1 章 上衣下巨細胞性星細胞腫 subependymal giant cell astrocytoma:SEGA
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 重要用語の定義
用語名 | 解説 |
---|---|
上衣下結節 subependymal nodule:SEN |
側脳室上衣下に認められる通常10 mm 以下の結節性病変。多発することが多い。石灰化を伴うこともある。腫瘍性増殖を示すことは原則としてないが,モンロー孔近傍に存在する場合はSEGA との鑑別が必要となる。 |
腎血管筋脂肪腫 angiomyolipoma:AML |
結節性硬化症の腎臓にしばしば両側性,多発性に発生する血管・平滑筋・脂肪から構成される腫瘍。10 歳以降に発生することが多い。しばしば無症状のまま増大して巨大化する。突然,腫瘍内出血を生じることもある。腫瘍の大きさ,腫瘍血管の動脈瘤の状態などを考慮して治療を選択する。 |
体細胞変異 | 突然変異によるTSC 遺伝子変異が体細胞系列の細胞集団に生じたもの。突然変異が生殖細胞系列との分化前に発生すると,体細胞変異は生殖細胞変異と共存するが,分化後であればどちらか一方の系列に限定したモザイクとなる。 |
大脳皮質結節 cortical tuber |
結節性硬化症に合併する脳病変の一つ。大脳皮質に通常は複数の腫瘤状結節を形成する。結節の皮質下白質はMRI T2 強調画像で高信号域を示し,深部に向かう放射状神経細胞移動線を認めることがある。腫瘍性増大・神経活動も示すことはないが,周辺脳組織にてんかん原性を伴うことがある。 |
肺リンパ脈管平滑筋腫症 lymphangioleiomyomatosis:LAM |
平滑筋様の腫瘍細胞が肺で増殖して多発性囊胞を形成する。結節性硬化症の女性患者で20~40 歳に発症することが多い。初期は無症状だが,進行すると自然気胸や動作時呼吸困難を生じるため,臨床的に重要な肺病変である。 |
不全型(モザイク等) | 結節性硬化症では個々の患者の表現度の差異が大きく臨床診断基準を満たさない不全型が存在する。その一つの機序としてモザイク変異が知られる。これはTSC 遺伝子変異が,受精後の突然変異で生じた場合であり,遺伝子変異を持つ細胞と持たない細胞が体内で混合する。この場合,結節性硬化症の臨床発現形態は遺伝子変異を持つ細胞にのみ発現するため不全型となる。 |
mTOR | 細胞成長・増殖に不可欠なキナーゼタンパク。ラパマイシン(細胞の成長・増殖を抑制,mTOR 活性を抑制する薬物)の結合タンパク。異常な活性亢進は結節性硬化症や腫瘍性病変などの原因となる。 |
mTOR シグナル伝達経路 | インスリン・成長因子の刺激を受け,栄養・エネルギーのレベルを検知して,TSC1/TSC2 複合体がそれらの情報を統合し,Rheb(Ras homolog enriched in brain)を介してmTOR 複合体1(mTORC1)活性を制御することにより細胞の成長・増殖,細胞骨格形成,栄養の取り込み,細胞死(アポトーシス)抑制などを調節する経路。 |
TSC1 遺伝子 | 染色体9q34 に位置しhamartin タンパクをエンコードする。結節性硬化症の発症にはTSC1/TSC2 遺伝子変異が関与する。TSC2 と結合して複合体(TSC complex)を形成し,mTOR シグナル伝達経路においてmTOR 活性を抑制する。 |
TSC2 遺伝子 | 染色体16p13.3 に位置しtuberin タンパクをエンコードする。TSC1 と結合して複合体を形成し,mTOR 活性を抑制する。 |
4 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割 | 氏名 | 所属機関/専門分野 | 作成上の役割 |
---|---|---|---|
委員長 | 市川 智継 | 香川県立中央病院 脳神経外科/脳神経外科 | 総括 |
副委員長 | 隈部 俊宏 | 北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 | 外科的治療 |
協力委員 | 坂本 博昭 | 大阪市立総合医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科 | 放射線治療 |
協力委員 | 師田 信人 | 北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 | 診断 |
委員 | 安藤 雄一 | 名古屋大学医学部附属病院 化学療法部/腫瘍内科 | ガイドライン作成方法の監修 |
協力委員 | 水口 雅 | 心身障害児総合医療療育センター むらさき愛育園/小児科 | 化学療法 |
協力委員 | 久保田 雅也 | 社会福祉法人日本心身障害児協会 島田療育センター 神経内科/神経内科 | 化学療法 |
委員 | 杉山 一彦 | 広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科 | 他のガイドラインとの整合性 |
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号 | 課題名 | 課題責任者 | SR 委員 |
---|---|---|---|
1 | 画像診断 | 師田 信人 | 井原 哲(東京都立小児総合医療センター 脳神経外科) |
2 | 外科的治療 | 隈部 俊宏 | 齋藤 竜太(名古屋大学 脳神経外科) |
3 | 化学療法 | 水口 雅 | 久保田 雅也(社会福祉法人日本心身障害児協会 島田療育センター 神経内科) 佐藤 敦志(東京大学医学部 小児科) |
4 | 放射線治療 | 坂本 博昭 | 國廣 誉世(大阪市立総合医療センター 小児脳神経外科) |
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
SEGA に対する治療選択肢が増えた中,エビデンスを整理し,病態分類に基づく診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,SEGA を合併する結節性硬化症患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に特定非営利活動法人 日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員3 名で構成された。その後,特定非営利活動法人 日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された8 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにSR チームを2~3 名で編成した。対象とするSEGA が稀少疾患であること,また,脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会として初めてのMinds に準拠するガイドライン作成であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年11 月30 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で,SEGA のガイドライン作成ワーキンググループが発足。上記のように8 名の委員を決定した。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返してver.1.5 を完成させた。これを2015 年10 月20 日に委員全体にメールで回覧し意見を募った。その後,アウトカムの設定など修正を加えたver.1.9.4 をもって最終稿とした。
システマティックレビュー:2015 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014 に準拠した方法に慣れていないため予想より時間を要した。さらに,SEGA という稀少疾患の特殊性ゆえにエビデンスが少なく,Minds に準拠した方法の適用が困難な場面に遭遇した。
推奨作成とその決定:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,メールで討議した。2016 年10 月16 日にガイドライン作成ワーキンググループによるミーティングを開催し,各CQ に対する推奨の強さについて討議し,決定のための投票を行った。欠席者はメールで投票した。最終的に2016 年12 月4 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会にて参加委員全員の投票により決定した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2018 年12 月ホームページ上に公開した。2021 年6 月公開の様式を一部変更した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
1)臨床的特徴
上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA)は,一部の特殊な症例(孤立性SEGA)を除き,結節性硬化症の患者に特異的に合併する中枢神経病変である。結節性硬化症は,SEGA,腎血管筋脂肪腫(angiomyolipoma:AML),肺リンパ脈管平滑筋腫症(lymphangioleiomyomatosis:LAM),顔面血管線維腫(facial angiofibroma)などの,TSC1 遺伝子またはTSC2 遺伝子の変異により発生する過誤腫や,てんかん,知的障害,自閉症などの行動異常をはじめとした,さまざまな症状を呈しうる全身性疾患である。結節性硬化症の診断は,臨床的診断基準に基づき,補助的診断として遺伝子診断が用いられる(表1)。臨床診断基準で結節性硬化症と診断できない不全型(モザイク等)の例が,数年を経過して診断されることがあるので注意を要する。
SEGA は側脳室の上衣下層から発生するWHO gradeⅠの低悪性度の腫瘍である。ほとんどが側脳室のモンロー孔近傍に好発するが,側脳室壁や脳弓,内包,基底核など脳実質内の発生,多発性の報告がある。SEGA は出生時から発生していることがあるが,20~25 歳以後に新たに発生することは稀である1)。SEGA は緩徐に増大するため,ある程度の大きさに達するまでは無症候であることが多いが,小児期から思春期にかけて発症することが多い。増大すると,神経脱落症状,視力障害,てんかんの悪化,認知障害の増強および行動変化などの臨床症状を引き起こす。いずれもモンロー孔の閉塞による水頭症が関与することが多く,さらに水頭症の悪化により,頭蓋内圧亢進症状をきたしたり,生命の危機に瀕する危険性がある。ただし,発達遅滞を伴っている患者も少なくなく,症状や体の不調を言葉で訴えられず,診断が遅れることが多いので注意を要する。また,急速な増大により腫瘍内出血をきたすことがある。
2)疫学的特徴
結節性硬化症患者の頻度は世界的に1 万人に1 人といわれ,我が国でも同程度と考えられ2),全国でおよそ1 万人の患者がいると推定されている。SEGA の結節性硬化症患者における発現率は5~20%といわれ1),結節性硬化症患者の死亡の原因の一つである3)。
3)診療の全体的な流れ
結節性硬化症に伴う神経病変としては,SEGA のほか,大脳皮質結節(cortical tuber),上衣下結節(subependymal nodule:SEN),放射状大脳白質神経細胞移動線が知られているが,臨床上SEN とSEGA の鑑別が重要である(図1)。SEGA の画像診断基準(表2)は,「尾状核視床溝(caudothalamic groove)も含むモンロー孔近傍に位置する病変で,(1)最大径1 cm 以上,(2)経時的に増大する上衣下腫瘍(造影効果の有無を問わない)」となっている1)。通常SEGA では著しい造影効果を示すが,増大傾向を示す上衣下病変では造影効果がなくともSEGA とみなすべき点に注意を要する。
なお,SEN は5~10 mm 未満で通常造影されず増大しないが,SEGA に進展する可能性があるといわれている。したがって,結節性硬化症が疑われる患者では,まず診断のために神経学的評価と画像検査を行い,SEGA が発見された後も定期的な検査により経時的な観察を継続すれば,増大を早期に発見することができる。画像検査は,可能な限りMRI 検査を行い,必要に応じて造影も追加する。水頭症の有無もチェックする。ただし,知的障害・自閉症を伴う場合は鎮静下の検査となることもあるため,その適応と方法に特別な配慮が必要であり,場合によってはCT 検査で代用される。
SEGA に対する治療は,腫瘍の制御と神経症状の予防ないし改善,水頭症のコントロールを目的とし,病態によって異なる。病態は,①急性症候性,②非急性症候性,③無症候性(増大あり),④無症候性(増大なし)の4 段階に分類する(表3)1,4)。
①急性症候性とは,急性閉塞性水頭症や腫瘍からの出血により症候性となり,直ちに治療を要する病態である。②非急性症候性とは,腫瘍に起因する非急性の神経症状や,説明のできない症状の悪化がみられる場合である。また,無症候性であっても,著しい脳室拡大や急速な拡大傾向,腫瘍周囲の著しい脳浮腫や脳圧排所見など,近い将来症候性になりうると考えられるsubclinical の画像所見がみられるものを含む。③無症候性(増大あり)とは,腫瘍に起因する神経症状は認めないが,経時的な画像検査で腫瘍の増大傾向を認めているものである。④無症候性(増大なし)とは,腫瘍に起因する神経症状がなく,経時的な画像所見でも腫瘍の増大傾向を認めないものである。
急性症候性の場合は外科的切除が第一選択であり,全摘出により治癒する可能性が高い。また,SEGA に伴う水頭症は,多くの場合は摘出により解消されるが,腫瘍摘出後にも脳室拡大・水頭症症状が改善しない場合には脳室腹腔短絡術,あるいは脳室脳槽間内短絡術の適応を検討する。なお,水頭症を伴うSEGA の外科的切除が速やかに行えない場合は,水頭症に対する外科的処置を行って一時的な症状の改善を行うことがあるが,外科的切除をいつどのようにして行うかなど,あらかじめSEGA に対する治療方法を十分に検討しておく必要がある。手術適応を検討するうえで,腎血管筋脂肪腫(AML)や肺リンパ脈管平滑筋腫症(LAM)などの合併症による全身状態を考慮する必要があるが,SEGA は,それらによる腎機能や肺機能の障害が出現する成人期よりも前に発症することが多いので,問題になることは少ない。
非急性症候性,無症候性(増大あり)で,外科的切除が危険あるいは困難と判断される場合は,薬物療法や放射線治療が行われることがある。また,外科的完全切除が困難な場合は,手術前あるいは手術後に薬物療法や放射線治療が行われることがある。しかし,現状では非急性症候性や無症候性(増大あり)の状況での治療方針は明確ではないので,この点についてのCQ を主に作成した。
結節性硬化症の原因遺伝子であるTSC1 遺伝子とTSC2 遺伝子は,mTOR シグナル伝達経路の負の調節因子であり,結節性硬化症に伴うSEGA の治療薬として,mTOR 阻害薬が我が国で2012 年12 月に承認された。mTOR 阻害薬の有用性を示した臨床試験は,病状が安定しており手術を必要としないが,画像上増悪傾向のあるSEGA を対象としている5)。投与量は,血中薬物濃度を指標に調節する必要がある。腫瘍縮小効果が得られる率は高く,通常は3 カ月以内の早い時期に効果が確認でき,投与継続により長期間にわたり腫瘍縮小効果が持続する。したがって,一般的な抗腫瘍薬に比べると,投与期間は長期になる。ただし,投与を中止すると,いったん縮小していた残存腫瘍が再増大することがある。また,間質性肺炎,感染症,口内炎などの副作用があり,安全性については,妊孕性などまだ明らかにされていない点もある。したがって,mTOR 阻害薬は,外科的切除の対象とならない患者での有力な治療選択肢となりうるが,その適応は,現時点では明確な基準はなく,症例ごとに検討する必要がある。また,結節性硬化症に合併するてんかん,腎AML,皮膚病変に対して副次的効果が認められることもあるが,SEGA 以外ではAML に対してのみ承認されている。
いずれの治療を選択するかは,症例ごとに病状・病期,SEGA の治療歴,合併症の病状,手術の難易度,施設の経験値,患者・家族の希望,などを考慮して総合的に判断する。また,SEGA と診断され,画像検査によるフォローアップを行う場合は,腫瘍増大により起こりうる症状につき,患者・家族が理解し対処できるよう,十分な説明を行う。
❖ 文献
- 1)
- Roth J, Roach ES, Bartels U, et al. Subependymal giant cell astrocytoma:diagnosis, screening, and treatment. Recommendations from the International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012. Pediatr Neurol. 2013;49(6):439‒44.[PMID:24138953]
- 2)
- Ohno K. Molecular epidemiology of tuberous sclerosis. In:Niimura M, Otsuka F, Hino O(eds.), Phacomatosis in Japan. Japan Scientific Press/Karger, Tokyo, 1999, pp53‒71.
- 3)
- Shepherd CW, Gomez MR, Lie JT, et al. Causes of death in patients with tuberous sclerosis. Mayo Clin Proc. 1991;66(8):792‒6.[PMID:1861550]
- 4)
- Krueger DA, Northrup H;International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Group. Tuberous sclerosis complex surveillance and management:recommendations of the 2012 International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference. Pediatr Neurol. 2013;49(4):255‒65.[PMID:24053983]
- 5)
- Franz DN, Belousova E, Sparagana S, et al. Efficacy and safety of everolimus for subependymal giant cell astrocytomas associated with tuberous sclerosis complex(EXIST-1):a multicentre, randomised, placebo-controlled phase 3 trial. Lancet. 2013;381(9861):125‒32.[PMID:23158522]
2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:SEGA の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後と機能予後の改善
- (3)トピック:診断,生命予後と機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児および成人の脳腫瘍,結節性硬化症を診療する医療者,患者・家族。日本における一般的な医療が提供できる医療施設。
- (5)既存ガイドラインとの関係:海外では,2012 年に結節性硬化症に関する国際コンセンサスカンファレンスが開催され,その討論の結果合意の得られた内容に関して,論文化されている。日本国内では,日本皮膚科学会から結節性硬化症の診断基準および治療ガイドラインが2008 年に発表されており,その中にSEGA に関するガイドラインも含まれている。ただし本ガイドラインは,日本でmTOR 阻害薬が結節性硬化症に合併するSEGAに対する治療として認可される前のガイドラインである。
- (6)重要臨床課題
課題1:診断
課題2:手術摘出
課題3:薬物療法
課題4:放射線治療 - (7)ガイドラインがカバーする範囲
結節性硬化症に合併するSEGA。なお,結節性硬化症患者にみられるその他の神経系の異常や,他臓器の合併症は,本ガイドラインのカバーする範囲に含まれない。
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール | 文献検索:1 カ月 文献の選出:1 カ月 エビデンス総体の評価と統合:2 カ月 |
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:海外では,2012 年に結節性硬化症に関する国際コンセンサスカンファレンスが開催され,その討論の結果合意の得られた内容に関して,SEGA についても論文化されている。日本国内では,日本皮膚科学会から結節性硬化症の診断基準および治療ガイドラインが2008年に発表されており,その中にSEGA に関するガイドラインも含まれている。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験の報告は,海外から2 報あるのみ。その他,非ランダム化比較試験,観察研究を検索対象にする。稀少疾患であるゆえに症例報告も重要であり検索対象にするが,選択する場合は理由を記載。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed
- systematic review/meta-analysis 論文について:Cochrane になし
- 既存のガイドラインの検索:不要
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2015 年11 月まで
- ①エビデンスタイプ
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。 - (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合が量的統合を実施。
課題1:画像診断
- CQ1
- 結節性硬化症と診断された患者のフォローアップにおいて,頭部画像診断(MRI またはCT)検査は無症候性SEGA の診断率を高めるために有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
結節性硬化症と診断された患者のフォローアップにおいて,無症候性SEGAの診断率を高めるために,頭部画像診断(MRI またはCT)検査を行うことを提案する。
- CQ2
- 非急性症候性または無症候性のSEGA 患者に対して,定期的な頭部画像診断(MRI またはCT)検査は有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
非急性症候性または無症候性のSEGA 患者に対して,定期的な頭部画像診断(MRI またはCT)検査を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
結節性硬化症に伴う神経病変としては,上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)のほか,皮質結節,上衣下結節(SEN),放射状大脳白質神経細胞移動線が知られているが,臨床上SEN とSEGA の鑑別が重要である。SEGA は出生時から発生していることがあるが,20~25 歳以後に新たに発生することは稀である。SEGA は緩徐に増大するため,ある程度の大きさに達するまでは無症候であることが多いが,小児期から思春期にかけてモンロー孔の閉塞による水頭症で発症することが多い。また,腫瘍内出血をきたすことがある。したがって,結節性硬化症が疑われる患者では,まず診断のために神経学的評価と画像検査を行い,その後も定期的な画像検査を継続して,SEGA の発生,増大を早期に発見する必要があると考えられている。
以上に基づき,本CQ に対する推奨を作成するために,アウトカムを以下のように設定した。
- CQ1 アウトカム:
- 画像によりSEGA と診断した患者の割合
- CQ2 アウトカム:
- フォローアップ画像で増大を認めた患者の割合
2.推奨の解説
結節性硬化症にSEGA が合併することはよく知られているが,画像診断上のSEGA の定義については必ずしも統一された見解が存在しているわけでなく,文献ごとに異なるのが現状である。2012 年に開催されたInternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012 では以下のように記載されているA)。
尾状核視床溝も含むモンロー孔近傍に位置する病変で以下のいずれかを示す。
2:経時的に増大する上衣下腫瘍(造影効果の有無を問わない)
CQ1
頭部画像検査,具体的にはMRI/CT が結節性硬化症と診断された患者において,無症候性SEGA 診断率向上の有用性評価を直接の対象とした文献は認められなかった。一方で,特定地域の結節性硬化症患者を対象とした画像診断における無症候性SEGA の診断について触れた文献が1 編存在した1)。この文献では英国Wessex における結節性硬化症有病率は人口10 万人あたり4.9 人であり,無症候性結節性硬化症患者でMRI 検査に同意した41例中7 例(17%)でSEGA が診断されている。結節性硬化症治療センターにおける無症候性SEGA の診断に触れた文献も1 編認められた2)。この文献の施設はオランダ全土における結節性硬化症患者の三次紹介医療センターであり,造影CT を施行した214 例中43 例(20%)にSEGA を認めている。両側性SEGA は43 例中9 例(21%),水頭症合併はSEGA 患者中の6 例(14%)であった。両文献のSEGA 診断基準はモンロー孔周辺に存在する最大径1 cm 以上あるいは造影効果を伴う病変であり,いずれもCT による診断結果である。画像診断によるSEGA 診断率には症候性および無症候性の症例も含まれる。そのため,症候性に対する手術施行例のみを対象とした従来のSEGA 診断率より高い。これは,頭部画像診断が無症候性SEGA の診断率を高めるために有用であることを示唆する所見と考えられる。しかし,文献としてはいずれも症例集積であり,エビデンスとしては弱い。そのためエビデンス強度はC(弱い)とした。
SEGA 自体は増大していく腫瘍である1,3-6,B)。SEGA の10%はSEN から増大してくるともいわれ,SEN の一部,とりわけモンロー孔周辺のSEN では経時的にSEGA に進展することがある6,7,B-D)。SEGA の増大は個人差もあり予測困難である。そのため,無症候性SEN でも定期的画像経過観察が必要となるC)。経時的画像診断はSEGA 前状態のSEN,あるいは発症初期のSEGA が明らかな腫瘍に増大していく過程を捉えることを可能とする6,7)。この点でも,頭部画像診断は無症候性SEGA の診断率を高めるために有用と考えられるが,文献のエビデンスとしてはいずれも弱い。初回MRI/CT にてSEGA を認めなかった場合に経時的画像診断が必要か,もし必要とした場合に経過観察をどのくらいの間隔で行うか,について明確なエビデンスを示して記載した論文は認めなかった。International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012 では,これまでにSEGA を発症していない無症状の結節性硬化症患者においても25 歳までは1~3 年ごとのMRI を提言しているA,E,F)。
注意すべきは石灰化のみのSEN 病変はMRI では診断困難であり3),ガドリニウム造影画像でも鑑別は困難な点にある4,G)。SEGA はほぼ全例石灰化を伴い,モンロー孔周辺から発生する。SEN の石灰化はSEGA の石灰化より小さいが,SEGA に増大するSEN はモンロー孔近傍に存在する。画像上はSEN の所見のみであった5 歳時より経過観察し,7 歳時にSEN 病変の腫瘍性増大を確認しSEGA と診断,その後12 歳時に水頭症を生じた時点で手術を施行した長期経過観察例も報告されているH)。無症候性結節性硬化症患者,とりわけ小児患児において,いずれかの時期にCT/MRI によるモンロー孔近傍部のSEN 病変の存在確認は,その後のSEGA への進展の可能性を予測する上で意義があると考えられる7,8,D)。
SEGA の診断について造影所見(+)を基にした場合と,結節の大きさ(>1 cm)により診断している場合とがある。International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012 では,増大しつつある腫瘍陰影を示せば大きさ・造影効果に関係なくSEGA と診断するとしているA)。また,診断法として古い論文ではCT を用い,1980 年代後半以降ではMRI の占める割合が大きくなっている8,9,A)。厳密な意味で,各文献におけるSEGA の診断基準・診断法の非一貫性は明らかであるが,推奨作成にあたってはその点は考慮していないことに留意されたい。
推奨の決定は,委員全員の投票により行われたが,7 割以上の賛成で原案の推奨文が可決された。
CQ2
急性症候性SEGA では外科治療の適応となる(本章CQ3 参照)が,非急性症候性の一部または無症候性(腫瘍増大なし)の場合は経過観察となる。SEGA は経過観察中にも増大あるいは症状増悪する可能性があり,経過観察を行うにあたっては定期的画像検査が必要となる。非急性症候性または無症候性SEGA 患者に対する定期的頭部画像診断検査の有用性を直接の検討対象とした文献は認められなかった。一方で,何らかの治療対象となった患者における経時的SEGA 増大が報告されている。Franz らはmTOR 阻害薬のSEGA に対する有効性と安全性確立を目的にランダム化比較試験を施行したが,その中のプラセボ群37 例中6 例(16%)に平均経過観察期間9.4 カ月でSEGA の増大を認めている10)。他の文献も合わせるとSEGA 増大は14~49%に認められている3,5)。Franz らの文献はランダム化比較試験に基づくものであるが,プラセボ群におけるSEGA 増大はあくまで副次的結果であり,論文の主眼とは異なる。そのため,この論文をもってエビデンスの強さを上げることは問題があると考えられ,エビデンス強度はC(弱い)とした。
SEGA の増大速度については個人差があるものの最大径で毎年1~10 mm 増大すると報告され,年平均の増大速度は4~5 mm と推定されている3,5,B)。以上より,経時的に増大するSEGA に対して,非急性症候性または無症候性の時点であっても定期的に頭部画像診断検査を施行することは,急性症候性となる前段階での治療介入を可能とするので,臨床上有用と考えられるI)。
定期的頭部画像診断の頻度・期間に言及した文献は複数存在するが,ランダム化比較試験のようなかたちで最適な画像診断頻度を検証した報告は認められない。SEGA の増大にはSEGA 自体の大きさと,診断時の年齢が問題となる。SEGA の大きさとの関係では,Wheless らは5~10 mm 以上のSEGA では3~6 カ月ごと,5 mm 以下では12 カ月ごとのMRI 検査を勧めているJ)。Jóźwiak らは1 cm 以上のSEGA に対しては半年ごとのMRI を推奨しているE)。年齢依存性に増大するSEGA では,患者の年齢も重要である。Jóźwiak らは20 歳までは2 年ごとのMRI が必要とし,それ以降は腫瘍の大きさが安定しているなら経過観察は不要と述べているE)。Jiang らは非手術例でSEGA が疑われたとき,あるいは手術例で全摘出できなかったときは3~6 カ月ごとのMRI を提言している5)。いずれの報告でも,SEGA が増大傾向にあるときは3~6 カ月ごとの検査を勧めている5,E,F)。CQ1 の解説部分にも述べた通り,International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012 では,これまでにSEGA を発症していない無症状の結節性硬化症患者において25 歳までは1~3 年ごとのMRI を提言しているA,E,F)。しかし,定期的画像診断の期間設定については,SEGA の増大速度以外の学術的根拠はなく,年齢・臨床経過(腫瘍増大経過)・非症候性水頭症(脳室拡大)の有無をもとに症例ごとに判断する必要があると考えられる。SEGA 増大速度に関連する文献はいずれも症例集積の中での後方視的分析に基づくものであり,エビデンスの強さを覆すだけの根拠はないと判断した。
推奨の決定は,委員全員の投票により行われたが,1 回目の投票で原案に対する7 割以上の賛成が得られなかったため,議論と投票を繰り返し,3 回目の投票で決定した。議論のポイントとなったのは推奨の強さで,エビデンスの強さと実臨床に基づく確信の強さの間に乖離が生じたためであった。議論の末,現状としては,SEGA の自然歴に関しては,稀少疾患であるがゆえに未だ明らかでないことが多く,エビデンスも非常に少ないので,整合性に欠ける推奨をするほどでないという結論に至った。
最後に,CQ1,CQ2 の画像診断に伴う患者・家族の負担について論じた論文は認めなかった。定期的画像診断検査に関しては,近年の報告はほとんどがMRI を用いて施行されている。しかし,小さな石灰化病変の検出はCT の方が優れている4)。また,発達障害を伴う小児の場合はMRI 撮影時の鎮静麻酔施行が医療社会状況により我が国においては容易でないという特殊性を配慮すると,放射線曝露の問題は残るが,日常臨床においてはCT の有用性も考慮する必要がある[参照:MRI 検査時の鎮静に関する共同提言https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20200416_MRI.pdf(2015 年1 月29 日に一部修正)日本小児科学会・日本小児麻酔学会・日本小児放射線学会]。どちらの検査手技を選択するかは施設ごと・患者ごとに個別に検討する必要があると考えられる。
なお,CQ1 に関して推奨されている画像診断は1~3 年ごと,CQ2 に関してSEGA 診断後の画像診断はSEGA の大きさにより3~12 カ月ごとであり,早期診断・治療介入を可能とすることを考慮すると経済的に過度の負担になるとは考えにくく,医療経済的効果に見合った資源の利用になると考えられる。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるために,結節性硬化症患者に合併するSEGA の画像診断について,下記検索式にて2015 年11 月に文献検索を行った。
検索ワードはsubependymal giant cell astrocytoma, radiology, diagnosis, seubependymal noduleを用い,PubMed上でANDあるいはORで組み合わせた上で,abstract, human, english でフィルターをかけた。その結果,60 編の文献を検討対象候補とした。さらに関連文献などを通し,3 文献を追加した63 文献を選出した。
これらの抄録を第1 回スクリーニング対象とし,CQ と関連性が高いと考えられた30 文献を選出した。SEGA そのものが稀少疾患であることを反映し,画像診断そのものを対象とした前方視的研究はなく,多くが症例集積・報告に準じる論文であった。
ガイドライン作成にあたっては,この中より各CQ に対応している情報を含んだ10 文献を選択し,システマティックレビューを行った。
CQ1 に関しては,結節性硬化症と診断された患者において,無症候性SEGA 診断率向上の有用性評価を直接の対象とした文献は認めなかった。特定地域の結節性硬化症患者を対象とした画像診断における無症候性SEGA の診断について触れた文献では無症候性結節性硬化症患者でMRI 検査に同意した41 例中7 例(17%)でSEGA が診断されている1)。結節性硬化症治療センターにおける無症候性SEGA の診断に触れた文献では造影CT を施行した214 例中43 例(20%)にSEGA を認めている2)。
CQ2 に関しては,定期的頭部画像診断検査の有用性を直接の検討対象とした文献は認めなかった。一方で,mTOR 阻害薬のSEGA に対する有効性と安全性確立を目的にランダム化比較試験を施行した文献において,論文の主眼と異なる副次的前方視的結果ではあるが,プラセボ群37 例中6 例(16%)に平均経過観察期間9.4 カ月でSEGA の増大を認めたと報告されている10)。他の文献も合わせるとSEGA 増大は14~49%に認められている3,5)。
なお,稀少疾患であるSEGA においては,症例集積・症例報告も重要となるため,内容に応じて推奨および解説作成に採用した。しかし,ここで採用した症例集積文献の中で,50 例以上の母集団を持つ論文は1 編のみであった。
❖ 文献
- 1)
- O’Callaghan FJ, Martyn CN, Renowden S, et al. Subependymal nodules, giant cell astrocytomas and the tuberous sclerosis complex:a population-based study. Arch Dis Child. 2008;93(9):751‒4.[PMID:18456692]
- 2)
- Adriaensen ME, Schaefer-Prokop CM, Stijnen T, et al. Prevalence of subependymal giant cell tumors in patients with tuberous sclerosis and a review of the literature. Eur J Neurol. 2009;16(6):691‒6.[PMID:19236458]
- 3)
- Cuccia V, Zuccaro G, Sosa F, et al. Subependymal giant cell astrocytoma in children with tuberous sclerosis. Childs Nerv Syst. 2003;19(4):232‒43.[PMID:12715190]
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- 5)
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- 7)
- Nabbout R, Santos M, Rolland Y, et al. Early diagnosis of subependymal giant cell astrocytoma in children with tuberous sclerosis. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1999;66(3):370‒5.[PMID:10084537]
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- Altman NR, Purser RK, Post MJ. Tuberous sclerosis:characteristics at CT and MR imaging. Radiology. 1988;167(2):527‒32.[PMID:3357966]
- 9)
- McMurdo SK Jr, Moore SG, Brant-Zawadzki M, et al. MR imaging of intracranial tuberous sclerosis. AJR Am J Roentgenol. 1987;148(4):791‒6.[PMID:3493666]
- 10)
- Franz DN, Belousova E, Sparagana S, et al. Efficacy and safety of everolimus for subependymal giant cell astrocytomas associated with tuberous sclerosis complex(EXIST-1):a multicentre, randomised, placebo-controlled phase 3 trial. Lancet. 2013;381(9861):125‒32.[PMID:23158522]
【その他の参考論文】
- A)
- Roth J, Roach ES, Bartels U, et al. Subependymal giant cell astrocytoma:diagnosis, screening, and treatment. Recommendations from the International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012. Pediatr Neurol. 2013;49(6):439‒44.[PMID:24138953]
- B)
- Ouyang T, Zhang N, Benjamin T, et al. Subependymal giant cell astrocytoma:current concepts, management, and future directions. Childs Nerv Syst. 2014;30(4):561‒70.[PMID:24549759]
- C)
- Nishio S, Morioka T, Suzuki S, et al. Subependymal giant cell astrocytoma:clinical and neuroimaging features of four cases. J Clin Neurosci. 2001;8(1):31‒4.[PMID:11322123]
- D)
- Northrup H, Krueger DA;International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Group. Tuberous sclerosis complex diagnostic criteria update:recommendations of the 2012 Iinternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference. Pediatr Neurol. 2013;49(4):243‒54.[PMID:24053982]
- E)
- Jóźwiak S, Nabbout R, Curatolo P;participants of the TSC Consensus Meeting for SEGA and Epilepsy Management. Management of subependymal giant cell astrocytoma(SEGA)associated with tuberous sclerosis complex(TSC):Clinical recommendations. Eur J Paediatr Neurol. 2013;17(4):348‒52.[PMID:23391693]
- F)
- Krueger DA, Northrup H;International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Group. Tuberous sclerosis complex surveillance and management:recommendations of the 2012 International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference. Pediatr Neurol. 2013;49(4):255‒65.[PMID:24053983]
- G)
- Pinto Gama HP, da Rocha AJ, Braga FT, et al. Comparative analysis of MR sequences to detect structural brain lesions in tuberous sclerosis. Pediatr Radiol. 2006;36(2):119‒25.[PMID:16283285]
- H)
- Morimoto K, Mogami H. Sequential CT study of subependymal giant-cell astrocytoma associated with tuberous sclerosis. Case report. J Neurosurg. 1986;65(6):874‒7.[PMID:3772487]
- I)
- de Ribaupierre S, Dorfmüller G, Bulteau C, et al. Subependymal giant-cell astrocytomas in pediatric tuberous sclerosis disease:when should we operate? Neurosurgery. 2007;60(1):83-8;discussion 89‒90.[PMID:17228255]
- J)
- Wheless JW, Klimo P Jr. Subependymal giant cell astrocytomas in patients with tuberous sclerosis complex:considerations for surgical or pharmacotherapeutic intervention. J Child Neurol. 2014;29(11):1562‒71.[PMID:24105488]
課題2:外科的治療
- CQ3
- 非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対する外科的摘出は,急性症候性となってから行われる場合と比較して有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対して,急性症候性となる前に外科的摘出を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
International Tuberous Sclerosis Complex Consensus 2012 には,SEGA に対する唯一の治療法は外科的切除であると記載されているA)。SEGA は急性症候性・非急性症候性・無症候性(腫瘍増大あり)・無症候性(腫瘍増大なし)の4 つの病態に分類可能であるが,手術療法を適応する上で一番問題となるのは,非急性症候性または無症候性(増大あり)の場合であり,アウトカムを以下のように設定した。
- アウトカム:
- 1)有害事象・QOL 低下
2)全摘出率
3)再発率・再摘出率
2.推奨の解説
SEGA は全摘出することにより完治せしめることが可能であるA)。急性症候性では生命の危機から脱却するために手術摘出が最優先されるB)。また,無症候性(腫瘍増大なし)の場合は経過観察で構わない。これらに関してはSEGA を治療する関係者の同意が得られている。
非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対しての最良の治療選択肢を決めるには,意思決定過程において,①予想される腫瘍拡大速度,②mTOR 阻害薬使用時の期待される腫瘍抑制効果と長期使用による合併症,③手術合併症リスク・有害事象,④費用,⑤治療期間,⑥結節性硬化症関連併存疾患への影響度,について考慮する必要があるA,B)。①については腫瘍増大速度は個人差が大きく予測困難,②は現時点で不明である。③と⑤に関しては,後述のように多分に術者の技量に依存し施設間較差が大きいために一般化することができない。④に関しては,結節性硬化症は,2015 年7 月に難病指定を受けており,成人も含め医療経済的には負担が軽減されているが,検査,治療,入院に伴う負担は小さくない。手術効果による医療費減免効果は不明である。⑥は個別に検討せざるを得ない。以上のような理由に加えて,それぞれの治療方法に対する患者(家族)の理解度の違いと治療に対する好みが加わるため,この治療に対する患者(家族)の意向は,大きくばらつくと考えられる。
残念ながら,過去の報告からSEGA に対する手術による有害事象発生率・全摘出率・再発率・再摘出率といった確率に対しては全く返答不能であり,QOL 低下・水頭症の改善・予防といった内容に関しては定性的返答さえも不可能であった。
合併症発生に関して,わずかながらKotulska(Poland,2014)1)とHarter(USA,2014)2)の論文が論じている。Kotulska らの論文1)では,Poland の多施設において2000~2012 年に治療した57 例(64 腫瘍)中4 例(6.2%)が術後に死亡している。死亡4 例のうち,3 例が術後7 日以内の死亡であり,1 例は痙攣重積,1 例は後出血,1 例は心停止であった。残る1 例は残存腫瘍の急な増大に伴う急性水頭症で3 カ月後に死亡していた。手術合併症は,片麻痺,水頭症,出血,認知機能低下が主なものであった。手術合併症発生率は腫瘍径<2 cm,2~3 cm,3~4 cm,>4 cm,両側性腫瘍でそれぞれ0%,30.8%,66.7%,73%,67%であった。また,3 歳以下の小児や症候性の症例に頻度が高い傾向を認めた。以上より,予後不良因子としては,3 歳未満,両側性腫瘍,腫瘍径2 cm 以上,症候性,部分切除,を指摘している。一方,Harter らの論文2)では,New York University Langone Medical Center 単施設において1997~2011 年に治療した18 例(22 腫瘍)を検討し,手術死亡はなく,急性合併症発生頻度は2 例で,いずれも回復したと報告している。彼らは90.9%に全摘出もしくはほぼ全摘出に近い亜全摘出を達成し,これらの再発はなかったものの,全体の半数に脳室腹腔短絡術が必要であったことを注意している。ちなみに過去の報告では,脳室腹腔短絡術は6~27%で行われていた。
手術時期を考えるうえで,合併症発生率は腫瘍径が2~3 cm 以下での治療成績が良好であるという報告が多く1,A,C,D),手術決断の一つの目安にはなるかもしれない。しかし,ゆっくりと進行し,しかもある年齢(20 代半ば)に達すると腫瘍拡大が停止するB)腫瘍に対して,必ず合併症発生のリスクを伴う手術介入時期の決定はやはり難しい。その理由は,前述のように,①腫瘍増大速度は個人差が大きく拡大速度を予想する方法がないために,「急性症候性になる前」を正確に判断することができないこと,②mTOR 阻害薬2,A,B,E)が使用可能となっているものの,非急性症候性または無症候性(増大あり)の段階で,この薬剤を使用した後の反応性と長期投与による合併症発生が予想できないこと,が主な理由となる。今後この2 点を解明しない限り,手術時期の推奨は明らかにはできないと考えられる。
特殊な事例としてcongenital(neonatal)SEGA3,F)・両側性病変が挙げられるが,前者に対しては,生後待機的に手術を行うことで良好な予後が得られる可能性が示唆されているため,できれば新生児期を過ぎるまで水頭症を管理して経過を見たうえでの摘出3)を,後者に対しては二期的手術も考慮すべきであると報告2)されている。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるために,下記検索式にて2015 年11 月に文献検索を行った。
この79文献すべてに対してシステマティックレビューを行い,まず構造化抄録を作成した。
この結果,エビデンスとしては前方視的比較試験は存在せず,サンプルサイズとしても最大で57 例(Kotulska,2014)の後方視的検討であった1)。したがって,手術療法に関して学術的検討を行うデータはほとんど症例報告,症例集積に頼るしかなかった。
アウトカムとして設定した3 項目に,バイアスリスクなくアウトカムに答えることのできる文献は基本的に存在していなかった。この中である程度参考になる文献として,Kotulska ら(2014)1)とHarter ら(2014)2)の文献が挙げられるが,有害事象発生率・全摘出率・再発率・再摘出率といった確率に対しては全く返答不能であり,QOL 低下・水頭症の改善・予防といった内容に関しては定性的返答も不能であった。
したがって,手術療法で設定した今回のCQ に対しての推奨文は,症例報告,症例集積と3 つのInternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012 の報告A,B,F)を定性的にまとめたものとなった。
非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対する手術療法を選択するうえで,一番問題となるのは,そのタイミングであるが,自然経過の中での腫瘍増大の予測と,mTOR 阻害薬使用後の腫瘍抑制効果の2 点がポイントとなると思われる。前者に関しては定期的画像検査と腫瘍拡大に関する文献から4~5 mm/年というデータが存在するが確証されておらず,後者に関してはmTOR 阻害薬使用後の超長期成績が存在しないために,現時点ではやはり明らかなデータが存在しないといわざるを得ない。
❖ 文献
- 1)
- Kotulska K, Borkowska J, Roszkowski M, et al. Surgical treatment of subependymal giant cell astrocytoma in tuberous sclerosis complex patients. Pediatr Neurol. 2014;50(4):307‒12.[PMID:24507694]
- 2)
- Harter DH, Bassani L, Rodgers SD, et al. A management strategy for intraventricular subependymal giant cell astrocytomas in tuberous sclerosis complex. J Neurosurg Pediatr. 2014;13(1):21-8.[PMID:24180681]
- 3)
- Kotulska K, Borkowska J, Mandera M, et al. Congenital subependymal giant cell astrocytomas in patients with tuberous sclerosis complex. Childs Nerv Syst. 2014;30(12):2037‒42.[PMID:25227171]
【その他の参考論文】
- A)
- Roth J, Roach ES, Bartels U, et al. Subependymal giant cell astrocytoma:diagnosis, screening, and treatment. Recommendations from the International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012. Pediatr Neurol. 2013;49(6):439‒44.[PMID:24138953]
- B)
- Krueger DA, Northrup H;International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Group. Tuberous sclerosis complex surveillance and management:recommendations of the 2012 International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference. Pediatr Neurol. 2013;49(4):255‒65.[PMID:24053983]
- C)
- Berhouma M. Management of subependymal giant cell tumors in tuberous sclerosis complex:the neurosurgeon’s perspective. World J Pediatr. 2010;6(2):103‒10.[PMID:20490765]
- D)
- Moavero R, Pinci M, Bombardieri R, et al. The management of subependymal giant cell tumors in tuberous sclerosis:a clinician’s perspective. Childs Nerv Syst. 2011;27(8):1203‒10.[PMID:21305305]
- E)
- Wheless JW, Klimo P Jr. Subependymal giant cell astrocytomas in patients with tuberous sclerosis complex:considerations for surgical or pharmacotherapeutic intervention. J Child Neurol. 2014;29(11):1562‒71.[PMID:24105488]
- F)
- Northrup H, Krueger DA;International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Group. Tuberous sclerosis complex diagnostic criteria update:recommendations of the 2012 Iinternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference. Pediatr Neurol. 2013;49(4):243‒54.[PMID:24053982]
課題3:化学療法
- CQ4
- 非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対して,外科的切除の対象とならない場合にmTOR 阻害薬投与は有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対して,外科的切除の対象とならない場合にmTOR 阻害薬の投与を提案する。
解説
1.CQ の設定
SEGA を治療するためのmTOR 阻害薬による薬物療法については近年,多くの論文が発表されてきた。非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA は,全摘出できれば治癒が期待できる。そこで,薬物療法の適応となるのは外科的切除の対象とならない場合(多発性あるいは浸潤性の腫瘍,腫瘍が摘出不能部位にある,全身合併症により心・肺・腎機能に重度の障害がある,術後の残存腫瘍あるいは再発で複雑化した病態にある,患者が手術を拒否した場合など)である。そこで,下記のようなアウトカムを設定した。
- アウトカム:
- 1)腫瘍体積の縮小(50%以上)
2)副作用(すべてのグレード,グレード3~4)
2.推奨の解説
結節性硬化症の原因遺伝子としてTSC2(1993 年),TSC1(1997 年)が同定されたことを契機として結節性硬化症の病態解明が急速に進んだ。両遺伝子のタンパク産物は複合体を形成し,mammalian(またはmechanistic)target of rapamycin(mTOR)信号伝達系の中流に位置し,この系を抑制的に制御する。結節性硬化症の主たる病態はmTOR 系下流の異常な活性亢進であること,また結節性硬化症に伴うSEGA や腎血管筋脂肪腫(AML)では,体細胞変異などの機序によりmTOR 活性がさらに高まっていることが解明された。これらの知見に基づき,結節性硬化症に伴う腫瘍の治療としてmTOR 阻害薬による化学療法が始められた。mTOR 阻害薬にはラパマイシン(シロリムス)とその誘導体であるエベロリムス,テムシロリムスなど(ラパログと総称される)がある。これらの薬物は,薬物代謝上の若干の違いはあるものの,薬効や副作用はほとんど変わらない。はじめ臓器移植後の免疫抑制薬として開発されたが,のちに悪性・良性腫瘍に対する抗腫瘍薬,ステント血栓症予防薬として応用が広がった。
結節性硬化症に伴うSEGA を治療するためのmTOR 阻害薬としては,シロリムスが2006 年から,エベロリムスが2010 年から報告され始めた。関連する論文は数十に及ぶものの,その中で多数の症例を集積しエビデンスの基盤となり得る研究は5 論文(ランダム化比較試験1 文献1),症例集積4 文献2-5))と僅少であった。
mTOR 阻害薬の益(効果)に関わるアウトカムとして,無イベント生存割合(EFS)改善やQOL 向上に関する有用な情報はこれらの研究には乏しく,腫瘍体積縮小が事実上唯一の指標であった。mTOR 阻害薬の投与を6 カ月~3 年にわたって続けた後に32~56%の患者で50%以上の腫瘍体積縮小が観察されたことから1-5),エビデンスとしてはまだ弱いながらも,mTOR 阻害薬の腫瘍縮小効果は確実と考えられた。ただし,本研究における薬物用量は,我が国における用量と異なる点がシステマティックレビューにおいて非直接性のバイアスとして指摘されている。大多数の患者の臨床経過として,投与開始後3 カ月後には腫瘍が縮小し,投与を続ける限り3 年程度はその効果が持続する。しかし腫瘍が消失することはない。また,投薬を中止すると,その後に腫瘍が再び増大することが報告されていた。なお,3 年を超える長期間にわたって薬物療法を継続する必要があるのか,継続した際に効果は持続するのかについては,未だ知見がなかった。また,治療開始の基準,手術療法との優劣,術前化学療法(ネオアジュバント化学療法)に関する研究もなかった。mTOR 阻害薬内服は全身療法であるため,SEGA 以外の結節性硬化症の症状(顔面血管線維腫,腎AML,てんかん,自閉症ほか)に対する副次的効果も期待されるが,これについての記載も極めて乏しかった。
mTOR 阻害薬の害(有害事象)に関しては口内炎,感染症など多彩な副作用が記載されていたが,グレード3~4 の重大な副作用の頻度は高くなく,概ね忍容可能と判断されていた。口内炎ないし口腔内潰瘍は大多数の患者(およそ80%)にみられる副作用である。投与開始直後の数カ月に多く,それを過ぎると減る傾向があるとされる。感染症も高頻度にみられ,胃腸炎,肺炎,上気道炎,中耳炎,結膜炎などが記載されていた2-5)。その多くは軽症で,mTOR 阻害薬との因果関係も明瞭でない。しかし,少数ながら重篤な肺炎,敗血症や肝炎の報告も散見される。月経異常(無月経など),皮疹(痤瘡ないし痤瘡様発疹),血液検査異常(コレステロール,トリグリセリドの高値)はそれぞれ10%以上にみられた2-5)。また,mTOR 阻害薬投与に際しては,低頻度だが重篤となりやすい間質性肺疾患への注意が求められる。なお,小児の成長発達,将来の生殖能力などを含めた長期的な問題については,未だ知見が極めて乏しい。
以上より,現段階でmTOR 阻害薬による薬物療法については,益が害を上回り,推奨に値する治療オプションの一つである。しかし長期的な益と害に関する知見が不足しており,今後さらなる研究が必要と考えられた。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるために,下記検索式にて2015 年11 月に文献検索を行った。
この58 文献から一次スクリーニングで32 文献を抽出し,システマティックレビューを行い,まず構造化抄録を作成した。
これらの論文中,多数の症例を集積しエビデンスの基盤となり得る研究は僅少であり,二次スクリーニング後には5 文献(ランダム化比較試験1 文献1),症例集積4 文献2-5))しか残らなかった。
これらの論文ではmTOR 阻害薬投与を6 カ月~3 年続けた後に32~56%の症例で50%以上の腫瘍体積縮小が観察されたことから,エビデンスとしては弱いながらも,mTOR 阻害薬の益(腫瘍縮小効果)は確実と考えられた。ただし3 年を超える長期間,薬物療法を継続する必要があるのか,継続した際に効果は持続するのかについては,未だ知見がない現状である。
mTOR 阻害薬の害(有害事象)に関しては口腔内潰瘍,感染症など多彩な副作用が記載されているが,グレード3~4 の重大な副作用の頻度は高くなく,概ね忍容可能と判断された。ただし小児の成長発達,将来の生殖能力などを含めた長期的な問題については十分な知見が得られていない。
また,薬価が非常に高価であり,治療期間が長い年月にわたるため,患者または行政にかかる費用負担が大きいことも問題となり得る。
以上より,現段階でmTOR 阻害薬による薬物療法については,益が害を上回り,推奨に値する治療オプションの一つと考えられるが,長期的な益と害に関する知見が不足しており,今後さらなる研究が必要と考えられた。
❖ 文献
- 1)
- Franz DN, Belousova E, Sparagana S, et al. Efficacy and safety of everolimus for subependymal giant cell astrocytomas associated with tuberous sclerosis complex(EXIST-1):a multicentre, randomised, placebo-controlled phase 3 trial. Lancet. 2013;381(9861):125‒32.[PMID:23158522]
- 2)
- Franz DN, Leonard J, Tudor C, et al. Rapamycin causes regression of astrocytomas in tuberous sclerosis complex. Ann Neurol. 2006;59(3):490-8.[PMID:16453317]
- 3)
- Krueger DA, Care MM, Holland K, et al. Everolimus for subependymal giant-cell astrocytomas in tuberous sclerosis. N Engl J Med. 2010;363(19):1801‒11.[PMID:21047224]
- 4)
- Krueger DA, Care MM, Agricola K, et al. Everolimus long-term safety and efficacy in subependymal giant cell astrocytoma. Neurology. 2013;80(6):574-80.[PMID:23325902]
- 5)
- Franz DN, Belousova E, Sparagana S, et al. Everolimus for subependymal giant cell astrocytoma in patients with tuberous sclerosis complex:2-year open-label extension of the randomised EXIST-1 study. Lancet Oncol. 2014;15(13):1513‒20.[PMID:25456370]
課題4:放射線治療
- CQ5
- 外科的切除の対象とならない非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対して放射線治療は有用か?
- 推奨度2D
- 推奨
非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対して,外科的切除の対象とならない場合に放射線治療を行わないことを提案する。
解説
1.CQ の設定
SEGA は全摘出できれば治癒が期待できる低悪性度神経膠腫(WHO grade Ⅰ)である。この腫瘍に対し放射線治療が選択される機会は少ないが,他の神経膠腫と同様に考えれば手術,薬物療法が有効でない場合,放射線治療が治療選択肢として想定される。しかし,実際に放射線治療を推奨できるかどうかを決定するためには,腫瘍の縮小効果と有害事象として放射線障害等の問題を検討する必要がある。よって,本CQ に対する推奨を作成するため,アウトカムを下記のように設定した。
- アウトカム:
- 1)腫瘍コントロール率
2)有害事象・QOL 低下
2.推奨の解説
SEGA は腫瘍が全摘出できれば治癒が期待できる低悪性度神経膠腫(WHO grade Ⅰ)であるため放射線治療が選択されることは少なく,これに関連する論文も非常に少ない。
文献を検索すると,複数例のSEGA に対する放射線治療の効果を主に検討したのは1 つの報告のみであった1)。この報告では,初期治療として4 例,手術後再増大1 例,手術後残存1 例の計6 例に対し,定位放射線治療であるガンマナイフを用いて放射線治療を行い,平均73 カ月(42~90 カ月)の経過観察期間では5 例で腫瘍制御が可能であったとしている。それ以外では,ガンマナイフの治療効果について検討された文献の中でSEGA が含まれていたのは3 つの報告2-4)があった。種々の脳腫瘍(137 例148 腫瘍)に対するガンマナイフ後の腫瘍体積を検討したPark らの報告では,低悪性度神経膠腫15 例の中にSEGA が2 例含まれ,この2 例ではガンマナイフ後平均7 カ月(4~17 カ月)という非常に短い経過観察期間であるが腫瘍縮小効果があったと報告している3)。12 例の低悪性度神経膠腫に対するガンマナイフの効果を検討したHenderson らの報告では,SEGA の2 例中1 例は治療後に増大し手術が必要になったと報告している2)。また,21 例の低悪性度神経膠腫に対してガンマナイフの効果を検討した報告4)にはSEGA が3 例あり,その全例が治療後に腫瘍が増大し手術が必要になったと報告している。これらSEGA に対してガンマナイフが施行された上記の4 つの報告1-4)の計13 例中5 例(38%)がガンマナイフ後に増大し,腫瘍制御の効果として十分な結果ではなかった。また,10 例のSEGA の治療結果をまとめた報告5)の中で,線量など詳細な記載はなかったが,摘出後の残存病変に対し放射線治療を施行した1 例が増大し,手術が必要であったと報告している。これらの報告では症例数が少なく,さまざまな治療対象で,論文間で結果にばらつきがあるなどエビデンスとしては非常に低いものではあるが,ガンマナイフがSEGA に対して腫瘍制御に十分な効果があるとはいえない。一方,ガンマナイフによる放射線治療の有害事象についてはPark らの報告のみであり,経過観察期間平均73 カ月(42~90 カ月)では有害事象はなかったが,さらなる症例数と長期の結果がより正確な評価には必要であると考察している1)。
分割照射においては,SEGA 摘出後の残存病変に対してリニアックによる分割照射を施行し,8 年後に照射野である右側頭葉内側に膠芽腫をきたした報告6)や,放射線治療の種類や線量の記載はないが,手術後再発病変に対する放射線治療の数年後にSEGA の近接部位に膠芽腫をきたした報告7)がある。このように,分割照射では放射線治療後の晩期障害で二次がん(膠芽腫)が発生する可能性があり,SEGA に対して分割照射をすべきでないという報告がある6)。
以上の報告例から,SEGA に対する放射線治療としてガンマナイフによる腫瘍制御の有効性は十分ではなく,ガンマナイフによる有害事象の報告はないものの,その判定にはさらなる長期の経過観察と症例の蓄積が必要とされる。リニアックによる分割照射は腫瘍制御の効果は不明であり,放射線治療に伴う二次がんとして長期経過で膠芽腫の発生という生命予後を悪化させる重篤な有害事象が報告されているため,施行すべきではない。2012年に行われた結節性硬化症に対するInternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012 の報告A)で,SEGA に対する放射線治療は治療の有効性は示されず,二次がんの発生の可能性が強調されている。結論として,報告例が少ないためエビデンスとしては非常に弱いが,現時点でガンマナイフやリニアックによる分割照射による放射線治療は,いずれもSEGA に対して益が害を上回る有効な治療とはいえないため,行わないことを提案する。
推奨の決定は,委員全員の投票により行われたが,全員の賛成一致で原案の推奨文が可決された。
今後の検討課題として,「mTOR 阻害薬投与によってSEGA の縮小効果が得られないが外科的治療を施行しない場合,あるいは,SEGA の摘出後の再発病変や残存病変の増大に対し,放射線治療は有用か?」について検討する必要がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるために,下記検索式にて2015 年11 月に文献検索を行った。
この#2,#3,#4 の合計30 文献で一次スクリーニングを行った。文献のアブストラクトにおいてSEGA に対する放射線治療ではないもの,SEGA が含まれていないもの,放射線治療をしたかどうか不明なもの,薬物療法のみの記載しかない16 文献を除外した。
一次スクリーニングで残った14 論文とこれらの論文で引用されていた4 文献,計18 文献において二次スクリーニングを行った。二次スクリーニングで,レビューのみの文献およびSEGA に対して放射線治療を行っていな文献は除外し,アウトカム1)腫瘍コントロール率に対して,腫瘍コントール率が不明なものおよび症例報告は除外した。アウトカム2)有害事象・QOL 低下に対して,有害事象に記載がないものは除外したが,このアウトカムは,重要な有害事象という「害」が含まれていたため,症例報告1 論文も採用した。二次スクリーニング後に7 文献が残った。
アウトカム1)腫瘍コントロール率では,SEGA に対する放射線治療(ガンマナイフ)の効果を検討しているものは1 文献1)で,この文献でも6 例のみと非常に少数例の報告であった。そのため,放射線治療の腫瘍縮小効果を可能な限り文献上で検討するために,さまざまな脳腫瘍に対するガンマナイフ後の腫瘍体積を検討した1 文献3)のうちSEGA 2 例,低悪性度神経膠腫に対するガンマナイフの効果を検討した2 文献2,4)のうちSEGA がそれぞれ2 例と3 例が含まれていたので,これら3 文献はアウトカム1)の評価のため採用した。また,1 施設でSEGA に対する治療をまとめた1 文献5)のうち,放射線治療を施行していたSEGA 1 例が含まれていたため,この1 文献もアウトカム1)の評価のため採用し,合計5 文献,14 例に対して検討した。
アウトカム2)有害事象・QOL 低下では,SEGA に対する放射線治療の効果を検討している論文で,有害事象の有無について記載があった1 文献1)は採用した。また,SEGA 19 例のうち放射線治療を行った1 例で重要な有害事象を認めたと報告した1 文献7)と症例報告ではあったものの,重篤な有害事象を認めた1 文献6)も重要な「害」と判断したため,合計3 文献を採用した。
アウトカム1)腫瘍コントロール率に関して,採用した5 文献のうち,腫瘍コントロールできたものは14 例中8 例の57%のみであった。これらの経過観察期間は,SEGA に対するガンマナイフの効果を検討していた1 文献1)の3 例が,平均73 カ月(42~90 カ月)と記載があったものの,その他,放射線治療を施行したSEGA に対する詳細な経過観察期間は不明であり,長期に経過観察されているか不明であった。放射線治療のうちガンマナイフで検討された4 文献1-4)の13 例中5 例で増大し,摘出術が必要であった。また,これらの文献のうち6 例中5 例で腫瘍制御が平均73 カ月(42~90 カ月)経過観察期間において可能であったとする報告1)や,3 例中3 例で増大し効果がないとする報告4)があることからも,SEGA に対するガンマナイフの効果は非常にばらつきがあった。また,これらの文献では,手術後残存病変,手術後再発病変,無症候性の増大病変や無増大病変など治療対象はさまざまな状態であった。残りの1 文献5)では放射線治療の線量,種類は不明であったが,増大し手術加療が必要であったと報告されていた。これらのことから,エビデンスとしては非常に弱いものであるが,現在,SEGA に対する放射線治療の腫瘍コントロールにおいて放射線治療,ガンマナイフにおいても効果があるとは結論できない。
放射線治療の有害事象・QOL 低下である「害」に関して,採用した3 文献のうち,SEGA 6 例に対してガンマナイフを施行した文献1)では,経過観察期間が平均73 カ月(42~90 カ月)で有害事象はなかったと報告されている。症例報告の1 例は,手術後残存部位に対して分割照射を施行後8 年で照射野である右側頭葉内側に膠芽腫をきたした例が報告6)されている。最後の1 文献7)では,放射線治療の種類や線量に記載がないが,手術後再発病変に対する放射線治療数年後にSEGA の近接部位に膠芽腫をきたしたと報告されている。現在,症例数が少なく,バイアスの評価も困難であるものの,SEGA という低悪性度神経膠腫に対する放射線治療の「害」の評価には,長期の経過観察が必要である。分割照射では重篤な「害」として放射線治療後の晩期障害として二次がん(膠芽腫)が発生する可能性があり,すべきでないとの報告6)がある。SEGA に対するガンマナイフは「害」については現在のところ報告されてないが,長期の経過観察がさらに必要と考えられる。
❖ 文献
- 1)
- Park KJ, Kano H, Kondziolka D, et al. Gamma Knife surgery for subependymal giant cell astrocytomas. Clinical article. J Neurosurg. 2011;114(3):808‒13.[PMID:20950089]
- 2)
- Henderson MA, Fakiris AJ, Timmerman RD, et al. Gamma knife stereotactic radiosurgery for low-grade astrocytomas. Stereotact Funct Neurosurg. 2009;87(3):161‒7.[PMID:19321969]
- 3)
- Park YG, Kim EY, Chang JW, et al. Volume changes following gamma knife radiosurgery of intracranial tumors. Surg Neurol. 1997;48(5):488‒93.[PMID:9352814]
- 4)
- Wang LW, Shiau CY, Chung WY, et al. Gamma Knife surgery for low-grade astrocytomas:evaluation of long-term outcome based on a 10-year experience. J Neurosurg. 2006;105 Suppl:127‒32.[PMID:18503345]
- 5)
- Sinson G, Sutton LN, Yachnis AT, et al. Subependymal giant cell astrocytomas in children. Pediatr Neurosurg. 1994;20(4):233‒9.[PMID:8043461]
- 6)
- Matsumura H, Takimoto H, Shimada N, et al. Glioblastoma following radiotherapy in a patient with tuberous sclerosis. Neurol Med Chir(Tokyo). 1998;38(5):287‒91.[PMID:9640965]
- 7)
- Torres OA, Roach ES, Delgado MR, et al. Early diagnosis of subependymal giant cell astrocytoma in patients with tuberous sclerosis. J Child Neurol. 1998;13(4):173‒7.[PMID:9568761]
【その他の参考論文】
- A)
- Roth J, Roach ES, Bartels U, et al. Subependymal giant cell astrocytoma:diagnosis, screening, and treatment. Recommendations from the International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012. Pediatr Neurol. 2013;49(6):439‒44.[PMID:24138953]
2 章 中枢神経原発胚細胞腫瘍 CNS germ cell tumor
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
中村 英夫
久留米大学 脳神経外科/脳神経外科
総括
副委員長
柳澤 隆昭
東京慈恵会医科大学 脳神経外科/小児科
再発時の治療方針
委員
唐沢 克之
都立駒込病院 放射線治療科/放射線治療
放射線治療
協力委員
副島 俊典
神戸陽子線センター 放射線治療科
放射線治療
協力委員
横尾 英明
群馬大学 病態病理学分野/病理診断
疾患の特徴
委員
西川 亮
埼玉医科大学国際医療センター 脳脊髄腫瘍科/放射線治療
長期予後
委員
藤巻 高光
埼玉医科大学病院 脳神経外科/放射線治療
診断,分類
協力委員
原 純一
大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科/小児科
化学療法
委員
寺島 慶太
国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科/小児科
化学療法
委員
園田 順彦
山形大学 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
委員
荒川 芳輝
京都大学大学院医学研究科 脳神経外科学/脳神経外科
外科的治療
委員
隈部 俊宏
北里大学 脳神経外科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
委員
杉山 一彦
広島大学 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
1
診断,分類
藤巻 高光
福岡 講平(埼玉県小児医療センター 血液腫瘍科)
高見 浩数(東京大学 脳神経外科)
2
外科的治療
荒川 芳輝
園田 順彦(山形大学 脳神経外科)
櫻田 香(山形大学 脳神経外科)
峰晴 陽平(京都大学大学院医学研究科 脳神経外科学)
3
ジャーミノーマに対する治療
唐澤 克之
副島 俊典(神戸陽子線センター 放射線治療科)
藤井 元彰(三井記念病院 放射線治療科)
篠島 直樹(熊本大学 脳神経外科)
4
NGGCT に対する治療
寺島 慶太
原 純一(大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科)
山崎 夏維(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
藤村 純也(順天堂大学 小児科)
5
再発時の治療方針
柳澤 隆昭
山崎 文之(広島大学 脳神経外科)
高橋 麻由(京都田辺中央病院 脳神経外科)
6
長期予後
西川 亮
鈴木 智成(埼玉医科大学国際医療センター 脳脊髄腫瘍科)
佐藤 伊織(東京大学医学部健康総合科学科大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻 家族看護学分野)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
中枢神経原発胚細胞腫瘍に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,中枢神経原発胚細胞腫瘍患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された13 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにガイドライン作成ワーキンググループがシステマティックレビュー(SR)チームの責任者となり,責任者にSR 委員を選出してもらい,各課題2 名または3 名で編成した。中枢神経原発胚細胞腫瘍が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2015 年8 月23 日中枢神経原発胚細胞腫瘍ガイドライン第1 回会議を開催し,ガイドライン作成ワーキンググループが発足。課題をどのようにするか討議し各課題のリーダーを決定した。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2016 年1 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014 に準拠した方法により行った。中枢神経原発胚細胞腫瘍が稀少疾患であるためエビデンスが少なく,適用が困難な場面に遭遇したが,論議しながら完成に向かった。
ガイドライン作成ワーキンググループ会議:ガイドライン作成ワーキンググループ内での会議を全体で6 回行った。
第1 回 2015 年8 月23 日(東京)委員選出と役割分担について
第2 回 2017 年9 月22 日(東京)システマティックレビューに関してMinds(吉田雅博氏)の講義を受け,それぞれのレビューの進行確認
第3 回 2018 年1 月27 日(東京)各CQ,推奨,解説文に関する討議
第4 回 2018 年11 月14 日(京都)各CQ,推奨,解説文に関する討議
第5 回 2019 年9 月14 日(大阪)各CQ における推奨グレードの決定
第6 回 2019 年9 月15 日(東京)各CQ における推奨グレードの決定
推奨作成とその決定:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,メールで討議した。推奨グレードに関してはガイドライン作成ワーキンググループおよびSR チーム24 名にて投票を行い,ガイドライン作成ワーキンググループ内における推奨グレードをまず決定し,最終的に2019 年10 月10 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会にて統括委員全員の投票により決定した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年6 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
1)臨床的特徴
始原生殖細胞に由来すると考えられている原発性脳腫瘍である。腫瘍起源としては,本来なら胎生第3 週に出現し,後腸より背側腸間膜を経由して,4 週末~5 週始めに生殖堤に達し性腺原基を形成する始原生殖細胞が,何らかの遊走異常により脳に達し,異所性胚細胞として生き残り腫瘍化したと考える説が有力である1,2)。しかし,一方ではヒトの胎生幹細胞(ES 細胞)からでもgerm cell やembryoid body が形成されることから,脳自体のES 細胞から発生した可能性もあると提唱する説もある3)。組織系の分類として,中枢神経系胚細胞腫瘍には5 つの組織型が存在する。すなわち,①ジャーミノーマ,②奇形腫(成熟・未熟),③卵黄囊腫瘍,④絨毛癌,⑤胎児性癌である。さらに,これらの組織を持つ腫瘍が単独ではなく各々の成分を混じる混合腫瘍として存在することもあり,非常に診断が困難な場合がある。画像診断もある程度有用であるが,確定診断は難しく,病理学的組織診断および,後述する血清および髄液の腫瘍マーカー[α-fetoprotein(AFP),human chorionic gonadotropin(HCG),β-subunit of human chorionic gonadotropin(β-HCG)]が確定診断に有用である。中枢神経原発胚細胞腫瘍の画像診断,病理診断所見,腫瘍マーカー,免疫組織学的染色について表1 に示す。分子生物学的解析においてはジャーミノーマにてc-kit の高発現や遺伝子変異,KRAS の遺伝子変異を含めたいくつかの遺伝子や染色体異常の報告がある4-6)。KIT/RAS シグナル,AKT/mTOR シグナルなどが腫瘍の生物学的特徴に関与しているといわれているが,まだそれらの解明には至っていない。エピジェネティックな解析では,他の胚細胞腫瘍に比べてジャーミノーマは極端にDNA のメチル化が低いということも報告されている7)。腫瘍自体が混合腫瘍(heterogeneous tumor)であることも稀ではないため,臨床的な分類において悪性腫瘍と良性腫瘍の線引きが難しい。欧米では純粋なジャーミノーマとそれ以外の胚細胞腫瘍(non-germinomatous germ cell tumor:NGGCT)の2 群に分類されて論じられることが多いが,日本では臨床的予後を反映する分類としてMatsutani らが提唱している予後良好(good prognosis)群,中間(intermediate prognosis)群,予後不良(poor prognosis)群の3 型分類が用いられる場合もある8)。
2)疫学的特徴
中枢神経原発胚細胞腫瘍は欧米に比べて,日本を含めた東アジアに多いとされている9)。欧米に比べて3~8倍の発生率との報告があり,また北米における移民でもアジア系に発生率が高いことから,中枢神経原発胚細胞腫瘍の発生には遺伝学的要素の関与が示唆されている。日本における脳腫瘍全国集計調査報告においては,原発性脳腫瘍の2.7%,小児脳腫瘍の15.3%の頻度であり,特に10 歳代に多い腫瘍で男性に多いとされている。組織型では中枢神経系胚細胞腫瘍のうち約70%がジャーミノーマであり,それ以外のそれぞれの腫瘍の頻度は10%以下である。発生部位は,80%以上が視床下部・下垂体後葉(neurohypophyseal germ cell tumors)と松果体(pineal germ cell tumors)に集中している。また,両部位に同時に発生する場合もある(bifocal tumor)。松果体部に発生するジャーミノーマはほとんどが男児であり,女児に発生するジャーミノーマは視床下部・下垂体後葉に多いという特徴がある。頻度は低いが,大脳基底核,視床,脳幹部,脊髄,小脳にも原発することがある。5 年生存率は組織型によって異なるが,ジャーミノーマにおいては95%を超えており,ほとんどの症例がQOL を保ちつつ長期生存可能である。NGGCT に関しても,かなり臨床的予後は改善しており,40~70%の症例において5 年以上の無増悪生存期間を保つことができるようになってきている。初期治療後,ある期間をおいて再発することがあり,組織系によって異なるが,治療困難な症例もあり,治癒できない場合もある。
3)診療の全体的な流れ
松果体部に発生した腫瘍では,中脳水道閉塞による水頭症が原因で頭蓋内圧亢進症状を呈することや,中脳四丘体を圧迫もしくは浸潤することで上方注視麻痺を呈して発症することが多い。一方,視床下部・神経下垂体近傍の腫瘍では,視力視野障害やホルモン分泌障害に伴う症状を呈することにより発症する。特に,尿崩症は80~90%の症例に認められる。下垂体前葉機能障害は成長停滞,無月経,肥満などの症状が多く,血清学的にホルモン値や電解質の異常が認められる。また,基底核部や視床にできた場合は,麻痺,感覚障害,精神症状などが認められる。これらの症状により頭部MRI などの画像を撮影され,胚細胞腫瘍が疑われた場合は,診断を確定し治療が必要となる。診断においては,まず胚細胞腫瘍に特徴的な血清もしくは髄液腫瘍マーカー(AFP,HCG,β-HCG)の測定を行う。純粋なジャーミノーマや奇形腫は腫瘍マーカーが上昇しないので,その場合は外科的に組織を採取し診断を確定する必要がある。外科的摘出により合併症が出現する可能性が高い場合は,必ずしも組織確認の必要はないとの意見もある。外科的な組織生検術としては開頭にて行う場合もあるが,内視鏡を用いて行っても問題はないと考えられている。特に,水頭症を合併している症例に関しては,水頭症治療と同時に内視鏡的に行われることが主流になりつつある。中枢神経原発胚細胞腫瘍の外科的介入の方法とタイミングに関しては,①腫瘍マーカーが上昇しているかどうか,②水頭症を合併しているかどうか,③腫瘍がどこに発生しているか,④化学療法,放射線療法の反応性が良いか,などの病態によって異なることが多く,複雑である。中枢神経原発胚細胞腫瘍における治療において,化学療法と放射線療法は非常に重要である。3 歳未満は放射線療法を控えるが,3 歳以上であれば放射線療法を行うことが多い。腫瘍の診断によって放射線療法の方法はさまざまであり,悪性度が高いほど放射線の照射範囲や量が増える傾向である。化学療法はシスプラチン,カルボプラチンなどの白金製剤を中心のレジメンが考慮され,その他の抗腫瘍剤を組み合わせて行う。中枢神経原発胚細胞腫瘍の治療において,化学療法を積極的に取り入れることは,放射線の照射量を減量でき,治療成績を下げることなく放射線療法の晩発的な有害事象を減じる効果に有用であると考えられている。中枢神経原発胚細胞腫瘍において再発した場合,その治療は大変困難である。ジャーミノーマに関しては,再発率は低いものの,一端再発すると治療は困難な場合がある。NGGCT に関しては,ジャーミノーマよりさらに再発における治癒率は低い。10 年以上経過して再発する症例もあり,長期的なフォローアップが必要である。後述する課題6 の長期予後において詳細に述べるが,ジャーミノーマ(図1 ではGCCT と記載)の長期的なフォローにて観察された合併症も報告されており,Kaplan-Meier 生存曲線は,人口統計に比べてはるかに速いペースで,30 年以上ほぼコンスタントに下がり続けている(図1)10)。つまり,中枢神経原発胚細胞腫のフォローアップは永久的に必要と考えられる。
❖ 文献
- 1)
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- 3)
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2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:中枢神経原発胚細胞腫瘍の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後,QOL の改善
- (3)トピック:診断,生命予後,機能予後,QOL の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:脳腫瘍を診療する医療者や施設,患者・家族
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本では既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)課題1:診断,分類
課題2:手術
課題3:ジャーミノーマに対する化学放射線療法
課題4:NGGCT に対する化学放射線療法
課題5:再発時の治療
課題6:長期予後
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
脊髄に発生した胚細胞腫瘍も含む。
成人の胚細胞腫瘍も含む。
中枢神経系以外に発生した胚細胞腫瘍は含まない。
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:2 カ月
文献の選出:2 カ月
エビデンス総体の評価と統合:2 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:2003 年より中枢神経原発胚細胞腫の国際カンファレンス(International CNS germ cell tumor symposium)が2017 年までに5 回開催されている[第1 回京都(2003 年),第2 回ロサンジェルス(2005 年),第3 回ケンブリッジ(2013 年),第4 回東京(2015 年),第5 回コロンバス(2017 年)]。その討論の結果合意の得られた内容に関して,論文化されている。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験の報告は,海外からいくつか報告されている。その他,非ランダム化比較試験,観察研究を検索対象にする。症例報告に関しては一部を除いて省略する。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed
- SR/MA 論文について:Cochrane になし。
- 既存のガイドラインの検索:不要
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2018 年12 月まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合が量的統合を実施。
課題1:診断,分類
- CQ1
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍における腫瘍マーカー(AFP,HCG)の測定は有用か?
- 推奨度1A
- 推奨
中枢神経原発胚細胞腫瘍では,腫瘍マーカー(AFP,HCG)を測定することを推奨する。
解説
中枢神経原発胚細胞腫瘍を疑う症例では,血液と,可能な場合は同時に髄液中の腫瘍マーカー(AFP,HCG)を測定することが推奨される。
中枢神経原発胚細胞腫瘍の診断において,典型的な画像所見と臨床所見を呈した場合,まず行う検査が腫瘍マーカーの測定である。中枢神経原発胚細胞腫瘍の典型的な画像所見とは,神経下垂体,松果体またはその両者における造影効果を伴う病変の存在であり,CT 画像における石灰化病変は奇形腫の存在を疑わせる所見である。また,典型的な臨床所見としては,神経下垂体に発生した場合は尿崩症を含めた内分泌異常による症状や視力・視野障害が,松果体に発生した場合は閉塞性水頭症の他にParinaud 徴候やArgyll-Robertson 瞳孔がみられやすいことが挙げられる1)。
ただし,ランゲルハンス細胞組織球症などでもHCG の上昇を認めることがあり,特に軽度上昇例においては注意が必要である2)。そのため,顕著な上昇例以外は組織採取による病理診断が推奨される(CQ2 参照)。HCG の上昇例はジャーミノーマが考慮され,それが高値を示す症例は絨毛癌が疑われる。AFP の上昇は特に卵黄囊腫瘍でみられる。未熟奇形腫や胎児性癌ではHCG とAFP の上昇を示すことがある3)。しかし,組織診断が不要となるようなHCG とAFP の顕著な上昇,あるいは著しい高値が,具体的にいくつ以上を示すのかについては定説がない。
中枢神経原発胚細胞腫瘍を他の腫瘍と鑑別するため,またnon-germinomatous germ cell tumor(NGGCT)をジャーミノーマから鑑別するための腫瘍マーカーの適切な基準値については多くの報告があるが,これも現状では国や施設によって異なり,国際的に共通した基準値のコンセンサスは得られていない。しかし,化学療法,放射線療法に対する腫瘍の反応性の指標として腫瘍マーカーの推移が有用とする報告は認められている4-7)。ジャーミノーマとNGGCT を鑑別する世界的に代表的な腫瘍マーカーの基準を表1 に示す。一方,Matsutani らはNGGCT の中の高度悪性群に関しては腫瘍マーカーの組織診断なしに診断してよい基準値を一部設けているものの,ジャーミノーマとの鑑別に関しての明確な腫瘍マーカーの基準値は設けていない1)。表1 のMatsutani らの分類では,欧米では病理学的にNGGCT に分類される成熟奇形腫は,臨床的予後を考慮して,ジャーミノーマとともに予後良好群として分類されている。
中枢神経原発胚細胞腫瘍における腫瘍マーカーの値と予後との関連については,NGGCT においてHCG の値による予後の差が有意であるとする報告はないが,AFP の値が高い症例は予後が悪いとされ8,9),特に1,000 ng/mL を超える症例は有意に予後不良であると報告されている8)。一方で,欧米のNGGCT の基準では,HCG 産生を伴うジャーミノーマも含まれており,HCG 産生を伴うNGGCT の臨床的予後が実際のNGGCT の予後を反映していない可能性があり,解釈に注意を要する。
また,HCG の測定法は国際的に必ずしも統一されておらず注意を要する。HCG は2 つのサブユニット(α,β)で構成されホルモンとして機能するが,αサブユニットのアミノ酸配列がLH(黄体化ホルモン),FSH(卵胞刺激ホルモン),TSH(甲状腺刺激ホルモン)と共通の構造をしており免疫学的に交差するため,HCGの測定にはβサブユニットを認識する抗体を用いて測定する。一般に妊娠などの正常な状態ではα,βサブユニット双方からなるインタクトHCG のみが産生されるが,胚細胞腫瘍など腫瘍性疾患ではβサブユニットだけのHCG などさまざまな非機能的なHCG が産生される。測定キットによって測定しているものが異なり,測定しているものがα,βサブユニットからなるインタクトHCG なのか,遊離したβ-HCG のみを測定しているのか,あるいはインタクトHCG とβ-HCG (遊離を含む)をすべて測定(トータルHCG)しているのかを意識して測定値をみる必要がある。正常な状態ではインタクトHCG とトータルHCG はほとんど同じ値であるが,腫瘍性疾患では乖離がみられる可能性がある。一般的にインタクトHCG はECLIA 法を用いて測定され,単位はIU/L またはmIU/mL である[論文においてはI(international)を省略してU/L やmU/mL としているものもある]。一方,遊離型のβ-HCG のみを測定する場合はRIA 法で測定され,単位はng/mL である。また,トータルHCG はCLEIA 法で測定され,単位はIU/L またはmIU/mL である。胚細胞腫瘍の臨床において,どの測定法が高い特異度であるかについて報告はないが,精巣の胚細胞腫瘍において,トータルHCG を測定する方が,治療効果,再発に関してより特異的であったと報告がある10)。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の診断・分類について下記検索式による検索を2017 年7 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして141 文献を抽出し,45 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ1 では12 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Matsutani M, Sano K, Takakura K, et al. Primary intracranial germ cell tumors:a clinical analysis of 153 histologically verified cases. J Neurosurg. 1997;86(3):446-55.[PMID:9046301]
- 2)
- Kinoshita Y, Yamasaki F, Usui S, et al. Solitary Langerhans cell histiocytosis located in the neurohypophysis with a positive titer HCG-beta in the cerebrospinal fluid. Childs Nerv Syst. 2016;32(5):901-4.[PMID:26527477]
- 3)
- Kim A, Ji L, Balmaceda C, et al. The prognostic value of tumor markers in newly diagnosed patients with primary central nervous system germ cell tumors. Pediatr Blood Cancer. 2008;51(6):768-73.[PMID:18802946]
- 4)
- Kawaguchi T, Kumabe T, Kanamori M, et al. Logarithmic decrease of serum alpha-fetoprotein or human chorionic gonadotropin in response to chemotherapy can distinguish a subgroup with better prognosis among highly malignant intracranial non-germinomatous germ cell tumors. J Neurooncol. 2011;104(3):779-87.[PMID:21359564]
- 5)
- Fujimaki T, Mishima K, Asai A, et al. Levels of beta-human chorionic gonadotropin in cerebrospinal fluid of patients with malignant germ cell tumor can be used to detect early recurrence and monitor the response to treatment. Jpn J Clin Oncol. 2000;30(7):291-4.[PMID:11007160]
- 6)
- Seregni E, Massimino M, Nerini Molteni S, et al. Serum and cerebrospinal fluid human chorionic gonadotropin(hCG)and alpha-fetoprotein(AFP)in intracranial germ cell tumors. Int J Biol Markers. 2002;17(2):112-8.[PMID:12113577]
- 7)
- Picozzi VJ Jr., Freiha FS, Hannigan JF Jr., et al. Prognostic significance of a decline in serum human chorionic gonadotropin levels after initial chemotherapy for advanced germ-cell carcinoma. Ann Intern Med. 1984;100(2):183-6.[PMID:6318631]
- 8)
- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
- 9)
- Goldman S, Bouffet E, Fisher PG, et al. Phase Ⅱ Trial Assessing the Ability of Neoadjuvant Chemotherapy With or Without Second-Look Surgery to Eliminate Measurable Disease for Nongerminomatous Germ Cell Tumors:A Children’s Oncology Group Study. J Clin Oncol. 2015;33(22):2464-71.[PMID:26101244]
- 10)
- 滝沢昭利,三浦 猛,藤浪 清ほか.精巣腫瘍におけるhCG とβHCG の意義.臨床泌尿器.2005:59(6);405-9.
- 11)
- Baek HJ1, Park HJ, Sung KW, et al. Myeloablative chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed or progressed central nervous system germ cell tumors:results of Korean Society of Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)S-053 study. J Neurooncol. 2013;114(3):329-3.[PMID:23824533]
- 12)
- Wu CC, Guo WY, Chang FC, et al. MRI features of pediatric intracranial germ cell tumor subtypes. J Neurooncol. 2017;134(1):221-30.[PMID:28551848]
- CQ2
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍における病理組織診断は必要か?
- 推奨度2C
- 推奨
中枢神経原発胚細胞腫瘍を疑う症例において,診断確定のためには病理組織による診断を提案する。
解説
中枢神経原発胚細胞腫瘍の診断において,MRI 画像診断や腫瘍マーカーもその一助になるが,前述のようにHCG の上昇はランゲルハンス細胞組織球症など他の疾患でも認められ得るため,生検によってのみ確定診断が得られる症例は少なからず存在する。Wu らは,85 例の頭蓋内原発胚細胞腫瘍においてさまざまなMRI 撮像法においてジャーミノーマとNGGCT の鑑別ができないかを後方視的コホート研究として検討しており,T1 高信号の部分があること,造影パターン,ADC 値を組み合わせることによってジャーミノーマとNGGCT の鑑別がある程度可能であると報告している1)。しかし,彼らの登録症例においても術前総合的に中枢神経原発胚細胞腫瘍と診断していたが,病理組織診断すると全く胚細胞腫瘍ではなかった症例が1 例存在したと報告している。Aizer らは,1998~2012 年までに治療した頭蓋内原発胚細胞腫瘍71 例について検討し,14 例がbifocal tumor であり,うち10 例で組織診断を行い,7 例がジャーミノーマ,3 例はNGGCT であり,NGGCT の3例はいずれもβ-HCG が正常値で,AFP は正常か軽度上昇であったことを報告している2)。Calaminus らは,SIOP-CNS-GCT-96 trial において1996~2005 年まで149 例のNGGCT の治療成績を検討している。彼女らのNGGCT の診断基準は病理学的にNGGCT が証明されるか,HCG>50 IU/L もしくはAFP>25 ng/mL であるという条件を満たすかであるが,全例腫瘍マーカーの検査を行っており,10 例(7%)の症例においてNGGCT と病理学的に診断されたにもかかわらず,いずれの腫瘍マーカーの上昇も認められなかったと報告している。成熟奇形腫であれば,腫瘍マーカーの上昇が認められなくてもよいが,これらの10 例には奇形腫は含まれていない。病理学的に奇形腫は5 例確認されており,すべての症例においてAFP の上昇が認められている3)。このように,腫瘍マーカーや画像・臨床所見からは中枢神経原発胚細胞腫瘍が疑われる場合でも,例外(胚細胞腫瘍ではない腫瘍や,腫瘍マーカーが上昇してない成熟奇形腫以外のNGGCT など)は存在するので,手術による組織診断が推奨される。特に,非典型的な臨床経過や画像所見を有する場合は,病理組織診断を行うべきである。一方でNGGCT に対しては,ジャーミノーマと同様に手術による組織診断を勧めるという意見と必ずしも必要ないという意見がある。Nakamura らは,14 例のNGGCT を生検による病理診断ではなく腫瘍マーカーの上昇にて診断し,化学放射線治療を先行させ,腫瘍マーカーが陰性になった時点で3 例は腫瘍が完全に消失したが,11 例は腫瘍が残存したために,それらの摘出を試みている。彼らの14 例のNGGCT における5 年無病生存割合,5 年生存割合はそれぞれ86%,93%であった4)。彼らは最初に病理組織診断をしないメリットについては,播種再発を減少させる可能性を述べている。Takahashi らも,NGGCT を同じようなneo-adjuvant therapy のプロトコールにて治療することにより,彼らの施設における過去に実施された治療成績より優れた治療成績が得られたと報告している5)。前述のCQ1 の解説文でも取り上げている欧州でのSIOP-96 という臨床試験の大規模なNGGCT の報告においても,149 例中73 例は病理診断が行われずに腫瘍マーカーにてNGGCT と診断している。これらの報告が,ジャーミノーマでは比較的病理診断を強く推奨するのに対し,NGGCT では必須ではないとせざるを得ない理由である。しかし,これらの報告における懸念として,腫瘍マーカーだけによる診断はジャーミノーマの混在やNGGCT の脱落があり,正確なNGGCT の予後を反映していない可能性はある。つまり,HCG 高値の,しかし組織学的にはジャーミノーマだった場合には過剰治療,腫瘍マーカーが陰性の未熟奇形腫や胎児性癌(あるいはそれらを含む混合性腫瘍)の場合は過少治療になる可能性があるということである。それゆえ,β-HCG やAFP が著しく高値(CQ1 参照)を示した場合は,組織診断を行わずに化学放射線療法を考慮してもよいということでは意見は一致しているが,NGGCT においても腫瘍マーカーだけでの診断が困難な場合は病理組織による診断が必要という意見もあり,現時点では結論づけることができない。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の診断・分類についての検索を2017 年7 月に行った。検索式はCQ1 参照。
一次スクリーニングとして141 文献を抽出し,45 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ2 では5 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Wu CC, Guo WY, Chang FC, et al. MRI features of pediatric intracranial germ cell tumor subtypes. J Neurooncol. 2017;134(1):221-30.[PMID:28551848]
- 2)
- Aizer AA, Sethi RV, Hedley-Whyte ET, et al. Bifocal intracranial tumors of nongerminomatous germ cell etiology:diagnostic and therapeutic implications. Neuro Oncol. 2013;15(7):955-60.[PMID:23640532]
- 3)
- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
- 4)
- Nakamura H, Makino K, Kochi M, et al. Evaluation of neoadjuvant therapy in patients with nongerminomatous malignant germ cell tumors. J Neurosurg Pediatr. 2011;7(4):431-8. [PMID:21456918]
- 5)
- Takahashi S, Yoshida K, Kawase T. Intracranial Germ Cell Tumors:Efficacy of Neoadjuvant Chemoradiotherapy without Surgical Biopsy. Keio J Med. 2011;60(2):56-64.[PMID:21720201]
課題2:外科的治療
- CQ3
- ジャーミノーマに対して積極的な摘出手術は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨
ジャーミノーマに対して積極的な摘出をしないことを推奨する。
解説
Aizer らは,1998~2012 年に治療した頭蓋内原発胚細胞腫瘍71 例について検討し,14 例がbifocal tumor であり,うち10 例で組織診断を行い,7 例がジャーミノーマ,3 例はNGGCT であり,NGGCT の3 例はいずれもβ-HCG が正常値で,AFP は正常か軽度上昇であったことを報告した1)。すなわちbifocal tumor であったとしてもジャーミノーマであるとは断定できない。また,Delphi committee では,2 回の投票とrevision を経て,38 のconsensus statements draft のうち34 のstatement に合意が得られた。手術に関しては,statement 17 において腫瘍マーカーの上昇がない場合は生検による組織診断が必要であるとされた2)。これは世界各国の主要な臨床家による投票であり,必ずしも文献的な高いエビデンスを要求していないが,識者によるコンセンサスといえるものである。以上より,bifocal tumor でジャーミノーマが強く疑われても,また腫瘍マーカーがすべて陰性であっても,生検は推奨される。
Linstadt らは,生検で組織診断したジャーミノーマ13 例,未生検の鞍上部・松果体病変20 例に対する放射線療法の成績を報告した3)。放射線療法は腫瘍に対して40~55 Gy 照射している。生検によるジャーミノーマ診断例は観察期間中央値5.3 年で再発例は認めず,5 年生存率100%であったが,未生検例では,20 例中3 例(15%)が再発後死亡しており,再発後の病理組織は確認されていない。未生検では再発率が高いことより,ジャーミノーマ以外の腫瘍型が混入することが示唆される。つまり,古典的な診断的照射は不適切であり,組織診断が必要であると考えられるようになった。一方,Sawamura らは,29 例のジャーミノーマに対して,16 例で生検,5 例で部分摘出,8 例で全摘出を行った結果を報告している4)。術後全例で放射線療法を行い,化学療法はそれぞれ16 例,4 例,4 例で行った。その結果,約40 カ月のフォロー期間中に再発したものは,全摘出した1 例のみであり,摘出度による差は認められなかった。ジャーミノーマは化学放射線療法が奏効することから(放射線療法の項目で詳述),組織診断のための生検術に留めても予後は劣らないと考えられ,多少ともリスクのある積極的な摘出は推奨できない。生検術の術式は,腫瘍部位によって,開頭術,経蝶形骨洞手術,定位脳手術,内視鏡手術などから選択する。
Luther らは,腫瘍マーカー陰性で組織学的にもジャーミノーマと診断した6 例中1 例は放射線療法にてCR 後10 カ月で再発を認め,初発時11 U/L であった髄液β-HCG が再発時57.4 U/L と上昇を認めたと報告した5)。彼らは再発後の病理組織は確認していないが,腫瘍マーカーの上昇を考慮し,ジャーミノーマ以外の腫瘍の混在を示唆している。また,Kinoshita らは,21 例の内視鏡的診断を行った症例の初回診断において16 例のジャーミノーマという病理学的診断を得ているが,そのうち1 例(診断時HCG 陰性,AFP 33.2μg/L)において,化学放射線療法にて完全に腫瘍の縮小が得られないという理由で残存腫瘍を摘出した。2 回目の病理組織診断でimmature teratoma の診断を得ており,内視鏡的生検術のpitfall として報告している6)。これらの報告から,小さな組織で診断する生検術の限界には留意する必要がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の手術について下記検索式による検索を2017 年3 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして90 文献を抽出し,56 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ3 では6 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Aizer AA, Sethi RV, Hedley-Whyte ET, et al. Bifocal intracranial tumors of nongerminomatous germ cell etiology:diagnostic and therapeutic implications. Neuro Oncol. 2013;15(7):955-60.[PMID:23640532]
- 2)
- Murray MJ, Bartels U, Nishikawa R, et al. Consensus on the management of intracranial germ-cell tumours. Lancet Oncol. 2015;16(9):e470-7.[PMID:26370356]
- 3)
- Linstadt D, Wara WM, Edwards MS, et al. Radiotherapy of primary intracranial germinomas:the case against routine craniospinal irradiation. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1988;15(2):291-7.[PMID:3403312]
- 4)
- Sawamura Y, de Tribolet N, Ishii N, et al. Management of primary intracranial germinomas:diagnostic surgery or radical resection? J Neurosurg. 1997;87(2):262-6.[PMID:9254091]
- 5)
- Luther N, Edgar MA, Dunkel IJ, et al. Correlation of endoscopic biopsy with tumor marker status in primary intracranial germ cell tumors. J Neurooncol. 2006;79(1):45-50.[PMID:16598424]
- 6)
- Kinoshita Y, Yamasaki F, Tominaga A, et al. Pitfalls of Neuroendoscopic Biopsy of Intraventricular Germ Cell Tumors. World Neurosurg. 2017;106:430-4.[PMID:28711530]
- CQ4
- NGGCT に対して摘出手術は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨1
成熟奇形腫に対して摘出術を推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
成熟奇形腫以外のNGGCT については,化学放射線療法を行った後に,残存する腫瘍に対する摘出術を推奨する。
解説
Zygourakis らの報告では,奇形腫11 例で手術を行い,8 例で全摘出を行い,7 例が混合胚細胞腫瘍で,うち1 例のみ再発を認めた1)。Noudel らは,奇形腫14 例について報告し,10 例は初期治療として摘出術を行い,残りの4 例は化学療法後に摘出を行った。成熟奇形腫8 例において平均9 年の経過観察で87.5%の生存率を得た2)。Matsutani らは,16 例の成熟奇形腫で摘出術を行い,10 年生存率が78.3%であった3)。Kageyama らは,成熟奇形腫5 例に対して全摘出を行い,全例が社会復帰したと報告している4)。Delphi committee において,成熟奇形腫,悪性転化のない未熟奇形腫に対しては全摘出を選択するとされた5)。以上のように,成熟奇形腫は摘出により良好な予後が得られることから,摘出術が勧められる。
Nakamura らは,AFP>100 ng/mL,もしくはHCG またはβ-HCG>100 mIU/mL を呈した14 例の連続NGGCT に対して,組織診断を行わずに術前化学放射線療法を行った。11 例で残存腫瘍を認め,手術を行った。摘出腫瘍の組織学的診断は,成熟奇形腫3 例,線維性組織3 例,壊死組織2 例で,その他の3 例においては奇形腫あるいは中胚葉性の腫瘍組織が認められた。5 年無増悪生存率が86%,5 年生存率が93%であり,腫瘍マーカーによる診断治療介入とsecond-look surgery の有用性を示した5)。Goldman らによるNGGCT 102 例(腫瘍マーカーによる診断,3~24 歳,中央値12 歳)を対象とした前方視的試験では,規定の化学療法先行後,PD でない症例に対し,CR であれば放射線療法を,CR でなければsecond-look surgery 後に放射線療法ないしsecond-look surgery 後に大量化学療法を行って,さらに引き続き放射線療法を行った。結果は5 年無増悪生存率84%,5 年生存率93%であったが,この臨床試験のサブ解析にて診断時播種のなかった症例においてsecond-look surgery を行った症例の5 年無増悪生存率92%,5 年生存率98%と極めて良い結果であった6)。初回治療後にsecond-look surgery を行った症例は15 例であったが,摘出組織は腫瘍が2 例(胎児性癌1 例,混合性胚細胞腫瘍1 例),奇形腫9 例(成熟奇形腫6例,悪性奇形腫3 例),そして繊維組織が主体で腫瘍細胞を認めないものが4 例であった。腫瘍再発時にsecond-look surgery を行った症例は5 例で,その組織はすべて奇形腫であった。
Delphi committee においても,画像診断と腫瘍マーカーの上昇により胚細胞腫瘍と診断される場合には生検術は必須ではないとされた7)。NGGCT に対しては,β-HCG やAFP が高値を示す場合は組織診断のための手術を行わずに化学放射線療法を考慮してもよい。しかし,どの程度の値であれば組織診断のための手術を実施しなくてよいのか,については国際的なコンセンサスは存在しない(CQ1 解説参照)。
Kim らは,NGGCT 52 例のうち21%にgrowing teratoma syndrome を認めたことを報告しており,化学療法から診断までの期間が平均12.8 カ月で,9 例で全摘出が行われて再発は1 例であった8)。Ogiwara らは,胚細胞腫瘍23 例中7 例(30%)で再増大後に手術を行い,病理診断は成熟奇形腫5 例,異型細胞を伴う繊維形成が1 例,繊維形成のみが1 例であり,全例で全摘出を行って再発なく経過したことを報告した9)。
以上のように,NGGCT では,化学放射線療法中あるいは後に腫瘍が増大することを認識し,化学あるいは放射線療法後に残存腫瘍が存在する場合に手術を考慮する必要がある。化学放射線療法中あるいは後の摘出組織は,上述のように成熟奇形腫であることが多いと報告されているが,治療後修飾された組織での診断であり,初発時の組織が成熟奇形腫であったことを意味するわけでない。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の手術についての検索を2017 年3 月に行った。検索式はCQ3 参照。
一次スクリーニングとして90 文献を抽出し,56 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ4 では9 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Zygourakis CC, Davis JL, Kaur G, et al. Management of central nervous system teratoma. J Clin Neurosci. 2015;22(1):98-104.[PMID:25150764]
- 2)
- Noudel R, Vinchon M, Dhellemmes P, et al. Intracranial teratomas in children:the role and timing of surgical removal. J Neurosurg Pediatr. 2008;2(5):331-8.[PMID:18976103]
- 3)
- Matsutani M, Takakura K, Sano K. Primary intracranial germ cell tumors:pathology and treatment. Prog Exp Tumor Res. 1987;30:307-12.[PMID:2819945]
- 4)
- Kageyama N, Kobayashi T, Kida Y, et al. Intracranial germinal tumors. Prog Exp Tumor Res. 1987;30:255-67.[PMID:3628811]
- 5)
- Nakamura H, Makino K, Kochi M, et al. Evaluation of neoadjuvant therapy in patients with nongerminomatous malignant germ cell tumors. J Neurosurg Pediatr. 2011;7(4):431-8. [PMID:21456918]
- 6)
- Goldman S, Bouffet E, Fisher PG, et al. Phase Ⅱ Trial Assessing the Ability of Neoadjuvant Chemotherapy With or Without Second-Look Surgery to Eliminate Measurable Disease for Nongerminomatous Germ Cell Tumors:A Children’s Oncology Group Study. J Clin Oncol. 2015:33(22):2464-71.[PMID:26101244]
- 7)
- Murray MJ, Bartels U, Nishikawa R, et al. Consensus on the management of intracranial germ-cell tumours. Lancet Oncol. 2015;16(9):e470-7.[PMID:26370356]
- 8)
- Kim CY, Choi JW, Lee JY, et al. Intracranial growing teratoma syndrome:clinical characteristics and treatment strategy. J Neurooncol. 2011;101(1):109-15.[PMID:20532955]
- 9)
- Ogiwara H, Kiyotani C, Terashima K, et al. Second-look surgery for intracranial germ cell tumors. Neurosurgery. 2015;76(6):658-61.[PMID:25988926]
- CQ5
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍に合併した水頭症に対して手術は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨
内視鏡下第三脳室底開窓術などの水頭症を解除する手術を推奨する。
解説
Shono らは,12 例のジャーミノーマに対して,軟性鏡を用いて内視鏡下生検術を行い,8 例は同時に第三脳室底開窓術を施行した1)。手術死亡や永続的な合併症は認めず,その後のシャント手術は不要であった。化学放射線療法にて全例でCR を得た。Luther らは,第三脳室底開窓術と生検術を同時に行った32 例において,NGGCT を含む胚細胞腫瘍,松果体芽腫,上衣腫の髄液播種リスクの高いと判断された22 例の2 年無髄液播種生存率は94.7%で,同様の疾患の髄液播種率が8~24%であることから,第三脳室底開窓術と生検術の同時施行が髄液播種リスクを上昇しないと報告した2)。水頭症を合併する例では,内視鏡手術による生検と同時に第三脳室底開窓術などの水頭症を解除する手術を推奨する。ただし,化学放射線療法による腫瘍縮小で水頭症が解除されうることを念頭に置く必要がある。
水頭症の解除を脳室腹腔短絡術で行ってよいかどうかについて,Xu らは,原発性中枢神経系腫瘍のシャント術に関連する神経管外転移についてシステマティックレビューを行い,106 例のシャントに関連する神経管外転移のうち25 例(25%)(VP シャント24 例,VA シャント1 例)がジャーミノーマであったと報告した。この25 例全例(100%)腹腔内に転移しており,さらに同時にリンパ節に4%,骨に4%の神経管外転移が認められている。これは,髄芽腫の22 例(21%)より多く,最も多い腫瘍組織型であったことから,中枢神経原発胚細胞腫瘍に合併した水頭症に対するシャント術による神経管外転移に注意を要する3)。こうした合併症を避けるためにも,中枢神経原発胚細胞腫瘍に合併した水頭症に対しては,可能な限り第三脳室開窓術が推奨される。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の手術についての検索を2017 年3 月に行った。検索式はCQ3 参照。
一次スクリーニングとして90 文献を抽出し,56 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ5 では3 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Shono T, Natori Y, Morioka T, et al. Results of a long-term follow-up after neuroendoscopic biopsy procedure and third ventriculostomy in patients with intracranial germinomas. J Neurosurg Pediatr. 2007;107(3):193-8.[PMID:17918523]
- 2)
- Luther N, Stetler WR Jr., Dunkel IJ, et al. Subarachnoid dissemination of intraventricular tumors following simultaneous endoscopic biopsy and third ventriculostomy. J Neurosurg Pediatr. 2010;5(1):61-7.[PMID:20043737]
- 3)
- Xu K, Khine KT, Ooi YC, et al. A systematic review of shunt-related extraneural metastases of primary central nervous system tumors. Clin Neurol Neurosurg. 2018;174:239-43.[PMID:30292900]
課題3:ジャーミノーマに対する治療
- CQ6
- ジャーミノーマにおいて化学放射線療法は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨1
脊髄播種のないジャーミノーマにおいては化学療法を併用した全脳室を照射野内に含める放射線照射を推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
脊髄播種のないジャーミノーマに対しては,予防的脊髄照射を行わないことを推奨する。
- 推奨度1B
- 推奨3
化学療法単独で治療しないことを推奨する。
解説
ジャーミノーマは放射線治療と化学療法への感受性が高い腫瘍であり,腫瘍摘出術を行わなくても,適切な治療を行えば,非常に高い生存率が期待できる悪性脳腫瘍である。ジャーミノーマは,脳室壁を伝うような腫瘍進展をきたすことが知られており,腫瘍への局所照射のみでは,照射野外への再発を十分に予防することができない。しかし,脊髄予防照射を行っていない症例で脊髄再発の報告が非常に少ないことから,ジャーミノーマの脊髄腫瘍進展はほぼないと考えられる。一方で,全脳脊髄照射は非常に有効な治療であり,一定以上の線量を全脳または全脳脊髄照射を行うことにより,ジャーミノーマの5 年無病生存率は90%を超える1,2)。しかしながら,長期生存が期待される小児および若年成人において,全脳または全脳脊髄への放射線療法が成長発達に与える影響は大きく,高次機能異常や内分泌異常などの問題が,長期にわたって若年生存者に大きくのしかかる3-6)。Heaston らは,対象疾患はWilms 腫瘍であるが,脊髄にも照射された25 例の放射線療法の長期生存例の脊椎発達障害について報告している。脊髄照射に伴う小児の脊椎発達障害はほぼ全例で発生しており,3 歳未満では8 Gy,3 歳以上では14 Gy 以上の照射で照射後5年以内に5%の割合で生ずるとされており,長期生存が期待されるジャーミノーマ患者において脊髄照射は留意すべき点であると考えられる7)。
播種のないジャーミノーマに対してドイツで行われた全脳脊髄照射(CSI)による前方視的多施設共同試験MAKEI 83/86/89 の報告によると,MAKEI 83/86(11 例)では全脳脊髄照射36 Gy+局所照射14 Gy,MAKEI 89(49 例)では全脳脊髄照射30 Gy+局所照射15 Gy が照射され,それぞれの5 年無増悪生存率は100%,88.8%,5 年全生存率は100%,92%と報告されている1)。Cho らは,60 例のジャーミノーマに対して段階的に腫瘍部分の総線量を59 から39.3 Gy(中央値45 Gy),全脳脊髄照射の線量を36.5 から19.5 Gy(うち22 例は脊髄線量が19.5 Gy)まで減少させる照射を行い,全例で再発を認めておらず,線量は腫瘍部分には39.3 Gy,脊髄には19.5 Gy まで減少させることができると報告している8)。
照射野の設定については,播種のないジャーミノーマにおける照射後の再発と照射野との関連を評価することを目的に行われたSFOP TGM-TC-90 試験では,カルボプラチン,エトポシド,イホスファミドによる化学療法を先行後,腫瘍局所(腫瘍部分+2 cm マージン)に40 Gy の照射が行われた。60 例中10 例に再発を認め,うち8 例は脳室周囲であった。この結果から,腫瘍局所のみの照射は再発のリスクが高く,播種のないジャーミノーマにおいても全脳室照射は必要であると結論された9)。
同様に,播種のないジャーミノーマに対する非ランダム化試験であるSIOP CNS GCT96 試験では,全脳脊髄照射24 Gy+局所照射16 Gy の放射線療法単独群と化学療法を併用した40 Gy の局所照射群との比較が行われた。放射線療法単独群125 例中4 例で腫瘍局所に再発を認める一方,化学療法併用局所照射群65 例中7 例に再発を認め,うち6 例は照射野外の脳室内再発であった。化学療法併用であっても照射範囲に全脳室を含める必要があると考えられる10)。このように,ジャーミノーマの放射線療法の線量と照射野については,将来的なQOL を考慮しながら,化学療法を併用することで,線量の減量と照射野の縮小を図る試みが,日本をはじめ世界各地で行われてきた。中枢神経外胚細胞腫瘍の化学療法として,ブレオマイシン,エトポシド,シスプラチンの3 剤を併用するBEP 療法が確立しているが,中枢神経系ジャーミノーマの化学放射線治療においては,白金製剤とエトポシドの2 剤による併用療法,あるいはイホマイドなどのアルキル化剤も加えた3 剤による併用療法が,臨床試験で繰り返し選ばれている。SIOP CNS 96 試験に加えて,Matsutani および日本小児脳腫瘍研究グループ11,12)は,75 例の脊髄播種のないジャーミノーマに対し,3 コースのカルボプラチン,エトポシドと拡大局所照射野に視床下部-下垂体系の耐容線量ともいわれる24 Gy を併用する前方視的臨床試験を行い,92%にCR が得られて,中央値が2.9 年の観察期間において12%に再発が認められ,10 年全生存率は97.5%と報告した。この拡大局所照射野は後の全脳室照射野に近いが,全脳室照射野に比べて第四脳室下半がカバーされていない。両試験において,再発は照射外で多く認めた一方で,脊髄再発はほとんど観察されていない。Khatua ら13)は,脊髄播種のないジャーミノーマ20 例(うち混合腫瘍でないジャーミノーマ19 例)に対して4 コースのカルボプラチン,エトポシドによる化学療法を,その後に全脳室照射21.6 Gy,および腫瘍局所へのブースト(総線量30~30.6 Gy)の放射線療法を同時もしくは逐次で行い,後方視的に解析した。3 年無再発生存率は89%で,全生存率は100%であった。これらの良好な結果から,現在SIOP ではSIOP CNS GCT Ⅱ14)において,脊髄播種のないジャーミノーマに対し,化学療法によるCR 症例には線量を全脳室照射24 Gy まで,また我が国においてもカルボプラチン,エトポシド療法と線量を全脳室照射23.4 Gy まで低減させる臨床試験(jRCTs031180223)が行われている。これらの観察が,ジャーミノーマにおいて脳室照射を推奨する根拠である。さらなる放射線療法の減量や縮小は,臨床試験の中で行われるべきである。ジャーミノーマのなかで基底核および視床に発生した腫瘍に関しては例外的な治療を推奨する報告もある15)。Wang らは,15 例の基底核もしくは視床の胚細胞腫の治療成績を報告しているが,9 例はジャーミノーマであり,再発はない。彼らは他の部位のジャーミノーマと比較して基底核や視床の胚細胞腫は脳実質への浸潤の可能性が高いため,全脳室照射より全脳照射(20~24 Gy)に加えて局所照射を行い40~45 Gy の照射を推奨している15)。
シスプラチンとカルボプラチンの比較試験は,中枢神経外胚細胞腫瘍において行われているが,中枢神経ジャーミノーマにおいては,その優劣を検証した臨床試験はない16,17)。また,白金製剤とエトポシドの2 剤による併用療法,あるいはアルキル化剤も加えた3 剤による併用療法を比較した臨床試験もこれまでに行われていないため,治療毒性を考慮すると,中枢神経ジャーミノーマにおいては,白金製剤とエトポシドの2 剤による併用療法が推奨される。また,SIOP におけるレジメンにおいては,カルボプラチンとエトポシドの2 剤投与とシクロホスファミドとエトポシドの2 剤が交互に投与され,良好な治療成績を得ているが,どちらのレジメンが優れているかの評価は難しい10)。放射線療法の毒性を取り除くために,強力な化学療法単独でジャーミノーマを治療する試みは行われてきた。最初の化学療法単独のトライアルとして,Balmaceda らは71 例の中枢神経原発胚細胞腫瘍において45 例のジャーミノーマをカルボプラチン,エトポシド,ブレオマイシンのレジメンにて治療しているが,50%以上の症例において再発をきたしている18)。Kellie らは19例の腫瘍マーカー陰性のジャーミノーマの症例において,レジメンA(シスプラチン,エトポシド,シクロホスファミド,ブレオマイシン)と強力な化学療法から導入し,レジメンB(カルボプラチン,エトポシド,ブレオマイシン)の維持療法を追加するという治療を行っている。結果は19 例中8 例に再発がみられ,放射線療法が追加されている19)。da Silva らは,25 例の中枢神経原発胚細胞腫を初期治療として化学療法のみ(第1 クール:カルボプラチンとエトポシド,第2 クール:シクロホスファミドとエトポシドを交互に2 回ずつ投与),で治療を行っており,そのうち15 例はジャーミノーマにもかかわらず,7 例に再発し放射線療法の追加治療を行っている20)。これらの複数の臨床試験から示された再発率の高さから,化学療法単独による治療は推奨されない。
播種のないジャーミノーマに対する脊髄照射については,多数の文献から症例を集めたRogersらの報告によると,播種のないジャーミノーマに対して全脳全脊髄照射+局所照射を行った343 例のうち,脊髄播種を認めたものは4 例(1%)であったのに対して,全脳もしくは全脳室照射+局所照射を行った276 例のうち,脊髄播種を認めたものは8 例(3%)と報告されている21)。また,脊髄照射の生存への寄与を検討したShikama らの報告では,国内6 施設から180 人のデータを集め,多変量解析が行われた。その結果,脊髄照射のハザード比は1.050(95%信頼区間:0.355-3.170)と脊髄照射は必ずしも生存に寄与していないことが示された22)。播種のないジャーミノーマに対する予防的脊髄照射の必要性は乏しい。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,最初は放射線治療と化学療法を別の課題として2017 年2 月に検索したが,最終的には,ジャーミノーマの化学放射線療法としてまとめた。検索式はジャーミノーマに関してのものを放射線療法と化学療法から抽出し,下記に示す。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法で96 文献,化学療法で270 文献を抽出し,それぞれ26 文献,35 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正を加えた。途中で中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法と化学療法として課題を別にするより,ジャーミノーマの化学放射線療法,NGGCT の化学放射線療法として課題を作成した方が理解しやすいとの結論に達し,課題3 はジャーミノーマの化学放射線療法とし,最終的にCQ6 では22 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Bamberg M, Kortmann RD, Calaminus G, et al. Radiation therapy for intracranial germinoma:results of the German cooperative prospective trials MAKEI 83/86/89. J Clin Oncol. 1999;17(8):2585-92.[PMID:10561326]
- 2)
- Ogawa K, Shikama N, Toita T, et al. Long-term results of radiotherapy for intracranial germinoma:a multi-institutional retrospective review of 126 patients. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2004;58(3):705-13.[PMID:14967424]
- 3)
- Sands SA, Kellie SJ, Davidow AL, et al. Long-term quality of life and neuropsychologic functioning for patients with CNS germ-cell tumors:from the First International CNS Germ-Cell Tumor Study. Neuro Oncol. 2001;3(3):174-83.[PMID:11465398]
- 4)
- Liang SY, Yang TF, Chen YW, et al. Neuropsychological functions and quality of life in survived patients with intracranial germ cell tumors after treatment. Neuro Oncol. 2013;15(11):1543-51.[PMID:24101738]
- 5)
- Martens T, Rotermund R, Eulenburg CZ, et al. Long-term follow-up and quality of life in patients with intracranial germinoma. Neurosurg Rev. 2014;37(3):445-50;discussion 451.[PMID:24715277]
- 6)
- Park Y, Yu ES, Ha B, et al. Neurocognitive and Psychological Functioning of Children with an Intracranial Germ Cell Tumor. Cancer Res Treat. 2017;49(4):960-9.[PMID:28052648]
- 7)
- Heaston DK, Libshitz HI, Chan RC. Skeletal effects of megavoltage irradiation in survivors of Wilms’s tumor. AJR Am J Roentgenol. 1979;133(3):389-95.[PMID:223422]
- 8)
- Cho J, Choi JU, Kim DS, et al. Low-dose craniospinal irradiation as a definitive treatment for intracranial germinoma. Radiother Oncol. 2009;91(1):75-9.[PMID:19019472]
- 9)
- Alapetite C, Brisse H, Patte C, et al. Pattern of relapse and outcome of non-metastatic germinoma patients treated with chemotherapy and limited field radiation:the SFOP experience. Neuro Oncol. 2010;12(12):1318-25.[PMID:20716594]
- 10)
- Calaminus G, Kortmann R, Worch J, et al. SIOP CNS GCT 96:final report of outcome of a prospective, multinational nonrandomized trial for children and adults with intracranial germinoma, comparing craniospinal irradiation alone with chemotherapy followed by focal primary site irradiation for patients with localized disease. Neuro Oncol. 2013;15(6):788-96.[PMID:23460321]
- 11)
- Matsutani M, Japanese Pediatric Brain Tumor Study Group. Combined chemotherapy and radiation therapy for CNS germ cell tumors–the Japanese experience. J Neurooncol. 2013;54(3):311-6.[PMID:11767296]
- 12)
- Matsutani M, Proceedings of the 3rd International CNS Germ Cell Tumour Symposium. Br J Neurosurg. 2013;27(4):e1-25.
- 13)
- Khatua S, Dhall G, O’Neil S, et al. Treatment of primary CNS germinomatous germ cell tumors with chemotherapy prior to reduced dose whole ventricular and local boost irradiation. Pediatr Blood Cancer. 2010;55(1):42-6.[PMID:20222020]
- 14)
- https://clinicaltrials.gov/ct2/show/record/NCT01424839
- 15)
- Wang M, Zhou P, Zhang S, et al. Clinical features, radiologic findings, and treatment of pediatric germ cell tumors involving the basal ganglia and thalamus:a retrospective series of 15 cases at a single center. Childs Nerv Syst. 2018;34(3):423-30.[PMID:29067503]
- 16)
- Horwich A, Sleijfer DT, Fosså SD, et al. Randomized trial of bleomycin, etoposide, and cisplatin compared with bleomycin, etoposide, and carboplatin in good-prognosis metastatic nonseminomatous germ cell cancer:a Multiinstitutional Medical Research Council/European Organization for Research and Treatment of Cancer Trial. J Clin Oncol. 1997;15(5):1844-52.[PMID:9164194]
- 17)
- Mann JR, Raafat F, Robinson K, et al. UKCCSG’s germ cell tumour(GCT)studies:improving outcome for children with malignant extracranial non-gonadal tumours–carboplatin, etoposide, and bleomycin are effective and less toxic than previous regimens. United Kingdom Children’s Cancer Study Group. Med Pediatr Oncol. 1998;30(4):217-27.[PMID:9473756]
- 18)
- Balmaceda C, Heller G, Rosenblum M, et al. Chemotherapy without irradiation–a novel approach for newly diagnosed CNS germ cell tumors:Results of an international cooperative trial. J Clin Oncol. 1996;14(11):2908-15.[PMID:8918487]
- 19)
- Kellie SJ, Boyce H, Dunkel IJ, et al. Intensive cisplatin and cyclophosphamide-based chemotherapy without radiotherapy for intracranial germinomas:failure of a primary chemotherapy approach. Pediatr Blood Cancer. 2004;43(2):126-33.[PMID:15236278]
- 20)
- da Silva NS, Cappellano AM, Diez B, et al. Primary chemotherapy for intracranial germ cell tumors:results of the third international CNS germ cell tumor study. Pediatr Blood Cancer. 2020;54(3):377-83.[PMID:20063410]
- 21)
- Rogers SJ, Mosleh-Shirazi MA, Saran FH. Radiothraphy of localized intracranial germinoma:time tosever historical ties? Lancet Oncol. 2005;6(7):509-19.[PMID:15992700]
- 22)
- Shikama N, Ogawa K, Tanaka S, et al. Lack of benefit of spinal irradiation in the primary treatment of intracranial germinoma:a multiinstitutional, retrospective review of 180 patients. Cancer. 2005;104(1):126-34.[PMID:15895370]
課題4:NGGCT に対する治療
- CQ7
- NGGCT には化学放射線療法を行うことが有用か?
- 推奨度1B
- 推奨
成熟奇形腫を除くNGGCT では化学放射線療法を推奨する。
解説
NGGCT はジャーミノーマ以外の複数の胚細胞腫瘍組織型の総称であり,さらにはジャーミノーマを含む複数の異なる組織型の成分が混在する混合型NGGCT が多い。強力な集学的治療を行っても生存率が低い,卵黄囊腫,胎児性癌,絨毛癌が大部分を占めるタイプから,比較的生存率の高い,奇形腫やジャーミノーマ中心の混合性タイプ,さらには手術摘出が基本で後治療を行わなくても再発が稀な成熟奇形腫まで,予後が大きく異なる腫瘍が含まれることがNGGCT の治療を複雑にしている。
NGGCT の多くでは,血中または脳脊髄液中にHCG/β-HCG やAFP といった腫瘍マーカーが検出される。診断を補助する有用な腫瘍マーカーである一方で,NGGCT が組織診断されずに腫瘍マーカーのみで診断されて,化学放射線治療で治療開始されることが多く,その場合に腫瘍の適切なリスク分類が困難となる。特に欧米では比較的低い腫瘍マーカーの閾値でNGGCT を臨床診断し,全脳脊髄照射やアルキル化剤を含む強力な治療を開始することが多く,NGGCT の一部の患者で過剰治療の懸念があり,さらには発生頻度が比較的低い高悪性度NGGCT の真の治療成績が臨床試験の結果に反映されていない可能性がある。
我が国においては,東京大学シリーズ(1963~1994)および旧厚生省がん研究助成金による多施設前方視的試験(1995~2003)において,NGGCT の中で組織型と腫瘍マーカー高値によって,治療成績が異なる中間リスク群と高リスク群に分類できることを示した。中間リスク群NGGCT は拡大局所照射(腫瘍床,第三脳室,側脳室,トルコ鞍,松果体を含む,全脳室照射とほぼ同等の照射野)または全脳室分割照射約23.4 Gy と局所への追加照射合計50.4 Gy とカルボプラチンとエトポシドによる2 剤併用化学療法で,平均観察期間3.7 年時点での中間報告によると,無増悪生存割合は89%であった1)。高リスク群NGGCT に対しては,旧厚生省がん研究助成金による多施設前方視的試験をはじめとする国内外の臨床試験で,放射線療法と白金製剤,イホマイドなどのアルキル化剤,エトポシドによる3 剤併用化学療法によって治療が行われており,一定の生存率が得られている。放射線療法の方法や化学療法の強度や期間について,臨床試験ごとに異なっており,比較試験は行われたことがなく,標準的な化学放射線療法は定まっていない1-3)。高リスク群NGGCT の治療成績は依然として満足のいくものでなく,初期からの治療抵抗例,早期の播種再発例も少なくない。脊髄播種がなくても全脳脊髄照射が必要であるのかという問いに対して,まだ答えは示されていない1)。脊髄播種のないNGGCT における放射線療法の照射野については議論がある。大半の脊髄播種のないNGGCT において,化学療法を併用した場合に全脳脊髄照射が不要であることは,SIOP GCT 96 試験および旧厚生省がん研究助成金による多施設前方視的試験(1995~2003)で示唆された1,2)。ジャーミノーマとの混合性腫瘍が多い中間リスク群NGGCT において,局所照射で充分であるのか,全脳室照射が必要かどうかは,さらなる検証が必要である。
ジャーミノーマと異なりNGGCT は3~4 歳未満の低年齢小児に発生することがあり,中枢神経への放射線療法の影響が甚大である低年齢患者に対する,年長児や若年成人とは異なった治療戦略が必要である。しかし,低年齢のNGGCT に対しても,現時点で標準的といえる治療法は確立していない。乳幼児に対する脳腫瘍摘出術と強力な多剤併用化学療法が施行できる専門施設での治療が望まれる。
NGGCT における化学療法先行後の残存腫瘍へのsecond-look surgery についてはCQ4の推奨2 を参照のこと。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,最初は放射線治療と化学療法を別の課題として2017 年2 月に検索したが,最終的には,NGGCT の化学放射線療法としてまとめた。検索式はNGGCT に関するものを放射線療法と化学療法から抽出し,下記に示す。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法で96 文献,化学療法で270 文献を抽出し,それぞれ26 文献,35 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正を加えた。途中で中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法と化学療法として課題を別にするより,ジャーミノーマの化学放射線治療,NGGCT の化学放射線療法として課題を作成した方が理解しやすいとの結論に達し,課題4 はNGGCT の化学放射線療法とし,最終的にCQ7 では3 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Matsutani M, Japanese Pediatric Brain Tumor Study Group. Combined chemotherapy and radiation therapy for CNS germ cell tumors–the Japanese experience. J Neurooncol. 2001;54(3):311-6.[PMID:11767296]
- 2)
- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
- 3)
- Goldman S, Bouffet E, Fisher PG, et al. Phase Ⅱ Trial Assessing the Ability of Neoadjuvant Chemotherapy With or Without Second-Look Surgery to Eliminate Measurable Disease for Nongerminomatous Germ Cell Tumors:A Children’s Oncology Group Study. J Clin Oncol. 2015;33(22):2464-71.[PMID:26101244]
課題5:再発時の治療方針
- CQ8
- 再発ジャーミノーマに対し救済治療を行う必要があるか?
