Ⅳ クリニカルクエスチョン
Ⅳ-1.診断
- CQ1-1
- 頭頸部癌のN 病期診断においてCT は有用か?
- 推奨グレードB
- 頭頸部癌のN 病期診断においてCT は有用である。
解説
頭頸部癌のN 病期診断では,理学的所見のみと比較して,画像診断を加えることでより正確な病期診断が可能であり 1, 2),画像評価は重要な役割を担っている。CT はMRI よりもやや高い診断能を示すとされ 1),高い客観性,高い再現性,医療経済性を考慮して造影CT が選択すべき標準的な画像診断と考えられる。
頸部リンパ節転移の主な診断基準であるリンパ節内壊死や節外浸潤の評価を含めて,CT,MRI,超音波検査において診断の感度,特異度などに関して,各モダリティの間で統計学的有意差はないとの報告もあり 2-4),各症例の因子(原発病変の部位や病期),各施設の状況などにより,MRI がCT と同様の役割を担う場合もあると考えられる 5)。超音波検査,超音波検査ガイド下穿刺細胞診やPET(PET-CT)には相補的役割がある 2)。
参考文献
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- CQ1-2
- 頭頸部癌のT 病期診断においてMRI は有用か?
- 推奨グレードB
- 頭頸部癌のT 病期診断においてMRI は有用である。
解説
頭頸部癌のT 病期診断において画像診断は重要な役割を担っており,一般にMRI はCT とほぼ同等の診断能を示すと考えられているが,亜部位によってMRI の推奨される程度には差がある。
上咽頭癌ではMRI は傍咽頭間隙,頭蓋底,頭蓋内,蝶形骨洞進展においてCT よりも評価に優れ 1),存在診断においては内視鏡検査よりも優れるとされ 2),上咽頭癌のT病期診断ではMRI が推奨される 1, 2)。中咽頭癌,口腔癌でも,軟部組織,骨浸潤のいずれの評価においてもMRI は CT と比較して診断がより正確であり 3, 4),口腔金属のアーチファクトの影響も小さいことなどからもMRI での評価が推奨される。喉頭癌,下咽頭癌ではCT あるいはMRI での診断情報を加えることで,より正確なT 病期診断が可能とされる 5)。検査効率の高さや医療経済性からはCT が中心的役割を担うが,T 病期診断の正診率に関してはMRI と有意な差はなく 5),喉頭軟骨浸潤の評価に関してはCT よりもMRI が有用との報告もあり 6),実臨床ではMRI も病期診断に用いられている。
参考文献
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- CQ1-3
- 甲状腺癌の病期診断において超音波検査は有用か?
- 推奨グレードB
- 甲状腺癌の病期診断において超音波検査は有用である。
解説
甲状腺癌の病期診断には原発巣の大きさ,腺外浸潤の有無,中心領域および頸静脈周囲へのリンパ節転移の評価が必須である 1)。超音波検査(US)の有用性を検証するためには,触診 2)をはじめ,CT 3),MRI,FDG-PET/PET-CT 4)など各種の画像診断との比較,あるいはそれらのなかでのUS の役割,位置づけを明らかにする必要がある。
原発巣の大きさを計測する診断ツールとしてUSは安定した支持を受けている 5, 6)。昨今の解像度の高いUS機器を用いれば小さな病変でも明確に検出できるという特徴を有し 1, 5, 7),US 上の計測と病理学的な計測結果は,83%という高い一致率 1)が報告されている。US上の甲状腺癌結節病変の診断基準にはコンセンサスを得た一定の基準があり 5, 6),US だけで高い正診率を示している。腺外浸潤の評価にもUSは有用で,特に前頸筋浸潤 1)や臨床上問題となる気管浸潤 8)においてもUS の感度は高い。
一方,リンパ節転移に対する評価においてもUS の有用性を論じる報告 1, 2, 4, 5)は多いが,中心領域リンパ節に対する検出および診断には限界があり,頸静脈周囲領域リンパ節のそれに比して感度も50〜55% vs 70〜80%と低下する 2)ことは銘記すべき点である。また,リンパ節転移に対する診断にはCT のほうが有用とする報告もあり 3),US では中心領域の可視範囲がもともと狭いという限界があることを考慮し,両者を相補的に使用することが望まれる。
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- CQ1-4
- 頭頸部癌において穿刺吸引細胞診は有用か?
- 推奨グレードB
- 高い感度,特異度,正診率からも穿刺吸引細胞診は頭頸部癌のリンパ節転移診断,唾液腺癌,甲状腺癌などに対する原発巣質的診断における必須の評価法として有用である。なお,他の画像診断と組み合わせて診断精度が向上することを同時に理解すべきである。
解説
頭頸部における穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology:FNAC)は,頸部腫瘤,結節性甲状腺病変,大唾液腺腫瘤に対して施行される。FNAC の役割には,悪性診断および組織型診断がある。頭頸部の腫瘤に対するFNAC は一般に有用と考えられており,FNAC の結果と最終的な病理結果を対比した検討で,過去の報告から得られたメタアナリシス 1)ではリンパ節で感度94. 2%,特異度96. 9%,大唾液腺病変で感度85. 5%,特異度98. 4%,甲状腺病変で感度98. 4%,特異度79. 7%であった。しかし,唾液腺癌で検討した報告では,悪性診断の感度は60〜75%程度にとどまり 2, 3),組織型診断になるとさらに低下し,限界があるといわざるを得ない 2)。
一方,甲状腺癌においてはFNAC が強く推奨されており,その感度は90%以上とするものが多く 4, 5),US 所見と組み合わせて診断した場合,さらに悪性診断率は上昇する 6)。しかし,濾胞癌と濾胞腺腫の鑑別はFNAC だけでは困難であることが問題点として挙げられる 5)。また,放射線治療ないしは化学放射線療法後の転移リンパ節を評価する場合 7, 8)や,リンパ節自体が小さいため他の画像診断で診断困難な場合 9)にFNAC を併せて行うと診断の精度が高まり,その後の治療方針決定のうえで有用である 3, 6-9)という報告もある。FNAC は頸部腫瘤に対する総合診断法のひとつであり,他の検査法と上手く組み合わせて初めて臨床上の精度が向上することを銘記すべきである。
参考文献
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- CQ1-5
- 頭頸部癌治療前における重複癌の検索は必要か?
- 推奨グレードA
- 頭頸部癌治療前には頭頸部領域のみならず,食道を中心とした上部消化管内視鏡検査による重複癌検索が必須である。また,多量飲酒・喫煙歴のある患者は重複癌についてのハイリスク症例と考えられ,肺も含めた検索が推奨される。
解説
重複癌は1889 年にBillroth が最初に定義したが,その後1932 年にWarren とGates により提唱された診断基準が広く支持され用いられてきた。最近は国際がん登録研究機関(IARC)/国際がん登録学会(IACR)の判定基準が用いられており,本邦の地域がん登録の標準方式となっている。
本邦のがん登録で登録精度が国際的標準に達したと評価された地域は,6 府県市のみ(宮城県,山形県,大阪府,広島市,佐賀県,長崎県)である。このうち大阪府がん登録データからは,口腔・中下咽頭癌患者では,食道に第2癌を発生するリスクが極めて高く,喫煙と多量飲酒が重なった場合に第2 癌リスクが相乗的に高くなったことが示された 1)。斉川は 2)全国7 つの主要施設から頭頸部扁平上皮癌565 例を集積し,14. 5%に重複癌が発生していたと報告している。発生部位は食道が最も多く,以下,頭頸部,胃,肺の順であり,これら4 部位で81. 9%を占めていた。重複癌の累積発生率は第1 癌初診時に4. 1%あり,その後毎年2. 6%ずつ上昇していた。中溝は2, 000 例を超える自験例を基に,初発部位別の第2 癌の発生を検討し報告している 3)。重複癌が生じやすい癌は下咽頭癌,中咽頭癌,舌癌,舌を除く口腔癌,喉頭癌の順であった。第2 癌が口腔・咽頭に生じるリスクは,男性では下咽頭癌(オッズ比38. 92),舌癌(同18. 71),喉頭癌(同7. 06),女性では舌癌(同39. 19)で有意に高かった。第2 癌が食道に生じるリスクは男性の下咽頭癌(オッズ比53. 02),中咽頭癌(同31. 22),口腔癌(同16. 08),喉頭癌(同7. 10),舌癌(同6. 58)で有意に高く,第2 癌が肺に生じるリスクは喉頭癌(オッズ比2. 36)で有意に高かった。
治療前に上部消化管内視鏡検査を行うことが予後の向上につながったという点についてはいまだ明確ではない 4, 5)が,早期頭頸部癌患者の死因では肺癌や上部消化器癌が主たるものとなっており 6),これらに対する検査は重要だと考えられる。
以上より,頭頸部癌治療前には頭頸部領域のみならず,食道を中心とした上部消化管内視鏡検査による重複癌検索が必須である。また,多量飲酒・喫煙歴のある患者は重複癌についてのハイリスク症例と考えられ,肺も含めた検索が推奨される。
参考文献
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- CQ1-6
- 頭頸部癌の病期診断においてFDG-PET は有用か?
- 推奨グレードB
- PET は病期診断におけるN・M 因子の診断のみならず,再発診断についても有用である。
解説
PET の意義は,機能診断であることと全身検索が容易に行えることにある。FDG-PET は,活発に糖を取り込むとされる悪性腫瘍の性質を利用して,F-18 で標識したブドウ糖を投与し,その集積をみるものである。Ga シンチグラフィと比較すると,空間分解能・定量性の点で優れており,さらに解剖学的な部位同定が可能なPET-CT の開発により急速な普及がみられている。ただし,炎症性細胞にも糖は多く取り込まれ,良性腫瘍でも甲状腺腫やワルチン腫瘍,多形腺腫などには高い集積を認めることから,他の検査と組み合わせての診断が求められる。
頭頸部癌の原発巣は視診や触診,内視鏡,生検により診断されることが多く,PET は原発巣の進展範囲の診断に役立つ。N 因子となるリンパ節転移に関するPET 検査は,Kyzas ら 1)によると感度79%(95% CI:72〜85%),特異度86%(95% CI:83〜89%)であり,その有用性は評価されている。しかしながらcN0 症例では特異度87%(95% CI:76〜93%)であるのに対して,感度は50%(95% CI:37〜63%)と低く,診断精度は低下する。Liao ら 2)もcN0 症例に対するPET の有用性はCT やMRI との有意差はなく,複数の画像診断法を併用することが必要であると述べている。M 因子としての遠隔転移や頭頸部癌にしばしば認められる重複癌の検出能は他のモダリティより優れており,頭頸部癌患者においてはPET によって遠隔転移または重複癌が約10%に発見されている 3)。
原発不明頸部転移癌においてPET による原発巣の検出が期待されるが,PET による原発巣の発見頻度は約25%と報告されている 2)。
再発腫瘍に対してPET ではFDG 高集積を示し,再発診断にPET は極めて有用である。PET の再発診断では感度73〜100%,特異度57〜100%とCT・MRI に比べて有意に高かった 3)。特に頸部リンパ節転移再発においては感度88%,特異度78%と有用な診断法であると考えられた 3)。
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- CQ1-7
- 頭頸部癌治療後の経過観察に画像検査は有用か?
- 推奨グレードB
- 治療後のベースライン画像(CT/MRI)は再発腫瘍の検出に役立つため推奨される。
- 推奨グレードB
- 化学放射線療法後の治療効果判定にPET-CT は有用である。
解説
頭頸部癌の治療後には様々な方法を組みあわせて再発(あるいは2 次癌)を早期に発見しようと努めるが 1),経過観察の頻度や画像検査モダリティについて世界的に統一した見解はない。これは国や施設により方針が異なるだけでなく,明確な根拠に乏しいためガイドラインにも具体的な推奨がほとんど記載されていないからである。またコスト面を包含した評価であっても保険制度の違いにより推奨は異なるであろう 2)。
どのようなフォローアップ方法が再発の発見に効率的であるかについてのエビデンスはない 3)。再発を発見する契機としては患者申告によるものが多く,医師による発見が生存期間を改善しなかったとする報告がある 4)。また,同様にSchwartz らは放射線治療後の患者に対し,intensive なフォローアップを行うことによって患者の生命予後が改善できなかったとしている 5)。一方で,Kissum らは54 例の再発のうち49 例が初回手術後2 年以内に再発していること,再発時に自覚症状を有していたのが20 例,そのうち予定を早めて受診したのは9 例であったこと,検出方法の内訳が(組織学的診断:18,MRI:11,CT:6,穿刺吸引細胞診:14,理学的診察:5)となっていることから,最初の2年間の経過観察が重要であることを示した 6)。
画像検査の有用性に関する報告は1990 年代には胸部X 線,2000 年前後には胸部CT,2000 年代中盤にはPET-CT の報告が中心となっている。従来胸部X 線は経過観察の際にルーチンに用いられていたがVisscher らは定期的なフォローアップは不可欠であるが,胸部X 線は喉頭癌だけに有用であったと報告した 7)。O’Meara らは,肺の2 次癌の治療を要する状況でなければ胸部X 線は必須でないと結論付けた 8)。Warner らは胸部X線で未検出の異常が胸部CT で診断できたことを報告し,胸部CT は胸部X 線に代わって行われるべきであると結論付けた 9)。NCCN ガイドラインにおいて,定期的な胸部CT の適応となるのは喫煙歴のある患者(肺癌のスクリーニング目的)であるとされている 10)。また,特に進行頭頸部癌に対しベースラインCT/MRI は治療後3〜6 ヵ月に撮られるべきであり,再発病変の早期検出に役立つことが示されている 11)。これもNCCN ガイドラインで推奨されているが,その後の画像検査については再発の徴候,喫煙歴,他の検査で到達し得ない部位かどうかによって適応を判断することとなっている 10)。
最近では,再発の検出にPET-CT がCT/MRI よりも優れているという報告が多く,その結論は一致している 12, 13)。一方で,再発の検出においては高い偽陽性を示すことは問題とされている 3)。
また, 再発の検出のみならず,RT/CRT 治療の効果判定も広義の経過観察である。NCCN ガイドラインの推奨は①増大の可能性がある場合にCRT 後4〜8 週のCT を許容する,②それ以外の場合またはPET を用いないで診断する場合,8〜12 週でのCT の施行を勧めている(2012 年版までは6 週以降との記載であった)。Ong らは,CRT 後の患者の頸部リンパ節の評価においてPET が有用であることを示した。PET-CT による診断は陰性的中度が高く,安全に頸部郭清術を回避できること,さらに,12 週以降の検査で感度・特異度が上昇することを示した 14)。Isles らはメタアナリシスにおいて,PET-CT 診断はCRT 後10 週以降で正診率が増すことを示した 15)。2015年に発表されたランダム化第3 相試験(PET-NECK study)は,12 週後のPET-CT によるサーベイランスが計画的頸部郭清術(一律に頸部郭清術を試行すること)に対し非劣性であることを示した 16)。
これら様々な報告をまとめると以下のようになる。
- 治療後のベースラインCT/MRI は再発病変の早期検出に役立つため推奨される。
- 咽喉頭癌の進行例,疑わしい所見や徴候を有する場合,喫煙歴のある患者,理学的診察で到達しえない部位のサーベイランスには画像検査が推奨される。
- 局所領域再発は最初の2 年間に多くを認めるため 2),CT/MRI による経過観察が推奨される 17)。
- 再発病変の検出あるいは治療効果判定法としてPET-CTが推奨される。
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- CQ1-8
- 頭頸部癌治療後の経過観察に血液検査は有用か?
- 推奨グレードC1
- 経過観察における腫瘍マーカー測定の有用性は確立していない。
- 推奨グレードA
- 血中サイログロブリン測定は甲状腺癌全摘後の再発の早期発見に有用である。
- 推奨グレードB
- 頸部に対する放射線治療後は長期にわたる甲状腺機能検査が必要である。
解説
頭頸部扁平上皮癌の治療後の経過観察において,血液を用いたスクリーニングとして有用な検査値や,単独の腫瘍マーカーは確立していない 1)。腫瘍マーカーとしてSCC 抗原,CYFRA21-1 が用いられるが,いずれも治療前の陽性率は30〜60%にとどまる。治療後の経過観察のモニターとしての有用性が報告されているが,単独で再発の早期発見に明らかに有用であるとする証拠は少なく,確立したものではない。
甲状腺癌においては,血中サイログロブリン値が全摘後の病勢は判断のためのマーカーとして用いられる。甲状腺全摘術を受けた患者で,抗サイログロブリン抗体を同時に測定して陰性である場合,血中サイログロブリン測定は再発の早期発見に有用である 2, 3)。
化学放射線療法後の患者においては短期的には貧血,電解質異常や脱水に対する注意を要する。頸部に対する照射例においては甲状腺機能低下のモニタリングが必要である。甲状腺機能低下の起こる時期に関しては治療後平均16〜41 カ月と報告されているが,早期では照射後4〜6 週間で甲状腺機能の低下を認める場合もある。一方,5 年以上経過して判明する症例もあり,患者の年齢や照射野による差異もあるが甲状腺機能低下の発生時期は一定しておらず,このことからも長期にわたるスクリーニングが重要といえる 4)。
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Ⅳ-2.口腔癌(舌癌)
- CQ2-1
- 舌癌の深達度をどのようにして測定するべきか?
