity lymphedema. Ann Vasc Surg. 2016;30:40-4.[PMID:26256706]
8)
Kitayama S, Maegawa J, Matsubara S, et al. Real-time direct evidence of the superficial lymphatic drainage effect of intermittent pneumatic compression treatment for lower limb lymphedema. Lymphat Res Biol. 2017;15(1):77-86.[PMID:28323573]

CQ 15
続発性リンパ浮腫に対して,運動(エクササイズ)は治療として勧められるか?

推奨グレード

上肢:B
下肢:C1
乳癌術後の上肢リンパ浮腫は,運動により軽減し得る。
一方,下肢リンパ浮腫については,ランダム化比較試験はないが,負荷を伴う運動(伸縮性のバンデージを付けた状態での運動プログラム)が下肢の浮腫を軽減し得る,とする前向き研究が一つだけ存在する。したがって,行ってもよいが,十分な根拠はない。

背景・目的

癌治療後のQOL の向上に,運動(エクササイズ)が役立つことが知られている。続発性リンパ浮腫に対しても,四肢の運動あるいは全身運動が浮腫の軽減をもたらすことが期待される。最近,さまざまな種類のエクササイズに関する報告も増えてきたため,これらの論文をまとめた。

解説

続発性リンパ浮腫に対する運動(エクササイズ)の治療効果に関しても,論文が少しずつ増えてきている。

Sener らは,乳癌治療後リンパ浮腫患者に対するピラティス運動の効果を検討した 1)。ピラティス運動を受ける群(30 例)とリンパ浮腫のための標準的運動療法を受ける群(30 例)の2 群に分け,リンパ浮腫の程度,四肢の周径,ボディイメージ,上肢機能を比較した。治療後,どちらの群も症状は有意に改善した。リンパ浮腫の程度を含め,すべてのパラメーターでピラティスのほうが改善の度合いが大きかった。Di Blasio らは,乳癌サバイバーのために考案されたノルディックウォーキング(NW)やウォーキング(W)と,独自に考案したISA法の組み合わせが上肢周径と細胞外液に及ぼす効果をみた 2)。トレーニング方法の組み合わせを変えた4 つの群で比較した結果,NW は単独でもISA 法との組み合わせでも上肢の周径が有意に減少した。W は単独では効果がなくISA 法を組み合わせた場合にのみ,上肢の周径が有意に減少した。Smoot らは,片側乳癌治療後の133 例でトレッドミル歩行の前後で上肢の生体インピーダンスを測定した 3)。彼らの用いた指標では抵抗比(resistance ratio;RR)>1 が患側肢の体積が大きくなっていることを示すが,リンパ浮腫のあった63 例ではトレッドミル歩行前が1.116(SD 0.160),歩行後1.108(SD 0.155)であった。リンパ浮腫のない70 例ではそれぞれ0.990(SD 0.041),1.001(SD 0.044)であった。リンパ浮腫のあった群ではトレッドミル歩行後に(有意ではないが)RR の減少がみられ,上肢間の体積の差が減ることが示唆された。

Schmitz らは,予防と同一のプログラムで行ったランダム化比較試験で,介入終了1 年後のリンパ浮腫増悪は介入群11% vs. 対照群12%,他覚的な増悪所見はそれぞれ14% vs. 29%との結果を得たことから,負荷を漸増させていくウェイトリフティングはリンパ浮腫の増悪頻度を減らし,症状軽減と筋力向上に寄与したと報告した 4)。ほかにも症例数は少ないが自宅でのエクササイズや負荷運動の介入によるランダム化比較試験で,介入群の上肢体積が有意に減少したという結果が得られていた 5)6)

以上より,術後の負荷運動は上肢リンパ浮腫の憎悪予防に対し,概ね有効性を示す報告が出ており,推奨グレードはB とした。

下肢リンパ浮腫に対する運動療法について,Fukushima らは下肢リンパ浮腫のある23 例に対して圧迫療法を伴う運動療法(active excercise with compression therapy;AECT)の効果を調べた 7)。AECT は伸縮性のバンデージを付けた状態で自転車エルゴメーターを使って行われた。高負荷AECT,低負荷AECT,圧迫療法のみ(compression therapy;CT),の3 つの介入方法を組み合わせた。それぞれ15 分間行い,1 週間の休止期間を設けた。下肢の体積はペロメーターで評価した。下肢体積の減少は3 つの介入方法で異なった(p=0.04)。下肢体積はCT に対して高負荷AECT で有意に減少した(p=0.02)。ただし,各介入方法の間の期間では下肢体積に有意差はなかった(p=0.79)。身体症状と皮膚症状はどの介入方法でも同様であったが,介入前の皮膚症状は高負荷および低負荷AECT 後で程度が軽かった。これ以外の,下肢リンパ浮腫に対する運動の治療効果に関する研究報告は症例集積研究のみであった 8)9)。Katz らは10 例の検討で,週2 回8 週間のウェイトトレーニングによりリンパ浮腫が増悪することなく,筋力と歩行テストに有意な向上が認められたと報告している 8)

下肢リンパ浮腫の運動の効果については,治療について有効性を示す前向き研究が1 件存在するのみとなる。結論を得るためにはまだエビデンスが少なく,さらなる研究が待たれる。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2003 年1 月から2017 年8 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND exercise」とした。該当した458 編のうち,原発性とフィラリア症関連を削除し,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者における診断・治療に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験
  2. ②Primary endpoint がQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献9 編を得た。