- 推奨度1B
- 推奨
治癒を目指して治療を行うことを推奨する。
解説
再発ジャーミノーマについては,救済治療により治癒可能であることが報告されている。いずれの報告も,症例報告または症例報告の記述的研究1)であり,後方視的解析2)であり,これらの報告から,再発時に何らかの救済治療追加を行うことは有意義であることは読み取れるが,治療方法の優劣を判断するのは困難であり,標準的な治療方針を確定することはできない。
Kamoshima らは,再発までの期間の中央値が50 カ月の晩期再発ジャーミノーマ25 例について,再発様式の解析と再発後の救済治療の転帰を報告している。初発の治療法,再発時の治療は統一されたものではない。25 例のうち,治療により救命されたのは17 例(68%)である。再発時に化学放射線療法を行った13 例全例が生存しているのに対し,放射線のみで治療された11 例中7 例が,化学療法のみで治療された1 例が再発のために死亡したと報告している。化学放射線療法を行った13 例の放射線療法は,8 例が全脳脊髄照射(CSI),4 例が局所照射,1 例が全脳室照射であり,放射線のみで治療された11 例中7 例が死亡しており,それらはすべて局所照射が行われている。生存の4 例中2 例はCSI,2 例が局所照射である。つまり再発時には放射線の局所照射だけでは治癒できないと思われる2)。
Hu らは,11 例の再発ジャーミノーマに対する救済治療とその転帰について報告している。初発時の放射線療法は,全脳照射,全脳室照射,腫瘍への局所照射,ガンマナイフ治療と異なった治療を受けた症例から構成される。再発時の救済治療もCSI 単独4 例,全脳脊髄照射と化学療法併用5 例,全脳照射と化学療法併用1 例,ガンマナイフ治療1 例と異なっている。全体の5 年生存率が71%であるのに対して,CSI を採用した症例は92%で,再発時のCSI 採用の有無が予後因子になっていたと報告している3)。
Modak らは,初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経原発胚細胞腫瘍に対する,チオテパを中心とした大量化学療法の有用性を検討した報告の中で,9 例の再発ジャーミノーマの転帰を示している。初発時には放射線療法のみのもの,放射線治療と化学療法併用が含まれる。9 例中7 例(78%)が生存期間中央値48 カ月で,無病生存していると報告している4)。生存7 例のうち4 例は放射線療法を行っておらず,2 例は全脳照射で,1 例がCSI であり,死亡した2 例において1 例は放射線療法を行っておらず,1 例は局所照射である。
Baek らは,初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経系胚細胞腫瘍に対する大量化学療法の臨床試験KSPNO S-053 の結果を報告している。対象となった20 例中10 例は,2 回目の大量化学療法を施行された。前方視的試験であるが,初発時の治療法は異なっており,再発時にも,治療法が統一されていない。再発ジャーミノーマ9 例のうち,大量化学療法のみで治療された7 例中4 例が無病生存しているのに対して,大量化学療後に放射線療法を併用した2 例は2 例とも無病生存している5)。
救済治療後の障害やQOL については,Baek らの報告では,特に大量化学療法を行うことで重篤な有害事象をきたすことやQOL を極端に落とすということはないという記載がある。しかし,これまでの報告数が少なく,放射線療法単独,化学放射線療法,大量化学療法,大量化学療法の併用の治療法について,優劣を判断することはできない。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍における再発の治療方針について下記検索式による検索を2017 年7 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして420 文献を抽出し,41 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ8 では5文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Janjetovic S, Bokemeyer C, Fiedler W, et al. Late recurrence of a pineal germinoma 14 years after radiation and chemotherapy:a case report and review of the literature. Onkologie. 2013;36(6):371-3.[PMID:23774153]
- 2)
- Kamoshima Y, Sawamura Y, Ikeda J, et al. Late recurrence and salvage therapy of CNS germinomas. J Neurooncol. 2008;90(2):205-11.[PMID:18604473]
- 3)
- Hu YW, Huang PI, Wong TT, et al. Salvage treatment for recurrent intracranial germinoma after reduced-volume radiotherapy:a single-institution experience and review of the literature. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012;84(3):639-47.[PMID:22361082]
- 4)
- Modak S, Gardner S, Dunkel IJ, et al. Thiotepa-based high-dose chemotherapy with autologous stem-cell rescue in patients with recurrent or progressive CNS germ cell tumors. J Clin Oncol. 2004;22(10):1934-43.[PMID:15143087]
- 5)
- Baek HJ, Park HJ, Sung KW, et al. Myeloablative chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed or progressed central nervous system germ cell tumors:results of Korean Society of Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)S-053 study. J Neurooncol. 2013;114(3):329-38.[PMID:23824533]
- CQ9
- 再発NGGCT に対し救済治療は有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
寛解を目指した治療を提案する。治療反応性が不良の場合は,緩和的治療を提案する。
解説
再発NGGCT の予後はかなり厳しい。再発ジャーミノーマと異なり,再発NGGCT 対して救済治療による救命例の報告は少なく,いずれも症例報告またはケースシリーズの記述的研究1),後方視的解析2)であり,一般的に治療方針を推奨することはできない。
Modak らは3),初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経系胚細胞腫瘍に対する,チオテパを中心とした大量化学療法の有用性を検討した報告の中で,12 例の再発NGGCT の転帰を示している。12 例中,無病生存しているのは,生存期間中央値35 カ月で,4 例(33%)であると報告している。この4 例においては,初発時1 例のみ局所の放射線療法を行っており,残りの3 例はシスプラチン,イホマイド,エトポシドの化学療法だけ施行している。再発時,チオテパを中心とした大量化学療法を行っているが,その後の放射線療法は初発時放射線治療を行っていない2 例に追加照射をされている。彼らは導入化学療法による完全寛解の達成の有無が予後を決定すると解析している。
Baek らは,初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経系胚細胞腫瘍に対する大量化学療法の臨床試験KSPNO S-053 の結果を報告している1)。対象となった20 例中10 例は,2 回目の大量化学療法を施行された。再発NGGCT 11 例のうち,無病生存は導入化学療法で完全寛解となった4 例であり,導入化学療法による完全寛解達成の成否が予後を左右すると解析している。これらの4 例中3 例は,再発後に23.4 Gy から39.6 Gy の全脳脊髄照射を含む放射線療法を併用されているが,そのうち1 例は初発部位(松果体および視床下部)に合計75.6 Gy(初回45 Gy,再発時30.6 Gy)照射されている。残りの1 例は初発時に50Gy 初発部位(松果体)に照射されているため,再発時放射線療法は施行されていない。
Murray らは,SIOP-96 の臨床研究にて登録されたNGGCT の再発例32 例について検討しており,再発時の大量化学療法を行った症例22 例とスタンダードな化学療法(カルボプラチンもしくはシスプラチン,イホマイド,エトポシドなど)を行った10 例における5 年生存率を比較している2)。SIOP-96 の臨床研究におけるNGGCT に対する治療プロトコールは,単発例であればシスプラチン,イホマイド,エトポシド(ICE)のレジメンで4 コースの化学療法を行い,54 Gy の局所の放射線療法を行い,bifocal tumor 以外の多発例には30 Gy の全脳脊髄照射および24 Gy の局所の照射を行うものである。再発時スタンダードな化学療法を行った症例の5 年生存率は0 であり,大量化学療法を行った症例でも22 例中5 年生存できた症例は3 例だけであった。この3 例に対する再発時の放射線療法は,1 例において局所照射されているが,他の2 例において放射線療法は施行されていない。この結果からは,再発時放射線療法が可能であったかどうかは予後に影響しないといえる。
これらの報告のように,再発時のNGGCT の救済治療は初期治療,特に放射線療法の有無は再発時の照射に影響する。大量化学療法が施行できても,寛解する例は多くない。また,再発NGGCT の治療による無病生存例の報告においても,治療後の障害やQOL についての情報は乏しい。大量化学療法,連続大量化学療法と放射線療法の併用による無病生存の達成があるものの,これらの救済治療による生存率は高いとはいえず,新規の治療法が開発される必要がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍における再発の治療方針についての検索を2017 年7 月に行った。検索式はCQ8 参照。
一次スクリーニングとして420 文献を抽出し,41 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ9 では3 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Baek HJ, Park HJ, Sung KW, et al. Myeloablative chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed or progressed central nervous system germ cell tumors:results of Korean Society of Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)S-053 study. J Neurooncol. 2013;114(3):329-38.[PMID:23824533]
- 2)
- Murray MJ, Bailey S, Heinemann K, et al. Treatment and outcomes of UK and German patients with relapsed intracranial germ cell tumors following uniform first-line therapy. Int J Cancer. 2017;141(3):621-35.[PMID:28463397]
- 3)
- Modak S, Gardner S, Dunkel IJ, et al. Thiotepa-based high-dose chemotherapy with autologous stem-cell rescue in patients with recurrent or progressive CNS germ cell tumors. J Clin Oncol. 2004;22(10):1934-43.[PMID:15143087]
課題6:長期予後
- CQ10
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍におけるフォローアップは必要か?
- 推奨度1B
- 推奨
可能な限り長期に追跡することを推奨する。
解説1:長期的なフォローアップについて
CNSGCT の追跡としては,長くても10 年程度までの報告が多い。MAKEI89 やSIOP-CNS-GCT-96 による前方視的試験のnon-germinomatous germ cell tumors(NGGCT)の報告によれば1,2),5 年から10 年で生存割合はプラトーに到達するようにみえる。しかし,CNSGCT の,より長期の予後について,前述の米国SEER database に1973~2005 年に報告されたジャーミノーマ405 例とNGGCT 94 例のデータが報告によると,5 年以上の生存者について,ジャーミノーマにおいてKaplan-Meier 生存曲線は,人口統計に比べてはるかに速いペースで,30 年以上ほぼコンスタントに下がり続けることが分かる3)。(1.中枢神経原発胚細胞腫瘍の基本的特徴(総論)図1 を参照のこと。)ジャーミノーマの5 年以上生存者405 例においてみられた46 例の死亡の16%は癌死で,その約半数は胚細胞腫の再発であり,再発死亡例の死亡までの期間中央値は9.1 年であった。したがって,このKaplan-Meier 生存曲線がコンスタントに下がり続けることを考えると,胚細胞腫の再発はおよそ20年で出尽くすともいえるかもしれない。ところが腫瘍再発による死亡以外の死因では,主に放射線療法による晩期障害と考えられる脳卒中が多く,脳卒中による死亡の危険率は人口統計よりも59 倍高く,脳卒中による死亡までの期間中央値は23.8 年とのことであった。Kaplan-Meier 生存曲線が20 年を超えるあたりから加速度的に下がり続けるようにみえるのは,この脳卒中など原病以外の疾病が原因と考えられる。したがって,CNSGCT の追跡は,疾病管理という意味でも,またQOL や社会的なサポートという意味でも,永続的な診療やケアが必要であると考えられる。
❖ 文献
- 1)
- Calaminus G, Bamberg M, Harms D, et al. AFP/beta-HCG secreting CNS germ cell tumors:long-term outcome with respect to initial symptoms and primary tumor resection. Results of the cooperative trial MAKEI 89. Neuropediatrics. 2005;36(2):71-7.[PMID:15822019]
- 2)
- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
- 3)
- Acharya S, DeWees T, Shinohara ET, et al. Long-term outcomes and late effects for childhood and young adulthood intracranial germinomas. Neuro Oncol. 2015;17(5):741-6.[PMID:25422317]
解説2:フォローアップにおける具体的な事項
長期フォローアップにおける基礎的な背景因子として,それぞれの治療による障害の可能性を認識することが第一である。いずれも単変量解析ではあるが,全脳照射と基底核部病変が認知機能についての予後不良因子と報告されている1)。放射線療法の影響の程度は,線量・照射野・照射時年齢などさまざまな要因に影響される。目安として,照射線量ごとの認知機能・内分泌機能予後を示した(図1 2),表1 1,3-16))。また,化学療法に関しても表2 17)に示すように,それぞれの薬剤に対して長期的に考慮すべき合併症が存在する。
フォローアップにおいては以下の項目について観察を行うことが推奨される。
【神経症状,脳脊髄MRI,腫瘍マーカー】
神経症状,脳と脊髄のMRI および腫瘍マーカーによる再発の有無の観察を行う。神経症状ならびに脳と脊髄のMRI は,放射線療法による脳血管腫や二次がん(髄膜腫やグリオーマ等)の有無の観察18)のため,再発のおそれがなくなったとしても継続して行うことを考慮する。さらに胚細胞腫に限らず,ステロイドなどの投与歴などの症例において,副腎不全による死亡も報告されており,定期的な副腎機能のチェックは必要と思われる19)。画像検査の間隔については,治療終了後少なくとも2 年間は3 カ月ごと,それ以降は4 カ月~1 年ごとの頭部MRI を行うことが一般的である20)。
【認知機能,就学・就労】
小児CNSGCT 経験者には認知機能障害の中でも特に,記憶障害が多くみられるため,全般的知能検査に記憶機能検査を加えることが重要である21)。通常の教育を受けられる者も多いが,学習困難があれば特別支援教育が必要となる。CNSGCT 経験者にとって就労が困難となる原因には,認知機能のほかに視覚機能(視力・視野・眼球運動障害)も指摘されており,障害者枠就労や障害年金も考慮される4,5,22)。Sugiyama らは,中学もしくは高校卒業後に就職したジャーミノーマ長期生存者11 例中7 例が30 歳以上になって記憶・計算の問題により失職したことを報告している3)。これらのことから,認知機能について,少なくとも就学前・進学前・就職前(進路選択)のタイミングを含めつつ,その後も定期的な評価が必要と考えられる。検査にあたっては,視覚機能や運動機能についても評価し23-25),その結果を認知機能検査者にあらかじめ伝える必要がある。
【下垂体前葉,後葉機能および妊孕性】
内分泌合併症は,CNSGCT の長期生存者に最も多い合併症である24)。尿崩症については,治療後にも改善せず存在し続けることが報告されている25)。成長ホルモン投与の遅れは,成長障害のみならず,骨量減少のリスクを高めるため,早期補充が必要である26,27)。性機能については,性腺機能低下だけでなく思春期早発も起こるなど多様な症状が生じる4,24)。甲状腺機能低下や脂質代謝・糖代謝異常による肥満の報告もあり,これらの内分泌異常は治療後新たに起こることも稀ではない4,5,23,24,28,29)。中枢神経原発胚細胞腫瘍治療に対する妊孕性の温存に関しては,児や親権者の理解度,また倫理的な背景も考慮すべきであるが,小児がん経験者における不妊の問題を直視し,児や親権者の理解度,倫理的な背景を考慮して対応することが求められる。詳細に関しては日本がん治療学会の妊孕性ガイドラインを参照している(http://www.jsco-cpg.jp/fertility/)。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の長期予後について下記検索式による検索を2016 年12 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして295 文献を抽出し,32 文献のエビデンス総体を作成した。それらの構造化抄録をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ10 では解説文を2 つに分け,解説1 では3 文献,解説2 では29 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Liang SY, Yang TF, Chen YW, et al. Neuropsychological functions and quality of life in survived patients with intracranial germ cell tumors after treatment. Neurooncol. 2013;15(11):1543-51.[PMID:24101738]
- 2)
- Sklar CA, Antal Z, Chemaitilly W, et al. Hypothalamic-Pituitary and Growth Disorders in Survivors of Childhood Cancer:An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(8):2761-84.[PMID:29982476]
- 3)
- Sugiyama K, Yamasaki F, Kurisu K, et al. Quality of life of extremely long-time germinoma survivors mainly treated with radiotherapy. Prog Neurol Surg. 2009;23:130-9.[PMID:19329867]
- 4)
- Benesch M, Lackner H, Schageri S, et al. Tumor- and treatment-related side effects after multimodal therapy of childhood intracranial germ cell tumors. Acta Paediatr. 2001;90(3):264-70.[PMID:11332165]
- 5)
- Jereb B, Korenjak R, Krzisnik C, et al. Late sequelae in children treated for brain tumors and leukemia. Acta Oncol. 1994;33(2):159-64.[PMID:8204270]
- 6)
- Armstrong GT, Reddick WE, Petersen RC, et al. Evaluation of memory impairment in aging adult survivors of childhood acute lymphoblastic leukemia treated with cranial radiotherapy. J Natl Cancer Inst. 2013;105(12):899-907.[PMID:23584394]
- 7)
- Clanton NR, Klosky JL, Li C, et al. Fatigue, vitality, sleep, and neurocognitive functioning in adult survivors of childhood cancer:a report from the Childhood Cancer Survivor Study. Cancer. 2011;117(11):2559-68.[PMID:21484777]
- 8)
- Krull KR, Zhang N, Santucci A, et al. Long-term decline in intelligence among adult survivors of childhood acute lymphoblastic leukemia treated with cranial radiation. Blood. 2013;122(4):550-3.[PMID:23744583]
- 9)
- Brinkman TM, Krasin MJ, Liu W, et al. Long-term neurocognitive functioning and social attainment in adult survivors of pediatric CNS tumors:results from the St Jude Lifetime Cohort Study. J Clin Oncol. 2016;34(12):1358-67.[PMID:26834063]
- 10)
- Ris MD, Packer R, Goldwein J, et al. Intellectual outcome after reduced-dose radiation therapy plus adjuvant chemotherapy for medulloblastoma:a Children’s Cancer Group study. J Clin Oncol. 2001;19(15):3470-6.[PMID:11481352]
- 11)
- Mulhern RK, Kepner JL, Thomas PR, et al. Neuropsychologic functioning of survivors of childhood medulloblastoma randomized to receive conventional of reduced-dose craniospinal irradiation:a Pediatric Oncology Group study. J Clin Oncol. 1998;16(5):1723-8.[PMID:9586884]
- 12)
- Krull KR, Brinkman TM, Li C, et al. Neurocognitive outcomes decades after treatment for childhood acute lymphoblastic leukemia:a report from the St Jude Lifetime Cohort Study. J Clin Oncol. 2013;31(35):4407-15.[PMID:24190124]
- 13)
- O’Neil S, Ji L, Buranahirun C, et al. Neurocognitive outcomes in pediatric and adolescent patients with central nervous system germinoma treated with a strategy of chemotherapy followed by reduced-dose and volume irradiation. Pediatr Blood Cancer. 2011;57(4):669-73.[PMID:21495164]
- 14)
- Sands SA, Kellie SJ, Davidow AL, et al. Long-term quality of life and neuropsychologic functioning for patients with CNS germ-cell tumors:from the First International CNS Germ-Cell Tumor Study. Neuro Oncol. 2001;3(3):174-83.[PMID:11465398]
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- 16)
- Sønderkær S, Schmiegelow M, Carstensen H, et al. Long-term neurological outcome of childhood brain tumors treated by surgery only. J Clin Oncol. 2003;21(7):1347-51.[PMID:12663725]
- 17)
- Children’s Oncology Group. Long-Term Follow-Up Guidelines for Survivors of Childhood, Adolescent, and Young Adult Cancers, Version 5.0-October 2018 http://www.survivorshipguidelines.org/pdf/2018/COG_LTFU_Guidelines_v5.pdf
- 18)
- Nakamura H, Makino K, Ushio Y, et al. Therapy-associated secondary tumors in patients with non-germinomatous malignant germ cell tumors. J Neurooncol. 2011;105(2):359-64.[PMID:21533838]
- 19)
- Puar TH, Stikkelbroeck NM, Smans LC, et al. Adrenal Crisis:Still a Deadly Event in the 21st Century. Am J Med. 2016;129(3):339.e1-9.[PMID:26363354]
- 20)
- Cheung V, Segal D, Gardner SL, et al. Utility of MRI versus tumor markers for post-treatment surveillance of marker-positive CNS germ cell tumors. J Neurooncol. 2016;129(3):541-4.[PMID:27406584]
- 21)
- Wilkening GN, Madden JR, Barton VN, et al. Memory deficits in patients with pediatric CNS germ cell tumors. Pediatr Blood Cancer. 2011;57(3):486-91.[PMID:21548009]
- 22)
- Sano K, Matsutani M. Pinealoma(germinoma)trated by direct surgery and postoperative irradiation: a long-term follow-up. Childs Brain. 1981;8(2):81-97.[PMID:7249817]
- 23)
- Saeki N, Tamaki K, Murai H, et al. Long-term outcome of endocrine function in patients with neurohypophyseal germinomas. Endocr J. 2000;47(1):83-9.[PMID:10811297]
- 24)
- Calaminus G, Bamberg M, Harms D, et al. AFP/β-HCG secreting CNS germ cell tumors:long-term outcome with respect to initial symtoms and primary tumor resection. Results of the cooperative trial MAKEI 89. Neuropediatrics 2005;36(2):71-7.[PMID:15822019]
- 25)
- Goldenberg-Cohen N, Haber J, Ron Y, et al. Long-term ophthalmological follow-up of children with Parinaud syndrome. Ophthalmic Surg Lasers Imaging. 2010;41(4):467-71.[PMID:20438046]
- 26)
- Okita Y, Narita Y, Miyakita Y, et al. Long-term follow-up of vanishing tumors in the brain:how should a lesion mimicking primary CNS lymphoma be managed? Clin Neurol Neurosurg. 2012;114(9):1217-21.[PMID:22445618]
- 27)
- Kang MJ, Kin SM, Lee YA, et al. Risk factors for osteoporosis in long-term survivors of intracranial germ cell tumors. Osteoporos Int. 2012;23(7):1921-9.[PMID:22057549]
- 28)
- Gonzalez BL, Grill J, Bourdeaut F, et al. Water and electrolyte disorders at long-term post-treatment follow-up in paediatric patients with suprasellar tumours include unexpected persistent cerebral salt-wasting syndrome. Horm Res Paediatr. 2014;82(6):364-71.[PMID:25377653]
- 29)
- Shim KW, Park EK, Lee YH, et al. Treatment strategy for intracranial primary pure germinoma. Childs Nerv Syst. 2013;29(2):239-48.[PMID:22965772]
3 章 びまん性橋グリオーマ diffuse intrinsic pontine glioma:DIPG
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
廣瀬 雄一
藤田医科大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
総括
副委員長
西川 亮
埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科/脳神経外科
総括
協力委員
師田 信人
北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
診断
委員
隈部 俊宏
北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
他のガイドラインとの整合性
委員
唐澤 克之
都立駒込病院 放射線診療科/放射線科
放射線治療
委員
中田 光俊
金沢大学医薬保健研究域医学系 脳・脊髄機能制御学/脳神経外科
化学療法
協力委員
柳澤 隆昭
東京慈恵会医科大学 脳神経外科/脳神経外科
化学療法
委員
中村 英夫
久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
DIPG の分子生物学的特徴,解説
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
総論
DIPG の分子生物学的特徴
中村 英夫
篠島 直樹(熊本大学医学部 脳神経外科)
1
診断
師田 信人
吉村 淳一(長野赤十字病院 脳神経外科)
2
外科的治療
隈部 俊宏
齋藤 竜太(名古屋大学医学部 脳神経外科)
吉村 淳一(長野赤十字病院 脳神経外科)
3
放射線治療
唐澤 克之
藤井 元彰(三井記念病院 放射線治療科)
4
化学療法
中田 光俊
柳澤 隆昭(東京慈恵会医科大学 脳神経外科)
鈴木 智成(埼玉医科大学国際医療センター 脳脊髄腫瘍科)
山崎 文之(広島大学 脳神経外科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
DIPG に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,DIPG 患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された9 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにシステマティックレビュー(SR)チームを2~3 名で編成した。DIPG が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年11 月30 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で,DIPG のガイドライン作成ワーキンググループが発足。課題の一部については委員の追加を行った。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2015 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2014 に準拠した方法により行ったが,DIPG が稀少疾患であるためエビデンスが少なく,上記の方法の適用が困難な場面に遭遇した。
推奨作成とその決定:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,ガイドライン作成ワーキンググループが各CQ に対する推奨内容について討議した。全委員を対象に,各CQ に対する推奨について郵送により投票を行うこととした。2019 年6 月2 日に投票方法を周知し,投票を行った。7 月6 日,第43 回脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で投票結果が報告され,すべての推奨が承認された。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年6 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
1)臨床的特徴
脳幹部でも主に橋に発生する浸潤性の脳実質内腫瘍で,小児期,特に学童期に好発し,生命予後が不良な腫瘍である。脳幹(主に橋)の中をびまん性・浸潤性に発育するため,大きな腫瘤を形成することはないが,複数の脳神経核や重要神経回路の機能障害をきたしながら病状が進行する。具体的には外眼筋麻痺や顔面神経の障害,錐体路徴候,体幹失調で発症し,急速に進行していくことが多い。
びまん性橋グリオーマ(diffuse intrinsic pontine glioma:DIPG)の名称は組織型による分類ではなく,腫瘍の発生部位と画像所見に基づくものである。すなわち典型例では神経徴候を含めた臨床学的所見と画像検査(MRI)で診断されることが多い。生検術によるものも含めて組織診断されることは少ないのが実情であるが,組織診断された場合にはびまん性星細胞腫であることが多い。最近の遺伝子解析の発達により,この腫瘍には特徴的な遺伝子異常が多いことが知られるようになった。2016 年に世界保健機関(World Health Organizaion:WHO)から出版された脳腫瘍分類では,脳幹,視床といった脳の正中部に発生し,特定のヒストン遺伝子の異常を示す腫瘍をdiffuse midline glioma と分類するようになり,WHO grade Ⅳの最高悪性度に分類される。これまでにDIPG と分類されていた腫瘍のかなりの部分が,このdiffuse midline glioma に相当すると考えられるが,diffuse midline glioma の診断には遺伝子異常の確認が必要であり,今後の診断体系に変更が生じる可能性もある。これまでに知られているDIPG の遺伝子異常については後述する「備考:DIPG の分子生物学的特徴」を参照されたい。
注:本ガイドラインで扱う疾患「びまん性橋グリオーマ」は英語名diffuse intrinsic pontine glioma に対応する。この名称は,橋から発生する腫瘍の中でも外惻(第四脳室内や小脳橋角部といった髄外)に突出するexophytic pontine glioma と対をなすものとして命名されたものある。Exophytic pontine glioma は,時には外科的切除の対象となることもあるが,保存的に経過観察することも許容される予後良好な腫瘍で,橋自体が腫大する形で発育する「びまん性橋グリオーマ」とは臨床像も大きく異なる。後者の英語名に含まれる “intrinsic” は橋の髄内(実質内)にある腫瘍を指す単語であり,委員会内では英語名を忠実に和訳した「びまん性髄内橋グリオーマ」という腫瘍名も検討されたが,結論としては英語名を直訳しない「びまん性橋グリオーマ」を選んだ。ただし,略語については文献や臨床の場でも使われることの多いDIPG(diffuse intrinsic pontine glioma)とした。
2)疫学的特徴
生存期間中央値は12 カ月以下,1 年生存率は50%以下と生命予後が不良な腫瘍である。脳腫瘍の中でもっとも予後が悪い腫瘍の一つで,この20年間で治療効果による予後の改善がみられない腫瘍である。脳腫瘍全国集計調査報告(2017)によれば,びまん性星細胞腫,退形成性星細胞腫のいずれも数%が橋に主座のある腫瘍であったとの統計があるが,本疾患は外科的手術の対象とならないことが多いと考えられるので,組織型の情報も含めた正確な情報を得ることは難しい。
3)診療の全体的な流れ
組織診断することなく神経徴候を含める臨床所見と画像検査(MRI)によって診断した後,放射線治療が行われることが多い。一時症状および画像所見の改善が60~80%にみられるが,約6 カ月で再発する。腫瘍に対する化学療法の有効性は示されていない。ステロイドによる一時的な症状の改善は期待できる。診断された時点で,生存できる期間がある程度決まるので,残された時間をどのように使うのか,状態悪化時に挿管・気管切開・呼吸器装着を行うかどうか,水頭症併発時の手術など姑息的治療を行うか,など患者や家族の予後不良な疾患の受け入れと,提供できる支援としては緩和医療が必要となる。
治療早期から緩和医療の同時進行,あるいは緩和医療への移行も念頭に置きながら,姑息的治療の選択にあたっては家族の意思を尊重しつつ慎重に判断することが望まれる。
4)備考:DIPG の分子生物学的特徴
2016 年のWHO 改訂により,脳腫瘍特にグリオーマにおいて,その分子遺伝学的プロファイルが診断に加味されるようになった。この改訂によって中枢神経系の中心に位置し,浸潤性の性格を持つ星細胞優位の腫瘍であり,H3F3A もしくはHIST1H3B/C をコードする遺伝子においてK27M の変異を有する悪性度の高いグリオーマをdiffuse midline glioma と定義された。DIPG は,このdiffuse midline glioma の代表的な腫瘍である。DIPG の80%近くの症例において,このどちらかの遺伝子変異が認められ,この2 つの遺伝子変異は相互排他的と報告されている1)。
(1)予後因子に関して
2012 年のKhuong-Quang らによる報告では,小児DIPG 42 例においてK27M-H3 変異が独立予後不良因子であった2)。2014 年に症例を増やした小児DIPG 72 例における解析でも同様の結果が得られており3),K27M-H3 変異検索は組織学的grading より予後予測因子として意義があると考えられる。
(2)分子標的治療に関して
①変異遺伝子に対する標的治療
2014 年にBuczkowicz らは,臨床データと組織サンプルが得られた小児DIPG 74 例の遺伝子発現やメチル化などの網羅的解析を行い,3 群にサブグループ化し(MYCN, silent, H3-K27M),それぞれの群で標的治療の可能性のあるいくつかの候補分子を同定した1)。特にH3-K27M ではACVR1 変異が20%で認められ,この下流のSMAD 経路は恒常的に活性化しており治療標的に成り得ると考察している。
また,2014 年にTaylor らは,26 例のDIPG の約30%でみられたACVR1(ALK2)変異を標的とした治療の有望性について報告している4)。すなわちACVR1 変異のある患者由来DIPG 細胞株を用い,ALK2 inhibitor により抗腫瘍効果が得られたことを示している。
②エピジェネティクス変化に対する治療
2014 年Ahsan らは,エピジェネティクス解析を行い,成人GBM や小児の非脳幹GBM と比較して小児DIPG に特異的なエピジェネティクス変化を同定した5)。グローバルDNAメチル化としての5-methylcytosine(5mC)レベルは,小児DIPG に限らず小児非脳幹GBM および成人GBM で有意に低下していた。一方,H3K27 トリメチル化の有意な低下と,クロマチン活性に関与する5-hydroxymethylation of cytosine(5hmC)レベルの有意な上昇が,小児DIPG で特異的に認められた。治療としてヒストン脱メチル化阻害薬やヒストン脱アセチル化阻害薬などのエピジェネティクスmodifiers が期待されると結論づけている。さらにGrasso らは,エピジェネティクスmodifiers によるDIPG の治療効果をin vitro,in vivo で検討している6)。患者由来DIPG 細胞培養系で薬剤スクリーニングを行い,抗腫瘍効果のある薬剤としてヒストン脱アセチル化酵素阻害薬のpanobinostat を同定しin vitro,in vivo でその抗腫瘍効果を証明した。さらにヒストン脱メチル化阻害薬のGSK-J4 を併用することで相乗的な抗腫瘍効果が得られたと報告している。
❖ 文献
- 1)
- Buczkowicz P, Hoeman C, Rakopoulos P, et al. Genomic analysis of diffuse intrinsic pontine gliomas identifies three molecular subgroups and recurrent activating ACVR1 mutations. Nat Genet. 2014;46(5):451-6.[PMID:24705254]
- 2)
- Khuong-Quang DA, Buczkowicz P, Rakopoulos P, et al. K27M mutation in histone H3.3 defines clinically and biologically distinct subgroups of pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Acta Neuropathol. 2012;124(3):439-47.[PMID:22661320]
- 3)
- Buczkowicz P, Bartels U, Bouffet E, et al. Histopathological spectrum of paediatric diffuse intrinsic pontine glioma:diagnostic and therapeutic implications. Acta Neuropathol. 2014;128(4):573-81.[PMID:25047029]
- 4)
- Taylor KR, Mackay A, Truffaux N, et al. Recurrent activating ACVR1 mutations in diffuse intrinsic pontine glioma. Nat Genet. 2014;46(5):457-61.[PMID:24705252]
- 5)
- Ahsan S, Raabe EH, Haffner MC, et al. Increased 5-hydroxymethylcytosine and decreased 5-methylcytosine are indicators of global epigenetic dysregulation in diffuse intrinsic pontine glioma. Acta Neuropathol Commun. 2014;2:59.[PMID:24894482]
- 6)
- Grasso CS, Tang Y, Truffaux N, et al. Functionally defined therapeutic targets in diffuse intrinsic pontine glioma. Nat Med. 2015;21(6):555-9.[PMID:25939062]
2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:びまん性橋グリオーマ(DIPG)の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後の改善
- (3)トピック:DIPG の生命予後,機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍を診療する医療者や施設,患者・家族,ケアギバー(caregiver)
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本および海外で既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)重要臨床課題
課題1:診断
課題2:外科的治療
課題3:放射線治療
課題4:化学療法
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
初発治療時が小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満の小児例に加え,15~29 歳のAYA 世代)。脳幹部に発生する腫瘍の中で病変が限局性のものや脳実質外にexophytic に発育する腫瘍とは予後が異なるので,これらは含まない。
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:1 カ月
文献の選出:3 カ月
エビデンス総体の評価と統合:4 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:DIPG に関してはなし。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed,医中誌
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2018 年7 月まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
課題1:診断
- CQ1
- 臨床経過,臨床所見,画像検査からDIPG と診断することは推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
臨床経過,臨床所見,画像検査からDIPG と診断することを提案する。
注:DIPG の名称は組織型による分類ではなく,その一方,最新の脳腫瘍分類でのdiffuse midline glioma(診断確定に遺伝子解析を要する)に相当する腫瘍が大部分を占めると考えられる。生検術の是非については議論が分かれるが,この点については解説を参照されたい。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,DIPG は特殊な腫瘍であり,腫瘍の発生部位と画像所見に基づく疾患群を指すことに留意する必要がある。そのためDIPG の診断が,必ずしも組織学的悪性度の診断につながるわけでない。適切な治療を行うための診断法の妥当性について検証を行う。
- アウトカム:
- 臨床経過,臨床所見,画像診断からDIPG と診断した場合の誤診率
2.推奨の解説
DIPG 診断・治療の歴史において,Albright らによる1993 年の論文が果たした役割は極めて大きい1)。定位的あるいは開頭術で手術を受けた45 名のびまん性の脳幹部腫瘍全例がグリオーマであったことより,DIPG の診断はMRI で可能であり生検術は不要とされた。結果として,以後20年近くにわたり治療の大勢は外科的組織診断による裏付けなく進められることとなった。そのため,対象とする論文名にDIPG が冠されていても,現時点ではほとんどの文献において病理学的信憑性は曖昧であることを念頭に置く必要がある。
DIPG では放射線治療による一時的腫瘍縮小効果の他に有効な治療がなく,予後も極めて不良であるため,DIPG の臨床経過・臨床所見,画像診断について,前方視的に検討したエビデンスの高い論文は存在しない。そのため,文献としては単一施設での症例集積による臨床研究・症例報告を対象に検討した。
1)臨床経過・臨床所見
医療機関受診に至る典型的な臨床経過・臨床所見は,DIPG のスコープに記載されている通りである。水頭症を合併することは,通常は末期まで稀と考えられている。この臨床像について,DIPG の診断率と結びつけて検討した論文は認めなかった。逆にDIPG と診断されたにもかかわらず長期生存している5 例(全192 例)について後方視的に検討した論文では,3 歳以下2 例,発症から診断まで6 カ月以上3 例,外転・顔面神経麻痺なし1 例が臨床所見上の非典型所見として挙げられている2)。いずれも従来から指摘されていた非典型例の経過・所見であるが,典型例における頻度が記載されていないため,その信頼性を確定することは困難である。なお,後述の画像所見と関連するが,この5 例中3 例のMRI 所見は典型的DIPG と診断されている。
2)MRI 所見
DIPG の典型的なMRI 所見は一般的に以下の通りと考えられている。
1:橋中心部に内在し,橋横断面の50%以上を占める。
2:境界不鮮明
3:T1 低信号域
4:T2 高信号域
5:ガドリニウム造影効果は,あっても不整形
6:囊胞形成や橋表面(第4 脳室底も含む)への露出を伴わない。
MRI が非腫瘍性脳幹部病変との鑑別に有効とした文献は認めたが3),DIPG の組織診断の有用性を直接検討した文献は認めなかった。CQ2 との関係でMRI における脳幹部腫瘍におけるDIPG の頻度に触れた文献は症例集積として存在するが,MRI の質的診断価値(DIPG か非DIPG 脳幹部腫瘍か)についての考察は行われていない。外科的組織診断とMRI 所見を比較した文献は1 編のみであった。Dellaretti らは,定位的生検術を施行した44 例についてMRI 所見と組織像を比較検討した4)。画像所見をびまん性vs. 局在性,造影効果ありvs. なし,で4 群に分類し,44 例中41 例で組織診断が可能であり,うち37 例(90.2%)がDIPG と診断されている。造影効果を伴う場合,DIPG の高悪性度群および非DIPG の頻度が高くなるため生検術の必要性を文献では訴えているが,同時にMRI 所見のみでDIPG の診断・予後予測が困難であることを結果的に示唆する内容となっている。非DIPG に高悪性度腫瘍が多いことを論じた文献は認めたが,画像上の非典型的MRI 所見を示した脳幹部腫瘍のうち,どれだけが非DIPG だったかの情報は記載されていなかった5)。
現在,DIPG にそぐわない非典型的MRI 所見を示す脳幹部腫瘍に対する外科的組織診断の必要性は徐々に認識される傾向にあるが,非典型的所見かどうかが外科医間でどれだけ一致するかを調べた興味深い文献が認められた6)。脳幹部腫瘍16 例の画像を86 名の小児神経外科医が診断したところ,全員が典型的あるいはDIPG として画像所見が典型的あるいは非典型的であると診断が一致した症例は存在せず,75%以上がいずれかの診断で一致した症例が7 例(43.8%)であった。DIPG の典型的MRI 画像の知識はあっても,臨床現場でのMRI 診断の難しさを反映した結果となっている。
以上をまとめると,MRI によりDIPG の存在・進展を診断することは可能であるが,治療法に結びつく組織学的・生物学的悪性度の診断を行うことは現時点では困難である,ということになる。
3)その他の画像所見
MRI DTI(diffusion tensor imaging)あるいはspectroscopy を用いてDIPG の特徴を調べた報告は散見されるが,いずれも単発でありエビデンスとしては低い。また,PET による悪性度診断の報告もあるが,現時点では日常臨床への影響は考えにくいため,ガイドラインには含めなかった。
4)組織診断
近年の分子生物学的診断法の進歩を反映し,生検術による組織診断の機運は高まっている。定位的生検術に関しては,新たな手術法の開発もありより安全に実施されるようになってきているが7),脳腫瘍生検術における診断率は一般に95%前後であり,永続的合併症発生率も1%ほどである。小児脳幹部腫瘍の定位的生検術の文献で多数例を扱った報告はまだ少ない8)。生検術の是非については議論が分かれるが,組織診断・遺伝子解析が直ちに患児への治療という形で恩恵につながるわけではないことを配慮する必要がある。生検術実施にあたっては,確定診断に至らない可能性・合併症出現の可能性をよく説明したうえで実施し,分子生物学的検索など臨床研究に役立てる場合には施設の倫理審査委員会の承諾を得る必要がある9)。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,DIPG の診断について下記検索式による文献検索を2017 年5 月に行った。
検索ワードはdiffuse intrinsic pontine glioma, brainstem glioma, diagnosis, MRI で行った。PubMed 上でAND あるいはOR で組み合わせたが,brainstem glioma では中脳腫瘍,低悪性度腫瘍も含まれるためdiffuse intrinsic pontine glioma を主に文献検索を進めた。また,diagnosis だけでは論文が絞りきれないため,診断に有用な臨床所見の検索にclinical finding を加えた。さらに,推奨作成過程で生検術をCQ2 でなくCQ1 の診断で扱うことになったため,上記に加えてbiopsy も追加して文献検索を行った。そのうえで抄録をもとに一次スクリーニングとして11 文献を抽出し,システマティックレビューを行った。最終的にその中から9 文献を用いて推奨を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Albright AL, Packer RJ, Zimmerman R, et al. Magnetic resonance scans should replace biopsies for the diagnosis of diffuse brain stem gliomas:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1993;33(6):1026-9.[PMID:8133987]
- 2)
- Jackson S, Patay Z, Howarth R, et al. Clinico-radiologic characteristics of long-term survivors of diffuse intrinsic pontine glioma. J Neurooncol. 2013;114(3):339-44.[PMID:23813229]
- 3)
- Schumacher M, Schulte-Mönting J, Stoeter P, et al. Magnetic resonance imaging compared with biopsy in the diagnosis of brainstem diseases of childhood:a multicenter review. J Neurosurg. 2007;106(2 Suppl):111-9.[PMID:17330536]
- 4)
- Dellaretti M, Touzet G, Reyns N, et al. Correlation among magnetic resonance imaging findings, prognostic factors for survival, and histological diagnosis of intrinsic brainstem lesions in children. J Neurosurg Pediatr. 2011;8(6):539-43.[PMID:22132909]
- 5)
- Klimo P Jr, Nesvick CL, Broniscer A, et al. Malignant brainstem tumors in children, excluding diffuse intrinsic pontine gliomas. J Neurosurg Pediatr. 2016;17(1):57-65.[PMID:26474099]
- 6)
- Hankinson TC, Campagna EJ, Foreman NK, et al. Interpretation of magnetic resonance images in diffuse intrinsic pontine glioma:a survey of pediatric neurosurgeons. J Neurosurg Pediatr. 2011;8(1):97-102.[PMID:21721895]
- 7)
- Puget S, Beccaria K, Blauwblomme T, et al. Biopsy in a series of 130 pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 2015;31(10):1773-80.[PMID:26351229]
- 8)
- Rajshekhar V, Moorthy RK. Status of stereotactic biopsy in children with brain stem masses:insights from a series of 106 patients. Stereotact Funct Neurosurg. 2010;88(6):360-6.[PMID:20861659]
- 9)
- Walker DA, Liu J, Kieran M, et al;CPN Paris 2011 Conference Consensus Group. A multi-disciplinary consensus statement concerning surgical approaches to low-grade, high-grade astrocytoma and diffuse intrinsic pontine gliomas in childhood(CPN Paris 2011)using the Delphi method. Neuro Oncol.2013;15(4):462-8.[PMID:23502427]
課題2:外科的治療
- CQ2
- 腫瘍切除は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
DIPG に対する腫瘍切除は行わないことを提案する。
- CQ3
- 水頭症に対する手術は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
DIPG 治療経過中に水頭症を生じた場合,水頭症手術を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
DIPG はその病変の局在から外科的切除術の対象とされないことが多い。ただし,腫瘍進行に伴う水頭症の合併が症状の悪化を招くことがあり,これに対応した治療は望まれるところである。外科的治療の適否については検証が必要である。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的治療による侵襲
2.推奨の解説
CQ2
腫瘍摘出の意義と,生検術を行うか,行わないかの議論は別である。生検術は特に臨床試験を行ううえで腫瘍の分子生物学的特徴を明確にし,さらに標的療法を行っていくためにも推奨する傾向にある1)。本項目ではあくまでもDIPG に対する腫瘍摘出の意義に関してまとめる。
第一にこれまで発表された論文,特に年代の古いものではDIPG の定義が曖昧であるために,DIPG に対する外科的治療の意義に関して正確な結論を導き出すのが難しい。
1980 年代後半にEpstein から発表された形態学的なintrinsic brainstem glioma の分類2,3)は依然として頻用される。Epstein らは1986 年の発表ではfocal, diffuse, cervicomedullary の3 型に分類した2)が,1988 年にはさらにcystic を加え最終的に4 型に分類している3)。diffuse type のbrainstem glioma で橋に存在するものがDIPG に相当すると考えて,過去の論文の記述からDIPG に対する外科的治療の意義を推測することになる。
Epstein らの1988 年の文献3)では,66 例の小児intrinsic brain stem glioma のうち27 例がdiffuse であり,これらはすべて組織学的に悪性であり,手術の恩恵はなく,1 例は手術死亡し,全例が術後6~9 カ月で死亡した。この結果からdiffuse intrinsic brainstem glioma に対しての手術適応はないとしている。この症例群のかなりの部分がDIPG に相当すると予想されるが,想像の域を出ない。
Behnke ら4)は1987~1994 年の連続した小児intra-axial exophytic tumor 30 例に対して手術を行った。術後ほとんどの症例で術前に認められた症状は悪化するが,2~3 カ月で回復するとしている。しかし2 例では術後2 日目と2 週間目に死亡している。血管腫(2 例)・grade 1 の星細胞腫(6 例)・grade 2 の乏突起膠腫(1 例)・grade 2 の上衣腫(1 例)の計10 例は術後2 年の段階で全例が生存している。一方,grade 2 以上の星細胞腫とprimitive neuroectodermal tumor(PNET)はどんなに摘出率が高くとも全例死亡した。術前神経学的脱落症状のあるもの,pontine hypertrophy,Onion-skin-like changes between layers of normal brainstem parenchyma and tumor tissue が認められる症例は,予後が悪いと報告している。開頭顕微鏡下手術は,MRI や生検ではわからない情報が得られるために有用というのが結論であるが,手術を推奨する考えに偏っていると評価せざるを得ない。
Wagner ら5)は1983~2001 年にHIT-GBM database に登録された新規pontine glioma 153 例を対象とした。場所はpons に限局されているが,diffuse, focal を分類していない。DIPG と推測される96 例中6 例(6.3%)に摘出術が行われた。結果的に手術・放射線・化学療法すべてが行われた症例の予後は単変量解析で良好であった。手術の意義に関しては論議されていないが,表に記載されている “Larger tumor”(定義が一切記載されていない)に対する摘出術は,単変量解析にてp=0.048 となっており,予後良好因子と読み取ることはできる。
Yoshimura ら6)は1962~1996 年の72 例のbrainstem glioma を検討した。64 例がdiffuse で,そのうち40 例に対して剖検が行われた。このうち2 例が延髄,38 例が橋に存在しているため,38 例が真の意味でのDIPG に相当すると判断される。年齢は3~46(平均12.6)歳で,4 例に部分摘出術以上,34 例に対して生検もしくは摘出術は行われなかった。表から摘出例の生存期間中央値は44 週,生検・非摘出例のそれは32 週と計算され,log-rank test にてp=0.408 で生存期間延長効果は認められなかった。
Behnke4),Wagner5)らの文献からintrinsic brainstem glioma に対して摘出術がある程度の意味合いを有することが予想されるが,これらにはfocal intrinsic type のbrainstem glioma とpons 以外に位置する腫瘍が含まれており,しかもそれがどの割合かは全く不明であるために,純粋にDIPG に対する摘出効果を明らかにすることができない。
結論として,DIPG に対する可及的摘出術の意義を明らかにした文献は存在しないと言える。また,合併症発生率が高く,術後早期死亡例の報告も多い3,4)。したがって,DIPG に対する腫瘍切除は推奨されない。
ただし,これは一般論であって,局所的な造影領域あるいは囊胞成分の急速な拡大に対する摘出術等,各症例に応じた腫瘍切除が否定されるものではない。このような状況下での腫瘍摘出の有効性,問題点に関して検討を行った論文は過去一切存在しないためである。
CQ3
DIPG ではおよそ15~60%の確率で,その診断確定から平均5 カ月で水頭症を生ずると報告されている。DIPG に併発した水頭症に対して手術を行うべきであるかどうかに関しては,いずれも単施設の後方視的検討結果によるため,高いエビデンスレベルにはない。また,その少ない対象疾患がDIPG に限定していない点にも注意が必要となる。
DIPG に合併した水頭症に対して,保存的療法のみでは限界があり,脳室腹腔短絡術(ventriculoperitoneal shunt:VPS)もしくは内視鏡的第三脳室開窓術(endoscopic third ventriculostomy:ETV)の適応を検討する必要がある。Amano らは,水頭症手術が行われた12 例はそれ以外の4 例に比較して長期生存したと報告している1)。Roujeau らは,51 例のDIPG を対象とし,水頭症を生じた11 例とそれ以外40 例の生存期間を検討した2)。Roujeau らは,適切に治療されれば水頭症の有無は生存率に影響しなかったこと,腫瘍の進行状況と水頭症発生とも関係なかったことから,水頭症が起きたらより積極的に治療すべきであるとしている2)。Amano らも,水頭症を神経兆候・画像診断から診断することは重要で,もし水頭症を生じた場合は適切な水頭症手術を行うべきとしている1)。
DIPG の4~50%に存在する播種病変を伴った水頭症では,水頭症の原因はDIPG によって中脳水道から第4 脳室への髄液流通障害による閉塞性水頭症だけではなく,吸収障害も伴った複数の要因に由来することが多いため,髄液を腹腔内へ流し出すことによって水頭症を改善させるVPS を優先的に選択する必要がある。播種病変が明らかになっていない場合,VPS とETV のいずれを選択するかの結論は出ていない。ETV においても施行直後から水頭症症状改善は得られ,体内に異物が挿入されないことから感染のリスクが低いという利点を強調する論文がみられる1,3,4)。一方で,ETV 後にVPS を必要とした症例が,Klimo らの報告3)では13 例中1 例,Roujeau らの報告2)では2 例中1 例と少なからず存在しており,上述のように髄液吸収障害による水頭症発現機序も考慮すると,最初からVPS を選択した方が良いという意見も存在する2)。なお,ETV を行う場合には脳底槽の変形・狭小化を念頭に置き,脳幹部や偏移した脳底動脈損傷を避けるように慎重かつ十分な開窓を症例ごとに検討すべきとされている4)。また,非常に稀な現象ではあるが,VPS を介して腹腔内に腫瘍播種を生ずることも報告されている5)。このように,DIPG 経過中に生ずる水頭症に対して手術を行うことは勧められているが,VPS を選択すべきであるか,ETV を選択すべきであるかは結論づけられていないのが現状である。
システマティックレビュー結果
CQ2
<検索式>
diffuse[All Fields]AND intrinsic[All Fields]AND(“pons”[MeSH Terms]OR “pons”[All Fields]OR “pontine”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])
“resection”“surgery”といったterm を加えて手術に関連したものだけをsearch するとあまりにも文献数が少なくなるために,下記のようにDIPG 全体をカバーするようにすべての論文を抽出し,一次スクリーニングを行い,その後,二次スクリーニングで文献を絞った。
❖ 文献
- 1)
- Walker DA, Liu J, Kieran M, et al;CPN Paris 2011 Conference Consensus Group. A multi-disciplinary consensus statement concerning surgical approaches to low-grade, high-grade astrocytoma and diffuse intrinsic pontine gliomas in childhood(CPN Paris 2011)using the Delphi method. Neuro Oncol. 2013;15(4):462-8.[PMID:23502427]
- 2)
- Epstein F, McCleary EL. Intrinsic brain-stem glioma of childhood:surgical indications. J Neurosurg. 1986;64(1):11-5.[PMID:3941334]
- 3)
- Epstein F, Wisoff JH. Intrinsic brainstem tumors in childhood:surgical indications. J Neurooncol. 1988;6(4):309-17.[PMID:3221258]
- 4)
- Behnke J, Christen HJ, Mursch K, et al. Intra-axial endophytic tumors in the pons and/or medulla oblongata Ⅱ. Intraoperative findings, postoperative results, and 2-year follow up in 25 children. Childs Nerv Syst. 1997;13(3):135-46.[PMID:9137855]
- 5)
- Wagner S, Warmuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006;79(3):281-7.[PMID:16598416]
- 6)
- Yoshimura J, Onda K, Tanaka R, et al. Clinicopathological study of diffuse type brainstem gliomas:analysis of 40 autopsy cases. Neurol Med Chir(Tokyo). 2003;43(8):375-82.[PMID:12968803]
CQ3
<検索式>
diffuse[All Fields]AND intrinsic[All Fields]AND(“pons”[MeSH Terms]OR “pons”[All Fields]OR “pontine”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“hydrocephalus”[MeSH Terms]OR “hydrocephalus”[All Fields]))OR((“brain stem”[MeSH Terms]OR(“brain”[All Fields]AND “stem”[All Fields])OR “brain stem”[All Fields]OR “brainstem”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“hydrocephalus”[MeSH Terms]OR “hydrocephalus”[All Fields])
結果:252 件
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Amano T, Inamura T, Nakamizo A, et al. Case management of hydrocephalus associated with the progression of childhood brain stem gliomas. Childs Nerv Syst. 2002;18(11):599-604.[PMID:12420118]
- 2)
- Roujeau T, Di Rocco F, Dufour C, et al. Shall we treat hydrocephalus associated to brain stem glioma in children? Childs Nerv Syst. 2011;27(10):1735-9.[PMID:21928037]
- 3)
- Klimo P Jr, Goumnerova LC. Endoscopic third ventriculocisternostomy for brainstem tumors. J Neurosurg. 2006;105(4 Suppl):271-4.[PMID:17328276]
- 4)
- Kobayashi N, Ogiwara H. Endoscopic third ventriculostomy for hydrocephalus in brainstem glioma:a case series. Childs Nerv Syst. 2016;32(7):1251-5.[PMID:27041375]
- 5)
- Barajas RF Jr, Phelps A, Foster HC, et al. Metastatic Diffuse Intrinsic Pontine Glioma to the Peritoneal Cavity Via Ventriculoperitoneal Shunt:Case Report and Literature Review. J Neurol Surg Rep. 2015;76(1):e91-6.[PMID:26251821]
課題3:放射線治療
- CQ4
- 放射線治療は行うべきか?
- 疾患の治療時期に応じて,解説を以下の項目に分けた。
- CQ4-1
- 初発のDIPG に対して,放射線治療は行うべきか?
- 推奨度1B
- 推奨
初発のDIPG に対して,放射線治療を行うことを推奨する。
- CQ4-2
- 照射後再発時のDIPG に対して,放射線治療は行うべきか?
- 推奨度2C
- 推奨
照射後再発時のDIPG に対して,放射線治療を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
DIPG の治療の中心となる放射線治療について,その線量や照射範囲に関して検証を行う。一般的に,小児脳腫瘍に対する放射線治療は3 歳以上であるか否かによって方針が分かれるが,DIPG は3 歳未満で診断されることは稀であるので,年齢に関する検証は行わない。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科治療による侵襲
2.推奨の解説
CQ4-1
DIPG の予後は不良で,放射線治療を行わない場合の生存期間は約3.5~5 カ月とされている1,2)。
DIPG が稀少疾患であることから,放射線治療の効果についても後方視的な観察研究が多いが,1991 年には2~13 歳のDIPG に対する放射線治療について非照射群での全生存期間中央値が140 日であったのに対して照射群では280 日であったとの報告がある1)。1983~2001 年までドイツで行われた多施設共同前方視的コホート研究HIT-GBM に登録された153 例の治療成績を検討したWagner らの報告によると,54 Gy/30 fr の通常分割照射が行われた放射線治療群(125 例)の全生存期間中央値は11 カ月であったのに対して,非照射群(21 例)では5 カ月であり,放射線治療群において生存期間の有意な延長を認めている3)。
照射の分割様式については,過分割照射(hyperfractionated radiotherapy)と通常分割照射との比較,および寡分割照射(hypofractionated radiotherapy)と通常分割照射との比較が行われている。
POG-9239 試験は過分割照射と通常分割照射を比較した多施設共同第Ⅲ相ランダム化比較試験で,全130 例を過分割照射群(総線量70.2 Gy,1.17 Gy×2 回/日)64 例と通常分割照射群(総線量54 Gy,1.8 Gy/日)66 例に振り分けて検討された。その結果,過分割照射群と通常分割照射群で,死亡までの期間(8 カ月/8.5 カ月),EFS(5 カ月/6 カ月)いずれにおいても両群に有意な差はなく,過分割照射による生存率の改善は認められなかった4)。
寡分割照射と通常分割照射との比較については,Zaghloul らにより第Ⅲ相ランダム化比較試験が行われ,その結果が2014 年に報告された5)。全71 例を寡分割照射群(39 Gy/13fr,2.6 週)35 例と通常分割照射群(54 Gy/30 fr,6 週)36 例に振り分けて検討された。その結果,全生存期間は寡分割照射群では7.8 カ月,通常分割照射では9.5 カ月で,両群に有意な差はみられなかった。急性および晩期有害事象についても両群に差はなく,治療期間の短縮,治療負担の軽減から寡分割照射は有利ではないかと述べている。
現在では腫瘍部分に1~2 cm のマージンをつけた部分に対して,一回線量1.8~2 Gy,総線量54~60 Gy の通常分割照射による放射線治療が標準治療とされており,放射線治療により症状の緩和のみならず,8~14 カ月の生存を期待できる。
CQ4-2
放射線療法は,照射後の再発例に用いても予後を改善する,という後方視的な報告が出されつつある。Wolff らのMD アンダーソンがんセンターにおける後方視的な解析によれば1),化学療法が大部分を占める26 種類のレジメンで61 回の治療を試みた31 例の再発DIPG のうち,初発部位に対し再照射が行われた7 例の奏効率は57%(7 例中4 例)で,再照射が行われなかった群の奏効率10%(52 例中5 例)に比較して有意に高く(p=0.008),また他のレジメンに比べて,EFS が有意に長かった(p=0.017)。彼らの用いた放射線の総線量は18~20 Gy で,グレード3 以上の有害事象は1 例も認められなかった。
Lassaletta らのカナダからの後方視的な報告によれば2),2011~2016 年に治療したDIPG の再照射16 例と,過去の再照射を行わなかった46 例を比較して,生存期間中央値が有意に延長した(218 日vs. 92 日,p=0.0001)。彼らの放射線の総線量は21.6~36 Gy と比較的高い線量を用いたが,30 Gy/10 fr を投与した1 例に橋の壊死が生じた。
またJanssens らによるヨーロッパ7 カ国の施設から集積された小児DIPG の照射後再発例についてのマッチドコホート研究3)では,再照射を行った31 例と行わずにbest supportive care(BSC)で観察した39 例を比較すると全生存期間の中央値が13.7 カ月vs. 10.4 カ月(p=0.04)と,有意に再照射群で改善していた。そして再照射を行った31 例中24 例で症状の軽快が認められた。また,グレード3 以上の有害事象は1 例も認められなかった。照射の線量は6 例の30 Gy/10 回の照射例以外は18~20 Gy の通常分割で行われた。
以上より,未だ前方視的研究の報告はないものの,放射線療法はDIPG の放射線治療後の再発例に対しても,生存期間の延長効果をもたらし,かつ有害事象も許容範囲内であることから,治療手段として用いることを提案する。
システマティックレビュー結果
CQ4-1
<検索式>
((((((((infant or child or adolescent or pediatric))AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)))AND radiotherapy)AND English[Language])NOT review[Publication Type])NOT case reports[Publication Type]
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
なお,DIPG については放射線治療が治療の中心であったため,解説文の作成にあたり対象として放射線非照射群の予後に関する情報を得るために以下の検索式で文献を集め(24 文献),マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した(文献1 および2)。
(((infant or child or adolescent or pediatric)AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)))AND natural history
❖ 文献
- 1)
- Langmoen IA, Lundar T, Storm-Mathisen, et al. Management of pediatric pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 1991;7(1):13-5.[PMID:2054800]
- 2)
- Sun T, Wan W, Wu Z, et al. Clinical outcomes and natural history of pediatric brainstem tumors:with 33 cases follow-ups. Neurosurg Rev. 2013;36(2):311-9;discussion 319-20.[PMID:23138258]
- 3)
- Wagner S, Wamuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006;79(3):281-7.[PMID:16598416]
- 4)
- Mandell LR, Kadota R, Freeman C, et al. There is no role for hyperfractinated radiotherapy in the management of children with newly diagnosed diffuse intrinsic brainstem tumors:results of a pediatric oncology group phase Ⅲ trial comparing conventional vs. hyperfractionated radiotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1999;43(5):959-64.[PMID:10192340]
- 5)
- Zaghloul MS, Eldebawy E, Ahmed S, et al. Hypofractionaed conformal radiotherapy for pediatric diffuse intrinsic pontine glioma(DIPG):A randomized controlled trial. Radiother Oncol. 2014;111(1):35-40.[PMID:24560760]
CQ4-2
<検索式>
(((infant or child or adolescent or pediatric)AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)))AND re-irradiation
これをすべて一次スクリーニングとし(26 文献),マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Wolff JE, Rytting ME, Vats TS, et al. Treatment of recurrent diffuse intrinsic pontine glioma:the MD Anderson Cancer Center experience. J Neurooncol. 2012;106(2):391-7.[PMID:21858608]
- 2)
- Lassaletta A, Strother D, Laperriere N, et al. Reirradiation in patients with diffuse intrinsic pontine gliomas:The Canadian experience. Pediatr Blood Cancer. 2018;65(6):e26988.[PMID:29369515]
- 3)
- Janssens GO, Gandola L, Bolle S, et al. Survival benefit for patients with diffuse intrinsic pontine glioma(DIPG)undergoing re-irradiation at first progression:A matched-cohort analysis on behalf of the SIOP-E-HGG/DIPG working group. Eur J Cancer. 2017;73:38-47.[PMID:28161497]
課題4:化学療法
- CQ5
- 化学療法を行うべきか?
- 推奨度2C
- 推奨
DIPG に対して化学療法を行わないことを提案する。
なお,疾患の治療時期に応じて,解説を以下の項目に分けた。
CQ5-1 放射線治療との併用について
CQ5-2 放射線治療後の化学療法について
CQ5-3 再発(進行)時の化学療法について
解説
1.CQ の設定
課題4:薬物療法(抗がん剤,分子標的治療薬など)の有効性
DIPG の治療における抗腫瘍薬の効果についてはエビデンスが少ないのが現状であるが,一般的な神経膠腫に対する薬物療法の進歩が目立っている中で,DIPG に対する薬物療法の意義を検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,有害事象の発現
2.推奨の解説
CQ5-1 放射線治療との併用について
DIPG に対する標準治療は54~60 Gy の放射線療法であり,1 年生存率は45%程度とされている。単独放射線治療よりも良好な予後を獲得するためにさまざまな薬剤併用放射線療法が報告されてきた。
Wagner らは,白金製剤やアルキル化剤等の併用について1983~2001 年にHIT-GBM(“Hirntumor-Glioblastoma multiforme”)データベースに登録されたDIPG 153 例に対し後方視的に解析している。治療として単独放射線治療あるいは放射線治療と化学療法[エトポシド+トロフォスファミド,カルボプラチン+エトポシド+イホスファミド+(ビンクリスチン)]の併用が行われた。放射線治療単独群(17 例)と放射線化学療法群(88 例)の全生存期間中央値は9 カ月,11 カ月であり,放射線化学療法群が延長した(p=0.03)。また,腫瘍径が大きいDIPG(橋の長さの50%以上)に対しては,放射線治療および化学療法がともに予後延長に寄与していた1)。Korones らは,Children’s Oncology Group(COG)9836 に登録された30 例のDIPG に対して放射線治療とエトポシド,ビンクリスチン併用療法を施行し解析している。全生存期間中央値9 カ月,1 年生存率27%,2 年生存率3%の結果であり,化学療法併用による予後延長効果は得られなかった2)。また,放射線治療とテモゾロミド併用療法に関して報告がある。Cohen らは,63 例の脳幹グリオーマに対し放射線治療とテモゾロミドを併用し全生存期間中央値9.6 カ月であったと報告している3)。Bailey らが報告した43 例の脳幹グリオーマに対する放射線治療とテモゾロミド併用療法では,全生存期間中央値9.5 カ月であった4)。これらの報告では,放射線治療にテモゾロミドを併用しても予後延長効果には寄与しない可能性が高いと述べられている。
放射線治療に分子標的治療薬を併用した臨床試験についても報告されている。Pollack らは43 例の脳幹グリオーマに対し放射線とEGFR チロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブの併用療法を施行した結果,1 年および2 年生存率は56.4%,19.6%であった。2 年生存率19.6%は他の臨床試験より良い結果であり,ゲフィチニブに感受性が高い集団が含まれている可能性が示唆されている5)。Macy らは,25 例の脳幹グリオーマに対し放射線治療に抗EGFR 抗体薬であるセツキシマブを併用した結果,無増悪生存期間中央値7.1 カ月,1 年無増悪生存割合29.6%,全生存期間中央値12.1 カ月であった。セツキシマブの併用は,無増悪期間の延長には寄与するかもしれないが,全生存期間の延長には寄与せず,今後,脳幹グリオーマに対するセツキシマブを使用した臨床試験は施行しない方針とされた6)。
Hummel らは,15 例の脳幹グリオーマに対し放射線と抗VEGF 抗体ベバシズマブ併用療法を施行した。無増悪生存期間中央値8.2 カ月,全生存期間中央値10.4 カ月であり,ベバシズマブ併用による予後延長効果は期待できないと報告した7)。
その他の併用薬剤として,12 例の脳幹グリオーマに対し放射線とサリドマイドの併用療法が報告されている。結果は全生存期間中央値9 カ月であり,予後延長効果は認められなかった8)。
一方,放射線治療前に化学療法を施行する臨床試験の報告がされている。Jennings らは,化学療法後に多分割放射線治療を行うChildren’s Cancer Group(CCG)の第Ⅱ相試験(CCG-9941)を報告している。63 例の脳幹グリオーマに対し化学療法(レジメンA:カルボプラチン+エトポシド+ビンクリスチンもしくはレジメンB:シスプラチン+シクロホスファミド+エトポシド+ビンクリスチン)を先行し,放射線治療(72 Gy)を行った。レジメンA とB の全生存期間中央値に差はなく,両群ともにヒストリカルコントロールとの差も認めなかった。したがって,化学療法先行の有効性は期待できないと述べられている9)。Frappaz らはBSG(Brain Stem Glioma)98 clinical trial の最終レポートを報告している。BSG 98 プロトコールは,ニトロソウレア(BCNU)+シスプラチン+大量メトトレキセートを3 カ月ごとに施行し,病変の進行時に放射線治療を追加する内容である。全生存期間中央値は,ヒストリカルコントロール群9 カ月に対し,BSG 98 群は17 カ月に延長した(p=0.02)。ただし,化学療法の毒性が強く入院期間延長や感染症リスクがあるため,患者本人および家族とよく相談すべきであると指摘している10)。Gokce-Samar らは,25 例の脳幹グリオーマに対し,BSG 98 プロトコール群(16 例)と分子標的治療薬群(9 例)を比較している。分子標的治療薬はエルロチニブ(EGFR チロシンキナーゼ阻害薬)もしくはシレンジタイド(インテグリン阻害薬)が使用された。BSG 98 プロトコール群の全生存期間中央値は16.1 カ月で,分子標的治療薬群の8.8 カ月よりも明らかに延長した(p=0.0003)。この結果から,BSG 98 プロトコールが脳幹グリオーマに対し有効性を期待できると述べられている11)。
現時点では,放射線治療に併用する薬剤の予後延長効果については肯定的な結果よりも否定的な結果が多く,確実に効果が期待できる薬剤はないと判断する。ただし,放射線治療と併用しないBSG 98 プロトコールは化学療法の毒性が強いながらも,脳幹グリオーマの予後延長効果に寄与する可能性がある。
注:エトポシド,トロフォスファミド,カルボプラチン,イホスファミド,ゲフィチニブ,セツキシマブ,サリドマイド,メトトレキセート,エルロチニブ,シレンジタイドは適応外使用
CQ5-2 放射線治療後の化学療法について
Broniscer らは,多施設共同研究で放射線治療後(55.8 Gy)の脳幹グリオーマ33 例に対するテモゾロミドの効果を検討している。テモゾロミドは200 mg/m2を5 日間投与,23 日休薬を1 サイクルとして12 サイクル行われた。無増悪生存期間中央値は8.8 カ月,1 年無増悪生存割合27%,全生存期間中央値12 カ月,1 年生存割合48%であり,ヒストリカルコントロールを上回る結果は得られず,テモゾロミド維持療法の有効性は否定されている1)。Kim らは新規脳幹グリオーマに対し,放射線治療にテモゾロミドとサリドマイド併用療法を加え,維持療法としてテモゾロミド(150~200 mg/m2)とサリドマイド(150~600 mg/m2)併用療法を行っている。評価された脳幹グリオーマ12 例においては無増悪期間中央値7.2 カ月,全生存期間中央値12.7 カ月で放射線治療単独療法と不変であり,テモゾロミドとサリドマイド併用維持療法の有効性は認められなかった。しかし,1 年生存率は58%であり,他の臨床試験の1 年生存率34.4%よりも高い結果であり,副作用は主にコントロール可能な骨髄抑制のみであったため今後症例数を増やし,再検討が必要と報告している2)。Porkholm らは,脳幹グリオーマ41 例に対し放射線治療後サリドマイド(1~6 mg/kg),エトポシド(20~70 mg/m2),セレコキシブ(230 mg/m2もしくは7 mg/kg)の3 剤併用維持療法を施行し,コントロール群8 例と比較している。3 剤併用維持療法群とコントロール群の全生存期間中央値はそれぞれ12 カ月,10.5 カ月で有意差は認めなかったが,3 剤併用療法群では7 例の長期生存例(24~60 カ月)を認めた。したがって,一部の症例には有効性があるため,大規模な症例数での再検討が必要であると述べている3)。
現時点では,初期治療後の維持化学療法として有効性が確立された治療方法はない。しかし,各臨床試験では少数の有効症例も認めているため,大規模な臨床試験を展開し,有効症例/無効症例の分子生物学的背景の解析が必要と考えられる。
注:サリドマイド,エトポシド,セレコキシブは適応外使用
CQ5-3 再発(進行)時の化学療法について
再発および進行性脳幹グリオーマに対する治療は期待できず,緩和医療の導入が一般的とされているが,化学療法を行った複数の臨床試験結果が報告されている。
①トポテカン(我が国では一般名ノギテカン)
小児再発性中枢神経腫瘍(計41 例)に対するトポテカン単剤療法の有効性を評価した。トポテカンは,1.0 mg/m2/日(3 日間)を3 週間ごとに投与された。19 例の脳幹腫瘍に対し,安定(stable disease:SD)4 例(21%),進行(progressive disease:PD)15 例(79%)と抗腫瘍効果は認めなかった。grade 4 の有害事象は,好中球減少(32%),血小板減少(23%)であった1)。
②テモゾロミド
113 例の再発性中枢神経腫瘍(脳幹グリオーマ16 例)を対象としてテモゾロミド180 mg/m2/日(脳脊髄照射既往あり)もしくは200 mg/m2/日(脳脊髄照射既往なし)の用量で5 日間投与-23 日間休薬のサイクルで単剤療法の効果を評価した。脳幹グリオーマに対する結果は,評価不能な1 例を除き15 例全例で効果なく,5 サイクルまでに腫瘍進行を認めた。grade 3/4 の有害事象は,好中球減少(19%)と血小板減少(25%)であった2)。DNA 修復酵素[O6-methylguanine-DNA methyltransferase(MGMT)]はテモゾロミドの抵抗性に関連しており,Warren らはMGMT を不活化するO6-benzylguanine(O6-BG)とテモゾロミドの併用療法を報告している。再発性脳幹グリオーマ16 例に対し,O6-BG 120 mg/m2+テモゾロミド75 mg/m2が投与された。併用療法の抗腫瘍効果はなく,6 カ月の無増悪生存率は0%であり,有効性は認めなかった3)。
③第3 世代白金製剤(オキサリプラチン)
再発性固形腫瘍124 例(脳幹グリオーマ10 例)に対し,オキサリプラチン(3 週間ごとに130 mg/m2静脈投与)の効果が評価された。脳幹グリオーマで評価可能な9 例中,SD 1 例,PD/no response 8 例であり,オキサリプラチンの有効性は認めなかった4)。
④分子標的治療薬
再発性脳幹グリオーマを対象としてRas 経路を抑制するファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬tipifarnib,VEGF を阻害するベバシズマブ,EGFR を阻害するニモツズマブの報告がされている。Tipifarnib(200 mg/m2)が35 例の再発脳幹グリオーマに投与された結果,部分奏効(partial response:PR)1 例,SD 4 例であり6 カ月無増悪生存期間は3%であった。したがって,tipifarnib はほとんど効果がないと結論づけられた5)。ベバシズマブは,16 例の再発性脳幹グリオーマに対しSD 5 例(3 カ月以上)であり,効果が乏しい結果であった6)。ニモツズマブが44 例の再発進行性脳幹グリオーマに投与された。評価可能であった19 例に対しPR 2 例,SD 6 例,PD 11 例であり,ニモツズマブ導入後からの生存期間中央値は3.2 カ月であった。また,PR/SD 群とPD 群の生存期間中央値はそれぞれ282日と146 日であるが統計学的有意差は認めなかった(p=0.06)。この結果からニモツズマブにより中等度の有効性が期待される脳幹グリオーマが存在することが示された7)。
その他,Wolff らは自施設であるMD アンダーソンがんセンターで加療された31 例の再発性脳幹グリオーマに対する治療について後方視的に解析している。エトポシド,テモゾロミド,シスプラチンなどの化学療法の効果は認められず,腫瘍縮小効果および無増悪性期間の延長に寄与した治療方法は,再放射線治療(20 Gy)であった8)。
以上より,現時点では明らかに治療効果を示す薬剤は同定されていない。
注:トポテカン,O6ベンジルグアニン,オキサリプラチン,チピファルニブ,ニモツズマブは適応外使用
CQ5-1,5-2 のシステマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((infant or child or adolescent or pediatric))AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem))NOT(relapse or recurrence or refractory))AND chemotherapy)AND(“1995/01”[Date- Publication]:“2017/08”[Date-Publication]))AND English[Language])NOT review[Publication Type])NOT case reports[Publication Type]
結果:46 件
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
CQ5-1
- 1)
- Wagner S, Warmuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006;79(3):281-7.[PMID:16598416]
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- Cohen KJ, Heideman RL, Zhou T, et al. Temozolomide in the treatment of children with newly diagnosed diffuse intrinsic pontine gliomas:a report from the Children’s Oncology Group. Neuro Oncol. 2011;13(4):410-6.[PMID:21345842]
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- Bailey S, Howman A, Wheatley K, et al. Diffuse intrinsic pontine glioma treated with prolonged temozolomide and radiotherapy–results of a United Kingdom phase Ⅱ trial(CNS 2007 04). Eur J Cancer. 2013;49(18):3856-62.[PMID:24011536]
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- Pollack IF, Stewart CF, Kocak M, et al. A phase Ⅱ study of gefitinib and irradiation in children with newly diagnosed brainstem gliomas:a report from the Pediatric Brain Tumor Consortium. Neuro Oncol. 2011;13(3):290-7.[PMID:21292687]
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- Macy ME, Kieran MW, Chi SN, et al. A pediatric trial of radiation/cetuximab followed by irinotecan/cetuximab in newly diagnosed diffuse pontine gliomas and high-grade astrocytomas:A Pediatric Oncology Experimental Therapeutics Investigators’ Consortium study. Pediatr Blood Cancer. 2017;64(11):10.1002/pbc.26621.[PMID:28544128]
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CQ5-2
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- 3)
- Porkholm M, Valanne L, Lönnqvist T, et al. Radiation therapy and concurrent topotecan followed by maintenance triple anti-angiogenic therapy with thalidomide, etoposide, and celecoxib for pediatric diffuse intrinsic pontine glioma. Pediatr Blood Cancer. 2014;61(9):1603-9.[PMID:24692119]
CQ5-3 のシステマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((infant or child or adolescent or pediatric))AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem))AND(relapse or recurrence or refractory))AND chemotherapy)AND(“1995/01”[Date-Publication]:“2017/08”[Date-Publication]))AND English[Language])NOT review[Publication Type])NOT case reports[Publication Type])
結果:24 件
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Kadota RP, Stewart CF, Horn M, et al. Topotecan for the treatment of recurrent or progressive central nervous system tumors-a pediatric oncology group phase Ⅱ study. J Neurooncol. 1999;43(1):43-7.[PMID:10448870]
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- Nicholson HS, Kretschmar CS, Krailo M, et al. Phase 2 study of temozolomide in children and adolescents with recurrent central nervous system tumors:a report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2007;110(7):1542-50.[PMID:17705175]
- 3)
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- 4)
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- 5)
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- 6)
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4 章 視神経視床下部神経膠腫 optic pathway/hypothalamic glioma:OPHG
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
廣瀬 雄一
藤田医科大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
総括
副委員長
西川 亮
埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科/脳神経外科
総括
委員
竹島 秀雄
宮崎大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
診断に関するCQ
協力委員
坂本 博昭
大阪市立総合医療センター小児脳神経外科/脳神経外科
診断・外科的治療に関するCQ
委員
中村 英夫
久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
遺伝的背景に関するCQ
委員
隈部 俊宏
北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療に関するCQ
委員
唐澤 克之
都立駒込病院 放射線診療科/放射線科
放射線治療に関するCQ
委員
中田 光俊
金沢大学大学院医薬保健総合研究科 脳・脊髄機能制御学/脳神経外科
化学療法に関するCQ
協力委員
原 純一
大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科/小児科
化学療法に関するCQ
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
1
診断
坂本 博昭
竹島 秀雄(宮崎大学医学部 脳神経外科)
渡邉 孝(宮崎大学医学部 脳神経外科)
宇田 武弘(大阪市立大学医学部 脳神経外科)
2
遺伝的背景
中村 英夫
牧野 敬史(熊本市立熊本市民病院 脳神経外科)
3
外科的治療
隈部 俊宏
坂本 博昭(大阪市立総合医療センター 小児脳神経外科)
齋藤 竜太(名古屋大学医学部 脳神経外科)
石橋 謙一(大阪市立総合医療センター 脳神経外科)
4
化学療法
中田 光俊
原 純一(大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科)
笹川 泰生(金沢大学医薬保健研究域医学系 脳・脊髄機能制御学)
多賀 祟(滋賀医科大学 小児科)
清谷 知賀子(成育医療研究センター 脳神経腫瘍科)
5
放射線治療
唐澤 克之
藤井 元彰(三井記念病院 放射線治療科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
視神経視床下部神経膠腫(optic pathway/hypothalamic glioma:OPHG)に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,OPHG 患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された10 名によって構成されている。
システマティックレビュー(SR)チーム:重要臨床課題ごとにSR チームを1~4 名で編成した。OPHG が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年11 月30 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で,OPHG のガイドライン作成ワーキンググループが発足。若干の課題については委員の追加を行った。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2015 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014 に準拠した方法により行ったが,OPHG が稀少疾患であるためエビデンスが少なく,上記の方法の適用が困難な場面に遭遇した。
推奨作成とその決定:臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,ガイドライン作成ワーキンググループが各CQ に対する推奨内容について討議した上で,決定のための郵送による投票を行った。最終的に2020 年8 月3 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会にて参加委員全員の投票により決定した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年6 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
1)臨床的特徴
視神経・視交叉から視床下部に発生する浸潤性の脳実質内腫瘍で,小児脳腫瘍の2~5%を占める。過半数が5 歳以下に発生し,10 歳までの例は毛様細胞性星細胞腫が多い。神経線維腫症1 型(NF1)に伴って生じるものもあり,その場合は視交叉より後方には発生しにくく,比較的良好な予後をたどるなど,NF1 の合併例と非合併例との間には臨床像や予後に差異があることも報告されている。ただし,乳幼児期の孤発例ではNF1 の臨床的診断基準を満たさないながらNF1 に伴って生じた腫瘍と同様に良好な予後を示すことがある1-4)。
神経症状や所見としては,視力低下や失明,視野欠損など視機能障害で発症することが多いが,年少時では視機能障害の発見は遅れる。水平性の振子様眼振(pendular nystagmus)はこの腫瘍でみられる特徴的な眼振である。NF1 の例では一側眼窩内の視神経腫瘍によって患側の視機能障害や眼球突出をきたすことがある。内分泌学的異常では低身長など下垂体前葉ホルモンの障害が多いが,尿崩症も発生する。また,視床下部障害により思春期早発,過度の肥満が発生することがあり,乳幼児期にるいそうを呈する間脳症候群(diencephalic syndrome)はこの腫瘍に特徴的である。発達遅滞やけいれんを呈することもある。腫瘍によって非交通性の水頭症を合併すれば,頭蓋内圧亢進の症状や所見を呈し,進行すれば意識障害をきたす。
典型例では上記のような神経徴候を含めた臨床所見と画像検査(MRI)で診断し得るが,非典型例では組織診断を要することもある。視機能障害の評価が困難な乳幼児の例,あるいはNF1 の例でOPHG のスクリーニング検査では,MRI により診断や腫瘍増大の有無が評価できる。腫瘍の局在はMRI を用いて分類され5),視覚路にあたる視神経(一側あるいは両側),視神経交叉,視索,外側膝状体,視放線に腫瘤を形成し,視覚路に沿って,あるいはその周囲の脳実質内に伸展する。腫瘍はT1 強調画像で等信号,T2 強調画像で等信号から高信号を呈し,びまん性で不均一な造影効果を受けやすく,著明な増強効果を受けることも少なくない。水頭症は15~30%に合併する。囊胞の合併,視床下部や第三脳室への伸展,あるいはトルコ鞍上部で脳実質内からくも膜下腔へのexophytic な進展があってもよい。石灰化の所見は稀である。
OPHG の名称は組織型による分類ではなく,腫瘍の発生部位と画像所見に基づくものである。すなわち典型例では神経徴候を含めた臨床学的所見と画像検査で診断された腫瘍の総称であり,単一の組織診断が下されるとは限らないのが実情である。組織診断された場合にはWHO grade Ⅰの毛様細胞性星細胞腫であることが多いが,grade Ⅱ以上の悪性度を持つ神経膠腫や神経膠腫以外の腫瘍もこの部位には発生する。
2)疫学的特徴
比較的多数の症例を含む臨床研究において腫瘍発生に関する性差は示されていないが,カナダのHospital for Sick Children in Toronto からの報告6)ではNF1 合併例では男児の発生が多かったとされている。また同研究の中でNF1 合併例でのOPHG 診断年齢は5.05 歳であったのに対してNF1 非合併例でのOPHG 診断年齢は7.09 歳であり,統計的に有意な差であったことも報告されているが,NF1 合併例では早期にスクリーニング検査が行われた可能性もあることには注意を要する。NF1(出生約3,000 人に1 人の割合で生じる)全体の中でOPHG が発生する割合は報告によって異なるが,MRI でスクリーニングを行った複数の研究結果を合わせると,その10~15%にOPHG が発生すると考えられる。
脳腫瘍全国集計調査報告(2017)7)によれば,視床下部腫瘍の10%,視神経腫瘍の37%が毛様細胞性星細胞腫であったと報告されており,神経上皮由来腫瘍では毛様細胞性星細胞腫が最も多い。ただし,全年齢での脳実質内腫瘍という点では視床下部では中枢神経系原発悪性リンパ腫が最も多く(16%),毛様細胞性星細胞腫はこれに次ぐ。なお,毛様細胞性星細胞腫は7.2%が視神経,5%が視床下部,42.3%が小脳に発生したと報告されている。本疾患は必ずしも外科的治療の絶対的な対象とされなかったことが影響し,腫瘍組織型が確認されていない症例が数多く含まれるため,組織型の正確な情報を得ることは難しい。
3)診療の全体的な流れ
一般的に脳腫瘍の診断では,画像所見と病理診断から診断を確定することが望ましい。しかし,OPHG では非症候性もしくは症状が軽微な場合には経過観察も一つの選択肢であり,画像所見のみによる診断も許容され,生検も含めた外科的腫瘍切除は必要とされないこともある。視機能障害や水頭症など腫瘍による圧排に基づく症状が進行性である場合や,画像検査で明らかな病変拡大が認められる場合は,局所病変を制御するために腫瘍切除が行われることがある。前述の通り本疾患は毛様細胞性星細胞腫であることが最も多いが,より悪性度が高い腫瘍である可能性が否定できないことは念頭に置く必要がある。OPHG は小脳に発生する毛様細胞性星細胞腫とは腫瘍生物学的に異なる可能性があり,この点は腫瘍の組織学的評価に遺伝子診断まで加えるべきかという議論にも関連する。放射線治療は,腫瘍制御の観点からは治療効果が高いことが確認されているが,視床下部機能障害,二次的悪性腫瘍,脳血管障害,高次機能障害などの発現の危険があり,これらの晩期合併症は一旦発生すれば重篤であるため,長期生存が期待できる症例では薬物療法が優先される。放射線治療後の二次がんの発生率はNF1 に合併するOPHG では非合併例よりも高い(CQ8 参照)。放射線治療は腫瘍の局在と大きさなどのために手術困難な場合や,薬物療法に対する治療反応性が低い場合に行われることが多い。薬物療法の主体は化学療法であるが,今後分子標的薬の導入も見込まれている。
❖ 文献
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2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:OPHG の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後の改善
- (3)トピック:OPHG の生命予後,機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍を診療する医療者や施設,患者・家族,ケアギバー(caregiver)
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本・海外とも既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)重要臨床課題
課題1:診断方法の確立
課題2:外科的治療の意義
課題3:薬物治療の意義
課題4:放射線治療の意義
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
初発治療時が小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満)の小児例に加え15~29 歳のAYA(adolescent and young adult)世代
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:1 カ月
文献の選出:3 カ月
エビデンス総体の評価と統合:4 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:OPHG に関してはなし。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed,医中誌
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2019 年6 月まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドラインの作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合は量的統合を実施。
課題1:診断
- CQ1
- 臨床経過,臨床所見,画像検査からOPHG と診断することは推奨されるか?
- 推奨度1C
- 推奨
臨床経過,臨床所見,画像所見がOPHG に典型的な臨床的特徴を呈する場合はOPHG と診断し治療方針を決定することを提案する。非典型的な臨床的特徴を呈する場合は病理組織診断を行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,OPHG は他の腫瘍と異なり組織診断名ではなく特徴的な発生部位や臨床症状を呈する疾患群の呼称である。組織学的には高分化型星細胞腫である毛様細胞性星細胞腫(WHO grade Ⅰ)がOPHG の主体を占めるが,より悪性度の高い腫瘍の場合があるため,臨床診断されたOPHG の治療方針は一様であるとは言えない。OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連しているため,適切な治療を行うための診断法の妥当性,特に組織診断の必要性について検証を行う。また,OPHG はNF1 合併の有無によって臨床像や予後が異なるため,NF1 遺伝子異常の探索の必要性について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的手技による侵襲
2.推奨の解説
NF1 合併例と非合併例に分けて記載する。
(1)NF1 合併例
1990 年代前半までは,NF1 合併例において視覚路に発生しOPHG と臨床診断された腫瘍では,摘出(生検)を行って組織診断が施行されることが多かった1,2)。白金製剤を中心とした化学療法が低悪性度神経膠腫に有効であるとPacker らが1997 年に報告した後,外科的摘出を治療の第一選択としない報告が増えていった。1990 年代後半からは,NF1 に合併するOPHG として典型的な臨床経過,臨床所見,画像所見を呈していれば,組織診断なしで毛様細胞性星細胞腫として治療方針が決定されている3-13)。
しかし,NF1 合併例でもOPHG 特に毛様細胞性星細胞腫としては非典型的な症例,すなわち10 歳以上,視床下部や第三脳室の腫瘍,脳実質外伸展を呈する腫瘍,囊胞病変を伴う腫瘍の中には,WHO grade ⅡまたはⅢ相当の神経膠腫,あるいは神経膠腫以外の腫瘍の可能性があるため組織診断が行われる14,15)。上記の場合に加え,治療を開始してからではあるが,急激な腫瘍の増大や化学療法が有効ではない例も組織診断が必要であるとする報告がある16)。腫瘍摘出(生検)を行うには,腫瘍の摘出に伴う種々の合併症(CQ4 参照)を考慮する必要がある。
OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連している17)ため,腫瘍がWHO grade Ⅰ の毛様細胞性星細胞腫として臨床的に典型的ではない点があれば,組織診断が必要と判断するのが妥当である。NF1 合併例の推奨文では「臨床経過(発症年齢など),臨床所見(視覚障害や内分泌障害など),画像所見(腫瘍の局在や形態など)がOPHG に典型的な所見を呈する例では,毛様細胞性星細胞腫と判断して治療方針を決定してもよいが,非典型的な点があれば組織診断を勧める」と提案する。
(2)NF1 非合併例
NF1 非合併例においても視覚路に発生した腫瘍がOPHG として典型的な臨床所見を呈する場合は,腫瘍摘出や生検による組織診断は必ずしも必要ではないとする報告がある18-21)。しかし,NF1 非合併例でOPHG と臨床診断された47 例中45 例で組織診断が行われ,40 例(症例全体の85%)は毛様細胞性星細胞腫であったが,残り5 例(同11%)は他の低悪性度神経膠腫であったとする報告がある22)。このようにNF1 合併例よりも非合併例では,臨床的な特徴からOPHG と診断された腫瘍でも毛様細胞性星細胞腫以外の腫瘍である割合が高い傾向にあり,NF1 合併例と比較して非合併例では腫瘍の摘出や生検による組織診断を行う傾向にある6,12,23-30)。
臨床的にOPHG と診断された例で,診断時の年齢が10 歳を超えれば組織学的悪性度が有意に高く17),18 歳以上のAYA(adolescents and young adults)世代の例では高悪性度神経膠腫であったとする報告がある17,31)。OPHG では,診断時の年齢が10 歳未満の例と比較して10 歳以上の群で有意に生検率が高く26),診断時の年齢が10 歳以上の例が多く含まれる報告では組織診断が施行される割合が76~100%と高率である25,32-36)。
腫瘍の局在や形態から述べると,腫瘍が視床下部や第三脳室周囲に存在する例,あるいは脳実質外伸展例に対しては,毛様細胞性星細胞腫以外の神経膠腫や頭蓋咽頭腫の可能性を考慮する必要がある19)。また,囊胞病変を伴う例で手術到達が可能な症例,あるいは減圧が必要な症例では摘出手術により組織診断がなされている14,37)。腫瘍により水頭症を合併している乳幼児例では,髄液短絡術施行時に神経内視鏡による生検が施行されている20)。これらに加え,急激な腫瘍の増大がみられる場合や,毛様細胞性星細胞腫として予想される治療効果が得られない場合,生検を考慮すべきとする報告もある37)。腫瘍摘出(生検)を行うには,NF1 合併例と同様に,腫瘍の摘出に伴う合併症(CQ4 参照)を考慮する。
以上,NF1 非合併例ではOPHG と臨床診断できても,毛様細胞性星細胞腫より高悪性度の神経膠腫であったり,それ以外の腫瘍である可能性がNF1 合併例よりも高い傾向にあるため,OPHG として典型的な臨床所見に欠ける場合はより積極的に組織診断を勧める。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((((optic nerve)OR optic chiasma)OR optic tract)OR optic pathway)OR hypothalamus))AND glioma)AND(hasabstract[text]AND English[lang]AND((infant[MeSH]OR child[MeSH]OR adolescent[MeSH])OR young adult[MeSH]))))NOT((((((((optic nerve)OR optic chiasma)OR optic tract)OR optic pathway)OR hypothalamus))AND glioma)AND(Case Reports[ptyp]AND hasabstract[text]AND English[lang]AND((infant[MeSH]OR child[MeSH]OR adolescent[MeSH])OR young adult[MeSH])))))AND mri
この検索式で得られた報告の中で,OPHG の診断方法で病理組織診断に対する臨床診断の優位性を統計学的に検討したものはなかった。そのため,症例数の多い報告を採用して二次スクリーニング文献とし,定性的なシステマテックレビューを行った。
❖ 文献
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課題2:遺伝的背景
- CQ2
- 遺伝学的背景の探索は必要か?
- 推奨度2D
- 推奨
NF1 遺伝子異常の探索は二次的な中枢神経系腫瘍の発生等を留意することにおいて意義はあるが推奨するレベルではない。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,OPHG は他の腫瘍と異なり組織診断名ではなく特徴的な発生部位や臨床症状を呈する疾患群の呼称である。組織学的には高分化型星細胞腫である毛様細胞性星細胞腫(WHO grade Ⅰ)がOPHG の主体を占めるが,より悪性度の高い腫瘍の場合があるため,臨床診断されたOPHG の治療方針は一様であるとは言えない。OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連しているため,適切な治療を行うための診断法の妥当性,特に組織診断の必要性について検証を行う。また,OPHG はNF1 合併の有無によって臨床像や予後が異なるため,NF1 遺伝子異常の探索の必要性について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的手技による侵襲
2.推奨の解説
OPHG はしばしばNF1 患者に発生する。経過観察中にOPHG が発生する場合もあるが,脳腫瘍の方が先に発症し診断され,しかし実はNF1 合併例であるというOPHG も存在する。しかし,視力障害発症例はNF1 合併例よりも非合併例に多いと報告されている1)。OPHG のNF1 遺伝子異常の検出はNF1 の臨床症状が不確実であった場合に有用であるが,巨大なNF1 遺伝子の解析の困難さを考えると必ずしも必須ではないと思われる。NF1 の中で,視神経膠腫を持つ症例では,NF1 遺伝子の5’ 端領域に遺伝子変異が集中するという報告もあれば2),関係ないという報告もある3)。皮膚症状などの臨床診断基準を満たせば,ある程度NF1 合併例かどうか予測できる。非NF1 とNF1 関連視神経膠腫では,発生部位に違いがあり,非NF1 では視索に多いことで水頭症の併発が多いという報告もある1)。NF1 以外の遺伝子異常に関しては症例報告がいくつかあるが4-8),確立された事象ではない。OPHG においてNF1 と非NF1 との予後の比較の報告に関しては,Stokland らは157例のOPHG において,OS では差がないものの,5 年PFS がNF1 では70.8%,非NF1 では46.7%と単変量解析にてp<0.001,Kaplan-Meier 法におけるlog-rank test にてp=0.003と有意にNF1 の方が良好であったと報告している9)。現在,NF1 に合併するOPHG に対しての分子標的治療薬なども存在せず,単にPFS がNF1 において良好であるということだけでは,NF1 の遺伝子診断を積極的に推奨する理由にはならない。また,NF1 では家族歴にNF1 が存在しない弧発例が50%程度であるが,OPHG の患者でNF1 かどうか判別できない症例において,NF1 遺伝子変異があるかどうかの診断をつけることによってその後の治療法の選択が何か変わることはない。以上のことを総合的に勘案すると,現時点で積極的なNF1(を含めた)遺伝子診断は,患者や家族が望む場合に限定されると考える。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((optic pathway glioma AND neurofiromatosis type 1)AND hypothalamus)OR(optic pathway hypothalumus glioma AND neurofibromatosis type 1)OR(optic pathway glioma AND genetic analysis)OR(optic pathway glioma AND molecular analysis)
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Singhal S, Birch JM, Kerr B, et al. Neurofibromatosis type 1 and sporadic optic gliomas. Arch Dis Child. 2002;87(1):65-70.[PMID:12089128]
- 2)
- Bolcekova A, Nemethova M, Zatkova A, et al. Clustering of mutations in the 5’ tertile of the NF1 gene in Slovakia patients with optic pathway glioma. Neoplasma. 2013;60(6):655-65.[PMID:23906300]
- 3)
- Hutter S, Piro RM, Waszak SM, et al. No correlation between NF1 mutation position and risk of optic pathway glioma in 77 unrelated NF1 patients. Hum Genet. 2016;135(5):469-75.[PMID:26969325]
- 4)
- Gonzalez-Martin J, Glover S, Dixon S, et al. Neurofibromatosis type 1 and McCune-Albright syndrome occurring in the same patient. Br J Dermatol. 2000;143(6):1288-91.[PMID:11122036]
- 5)
- Kebudi R, Tuncer S, Upadhyaya M, et al. A novel mutation in the NF1 gene in two siblings with neurofibromatosis type 1 and bilateral optic pathway glioma. Pediatr Blood Cancer. 2008;50(3):713-5.[PMID:17514731]
- 6)
- Erbay SH, Oljeski SA, Bhadelia R. Rapid development of optic glioma in a patient with hybrid phakomatosis:neurofibromatosis type 1 and tuberous sclerosis. AJNR Am J Neuroradiol. 2004;25(1):36-8.[PMID:14729526]
- 7)
- Yeung JT, Pollack IF, Shah S, et al. Optic pathway glioma as part of a constitutional mismatch-repair deficiency syndrome in a patient meeting the criteria for neurofibromatosis type 1. Pediatr Blood Cancer. 2013;60(1):137-9.[PMID:22848017]
- 8)
- Kocova M, Kochova E, Sukarova-Angelovska E. Optic glioma and precocious puberty in a girl with neurofibromatosis type 1 carrying an R681X mutation of NF1:case report and review of the literature. BMC Endocr Disord. 2015;15:82.[PMID:26666878]
- 9)
- Stokland T, Liu JF, Ironside JW, et al. A multivariate analysis of factors determining tumor progression in childhood low-grade glioma:a population-based cohort study(CCLG CNS9702). Neuro Oncol. 2010;12(12):1257-68.[PMID:20861086]
課題3:外科的治療
- CQ3
- 外科的治療の意義はあるか?
- 推奨度1C
- 推奨
絶対的に推奨される外科治療介入時期はなく,症例ごとに患者年齢,視機能,水頭症の有無,NF1 合併の有無などを考慮し,小児科・眼科・腫瘍内科・放射線治療科・放射線診断科・脳神経外科等から成り立つ集学的治療チームによって検討することを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢および局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
外科治療の適応およびその推奨される時期はいつかという臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない1-4)。症候性になった場合に手術を含めた治療が選択されているが,手術単独ではなく化学放射線療法を含めての治療であり,純粋に手術に対して評価することは難しい。手術適応やこれらの治療方法は一貫しておらず,いずれの評価項目においても大きなバイアスを有する。したがって手術療法開始時期に関してのエビデンスレベルの高い推奨を述べることはできない。現時点では,症例ごとに患者年齢,視機能評価,水頭症の有無,NF1 合併の有無などを考慮し,小児科・眼科・腫瘍内科・放射線治療科・放射線診断科・脳神経外科等から成り立つ集学的治療チームによって手術時期を決定すべきであると考えられる。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する4 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
❖ 文献
- 1)
- Fouladi M, Wallace D, Langston JW, et al. Survival and functional outcome of children with hypothalamic/chiasmatic tumors. Cancer. 2003;97(4):1084-92.[PMID:12569610]
- 2)
- Goodden, J, Pizer B, Pettorini B, et al. The role of surgery in optic pathway/hypothalamic gliomas in children. J Neurosurg Pediatr. 2014;13(1):1-12.[PMID:24138145]
- 3)
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- CQ4
- 腫瘍切除率は予後に影響するか?
- 推奨度1D
- 推奨
可及的摘出によって治療成績が上がるというエビデンスはなく,手術操作に伴った合併症も無視できず,摘出率を追求するような摘出を行わないことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢及び局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
腫瘍切除率は予後に影響するか,という臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない。バイアスリスクや非一貫性,不精確性,非直接性のすべてに問題がある。結論として,腫瘍摘出率が治療予後を改善するという報告は過去一切認められない1,2)。Ahn らによる韓国において1982~1999 年に手術摘出が行われた33 例の報告をみると,術後8 例(24%)が放射線治療追加を受けているという条件下で,手術後の5 年無増悪生存割合は52.4%であり,少なくとも手術単独では5 年後に半分以上は再発することになる1)。視交叉に腫瘍が浸潤せずに片側の視神経に限局し,有効な視力が得られず眼瞼下垂があり痛みが化学療法によっても改善しない場合,手術適応があると提唱する報告はみられる3,4)が,例え片側の視神経に限局し完全摘出した場合でも手術単独では5~10%の確率で視交叉に再発する可能性があることには注意しなければならない1)。また摘出率を高くすることによって,追加治療の中心となる化学療法の治療効果を向上することも判明していない5)。
腫瘍摘出率を上げることによって,再発までの期間や全生存期間の延長が証明されなかったとしても,例えばQOL を改善する,化学放射線療法開始までの期間を延長するという評価項目でその利点を明示することができれば摘出率を向上させる意義があるが,この点においてもエビデンスは存在しない。したがって,摘出率を追い求めるような手術は推奨されない6,7)。
さらに手術の問題点として合併症発生が避けて通れないことが挙げられる。手術合併症としては,意識障害・視機能障害の悪化・内分泌機能障害・脳梗塞が特に問題となる8,9)。
合併症に関して最近の文献で最もよくまとめられているのは,2012 年のHupp らの文献8)である。彼らは1992~2009 年にドイツの国立神経放射線データセンターに蓄積された84 例に対する102 手術を検討した。その結果17 例(16.7%)で術後画像上脳梗塞が確認された。2 歳未満では7/17 例(41.2%)の高率であった。なお脳梗塞による症状を呈したものは13/102 例(12.7%)であり,また生検では1 例も脳梗塞は生じていなかった。この結果と対比するために,2004~2009 年の51 例の小脳の低悪性度神経膠腫に対する65 手術を検討したところ,わずか1 例(1.5%)の全摘出症例のみで脳梗塞を生じていたに過ぎなかった。なお脳梗塞発生に関して組織型やDodge 分類は関係しなかった。
Sawamura らの2007 年の文献9)では,1992 年以降の19 例(年齢中央値3.1 歳)を検討し,生検5/12 例(41.6%),摘出術5/7 例(71.4%)で,全体としては10/19 例(52.6%)で合併症を生じていた。生検で合併症出現頻度が高いのは,澤村らは生検術の範疇に限局した開頭摘出を含めている(11/12 例)からと考えられる。画像評価が含まれていないために梗塞を生じた評価はあくまでも症状によるものであるが,その頻度は2/19(10.5%)であった。したがって,症候性脳梗塞の頻度は,Hupp らの検討とほぼ同様となる。
Ahn らの文献1)では,1982~1999 年の33 症例(平均年齢8.3 歳)を検討している。このうち,27 例は90%を超えた可及的摘出術,6 例は部分摘出術を行った。2 例(6%)が術後1 年以内に肺梗塞とびまん性脳梗塞で死亡した。その他の合併症は,5 例で一過性片麻痺,2 例で感染症,1 例でシャント機能不全,を生じた。彼らの結論は,OPHG に対しての可及的摘出術はPFS の延長や神経内分泌学的症状の改善には役立たず,手術は腫瘍拡大時における水頭症コントロールのため,もしくは放射線治療開始延期を目的に行うべきとしている。彼らが提唱している治療アルゴリズムには,年代が古いために化学療法の概念が入っていない点に注意が必要となる。
Steinbok らの2002 年の文献10)では,18 例のOPHG に対して17 回の手術を行っている。8 例は亜全摘,6 例は部分摘出,3 例は限局した摘出術であった。限局した手術で特に間脳機能温存に注意を払うと合併症発生率は低くなると報告している。摘出率と腫瘍再発との間には関連がなかった。これらの結果から,彼らはOPHG に対する手術は組織確認と視神経や髄液循環系への減圧を目的に行うべきであるとしている。
Valdueza らの1994 年の文献11)では,初回から摘出術を1980~1993 年に行った20 例(年齢中央値9 歳)を検討している。10 例は70~90%の亜全摘,6 例は部分摘出,4 例は生検術であった。腫瘍再発時に4 回の追加手術が行われた。これら24 手術のうち5 回(20.8%)で合併症を生じた。1 例は脳梗塞のため片麻痺と失語症,4 例で内分泌障害,4 例で視機能障害の悪化をきたした。彼らは可及的摘出は良好な結果で遂行できたと評価している。7歳未満の場合,視索を含まない大きな腫瘍に対しては摘出を,視索を含む場合には放射線治療の前に減圧手術を,再発時には腫瘍の位置によって放射線治療の前に摘出を考慮すべきであるとしている。また7 歳以上の場合は再発腫瘍に対して摘出術を勧めている。
Nicolin らによる2009 年の133 小児例中の治療を要した69 例の検討5)では,化学療法単独,化学療法と手術併用,手術単独の間でPFS には有意差がなかったと報告している。
このようにOPHG に対して可及的摘出により治療成績が上がるというエビデンスはなく,上記のような手術操作に伴った合併症を生ずることから,生検術に取って代わって摘出率を追い求めるような摘出を行う論理的根拠はない。
しかしながら近年,初発のみならず再発時にもより積極的に手術(部分摘出術,debulking)を行うという考え方が改めて提唱されている12)。彼らは,問題となる手術合併症を生ずることなく,13/17 例(76.5%)(初発症例では7/10 例,再発症例では6/7 例)で手術単独で腫瘍制御ができ,また可及的摘出と化学療法を併用した4 例は全例腫瘍制御ができていることを強調している。また10 例のケースシリーズにて,より安全に摘出率を上げる方法として,術中MRI を用いる方法も提唱されている13)。画像診断もきちんとできていなかった古き時代と比較し,MRI・ニューロナビゲーションシステム・術中MRI といった手術支援システムと手術技術の進歩があることは間違いないであろう。しかしこれらの報告で,PFS, OS が改善したという結果は明示できていない。本疾患は症例数が少なすぎることと,観察期間が少なくとも10 年といった年限で評価しないと結果が判明しないことにより,純粋に手術の効果を明らかにすることは今後も難しいことが予想されるが,今後手術の役割が重要視される可能性はあるかもしれない。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する13 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
❖ 文献
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- CQ5
- 再発時摘出の意義はあるのか?
- 推奨度2D
- 推奨
QOL の維持を念頭に置いて腫瘍容積減量によって神経症状が改善することが期待できる場合に部分摘出を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢及び局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
再発時摘出の意義はあるのか,という臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない。バイアスリスクや非一貫性,不精確性,非直接性のすべてに問題がある。再発時の摘出術が有益であることをはっきりと示した論文はないと結論づけざるを得ない。さらに,2000 年より以前の報告は,Packer レジメンを中心とした化学療法が治療の中心となった現在とは再発時の治療概念が異なるため,外科治療の役割も現在求められるものとは異なっていることに注意が必要である。すなわち,放射線治療を行った後での再発に対しては,手術摘出によって状況を改善させざるを得なかったのである。近年はOPHG に対しては化学療法が積極的に行われ,治療手段としての放射線治療を先延ばしにしたうえで,さらに強度変調放射線治療(IMRT)を中心とした精密な放射線治療が可能となっているので,再発時においてもこれらの治療法とうまく組み合わせることを考慮して,摘出率のみを追求せず,QOL の維持を念頭に置いて外科治療を行うべきであると考えられる。
こういった中で少数例であるが,化学療法を行った後の再発に対してや,腫瘍容積減量によって神経症状が改善することが期待できる場合に部分摘出を行っている報告がある。再発時の手術は,化学療法によってもうまく腫瘍を制御できなかった場合に,減圧手術,囊胞性病変に対する開放術・オンマヤリザーバー挿入・シャント手術を考慮すべきであるとされている1)。ただし,再手術は必ずしも容易ではないことも注意喚起されており2),外科療法を行う場合,細心の注意を払ったうえでの介入が必要である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する2 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
❖ 文献
- 1)
- Bowers DC, Krause TP, Aronson LJ, et al. Second surgery for recurrent pilocytic astrocytoma in children. Pediatr Neurosurg. 2001;34(5):229-34.[PMID:11423771]
- 2)
- Sawamura Y, Kamada K, Kamoshima Y, et al. Role of surgery for optic pathway/hypothalamic astrocytomas in children. Neuro Oncol. 2008;10(5):725-33.[PMID:18612049]
課題4:化学療法
- CQ6
- 初期治療として化学療法は有効か?
- 推奨度1B
- 推奨
初期治療としての化学療法(維持療法を含む)は,腫瘍の縮小や進行の抑制を期待できるため,行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する薬物療法も集学的治療の一部として考えられる。その適否,使用薬剤,および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
さまざまな化学療法レジメが施行されているが,first line としてカルボプラチン注1)とビンクリスチン注2)の組み合わせが広く行われている。また,second line としてビンブラスチン注3)が用いられることが多い。これらの薬剤を含めた治療成績を以下に解説する。
OPHG の腫瘍増殖は一般的に緩徐であるが,その発生部位により視神経や視床下部の機能障害が大きく,治療介入が必要になる。手術は視交叉以前の片側視神経に生じたもの以外の完全な摘出は困難である(CQ3 参照)。放射線治療は,認知機能障害,内分泌障害や血管障害,二次がん等の晩期合併症が指摘されているので,その適応は限定的に考えられている(CQ8 参照)。そこで,進行例や有症状例に対して,腫瘍安定化,症状改善,放射線治療遅延を目的に化学療法が行われるようになった。OPHG は増殖が緩徐であることから強度の強い化学療法を短期間行うより,強度の弱い治療を長期間行う方が効果的と考えられ1),欧米では比較的治療期間の長い,全治療期間が1 年から1 年半程度の臨床試験が行われ,一定の効果を上げている。各臨床試験において導入療法と維持療法の区別が明確でない試験も多く,また治療内容,期間もさまざまである。下記に欧米中心に行われた大規模な臨床試験の結果の概略を示す。なお,我が国では大規模試験は行われていない。
Packer らは1990 年代初めに,手術以外未治療の15 歳以下の進行性low-grade glioma(LGG)78 例(OPHG 56 例を含む)に,カルボプラチン175 mg/m2/週とビンクリスチン1.5 mg/m2/週による10 週間の導入療法後,画像ないし臨床的改善・安定を得た例にはカルボプラチン(週1 回4 週間),ビンクリスチン(週1 回3 週間)を6 週ごと,計12 サイクル反復する維持療法を行い,OPHG で59%の治療反応率(CR:complete response+PR:partial response+MR:minor response)と,98%の腫瘍安定率(CR+PR+MR+SD:stable disease)を得たと報告した1)。
米国Pediatric Oncology Study Group(POG)は,1989~1994 年に5 歳以下のOPHG に対し,カルボプラチン560 mg/m2を4 週おきに,効果があれば18 サイクル行う第Ⅱ相試験(POG8936)を行った。50 例(うち21 例がNF1 陽性)に治療がなされ,3 年無再発生存割合/全生存割合は58/90%であった。腫瘍増大の中央期間は132 週(13 カ月)であった。また,18 カ月の治療で70%近くの症例がSD 以上であり,維持療法の意義が示唆された2)。
1996~2004 年に,ドイツを中心に17 歳未満のLGG 1,031 例を包括的に追跡するHIT-LGG 1996 研究が行われた。化学療法群は216 例(NF1 55 例)で,カルボプラチン550 mg/m2を3 週ごと計4 回とビンクリスチン週1 回計10 回による導入療法の後,カルボプラチンとビンクリスチン併用による4 週ごと計11 サイクルの維持療法が行われ,CR+PR が35%,腫瘍安定率は92%で,画像上の最大反応は中央値3.5 カ月で認められた。本試験により大規模研究でのmonthly カルボプラチン+ビンクリスチン療法の効果が示された。また1 歳未満,間脳症候群,診断時播種がPFS の予後不良因子で,これらのリスク因子を伴わない非NF1 例では10 年PFS 41%であるのに対し,何らかのリスク因子を持つ非NF1 例では10 年PFS 16%にとどまっていることが報告された3)。Mirow らは,2014 年にこの試験の1 歳未満の症例について報告している。36 例(うち32 例がOPHG)に治療が行われ,24 例が予定通り治療完了。最良効果までの期間,増大までの期間はそれぞれ,中央値3.6 カ月,1.4 年で,21 例にサルベージ治療が必要だった。いずれも維持療法中に治療効果が出現する症例が多く,維持療法の有効性が示唆される4)。
HIT-LGG-1996 ではOPHG 83 例を含む109 例のNF1 が登録されたが,うち65 例が要治療と判断され,55 例で化学療法が,10 例で放射線治療が行われた。化学療法は全例がカルボプラチン+ビンクリスチンで,98%が初期治療に反応し,全NF1 の5 年EFS 24%で,治療群では5 年PFS 72%,12 年OS 96%と報告された。自然経過観察群で治療不要だったのは37%であった5)。
米国Children’s Oncology Group(COG)では1997~2005 年に,10 歳未満のLGG を対象としたCOG A9952 試験を行った。本試験では,非NF1 ではOPHG 138 例を含む274 例が,137 例ずつCV 療法(カルボプラチン,ビンクリスチン)またはTPCV 療法(チオグアニン,プロカルバジン,lomustine,ビンクリスチン)にランダマイズされたが,それぞれの治療反応率と腫瘍安定率は,CV 療法が50%と67%,TPCV 療法が52%と68%と両者で差がなく,初期治療はいずれも有効と考えられた。5 年EFS はCV 療法39%,TPCV 療法52%だがログランクテストでの有意差もなく,5 年OS はCV 療法86%,TPCV 療法87%だった6)。またCV 療法を行った非NF1 137 例(OPG 71 例)とNF1 127 例(OPG 110 例)の比較では,治療反応率は非NF1 51%,NF1 66%,腫瘍安定率は非NF1 68%,NF1 73%で,5 年EFS では非NF1 39%,NF1 69%(p<0.001),OPHG に限っても非NF1 38%,NF1 68%(p<0.001)と,NF1 例の方が良好だった。5 年OS では非NF1 87%(OPHG 86%),NF1 98%(OPHG 99%)で差はなかった7)。CV レジメンは先のPacker らのレジメンに比し,維持療法の期間が短い(12 回vs. 8 回)。患者背景,観察期間が異なるので単純比較は難しいが,維持療法が12 回の方がややPFS が良いように思われる。
フランスのBB-SFOP 研究では,1990~2004 年にOPHG 180 例(NF1 60 例)にカルボプラチン/プロカルバジン,エトポシド/カルボプラチン,ビンクリスチン/シクロホスファミドの6 剤を7 サイクル計16 カ月投与し,126 例(70%)が治療を完遂したが,長期経過観察では非NF1,NF1 いずれもOS にplateau が認められず,5 年95%,10 年92%,15 年81%,18 年76%と低下し続け,2/3 が腫瘍進行で死亡したと報告した。診断時年齢1 歳未満と頭蓋内圧亢進例が予後不良で,間脳症候群のない男児は予後が良好だった8)。
カナダの小児脳腫瘍コンソーシアムは,2007~2010 年に18 歳未満の化学療法の既往のないLGG にビンブラスチン6 mg/m2の週1 回投与を70 週まで繰り返す治療研究を行った。54 例が登録され,うちOPHG は30 例,NF1 は13 例であった。最良効果として,CR+MR は25.9%(CR1, PR9, MR4, SD34),SD 以上は47 例(87%)で得られ,25 例のOPHG のうち5 例(20%)で視力の回復が得られた。反応のみられた症例の最良効果までの期間の中央値は52 週(NF1 例は25.5 週,非NF1 例は52 週)であり,カルボプラチン+ビンクリスチンレジメンに比べ治療効果に大きな差はないが,効果発現までの時間は遅く,維持療法(長期治療)の有効性が示唆される9)。
- 注1)
小児悪性固形腫瘍として保険適応
- 注2)
悪性星細胞腫,乏突起膠腫成分を有する神経膠腫として保険適応
- 注3)
悪性リンパ腫,絨毛性疾患,再発または難治性の胚細胞腫瘍,ランゲルハンス細胞組織球症として保険適応
システマティックレビュー結果
<検索式>
(“optic glioma” OR “optic pathway glioma” OR “hypothalamic glioma” OR “low-grade glioma” OR “pilocytic astrocytoma”)AND(“chemotherapy” OR “drug”)AND(“metaanalysis” OR “systematic review” OR “trial”)
上記の検索式でOPHG と化学療法に関する論文をPubMed を用いて検索し,105 文献ヒットした。その中からCQ6 に該当する9 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Packer RJ, Ater J, Allen J, et al. Carboplatin and vincristine chemotherapy for children with newly diagnosed progressive low-grade gliomas. J Neurosurg. 1997;86(5):747-54.[PMID:9126887]
- 2)
- Mahoney DH Jr, Cohen ME, Friedman HS, et al. Carboplatin is effective therapy for young children with progressive optic pathway tumors:a Pediatric Oncology Study Group phase Ⅱ study. Neuro Oncol. 2000;2(4):213-20.[PMID:11265230]
- 3)
- Gnekow AK, Falkenstein F, von Hornstein S, et al, Long term follow up of the multicenter, multidiciplinary study HIT-LGG-1996 for low grade glioma in children and adolescents of German speaking Socienty of Pediatric Oncology and Hematology. Neuro Oncol. 2012;14(10):1265-84.[PMID:
22942186]
- 4)
- Mirow C, Pietsch T, Berkefeld S, et al. Children <1 year show an inferior outcome when treated according to the traditional HIT-LGG treatment strategy:a report from the German multicenter trial HIT-LGG 1996 for children with low grade glioma(LGG). Pediatr Blood Cancer. 2014;61(3):457-63.[PMID:24039013]
- 5)
- Driever PH, von Hornstein S, Pietsch T, et al. Natural history and management of low-grade glioma in NF-1 children. J Neurooncol. 2010;100(2):199-207.[PMID:20352473]
- 6)
- Ater JL, Zhou T, Holmez E, et al. Randomized study of two chemotherapy regimens for treatment of low grade glioma in young children:a report from the Pediatric Oncology Group. J Clin Oncol. 2012;30(21):2641-7.[PMID:22665535]
- 7)
- Ater JL, Xia C, Mazewski CM, et al. Nonrandomized comparison of Neurofibromatosis type 1 and Non-Neurofibromatosis type 1 children who received carboplatin and vincristine for progressive low-grade glioma:report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2016;122(12):1928-36.[PMID:27061921]
- 8)
- Rakotonjanahary J, De Carli E, Delion M, et al. Mortality in children with optic pathway glioma treated with up-front BB-SFOP chemotherapy. PLoS One. 2015;10(6):e0127676.[PMID:26098902]
- 9)
- Lassaletta A, Scheinemann K, Zelcer SM, et al. Phase Ⅱ weekly vinblastine for chemotherapy-naïve children with progressive low-grade glioma:a Canadian Pediatric Brain Tumor Consortium Study. J Clin Oncol. 2016;34(29):3537-43.[PMID:27573663]
- CQ7
- 再発時の化学療法は生命予後を改善するか?
- 推奨度1C
- 推奨
再発時の化学療法は腫瘍の進行を抑制し,生命予後の改善をもたらす可能性があるため行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する薬物療法も集学的治療の一部として考えられる。その適否,使用薬剤,および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
OPHG の再発時において,化学療法が他の治療に比して生存期間を有意に延長できるか否かについて,高いレベルのエビデンスを示す論文はない。しかしながら,手術による切除は視機能や視床下部障害を考慮すると困難な場合が多い。また,再発時であっても放射線照射の時期を遅らせるためにも,再度化学療法が試みられる。ビンブラスチン,ベバシズマブ注1)+イリノテカン注2)およびテモゾロミド注3)についての文献を参照する。
Bouffet らは41 例(1.4~18.2 歳:中央値7.2 歳)の再発low-grade glioma(LGG)の患児(視路/視床下部膠腫は34 名)に対してビンブラスチン療法(静注,6 mg/m2,週1 回,52 週間)を前方視的登録研究として約1 年間継続して施行した。治療を完了できたのは31 例で,治療反応率(CR+PR+MR)は36%(18 例)であった。その後の平均観察期間は67 カ月で,23 例で進行しなかった。5 年生存率は93.2%(3 例が死亡),5 年無増悪生存率は42.3%であった。副作用のほとんどは好中球減少症(グレード4:18 例)のみであった1)。
Gururangan らは35 例(0.6~17.6 歳:中央値8.4 歳)の再発LGG の患児(毛様性星細胞腫が46%,詳細な部位の記載はなし)に対してベバシズマブ+イリノテカン療法を平均12 コースにわたり施行した。29 例(83%)は6 カ月以上治療を施行できた。6 カ月と2 年無増悪生存率はそれぞれ85.4%,47.8%であった2)。
一方で,Nicholson らは113 例(1~23 歳:中央値11 歳)の小児および若年者の再発脳腫瘍[LGG が22 例(詳細な部位や病理の記載はなし)]に対してテモゾロミド経口投与(200 mg/m2/day,5 日間,毎月)を12 サイクルにわたり施行した。全体でCR は1 例,PR は5 例のみであった。LGG についてはCR,PR はなく,SD を含めたno response は41%であった。以上の結果から,小児LGG に対するテモゾロミドの効果は限定的と述べている3)。
- 注1)
悪性神経膠腫として保険適応
- 注2)
小児悪性固形腫瘍として保険適応
- 注3)
悪性神経膠腫として保険適応
システマティックレビュー結果
<検索式>
(“optic glioma” OR “optic pathway glioma” OR “hypothalamic glioma” OR “low-grade glioma” OR “pilocytic astrocytoma”)AND(“chemotherapy” OR “drug”)AND(“metaanalysis” OR “systematic review” OR “trial”)
上記のようにOPHG と化学療法に関する論文をカバーするようにPubMed を用いて検索し,105 文献ヒットした。その中からCQ7 に該当する3 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Bouffet E, Jakacki R, Goldman S, et al. Phase Ⅱ study of weekly vinblastine in recurrent or refractory pediatric low-grade glioma. J Clin Oncol. 2012;30(12):1358-63.[PMID:22393086]
- 2)
- Gururangan S, Fangusaro J, Poussaint TY, et al. Efficacy of bevacizumab plus irinotecan in children with recurrent low-grade gliomas–a Pediatric Brain Tumor Consortium study. Neuro Oncol. 2014;16(2):310-7.[PMID:24311632]
- 3)
- Nicholson HS, Kretschmar CS, Krailo M, et al. Phase 2 study of temozolomide in children and adolescents with recurrent central nervous system tumors:a report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2007;110(7):1542-50.[PMID:17705175]
課題5:放射線治療
- CQ8
- 放射線治療は有効か?