- 推奨グレードB
- 画像検査ではMRI,US による測定が優れている。またCT や触診の有用性も報告されている。
解説
2018 年からは新しいTNM 分類(第8 版)が用いられることとなった。新分類では腫瘍の深達度(depth of invasion:DOI)がT 因子を規定する要素として加わり,5 mm<DOI≦10 mm でT2,DOI>10 mm でT3 に分類される。これは11 施設,3, 149 人の口腔癌患者の病理学的なDOI に基づいた検討であるThe International Consortium for Outcome Research(ICOR)in Head and Neck Cancer による成果 1)を反映している。
実臨床では治療前に舌癌の深達度を出来るだけ正確に把握したいが,新しいステージングマニュアル 2)には治療前の深達度測定について以下の記載に留まっている。
- 触診がDOI の判断に必須であること
- 厚いものでは画像診断(CT/MRI)によるが,DOI とthickness を区別しなければならない
- 臨床的判断において,例えばDOI 4 mm と6 mm を区別することは難しく,DOI が明らかになってからステージが上昇する
深達度の指標としてdepth(周囲の健常粘膜によって定められる平面からの浸潤の深さ:深達度)とthickness(隆起または潰瘍から浸潤の最も深い部位までの距離:腫瘍そのものの厚み)という2 種類の用語があり,これまでの報告はdepth とthickness に関するものの両者が混在している。
depth(thickness)測定に関しては,軟部組織の描出に優れるMRI の有用性を示した報告が最も多い 3-11)。画像上でのdepth 計測に関し,①腫瘍と粘膜の境界を直線で結んだ基準線から浸潤の最深部に対する垂線を引き,その距離を計測する方法 5, 9),②舌中隔を基準とし,浸潤の最深部までの距離を対称となる健側舌表面までの距離から減じる方法 7, 11),の2 通りの報告がある。DOI が広く口腔癌全体に適用されること,また病理学的なDOI の評価法に近いという点からは前者の方法がより現実的であるが,定まった方法はないのが現状である。
US についてはShintani らが最初にその有用性を報告したが 12),その後も複数の報告がある 13-16)。Yesuratnam らは,US とMRI の比較においてUS のほうがthickness とより高い相関を示すことを報告した 16)。USはより正確な測定を行うための有力な方法の一つである。口腔内に使用できるプローブがあれば,簡便で低侵襲である。欠点としては疼痛,腫瘍の局在部位や開口障害などによって測定しにくい場合があることが挙げられる。さらに,得られる計測値は隆起部分も含めたthickness であるため,隆起の高さを減じてDOI を求める必要がある。
一般に軟部組織の評価にはMRI がCT を上回るが,CTで もthickness の評価は可能であることが示されている 17)。実臨床では歯科用金属によるアーチファクトが起きた場合,腫瘍が把握できない。
Alsaffar らは触診,MRI と病理学的なdepth との関係について報告した 4)。5 mm 以上の深達度の腫瘍では触診,MRI ともにdepth と強い相関を認めたが,5 mm 未満の表在病変では弱い相関であった。ある程度のdepth を有していれば触診でも判断できるという結果であるが,客観性に欠けるという問題がある。
興味深いのは,術前の測定値と病理学的なdepth(thickness)の間には通常若干の乖離があり,術前の測定値のほうが大きく見積もられていることである。これは病理標本を作成する際のホルマリン固定によって,標本がわずかに収縮することを示している。この収縮率について,Lwin らは0. 7(舌で0. 86) 10),Goel らは0. 8 であった 5)と報告している。このように術前診断と病理学的な深達度には差が生じることが予想される。例えば,術前にcT3 と診断されたものが,標本の収縮によりpT2 と診断される場合があり得る。depth(thickness)と頸部リンパ節転移,また予後との関連を示した報告は,この収縮した病理学的な測定値をもとに検討されていることを認識しておく必要がある。今回の改訂で初めてDOI がステージングに反映されたが,今後の評価・動向が注目される。
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- CQ2-2
- 舌癌に対する密封小線源治療の適応は?
- 推奨グレードC1
- 舌癌の密封小線源治療は主として病期Ⅰ・Ⅱに適応される。
解説
舌癌の密封小線源治療は根治治療であり,低侵襲で機能と形態の温存ができるという利点がある。しかし,低線量率線源の世界的な線源供給制限や施設のマンパワーの問題などで,本邦における本治療の実施可能施設は限定されている。
小線源治療は,線量率から低線量率治療(low dose rate:LDR)と高線量率治療(high dose rate:HDR)に分けられる。LDR は192 Ir,137 Cs,198 Auを用いた連続照射が行われる。HDR は192 Ir を用いた遠隔操作式後装填方式(remote after-loading system:RALS)による分割照射が行われ,医療従事者の被曝がなく,隔離病棟への入院は不要である。
舌癌に対する密封小線源治療の適応は,病期Ⅰ・Ⅱ,すなわちT1 N0,T2 N0とされる 1-5)。適応を拡大してT3 に行われることもあるが 6, 7),表在性のものが対象となり,腫瘍径や厚みの大きいものでは外照射が先行される 4, 6)。
小線源治療による舌癌病期Ⅰ・Ⅱの治療成績について,原発巣制御率はⅠ期79〜93%,Ⅱ期72〜80%であり 1-5, 8),腫瘍径が大きいものや内向浸潤型では低下する 1, 2, 4)。5 年生存率はⅠ期81〜96%,Ⅱ期75〜89%と報告され 1-5, 8),後発頸部リンパ節転移が大きな予後因子となっている。LDR とHDR との比較では,両者の治療成績に差はないとされる 7-9)。外科療法との比較では,舌癌病期Ⅰ・Ⅱの治療成績は手術と同等であるとする報告 3)と,手術より劣るとする報告 5)がある。
有害事象には,放射線性顎骨壊死や潰瘍形成,唾液腺障害による口腔乾燥症,味覚障害がある 1, 4, 10)。放射線性顎骨壊死など重篤なものは,スペーサ導入によりほとんどが防止可能となり 10),高いQOL が得られている 11)。
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- CQ2-3
- 早期舌癌においてセンチネルリンパ節生検は有用か?
- 推奨グレードC1
- 信頼性の高い診断ツールとして有用である。
解説
2015 年に報告されたインドの第Ⅲ相試験 1)の結果によって,早期口腔癌に対する予防的頸部郭清術の予後における優位性が示されたが,N0 診断や経過観察を厳格に行うことによって予防的頸部郭清術の有効性が薄らぐ可能性は依然として残されている。
早期癌の全症例に予防的頸部郭清術を行うとすると,70%以上の患者に不要な手術を施すことになり,術後機能障害や合併症の可能性がある。この点においてセンチネルリンパ節生検は,予防的頸部郭清術よりも低侵襲であることが示されている 2-4)。また,不要な頸部郭清術が避けられることで医療費の削減効果も見込まれる 5-7)。さらに,予防的頸部郭清術の範囲外であるlevel Ⅳ への潜在的転移は9〜10%であると報告されており 8-10),このスキップ転移への対応も問題となる。これらの問題の解決策としてセンチネルリンパ節生検は有用である。
予防的頸部郭清術との予後における比較であるが,小規模な後ろ向き研究で有意差を認めなかったという報告 11, 12)はあるが,その解釈は慎重にすべきである。最近報告された多施設研究でも比較試験は行われておらず,本邦で行われた非劣性試験「N0 口腔がんにおける選択的頸部郭清術とセンチネルリンパ節ナビゲーション手術の無作為化比較試験(UMIN000006510)」の結果が期待される。
口腔癌におけるセンチネルリンパ節生検は1996 年に最初の報告があり 13),その後さまざまな施設から報告されている。欧米および本邦でも多施設共同試験が複数行われており 14-18),センチネルリンパ節生検が早期口腔癌の頸部リンパ節転移状況を反映することが示されている。Paleri らの2005 年のメタアナリシスでは口腔癌301 例での結果を分析し,その高い感度と経済性について言及している 19)。Thompson らの2013 年のメタアナリシスでは26 研究における766 例を調査し,口腔癌のサブセットにおいて感度94%,陰性的中度96%であったことを報告した 20)。現在,センチネルリンパ節生検は信頼性の高い診断ツールであると認識されている。
すでに米国ではFDA が,2014 年に診断用放射線イメージング剤を頭頸部癌のセンチネルリンパ節生検に承認した。NCCN ガイドライン2017 年版では,T1-2 N0 口腔癌の治療選択肢にセンチネルリンパ節生検が挙げられている 21)。このように,センチネルリンパ節生検は欧米ではすでに標準的医療となっている。また,本邦でも乳癌と悪性黒色腫においては保険医療として承認されている。今後,頭頸部癌に対する保険適用が認められることで有用な選択肢の一つとなることが期待される。
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- CQ2-4
- 舌扁平上皮癌病期Ⅰ・Ⅱ症例に対して予防的頸部郭清術を行うことは,経過観察を行い再発時に頸部郭清術を行う場合に比べて,生存率の向上に寄与するか?
- 推奨グレードC1
- 寄与する。ハイリスク群に対して予防的頸部郭清術を施行する。
解説
病期Ⅰ・Ⅱ舌癌に対する予防的頸部郭清術の意義に関しては,いまだ意見が分かれている。8 つの論文の638 例を対象としたdecision analysis では予防的頸部郭清術の施行が好ましいとの結論であったが 1),16 施設の868 例を対象とした同様の統計学的手法を用いた研究では,経過観察が推奨された 2)。この問題に対する前向き研究は,2015 年までには4 つの報告があった 3-6)。いずれの論文も研究計画,N0 の診断精度,経過観察などに問題を抱えた報告であり,本CQ の答えを導くには至っていない。また,これら4 つの論文からなるメタアナリシスがあり,予防的頸部郭清術を行うことにより,当該癌における死亡の危険性を0. 57 倍(95% CI:0. 36-0. 89)に減少させることから,予防的頸部郭清術を施行するべきであると結論づけた 7)。しかし,前述のように元となる4 つの論文の質が低いので,メタアナリシスといえども,信頼性に劣るといわざるをえない。
そんな中で,2015 年5 月にインドのTATA 記念病院単一施設における大規模な前向き試験の結果が報告され,衝撃を与えた 8)。口腔癌病期Ⅰ・Ⅱ596 例を対象として,予防的頸部郭清術群と経過観察群にランダム化した。結果は,3 年生存率で予防的頸部郭清群では80. 0%に対して,経過観察群では67. 5%であり,予防的頸部郭清群において有意に予後良好であった。また,サブグループ解析では腫瘍の厚みが3 mm を超える症例で特に有用であると報告された。実はこの論文も様々な問題を抱えていることが明らかになっている。一つは両群において非常に多数の症例に対して術後照射が行われており,純粋な予防的頸部郭清術の意義を評価できていない。もう一つは,経過観察が不十分であったのか経過観察群ではN3 の状態で頸部リンパ節転移が明らかになり,その時点で手術不能と判断された症例が20%近く存在していたことなどが挙げられる。本CQ に対する答えを得るには,しっかりとデザインされた大規模な前向きランダム化試験の結果を待つしかないだろう。
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- CQ2-5
- 舌・口腔癌において,肩甲舌骨筋上頸部郭清術はN1 症例(レベルⅠ)への適応は許容されるか?
- 推奨グレードC2
- 肩甲舌骨筋上頸部郭清術(supraomohyoid neck dissection:SOHND)はN0 症例に対する予防的頸部郭清術として用いられる。現時点でN+症例に対するSOHND の適応については確立されていない。N1 症例に適用する際にはレベルⅣを含めたExtended SOHND も考慮する。
解説
肩甲舌骨筋上頸部郭清術(supraomohyoid neck dissection:SOHND)はレベルⅠ・Ⅱ・Ⅲ領域を対象とした選択的頸部郭清術に分類される 1)。舌・口腔癌に対する予防的頸部郭清術で,modified radical neck dissection 群とSOHND 群の全生存率に有意差がなかったとするブラジルからの報告 2)によって,N0 症例に対するSOHND の適用には一定のコンセンサスが得られている。一方で,郭清下縁に解剖学的境界がないことやスキップ転移の可能性から,N+症例に対するSOHND の適応については議論の分かれるところである。N+症例に対するSOHND 適応の妥当性に関する報告の多くはretrospective study であり,randomized controlled trial は存在しないのが現状である。
Beyers らは頸部郭清を施行した舌癌277 症例の15. 8%で,レベルⅠ・Ⅱへの転移なしにレベルⅢ・Ⅳへスキップ転移を示したと報告している 3)。一方でShah らは,頸部郭清症例501 例,516 側をretrospective に解析し,レベルⅣへのスキップ転移の頻度を1. 5%と報告しており,Beyers らの報告とは乖離が見られた 4)。Dias らの報告でも舌・口腔底癌T1/T2 症例339 例を検討した結果,スキップ転移の頻度は1. 5%,潜在的転移率はレベルⅣで6. 5%(N0 症例で1. 5%,N+症例で23. 7%),レベルⅤで2%となり,レベルⅤにのみ転移がみられた症例はなかったとされている 5)。
Andersen らはN+症例106 例(N1:58 例)に対して選択的頸部郭清術(レベルⅠ-Ⅲ:63. 2%)を行い,5 年疾患特異的生存率88. 1%,5 年局所再発率6. 7%,下頸部からの再発率4. 3%と良好な成績を示し,リンパ節の大きさ・可動性・頸部手術や放射線治療の既往を考慮すれば選択的頸部郭清術はN+症例においても有用であると結論づけている 6)。また,Kowalski らや朝蔭らの報告でもレベルⅣへの転移は0〜0.6%と低頻度であったことから,レベルⅠ に限定したN1 症例ではSOHND は妥当な治療選択と結論づけている 7, 8)。
一方で,Shah らの報告では舌口腔癌N+症例におけるレベルⅣへの転移率は15〜16%とされており 4),郭清下縁の設定には慎重な意見も多い。Dias らや鈴木ら 9)の報告においてはN0 症例ではSOHND を選択するが,N+症例では郭清範囲をレベルⅣまで広げることを推奨している。また,Koerdt らは術中迅速診断にてレベルⅡ・Ⅲ領域に転移があれば同様にextended SOHND を推奨している 10)。
以上のようにN+症例に対するSOHND の適用については,特にレベルⅣの取り扱いを巡って議論が対立しており,現時点では結論が出ていない。一方で,レベルⅤへの転移が低頻度であることに関してはおおよそ一致しており 5),最近のLiang らの報告でも5 編のretrospective study をメタ解析した結果,N+症例に対する選択的頸部郭清術(論文によって郭清範囲はレベルⅠ のみ/レベルⅠ-Ⅲ/レベルⅠ-Ⅳと様々)と全頸部郭清術で局所制御および予後に有意差がなかったとされており 11),レベルⅤを省略することによる予後への悪影響は少ないと考えられる。レベルⅤの郭清を省略することで術後副神経損傷を低減できるとする報告もあり 12),N1 症例に対してレベルⅤ郭清を省略したextended SOHND を適用することについては許容されると考えられる。
なお,過去の報告の問題点として,術後放射線治療を前提とした選択的頸部郭清について論じているものが多い点や,リンパ節転移の診断精度に疑問が残る点に注意を要する。Kowalski らはレベルⅠ のN1 症例は偽陽性が多く,術後病理検査で57. 4%の症例でpN0 であったと報告している 7)。近年,USやPET-CT などの診断精度が進歩しており,厳密に規定したN1(レベルⅠ 領域)症例を対象にして,さらなる検討を加えていく必要があろう。
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- CQ2-6
- 局所進行舌癌に対して術前化学療法は有用か?
- 推奨グレードC3
- 口腔癌に対する術前化学療法は十分な科学的根拠がなく,行うことは勧められない。
解説
舌癌を含む根治切除可能な局所進行口腔癌に対する術前化学療法の有用性については,主に2つの第Ⅲ相試験と複数のメタアナリシスにて検討されている。
術前化学療法(ICT)における切除可能口腔癌を対象とした第Ⅲ相試験では 1),術前にCDDP+5-FU 療法を行うICT 群と手術単独群を比較し,主要評価項目を局所または遠隔再発割合とした。5 年PFS はICT 群で57%,手術単独群46%と有意差はなかった。ICT 群の奏効例では,再発リスクの改善が得られたが,3%に治療関連死を認め,長期経過観察でも生存割合に差を認めなかった 2)。
ICT をTPF に強化し,ICT 後に手術+術後RT を施行するICT 群と,手術+術後RT を施行する標準治療群第Ⅲ相試験が実施された 3)。ICT 群では80. 6%の高い奏効割合が得られるも,OS に有意差を認めなかった。本試験も長期経過観察で生存割合に差を認めていない 4)。
上記2 試験を統合したメタアナリシスでは 5),N2 症例のみのサブグループ解析でICT が生存割合を改善する可能性が示唆ことが示されたが,全体としてはこれまでのメタアナリシスと同様に,ICT では生存割合の改善を示せなかった 6-8)。以上より,口腔癌に対するICT には生存割合を改善する十分な科学的根拠がなく,行うことは勧められない。
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- CQ2-7
- 舌半側切除に対する適切な再建方法は?
- 推奨グレードC1
- 舌半側切除程度の切除後の再建では一期縫縮,ないしは薄い皮弁で再建を行い,会話・摂食機能を保持する。
解説
舌部分切除,舌半側切除後の比較すべき術後機能として,嚥下,咀嚼機能と会話機能がある。評価方法は文献によりさまざまであるが,舌残存組織の程度と舌可動性(動き)に比例しているとの報告が多い 1, 2)。一方,舌部分切除,舌半側切除後の再建方法には,一期縫縮,植皮,遊離皮弁再建,有茎皮弁再建などがある。しかし,舌の可動性を考慮すると,皮弁による再建の必要性も改めて考慮しなければならない。切除範囲と再建方法によりどのように機能面で違いがあるのかを解説する。
舌部分切除
舌半側切除以下,側方切除のみの場合,皮弁再建,一期縫縮いずれも嚥下,咀嚼能力はほぼ問題なく保たれ,制限なく摂取が可能である 1, 2, 4-6)。一期縫縮のほうが皮弁再建例より発語明瞭度が良好であるとの報告もみられるが 3),前方切除例では薄い皮弁で再建したほうが舌の動き,会話機能ともに優れているとの報告もあり 2),機能を考慮した再建方法種別の明確なエビデンスのある論文はない。
舌半側切除(舌可動部半側切除,舌半側切除)
会話機能の点では,皮弁による再建より一期縫縮のほうがよいとの報告があるが明らかではない 7)。一方,皮弁で再建した場合の比較では,前腕皮弁で再建したほうが大胸筋皮弁よりはよい 8)。QOL 調査では70%以上の回復を認め,日常生活の会話に関してはおおむね問題なく行える 5, 9)。
嚥下機能の点では,一期縫縮よりは前腕皮弁で再建したほうが,機能が良好で有意差を認める 7)。皮弁の種別に関して有意差はないが,大胸筋皮弁よりは前腕皮弁のほうがよいとの報告がある 8)。しかも,前腕皮弁は大胸筋皮弁,腹直筋皮弁よりも摂食機能,会話機能,舌可動部の整容面で優れている 1, 10)。食事内容としてはおおむね制限なく可能であり,嚥下機能検査では術前との有意差はないか若干の低下を認める 4, 5, 9, 11)。しかし,舌の可動性に関しては半分以下程度しか回復しない 2)。前腕皮弁と前外側大腿皮弁を比較すると会話機能に差はないが,皮弁採取部は前外側大腿皮弁が審美性で優れている 12)。いずれもエビデンスレベルの高い論文はない。
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- CQ2-8
- 舌亜全摘出以上の症例において,隆起型の舌の再建は術後機能の保持に有用か?
