診療ガイドライン

Ⅱ dMMR 固形がん

2.1 がんとミスマッチ修復機能

DNA 複製の際に生じる相補的ではない塩基対合(ミスマッチ)を修復する(mismatch repair:MMR)機能は,ゲノム恒常性の維持に必須の機能である。MMR 機能が低下している状態をMMR deficient(dMMR),機能が保たれている状態をMMR proficient(pMMR)と表現する。MMR の機能欠損を評価する方法としてMSI 検査,MMR タンパクに対する免疫染色(immunohistochemistry:IHC),NGS による評価法がある(詳細は「2.4 dMMR 判定検査法」を参照)。MMR 機能の低下により,1 から数塩基の繰り返し配列(マイクロサテライト)の反復回数に変化が生じ,この現象をマイクロサテライト不安定性(microsatellite instability:MSI)という。MMR 機能の低下により,腫瘍抑制・細胞増殖・DNA 修復・アポトーシスなどがん化に関与する遺伝子のコーディング領域に存在する反復配列領域に変化が起こりやすくなり,これらの遺伝子異常の蓄積により腫瘍発生,増殖に関与すると考えられている1)。マイクロサテライト不安定性が高頻度に認められる場合をMSI-High(MSI-H),低頻度に認められるまたは認められない場合をMSI-Low/microsatellite stable(MSI-L/MSS)と呼ぶ。

一般に,MMR 機能の低下が認められるがんの要因は,がん種によって異なる。散発性のdMMR 固形がん(sporadic dMMR tumor)では,主にMLH1 遺伝子のプロモーター領域の後天的な高メチル化2)が原因となることが多い1)。他には,MMR 遺伝子の塩基配列の変化やプロモーター領域の異常メチル化による発現低下などが知られている1)。一方,生殖細胞系列(germline)におけるMLH1,MSH2,MSH6,PMS2 遺伝子の病的バリアントや,MSH2 遺伝子の上流に隣接するEPCAM 遺伝子の欠失3-5)が片アリルに認められる場合をリンチ症候群と呼び,この遺伝子異常に起因して発生する腫瘍をリンチ症候群関連腫瘍(Lynch-associated tumor)(「3.リンチ症候群」参照6,7))と呼ぶ。まれな疾患としていずれかのMMR 遺伝子の両アレルに生殖細胞系列の病的バリアントを認める先天性ミスマッチ修復欠損(constitutional mismatch repair deficiency:CMMRD)症候群も報告されており,小児期より大腸がんや小腸がん,急性白血病,脳腫瘍(髄芽腫や高悪性度グリオーマ)などを発症することが知られている8)。消化器がん以外の合併,特に脳腫瘍の発症頻度が高く,髄芽腫や高悪性度グリオーマを生じるTurcot 症候群として知られている。

2.2 dMMR 固形がんのがん種別頻度

dMMR 固形がんは様々な臓器に認められ,その頻度は,民族や集団,がん種,病期,遺伝性か散発性かにより大きく異なる。MSI 検査またはIHC 検査(検査法については「2.4 dMMR 判定検査法」参照)によるdMMR 固形がんの頻度は,対象集団や検査法の違いも含め報告によってばらつきが大きい。本邦で2018 年12 月から2019 年11 月に実施された切除不能・再発固形がんのMSI 検査26,469 例の解析結果が報告された(図2-1)。全体でのMSI-H の頻度は3.72%であった。100 例以上解析できたがん種における,MSI-H 頻度は高い順に子宮内膜がん16.85%,小腸がん8.63%,胃がん6.74%,十二指腸がん5.60%,大腸がん3.78%であった9)

図2-1 本邦におけるMSI 検査によるMSI‒H 固形がん種別頻度9)を改変

また,NGS 法を用いた(検査法については「2.4 dMMR 判定検査法」参照)臓器横断的なdMMR 固形がんの頻度について報告が複数ある。32 種類の固形がん,12,019 例を対象とした頻度が高かった11 のがん種の合計で,MSI-H はStage Ⅰ-Ⅲで約10%,Stage Ⅳで約5%に認められている(図2-210)。また,メモリアルスローンケタリングがんセンター(MSKCC)で腫瘍部と正常部のDNA をMSK-IMPACT を用いたNGS 法でシーケンスを行っており,dMMR の判定をMSIsensor という,腫瘍部と正常部ペアで比較して検出された不安定なマイクロサテライト領域の割合をcumulative score として報告するコンピュータによる解析アルゴリズムを用いて行っている。このアルゴリズムではMSIsensor score 10 点以上がMSI-H,3 点以上10 点未満がindeterminate(MSI-I),3 点未満をMSS としている。50 種以上の固形がん,15,045 例を対象とした解析では,MSI-H,MSI-I とリンチ症候群関連腫瘍の頻度が表2-1 の通り報告されている11)

図2-2 NGS 検査によるMSI‒H 固形がん種別頻度10)

表2-1 がん種別MSI‒H,リンチ症候群頻度11)

2.3 dMMR 固形がんの臨床像

18 種類のdMMR 固形がん(5,930 のがんエクソーム)での検討では,マイクロサテライトの状態と予後との関連性は低かったと報告されている12)。その他にも様々ながんにおいてdMMR 固形がんでの予後解析は行われているが,予後との関連性は未だ明確になっていない。

以下にdMMR 固形がんの臨床像を各がん種別に記載する。

2.3.1 dMMR 消化管がんの臨床像(表2-2

大腸がん全体におけるdMMR の頻度は欧米では13%13),本邦では6-7%14,15)であるものの,Stage Ⅳではその頻度は低く,本邦では1.9-3.7%とされている16,17)。dMMR 大腸がんの中でリンチ症候群が約20-30%,散発性が約70-80%を占め,ともにpMMR 大腸がんに比べて右側結腸に好発し,低分化腺癌の割合が高い。予後との関連については,Stage Ⅱでは予後良好,治癒切除不能例では予後不良と報告されている。また,dMMR 大腸がんの35-43%にBRAF V600E 遺伝子変異を認めるが18),リンチ症候群関連大腸がんはdMMR を示しても,BRAF V600E を認めることはまれである2)。(表2-2,詳細は「大腸癌治療ガイドライン2019 年版(大腸癌研究会)」「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2020 年版(大腸癌研究会)」「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス第4 版」を参照)。

胃がん全体におけるdMMR の頻度は欧米では約20-25%,アジア諸国では約8-19%と高い19)。高齢女性に多く,遠位部の腸型腺癌が多く,リンパ節転移やTP53 変異はまれとされている20)。MSI-H 胃がんではMSI-L/MSS 胃がんと比較し予後良好であることが報告されている(HR 0.76)21)

小腸がん全体におけるdMMR の頻度は5-45%と報告されており,比較的高頻度である22)

食道がんについては報告が少なく,頻度や予後について定まった見解は得られていない。

表2-2 dMMR 大腸がんの臨床的特徴

2.3.2 dMMR 肝胆膵がんの臨床像(表2-3

肝胆膵がんでは,dMMR を呈する頻度が少なく,まとまった報告も限られている。肝細胞がんでは,dMMR の頻度が1-3%で,進行がんのみならず,早期がんでも認められる4)。また,悪性度が高く,再発までの期間が短いことが報告されている23)。胆道がんでは散発性のMSI-H の頻度が1.3%という報告がある25)。若年での発症が多く24),早期がんや進行がんともに認められる25)。また,MSS と比べて,予後良好との報告26)や,予後は変わらないとの報告25)があり,一定の見解が得られていない。

表2-3 dMMR 肝胆膵がんの臨床的特徴

膵がんにおけるdMMR を呈する頻度は本邦から13%27)との報告があるが,近年の海外からの報告では0.8-1.3%28-31)あり,1%前後と考えられている。予後は良好との報告が散見され29,30),免疫チェックポイント阻害薬が奏効しやすい30)と言われている。また,術後補助療法の施行群と未施行群で再発までの期間が変わらなかったという報告32)や,低分化で,KRAS 野生型が高率であったという報告27)もあるが,いまだその臨床的意義は明らかではない。

2.3.3 dMMR 婦人科がんの臨床像(表2-4

dMMR を示す婦人科がんの種類としては,子宮内膜がんが最も多い。一般集団の子宮内膜がんの生涯リスクは3%であるがリンチ症候群では27-71%であり33),子宮内膜がんにおいてはdMMR の頻度は20-30%,そのうちリンチ症候群(MMR 遺伝子の生殖細胞系列病的バリアント保持者)が約5-20%,散発性が約80-90%である34,35)。リンチ症候群関連婦人科がんと散発性婦人科がんの臨床的特徴を比較すると表2-4 のようになる。173 例の子宮内膜がんにおける解析では,pMMR と比較し,dMMR では無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)および全生存期間(overall survival:OS)が不良である傾向が認められたものの(PFS:p=0.057,OS:p=0.076),リンチ症候群においては予後に関連性はなかった(PFS:p=0.357,OS:p=0.141)と報告されている36)

卵巣がんについては,一般集団における生涯発症リスクが1.5%であるのに対して,リンチ症候群では3-20%である33,37,38)。本邦では,上皮性卵巣がん約2.6%にMMR 遺伝子の病的バリアントを認めたと報告されている39)

なおリンチ症候群関連腫瘍の発生リスクは遺伝子により異なり,MSH6 病的バリアント保持者では比較的子宮内膜がん発生リスクが高いことが知られている40,41)

表2-4 dMMR 子宮内膜がんの臨床的特徴

42) 43)
2.3.4 dMMR 泌尿器がんの臨床像(表2-5

泌尿器科においてdMMR を示すがん種として,腎盂・尿管がんが最も多く,前立腺がん・胚細胞腫瘍・膀胱がんにおいても認められる。腎盂・尿管がんにおけるdMMR の頻度は5-11.3%と報告されている44)。dMMR を示す腎盂・尿管がんは,組織学的にはinverted growth pattern やlow stage という特徴が認められるが,腫瘍発生部位は特徴がない45)。リンチ症候群関連腎盂・尿管がんは,一般的な腎盂・尿管がんに比し,発症年齢が若く,女性の発症リスクが男性と同等レベルにまで増加する46)。また,リンチ症候群関連腎盂・尿管がんの半数以上はMSS/MSI-L であるという報告もある46)。リンチ症候群関連腫瘍としては,腎盂・尿管がん以外には前立腺がん,胚細胞腫瘍,膀胱がんが関連する可能性が報告されている44)。散発性dMMR 泌尿器科がんの臨床的特徴は不明である。

表2-5 dMMR 泌尿器科がんの臨床的特徴

2.4 dMMR 判定検査法

dMMR 判定検査には下記に示すMSI 検査,MMR タンパク質(MLH1,MSH2,MSH6,PMS2)に対する免疫染色(IHC)検査,NGS 検査がある。

2.4.1 MSI 検査

MSI 検査は,正常組織および腫瘍組織より得られたDNA からマイクロサテライト領域をPCR 法で増幅し,マイクロサテライト配列の反復回数を測定・比較判定する方法である。実際には,反復回数の違いをPCR 産物の長さの差として,電気泳動にて比較する。古典的なベセスダパネルを用いた方法では,5 つのマイクロサテライトマーカー(BAT25,BAT26,D5S346,D2S123,D17S250)の長さを腫瘍組織と正常組織で比較し,異なる長さのPCR 産物が検出された場合をMSI 陽性として,MSI 陽性が2 つ以上のマーカーで認められる場合をMSI-H,1 つのマーカーでのみ認められる場合をMSI-L(low-frequency MSI),いずれのマーカーにおいても認められない場合をMSS(Microsatellite stable)と判定する。MSI-H では腫瘍におけるMMR 機能が欠損(dMMR),MSI-L/MSS では保持されている(pMMR)と判断する。ベセスダパネルには,1 塩基の繰り返しマーカーと比較しMSI の感度が劣ると報告されている2 塩基の繰り返しマーカーが3 つ含まれている。近年,dMMR 判定検査には,1 塩基の繰り返しマーカーのみで構成されるパネル(ペンタプレックスやMSI 検査キット(FALCO))が使用されることが多い。なお,多くのパネルに使用されている1 塩基の繰り返しマーカーであるBAT25,BAT26 はMSI の感度・特異度がともに高い47)

2018 年9 月,本邦において「MSI 検査キット(FALCO)」が薬事承認された。2021 年6 月現在,「ペムブロリズマブの固形がん患者への適応を判断するための補助」「ニボルマブの結腸・直腸癌患者への適応を判定するための補助」「大腸癌におけるリンチ症候群の診断の補助」「大腸癌における化学療法の選択の補助」を使用目的として承認されている。この検査キットには,1 塩基の繰り返しマーカーのみで構成されるパネル(BAT25,BAT26,NR21,NR24,MONO27)(表2-6)が用いられている。これらのマーカーは,準単型性を示し,それぞれのマーカーのQuasi-Monomorphic Variation Range(QMVR)は人種によらず一定の範囲になる(表2-748)。MSI 検査キット(FALCO)では正常組織のマイクロサテライトマーカーのPCR 産物の長さが各マーカーで平均値±3 塩基の範囲(QMVR)に収まることから,そのQMVR から外れるマーカーをMSI 陽性とすれば(図2-3),腫瘍組織のみでMSI を評価することが可能である。実際,多くの固形がんにおいて腫瘍組織のみを用いたMSI-H の判定と正常組織とのペアで測定したMSI-H の判定とが一致した49)

表2-6 MSI 検査で使用されるマイクロサテライトマーカー

表2-7 健常日本人とアメリカ人の正常組織における各マーカーのQMVR48)

図2-3 マーカー(BAT26)の泳動波形例

大腸がんでは,MSI 検査とMMR タンパク質に対する免疫染色(IHC)検査(「2.4.2 MMR タンパク質免疫染色検査」参照)によるdMMR 判定の一致率は90%以上であることが報告されているが,大腸がん以外の固形がんにはやや一致率が低いものもある。その背景には,臓器により繰り返し配列異常の程度に違いがある可能性が指摘されており,大腸がんでは平均して6 塩基の違いが生じるのに対し(図2-4),他の固形がんでは3 塩基の移動しかみられない(図2-550)。MSI 検査キット(FALCO)では各マーカーで平均値±3 塩基のQMVR 幅を基準としマーカー評価を行うため,移動が少ない場合にはMSI 検査が偽陰性となる。脳腫瘍・尿管がん・子宮内膜がん・卵巣がん・胆管がん・乳がんではそのような偽陰性症例が報告されており,腫瘍組織のみを用いたMSI 検査を実施する際には,判定結果の解釈に注意が必要である。

図2-4 MSI‒H の代表的な泳動波形例(大腸がん)

図2-5 注意が必要なMSI‒H 泳動波形例(子宮内膜がん)

2.4.2 MMR タンパク質免疫染色検査

腫瘍組織におけるMMR タンパク質(MLH1,MSH2,MSH6,PMS2)の発現を免疫染色(IHC)検査によって調べ,dMMR かどうかを評価する。評価には内部陽性コントロール(例:大腸がんの場合には,非腫瘍組織における大腸粘膜の腺底部やリンパ濾胞の胚中心)を用いて染色の適切性を確認する。4 種類のタンパク質全てが発現している場合はpMMR,1 つ以上のタンパク質発現が消失している場合をdMMR と判定する。MSI 検査ではなくIHC 検査を用いる利点として,発現消失を認めるタンパク質のパターンからdMMR の責任遺伝子の推定が可能である点が挙げられる。例えば,MSH6 はMSH2 としかヘテロダイマーを形成できないため,MSH2 遺伝子に異常があるとMSH6 がタンパクとして安定せず分解されるため同時に免疫染色での発現消失を認める。逆に,MSH2 はMSH6 以外にもMSH3 ともヘテロダイマーを形成することが可能であり,MSH6 遺伝子に異常があってもMSH2 の発現は保たれる。MLH1・PMS2 についても同様に,PMS2 はMLH1 としかヘテロダイマーを形成できないが,MLH1 はPMS2 以外のタンパクともヘテロダイマーを形成できる(図2-6)。多くは表2-8 のような染色パターンを示す。このパターンを示さない場合には染色の妥当性を検討し,判断に迷う場合にはMSI 検査等を追加することで総合的な判定を試みる。

また,MLH1,MSH2,MSH6,PMS2 の4 つのタンパクを評価することが推奨されるが,検体量の問題等で難しいときにはMSH6 とPMS2 のみでスクリーニングすることも許容される51)

2021 年12 月,本邦において癌組織中に発現するMMR タンパク(MLH1,MSH2,MSH6,PMS2)をそれぞれ検出するIHC 用の検査キット4 製品からなる「ミスマッチ修復(MMR)機能欠損検出キット」が体外診断薬として承認された。

表2-8 MMR タンパク質に対する免疫染色パターンと疑われる責任遺伝子

図2-6 MMR タンパク質 ヘテロダイマー形成パートナー

2.4.3 NGS 検査

NGS 技術を用いたMMR 機能欠損の評価には,マイクロサテライト領域のみをターゲットとした方法と,包括的がんゲノムプロファイリングの一環としてMMR 機能の評価も行う方法に大別される。前者の例として,MSIplus パネルが報告されている52)。本法は,計18 個のマイクロサテライトマーカー領域の長さをNGS 技術によって測定するもので,33%以上のマーカーで不安定性を認める場合にMSI-H と診断される。

後者の例としては,FoundationOne® CDx やOncoGuideTM NCC オンコパネルがある。FoundationOne® CDx では,約2,000 のマイクロサテライト領域における繰返し配列の長さを解析してMSI スコアを算出し,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法に対する同等性試験にて決定された判定基準に基づき,MSI-High(MSI-H),MS-Equivocal,Microsatellite-Stable(MSS)を判定する。MSI-H とMSS の中間ステータスにあたるMS-Equivocal と判定された場合,承認された他の体外診断用医薬品等による確認検査を行う53)。OncoGuideTM NCC オンコパネルでは576 カ所のモノリピートから5 塩基までのマイクロサテライトを対象に腫瘍組織と血液細胞(正常)との比較によりMSI スコアを算出し,MSI スコアが30 以上の場合にMSI-H と判断する(2021 年8 月時点ではコンパニオン診断としては承認されていない)。その他,MSK-IMPACT を用いたMSIsensor アルゴリズム54)や全エクソーム塩基配列解析(whole exome sequencing:WES)を用いたMOSAIC アルゴリズム55)・MANTIS アルゴリズム56)等,検査するプロファイリング領域やそこに含まれるマイクロサテライトマーカーに対する過去のデータベース,アルゴリズムによりMSI-H の判定方法は異なる。

2021 年6 月,本邦においてFoundationOne® CDx が高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有するがんに対するニボルマブおよびペムブロリズマブのコンパニオン診断として承認された。

2.5 dMMR 固形がんに対する免疫チェックポイント阻害薬

PD-1(CD279)分子は,CD28 ファミリーに属する免疫抑制性補助シグナル受容体であり,1992 年に本庶らによってクローニングされた57)。その後,PD-1 は活性化したT 細胞・B 細胞および骨髄系細胞に発現し,そのリガンドとの結合により抗原特異的なT 細胞活性を抑制することから,末梢性免疫寛容に重要な役割を担う分子であることが明らかにされた。PD-1 のリガンドには,PD-L1(CD274,B7-H1)とPD-L2(CD273,B7-DC)がある。PD-1/PD-L1 経路はT 細胞免疫監視から逃れるためにがん細胞が利用する主な免疫制御機構で,様々な固形がんにおいて確認されている。その他の免疫チェックポイントとして細胞傷害性T リンパ球抗原4 CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4;CD152)が知られている。主にリンパ組織において細胞傷害性T 細胞上のCTLA-4 が抗原提示細胞上のCD80/86 に結合するとT 細胞の活性化が阻害される。

免疫チェックポイントを阻害するモノクローナル抗体薬として,抗PD-1 抗体薬(ペムブロリズマブ,ニボルマブ)および抗PD-L1 抗体薬(アテゾリズマブ,アベルマブ,デュルバルマブ),抗CTLA-4 抗体薬(イピリムマブ)が実地臨床に導入されている。腫瘍微小環境中の腫瘍特異的細胞傷害性T リンパ球(cytotoxic T lymphocyte:CTL)を活性化させ,抗腫瘍免疫を再活性化することで抗腫瘍効果を発揮する薬剤である。従来の抗悪性腫瘍薬とは異なる作用機序で抗腫瘍効果を発揮する。

dMMR 固形がんではMMR 機能欠損により高頻度にゲノムに変化が生じる。そのことでアミノ酸に変化を伴うタンパク質が合成され,その一部が抗原ペプチドとして主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex:MHC)により提示される。その新たな抗原をneoantigen と呼び,それらは非自己として認識されるために腫瘍組織におけるTh1/CTL が活性化される。一方でnegative feedback としてPD-1 等の免疫チェックポイント分子の発現が誘導される。このように,dMMR 固形がんでは免疫系が腫瘍制御機構に重要な役割を担っており,免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できる。

大腸がんを含む全固形がんを対象にペムブロリズマブの有効性・安全性を探索する第Ⅱ相試験であるKEYNOTE-016 試験において,12 種類のdMMR 固形がん,86 症例の結果が報告されている10)。奏効割合(Objective Response Rate:ORR)53%(95%CI 42-64%),完全奏効(Complete Response:CR)21%と良好な結果であった(図2-7)。無増悪生存期間(progression-free survival:PFS),全生存期間(overall survival:OS)ともに中央値に達しておらず,がん種による明らかな差は認めなかった10)

図2-7 KEYNOTE‒016 試験に登録されたdMMR 固形がんにおけるペムブロリズマブの効果10)

さらに,dMMR 大腸がん患者を対象としたペムブロリズマブ療法の第Ⅱ相試験であるKEYNOTE-164 試験が,フッ化ピリミジン系薬,オキサリプラチンおよびイリノテカンによる化学療法歴を有する患者(コホートA)と1 レジメン以上の化学療法歴を有する患者(コホートB)の2 つのコホートで行われた。コホートA 61 名の治療成績はORR 28%(95%CI 17-41),PFS 中央値2.3 か月(95%CI 2.1-8.1),OS 中央値未到達と良好であった。また,奏効期間は中央値未到達で,奏効が得られた患者の82%で6 か月以上の奏効期間が得られていた58)。同様に,標準治療不応・不耐のdMMR 進行固形がんを対象としたペムブロリズマブ療法の第Ⅱ相試験KEYNOTE-158 試験では,94 例での治療成績として,ORR 37%(95%CI 28-48),PFS 中央値5.4 か月(95%CI 3.7-10.0),OS 中央値13.4 か月(95%CI 10.0-未到達)と良好な結果であり,がん種を問わず効果が示された。また,奏効期間は中央値未到達,奏効が得られた患者の51%で6 か月以上の奏効期間が得られ,効果が持続することも合わせて示された59)。有害事象については従来の抗悪性腫瘍薬と異なり,関節炎・悪心・倦怠感・搔痒症等の有害事象だけでなく,自己免疫疾患様の特有の免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAE)が出現することがあり,全身管理に注意する必要がある(詳細は「がん免疫療法ガイドライン」日本臨床腫瘍学会編集:金原出版)。

3リンチ症候群

リンチ症候群は,MMR 遺伝子の生殖細胞系列における病的バリアントを原因とする常染色体優性遺伝性疾患である。欧米の報告では全大腸がんの2-4%であり,患者および家系内に大腸がん・子宮内膜がんをはじめ,様々な悪性腫瘍が発生する(表3-1)。しかしながら様々ながん予防が可能であることからもその診断は臨床的に重要である。

表3-1 リンチ症候群における関連腫瘍の累積発生率60)
(「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2020 年版」より一部改変

リンチ症候群ではMMR 遺伝子の片方のアレルに生殖細胞系列の病的バリアントを有している。後天的にもう片方の野生型アレルに機能喪失型の変化(プロモーター領域のメチル化を含む)が加わることでMMR 機能が損なわれ,がん化に関与すると考えられる1)

本邦では,臨床情報にてアムステルダム基準Ⅱ(別添 表1)または改訂ベセスダガイドライン(別添 表2)を満たした場合,二次スクリーニングとしてMSI 検査やIHC 検査が推奨されている(別添 図160)。欧米ではリンチ症候群を疑う所見を考慮せずに全て(あるいは70 歳以下)の大腸がんや子宮内膜がんに対してMSI 検査やIHC 検査を実施する,ユニバーサル・スクリーニングが提唱されている61,62)

MSI 検査,IHC 検査によりリンチ症候群が疑われた場合,確定診断としてMMR 遺伝子の遺伝学的検査を考慮する。遺伝学的検査を実施する場合には,検査の対象者(患者・血縁者)を適切に選別し,遺伝学的検査の前後に遺伝カウンセリングを行うことが推奨される。現在の遺伝学的検査では検出できないような遺伝子変化がある場合,リンチ症候群と確定できない症例もあり,結果の解釈は慎重に行わなければならない。リンチ症候群と診断された場合,遺伝カウンセリングを通して血縁者も含めたがん予防に努める。

備考;リンチ症候群ならびに遺伝性腫瘍に関する情報については,以下を参照のこと。
「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス第4 版」日本臨床腫瘍学会 編
「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2020 年版」大腸癌研究会 編
「家族性非ポリポーシス大腸癌におけるマイクロサテライト不安定性検査の実施についての見解と要望(2007 年7 月5 日)」日本遺伝性腫瘍学会(旧 日本家族性腫瘍学会)(http://jsht.umin.jp/project/data/download/lynch_msi.pdf
「遺伝性腫瘍e-Learning」ePrecision Medicine Japan
https://www.e-precisionmedicine.com/familial-tumors

注釈dMMR 判定検査でdMMR と判断された患者に対するBRAF 遺伝子検査の有用性

散発性大腸がんでdMMR を示す主な原因は,MLH1 遺伝子のプロモーター領域の後天的な異常メチル化であり,このようながんでは免疫染色でMLH1/PMS2 タンパク質の発現消失を認める。また,MSI-H を示す大腸がんの35-43%にBRAF V600E を認めるが18),リンチ症候群の大腸がんではMSI-H を示しても,BRAF V600E はほとんど認めない12)。したがって,大腸がん診療ではdMMR 判定検査でMSI-H またはMLH1/PMS2 発現消失を示した場合,BRAF V600E の有無を確認することは,リンチ症候群か散発性大腸がんかの鑑別の一助となる63)。ただし,PMS2 遺伝子が原因のリンチ症候群においては,発症した大腸がんの一部にBRAF V600E を認めることが報告されており注意が必要である。また,大腸がん以外の固形がんではBRAF V600E による鑑別の有用性は報告されていない。

注釈Constitutional Mismatch Repair Deficiency:CMMRD

MMR 遺伝子の両アレルに先天的に病的バリアントを認める(homozygous またはcompound heterozygous)先天性ミスマッチ修復欠損(Constitutional mismatch repair deficiency:CMMRD)症候群は,小児がん素因(childhood cancer predisposition)となる。小児・思春期に,主として造血器・中枢神経・大腸の悪性腫瘍が発生する。神経線維腫症1 型(NF1)と類似した皮膚所見を呈することが多く鑑別を要する64)。1959 年にTurcot らが,家族性大腸ポリポーシスに脳腫瘍を合併した兄弟を報告したことから,大腸腫瘍と脳腫瘍を合併する症例をTurcot 症候群と呼び,CMMRD の中にはTurcot 症候群と診断されているケースもあると推測される。1999 年に,初めて分子遺伝学的にCMMRD が証明され,さらにそれらの患者の腫瘍の中にMSI-H を示すhypermutant が多く認められ,圧倒的に多くのneoantigen が発現していることが判明した。そして抗PD-1/PD-L1 抗体薬が有効なことが近年報告されている65,66)

4クリニカルクエスチョン(CQ)

CQ1
dMMR 判定検査が推奨される患者

PubMed で“MSI or microsatellite instability or MMR or mismatch repair”,“neoplasm”,“tested or diagnos or detect”のキーワードで検索した。Cochrane Library も同等のキーワードで検索した。検索期間は1980 年1 月~2021 年1 月とし,PubMed から985 編,Cochrane Library から57 編が抽出され,それ以外にハンドサーチで2 編が追加された。一次スクリーニングで380 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで347 編が抽出され,これらを対象に定性的システマチックレビューを行った。

CQ1-1
MMR 機能に関わらず免疫チェックポイント阻害薬が実地臨床で使用可能ながん以外の切除不能進行・再発固形がん患者に対して,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査は勧められるか?