- 推奨度2C
- 推奨
手術および化学療法が優先されるが,限られた場合*に放射線療法が行われることを提案する。
* 限られた場合とは,放射線療法の局所制御のメリットから,化学療法が不応であり,腫瘍の増大部位や大きさ,速度によって,手術による減圧が不能であったり,視機能温存が不能であったりする場合など,を想定している。また有害事象としての血管腫発生の頻度が10 歳以上の照射では減少するため,この年齢以上では根治的な放射線療法も提案され得る。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する放射線治療も外科治療や薬物療法と同じく集学的治療の一部として考えられる。その適否,線量,照射範囲および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
OPHG は一般に低悪性度の神経膠腫である割合が高く,生命予後は比較的良好である。特にNF1 に合併した症例では自然退縮例も報告され,治療開始時期に関しては早期,つまり年少時に介入すべきかどうか,慎重に判断すべきである。患者は0~4 歳の幼児が多く,放射線療法は,この年齢層においては,後述するように正常組織の発達を阻害する各種の有害事象をもたらすリスクがあり,手術,化学療法がより優先的に用いられている。一方で放射線療法は,腫瘍が化学療法に対して不応となり,症状を伴う腫瘍の増大を生じ,手術で減圧が不能な大きさ,部位である場合や,視神経に生じた腫瘍が増大し,視機能低下をきたし,化学療法,手術によっても視機能温存が困難な場合など,限られた条件のもとでは積極的に施行することが提案される1-3)。
OPHG の放射線療法に関する前方視的比較試験は存在しない。Fouladi らの観察研究1)によれば,73 例のOPHG に対し,その診断直後に放射線療法,化学療法単独治療,無治療経過観察を行った群を観察し,ランダム化比較ではないものの6 年無増悪生存割合がそれぞれ62%,12%,37%であった。放射線療法が独立した予後良好因子であった。
その一方でOPHG はウイリス動脈輪に近いため,まだ血管が発達していない幼児に対して治療を行うと,治療後の血管の発達が阻害され,モヤモヤ血管,海綿状血管腫などの血管形成障害が起こることが懸念される4,5)ほか,白質脳症6),視床下部下垂体への照射による内分泌機能障害7),二次がんのリスク4,8)を生ずる。Tsang らの報告4)によれば,放射線療法を行った89 例のOPHG のうち,グレード2 より重篤な血管形成障害が7 例に生じ(10 年累積発生率7.1%),発生例と非発生例の照射時年齢の中央値はそれぞれ6.4 歳と8.1 歳であった。また10 歳以下の症例の10 年累積発生率は11.3%で,11 歳以上の症例では0%であった。Merchant らの78 例の小児のグリオーマ(うち58 例がOPHG)の原体照射による第Ⅱ相試験の報告5)によれば,7 年の血管障害の発生率は4.79±2.73%で,年齢別の6 年の血管障害の発生率5 歳未満の8 例では12.5±12.6%,5 歳以上の66 例では3.8±2.6%であった(p=0.105)。
Lacaze らによる27 例のOPHG の小児に対し初期治療として化学療法を施行した報告6)によれば,化学療法後に放射線療法を加えなかった19 例の知能指数は平均107±17 であったのに対し,放射線療法を加えた8 例の知能指数は平均88±24 であった。彼らは可能であれば,放射線療法を避けるか,遅らせることを結論づけている。
Gan らによる166 例の小児のOPHG の長期観察の報告7)によれば,20 年の内分泌に関する無イベント生存割合は4%であり,多変量解析の結果では,腫瘍の視床下部浸潤(ハザード比2.20,95%CI:1.41-3.42,p<0.001)と並んで,放射線療法は有意な予後不良因子であった(ハザード比1.98 倍,95%CI:1.16-3.39,p=0.013)。
二次がんに関してはSharif らのNF1 に合併したOPHG 58 例を,放射線療法を行った18 例と行わなかった40 例に分けて解析した報告8)によれば,二次がんが生じる確率は前者が50%,後者が20%であり,放射線療法による二次性の中枢神経腫瘍の発生のハザード比が3.04(95%CI:1.29-7.15)と有意に,特にNF1 合併例において高率であった。またTsang らの報告によれば,NF1 に合併した症例では14 例中4 例(29%)に,合併していない症例では75 例中4 例(5.3%)にそれぞれ放射線療法が原因と考えられる二次がんが発生した。そのためNF1 に合併した症例では他の治療不応例の救済の目的以外では極力放射線療法を避けるべきであるとしている4)。
放射線療法の線量は他の低悪性度神経膠腫に準じて45~54 Gy/25~30 分割3-4,9)で,腫瘍局所に適切なマージンを付加したターゲットに対して可及的に線量集中性を改善した通常分割の定位的照射法を用いて行うことが推奨される10,11)。また患者が小児であることを考慮して,一回線量は1.8 Gy 程度に下げて投与することが推奨される8)。最近では陽子線治療もその線量集中性と,周囲の高線量域の体積が低く抑えられるために用いられるようになってきている12)。
OPHG の放射線療法は耐容線量の低い視神経・下垂体を含んだ領域へ精密に照射するという技術的な困難さと対象患児の晩期有害事象という問題を孕んでいるため,集学的がん治療グループでの適応判断のもと,患児,その家族と治療方針について細やかな相談の後,高精度な放射線治療の手法を用いて行われることが必要である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“radiotherapy”[Subheading]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “radiation therapy, radio”[MeSH Terms]OR(“radiation”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “radiotherapeutic”[All Fields])OR “radiotherapy procedures”[All Fields]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “general radiotherapy”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “radiotherapy”[All Fields])OR “general radiotherapy”[All Fields])AND irradiation[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“radiotherapy”[Subheading]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “radiotherapy procedures, irradiation”[MeSH Terms]OR(“radiotherapeutical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “irradiation”[All Fields])OR “radiotherapeutical procedures”[All Fields]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “general radiotherapy”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “radiotherapy”[All Fields])OR “general radiotherapy”[All Fields])AND irradiation[All Fields])
上記の検索式でPubMed を用いて検索し,410 文献ヒットした。その中からCQ8 に該当する12 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Fouladi M, Wallace D, Langston JW, et al. Survival and functional outcome of children with hypothalamic/chiasmatic tumors. Cancer. 2003;97(4):1084-92.[PMID:12569610]
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5 章 小児・AYA 世代上衣腫 ependymoma in childhood, adolescent and young adult
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
宇塚 岳夫
獨協医科大学 脳神経外科/脳神経外科
総括
副委員長
隈部 俊宏
北里大学 脳神経外科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
協力委員
前林 勝也
日本医科大学付属病院 放射線治療科/放射線科
放射線治療
協力委員
原 純一
大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児血液腫瘍科/小児科
化学療法
協力委員
坂本 博昭
大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
協力委員
師田 信人
北里大学 脳神経外科/脳神経外科
化学療法
委員
夏目 敦至
名古屋大学 脳神経外科/脳神経外科
再発時の治療
委員
橋本 直哉
京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
1
外科的治療
坂本 博昭
橋本 直哉
柴原 一陽(北里大学 脳神経外科)
國廣 誉世(大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児脳神経外科)
小川 隆弘(京都府立医科大学 脳神経外科)
2
放射線治療
前林 勝也
太田 篤(新潟大学 放射線科)
斎藤 紘丈(新潟大学 放射線科)
中野 智成(新潟大学 放射線科)
棗田 学(新潟大学脳研究所 脳神経外科)
岡田 正康(新潟大学脳研究所 脳神経外科)
渡邉 潤(新潟大学脳研究所 脳神経外科)
栗林 茂彦(東京女子医科大学 放射線腫瘍学講座)
秋元 裕義(日本医科大学付属病院 放射線治療科)
3
化学療法
原 純一
師田 信人
吉藤 和久(北海道立子ども総合医療・療育センター 脳神経外科)
藤崎 弘之(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
4
再発時の治療
夏目 敦至
大岡 史治(名古屋大学 脳神経外科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
小児・AYA 世代上衣腫に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,上衣腫患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された9 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにガイドライン作成ワーキンググループがシステマティックレビュー(SR)チームの責任者となり,責任者よりSR 委員を選出してもらい,各課題1~8 名で編成した。上衣腫が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年3 月上衣腫診療ガイドライン作成ワーキンググループが発足。委員長および担当者を決定した。
スコープ:ガイドライン作成ワーキンググループ委員で検討を繰り返し,作成した。
システマティックレビュー:各CQ に担当者を募り,リーダーとなるガイドライン作成ワーキンググループ委員と相談しながらエビデンスを収集した。
2014 年3 月version 1.0 を作成
2015 年1 月version 2.0 を作成
2016 年2 月version 3.0 を作成
2016 年8 月version 4.0 を作成
2020 年9 月version 5.0 を作成
2020 年10 月version 6.0 を作成
2020 年12 月version 7.0 を作成
2021 年1 月version 8.0 を作成
2021 年3 月version 9.0(最終版)を作成
作成グループ会議:2014 年3 月から2019 年12 月の期間は,年間2 回程度の日程でガイドライン作成ワーキンググループ会議を行った。2020 年6 月からは毎月1 回オンライン会議を行った。
推奨作成とその過程:2021 年1 月と2 月にガイドライン作成ワーキンググループ内における推奨グレードの投票を行った。最終的にはオンライン会議にて討論し,ガイドライン作成ワーキンググループ内での意見が一致した状態で推奨グレードを提案した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年9 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.小児・AYA 世代上衣腫の基本的特徴
1)はじめに
2021 年12 月に公開されたWHO 脳腫瘍分類第5 版において,The Consortium to Inform Molecular and Practical Approaches to CNS tumor Taxonomy-Not Official WHO(cIMPACT-NOW)update 71)の提言に基づき,上衣腫の分類は大幅に改訂された。一方,臨床の現場ではいまだWHO 脳腫瘍分類第4 版による分類が広く行われていると考えられるため,本ガイドラインでは新分類を視野に入れつつ,用語などはWHO 脳腫瘍分類第4 版(以後WHO 2016)2)に準拠するものとする。
使用する「上衣腫」に関連する用語の定義は以下の如くである。WHO 2016 に記載されているEpendymal tumours を「上衣系腫瘍」と表記する。「上衣腫」とのみ表記する場合は,WHO 2016 における上衣腫(ependymoma, WHO grade Ⅱ)・ependymoma, RELA fusion-positive(WHO grade Ⅱ/Ⅲ)・退形成性上衣腫(anaplastic ependymoma, WHO grade Ⅲ)を含むものとする。狭義のWHO grade Ⅱの上衣腫を示す場合は,「上衣腫(WHO grade Ⅱ)」と表記することとする。上衣腫のgrading の記載については,前述のcIMPACT-NOW では,Ⅰ~Ⅳのローマ数字ではなく,1~4 のアラビア数字で記載している。これらは今後のWHO 分類にも採用されるものと思われるが,現在のWHO 脳腫瘍分類の表明とは異なるため,本ガイドラインではローマ数字Ⅰ~Ⅳのgrading で記載することとした。
本ガイドラインは「小児・AYA 世代」患者の診療を行う医療者を主な対象としている。上衣腫において,小児期から成人期にかけて明確な腫瘍の性状の違いはないが,小児期からの切れ目のない継続医療(移行期医療)が必要と考えられるためである。
2)疫学的特徴
上衣腫は脳室壁や脊髄中心管を構成する上衣細胞(ependymal cell)への分化を示す腫瘍である。脳腫瘍全国集計調査報告3)では,上衣腫の頻度は原発性脳腫瘍の1%と稀な腫瘍である。年齢層は乳幼児から高齢者まで,幅広く認められることが特徴である。年齢層別にみると,0~29 歳では全脳腫瘍の7.0%,0~4 歳までに限ると20.2%を占め,特に乳幼児では重要な腫瘍である。
発生部位は脳室系に関係していることが多く,成人ではテント上,小児では第四脳室発生が多い。テント上では脳室系と無関係な脳実質内に発生することもある。テント上発生が30%程度,後頭蓋窩発生が60%程度,脊髄発生が10%程度と報告されている2)。
脊髄腫瘍としての上衣腫は頻度が高く,成人の脊髄神経膠腫の約半分を占めるが,小児では稀である。脊髄上衣腫は神経線維腫症2 型に合併する症例もしばしばみられ,脊髄円錐と馬尾には粘液乳頭状上衣腫が高頻度にみられるなど,頭蓋内上衣腫とは異なる臨床的・生物学的特徴を持つため,脊髄上衣腫は本ガイドラインでは扱わない。
3)画像所見
脳室内の境界明瞭な腫瘍として描出されることが多い。MRI T1 強調画像では低信号,T2 強調画像では高信号を呈することが多く,造影効果はさまざまな程度で認められる。腫瘍内部には石灰化や囊胞,腫瘍内出血などがしばしば認められ,内部が不均一であることも特徴の一つである。脳実質への広汎な浸潤や周囲の強い脳浮腫をきたすことは稀である。小児では第四脳室に好発し,外側孔(Luschka 孔)から小脳橋角部へ進展する症例も認められる。また,脳室内発生の場合は閉塞性水頭症を合併しやすい。比較的髄液播種をきたしやすい腫瘍であり,髄液播種にも注意が必要である。
術前画像診断では,後頭蓋窩発生の上衣腫は髄芽腫やatypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)との鑑別が難しい例がある。テント上脳室外発生の場合,膠芽腫や退形成性星細胞腫との鑑別が問題となる。
4)病理診断
上衣腫(WHO grade Ⅱ)は小型で均一な腫瘍細胞が血管周囲性偽ロゼット配列を示すことが特徴であり,多くの症例で観察される。中心管を模した上衣ロゼットが上衣腫の診断に有用であるが,典型的なロゼット形成は比較的少数の症例にしか観察されないことも知られている。免疫染色では腫瘍細胞はglial fibrillary acidic protein(GFAP)が陽性となる。また,多くはS100 蛋白,vimentin が陽性であり,Olig2 は陰性となる。Epithelial membrane antigen(EMA)染色は上衣腫の診断に有用であり,ドット状もしくはリング状の陽性所見を認めることが多い。Isocitrate dehydrogenase(IDH)R132H での染色が陰性である点も重要である。
退形成性上衣腫はWHO grade Ⅲに属し,上衣腫(WHO grade Ⅱ)と比較して細胞密度が高く,多数の核分裂像を有し,微小血管増殖や壊死像を伴うものとされている。しかし,WHO 2016 では退形成上衣腫の診断根拠となる核分裂像の個数は明記されていない。
上衣腫の診断とさらにそのgrading に関する病理診断の難しさについてはいくつかの報告がある。Sasaki らは,我が国の治療担当施設で小児上衣腫と診断された130 例を対象に,熟練した3 名の病理医による中央診断の結果を報告している4)。中央診断において病理医間の診断一致率は脊髄上衣腫では100%,後頭蓋窩腫瘍では93%であったが,テント上(大脳半球)腫瘍では病理医間の一致率は77%であった。さらに,ヨーロッパの3 つの前方視的臨床試験における上衣腫187 例について,熟練した5 名の病理医が独立して診断したところ,grade Ⅱにおける症例ごとの診断一致率は19~59%,grade Ⅲは41~81%と広いばらつきを認めた5)。このように上衣腫の病理診断およびgrading の確定が困難であることが,予後予測因子としてのgrading の不明確性に影響しているものと考えられる。
WHO2016 では,上衣腫は5 つのサブタイプと3 つのgrade に分類されている。
WHO grade Ⅰには上衣下腫(subependymoma)や粘液乳頭状上衣腫(myxopapillary ependymoma)などが含まれる。上衣下腫は成人の脳室壁に好発し,粘液乳頭状上衣腫は若年成人の終糸に好発する。いずれの腫瘍も全摘出(gross total resection:GTR)後の予後は非常に良好である。いずれも成人に好発するため,本ガイドラインではこれらの腫瘍については取り扱わない。
WHO grade Ⅱにはpapillary, clear cell, tanycytic といったvariant が含まれる。WHO2016 には遺伝子診断によって分類されるEpendymoma, RELA fusion-positive という項目が新たに付け加えられた。本腫瘍は小児のテント上上衣腫の70%程度を占め,WHO grade ⅡもしくはⅢに分類される。退形成性上衣腫はこれまでどおりWHO grade Ⅲに分類される。本ガイドラインではWHO grade Ⅱの上衣腫とgrade Ⅲの退形成性上衣腫およびgrade Ⅱ/ⅢのRELA fusion-positive 上衣腫について取り扱う。
5)分子生物学的知見
近年の上衣腫における分子生物学的知見の報告は目覚ましく増加し,以前から年齢・発生部位によって臨床的特徴が異なると報告されていた症例群の背景が明らかとなってきた。テント上・下の上衣腫は病理組織所見としては類似するものの,もはやそれぞれ別の疾患として論じられるべきである。分子生物学的分類を理解することは,今後の診療に役立つためだけでなく,これまでの治療成績に関する報告を考察する上でも,極めて重要である。
分子生物学的には,頭蓋内上衣腫はテント上と後頭蓋窩で大きく異なる。テント上上衣腫では,染色体粉砕(chromothripsis)により形成されるC11orf95-RELA 融合遺伝子が2/3 程度と高頻度に認められることが報告された5)。RELA 遺伝子もC11orf95 遺伝子も共に11 番染色体長腕に存在し,マウスの実験ではC11orf95-RELA 融合遺伝子を導入することにより,NF-kB シグナルの活性化による上衣腫の発生が認められ,C11orf95-RELA 融合遺伝子はドライバー遺伝子であることが確認された。また,RELA 融合遺伝子を認めたテント上上衣腫の多くは退形成性上衣腫WHO grade Ⅲと診断されている4)。cIMPACT-NOW update 7 ではC11orf95-RELA 融合遺伝子におけるC11orf95 の役割が強調されており,疾患名もSupratentorial ependymoma, C11orf95 fusion-positive とすることが提言されている1)。また,C11orf95 遺伝子はその機能的意義として,RELA 遺伝子だけでなく他の多くの遺伝子と融合遺伝子を形成し,腫瘍形成の主因子となることが判明し,Zinc Finger Translocation Associated(ZFTA)遺伝子と呼称されることとなった1)。
また,テント上上衣腫においては,RELA融合遺伝子群と相互排他的にYAP1-MAMLD1 融合遺伝子が発現しているグループ(YAP1 融合遺伝子群)も存在する。これらテント上上衣腫15 例の報告では,全例が3 歳未満で,年齢中央値は8.2 カ月であり,乳児に好発することが示唆されている6)。15 例中13 例が女児で,病理組織学的には11 例がWHO grade Ⅲに分類されたものの,フォローアップ期間中央値4.84 年で全例再発を認めていない。YAP1 融合遺伝子群についてはcIMPACT-NOW1)でも提言されており,今後分類に追加されるサブタイプと考えられる。一方,RELA やYAP1 などの融合遺伝子が存在しないテント上上衣腫も約30%みられるが,それらの腫瘍の生物学的悪性度の評価は定まっておらず7),今後メチル化プロファイルなどによる精査が必要である。
後頭蓋窩上衣腫は全ゲノム的な発現プロファイルやメチル化プロファイルの違いから,Group A(posterior fossa type A:PFA)とB(posterior fossa type B:PFB)に分類される8)。PFA はCpG island に高メチル化を多数認め,また30%程度に染色体1q のDNA コピー数増加がみられる7)。一方,PFB では6q,22q の欠失や9q,15q,18q などの増加など1q 増加以外のさまざまな染色体異常を示す。PFA は幼年の男児に多く,WHO grade Ⅲが多い傾向があり,転移・再発が多い。PFB は年長児や成人に多く,性差はなく,PFA に比べて予後が良好である。PFA・PFB の鑑別には,H3K27me3 の免疫染色が有用である。前述のSasaki らの報告4)では,後頭蓋窩上衣腫のうち,退形成性上衣腫と診断された症例の大部分はPFA であった。
また,前方視的臨床試験であるHIT 2000-E プロトコールに含まれていた28 例の18 カ月未満の上衣腫についての遺伝子検索結果が報告され9),8 カ月未満の上衣腫28 例はすべて退形成性上衣腫であった。28 例中21 例(75%)が後頭蓋窩局在であり,全例PFA であり,テント上局在の7 例(25%)のうち,4 例がRELA 融合遺伝子陽性で,2 例がYAP1 融合遺伝子陽性であった。これらの結果より,18 カ月未満の上衣腫は,PFA/RELA 融合遺伝子/YAP1 融合遺伝子の3 群が大半を占めることが示唆されている。
上衣腫の分子生物学的分類における予後解析では,PFA が予後不良であり,PFB は予後良好であるとする報告が多い10)。特に一番染色体長碗のgain を伴うPFA の予後は不良である10)。RELA 融合遺伝子群の予後については,報告にばらつきがみられる10)。YAP1 群の発生頻度はRELA 群に比べて低いが,予後は良好である。
本ガイドラインで取り上げた臨床試験や報告の多くは,上記の分子生物学的知見について勘案されたものでないことに注意する必要がある。現在のところ,分子生物学的分類は治療方法の選択に直結しないが,予後を予測するのに重要な示唆が得られる。今後はこれらの分子生物学的分類に基づいた臨床試験が行われ,手術・放射線治療・化学療法の有効性がサブグループごとに変わっていく可能性がある。
6)治療
上衣腫の治療における手術についてのエビデンスは,一つの方向に向かっており理解しやすい。すなわち,大部分の報告において可能な限り全摘出を行うことが予後の改善につながっている。また放射線治療については,サブタイプによっては不要という報告があるものの,多くは有用性を支持する報告である。
上衣腫において最も悩ましいのは,乳幼児の治療である。これは放射線治療の晩期合併症が発生しやすいためである。乳幼児の上衣腫に対しても,おそらく放射線治療は有効であると考えられるが,晩期合併症を考慮すると,化学療法を先行することにより放射線治療の回避もしくは延期が望まれるところである。問題は,何歳なら照射を行ってよいのかというカットオフ値であろう。本ガイドラインでは「3 歳」という年齢を提示した。これは歴史的に複数の臨床試験に用いられてきた年齢区分であり,ある程度エビデンスが存在するためである。しかし,その区切り自体に強いエビデンスではなく,あくまで一つの目安として考えるべきであると思われる11)。放射線治療は,年齢のみならず,摘出術後の状態,残存腫瘍の部位や量,病理組織所見と遺伝子分類などを考慮し,生命予後と晩期合併症のバランスを考えた上で照射量,照射範囲,照射方法を慎重に判断する必要がある。2018 年にEuropean Association of Neuro-Oncology(EANO)から示されたガイドライン12)では,摘出術後の後療法として,12 カ月未満には化学療法を,12~18 カ月には54 Gy の局所照射を,18 カ月以上では59.4 Gy の局所照射を推奨している。しかし,後のCQ で記述しているとおり,上衣腫に放射線治療の効果はあるものの,12 カ月以上3 歳未満児への放射線治療に関しては,局所照射であっても,晩期脳障害が許容できるかどうかの十分なエビデンスの蓄積は認められなかった。そのため本のガイドラインでは,3 歳未満・3 歳以上という区切りを用いているものの,その取り扱いについては十分慎重を期して解説文を記載した。また,今回のシステマティックレビューからは,12 カ月あるいは18 カ月という年齢の区切りに関するエビデンスはは十分ではないと判断し,その採用を見送った。詳しくは課題2:放射線治療,課題3;化学療法を参照されたい。
7)治療成績と予後因子
脳腫瘍全国集計調査報告2)によると,手術+放射線治療を受けた症例の5 年生存割合は,上衣腫(WHO grade Ⅱ)では約70%,退形成性上衣腫(WHO grade Ⅲ)では約30%である。年齢的には3 歳未満での発症は予後不良因子とする報告が多い。低年齢発症の場合には組織的悪性度が高いこと,後頭蓋窩発生の割合が大きく全摘出が難しいこと,また低年齢層への放射線治療が避けられてきたことなどの要因が予後に影響を及ぼしている可能性が考えられている。摘出率については,全摘出が遂行可能であった例は,有意差をもって予後良好であるとする報告が多い。摘出術後の放射線治療が標準的治療と考えられるが,いくつかの報告では放射線治療の効果が示されておらず,放射線治療を必要としない症例群の存在も示唆されている。上記以外の予後不良因子として,治療前の播種病変の存在が報告されている。
❖ 文献
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2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:小児・AYA 世代上衣腫の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後の改善
- (3)トピック:生命予後,機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍(15 歳未満および16~29 歳のAdolescent and Young Adult:AYA 世代を含めた年齢)を診療する医療者,患者・家族
- (5)既存ガイドラインとの関係:上衣腫診療については,EANO ガイドライン(2016)を参考にした。
- (6)重要臨床課題
課題1:手術摘出
課題2:放射線治療
課題3:化学療法
課題4:再発時の治療
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
- a)脊髄髄内に発生する上衣腫は本ガイドラインの対象疾患には含めず,頭蓋内上衣腫に限定する。
- b)頭蓋内上衣腫の2016 年WHO 分類第4 版による悪性度のWHO grade ⅡとⅢの両方を含める。
- c)厚労省から示された小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満および16~29 歳のAYA 世代を含めた年齢)
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:2 カ月
文献の選出:2 カ月
エビデンス総体の評価と統合:6 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:European Association for Neuro-Oncology(EANO)よりガイドラインが報告されている(スコープ引用文献12 を参照)。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験の報告は,海外からいくつか報告されている。その他,非ランダム化比較試験,観察研究を検索対象とした。MRI 時代以前の観察研究や,症例報告に関しては一部を除いて省略した。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed
- SR/MA 論文について:検索されたSR はすべて参考としたが,構造化抄録には加えなかった。MA 論文は認めなかった。
- 既存のガイドラインの検索:EANO からのガイドラインを参考とした(スコープ引用文献12 を参照)。
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いた。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2019 年12 月31 日まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合が量的統合を実施。
課題1:外科的治療
- CQ1
- 肉眼的全摘出は生命予後を改善するか?
- 推奨度1C
- 推奨
生命予後の改善が期待できるので肉眼的全摘出を推奨する。
解説
1.CQ の設定
小児期とadolescent and young adult(AYA)世代の頭蓋内上衣腫に対する手術摘出として,アウトカムの「益」としてはOS やPFS の延長を,また「害」としては神経症状の悪化によるQOL の低下を設定し,肉眼的全摘出(GTR)とそれ以下の摘出度との間で比較した。また,初回摘出術後の残存腫瘍に対する再摘出の有効性,および最近提唱されている全ゲノム的な発現プロファイルから分類される後頭蓋窩上衣腫サブタイプにおける摘出度と予後との関連性も検討した。PICO の設定に従い,30 歳以上の症例を多く含む報告や,再発例および脊髄上衣腫を対象とした報告は除外し,稀少疾患である頭蓋内上衣腫に対して定性的システマテックレビューを行った。
2.腫瘍の摘出度とOS・PFS
頭蓋内上衣腫では腫瘍のGTR ができれば生命予後が改善すると考えられてきたが,今回システマティックレビューにより,この仮説を評価した。上衣腫の摘出度の判定は,術中所見ではなく,摘出術後早期の画像検査によって厳密に評価することが求められるようになったため,画像評価が行われた報告を採用した。近年の摘出度の評価法に準じて1),摘出術後の画像検査で残存腫瘍を認めないものをGTR とし,GTR 以外のnon-GTR にはnear total resection,亜全摘出,部分摘出および生検が含まれる。これまで摘出度と予後との関係を明確にするためのランダム化比較試験の報告はないため,年齢・部位・組織学的悪性度・放射線治療・化学療法など複数の予後因子を評価した報告で,多変量解析を用いたサブ解析により腫瘍の摘出度の評価を行った報告を採用した。統計学的に適切な評価を得るために,GTR 群・non-GTR 群の症例数がそれぞれ20 例以上の報告を採用した。
Non-GTR よりもGTR でOS の延長が有意差ありとする報告は7 件,PFS の延長が有意差ありとする報告は6 件であった。これらの報告で,摘出術後に放射線治療などの後療法が施行された5 年OS はGTR 群80~93.6%,non-GTR 群51~53%であり,5 年PFS はGTR 群53~81.5%,non-GTR 群33~42%であった。一方,OS ではGTR 群とnon-GTR 群に有意差を認めないとする報告は1 件のみで,PFS で有意差のない報告は3 件といずれも少なかった。Non-GTR 群がGTR 群よりもOS,PFS が有意に良好であるとする報告はなかった。発生部位を後頭蓋窩あるいはテント上に分けて摘出度と予後との関係を検討した報告はなかった。
1)前方視的研究の報告
摘出術後の後療法として放射線治療と化学療法のどちらを先に行う方が予後良好かを検討するためのランダム化比較試験の報告2) (3 歳以上 18 歳以下,テント上 26 例,後頭蓋窩29 例,GTR 51%)では,GTR 群のPFS がnon-GTR 群よりも有意に良好で,3 年PFS がGTR 群83.3%,non-GTR 群38.5%であった。化学療法の違いによって予後の改善が得られるかをランダム化比較試験で検討した報告3)(3 歳未満の 82例,GTR 37%)では,non-GTR 群と比較してGTR 群で有意にOS とPFS が良好であった。摘出術後に放射線治療を避けて化学療法を先行して治療効果をみた報告4)(3歳未満の症例,テント上13例,後頭蓋窩69 例,GTR 60%)では,non-GTR 群に比較してGTR 群のOS・PFS はともに有意に良好で,4 年OS はGTR 群74%,non-GTR 群35%であった。摘出術後に標準的な54.0 Gy と高線量の59.4 Gyとの放射線治療を施行して予後を比較した報告5)(10歳以下,テント上31例,後頭蓋窩122 例,GTR 82%)では,GTR 群のOS,PFS はnon-GTR 群よりも良好であった。この報告では,GTR 群では5 年OS 93.6%,7 年OS 88.0%,non-GTR 群では5 年OS 53.4%,7 年OS 52.4%であり,PFS はGTR 群では5 年で81.5%,7 年で77.3%,non-GTR 群では5 年で41.0%,7 年で34.2%であった。組織学的悪性度と摘出術後の残存腫瘍の有無によって異なる後療法を施行して治療効果を検討した報告6)(3歳以上21歳以下,テント上50 例,後頭蓋窩110 例,GTR 76%)では,GTR 群の方がnon-GTR 群よりも有意にOS が良好で,5 年OS はGTR 群87.8%,non-GTR 群61.2%であった。この報告では,5 年PFS はGTR 群72.1%,non-GTR 群45.3%で,有意差に至らなかった(p=0.058)。GTR 群と non-GTR群との間で OS・PFSに有意差を認めなかった報告は 1 件7)(3 歳以下,テント上76 例,後頭蓋窩13 例,GTR 49%)で,3 歳以下の例を対象に摘出術後に化学療法を施行し,再発を認めた際に放射線治療を行い,治療効果を前方視的に検討している。この報告では,5 年OS・PFS はGTR 群で68.1%・48.9%,non-GTR 群で51.8%・25.8%であった。
2)後方視的研究の報告
腫瘍の摘出術後,年少児に対しては化学療法を施行した後に放射線治療を施行し,治療効果を検討した報告8)(15 歳未満,テント上 18例,後頭蓋窩 65例,GTR 72%)では,GTR 群のOS・PFS がnon-GTR よりも有意に良好で,5 年OS はGTR 群80%,non-GTR 群51%であり,5 年PFS はGTR 群53%,non-GTR 群33%であった。摘出術後に放射線治療や一部の例に化学療法を施行し治療効果を検討した報告9)(0.1~18歳,テント上 24例,後頭蓋窩58 例,GTR 68%)では,OS はnon-GTR 群よりもGTR 群で有意に良好であったが,PFS は両郡間に有意差は認めなかった。摘出術後に異なった方法で放射線治療を施行してその有効性を検討した報告10)(25 歳以下,テント上 147 例,後頭蓋窩 55例,GTR 86%)では,GTR 群のOS はnon-GTR 群よりも有意に良好であった。
以上の結果から,年少児からAYA 世代の年齢の症例を対象とした前方視的研究,あるいは後方視的研究のサブ解析では,GTR 群のOS・PFS がnon-GTR 群よりも有意に良好であるとする報告が多く,これに反する報告は非常に少ない。ただ,摘出術後に後療法が施行されているので,摘出度によってどの程度の予後を改善できるかは不明である。結論として,摘出度と予後との関係をランダム化比較試験で検討した報告はないのでエビデンスレベルが高いとは言えないが,後述のように腫瘍の摘出により重篤な神経症状の悪化が予想される場合を除き,生命予後の改善が期待できるためGTR を推奨する。
3.残存腫瘍に対する再摘出の有効性
初回摘出術後に残存した腫瘍に対する再摘出,いわゆるsecond-look surgery によってGTR が達成できれば予後の改善が期待されるため,初回摘出術後に再摘出,あるいは再々摘出が行われてきた5,11)。これらの報告でのGTR の達成率は81.7%および80.2%であり,前項1)で述べたGTR 率(30~80%台)と比較して高値である。
再摘出による予後への影響を中心に検討した報告は少なく,システマティックレビューでは次の3 つの報告を採用した。
小児テント上下の上衣腫110 例を対象に再摘出の有効性を検討した多施設前方視的研究の報告12)では,初回摘出術後の残存腫瘍に対し化学療法や放射線治療を行い,残存腫瘍の再摘出,あるいは複数回の摘出術によって,GTR 達成率は初回摘出の61.0%から82.7%まで上昇した。この報告では,初回摘出でGTR を達成できた群と複数回の摘出でGTR を達成できた群との間に,PFS や局所非再発率に有意差は認めないことから,再摘出によってGTR が達成できれば初回摘出でGTR となった場合と同等の効果があることが示唆された。この再摘出の適応は外科医の判断に委ねられているが,適応とならないのは,腫瘍が基底核に浸潤している例,脳底動脈を巻き込んでいる例,脳幹部の腹側まで進展している例など,再摘出によって高度の神経障害が予想される場合としている。この手術適応で複数回の摘出を行った29 例中,神経症状の悪化は2 例(6.8%)にみられ,このうち1 例は改善したことから再摘出による神経障害の悪化は許容範囲としている。
小児テント上下の上衣腫160 例を対象とした多施設前方視的研究6)では,初回手術で残存腫瘍を認めた50 例中46 例(92.0%)で,摘出術後の後療法を行う前に残存腫瘍を再度摘出した。少数例で3 回以上の摘出を行っている。その結果,初回摘出でのGTR 達成率68.8%が再摘出によって75.6%と上昇した。再摘出の手術合併症は46 例中5 例(10.9%)に認め,このうち4 例は小脳・下位脳神経の障害で,残り1 例は出血を呈したが神経症状は改善したことから,再摘出に伴う神経症状の悪化は許容範囲としている。
発生部位・組織学的悪性度・摘出度によって異なった後療法を施行し,放射線治療の有効性を前方視的に検討した報告13)(1 歳から 21 歳までのテント上下の上衣腫 356 例,GTR 82.0%)では,亜全摘出(摘出術後の画像所見で0.5 cm より大きな残存腫瘍を認める)に終わったのは64 例(全例の18.0%)であった。亜全摘出例に化学療法を行い,64 例中25例(39.0%)で残存腫瘍に対し再摘出を施行し,後療法として局所放射線治療を行ったところ,5・10 年のPFS はそれぞれ50.5%・45.9%であった。一方,亜全摘出術後に化学療法を行ったが再摘出しなかった例(39 例)に放射線治療を行った群の5・10 年のPFS はそれぞれ28.5%・25.0%であった。これら再摘出した群と行わなかった群でのPFS を比較すると,再摘出した群の方が良好な傾向を認めたが,この差は有意ではなかった(p=0.116)。
以上,初回摘出術後に画像上残存腫瘍を認めた場合,再摘出を行う,あるいは化学療法などを施行した後に再摘出を行うことが,予後を改善するのに有効かどうかに関しては,報告が少なく十分なエビデンスがない。しかし,前述のMassimino らの再摘出の適応12)を参考にし,重篤な障害をきたさずに再摘出を施行してGTR が達成できれば,non-GTR よりも良好なOS やPFS が期待できるため,再摘出を考慮してもよい。
4.腫瘍摘出によるQOL の低下
腫瘍の摘出技術が向上し,摘出に際して神経障害の発生頻度は減少しているものの,脳深部に局在する腫瘍や,大きい腫瘍であれば,摘出に伴う神経機能障害を起こしやすい。発生部位がテント上であれば摘出に伴い腫瘍周囲の脳損傷が発生しやすく,大脳深部に発生すれば腫瘍到達までの大脳の切開などによる損傷も加わる。後頭蓋窩では,大きな腫瘍では摘出時の小脳または脳幹の損傷によって,脳幹の機能障害,錐体路障害や小脳障害による歩行障害や運動障害が発生する。第四脳室から小脳橋角部や脳幹前面に進展した腫瘍では,摘出時の脳神経の障害によって顔面神経麻痺や眼球運動障害が発生し,下位脳神経の障害による構音障害,重篤なものとして嚥下障害による気管切開や胃瘻造設の必要性が指摘されてきた。また,後頭蓋窩腫瘍に特有な無言症(mutism)があり,重篤な場合は回復しにくく,これにより高次脳機能障害が発生して患者のQOL を大きく低下させる。
今回,摘出術による神経障害の悪化をより客感的に評価するため,システマティックレビューでは次の3 つの報告を採用した。
小児の後頭蓋窩上衣腫(45 例)を対象に,摘出術後の神経障害を後方視的に検討した単施設からの報告14)では,20%に声帯機能低下を認め,24%に嚥下障害のために胃瘻を必要とした。複数回の腫瘍摘出の後に局所放射線治療を施行し,神経障害を前方視的に評価した単施設からの報告11)(0.8~22.7歳,後頭蓋窩のみ96例)では,摘出術後に運動失調55%,外転神経麻痺51%,顔面神経麻痺50%,四肢麻痺40%,嚥下障害39%,体幹失調・筋緊張低下24%を認めた。重篤な障害として歩行障害18%,嚥下障害9%があり,嚥下障害が最も改善しにくく,28%で胃瘻,16%で気管切開を必要とした。治療後60 カ月以上生存した48 例中42 例(87.5%)では神経症状の改善を認めたが,四肢麻痺と運動失調は改善が乏しかった。顔面神経麻痺,構音障害,歩行障害は摘出術後36 カ月まで改善し,その後障害は固定化した。複数回の手術摘出によりGTR は80.2%であったが,摘出度と神経障害の関連は示されていない。摘出術後に神経学的異常を認めなかった例(21%)の大半は腫瘍の外側進展が少ない例であったことから,外側進展が手術摘出における神経障害の危険因子であると推測される。また,水頭症やシャント設置も神経症状出現の危険因子であったとしている。
摘出度と高次脳機能との関連性に関しては,摘出術後に放射線治療を施行し5 年後のQOL を評価した単一施設での前方視的研究の報告15)(1~25 歳,テント上 25例,後頭蓋窩98 例,GTR 82%)がある。摘出度については,肉眼的全摘出をGTR,5 mm 以下の残存腫瘍の場合をnear total resection,5 mm を超える残存腫瘍を認める場合をsubtotal resection と定義している。サブ解析として腫瘍の摘出度とIntelligence Quotient(IQ)の有意な関連性は認められなかったが,集団行動が取れない等の適応行動障害は,subtotal resection 群ではGTR 群やnear total resection 群より単変量解析で有意(p=0.046)に強く認められたとしている。この報告では,後頭蓋窩上衣腫の摘出術後無言症の記載はなく,無言症の高次脳機能への影響は検討されていない。しかし,近年は小脳と高次脳機能との関連が推測されているため,重篤な無言症の発生はQOL を低下させることを認識すべきである。
今回のシステマティックレビューでは,腫瘍の摘出度と神経障害の関連性は明らかではないが,後頭蓋窩上衣腫では第四脳室の外側に進展した場合に,手術摘出による神経障害が発生しやすいことが推測できた。初回の手術摘出であっても,残存腫瘍に対する再手術摘出の場合でも,重篤な神経障害が発生すれば十分な回復は期待できないことを認識し,手術摘出に臨むべきであると思われる。
5.分子分類での摘出度による予後への影響
後頭蓋窩上衣腫は,全ゲノム的な発現プロファイルの違いからPFA とPFB に分けられ,PFA はPFB と比較して有意に予後が不良であることが明らかとなってきた16,17)。PFA とPFBのサブグループで,腫瘍摘出度と予後との関係に注目した前方視的研究の報告はない。今回のシステマティックレビューでは,複数の予後因子が評価されている報告を採用し,摘出度と予後との関係を検討した。
PFA を対象にOS に対する摘出度を含めた複数の予後因子を検討した報告は4 件あり,すべて後方視的研究で少数の成人例を含む報告もある。このうち3 件の報告16-18)ではGTR 群はnon-GTR 群よりも有意にOS が良好で,残り1 件の報告19)では有意差は認めなかった。PFS は上記4 件のすべての報告において,GTR 群がnon-GTR 群よりも有意に良好であった。
PFB を対象にOS に対する摘出度を含む複数の予後因子の解析を行った4 件の後方視的研究がある。このうち2 件の報告18,20)でGTR 群がnon-GTR 群より有意にOS が良好であったが,他の2 件の報告16,17)では両群間で有意差を認めなかった。PFS に関して,1 件の報告18)でGTR 群がnon-GTR 群より有意に良好であったが,他の2 件の報告16,17)では両群間に有意差を認めなかった。
以上から,後頭蓋窩上衣腫をPFA およびPFB に分類して摘出度と予後とを検討すると,両群ともにGTR によるOS・PFS はnon-GTR よりも良好な傾向があると推測できる。しかし,この分類に従って腫瘍の摘出度と予後との関係を検討した報告は少なく,明確な結論を出すことはできない。現状では,後頭蓋窩上衣腫の手術摘出時にリアルタイムでPFA やPFB の分子診断はできないため,重篤な神経障害を呈さない限りGTR を提案する。
6.まとめ
多数の前方視的・後方視的研究における予後因子の解析結果から,小児とAYA 世代の頭蓋内上衣腫に対してはGTR を達成できれば,non-GTR に比べてOS・PFS は改善することが示唆される。エビデンスレベルは高くはないが,手術摘出により重篤な神経症状の悪化が予想される場合を除き,GTR を強く推奨する。また,初回摘出術後に残存腫瘍を認めた場合は,手術摘出による神経障害の悪化を十分に考慮した上で,再摘出手術によりGTR を目指すことを提案する。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((Ependymoma[mh:noexp]OR Ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])))AND((Brain Neoplasms[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial *[tiab]OR intracranial*[tiab]OR ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa[tiab])))AND(((“surgery”[sh]OR “surgery”[tiab]OR “surgical procedures, operative”[mh])OR(“surgical”[tiab]AND “procedures”[tiab]AND “operative”[tiab])))))AND(((infant[mh]OR child[mh]OR adolescent[mh]OR young adult[mh]OR adult[mh:noexp])))))AND 1900/1/1:2019/12/31[dp]))AND((English[la]or Japanese[la]))))NOT Case Reports[pt]
以上の検索式より,一次スクリーニングとして179 文献を抽出した。医中誌の検索による8 文献,およびハンドサーチによる20 文献を加え,188 文献について二次スクリーニングを行い,44 文献について構造化抄録を作成した。最終的にCQ1 では20 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
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課題2:放射線治療
- CQ2
- 3 歳以上の症例に放射線治療は有用か?
- 推奨度1C
- 推奨1
摘出術後に腫瘍が残存した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫の症例に対しては,摘出術後に放射線治療を行うことを推奨する。
- 推奨度2C
- 推奨2
肉眼的に全摘出された退形成性上衣腫の症例に対しては,摘出術後に放射線治療を行うことを提案する。
解説
上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかに関しては,現在まで,本来の結論を導くことができるような十分にデザインされた臨床試験は行われていない。また,上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかを検討した報告1-10)はいくつかあるものの,その結果のみで結論を出すことは難しい。現状では,より若年の症例には放射線治療を避ける試みがなされており,通常診療でも年齢によって治療戦略の立て方が異なっていることが多い。本項では3 歳以上の症例に放射線治療が有用かどうかを,今までの報告から検討した。
放射線治療が有効であるとした報告の中で,比較的症例数が多い,前方視的,などのインパクトのあるものが5 編あった。一つ目は,小児上衣腫の手術と照射の役割を検討することを目的に,1973~2005 年のThe Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)のデータベースから抽出された上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫2,408 例を対象に行った研究1)である。最も強い予後因子は全摘出であり,全摘出例への摘出術後放射線治療の有効性は示されなかった。しかし,部分摘出例では摘出術後に放射線治療を追加することで予後が有意に改善し,摘出術後放射線治療の有効性が示された。最も症例数の多いこの報告からは,限定的ではあるが摘出術後の放射線治療が有効であると考えられる。ただし,対象症例は30 歳未満が30%程度であり,本ガイドラインの対象よりも高い年齢層が多く含まれているという点に注意を要する。2 つ目はSEER データベース(1973~2003 年)から抽出された小児上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫635 例を対象とし,予後因子について検討した研究2)である。年齢と腫瘍発生部位が予後因子として報告された。5 年生存率(5 年OS)はテント上59.5%,後頭蓋窩57.1%,脊髄86.7%であり,解析対象に非常に予後良好な55 例(8.7%)の脊髄原発例が含まれているため,小児頭蓋内上衣腫の予後を規定する因子は年齢のみと考えた方がよいかもしれない。一方で,放射線治療は単変量解析では全体のOS の改善に寄与し,多変量解析でも後頭蓋窩上衣腫のOS の改善に寄与する(5 年OS 57.1% vs. 48.2%)ことが示された。特に後頭蓋窩上衣腫に対する放射線治療の有効性が示されたと結論している。3 つ目は,153 例の小児限局性上衣腫への手術+摘出術後照射の有効性を検討した単施設前方視的臨床研究3)である。対象の年齢中央値は2.9(0.9~22.9)歳であった。研究計画されていた放射線治療はClinical Target Volume(CTV)マージン1.0 cm の局所照射で,1.5 歳未満の全摘例には54 Gy/30 回,それ以外の症例には59.4 Gy/33 回の投与線量が設定されていた。131 例で59.4 Gy,22 例で54.0 Gy の照射が行われた。全体での7 年locoregional control rate(LCR),EFS,OS は87.3%,69.1%,81.0%で,局所再発,遠隔転移の累積発生率は16.3%,11.5%であった。何らかの理由で摘出術後早期に放射線治療をしなかった46 例を除いた107 例の結果は,7 年LCR,EFS,OS は88.7%,76.9%,85.0%で,局所再発,遠隔転移の累積発生率は12.6%,8.6%であった。過去の報告と比較して試験全体の治療成績が比較的良好であったこと,有害事象として脳幹壊死は1.6%と多くなかったことなどから,可及的摘出術後の局所への高線量の放射線治療が重要であると結論している。しかし,本研究のみから,摘出術後に1.5 歳未満児に54 Gy/30 回,それ以外に59.4 Gy/33 回を標準的投与線量としてよいかについては,今後十分な検討が必要である。4 つ目は,フランスでの24 施設の後方視的症例集積研究4)であり,中央値46(18~82)歳の成人上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫の152 例が対象であった。予後因子として摘出度,grade(Marseille),年齢,KPS が示された。放射線治療に関する結果では,Marseille の低Grade(93.8%がWHO grade Ⅱ)の部分摘出の場合にはPFS で有意な有効性があり,OS に関しても有効な傾向を示したが,Marseille の高Grade(90%がWHO grade Ⅲ)の全摘出の場合にはPFS には有効な傾向を示したが,OS に差はなかった。この報告は,本ガイドラインが対象とする年齢層よりも高い年齢層が多く含まれていること,WHO grade Ⅲの症例が28.3%と少ないことなどの注意点があるものの,その結果に関しては,症例限定的ではあるが放射線治療の有効性が示されている。5 番目の報告5)は顕微鏡下手術における平均年齢23(1~75)歳の頭蓋内上衣腫の予後因子を単一施設で後方視的に検討したもので,WHO grade は無増悪生存期間・全生存期間ともに明らかな予後因子であることが認められた。摘出術後の放射線治療に関しては上衣腫全体での放射線治療の有効性は示されなかったものの,退形成性上衣腫で全摘出された症例で最も有効性が高いことが示された。つまり,摘出術後の放射線治療の有効性は上衣腫全体では認めないが,退形成性上衣腫では全摘出であっても追加した方がよいという結果であり,放射線治療の有効性が症例限定的に示された。このように放射線治療は,部分摘出術後・退形成性上衣腫・小児後頭蓋窩腫瘍で有効である可能性が示唆されるが,報告によって有効性が示された群が相反する結果も認められた。
一方で,放射線治療の有効性がないとする少数の報告も認められた。しかし,放射線治療が有効であるとする研究と比較すると,対象症例数が少ない研究が多い。その中でも解析症例数の多い研究に,米国のNational Cancer Database(NCDB)から抽出した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫1,318 例[年齢中央値43(18~54)歳]を対象とした研究6)がある。WHO grade Ⅱ/Ⅲは1,055/263 例,テント上/下は848/470 例で,485 例に亜全摘出/肉眼的全摘出,662 例に摘出術後放射線治療,75 例に化学療法が実施された。その結果,予後因子として年齢,WHO grade,腫瘍サイズ,性別,腫瘍部位が示されたが,放射線治療はWHO grade や摘出度,腫瘍部位を考慮しても生存への寄与は認められなかった。この研究では本ガイドラインで対象としている年齢層より高年齢の症例が多いことに注意が必要であるが,症例限定ではあるが摘出術後の放射線治療の有効性が示されていない報告である。5 つ目の報告は,SEER データベースから全摘出術後のテント上上衣腫を抽出した研究7)である。対象は92 例で,年齢中央値は17.5(1~83)歳であった。結果は,5 年OS 83.2%,10 年OS 71.4%,他因死を除く補正生存率(修正生存率,cause specific survival:CSS)5 年84.1%,10 年CSS 71.4%であった。放射線治療は半数の症例に実施されたが,放射線治療の有無でCSS,OS ともに差を認めなかった。本ガイドラインの対象年齢層より高い年齢が含まれていること,対象がテント上の全摘出された上衣腫に限定されていることに注意が必要である。しかし,本報告も症例限定ではあるが摘出術後の放射線治療の有効性を認めなかった研究の一つである。
これらの結果から,大部分が後方視的検討ではあるものの,残存腫瘍を認める上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫に対する摘出術後放射線治療の有効性は,多くの検討で肯定的な結果であった。摘出術後に腫瘍が残存した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫には放射線治療を追加することで予後が改善すると考えられる。また,肉眼的全摘出された退形成性上衣腫に関しては,摘出術後残存を認める腫瘍ほど肯定的な報告は多くないが,摘出術後に放射線治療を施行した方がOS あるいはPFS を改善するとした報告が散見される。よって退形成性上衣腫の場合には,全摘術後でも放射線治療を行うことを検討すべきである。一方,肉眼的全摘出がなされた上衣腫(WHO grade Ⅱ)に関しては,前述したとおりに相反する報告がそれぞれに散見されることから,画一的に摘出術後の放射線治療の実施の是非を決めることはできず,推奨度を決めるのは難しい。摘出腔周囲の再発時に手術が可能かどうか・年齢・全身状態・腫瘍部位・腫瘍サイズ,分子生物学的情報(現段階ではまだ一般的ではないが組織学的悪性度以外の情報)等を考慮し,症例に応じて判断するのも一法であろう。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((((outcome*[tiab])OR(prognos*[tiab]))OR(impair*[tiab]))OR(late effect*[tiab]))OR(cognitive[tiab]))OR(development*[tiab]))OR(disorder*[tiab]))OR(risk factor*[tiab]))OR(side effect*[tiab]))OR(adverse effect*[tiab]))OR(toxi*[tiab]))OR(damage[tiab]))OR(sequela*[tiab]))AND((((“Ependymoma”[Mesh:NoExp]OR ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])AND(“Brain Neoplasms”[Mesh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR Intracranial*[tiab]OR Ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa*[tiab]))AND(“Radiotherapy”[Mesh]OR “radiotherapy”[Subheading]OR Radiotherapy[tiab]OR Irradiation[tiab]OR reIrradiation[tiab]OR “Proton therapy”[tiab]OR “radiation therapy”[tiab]))AND(1900/1/1:2019/12/31[dp])))NOT(Case Reports[pt])
以上の検索式より,一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ2 では10 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Rodríguez D, Cheung MC, Housri N, et al. Outcomes of malignant CNS ependymomas:an examination of 2408 cases through the Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)database(1973-2005). J Surg Res. 2009;156(2):340-51.[PMID:19577759]
- 2)
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- 3)
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- 4)
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- 5)
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- 8)
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- 9)
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- CQ3
- 3 歳未満の症例に放射線治療は有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
3 歳未満の症例に対しては,放射線治療を回避するか,できるだけ長期の開始遅延を目指すことを提案する。
解説
上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかに関しては,現在までこれに答えることができる十分にデザインされた臨床試験は行われていない。特に現状では,より低年齢の症例に対して放射線治療を避ける傾向があり,通常診療でも年齢により異なる方針で治療している施設が多い。本項では3 歳未満の症例に放射線治療が有用かどうかを,今までの報告から検討した。
予後不良と考えられている3 歳未満の症例に放射線治療を行うことで,治療成績が向上するとした前方視研究のサブ解析や比較的症例数の多い後方視的研究などの代表的な報告を提示する。1990~2005 年までのpopulation-based study がカナダから報告1)されている。診断時3 歳未満の悪性脳腫瘍579 例中の上衣腫75 例(13%)が対象であった。後頭蓋窩局在が80%,WHO grade Ⅱが67%,診断時に転移を認めた症例が29%であった。治療は,手術単独23%,摘出術後手術+化学療法37%,手術+放射線治療19%,手術+化学放射線療法21%であった。各治療群の5 年EFS はそれぞれ,22.0%,11.5%,46.2%,64.8%であり,摘出術後に放射線治療を追加された症例群でEFS が長く,化学放射線療法を受けた症例群で最も良好であった。しかし,より年齢の低い症例には摘出術後に化学療法だけが行われていることが多く,より年齢の高い症例には放射線治療を含む治療が行われていたことが多かったことに注意が必要である。この試験は比較試験ではなく,治療ごとの症例背景も異なることから,3 歳未満の症例に摘出術後放射線治療に意義があると結論づけるのは難しい。
SEER のデータベースからの検討結果2)も報告されている。3 歳未満の症例の多くが摘出術後照射を受けておらず,摘出術後照射なしの3歳未満の症例は比較的予後不良であった。一方で,摘出術後照射を受けた症例は他の年齢層の症例と同様の生存率であったことから,3 歳未満の症例にも放射線治療を追加することで腫瘍制御が期待できる可能性が示唆されたが,結論を得るためには今後の臨床試験が望まれる,と結んでいる。
HIT-SKK 87 試験では,登録された3 歳未満の症例についてサブ解析による結果3)が示されている。生存に関する予後良好因子として,摘出術後照射が示された。
Merchant らは2 つの報告4,5)を行っている。双方とも放射線治療の方針は,1.5 歳未満の全摘出例には54 Gy/30 回,それ以外の症例には59.4 Gy/33 回の投与線量が設定されていた。2019 年の頭蓋内限局性上衣腫153 例の単施設前方視的試験の報告5)では,ほとんどの症例に摘出術後に放射線治療が実施されていた。諸家の報告と比較して,3 歳未満の症例の治療成績が比較的良好であったこと,有害事象も脳幹壊死は1.6%と多くなかったことから,3 歳未満の症例についても摘出術後の放射線治療を奨めている。ACNS0121 試験は,Children Oncology Group(COG)による多施設前方視的試験であり,全摘出できたテント上のWHO grade Ⅱの腫瘍は経過観察,部分切除例にはsecond look surgery での全摘出を期待して化学療法が設定された。摘出術後に放射線治療を受けた3 歳未満とそれ以上の年齢の症例のEFS が類似したことから,3 歳未満の症例にも摘出術後に放射線治療を行うことを推奨している。
4 つの独立した後方視研究をまとめた820 例を対象とした報告6)がある。小児の後頭蓋上衣腫について分子生物学的サブタイプ(PFA・PFB)を含めて予後因子解析が行われた。OS に関連した最も強い予後因子はPFA・PFB の分子生物学的サブタイプであり,他に摘出率や摘出術後放射線治療の有無が挙げられた。4 歳以下の後頭蓋例ではPFA が多くを占めていた。PFA で亜全摘の症例は予後不良であり,PFA が多くを占める4 歳以下の症例には放射線治療の追加を推奨している。一方で,若年時に放射線治療を施行した症例には長期的に重篤な影響が残るため,摘出術後早期の放射線治療回避の臨床試験を検討するために,このサブタイプでの治療選択や層別化が重要であるとしている。
このように腫瘍制御のためには,放射線治療は3 歳未満の症例に対する有効性が示唆されているが,明確に摘出術後に放射線治療を施行すべきといえる結果はない。一方で,乳幼児への放射線治療による晩期脳障害は,低年齢になるほど脳の脆弱性が高いため増強してしまう。そのため,乳幼児への放射線治療を遅延あるいは回避させるための臨床試験や臨床研究は少なくない1-10)。
POG が行った介入試験では,3 歳未満の悪性脳腫瘍に対して摘出術後化学療法を行うことで放射線治療の遅延あるいは回避が可能かを検討した7)。1986~1990 年に登録された乳幼児の悪性脳腫瘍症例に放射線治療前の摘出術後化学療法を行った試験で,36 カ月未満の悪性脳腫瘍198 例が対象であった。摘出術後化学療法はCPA+VCR レジメンとCDDP+VP-16 レジメンを繰り返し行い,24 カ月未満の132 例には2 年間の,24~36 カ月の66 例には1 年間の化学療法を行うか,その期間内に病変が進行すれば放射線治療が行われた。全腫瘍の奏効率(CR+PR)は39%で,髄芽腫,悪性神経膠腫,上衣腫の順に高く,脳幹神経膠腫,胎児腫瘍では低かった。PFS は,24~36 カ月児は1 年41%,24 カ月未満児は2 年39%であり,化学療法によるCR 例ではPFS がGTR 例に近い値となった。中枢神経障害はベースラインと1 年後で明らかな低下は示されなかった。化学療法後の放射線治療遅延による認知機能低下も有意に上昇しないことから,肉眼的全摘出例や化学療法でCR を得た症例には放射線治療の遅延が可能であり,症例によっては放射線治療回避も可能と結論している。さらに,同じPOG による化学療法の強化で3 歳未満の小児悪性脳腫瘍に放射線治療の遅延が可能なレジメンがあるか検討した介入試験のサブ解析の報告8)がある。1992 年に開始され338 例が登録された。上衣腫に関しては強化化学療法でもOS の延長は認めなかったが,EFS は改善しており,化学療法の強化により放射線治療を遅延させられる可能性を示唆している。さらに,United Kingdom Children’s Cancer Study Group/International Society of Paediatric Oncology(UKCCSG/SIOP)による3 歳未満の悪性脳腫瘍の患児を対象に,化学療法の強度を高めて放射線治療を回避・遅延させることを目的とした臨床試験(CNS9204 試験)があり,その中のサブ解析の一つに頭蓋内上衣腫を対象とした報告9)がある。結果は,1992~2003 年に89 例が登録され,80 例の限局性頭蓋内上衣腫例のうち化学療法中の増悪で放射線治療が施行されたのは34 例であった。80 例のOS とEFS は3 年で79.3%と47.6%,5 年で63.4%と41.8%であり,比較的多くの症例で放射線療法を回避あるいは遅延させつつ,生存率を損なうことがなかったとしている。まとめとして,3 歳未満の上衣腫では化学療法による放射線治療の回避も重要な役割を果たす可能性があるとしている。
Head Start Ⅲは,放射線治療の遅延や回避の可能性を探究した前方視的臨床試験である10)。強力な化学療法で放射線治療を遅延させることが可能か検討した多施設臨床試験であり,2004~2009 年に登録された10 歳未満の頭蓋内上衣腫を対象とした。この報告の結論は,テント上上衣腫では放射線治療を遅延あるいは回避できる可能性があるものの,後頭蓋窩上衣腫では難しいのではないか,というものであった。
このように,放射線治療により腫瘍制御の可能性は高まるが,放射線治療による脳障害を含む晩期合併症が増加してしまうこともあり,それぞれの研究で相反する結果が生じている可能性がある。放射線治療の有効性を示すことができる十分に良くデザインされた臨床試験は今までないことから,予後不良である3 歳未満の上衣腫に対して摘出術後早期に放射線治療をすべきか,の答えを出すのは現状では難しい。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,CQ2 に記載した検索式による検索を行った(参照)。
一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ3 では10 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Purdy E, Johnston DL, Bartels U, et al. Ependymoma in children under the age of 3 years:a report from the Canadian Pediatric Brain Tumour Consortium. J Neurooncol. 2014;117(2):359-64.[PMID:24532240]
- 2)
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- 3)
- Timmermann B, Kortmann RD, Kühl J, et al. Role of radiotherapy in anaplastic ependymoma in children under age of 3 years:results of the prospective German brain tumor trials HIT-SKK 87 and 92. Radiother Oncol. 2005;77(3):278-85.[PMID:16300848]
- 4)
- Merchant TE, Li C, Xiong X, et al. Conformal radiotherapy after surgery for paediatric ependymoma:a prospective study. Lancet Oncol. 2009;10(3):258-66.[PMID:19274783]
- 5)
- Merchant TE, Bendel AE, Sabin ND, et al. Conformal Radiation Therapy for Pediatric Ependymoma, Chemotherapy for Incompletely Resected Ependymoma, and Observation for Completely Resected, Supratentorial Ependymoma. J Clin Oncol. 2019;37(12):974-83.[PMID:30811284]
- 6)
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- 7)
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- 8)
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- 9)
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- 10)
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- CQ4
- 全脳全脊髄照射は有用か?
- 推奨度1C
- 推奨1
脊髄播種のない症例に対しては,全脳全脊髄照射を施行しないことを推奨する。
- 推奨度1D
- 推奨2
脊髄播種を有する症例に対しては,全脳全脊髄照射を施行することを推奨する。
解説
頭蓋内上衣腫は髄液播種をきたしやすい腫瘍であり,かつては全脳全脊髄照射を用いられることが多かった。その後は全脳全脊髄照射,全脳照射,後頭蓋窩照射,局所照射,定位放射線照射など照射範囲に関して多彩な方法が報告されてきた1-17)。より望ましい照射範囲を決定するための十分にデザインされたランダム化比較試験や前方視的研究は実施されておらず,現段階では確定的な結論を導くことはできない。
比較的症例数の多い前・後方視的研究で,頭蓋内限局性上衣腫に関する放射線治療の照射範囲について検討した18 の報告1-17)があった。その中で,頭蓋内限局性上衣腫には予防的な全脳全脊髄照射は必要ないであろうと結論した報告1-6,8,9,11-16)が14 と多くを占めていた。
予防的な全脳全脊髄照射は不要と結論した報告の中で,ランダム化比較試験のサブ解析や症例数の多い前・後方視的研究の結果を示す。1974~2006 年にハイデルベルグ大学にて限局性頭蓋内上衣腫57 例に対して摘出術後放射線治療をした後方視的研究4)が報告されている。WHO grade Ⅰ/Ⅱが27 例,grade Ⅲが30 例であった。4 例の粘液乳頭状上衣腫が含まれている。41 例に後頭蓋窩照射,16 例に全脳全脊髄照射が併用され,最終的に腫瘍床に54 Gy/30 回を目指して局所照射が追加された。3 年,5 年全生存率は各々83%,71%で,後頭蓋窩照射併用群と全脳全脊髄照射併用群の間で有意差を認めなかった。5 年局所非再発率と5 年無遠隔転移生存率は後頭蓋窩照射併用群で60%,83%で,全脳全脊髄照射併用群で67%,93%であり,いずれも有意差を認めなかった。全生存に影響する因子として,腫瘍床への投与線量45 Gy 以上が示され,照射範囲よりも局所線量の増加が重要であると結論された。1964~2006 年にフロリダ大学にて限局性頭蓋内上衣腫(44 例)に対して放射線治療を施行した後方視的研究1)の報告もある。上衣下腫,上衣芽細胞腫および再照射例は除外されている。29 例に局所照射が施行され,11 例に全脳全脊髄照射が併用されていた。いずれの方法においても再発形式は95%が局所再発であり,残りの5%は局所再発なしの脊髄播種であった。全脳全脊髄照射を受けた症例は1 例も脊髄への再発を認めなかったが,全生存と無病生存の双方ともに予後因子として放射線治療法は示されず,予防的な全脳全脊髄照射の有用性は認められなかった。まとめると,予防的全脳全脊髄照射の併用により無脊髄播種生存率や脊髄播種出現率は改善されるが,局所照射のみの再発形式も摘出腔周囲の局所かそれに加えて脊髄播種を伴ったものが多く,脊髄播種のみの症例はわずかであった。また他の報告も,照射範囲は全生存期間・無病生存期間の予後因子とはならず1-6,8,9,11,13-16),局所への投与線量が全生存期間・無病生存期間の予後因子である8,12-15)とするものが多い。これらの結果から,頭蓋内限局性上衣腫には,全脳全脊髄照射や全脳照射などの広範囲の照射を行うよりも,局所照射を用いて腫瘍への投与線量増加を目指すのが良いと考えられる。また,これらの報告の中で,脊髄播種を有する頭蓋内上衣腫に関しては治療的全脳全脊髄照射を用いているが,成績は十分とは言えず,より良い治療の開発が待たれるとする報告が多く認められた。
なお,定位放射線治療による報告もみられたが,1 つの報告5)のみで症例数も12 例と少ないため参考程度と考えるべきである。著者らは照射野外の再発率や全生存率が過去の全脳全脊髄照射や後頭蓋窩照射を併用していた時期の結果と大きな違いがないことから,定位放射線治療は許容される治療となるかもしれない,と結んでいる。
以上の結果から,腫瘍局在やWHO grade に関係なく,限局性頭蓋内上衣腫に対しては全脳全脊髄照射や全脳照射などの広い照射範囲は必要とはせず,局所照射が推奨される。一方で,脊髄播種を有する頭蓋内上衣腫には,他の有効な治療がないとの理由もあるが,全脳全脊髄照射が推奨される。なお,3 歳児未満の症例には,別項に記載している通り,症例に応じて判断することになるが,再発時に速やかに放射線治療を実施できる体制を取った上で,化学療法を先行させて放射線治療を遅延させる方法を検討するなど,乳幼児への放射線障害を低減する方法を常に念頭に置くことが重要である。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,CQ2 に記載した検索式による検索を行った(参照)。
一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ4 では17文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
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課題3:化学療法
- CQ5
- 化学療法は推奨されるか?
- CQ5-1
- 3 歳以上症例に対して,化学療法は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨1
摘出術後に化学療法を行わないことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
二期的摘出を前提とした化学療法を行うことを提案する。
- CQ5-2
- 3 歳未満症例に対して,化学療法は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
乳幼児に対する放射線治療による晩期合併症を軽減するために,放射線治療時期を遅延させる目的で化学療法を先行することを提案する。
解説
1.診断時3 歳以上症例
化学療法の生存への寄与について直接比較した報告がなく,化学療法の効果に関する情報は非常に限定的である1-5)。一定数以上(20 例以上)の症例を前方視的に収集した報告は4 編しかなく1-4),うち3 編は化学療法を含む治療全体での評価であり,これまでの報告と比べて生存率の向上は得られなかったとしている1-3)。残りの1 編は摘出術後に腫瘍が残存した例で腫瘍の縮小を期待して化学療法を行い,その後,二期的手術で全摘を目指し,その後局所放射線治療を行うという試験である4)。本試験では,摘出術後腫瘍残存例でも化学療法で腫瘍縮小が得られ,二期的手術で全摘することで,初回手術で全摘された症例に匹敵する成績が得られたと報告されている。腫瘍縮小効果については,放射線治療前に化学療法が行われ,奏効が記載されているのは上記の文献のうち2 編の試験であるが,完全および部分奏効が50~60%の症例で認められている3,4)。このように,化学療法で腫瘍が縮小する一群が存在する。効果のあった化学療法はシクロホスファミド(CPA)またはイホスファミド(IFM),エトポシド(VP-16),ビンクリスチン(VCR)併用レジメンまたはこれらにシスプラチン(CDDP)を追加したものである。しかし,腫瘍に対する縮小効果は二期的手術の介入がなければ最終的な生存期間の延長に繋がっておらず,化学療法の有無を直接比較した臨床成績が報告されていない現時点では,化学療法が生存期間延長に直接寄与するかについては明確ではない。
2.診断時3 歳未満症例
乳幼児期の放射線治療への脳の脆弱性を考慮して,放射線治療を回避または遅延させる目的で摘出術後化学療法の有用性についての検討が行われてきた6-13)。しかし,3 歳以上を対象とした上述の試験同様,これまで直接比較する試験が行われていないため,その有用性については明確とは言い難く,これまでのところ,化学療法の実施によって放射線治療を不要とする,または,その時期を3 歳以降まで遅らせることができるかについては,相反する報告がみられる。これには化学療法レジメンの違いなどが影響している可能性がある。化学療法への奏効について記載のある4 編のうち,3 編では30%程度の奏効が報告されており6-8),その中のひとつではテント上発症例の方が奏効した割合が高いと述べている6)。その他の報告のうち,UKCCSG(英国小児がんグループ)/SIOP(欧州小児がんグループ)で行われた試験では施行された化学療法の強度が強い方が予後良好であったとしているほか9),POG(米国小児がんグループ)の強度の異なる2 種類の化学療法レジメンの比較試験では,強度の高いレジメンによる生存期間延長への寄与はなかったものの,2 年無イベント生存率は有意に良好であった10)。なお,これらの試験での放射線治療の適応は,3 歳到達時,化学療法終了時の腫瘍残存例,再発時などさまざまであるが,摘出術後,化学療法を先行させ,一定期間は放射線治療を行わない点は共通している。一方,化学療法の副作用としてPOG の試験では3%程度の化学療法による死亡例が発生し,またUKCCSG/SIOP のレジメンでも死亡例はないものの全例でCTCAE グレード4 の血液毒性が観察されている。
このように,一定以上の強度を有する化学療法には上衣腫に対し抗腫瘍効果があると考えられる。しかし,3 歳以上での報告同様,生存期間延長への寄与は明確ではなく,現時点では,一定期間放射線治療の開始を遅らせるあるいは再発の時期を遅らせる可能性が示唆されるに止まる。したがって,晩期放射線合併症の観点から,化学療法の毒性を理解した上で,放射線治療を摘出術後直ちには行わない場合の選択肢とはなり得る。
3.根拠
1)化学療法の有無による違いの検討
AIEOP(イタリア小児血液がんグループ)のコホート研究では,多分割放射線治療に加え,摘出術後腫瘍残存例(17 例)にのみ,摘出術後化学療法(VCR,CPA,VP-16)を行ったが,化学療法を行わなかった全摘例(46 例)と比べ,無増悪生存率,全生存率とも有意に不良であり,化学療法は予後不良である腫瘍残存例の治療成績を向上させることはできなかった。化学療法関連死亡はなかった3)。また,単一施設での後方視的調査でも摘出術後化学療法[CDDP,VCR,VP-16,CPA,カルボプラチン(CBDCA)]を行った群(17 例)と,化学療法なし群(21 例)では,化学療法群で無増悪生存率が低い傾向が認められた5)。
一方,3 歳以上を対象として腫瘍縮小を得た後に二期的手術で全摘を目指す目的で,摘出術後残存腫瘍のある例にのみ放射線治療前化学療法(VCR,VP-16,CDDP,CPA)を実施した米国小児がんグループ(COG)のコホート研究がある4)。摘出術後腫瘍残存化学療法実施41 例と,全摘出43 例(補助療法は放射線治療のみ)の5 年無増悪生存率,全生存率ともそれぞれ約50%と70%と,一般的には腫瘍残存例の方が予後不良にもかかわらず差がなかった。しかし,化学療法の恩恵を受けたのは,化学療法で腫瘍縮小が得られ二期的手術で90%以上の腫瘍摘出が可能であった例に限られた。
このように,化学療法が直接生存に寄与していることを示す情報はなく,化学療法の役割は,残存腫瘍の全摘を可能とするために,残存腫瘍を縮小させることに留まり,あくまで二期的摘出を前提とした場合のみに考慮してよい。なお,化学療法奏効率は50%程度であり,COG のコホートでは化学療法関連死は2.4%であった4)。
2)化学療法の内容・投与法についての検討
これまで化学療法についてのランダム化比較試験は3 編あるが,化学療法の有無ではなくレジメンの比較を目的とするものである。うち1 編は放射線治療を併用した上での化学療法レジメンの比較で,VCR,CCNU,プレドニゾロン群(14 例)と,8-drug in-1 レジメン(18 例)を比較した。5 年無増悪生存率,全生存率ともに差はなかった。化学療法死が1 例に認められている1)。
他の2 編は3 歳未満の小児悪性脳腫瘍を対象とした非照射での化学療法レジメンの比較であり,その中に含まれる上衣腫のサブ解析である。CCG では摘出術後寛解導入化学療法としての,レジメンA(VCR,CDDP,CPA,VP-16)(35 例)とレジメンB(VCR,CBDCA,IFM,VP-16)(39 例)に74 例を割り付けたが,奏効率,無増悪生存率に差はなかった7)。また,POG の試験では化学療法(CPA,VCR,CDDP,VP-16)の用量の違いの比較であったが,1.8 倍へ投与量を増やすことで無増悪生存率は改善したが(p=0.0062),全生存率は改善しなかった。WHO grade Ⅲのみを対象とすると,1.8 倍投与+放射線治療群で全生存率が良く,標準投与量(放射線の有無にかかわらず)や放射線なし(化学療法の量にかかわらず)より優れていた10)。
ランダム化比較試験ではないが,3 歳未満上衣腫に対する非照射での化学療法を実施したUKCCSG/SIOP の試験がある。化学療法は約1 年間繰り返すが,実際に投与された抗がん剤の用量と予後との関係を後方視的に検討したところ,用量が多いほど治療成績は良好であった9)。
以上のように,化学療法の有用性が明らかではない状況での化学療法レジメンの検討であるが,4 編中,3 歳未満を対象とした2 編では予後と抗がん剤の用量とに弱いながらも関係がみられた。これらの試験では,化学療法関連死亡が0~10%で観察された。
3)自家造血幹細胞移植併用大量化学療法に関する報告
WHO grade Ⅲのみ,テント上下発症例を対象とした研究がある。摘出術後29 例に寛解導入療法(CDDP,VCR,VP-16,CPA,メトトレキサート:MTX),地固め療法(CBDCA,ThioTEPA,VP-16)を施行,放射線は3 歳以上の後頭蓋例のすべてとテント上の残存例,3 歳未満(35 カ月以下)の残存例に併用した。5 年無増悪生存率が12%,5 年全生存率が38%であり,過去の報告と比べ明らかな予後改善・延命効果はなく,逆に化学療法関連死が10.3%で認められた8)。
4)化学療法と放射線治療の順に関する報告
3 歳以上のWHO grade Ⅲ,テント上下例を対象とした報告がある。1990 年まではIFM,VP-16,MTX,CDDP,シタラビン,1991 年以降はCDDP,CCNU,VCR を使用し,放射線前化学療法2 コース先行の40 例と放射線後化学療法15 例を検討した。3 年無増悪生存率はともに60%台と差はなかった2)。
5)テント上下で化学療法の有効性の違いを記述した報告
WHO grade ⅡとⅢを対象としたコホート研究がある。摘出術後残存腫瘍19 例に対しCDDP,VP-16,CPA,MTX,テモゾロミド(TMZ),CBDCA を自家造血細胞移植併用で使用した。テント上では全8 例で完全奏効が得られ,再発は1 例で3 年全生存率は100%であったが,後頭蓋窩では完全奏効が11 例中4 例,再発が8 例で3 年全生存率は73%と低かった。以上より,後頭蓋窩では放射線治療が必要であると結論している。対象者に化学療法死はなく,一過性の副作用のみを(発生率記載なし)認めた6)。
6)乳幼児例での化学療法による放射線治療実施時期遅延に関する報告
乳幼児例(3~4 歳以下)で脳の脆弱性による放射線晩期合併症について,化学療法を先行させることで,摘出術後放射線治療を遅延または回避できないかを検証した試験が複数存在する。
その中で,最も症例数の多いものとして,3 歳以下(47 カ月以下)のWHO grade ⅡとⅢ,テント上下の89 例を対象とし,摘出術後VP-16,CBDCA,MTX,CPA,CDDP を含む化学療法を約1 年間実施,進行時のみに放射線治療を行った試験(UKCCSG/SIOP)では,転移のない80 例の5 年間累積非照射率42%,5 年無イベント生存率と全生存率はそれぞれ41.8%と63.4%,放射線治療実施年齢中央値3.6 歳であった。また,全摘例とそれ以外の例とで生存率の差はなかった。以上より,化学療法により照射時期の遅延は可能と結論している。化学療法関連死亡は観察されなかった9)。
この他にも小規模ながら主なものとして8 件の報告がある。多くは放射線治療は化学療法終了時の腫瘍残存例または進行時としており,3~4 年無イベント生存率0~30%,全生存率50%前後である6-8,10-13)。これらの試験に含まれる予後良好であるテント上発症例,全摘例,WHO grade Ⅱ例の割合には大きな差はないが,用いられている化学療法はさまざまである。前述のPOG,UKCCSG/SIOP の試験では化学療法の強度が成績に影響することを示唆している9-11)。
- 注意:
- 我が国では上衣腫に適応のある薬剤はないが,ビンクリスチン,シスプラチン,エトポシド,チオテパなどは適応症として小児悪性固形腫瘍がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((Ependymoma[mh:noexp]OR Ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])AND(Brain Neoplasms[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR intracranial*[tiab]OR ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa[tiab]))AND(“drug therapy”[sh]OR “Antineoplastic Agents/therapeutic use”[mh]OR “Antineoplastic Agents”[PA]))AND(“Adolescent”[mh]OR “Adult”[mh:NoExp]OR “Young Adult”[mh]OR “Child”[mh]OR “Infant”[mh]))AND((“2017/01/01”[Date-Publication]:“2019/12/31”[Date-Publication])))AND((English[Language])OR(Japanese[Language])))NOT(Case Reports[Publication Type])
以上の検索式より,一次スクリーニングとして293 文献を抽出し,24 文献の二次スクリーニングを行った後,13 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ5 では13 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Robertson PL, Zeltzer PM, Boyett JM, et al. Survival and prognostic factors following radiation therapy and chemotherapy for ependymomas in children:a report of the Children’s Cancer Group. J Neuro Surg. 1998;88(4):695-703.[PMID:9525716]
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- Massimino M, Gandola L, Giangaspero F, S et al;AIEOP Pediatric Neuro-Oncology Group. Hyperfractionated radiotherapy and chemotherapy for childhood ependymoma:final results of the first prospective AIEOP(Associazione Italiana di Ematologia-Oncologia Pediatrica)study. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2004;58(5):1336-45.[PMID:15050308]
- 4)
- Garvin JH Jr, Selch MT, Holmes E, et al;Children’s Oncology Group. Phase Ⅱ study of pre-irradiation chemotherapy for childhood intracranial ependymoma. Children’s Cancer Group protocol 9942:a report from the Children’s Oncology Group. Pediatr Blood Cancer. 2012;59(7):1183-9.[PMID: 22949057]
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- 7)
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- 8)
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- 9)
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- 10)
- Strother DR, Lafay-Cousin L, Boyett JM, et al. Benefit from prolonged dose-intensive chemotherapy for infants with malignant brain tumors is restricted to patients with ependymoma:a report of the Pediatric Oncology Group randomized controlled trial 9233/34. Neuro Oncol. 2014;16(3):457-65.[PMID:24335695]
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- 12)
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課題4:再発時の治療
- CQ6
- 再発時の適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨1
再手術:再発時に再摘出術を行うことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
放射線治療:再発時に再照射を行うことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨3
化学療法:再発時に化学療法は行わないことを提案する。
解説
25 歳以下の再発上衣腫117 例の予後に関するシステマティックレビューが報告されている。総じて,初回再発からの無増悪生存期間は6.7 カ月,再発からの生存期間は11.2 カ月と予後不良であった。その内訳は,再発後の全生存期間は,テント上と後頭蓋窩で,それぞれ8.3,20.1 カ月であった。再発時の治療別の診断後からの全生存期間は手術24.2 カ月,放射線治療29.2 カ月,化学療法19.3 カ月であった。また,年齢別では3 歳以下31.0 カ月,3 歳以上17.5 カ月であった1)。再発時の治療は,経過観察,手術,放射線治療,化学療法単独もしくはこれらの併用が選択され得る2)。本CQ の注意点として,照射未施行症例は除外されている点に注意されたい。照射未施行の症例の再発時には,照射前の残存腫瘍として考えるべきであり,照射以外に手術摘出も考慮する必要がある。
1.再手術
再発上衣腫に対する再手術は無益とは言えない。再発時に再手術のみを行ったエビデンスレベルの高い報告は限られた。再発後の再手術された17 例中,全摘出を達成された12 例の5 年生存割合が58%3)であり,再発腫瘍に対して再摘出が行われた57 例のメタ解析4)では全摘出群と部分摘出群の5 年生存割合は,それぞれ44%と23%であった。しかし,機能温存のために初回手術で全摘出が不可能であったならば,再手術も困難である5)。したがって,QOL を維持・向上できるかどうか,適応を検討の上,症例を選択する6)。
2.放射線治療
再発時の再照射に関しては,症例背景が不揃いで不十分な期間の観察研究しかない制限があり,エビデンスレベルの高い報告は限られる。再発上衣腫に対する再照射は否定されないが,適応については放射線治療医と十分に検討した方がよい7)。
268 例の小児再発上衣腫に対する再照射について11 編の論文をまとめた総説によると,再発後は摘出術と放射線治療が望ましく,もし初回放射線後12 カ月未満の再発であれば30.6 Gy/17 fr,12 カ月以上経過しているようであれば36 Gy/20 fr が望ましいと述べている8)。最近,全脳脊髄照射(CSI)の有用性も報告されるようになってきた。遠隔転移のある症例9 例においては,2 年無増悪割合12.5%,2 年生存割合62.5%であった。例え局所再発であってもCSI(1.8 Gy 分割で23.4~36 Gy の全脊髄照射に,腫瘍床に54~59.4 Gy を照射)を行った結果,5 年無増悪生存割合が83.3%に対して,局所照射のそれは15.2%に留まったと報告されている9)。
CSI の毒性についても十分考慮しなければならない。Bouffet らは,再発上衣腫に対する54 Gy の最大線量による局所もしくは59.4 Gy のCSI の毒性と予後の評価を行った。113 例中再発した47 例のうち再照射した18 例(年齢0.8~8.9 歳,テント上4 例,後頭蓋窩14 例)を評価した。初回手術全摘・亜全摘17 例,部分摘出1 例で,初発時放射線治療単独群11例,放射線+化学療法群7 例であった。その結果,追跡期間中央値2.1 年間(0.7~5.8 年)で,3 年生存割合は再照射なし群(7%±6%)と比較して,再照射あり群で81%±12%(p<0.0001)と有意に高く,また再照射後から再発までの期間は最初の再発までの期間より有意に長かった。一方で,高次脳機能評価を行った7 例全例で,高次脳機能評価項目すべてにおいて低下を認めた。平均3.7 年間で18 例中2 例が内分泌異常を呈し,1 例が特別支援教育を要した。
一方で,定位的放射線手術(SRS)による腫瘍の局所制御の有用性の報告もある10)。Stauder らは,再発頭蓋内上衣腫に対するSRS の腫瘍制御率および合併症率を明らかにすることを目的とし,26 例(49 病変;テント上31 病変,後頭蓋窩18 病変)におけるOS, PFS, LCR,放射線脳壊死の発生率を後方視的に評価した。各病変に対するmedian marginal dose は18Gy(12~24 Gy)であった。生存期間中央値はSRS 後5.5 年,無増悪生存期間中央値は14.7 カ月(2.9 カ月~11.2 年)であった。1 年生存割合96%,3 年生存割合69%であった。7 例(27%)に遠隔腫瘍再発を認めた。照射範囲によるものの2 例(8%)に症候性放射線壊死を認めた。SRS は比較的短期の局所制御率が良好であり,短期的には生存率を上げる可能性がある11)。12 例17 病変に対してSRS を実施し,3 年間で68%において良好な局所コントロールが得られたという2000 年のStafford らの報告を裏付けた12)。以上より,比較的短期での観察結果しかなく,また放射線壊死を伴う例があるが,SRS は考慮してもよい。
3.化学療法
1995 年以前は,テント上下の再発悪性小児脳腫瘍を対象に化学療法の有効性が検討されていた。症例数は少ないが,その一部に再発上衣腫が含まれており,ここでは,再発上衣腫の結果を抜粋する。1984 年にPediatric Oncology Group(POG)より,ビンクリスチン+プロカルバジン+プレドニンとナイトロジェンマスタードを上乗せしたレジメンを比較検討したランダム化比較試験の結果が報告された。評価を受けた再発上衣腫10 例のうち,CR,PR はそれぞれ1 例であった。また,ナイトロジェンマスタードを上乗せした群では高い毒性を認めた13)。
その後,白金製剤もしくはアルキル化剤を基軸とする化学療法が試された。5 例の再発上衣腫に対してビンクリスチン,シスプラチンもしくはカルボプラチン,CCNU,エトポシド,ブレオマイシン併用による治療の症例報告が行われたが,CR+PR は1 例のみで,PD が3 例であった14)。また,2005 年にイタリアのグループから報告された成人再発上衣腫28 例での後方視的研究では,白金製剤の有無で有効性が比較されたが,シスプラチンを含むレジメンでも全生存期間,無増悪生存期間に有意差はみられなかった15)。アルキル化剤においては,1993 年にFrench Society of Pediatric Oncology(SFOP)がイホスファミド単剤の第Ⅱ相臨床試験の結果を報告し,8 例中CR 0 例,PR 1 例,OR+SD 5 例,PD 2 例であった16)。チオテパに関連する検討としては,高用量ブスルファン(150 mg/m2/day)+チオテパ(150 mg/m2/day)+自家骨髄移植に腫瘍部照射(45~55 Gy)を行った報告がある。8 例中3 例のCR 症例が認められたものの,1 例の治療合併症死亡例があり,消化管と粘膜障害などの毒性も多く認められ,治療効果に比し毒性が高かった17)。テモゾロミドについては,再手術,再照射を行っても再増悪した18 例の成人再発上衣腫に対して投与された。22%の奏効割合(CR+PR)が報告されている18)が,過去に白金製剤などを含む化学療法が行われた例には有効性を認めなかった19)。2007 年にChildren’s Oncology Group(COG)が第Ⅱ相試験を行い,12 例中SD 5 例,他7 例は7 コースまでにPD になった20)。
その他の薬剤としては,エトポシドの効果検討がなされ,観察後7 カ月の段階で,2 例でPR,4 例でSD であった21)。
以上より,薬剤の有効性が乏しいことから,現状で推奨できるレジメンはない。少数例で化学療法に反応することがあるが,頻度は低く,また効果があっても生存期間の延長につながることは少ないため,化学療法は行わないことを提案する。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((“Ependymoma”[mh:NoExp]OR ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab]))AND((“Brain Neoplasms”[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR Intracranial*[tiab]OR Ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa*[tiab])))AND((“Recurrence”[mh]OR Recurren*[tiab]OR Neoplasm, Residual[mh]OR Neoplasm Recurrence, Local[mh]OR relaps*[tiab]OR Regrowth[tiab]))))AND((“Infant”[mh]OR “Child”[mh]OR “Adolescent”[mh]OR “Young Adult”[mh]OR “Adult”[mh:NoExp]))))AND 1900/1/1:2016/12/31[dp])))AND((Japanese[la]OR English[la]))))NOT case reports[pt]
以上の検索式より,一次スクリーニングとして250 文献を抽出し,194 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ6 では21 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Byer L, Kline CN, Coleman C, et al. A systematic review and meta-analysis of outcomes in pediatric, recurrent ependymoma. J Neurooncol. 2019;144(3):445-52.[PMID:31502040]
- 2)
- Acquaye AA, Vera E, Gilbert MR, et al. Clinical presentation and outcomes for adult ependymoma patients. Cancer. 2017;123(3):494-501.[PMID:27679985]
- 3)
- Vinchon M, Leblond P, Noudel R, at al. Intracranial ependymomas in childhood:recurrence, reoperation, and outcome. Childs Nerv Syst. 2005;21(3):221-6.[PMID:15599561]
- 4)
- Zacharoulis S, Ashley S, Moreno L, et al. Treatment and outcome of children with relapsed ependymoma:a multi-institutional retrospective analysis. Childs Nerv Syst. 2010;26(7):905-11.[PMID:20039045]
- 5)
- Rudà R, Reifenberger G, Frappaz D, et al. EANO guidelines for the diagnosis and treatment of ependymal tumors. Neuro Oncol. 2018;20(4):445-56.[PMID:29194500]
- 6)
- Barrer SJ, Schut L, Sutton LN, et al. Re-operation for recurrent brain tumors in children. Childs Brain. 1984;11(6):375-86.[PMID:6510045]
- 7)
- Bouffet E, Hawkins CE, Ballourah W, et al. Survival benefit for pediatric patients with recurrent ependymoma treated with reirradiation. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012;83(5):1541-8.[PMID:22245198]
- 8)
- Tsang DS, Laperriere NJ. Re-irradiation for Paediatric Tumours. Clin Oncol(R Coll Radiol). 2019;31(3):191-8.[PMID:30385005]
- 9)
- Tsang DS, Murray L, Ramaswamy V, et al. Craniospinal irradiation as part of re-irradiation for children with recurrent intracranial ependymoma. Neuro Oncol. 2019;21(4):547-57.[PMID:30452715]
- 10)
- Regnier E, Laprie A, Ducassou A, Bet al. Re-irradiation of locally recurrent pediatric intracranial ependymoma:Experience of the French society of children’s cancer. Radiother Oncol. 2019;132:1-7.[PMID:30825956]
- 11)
- Stauder MC, Ni Laack N, Ahmed KA, et al. Stereotactic radiosurgery for patients with recurrent intracranial ependymomas. J Neurooncol. 2012;108(3):507-12.[PMID:22437346]
- 12)
- Stafford SL, Pollock BE, Foote RL, et al. Stereotactic radiosurgery for recurrent ependymoma. Cancer. 2000;88(4):870-5.[PMID:10679657]
- 13)
- Cangir A, Ragab AH, Steuber P, et al. Combination chemotherapy with vincristine(NSC-67574), procarbazine(NSC-77213), prednisone(NSC-10023)with or without nitrogen mustard(NSC-762)(MOPP vs OPP)in children with recurrent brain tumors. Med Pediatr Oncol. 1984;12(1):1-3.[PMID:6546602]
- 14)
- Douek E, Kingston JE, Malpas JS, et al. Platinum-based chemotherapy for recurrent CNS tumours in young patients. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1991;54(8):722-5.[PMID:1940946]
- 15)
- Brandes AA, Cavallo G, Reni M, et al. A multicenter retrospective study of chemotherapy for recurrent intracranial ependymal tumors in adults by the Gruppo Italiano Cooperativo di Neuro-Oncologia. Cancer. 2005;104(1):143-8.[PMID:15912507]
- 16)
- Chastagner P, Sommelet-Olive D, Kalifa C, et al. Phase Ⅱ study of ifosfamide in childhood brain tumors:a report by the French Society of Pediatric Oncology(SFOP). Med Pediatr Oncol. 1993;21(1):49-53.[PMID:8381203]
- 17)
- Grill J, Kalifa C, Doz F, et al. A high-dose busulfan-thiotepa combination followed by autologous bone marrow transplantation in childhood recurrent ependymoma. A phase-Ⅱ study. Pediatr Neurosurg. 1996;25(1):7-12.[PMID:9055328]
- 18)
- Ruda R, Bosa C, Magistrello M, et al. Temozolomide as salvage treatment for recurrent intracranial ependymomas of the adult:a retrospective study. Neuro Oncol. 2016;18(2):261-8.[PMID:26323606]
- 19)
- Chamberlain MC, Johnston SK. Temozolomide for recurrent intracranial supratentorial platinum-refractory ependymoma. Cancer. 2009;115(20):4775-82.[PMID:19569246]
- 20)
- Nicholson HS, Kretschmar CS, Krailo M, et al. Phase 2 study of temozolomide in children and adolescents with recurrent central nervous system tumors:a report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2007;110(7):1542-50.[PMID:17705175]
- 21)
- Chamberlain MC. Recurrent intracranial ependymoma in children:salvage therapy with oral etoposide. Pediatr Neurol. 2001;24(2):117-21.[PMID:11275460]
6 章 髄芽腫 medulloblastoma
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
橋本 直哉
京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科
総括
委員
白土 博樹
北海道大学医学部病態情報学講座 放射線医学分野/放射線科
放射線治療
協力委員
溝脇 尚志
京都大学大学院医学研究科 放射線腫瘍学・画像応用治療学/放射線科
放射線治療
委員
若林 俊彦
名古屋共立病院 集束超音波治療センター/脳神経外科
外科的治療
協力委員
坂本 博昭
大阪市立総合医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
協力委員
高橋 義信
京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
協力委員
原 純一
京大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児血液腫瘍科/小児科
予後予測因子・化学療法
委員
寺島 慶太
国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科/小児科
化学療法
協力委員
山本 哲哉
横浜市立大学医学研究科 脳神経外科/脳神経外科
再発治療
委員
中村 英夫
久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
再発治療
協力委員
五味 玲
自治医科大学 とちぎ子ども医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科
晩期障害
委員
隈部 俊宏
北里大学医学部 脳神経外科性/脳神経外科
他のガイドラインとの整合
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
1
外科的治療
橋本 直哉
高橋 義信
小川 隆弘(京都府立医科大学 脳神経外科)
寺川 雄三(北海道大野記念病院 脳神経外科)
2
神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
原 純一
寺島 慶太
山崎 夏維(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
奥廣 有喜(名古屋大学大学院 医学系研究科 分子細胞免疫学分野)
3
放射線治療
溝脇 尚志
白土 博樹
宇藤 恵(京都大学医学部附属病院 放射線治療科)
森 崇(北海道大学病院 放射線治療科)
出水 祐介(兵庫県立粒子線医療センター 附属神戸陽子線センター 放射線治療科)
河村 淳史(兵庫県立こども病院 脳神経外科)
4
陽子線治療
5
化学療法
寺島 慶太
原 純一
山崎 夏維(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
奥廣 有喜(名古屋大学大学院 医学系研究科 分子細胞免疫学分野)
木村 由衣(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科)
吉村 聡(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科)
津村 悠介(名古屋大学医学部附属病院 小児科)
6
再発時の治療
山本 哲哉
中村 英夫
井原 哲(東京都立小児総合医療センター 脳神経外科)
広川 大輔(神奈川県立こども医療センター 脳神経外科)
三宅 勇平(横浜市立大学附属病院 脳神経外科)
牧野 敬史(熊本市立熊本市民病院 脳神経外科)
黒田 順一郎(熊本大学 脳神経外科)
7
治療による晩期障害
五味 玲
五味 玲(自治医科大学 とちぎ子ども医療センター 小児脳神経外科)
室井 愛(筑波大学 脳神経外科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
髄芽腫に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,髄芽腫患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された13 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにガイドライン作成ワーキンググループがシステマティックレビュー(SR)チームの責任者となり,責任者よりSR 委員を選出してもらい,各課題2~5 名で編成した。髄芽腫が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2016 年2 月,髄芽腫ガイドライン第1 回会議を開催し,ガイドライン作成ワーキンググループが発足。課題をどのようにするか討議し各課題のリーダーを決定した。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2017 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014 に準拠した方法により行った。稀少疾患であるためエビデンスが少なく,Minds に準拠した方法の適用が困難な場面に遭遇したが,論議しながら完成に向かった。
ガイドライン作成ワーキンググループ会議:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会の開催に合わせて,ガイドライン作成ワーキンググループ会議を行った。その後,2020 年5 月からは月1 回のガイドライン作成ワーキンググループ(オンライン)会議を計15 回行った。2021 年5 月11 日のガイドライン作成ワーキンググループ会議で各CQ における推奨グレードの決定を行った。
推奨作成とその過程:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,メールおよびオンライン会議で討議した。推奨グレードに関しては髄芽腫ガイドライン作成ワーキンググループ委員およびSR チームの24 名にて投票を行い,ガイドライン作成ワーキンググループ内における推奨グレードをまず決定し,最終的に2022 年1 月14 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会にて統括委員の投票により推奨を承認した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年9 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
主に小児の小脳虫部ないしは脳幹背側に好発する胎児性の神経上皮性腫瘍である。病理学的に,核異型と核分裂像に富む未分化な小型円形の腫瘍細胞が高密度に配列して構成される1)。①発生部を中心に局所に浸潤性に発育し,②全中枢神経系に髄液腔内播種を早期にきたし,③腫瘍の進行とともに血行性に遠隔転移を示す。腫瘍名の由来は,中枢神経系の発生において未分化神経管上皮細胞が神経細胞とグリア細胞へ分化する前の髄芽細胞medulloblast を概念上想定し,その腫瘍型を髄芽腫(medulloblastoma)と命名したところにある(Bailey and Cushing)2)。現在では発生起源は胎生期の上・下髄帆にある外顆粒細胞や上衣下基質細胞とされるが結論には至っていない。小脳虫部の下半部から第4 脳室に発育・浸潤することが最も多く,小脳半球に主座を置くこともある。
1)疫学
WHO 脳腫瘍分類20161)によると,胎児性脳腫瘍のうち最も頻度が高く,小児脳腫瘍では星細胞系腫瘍に次いで多く,25%程度の頻度と記載されている。小児100 万人あたりの年間発生数は6 例程度である。また,髄芽腫を含む胎児性腫瘍の年齢調整罹患率は,人口10 万人あたり米国0.24 人,日本0.14 人と米国で罹患率が高い3)。
我が国の脳腫瘍全国集計調査報告 第14 版(2005-2008)4)によれば,原発性脳腫瘍の1.0%を占め,14 歳以下の小児期脳腫瘍の10.1%を占める。小児期脳腫瘍のうちでは膠芽腫を含む星細胞系腫瘍(23.3%),胚細胞性腫瘍(14.7%)についで3 番目の頻度である。我が国では年間約100~120 人が新規に診断されていると推定される。好発年齢は14 歳以下が全体の78%程度を占めており,特に2~9 歳に好発する。男性にやや多い。成人発生は国内では約15%で,その約80%は21~40 歳に発生する。小児例と比較すると,小脳半球に発生することが多い。
2)臨床症状と画像所見
頭蓋内圧亢進症状が約半数と最も多く,頭痛,局所巣症状,脳神経麻痺などを呈する4)。第4 脳室を占拠し閉塞性水頭症をきたし,頭痛のほかに不機嫌,嘔気,嘔吐,意識障害を契機に診断される。体幹や四肢の失調も起こりやすい。
CT では境界が明瞭な等~高吸収域を示し,一様に強い造影効果を示すことが多いが,低吸収で造影効果を示さないもの,囊胞様変化を含むもの,石灰化を含む場合などもある。MRI ではT1 強調画像で低~等信号,T2 強調画像では等~高信号域を示すことが多く,T1 低信号・T2 高信号の小囊胞が散在し,全体として不均一な様相を呈する5-7)。ガドリニウム(Gd)造影では中等度から高度に造影増強されることが多いが,軽度造影されるものからほとんど造影されないものも10%程度存在する。造影増強効果は不均一(heterogenous)なことが多い。どの断面でも境界明瞭,ほぼ円形に描出される。診断時に大脳,脊髄に播種が認められる症例もある。
3)病理組織分類と分子生物学的知見(WHO 脳腫瘍分類2016)
2016 年のWHO 脳腫瘍分類1)では,古典的な髄芽腫(classic type)のほかに,3 種の亜型①desmoplastic/nodular medulloblastoma,②medulloblastoma with extensive nodularity,③large cell/anaplastic medulloblastoma が記述されている(表1)。
また,近年では遺伝子変異に基づいた分子生物学的4 型分類が提唱され8,9),予後との相関性の観点から2016 年のWHO 分類にも取り入れられた。これは当初WNT 遺伝子変異群,sonic hedgehog(SHH)遺伝子変異群,group 3,group 4 とされたが,group 3 と4 の種別が不十分であるとの判断から,WHO 分類ではまずWNT 群,SHH 群,non-WNT/non-SHH 群の3 群に分け,SHH 群はTP53 遺伝子変異の有無にて予後が大きく異なるため,さらに2 群に分けることとしている(表1)。
乳幼児(<3 歳),小児(3~17 歳)および成人(18 歳以上)という年齢区分に留意しつつ概略を述べると,WNT 群は80%が小児期症例であり,90%以上がclassic type を示す。予後が大変良好であり,10 年生存率はほぼ100%に近い。
SHH 群は,ほかに比較して男女差がなく全年齢層に均等に分布,病理組織ではclassic type とdesmoplastic/nodular type が多い。予後はWNT 群に次いで良好であるが,小児期症例では50%にTP53 変異を認め,そのうちの半数以上でgermline でもTP53 変異があり,これらの予後は不良である。
Group 3 は男性が女性のほぼ2 倍であり,70%が小児期に発生する。明らかに予後不良で5 年生存率は50~60%である。ほとんどがclassic type であるが,large cell/anaplastic medulloblastoma の比率や診断時の転移/播種率が最も高い。
Group 4 は最も頻度が高く(40%前後),病理組織ではclassic type がほとんどである。男性がほぼ3 倍,小児期に85%が発生し,5 年生存率は70%程度で,乳幼児期の治療成績が悪い。
今後はこれらの知見10,11)に基づいた臨床試験が行われ,外科的治療・放射線治療・化学療法の有効性が分子亜型ごとに示され変化していく可能性がある。本ガイドラインで取り上げた臨床試験や症例報告の多くは,上記の分子生物学的知見は考慮されたものでないことに注意する必要がある。
4)治療と予後
本腫瘍の治療は集学的治療(手術摘出と化学放射線療法)が原則であり,予後は治療法の発展により改善し,5 年生存率は50~70%となっている3,4)。すでに述べたように,乳幼児(<3 歳),小児(3~17 歳)および成人(18 歳以上)で各々の病態が異なり,組織型,分子生物学的分類,手術摘出度,播種などが予後に相関があると考えられているため,これらの特徴を踏まえて治療計画が立案される。臨床的には,年齢,播種の有無,摘出量からの臨床リスク分類が用いられる12-16)。すなわち,①診断時の年齢が3 歳未満,②術後のMRI における残存腫瘍面積が1.5 cm2以上,③髄腔内播種所見あり,により高リスク群(high-risk group)と標準リスク群(average-risk group)に大別する。標準リスク群は①~③のいずれにも該当しないグループ,高リスク群は①~③のいずれかに該当するグループとなる。さらに①の3 歳未満の症例では当面の放射線治療(RT)を回避する治療計画が立てられる(表2)。
5)診療の全体的な流れ
術前診断では,後頭蓋窩発生の上衣腫や毛様細胞性星細胞腫,atypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)との鑑別が難しい例がある。小脳半球に発生した場合,他のグリオーマ系腫瘍との鑑別が問題となる。
術前診断後に,合併する水頭症に対する緊急の処置が必要な例がある。
摘出後の治療方針に関しては,臨床リスク分類に応じて化学療法と放射線治療を組み合わせた治療を行う。このうち,3 歳未満群では放射線治療を極力回避し,化学療法を選択する。
❖ 文献
- 1)
- Louis DN, Ohgaki H, Wiestler OD, et al. WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System. Lyon, International Agency for Research on Cancer, 2016.
- 2)
- Bailey P, Cushing H. A Classification of Tumors of the Glioma Group on a Histogenetic Basis with a Correlated Study of Prognosis. Philadelphia:Lippincott;1926.
- 3)
- Ostrom QT, Cioffi G, Gittleman H, et al. CBTRUS Statistical Report:Primary Brain and Other Central Nervous System Tumors Diagnosed in the United States in 2012-2016. Neuro Oncol. 2019;21(Suppl 5):v1-v100.[PMID:31675094]
- 4)
- The committee of Brain Tumor Registry of Japan:Report of Brain Tumor Registry of Japan(2005-2008)14th ed. Neurol med Chir(Tokyo). 2017;57(Suppl 1):9-102.
- 5)
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- 6)
- Bühring U, Strayle-Batra M, Freudenstein D, et al. MRI features of primary, secondary and metastatic medulloblastoma. Eur Radiol. 2002;12(6):1342-8.[PMID:12042937]
- 7)
- Perreault S, Ramaswamy V, Achrol AS, et al. MRI surrogates for molecular subgroups of medulloblastoma. AJNR Am J Neuroradiol. 2014;35(7):1263-9.[PMID:24831600]
- 8)
- Northcott PA, Jones DT, Kool M, et al. Medulloblastomics:the end of the beginning. Nat Rev Cancer. 2012;12(12):818-34.[PMID:23175120]
- 9)
- Taylor MD, Northcott PA, Korshunov A, et al. Molecular subgroups of medulloblastoma:the current consensus. Acta Neuropathol. 2012;123(4):465-72.[PMID:22134537]
- 10)
- Kool M, Korshunov A, Remke M, et al. Molecular subgroups of medulloblastoma:an international meta-analysis of transcriptome, genetic aberrations, and clinical data of WNT, SHH, Group 3, and Group 4 medulloblastomas. Acta Neuropathol. 2012;123(4):473-84.[PMID:22358457]
- 11)
- Gajjar A, Bowers DC, Karajannis MA, et al. Pediatric Brain Tumors:Innovative Genomic Information Is Transforming the Diagnostic and Clinical Landscape. J Clin Oncol. 2015;33(27):2986-98.[PMID:26304884]
- 12)
- Chang CH, Housepian EM, Herbert C Jr. An operative staging system and a megavoltage radiotherapeutic technic for cerebellar medulloblastomas. Radiology. 1969;93(6):1351-9.[PMID:4983156]
- 13)
- Albright AL, Wisoff JH, Zeltzer PM, et al. Effects of medulloblastoma resections on outcome in children:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1996;38(2):265-71.[PMID:8869053]
- 14)
- Zeltzer PM, Boyett JM, Finlay JL, et al. Metastasis stage, adjuvant treatment, and residual tumor are prognostic factors for medulloblastoma in children:conclusions from the Children’s Cancer Group 921 randomized phase Ⅲ study. J Clin Oncol. 1999;17(3):832-45.[PMID:10071274]
- 15)
- Packer RJ, Sutton LN, Elterman R, et al. Outcome for children with medulloblastoma treated with radiation and cisplatin, CCNU, and vincristine chemotherapy. J Neurosurg. 1994;81(5):690-8.[PMID:7931615]
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- Packer RJ, Boyett JM, Janss AJ, et al. Growth hormone replacement therapy in children with medulloblastoma:use and effect on tumor control. J Clin Oncol. 2001;19(2):480-7.[PMID:11208842]
2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:髄芽腫の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後,QOL の改善
- (3)トピック:生命予後,機能予後,QOL の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍(15 歳未満および16~29 歳のadolescent and young adult:AYA 世代を含めた年齢)を診療する医療者や施設,患者・家族
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本では既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)臨床的課題
課題1:手術摘出
課題2:神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
課題3:放射線治療
課題4:陽子線治療
課題5:化学療法
課題6:再発時の治療
課題7:治療による晩期障害
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
- a)髄芽腫
- b)厚生省から示された小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満および16~29 歳のAYA 世代を含めた年齢)
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:2 カ月
文献の選出:3 カ月
エビデンス総体の評価と統合:4 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:なし
- 個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
- ②データベース
- 個別研究論文:PubMed
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- 2018 年12 月まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合は量的統合を実施。
課題1:外科的治療
- CQ1
- 肉眼的全摘出は生命予後を改善するか?
- 推奨度2C
- 推奨
髄芽腫患者に対して全摘出を行うことを提案する。
解説
髄芽腫に対する手術摘出度あるいは残存腫瘍量と予後の関係を前方視的試験によって解析した研究はない。1996 年にAlbright ら1)が,術者が評価した腫瘍摘出度は予後に相関しないものの,術後残存腫瘍の最大面積が1.5 cm2以上あると,髄液播種のみられない3 歳以上の症例ではPFS が短くなることを報告した。その後Zeltzer ら2)は術後残存腫瘍の最大面積1.5 cm2以上を予後因子に加えることを提唱し,髄液播種,年齢が3 歳以上,術後腫瘍残存量(最大断面面積1.5 cm2以上)を予後不良因子として,標準リスク群と高リスク群の臨床リスク分類に従って髄芽腫の治療を行うことが現在の標準となっている(Albright とZeltzer の論文はOS の検討がされていないことから,システマティックレビューからは除外された)。手術摘出度が真の予後因子であるのかについての検討は,症例集積あるいは後方視的コホート研究で検討するほかない。
2000 年にJenkin ら3)は,単一施設の連続173 例の後方視的検討で,2 回の手術を要した症例も含めた最終的な摘出率において,全摘出77 例,亜全摘(摘出率90~99%)50 例,部分摘出(摘出率50~89%)30 例,部分摘出(摘出率50%未満)16 例の5 年生存率はそれぞれ63%,50%,41%,17%と報告した。この摘出度は術者が決定しており,全摘出群は非全摘出群と比較して有意に(p=0.002)OS を延長したが,摘出後に標準的な放射線治療が遂行可能であった場合には,全摘出は有意な予後因子とはならなかった。したがって全摘出により合併症を起こす可能性が高い場合は,術後の合併症によって放射線治療を省略するよりはむしろ摘出を制限することも考慮すべきであると結論づけた。
2005 年のSFOP4)の多施設共同研究では,術後3 日以内の画像検査で確認された残存・転移のない群(R0M0)47 例について検討された。この報告では手術記録で摘出度を決定しており,残存腫瘍はないと記載されていれば全摘出とし,癒着が強く切除できなかったと記載があれば術後の画像検査で残存腫瘍を認めなくても全摘出とはせずに亜全摘出と定義した。亜全摘出群34 例の5 年PFS は0%であったのに対して全摘出群13 例では41%と有意に延長した(p=0.0065)ものの,OS では有意差はなかったとした。このように,摘出度を画像検査だけではなく,手術記録に基づいてのリスク階層化を導入している点で結果の解釈には注意が必要である。
2006 年のUrberuaga ら5)の単一施設79 例の検討では,術後画像検査で残存腫瘍がないことを全摘出と定義し,単変量解析でOS,PFS ともに全摘出が予後良好因子であり,多変量解析でも予後良好因子(HR=3.17,95% CI:1.64-6.15,p<0.01)であったと報告した。
一方で,2008 年のAkyüz ら6)の単一施設の203 例の後方視的検討では,手術摘出度は生存期間に影響しなかったと報告した。
このように,手術的摘出度の予後に対する影響は報告によってばらつきがみられる。しかし,これまでの報告全体としては,全摘出した場合にはOS もPFS も延長する傾向があることは確かである。ただし,手術によって神経症状を悪化させる危険性が高い場合には,無理に全摘出を行うことは控え,術後速やかに放射線治療を行うことが重要である。
2016 年のThompson ら7)の787 例の後方視的国際共同研究では,分子的亜型分類が組み込まれた。全摘出の予後因子としての効果は,多変量解析に分子的亜型分類を含めると大きく減衰した。全摘出は,術後腫瘍残存量が1.5 cm2以上と比較してPFS は延長した(HR=1.45,95% CI:1.07-1.95,p=0.02)が,全摘出と術後腫瘍残存量1.5 cm2未満ではOS,PFS ともに有意差はみられなかった(OS/HR=1.05,95% CI:0.71-1.53,p=0.82,PFS/HR=1.14,95% CI:0.75-1.72,p=0.55)。WNT,SHH,group 3 では,全摘出してもOS に影響がなかった。術後腫瘍残存量1.5 cm2未満に対する全摘出の絶対的利点はないため,神経学的悪化が予測される場合には,小さな残存腫瘍に対する手術摘出は勧められないというこれまでの方針を支持するものである。
分子的亜型分類を加味したエビデンスの構築が希求されており,分子亜型それぞれにおいて手術摘出度が生命予後にどのような影響を及ぼすかについては,現在も重要な臨床課題である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((“Epidemiologic Study Characteristics”[Mesh])OR “ Statistics as Topic[”Mesh]))OR “clinical study”[PT]))AND((((((((((medulloblastoma[mh])OR medulloblastoma*[tiab])OR((melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR((childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR medulloblastoma*[tiab])OR((desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR((adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab]))))AND((surgery[SH]OR surgery[TIAB]OR surgical[TIAB]OR “surgical procedures, operative”[MH]OR(surgical[TIAB]AND procedure*[TIAB]AND operative[TIAB])OR operative[TIAB]OR operation[TIAB]OR resect*[TIAB])))AND((prognosis[MH]OR prognos*[TIAB]OR “disease progression”[MH]OR(disease*[TIAB]AND progress*[TIAB])OR(disease*[TIAB]AND exacerbat*[TIAB])OR mortality[MH]OR mortal*[TIAB]OR(case*[TIAB]AND fatality[TIAB]AND rate*[TIAB])OR(death[TIAB]AND rate*[TIAB])OR “survival analysis”[MH]OR(surviv*[TIAB]AND(analysis[TIAB]OR analyses[TIAB]))OR “neoplastic processes”[MH]OR(neoplastic[TIAB]AND process*[TIAB]))))))AND 1900/1/1:2018/12/31[DP]
以上の検索式により662 文献を抽出し,一次スクリーニングで69 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に17 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。システマティックレビュー後のさらなる検討から7 文献を採用し,作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Albright AL, Wisoff JH, Zeltzer PM, et al. Effects of medulloblastoma resections on outcome in children:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1996;38(2):265-71.[PMID:8869053]
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- Jenkin D, Shabanah MA, Shail EA, et al. Prognostic factors for medulloblastoma.Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;47(3):573-84.[PMID:10837938]
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- 7)
- Thompson EM, Hielscher T, Bouffet E, et al. Prognostic value of medulloblastoma extent of resection after accounting for molecular subgroup:a retrospective integrated clinical and molecular analysis. Lancet Oncol. 2016;17(4):484-95.[PMID:26976201]
課題2:神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
- CQ2
- 手術後の予後因子は何か?
- 推奨度1B
- 推奨
予後因子として,組織型(予後良好な順でdesmoplastic nodular/extensive nodularity, classic, large cell/anaplastic),転移の有無(転移有が予後不良),遺伝子プロファイルで分類される亜型(WNT 型が予後良好)を用いることを推奨する。
解説
予後を予測する因子は実施する治療によって変わる。例えば,治療が摘出のみであれば,当然転移の有無と残存した腫瘍の大きさがOS に大きな影響を与える。また,放射線治療の導入,さらに有効な化学療法の採用によって予後因子は変化している。最新の治療を受けたコホートでは,後述の4 型の亜群によっては転移の有無すら予後を反映しない可能性が最近示されている1-3)。このように,リスク因子は解析対象としたコホートの治療によって変化するものであるので,本CQ では,これらの違いがあってもなおかつ検出される因子を採用することとした。
治療の層別化に用いる予後因子としては,治療反応性などではなく,診断後直ちに情報が得られる臨床情報(年齢,性別,転移の有無,病理組織型,術後腫瘍残存の有無など)が有用である。しかし,これらの因子は交絡が存在するため,多変量解析による結果が最も重要視される。ほぼすべての研究で予後因子として多変量解析で抽出されているのが,転移の有無,および組織型(classic, desmoplastic nodular/extensive nodularity, large cell/anaplastic)であった2,4-12)。一方,性別,年齢は解析されたほとんどの研究で予後因子とはならなかった1,2,6,8,11,13)。術後の腫瘍残存については,多変量解析が行われた9 編の解析のうち2 編で予後不良因子として抽出され7,13),1 編では単変量解析では有意であったものの,多変量解析では有意差は消失している11)。また,乳幼児に限定した解析では,単変量解析のみが行われた3 編の報告では予後不良因子として抽出されているが14-16),多変量解析を行った4 編の報告では3 編で予後因子として否定されている4-6)。以上のことから,現時点では独立した強力な予後因子として組織型,転移の有無を挙げることができる。組織型では,desmoplastic nodular/extensive nodularity が最も予後が良く,classic, large cell/anaplastic と続く。転移の有無では転移無が予後良好である。
2011 年に,遺伝子発現プロファイルに基づき,髄芽腫は少なくともWNT 型,SHH 型,non-WNT/non-SHH 型に分類されることが明らかとなり,2016 年のWHO 脳腫瘍分類でも採用されている2)。後者はさらにGroup 3 とGroup 4 に分類されることもある。これまでのところ,過去に集積された症例を世界中から集めた後方視的なコホートを用いた解析のデータにとどまるが,一貫してWNT 型が最も予後良好である。残りの2 群もしくは3 群間の予後の差はさほど顕著なものではない5)。しかし,基本的にWNT 型が存在しない乳幼児例に限定しての解析では,単変量解析ながら3 編すべての解析でSHH 型が予後良好であることが示されている3,16,17)。SHH 型の多くは上記に予後良好因子として記載したdesmoplastic nodular/extensive nodularity の組織型を有するため,多変量解析での検討が必要である。上記の3 型(または4 型)分類とは別個に,MYC 遺伝子の増幅が独立した予後不良因子であることが報告されている。しかし,その後4 型分類と組み合わせた解析ではGroup 3 以外では明らかではないことが示されている18)。
上述のように,髄芽腫は少なくとも3 種類以上の異なった疾患(亜群)からなる集合体であることから,現在はそれぞれの亜群の中での予後因子が提唱されているものの3,19,20),現時点では十分検証されたとまでは言えないため,今回各亜群別の予後因子の推奨は時期尚早と判断した。以上のことから,独立した強力な予後因子として,組織型,転移の有無,遺伝子プロファイルによる分類(WNT 型とそれ以外)を推奨する。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])))AND((((((“Combined Modality Therapy”[Mesh:NoExp]OR Chemoradiotherapy[mh]OR Chemotherapy, Adjuvant[mh]OR Radiotherapy, Adjuvant[mh])))OR((Adjuvant[tiab]AND(Chemoradiotherapy[tiab]OR Chemoradiotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab]OR chemothrapy[tiab]OR chemotherapies[tiab]OR radiotherapy[tiab]OR radiotherapies[tiab]OR “drug therapy”[tiab]OR “drug therapies”[tiab]))))OR(((Multimodal[tiab]AND(Treatment[tiab]OR treatments[tiab]OR therapy[tiab]OR therapies[tiab]))OR(“Combined Modality”[tiab]AND(therapy[tiab]OR therapies[tiab]))OR((Concurrent[tiab]OR Concomitant[tiab]OR Synchronous[tiab])AND(Chemoradiotherapy[tiab]OR Chemoradiotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab])))))OR((therapy planning[tiab]OR therapeutic planning[tiab]OR therapeutic design[tiab]OR treatment design[tiab]OR plan[tiab]OR planning[tiab])))))AND((“Epidemiologic Study Characteristics”[MH]OR “Statistics as Topic”[Mesh]OR “Clinical Study”[Publication Type]))))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により556 文献を抽出し,一次スクリーニングで37 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に20 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Fernandez-Teijeiro A, Betensky RA, Sturla LM, et al. Combining gene expression profiles and clinical parameters for risk stratification in medulloblastomas. J Clin Oncol. 2004;22(6):994-8.[PMID:14970184]
- 2)
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- 3)
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- 4)
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課題3:放射線治療
- CQ3
- 全脳脊髄照射において,標準線量からの線量低減または線量増加は有用か?
- 推奨度1D
- 推奨1
全脳脊髄照射において,標準リスク群に対して標準線量からの線量低減を行わないことを推奨する。
- 推奨度1D
- 推奨2
全脳脊髄照射において,高リスク群に対して標準線量からの線量増加を行わないことを推奨する。
解説
3 歳以上の髄芽腫に対する集学的治療において全脳脊髄照射(CSI)は必要不可欠であり,標準治療の一環として,CSI と後頭蓋窩または腫瘍床へのブースト照射(総線量54 Gy 程度)が通常分割照射法を用いて実施されている。現在,標準的なCSI 線量として,標準リスク群では24 Gy 程度(23.4 Gy/13 分割が頻用されている),高リスク群では36 Gy 程度(35.2~36 Gy/20~22 分割)が用いられている(CQ5,CQ6 参照)。標準リスク群に対する晩期障害軽減を目的としたCSI 線量低減,また高リスク群に対する治療成績改善を目的としたCSI 線量増加が試みられているが,現時点におけるそれらの意義や位置づけは確立していない。
1.標準リスク群に対する標準線量(24 Gy 程度)からのCSI 線量低減について
評価対象となった22 編1-22)中,標準線量未満のCSI が実施された試験は2 編のみであったが,そのうち1 編は18 Gy のCSI を実施された症例が全88 例中11 例(うち陽子線治療が3 例)と少なく1),残りの1 編は18 GyE(陽子線治療)のCSI 実施症例が含まれていたものの,18 GyE のCSI が実施された症例数は不明であった7)。なお,急性期有害事象,成長障害に関しては標準線量未満のCSI を実施した論文は認められなかった。
一般論としてCSI 線量低減により急性期および晩期障害のリスク低減が期待されるものの,上述したように標準リスク群に対するCSI 線量低減の有用性を検証するランダム化比較試験もしくは傾向スコア・マッチング研究は存在せず,併用化学療法の有無や種類・タイミングに深刻なばらつきを認めたため,CSI 線量低減による生存率および急性期・晩期障害に対する影響の評価は極めて困難であった。また化学療法に関しては,我が国において使用できないlomustine(CCNU)が含まれるレジメンが散見された。これらのバイアスリスク,非直接性を考慮した結果エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。
上記システマティックレビューの結果から,CSI 線量低減が生存率および急性期・晩期障害に及ぼす影響を評価することは困難であった。またCSI 線量低減により急性期・晩期障害のリスク低減が得られる可能性は期待されるものの,生存率の維持が可能と判断する根拠に乏しく,線量低減に伴う生存率低下のリスクが危惧される。そのため,現状ではCSIにおいて,標準リスク群に対して標準線量からの線量低減を行わないことを提案することが妥当と判断した。
なお,システマティックレビュー対象外の文献ではあるが,2021 年6 月にACNS033123)が出版されたため,重要文献として本ガイドラインに記載する。ACNS0331 は標準リスク群に対してブースト照射として後頭蓋照射を実施する群と,腫瘍床照射を実施する群にランダム化割付し検証した第Ⅲ相試験である。さらに本試験では3~7 歳の226 例に対してCSI 線量を23.4 Gy 群と18 Gy 群にランダム化割付し,primary endpoint である無イベント生存割合(EFS)を検証した。その結果,認知機能は23.4 Gy 群において有意に低下したものの,5 年時点でのEFS は23.4 Gy 群では82.9%,18 Gy 群では71.4%であり,18 Gy 群は23.4 Gy 群と比較してEFS が有意に短かった(HR=1.07, 80% CI:2.10, p=0.028)。また5 年時点での全生存割合(OS)は23.4 Gy 群では85.6%,18 Gy 群では77.5%であり,18 Gy 群は23.4 Gy 群と比較してOS が有意に短く(p=0.049),今回の推奨を支持する結果であった。
2.高リスク群に対する標準線量(36 Gy 程度)からのCSI 線量増加について
二次スクリーニング後の35 文献のうち,対象が高リスク群かつ設定されたアウトカムに関する記載のある文献は11 編であった。11 編中4 編(POG963124),HIT200025),POG903126),SJMG-9612)において標準線量よりも高いCSI 線量が用いられていた。生存率では9 編4,7,12,24-29),急性期有害事象では7 編12,24-27,29,30),二次がんは4 編4,18,26,29),精神・認知機能障害では1 編7),聴力障害では4 編7,25,27,30),内分泌機能障害では1 編7)が評価対象となり,成長障害に関しては該当する文献を認めなかった。CSI 線量増加により二次がんの発生率は同等かつ生存率を改善する可能性が示唆されたが,上述したように高リスク群に対する線量増加群vs. 標準線量群の治療成績を検証するランダム化比較試験もしくは傾向スコア・マッチング研究が存在せず,高リスクである定義や根拠,化学療法の有無・種類・タイミングに深刻なばらつきを認めたため,線量増加による生存率および急性期・晩期障害の評価は極めて困難であった。また,化学療法に関しては我が国において使用できないCCNU が含まれるレジメンが散見された。そのため,すべてのアウトカムにおいて,深刻なバイアスリスク・非直接性が存在し,エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。
上記システマティックレビューの結果から,線量増加に伴い益(生存率の改善)を得られる可能性は否定できないが,同時に害(晩期障害の増加)も危惧された。小児がんである髄芽腫患者において,治癒が得られた際にQOL の低下・社会生活の妨げとなる害(晩期障害の増加)を考慮する必要性は極めて高い。エビデンスレベルが非常に弱い現状においては,益よりも害を考慮し,CSI において,高リスク群に対して標準線量からの線量増加を行わないことを提案することが妥当と判断した。
- 注意:
- lomustine(CCNU)は国内未承認
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((medulloblastoma)AND radiotherapy))AND(Comparative Study[ptyp]OR Clinical Trial[ptyp])AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により241 文献を抽出し,一次スクリーニングで106 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に35 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Clinical Outcomes Among Children With Standard-Risk Medulloblastoma Treated With Proton and Photon Radiation Therapy:A Comparison of Disease Control and Overall Survival. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;94(1):133-8.[PMID:26700707]
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- Carrie C, Muracciole X, Gomez F, et al.;French Society of Pediatric Oncology. Conformal radiotherapy, reduced boost volume, hyperfractionated radiotherapy, and online quality control in standard-risk medulloblastoma without chemotherapy:results of the French M-SFOP 98 protocol. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2005;63(3):711-6.[PMID:15927408]
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課題4:陽子線治療
- CQ4
- 放射線治療として陽子線治療は推奨されるか?