- 推奨グレードB
- 舌亜全摘出以上の症例において,隆起型の舌の再建は術後の嚥下および構音機能の保持に有用である。
解説
舌亜全摘出以上の症例では,呼吸,嚥下および構音機能が著しく障害される。したがってその再建では,呼吸機能の確保とともに,嚥下および構音機能を回復させて患者のQOL を維持することが目的となる。喉頭合併切除の症例では通常の構音機能の回復は望めないが,喉頭温存症例では構音機能の回復により高いQOL を得る可能性がある。しかし,その機能的予後には再建方法の他に多くの因子が影響し,誤嚥性肺炎を繰り返す症例では喉頭摘出術を余儀なくされる場合もある。
現時点で,元の舌と同様に動く舌を再建することは不可能である。したがって,元の舌の機能を回復するためには,元の舌と同様に口腔内を満たし口蓋に接する隆起型の舌の再建が必要と考えられる。再建した舌が口蓋に接することで,嚥下の口腔期における食塊の保持と中咽頭への搬送が可能となり,さらに嚥下圧が上昇しそれに残存する咽頭収縮筋の代償的動きが加わることで食塊が食道に送り込まれる 1-4)。また,構音には狭い共鳴腔と舌尖が口蓋に接することが重要であるが,再建舌のvolume によって狭い共鳴腔が再現され,それが口蓋に接触することで構音機能が代償される 1-4)。
舌全摘出・亜全摘出の喉頭温存症例に対し隆起型のvolumeのある舌の再建を行い,術後機能を後ろ向きに検討した報告は多く,それらによると70〜80%の症例で気管カニューレの抜去が可能となり,嚥下および構音機能において良好な結果が得られている 4-8)。また,Kimata ら 3)は,再建された舌の形態を隆起型,亜隆起型,平坦型,陥凹型に分類し後ろ向きに検討した結果,隆起型や亜隆起型が嚥下および構音機能において有意に良好であったと報告している。さらに,Yun ら 9)は,再建した舌の隆起が経時的に低くなる場合があるが,その程度の大きいものほど嚥下および構音機能が悪くなったと報告している。
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Ⅳ-3.上顎洞癌
- CQ3-1
- 上顎洞扁平上皮癌眼窩壁浸潤症例において,眼球を温存することは生存率を低下させるか?
- 推奨グレードC1
- 眼窩骨膜までの浸潤であれば,眼窩内容を温存しても局所制御率や生存率は低下しない。
- 推奨グレードC1
- 手術前後の放射線照射は眼窩内容温存に寄与する。
解説
眼窩内浸潤は上顎洞癌の60〜80%にみられ 1),上顎洞癌を含めた鼻・副鼻腔癌で眼窩壁浸潤がみられる場合は予後が悪い 2-4)。しかし,眼窩内容摘出の基準は必ずしも確立されたものがないのが現状である。
外眼筋,眼窩尖,眼球結膜あるいは強膜に浸潤がある場合に摘出することは,ほぼコンセンサスが得られている 5)。眼窩内の脂肪に浸潤 1)がある場合も,摘出の適応となることが多い。眼窩骨膜をこえた場合には,その内側は眼窩内脂肪,外眼筋でバリヤーとなる膜構造がないため,眼窩内へ播種している可能性を考えて摘出が行われる。しかし,術前治療の後に腫瘍が眼窩内脂肪組織にとどまっている場合は,眼球を温存するという方針の施設もある 6)。眼瞼に浸潤した場合は,機能的な再建ができないときは摘出の適応とされている 5)。眼窩骨膜までの浸潤であれば,眼窩内容を温存しても局所制御率や生存率は変わりないという報告が多い 1, 5)。しかし,温存することにより治療成績が低下したという報告もある 7)。眼窩内容を温存する場合でも,眼窩下壁を広範に切除すると眼球の偏位や複視が生じるため,眼窩下壁の硬性再建を考慮する 4, 5)。
眼窩内容温存に寄与する治療方法として,手術前後の放射線照射が有用とする報告が多く,特に本邦では動注化学療法の併用により眼窩内容温存率が向上したとの報告が散見される 6, 8, 9)。また,照射を併用すると眼科的合併症発生のリスクが高くなるが 5),眼窩内容温存については,視機能のみならず,整容的な面も含めて多面的に考える必要がある。
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- CQ3-2
- 頭頸部癌に対する超選択的動注化学療法は臓器機能温存に寄与するか?
- 推奨グレードC1
- 現在まで超選択的動注化学療法の有用性を明確に示した報告はないが,放射線治療と同時併用療法は,部位・病期によっては臓器機能温存に寄与する可能性がある。
解説
超選択的動注療法とは,外頸動脈から分枝した血管,すなわち上甲状腺動脈,舌動脈,顎動脈などに選択的にカテーテルを挿入し,そこから抗がん薬を投与する方法である。通常は大量のシスプラチンを動注し,そのシスプラチンをチオ硫酸ナトリウムにて中和し副作用を軽減することにより,毎週動注を行う方法を指す 1)。放射線治療との同時併用で行われることが多い 2-4)。
オランダで口腔癌,中・下咽頭癌,喉頭癌を対象として,放射線治療との併用療法としてシスプラチンの動注(IA-CRT)と静注(Ⅳ-CRT)の無作為化比較試験が行われ,locoregional control,disease free survival,overall survival は両群に差がなく,有害事象は腎障害がⅣ-CRT 群に多く,神経障害がIA-CRT群に多い結果であった 4)。適応と動注の技術的な問題が指摘されており 5),Ⅳ-CRT が良好な成績が得られているため,動注の手技の煩雑さ,コスト,治療に伴う脳血管障害,神経障害などのリスクを考えると,IA-CRT のよい適応となる対象を絞っていくことが重要である。具体的には,腫瘍が片側に限局し腫瘍体積が30 cc 以上であればIA-CRT のほうがよい成績が得られている。また,確実に腫瘍の栄養血管にカテーテルを挿入できる技術もこの治療には必須である。
血管支配が比較的単純な上顎洞,舌根の局所進行癌については,多くの施設から良好な成績が報告されており,よい適応と考えられる 6-9)。舌は動注を行いやすい部位であるが,下顎骨壊死などの晩期障害のリスクが高い。喉頭癌については,良好な成績がいくつかの施設から報告されている 10, 11)。下咽頭癌はN2b〜3 では原発巣が制御されても遠隔転移が多くよい適応とはいえない 12, 13)。
現在までIA-CRT の有用性を明確に示した報告はなく,適応は慎重に判断すべきである。
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- 本間明宏,折舘伸彦,鈴木章之,他.下咽頭癌-喉頭機能温存治療-超選択的動注療法.耳鼻.2010;56:S66-S70. (レベル Ⅳ)
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Ⅳ-4.上咽頭癌
- CQ4-1
- 局所進行上咽頭癌において,放射線治療に化学療法を同時併用することは生存率の向上に寄与するか?
- 推奨グレードB
- 病期Ⅱ〜ⅣB の上咽頭癌の放射線治療においては,化学療法の同時併用が生存率の向上に寄与する。
解説
1,608〜2,450 例を含む7〜10 個の比較試験結果からなるメタアナリシスの3 編の報告がある 1-3)。いずれも化学療法併用で放射線治療単独に対し,ハザード比0. 74〜0. 82 で生存率改善が確認されている。Endemic area では予後不良の角化型扁平上皮癌の頻度が低く予後良好と考えられ,欧米のIntergroup study 0099 の結果を除外したメタアナリシスも行われたが同様の結果であった 3)。ただし,endemic areaからのデータでは,ハザード比の比較では化学療法の併用効果はより少ないとも分析されている。
化学療法併用は局所制御改善への寄与が最も大きく,遠隔転移制御への寄与がこれに次ぐと考えられる。また,化学療法併用で有意に急性毒性が増強し癌以外の死亡が増加し,治療効果改善の利点が減少するとの指摘がある。
化学療法の併用法では同時併用法の効果が最も大きく,導入化学療法,補助化学療法は効果が劣るとされている 1, 4)。また,病期Ⅱ症例単独で化学療法の併用効果を検証した比較試験では,生存率改善が確認されている 5)。以上より,病期Ⅱ〜ⅣB の上咽頭癌に対しては同時併用の化学放射線療法が推奨される。
上咽頭癌を対象とした2 編の比較試験で,強度変調放射線治療が通常照射法に比べ唾液腺障害を有意に減少したと報告されている 6, 7)。したがって,放射線治療法としては強度変調放射線治療が推奨される。
参考文献
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- Langendijk JA, Leemans CR, Buter J, et al. The additional value of chemotherapy to radiotherapy in locally advanced nasopharyngeal carcinoma:a meta-analysis of the published literature. J Clin Oncol. 2004;22:4604-12. (レベル Ⅰ)
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- CQ4-2
- 上咽頭癌において導入化学療法は有効か?
- 推奨グレードC2
- 上咽頭癌に対する導入化学療法は一定の有効性の報告がみられるが,適応は慎重な判断を要する。
解説
局所進行上咽頭癌に対しては,シスプラチンを併用したCRTが標準治療であるが,さらなる生存期間の延長,局所制御の向上,遠隔転移の抑制を目的に,導入化学療法(ICT)を用いた治療が検討されてきた。化学療法をCRT の前に追加するICTは,後に追加する追加化学療法に比べ,より完遂率が高く,化学療法のintensity を高く保つことで遠隔転移の制御に有利になる反面,最も重要なパートであるCRT の完遂率を下げるリスクもある。
ICT の有用性を直接検討したランダム化第Ⅱ相試験は3 つ報告 1-3)があるが,全生存割合で有意差を示したものは,ICT にTP(DTX+CDDP)を用いた1 試験 1)のみである。中国の多施設第Ⅲ相試験では,241 例の臨床病期Ⅲ-ⅣB期(T3-4 N0 を除く)上咽頭癌を対象に,TPF(DTX+CDDP+5-FU)のICT に続きCRT を行う群(ICT/CRT 群)と,CRT 単独群の比較で 4),ICT/CRT 群の3 年全生存割合が有意に優れていた(HR:0. 59, 95% CI=0. 36-0. 95;p=0. 029)。3年局所領域無増悪生存割合に有意差がなかったが,3 年無遠隔転移生存割合に有意差を認め(HR:0. 59, 95% CI=0. 37-0. 96;p=0. 031),ICT の遠隔転移の抑制効果が示された。なおこの試験は,対象年齢が18〜59 歳に制限され,TPFは通常の20%減量レジメンが使用されていた。
化学放射線療法とICT,追加化学療法を複数組み合わせた臨床試験は数多く報告があるが,それぞれの治療パートの独立した有効性の判断が難しいのでメタアナリシスによる検証が行われ,2006 年以降に5 編報告がある 5-9)。局所制御率の向上,遠隔転移の抑制,PFS,OS 改善が報告されたが,その結論は一貫していない。なお,最新のindividual participant data によるメタアナリシスでは,同時併用療法と追加化学療法の併用が最も生存に寄与すると報告され,ICT の生存への寄与は示されていない 9)。
対象を限定し(T3-4 N1/N2-3 M0 上咽頭癌かつ年齢18〜59 歳)減量したTPF 療法を用いた1つの第3 相試験の有効性報告があるが,同時併用療法後の追加化学療法に比較してICT がより良好である科学的根拠は十分でない。TPF 療法自体の毒性報告は数多くあり,この治療法の恩恵を受ける対象は年齢,全身状態,臓器機能の条件が良好であり,遠隔再発の高リスク対象を中心に慎重に適応を判断する必要がある。
参考文献
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- CQ4-3
- 早期上咽頭癌(病期Ⅱ)に化学放射線療法は有用か?
- 推奨グレードC1
- 早期上咽頭癌(病期Ⅱ)に対して化学放射線療法を行うことを考慮してよい。
解説
まず,上咽頭癌の病期Ⅱは上咽頭以外の部位の頭頸部癌と異なることに留意する必要がある。すなわち,原発がT1 もしくはT2 で,かつN1 に該当するリンパ節転移があっても病期Ⅱに分類される。したがって,病期Ⅱに分類されるのは,T1 N1 M0,T2 N0 M0,T2 N1 M0 である。
早期上咽頭癌(病期Ⅱ)を対象とした,CRT(CDDP 30 mg/m2 を毎週投与)とRT 単独を比較する前向き第Ⅲ相試験が中国で行われており 1),主要評価項目である5 年生存割合(OS)は,CRT 群とRT 群でそれぞれ94. 5%と85. 8%(HR 0. 3)であり,無増悪生存割合(PFS)(87. 9% vs 77. 8%;HR 0. 45),無遠隔転移生存割合(94. 8% vs 83. 9%;HR 0. 27)のいずれもCRT群が有意に優れていた。また,予後(OS, PFS, 遠隔転移)に関する多変量解析では,いずれも化学療法のサイクル数が唯一の独立した予後因子であり,化学療法の併用が重要であることが示唆されている。
一方で本試験における病期Ⅱの診断にあたり,Chinese 1992 staging system という中国独自の病期分類を採用しており,AJCC stage(第7 版)に置き換えると病期ⅢがRT 単独群で10. 5%,CRT 群で 16. 4%含まれることに注意が必要である。これらの症例はすべて,原発はT2 以下であったが,N2 に該当するリンパ節転移を有したためAJCC stageⅢ と判断されている。さらに本邦とは異なり,組織型はWHO typeⅢ(未分化癌)が95%以上を占めるendemic area からの報告であることにも留意する必要がある。
病期Ⅰ とⅡを合わせた44 人の早期上咽頭癌を対象とした放射線治療(RT)単独と化学放射線療法(CRT)(5-FU+CDDP を併用)を比較した後方視的解析 2)では,RT 単独群の3 年局所制御割合が91.7%であるのに対し,CRT を受けたStageⅡで3 年局所制御割合が100%であった。本検討では,病期Ⅰは11 人中全員RT 単独で,病期Ⅱは33 人中32 人がCRT で治療されたため,CRTで治療された病期Ⅱの生存成績は,病期Ⅰに匹敵するということになる。なお,3 年生存割合は両群とも100%であった。
また,病期Ⅱ上咽頭癌において,RT 単独,導入化学療法後RT単独,CRT,導入化学療法後CRTの4 群を比較した138 人の後方視的解析では,CRT が5 年無局所再発生存割合と5 年無増悪生存割合において最も優れていた 3)。T2 N1 のみを対象とした後方視的解析でも,RT 単独に比べCRTは有意に局所制御が優れていた(91. 5% vs. 77. 3% , p=0. 008)4)。
以上より,endemic area 以外からの報告が不十分であるが,早期上咽頭癌(病期Ⅱ)に対してCRT を行うことを考慮してよい。
参考文献
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- CQ4-4
- 上咽頭癌の化学放射線療法後に追加化学療法を行うことは推奨されるか?
- 推奨グレードC1
- 科学的根拠は不十分であるが,追加化学療法を行うよう勧められる。
解説
病期Ⅲ, ⅣA, ⅣB の上咽頭癌における標準治療は,Intergroup 0099 試験[1]の試験群であるCDDP 100 mg/m2 を放射線治療と3 週間毎に3 回併用するCDDP-RT後に,CDDP+5-FU(PF 療法)による追加化学療法を行うものである。また,化学療法を同時併用するCRT がRT 単独を生存で有意に上回ることはメタアナリシスでも証明されている 1, 2)。しかし,CRT 後に追加化学療法を行うことの意義は明確でなかった。その理由は,CRT とRT 単独を比較した7 つの第Ⅲ相試験の内 3-10),4 試験でCRT 後に追加化学療法が採用されており 3-6),残りの試験 7-10)はCRT とRT 単独を比較しており,追加化学療法の意義を検証できる試験デザインではなかったためである。加えてCRT 後の追加化学療法の有用性を検証することを目的に,CDDP 40 mg/m2 を毎週投与するweekly CDDP-RT 後に,3 サイクルのPF 療法による追加化学療法を行うweekly CDDP-RT → PF と,weekly CDDP-RT を直接比較する第Ⅲ相試験が行われたが,両群間の有効性に有意差を認めなかった 11)。
また,個々の症例データベースでのメタアナリシス(Meta-Analysis of Chemotherapy in Nasopharynx Carcinoma:MAC-NPC)12)の2016 年のアップデートデータでも,追加化学療法の意義について検討されている。RT単独との比較では,追加化学療法を行うCRT がCRT 単独や導入化学療法を有するCRT と比較して,全生存期間,無増悪生存期間,遠隔転移制御率,局所制御率の全てにおいて最も治療効果が高いことが報告されている。しかし,CRT との比較では無増悪生存期間,遠隔転移制御率の改善を認めるものの,全生存期間,局所制御率では有意な改善を認めないことや,追加化学療法により粘膜炎,聴力障害,好中球減少,体重減少などの有害事象発生割合が増悪することが示されている。
以上より,CRT 後の追加化学療法の実施は症例毎に検討すべきと考えられ,推奨グレードをC1 とした。
参考文献
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- Baujat B, Audry H, Bourhis J, et al. Chemotherapy in locally advanced nasopharyngeal carcinoma:an individual patient data meta-analysis of eight randomized trials and 1753 patients. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2006;64:47-56. (レベル Ⅰ)
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- Ribassin-Majed L, Marguet S, Lee AW, et al. What Is the Best Treatment of Locally Advanced Nasopharyngeal Carcinoma? An Individual Patient Data Network Meta-Analysis. J Clin Oncol. 2016;JCO2016674119. (レベル Ⅱ)
Ⅳ-5.中咽頭癌
- CQ5-1-1
- 中咽頭癌においてヒトパピローマウイルス(HPV)感染の検査(p16 免疫染色)は必要か?
- 推奨グレードA
- p16 免疫染色検査は中咽頭癌のTNM 分類の決定のために必要な検査である。
- CQ5-1-2
- 中咽頭癌においてHPV 感染の有無は予後予測因子となるか?
- 推奨グレードC1
- HPV 感染の有無は中咽頭癌の治療感受性や予後の予測に有用である。
- CQ5-1-3
- 中咽頭癌においてHPV 感染の有無で治療強度を変更することは推奨されるか?