MMR 機能に関わらず免疫チェックポイント阻害薬が実地臨床で使用可能ながん以外の切除不能進行・再発固形がん患者に対して,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を強く推奨する。
推奨度Strongly recommended[SR:19,R:1,ECO:0,NR:0]

米国食品医薬局(FDA)は,ペムブロリズマブの5 つの臨床試験(KEYNOTE-016 試験,KEYNOTE-164 試験(コホートA),KEYNOTE-012 試験,KEYNOTE-028 試験,KEYNOTE-158 試験)のうち,化学療法後に増悪した進行・再発のdMMR 固形がん患者149 名の統合解析結果をもって,2017 年5 月23 日に大腸がんを含む標準治療抵抗性もしくは標準治療のないdMMR 固形がんに対してペムブロリズマブを承認した。本邦では,アップデートされたKEYNOTE-164 試験(コホートA),KEYNOTE-158 試験の結果(表4-1)をもとに,2018 年12 月21 日に承認された。

表4-1 KEYNOTE‒164/158 試験におけるdMMR 固形がん種別奏効割合5859)

また,既治療dMMR 大腸がんを対象としたニボルマブ単剤療法またはニボルマブ+抗CTLA-4 抗体薬イピリムマブ併用療法の試験(CheckMate-142 試験)では,ORR はそれぞれ31%,55%,PFS 中央値はそれぞれ未到達という良好な結果が報告されている67,68)。治療効果はPD-L1 発現の程度やBRAF/KRAS 遺伝子変異の有無,リンチ症候群か否かに関わらず認められた。また,EORTC QLQ-C30 を用いた患者評価では,QOL や臨床症状の改善を認めた67,68)。この結果をもとに2017 年8 月フルオロピリミジン系抗悪性腫瘍薬を含む化学療法後に病勢進行したdMMR 転移性大腸がんに対してニボルマブ単剤療法が,2018 年7 月にニボルマブ・イピリムマブ併用療法がFDA で承認された。本邦においても本試験の結果より2020 年2 月に同じ対象集団に対してニボルマブ単剤療法が,2020 年9 月にニボルマブ・イピリムマブ併用療法が承認された。抗PD-L1 抗体薬であるデュルバルマブにおいても,dMMR 大腸がんを対象とした第Ⅱ相試験,dMMR 固形がんを対象とした第Ⅰ/Ⅱ相試験が行われ,ORR は大腸がんで22%,全体で23%と有効性が示された69)。その他にも症例報告や前向き第Ⅱ相試験のdMMR サブグループ解析などで,dMMR 固形がんに対する有効性が再現された。

dMMR 大腸がんではKEYNOTE-164 試験により,フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬,オキサリプラチンおよびイリノテカン塩酸塩水和物による化学療法歴を有する患者(コホートA)だけでなく,1 レジメン以上の化学療法歴を有する患者(コホートB)においても63 例での治療成績として,ORR 32%(95%CI 21-45),PFS 中央値4.1 か月(95%CI 2.1-NR),OS 中央値未到達と良好な結果が報告されている。さらに,未治療切除不能進行・再発大腸がんを対象とした標準治療とペムブロリズマブ単剤療法の有効性を検証した第Ⅲ相試験であるKEYNOTE-177 試験が行われた。主要評価項目であるPFS の中央値はペムブロリズマブ群で16.5 か月(95% CI 5.4-32.4),標準治療群8.2 か月(95% CI 6.1-10.2)と有意差をもってペムブロリズマブ群のPFS 延長が示された(HR 0.60,95% CI 0.45-0.80,p=0.0002)。ORR はペムブロリズマブ群43.8%(95% CI 35.8-52.0),標準治療群33.1%(95% CI 25.8-41.1)とペムブロリズマブ群で高かった70)。OS 中央値はペムブロリズマブ単剤群が未到達(95%CI 49.2-NR),標準化学療法群が36.7 か月(95%CI 27.6-NR)だった(HR 0.74,95%CI 0.53-1.03,p=0.0359)71)。ペムブロリズマブ単剤群で良い傾向が認められたが有意な差ではなかったのは,標準治療群において60%の症例で後治療に免疫チェックポイント阻害薬が投与されていたことが1 つの原因と考えられる。本試験の結果より切除不能進行・再発dMMR 大腸がんの1 次治療としてペムブロリズマブは2020 年6 月にFDA で承認され,本邦においても2021 年8 月25 日に治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸癌に対して適応拡大された。

CheckMate-142 試験においても未治療dMMR 大腸がんに対するニボルマブ・イピリムマブ併用療法の有効性が検証されており,ORR は60%(95%CI 44.3-74.3)と良好な抗腫瘍効果を示したことが報告された72)。その他にも未治療dMMR 大腸がんを対象とした標準治療と抗PD-1/PD-L1 抗体薬を比較検証する第Ⅲ相試験も実施されており(COMMIT 試験,CheckMate-8HW),結果が待たれる。

分子生物学的にもdMMR 固形がんでは共通して高い免疫原性が示唆されており,がん種や治療ライン毎の十分な症例数での報告ではないものの,dMMR 固形がんでは免疫チェックポイント阻害薬の有効性が示されつつある。ただし,dMMR 固形がんであっても,一部のがん種では(グリオーマ等)免疫チェックポイント阻害薬の効果が一様に認められるわけではない点73)には留意する必要がある。

有害事象は,しばしば生じる重篤な免疫関連有害事象への留意は必要であるものの,概ね忍容可能である。よって,有効性・安全性の観点から免疫チェックポイント阻害薬の臓器特異的な適応が得られていない固形がんを含めて,全てのdMMR 固形がん患者に対して,免疫チェックポイント阻害薬は有力な治療選択肢となりえる。がん増悪時に患者の全身状態が悪化する場合も多く,dMMR 判定検査のturnaround time(TAT)を考慮すれば,診断早期にdMMR 判定検査を実施し,免疫チェックポイント阻害薬の適応の有無を判断しておくことが望ましい。大腸がんにおいては治療開始前の評価が必要である。がん種によっては治療戦略決定に必要なバイオマーカー検査(大腸がんにおけるRAS/BRAF 検査,胃がんにおけるHER2 検査,非小細胞肺がんにおけるEGFR,ALK,ROS1 やPD-L1 発現検査等)があり,同時に検査することが望ましいが,バイオマーカーの優先度を考慮する必要もある。

以上より,切除不能進行・再発固形がん患者に対して,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するために,dMMR 判定検査を強く推奨する。

CQ1-2
MMR 機能に関わらず免疫チェックポイント阻害薬がすでに実地臨床で使用可能な切除不能固形がん患者に対し,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査は勧められるか?

MMR 機能に関わらず免疫チェックポイント阻害薬がすでに実地臨床で使用可能な切除不能固形がん患者に対し,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を考慮する。
推奨度Expert Consensus Opinion[SR:0,R:7,ECO:13,NR:0]

MMR 機能に関わらず免疫チェックポイント阻害薬の使用が可能である固形がんでは,MMR 機能によらず適応が判断されることから原則としてdMMR 判定検査を実施する必要はないと考えられる。しかし,PD-L1 発現等のdMMR 以外のバイオマーカーによって免疫チェックポイント阻害薬の適応が判断される固形がんでマーカーが陰性だった場合,dMMR であれば免疫チェックポイント阻害薬の有効性が期待できると考えられることから,dMMR 判定検査を実施することが推奨される。

CQ1-3
局所治療で根治可能な固形がん患者に対し,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査は勧められるか?

局所治療で根治可能な固形がん患者に対し,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を推奨しない。
推奨度Not recommended[SR:0,R:0,ECO:8,NR:12]

悪性黒色腫では,術後補助療法として抗PD-1 抗体薬の有効性が示され,薬事承認されている(KEYNOTE-054 試験74),ONO-4538-21 試験75))。非小細胞肺がんでは白金製剤を用いた根治的同時化学放射線療法(CRT)後に病勢進行が認められなかった切除不能な局所進行例(ステージⅢ)を対象とし,抗PD-L1 抗体薬を逐次投与する無作為化二重盲検プラセボ対照多施設共同第Ⅲ相試験であるPACIFIC 試験の結果,薬事承認されている76)。さらに,術前化学放射線療法後に切除されたstage Ⅱ/Ⅲの食道および食道胃接合部癌を対象にしたCheckmate-577 試験においても,術後補助療法としてのニボルマブの有効性が示された77)。しかし,これらの試験ではMMR 機能による効果の差は報告されていないことから,治療前のdMMR 判定検査は原則不要である。また,それ以外の固形がんにおいては,周術期治療としての免疫チェックポイント阻害薬の有効性は確立されていないことから,局所療法で根治可能な場合には治療薬の選択のためのdMMR 判定検査は原則不要である。以上より,現時点では局所進行および転移が認められない固形がん患者に対し,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するために,dMMR 判定検査は推奨されない。

ただし,大腸がんでは,特にStage Ⅱ大腸がんにおいて,dMMR は予後良好因子であり,dMMR であればフルオロピリミジンによる補助化学療法が不要である78,79)ということが知られており,補助化学療法の実施の判断のために,dMMR 判定検査を行うことが望ましいとされている(詳細は「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス第4 版」参照)。さらに,現在Stage ⅢのdMMR 大腸がんに対して術後補助化学療法としてFOLFOX 療法とアテゾリズマブの併用療法の有効性を検証する試験(ATOMIC,Alliance A021502)が行われている。その他,多数の周術期の免疫チェックポイント阻害薬の有効性を検証する試験や,局所進行がんに対して放射線化学療法と併用する試験が現在行われている。良好な結果が得られれば局所治療によって根治可能な固形がんに対してもdMMR 判定検査が必要となってくる。がん種毎にMultidisciplinary team(MDT)カンファレンスで必要性を検討して実施していく。

CQ1-4
免疫チェックポイント阻害薬がすでに使用された切除不能な固形がん患者に対し,再度免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査は勧められるか?

免疫チェックポイント阻害薬がすでに使用された切除不能な固形がん患者に対し,再度免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を推奨しない。
推奨度Not recommended[SR:0,R:0,ECO:0,NR:20]

一部の固形がんではMMR 機能に関わらず免疫チェックポイント阻害薬が薬事承認されている。すでに免疫チェックポイント阻害薬が投与されている場合に,異なる免疫チェックポイント阻害薬を投与する際の効果は一部報告されている。ニボルマブを1 次治療として受けた非小細胞肺がんにおいて,2 次治療以降に抗PD-1 抗体薬を投与された症例を後方視的に検討した結果,1 次治療のニボルマブが3 か月以上であった症例で優位に有効性が高かったことが報告されている80)。しかし,前向き試験での検討はなく,MMR 機能による効果の差は示されていない。よって,免疫チェックポイント阻害薬を投与する目的に,すでに使用された固形がん患者に対しdMMR 判定検査は推奨しない。

CQ1-5
すでにリンチ症候群と診断されている患者に発生した腫瘍の際,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査は勧められるか?

すでにリンチ症候群と診断されている患者に発生した腫瘍の際,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を強く推奨する。
推奨度Strongly recommended[SR:17,R:2,ECO:1,NR:0]

リンチ症候群の患者に発生した大腸がんでdMMR の頻度は80-90%81)と高いものの,リンチ症候群の患者で発生する腫瘍の中にもまれながらpMMR 腫瘍が発生することもある。リンチ症候群の患者組織がpMMR である場合における免疫チェックポイント阻害薬の感受性に関するエビデンスが明らかになっていない現状においては,リンチ症候群の患者に発生した腫瘍に対しても免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査が強く推奨される。

CQ2
dMMR 判定検査法

PubMed で“MSI or microsatellite instability or MMR or mismatch repair”,“neoplasm”,“IHC or immunohistochemistry”,“PCR or polymerase chain reaction”,“NGS or next generation sequencer”のキーワードで検索した。Cochrane Library も同等のキーワードで検索した。検索期間は1980 年1 月~2021 年1 月とし,PubMed から1031 編,Cochrane Library から120 編が抽出された。一次スクリーニングで669 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで537 編が抽出され,これらを対象に定性的システマチックレビューを行った。

CQ2-1
免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として,MSI 検査は勧められるか?

免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として,MSI 検査を強く推奨する。
推奨度Strongly recommended[SR:20,R:0,ECO:0,NR:0]

KEYNOTE の5 つの試験(KEYNOTE-016 試験,KEYNOTE-164 試験(コホートA),KEYNOTE-012 試験,KEYNOTE-028 試験,KEYNOTE-158 試験)のdMMR 固形がん症例の統合解析では,各施設の判定においてIHC 検査またはMSI 検査でdMMR と判定された患者が登録され,ペムブロリズマブの良好な抗腫瘍効果が示されている。149 名のうち,60 名がMSI 検査のみ,47 名がIHC 検査のみ,42 名が両方の検査でdMMR と判定されている82)。そのうち,14 名のみが中央検査施設でのMSI 検査によりMSI-H と確定されている。また,dMMR と判定された大腸がん患者を対象としたニボルマブ療法の第Ⅱ相試験(CheckMate-142 試験)でも,各施設でのIHC 検査またはMSI 検査でdMMR と判定された患者が登録され,ニボルマブ・イピリムマブの有効性が示されている67)。以上より,がん種による違いが存在する可能性はあるものの,少なくともIHC 検査またはMSI 検査のいずれかによりdMMR と判定されれば,免疫チェックポイント阻害薬の抗腫瘍効果が期待できると考えられる。

本邦では2018 年9 月,「MSI 検査キット(FALCO)」がペムブロリズマブのコンパニオン診断薬として薬事承認された。2021 年6 月現在,「ペムブロリズマブの固形がん患者への適応を判断するための補助」「ニボルマブの結腸・直腸癌患者への適応を判定するための補助」「大腸癌におけるリンチ症候群の診断の補助」「大腸癌における化学療法の選択の補助」を使用目的として承認されている。国内のどの施設からも本検査をオーダーすることが可能であり,検査は質保証された検査機関で実施される。また,本検査キットは組織全体に占める腫瘍部位の割合が40%以上の場合には,腫瘍組織のみでもMSI status 判定が可能であり,利便性も高い48)。以上より,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として,MSI 検査は強く推奨される。

CQ2-2
免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として,IHC 検査は勧められるか?

免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として,IHC 検査を強く推奨する。
推奨度Strongly recommended[SR:15,R:5,ECO:0,NR:0]

先に述べたように,KEYNOTE の5 つの試験の統合解析,CheckMate-142 試験ともに各施設でのIHC 検査またはMSI 検査でdMMR と診断された患者を対象とし,免疫チェックポイント阻害薬の有効性が示されており,両試験においてIHC 検査においてのみdMMR と判定された患者においても免疫チェックポイント阻害薬の有効性が示されている。実際,CheckMate-142 試験では,MSI 検査(ベセスダパネルに用いられている5 つのマーカーとTGF-beta receptor type-2)による中央判定を行っており,各施設ではIHC 検査によりdMMR と判定された74 例中のうち14 例がNon MSI-H と判定された。しかし,その14 例のうち3 例(21%)で奏効が得られており67),IHC 検査とMSI 検査の結果が一致せずどちらか一方のみでdMMR と診断されている場合でも,免疫チェックポイント阻害薬による抗腫瘍効果は期待できると考えられる。IHC 検査は,MSI 検査やNGS 検査と比較して安価に各医療機関で実施することが可能である。2021 年12 月,本邦において癌組織中に発現するMMR タンパク(MLH1,PMS2,MSH2,MSH6)をそれぞれ検出するIHC 用の検査キット4 製品からなる「ミスマッチ修復(MMR)機能欠損検出キット」が体外診断薬として承認された。

以上より,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として,IHC 検査は強く推奨される。

MSI 検査とIHC 検査は,高い一致率が報告されている83,84)一方で,不一致例の存在も報告されている。その一例として,MMR 遺伝子の病的なミスセンスバリアントが挙げられる85,86)。この場合,MMR 機能喪失したタンパク質が発現しているため,MSI 検査ではMSI-H を示しdMMR と判定されるが,IHC 検査ではMMR タンパクが検出され,pMMR(偽陰性)と判定される。dMMR であるこの腫瘍に対して免疫チェックポイント阻害薬の効果は期待できると想定される。このようなミスセンスバリアントはリンチ症候群の5%程度を占めると報告されている87)。また,MSI 検査の偽陰性の原因としては,腫瘍細胞含有割合が低い場合などが考えられるため,MSI 検査(FALCO)では50%以上の腫瘍細胞含有割合が推奨されている。一方で,IHC 検査またはMSI 検査による陽性的中率は90%以上と報告されている84)。IHC 検査またはMSI 検査でdMMR 固形がんと診断され,免疫チェックポイント阻害薬を投与された症例のうち,奏効が得られなかった症例を再度MSI 検査とIHC 検査両方で評価すると60%がMSI-L/MSS/pMMR であったとの報告もある80)。IHC 検査では一部でタンパクの発現が低下している場合等,判定方法が明確になっていない染色パターンも存在する。また,検体の状態でMSI 検査とIHC 検査での判定方法検査のどちらの検査がより推奨されるかも検討が必要である。免疫チェックポイント阻害薬による恩恵が受けられる患者を幅広く拾いあげるという観点から,両検査の特性を理解して検査を行う必要があり,偽陰性・偽陽性の理由が想定可能な場合や検査精度・結果に疑問が残る場合には,もう一方の検査を追加実施することを検討する。

CQ2-3
免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として,NGS を用いたマイクロサテライト不安定性の判定は勧められるか?

免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのマイクロサテライト不安定性判定検査として,分析学的妥当性が確立された(薬事承認等された)NGS 検査を強く推奨する。
推奨度Strongly recommended[SR:14,R:6,ECO:0,NR:0]

本邦において,2018 年12 月27 日,固形がん患者を対象とした腫瘍組織の包括的ながんゲノムプロファイルを取得する目的,および一部の分子標的治療薬の適応判定のため体細胞遺伝子異常を検出する目的でFoundationOne® CDx が製造販売承認された。FoundationOne® CDx にはNGS 法によるMSI 判定も付随していることから,それぞれのがん種毎に,関連学会の最新のガイドライン等に基づく検査対象および時期で,包括的がんゲノムプロファイリング検査と同時にMSI 検査(NGS 法)が実施される。2021 年6 月,本邦においてFoundationOne® CDx が高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有するがんに対するニボルマブおよびペムブロリズマブのコンパニオン診断として承認された。2021 年6 月にOncoGuideTM NCC オンコパネル システムもバーションアップ(v2.01)を行われ,MSI の判定が可能となった。ただし,FoundationOne® CDx 以外の検査法は2021 年8 月時点ではコンパニオン診断薬として適用されていない。厚労省は「遺伝子パネル検査の保険適用に係る留意点について」内に,遺伝子パネル検査後のエキスパートパネルが添付文書・ガイドライン・文献等を踏まえて「コンパニオン検査が存在する遺伝子の異常に係る医薬品投与が適切」と判断した場合には,当該コンパニオン検査を改めて行うことなく当該医薬品を投与してよいとしている。これらのNGS 検査の実施には施設要件があることからも,NGS 法によるマイクロサテライト不安定性判定は国内の限られた施設のみでしかアクセスできないと予想される。さらに,NGS 検査では一定程度のfailure rate があり検査のfeasibility に課題がある。

ペムブロリズマブのFDA 承認申請に用いられたKEYNOTE の5 試験やCheckMate-142 試験では,dMMR のスクリーニング検査にNGS 検査は含まれていない。しかしながら,NGS 検査によるMMR 機能の判定とMSI 検査は,マイクロサテライトの反復回数を用いてdMMR かどうかを判定しているという点でその測定原理も類似し,また両者の一致率は,大腸がん99.4%,大腸がん以外の固形がん96.5%と極めて高いことが報告されている88)。さらに,不一致例を解析するとIHC 検査ではdMMR であったがNGS ではMSS であったことが報告されており,NGS 検査がより有用であることも示唆されている。そのため,MSI 判定の分析学的妥当性が確立されたNGS 検査によってMSI-H と判定された患者に対し,コンパニオン診断薬MSI 検査(FALCO)やIHC 検査での再確認は科学的には不要である。以上より,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのマイクロサテライト不安定性判定検査として,分析学的妥当性が確立された(薬事承認等された)NGS 検査は強く推奨される。

5参考資料

別添表1 アムステルダム基準Ⅱ(1999)

別添表2 改訂ベセスダガイドライン(2004)

別添図1 リンチ症候群の診断手順60)
(「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2020 年版」より引用)

