胆道癌診療ガイドラインの目的・使用法・作成法

1.本ガイドラインの目的

胆道癌はいまだ予後不良な疾患であり,その治療成績の向上には多くの課題が診断の面からも治療の面からも残されている。海外では Cholangiocarcinoma に関する診療指針がThe British Society of Gastroenterology より2002 年に発表され(Gut 2002;51 Suppl6:ⅳ 1-9),2012 年に改訂(Gut 2012;61:1657-1669)されている。また,米国のNational Comprehensive Cancer Network からもHepatobiliary cancer の中で胆道癌に対する診療指針が掲載されている(https://www.nccn.org/guidelines/guidelines-detail?category=1&id=1517)。一方,本邦では2007 年に胆道癌診療ガイドラインが初めて出版され,その後2014 年に改訂第2 版が出版され,胆道癌の診断・治療の向上に大きく寄与してきた。しかし,改訂から4 年が経過し新たなエビデンスを包括したガイドラインの必要性が高まり,ここに胆道癌診療ガイドライン改訂第3 版の作成を行うに至った。胆道癌の診断・治療には十分な経験を積んだ医師による高度な技術が求められることが多いが,本ガイドラインは胆道癌診療に当たる臨床医を対象とし,専門医のみならず一般臨床医が効率的かつ適切な診療ができる一助となり得るように配慮した。

胆道癌診療にはレベルの高いエビデンスが少ないことが問題である。特に診断・治療の実際は各施設で独自の経験に基づいた診療が行われており,その内容に格差が大きいのが本邦のみならず世界の現状である。胆道癌領域において行われている医療行為にはエビデンスの高さに問題がある。したがって,推奨度の判断においてはガイドライン作成委員会におけるコンセンサスを重視し,改訂第3 版では各CQ の推奨度にガイドライン委員会での合意率を記載した。さらに,作成委員は外科,内科,放射線治療,病理,ガイドライン作成などの専門医から構成し,多分野の専門家による討議を行い内容に偏りがないように努力した。また,Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation(GRADE)(Atkins D, Guyatt GH, Oxman AD et al. BMJ 2004, 328:1490)の考え方を参考に可能な限り推奨を明確にし,本ガイドラインを参考とする医療従事者がより使いやすくなるようにした。

本診療ガイドラインが胆道癌診療に携わる医療者にとって適切な診療を行うための目安となり,また,胆道癌患者が安心して医療を受けられる指標になることを願っている。

2.本ガイドラインの対象

診療対象:

成人の胆道癌患者を診療対象とし小児患者は除いた。したがって,本文中の薬剤使用量などは成人を対象としたものである。

使用対象:

胆道癌診療に当たる臨床医を使用対象とし,本疾患の専門医のみならず一般臨床医が胆道癌に効率的かつ適切に対応できるように配慮した。

3.本ガイドラインの使用法

本ガイドラインの全内容は,ガイドライン作成委員全員による討論の上,承認されたものである。本ガイドラインの構成はまず,診断・治療に関するアルゴリズムを掲載した。ガイドライン本体はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014,IOM,GRADE system,各ガイドラインを参考にし,JPN Guidelines for the Management of Acute Pancreatitis やTokyo Guidelines for the Management of Acute Cholangitis and Cholecystitis に推奨されているごとく,クリニカルクエスチョン(CQ)の形式を採用した。すなわち,治療方針に関する施設間のばらつきが依然大きい疾患であるため,本疾患に携わる医療従事者が抱くことが多いと考えられる臨床上の疑問点を明確化し,それに対する現時点での指針を明らかにすることを目的として全体を7 分野に分け,それぞれの分野での疑問点をCQ の形にし,これに対する推奨,その度合い(推奨度),推奨に至る解説を記載した。かかる推奨および解説はエビデンスに基づき作成・記載しており,それに基づいて各CQ に対する推奨度を以下に示す指針(ガイドライン作成法を参照)に従い決定した。しかし,胆道癌の診断・治療は乳癌,胃癌,大腸癌等と比べるとRCT によるエビデンスの高い文献が圧倒的に少ないのが現状である。それゆえ,本ガイドラインでは後述するGRADE system の考え方を参考にし,文献をエビデンスレベルA・B・C・D の4 段階で判定し,さらに利益と害・負担のバランスに関する確実性,患者の嗜好性,資源の影響も加味して推奨度を決定した。なお,本ガイドラインにおける記載法は原則として胆道癌取扱い規約第6 版に準じた。

4.本ガイドラインの位置づけ

本診療ガイドラインの内容は現時点で最も標準的な診療指針であり,実際の診療行為を強制するものではない。各施設の状況(人員,診療経験,診療機器等)や各患者の個別性を加味して最終的に診療方針を決定するべきである。また,ガイドラインの記述に関する責は日本肝胆膵外科学会が負うものとするが,治療結果についての責任は直接の治療担当医師に帰属するべきものであり,学会およびガイドライン作成委員はこの責を負わない。

5.本ガイドラインの作成法

本ガイドラインは Evidence Based Medicine(EBM)の概念に従う事を旨として,2016年 11月 26日に第1 回胆道癌診療ガイドライン改訂第3 版作成委員会を開催した。本ガイドラインの作成方法は以下の手順に従った。1)改訂第2 版で検索を施行していない2013 年以降に発表された胆道癌に関係する論文を各CQ で決定したキーワードを用いて網羅的に検索した。 2)選択された文献を参照し,委員全体会議により改訂第2 版のCQ の追加・改正案を作成した。3)CQ の解説を担当分野ごとに作成した。4)全体会議にて作成された各CQ の推奨文,推奨度,解説文を検討し,最終草案を全委員により校正した。5)推奨が得られなかったCQ には,医療担当者および患者に判りやすく説明を心掛けた。6)かかる手順により作成されたものについて評価委員による評価を受けた。7)公聴会を開催し広く意見を受けた。8)公聴会の意見を参考に各CQ の推奨文および解説文の統一性を図るとともにより理解しやすいように修正し最終版を作成した。