- 推奨グレードC3
- HPV感染の有無により中咽頭癌の治療方法を選択することの有用性は確立していない。
解説
近年,ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus:HPV)感染が原因である中咽頭癌が増えている。HPV は古くから子宮頸癌の原因として知られていた。頭頸部癌の領域でも1980 年代からHPV の発癌への関与が報告されていたが,2000 年代に入り中咽頭癌の約50%においてHPV 遺伝子が検出されること,若い年齢層を中心に増加していることが報告され一気に注目を集めることとなった。性行為の若年化,多様化が増加の背景因子として考えられている 1)。本邦においてもHPV 感染と中咽頭癌に関する多施設共同研究が行われ 2),約50%の感染率であること,HPV タイプとしてHPV16 が90%を占めることが報告されている。また,免疫組織化学染色によるp16 タンパク発現はHPV 感染のサロゲートマーカーと位置づけられている 3)。
HPV 関連の中咽頭癌は側壁癌,前壁癌がほとんどであり,非喫煙者,非飲酒者にも多い。HPV 非関連の癌に比し放射線感受性,化学療法感受性が高く予後が良好であることから 4-6),TNM 分類(第8 版)において,HPV 関連(p16 陽性)中咽頭癌と非関連(p16 陰性)中咽頭癌が区別された疾患として記載された。HPV 関連癌に対する経口腔手術,照射線量の減量,照射期間の短縮,分子標的薬併用などによる低侵襲治療の有用性に関する臨床試験が内外で進行中であるが 7),まだ治療強度の個別化に用いることができるというエビデンスは確立していない 8)。
中咽頭癌に対する化学放射線療法は,嚥下障害などによるQOL(quality of life)低下が問題となることも少なくない。HPV 関連の中咽頭癌に対する低侵襲治療のエビデンスが確立され,ガイドラインに収載されることが期待されている。
参考文献
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Ⅳ-6.下咽頭癌
- CQ6-1
- 早期下咽頭癌において喉頭を温存する治療方針は推奨されるか?
- 推奨グレードB
- 喉頭温存を目指し,根治照射あるいは喉頭温存手術(経口的切除,外切開による切除)のいずれかを個々の症例に応じて選択することが推奨される。
解説
下咽頭癌では原発巣の小さなT1・T2 症例でも,頸部リンパ節転移を伴う症例が多いため,病期Ⅰ・Ⅱの早期癌は少数である。それゆえ,治療成績を検討した報告は,1 施設で長期間の集積を行った報告 1-3)か,多施設共同による報告 4)である。
放射線治療は年齢や全身状態にほとんど制約を受けないため広く行われ,潜在性頸部転移に対する予防的頸部照射を行うことにより,良好な局所制御・喉頭温存率と生存率が報告されている 1-4)。多くの症例が放射線単独治療であり,早期癌に対する化学療法併用に関するエビデンスは十分ではない。
外切開による喉頭温存手術は,年齢や全身状態などによる制約のため適応はある程度限定されるが,放射線治療と同様に,良好な局所制御・喉頭温存率と生存率が報告されている 5)。
最近の内視鏡の進歩に伴い,これまで発見困難であった微小病変が診断可能となり,消化管内視鏡医の協力による経口的切除術も開発されている 6-9)。
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- CQ6-2
- 下咽頭喉頭全摘出術後の再建方法として遊離空腸移植は有用か?
- 推奨グレードB
- 実臨床において,術後機能や術後合併症などの観点から安全で確立された方法であり,有用である。
解説
有用性を示すためには,後ろ向きに①遊離空腸移植の成功率(生着率)が高く,合併症が少ないこと,②他の再建法と比較しても優れていること,③他の方法にはない(または他より優れた)利点を有すること,④他より劣るところがあっても①〜③を考慮するとなお優れていること,などを示す必要がある。
①について,生着率,瘻孔形成,経口摂取までの期間,狭窄などにおいては空腸が再建材料としての十分な資質を持っていると考えられる 1-7)。②について,前腕皮弁との比較では狭窄が少なく 1),前外側大腿皮弁に比べ早期の瘻孔や後の狭窄が少ない 4)。胃管との比較では大差はない 6, 8, 9)。胃管は主に頸部食道癌での再建に使われ,合併症など差はないが出血などの侵襲は大きい。③について空腸は消化管粘膜を持つ管腔構造であるため,粘膜の癒合が早く消化液に強く吻合数も少ないため瘻孔や狭窄の点で皮弁より優位である。④開腹するため外科の協力が必要,(有茎皮弁に比べ)血管吻合手技が必要などは,チーム医療が浸透し,優れた医療保険制度のある本邦では問題とならない 10)。以上の理由から,シャントによる音声獲得についての指摘はあるが 4, 10),遊離空腸移植は安全な再建法と考えられる。
外科の協力が得られ血管吻合の行える施設では,蠕動に配慮して吻合すれば遊離空腸移植は有用な方法と考えられる。
参考文献
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Ⅳ-7.喉頭癌
- CQ7-1
- 早期喉頭癌に対して喉頭を温存する治療方針は推奨されるか?
- 推奨グレードA
- 喉頭温存を目指し,根治照射あるいは喉頭温存手術(経口的切除,外切開による切除)を症例に応じて選択することが推奨される。
解説
早期喉頭癌に対しては,初回治療としては喉頭温存を目指した治療を考慮すべきである 1)。原発部位,T 分類や全身状態に応じて,放射線治療または喉頭温存手術を選択する。
早期声門癌では,放射線治療と喉頭温存手術の比較検討が多数報告されている。喉頭温存手術のほうが長期的には生存率が高いとする報告もあるが 2),局所制御率・喉頭温存率・生存率はいずれの治療法も良好で同等とする報告が多い 3-5)。特に,喉頭癌のなかで多数を占めるT1 声門癌では,いずれの治療法でも高い局所制御率・喉頭温存率・生存率が期待されるため,治療後の音声の質の点からも比較が行われている。表在性病変では経口的レーザー切除術のほうが音声学的に優れているとの報告もあるが 3),音声に関連したQOL の評価などでは,経口的レーザー切除術と放射線治療のいずれも良好であり同等であるとする報告が多い 4-7)。外切開による喉頭温存手術はT2 声門癌に対する推奨治療のひとつであるが,種々の術式がある。頻度の高い術式の比較では,輪状軟骨上喉頭摘出術は両側声帯や傍声帯間隙に進展する症例に対して多く用いられているにもかかわらず,一側声帯病変に対して行われた喉頭垂直部分切除術と同等の治療結果を示した報告 8)がある。
T2 声門癌に対する放射線治療も良好な治療成績が報告されている 4, 9, 10)。深部浸潤を伴うT2 病変に対しては化学療法併用が推奨されているが 1),併用される化学療法のレジメンに関しての標準化が必要である。
早期声門上癌でも,放射線治療と外切開による喉頭部分切除術はいずれも良好な治療成績が報告され 11, 12),局所制御率は同等と考えられている。
参考文献
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- CQ7-2
- 早期喉頭癌の放射線治療後再発に対して喉頭温存手術は適応となるか?
- 推奨グレードB
- 腫瘍の進展範囲,全身状態などを十分考慮する必要はあるが,早期声門癌では喉頭温存手術(経口的切除,外切開による切除)の高い有効性・安全性から適応となる。
解説
放射線治療は早期喉頭癌に対する標準治療のひとつの柱であるが,T1 の約5〜30%,T2 の15〜40%に局所再発が認められる 1)。放射線治療後の再発例では,浸潤範囲の境界が不明瞭となることや組織学的悪性度が高くなることを理由に,喉頭全摘出術が行われることもあるが,内視鏡や画像診断技術の進歩に伴い喉頭温存手術の安全性・有効性が明らかとなり,救済手術としての役割がほぼ確立している。
放射線治療前の時点で喉頭温存手術も可能な症例では,再発病変の早期発見のために定期的な経過観察が求められる。放射線治療後再発に対する喉頭温存手術は,腫瘍の進展範囲,全身状態を考慮し適応を検討する必要があるが,適応となる症例は少なくない。
声門癌に対する救済手術には,経口的レーザー手術と外切開による喉頭温存手術がある。声帯に限局するrT1 a においては,経口的レーザー手術の良好な腫瘍制御と喉頭機能が報告されている 2-4)。外切開による喉頭温存手術には喉頭垂直部分切除術と輪状軟骨上喉頭摘出術があるが,いずれもrT1・rT2 の幅広い症例に適応があり,良好な腫瘍制御と喉頭温存率が報告されている 5-8)。放射線治療後の創傷治癒不良による創部感染率が高い点に注意が必要であるが 6, 7),喉頭垂直部分切除術では術式により創部感染の増加は有意ではないとの報告もある 5)。輪状軟骨上喉頭摘出術は,喉頭垂直部分切除術より切除範囲が大きいため,喉頭垂直部分切除術による制御が困難であることが予想される症例に対しても,高い制御率が報告されている 7, 8)。しかし,遅発性創部感染 7)や嚥下性肺炎 8)に注意が必要である。
声門上癌に対する救済手術としての喉頭温存手術については,十分なコンセンサスは得られていない。
参考文献
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- CQ7-3
- 早期喉頭癌(声門癌)に対して加速照射法(寡分割照射)は有用か?
- 推奨グレードC1
- 1 回線量が2. 25〜2. 4 Gy の加速照射法(寡分割照射)は早期喉頭癌(声門癌)の治療オプションの一つと考えられる。
解説
早期声門癌(T1・T2)の標準的な放射線照射法は1 回2 Gy 週5 回の通常分割照射法でT1 に60〜66 Gy,T2 に66〜70 Gy の処方線量が一般的とされてきた 1)。頭頸部扁平上皮癌は,放射線治療開始後の約4 週で加速再増殖現象により放射線抵抗性が増加し 2),治療期間延長が成績不良につながると報告されている 3)。そのため,祝・休日の治療期間延長を回避する照射スケジュール調整は重要である。15 のランダム化試験より抽出した6, 515 例を対象としたメタ解析によると,1 回線量や照射スケジュールを変えた非通常分割照射を通常分割法と比較した結果では 4),5 年局所制御率で7. 3〜9. 4%(p<0. 0001),生存率で3. 4%(HR0. 92;p=0. 003)の改善が報告されているが,一方で加速照射法(寡分割照射:以後加速照射法と表記)の有効性は確認されていない。加速照射法は治療回数が少なく期間が短い利点がある反面,一回線量増加に伴う晩期毒性増加のリスクもある。これまでの声門癌の後方視的解析では,1 回線量2 Gy 未満を使用すると局所制御率が不良で,1 回線量3 Gy を超えると有害事象が有意に増加すると報告されたが 5-7),前向き試験による放射線治療の至適スケジュールの検討は十分でなかった。
声門癌に対し加速照射法の有効性を検証したランダム化第Ⅲ相試験は,3 編報告がある 8-10)。本邦の単施設のランダム化試験は,180 例のT1 声門癌に対し1 回2. 25 Gy 総線量56. 25〜63 Gy の加速照射法を用い,通常分割照射群に比し有意に局所制御率(92% vs. 77%,p=0. 004)を改善し,有害事象の増加はなかった 8)。韓国の多施設試験は,同じ1 回線量の加速照射法を用い,T1 に63 Gy,T2 に67. 5 Gy を投与し有効性を検証した。282 例の目標症例数に対し,156 例の登録時点で集積ペース不良により試験中止となった。有効性は証明されなかったが,加速照射群の局所制御率は比較的良好だった(局所無増悪生存割合88. 5% vs. 77. 8% p=0. 213) 9)。本邦の多施設臨床試験のJCOG0701は,治療短縮効果の高い,より大きな1 回線量の2. 4 Gyの加速照射法でT1 に60 Gy,T2 に64. 8 Gy を投与し非劣性試験を行った。370 例の予定症例登録を完遂し,2016 年に最終結果を公表した 10)。試験治療群の局所再発は10. 3%と,通常分割群の15. 9%と比べてやや少なかったが,プライマリエンドポイントの無増悪生存割合で非劣性は証明できなかった(81. 7% vs. 79. 9%;p=0. 047>非劣性マージン閾値p=0. 045)。しかしながら両群の有効性と有害事象に明らかな差がなく,加速照射法は治療回数減少の利便性,医療経済・社会的メリットがあることを考慮し,早期声門癌の標準治療オプションの一つと考えられた。
以上より,治療期間を短縮した1 回線量2. 25〜2. 4 Gy の加速照射法は,早期声門癌に対する治療選択肢の一つであると考えられる。
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Ⅳ-8.甲状腺癌
- CQ8-1
- 甲状腺微小癌(1cm 以下)に対する治療方針として,経過観察は許容されるか?
- 推奨グレードC1
- 甲状腺微小癌でも高リスク因子を持つものは積極的治療が推奨され,無症候性の微小癌については一般には甲状腺葉(峡部)切除が適用される。ただし,超音波検査をはじめとする定期的なactive surveillance が可能な施設に限り,十分な説明と同意の下で経過観察が許容される場合がある。
解説
甲状腺微小癌の中には予後の非常によい無症候性の潜在微小癌と高リスク群があることが知られており,年齢(45 歳以上)・男性・リンパ節転移の有無,甲状腺被膜外浸潤・遠隔転移などが予後不良因子としてあげられている。また,微小癌の腫瘍径(5〜7 mm)を再発リスクとする報告もある 2-4)。Sugitaniらは甲状腺微小癌の中でも甲状腺被膜外浸潤,2 cm をこえるリンパ節転移,低分化癌は高リスクとしている 5)。
リスクの低い微小癌に対する手術術式としては,全摘群と葉切除群で再発率に差がないとの報告もなされており 6, 7),侵襲的な治療をどこまで行うかについては多くの議論がある 8)。そのため,ATA ガイドライン2009 においてもリスクの低い微小癌に対しては全摘ではなく葉切除を許容している 9)。
一方で,日本からはリスクの低い無症候性の甲状腺微小癌に対するactive surveillance という選択肢が提言されている。Ito らは経過観察に関する前向きコホート試験を報告している。細胞診にて甲状腺微小癌と診断された1,395 例のうち,すぐに手術を行った1,055 例と診断確定後に18 カ月以上経過観察を行った340例を比較した結果,手術群の術後再発率と経過観察群のリンパ節転移率に差がなく,経過観察後に手術を行った群で再発症例がないことから,甲状腺微小癌に対して経過観察という選択肢を取り得ると結論づけている 10)。Sugitani らもリンパ節転移や反回神経麻痺などのない無症候性の微小癌230 例に対し経過観察を行う前向きコホート試験を報告している。その結果によると,平均観察期間5 年で90%の症例で腫瘍サイズに変化を認めず,7%でのみ増大を認め,腫瘍内血流の多い症例で有意(p<0. 0005)に腫瘍の増大がみられた。また,3 例(1%)でリンパ節転移をきたしたほか,経過観察中に14 例(6%)に手術を行い,術後再発例・遠隔転移例・死亡例は見られなかったとされている 5)。
以上より,無症候性の甲状腺微小癌のうちで高リスク因子を持たない症例においては,充分なIC のもと経過観察することは許容される場合があると考えられてはいる。しかし,一方で直近のATA ガイドライン 11)においては,経過観察中に増悪しうる高リスク微小癌の臨床的特徴や,分子生物学的異常が充分に確立されていないことを指摘している。そのため,Active Surveillance に関しては今後更なるエビデンスの構築が必要として消極的な位置づけにとどまっている。
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- CQ8-2
- 甲状腺乳頭癌における気管周囲郭清術は推奨されるか?
- 推奨グレードB
- 気管傍リンパ節転移が疑われる症例では,気管周囲郭清術(central neck dissection:CND)が推奨される。一方で予防的CND については,生存率の向上に寄与するとするエビデンスは低いが,後発リンパ節転移に対する再手術後合併症のリスクを合わせて考慮する必要がある。
解説
甲状腺乳頭癌において,術前の画像検査もしくは細胞診にて気管傍リンパ節転移が疑われている場合の治療的気管周囲郭清術(central neck dissection:CND)は必須である 1)。しかしN0 症例に対する予防的CND については意見が分かれている。この問題に関する1264 例の大規模なメタアナリシスでは,central compartment の再発頻度は予防的CND 施行群で1. 86%,非施行群では1. 68%で差を認めなかった 2)。342 例の甲状腺全摘例の後ろ向き研究ではcentral compartment の20 年制御率は92%であった 3)。また,予防的CND 非施行群276 例中,central compartment への再発は6 例(2. 2%)に過ぎず,この6 例中5 例はもともと深頸部領域への転移を認めた症例であり,予防的CND で再発を回避できた症例は1 例(0. 4%)であった。多変量解析では頸部再発の危険因子は腺外浸潤と脈管浸潤であり,予防的CNDの有無は無関係であった。現時点で予防的CND は病期診断やヨード治療適応の判断に役立つと考えられているが,必ずしも予後を改善するとはいえないとされる 4)。CND 施行群ではサイログロブリン値が有意に低値となる報告もあり,一定の治療的効果を示唆させるが 5, 6),いまだCND の生存率に対する意義については意見が分かれており,今後大規模な前向き試験が必要である 7)。
CND を併施することで起きうる合併症として,一過性の低カルシウム血症の増加が指摘されているが,反回神経麻痺については差を認めなかったとの報告がある 8, 9)。一方で,気管周囲での後発リンパ節転移に対する二次手術では反回神経麻痺を含む合併症のリスクが高まることなどを考慮すると,少なくとも患側の気管周囲の郭清を初回手術時に行うことが推奨される。
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- CQ8-3
- 甲状腺乳頭癌に対して甲状腺全摘術を行うことは,甲状腺葉切除術に比べて生存率の向上に寄与するか?
- 推奨グレードB
- 高リスク因子を持つ甲状腺乳頭癌に対しては全摘術が推奨される。
解説
甲状腺乳頭癌に対する切除範囲に関する報告の多くは後ろ向き観察研究であり,症例の背景因子やRI 治療追加の有無,治療を行った年代に偏りのあるものが多く,全摘術と葉切術の優劣のみをRCT にて対比した報告はない。Hay らはMACIS スコアにて分類を行い,低リスク群の20 年疾患特異的生存率(CSS)に関しては両術式間で有意差がなかったが,高リスク群の25 年再発率や25 年CSS および低リスク群の20 年再発率については,全摘術の優位性を報告している 1)。
欧米では,甲状腺癌に対する標準的な術式として以前は全摘術を支持する報告が多く 2),American Thyroid Association(ATA)のガイドライン2009 においては1 cm 以上の甲状腺癌に対しては甲状腺全摘術が推奨されている 3)。ただし,1 cm 未満の甲状腺微小乳頭癌や早期癌の術式に関しては全摘術ではなく,葉切除術でよいとする報告もなされている 4-6)。
全摘術では残葉再発のリスクを軽減し,術後RI 治療が可能であるという利点がある反面,反回神経麻痺,甲状腺機能および副甲状腺機能低下症などの可能性から,同術式を一律に適用することについては,国内では否定的な意見が多かった 7)。日本においてはリスク分類に応じて甲状腺葉峡部切除術を適応することが多く 7, 8),甲状腺腫瘍診療ガイドラインでは5 cmをこえる大きな乳頭癌・3 cm以上のリンパ節転移・内頸静脈,頸動脈,椎前筋膜,主要な神経への浸潤・気管および食道粘膜面をこえる浸潤・遠隔転移などが,全摘術を適応すべき因子として提唱している。
一方で,欧米からの報告でも完全切除が可能なら両術式群間の生存率に有意差はないとする報告も見られており 9),Shaha らは45 歳以上で遠隔転移や4 cm 以上の腫瘍径,組織学的高悪性などの因子をもつ高リスク群には全摘を推奨するが,それ以外の症例では葉切除も選択肢となり得ると報告している 10)。近年,欧米のガイドラインにおいても甲状腺葉切除を許容する範囲は広がっており,ATA-DTC ガイドライン2015 では甲状腺全摘が推奨されるのは遠隔転移,明らかな甲状腺被膜外進展,腫瘍径>4 cm,臨床的リンパ節転移がみとめられた症例とされ,甲状腺被膜外進展のない腫瘍径4 cm 未満,臨床的リンパ節転移陰性の症例などでは葉(峡部)切除を許容するに至っている 11)。
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- CQ8-4
- 甲状腺分化癌において術後アブレーションは生存率の向上に寄与するか?