文献

1)
Şener HÖ, Malkoç M, Ergin G, et al. Effects of clinical pilates exercises on patients developing lymphedema after breast cancer treatment:a randomized clinical trial. J Breast Health. 2017;13(1):16-22.[PMID:28331763]
2)
Di Blasio A, Morano T, Bucci I, et al. Physical exercises for breast cancer survivors:effects of 10 weeks of training on upper limb circumferences. J Phys Ther Sci. 2016;28(10):2778-84. [PMID:27821934]
3)
Smoot B, Zerzan S, Krasnoff J, et al. Upper extremity bioimpedance before and after treadmill testing in women post breast cancer treatment. Breast Cancer Res Treat. 2014;148(2):445-53. [PMID:25338320]
4)
Schmitz KH, Ahmed RL, Troxel A, et al. Weight lifting in women with breast-cancer-related lymphedema. N Engl J Med. 2009;361(7):664-73.[PMID:19675330]
5)
Jeffs E, Wiseman T. Randomised controlled trial to determine the benefit of daily home-based exercise in addition to self-care in the management of breast cancer-related lymphoedema:a feasibility study. Support Care Cancer. 2013;21(4):1013-23.[PMID:23073712]
6)
Kim DS, Sim YJ, Jeong HJ, et al. Effect of active resistive exercise on breast cancer-related lymphedema:a randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil. 2010;91(12):1844-8. [PMID:21112424]
7)
Fukushima T, Tsuji T, Sano Y, et al. Immediate effects of active exercise with compression therapy on lower-limb lymphedema. Support Care Cancer. 2017;25(8):2603-10.[PMID:28386788]
8)
Katz E, Dugan NL, Cohn JC, et al. Weight lifting in patients with lower-extremity lymphedema secondary to cancer:a pilot and feasibility study. Arch Phys Med Rehabil. 2010;91(7):1070-6.[PMID:20599045]
9)
Holtgrefe KM. Twice-weekly complete decongestive physical therapy in the management of secondary lymphedema of the lower extremities. Phys Ther. 2006;86(8):1128-36.[PMID:16879046]

CQ 16
続発性リンパ浮腫に対してリンパ管細静脈吻合術を行った場合,行わなかった場合と比べてリンパ浮腫は改善するか?

推奨グレードC2
ISL Ⅱ・Ⅲ期の重症リンパ浮腫に対するリンパ管細静脈吻合術の有効性に関する研究結果は概ね一致しているが,術式が標準化されておらず,ほとんどが症例集積研究である。複合的治療に抵抗し,蜂窩織炎を繰り返す難治症例に対して,十分に患者の理解を得たうえで考慮し得る術式である。予防についてはランダム化比較試験が存在し,メタアナリシスでも有効性が示されたが,術式の標準化とさらに上質な研究の長期成績が待たれる。

背景・目的

リンパ浮腫に対する外科的治療は,リンパ管細静脈吻合術(lymphatic-venous anastomosis;LVA),血管柄付きリンパ節移植術(vascularized lymph node transfer;VLNT),脂肪吸引術,切除減量術などがある。特にLVA やVLNT ではマイクロサージャリー技術の進歩によって,超微細血管の吻合も可能となり,諸家がさまざまな術式を考案し,その成績を報告している 1)。本CQ ではLVA の適応と治療成績に関する最近の動向を検証した。

解説

LVA とは,マイクロサージャリーを用いて1 mm 未満のリンパ管や細静脈を吻合し,組織におけるリンパのうっ滞を改善する手術法である。Carl らのシステマティック・レビューでは抽出した論文39 編中12 編がLVA に関するもので,実周径減少率は16.1%,過剰周径減少率は33.1%という結果であった 1)。10 編で術後の圧迫療法を推奨,2 編でMLD±圧迫,2 編で理学療法を推奨していた。2 つの研究でLVA 後,平均16%の症例が適切な患肢体積にするために脂肪吸引も付加されたと報告した。Basta らは,リンパ浮腫に対するマイクロサージャリーの効果と安全性を検証するために,患者背景,リンパ浮腫の原因,術式,周径減少率と周術期合併症について記載のあった27 編を抽出し,系統的メタアナリシスを行った 2)。27 編中24 編はエビデンスレベル(アメリカ形成外科学会基準)がⅣかⅢで,うちLVA に関する研究は22 編であった。過剰周径減少率(発症後増加した時点からの減少率)は48.8±6.0%,実周径としては3.31±0.73 cm 減少した。体積変化については過剰体積減少率が56.6±9.1%,実質減量率が23.6±2.1%であった。11.8%の症例では症候の改善がみられず,91.2%で自覚症状の改善がみられた。64.8%の患者が圧迫療法を中止できた。合併症については,手術VLNT の感染4.7%,リンパ漏7.7%,フラップのうっ血2.7%で追加手術が必要だったものは22.6%であった。これらの結果より,外科療法は比較的安全に行うことができ,術後の減量効果を示し,特にVLNT はLVA に比べて優れた効果を示したが,綿密にデザインされた比較試験がさらに必要であると結論付けた。Gennaro らはリンパ浮腫患者37 人に対してLVA を施行したところ,術前に年平均1.7 回発症していた蜂窩織炎が術後は平均0.1 回に減少したと報告した(p<0.0012) 3)。さらにWinters らは,乳癌術後リンパ浮腫患者のうち,リンパ管機能が残っていて,6 カ月以上の圧迫療法を継続しており,経過観察を最低12 カ月以上行った29 人について,LVA の治療成績を検証した 4)。術前の患肢過剰体積は(健側比較で)701±435 mL(36.9%)であったが,術後6 カ月では496±302 mL(24.7%)に,術後12 カ月では467±303 mL(23.5%)まで減少した(各p=0,p=0.02)。QOL スコアは5.8±1.1 から7.4±0.7 へ上昇するも,機能,外観,症状,気分に関するスコアはすべて有意に低下していた(p=0)。15 例で圧迫療法を中止できた。これより,LVA は術後12 カ月の時点で浮腫を完全に消失させることはできなかったが減量には効果的で,QOL は有意に改善することができた。また,吻合数,BMI,病悩期間などは患肢体積の減量に影響しなかったことを報告した。

このように,従来LVA も他の外科手術と同様に進行したリンパ浮腫に対する選択肢と認識されていたが,近年,予防的なLVA に関する報告もみられている。Boccardo らは腋窩郭清を受けた乳癌患者49 人を対象にランダム化比較試験を行った 5)。23 人は腋窩郭清時に予防的LVA を実施,23 人は対照群(LVA なし)とし,全例術前にリンパシンチグラフィを施行した。術後1,3,6,12,18 カ月後に受診して,18 カ月目に41 人(LVA 群21 人,対照群20 人)に術後シンチグラフィによる評価を行った。6 カ月後にLVA 群では1 人(4.34%)に,対照群では7 人がリンパ浮腫を発症(30.43%)。術前後の周径はLVA 群では有意差がなかったが,対照群では1,3,6 カ月後に有意に周径が増大していた。両群の1,3,6,12,18 カ月時点での体積変化の基準値はLVA 群で有意に少なかった(全時点でp<0.001)。その後,Boccardo らは,表皮メラノーマに対する鼠径リンパ節郭清を受けた下肢リンパ浮腫症例59 人を対象に,鼠径リンパ節郭清時にLVAを行った18 人(T 群)とリンパ浮腫発症後早期にLVA を行った41 人(E 群)について後ろ向きに比較検討もしている 6)。経過観察平均42 カ月中に,T 群ではリンパ浮腫の発症を認めず,E 群では過剰体積の80%を術後減量することができた。彼らは原発巣に対する手術の際のLVA 併施は,悪性腫瘍の根治性を妨げることなく行うことができ,術後リンパ浮腫の発症を予防することができるとして早期介入の有効性を主張した。Jørgensen らは,マイクロサージャリーにおけるリンパ浮腫の予防効果についてシステマティック・レビューを行い,12 論文を抽出した 7)。予防的LVA を受けた症例のリンパ浮腫発症率は有意に減少したが,いずれの論文も症例数が少なく術式が多様化しており,有効性を確定するには標準化された術式で質の高い研究の実施が急務であると結論付けた。