- 推奨度2D
- 推奨
放射線治療として陽子線治療を行うことを条件付きで提案する。
解説
小児がんに対する陽子線治療が保険適用となったものの,現状ではアクセスが限られることが問題である。このような中,広く普及し従来標準的に用いられてきたX 線治療に比し,陽子線治療の優位性を明らかにすることは重要である。そこで本CQ が設定された。
選択された12 文献には,ランダム化比較試験をはじめとするエビデンスレベルの高い報告はなく,定性的システマティックレビューを実施した。
各アウトカムの評価対象となった研究は,多くても4 編,ほとんどが観察研究(前方視的または後方視的コホート研究)であったが,医療費のみモデル解析であった。
評価対象となった研究に基づくエビデンス総体の評価結果は,生存率1-4),脳・脊髄障害5)については,陽子線治療とX 線治療で明らかな差はなく,急性期有害事象6),成長障害7),精神・認知機能障害1,4,8),聴力障害1,4,9),内分泌機能障害1,4,7)については,陽子線治療はX 線治療と比べて軽減できる可能性が示されたが,ほとんどの研究が非直接性・バイアスリスク・不精確さにおいて深刻またはとても深刻と判定されたため,エビデンスの強さは生存率,内分泌機能障害が弱い,それ以外は非常に弱いと判断された。また,医療費10-12)については,陽子線治療はX 線治療と比べて低減できる可能性が示されたが,いずれもモデル解析である上に,モデル計算の根拠となる有害事象軽減のエビデンスの多くが非常に弱く,深刻な非直接性・バイアスリスク・不精確さがあるため,エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。なお,二次がん3,4)については,陽子線治療とX 線治療の優劣は判断困難と考えられた。
放射線治療として陽子線治療を用いて,線量増加等の積極的に治療成績を改善する試みはなく,現在までの報告では治療成績はX 線治療とほぼ同等であり,益(生存率の改善)が得られる可能性は少ない。一方,害(有害事象)を減らせる可能性があるということが示唆されるものの,そのエビデンスの強さは非常に弱い。また,陽子線治療施設数が少ないため,希望しても適切なタイミングでの治療を受けられない可能性がある。陽子線治療装置の導入・運用コストは高額である一方で医療費全体としては減らせる可能性が示唆されるものの,試算の根拠となる有害事象軽減に関するエビデンスの強さは前述のように非常に弱い。また,患者(家族)の医療費負担は発症が20 歳未満であればX 線治療と同じであるが,施設が近隣にない場合は移動や宿泊のコストが発生する。以上を総合的に判断した結果,希望するタイミングで治療を受けられる,施設が近隣にあるといった条件が合致する患者には陽子線治療を提案してもよいと考えた。
よって,本CQ に対する推奨は,「放射線治療として陽子線治療を条件付きで行うことを提案する(2D)」とした。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(proton AND(medulloblastoma OR craniospinal irradiation))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により149 文献を抽出し,一次スクリーニングで35 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に12 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Jimenez RB, Sethi R, Depauw N, et al. Proton radiation therapy for pediatric medulloblastoma and supratentorial primitive neuroectodermal tumors:outcomes for very young children treated with upfront chemotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2013;87(1):120-6.[PMID:23790826]
- 2)
- Sethi RV, Giantsoudi D, Raiford M, et al. Patterns of failure after proton therapy in medulloblastoma;linear energy transfer distributions and relative biological effectiveness associations for relapses. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2014;88(3):655-63.[PMID:24521681]
- 3)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Clinical Outcomes Among Children With Standard-Risk Medulloblastoma Treated With Proton and Photon Radiation Therapy:A Comparison of Disease Control and Overall Survival. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;94(1):133-8.[PMID:26700707]
- 4)
- Yock TI, Yeap BY, Ebb DH, et al. Long-term toxic effects of proton radiotherapy for paediatric medulloblastoma:a phase 2 single-arm study. Lancet Oncol. 2016;17(3):287-98. [PMID:26830377]
- 5)
- Giantsoudi D, Sethi RV, Yeap BY, et al. Incidence of CNS Injury for a Cohort of 111 Patients Treated With Proton Therapy for Medulloblastoma:LET and RBE Associations for Areas of Injury. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;95(1):287-96.[PMID:26691786]
- 6)
- Song S, Park HJ, Yoon JH, et al. Proton beam therapy reduces the incidence of acute haematological and gastrointestinal toxicities associated with craniospinal irradiation in pediatric brain tumors. Acta Oncol. 2014;53(9):1158-64.[PMID:24913151]
- 7)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Endocrine outcomes with proton and photon radiotherapy for standard risk medulloblastoma. Neuro Oncol. 2016;18(6):881-7.[PMID:26688075]
- 8)
- Pulsifer MB, Sethi RV, Kuhlthau KA, et al. Early Cognitive Outcomes Following Proton Radiation in Pediatric Patients With Brain and Central Nervous System Tumors. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015;93(2):400-7.[PMID:26254679]
- 9)
- Moeller BJ, Chintagumpala M, Philip JJ, et al. Low early ototoxicity rates for pediatric medulloblastoma patients treated with proton radiotherapy. Radiat Oncol. 2011;6:58.[PMID:21635776]
- 10)
- Lundkvist J, Ekman M, Ericsson SR, et al. Cost-effectiveness of proton radiation in the treatment of childhood medulloblastoma. Cancer. 2005;103(4):793-801.[PMID:15637691]
- 11)
- Vega RBM, Kim J, Bussière M, et al. Cost effectiveness of proton therapy compared with photon therapy in the management of pediatric medulloblastoma. Cancer. 2013;11(9 24):4299-307.[PMID:24105630]
- 12)
- Hirano E, Fuji H, Onoe T, et al. Cost-effectiveness analysis of cochlear dose reduction by proton beam therapy for medulloblastoma in childhood. J Radiat Res. 2014;55(2):320-7.[PMID:24187330]
課題5:化学療法
- CQ5
- 3 歳以上の標準リスク群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度1B
- 推奨
シスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした多剤併用化学療法と,24 Gy 程度の全脳脊髄照射と総線量54 Gy 程度の局所照射を組み合わせた通常分割放射線治療による,術後化学放射線治療を推奨する。
解説
本疾患は放射線治療および化学療法が有効な治療であることが既知の事実であり,現在の3 歳以上標準リスク群の髄芽腫治療においては術後に両者を行うのが一般的になっている。一方,その急性期および晩期の合併症は,生命の危機を及ぼすことがあり,かつ長期生存者のQOL を著しく低下させることが知られている。したがって,益と害のバランスを考慮した術後治療の推奨は重要な臨床課題であると考える。
髄芽腫の治療の黎明期において,腫瘍摘出術のみでは髄芽腫は不治の病であったが,術後放射線治療,特に全脳脊髄照射(CSI)の導入後,髄芽腫は治癒を期待できる疾患となった。しかしながら,発達中の小児の脳,特に大脳に高線量の放射線治療を行った結果,生存者に重度の発達障害を起こすことが判明した。脳への照射を軽減するためにCSI の線量を低減する試みがランダム化比較試験として行われたが,CSI 線量36 Gy 群と23.4 Gy 群の再発率が7.9% vs. 28.3%(p<0.01)と単純なCSI 減量は再発率を有意に上昇させることが示された1)。
その後,放射線治療に化学療法を追加することで,生存率の向上を目指す比較臨床試験が複数行われた。米国と欧州で約36 Gy のCSI にビンクリスチン,lomustine(CCNU)ベースの化学療法を追加する2 つのランダム化比較試験が行われた。米国試験(局所50~55 Gy,CSI を35~40 Gy)では髄芽腫全体では化学療法追加による有意な生存率向上は認めず,転移のない患者群の5 年無イベント生存割合(event-free survival:EFS)は59%であった2)。欧州試験(局所55 Gy,全脳35~45 Gy,全脊髄30~35 Gy)でも化学療法の上乗せ効果は認めず,転移のない群の5 年生存率は64.6%であった3)。
その後,米国ではPacker らによって開発が行われてきたビンクリスチンとCCNU の併用にシスプラチンを加えたレジメンの検証が行われた。この試験ではCSI 線量を23.4 Gy に減量したのにも関わらず,5 年EFS 79.7%という非常に良好な生存率が得られた4)。このことは,CSI の線量を多くするよりも,シスプラチンを含む有効な化学療法を併用することの方が予後の向上に重要であることを示している。引き続き行われたCOG A9961 試験では,このレジメンのCCNU をシクロホスファミドに置換したレジメンの優越性がRCT で検証されたが,優越性は示すことができず,感染症などの重篤な有害事象が多いという結果であった。そのため,現在に至るまでCCNU を含むPacker レジメンと23.4 Gy CSI に局所ブーストを行う方法が世界的に標準治療となっている5)。続いて米国St.Jude 小児病院から,23.4 Gy のCSI と局所ブースト照射の後に,化学療法の間隔を開けないために自己末梢血幹細胞救援を併用したシスプラチン,大量シクロホスファミド,ビンクリスチンの3 剤による化学療法を4 回繰り返す方法を行い,5 年EFS 83%と優れた結果が報告され,一定量以上のシクロホスファミドの有効性が示された6)。
一方,欧州ではSIOP と英国小児がん研究グループ(United Kingdom Children’s Cancer Study Group:UKCCSG)の共同研究でシクロホスファミド,カルボプラチン,ビンクリスチン,エトポシドによる多剤併用化学療法を35 Gy CSI とブースト照射の前後に行った(サンドイッチ療法)群と,放射線治療単独で治療した群を比較する臨床試験が行われた。OS では有意差を認めなかったが,5 年EFS では74.2% vs. 59.8%(p=0.04)と有意に化学療法群の生存率が高かった7)。
以上のことから,標準リスクでは効果の弱い化学療法では放射線治療への上乗せ効果は見られないが,CCNU とビンクリスチンにシスプラチンを加えて用いることでCSI の線量を36 Gy から23.4 Gy に軽減することが可能となった。なお,lomustine(CCNU)が未承認のわが国ではCOG A9961 試験でシクロホスファミドに置換したレジメンでもCCNU レジメンと近似したEFS が得られたことから,シクロホスファミドに置換したレジメンが実地臨床では広く使われている。
放射線治療と化学療法の実施の順序については,欧米で術後に放射線治療前に1~2コースの化学療法を組み入れるいわゆるサンドイッチ療法の検討が行われた。欧州では,プロカルバジン,ビンクリスチン,メトトレキサート多剤併用化学療法8)あるいはシスプラチン,イホスファミド,大量メトトレキサート,エトポシド,シタラビン(AraC)による多剤併用化学療法9,10)を放射線治療の前に挟み込むことの有用性の検討がランダム化比較試験で行われたが,ともに有用性を示すことができなかった。また,8 in 1 レジメンという8 種類の抗がん剤を1 日で投与する多剤併用化学療法を放射線治療前に行い標準リスク群でCSI 軽減(全脳27 Gy,全脊髄30~36 Gy)を目指す単アーム試験が行われた。7 年EFS 62%と従来と匹敵する結果が得られたが,放射線治療先行との比較は行われていない11)。以上の結果より,標準リスク群髄芽腫の術後治療は,放射線治療のあとに化学療法を行うことが一般的になった。サンドイッチ療法は1 コースの化学療法の後に放射線治療を行うために,化学療法がビンクリスチン投与を除いて約2 カ月中断するという問題がある。
欧州では,過分割照射36 Gy CSI と通常分割照射の23.4 Gy CSI を無作為割り付けし,シスプラチン,CCNU,ビンクリスチンを投与した国際的治療グループによるランダム化比較試験を行ったが,5 年EFS 78% vs. 77%と,過分割照射の優越性は示せなかった12)。フランスで行われたCSI 36 Gy(36 分割)と68 Gy(68 分割)の過分割照射のみで後治療を行った試験で,3 年EFS 81%という生存率は興味深いが,放射線治療単独の本戦略の評価には長期成績の報告を待たなければならないであろう13)。
髄芽腫の治療選択において,副作用および治療後のQOL は非常に重要な要素である。本CQ を検討する際に評価した複数の論文で,急性合併症が報告されているが,放射線治療や化学療法の種類によって急性毒性の差を認めていない。また,晩期合併症を治療レジメンごとに比較した論文はないが,放射線量が少ないレジメンの方が二次がん,認知機能低下,内分泌機能などの影響が少ないと理論的に推論することは妥当である。
これらのアウトカムのエビデンスより,シスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンによる多剤併用化学療法に,24 Gy 程度の通常分割全脳脊髄照射と局所追加照射を組み合わせた放射線治療による術後化学放射線治療を推奨する。
- 注意:
- lomustine(CCNU):国内未承認
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シタラビン(cytarabine):髄芽腫に対しては保険適応外
8 in 1 レジメン:メチルプレドニゾロン,ビンクリスチン,lomustine,プロカルバジン,ハイドロキシウレア(髄芽腫には保険適応外),シスプラチン,シタラビン,シクロホスファミドの8 種類の薬剤を1 日に投与する化学療法
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radio-therapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。CQ5 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの7 文献,EFS アウトカムの13 文献,有害事象・QOL アウトカムの13 文献を採用した。
❖ 文献
- 1)
- Deutsch M, Thomas PR, Krischer J, et al. Results of a prospective randomized trial comparing standard dose neuraxis irradiation(3,600 cGy/20)with reduced neuraxis irradiation(2,340 cGy/13)in patients with low-stage medulloblastoma. A Combined Children’s Cancer Group-Pediatric Oncology Group Study. Pediatr Neurosurg. 1996;24(4):167-76;discussion 76-7.[PMID:8873158]
- 2)
- Evans AE, Jenkin RD, Sposto R, et al. The treatment of medulloblastoma. Results of a prospective randomized trial of radiation therapy with and without CCNU, vincristine, and prednisone. J Neurosurg. 1990;72(4):572-82.[PMID:2319316]
- 3)
- Tait DM, Thornton-Jones H, Bloom HJ, et al. Adjuvant chemotherapy for medulloblastoma:the first multi-centre control trial of the International Society of Paediatric Oncology(SIOP Ⅰ). Eur J Cancer. 1990;26(4):464-9.[PMID:2141512]
- 4)
- Packer RJ, Goldwein J, Nicholson HS, et al. Treatment of children with medulloblastomas with reduced-dose craniospinal radiation therapy and adjuvant chemotherapy:A Children’s Cancer Group Study. J Clin Oncol. 1999;17(7):2127-36.[PMID:10561268]
- 5)
- Packer RJ, Gajjar A, Vezina G, et al. Phase Ⅲ study of craniospinal radiation therapy followed by adjuvant chemotherapy for newly diagnosed average-risk medulloblastoma. J Clin Oncol. 2006;24(25):4202-8.[PMID:16943538]
- 6)
- Gajjar A, Chintagumpala M, Ashley D, et al. Risk-adapted craniospinal radiotherapy followed by high-dose chemotherapy and stem-cell rescue in children with newly diagnosed medulloblastoma(St Jude Medulloblastoma-96):long-term results from a prospective, multicentre trial. Lancet Oncol. 2006;7(10):813-20.[PMID:17012043]
- 7)
- Taylor RE, Bailey CC, Robinson K, et al.;International Society of Paediatric Oncology;United Kingdom Children’s Cancer Study Group. Results of a randomized study of preradiation chemotherapy versus radiotherapy alone for nonmetastatic medulloblastoma:The International Society of Paediatric Oncology/United Kingdom Children’s Cancer Study Group PNET-3 Study. J Clin Oncol. 2003;21(8):1581-91.[PMID:12697884]
- 8)
- Bailey CC, Gnekow A, Wellek S, et al. Prospective randomised trial of chemotherapy given before radiotherapy in childhood medulloblastoma. International Society of Paediatric Oncology(SIOP)and the(German)Society of Paediatric Oncology(GPO):SIOP Ⅱ. Med Pediatr Oncol. 1995;25(3):166-78.[PMID:7623725]
- 9)
- von Hoff K, Hinkes B, Gerber NU, et al. Long-term outcome and clinical prognostic factors in children with medulloblastoma treated in the prospective randomised multicentre trial HIT’91. Eur J Cancer. 2009;45(7):1209-17.[PMID:19250820]
- 10)
- Kortmann RD, Kühl J, Timmermann B, et al. Postoperative neoadjuvant chemotherapy before radiotherapy as compared to immediate radiotherapy followed by maintenance chemotherapy in the treatment of medulloblastoma in childhood:results of the German prospective randomized trial HIT’91. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;46(2):269-79.[PMID:10661332]
- 11)
- Gentet JC, Bouffet E, Doz F, et al. Preirradiation chemotherapy including “eight drugs in 1 day” regimen and high-dose methotrexate in childhood medulloblastoma:results of the M7 French Cooperative Study. J Neurosurg. 1995;82(4):608-14.[PMID:7897523]
- 12)
- Lannering B, Rutkowski S, Doz F, et al. Hyperfractionated versus conventional radiotherapy followed by chemotherapy in standard-risk medulloblastoma:results from the randomized multicenter HIT-SIOP PNET 4 trial. J Clin Oncol. 2012;30(26):3187-93.[PMID:22851561]
- 13)
- Carrie C, Muracciole X, Gomez F, et al.;French Society of Pediatric Oncology. Conformal radiotherapy, reduced boost volume, hyperfractionated radiotherapy, and online quality control in standard-risk medulloblastoma without chemotherapy:results of the French M-SFOP 98 protocol. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2005;63(3):711-6.[PMID:15927408]
- CQ6
- 3 歳以上の高リスク群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
36 Gy 程度の全脳脊髄照射と54 Gy 程度の局所照射を術後に行い,その後にシスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした治療強度を増した多剤併用化学療法を複数コース行うことを提案する。
解説
髄芽腫の標準リスク群のCQ5 で解説したように,全脳脊髄照射(CSI)の導入後,髄芽腫は治癒を期待できる疾患となった。しかしながら,残存腫瘍または播種を伴う高リスク群では,標準リスク群に比べ生存率が低く,化学療法の併用を行っても満足のいく治療成績を得るには至っていない。米国と欧州で放射線治療にビンクリスチン,lomustine(CCNU)ベースの化学療法を追加する2 つのランダム化比較試験が行われた。
米国試験(局所50~55 Gy,CSI を35~40 Gy)では腫瘍が大きく転移もあった群のサブ解析において,放射線治療単独群では5 年EFS が0%であったのに対し,化学療法併用群で46%と有意に高い5 年EFS を得た(p=0.006)1)。一方,欧州試験(局所55 Gy,全脳35~45 Gy,全脊髄30~35 Gy)のランダム化比較試験においても,中間解析で腫瘍が大きかった,あるいは亜全摘であった群において5 年EFS の差が両群間で有意に高く,化学療法の追加効果が顕著であった。そのため欧州試験は途中で打ち切られ,術後残存腫瘍がある群では長期追跡後の生存率も最終的に有意に高かった2)。ただし,この試験では転移については評価されていない。欧州で,プロカルバジン,ビンクリスチン,メトトレキサート多剤併用化学療法を放射線治療の前に追加するランダム化比較試験が行われたが,高リスク群において,化学療法追加群と追加しない群の5 年EFS に有意な差は認めなかった(56% vs. 53%,p=0.7)3)。また8 in 1 レジメンを放射線治療前に行うCSI 軽減(全脳27 Gy 全脊髄30~36 Gy)アーム試験が行われたが,高リスク群で7 年EFS 45%と改善は認めなかった4)。
その後,欧米で化学療法を強化する試みが行われ,米国のCCG921 試験では,術後に放射線治療(CSI 36 Gy+局所線量54 Gy)と照射中のビンクリスチン投与を行い,その後8 in 1 とビンクリスチン/CCNU/プレドニゾロン(VCP)の2 つの化学療法レジメンを比較するRCT が行われた。結果は,高リスク群では,VCP 治療の方が8 in 1 レジメンより5 年PFS を有意に延長した(63±5% vs. 45±5%,p=0.006)5)。一方,米国のPOG9031 では高リスク群に通常分割の放射線治療を強化し(CSI 40 Gy+局所線量54.4 Gy),シスプラチン/エトポシド/シクロホスファミド/ビンクリスチンによる化学療法を放射線治療の前後に行うサンドイッチ療法と通常の放射線治療後に行う方法に割り付けるランダム化比較試験が行われた。化学療法スケジュールによるEFS とOS 差は認めなかったが,5 年EFS 68.1±3%,5 年OS 74.6±3%と比較的良好な生存率を得た6)。米国St.Jude 小児病院から化学療法の間隔を開けないために自己末梢血幹細胞救援を併用したシスプラチン,大量シクロホスファミド,ビンクリスチンの3 剤による化学療法を4 回繰り返す方法を,36~39.6 Gy のCSI と局所ブーストの後に行い,5 年EFS 70%,5 年OS 70%と高リスク群では最も良好な生存率を示した7)。
一方,ドイツのHIT2000 試験においては,4 歳以上の高リスク群においても,メトトレキサートの脳室内投与の効果を検証している。メトトレキサートは予定量の75%以上投与した症例で予後改善(EFS 61.5% vs. 46.2%,p=0.004)しており,年長児の高リスク群に対するメトトレキサート脳室内投与の有効性を示した8)。
米国COG では,放射線治療中の併用抗がん剤としてビンクリスチンの他に,放射線増感薬としての効果を期待してカルボプラチンを併用する第Ⅰ/Ⅱ相試験が77 例の転移症例を対象に実施された。少量のカルボプラチンをCSI 36 Gy と局所ブースト照射中に30 日間連続投与するもので,照射後にビンクリスチンとシクロホスファミドによる化学療法を実施した。後半の症例では照射後化学療法にシスプラチンを追加した。全体での5 年EFS71%という良好な生存率を得られたが,シスプラチンの追加は予後の向上をもたらさなかった9)。
高リスク群でも術後に放射線治療前後に化学療法を挟み込むサンドイッチ療法の有用性が検証された。ドイツで行われたHIT’91 試験では,放射線治療(CSI 35.2 Gy,局所55.2 Gy)後にいわゆる標準リスク群におけるPacker レジメン(シスプラチン/CCNU/ビンクリスチン)を投与する方法と,シスプラチン/イホスファミド/メトトレキサート/エトポシド/シタラビンによる多剤併用化学療法を放射線治療前後に行う方法とのランダム化比較試験が行われ,その長期フォローアップデータによると,髄液播種を有する群10 年のOS70%/34%(p=0.02),脊髄転移や遠隔転移を有する群の10 年OS 42%/45%(p=0.99)であり,髄液播種を有する症例に限ると放射線治療後にPacker レジメンを投与した群のほうが良好な生存率であった10,11)。欧州ではさらに,SIOP/UKCCSG によるPNET-3 試験が行われたが,同様に放射線治療前に化学療法行うことの有用性は認められなかった12)。
標準リスク群と同様に高リスク群においても,過分割照射の有用性を検討する臨床試験が行われた。米国CCG9931 試験において,化学療法先行後に過分割照射(CSI 40 Gy+局所線量72 Gy)を行ったが,5 年EFS 43%±5%,5 年OS 52%±5%と生存率の改善は認めなかった13)。
以上をまとめると,高リスク群髄芽腫の術後治療において,初期の研究では放射線単独治療であったが,まったく治癒が得られず,その後,化学療法の併用や過分割照射についてさまざまな工夫がなされてきた。しかし,いかなる化学療法を用いてもCSI 36 Gy では5 年EFS は60~70%までにとどまり,CSI の線量の減量にも成功していない。今後は,さらなる分子生物学的リスク細分化によって,治療の強化が有効な群,CSI 減量などの治療軽減を目指す群,新規治療薬を試す群と,層別化・個別化治療を行って,高リスク群の治療開発を続けていかなくてはならない。このように標準治療は定まっていない中で,第Ⅰ/Ⅱ相試験ではあるが,米国COG のカルボプラチンと放射線の併用療法が毒性も考えると有望な治療法とも考えられる。
これらのアウトカムのエビデンスより,3 歳以上の高リスク群髄芽腫の標準的術後治療は,より高い生存率という益を最優先して治療を選択するという論点より,まだ開発途上の状況ではあるが,36 Gy 程度の全脳脊髄照射と54 Gy 程度の局所照射を術後に行い,その後にシスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした多剤併用化学療法を一定の期間での薬剤投与量(dose intensity)を最大化するなど治療強度を増すことを提案する。
- 注意:
- lomustine(CCNU):国内未承認
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シタラビン(cytarabine):髄芽腫に対しては保険適応外
8 in 1 レジメン:メチルプレドニゾロン,ビンクリスチン,lomustine,プロカルバジン,ハイドロキシウレア(髄芽腫には保険適応外),シスプラチン,シタラビン,シクロホスファミドの8 種類の薬剤を1 日に投与する化学療法
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radio-therapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。CQ6 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの9 文献,EFS アウトカムの13 文献,有害事象・QOL アウトカムの10 文献を採用した。
❖ 文献
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- CQ7
- 3 歳未満の群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度2D
- 推奨1
乳幼児の髄芽腫において,転移がなくdesmoplastic nodular/extensive nodularity サブタイプの患者群では,放射線治療を行わず,メトトレキサート(脳室内または髄腔内投与を含む),白金製剤,アルキル化剤,ビンクリスチン,エトポシドを中心とした多剤併用化学療法による術後治療を提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
Desmoplastic nodular/extensive nodularity 以外の組織学的サブタイプおよび転移がある場合は,標準的な後治療は確立されておらず,上記の治療に大量化学療法や局所放射線療法を組み合わせた強化治療を行うことを提案する。
解説
3~4 歳未満の乳幼児の髄芽腫治療において,放射線治療,特に全脳脊髄照射(CSI)の,精神運動発達に及ぼす影響は甚大であり,乳幼児の治療戦略として,CSI は選択肢にはなりにくい。治療選択肢の限界と,腫瘍の持つ治療抵抗性の特性が合わさり,全体として乳幼児の髄芽腫は再発死亡リスクが高いと考えられてきた。しかしながら,病理亜分類および分子生物学的特性から,乳幼児の髄芽腫の中には,放射線治療を行わず,または局所放射線治療のみで,長期生存が可能な一群が存在することが明らかになった。したがって,乳幼児髄芽腫においてもリスク分類を行い,それぞれの群で益と害のバランスを考慮して術後治療の推奨を行う。
1990 年代に米国とフランスで,放射線治療を回避し多剤併用化学療法のみで初期治療を行った臨床試験が行われた。フランスのSFOP では,カルボプラチンおよびプロカルバジン,エトポシドおよびシスプラチン,ビンクリスチン,シクロホスファミドの3 種の化学療法を術後に7 サイクル行う単アーム第Ⅱ相試験が行われた。5 歳未満の79 人が登録され,全体の5 年PFS は残存なし(R0)転移なし(M0)群73%,残存あり(R1)M0 群で41%,残存問わず(Rx)転移あり(M+)群で13%であった1)。また,米国CCG-9921 試験は。3 歳未満のあらゆる悪性脳腫瘍を対象としたランダム化第Ⅱ相試験で,術後に2 つの多剤併用化学療法レジメン,レジメンA:ビンクリスチン,シスプラチン,シクロホスファミド,およびエトポシドの組み合わせ,またはレジメンB:ビンクリスチン,カルボプラチン,イホスファミドおよびエトポシドのいずれかに割り付けられ両群とも5 コースの化学療法が行われた。治療開始前に転移がなく化学療法後に残存腫瘍がなかった患者は放射線治療を行わず治療終了,転移がなく残存があった症例はその時点で生後18カ月以上ならCSI と局所放射線治療,18 カ月未満は局所放射線治療のみを行い治療終了,転移症例はCSI と局所放射線治療を行って治療終了した。髄芽腫92 例の5 年無イベント生存割合(EFS)は32%であった。レジメンA 群とB 群の5 年EFS はそれぞれ37%と26%と有意差は認めなかった2)。
同時期にドイツでは,乳幼児髄芽腫に対して,メトトレキサート脳室内投与を含んだ多剤併用化学療法の単アーム第Ⅱ相臨床試験が行われた(HIT-SKK1992)。43 人の3 歳未満の髄芽腫に,術後カルボプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチン,エトポシドの全身投与に加え,メトトレキサート脳室内投与と大量メトトレキサート療法を加えた9 週間サイクルの化学療法を3 回行った。初期治療で放射線治療は行わなかった。全体の5 年EFS は58%であった。R0M0,R+M0,RxM+群の5 年EFS はそれぞれ,82%,50%,33%であった。既知の転移の有無に加え,乳幼児の髄芽腫の組織学的サブタイプが強力な予後因子であることが本試験で明らかになった。Desmoplastic nodular type とclassic type の5 年EFS はそれぞれ85%と34%と有意差を認め,組織学的サブタイプが独立したリスク因子であった3)。さらに後継レジメンHIT2000 においても同様の結果が確認され,メトトレキサート脳室内投与を予定通り投与できた患者の方が,投与量が少なかった患者よりも予後が良いという結果が報告された4)。メトトレキサート脳室内投与の神経毒性は懸念されるが,HIT2000 で同治療を受けた評価可能な202 例の小児髄芽腫患者中,神経毒性を認めたのは9 例であった4)。
米国COG は,3 歳未満の転移のない乳幼児髄芽腫74 例に対して,化学療法と局所放射線治療を組み合わせる臨床試験(P9934)を行った。シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を4 コース行ったあと,残存腫瘍にはセカンドルック手術を推奨し,局所放射線治療を行い,シクロホスファミド,ビンクリスチン,経口エトポシドによる維持療法を行った。全体の4 年EFS は50%であった。ここでも,desmoplastic nodular type とそれ以外の組織サブタイプでは,4 年EFS がそれぞれ58%,23%と有意差を認めた5)。
国際的な臨床試験Head Start では,乳幼児の悪性脳腫瘍に対して,放射線治療を行わず自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を試みてきた。3 歳未満の転移のない髄芽腫21 例に対して,シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を5 コース行った後,セカンドルック手術を推奨し,チオテパ,カルボプラチン,エトポシドによる自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を行った。全体の5 年EFS は52%であった。R0 とdesmoplastic nodular type は予後良好の傾向を認めた6)。また米国のCCG-99703 パイロット試験では,髄芽腫を含む複数の3 歳未満の乳児脳腫瘍を対象に,シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を3コース行った後,チオテパ,カルボプラチンによる自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を地固め療法として3 コース行う治療法の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験が行われた。チオテパの投与量はさまざまであり,副次的評価項目ではあるが,36 例の髄芽腫の5 年EFS は60%であった。病理中央診断できた32 例中14 例がdesmoplastic/nodular type であり,その5 年EFS は79%であった7)。
米国St. Jude 小児病院と米国と豪州合計6 施設で行われた,3 歳未満の髄芽腫を,M0 のdesmoplastic nodular type を低リスク,M0 のその他の組織型の髄芽腫を中間リスク,M+を高リスクと分類した。寛解導入化学療法は大量メトトレキサート療法,ビンクリスチン,シクロホスファミド(高リスクのみビンブラスチン追加)を4 コース行った。強化療法として,低リスクは放射線治療を省略し,追加のカルボプラチン,シクロホスファミド,エトポシドを2 コース行った。中間リスクは54 Gy の局所放射線治療を行い,高リスクはトポテカンとシクロホスファミドを2 コースまたは3 歳を超えてのCSI を行った。その後,シクロホスファミド,トポテカン,エルロチニブによる内服維持療法を6 サイクル(24 週間)行った。低リスク群は,23 例が試験治療を行ったが,中間解析結果では,1 年EFS が78.3%と低く登録中止となり,5 年EFS は55.3%であった。中間リスクは16 例が試験治療を行い,5 年EFS は24.6%であった。高リスクは26 例が試験治療を行い,5 年EFS が16.7%であった8)。
これらのエビデンスより,RT による発達や認知機能への影響という害がより大きくなる乳幼児の髄芽腫において,転移がなくdesmoplastic nodular/extensive nodularity サブタイプの患者群では,放射線治療を行わず,メトトレキサート髄腔内投与を含む,白金製剤,アルキル化剤,ビンクリスチン,エトポシドを中心とした多剤併用化学療法による術後治療を提案する。一方,それ以外の組織学的サブタイプおよび転移がある場合は,標準的な後治療は確立されておらず,上記の治療に大量化学療法や局所放射線療法を組み合わせた強化治療を行うことを提案する。
- 注意:
- カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
イリノテカン(irrinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
エルロチニブ(erlotinib):髄芽腫に対しては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radiotherapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。乳幼児髄芽腫の臨床試験は対象年齢の上限が,試験によって異なり,3 歳未満から5 歳未満と幅があるが,希少疾患で臨床試験報告論文の数が限られるため,CQ7 のシステマティックレビューでは5 歳未満までを含めた。CQ7 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの8 文献,EFS アウトカムの8 文献,有害事象・QOL アウトカムの7 文献を採用した。
❖ 文献
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課題6:再発時の治療
- CQ8
- 局所再発時の適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨1
髄芽腫の局所再発に対し,腫瘍の進行の抑制と生命予後の改善を期待し,化学療法を実施することを提案する。
- 推奨度2D
- 推奨2
髄芽腫の局所再発に対し,摘出が安全に行いうる場合や摘出により症状の改善が期待できる場合等に,外科治療を提案する。
- 推奨度2D
- 推奨3
放射線治療は初期治療で放射線を使用しなかったか減量されている場合等に,個々の状況に応じて緩和的にまたは根治的に実施することを提案する。
解説
初発髄芽腫の治療成績は,外科治療と化学療法および放射線療法の組み合わせにより,標準リスク群で5 年無イベント生存割合(EFS)70~80%程度,また高リスク群では35~70%程度,乳児症例における5 年無病生存割合(DFS)30~50%程度で,治療法の改良により初回治療後の寛解期間は延長してきている1-11)。これに対し再発髄芽腫に対する標準的な治療法は確立されておらず,その長期生存率は不良であることから,再発髄芽腫に対する治療は臨床上重要な課題である。
報告されている再発治療の有効性については,10 年生存率で見た場合に多剤化学療法で24%,放射線治療で45%(標準リスク群)といったデータが参考になる1,12)。また,再発形式として後頭蓋窩局所再発はむしろ少なく,HIT-91 の再発40 例では播種性再発が32 例(80%)となっている13)。播種性再発や高リスク群での再発,外科切除不能例,放射線治療施行後の再発症例では,再発後の治療を強く支持する研究データは得られていない。しかしながら再発後の無治療で経過観察された場合には,生命にかかわる急速な症状悪化を招きかねず,再発病変に対する治療に対する患者や家族の希望は強いため,緩和医療も含めた包括的な治療計画が望まれる。
再発治療において,過去に報告された医学データを利用するにあたり,試験の対象(髄芽腫のみか他の腫瘍型が含まれているか),リスク分類,再発形式(局所再発または播種性再発),初回化学療法や放射線治療の違い等に着目した。本ガイドラインでレビューの対象とした441 文献の中で,化学療法に関する介入研究は12 文献のみであった14-25)。このうち,10 文献が単アーム試験,2 文献がそれぞれ異なる薬剤の比較であり,プラセボを対象とした比較試験は行われていない。さらに,対象症例については,3 文献が髄芽腫のみ,9 文献は原始神経外胚葉腫瘍(primitive neuroectodermal tumor:PNET)をはじめとした他の小児脳腫瘍型を含み,検討の対象となる症例数は極めて限られていた。また,治療においては,多くの試験で化学療法に加えて放射線治療や外科治療が併用され,治療介入の方法は不均一であった。さらに,初回治療において放射線治療が行われている場合とそうでない場合では,再発時の治療法や予後に違いがみられることが想定される。このように,均質で十分な医学データが得られてないことを考慮したうえで,腫瘍の制御率ならびにOS の延長を重視した解析を行った。また,髄芽腫の局所再発に対する外科治療や放射線治療に関しては,前方視的臨床試験の報告がなく,特定の条件下での治療について強い推奨をもたらすものではない。そのため本CQ では,上記介入研究12 文献以外にも,診療上参考になる文献について記載することとした。
髄芽腫の局所再発に対する単剤化学療法については,高用量チオテパ,テモゾロミド,パクリタキセルといった薬剤の有効性が2 つの試験で報告されている14,25)。これら2 試験の対象となった症例の約9 割が初回治療で放射線治療を併用していた。Osorio らは,再発髄芽腫26 例に対し高用量チオテパ(200 mg/m2/day)を3 日間投与したのちに自家造血幹細胞移植を行い,4 週間以降に再投与する治療法で,5 例に45 カ月以上の生存を確認,OS 中央値11.7 カ月であったと報告している25)。この試験は髄芽腫以外の複数の異なる腫瘍型の再発も対象として含まれており,全体の治療関連死は3.4%にみられた。Cefalo らの報告では,初回治療で大量化学療法や全脳脊髄照射(CSI)が行われているか否かによりテモゾロミド150・180・200 mg/m2/day の3 種類の投与量を設定し,28 日ごとに5 日間経口投与した14)。37 例(脊髄播種病変あり7 例,遠隔転移あり30 例)のresponse rate は42.5%,6 カ月PFS 30%,12 カ月PFS 7.5%であり,PNET 5 例を含めた解析で1 年OS は41.2%,治療関連死はなく,グレード3~4 の血液毒性が2 割の患者に認められた。またHurwitz らの髄芽腫再発16 例に対するパクリタキセルの報告によれば,350 mg/m2/day を3 週間ごとに投与する方法で,CR 1 例,SD 6 例,PD 9 例であり,無増悪生存期間(PFS)は2.9 カ月であった19)。この試験は複数の異なる腫瘍型の再発を対象とし,全体の有害事象はグレード3 のアレルギー反応1 例と敗血症7 例のほか,治療関連死1 例,脳幹圧迫ある髄芽腫で痙攣後の死亡が1 例みられた。
多剤化学療法についてDunkel らは,25 例の再発髄芽腫に対する自家造血幹細胞移植を併用したカルボプラチン,チオテパ,エトポシドの大量化学療法レジメンを報告した17)。カルボプラチンは造血幹細胞移植の8 日前から500 mg/m2で開始し,3 日間使用したのち,チオテパ300 mg/m2/day およびエトポシド250 mg/m2/day が投与された。この治療での成績は10 年EFS 24%,10 年OS 24%,OS 中央値が26.8 カ月,6 例は151.2 カ月(中央値)増悪なく生存した。治療関連死は3 例(14%)であった。またDupuis-Girod らは,CSI を回避した初回治療時3 歳未満の髄芽腫再発20 例に対するブスルファンとチオテパのレジメンを報告した22)。ブスルファンを150 mg/m2/day で4 日間経口投与したのちチオテパ300 mg/m2/day を3 日間使用して自家造血幹細胞移植を行った。外科治療を追加した4 例を除く16 例の解析で(後頭蓋窩局所再発9,脊髄再発および髄液播種3,両方を認めるもの4),CR が4 例(25%)認められ,RR は75%と良好な結果が示されており,治療関連死を1 例認めた。この試験では幹細胞移植後36 例において放射線治療が併用されている。イリノテカンについては,髄芽腫再発9 例に対するベバシズマブとの併用治療について後方視的研究で,PFS 11 カ月,OS 13 カ月,6 カ月時点でのPR 3 例,CR 1 例と報告されている26)。イリノテカンはテモゾロミドとの併用療法での第Ⅱ相試験も報告されているが,66 例の再発例に対しCR2,PR13,生存期間中央値16.7 カ月であり,期待された結果は得られていない27)。
Müller らはHIT-REZ 試験において,初回治療として外科的摘出と化学療法のみ行い,放射線治療を回避した乳幼児17 例に対して,完全寛解後初回再発時の治療としてCSI および局所放射線治療を行った結果を報告している28)。CSI は35.2 Gy(23.4~40.0 Gy)および後頭蓋窩ブースト55.0 Gy で行われ,カルボプラチンやエトポシドを使った化学療法が併用された。17 例の治療成績はPFS 2.9±1.1 年,OS 3.8±0.8 年,5 年PFS 40%,5 年OS 39%であった。6 例の局所再発,11 例の遠隔再発(髄液細胞診陽性1 例,脊髄病変あり3例,遠隔転移あり3 例,脊髄病変と遠隔転移あり3 例)の治療成績は局所再発例と遠隔転移例それぞれ3 年PFS 67%±19%および36%±15%(log-rank,p=0.948),3 年OS 67%±19%および55%±15%(log-rank,p=0.914)であり,有意差は認められていない。この報告では,大量化学療法やメトトレキサート髄注療法もCSI と併用または前後して行われていていることから,放射線治療単独の効果を示すものではないが,初回治療で放射線治療を回避した乳幼児髄芽腫の初回再発に対し,放射線治療の効果を示唆するデータとして重要である。
初回治療で放射線を併用した再発髄芽腫症例については,Bakst らが13 例の初期治療で放射線治療を行っている髄芽腫再照射治療を報告している29)。再照射の内訳は後頭蓋窩46%,テント上・全脳31%,脊髄23%,全脳全脊髄8%であり,外科治療や化学療法が併用されている。治療は局所分割照射とIMRT がほぼ同数で行われ,CSI 18 Gy およびブースト12 Gy が使用された。照射後の急性期障害は認めず,観察期間内(中央値30 カ月)に無症候性の放射線壊死が1 例認められた。治療成績は5 年DFS 48%,5 年OS 65%と一定の治療効果が得られた。この研究では,異なる照射部位に対し局所または拡大照射が行われており,再発形式について詳細な記載はないため再発腫瘍全般での再照射治療の効果については結論できない。しかしながら,局所再発や限局的な遠隔再発に対し再照射治療を行う場合には参考となる報告である。
Wetmore らは,初回治療で手術および化学放射線治療を行った再発髄芽腫38 例中14 例に再照射を行った結果,5 年OS 55%±14%(vs. 33%±16%)および10 年OS 46%±14%(vs. 0%)ともに,非照射例に対し有意に生存期間が上回ったと報告した(p=0.036)12)。CSI 36 Gy(総線量18~54 Gy/1 日線量1.5~2 Gy)と局所照射が併用され,総線量の中央値は91.9 Gy(73.8~109.8 Gy)であった。再照射14 例の放射線壊死は9/14 例(64%)であったのに対し,非照射例では7/24 例(29%)と有意な増加を認めたが(p=0.0468),無症候性であったため追加の治療は行われていない。標準リスク11 例および高リスク4 例の生存期間はそれぞれ5.39 年と4.94 年であった。初回治療から10 年生存した割合は標準リスク群45%,高リスク群0%であり,再治療でのリスクを考慮したうえで,特に標準リスク群では再発に対しては再照射の有効性が期待できる結果である。
髄芽腫の局所再発に対する外科治療についてOS 延長を直接証明した報告はなく,評価も一定していない。Sabel らは標準リスク群の髄芽腫を対象としたHIT-SIOP PNET4 試験の初回再発72 例の解析を行っている30)。うち18 例(25%)に外科的切除が行われ,その再発部位の内訳は後頭蓋窩単発6 例,脊髄またはテント上5 例,脳脊髄多発7 例であった。再発72 例全体の3 年OS および5 年OS はそれぞれ20±5%,6.0±4%であり,外科的切除(p<0.01)ならびに後頭蓋窩局所再発(p<0.01)はともに独立した予後因子であった。局所再発の外科治療については,侵襲性や化学療法・放射線治療の成績も考慮したうえで,摘出が安全に行える場合,摘出により症状の改善が期待できる場合など個々の症例の状況に応じた適応判定を行うべきである。
以上のことから,髄芽腫の局所再発に対して化学療法の効果が一部示されており,症例の状況に応じて放射線治療の併用を考慮できる。また,大量化学療法における治療関連死,放射線治療における晩期障害について注意する必要がある。小児患者の尊厳を含めた倫理的判断に基づき,治療によるリスクや侵襲性を十分に考慮した包括的な適応判断がなされることが望ましい。
- 注意:
- チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
テモゾロミド(temozolomide):髄芽腫に対しては保険適応外,ユーイング肉腫に対してイリノテカンとの併用で保険承認
パクリタキセル(paclitaxecel):髄芽腫,小児固形腫瘍に対しては保険適応外
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
ブスルファン(busulfan):髄芽腫に対しては保険適応外,ユーイング肉腫ファミリー腫瘍及び神経芽細胞腫における自家造血幹細胞移植の前治療としては保険承認適応
イリノテカン(irrinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
ベバシズマブ(bevacizumab):髄芽腫,小児固形腫瘍に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫,小児悪性腫瘍対しては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab]))))AND(((((((Neoplasm Recurrence,Local[mh]OR Neoplasm, Residual[mh]OR Neoplasm Seeding[mh]OR Recurrence [mh])))OR(((Local[tiab]OR Locoregional[tiab])AND(Neoplasm Recurrence[tiab]OR Neoplasm Recurrences[tiab]))))OR(((minimal[tiab]and residual[tiab]and(disease[tiab]OR diseases[tiab]))OR(residual[tiab]AND(neoplasm[tiab]OR neoplasms[tiab])))))OR((neoplasm[tiab]and seeding*[tiab])))OR((Recurrences[tiab]OR Recrudescence[tiab]OR Recrudescences[tiab]OR Relapse[tiab]OR Relapses[tiab]OR Regrowth[tiab])))))AND((“Epidemiologic Study Characteristics”[Mesh]OR “Statistics as Topic”[Mesh]OR “Clinical Study”[Publication Type]))))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により検索された441 文献のなかから介入研究12 文献を抽出して内容を確認し,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
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- CQ9
- 播種再発に対する適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨
寛解を目的とした治療を目指すが,治療反応性が不良の場合は,緩和的治療も提案される。
解説
髄芽腫において再発の場合は局所再発と播種再発が認められるが,MRI を撮影する時期がずれれば,必ずしも正確な鑑別ができない場合がある。原発巣近傍の再発が認められ,なおかつ播種も認められる場合は,原発巣の再発から播種したのではないかという可能性もあるが,原発巣近傍に局所再発が認められずに播種再発だけ認められた場合は,初回治療の早い時期にすでに播種しており,後療法抵抗性の腫瘍細胞が播種していた場所で残存し,再発したと予想される。Hsieh ら1)は,髄芽腫12 例の脊髄播種症例を術前,術後1 カ月以内で,放射線治療や化学療法以前に認められた播種症例をearly metastasis 群(9 例),放射線治療や化学療法を含むすべての初期治療終了後に播種再発した症例をlate metastasis 群(3 例)に分けて解析しているが,early metastasis 群が統計学的に有意に予後良好(p=0.0047, log-rank test)という結果であった。Late metastasis 群が予後不良の理由としては,late metastasis としての播種再発は,初期治療抵抗性の腫瘍細胞の残存が再発の起源になっている可能性が高いと考えられる。髄芽腫の播種再発は局所再発に比べて予後不良かという問題に関しては,Bowers ら2)が,治療後の再発形式で予後を比較している。彼らは41 例の髄芽腫再発症例において,21 例の原発巣の部位だけの再発群と20 例の局所再発群と播種を伴う再発群の生存予後を比較している。手術,化学療法,放射線療法と再発後の治療はばらつきがあるものの,彼らの解析では,初期治療にてBaby POG protocol(POG infant brain tumor regimen/シクロホスファミド,ビンクリスチン,シスプラチン,エトポシド)を受けているかどうか(p=0.030,log-rank test),再発時に播種なく原発巣だけの局所再発だけかどうか(p=0.008,log-rank test),再発時には放射線治療を加えているかどうか(p=0.015,log-rank test)ということが有意に生存を延長させる因子であったが,多変量解析の結果では,原発巣の場所における局所再発(21 例)という因子だけが,播種を伴う症例(20 例)に比べて明らかに生存が延長しており(p=0.03),独立した予後良好因子であった。さらに,局所再発と播種再発を生物学的に異なるものとして区別すべきかという問題はあるが,近年髄芽腫の分子生物学的分類が提唱されて後,Ramaswamy ら3)は3 つのコホート研究を集計した。髄芽腫分子生物学的分類4 型のそれぞれの再発形式では,Sonic Hedghoc(SHH)型は他の型に比べて局所再発が多く,播種再発が少ないという結果であった。局所再発と播種の両方もあるMixed な再発形式もSHH 型は少ないことから,生物学的に他のグループより局所に再発しやすい,もしくは播種しにくいということは言えるかもしれない。しかしWNT 型は再発が少なくてこの研究では解析されていない。
髄芽腫の再発治療においては,一般的に局所再発だけであれば手術という選択肢も可能な場合があるが,播種を伴う再発であればほとんど外科的介入はなく,他の治療に委ねられる場合が多い。初期治療として放射線治療を行っている場合,salvage therapy としての再照射を行う可能性は存在するものの4,5),全例に施行可能とは言いがたく,一般的ではない。Bakst ら5)は初期治療にて放射線照射を行っている髄芽腫症例に対して再発時に再照射を行った13 例を検討している。再照射の中央線量は30 Gy,1 回線量中央値は1.5 Gy であり,54%の症例において強度変調放射線治療が使用されていた。13 例の5 年PFS は48%,5 年OS は65%であり,放射線障害による急性期障害,急死や,二次がんは観察期間中には認められておらず,放射線壊死が1 例,38%に聴力障害,15%に下垂体機能不全,1 例に認知機能障害の有害事象が認められたと報告している。しかし,この治療成績は放射線治療単独ではなく,再発時の手術や化学療法と併用しており,また,局所再発と播種再発の治療成績を区別していないために,播種再発で放射線治療の再照射の有用性を正確には評価できない。現時点では,播種再発症例において初期治療で放射線照射を施行していない場合では,積極的に再発時放射線照射ということが選択肢になるが,すでに放射線治療を行っている症例の再発時の再照射は再発腫瘍のコントロール,有害事象の面からも積極的に推奨できないと思われる。
再発時の化学療法においては一般的な化学療法に加えて,末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法などのintensive な治療の報告も多数ある6-9)。しかしながら,レジメンとして統一したものではなく,主にカルボプラチン,エトポシド,チオテパ,シクロホスファミド,メルファラン,carmustine(BCNU),lomustine(CCNU)など使用されている場合が多い。Gilman ら6)は18 例の再発髄芽腫の患者に対して連続した大量化学療法(First cycle:チオテパ600~750 mg,BCNU 300~450 mg,Second cycle:チオテパ600~750 mg,カルボプラチン1,200 mg)による治療を行っているが,局所再発と播種再発の治療成績の区別はない。しかし,18 例中15 例が播種再発であり,播種再発の割合が高い報告である。末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法の予後不良因子として一般的に播種再発があるといわれているが,彼らは必ずしも播種再発が予後不良因子とは結論づけておらず,播種再発例における生存率は,33%(15 例中5 例,観察期間54~135 カ月)という治療成績であった。8 例において何らかの治療関連死亡が認められており,比較的高頻度な有害事象と思われる。いくつかの報告をまとめても,現時点で有害事象も併せて考え,播種再発において必ずしも末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法が必須とは言い難い。さらに大量化学療法の中でも最も優れたレジメンを同定しがたく,また,欧米と本邦では保険制度等の違いから使用できる薬剤が異なっており,今後本邦での臨床研究を通じた使用薬剤の適応拡大が待望されている。Kim ら10)は5 種類の通常量の化学療法剤を使用したsalvage therapy として7 例の脊髄播種症例を含む再発小児悪性腫瘍に対する化学療法の有効性を検討している。イリノテカン300 mg/m2,ビンクリスチン2 mg/m2,シスプラチン60 mg/m2,シクロホスファミド1,000 mg/m2,エトポシド100 mg/m2の薬剤を使用しているが,大量化学療法より副作用は軽微であり,3 例がCR,2 例がPR という比較的良好な治療反応性を認めている。しかし6 例がPD であり,この結果からはいかに多くの薬剤を使用した多剤併用化学療法を行っても通常の量では,播種再発の髄芽腫をコントロールすることは困難であるとの印象である。
21 例の播種再発髄芽腫に対して,Yoshimura ら11)は6~7 mg/m2のニムスチンの髄腔内灌流もしくは3~3.5 mg/m2の髄腔内投与を行っている。約50%の症例において反応が認められ,21 例中7 例がCR となり,比較的長期の生存を獲得している。播種確認後の5 年生存率は46.4%であり,彼らは播種が存在する髄芽腫患者の治療法において化学療法剤の髄腔内投与の有効性を示している。この治療法による副作用として灌流療法による副作用はほとんどみられていない一方,髄腔内投与(Bolus injection)に関しては脊髄炎が認められた症例があり,頻回の投与と局所的に薬剤が高濃度になることは避けるべきと言及している。現在,髄芽腫の初期治療において,予防的,あるいは腫瘍縮小を目的としてメトトレキサートの髄腔内投与を行うことも多いが,播種再発に化学療法剤の髄腔内投与が有効な治療かどうかは報告が少なく,現時点ではその有効性は判断できない。播種再発の症例において治癒を目指してさまざまな治療を行ったとしても,現存の治療では有効性があるとは言い難いとも報告されている。Massimino ら4)は播種再発が認められた髄芽腫症例にシスプラチンとエトポシドを用いた標準的化学療法(6 例),もしくはエトポシド,シクロホスファミド,ビンクリスチン,カルボプラチン,チオテパなどを用いた大量化学療法(10 例)を施行し,さらに7 例は全脳脊髄照射(CSI),3 例は局所照射を行うというintensive な治療を行った。DFS 中央値は16 カ月,OS 中央値は41 カ月,3 年DFS が19%,3 年OSが56%という治療成績であり,観察期間での生存例は1 例のみであった。これらの結果を鑑み,彼らは別の報告で髄芽腫の再発症例に対しできるだけ短い入院期間を目指し,QOL を重視した再発の治療を推奨している12)。彼らは18 例の再発の髄芽腫患者の治療後,17 例に再再発が認められ,16 例は播種病変を確認されている。3 回目の再発10 例中9 例が播種再発であり,全例に化学療法が施行されているが,手術や放射線治療が行われたものはない。本報告の再発症例全例の入院期間は4 日から129 日(平均19 日)であり,治療による有害事象がなかったと報告している。治療成績においては,8 例の再発髄芽腫の症例の平均DFS は7 カ月,平均OS も7 カ月であり,最終的には全例死亡している。以上より,播種再発は局所再発と比較してやはり予後不良であると考えるべきである。
髄芽腫の播種再発に対しては,現存の治療にて治癒できる症例は稀と言わざるを得ない。対象が小児であるがゆえに積極的な治療を行うべきと考える一方で,QOL を保ちながら緩和的な治療を導入することも重要であると考えられる。
- 注意:
- シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫,小児悪性固形腫瘍には保険適応外
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
メルファラン(melphalan):小児固形腫瘍の造血幹細胞移植時の前処置として保険適応
carmustine(BCNU):国内未承認
lomustine(CCNU):国内未承認
イリノテカン(irinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫,小児悪性腫瘍対しては保険適応外
ニムスチン(nimustine:ACNU):脳腫瘍に対する自覚的ならびに他覚的症状の緩和として静脈内投与は保険適応,髄腔内投与薬としては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])AND(Neoplasm Recurrence, Dissemination[Mesh]OR Neoplasm Seeding[Mesh]))OR((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])AND(Multiple Recurrence[Mesh]OR Dissemination[Mesh]))OR((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])OR(Neoplasm Recurrence[Mesh]OR Neoplasm Recurrences[tiab]OR Recurrences[tiab]OR Relapse[tiab]OR Relapses[tiab]OR Regrowth[tiab])))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により抽出された641 文献のなかから,できるだけ播種再発を多く含む症例の24 文献を抽出し,システマティックレビューを行い,構造化抄録を作成した。さらにその中で局所再発でも同様な治療を行うもの,また症例数が少ないものなどを排除し,最終的に12 文献を取り上げて,解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Hsieh PC, Wu CT, Lin KL, et al. The clinical experience of medulloblastoma treatment and the significance of time sequence for development of leptomeningeal metastasis. Childs Nerv Syst. 2008;24(12):1463-7.[PMID:18802711]
- 2)
- Bowers DC, Gargan L, Weprin BE, et al. Impact of site of tumor recurrence upon survival for children with recurrent or progressive medulloblastoma. J Neurosurg. 2007;107(1 Suppl):5-10.[PMID:17644914]
- 3)
- Ramaswamy V, Remke M, Bouffet E, et al. Recurrence patterns across medulloblastoma subgroups:an integrated clinical and molecular analysis. Lancet Oncol. 2013;14(12):1200-7.[PMID:24140199]
- 4)
- Massimino M, Gandola L, Spreafico F, et al. No salvage using high-dose chemotherapy plus/minus reirradiation for relapsing previously irradiated medulloblastoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2009;73(5):1358-63.[PMID:19019566]
- 5)
- Bakst RL, Dunkel IJ, Gilheeney S, et al. Reirradiation for recurrent medulloblastoma. Cancer. 2011;117(21):4977-82.[PMID:21495027]
- 6)
- Gilman AL, Jacobsen C, Bunin N, et al. Phase Ⅰ study of tandem high-dose chemotherapy with autologous peripheral blood stem cell rescue for children with recurrent brain tumors:a Pediatric Blood and MarrowTransplant Consortium study. Pediatr Blood Cancer. 2011;57(3):506-13.[PMID:21744474]
- 7)
- Park JE, Kang J, Yoo KH, et al. Efficacy of high-dose chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed medulloblastoma:a report on the Korean Society for Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)-S-053 study. J Korean Med Sci. 2010;25(8):1160-6.[PMID:20676326]
- 8)
- Dunkel IJ, Gardner SL, Garvin JH, Jr., et al. High-dose carboplatin, thiotepa, and etoposide with autologous stem cell rescue for patients with previously irradiated recurrent medulloblastoma. Neuro Oncol. 2010;12(3):297-303.[PMID:20167818]
- 9)
- Gururangan S, Krauser J, Watral MA, et al. Efficacy of high-dose chemotherapy or standard salvage therapy in patients with recurrent medulloblastoma. Neuro Oncol. 2008;10(5):745-51.[PMID:18755919]
- 10)
- Kim H, Kang HJ, Lee JW, et al. Irinotecan, vincristine, cisplatin, cyclophosphamide, and etoposide for refractory or relapsed medulloblastoma/PNET in pediatric patients. Childs Nerv Syst. 2013;29(10):1851-8.[PMID:23748464]
- 11)
- Yoshimura J, Nishiyama K, Mori H, et al. Intrathecal chemotherapy for refractory disseminated medulloblastoma. Childs Nerv Syst. 2008;24(5):581-5.[PMID:18057943]
- 12)
- Massimino M, Casanova M, Polastri D, et al. Relapse in medulloblastoma:what can be done after abandoning high-dose chemotherapy? A mono-institutional experience. Childs Nerv Syst. 2013;29(7):1107-12.[PMID:23595805]
課題7:治療による晩期障害
- CQ10
- 髄芽腫に特徴的な晩期障害とそれをきたしやすい背景因子は何か?
- 推奨度1B
- 推奨1
無言症/後頭蓋窩症候群では学習機能が低下するので特に注意して経過を見ることを推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
髄芽腫治療後に経時的に認知機能障害は進行し,特に高リスク群と低年齢(7 歳以下)でその傾向が強いので特に注意して経過を見ることを推奨する。
解説
髄芽腫治療の進歩によって長期生存が得られるようになると,さまざまな晩期障害が認められるようになった。小児がん患者全体を対象とした長期生存者に対する長期フォローアップの指標はいくつか発表されており,例えば海外のものではCOG のガイドライン(http://www.survivorshipguidelines.org)があり,国内でも日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group:JCCG)の小児がん長期フォローアップガイドがある。また,妊孕性に関しては日本癌治療学会のガイドライン(http://www.jsco-cpg.jp/fertility/)がある。髄芽腫治療後のフォローアップの指標としても参考となる。
今回はあくまで髄芽腫の治療による晩期障害に焦点をあてて推奨を作成した。晩期障害からみて,髄芽腫のフォローアップで特に注意すべき場合がどのような症例かを検討した。晩期障害に関する文献は,髄芽腫以外の小児脳腫瘍も含むものが多く,ほとんどが後方視的な検討であり,それらは参考として,本推奨は髄芽腫の治療による晩期障害の前方視的コホート研究を中心にまとめた。
1990 年代のPOG8631 の知的予後に関する報告1)は3 歳以上の髄芽腫で残存腫瘍が1.5 cm2未満の22 例において,全脳脊髄の照射量36 Gy/23.4 Gy と8.85 歳を基準としたyounger/older で4 群に分類し,IQ を比較したものである。症例数も少なくそれぞれの群間で有意差は出ておらず,また縦断的研究ではなく,ワンポイントでの評価ではある。いずれの群でも単にFull scale IQ が低下していることは示しているが,その原因が何であるのかには言及していない。この研究では評価方法としてはWISK ⅢもしくはWAIS-R をIQ の評価として用いており,学習能力評価としてWide Range Achievement Test Ⅲを用いている。
これ以降の論文でも,主にIQ の評価はWISK Ⅲ or ⅣとWAIS-R が用いられるが,そもそも髄芽腫患者の場合小脳失調症状を後遺することが多く,それがFull scale IQ の低下に影響している可能性も考える必要がある。したがって,純粋な認知機能低下の進行を捉えるためには,前方視的に縦断的に調査しIQ でもどの要素が変化していくのかを評価することが必要である。
2000 年代のCCG9892 の知的予後に関する結果2)は,3~15 歳で播種のない(標準リスク群)43 例で全脳脊髄照射(CSI)23.4 Gy+ブースト照射32.4 Gy,ビンクリスチン/lomustine(CCNU)/シスプラチンで治療した結果を,放射線治療後を起点に4 年後まで経時的に調査した結果である。評価方法は,WISK-R/WISC-Ⅲ/WPPSI-R/SB4/McCarthy とさまざまである。ここではFull Scale IQ が経時的に低下する(4.3/年)ことを示す一方で,男女差(女子の方がVerbal IQ 低下が大きい),診断時の年齢による差(7 歳未満では低下するが7 歳以上では低下しない),Baseline IQ での差(IQ>100 では低下の程度が大きい)などを示している。
2000 年代のもう一つの論文はSJMB96 に登録された症例のうち111 例での検討である3)。最大6 年(平均3.14 年)の経時的な認知機能評価を受けた。高リスク群(CSI:36~39.6 Gy)/標準リスク群(CSI:23.4 Gy)と診断時の年齢(7 歳以上/7 歳未満)で4 群に分類された。化学療法は4 サイクルの大量化学療法(シクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチン)が行われた。認知機能評価の初回は手術摘出後(登録時)で,その後1,2,5 年の段階で評価した。多変量解析の結果全体ではmean IQ(-1.59/y,p=.006),読み(-2.95/y,p<.0001),書き(-2.94/y,p<.0001),算数(-1.87/y,p=.003)とも低下したが,群間比較ではmean IQ は高リスク群では低下したが(-3.00/y,p=.004),標準リスクでは低下していなかった(-0.99/y,p=.13)(ただし2 群間に有意差はない)。また同様にmean IQ は7 歳未満群では低下したが(-3.05/y,p=.0005),7 歳以上群では低下しなかった(-0.61/y,p=.37)(2 群間に有意差あり)。治療線量より治療時年齢の方がIQ 低下の要素として強いと示された。ただし研究全体の規模からすると評価を受けた登録例は少なく,評価方法に関しても年齢によってさまざまであった。
2010 年代になるといくつかの前方視的コホート研究が発表されている。
1 つ目はCOG A9961 の標準リスク群に対する放射線治療(CSI 23.4 Gy/ブースト照射32.4 Gy)と大量化学療法(CCNU/シスプラチン/ビンクリスチン,またはシクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチン)後の知的・学業予後に関する報告4)である。登録全体379 例中110 例について5 年以上の経過で評価した。Baseline の評価は放射線治療から9 カ月以内に施行された。評価方法は,IQ に関してはWPPSI-R/WISC-Ⅲ/WAIS-R/WAIS-Ⅲを用い,学習能力評価にはWide Range Achievement Test Ⅲなどが用いられた。全症例をまとめたデータでFull Scale IQ は5 年間にわたり年間1.9 ポイント低下した。IQ および学習能力の低下は,男女差はなく,無言症の有無でFull Scale IQ とPerformance IQ およびReading で有意差があった。Baseline IQ の方が高い(IQ>100)方がFull Scale IQ 低下の程度が有意に大きく,診断時7 歳以上と7 歳以下では7 歳以下の症例のPerformance IQ 低下率が有意に高く,摘出率では全摘群の方が低下率は高いが有意差はなかった。
無言症の有無での評価はSJMB03 に登録された327 例中,後頭蓋窩症候群(主には無言症)を呈した36 例についての前方視的試験報告5)がある。SJMB03 治療は播種と脳幹浸潤がない例で,肉眼的全摘出された群を標準リスク群としてそれ以外を高リスク群とし,標準リスク群にはCSI 23.4 Gy,高リスク群にはCSI 36~39.6 Gy で局所55.8 Gy の放射線治療を行っている。放射線照射治療6 週後から,4 サイクルの高用量のシクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチンからなる化学療法を施行した。同じ試験の登録例で後頭蓋窩症候群を呈さなかった例で年齢・人種・リスク分類・手術・性別を一致させた36 例を対照として,神経心理学的評価を経時的に1,3,5 年後に,知的能力の他に遂行速度,注意力,ワーキングメモリー,空間認知機能などさまざまな視点で評価した。後頭蓋窩症候群の有無によりbaseline からこれらの能力に差があるが,対照群が5 年間で不変なのに対し,後頭蓋窩症候群は不変もしくは低下しており有意差がみられた。この2 つの報告を合わせて評価シートを作成すると,後頭蓋窩症候群がある群とない群ではQOL や高次機能においてbaseline でも差があり5 年後さらに差が広がる,というエビデンスが示された。
遂行速度,注意力,ワーキングメモリーなどについて前方視的で縦断的に検討した報告6)もある。これは上記のSJMB03 の登録(この時点ではまだ318 例)から後頭蓋窩症候群を除き,その他の不適格例を除いた126 例の検討である。Baseline の機能の評価は手術後(登録直後)に行い,1,3,5 年後と経時的に前方視的試験で行われた。評価はWoodcock-Johnson Tests of Cognitive Abilities Third Edition, Woodcock-Johnson Tests of Achievement Third Edition を用いた。遂行能力はbaseline から低下しており,経時的変化は低年齢,高リスク群,baseline score が高い場合により低下する傾向にあった。計算式で推定すると,標準リスク群では診断時年齢6 歳では軽度低下がみられたが,10 歳では変化なく,14 歳では上昇・改善し,一方高リスク群では6 歳,10 歳では著明に低下したが,14 歳では低下がみられなかった。Baseline での遂行能力の低下は小脳失調を避けがたい疾患特異性の影響が考えられる。ワーキングメモリーや注意力はbaseline での低下はなく,経時的変化については高リスク群,baseline score が高い場合により低下する傾向にあった。
ここまで記載したものは北米からの報告だが,欧州からはHIT-SIOP PNET4 phase 3 European RCT の報告がある7)。標準リスク群の髄芽腫患者を過分割照射群(過分割群:1 日2 回1 Gy 照射,CSI 36 Gy,後頭蓋窩60 Gy)と標準分割照射群(標準分割群:1 日1.8 Gy 週5 日照射,CSI 23.4 Gy,後頭蓋窩54 Gy)にランダム化を行い,照射中のビンクリスチンと8 サイクルのCCNU/シスプラチン/ビンクリスチンを行った。認知機能については9 カ月寛解状態を得た137 例(過分割群71/107 例,標準分割群66/109 例)で平均3 年の経過で評価を行った。評価法はWISC を基本に各国によって評価法を選択した。年齢についても8 歳以上と以下で比較した。結果としてこの研究では治療法や年齢による有意な差は認められず,全体的にも経時的なIQ の低下はみられていない。北米の結果と異なり,IQ の低下を認めなかった理由として観察期間が短いことが影響している可能性はある。
陽子線治療によるQOL の変化を前方視的に観察したマサチューセッツ総合病院からの報告8)がある。評価法としてこれまでの報告と異なりPedsQL version4.0を用いており,self-report ができる年齢層が対象となった。2002~2015 年の登録例161 例中116 例で,平均5 年間の経過で評価を行った。この症例群には8 歳以上も以下もいて,標準リスクと高リスクもあり,また播種や後頭蓋窩症候群のある例ない例も含まれており,かなり雑多な集団である。評価はTCS(total core score)で行われるが,当初TCS が低かった児でも徐々に改善するが,最終的に健常小児と比較すると低い値であった。評価法として興味は惹かれるが,陽子線の影響を真に評価をするまでには至らない。
以上をまとめると,髄芽腫に対する治療によるIQ の低下は認めないという報告もある一方,北米での前方視的試験の結果からは,無言症/後頭蓋窩症候群のある場合は認知機能(特に学習)に関して低下する,ということが言える。また,髄芽腫の治療後5 年の経過で経時的にIQ が低下するが,高リスク群でその傾向が強い。ただしこれが,疾患によるものなのか,治療(特に放射線照射線量)の差によるものなのかはわからない。また低年齢(7 歳以下)では低下の程度が強いことも示唆された。問題は,経過観察は長くても10 年程度で,平均では5 年に満たない場合が多い点で,晩期合併症に対する真の評価としては,より長期の結果が望まれる。そのようなデータは前方視的コホート研究ではまだ存在せず,後方視的のデータしかなく,したがって,さまざまなバイアスを有しており正確な評価とならない。
代表的な後方視的検討結果報告としてChildhood Cancer Survivor Study からの報告9,10)を参考として紹介する。2017 年のものは1970~1986 年に診断され5 年以上生存した380 例についてその同胞と比較した研究で,聴力低下,脳卒中頻度,けいれん,平衡機能低下,白内障の頻度が高く,学習,結婚,自立した生活などでも差がみられた。2019 年のものは1970~1999 年に診断され5 年以上生存していた髄芽腫患者の晩期のmorbidity/mortality に関する報告である。これによると5 年経過後も死亡する例はあり,再発によるものも,それ以外の原因もある。これらを除いた997 例の生存者で後方視的にみた場合,年を追って重篤な合併症を持つ頻度が増している。また,これは1970 年代に治療した群と1990 年代に治療した群で比較すると後者で有意にその頻度が高い。特に聴力障害や心血管系のリスクが高い。治療別にみると,高リスク群で治療を行った場合に頻度が高い。ただし,内分泌障害や神経学的な障害の頻度は決して高くない。これらの報告はあくまで後方視的に長期間の治療例を評価したもので,背景因子が異なり合併症の頻度に何が影響したのかはわからない。あくまで,長期間の経過観察が必要である,とするのみである。
また,今回はシステマティックレビューの対象には認知機能障害に関するもののみが残ったが,晩期合併症としてはこのほかにも内分泌障害11),性腺機能障害12),聴力障害9),海綿状血管腫の形成13),その他血管障害9),二次がん14)などの可能性がある。二次がんとしては悪性神経膠腫,血液がん,甲状腺癌などが報告されている。しかし,これらの報告は,髄芽腫以外の小児脳腫瘍を含んでいたり,後方視的な治療症例集積で背景因子がさまざまあることなどが指摘され,今回は情報として参考までに記載しておくにとどめる。
やはり今後は結果が得られるまで時間はかかるであろうが長期間の前方視的研究が必要で,その結果によって治療法の選択を検討したり,どの時期にどのような介入が必要となるかなどの臨床的疑問に対する回答が抽出されることを期待する。
現時点で提言できることは,髄芽腫に関して,再発のみならず晩期合併症を考慮した長期的かつ多角的(多職種を含む)フォローアップが必要であるということに尽きる。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab]))))))AND(((((((((long term adverse effects[mh])OR long term effect*[tiab])OR long term outcome[tiab])OR lete effect*[tiab]))OR((quality of life[mh])OR quality of life[tiab]))OR(((cognition disorders[mh])OR cognitive funtion[tiab])OR neurocognitive function[tiab]))OR(((((((((((((((social adjustment[mh])OR social outcome[tiab])OR functional outcome[tiab])OR physical outcome[tiab])OR developmental disorders[mh])OR growth disorders[mh])OR(growth and development/radiation effects[mh]))OR physiology/radiation effects[mh])OR intelligence/radiation effects[mh])OR intelligence/drug effects[mh])OR learning disorders[mh])OR intellectual outcome[tiab])OR academic success[mh])OR academic outcome[tiab])OR academic achievement[tiab]))OR((((growth hormone/radiation effects[mh])OR GH hormone[tiab])OR radiation injuries[mh])))))AND 1900/7/1:2018/12/31[dp]
以上の検索式から597 文献が抽出され,一次スクリーニングで75 文献に絞られた。二次スクリーニングを行って,前方視的コホート研究8 文献を採択し,システマティックレビューを行って評価シートの作成,エビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Mulhern RK, Kepner JL, Thomas PR, et al. Neuropsychologic functioning of survivors of childhood medulloblastoma randomized to receive conventional or reduced-dose craniospinal irradiation:a Pediatric Oncology Group study. J Clin Oncol. 1998;16(5):1723-8.[PMID:9586884]
- 2)
- Ris MD, Packer R, Goldwein J, et al. Intellectual outcome after reduced-dose radiation therapy plus adjuvant chemotherapy for medulloblastoma:a Children’s Cancer Group study. J Clin Oncol. 2001;19(15):3470-6.[PMID:11481352]
- 3)
- Mulhern RK, Palmer SL, Merchant TE, et al. Neurocognitive consequences of risk-adapted therapy for childhood medulloblastoma. J Clin Oncol. 2005;23(24):5511-9.[PMID:16110011]
- 4)
- Ris MD, Walsh K, Wallace D, et al. Intellectual and academic outcome following two chemotherapy regimens and radiotherapy for average-risk medulloblastoma:COG A9961. Pediatr Blood Cancer. 2013;60(8):1350-7.[PMID:23444345]
- 5)
- Schreiber JE, Palmer SL, Conklin HM, et al. Posterior fossa syndrome and long-term neuropsychological outcomes among children treated for medulloblastoma on a multi-institutional, prospective study. Neuro Oncol. 2017;19(12):1673-82.[PMID:29016818]
- 6)
- Palmer SL, Armstrong C, Onar-Thomas A, et al. Processing speed, attention, and working memory after treatment for medulloblastoma:an international, prospective, and longitudinal study. J Clin Oncol. 2013;31(28):3494-500.[PMID:23980078]
- 7)
- Câmara-Costa H, Resch A, Kieffer V, et al.;Quality of Survival Working Group of the Brain Tumour Group of SIOP-Europe. Neuropsychological Outcome of Children Treated for Standard Risk Medulloblastoma in the PNET4 European Randomized Controlled Trial of Hyperfractionated Versus Standard Radiation Therapy and Maintenance Chemotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015;92(5):978-85.[PMID:26194675]
- 8)
- Kamran SC, Goldberg SI, Kuhlthau KA, et al. Quality of life in patients with proton-treated pediatric medulloblastoma:Results of a prospective assessment with 5-year follow-up. Cancer. 2018;124(16):3390-400.[PMID:29905942]
- 9)
- King AA, Seidel K, Di C, et al. Long-term neurologic health and psychosocial function of adult survivors of childhood medulloblastoma/PNET:a report from the Childhood Cancer Survivor Study. Neuro Oncol. 2017;19(5):689-98.[PMID:28039368]
- 10)
- Salloum R, Chen Y, Yasui Y, et al. Late Morbidity and Mortality Among Medulloblastoma Survivors Diagnosed Across Three Decades:A Report From the Childhood Cancer Survivor Study. J Clin Oncol. 2019;37(9):731-40.[PMID:30730781]
- 11)
- Laughton SJ, Merchant TE, Sklar CA, et al. Endocrine outcomes for children with embryonal brain tumors after risk-adapted craniospinal and conformal primary-site irradiation and high-dose chemotherapy with stem-cell rescue on the SJMB-96 trial. J Clin Oncol. 2008;26(7):1112-8.[PMID:18309946]
- 12)
- Balachandar S, Dunkel IJ, Khakoo Y, et al. Ovarian function in survivors of childhood medulloblastoma:Impact of reduced dose craniospinal irradiation and high-dose chemotherapy with autologous stem cell rescue. Pediatr Blood Cancer. 2015;62(2):317-21.[PMID:25346052]
- 13)
- Lew SM, Morgan JN, Psaty E, et al. Cumulative incidence of radiation-induced cavernomas in long-term survivors of medulloblastoma. J Neurosurg. 2006;104(2 Suppl):103-7.[PMID:16506497]
- 14)
- Packer RJ, Zhou T, Holmes E, et al. Survival and secondary tumors in children with medulloblastoma receiving radiotherapy and adjuvant chemotherapy:results of Children’s Oncology Group trial A9961. Neuro Oncol. 2013;15(1):97-103.[PMID:23099653]
- CQ3
- 非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対する外科的摘出は,急性症候性となってから行われる場合と比較して有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対して,急性症候性となる前に外科的摘出を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
International Tuberous Sclerosis Complex Consensus 2012 には,SEGA に対する唯一の治療法は外科的切除であると記載されているA)。SEGA は急性症候性・非急性症候性・無症候性(腫瘍増大あり)・無症候性(腫瘍増大なし)の4 つの病態に分類可能であるが,手術療法を適応する上で一番問題となるのは,非急性症候性または無症候性(増大あり)の場合であり,アウトカムを以下のように設定した。
- アウトカム:
- 1)有害事象・QOL 低下
2)全摘出率
3)再発率・再摘出率
2.推奨の解説
SEGA は全摘出することにより完治せしめることが可能であるA)。急性症候性では生命の危機から脱却するために手術摘出が最優先されるB)。また,無症候性(腫瘍増大なし)の場合は経過観察で構わない。これらに関してはSEGA を治療する関係者の同意が得られている。
非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対しての最良の治療選択肢を決めるには,意思決定過程において,①予想される腫瘍拡大速度,②mTOR 阻害薬使用時の期待される腫瘍抑制効果と長期使用による合併症,③手術合併症リスク・有害事象,④費用,⑤治療期間,⑥結節性硬化症関連併存疾患への影響度,について考慮する必要があるA,B)。①については腫瘍増大速度は個人差が大きく予測困難,②は現時点で不明である。③と⑤に関しては,後述のように多分に術者の技量に依存し施設間較差が大きいために一般化することができない。④に関しては,結節性硬化症は,2015 年7 月に難病指定を受けており,成人も含め医療経済的には負担が軽減されているが,検査,治療,入院に伴う負担は小さくない。手術効果による医療費減免効果は不明である。⑥は個別に検討せざるを得ない。以上のような理由に加えて,それぞれの治療方法に対する患者(家族)の理解度の違いと治療に対する好みが加わるため,この治療に対する患者(家族)の意向は,大きくばらつくと考えられる。
残念ながら,過去の報告からSEGA に対する手術による有害事象発生率・全摘出率・再発率・再摘出率といった確率に対しては全く返答不能であり,QOL 低下・水頭症の改善・予防といった内容に関しては定性的返答さえも不可能であった。
合併症発生に関して,わずかながらKotulska(Poland,2014)1)とHarter(USA,2014)2)の論文が論じている。Kotulska らの論文1)では,Poland の多施設において2000~2012 年に治療した57 例(64 腫瘍)中4 例(6.2%)が術後に死亡している。死亡4 例のうち,3 例が術後7 日以内の死亡であり,1 例は痙攣重積,1 例は後出血,1 例は心停止であった。残る1 例は残存腫瘍の急な増大に伴う急性水頭症で3 カ月後に死亡していた。手術合併症は,片麻痺,水頭症,出血,認知機能低下が主なものであった。手術合併症発生率は腫瘍径<2 cm,2~3 cm,3~4 cm,>4 cm,両側性腫瘍でそれぞれ0%,30.8%,66.7%,73%,67%であった。また,3 歳以下の小児や症候性の症例に頻度が高い傾向を認めた。以上より,予後不良因子としては,3 歳未満,両側性腫瘍,腫瘍径2 cm 以上,症候性,部分切除,を指摘している。一方,Harter らの論文2)では,New York University Langone Medical Center 単施設において1997~2011 年に治療した18 例(22 腫瘍)を検討し,手術死亡はなく,急性合併症発生頻度は2 例で,いずれも回復したと報告している。彼らは90.9%に全摘出もしくはほぼ全摘出に近い亜全摘出を達成し,これらの再発はなかったものの,全体の半数に脳室腹腔短絡術が必要であったことを注意している。ちなみに過去の報告では,脳室腹腔短絡術は6~27%で行われていた。
手術時期を考えるうえで,合併症発生率は腫瘍径が2~3 cm 以下での治療成績が良好であるという報告が多く1,A,C,D),手術決断の一つの目安にはなるかもしれない。しかし,ゆっくりと進行し,しかもある年齢(20 代半ば)に達すると腫瘍拡大が停止するB)腫瘍に対して,必ず合併症発生のリスクを伴う手術介入時期の決定はやはり難しい。その理由は,前述のように,①腫瘍増大速度は個人差が大きく拡大速度を予想する方法がないために,「急性症候性になる前」を正確に判断することができないこと,②mTOR 阻害薬2,A,B,E)が使用可能となっているものの,非急性症候性または無症候性(増大あり)の段階で,この薬剤を使用した後の反応性と長期投与による合併症発生が予想できないこと,が主な理由となる。今後この2 点を解明しない限り,手術時期の推奨は明らかにはできないと考えられる。
特殊な事例としてcongenital(neonatal)SEGA3,F)・両側性病変が挙げられるが,前者に対しては,生後待機的に手術を行うことで良好な予後が得られる可能性が示唆されているため,できれば新生児期を過ぎるまで水頭症を管理して経過を見たうえでの摘出3)を,後者に対しては二期的手術も考慮すべきであると報告2)されている。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるために,下記検索式にて2015 年11 月に文献検索を行った。
この79文献すべてに対してシステマティックレビューを行い,まず構造化抄録を作成した。
この結果,エビデンスとしては前方視的比較試験は存在せず,サンプルサイズとしても最大で57 例(Kotulska,2014)の後方視的検討であった1)。したがって,手術療法に関して学術的検討を行うデータはほとんど症例報告,症例集積に頼るしかなかった。
アウトカムとして設定した3 項目に,バイアスリスクなくアウトカムに答えることのできる文献は基本的に存在していなかった。この中である程度参考になる文献として,Kotulska ら(2014)1)とHarter ら(2014)2)の文献が挙げられるが,有害事象発生率・全摘出率・再発率・再摘出率といった確率に対しては全く返答不能であり,QOL 低下・水頭症の改善・予防といった内容に関しては定性的返答も不能であった。
したがって,手術療法で設定した今回のCQ に対しての推奨文は,症例報告,症例集積と3 つのInternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012 の報告A,B,F)を定性的にまとめたものとなった。
非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対する手術療法を選択するうえで,一番問題となるのは,そのタイミングであるが,自然経過の中での腫瘍増大の予測と,mTOR 阻害薬使用後の腫瘍抑制効果の2 点がポイントとなると思われる。前者に関しては定期的画像検査と腫瘍拡大に関する文献から4~5 mm/年というデータが存在するが確証されておらず,後者に関してはmTOR 阻害薬使用後の超長期成績が存在しないために,現時点ではやはり明らかなデータが存在しないといわざるを得ない。
❖ 文献
- 1)
- Kotulska K, Borkowska J, Roszkowski M, et al. Surgical treatment of subependymal giant cell astrocytoma in tuberous sclerosis complex patients. Pediatr Neurol. 2014;50(4):307‒12.[PMID:24507694]
- 2)
- Harter DH, Bassani L, Rodgers SD, et al. A management strategy for intraventricular subependymal giant cell astrocytomas in tuberous sclerosis complex. J Neurosurg Pediatr. 2014;13(1):21-8.[PMID:24180681]
- 3)
- Kotulska K, Borkowska J, Mandera M, et al. Congenital subependymal giant cell astrocytomas in patients with tuberous sclerosis complex. Childs Nerv Syst. 2014;30(12):2037‒42.[PMID:25227171]
【その他の参考論文】
- A)
- Roth J, Roach ES, Bartels U, et al. Subependymal giant cell astrocytoma:diagnosis, screening, and treatment. Recommendations from the International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012. Pediatr Neurol. 2013;49(6):439‒44.[PMID:24138953]
- B)
- Krueger DA, Northrup H;International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Group. Tuberous sclerosis complex surveillance and management:recommendations of the 2012 International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference. Pediatr Neurol. 2013;49(4):255‒65.[PMID:24053983]
- C)
- Berhouma M. Management of subependymal giant cell tumors in tuberous sclerosis complex:the neurosurgeon’s perspective. World J Pediatr. 2010;6(2):103‒10.[PMID:20490765]
- D)
- Moavero R, Pinci M, Bombardieri R, et al. The management of subependymal giant cell tumors in tuberous sclerosis:a clinician’s perspective. Childs Nerv Syst. 2011;27(8):1203‒10.[PMID:21305305]
- E)
- Wheless JW, Klimo P Jr. Subependymal giant cell astrocytomas in patients with tuberous sclerosis complex:considerations for surgical or pharmacotherapeutic intervention. J Child Neurol. 2014;29(11):1562‒71.[PMID:24105488]
- F)
- Northrup H, Krueger DA;International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Group. Tuberous sclerosis complex diagnostic criteria update:recommendations of the 2012 Iinternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference. Pediatr Neurol. 2013;49(4):243‒54.[PMID:24053982]
- CQ4
- 非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対して,外科的切除の対象とならない場合にmTOR 阻害薬投与は有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対して,外科的切除の対象とならない場合にmTOR 阻害薬の投与を提案する。
解説
1.CQ の設定
SEGA を治療するためのmTOR 阻害薬による薬物療法については近年,多くの論文が発表されてきた。非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA は,全摘出できれば治癒が期待できる。そこで,薬物療法の適応となるのは外科的切除の対象とならない場合(多発性あるいは浸潤性の腫瘍,腫瘍が摘出不能部位にある,全身合併症により心・肺・腎機能に重度の障害がある,術後の残存腫瘍あるいは再発で複雑化した病態にある,患者が手術を拒否した場合など)である。そこで,下記のようなアウトカムを設定した。
- アウトカム:
- 1)腫瘍体積の縮小(50%以上)
2)副作用(すべてのグレード,グレード3~4)
2.推奨の解説
結節性硬化症の原因遺伝子としてTSC2(1993 年),TSC1(1997 年)が同定されたことを契機として結節性硬化症の病態解明が急速に進んだ。両遺伝子のタンパク産物は複合体を形成し,mammalian(またはmechanistic)target of rapamycin(mTOR)信号伝達系の中流に位置し,この系を抑制的に制御する。結節性硬化症の主たる病態はmTOR 系下流の異常な活性亢進であること,また結節性硬化症に伴うSEGA や腎血管筋脂肪腫(AML)では,体細胞変異などの機序によりmTOR 活性がさらに高まっていることが解明された。これらの知見に基づき,結節性硬化症に伴う腫瘍の治療としてmTOR 阻害薬による化学療法が始められた。mTOR 阻害薬にはラパマイシン(シロリムス)とその誘導体であるエベロリムス,テムシロリムスなど(ラパログと総称される)がある。これらの薬物は,薬物代謝上の若干の違いはあるものの,薬効や副作用はほとんど変わらない。はじめ臓器移植後の免疫抑制薬として開発されたが,のちに悪性・良性腫瘍に対する抗腫瘍薬,ステント血栓症予防薬として応用が広がった。
結節性硬化症に伴うSEGA を治療するためのmTOR 阻害薬としては,シロリムスが2006 年から,エベロリムスが2010 年から報告され始めた。関連する論文は数十に及ぶものの,その中で多数の症例を集積しエビデンスの基盤となり得る研究は5 論文(ランダム化比較試験1 文献1),症例集積4 文献2-5))と僅少であった。
mTOR 阻害薬の益(効果)に関わるアウトカムとして,無イベント生存割合(EFS)改善やQOL 向上に関する有用な情報はこれらの研究には乏しく,腫瘍体積縮小が事実上唯一の指標であった。mTOR 阻害薬の投与を6 カ月~3 年にわたって続けた後に32~56%の患者で50%以上の腫瘍体積縮小が観察されたことから1-5),エビデンスとしてはまだ弱いながらも,mTOR 阻害薬の腫瘍縮小効果は確実と考えられた。ただし,本研究における薬物用量は,我が国における用量と異なる点がシステマティックレビューにおいて非直接性のバイアスとして指摘されている。大多数の患者の臨床経過として,投与開始後3 カ月後には腫瘍が縮小し,投与を続ける限り3 年程度はその効果が持続する。しかし腫瘍が消失することはない。また,投薬を中止すると,その後に腫瘍が再び増大することが報告されていた。なお,3 年を超える長期間にわたって薬物療法を継続する必要があるのか,継続した際に効果は持続するのかについては,未だ知見がなかった。また,治療開始の基準,手術療法との優劣,術前化学療法(ネオアジュバント化学療法)に関する研究もなかった。mTOR 阻害薬内服は全身療法であるため,SEGA 以外の結節性硬化症の症状(顔面血管線維腫,腎AML,てんかん,自閉症ほか)に対する副次的効果も期待されるが,これについての記載も極めて乏しかった。
mTOR 阻害薬の害(有害事象)に関しては口内炎,感染症など多彩な副作用が記載されていたが,グレード3~4 の重大な副作用の頻度は高くなく,概ね忍容可能と判断されていた。口内炎ないし口腔内潰瘍は大多数の患者(およそ80%)にみられる副作用である。投与開始直後の数カ月に多く,それを過ぎると減る傾向があるとされる。感染症も高頻度にみられ,胃腸炎,肺炎,上気道炎,中耳炎,結膜炎などが記載されていた2-5)。その多くは軽症で,mTOR 阻害薬との因果関係も明瞭でない。しかし,少数ながら重篤な肺炎,敗血症や肝炎の報告も散見される。月経異常(無月経など),皮疹(痤瘡ないし痤瘡様発疹),血液検査異常(コレステロール,トリグリセリドの高値)はそれぞれ10%以上にみられた2-5)。また,mTOR 阻害薬投与に際しては,低頻度だが重篤となりやすい間質性肺疾患への注意が求められる。なお,小児の成長発達,将来の生殖能力などを含めた長期的な問題については,未だ知見が極めて乏しい。
以上より,現段階でmTOR 阻害薬による薬物療法については,益が害を上回り,推奨に値する治療オプションの一つである。しかし長期的な益と害に関する知見が不足しており,今後さらなる研究が必要と考えられた。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるために,下記検索式にて2015 年11 月に文献検索を行った。
この58 文献から一次スクリーニングで32 文献を抽出し,システマティックレビューを行い,まず構造化抄録を作成した。
これらの論文中,多数の症例を集積しエビデンスの基盤となり得る研究は僅少であり,二次スクリーニング後には5 文献(ランダム化比較試験1 文献1),症例集積4 文献2-5))しか残らなかった。
これらの論文ではmTOR 阻害薬投与を6 カ月~3 年続けた後に32~56%の症例で50%以上の腫瘍体積縮小が観察されたことから,エビデンスとしては弱いながらも,mTOR 阻害薬の益(腫瘍縮小効果)は確実と考えられた。ただし3 年を超える長期間,薬物療法を継続する必要があるのか,継続した際に効果は持続するのかについては,未だ知見がない現状である。
mTOR 阻害薬の害(有害事象)に関しては口腔内潰瘍,感染症など多彩な副作用が記載されているが,グレード3~4 の重大な副作用の頻度は高くなく,概ね忍容可能と判断された。ただし小児の成長発達,将来の生殖能力などを含めた長期的な問題については十分な知見が得られていない。
また,薬価が非常に高価であり,治療期間が長い年月にわたるため,患者または行政にかかる費用負担が大きいことも問題となり得る。
以上より,現段階でmTOR 阻害薬による薬物療法については,益が害を上回り,推奨に値する治療オプションの一つと考えられるが,長期的な益と害に関する知見が不足しており,今後さらなる研究が必要と考えられた。
❖ 文献
- 1)
- Franz DN, Belousova E, Sparagana S, et al. Efficacy and safety of everolimus for subependymal giant cell astrocytomas associated with tuberous sclerosis complex(EXIST-1):a multicentre, randomised, placebo-controlled phase 3 trial. Lancet. 2013;381(9861):125‒32.[PMID:23158522]
- 2)
- Franz DN, Leonard J, Tudor C, et al. Rapamycin causes regression of astrocytomas in tuberous sclerosis complex. Ann Neurol. 2006;59(3):490-8.[PMID:16453317]
- 3)
- Krueger DA, Care MM, Holland K, et al. Everolimus for subependymal giant-cell astrocytomas in tuberous sclerosis. N Engl J Med. 2010;363(19):1801‒11.[PMID:21047224]
- 4)
- Krueger DA, Care MM, Agricola K, et al. Everolimus long-term safety and efficacy in subependymal giant cell astrocytoma. Neurology. 2013;80(6):574-80.[PMID:23325902]
- 5)
- Franz DN, Belousova E, Sparagana S, et al. Everolimus for subependymal giant cell astrocytoma in patients with tuberous sclerosis complex:2-year open-label extension of the randomised EXIST-1 study. Lancet Oncol. 2014;15(13):1513‒20.[PMID:25456370]
課題4:放射線治療
- CQ5
- 外科的切除の対象とならない非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対して放射線治療は有用か?
- 推奨度2D
- 推奨
非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対して,外科的切除の対象とならない場合に放射線治療を行わないことを提案する。
解説
1.CQ の設定
SEGA は全摘出できれば治癒が期待できる低悪性度神経膠腫(WHO grade Ⅰ)である。この腫瘍に対し放射線治療が選択される機会は少ないが,他の神経膠腫と同様に考えれば手術,薬物療法が有効でない場合,放射線治療が治療選択肢として想定される。しかし,実際に放射線治療を推奨できるかどうかを決定するためには,腫瘍の縮小効果と有害事象として放射線障害等の問題を検討する必要がある。よって,本CQ に対する推奨を作成するため,アウトカムを下記のように設定した。
- アウトカム:
- 1)腫瘍コントロール率
2)有害事象・QOL 低下
2.推奨の解説
SEGA は腫瘍が全摘出できれば治癒が期待できる低悪性度神経膠腫(WHO grade Ⅰ)であるため放射線治療が選択されることは少なく,これに関連する論文も非常に少ない。
文献を検索すると,複数例のSEGA に対する放射線治療の効果を主に検討したのは1 つの報告のみであった1)。この報告では,初期治療として4 例,手術後再増大1 例,手術後残存1 例の計6 例に対し,定位放射線治療であるガンマナイフを用いて放射線治療を行い,平均73 カ月(42~90 カ月)の経過観察期間では5 例で腫瘍制御が可能であったとしている。それ以外では,ガンマナイフの治療効果について検討された文献の中でSEGA が含まれていたのは3 つの報告2-4)があった。種々の脳腫瘍(137 例148 腫瘍)に対するガンマナイフ後の腫瘍体積を検討したPark らの報告では,低悪性度神経膠腫15 例の中にSEGA が2 例含まれ,この2 例ではガンマナイフ後平均7 カ月(4~17 カ月)という非常に短い経過観察期間であるが腫瘍縮小効果があったと報告している3)。12 例の低悪性度神経膠腫に対するガンマナイフの効果を検討したHenderson らの報告では,SEGA の2 例中1 例は治療後に増大し手術が必要になったと報告している2)。また,21 例の低悪性度神経膠腫に対してガンマナイフの効果を検討した報告4)にはSEGA が3 例あり,その全例が治療後に腫瘍が増大し手術が必要になったと報告している。これらSEGA に対してガンマナイフが施行された上記の4 つの報告1-4)の計13 例中5 例(38%)がガンマナイフ後に増大し,腫瘍制御の効果として十分な結果ではなかった。また,10 例のSEGA の治療結果をまとめた報告5)の中で,線量など詳細な記載はなかったが,摘出後の残存病変に対し放射線治療を施行した1 例が増大し,手術が必要であったと報告している。これらの報告では症例数が少なく,さまざまな治療対象で,論文間で結果にばらつきがあるなどエビデンスとしては非常に低いものではあるが,ガンマナイフがSEGA に対して腫瘍制御に十分な効果があるとはいえない。一方,ガンマナイフによる放射線治療の有害事象についてはPark らの報告のみであり,経過観察期間平均73 カ月(42~90 カ月)では有害事象はなかったが,さらなる症例数と長期の結果がより正確な評価には必要であると考察している1)。
分割照射においては,SEGA 摘出後の残存病変に対してリニアックによる分割照射を施行し,8 年後に照射野である右側頭葉内側に膠芽腫をきたした報告6)や,放射線治療の種類や線量の記載はないが,手術後再発病変に対する放射線治療の数年後にSEGA の近接部位に膠芽腫をきたした報告7)がある。このように,分割照射では放射線治療後の晩期障害で二次がん(膠芽腫)が発生する可能性があり,SEGA に対して分割照射をすべきでないという報告がある6)。
以上の報告例から,SEGA に対する放射線治療としてガンマナイフによる腫瘍制御の有効性は十分ではなく,ガンマナイフによる有害事象の報告はないものの,その判定にはさらなる長期の経過観察と症例の蓄積が必要とされる。リニアックによる分割照射は腫瘍制御の効果は不明であり,放射線治療に伴う二次がんとして長期経過で膠芽腫の発生という生命予後を悪化させる重篤な有害事象が報告されているため,施行すべきではない。2012年に行われた結節性硬化症に対するInternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012 の報告A)で,SEGA に対する放射線治療は治療の有効性は示されず,二次がんの発生の可能性が強調されている。結論として,報告例が少ないためエビデンスとしては非常に弱いが,現時点でガンマナイフやリニアックによる分割照射による放射線治療は,いずれもSEGA に対して益が害を上回る有効な治療とはいえないため,行わないことを提案する。
推奨の決定は,委員全員の投票により行われたが,全員の賛成一致で原案の推奨文が可決された。
今後の検討課題として,「mTOR 阻害薬投与によってSEGA の縮小効果が得られないが外科的治療を施行しない場合,あるいは,SEGA の摘出後の再発病変や残存病変の増大に対し,放射線治療は有用か?」について検討する必要がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるために,下記検索式にて2015 年11 月に文献検索を行った。
この#2,#3,#4 の合計30 文献で一次スクリーニングを行った。文献のアブストラクトにおいてSEGA に対する放射線治療ではないもの,SEGA が含まれていないもの,放射線治療をしたかどうか不明なもの,薬物療法のみの記載しかない16 文献を除外した。
一次スクリーニングで残った14 論文とこれらの論文で引用されていた4 文献,計18 文献において二次スクリーニングを行った。二次スクリーニングで,レビューのみの文献およびSEGA に対して放射線治療を行っていな文献は除外し,アウトカム1)腫瘍コントロール率に対して,腫瘍コントール率が不明なものおよび症例報告は除外した。アウトカム2)有害事象・QOL 低下に対して,有害事象に記載がないものは除外したが,このアウトカムは,重要な有害事象という「害」が含まれていたため,症例報告1 論文も採用した。二次スクリーニング後に7 文献が残った。
アウトカム1)腫瘍コントロール率では,SEGA に対する放射線治療(ガンマナイフ)の効果を検討しているものは1 文献1)で,この文献でも6 例のみと非常に少数例の報告であった。そのため,放射線治療の腫瘍縮小効果を可能な限り文献上で検討するために,さまざまな脳腫瘍に対するガンマナイフ後の腫瘍体積を検討した1 文献3)のうちSEGA 2 例,低悪性度神経膠腫に対するガンマナイフの効果を検討した2 文献2,4)のうちSEGA がそれぞれ2 例と3 例が含まれていたので,これら3 文献はアウトカム1)の評価のため採用した。また,1 施設でSEGA に対する治療をまとめた1 文献5)のうち,放射線治療を施行していたSEGA 1 例が含まれていたため,この1 文献もアウトカム1)の評価のため採用し,合計5 文献,14 例に対して検討した。
アウトカム2)有害事象・QOL 低下では,SEGA に対する放射線治療の効果を検討している論文で,有害事象の有無について記載があった1 文献1)は採用した。また,SEGA 19 例のうち放射線治療を行った1 例で重要な有害事象を認めたと報告した1 文献7)と症例報告ではあったものの,重篤な有害事象を認めた1 文献6)も重要な「害」と判断したため,合計3 文献を採用した。
アウトカム1)腫瘍コントロール率に関して,採用した5 文献のうち,腫瘍コントロールできたものは14 例中8 例の57%のみであった。これらの経過観察期間は,SEGA に対するガンマナイフの効果を検討していた1 文献1)の3 例が,平均73 カ月(42~90 カ月)と記載があったものの,その他,放射線治療を施行したSEGA に対する詳細な経過観察期間は不明であり,長期に経過観察されているか不明であった。放射線治療のうちガンマナイフで検討された4 文献1-4)の13 例中5 例で増大し,摘出術が必要であった。また,これらの文献のうち6 例中5 例で腫瘍制御が平均73 カ月(42~90 カ月)経過観察期間において可能であったとする報告1)や,3 例中3 例で増大し効果がないとする報告4)があることからも,SEGA に対するガンマナイフの効果は非常にばらつきがあった。また,これらの文献では,手術後残存病変,手術後再発病変,無症候性の増大病変や無増大病変など治療対象はさまざまな状態であった。残りの1 文献5)では放射線治療の線量,種類は不明であったが,増大し手術加療が必要であったと報告されていた。これらのことから,エビデンスとしては非常に弱いものであるが,現在,SEGA に対する放射線治療の腫瘍コントロールにおいて放射線治療,ガンマナイフにおいても効果があるとは結論できない。
放射線治療の有害事象・QOL 低下である「害」に関して,採用した3 文献のうち,SEGA 6 例に対してガンマナイフを施行した文献1)では,経過観察期間が平均73 カ月(42~90 カ月)で有害事象はなかったと報告されている。症例報告の1 例は,手術後残存部位に対して分割照射を施行後8 年で照射野である右側頭葉内側に膠芽腫をきたした例が報告6)されている。最後の1 文献7)では,放射線治療の種類や線量に記載がないが,手術後再発病変に対する放射線治療数年後にSEGA の近接部位に膠芽腫をきたしたと報告されている。現在,症例数が少なく,バイアスの評価も困難であるものの,SEGA という低悪性度神経膠腫に対する放射線治療の「害」の評価には,長期の経過観察が必要である。分割照射では重篤な「害」として放射線治療後の晩期障害として二次がん(膠芽腫)が発生する可能性があり,すべきでないとの報告6)がある。SEGA に対するガンマナイフは「害」については現在のところ報告されてないが,長期の経過観察がさらに必要と考えられる。
❖ 文献
- 1)
- Park KJ, Kano H, Kondziolka D, et al. Gamma Knife surgery for subependymal giant cell astrocytomas. Clinical article. J Neurosurg. 2011;114(3):808‒13.[PMID:20950089]
- 2)
- Henderson MA, Fakiris AJ, Timmerman RD, et al. Gamma knife stereotactic radiosurgery for low-grade astrocytomas. Stereotact Funct Neurosurg. 2009;87(3):161‒7.[PMID:19321969]
- 3)
- Park YG, Kim EY, Chang JW, et al. Volume changes following gamma knife radiosurgery of intracranial tumors. Surg Neurol. 1997;48(5):488‒93.[PMID:9352814]
- 4)
- Wang LW, Shiau CY, Chung WY, et al. Gamma Knife surgery for low-grade astrocytomas:evaluation of long-term outcome based on a 10-year experience. J Neurosurg. 2006;105 Suppl:127‒32.[PMID:18503345]
- 5)
- Sinson G, Sutton LN, Yachnis AT, et al. Subependymal giant cell astrocytomas in children. Pediatr Neurosurg. 1994;20(4):233‒9.[PMID:8043461]
- 6)
- Matsumura H, Takimoto H, Shimada N, et al. Glioblastoma following radiotherapy in a patient with tuberous sclerosis. Neurol Med Chir(Tokyo). 1998;38(5):287‒91.[PMID:9640965]
- 7)
- Torres OA, Roach ES, Delgado MR, et al. Early diagnosis of subependymal giant cell astrocytoma in patients with tuberous sclerosis. J Child Neurol. 1998;13(4):173‒7.[PMID:9568761]
【その他の参考論文】
- A)
- Roth J, Roach ES, Bartels U, et al. Subependymal giant cell astrocytoma:diagnosis, screening, and treatment. Recommendations from the International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012. Pediatr Neurol. 2013;49(6):439‒44.[PMID:24138953]
2 章 中枢神経原発胚細胞腫瘍 CNS germ cell tumor
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
中村 英夫
久留米大学 脳神経外科/脳神経外科
総括
副委員長
柳澤 隆昭
東京慈恵会医科大学 脳神経外科/小児科
再発時の治療方針
委員
唐沢 克之
都立駒込病院 放射線治療科/放射線治療
放射線治療
協力委員
副島 俊典
神戸陽子線センター 放射線治療科
放射線治療
協力委員
横尾 英明
群馬大学 病態病理学分野/病理診断
疾患の特徴
委員
西川 亮
埼玉医科大学国際医療センター 脳脊髄腫瘍科/放射線治療
長期予後
委員
藤巻 高光
埼玉医科大学病院 脳神経外科/放射線治療
診断,分類
協力委員
原 純一
大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科/小児科
化学療法
委員
寺島 慶太
国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科/小児科
化学療法
委員
園田 順彦
山形大学 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
委員
荒川 芳輝
京都大学大学院医学研究科 脳神経外科学/脳神経外科
外科的治療
委員
隈部 俊宏
北里大学 脳神経外科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
委員
杉山 一彦
広島大学 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
1
診断,分類
藤巻 高光
福岡 講平(埼玉県小児医療センター 血液腫瘍科)
高見 浩数(東京大学 脳神経外科)
2
外科的治療
荒川 芳輝
園田 順彦(山形大学 脳神経外科)
櫻田 香(山形大学 脳神経外科)
峰晴 陽平(京都大学大学院医学研究科 脳神経外科学)
3
ジャーミノーマに対する治療
唐澤 克之
副島 俊典(神戸陽子線センター 放射線治療科)
藤井 元彰(三井記念病院 放射線治療科)
篠島 直樹(熊本大学 脳神経外科)
4
NGGCT に対する治療
寺島 慶太
原 純一(大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科)
山崎 夏維(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
藤村 純也(順天堂大学 小児科)
5
再発時の治療方針
柳澤 隆昭
山崎 文之(広島大学 脳神経外科)
高橋 麻由(京都田辺中央病院 脳神経外科)
6
長期予後
西川 亮
鈴木 智成(埼玉医科大学国際医療センター 脳脊髄腫瘍科)
佐藤 伊織(東京大学医学部健康総合科学科大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻 家族看護学分野)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
中枢神経原発胚細胞腫瘍に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,中枢神経原発胚細胞腫瘍患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された13 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにガイドライン作成ワーキンググループがシステマティックレビュー(SR)チームの責任者となり,責任者にSR 委員を選出してもらい,各課題2 名または3 名で編成した。中枢神経原発胚細胞腫瘍が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2015 年8 月23 日中枢神経原発胚細胞腫瘍ガイドライン第1 回会議を開催し,ガイドライン作成ワーキンググループが発足。課題をどのようにするか討議し各課題のリーダーを決定した。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2016 年1 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014 に準拠した方法により行った。中枢神経原発胚細胞腫瘍が稀少疾患であるためエビデンスが少なく,適用が困難な場面に遭遇したが,論議しながら完成に向かった。
ガイドライン作成ワーキンググループ会議:ガイドライン作成ワーキンググループ内での会議を全体で6 回行った。
第1 回 2015 年8 月23 日(東京)委員選出と役割分担について
第2 回 2017 年9 月22 日(東京)システマティックレビューに関してMinds(吉田雅博氏)の講義を受け,それぞれのレビューの進行確認
第3 回 2018 年1 月27 日(東京)各CQ,推奨,解説文に関する討議
第4 回 2018 年11 月14 日(京都)各CQ,推奨,解説文に関する討議
第5 回 2019 年9 月14 日(大阪)各CQ における推奨グレードの決定
第6 回 2019 年9 月15 日(東京)各CQ における推奨グレードの決定
推奨作成とその決定:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,メールで討議した。推奨グレードに関してはガイドライン作成ワーキンググループおよびSR チーム24 名にて投票を行い,ガイドライン作成ワーキンググループ内における推奨グレードをまず決定し,最終的に2019 年10 月10 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会にて統括委員全員の投票により決定した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年6 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
1)臨床的特徴
始原生殖細胞に由来すると考えられている原発性脳腫瘍である。腫瘍起源としては,本来なら胎生第3 週に出現し,後腸より背側腸間膜を経由して,4 週末~5 週始めに生殖堤に達し性腺原基を形成する始原生殖細胞が,何らかの遊走異常により脳に達し,異所性胚細胞として生き残り腫瘍化したと考える説が有力である1,2)。しかし,一方ではヒトの胎生幹細胞(ES 細胞)からでもgerm cell やembryoid body が形成されることから,脳自体のES 細胞から発生した可能性もあると提唱する説もある3)。組織系の分類として,中枢神経系胚細胞腫瘍には5 つの組織型が存在する。すなわち,①ジャーミノーマ,②奇形腫(成熟・未熟),③卵黄囊腫瘍,④絨毛癌,⑤胎児性癌である。さらに,これらの組織を持つ腫瘍が単独ではなく各々の成分を混じる混合腫瘍として存在することもあり,非常に診断が困難な場合がある。画像診断もある程度有用であるが,確定診断は難しく,病理学的組織診断および,後述する血清および髄液の腫瘍マーカー[α-fetoprotein(AFP),human chorionic gonadotropin(HCG),β-subunit of human chorionic gonadotropin(β-HCG)]が確定診断に有用である。中枢神経原発胚細胞腫瘍の画像診断,病理診断所見,腫瘍マーカー,免疫組織学的染色について表1 に示す。分子生物学的解析においてはジャーミノーマにてc-kit の高発現や遺伝子変異,KRAS の遺伝子変異を含めたいくつかの遺伝子や染色体異常の報告がある4-6)。KIT/RAS シグナル,AKT/mTOR シグナルなどが腫瘍の生物学的特徴に関与しているといわれているが,まだそれらの解明には至っていない。エピジェネティックな解析では,他の胚細胞腫瘍に比べてジャーミノーマは極端にDNA のメチル化が低いということも報告されている7)。腫瘍自体が混合腫瘍(heterogeneous tumor)であることも稀ではないため,臨床的な分類において悪性腫瘍と良性腫瘍の線引きが難しい。欧米では純粋なジャーミノーマとそれ以外の胚細胞腫瘍(non-germinomatous germ cell tumor:NGGCT)の2 群に分類されて論じられることが多いが,日本では臨床的予後を反映する分類としてMatsutani らが提唱している予後良好(good prognosis)群,中間(intermediate prognosis)群,予後不良(poor prognosis)群の3 型分類が用いられる場合もある8)。
2)疫学的特徴
中枢神経原発胚細胞腫瘍は欧米に比べて,日本を含めた東アジアに多いとされている9)。欧米に比べて3~8倍の発生率との報告があり,また北米における移民でもアジア系に発生率が高いことから,中枢神経原発胚細胞腫瘍の発生には遺伝学的要素の関与が示唆されている。日本における脳腫瘍全国集計調査報告においては,原発性脳腫瘍の2.7%,小児脳腫瘍の15.3%の頻度であり,特に10 歳代に多い腫瘍で男性に多いとされている。組織型では中枢神経系胚細胞腫瘍のうち約70%がジャーミノーマであり,それ以外のそれぞれの腫瘍の頻度は10%以下である。発生部位は,80%以上が視床下部・下垂体後葉(neurohypophyseal germ cell tumors)と松果体(pineal germ cell tumors)に集中している。また,両部位に同時に発生する場合もある(bifocal tumor)。松果体部に発生するジャーミノーマはほとんどが男児であり,女児に発生するジャーミノーマは視床下部・下垂体後葉に多いという特徴がある。頻度は低いが,大脳基底核,視床,脳幹部,脊髄,小脳にも原発することがある。5 年生存率は組織型によって異なるが,ジャーミノーマにおいては95%を超えており,ほとんどの症例がQOL を保ちつつ長期生存可能である。NGGCT に関しても,かなり臨床的予後は改善しており,40~70%の症例において5 年以上の無増悪生存期間を保つことができるようになってきている。初期治療後,ある期間をおいて再発することがあり,組織系によって異なるが,治療困難な症例もあり,治癒できない場合もある。
3)診療の全体的な流れ
松果体部に発生した腫瘍では,中脳水道閉塞による水頭症が原因で頭蓋内圧亢進症状を呈することや,中脳四丘体を圧迫もしくは浸潤することで上方注視麻痺を呈して発症することが多い。一方,視床下部・神経下垂体近傍の腫瘍では,視力視野障害やホルモン分泌障害に伴う症状を呈することにより発症する。特に,尿崩症は80~90%の症例に認められる。下垂体前葉機能障害は成長停滞,無月経,肥満などの症状が多く,血清学的にホルモン値や電解質の異常が認められる。また,基底核部や視床にできた場合は,麻痺,感覚障害,精神症状などが認められる。これらの症状により頭部MRI などの画像を撮影され,胚細胞腫瘍が疑われた場合は,診断を確定し治療が必要となる。診断においては,まず胚細胞腫瘍に特徴的な血清もしくは髄液腫瘍マーカー(AFP,HCG,β-HCG)の測定を行う。純粋なジャーミノーマや奇形腫は腫瘍マーカーが上昇しないので,その場合は外科的に組織を採取し診断を確定する必要がある。外科的摘出により合併症が出現する可能性が高い場合は,必ずしも組織確認の必要はないとの意見もある。外科的な組織生検術としては開頭にて行う場合もあるが,内視鏡を用いて行っても問題はないと考えられている。特に,水頭症を合併している症例に関しては,水頭症治療と同時に内視鏡的に行われることが主流になりつつある。中枢神経原発胚細胞腫瘍の外科的介入の方法とタイミングに関しては,①腫瘍マーカーが上昇しているかどうか,②水頭症を合併しているかどうか,③腫瘍がどこに発生しているか,④化学療法,放射線療法の反応性が良いか,などの病態によって異なることが多く,複雑である。中枢神経原発胚細胞腫瘍における治療において,化学療法と放射線療法は非常に重要である。3 歳未満は放射線療法を控えるが,3 歳以上であれば放射線療法を行うことが多い。腫瘍の診断によって放射線療法の方法はさまざまであり,悪性度が高いほど放射線の照射範囲や量が増える傾向である。化学療法はシスプラチン,カルボプラチンなどの白金製剤を中心のレジメンが考慮され,その他の抗腫瘍剤を組み合わせて行う。中枢神経原発胚細胞腫瘍の治療において,化学療法を積極的に取り入れることは,放射線の照射量を減量でき,治療成績を下げることなく放射線療法の晩発的な有害事象を減じる効果に有用であると考えられている。中枢神経原発胚細胞腫瘍において再発した場合,その治療は大変困難である。ジャーミノーマに関しては,再発率は低いものの,一端再発すると治療は困難な場合がある。NGGCT に関しては,ジャーミノーマよりさらに再発における治癒率は低い。10 年以上経過して再発する症例もあり,長期的なフォローアップが必要である。後述する課題6 の長期予後において詳細に述べるが,ジャーミノーマ(図1 ではGCCT と記載)の長期的なフォローにて観察された合併症も報告されており,Kaplan-Meier 生存曲線は,人口統計に比べてはるかに速いペースで,30 年以上ほぼコンスタントに下がり続けている(図1)10)。つまり,中枢神経原発胚細胞腫のフォローアップは永久的に必要と考えられる。
❖ 文献
- 1)
- Sano K, Matsutani M, Seto T. So-called intracranial germ cell tumours:personal experiences and a theory of their pathogenesis. Neurol Res. 1989;11(2):118-26.[PMID:2569683]
- 2)
- Sano K. Intracranial dysembryogenetic tumors:pathogenesis and their order of malignancy. Neurosurg Rev. 2001;24(4):162-7;discussion 168-70.[PMID:11778821]
- 3)
- Scotting PJ. Are cranial germ cell tumors really tumors of germ cells? Neuropathol Appl Neurobiol. 2006;32(6):569-74.[PMID:17083471]
- 4)
- Wang L, Yamaguchi S, Burstein MD, et al. Novel somatic and germline mutations in intracranial germ cell tumours. Nature. 2014;511(7508):241-5.[PMID:24896186]
- 5)
- Terashima K, Yu A, Chow WY, et al. Genome-wide analysis of DNA copy number alterations and loss of heterozygosity in intracranial germ cell tumors. Pediatr Blood Cancer. 2014;61(4):593-600.[PMID:24249158]
- 6)
- Ichimura K, Fukushima S, Totoki Y, et al;Intracranial Germ Cell Tumor Genome Analysis Consortium. Recurrent neomorphic mutations of MTOR in central nervous system and testicular germ cell tumors may be targeted for therapy. Acta Neuropathol. 2016;131(6):889-901.[PMID:26956871]
- 7)
- Fukushima S, Yamashita S, Kobayashi H, et al;Intracranial Germ Cell Tumor Genome Analysis Consortium(The iGCTConsortium). Genome-wide methylation profiles in primary intracranial germ cell tumors indicate a primordial germ cell origin for germinomas. Acta Neuropathol. 2017;133(3):445-62.[PMID:28078450]
- 8)
- Matsutani M, Sano K, Takakura K, et al. Primary intracranial germ cell tumors:a clinical analysis of 153 histologically verified cases. J Neurosurg. 1997;86(3):446-55.[PMID:9046301]
- 9)
- Makino K, Nakamura H, Yano S, et al;Kumamoto Brain Tumor Research Group. Incidence of primary central nervous system germ cell tumors in childhood:a regional survey in Kumamoto prefecture in southern Japan. Pediatr Neurosurg. 2013;49(3):155-8.[PMID:24751890]
- 10)
- Acharya S, DeWees T, Shinohara ET, et al. Long-term outcomes and late effects for childhood and young adulthood intracranial germinomas. Neuro Oncol. 2015;17(5):741-6.[PMID:25422317]
2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:中枢神経原発胚細胞腫瘍の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後,QOL の改善
- (3)トピック:診断,生命予後,機能予後,QOL の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:脳腫瘍を診療する医療者や施設,患者・家族
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本では既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)課題1:診断,分類
課題2:手術
課題3:ジャーミノーマに対する化学放射線療法
課題4:NGGCT に対する化学放射線療法
課題5:再発時の治療
課題6:長期予後
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
脊髄に発生した胚細胞腫瘍も含む。
成人の胚細胞腫瘍も含む。
中枢神経系以外に発生した胚細胞腫瘍は含まない。
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:2 カ月
文献の選出:2 カ月
エビデンス総体の評価と統合:2 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:2003 年より中枢神経原発胚細胞腫の国際カンファレンス(International CNS germ cell tumor symposium)が2017 年までに5 回開催されている[第1 回京都(2003 年),第2 回ロサンジェルス(2005 年),第3 回ケンブリッジ(2013 年),第4 回東京(2015 年),第5 回コロンバス(2017 年)]。その討論の結果合意の得られた内容に関して,論文化されている。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験の報告は,海外からいくつか報告されている。その他,非ランダム化比較試験,観察研究を検索対象にする。症例報告に関しては一部を除いて省略する。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed
- SR/MA 論文について:Cochrane になし。
- 既存のガイドラインの検索:不要
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2018 年12 月まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合が量的統合を実施。
課題1:診断,分類
- CQ1
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍における腫瘍マーカー(AFP,HCG)の測定は有用か?
- 推奨度1A
- 推奨
中枢神経原発胚細胞腫瘍では,腫瘍マーカー(AFP,HCG)を測定することを推奨する。
解説
中枢神経原発胚細胞腫瘍を疑う症例では,血液と,可能な場合は同時に髄液中の腫瘍マーカー(AFP,HCG)を測定することが推奨される。
中枢神経原発胚細胞腫瘍の診断において,典型的な画像所見と臨床所見を呈した場合,まず行う検査が腫瘍マーカーの測定である。中枢神経原発胚細胞腫瘍の典型的な画像所見とは,神経下垂体,松果体またはその両者における造影効果を伴う病変の存在であり,CT 画像における石灰化病変は奇形腫の存在を疑わせる所見である。また,典型的な臨床所見としては,神経下垂体に発生した場合は尿崩症を含めた内分泌異常による症状や視力・視野障害が,松果体に発生した場合は閉塞性水頭症の他にParinaud 徴候やArgyll-Robertson 瞳孔がみられやすいことが挙げられる1)。
ただし,ランゲルハンス細胞組織球症などでもHCG の上昇を認めることがあり,特に軽度上昇例においては注意が必要である2)。そのため,顕著な上昇例以外は組織採取による病理診断が推奨される(CQ2 参照)。HCG の上昇例はジャーミノーマが考慮され,それが高値を示す症例は絨毛癌が疑われる。AFP の上昇は特に卵黄囊腫瘍でみられる。未熟奇形腫や胎児性癌ではHCG とAFP の上昇を示すことがある3)。しかし,組織診断が不要となるようなHCG とAFP の顕著な上昇,あるいは著しい高値が,具体的にいくつ以上を示すのかについては定説がない。
中枢神経原発胚細胞腫瘍を他の腫瘍と鑑別するため,またnon-germinomatous germ cell tumor(NGGCT)をジャーミノーマから鑑別するための腫瘍マーカーの適切な基準値については多くの報告があるが,これも現状では国や施設によって異なり,国際的に共通した基準値のコンセンサスは得られていない。しかし,化学療法,放射線療法に対する腫瘍の反応性の指標として腫瘍マーカーの推移が有用とする報告は認められている4-7)。ジャーミノーマとNGGCT を鑑別する世界的に代表的な腫瘍マーカーの基準を表1 に示す。一方,Matsutani らはNGGCT の中の高度悪性群に関しては腫瘍マーカーの組織診断なしに診断してよい基準値を一部設けているものの,ジャーミノーマとの鑑別に関しての明確な腫瘍マーカーの基準値は設けていない1)。表1 のMatsutani らの分類では,欧米では病理学的にNGGCT に分類される成熟奇形腫は,臨床的予後を考慮して,ジャーミノーマとともに予後良好群として分類されている。
中枢神経原発胚細胞腫瘍における腫瘍マーカーの値と予後との関連については,NGGCT においてHCG の値による予後の差が有意であるとする報告はないが,AFP の値が高い症例は予後が悪いとされ8,9),特に1,000 ng/mL を超える症例は有意に予後不良であると報告されている8)。一方で,欧米のNGGCT の基準では,HCG 産生を伴うジャーミノーマも含まれており,HCG 産生を伴うNGGCT の臨床的予後が実際のNGGCT の予後を反映していない可能性があり,解釈に注意を要する。
また,HCG の測定法は国際的に必ずしも統一されておらず注意を要する。HCG は2 つのサブユニット(α,β)で構成されホルモンとして機能するが,αサブユニットのアミノ酸配列がLH(黄体化ホルモン),FSH(卵胞刺激ホルモン),TSH(甲状腺刺激ホルモン)と共通の構造をしており免疫学的に交差するため,HCGの測定にはβサブユニットを認識する抗体を用いて測定する。一般に妊娠などの正常な状態ではα,βサブユニット双方からなるインタクトHCG のみが産生されるが,胚細胞腫瘍など腫瘍性疾患ではβサブユニットだけのHCG などさまざまな非機能的なHCG が産生される。測定キットによって測定しているものが異なり,測定しているものがα,βサブユニットからなるインタクトHCG なのか,遊離したβ-HCG のみを測定しているのか,あるいはインタクトHCG とβ-HCG (遊離を含む)をすべて測定(トータルHCG)しているのかを意識して測定値をみる必要がある。正常な状態ではインタクトHCG とトータルHCG はほとんど同じ値であるが,腫瘍性疾患では乖離がみられる可能性がある。一般的にインタクトHCG はECLIA 法を用いて測定され,単位はIU/L またはmIU/mL である[論文においてはI(international)を省略してU/L やmU/mL としているものもある]。一方,遊離型のβ-HCG のみを測定する場合はRIA 法で測定され,単位はng/mL である。また,トータルHCG はCLEIA 法で測定され,単位はIU/L またはmIU/mL である。胚細胞腫瘍の臨床において,どの測定法が高い特異度であるかについて報告はないが,精巣の胚細胞腫瘍において,トータルHCG を測定する方が,治療効果,再発に関してより特異的であったと報告がある10)。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の診断・分類について下記検索式による検索を2017 年7 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして141 文献を抽出し,45 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ1 では12 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Matsutani M, Sano K, Takakura K, et al. Primary intracranial germ cell tumors:a clinical analysis of 153 histologically verified cases. J Neurosurg. 1997;86(3):446-55.[PMID:9046301]
- 2)
- Kinoshita Y, Yamasaki F, Usui S, et al. Solitary Langerhans cell histiocytosis located in the neurohypophysis with a positive titer HCG-beta in the cerebrospinal fluid. Childs Nerv Syst. 2016;32(5):901-4.[PMID:26527477]
- 3)
- Kim A, Ji L, Balmaceda C, et al. The prognostic value of tumor markers in newly diagnosed patients with primary central nervous system germ cell tumors. Pediatr Blood Cancer. 2008;51(6):768-73.[PMID:18802946]
- 4)
- Kawaguchi T, Kumabe T, Kanamori M, et al. Logarithmic decrease of serum alpha-fetoprotein or human chorionic gonadotropin in response to chemotherapy can distinguish a subgroup with better prognosis among highly malignant intracranial non-germinomatous germ cell tumors. J Neurooncol. 2011;104(3):779-87.[PMID:21359564]
- 5)
- Fujimaki T, Mishima K, Asai A, et al. Levels of beta-human chorionic gonadotropin in cerebrospinal fluid of patients with malignant germ cell tumor can be used to detect early recurrence and monitor the response to treatment. Jpn J Clin Oncol. 2000;30(7):291-4.[PMID:11007160]
- 6)
- Seregni E, Massimino M, Nerini Molteni S, et al. Serum and cerebrospinal fluid human chorionic gonadotropin(hCG)and alpha-fetoprotein(AFP)in intracranial germ cell tumors. Int J Biol Markers. 2002;17(2):112-8.[PMID:12113577]
- 7)
- Picozzi VJ Jr., Freiha FS, Hannigan JF Jr., et al. Prognostic significance of a decline in serum human chorionic gonadotropin levels after initial chemotherapy for advanced germ-cell carcinoma. Ann Intern Med. 1984;100(2):183-6.[PMID:6318631]
- 8)
- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
- 9)
- Goldman S, Bouffet E, Fisher PG, et al. Phase Ⅱ Trial Assessing the Ability of Neoadjuvant Chemotherapy With or Without Second-Look Surgery to Eliminate Measurable Disease for Nongerminomatous Germ Cell Tumors:A Children’s Oncology Group Study. J Clin Oncol. 2015;33(22):2464-71.[PMID:26101244]
- 10)
- 滝沢昭利,三浦 猛,藤浪 清ほか.精巣腫瘍におけるhCG とβHCG の意義.臨床泌尿器.2005:59(6);405-9.
- 11)
- Baek HJ1, Park HJ, Sung KW, et al. Myeloablative chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed or progressed central nervous system germ cell tumors:results of Korean Society of Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)S-053 study. J Neurooncol. 2013;114(3):329-3.[PMID:23824533]
- 12)
- Wu CC, Guo WY, Chang FC, et al. MRI features of pediatric intracranial germ cell tumor subtypes. J Neurooncol. 2017;134(1):221-30.[PMID:28551848]
- CQ2
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍における病理組織診断は必要か?