- 推奨グレードB
- 再発転移高リスク群において術後アブレーションは局所再発の抑制と生存率の向上に寄与するとされる。
- 推奨グレードC2
- 再発転移中間リスク群の一部については術後アブレーションが生存率の向上に有用とする報告もあるが,意見は定まっていない。
- 推奨グレードC3
- 再発転移低リスク群においては術後アブレーションが生存率の向上に寄与するエビデンスに乏しく,適用は推奨されない。
解説
甲状腺分化癌に対する放射性ヨード(131 I)を用いた術後アブレーションは,残存甲状腺組織の破壊を通じて血清サイログロブリンやシンチグラムを用いた再発転移病変の発見,遠隔転移の抑制,局所制御率の向上に有用であるとされている 1)。ただし,一般に甲状腺分化癌の長期予後がよいことから,術後アブレーションが再発転移リスクに関係なく一律に生存率の向上に寄与するかどうかについては結論が得られていない。Mazzaferri らは単施設での甲状腺癌術後長期経過観察症例を対象に検討を加え,術後アブレーションが30 年全生存率の改善に有用であると報告した 2)。一方で,Sawka らはSystematic Review においてMazzaferri ら以外の報告者は生存率の向上を示すことができなかったとしたが 1),その後,Podnos らがSEER データベースを用いた大規模観察研究で,Jonklaas らは多施設前向き試験で,それぞれ高リスク群に対する術後アブレーションは生存率の向上に寄与すると報告した 3, 4)。以上より,ATA-DTC ガイドラインにおいても再発転移高リスク群(とくに顕著な甲状腺被膜外進展例)においては,局所再発の抑制と生存率の向上が期待できるとして推奨している 5)。
一方で,低リスク群に対しては術後アブレーションの有用性は示されておらず 6),ATA-DTC ガイドラインにおいてもその適応を推奨していない。中間リスク群においては最も議論の分かれるところであるが,ATA-DTC ガイドラインでは一部の中間リスク群,例えば,顕微鏡的甲状腺被膜外進展例や頸部リンパ節転移(2〜3 cm,転移個数の増加やリンパ節被膜外浸潤が見られる)例などでは適用を考慮すべきとしている 5)。一方で,Ruel らはNational Cancer Database を用いた21,870 例の大規模観察研究において,T3 N0 M0 症例とT1-2 N1 M0 症例を対象に術後アブレーションの生存への寄与を検討し,癌死のリスクを29%軽減すると報告し,ガイドラインにおいて中間リスク群への適用推奨を強めるべきとしている 7)。
術後アブレーションについては適切な治療対象を選択することのほかに,医療費・入院期間・QOL・急性期および晩期有害事象(食思不振,唾液腺炎,齲歯,2 次癌)の点も考慮した上で適応することが大切である。近年 131 I(30 mCi)投与による低用量アブレーション法が行われるようになり,従来通りの高用量 131 I(100 mCi)投与法との効果比較が多くの報告でなされている。Mallickらは多施設第Ⅲ相試験において,rhTSH+低用量 131 I アブレーション法と従来の準備法(Withdraw)+高用量 131 I アブレーション法とを比較し,アブレーション成功率において非劣性を示した 8)。Schlumberger らも第Ⅲ相RCT にて同様の結果を報告している 9)。その後のメタアナリシスからも,甲状腺全摘術後のアブレーションであれば効果に差がないこと,一方で口渇や吐き気,頸部痛といった副作用は有意に少ないこと等が示され,積極的に推奨されるに至っている 10, 11)。本邦でも2010 年には外来 131 I(30 mCi)投与が,2012 年にはrhTSH を用いたアブレーション準備法が保険適用となっており,その普及が期待される。
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- CQ8-5
- 甲状腺癌に対する分子標的薬は有用か?
- 推奨グレードC1
- 放射性ヨウ素不応分化型甲状腺癌に対する分子標的薬は有効であり,その使用を考慮してよい。
- 推奨グレードC1
- 切除不能転移再発甲状腺髄様癌に対する分子標的薬は有用であり,その使用を考慮してよい。
- 推奨グレードC2
- 甲状腺未分化癌に対する分子標的薬の使用については十分なコンセンサスは得られていない。
解説
放射性ヨウ素不応分化型甲状腺癌に対する分子標的薬
最も頻度の高い分化型甲状腺癌(乳頭癌および濾胞癌)の予後は一般的に良好であり,外科的治療と再発リスクに応じた放射性ヨウ素治療が治療の主役である。しかし,放射性ヨウ素治療不応な分化型甲状腺癌の10 年生存割合は10%と,放射性ヨウ素治療感受性の分化型甲状腺癌の56%と比較して予後は不良であり 1),有効な薬物療法も存在しなかった。そのような状況の中,多くのmulti-target kinase inhibitor(m-TKI)が臨床試験において有効性が示唆された 2-9)。その中でもソラフェニブおよびレンバチニブは,それぞれDECISION 試験とSELECT 試験というランダム化比較試験において,放射性ヨウ素治療不応分化型甲状腺癌を対象にプラセボと比較して主要評価項目である無増悪生存期間を有意に改善した(表1) 10-12)。一方で全生存期間は,両試験ともにプラセボ群での実薬へのクロスオーバーの影響もあるが,有意な改善を認めていない。両試験に共通した重要な適格規準は,放射性ヨウ素治療不応である。一般的に放射性ヨウ素治療不応とは,放射性ヨウ素の取り込みがない,放射性ヨウ素治療後12 カ月以内の増悪,放射性ヨウ素治療が累積で600 mCi 以上(22 GBq)のいずれかを満たす場合を指す。両試験では,放射性ヨウ素治療不応かつ直近約1 年間で腫瘍の増悪を認めた患者が組み込まれている。なお,放射性ヨウ素治療に対して感受性がある分化型甲状腺癌については,長期生存が得られる可能性があるためそちらを優先すべきであり 1),放射性ヨウ素治療に不応でない分化型甲状腺癌に対するm-TKI の有効性および安全性は確立していない。また,m-TKI には手足症候群・下痢・皮疹・倦怠感・体重減少・高血圧・たんぱく尿など共通して注意すべき有害事象があり適切に対処を行い継続することが必要となる。
以上のことから,放射性ヨウ素治療不応分化型甲状腺癌に対してソラフェニブやレンバチニブは有効であり病勢や合併症などを総合的に判断したうえで使用を考慮してよい。
切除不能転移再発甲状腺髄様癌に対する分子標的薬
切除不能転移再発甲状腺髄様癌に対して有効ながん薬物療法の報告は乏しい 13-16)。しかし, 髄様癌においてもm-TKI の有効性が複数報告されている 17-20)。バンデタニブはVEGF-R1,2 を強力に阻害するとともに,EGFR やRET を阻害するm-TKI である。切除不能転移再発甲状腺髄様癌を対象とするランダム化第Ⅲ相試験において,バンデタニブはプラセボと比較して主要評価項目である無増悪生存期間を有意に改善した 19)。本試験においてもプラセボ群から実薬群へのクロスオーバーが認められており,バンデタニブの生存への寄与は明らかではない。本試験結果と国内第Ⅱ相試験の結果に基づき,バンデタニブは2015 年12 月より本邦でも使用可能となっている。ただし,バンデタニブにも皮膚症状・下痢・高血圧・疲労・QT 延長など,注意すべき有害反応があり,適切に対処を行い継続することが必要となる。
また,レンバチニブおよびソラフェニブも甲状腺髄様癌に対して,海外および国内第Ⅱ相試験において一定の有効性と安全性が報告されており,国内で使用可能であるが,甲状腺髄様癌を対象とする第Ⅲ相試験は行われていない 17, 21-23)。
以上のことから,切除不能転移再発甲状腺髄様癌に対してバンデタニブをはじめとする分子標的薬は有用であり,その使用を考慮してよい。
甲状腺未分化癌に対する分子標的薬
甲状腺未分化癌の頻度は低いものの,生存期間中央値は6 カ月以内とされる非常に予後不良な疾患である。甲状腺未分化癌に対するがん薬物療法は,ドキソルビシンやパクリタキセルを中心に検討されてきた 24-28)。特にパクリタキセルは甲状腺未分化癌に対する有効性が注目され,国内でも第Ⅱ相試験(N=56)が行われ,その結果が報告されている。奏効割合は21%であったが,生存期間中央値は6. 7 カ月と依然として厳しい予後を示している 27)。そのような中で甲状腺未分化癌に対して複数のm-TKI の臨床試験が行われているが,これまで良好な成績を示したり,十分な症例数で検討されたりしたものはない 29-32)。
その一方で,レンバチニブは国内第Ⅱ相試験のATC コホート(N=17)において奏効割合24%,生存期間中央値10. 6 カ月と有望な結果を報告している 23, 33)。この結果を踏まえて,本邦ではレンバチニブは甲状腺未分化癌に対しても使用可能である。しかし,甲状腺未分化癌に対してレンバチニブを使用する際には,m-TKI の有害反応の管理が重要であることに加えて,出血・瘻孔形成などにも十分に注意して治療を行う必要がある。
以上のことから,甲状腺未分化癌に対するレンバチニブは有効性が示唆されているが,そのデータは十分ではない。よって,甲状腺未分化癌に対するレンバチニブの使用については十分なコンセンサスは得られていない。このため,期待される効果と予測される毒性を十分に考慮した上で使用すべきである。
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Ⅳ-9.唾液腺癌(耳下腺癌)
- CQ9-1
- 耳下腺癌手術症例における推奨される顔面神経再建の方法は?
- 推奨グレードB
- 自家遊離神経移植により顔面神経断端同士を吻合する再建方法は,顔面神経の再建に有用である。
- 推奨グレードB
- 舌下神経や副神経に供給源を求め神経移植により顔面神経断端と吻合する再建方法(神経移行術)は,顔面神経の再建に有用である。
- 推奨グレードC1
- 血管柄付自家神経移植により顔面神経断端同士を吻合する再建方法は,顔面神経の再建に有用である。
解説
顔面神経の欠損に対しては,約半数の施設で一期的に再建がなされており,種々の方法が考案され実施されているが,症例数が少ないため,各再建方法を体系的に比較・検討した論文はみられない。
顔面神経の再建方法として古くより用いられている方法は,自家神経を採取し欠損部の間に間置する神経移植術である。採取神経としては,腓腹神経,大耳介神経,頸神経,大腿皮神経,大腿神経外側広筋枝,橈骨神経皮枝などが報告されている。顔面神経の枝を複数再建するには,複数の移植神経が必要となる 1-6)。なお,術後放射線治療を施行しても神経の回復が阻害されることはないと報告されている 3, 4)。
また,顔面神経の中枢断端が高位切除などの理由で吻合できないときには,神経の供給源を舌下神経,副神経,三叉神経咬筋枝もしくは健側の顔面神経に求め,これらの神経と顔面神経末梢端を直接吻合するか,あるいは断端間に神経移植を行うことがある 7)。
なお,近年,神経の端側吻合においても軸索の再生が起こることが証明されている。これを利用して,従来の神経断端同士を複数の移植神経で単純に端々吻合する方法に代わり,1 本の移植神経の片端を顔面神経本幹に端々吻合した後,ループ状に置いて顔面神経末梢端をその移植神経に端側吻合する方法 8)や,舌下神経に端側吻合した移植神経を用いて顔面神経末梢端と吻合する方法,さらにこれらを組み合わせた方法 9)などが報告されている。
また,神経の良好な再生を得るために,血管柄付神経移植を行ったとの報告もあり 10),移植床の瘢痕形成が著明な場合や放射線照射の既往がある場合などがその適応として考えられる。血管柄付移植神経としては,外側大腿皮神経,内・外側腓腹皮神経,腓腹神経などが報告されている。
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- CQ9-2
- 耳下腺癌で顔面神経麻痺がない場合,顔面神経の温存は推奨されるか?
- 推奨グレードB
- 術前に顔面神経麻痺が認められない場合で,腫瘍が顔面神経に直接浸潤しておらず,癒着が認められない場合には神経を温存できる。
解説
顔面神経を合併切除しても生存率の改善に寄与しないとする後ろ向き研究の報告がある。高悪性度の耳下腺癌95 例を含むT1〜3 の耳下腺癌において,顔面神経を温存した群と切除した群での5 年生存率はそれぞれ52%,43%で有意差を認めなかった 1)。T1〜4 の耳下腺癌103例(低悪性度41 例,中悪性度23 例,高悪性度39 例)において,顔面神経を温存した群と切除した群での10 年生存率はそれぞれ74%,45%であり,多変量解析による独立した予後不良因子は腫瘍径,臨床病期,神経周囲浸潤であった 2)。
いずれも後ろ向きな検討であるものの,顔面神経を犠牲にしたより広範な切除を行っても治療成績向上にはつながらないことが示された 3)。以上の理由から,組織学的悪性度によらず顔面神経麻痺が認められない場合は,腫瘍が顔面神経に直接浸潤し癒着していない限り,顔面神経を温存することが推奨される 4)。
参考文献
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- CQ9-3
- 唾液腺癌に対して予防的頸部郭清は有効か?
- 推奨グレードC2
- 唾液腺癌の予防的頸部郭清の有効性については科学的に結論が出ていない。
解説
このテーマに対して行われた前向きの比較試験は,本邦,欧米とも今までにない。cN0 唾液腺癌に対して予防的郭清をした場合としなかった場合との比較,予防照射をした場合としなかった場合との比較,予防照射施行群と予防的頸部郭清施行群の比較もこれまで皆無である。そもそも予防的郭清を行う場合の適応,郭清範囲についても前向き試験はなく,すべては後ろ向きの報告のみである。システマティック・レビューでは,今後,多施設で計画的な前向き試験を行うことが推奨されると述べるにとどまっている 1)。
予防的郭清に関する報告は,単一施設からの後ろ向き報告が多く,頸部リンパ節転移の診断基準があいまいなものや,古いTNM 分類を用いたもの,小唾液腺癌や2 次例を含んだものまで対象や基準が多岐にわたってしまっている。適応に関しては,全例で行うべきとする報告 2, 3),高悪性度癌,high T stage の症例,術前から顔面神経麻痺がある症例などとする報告 4-8),上頸部リンパ節のサンプリングによって転移陽性なら郭清を行うという報告 9, 10),基本的に予防的郭清は不要とするもの 11)まで結論もさまざまである。郭清範囲に関しても一定していない。したがって,現時点で唾液腺癌に対する予防的頸部郭清の有効性,是非を論じるには質の高いデータが足りず,その段階にないというのが結論である。今後の前向き試験が期待される。
参考文献
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- CQ9-4
- 再発・転移唾液腺癌に対して薬物療法は有効か?
- 推奨グレードC1
- 再発・転移唾液腺癌における薬物療法の有効性は確立していないが,行うことを考慮してもよい。
解説
唾液腺癌は,頭頸部癌の3〜5%を占める稀な癌腫であるが,腺様嚢胞癌,粘表皮癌,唾液腺導管癌など,非常に多彩な組織型を持つ。このため,再発・転移例に対する薬物療法の臨床試験は,複数の組織型が混在したヘテロな集団かつ少数例の検討に留まる。
抗腫瘍効果を示した殺細胞性抗がん薬としては,シスプラチン,シクロホスファミド,ドキソルビシン,パクリタキセル,ビンクリスチンなどがある。これら単剤または併用療法の第Ⅱ相試験では,奏効割合14〜50%,生存期間中央値12. 5〜21 カ月と報告されている 1-7)。このうち,シクロホスファミド(500 mg/m2),ドキソルビシン(50 mg/m2),シスプラチン(50 mg/m2)の3 剤を4 週毎に投与するCAP療法が日常診療で汎用されている 4, 5)。なお,国内単施設の後方視的検討では,カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法の奏効割合が39%,生存期間中央値が26. 5 カ月と報告されている 8)。
一方,唾液腺導管癌を始めとする一部の唾液腺癌では,HER2 が過剰発現することが知られており,抗HER2 薬であるトラスツズマブを併用した治療の開発が進んでいる 9, 10)。同様に,アンドロゲン受容体陽性例に対する抗アンドロゲン療法も有望視されている 11, 12)。これらの治療法は,従来の殺細胞性抗がん薬による治療よりもリスクベネフィットバランスで優れる可能性があるが,2017 年12 月時点で保険適用はない。
以上のように,再発・転移唾液腺癌に対する薬物療法については多くのレジメンが検討されているが,これまで第Ⅲ相試験が実施されたことはなく,標準的レジメンの確立には至っていない 13)。組織型によって薬物療法に対する感受性が異なるが,中には良好な治療成績が得られているものもある。このため,十分な科学的根拠には乏しいが,明らかな病勢進行が認められる,あるいは臨床症状を有するような場合には,利用可能な薬物療法を行うことを考慮してもよい。ただし,腺様嚢胞癌のように年単位で緩徐進行する場合もあり,無症状例に対する薬物療法の適応は慎重を期すべきである。
参考文献
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Ⅳ-10.原発不明頸部転移癌
- CQ10-1
- 原発不明頸部転移癌に対して口蓋扁桃摘出術は原発巣検索に有用か?