以上より,LVA は,保存的治療に抵抗し,蜂窩織炎を繰り返すような難治症例に対しては十分に患者の理解を得たうえで考慮し得る。予防についてはランダム化比較試験が存在しメタアナリシスでも有効性が示されたが,術式の標準化とより多症例による質の高い研究の長期成績が待たれる。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2008 年1 月から2017 年6 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND “lymphotic-venous anastomosis” NOT animal」とした。

該当した74 編のうち,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者に対する外科的治療に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験,システマティック・レビュー
  2. Primary endpoint が治療効果,身体的苦痛,精神的苦痛,QOL あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献7 編を得た。

文献

1)
Carl HM, Walia G, Bello R, et al. Systematic review of the surgical treatment of extremity lymphedema. J Reconstr Microsurg. 2017;33(6):412-5.[PMID:28235214]
2)
Basta MN, Gao LL, Wu LC. Operative treatment of peripheral lymphedema:a systematic meta-analysis of the efficacy and safety of lymphovenous microsurgery and tissue transplantation. Plast Reconstr Surg. 2014;133(4):905-13.[PMID:24352208]
3)
Gennaro P, Gabriele G, Salini C, et al. Our supramicrosurgical experience of lymphaticovenular anastomosis in lymphedema patients to prevent cellulitis. Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2017;21(4):674-9.[PMID:28272717]
4)
Winters H, Tielemans HJP, Hameeteman M, et al. The efficacy of lymphaticovenular anastomosis in breast cancer-related lymphedema. Breast Cancer Res Treat. 2017;165(2):321-7. [PMID:28608029]
5)
Boccardo FM, Casabona F, Friedman D, et al. Surgical prevention of arm lymphedema after breast cancer treatment. Ann Surg Oncol. 2011;18(9):2500-5.[PMID:21369739]
6)
Boccardo F, De Cian F, Campisi CC, et al. Surgical prevention and treatment of lymphedema after lymph node dissection in patients with cutaneous melanoma. Lymphology. 2013;46(1):20-6.[PMID:23930438]
7)
Jørgensen MG, Toyserkani NM, Sørensen JA. The effect of prophylactic lymphovenous anastomosis and shunts for preventing cancer-related lymphedema:a systematic review and meta-analysis. Microsurgery. 2017 Mar 28.[Epub ahead of print][PMID:28370317]

CQ 17
続発性リンパ浮腫に対して血管柄付きリンパ節移植術を行った場合,行わなかった場合と比べてリンパ浮腫は改善するか?

推奨グレードC2
リンパ浮腫に対する血管柄付きリンパ節移植術の有効性に関する研究結果は概ね一致している。システマティック・レビューでもISL Ⅱ・Ⅲ期症例に対する有効性については結果が概ね一致しているが,個々の研究はほとんどが症例集積研究であるため,標準的な治療選択肢とするためには,より質の高い研究が必要である。

背景・目的

リンパ浮腫に対する外科的治療の選択肢の一つである血管柄付きリンパ節移植術(vascularized lymph node transfer;VLNT)は比較的新しい手技であり,近年報告が急増している領域である。本CQ ではその治療成績や適応病期に関する最近の動向を検証した。

解説

VLNT とは,外側鼠径部,胸壁,頸部などから血管柄付きのリンパ組織を含むドナーフラップをマイクロサージャリーにより鼠径や腋窩に移植し,患肢の脈管循環を再構築することで浮腫の軽減を図る術式である。Carl らによる外科的治療のシステマティック・レビューでは,VLNT に関して10 論文(中程度〜重症185 人:上肢111 人,下肢74 人を含む)が抽出された。周径減少率は39.5%,体積減少率は26.4%であった 1)。VLNT は閉塞したリンパ機能を改善するが,侵襲が大きく,術後合併症は30.1%とする報告もあり,ISL Ⅱ期晩期からⅢ期の重症例にのみ適応すべきであると考察している。また,Scaglioni らはVLNT に関する包括的レビューを行い,24 論文271 人を抽出した 2)。ドナー部位は鼠径部が最も多く,外側胸リンパ節群がこれに続くが,後者は他のドナー部位と比べて減量効果が少ないうえに合併症が27.5%と最も多かった(鼠径部:10.3%,鎖骨上:5.6%)。奏効率は上肢74.2%に対し,下肢は53.2%だったが,リンパ節の移植先が近位か遠位かで効果に有意差はなかった(76.9% vs. 80.4%)。これらの結果より,VLNT はマイクロサージャリーを用いて行えば,リンパ浮腫の病期にかかわらず有効な方法であるとしている。さらにOzturk らによるシステマティック・レビューでは18 論文305 人が抽出された 3)。周径評価を受けた182 人中165 人(91%)が術後周径の減少を,114 人中98 人(86%)が患肢体積の減量を認めた。92 人中55 人にリンパシンチグラフィで術後中等度以上のリンパ流改善がみられ,蜂窩織炎の発症率も低下した。105 人に対して満足度調査がなされており,7 人を除き全例が高い満足度を示し,QOL 改善が得られたと回答していた。Dionyssiou らは,乳癌術後リンパ浮腫患者36 人をA 群18 人:VLNT+弾性着衣6 カ月着用とB 群18 人:複合的治療のみ6 カ月に割り付けてランダム化比較試験を行った 4)。その後の6 カ月は両群とも弾性着衣を付けずに過ごし,1 年後(調査開始から18 カ月後)に患肢の改善度を比較検討した。体積減少率はA 群 57%,B 群18%で,A 群で有意に感染が減少した。これに伴い,A群では医療費も著しく減少し,痛みや重さについてもB 群に比べて改善がみられた。Akita らはLVA を対照群とした症例対照研究においてそれぞれVLNT の優位性を示した 5)。後ろ向き症例集積研究ではあるが,Ciudad らは術後平均38 カ月経過したISL Ⅱ・Ⅲ期の83 人についてVLNT の有効性を検証し,患肢の減量効果があり,蜂窩織炎の発症率減少が術前より有意に改善されたと報告した(p<0.05) 6)。主な合併症はドナーロス1 人,ドナーサイトの血腫1 人で,観察期間の後に18 人(21.7%)は減量手術を追加しており,Ⅲ期症例についてはVLNT に直接的な減量術を付加することでよりよい効果が得られるとしている。Patel らが四肢リンパ浮腫患者25 人に対して,De Brucker らは乳癌術後上肢リンパ浮腫患者25 人に対して,それぞれVLNT 後の効果とHRQOL の変化を検証し,どちらも良好な成績を報告している 7)8)。De Brucker らは50%の症例で感染が起こらなくなり,44%(11 人)は平均29 カ月の間,圧迫療法から解放され,他の56%は圧迫療法を行う頻度が3 分の1 に減った 8)