参考文献

1)
Imai K, Yamamoto H. Carcinogenesis and microsatellite instability:The interrelationship between genetics and epigenetics. Carcinogenesis. 2008;29(4):673-680.
2)
McGivern A, Wynter CV, Whitehall VL et al. Promoter hypermethylation frequency and BRAF mutations distinguish hereditary non-polyposis colon cancer from sporadic MSI-H colon cancer. Fam Cancer. 2004;3(2):101-107.
3)
Kuiper RP, Vissers LE, Venkatachalam R et al. Recurrence and variability of germline EPCAM deletions in Lynch syndrome. Hum Mutat. 2011;32(4):407-414.
4)
Niessen RC, Hofstra RM, Westers H et al. Germline hypermethylation of MLH1 and EPCAM deletions are a frequent cause of Lynch syndrome. Genes Chromosomes Cancer. 2009;48(8):737-744.
5)
Goel A, Nguyen TP, Leung HC et al. De novo constitutional MLH1 epimutations confer early-onset colorectal cancer in two new sporadic Lynch syndrome cases, with derivation of the epimutation on the paternal allele in one. Int J Cancer. 2011;128(4):869-878.
6)
Lynch HT, de la Chapelle A. Hereditary colorectal cancer. N Engl J Med. 2003;348(10):919-932.
7)
Peltomaki P. Lynch syndrome genes. Fam Cancer. 2005;4(3):227-232.
8)
Bakry D, Aronson M, Durno C et al. Genetic and clinical determinants of constitutional mismatch repair deficiency syndrome:report from the constitutional mismatch repair deficiency consortium. Eur J Cancer. 2014;50(5):987-996.
9)
Akagi K, Oki E, Taniguchi H et al. Real-world data on microsatellite instability status in various unresectable or metastatic solid tumors. Cancer Sci. 2021;112(3):1105-1113.
10)
Le DT, Durham JN, Smith KN et al. Mismatch repair deficiency predicts response of solid tumors to PD-1 blockade. Science. 2017;357(6349):409-413.
11)
Latham A, Srinivasan P, Kemel Y et al. Microsatellite Instability Is Associated With the Presence of Lynch Syndrome Pan-Cancer. J Clin Oncol. 2019;37(4):286-295.
12)
Hause RJ, Pritchard CC, Shendure J et al. Classification and characterization of microsatellite instability across 18 cancer types. Nat Med. 2016;22(11):1342-1350.
13)
Funkhouser WK Jr., Lubin IM, Monzon FA et al. Relevance, pathogenesis, and testing algorithm for mismatch repair-defective colorectal carcinomas:a report of the Association for Molecular Pathology. J Mol Diagn. 2012;14(2):91-103.
14)
Asaka S, Arai Y, Nishimura Y et al. Microsatellite instability-low colorectal cancer acquires a KRAS mutation during the progression from Dukes’ A to Dukes’ B. Carcinogenesis. 2009;30(3):494-499.
15)
Ishikubo T, Nishimura Y, Yamaguchi K et al. The clinical features of rectal cancers with high-frequency microsatellite instability(MSI-H)in Japanese males. Cancer Lett. 2004;216(1):55-62.
16)
Fujiyoshi K, Yamamoto G, Takenoya T et al. Metastatic Pattern of Stage Ⅳ Colorectal Cancer with High-Frequency Microsatellite Instability as a Prognostic Factor. Anticancer Res. 2017;37(1):239-247.
17)
Kajiwara T. Shitara K, Denda T et al. The Nationwide Cancer Genome Screening Project for Gastrointestinal Cancer in Japan(GI-SCREEN):MSI-status and cancer-related genome alterations in advanced colorectal cancer(CRC)-GI-SCREEN 2013-01-CRC sub-study. J Clin Oncol. 2016;34(suppl_15):abstr 3573.
18)
Koinuma K, Shitoh K, Miyakura Y et al. Mutations of BRAF are associated with extensive hMLH1 promoter methylation in sporadic colorectal carcinomas. Int J Cancer. 2004;108(2):237-242.
19)
An JY, Kim H, Cheong JH et al. Microsatellite instability in sporadic gastric cancer:Its prognostic role and guidance for 5-FU based chemotherapy after R0 resection. Int J Cancer. 2012;131(2):505-511.
20)
Yamamoto H, Perez-Piteira J, Yoshida T et al. Gastric cancers of the microsatellite mutator phenotype display characteristic genetic and clinical features. Gastroenterology. 1999;116 (6):1348-1357.
21)
Choi YY, Bae JM, An JY et al. Is microsatellite instability a prognostic marker in gastric cancer? A systematic review with meta-analysis. J Surg Oncol. 2014;110(2):129-135.
22)
Schulmann K, Brasch FE, Kunstmann E et al. HNPCC-associated small bowel cancer:clinical and molecular characteristics. Gastroenterology. 2005;128(3):590-599.
23)
Chiappini F, Gross-Goupil M, Saffroy R et al. Microsatellite instability mutator phenotype in hepatocellular carcinoma in non-alcoholic and non-virally infected normal livers. Carcinogenesis. 2004;25(4):541-547.
24)
Goeppert B, Roessler S, Renner M et al. Mismatch repair deficiency is a rare but putative therapeutically relevant finding in non-liver fluke associated cholangiocarcinoma. Br J Cancer. 2019;120(1):109-114.
25)
Roa JC, Roa I, Correa P et al. Microsatellite instability in preneoplastic and neoplastic lesions of the gallbladder. J Gastroenterol. 2005;40(1):79-86.
26)
Cloyd JM, Chun YS, Ikoma N et al. Clinical and Genetic Implications of DNA Mismatch Repair Deficiency in Biliary Tract Cancers Associated with Lynch Syndrome. J Gastrointest Cancer. 2018;49(1):93-96.
27)
Yamamoto H, Itoh F, Nakamura H et al. Genetic and clinical features of human pancreatic ductal adenocarcinomas with widespread microsatellite instability. Cancer Res. 2001;61(7):3139-3144.
28)
Humphris JL, Patch AM, Nones K et al. Hypermutation In Pancreatic Cancer. Gastroenterology. 2017;152(1):68-74.
29)
Cloyd JM, Katz MHG, Wang H et al. Clinical and Genetic Implications of DNA Mismatch Repair Deficiency in Patients With Pancreatic Ductal Adenocarcinoma. JAMA Surg. 2017;152(11):1086-1088.
30)
Hu ZI, Shia J, Stadler ZK et al. Evaluating Mismatch Repair Deficiency in Pancreatic Adenocarcinoma:Challenges and Recommendations. Clin Cancer Res. 2018;24(6):1326-1336.
31)
Lupinacci RM, Goloudina A, Buhard O et al. Prevalence of Microsatellite Instability in Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms of the Pancreas. Gastroenterology. 2018;154(4):1061-1065.
32)
Riazy M, Kalloger SE, Sheffield BS et al. Mismatch repair status may predict response to adjuvant chemotherapy in resectable pancreatic ductal adenocarcinoma. Mod Pathol. 2015;28(10):1383-1389.
33)
Koornstra JJ, Mourits MJ, Sijmons RH et al. Management of extracolonic tumours in patients with Lynch syndrome. Lancet Oncol. 2009;10(4):400-408.
34)
Pal T, Permuth-Wey J, Kumar A et al. Systematic review and meta-analysis of ovarian cancers:estimation of microsatellite-high frequency and characterization of mismatch repair deficient tumor histology. Clin Cancer Res. 2008;14(21):6847-6854.
35)
Goodfellow PJ, Buttin BM, Herzog TJ et al. Prevalence of defective DNA mismatch repair and MSH6 mutation in an unselected series of endometrial cancers. Proc Natl Acad Sci USA. 2003;100(10):5908-5913.
36)
Kim J, Kong JK, Yang W et al. DNA Mismatch Repair Protein Immunohistochemistry and MLH1 Promotor Methylation Testing for Practical Molecular Classification and the Prediction of Prognosis in Endometrial Cancer. Cancers. 2018;10(9):E279.
37)
Barrow E, Robinson L, Alduaij W et al. Cumulative lifetime incidence of extracolonic cancers in Lynch syndrome:a report of 121 families with proven mutations. Clin Genet. 2009;75(2):141-149.
38)
Dowty JG, Win AK, Buchanan DD et al. Cancer risks for MLH1 and MSH2 mutation carriers. Hum Mutat. 2013;34(3):490-497.
39)
Hirasawa A, Imoto I, Naruto T et al. Prevalence of pathogenic germline variants detected by multigene sequencing in unselected Japanese patients with ovarian cancer. Oncotarget. 2017;8(68):112258-112267.
40)
Bonadona V, Bonaïti B, Olschwang S et al. Cancer risks associated with germline mutations in MLH1, MSH2, and MSH6 genes in Lynch syndrome. JAMA. 2011;305(22):2304-2310.
41)
Baglietto L, Lindor NM, Dowty JG et al. Dutch Lynch Syndrome Study Group. Risks of Lynch syndrome cancers for MSH6 mutation carriers. J Natl Cancer Inst. 2010;102(3):193-201.
42)
Tashiro H, Lax SF, Gaudin PB et al. Microsatellite instability is uncommon in uterine serous carcinoma. Am J Pathol. 1997;150(1):75-79.
43)
Broaddus RR, Lynch HT, Chen LM et al. Pathologic features of endometrial carcinoma associated with HNPCC:a comparison with sporadic endometrial carcinoma. Cancer. 2006;106(1):87-94.
44)
Huang D, Matin SF, Lawrentschuk N et al. Systematic Review:An Update on the Spectrum of Urological Malignancies in Lynch Syndrome. Bladder Cancer. 2018;4(3):261-268.
45)
Harper HL, McKenney JK, Heald B et al. Upper tract urothelial carcinomas:frequency of association with mismatch repair protein loss and lynch syndrome. Mod Pathol. 2017;30(1):146-156.
46)
Therkildsen C, Eriksson P, Höglund M et al. Molecular subtype classification of urothelial carcinoma in Lynch syndrome. Mol Oncol. 2018;12(8):1286-1295.
47)
Brennetot C, Buhard O, Jourdan F et al. Mononucleotide repeats BAT-26 and BAT-25 accurately detect MSI-H tumours and predict tumor content:implications for population screening. Int J Cancer. 2005;113(3):446-450.
48)
Bando H, Okamoto W, Fukui T et al. Utility of the quasi-monomorphic variation range in unresectable metastatic colorectal cancer patients. Cancer Sci. 2018;109(11):3411-3415.
49)
Patil DT, Bronner MP, Portier BP et al. A five-marker panel in a multiplex PCR accurately detects microsatellite instability-high colorectal tumors without control DNA. Diagn Mol Pathol. 2012;21(3):127-133.
50)
Wang Y, Shi C, Eisenberg R et al. Differences in Microsatellite Instability Profiles between Endometrioid and Colorectal Cancers:A Potential Cause for False-Negative Results? J Mol Diagn. 2017;19(1):57-64.
51)
Shia J, Tang LH, Vakiani E et al. Immunohistochemistry as first-line screening for detecting colorectal cancer patients at risk for hereditary nonpolyposis colorectal cancer syndrome:a 2-antibody panel may be as predictive as a 4-antibody panel. Am J Surg Pathol. 2009;33(11):1639-1645.
52)
Hempelmann JA, Scroggins SM, Pritchard CC et al. MSIplus for Integrated Colorectal Cancer Molecular Testing by Next-Generation Sequencing. J Mol Diagn. 2015;17(6):705-714.
53)
FoundationOne SUMMARY OF SAFETY AND EFFECTIVENESS DATA(SSED)
54)
Middha S, Zhang L, Nafa K et al. Reliable Pan-Cancer Microsatellite Instability Assessment by Using Targeted Next-Generation Sequencing Data. JCO Precis Oncol. 2017[Epub ahead of print]
55)
Hause RJ, Pritchard CC, Shendure J et al. Classification and characterization of microsatellite instability across 18 cancer types. Nat Med. 2016;22(11):1342-1350.
56)
Bonneville R, Krook MA, Kautto EA et al. Landscape of Microsatellite Instability Across 39 Cancer Types. JCO Precis Oncol. 2017[Epub ahead of print].
57)
Ishida Y, Agata Y, Shibahara K et al. Induced expression of PD-1, a novel member of the immunoglobulin gene superfamily, upon programmed cell death. EMBO J. 1992;11(11):3887-3895.
58)
KEYNOTE-164 承認時評価資料(http://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=4291435A1029 参照)
59)
KEYNOTE-158 承認時評価資料(http://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=4291435A1029 参照)
60)
大腸癌研究会 編.遺伝性大腸癌診療ガイドライン2020 年版.金原出版,東京,2020.
61)
van Lier MG, Leenen CH, Wagner A, et al. Yield of routine molecular analyses in colorectal cancer patients ≤70 years to detect underlying Lynch syndrome. J Pathol. 2012;226(5):764-774.
62)
Julie C, Tresallet C, Brouquet A, et al. Identification in daily practice of patients with Lynch syndrome(hereditary nonpolyposis colorectal cancer):revised Bethesda guidelines-based approach versus molecular screening. Am J Gastroenterol. 2008;103(11):2825-2835.
63)
Domingo E, Laiho P, Ollikainen M et al. BRAF screening as a low-cost effective strategy for simplifying HNPCC genetic testing. J Med Genet. 2004;41(9):664-668.
64)
Wimmer K, Rosenbaum T, Messiaen L. Connections between constitutional mismatch repair deficiency syndrome and neurofibromatosis type 1. Clin Genet. 2017;91(4):507-519.
65)
Larouche V, Atkinson J, Albrecht S et al. Sustained complete response of recurrent glioblastoma to combined checkpoint inhibition in a young patient with constitutional mismatch repair deficiency. Pediatr Blood Cancer. 2018;65(12):e27389.
66)
AlHarbi M, Ali Mobark N, AlMubarak L et al. Durable Response to Nivolumab in a Pediatric Patient with Refractory Glioblastoma and Constitutional Biallelic Mismatch Repair Deficiency. Oncologist. 2018;23(12):1401-1406.
67)
Overman MJ, McDermott R, Leach JL et al. Nivolumab in patients with metastatic DNA mismatch repair-deficient or microsatellite instability-high colorectal cancer(CheckMate 142):an open-label, multicentre, phase 2 study. Lancet Oncol. 2017;18(9):1182-1191.
68)
Overman MJ, Lonardi S, Wong KYM et al. Durable Clinical Benefit With Nivolumab Plus Ipilimumab in DNA Mismatch Repair-Deficient/Microsatellite Instability-High Metastatic Colorectal Cancer. J Clin Oncol. 2018;36(8):773-779.
69)
Segal NH, Wainberg ZA, Overman MJ et al. Safety and clinical activity of durvalumab monotherapy in patients with microsatellite instability-high(MSI-H)tumors. J Clin Oncol. 2019;37(suppl_4):abstr670.
70)
André T, Shiu KK, Kim TW et al. Pembrolizumab in Microsatellite-Instability-High Advanced Colorectal Cancer. N Engl J Med. 2020;383(23):2207-2218.
71)
Andre T, Shiu KK, Kim TW et al. Final overall survival for the phase Ⅲ KN177 study:Pembrolizumab versus chemotherapy in microsatellite instability-high/mismatch repair deficient(MSI-H/dMMR)metastatic colorectal cancer(mCRC). JCO. 2021;39(15_suppl):abstr 3500
72)
Lenz HJ, Custem EV, Limon ML, et al. First-Line Nivolumab Plus Low-Dose Ipilimumab for Microsatellite Instability-High/Mismatch Repair-Deficient Metastatic Colorectal Cancer:The Phase II CheckMate 142 Study. J Clin Oncol. 2021[online ahead of print].
73)
Diaz LA, Le D, Maio M et al. Pembrolizumab in microsatellite instability high cancer:Updated analysis of the phase Ⅱ KEYNOTE-164 and KEYNOTE-158 studies. Ann Oncol. 2019;30(suppl_5):1174O.
74)
Eggermont AMM, Blank CU, Mandala M et al. Adjuvant Pembrolizumab versus Placebo in Resected Stage Ⅲ Melanoma. N Engl J Med. 2018;378(19):1789-1801.
75)
Romano E, Scordo M, Dusza SW et al. Site and timing of first relapse in stage Ⅲ melanoma patients:implications for follow-up guidelines. J Clin Oncol. 2010;28(18):3042-3047.
76)
Antonia SJ, Villegas A, Daniel D et al. Overall Survival with Durvalumab after Chemoradiotherapy in Stage Ⅲ NSCLC. N Engl J Med. 2018;379(24):2342-2350.
77)
Kelly RJ, Ajani JA, Kuzdzal J et al. Adjuvant Nivolumab in Resected Esophageal or Gastroesophageal Junction Cancer. N Engl J Med. 2021;384(13):1191-1203.
78)
Hutchins G, Southward K, Handley K et al. Value of mismatch repair, KRAS, and BRAF mutations in predicting recurrence and benefits from chemotherapy in colorectal cancer. J Clin Oncol. 2011;29(10):1261-1270.
79)
Ribic CM, Sargent DJ, More MJ et al. Tumor microsatellite-instability status as a predictor of benefit from fluorouracil-based adjuvant chemotherapy for colon cancer. N Engl J Med. 2003;349:247-257.
80)
Giaj Levra M, Cotté FE, Corre R et al. Immunotherapy rechallenge after nivolumab treatment in advanced non-small cell lung cancer in the real-world setting:A national data base analysis. Lung Cancer. 2020;140:99-106.
81)
Aaltonen LA. Peltomäki P, Mecklin JP et al. Replication errors in benign and malignant tumors from hereditary nonpolyposis colorectal cancer patients. Cancer Res. 1994;54(7):1645-1648.
82)
KEYNOTE-016 試験,KEYNOTE-164 試験(コホートA),KEYNOTE-012 試験,KEYNOTE-028 試験,KEYNOTE-158 試験 FDA 承認時評価資料(https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2020/125514s084lbl.pdf 参照)
83)
Loughrey MB, McGrath J, Coleman HG et al. Identifying mismatch repair-deficient colon cancer:near-perfect concordance between immunohistochemistry and microsatellite instability testing in a large, population-based series. Histopathology. 2021;78(3):401-413.
84)
Cohen R, Hain E, Buhard O et al. Association of Primary Resistance to Immune Checkpoint Inhibitors in Metastatic Colorectal Cancer With Misdiagnosis of Microsatellite Instability or Mismatch Repair Deficiency Status. JAMA Oncol. 2019;5(4):551-555.
85)
Mangold E, Pagenstecher C, Friedl W et al. Tumours from MSH2 mutation carriers show loss of MSH2 expression but many tumours from MLH1 mutation carriers exhibit weak positive MLH1 staining. J Pathol. 2005;207(4):385-395.
86)
Wahlberg SS, Schmeits J, Thomas G et al. Evaluation of microsatellite instability and immunohistochemistry for the prediction of germ-line MSH2 and MLH1 mutations in hereditary nonpolyposis colon cancer families. Cancer Res. 2002;62(12):3485-3492.
87)
Bellizzi AM, Frankel WL. Colorectal cancer due to deficiency in DNA mismatch repair function: a review. Adv Anat Pathol. 2009;16(6):405-417.
88)
Vanderwalde A, Spetzler D, Xiao N et al. Microsatellite instability status determined by next-generation sequencing and compared with PD-L1 and tumor mutational burden in 11,348 patients. Cancer Med. 2018;7(3):746-756.

Ⅲ NTRK(neurotrophic receptor tyrosine kinase)

6.1 NTRK とは(表6-1

がん遺伝子としてのNTRK1 遺伝子は1982 年Pulciani,Barbacid らにより,大腸がん組織を用いたgene transfer assay の中で発見され,OncB として報告された1)。現在ではNTRK 遺伝子ファミリーはNTRK1~3 までが知られている。NTRK1~3 はそれぞれ受容体型チロシンキナーゼであるtropomyosin receptor kinase(TRK)A,TRKB,TRKC をコードする。TRKA は神経系に発現し,nerve growth factor(NGF)が結合するとリン酸化される2,3)。TRKB に対してはbrain-derived neurotrophic factor(BDNF)とneurotrophin(NT)-4,TRKC に対してNT-3 がそれぞれリガンドとして知られる。NT-3 は他のTRK にも結合するが,TRKC への親和性が最も高い。TRKA は疼痛や体温調整,TRKB は運動,記憶,感情,食欲,体重のコントロール,TRKC は固有感覚に影響する。TRK にリガンドが結合すると,細胞内チロシン残基の自己リン酸化が起こり,下流のPLC-γ経路,MAPK 経路,およびPI3K/AKT 経路などの活性化が起こり,細胞の分化,生存や増殖などが引き起こされる4,5)

表6-1 NTRK 遺伝子

6.2 NTRK 遺伝子異常

NTRK 遺伝子変化には様々なものがあるが,悪性腫瘍の治療上重要なのはNTRK 遺伝子のミスセンスバリアントとNTRK 融合遺伝子である。

6.2.1 遺伝子バリアント,遺伝子増幅

NTRK 遺伝子バリアントは,大腸がん,肺がん,悪性黒色腫,急性白血病などで報告されているが,いずれもTRK キナーゼ活性はwild type と同程度かむしろ低下している(表6-26)。NTRK 遺伝子のミスセンスバリアントと悪性腫瘍発生との関連については確立されていないが,キナーゼ領域に関わる遺伝子のミスセンスバリアントが認められると,TRK 阻害薬であるラロトレクチニブやエヌトレクチニブの耐性となることが報告されており,一方,NTRK1 splice variant TRKAⅢとin-frame deletion mutant(ΔTRKA)が神経芽腫と急性骨髄性白血病で報告され,腫瘍原性が認められる7,8)。NTRK 遺伝子と悪性腫瘍以外の疾患との関連については,遺伝性疾患である先天性無痛無汗症4 型でNTRK1 遺伝子に病的バリアントを有することが知られている。また,NTRK 遺伝子増幅は,乳がん,皮膚基底細胞がん,肺がんなどで報告されている。また,神経芽腫におけるTRKA,TRKC の発現は予後良好であることが報告されている9)。しかし,現在のところ腫瘍原性や治療標的としての意義は確立されていない。

表6-2 NTRK 遺伝子変化(ミスセンスバリアント)と
TRK キナーゼ活性

10) 11) 11)
6.2.2 融合遺伝子

NTRK 融合遺伝子は多くのがん種において報告されている腫瘍原性の遺伝子変化である13)。染色体内あるいは染色体間での転座により,NTRK1~3 のキナーゼ部分を含む遺伝子の3′ 側と,パートナーとなる遺伝子(様々なものが報告されている)の5′ 側とで融合遺伝子が形成される。これにより,リガンド非依存性にキナーゼの活性化を来すようになると,発がんに寄与すると考えられている。ラロトレクチニブ,エヌトレクチニブの臨床試験で認められた融合遺伝子を表6-3 に示す(エヌトレクチニブ54 例,ラロトレクチニブ55 例の統合結果)。

表6-3 ラロトレクチニブ,エヌトレクチニブの臨床試験で認められた融合遺伝子(承認申請時資料より作成)14‒16)

6.3 NTRK 融合遺伝子のがん種別頻度

NTRK 融合遺伝子は,幅広いがん種にわたって認められる(表6-45,17-20)。一部のがん種ではNTRK 融合遺伝子を高頻度に認め,唾液腺分泌がん(乳腺類似分泌がん)21,22),乳腺分泌がん23-25),乳児型線維肉腫(先天性線維肉腫)26-29),先天性間葉芽腎腫などが該当する。これらのがん種で認められるのはほとんどの場合ETV6-NTRK3 融合遺伝子である。それ以外のがん種では,NTRK 融合遺伝子の頻度は一般的に低い(表6-4)。

表6-4 NTRK 融合遺伝子の頻度

5) 17) 17) 18) 19) 20)

唾液腺分泌がん(乳腺類似分泌がん,MASC)は,2010 年にチェコのSkalova らが,唾液腺に生じた乳腺分泌がんに類似した組織型の腫瘍について,ETV6-NTRK3融合遺伝子がみられることを報告した30)。男性に多く,発症年齢は平均44 歳と報告される31)

乳腺分泌がんは非常にまれな乳がんであり,頻度は全乳がん中<0.15%,発症年齢中央値25 歳,男女ともに認められる32)。多くはトリプルネガティブ乳がんである。ETV6-NTRK3 融合遺伝子がみられる。予後は良好であるが,長期経過後の再発も報告される。

乳児型線維肉腫は乳児悪性腫瘍の12%を占め,36-80%では先天性であったとの報告もある。2 歳以降での発症はまれである。四肢発生が多い。ETV6-NTRK3 融合遺伝子がみられる。成人の線維肉腫と比べ予後良好である。化学療法の有効性,自然退縮例の報告もある33)

先天性間葉芽腎腫25)は,生後3 か月までの腎腫瘍で最多である。悪性度は低く予後良好とされる。まれに両側性に発生し,また高血圧や高カルシウム血症を認めることがある。

小児,特に3 歳未満の乳幼児の高悪性度神経膠腫は,年長児や成人の高悪性度グリオーマに比べて生命予後が良く,年長児腫瘍に高頻度で認めるH3.1 およびH3.3 遺伝子変異や,若年成人腫瘍に高頻度で認めるIDH1,IDH2 遺伝子変異を認めない。近年,NTRK 融合遺伝子が高頻度で非脳幹部の乳幼児脳腫瘍に認められることが報告されている34,35)

肺がんにおいては,7 施設4872 例の検討では,11 例(0.23%)にNTRK 融合遺伝子が認められ,6 例(55%)が男性,非/軽喫煙者は8 例(73%),年齢中央値は47.6 歳であった36)。9 例は腺癌であり,扁平上皮癌,神経内分泌癌でも検出された。

消化管間質腫瘍(GIST)では多くの場合KIT ないしPDGFRA に活性型の遺伝子変異を認めるが,これらを認めないwild-type GIST がGIST 全体の約10%程度を占める。NTRK 融合遺伝子はwild-type GIST に認められる37)。一方,最近では小規模研究ながらNTRK 融合遺伝子変異を有する消化管間葉系腫瘍は基本的に非GIST であるという報告もある38)。NTRK 融合遺伝子を認める間葉系腫瘍についてWHO Classification of Tumours Soft Tissue and Bone Tumours 第5 版では,NTRK-rearranged spindle cell neoplasm(emerging)というカテゴリーを設けている25)

6.4 NTRK 融合遺伝子検査法

NTRK 融合遺伝子を検出する方法としては,NGS 法による検査,RT-PCR,FISH,IHCなどがある39-42)

NGS 検査は,DNA ベースのものだけでなく,RNA ベースのものもあり,それぞれに利点と欠点がある。包括的なゲノムプロファイル検査としてOncoGuideTM NCC オンコパネルシステム43),FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイル44)が薬事承認を得ている。また,先進医療としてこれらの他に,OncomineTM Target Test,Todai OncoPanel,TruSight Oncology 500 などが実施されている45)。これらの検査は腫瘍組織における遺伝子変化を検討するものであるが,血液中の遺伝子変化を検出するFoundationOne® Liquid CDx がんゲノムプロファイルが2021 年3 月に承認され46),使用可能となったリキッドバイオプシーには,検体の入手が容易であること,結果判明までの時間が短いことなどの利点がある。しかしNTRK 融合遺伝子の検出については,例えばFoundationOne® Liquid CDx がんゲノムプロファイルでは陽性一致率47.4%とされており47),もし臨床的にNTRK 融合遺伝子の存在が強く疑われる場合で,リキッドバイオプシーでNTRK 融合遺伝子陰性の場合には,他の方法で確認を行うことを考慮すべきである。DNA ベースの検査は通常FFPE 検体からDNA を抽出し,Amplicon 法か,Targeted hybridization capture 法による検出が主流である。通常NTRK 融合遺伝子のみならず他の遺伝子変化も同時に検討することができ,NGS 検査の利点の一つとなっている。既知の融合パートナーのみを検出するように設定されている検査では,未知のパートナーが偽陰性となること,繰り返し領域やイントロン全体のタイリングの問題から(例えば,NTRK3 のイントロン領域は長く193 KB にもおよぶ),染色体転座,逆位の検出感度が低下する可能性が指摘されている。RNA ベースの検査法には,イントロンがスプライスされる利点がある。融合パートナーに関わらずNTRK 融合遺伝子を検出できるものもある。RNA はDNA より不安定であるため,検体の質にもより注意が必要である。

NTRK 融合遺伝子では融合パートナーや切断点が多岐にわたることから,Reverse transcriptase polymerase chain reaction(RT-PCR)によるNTRK 融合遺伝子の検討には限界がある。一部のがん種(乳腺分泌癌,唾液腺分泌癌,乳児型線維肉腫など)では,検出される融合遺伝子はほぼETV6-NTRK3 融合遺伝子に限定されており,このような場合にはRT-PCR による検討も考慮されるが,もし臨床的にNTRK 融合遺伝子の存在が強く疑われる場合で,RT-PCR でNTRK 融合遺伝子陰性の場合には,他の方法で確認を行うことを考慮すべきである。最近ではsemi-specific RT-PCR により,融合パートナー不明の場合でも融合遺伝子を検出することも試みられている48)

Fluorescence in situ hybridization(FISH)ではどのような融合遺伝子パートナーであっても簡便に融合遺伝子の存在が確認できるものの,NTRK 1~3 を検討するためには3 回検討しなければならない。しかしETV6-NTRK3 融合遺伝子が想定されるような場合(乳腺分泌癌,唾液腺分泌癌,乳児型線維肉腫など)についてはNTRK3 を検討すればよいため1 回で対応可能であり,FISH による検討も妥当である。FISH にもいくつかの限界があり,染色体内での再構成(特にLMNA-NTRK1 など)の場合には,シグナルの判別が難しいことが知られており,偽陰性となる可能性がある49)

Immunohistochemistry(IHC)は融合遺伝子そのものを検出するものではなくTRK タンパク発現を検出するものであるが,他の方法と比較して安価であることもあり,検討が進められている。カクテル抗体を用いたIHC による検討では,TRK タンパク発現がない場合にはNTRK 融合遺伝子は認められなかったものの,偽陽性が多いことが報告されている50)。現在最もよく検討されているIHC は,pan-TRK 抗体のclone EPR17341(Abcam,Roche/Ventana)である。多くの場合細胞質が陽性となるが,核(ETV6 など),細胞膜(TPM,TPR など)の染色も報告される。陽性のカットオフも定まっていないが,1%ないし10%を陽性としている報告がみられる。報告にもよるが感度は75%~96.7%,特異度は92%~100%である51-54)。しかし,NTRK3 では感度が低下する報告もあり注意が必要である55)。臨床的にNTRK 融合遺伝子の存在が強く疑われる場合で,IHC でTRK タンパク発現陰性の場合には,他の方法で確認を行うことを考慮すべきである。また,軟部肉腫や脳腫瘍,神経芽腫ではNTRK 融合遺伝子を認めなくてもTRK 発現が認められることが知られており,偽陽性となりやすいことが指摘されている56)

その他の方法として,NanoString 社の遺伝子発現解析は,独自の分子蛍光バーコードを有する,標的分子の配列に特異的なプローブを,標的の核酸とハイブリダイズさせたのち,カートリッジの表面に固定し,各標的配列のカラーバーコードの並びを蛍光スキャナーによりデジタルカウントする方法で,FFPE 検体から調製したRNA サンプルでも良好なカウント結果が得られることが期待されている。NTRK 融合遺伝子の検出についてはまだ十分なデータがなく,今後の検討課題である。

6.5 TRK 阻害薬

TRK 阻害活性を有する薬剤の例を表6-5 に示す。

表6-5 TRK 阻害薬

15) 16) 67) 68) 69) 70) 71) 72) 73) 74) 75) 76) 77) 78) 79) 80) 64) 81) 82) 83) 84) 85) 86)

現在本邦で承認されているのは,エヌトレクチニブ,ラロトレクチニブである。

エヌトレクチニブは,ROS1,TRK(およびALK)を阻害する経口チロシンキナーゼ阻害薬である。第Ⅰ相試験であるALKA-372-001,STARTRK-1 と第Ⅱ相試験であるSTARTRK-2 の統合解析結果が報告されており57),軟部肉腫,非小細胞肺がん,唾液腺分泌がんなど54 例に対して,奏効割合57.4%であった(図6-158)。主な有害事象は味覚障害(47.1%),便秘(27.9%),疲労(27.9%),下痢(26.5%),末梢性浮腫(23.5%),めまい(23.5%),クレアチニン上昇(17.6%)などであった(表6-658)。また,小児・若年を中心に行われたSTARTRK-NG 試験でも,中枢神経系腫瘍を含め有効性が報告されている。

図6-1 エヌトレクチニブによる腫瘍縮小58)

表6-6 エヌトレクチニブの有害事象(68 例)58)

エヌトレクチニブは,NTRK 融合遺伝子陽性の固形がんに対し,2017 年5 月Breakthrough Therapy に指定され2019 年8 月にFDA 承認,2017 年10 月EMA よりPRIME(PRIority MEdicines)に指定され2020 年7 月に承認,本邦でも2018 年3 月に先駆け審査指定制度の対象品目として指定され,2019 年6 月18 日にNTRK 融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がんに対して薬事承認された。エヌトレクチニブの前治療の数別の奏効割合を表6-7 に示す。前治療の数が5 以上である1 例を除き,いずれの前治療数においても奏効例が認められている。

表6-7 エヌトレクチニブの前治療の数別の奏効割合(ロズリートレク承認時評価資料より作成)

ラロトレクチニブはTRK を選択的に阻害する経口チロシンキナーゼ阻害薬である。NTRK 遺伝子融合を認める患者を対象とした成人の第Ⅰ相試験20288 試験,小児の第Ⅰ/Ⅱ相試験SCOUT 試験,第Ⅱ相試験NAVIGATE 試験をまとめた結果が報告されている59)。唾液腺腫瘍,軟部肉腫,甲状腺がんなどが主に含まれ,統合解析されたうち159 例の結果では,奏効割合79%であった(図6-2)。主な有害事象は疲労,悪心,めまい,嘔吐,AST 増加,咳嗽などであった(表6-860)。ラロトレクチニブは2018 年11 月26 日にFDA が,2019 年9 月EMA が承認し,本邦でも2021 年3 月23 日に承認された。

図6-2 ラロトレクチニブによる腫瘍縮小59)

表6-8 ラロトレクチニブの有害事象(159 例)60)

TRK 阻害薬がNTRK 融合遺伝子を有する固形がんに対して有効性を示し承認されているが,NTRK 遺伝子のその他の異常(遺伝子変異,遺伝子増幅など)に対しての効果は確立されていない。NTRK 融合遺伝子を認めず,NTRK 遺伝子増幅を含む遺伝子変化を有する食道がん症例にラロトレクチニブが奏効した症例報告もあるものの61),NTRK 遺伝子増幅に対してTRK 阻害薬がどの程度有効性を示すかは確立されておらず,現時点では臨床試験以外での使用は勧められない。

エヌトレクチニブやラロトレクチニブなどのTRK 阻害薬の耐性機序については完全には解明されていないものの,一部のNTRK 遺伝子変異が存在するとこれらのTRK 阻害薬に耐性となることが報告されている。代表的なものは,NTRK1 のp.G667C やp.G595R,NTRK3 のp.G623R,p.G696A,p.F617L などである62-64)

次世代のTRK 阻害薬の開発も行われている。例えばSelitrectinib(LOXO-195,BAY2731954)は選択的なTRK 阻害薬であり,上記のキナーゼドメインのNTRK 遺伝子変異があっても有効であることが報告されており,現在臨床試験が進行中である65)。Repotrectinib(TPX-0005)はNTRK 遺伝子変化だけでなく,ROS1 遺伝子変化やALK 遺伝子変化に対しても有効性が報告されており,FDA のbreakthrough designation に指定されている66)

7クリニカルクエスチョン(CQ)

図7-1 NTRK 融合遺伝子検査とTRK 治療薬

CQ3-1

CQ3
NTRK 融合遺伝子検査の対象

PubMedで“NTRK or neurotrophic tropomyosin receptor kinase”, “neoplasm”, “tested or diagnosor detect”のキーワードで検索した。Cochrane Library も同等のキーワードで検索した。検索期間は1980 年1 月~2019 年8 月とし,PubMed から70 編,Cochrane Library から1 編が抽出され,それ以外にハンドサーチで4 編が追加された。ガイドライン改訂にあたり,上記キーワードで2019 年9 月~2021 年1 月までの期間の検索を追加し,PubMed から133 編,Cochrane Library から1 編が追加で抽出された。一次スクリーニングで144 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで77 編が抽出され,これらを対象に定性的システマチックレビューを行った。

CQ3-1
局所進行または転移性固形がん患者
転移・再発固形がん患者に対してNTRK 融合遺伝子検査は勧められるか?

  1. 1.NTRK 融合遺伝子と相互排他的な遺伝子異常を有する固形がん患者では,NTRK 融合遺伝子検査を推奨しない。

推奨度Not recommended[SR:0, R:0, ECO:4, NR:16]

  1. 2.NTRK 融合遺伝子が高頻度に検出されることが知られているがん種では,ETV6-NTRK3 融合遺伝子を検出できる検査を強く推奨する。

推奨度Strong Recommendation[SR:17, R:3, ECO:0, NR:0]

  1. 3.上記以外の全ての転移・再発固形がん患者で,TRK 阻害薬の適応を判断するためにNTRK 融合遺伝子検査を行うことを推奨する。

推奨度 Recommendation[SR:6, R:14, ECO:0, NR:0]

TRK 阻害薬であるエヌトレクチニブ,ラロトレクチニブは,切除不能あるいは転移性の固形がんに対して,治療ラインを問わずに試験が行われ,高い有効性が示されている。NTRK 融合遺伝子の頻度は低いもののがん種を問わずに認められており,また臨床背景でNTRK 融合遺伝子の有無を判断できるような確実な指標は確立されていないことから,TRK 阻害薬の適応を判断するためには,NTRK 融合遺伝子が報告されている全ての転移・再発固形がんにおいて検査を行うことを強く推奨する87)。また,唾液腺分泌がん(乳腺類似分泌がん),乳腺分泌がん,乳児型線維肉腫(先天性線維肉腫),先天性間葉芽腎腫などでは,ETV6-NTRK3 融合遺伝子を高頻度に認めることから(「6.3 NTRK 融合遺伝子のがん種別頻度」参照),これらの疾患においてもNTRK 融合遺伝子の検査を行うことを強く推奨する。なおNTRK 融合遺伝子は他のドライバー変異とは相互排他的であることから,相互排他的なmitogenic pathway(成長因子受容体,RAS,MAPK pathway をコードする遺伝子群)の遺伝子異常(非小細胞肺がんにおけるEGFR 遺伝子変異,ALK 融合遺伝子,ROS1 融合遺伝子,悪性黒色腫や結腸直腸がんにおけるRAF 遺伝子変異,GIST におけるKIT 遺伝子変異など)が検出された場合には55),NTRK 融合遺伝子を検索する必要はない。

また検査の実施にあたっては,費用面・頻度面等についても考慮し,担当医・患者で十分話し合うことが重要である。

NTRK 融合遺伝子の検査について,承認された体外診断用医薬品又は医療機器に関する情報については,以下のウェブサイトから入手可能である:

https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/cd/0001.html

CQ3-2
早期固形がん患者に対してNTRK 融合遺伝子検査は勧められるか?