- 推奨グレードB
- 口蓋扁桃は原発不明頸部転移癌の潜在的な原発巣として高率で,生検では不十分な場合があるため,積極的に口蓋扁桃摘出術を行うべきである。
解説
原発不明頸部転移扁平上皮癌のうちの18〜40%において口蓋扁桃に原発があると報告されており,舌根扁桃を加えると80〜90%が中咽頭にあるともいわれている 1-3)。その理由として口蓋扁桃や舌根扁桃の深い陰窩の奥に小さな原発巣があっても,従来の検査による検索ではこれらを検出することが困難なためであると考えられている。また,これらの一部を生検する場合に比して,口蓋扁桃摘出術では潜在的に存在する原発巣の検出率は3倍にも上昇するといわれ,生検では不十分と考えられている 4)。
最近では経口的ロボット手術(TORS)や経口的顕微鏡下レーザー手術(TLM)における舌根扁桃摘出術で,56%もの潜在的原発巣の検出に成功したと報告がある 2)。口蓋扁桃摘出術や舌根扁桃摘出術を両側に行うのか,頸部転移側と同側のみでよいのかに関しての比較試験はないが,頸部転移側の反対側に原発巣が検出される確率は10〜15%といわれている 1-5)。しかし,一方で反対側の口蓋扁桃に扁平上皮癌が見つかっても,それは原発巣ではなくHPV 感染から発症した1 つの別の発がん部位ではないかという意見もある。
参考文献
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- CQ10-2
- 原発部位の検索にp16 免疫染色とEBER-ISH は有用か?
- 推奨グレードA
- 2017 年UICC の新分類では,原発巣検索の過程でp16 免疫染色が陽性の場合はHPV関連性中咽頭癌として,EBV が検出された場合は上咽頭癌として分類されることとなったため,p16 免疫染色検査やEBER-ISH 法は原発不明頸部転移癌の検査として必須である。
解説
近年,世界的にHPV が発がんに関与している中咽頭癌が増加してきた 1)。本邦の多施設共同研究の結果でも,HPV 陽性の中咽頭癌はおよそ50%といわれ,リンパ組織が豊富な中咽頭側壁,前壁に多いことも明らかになっている。また,HPVのタイプとしてHPV16 が90%を占める 2)。したがって,HPV のDNA またはRNA を検出できれば,原発巣が中咽頭に存在する可能性が高い。p16 はHPV 感染の代理マーカーとして有用で,実臨床ではp16 の免疫組織染色が簡便かつ実用性の高い検査法として広く行われている 3)。
一方,Epstein-Barr virus encoded RNA(EBER)は蛋白質をコードしないRNA であるが,EBV が感染した上皮細胞やBリンパ球細胞に広く産生され,EBV の存在を検出するのに最も適したマーカーとされる。その手法として,in situ hybridization(ISH)法の感度がよく実臨床で広く使われている 4, 5)。上咽頭癌の発がんにEBV が関係していることは広く知られているが,上咽頭癌のすべてでEBV が証明できるわけではない。一般にISH法にてEBER が検出できるのは上咽頭癌の70%程度であり,特にWHO 分類のtype-Ⅲ(undifferentiated-ca)でその割合が高い 4, 5)。EBER-ISH 法は上咽頭組織からだけでなく,頸部リンパ節からも検出可能である 6)。
2017 年にUICC から『TNM 悪性腫瘍の分類 第8 版』が発表されたが,検索の過程でHPV が検出された場合,あるいはp16 免疫染色で陽性であった場合はHPV 関連性中咽頭癌として,EBV が検出された場合は上咽頭癌として分類されることとなった。p16 免疫染色やEBER-ISH は原発不明頸部転移癌の検査として必須となった。
参考文献
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- CQ10-3
- 原発不明頸部転移癌に対して頸部郭清術を行うことは推奨されるか?
- 推奨グレードB
- 頸部郭清術は原発不明頸部転移癌の治療として推奨される。
解説
原発不明頸部転移癌の治療についての前向き比較試験はなく,ほぼすべてが後ろ向き研究である。病巣が頸部リンパ節のみで,扁平上皮癌の転移であることが証明された症例の原発巣は頭頸部領域である可能性が高く,治療は頭頸部扁平上皮癌に準じて行われる。組織学的な確定診断も兼ねて頸部郭清術を行い,術後の病理結果に応じて(化学)放射線治療を行うことが推奨されており 1, 2),頸部郭清も含めた集学的治療の有用性が報告されている 1-6)。その理由として頸部リンパ節病変の制御の重要性,術後病理組織学的所見(単発転移か多発転移か,節外浸潤があるのかないのか?)の確定による補助療法の選択の重要性などが挙げられている。頸部転移巣が節外浸潤のないN1病変であれば放射線治療のみでよいとの報告もみられる 7, 8)。
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- CQ10-4
- 原発不明頸部転移癌に対して頸部郭清術後に放射線治療を行うことは,生存率の向上に寄与するか?
- 推奨グレードB
- 多発頸部リンパ節転移症例や節外浸潤を認める例では,生存率の向上に寄与する。
解説
原発不明頸部転移癌の予後因子として最も重要なのはN 因子と節外浸潤の有無である 1-5)。N2以上であれば頸部郭清術と放射線治療を含めた集学的治療が,生存率の向上に寄与するため推奨される 1, 3-8)。化学療法の併用については十分な解析がないが,特にN2 以上の症例に対しては,プラチナ製剤を用いた化学放射線療法が有用であるとの報告がみられる 9)。頸部リンパ節がN1 であれば,頸部郭清術単独と放射線治療単独の間に治療成績の差はないとの報告もあるが,原発不明頸部転移癌に対する頸部郭清術後に放射線治療を行う目的は,頸部とともに不明な原発巣の制御にある。術後放射線治療を行わない場合は,原発巣の厳重な経過観察が求められる。
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Ⅳ-11.がん薬物療法
- CQ11-1
- 根治切除不能な局所進行頭頸部扁平上皮癌に対して放射線治療を行う場合に,化学療法を同時併用することは生存率の向上に寄与するか?
- 推奨グレードA
- 根治切除不能な局所進行頭頸部扁平上皮癌に対して放射線治療を行う場合に,化学療法を同時併用することは生存率の向上に寄与する。
解説
局所進行頭頸部扁平上皮癌に対する放射線治療において,照射単独(RT)を対照群として化学療法同時併用放射線治療(concurrent chemoradiotherapy:CRT)を試験群とする第Ⅲ相ランダム化試験は数多くなされてきた。
MACH化学療法併用に関するメタアナリシス 1)では,adjuvant,neoadjuvant 試験では死亡リスクの低減は認められなかったが,CRT 試験群では粗生存率(overall survival:OS)は5 年で8%向上した。しかし,試験の治療方法は均一でなく,対象に切除可能症例も含んでいる。対象を根治切除不能頭頸部扁平上皮癌に限定した試験は限られ,このなかにはCDDP+5-FU の交替療法の報告もみられる。これらすべての試験で有意なOS の改善がみられた 2-6)。標準的な化学療法はCDDP±5-FU であるが 3, 4, 7),投与量はCDDP 20〜100 mg/m2,5-FU 200〜1,000 mg/m2 とばらつきがある。
CRT でのOS の向上の理由としては,完全寛解率の増加 2-4, 6)や局所制御率の改善 4, 7)とするものが多く,遠隔転移の頻度はRT とCRT で差がみられていない 3, 7)。切除可能,不能症例を含む対象について照射の分割法,対照群と試験群の照射法の相違の有無,単剤/多剤併用のサブグループに分類しRT とCRT を比較したシステマティック・レビュー 5)では,すべてのサブグループでCRT の死亡リスクが低減した。またCDDP 併用試験では低いオッズ比が得られたが,ブレオマイシン併用では死亡率の改善は確認できず,MMC,5-FU のデータは十分でなかった。粘膜炎を代表とする急性期有害事象はCRT で高度とする報告が多い 2, 3, 7)が晩期有害事象には差はみられていない 2, 7)。
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- Merlano M, Benasso M, Corvò R, et al. Five-year update of a randomized trial of alternating radiotherapy and chemotherapy compared with radiotherapy alone in treatment of unresectable squamous cell carcinoma of the head and neck. J Natl Cancer Inst. 1996;88:583-9. (レベル Ⅱ)
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- Wendt TG, Grabenbauer GG, Rödel CM, et al. Simultaneous radiochemotherapy versus radiotherapy alone in advanced head and neck cancer:a randomized multicenter study. J Clin Oncol. 1998;16:1318-24. (レベル Ⅱ)
- CQ11-2
- 切除可能局所進行頭頸部扁平上皮癌に対して放射線治療を行う場合に,化学療法を併用することは喉頭温存率の向上に寄与するか?
- 推奨グレードA
- 切除可能局所進行頭頸部扁平上皮癌に対して放射線治療を行う場合に,化学療法を併用することは喉頭温存率の向上に寄与する。
解説
切除可能局所進行頭頸部扁平上皮癌に対する放射線治療(RT)の喉頭温存に果たす役割は,喉頭癌,下咽頭癌で検討された。喉頭全摘+術後放射線治療を対照として,導入化学療法(induction chemotherapy:ICT)後の根治照射のOS を指標とする非劣性試験が米国 1),欧州(EORTC 24891) 2)で行われ,両試験ともICT+RT は喉頭全摘+術後放射線治療と同様のOS を達成した。この2 つにGETTECの比較試験も加えたMACH-HN のメタアナリシス 3)でも,ICT+RT は手術+術後照射と比較して5年生存率で6%下回ったが,HR:1. 19,95% CI:0. 97-1. 46,p=0. 1 で有意差を認めず,ICT+RT でのOS は喉頭全摘と同等であった。
RTOG91-11 では進行喉頭癌における照射単独(RT),ICT+RT,抗がん薬同時併用放射線治療(CRT)で喉頭温存率が比較された 4)。併用された抗がん薬はICT+RT ではCDDP+5-FU,CRT ではCDDP 単剤であった。喉頭温存率はCRTの高い局所制御率を反映してICT+RT(p=0. 004),RT(p<0. 001)より良好であったが,OS は3 群に差がなかった。RTOG91-11 と同様の抗がん薬を併用してICT+RT とCRT を比較した無作為化比較試験(RCT) 5)でも,CRT は喉頭温存率が有意に(p=0. 03)高かった。しかし,このRCT でもOS には差を認めていない。
ICT+RT と化学・放射線交替療法を比較したEORTC 24954 6)では喉頭温存率,OS とも差を認めなかった。ICT+RT での標準化学療法はCDDP+5-FU(PF)であるが,これにドセタキセル(docetaxel:TXT)を加えた3 剤(TPF)とPF の比較研究 7)では,TPF で有意に喉頭温存率が向上した(p=0. 03)。
参考文献
- 1)
- The Department of Veterans Affairs Laryngeal Cancer Study Group, Wolf GT, Fisher SG, et al. Induction chemotherapy plus radiation compared with surgery plus radiation in patients with advanced laryngeal cancer. N Engl J Med. 1991;324:1685-90. (レベル Ⅱ)
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- CQ11-3
- 切除不能局所進行頭頸部扁平上皮癌に対する導入化学療法において,TPF 療法(TXT+CDDP+5-FU)は生存率を向上させるか?
- 推奨グレードC2
- 導入化学療法としてTPF を化学放射線療法に加えることで生存率を向上させるという報告は乏しく,慎重に適応を判断する必要がある。
解説
頭頸部癌の集学的治療における化学療法の有用性を評価したメタアナリシスでは,CRT が生存において最大の有効性を示しており,導入化学療法(ICT)(→Ⅲ-A-2)の位置づけは議論の多いところである。
切除不能局所進行頭頸部癌において,ICT でPF とTPFを比較し,後治療をRT 単独としたTAX323 1),CBDCA-RT としたTAX324 2)がある。それぞれの試験の各治療法における無増悪生存期間は8.2mo:11mo(HR=0.72,p=0.007)と8.2mo:11mo(HR=0.72,p=0.007),全生存期間は14. 5 mo:18. 8 mo(リスク低減27%:p=0. 02)と34. 8 mo:70. 6 mo, 有意にTPFがPFよりも優れていた。また,導入療法としてPF とTPF を比較したメタアナリシス 3)では,死亡リスク低減:HR=0. 72(95% CI:0. 69-0. 87),進行の抑制:HR=0. 78(95% CI:0. 66-0. 94), 局所再発:HR=0. 79(95% CI:0. 66-0. 94), 遠隔転移:HR=0. 63(95% CI:0. 45-0. 89)と有意にTPF が優れていることが示され,現在ICT の標準治療として認識されている。
しかしながら,この集団に対する標準治療はCDDP-RT であり,これへの追加効果の有無を直接比較する必要があった。ICT-TPF→CRT とCRT の5 つの比較試験 4-8)のメタアナリシス 9)では,生存においてHR=1. 010(95% CI:0. 841-1. 213,p=0. 915)と差が認められず,TPF のCRT に対する追加効果は認められていない。
以上より,TPF の導入化学療法による生存率を向上させる効果は,PF による導入化学療法よりも優れてはいるが,TPF を化学放射線療法に加えることで生存を改善するという報告は乏しく,何を目的として,どのような集学的治療の形態で行うかをよく吟味して慎重に適応を判断する必要がある。
参考文献
- 1)
- Vermorken JB, Remenar E, Herpen C, et al. Cisplatin, fluorouracil, and docetaxel in unresectable head and neck cancer. N Eng J Med. 2007;357:1659-1704. (レベル Ⅱ)
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- CQ11-4
- 喉頭全摘が適応となる切除可能喉頭癌・下咽頭癌に対する導入化学療法は,喉頭温存療法として有用か?
- 推奨グレードB
- 喉頭全摘が適応となる切除可能喉頭癌・下咽頭癌に対する喉頭温存を目的とした導入化学療法は,化学放射線療法と同様に推奨される。
解説
1980 年頃まで局所進行喉頭・下咽頭癌に対する最適な治療は喉頭全摘とみなされていたが,多剤併用療法が頭頸部癌に対して高い奏効率を示してきたことから,喉頭全摘を要する喉頭癌・下咽頭癌において,化学療法を組み合わせて喉頭温存を目指した治療戦略が検討されてきた。
VALCSG 試験 1)は喉頭全摘が適応となる喉頭癌を対象に,EORTC24891 試験 2)は下咽頭癌を対象に,喉頭全摘を含む手術群と導入化学療法(PF:CDDP+5-FU →腫瘍縮小評価→手術または放射線治療)群を比較した。両試験とも両群に生存の差はなく,VALCSG では2 年喉頭温存割合66%,EORTC24891 3)では10年生存割合が13. 8%/ 13. 1%,機能的喉頭温存生存割合8. 7%が得られ,導入化学療法が奏効した場合には放射線治療による非外科的局所治療を行っても生存成績を損なわないことが判明した。
放射線治療も喉頭温存に用いられており,これに化学療法の追加の意義と至適な実施時期(同時併用か順次実施か)による有効性を検討したRTOG91-11 4)が,喉頭癌を対象に行われた。放射線治療(RT)単独,導入化学療法(ICT),化学放射線療法(CRT:CDDP+RT)の3 群による比較で,2 年喉頭温存割合(larynx preservation rate:LPR)がそれぞれ70%/ 75%/ 88%とCRT 群が有意に優れており,標準治療と認識された。ここで用いられたICTは,CDDP 100 mg/m2+5-FU 1000 mg/m2/day×4d をQ3w で2-3 course,CRT はCDDP 100 mg/m2 をQ3w で2-3 course であった。長期成績 5)でもCRT はICT とRT に対してLPRは有意性を示していたが,ICT はRT に対する有意性は示せなかった。全ての死因をイベントとする5 年喉頭非摘出生存割合(laryngectomy-free survival:LFS)では,34 % /44. 1%/ 47%で,RT 単独はICT とCRT と比較して有意に劣っていたが,ICT とCRT とで差は認めていない。一方,非がん死が16. 9%/ 20. 8%/ 30. 8%とCRT に多く,ICT との比較では52. 8%/ 69. 8%と有意に高かった。
TXT(DOC)をPF に加えたTPF(TXT 75 mg/m2,CDDP 75 mg/m2,5-FU 750 mg/m2×4をQ3w で2-3 course)が高い奏効率が示したことから,喉頭癌・下咽頭癌を対象に,喉頭温存を目指す導入化学療法としてPFとTPFの有効性を比較した試験がGORTEC 2000-01 6, 7)である。ICT後の奏効率は59. 2%/80%,その後のRT/CRTによる喉頭温存療法への移行推奨率も55. 3%/ 78. 3%とTPF が有意に高く,現在喉頭温存を目的とした導入化学療法としてはTPF が標準治療と考えられている。10 年喉頭温存割合は46. 5%/ 70. 3%,10 年無喉頭不全生存割合(larynx dysfunction-free survival:LDFFS)は37. 2%/ 63. 7%と有意にTPF が優れていたが,10 年生存割合は23. 5%/ 30. 2%と差がなかった。TPF は血液毒性を主体とする副作用が強いため,十分な管理のもとで行われるべきである。
切除可能局所進行下咽頭癌における治療選択としては,ICT,CRT,手術後のRT またはCRT がある。GORTEC 2000-01 においては約半数の下咽頭癌の集団における喉頭温存に関する解析データは示されていない。また,喉頭温存を目的としたICT とCRT を直接比較した試験はない。下咽頭癌の統合解析 8)におけるICT とCRT のHR と5 年の死亡と進行を事象とするevent free survival では,0. 94[0. 81-1. 09]+3. 3%,0. 83[0. 73-0. 93]+3. 2%で差はない。ICT とCRT の優劣を判断しうる明確なデータはなく,どちらも選択される治療と考えられる。
以上から,喉頭全摘が適応となる切除可能喉頭癌・下咽頭癌に対して喉頭温存を目的とした導入化学療法は化学放射線療法と同様に推奨され,レジメンとしてはTPF が勧められるが十分な管理のもとで行うべきである。
参考文献
- 1)
- The Department of Veterans Affairs Laryngeal Cancer Study Group, Wolf GT, Fisher SG, et al. Induction chemotherapy plus radiation compared with surgery plus radiation in patients with advanced laryngeal cancer. N Engl J Med. 1991;324:1685-90. (レベル Ⅱ)
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- Pointreau Y, Garaud P, Chapet S, et al. Randomized trial of induction chemotherapy with cisplatin and 5-fluorouracil with or without docetaxel for larynx preservation. J Nat Cancer Inst. 2009;101:498-506. (レベル Ⅱ)
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- Janoray G, Pointreau Y, Garaud P, et al. Long-term results of a multicenter randomized phase Ⅲ trial of induction chemotherapy with cisplatin, 5-fluorouracil, +/−docetaxel for larynx preservation. J Natl Cancer Inst. 2015;108(4):djv368. (レベル Ⅱ)
- 8)
- Blanchard P, Baujat B, Holostenco V, et al. Meta-analysis of chemotherapy in head and neck cancer(MACH-NC):a comprehensive analysis by tumor site. Radiotherapy and Oncology. 2011;100:33-44. (レベル Ⅰ)
- CQ11-5
- 局所進行頭頸部癌に対する放射線治療においてセツキシマブ(Cmab)の併用は有用か?