以上より,VLNT はⅡ-Ⅲ期の比較的進行したリンパ浮腫症例に対して減量効果を示し,これに伴い感染発症の減少など,HRQOL の改善も認められることは明らかだが,標準的な治療選択肢として確立するためには,さらに症例数が多く観察期間の長いランダム化比較試験を待つ必要がある。現時点においては,保存的治療に抵抗し,蜂窩織炎を繰り返すような難治症例に対し,現状の位置付けについて十分に理解を得たうえで実施を考慮する。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2008 年から2017 年6 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND “vascularized lymph node transfer” NOT animal」とした。該当した49 編のうち,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者に対する外科的治療に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験,システマティック・レビュー
  2. Primary endpoint が治療効果,身体的苦痛,肉体的苦痛,QOL あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されている
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されている
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献8 編を得た。

文献

1)
Carl HM, Walia G, Bello R, et al. Systematic review of the surgical treatment of extremity lymphedema. J Reconstr Microsurg. 2017;33(6):412-25.[PMID:28235214]
2)
Scaglioni MF, Arvanitakis M, Chen YC, et al. Comprehensive review of vascularized lymph node transfers for lymphedema: Outcomes and complications. Microsurgery. 2018;38(2):222-9.[PMID:27270748]
3)
Ozturk CN, Ozturk C, Glasgow M, et al. Free vascularized lymph node transfer for treatment of lymphedema: A systematic evidence based review. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2016;69(9):1234-47.[PMID:27425000]
4)
Dionyssiou D, Demiri E, Tsimponis A, et al. A randomized control study of treating secondary stage II breast cancer-related lymphoedema with free lymph node transfer. Breast Cancer Res Treat. 2016;156(1):73-9.[PMID:26895326]
5)
Akita S, Mitsukawa N, Kuriyama M, et al. Comparison of vascularized supraclavicular lymph node transfer and lymphaticovenular anastomosis for advanced stage lower extremity lymphedema. Ann Plast Surg. 2015;74(5):573-9.[PMID:25875724]
6)
Ciudad P, Agko M, Perez Coca JJ, et al. Comparison of long-term clinical outcomes among different vascularized lymph node transfers: 6-year experience of a single center’s approach to the treatment of lymphedema. J Surg Oncol. 2017;116(6):671-82.[PMID:28695707]
7)
Patel KM, Lin CY, Cheng MH. A prospective evaluation of lymphedema-specific quality-of-life outcomes following vascularized lymph node transfer. Ann Surg Oncol. 2015;22(7):2424-30.[PMID:25515196]
8)
De Brucker B, Zeltzer A, Seidenstuecker K, et al. Breast cancer-related lymphedema: quality of life after lymph node transfer. Plast Reconstr Surg. 2016;137(6):1673-80.[PMID:27219223]

CQ 18
続発性リンパ浮腫に対して脂肪吸引術を行った場合,行わなかった場合と比べてリンパ浮腫は改善するか?

推奨グレードC2
ISL Ⅱ/Ⅲ期の重症リンパ浮腫に対する脂肪吸引術の有効性に関する研究結果は概ね一致しているが,ほとんどが症例集積研究で質の高いエビデンスは認められない。複合的治療に難治性の重症例に対しては考慮の余地があるが,施術はスキルを十分に習得した術者が行い,その適応は慎重に検討されるべきである。

背景・目的

リンパ浮腫に対する外科的治療の一つとして脂肪吸引術があるが,海外における限られた施設の症例集積研究が多く,標準的な治療選択肢としての地位が確立されているとはいえない。本CQ では最近の動向や長期成績から脂肪吸引術の有効性を検証した。

解説

脂肪吸引術は圧痕を示さない重症リンパ浮腫に対して行われる外科的治療である。初期のプロトコールはBrorson らの治療チームによって1990 年代から考案,改良され,「腫大の原因はリンパ液貯留のみならず蓄積した脂肪組織とときに線維化に起因するものであり,脂肪吸引によって皮下組織のリンパ輸送能が悪化することはない」とその安全性や有効性が報告された 1)2)。Boyages らは,一側性で圧痕がなくISL Ⅱ/Ⅲ期のリンパ浮腫で,体積の左右差が25%以上あり,これまで複合的治療が無効であった21 人(15 上肢,6 下肢)を対象に,脂肪吸引術と術中術後の弾性着衣による圧迫療法を併用し,少なくとも術後3 カ月の経過観察を行った 3)。治療効果は術前後の患肢体積,BIS と心身機能評価を術前と術後4 週,3,6,9,12 カ月の計6 回の測定により比較評価した。平均体積減少率は89.6%,BIS(L-Dex を使用:カットオフ値は10)の平均値は術前46.9 から12 カ月目に39.0 に減少,痛み,不安,重さ,満足度などの機能評価は上肢における不安と下肢における痛み以外は有意に改善され,選別された重症例に対する有効性を報告した。Carl らは四肢リンパ浮腫に対する外科的治療についてquality assessment を満たした39 論文を対象にシステマティック・レビューを行った 4)。そのなかで,脂肪吸引については4論文が引用され,105 人(99 上肢,6 下肢)の重症リンパ浮腫(重症度の記載があった2 論文では全例ISL Ⅱ/Ⅲ期であった)が対象となっている。いずれの論文も術後合併症はなく,脂肪吸引術後の弾性着衣による圧迫療法が実施され,良好な減量効果が得られていた。そのほか,Leung らも,乳癌術後のリンパ浮腫に対する外科的治療のレビューのなかで,脂肪吸引術は患肢の減量とともに蜂窩織炎の頻度も改善できる方法として評価しているが,同時に術後も生涯続く圧迫療法が最大の課題であるとも指摘している 5)。Hoffner らは乳癌術後の続発性リンパ浮腫患者60 人に対して脂肪吸引術後1 年までの治療効果をSF-36 によるQOL の観点から検証した 6)。平均吸引脂肪量は1,373±56 mL で,術後1 カ月目には精神的なスコアの改善が,3 カ月目には身体機能の改善がみられ,1 年後には社会生活面での機能が向上した。身体要因のスコアは3 カ月目以降改善していったのに対し,心理要因のスコアは3 カ月と1 年の時点で改善した。国内の健常人と比較すると,身体要因のスコアのみがベースラインを下回っており,総じて心身両面のQOL を改善したと結論付けた。さらに近年,脂肪吸引と他の外科的治療との併用についても報告されているが,やはり小規模の症例集積研究にとどまっている。