  1. 1.NTRK 融合遺伝子が高頻度に検出されることが知られているがん種では,根治治療可能な固形がん患者に対しても,NTRK 融合遺伝子の検査を推奨する。

推奨度Recommendation[SR:2, R:12, ECO:6, NR:0]

  1. 2.上記以外の全ての早期固形がん患者で,TRK 阻害薬の適応を判断するためにNTRK 融合遺伝子検査を行うことを考慮する。

推奨度Expert consensus opinion[SR:0, R:0, ECO:19, NR:1]

現在のところ,NTRK 融合遺伝子を有する固形がん患者に対する,TRK 阻害薬の術前/術後療法としての意義は確立されていないが,ラロトレクチニブの小児を対象とした第Ⅰ相試験では,5 例が薬剤投与後に腫瘍縮小(partial response)が得られ,引き続いて切除が行われている88)。うち3 例では完全切除がなされた。また,NTRK 融合遺伝子を有する転移・再発固形がんにおいてTRK 阻害薬は高い奏効割合が報告されていることから,NTRK 融合遺伝子が高頻度(表6-4 における比較的高頻度を含む)に検出されることが知られているがん種では,局所進行例であってもNTRK 融合遺伝子の検査を推奨する。上記以外の根治切除可能な固形がんに対しても術前治療を念頭にNTRK 融合遺伝子の検査を検討してもよい。特に小児領域のように,根治可能な治療があってもエビデンスの不足により標準治療には至っていない場合や,標準治療の効果が不十分と予測される場合などはTRK 阻害薬の使用が検討されるため,NTRK 融合遺伝子の検査が考慮される。

CQ3-3
NTRK 融合遺伝子の検査はいつ行うべきか?

標準治療開始前あるいは標準治療中からNTRK 融合遺伝子の検査を行うことを強く推奨する。
推奨度Strong Recommendation [SR:13, R:5, ECO:2, NR:0]

現時点では,NTRK 融合遺伝子を有する転移・再発固形がんに対して,標準治療とTRK 阻害薬のいずれが優れているかを検討した報告はない。ある試算では,PFS の30%の改善をランダム化比較試験で検討すると2,696 か月が必要となり(α=0.05,β=0.2,1:1 割付で設定)89),比較試験の実施は現実的ではない。TRK 阻害薬の有効性は,1st line から示されており,高い奏効割合が報告されている。疾患が進行し,TRK 阻害薬の対象となるべき患者において治療機会の逸失を防ぐためにも,NTRK 融合遺伝子の検査は標準治療開始前あるいは標準治療中に行うことを強く推奨する。

CQ4
NTRK 融合遺伝子の検査法

PubMedで“NTRK or neurotrophic tropomyosin receptor kinase”, “neoplasm”, “NGS”, “In Situ Hybridization”, “IHX”, “NanoString”, “Polymerase Chain Reaction”のキーワードで検索した。Cochrane Library も同等のキーワードで検索した。検索期間は1980 年1 月~2019 年8 月とし,PubMed から129 編,Cochrane Library から5 編が抽出され,それ以外にハンドサーチで1 編が追加された。ガイドライン改訂にあたり,上記キーワードで2019 年9 月~2021 年1 月までの期間の検索を追加し,PubMed から124 編,Cochrane Library から1 編が追加で抽出された。一次スクリーニングで43 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで34 編が抽出され,これらを対象に定性的システマチックレビューを行った。

CQ4-1
TRK 阻害薬の適応を判断するために,NGS 検査は勧められるか?

TRK 阻害薬の適応を判断するために,分析学的妥当性が確立されたNGS 検査を強く推奨する。
推奨度Strong Recommendation[SR:19, R:1, ECO:0, NR:0]

エヌトレクチニブ,ラロトレクチニブの開発に際しては,TRK 阻害薬の適応を判断するためにNGS,FISH,RT-PCR など様々な方法が用いられてきた。報告されているNTRK 融合遺伝子は,NTRK1~3 にまたがり,融合パートナーも多岐にわたるため,NTRK1~3 いずれの融合遺伝子も検出できるNGS 検査が勧められる。33,997 例を対象に,RNA ベースのパネル検査(MSK-Fusion)をコントロールとした研究では,DNA ベースのパネルシーケンスでは感度81.1%,特異度99.9%,IHC(clone EPR17341)では感度87.9%,特異度81.1%と報告されている55)。この報告では肉腫での感度・特異度が良好ではなく,RNA ベースのパネル検査が勧められた。リキッドバイオプシーも承認されているが,NTRK 融合遺伝子の陽性的中率については必ずしも高くないものもあり,検体の種類,使用する遺伝子検査パネルがNTRK 融合遺伝子をどの程度検出可能であるのかを確認する必要がある。NGS 検査には,既知の融合パートナーのみを検出できるもの,融合パートナーに関わらず検出できるものがある。分析学的妥当性が確立された検査(例えば,承認された体外診断用医薬品又は医療機器など)を推奨する。日常臨床においてはFFPE 検体を使用することが想定されるが,検体の固定,保存からDNA,RNA の抽出の過程については,別途定められた指針(ゲノム研究用・診療用病理組織検体取扱い規程 一般社団法人日本病理学会/編)に準拠することを推奨する。

NTRK 融合遺伝子の検出については,エヌトレクチニブでは,FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイル,FoundationOne® Liquid CDx がんゲノムプロファイルが,ラロトレクチニブではFoundationOne® CDx がんゲノムプロファイルがコンパニオン診断薬として承認されており,NTRK1 融合遺伝子,NTRK2 融合遺伝子,NTRK3 融合遺伝子が検出可能であるが,NTRK3 についてはイントロン領域を検出対象としていないことに注意が必要である。

NTRK 融合遺伝子の検出については,コンパニオン診断として行われる場合も,包括的ながんゲノムプロファイル検査の一環として行われる場合も,分析学的妥当性が確立された検査が推奨される。後者ではNTRK 融合遺伝子以外の検討もなされることから,がんゲノムプロファイル検査を行う場合,「がんゲノム医療中核拠点病院等の整備に関する指針」(令和元年7 月19 日一部改正)や関連する各学会のガイドラインを参照の上行うことが求められる。

CQ4-2
NTRK 融合遺伝子を検出するために,FISH,RT-PCR は勧められるか?

  1. 1.NTRK 融合遺伝子のスクリーニング検査法としてFISH を推奨しない。

推奨度Not Recommended[SR:0, R:0, ECO:2, NR:18]

  1. 2.NTRK 融合遺伝子のスクリーニング検査法としてRT-PCR を推奨しない。

推奨度Not Recommended[SR:0, R:1, ECO:5, NR:14]

  1. 3.NTRK 融合遺伝子が高頻度に検出されることが知られているがん種では,FISH あるいはRT-PCR によるNTRK 融合遺伝子(特にETV6-NTRK3 融合遺伝子)検査を行ってもよい。

推奨度Expert consensus opinion[SR:0, R:8, ECO:12, NR:0]

陰性の場合は別の検査で確認することが推奨される。
推奨度Recommended[SR:7, R:8, ECO:5, NR:0]

NTRK 融合遺伝子は,NTRK1~3 にまたがって幅広く認められるため,FISH やPCR での検出には限界がある。FISH ではNTRK1~3 のbreak apart プローブなどが報告されており,スクリーニングで3 つのFISH を行う必要がある。また,NTRK1 融合遺伝子などで認められるクロモゾーム内での再構成については偽陰性の可能性があることに注意が必要である。PCR 法を用いる方法では,FFPE でのRNA 保持に問題があることやパートナー遺伝子の範囲がわかっていないため,どの程度の検出精度が担保できるか判断できないため推奨できない。しかしながら,これらの問題を解決できる単遺伝子検査が出てきた場合は再検討が必要である。なお,アンプリコンシーケンスはPCR 法と同じ原理であるが,他の遺伝子変異も検出可能であることや上記検出精度が明確であるため,NGS 法に含めて議論する。

唾液腺分泌がん(乳腺類似分泌がん),乳腺分泌がん,乳児型線維肉腫(先天性線維肉腫),先天性間葉芽腎腫などでは,認められる融合遺伝子はほぼETV6-NTRK3 融合遺伝子であるため,FISH やPCR での検査を考慮してもよい。ただし陰性の場合は別の検査法での確認が推奨される。

最後に,別の融合遺伝子での報告で,IHC,FISH,NGS いずれの検査法においても検出できない場合があることが知られている90)。それゆえ,個々の検査法の偽陽性,偽陰性などにも注意するとともに,臨床担当医と病理診断医の綿密な連携も重要である91)。特にNTRK 融合遺伝子が高頻度に検出されることが知られているがん種では,NTRK 融合遺伝子が検出されなかった場合については,別の検査法により確認することが望ましい。

CQ4-3
NTRK 融合遺伝子を検出するために,IHC は勧められるか?

  1. 1.NTRK 融合遺伝子のスクリーニング検査としてIHC を考慮する。

推奨度Expert consensus opinion[SR:0, R:11, ECO:8, NR:1]

  1. 2.TRK 阻害薬の適応を判断するためにはIHC を推奨しない。

推奨度No Recommendation[SR:0, R:0, ECO:0, NR:20]

IHC 法はTRK タンパクを検出する方法である。IHC 陽性であってもNTRK 融合遺伝子を認めるわけではないため,TRK 阻害薬の適応を判断するための検査としてIHC 法は推奨されない。しかし,カクテル抗体を用いた検討ではIHC 陰性の場合NTRK 融合遺伝子を認めなかった報告があることから,IHC 陰性の場合にはNGS 検査等を省略できる可能性があり,スクリーニング検査としての有効性が期待される。広く検討されているのはpan-TRK 抗体のclone EPR17341(Abcam,Roche/Ventana)であり,感度75%~96.7%,特異度92%~100%と報告されている。ただしNTRK3 では感度が低下するため注意が必要である。IHC 検査は用いる抗体によって感度・特異度に差があること,軟部肉腫,脳腫瘍,神経芽腫などではTRK タンパクの発現を認めるために偽陽性も報告されていること,判定基準も十分確立されていないことから,結果の解釈に十分注意する必要がある。しかしながら,検査結果を迅速に得られること,安価であることもあり,今後の開発が期待される。

CQ5
NTRK 融合遺伝子に対する治療

PubMed で“NTRK or neurotrophic tropomyosin receptor kinase”, “neoplasm”, “treatment”,“TRK inhibitor”のキーワードで検索した。Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は1980 年1 月~2019 年8 月とし,PubMed から132 編,Cochrane Library から6 編が抽出され,それ以外にハンドサーチで2 編が追加された。ガイドライン改訂にあたり,上記キーワードで2019 年9 月~2021 年1 月までの期間の検索を追加し,PubMed から180 編,Cochrane Library から1 編が追加で抽出された。一次スクリーニングで88 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで43 編が抽出され,これらを対象に定性的システマチックレビューを行った。

CQ5-1
NTRK 融合遺伝子を有する切除不能・転移・再発固形がんに対してTRK 阻害薬は勧められるか?

TRK 阻害薬の使用を強く推奨する。
推奨度 Strong Recommendation[SR:20, R:0, ECO:0, NR:0]

NTRK 融合遺伝子を有する固形がんに対して,TRK 阻害薬のエヌトレクチニブ,ラロトレクチニブの有効性が示されている。TRK 阻害薬と他の薬剤の比較試験はないが,ある試算では,PFS の30%の改善をランダム化比較試験で検討すると2,696 か月が必要となり(α=0.05,β=0.2,1:1 割付で設定)88),比較試験の実施は現実的ではない。TRK 阻害薬の奏効割合は高く,有害事象は軽微であり,害と益のバランスは益が大きく勝っていると考えられる。患者の嗜好にもばらつきはないと考えられる。以上から,NTRK 融合遺伝子を有する固形がんに対して,TRK 阻害薬の使用を強く推奨する。

なお,当該がん種において標準的治療がある場合,いずれの治療を行うかについて,それぞれの治療の期待される効果,予測される有害事象,晩期毒性なども踏まえ個々の症例で治療について検討すべきである。

CQ5-2
TRK 阻害薬はいつ使用すべきか?

初回治療からTRK 阻害薬の使用を推奨する。
推奨度Recommendation[SR:7, R:11, ECO:2, NR:0]

エヌトレクチニブの有効性は初回治療例から認められる。TRK 阻害薬と他の薬剤の直接の比較試験はないが,TRK 阻害薬の奏効割合は高く,TRK 阻害薬の有害事象は軽微であり,害と益のバランスは益が大きく勝っていると考えられることから,初回治療からTRK 阻害薬の使用を推奨する。標準治療のない希少疾患についても同様である。

なお,当該がん種において標準的治療がある場合,いずれの治療を行うかについて,患者背景,それぞれの治療の期待される効果,予測される有害事象,晩期毒性なども踏まえ個々の症例で治療について検討すべきである。乳児線維肉腫においては,TRK 阻害薬の長期的な影響が定まっていないことから,初回治療におけるTRK 阻害薬の使用についてはコンセンサスが得られていない92)

参考文献

1)
Pulciani S, Santos E, Lauver AV et al. Oncogenes in solid human tumours. Nature. 1982;300(5892):539-542.
2)
Klein R, Jing SQ, Nanduri V et al. The trk proto-oncogene encodes a receptor for nerve growth factor. Cell. 1991;65(1):189-197.
3)
Kaplan DR, Hempstead BL, Martin-Zanca D et al. The trk proto-oncogene product:a signal transducing receptor for nerve growth factor. Science. 1991;252(5005):554-558.
4)
Amatu A, Sartore-Bianchi A, Siena S. NTRK gene fusions as novel targets of cancer therapy across multiple tumour types. ESMO Open. 2016;1(2):e000023.
5)
Okamura R, Boichard A, Kato S et al. Analysis of NTRK Alterations in Pan-Cancer Adult and Pediatric Malignancies:Implications for NTRK-Targeted Therapeutics. JCO Precis Oncol. 2018;2018:PO.18.00183.
6)
Cocco E, Scaltriti M, Drilon A. NTRK fusion-positive cancers and TRK inhibitor therapy. Nat Rev Clin Oncol. 2018;15(12):731-747.
7)
Tacconelli A, Farina A R, Cappabianca L et al. Alternative TrkAⅢ splicing:a potential regulated tumor- promoting switch and therapeutic target in neuroblastoma. Future Oncol. 2005;1(5):689-698.
8)
Reuther GW, Lambert QT, Caligiuri MA et al. Identification and characterization of an activating TrkA deletion mutation in acute myeloid leukemia. Mol Cell Biol. 2000;20(23):8655-8666.
9)
Nakagawara A, Arima-Nakagawara M, Scavarda NJ et al. Association between high levels of expression of the TRK gene and favorable outcome in human neuroblastoma. N Engl J Med. 1993;328(12):847-854.
10)
Miranda C, Mazzoni M, Sensi M et al. Functional characterization of NTRK1 mutations identified in melanoma. Genes Chromosomes Cancer. 2014;53(10):875-880.
11)
Geiger TR, Song JY, Rosado A et al. Functional characterization of human cancer-derived TRKB mutations. PLoS One. 2011;6(2):e16871.
12)
Harada T, Yatabe Y, Takeshita M et al. Role and relevance of TrkB mutations and expression in non-small cell lung cancer. Clin Cancer Res. 2011;17(9):2638-2645.
13)
Vaishnavi A, Le AT, Doebele RC. TRKing down an old oncogene in a new era of targeted therapy. Cancer Discov. 2015;5(1):25-34.
14)
https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20210310002/navi.html
15)
https://www.pmda.go.jp/drugs/2019/P20190716001/navi.html
16)
https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/nda/2019/212725Orig1s000,%20212726Orig1s000TOC.cfm
17)
Forsythe A, Zhang W, Phillip Strauss U et al. A systematic review and meta-analysis of neurotrophic tyrosine receptor kinase gene fusion frequencies in solid tumors. Ther Adv Med Oncol. 2020 Dec 21;12:1758835920975613.
18)
Yoshino T, Pentheroudakis G, Mishima S et al. JSCO-ESMO-ASCO-JSMO-TOS:international expert consensus recommendations for tumour-agnostic treatments in patients with solid tumours with microsatellite instability or NTRK fusions. Ann Oncol. 2020;31(7):861-872.
19)
Argani P, Fritsch M, Kadkol SS et al. Detection of the ETV6-NTRK3 chimeric RNA of infantile fibrosarcoma/cellular congenital mesoblastic nephroma in paraffin-embedded tissue:application to challenging pediatric renal stromal tumors. Mod Pathol. 2000;13(1):29-36. doi:10.1038/modpathol.3880006. PMID:10658907.
20)
Vokuhl C, Nourkami-Tutdibi N, Furtwängler R et al. ETV6-NTRK3 in congenital mesoblastic nephroma:A report of the SIOP/GPOH nephroblastoma study. Pediatr Blood Cancer. 2018;65(4). doi:10.1002/pbc.26925. Epub 2017 Dec 29. PMID:29286563.
21)
Skálová A, Vanecek T, Simpson RH et al. Mammary Analogue Secretory Carcinoma of Salivary Glands:Molecular Analysis of 25 ETV6 Gene Rearranged Tumors With Lack of Detection of Classical ETV6-NTRK3 Fusion Transcript by Standard RT-PCR:Report of 4 Cases Harboring ETV6-X Gene Fusion. Am J Surg Pathol. 2016;40(1):3-13.
22)
Bishop JA, Yonescu R, Batista D et al. Utility of mammaglobin immunohistochemistry as a proxy marker for the ETV6-NTRK3 translocation in the diagnosis of salivary mammary analogue secretory carcinoma. Hum Pathol. 2013;44(10):1982-1988.
23)
Del Castillo M, Chibon F, Arnould L et al. Secretory Breast Carcinoma:A Histopathologic and Genomic Spectrum Characterized by a Joint Specific ETV6-NTRK3 Gene Fusion. Am J Surg Pathol. 2015;39(11):1458-1467.
24)
Makretsov N, He M, Hayes M et al. A fluorescence in situ hybridization study of ETV6-NTRK3 fusion gene in secretory breast carcinoma. Genes Chromosomes Cancer. 2004;40(2):152-157.
25)
Tognon C, Knezevich SR, Huntsman D et al. Expression of the ETV6-NTRK3 gene fusion as a primary event in human secretory breast carcinoma. Cancer Cell. 2002;2(5):367-376.
26)
Knezevich SR, McFadden DE, Tao W et al. A novel ETV6-NTRK3 gene fusion in congenital fibrosarcoma. Nat Genet. 1998;18(2):184-187.
27)
Rubin BP, Chen CJ, Morgan TW et al. Congenital mesoblastic nephroma t(12;15)is associated with ETV6-NTRK3 gene fusion:cytogenetic and molecular relationship to congenital(infantile)fibrosarcoma. Am J Pathol. 1998;153(5):1451-1458.
28)
Orbach D, Brennan B, De Paoli A et al. Conservative strategy in infantile fibrosarcoma is possible:The European Paediatric Soft Tissue Sarcoma Study Group experience. Eur J Cancer. 2016;57:1-9.
29)
Bourgeois JM, Knezevich SR, Mathers JA et al. Molecular detection of the ETV6-NTRK3 gene fusion differentiates congenital fibrosarcoma from other childhood spindle cell tumors. Am J Surg Pathol. 2000;24(7):937-946.
30)
Skálová A, Vanecek T, Sima R et al. Mammary analogue secretory carcinoma of salivary glands, containing the ETV6-NTRK3 fusion gene:a hitherto undescribed salivary gland tumor entity. Am J Surg Pathol. 2010;34(5):599-608.
31)
Sethi R, Kozin E, Remenschneider A et al. Mammary analogue secretory carcinoma:update on a new diagnosis of salivary gland malignancy. Laryngoscope. 2014;124(1):188-195.
32)
WHO Classification of Tumours of the Breast. WHO Classification of Tumours, 5th Edition, Volume 2 2019.
33)
WHO Classification of Tumours of Soft Tissue and Bone Tumours. WHO Classification of Tumours, 5th Edition, Volume 3, 2020.
34)
Wu G, Diaz AK, Paugh BS et al. The genomic landscape of diffuse intrinsic pontine glioma and pediatric non-brainstem high-grade glioma. Nat Genet. 2014;46(5):444-450.
35)
Guerreiro Stucklin AS, Ryall S, Fukuoka K et al. Alterations in ALK/ROS1/NTRK/MET drive a group of infantile hemispheric gliomas. Nat Commun. 2019;10(1):4343.
36)
Farago AF, Taylor MS, Doebele RC et al. Clinicopathologic Features of Non-Small-Cell Lung Cancer Harboring an NTRK Gene Fusion. JCO Precis Oncol. 2018;Epub 2018 Jul 23.
37)
Brenca M, Rossi S, Polano M et al. Transcriptome sequencing identifies ETV6-NTRK3 as a gene fusion involved in GIST. J Pathol. 2016;238(4):543-549.
38)
Atiq MA, Davis JL, Hornick JL et al. Mesenchymal tumors of the gastrointestinal tract with NTRK rearrangements:a clinicopathological, immunophenotypic, and molecular study of eight cases, emphasizing their distinction from gastrointestinal stromal tumor(GIST). Mod Pathol. 2021;34:95-103.
39)
Hechtman JF, Benayed R, Hyman DM et al. Pan-Trk Immunohistochemistry Is an Efficient and Reliable Screen for the Detection of NTRK Fusions. Am J Surg Pathol. 2017;41(11):1547-1551.
40)
Abel H, Pfeifer J, Duncavage E. Translocation detection using next-generation sequencing. In:Kulkarni S, Pfeifer J, eds. Clinical Genomics. Amsterdam, Netherlands:Elsevier/Academic Press;2015.
41)
Solomon JP, Benayed R, Hechtman JF et al. Identifying patients with NTRK fusion cancer. Ann Oncol. 2019;30 Suppl 8:viii16-viii22.
42)
Weiss LM, Funari VA. NTRK fusions and Trk proteins:what are they and how to test for them. Hum Pathol. 2021;112:59-69.
43)
Sunami K, Ichikawa H, Kubo T et al. Feasibility and utility of a panel testing for 114 cancer-associated genes in a clinical setting:A hospital-based study. Cancer Sci. 2019;110(4):1480-1490.
44)
FDA Approves Foundation Medicine’s FoundationOne CDxTM, the First and Only Comprehensive Genomic Profiling Test for All Solid Tumors Incorporating Multiple Companion Diagnostics. https://www.foundationmedicine.com/press-releases/f2b20698-10bd-4ac9-a5e5-c80c398a57b5
45)
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan03.html
46)
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/GeneralList/30300BZX00074000_1_01
47)
Dziadziuszko R, Hung T, Wang K,et al. Pre- and post-treatment blood-based genomic landscape of patients with ROS1 or NTRK fusion-positive solid tumours treated with entrectinib. Mol Oncol. 2022 May;16(10):2000-2014.
48)
https://nanoporetech.com/
49)
Hsiao SJ, Zehir A, Sireci AN et al. Detection of tumor NTRK gene fusions to identify patients who may benefit from TRK inhibitor therapy. J Mol Diagn 2019;21(4):553-571.
50)
Murphy DA, Ely HA, Shoemaker R et al. Detecting Gene Rearrangements in Patient Populations Through a 2-Step Diagnostic Test Comprised of Rapid IHC Enrichment Followed by Sensitive Next-Generation Sequencing. Appl Immunohistochem Mol Morphol. 2017;25(7):513-523.
51)
Gatalica Z, Xiu J, Swensen J et al. Molecular characterization of cancers with NTRK gene fusions. Mod Pathol. 2019;32(1):147-153.
52)
Hechtman JF, Benayed R, Hyman DM et al. Pan-Trk immunohistochemistry is an efficient and reliable screen for the detection of NTRK fusions. Am J Surg Pathol. 2017;41(11):1547-1551.
53)
Rudzinski ER, Lockwood CM, Stohr BA et al. Pan-Trk immunohistochemistry identifies NTRK rearrangements in pediatric mesenchymal tumors. Am J Surg Pathol. 2018;42(7):927-935.
54)
Hung YP, Fletcher CDM, Hornick JL. Evaluation of pan-TRK immunohistochemistry in infantile fibrosarcoma, lipofibromatosis-like neural tumour and histological mimics. Histopathology. 2018;73(4):634-644.
55)
Solomon JP, Linkov I, Rosado A et al. NTRK fusion detection across multiple assays and 33, 997 cases:diagnostic implications and pitfalls. Mod Pathol. 2019;doi:10.1038/s41379-019-0324-7.
56)
Albert CM, Davis JL, Federman N et al. TRK Fusion Cancers in Children:A Clinical Review and Recommendations for Screening. J Clin Oncol. 2019;37(6):513-524.
57)
Doebele RC, Drilon A, Paz-Ares L et al;trial investigators. Entrectinib in patients with advanced or metastatic NTRK fusion-positive solid tumours:integrated analysis of three phase 1-2 trials. Lancet Oncol. 2020;21(2):271-282.
58)
Demetri GD, Paz-Ares L, Farago AF et al. Efficacy and Safety of Entrectinib in Patients with NTRK Fusion-Positive(NTRK-fp)Tumors:Pooled Analysis of STARTRK-2, STARTRK-1 and ALKA-372-001. Ann Oncol. 2018;29(supple_8):abstr LBA17.
59)
Hong DS, DuBois SG, Kummar S et al. Larotrectinib in patients with TRK fusion-positive solid tumours:a pooled analysis of three phase 1/2 clinical trials. Lancet Oncol. 2020;21(4):531-540.
60)
Lassen UN, Albert CM, Kummar S et al. Larotrectinib efficacy and safety in TRK fusion cancer:an expanded clinical dataset showing consistency in an age and tumor agnostic approach. Ann Oncol. 2018;29(supple_8):409O.
61)
Hempel D, Wieland T, Solfrank B et al. Antitumor Activity of Larotrectinib in Esophageal Carcinoma with NTRK Gene Amplification. Oncologist. 2020;25(6):e881-e886.
62)
Drilon A, Laetsch TW, Kummar S et al. Efficacy of larotrectinib in TRK fusion-positive cancers in adults and children. N Engl J Med. 2018;378(8):731-739.
63)
Russo M, Misale S, Wei G et al. Acquired resistance to the TRK inhibitor entrectinib in colorectal cancer. Cancer Discov 2016;6(1):36-44.
64)
https://dailymed.nlm.nih.gov/dailymed/drugInfo.cfm?setid=9525f887-a055-4e33-8e92-898d42828cd1
65)
Drilon A, Nagasubramanian R, Blake JF et al. A next-generation TRK kinase inhibitor overcomes acquired resistance to prior TRK kinase inhibition in patients with TRK fusion-positive solid tumors. Cancer Discov. 2017;7(9):963-972.
66)
Drilon A, Ou SI, Cho BC et al. Repotrectinib(TPX-0005)Is a next-generation ROS1/TRK/ALK inhibitor that potently inhibits ROS1/TRK/ALK solvent-front mutations. Cancer Discov. 2018;8(10):1227-1236.
67)
US Food and Drug Administration:Cabozantinib(S)-malate:Pharmacology review.
https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/nda/2012/203756Orig1s000PharmR.pdf
68)
US Food and Drug Administration:Crizotinib:Pharmacology review. https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/nda/2011/202570Orig1s000PharmR.pdf
69)
US Food and Drug Administration:Midostaurin:Pharmacology review. https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/nda/2017/207997Orig1Orig2s000PharmR.pdf
70)
Hilberg F, Roth GJ, Krssak M, et al:BIBF 1120:Triple angiokinase inhibitor with sustained receptor blockade and good antitumor efficacy. Cancer Res. 2008;68:4774-4782.
71)
US Food and Drug Administration:Regorafenib:Pharmacology review. https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/nda/2012/203085Orig1s000PharmR.pdf
72)
Smith BD, Kaufman MD, Leary CB et al. Altiratinib inhibits tumor growth, invasion, angiogenesis, and microenvironment-mediated drug resistance via balanced inhibition of MET, TIE2, and VEGFR2. Mol Cancer Ther. 2015;14:2023-2034.
73)
Weiss GJ, Sachdev JC, Infante JR et al:Phase(Ph)1/2 study of TSR-011, a potent inhibitor of ALK and TRK, including crizotinib-resistant ALK mutations. J Clin Oncol. 2014;32(15_suppl):abstr e19005.
74)
Carboni JM, Wittman M, Yang Z et al. BMS-754807, a small molecule inhibitor of insulin-like growth factor-1R/IR. Mol Cancer Ther. 2009;8:3341-3349.
75)
Schroeder GM, An Y, Cai ZW et al. Discovery of N-(4-(2-amino-3-chloropyridin-4-yloxy)-3-f luorophenyl)-4-ethoxy-1-(4-f luorophenyl)-2-oxo-1,2-dihydropyridine-3-carboxamide(BMS-777607), a selective and orally efficacious inhibitor of the Met kinase superfamily. J Med Chem. 2009;52:1251-1254.
76)
Carpinelli P, Ceruti R, Giorgini ML et al. PHA-739358, a potent inhibitor of Aurora kinases with a selective target inhibition profile relevant to cancer. Mol Cancer Ther 2007;6:3158-3168.
77)
Kiga M, Iwasaki S, Togashi N et al. Preclinical characterization and antitumor efficacy of DS-6051b, a novel, orally available small molecule tyrosine kinase inhibitor of ROS1 and NTRKs. Eur J Cancer. 2016;69(1):S35-S36.
78)
Fletcher GC, Brokx RD, Denny TA, et al. ENMD-2076 is an orally active kinase inhibitor with antiangiogenic and antiproliferative mechanisms of action. Mol Cancer Ther. 2011;10(1):126-137.
79)
Shabbir M, Stuart R. Lestaurtinib, a multitargeted tyrosine kinase inhibitor:From bench to bedside. Expert Opin Investig Drugs. 2010;19(3):427-436.
80)
Miknyoczki SJ, Chang H, Klein-Szanto A et al. The Trk tyrosine kinase inhibitor CEP-701 (KT-5555)exhibits significant antitumor efficacy in preclinical xenograft models of human pancreatic ductal adenocarcinoma. Clin Cancer Res. 1999;5(8):2205-2212.
81)
Yan SB, Peek VL, Ajamie R et al. LY2801653 is an orally bioavailable multi-kinase inhibitor with potent activity against MET, MST1R, and other oncoproteins, and displays anti-tumor activities in mouse xenograft models. Invest New Drugs. 2013;31(4):833-844.
82)
Konicek BW, Bray SM, Capen AR et al. Merestinib(LY2801653), targeting several oncokinases including NTRK1/2/3, shows potent anti-tumor effect in colorectal cell line-and patient-derived xenograft(PDX)model bearing TPM3-NTRK1 fusion. Cancer Res. 2016;76(14 suppl):abstr 2647.
83)
Shimomura T, Hasako S, Nakatsuru Y et al. MK-5108, a highly selective Aurora-A kinase inhibitor, shows antitumor activity alone and in combination with docetaxel. Mol Cancer Ther. 2010;9(1):157-166.
84)
Brasca MG, Amboldi N, Ballinari D et al. Identification of N,1,4,4-tetramethyl-8-{[4-(4-methylpiperazin-1-yl)phenyl]amino}-4,5-dihydro-1H-pyrazolo[4,3-h]quinazoline-3- carboxamide(PHA-848125), a potent, orally available cyclin dependent kinase inhibitor. J Med Chem 2009;52(16):5152-5163.
85)
ECMC Network:PLX7486 background information October 2015. http://www.ecmcnetwork.org.uk/sites/default/files/PLX7486%20Background%20for%20CRUK%20Combinations%20 Alliance%20(Non-CI)%202015-10-08%20final.pdf
86)
Patwardhan PP, Ivy KS, Musi E et al. Significant blockade of multiple receptor tyrosine kinases by MGCD516(Sitravatinib), a novel small molecule inhibitor, shows potent anti-tumor activity in preclinical models of sarcoma. Oncotarget. 2016;7(4):4093-4109.
87)
Penault-Llorca F, Rudzinski ER, Sepulveda AR. Testing algorithm for identification of patients with TRK fusion cancer. J Clin Pathol. 2019;72(7):460-467.
88)
DuBois SG, Laetsch TW, Federman N et al. The use of neoadjuvant larotrectinib in the management of children with locally advanced TRK fusion sarcomas. Cancer. 2018;124(21):4241-4247.
89)
Lozano-Ortega G, Hodgson M, Csintalan F et al. PPM11 TUMOUR-SPECIFIC RANDOMIZED CONTROLLED TRIALS IN RARE ONCOGENE-DRIVEN CANCERS:ASKING FOR THE IMPOSSIBLE? Value in Health. 2019;22(Supplement 3):S838-S839.
90)
Davies KD, Le AT, Sheren J et al. Comparison of Molecular Testing Modalities for Detection of ROS1 Rearrangements in a Cohort of Positive Patient Samples. J Thorac Oncol. 2018;13(10):1474-1482.
91)
Solomon JP, Hechtman JF. Detection of NTRK Fusions:Merits and Limitations of Current Diagnostic Platforms. Cancer Res. 2019;79(13):3163-3168.
92)
Orbach D, Sparber-Sauer M, Laetsch TW et al. Spotlight on the treatment of infantile fibrosarcoma in the era of neurotrophic tropomyosin receptor kinase inhibitors:International consensus and remaining controversies. Eur J Cancer. 2020;137:183-192. doi:10.1016/j.ejca.2020.06.028. Epub 2020 Aug 9. PMID:32784118.