1)網羅的文献検索について

後述するように各CQ で文献検索を行った。ただし,文献検索には限界があり必要な論文を見落とす可能性もあるため,各作成委員の判断でハンドサーチを行い網羅できなかった文献も採用した。

2)クリニカルクエスチョン(CQ)案の作成

2017 年3 月4 日に全体会議を開き,第1 版におけるCQ に追加・改訂を行い7 分野,45 題のCQ にてガイドラインの骨格をなすことを決定した。

3)推奨度とエビデンスレベル決定

推奨度提示の目的は患者に対して最も安全かつ適切な治療を提供しようとする医療者に,その医療行為の“お勧め度”を提示することにある。推奨度については全体会議により度重なる検討を行った。世界的にも数多くのガイドラインにおいて様々な推奨度の基準が記載されているが標準的な基準は存在しない。英国のように臨床における推奨度取り扱いをめぐる議論の末,推奨文のみで推奨度を提示しないガイドラインもある。

本ガイドラインでは2017 年10 月8 日,10 月29 日,2018 年1 月14 日,2 月4 日の全体会議を通じて下記に示すGRADE システムの考え方を参考にして各CQ の推奨度とエビデンスレベルについて討議を行った。まず,下記表に準じて論文エビデンスの質評価を行った。


本システムの特徴は表にあるようにエビデンスのStudy design のみでそのレベルを決定しないことにある。これにより,エビデンスレベルの決定にその内容,質まで含めて行うようにした。また,論文ごとにレベルを決定するのではなく,ある論点に対する種々の論文を包括的に判断するようにした。

次に論文のエビデンスに加えて利益と害・負担のバランスに関する確実性,患者の嗜好性,資源の影響を“はい”,“いいえ”に分けて判定した。これによりエビデンスレベルだけに推奨度の決定が左右されることがないよう,より実臨床での応用が行えるようにした。


これらの結果から挙手により委員の決を採り推奨度を決定した。委員の合意率は推奨度とともに各CQ に記載した。


ただし,幾つかのCQ には推奨度をつける必要のないもの(いわゆるBackground CQ)があり,かかるCQ は“推奨度なし”とした。また,本来は推奨度をつけるべきであるが70%以上の意見の一致が得られなかったCQ ではその理由を解説文に記載することで“推奨度なし”とした。“推奨度なし”とは胆道癌診療の専門家でもコンセンサスが得られないという意味であり,これらのCQ が臨床上重要な問題であることは間違いない。したがって,ガイドラインで取り上げる意義はあると判断し,エビデンスが乏しいという現時点の状況を踏まえて作成委員の解説を記載した。

4)CQ 確定とアルゴリズムの検討

各CQ 解説を担当委員が修正し,2018 年2 月4 日に全体会議を行い全CQ を確定した。また同時に診断・治療アルゴリズムを改訂,作成した。

5)評価委員による評価

担当委員欄に示すように,本疾患の診療の中心をになうと考えられる外科系,内科系の評価委員に加え,ガイドライン作成専門の評価委員の3名により内容を評価いただいた。評価の方法は自由記載の形式をとった。これらの結果得られた点について全委員で検討し,加筆修正した。

6)公聴会の開催

第30 回日本肝胆膵外科学会学術集会(2018 年6 月8 日,横浜)および第54 回日本胆道学会学術集会(2018 年9 月28 日,千葉)において公聴会を開催し,広く本領域に関わる医師の意見を拝聴し,最終的な校正を行った。

6.改訂版作成の予定

日本肝胆膵外科学会に常設の胆道癌診療ガイドライン委員会において,毎年エビデンスの評価および蓄積のための作業を継続し,約4〜5 年毎に改訂版を作成出版する予定である。なお,医療の進歩などにより改訂時期は適宜調整する。

7.資金

このガイドライン作成に要した資金は,すべて日本肝胆膵外科学会の支援によるものであり,企業からの資金提供はない。

8.利益相反

ガイドライン作成に先立ち,作成委員並びに評価委員は全員,日本肝胆膵外科学会利益相反委員会に利益相反(COI)に関する申告を行った。全員,本ガイドライン作成に関し問題なしと判定された。さらに推奨を決定する全体会議においては,各CQ の投票前に経済的利益相反(Economic COI)と学術的利益相反(Academic COI)の申告を行い,“COI あり”の場合は投票を棄権とし,意見の偏りを防ぐ様に努めた。

9.文献検索

計45 のCQ について文献検索を行った。第2 版のための文献検索以降の2013 年2 月1 日から2017 年4 月30 日までを検索対象とした。ただし,新規CQ やキーワードの追加などもあったため,検索年限が異なる場合があった。検索したデータベースは医中誌Web とPubMed である。言語は英語および日本語に限定し遺伝子研究は除外した。また,必要に応じて作成委員によりハンドサーチを行い,論文を追加した。検索期間以降でも発刊までに委員が極めて重要と認めた新しいエビデンスが発表された場合,委員の総意を確認した上でこれを採用した。検索したデータベース,検索年限,検索式,検索件数については巻尾に記載した。