第3 版 序

このたび「制吐薬適正使用ガイドライン2023 年10 月改訂第3 版」を上梓できることとなり,改訂版作成に携わった一人として,大変喜ばしく思っております。

制吐療法はがん薬物療法を行う際の支持療法の一つとして,薬物療法の治療成績にも関わるとされる有用な治療であります。また,世界で行われている制吐薬に関する最新のエビデンスの創出は枚挙に暇がなく,これらを制吐薬適正使用ガイドラインに取り込んで,有用な制吐療法を本邦の医療現場へ導入する道筋をつけることは本ガイドラインの務めといえます。前版の「制吐薬適正使用ガイドライン2015 年10 月改訂第2 版」の発刊,2018 年のウェブでの部分改訂を経て,このたび,第3 版の発刊となりました。8 年ぶりの全面改訂ということで,改訂作業にかかった時間を考えますと,お叱りを受けるのではないかと思いますが,第3 版は現在ガイドライン作成の標準となっている「Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2017」に準拠することとなったため,作成過程が従来の方法から大きく変わりました。私が委員長を拝命し,2019 年に改訂作業を開始した際には,作成手法の複雑さ・作業工程の多さにずいぶん面食らいましたが,Minds のガイドラインの定義にあるように,「エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価,益と害のバランスなどを考慮して,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する」ことを目指し,ガイドライン改訂ワーキンググループ委員とシステマティックレビューチームメンバーの総力を結集し,真摯に改訂作業に取り組んだ4 年間となりました。その作業過程を振り返ると誠に感慨深いものがあります。

第3 版においては,最新のエビデンスを評価して,がん薬物療法の催吐性リスクに応じた制吐療法を提示しています。さらに今回は非薬物の制吐療法の評価にも初めてスポットを当てて,患者サポートとして医療現場において行うべき対応について提案しています。さらに制吐療法に関する医療経済について解説した章(Ⅷ章)も設けております。患者さんを中心とした,本邦の医療現場において行うべき適切で具体的な制吐療法の提言ができたと思っております。一方で,いまだエビデンスの不足している領域も多く,推奨につながらなかった項目もありますし,今後の制吐療法の研究に期待すべきとする記載になっている部分もあります。より良い制吐療法普及のため,内容についてお気づきの点等がございましたら,ご意見をいただきたく存じます。改めまして,本ガイドラインを医療現場においてご活用いただけますようお願いいたします。

最後に,本ガイドラインががん薬物療法に携わっておられる医療現場のスタッフの皆様や,治療中の患者・家族の方のお役に立つことを切に願っております。また,本ガイドライン作成にご尽力くださったすべての関係諸氏,改訂作業の過程において不慣れなわれわれを支え,作業進行に一方ならぬ貢献をいただいた日本癌治療学会事務局の福田奈津喜さん,地道な改訂に関する事務作業に貢献をいただいた四国がんセンター秘書の濱田恭子さん,改訂版編集作業に多大なるご尽力をいただいた金原出版株式会社の佐々木瞳さんに,この場を借りて,心より感謝申し上げます。

2023 年9 月

がん診療ガイドライン作成・改訂委員会
制吐薬適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループ
委員長 青儀 健二郎