Ⅳ TMB-Hを有する固形がん

8.1 TMB とは

がん細胞は紫外線,喫煙などの外的要因,テモゾロミド等の治療介入,またはDNA 修復機構に関連する遺伝子の先天的または後天的な原因により,正常細胞と比較して多くの遺伝子変異を有する特徴を持つ1,2)。腫瘍遺伝子変異量(tumor mutation burden:TMB)とは,がん細胞が持つ体細胞遺伝子変異の量を意味し,100 万個の塩基(1 メガベース;1 Mb)当たりの遺伝子変異数(mut/Mb)を単位として表される。前臨床研究において,がん細胞のパッセンジャー遺伝子変異の中でもnonsynonymous 変異によって新規に生じたペプチドがネオアンチゲンとして抗原提示細胞の表面の主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex:MHC)によって提示され,浸潤している免疫細胞によって非自己と認識されている可能性が報告された3,4)。MHC による抗原ペプチドの提示を予測するための次世代シーケンス技術および計算手法が開発され,TMB が高いヒト腫瘍と類似するTMB が高いマウス腫瘍では,T 細胞によって認識されるネオアンチゲンを有していることが報告された4)。また,TMB の増加に伴う免疫原性が非臨床試験によって確認されていることから,その生物学的特徴はがん種横断的に適用できることが示唆されている5,6)。さらに,Schumacher とSchreiber によるレビューでは,体細胞変異が10 mut/Mb を超える腫瘍(150 nonsynonymous mutation に相当)は,免疫系に認識されるネオアンチゲンが生じる可能性が示唆された7)

8.2 TMB 検査法

TMB は次世代シーケンサーを用いて全ゲノム(whole genome sequencing:WGS)・全エクソーム(whole exome sequencing:WES)で従来評価されてきた。しかし,近年ターゲットシーケンスパネル(遺伝子パネル検査)でも高感度にTMB を定量することができることが報告されてきている8-11)。TMB 解析領域が1.1 Mb 領域のゲノムシーケンスを行う遺伝子パネル検査ではWES TMB と相関することから,適確なTMB 測定が可能である。一方,0.5 Mb 未満では相関性が低くなるといわれている8)。このTMB 値(TMB スコア)の算出に用いるアルゴリズムについては,各遺伝子パネル使用に最適と考えられる設計がされており,パネル毎の知的財産のため公開されておらず,ばらつきがあることが問題となっている(表8-1)。現在,Friends of Cancer Research(FoCR)を中心にTMB harmonization project が進行中であり,TMB 統一化が進められている。

表8-1 組織を用いた各遺伝子パネル検査の概要[12)を改変]

FoCR においてそれぞれの遺伝子パネル検査により算出されたTMB スコアとWES TMB スコアとの相関が検証されており,がん種によりばらつきはあるものの,良好な相関性を示していることが報告されている(スピアマン相関係数0.79-0.88)。本邦においては包括的がんゲノムプロファイリングの一環として保険診療で実施することができる。FoundationOne® CDx で測定したTMB はWES TMB と高い相関を示すことが報告された8)。NCC オンコパネルについても強い相関性が報告されている13)図8-1)。今後,FoCR では臨床試験で免疫チェックポイント阻害薬を投与された患者の臨床検体を後方視的に解析しTMB の臨床実装を目指している。

図8-1 FoundationOne® CDx とNCC オンコパネルのTMB とWES TMB との相関8,13)

前治療不応・不耐の切除不能進行再発固形がんを対象にバイオマーカーによるペムブロリズマブの有効性を評価した第Ⅱ相試験であるKEYNOTE-158 試験において,TMB-H 固形腫瘍に対する有効性が報告された13)。本試験ではFoundationOne® CDx で解析されたTMB が10 mut/Mb 以上の症例がTMB-H として定義された。FDA は本試験の結果よりTMB-H 固形がんに対してペムブロリズマブを承認するとともに,ペムブロリズマブのコンパニオン診断薬としてFoundationOne® CDx を承認した。本邦においては2021 年11 月15 日に腫瘍遺伝子変異量高スコアを有する固形がんに対する医薬品の適応判定補助としてFoundationOne® CDx が承認された。

従来のTMB の算出は腫瘍組織を用いて解析される。そのため切除不能となる以前の手術検体等しか入手できない場合,FoundationOne® CDx によるTMB 解析は全身療法を行う時点の腫瘍の状態を反映できていない可能性がある。そこで血液由来の循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)解析を用いたTMB 評価も試みられている。ctDNA 解析は腫瘍組織解析と比較して,解析所要期間が短く14),また腫瘍内の遺伝学的不均一性を捉えられる可能性が指摘されている15)

8.3 TMB-H のがん種別頻度

図8-2 は体細胞変異の頻度を各がん種別にみたものである。がん種によって100 mut/Mb(メラノーマ・肺扁平上皮癌/肺腺癌等)を超えるものから0.1 mut/Mb と少ないものまで様々であり,同一がん種内でも1000 倍以上の違いを認める16)

図8-2 がん種別体細胞変異数16)

FoundationOne® CDx(詳細は「8-2.TMB 検査法」)により10 mut/Mb 以上のTMB スコアを有するがんの発生割合がChan らのレビューによって報告されている(図8-317)。10mut/Mb 以上のTMB スコアを有する上位30 種類のがんの割合は,約10~60%程度であり,固形がん全体では13.3%であった。日本癌治療学会(JSCO)が主催し,日本臨床腫瘍学会(JSMO),欧州臨床腫瘍学会(ESMO),米国臨床腫瘍学会(ASCO),台湾腫瘍学会(TOS)が合同で開催した会議において,カットオフ値をTMB≥20 mut/Mb に設定し,FoundationOne データベースにおけるTMB が高い(TMB-high;TMB-H)腫瘍の発生割合が報告されている(表8-218)。発生割合の多いがんの上位30 種類における割合は0.93%~54.60%であった。TMB-H 固形がんは予後が悪いことも報告されている19)

図8-3 がん種別TMB‒H 頻度17)
表8-2 がん種別TMB‒H(TMB≥20 mut/Mb)18)

また,ctDNA 解析を用いたがん種別のTMB 評価も試みられている。Foundation Medicine 社は血液のctDNA 解析によりbTMB を評価するアッセイを開発した。非小細胞肺がんに対しドセタキセルと比較したアテゾリズマブの有効性を評価した前向き試験POPLAR,OAK 試験において,治療前のベースラインの血液検体のbTMB が評価された20)。この試験では同時に腫瘍組織を用いたtissue TMB(tTMB)が解析されたが,tTMB と比較したbTMB の感度は64%,特異度は88%であった。2021 年3 月Foundation Medicine 社が開発したFoundationOne® Liquid CDx が血液検体を用いた固形がんに対する包括的ゲノムプロファイリングとして本邦で承認された。

腫瘍組織をFoundationOne® CDx を用いて解析したtTMB-H(≥10 mut/Mb)と血液をFoundationOne® Liquid CDx を用いて解析したbTMB-H(≥10 mut/Mb)のがん種別頻度が報告されている(図8-421)。16 がん種167,332 例が解析され,tTMB-H は19%,tTMB-H の頻度が高い順に悪性黒色腫(53%)・小細胞肺がん(41%)・非小細胞肺がん(40%)・膀胱がん(39%)・子宮体がん(23%)であった。bTMB については16 がん種9,312 例が解析され,bTMB-H は13%であった。

図8-4 がん種別tTMB‒H/bTMB‒H 頻度21)

8.4 TMB-H 固形がんに対する抗PD-1/PD-L1 抗体薬の効果

前臨床研究において,がん細胞のパッセンジャー遺伝子変異の中でもDNA の変異によってアミノ酸が置換され生じた新規のペプチドが,ネオアンチゲンとして抗原提示され抗腫瘍免疫反応を引き起こす3,4)。実際にTMB が高いマウス腫瘍では,T 細胞によって認識されるネオアンチゲンを有していることが報告された4)。さらに,TMB の増加に伴う免疫原性が非臨床試験によって確認されていることから5,6,22),腫瘍細胞のTMB 増加によりネオアンチゲンが増加すればT 細胞による腫瘍認識が促進されると考えられる。そのためTMB-H 固形がんでは免疫チェックポイント阻害薬によりT 細胞の活性化が促されることで,抗腫瘍効果が期待される。実際にKEYNOTE-028 試験はPD-L1 発現陽性進行固形がんに対しペムブロリズマブの安全性・有効性を検証した第Ⅰb 相試験である。本試験では探索的評価項目としてTMB とPD-L1 の関連性を検証している。16 がん種77 例でWES TMB が解析され(うち1 例のみMSI-H であった),TMB が高い症例でより腫瘍縮小効果が認められ,PFS の延長を認めたことが報告されている23)。米国Memorial Sloan Kettering Cancer Center において免疫チェックポイント阻害薬単独または併用療法を受けた1662 例を対象にMSK-IMPACT を用いてTMB が検討され,がん種毎にTMB スコア上位20%以上の症例とそれ以外の症例で比較すると,有意にOS が延長する(HR 0.52;p=1.6×10-6)ことが報告された24)。これらの報告以外にもTMB が免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子として有効であることが多数報告されている。27 がん種におけるTMB の中央値に対して,免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1 抗体または抗PD-L1 抗体)単独療法の奏効割合(Objective response rate;ORR)をそれぞれプロットしたところ,ORR とTMB との間に,有意な相関が観察された(図8-525)

図8-5 TMB とORR の相関関係25)

KEYNOTE-158 試験は,前治療後不応・不耐の切除不能または転移性固形腫瘍に対するペムブロリズマブの有効性および安全性を評価する第Ⅱ相多施設共同,非無作為化,非盲検,複数コホート試験である。本試験では様々ながん種においてペムブロリズマブの効果を予測する各種バイオマーカーが評価された。探索的バイオマーカーとしてTMB を事前に規定し,FoundationOne® CDx により後方視的に解析した。その後,米国FDA 承認のPost Marketing Requirement として,TMB-H を有する固形がん患者を前向きに組み入れるコホートとして,グループM が追加された。本試験の主要評価項目はORR,副次評価項目は,奏効期間,無増悪生存期間(progression free survival;PFS),全生存期間(overall survival;OS)であった。有効性解析対象集団の患者1,050 例のうち,790 例からTMB のデータが得られた。TMB-H のカットオフ値を10 mut/Mb 以上とし,102 例がTMB-H,688 例がTMB-Low(TMB-L)(10 mut/Mb 未満)であった。ペムブロリズマブはTMB-H 群でTMB-L 群と比較し高いORR を示した(29% vs. 6%)(図8-6)。TMB-H 群においてMSI-H 患者およびMSI status が不明な患者を除外した81 例でのORR は28%と同程度であった。さらに本試験においてはPD-L1 の発現についても評価されている。TMB スコアとPD-L1 の発現(combined positive score;CPS)に相関は認めず,TMB-H 群においてPD-L1 陽性(CPS 1 以上)例でのORR 35%,PD-L1 陰性(CPS 1 未満)例でのORR 21%であった26)。FDA は本試験の結果よりTMB-H 固形がんに対してペムブロリズマブを承認した。

図8-6 ペムブロリズマブのTMB‒H 固形がんに対する有効性26)

ASCO が実施しているTargeted Agent and Profiling Utilization Registry(TAPUR)試験は特定のゲノム変化を対象として承認された標的薬を使用し抗腫瘍効果を評価する第Ⅱ相バスケット試験である。TMB-H コホートの結果も報告されている。TMB≥9 の大腸がん27 例(MSS 25 例,残り2 名は不明)における検討ではORR 11%(95%CI 2-29%),PFS 中央値9.3 週(95%CI 7.3-16.1),OS 中央値51.9 週(95%CI 18.7-NR)と抗腫瘍効果を認めた27)。TMB≥9 の乳がんにおいても同様の検討がされており,ORR 37%(95%CI 21-50%),PFS中央値10.6 週(95%CI 7.7-21.1),OS 中央値30.6 週(95%CI 18.3-103.3)と抗腫瘍効果を認めたことが報告されている28)

FDA がTMB-H 固形がんに対してペムブロリズマブを承認した後も,TMB のカットオフ値やがん種毎の効果の差について議論が続いている。悪性黒色腫,肺がん,膀胱がんなど,組織浸潤CD8 T 細胞レベルがネオアンチゲン量と正の相関を示すがん種では,免疫チェックポイント阻害薬はTMB-H 腫瘍に対し高い抗腫瘍効果(ORR 39.8%,95% CI 34.9-44.8)を示し,TMB-L 腫瘍に対するORR よりも有意に高かった(Odds ratio(OR)4.1,95% CI 2.9-5.8,p<2×10-16)。一方で乳がん,前立腺がん,神経膠腫など,CD8 T 細胞レベルとネオアンチゲン量に相関がないがん種では,TMB-H 腫瘍に対する免疫チェックポイント阻害薬のORR は15.3%(95%CI 9.2-23.4,p=0.95)であり,TMB-L 腫瘍に比べて有意に低い値を示しており(OR 0.46,95%CI 0.24-0.88,p=0.02)29),がん種によってTMB が免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測できない可能性が示唆された。また,がん種によって最適なTMB のカットオフ値が異なる可能性も示唆されている30)。さらに,神経膠腫ではテモゾロミド治療により機序は明確ではないもののTMB が上昇することが知られているが,そのような症例も含めたTMB-H かつdMMR 神経膠腫11 例(未治療5 例,治療後6 例)での免疫チェックポイント阻害薬の有効性を検討した結果,82%で最良治療効果が病勢増悪であり,TMB-L と比較して有意差は認めなかった31)。以上より,TMB の最適な測定法やがん種毎のTMB のカットオフについてさらなる検証が必要と考えられる。

ctDNA 解析を用いたTMB 評価も試みられている。免疫チェックポイント阻害薬を投与された69 名の固形がん患者において,ctDNA 検査法の一つであるGuardant360 で血液由来のctDNA を解析した。その結果,variant of unknown significance(VUS)が3 を超える症例は有意にPFS が長かったことが示された32)。さらに,非小細胞肺がんを対象にドセタキセルに対するアテゾリズマブの優越性を検証したOAK 試験およびPOPLAR 試験では,FoundationOne のbTMB アッセイを用いたctDNA 解析でbTMB スコアが16 以上の症例で,最もアテゾリズマブの効果が高いことが報告されている33)

9クリニカルクエスチョン(CQ)

CQ6
TMB 検査の対象

PubMed で“Mutation and Tumor Burden or burden or TMB”,“neoplasm”,“tested or diagnos or detect”のキーワードで検索した。Cochrane Library も同等のキーワードで検索した。検索期間は1980 年1 月~2021 年1 月とし,PubMed から585 編,Cochrane Library から26 編が抽出された。一次スクリーニングで233 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで208 編が抽出され,これらを対象に定性的システマチックレビューを行った。

CQ6-1
TMB スコアに関わらず免疫チェックポイント阻害薬が実地臨床で使用可能ながん以外の標準的な薬物療法を実施中,または標準的な治療が困難な固形がん患者に対して,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにTMB 測定検査は勧められるか?

TMB スコアに関わらず免疫チェックポイント阻害薬が実地臨床で使用可能ながん以外の標準的な薬物療法を実施中,または標準的な治療が困難な固形がん患者に対して,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにTMB 測定検査を推奨する。
推奨度Recommended[SR:8,R:11,ECO:1,NR:0]

KEYNOTE-158 試験において化学療法後に増悪した進行・再発の固形がんに対し,FoundationOne® CDx を用いてTMB スコアを測定し,TMB-H のカットオフ値を10 mut/Mb 以上としてペムブロリズマブの有効性を検証した。その結果,ペムブロリズマブはTMB-H 群でTMB-L 群よりも高いORR を示した(29% vs. 6%)12)。米国食品医薬局(FDA)は本試験結果に基づき,2020 年6 月16 日切除不能または転移性のTMB-H(≥10 mut/Mb)固形がんに対しペムブロリズマブを迅速承認した。さらに,ペムブロリズマブのコンパニオン診断薬としてFoundationOne® CDx を承認した。したがって,TMB は免疫チェックポイント阻害薬を用いる上でバイオマーカーとして適当であり,本邦でも推奨できる。

CQ6-2
TMB スコアに関わらず免疫チェックポイント阻害薬がすでに実地臨床で使用可能な切除不能固形がんに対し,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにTMB 測定検査は勧められるか?

TMB スコアに関わらず免疫チェックポイント阻害薬がすでに実地臨床で使用可能な切除不能固形がんに対し,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにTMB測定検査を考慮する。
推奨度Expert consensus opinion[SR:0,R:3,ECO:12,NR:5]

TMB スコアに関わらず免疫チェックポイント阻害薬の使用が可能である固形がんでは,TMB スコアによらず適応が判断されることから原則としてTMB 判定検査を実施する必要はないと考えられる。しかし,PD-L1 の発現やdMMR 等のバイオマーカーによって免疫チェックポイント阻害薬の適応が判断される固形がんにおいて,バイオマーカーが陰性だった場合には免疫チェックポイント阻害薬の有効性が期待できる。実際にKEYNOTE-158 試験においてTMB-H 症例のうち,MSI-H 患者およびMSI status が不明な患者を除外した症例においてもORR は28%,PD-L1 の発現によらず効果が認められている(PD-L1 陽性例でのORR 35%,PD-L1 陰性例でのORR 21%)26)。以上より,バイオマーカーによって免疫チェックポイント阻害薬の適応が判断される固形がんにおいて,バイオマーカーが陰性だった場合にはTMB 測定検査を実施することが推奨される。

CQ6-3
局所治療で根治可能な固形がん患者に対し,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにTMB 測定検査は勧められるか?

局所治療で根治可能な固形がん患者に対し,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためのTMB 測定検査は推奨しない。
推奨度Not recommended[SR:0,R:0,ECO:5,NR:15]

悪性黒色腫では,術後補助療法として抗PD-1 抗体薬の有効性が示され,薬事承認されている(KEYNOTE-054 試験34),ONO-4538-21 試験35))。非小細胞肺がんでは白金製剤を用いた根治的同時化学放射線療法(CRT)後に病勢進行が認められなかった切除不能な局所進行例(ステージⅢ)を対象とし,抗PD-L1 抗体薬を逐次投与する無作為化二重盲検プラセボ対照多施設共同第Ⅲ相試験であるPACIFIC 試験の結果,薬事承認されている36)。さらに,術前化学放射線療法後に切除されたstage Ⅱ/Ⅲの食道および食道胃接合部癌を対象にしたCheckmate-577 試験においても,術後補助療法としてのニボルマブの有効性が示された37)。しかし,これらの試験ではTMB スコアによる効果の差は報告されていないことから,治療前のTMB 測定検査は原則不要である。また,それ以外の固形がんにおいては周術期治療としての免疫チェックポイント阻害薬の有効性は確立されていないことから,局所治療で根治可能な場合には治療選択のためのTMB 測定検査は原則不要である。以上より,現時点では局所進行および転移が認められない固形がん患者に対し,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのTMB 測定検査は推奨されない。

CQ6-4
免疫チェックポイント阻害薬がすでに投与された切除不能な固形がん患者に対し,再度免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためにTMB 測定検査は勧められるか?

免疫チェックポイント阻害薬がすでに投与された切除不能な固形がん患者に対し,再度免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断するためのTMB 測定検査は推奨しない。
推奨度Not recommended[SR:0,R:0,ECO:1,NR:19]

一部の固形がんではTMB スコアに関わらず免疫チェックポイント阻害薬が薬事承認されている。すでに免疫チェックポイント阻害薬が投与されている場合に,異なる免疫チェックポイント阻害薬を投与する際の効果は示されていない。よって,免疫チェックポイント阻害薬を投与する目的に,すでに使用された固形がん患者に対しTMB 測定検査は推奨しない。

CQ7
TMB 検査法

PubMed で“Mutation and Tumor Burden or burden or TMB”,“next-generation sequencing or NGS or Whole-exome sequencing or WES”のキーワードで検索した。Cochrane Library も同等のキーワードで検索した。検索期間は1980 年1 月~2021 年1 月とし,PubMed から387 編,Cochrane Library から22 編が抽出された。一次スクリーニングで215 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで204 編が抽出され,これらを対象に定性的システマチックレビューを行った。

CQ7-1
免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのTMB 測定検査としてNGS 検査は勧められるか?

免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのTMB測定検査として,分析学的妥当性が確立された(薬事承認された等)NGS 検査を推奨する。
推奨度Recommended[SR:6,R:12,ECO:2,NR:0]

本邦において,2018 年12 月27 日,固形がん患者を対象とした腫瘍組織の包括的ながんゲノムプロファイルを取得する目的,および一部の分子標的治療薬の適応判定のため体細胞遺伝子異常を検出する目的でFoundationOne® CDx が製造販売承認された。FoundationOne®CDx ではTMB スコアの情報も付随している。KEYNOTE-158 試験において化学療法後に増悪した進行・再発の固形がんに対し,FoundationOne® CDx を用いてTMB スコアを測定し,TMB-H のカットオフ値を10 mut/Mb 以上としてペムブロリズマブの有効性を検証した結果,ペムブロリズマブはTMB-H 群でTMB-L 群よりも高いORR を示した12)。FDA は本試験結果に基づき,2020 年6 月16 日切除不能または転移性のTMB-H(≥10 mut/Mb)固形がんに対しペムブロリズマブを迅速承認した。さらに,コンパニオン診断薬としてFoundationOne® CDx を承認した。本邦においては2021 年11 月15 日に腫瘍遺伝子変異量高スコアを有する固形がんに対する医薬品の適応判定補助としてFoundationOne® CDx が承認された。

本邦ではFoundationOne® CDx 以外にも固形がん患者を対象とした腫瘍組織の包括的ながんゲノムプロファイリング検査として,OncoGuideTM NCC オンコパネルシステムが承認されている。本検査についてもFoundationOne® CDx 同様,全エクソームシーケンスとの強い相関性が報告されており13),免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測が期待される。しかし,2021 年6 月時点ではOncoGuideTM NCC オンコパネルシステムで検証された報告はない。遺伝子パネル毎にTMB スコアの算出アルゴリズムは異なり,ばらつきがある事には注意が必要である。現在,FoCR では,臨床試験で免疫チェックポイント阻害薬を投与された患者の臨床検体を後方視的に解析しており,その他の遺伝子パネル検査においても統一されたTMB スコアでの臨床実装が期待される。

さらに,血液検体を用いた固形がんの包括的ゲノムプロファイル検査としてFoundationOne® Liquid CDx がんゲノムプロファイルが2021 年3 月22 日に承認,Guardant360 CDx についても2021 年1 月28 日に製造販売承認申請されており,今後実地臨床で測定される機会が増えることが予想される。非小細胞肺がんを対象にドセタキセルに対するアテゾリズマブの優越性を検証したOAK 試験およびPOPLAR 試験では,血液検体をbTMB アッセイを用いて解析し,bTMB スコア16 以上の症例で,アテゾリズマブの効果が高いことが報告されており33),今後他がん種においても検証されることが期待される。

以上より,免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するためのTMB 測定検査として,組織を用いた分析学的妥当性が確立されたNGS 検査は推奨される。

CQ8
TMB-H に対する治療

PubMed で“Mutation and Tumor Burden or burden or TMB”,“PD-1 or PD-L1”,“treat”のキーワードで検索した。Cochrane Library も同等のキーワードで検索した。検索期間は1980 年1 月~2021 年1 月とし,PubMed から323 編,Cochrane Library から10 編が抽出された。一次スクリーニングで74 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで71 編が抽出され,これらを対象に定性的システマチックレビューを行った。

CQ8-1
TMB-H を有する切除不能・転移・再発固形がんに対して免疫チェックポイント阻害薬は勧められるか?