- 推奨度2C
- 推奨
中枢神経原発胚細胞腫瘍を疑う症例において,診断確定のためには病理組織による診断を提案する。
解説
中枢神経原発胚細胞腫瘍の診断において,MRI 画像診断や腫瘍マーカーもその一助になるが,前述のようにHCG の上昇はランゲルハンス細胞組織球症など他の疾患でも認められ得るため,生検によってのみ確定診断が得られる症例は少なからず存在する。Wu らは,85 例の頭蓋内原発胚細胞腫瘍においてさまざまなMRI 撮像法においてジャーミノーマとNGGCT の鑑別ができないかを後方視的コホート研究として検討しており,T1 高信号の部分があること,造影パターン,ADC 値を組み合わせることによってジャーミノーマとNGGCT の鑑別がある程度可能であると報告している1)。しかし,彼らの登録症例においても術前総合的に中枢神経原発胚細胞腫瘍と診断していたが,病理組織診断すると全く胚細胞腫瘍ではなかった症例が1 例存在したと報告している。Aizer らは,1998~2012 年までに治療した頭蓋内原発胚細胞腫瘍71 例について検討し,14 例がbifocal tumor であり,うち10 例で組織診断を行い,7 例がジャーミノーマ,3 例はNGGCT であり,NGGCT の3例はいずれもβ-HCG が正常値で,AFP は正常か軽度上昇であったことを報告している2)。Calaminus らは,SIOP-CNS-GCT-96 trial において1996~2005 年まで149 例のNGGCT の治療成績を検討している。彼女らのNGGCT の診断基準は病理学的にNGGCT が証明されるか,HCG>50 IU/L もしくはAFP>25 ng/mL であるという条件を満たすかであるが,全例腫瘍マーカーの検査を行っており,10 例(7%)の症例においてNGGCT と病理学的に診断されたにもかかわらず,いずれの腫瘍マーカーの上昇も認められなかったと報告している。成熟奇形腫であれば,腫瘍マーカーの上昇が認められなくてもよいが,これらの10 例には奇形腫は含まれていない。病理学的に奇形腫は5 例確認されており,すべての症例においてAFP の上昇が認められている3)。このように,腫瘍マーカーや画像・臨床所見からは中枢神経原発胚細胞腫瘍が疑われる場合でも,例外(胚細胞腫瘍ではない腫瘍や,腫瘍マーカーが上昇してない成熟奇形腫以外のNGGCT など)は存在するので,手術による組織診断が推奨される。特に,非典型的な臨床経過や画像所見を有する場合は,病理組織診断を行うべきである。一方でNGGCT に対しては,ジャーミノーマと同様に手術による組織診断を勧めるという意見と必ずしも必要ないという意見がある。Nakamura らは,14 例のNGGCT を生検による病理診断ではなく腫瘍マーカーの上昇にて診断し,化学放射線治療を先行させ,腫瘍マーカーが陰性になった時点で3 例は腫瘍が完全に消失したが,11 例は腫瘍が残存したために,それらの摘出を試みている。彼らの14 例のNGGCT における5 年無病生存割合,5 年生存割合はそれぞれ86%,93%であった4)。彼らは最初に病理組織診断をしないメリットについては,播種再発を減少させる可能性を述べている。Takahashi らも,NGGCT を同じようなneo-adjuvant therapy のプロトコールにて治療することにより,彼らの施設における過去に実施された治療成績より優れた治療成績が得られたと報告している5)。前述のCQ1 の解説文でも取り上げている欧州でのSIOP-96 という臨床試験の大規模なNGGCT の報告においても,149 例中73 例は病理診断が行われずに腫瘍マーカーにてNGGCT と診断している。これらの報告が,ジャーミノーマでは比較的病理診断を強く推奨するのに対し,NGGCT では必須ではないとせざるを得ない理由である。しかし,これらの報告における懸念として,腫瘍マーカーだけによる診断はジャーミノーマの混在やNGGCT の脱落があり,正確なNGGCT の予後を反映していない可能性はある。つまり,HCG 高値の,しかし組織学的にはジャーミノーマだった場合には過剰治療,腫瘍マーカーが陰性の未熟奇形腫や胎児性癌(あるいはそれらを含む混合性腫瘍)の場合は過少治療になる可能性があるということである。それゆえ,β-HCG やAFP が著しく高値(CQ1 参照)を示した場合は,組織診断を行わずに化学放射線療法を考慮してもよいということでは意見は一致しているが,NGGCT においても腫瘍マーカーだけでの診断が困難な場合は病理組織による診断が必要という意見もあり,現時点では結論づけることができない。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の診断・分類についての検索を2017 年7 月に行った。検索式はCQ1 参照。
一次スクリーニングとして141 文献を抽出し,45 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ2 では5 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Wu CC, Guo WY, Chang FC, et al. MRI features of pediatric intracranial germ cell tumor subtypes. J Neurooncol. 2017;134(1):221-30.[PMID:28551848]
- 2)
- Aizer AA, Sethi RV, Hedley-Whyte ET, et al. Bifocal intracranial tumors of nongerminomatous germ cell etiology:diagnostic and therapeutic implications. Neuro Oncol. 2013;15(7):955-60.[PMID:23640532]
- 3)
- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
- 4)
- Nakamura H, Makino K, Kochi M, et al. Evaluation of neoadjuvant therapy in patients with nongerminomatous malignant germ cell tumors. J Neurosurg Pediatr. 2011;7(4):431-8. [PMID:21456918]
- 5)
- Takahashi S, Yoshida K, Kawase T. Intracranial Germ Cell Tumors:Efficacy of Neoadjuvant Chemoradiotherapy without Surgical Biopsy. Keio J Med. 2011;60(2):56-64.[PMID:21720201]
課題2:外科的治療
- CQ3
- ジャーミノーマに対して積極的な摘出手術は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨
ジャーミノーマに対して積極的な摘出をしないことを推奨する。
解説
Aizer らは,1998~2012 年に治療した頭蓋内原発胚細胞腫瘍71 例について検討し,14 例がbifocal tumor であり,うち10 例で組織診断を行い,7 例がジャーミノーマ,3 例はNGGCT であり,NGGCT の3 例はいずれもβ-HCG が正常値で,AFP は正常か軽度上昇であったことを報告した1)。すなわちbifocal tumor であったとしてもジャーミノーマであるとは断定できない。また,Delphi committee では,2 回の投票とrevision を経て,38 のconsensus statements draft のうち34 のstatement に合意が得られた。手術に関しては,statement 17 において腫瘍マーカーの上昇がない場合は生検による組織診断が必要であるとされた2)。これは世界各国の主要な臨床家による投票であり,必ずしも文献的な高いエビデンスを要求していないが,識者によるコンセンサスといえるものである。以上より,bifocal tumor でジャーミノーマが強く疑われても,また腫瘍マーカーがすべて陰性であっても,生検は推奨される。
Linstadt らは,生検で組織診断したジャーミノーマ13 例,未生検の鞍上部・松果体病変20 例に対する放射線療法の成績を報告した3)。放射線療法は腫瘍に対して40~55 Gy 照射している。生検によるジャーミノーマ診断例は観察期間中央値5.3 年で再発例は認めず,5 年生存率100%であったが,未生検例では,20 例中3 例(15%)が再発後死亡しており,再発後の病理組織は確認されていない。未生検では再発率が高いことより,ジャーミノーマ以外の腫瘍型が混入することが示唆される。つまり,古典的な診断的照射は不適切であり,組織診断が必要であると考えられるようになった。一方,Sawamura らは,29 例のジャーミノーマに対して,16 例で生検,5 例で部分摘出,8 例で全摘出を行った結果を報告している4)。術後全例で放射線療法を行い,化学療法はそれぞれ16 例,4 例,4 例で行った。その結果,約40 カ月のフォロー期間中に再発したものは,全摘出した1 例のみであり,摘出度による差は認められなかった。ジャーミノーマは化学放射線療法が奏効することから(放射線療法の項目で詳述),組織診断のための生検術に留めても予後は劣らないと考えられ,多少ともリスクのある積極的な摘出は推奨できない。生検術の術式は,腫瘍部位によって,開頭術,経蝶形骨洞手術,定位脳手術,内視鏡手術などから選択する。
Luther らは,腫瘍マーカー陰性で組織学的にもジャーミノーマと診断した6 例中1 例は放射線療法にてCR 後10 カ月で再発を認め,初発時11 U/L であった髄液β-HCG が再発時57.4 U/L と上昇を認めたと報告した5)。彼らは再発後の病理組織は確認していないが,腫瘍マーカーの上昇を考慮し,ジャーミノーマ以外の腫瘍の混在を示唆している。また,Kinoshita らは,21 例の内視鏡的診断を行った症例の初回診断において16 例のジャーミノーマという病理学的診断を得ているが,そのうち1 例(診断時HCG 陰性,AFP 33.2μg/L)において,化学放射線療法にて完全に腫瘍の縮小が得られないという理由で残存腫瘍を摘出した。2 回目の病理組織診断でimmature teratoma の診断を得ており,内視鏡的生検術のpitfall として報告している6)。これらの報告から,小さな組織で診断する生検術の限界には留意する必要がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の手術について下記検索式による検索を2017 年3 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして90 文献を抽出し,56 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ3 では6 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Aizer AA, Sethi RV, Hedley-Whyte ET, et al. Bifocal intracranial tumors of nongerminomatous germ cell etiology:diagnostic and therapeutic implications. Neuro Oncol. 2013;15(7):955-60.[PMID:23640532]
- 2)
- Murray MJ, Bartels U, Nishikawa R, et al. Consensus on the management of intracranial germ-cell tumours. Lancet Oncol. 2015;16(9):e470-7.[PMID:26370356]
- 3)
- Linstadt D, Wara WM, Edwards MS, et al. Radiotherapy of primary intracranial germinomas:the case against routine craniospinal irradiation. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1988;15(2):291-7.[PMID:3403312]
- 4)
- Sawamura Y, de Tribolet N, Ishii N, et al. Management of primary intracranial germinomas:diagnostic surgery or radical resection? J Neurosurg. 1997;87(2):262-6.[PMID:9254091]
- 5)
- Luther N, Edgar MA, Dunkel IJ, et al. Correlation of endoscopic biopsy with tumor marker status in primary intracranial germ cell tumors. J Neurooncol. 2006;79(1):45-50.[PMID:16598424]
- 6)
- Kinoshita Y, Yamasaki F, Tominaga A, et al. Pitfalls of Neuroendoscopic Biopsy of Intraventricular Germ Cell Tumors. World Neurosurg. 2017;106:430-4.[PMID:28711530]
- CQ4
- NGGCT に対して摘出手術は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨1
成熟奇形腫に対して摘出術を推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
成熟奇形腫以外のNGGCT については,化学放射線療法を行った後に,残存する腫瘍に対する摘出術を推奨する。
解説
Zygourakis らの報告では,奇形腫11 例で手術を行い,8 例で全摘出を行い,7 例が混合胚細胞腫瘍で,うち1 例のみ再発を認めた1)。Noudel らは,奇形腫14 例について報告し,10 例は初期治療として摘出術を行い,残りの4 例は化学療法後に摘出を行った。成熟奇形腫8 例において平均9 年の経過観察で87.5%の生存率を得た2)。Matsutani らは,16 例の成熟奇形腫で摘出術を行い,10 年生存率が78.3%であった3)。Kageyama らは,成熟奇形腫5 例に対して全摘出を行い,全例が社会復帰したと報告している4)。Delphi committee において,成熟奇形腫,悪性転化のない未熟奇形腫に対しては全摘出を選択するとされた5)。以上のように,成熟奇形腫は摘出により良好な予後が得られることから,摘出術が勧められる。
Nakamura らは,AFP>100 ng/mL,もしくはHCG またはβ-HCG>100 mIU/mL を呈した14 例の連続NGGCT に対して,組織診断を行わずに術前化学放射線療法を行った。11 例で残存腫瘍を認め,手術を行った。摘出腫瘍の組織学的診断は,成熟奇形腫3 例,線維性組織3 例,壊死組織2 例で,その他の3 例においては奇形腫あるいは中胚葉性の腫瘍組織が認められた。5 年無増悪生存率が86%,5 年生存率が93%であり,腫瘍マーカーによる診断治療介入とsecond-look surgery の有用性を示した5)。Goldman らによるNGGCT 102 例(腫瘍マーカーによる診断,3~24 歳,中央値12 歳)を対象とした前方視的試験では,規定の化学療法先行後,PD でない症例に対し,CR であれば放射線療法を,CR でなければsecond-look surgery 後に放射線療法ないしsecond-look surgery 後に大量化学療法を行って,さらに引き続き放射線療法を行った。結果は5 年無増悪生存率84%,5 年生存率93%であったが,この臨床試験のサブ解析にて診断時播種のなかった症例においてsecond-look surgery を行った症例の5 年無増悪生存率92%,5 年生存率98%と極めて良い結果であった6)。初回治療後にsecond-look surgery を行った症例は15 例であったが,摘出組織は腫瘍が2 例(胎児性癌1 例,混合性胚細胞腫瘍1 例),奇形腫9 例(成熟奇形腫6例,悪性奇形腫3 例),そして繊維組織が主体で腫瘍細胞を認めないものが4 例であった。腫瘍再発時にsecond-look surgery を行った症例は5 例で,その組織はすべて奇形腫であった。
Delphi committee においても,画像診断と腫瘍マーカーの上昇により胚細胞腫瘍と診断される場合には生検術は必須ではないとされた7)。NGGCT に対しては,β-HCG やAFP が高値を示す場合は組織診断のための手術を行わずに化学放射線療法を考慮してもよい。しかし,どの程度の値であれば組織診断のための手術を実施しなくてよいのか,については国際的なコンセンサスは存在しない(CQ1 解説参照)。
Kim らは,NGGCT 52 例のうち21%にgrowing teratoma syndrome を認めたことを報告しており,化学療法から診断までの期間が平均12.8 カ月で,9 例で全摘出が行われて再発は1 例であった8)。Ogiwara らは,胚細胞腫瘍23 例中7 例(30%)で再増大後に手術を行い,病理診断は成熟奇形腫5 例,異型細胞を伴う繊維形成が1 例,繊維形成のみが1 例であり,全例で全摘出を行って再発なく経過したことを報告した9)。
以上のように,NGGCT では,化学放射線療法中あるいは後に腫瘍が増大することを認識し,化学あるいは放射線療法後に残存腫瘍が存在する場合に手術を考慮する必要がある。化学放射線療法中あるいは後の摘出組織は,上述のように成熟奇形腫であることが多いと報告されているが,治療後修飾された組織での診断であり,初発時の組織が成熟奇形腫であったことを意味するわけでない。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の手術についての検索を2017 年3 月に行った。検索式はCQ3 参照。
一次スクリーニングとして90 文献を抽出し,56 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ4 では9 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Zygourakis CC, Davis JL, Kaur G, et al. Management of central nervous system teratoma. J Clin Neurosci. 2015;22(1):98-104.[PMID:25150764]
- 2)
- Noudel R, Vinchon M, Dhellemmes P, et al. Intracranial teratomas in children:the role and timing of surgical removal. J Neurosurg Pediatr. 2008;2(5):331-8.[PMID:18976103]
- 3)
- Matsutani M, Takakura K, Sano K. Primary intracranial germ cell tumors:pathology and treatment. Prog Exp Tumor Res. 1987;30:307-12.[PMID:2819945]
- 4)
- Kageyama N, Kobayashi T, Kida Y, et al. Intracranial germinal tumors. Prog Exp Tumor Res. 1987;30:255-67.[PMID:3628811]
- 5)
- Nakamura H, Makino K, Kochi M, et al. Evaluation of neoadjuvant therapy in patients with nongerminomatous malignant germ cell tumors. J Neurosurg Pediatr. 2011;7(4):431-8. [PMID:21456918]
- 6)
- Goldman S, Bouffet E, Fisher PG, et al. Phase Ⅱ Trial Assessing the Ability of Neoadjuvant Chemotherapy With or Without Second-Look Surgery to Eliminate Measurable Disease for Nongerminomatous Germ Cell Tumors:A Children’s Oncology Group Study. J Clin Oncol. 2015:33(22):2464-71.[PMID:26101244]
- 7)
- Murray MJ, Bartels U, Nishikawa R, et al. Consensus on the management of intracranial germ-cell tumours. Lancet Oncol. 2015;16(9):e470-7.[PMID:26370356]
- 8)
- Kim CY, Choi JW, Lee JY, et al. Intracranial growing teratoma syndrome:clinical characteristics and treatment strategy. J Neurooncol. 2011;101(1):109-15.[PMID:20532955]
- 9)
- Ogiwara H, Kiyotani C, Terashima K, et al. Second-look surgery for intracranial germ cell tumors. Neurosurgery. 2015;76(6):658-61.[PMID:25988926]
- CQ5
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍に合併した水頭症に対して手術は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨
内視鏡下第三脳室底開窓術などの水頭症を解除する手術を推奨する。
解説
Shono らは,12 例のジャーミノーマに対して,軟性鏡を用いて内視鏡下生検術を行い,8 例は同時に第三脳室底開窓術を施行した1)。手術死亡や永続的な合併症は認めず,その後のシャント手術は不要であった。化学放射線療法にて全例でCR を得た。Luther らは,第三脳室底開窓術と生検術を同時に行った32 例において,NGGCT を含む胚細胞腫瘍,松果体芽腫,上衣腫の髄液播種リスクの高いと判断された22 例の2 年無髄液播種生存率は94.7%で,同様の疾患の髄液播種率が8~24%であることから,第三脳室底開窓術と生検術の同時施行が髄液播種リスクを上昇しないと報告した2)。水頭症を合併する例では,内視鏡手術による生検と同時に第三脳室底開窓術などの水頭症を解除する手術を推奨する。ただし,化学放射線療法による腫瘍縮小で水頭症が解除されうることを念頭に置く必要がある。
水頭症の解除を脳室腹腔短絡術で行ってよいかどうかについて,Xu らは,原発性中枢神経系腫瘍のシャント術に関連する神経管外転移についてシステマティックレビューを行い,106 例のシャントに関連する神経管外転移のうち25 例(25%)(VP シャント24 例,VA シャント1 例)がジャーミノーマであったと報告した。この25 例全例(100%)腹腔内に転移しており,さらに同時にリンパ節に4%,骨に4%の神経管外転移が認められている。これは,髄芽腫の22 例(21%)より多く,最も多い腫瘍組織型であったことから,中枢神経原発胚細胞腫瘍に合併した水頭症に対するシャント術による神経管外転移に注意を要する3)。こうした合併症を避けるためにも,中枢神経原発胚細胞腫瘍に合併した水頭症に対しては,可能な限り第三脳室開窓術が推奨される。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の手術についての検索を2017 年3 月に行った。検索式はCQ3 参照。
一次スクリーニングとして90 文献を抽出し,56 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ5 では3 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Shono T, Natori Y, Morioka T, et al. Results of a long-term follow-up after neuroendoscopic biopsy procedure and third ventriculostomy in patients with intracranial germinomas. J Neurosurg Pediatr. 2007;107(3):193-8.[PMID:17918523]
- 2)
- Luther N, Stetler WR Jr., Dunkel IJ, et al. Subarachnoid dissemination of intraventricular tumors following simultaneous endoscopic biopsy and third ventriculostomy. J Neurosurg Pediatr. 2010;5(1):61-7.[PMID:20043737]
- 3)
- Xu K, Khine KT, Ooi YC, et al. A systematic review of shunt-related extraneural metastases of primary central nervous system tumors. Clin Neurol Neurosurg. 2018;174:239-43.[PMID:30292900]
課題3:ジャーミノーマに対する治療
- CQ6
- ジャーミノーマにおいて化学放射線療法は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨1
脊髄播種のないジャーミノーマにおいては化学療法を併用した全脳室を照射野内に含める放射線照射を推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
脊髄播種のないジャーミノーマに対しては,予防的脊髄照射を行わないことを推奨する。
- 推奨度1B
- 推奨3
化学療法単独で治療しないことを推奨する。
解説
ジャーミノーマは放射線治療と化学療法への感受性が高い腫瘍であり,腫瘍摘出術を行わなくても,適切な治療を行えば,非常に高い生存率が期待できる悪性脳腫瘍である。ジャーミノーマは,脳室壁を伝うような腫瘍進展をきたすことが知られており,腫瘍への局所照射のみでは,照射野外への再発を十分に予防することができない。しかし,脊髄予防照射を行っていない症例で脊髄再発の報告が非常に少ないことから,ジャーミノーマの脊髄腫瘍進展はほぼないと考えられる。一方で,全脳脊髄照射は非常に有効な治療であり,一定以上の線量を全脳または全脳脊髄照射を行うことにより,ジャーミノーマの5 年無病生存率は90%を超える1,2)。しかしながら,長期生存が期待される小児および若年成人において,全脳または全脳脊髄への放射線療法が成長発達に与える影響は大きく,高次機能異常や内分泌異常などの問題が,長期にわたって若年生存者に大きくのしかかる3-6)。Heaston らは,対象疾患はWilms 腫瘍であるが,脊髄にも照射された25 例の放射線療法の長期生存例の脊椎発達障害について報告している。脊髄照射に伴う小児の脊椎発達障害はほぼ全例で発生しており,3 歳未満では8 Gy,3 歳以上では14 Gy 以上の照射で照射後5年以内に5%の割合で生ずるとされており,長期生存が期待されるジャーミノーマ患者において脊髄照射は留意すべき点であると考えられる7)。
播種のないジャーミノーマに対してドイツで行われた全脳脊髄照射(CSI)による前方視的多施設共同試験MAKEI 83/86/89 の報告によると,MAKEI 83/86(11 例)では全脳脊髄照射36 Gy+局所照射14 Gy,MAKEI 89(49 例)では全脳脊髄照射30 Gy+局所照射15 Gy が照射され,それぞれの5 年無増悪生存率は100%,88.8%,5 年全生存率は100%,92%と報告されている1)。Cho らは,60 例のジャーミノーマに対して段階的に腫瘍部分の総線量を59 から39.3 Gy(中央値45 Gy),全脳脊髄照射の線量を36.5 から19.5 Gy(うち22 例は脊髄線量が19.5 Gy)まで減少させる照射を行い,全例で再発を認めておらず,線量は腫瘍部分には39.3 Gy,脊髄には19.5 Gy まで減少させることができると報告している8)。
照射野の設定については,播種のないジャーミノーマにおける照射後の再発と照射野との関連を評価することを目的に行われたSFOP TGM-TC-90 試験では,カルボプラチン,エトポシド,イホスファミドによる化学療法を先行後,腫瘍局所(腫瘍部分+2 cm マージン)に40 Gy の照射が行われた。60 例中10 例に再発を認め,うち8 例は脳室周囲であった。この結果から,腫瘍局所のみの照射は再発のリスクが高く,播種のないジャーミノーマにおいても全脳室照射は必要であると結論された9)。
同様に,播種のないジャーミノーマに対する非ランダム化試験であるSIOP CNS GCT96 試験では,全脳脊髄照射24 Gy+局所照射16 Gy の放射線療法単独群と化学療法を併用した40 Gy の局所照射群との比較が行われた。放射線療法単独群125 例中4 例で腫瘍局所に再発を認める一方,化学療法併用局所照射群65 例中7 例に再発を認め,うち6 例は照射野外の脳室内再発であった。化学療法併用であっても照射範囲に全脳室を含める必要があると考えられる10)。このように,ジャーミノーマの放射線療法の線量と照射野については,将来的なQOL を考慮しながら,化学療法を併用することで,線量の減量と照射野の縮小を図る試みが,日本をはじめ世界各地で行われてきた。中枢神経外胚細胞腫瘍の化学療法として,ブレオマイシン,エトポシド,シスプラチンの3 剤を併用するBEP 療法が確立しているが,中枢神経系ジャーミノーマの化学放射線治療においては,白金製剤とエトポシドの2 剤による併用療法,あるいはイホマイドなどのアルキル化剤も加えた3 剤による併用療法が,臨床試験で繰り返し選ばれている。SIOP CNS 96 試験に加えて,Matsutani および日本小児脳腫瘍研究グループ11,12)は,75 例の脊髄播種のないジャーミノーマに対し,3 コースのカルボプラチン,エトポシドと拡大局所照射野に視床下部-下垂体系の耐容線量ともいわれる24 Gy を併用する前方視的臨床試験を行い,92%にCR が得られて,中央値が2.9 年の観察期間において12%に再発が認められ,10 年全生存率は97.5%と報告した。この拡大局所照射野は後の全脳室照射野に近いが,全脳室照射野に比べて第四脳室下半がカバーされていない。両試験において,再発は照射外で多く認めた一方で,脊髄再発はほとんど観察されていない。Khatua ら13)は,脊髄播種のないジャーミノーマ20 例(うち混合腫瘍でないジャーミノーマ19 例)に対して4 コースのカルボプラチン,エトポシドによる化学療法を,その後に全脳室照射21.6 Gy,および腫瘍局所へのブースト(総線量30~30.6 Gy)の放射線療法を同時もしくは逐次で行い,後方視的に解析した。3 年無再発生存率は89%で,全生存率は100%であった。これらの良好な結果から,現在SIOP ではSIOP CNS GCT Ⅱ14)において,脊髄播種のないジャーミノーマに対し,化学療法によるCR 症例には線量を全脳室照射24 Gy まで,また我が国においてもカルボプラチン,エトポシド療法と線量を全脳室照射23.4 Gy まで低減させる臨床試験(jRCTs031180223)が行われている。これらの観察が,ジャーミノーマにおいて脳室照射を推奨する根拠である。さらなる放射線療法の減量や縮小は,臨床試験の中で行われるべきである。ジャーミノーマのなかで基底核および視床に発生した腫瘍に関しては例外的な治療を推奨する報告もある15)。Wang らは,15 例の基底核もしくは視床の胚細胞腫の治療成績を報告しているが,9 例はジャーミノーマであり,再発はない。彼らは他の部位のジャーミノーマと比較して基底核や視床の胚細胞腫は脳実質への浸潤の可能性が高いため,全脳室照射より全脳照射(20~24 Gy)に加えて局所照射を行い40~45 Gy の照射を推奨している15)。
シスプラチンとカルボプラチンの比較試験は,中枢神経外胚細胞腫瘍において行われているが,中枢神経ジャーミノーマにおいては,その優劣を検証した臨床試験はない16,17)。また,白金製剤とエトポシドの2 剤による併用療法,あるいはアルキル化剤も加えた3 剤による併用療法を比較した臨床試験もこれまでに行われていないため,治療毒性を考慮すると,中枢神経ジャーミノーマにおいては,白金製剤とエトポシドの2 剤による併用療法が推奨される。また,SIOP におけるレジメンにおいては,カルボプラチンとエトポシドの2 剤投与とシクロホスファミドとエトポシドの2 剤が交互に投与され,良好な治療成績を得ているが,どちらのレジメンが優れているかの評価は難しい10)。放射線療法の毒性を取り除くために,強力な化学療法単独でジャーミノーマを治療する試みは行われてきた。最初の化学療法単独のトライアルとして,Balmaceda らは71 例の中枢神経原発胚細胞腫瘍において45 例のジャーミノーマをカルボプラチン,エトポシド,ブレオマイシンのレジメンにて治療しているが,50%以上の症例において再発をきたしている18)。Kellie らは19例の腫瘍マーカー陰性のジャーミノーマの症例において,レジメンA(シスプラチン,エトポシド,シクロホスファミド,ブレオマイシン)と強力な化学療法から導入し,レジメンB(カルボプラチン,エトポシド,ブレオマイシン)の維持療法を追加するという治療を行っている。結果は19 例中8 例に再発がみられ,放射線療法が追加されている19)。da Silva らは,25 例の中枢神経原発胚細胞腫を初期治療として化学療法のみ(第1 クール:カルボプラチンとエトポシド,第2 クール:シクロホスファミドとエトポシドを交互に2 回ずつ投与),で治療を行っており,そのうち15 例はジャーミノーマにもかかわらず,7 例に再発し放射線療法の追加治療を行っている20)。これらの複数の臨床試験から示された再発率の高さから,化学療法単独による治療は推奨されない。
播種のないジャーミノーマに対する脊髄照射については,多数の文献から症例を集めたRogersらの報告によると,播種のないジャーミノーマに対して全脳全脊髄照射+局所照射を行った343 例のうち,脊髄播種を認めたものは4 例(1%)であったのに対して,全脳もしくは全脳室照射+局所照射を行った276 例のうち,脊髄播種を認めたものは8 例(3%)と報告されている21)。また,脊髄照射の生存への寄与を検討したShikama らの報告では,国内6 施設から180 人のデータを集め,多変量解析が行われた。その結果,脊髄照射のハザード比は1.050(95%信頼区間:0.355-3.170)と脊髄照射は必ずしも生存に寄与していないことが示された22)。播種のないジャーミノーマに対する予防的脊髄照射の必要性は乏しい。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,最初は放射線治療と化学療法を別の課題として2017 年2 月に検索したが,最終的には,ジャーミノーマの化学放射線療法としてまとめた。検索式はジャーミノーマに関してのものを放射線療法と化学療法から抽出し,下記に示す。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法で96 文献,化学療法で270 文献を抽出し,それぞれ26 文献,35 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正を加えた。途中で中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法と化学療法として課題を別にするより,ジャーミノーマの化学放射線療法,NGGCT の化学放射線療法として課題を作成した方が理解しやすいとの結論に達し,課題3 はジャーミノーマの化学放射線療法とし,最終的にCQ6 では22 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Bamberg M, Kortmann RD, Calaminus G, et al. Radiation therapy for intracranial germinoma:results of the German cooperative prospective trials MAKEI 83/86/89. J Clin Oncol. 1999;17(8):2585-92.[PMID:10561326]
- 2)
- Ogawa K, Shikama N, Toita T, et al. Long-term results of radiotherapy for intracranial germinoma:a multi-institutional retrospective review of 126 patients. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2004;58(3):705-13.[PMID:14967424]
- 3)
- Sands SA, Kellie SJ, Davidow AL, et al. Long-term quality of life and neuropsychologic functioning for patients with CNS germ-cell tumors:from the First International CNS Germ-Cell Tumor Study. Neuro Oncol. 2001;3(3):174-83.[PMID:11465398]
- 4)
- Liang SY, Yang TF, Chen YW, et al. Neuropsychological functions and quality of life in survived patients with intracranial germ cell tumors after treatment. Neuro Oncol. 2013;15(11):1543-51.[PMID:24101738]
- 5)
- Martens T, Rotermund R, Eulenburg CZ, et al. Long-term follow-up and quality of life in patients with intracranial germinoma. Neurosurg Rev. 2014;37(3):445-50;discussion 451.[PMID:24715277]
- 6)
- Park Y, Yu ES, Ha B, et al. Neurocognitive and Psychological Functioning of Children with an Intracranial Germ Cell Tumor. Cancer Res Treat. 2017;49(4):960-9.[PMID:28052648]
- 7)
- Heaston DK, Libshitz HI, Chan RC. Skeletal effects of megavoltage irradiation in survivors of Wilms’s tumor. AJR Am J Roentgenol. 1979;133(3):389-95.[PMID:223422]
- 8)
- Cho J, Choi JU, Kim DS, et al. Low-dose craniospinal irradiation as a definitive treatment for intracranial germinoma. Radiother Oncol. 2009;91(1):75-9.[PMID:19019472]
- 9)
- Alapetite C, Brisse H, Patte C, et al. Pattern of relapse and outcome of non-metastatic germinoma patients treated with chemotherapy and limited field radiation:the SFOP experience. Neuro Oncol. 2010;12(12):1318-25.[PMID:20716594]
- 10)
- Calaminus G, Kortmann R, Worch J, et al. SIOP CNS GCT 96:final report of outcome of a prospective, multinational nonrandomized trial for children and adults with intracranial germinoma, comparing craniospinal irradiation alone with chemotherapy followed by focal primary site irradiation for patients with localized disease. Neuro Oncol. 2013;15(6):788-96.[PMID:23460321]
- 11)
- Matsutani M, Japanese Pediatric Brain Tumor Study Group. Combined chemotherapy and radiation therapy for CNS germ cell tumors–the Japanese experience. J Neurooncol. 2013;54(3):311-6.[PMID:11767296]
- 12)
- Matsutani M, Proceedings of the 3rd International CNS Germ Cell Tumour Symposium. Br J Neurosurg. 2013;27(4):e1-25.
- 13)
- Khatua S, Dhall G, O’Neil S, et al. Treatment of primary CNS germinomatous germ cell tumors with chemotherapy prior to reduced dose whole ventricular and local boost irradiation. Pediatr Blood Cancer. 2010;55(1):42-6.[PMID:20222020]
- 14)
- https://clinicaltrials.gov/ct2/show/record/NCT01424839
- 15)
- Wang M, Zhou P, Zhang S, et al. Clinical features, radiologic findings, and treatment of pediatric germ cell tumors involving the basal ganglia and thalamus:a retrospective series of 15 cases at a single center. Childs Nerv Syst. 2018;34(3):423-30.[PMID:29067503]
- 16)
- Horwich A, Sleijfer DT, Fosså SD, et al. Randomized trial of bleomycin, etoposide, and cisplatin compared with bleomycin, etoposide, and carboplatin in good-prognosis metastatic nonseminomatous germ cell cancer:a Multiinstitutional Medical Research Council/European Organization for Research and Treatment of Cancer Trial. J Clin Oncol. 1997;15(5):1844-52.[PMID:9164194]
- 17)
- Mann JR, Raafat F, Robinson K, et al. UKCCSG’s germ cell tumour(GCT)studies:improving outcome for children with malignant extracranial non-gonadal tumours–carboplatin, etoposide, and bleomycin are effective and less toxic than previous regimens. United Kingdom Children’s Cancer Study Group. Med Pediatr Oncol. 1998;30(4):217-27.[PMID:9473756]
- 18)
- Balmaceda C, Heller G, Rosenblum M, et al. Chemotherapy without irradiation–a novel approach for newly diagnosed CNS germ cell tumors:Results of an international cooperative trial. J Clin Oncol. 1996;14(11):2908-15.[PMID:8918487]
- 19)
- Kellie SJ, Boyce H, Dunkel IJ, et al. Intensive cisplatin and cyclophosphamide-based chemotherapy without radiotherapy for intracranial germinomas:failure of a primary chemotherapy approach. Pediatr Blood Cancer. 2004;43(2):126-33.[PMID:15236278]
- 20)
- da Silva NS, Cappellano AM, Diez B, et al. Primary chemotherapy for intracranial germ cell tumors:results of the third international CNS germ cell tumor study. Pediatr Blood Cancer. 2020;54(3):377-83.[PMID:20063410]
- 21)
- Rogers SJ, Mosleh-Shirazi MA, Saran FH. Radiothraphy of localized intracranial germinoma:time tosever historical ties? Lancet Oncol. 2005;6(7):509-19.[PMID:15992700]
- 22)
- Shikama N, Ogawa K, Tanaka S, et al. Lack of benefit of spinal irradiation in the primary treatment of intracranial germinoma:a multiinstitutional, retrospective review of 180 patients. Cancer. 2005;104(1):126-34.[PMID:15895370]
課題4:NGGCT に対する治療
- CQ7
- NGGCT には化学放射線療法を行うことが有用か?
- 推奨度1B
- 推奨
成熟奇形腫を除くNGGCT では化学放射線療法を推奨する。
解説
NGGCT はジャーミノーマ以外の複数の胚細胞腫瘍組織型の総称であり,さらにはジャーミノーマを含む複数の異なる組織型の成分が混在する混合型NGGCT が多い。強力な集学的治療を行っても生存率が低い,卵黄囊腫,胎児性癌,絨毛癌が大部分を占めるタイプから,比較的生存率の高い,奇形腫やジャーミノーマ中心の混合性タイプ,さらには手術摘出が基本で後治療を行わなくても再発が稀な成熟奇形腫まで,予後が大きく異なる腫瘍が含まれることがNGGCT の治療を複雑にしている。
NGGCT の多くでは,血中または脳脊髄液中にHCG/β-HCG やAFP といった腫瘍マーカーが検出される。診断を補助する有用な腫瘍マーカーである一方で,NGGCT が組織診断されずに腫瘍マーカーのみで診断されて,化学放射線治療で治療開始されることが多く,その場合に腫瘍の適切なリスク分類が困難となる。特に欧米では比較的低い腫瘍マーカーの閾値でNGGCT を臨床診断し,全脳脊髄照射やアルキル化剤を含む強力な治療を開始することが多く,NGGCT の一部の患者で過剰治療の懸念があり,さらには発生頻度が比較的低い高悪性度NGGCT の真の治療成績が臨床試験の結果に反映されていない可能性がある。
我が国においては,東京大学シリーズ(1963~1994)および旧厚生省がん研究助成金による多施設前方視的試験(1995~2003)において,NGGCT の中で組織型と腫瘍マーカー高値によって,治療成績が異なる中間リスク群と高リスク群に分類できることを示した。中間リスク群NGGCT は拡大局所照射(腫瘍床,第三脳室,側脳室,トルコ鞍,松果体を含む,全脳室照射とほぼ同等の照射野)または全脳室分割照射約23.4 Gy と局所への追加照射合計50.4 Gy とカルボプラチンとエトポシドによる2 剤併用化学療法で,平均観察期間3.7 年時点での中間報告によると,無増悪生存割合は89%であった1)。高リスク群NGGCT に対しては,旧厚生省がん研究助成金による多施設前方視的試験をはじめとする国内外の臨床試験で,放射線療法と白金製剤,イホマイドなどのアルキル化剤,エトポシドによる3 剤併用化学療法によって治療が行われており,一定の生存率が得られている。放射線療法の方法や化学療法の強度や期間について,臨床試験ごとに異なっており,比較試験は行われたことがなく,標準的な化学放射線療法は定まっていない1-3)。高リスク群NGGCT の治療成績は依然として満足のいくものでなく,初期からの治療抵抗例,早期の播種再発例も少なくない。脊髄播種がなくても全脳脊髄照射が必要であるのかという問いに対して,まだ答えは示されていない1)。脊髄播種のないNGGCT における放射線療法の照射野については議論がある。大半の脊髄播種のないNGGCT において,化学療法を併用した場合に全脳脊髄照射が不要であることは,SIOP GCT 96 試験および旧厚生省がん研究助成金による多施設前方視的試験(1995~2003)で示唆された1,2)。ジャーミノーマとの混合性腫瘍が多い中間リスク群NGGCT において,局所照射で充分であるのか,全脳室照射が必要かどうかは,さらなる検証が必要である。
ジャーミノーマと異なりNGGCT は3~4 歳未満の低年齢小児に発生することがあり,中枢神経への放射線療法の影響が甚大である低年齢患者に対する,年長児や若年成人とは異なった治療戦略が必要である。しかし,低年齢のNGGCT に対しても,現時点で標準的といえる治療法は確立していない。乳幼児に対する脳腫瘍摘出術と強力な多剤併用化学療法が施行できる専門施設での治療が望まれる。
NGGCT における化学療法先行後の残存腫瘍へのsecond-look surgery についてはCQ4の推奨2 を参照のこと。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,最初は放射線治療と化学療法を別の課題として2017 年2 月に検索したが,最終的には,NGGCT の化学放射線療法としてまとめた。検索式はNGGCT に関するものを放射線療法と化学療法から抽出し,下記に示す。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法で96 文献,化学療法で270 文献を抽出し,それぞれ26 文献,35 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正を加えた。途中で中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法と化学療法として課題を別にするより,ジャーミノーマの化学放射線治療,NGGCT の化学放射線療法として課題を作成した方が理解しやすいとの結論に達し,課題4 はNGGCT の化学放射線療法とし,最終的にCQ7 では3 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Matsutani M, Japanese Pediatric Brain Tumor Study Group. Combined chemotherapy and radiation therapy for CNS germ cell tumors–the Japanese experience. J Neurooncol. 2001;54(3):311-6.[PMID:11767296]
- 2)
- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
- 3)
- Goldman S, Bouffet E, Fisher PG, et al. Phase Ⅱ Trial Assessing the Ability of Neoadjuvant Chemotherapy With or Without Second-Look Surgery to Eliminate Measurable Disease for Nongerminomatous Germ Cell Tumors:A Children’s Oncology Group Study. J Clin Oncol. 2015;33(22):2464-71.[PMID:26101244]
課題5:再発時の治療方針
- CQ8
- 再発ジャーミノーマに対し救済治療を行う必要があるか?
- 推奨度1B
- 推奨
治癒を目指して治療を行うことを推奨する。
解説
再発ジャーミノーマについては,救済治療により治癒可能であることが報告されている。いずれの報告も,症例報告または症例報告の記述的研究1)であり,後方視的解析2)であり,これらの報告から,再発時に何らかの救済治療追加を行うことは有意義であることは読み取れるが,治療方法の優劣を判断するのは困難であり,標準的な治療方針を確定することはできない。
Kamoshima らは,再発までの期間の中央値が50 カ月の晩期再発ジャーミノーマ25 例について,再発様式の解析と再発後の救済治療の転帰を報告している。初発の治療法,再発時の治療は統一されたものではない。25 例のうち,治療により救命されたのは17 例(68%)である。再発時に化学放射線療法を行った13 例全例が生存しているのに対し,放射線のみで治療された11 例中7 例が,化学療法のみで治療された1 例が再発のために死亡したと報告している。化学放射線療法を行った13 例の放射線療法は,8 例が全脳脊髄照射(CSI),4 例が局所照射,1 例が全脳室照射であり,放射線のみで治療された11 例中7 例が死亡しており,それらはすべて局所照射が行われている。生存の4 例中2 例はCSI,2 例が局所照射である。つまり再発時には放射線の局所照射だけでは治癒できないと思われる2)。
Hu らは,11 例の再発ジャーミノーマに対する救済治療とその転帰について報告している。初発時の放射線療法は,全脳照射,全脳室照射,腫瘍への局所照射,ガンマナイフ治療と異なった治療を受けた症例から構成される。再発時の救済治療もCSI 単独4 例,全脳脊髄照射と化学療法併用5 例,全脳照射と化学療法併用1 例,ガンマナイフ治療1 例と異なっている。全体の5 年生存率が71%であるのに対して,CSI を採用した症例は92%で,再発時のCSI 採用の有無が予後因子になっていたと報告している3)。
Modak らは,初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経原発胚細胞腫瘍に対する,チオテパを中心とした大量化学療法の有用性を検討した報告の中で,9 例の再発ジャーミノーマの転帰を示している。初発時には放射線療法のみのもの,放射線治療と化学療法併用が含まれる。9 例中7 例(78%)が生存期間中央値48 カ月で,無病生存していると報告している4)。生存7 例のうち4 例は放射線療法を行っておらず,2 例は全脳照射で,1 例がCSI であり,死亡した2 例において1 例は放射線療法を行っておらず,1 例は局所照射である。
Baek らは,初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経系胚細胞腫瘍に対する大量化学療法の臨床試験KSPNO S-053 の結果を報告している。対象となった20 例中10 例は,2 回目の大量化学療法を施行された。前方視的試験であるが,初発時の治療法は異なっており,再発時にも,治療法が統一されていない。再発ジャーミノーマ9 例のうち,大量化学療法のみで治療された7 例中4 例が無病生存しているのに対して,大量化学療後に放射線療法を併用した2 例は2 例とも無病生存している5)。
救済治療後の障害やQOL については,Baek らの報告では,特に大量化学療法を行うことで重篤な有害事象をきたすことやQOL を極端に落とすということはないという記載がある。しかし,これまでの報告数が少なく,放射線療法単独,化学放射線療法,大量化学療法,大量化学療法の併用の治療法について,優劣を判断することはできない。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍における再発の治療方針について下記検索式による検索を2017 年7 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして420 文献を抽出し,41 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ8 では5文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Janjetovic S, Bokemeyer C, Fiedler W, et al. Late recurrence of a pineal germinoma 14 years after radiation and chemotherapy:a case report and review of the literature. Onkologie. 2013;36(6):371-3.[PMID:23774153]
- 2)
- Kamoshima Y, Sawamura Y, Ikeda J, et al. Late recurrence and salvage therapy of CNS germinomas. J Neurooncol. 2008;90(2):205-11.[PMID:18604473]
- 3)
- Hu YW, Huang PI, Wong TT, et al. Salvage treatment for recurrent intracranial germinoma after reduced-volume radiotherapy:a single-institution experience and review of the literature. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012;84(3):639-47.[PMID:22361082]
- 4)
- Modak S, Gardner S, Dunkel IJ, et al. Thiotepa-based high-dose chemotherapy with autologous stem-cell rescue in patients with recurrent or progressive CNS germ cell tumors. J Clin Oncol. 2004;22(10):1934-43.[PMID:15143087]
- 5)
- Baek HJ, Park HJ, Sung KW, et al. Myeloablative chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed or progressed central nervous system germ cell tumors:results of Korean Society of Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)S-053 study. J Neurooncol. 2013;114(3):329-38.[PMID:23824533]
- CQ9
- 再発NGGCT に対し救済治療は有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
寛解を目指した治療を提案する。治療反応性が不良の場合は,緩和的治療を提案する。
解説
再発NGGCT の予後はかなり厳しい。再発ジャーミノーマと異なり,再発NGGCT 対して救済治療による救命例の報告は少なく,いずれも症例報告またはケースシリーズの記述的研究1),後方視的解析2)であり,一般的に治療方針を推奨することはできない。
Modak らは3),初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経系胚細胞腫瘍に対する,チオテパを中心とした大量化学療法の有用性を検討した報告の中で,12 例の再発NGGCT の転帰を示している。12 例中,無病生存しているのは,生存期間中央値35 カ月で,4 例(33%)であると報告している。この4 例においては,初発時1 例のみ局所の放射線療法を行っており,残りの3 例はシスプラチン,イホマイド,エトポシドの化学療法だけ施行している。再発時,チオテパを中心とした大量化学療法を行っているが,その後の放射線療法は初発時放射線治療を行っていない2 例に追加照射をされている。彼らは導入化学療法による完全寛解の達成の有無が予後を決定すると解析している。
Baek らは,初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経系胚細胞腫瘍に対する大量化学療法の臨床試験KSPNO S-053 の結果を報告している1)。対象となった20 例中10 例は,2 回目の大量化学療法を施行された。再発NGGCT 11 例のうち,無病生存は導入化学療法で完全寛解となった4 例であり,導入化学療法による完全寛解達成の成否が予後を左右すると解析している。これらの4 例中3 例は,再発後に23.4 Gy から39.6 Gy の全脳脊髄照射を含む放射線療法を併用されているが,そのうち1 例は初発部位(松果体および視床下部)に合計75.6 Gy(初回45 Gy,再発時30.6 Gy)照射されている。残りの1 例は初発時に50Gy 初発部位(松果体)に照射されているため,再発時放射線療法は施行されていない。
Murray らは,SIOP-96 の臨床研究にて登録されたNGGCT の再発例32 例について検討しており,再発時の大量化学療法を行った症例22 例とスタンダードな化学療法(カルボプラチンもしくはシスプラチン,イホマイド,エトポシドなど)を行った10 例における5 年生存率を比較している2)。SIOP-96 の臨床研究におけるNGGCT に対する治療プロトコールは,単発例であればシスプラチン,イホマイド,エトポシド(ICE)のレジメンで4 コースの化学療法を行い,54 Gy の局所の放射線療法を行い,bifocal tumor 以外の多発例には30 Gy の全脳脊髄照射および24 Gy の局所の照射を行うものである。再発時スタンダードな化学療法を行った症例の5 年生存率は0 であり,大量化学療法を行った症例でも22 例中5 年生存できた症例は3 例だけであった。この3 例に対する再発時の放射線療法は,1 例において局所照射されているが,他の2 例において放射線療法は施行されていない。この結果からは,再発時放射線療法が可能であったかどうかは予後に影響しないといえる。
これらの報告のように,再発時のNGGCT の救済治療は初期治療,特に放射線療法の有無は再発時の照射に影響する。大量化学療法が施行できても,寛解する例は多くない。また,再発NGGCT の治療による無病生存例の報告においても,治療後の障害やQOL についての情報は乏しい。大量化学療法,連続大量化学療法と放射線療法の併用による無病生存の達成があるものの,これらの救済治療による生存率は高いとはいえず,新規の治療法が開発される必要がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍における再発の治療方針についての検索を2017 年7 月に行った。検索式はCQ8 参照。
一次スクリーニングとして420 文献を抽出し,41 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ9 では3 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Baek HJ, Park HJ, Sung KW, et al. Myeloablative chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed or progressed central nervous system germ cell tumors:results of Korean Society of Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)S-053 study. J Neurooncol. 2013;114(3):329-38.[PMID:23824533]
- 2)
- Murray MJ, Bailey S, Heinemann K, et al. Treatment and outcomes of UK and German patients with relapsed intracranial germ cell tumors following uniform first-line therapy. Int J Cancer. 2017;141(3):621-35.[PMID:28463397]
- 3)
- Modak S, Gardner S, Dunkel IJ, et al. Thiotepa-based high-dose chemotherapy with autologous stem-cell rescue in patients with recurrent or progressive CNS germ cell tumors. J Clin Oncol. 2004;22(10):1934-43.[PMID:15143087]
課題6:長期予後
- CQ10
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍におけるフォローアップは必要か?
- 推奨度1B
- 推奨
可能な限り長期に追跡することを推奨する。
解説1:長期的なフォローアップについて
CNSGCT の追跡としては,長くても10 年程度までの報告が多い。MAKEI89 やSIOP-CNS-GCT-96 による前方視的試験のnon-germinomatous germ cell tumors(NGGCT)の報告によれば1,2),5 年から10 年で生存割合はプラトーに到達するようにみえる。しかし,CNSGCT の,より長期の予後について,前述の米国SEER database に1973~2005 年に報告されたジャーミノーマ405 例とNGGCT 94 例のデータが報告によると,5 年以上の生存者について,ジャーミノーマにおいてKaplan-Meier 生存曲線は,人口統計に比べてはるかに速いペースで,30 年以上ほぼコンスタントに下がり続けることが分かる3)。(1.中枢神経原発胚細胞腫瘍の基本的特徴(総論)図1 を参照のこと。)ジャーミノーマの5 年以上生存者405 例においてみられた46 例の死亡の16%は癌死で,その約半数は胚細胞腫の再発であり,再発死亡例の死亡までの期間中央値は9.1 年であった。したがって,このKaplan-Meier 生存曲線がコンスタントに下がり続けることを考えると,胚細胞腫の再発はおよそ20年で出尽くすともいえるかもしれない。ところが腫瘍再発による死亡以外の死因では,主に放射線療法による晩期障害と考えられる脳卒中が多く,脳卒中による死亡の危険率は人口統計よりも59 倍高く,脳卒中による死亡までの期間中央値は23.8 年とのことであった。Kaplan-Meier 生存曲線が20 年を超えるあたりから加速度的に下がり続けるようにみえるのは,この脳卒中など原病以外の疾病が原因と考えられる。したがって,CNSGCT の追跡は,疾病管理という意味でも,またQOL や社会的なサポートという意味でも,永続的な診療やケアが必要であると考えられる。
❖ 文献
- 1)
- Calaminus G, Bamberg M, Harms D, et al. AFP/beta-HCG secreting CNS germ cell tumors:long-term outcome with respect to initial symptoms and primary tumor resection. Results of the cooperative trial MAKEI 89. Neuropediatrics. 2005;36(2):71-7.[PMID:15822019]
- 2)
- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
- 3)
- Acharya S, DeWees T, Shinohara ET, et al. Long-term outcomes and late effects for childhood and young adulthood intracranial germinomas. Neuro Oncol. 2015;17(5):741-6.[PMID:25422317]
解説2:フォローアップにおける具体的な事項
長期フォローアップにおける基礎的な背景因子として,それぞれの治療による障害の可能性を認識することが第一である。いずれも単変量解析ではあるが,全脳照射と基底核部病変が認知機能についての予後不良因子と報告されている1)。放射線療法の影響の程度は,線量・照射野・照射時年齢などさまざまな要因に影響される。目安として,照射線量ごとの認知機能・内分泌機能予後を示した(図1 2),表1 1,3-16))。また,化学療法に関しても表2 17)に示すように,それぞれの薬剤に対して長期的に考慮すべき合併症が存在する。
フォローアップにおいては以下の項目について観察を行うことが推奨される。
【神経症状,脳脊髄MRI,腫瘍マーカー】
神経症状,脳と脊髄のMRI および腫瘍マーカーによる再発の有無の観察を行う。神経症状ならびに脳と脊髄のMRI は,放射線療法による脳血管腫や二次がん(髄膜腫やグリオーマ等)の有無の観察18)のため,再発のおそれがなくなったとしても継続して行うことを考慮する。さらに胚細胞腫に限らず,ステロイドなどの投与歴などの症例において,副腎不全による死亡も報告されており,定期的な副腎機能のチェックは必要と思われる19)。画像検査の間隔については,治療終了後少なくとも2 年間は3 カ月ごと,それ以降は4 カ月~1 年ごとの頭部MRI を行うことが一般的である20)。
【認知機能,就学・就労】
小児CNSGCT 経験者には認知機能障害の中でも特に,記憶障害が多くみられるため,全般的知能検査に記憶機能検査を加えることが重要である21)。通常の教育を受けられる者も多いが,学習困難があれば特別支援教育が必要となる。CNSGCT 経験者にとって就労が困難となる原因には,認知機能のほかに視覚機能(視力・視野・眼球運動障害)も指摘されており,障害者枠就労や障害年金も考慮される4,5,22)。Sugiyama らは,中学もしくは高校卒業後に就職したジャーミノーマ長期生存者11 例中7 例が30 歳以上になって記憶・計算の問題により失職したことを報告している3)。これらのことから,認知機能について,少なくとも就学前・進学前・就職前(進路選択)のタイミングを含めつつ,その後も定期的な評価が必要と考えられる。検査にあたっては,視覚機能や運動機能についても評価し23-25),その結果を認知機能検査者にあらかじめ伝える必要がある。
【下垂体前葉,後葉機能および妊孕性】
内分泌合併症は,CNSGCT の長期生存者に最も多い合併症である24)。尿崩症については,治療後にも改善せず存在し続けることが報告されている25)。成長ホルモン投与の遅れは,成長障害のみならず,骨量減少のリスクを高めるため,早期補充が必要である26,27)。性機能については,性腺機能低下だけでなく思春期早発も起こるなど多様な症状が生じる4,24)。甲状腺機能低下や脂質代謝・糖代謝異常による肥満の報告もあり,これらの内分泌異常は治療後新たに起こることも稀ではない4,5,23,24,28,29)。中枢神経原発胚細胞腫瘍治療に対する妊孕性の温存に関しては,児や親権者の理解度,また倫理的な背景も考慮すべきであるが,小児がん経験者における不妊の問題を直視し,児や親権者の理解度,倫理的な背景を考慮して対応することが求められる。詳細に関しては日本がん治療学会の妊孕性ガイドラインを参照している(http://www.jsco-cpg.jp/fertility/)。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の長期予後について下記検索式による検索を2016 年12 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして295 文献を抽出し,32 文献のエビデンス総体を作成した。それらの構造化抄録をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ10 では解説文を2 つに分け,解説1 では3 文献,解説2 では29 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Liang SY, Yang TF, Chen YW, et al. Neuropsychological functions and quality of life in survived patients with intracranial germ cell tumors after treatment. Neurooncol. 2013;15(11):1543-51.[PMID:24101738]
- 2)
- Sklar CA, Antal Z, Chemaitilly W, et al. Hypothalamic-Pituitary and Growth Disorders in Survivors of Childhood Cancer:An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(8):2761-84.[PMID:29982476]
- 3)
- Sugiyama K, Yamasaki F, Kurisu K, et al. Quality of life of extremely long-time germinoma survivors mainly treated with radiotherapy. Prog Neurol Surg. 2009;23:130-9.[PMID:19329867]
- 4)
- Benesch M, Lackner H, Schageri S, et al. Tumor- and treatment-related side effects after multimodal therapy of childhood intracranial germ cell tumors. Acta Paediatr. 2001;90(3):264-70.[PMID:11332165]
- 5)
- Jereb B, Korenjak R, Krzisnik C, et al. Late sequelae in children treated for brain tumors and leukemia. Acta Oncol. 1994;33(2):159-64.[PMID:8204270]
- 6)
- Armstrong GT, Reddick WE, Petersen RC, et al. Evaluation of memory impairment in aging adult survivors of childhood acute lymphoblastic leukemia treated with cranial radiotherapy. J Natl Cancer Inst. 2013;105(12):899-907.[PMID:23584394]
- 7)
- Clanton NR, Klosky JL, Li C, et al. Fatigue, vitality, sleep, and neurocognitive functioning in adult survivors of childhood cancer:a report from the Childhood Cancer Survivor Study. Cancer. 2011;117(11):2559-68.[PMID:21484777]
- 8)
- Krull KR, Zhang N, Santucci A, et al. Long-term decline in intelligence among adult survivors of childhood acute lymphoblastic leukemia treated with cranial radiation. Blood. 2013;122(4):550-3.[PMID:23744583]
- 9)
- Brinkman TM, Krasin MJ, Liu W, et al. Long-term neurocognitive functioning and social attainment in adult survivors of pediatric CNS tumors:results from the St Jude Lifetime Cohort Study. J Clin Oncol. 2016;34(12):1358-67.[PMID:26834063]
- 10)
- Ris MD, Packer R, Goldwein J, et al. Intellectual outcome after reduced-dose radiation therapy plus adjuvant chemotherapy for medulloblastoma:a Children’s Cancer Group study. J Clin Oncol. 2001;19(15):3470-6.[PMID:11481352]
- 11)
- Mulhern RK, Kepner JL, Thomas PR, et al. Neuropsychologic functioning of survivors of childhood medulloblastoma randomized to receive conventional of reduced-dose craniospinal irradiation:a Pediatric Oncology Group study. J Clin Oncol. 1998;16(5):1723-8.[PMID:9586884]
- 12)
- Krull KR, Brinkman TM, Li C, et al. Neurocognitive outcomes decades after treatment for childhood acute lymphoblastic leukemia:a report from the St Jude Lifetime Cohort Study. J Clin Oncol. 2013;31(35):4407-15.[PMID:24190124]
- 13)
- O’Neil S, Ji L, Buranahirun C, et al. Neurocognitive outcomes in pediatric and adolescent patients with central nervous system germinoma treated with a strategy of chemotherapy followed by reduced-dose and volume irradiation. Pediatr Blood Cancer. 2011;57(4):669-73.[PMID:21495164]
- 14)
- Sands SA, Kellie SJ, Davidow AL, et al. Long-term quality of life and neuropsychologic functioning for patients with CNS germ-cell tumors:from the First International CNS Germ-Cell Tumor Study. Neuro Oncol. 2001;3(3):174-83.[PMID:11465398]
- 15)
- Park Y, Yu ES, Ha B, et al. Neurocognitive and Psychological Functioning of Children with an Intracranial Germ Cell Tumor. Cancer Res Treat. 2017;49(4):960-9.[PMID:28052648]
- 16)
- Sønderkær S, Schmiegelow M, Carstensen H, et al. Long-term neurological outcome of childhood brain tumors treated by surgery only. J Clin Oncol. 2003;21(7):1347-51.[PMID:12663725]
- 17)
- Children’s Oncology Group. Long-Term Follow-Up Guidelines for Survivors of Childhood, Adolescent, and Young Adult Cancers, Version 5.0-October 2018 http://www.survivorshipguidelines.org/pdf/2018/COG_LTFU_Guidelines_v5.pdf
- 18)
- Nakamura H, Makino K, Ushio Y, et al. Therapy-associated secondary tumors in patients with non-germinomatous malignant germ cell tumors. J Neurooncol. 2011;105(2):359-64.[PMID:21533838]
- 19)
- Puar TH, Stikkelbroeck NM, Smans LC, et al. Adrenal Crisis:Still a Deadly Event in the 21st Century. Am J Med. 2016;129(3):339.e1-9.[PMID:26363354]
- 20)
- Cheung V, Segal D, Gardner SL, et al. Utility of MRI versus tumor markers for post-treatment surveillance of marker-positive CNS germ cell tumors. J Neurooncol. 2016;129(3):541-4.[PMID:27406584]
- 21)
- Wilkening GN, Madden JR, Barton VN, et al. Memory deficits in patients with pediatric CNS germ cell tumors. Pediatr Blood Cancer. 2011;57(3):486-91.[PMID:21548009]
- 22)
- Sano K, Matsutani M. Pinealoma(germinoma)trated by direct surgery and postoperative irradiation: a long-term follow-up. Childs Brain. 1981;8(2):81-97.[PMID:7249817]
- 23)
- Saeki N, Tamaki K, Murai H, et al. Long-term outcome of endocrine function in patients with neurohypophyseal germinomas. Endocr J. 2000;47(1):83-9.[PMID:10811297]
- 24)
- Calaminus G, Bamberg M, Harms D, et al. AFP/β-HCG secreting CNS germ cell tumors:long-term outcome with respect to initial symtoms and primary tumor resection. Results of the cooperative trial MAKEI 89. Neuropediatrics 2005;36(2):71-7.[PMID:15822019]
- 25)
- Goldenberg-Cohen N, Haber J, Ron Y, et al. Long-term ophthalmological follow-up of children with Parinaud syndrome. Ophthalmic Surg Lasers Imaging. 2010;41(4):467-71.[PMID:20438046]
- 26)
- Okita Y, Narita Y, Miyakita Y, et al. Long-term follow-up of vanishing tumors in the brain:how should a lesion mimicking primary CNS lymphoma be managed? Clin Neurol Neurosurg. 2012;114(9):1217-21.[PMID:22445618]
- 27)
- Kang MJ, Kin SM, Lee YA, et al. Risk factors for osteoporosis in long-term survivors of intracranial germ cell tumors. Osteoporos Int. 2012;23(7):1921-9.[PMID:22057549]
- 28)
- Gonzalez BL, Grill J, Bourdeaut F, et al. Water and electrolyte disorders at long-term post-treatment follow-up in paediatric patients with suprasellar tumours include unexpected persistent cerebral salt-wasting syndrome. Horm Res Paediatr. 2014;82(6):364-71.[PMID:25377653]
- 29)
- Shim KW, Park EK, Lee YH, et al. Treatment strategy for intracranial primary pure germinoma. Childs Nerv Syst. 2013;29(2):239-48.[PMID:22965772]
3 章 びまん性橋グリオーマ diffuse intrinsic pontine glioma:DIPG
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
廣瀬 雄一
藤田医科大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
総括
副委員長
西川 亮
埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科/脳神経外科
総括
協力委員
師田 信人
北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
診断
委員
隈部 俊宏
北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
他のガイドラインとの整合性
委員
唐澤 克之
都立駒込病院 放射線診療科/放射線科
放射線治療
委員
中田 光俊
金沢大学医薬保健研究域医学系 脳・脊髄機能制御学/脳神経外科
化学療法
協力委員
柳澤 隆昭
東京慈恵会医科大学 脳神経外科/脳神経外科
化学療法
委員
中村 英夫
久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
DIPG の分子生物学的特徴,解説
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
総論
DIPG の分子生物学的特徴
中村 英夫
篠島 直樹(熊本大学医学部 脳神経外科)
1
診断
師田 信人
吉村 淳一(長野赤十字病院 脳神経外科)
2
外科的治療
隈部 俊宏
齋藤 竜太(名古屋大学医学部 脳神経外科)
吉村 淳一(長野赤十字病院 脳神経外科)
3
放射線治療
唐澤 克之
藤井 元彰(三井記念病院 放射線治療科)
4
化学療法
中田 光俊
柳澤 隆昭(東京慈恵会医科大学 脳神経外科)
鈴木 智成(埼玉医科大学国際医療センター 脳脊髄腫瘍科)
山崎 文之(広島大学 脳神経外科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
DIPG に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,DIPG 患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された9 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにシステマティックレビュー(SR)チームを2~3 名で編成した。DIPG が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年11 月30 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で,DIPG のガイドライン作成ワーキンググループが発足。課題の一部については委員の追加を行った。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2015 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2014 に準拠した方法により行ったが,DIPG が稀少疾患であるためエビデンスが少なく,上記の方法の適用が困難な場面に遭遇した。
推奨作成とその決定:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,ガイドライン作成ワーキンググループが各CQ に対する推奨内容について討議した。全委員を対象に,各CQ に対する推奨について郵送により投票を行うこととした。2019 年6 月2 日に投票方法を周知し,投票を行った。7 月6 日,第43 回脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で投票結果が報告され,すべての推奨が承認された。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年6 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
1)臨床的特徴
脳幹部でも主に橋に発生する浸潤性の脳実質内腫瘍で,小児期,特に学童期に好発し,生命予後が不良な腫瘍である。脳幹(主に橋)の中をびまん性・浸潤性に発育するため,大きな腫瘤を形成することはないが,複数の脳神経核や重要神経回路の機能障害をきたしながら病状が進行する。具体的には外眼筋麻痺や顔面神経の障害,錐体路徴候,体幹失調で発症し,急速に進行していくことが多い。
びまん性橋グリオーマ(diffuse intrinsic pontine glioma:DIPG)の名称は組織型による分類ではなく,腫瘍の発生部位と画像所見に基づくものである。すなわち典型例では神経徴候を含めた臨床学的所見と画像検査(MRI)で診断されることが多い。生検術によるものも含めて組織診断されることは少ないのが実情であるが,組織診断された場合にはびまん性星細胞腫であることが多い。最近の遺伝子解析の発達により,この腫瘍には特徴的な遺伝子異常が多いことが知られるようになった。2016 年に世界保健機関(World Health Organizaion:WHO)から出版された脳腫瘍分類では,脳幹,視床といった脳の正中部に発生し,特定のヒストン遺伝子の異常を示す腫瘍をdiffuse midline glioma と分類するようになり,WHO grade Ⅳの最高悪性度に分類される。これまでにDIPG と分類されていた腫瘍のかなりの部分が,このdiffuse midline glioma に相当すると考えられるが,diffuse midline glioma の診断には遺伝子異常の確認が必要であり,今後の診断体系に変更が生じる可能性もある。これまでに知られているDIPG の遺伝子異常については後述する「備考:DIPG の分子生物学的特徴」を参照されたい。
注:本ガイドラインで扱う疾患「びまん性橋グリオーマ」は英語名diffuse intrinsic pontine glioma に対応する。この名称は,橋から発生する腫瘍の中でも外惻(第四脳室内や小脳橋角部といった髄外)に突出するexophytic pontine glioma と対をなすものとして命名されたものある。Exophytic pontine glioma は,時には外科的切除の対象となることもあるが,保存的に経過観察することも許容される予後良好な腫瘍で,橋自体が腫大する形で発育する「びまん性橋グリオーマ」とは臨床像も大きく異なる。後者の英語名に含まれる “intrinsic” は橋の髄内(実質内)にある腫瘍を指す単語であり,委員会内では英語名を忠実に和訳した「びまん性髄内橋グリオーマ」という腫瘍名も検討されたが,結論としては英語名を直訳しない「びまん性橋グリオーマ」を選んだ。ただし,略語については文献や臨床の場でも使われることの多いDIPG(diffuse intrinsic pontine glioma)とした。
2)疫学的特徴
生存期間中央値は12 カ月以下,1 年生存率は50%以下と生命予後が不良な腫瘍である。脳腫瘍の中でもっとも予後が悪い腫瘍の一つで,この20年間で治療効果による予後の改善がみられない腫瘍である。脳腫瘍全国集計調査報告(2017)によれば,びまん性星細胞腫,退形成性星細胞腫のいずれも数%が橋に主座のある腫瘍であったとの統計があるが,本疾患は外科的手術の対象とならないことが多いと考えられるので,組織型の情報も含めた正確な情報を得ることは難しい。
3)診療の全体的な流れ
組織診断することなく神経徴候を含める臨床所見と画像検査(MRI)によって診断した後,放射線治療が行われることが多い。一時症状および画像所見の改善が60~80%にみられるが,約6 カ月で再発する。腫瘍に対する化学療法の有効性は示されていない。ステロイドによる一時的な症状の改善は期待できる。診断された時点で,生存できる期間がある程度決まるので,残された時間をどのように使うのか,状態悪化時に挿管・気管切開・呼吸器装着を行うかどうか,水頭症併発時の手術など姑息的治療を行うか,など患者や家族の予後不良な疾患の受け入れと,提供できる支援としては緩和医療が必要となる。
治療早期から緩和医療の同時進行,あるいは緩和医療への移行も念頭に置きながら,姑息的治療の選択にあたっては家族の意思を尊重しつつ慎重に判断することが望まれる。
4)備考:DIPG の分子生物学的特徴
2016 年のWHO 改訂により,脳腫瘍特にグリオーマにおいて,その分子遺伝学的プロファイルが診断に加味されるようになった。この改訂によって中枢神経系の中心に位置し,浸潤性の性格を持つ星細胞優位の腫瘍であり,H3F3A もしくはHIST1H3B/C をコードする遺伝子においてK27M の変異を有する悪性度の高いグリオーマをdiffuse midline glioma と定義された。DIPG は,このdiffuse midline glioma の代表的な腫瘍である。DIPG の80%近くの症例において,このどちらかの遺伝子変異が認められ,この2 つの遺伝子変異は相互排他的と報告されている1)。
(1)予後因子に関して
2012 年のKhuong-Quang らによる報告では,小児DIPG 42 例においてK27M-H3 変異が独立予後不良因子であった2)。2014 年に症例を増やした小児DIPG 72 例における解析でも同様の結果が得られており3),K27M-H3 変異検索は組織学的grading より予後予測因子として意義があると考えられる。
(2)分子標的治療に関して
①変異遺伝子に対する標的治療
2014 年にBuczkowicz らは,臨床データと組織サンプルが得られた小児DIPG 74 例の遺伝子発現やメチル化などの網羅的解析を行い,3 群にサブグループ化し(MYCN, silent, H3-K27M),それぞれの群で標的治療の可能性のあるいくつかの候補分子を同定した1)。特にH3-K27M ではACVR1 変異が20%で認められ,この下流のSMAD 経路は恒常的に活性化しており治療標的に成り得ると考察している。
また,2014 年にTaylor らは,26 例のDIPG の約30%でみられたACVR1(ALK2)変異を標的とした治療の有望性について報告している4)。すなわちACVR1 変異のある患者由来DIPG 細胞株を用い,ALK2 inhibitor により抗腫瘍効果が得られたことを示している。
②エピジェネティクス変化に対する治療
2014 年Ahsan らは,エピジェネティクス解析を行い,成人GBM や小児の非脳幹GBM と比較して小児DIPG に特異的なエピジェネティクス変化を同定した5)。グローバルDNAメチル化としての5-methylcytosine(5mC)レベルは,小児DIPG に限らず小児非脳幹GBM および成人GBM で有意に低下していた。一方,H3K27 トリメチル化の有意な低下と,クロマチン活性に関与する5-hydroxymethylation of cytosine(5hmC)レベルの有意な上昇が,小児DIPG で特異的に認められた。治療としてヒストン脱メチル化阻害薬やヒストン脱アセチル化阻害薬などのエピジェネティクスmodifiers が期待されると結論づけている。さらにGrasso らは,エピジェネティクスmodifiers によるDIPG の治療効果をin vitro,in vivo で検討している6)。患者由来DIPG 細胞培養系で薬剤スクリーニングを行い,抗腫瘍効果のある薬剤としてヒストン脱アセチル化酵素阻害薬のpanobinostat を同定しin vitro,in vivo でその抗腫瘍効果を証明した。さらにヒストン脱メチル化阻害薬のGSK-J4 を併用することで相乗的な抗腫瘍効果が得られたと報告している。
❖ 文献
- 1)
- Buczkowicz P, Hoeman C, Rakopoulos P, et al. Genomic analysis of diffuse intrinsic pontine gliomas identifies three molecular subgroups and recurrent activating ACVR1 mutations. Nat Genet. 2014;46(5):451-6.[PMID:24705254]
- 2)
- Khuong-Quang DA, Buczkowicz P, Rakopoulos P, et al. K27M mutation in histone H3.3 defines clinically and biologically distinct subgroups of pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Acta Neuropathol. 2012;124(3):439-47.[PMID:22661320]
- 3)
- Buczkowicz P, Bartels U, Bouffet E, et al. Histopathological spectrum of paediatric diffuse intrinsic pontine glioma:diagnostic and therapeutic implications. Acta Neuropathol. 2014;128(4):573-81.[PMID:25047029]
- 4)
- Taylor KR, Mackay A, Truffaux N, et al. Recurrent activating ACVR1 mutations in diffuse intrinsic pontine glioma. Nat Genet. 2014;46(5):457-61.[PMID:24705252]
- 5)
- Ahsan S, Raabe EH, Haffner MC, et al. Increased 5-hydroxymethylcytosine and decreased 5-methylcytosine are indicators of global epigenetic dysregulation in diffuse intrinsic pontine glioma. Acta Neuropathol Commun. 2014;2:59.[PMID:24894482]
- 6)
- Grasso CS, Tang Y, Truffaux N, et al. Functionally defined therapeutic targets in diffuse intrinsic pontine glioma. Nat Med. 2015;21(6):555-9.[PMID:25939062]
2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:びまん性橋グリオーマ(DIPG)の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後の改善
- (3)トピック:DIPG の生命予後,機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍を診療する医療者や施設,患者・家族,ケアギバー(caregiver)
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本および海外で既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)重要臨床課題
課題1:診断
課題2:外科的治療
課題3:放射線治療
課題4:化学療法
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
初発治療時が小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満の小児例に加え,15~29 歳のAYA 世代)。脳幹部に発生する腫瘍の中で病変が限局性のものや脳実質外にexophytic に発育する腫瘍とは予後が異なるので,これらは含まない。
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:1 カ月
文献の選出:3 カ月
エビデンス総体の評価と統合:4 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:DIPG に関してはなし。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed,医中誌
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2018 年7 月まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
課題1:診断
- CQ1
- 臨床経過,臨床所見,画像検査からDIPG と診断することは推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
臨床経過,臨床所見,画像検査からDIPG と診断することを提案する。
注:DIPG の名称は組織型による分類ではなく,その一方,最新の脳腫瘍分類でのdiffuse midline glioma(診断確定に遺伝子解析を要する)に相当する腫瘍が大部分を占めると考えられる。生検術の是非については議論が分かれるが,この点については解説を参照されたい。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,DIPG は特殊な腫瘍であり,腫瘍の発生部位と画像所見に基づく疾患群を指すことに留意する必要がある。そのためDIPG の診断が,必ずしも組織学的悪性度の診断につながるわけでない。適切な治療を行うための診断法の妥当性について検証を行う。
- アウトカム:
- 臨床経過,臨床所見,画像診断からDIPG と診断した場合の誤診率
2.推奨の解説
DIPG 診断・治療の歴史において,Albright らによる1993 年の論文が果たした役割は極めて大きい1)。定位的あるいは開頭術で手術を受けた45 名のびまん性の脳幹部腫瘍全例がグリオーマであったことより,DIPG の診断はMRI で可能であり生検術は不要とされた。結果として,以後20年近くにわたり治療の大勢は外科的組織診断による裏付けなく進められることとなった。そのため,対象とする論文名にDIPG が冠されていても,現時点ではほとんどの文献において病理学的信憑性は曖昧であることを念頭に置く必要がある。
DIPG では放射線治療による一時的腫瘍縮小効果の他に有効な治療がなく,予後も極めて不良であるため,DIPG の臨床経過・臨床所見,画像診断について,前方視的に検討したエビデンスの高い論文は存在しない。そのため,文献としては単一施設での症例集積による臨床研究・症例報告を対象に検討した。
1)臨床経過・臨床所見
医療機関受診に至る典型的な臨床経過・臨床所見は,DIPG のスコープに記載されている通りである。水頭症を合併することは,通常は末期まで稀と考えられている。この臨床像について,DIPG の診断率と結びつけて検討した論文は認めなかった。逆にDIPG と診断されたにもかかわらず長期生存している5 例(全192 例)について後方視的に検討した論文では,3 歳以下2 例,発症から診断まで6 カ月以上3 例,外転・顔面神経麻痺なし1 例が臨床所見上の非典型所見として挙げられている2)。いずれも従来から指摘されていた非典型例の経過・所見であるが,典型例における頻度が記載されていないため,その信頼性を確定することは困難である。なお,後述の画像所見と関連するが,この5 例中3 例のMRI 所見は典型的DIPG と診断されている。
2)MRI 所見
DIPG の典型的なMRI 所見は一般的に以下の通りと考えられている。
1:橋中心部に内在し,橋横断面の50%以上を占める。
2:境界不鮮明
3:T1 低信号域
4:T2 高信号域
5:ガドリニウム造影効果は,あっても不整形
6:囊胞形成や橋表面(第4 脳室底も含む)への露出を伴わない。
MRI が非腫瘍性脳幹部病変との鑑別に有効とした文献は認めたが3),DIPG の組織診断の有用性を直接検討した文献は認めなかった。CQ2 との関係でMRI における脳幹部腫瘍におけるDIPG の頻度に触れた文献は症例集積として存在するが,MRI の質的診断価値(DIPG か非DIPG 脳幹部腫瘍か)についての考察は行われていない。外科的組織診断とMRI 所見を比較した文献は1 編のみであった。Dellaretti らは,定位的生検術を施行した44 例についてMRI 所見と組織像を比較検討した4)。画像所見をびまん性vs. 局在性,造影効果ありvs. なし,で4 群に分類し,44 例中41 例で組織診断が可能であり,うち37 例(90.2%)がDIPG と診断されている。造影効果を伴う場合,DIPG の高悪性度群および非DIPG の頻度が高くなるため生検術の必要性を文献では訴えているが,同時にMRI 所見のみでDIPG の診断・予後予測が困難であることを結果的に示唆する内容となっている。非DIPG に高悪性度腫瘍が多いことを論じた文献は認めたが,画像上の非典型的MRI 所見を示した脳幹部腫瘍のうち,どれだけが非DIPG だったかの情報は記載されていなかった5)。
現在,DIPG にそぐわない非典型的MRI 所見を示す脳幹部腫瘍に対する外科的組織診断の必要性は徐々に認識される傾向にあるが,非典型的所見かどうかが外科医間でどれだけ一致するかを調べた興味深い文献が認められた6)。脳幹部腫瘍16 例の画像を86 名の小児神経外科医が診断したところ,全員が典型的あるいはDIPG として画像所見が典型的あるいは非典型的であると診断が一致した症例は存在せず,75%以上がいずれかの診断で一致した症例が7 例(43.8%)であった。DIPG の典型的MRI 画像の知識はあっても,臨床現場でのMRI 診断の難しさを反映した結果となっている。
以上をまとめると,MRI によりDIPG の存在・進展を診断することは可能であるが,治療法に結びつく組織学的・生物学的悪性度の診断を行うことは現時点では困難である,ということになる。
3)その他の画像所見
MRI DTI(diffusion tensor imaging)あるいはspectroscopy を用いてDIPG の特徴を調べた報告は散見されるが,いずれも単発でありエビデンスとしては低い。また,PET による悪性度診断の報告もあるが,現時点では日常臨床への影響は考えにくいため,ガイドラインには含めなかった。
4)組織診断
近年の分子生物学的診断法の進歩を反映し,生検術による組織診断の機運は高まっている。定位的生検術に関しては,新たな手術法の開発もありより安全に実施されるようになってきているが7),脳腫瘍生検術における診断率は一般に95%前後であり,永続的合併症発生率も1%ほどである。小児脳幹部腫瘍の定位的生検術の文献で多数例を扱った報告はまだ少ない8)。生検術の是非については議論が分かれるが,組織診断・遺伝子解析が直ちに患児への治療という形で恩恵につながるわけではないことを配慮する必要がある。生検術実施にあたっては,確定診断に至らない可能性・合併症出現の可能性をよく説明したうえで実施し,分子生物学的検索など臨床研究に役立てる場合には施設の倫理審査委員会の承諾を得る必要がある9)。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,DIPG の診断について下記検索式による文献検索を2017 年5 月に行った。
検索ワードはdiffuse intrinsic pontine glioma, brainstem glioma, diagnosis, MRI で行った。PubMed 上でAND あるいはOR で組み合わせたが,brainstem glioma では中脳腫瘍,低悪性度腫瘍も含まれるためdiffuse intrinsic pontine glioma を主に文献検索を進めた。また,diagnosis だけでは論文が絞りきれないため,診断に有用な臨床所見の検索にclinical finding を加えた。さらに,推奨作成過程で生検術をCQ2 でなくCQ1 の診断で扱うことになったため,上記に加えてbiopsy も追加して文献検索を行った。そのうえで抄録をもとに一次スクリーニングとして11 文献を抽出し,システマティックレビューを行った。最終的にその中から9 文献を用いて推奨を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Albright AL, Packer RJ, Zimmerman R, et al. Magnetic resonance scans should replace biopsies for the diagnosis of diffuse brain stem gliomas:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1993;33(6):1026-9.[PMID:8133987]
- 2)
- Jackson S, Patay Z, Howarth R, et al. Clinico-radiologic characteristics of long-term survivors of diffuse intrinsic pontine glioma. J Neurooncol. 2013;114(3):339-44.[PMID:23813229]
- 3)
- Schumacher M, Schulte-Mönting J, Stoeter P, et al. Magnetic resonance imaging compared with biopsy in the diagnosis of brainstem diseases of childhood:a multicenter review. J Neurosurg. 2007;106(2 Suppl):111-9.[PMID:17330536]
- 4)
- Dellaretti M, Touzet G, Reyns N, et al. Correlation among magnetic resonance imaging findings, prognostic factors for survival, and histological diagnosis of intrinsic brainstem lesions in children. J Neurosurg Pediatr. 2011;8(6):539-43.[PMID:22132909]
- 5)
- Klimo P Jr, Nesvick CL, Broniscer A, et al. Malignant brainstem tumors in children, excluding diffuse intrinsic pontine gliomas. J Neurosurg Pediatr. 2016;17(1):57-65.[PMID:26474099]
- 6)
- Hankinson TC, Campagna EJ, Foreman NK, et al. Interpretation of magnetic resonance images in diffuse intrinsic pontine glioma:a survey of pediatric neurosurgeons. J Neurosurg Pediatr. 2011;8(1):97-102.[PMID:21721895]
- 7)
- Puget S, Beccaria K, Blauwblomme T, et al. Biopsy in a series of 130 pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 2015;31(10):1773-80.[PMID:26351229]
- 8)
- Rajshekhar V, Moorthy RK. Status of stereotactic biopsy in children with brain stem masses:insights from a series of 106 patients. Stereotact Funct Neurosurg. 2010;88(6):360-6.[PMID:20861659]
- 9)
- Walker DA, Liu J, Kieran M, et al;CPN Paris 2011 Conference Consensus Group. A multi-disciplinary consensus statement concerning surgical approaches to low-grade, high-grade astrocytoma and diffuse intrinsic pontine gliomas in childhood(CPN Paris 2011)using the Delphi method. Neuro Oncol.2013;15(4):462-8.[PMID:23502427]
課題2:外科的治療
- CQ2
- 腫瘍切除は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
DIPG に対する腫瘍切除は行わないことを提案する。
- CQ3
- 水頭症に対する手術は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
DIPG 治療経過中に水頭症を生じた場合,水頭症手術を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
DIPG はその病変の局在から外科的切除術の対象とされないことが多い。ただし,腫瘍進行に伴う水頭症の合併が症状の悪化を招くことがあり,これに対応した治療は望まれるところである。外科的治療の適否については検証が必要である。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的治療による侵襲
2.推奨の解説
CQ2
腫瘍摘出の意義と,生検術を行うか,行わないかの議論は別である。生検術は特に臨床試験を行ううえで腫瘍の分子生物学的特徴を明確にし,さらに標的療法を行っていくためにも推奨する傾向にある1)。本項目ではあくまでもDIPG に対する腫瘍摘出の意義に関してまとめる。
第一にこれまで発表された論文,特に年代の古いものではDIPG の定義が曖昧であるために,DIPG に対する外科的治療の意義に関して正確な結論を導き出すのが難しい。
1980 年代後半にEpstein から発表された形態学的なintrinsic brainstem glioma の分類2,3)は依然として頻用される。Epstein らは1986 年の発表ではfocal, diffuse, cervicomedullary の3 型に分類した2)が,1988 年にはさらにcystic を加え最終的に4 型に分類している3)。diffuse type のbrainstem glioma で橋に存在するものがDIPG に相当すると考えて,過去の論文の記述からDIPG に対する外科的治療の意義を推測することになる。
Epstein らの1988 年の文献3)では,66 例の小児intrinsic brain stem glioma のうち27 例がdiffuse であり,これらはすべて組織学的に悪性であり,手術の恩恵はなく,1 例は手術死亡し,全例が術後6~9 カ月で死亡した。この結果からdiffuse intrinsic brainstem glioma に対しての手術適応はないとしている。この症例群のかなりの部分がDIPG に相当すると予想されるが,想像の域を出ない。
Behnke ら4)は1987~1994 年の連続した小児intra-axial exophytic tumor 30 例に対して手術を行った。術後ほとんどの症例で術前に認められた症状は悪化するが,2~3 カ月で回復するとしている。しかし2 例では術後2 日目と2 週間目に死亡している。血管腫(2 例)・grade 1 の星細胞腫(6 例)・grade 2 の乏突起膠腫(1 例)・grade 2 の上衣腫(1 例)の計10 例は術後2 年の段階で全例が生存している。一方,grade 2 以上の星細胞腫とprimitive neuroectodermal tumor(PNET)はどんなに摘出率が高くとも全例死亡した。術前神経学的脱落症状のあるもの,pontine hypertrophy,Onion-skin-like changes between layers of normal brainstem parenchyma and tumor tissue が認められる症例は,予後が悪いと報告している。開頭顕微鏡下手術は,MRI や生検ではわからない情報が得られるために有用というのが結論であるが,手術を推奨する考えに偏っていると評価せざるを得ない。
Wagner ら5)は1983~2001 年にHIT-GBM database に登録された新規pontine glioma 153 例を対象とした。場所はpons に限局されているが,diffuse, focal を分類していない。DIPG と推測される96 例中6 例(6.3%)に摘出術が行われた。結果的に手術・放射線・化学療法すべてが行われた症例の予後は単変量解析で良好であった。手術の意義に関しては論議されていないが,表に記載されている “Larger tumor”(定義が一切記載されていない)に対する摘出術は,単変量解析にてp=0.048 となっており,予後良好因子と読み取ることはできる。
Yoshimura ら6)は1962~1996 年の72 例のbrainstem glioma を検討した。64 例がdiffuse で,そのうち40 例に対して剖検が行われた。このうち2 例が延髄,38 例が橋に存在しているため,38 例が真の意味でのDIPG に相当すると判断される。年齢は3~46(平均12.6)歳で,4 例に部分摘出術以上,34 例に対して生検もしくは摘出術は行われなかった。表から摘出例の生存期間中央値は44 週,生検・非摘出例のそれは32 週と計算され,log-rank test にてp=0.408 で生存期間延長効果は認められなかった。
Behnke4),Wagner5)らの文献からintrinsic brainstem glioma に対して摘出術がある程度の意味合いを有することが予想されるが,これらにはfocal intrinsic type のbrainstem glioma とpons 以外に位置する腫瘍が含まれており,しかもそれがどの割合かは全く不明であるために,純粋にDIPG に対する摘出効果を明らかにすることができない。
結論として,DIPG に対する可及的摘出術の意義を明らかにした文献は存在しないと言える。また,合併症発生率が高く,術後早期死亡例の報告も多い3,4)。したがって,DIPG に対する腫瘍切除は推奨されない。
ただし,これは一般論であって,局所的な造影領域あるいは囊胞成分の急速な拡大に対する摘出術等,各症例に応じた腫瘍切除が否定されるものではない。このような状況下での腫瘍摘出の有効性,問題点に関して検討を行った論文は過去一切存在しないためである。
CQ3
DIPG ではおよそ15~60%の確率で,その診断確定から平均5 カ月で水頭症を生ずると報告されている。DIPG に併発した水頭症に対して手術を行うべきであるかどうかに関しては,いずれも単施設の後方視的検討結果によるため,高いエビデンスレベルにはない。また,その少ない対象疾患がDIPG に限定していない点にも注意が必要となる。
DIPG に合併した水頭症に対して,保存的療法のみでは限界があり,脳室腹腔短絡術(ventriculoperitoneal shunt:VPS)もしくは内視鏡的第三脳室開窓術(endoscopic third ventriculostomy:ETV)の適応を検討する必要がある。Amano らは,水頭症手術が行われた12 例はそれ以外の4 例に比較して長期生存したと報告している1)。Roujeau らは,51 例のDIPG を対象とし,水頭症を生じた11 例とそれ以外40 例の生存期間を検討した2)。Roujeau らは,適切に治療されれば水頭症の有無は生存率に影響しなかったこと,腫瘍の進行状況と水頭症発生とも関係なかったことから,水頭症が起きたらより積極的に治療すべきであるとしている2)。Amano らも,水頭症を神経兆候・画像診断から診断することは重要で,もし水頭症を生じた場合は適切な水頭症手術を行うべきとしている1)。
DIPG の4~50%に存在する播種病変を伴った水頭症では,水頭症の原因はDIPG によって中脳水道から第4 脳室への髄液流通障害による閉塞性水頭症だけではなく,吸収障害も伴った複数の要因に由来することが多いため,髄液を腹腔内へ流し出すことによって水頭症を改善させるVPS を優先的に選択する必要がある。播種病変が明らかになっていない場合,VPS とETV のいずれを選択するかの結論は出ていない。ETV においても施行直後から水頭症症状改善は得られ,体内に異物が挿入されないことから感染のリスクが低いという利点を強調する論文がみられる1,3,4)。一方で,ETV 後にVPS を必要とした症例が,Klimo らの報告3)では13 例中1 例,Roujeau らの報告2)では2 例中1 例と少なからず存在しており,上述のように髄液吸収障害による水頭症発現機序も考慮すると,最初からVPS を選択した方が良いという意見も存在する2)。なお,ETV を行う場合には脳底槽の変形・狭小化を念頭に置き,脳幹部や偏移した脳底動脈損傷を避けるように慎重かつ十分な開窓を症例ごとに検討すべきとされている4)。また,非常に稀な現象ではあるが,VPS を介して腹腔内に腫瘍播種を生ずることも報告されている5)。このように,DIPG 経過中に生ずる水頭症に対して手術を行うことは勧められているが,VPS を選択すべきであるか,ETV を選択すべきであるかは結論づけられていないのが現状である。
システマティックレビュー結果
CQ2
<検索式>
diffuse[All Fields]AND intrinsic[All Fields]AND(“pons”[MeSH Terms]OR “pons”[All Fields]OR “pontine”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])
“resection”“surgery”といったterm を加えて手術に関連したものだけをsearch するとあまりにも文献数が少なくなるために,下記のようにDIPG 全体をカバーするようにすべての論文を抽出し,一次スクリーニングを行い,その後,二次スクリーニングで文献を絞った。
❖ 文献
- 1)
- Walker DA, Liu J, Kieran M, et al;CPN Paris 2011 Conference Consensus Group. A multi-disciplinary consensus statement concerning surgical approaches to low-grade, high-grade astrocytoma and diffuse intrinsic pontine gliomas in childhood(CPN Paris 2011)using the Delphi method. Neuro Oncol. 2013;15(4):462-8.[PMID:23502427]
- 2)
- Epstein F, McCleary EL. Intrinsic brain-stem glioma of childhood:surgical indications. J Neurosurg. 1986;64(1):11-5.[PMID:3941334]
- 3)
- Epstein F, Wisoff JH. Intrinsic brainstem tumors in childhood:surgical indications. J Neurooncol. 1988;6(4):309-17.[PMID:3221258]
- 4)
- Behnke J, Christen HJ, Mursch K, et al. Intra-axial endophytic tumors in the pons and/or medulla oblongata Ⅱ. Intraoperative findings, postoperative results, and 2-year follow up in 25 children. Childs Nerv Syst. 1997;13(3):135-46.[PMID:9137855]
- 5)
- Wagner S, Warmuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006;79(3):281-7.[PMID:16598416]
- 6)
- Yoshimura J, Onda K, Tanaka R, et al. Clinicopathological study of diffuse type brainstem gliomas:analysis of 40 autopsy cases. Neurol Med Chir(Tokyo). 2003;43(8):375-82.[PMID:12968803]
CQ3
<検索式>
diffuse[All Fields]AND intrinsic[All Fields]AND(“pons”[MeSH Terms]OR “pons”[All Fields]OR “pontine”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“hydrocephalus”[MeSH Terms]OR “hydrocephalus”[All Fields]))OR((“brain stem”[MeSH Terms]OR(“brain”[All Fields]AND “stem”[All Fields])OR “brain stem”[All Fields]OR “brainstem”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“hydrocephalus”[MeSH Terms]OR “hydrocephalus”[All Fields])
結果:252 件
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Amano T, Inamura T, Nakamizo A, et al. Case management of hydrocephalus associated with the progression of childhood brain stem gliomas. Childs Nerv Syst. 2002;18(11):599-604.[PMID:12420118]
- 2)
- Roujeau T, Di Rocco F, Dufour C, et al. Shall we treat hydrocephalus associated to brain stem glioma in children? Childs Nerv Syst. 2011;27(10):1735-9.[PMID:21928037]
- 3)
- Klimo P Jr, Goumnerova LC. Endoscopic third ventriculocisternostomy for brainstem tumors. J Neurosurg. 2006;105(4 Suppl):271-4.[PMID:17328276]
- 4)
- Kobayashi N, Ogiwara H. Endoscopic third ventriculostomy for hydrocephalus in brainstem glioma:a case series. Childs Nerv Syst. 2016;32(7):1251-5.[PMID:27041375]
- 5)
- Barajas RF Jr, Phelps A, Foster HC, et al. Metastatic Diffuse Intrinsic Pontine Glioma to the Peritoneal Cavity Via Ventriculoperitoneal Shunt:Case Report and Literature Review. J Neurol Surg Rep. 2015;76(1):e91-6.[PMID:26251821]
課題3:放射線治療
- CQ4
- 放射線治療は行うべきか?
- 疾患の治療時期に応じて,解説を以下の項目に分けた。
- CQ4-1
- 初発のDIPG に対して,放射線治療は行うべきか?
- 推奨度1B
- 推奨
初発のDIPG に対して,放射線治療を行うことを推奨する。
- CQ4-2
- 照射後再発時のDIPG に対して,放射線治療は行うべきか?
- 推奨度2C
- 推奨
照射後再発時のDIPG に対して,放射線治療を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
DIPG の治療の中心となる放射線治療について,その線量や照射範囲に関して検証を行う。一般的に,小児脳腫瘍に対する放射線治療は3 歳以上であるか否かによって方針が分かれるが,DIPG は3 歳未満で診断されることは稀であるので,年齢に関する検証は行わない。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科治療による侵襲
2.推奨の解説
CQ4-1
DIPG の予後は不良で,放射線治療を行わない場合の生存期間は約3.5~5 カ月とされている1,2)。
DIPG が稀少疾患であることから,放射線治療の効果についても後方視的な観察研究が多いが,1991 年には2~13 歳のDIPG に対する放射線治療について非照射群での全生存期間中央値が140 日であったのに対して照射群では280 日であったとの報告がある1)。1983~2001 年までドイツで行われた多施設共同前方視的コホート研究HIT-GBM に登録された153 例の治療成績を検討したWagner らの報告によると,54 Gy/30 fr の通常分割照射が行われた放射線治療群(125 例)の全生存期間中央値は11 カ月であったのに対して,非照射群(21 例)では5 カ月であり,放射線治療群において生存期間の有意な延長を認めている3)。
照射の分割様式については,過分割照射(hyperfractionated radiotherapy)と通常分割照射との比較,および寡分割照射(hypofractionated radiotherapy)と通常分割照射との比較が行われている。
POG-9239 試験は過分割照射と通常分割照射を比較した多施設共同第Ⅲ相ランダム化比較試験で,全130 例を過分割照射群(総線量70.2 Gy,1.17 Gy×2 回/日)64 例と通常分割照射群(総線量54 Gy,1.8 Gy/日)66 例に振り分けて検討された。その結果,過分割照射群と通常分割照射群で,死亡までの期間(8 カ月/8.5 カ月),EFS(5 カ月/6 カ月)いずれにおいても両群に有意な差はなく,過分割照射による生存率の改善は認められなかった4)。
寡分割照射と通常分割照射との比較については,Zaghloul らにより第Ⅲ相ランダム化比較試験が行われ,その結果が2014 年に報告された5)。全71 例を寡分割照射群(39 Gy/13fr,2.6 週)35 例と通常分割照射群(54 Gy/30 fr,6 週)36 例に振り分けて検討された。その結果,全生存期間は寡分割照射群では7.8 カ月,通常分割照射では9.5 カ月で,両群に有意な差はみられなかった。急性および晩期有害事象についても両群に差はなく,治療期間の短縮,治療負担の軽減から寡分割照射は有利ではないかと述べている。
現在では腫瘍部分に1~2 cm のマージンをつけた部分に対して,一回線量1.8~2 Gy,総線量54~60 Gy の通常分割照射による放射線治療が標準治療とされており,放射線治療により症状の緩和のみならず,8~14 カ月の生存を期待できる。
CQ4-2
放射線療法は,照射後の再発例に用いても予後を改善する,という後方視的な報告が出されつつある。Wolff らのMD アンダーソンがんセンターにおける後方視的な解析によれば1),化学療法が大部分を占める26 種類のレジメンで61 回の治療を試みた31 例の再発DIPG のうち,初発部位に対し再照射が行われた7 例の奏効率は57%(7 例中4 例)で,再照射が行われなかった群の奏効率10%(52 例中5 例)に比較して有意に高く(p=0.008),また他のレジメンに比べて,EFS が有意に長かった(p=0.017)。彼らの用いた放射線の総線量は18~20 Gy で,グレード3 以上の有害事象は1 例も認められなかった。
Lassaletta らのカナダからの後方視的な報告によれば2),2011~2016 年に治療したDIPG の再照射16 例と,過去の再照射を行わなかった46 例を比較して,生存期間中央値が有意に延長した(218 日vs. 92 日,p=0.0001)。彼らの放射線の総線量は21.6~36 Gy と比較的高い線量を用いたが,30 Gy/10 fr を投与した1 例に橋の壊死が生じた。
またJanssens らによるヨーロッパ7 カ国の施設から集積された小児DIPG の照射後再発例についてのマッチドコホート研究3)では,再照射を行った31 例と行わずにbest supportive care(BSC)で観察した39 例を比較すると全生存期間の中央値が13.7 カ月vs. 10.4 カ月(p=0.04)と,有意に再照射群で改善していた。そして再照射を行った31 例中24 例で症状の軽快が認められた。また,グレード3 以上の有害事象は1 例も認められなかった。照射の線量は6 例の30 Gy/10 回の照射例以外は18~20 Gy の通常分割で行われた。
以上より,未だ前方視的研究の報告はないものの,放射線療法はDIPG の放射線治療後の再発例に対しても,生存期間の延長効果をもたらし,かつ有害事象も許容範囲内であることから,治療手段として用いることを提案する。
システマティックレビュー結果
CQ4-1
<検索式>
((((((((infant or child or adolescent or pediatric))AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)))AND radiotherapy)AND English[Language])NOT review[Publication Type])NOT case reports[Publication Type]
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
なお,DIPG については放射線治療が治療の中心であったため,解説文の作成にあたり対象として放射線非照射群の予後に関する情報を得るために以下の検索式で文献を集め(24 文献),マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した(文献1 および2)。
(((infant or child or adolescent or pediatric)AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)))AND natural history
❖ 文献
- 1)
- Langmoen IA, Lundar T, Storm-Mathisen, et al. Management of pediatric pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 1991;7(1):13-5.[PMID:2054800]
- 2)
- Sun T, Wan W, Wu Z, et al. Clinical outcomes and natural history of pediatric brainstem tumors:with 33 cases follow-ups. Neurosurg Rev. 2013;36(2):311-9;discussion 319-20.[PMID:23138258]
- 3)
- Wagner S, Wamuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006;79(3):281-7.[PMID:16598416]
- 4)
- Mandell LR, Kadota R, Freeman C, et al. There is no role for hyperfractinated radiotherapy in the management of children with newly diagnosed diffuse intrinsic brainstem tumors:results of a pediatric oncology group phase Ⅲ trial comparing conventional vs. hyperfractionated radiotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1999;43(5):959-64.[PMID:10192340]
- 5)
- Zaghloul MS, Eldebawy E, Ahmed S, et al. Hypofractionaed conformal radiotherapy for pediatric diffuse intrinsic pontine glioma(DIPG):A randomized controlled trial. Radiother Oncol. 2014;111(1):35-40.[PMID:24560760]
CQ4-2
<検索式>
(((infant or child or adolescent or pediatric)AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)))AND re-irradiation
これをすべて一次スクリーニングとし(26 文献),マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Wolff JE, Rytting ME, Vats TS, et al. Treatment of recurrent diffuse intrinsic pontine glioma:the MD Anderson Cancer Center experience. J Neurooncol. 2012;106(2):391-7.[PMID:21858608]
- 2)
- Lassaletta A, Strother D, Laperriere N, et al. Reirradiation in patients with diffuse intrinsic pontine gliomas:The Canadian experience. Pediatr Blood Cancer. 2018;65(6):e26988.[PMID:29369515]
- 3)
- Janssens GO, Gandola L, Bolle S, et al. Survival benefit for patients with diffuse intrinsic pontine glioma(DIPG)undergoing re-irradiation at first progression:A matched-cohort analysis on behalf of the SIOP-E-HGG/DIPG working group. Eur J Cancer. 2017;73:38-47.[PMID:28161497]
課題4:化学療法
- CQ5
- 化学療法を行うべきか?
- 推奨度2C
- 推奨
DIPG に対して化学療法を行わないことを提案する。
なお,疾患の治療時期に応じて,解説を以下の項目に分けた。
CQ5-1 放射線治療との併用について
CQ5-2 放射線治療後の化学療法について
CQ5-3 再発(進行)時の化学療法について
解説
1.CQ の設定
課題4:薬物療法(抗がん剤,分子標的治療薬など)の有効性
DIPG の治療における抗腫瘍薬の効果についてはエビデンスが少ないのが現状であるが,一般的な神経膠腫に対する薬物療法の進歩が目立っている中で,DIPG に対する薬物療法の意義を検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,有害事象の発現
2.推奨の解説
CQ5-1 放射線治療との併用について
DIPG に対する標準治療は54~60 Gy の放射線療法であり,1 年生存率は45%程度とされている。単独放射線治療よりも良好な予後を獲得するためにさまざまな薬剤併用放射線療法が報告されてきた。
Wagner らは,白金製剤やアルキル化剤等の併用について1983~2001 年にHIT-GBM(“Hirntumor-Glioblastoma multiforme”)データベースに登録されたDIPG 153 例に対し後方視的に解析している。治療として単独放射線治療あるいは放射線治療と化学療法[エトポシド+トロフォスファミド,カルボプラチン+エトポシド+イホスファミド+(ビンクリスチン)]の併用が行われた。放射線治療単独群(17 例)と放射線化学療法群(88 例)の全生存期間中央値は9 カ月,11 カ月であり,放射線化学療法群が延長した(p=0.03)。また,腫瘍径が大きいDIPG(橋の長さの50%以上)に対しては,放射線治療および化学療法がともに予後延長に寄与していた1)。Korones らは,Children’s Oncology Group(COG)9836 に登録された30 例のDIPG に対して放射線治療とエトポシド,ビンクリスチン併用療法を施行し解析している。全生存期間中央値9 カ月,1 年生存率27%,2 年生存率3%の結果であり,化学療法併用による予後延長効果は得られなかった2)。また,放射線治療とテモゾロミド併用療法に関して報告がある。Cohen らは,63 例の脳幹グリオーマに対し放射線治療とテモゾロミドを併用し全生存期間中央値9.6 カ月であったと報告している3)。Bailey らが報告した43 例の脳幹グリオーマに対する放射線治療とテモゾロミド併用療法では,全生存期間中央値9.5 カ月であった4)。これらの報告では,放射線治療にテモゾロミドを併用しても予後延長効果には寄与しない可能性が高いと述べられている。
放射線治療に分子標的治療薬を併用した臨床試験についても報告されている。Pollack らは43 例の脳幹グリオーマに対し放射線とEGFR チロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブの併用療法を施行した結果,1 年および2 年生存率は56.4%,19.6%であった。2 年生存率19.6%は他の臨床試験より良い結果であり,ゲフィチニブに感受性が高い集団が含まれている可能性が示唆されている5)。Macy らは,25 例の脳幹グリオーマに対し放射線治療に抗EGFR 抗体薬であるセツキシマブを併用した結果,無増悪生存期間中央値7.1 カ月,1 年無増悪生存割合29.6%,全生存期間中央値12.1 カ月であった。セツキシマブの併用は,無増悪期間の延長には寄与するかもしれないが,全生存期間の延長には寄与せず,今後,脳幹グリオーマに対するセツキシマブを使用した臨床試験は施行しない方針とされた6)。
Hummel らは,15 例の脳幹グリオーマに対し放射線と抗VEGF 抗体ベバシズマブ併用療法を施行した。無増悪生存期間中央値8.2 カ月,全生存期間中央値10.4 カ月であり,ベバシズマブ併用による予後延長効果は期待できないと報告した7)。
その他の併用薬剤として,12 例の脳幹グリオーマに対し放射線とサリドマイドの併用療法が報告されている。結果は全生存期間中央値9 カ月であり,予後延長効果は認められなかった8)。
一方,放射線治療前に化学療法を施行する臨床試験の報告がされている。Jennings らは,化学療法後に多分割放射線治療を行うChildren’s Cancer Group(CCG)の第Ⅱ相試験(CCG-9941)を報告している。63 例の脳幹グリオーマに対し化学療法(レジメンA:カルボプラチン+エトポシド+ビンクリスチンもしくはレジメンB:シスプラチン+シクロホスファミド+エトポシド+ビンクリスチン)を先行し,放射線治療(72 Gy)を行った。レジメンA とB の全生存期間中央値に差はなく,両群ともにヒストリカルコントロールとの差も認めなかった。したがって,化学療法先行の有効性は期待できないと述べられている9)。Frappaz らはBSG(Brain Stem Glioma)98 clinical trial の最終レポートを報告している。BSG 98 プロトコールは,ニトロソウレア(BCNU)+シスプラチン+大量メトトレキセートを3 カ月ごとに施行し,病変の進行時に放射線治療を追加する内容である。全生存期間中央値は,ヒストリカルコントロール群9 カ月に対し,BSG 98 群は17 カ月に延長した(p=0.02)。ただし,化学療法の毒性が強く入院期間延長や感染症リスクがあるため,患者本人および家族とよく相談すべきであると指摘している10)。Gokce-Samar らは,25 例の脳幹グリオーマに対し,BSG 98 プロトコール群(16 例)と分子標的治療薬群(9 例)を比較している。分子標的治療薬はエルロチニブ(EGFR チロシンキナーゼ阻害薬)もしくはシレンジタイド(インテグリン阻害薬)が使用された。BSG 98 プロトコール群の全生存期間中央値は16.1 カ月で,分子標的治療薬群の8.8 カ月よりも明らかに延長した(p=0.0003)。この結果から,BSG 98 プロトコールが脳幹グリオーマに対し有効性を期待できると述べられている11)。
現時点では,放射線治療に併用する薬剤の予後延長効果については肯定的な結果よりも否定的な結果が多く,確実に効果が期待できる薬剤はないと判断する。ただし,放射線治療と併用しないBSG 98 プロトコールは化学療法の毒性が強いながらも,脳幹グリオーマの予後延長効果に寄与する可能性がある。
注:エトポシド,トロフォスファミド,カルボプラチン,イホスファミド,ゲフィチニブ,セツキシマブ,サリドマイド,メトトレキセート,エルロチニブ,シレンジタイドは適応外使用
CQ5-2 放射線治療後の化学療法について
Broniscer らは,多施設共同研究で放射線治療後(55.8 Gy)の脳幹グリオーマ33 例に対するテモゾロミドの効果を検討している。テモゾロミドは200 mg/m2を5 日間投与,23 日休薬を1 サイクルとして12 サイクル行われた。無増悪生存期間中央値は8.8 カ月,1 年無増悪生存割合27%,全生存期間中央値12 カ月,1 年生存割合48%であり,ヒストリカルコントロールを上回る結果は得られず,テモゾロミド維持療法の有効性は否定されている1)。Kim らは新規脳幹グリオーマに対し,放射線治療にテモゾロミドとサリドマイド併用療法を加え,維持療法としてテモゾロミド(150~200 mg/m2)とサリドマイド(150~600 mg/m2)併用療法を行っている。評価された脳幹グリオーマ12 例においては無増悪期間中央値7.2 カ月,全生存期間中央値12.7 カ月で放射線治療単独療法と不変であり,テモゾロミドとサリドマイド併用維持療法の有効性は認められなかった。しかし,1 年生存率は58%であり,他の臨床試験の1 年生存率34.4%よりも高い結果であり,副作用は主にコントロール可能な骨髄抑制のみであったため今後症例数を増やし,再検討が必要と報告している2)。Porkholm らは,脳幹グリオーマ41 例に対し放射線治療後サリドマイド(1~6 mg/kg),エトポシド(20~70 mg/m2),セレコキシブ(230 mg/m2もしくは7 mg/kg)の3 剤併用維持療法を施行し,コントロール群8 例と比較している。3 剤併用維持療法群とコントロール群の全生存期間中央値はそれぞれ12 カ月,10.5 カ月で有意差は認めなかったが,3 剤併用療法群では7 例の長期生存例(24~60 カ月)を認めた。したがって,一部の症例には有効性があるため,大規模な症例数での再検討が必要であると述べている3)。
現時点では,初期治療後の維持化学療法として有効性が確立された治療方法はない。しかし,各臨床試験では少数の有効症例も認めているため,大規模な臨床試験を展開し,有効症例/無効症例の分子生物学的背景の解析が必要と考えられる。
注:サリドマイド,エトポシド,セレコキシブは適応外使用
CQ5-3 再発(進行)時の化学療法について
再発および進行性脳幹グリオーマに対する治療は期待できず,緩和医療の導入が一般的とされているが,化学療法を行った複数の臨床試験結果が報告されている。
①トポテカン(我が国では一般名ノギテカン)
小児再発性中枢神経腫瘍(計41 例)に対するトポテカン単剤療法の有効性を評価した。トポテカンは,1.0 mg/m2/日(3 日間)を3 週間ごとに投与された。19 例の脳幹腫瘍に対し,安定(stable disease:SD)4 例(21%),進行(progressive disease:PD)15 例(79%)と抗腫瘍効果は認めなかった。grade 4 の有害事象は,好中球減少(32%),血小板減少(23%)であった1)。
②テモゾロミド
113 例の再発性中枢神経腫瘍(脳幹グリオーマ16 例)を対象としてテモゾロミド180 mg/m2/日(脳脊髄照射既往あり)もしくは200 mg/m2/日(脳脊髄照射既往なし)の用量で5 日間投与-23 日間休薬のサイクルで単剤療法の効果を評価した。脳幹グリオーマに対する結果は,評価不能な1 例を除き15 例全例で効果なく,5 サイクルまでに腫瘍進行を認めた。grade 3/4 の有害事象は,好中球減少(19%)と血小板減少(25%)であった2)。DNA 修復酵素[O6-methylguanine-DNA methyltransferase(MGMT)]はテモゾロミドの抵抗性に関連しており,Warren らはMGMT を不活化するO6-benzylguanine(O6-BG)とテモゾロミドの併用療法を報告している。再発性脳幹グリオーマ16 例に対し,O6-BG 120 mg/m2+テモゾロミド75 mg/m2が投与された。併用療法の抗腫瘍効果はなく,6 カ月の無増悪生存率は0%であり,有効性は認めなかった3)。
③第3 世代白金製剤(オキサリプラチン)
再発性固形腫瘍124 例(脳幹グリオーマ10 例)に対し,オキサリプラチン(3 週間ごとに130 mg/m2静脈投与)の効果が評価された。脳幹グリオーマで評価可能な9 例中,SD 1 例,PD/no response 8 例であり,オキサリプラチンの有効性は認めなかった4)。
④分子標的治療薬
再発性脳幹グリオーマを対象としてRas 経路を抑制するファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬tipifarnib,VEGF を阻害するベバシズマブ,EGFR を阻害するニモツズマブの報告がされている。Tipifarnib(200 mg/m2)が35 例の再発脳幹グリオーマに投与された結果,部分奏効(partial response:PR)1 例,SD 4 例であり6 カ月無増悪生存期間は3%であった。したがって,tipifarnib はほとんど効果がないと結論づけられた5)。ベバシズマブは,16 例の再発性脳幹グリオーマに対しSD 5 例(3 カ月以上)であり,効果が乏しい結果であった6)。ニモツズマブが44 例の再発進行性脳幹グリオーマに投与された。評価可能であった19 例に対しPR 2 例,SD 6 例,PD 11 例であり,ニモツズマブ導入後からの生存期間中央値は3.2 カ月であった。また,PR/SD 群とPD 群の生存期間中央値はそれぞれ282日と146 日であるが統計学的有意差は認めなかった(p=0.06)。この結果からニモツズマブにより中等度の有効性が期待される脳幹グリオーマが存在することが示された7)。
その他,Wolff らは自施設であるMD アンダーソンがんセンターで加療された31 例の再発性脳幹グリオーマに対する治療について後方視的に解析している。エトポシド,テモゾロミド,シスプラチンなどの化学療法の効果は認められず,腫瘍縮小効果および無増悪性期間の延長に寄与した治療方法は,再放射線治療(20 Gy)であった8)。
以上より,現時点では明らかに治療効果を示す薬剤は同定されていない。
注:トポテカン,O6ベンジルグアニン,オキサリプラチン,チピファルニブ,ニモツズマブは適応外使用
CQ5-1,5-2 のシステマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((infant or child or adolescent or pediatric))AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem))NOT(relapse or recurrence or refractory))AND chemotherapy)AND(“1995/01”[Date- Publication]:“2017/08”[Date-Publication]))AND English[Language])NOT review[Publication Type])NOT case reports[Publication Type]
結果:46 件
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
CQ5-1
- 1)
- Wagner S, Warmuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006;79(3):281-7.[PMID:16598416]
- 2)
- Korones DN, Fisher PG, Kretschmar C, et al. Treatment of children with diffuse intrinsic brain stem glioma with radiotherapy, vincristine and oral VP-16:a Children’s Oncology Group phase Ⅱ study. Pediatr Blood Cancer. 2008;50(2):227-30.[PMID:17278121]
- 3)
- Cohen KJ, Heideman RL, Zhou T, et al. Temozolomide in the treatment of children with newly diagnosed diffuse intrinsic pontine gliomas:a report from the Children’s Oncology Group. Neuro Oncol. 2011;13(4):410-6.[PMID:21345842]
- 4)
- Bailey S, Howman A, Wheatley K, et al. Diffuse intrinsic pontine glioma treated with prolonged temozolomide and radiotherapy–results of a United Kingdom phase Ⅱ trial(CNS 2007 04). Eur J Cancer. 2013;49(18):3856-62.[PMID:24011536]
- 5)
- Pollack IF, Stewart CF, Kocak M, et al. A phase Ⅱ study of gefitinib and irradiation in children with newly diagnosed brainstem gliomas:a report from the Pediatric Brain Tumor Consortium. Neuro Oncol. 2011;13(3):290-7.[PMID:21292687]
- 6)
- Macy ME, Kieran MW, Chi SN, et al. A pediatric trial of radiation/cetuximab followed by irinotecan/cetuximab in newly diagnosed diffuse pontine gliomas and high-grade astrocytomas:A Pediatric Oncology Experimental Therapeutics Investigators’ Consortium study. Pediatr Blood Cancer. 2017;64(11):10.1002/pbc.26621.[PMID:28544128]
- 7)
- Hummel TR, Salloum R, Drissi R, et al. A pilot study of bevacizumab-based therapy in patients with newly diagnosed high-grade gliomas and diffuse intrinsic pontine gliomas. J Neurooncol. 2016;127 (1):53-61.[PMID:26626490]
- 8)
- Turner CD, Chi S, Marcus KJ, et al. Phase Ⅱ study of thalidomide and radiation in children with newly diagnosed brain stem gliomas and glioblastoma multiforme. J Neurooncol. 2007;82(1):95-101.[PMID:17031553]
- 9)
- Jennings MT, Sposto R, Boyett JM, et al. Preradiation chemotherapy in primary high-risk brainstem tumors:phase Ⅱ study CCG-9941 of the Children’s Cancer Group. J Clin Oncol. 2002;20(16):3431-7.[PMID:12177103]
- 10)
- Frappaz D, Schell M, Thiesse P, et al. Preradiation chemotherapy may improve survival in pediatric diffuse intrinsic brainstem gliomas:final results of BSG 98 prospective trial. Neuro Oncol. 2008;10(4):599-607.[PMID:18577561]
- 11)
- Gokce-Samar Z, Beuriat PA, Faure-Conter C, et al. Pre-radiation chemotherapy improves survival in pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 2016;32(8):1415-23.[PMID:27379495]
CQ5-2
- 1)
- Broniscer A, Iacono L, Chintagumpala M, et al. Role of temozolomide after radiotherapy for newly diagnosed diffuse brainstem glioma in children:results of a multiinstitutional study(SJHG-98). Cancer. 2005;103(1):133-9.[PMID:15565574]
- 2)
- Kim CY, Kim SK, Phi JH, et al. A prospective study of temozolomide plus thalidomide during and after radiation therapy for pediatric diffuse pontine gliomas:preliminary results of the Korean Society for Pediatric Neuro-Oncology study. J Neurooncol. 2010;100(2):193-8.[PMID:20309719]
- 3)
- Porkholm M, Valanne L, Lönnqvist T, et al. Radiation therapy and concurrent topotecan followed by maintenance triple anti-angiogenic therapy with thalidomide, etoposide, and celecoxib for pediatric diffuse intrinsic pontine glioma. Pediatr Blood Cancer. 2014;61(9):1603-9.[PMID:24692119]
CQ5-3 のシステマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((infant or child or adolescent or pediatric))AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem))AND(relapse or recurrence or refractory))AND chemotherapy)AND(“1995/01”[Date-Publication]:“2017/08”[Date-Publication]))AND English[Language])NOT review[Publication Type])NOT case reports[Publication Type])
結果:24 件
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Kadota RP, Stewart CF, Horn M, et al. Topotecan for the treatment of recurrent or progressive central nervous system tumors-a pediatric oncology group phase Ⅱ study. J Neurooncol. 1999;43(1):43-7.[PMID:10448870]
- 2)
- Nicholson HS, Kretschmar CS, Krailo M, et al. Phase 2 study of temozolomide in children and adolescents with recurrent central nervous system tumors:a report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2007;110(7):1542-50.[PMID:17705175]
- 3)
- Warren KE, Gururangan S, Geyer JR, et al. A phase Ⅱ study of O6-benzylguanine and temozolomide in pediatric patients with recurrent or progressive high-grade gliomas and brainstem gliomas:a Pediatric Brain Tumor Consortium study. J Neurooncol. 2012;106(3):643-9.[PMID:21968943]
- 4)
- Beaty O 3rd, Berg S, Blaney S, et al. A phase Ⅱ trial and pharmacokinetic study of oxaliplatin in children with refractory solid tumors:a Children’s Oncology Group study. Pediatr Blood Cancer. 2010;55(3):440-5.[PMID:20658614]
- 5)
- Fouladi M, Nicholson HS, Zhou T, et al. A phase Ⅱ study of the farnesyl transferase inhibitor, tipifarnib, in children with recurrent or progressive high-grade glioma, medulloblastoma/primitive neuroectodermal tumor, or brainstem glioma:a Children’s Oncology Group study. Cancer. 2007;110(11):2535-41.[PMID:17932894]
- 6)
- Gururangan S, Chi SN, Young Poussaint T, et al. Lack of efficacy of bevacizumab plus irinotecan in children with recurrent malignant glioma and diffuse brainstem glioma:a Pediatric Brain Tumor Consortium study. J Clin Oncol. 2010;28(18):3069-75.[PMID:20479404]
- 7)
- Bartels U, Wolff J, Gore L, et al. Phase 2 study of safety and efficacy of nimotuzumab in pediatric patients with progressive diffuse intrinsic pontine glioma. Neuro Oncol. 2014;16(11):1554-9.[PMID:24847085]
- 8)
- Wolff JE, Rytting ME, Vats TS, et al. Treatment of Recurrent Diffuse Intrinsic Pontine Glioma, Experience of MD Anderson Cancer Center. J Neurooncol. 2012;106(2):391-7.[PMID:21858608]
4 章 視神経視床下部神経膠腫 optic pathway/hypothalamic glioma:OPHG
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
廣瀬 雄一
藤田医科大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
総括
副委員長
西川 亮
埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科/脳神経外科
総括
委員
竹島 秀雄
宮崎大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
診断に関するCQ
協力委員
坂本 博昭
大阪市立総合医療センター小児脳神経外科/脳神経外科
診断・外科的治療に関するCQ
委員
中村 英夫
久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
遺伝的背景に関するCQ
委員
隈部 俊宏
北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療に関するCQ
委員
唐澤 克之
都立駒込病院 放射線診療科/放射線科
放射線治療に関するCQ
委員
中田 光俊
金沢大学大学院医薬保健総合研究科 脳・脊髄機能制御学/脳神経外科
化学療法に関するCQ
協力委員
原 純一
大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科/小児科
化学療法に関するCQ
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
1
診断
坂本 博昭
竹島 秀雄(宮崎大学医学部 脳神経外科)
渡邉 孝(宮崎大学医学部 脳神経外科)
宇田 武弘(大阪市立大学医学部 脳神経外科)
2
遺伝的背景
中村 英夫
牧野 敬史(熊本市立熊本市民病院 脳神経外科)
3
外科的治療
隈部 俊宏
坂本 博昭(大阪市立総合医療センター 小児脳神経外科)
齋藤 竜太(名古屋大学医学部 脳神経外科)
石橋 謙一(大阪市立総合医療センター 脳神経外科)
4
化学療法
中田 光俊
原 純一(大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科)
笹川 泰生(金沢大学医薬保健研究域医学系 脳・脊髄機能制御学)
多賀 祟(滋賀医科大学 小児科)
清谷 知賀子(成育医療研究センター 脳神経腫瘍科)
5
放射線治療
唐澤 克之
藤井 元彰(三井記念病院 放射線治療科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
視神経視床下部神経膠腫(optic pathway/hypothalamic glioma:OPHG)に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,OPHG 患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された10 名によって構成されている。
システマティックレビュー(SR)チーム:重要臨床課題ごとにSR チームを1~4 名で編成した。OPHG が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年11 月30 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で,OPHG のガイドライン作成ワーキンググループが発足。若干の課題については委員の追加を行った。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2015 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014 に準拠した方法により行ったが,OPHG が稀少疾患であるためエビデンスが少なく,上記の方法の適用が困難な場面に遭遇した。
推奨作成とその決定:臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,ガイドライン作成ワーキンググループが各CQ に対する推奨内容について討議した上で,決定のための郵送による投票を行った。最終的に2020 年8 月3 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会にて参加委員全員の投票により決定した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年6 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
1)臨床的特徴
視神経・視交叉から視床下部に発生する浸潤性の脳実質内腫瘍で,小児脳腫瘍の2~5%を占める。過半数が5 歳以下に発生し,10 歳までの例は毛様細胞性星細胞腫が多い。神経線維腫症1 型(NF1)に伴って生じるものもあり,その場合は視交叉より後方には発生しにくく,比較的良好な予後をたどるなど,NF1 の合併例と非合併例との間には臨床像や予後に差異があることも報告されている。ただし,乳幼児期の孤発例ではNF1 の臨床的診断基準を満たさないながらNF1 に伴って生じた腫瘍と同様に良好な予後を示すことがある1-4)。
神経症状や所見としては,視力低下や失明,視野欠損など視機能障害で発症することが多いが,年少時では視機能障害の発見は遅れる。水平性の振子様眼振(pendular nystagmus)はこの腫瘍でみられる特徴的な眼振である。NF1 の例では一側眼窩内の視神経腫瘍によって患側の視機能障害や眼球突出をきたすことがある。内分泌学的異常では低身長など下垂体前葉ホルモンの障害が多いが,尿崩症も発生する。また,視床下部障害により思春期早発,過度の肥満が発生することがあり,乳幼児期にるいそうを呈する間脳症候群(diencephalic syndrome)はこの腫瘍に特徴的である。発達遅滞やけいれんを呈することもある。腫瘍によって非交通性の水頭症を合併すれば,頭蓋内圧亢進の症状や所見を呈し,進行すれば意識障害をきたす。
典型例では上記のような神経徴候を含めた臨床所見と画像検査(MRI)で診断し得るが,非典型例では組織診断を要することもある。視機能障害の評価が困難な乳幼児の例,あるいはNF1 の例でOPHG のスクリーニング検査では,MRI により診断や腫瘍増大の有無が評価できる。腫瘍の局在はMRI を用いて分類され5),視覚路にあたる視神経(一側あるいは両側),視神経交叉,視索,外側膝状体,視放線に腫瘤を形成し,視覚路に沿って,あるいはその周囲の脳実質内に伸展する。腫瘍はT1 強調画像で等信号,T2 強調画像で等信号から高信号を呈し,びまん性で不均一な造影効果を受けやすく,著明な増強効果を受けることも少なくない。水頭症は15~30%に合併する。囊胞の合併,視床下部や第三脳室への伸展,あるいはトルコ鞍上部で脳実質内からくも膜下腔へのexophytic な進展があってもよい。石灰化の所見は稀である。
OPHG の名称は組織型による分類ではなく,腫瘍の発生部位と画像所見に基づくものである。すなわち典型例では神経徴候を含めた臨床学的所見と画像検査で診断された腫瘍の総称であり,単一の組織診断が下されるとは限らないのが実情である。組織診断された場合にはWHO grade Ⅰの毛様細胞性星細胞腫であることが多いが,grade Ⅱ以上の悪性度を持つ神経膠腫や神経膠腫以外の腫瘍もこの部位には発生する。
2)疫学的特徴
比較的多数の症例を含む臨床研究において腫瘍発生に関する性差は示されていないが,カナダのHospital for Sick Children in Toronto からの報告6)ではNF1 合併例では男児の発生が多かったとされている。また同研究の中でNF1 合併例でのOPHG 診断年齢は5.05 歳であったのに対してNF1 非合併例でのOPHG 診断年齢は7.09 歳であり,統計的に有意な差であったことも報告されているが,NF1 合併例では早期にスクリーニング検査が行われた可能性もあることには注意を要する。NF1(出生約3,000 人に1 人の割合で生じる)全体の中でOPHG が発生する割合は報告によって異なるが,MRI でスクリーニングを行った複数の研究結果を合わせると,その10~15%にOPHG が発生すると考えられる。
脳腫瘍全国集計調査報告(2017)7)によれば,視床下部腫瘍の10%,視神経腫瘍の37%が毛様細胞性星細胞腫であったと報告されており,神経上皮由来腫瘍では毛様細胞性星細胞腫が最も多い。ただし,全年齢での脳実質内腫瘍という点では視床下部では中枢神経系原発悪性リンパ腫が最も多く(16%),毛様細胞性星細胞腫はこれに次ぐ。なお,毛様細胞性星細胞腫は7.2%が視神経,5%が視床下部,42.3%が小脳に発生したと報告されている。本疾患は必ずしも外科的治療の絶対的な対象とされなかったことが影響し,腫瘍組織型が確認されていない症例が数多く含まれるため,組織型の正確な情報を得ることは難しい。
3)診療の全体的な流れ
一般的に脳腫瘍の診断では,画像所見と病理診断から診断を確定することが望ましい。しかし,OPHG では非症候性もしくは症状が軽微な場合には経過観察も一つの選択肢であり,画像所見のみによる診断も許容され,生検も含めた外科的腫瘍切除は必要とされないこともある。視機能障害や水頭症など腫瘍による圧排に基づく症状が進行性である場合や,画像検査で明らかな病変拡大が認められる場合は,局所病変を制御するために腫瘍切除が行われることがある。前述の通り本疾患は毛様細胞性星細胞腫であることが最も多いが,より悪性度が高い腫瘍である可能性が否定できないことは念頭に置く必要がある。OPHG は小脳に発生する毛様細胞性星細胞腫とは腫瘍生物学的に異なる可能性があり,この点は腫瘍の組織学的評価に遺伝子診断まで加えるべきかという議論にも関連する。放射線治療は,腫瘍制御の観点からは治療効果が高いことが確認されているが,視床下部機能障害,二次的悪性腫瘍,脳血管障害,高次機能障害などの発現の危険があり,これらの晩期合併症は一旦発生すれば重篤であるため,長期生存が期待できる症例では薬物療法が優先される。放射線治療後の二次がんの発生率はNF1 に合併するOPHG では非合併例よりも高い(CQ8 参照)。放射線治療は腫瘍の局在と大きさなどのために手術困難な場合や,薬物療法に対する治療反応性が低い場合に行われることが多い。薬物療法の主体は化学療法であるが,今後分子標的薬の導入も見込まれている。
❖ 文献
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2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:OPHG の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後の改善
- (3)トピック:OPHG の生命予後,機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍を診療する医療者や施設,患者・家族,ケアギバー(caregiver)
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本・海外とも既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)重要臨床課題
課題1:診断方法の確立
課題2:外科的治療の意義
課題3:薬物治療の意義
課題4:放射線治療の意義
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
初発治療時が小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満)の小児例に加え15~29 歳のAYA(adolescent and young adult)世代
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:1 カ月
文献の選出:3 カ月
エビデンス総体の評価と統合:4 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:OPHG に関してはなし。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed,医中誌
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2019 年6 月まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドラインの作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合は量的統合を実施。
課題1:診断
- CQ1
- 臨床経過,臨床所見,画像検査からOPHG と診断することは推奨されるか?