このように,リンパ浮腫に対する脂肪吸引術はある程度の有効性が示されてはいるものの,いずれも症例数が少ない症例集積研究で,症例対照研究以上の報告がみられず,今後もランダム化比較試験など質の高い研究報告が待たれるところである。したがって,現時点において脂肪吸引術は,従来の複合的治療だけでは奏効しない重症症例で,患者の希望が強く,インフォームド・コンセントが十分に得られた場合にのみ治療選択肢となり得る。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2008 年1 月から2017 年6 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND liposuction」とした。該当した78 編のうち,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者に対する外科的治療に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験,システマティック・レビュー
  2. Primary endpoint が治療効果,身体的苦痛,精神的苦痛,QOL あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献6 編を得た。

文献

1)
Brorson H, Svensson H, Norrgren K, et al. Liposuction reduces arm lymphedema without significantly altering the already impaired lymph transport. Lymphology. 1998;31(4):156-72.[PMID:9949387]
2)
Brorson H. Liposuction in lymphedema treatment. J Reconstr Microsurg. 2016;32(1):56-65.[PMID:25893630]
3)
Boyages J, Kastanias K, Koelmeyer LA, et al. Liposuction for advanced lymphedema:a multidisciplinary approach for complete reduction of arm and leg swelling. Ann Surg Oncol. 2015;22 Suppl 3:S1263-70.[PMID:26122375]
4)
Carl HM, Walia G, Bello R, et al. Systematic review of the surgical treatment of extremity lymphedema. J Reconstr Microsurg. 2017;33(6):412-25.[PMID:28235214]
5)
Leung N, Furniss D, Giele H. Modern surgical management of breast cancer therapy related upper limb and breast lymphoedema. Maturitas. 2015;80(4):384-90.[PMID:25747119]
6)
Hoffner M, Bagheri S, Hansson E, et al. SF-36 shows increased quality of life following complete reduction of postmastectomy lymphedema with liposuction. Lymphat Res Biol. 2017;15(1):87-98.[PMID:28135120]

CQ 19
続発性リンパ浮腫に対して漢方薬を使用した場合,使用しなかった場合と比べてリンパ浮腫は軽減するか?

推奨グレードC2
リンパ浮腫に対する漢方治療(柴苓湯,五苓散など)が有効であるとする報告は,いずれも単なる症例報告や小規模の後ろ向き症例集積であり,質の高いエビデンスが不足しているため,基本的には推奨できない。複合的治療の効果が不十分で治療に難渋するリンパ浮腫症例に限り,効果および有害事象に注意して,行うことを考慮できる。

背景・目的

リンパ浮腫に対する治療は非薬物的な複合的治療が基本であるが,その効果は必ずしも十分ではなく,治療に難渋する場合もしばしばある。利水作用のある漢方薬がリンパ浮腫に対して有効であるとする報告が散見される。これらの漢方薬がリンパ浮腫に対して有効であるかどうかを検討した。柴苓湯や五苓散などが臨床現場では使用されている。しかし,依然その機序や効果については不明な点が多い。

解説

水滞・浮腫に対して効果が認められる漢方薬はいくつかあり,フロセミドなどの利尿薬と比べて,間質の水分の除去に有効とされ,より生理的な作用を示すとされる。

柴苓湯は利水作用をもつ漢方薬の一つで,同時に消炎作用をもち,蜂窩織炎を伴う場合や,術後早期の浮腫に対して有効性を示した論文がいくつかある。続発性リンパ浮腫に対する有効性については小規模な症例集積が散見される。Nagai らは,放射線治療に続発するリンパ浮腫に対する柴苓湯の効果を後ろ向きに検討した 1)。多施設共同で症例を集積し,頭頸部癌2 例,乳癌2 例,木村氏病(軟部好酸球肉芽腫)1 例の計5 例のみの報告であるが,乳癌を含む2 例の癌症例で著明な浮腫の改善がみられたとした。本報告は予備的な研究で,柴苓湯の投与方法や投与期間,評価時期などは明らかでない。五苓散も種々の病因による浮腫に対して有効とされる。Komiyama らは,子宮体癌,子宮頸癌術後のリンパ浮腫患者21 人に対して五苓散ベースの漢方治療(五苓散にて反応しなかった場合は,柴苓湯または牛車腎気丸を併用)の有効性を検討した前向き単アーム試験の結果を報告した 2)。対象症例の全例に複合的治療が行われたうえで,五苓散または五苓散に他の漢方薬を併用し,その効果をCTCAE ver.4に準拠して評価した。五苓散治療群では9 人中7 人(78%)で有効であり,五苓散に柴苓湯または牛車腎気丸を併用した群では12 人中11 人(92%)で有効,治療関連有害事象はgrade 1 の味覚異常を認めたのみであった。その他多くの報告はすべて少数例の後ろ向きの症例集積であり,複合的治療の併用の有無,評価の方法やその時期,長期の成績などは一定しておらず,純粋に漢方薬のリンパ浮腫に対する有効性を証明するものは見当たらなかった。近年,Zhu らが,乳癌術後の上肢リンパ浮腫に対して,複合的治療に加えて五苓散またはプラセボを投与して上乗せ効果と安全性について検証するランダム化比較試験を開始している 3)。今後はこのような前向きの臨床研究のデータを集積して評価するべきであろう。