TMB-H を有する切除不能・転移・再発固形がんに対して免疫チェックポイント阻害薬の投与を推奨する。
推奨度Recommended[SR:6,R:14,ECO:0,NR:0]

KEYNOTE-158 試験において化学療法後に増悪した進行・再発の固形がんに対し,FoundationOne® CDx を用いてTMB スコアを測定し,TMB-H のカットオフ値を10 mut/Mb 以上としたペムブロリズマブの有効性を検証した結果,ペムブロリズマブはTMB-H 群でTMB-L 群と比較し高いORR を示した(29% vs. 6%)26)。臓器横断的にTMB-H 腫瘍では免疫チェックポイント阻害薬による治療効果が示されている。一方で,がん種によっては報告されている症例数が限られていること,免疫チェックポイント阻害薬の効果が得られていないがん種も存在することに注意が必要である(8.4.TMB-H 固形がんに対する抗PD-1/PD-L1 抗体薬の効果参照)。

CQ8-2
TMB-H を有する切除不能・転移・再発固形がんに対して免疫チェックポイント阻害薬はいつ使用すべきか?

化学療法後に増悪した進行・再発のTMB-H 固形がんに対して免疫チェックポイント阻害薬の使用を推奨する。
推奨度Recommended[SR:5,R:15,ECO:0,NR:0]

TMB-H 固形腫瘍に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性は,KEYNOTE-158 試験より化学療法後に増悪した進行・再発の固形がんを対象に示されている。そのため現時点では1 次治療の治療選択肢とはならない。TMB 測定検査法のturnaround time(TAT)を考慮すれば,原則としてTMB 測定検査の結果を待つことなく,臓器別に確立された1 次治療(標準的な治療)を開始することが望ましいと考えられる。しかし,その後の治療法を検討する上で重要なバイオマーカーであり,その他のバイオマーカーを含め早い段階で検査することを考慮する。

参考文献

1)
Alexandrov LB, Nik-Zainal S, Wedge DC et al. Signatures of mutational processes in human cancer. Nature. 2013;500(7463):415-421.
2)
Zehir A, Benayed R, Shah RH et al. Mutational landscape of metastatic cancer revealed from prospective clinical sequencing of 10,000 patients. Nat Med. 2017;23(6):703-713.
3)
Castle JC, Kreiter S, Diekmann J et al. Exploiting the mutanome for tumor vaccination. Cancer Res. 2012;72(5):1081-1091.
4)
Matsushita H, Vesely MD, Koboldt DC et al. Cancer exome analysis reveals a T-cell-dependent mechanism of cancer immunoediting. Nature. 2012;482(7385):400-404.
5)
Old LJ, Boyse EA, Clarke DA et al. Antigenic properties of chemically induced tumors. Ann. N. Y. Acad. Sci. 1962;101(1):80-106.
6)
Baldwin RW. Immunity to methylcholanthrene-induced tumours in inbred rats following atrophy and regression of the implanted tumours. Br J Cancer. 1955;9(4):652-657.
7)
Schumacher TN, Schreiber RD. Neoantigens in cancer immunotherapy. Science. 2015;348(6230):69-74.
8)
Chalmers ZR, Connelly CF, Fabrizio D, et al. Analysis of 100,000 human cancer genomes reveals the landscape of tumor mutational burden. Genome Med. 2017;9(1):34.
9)
Drilon A, Wang L, Arcila ME et al. Broad, hybrid capture-based next-generation sequencing identifies actionable genomic alterations in lung adenocarcinomas otherwise negative for such alterations by other genomic testing approaches. Clin Cancer Res. 2015;21(16):3631-3639.
10)
Garofalo A, Sholl L, Reardon B et al. The impact of tumor profiling approaches and genomic data strategies for cancer precision medicine. Genome Med. 2016;8(1):79.
11)
Roszik J, Haydu LE, Hess KR et al. Novel algorithmic approach predicts tumor mutation load and correlates with immunotherapy clinical outcomes using a defined gene mutation set. BMC Med. 2016;14(1):168.
12)
Merino DM, McShane LM, Fabrizio D et al. Establishing guidelines to harmonize tumor mutational burden(TMB):in silico assessment of variation in TMB quantification across diagnostic platforms:phase Ⅰ of the Friends of Cancer Research TMB Harmonization Project. J Immunother Cancer. 2020;8(1):e000147.
13)
Sunami K, Ichikawa H, Kubo T et al, Feasibility and utility of a panel testing for 114 cancer-associated genes in a clinical setting:A hospital-based study. Cancer Sci. 2019;110:1480-1490.
14)
Bachet JB, Bouché O, Taieb J et al. RAS mutation analysis in circulating tumor DNA from patients with metastatic colorectal cancer:the AGEO RASANC prospective multicenter study. Ann Oncol. 2018;29(5):1211-1219.
15)
Parikh AR, Leshchiner I, Elagina L et al. Liquid versus tissue biopsy for detecting acquired resistance and tumor heterogeneity in gastrointestinal cancers. Nat Med. 2019;25:1415-1421.
16)
Lawrence MS, Stojanov P, Polak P et al:Mutational heterogeneity in cancer and the search for new cancer-associated genes. Nature. 2013;499(7457):214-218.
17)
Chan TA, Yarchoan M, Jaffee E et al. Development of tumor mutation burden as an immunotherapy biomarker:utility for the oncology clinic. Ann Oncol. 2019;30(1):44-56.
18)
Yoshino T, Pentheroudakis G, Mishima S et al. JSCO-ESMO-ASCO-JSMO-TOS:international expert consensus recommendations for tumour-agnostic treatments in patients with solid tumours with microsatellite instability or NTRK fusions. Ann Oncol. 2020;31(7):861-872.
19)
Haricharan S, Bainbridge MN, Scheet P et al. Somatic mutation load of estrogen receptor-positive breast tumors predicts overall survival:an analysis of genome sequence data. Breast Cancer Res Treat. 2014;146:211-220.
20)
Gandara DR, Paul SM, Kowanetz M et al. Blood-based tumor mutational burden as a predictor of clinical benefit in non-small-cell lung cancer patients treated with atezolizumab. Nat Med. 2018;24(9):1441-1448.
21)
Yoshino T, Tukachinsky H, Lee JK et al. Genomic immunotherapy(IO)biomarkers detected on comprehensive genomic profiling(CGP)of tissue and circulating tumor DNA(ctDNA). J Clin Oncol. 2021;39(suppl 15:abstr 2541)
22)
Rooney MS, Shukla SA, Wu CJ et al, Hacohen N. Molecular and genetic properties of tumors associated with local immune cytolytic activity. Cell. 2015;160(1-2):48-61.
23)
Ott PA, Bang YJ, Piha-Paul SA et al. T-Cell-Inflamed Gene-Expression Profile, Programmed Death Ligand 1 Expression, and Tumor Mutational Burden Predict Efficacy in Patients Treated With Pembrolizumab Across 20 Cancers:KEYNOTE-028. J Clin Oncol. 2019;37(4):318-327.
24)
Samstein RM, Lee CH, Shoushtari AN et al. Tumor mutational load predicts survival after immunotherapy across multiple cancer types. Nat Genet. 2019;51(2):202-206.
25)
Yarchoan M, Hopkins A, Jaffee EM. Tumor Mutational Burden and Response Rate to PD-1 Inhibition. N Engl J Med. 2017;377(25):2500-2501.
26)
Marabelle A, Fakih M, Lopez J et al. Association of tumour mutational burden with outcomes 74 in patients with advanced solid tumours treated with pembrolizumab:prospective biomarker analysis of the multicohort, open-label, phase 2 KEYNOTE-158 study. Lancet Oncol. 2020;21(10):1353-1365.
27)
Meiri E, Garret-Mayer E, Halabi S et al. Pembrolizumab(P)in patients(Pts)with colorectal cancer(CRC)with high tumor mutational burden(HTMB):Results from the Targeted Agent and Profiling Utilization Registry(TAPUR)Study. J Clin Oncol. 2020;38(suppl4:abstr 133).
28)
Alva AS, Manget PK, Garrett-Mayer E, et al. Pembrolizumab in Patients With Metastatic Breast Cancer With High Tumor Mutational Burden:Results From the Targeted Agent and Profiling Utilization Registry(TAPUR)Study. J Clin Oncol. 2021;39(22):2443-2451.
29)
McGrail DJ, Pilié PG, Rashidd NU et al. High tumor mutation burden fails to predict immune checkpoint blockade response across all cancer types. Ann Oncol. 2021;32(5):661-672.
30)
Valero C, Lee M, Hoen D et al. Response Rates to Anti-PD-1 Immunotherapy in Microsatellite-Stable Solid Tumors With 10 or More Mutations per Megabase. JAMA Oncol. 2021;7(5):739-743.
31)
Touat M, Li YY, Boynton AN et al. Mechanisms and therapeutic implications of hypermutation in gliomas. Nature. 2020;580(7804):517-523.
32)
Khagi Y, Goodman AM, Daniels GA et al. Hypermutated Circulating Tumor DNA:Correlation with Response to Checkpoint Inhibitor-Based Immunotherapy. Clin Cancer Res. 2017;23:5729-5736.
33)
Gandara DR, Paul SM, Kowanetz M et al. Blood-based Tumor Mutational Burden as a Predictor of Clinical Benefit in Non-Small-Cell Lung Cancer Patients Treated With Atezolizumab. Nat Med. 2018;24(9):1441-1448.
34)
Eggermont AMM, Blank CU, Mandala M et al. Adjuvant Pembrolizumab versus Placebo in Resected Stage Ⅲ Melanoma. N Engl J Med. 2018;378(19):1789-1801.
35)
Romano E, Scordo M, Dusza SW et al. Site and timing of first relapse in stage Ⅲ melanoma patients:implications for follow-up guidelines. J Clin Oncol. 2010;28(18):3042-3047.
36)
Antonia SJ, Villegas A, Daniel D et al. Overall Survival with Durvalumab after Chemoradiotherapy in Stage Ⅲ NSCLC. N Engl J Med. 2018;379(24):2342-2350.
37)
Kelly RJ, Ajani JA, Kuzdzal J et al. Adjuvant Nivolumab in Resected Esophageal or Gastroesophageal Junction Cancer. N Engl J Med. 2021;384(13):1191-1203.

参考資料.TMB・PD-L1・MMR の関係

免疫チェックポイント阻害薬の有効性に対するバイオマーカーとしてMSI-H,TMB-H,PD-1/PD-L1 タンパク発現が報告されている。がん種により因子の割合は異なり,他因子とも交絡しうるものである。11,348 例の固形がんにおけるMSI(NGS 法),TMB,PD-L1 タンパク発現の関連を検証した報告では,がん種により頻度や交絡状況も様々である(図1表11,2)。さらに,Mutation burden が評価できた62,150 例の固形がんにおけるTMB-H とMSI-H やPOLE/POLD の関連を検証した試験の結果が報告された。全がん種での評価ではMSI-H 固形がんのうちTMB-H(≥10 mut/Mb)は97%と高かった。がん種別では消化管がんや子宮体がんでは同様の傾向を認めるものの,肺がんや悪性黒色腫ではMSI-H ではないTMB-H がんが多い(図23)。さらに,TMB-H に関連する遺伝子変化としてPOLE/POLD がある。特に,TMB が100 mut/Mb 以上のultrahypermutated とされるTMB-H 固形がんではPOLE/POLD 変異が関与していることが報告されている4,5)

図1 MSI‒H/TMB‒H/PD‒L1 status のがん種毎の関連性1)
表1 MSI‒H/TMB‒H/PD‒L1 status のがん種毎の関連性2)
図2 MSI‒H/TMB‒H のがん種毎の関連性3)

参考文献

1)
Vanderwalde A, Spetzler D, Xiao N et al. Microsatellite instability status determined by next-generation sequencing and compared with PD-L1 and tumor mutational burden in 11,348 patients. Cancer Med. 2018;7(3):746-756.
2)
Luchini C, Bibeau F, Ligtenberg MJL et al. ESMO recommendations on microsatellite instability testing for immunotherapy in cancer, and its relationship with PD-1/PD-L1 expression and tumour mutational burden:a systematic review-based approach. Ann Oncol. 2019[Epub ahead of print].
3)
Chalmers ZR, Connelly CF, Fabrizio D, et al. Analysis of 100,000 human cancer genomes reveals the landscape of tumor mutational burden. Genome Med. 2017;9(1):34.
4)
Zehir A, Benayed R, Shah RH et al. Mutational landscape of metastatic cancer revealed from prospective clinical sequencing of 10,000 patients. Nat Med. 2017;23(6):703-713.
5)
Campbell BB, Light N, Fabrizio D et al. Comprehensive Analysis of Hypermutation in Human Cancer. Cell. 2017;171(5):1042-1056.

Ⅴ その他

10その他の臓器横断的バイオマーカー

10.1 BRAF

BRAF 遺伝子はBRAF タンパクをコードする遺伝子であり,RAS/RAF/MEK/ERK 経路を構成するRAF ファミリーの一つである。RAF タンパクにはARAF,BRAF,CRAF が知られている。BRAF 遺伝子は7q34 に存在し,23 のエクソンからなる1)

BRAF 遺伝子変異は様々な疾患で報告されているが,変異したBRAF タンパクのキナーゼ活性により,class 1~class 3 に分類されている(表10-12)。Class 1 はBRAF V600 変異で,変異BRAF タンパクのキナーゼ活性は野生型とくらべ高度に上昇し(V600M では中等度),単量体の変異BRAF がRAS 非依存的に下流シグナルを活性化する。Class 2 もRAS 非依存性であり,キナーゼ活性が中等度~高度に上昇しており,野生型BRAF と二量体を形成し下流シグナルを活性化する。Class 3 は,キナーゼ活性は低下しているが,野生型BRAF またはCRAF と二量体を形成し,二量体が上流からの刺激により活性化されることで下流シグナルを活性化する。悪性黒色腫ではBRAF class 3 遺伝子変異にRAS/NF1 の変化を伴うことが多い2)。Class 1 変異は他のRAS 経路の遺伝子変化と相互排他的であるとされる一方で,class 2,class 3 ではRAS 依存性は症例ごとに異なっており,class 分類の問題点も指摘されている3)

表10-1 BRAF 遺伝子変異のclass 分類(文献2 より)

Caris Life Sciences 社から報告された114,662 例のNGS を用いた解析結果では,BRAF 遺伝子変異は全体で3.9%(4,517/114,662 例)に認められた4)。うち62.1%がclass 1(V600 変異)であり,16.5%がclass 2,17.7%がclass 3 であった。がん種別の頻度では,悪性黒色腫が39.7%(1,271/3,203 例),甲状腺がん33.3%(165/496 例),小腸がん8.9%(66/742 例)の順に頻度が高く,大腸がん8.7%(1,280/14,680 例),非小細胞肺がん4.1%(772/18,944 例),胆管がん3.8%(79/2,068 例),low grade glioma 3.1%(15/478 例)でBRAF 遺伝子変異が認められた。また,classic hairy cell leukemia ではほぼ全例にBRAF V600E 変異が認められる5)。ほかにも,Erdheim-Chester 病6)やランゲルハンス細胞組織球症7)でも高頻度でBRAF 遺伝子変異が報告されている。

BRAF 遺伝子変異を有する悪性腫瘍に対して,現在本邦においてはRAF 阻害薬,MEK 阻害薬が使用可能である(表10-2)。

表10-2 BRAF 遺伝子変異を対象とする承認薬(2021 年9 月現在)35)

BRAF V600E/K 変異を有する悪性黒色腫に対して,RAF 阻害薬であるベムラフェニブをダカルバジンと比較したランダム化第Ⅲ相試験BRIM-3 試験において,ベムラフェニブは奏効割合(48%対5%),PFS(中央値5.3 か月対1.6 か月,HR 0.26,P<0.0001),OS(中央値13.6 か月対9.7 か月,HR 0.70,P=0.0008)を有意に改善した8,9)。ダブラフェニブとダカルバジンを比較したランダム化第Ⅲ相試験BREAK-3 試験では,ダブラフェニブは奏効割合(50%対7%),PFS(中央値5.1 か月対2.7 か月,HR 0.30,P<0.0001)を有意に改善した10)。また,エンコラフェニブ+ビニメチニブとベムラフェニブ単剤,エンコラフェニブ単剤を比較したランダム化第Ⅲ相試験COLUMBUS 試験では,PFS 中央値はエンコラフェニブ+ビニメチニブで14.9 か月,ベムラフェニブ単剤で7.3 か月,エンコラフェニブ単剤で9.6 か月であった11)

BRAF V600E/K 変異を有する悪性黒色腫に対するMEK 阻害薬については,トラメチニブと化学療法を比較したランダム化第Ⅲ相試験METRIC 試験では,トラメチニブによりPFS(中央値4.8 か月対1.5 か月,HR 0.45,P<0.001),OS(HR 0.54,P=0.01)が有意に改善した12)

現在では,BRAF V600E/K 変異を有する悪性黒色腫に対して最も有効な分子標的治療はRAF 阻害薬とMEK 阻害薬の併用と考えられている。ダブラフェニブ+トラメチニブとベムラフェニブを比較したランダム化第Ⅲ相試験COMBI-v 試験では,奏効割合(64%対51%)13),PFS(中央値12.6 か月対7.3 か月,HR 0.61),OS(中央値25.6 か月対18.0 か月,HR 0.66)はいずれも併用群で優れていた14)。ダブラフェニブ+トラメチニブとダブラフェニブを比較したランダム化第Ⅲ相試験COMBI-d 試験でも,ダブラフェニブ+トラメチニブ併用は奏効割合(68%対55%),PFS(HR 0.71),OS(HR 0.75)のいずれも優れていた15,16)。COMBI-v 試験とCOMBI-d 試験の統合解析でも,ダブラフェニブ+トラメチニブ併用は,PFS 中央値11.1 か月,OS 中央値25.9 か月とその有効性が示されている17)。ベムラフェニブ+コビメチニブをベムラフェニブ単剤療法と比較したランダム化第Ⅲ相試験coBRIM 試験でも,奏効割合(70%対50%),PFS(中央値12.3 か月対7.2 か月,HR 0.58,P<0.0001),OS(中央値22.3 か月対17.4 か月,HR 0.70,P=0.005)は有意にベムラフェニブ+コビメチニブ併用群で優れていた18)。エンコラフェニブ+ビニメチニブとベムラフェニブ単剤,エンコラフェニブ単剤を比較したランダム化第Ⅲ相試験COLUMBUS 試験においても,奏効割合(64%対52%対41%),PFS(中央値14.9 か月対9.6 か月対7.3 か月),OS(中央値33.6 か月対23.5 か月対16.9 か月)とエンコラフェニブ+ビニメチニブ併用群が最も優れる傾向が認められた11,19)

V600E/K 以外のBRAF 遺伝子変異を有する悪性黒色腫に対しては,レトロスペクティブな検討であるが,奏効割合はRAF 阻害薬0%(0/15 例),MEK 阻害薬40%(2/5 例),RAF 阻害薬+MEK 阻害薬28%(5/18 例),PFS 中央値はRAF 阻害薬1.8 か月,MEK 阻害薬3.7か月,RAF 阻害薬+MEK 阻害薬3.3 か月と報告されている20)

非小細胞肺がんにおいても,RAF 阻害薬,MEK 阻害薬の有効性が報告されている。BRAF V600E 遺伝子変異を有する固形がんを対象にベムラフェニブ単剤を検討した第Ⅱ相試験VE-BASKET 試験では,非小細胞肺がんコホートの奏効割合は42%,PFS 中央値は7.3 か月であった21)。未治療のⅣ期非小細胞肺がん36 例を対象として行われたダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法の第Ⅱ相試験では,奏効割合64%,PFS 中央値10.9 か月であった22)。既治療のⅣ期非小細胞肺がん57 例を対象としたダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法の第Ⅱ相試験では,奏効割合63.2%,PFS 中央値9.7 か月であった23)。肺がん診療ガイドラインにおいてもBRAF 遺伝子変異陽性にダブラフェニブ+トラメチニブを行うよう推奨されている24)

大腸がんにおいてBRAF 遺伝子変異症例は野生型症例と比較して従来薬物療法の効果が乏しく予後不良であるとされていた。このため,RAF 阻害薬,MEK 阻害薬の効果が期待されたものの,その効果は限定的であった。ベムラフェニブ単剤を検討した第Ⅱ相試験では,奏効割合5%(1/20 例),PFS 中央値2.1 か月であった25)。ダブラフェニブ+トラメチニブ併用を検討した第Ⅱ相試験でも,奏効割合12%(5/43 例),PFS 中央値3.5 か月であった26)。RAF 阻害薬の効果が低い原因として,BRAF 阻害によりフィードバックがかかり,EGFR の再活性化を来すことが考えられたため,RAF 阻害薬,MEK 阻害薬にEGFR 阻害薬を併用することの有効性が検証された。ランダム化第Ⅲ相試験BEACON CRC 試験は,BRAF V600E遺伝子変異を有する大腸がんに対して,エンコラフェニブ+ビニメチニブ+セツキシマブ3剤併用療法,およびエンコラフェニブ+セツキシマブ2 剤併用療法の有効性を,化学療法(イリノテカンセツキシマブあるいはFOLFIRI+セツキシマブ)と比較した27)。奏効割合は3 剤併用26%,2 剤併用20%,化学療法群2%,PFS 中央値は3 剤併用4.3 か月,2 剤併用4.2 か月,化学療法群1.5 か月,OS 中央値は3 剤併用9.0 か月,2 剤併用8.4 か月,化学療法群5.4 か月と,併用群で優れていた。この結果により,大腸がんにおいてBRAF V600E 遺伝子変異を認めた場合,RAF 阻害薬/MEK 阻害薬のみではなく,エンコラフェニブ+ビニメチニブ+セツキシマブあるいはエンコラフェニブ+セツキシマブ療法が推奨されている。

その他の固形がんに対しては,basket 試験がいくつか報告されている。悪性黒色腫,甲状腺乳頭癌,hairy cell leukemia 以外のBRAF V600E 遺伝子変異を有する固形がんを対象に行われた第Ⅱ相試験VE-BASKET 試験において,172 例がベムラフェニブ単剤を投与され,奏効割合は32.6%,PFS 中央値5.8 か月,OS 中央値17.6 か月であった28)。奏効は非小細胞肺がん,組織球腫瘍,グリオーマ,甲状腺未分化癌,胆管がん,卵巣がん,明細胞肉腫,唾液腺導管癌,神経内分泌癌でみられた。Erdheim-Chester 病あるいはランゲルハンス組織球症コホートでは奏効割合43%,PFS 中央値5.9 か月であった21)。別のbasket 試験として,NCI-MATCH 試験のサブプロトコールH ではBRAF V600E 遺伝子変異を有する固形がんに対してダブラフェニブ+トラメチニブが検討され,登録された35 例のうち29 例の解析では奏効割合38%,PFS 中央値11.4 か月であった29)。NCI-MATCH 試験のサブプロトコールR ではV600E 以外のBRAF 遺伝子変異を有する固形がんを対象にトラメチニブ単剤が検討され,32 例における奏効割合は3%,PFS 中央値は1.8 か月,OS 中央値は5.7 か月であった。奏効例はBRAF G469E 遺伝子変異を有する浸潤性乳がんで認められた。BRAF V600E 遺伝子変異を有する甲状腺未分化癌におけるダブラフェニブ+トラメチニブの報告では,16 例に対して奏効割合69%,PFS とOS は中央値未到達であった30)。BRAF V600E 遺伝子変異を有する甲状腺乳頭癌に対するベムラフェニブ単剤の報告では,VEGFR 阻害薬未治療例で奏効割合38.5%,既治療例27.3%であった31)。Basket 試験であるROAR 試験ではダブラフェニブ+トラメチニブが検討され,胆道がんコホート43 例の報告では奏効割合47%,PFS 中央値9か月であった32)。Hairy cell leukemia に対してベムラフェニブを検討した二つの第Ⅱ相試験の統合解析の結果では,奏効割合96%,完全奏効はそれぞれの試験で35%と42%に認められた33)

以上のようにBRAF 遺伝子変異は多くのがん種にまたがって認められ,特にBRAF V600E 遺伝子変異に対して,大腸がん以外ではRAF 阻害薬やMEK 阻害薬の有効性が示されている。大腸がんではEGFR 阻害薬との併用が有効である34)

10.2 HER2(ERBB2)

Human epidermal growth factor 2 receptor(HER2)遺伝子は,ERBB2 とも呼ばれ,17 番染色体の長腕(17q21)に位置するがん遺伝子である。HER2 タンパクは,チロシンキナーゼ受容体のHER/ErbB ファミリーを構成して,細胞表面に存在する36)。HER2 への可溶性リガンドはなく,リガンドを持つ他のHER ファミリーメンバーとの二量体形成によって活性化され,細胞内へのシグナル伝達が開始される。

HER2 活性化のメカニズムとしては,遺伝子変異,遺伝子増幅,タンパク過剰発現という3 つのサブグループが報告されている37,38)。遺伝子変異は,遺伝子増幅やタンパク過剰発現とは発生メカニズムが異なることから,異なる臨床的特徴,予後および薬剤への感受性が予想される39)。一部のHER2 遺伝子変異が真の「ドライバー」変異で可能性も示唆されている。HER2 活性化に際し3 つのサブグループに共通して,ホモまたはヘテロ二量体化と自己リン酸化の増加に伴う受容体の活性化が起こり,これによりマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK),ホスホイノシチド3 キナーゼ(PI3K)/プロテインキナーゼB(AKT),プロテインキナーゼC(PKC)など,細胞増殖を引き起こす複数のシグナル伝達経路が導かれる36,40)

HER2 遺伝子変異は,逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)や,次世代シークエンス(NGS)などのシークエンス法によって検出可能である。HER2 タンパク発現は,HER2 遺伝子変異との相関はみられなかった39)。HER2 遺伝子増幅の定義は,「蛍光in situ ハイブリダイゼーション(FISH)によるセントロメアに対するHER2 遺伝子コピー数の平均比率[HER2/chromosome enumeration probe 17(CEP17)]が2 以上」が最も受け入れられている41,42)。乳がんでは,2.2 以上を陽性とし,1.8~2.2 に関しては境界域として再検査を推奨している。HER2 タンパク過剰発現を検出する方法として,免疫組織化学(IHC)による0~3+のスコアリングシステム(IHC 0-1+はHER2 陰性,IHC 2+は弱~中程度,IHC 3+は腫瘍細胞の10%以上に染色があれば強いと定義される)が実臨床において一般的に使用されている。乳がんでは,IHC 3+は腫瘍細胞の30%以上としていること,胃がんの生検標本では陽性染色がある癌細胞クラスター(5 個以上の癌細胞の集塊)が1 個以上をIHC 3+としていることには注意が必要である。

乳がん,胃がん,膀胱がんなどではHER2 遺伝子増幅・タンパク過剰発現がみられることが知られている。大規模な遺伝子解析が行われた結果,HER2 遺伝子増幅は乳がんで最も頻度が高く,続いて胃がんであることが報告された43-45)。現在,HER2 遺伝子増幅・タンパク過剰発現を有する乳がんの治療薬として国内で保険承認されているのものは,5 種類のHER2 阻害剤となる。モノクローナル抗体であるトラスツズマブとペルツズマブ,抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブエムタンシンとトラスツズマブデルクステカン,EGFR/HER2 チロキシンキナーゼ阻害剤であるラパチニブである。モノクローナル抗体は,乳がん治療において,化学療法との併用により,特に補助療法において,HER2 遺伝子増幅乳がん患者の治療成績を大幅に改善した。乳がんとは異なり,HER2 遺伝子増幅・タンパク過剰発現を有する胃がん薬剤にはトラスツズマブのみが承認されていたが,2 レジメン以上の治療歴を有する症例において標準的化学療法に比較して高い奏効率,生存期間の延長が認められた結果,トラスツズマブデルクステカンも2021 年に適応が追加された46)。一方で,トラスツズマブエムタンシンとラパチニブはHER2 遺伝子増幅・タンパク過剰発現を有する胃がんにおいて期待されていたが,標準治療に比較して生存期間の延長を示せなかった。HER2 遺伝子増幅・タンパク過剰発現を有する唾液腺がんにおいて,トラスツズマブとドセタキセルの併用療法が,高い奏効率および臨床的有用率,長期の無増悪生存期間および生存期間を示すことが本邦より報告され,2021 年に国内で保険承認された47)。トラスツズマブとラパチニブの併用療法,トラスツズマブとペルツズマブの併用療法,トラスツズマブエムタンシン,トラスツズマブデルクステカンは,肺がんや大腸がんなど,HER2 遺伝子増幅を有する他のがん種を対象に,現在,臨床試験が行われている48-50)