- 推奨度1C
- 推奨
臨床経過,臨床所見,画像所見がOPHG に典型的な臨床的特徴を呈する場合はOPHG と診断し治療方針を決定することを提案する。非典型的な臨床的特徴を呈する場合は病理組織診断を行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,OPHG は他の腫瘍と異なり組織診断名ではなく特徴的な発生部位や臨床症状を呈する疾患群の呼称である。組織学的には高分化型星細胞腫である毛様細胞性星細胞腫(WHO grade Ⅰ)がOPHG の主体を占めるが,より悪性度の高い腫瘍の場合があるため,臨床診断されたOPHG の治療方針は一様であるとは言えない。OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連しているため,適切な治療を行うための診断法の妥当性,特に組織診断の必要性について検証を行う。また,OPHG はNF1 合併の有無によって臨床像や予後が異なるため,NF1 遺伝子異常の探索の必要性について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的手技による侵襲
2.推奨の解説
NF1 合併例と非合併例に分けて記載する。
(1)NF1 合併例
1990 年代前半までは,NF1 合併例において視覚路に発生しOPHG と臨床診断された腫瘍では,摘出(生検)を行って組織診断が施行されることが多かった1,2)。白金製剤を中心とした化学療法が低悪性度神経膠腫に有効であるとPacker らが1997 年に報告した後,外科的摘出を治療の第一選択としない報告が増えていった。1990 年代後半からは,NF1 に合併するOPHG として典型的な臨床経過,臨床所見,画像所見を呈していれば,組織診断なしで毛様細胞性星細胞腫として治療方針が決定されている3-13)。
しかし,NF1 合併例でもOPHG 特に毛様細胞性星細胞腫としては非典型的な症例,すなわち10 歳以上,視床下部や第三脳室の腫瘍,脳実質外伸展を呈する腫瘍,囊胞病変を伴う腫瘍の中には,WHO grade ⅡまたはⅢ相当の神経膠腫,あるいは神経膠腫以外の腫瘍の可能性があるため組織診断が行われる14,15)。上記の場合に加え,治療を開始してからではあるが,急激な腫瘍の増大や化学療法が有効ではない例も組織診断が必要であるとする報告がある16)。腫瘍摘出(生検)を行うには,腫瘍の摘出に伴う種々の合併症(CQ4 参照)を考慮する必要がある。
OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連している17)ため,腫瘍がWHO grade Ⅰ の毛様細胞性星細胞腫として臨床的に典型的ではない点があれば,組織診断が必要と判断するのが妥当である。NF1 合併例の推奨文では「臨床経過(発症年齢など),臨床所見(視覚障害や内分泌障害など),画像所見(腫瘍の局在や形態など)がOPHG に典型的な所見を呈する例では,毛様細胞性星細胞腫と判断して治療方針を決定してもよいが,非典型的な点があれば組織診断を勧める」と提案する。
(2)NF1 非合併例
NF1 非合併例においても視覚路に発生した腫瘍がOPHG として典型的な臨床所見を呈する場合は,腫瘍摘出や生検による組織診断は必ずしも必要ではないとする報告がある18-21)。しかし,NF1 非合併例でOPHG と臨床診断された47 例中45 例で組織診断が行われ,40 例(症例全体の85%)は毛様細胞性星細胞腫であったが,残り5 例(同11%)は他の低悪性度神経膠腫であったとする報告がある22)。このようにNF1 合併例よりも非合併例では,臨床的な特徴からOPHG と診断された腫瘍でも毛様細胞性星細胞腫以外の腫瘍である割合が高い傾向にあり,NF1 合併例と比較して非合併例では腫瘍の摘出や生検による組織診断を行う傾向にある6,12,23-30)。
臨床的にOPHG と診断された例で,診断時の年齢が10 歳を超えれば組織学的悪性度が有意に高く17),18 歳以上のAYA(adolescents and young adults)世代の例では高悪性度神経膠腫であったとする報告がある17,31)。OPHG では,診断時の年齢が10 歳未満の例と比較して10 歳以上の群で有意に生検率が高く26),診断時の年齢が10 歳以上の例が多く含まれる報告では組織診断が施行される割合が76~100%と高率である25,32-36)。
腫瘍の局在や形態から述べると,腫瘍が視床下部や第三脳室周囲に存在する例,あるいは脳実質外伸展例に対しては,毛様細胞性星細胞腫以外の神経膠腫や頭蓋咽頭腫の可能性を考慮する必要がある19)。また,囊胞病変を伴う例で手術到達が可能な症例,あるいは減圧が必要な症例では摘出手術により組織診断がなされている14,37)。腫瘍により水頭症を合併している乳幼児例では,髄液短絡術施行時に神経内視鏡による生検が施行されている20)。これらに加え,急激な腫瘍の増大がみられる場合や,毛様細胞性星細胞腫として予想される治療効果が得られない場合,生検を考慮すべきとする報告もある37)。腫瘍摘出(生検)を行うには,NF1 合併例と同様に,腫瘍の摘出に伴う合併症(CQ4 参照)を考慮する。
以上,NF1 非合併例ではOPHG と臨床診断できても,毛様細胞性星細胞腫より高悪性度の神経膠腫であったり,それ以外の腫瘍である可能性がNF1 合併例よりも高い傾向にあるため,OPHG として典型的な臨床所見に欠ける場合はより積極的に組織診断を勧める。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((((optic nerve)OR optic chiasma)OR optic tract)OR optic pathway)OR hypothalamus))AND glioma)AND(hasabstract[text]AND English[lang]AND((infant[MeSH]OR child[MeSH]OR adolescent[MeSH])OR young adult[MeSH]))))NOT((((((((optic nerve)OR optic chiasma)OR optic tract)OR optic pathway)OR hypothalamus))AND glioma)AND(Case Reports[ptyp]AND hasabstract[text]AND English[lang]AND((infant[MeSH]OR child[MeSH]OR adolescent[MeSH])OR young adult[MeSH])))))AND mri
この検索式で得られた報告の中で,OPHG の診断方法で病理組織診断に対する臨床診断の優位性を統計学的に検討したものはなかった。そのため,症例数の多い報告を採用して二次スクリーニング文献とし,定性的なシステマテックレビューを行った。
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- Ahn Y, Cho BK, Kim SK, et al. Optic pathway glioma:outcome and prognostic factors in a surgical series. Childs Nerv Syst. 2006;22(9):1136-42.[PMID:16628460]
- 33)
- Campagna M, Opocher E, Viscardi E, et al. Optic pathway glioma:long-term visual outcome in children without neurofibromatosis type-1. Pediatr Blood Cancer. 2010;55(6):1083-8.[PMID:20979170]
- 34)
- Garvey M, Packer RJ. An integrated approach to the treatment of chiasmatic-hypothalamic gliomas. J Neurooncol. 1996;28(2-3):167-83.[PMID:8832460]
- 35)
- Goodden J, Pizer B, Pettorini B, et al. The role of surgery in optic pathway/hypothalamic gliomas in children. J Neurosurg Pediatr. 2014;13(1):1-12.[PMID:24138145]
- 36)
- Gutmann DH, James CD, Poyhonen M, et al. Molecular analysis of astrocytomas presenting after age 10 in individuals with NF1. Neurology. 2003;61(10):1397-400.[PMID:14638962]
- 37)
- Sawamura Y, Kamada K, Kamoshima Y, et al. Role of surgery for optic pathway/hypothalamic astrocytomas in children. Neuro Oncol. 2008;10(5):725-33.[PMID:18612049]
課題2:遺伝的背景
- CQ2
- 遺伝学的背景の探索は必要か?
- 推奨度2D
- 推奨
NF1 遺伝子異常の探索は二次的な中枢神経系腫瘍の発生等を留意することにおいて意義はあるが推奨するレベルではない。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,OPHG は他の腫瘍と異なり組織診断名ではなく特徴的な発生部位や臨床症状を呈する疾患群の呼称である。組織学的には高分化型星細胞腫である毛様細胞性星細胞腫(WHO grade Ⅰ)がOPHG の主体を占めるが,より悪性度の高い腫瘍の場合があるため,臨床診断されたOPHG の治療方針は一様であるとは言えない。OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連しているため,適切な治療を行うための診断法の妥当性,特に組織診断の必要性について検証を行う。また,OPHG はNF1 合併の有無によって臨床像や予後が異なるため,NF1 遺伝子異常の探索の必要性について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的手技による侵襲
2.推奨の解説
OPHG はしばしばNF1 患者に発生する。経過観察中にOPHG が発生する場合もあるが,脳腫瘍の方が先に発症し診断され,しかし実はNF1 合併例であるというOPHG も存在する。しかし,視力障害発症例はNF1 合併例よりも非合併例に多いと報告されている1)。OPHG のNF1 遺伝子異常の検出はNF1 の臨床症状が不確実であった場合に有用であるが,巨大なNF1 遺伝子の解析の困難さを考えると必ずしも必須ではないと思われる。NF1 の中で,視神経膠腫を持つ症例では,NF1 遺伝子の5’ 端領域に遺伝子変異が集中するという報告もあれば2),関係ないという報告もある3)。皮膚症状などの臨床診断基準を満たせば,ある程度NF1 合併例かどうか予測できる。非NF1 とNF1 関連視神経膠腫では,発生部位に違いがあり,非NF1 では視索に多いことで水頭症の併発が多いという報告もある1)。NF1 以外の遺伝子異常に関しては症例報告がいくつかあるが4-8),確立された事象ではない。OPHG においてNF1 と非NF1 との予後の比較の報告に関しては,Stokland らは157例のOPHG において,OS では差がないものの,5 年PFS がNF1 では70.8%,非NF1 では46.7%と単変量解析にてp<0.001,Kaplan-Meier 法におけるlog-rank test にてp=0.003と有意にNF1 の方が良好であったと報告している9)。現在,NF1 に合併するOPHG に対しての分子標的治療薬なども存在せず,単にPFS がNF1 において良好であるということだけでは,NF1 の遺伝子診断を積極的に推奨する理由にはならない。また,NF1 では家族歴にNF1 が存在しない弧発例が50%程度であるが,OPHG の患者でNF1 かどうか判別できない症例において,NF1 遺伝子変異があるかどうかの診断をつけることによってその後の治療法の選択が何か変わることはない。以上のことを総合的に勘案すると,現時点で積極的なNF1(を含めた)遺伝子診断は,患者や家族が望む場合に限定されると考える。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((optic pathway glioma AND neurofiromatosis type 1)AND hypothalamus)OR(optic pathway hypothalumus glioma AND neurofibromatosis type 1)OR(optic pathway glioma AND genetic analysis)OR(optic pathway glioma AND molecular analysis)
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Singhal S, Birch JM, Kerr B, et al. Neurofibromatosis type 1 and sporadic optic gliomas. Arch Dis Child. 2002;87(1):65-70.[PMID:12089128]
- 2)
- Bolcekova A, Nemethova M, Zatkova A, et al. Clustering of mutations in the 5’ tertile of the NF1 gene in Slovakia patients with optic pathway glioma. Neoplasma. 2013;60(6):655-65.[PMID:23906300]
- 3)
- Hutter S, Piro RM, Waszak SM, et al. No correlation between NF1 mutation position and risk of optic pathway glioma in 77 unrelated NF1 patients. Hum Genet. 2016;135(5):469-75.[PMID:26969325]
- 4)
- Gonzalez-Martin J, Glover S, Dixon S, et al. Neurofibromatosis type 1 and McCune-Albright syndrome occurring in the same patient. Br J Dermatol. 2000;143(6):1288-91.[PMID:11122036]
- 5)
- Kebudi R, Tuncer S, Upadhyaya M, et al. A novel mutation in the NF1 gene in two siblings with neurofibromatosis type 1 and bilateral optic pathway glioma. Pediatr Blood Cancer. 2008;50(3):713-5.[PMID:17514731]
- 6)
- Erbay SH, Oljeski SA, Bhadelia R. Rapid development of optic glioma in a patient with hybrid phakomatosis:neurofibromatosis type 1 and tuberous sclerosis. AJNR Am J Neuroradiol. 2004;25(1):36-8.[PMID:14729526]
- 7)
- Yeung JT, Pollack IF, Shah S, et al. Optic pathway glioma as part of a constitutional mismatch-repair deficiency syndrome in a patient meeting the criteria for neurofibromatosis type 1. Pediatr Blood Cancer. 2013;60(1):137-9.[PMID:22848017]
- 8)
- Kocova M, Kochova E, Sukarova-Angelovska E. Optic glioma and precocious puberty in a girl with neurofibromatosis type 1 carrying an R681X mutation of NF1:case report and review of the literature. BMC Endocr Disord. 2015;15:82.[PMID:26666878]
- 9)
- Stokland T, Liu JF, Ironside JW, et al. A multivariate analysis of factors determining tumor progression in childhood low-grade glioma:a population-based cohort study(CCLG CNS9702). Neuro Oncol. 2010;12(12):1257-68.[PMID:20861086]
課題3:外科的治療
- CQ3
- 外科的治療の意義はあるか?
- 推奨度1C
- 推奨
絶対的に推奨される外科治療介入時期はなく,症例ごとに患者年齢,視機能,水頭症の有無,NF1 合併の有無などを考慮し,小児科・眼科・腫瘍内科・放射線治療科・放射線診断科・脳神経外科等から成り立つ集学的治療チームによって検討することを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢および局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
外科治療の適応およびその推奨される時期はいつかという臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない1-4)。症候性になった場合に手術を含めた治療が選択されているが,手術単独ではなく化学放射線療法を含めての治療であり,純粋に手術に対して評価することは難しい。手術適応やこれらの治療方法は一貫しておらず,いずれの評価項目においても大きなバイアスを有する。したがって手術療法開始時期に関してのエビデンスレベルの高い推奨を述べることはできない。現時点では,症例ごとに患者年齢,視機能評価,水頭症の有無,NF1 合併の有無などを考慮し,小児科・眼科・腫瘍内科・放射線治療科・放射線診断科・脳神経外科等から成り立つ集学的治療チームによって手術時期を決定すべきであると考えられる。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する4 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
❖ 文献
- 1)
- Fouladi M, Wallace D, Langston JW, et al. Survival and functional outcome of children with hypothalamic/chiasmatic tumors. Cancer. 2003;97(4):1084-92.[PMID:12569610]
- 2)
- Goodden, J, Pizer B, Pettorini B, et al. The role of surgery in optic pathway/hypothalamic gliomas in children. J Neurosurg Pediatr. 2014;13(1):1-12.[PMID:24138145]
- 3)
- Massimi L, Tufo T, Di Rocco C. Management of optic-hypothalamic gliomas in children:still a challenging problem. Expert Rev Anticancer Ther. 2007;7(11):1591-610.[PMID:18020927]
- 4)
- Varan A, Batu A, Cila A, et al. Optic glioma in children:a retrospective analysis of 101 cases. Am J Clin Oncol. 2013;36(3):287-92.[PMID:22547006]
- CQ4
- 腫瘍切除率は予後に影響するか?
- 推奨度1D
- 推奨
可及的摘出によって治療成績が上がるというエビデンスはなく,手術操作に伴った合併症も無視できず,摘出率を追求するような摘出を行わないことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢及び局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
腫瘍切除率は予後に影響するか,という臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない。バイアスリスクや非一貫性,不精確性,非直接性のすべてに問題がある。結論として,腫瘍摘出率が治療予後を改善するという報告は過去一切認められない1,2)。Ahn らによる韓国において1982~1999 年に手術摘出が行われた33 例の報告をみると,術後8 例(24%)が放射線治療追加を受けているという条件下で,手術後の5 年無増悪生存割合は52.4%であり,少なくとも手術単独では5 年後に半分以上は再発することになる1)。視交叉に腫瘍が浸潤せずに片側の視神経に限局し,有効な視力が得られず眼瞼下垂があり痛みが化学療法によっても改善しない場合,手術適応があると提唱する報告はみられる3,4)が,例え片側の視神経に限局し完全摘出した場合でも手術単独では5~10%の確率で視交叉に再発する可能性があることには注意しなければならない1)。また摘出率を高くすることによって,追加治療の中心となる化学療法の治療効果を向上することも判明していない5)。
腫瘍摘出率を上げることによって,再発までの期間や全生存期間の延長が証明されなかったとしても,例えばQOL を改善する,化学放射線療法開始までの期間を延長するという評価項目でその利点を明示することができれば摘出率を向上させる意義があるが,この点においてもエビデンスは存在しない。したがって,摘出率を追い求めるような手術は推奨されない6,7)。
さらに手術の問題点として合併症発生が避けて通れないことが挙げられる。手術合併症としては,意識障害・視機能障害の悪化・内分泌機能障害・脳梗塞が特に問題となる8,9)。
合併症に関して最近の文献で最もよくまとめられているのは,2012 年のHupp らの文献8)である。彼らは1992~2009 年にドイツの国立神経放射線データセンターに蓄積された84 例に対する102 手術を検討した。その結果17 例(16.7%)で術後画像上脳梗塞が確認された。2 歳未満では7/17 例(41.2%)の高率であった。なお脳梗塞による症状を呈したものは13/102 例(12.7%)であり,また生検では1 例も脳梗塞は生じていなかった。この結果と対比するために,2004~2009 年の51 例の小脳の低悪性度神経膠腫に対する65 手術を検討したところ,わずか1 例(1.5%)の全摘出症例のみで脳梗塞を生じていたに過ぎなかった。なお脳梗塞発生に関して組織型やDodge 分類は関係しなかった。
Sawamura らの2007 年の文献9)では,1992 年以降の19 例(年齢中央値3.1 歳)を検討し,生検5/12 例(41.6%),摘出術5/7 例(71.4%)で,全体としては10/19 例(52.6%)で合併症を生じていた。生検で合併症出現頻度が高いのは,澤村らは生検術の範疇に限局した開頭摘出を含めている(11/12 例)からと考えられる。画像評価が含まれていないために梗塞を生じた評価はあくまでも症状によるものであるが,その頻度は2/19(10.5%)であった。したがって,症候性脳梗塞の頻度は,Hupp らの検討とほぼ同様となる。
Ahn らの文献1)では,1982~1999 年の33 症例(平均年齢8.3 歳)を検討している。このうち,27 例は90%を超えた可及的摘出術,6 例は部分摘出術を行った。2 例(6%)が術後1 年以内に肺梗塞とびまん性脳梗塞で死亡した。その他の合併症は,5 例で一過性片麻痺,2 例で感染症,1 例でシャント機能不全,を生じた。彼らの結論は,OPHG に対しての可及的摘出術はPFS の延長や神経内分泌学的症状の改善には役立たず,手術は腫瘍拡大時における水頭症コントロールのため,もしくは放射線治療開始延期を目的に行うべきとしている。彼らが提唱している治療アルゴリズムには,年代が古いために化学療法の概念が入っていない点に注意が必要となる。
Steinbok らの2002 年の文献10)では,18 例のOPHG に対して17 回の手術を行っている。8 例は亜全摘,6 例は部分摘出,3 例は限局した摘出術であった。限局した手術で特に間脳機能温存に注意を払うと合併症発生率は低くなると報告している。摘出率と腫瘍再発との間には関連がなかった。これらの結果から,彼らはOPHG に対する手術は組織確認と視神経や髄液循環系への減圧を目的に行うべきであるとしている。
Valdueza らの1994 年の文献11)では,初回から摘出術を1980~1993 年に行った20 例(年齢中央値9 歳)を検討している。10 例は70~90%の亜全摘,6 例は部分摘出,4 例は生検術であった。腫瘍再発時に4 回の追加手術が行われた。これら24 手術のうち5 回(20.8%)で合併症を生じた。1 例は脳梗塞のため片麻痺と失語症,4 例で内分泌障害,4 例で視機能障害の悪化をきたした。彼らは可及的摘出は良好な結果で遂行できたと評価している。7歳未満の場合,視索を含まない大きな腫瘍に対しては摘出を,視索を含む場合には放射線治療の前に減圧手術を,再発時には腫瘍の位置によって放射線治療の前に摘出を考慮すべきであるとしている。また7 歳以上の場合は再発腫瘍に対して摘出術を勧めている。
Nicolin らによる2009 年の133 小児例中の治療を要した69 例の検討5)では,化学療法単独,化学療法と手術併用,手術単独の間でPFS には有意差がなかったと報告している。
このようにOPHG に対して可及的摘出により治療成績が上がるというエビデンスはなく,上記のような手術操作に伴った合併症を生ずることから,生検術に取って代わって摘出率を追い求めるような摘出を行う論理的根拠はない。
しかしながら近年,初発のみならず再発時にもより積極的に手術(部分摘出術,debulking)を行うという考え方が改めて提唱されている12)。彼らは,問題となる手術合併症を生ずることなく,13/17 例(76.5%)(初発症例では7/10 例,再発症例では6/7 例)で手術単独で腫瘍制御ができ,また可及的摘出と化学療法を併用した4 例は全例腫瘍制御ができていることを強調している。また10 例のケースシリーズにて,より安全に摘出率を上げる方法として,術中MRI を用いる方法も提唱されている13)。画像診断もきちんとできていなかった古き時代と比較し,MRI・ニューロナビゲーションシステム・術中MRI といった手術支援システムと手術技術の進歩があることは間違いないであろう。しかしこれらの報告で,PFS, OS が改善したという結果は明示できていない。本疾患は症例数が少なすぎることと,観察期間が少なくとも10 年といった年限で評価しないと結果が判明しないことにより,純粋に手術の効果を明らかにすることは今後も難しいことが予想されるが,今後手術の役割が重要視される可能性はあるかもしれない。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する13 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
❖ 文献
- 1)
- Ahn Y, Cho BK, Kim SK, et al. Optic pathway glioma:outcome and prognostic factors in a surgical series. Childs Nerv Syst. 2006;22(9):1136-42.[PMID:16628460]
- 2)
- Mishra MV, Andrews DW, Glass J, et al. Characterization and outcomes of optic nerve gliomas:a population-based analysis. J Neurooncol. 2012;107(3):591-7.[PMID:22237948]
- 3)
- Borghei-Razavi H, Shibao S, Schick U. Prechiasmatic transection of the optic nerve in optic nerve glioma:technical description and surgical outcome. Neurosurg Rev. 2017;40(1):135-41.[PMID:27230830]
- 4)
- Massimi L, Tufo T, Di Rocco C. Management of optic-hypothalamic gliomas in children:still a challenging problem. Expert Rev Anticancer Ther. 2007;7(11):1591-610.[PMID:18020927]
- 5)
- Nicolin G, Parkin P, Mabbott D, et al. Natural history and outcome of optic pathway gliomas in children. Pediatr Blood Cancer. 2009;53(7):1231-7.[PMID:19621457]
- 6)
- Fouladi M, Wallace D, Langston JW, et al. Survival and functional outcome of children with hypothalamic/chiasmatic tumors. Cancer. 2003;97(4):1084-92.[PMID:12569610]
- 7)
- Sutton LN, Molloy PT, Sernyak H, et al. Long-term outcome of hypothalamic/chiasmatic astrocytomas in children treated with conservative surgery. J Neurosurg. 1995;83(4):583-9.[PMID:7674005]
- 8)
- Hupp M, Falkenstein F, Bison B, et al. Infarction following chiasmatic low grade glioma resection. Childs Nerv Syst. 2012, 28(3):391-8.[PMID:21987345]
- 9)
- Sawamura Y, Kamada K, Kamoshima Y, et al. Role of surgery for optic pathway/hypothalamic astrocytomas in children. Neuro Oncol. 2008;10(5):725-33.[PMID:18612049]
- 10)
- Steinbok, P, Hentschel S, Almqvist P, et al. Management of optic chiasmatic/hypothalamic astrocytomas in children. Can J Neurol Sci. 2002;29(2):132-8.[PMID:12035834]
- 11)
- Valdueza JM, Lohmann F, Dammann O, et al. Analysis of 20 primarily surgically treated chiasmatic/hypothalamic pilocytic astrocytomas. Acta Neurochir(Wien). 1994;126(1):44-50.[PMID:8154322]
- 12)
- Goodden J, Pizer B, Pettorini B, et al. The role of surgery in optic pathway/hypothalamic gliomas in children. J Neurosurg Pediatr. 2014;13(1):1-12.[PMID:24138145]
- 13)
- Millward CP, Perez Da Rosa S, Avula S, et al. The role of early intra-operative MRI in partial resection of optic pathway/hypothalamic gliomas in children. Childs Nerv Syst. 2015;31(11):2055-62.[PMID:26216059]
- CQ5
- 再発時摘出の意義はあるのか?
- 推奨度2D
- 推奨
QOL の維持を念頭に置いて腫瘍容積減量によって神経症状が改善することが期待できる場合に部分摘出を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢及び局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
再発時摘出の意義はあるのか,という臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない。バイアスリスクや非一貫性,不精確性,非直接性のすべてに問題がある。再発時の摘出術が有益であることをはっきりと示した論文はないと結論づけざるを得ない。さらに,2000 年より以前の報告は,Packer レジメンを中心とした化学療法が治療の中心となった現在とは再発時の治療概念が異なるため,外科治療の役割も現在求められるものとは異なっていることに注意が必要である。すなわち,放射線治療を行った後での再発に対しては,手術摘出によって状況を改善させざるを得なかったのである。近年はOPHG に対しては化学療法が積極的に行われ,治療手段としての放射線治療を先延ばしにしたうえで,さらに強度変調放射線治療(IMRT)を中心とした精密な放射線治療が可能となっているので,再発時においてもこれらの治療法とうまく組み合わせることを考慮して,摘出率のみを追求せず,QOL の維持を念頭に置いて外科治療を行うべきであると考えられる。
こういった中で少数例であるが,化学療法を行った後の再発に対してや,腫瘍容積減量によって神経症状が改善することが期待できる場合に部分摘出を行っている報告がある。再発時の手術は,化学療法によってもうまく腫瘍を制御できなかった場合に,減圧手術,囊胞性病変に対する開放術・オンマヤリザーバー挿入・シャント手術を考慮すべきであるとされている1)。ただし,再手術は必ずしも容易ではないことも注意喚起されており2),外科療法を行う場合,細心の注意を払ったうえでの介入が必要である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する2 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
❖ 文献
- 1)
- Bowers DC, Krause TP, Aronson LJ, et al. Second surgery for recurrent pilocytic astrocytoma in children. Pediatr Neurosurg. 2001;34(5):229-34.[PMID:11423771]
- 2)
- Sawamura Y, Kamada K, Kamoshima Y, et al. Role of surgery for optic pathway/hypothalamic astrocytomas in children. Neuro Oncol. 2008;10(5):725-33.[PMID:18612049]
課題4:化学療法
- CQ6
- 初期治療として化学療法は有効か?
- 推奨度1B
- 推奨
初期治療としての化学療法(維持療法を含む)は,腫瘍の縮小や進行の抑制を期待できるため,行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する薬物療法も集学的治療の一部として考えられる。その適否,使用薬剤,および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
さまざまな化学療法レジメが施行されているが,first line としてカルボプラチン注1)とビンクリスチン注2)の組み合わせが広く行われている。また,second line としてビンブラスチン注3)が用いられることが多い。これらの薬剤を含めた治療成績を以下に解説する。
OPHG の腫瘍増殖は一般的に緩徐であるが,その発生部位により視神経や視床下部の機能障害が大きく,治療介入が必要になる。手術は視交叉以前の片側視神経に生じたもの以外の完全な摘出は困難である(CQ3 参照)。放射線治療は,認知機能障害,内分泌障害や血管障害,二次がん等の晩期合併症が指摘されているので,その適応は限定的に考えられている(CQ8 参照)。そこで,進行例や有症状例に対して,腫瘍安定化,症状改善,放射線治療遅延を目的に化学療法が行われるようになった。OPHG は増殖が緩徐であることから強度の強い化学療法を短期間行うより,強度の弱い治療を長期間行う方が効果的と考えられ1),欧米では比較的治療期間の長い,全治療期間が1 年から1 年半程度の臨床試験が行われ,一定の効果を上げている。各臨床試験において導入療法と維持療法の区別が明確でない試験も多く,また治療内容,期間もさまざまである。下記に欧米中心に行われた大規模な臨床試験の結果の概略を示す。なお,我が国では大規模試験は行われていない。
Packer らは1990 年代初めに,手術以外未治療の15 歳以下の進行性low-grade glioma(LGG)78 例(OPHG 56 例を含む)に,カルボプラチン175 mg/m2/週とビンクリスチン1.5 mg/m2/週による10 週間の導入療法後,画像ないし臨床的改善・安定を得た例にはカルボプラチン(週1 回4 週間),ビンクリスチン(週1 回3 週間)を6 週ごと,計12 サイクル反復する維持療法を行い,OPHG で59%の治療反応率(CR:complete response+PR:partial response+MR:minor response)と,98%の腫瘍安定率(CR+PR+MR+SD:stable disease)を得たと報告した1)。
米国Pediatric Oncology Study Group(POG)は,1989~1994 年に5 歳以下のOPHG に対し,カルボプラチン560 mg/m2を4 週おきに,効果があれば18 サイクル行う第Ⅱ相試験(POG8936)を行った。50 例(うち21 例がNF1 陽性)に治療がなされ,3 年無再発生存割合/全生存割合は58/90%であった。腫瘍増大の中央期間は132 週(13 カ月)であった。また,18 カ月の治療で70%近くの症例がSD 以上であり,維持療法の意義が示唆された2)。
1996~2004 年に,ドイツを中心に17 歳未満のLGG 1,031 例を包括的に追跡するHIT-LGG 1996 研究が行われた。化学療法群は216 例(NF1 55 例)で,カルボプラチン550 mg/m2を3 週ごと計4 回とビンクリスチン週1 回計10 回による導入療法の後,カルボプラチンとビンクリスチン併用による4 週ごと計11 サイクルの維持療法が行われ,CR+PR が35%,腫瘍安定率は92%で,画像上の最大反応は中央値3.5 カ月で認められた。本試験により大規模研究でのmonthly カルボプラチン+ビンクリスチン療法の効果が示された。また1 歳未満,間脳症候群,診断時播種がPFS の予後不良因子で,これらのリスク因子を伴わない非NF1 例では10 年PFS 41%であるのに対し,何らかのリスク因子を持つ非NF1 例では10 年PFS 16%にとどまっていることが報告された3)。Mirow らは,2014 年にこの試験の1 歳未満の症例について報告している。36 例(うち32 例がOPHG)に治療が行われ,24 例が予定通り治療完了。最良効果までの期間,増大までの期間はそれぞれ,中央値3.6 カ月,1.4 年で,21 例にサルベージ治療が必要だった。いずれも維持療法中に治療効果が出現する症例が多く,維持療法の有効性が示唆される4)。
HIT-LGG-1996 ではOPHG 83 例を含む109 例のNF1 が登録されたが,うち65 例が要治療と判断され,55 例で化学療法が,10 例で放射線治療が行われた。化学療法は全例がカルボプラチン+ビンクリスチンで,98%が初期治療に反応し,全NF1 の5 年EFS 24%で,治療群では5 年PFS 72%,12 年OS 96%と報告された。自然経過観察群で治療不要だったのは37%であった5)。
米国Children’s Oncology Group(COG)では1997~2005 年に,10 歳未満のLGG を対象としたCOG A9952 試験を行った。本試験では,非NF1 ではOPHG 138 例を含む274 例が,137 例ずつCV 療法(カルボプラチン,ビンクリスチン)またはTPCV 療法(チオグアニン,プロカルバジン,lomustine,ビンクリスチン)にランダマイズされたが,それぞれの治療反応率と腫瘍安定率は,CV 療法が50%と67%,TPCV 療法が52%と68%と両者で差がなく,初期治療はいずれも有効と考えられた。5 年EFS はCV 療法39%,TPCV 療法52%だがログランクテストでの有意差もなく,5 年OS はCV 療法86%,TPCV 療法87%だった6)。またCV 療法を行った非NF1 137 例(OPG 71 例)とNF1 127 例(OPG 110 例)の比較では,治療反応率は非NF1 51%,NF1 66%,腫瘍安定率は非NF1 68%,NF1 73%で,5 年EFS では非NF1 39%,NF1 69%(p<0.001),OPHG に限っても非NF1 38%,NF1 68%(p<0.001)と,NF1 例の方が良好だった。5 年OS では非NF1 87%(OPHG 86%),NF1 98%(OPHG 99%)で差はなかった7)。CV レジメンは先のPacker らのレジメンに比し,維持療法の期間が短い(12 回vs. 8 回)。患者背景,観察期間が異なるので単純比較は難しいが,維持療法が12 回の方がややPFS が良いように思われる。
フランスのBB-SFOP 研究では,1990~2004 年にOPHG 180 例(NF1 60 例)にカルボプラチン/プロカルバジン,エトポシド/カルボプラチン,ビンクリスチン/シクロホスファミドの6 剤を7 サイクル計16 カ月投与し,126 例(70%)が治療を完遂したが,長期経過観察では非NF1,NF1 いずれもOS にplateau が認められず,5 年95%,10 年92%,15 年81%,18 年76%と低下し続け,2/3 が腫瘍進行で死亡したと報告した。診断時年齢1 歳未満と頭蓋内圧亢進例が予後不良で,間脳症候群のない男児は予後が良好だった8)。
カナダの小児脳腫瘍コンソーシアムは,2007~2010 年に18 歳未満の化学療法の既往のないLGG にビンブラスチン6 mg/m2の週1 回投与を70 週まで繰り返す治療研究を行った。54 例が登録され,うちOPHG は30 例,NF1 は13 例であった。最良効果として,CR+MR は25.9%(CR1, PR9, MR4, SD34),SD 以上は47 例(87%)で得られ,25 例のOPHG のうち5 例(20%)で視力の回復が得られた。反応のみられた症例の最良効果までの期間の中央値は52 週(NF1 例は25.5 週,非NF1 例は52 週)であり,カルボプラチン+ビンクリスチンレジメンに比べ治療効果に大きな差はないが,効果発現までの時間は遅く,維持療法(長期治療)の有効性が示唆される9)。
- 注1)
小児悪性固形腫瘍として保険適応
- 注2)
悪性星細胞腫,乏突起膠腫成分を有する神経膠腫として保険適応
- 注3)
悪性リンパ腫,絨毛性疾患,再発または難治性の胚細胞腫瘍,ランゲルハンス細胞組織球症として保険適応
システマティックレビュー結果
<検索式>
(“optic glioma” OR “optic pathway glioma” OR “hypothalamic glioma” OR “low-grade glioma” OR “pilocytic astrocytoma”)AND(“chemotherapy” OR “drug”)AND(“metaanalysis” OR “systematic review” OR “trial”)
上記の検索式でOPHG と化学療法に関する論文をPubMed を用いて検索し,105 文献ヒットした。その中からCQ6 に該当する9 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Packer RJ, Ater J, Allen J, et al. Carboplatin and vincristine chemotherapy for children with newly diagnosed progressive low-grade gliomas. J Neurosurg. 1997;86(5):747-54.[PMID:9126887]
- 2)
- Mahoney DH Jr, Cohen ME, Friedman HS, et al. Carboplatin is effective therapy for young children with progressive optic pathway tumors:a Pediatric Oncology Study Group phase Ⅱ study. Neuro Oncol. 2000;2(4):213-20.[PMID:11265230]
- 3)
- Gnekow AK, Falkenstein F, von Hornstein S, et al, Long term follow up of the multicenter, multidiciplinary study HIT-LGG-1996 for low grade glioma in children and adolescents of German speaking Socienty of Pediatric Oncology and Hematology. Neuro Oncol. 2012;14(10):1265-84.[PMID:
22942186]
- 4)
- Mirow C, Pietsch T, Berkefeld S, et al. Children <1 year show an inferior outcome when treated according to the traditional HIT-LGG treatment strategy:a report from the German multicenter trial HIT-LGG 1996 for children with low grade glioma(LGG). Pediatr Blood Cancer. 2014;61(3):457-63.[PMID:24039013]
- 5)
- Driever PH, von Hornstein S, Pietsch T, et al. Natural history and management of low-grade glioma in NF-1 children. J Neurooncol. 2010;100(2):199-207.[PMID:20352473]
- 6)
- Ater JL, Zhou T, Holmez E, et al. Randomized study of two chemotherapy regimens for treatment of low grade glioma in young children:a report from the Pediatric Oncology Group. J Clin Oncol. 2012;30(21):2641-7.[PMID:22665535]
- 7)
- Ater JL, Xia C, Mazewski CM, et al. Nonrandomized comparison of Neurofibromatosis type 1 and Non-Neurofibromatosis type 1 children who received carboplatin and vincristine for progressive low-grade glioma:report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2016;122(12):1928-36.[PMID:27061921]
- 8)
- Rakotonjanahary J, De Carli E, Delion M, et al. Mortality in children with optic pathway glioma treated with up-front BB-SFOP chemotherapy. PLoS One. 2015;10(6):e0127676.[PMID:26098902]
- 9)
- Lassaletta A, Scheinemann K, Zelcer SM, et al. Phase Ⅱ weekly vinblastine for chemotherapy-naïve children with progressive low-grade glioma:a Canadian Pediatric Brain Tumor Consortium Study. J Clin Oncol. 2016;34(29):3537-43.[PMID:27573663]
- CQ7
- 再発時の化学療法は生命予後を改善するか?
- 推奨度1C
- 推奨
再発時の化学療法は腫瘍の進行を抑制し,生命予後の改善をもたらす可能性があるため行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する薬物療法も集学的治療の一部として考えられる。その適否,使用薬剤,および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
OPHG の再発時において,化学療法が他の治療に比して生存期間を有意に延長できるか否かについて,高いレベルのエビデンスを示す論文はない。しかしながら,手術による切除は視機能や視床下部障害を考慮すると困難な場合が多い。また,再発時であっても放射線照射の時期を遅らせるためにも,再度化学療法が試みられる。ビンブラスチン,ベバシズマブ注1)+イリノテカン注2)およびテモゾロミド注3)についての文献を参照する。
Bouffet らは41 例(1.4~18.2 歳:中央値7.2 歳)の再発low-grade glioma(LGG)の患児(視路/視床下部膠腫は34 名)に対してビンブラスチン療法(静注,6 mg/m2,週1 回,52 週間)を前方視的登録研究として約1 年間継続して施行した。治療を完了できたのは31 例で,治療反応率(CR+PR+MR)は36%(18 例)であった。その後の平均観察期間は67 カ月で,23 例で進行しなかった。5 年生存率は93.2%(3 例が死亡),5 年無増悪生存率は42.3%であった。副作用のほとんどは好中球減少症(グレード4:18 例)のみであった1)。
Gururangan らは35 例(0.6~17.6 歳:中央値8.4 歳)の再発LGG の患児(毛様性星細胞腫が46%,詳細な部位の記載はなし)に対してベバシズマブ+イリノテカン療法を平均12 コースにわたり施行した。29 例(83%)は6 カ月以上治療を施行できた。6 カ月と2 年無増悪生存率はそれぞれ85.4%,47.8%であった2)。
一方で,Nicholson らは113 例(1~23 歳:中央値11 歳)の小児および若年者の再発脳腫瘍[LGG が22 例(詳細な部位や病理の記載はなし)]に対してテモゾロミド経口投与(200 mg/m2/day,5 日間,毎月)を12 サイクルにわたり施行した。全体でCR は1 例,PR は5 例のみであった。LGG についてはCR,PR はなく,SD を含めたno response は41%であった。以上の結果から,小児LGG に対するテモゾロミドの効果は限定的と述べている3)。
- 注1)
悪性神経膠腫として保険適応
- 注2)
小児悪性固形腫瘍として保険適応
- 注3)
悪性神経膠腫として保険適応
システマティックレビュー結果
<検索式>
(“optic glioma” OR “optic pathway glioma” OR “hypothalamic glioma” OR “low-grade glioma” OR “pilocytic astrocytoma”)AND(“chemotherapy” OR “drug”)AND(“metaanalysis” OR “systematic review” OR “trial”)
上記のようにOPHG と化学療法に関する論文をカバーするようにPubMed を用いて検索し,105 文献ヒットした。その中からCQ7 に該当する3 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Bouffet E, Jakacki R, Goldman S, et al. Phase Ⅱ study of weekly vinblastine in recurrent or refractory pediatric low-grade glioma. J Clin Oncol. 2012;30(12):1358-63.[PMID:22393086]
- 2)
- Gururangan S, Fangusaro J, Poussaint TY, et al. Efficacy of bevacizumab plus irinotecan in children with recurrent low-grade gliomas–a Pediatric Brain Tumor Consortium study. Neuro Oncol. 2014;16(2):310-7.[PMID:24311632]
- 3)
- Nicholson HS, Kretschmar CS, Krailo M, et al. Phase 2 study of temozolomide in children and adolescents with recurrent central nervous system tumors:a report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2007;110(7):1542-50.[PMID:17705175]
課題5:放射線治療
- CQ8
- 放射線治療は有効か?
- 推奨度2C
- 推奨
手術および化学療法が優先されるが,限られた場合*に放射線療法が行われることを提案する。
* 限られた場合とは,放射線療法の局所制御のメリットから,化学療法が不応であり,腫瘍の増大部位や大きさ,速度によって,手術による減圧が不能であったり,視機能温存が不能であったりする場合など,を想定している。また有害事象としての血管腫発生の頻度が10 歳以上の照射では減少するため,この年齢以上では根治的な放射線療法も提案され得る。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する放射線治療も外科治療や薬物療法と同じく集学的治療の一部として考えられる。その適否,線量,照射範囲および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
OPHG は一般に低悪性度の神経膠腫である割合が高く,生命予後は比較的良好である。特にNF1 に合併した症例では自然退縮例も報告され,治療開始時期に関しては早期,つまり年少時に介入すべきかどうか,慎重に判断すべきである。患者は0~4 歳の幼児が多く,放射線療法は,この年齢層においては,後述するように正常組織の発達を阻害する各種の有害事象をもたらすリスクがあり,手術,化学療法がより優先的に用いられている。一方で放射線療法は,腫瘍が化学療法に対して不応となり,症状を伴う腫瘍の増大を生じ,手術で減圧が不能な大きさ,部位である場合や,視神経に生じた腫瘍が増大し,視機能低下をきたし,化学療法,手術によっても視機能温存が困難な場合など,限られた条件のもとでは積極的に施行することが提案される1-3)。
OPHG の放射線療法に関する前方視的比較試験は存在しない。Fouladi らの観察研究1)によれば,73 例のOPHG に対し,その診断直後に放射線療法,化学療法単独治療,無治療経過観察を行った群を観察し,ランダム化比較ではないものの6 年無増悪生存割合がそれぞれ62%,12%,37%であった。放射線療法が独立した予後良好因子であった。
その一方でOPHG はウイリス動脈輪に近いため,まだ血管が発達していない幼児に対して治療を行うと,治療後の血管の発達が阻害され,モヤモヤ血管,海綿状血管腫などの血管形成障害が起こることが懸念される4,5)ほか,白質脳症6),視床下部下垂体への照射による内分泌機能障害7),二次がんのリスク4,8)を生ずる。Tsang らの報告4)によれば,放射線療法を行った89 例のOPHG のうち,グレード2 より重篤な血管形成障害が7 例に生じ(10 年累積発生率7.1%),発生例と非発生例の照射時年齢の中央値はそれぞれ6.4 歳と8.1 歳であった。また10 歳以下の症例の10 年累積発生率は11.3%で,11 歳以上の症例では0%であった。Merchant らの78 例の小児のグリオーマ(うち58 例がOPHG)の原体照射による第Ⅱ相試験の報告5)によれば,7 年の血管障害の発生率は4.79±2.73%で,年齢別の6 年の血管障害の発生率5 歳未満の8 例では12.5±12.6%,5 歳以上の66 例では3.8±2.6%であった(p=0.105)。
Lacaze らによる27 例のOPHG の小児に対し初期治療として化学療法を施行した報告6)によれば,化学療法後に放射線療法を加えなかった19 例の知能指数は平均107±17 であったのに対し,放射線療法を加えた8 例の知能指数は平均88±24 であった。彼らは可能であれば,放射線療法を避けるか,遅らせることを結論づけている。
Gan らによる166 例の小児のOPHG の長期観察の報告7)によれば,20 年の内分泌に関する無イベント生存割合は4%であり,多変量解析の結果では,腫瘍の視床下部浸潤(ハザード比2.20,95%CI:1.41-3.42,p<0.001)と並んで,放射線療法は有意な予後不良因子であった(ハザード比1.98 倍,95%CI:1.16-3.39,p=0.013)。
二次がんに関してはSharif らのNF1 に合併したOPHG 58 例を,放射線療法を行った18 例と行わなかった40 例に分けて解析した報告8)によれば,二次がんが生じる確率は前者が50%,後者が20%であり,放射線療法による二次性の中枢神経腫瘍の発生のハザード比が3.04(95%CI:1.29-7.15)と有意に,特にNF1 合併例において高率であった。またTsang らの報告によれば,NF1 に合併した症例では14 例中4 例(29%)に,合併していない症例では75 例中4 例(5.3%)にそれぞれ放射線療法が原因と考えられる二次がんが発生した。そのためNF1 に合併した症例では他の治療不応例の救済の目的以外では極力放射線療法を避けるべきであるとしている4)。
放射線療法の線量は他の低悪性度神経膠腫に準じて45~54 Gy/25~30 分割3-4,9)で,腫瘍局所に適切なマージンを付加したターゲットに対して可及的に線量集中性を改善した通常分割の定位的照射法を用いて行うことが推奨される10,11)。また患者が小児であることを考慮して,一回線量は1.8 Gy 程度に下げて投与することが推奨される8)。最近では陽子線治療もその線量集中性と,周囲の高線量域の体積が低く抑えられるために用いられるようになってきている12)。
OPHG の放射線療法は耐容線量の低い視神経・下垂体を含んだ領域へ精密に照射するという技術的な困難さと対象患児の晩期有害事象という問題を孕んでいるため,集学的がん治療グループでの適応判断のもと,患児,その家族と治療方針について細やかな相談の後,高精度な放射線治療の手法を用いて行われることが必要である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“radiotherapy”[Subheading]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “radiation therapy, radio”[MeSH Terms]OR(“radiation”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “radiotherapeutic”[All Fields])OR “radiotherapy procedures”[All Fields]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “general radiotherapy”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “radiotherapy”[All Fields])OR “general radiotherapy”[All Fields])AND irradiation[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“radiotherapy”[Subheading]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “radiotherapy procedures, irradiation”[MeSH Terms]OR(“radiotherapeutical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “irradiation”[All Fields])OR “radiotherapeutical procedures”[All Fields]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “general radiotherapy”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “radiotherapy”[All Fields])OR “general radiotherapy”[All Fields])AND irradiation[All Fields])
上記の検索式でPubMed を用いて検索し,410 文献ヒットした。その中からCQ8 に該当する12 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Fouladi M, Wallace D, Langston JW, et al. Survival and functional outcome of children with hypothalamic/chiasmatic tumors. Cancer. 2003;97(4):1084-92.[PMID:12569610]
- 2)
- Khafaga Y, Hassounah M, Kandil A, et al. Optic gliomas:A retrospective analysis of 50 cases. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2003;56(3)807-12.[PMID:12788189]
- 3)
- Terashima K, Chow K, Jones J, et al. Long-term outcome of centrally located low-grade glioma in children. Cancer. 2013;119(14);2630-8.[PMID:23625612]
- 4)
- Tsang DS, Murphy ES, Merchant TE. Radiation therapy for optic gliomas in children. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2017;99(3):642-51.[PMID:29280458]
- 5)
- Merchant TE, Kun LE, Wu S, et al. Phase Ⅱ trial of conformal radiation therapy for pediatric low-grade glioma. J Clin Oncol. 2009;27(22):3598-604.[PMID:19581536]
- 6)
- Lacaze E, Kieffer V, Streri A, et al. Neuropsychological outcome in children with optic pathway tumours when first-line treatment is chemotherapy. Br J Cancer. 2003;89(11):2038-44.[PMID:14647135]
- 7)
- Gan HW, Phipps K, Aquilina K, et al. Neuroendocrine Morbidity After Pediatric Optic Gliomas:A Longitudinal Analysis of 166 Children Over 30 Years. J Clin Endocrinol Metab. 2015;100(10):3787-99.[PMID:26218754]
- 8)
- Sharif S, Ferner R, Birch JM, et al. Second primary tumors in neurofibromatosis 1 patients treated for optic glioma:substantial risks after radiotherapy. J Clin Oncol. 2006;24(16):2570-5.[PMID:16735710]
- 9)
- Stieber VW. Radiation therapy for visual pathway tumors. J Neuroophthalmol. 2008;28(3):222-30.[PMID:18769290]
- 10)
- Walker D. Recent advances in optic nerve glioma with a focus on the young patient. Curr Opin Neurol. 2003;16(6):657-64.[PMID:14624073]
- 11)
- Combs SE, Schulz-Ertner D, Moschos D, et al. Fractionated stereotactic radiotherapy of optic gliomas:Tolerance and long-term outcome. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2005;62(3):814-9.[PMID:15936565]
- 12)
- Indelicato DJ, Rotondo RL, Uezono H, et al. Outcomes Following Proton Therapy for Pediatric Low-Grade Glioma. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2019;104(1):149-56.[PMID:30684665]
5 章 小児・AYA 世代上衣腫 ependymoma in childhood, adolescent and young adult
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
宇塚 岳夫
獨協医科大学 脳神経外科/脳神経外科
総括
副委員長
隈部 俊宏
北里大学 脳神経外科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
協力委員
前林 勝也
日本医科大学付属病院 放射線治療科/放射線科
放射線治療
協力委員
原 純一
大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児血液腫瘍科/小児科
化学療法
協力委員
坂本 博昭
大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
協力委員
師田 信人
北里大学 脳神経外科/脳神経外科
化学療法
委員
夏目 敦至
名古屋大学 脳神経外科/脳神経外科
再発時の治療
委員
橋本 直哉
京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
1
外科的治療
坂本 博昭
橋本 直哉
柴原 一陽(北里大学 脳神経外科)
國廣 誉世(大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児脳神経外科)
小川 隆弘(京都府立医科大学 脳神経外科)
2
放射線治療
前林 勝也
太田 篤(新潟大学 放射線科)
斎藤 紘丈(新潟大学 放射線科)
中野 智成(新潟大学 放射線科)
棗田 学(新潟大学脳研究所 脳神経外科)
岡田 正康(新潟大学脳研究所 脳神経外科)
渡邉 潤(新潟大学脳研究所 脳神経外科)
栗林 茂彦(東京女子医科大学 放射線腫瘍学講座)
秋元 裕義(日本医科大学付属病院 放射線治療科)
3
化学療法
原 純一
師田 信人
吉藤 和久(北海道立子ども総合医療・療育センター 脳神経外科)
藤崎 弘之(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
4
再発時の治療
夏目 敦至
大岡 史治(名古屋大学 脳神経外科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
小児・AYA 世代上衣腫に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,上衣腫患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された9 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにガイドライン作成ワーキンググループがシステマティックレビュー(SR)チームの責任者となり,責任者よりSR 委員を選出してもらい,各課題1~8 名で編成した。上衣腫が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年3 月上衣腫診療ガイドライン作成ワーキンググループが発足。委員長および担当者を決定した。
スコープ:ガイドライン作成ワーキンググループ委員で検討を繰り返し,作成した。
システマティックレビュー:各CQ に担当者を募り,リーダーとなるガイドライン作成ワーキンググループ委員と相談しながらエビデンスを収集した。
2014 年3 月version 1.0 を作成
2015 年1 月version 2.0 を作成
2016 年2 月version 3.0 を作成
2016 年8 月version 4.0 を作成
2020 年9 月version 5.0 を作成
2020 年10 月version 6.0 を作成
2020 年12 月version 7.0 を作成
2021 年1 月version 8.0 を作成
2021 年3 月version 9.0(最終版)を作成
作成グループ会議:2014 年3 月から2019 年12 月の期間は,年間2 回程度の日程でガイドライン作成ワーキンググループ会議を行った。2020 年6 月からは毎月1 回オンライン会議を行った。
推奨作成とその過程:2021 年1 月と2 月にガイドライン作成ワーキンググループ内における推奨グレードの投票を行った。最終的にはオンライン会議にて討論し,ガイドライン作成ワーキンググループ内での意見が一致した状態で推奨グレードを提案した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年9 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.小児・AYA 世代上衣腫の基本的特徴
1)はじめに
2021 年12 月に公開されたWHO 脳腫瘍分類第5 版において,The Consortium to Inform Molecular and Practical Approaches to CNS tumor Taxonomy-Not Official WHO(cIMPACT-NOW)update 71)の提言に基づき,上衣腫の分類は大幅に改訂された。一方,臨床の現場ではいまだWHO 脳腫瘍分類第4 版による分類が広く行われていると考えられるため,本ガイドラインでは新分類を視野に入れつつ,用語などはWHO 脳腫瘍分類第4 版(以後WHO 2016)2)に準拠するものとする。
使用する「上衣腫」に関連する用語の定義は以下の如くである。WHO 2016 に記載されているEpendymal tumours を「上衣系腫瘍」と表記する。「上衣腫」とのみ表記する場合は,WHO 2016 における上衣腫(ependymoma, WHO grade Ⅱ)・ependymoma, RELA fusion-positive(WHO grade Ⅱ/Ⅲ)・退形成性上衣腫(anaplastic ependymoma, WHO grade Ⅲ)を含むものとする。狭義のWHO grade Ⅱの上衣腫を示す場合は,「上衣腫(WHO grade Ⅱ)」と表記することとする。上衣腫のgrading の記載については,前述のcIMPACT-NOW では,Ⅰ~Ⅳのローマ数字ではなく,1~4 のアラビア数字で記載している。これらは今後のWHO 分類にも採用されるものと思われるが,現在のWHO 脳腫瘍分類の表明とは異なるため,本ガイドラインではローマ数字Ⅰ~Ⅳのgrading で記載することとした。
本ガイドラインは「小児・AYA 世代」患者の診療を行う医療者を主な対象としている。上衣腫において,小児期から成人期にかけて明確な腫瘍の性状の違いはないが,小児期からの切れ目のない継続医療(移行期医療)が必要と考えられるためである。
2)疫学的特徴
上衣腫は脳室壁や脊髄中心管を構成する上衣細胞(ependymal cell)への分化を示す腫瘍である。脳腫瘍全国集計調査報告3)では,上衣腫の頻度は原発性脳腫瘍の1%と稀な腫瘍である。年齢層は乳幼児から高齢者まで,幅広く認められることが特徴である。年齢層別にみると,0~29 歳では全脳腫瘍の7.0%,0~4 歳までに限ると20.2%を占め,特に乳幼児では重要な腫瘍である。
発生部位は脳室系に関係していることが多く,成人ではテント上,小児では第四脳室発生が多い。テント上では脳室系と無関係な脳実質内に発生することもある。テント上発生が30%程度,後頭蓋窩発生が60%程度,脊髄発生が10%程度と報告されている2)。
脊髄腫瘍としての上衣腫は頻度が高く,成人の脊髄神経膠腫の約半分を占めるが,小児では稀である。脊髄上衣腫は神経線維腫症2 型に合併する症例もしばしばみられ,脊髄円錐と馬尾には粘液乳頭状上衣腫が高頻度にみられるなど,頭蓋内上衣腫とは異なる臨床的・生物学的特徴を持つため,脊髄上衣腫は本ガイドラインでは扱わない。
3)画像所見
脳室内の境界明瞭な腫瘍として描出されることが多い。MRI T1 強調画像では低信号,T2 強調画像では高信号を呈することが多く,造影効果はさまざまな程度で認められる。腫瘍内部には石灰化や囊胞,腫瘍内出血などがしばしば認められ,内部が不均一であることも特徴の一つである。脳実質への広汎な浸潤や周囲の強い脳浮腫をきたすことは稀である。小児では第四脳室に好発し,外側孔(Luschka 孔)から小脳橋角部へ進展する症例も認められる。また,脳室内発生の場合は閉塞性水頭症を合併しやすい。比較的髄液播種をきたしやすい腫瘍であり,髄液播種にも注意が必要である。
術前画像診断では,後頭蓋窩発生の上衣腫は髄芽腫やatypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)との鑑別が難しい例がある。テント上脳室外発生の場合,膠芽腫や退形成性星細胞腫との鑑別が問題となる。
4)病理診断
上衣腫(WHO grade Ⅱ)は小型で均一な腫瘍細胞が血管周囲性偽ロゼット配列を示すことが特徴であり,多くの症例で観察される。中心管を模した上衣ロゼットが上衣腫の診断に有用であるが,典型的なロゼット形成は比較的少数の症例にしか観察されないことも知られている。免疫染色では腫瘍細胞はglial fibrillary acidic protein(GFAP)が陽性となる。また,多くはS100 蛋白,vimentin が陽性であり,Olig2 は陰性となる。Epithelial membrane antigen(EMA)染色は上衣腫の診断に有用であり,ドット状もしくはリング状の陽性所見を認めることが多い。Isocitrate dehydrogenase(IDH)R132H での染色が陰性である点も重要である。
退形成性上衣腫はWHO grade Ⅲに属し,上衣腫(WHO grade Ⅱ)と比較して細胞密度が高く,多数の核分裂像を有し,微小血管増殖や壊死像を伴うものとされている。しかし,WHO 2016 では退形成上衣腫の診断根拠となる核分裂像の個数は明記されていない。
上衣腫の診断とさらにそのgrading に関する病理診断の難しさについてはいくつかの報告がある。Sasaki らは,我が国の治療担当施設で小児上衣腫と診断された130 例を対象に,熟練した3 名の病理医による中央診断の結果を報告している4)。中央診断において病理医間の診断一致率は脊髄上衣腫では100%,後頭蓋窩腫瘍では93%であったが,テント上(大脳半球)腫瘍では病理医間の一致率は77%であった。さらに,ヨーロッパの3 つの前方視的臨床試験における上衣腫187 例について,熟練した5 名の病理医が独立して診断したところ,grade Ⅱにおける症例ごとの診断一致率は19~59%,grade Ⅲは41~81%と広いばらつきを認めた5)。このように上衣腫の病理診断およびgrading の確定が困難であることが,予後予測因子としてのgrading の不明確性に影響しているものと考えられる。
WHO2016 では,上衣腫は5 つのサブタイプと3 つのgrade に分類されている。
WHO grade Ⅰには上衣下腫(subependymoma)や粘液乳頭状上衣腫(myxopapillary ependymoma)などが含まれる。上衣下腫は成人の脳室壁に好発し,粘液乳頭状上衣腫は若年成人の終糸に好発する。いずれの腫瘍も全摘出(gross total resection:GTR)後の予後は非常に良好である。いずれも成人に好発するため,本ガイドラインではこれらの腫瘍については取り扱わない。
WHO grade Ⅱにはpapillary, clear cell, tanycytic といったvariant が含まれる。WHO2016 には遺伝子診断によって分類されるEpendymoma, RELA fusion-positive という項目が新たに付け加えられた。本腫瘍は小児のテント上上衣腫の70%程度を占め,WHO grade ⅡもしくはⅢに分類される。退形成性上衣腫はこれまでどおりWHO grade Ⅲに分類される。本ガイドラインではWHO grade Ⅱの上衣腫とgrade Ⅲの退形成性上衣腫およびgrade Ⅱ/ⅢのRELA fusion-positive 上衣腫について取り扱う。
5)分子生物学的知見
近年の上衣腫における分子生物学的知見の報告は目覚ましく増加し,以前から年齢・発生部位によって臨床的特徴が異なると報告されていた症例群の背景が明らかとなってきた。テント上・下の上衣腫は病理組織所見としては類似するものの,もはやそれぞれ別の疾患として論じられるべきである。分子生物学的分類を理解することは,今後の診療に役立つためだけでなく,これまでの治療成績に関する報告を考察する上でも,極めて重要である。
分子生物学的には,頭蓋内上衣腫はテント上と後頭蓋窩で大きく異なる。テント上上衣腫では,染色体粉砕(chromothripsis)により形成されるC11orf95-RELA 融合遺伝子が2/3 程度と高頻度に認められることが報告された5)。RELA 遺伝子もC11orf95 遺伝子も共に11 番染色体長腕に存在し,マウスの実験ではC11orf95-RELA 融合遺伝子を導入することにより,NF-kB シグナルの活性化による上衣腫の発生が認められ,C11orf95-RELA 融合遺伝子はドライバー遺伝子であることが確認された。また,RELA 融合遺伝子を認めたテント上上衣腫の多くは退形成性上衣腫WHO grade Ⅲと診断されている4)。cIMPACT-NOW update 7 ではC11orf95-RELA 融合遺伝子におけるC11orf95 の役割が強調されており,疾患名もSupratentorial ependymoma, C11orf95 fusion-positive とすることが提言されている1)。また,C11orf95 遺伝子はその機能的意義として,RELA 遺伝子だけでなく他の多くの遺伝子と融合遺伝子を形成し,腫瘍形成の主因子となることが判明し,Zinc Finger Translocation Associated(ZFTA)遺伝子と呼称されることとなった1)。
また,テント上上衣腫においては,RELA融合遺伝子群と相互排他的にYAP1-MAMLD1 融合遺伝子が発現しているグループ(YAP1 融合遺伝子群)も存在する。これらテント上上衣腫15 例の報告では,全例が3 歳未満で,年齢中央値は8.2 カ月であり,乳児に好発することが示唆されている6)。15 例中13 例が女児で,病理組織学的には11 例がWHO grade Ⅲに分類されたものの,フォローアップ期間中央値4.84 年で全例再発を認めていない。YAP1 融合遺伝子群についてはcIMPACT-NOW1)でも提言されており,今後分類に追加されるサブタイプと考えられる。一方,RELA やYAP1 などの融合遺伝子が存在しないテント上上衣腫も約30%みられるが,それらの腫瘍の生物学的悪性度の評価は定まっておらず7),今後メチル化プロファイルなどによる精査が必要である。
後頭蓋窩上衣腫は全ゲノム的な発現プロファイルやメチル化プロファイルの違いから,Group A(posterior fossa type A:PFA)とB(posterior fossa type B:PFB)に分類される8)。PFA はCpG island に高メチル化を多数認め,また30%程度に染色体1q のDNA コピー数増加がみられる7)。一方,PFB では6q,22q の欠失や9q,15q,18q などの増加など1q 増加以外のさまざまな染色体異常を示す。PFA は幼年の男児に多く,WHO grade Ⅲが多い傾向があり,転移・再発が多い。PFB は年長児や成人に多く,性差はなく,PFA に比べて予後が良好である。PFA・PFB の鑑別には,H3K27me3 の免疫染色が有用である。前述のSasaki らの報告4)では,後頭蓋窩上衣腫のうち,退形成性上衣腫と診断された症例の大部分はPFA であった。
また,前方視的臨床試験であるHIT 2000-E プロトコールに含まれていた28 例の18 カ月未満の上衣腫についての遺伝子検索結果が報告され9),8 カ月未満の上衣腫28 例はすべて退形成性上衣腫であった。28 例中21 例(75%)が後頭蓋窩局在であり,全例PFA であり,テント上局在の7 例(25%)のうち,4 例がRELA 融合遺伝子陽性で,2 例がYAP1 融合遺伝子陽性であった。これらの結果より,18 カ月未満の上衣腫は,PFA/RELA 融合遺伝子/YAP1 融合遺伝子の3 群が大半を占めることが示唆されている。
上衣腫の分子生物学的分類における予後解析では,PFA が予後不良であり,PFB は予後良好であるとする報告が多い10)。特に一番染色体長碗のgain を伴うPFA の予後は不良である10)。RELA 融合遺伝子群の予後については,報告にばらつきがみられる10)。YAP1 群の発生頻度はRELA 群に比べて低いが,予後は良好である。
本ガイドラインで取り上げた臨床試験や報告の多くは,上記の分子生物学的知見について勘案されたものでないことに注意する必要がある。現在のところ,分子生物学的分類は治療方法の選択に直結しないが,予後を予測するのに重要な示唆が得られる。今後はこれらの分子生物学的分類に基づいた臨床試験が行われ,手術・放射線治療・化学療法の有効性がサブグループごとに変わっていく可能性がある。
6)治療
上衣腫の治療における手術についてのエビデンスは,一つの方向に向かっており理解しやすい。すなわち,大部分の報告において可能な限り全摘出を行うことが予後の改善につながっている。また放射線治療については,サブタイプによっては不要という報告があるものの,多くは有用性を支持する報告である。
上衣腫において最も悩ましいのは,乳幼児の治療である。これは放射線治療の晩期合併症が発生しやすいためである。乳幼児の上衣腫に対しても,おそらく放射線治療は有効であると考えられるが,晩期合併症を考慮すると,化学療法を先行することにより放射線治療の回避もしくは延期が望まれるところである。問題は,何歳なら照射を行ってよいのかというカットオフ値であろう。本ガイドラインでは「3 歳」という年齢を提示した。これは歴史的に複数の臨床試験に用いられてきた年齢区分であり,ある程度エビデンスが存在するためである。しかし,その区切り自体に強いエビデンスではなく,あくまで一つの目安として考えるべきであると思われる11)。放射線治療は,年齢のみならず,摘出術後の状態,残存腫瘍の部位や量,病理組織所見と遺伝子分類などを考慮し,生命予後と晩期合併症のバランスを考えた上で照射量,照射範囲,照射方法を慎重に判断する必要がある。2018 年にEuropean Association of Neuro-Oncology(EANO)から示されたガイドライン12)では,摘出術後の後療法として,12 カ月未満には化学療法を,12~18 カ月には54 Gy の局所照射を,18 カ月以上では59.4 Gy の局所照射を推奨している。しかし,後のCQ で記述しているとおり,上衣腫に放射線治療の効果はあるものの,12 カ月以上3 歳未満児への放射線治療に関しては,局所照射であっても,晩期脳障害が許容できるかどうかの十分なエビデンスの蓄積は認められなかった。そのため本のガイドラインでは,3 歳未満・3 歳以上という区切りを用いているものの,その取り扱いについては十分慎重を期して解説文を記載した。また,今回のシステマティックレビューからは,12 カ月あるいは18 カ月という年齢の区切りに関するエビデンスはは十分ではないと判断し,その採用を見送った。詳しくは課題2:放射線治療,課題3;化学療法を参照されたい。
7)治療成績と予後因子
脳腫瘍全国集計調査報告2)によると,手術+放射線治療を受けた症例の5 年生存割合は,上衣腫(WHO grade Ⅱ)では約70%,退形成性上衣腫(WHO grade Ⅲ)では約30%である。年齢的には3 歳未満での発症は予後不良因子とする報告が多い。低年齢発症の場合には組織的悪性度が高いこと,後頭蓋窩発生の割合が大きく全摘出が難しいこと,また低年齢層への放射線治療が避けられてきたことなどの要因が予後に影響を及ぼしている可能性が考えられている。摘出率については,全摘出が遂行可能であった例は,有意差をもって予後良好であるとする報告が多い。摘出術後の放射線治療が標準的治療と考えられるが,いくつかの報告では放射線治療の効果が示されておらず,放射線治療を必要としない症例群の存在も示唆されている。上記以外の予後不良因子として,治療前の播種病変の存在が報告されている。
❖ 文献
- 1)
- Ellison DW, Aldape KD, Capper D, et al. cIMPACT-NOW update 7:advancing the molecular classification of ependymal tumors. Brain Pathol. 2020;30(5):863-6.[PMID:32502305]
- 2)
- Louis DN, Ohgaki H, Wiestler OD, et al. WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System. WHO Classification of Tumours, 4th Edition, Volume 1. Lyon, International Agency for Research on Cancer, 2016.
- 3)
- Brain Tumor Registry of Japan(2005-2008). Neurol Med Chir(Tokyo). 2017;57(Suppl 1 ):9-102. [PMID:28420810]
- 4)
- Sasaki A, Hirato J, Hirose T, et al. Review of ependymomas:assessment of consensus in pathological diagnosis and correlations with genetic profiles and outcome. Brain Tumor Pathol. 2019;36(2):92-101.[PMID:30929114]
- 5)
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- 6)
- Parker M, Mohankumar KM, Punchihewa C, et al. C11orf95-RELA fusions drive oncogenic NF-κB signalling in ependymoma. Nature. 2014;506(7489):451-5.[PMID:24553141]
- 7)
- Fukuoka K, Kanemura Y, Shofuda T, et al.; Japan Pediatric Molecular Neuro-Oncology Group (JPMNG). Significance of molecular classification of ependymomas:C11orf95-RELA fusion-negative supratentorial ependymomas are a heterogeneous group of tumors. Acta Neuropathol Commun. 2018;6(1):134.[PMID:30514397]
- 8)
- Andreiuolo F, Varlet P, Tauziède-Espariat A, et al. Childhood supratentorial ependymomas with YAP1-MAMLD1 fusion:an entity with characteristic clinical, radiological, cytogenetic and histopathological features. Brain Pathol. 2019;29(2):205-16.[PMID:30246434]
- 9)
- Witt H, Mack SC, Ryzhova M, et al. Delineation of two clinically and molecularly distinct subgroups of posterior fossa ependymoma. Cancer Cell. 2011;20(2):143-57.[PMID:21840481]
- 10)
- Jünger ST, Andreiuolo F, Mynarek M, et al. Ependymomas in infancy:underlying genetic alterations, histological features, and clinical outcome. Childs Nerv Syst. 2020;36(11):2693-700.[PMID:32474813]
- 11)
- Upadhyaya SA, Robinson GW, Onar-Thomas A, et al. Molecular grouping and outcomes of young children with newly diagnosed ependymoma treated on the multi-institutional SJYC07 trial. Neuro Oncol. 2019;21(10):1319-30.[PMID:30976811]
- 12)
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2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:小児・AYA 世代上衣腫の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後の改善
- (3)トピック:生命予後,機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍(15 歳未満および16~29 歳のAdolescent and Young Adult:AYA 世代を含めた年齢)を診療する医療者,患者・家族
- (5)既存ガイドラインとの関係:上衣腫診療については,EANO ガイドライン(2016)を参考にした。
- (6)重要臨床課題
課題1:手術摘出
課題2:放射線治療
課題3:化学療法
課題4:再発時の治療
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
- a)脊髄髄内に発生する上衣腫は本ガイドラインの対象疾患には含めず,頭蓋内上衣腫に限定する。
- b)頭蓋内上衣腫の2016 年WHO 分類第4 版による悪性度のWHO grade ⅡとⅢの両方を含める。
- c)厚労省から示された小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満および16~29 歳のAYA 世代を含めた年齢)
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:2 カ月
文献の選出:2 カ月
エビデンス総体の評価と統合:6 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:European Association for Neuro-Oncology(EANO)よりガイドラインが報告されている(スコープ引用文献12 を参照)。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験の報告は,海外からいくつか報告されている。その他,非ランダム化比較試験,観察研究を検索対象とした。MRI 時代以前の観察研究や,症例報告に関しては一部を除いて省略した。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed
- SR/MA 論文について:検索されたSR はすべて参考としたが,構造化抄録には加えなかった。MA 論文は認めなかった。
- 既存のガイドラインの検索:EANO からのガイドラインを参考とした(スコープ引用文献12 を参照)。
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いた。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2019 年12 月31 日まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合が量的統合を実施。
課題1:外科的治療
- CQ1
- 肉眼的全摘出は生命予後を改善するか?
- 推奨度1C
- 推奨
生命予後の改善が期待できるので肉眼的全摘出を推奨する。
解説
1.CQ の設定
小児期とadolescent and young adult(AYA)世代の頭蓋内上衣腫に対する手術摘出として,アウトカムの「益」としてはOS やPFS の延長を,また「害」としては神経症状の悪化によるQOL の低下を設定し,肉眼的全摘出(GTR)とそれ以下の摘出度との間で比較した。また,初回摘出術後の残存腫瘍に対する再摘出の有効性,および最近提唱されている全ゲノム的な発現プロファイルから分類される後頭蓋窩上衣腫サブタイプにおける摘出度と予後との関連性も検討した。PICO の設定に従い,30 歳以上の症例を多く含む報告や,再発例および脊髄上衣腫を対象とした報告は除外し,稀少疾患である頭蓋内上衣腫に対して定性的システマテックレビューを行った。
2.腫瘍の摘出度とOS・PFS
頭蓋内上衣腫では腫瘍のGTR ができれば生命予後が改善すると考えられてきたが,今回システマティックレビューにより,この仮説を評価した。上衣腫の摘出度の判定は,術中所見ではなく,摘出術後早期の画像検査によって厳密に評価することが求められるようになったため,画像評価が行われた報告を採用した。近年の摘出度の評価法に準じて1),摘出術後の画像検査で残存腫瘍を認めないものをGTR とし,GTR 以外のnon-GTR にはnear total resection,亜全摘出,部分摘出および生検が含まれる。これまで摘出度と予後との関係を明確にするためのランダム化比較試験の報告はないため,年齢・部位・組織学的悪性度・放射線治療・化学療法など複数の予後因子を評価した報告で,多変量解析を用いたサブ解析により腫瘍の摘出度の評価を行った報告を採用した。統計学的に適切な評価を得るために,GTR 群・non-GTR 群の症例数がそれぞれ20 例以上の報告を採用した。
Non-GTR よりもGTR でOS の延長が有意差ありとする報告は7 件,PFS の延長が有意差ありとする報告は6 件であった。これらの報告で,摘出術後に放射線治療などの後療法が施行された5 年OS はGTR 群80~93.6%,non-GTR 群51~53%であり,5 年PFS はGTR 群53~81.5%,non-GTR 群33~42%であった。一方,OS ではGTR 群とnon-GTR 群に有意差を認めないとする報告は1 件のみで,PFS で有意差のない報告は3 件といずれも少なかった。Non-GTR 群がGTR 群よりもOS,PFS が有意に良好であるとする報告はなかった。発生部位を後頭蓋窩あるいはテント上に分けて摘出度と予後との関係を検討した報告はなかった。
1)前方視的研究の報告
摘出術後の後療法として放射線治療と化学療法のどちらを先に行う方が予後良好かを検討するためのランダム化比較試験の報告2) (3 歳以上 18 歳以下,テント上 26 例,後頭蓋窩29 例,GTR 51%)では,GTR 群のPFS がnon-GTR 群よりも有意に良好で,3 年PFS がGTR 群83.3%,non-GTR 群38.5%であった。化学療法の違いによって予後の改善が得られるかをランダム化比較試験で検討した報告3)(3 歳未満の 82例,GTR 37%)では,non-GTR 群と比較してGTR 群で有意にOS とPFS が良好であった。摘出術後に放射線治療を避けて化学療法を先行して治療効果をみた報告4)(3歳未満の症例,テント上13例,後頭蓋窩69 例,GTR 60%)では,non-GTR 群に比較してGTR 群のOS・PFS はともに有意に良好で,4 年OS はGTR 群74%,non-GTR 群35%であった。摘出術後に標準的な54.0 Gy と高線量の59.4 Gyとの放射線治療を施行して予後を比較した報告5)(10歳以下,テント上31例,後頭蓋窩122 例,GTR 82%)では,GTR 群のOS,PFS はnon-GTR 群よりも良好であった。この報告では,GTR 群では5 年OS 93.6%,7 年OS 88.0%,non-GTR 群では5 年OS 53.4%,7 年OS 52.4%であり,PFS はGTR 群では5 年で81.5%,7 年で77.3%,non-GTR 群では5 年で41.0%,7 年で34.2%であった。組織学的悪性度と摘出術後の残存腫瘍の有無によって異なる後療法を施行して治療効果を検討した報告6)(3歳以上21歳以下,テント上50 例,後頭蓋窩110 例,GTR 76%)では,GTR 群の方がnon-GTR 群よりも有意にOS が良好で,5 年OS はGTR 群87.8%,non-GTR 群61.2%であった。この報告では,5 年PFS はGTR 群72.1%,non-GTR 群45.3%で,有意差に至らなかった(p=0.058)。GTR 群と non-GTR群との間で OS・PFSに有意差を認めなかった報告は 1 件7)(3 歳以下,テント上76 例,後頭蓋窩13 例,GTR 49%)で,3 歳以下の例を対象に摘出術後に化学療法を施行し,再発を認めた際に放射線治療を行い,治療効果を前方視的に検討している。この報告では,5 年OS・PFS はGTR 群で68.1%・48.9%,non-GTR 群で51.8%・25.8%であった。
2)後方視的研究の報告
腫瘍の摘出術後,年少児に対しては化学療法を施行した後に放射線治療を施行し,治療効果を検討した報告8)(15 歳未満,テント上 18例,後頭蓋窩 65例,GTR 72%)では,GTR 群のOS・PFS がnon-GTR よりも有意に良好で,5 年OS はGTR 群80%,non-GTR 群51%であり,5 年PFS はGTR 群53%,non-GTR 群33%であった。摘出術後に放射線治療や一部の例に化学療法を施行し治療効果を検討した報告9)(0.1~18歳,テント上 24例,後頭蓋窩58 例,GTR 68%)では,OS はnon-GTR 群よりもGTR 群で有意に良好であったが,PFS は両郡間に有意差は認めなかった。摘出術後に異なった方法で放射線治療を施行してその有効性を検討した報告10)(25 歳以下,テント上 147 例,後頭蓋窩 55例,GTR 86%)では,GTR 群のOS はnon-GTR 群よりも有意に良好であった。
以上の結果から,年少児からAYA 世代の年齢の症例を対象とした前方視的研究,あるいは後方視的研究のサブ解析では,GTR 群のOS・PFS がnon-GTR 群よりも有意に良好であるとする報告が多く,これに反する報告は非常に少ない。ただ,摘出術後に後療法が施行されているので,摘出度によってどの程度の予後を改善できるかは不明である。結論として,摘出度と予後との関係をランダム化比較試験で検討した報告はないのでエビデンスレベルが高いとは言えないが,後述のように腫瘍の摘出により重篤な神経症状の悪化が予想される場合を除き,生命予後の改善が期待できるためGTR を推奨する。
3.残存腫瘍に対する再摘出の有効性
初回摘出術後に残存した腫瘍に対する再摘出,いわゆるsecond-look surgery によってGTR が達成できれば予後の改善が期待されるため,初回摘出術後に再摘出,あるいは再々摘出が行われてきた5,11)。これらの報告でのGTR の達成率は81.7%および80.2%であり,前項1)で述べたGTR 率(30~80%台)と比較して高値である。
再摘出による予後への影響を中心に検討した報告は少なく,システマティックレビューでは次の3 つの報告を採用した。
小児テント上下の上衣腫110 例を対象に再摘出の有効性を検討した多施設前方視的研究の報告12)では,初回摘出術後の残存腫瘍に対し化学療法や放射線治療を行い,残存腫瘍の再摘出,あるいは複数回の摘出術によって,GTR 達成率は初回摘出の61.0%から82.7%まで上昇した。この報告では,初回摘出でGTR を達成できた群と複数回の摘出でGTR を達成できた群との間に,PFS や局所非再発率に有意差は認めないことから,再摘出によってGTR が達成できれば初回摘出でGTR となった場合と同等の効果があることが示唆された。この再摘出の適応は外科医の判断に委ねられているが,適応とならないのは,腫瘍が基底核に浸潤している例,脳底動脈を巻き込んでいる例,脳幹部の腹側まで進展している例など,再摘出によって高度の神経障害が予想される場合としている。この手術適応で複数回の摘出を行った29 例中,神経症状の悪化は2 例(6.8%)にみられ,このうち1 例は改善したことから再摘出による神経障害の悪化は許容範囲としている。
小児テント上下の上衣腫160 例を対象とした多施設前方視的研究6)では,初回手術で残存腫瘍を認めた50 例中46 例(92.0%)で,摘出術後の後療法を行う前に残存腫瘍を再度摘出した。少数例で3 回以上の摘出を行っている。その結果,初回摘出でのGTR 達成率68.8%が再摘出によって75.6%と上昇した。再摘出の手術合併症は46 例中5 例(10.9%)に認め,このうち4 例は小脳・下位脳神経の障害で,残り1 例は出血を呈したが神経症状は改善したことから,再摘出に伴う神経症状の悪化は許容範囲としている。
発生部位・組織学的悪性度・摘出度によって異なった後療法を施行し,放射線治療の有効性を前方視的に検討した報告13)(1 歳から 21 歳までのテント上下の上衣腫 356 例,GTR 82.0%)では,亜全摘出(摘出術後の画像所見で0.5 cm より大きな残存腫瘍を認める)に終わったのは64 例(全例の18.0%)であった。亜全摘出例に化学療法を行い,64 例中25例(39.0%)で残存腫瘍に対し再摘出を施行し,後療法として局所放射線治療を行ったところ,5・10 年のPFS はそれぞれ50.5%・45.9%であった。一方,亜全摘出術後に化学療法を行ったが再摘出しなかった例(39 例)に放射線治療を行った群の5・10 年のPFS はそれぞれ28.5%・25.0%であった。これら再摘出した群と行わなかった群でのPFS を比較すると,再摘出した群の方が良好な傾向を認めたが,この差は有意ではなかった(p=0.116)。
以上,初回摘出術後に画像上残存腫瘍を認めた場合,再摘出を行う,あるいは化学療法などを施行した後に再摘出を行うことが,予後を改善するのに有効かどうかに関しては,報告が少なく十分なエビデンスがない。しかし,前述のMassimino らの再摘出の適応12)を参考にし,重篤な障害をきたさずに再摘出を施行してGTR が達成できれば,non-GTR よりも良好なOS やPFS が期待できるため,再摘出を考慮してもよい。
4.腫瘍摘出によるQOL の低下
腫瘍の摘出技術が向上し,摘出に際して神経障害の発生頻度は減少しているものの,脳深部に局在する腫瘍や,大きい腫瘍であれば,摘出に伴う神経機能障害を起こしやすい。発生部位がテント上であれば摘出に伴い腫瘍周囲の脳損傷が発生しやすく,大脳深部に発生すれば腫瘍到達までの大脳の切開などによる損傷も加わる。後頭蓋窩では,大きな腫瘍では摘出時の小脳または脳幹の損傷によって,脳幹の機能障害,錐体路障害や小脳障害による歩行障害や運動障害が発生する。第四脳室から小脳橋角部や脳幹前面に進展した腫瘍では,摘出時の脳神経の障害によって顔面神経麻痺や眼球運動障害が発生し,下位脳神経の障害による構音障害,重篤なものとして嚥下障害による気管切開や胃瘻造設の必要性が指摘されてきた。また,後頭蓋窩腫瘍に特有な無言症(mutism)があり,重篤な場合は回復しにくく,これにより高次脳機能障害が発生して患者のQOL を大きく低下させる。
今回,摘出術による神経障害の悪化をより客感的に評価するため,システマティックレビューでは次の3 つの報告を採用した。
小児の後頭蓋窩上衣腫(45 例)を対象に,摘出術後の神経障害を後方視的に検討した単施設からの報告14)では,20%に声帯機能低下を認め,24%に嚥下障害のために胃瘻を必要とした。複数回の腫瘍摘出の後に局所放射線治療を施行し,神経障害を前方視的に評価した単施設からの報告11)(0.8~22.7歳,後頭蓋窩のみ96例)では,摘出術後に運動失調55%,外転神経麻痺51%,顔面神経麻痺50%,四肢麻痺40%,嚥下障害39%,体幹失調・筋緊張低下24%を認めた。重篤な障害として歩行障害18%,嚥下障害9%があり,嚥下障害が最も改善しにくく,28%で胃瘻,16%で気管切開を必要とした。治療後60 カ月以上生存した48 例中42 例(87.5%)では神経症状の改善を認めたが,四肢麻痺と運動失調は改善が乏しかった。顔面神経麻痺,構音障害,歩行障害は摘出術後36 カ月まで改善し,その後障害は固定化した。複数回の手術摘出によりGTR は80.2%であったが,摘出度と神経障害の関連は示されていない。摘出術後に神経学的異常を認めなかった例(21%)の大半は腫瘍の外側進展が少ない例であったことから,外側進展が手術摘出における神経障害の危険因子であると推測される。また,水頭症やシャント設置も神経症状出現の危険因子であったとしている。
摘出度と高次脳機能との関連性に関しては,摘出術後に放射線治療を施行し5 年後のQOL を評価した単一施設での前方視的研究の報告15)(1~25 歳,テント上 25例,後頭蓋窩98 例,GTR 82%)がある。摘出度については,肉眼的全摘出をGTR,5 mm 以下の残存腫瘍の場合をnear total resection,5 mm を超える残存腫瘍を認める場合をsubtotal resection と定義している。サブ解析として腫瘍の摘出度とIntelligence Quotient(IQ)の有意な関連性は認められなかったが,集団行動が取れない等の適応行動障害は,subtotal resection 群ではGTR 群やnear total resection 群より単変量解析で有意(p=0.046)に強く認められたとしている。この報告では,後頭蓋窩上衣腫の摘出術後無言症の記載はなく,無言症の高次脳機能への影響は検討されていない。しかし,近年は小脳と高次脳機能との関連が推測されているため,重篤な無言症の発生はQOL を低下させることを認識すべきである。
今回のシステマティックレビューでは,腫瘍の摘出度と神経障害の関連性は明らかではないが,後頭蓋窩上衣腫では第四脳室の外側に進展した場合に,手術摘出による神経障害が発生しやすいことが推測できた。初回の手術摘出であっても,残存腫瘍に対する再手術摘出の場合でも,重篤な神経障害が発生すれば十分な回復は期待できないことを認識し,手術摘出に臨むべきであると思われる。
5.分子分類での摘出度による予後への影響
後頭蓋窩上衣腫は,全ゲノム的な発現プロファイルの違いからPFA とPFB に分けられ,PFA はPFB と比較して有意に予後が不良であることが明らかとなってきた16,17)。PFA とPFBのサブグループで,腫瘍摘出度と予後との関係に注目した前方視的研究の報告はない。今回のシステマティックレビューでは,複数の予後因子が評価されている報告を採用し,摘出度と予後との関係を検討した。
PFA を対象にOS に対する摘出度を含めた複数の予後因子を検討した報告は4 件あり,すべて後方視的研究で少数の成人例を含む報告もある。このうち3 件の報告16-18)ではGTR 群はnon-GTR 群よりも有意にOS が良好で,残り1 件の報告19)では有意差は認めなかった。PFS は上記4 件のすべての報告において,GTR 群がnon-GTR 群よりも有意に良好であった。
PFB を対象にOS に対する摘出度を含む複数の予後因子の解析を行った4 件の後方視的研究がある。このうち2 件の報告18,20)でGTR 群がnon-GTR 群より有意にOS が良好であったが,他の2 件の報告16,17)では両群間で有意差を認めなかった。PFS に関して,1 件の報告18)でGTR 群がnon-GTR 群より有意に良好であったが,他の2 件の報告16,17)では両群間に有意差を認めなかった。
以上から,後頭蓋窩上衣腫をPFA およびPFB に分類して摘出度と予後とを検討すると,両群ともにGTR によるOS・PFS はnon-GTR よりも良好な傾向があると推測できる。しかし,この分類に従って腫瘍の摘出度と予後との関係を検討した報告は少なく,明確な結論を出すことはできない。現状では,後頭蓋窩上衣腫の手術摘出時にリアルタイムでPFA やPFB の分子診断はできないため,重篤な神経障害を呈さない限りGTR を提案する。
6.まとめ
多数の前方視的・後方視的研究における予後因子の解析結果から,小児とAYA 世代の頭蓋内上衣腫に対してはGTR を達成できれば,non-GTR に比べてOS・PFS は改善することが示唆される。エビデンスレベルは高くはないが,手術摘出により重篤な神経症状の悪化が予想される場合を除き,GTR を強く推奨する。また,初回摘出術後に残存腫瘍を認めた場合は,手術摘出による神経障害の悪化を十分に考慮した上で,再摘出手術によりGTR を目指すことを提案する。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((Ependymoma[mh:noexp]OR Ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])))AND((Brain Neoplasms[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial *[tiab]OR intracranial*[tiab]OR ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa[tiab])))AND(((“surgery”[sh]OR “surgery”[tiab]OR “surgical procedures, operative”[mh])OR(“surgical”[tiab]AND “procedures”[tiab]AND “operative”[tiab])))))AND(((infant[mh]OR child[mh]OR adolescent[mh]OR young adult[mh]OR adult[mh:noexp])))))AND 1900/1/1:2019/12/31[dp]))AND((English[la]or Japanese[la]))))NOT Case Reports[pt]
以上の検索式より,一次スクリーニングとして179 文献を抽出した。医中誌の検索による8 文献,およびハンドサーチによる20 文献を加え,188 文献について二次スクリーニングを行い,44 文献について構造化抄録を作成した。最終的にCQ1 では20 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
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課題2:放射線治療
- CQ2
- 3 歳以上の症例に放射線治療は有用か?
- 推奨度1C
- 推奨1
摘出術後に腫瘍が残存した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫の症例に対しては,摘出術後に放射線治療を行うことを推奨する。
- 推奨度2C
- 推奨2
肉眼的に全摘出された退形成性上衣腫の症例に対しては,摘出術後に放射線治療を行うことを提案する。
解説
上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかに関しては,現在まで,本来の結論を導くことができるような十分にデザインされた臨床試験は行われていない。また,上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかを検討した報告1-10)はいくつかあるものの,その結果のみで結論を出すことは難しい。現状では,より若年の症例には放射線治療を避ける試みがなされており,通常診療でも年齢によって治療戦略の立て方が異なっていることが多い。本項では3 歳以上の症例に放射線治療が有用かどうかを,今までの報告から検討した。
放射線治療が有効であるとした報告の中で,比較的症例数が多い,前方視的,などのインパクトのあるものが5 編あった。一つ目は,小児上衣腫の手術と照射の役割を検討することを目的に,1973~2005 年のThe Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)のデータベースから抽出された上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫2,408 例を対象に行った研究1)である。最も強い予後因子は全摘出であり,全摘出例への摘出術後放射線治療の有効性は示されなかった。しかし,部分摘出例では摘出術後に放射線治療を追加することで予後が有意に改善し,摘出術後放射線治療の有効性が示された。最も症例数の多いこの報告からは,限定的ではあるが摘出術後の放射線治療が有効であると考えられる。ただし,対象症例は30 歳未満が30%程度であり,本ガイドラインの対象よりも高い年齢層が多く含まれているという点に注意を要する。2 つ目はSEER データベース(1973~2003 年)から抽出された小児上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫635 例を対象とし,予後因子について検討した研究2)である。年齢と腫瘍発生部位が予後因子として報告された。5 年生存率(5 年OS)はテント上59.5%,後頭蓋窩57.1%,脊髄86.7%であり,解析対象に非常に予後良好な55 例(8.7%)の脊髄原発例が含まれているため,小児頭蓋内上衣腫の予後を規定する因子は年齢のみと考えた方がよいかもしれない。一方で,放射線治療は単変量解析では全体のOS の改善に寄与し,多変量解析でも後頭蓋窩上衣腫のOS の改善に寄与する(5 年OS 57.1% vs. 48.2%)ことが示された。特に後頭蓋窩上衣腫に対する放射線治療の有効性が示されたと結論している。3 つ目は,153 例の小児限局性上衣腫への手術+摘出術後照射の有効性を検討した単施設前方視的臨床研究3)である。対象の年齢中央値は2.9(0.9~22.9)歳であった。研究計画されていた放射線治療はClinical Target Volume(CTV)マージン1.0 cm の局所照射で,1.5 歳未満の全摘例には54 Gy/30 回,それ以外の症例には59.4 Gy/33 回の投与線量が設定されていた。131 例で59.4 Gy,22 例で54.0 Gy の照射が行われた。全体での7 年locoregional control rate(LCR),EFS,OS は87.3%,69.1%,81.0%で,局所再発,遠隔転移の累積発生率は16.3%,11.5%であった。何らかの理由で摘出術後早期に放射線治療をしなかった46 例を除いた107 例の結果は,7 年LCR,EFS,OS は88.7%,76.9%,85.0%で,局所再発,遠隔転移の累積発生率は12.6%,8.6%であった。過去の報告と比較して試験全体の治療成績が比較的良好であったこと,有害事象として脳幹壊死は1.6%と多くなかったことなどから,可及的摘出術後の局所への高線量の放射線治療が重要であると結論している。しかし,本研究のみから,摘出術後に1.5 歳未満児に54 Gy/30 回,それ以外に59.4 Gy/33 回を標準的投与線量としてよいかについては,今後十分な検討が必要である。4 つ目は,フランスでの24 施設の後方視的症例集積研究4)であり,中央値46(18~82)歳の成人上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫の152 例が対象であった。予後因子として摘出度,grade(Marseille),年齢,KPS が示された。放射線治療に関する結果では,Marseille の低Grade(93.8%がWHO grade Ⅱ)の部分摘出の場合にはPFS で有意な有効性があり,OS に関しても有効な傾向を示したが,Marseille の高Grade(90%がWHO grade Ⅲ)の全摘出の場合にはPFS には有効な傾向を示したが,OS に差はなかった。この報告は,本ガイドラインが対象とする年齢層よりも高い年齢層が多く含まれていること,WHO grade Ⅲの症例が28.3%と少ないことなどの注意点があるものの,その結果に関しては,症例限定的ではあるが放射線治療の有効性が示されている。5 番目の報告5)は顕微鏡下手術における平均年齢23(1~75)歳の頭蓋内上衣腫の予後因子を単一施設で後方視的に検討したもので,WHO grade は無増悪生存期間・全生存期間ともに明らかな予後因子であることが認められた。摘出術後の放射線治療に関しては上衣腫全体での放射線治療の有効性は示されなかったものの,退形成性上衣腫で全摘出された症例で最も有効性が高いことが示された。つまり,摘出術後の放射線治療の有効性は上衣腫全体では認めないが,退形成性上衣腫では全摘出であっても追加した方がよいという結果であり,放射線治療の有効性が症例限定的に示された。このように放射線治療は,部分摘出術後・退形成性上衣腫・小児後頭蓋窩腫瘍で有効である可能性が示唆されるが,報告によって有効性が示された群が相反する結果も認められた。
一方で,放射線治療の有効性がないとする少数の報告も認められた。しかし,放射線治療が有効であるとする研究と比較すると,対象症例数が少ない研究が多い。その中でも解析症例数の多い研究に,米国のNational Cancer Database(NCDB)から抽出した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫1,318 例[年齢中央値43(18~54)歳]を対象とした研究6)がある。WHO grade Ⅱ/Ⅲは1,055/263 例,テント上/下は848/470 例で,485 例に亜全摘出/肉眼的全摘出,662 例に摘出術後放射線治療,75 例に化学療法が実施された。その結果,予後因子として年齢,WHO grade,腫瘍サイズ,性別,腫瘍部位が示されたが,放射線治療はWHO grade や摘出度,腫瘍部位を考慮しても生存への寄与は認められなかった。この研究では本ガイドラインで対象としている年齢層より高年齢の症例が多いことに注意が必要であるが,症例限定ではあるが摘出術後の放射線治療の有効性が示されていない報告である。5 つ目の報告は,SEER データベースから全摘出術後のテント上上衣腫を抽出した研究7)である。対象は92 例で,年齢中央値は17.5(1~83)歳であった。結果は,5 年OS 83.2%,10 年OS 71.4%,他因死を除く補正生存率(修正生存率,cause specific survival:CSS)5 年84.1%,10 年CSS 71.4%であった。放射線治療は半数の症例に実施されたが,放射線治療の有無でCSS,OS ともに差を認めなかった。本ガイドラインの対象年齢層より高い年齢が含まれていること,対象がテント上の全摘出された上衣腫に限定されていることに注意が必要である。しかし,本報告も症例限定ではあるが摘出術後の放射線治療の有効性を認めなかった研究の一つである。
これらの結果から,大部分が後方視的検討ではあるものの,残存腫瘍を認める上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫に対する摘出術後放射線治療の有効性は,多くの検討で肯定的な結果であった。摘出術後に腫瘍が残存した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫には放射線治療を追加することで予後が改善すると考えられる。また,肉眼的全摘出された退形成性上衣腫に関しては,摘出術後残存を認める腫瘍ほど肯定的な報告は多くないが,摘出術後に放射線治療を施行した方がOS あるいはPFS を改善するとした報告が散見される。よって退形成性上衣腫の場合には,全摘術後でも放射線治療を行うことを検討すべきである。一方,肉眼的全摘出がなされた上衣腫(WHO grade Ⅱ)に関しては,前述したとおりに相反する報告がそれぞれに散見されることから,画一的に摘出術後の放射線治療の実施の是非を決めることはできず,推奨度を決めるのは難しい。摘出腔周囲の再発時に手術が可能かどうか・年齢・全身状態・腫瘍部位・腫瘍サイズ,分子生物学的情報(現段階ではまだ一般的ではないが組織学的悪性度以外の情報)等を考慮し,症例に応じて判断するのも一法であろう。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((((outcome*[tiab])OR(prognos*[tiab]))OR(impair*[tiab]))OR(late effect*[tiab]))OR(cognitive[tiab]))OR(development*[tiab]))OR(disorder*[tiab]))OR(risk factor*[tiab]))OR(side effect*[tiab]))OR(adverse effect*[tiab]))OR(toxi*[tiab]))OR(damage[tiab]))OR(sequela*[tiab]))AND((((“Ependymoma”[Mesh:NoExp]OR ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])AND(“Brain Neoplasms”[Mesh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR Intracranial*[tiab]OR Ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa*[tiab]))AND(“Radiotherapy”[Mesh]OR “radiotherapy”[Subheading]OR Radiotherapy[tiab]OR Irradiation[tiab]OR reIrradiation[tiab]OR “Proton therapy”[tiab]OR “radiation therapy”[tiab]))AND(1900/1/1:2019/12/31[dp])))NOT(Case Reports[pt])
以上の検索式より,一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ2 では10 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
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- CQ3
- 3 歳未満の症例に放射線治療は有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
3 歳未満の症例に対しては,放射線治療を回避するか,できるだけ長期の開始遅延を目指すことを提案する。
解説
上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかに関しては,現在までこれに答えることができる十分にデザインされた臨床試験は行われていない。特に現状では,より低年齢の症例に対して放射線治療を避ける傾向があり,通常診療でも年齢により異なる方針で治療している施設が多い。本項では3 歳未満の症例に放射線治療が有用かどうかを,今までの報告から検討した。
予後不良と考えられている3 歳未満の症例に放射線治療を行うことで,治療成績が向上するとした前方視研究のサブ解析や比較的症例数の多い後方視的研究などの代表的な報告を提示する。1990~2005 年までのpopulation-based study がカナダから報告1)されている。診断時3 歳未満の悪性脳腫瘍579 例中の上衣腫75 例(13%)が対象であった。後頭蓋窩局在が80%,WHO grade Ⅱが67%,診断時に転移を認めた症例が29%であった。治療は,手術単独23%,摘出術後手術+化学療法37%,手術+放射線治療19%,手術+化学放射線療法21%であった。各治療群の5 年EFS はそれぞれ,22.0%,11.5%,46.2%,64.8%であり,摘出術後に放射線治療を追加された症例群でEFS が長く,化学放射線療法を受けた症例群で最も良好であった。しかし,より年齢の低い症例には摘出術後に化学療法だけが行われていることが多く,より年齢の高い症例には放射線治療を含む治療が行われていたことが多かったことに注意が必要である。この試験は比較試験ではなく,治療ごとの症例背景も異なることから,3 歳未満の症例に摘出術後放射線治療に意義があると結論づけるのは難しい。
SEER のデータベースからの検討結果2)も報告されている。3 歳未満の症例の多くが摘出術後照射を受けておらず,摘出術後照射なしの3歳未満の症例は比較的予後不良であった。一方で,摘出術後照射を受けた症例は他の年齢層の症例と同様の生存率であったことから,3 歳未満の症例にも放射線治療を追加することで腫瘍制御が期待できる可能性が示唆されたが,結論を得るためには今後の臨床試験が望まれる,と結んでいる。
HIT-SKK 87 試験では,登録された3 歳未満の症例についてサブ解析による結果3)が示されている。生存に関する予後良好因子として,摘出術後照射が示された。
Merchant らは2 つの報告4,5)を行っている。双方とも放射線治療の方針は,1.5 歳未満の全摘出例には54 Gy/30 回,それ以外の症例には59.4 Gy/33 回の投与線量が設定されていた。2019 年の頭蓋内限局性上衣腫153 例の単施設前方視的試験の報告5)では,ほとんどの症例に摘出術後に放射線治療が実施されていた。諸家の報告と比較して,3 歳未満の症例の治療成績が比較的良好であったこと,有害事象も脳幹壊死は1.6%と多くなかったことから,3 歳未満の症例についても摘出術後の放射線治療を奨めている。ACNS0121 試験は,Children Oncology Group(COG)による多施設前方視的試験であり,全摘出できたテント上のWHO grade Ⅱの腫瘍は経過観察,部分切除例にはsecond look surgery での全摘出を期待して化学療法が設定された。摘出術後に放射線治療を受けた3 歳未満とそれ以上の年齢の症例のEFS が類似したことから,3 歳未満の症例にも摘出術後に放射線治療を行うことを推奨している。
4 つの独立した後方視研究をまとめた820 例を対象とした報告6)がある。小児の後頭蓋上衣腫について分子生物学的サブタイプ(PFA・PFB)を含めて予後因子解析が行われた。OS に関連した最も強い予後因子はPFA・PFB の分子生物学的サブタイプであり,他に摘出率や摘出術後放射線治療の有無が挙げられた。4 歳以下の後頭蓋例ではPFA が多くを占めていた。PFA で亜全摘の症例は予後不良であり,PFA が多くを占める4 歳以下の症例には放射線治療の追加を推奨している。一方で,若年時に放射線治療を施行した症例には長期的に重篤な影響が残るため,摘出術後早期の放射線治療回避の臨床試験を検討するために,このサブタイプでの治療選択や層別化が重要であるとしている。
このように腫瘍制御のためには,放射線治療は3 歳未満の症例に対する有効性が示唆されているが,明確に摘出術後に放射線治療を施行すべきといえる結果はない。一方で,乳幼児への放射線治療による晩期脳障害は,低年齢になるほど脳の脆弱性が高いため増強してしまう。そのため,乳幼児への放射線治療を遅延あるいは回避させるための臨床試験や臨床研究は少なくない1-10)。
POG が行った介入試験では,3 歳未満の悪性脳腫瘍に対して摘出術後化学療法を行うことで放射線治療の遅延あるいは回避が可能かを検討した7)。1986~1990 年に登録された乳幼児の悪性脳腫瘍症例に放射線治療前の摘出術後化学療法を行った試験で,36 カ月未満の悪性脳腫瘍198 例が対象であった。摘出術後化学療法はCPA+VCR レジメンとCDDP+VP-16 レジメンを繰り返し行い,24 カ月未満の132 例には2 年間の,24~36 カ月の66 例には1 年間の化学療法を行うか,その期間内に病変が進行すれば放射線治療が行われた。全腫瘍の奏効率(CR+PR)は39%で,髄芽腫,悪性神経膠腫,上衣腫の順に高く,脳幹神経膠腫,胎児腫瘍では低かった。PFS は,24~36 カ月児は1 年41%,24 カ月未満児は2 年39%であり,化学療法によるCR 例ではPFS がGTR 例に近い値となった。中枢神経障害はベースラインと1 年後で明らかな低下は示されなかった。化学療法後の放射線治療遅延による認知機能低下も有意に上昇しないことから,肉眼的全摘出例や化学療法でCR を得た症例には放射線治療の遅延が可能であり,症例によっては放射線治療回避も可能と結論している。さらに,同じPOG による化学療法の強化で3 歳未満の小児悪性脳腫瘍に放射線治療の遅延が可能なレジメンがあるか検討した介入試験のサブ解析の報告8)がある。1992 年に開始され338 例が登録された。上衣腫に関しては強化化学療法でもOS の延長は認めなかったが,EFS は改善しており,化学療法の強化により放射線治療を遅延させられる可能性を示唆している。さらに,United Kingdom Children’s Cancer Study Group/International Society of Paediatric Oncology(UKCCSG/SIOP)による3 歳未満の悪性脳腫瘍の患児を対象に,化学療法の強度を高めて放射線治療を回避・遅延させることを目的とした臨床試験(CNS9204 試験)があり,その中のサブ解析の一つに頭蓋内上衣腫を対象とした報告9)がある。結果は,1992~2003 年に89 例が登録され,80 例の限局性頭蓋内上衣腫例のうち化学療法中の増悪で放射線治療が施行されたのは34 例であった。80 例のOS とEFS は3 年で79.3%と47.6%,5 年で63.4%と41.8%であり,比較的多くの症例で放射線療法を回避あるいは遅延させつつ,生存率を損なうことがなかったとしている。まとめとして,3 歳未満の上衣腫では化学療法による放射線治療の回避も重要な役割を果たす可能性があるとしている。
Head Start Ⅲは,放射線治療の遅延や回避の可能性を探究した前方視的臨床試験である10)。強力な化学療法で放射線治療を遅延させることが可能か検討した多施設臨床試験であり,2004~2009 年に登録された10 歳未満の頭蓋内上衣腫を対象とした。この報告の結論は,テント上上衣腫では放射線治療を遅延あるいは回避できる可能性があるものの,後頭蓋窩上衣腫では難しいのではないか,というものであった。
このように,放射線治療により腫瘍制御の可能性は高まるが,放射線治療による脳障害を含む晩期合併症が増加してしまうこともあり,それぞれの研究で相反する結果が生じている可能性がある。放射線治療の有効性を示すことができる十分に良くデザインされた臨床試験は今までないことから,予後不良である3 歳未満の上衣腫に対して摘出術後早期に放射線治療をすべきか,の答えを出すのは現状では難しい。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,CQ2 に記載した検索式による検索を行った(参照)。
一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ3 では10 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Purdy E, Johnston DL, Bartels U, et al. Ependymoma in children under the age of 3 years:a report from the Canadian Pediatric Brain Tumour Consortium. J Neurooncol. 2014;117(2):359-64.[PMID:24532240]
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- Merchant TE, Li C, Xiong X, et al. Conformal radiotherapy after surgery for paediatric ependymoma:a prospective study. Lancet Oncol. 2009;10(3):258-66.[PMID:19274783]
- 5)
- Merchant TE, Bendel AE, Sabin ND, et al. Conformal Radiation Therapy for Pediatric Ependymoma, Chemotherapy for Incompletely Resected Ependymoma, and Observation for Completely Resected, Supratentorial Ependymoma. J Clin Oncol. 2019;37(12):974-83.[PMID:30811284]
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- CQ4
- 全脳全脊髄照射は有用か?
- 推奨度1C
- 推奨1
脊髄播種のない症例に対しては,全脳全脊髄照射を施行しないことを推奨する。
- 推奨度1D
- 推奨2
脊髄播種を有する症例に対しては,全脳全脊髄照射を施行することを推奨する。
解説
頭蓋内上衣腫は髄液播種をきたしやすい腫瘍であり,かつては全脳全脊髄照射を用いられることが多かった。その後は全脳全脊髄照射,全脳照射,後頭蓋窩照射,局所照射,定位放射線照射など照射範囲に関して多彩な方法が報告されてきた1-17)。より望ましい照射範囲を決定するための十分にデザインされたランダム化比較試験や前方視的研究は実施されておらず,現段階では確定的な結論を導くことはできない。
比較的症例数の多い前・後方視的研究で,頭蓋内限局性上衣腫に関する放射線治療の照射範囲について検討した18 の報告1-17)があった。その中で,頭蓋内限局性上衣腫には予防的な全脳全脊髄照射は必要ないであろうと結論した報告1-6,8,9,11-16)が14 と多くを占めていた。
予防的な全脳全脊髄照射は不要と結論した報告の中で,ランダム化比較試験のサブ解析や症例数の多い前・後方視的研究の結果を示す。1974~2006 年にハイデルベルグ大学にて限局性頭蓋内上衣腫57 例に対して摘出術後放射線治療をした後方視的研究4)が報告されている。WHO grade Ⅰ/Ⅱが27 例,grade Ⅲが30 例であった。4 例の粘液乳頭状上衣腫が含まれている。41 例に後頭蓋窩照射,16 例に全脳全脊髄照射が併用され,最終的に腫瘍床に54 Gy/30 回を目指して局所照射が追加された。3 年,5 年全生存率は各々83%,71%で,後頭蓋窩照射併用群と全脳全脊髄照射併用群の間で有意差を認めなかった。5 年局所非再発率と5 年無遠隔転移生存率は後頭蓋窩照射併用群で60%,83%で,全脳全脊髄照射併用群で67%,93%であり,いずれも有意差を認めなかった。全生存に影響する因子として,腫瘍床への投与線量45 Gy 以上が示され,照射範囲よりも局所線量の増加が重要であると結論された。1964~2006 年にフロリダ大学にて限局性頭蓋内上衣腫(44 例)に対して放射線治療を施行した後方視的研究1)の報告もある。上衣下腫,上衣芽細胞腫および再照射例は除外されている。29 例に局所照射が施行され,11 例に全脳全脊髄照射が併用されていた。いずれの方法においても再発形式は95%が局所再発であり,残りの5%は局所再発なしの脊髄播種であった。全脳全脊髄照射を受けた症例は1 例も脊髄への再発を認めなかったが,全生存と無病生存の双方ともに予後因子として放射線治療法は示されず,予防的な全脳全脊髄照射の有用性は認められなかった。まとめると,予防的全脳全脊髄照射の併用により無脊髄播種生存率や脊髄播種出現率は改善されるが,局所照射のみの再発形式も摘出腔周囲の局所かそれに加えて脊髄播種を伴ったものが多く,脊髄播種のみの症例はわずかであった。また他の報告も,照射範囲は全生存期間・無病生存期間の予後因子とはならず1-6,8,9,11,13-16),局所への投与線量が全生存期間・無病生存期間の予後因子である8,12-15)とするものが多い。これらの結果から,頭蓋内限局性上衣腫には,全脳全脊髄照射や全脳照射などの広範囲の照射を行うよりも,局所照射を用いて腫瘍への投与線量増加を目指すのが良いと考えられる。また,これらの報告の中で,脊髄播種を有する頭蓋内上衣腫に関しては治療的全脳全脊髄照射を用いているが,成績は十分とは言えず,より良い治療の開発が待たれるとする報告が多く認められた。
なお,定位放射線治療による報告もみられたが,1 つの報告5)のみで症例数も12 例と少ないため参考程度と考えるべきである。著者らは照射野外の再発率や全生存率が過去の全脳全脊髄照射や後頭蓋窩照射を併用していた時期の結果と大きな違いがないことから,定位放射線治療は許容される治療となるかもしれない,と結んでいる。
以上の結果から,腫瘍局在やWHO grade に関係なく,限局性頭蓋内上衣腫に対しては全脳全脊髄照射や全脳照射などの広い照射範囲は必要とはせず,局所照射が推奨される。一方で,脊髄播種を有する頭蓋内上衣腫には,他の有効な治療がないとの理由もあるが,全脳全脊髄照射が推奨される。なお,3 歳児未満の症例には,別項に記載している通り,症例に応じて判断することになるが,再発時に速やかに放射線治療を実施できる体制を取った上で,化学療法を先行させて放射線治療を遅延させる方法を検討するなど,乳幼児への放射線障害を低減する方法を常に念頭に置くことが重要である。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,CQ2 に記載した検索式による検索を行った(参照)。
一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ4 では17文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Swanson EL, Amdur RJ, Morris CG, et al. Intracranial ependymomas treated with radiotherapy:long-term results from a single institution. J Neurooncol. 2011;102(3):451-7.[PMID:20706771]
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課題3:化学療法
- CQ5
- 化学療法は推奨されるか?