- 推奨グレードB
- 放射線治療単独と比較して,放射線治療とCmab の併用は生存への追加効果を認めており行うことを勧めるが,毒性の管理と適応の判断等注意すべき点がある。
- 推奨グレードC1
- 導入化学療法後における放射線治療とCmab の併用において,生存への追加効果は不明であるが,喉頭温存療法としては有望な可能性がある。
- 推奨グレードD
- 化学放射線療法におけるCmab の併用は生存への寄与は示さず,毒性の増強が認められており,推奨されない。
解説
頭頸部扁平上皮癌ではヒト上皮成長因子受容体のERB-B family の一つであるEGFR の高発現があり予後不良因子で,これに結合するIgG1 モノクローナル抗体であるCmab が開発されたが,単剤では有効性に乏しく,放射線治療(RT),化学療法への上乗せ効果の有効性が検討された。
RT での検討では,局所進行頭頸部扁平上皮癌を対象に,RT単独とCmab-RT で比較されている 1, 2)。照射法は,通常照射,多分割照射,同時追加照射の3 種類から選択され,治療期間中のみCmab を併用している。全生存期間において,29. 3 mo / 49 mo(HR:0. 73,95% CI:0. 56-0. 95,p=0. 03)とCmab-RT に有意な追加効果が示され,5 年生存割合36. 4%/45. 6%であった。毒性はCmab-RT で皮膚障害,急性輸注反応などがあるも,照射野内では差がなかった。生存に関するサブ解析では,中咽頭癌,T1-3,N0-3,高いKPS,男性65 歳未満の患者要因が,良好な結果を示した。分子標的治療薬であるが効果予測因子のない中,Cmab-RT でざ瘡様皮疹がG2 以上であると有意に生存期間の延長が認められた。
本邦でも安全性を確認する試験が行われ,頭頸部癌に適応となっている 3)。この対象における標準治療は化学放射線療法(CRT)であり,Cmab-RT とCRT の比較が行われている。後方視的にCDDP-RT,CBDCA+5-FU-RT,Cmab-RT を検討した結果,4 年生存率が86. 9%/ 70. 2%/ 40. 9%であったと報告している 4)。小規模ではあるがCDDP-RT とCmab-RT を直接比較した報告 5)によれば,10 日以上のRT 休止が0%/ 13%,治療関連死亡を含む重篤な有害反応も3%/ 19%と有意にCmab-RT に多く認められたが,2 年生存率78%/68%で同等であった。毒性はCDDP-RT において血液,腎,消化器障害が多く,Cmab-RT においては皮膚障害と栄養補助が遷延していた。急性輸液反応,間質性肺疾患等の問題もあり,臓器障害が少ない点から安易に全身状態不良者や高齢者を適応とすべきではない。
喉頭温存を目的としたTPF の導入化学療法後の局所治療をCmab-RT とした報告 6)では,3 年の機能的喉頭温存率70%,生存率78%と報告されているが,RT 単独と比較して生存での優劣は明確ではない。同様の設定でTPF 後にCDDP-RT とCmab-RT を比較したTREMPLIN 7)では,喉頭温存率,生存率に差(18 mo 生存割合:92%/ 89%)を認めてはいない。
CDDP-RT におけるCmab の上乗せ効果を検討したRTOG05-22 8)では,生存への寄与は示さず,毒性の増強のみが認められており,推奨されない。
参考文献
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- Bonner JA, Harari PM, Giralt J, et al. Radiotherapy plus cetuximab for squamous-cell carcinoma of the head and neck. N Engl J Med. 2006;354:567-578. (レベル Ⅱ)
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- Bonner JA, Harari PM, Giralt J, et al. Radiotherapy plus cetuximab for locoregionally advanced head and neck cancer:5-year survival data from a phase 3 randomised trial, and relation between cetuximab-induced rash and survival. Lancet Oncol. 2011;11:21-28. (レベル Ⅱ)
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- Lefebvre JL, Pointreau Y, Rolland F, et al. Induction chemotherapy followed by either chemoradiotherapy or bioradiotherapy for larynx preservation:the TREMPLIN randomized phase Ⅱ study. J Clin Oncol. 2013;31:853-9. (レベル Ⅲ)
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- Ang KK, Zhang Q, Rosenthal DI, et al:Randomized phase Ⅲ trial of concurrent accelerated radiation plus cisplatin with or without cetuximab for stage Ⅲ to Ⅳ head and neck carcinoma:RTOG 0522. J Clin Oncol. 2014;32:2940-50. (レベル Ⅱ)
- CQ11-6
- 再発・転移頭頸部癌に対する初回化学療法においてセツキシマブの併用は有用か?
- 推奨グレードB
- 再発・転移頭頸部癌扁平上皮癌に対する初回化学療法としてCDDP+5-FU にCmab を併用することは,生存率の向上が認められており行うよう勧められる。
- 推奨グレードC2
- CDDP+5-FU 以外のレジメンにおけるCmab の併用については,患者の状況と有効性と安全性の報告を考慮して選択してもよい。
解説
再発・転移頭頸部扁平上皮癌に対する化学療法は緩和的な化学療法であるため,状況に応じて多剤併用療法や単剤が選択されている。CDDP+5-FU(PF)は全身状態良好な場合における標準的化学療法として,以前から用いられてきた。
EXTREME 1)試験は,PFへのCmabの追加効果を比較検討したもので,化学療法をQ3w で6 コースまで行い,Cmab 併用群はその後も投与継続した。全生存期間7. 4 mo/ 10. 1 mo(HR:0. 80,95% CI:0. 64-0. 99), 無増悪生存期間3. 3 mo / 5. 6 mo(HR:0. 54), 奏効率20%/ 36%とCmab 併用群の有意な上乗せ効果が報告されている。本邦でも安全性は確認され 2),これにより長く標準治療であったPF に代わり,新たな標準治療として認識されている。
CDDP 単剤とCDDP+Cmab の比較でCmab の追加効果を評価したECOG の試験では 3),奏功率では10%/26%と有意差を認めたものの,無増悪生存期間や全生存期間においては有意差を示せていない。
CDDP+DOC+Cmab を評価したGORTEC 2008-03 では,奏効率44. 4%,無増悪生存期間6. 2 mo,全生存期間14 mo,1/2 年生存率59. 3/20. 4%と報告している。weekly-PTX+Cmab を評価した試験では,奏効率54%,全生存期間8. 1 mo であり,全身状態や予後がやや不良な症例を含んでおり,初回治療における治療の選択肢の一つになる可能性を示している。どちらも単アームの試験でCmab の上乗せ効果を比較したものではないが,有効性やPF 不適応などで期待される結果である。
以上より,再発・転移頭頸部癌扁平上皮癌に対する初回化学療法として,CDDP+5-FU にCmab を併用することは生存率の向上が認められており推奨される。他の化学療法レジメンについては,PF+Cmab との直接的な比較はないものの,状況に応じて有効性や安全性が報告されたCmab を含むレジメンの選択は考慮され,さらなる臨床試験を進めていく必要がある。
参考文献
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- CQ11-7
- 再発・転移頭頸部悪性黒色腫に対する免疫チェックポイント阻害薬は有用か?
- 推奨グレードC1
- 鼻腔,副鼻腔,口腔粘膜を原発とする粘膜型悪性黒色腫に対しては,免疫チェックポイント阻害薬の治療報告は少ないものの,後方視的報告にて他の悪性黒色腫亜型と同様に一定の効果が期待される。このため,再発・転移頭頸部悪性黒色腫に対して免疫チェックポイント阻害薬を行うことを考慮してよい。
解説
悪性黒色腫は皮膚のメラノサイトに由来する悪性腫瘍で,従来その分類として,形態学に基づくClarkらによる分類が使用されてきた 1)。その後,Curtin らが遺伝子変異も考慮したBastian 分類を提唱し,現在ではBastian 分類が主に使用されるようになっている(表1) 2)。
頭頸部領域に発症するものの大部分は顔面〜頭皮の表皮に由来し,これは上記Bastian 分類では「Melanomas on skin with CSD」に相当する。この場合は通常皮膚科領域でのエビデンスが適用されるため本項では扱わない。
頭頸部悪性腫瘍で主に問題となるのは鼻腔,副鼻腔,口腔粘膜を原発として発生する粘膜型の悪性黒色腫(mucosal melanoma)である。これは極めて頻度の低い疾患で,悪性黒色腫全体の約1%程度に過ぎない。海外でのがん登録制度に基づく予後調査の他,国内ではShiga らにより94 例の頭頸部原発粘膜悪性黒色腫の経過が報告されているが,頭頸部原発を含む粘膜型悪性黒色腫は,チロシンキナーゼ阻害薬の治療標的であるBRAF 変異例が少ない,c-kit 陽性例が一部に認められるなどの特徴を持ち,他の悪性黒色腫の亜型よりも予後不良とされてきた 3-8)。
2010 年代より免疫チェックポイント阻害薬が,他がん腫に先駆けて悪性黒色腫に対して優れた治療効果を示し,全生存期間の延長を認めている。しかし,粘膜型悪性黒色腫に対する免疫チェックポイント阻害薬の臨床情報は限られている。
悪性黒色腫を対象にした免疫チェックポイント阻害薬の,第Ⅰ〜Ⅲ相国際臨床試験に参加しているacral(肢端型)/mucosal(粘膜型)悪性黒色腫の治療成績を報告したShoushtari らの論文では,35 例の粘膜悪性黒色腫症例(うち9 例が頭頸部原発)に対する抗PD-1 抗体の治療成績が報告されている。12 例がニボルマブ,23 例がペムブロリズマブによる治療を受けており,粘膜悪性黒色腫への抗PD-1 抗体使用による奏効率は23%,無増悪生存期間中央値は3. 9 カ月と報告されている(OS 中央値は到達せず)9)。さらに,第Ⅰ〜Ⅲ相国際臨床試験における粘膜悪性黒色腫に対するニボルマブ/イピリムマブのpooled analysis では,ニボルマブ単剤治療例(N=86)の奏効率は23. 3%,無増悪生存期間中央値は3. 0 カ月,イピリムマブ(N=36)単剤治療例の奏効率は8. 3%,無増悪生存期間中央値は2. 7 カ月であった 10)。
以上より,頭頸部粘膜型悪性黒色腫は稀な疾患であり,免疫チェックポイント阻害薬の効果を検証したランダム化比較試験の結果は報告されていないが,免疫チェックポイント阻害薬は一定の効果が期待できると考えられる。
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- CQ11-8
- 切除不能再発・転移頭頸部癌に対して抗PD-1 抗体は有用か?
- 推奨グレードB
- 抗PD-1 抗体であるニボルマブはプラチナ抵抗性頭頸部扁平上皮癌に対して有用であり,その使用が勧められる。
解説
他の多く悪性腫瘍と同様に頭頸部癌においても,PD-L1(programmed death ligand-1)陽性腫瘍細胞をPD-1(programmed death 1)受容体を介して腫瘍浸潤T細胞(tumor infiltrating T-lymphocyte:TIL)が認識することで抑制性の腫瘍免疫シグナルを生じるため,免疫監視機構からの回避が生じている。頭頸部扁平上皮癌におけるPD-L1 発現率は50%前後とされており,HPV 陽性例では発現率はやや高い傾向も報告されている 1-7)。
頭頸部癌においては,プラチナ抵抗性頭頸部扁平上皮癌に対するヒト型IgG4 抗PD-1 抗体であるニボルマブの有効性を検証するランダム化第Ⅲ相試験(CheckMate141 試験,N=361)の結果が報告されている 8)。本試験の対象は,口腔・中下咽頭・喉頭を原発巣とする転移・再発頭頸部扁平上皮癌を有し,根治的治療・術後治療として用いたプラチナ併用放射線療法もしくは転移再発頭頸部癌に対する初回治療としてのプラチナ併用化学療法後6 カ月以内に再発・増悪した患者である。試験治療群(ニボルマブ3 mg/kg,2 週ごと)と対照群である研究者選択治療群(メトトレキサート40-60 mg/m2 毎週,ドセタキセル30-40 mg/m2 毎週もしくはセツキシマブ400 mg/m2 に引き続き250 mg/m2 毎週)とを2 対1 に割り付けて治療を行った。主要評価項目は全生存期間(overall survival:OS)であり,試験治療群であるニボルマブの生存期間中央値は7. 5 カ月で,研究者選択治療群の5. 1 カ月を有意に上回った(HR:0. 70,97. 73% CI:0. 51-0. 96,p=0. 01)。また,この結果は日本人27 名を含むアジア人のサブグループ解析(N=34)においても同様の傾向を示していた 9)。
同じ抗PD-1 抗体であるペムブロリズマブも,転移・再発頭頸部扁平上皮癌においてPhase Ib 試験であるKEYNOTE-012 試験(KN-012)の頭頸部扁平上皮癌のコホート(N=60)と,KN-012 の頭頸部扁平上皮癌拡大コホート(N=132)の結果が報告されている 10, 11)。前者では対象はPD-L1 陽性(1%以上)の転移・再発頭頸部扁平上皮癌患者で,70%が転移再発頭頸部扁平上皮癌に対して2 レジメン以上の化学療法歴を有していた。奏効割合は18%,生存期間中央値13 カ月という成績であった 11)。また,後者の拡大コホートの対象はPD-L1 の発現の有無は問わない転移再発頭頸部扁平上皮癌患者で,57%が転移再発頭頸部扁平上皮癌に対して2 レジメン以上の化学療法歴を有していた。奏効割合は18%,生存期間中央値8 カ月という成績であった 10)。
以上のような結果から,抗PD-1 抗体は転移・再発頭頸部扁平上皮癌において有効性が示されている。特にランダム化第Ⅲ相試験であるCheckMate141 試験の結果から,プラチナ抵抗性頭頸部扁平上皮癌に対して抗PD-1 抗体であるニボルマブの使用が勧められる。
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Ⅳ-12.放射線治療
- CQ12-1
- 頭頸部扁平上皮癌術後再発高リスク患者に対する術後化学放射線療法は有用か?
- 推奨グレードA
- 顕微鏡的断端陽性もしくは節外浸潤陽性の頭頸部扁平上皮癌術後再発高リスク患者に対して,シスプラチン併用術後化学放射線療法を行うことが勧められる。
- 推奨グレードD
- シスプラチン以外の抗がん薬を併用する術後化学放射線療法は,行わないことを勧める。
解説
術後化学放射線療法の有用性を検証する重要なランダム化第Ⅲ相試験として,欧州および米国で行われたEORTC 22931 試験およびRTOG9501 試験がある 1, 2)。両試験とも再発リスク因子を有する口腔・中下咽頭・喉頭を原発巣とする頭頸部扁平上皮癌を対象とし,CDDP(100 mg/m2,3 週毎)を同時併用する化学放射線療法群(3W-CDDP+RT)と,放射線単独治療群を比較した。両試験における再発リスク因子の定義は異なるものの,EORTC22931 試験では無病生存期間(DFS)および全生存期間(OS)において,RTOG95-01 試験では局所領域制御割合(LRC)および無増悪生存期間(PFS)において,術後化学放射線療法群は術後放射線単独療法群より有意に良好であった。両試験の統合解析 3)では,OS において術後化学放射線療法群は術後放射線単独群より有意に良好(HR for OS:0. 776)という結果であり,両試験に共通する再発リスク因子である顕微鏡的断端陽性もしくはリンパ節節外浸潤(extra nodal extension:ENE)を有する患者では,さらに術後化学放射線療法の有用性が高い結果であった(HR for OS:0. 702)。その一方で,再発リスク因子としてICR およびENE を有さない患者においては,術後化学放射線療法の明らかな有用性は示されなかった。また,日本人患者を対象とした3W-CDDP+RT による術後化学放射線療法の第Ⅱ相試験(N=25)において,一定の安全性および忍容性が確認されている 4)。以上の結果から,ICR もしくはENE を有する頭頸部扁平上皮癌術後患者は,再発高リスクと評価してシスプラチン併用術後化学放射線療法行うことが勧められる。
一方で3W-CDDP+RT 以外のレジメンに関して,小規模な無作為化比較試験でRT への上乗せ効果が示唆されているが 5-7),統計学的に十分な症例数で検討されたものは存在しない。また,RTOG0234 試験 8)では,抗EGFR 抗体であるセツキシマブとシスプラチン毎週投与法の併用もしくはドセタキセル毎週投与法との併用の有効性と安全性が,ランダム化第Ⅱ相試験として検討された。この結果,セツキシマブとドセタキセル併用化学放射線療法が有望な結果を示しているが,標準治療である3W-CDDP+RT との比較試験の結果は報告されておらず,術後治療として生存に寄与するかどうかは不明である。以上より,頭頸部扁平上皮癌術後再発高リスク患者に対して,3W-CDDP+RT 以外のレジメンを臨床試験以外では使用しないことを勧める。
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- CQ12-2
- 進行頭頸部癌に対して,強度変調放射線治療を適応することにより晩期有害事象が減少するか?
- 推奨グレードA
- 強度変調放射線治療の適応で晩期唾液腺障害は軽減する。
- 推奨グレードB
- 強度変調放射線治療の適応で唾液腺以外の晩期有害事象の軽減も期待できる。
解説
強度変調放射線治療(intensity modulated radiotherapy:IMRT)と通常照射法のランダム化試験の報告は5 編ある 1-5)。これらは上咽頭癌の単施設試験3 編の717 例 1-3),上咽頭癌以外の複数原発巣対象の2 編(単施設試験と多施設試験が各1 編)の154 例を対象としており,この5 試験の871 例からなるメタ解析の報告がある 6)。両群とも病巣に65〜74 Gy が投与され,IMRT 群は唾液腺の平均線量または中央値線量が20〜30 Gyとなるよう治療計画され,化学療法は約80%に併用した。Grade2 以上の唾液腺障害はIMRT 群で有意に少なく(HR:0. 76,95% CI:0. 66-0. 87,p<0. 0001),生存率・局所制御率の差はなかった。IMRT 使用で,治療効果を犠牲にすることなく晩期唾液腺障害が減少した。IMRT と通常照射法を対比した221 例の後方視的研究では,唾液腺平均線量とその機能に負の相関が観察された 7)。以上より,IMRT は唾液腺線量を下げ,晩期唾液腺機能を改善するメリットがある。
ランダム化・非ランダム化研究を含む調査で,唾液腺以外の有害事象評価に関しEORTC-C30,EORTC H & N35,SF35 等の質問表を用い,IMRT の有用性を検討した複数のレビューがある 8-11)。IMRT群で嚥下,疼痛,意欲,コミュニケーション,会話,摂食の評価が良好で,治療効果に両群の差はなかった。IMRT はこれらの有害事象改善に有望で,QOL 向上が期待できる。159 例の後方視研究の結果では,IMRT 群は3 次元照射群より1 年胃瘻依存率が少なかったとの報告がある 12)。IMRT の適応は正常臓器の線量低減が達成でき,聴力障害,側頭葉脳壊死の減少が同様に期待できる。
以上より進行頭頸部癌放射線治療で,IMRT は唾液腺線量を下げることで,晩期唾液腺機能を温存でき,その他にも嚥下機能等の機能温存によりQOL を改善できる利点があり推奨できる。
頭頸部癌の臨床試験で,放射線治療の品質管理が不良だった症例に治療効果や生存が有意に不良との報告がある 13)。IMRT は治療計画やその放射線治療の精度が効果に大きく影響し,治療計画精度や物理検証の品質管理は極めて重要で,治療の標準化や物理精度管理の状況は治療効果に大きく影響する 14)。また,照射中の解剖学的変化による唾液腺体積の減少は,IMRT を使用する場合に線量増加を生じ,唾液腺機能のダメージが増える可能性につながる 15)。適切な治療経過中の観察から再治療計画を適宜検討する必要がある。
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- CQ12-3
- 化学放射線療法後の救済手術の適応は?