HER2 遺伝子変異(主にエクソン20 のinsertion)は,低頻度ではあるが肺がんにおいて存在することが報告され51,52),その後,HER2 タンパク質の活性化に寄与することが示された53)。近年,乳がん,大腸がん,膀胱がんなど,複数のがん種でHER2 遺伝子変異が報告されている54)。全がん患者のうち2%近くで,HER2 遺伝子のホットスポット変異または活性化である可能性の高い変異を有し,HER2 を標的とした治療法への感受性を示唆する前臨床および臨床のデータも報告されている。複数のHER2 遺伝子変異を発現させたMCF10A 細胞株において,トラスツズマブに対する中程度の感受性が観察された55)。S310F/Y とV777L 変異を有する細胞株でラパチニブへの感受性を示したが,L755S,L869R,エクソン20 挿入/欠失などの他の変異を有する細胞株ではラパチニブ耐性を示した。Bose らは,HER2 遺伝子変異を保有する大腸がん患者の腫瘍組織移植モデル(PDX)が,HER2 阻害剤に反応するかどうかを調べた。その中でHER2S310Y またはHER2L866M を保有するPDX は,EGFR モノクローナル抗体であるセツキシマブおよびパニツムマブには耐性を示したが,EGFR/HER2 チロキシンキナーゼ阻害剤のネラチニブには感受性を示した56)。これらの前臨床試験に加えて,HER2 遺伝子変異を有する肺がんや乳がんの患者が,トラスツズマブ,トラスツズマブ+ペルツズマブ,あるいはネラチニブに反応したことを示す症例報告がある57-60)。不可逆的なEGFR/HER2 チロキシンキナーゼ阻害剤であるネラチニブとアファチニブ,ADCであるトラスツズマブエムタンシンとトラスツズマブデルクステカンは,HER2 変異を有する固形がんの治療において期待が持たれている。

10.3 FGFR

線維芽細胞受容体(fibroblast growth factor receptor;FGFR)は,4 つのサブタイプ(FGFR1~4)があり,3 つの免疫グロブリン様ドメイン(Ig-like domain;D1~3)を有する細胞外ドメイン,膜貫通ドメイン,および細胞内チロシンキナーゼドメインからなる膜貫通型受容体である61)。これらに対し22 種類のリガンド(FGF)が存在する。FGF がFGFR のD3 ドメインに結合することにより2 量体化したFGFR から,FGFR 基質(FGFR substrate;FRS)2 を介したPI3K/AKT 経路やRAS/RAF/MAPK 経路,その他ホスホリパーゼCγ経路などのシグナル伝達が生じ,がんの増殖,生存,血管新生,薬剤耐性,微小環境における免疫回避などに関与するとされる61)。次世代シークエンサ―を用いた4,853 例(18 がん種)の大規模なFGFR 遺伝子解析の結果,343 例(7.1%)にFGFR 遺伝子異常(増幅66%,変異26%,再構成8%)を認めたと報告されている62)。遺伝子サブタイプ別の頻度はFGFR1(49%),FGFR3(26%),FGFR2(19%),FGFR4(7%)の順であった。がん種別の頻度は,尿路上皮がん(32%),乳がん(17%),子宮内膜がん(11%),卵巣がん(9%),原発不明がん(8%),グリオーマ(8%),胆管がん(7%),胃がん(7%),非小細胞肺がん(5%),および膵がん,頭頸部扁平上皮がん,大腸がん,肉腫(4~5%)の順であった。FGFR1 遺伝子は大部分に増幅(89%),FGFR2 遺伝子は増幅(49%),変異に次いで再構成(16%),FGFR3 遺伝子は変異,増幅に次いで再構成(19%)を認めた。

FGFR3 変異やFGFR2/3 遺伝子再構成を高頻度に有する胆管がんや尿管がんを中心として選択的FGFR チロシンキナーゼ阻害剤の治療開発が進められた(表10-3)。FGFR3 変異やFGFR2/3 融合遺伝子を有する進行尿路上皮がんを対象としたerdafitinib の第Ⅱ相試験(BLC2001)において,奏効割合40%,無増悪生存期間(PFS)中央値5,5 か月と良好な治療成績であり,2019 年4 月にerdafitinib がFDA 承認(本邦未承認)された63)。さらに進行胆管がんを対象としたpemigatinib の第Ⅱ相試験(FIGHT-202)において,FGFR2 融合遺伝子を有するコホートで奏効割合35.5%,PFS 中央値6.9 か月と良好な結果が示され,2020 年4 月にpemigatinib がFDA 承認(2021 年3 月本邦承認)された64)。FGFR2 融合遺伝子を有する胆管がんに対するinfigratinib の第Ⅱ相試験においても,奏効割合23.1%,PFS 中央値7.3 か月と良好な治療成績であり,2021 年5 月にFDA 承認(本邦未承認)された65)。共有結合型FGFR 阻害剤futibatinib についてもFGFR2 融合遺伝子を有する進行肝内胆管がんを対象とした第Ⅱ相試験(FOENIX-CCA2)の中間解析において,奏効割合37.3%と良好な成績を示し,2021 年4 月にFDA よりブレークスルー・セラピー指定を受けている66)。さらに一次治療などのより早い治療ライン,免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法,遺伝子増幅例を含む他がん種での治療開発も行われており,より幅広い臨床応用が期待される。

表10-3 選択的FGFR 阻害剤

10.4 RAS

RAS はrat sarcoma virus と呼ばれるラットの肉腫の原因ウィルスに名前が由来する分子量21,000 の単量体グアノシン三リン酸(GTP)結合タンパクであり,KRAS,NRAS,HRAS の3 種類のアイソフォームが存在する67,68)。RAS 遺伝子は,KRAS が12 番染色体,NRAS が1 番染色体,HRAS が11 番染色体に位置し,それぞれ4 つのエクソンと3 つのイントロンからなる。RAS 遺伝子変異によりアミノ酸置換が生じるとRAS のGTPase としての機能が低下して,恒常的な活性化状態となり,下流にシグナルを送り続ける。この過剰なシグナルが発がんやがんの増殖に関与していると考えられている。RAS 阻害剤の開発はGTP 結合部位の小分子化合物に集中していたが,マイクロモルレベルのGTP 高親和性とGTP のミリモル細胞濃度,RAS 蛋白質構造上の明らかな疎水性ポケットの欠如も相まって直接阻害剤の開発は難渋していた69)。しかし,近年徐々に開発が進み,直接阻害剤による有効性も報告されてきている。

KRAS は3 つのアイソフォームの中でも多くのがん種で高頻度に変異が認められている67)。KRAS 変異のうち,約80%はcodon 12 における変異であると推定されている70)。そのなかでもKRAS G12C は非小細胞肺がんの約13%,結腸直腸がんの約3%,膵がん・子宮内膜がん・膀胱がん・卵巣がん・小細胞肺がん等の約1-2%で認められる71-73)図10-174)。KRAS G12C 阻害薬であるsotorasib はKRAS のP2 ポケットに不可逆的に結合する低分子化合物である。KRAS G12C をグアノシン二リン酸が結合した不活性型の高次構造のまま保持する。これにより下流シグナル伝達が阻害される75)。KRAS G12C 変異陽性進行固形腫瘍患者を対象にsotorasib の安全性を検証する第Ⅰ相試験が行われ,安全性と忍容性が確認されたのと同時に癌腫横断的に奏効症例が認められた76)。標準治療による治療歴のあるKRAS G12C 変異陽性進行非小細胞肺がん患者を対象とした単群第Ⅱ相試験において,sotorasib のORR は37.1%(95%CI 28.6-46.2),DCR は80.6%(95% CI 72.6-87.2),奏効期間の中央値は11.1 か月(95% CI 6.9-評価不能)であった。PFS 中央値は6.8 か月(95% CI 5.1-8.2),OS の中央値は12.5 か月(95% CI 10.0-評価不能)と良好な結果が報告された77)。この結果をもとに2021 年5 月28 日にFDA で少なくとも1 ラインの全身治療歴を有するKRAS G12C 変異陽性の局所進行または転移を有する非小細胞肺癌を対象に迅速承認された。また,同時にコンパニオン診断薬として「QIAGEN therascreen KRAS RGQ PCR kit」と「Guardant360CDx」も承認された。Sotorasib は本邦でも承認申請されている。さらに,1 ラインの全身治療歴を有するKRAS G12C 変異陽性の局所進行または転移を有する結腸直腸がんでは前述の第Ⅰ相試験ではORR 7.1%(95%CI 1.5-19.5)であった。同対象に対してsotorasib と抗EGFR 抗体薬であるパニツムマブ併用療法の安全性と有効性を検証する第Ⅰb 相試験の結果も報告され,併用療法によるORR 15.4%とより良好な結果が報告された78)

現在,KRAS G12C 阻害薬やG12C 以外を対象としたRAS 阻害薬,ヌクレオチド交換およびRAS-GTP の形成を促進するグアニンヌクレオチド交換因子(SOS1 等)をターゲットとした薬剤開発,これらと化学療法や他の分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬との併用療法の有効性を検証する試験が多数実施されている。

図10-1 KRAS G12C 変異のがん種別頻度74)

10.5 BRCA1/2

BRCA1/2(Breast Cancer Susceptibility Gene 1/2)はそれぞれ17q21,13q12 に位置し,DNA 二本鎖切断に対する相同組み替え修復に深く関与している。BRCA1/2 の機能が低下した細胞においてはDNA 一本鎖切断に対する塩基除去修復を担うPARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)の働きが重要となるが,このPARP の機能を阻害するとDNA 損傷の修復が不可能となり,細胞死がもたらされる。また,このような細胞では白金製剤への感受性が高いことも報告されている。

BRCA1/2 の変異はBRCA1/2 関連腫瘍とされる乳がん,卵巣がん,前立腺がん,膵臓がん以外にも臓器横断的に認められる。様々ながん種の腫瘍組織234,154 検体をNGS ベースのがん遺伝子パネル検査で解析した研究では,BRCA1/2 の変異が全体の4.7%で認められた(図10-2)。また,BRCA1/2 の変異が両アリルで認められたのは全体の3.2%で,BRCA1/2 関連腫瘍では8.9%,それ以外のがん種では1.3%であった79)

図10-2 BRCA1/2 変異のがん種別頻度79)

BRCA1/2 関連腫瘍では,PARP 阻害薬の効果が第Ⅲ相試験で示されている。

乳がんでは,生殖細胞系列のBRCA1/2 陽性かつHER2 陰性でアントラサイクリン系及びタキサン系抗悪性腫瘍薬の治療歴を有する患者を対象とし,オラパリブ単剤と医師が選択した標準的な化学療法を比較した第Ⅲ相試験(OlympiAD 試験)において,無増悪生存期間の有意な延長が認められた(7.0 か月vs. 4.2 か月HR 0.58 95% CI 0.43-0.80, p<0.001)80)

卵巣がんでは,生殖細胞系列もしくは体細胞系列のBRCA1/2 変異陽性で白金系抗悪性腫瘍薬を含む初回化学療法で奏効が維持されている高異型度漿液性または類内膜卵巣がん(原発性腹膜がん及び卵管がんを含む)を対象とし,オラパリブとプラセボを比較した第Ⅲ相試験(SOLO1 試験)において,3 年無増悪生存割合は60% vs. 27%(HR 0.30 95% CI 0.23-0.41,p<0.001)であった81)

前立腺がんでは,相同組換え修復関連遺伝子変異陽性でアビラテロンまたはエンザルタミドの治療歴のある去勢抵抗性前立腺がんを対象とし,オラパリブ単剤とエンザルタミドもしくはアビラテロン(いずれか未治療の方)を比較した第Ⅲ相試験(PROfound 試験)において,主要評価項目であるBRCA1/2 もしくはATM に病的バリアントを有する群での無増悪生存期間の有意な延長が認められた(7.4 か月vs. 3.6 か月HR 0.34 95%CI 0.25-0.47, p<0.001)82)

膵がんでは,生殖細胞系列のBRCA1/2 変異陽性で白金系抗悪性腫瘍薬を含む一次化学療法が16週間以上継続された後疾患進行が認められていない膵腺癌患者を対象とし,オラパリブ単剤とプラセボを比較した第Ⅲ相試験(POLO 試験)において,無増悪生存期間の有意な延長が認められた(7.4 か月vs. 3.8 か月HR 0.53 95%CI 0.35-0.82, p=0.004)83)

他のがん種においては明確な有効性は示されてはいないが,生殖細胞系列のBRCA1/2 変異陽性患者を対象としたtalazoparib の第Ⅰ相試験では,小細胞肺がん23 例中2 例(8.7%)で部分奏効が得られたことが報告されている84)。現在BRCA1/2 変異陽性や相同組換え修復関連遺伝子変異陽性例を対象としたがん種横断的な試験がいくつか行われており,結果が待たれる。

なお,BRCA1/2 は体細胞で病的バリアントが認められた場合に生殖細胞系列由来である可能性が高い遺伝子の一つである85)。腫瘍組織のみを検体として用いるがん遺伝子パネル検査においてBRCA1/2 の病的バリアントが検出された際には,適切な遺伝カウンセリングの実施,そして生殖細胞系列の確認検査の機会の提供が推奨される。

10.6 ALK

未分化リンパ腫キナーゼ(anaplastic lymphoma kinase;ALK)はインスリン受容体スーパーファミリーに属する受容体チロシンキナーゼである。染色体2p23 に存在し,未分化大細胞型リンパ腫,神経芽腫および非小細胞肺がんを含む様々ながん種において,融合遺伝子,変異,そして遺伝子増幅が認められている86,87)。融合遺伝子は腫瘍で認められるALK の遺伝子変化で最も一般的であり,EML4 以外にNPM1,STRN,CLTC,TNS1,KIF5B などがパートナー遺伝子として報告されている88)

遺伝子プロファイル検査が行われた114,200 例の検討では,非小細胞肺癌で3.1%(675/21,522 例)に,非小細胞肺癌を除く固形腫瘍では0.2%(201/92,678 例)でALK 融合遺伝子が検出された。ALK 融合遺伝子が検出された癌種は,乳癌,大腸癌,リンパ腫,卵巣癌,膵癌,炎症性筋線維芽細胞性腫瘍,平滑筋肉腫,軟部肉腫,甲状腺乳頭癌,原発不明癌,子宮肉腫などであった。

ALK 融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌に対しては本邦ではクリゾチニブ,セリチニブ,アレクチニブ,ブリグチニブ,ロルラチニブが承認されている。クリゾチニブ,セリチニブは,ALK 陽性の未治療非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験において,両薬剤ともにプラチナ製剤併用療法に対する無増悪生存期間の有意な改善が報告されている89,90)。アレクチニブとクリゾチニブの第Ⅲ相試験においては,国内の試験でPFS 中央値34.1vs 10.2 か月(HR 0.37, 95%CI:0.26-0.52, P<0.001)91),海外の試験でPFS 中央値34.8vs 10.9 か月(HR 0.43,95%CI:0.32-0.58, P<0.001)92)とアレクチニブの有効性が示されている。さらに,ALK 陽性の非小細胞肺癌の初回治療での比較試験が,ブリグチニブ,ロルラチニブでも報告されている。ブリグチニブとクリゾチニブを比較する第Ⅲ相試験が行われ,PFS の有意な延長が示されている(未到達vs 9.8 か月,HR 0.49, 95%CI:0.33-0.74, P<0.001)93)。ロルラチニブは,クリゾチニブとの第Ⅲ相試験でも,中間解析でPFS の有意な延長が示され(未到達vs 9.3 か月,HR 0.28, 95%CI:0.19-0.41, P<0.001)94)

炎症性筋線維芽細胞性腫瘍に対するクリゾチニブの単群第Ⅱ相試験の,ALK 陽性コホート(IHC とFISH で確認された)では,奏効割合50%(12 人中6 人奏効)であった95)。また,ALK 融合遺伝子陽性固形腫瘍(肺癌を除く)に対してALK 阻害薬の投与がされた7 例のレトロスペクティブな報告があり,癌腫は炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(3 例),組織球症(1 例),組織球肉腫(1 例),骨肉腫(1 例),耳下腺癌(1 例)であった。ALK 融合遺伝子は,IHC,FISH もしくはNCC オンコパネルで評価されていた。初回のALK 阻害薬として,クリゾチニブ(2 例),アレクチニブ(5 例)が投与され,奏効割合は85.7%(7 人中6 人で奏効)であり,PFS の中央値は8.1 か月であった96)。ALK 融合遺伝子陽性炎症性筋線維芽細胞性腫瘍に対してクリゾチニブを投与された8 例の検討では,CR,PR,SD がそれぞれ4 例,3 例,1 例に認められたと報告されている97)

非小細胞肺癌を除く,ALK 融合遺伝子陽性固形腫瘍に対するALK 阻害薬のデータは限られており,とくに炎症性筋線維芽細胞性腫瘍以外の固形腫瘍においては,さらなる症例集積データが必要である。

代表的な小児がんの一つである神経芽腫においては,6-10%の症例に体細胞変異としてALK 変異が検出され,F1174(51%)変異の頻度が最も高く,続いてR1275(29%),R1245(10%), その他(10%)である。また,頻度は低いが,1-2%の症例に生殖細胞系列変異としてALK 変異が検出される98)。米国小児がん研究グループ(Children’s Oncology Group)は,ALK 変異を有する再発・難治性神経芽腫(ADVL0912)に対するクリゾチニブの第I/Ⅱ相試験を施行し,体細胞変異ALK Arg1275Gln を有する症例においては,奏効率25%(3/12)(CR:1/12,PR:2/12)であった。しかしながら,その他のALK 活性型ミスセンス変異,増幅症例においては,反応性を認めなかった。現在,国内で第二世代アレクチニブ,国外で第三世代ロルラチニブを用いた試験が行われている99)

参考文献

1)
BRAF B-Raf proto-oncogene, serine/threonine kinase[Homo sapiens(human)]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/673 accessed on 20/SEP/2021
2)
Yao Z, Yaeger R, Rodrik-Outmezguine VS et al. Tumours with class 3 BRAF mutants are sensitive to the inhibition of activated RAS. Nature. 2017;548(7666):234-238.
3)
Zhao Y, Yu H, Ida CM et al. Assessment of RAS Dependency for BRAF Alterations Using Cancer Genomic Databases. JAMA Netw Open. 2021;4(1):e2035479.
4)
Owsley J, Stein MK, Porter J et al. Prevalence of class I-Ⅲ BRAF mutations among 114,662 cancer patients in a large genomic database. Exp Biol Med(Maywood). 2021;246(1):31-39.
5)
Naing PT, Acharya U. Hairy Cell Leukemia. 2021 Aug 11. In:StatPearls[Internet]. Treasure Island(FL):StatPearls Publishing;2021 Jan―. PMID:29763020.
6)
Goyal G, Heaney ML, Collin M et al. Erdheim-Chester disease:consensus recommendations for evaluation, diagnosis, and treatment in the molecular era. Blood. 2020;135(22):1929-1945.
7)
Gulati N, Allen CE. Langerhans cell histiocytosis:Version 2021. Hematol Oncol. 2021;39 Suppl 1:15-23.
8)
Chapman PB, Hauschild A, Robert C et al:Improved survival with vemurafenib in melanoma with BRAF V600E mutation. N Engl J Med. 2011;364(26):2507-2516.
9)
McArthur GA, Chapman PB, Robert C et al. Safety and efficacy of vemurafenib in BRAF (V600E)and BRAF(V600K)mutation-positive melanoma(BRIM-3):extended follow-up of a phase 3, randomised, open-label study. Lancet Oncol. 2014;15(3):323-332.
10)
Hauschild A, Grob J-J, Demidov LV et al. Dabrafenib in BRAF-mutated metastatic melanoma:amulticentre, open-label, phase 3 randomised controlled trial. Lancet. 2012;380(9839):358-365.
11)
Dummer R, Ascierto PA, Gogas HJ et al. Encorafenib plus binimetinib versus vemurafenib or encorafenib in patients with BRAF-mutant melanoma(COLUMBUS):a multicentre, open-label, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2018;19(5):603-615.
12)
Flaherty KT, Robert C, Hersey P et al. Improved survival with MEK inhibition in BRAF-mutated melanoma. N Engl J Med. 2012;367(2):107-114.
13)
Robert C, Karaszewska B, Schachter J et al. Improved overall survival in melanoma with combined dabrafenib and trametinib. N Engl J Med. 2015;372(1):30-39.
14)
Dhillon S. Dabrafenib plus Trametinib:a Review in Advanced Melanoma with a BRAF(V600)Mutation. Target Oncol. 2016;11(3):417-428.
15)
Long GV, Stroyakovskiy D, Gogas H, et al. Dabrafenib and trametinib versus dabrafenib and placebo for Val600 BRAF-mutant melanoma:a multicentre, double-blind, phase 3 randomised controlled trial. Lancet. 2015;386(9992):444-451.
16)
Long GV, Flaherty KT, Stroyakovskiy D et al. Dabrafenib plus trametinib versus dabrafenib monotherapy in patients with metastatic BRAF V600E/K-mutant melanoma:long-term survival and safety analysis of a phase 3 study. Ann Oncol. 2017;28(7):1631-1639.
17)
Robert C, Grob JJ, Stroyakovskiy D et al. Five-Year Outcomes with Dabrafenib plus Trametinib in Metastatic Melanoma. N Engl J Med. 2019;381(7):626-636.
18)
Ascierto PA, McArthur GA, Dréno B et al. Cobimetinib combined with vemurafenib in advanced BRAF(V600)-mutant melanoma(coBRIM):updated efficacy results from a randomised, double-blind, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2016;17(9):1248-1260.
19)
Dummer R, Ascierto PA, Gogas HJ et al. Overall survival in patients with BRAF-mutant melanoma receiving encorafenib plus binimetinib versus vemurafenib or encorafenib(COLUMBUS):a multicentre, open-label, randomised, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2018;19(10):1315-1327.
20)
Menzer C, Menzies AM, Carlino MS et al. Targeted Therapy in Advanced Melanoma With Rare BRAF Mutations. J Clin Oncol. 2019;37(33):3142-3151.
21)
Hyman DM, Puzanov I, Subbiah V et al. Vemurafenib in Multiple Nonmelanoma Cancers with BRAF V600 Mutations. N Engl J Med. 2015;373(8):726-736.
22)
Planchard D, Smit EF, Groen HJM et al. Dabrafenib plus trametinib in patients with previously untreated BRAFV600E-mutant metastatic non-small-cell lung cancer:an open-label, phase 2 trial. Lancet Oncol. 2017;18(10):1307-1316.
23)
Planchard D, Besse B, Groen HJM et al. Dabrafenib plus trametinib in patients with previously treated BRAF(V600E)-mutant metastatic non-small cell lung cancer:an open-label, multicentre phase 2 trial. Lancet Oncol. 2016;17(7):984-993.
24)
肺癌診療ガイドライン2020 年版.https://www.haigan.gr.jp/guideline/2020/1/2/200102070100.html#cq61 Accessed on 01/SEP/2021.
25)
Kopetz S, Desai J, Chan E et al. Phase Ⅱ Pilot Study of Vemurafenib in Patients With Metastatic BRAF-Mutated Colorectal Cancer. J Clin Oncol. 2015;33(34):4032-4038.
26)
Corcoran RB, Atreya CE, Falchook GS et al. Combined BRAF and MEK Inhibition With Dabrafenib and Trametinib in BRAF V600-Mutant Colorectal Cancer. J Clin Oncol. 2015;33(34):4023-4031.
27)
Kopetz S, Grothey A, Yaeger R et al. Encorafenib, Binimetinib, and Cetuximab in BRAF V600E-Mutated Colorectal Cancer. N Engl J Med. 2019;381(17):1632-1643.
28)
Subbiah V, Puzanov I, Blay JY et al. Pan-Cancer Efficacy of Vemurafenib in BRAFV600-Mutant Non-Melanoma Cancers. Cancer Discov. 2020;10(5):657-663.
29)
Salama AKS, Li S, Macrae ER et al. Dabrafenib and Trametinib in Patients With Tumors With BRAFV600E Mutations:Results of the NCI-MATCH Trial Subprotocol H. J Clin Oncol. 2020;38(33):3895-3904.
30)
Subbiah V, Kreitman RJ, Wainberg ZA et al. Dabrafenib and Trametinib Treatment in Patients With Locally Advanced or Metastatic BRAF V600-Mutant Anaplastic Thyroid Cancer. J Clin Oncol. 2018;36(1):7-13.
31)
Brose MS, Cabanillas ME, Cohen EE et al. Vemurafenib in patients with BRAF(V600E)-positive metastatic or unresectable papillary thyroid cancer refractory to radioactive iodine:a non-randomised, multicentre, open-label, phase 2 trial. Lancet Oncol. 2016;17(9):1272-1282.
32)
Subbiah V, Lassen U, Élez E et al. Dabrafenib plus trametinib in patients with BRAFV600E-mutated biliary tract cancer(ROAR):a phase 2, open-label, single-arm, multicentre basket trial. Lancet Oncol. 2020;21(9):1234-1243.
33)
Tiacci E, Park JH, De Carolis L et al. Targeting Mutant BRAF in Relapsed or Refractory Hairy-Cell Leukemia. N Engl J Med. 2015;373(18):1733-1747.
34)
Halle BR, Johnson DB. Defining and Targeting BRAF Mutations in Solid Tumors. Curr Treat Options Oncol. 2021;22(4):30.
35)
医療用医薬品の添付文書情報 https://www.info.pmda.go.jp/psearch/html/menu_tenpu_base.html
36)
Moasser MM. The oncogene HER2:its signaling and transforming functions and its role in human cancer pathogenesis. Oncogene. 2007;26(45):6469-6487.
37)
Cancer Genome Atlas Research Network. Comprehensive molecular profiling of lung adenocarcinoma. Nature. 2014;511(7511):543-550.
38)
Mishra R, Hanker AB, Garrett JT. Genomic alterations of ERBB receptors in cancer:clinical implications. Oncotarget. 2017;8(69):114371-114392.
39)
Li BT, Ross DS, Aisner DL et al. HER2 Amplification and HER2 Mutation Are Distinct Molecular Targets in Lung Cancers. J Thorac Oncol. 2016;11(13):414-419.
40)
Ferguson KM. Structure-based view of epidermal growth factor receptor regulation. Annu Rev Biophys. 2008;37:353-373.
41)
Press MF, Slamon DJ, Flom KJ et al. Evaluation of HER-2/neu gene amplification and overexpression:comparison of frequently used assay methods in a molecularly characterized cohort of breast cancer specimens. J Clin Oncol. 2002;20(14):3095-3105.
42)
Press MF, Sauter G, Bernstein L et al. Diagnostic evaluation of HER-2 as a molecular target:an assessment of accuracy and reproducibility of laboratory testing in large, prospective, randomized clinical trials. Clin Cancer Res. 2005;11(18):6598-6607.
43)
Slamon DJ, Clark GM, Wong SG et al. Human breast cancer:correlation of relapse and survival with amplification of the HER-2/neu oncogene. Science. 1987;235(4875):177-182.
44)
Gravalos C, Jimeno A. HER2 in gastric cancer:a new prognostic factor and a novel therapeutic target. Ann Oncol. 2008;19(9):1523-1529.
45)
Jimenez RE, Hussain M, Bianco FJ Jr. et al. Her-2/neu overexpression in muscle-invasive urothelial carcinoma of the bladder:prognostic significance and comparative analysis in primary and metastatic tumors. Clin Cancer Res. 2001;7(8):2440-2447.
46)
Shitara K, Bang YJ, Iwasa S et al. Trastuzumab Deruxtecan in Previously Treated HER2-Positive Gastric Cancer. N Engl J Med. 2020;382(25):2419-2430.
47)
Takahashi H, Tada Y, Saotome T et al. Phase Ⅱ Trial of Trastuzumab and Docetaxel in Patients With Human Epidermal Growth Factor Receptor 2-Positive Salivary Duct Carcinoma. J Clin Oncol. 2019;37(2):125-134.
48)
Nakamura Y, Okamoto W, Kato T et al. Circulating tumor DNA-guided treatment with pertuzumab plus trastuzumab for HER2-amplified metastatic colorectal cancer:a phase 2 trial. Nat Med. 2021;27(11):1899-1903.
49)
Meric-Bernstam F, Hurwitz H, Raghav KPS et al. Pertuzumab plus trastuzumab for HER2-amplified metastatic colorectal cancer(MyPathway):an updated report from a multicentre, open-label, phase 2a, multiple basket study. Lancet Oncol. 2019;20(4):518-530.
50)
Peters S, Stahel R, Bubendorf L et al. Trastuzumab Emtansine(T-DM1)in Patients with Previously Treated HER2-Overexpressing Metastatic Non-Small Cell Lung Cancer:Efficacy, Safety, and Biomarkers. Clin Cancer Res. 2019;25(1):64-72.
51)
Stephens P, Hunter C, Bignell G et al. Lung cancer:intragenic ERBB2 kinase mutations in tumours. Nature. 2004;431(7008):525-526.
52)
Shigematsu H, Takahashi T, Nomura M et al. Somatic mutations of the HER2 kinase domain in lung adenocarcinomas. Cancer Res. 2005;65(5):1642-1646.
53)
Wang SE, Narasanna A, Perez-Torres M et al. HER2 kinase domain mutation results in constitutive phosphorylation and activation of HER2 and EGFR and resistance to EGFR tyrosine kinase inhibitors. Cancer Cell. 2006;10:25-38.
54)
Chmielecki J, Ross JS, Wang K et al. Oncogenic alterations in ERBB2/HER2 represent potential therapeutic targets across tumors from diverse anatomic sites of origin. Oncologist. 2015;20:7-12.
55)
Bose R, Kavuri SM, Searleman AC et al. Activating HER2 mutations in HER2 gene amplification negative breast cancer. Cancer Discov. 2013;3(2):224-237.
56)
Kavuri SM, Jain N, Galimi F et al. HER2 activating mutations are targets for colorectal cancer treatment. Cancer Discov. 2015;5(8):832-841.
57)
Ali SM, Alpaugh RK, Downing SR et al. Response of an ERBB2-mutated inflammatory breast carcinoma to human epidermal growth factor receptor 2-targeted therapy. J Clin Oncol. 2014;32:e88-e91.
58)
Chumsri S, Weidler J, Ali S et al. Prolonged Response to Trastuzumab in a Patient With HER2-Nonamplified Breast Cancer With Elevated HER2 Dimerization Harboring an ERBB2 S310F Mutation. J Natl Compr Canc Netw. 2015;13(9):1066-1070.
59)
Chuang JC, Stehr H, Liang Y et al. ERBB2-Mutated Metastatic Non-Small Cell Lung Cancer:Response and Resistance to Targeted Therapies. J Thorac Oncol. 2017;12(5):833-842.
60)
Mazières J, Barlesi F, Filleron T et al. Lung cancer patients with HER2 mutations treated with chemotherapy and HER2-targeted drugs:results from the European EUHER2 cohort. Ann Oncol. 2016;27(2):281-286.
61)
Katoh M. Fibroblast growth factor receptors as treatment targets in clinical oncology. Nat Rev Clin Oncol. 2019;16(2):105-122.
62)
Helsten T, Elkin S, Arthur E et al. The FGFR landscape in cancer:analysis of 4,853 tumors by next-generation sequencing. Clin Cancer Res. 2016;22(1):259-267.
63)
Loriot Y, Necchi A, Park SH et al. Erdafitinib in locally advanced or metastatic urothelial carcinoma. N Engl J Med. 2019;381(4):338-348.
64)
Abou-Alfa GK, Sahai V, Hollebecque A et al. Pemigatinib for previously treated, locally advanced or metastatic cholangiocarcinoma:a multicentre, open-label, phase 2 study. Lancet Oncol. 2020;21(5):671-684.
65)
Javle M, Roychowdhury S, Kelley RK et al. Infigratinib(BGJ398)in previously treated patients with advanced or metastatic cholangiocarcinoma with FGFR2 fusions or rearrangements:mature results from a multicentre, open-label, single-arm, phase 2 study. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2021;6(10):803-815.
66)
Bridgewater J, Meric-Bernstam F, Hollebecque A et al. 54 P-Efficacy and safety of futibatinib in intrahepatic cholangiocarcinoma(iCCA)harboring FGFR2 fusions/other rearrangements:Subgroup analyses of a phase Ⅱ study(FOENIX-CCA2). Ann Oncol. 2020;31(suppl_4):S260-S273.
67)
Malumbres M, Barbacid M. RAS oncogenes:the first 30 years. Nat Rev Cancer. 2003;3:459-465.
68)
Pylayeva-Gupta Y, Grabocka E, Bar-Sagi D. RAS oncogenes:weaving a tumorigenic web. Nat Rev Cancer. 2011;11(11):761-774.
69)
McCormick F. K-Ras protein as a drug target. J Mol Med(Berl). 2016;94(3):253-258.
70)
Prior IA, Lewis PD, Mattos C. A comprehensive survey of Ras mutations in cancer. Cancer Res. 2012;72(10):2457-2467.
71)
Biernacka A, Tsongalis PD, Peterson JD et al. The potential utility of re-mining results of somatic mutation testing:KRAS status in lung adenocarcinoma. Cancer Genet. 2016;209(5):195-198.
72)
Neumann J, Zeindl-Eberhart E, Kichner T et al. Frequency and type of KRAS mutations in routine diagnostic analysis of metastatic colorectal cancer. Parhol Res Pract. 2009;205(12):858-862.
73)
AACR Project GENIE Consortium. Powering Precision Medicine through an International Consortium. Cancer Discov. 2017;7(8):818-831.
74)
Nassar AH, Adib E, Kwiatkowski DJ. Distribution of KRASG12C Somatic Mutations across Race, Sex, and Cancer Type. N Engl J Med. 2021;384(2):185-187.
75)
Canon J, Rex K, Saiki AY et al. The clinical KRAS(G12C)inhibitor AMG 510 drives anti-tumour immunity. Nature. 2019;575(7781):217-223.
76)
Hong DS, Fakih MG, Strickler JH et al. KRASG12C Inhibition with Sotorasib in Advanced Solid Tumors. N Engl J Med. 2020;383(13):1207-1217.
77)
Skoulidis F, Li BT, Dy GK et al. Sotorasib for Lung Cancers with KRAS p.G12C Mutation. N Engl J Med. 2021;384(25):2371-2381.
78)
Fakih M, Falchook GS, Hong DS et al. CodeBreaK 101 subprotocol H:Phase Ib study evaluating combination of sotorasib(Soto), a KRASG12C inhibitor, and panitumumab(PMab), an EGFR inhibitor, in advanced KRAS p.G12C-mutated colorectal cancer(CRC). Ann Oncol. 2021;32(suppl_5):abst434P.
79)
Sokol ES, Pavlick D, Khiabanian H et al. Pan-Cancer Analysis of BRCA1 and BRCA2 Genomic Alterations and Their Association With Genomic Instability as Measured by Genome-Wide Loss of Heterozygosity. JCO Precis Oncol. 2020;4:442-465.
80)
Robson M, Im SA, Senkus E et al. Olaparib for Metastatic Breast Cancer in Patients with a Germline BRCA Mutation. N Engl J Med. 2017;377(6):523-533.
81)
Moore K, Colombo N, Scambia G et al. Maintenance Olaparib in Patients with Newly Diagnosed Advanced Ovarian Cancer. N Engl J Med. 2018;379(26):2495-2505.
82)
de Bono J, Mateo J, Fizazi K et al. Olaparib for Metastatic Castration-Resistant Prostate Cancer. N Engl J Med. 2020;382(22):2091-2102.
83)
Golan T, Hammel P, Reni M et al. Maintenance Olaparib for Germline BRCA-Mutated Metastatic Pancreatic Cancer. N Engl J Med. 2019;381(4):317-327.
84)
de Bono J, Ramanathan RK, Mina L et al. Phase I, Dose-Escalation, Two-Part Trial of the PARP Inhibitor Talazoparib in Patients with Advanced Germline BRCA1/2 Mutations and Selected Sporadic Cancers. Cancer Discov. 2017;7(6):620-629.
85)
Mandelker D, Donoghue M, Talukdar S et al. Germline-focussed analysis of tumour-only sequencing:recommendations from the ESMO Precision Medicine Working Group. Ann Oncol. 2019;30(8):1221-1231.
86)
Morris SW, Kirstein MN, Valentine MB et al. Fusion of a kinase gene, ALK, to a nucleolar protein gene, NPM, in non-Hodgkin’s lymphoma. Science. 1994;263(5151):1281-1284.
87)
Soda M, Choi YL, Enomoto M et al. Identification of the transforming EML4-ALK fusion gene in non-small-cell lung cancer. Nature. 2007;448(7153):561-566.
88)
Ross JS, Ali SM, Fasan O et al. ALK Fusions in a Wide Variety of Tumor Types Respond to Anti-ALK Targeted Therapy. Oncologist. 2017;22(12):1444-1450.
89)
Solomon BJ, Mok T, Kim DW et al;PROFILE 1014 Investigators. First-line crizotinib versus chemotherapy in ALK-positive lung cancer. N Engl J Med. 2014;371(23):2167-2177.
90)
Soria JC, Tan DSW, Chiari R et al. First-line ceritinib versus platinum-based chemotherapy in advanced ALK-rearranged non-small-cell lung cancer(ASCEND-4):a randomised, open-label, phase 3 study. Lancet. 2017;389(10072):917-929.
91)
Nakagawa K, Hida T, Nokihara H et al. Final progression-free survival results from the J-ALEX study of alectinib versus crizotinib in ALK-positive non-small-cell lung cancer. Lung Cancer. 2020;139:195-199.
92)
Mok T, Camidge DR, Gadgeel SM et al. Updated overall survival and final progression-free survival data for patients with treatment-naive advanced ALK-positive non-small-cell lung cancer in the ALEX study. Ann Oncol. 2020;31(8):1056-1064.
93)
Camidge DR, Kim HR, Ahn MJ et al. Brigatinib versus Crizotinib in ALK-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2018;379(21):2027-2039.
94)
Shaw AT, Bauer TM, de Marinis F et al;CROWN Trial Investigators. First-Line Lorlatinib or Crizotinib in Advanced ALK-Positive Lung Cancer. N Engl J Med. 2020;383(21):2018-2029.
95)
Schöffski P, Sufliarsky J, Gelderblom H et al. Crizotinib in patients with advanced, inoperable inflammatory myofibroblastic tumours with and without anaplastic lymphoma kinase gene alterations(European Organisation for Research and Treatment of Cancer 90101 CREATE):a multicentre, single-drug, prospective, non-randomised phase 2 trial. Lancet Respir Med. 2018;6(6):431-441.
96)
Takeyasu Y, Okuma HS, Kojima Y et al. Impact of ALK Inhibitors in Patients With ALK-Rearranged Nonlung Solid Tumors. JCO Precis Oncol. 2021;5:PO.20.00383.:756-766.
97)
Trahair T, Gifford AJ, Fordham A et al. Crizotinib and Surgery for Long-Term Disease Control in Children and Adolescents With ALK-Positive Inflammatory Myofibroblastic Tumors. JCO Precis Oncol. 2019;3:PO.18.00297.:1-11.
98)
O’Donohue T, Gulati N, Mauguen A et al. Differential Impact of ALK Mutations in Neuroblastoma. JCO Precis Oncol. 2021;5:PO.20.00181.
99)
Foster JH, Voss SD, Hall DC et al. Activity of Crizotinib in Patients with ALK-Aberrant Relapsed/Refractory Neuroblastoma: A Children’s Oncology Group Study(ADVL0912). Clin Cancer Res. 2021;27(13):3543-3548.