- CQ5-1
- 3 歳以上症例に対して,化学療法は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨1
摘出術後に化学療法を行わないことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
二期的摘出を前提とした化学療法を行うことを提案する。
- CQ5-2
- 3 歳未満症例に対して,化学療法は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
乳幼児に対する放射線治療による晩期合併症を軽減するために,放射線治療時期を遅延させる目的で化学療法を先行することを提案する。
解説
1.診断時3 歳以上症例
化学療法の生存への寄与について直接比較した報告がなく,化学療法の効果に関する情報は非常に限定的である1-5)。一定数以上(20 例以上)の症例を前方視的に収集した報告は4 編しかなく1-4),うち3 編は化学療法を含む治療全体での評価であり,これまでの報告と比べて生存率の向上は得られなかったとしている1-3)。残りの1 編は摘出術後に腫瘍が残存した例で腫瘍の縮小を期待して化学療法を行い,その後,二期的手術で全摘を目指し,その後局所放射線治療を行うという試験である4)。本試験では,摘出術後腫瘍残存例でも化学療法で腫瘍縮小が得られ,二期的手術で全摘することで,初回手術で全摘された症例に匹敵する成績が得られたと報告されている。腫瘍縮小効果については,放射線治療前に化学療法が行われ,奏効が記載されているのは上記の文献のうち2 編の試験であるが,完全および部分奏効が50~60%の症例で認められている3,4)。このように,化学療法で腫瘍が縮小する一群が存在する。効果のあった化学療法はシクロホスファミド(CPA)またはイホスファミド(IFM),エトポシド(VP-16),ビンクリスチン(VCR)併用レジメンまたはこれらにシスプラチン(CDDP)を追加したものである。しかし,腫瘍に対する縮小効果は二期的手術の介入がなければ最終的な生存期間の延長に繋がっておらず,化学療法の有無を直接比較した臨床成績が報告されていない現時点では,化学療法が生存期間延長に直接寄与するかについては明確ではない。
2.診断時3 歳未満症例
乳幼児期の放射線治療への脳の脆弱性を考慮して,放射線治療を回避または遅延させる目的で摘出術後化学療法の有用性についての検討が行われてきた6-13)。しかし,3 歳以上を対象とした上述の試験同様,これまで直接比較する試験が行われていないため,その有用性については明確とは言い難く,これまでのところ,化学療法の実施によって放射線治療を不要とする,または,その時期を3 歳以降まで遅らせることができるかについては,相反する報告がみられる。これには化学療法レジメンの違いなどが影響している可能性がある。化学療法への奏効について記載のある4 編のうち,3 編では30%程度の奏効が報告されており6-8),その中のひとつではテント上発症例の方が奏効した割合が高いと述べている6)。その他の報告のうち,UKCCSG(英国小児がんグループ)/SIOP(欧州小児がんグループ)で行われた試験では施行された化学療法の強度が強い方が予後良好であったとしているほか9),POG(米国小児がんグループ)の強度の異なる2 種類の化学療法レジメンの比較試験では,強度の高いレジメンによる生存期間延長への寄与はなかったものの,2 年無イベント生存率は有意に良好であった10)。なお,これらの試験での放射線治療の適応は,3 歳到達時,化学療法終了時の腫瘍残存例,再発時などさまざまであるが,摘出術後,化学療法を先行させ,一定期間は放射線治療を行わない点は共通している。一方,化学療法の副作用としてPOG の試験では3%程度の化学療法による死亡例が発生し,またUKCCSG/SIOP のレジメンでも死亡例はないものの全例でCTCAE グレード4 の血液毒性が観察されている。
このように,一定以上の強度を有する化学療法には上衣腫に対し抗腫瘍効果があると考えられる。しかし,3 歳以上での報告同様,生存期間延長への寄与は明確ではなく,現時点では,一定期間放射線治療の開始を遅らせるあるいは再発の時期を遅らせる可能性が示唆されるに止まる。したがって,晩期放射線合併症の観点から,化学療法の毒性を理解した上で,放射線治療を摘出術後直ちには行わない場合の選択肢とはなり得る。
3.根拠
1)化学療法の有無による違いの検討
AIEOP(イタリア小児血液がんグループ)のコホート研究では,多分割放射線治療に加え,摘出術後腫瘍残存例(17 例)にのみ,摘出術後化学療法(VCR,CPA,VP-16)を行ったが,化学療法を行わなかった全摘例(46 例)と比べ,無増悪生存率,全生存率とも有意に不良であり,化学療法は予後不良である腫瘍残存例の治療成績を向上させることはできなかった。化学療法関連死亡はなかった3)。また,単一施設での後方視的調査でも摘出術後化学療法[CDDP,VCR,VP-16,CPA,カルボプラチン(CBDCA)]を行った群(17 例)と,化学療法なし群(21 例)では,化学療法群で無増悪生存率が低い傾向が認められた5)。
一方,3 歳以上を対象として腫瘍縮小を得た後に二期的手術で全摘を目指す目的で,摘出術後残存腫瘍のある例にのみ放射線治療前化学療法(VCR,VP-16,CDDP,CPA)を実施した米国小児がんグループ(COG)のコホート研究がある4)。摘出術後腫瘍残存化学療法実施41 例と,全摘出43 例(補助療法は放射線治療のみ)の5 年無増悪生存率,全生存率ともそれぞれ約50%と70%と,一般的には腫瘍残存例の方が予後不良にもかかわらず差がなかった。しかし,化学療法の恩恵を受けたのは,化学療法で腫瘍縮小が得られ二期的手術で90%以上の腫瘍摘出が可能であった例に限られた。
このように,化学療法が直接生存に寄与していることを示す情報はなく,化学療法の役割は,残存腫瘍の全摘を可能とするために,残存腫瘍を縮小させることに留まり,あくまで二期的摘出を前提とした場合のみに考慮してよい。なお,化学療法奏効率は50%程度であり,COG のコホートでは化学療法関連死は2.4%であった4)。
2)化学療法の内容・投与法についての検討
これまで化学療法についてのランダム化比較試験は3 編あるが,化学療法の有無ではなくレジメンの比較を目的とするものである。うち1 編は放射線治療を併用した上での化学療法レジメンの比較で,VCR,CCNU,プレドニゾロン群(14 例)と,8-drug in-1 レジメン(18 例)を比較した。5 年無増悪生存率,全生存率ともに差はなかった。化学療法死が1 例に認められている1)。
他の2 編は3 歳未満の小児悪性脳腫瘍を対象とした非照射での化学療法レジメンの比較であり,その中に含まれる上衣腫のサブ解析である。CCG では摘出術後寛解導入化学療法としての,レジメンA(VCR,CDDP,CPA,VP-16)(35 例)とレジメンB(VCR,CBDCA,IFM,VP-16)(39 例)に74 例を割り付けたが,奏効率,無増悪生存率に差はなかった7)。また,POG の試験では化学療法(CPA,VCR,CDDP,VP-16)の用量の違いの比較であったが,1.8 倍へ投与量を増やすことで無増悪生存率は改善したが(p=0.0062),全生存率は改善しなかった。WHO grade Ⅲのみを対象とすると,1.8 倍投与+放射線治療群で全生存率が良く,標準投与量(放射線の有無にかかわらず)や放射線なし(化学療法の量にかかわらず)より優れていた10)。
ランダム化比較試験ではないが,3 歳未満上衣腫に対する非照射での化学療法を実施したUKCCSG/SIOP の試験がある。化学療法は約1 年間繰り返すが,実際に投与された抗がん剤の用量と予後との関係を後方視的に検討したところ,用量が多いほど治療成績は良好であった9)。
以上のように,化学療法の有用性が明らかではない状況での化学療法レジメンの検討であるが,4 編中,3 歳未満を対象とした2 編では予後と抗がん剤の用量とに弱いながらも関係がみられた。これらの試験では,化学療法関連死亡が0~10%で観察された。
3)自家造血幹細胞移植併用大量化学療法に関する報告
WHO grade Ⅲのみ,テント上下発症例を対象とした研究がある。摘出術後29 例に寛解導入療法(CDDP,VCR,VP-16,CPA,メトトレキサート:MTX),地固め療法(CBDCA,ThioTEPA,VP-16)を施行,放射線は3 歳以上の後頭蓋例のすべてとテント上の残存例,3 歳未満(35 カ月以下)の残存例に併用した。5 年無増悪生存率が12%,5 年全生存率が38%であり,過去の報告と比べ明らかな予後改善・延命効果はなく,逆に化学療法関連死が10.3%で認められた8)。
4)化学療法と放射線治療の順に関する報告
3 歳以上のWHO grade Ⅲ,テント上下例を対象とした報告がある。1990 年まではIFM,VP-16,MTX,CDDP,シタラビン,1991 年以降はCDDP,CCNU,VCR を使用し,放射線前化学療法2 コース先行の40 例と放射線後化学療法15 例を検討した。3 年無増悪生存率はともに60%台と差はなかった2)。
5)テント上下で化学療法の有効性の違いを記述した報告
WHO grade ⅡとⅢを対象としたコホート研究がある。摘出術後残存腫瘍19 例に対しCDDP,VP-16,CPA,MTX,テモゾロミド(TMZ),CBDCA を自家造血細胞移植併用で使用した。テント上では全8 例で完全奏効が得られ,再発は1 例で3 年全生存率は100%であったが,後頭蓋窩では完全奏効が11 例中4 例,再発が8 例で3 年全生存率は73%と低かった。以上より,後頭蓋窩では放射線治療が必要であると結論している。対象者に化学療法死はなく,一過性の副作用のみを(発生率記載なし)認めた6)。
6)乳幼児例での化学療法による放射線治療実施時期遅延に関する報告
乳幼児例(3~4 歳以下)で脳の脆弱性による放射線晩期合併症について,化学療法を先行させることで,摘出術後放射線治療を遅延または回避できないかを検証した試験が複数存在する。
その中で,最も症例数の多いものとして,3 歳以下(47 カ月以下)のWHO grade ⅡとⅢ,テント上下の89 例を対象とし,摘出術後VP-16,CBDCA,MTX,CPA,CDDP を含む化学療法を約1 年間実施,進行時のみに放射線治療を行った試験(UKCCSG/SIOP)では,転移のない80 例の5 年間累積非照射率42%,5 年無イベント生存率と全生存率はそれぞれ41.8%と63.4%,放射線治療実施年齢中央値3.6 歳であった。また,全摘例とそれ以外の例とで生存率の差はなかった。以上より,化学療法により照射時期の遅延は可能と結論している。化学療法関連死亡は観察されなかった9)。
この他にも小規模ながら主なものとして8 件の報告がある。多くは放射線治療は化学療法終了時の腫瘍残存例または進行時としており,3~4 年無イベント生存率0~30%,全生存率50%前後である6-8,10-13)。これらの試験に含まれる予後良好であるテント上発症例,全摘例,WHO grade Ⅱ例の割合には大きな差はないが,用いられている化学療法はさまざまである。前述のPOG,UKCCSG/SIOP の試験では化学療法の強度が成績に影響することを示唆している9-11)。
- 注意:
- 我が国では上衣腫に適応のある薬剤はないが,ビンクリスチン,シスプラチン,エトポシド,チオテパなどは適応症として小児悪性固形腫瘍がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((Ependymoma[mh:noexp]OR Ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])AND(Brain Neoplasms[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR intracranial*[tiab]OR ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa[tiab]))AND(“drug therapy”[sh]OR “Antineoplastic Agents/therapeutic use”[mh]OR “Antineoplastic Agents”[PA]))AND(“Adolescent”[mh]OR “Adult”[mh:NoExp]OR “Young Adult”[mh]OR “Child”[mh]OR “Infant”[mh]))AND((“2017/01/01”[Date-Publication]:“2019/12/31”[Date-Publication])))AND((English[Language])OR(Japanese[Language])))NOT(Case Reports[Publication Type])
以上の検索式より,一次スクリーニングとして293 文献を抽出し,24 文献の二次スクリーニングを行った後,13 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ5 では13 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
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- Robertson PL, Zeltzer PM, Boyett JM, et al. Survival and prognostic factors following radiation therapy and chemotherapy for ependymomas in children:a report of the Children’s Cancer Group. J Neuro Surg. 1998;88(4):695-703.[PMID:9525716]
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- Garvin JH Jr, Selch MT, Holmes E, et al;Children’s Oncology Group. Phase Ⅱ study of pre-irradiation chemotherapy for childhood intracranial ependymoma. Children’s Cancer Group protocol 9942:a report from the Children’s Oncology Group. Pediatr Blood Cancer. 2012;59(7):1183-9.[PMID: 22949057]
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課題4:再発時の治療
- CQ6
- 再発時の適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨1
再手術:再発時に再摘出術を行うことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
放射線治療:再発時に再照射を行うことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨3
化学療法:再発時に化学療法は行わないことを提案する。
解説
25 歳以下の再発上衣腫117 例の予後に関するシステマティックレビューが報告されている。総じて,初回再発からの無増悪生存期間は6.7 カ月,再発からの生存期間は11.2 カ月と予後不良であった。その内訳は,再発後の全生存期間は,テント上と後頭蓋窩で,それぞれ8.3,20.1 カ月であった。再発時の治療別の診断後からの全生存期間は手術24.2 カ月,放射線治療29.2 カ月,化学療法19.3 カ月であった。また,年齢別では3 歳以下31.0 カ月,3 歳以上17.5 カ月であった1)。再発時の治療は,経過観察,手術,放射線治療,化学療法単独もしくはこれらの併用が選択され得る2)。本CQ の注意点として,照射未施行症例は除外されている点に注意されたい。照射未施行の症例の再発時には,照射前の残存腫瘍として考えるべきであり,照射以外に手術摘出も考慮する必要がある。
1.再手術
再発上衣腫に対する再手術は無益とは言えない。再発時に再手術のみを行ったエビデンスレベルの高い報告は限られた。再発後の再手術された17 例中,全摘出を達成された12 例の5 年生存割合が58%3)であり,再発腫瘍に対して再摘出が行われた57 例のメタ解析4)では全摘出群と部分摘出群の5 年生存割合は,それぞれ44%と23%であった。しかし,機能温存のために初回手術で全摘出が不可能であったならば,再手術も困難である5)。したがって,QOL を維持・向上できるかどうか,適応を検討の上,症例を選択する6)。
2.放射線治療
再発時の再照射に関しては,症例背景が不揃いで不十分な期間の観察研究しかない制限があり,エビデンスレベルの高い報告は限られる。再発上衣腫に対する再照射は否定されないが,適応については放射線治療医と十分に検討した方がよい7)。
268 例の小児再発上衣腫に対する再照射について11 編の論文をまとめた総説によると,再発後は摘出術と放射線治療が望ましく,もし初回放射線後12 カ月未満の再発であれば30.6 Gy/17 fr,12 カ月以上経過しているようであれば36 Gy/20 fr が望ましいと述べている8)。最近,全脳脊髄照射(CSI)の有用性も報告されるようになってきた。遠隔転移のある症例9 例においては,2 年無増悪割合12.5%,2 年生存割合62.5%であった。例え局所再発であってもCSI(1.8 Gy 分割で23.4~36 Gy の全脊髄照射に,腫瘍床に54~59.4 Gy を照射)を行った結果,5 年無増悪生存割合が83.3%に対して,局所照射のそれは15.2%に留まったと報告されている9)。
CSI の毒性についても十分考慮しなければならない。Bouffet らは,再発上衣腫に対する54 Gy の最大線量による局所もしくは59.4 Gy のCSI の毒性と予後の評価を行った。113 例中再発した47 例のうち再照射した18 例(年齢0.8~8.9 歳,テント上4 例,後頭蓋窩14 例)を評価した。初回手術全摘・亜全摘17 例,部分摘出1 例で,初発時放射線治療単独群11例,放射線+化学療法群7 例であった。その結果,追跡期間中央値2.1 年間(0.7~5.8 年)で,3 年生存割合は再照射なし群(7%±6%)と比較して,再照射あり群で81%±12%(p<0.0001)と有意に高く,また再照射後から再発までの期間は最初の再発までの期間より有意に長かった。一方で,高次脳機能評価を行った7 例全例で,高次脳機能評価項目すべてにおいて低下を認めた。平均3.7 年間で18 例中2 例が内分泌異常を呈し,1 例が特別支援教育を要した。
一方で,定位的放射線手術(SRS)による腫瘍の局所制御の有用性の報告もある10)。Stauder らは,再発頭蓋内上衣腫に対するSRS の腫瘍制御率および合併症率を明らかにすることを目的とし,26 例(49 病変;テント上31 病変,後頭蓋窩18 病変)におけるOS, PFS, LCR,放射線脳壊死の発生率を後方視的に評価した。各病変に対するmedian marginal dose は18Gy(12~24 Gy)であった。生存期間中央値はSRS 後5.5 年,無増悪生存期間中央値は14.7 カ月(2.9 カ月~11.2 年)であった。1 年生存割合96%,3 年生存割合69%であった。7 例(27%)に遠隔腫瘍再発を認めた。照射範囲によるものの2 例(8%)に症候性放射線壊死を認めた。SRS は比較的短期の局所制御率が良好であり,短期的には生存率を上げる可能性がある11)。12 例17 病変に対してSRS を実施し,3 年間で68%において良好な局所コントロールが得られたという2000 年のStafford らの報告を裏付けた12)。以上より,比較的短期での観察結果しかなく,また放射線壊死を伴う例があるが,SRS は考慮してもよい。
3.化学療法
1995 年以前は,テント上下の再発悪性小児脳腫瘍を対象に化学療法の有効性が検討されていた。症例数は少ないが,その一部に再発上衣腫が含まれており,ここでは,再発上衣腫の結果を抜粋する。1984 年にPediatric Oncology Group(POG)より,ビンクリスチン+プロカルバジン+プレドニンとナイトロジェンマスタードを上乗せしたレジメンを比較検討したランダム化比較試験の結果が報告された。評価を受けた再発上衣腫10 例のうち,CR,PR はそれぞれ1 例であった。また,ナイトロジェンマスタードを上乗せした群では高い毒性を認めた13)。
その後,白金製剤もしくはアルキル化剤を基軸とする化学療法が試された。5 例の再発上衣腫に対してビンクリスチン,シスプラチンもしくはカルボプラチン,CCNU,エトポシド,ブレオマイシン併用による治療の症例報告が行われたが,CR+PR は1 例のみで,PD が3 例であった14)。また,2005 年にイタリアのグループから報告された成人再発上衣腫28 例での後方視的研究では,白金製剤の有無で有効性が比較されたが,シスプラチンを含むレジメンでも全生存期間,無増悪生存期間に有意差はみられなかった15)。アルキル化剤においては,1993 年にFrench Society of Pediatric Oncology(SFOP)がイホスファミド単剤の第Ⅱ相臨床試験の結果を報告し,8 例中CR 0 例,PR 1 例,OR+SD 5 例,PD 2 例であった16)。チオテパに関連する検討としては,高用量ブスルファン(150 mg/m2/day)+チオテパ(150 mg/m2/day)+自家骨髄移植に腫瘍部照射(45~55 Gy)を行った報告がある。8 例中3 例のCR 症例が認められたものの,1 例の治療合併症死亡例があり,消化管と粘膜障害などの毒性も多く認められ,治療効果に比し毒性が高かった17)。テモゾロミドについては,再手術,再照射を行っても再増悪した18 例の成人再発上衣腫に対して投与された。22%の奏効割合(CR+PR)が報告されている18)が,過去に白金製剤などを含む化学療法が行われた例には有効性を認めなかった19)。2007 年にChildren’s Oncology Group(COG)が第Ⅱ相試験を行い,12 例中SD 5 例,他7 例は7 コースまでにPD になった20)。
その他の薬剤としては,エトポシドの効果検討がなされ,観察後7 カ月の段階で,2 例でPR,4 例でSD であった21)。
以上より,薬剤の有効性が乏しいことから,現状で推奨できるレジメンはない。少数例で化学療法に反応することがあるが,頻度は低く,また効果があっても生存期間の延長につながることは少ないため,化学療法は行わないことを提案する。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((“Ependymoma”[mh:NoExp]OR ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab]))AND((“Brain Neoplasms”[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR Intracranial*[tiab]OR Ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa*[tiab])))AND((“Recurrence”[mh]OR Recurren*[tiab]OR Neoplasm, Residual[mh]OR Neoplasm Recurrence, Local[mh]OR relaps*[tiab]OR Regrowth[tiab]))))AND((“Infant”[mh]OR “Child”[mh]OR “Adolescent”[mh]OR “Young Adult”[mh]OR “Adult”[mh:NoExp]))))AND 1900/1/1:2016/12/31[dp])))AND((Japanese[la]OR English[la]))))NOT case reports[pt]
以上の検索式より,一次スクリーニングとして250 文献を抽出し,194 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ6 では21 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Byer L, Kline CN, Coleman C, et al. A systematic review and meta-analysis of outcomes in pediatric, recurrent ependymoma. J Neurooncol. 2019;144(3):445-52.[PMID:31502040]
- 2)
- Acquaye AA, Vera E, Gilbert MR, et al. Clinical presentation and outcomes for adult ependymoma patients. Cancer. 2017;123(3):494-501.[PMID:27679985]
- 3)
- Vinchon M, Leblond P, Noudel R, at al. Intracranial ependymomas in childhood:recurrence, reoperation, and outcome. Childs Nerv Syst. 2005;21(3):221-6.[PMID:15599561]
- 4)
- Zacharoulis S, Ashley S, Moreno L, et al. Treatment and outcome of children with relapsed ependymoma:a multi-institutional retrospective analysis. Childs Nerv Syst. 2010;26(7):905-11.[PMID:20039045]
- 5)
- Rudà R, Reifenberger G, Frappaz D, et al. EANO guidelines for the diagnosis and treatment of ependymal tumors. Neuro Oncol. 2018;20(4):445-56.[PMID:29194500]
- 6)
- Barrer SJ, Schut L, Sutton LN, et al. Re-operation for recurrent brain tumors in children. Childs Brain. 1984;11(6):375-86.[PMID:6510045]
- 7)
- Bouffet E, Hawkins CE, Ballourah W, et al. Survival benefit for pediatric patients with recurrent ependymoma treated with reirradiation. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012;83(5):1541-8.[PMID:22245198]
- 8)
- Tsang DS, Laperriere NJ. Re-irradiation for Paediatric Tumours. Clin Oncol(R Coll Radiol). 2019;31(3):191-8.[PMID:30385005]
- 9)
- Tsang DS, Murray L, Ramaswamy V, et al. Craniospinal irradiation as part of re-irradiation for children with recurrent intracranial ependymoma. Neuro Oncol. 2019;21(4):547-57.[PMID:30452715]
- 10)
- Regnier E, Laprie A, Ducassou A, Bet al. Re-irradiation of locally recurrent pediatric intracranial ependymoma:Experience of the French society of children’s cancer. Radiother Oncol. 2019;132:1-7.[PMID:30825956]
- 11)
- Stauder MC, Ni Laack N, Ahmed KA, et al. Stereotactic radiosurgery for patients with recurrent intracranial ependymomas. J Neurooncol. 2012;108(3):507-12.[PMID:22437346]
- 12)
- Stafford SL, Pollock BE, Foote RL, et al. Stereotactic radiosurgery for recurrent ependymoma. Cancer. 2000;88(4):870-5.[PMID:10679657]
- 13)
- Cangir A, Ragab AH, Steuber P, et al. Combination chemotherapy with vincristine(NSC-67574), procarbazine(NSC-77213), prednisone(NSC-10023)with or without nitrogen mustard(NSC-762)(MOPP vs OPP)in children with recurrent brain tumors. Med Pediatr Oncol. 1984;12(1):1-3.[PMID:6546602]
- 14)
- Douek E, Kingston JE, Malpas JS, et al. Platinum-based chemotherapy for recurrent CNS tumours in young patients. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1991;54(8):722-5.[PMID:1940946]
- 15)
- Brandes AA, Cavallo G, Reni M, et al. A multicenter retrospective study of chemotherapy for recurrent intracranial ependymal tumors in adults by the Gruppo Italiano Cooperativo di Neuro-Oncologia. Cancer. 2005;104(1):143-8.[PMID:15912507]
- 16)
- Chastagner P, Sommelet-Olive D, Kalifa C, et al. Phase Ⅱ study of ifosfamide in childhood brain tumors:a report by the French Society of Pediatric Oncology(SFOP). Med Pediatr Oncol. 1993;21(1):49-53.[PMID:8381203]
- 17)
- Grill J, Kalifa C, Doz F, et al. A high-dose busulfan-thiotepa combination followed by autologous bone marrow transplantation in childhood recurrent ependymoma. A phase-Ⅱ study. Pediatr Neurosurg. 1996;25(1):7-12.[PMID:9055328]
- 18)
- Ruda R, Bosa C, Magistrello M, et al. Temozolomide as salvage treatment for recurrent intracranial ependymomas of the adult:a retrospective study. Neuro Oncol. 2016;18(2):261-8.[PMID:26323606]
- 19)
- Chamberlain MC, Johnston SK. Temozolomide for recurrent intracranial supratentorial platinum-refractory ependymoma. Cancer. 2009;115(20):4775-82.[PMID:19569246]
- 20)
- Nicholson HS, Kretschmar CS, Krailo M, et al. Phase 2 study of temozolomide in children and adolescents with recurrent central nervous system tumors:a report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2007;110(7):1542-50.[PMID:17705175]
- 21)
- Chamberlain MC. Recurrent intracranial ependymoma in children:salvage therapy with oral etoposide. Pediatr Neurol. 2001;24(2):117-21.[PMID:11275460]
6 章 髄芽腫 medulloblastoma
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
橋本 直哉
京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科
総括
委員
白土 博樹
北海道大学医学部病態情報学講座 放射線医学分野/放射線科
放射線治療
協力委員
溝脇 尚志
京都大学大学院医学研究科 放射線腫瘍学・画像応用治療学/放射線科
放射線治療
委員
若林 俊彦
名古屋共立病院 集束超音波治療センター/脳神経外科
外科的治療
協力委員
坂本 博昭
大阪市立総合医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
協力委員
高橋 義信
京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
協力委員
原 純一
京大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児血液腫瘍科/小児科
予後予測因子・化学療法
委員
寺島 慶太
国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科/小児科
化学療法
協力委員
山本 哲哉
横浜市立大学医学研究科 脳神経外科/脳神経外科
再発治療
委員
中村 英夫
久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
再発治療
協力委員
五味 玲
自治医科大学 とちぎ子ども医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科
晩期障害
委員
隈部 俊宏
北里大学医学部 脳神経外科性/脳神経外科
他のガイドラインとの整合
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
1
外科的治療
橋本 直哉
高橋 義信
小川 隆弘(京都府立医科大学 脳神経外科)
寺川 雄三(北海道大野記念病院 脳神経外科)
2
神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
原 純一
寺島 慶太
山崎 夏維(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
奥廣 有喜(名古屋大学大学院 医学系研究科 分子細胞免疫学分野)
3
放射線治療
溝脇 尚志
白土 博樹
宇藤 恵(京都大学医学部附属病院 放射線治療科)
森 崇(北海道大学病院 放射線治療科)
出水 祐介(兵庫県立粒子線医療センター 附属神戸陽子線センター 放射線治療科)
河村 淳史(兵庫県立こども病院 脳神経外科)
4
陽子線治療
5
化学療法
寺島 慶太
原 純一
山崎 夏維(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
奥廣 有喜(名古屋大学大学院 医学系研究科 分子細胞免疫学分野)
木村 由衣(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科)
吉村 聡(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科)
津村 悠介(名古屋大学医学部附属病院 小児科)
6
再発時の治療
山本 哲哉
中村 英夫
井原 哲(東京都立小児総合医療センター 脳神経外科)
広川 大輔(神奈川県立こども医療センター 脳神経外科)
三宅 勇平(横浜市立大学附属病院 脳神経外科)
牧野 敬史(熊本市立熊本市民病院 脳神経外科)
黒田 順一郎(熊本大学 脳神経外科)
7
治療による晩期障害
五味 玲
五味 玲(自治医科大学 とちぎ子ども医療センター 小児脳神経外科)
室井 愛(筑波大学 脳神経外科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
髄芽腫に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,髄芽腫患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された13 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにガイドライン作成ワーキンググループがシステマティックレビュー(SR)チームの責任者となり,責任者よりSR 委員を選出してもらい,各課題2~5 名で編成した。髄芽腫が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2016 年2 月,髄芽腫ガイドライン第1 回会議を開催し,ガイドライン作成ワーキンググループが発足。課題をどのようにするか討議し各課題のリーダーを決定した。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2017 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014 に準拠した方法により行った。稀少疾患であるためエビデンスが少なく,Minds に準拠した方法の適用が困難な場面に遭遇したが,論議しながら完成に向かった。
ガイドライン作成ワーキンググループ会議:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会の開催に合わせて,ガイドライン作成ワーキンググループ会議を行った。その後,2020 年5 月からは月1 回のガイドライン作成ワーキンググループ(オンライン)会議を計15 回行った。2021 年5 月11 日のガイドライン作成ワーキンググループ会議で各CQ における推奨グレードの決定を行った。
推奨作成とその過程:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,メールおよびオンライン会議で討議した。推奨グレードに関しては髄芽腫ガイドライン作成ワーキンググループ委員およびSR チームの24 名にて投票を行い,ガイドライン作成ワーキンググループ内における推奨グレードをまず決定し,最終的に2022 年1 月14 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会にて統括委員の投票により推奨を承認した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年9 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
主に小児の小脳虫部ないしは脳幹背側に好発する胎児性の神経上皮性腫瘍である。病理学的に,核異型と核分裂像に富む未分化な小型円形の腫瘍細胞が高密度に配列して構成される1)。①発生部を中心に局所に浸潤性に発育し,②全中枢神経系に髄液腔内播種を早期にきたし,③腫瘍の進行とともに血行性に遠隔転移を示す。腫瘍名の由来は,中枢神経系の発生において未分化神経管上皮細胞が神経細胞とグリア細胞へ分化する前の髄芽細胞medulloblast を概念上想定し,その腫瘍型を髄芽腫(medulloblastoma)と命名したところにある(Bailey and Cushing)2)。現在では発生起源は胎生期の上・下髄帆にある外顆粒細胞や上衣下基質細胞とされるが結論には至っていない。小脳虫部の下半部から第4 脳室に発育・浸潤することが最も多く,小脳半球に主座を置くこともある。
1)疫学
WHO 脳腫瘍分類20161)によると,胎児性脳腫瘍のうち最も頻度が高く,小児脳腫瘍では星細胞系腫瘍に次いで多く,25%程度の頻度と記載されている。小児100 万人あたりの年間発生数は6 例程度である。また,髄芽腫を含む胎児性腫瘍の年齢調整罹患率は,人口10 万人あたり米国0.24 人,日本0.14 人と米国で罹患率が高い3)。
我が国の脳腫瘍全国集計調査報告 第14 版(2005-2008)4)によれば,原発性脳腫瘍の1.0%を占め,14 歳以下の小児期脳腫瘍の10.1%を占める。小児期脳腫瘍のうちでは膠芽腫を含む星細胞系腫瘍(23.3%),胚細胞性腫瘍(14.7%)についで3 番目の頻度である。我が国では年間約100~120 人が新規に診断されていると推定される。好発年齢は14 歳以下が全体の78%程度を占めており,特に2~9 歳に好発する。男性にやや多い。成人発生は国内では約15%で,その約80%は21~40 歳に発生する。小児例と比較すると,小脳半球に発生することが多い。
2)臨床症状と画像所見
頭蓋内圧亢進症状が約半数と最も多く,頭痛,局所巣症状,脳神経麻痺などを呈する4)。第4 脳室を占拠し閉塞性水頭症をきたし,頭痛のほかに不機嫌,嘔気,嘔吐,意識障害を契機に診断される。体幹や四肢の失調も起こりやすい。
CT では境界が明瞭な等~高吸収域を示し,一様に強い造影効果を示すことが多いが,低吸収で造影効果を示さないもの,囊胞様変化を含むもの,石灰化を含む場合などもある。MRI ではT1 強調画像で低~等信号,T2 強調画像では等~高信号域を示すことが多く,T1 低信号・T2 高信号の小囊胞が散在し,全体として不均一な様相を呈する5-7)。ガドリニウム(Gd)造影では中等度から高度に造影増強されることが多いが,軽度造影されるものからほとんど造影されないものも10%程度存在する。造影増強効果は不均一(heterogenous)なことが多い。どの断面でも境界明瞭,ほぼ円形に描出される。診断時に大脳,脊髄に播種が認められる症例もある。
3)病理組織分類と分子生物学的知見(WHO 脳腫瘍分類2016)
2016 年のWHO 脳腫瘍分類1)では,古典的な髄芽腫(classic type)のほかに,3 種の亜型①desmoplastic/nodular medulloblastoma,②medulloblastoma with extensive nodularity,③large cell/anaplastic medulloblastoma が記述されている(表1)。
また,近年では遺伝子変異に基づいた分子生物学的4 型分類が提唱され8,9),予後との相関性の観点から2016 年のWHO 分類にも取り入れられた。これは当初WNT 遺伝子変異群,sonic hedgehog(SHH)遺伝子変異群,group 3,group 4 とされたが,group 3 と4 の種別が不十分であるとの判断から,WHO 分類ではまずWNT 群,SHH 群,non-WNT/non-SHH 群の3 群に分け,SHH 群はTP53 遺伝子変異の有無にて予後が大きく異なるため,さらに2 群に分けることとしている(表1)。
乳幼児(<3 歳),小児(3~17 歳)および成人(18 歳以上)という年齢区分に留意しつつ概略を述べると,WNT 群は80%が小児期症例であり,90%以上がclassic type を示す。予後が大変良好であり,10 年生存率はほぼ100%に近い。
SHH 群は,ほかに比較して男女差がなく全年齢層に均等に分布,病理組織ではclassic type とdesmoplastic/nodular type が多い。予後はWNT 群に次いで良好であるが,小児期症例では50%にTP53 変異を認め,そのうちの半数以上でgermline でもTP53 変異があり,これらの予後は不良である。
Group 3 は男性が女性のほぼ2 倍であり,70%が小児期に発生する。明らかに予後不良で5 年生存率は50~60%である。ほとんどがclassic type であるが,large cell/anaplastic medulloblastoma の比率や診断時の転移/播種率が最も高い。
Group 4 は最も頻度が高く(40%前後),病理組織ではclassic type がほとんどである。男性がほぼ3 倍,小児期に85%が発生し,5 年生存率は70%程度で,乳幼児期の治療成績が悪い。
今後はこれらの知見10,11)に基づいた臨床試験が行われ,外科的治療・放射線治療・化学療法の有効性が分子亜型ごとに示され変化していく可能性がある。本ガイドラインで取り上げた臨床試験や症例報告の多くは,上記の分子生物学的知見は考慮されたものでないことに注意する必要がある。
4)治療と予後
本腫瘍の治療は集学的治療(手術摘出と化学放射線療法)が原則であり,予後は治療法の発展により改善し,5 年生存率は50~70%となっている3,4)。すでに述べたように,乳幼児(<3 歳),小児(3~17 歳)および成人(18 歳以上)で各々の病態が異なり,組織型,分子生物学的分類,手術摘出度,播種などが予後に相関があると考えられているため,これらの特徴を踏まえて治療計画が立案される。臨床的には,年齢,播種の有無,摘出量からの臨床リスク分類が用いられる12-16)。すなわち,①診断時の年齢が3 歳未満,②術後のMRI における残存腫瘍面積が1.5 cm2以上,③髄腔内播種所見あり,により高リスク群(high-risk group)と標準リスク群(average-risk group)に大別する。標準リスク群は①~③のいずれにも該当しないグループ,高リスク群は①~③のいずれかに該当するグループとなる。さらに①の3 歳未満の症例では当面の放射線治療(RT)を回避する治療計画が立てられる(表2)。
5)診療の全体的な流れ
術前診断では,後頭蓋窩発生の上衣腫や毛様細胞性星細胞腫,atypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)との鑑別が難しい例がある。小脳半球に発生した場合,他のグリオーマ系腫瘍との鑑別が問題となる。
術前診断後に,合併する水頭症に対する緊急の処置が必要な例がある。
摘出後の治療方針に関しては,臨床リスク分類に応じて化学療法と放射線治療を組み合わせた治療を行う。このうち,3 歳未満群では放射線治療を極力回避し,化学療法を選択する。
❖ 文献
- 1)
- Louis DN, Ohgaki H, Wiestler OD, et al. WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System. Lyon, International Agency for Research on Cancer, 2016.
- 2)
- Bailey P, Cushing H. A Classification of Tumors of the Glioma Group on a Histogenetic Basis with a Correlated Study of Prognosis. Philadelphia:Lippincott;1926.
- 3)
- Ostrom QT, Cioffi G, Gittleman H, et al. CBTRUS Statistical Report:Primary Brain and Other Central Nervous System Tumors Diagnosed in the United States in 2012-2016. Neuro Oncol. 2019;21(Suppl 5):v1-v100.[PMID:31675094]
- 4)
- The committee of Brain Tumor Registry of Japan:Report of Brain Tumor Registry of Japan(2005-2008)14th ed. Neurol med Chir(Tokyo). 2017;57(Suppl 1):9-102.
- 5)
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- 6)
- Bühring U, Strayle-Batra M, Freudenstein D, et al. MRI features of primary, secondary and metastatic medulloblastoma. Eur Radiol. 2002;12(6):1342-8.[PMID:12042937]
- 7)
- Perreault S, Ramaswamy V, Achrol AS, et al. MRI surrogates for molecular subgroups of medulloblastoma. AJNR Am J Neuroradiol. 2014;35(7):1263-9.[PMID:24831600]
- 8)
- Northcott PA, Jones DT, Kool M, et al. Medulloblastomics:the end of the beginning. Nat Rev Cancer. 2012;12(12):818-34.[PMID:23175120]
- 9)
- Taylor MD, Northcott PA, Korshunov A, et al. Molecular subgroups of medulloblastoma:the current consensus. Acta Neuropathol. 2012;123(4):465-72.[PMID:22134537]
- 10)
- Kool M, Korshunov A, Remke M, et al. Molecular subgroups of medulloblastoma:an international meta-analysis of transcriptome, genetic aberrations, and clinical data of WNT, SHH, Group 3, and Group 4 medulloblastomas. Acta Neuropathol. 2012;123(4):473-84.[PMID:22358457]
- 11)
- Gajjar A, Bowers DC, Karajannis MA, et al. Pediatric Brain Tumors:Innovative Genomic Information Is Transforming the Diagnostic and Clinical Landscape. J Clin Oncol. 2015;33(27):2986-98.[PMID:26304884]
- 12)
- Chang CH, Housepian EM, Herbert C Jr. An operative staging system and a megavoltage radiotherapeutic technic for cerebellar medulloblastomas. Radiology. 1969;93(6):1351-9.[PMID:4983156]
- 13)
- Albright AL, Wisoff JH, Zeltzer PM, et al. Effects of medulloblastoma resections on outcome in children:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1996;38(2):265-71.[PMID:8869053]
- 14)
- Zeltzer PM, Boyett JM, Finlay JL, et al. Metastasis stage, adjuvant treatment, and residual tumor are prognostic factors for medulloblastoma in children:conclusions from the Children’s Cancer Group 921 randomized phase Ⅲ study. J Clin Oncol. 1999;17(3):832-45.[PMID:10071274]
- 15)
- Packer RJ, Sutton LN, Elterman R, et al. Outcome for children with medulloblastoma treated with radiation and cisplatin, CCNU, and vincristine chemotherapy. J Neurosurg. 1994;81(5):690-8.[PMID:7931615]
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- Packer RJ, Boyett JM, Janss AJ, et al. Growth hormone replacement therapy in children with medulloblastoma:use and effect on tumor control. J Clin Oncol. 2001;19(2):480-7.[PMID:11208842]
2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:髄芽腫の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後,QOL の改善
- (3)トピック:生命予後,機能予後,QOL の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍(15 歳未満および16~29 歳のadolescent and young adult:AYA 世代を含めた年齢)を診療する医療者や施設,患者・家族
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本では既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)臨床的課題
課題1:手術摘出
課題2:神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
課題3:放射線治療
課題4:陽子線治療
課題5:化学療法
課題6:再発時の治療
課題7:治療による晩期障害
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
- a)髄芽腫
- b)厚生省から示された小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満および16~29 歳のAYA 世代を含めた年齢)
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:2 カ月
文献の選出:3 カ月
エビデンス総体の評価と統合:4 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:なし
- 個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
- ②データベース
- 個別研究論文:PubMed
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- 2018 年12 月まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合は量的統合を実施。
課題1:外科的治療
- CQ1
- 肉眼的全摘出は生命予後を改善するか?
- 推奨度2C
- 推奨
髄芽腫患者に対して全摘出を行うことを提案する。
解説
髄芽腫に対する手術摘出度あるいは残存腫瘍量と予後の関係を前方視的試験によって解析した研究はない。1996 年にAlbright ら1)が,術者が評価した腫瘍摘出度は予後に相関しないものの,術後残存腫瘍の最大面積が1.5 cm2以上あると,髄液播種のみられない3 歳以上の症例ではPFS が短くなることを報告した。その後Zeltzer ら2)は術後残存腫瘍の最大面積1.5 cm2以上を予後因子に加えることを提唱し,髄液播種,年齢が3 歳以上,術後腫瘍残存量(最大断面面積1.5 cm2以上)を予後不良因子として,標準リスク群と高リスク群の臨床リスク分類に従って髄芽腫の治療を行うことが現在の標準となっている(Albright とZeltzer の論文はOS の検討がされていないことから,システマティックレビューからは除外された)。手術摘出度が真の予後因子であるのかについての検討は,症例集積あるいは後方視的コホート研究で検討するほかない。
2000 年にJenkin ら3)は,単一施設の連続173 例の後方視的検討で,2 回の手術を要した症例も含めた最終的な摘出率において,全摘出77 例,亜全摘(摘出率90~99%)50 例,部分摘出(摘出率50~89%)30 例,部分摘出(摘出率50%未満)16 例の5 年生存率はそれぞれ63%,50%,41%,17%と報告した。この摘出度は術者が決定しており,全摘出群は非全摘出群と比較して有意に(p=0.002)OS を延長したが,摘出後に標準的な放射線治療が遂行可能であった場合には,全摘出は有意な予後因子とはならなかった。したがって全摘出により合併症を起こす可能性が高い場合は,術後の合併症によって放射線治療を省略するよりはむしろ摘出を制限することも考慮すべきであると結論づけた。
2005 年のSFOP4)の多施設共同研究では,術後3 日以内の画像検査で確認された残存・転移のない群(R0M0)47 例について検討された。この報告では手術記録で摘出度を決定しており,残存腫瘍はないと記載されていれば全摘出とし,癒着が強く切除できなかったと記載があれば術後の画像検査で残存腫瘍を認めなくても全摘出とはせずに亜全摘出と定義した。亜全摘出群34 例の5 年PFS は0%であったのに対して全摘出群13 例では41%と有意に延長した(p=0.0065)ものの,OS では有意差はなかったとした。このように,摘出度を画像検査だけではなく,手術記録に基づいてのリスク階層化を導入している点で結果の解釈には注意が必要である。
2006 年のUrberuaga ら5)の単一施設79 例の検討では,術後画像検査で残存腫瘍がないことを全摘出と定義し,単変量解析でOS,PFS ともに全摘出が予後良好因子であり,多変量解析でも予後良好因子(HR=3.17,95% CI:1.64-6.15,p<0.01)であったと報告した。
一方で,2008 年のAkyüz ら6)の単一施設の203 例の後方視的検討では,手術摘出度は生存期間に影響しなかったと報告した。
このように,手術的摘出度の予後に対する影響は報告によってばらつきがみられる。しかし,これまでの報告全体としては,全摘出した場合にはOS もPFS も延長する傾向があることは確かである。ただし,手術によって神経症状を悪化させる危険性が高い場合には,無理に全摘出を行うことは控え,術後速やかに放射線治療を行うことが重要である。
2016 年のThompson ら7)の787 例の後方視的国際共同研究では,分子的亜型分類が組み込まれた。全摘出の予後因子としての効果は,多変量解析に分子的亜型分類を含めると大きく減衰した。全摘出は,術後腫瘍残存量が1.5 cm2以上と比較してPFS は延長した(HR=1.45,95% CI:1.07-1.95,p=0.02)が,全摘出と術後腫瘍残存量1.5 cm2未満ではOS,PFS ともに有意差はみられなかった(OS/HR=1.05,95% CI:0.71-1.53,p=0.82,PFS/HR=1.14,95% CI:0.75-1.72,p=0.55)。WNT,SHH,group 3 では,全摘出してもOS に影響がなかった。術後腫瘍残存量1.5 cm2未満に対する全摘出の絶対的利点はないため,神経学的悪化が予測される場合には,小さな残存腫瘍に対する手術摘出は勧められないというこれまでの方針を支持するものである。
分子的亜型分類を加味したエビデンスの構築が希求されており,分子亜型それぞれにおいて手術摘出度が生命予後にどのような影響を及ぼすかについては,現在も重要な臨床課題である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((“Epidemiologic Study Characteristics”[Mesh])OR “ Statistics as Topic[”Mesh]))OR “clinical study”[PT]))AND((((((((((medulloblastoma[mh])OR medulloblastoma*[tiab])OR((melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR((childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR medulloblastoma*[tiab])OR((desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR((adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab]))))AND((surgery[SH]OR surgery[TIAB]OR surgical[TIAB]OR “surgical procedures, operative”[MH]OR(surgical[TIAB]AND procedure*[TIAB]AND operative[TIAB])OR operative[TIAB]OR operation[TIAB]OR resect*[TIAB])))AND((prognosis[MH]OR prognos*[TIAB]OR “disease progression”[MH]OR(disease*[TIAB]AND progress*[TIAB])OR(disease*[TIAB]AND exacerbat*[TIAB])OR mortality[MH]OR mortal*[TIAB]OR(case*[TIAB]AND fatality[TIAB]AND rate*[TIAB])OR(death[TIAB]AND rate*[TIAB])OR “survival analysis”[MH]OR(surviv*[TIAB]AND(analysis[TIAB]OR analyses[TIAB]))OR “neoplastic processes”[MH]OR(neoplastic[TIAB]AND process*[TIAB]))))))AND 1900/1/1:2018/12/31[DP]
以上の検索式により662 文献を抽出し,一次スクリーニングで69 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に17 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。システマティックレビュー後のさらなる検討から7 文献を採用し,作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Albright AL, Wisoff JH, Zeltzer PM, et al. Effects of medulloblastoma resections on outcome in children:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1996;38(2):265-71.[PMID:8869053]
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- Jenkin D, Shabanah MA, Shail EA, et al. Prognostic factors for medulloblastoma.Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;47(3):573-84.[PMID:10837938]
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- 7)
- Thompson EM, Hielscher T, Bouffet E, et al. Prognostic value of medulloblastoma extent of resection after accounting for molecular subgroup:a retrospective integrated clinical and molecular analysis. Lancet Oncol. 2016;17(4):484-95.[PMID:26976201]
課題2:神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
- CQ2
- 手術後の予後因子は何か?
- 推奨度1B
- 推奨
予後因子として,組織型(予後良好な順でdesmoplastic nodular/extensive nodularity, classic, large cell/anaplastic),転移の有無(転移有が予後不良),遺伝子プロファイルで分類される亜型(WNT 型が予後良好)を用いることを推奨する。
解説
予後を予測する因子は実施する治療によって変わる。例えば,治療が摘出のみであれば,当然転移の有無と残存した腫瘍の大きさがOS に大きな影響を与える。また,放射線治療の導入,さらに有効な化学療法の採用によって予後因子は変化している。最新の治療を受けたコホートでは,後述の4 型の亜群によっては転移の有無すら予後を反映しない可能性が最近示されている1-3)。このように,リスク因子は解析対象としたコホートの治療によって変化するものであるので,本CQ では,これらの違いがあってもなおかつ検出される因子を採用することとした。
治療の層別化に用いる予後因子としては,治療反応性などではなく,診断後直ちに情報が得られる臨床情報(年齢,性別,転移の有無,病理組織型,術後腫瘍残存の有無など)が有用である。しかし,これらの因子は交絡が存在するため,多変量解析による結果が最も重要視される。ほぼすべての研究で予後因子として多変量解析で抽出されているのが,転移の有無,および組織型(classic, desmoplastic nodular/extensive nodularity, large cell/anaplastic)であった2,4-12)。一方,性別,年齢は解析されたほとんどの研究で予後因子とはならなかった1,2,6,8,11,13)。術後の腫瘍残存については,多変量解析が行われた9 編の解析のうち2 編で予後不良因子として抽出され7,13),1 編では単変量解析では有意であったものの,多変量解析では有意差は消失している11)。また,乳幼児に限定した解析では,単変量解析のみが行われた3 編の報告では予後不良因子として抽出されているが14-16),多変量解析を行った4 編の報告では3 編で予後因子として否定されている4-6)。以上のことから,現時点では独立した強力な予後因子として組織型,転移の有無を挙げることができる。組織型では,desmoplastic nodular/extensive nodularity が最も予後が良く,classic, large cell/anaplastic と続く。転移の有無では転移無が予後良好である。
2011 年に,遺伝子発現プロファイルに基づき,髄芽腫は少なくともWNT 型,SHH 型,non-WNT/non-SHH 型に分類されることが明らかとなり,2016 年のWHO 脳腫瘍分類でも採用されている2)。後者はさらにGroup 3 とGroup 4 に分類されることもある。これまでのところ,過去に集積された症例を世界中から集めた後方視的なコホートを用いた解析のデータにとどまるが,一貫してWNT 型が最も予後良好である。残りの2 群もしくは3 群間の予後の差はさほど顕著なものではない5)。しかし,基本的にWNT 型が存在しない乳幼児例に限定しての解析では,単変量解析ながら3 編すべての解析でSHH 型が予後良好であることが示されている3,16,17)。SHH 型の多くは上記に予後良好因子として記載したdesmoplastic nodular/extensive nodularity の組織型を有するため,多変量解析での検討が必要である。上記の3 型(または4 型)分類とは別個に,MYC 遺伝子の増幅が独立した予後不良因子であることが報告されている。しかし,その後4 型分類と組み合わせた解析ではGroup 3 以外では明らかではないことが示されている18)。
上述のように,髄芽腫は少なくとも3 種類以上の異なった疾患(亜群)からなる集合体であることから,現在はそれぞれの亜群の中での予後因子が提唱されているものの3,19,20),現時点では十分検証されたとまでは言えないため,今回各亜群別の予後因子の推奨は時期尚早と判断した。以上のことから,独立した強力な予後因子として,組織型,転移の有無,遺伝子プロファイルによる分類(WNT 型とそれ以外)を推奨する。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])))AND((((((“Combined Modality Therapy”[Mesh:NoExp]OR Chemoradiotherapy[mh]OR Chemotherapy, Adjuvant[mh]OR Radiotherapy, Adjuvant[mh])))OR((Adjuvant[tiab]AND(Chemoradiotherapy[tiab]OR Chemoradiotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab]OR chemothrapy[tiab]OR chemotherapies[tiab]OR radiotherapy[tiab]OR radiotherapies[tiab]OR “drug therapy”[tiab]OR “drug therapies”[tiab]))))OR(((Multimodal[tiab]AND(Treatment[tiab]OR treatments[tiab]OR therapy[tiab]OR therapies[tiab]))OR(“Combined Modality”[tiab]AND(therapy[tiab]OR therapies[tiab]))OR((Concurrent[tiab]OR Concomitant[tiab]OR Synchronous[tiab])AND(Chemoradiotherapy[tiab]OR Chemoradiotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab])))))OR((therapy planning[tiab]OR therapeutic planning[tiab]OR therapeutic design[tiab]OR treatment design[tiab]OR plan[tiab]OR planning[tiab])))))AND((“Epidemiologic Study Characteristics”[MH]OR “Statistics as Topic”[Mesh]OR “Clinical Study”[Publication Type]))))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により556 文献を抽出し,一次スクリーニングで37 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に20 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Fernandez-Teijeiro A, Betensky RA, Sturla LM, et al. Combining gene expression profiles and clinical parameters for risk stratification in medulloblastomas. J Clin Oncol. 2004;22(6):994-8.[PMID:14970184]
- 2)
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- 3)
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- 4)
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課題3:放射線治療
- CQ3
- 全脳脊髄照射において,標準線量からの線量低減または線量増加は有用か?
- 推奨度1D
- 推奨1
全脳脊髄照射において,標準リスク群に対して標準線量からの線量低減を行わないことを推奨する。
- 推奨度1D
- 推奨2
全脳脊髄照射において,高リスク群に対して標準線量からの線量増加を行わないことを推奨する。
解説
3 歳以上の髄芽腫に対する集学的治療において全脳脊髄照射(CSI)は必要不可欠であり,標準治療の一環として,CSI と後頭蓋窩または腫瘍床へのブースト照射(総線量54 Gy 程度)が通常分割照射法を用いて実施されている。現在,標準的なCSI 線量として,標準リスク群では24 Gy 程度(23.4 Gy/13 分割が頻用されている),高リスク群では36 Gy 程度(35.2~36 Gy/20~22 分割)が用いられている(CQ5,CQ6 参照)。標準リスク群に対する晩期障害軽減を目的としたCSI 線量低減,また高リスク群に対する治療成績改善を目的としたCSI 線量増加が試みられているが,現時点におけるそれらの意義や位置づけは確立していない。
1.標準リスク群に対する標準線量(24 Gy 程度)からのCSI 線量低減について
評価対象となった22 編1-22)中,標準線量未満のCSI が実施された試験は2 編のみであったが,そのうち1 編は18 Gy のCSI を実施された症例が全88 例中11 例(うち陽子線治療が3 例)と少なく1),残りの1 編は18 GyE(陽子線治療)のCSI 実施症例が含まれていたものの,18 GyE のCSI が実施された症例数は不明であった7)。なお,急性期有害事象,成長障害に関しては標準線量未満のCSI を実施した論文は認められなかった。
一般論としてCSI 線量低減により急性期および晩期障害のリスク低減が期待されるものの,上述したように標準リスク群に対するCSI 線量低減の有用性を検証するランダム化比較試験もしくは傾向スコア・マッチング研究は存在せず,併用化学療法の有無や種類・タイミングに深刻なばらつきを認めたため,CSI 線量低減による生存率および急性期・晩期障害に対する影響の評価は極めて困難であった。また化学療法に関しては,我が国において使用できないlomustine(CCNU)が含まれるレジメンが散見された。これらのバイアスリスク,非直接性を考慮した結果エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。
上記システマティックレビューの結果から,CSI 線量低減が生存率および急性期・晩期障害に及ぼす影響を評価することは困難であった。またCSI 線量低減により急性期・晩期障害のリスク低減が得られる可能性は期待されるものの,生存率の維持が可能と判断する根拠に乏しく,線量低減に伴う生存率低下のリスクが危惧される。そのため,現状ではCSIにおいて,標準リスク群に対して標準線量からの線量低減を行わないことを提案することが妥当と判断した。
なお,システマティックレビュー対象外の文献ではあるが,2021 年6 月にACNS033123)が出版されたため,重要文献として本ガイドラインに記載する。ACNS0331 は標準リスク群に対してブースト照射として後頭蓋照射を実施する群と,腫瘍床照射を実施する群にランダム化割付し検証した第Ⅲ相試験である。さらに本試験では3~7 歳の226 例に対してCSI 線量を23.4 Gy 群と18 Gy 群にランダム化割付し,primary endpoint である無イベント生存割合(EFS)を検証した。その結果,認知機能は23.4 Gy 群において有意に低下したものの,5 年時点でのEFS は23.4 Gy 群では82.9%,18 Gy 群では71.4%であり,18 Gy 群は23.4 Gy 群と比較してEFS が有意に短かった(HR=1.07, 80% CI:2.10, p=0.028)。また5 年時点での全生存割合(OS)は23.4 Gy 群では85.6%,18 Gy 群では77.5%であり,18 Gy 群は23.4 Gy 群と比較してOS が有意に短く(p=0.049),今回の推奨を支持する結果であった。
2.高リスク群に対する標準線量(36 Gy 程度)からのCSI 線量増加について
二次スクリーニング後の35 文献のうち,対象が高リスク群かつ設定されたアウトカムに関する記載のある文献は11 編であった。11 編中4 編(POG963124),HIT200025),POG903126),SJMG-9612)において標準線量よりも高いCSI 線量が用いられていた。生存率では9 編4,7,12,24-29),急性期有害事象では7 編12,24-27,29,30),二次がんは4 編4,18,26,29),精神・認知機能障害では1 編7),聴力障害では4 編7,25,27,30),内分泌機能障害では1 編7)が評価対象となり,成長障害に関しては該当する文献を認めなかった。CSI 線量増加により二次がんの発生率は同等かつ生存率を改善する可能性が示唆されたが,上述したように高リスク群に対する線量増加群vs. 標準線量群の治療成績を検証するランダム化比較試験もしくは傾向スコア・マッチング研究が存在せず,高リスクである定義や根拠,化学療法の有無・種類・タイミングに深刻なばらつきを認めたため,線量増加による生存率および急性期・晩期障害の評価は極めて困難であった。また,化学療法に関しては我が国において使用できないCCNU が含まれるレジメンが散見された。そのため,すべてのアウトカムにおいて,深刻なバイアスリスク・非直接性が存在し,エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。
上記システマティックレビューの結果から,線量増加に伴い益(生存率の改善)を得られる可能性は否定できないが,同時に害(晩期障害の増加)も危惧された。小児がんである髄芽腫患者において,治癒が得られた際にQOL の低下・社会生活の妨げとなる害(晩期障害の増加)を考慮する必要性は極めて高い。エビデンスレベルが非常に弱い現状においては,益よりも害を考慮し,CSI において,高リスク群に対して標準線量からの線量増加を行わないことを提案することが妥当と判断した。
- 注意:
- lomustine(CCNU)は国内未承認
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((medulloblastoma)AND radiotherapy))AND(Comparative Study[ptyp]OR Clinical Trial[ptyp])AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により241 文献を抽出し,一次スクリーニングで106 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に35 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Clinical Outcomes Among Children With Standard-Risk Medulloblastoma Treated With Proton and Photon Radiation Therapy:A Comparison of Disease Control and Overall Survival. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;94(1):133-8.[PMID:26700707]
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- Carrie C, Muracciole X, Gomez F, et al.;French Society of Pediatric Oncology. Conformal radiotherapy, reduced boost volume, hyperfractionated radiotherapy, and online quality control in standard-risk medulloblastoma without chemotherapy:results of the French M-SFOP 98 protocol. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2005;63(3):711-6.[PMID:15927408]
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課題4:陽子線治療
- CQ4
- 放射線治療として陽子線治療は推奨されるか?
- 推奨度2D
- 推奨
放射線治療として陽子線治療を行うことを条件付きで提案する。
解説
小児がんに対する陽子線治療が保険適用となったものの,現状ではアクセスが限られることが問題である。このような中,広く普及し従来標準的に用いられてきたX 線治療に比し,陽子線治療の優位性を明らかにすることは重要である。そこで本CQ が設定された。
選択された12 文献には,ランダム化比較試験をはじめとするエビデンスレベルの高い報告はなく,定性的システマティックレビューを実施した。
各アウトカムの評価対象となった研究は,多くても4 編,ほとんどが観察研究(前方視的または後方視的コホート研究)であったが,医療費のみモデル解析であった。
評価対象となった研究に基づくエビデンス総体の評価結果は,生存率1-4),脳・脊髄障害5)については,陽子線治療とX 線治療で明らかな差はなく,急性期有害事象6),成長障害7),精神・認知機能障害1,4,8),聴力障害1,4,9),内分泌機能障害1,4,7)については,陽子線治療はX 線治療と比べて軽減できる可能性が示されたが,ほとんどの研究が非直接性・バイアスリスク・不精確さにおいて深刻またはとても深刻と判定されたため,エビデンスの強さは生存率,内分泌機能障害が弱い,それ以外は非常に弱いと判断された。また,医療費10-12)については,陽子線治療はX 線治療と比べて低減できる可能性が示されたが,いずれもモデル解析である上に,モデル計算の根拠となる有害事象軽減のエビデンスの多くが非常に弱く,深刻な非直接性・バイアスリスク・不精確さがあるため,エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。なお,二次がん3,4)については,陽子線治療とX 線治療の優劣は判断困難と考えられた。
放射線治療として陽子線治療を用いて,線量増加等の積極的に治療成績を改善する試みはなく,現在までの報告では治療成績はX 線治療とほぼ同等であり,益(生存率の改善)が得られる可能性は少ない。一方,害(有害事象)を減らせる可能性があるということが示唆されるものの,そのエビデンスの強さは非常に弱い。また,陽子線治療施設数が少ないため,希望しても適切なタイミングでの治療を受けられない可能性がある。陽子線治療装置の導入・運用コストは高額である一方で医療費全体としては減らせる可能性が示唆されるものの,試算の根拠となる有害事象軽減に関するエビデンスの強さは前述のように非常に弱い。また,患者(家族)の医療費負担は発症が20 歳未満であればX 線治療と同じであるが,施設が近隣にない場合は移動や宿泊のコストが発生する。以上を総合的に判断した結果,希望するタイミングで治療を受けられる,施設が近隣にあるといった条件が合致する患者には陽子線治療を提案してもよいと考えた。
よって,本CQ に対する推奨は,「放射線治療として陽子線治療を条件付きで行うことを提案する(2D)」とした。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(proton AND(medulloblastoma OR craniospinal irradiation))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により149 文献を抽出し,一次スクリーニングで35 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に12 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Jimenez RB, Sethi R, Depauw N, et al. Proton radiation therapy for pediatric medulloblastoma and supratentorial primitive neuroectodermal tumors:outcomes for very young children treated with upfront chemotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2013;87(1):120-6.[PMID:23790826]
- 2)
- Sethi RV, Giantsoudi D, Raiford M, et al. Patterns of failure after proton therapy in medulloblastoma;linear energy transfer distributions and relative biological effectiveness associations for relapses. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2014;88(3):655-63.[PMID:24521681]
- 3)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Clinical Outcomes Among Children With Standard-Risk Medulloblastoma Treated With Proton and Photon Radiation Therapy:A Comparison of Disease Control and Overall Survival. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;94(1):133-8.[PMID:26700707]
- 4)
- Yock TI, Yeap BY, Ebb DH, et al. Long-term toxic effects of proton radiotherapy for paediatric medulloblastoma:a phase 2 single-arm study. Lancet Oncol. 2016;17(3):287-98. [PMID:26830377]
- 5)
- Giantsoudi D, Sethi RV, Yeap BY, et al. Incidence of CNS Injury for a Cohort of 111 Patients Treated With Proton Therapy for Medulloblastoma:LET and RBE Associations for Areas of Injury. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;95(1):287-96.[PMID:26691786]
- 6)
- Song S, Park HJ, Yoon JH, et al. Proton beam therapy reduces the incidence of acute haematological and gastrointestinal toxicities associated with craniospinal irradiation in pediatric brain tumors. Acta Oncol. 2014;53(9):1158-64.[PMID:24913151]
- 7)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Endocrine outcomes with proton and photon radiotherapy for standard risk medulloblastoma. Neuro Oncol. 2016;18(6):881-7.[PMID:26688075]
- 8)
- Pulsifer MB, Sethi RV, Kuhlthau KA, et al. Early Cognitive Outcomes Following Proton Radiation in Pediatric Patients With Brain and Central Nervous System Tumors. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015;93(2):400-7.[PMID:26254679]
- 9)
- Moeller BJ, Chintagumpala M, Philip JJ, et al. Low early ototoxicity rates for pediatric medulloblastoma patients treated with proton radiotherapy. Radiat Oncol. 2011;6:58.[PMID:21635776]
- 10)
- Lundkvist J, Ekman M, Ericsson SR, et al. Cost-effectiveness of proton radiation in the treatment of childhood medulloblastoma. Cancer. 2005;103(4):793-801.[PMID:15637691]
- 11)
- Vega RBM, Kim J, Bussière M, et al. Cost effectiveness of proton therapy compared with photon therapy in the management of pediatric medulloblastoma. Cancer. 2013;11(9 24):4299-307.[PMID:24105630]
- 12)
- Hirano E, Fuji H, Onoe T, et al. Cost-effectiveness analysis of cochlear dose reduction by proton beam therapy for medulloblastoma in childhood. J Radiat Res. 2014;55(2):320-7.[PMID:24187330]
課題5:化学療法
- CQ5
- 3 歳以上の標準リスク群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度1B
- 推奨
シスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした多剤併用化学療法と,24 Gy 程度の全脳脊髄照射と総線量54 Gy 程度の局所照射を組み合わせた通常分割放射線治療による,術後化学放射線治療を推奨する。
解説
本疾患は放射線治療および化学療法が有効な治療であることが既知の事実であり,現在の3 歳以上標準リスク群の髄芽腫治療においては術後に両者を行うのが一般的になっている。一方,その急性期および晩期の合併症は,生命の危機を及ぼすことがあり,かつ長期生存者のQOL を著しく低下させることが知られている。したがって,益と害のバランスを考慮した術後治療の推奨は重要な臨床課題であると考える。
髄芽腫の治療の黎明期において,腫瘍摘出術のみでは髄芽腫は不治の病であったが,術後放射線治療,特に全脳脊髄照射(CSI)の導入後,髄芽腫は治癒を期待できる疾患となった。しかしながら,発達中の小児の脳,特に大脳に高線量の放射線治療を行った結果,生存者に重度の発達障害を起こすことが判明した。脳への照射を軽減するためにCSI の線量を低減する試みがランダム化比較試験として行われたが,CSI 線量36 Gy 群と23.4 Gy 群の再発率が7.9% vs. 28.3%(p<0.01)と単純なCSI 減量は再発率を有意に上昇させることが示された1)。
その後,放射線治療に化学療法を追加することで,生存率の向上を目指す比較臨床試験が複数行われた。米国と欧州で約36 Gy のCSI にビンクリスチン,lomustine(CCNU)ベースの化学療法を追加する2 つのランダム化比較試験が行われた。米国試験(局所50~55 Gy,CSI を35~40 Gy)では髄芽腫全体では化学療法追加による有意な生存率向上は認めず,転移のない患者群の5 年無イベント生存割合(event-free survival:EFS)は59%であった2)。欧州試験(局所55 Gy,全脳35~45 Gy,全脊髄30~35 Gy)でも化学療法の上乗せ効果は認めず,転移のない群の5 年生存率は64.6%であった3)。
その後,米国ではPacker らによって開発が行われてきたビンクリスチンとCCNU の併用にシスプラチンを加えたレジメンの検証が行われた。この試験ではCSI 線量を23.4 Gy に減量したのにも関わらず,5 年EFS 79.7%という非常に良好な生存率が得られた4)。このことは,CSI の線量を多くするよりも,シスプラチンを含む有効な化学療法を併用することの方が予後の向上に重要であることを示している。引き続き行われたCOG A9961 試験では,このレジメンのCCNU をシクロホスファミドに置換したレジメンの優越性がRCT で検証されたが,優越性は示すことができず,感染症などの重篤な有害事象が多いという結果であった。そのため,現在に至るまでCCNU を含むPacker レジメンと23.4 Gy CSI に局所ブーストを行う方法が世界的に標準治療となっている5)。続いて米国St.Jude 小児病院から,23.4 Gy のCSI と局所ブースト照射の後に,化学療法の間隔を開けないために自己末梢血幹細胞救援を併用したシスプラチン,大量シクロホスファミド,ビンクリスチンの3 剤による化学療法を4 回繰り返す方法を行い,5 年EFS 83%と優れた結果が報告され,一定量以上のシクロホスファミドの有効性が示された6)。
一方,欧州ではSIOP と英国小児がん研究グループ(United Kingdom Children’s Cancer Study Group:UKCCSG)の共同研究でシクロホスファミド,カルボプラチン,ビンクリスチン,エトポシドによる多剤併用化学療法を35 Gy CSI とブースト照射の前後に行った(サンドイッチ療法)群と,放射線治療単独で治療した群を比較する臨床試験が行われた。OS では有意差を認めなかったが,5 年EFS では74.2% vs. 59.8%(p=0.04)と有意に化学療法群の生存率が高かった7)。
以上のことから,標準リスクでは効果の弱い化学療法では放射線治療への上乗せ効果は見られないが,CCNU とビンクリスチンにシスプラチンを加えて用いることでCSI の線量を36 Gy から23.4 Gy に軽減することが可能となった。なお,lomustine(CCNU)が未承認のわが国ではCOG A9961 試験でシクロホスファミドに置換したレジメンでもCCNU レジメンと近似したEFS が得られたことから,シクロホスファミドに置換したレジメンが実地臨床では広く使われている。
放射線治療と化学療法の実施の順序については,欧米で術後に放射線治療前に1~2コースの化学療法を組み入れるいわゆるサンドイッチ療法の検討が行われた。欧州では,プロカルバジン,ビンクリスチン,メトトレキサート多剤併用化学療法8)あるいはシスプラチン,イホスファミド,大量メトトレキサート,エトポシド,シタラビン(AraC)による多剤併用化学療法9,10)を放射線治療の前に挟み込むことの有用性の検討がランダム化比較試験で行われたが,ともに有用性を示すことができなかった。また,8 in 1 レジメンという8 種類の抗がん剤を1 日で投与する多剤併用化学療法を放射線治療前に行い標準リスク群でCSI 軽減(全脳27 Gy,全脊髄30~36 Gy)を目指す単アーム試験が行われた。7 年EFS 62%と従来と匹敵する結果が得られたが,放射線治療先行との比較は行われていない11)。以上の結果より,標準リスク群髄芽腫の術後治療は,放射線治療のあとに化学療法を行うことが一般的になった。サンドイッチ療法は1 コースの化学療法の後に放射線治療を行うために,化学療法がビンクリスチン投与を除いて約2 カ月中断するという問題がある。
欧州では,過分割照射36 Gy CSI と通常分割照射の23.4 Gy CSI を無作為割り付けし,シスプラチン,CCNU,ビンクリスチンを投与した国際的治療グループによるランダム化比較試験を行ったが,5 年EFS 78% vs. 77%と,過分割照射の優越性は示せなかった12)。フランスで行われたCSI 36 Gy(36 分割)と68 Gy(68 分割)の過分割照射のみで後治療を行った試験で,3 年EFS 81%という生存率は興味深いが,放射線治療単独の本戦略の評価には長期成績の報告を待たなければならないであろう13)。
髄芽腫の治療選択において,副作用および治療後のQOL は非常に重要な要素である。本CQ を検討する際に評価した複数の論文で,急性合併症が報告されているが,放射線治療や化学療法の種類によって急性毒性の差を認めていない。また,晩期合併症を治療レジメンごとに比較した論文はないが,放射線量が少ないレジメンの方が二次がん,認知機能低下,内分泌機能などの影響が少ないと理論的に推論することは妥当である。
これらのアウトカムのエビデンスより,シスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンによる多剤併用化学療法に,24 Gy 程度の通常分割全脳脊髄照射と局所追加照射を組み合わせた放射線治療による術後化学放射線治療を推奨する。
- 注意:
- lomustine(CCNU):国内未承認
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シタラビン(cytarabine):髄芽腫に対しては保険適応外
8 in 1 レジメン:メチルプレドニゾロン,ビンクリスチン,lomustine,プロカルバジン,ハイドロキシウレア(髄芽腫には保険適応外),シスプラチン,シタラビン,シクロホスファミドの8 種類の薬剤を1 日に投与する化学療法
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radio-therapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。CQ5 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの7 文献,EFS アウトカムの13 文献,有害事象・QOL アウトカムの13 文献を採用した。
❖ 文献
- 1)
- Deutsch M, Thomas PR, Krischer J, et al. Results of a prospective randomized trial comparing standard dose neuraxis irradiation(3,600 cGy/20)with reduced neuraxis irradiation(2,340 cGy/13)in patients with low-stage medulloblastoma. A Combined Children’s Cancer Group-Pediatric Oncology Group Study. Pediatr Neurosurg. 1996;24(4):167-76;discussion 76-7.[PMID:8873158]
- 2)
- Evans AE, Jenkin RD, Sposto R, et al. The treatment of medulloblastoma. Results of a prospective randomized trial of radiation therapy with and without CCNU, vincristine, and prednisone. J Neurosurg. 1990;72(4):572-82.[PMID:2319316]
- 3)
- Tait DM, Thornton-Jones H, Bloom HJ, et al. Adjuvant chemotherapy for medulloblastoma:the first multi-centre control trial of the International Society of Paediatric Oncology(SIOP Ⅰ). Eur J Cancer. 1990;26(4):464-9.[PMID:2141512]
- 4)
- Packer RJ, Goldwein J, Nicholson HS, et al. Treatment of children with medulloblastomas with reduced-dose craniospinal radiation therapy and adjuvant chemotherapy:A Children’s Cancer Group Study. J Clin Oncol. 1999;17(7):2127-36.[PMID:10561268]
- 5)
- Packer RJ, Gajjar A, Vezina G, et al. Phase Ⅲ study of craniospinal radiation therapy followed by adjuvant chemotherapy for newly diagnosed average-risk medulloblastoma. J Clin Oncol. 2006;24(25):4202-8.[PMID:16943538]
- 6)
- Gajjar A, Chintagumpala M, Ashley D, et al. Risk-adapted craniospinal radiotherapy followed by high-dose chemotherapy and stem-cell rescue in children with newly diagnosed medulloblastoma(St Jude Medulloblastoma-96):long-term results from a prospective, multicentre trial. Lancet Oncol. 2006;7(10):813-20.[PMID:17012043]
- 7)
- Taylor RE, Bailey CC, Robinson K, et al.;International Society of Paediatric Oncology;United Kingdom Children’s Cancer Study Group. Results of a randomized study of preradiation chemotherapy versus radiotherapy alone for nonmetastatic medulloblastoma:The International Society of Paediatric Oncology/United Kingdom Children’s Cancer Study Group PNET-3 Study. J Clin Oncol. 2003;21(8):1581-91.[PMID:12697884]
- 8)
- Bailey CC, Gnekow A, Wellek S, et al. Prospective randomised trial of chemotherapy given before radiotherapy in childhood medulloblastoma. International Society of Paediatric Oncology(SIOP)and the(German)Society of Paediatric Oncology(GPO):SIOP Ⅱ. Med Pediatr Oncol. 1995;25(3):166-78.[PMID:7623725]
- 9)
- von Hoff K, Hinkes B, Gerber NU, et al. Long-term outcome and clinical prognostic factors in children with medulloblastoma treated in the prospective randomised multicentre trial HIT’91. Eur J Cancer. 2009;45(7):1209-17.[PMID:19250820]
- 10)
- Kortmann RD, Kühl J, Timmermann B, et al. Postoperative neoadjuvant chemotherapy before radiotherapy as compared to immediate radiotherapy followed by maintenance chemotherapy in the treatment of medulloblastoma in childhood:results of the German prospective randomized trial HIT’91. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;46(2):269-79.[PMID:10661332]
- 11)
- Gentet JC, Bouffet E, Doz F, et al. Preirradiation chemotherapy including “eight drugs in 1 day” regimen and high-dose methotrexate in childhood medulloblastoma:results of the M7 French Cooperative Study. J Neurosurg. 1995;82(4):608-14.[PMID:7897523]
- 12)
- Lannering B, Rutkowski S, Doz F, et al. Hyperfractionated versus conventional radiotherapy followed by chemotherapy in standard-risk medulloblastoma:results from the randomized multicenter HIT-SIOP PNET 4 trial. J Clin Oncol. 2012;30(26):3187-93.[PMID:22851561]
- 13)
- Carrie C, Muracciole X, Gomez F, et al.;French Society of Pediatric Oncology. Conformal radiotherapy, reduced boost volume, hyperfractionated radiotherapy, and online quality control in standard-risk medulloblastoma without chemotherapy:results of the French M-SFOP 98 protocol. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2005;63(3):711-6.[PMID:15927408]
- CQ6
- 3 歳以上の高リスク群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
36 Gy 程度の全脳脊髄照射と54 Gy 程度の局所照射を術後に行い,その後にシスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした治療強度を増した多剤併用化学療法を複数コース行うことを提案する。
解説
髄芽腫の標準リスク群のCQ5 で解説したように,全脳脊髄照射(CSI)の導入後,髄芽腫は治癒を期待できる疾患となった。しかしながら,残存腫瘍または播種を伴う高リスク群では,標準リスク群に比べ生存率が低く,化学療法の併用を行っても満足のいく治療成績を得るには至っていない。米国と欧州で放射線治療にビンクリスチン,lomustine(CCNU)ベースの化学療法を追加する2 つのランダム化比較試験が行われた。
米国試験(局所50~55 Gy,CSI を35~40 Gy)では腫瘍が大きく転移もあった群のサブ解析において,放射線治療単独群では5 年EFS が0%であったのに対し,化学療法併用群で46%と有意に高い5 年EFS を得た(p=0.006)1)。一方,欧州試験(局所55 Gy,全脳35~45 Gy,全脊髄30~35 Gy)のランダム化比較試験においても,中間解析で腫瘍が大きかった,あるいは亜全摘であった群において5 年EFS の差が両群間で有意に高く,化学療法の追加効果が顕著であった。そのため欧州試験は途中で打ち切られ,術後残存腫瘍がある群では長期追跡後の生存率も最終的に有意に高かった2)。ただし,この試験では転移については評価されていない。欧州で,プロカルバジン,ビンクリスチン,メトトレキサート多剤併用化学療法を放射線治療の前に追加するランダム化比較試験が行われたが,高リスク群において,化学療法追加群と追加しない群の5 年EFS に有意な差は認めなかった(56% vs. 53%,p=0.7)3)。また8 in 1 レジメンを放射線治療前に行うCSI 軽減(全脳27 Gy 全脊髄30~36 Gy)アーム試験が行われたが,高リスク群で7 年EFS 45%と改善は認めなかった4)。
その後,欧米で化学療法を強化する試みが行われ,米国のCCG921 試験では,術後に放射線治療(CSI 36 Gy+局所線量54 Gy)と照射中のビンクリスチン投与を行い,その後8 in 1 とビンクリスチン/CCNU/プレドニゾロン(VCP)の2 つの化学療法レジメンを比較するRCT が行われた。結果は,高リスク群では,VCP 治療の方が8 in 1 レジメンより5 年PFS を有意に延長した(63±5% vs. 45±5%,p=0.006)5)。一方,米国のPOG9031 では高リスク群に通常分割の放射線治療を強化し(CSI 40 Gy+局所線量54.4 Gy),シスプラチン/エトポシド/シクロホスファミド/ビンクリスチンによる化学療法を放射線治療の前後に行うサンドイッチ療法と通常の放射線治療後に行う方法に割り付けるランダム化比較試験が行われた。化学療法スケジュールによるEFS とOS 差は認めなかったが,5 年EFS 68.1±3%,5 年OS 74.6±3%と比較的良好な生存率を得た6)。米国St.Jude 小児病院から化学療法の間隔を開けないために自己末梢血幹細胞救援を併用したシスプラチン,大量シクロホスファミド,ビンクリスチンの3 剤による化学療法を4 回繰り返す方法を,36~39.6 Gy のCSI と局所ブーストの後に行い,5 年EFS 70%,5 年OS 70%と高リスク群では最も良好な生存率を示した7)。
一方,ドイツのHIT2000 試験においては,4 歳以上の高リスク群においても,メトトレキサートの脳室内投与の効果を検証している。メトトレキサートは予定量の75%以上投与した症例で予後改善(EFS 61.5% vs. 46.2%,p=0.004)しており,年長児の高リスク群に対するメトトレキサート脳室内投与の有効性を示した8)。
米国COG では,放射線治療中の併用抗がん剤としてビンクリスチンの他に,放射線増感薬としての効果を期待してカルボプラチンを併用する第Ⅰ/Ⅱ相試験が77 例の転移症例を対象に実施された。少量のカルボプラチンをCSI 36 Gy と局所ブースト照射中に30 日間連続投与するもので,照射後にビンクリスチンとシクロホスファミドによる化学療法を実施した。後半の症例では照射後化学療法にシスプラチンを追加した。全体での5 年EFS71%という良好な生存率を得られたが,シスプラチンの追加は予後の向上をもたらさなかった9)。
高リスク群でも術後に放射線治療前後に化学療法を挟み込むサンドイッチ療法の有用性が検証された。ドイツで行われたHIT’91 試験では,放射線治療(CSI 35.2 Gy,局所55.2 Gy)後にいわゆる標準リスク群におけるPacker レジメン(シスプラチン/CCNU/ビンクリスチン)を投与する方法と,シスプラチン/イホスファミド/メトトレキサート/エトポシド/シタラビンによる多剤併用化学療法を放射線治療前後に行う方法とのランダム化比較試験が行われ,その長期フォローアップデータによると,髄液播種を有する群10 年のOS70%/34%(p=0.02),脊髄転移や遠隔転移を有する群の10 年OS 42%/45%(p=0.99)であり,髄液播種を有する症例に限ると放射線治療後にPacker レジメンを投与した群のほうが良好な生存率であった10,11)。欧州ではさらに,SIOP/UKCCSG によるPNET-3 試験が行われたが,同様に放射線治療前に化学療法行うことの有用性は認められなかった12)。
標準リスク群と同様に高リスク群においても,過分割照射の有用性を検討する臨床試験が行われた。米国CCG9931 試験において,化学療法先行後に過分割照射(CSI 40 Gy+局所線量72 Gy)を行ったが,5 年EFS 43%±5%,5 年OS 52%±5%と生存率の改善は認めなかった13)。
以上をまとめると,高リスク群髄芽腫の術後治療において,初期の研究では放射線単独治療であったが,まったく治癒が得られず,その後,化学療法の併用や過分割照射についてさまざまな工夫がなされてきた。しかし,いかなる化学療法を用いてもCSI 36 Gy では5 年EFS は60~70%までにとどまり,CSI の線量の減量にも成功していない。今後は,さらなる分子生物学的リスク細分化によって,治療の強化が有効な群,CSI 減量などの治療軽減を目指す群,新規治療薬を試す群と,層別化・個別化治療を行って,高リスク群の治療開発を続けていかなくてはならない。このように標準治療は定まっていない中で,第Ⅰ/Ⅱ相試験ではあるが,米国COG のカルボプラチンと放射線の併用療法が毒性も考えると有望な治療法とも考えられる。
これらのアウトカムのエビデンスより,3 歳以上の高リスク群髄芽腫の標準的術後治療は,より高い生存率という益を最優先して治療を選択するという論点より,まだ開発途上の状況ではあるが,36 Gy 程度の全脳脊髄照射と54 Gy 程度の局所照射を術後に行い,その後にシスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした多剤併用化学療法を一定の期間での薬剤投与量(dose intensity)を最大化するなど治療強度を増すことを提案する。
- 注意:
- lomustine(CCNU):国内未承認
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シタラビン(cytarabine):髄芽腫に対しては保険適応外
8 in 1 レジメン:メチルプレドニゾロン,ビンクリスチン,lomustine,プロカルバジン,ハイドロキシウレア(髄芽腫には保険適応外),シスプラチン,シタラビン,シクロホスファミドの8 種類の薬剤を1 日に投与する化学療法
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radio-therapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。CQ6 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの9 文献,EFS アウトカムの13 文献,有害事象・QOL アウトカムの10 文献を採用した。
❖ 文献
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- CQ7
- 3 歳未満の群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度2D
- 推奨1
乳幼児の髄芽腫において,転移がなくdesmoplastic nodular/extensive nodularity サブタイプの患者群では,放射線治療を行わず,メトトレキサート(脳室内または髄腔内投与を含む),白金製剤,アルキル化剤,ビンクリスチン,エトポシドを中心とした多剤併用化学療法による術後治療を提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
Desmoplastic nodular/extensive nodularity 以外の組織学的サブタイプおよび転移がある場合は,標準的な後治療は確立されておらず,上記の治療に大量化学療法や局所放射線療法を組み合わせた強化治療を行うことを提案する。
解説
3~4 歳未満の乳幼児の髄芽腫治療において,放射線治療,特に全脳脊髄照射(CSI)の,精神運動発達に及ぼす影響は甚大であり,乳幼児の治療戦略として,CSI は選択肢にはなりにくい。治療選択肢の限界と,腫瘍の持つ治療抵抗性の特性が合わさり,全体として乳幼児の髄芽腫は再発死亡リスクが高いと考えられてきた。しかしながら,病理亜分類および分子生物学的特性から,乳幼児の髄芽腫の中には,放射線治療を行わず,または局所放射線治療のみで,長期生存が可能な一群が存在することが明らかになった。したがって,乳幼児髄芽腫においてもリスク分類を行い,それぞれの群で益と害のバランスを考慮して術後治療の推奨を行う。
1990 年代に米国とフランスで,放射線治療を回避し多剤併用化学療法のみで初期治療を行った臨床試験が行われた。フランスのSFOP では,カルボプラチンおよびプロカルバジン,エトポシドおよびシスプラチン,ビンクリスチン,シクロホスファミドの3 種の化学療法を術後に7 サイクル行う単アーム第Ⅱ相試験が行われた。5 歳未満の79 人が登録され,全体の5 年PFS は残存なし(R0)転移なし(M0)群73%,残存あり(R1)M0 群で41%,残存問わず(Rx)転移あり(M+)群で13%であった1)。また,米国CCG-9921 試験は。3 歳未満のあらゆる悪性脳腫瘍を対象としたランダム化第Ⅱ相試験で,術後に2 つの多剤併用化学療法レジメン,レジメンA:ビンクリスチン,シスプラチン,シクロホスファミド,およびエトポシドの組み合わせ,またはレジメンB:ビンクリスチン,カルボプラチン,イホスファミドおよびエトポシドのいずれかに割り付けられ両群とも5 コースの化学療法が行われた。治療開始前に転移がなく化学療法後に残存腫瘍がなかった患者は放射線治療を行わず治療終了,転移がなく残存があった症例はその時点で生後18カ月以上ならCSI と局所放射線治療,18 カ月未満は局所放射線治療のみを行い治療終了,転移症例はCSI と局所放射線治療を行って治療終了した。髄芽腫92 例の5 年無イベント生存割合(EFS)は32%であった。レジメンA 群とB 群の5 年EFS はそれぞれ37%と26%と有意差は認めなかった2)。
同時期にドイツでは,乳幼児髄芽腫に対して,メトトレキサート脳室内投与を含んだ多剤併用化学療法の単アーム第Ⅱ相臨床試験が行われた(HIT-SKK1992)。43 人の3 歳未満の髄芽腫に,術後カルボプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチン,エトポシドの全身投与に加え,メトトレキサート脳室内投与と大量メトトレキサート療法を加えた9 週間サイクルの化学療法を3 回行った。初期治療で放射線治療は行わなかった。全体の5 年EFS は58%であった。R0M0,R+M0,RxM+群の5 年EFS はそれぞれ,82%,50%,33%であった。既知の転移の有無に加え,乳幼児の髄芽腫の組織学的サブタイプが強力な予後因子であることが本試験で明らかになった。Desmoplastic nodular type とclassic type の5 年EFS はそれぞれ85%と34%と有意差を認め,組織学的サブタイプが独立したリスク因子であった3)。さらに後継レジメンHIT2000 においても同様の結果が確認され,メトトレキサート脳室内投与を予定通り投与できた患者の方が,投与量が少なかった患者よりも予後が良いという結果が報告された4)。メトトレキサート脳室内投与の神経毒性は懸念されるが,HIT2000 で同治療を受けた評価可能な202 例の小児髄芽腫患者中,神経毒性を認めたのは9 例であった4)。
米国COG は,3 歳未満の転移のない乳幼児髄芽腫74 例に対して,化学療法と局所放射線治療を組み合わせる臨床試験(P9934)を行った。シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を4 コース行ったあと,残存腫瘍にはセカンドルック手術を推奨し,局所放射線治療を行い,シクロホスファミド,ビンクリスチン,経口エトポシドによる維持療法を行った。全体の4 年EFS は50%であった。ここでも,desmoplastic nodular type とそれ以外の組織サブタイプでは,4 年EFS がそれぞれ58%,23%と有意差を認めた5)。
国際的な臨床試験Head Start では,乳幼児の悪性脳腫瘍に対して,放射線治療を行わず自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を試みてきた。3 歳未満の転移のない髄芽腫21 例に対して,シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を5 コース行った後,セカンドルック手術を推奨し,チオテパ,カルボプラチン,エトポシドによる自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を行った。全体の5 年EFS は52%であった。R0 とdesmoplastic nodular type は予後良好の傾向を認めた6)。また米国のCCG-99703 パイロット試験では,髄芽腫を含む複数の3 歳未満の乳児脳腫瘍を対象に,シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を3コース行った後,チオテパ,カルボプラチンによる自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を地固め療法として3 コース行う治療法の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験が行われた。チオテパの投与量はさまざまであり,副次的評価項目ではあるが,36 例の髄芽腫の5 年EFS は60%であった。病理中央診断できた32 例中14 例がdesmoplastic/nodular type であり,その5 年EFS は79%であった7)。
米国St. Jude 小児病院と米国と豪州合計6 施設で行われた,3 歳未満の髄芽腫を,M0 のdesmoplastic nodular type を低リスク,M0 のその他の組織型の髄芽腫を中間リスク,M+を高リスクと分類した。寛解導入化学療法は大量メトトレキサート療法,ビンクリスチン,シクロホスファミド(高リスクのみビンブラスチン追加)を4 コース行った。強化療法として,低リスクは放射線治療を省略し,追加のカルボプラチン,シクロホスファミド,エトポシドを2 コース行った。中間リスクは54 Gy の局所放射線治療を行い,高リスクはトポテカンとシクロホスファミドを2 コースまたは3 歳を超えてのCSI を行った。その後,シクロホスファミド,トポテカン,エルロチニブによる内服維持療法を6 サイクル(24 週間)行った。低リスク群は,23 例が試験治療を行ったが,中間解析結果では,1 年EFS が78.3%と低く登録中止となり,5 年EFS は55.3%であった。中間リスクは16 例が試験治療を行い,5 年EFS は24.6%であった。高リスクは26 例が試験治療を行い,5 年EFS が16.7%であった8)。
これらのエビデンスより,RT による発達や認知機能への影響という害がより大きくなる乳幼児の髄芽腫において,転移がなくdesmoplastic nodular/extensive nodularity サブタイプの患者群では,放射線治療を行わず,メトトレキサート髄腔内投与を含む,白金製剤,アルキル化剤,ビンクリスチン,エトポシドを中心とした多剤併用化学療法による術後治療を提案する。一方,それ以外の組織学的サブタイプおよび転移がある場合は,標準的な後治療は確立されておらず,上記の治療に大量化学療法や局所放射線療法を組み合わせた強化治療を行うことを提案する。
- 注意:
- カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
イリノテカン(irrinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
エルロチニブ(erlotinib):髄芽腫に対しては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radiotherapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。乳幼児髄芽腫の臨床試験は対象年齢の上限が,試験によって異なり,3 歳未満から5 歳未満と幅があるが,希少疾患で臨床試験報告論文の数が限られるため,CQ7 のシステマティックレビューでは5 歳未満までを含めた。CQ7 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの8 文献,EFS アウトカムの8 文献,有害事象・QOL アウトカムの7 文献を採用した。
❖ 文献
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課題6:再発時の治療
- CQ8
- 局所再発時の適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨1
髄芽腫の局所再発に対し,腫瘍の進行の抑制と生命予後の改善を期待し,化学療法を実施することを提案する。
- 推奨度2D
- 推奨2
髄芽腫の局所再発に対し,摘出が安全に行いうる場合や摘出により症状の改善が期待できる場合等に,外科治療を提案する。
- 推奨度2D
- 推奨3
放射線治療は初期治療で放射線を使用しなかったか減量されている場合等に,個々の状況に応じて緩和的にまたは根治的に実施することを提案する。
解説
初発髄芽腫の治療成績は,外科治療と化学療法および放射線療法の組み合わせにより,標準リスク群で5 年無イベント生存割合(EFS)70~80%程度,また高リスク群では35~70%程度,乳児症例における5 年無病生存割合(DFS)30~50%程度で,治療法の改良により初回治療後の寛解期間は延長してきている1-11)。これに対し再発髄芽腫に対する標準的な治療法は確立されておらず,その長期生存率は不良であることから,再発髄芽腫に対する治療は臨床上重要な課題である。
報告されている再発治療の有効性については,10 年生存率で見た場合に多剤化学療法で24%,放射線治療で45%(標準リスク群)といったデータが参考になる1,12)。また,再発形式として後頭蓋窩局所再発はむしろ少なく,HIT-91 の再発40 例では播種性再発が32 例(80%)となっている13)。播種性再発や高リスク群での再発,外科切除不能例,放射線治療施行後の再発症例では,再発後の治療を強く支持する研究データは得られていない。しかしながら再発後の無治療で経過観察された場合には,生命にかかわる急速な症状悪化を招きかねず,再発病変に対する治療に対する患者や家族の希望は強いため,緩和医療も含めた包括的な治療計画が望まれる。
再発治療において,過去に報告された医学データを利用するにあたり,試験の対象(髄芽腫のみか他の腫瘍型が含まれているか),リスク分類,再発形式(局所再発または播種性再発),初回化学療法や放射線治療の違い等に着目した。本ガイドラインでレビューの対象とした441 文献の中で,化学療法に関する介入研究は12 文献のみであった14-25)。このうち,10 文献が単アーム試験,2 文献がそれぞれ異なる薬剤の比較であり,プラセボを対象とした比較試験は行われていない。さらに,対象症例については,3 文献が髄芽腫のみ,9 文献は原始神経外胚葉腫瘍(primitive neuroectodermal tumor:PNET)をはじめとした他の小児脳腫瘍型を含み,検討の対象となる症例数は極めて限られていた。また,治療においては,多くの試験で化学療法に加えて放射線治療や外科治療が併用され,治療介入の方法は不均一であった。さらに,初回治療において放射線治療が行われている場合とそうでない場合では,再発時の治療法や予後に違いがみられることが想定される。このように,均質で十分な医学データが得られてないことを考慮したうえで,腫瘍の制御率ならびにOS の延長を重視した解析を行った。また,髄芽腫の局所再発に対する外科治療や放射線治療に関しては,前方視的臨床試験の報告がなく,特定の条件下での治療について強い推奨をもたらすものではない。そのため本CQ では,上記介入研究12 文献以外にも,診療上参考になる文献について記載することとした。
髄芽腫の局所再発に対する単剤化学療法については,高用量チオテパ,テモゾロミド,パクリタキセルといった薬剤の有効性が2 つの試験で報告されている14,25)。これら2 試験の対象となった症例の約9 割が初回治療で放射線治療を併用していた。Osorio らは,再発髄芽腫26 例に対し高用量チオテパ(200 mg/m2/day)を3 日間投与したのちに自家造血幹細胞移植を行い,4 週間以降に再投与する治療法で,5 例に45 カ月以上の生存を確認,OS 中央値11.7 カ月であったと報告している25)。この試験は髄芽腫以外の複数の異なる腫瘍型の再発も対象として含まれており,全体の治療関連死は3.4%にみられた。Cefalo らの報告では,初回治療で大量化学療法や全脳脊髄照射(CSI)が行われているか否かによりテモゾロミド150・180・200 mg/m2/day の3 種類の投与量を設定し,28 日ごとに5 日間経口投与した14)。37 例(脊髄播種病変あり7 例,遠隔転移あり30 例)のresponse rate は42.5%,6 カ月PFS 30%,12 カ月PFS 7.5%であり,PNET 5 例を含めた解析で1 年OS は41.2%,治療関連死はなく,グレード3~4 の血液毒性が2 割の患者に認められた。またHurwitz らの髄芽腫再発16 例に対するパクリタキセルの報告によれば,350 mg/m2/day を3 週間ごとに投与する方法で,CR 1 例,SD 6 例,PD 9 例であり,無増悪生存期間(PFS)は2.9 カ月であった19)。この試験は複数の異なる腫瘍型の再発を対象とし,全体の有害事象はグレード3 のアレルギー反応1 例と敗血症7 例のほか,治療関連死1 例,脳幹圧迫ある髄芽腫で痙攣後の死亡が1 例みられた。
多剤化学療法についてDunkel らは,25 例の再発髄芽腫に対する自家造血幹細胞移植を併用したカルボプラチン,チオテパ,エトポシドの大量化学療法レジメンを報告した17)。カルボプラチンは造血幹細胞移植の8 日前から500 mg/m2で開始し,3 日間使用したのち,チオテパ300 mg/m2/day およびエトポシド250 mg/m2/day が投与された。この治療での成績は10 年EFS 24%,10 年OS 24%,OS 中央値が26.8 カ月,6 例は151.2 カ月(中央値)増悪なく生存した。治療関連死は3 例(14%)であった。またDupuis-Girod らは,CSI を回避した初回治療時3 歳未満の髄芽腫再発20 例に対するブスルファンとチオテパのレジメンを報告した22)。ブスルファンを150 mg/m2/day で4 日間経口投与したのちチオテパ300 mg/m2/day を3 日間使用して自家造血幹細胞移植を行った。外科治療を追加した4 例を除く16 例の解析で(後頭蓋窩局所再発9,脊髄再発および髄液播種3,両方を認めるもの4),CR が4 例(25%)認められ,RR は75%と良好な結果が示されており,治療関連死を1 例認めた。この試験では幹細胞移植後36 例において放射線治療が併用されている。イリノテカンについては,髄芽腫再発9 例に対するベバシズマブとの併用治療について後方視的研究で,PFS 11 カ月,OS 13 カ月,6 カ月時点でのPR 3 例,CR 1 例と報告されている26)。イリノテカンはテモゾロミドとの併用療法での第Ⅱ相試験も報告されているが,66 例の再発例に対しCR2,PR13,生存期間中央値16.7 カ月であり,期待された結果は得られていない27)。
Müller らはHIT-REZ 試験において,初回治療として外科的摘出と化学療法のみ行い,放射線治療を回避した乳幼児17 例に対して,完全寛解後初回再発時の治療としてCSI および局所放射線治療を行った結果を報告している28)。CSI は35.2 Gy(23.4~40.0 Gy)および後頭蓋窩ブースト55.0 Gy で行われ,カルボプラチンやエトポシドを使った化学療法が併用された。17 例の治療成績はPFS 2.9±1.1 年,OS 3.8±0.8 年,5 年PFS 40%,5 年OS 39%であった。6 例の局所再発,11 例の遠隔再発(髄液細胞診陽性1 例,脊髄病変あり3例,遠隔転移あり3 例,脊髄病変と遠隔転移あり3 例)の治療成績は局所再発例と遠隔転移例それぞれ3 年PFS 67%±19%および36%±15%(log-rank,p=0.948),3 年OS 67%±19%および55%±15%(log-rank,p=0.914)であり,有意差は認められていない。この報告では,大量化学療法やメトトレキサート髄注療法もCSI と併用または前後して行われていていることから,放射線治療単独の効果を示すものではないが,初回治療で放射線治療を回避した乳幼児髄芽腫の初回再発に対し,放射線治療の効果を示唆するデータとして重要である。
初回治療で放射線を併用した再発髄芽腫症例については,Bakst らが13 例の初期治療で放射線治療を行っている髄芽腫再照射治療を報告している29)。再照射の内訳は後頭蓋窩46%,テント上・全脳31%,脊髄23%,全脳全脊髄8%であり,外科治療や化学療法が併用されている。治療は局所分割照射とIMRT がほぼ同数で行われ,CSI 18 Gy およびブースト12 Gy が使用された。照射後の急性期障害は認めず,観察期間内(中央値30 カ月)に無症候性の放射線壊死が1 例認められた。治療成績は5 年DFS 48%,5 年OS 65%と一定の治療効果が得られた。この研究では,異なる照射部位に対し局所または拡大照射が行われており,再発形式について詳細な記載はないため再発腫瘍全般での再照射治療の効果については結論できない。しかしながら,局所再発や限局的な遠隔再発に対し再照射治療を行う場合には参考となる報告である。
Wetmore らは,初回治療で手術および化学放射線治療を行った再発髄芽腫38 例中14 例に再照射を行った結果,5 年OS 55%±14%(vs. 33%±16%)および10 年OS 46%±14%(vs. 0%)ともに,非照射例に対し有意に生存期間が上回ったと報告した(p=0.036)12)。CSI 36 Gy(総線量18~54 Gy/1 日線量1.5~2 Gy)と局所照射が併用され,総線量の中央値は91.9 Gy(73.8~109.8 Gy)であった。再照射14 例の放射線壊死は9/14 例(64%)であったのに対し,非照射例では7/24 例(29%)と有意な増加を認めたが(p=0.0468),無症候性であったため追加の治療は行われていない。標準リスク11 例および高リスク4 例の生存期間はそれぞれ5.39 年と4.94 年であった。初回治療から10 年生存した割合は標準リスク群45%,高リスク群0%であり,再治療でのリスクを考慮したうえで,特に標準リスク群では再発に対しては再照射の有効性が期待できる結果である。
髄芽腫の局所再発に対する外科治療についてOS 延長を直接証明した報告はなく,評価も一定していない。Sabel らは標準リスク群の髄芽腫を対象としたHIT-SIOP PNET4 試験の初回再発72 例の解析を行っている30)。うち18 例(25%)に外科的切除が行われ,その再発部位の内訳は後頭蓋窩単発6 例,脊髄またはテント上5 例,脳脊髄多発7 例であった。再発72 例全体の3 年OS および5 年OS はそれぞれ20±5%,6.0±4%であり,外科的切除(p<0.01)ならびに後頭蓋窩局所再発(p<0.01)はともに独立した予後因子であった。局所再発の外科治療については,侵襲性や化学療法・放射線治療の成績も考慮したうえで,摘出が安全に行える場合,摘出により症状の改善が期待できる場合など個々の症例の状況に応じた適応判定を行うべきである。
以上のことから,髄芽腫の局所再発に対して化学療法の効果が一部示されており,症例の状況に応じて放射線治療の併用を考慮できる。また,大量化学療法における治療関連死,放射線治療における晩期障害について注意する必要がある。小児患者の尊厳を含めた倫理的判断に基づき,治療によるリスクや侵襲性を十分に考慮した包括的な適応判断がなされることが望ましい。
- 注意:
- チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
テモゾロミド(temozolomide):髄芽腫に対しては保険適応外,ユーイング肉腫に対してイリノテカンとの併用で保険承認
パクリタキセル(paclitaxecel):髄芽腫,小児固形腫瘍に対しては保険適応外
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
ブスルファン(busulfan):髄芽腫に対しては保険適応外,ユーイング肉腫ファミリー腫瘍及び神経芽細胞腫における自家造血幹細胞移植の前治療としては保険承認適応
イリノテカン(irrinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
ベバシズマブ(bevacizumab):髄芽腫,小児固形腫瘍に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫,小児悪性腫瘍対しては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab]))))AND(((((((Neoplasm Recurrence,Local[mh]OR Neoplasm, Residual[mh]OR Neoplasm Seeding[mh]OR Recurrence [mh])))OR(((Local[tiab]OR Locoregional[tiab])AND(Neoplasm Recurrence[tiab]OR Neoplasm Recurrences[tiab]))))OR(((minimal[tiab]and residual[tiab]and(disease[tiab]OR diseases[tiab]))OR(residual[tiab]AND(neoplasm[tiab]OR neoplasms[tiab])))))OR((neoplasm[tiab]and seeding*[tiab])))OR((Recurrences[tiab]OR Recrudescence[tiab]OR Recrudescences[tiab]OR Relapse[tiab]OR Relapses[tiab]OR Regrowth[tiab])))))AND((“Epidemiologic Study Characteristics”[Mesh]OR “Statistics as Topic”[Mesh]OR “Clinical Study”[Publication Type]))))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により検索された441 文献のなかから介入研究12 文献を抽出して内容を確認し,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
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- CQ9
- 播種再発に対する適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨
寛解を目的とした治療を目指すが,治療反応性が不良の場合は,緩和的治療も提案される。
解説
髄芽腫において再発の場合は局所再発と播種再発が認められるが,MRI を撮影する時期がずれれば,必ずしも正確な鑑別ができない場合がある。原発巣近傍の再発が認められ,なおかつ播種も認められる場合は,原発巣の再発から播種したのではないかという可能性もあるが,原発巣近傍に局所再発が認められずに播種再発だけ認められた場合は,初回治療の早い時期にすでに播種しており,後療法抵抗性の腫瘍細胞が播種していた場所で残存し,再発したと予想される。Hsieh ら1)は,髄芽腫12 例の脊髄播種症例を術前,術後1 カ月以内で,放射線治療や化学療法以前に認められた播種症例をearly metastasis 群(9 例),放射線治療や化学療法を含むすべての初期治療終了後に播種再発した症例をlate metastasis 群(3 例)に分けて解析しているが,early metastasis 群が統計学的に有意に予後良好(p=0.0047, log-rank test)という結果であった。Late metastasis 群が予後不良の理由としては,late metastasis としての播種再発は,初期治療抵抗性の腫瘍細胞の残存が再発の起源になっている可能性が高いと考えられる。髄芽腫の播種再発は局所再発に比べて予後不良かという問題に関しては,Bowers ら2)が,治療後の再発形式で予後を比較している。彼らは41 例の髄芽腫再発症例において,21 例の原発巣の部位だけの再発群と20 例の局所再発群と播種を伴う再発群の生存予後を比較している。手術,化学療法,放射線療法と再発後の治療はばらつきがあるものの,彼らの解析では,初期治療にてBaby POG protocol(POG infant brain tumor regimen/シクロホスファミド,ビンクリスチン,シスプラチン,エトポシド)を受けているかどうか(p=0.030,log-rank test),再発時に播種なく原発巣だけの局所再発だけかどうか(p=0.008,log-rank test),再発時には放射線治療を加えているかどうか(p=0.015,log-rank test)ということが有意に生存を延長させる因子であったが,多変量解析の結果では,原発巣の場所における局所再発(21 例)という因子だけが,播種を伴う症例(20 例)に比べて明らかに生存が延長しており(p=0.03),独立した予後良好因子であった。さらに,局所再発と播種再発を生物学的に異なるものとして区別すべきかという問題はあるが,近年髄芽腫の分子生物学的分類が提唱されて後,Ramaswamy ら3)は3 つのコホート研究を集計した。髄芽腫分子生物学的分類4 型のそれぞれの再発形式では,Sonic Hedghoc(SHH)型は他の型に比べて局所再発が多く,播種再発が少ないという結果であった。局所再発と播種の両方もあるMixed な再発形式もSHH 型は少ないことから,生物学的に他のグループより局所に再発しやすい,もしくは播種しにくいということは言えるかもしれない。しかしWNT 型は再発が少なくてこの研究では解析されていない。
髄芽腫の再発治療においては,一般的に局所再発だけであれば手術という選択肢も可能な場合があるが,播種を伴う再発であればほとんど外科的介入はなく,他の治療に委ねられる場合が多い。初期治療として放射線治療を行っている場合,salvage therapy としての再照射を行う可能性は存在するものの4,5),全例に施行可能とは言いがたく,一般的ではない。Bakst ら5)は初期治療にて放射線照射を行っている髄芽腫症例に対して再発時に再照射を行った13 例を検討している。再照射の中央線量は30 Gy,1 回線量中央値は1.5 Gy であり,54%の症例において強度変調放射線治療が使用されていた。13 例の5 年PFS は48%,5 年OS は65%であり,放射線障害による急性期障害,急死や,二次がんは観察期間中には認められておらず,放射線壊死が1 例,38%に聴力障害,15%に下垂体機能不全,1 例に認知機能障害の有害事象が認められたと報告している。しかし,この治療成績は放射線治療単独ではなく,再発時の手術や化学療法と併用しており,また,局所再発と播種再発の治療成績を区別していないために,播種再発で放射線治療の再照射の有用性を正確には評価できない。現時点では,播種再発症例において初期治療で放射線照射を施行していない場合では,積極的に再発時放射線照射ということが選択肢になるが,すでに放射線治療を行っている症例の再発時の再照射は再発腫瘍のコントロール,有害事象の面からも積極的に推奨できないと思われる。
再発時の化学療法においては一般的な化学療法に加えて,末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法などのintensive な治療の報告も多数ある6-9)。しかしながら,レジメンとして統一したものではなく,主にカルボプラチン,エトポシド,チオテパ,シクロホスファミド,メルファラン,carmustine(BCNU),lomustine(CCNU)など使用されている場合が多い。Gilman ら6)は18 例の再発髄芽腫の患者に対して連続した大量化学療法(First cycle:チオテパ600~750 mg,BCNU 300~450 mg,Second cycle:チオテパ600~750 mg,カルボプラチン1,200 mg)による治療を行っているが,局所再発と播種再発の治療成績の区別はない。しかし,18 例中15 例が播種再発であり,播種再発の割合が高い報告である。末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法の予後不良因子として一般的に播種再発があるといわれているが,彼らは必ずしも播種再発が予後不良因子とは結論づけておらず,播種再発例における生存率は,33%(15 例中5 例,観察期間54~135 カ月)という治療成績であった。8 例において何らかの治療関連死亡が認められており,比較的高頻度な有害事象と思われる。いくつかの報告をまとめても,現時点で有害事象も併せて考え,播種再発において必ずしも末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法が必須とは言い難い。さらに大量化学療法の中でも最も優れたレジメンを同定しがたく,また,欧米と本邦では保険制度等の違いから使用できる薬剤が異なっており,今後本邦での臨床研究を通じた使用薬剤の適応拡大が待望されている。Kim ら10)は5 種類の通常量の化学療法剤を使用したsalvage therapy として7 例の脊髄播種症例を含む再発小児悪性腫瘍に対する化学療法の有効性を検討している。イリノテカン300 mg/m2,ビンクリスチン2 mg/m2,シスプラチン60 mg/m2,シクロホスファミド1,000 mg/m2,エトポシド100 mg/m2の薬剤を使用しているが,大量化学療法より副作用は軽微であり,3 例がCR,2 例がPR という比較的良好な治療反応性を認めている。しかし6 例がPD であり,この結果からはいかに多くの薬剤を使用した多剤併用化学療法を行っても通常の量では,播種再発の髄芽腫をコントロールすることは困難であるとの印象である。
21 例の播種再発髄芽腫に対して,Yoshimura ら11)は6~7 mg/m2のニムスチンの髄腔内灌流もしくは3~3.5 mg/m2の髄腔内投与を行っている。約50%の症例において反応が認められ,21 例中7 例がCR となり,比較的長期の生存を獲得している。播種確認後の5 年生存率は46.4%であり,彼らは播種が存在する髄芽腫患者の治療法において化学療法剤の髄腔内投与の有効性を示している。この治療法による副作用として灌流療法による副作用はほとんどみられていない一方,髄腔内投与(Bolus injection)に関しては脊髄炎が認められた症例があり,頻回の投与と局所的に薬剤が高濃度になることは避けるべきと言及している。現在,髄芽腫の初期治療において,予防的,あるいは腫瘍縮小を目的としてメトトレキサートの髄腔内投与を行うことも多いが,播種再発に化学療法剤の髄腔内投与が有効な治療かどうかは報告が少なく,現時点ではその有効性は判断できない。播種再発の症例において治癒を目指してさまざまな治療を行ったとしても,現存の治療では有効性があるとは言い難いとも報告されている。Massimino ら4)は播種再発が認められた髄芽腫症例にシスプラチンとエトポシドを用いた標準的化学療法(6 例),もしくはエトポシド,シクロホスファミド,ビンクリスチン,カルボプラチン,チオテパなどを用いた大量化学療法(10 例)を施行し,さらに7 例は全脳脊髄照射(CSI),3 例は局所照射を行うというintensive な治療を行った。DFS 中央値は16 カ月,OS 中央値は41 カ月,3 年DFS が19%,3 年OSが56%という治療成績であり,観察期間での生存例は1 例のみであった。これらの結果を鑑み,彼らは別の報告で髄芽腫の再発症例に対しできるだけ短い入院期間を目指し,QOL を重視した再発の治療を推奨している12)。彼らは18 例の再発の髄芽腫患者の治療後,17 例に再再発が認められ,16 例は播種病変を確認されている。3 回目の再発10 例中9 例が播種再発であり,全例に化学療法が施行されているが,手術や放射線治療が行われたものはない。本報告の再発症例全例の入院期間は4 日から129 日(平均19 日)であり,治療による有害事象がなかったと報告している。治療成績においては,8 例の再発髄芽腫の症例の平均DFS は7 カ月,平均OS も7 カ月であり,最終的には全例死亡している。以上より,播種再発は局所再発と比較してやはり予後不良であると考えるべきである。
髄芽腫の播種再発に対しては,現存の治療にて治癒できる症例は稀と言わざるを得ない。対象が小児であるがゆえに積極的な治療を行うべきと考える一方で,QOL を保ちながら緩和的な治療を導入することも重要であると考えられる。
- 注意:
- シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫,小児悪性固形腫瘍には保険適応外
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
メルファラン(melphalan):小児固形腫瘍の造血幹細胞移植時の前処置として保険適応
carmustine(BCNU):国内未承認
lomustine(CCNU):国内未承認
イリノテカン(irinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫,小児悪性腫瘍対しては保険適応外
ニムスチン(nimustine:ACNU):脳腫瘍に対する自覚的ならびに他覚的症状の緩和として静脈内投与は保険適応,髄腔内投与薬としては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])AND(Neoplasm Recurrence, Dissemination[Mesh]OR Neoplasm Seeding[Mesh]))OR((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])AND(Multiple Recurrence[Mesh]OR Dissemination[Mesh]))OR((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])OR(Neoplasm Recurrence[Mesh]OR Neoplasm Recurrences[tiab]OR Recurrences[tiab]OR Relapse[tiab]OR Relapses[tiab]OR Regrowth[tiab])))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により抽出された641 文献のなかから,できるだけ播種再発を多く含む症例の24 文献を抽出し,システマティックレビューを行い,構造化抄録を作成した。さらにその中で局所再発でも同様な治療を行うもの,また症例数が少ないものなどを排除し,最終的に12 文献を取り上げて,解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Hsieh PC, Wu CT, Lin KL, et al. The clinical experience of medulloblastoma treatment and the significance of time sequence for development of leptomeningeal metastasis. Childs Nerv Syst. 2008;24(12):1463-7.[PMID:18802711]
- 2)
- Bowers DC, Gargan L, Weprin BE, et al. Impact of site of tumor recurrence upon survival for children with recurrent or progressive medulloblastoma. J Neurosurg. 2007;107(1 Suppl):5-10.[PMID:17644914]
- 3)
- Ramaswamy V, Remke M, Bouffet E, et al. Recurrence patterns across medulloblastoma subgroups:an integrated clinical and molecular analysis. Lancet Oncol. 2013;14(12):1200-7.[PMID:24140199]
- 4)
- Massimino M, Gandola L, Spreafico F, et al. No salvage using high-dose chemotherapy plus/minus reirradiation for relapsing previously irradiated medulloblastoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2009;73(5):1358-63.[PMID:19019566]
- 5)
- Bakst RL, Dunkel IJ, Gilheeney S, et al. Reirradiation for recurrent medulloblastoma. Cancer. 2011;117(21):4977-82.[PMID:21495027]
- 6)
- Gilman AL, Jacobsen C, Bunin N, et al. Phase Ⅰ study of tandem high-dose chemotherapy with autologous peripheral blood stem cell rescue for children with recurrent brain tumors:a Pediatric Blood and MarrowTransplant Consortium study. Pediatr Blood Cancer. 2011;57(3):506-13.[PMID:21744474]
- 7)
- Park JE, Kang J, Yoo KH, et al. Efficacy of high-dose chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed medulloblastoma:a report on the Korean Society for Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)-S-053 study. J Korean Med Sci. 2010;25(8):1160-6.[PMID:20676326]
- 8)
- Dunkel IJ, Gardner SL, Garvin JH, Jr., et al. High-dose carboplatin, thiotepa, and etoposide with autologous stem cell rescue for patients with previously irradiated recurrent medulloblastoma. Neuro Oncol. 2010;12(3):297-303.[PMID:20167818]
- 9)
- Gururangan S, Krauser J, Watral MA, et al. Efficacy of high-dose chemotherapy or standard salvage therapy in patients with recurrent medulloblastoma. Neuro Oncol. 2008;10(5):745-51.[PMID:18755919]
- 10)
- Kim H, Kang HJ, Lee JW, et al. Irinotecan, vincristine, cisplatin, cyclophosphamide, and etoposide for refractory or relapsed medulloblastoma/PNET in pediatric patients. Childs Nerv Syst. 2013;29(10):1851-8.[PMID:23748464]
- 11)
- Yoshimura J, Nishiyama K, Mori H, et al. Intrathecal chemotherapy for refractory disseminated medulloblastoma. Childs Nerv Syst. 2008;24(5):581-5.[PMID:18057943]
- 12)
- Massimino M, Casanova M, Polastri D, et al. Relapse in medulloblastoma:what can be done after abandoning high-dose chemotherapy? A mono-institutional experience. Childs Nerv Syst. 2013;29(7):1107-12.[PMID:23595805]
課題7:治療による晩期障害
- CQ10
- 髄芽腫に特徴的な晩期障害とそれをきたしやすい背景因子は何か?
- 推奨度1B
- 推奨1
無言症/後頭蓋窩症候群では学習機能が低下するので特に注意して経過を見ることを推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
髄芽腫治療後に経時的に認知機能障害は進行し,特に高リスク群と低年齢(7 歳以下)でその傾向が強いので特に注意して経過を見ることを推奨する。
解説
髄芽腫治療の進歩によって長期生存が得られるようになると,さまざまな晩期障害が認められるようになった。小児がん患者全体を対象とした長期生存者に対する長期フォローアップの指標はいくつか発表されており,例えば海外のものではCOG のガイドライン(http://www.survivorshipguidelines.org)があり,国内でも日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group:JCCG)の小児がん長期フォローアップガイドがある。また,妊孕性に関しては日本癌治療学会のガイドライン(http://www.jsco-cpg.jp/fertility/)がある。髄芽腫治療後のフォローアップの指標としても参考となる。
今回はあくまで髄芽腫の治療による晩期障害に焦点をあてて推奨を作成した。晩期障害からみて,髄芽腫のフォローアップで特に注意すべき場合がどのような症例かを検討した。晩期障害に関する文献は,髄芽腫以外の小児脳腫瘍も含むものが多く,ほとんどが後方視的な検討であり,それらは参考として,本推奨は髄芽腫の治療による晩期障害の前方視的コホート研究を中心にまとめた。
1990 年代のPOG8631 の知的予後に関する報告1)は3 歳以上の髄芽腫で残存腫瘍が1.5 cm2未満の22 例において,全脳脊髄の照射量36 Gy/23.4 Gy と8.85 歳を基準としたyounger/older で4 群に分類し,IQ を比較したものである。症例数も少なくそれぞれの群間で有意差は出ておらず,また縦断的研究ではなく,ワンポイントでの評価ではある。いずれの群でも単にFull scale IQ が低下していることは示しているが,その原因が何であるのかには言及していない。この研究では評価方法としてはWISK ⅢもしくはWAIS-R をIQ の評価として用いており,学習能力評価としてWide Range Achievement Test Ⅲを用いている。
これ以降の論文でも,主にIQ の評価はWISK Ⅲ or ⅣとWAIS-R が用いられるが,そもそも髄芽腫患者の場合小脳失調症状を後遺することが多く,それがFull scale IQ の低下に影響している可能性も考える必要がある。したがって,純粋な認知機能低下の進行を捉えるためには,前方視的に縦断的に調査しIQ でもどの要素が変化していくのかを評価することが必要である。
2000 年代のCCG9892 の知的予後に関する結果2)は,3~15 歳で播種のない(標準リスク群)43 例で全脳脊髄照射(CSI)23.4 Gy+ブースト照射32.4 Gy,ビンクリスチン/lomustine(CCNU)/シスプラチンで治療した結果を,放射線治療後を起点に4 年後まで経時的に調査した結果である。評価方法は,WISK-R/WISC-Ⅲ/WPPSI-R/SB4/McCarthy とさまざまである。ここではFull Scale IQ が経時的に低下する(4.3/年)ことを示す一方で,男女差(女子の方がVerbal IQ 低下が大きい),診断時の年齢による差(7 歳未満では低下するが7 歳以上では低下しない),Baseline IQ での差(IQ>100 では低下の程度が大きい)などを示している。
2000 年代のもう一つの論文はSJMB96 に登録された症例のうち111 例での検討である3)。最大6 年(平均3.14 年)の経時的な認知機能評価を受けた。高リスク群(CSI:36~39.6 Gy)/標準リスク群(CSI:23.4 Gy)と診断時の年齢(7 歳以上/7 歳未満)で4 群に分類された。化学療法は4 サイクルの大量化学療法(シクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチン)が行われた。認知機能評価の初回は手術摘出後(登録時)で,その後1,2,5 年の段階で評価した。多変量解析の結果全体ではmean IQ(-1.59/y,p=.006),読み(-2.95/y,p<.0001),書き(-2.94/y,p<.0001),算数(-1.87/y,p=.003)とも低下したが,群間比較ではmean IQ は高リスク群では低下したが(-3.00/y,p=.004),標準リスクでは低下していなかった(-0.99/y,p=.13)(ただし2 群間に有意差はない)。また同様にmean IQ は7 歳未満群では低下したが(-3.05/y,p=.0005),7 歳以上群では低下しなかった(-0.61/y,p=.37)(2 群間に有意差あり)。治療線量より治療時年齢の方がIQ 低下の要素として強いと示された。ただし研究全体の規模からすると評価を受けた登録例は少なく,評価方法に関しても年齢によってさまざまであった。
2010 年代になるといくつかの前方視的コホート研究が発表されている。
1 つ目はCOG A9961 の標準リスク群に対する放射線治療(CSI 23.4 Gy/ブースト照射32.4 Gy)と大量化学療法(CCNU/シスプラチン/ビンクリスチン,またはシクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチン)後の知的・学業予後に関する報告4)である。登録全体379 例中110 例について5 年以上の経過で評価した。Baseline の評価は放射線治療から9 カ月以内に施行された。評価方法は,IQ に関してはWPPSI-R/WISC-Ⅲ/WAIS-R/WAIS-Ⅲを用い,学習能力評価にはWide Range Achievement Test Ⅲなどが用いられた。全症例をまとめたデータでFull Scale IQ は5 年間にわたり年間1.9 ポイント低下した。IQ および学習能力の低下は,男女差はなく,無言症の有無でFull Scale IQ とPerformance IQ およびReading で有意差があった。Baseline IQ の方が高い(IQ>100)方がFull Scale IQ 低下の程度が有意に大きく,診断時7 歳以上と7 歳以下では7 歳以下の症例のPerformance IQ 低下率が有意に高く,摘出率では全摘群の方が低下率は高いが有意差はなかった。
無言症の有無での評価はSJMB03 に登録された327 例中,後頭蓋窩症候群(主には無言症)を呈した36 例についての前方視的試験報告5)がある。SJMB03 治療は播種と脳幹浸潤がない例で,肉眼的全摘出された群を標準リスク群としてそれ以外を高リスク群とし,標準リスク群にはCSI 23.4 Gy,高リスク群にはCSI 36~39.6 Gy で局所55.8 Gy の放射線治療を行っている。放射線照射治療6 週後から,4 サイクルの高用量のシクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチンからなる化学療法を施行した。同じ試験の登録例で後頭蓋窩症候群を呈さなかった例で年齢・人種・リスク分類・手術・性別を一致させた36 例を対照として,神経心理学的評価を経時的に1,3,5 年後に,知的能力の他に遂行速度,注意力,ワーキングメモリー,空間認知機能などさまざまな視点で評価した。後頭蓋窩症候群の有無によりbaseline からこれらの能力に差があるが,対照群が5 年間で不変なのに対し,後頭蓋窩症候群は不変もしくは低下しており有意差がみられた。この2 つの報告を合わせて評価シートを作成すると,後頭蓋窩症候群がある群とない群ではQOL や高次機能においてbaseline でも差があり5 年後さらに差が広がる,というエビデンスが示された。
遂行速度,注意力,ワーキングメモリーなどについて前方視的で縦断的に検討した報告6)もある。これは上記のSJMB03 の登録(この時点ではまだ318 例)から後頭蓋窩症候群を除き,その他の不適格例を除いた126 例の検討である。Baseline の機能の評価は手術後(登録直後)に行い,1,3,5 年後と経時的に前方視的試験で行われた。評価はWoodcock-Johnson Tests of Cognitive Abilities Third Edition, Woodcock-Johnson Tests of Achievement Third Edition を用いた。遂行能力はbaseline から低下しており,経時的変化は低年齢,高リスク群,baseline score が高い場合により低下する傾向にあった。計算式で推定すると,標準リスク群では診断時年齢6 歳では軽度低下がみられたが,10 歳では変化なく,14 歳では上昇・改善し,一方高リスク群では6 歳,10 歳では著明に低下したが,14 歳では低下がみられなかった。Baseline での遂行能力の低下は小脳失調を避けがたい疾患特異性の影響が考えられる。ワーキングメモリーや注意力はbaseline での低下はなく,経時的変化については高リスク群,baseline score が高い場合により低下する傾向にあった。
ここまで記載したものは北米からの報告だが,欧州からはHIT-SIOP PNET4 phase 3 European RCT の報告がある7)。標準リスク群の髄芽腫患者を過分割照射群(過分割群:1 日2 回1 Gy 照射,CSI 36 Gy,後頭蓋窩60 Gy)と標準分割照射群(標準分割群:1 日1.8 Gy 週5 日照射,CSI 23.4 Gy,後頭蓋窩54 Gy)にランダム化を行い,照射中のビンクリスチンと8 サイクルのCCNU/シスプラチン/ビンクリスチンを行った。認知機能については9 カ月寛解状態を得た137 例(過分割群71/107 例,標準分割群66/109 例)で平均3 年の経過で評価を行った。評価法はWISC を基本に各国によって評価法を選択した。年齢についても8 歳以上と以下で比較した。結果としてこの研究では治療法や年齢による有意な差は認められず,全体的にも経時的なIQ の低下はみられていない。北米の結果と異なり,IQ の低下を認めなかった理由として観察期間が短いことが影響している可能性はある。
陽子線治療によるQOL の変化を前方視的に観察したマサチューセッツ総合病院からの報告8)がある。評価法としてこれまでの報告と異なりPedsQL version4.0を用いており,self-report ができる年齢層が対象となった。2002~2015 年の登録例161 例中116 例で,平均5 年間の経過で評価を行った。この症例群には8 歳以上も以下もいて,標準リスクと高リスクもあり,また播種や後頭蓋窩症候群のある例ない例も含まれており,かなり雑多な集団である。評価はTCS(total core score)で行われるが,当初TCS が低かった児でも徐々に改善するが,最終的に健常小児と比較すると低い値であった。評価法として興味は惹かれるが,陽子線の影響を真に評価をするまでには至らない。
以上をまとめると,髄芽腫に対する治療によるIQ の低下は認めないという報告もある一方,北米での前方視的試験の結果からは,無言症/後頭蓋窩症候群のある場合は認知機能(特に学習)に関して低下する,ということが言える。また,髄芽腫の治療後5 年の経過で経時的にIQ が低下するが,高リスク群でその傾向が強い。ただしこれが,疾患によるものなのか,治療(特に放射線照射線量)の差によるものなのかはわからない。また低年齢(7 歳以下)では低下の程度が強いことも示唆された。問題は,経過観察は長くても10 年程度で,平均では5 年に満たない場合が多い点で,晩期合併症に対する真の評価としては,より長期の結果が望まれる。そのようなデータは前方視的コホート研究ではまだ存在せず,後方視的のデータしかなく,したがって,さまざまなバイアスを有しており正確な評価とならない。
代表的な後方視的検討結果報告としてChildhood Cancer Survivor Study からの報告9,10)を参考として紹介する。2017 年のものは1970~1986 年に診断され5 年以上生存した380 例についてその同胞と比較した研究で,聴力低下,脳卒中頻度,けいれん,平衡機能低下,白内障の頻度が高く,学習,結婚,自立した生活などでも差がみられた。2019 年のものは1970~1999 年に診断され5 年以上生存していた髄芽腫患者の晩期のmorbidity/mortality に関する報告である。これによると5 年経過後も死亡する例はあり,再発によるものも,それ以外の原因もある。これらを除いた997 例の生存者で後方視的にみた場合,年を追って重篤な合併症を持つ頻度が増している。また,これは1970 年代に治療した群と1990 年代に治療した群で比較すると後者で有意にその頻度が高い。特に聴力障害や心血管系のリスクが高い。治療別にみると,高リスク群で治療を行った場合に頻度が高い。ただし,内分泌障害や神経学的な障害の頻度は決して高くない。これらの報告はあくまで後方視的に長期間の治療例を評価したもので,背景因子が異なり合併症の頻度に何が影響したのかはわからない。あくまで,長期間の経過観察が必要である,とするのみである。
また,今回はシステマティックレビューの対象には認知機能障害に関するもののみが残ったが,晩期合併症としてはこのほかにも内分泌障害11),性腺機能障害12),聴力障害9),海綿状血管腫の形成13),その他血管障害9),二次がん14)などの可能性がある。二次がんとしては悪性神経膠腫,血液がん,甲状腺癌などが報告されている。しかし,これらの報告は,髄芽腫以外の小児脳腫瘍を含んでいたり,後方視的な治療症例集積で背景因子がさまざまあることなどが指摘され,今回は情報として参考までに記載しておくにとどめる。
やはり今後は結果が得られるまで時間はかかるであろうが長期間の前方視的研究が必要で,その結果によって治療法の選択を検討したり,どの時期にどのような介入が必要となるかなどの臨床的疑問に対する回答が抽出されることを期待する。
現時点で提言できることは,髄芽腫に関して,再発のみならず晩期合併症を考慮した長期的かつ多角的(多職種を含む)フォローアップが必要であるということに尽きる。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab]))))))AND(((((((((long term adverse effects[mh])OR long term effect*[tiab])OR long term outcome[tiab])OR lete effect*[tiab]))OR((quality of life[mh])OR quality of life[tiab]))OR(((cognition disorders[mh])OR cognitive funtion[tiab])OR neurocognitive function[tiab]))OR(((((((((((((((social adjustment[mh])OR social outcome[tiab])OR functional outcome[tiab])OR physical outcome[tiab])OR developmental disorders[mh])OR growth disorders[mh])OR(growth and development/radiation effects[mh]))OR physiology/radiation effects[mh])OR intelligence/radiation effects[mh])OR intelligence/drug effects[mh])OR learning disorders[mh])OR intellectual outcome[tiab])OR academic success[mh])OR academic outcome[tiab])OR academic achievement[tiab]))OR((((growth hormone/radiation effects[mh])OR GH hormone[tiab])OR radiation injuries[mh])))))AND 1900/7/1:2018/12/31[dp]
以上の検索式から597 文献が抽出され,一次スクリーニングで75 文献に絞られた。二次スクリーニングを行って,前方視的コホート研究8 文献を採択し,システマティックレビューを行って評価シートの作成,エビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Mulhern RK, Kepner JL, Thomas PR, et al. Neuropsychologic functioning of survivors of childhood medulloblastoma randomized to receive conventional or reduced-dose craniospinal irradiation:a Pediatric Oncology Group study. J Clin Oncol. 1998;16(5):1723-8.[PMID:9586884]
- 2)
- Ris MD, Packer R, Goldwein J, et al. Intellectual outcome after reduced-dose radiation therapy plus adjuvant chemotherapy for medulloblastoma:a Children’s Cancer Group study. J Clin Oncol. 2001;19(15):3470-6.[PMID:11481352]
- 3)
- Mulhern RK, Palmer SL, Merchant TE, et al. Neurocognitive consequences of risk-adapted therapy for childhood medulloblastoma. J Clin Oncol. 2005;23(24):5511-9.[PMID:16110011]
- 4)
- Ris MD, Walsh K, Wallace D, et al. Intellectual and academic outcome following two chemotherapy regimens and radiotherapy for average-risk medulloblastoma:COG A9961. Pediatr Blood Cancer. 2013;60(8):1350-7.[PMID:23444345]
- 5)
- Schreiber JE, Palmer SL, Conklin HM, et al. Posterior fossa syndrome and long-term neuropsychological outcomes among children treated for medulloblastoma on a multi-institutional, prospective study. Neuro Oncol. 2017;19(12):1673-82.[PMID:29016818]
- 6)
- Palmer SL, Armstrong C, Onar-Thomas A, et al. Processing speed, attention, and working memory after treatment for medulloblastoma:an international, prospective, and longitudinal study. J Clin Oncol. 2013;31(28):3494-500.[PMID:23980078]
- 7)
- Câmara-Costa H, Resch A, Kieffer V, et al.;Quality of Survival Working Group of the Brain Tumour Group of SIOP-Europe. Neuropsychological Outcome of Children Treated for Standard Risk Medulloblastoma in the PNET4 European Randomized Controlled Trial of Hyperfractionated Versus Standard Radiation Therapy and Maintenance Chemotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015;92(5):978-85.[PMID:26194675]
- 8)
- Kamran SC, Goldberg SI, Kuhlthau KA, et al. Quality of life in patients with proton-treated pediatric medulloblastoma:Results of a prospective assessment with 5-year follow-up. Cancer. 2018;124(16):3390-400.[PMID:29905942]
- 9)
- King AA, Seidel K, Di C, et al. Long-term neurologic health and psychosocial function of adult survivors of childhood medulloblastoma/PNET:a report from the Childhood Cancer Survivor Study. Neuro Oncol. 2017;19(5):689-98.[PMID:28039368]
- 10)
- Salloum R, Chen Y, Yasui Y, et al. Late Morbidity and Mortality Among Medulloblastoma Survivors Diagnosed Across Three Decades:A Report From the Childhood Cancer Survivor Study. J Clin Oncol. 2019;37(9):731-40.[PMID:30730781]
- 11)
- Laughton SJ, Merchant TE, Sklar CA, et al. Endocrine outcomes for children with embryonal brain tumors after risk-adapted craniospinal and conformal primary-site irradiation and high-dose chemotherapy with stem-cell rescue on the SJMB-96 trial. J Clin Oncol. 2008;26(7):1112-8.[PMID:18309946]
- 12)
- Balachandar S, Dunkel IJ, Khakoo Y, et al. Ovarian function in survivors of childhood medulloblastoma:Impact of reduced dose craniospinal irradiation and high-dose chemotherapy with autologous stem cell rescue. Pediatr Blood Cancer. 2015;62(2):317-21.[PMID:25346052]
- 13)
- Lew SM, Morgan JN, Psaty E, et al. Cumulative incidence of radiation-induced cavernomas in long-term survivors of medulloblastoma. J Neurosurg. 2006;104(2 Suppl):103-7.[PMID:16506497]
- 14)
- Packer RJ, Zhou T, Holmes E, et al. Survival and secondary tumors in children with medulloblastoma receiving radiotherapy and adjuvant chemotherapy:results of Children’s Oncology Group trial A9961. Neuro Oncol. 2013;15(1):97-103.[PMID:23099653]
- CQ5
- 外科的切除の対象とならない非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対して放射線治療は有用か?