また,Kuroda らは,婦人科癌術後患者366 人の検討から下肢リンパ浮腫発症の危険因子の検討と発症の予測モデルの構築を試みた研究を報告した 4)。そのデータのなかで漢方薬の投与の有無は発症に関与しなかった。すなわち,漢方薬はリンパ浮腫の予防には有効ではないと考えられた。

リンパ浮腫に対する漢方薬の効果については,多くの基礎的な研究が存在するが,臨床的有効性についての報告は,すべて症例報告,症例集積であった。そして,多くは他の治療が併用されており,漢方薬の有効性を直接的に証明していなかった。一般的な浮腫に対して漢方薬が有効であることは受け入れられているにせよ,リンパ浮腫は静脈性浮腫や廃用性浮腫と病態が異なり,単に利水効果を求めることは合理的とは言い難い。また,頻度は高くないものの,偽アルドステロン症や間質性肺炎,肝機能障害など有害事象も報告されている。以上より,リンパ浮腫に対する漢方薬の効果は十分に立証されていないため,まずは複合的治療が優先される。複合的治療の効果が不十分な場合に限り,その効果や有害事象に注意しながら投与を考慮してもよい。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2003 年1 月から2017 年8 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「lymphedema AND(kampo OR herbal medicine OR Chinese medicine)」「lymphedema AND(saireito OR chai-ling-tang)」「lymphedema AND(goreisan OR wuling san)」とした。それぞれ該当した論文のうち,原発性とフィラリア症関連を削除し,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者における漢方薬に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験
  2. Primary endpoint がQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献4 編を得た。

文献

1)
Nagai A, Shibamoto Y, Ogawa K. Therapeutic effects of saireito(chai-ling-tang), a traditional Japanese herbal medicine, on lymphedema caused by radiotherapy:a case series study. Evid Based Complement Alternat Med. 2013;2013:241629.[PMID:23861700]
2)
Komiyama S, Takeya C, Takahashi R, et al. Feasibility study on the effectiveness of Goreisan-based Kampo therapy for lower abdominal lymphedema after retroperitoneal lymphadenectomy via extraperitoneal approach. J Obstet Gynaecol Res. 2015;41(9):1449-56.[PMID:26013736]
3)
Zhu H, Peng Z, Dai M, et al. Efficacy and safety of Wuling San for treatment of breast-cancer-related upper extremity lymphoedema:study protocol for a pilot trial. BMJ Open. 2016;6(12):e012515.[PMID:27986736]
4)
Kuroda K, Yamamoto Y, Yanagisawa M, et al. Risk factors and a prediction model for lower limb lymphedema following lymphadenectomy in gynecologic cancer:a hospital-based retrospective cohort study. BMC Womens Health. 2017;17(1):50.[PMID:28743274]

CQ 20
続発性リンパ浮腫に対して漢方薬以外の薬物を使用した場合,使用しなかった場合と比べてリンパ浮腫は軽減するか?

推奨グレードD
リンパ浮腫に対する漢方薬以外の薬物療法の効果に一貫した根拠はなく,
・クマリンなどベンゾピロン類は,重篤な副作用の報告もあり,行わないことを推奨する。
推奨グレードD
・利尿薬の有効性を示唆するデータはなく,行わないことを推奨する。
推奨グレードC2
・その他の薬剤やサプリメントについても,エビデンスが乏しく現時点では勧められない。

背景・目的

リンパ浮腫に対する薬物療法では,古くからクマリンとその誘導体を含むベンゾピロン類の投与による臨床試験が報告されてきた。しかし,肝臓に障害を与えることが明らかとなり,食品および医薬品にクマリンを用いることは,米国など複数の国で禁止されている。わが国でもメリロートエキス(エスベリベン®,タカベンス®)として使用されてきたが,現在製造中止となっている。

クマリン以外の薬物では,利尿薬の投与が臨床の現場で試みられることがあるが,その科学的根拠は明らかではない。

その他の薬剤では,セレン化合物,ビタミンE,wobenzyme,アンチスタックス® などのサプリメントの効果についての研究がいくつか報告されている。

本CQ では,リンパ浮腫に対する漢方薬以外の薬物療法の妥当性について検討した。

解説

クマリンなどの経口薬であるベンゾピロン類は,リンパ輸送経路を活性化しながら組織蛋白質を加水分解して,その吸収を促進すると推察されている。わが国ではメリロートエキス(エスベリベン®,タカベンス®)が使用されてきた。これら薬剤のリンパ浮腫に対する効果については,過去に多くの報告がなされている。1993 年にCasley-Smith らは,乳癌術後のリンパ浮腫患者63 人をクマリン投与群とプラセボ群にランダムに割り付けし,患肢体積の変化を比較した 1)。6 カ月後にクマリン群とプラセボ群とをクロスオーバーした結果,プラセボ投与の時期にリンパ浮腫が悪化したことが示され,それは特に上肢症例に顕著であった。クマリンは上肢体積を46%減少させ,下肢では25%減少させた。一方,1999 年にLoprinzi らは,乳癌術後リンパ浮腫患者140 人に対しCasley-Smith らと同様に,クマリン群とプラセボ群のランダム化クロスオーバー試験を行った。その結果,6 カ月後に患肢体積が,プラセボ群で21 mL,クマリン群で58 mL増加した(p=0.80)。さらに,質問票の回答も2 群間で差はなく,6 カ月後の治療効果はクマリン群で15%,プラセボ群で10%であったため,乳癌術後リンパ浮腫に対してクマリンは有効でないと結論付けられた 2)。また,クマリンによる肝毒性の影響は6%と過去の報告(1%以下)より多くみられた。2009 年のコクランレビューでは,これらの研究を含む15 試験のシステマティック・レビューが行われ,クマリンは複数のランダム化比較試験によってリンパ浮腫に対する有効性が示されているが,一方で無効である結果も報告されており,有効であると結論付けるには不十分とされた 3)。また,レビューされたランダム化比較試験も質の低いものが多いため,定量的なメタアナリシスが行われるに至らなかった。クマリンは薬物療法のなかでは最も有効性を示唆する報告がなされているが,効果発現までに時間を要し,また長期服用により肝障害が問題となる。そのため米国では使用が禁止され,わが国でも現在は製造中止になっている。