11成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療の費用対効果

この項では,臓器横断的(Tumor-agnostic)ゲノム診療の費用対効果について,高頻度マイクロサテライト不安定性(以下,MSI-H)固形がんに対する免疫チェックポイント阻害薬・NTRK 融合遺伝子陽性の固形がんに対するTRK 阻害薬に関して現状のエビデンスを整理する。なお,遺伝子診断そのものの費用対効果については,カナダの医療技術評価(Health Technology Assessment:HTA)機関CADTH などで評価がなされ,概ね良好であるという結果が出されている1)が,本稿では診断後の治療薬の使用を取り扱う。免疫チェックポイント阻害薬・TRK 阻害薬ともに高額であり,その費用対効果に関する評価は急務である。

特定の薬剤の費用対効果を評価した上で,その情報を公的医療制度で使えるか否か(給付の可否)や給付価格の調整(価格調整)に反映させる機関をHTA 機関と称する。免疫チェックポイント阻害薬の既存の適応症,すなわち非小細胞性肺がん・メラノーマ・腎がんその他の患者への費用対効果は,諸外国のHTA 機関で数多くの評価がなされている。

2016 年から試行的導入が始まった日本でも,ニボルマブ(オプジーボ)・ペムブロリズマブ(キイトルーダ)が費用対効果評価のデータ提出対象となった。ペムブロリズマブは2018 年12 月に臓器横断的な適応として「MSI-H を有する固形がん」が追加されたが,費用対効果のデータ提出指定(2018 年6 月)の後に臓器横断的適応が追加されたこと,あわせて当時のルールではペムブロリズマブのような新規収載品は,費用対効果の結果による価格調整は行わない規定だったことから,MSI-H に対する検討は行われていない。

2019 年4 月からの本格導入後は,原則として新規収載時に費用対効果データ提出の要否が判断されることになった。この時点以降で,NTRK 阻害薬として2019 年8 月にエヌトレクチニブ(ロズリートレク)が,2021 年5 月にラロトレクチニブ(ヴァイトラックビ)が薬価収載されているが,どちらの薬剤もデータ提出の対象には指定されていない。

<MSI‒H 固形がんに対する免疫チェックポイント阻害薬>

英国のHTA 機関NICE はMSI-H・dMMR の患者について,未治療転移性大腸がん患者へのペムブロリズマブ単剤2)(TA709・2021 年 7 月)・既治療転移性大腸がん患者へのニボルマブ+イピリムマブ併用3)(TA716・2021年 7 月)の評価を公表済みである。進行中のものとして,既治療転移性子宮内膜がん患者へのドスタルリマブ単剤(GID-TA10670・2022 年1 月公表予定)・既治療転移性大腸がん患者へのニボルマブ単剤(GID-TA10165・時期未定)・未治療転移性大腸がん患者へのペムブロリズマブ単剤(GID-TA10110・時期未定)がある。

すでに結果が出ている2 つの評価(TA709・TA716)は,いずれも薬剤の給付を推奨(実質的な意味合いとしては,英国の公的医療サービス・NHS での使用を許可)している。

TA709 では,ペムブロリズマブ単剤を標準治療を比較対照として評価している。CAPOX・FOLFIRI・FOLFOX 療法の効果はKEYNOTE-177 試験の結果(PFS のハザード比0.60(95%CI:0.45-0.80),OS のハザード比0.77(95%CI:0.54-1.09))を用い,標準治療にパニツムマブもしくはセツキシマブを追加した治療法の効果は直接の臨床試験が存在しないため,ネットワークメタアナリシスによって評価している。結果として,「有効無効にかかわらず,ペムブロリズマブの投与期間は2 年間に限定する」「企業が非公開の値引きを行う」前提のもとで,どの薬剤を比較対照においた場合でもペムブロリズマブの増分費用効果比ICER は1QALY 獲得あたり2 万ポンドを下回り,費用対効果は良好であると判断され,NHS での給付が推奨された。

TA716 では,ニボルマブ+イピリムマブ併用療法を,標準治療(二次治療:FOLFOX,FOLFIRI, BSC,三次治療:トリフルリジン/チピラシル,BSC)と比較した。ニボルマブ+イピリムマブ併用療法の有効性は単群試験のCheckmate142 試験を用い,各治療法の臨床試験の結果と間接比較により費用対効果の数値を求めている。結果として,企業が値引きを行う前提の元では,どの比較対照に対してもニボルマブ+イピリムマブ併用療法の増分費用効果比ICER は1QALY 獲得あたり2 万ポンドを下回り,TA709 と同様に給付が推奨された。

なお,TA709・TA716 ともに,該当薬剤や比較対照の薬剤に非公開の値引きが適用されているため,各群の総費用・薬剤費用などの詳細は非公開となっている。

個別の研究でも,MSI-H・dMMR の固形がん患者を対象としたものが3 報報告されている。

Chu ら4)は,米国でのMSI-H・dMMR の大腸がん患者への三次治療および一次治療に関し,ニボルマブ単剤・ニボルマブ・イピリムマブ併用療法の費用対効果を,既存の治療薬(三次治療はトリフルリジン・チピラシル,一次治療はmFOLFOX+セツキシマブ)と比較している。アウトカム指標は生存年LY および質調整生存年QALY をとった。マルコフモデルを用いて生涯の期待費用・期待アウトカムを推計した結果は,いずれのケースでも併用療法・単剤療法・既存治療の順に費用も高く,効果(QALY およびLY)が大きくなった。1QALY 獲得あたりの増分費用効果比(ICER)は,三次治療では単剤療法vs 既存治療でUSD153,000/QALY,併用療法vs 既存治療でUSD162,700/QALY。一次治療では単剤療法vs 既存治療でUSD150,700/QALY,併用療法vs 既存治療でUSD158,700/QALY となり,費用対効果の良し悪しの基準値であるUSD100,000/QALY を大きく上回った。費用対効果を改善するためには,価格の引き下げやニボルマブの投与期間の上限設定が重要と結論している。

Barrington ら5)は,米国の再発子宮内膜がん患者へのペムブロリズマブ単剤療法の費用対効果を,リポソーム化ドキソルビシン(PLD)およびベバシズマブと比較している。分析はMSI-H 患者とそれ以外で層別化して実施された。全生存期間(OS)の中央値のデータが得られなかったため,「OS2 年以上を達成できた患者数」をアウトカム指標にした評価を実施した。MSI-H 集団での達成患者数1 人増加あたりのICER は,ペムブロリズマブvs PLD でUSD 147,249 となった。論文中では,費用対効果の基準値を「達成患者1 人増加あたりUSD 200,000」と設定し,費用対効果は良好と結論している。ただし,論文中でも言及はあるものの,「達成患者1 人増加あたりのICER」の基準値を「生存年数1 年延長あたり」「1QALY 獲得あたり」の基準値から設定するのは問題も多く,この数字のみで費用対効果の良し悪しを断定するのはやや難しい。

再発子宮内膜がんへのペムブロリズマブ単剤療法については2021 年にThurgar ら6)が,更新されたOS・PFS のデータを用いて分割生存モデルを構築し,費用対効果の評価を行っている。この段階でもOS のデータは中央値が得られていないが,これまで得られたデータに確率分布をあてはめて外挿することで,長期のOS・PFS の生存曲線を描画して分析を実施している。結果として,ペムブロリズマブのICER はUSD 58,165/QALY と,基準値であるUSD 100,000/QALY を大きく下回った。確率感度分析の結果では,ICER が10 万ドル以下となる(費用対効果に優れる)確率は90.1%であった。これらの結果をもとに,ペムブロリズマブの費用対効果は良好と結論している。

日本でのMSI-H・dMMR 患者への免疫チェックポイント阻害薬使用の費用対効果を判断することは,現状では有効性データ,特に比較対照との相対的有用性を評価したデータが十分に整備されていないことや,海外のデータを国内に外挿することの困難さ(特に費用データ)もあり,やや困難である。ただ,薬剤の価格や財政影響への注目が高まっている中,有効性や安全性に加えて費用対効果に関する情報を提供することは,薬剤の価値判断に不可欠ともいえる。今後長期の臨床データなどをもとにした,さらなる研究が望まれる。

<NTRK 融合遺伝子陽性の固形がんに対するTRK 阻害薬>

英国NICEは,NTRK阻害薬のエヌトレクチニブ7)(TA644)・ラロトレクチニブ8)(TA630)ともに評価を実施しており,双方ともがん種を問わないNTRK 陽性のがん患者について,使用を推奨している。ただし,両薬剤ともに臨床試験のデータはきわめて限られており,結果の不確実性は大きい。そのため,通常の推奨ではなく,企業に追加的な臨床試験を課し,データを収集する間は臨時の予算で給付する・データが出そろった段階で改めて最終判断を行うというCancer Drugs Fund(CDF)のシステムが適用されている。MSI-H のペムブロリズマブ・ニボルマブと同様に,非公開の値引きも実施されている。

NTRK 阻害薬関連の個別の費用対効果の研究は,仮想的な薬剤に関して階層ベイズモデルを用いて費用対効果のモデル構築を試みたMurphy らの研究がある9)が,具体的な薬剤を題材にした研究はない。

<TMB‒H 固形がんに対する免疫チェックポイント阻害薬>

TMB-H 固形がんへの免疫チェックポイント阻害薬について,NICE は2018 年から未治療・TMB-H 非小細胞性肺がん患者へのニボルマブ+イピリムマブ併用療法の評価を進めていた(GID-TA10234)。しかし当該適応についてのEMA の承認申請を中断することを企業が決定し,2020 年3 月に評価が中断されている。2021 年1 月現在でも,TMB-H に関するEMA の承認は得られていない(ペムブロリズマブも同様)。

個別の研究ではHu らが,Checkmate227 試験の結果を用いて同じ適応(未治療・TMB-H のNSCLC 患者へのニボルマブ+イピリムマブ併用療法)の費用対効果を評価している10)。PD-L1 の発現レベル(50%以上,1%以上,1%未満)と,TMB-H(100 万塩基あたり10 カ所以上)の有無で層別化しつつ,マルコフモデルによって米国での生涯の医療費とQALY を推計した。TMB-H の患者では,併用療法の導入により通常化学療法と比較して費用は14 万ドル増大するが,獲得QALY は2.04QALY 増加し,生存年数LY は3.54 年延長される。ICER は69,183 ドル/QALY もしくは39,864 ドル/LY で,米国で費用対効果が良好とされる基準(15 万ドル/QALY)を大きく下回り,「費用対効果に優れる」と結論している。なおPD-L1 で層別化した場合,50%以上および1%以上の集団では費用対効果に優れ,1%未満の患者では費用対効果に劣る結果になった。

Li らは,既治療のNSCLC 患者に対するアテゾリズマブ単剤療法の費用対効果を,検査なし・PD-L1 検査あり(カットオフ値1%以上)・TMB-H 検査あり(カットオフ値は100 万塩基あたり16 カ所以上)の3 戦略について,いずれもドセタキセルを比較対照において評価した。Hu らと同様にマルコフモデルを用い,中国および米国の2 カ国の状況をおいて分析している11)。アテゾリズマブの費用と効果を3 戦略どうしで比較した場合には,TMB-H 検査ありの戦略が最も費用対効果が良好であり,検査なしと比較すると費用は削減・効果(QALY)は増大するdominant となった。ただし,比較対照であるドセタキセルとの分析では,1QALY あたりのICER は中国・米国双方のシナリオで130 万ドル/QALY 程度と,アテゾリズマブの費用対効果は極めて悪くなった。すなわち,「アテゾリズマブを使用する」前提であればTMB-H 検査の導入は費用対効果に優れるが,アテゾリズマブそのものの費用対効果を(非使用すなわちドセタキセル療法の場合と)比較した場合には,費用対効果は悪化するという結論になる。Li らの研究は既治療のNSCLC 患者を対象にしており,Hu らの未治療NSCLC 患者への研究とは単純に比較できないことには注意が必要である。

<臓器横断的抗がん剤の費用対効果の課題>

NICE のCooper ら12)は,臓器横断的抗がん剤の評価について,種々の論点をまとめた解析をBMJ に寄稿している。HTA 機関が評価する際にまず問題となるのは,薬剤のターゲットとなる遺伝子変異の発現率の低さである。患者数が限定されるため,RCT での評価は難しい。そのため,原発部位を限定せずに変異を持つ患者を集めて,対照群をおかずに評価を行う“basket trial”が一般的である。様々ながん種の患者が混在しているため,アウトカム指標は無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)のようなものさしよりも,数字を統合しやすい治療反応率などがよく用いられる。FDA やEMA のような承認審査を行う機関は,ある程度の期間治療反応性が持続すれば有効性は担保されるとの立場である。例えばラロトレクチニブであれば,17 のがん種から55 人を集めたbasket trial において,71%の患者で1 年以上治療反応が続いている結果を持って承認を下している。

少ない症例数,単群試験に頼らざるを得ないため,HTA 機関の評価に必要な有効性や費用対効果のデータは,群内でも必然に大きくばらつくことになる。通常の薬剤のHTA ならば,臨床的に明確に(Clinically distinct)区切れるサブ集団を設定し,集団ごとに評価を行うことになる。(Cooper らの表現にあるとおり,「費用対効果の数値が変わる集団をすべて切り刻む」のではなく,「臨床的に明確に区切れる」ことが重要である)しかし,元々症例数が限られた状況でがん種ごとのサブ集団の切り分けを行えば,統計的検出力は大きく損なわれる。そのため,適応のあるすべての集団をプールした上で,全体に対する費用対効果を算出して評価する必要が出てくる。個別のがん種への効率性については,十分な情報が得られないケースも多くなる。

単群試験の限界と,反応率のような代理のアウトカムからLY やQALY を推計する困難さが存在するため,意思決定の際の不確実性はどうしても高くなる。追加のエビデンス収集と引き換えに収集期間中は臨時予算で給付を行うCDF のようなシステムは,不確実性のリスクを回避する手段として有用であるが,上市後の広汎なデータ収集を課すことをためらう国も多い。そのため,価格引き下げなどで対応することも一般的である。Cooper ら12)は,製薬会社・規制当局・HTA 機関が連携して,臓器横断的抗がん剤に関して市販後のエビデンス収集体制を整えることや,個別の評価が始まる前に企業とHTA 機関との間で十二分に情報交換を行うことを提言している。承認前に取得可能なデータが乏しくなおかつ不確実な臓器横断的抗がん剤へのアクセスを確保するために,市販後のデータの収集システムと,更新されたデータを意思決定に活用するシステムとを構築することは極めて重要だと結論している。

今回取り扱ったゲノム診療は,他に治療法の存在しない患者をターゲットにするものも多い。このような薬剤の評価に際しては,単に費用対効果の数値(すなわち,増分費用効果比ICER の大小)だけでなく,費用対効果以外の倫理・社会的要素の評価や,財政全体への影響をも含めた意思決定が重要になる。上で紹介した英国NICE の4 つの評価でも,医療上のニーズの高さやイノベーションなど,いわゆる費用対効果では測り切れない価値の要素が,定性的に考慮されている。単に費用と効果をはかるスタイルではなく,このような希少疾病の評価においてどのような要素を盛り込んでいくのか,広汎な視点からの評価が強く望まれる。

なお英国の公的医療サービスNHS は,「COVID-19 パンデミック禍でのがん治療の指針」において,免疫抑制剤の使用を最小限にとどめ,なおかつ医療資源の消費を少なくできる(投与回数が少ない・経口で使用可能など)治療を優先すべきという指針を出している13)。この中で,MSI-H の尿路上皮がん・上部消化管がん・大腸がんについて,他の薬剤に比して投与頻度を少なくできるニボルマブ・ペムブロリズマブの単剤療法を上のNICE 評価とは別枠で推奨している。臓器横断的治療薬の新たな価値の側面として,注目に値する評価である。

参考文献

1)
CADTH. OP0522. Mismatch Repair Deficiency Testing for Colorectal Cancer Patients. [URL:https://cadth.ca/mismatch-repair-deficiency-testing-colorectal-cancer-patients
2)
NICE. TA709. Pembrolizumab for untreated metastatic colorectal cancer with high microsatellite instability or mismatch repair deficiency. NICE, 2021. [URL:https://www.nice.org.uk/guidance/ta709
3)
NICE. TA716. P Nivolumab with ipilimumab for previously treated metastatic colorectal cancer with high microsatellite instability or mismatch repair deficiency. NICE, 2021[URL:https://www.nice.org.uk/guidance/ta716
4)
Chu JN, Choi J, Ostvar S et al. Cost-effectiveness of immune checkpoint inhibitors for microsatellite instability-high/mismatch repair-deficient metastatic colorectal cancer. Cancer. 2019;125(2):278-289.
5)
Barrington DA, Dilley SE, Smith HJ et al. Pembrolizumab in advanced recurrent endometrial cancer:A cost-effectiveness analysis. Gynecol Oncol. 2019;153(2):381-384.
6)
Thurgar E, Gouldson M, Matthijsse S et al. Cost-effectiveness of pembrolizumab compared with chemotherapy in the US for women with previously treated deficient mismatch repair or high microsatellite instability unresectable or metastatic endometrial cancer. J Med Econ. 2021;24(1):675-688.
7)
NICE. TA644. Entrectinib for treating NTRK fusion-positive solid tumours. NICE, 2020. [URL:https://www.nice.org.uk/guidance/ta644
8)
NICE. TA630. Larotrectinib for treating NTRK fusion-positive solid tumours. NICE, 2020. [URL:https://www.nice.org.uk/guidance/ta630
9)
Murphy P, Claxton L, Hodgson R et al. Exploring Heterogeneity in Histology-Independent Technologies and the Implications for Cost-Effectiveness. Med Decis Making. 2021;41(2):165-178.
10)
Hu H, She L, Liao M, et al. Cost-Effectiveness Analysis of Nivolumab Plus Ipilimumab vs. Chemotherapy as First-Line Therapy in Advanced Non-Small Cell Lung Cancer. Front Oncol. 2020;10:1649.
11)
Li WQ, Li LY, Bai RL, et al. Cost-effectiveness of programmed cell death ligand 1 testing and tumor mutational burden testing of immune checkpoint inhibitors for advanced non-small cell lung cancer. Chin Med J(Engl). 2020;133(21):2630-2.
12)
Cooper S, Bouvy JC, Baker L et al. How should we assess the clinical and cost effectiveness of histology independent cancer drugs? BMJ. 2020;368:l6435.
13)
NHS. NHS England interim treatment options during the COVID-19 pandemic. NHS, 2021. [URL:https://www.theacp.org.uk/userfiles/file/resources/covid_19_resources/nhs-england-interim-treatment-options-during-the-covid19-pandemic-pdf-8715724381-6-jan-2021.pdf