- 推奨グレードC1
- 切除可能であれば救済手術が最も長期生存を期待できる治療であるが,救済率は決して高くはなく,患者の全身状態,予想される手術の合併症,後遺症から総合的に手術適応を判断する。原発が喉頭の場合,p16 陽性腫瘍の場合,頸部のみの再発の場合は救済率は高く,手術を行うことが推奨される。
解説
化学放射線療法後の手術は難易度が高い。皮膚が硬くなり軟部組織の線維化のため,術前の画像で切除可能と予想されても,線維化,周囲組織との癒着のために困難を極めることもある。また,術後の皮膚壊死,創傷治癒遅延,さらに易感染性であり,術後合併症のリスクも高い。さらに,それまでに受けた治療や,痛みなどにより全身状態が不良である場合が多いことも要注意である。
解剖学的な手術適応は新鮮例と基本的には変わりなく,化学放射線療法後の残存あるいは再発部位が,原発あるいは頸部に限局し解剖学的に切除可能と判断され,遠隔転移がない場合が対象となる。
しかし,予後不良因子として,全身状態が不良 1-3),再発時の臨床病期が進んでいる 2, 4-7),再発までの期間が短い 3, 4),部位が喉頭以外があげられている。また,中咽頭でもp16 陽性腫瘍の場合は陰性の場合と比べ救済手術後の予後がよい 2)。
術後合併症は頸部郭清術などの咽頭と頸部が連続しないような手術に比べ,喉頭摘出など咽頭と頸部が連続するような手術の場合は咽頭瘻孔が発生するリスクが高い。頸部のみの残存の場合は,原発巣再発に比べ救済率は高く 5),手術のリスクも低い。
ただし,救済手術が可能であれば,治癒の可能性が最も高い治療である。しかし,手術のリスクは高く,機能の喪失あるいは低下,形態の変化は避けられず,十分患者と相談し,上記のことを総合的に判断して手術を行うかどうか決定する。
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- CQ12-4
- 頭頸部癌(上咽頭癌を含む)へのCRT 後の局所再発に対する再照射は有用か?
- 推奨グレードC2
- 十分な根拠がなく慎重な判断の上での治療オプションと考えられる。
解説
頭頸部癌において照射範囲内の局所再発,異時性の原発腫瘍の出現はそれぞれ15〜50%,8〜20%とその頻度は高い。救済手術が最も有効な根治的治療であるが,救済手術が困難な場合や,救済手術後の再発高リスク例は再照射が治療選択肢となる。また,それ以外にも出血,疼痛,嚥下障害などの症状緩和目的の再照射も考慮される。
救済再照射の線量は60 Gy 以上が推奨されるが,10〜20%に重篤な晩期毒性が報告されており,慎重な患者選択が重要である。初回治療から6 カ月以内の再発例は放射線抵抗性腫瘍と考えられ対象より除外すべきで,その他の因子として初回処方線量,正常臓器の既照射線量,腫瘍サイズと部位,患者の全身状態や併存疾患が重要と報告される 1)。救済再照射103 例の後方視的検討で,重度の予備機能不良例や合併症を有する症例が有意に予後不良と報告があり 2),これらの対象ではより慎重な検討を要する。
上咽頭癌原発では再照射の比較的良好な成績の報告がある 1)。再発上咽頭癌319例の後方視的検討で,86%が局所に限局した再発で,その80%に再照射した結果,3 年生存割合は74%であった。またrT1-2 が独立した予後因子と報告された 3)。
American College of Radiology のexpert panel の提唱で,再照射は慎重な患者選択の上で,有害事象の情報共有を行うことが重要で,重篤な有害事象に対応できる三次医療体制の施設で実施すべきとされている 4)。
再照射の毒性回避にはIMRT,定位放射線治療,粒子線治療,小線源治療など線量集中性の高い治療法を選択すべきである 1, 5, 6)。過去の前向き試験は3D-CRT が使用され,IMRT の前向き試験の報告がない。再照射へのIMRT の応用で局所制御向上と毒性低減の改善が期待される 5)。近年のIMRT を用いた後方視的解析によると,2 年生存割合は50%程度,Grade 3 以上の有害事象30〜40%,治療関連死亡は1〜2%と報告され 7, 8),従来の報告より重篤な有害事象が低減される可能性がある。
再照射時の化学療法併用の有用性は後方視解析が中心で十分なデータに乏しい 9)。救済手術不能の対象症例に化学療法単独が日常臨床で選択される場合が多い。過去に2 つのランダム化比較試験(GORTEC 98-03,RTOG 04-21)で再照射と化学療法の比較が行われたが,症例集積不良で中止となっており 10),前向き試験による検討は今後も困難が予想される。
以上より,IMRT 等の高精度治療を用いることで一定の成績改善の余地があるが,信頼できる科学的根拠は不足しており,重篤な有害事象が臨床上の問題であるため適応は慎重に検討すべきである。
参考文献
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- CQ12-5
- 小児の頭頸部腫瘍(上咽頭癌を除く)に対して陽子線治療は有用か?
- 推奨グレードB
- 放射線治療が適応となる疾患に対しては成長障害などの晩期有害事象の軽減,および2 次癌発生率の低下が期待できる陽子線治療が推奨される。
解説
小児腫瘍に対する放射線治療では,治療効果と同じかそれ以上に晩期有害事象,特に成長障害について留意する必要がある。陽子線治療はブラッグピークという物理学的な特性から線量集中性を高めることができ,腫瘍の周囲にあるリスク臓器への線量を低減することが可能であるため,理論的に放射線治療よりも晩期有害事象の軽減と2次癌発生率の低下が期待できる 1-3)。
Paulino ら 4)が,頭頸部の横紋筋肉腫に対する放射線治療(X 線)による長期合併症を報告している。1967〜1994 年までの30 例の頭頸部原発症例の内17 例が5 年生存し,中央値20 年の経過観察では,観察可能症例のうち,成長遅延9/15(60%),成長ホルモン補充療法6/15(40%),顔面の左右非対称性11/15(73%),聴力障害6/8(75%),視力障害9/11(82%),歯牙障害7/7(100%),甲状腺機能低下2/2(100%),認知障害3/15(20%)であった。
Schoot ら 5)は2015 年に,1990〜2010 年に治療した頭頸部の横紋筋肉腫153 例のうち,2 年以上生存し観察可能であった80 例の有害事象を報告した。通常の外部照射症例31 例では,Grade1:4 例(13%),Grade2:3 例(10%),Grade3:18 例(58%),Grade4:6 例(19%)であった。
一方,陽子線治療を用いた横紋筋肉腫の報告では,晩期有害事象はGrade2 で28%,Grade3で7%であったとされている 6)。
過去の論文を検討してみると,長期の有害事象に関する報告の多くはケースシリーズにとどまっている。また,多くの論文では化学療法や手術による合併症と,放射線治療によるいわゆる局所の有害事象を区別するのが困難な場合が多く,十分なエビデンスレベルは保持できない。しかしながら,成長障害,2 次癌など,10〜20 年の観察期間が必要な領域で厳密な比較試験を行うことは不可能であるため,現段階での情報でも積極的に陽子線治療を推奨してよいと考えられる。
参考文献
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- CQ12-6
- 頭頸部非扁平上皮癌に対して粒子線治療は有用か?
- 推奨グレードC1
- 放射線治療が適応となる状況においては組織型に関わらず,脳壊死,視神経障害などの重篤な晩期有害事象が予測される場合,放射線治療に比べてそれらを軽減することが期待されるため勧められる。
【重粒子線治療】
- 推奨グレードC1
- 放射線治療抵抗性を持つ非扁平上皮癌に対して重粒子線治療を用いることは,効果の面で期待できる。ただし,長期の晩期有害事象の点においてまだデータが成熟していない。
解説
完全切除が困難,もしくは外科切除により患者に大きな損失が予測される場合,頭蓋底腫瘍や鼻副鼻腔腫瘍では治療選択肢は限られる。全身状態,組織型ならびに腫瘍の進展範囲にもよって,動注療法を含む化学療法併用または放射線単独治療が候補となるが,脳実質,脳幹,視神経などのリスク臓器が近接しているため十分な線量を腫瘍に投与できない場面も多く存在する。
粒子線治療は,ブラッグピークという物理学的な特性から線量集中性を高めることができ,腫瘍の周囲にあるリスク臓器への線量を低減することが可能である 1)。
現在臨床応用されている粒子線治療は,陽子線治療と重粒子線治療に大別される。施設が限定されていることや治療費の問題などから前向き試験の少ない領域であるが,陽子線治療10 編,重粒子線治療2 編を含む43 コホート研究のシステマティック・レビュー 2)を行った結果,Stage ⅣもしくはKadish C の鼻副鼻腔腫瘍に対して粒子線治療は放射線治療より無病生存期間,全生存期間で優れていることが示された(HR:1. 53,95% CI:1. 08-2. 17,p=0. 034)。
陽子線治療
放射線治療を1 として,線質の強度を表すrelative biological effect(RBE)は1. 1 と考えられており 3),放射線治療とさほど変わらない用途で使用できる。そのため,放射線治療と比べ格段に成績が上がるということはなく,放射線治療で相性の悪い腫瘍は,陽子線治療でも相性は悪い。放射線治療ではなく陽子線治療を選択するのは,効果よりも安全面を配慮する場面 4)である。ただし,リスク臓器が近接していて通常の放射線治療では十分量の線量を投与できない場合,陽子線治療で辺縁への線量を確保することができた場合には,治療成績の向上も期待できる。
Patel らのシステマティック・レビューでは,IMRT との比較においても無病生存および局所制御において陽子線治療が優れていたと報告している(無病生存HR:1. 44,95% CI:10. 1-2. 05,p=0. 045/局所制御HR:1. 26,95% CI:1. 05-1. 51,p=0. 011)。鼻腔悪性黒色腫に関しては本邦から臨床第Ⅱ相試験が報告 5)されており,局所制御割合75. 8%と良好であり,手術以外の代替治療として提示可能である。
現時点では治療施設が限られているため,環境が整えば行えるという推奨にとどめる。
重粒子線治療
放射線治療を1 として線質の強度を表すRBE は2〜3 と考えられており,放射線治療より格段に強力な線質を有する。ただし,RBE に関しては公表値に幅があり未知な部分も多く,正確に放射線治療の線量と合わせるのが難しい場合もある。
頭蓋底,鼻副鼻腔領域の大きな腫瘍で重粒子線治療はその線質が影響し,照射野に視神経が近接したり一部含まれたりした場合に,失明が起こる可能性が高いことが知られており 6, 7),照射野が視神経に近接するかどうかも重粒子線治療を選択する一つの条件となる。
一方,殺細胞効果の原理が放射線治療や陽子線治療とは異なるため,従来の放射線治療では根治困難だった腫瘍に対しても効果を期待できることから,放射線治療抵抗性疾患に対しては重粒子線治療を有力な選択肢と位置づけることができる。
現時点では治療施設が限られているため,環境が整えば選択肢に入る,という推奨にとどめる。
参考文献
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- CQ12-7
- 頭頸部(頭蓋底を含む)の肉腫に対して重粒子線治療は有用か?
- 推奨グレードC1
- 切除不能例または不完全切除例に対する治療選択肢となり得る。
解説
肉腫に対する根治的治療の第一選択は外科的切除であるが,整形外科領域と比べて,耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域あるいは脳外科領域は広範切除が困難なことも多い。切除不能例または不完全切除例に対する選択肢の一つが放射線治療であるが,従来の放射線治療(X 線治療)は,単独では肉腫に対する効果は不十分と考えられており,主として術前照射または術後照射として用いられてきた。
近年,重粒子線治療(炭素イオン線治療)の,主として整形外科領域の肉腫に対する有用性が報告されている。重粒子線治療はX 線治療と比べて線量集中性に優れており,重要臓器への線量を最小限に抑えながら,腫瘍へ高線量を照射することができ,また,X 線治療と比べて生物学的効果も高く,単独でも肉腫に対する効果が十分期待できるからである。
耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域においては,切除不能な頭頸部肉腫27例(部位:鼻副鼻腔11 例,上顎骨8 例など,組織型:骨肉腫9例,悪性線維性組織球腫5 例など)に対して重粒子線治療が施行され,5 年局所制御率80. 4%,5年全生存率57. 6%であった 1)。切除不能例に対する放射線治療(±化学療法)では,5 年局所制御率0〜55%,5 年全生存率9〜63%と報告されており 2-5),重粒子線治療は特に局所制御率において優れているといえる。また,Grade3 以上の有害事象は急性期1 例(4%),晩期5 例(19%)と許容範囲であった。
脳神経外科領域においては,切除不能または不完全切除された頭蓋底軟骨肉腫79 例に対して,重粒子線治療が施行され,5 年局所制御率88%,5 年全生存率96. 1%であった 6)。頭蓋底軟骨肉腫のシステマティック・レビューでは,5 年全生存率は手術単独群で75%,手術+放射線治療群で91%と報告されており 7),重粒子線治療による予後改善が期待できる。
頭頸部(頭蓋底を含む)の肉腫に対する重粒子線治療の文献はごく少数であり,さらに,肉腫には様々な組織型があるため,治療成績の解釈には注意が必要である。しかし,切除不能例または不完全切除例に対しては,他に有効な治療法がないため,治療選択肢となり得ると考える。また,重粒子線治療はこれまで先進医療として高額な治療費(約300 万円)が必要であったが,2016 年4 月に「切除非適応の骨軟部腫瘍に対する重粒子線治療」が保険収載され,頭頸部(頭蓋底を含む)の肉腫もこれに該当するため,選択肢として考慮しやすくなった。
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資料
❶ 会話機能評価基準
❷ 嚥下機能評価基準(MTFスコア)
❸ 頸部郭清術後機能質問表
❹ 下咽頭癌・声門上癌に対する頸部郭清指針
推奨郭清範囲
- 1)患側
N0,N1 症例─レベルⅡ,Ⅲ,Ⅳの郭清を行う。
N2,N3 症例─最低限レベルⅡ,Ⅲ,Ⅳの郭清を行う。
必要に応じてレベルⅤおよび/またはレベルⅠの郭清を追加する。 - 2)健側
原発巣の進展範囲に応じて症例毎に判断するが,明らかに正中をこえている場合には,最低限レベルⅡ,Ⅲ,Ⅳの郭清を行う。 - 3)頸部気管傍リンパ節
下咽頭癌症例で,下咽頭喉頭全摘出術または喉頭全摘出術を同時に施行する場合には,頸部気管傍リンパ節郭清を追加する。
原発部位が梨状陥凹の場合─最低限,患側の頸部気管傍リンパ節郭清を追加する。
原発部位が輪状後部または咽頭後壁の場合─両側の頸部気管傍リンパ節郭清を追加する。
推奨手術手順
- 1)上内頸静脈領域上縁(上深頸部上縁)
- ①顎二腹筋後腹上縁の高さとする。顎二腹筋後腹を上方に牽引し,その裏側まで郭清を行う。
- ②原発病変および/またはリンパ節転移が顎二腹筋後腹に浸潤または近接する場合は,上縁を顎二腹筋後腹上縁より上方に設定する。顎二腹筋後腹を切除し,後腹上縁のさらに上方まで郭清を行う。
- 2)下内頸静脈領域下縁(下深頸部下縁)
- ①静脈角より1〜2 cm上方とする。
- ②リンパ節転移が下内頸静脈部に存在する場合には,下縁を静脈角直上の高さに設定する。リンパ節転移の位置が静脈角に近い場合は,下縁を静脈角よりさらに下方に設定する。
- ③原発病変が下内頸静脈部にかかる場合にも,下縁を静脈角直上の高さに設定する。
- 3)後頸三角領域後縁(副神経部後縁+鎖骨上部後縁) *後頸三角領域の郭清を行う場合のみ
- ①下咽頭癌症例では僧帽筋前縁とする。術中に僧帽筋前縁を必ず確認する。
- ②声上癌症例では僧帽筋前縁付近とする。僧帽筋前縁付近まで郭清を行えば,術中に前縁そのものを確認してもしなくてもよい。
- ③リンパ節転移が僧帽筋前縁にかかる,または僧帽筋前縁より後方に存在する場合は,後縁を僧帽筋前縁より後方に設定する。
- 4)頸神経(後頸三角領域の郭清を行う場合のみ)
- ①可及的に温存する。
- ②リンパ節転移が頸神経に浸潤または近接する場合,および/またはリンパ節転移が頸神経と深頸筋膜の間に存在する場合には,その周囲の頸神経を切除する。
- ③リンパ節転移の個数が多い場合,および/またはリンパ節転移の分布が広範である場合には,頸神経の全切除もやむを得ない。
この頸部郭清指針は厚生労働省科学研究費補助金がん臨床研究事業による「咽喉頭がんのリンパ節転移に対する標準的治療法の確立に関する研究」の研究班により作成された。
❺ 参考URL
日本頭頸部癌学会 http://www.jshnc.umin.ne.jp/
日本甲状腺外科学会 http://square.umin.ac.jp/thyroidsurgery/
日本放射線腫瘍学会 http://www.jastro.or.jp/
日本癌治療学会 http://www.jsco.or.jp/
国立がん研究センターがん対策情報センター「がん情報サービス」 http://ganjoho.jp/