利尿薬は,浮腫全般に使用されることがあり,リンパ浮腫に対しても臨床の現場で使用されているようである。しかし,利尿薬のリンパ浮腫に対する有効性に関するエビデンスはほとんどなく,古い症例報告以外に有効性を示唆する文献は見当たらなかった。リンパ浮腫は病態的に静脈性浮腫や廃用性浮腫と異なり間質液中に蛋白質が含まれることから,利尿薬によって体内水分だけを減少させることは合理的ではない。長期使用によって電解質異常や血圧低下を引き起こす可能性もあり,また間質液の蛋白濃度の上昇を招く可能性もあるため注意が必要である。慢性化したリンパ浮腫のなかには,静脈性あるいは廃用性の浮腫が混在していることも少なくないことから,確実な病態の把握のもとに補助的な使用が有効である可能性はあるが,複合的治療に代わるものでないことを理解しておくべきであろう。

Paskett らは2012 年に,癌治療に続発するリンパ浮腫についてレビューを行い,そのなかで近年では薬物療法に対する関心はほとんど払われていないとしているが,唯一セレン化合物の有効性についてのみ検討できるエビデンスがあるとしている 4)。セレンは体内に微量必要な元素であるが,生体への特殊な作用からリンパ浮腫の軽減効果についてのいくつかの臨床的な報告がある。Zimmermann らは,口腔内癌患者20 人に対してセレニウムとプラセボを用いた二重盲検ランダム化比較試験を行い,術後1 週間の時点でセレニウム投与群はプラセボ群と比べて平均6%の浮腫の軽減をみた(p=0.009)ことを報告した 5)。Kasseroller らは乳癌術後の続発性上肢リンパ浮腫患者179 人に対して,同様のランダム化比較試験を行い,3 カ月の経過観察において,セレニウム投与群でリンパ浮腫が有意に減少し(p<0.01),蜂窩織炎の頻度も減少するとした 6)。ただし,いずれも比較的短期の報告であり,長期の成績や有害事象,至適な投与期間も明確でなく,今後計画されている,より大規模な臨床試験の結果が待たれる 7)8)

感染・炎症を伴うリンパ浮腫に対して抗菌薬や消炎作用のある薬剤を使用することは考慮してよいが,リンパ浮腫に対する直接効果を期待するものではない。病態を理解して,治療効果を評価しながら適切な時期に適切な期間,使用すべきである。

以上に述べたように,リンパ浮腫に対する薬物療法については最もデータが多いクマリンなどのベンゾピロン類が使用できない現在,推奨できる薬剤はない。複合的治療の補助的な位置付けで,セレン化合物などが将来応用される可能性が示唆されている。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2003 年1 月から2017 年8月までに出版された英語の医学論文をPubMed によって検索した。検索語は,「Lymphedema AND(Drug treatment OR pharmacotherapy)」「Lymphedema AND diuretics」とした。該当した論文のうち,原発性とフィラリア症関連を削除し,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者における薬物療法に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験
  2. ②Primary endpoint がQOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献8 編を得た。

文献

1)
Casley-Smith JR, Morgan RG, Piller NB. Treatment of lymphedema of the arms and legs with 5, 6-benzo-[alpha]-pyrone. N Engl J Med. 1993;329(16):1158-63.[PMID:8377779]
2)
Loprinzi CL, Kugler JW, Sloan JA, et al. Lack of effect of coumarin in women with lymphedema after treatment for breast cancer. N Engl J Med. 1999;340(5):346-50.[PMID:9929524]
3)
Badger C, Preston N, Seers K, et al. Benzo-pyrones for reducing and controlling lymphoedema of the limbs. Cochrane Database Syst Rev. 2004;(2):CD003140.[PMID:15106192]
4)
Paskett ED, Dean JA, Oliveri JM, et al. Cancer-related lymphedema risk factors, diagnosis, treatment, and impact:a review. J Clin Oncol. 2012;30(30):3726-33.[PMID:23008299]
5)
Zimmermann T, Leonhardt H, Kersting S, et al. Reduction of postoperative lymphedema after oral tumor surgery with sodium selenite. Biol Trace Elem Res. 2005;106(3):193-203.[PMID:16141467]
6)
Kasseroller RG, Schrauzer GN. Treatment of secondary lymphedema of the arm with physical decongestive therapy and sodium selenite:a review. Am J Ther. 2000;7(4):273-9.[PMID:11486162]
7)
Micke O, Bruns F, Mücke R, et al. Selenium in the treatment of radiation-associated secondary lymphedema. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2003;56(1):40-9.[PMID:12694822]
8)
Pfister C, Dawzcynski H, Schingale FJ. Sodium selenite and cancer related lymphedema:Biological and pharmacological effects. J Trace Elem Med Biol. 2016;37:111-6.[PMID:27267968]

CQ 21
原発性(一次性)リンパ浮腫に対して複合的治療を行った場合,行わなかった場合と比べてリンパ浮腫は軽減するか?

推奨グレードC1
原発性(一次性)リンパ浮腫に対しても複合的治療が有効であることは明らかであるが,疾患の特徴から質の高い論文がなく,症例数も少ない。日常診療では慎重に行われるべきである。

背景・目的

原発性(一次性)リンパ浮腫は,先天性(出生〜1 年以内)と後天性があり,後者はさらに早発性(35 歳未満),晩発性(35 歳以上)に分類される。標準的な治療方針は続発性(二次性)リンパ浮腫に対する選択肢と同様であると考えられるが,原発性リンパ浮腫の患者人口を正確に把握するのは,発症時期,診療科の多様性などから非常に困難である。本CQ では,原発性リンパ浮腫の治療アルゴリズムに関する最近の動向を検証した。

解説

原発性リンパ浮腫は,遺伝子異常もしくは解剖学的な異常によって生じるリンパシステムの機能不全が本態である 1)。20 歳未満の原発性リンパ浮腫の頻度は10 万人に1.15 人の割合で,新生児6,000 人に1 人の割合で発症しており,男女比はおよそ1:3 である 2)。続発性に比べて頻度が圧倒的に少ないことから原発性リンパ浮腫に関する報告は非常に少なく,治療に関するランダム化比較試験はいまだに皆無である。

症例集積研究か症例報告が大半を占めるが,Schook らによる症例集積研究は,1999 年から2010 年に21 歳以前に発症した138 人の原発性リンパ浮腫患者について詳細な報告している 2)。発症年齢は49.2%が乳児期,9.5%が幼児期,41.3%が思春期で,男子の68%が幼少時に発症しているのに対して,女子の発症は55.3%が思春期であった。病変部位は四肢が81.9%(うち下肢が91.7%)で,全体の11%が家族性か症候群性であった。治療法は,弾性着衣単独が75.4%,弾性着衣に間欠的空気圧ポンプを併用した症例が19.6%で,外科療法が行われたのは全体の13.0%であった。圧迫と運動との併用によって初めて治療効果は向上した。全体の57.9%で病状の進行はみられたものの,ほとんどの症例は弾性着衣の着用によって病状を良好にコントロールすることができ,外科的治療は不要であったと報告している。Lee らはコンセンサスレビューのなかで,原発性リンパ浮腫も続発性リンパ浮腫と同様に複合的治療,特に圧迫療法±用手的リンパドレナージで管理するのが効果的であり,保存的に効果が乏しいときには外科的介入(再建術や減量術)も考慮すべきであるとしている 3)。しかしながら,術後も複合的治療の併用は有効であり,長期的には複合的治療,特に圧迫療法のコンプライアンスが治療成績を左右すると総括している。

Deng らは,原発性下肢リンパ浮腫のセルフケア,負担になる症状,感染歴に関して一側性か両側性かによる相関を調査するため,国立リンパ浮腫ネットワークが提供する二次データの横断研究を実施した 4)。803 人中82.9%が女性で,約3 分の2 が何らかのセルフケアを実施していた。半数以上が負担になる症状を抱えており,44.8%に蜂窩織炎の既往があった。両側性患者のほうが一側性患者より有意に高かったのはスキンケアの自己管理の実施率,代替薬物の使用,症状の訴え,蜂窩織炎の既往であった。弾性着衣を着用している患者のほうが痛みの訴え,気分のばらつきや感覚低下が有意に少なく,運動習慣のある患者も痛みの訴えが有意に少なかった。一方,感染歴があるほうが症状を訴える頻度が有意に高かった。このように,患者の多くは負担になる症状や感染歴を有していて,これらとセルフケアに有意な相関を認めたことから,セルフケアの重要性を指導する医療者がより多く必要であると考察している。

外科的治療については,Hara らが原発性下肢リンパ浮腫患者62 人(79 肢)に対するLVA の治療成績より,その適応を検討した 5)。病期は皮下のバックフローステージングシステムのほかに,2 つのカテゴリー(バックフローなしか遠位バックフローか)を加えて分類した。5 点周径測定で評価した結果,1 歳から11 歳未満に発症した症例では術後周径は増大したが,11 歳以上で発症した症例においては,周径は術後有意に減少した。発症後の期間が長い症例ほどLVA が有効で,特にバックフローステージ2 とバックフローなしのグループではLVA が効果的だったと報告している。以上より,11 歳未満に発症した症例は,LVA の適否を慎重に検討すべきであるが,11 歳以降に発症した症例ではLVA は有効であった。複合的治療が奏効しない場合には,たとえ11 歳未満の発症例といえどもLVA を選択肢として考慮し得るとまとめた。一方,Onoda らは原発性リンパ浮腫患者33 人のうち,LVA を実施した19 人と複合的治療のみを行った12 人の治療成績を比較している 6)。LVA を受けた19 人 中2 人が経過良好であったのに対し,複合的治療のみで3 カ月以上経過観察した症例では10 人が良好かやや良好であった。これらの結果を受けて,外科的治療の適用は慎重に行うべきと結論付けている。

このように,原発性リンパ浮腫に対する治療研究の報告自体が少なく,質の高いエビデンスはない。したがって,現時点では病状の進行を最小限にとどめるべく,セルフケアの確立を徹底しつつ,複合的治療を優先するべきである。

検索式・参考にした二次資料

文献の検索は,下記1)2)の手順で行った。

1)2008 年1 月から2017 年8 月までに出版された英語の医学論文をPubMed で検索した。検索語は,「“Primary Lymphedema”AND treatment NOT “case report”」とした。該当した56 編のうち,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。

[適格基準]

  1. リンパ浮腫患者に対する原発性リンパ浮腫に関する原著論文,臨床試験,メタアナリシス,ランダム化比較試験,システマティック・レビュー
  2. Primary endpoint が治療効果,身体的苦痛,精神的苦痛,QOL あるいは実態調査

[除外基準]

  1. 対象が小児に限定されているもの
  2. Primary endpoint が非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫学的指標など)
  3. 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6 カ月以下など)に限定されているもの
  4. Full-length paper のある同一著者による短報

2)二次資料として,Cochrane Library,UpToDate,Clinical Evidence,ガイドライン,レビュー,コンセンサス論文を参照した。

以上の手順で,本CQ に関係する文献6 編を得た。

文献

1)
Damstra RJ, Mortimer PS. Diagnosis and therapy in children with lymphoedema. Phlebology. 2008;23(6):276-86.[PMID:19029008]
2)
Schook CC, Mulliken JB, Fishman SJ, et al. Primary lymphedema:clinical features and management in 138 pediatric patients. Plast Reconstr Surg. 2011;127(6):2419-31.[PMID:21617474]
3)
Lee BB, Andrade M, Antignani PL, et al; International Union of Phlebology. Diagnosis and treatment of primary lymphedema. Consensus document of the International Union of Phlebology(IUP)-2013. Int Angiol. 2013;32(6):541-74.[PMID:24212289]
4)
Deng J, Radina E, Fu MR, et al. Self-care status, symptom burden, and reported infections in individuals with lower-extremity primary lymphedema. J Nurs Scholarsh. 2015;47(2):126-34. [PMID:25475008]
5)
Hara H, Mihara M, Ohtsu H, et al. Indication of lymphaticovenous anastomosis for lower limb primary lymphedema. Plast Reconstr Surg. 2015;136(4):883-93.[PMID:26086382]
6)
Onoda S, Yamada K, Matsumoto K, et al. A detailed examination of the characteristics and treatment in a series of 33 idiopathic lymphedema patients. J Reconstr Microsurg. 2017;33(1):19-25.[PMID:27542110]