- 推奨度2D
- 推奨
非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGA に対して,外科的切除の対象とならない場合に放射線治療を行わないことを提案する。
解説
1.CQ の設定
SEGA は全摘出できれば治癒が期待できる低悪性度神経膠腫(WHO grade Ⅰ)である。この腫瘍に対し放射線治療が選択される機会は少ないが,他の神経膠腫と同様に考えれば手術,薬物療法が有効でない場合,放射線治療が治療選択肢として想定される。しかし,実際に放射線治療を推奨できるかどうかを決定するためには,腫瘍の縮小効果と有害事象として放射線障害等の問題を検討する必要がある。よって,本CQ に対する推奨を作成するため,アウトカムを下記のように設定した。
- アウトカム:
- 1)腫瘍コントロール率
2)有害事象・QOL 低下
2.推奨の解説
SEGA は腫瘍が全摘出できれば治癒が期待できる低悪性度神経膠腫(WHO grade Ⅰ)であるため放射線治療が選択されることは少なく,これに関連する論文も非常に少ない。
文献を検索すると,複数例のSEGA に対する放射線治療の効果を主に検討したのは1 つの報告のみであった1)。この報告では,初期治療として4 例,手術後再増大1 例,手術後残存1 例の計6 例に対し,定位放射線治療であるガンマナイフを用いて放射線治療を行い,平均73 カ月(42~90 カ月)の経過観察期間では5 例で腫瘍制御が可能であったとしている。それ以外では,ガンマナイフの治療効果について検討された文献の中でSEGA が含まれていたのは3 つの報告2-4)があった。種々の脳腫瘍(137 例148 腫瘍)に対するガンマナイフ後の腫瘍体積を検討したPark らの報告では,低悪性度神経膠腫15 例の中にSEGA が2 例含まれ,この2 例ではガンマナイフ後平均7 カ月(4~17 カ月)という非常に短い経過観察期間であるが腫瘍縮小効果があったと報告している3)。12 例の低悪性度神経膠腫に対するガンマナイフの効果を検討したHenderson らの報告では,SEGA の2 例中1 例は治療後に増大し手術が必要になったと報告している2)。また,21 例の低悪性度神経膠腫に対してガンマナイフの効果を検討した報告4)にはSEGA が3 例あり,その全例が治療後に腫瘍が増大し手術が必要になったと報告している。これらSEGA に対してガンマナイフが施行された上記の4 つの報告1-4)の計13 例中5 例(38%)がガンマナイフ後に増大し,腫瘍制御の効果として十分な結果ではなかった。また,10 例のSEGA の治療結果をまとめた報告5)の中で,線量など詳細な記載はなかったが,摘出後の残存病変に対し放射線治療を施行した1 例が増大し,手術が必要であったと報告している。これらの報告では症例数が少なく,さまざまな治療対象で,論文間で結果にばらつきがあるなどエビデンスとしては非常に低いものではあるが,ガンマナイフがSEGA に対して腫瘍制御に十分な効果があるとはいえない。一方,ガンマナイフによる放射線治療の有害事象についてはPark らの報告のみであり,経過観察期間平均73 カ月(42~90 カ月)では有害事象はなかったが,さらなる症例数と長期の結果がより正確な評価には必要であると考察している1)。
分割照射においては,SEGA 摘出後の残存病変に対してリニアックによる分割照射を施行し,8 年後に照射野である右側頭葉内側に膠芽腫をきたした報告6)や,放射線治療の種類や線量の記載はないが,手術後再発病変に対する放射線治療の数年後にSEGA の近接部位に膠芽腫をきたした報告7)がある。このように,分割照射では放射線治療後の晩期障害で二次がん(膠芽腫)が発生する可能性があり,SEGA に対して分割照射をすべきでないという報告がある6)。
以上の報告例から,SEGA に対する放射線治療としてガンマナイフによる腫瘍制御の有効性は十分ではなく,ガンマナイフによる有害事象の報告はないものの,その判定にはさらなる長期の経過観察と症例の蓄積が必要とされる。リニアックによる分割照射は腫瘍制御の効果は不明であり,放射線治療に伴う二次がんとして長期経過で膠芽腫の発生という生命予後を悪化させる重篤な有害事象が報告されているため,施行すべきではない。2012年に行われた結節性硬化症に対するInternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012 の報告A)で,SEGA に対する放射線治療は治療の有効性は示されず,二次がんの発生の可能性が強調されている。結論として,報告例が少ないためエビデンスとしては非常に弱いが,現時点でガンマナイフやリニアックによる分割照射による放射線治療は,いずれもSEGA に対して益が害を上回る有効な治療とはいえないため,行わないことを提案する。
推奨の決定は,委員全員の投票により行われたが,全員の賛成一致で原案の推奨文が可決された。
今後の検討課題として,「mTOR 阻害薬投与によってSEGA の縮小効果が得られないが外科的治療を施行しない場合,あるいは,SEGA の摘出後の再発病変や残存病変の増大に対し,放射線治療は有用か?」について検討する必要がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるために,下記検索式にて2015 年11 月に文献検索を行った。
この#2,#3,#4 の合計30 文献で一次スクリーニングを行った。文献のアブストラクトにおいてSEGA に対する放射線治療ではないもの,SEGA が含まれていないもの,放射線治療をしたかどうか不明なもの,薬物療法のみの記載しかない16 文献を除外した。
一次スクリーニングで残った14 論文とこれらの論文で引用されていた4 文献,計18 文献において二次スクリーニングを行った。二次スクリーニングで,レビューのみの文献およびSEGA に対して放射線治療を行っていな文献は除外し,アウトカム1)腫瘍コントロール率に対して,腫瘍コントール率が不明なものおよび症例報告は除外した。アウトカム2)有害事象・QOL 低下に対して,有害事象に記載がないものは除外したが,このアウトカムは,重要な有害事象という「害」が含まれていたため,症例報告1 論文も採用した。二次スクリーニング後に7 文献が残った。
アウトカム1)腫瘍コントロール率では,SEGA に対する放射線治療(ガンマナイフ)の効果を検討しているものは1 文献1)で,この文献でも6 例のみと非常に少数例の報告であった。そのため,放射線治療の腫瘍縮小効果を可能な限り文献上で検討するために,さまざまな脳腫瘍に対するガンマナイフ後の腫瘍体積を検討した1 文献3)のうちSEGA 2 例,低悪性度神経膠腫に対するガンマナイフの効果を検討した2 文献2,4)のうちSEGA がそれぞれ2 例と3 例が含まれていたので,これら3 文献はアウトカム1)の評価のため採用した。また,1 施設でSEGA に対する治療をまとめた1 文献5)のうち,放射線治療を施行していたSEGA 1 例が含まれていたため,この1 文献もアウトカム1)の評価のため採用し,合計5 文献,14 例に対して検討した。
アウトカム2)有害事象・QOL 低下では,SEGA に対する放射線治療の効果を検討している論文で,有害事象の有無について記載があった1 文献1)は採用した。また,SEGA 19 例のうち放射線治療を行った1 例で重要な有害事象を認めたと報告した1 文献7)と症例報告ではあったものの,重篤な有害事象を認めた1 文献6)も重要な「害」と判断したため,合計3 文献を採用した。
アウトカム1)腫瘍コントロール率に関して,採用した5 文献のうち,腫瘍コントロールできたものは14 例中8 例の57%のみであった。これらの経過観察期間は,SEGA に対するガンマナイフの効果を検討していた1 文献1)の3 例が,平均73 カ月(42~90 カ月)と記載があったものの,その他,放射線治療を施行したSEGA に対する詳細な経過観察期間は不明であり,長期に経過観察されているか不明であった。放射線治療のうちガンマナイフで検討された4 文献1-4)の13 例中5 例で増大し,摘出術が必要であった。また,これらの文献のうち6 例中5 例で腫瘍制御が平均73 カ月(42~90 カ月)経過観察期間において可能であったとする報告1)や,3 例中3 例で増大し効果がないとする報告4)があることからも,SEGA に対するガンマナイフの効果は非常にばらつきがあった。また,これらの文献では,手術後残存病変,手術後再発病変,無症候性の増大病変や無増大病変など治療対象はさまざまな状態であった。残りの1 文献5)では放射線治療の線量,種類は不明であったが,増大し手術加療が必要であったと報告されていた。これらのことから,エビデンスとしては非常に弱いものであるが,現在,SEGA に対する放射線治療の腫瘍コントロールにおいて放射線治療,ガンマナイフにおいても効果があるとは結論できない。
放射線治療の有害事象・QOL 低下である「害」に関して,採用した3 文献のうち,SEGA 6 例に対してガンマナイフを施行した文献1)では,経過観察期間が平均73 カ月(42~90 カ月)で有害事象はなかったと報告されている。症例報告の1 例は,手術後残存部位に対して分割照射を施行後8 年で照射野である右側頭葉内側に膠芽腫をきたした例が報告6)されている。最後の1 文献7)では,放射線治療の種類や線量に記載がないが,手術後再発病変に対する放射線治療数年後にSEGA の近接部位に膠芽腫をきたしたと報告されている。現在,症例数が少なく,バイアスの評価も困難であるものの,SEGA という低悪性度神経膠腫に対する放射線治療の「害」の評価には,長期の経過観察が必要である。分割照射では重篤な「害」として放射線治療後の晩期障害として二次がん(膠芽腫)が発生する可能性があり,すべきでないとの報告6)がある。SEGA に対するガンマナイフは「害」については現在のところ報告されてないが,長期の経過観察がさらに必要と考えられる。
❖ 文献
- 1)
- Park KJ, Kano H, Kondziolka D, et al. Gamma Knife surgery for subependymal giant cell astrocytomas. Clinical article. J Neurosurg. 2011;114(3):808‒13.[PMID:20950089]
- 2)
- Henderson MA, Fakiris AJ, Timmerman RD, et al. Gamma knife stereotactic radiosurgery for low-grade astrocytomas. Stereotact Funct Neurosurg. 2009;87(3):161‒7.[PMID:19321969]
- 3)
- Park YG, Kim EY, Chang JW, et al. Volume changes following gamma knife radiosurgery of intracranial tumors. Surg Neurol. 1997;48(5):488‒93.[PMID:9352814]
- 4)
- Wang LW, Shiau CY, Chung WY, et al. Gamma Knife surgery for low-grade astrocytomas:evaluation of long-term outcome based on a 10-year experience. J Neurosurg. 2006;105 Suppl:127‒32.[PMID:18503345]
- 5)
- Sinson G, Sutton LN, Yachnis AT, et al. Subependymal giant cell astrocytomas in children. Pediatr Neurosurg. 1994;20(4):233‒9.[PMID:8043461]
- 6)
- Matsumura H, Takimoto H, Shimada N, et al. Glioblastoma following radiotherapy in a patient with tuberous sclerosis. Neurol Med Chir(Tokyo). 1998;38(5):287‒91.[PMID:9640965]
- 7)
- Torres OA, Roach ES, Delgado MR, et al. Early diagnosis of subependymal giant cell astrocytoma in patients with tuberous sclerosis. J Child Neurol. 1998;13(4):173‒7.[PMID:9568761]
【その他の参考論文】
- A)
- Roth J, Roach ES, Bartels U, et al. Subependymal giant cell astrocytoma:diagnosis, screening, and treatment. Recommendations from the International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012. Pediatr Neurol. 2013;49(6):439‒44.[PMID:24138953]
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割 | 氏名 | 所属機関/専門分野 | 作成上の役割 |
---|---|---|---|
委員長 | 中村 英夫 | 久留米大学 脳神経外科/脳神経外科 | 総括 |
副委員長 | 柳澤 隆昭 | 東京慈恵会医科大学 脳神経外科/小児科 | 再発時の治療方針 |
委員 | 唐沢 克之 | 都立駒込病院 放射線治療科/放射線治療 | 放射線治療 |
協力委員 | 副島 俊典 | 神戸陽子線センター 放射線治療科 | 放射線治療 |
協力委員 | 横尾 英明 | 群馬大学 病態病理学分野/病理診断 | 疾患の特徴 |
委員 | 西川 亮 | 埼玉医科大学国際医療センター 脳脊髄腫瘍科/放射線治療 | 長期予後 |
委員 | 藤巻 高光 | 埼玉医科大学病院 脳神経外科/放射線治療 | 診断,分類 |
協力委員 | 原 純一 | 大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科/小児科 | 化学療法 |
委員 | 寺島 慶太 | 国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科/小児科 | 化学療法 |
委員 | 園田 順彦 | 山形大学 脳神経外科/脳神経外科 | 外科的治療 |
委員 | 荒川 芳輝 | 京都大学大学院医学研究科 脳神経外科学/脳神経外科 | 外科的治療 |
委員 | 隈部 俊宏 | 北里大学 脳神経外科/脳神経外科 | 他のガイドラインとの整合性 |
委員 | 杉山 一彦 | 広島大学 がん化学療法科/脳神経外科 | 他のガイドラインとの整合性 |
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号 | 課題名 | 課題責任者 | SR 委員 |
---|---|---|---|
1 | 診断,分類 | 藤巻 高光 | 福岡 講平(埼玉県小児医療センター 血液腫瘍科) 高見 浩数(東京大学 脳神経外科) |
2 | 外科的治療 | 荒川 芳輝 | 園田 順彦(山形大学 脳神経外科) 櫻田 香(山形大学 脳神経外科) 峰晴 陽平(京都大学大学院医学研究科 脳神経外科学) |
3 | ジャーミノーマに対する治療 | 唐澤 克之 | 副島 俊典(神戸陽子線センター 放射線治療科) 藤井 元彰(三井記念病院 放射線治療科) 篠島 直樹(熊本大学 脳神経外科) |
4 | NGGCT に対する治療 | 寺島 慶太 | 原 純一(大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科) 山崎 夏維(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科) 藤村 純也(順天堂大学 小児科) |
5 | 再発時の治療方針 | 柳澤 隆昭 | 山崎 文之(広島大学 脳神経外科) 高橋 麻由(京都田辺中央病院 脳神経外科) |
6 | 長期予後 | 西川 亮 | 鈴木 智成(埼玉医科大学国際医療センター 脳脊髄腫瘍科) 佐藤 伊織(東京大学医学部健康総合科学科大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻 家族看護学分野) |
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
中枢神経原発胚細胞腫瘍に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,中枢神経原発胚細胞腫瘍患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された13 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにガイドライン作成ワーキンググループがシステマティックレビュー(SR)チームの責任者となり,責任者にSR 委員を選出してもらい,各課題2 名または3 名で編成した。中枢神経原発胚細胞腫瘍が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2015 年8 月23 日中枢神経原発胚細胞腫瘍ガイドライン第1 回会議を開催し,ガイドライン作成ワーキンググループが発足。課題をどのようにするか討議し各課題のリーダーを決定した。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2016 年1 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014 に準拠した方法により行った。中枢神経原発胚細胞腫瘍が稀少疾患であるためエビデンスが少なく,適用が困難な場面に遭遇したが,論議しながら完成に向かった。
ガイドライン作成ワーキンググループ会議:ガイドライン作成ワーキンググループ内での会議を全体で6 回行った。
第2 回 2017 年9 月22 日(東京)システマティックレビューに関してMinds(吉田雅博氏)の講義を受け,それぞれのレビューの進行確認
第3 回 2018 年1 月27 日(東京)各CQ,推奨,解説文に関する討議
第4 回 2018 年11 月14 日(京都)各CQ,推奨,解説文に関する討議
第5 回 2019 年9 月14 日(大阪)各CQ における推奨グレードの決定
第6 回 2019 年9 月15 日(東京)各CQ における推奨グレードの決定
推奨作成とその決定:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,メールで討議した。推奨グレードに関してはガイドライン作成ワーキンググループおよびSR チーム24 名にて投票を行い,ガイドライン作成ワーキンググループ内における推奨グレードをまず決定し,最終的に2019 年10 月10 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会にて統括委員全員の投票により決定した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年6 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
1)臨床的特徴
始原生殖細胞に由来すると考えられている原発性脳腫瘍である。腫瘍起源としては,本来なら胎生第3 週に出現し,後腸より背側腸間膜を経由して,4 週末~5 週始めに生殖堤に達し性腺原基を形成する始原生殖細胞が,何らかの遊走異常により脳に達し,異所性胚細胞として生き残り腫瘍化したと考える説が有力である1,2)。しかし,一方ではヒトの胎生幹細胞(ES 細胞)からでもgerm cell やembryoid body が形成されることから,脳自体のES 細胞から発生した可能性もあると提唱する説もある3)。組織系の分類として,中枢神経系胚細胞腫瘍には5 つの組織型が存在する。すなわち,①ジャーミノーマ,②奇形腫(成熟・未熟),③卵黄囊腫瘍,④絨毛癌,⑤胎児性癌である。さらに,これらの組織を持つ腫瘍が単独ではなく各々の成分を混じる混合腫瘍として存在することもあり,非常に診断が困難な場合がある。画像診断もある程度有用であるが,確定診断は難しく,病理学的組織診断および,後述する血清および髄液の腫瘍マーカー[α-fetoprotein(AFP),human chorionic gonadotropin(HCG),β-subunit of human chorionic gonadotropin(β-HCG)]が確定診断に有用である。中枢神経原発胚細胞腫瘍の画像診断,病理診断所見,腫瘍マーカー,免疫組織学的染色について表1 に示す。分子生物学的解析においてはジャーミノーマにてc-kit の高発現や遺伝子変異,KRAS の遺伝子変異を含めたいくつかの遺伝子や染色体異常の報告がある4-6)。KIT/RAS シグナル,AKT/mTOR シグナルなどが腫瘍の生物学的特徴に関与しているといわれているが,まだそれらの解明には至っていない。エピジェネティックな解析では,他の胚細胞腫瘍に比べてジャーミノーマは極端にDNA のメチル化が低いということも報告されている7)。腫瘍自体が混合腫瘍(heterogeneous tumor)であることも稀ではないため,臨床的な分類において悪性腫瘍と良性腫瘍の線引きが難しい。欧米では純粋なジャーミノーマとそれ以外の胚細胞腫瘍(non-germinomatous germ cell tumor:NGGCT)の2 群に分類されて論じられることが多いが,日本では臨床的予後を反映する分類としてMatsutani らが提唱している予後良好(good prognosis)群,中間(intermediate prognosis)群,予後不良(poor prognosis)群の3 型分類が用いられる場合もある8)。
2)疫学的特徴
中枢神経原発胚細胞腫瘍は欧米に比べて,日本を含めた東アジアに多いとされている9)。欧米に比べて3~8倍の発生率との報告があり,また北米における移民でもアジア系に発生率が高いことから,中枢神経原発胚細胞腫瘍の発生には遺伝学的要素の関与が示唆されている。日本における脳腫瘍全国集計調査報告においては,原発性脳腫瘍の2.7%,小児脳腫瘍の15.3%の頻度であり,特に10 歳代に多い腫瘍で男性に多いとされている。組織型では中枢神経系胚細胞腫瘍のうち約70%がジャーミノーマであり,それ以外のそれぞれの腫瘍の頻度は10%以下である。発生部位は,80%以上が視床下部・下垂体後葉(neurohypophyseal germ cell tumors)と松果体(pineal germ cell tumors)に集中している。また,両部位に同時に発生する場合もある(bifocal tumor)。松果体部に発生するジャーミノーマはほとんどが男児であり,女児に発生するジャーミノーマは視床下部・下垂体後葉に多いという特徴がある。頻度は低いが,大脳基底核,視床,脳幹部,脊髄,小脳にも原発することがある。5 年生存率は組織型によって異なるが,ジャーミノーマにおいては95%を超えており,ほとんどの症例がQOL を保ちつつ長期生存可能である。NGGCT に関しても,かなり臨床的予後は改善しており,40~70%の症例において5 年以上の無増悪生存期間を保つことができるようになってきている。初期治療後,ある期間をおいて再発することがあり,組織系によって異なるが,治療困難な症例もあり,治癒できない場合もある。
3)診療の全体的な流れ
松果体部に発生した腫瘍では,中脳水道閉塞による水頭症が原因で頭蓋内圧亢進症状を呈することや,中脳四丘体を圧迫もしくは浸潤することで上方注視麻痺を呈して発症することが多い。一方,視床下部・神経下垂体近傍の腫瘍では,視力視野障害やホルモン分泌障害に伴う症状を呈することにより発症する。特に,尿崩症は80~90%の症例に認められる。下垂体前葉機能障害は成長停滞,無月経,肥満などの症状が多く,血清学的にホルモン値や電解質の異常が認められる。また,基底核部や視床にできた場合は,麻痺,感覚障害,精神症状などが認められる。これらの症状により頭部MRI などの画像を撮影され,胚細胞腫瘍が疑われた場合は,診断を確定し治療が必要となる。診断においては,まず胚細胞腫瘍に特徴的な血清もしくは髄液腫瘍マーカー(AFP,HCG,β-HCG)の測定を行う。純粋なジャーミノーマや奇形腫は腫瘍マーカーが上昇しないので,その場合は外科的に組織を採取し診断を確定する必要がある。外科的摘出により合併症が出現する可能性が高い場合は,必ずしも組織確認の必要はないとの意見もある。外科的な組織生検術としては開頭にて行う場合もあるが,内視鏡を用いて行っても問題はないと考えられている。特に,水頭症を合併している症例に関しては,水頭症治療と同時に内視鏡的に行われることが主流になりつつある。中枢神経原発胚細胞腫瘍の外科的介入の方法とタイミングに関しては,①腫瘍マーカーが上昇しているかどうか,②水頭症を合併しているかどうか,③腫瘍がどこに発生しているか,④化学療法,放射線療法の反応性が良いか,などの病態によって異なることが多く,複雑である。中枢神経原発胚細胞腫瘍における治療において,化学療法と放射線療法は非常に重要である。3 歳未満は放射線療法を控えるが,3 歳以上であれば放射線療法を行うことが多い。腫瘍の診断によって放射線療法の方法はさまざまであり,悪性度が高いほど放射線の照射範囲や量が増える傾向である。化学療法はシスプラチン,カルボプラチンなどの白金製剤を中心のレジメンが考慮され,その他の抗腫瘍剤を組み合わせて行う。中枢神経原発胚細胞腫瘍の治療において,化学療法を積極的に取り入れることは,放射線の照射量を減量でき,治療成績を下げることなく放射線療法の晩発的な有害事象を減じる効果に有用であると考えられている。中枢神経原発胚細胞腫瘍において再発した場合,その治療は大変困難である。ジャーミノーマに関しては,再発率は低いものの,一端再発すると治療は困難な場合がある。NGGCT に関しては,ジャーミノーマよりさらに再発における治癒率は低い。10 年以上経過して再発する症例もあり,長期的なフォローアップが必要である。後述する課題6 の長期予後において詳細に述べるが,ジャーミノーマ(図1 ではGCCT と記載)の長期的なフォローにて観察された合併症も報告されており,Kaplan-Meier 生存曲線は,人口統計に比べてはるかに速いペースで,30 年以上ほぼコンスタントに下がり続けている(図1)10)。つまり,中枢神経原発胚細胞腫のフォローアップは永久的に必要と考えられる。
❖ 文献
- 1)
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- Acharya S, DeWees T, Shinohara ET, et al. Long-term outcomes and late effects for childhood and young adulthood intracranial germinomas. Neuro Oncol. 2015;17(5):741-6.[PMID:25422317]
2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:中枢神経原発胚細胞腫瘍の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後,QOL の改善
- (3)トピック:診断,生命予後,機能予後,QOL の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:脳腫瘍を診療する医療者や施設,患者・家族
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本では既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)課題1:診断,分類
課題2:手術
課題3:ジャーミノーマに対する化学放射線療法
課題4:NGGCT に対する化学放射線療法
課題5:再発時の治療
課題6:長期予後 - (7)ガイドラインがカバーする範囲
脊髄に発生した胚細胞腫瘍も含む。
成人の胚細胞腫瘍も含む。
中枢神経系以外に発生した胚細胞腫瘍は含まない。
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール | 文献検索:2 カ月 文献の選出:2 カ月 エビデンス総体の評価と統合:2 カ月 |
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:2003 年より中枢神経原発胚細胞腫の国際カンファレンス(International CNS germ cell tumor symposium)が2017 年までに5 回開催されている[第1 回京都(2003 年),第2 回ロサンジェルス(2005 年),第3 回ケンブリッジ(2013 年),第4 回東京(2015 年),第5 回コロンバス(2017 年)]。その討論の結果合意の得られた内容に関して,論文化されている。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験の報告は,海外からいくつか報告されている。その他,非ランダム化比較試験,観察研究を検索対象にする。症例報告に関しては一部を除いて省略する。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed
- SR/MA 論文について:Cochrane になし。
- 既存のガイドラインの検索:不要
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2018 年12 月まで
- ①エビデンスタイプ
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。 - (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合が量的統合を実施。
- CQ1
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍における腫瘍マーカー(AFP,HCG)の測定は有用か?
- 推奨度1A
- 推奨
中枢神経原発胚細胞腫瘍では,腫瘍マーカー(AFP,HCG)を測定することを推奨する。
解説
中枢神経原発胚細胞腫瘍を疑う症例では,血液と,可能な場合は同時に髄液中の腫瘍マーカー(AFP,HCG)を測定することが推奨される。
中枢神経原発胚細胞腫瘍の診断において,典型的な画像所見と臨床所見を呈した場合,まず行う検査が腫瘍マーカーの測定である。中枢神経原発胚細胞腫瘍の典型的な画像所見とは,神経下垂体,松果体またはその両者における造影効果を伴う病変の存在であり,CT 画像における石灰化病変は奇形腫の存在を疑わせる所見である。また,典型的な臨床所見としては,神経下垂体に発生した場合は尿崩症を含めた内分泌異常による症状や視力・視野障害が,松果体に発生した場合は閉塞性水頭症の他にParinaud 徴候やArgyll-Robertson 瞳孔がみられやすいことが挙げられる1)。
ただし,ランゲルハンス細胞組織球症などでもHCG の上昇を認めることがあり,特に軽度上昇例においては注意が必要である2)。そのため,顕著な上昇例以外は組織採取による病理診断が推奨される(CQ2 参照)。HCG の上昇例はジャーミノーマが考慮され,それが高値を示す症例は絨毛癌が疑われる。AFP の上昇は特に卵黄囊腫瘍でみられる。未熟奇形腫や胎児性癌ではHCG とAFP の上昇を示すことがある3)。しかし,組織診断が不要となるようなHCG とAFP の顕著な上昇,あるいは著しい高値が,具体的にいくつ以上を示すのかについては定説がない。
中枢神経原発胚細胞腫瘍を他の腫瘍と鑑別するため,またnon-germinomatous germ cell tumor(NGGCT)をジャーミノーマから鑑別するための腫瘍マーカーの適切な基準値については多くの報告があるが,これも現状では国や施設によって異なり,国際的に共通した基準値のコンセンサスは得られていない。しかし,化学療法,放射線療法に対する腫瘍の反応性の指標として腫瘍マーカーの推移が有用とする報告は認められている4-7)。ジャーミノーマとNGGCT を鑑別する世界的に代表的な腫瘍マーカーの基準を表1 に示す。一方,Matsutani らはNGGCT の中の高度悪性群に関しては腫瘍マーカーの組織診断なしに診断してよい基準値を一部設けているものの,ジャーミノーマとの鑑別に関しての明確な腫瘍マーカーの基準値は設けていない1)。表1 のMatsutani らの分類では,欧米では病理学的にNGGCT に分類される成熟奇形腫は,臨床的予後を考慮して,ジャーミノーマとともに予後良好群として分類されている。
中枢神経原発胚細胞腫瘍における腫瘍マーカーの値と予後との関連については,NGGCT においてHCG の値による予後の差が有意であるとする報告はないが,AFP の値が高い症例は予後が悪いとされ8,9),特に1,000 ng/mL を超える症例は有意に予後不良であると報告されている8)。一方で,欧米のNGGCT の基準では,HCG 産生を伴うジャーミノーマも含まれており,HCG 産生を伴うNGGCT の臨床的予後が実際のNGGCT の予後を反映していない可能性があり,解釈に注意を要する。
また,HCG の測定法は国際的に必ずしも統一されておらず注意を要する。HCG は2 つのサブユニット(α,β)で構成されホルモンとして機能するが,αサブユニットのアミノ酸配列がLH(黄体化ホルモン),FSH(卵胞刺激ホルモン),TSH(甲状腺刺激ホルモン)と共通の構造をしており免疫学的に交差するため,HCGの測定にはβサブユニットを認識する抗体を用いて測定する。一般に妊娠などの正常な状態ではα,βサブユニット双方からなるインタクトHCG のみが産生されるが,胚細胞腫瘍など腫瘍性疾患ではβサブユニットだけのHCG などさまざまな非機能的なHCG が産生される。測定キットによって測定しているものが異なり,測定しているものがα,βサブユニットからなるインタクトHCG なのか,遊離したβ-HCG のみを測定しているのか,あるいはインタクトHCG とβ-HCG (遊離を含む)をすべて測定(トータルHCG)しているのかを意識して測定値をみる必要がある。正常な状態ではインタクトHCG とトータルHCG はほとんど同じ値であるが,腫瘍性疾患では乖離がみられる可能性がある。一般的にインタクトHCG はECLIA 法を用いて測定され,単位はIU/L またはmIU/mL である[論文においてはI(international)を省略してU/L やmU/mL としているものもある]。一方,遊離型のβ-HCG のみを測定する場合はRIA 法で測定され,単位はng/mL である。また,トータルHCG はCLEIA 法で測定され,単位はIU/L またはmIU/mL である。胚細胞腫瘍の臨床において,どの測定法が高い特異度であるかについて報告はないが,精巣の胚細胞腫瘍において,トータルHCG を測定する方が,治療効果,再発に関してより特異的であったと報告がある10)。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の診断・分類について下記検索式による検索を2017 年7 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして141 文献を抽出し,45 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ1 では12 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Matsutani M, Sano K, Takakura K, et al. Primary intracranial germ cell tumors:a clinical analysis of 153 histologically verified cases. J Neurosurg. 1997;86(3):446-55.[PMID:9046301]
- 2)
- Kinoshita Y, Yamasaki F, Usui S, et al. Solitary Langerhans cell histiocytosis located in the neurohypophysis with a positive titer HCG-beta in the cerebrospinal fluid. Childs Nerv Syst. 2016;32(5):901-4.[PMID:26527477]
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- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
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- Wu CC, Guo WY, Chang FC, et al. MRI features of pediatric intracranial germ cell tumor subtypes. J Neurooncol. 2017;134(1):221-30.[PMID:28551848]
- CQ2
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍における病理組織診断は必要か?
- 推奨度2C
- 推奨
中枢神経原発胚細胞腫瘍を疑う症例において,診断確定のためには病理組織による診断を提案する。
解説
中枢神経原発胚細胞腫瘍の診断において,MRI 画像診断や腫瘍マーカーもその一助になるが,前述のようにHCG の上昇はランゲルハンス細胞組織球症など他の疾患でも認められ得るため,生検によってのみ確定診断が得られる症例は少なからず存在する。Wu らは,85 例の頭蓋内原発胚細胞腫瘍においてさまざまなMRI 撮像法においてジャーミノーマとNGGCT の鑑別ができないかを後方視的コホート研究として検討しており,T1 高信号の部分があること,造影パターン,ADC 値を組み合わせることによってジャーミノーマとNGGCT の鑑別がある程度可能であると報告している1)。しかし,彼らの登録症例においても術前総合的に中枢神経原発胚細胞腫瘍と診断していたが,病理組織診断すると全く胚細胞腫瘍ではなかった症例が1 例存在したと報告している。Aizer らは,1998~2012 年までに治療した頭蓋内原発胚細胞腫瘍71 例について検討し,14 例がbifocal tumor であり,うち10 例で組織診断を行い,7 例がジャーミノーマ,3 例はNGGCT であり,NGGCT の3例はいずれもβ-HCG が正常値で,AFP は正常か軽度上昇であったことを報告している2)。Calaminus らは,SIOP-CNS-GCT-96 trial において1996~2005 年まで149 例のNGGCT の治療成績を検討している。彼女らのNGGCT の診断基準は病理学的にNGGCT が証明されるか,HCG>50 IU/L もしくはAFP>25 ng/mL であるという条件を満たすかであるが,全例腫瘍マーカーの検査を行っており,10 例(7%)の症例においてNGGCT と病理学的に診断されたにもかかわらず,いずれの腫瘍マーカーの上昇も認められなかったと報告している。成熟奇形腫であれば,腫瘍マーカーの上昇が認められなくてもよいが,これらの10 例には奇形腫は含まれていない。病理学的に奇形腫は5 例確認されており,すべての症例においてAFP の上昇が認められている3)。このように,腫瘍マーカーや画像・臨床所見からは中枢神経原発胚細胞腫瘍が疑われる場合でも,例外(胚細胞腫瘍ではない腫瘍や,腫瘍マーカーが上昇してない成熟奇形腫以外のNGGCT など)は存在するので,手術による組織診断が推奨される。特に,非典型的な臨床経過や画像所見を有する場合は,病理組織診断を行うべきである。一方でNGGCT に対しては,ジャーミノーマと同様に手術による組織診断を勧めるという意見と必ずしも必要ないという意見がある。Nakamura らは,14 例のNGGCT を生検による病理診断ではなく腫瘍マーカーの上昇にて診断し,化学放射線治療を先行させ,腫瘍マーカーが陰性になった時点で3 例は腫瘍が完全に消失したが,11 例は腫瘍が残存したために,それらの摘出を試みている。彼らの14 例のNGGCT における5 年無病生存割合,5 年生存割合はそれぞれ86%,93%であった4)。彼らは最初に病理組織診断をしないメリットについては,播種再発を減少させる可能性を述べている。Takahashi らも,NGGCT を同じようなneo-adjuvant therapy のプロトコールにて治療することにより,彼らの施設における過去に実施された治療成績より優れた治療成績が得られたと報告している5)。前述のCQ1 の解説文でも取り上げている欧州でのSIOP-96 という臨床試験の大規模なNGGCT の報告においても,149 例中73 例は病理診断が行われずに腫瘍マーカーにてNGGCT と診断している。これらの報告が,ジャーミノーマでは比較的病理診断を強く推奨するのに対し,NGGCT では必須ではないとせざるを得ない理由である。しかし,これらの報告における懸念として,腫瘍マーカーだけによる診断はジャーミノーマの混在やNGGCT の脱落があり,正確なNGGCT の予後を反映していない可能性はある。つまり,HCG 高値の,しかし組織学的にはジャーミノーマだった場合には過剰治療,腫瘍マーカーが陰性の未熟奇形腫や胎児性癌(あるいはそれらを含む混合性腫瘍)の場合は過少治療になる可能性があるということである。それゆえ,β-HCG やAFP が著しく高値(CQ1 参照)を示した場合は,組織診断を行わずに化学放射線療法を考慮してもよいということでは意見は一致しているが,NGGCT においても腫瘍マーカーだけでの診断が困難な場合は病理組織による診断が必要という意見もあり,現時点では結論づけることができない。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の診断・分類についての検索を2017 年7 月に行った。検索式はCQ1 参照。
一次スクリーニングとして141 文献を抽出し,45 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ2 では5 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Wu CC, Guo WY, Chang FC, et al. MRI features of pediatric intracranial germ cell tumor subtypes. J Neurooncol. 2017;134(1):221-30.[PMID:28551848]
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- Aizer AA, Sethi RV, Hedley-Whyte ET, et al. Bifocal intracranial tumors of nongerminomatous germ cell etiology:diagnostic and therapeutic implications. Neuro Oncol. 2013;15(7):955-60.[PMID:23640532]
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- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
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- Nakamura H, Makino K, Kochi M, et al. Evaluation of neoadjuvant therapy in patients with nongerminomatous malignant germ cell tumors. J Neurosurg Pediatr. 2011;7(4):431-8. [PMID:21456918]
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- Takahashi S, Yoshida K, Kawase T. Intracranial Germ Cell Tumors:Efficacy of Neoadjuvant Chemoradiotherapy without Surgical Biopsy. Keio J Med. 2011;60(2):56-64.[PMID:21720201]
課題2:外科的治療
- CQ3
- ジャーミノーマに対して積極的な摘出手術は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨
ジャーミノーマに対して積極的な摘出をしないことを推奨する。
解説
Aizer らは,1998~2012 年に治療した頭蓋内原発胚細胞腫瘍71 例について検討し,14 例がbifocal tumor であり,うち10 例で組織診断を行い,7 例がジャーミノーマ,3 例はNGGCT であり,NGGCT の3 例はいずれもβ-HCG が正常値で,AFP は正常か軽度上昇であったことを報告した1)。すなわちbifocal tumor であったとしてもジャーミノーマであるとは断定できない。また,Delphi committee では,2 回の投票とrevision を経て,38 のconsensus statements draft のうち34 のstatement に合意が得られた。手術に関しては,statement 17 において腫瘍マーカーの上昇がない場合は生検による組織診断が必要であるとされた2)。これは世界各国の主要な臨床家による投票であり,必ずしも文献的な高いエビデンスを要求していないが,識者によるコンセンサスといえるものである。以上より,bifocal tumor でジャーミノーマが強く疑われても,また腫瘍マーカーがすべて陰性であっても,生検は推奨される。
Linstadt らは,生検で組織診断したジャーミノーマ13 例,未生検の鞍上部・松果体病変20 例に対する放射線療法の成績を報告した3)。放射線療法は腫瘍に対して40~55 Gy 照射している。生検によるジャーミノーマ診断例は観察期間中央値5.3 年で再発例は認めず,5 年生存率100%であったが,未生検例では,20 例中3 例(15%)が再発後死亡しており,再発後の病理組織は確認されていない。未生検では再発率が高いことより,ジャーミノーマ以外の腫瘍型が混入することが示唆される。つまり,古典的な診断的照射は不適切であり,組織診断が必要であると考えられるようになった。一方,Sawamura らは,29 例のジャーミノーマに対して,16 例で生検,5 例で部分摘出,8 例で全摘出を行った結果を報告している4)。術後全例で放射線療法を行い,化学療法はそれぞれ16 例,4 例,4 例で行った。その結果,約40 カ月のフォロー期間中に再発したものは,全摘出した1 例のみであり,摘出度による差は認められなかった。ジャーミノーマは化学放射線療法が奏効することから(放射線療法の項目で詳述),組織診断のための生検術に留めても予後は劣らないと考えられ,多少ともリスクのある積極的な摘出は推奨できない。生検術の術式は,腫瘍部位によって,開頭術,経蝶形骨洞手術,定位脳手術,内視鏡手術などから選択する。
Luther らは,腫瘍マーカー陰性で組織学的にもジャーミノーマと診断した6 例中1 例は放射線療法にてCR 後10 カ月で再発を認め,初発時11 U/L であった髄液β-HCG が再発時57.4 U/L と上昇を認めたと報告した5)。彼らは再発後の病理組織は確認していないが,腫瘍マーカーの上昇を考慮し,ジャーミノーマ以外の腫瘍の混在を示唆している。また,Kinoshita らは,21 例の内視鏡的診断を行った症例の初回診断において16 例のジャーミノーマという病理学的診断を得ているが,そのうち1 例(診断時HCG 陰性,AFP 33.2μg/L)において,化学放射線療法にて完全に腫瘍の縮小が得られないという理由で残存腫瘍を摘出した。2 回目の病理組織診断でimmature teratoma の診断を得ており,内視鏡的生検術のpitfall として報告している6)。これらの報告から,小さな組織で診断する生検術の限界には留意する必要がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の手術について下記検索式による検索を2017 年3 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして90 文献を抽出し,56 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ3 では6 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Aizer AA, Sethi RV, Hedley-Whyte ET, et al. Bifocal intracranial tumors of nongerminomatous germ cell etiology:diagnostic and therapeutic implications. Neuro Oncol. 2013;15(7):955-60.[PMID:23640532]
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- Luther N, Edgar MA, Dunkel IJ, et al. Correlation of endoscopic biopsy with tumor marker status in primary intracranial germ cell tumors. J Neurooncol. 2006;79(1):45-50.[PMID:16598424]
- 6)
- Kinoshita Y, Yamasaki F, Tominaga A, et al. Pitfalls of Neuroendoscopic Biopsy of Intraventricular Germ Cell Tumors. World Neurosurg. 2017;106:430-4.[PMID:28711530]
- CQ4
- NGGCT に対して摘出手術は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨1
成熟奇形腫に対して摘出術を推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
成熟奇形腫以外のNGGCT については,化学放射線療法を行った後に,残存する腫瘍に対する摘出術を推奨する。
解説
Zygourakis らの報告では,奇形腫11 例で手術を行い,8 例で全摘出を行い,7 例が混合胚細胞腫瘍で,うち1 例のみ再発を認めた1)。Noudel らは,奇形腫14 例について報告し,10 例は初期治療として摘出術を行い,残りの4 例は化学療法後に摘出を行った。成熟奇形腫8 例において平均9 年の経過観察で87.5%の生存率を得た2)。Matsutani らは,16 例の成熟奇形腫で摘出術を行い,10 年生存率が78.3%であった3)。Kageyama らは,成熟奇形腫5 例に対して全摘出を行い,全例が社会復帰したと報告している4)。Delphi committee において,成熟奇形腫,悪性転化のない未熟奇形腫に対しては全摘出を選択するとされた5)。以上のように,成熟奇形腫は摘出により良好な予後が得られることから,摘出術が勧められる。
Nakamura らは,AFP>100 ng/mL,もしくはHCG またはβ-HCG>100 mIU/mL を呈した14 例の連続NGGCT に対して,組織診断を行わずに術前化学放射線療法を行った。11 例で残存腫瘍を認め,手術を行った。摘出腫瘍の組織学的診断は,成熟奇形腫3 例,線維性組織3 例,壊死組織2 例で,その他の3 例においては奇形腫あるいは中胚葉性の腫瘍組織が認められた。5 年無増悪生存率が86%,5 年生存率が93%であり,腫瘍マーカーによる診断治療介入とsecond-look surgery の有用性を示した5)。Goldman らによるNGGCT 102 例(腫瘍マーカーによる診断,3~24 歳,中央値12 歳)を対象とした前方視的試験では,規定の化学療法先行後,PD でない症例に対し,CR であれば放射線療法を,CR でなければsecond-look surgery 後に放射線療法ないしsecond-look surgery 後に大量化学療法を行って,さらに引き続き放射線療法を行った。結果は5 年無増悪生存率84%,5 年生存率93%であったが,この臨床試験のサブ解析にて診断時播種のなかった症例においてsecond-look surgery を行った症例の5 年無増悪生存率92%,5 年生存率98%と極めて良い結果であった6)。初回治療後にsecond-look surgery を行った症例は15 例であったが,摘出組織は腫瘍が2 例(胎児性癌1 例,混合性胚細胞腫瘍1 例),奇形腫9 例(成熟奇形腫6例,悪性奇形腫3 例),そして繊維組織が主体で腫瘍細胞を認めないものが4 例であった。腫瘍再発時にsecond-look surgery を行った症例は5 例で,その組織はすべて奇形腫であった。
Delphi committee においても,画像診断と腫瘍マーカーの上昇により胚細胞腫瘍と診断される場合には生検術は必須ではないとされた7)。NGGCT に対しては,β-HCG やAFP が高値を示す場合は組織診断のための手術を行わずに化学放射線療法を考慮してもよい。しかし,どの程度の値であれば組織診断のための手術を実施しなくてよいのか,については国際的なコンセンサスは存在しない(CQ1 解説参照)。
Kim らは,NGGCT 52 例のうち21%にgrowing teratoma syndrome を認めたことを報告しており,化学療法から診断までの期間が平均12.8 カ月で,9 例で全摘出が行われて再発は1 例であった8)。Ogiwara らは,胚細胞腫瘍23 例中7 例(30%)で再増大後に手術を行い,病理診断は成熟奇形腫5 例,異型細胞を伴う繊維形成が1 例,繊維形成のみが1 例であり,全例で全摘出を行って再発なく経過したことを報告した9)。
以上のように,NGGCT では,化学放射線療法中あるいは後に腫瘍が増大することを認識し,化学あるいは放射線療法後に残存腫瘍が存在する場合に手術を考慮する必要がある。化学放射線療法中あるいは後の摘出組織は,上述のように成熟奇形腫であることが多いと報告されているが,治療後修飾された組織での診断であり,初発時の組織が成熟奇形腫であったことを意味するわけでない。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の手術についての検索を2017 年3 月に行った。検索式はCQ3 参照。
一次スクリーニングとして90 文献を抽出し,56 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ4 では9 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Zygourakis CC, Davis JL, Kaur G, et al. Management of central nervous system teratoma. J Clin Neurosci. 2015;22(1):98-104.[PMID:25150764]
- 2)
- Noudel R, Vinchon M, Dhellemmes P, et al. Intracranial teratomas in children:the role and timing of surgical removal. J Neurosurg Pediatr. 2008;2(5):331-8.[PMID:18976103]
- 3)
- Matsutani M, Takakura K, Sano K. Primary intracranial germ cell tumors:pathology and treatment. Prog Exp Tumor Res. 1987;30:307-12.[PMID:2819945]
- 4)
- Kageyama N, Kobayashi T, Kida Y, et al. Intracranial germinal tumors. Prog Exp Tumor Res. 1987;30:255-67.[PMID:3628811]
- 5)
- Nakamura H, Makino K, Kochi M, et al. Evaluation of neoadjuvant therapy in patients with nongerminomatous malignant germ cell tumors. J Neurosurg Pediatr. 2011;7(4):431-8. [PMID:21456918]
- 6)
- Goldman S, Bouffet E, Fisher PG, et al. Phase Ⅱ Trial Assessing the Ability of Neoadjuvant Chemotherapy With or Without Second-Look Surgery to Eliminate Measurable Disease for Nongerminomatous Germ Cell Tumors:A Children’s Oncology Group Study. J Clin Oncol. 2015:33(22):2464-71.[PMID:26101244]
- 7)
- Murray MJ, Bartels U, Nishikawa R, et al. Consensus on the management of intracranial germ-cell tumours. Lancet Oncol. 2015;16(9):e470-7.[PMID:26370356]
- 8)
- Kim CY, Choi JW, Lee JY, et al. Intracranial growing teratoma syndrome:clinical characteristics and treatment strategy. J Neurooncol. 2011;101(1):109-15.[PMID:20532955]
- 9)
- Ogiwara H, Kiyotani C, Terashima K, et al. Second-look surgery for intracranial germ cell tumors. Neurosurgery. 2015;76(6):658-61.[PMID:25988926]
- CQ5
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍に合併した水頭症に対して手術は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨
内視鏡下第三脳室底開窓術などの水頭症を解除する手術を推奨する。
解説
Shono らは,12 例のジャーミノーマに対して,軟性鏡を用いて内視鏡下生検術を行い,8 例は同時に第三脳室底開窓術を施行した1)。手術死亡や永続的な合併症は認めず,その後のシャント手術は不要であった。化学放射線療法にて全例でCR を得た。Luther らは,第三脳室底開窓術と生検術を同時に行った32 例において,NGGCT を含む胚細胞腫瘍,松果体芽腫,上衣腫の髄液播種リスクの高いと判断された22 例の2 年無髄液播種生存率は94.7%で,同様の疾患の髄液播種率が8~24%であることから,第三脳室底開窓術と生検術の同時施行が髄液播種リスクを上昇しないと報告した2)。水頭症を合併する例では,内視鏡手術による生検と同時に第三脳室底開窓術などの水頭症を解除する手術を推奨する。ただし,化学放射線療法による腫瘍縮小で水頭症が解除されうることを念頭に置く必要がある。
水頭症の解除を脳室腹腔短絡術で行ってよいかどうかについて,Xu らは,原発性中枢神経系腫瘍のシャント術に関連する神経管外転移についてシステマティックレビューを行い,106 例のシャントに関連する神経管外転移のうち25 例(25%)(VP シャント24 例,VA シャント1 例)がジャーミノーマであったと報告した。この25 例全例(100%)腹腔内に転移しており,さらに同時にリンパ節に4%,骨に4%の神経管外転移が認められている。これは,髄芽腫の22 例(21%)より多く,最も多い腫瘍組織型であったことから,中枢神経原発胚細胞腫瘍に合併した水頭症に対するシャント術による神経管外転移に注意を要する3)。こうした合併症を避けるためにも,中枢神経原発胚細胞腫瘍に合併した水頭症に対しては,可能な限り第三脳室開窓術が推奨される。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の手術についての検索を2017 年3 月に行った。検索式はCQ3 参照。
一次スクリーニングとして90 文献を抽出し,56 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ5 では3 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Shono T, Natori Y, Morioka T, et al. Results of a long-term follow-up after neuroendoscopic biopsy procedure and third ventriculostomy in patients with intracranial germinomas. J Neurosurg Pediatr. 2007;107(3):193-8.[PMID:17918523]
- 2)
- Luther N, Stetler WR Jr., Dunkel IJ, et al. Subarachnoid dissemination of intraventricular tumors following simultaneous endoscopic biopsy and third ventriculostomy. J Neurosurg Pediatr. 2010;5(1):61-7.[PMID:20043737]
- 3)
- Xu K, Khine KT, Ooi YC, et al. A systematic review of shunt-related extraneural metastases of primary central nervous system tumors. Clin Neurol Neurosurg. 2018;174:239-43.[PMID:30292900]
課題3:ジャーミノーマに対する治療
- CQ6
- ジャーミノーマにおいて化学放射線療法は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨1
脊髄播種のないジャーミノーマにおいては化学療法を併用した全脳室を照射野内に含める放射線照射を推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
脊髄播種のないジャーミノーマに対しては,予防的脊髄照射を行わないことを推奨する。
- 推奨度1B
- 推奨3
化学療法単独で治療しないことを推奨する。
解説
ジャーミノーマは放射線治療と化学療法への感受性が高い腫瘍であり,腫瘍摘出術を行わなくても,適切な治療を行えば,非常に高い生存率が期待できる悪性脳腫瘍である。ジャーミノーマは,脳室壁を伝うような腫瘍進展をきたすことが知られており,腫瘍への局所照射のみでは,照射野外への再発を十分に予防することができない。しかし,脊髄予防照射を行っていない症例で脊髄再発の報告が非常に少ないことから,ジャーミノーマの脊髄腫瘍進展はほぼないと考えられる。一方で,全脳脊髄照射は非常に有効な治療であり,一定以上の線量を全脳または全脳脊髄照射を行うことにより,ジャーミノーマの5 年無病生存率は90%を超える1,2)。しかしながら,長期生存が期待される小児および若年成人において,全脳または全脳脊髄への放射線療法が成長発達に与える影響は大きく,高次機能異常や内分泌異常などの問題が,長期にわたって若年生存者に大きくのしかかる3-6)。Heaston らは,対象疾患はWilms 腫瘍であるが,脊髄にも照射された25 例の放射線療法の長期生存例の脊椎発達障害について報告している。脊髄照射に伴う小児の脊椎発達障害はほぼ全例で発生しており,3 歳未満では8 Gy,3 歳以上では14 Gy 以上の照射で照射後5年以内に5%の割合で生ずるとされており,長期生存が期待されるジャーミノーマ患者において脊髄照射は留意すべき点であると考えられる7)。
播種のないジャーミノーマに対してドイツで行われた全脳脊髄照射(CSI)による前方視的多施設共同試験MAKEI 83/86/89 の報告によると,MAKEI 83/86(11 例)では全脳脊髄照射36 Gy+局所照射14 Gy,MAKEI 89(49 例)では全脳脊髄照射30 Gy+局所照射15 Gy が照射され,それぞれの5 年無増悪生存率は100%,88.8%,5 年全生存率は100%,92%と報告されている1)。Cho らは,60 例のジャーミノーマに対して段階的に腫瘍部分の総線量を59 から39.3 Gy(中央値45 Gy),全脳脊髄照射の線量を36.5 から19.5 Gy(うち22 例は脊髄線量が19.5 Gy)まで減少させる照射を行い,全例で再発を認めておらず,線量は腫瘍部分には39.3 Gy,脊髄には19.5 Gy まで減少させることができると報告している8)。
照射野の設定については,播種のないジャーミノーマにおける照射後の再発と照射野との関連を評価することを目的に行われたSFOP TGM-TC-90 試験では,カルボプラチン,エトポシド,イホスファミドによる化学療法を先行後,腫瘍局所(腫瘍部分+2 cm マージン)に40 Gy の照射が行われた。60 例中10 例に再発を認め,うち8 例は脳室周囲であった。この結果から,腫瘍局所のみの照射は再発のリスクが高く,播種のないジャーミノーマにおいても全脳室照射は必要であると結論された9)。
同様に,播種のないジャーミノーマに対する非ランダム化試験であるSIOP CNS GCT96 試験では,全脳脊髄照射24 Gy+局所照射16 Gy の放射線療法単独群と化学療法を併用した40 Gy の局所照射群との比較が行われた。放射線療法単独群125 例中4 例で腫瘍局所に再発を認める一方,化学療法併用局所照射群65 例中7 例に再発を認め,うち6 例は照射野外の脳室内再発であった。化学療法併用であっても照射範囲に全脳室を含める必要があると考えられる10)。このように,ジャーミノーマの放射線療法の線量と照射野については,将来的なQOL を考慮しながら,化学療法を併用することで,線量の減量と照射野の縮小を図る試みが,日本をはじめ世界各地で行われてきた。中枢神経外胚細胞腫瘍の化学療法として,ブレオマイシン,エトポシド,シスプラチンの3 剤を併用するBEP 療法が確立しているが,中枢神経系ジャーミノーマの化学放射線治療においては,白金製剤とエトポシドの2 剤による併用療法,あるいはイホマイドなどのアルキル化剤も加えた3 剤による併用療法が,臨床試験で繰り返し選ばれている。SIOP CNS 96 試験に加えて,Matsutani および日本小児脳腫瘍研究グループ11,12)は,75 例の脊髄播種のないジャーミノーマに対し,3 コースのカルボプラチン,エトポシドと拡大局所照射野に視床下部-下垂体系の耐容線量ともいわれる24 Gy を併用する前方視的臨床試験を行い,92%にCR が得られて,中央値が2.9 年の観察期間において12%に再発が認められ,10 年全生存率は97.5%と報告した。この拡大局所照射野は後の全脳室照射野に近いが,全脳室照射野に比べて第四脳室下半がカバーされていない。両試験において,再発は照射外で多く認めた一方で,脊髄再発はほとんど観察されていない。Khatua ら13)は,脊髄播種のないジャーミノーマ20 例(うち混合腫瘍でないジャーミノーマ19 例)に対して4 コースのカルボプラチン,エトポシドによる化学療法を,その後に全脳室照射21.6 Gy,および腫瘍局所へのブースト(総線量30~30.6 Gy)の放射線療法を同時もしくは逐次で行い,後方視的に解析した。3 年無再発生存率は89%で,全生存率は100%であった。これらの良好な結果から,現在SIOP ではSIOP CNS GCT Ⅱ14)において,脊髄播種のないジャーミノーマに対し,化学療法によるCR 症例には線量を全脳室照射24 Gy まで,また我が国においてもカルボプラチン,エトポシド療法と線量を全脳室照射23.4 Gy まで低減させる臨床試験(jRCTs031180223)が行われている。これらの観察が,ジャーミノーマにおいて脳室照射を推奨する根拠である。さらなる放射線療法の減量や縮小は,臨床試験の中で行われるべきである。ジャーミノーマのなかで基底核および視床に発生した腫瘍に関しては例外的な治療を推奨する報告もある15)。Wang らは,15 例の基底核もしくは視床の胚細胞腫の治療成績を報告しているが,9 例はジャーミノーマであり,再発はない。彼らは他の部位のジャーミノーマと比較して基底核や視床の胚細胞腫は脳実質への浸潤の可能性が高いため,全脳室照射より全脳照射(20~24 Gy)に加えて局所照射を行い40~45 Gy の照射を推奨している15)。
シスプラチンとカルボプラチンの比較試験は,中枢神経外胚細胞腫瘍において行われているが,中枢神経ジャーミノーマにおいては,その優劣を検証した臨床試験はない16,17)。また,白金製剤とエトポシドの2 剤による併用療法,あるいはアルキル化剤も加えた3 剤による併用療法を比較した臨床試験もこれまでに行われていないため,治療毒性を考慮すると,中枢神経ジャーミノーマにおいては,白金製剤とエトポシドの2 剤による併用療法が推奨される。また,SIOP におけるレジメンにおいては,カルボプラチンとエトポシドの2 剤投与とシクロホスファミドとエトポシドの2 剤が交互に投与され,良好な治療成績を得ているが,どちらのレジメンが優れているかの評価は難しい10)。放射線療法の毒性を取り除くために,強力な化学療法単独でジャーミノーマを治療する試みは行われてきた。最初の化学療法単独のトライアルとして,Balmaceda らは71 例の中枢神経原発胚細胞腫瘍において45 例のジャーミノーマをカルボプラチン,エトポシド,ブレオマイシンのレジメンにて治療しているが,50%以上の症例において再発をきたしている18)。Kellie らは19例の腫瘍マーカー陰性のジャーミノーマの症例において,レジメンA(シスプラチン,エトポシド,シクロホスファミド,ブレオマイシン)と強力な化学療法から導入し,レジメンB(カルボプラチン,エトポシド,ブレオマイシン)の維持療法を追加するという治療を行っている。結果は19 例中8 例に再発がみられ,放射線療法が追加されている19)。da Silva らは,25 例の中枢神経原発胚細胞腫を初期治療として化学療法のみ(第1 クール:カルボプラチンとエトポシド,第2 クール:シクロホスファミドとエトポシドを交互に2 回ずつ投与),で治療を行っており,そのうち15 例はジャーミノーマにもかかわらず,7 例に再発し放射線療法の追加治療を行っている20)。これらの複数の臨床試験から示された再発率の高さから,化学療法単独による治療は推奨されない。
播種のないジャーミノーマに対する脊髄照射については,多数の文献から症例を集めたRogersらの報告によると,播種のないジャーミノーマに対して全脳全脊髄照射+局所照射を行った343 例のうち,脊髄播種を認めたものは4 例(1%)であったのに対して,全脳もしくは全脳室照射+局所照射を行った276 例のうち,脊髄播種を認めたものは8 例(3%)と報告されている21)。また,脊髄照射の生存への寄与を検討したShikama らの報告では,国内6 施設から180 人のデータを集め,多変量解析が行われた。その結果,脊髄照射のハザード比は1.050(95%信頼区間:0.355-3.170)と脊髄照射は必ずしも生存に寄与していないことが示された22)。播種のないジャーミノーマに対する予防的脊髄照射の必要性は乏しい。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,最初は放射線治療と化学療法を別の課題として2017 年2 月に検索したが,最終的には,ジャーミノーマの化学放射線療法としてまとめた。検索式はジャーミノーマに関してのものを放射線療法と化学療法から抽出し,下記に示す。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法で96 文献,化学療法で270 文献を抽出し,それぞれ26 文献,35 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正を加えた。途中で中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法と化学療法として課題を別にするより,ジャーミノーマの化学放射線療法,NGGCT の化学放射線療法として課題を作成した方が理解しやすいとの結論に達し,課題3 はジャーミノーマの化学放射線療法とし,最終的にCQ6 では22 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Bamberg M, Kortmann RD, Calaminus G, et al. Radiation therapy for intracranial germinoma:results of the German cooperative prospective trials MAKEI 83/86/89. J Clin Oncol. 1999;17(8):2585-92.[PMID:10561326]
- 2)
- Ogawa K, Shikama N, Toita T, et al. Long-term results of radiotherapy for intracranial germinoma:a multi-institutional retrospective review of 126 patients. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2004;58(3):705-13.[PMID:14967424]
- 3)
- Sands SA, Kellie SJ, Davidow AL, et al. Long-term quality of life and neuropsychologic functioning for patients with CNS germ-cell tumors:from the First International CNS Germ-Cell Tumor Study. Neuro Oncol. 2001;3(3):174-83.[PMID:11465398]
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- 5)
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- 6)
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- https://clinicaltrials.gov/ct2/show/record/NCT01424839
- 15)
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課題4:NGGCT に対する治療
- CQ7
- NGGCT には化学放射線療法を行うことが有用か?
- 推奨度1B
- 推奨
成熟奇形腫を除くNGGCT では化学放射線療法を推奨する。
解説
NGGCT はジャーミノーマ以外の複数の胚細胞腫瘍組織型の総称であり,さらにはジャーミノーマを含む複数の異なる組織型の成分が混在する混合型NGGCT が多い。強力な集学的治療を行っても生存率が低い,卵黄囊腫,胎児性癌,絨毛癌が大部分を占めるタイプから,比較的生存率の高い,奇形腫やジャーミノーマ中心の混合性タイプ,さらには手術摘出が基本で後治療を行わなくても再発が稀な成熟奇形腫まで,予後が大きく異なる腫瘍が含まれることがNGGCT の治療を複雑にしている。
NGGCT の多くでは,血中または脳脊髄液中にHCG/β-HCG やAFP といった腫瘍マーカーが検出される。診断を補助する有用な腫瘍マーカーである一方で,NGGCT が組織診断されずに腫瘍マーカーのみで診断されて,化学放射線治療で治療開始されることが多く,その場合に腫瘍の適切なリスク分類が困難となる。特に欧米では比較的低い腫瘍マーカーの閾値でNGGCT を臨床診断し,全脳脊髄照射やアルキル化剤を含む強力な治療を開始することが多く,NGGCT の一部の患者で過剰治療の懸念があり,さらには発生頻度が比較的低い高悪性度NGGCT の真の治療成績が臨床試験の結果に反映されていない可能性がある。
我が国においては,東京大学シリーズ(1963~1994)および旧厚生省がん研究助成金による多施設前方視的試験(1995~2003)において,NGGCT の中で組織型と腫瘍マーカー高値によって,治療成績が異なる中間リスク群と高リスク群に分類できることを示した。中間リスク群NGGCT は拡大局所照射(腫瘍床,第三脳室,側脳室,トルコ鞍,松果体を含む,全脳室照射とほぼ同等の照射野)または全脳室分割照射約23.4 Gy と局所への追加照射合計50.4 Gy とカルボプラチンとエトポシドによる2 剤併用化学療法で,平均観察期間3.7 年時点での中間報告によると,無増悪生存割合は89%であった1)。高リスク群NGGCT に対しては,旧厚生省がん研究助成金による多施設前方視的試験をはじめとする国内外の臨床試験で,放射線療法と白金製剤,イホマイドなどのアルキル化剤,エトポシドによる3 剤併用化学療法によって治療が行われており,一定の生存率が得られている。放射線療法の方法や化学療法の強度や期間について,臨床試験ごとに異なっており,比較試験は行われたことがなく,標準的な化学放射線療法は定まっていない1-3)。高リスク群NGGCT の治療成績は依然として満足のいくものでなく,初期からの治療抵抗例,早期の播種再発例も少なくない。脊髄播種がなくても全脳脊髄照射が必要であるのかという問いに対して,まだ答えは示されていない1)。脊髄播種のないNGGCT における放射線療法の照射野については議論がある。大半の脊髄播種のないNGGCT において,化学療法を併用した場合に全脳脊髄照射が不要であることは,SIOP GCT 96 試験および旧厚生省がん研究助成金による多施設前方視的試験(1995~2003)で示唆された1,2)。ジャーミノーマとの混合性腫瘍が多い中間リスク群NGGCT において,局所照射で充分であるのか,全脳室照射が必要かどうかは,さらなる検証が必要である。
ジャーミノーマと異なりNGGCT は3~4 歳未満の低年齢小児に発生することがあり,中枢神経への放射線療法の影響が甚大である低年齢患者に対する,年長児や若年成人とは異なった治療戦略が必要である。しかし,低年齢のNGGCT に対しても,現時点で標準的といえる治療法は確立していない。乳幼児に対する脳腫瘍摘出術と強力な多剤併用化学療法が施行できる専門施設での治療が望まれる。
NGGCT における化学療法先行後の残存腫瘍へのsecond-look surgery についてはCQ4の推奨2 を参照のこと。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,最初は放射線治療と化学療法を別の課題として2017 年2 月に検索したが,最終的には,NGGCT の化学放射線療法としてまとめた。検索式はNGGCT に関するものを放射線療法と化学療法から抽出し,下記に示す。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法で96 文献,化学療法で270 文献を抽出し,それぞれ26 文献,35 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正を加えた。途中で中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法と化学療法として課題を別にするより,ジャーミノーマの化学放射線治療,NGGCT の化学放射線療法として課題を作成した方が理解しやすいとの結論に達し,課題4 はNGGCT の化学放射線療法とし,最終的にCQ7 では3 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Matsutani M, Japanese Pediatric Brain Tumor Study Group. Combined chemotherapy and radiation therapy for CNS germ cell tumors–the Japanese experience. J Neurooncol. 2001;54(3):311-6.[PMID:11767296]
- 2)
- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
- 3)
- Goldman S, Bouffet E, Fisher PG, et al. Phase Ⅱ Trial Assessing the Ability of Neoadjuvant Chemotherapy With or Without Second-Look Surgery to Eliminate Measurable Disease for Nongerminomatous Germ Cell Tumors:A Children’s Oncology Group Study. J Clin Oncol. 2015;33(22):2464-71.[PMID:26101244]
課題5:再発時の治療方針
- CQ8
- 再発ジャーミノーマに対し救済治療を行う必要があるか?
- 推奨度1B
- 推奨
治癒を目指して治療を行うことを推奨する。
解説
再発ジャーミノーマについては,救済治療により治癒可能であることが報告されている。いずれの報告も,症例報告または症例報告の記述的研究1)であり,後方視的解析2)であり,これらの報告から,再発時に何らかの救済治療追加を行うことは有意義であることは読み取れるが,治療方法の優劣を判断するのは困難であり,標準的な治療方針を確定することはできない。
Kamoshima らは,再発までの期間の中央値が50 カ月の晩期再発ジャーミノーマ25 例について,再発様式の解析と再発後の救済治療の転帰を報告している。初発の治療法,再発時の治療は統一されたものではない。25 例のうち,治療により救命されたのは17 例(68%)である。再発時に化学放射線療法を行った13 例全例が生存しているのに対し,放射線のみで治療された11 例中7 例が,化学療法のみで治療された1 例が再発のために死亡したと報告している。化学放射線療法を行った13 例の放射線療法は,8 例が全脳脊髄照射(CSI),4 例が局所照射,1 例が全脳室照射であり,放射線のみで治療された11 例中7 例が死亡しており,それらはすべて局所照射が行われている。生存の4 例中2 例はCSI,2 例が局所照射である。つまり再発時には放射線の局所照射だけでは治癒できないと思われる2)。
Hu らは,11 例の再発ジャーミノーマに対する救済治療とその転帰について報告している。初発時の放射線療法は,全脳照射,全脳室照射,腫瘍への局所照射,ガンマナイフ治療と異なった治療を受けた症例から構成される。再発時の救済治療もCSI 単独4 例,全脳脊髄照射と化学療法併用5 例,全脳照射と化学療法併用1 例,ガンマナイフ治療1 例と異なっている。全体の5 年生存率が71%であるのに対して,CSI を採用した症例は92%で,再発時のCSI 採用の有無が予後因子になっていたと報告している3)。
Modak らは,初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経原発胚細胞腫瘍に対する,チオテパを中心とした大量化学療法の有用性を検討した報告の中で,9 例の再発ジャーミノーマの転帰を示している。初発時には放射線療法のみのもの,放射線治療と化学療法併用が含まれる。9 例中7 例(78%)が生存期間中央値48 カ月で,無病生存していると報告している4)。生存7 例のうち4 例は放射線療法を行っておらず,2 例は全脳照射で,1 例がCSI であり,死亡した2 例において1 例は放射線療法を行っておらず,1 例は局所照射である。
Baek らは,初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経系胚細胞腫瘍に対する大量化学療法の臨床試験KSPNO S-053 の結果を報告している。対象となった20 例中10 例は,2 回目の大量化学療法を施行された。前方視的試験であるが,初発時の治療法は異なっており,再発時にも,治療法が統一されていない。再発ジャーミノーマ9 例のうち,大量化学療法のみで治療された7 例中4 例が無病生存しているのに対して,大量化学療後に放射線療法を併用した2 例は2 例とも無病生存している5)。
救済治療後の障害やQOL については,Baek らの報告では,特に大量化学療法を行うことで重篤な有害事象をきたすことやQOL を極端に落とすということはないという記載がある。しかし,これまでの報告数が少なく,放射線療法単独,化学放射線療法,大量化学療法,大量化学療法の併用の治療法について,優劣を判断することはできない。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍における再発の治療方針について下記検索式による検索を2017 年7 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして420 文献を抽出し,41 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ8 では5文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Janjetovic S, Bokemeyer C, Fiedler W, et al. Late recurrence of a pineal germinoma 14 years after radiation and chemotherapy:a case report and review of the literature. Onkologie. 2013;36(6):371-3.[PMID:23774153]
- 2)
- Kamoshima Y, Sawamura Y, Ikeda J, et al. Late recurrence and salvage therapy of CNS germinomas. J Neurooncol. 2008;90(2):205-11.[PMID:18604473]
- 3)
- Hu YW, Huang PI, Wong TT, et al. Salvage treatment for recurrent intracranial germinoma after reduced-volume radiotherapy:a single-institution experience and review of the literature. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012;84(3):639-47.[PMID:22361082]
- 4)
- Modak S, Gardner S, Dunkel IJ, et al. Thiotepa-based high-dose chemotherapy with autologous stem-cell rescue in patients with recurrent or progressive CNS germ cell tumors. J Clin Oncol. 2004;22(10):1934-43.[PMID:15143087]
- 5)
- Baek HJ, Park HJ, Sung KW, et al. Myeloablative chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed or progressed central nervous system germ cell tumors:results of Korean Society of Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)S-053 study. J Neurooncol. 2013;114(3):329-38.[PMID:23824533]
- CQ9
- 再発NGGCT に対し救済治療は有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
寛解を目指した治療を提案する。治療反応性が不良の場合は,緩和的治療を提案する。
解説
再発NGGCT の予後はかなり厳しい。再発ジャーミノーマと異なり,再発NGGCT 対して救済治療による救命例の報告は少なく,いずれも症例報告またはケースシリーズの記述的研究1),後方視的解析2)であり,一般的に治療方針を推奨することはできない。
Modak らは3),初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経系胚細胞腫瘍に対する,チオテパを中心とした大量化学療法の有用性を検討した報告の中で,12 例の再発NGGCT の転帰を示している。12 例中,無病生存しているのは,生存期間中央値35 カ月で,4 例(33%)であると報告している。この4 例においては,初発時1 例のみ局所の放射線療法を行っており,残りの3 例はシスプラチン,イホマイド,エトポシドの化学療法だけ施行している。再発時,チオテパを中心とした大量化学療法を行っているが,その後の放射線療法は初発時放射線治療を行っていない2 例に追加照射をされている。彼らは導入化学療法による完全寛解の達成の有無が予後を決定すると解析している。
Baek らは,初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経系胚細胞腫瘍に対する大量化学療法の臨床試験KSPNO S-053 の結果を報告している1)。対象となった20 例中10 例は,2 回目の大量化学療法を施行された。再発NGGCT 11 例のうち,無病生存は導入化学療法で完全寛解となった4 例であり,導入化学療法による完全寛解達成の成否が予後を左右すると解析している。これらの4 例中3 例は,再発後に23.4 Gy から39.6 Gy の全脳脊髄照射を含む放射線療法を併用されているが,そのうち1 例は初発部位(松果体および視床下部)に合計75.6 Gy(初回45 Gy,再発時30.6 Gy)照射されている。残りの1 例は初発時に50Gy 初発部位(松果体)に照射されているため,再発時放射線療法は施行されていない。
Murray らは,SIOP-96 の臨床研究にて登録されたNGGCT の再発例32 例について検討しており,再発時の大量化学療法を行った症例22 例とスタンダードな化学療法(カルボプラチンもしくはシスプラチン,イホマイド,エトポシドなど)を行った10 例における5 年生存率を比較している2)。SIOP-96 の臨床研究におけるNGGCT に対する治療プロトコールは,単発例であればシスプラチン,イホマイド,エトポシド(ICE)のレジメンで4 コースの化学療法を行い,54 Gy の局所の放射線療法を行い,bifocal tumor 以外の多発例には30 Gy の全脳脊髄照射および24 Gy の局所の照射を行うものである。再発時スタンダードな化学療法を行った症例の5 年生存率は0 であり,大量化学療法を行った症例でも22 例中5 年生存できた症例は3 例だけであった。この3 例に対する再発時の放射線療法は,1 例において局所照射されているが,他の2 例において放射線療法は施行されていない。この結果からは,再発時放射線療法が可能であったかどうかは予後に影響しないといえる。
これらの報告のように,再発時のNGGCT の救済治療は初期治療,特に放射線療法の有無は再発時の照射に影響する。大量化学療法が施行できても,寛解する例は多くない。また,再発NGGCT の治療による無病生存例の報告においても,治療後の障害やQOL についての情報は乏しい。大量化学療法,連続大量化学療法と放射線療法の併用による無病生存の達成があるものの,これらの救済治療による生存率は高いとはいえず,新規の治療法が開発される必要がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍における再発の治療方針についての検索を2017 年7 月に行った。検索式はCQ8 参照。
一次スクリーニングとして420 文献を抽出し,41 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ9 では3 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Baek HJ, Park HJ, Sung KW, et al. Myeloablative chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed or progressed central nervous system germ cell tumors:results of Korean Society of Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)S-053 study. J Neurooncol. 2013;114(3):329-38.[PMID:23824533]
- 2)
- Murray MJ, Bailey S, Heinemann K, et al. Treatment and outcomes of UK and German patients with relapsed intracranial germ cell tumors following uniform first-line therapy. Int J Cancer. 2017;141(3):621-35.[PMID:28463397]
- 3)
- Modak S, Gardner S, Dunkel IJ, et al. Thiotepa-based high-dose chemotherapy with autologous stem-cell rescue in patients with recurrent or progressive CNS germ cell tumors. J Clin Oncol. 2004;22(10):1934-43.[PMID:15143087]
課題6:長期予後
- CQ10
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍におけるフォローアップは必要か?
- 推奨度1B
- 推奨
可能な限り長期に追跡することを推奨する。
解説1:長期的なフォローアップについて
CNSGCT の追跡としては,長くても10 年程度までの報告が多い。MAKEI89 やSIOP-CNS-GCT-96 による前方視的試験のnon-germinomatous germ cell tumors(NGGCT)の報告によれば1,2),5 年から10 年で生存割合はプラトーに到達するようにみえる。しかし,CNSGCT の,より長期の予後について,前述の米国SEER database に1973~2005 年に報告されたジャーミノーマ405 例とNGGCT 94 例のデータが報告によると,5 年以上の生存者について,ジャーミノーマにおいてKaplan-Meier 生存曲線は,人口統計に比べてはるかに速いペースで,30 年以上ほぼコンスタントに下がり続けることが分かる3)。(1.中枢神経原発胚細胞腫瘍の基本的特徴(総論)図1 を参照のこと。)ジャーミノーマの5 年以上生存者405 例においてみられた46 例の死亡の16%は癌死で,その約半数は胚細胞腫の再発であり,再発死亡例の死亡までの期間中央値は9.1 年であった。したがって,このKaplan-Meier 生存曲線がコンスタントに下がり続けることを考えると,胚細胞腫の再発はおよそ20年で出尽くすともいえるかもしれない。ところが腫瘍再発による死亡以外の死因では,主に放射線療法による晩期障害と考えられる脳卒中が多く,脳卒中による死亡の危険率は人口統計よりも59 倍高く,脳卒中による死亡までの期間中央値は23.8 年とのことであった。Kaplan-Meier 生存曲線が20 年を超えるあたりから加速度的に下がり続けるようにみえるのは,この脳卒中など原病以外の疾病が原因と考えられる。したがって,CNSGCT の追跡は,疾病管理という意味でも,またQOL や社会的なサポートという意味でも,永続的な診療やケアが必要であると考えられる。
❖ 文献
- 1)
- Calaminus G, Bamberg M, Harms D, et al. AFP/beta-HCG secreting CNS germ cell tumors:long-term outcome with respect to initial symptoms and primary tumor resection. Results of the cooperative trial MAKEI 89. Neuropediatrics. 2005;36(2):71-7.[PMID:15822019]
- 2)
- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
- 3)
- Acharya S, DeWees T, Shinohara ET, et al. Long-term outcomes and late effects for childhood and young adulthood intracranial germinomas. Neuro Oncol. 2015;17(5):741-6.[PMID:25422317]
解説2:フォローアップにおける具体的な事項
長期フォローアップにおける基礎的な背景因子として,それぞれの治療による障害の可能性を認識することが第一である。いずれも単変量解析ではあるが,全脳照射と基底核部病変が認知機能についての予後不良因子と報告されている1)。放射線療法の影響の程度は,線量・照射野・照射時年齢などさまざまな要因に影響される。目安として,照射線量ごとの認知機能・内分泌機能予後を示した(図1 2),表1 1,3-16))。また,化学療法に関しても表2 17)に示すように,それぞれの薬剤に対して長期的に考慮すべき合併症が存在する。
フォローアップにおいては以下の項目について観察を行うことが推奨される。
【神経症状,脳脊髄MRI,腫瘍マーカー】
神経症状,脳と脊髄のMRI および腫瘍マーカーによる再発の有無の観察を行う。神経症状ならびに脳と脊髄のMRI は,放射線療法による脳血管腫や二次がん(髄膜腫やグリオーマ等)の有無の観察18)のため,再発のおそれがなくなったとしても継続して行うことを考慮する。さらに胚細胞腫に限らず,ステロイドなどの投与歴などの症例において,副腎不全による死亡も報告されており,定期的な副腎機能のチェックは必要と思われる19)。画像検査の間隔については,治療終了後少なくとも2 年間は3 カ月ごと,それ以降は4 カ月~1 年ごとの頭部MRI を行うことが一般的である20)。
【認知機能,就学・就労】
小児CNSGCT 経験者には認知機能障害の中でも特に,記憶障害が多くみられるため,全般的知能検査に記憶機能検査を加えることが重要である21)。通常の教育を受けられる者も多いが,学習困難があれば特別支援教育が必要となる。CNSGCT 経験者にとって就労が困難となる原因には,認知機能のほかに視覚機能(視力・視野・眼球運動障害)も指摘されており,障害者枠就労や障害年金も考慮される4,5,22)。Sugiyama らは,中学もしくは高校卒業後に就職したジャーミノーマ長期生存者11 例中7 例が30 歳以上になって記憶・計算の問題により失職したことを報告している3)。これらのことから,認知機能について,少なくとも就学前・進学前・就職前(進路選択)のタイミングを含めつつ,その後も定期的な評価が必要と考えられる。検査にあたっては,視覚機能や運動機能についても評価し23-25),その結果を認知機能検査者にあらかじめ伝える必要がある。
【下垂体前葉,後葉機能および妊孕性】
内分泌合併症は,CNSGCT の長期生存者に最も多い合併症である24)。尿崩症については,治療後にも改善せず存在し続けることが報告されている25)。成長ホルモン投与の遅れは,成長障害のみならず,骨量減少のリスクを高めるため,早期補充が必要である26,27)。性機能については,性腺機能低下だけでなく思春期早発も起こるなど多様な症状が生じる4,24)。甲状腺機能低下や脂質代謝・糖代謝異常による肥満の報告もあり,これらの内分泌異常は治療後新たに起こることも稀ではない4,5,23,24,28,29)。中枢神経原発胚細胞腫瘍治療に対する妊孕性の温存に関しては,児や親権者の理解度,また倫理的な背景も考慮すべきであるが,小児がん経験者における不妊の問題を直視し,児や親権者の理解度,倫理的な背景を考慮して対応することが求められる。詳細に関しては日本がん治療学会の妊孕性ガイドラインを参照している(http://www.jsco-cpg.jp/fertility/)。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の長期予後について下記検索式による検索を2016 年12 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして295 文献を抽出し,32 文献のエビデンス総体を作成した。それらの構造化抄録をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ10 では解説文を2 つに分け,解説1 では3 文献,解説2 では29 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Liang SY, Yang TF, Chen YW, et al. Neuropsychological functions and quality of life in survived patients with intracranial germ cell tumors after treatment. Neurooncol. 2013;15(11):1543-51.[PMID:24101738]
- 2)
- Sklar CA, Antal Z, Chemaitilly W, et al. Hypothalamic-Pituitary and Growth Disorders in Survivors of Childhood Cancer:An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(8):2761-84.[PMID:29982476]
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- 26)
- Okita Y, Narita Y, Miyakita Y, et al. Long-term follow-up of vanishing tumors in the brain:how should a lesion mimicking primary CNS lymphoma be managed? Clin Neurol Neurosurg. 2012;114(9):1217-21.[PMID:22445618]
- 27)
- Kang MJ, Kin SM, Lee YA, et al. Risk factors for osteoporosis in long-term survivors of intracranial germ cell tumors. Osteoporos Int. 2012;23(7):1921-9.[PMID:22057549]
- 28)
- Gonzalez BL, Grill J, Bourdeaut F, et al. Water and electrolyte disorders at long-term post-treatment follow-up in paediatric patients with suprasellar tumours include unexpected persistent cerebral salt-wasting syndrome. Horm Res Paediatr. 2014;82(6):364-71.[PMID:25377653]
- 29)
- Shim KW, Park EK, Lee YH, et al. Treatment strategy for intracranial primary pure germinoma. Childs Nerv Syst. 2013;29(2):239-48.[PMID:22965772]
3 章 びまん性橋グリオーマ diffuse intrinsic pontine glioma:DIPG
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
廣瀬 雄一
藤田医科大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
総括
副委員長
西川 亮
埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科/脳神経外科
総括
協力委員
師田 信人
北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
診断
委員
隈部 俊宏
北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
他のガイドラインとの整合性
委員
唐澤 克之
都立駒込病院 放射線診療科/放射線科
放射線治療
委員
中田 光俊
金沢大学医薬保健研究域医学系 脳・脊髄機能制御学/脳神経外科
化学療法
協力委員
柳澤 隆昭
東京慈恵会医科大学 脳神経外科/脳神経外科
化学療法
委員
中村 英夫
久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
DIPG の分子生物学的特徴,解説
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
総論
DIPG の分子生物学的特徴
中村 英夫
篠島 直樹(熊本大学医学部 脳神経外科)
1
診断
師田 信人
吉村 淳一(長野赤十字病院 脳神経外科)
2
外科的治療
隈部 俊宏
齋藤 竜太(名古屋大学医学部 脳神経外科)
吉村 淳一(長野赤十字病院 脳神経外科)
3
放射線治療
唐澤 克之
藤井 元彰(三井記念病院 放射線治療科)
4
化学療法
中田 光俊
柳澤 隆昭(東京慈恵会医科大学 脳神経外科)
鈴木 智成(埼玉医科大学国際医療センター 脳脊髄腫瘍科)
山崎 文之(広島大学 脳神経外科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
DIPG に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,DIPG 患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された9 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにシステマティックレビュー(SR)チームを2~3 名で編成した。DIPG が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年11 月30 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で,DIPG のガイドライン作成ワーキンググループが発足。課題の一部については委員の追加を行った。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2015 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2014 に準拠した方法により行ったが,DIPG が稀少疾患であるためエビデンスが少なく,上記の方法の適用が困難な場面に遭遇した。
推奨作成とその決定:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,ガイドライン作成ワーキンググループが各CQ に対する推奨内容について討議した。全委員を対象に,各CQ に対する推奨について郵送により投票を行うこととした。2019 年6 月2 日に投票方法を周知し,投票を行った。7 月6 日,第43 回脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で投票結果が報告され,すべての推奨が承認された。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年6 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
1)臨床的特徴
脳幹部でも主に橋に発生する浸潤性の脳実質内腫瘍で,小児期,特に学童期に好発し,生命予後が不良な腫瘍である。脳幹(主に橋)の中をびまん性・浸潤性に発育するため,大きな腫瘤を形成することはないが,複数の脳神経核や重要神経回路の機能障害をきたしながら病状が進行する。具体的には外眼筋麻痺や顔面神経の障害,錐体路徴候,体幹失調で発症し,急速に進行していくことが多い。
びまん性橋グリオーマ(diffuse intrinsic pontine glioma:DIPG)の名称は組織型による分類ではなく,腫瘍の発生部位と画像所見に基づくものである。すなわち典型例では神経徴候を含めた臨床学的所見と画像検査(MRI)で診断されることが多い。生検術によるものも含めて組織診断されることは少ないのが実情であるが,組織診断された場合にはびまん性星細胞腫であることが多い。最近の遺伝子解析の発達により,この腫瘍には特徴的な遺伝子異常が多いことが知られるようになった。2016 年に世界保健機関(World Health Organizaion:WHO)から出版された脳腫瘍分類では,脳幹,視床といった脳の正中部に発生し,特定のヒストン遺伝子の異常を示す腫瘍をdiffuse midline glioma と分類するようになり,WHO grade Ⅳの最高悪性度に分類される。これまでにDIPG と分類されていた腫瘍のかなりの部分が,このdiffuse midline glioma に相当すると考えられるが,diffuse midline glioma の診断には遺伝子異常の確認が必要であり,今後の診断体系に変更が生じる可能性もある。これまでに知られているDIPG の遺伝子異常については後述する「備考:DIPG の分子生物学的特徴」を参照されたい。
注:本ガイドラインで扱う疾患「びまん性橋グリオーマ」は英語名diffuse intrinsic pontine glioma に対応する。この名称は,橋から発生する腫瘍の中でも外惻(第四脳室内や小脳橋角部といった髄外)に突出するexophytic pontine glioma と対をなすものとして命名されたものある。Exophytic pontine glioma は,時には外科的切除の対象となることもあるが,保存的に経過観察することも許容される予後良好な腫瘍で,橋自体が腫大する形で発育する「びまん性橋グリオーマ」とは臨床像も大きく異なる。後者の英語名に含まれる “intrinsic” は橋の髄内(実質内)にある腫瘍を指す単語であり,委員会内では英語名を忠実に和訳した「びまん性髄内橋グリオーマ」という腫瘍名も検討されたが,結論としては英語名を直訳しない「びまん性橋グリオーマ」を選んだ。ただし,略語については文献や臨床の場でも使われることの多いDIPG(diffuse intrinsic pontine glioma)とした。
2)疫学的特徴
生存期間中央値は12 カ月以下,1 年生存率は50%以下と生命予後が不良な腫瘍である。脳腫瘍の中でもっとも予後が悪い腫瘍の一つで,この20年間で治療効果による予後の改善がみられない腫瘍である。脳腫瘍全国集計調査報告(2017)によれば,びまん性星細胞腫,退形成性星細胞腫のいずれも数%が橋に主座のある腫瘍であったとの統計があるが,本疾患は外科的手術の対象とならないことが多いと考えられるので,組織型の情報も含めた正確な情報を得ることは難しい。
3)診療の全体的な流れ
組織診断することなく神経徴候を含める臨床所見と画像検査(MRI)によって診断した後,放射線治療が行われることが多い。一時症状および画像所見の改善が60~80%にみられるが,約6 カ月で再発する。腫瘍に対する化学療法の有効性は示されていない。ステロイドによる一時的な症状の改善は期待できる。診断された時点で,生存できる期間がある程度決まるので,残された時間をどのように使うのか,状態悪化時に挿管・気管切開・呼吸器装着を行うかどうか,水頭症併発時の手術など姑息的治療を行うか,など患者や家族の予後不良な疾患の受け入れと,提供できる支援としては緩和医療が必要となる。
治療早期から緩和医療の同時進行,あるいは緩和医療への移行も念頭に置きながら,姑息的治療の選択にあたっては家族の意思を尊重しつつ慎重に判断することが望まれる。
4)備考:DIPG の分子生物学的特徴
2016 年のWHO 改訂により,脳腫瘍特にグリオーマにおいて,その分子遺伝学的プロファイルが診断に加味されるようになった。この改訂によって中枢神経系の中心に位置し,浸潤性の性格を持つ星細胞優位の腫瘍であり,H3F3A もしくはHIST1H3B/C をコードする遺伝子においてK27M の変異を有する悪性度の高いグリオーマをdiffuse midline glioma と定義された。DIPG は,このdiffuse midline glioma の代表的な腫瘍である。DIPG の80%近くの症例において,このどちらかの遺伝子変異が認められ,この2 つの遺伝子変異は相互排他的と報告されている1)。
(1)予後因子に関して
2012 年のKhuong-Quang らによる報告では,小児DIPG 42 例においてK27M-H3 変異が独立予後不良因子であった2)。2014 年に症例を増やした小児DIPG 72 例における解析でも同様の結果が得られており3),K27M-H3 変異検索は組織学的grading より予後予測因子として意義があると考えられる。
(2)分子標的治療に関して
①変異遺伝子に対する標的治療
2014 年にBuczkowicz らは,臨床データと組織サンプルが得られた小児DIPG 74 例の遺伝子発現やメチル化などの網羅的解析を行い,3 群にサブグループ化し(MYCN, silent, H3-K27M),それぞれの群で標的治療の可能性のあるいくつかの候補分子を同定した1)。特にH3-K27M ではACVR1 変異が20%で認められ,この下流のSMAD 経路は恒常的に活性化しており治療標的に成り得ると考察している。
また,2014 年にTaylor らは,26 例のDIPG の約30%でみられたACVR1(ALK2)変異を標的とした治療の有望性について報告している4)。すなわちACVR1 変異のある患者由来DIPG 細胞株を用い,ALK2 inhibitor により抗腫瘍効果が得られたことを示している。
②エピジェネティクス変化に対する治療
2014 年Ahsan らは,エピジェネティクス解析を行い,成人GBM や小児の非脳幹GBM と比較して小児DIPG に特異的なエピジェネティクス変化を同定した5)。グローバルDNAメチル化としての5-methylcytosine(5mC)レベルは,小児DIPG に限らず小児非脳幹GBM および成人GBM で有意に低下していた。一方,H3K27 トリメチル化の有意な低下と,クロマチン活性に関与する5-hydroxymethylation of cytosine(5hmC)レベルの有意な上昇が,小児DIPG で特異的に認められた。治療としてヒストン脱メチル化阻害薬やヒストン脱アセチル化阻害薬などのエピジェネティクスmodifiers が期待されると結論づけている。さらにGrasso らは,エピジェネティクスmodifiers によるDIPG の治療効果をin vitro,in vivo で検討している6)。患者由来DIPG 細胞培養系で薬剤スクリーニングを行い,抗腫瘍効果のある薬剤としてヒストン脱アセチル化酵素阻害薬のpanobinostat を同定しin vitro,in vivo でその抗腫瘍効果を証明した。さらにヒストン脱メチル化阻害薬のGSK-J4 を併用することで相乗的な抗腫瘍効果が得られたと報告している。
❖ 文献
- 1)
- Buczkowicz P, Hoeman C, Rakopoulos P, et al. Genomic analysis of diffuse intrinsic pontine gliomas identifies three molecular subgroups and recurrent activating ACVR1 mutations. Nat Genet. 2014;46(5):451-6.[PMID:24705254]
- 2)
- Khuong-Quang DA, Buczkowicz P, Rakopoulos P, et al. K27M mutation in histone H3.3 defines clinically and biologically distinct subgroups of pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Acta Neuropathol. 2012;124(3):439-47.[PMID:22661320]
- 3)
- Buczkowicz P, Bartels U, Bouffet E, et al. Histopathological spectrum of paediatric diffuse intrinsic pontine glioma:diagnostic and therapeutic implications. Acta Neuropathol. 2014;128(4):573-81.[PMID:25047029]
- 4)
- Taylor KR, Mackay A, Truffaux N, et al. Recurrent activating ACVR1 mutations in diffuse intrinsic pontine glioma. Nat Genet. 2014;46(5):457-61.[PMID:24705252]
- 5)
- Ahsan S, Raabe EH, Haffner MC, et al. Increased 5-hydroxymethylcytosine and decreased 5-methylcytosine are indicators of global epigenetic dysregulation in diffuse intrinsic pontine glioma. Acta Neuropathol Commun. 2014;2:59.[PMID:24894482]
- 6)
- Grasso CS, Tang Y, Truffaux N, et al. Functionally defined therapeutic targets in diffuse intrinsic pontine glioma. Nat Med. 2015;21(6):555-9.[PMID:25939062]
2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:びまん性橋グリオーマ(DIPG)の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後の改善
- (3)トピック:DIPG の生命予後,機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍を診療する医療者や施設,患者・家族,ケアギバー(caregiver)
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本および海外で既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)重要臨床課題
課題1:診断
課題2:外科的治療
課題3:放射線治療
課題4:化学療法
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
初発治療時が小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満の小児例に加え,15~29 歳のAYA 世代)。脳幹部に発生する腫瘍の中で病変が限局性のものや脳実質外にexophytic に発育する腫瘍とは予後が異なるので,これらは含まない。
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:1 カ月
文献の選出:3 カ月
エビデンス総体の評価と統合:4 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:DIPG に関してはなし。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed,医中誌
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2018 年7 月まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
課題1:診断
- CQ1
- 臨床経過,臨床所見,画像検査からDIPG と診断することは推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
臨床経過,臨床所見,画像検査からDIPG と診断することを提案する。
注:DIPG の名称は組織型による分類ではなく,その一方,最新の脳腫瘍分類でのdiffuse midline glioma(診断確定に遺伝子解析を要する)に相当する腫瘍が大部分を占めると考えられる。生検術の是非については議論が分かれるが,この点については解説を参照されたい。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,DIPG は特殊な腫瘍であり,腫瘍の発生部位と画像所見に基づく疾患群を指すことに留意する必要がある。そのためDIPG の診断が,必ずしも組織学的悪性度の診断につながるわけでない。適切な治療を行うための診断法の妥当性について検証を行う。
- アウトカム:
- 臨床経過,臨床所見,画像診断からDIPG と診断した場合の誤診率
2.推奨の解説
DIPG 診断・治療の歴史において,Albright らによる1993 年の論文が果たした役割は極めて大きい1)。定位的あるいは開頭術で手術を受けた45 名のびまん性の脳幹部腫瘍全例がグリオーマであったことより,DIPG の診断はMRI で可能であり生検術は不要とされた。結果として,以後20年近くにわたり治療の大勢は外科的組織診断による裏付けなく進められることとなった。そのため,対象とする論文名にDIPG が冠されていても,現時点ではほとんどの文献において病理学的信憑性は曖昧であることを念頭に置く必要がある。
DIPG では放射線治療による一時的腫瘍縮小効果の他に有効な治療がなく,予後も極めて不良であるため,DIPG の臨床経過・臨床所見,画像診断について,前方視的に検討したエビデンスの高い論文は存在しない。そのため,文献としては単一施設での症例集積による臨床研究・症例報告を対象に検討した。
1)臨床経過・臨床所見
医療機関受診に至る典型的な臨床経過・臨床所見は,DIPG のスコープに記載されている通りである。水頭症を合併することは,通常は末期まで稀と考えられている。この臨床像について,DIPG の診断率と結びつけて検討した論文は認めなかった。逆にDIPG と診断されたにもかかわらず長期生存している5 例(全192 例)について後方視的に検討した論文では,3 歳以下2 例,発症から診断まで6 カ月以上3 例,外転・顔面神経麻痺なし1 例が臨床所見上の非典型所見として挙げられている2)。いずれも従来から指摘されていた非典型例の経過・所見であるが,典型例における頻度が記載されていないため,その信頼性を確定することは困難である。なお,後述の画像所見と関連するが,この5 例中3 例のMRI 所見は典型的DIPG と診断されている。
2)MRI 所見
DIPG の典型的なMRI 所見は一般的に以下の通りと考えられている。
1:橋中心部に内在し,橋横断面の50%以上を占める。
2:境界不鮮明
3:T1 低信号域
4:T2 高信号域
5:ガドリニウム造影効果は,あっても不整形
6:囊胞形成や橋表面(第4 脳室底も含む)への露出を伴わない。
MRI が非腫瘍性脳幹部病変との鑑別に有効とした文献は認めたが3),DIPG の組織診断の有用性を直接検討した文献は認めなかった。CQ2 との関係でMRI における脳幹部腫瘍におけるDIPG の頻度に触れた文献は症例集積として存在するが,MRI の質的診断価値(DIPG か非DIPG 脳幹部腫瘍か)についての考察は行われていない。外科的組織診断とMRI 所見を比較した文献は1 編のみであった。Dellaretti らは,定位的生検術を施行した44 例についてMRI 所見と組織像を比較検討した4)。画像所見をびまん性vs. 局在性,造影効果ありvs. なし,で4 群に分類し,44 例中41 例で組織診断が可能であり,うち37 例(90.2%)がDIPG と診断されている。造影効果を伴う場合,DIPG の高悪性度群および非DIPG の頻度が高くなるため生検術の必要性を文献では訴えているが,同時にMRI 所見のみでDIPG の診断・予後予測が困難であることを結果的に示唆する内容となっている。非DIPG に高悪性度腫瘍が多いことを論じた文献は認めたが,画像上の非典型的MRI 所見を示した脳幹部腫瘍のうち,どれだけが非DIPG だったかの情報は記載されていなかった5)。
現在,DIPG にそぐわない非典型的MRI 所見を示す脳幹部腫瘍に対する外科的組織診断の必要性は徐々に認識される傾向にあるが,非典型的所見かどうかが外科医間でどれだけ一致するかを調べた興味深い文献が認められた6)。脳幹部腫瘍16 例の画像を86 名の小児神経外科医が診断したところ,全員が典型的あるいはDIPG として画像所見が典型的あるいは非典型的であると診断が一致した症例は存在せず,75%以上がいずれかの診断で一致した症例が7 例(43.8%)であった。DIPG の典型的MRI 画像の知識はあっても,臨床現場でのMRI 診断の難しさを反映した結果となっている。
以上をまとめると,MRI によりDIPG の存在・進展を診断することは可能であるが,治療法に結びつく組織学的・生物学的悪性度の診断を行うことは現時点では困難である,ということになる。
3)その他の画像所見
MRI DTI(diffusion tensor imaging)あるいはspectroscopy を用いてDIPG の特徴を調べた報告は散見されるが,いずれも単発でありエビデンスとしては低い。また,PET による悪性度診断の報告もあるが,現時点では日常臨床への影響は考えにくいため,ガイドラインには含めなかった。
4)組織診断
近年の分子生物学的診断法の進歩を反映し,生検術による組織診断の機運は高まっている。定位的生検術に関しては,新たな手術法の開発もありより安全に実施されるようになってきているが7),脳腫瘍生検術における診断率は一般に95%前後であり,永続的合併症発生率も1%ほどである。小児脳幹部腫瘍の定位的生検術の文献で多数例を扱った報告はまだ少ない8)。生検術の是非については議論が分かれるが,組織診断・遺伝子解析が直ちに患児への治療という形で恩恵につながるわけではないことを配慮する必要がある。生検術実施にあたっては,確定診断に至らない可能性・合併症出現の可能性をよく説明したうえで実施し,分子生物学的検索など臨床研究に役立てる場合には施設の倫理審査委員会の承諾を得る必要がある9)。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,DIPG の診断について下記検索式による文献検索を2017 年5 月に行った。
検索ワードはdiffuse intrinsic pontine glioma, brainstem glioma, diagnosis, MRI で行った。PubMed 上でAND あるいはOR で組み合わせたが,brainstem glioma では中脳腫瘍,低悪性度腫瘍も含まれるためdiffuse intrinsic pontine glioma を主に文献検索を進めた。また,diagnosis だけでは論文が絞りきれないため,診断に有用な臨床所見の検索にclinical finding を加えた。さらに,推奨作成過程で生検術をCQ2 でなくCQ1 の診断で扱うことになったため,上記に加えてbiopsy も追加して文献検索を行った。そのうえで抄録をもとに一次スクリーニングとして11 文献を抽出し,システマティックレビューを行った。最終的にその中から9 文献を用いて推奨を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Albright AL, Packer RJ, Zimmerman R, et al. Magnetic resonance scans should replace biopsies for the diagnosis of diffuse brain stem gliomas:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1993;33(6):1026-9.[PMID:8133987]
- 2)
- Jackson S, Patay Z, Howarth R, et al. Clinico-radiologic characteristics of long-term survivors of diffuse intrinsic pontine glioma. J Neurooncol. 2013;114(3):339-44.[PMID:23813229]
- 3)
- Schumacher M, Schulte-Mönting J, Stoeter P, et al. Magnetic resonance imaging compared with biopsy in the diagnosis of brainstem diseases of childhood:a multicenter review. J Neurosurg. 2007;106(2 Suppl):111-9.[PMID:17330536]
- 4)
- Dellaretti M, Touzet G, Reyns N, et al. Correlation among magnetic resonance imaging findings, prognostic factors for survival, and histological diagnosis of intrinsic brainstem lesions in children. J Neurosurg Pediatr. 2011;8(6):539-43.[PMID:22132909]
- 5)
- Klimo P Jr, Nesvick CL, Broniscer A, et al. Malignant brainstem tumors in children, excluding diffuse intrinsic pontine gliomas. J Neurosurg Pediatr. 2016;17(1):57-65.[PMID:26474099]
- 6)
- Hankinson TC, Campagna EJ, Foreman NK, et al. Interpretation of magnetic resonance images in diffuse intrinsic pontine glioma:a survey of pediatric neurosurgeons. J Neurosurg Pediatr. 2011;8(1):97-102.[PMID:21721895]
- 7)
- Puget S, Beccaria K, Blauwblomme T, et al. Biopsy in a series of 130 pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 2015;31(10):1773-80.[PMID:26351229]
- 8)
- Rajshekhar V, Moorthy RK. Status of stereotactic biopsy in children with brain stem masses:insights from a series of 106 patients. Stereotact Funct Neurosurg. 2010;88(6):360-6.[PMID:20861659]
- 9)
- Walker DA, Liu J, Kieran M, et al;CPN Paris 2011 Conference Consensus Group. A multi-disciplinary consensus statement concerning surgical approaches to low-grade, high-grade astrocytoma and diffuse intrinsic pontine gliomas in childhood(CPN Paris 2011)using the Delphi method. Neuro Oncol.2013;15(4):462-8.[PMID:23502427]
課題2:外科的治療
- CQ2
- 腫瘍切除は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
DIPG に対する腫瘍切除は行わないことを提案する。
- CQ3
- 水頭症に対する手術は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
DIPG 治療経過中に水頭症を生じた場合,水頭症手術を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
DIPG はその病変の局在から外科的切除術の対象とされないことが多い。ただし,腫瘍進行に伴う水頭症の合併が症状の悪化を招くことがあり,これに対応した治療は望まれるところである。外科的治療の適否については検証が必要である。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的治療による侵襲
2.推奨の解説
CQ2
腫瘍摘出の意義と,生検術を行うか,行わないかの議論は別である。生検術は特に臨床試験を行ううえで腫瘍の分子生物学的特徴を明確にし,さらに標的療法を行っていくためにも推奨する傾向にある1)。本項目ではあくまでもDIPG に対する腫瘍摘出の意義に関してまとめる。
第一にこれまで発表された論文,特に年代の古いものではDIPG の定義が曖昧であるために,DIPG に対する外科的治療の意義に関して正確な結論を導き出すのが難しい。
1980 年代後半にEpstein から発表された形態学的なintrinsic brainstem glioma の分類2,3)は依然として頻用される。Epstein らは1986 年の発表ではfocal, diffuse, cervicomedullary の3 型に分類した2)が,1988 年にはさらにcystic を加え最終的に4 型に分類している3)。diffuse type のbrainstem glioma で橋に存在するものがDIPG に相当すると考えて,過去の論文の記述からDIPG に対する外科的治療の意義を推測することになる。
Epstein らの1988 年の文献3)では,66 例の小児intrinsic brain stem glioma のうち27 例がdiffuse であり,これらはすべて組織学的に悪性であり,手術の恩恵はなく,1 例は手術死亡し,全例が術後6~9 カ月で死亡した。この結果からdiffuse intrinsic brainstem glioma に対しての手術適応はないとしている。この症例群のかなりの部分がDIPG に相当すると予想されるが,想像の域を出ない。
Behnke ら4)は1987~1994 年の連続した小児intra-axial exophytic tumor 30 例に対して手術を行った。術後ほとんどの症例で術前に認められた症状は悪化するが,2~3 カ月で回復するとしている。しかし2 例では術後2 日目と2 週間目に死亡している。血管腫(2 例)・grade 1 の星細胞腫(6 例)・grade 2 の乏突起膠腫(1 例)・grade 2 の上衣腫(1 例)の計10 例は術後2 年の段階で全例が生存している。一方,grade 2 以上の星細胞腫とprimitive neuroectodermal tumor(PNET)はどんなに摘出率が高くとも全例死亡した。術前神経学的脱落症状のあるもの,pontine hypertrophy,Onion-skin-like changes between layers of normal brainstem parenchyma and tumor tissue が認められる症例は,予後が悪いと報告している。開頭顕微鏡下手術は,MRI や生検ではわからない情報が得られるために有用というのが結論であるが,手術を推奨する考えに偏っていると評価せざるを得ない。
Wagner ら5)は1983~2001 年にHIT-GBM database に登録された新規pontine glioma 153 例を対象とした。場所はpons に限局されているが,diffuse, focal を分類していない。DIPG と推測される96 例中6 例(6.3%)に摘出術が行われた。結果的に手術・放射線・化学療法すべてが行われた症例の予後は単変量解析で良好であった。手術の意義に関しては論議されていないが,表に記載されている “Larger tumor”(定義が一切記載されていない)に対する摘出術は,単変量解析にてp=0.048 となっており,予後良好因子と読み取ることはできる。
Yoshimura ら6)は1962~1996 年の72 例のbrainstem glioma を検討した。64 例がdiffuse で,そのうち40 例に対して剖検が行われた。このうち2 例が延髄,38 例が橋に存在しているため,38 例が真の意味でのDIPG に相当すると判断される。年齢は3~46(平均12.6)歳で,4 例に部分摘出術以上,34 例に対して生検もしくは摘出術は行われなかった。表から摘出例の生存期間中央値は44 週,生検・非摘出例のそれは32 週と計算され,log-rank test にてp=0.408 で生存期間延長効果は認められなかった。
Behnke4),Wagner5)らの文献からintrinsic brainstem glioma に対して摘出術がある程度の意味合いを有することが予想されるが,これらにはfocal intrinsic type のbrainstem glioma とpons 以外に位置する腫瘍が含まれており,しかもそれがどの割合かは全く不明であるために,純粋にDIPG に対する摘出効果を明らかにすることができない。
結論として,DIPG に対する可及的摘出術の意義を明らかにした文献は存在しないと言える。また,合併症発生率が高く,術後早期死亡例の報告も多い3,4)。したがって,DIPG に対する腫瘍切除は推奨されない。
ただし,これは一般論であって,局所的な造影領域あるいは囊胞成分の急速な拡大に対する摘出術等,各症例に応じた腫瘍切除が否定されるものではない。このような状況下での腫瘍摘出の有効性,問題点に関して検討を行った論文は過去一切存在しないためである。
CQ3
DIPG ではおよそ15~60%の確率で,その診断確定から平均5 カ月で水頭症を生ずると報告されている。DIPG に併発した水頭症に対して手術を行うべきであるかどうかに関しては,いずれも単施設の後方視的検討結果によるため,高いエビデンスレベルにはない。また,その少ない対象疾患がDIPG に限定していない点にも注意が必要となる。
DIPG に合併した水頭症に対して,保存的療法のみでは限界があり,脳室腹腔短絡術(ventriculoperitoneal shunt:VPS)もしくは内視鏡的第三脳室開窓術(endoscopic third ventriculostomy:ETV)の適応を検討する必要がある。Amano らは,水頭症手術が行われた12 例はそれ以外の4 例に比較して長期生存したと報告している1)。Roujeau らは,51 例のDIPG を対象とし,水頭症を生じた11 例とそれ以外40 例の生存期間を検討した2)。Roujeau らは,適切に治療されれば水頭症の有無は生存率に影響しなかったこと,腫瘍の進行状況と水頭症発生とも関係なかったことから,水頭症が起きたらより積極的に治療すべきであるとしている2)。Amano らも,水頭症を神経兆候・画像診断から診断することは重要で,もし水頭症を生じた場合は適切な水頭症手術を行うべきとしている1)。
DIPG の4~50%に存在する播種病変を伴った水頭症では,水頭症の原因はDIPG によって中脳水道から第4 脳室への髄液流通障害による閉塞性水頭症だけではなく,吸収障害も伴った複数の要因に由来することが多いため,髄液を腹腔内へ流し出すことによって水頭症を改善させるVPS を優先的に選択する必要がある。播種病変が明らかになっていない場合,VPS とETV のいずれを選択するかの結論は出ていない。ETV においても施行直後から水頭症症状改善は得られ,体内に異物が挿入されないことから感染のリスクが低いという利点を強調する論文がみられる1,3,4)。一方で,ETV 後にVPS を必要とした症例が,Klimo らの報告3)では13 例中1 例,Roujeau らの報告2)では2 例中1 例と少なからず存在しており,上述のように髄液吸収障害による水頭症発現機序も考慮すると,最初からVPS を選択した方が良いという意見も存在する2)。なお,ETV を行う場合には脳底槽の変形・狭小化を念頭に置き,脳幹部や偏移した脳底動脈損傷を避けるように慎重かつ十分な開窓を症例ごとに検討すべきとされている4)。また,非常に稀な現象ではあるが,VPS を介して腹腔内に腫瘍播種を生ずることも報告されている5)。このように,DIPG 経過中に生ずる水頭症に対して手術を行うことは勧められているが,VPS を選択すべきであるか,ETV を選択すべきであるかは結論づけられていないのが現状である。
システマティックレビュー結果
CQ2
<検索式>
diffuse[All Fields]AND intrinsic[All Fields]AND(“pons”[MeSH Terms]OR “pons”[All Fields]OR “pontine”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])
“resection”“surgery”といったterm を加えて手術に関連したものだけをsearch するとあまりにも文献数が少なくなるために,下記のようにDIPG 全体をカバーするようにすべての論文を抽出し,一次スクリーニングを行い,その後,二次スクリーニングで文献を絞った。
❖ 文献
- 1)
- Walker DA, Liu J, Kieran M, et al;CPN Paris 2011 Conference Consensus Group. A multi-disciplinary consensus statement concerning surgical approaches to low-grade, high-grade astrocytoma and diffuse intrinsic pontine gliomas in childhood(CPN Paris 2011)using the Delphi method. Neuro Oncol. 2013;15(4):462-8.[PMID:23502427]
- 2)
- Epstein F, McCleary EL. Intrinsic brain-stem glioma of childhood:surgical indications. J Neurosurg. 1986;64(1):11-5.[PMID:3941334]
- 3)
- Epstein F, Wisoff JH. Intrinsic brainstem tumors in childhood:surgical indications. J Neurooncol. 1988;6(4):309-17.[PMID:3221258]
- 4)
- Behnke J, Christen HJ, Mursch K, et al. Intra-axial endophytic tumors in the pons and/or medulla oblongata Ⅱ. Intraoperative findings, postoperative results, and 2-year follow up in 25 children. Childs Nerv Syst. 1997;13(3):135-46.[PMID:9137855]
- 5)
- Wagner S, Warmuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006;79(3):281-7.[PMID:16598416]
- 6)
- Yoshimura J, Onda K, Tanaka R, et al. Clinicopathological study of diffuse type brainstem gliomas:analysis of 40 autopsy cases. Neurol Med Chir(Tokyo). 2003;43(8):375-82.[PMID:12968803]
CQ3
<検索式>
diffuse[All Fields]AND intrinsic[All Fields]AND(“pons”[MeSH Terms]OR “pons”[All Fields]OR “pontine”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“hydrocephalus”[MeSH Terms]OR “hydrocephalus”[All Fields]))OR((“brain stem”[MeSH Terms]OR(“brain”[All Fields]AND “stem”[All Fields])OR “brain stem”[All Fields]OR “brainstem”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“hydrocephalus”[MeSH Terms]OR “hydrocephalus”[All Fields])
結果:252 件
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Amano T, Inamura T, Nakamizo A, et al. Case management of hydrocephalus associated with the progression of childhood brain stem gliomas. Childs Nerv Syst. 2002;18(11):599-604.[PMID:12420118]
- 2)
- Roujeau T, Di Rocco F, Dufour C, et al. Shall we treat hydrocephalus associated to brain stem glioma in children? Childs Nerv Syst. 2011;27(10):1735-9.[PMID:21928037]
- 3)
- Klimo P Jr, Goumnerova LC. Endoscopic third ventriculocisternostomy for brainstem tumors. J Neurosurg. 2006;105(4 Suppl):271-4.[PMID:17328276]
- 4)
- Kobayashi N, Ogiwara H. Endoscopic third ventriculostomy for hydrocephalus in brainstem glioma:a case series. Childs Nerv Syst. 2016;32(7):1251-5.[PMID:27041375]
- 5)
- Barajas RF Jr, Phelps A, Foster HC, et al. Metastatic Diffuse Intrinsic Pontine Glioma to the Peritoneal Cavity Via Ventriculoperitoneal Shunt:Case Report and Literature Review. J Neurol Surg Rep. 2015;76(1):e91-6.[PMID:26251821]
課題3:放射線治療
- CQ4
- 放射線治療は行うべきか?
- 疾患の治療時期に応じて,解説を以下の項目に分けた。
- CQ4-1
- 初発のDIPG に対して,放射線治療は行うべきか?
- 推奨度1B
- 推奨
初発のDIPG に対して,放射線治療を行うことを推奨する。
- CQ4-2
- 照射後再発時のDIPG に対して,放射線治療は行うべきか?
- 推奨度2C
- 推奨
照射後再発時のDIPG に対して,放射線治療を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
DIPG の治療の中心となる放射線治療について,その線量や照射範囲に関して検証を行う。一般的に,小児脳腫瘍に対する放射線治療は3 歳以上であるか否かによって方針が分かれるが,DIPG は3 歳未満で診断されることは稀であるので,年齢に関する検証は行わない。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科治療による侵襲
2.推奨の解説
CQ4-1
DIPG の予後は不良で,放射線治療を行わない場合の生存期間は約3.5~5 カ月とされている1,2)。
DIPG が稀少疾患であることから,放射線治療の効果についても後方視的な観察研究が多いが,1991 年には2~13 歳のDIPG に対する放射線治療について非照射群での全生存期間中央値が140 日であったのに対して照射群では280 日であったとの報告がある1)。1983~2001 年までドイツで行われた多施設共同前方視的コホート研究HIT-GBM に登録された153 例の治療成績を検討したWagner らの報告によると,54 Gy/30 fr の通常分割照射が行われた放射線治療群(125 例)の全生存期間中央値は11 カ月であったのに対して,非照射群(21 例)では5 カ月であり,放射線治療群において生存期間の有意な延長を認めている3)。
照射の分割様式については,過分割照射(hyperfractionated radiotherapy)と通常分割照射との比較,および寡分割照射(hypofractionated radiotherapy)と通常分割照射との比較が行われている。
POG-9239 試験は過分割照射と通常分割照射を比較した多施設共同第Ⅲ相ランダム化比較試験で,全130 例を過分割照射群(総線量70.2 Gy,1.17 Gy×2 回/日)64 例と通常分割照射群(総線量54 Gy,1.8 Gy/日)66 例に振り分けて検討された。その結果,過分割照射群と通常分割照射群で,死亡までの期間(8 カ月/8.5 カ月),EFS(5 カ月/6 カ月)いずれにおいても両群に有意な差はなく,過分割照射による生存率の改善は認められなかった4)。
寡分割照射と通常分割照射との比較については,Zaghloul らにより第Ⅲ相ランダム化比較試験が行われ,その結果が2014 年に報告された5)。全71 例を寡分割照射群(39 Gy/13fr,2.6 週)35 例と通常分割照射群(54 Gy/30 fr,6 週)36 例に振り分けて検討された。その結果,全生存期間は寡分割照射群では7.8 カ月,通常分割照射では9.5 カ月で,両群に有意な差はみられなかった。急性および晩期有害事象についても両群に差はなく,治療期間の短縮,治療負担の軽減から寡分割照射は有利ではないかと述べている。
現在では腫瘍部分に1~2 cm のマージンをつけた部分に対して,一回線量1.8~2 Gy,総線量54~60 Gy の通常分割照射による放射線治療が標準治療とされており,放射線治療により症状の緩和のみならず,8~14 カ月の生存を期待できる。
CQ4-2
放射線療法は,照射後の再発例に用いても予後を改善する,という後方視的な報告が出されつつある。Wolff らのMD アンダーソンがんセンターにおける後方視的な解析によれば1),化学療法が大部分を占める26 種類のレジメンで61 回の治療を試みた31 例の再発DIPG のうち,初発部位に対し再照射が行われた7 例の奏効率は57%(7 例中4 例)で,再照射が行われなかった群の奏効率10%(52 例中5 例)に比較して有意に高く(p=0.008),また他のレジメンに比べて,EFS が有意に長かった(p=0.017)。彼らの用いた放射線の総線量は18~20 Gy で,グレード3 以上の有害事象は1 例も認められなかった。
Lassaletta らのカナダからの後方視的な報告によれば2),2011~2016 年に治療したDIPG の再照射16 例と,過去の再照射を行わなかった46 例を比較して,生存期間中央値が有意に延長した(218 日vs. 92 日,p=0.0001)。彼らの放射線の総線量は21.6~36 Gy と比較的高い線量を用いたが,30 Gy/10 fr を投与した1 例に橋の壊死が生じた。
またJanssens らによるヨーロッパ7 カ国の施設から集積された小児DIPG の照射後再発例についてのマッチドコホート研究3)では,再照射を行った31 例と行わずにbest supportive care(BSC)で観察した39 例を比較すると全生存期間の中央値が13.7 カ月vs. 10.4 カ月(p=0.04)と,有意に再照射群で改善していた。そして再照射を行った31 例中24 例で症状の軽快が認められた。また,グレード3 以上の有害事象は1 例も認められなかった。照射の線量は6 例の30 Gy/10 回の照射例以外は18~20 Gy の通常分割で行われた。
以上より,未だ前方視的研究の報告はないものの,放射線療法はDIPG の放射線治療後の再発例に対しても,生存期間の延長効果をもたらし,かつ有害事象も許容範囲内であることから,治療手段として用いることを提案する。
システマティックレビュー結果
CQ4-1
<検索式>
((((((((infant or child or adolescent or pediatric))AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)))AND radiotherapy)AND English[Language])NOT review[Publication Type])NOT case reports[Publication Type]
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
なお,DIPG については放射線治療が治療の中心であったため,解説文の作成にあたり対象として放射線非照射群の予後に関する情報を得るために以下の検索式で文献を集め(24 文献),マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した(文献1 および2)。
(((infant or child or adolescent or pediatric)AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)))AND natural history
❖ 文献
- 1)
- Langmoen IA, Lundar T, Storm-Mathisen, et al. Management of pediatric pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 1991;7(1):13-5.[PMID:2054800]
- 2)
- Sun T, Wan W, Wu Z, et al. Clinical outcomes and natural history of pediatric brainstem tumors:with 33 cases follow-ups. Neurosurg Rev. 2013;36(2):311-9;discussion 319-20.[PMID:23138258]
- 3)
- Wagner S, Wamuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006;79(3):281-7.[PMID:16598416]
- 4)
- Mandell LR, Kadota R, Freeman C, et al. There is no role for hyperfractinated radiotherapy in the management of children with newly diagnosed diffuse intrinsic brainstem tumors:results of a pediatric oncology group phase Ⅲ trial comparing conventional vs. hyperfractionated radiotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1999;43(5):959-64.[PMID:10192340]
- 5)
- Zaghloul MS, Eldebawy E, Ahmed S, et al. Hypofractionaed conformal radiotherapy for pediatric diffuse intrinsic pontine glioma(DIPG):A randomized controlled trial. Radiother Oncol. 2014;111(1):35-40.[PMID:24560760]
CQ4-2
<検索式>
(((infant or child or adolescent or pediatric)AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)))AND re-irradiation
これをすべて一次スクリーニングとし(26 文献),マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Wolff JE, Rytting ME, Vats TS, et al. Treatment of recurrent diffuse intrinsic pontine glioma:the MD Anderson Cancer Center experience. J Neurooncol. 2012;106(2):391-7.[PMID:21858608]
- 2)
- Lassaletta A, Strother D, Laperriere N, et al. Reirradiation in patients with diffuse intrinsic pontine gliomas:The Canadian experience. Pediatr Blood Cancer. 2018;65(6):e26988.[PMID:29369515]
- 3)
- Janssens GO, Gandola L, Bolle S, et al. Survival benefit for patients with diffuse intrinsic pontine glioma(DIPG)undergoing re-irradiation at first progression:A matched-cohort analysis on behalf of the SIOP-E-HGG/DIPG working group. Eur J Cancer. 2017;73:38-47.[PMID:28161497]
課題4:化学療法
- CQ5
- 化学療法を行うべきか?
- 推奨度2C
- 推奨
DIPG に対して化学療法を行わないことを提案する。
なお,疾患の治療時期に応じて,解説を以下の項目に分けた。
CQ5-1 放射線治療との併用について
CQ5-2 放射線治療後の化学療法について
CQ5-3 再発(進行)時の化学療法について
解説
1.CQ の設定
課題4:薬物療法(抗がん剤,分子標的治療薬など)の有効性
DIPG の治療における抗腫瘍薬の効果についてはエビデンスが少ないのが現状であるが,一般的な神経膠腫に対する薬物療法の進歩が目立っている中で,DIPG に対する薬物療法の意義を検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,有害事象の発現
2.推奨の解説
CQ5-1 放射線治療との併用について
DIPG に対する標準治療は54~60 Gy の放射線療法であり,1 年生存率は45%程度とされている。単独放射線治療よりも良好な予後を獲得するためにさまざまな薬剤併用放射線療法が報告されてきた。
Wagner らは,白金製剤やアルキル化剤等の併用について1983~2001 年にHIT-GBM(“Hirntumor-Glioblastoma multiforme”)データベースに登録されたDIPG 153 例に対し後方視的に解析している。治療として単独放射線治療あるいは放射線治療と化学療法[エトポシド+トロフォスファミド,カルボプラチン+エトポシド+イホスファミド+(ビンクリスチン)]の併用が行われた。放射線治療単独群(17 例)と放射線化学療法群(88 例)の全生存期間中央値は9 カ月,11 カ月であり,放射線化学療法群が延長した(p=0.03)。また,腫瘍径が大きいDIPG(橋の長さの50%以上)に対しては,放射線治療および化学療法がともに予後延長に寄与していた1)。Korones らは,Children’s Oncology Group(COG)9836 に登録された30 例のDIPG に対して放射線治療とエトポシド,ビンクリスチン併用療法を施行し解析している。全生存期間中央値9 カ月,1 年生存率27%,2 年生存率3%の結果であり,化学療法併用による予後延長効果は得られなかった2)。また,放射線治療とテモゾロミド併用療法に関して報告がある。Cohen らは,63 例の脳幹グリオーマに対し放射線治療とテモゾロミドを併用し全生存期間中央値9.6 カ月であったと報告している3)。Bailey らが報告した43 例の脳幹グリオーマに対する放射線治療とテモゾロミド併用療法では,全生存期間中央値9.5 カ月であった4)。これらの報告では,放射線治療にテモゾロミドを併用しても予後延長効果には寄与しない可能性が高いと述べられている。
放射線治療に分子標的治療薬を併用した臨床試験についても報告されている。Pollack らは43 例の脳幹グリオーマに対し放射線とEGFR チロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブの併用療法を施行した結果,1 年および2 年生存率は56.4%,19.6%であった。2 年生存率19.6%は他の臨床試験より良い結果であり,ゲフィチニブに感受性が高い集団が含まれている可能性が示唆されている5)。Macy らは,25 例の脳幹グリオーマに対し放射線治療に抗EGFR 抗体薬であるセツキシマブを併用した結果,無増悪生存期間中央値7.1 カ月,1 年無増悪生存割合29.6%,全生存期間中央値12.1 カ月であった。セツキシマブの併用は,無増悪期間の延長には寄与するかもしれないが,全生存期間の延長には寄与せず,今後,脳幹グリオーマに対するセツキシマブを使用した臨床試験は施行しない方針とされた6)。
Hummel らは,15 例の脳幹グリオーマに対し放射線と抗VEGF 抗体ベバシズマブ併用療法を施行した。無増悪生存期間中央値8.2 カ月,全生存期間中央値10.4 カ月であり,ベバシズマブ併用による予後延長効果は期待できないと報告した7)。
その他の併用薬剤として,12 例の脳幹グリオーマに対し放射線とサリドマイドの併用療法が報告されている。結果は全生存期間中央値9 カ月であり,予後延長効果は認められなかった8)。
一方,放射線治療前に化学療法を施行する臨床試験の報告がされている。Jennings らは,化学療法後に多分割放射線治療を行うChildren’s Cancer Group(CCG)の第Ⅱ相試験(CCG-9941)を報告している。63 例の脳幹グリオーマに対し化学療法(レジメンA:カルボプラチン+エトポシド+ビンクリスチンもしくはレジメンB:シスプラチン+シクロホスファミド+エトポシド+ビンクリスチン)を先行し,放射線治療(72 Gy)を行った。レジメンA とB の全生存期間中央値に差はなく,両群ともにヒストリカルコントロールとの差も認めなかった。したがって,化学療法先行の有効性は期待できないと述べられている9)。Frappaz らはBSG(Brain Stem Glioma)98 clinical trial の最終レポートを報告している。BSG 98 プロトコールは,ニトロソウレア(BCNU)+シスプラチン+大量メトトレキセートを3 カ月ごとに施行し,病変の進行時に放射線治療を追加する内容である。全生存期間中央値は,ヒストリカルコントロール群9 カ月に対し,BSG 98 群は17 カ月に延長した(p=0.02)。ただし,化学療法の毒性が強く入院期間延長や感染症リスクがあるため,患者本人および家族とよく相談すべきであると指摘している10)。Gokce-Samar らは,25 例の脳幹グリオーマに対し,BSG 98 プロトコール群(16 例)と分子標的治療薬群(9 例)を比較している。分子標的治療薬はエルロチニブ(EGFR チロシンキナーゼ阻害薬)もしくはシレンジタイド(インテグリン阻害薬)が使用された。BSG 98 プロトコール群の全生存期間中央値は16.1 カ月で,分子標的治療薬群の8.8 カ月よりも明らかに延長した(p=0.0003)。この結果から,BSG 98 プロトコールが脳幹グリオーマに対し有効性を期待できると述べられている11)。
現時点では,放射線治療に併用する薬剤の予後延長効果については肯定的な結果よりも否定的な結果が多く,確実に効果が期待できる薬剤はないと判断する。ただし,放射線治療と併用しないBSG 98 プロトコールは化学療法の毒性が強いながらも,脳幹グリオーマの予後延長効果に寄与する可能性がある。
注:エトポシド,トロフォスファミド,カルボプラチン,イホスファミド,ゲフィチニブ,セツキシマブ,サリドマイド,メトトレキセート,エルロチニブ,シレンジタイドは適応外使用
CQ5-2 放射線治療後の化学療法について
Broniscer らは,多施設共同研究で放射線治療後(55.8 Gy)の脳幹グリオーマ33 例に対するテモゾロミドの効果を検討している。テモゾロミドは200 mg/m2を5 日間投与,23 日休薬を1 サイクルとして12 サイクル行われた。無増悪生存期間中央値は8.8 カ月,1 年無増悪生存割合27%,全生存期間中央値12 カ月,1 年生存割合48%であり,ヒストリカルコントロールを上回る結果は得られず,テモゾロミド維持療法の有効性は否定されている1)。Kim らは新規脳幹グリオーマに対し,放射線治療にテモゾロミドとサリドマイド併用療法を加え,維持療法としてテモゾロミド(150~200 mg/m2)とサリドマイド(150~600 mg/m2)併用療法を行っている。評価された脳幹グリオーマ12 例においては無増悪期間中央値7.2 カ月,全生存期間中央値12.7 カ月で放射線治療単独療法と不変であり,テモゾロミドとサリドマイド併用維持療法の有効性は認められなかった。しかし,1 年生存率は58%であり,他の臨床試験の1 年生存率34.4%よりも高い結果であり,副作用は主にコントロール可能な骨髄抑制のみであったため今後症例数を増やし,再検討が必要と報告している2)。Porkholm らは,脳幹グリオーマ41 例に対し放射線治療後サリドマイド(1~6 mg/kg),エトポシド(20~70 mg/m2),セレコキシブ(230 mg/m2もしくは7 mg/kg)の3 剤併用維持療法を施行し,コントロール群8 例と比較している。3 剤併用維持療法群とコントロール群の全生存期間中央値はそれぞれ12 カ月,10.5 カ月で有意差は認めなかったが,3 剤併用療法群では7 例の長期生存例(24~60 カ月)を認めた。したがって,一部の症例には有効性があるため,大規模な症例数での再検討が必要であると述べている3)。
現時点では,初期治療後の維持化学療法として有効性が確立された治療方法はない。しかし,各臨床試験では少数の有効症例も認めているため,大規模な臨床試験を展開し,有効症例/無効症例の分子生物学的背景の解析が必要と考えられる。
注:サリドマイド,エトポシド,セレコキシブは適応外使用
CQ5-3 再発(進行)時の化学療法について
再発および進行性脳幹グリオーマに対する治療は期待できず,緩和医療の導入が一般的とされているが,化学療法を行った複数の臨床試験結果が報告されている。
①トポテカン(我が国では一般名ノギテカン)
小児再発性中枢神経腫瘍(計41 例)に対するトポテカン単剤療法の有効性を評価した。トポテカンは,1.0 mg/m2/日(3 日間)を3 週間ごとに投与された。19 例の脳幹腫瘍に対し,安定(stable disease:SD)4 例(21%),進行(progressive disease:PD)15 例(79%)と抗腫瘍効果は認めなかった。grade 4 の有害事象は,好中球減少(32%),血小板減少(23%)であった1)。
②テモゾロミド
113 例の再発性中枢神経腫瘍(脳幹グリオーマ16 例)を対象としてテモゾロミド180 mg/m2/日(脳脊髄照射既往あり)もしくは200 mg/m2/日(脳脊髄照射既往なし)の用量で5 日間投与-23 日間休薬のサイクルで単剤療法の効果を評価した。脳幹グリオーマに対する結果は,評価不能な1 例を除き15 例全例で効果なく,5 サイクルまでに腫瘍進行を認めた。grade 3/4 の有害事象は,好中球減少(19%)と血小板減少(25%)であった2)。DNA 修復酵素[O6-methylguanine-DNA methyltransferase(MGMT)]はテモゾロミドの抵抗性に関連しており,Warren らはMGMT を不活化するO6-benzylguanine(O6-BG)とテモゾロミドの併用療法を報告している。再発性脳幹グリオーマ16 例に対し,O6-BG 120 mg/m2+テモゾロミド75 mg/m2が投与された。併用療法の抗腫瘍効果はなく,6 カ月の無増悪生存率は0%であり,有効性は認めなかった3)。
③第3 世代白金製剤(オキサリプラチン)
再発性固形腫瘍124 例(脳幹グリオーマ10 例)に対し,オキサリプラチン(3 週間ごとに130 mg/m2静脈投与)の効果が評価された。脳幹グリオーマで評価可能な9 例中,SD 1 例,PD/no response 8 例であり,オキサリプラチンの有効性は認めなかった4)。
④分子標的治療薬
再発性脳幹グリオーマを対象としてRas 経路を抑制するファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬tipifarnib,VEGF を阻害するベバシズマブ,EGFR を阻害するニモツズマブの報告がされている。Tipifarnib(200 mg/m2)が35 例の再発脳幹グリオーマに投与された結果,部分奏効(partial response:PR)1 例,SD 4 例であり6 カ月無増悪生存期間は3%であった。したがって,tipifarnib はほとんど効果がないと結論づけられた5)。ベバシズマブは,16 例の再発性脳幹グリオーマに対しSD 5 例(3 カ月以上)であり,効果が乏しい結果であった6)。ニモツズマブが44 例の再発進行性脳幹グリオーマに投与された。評価可能であった19 例に対しPR 2 例,SD 6 例,PD 11 例であり,ニモツズマブ導入後からの生存期間中央値は3.2 カ月であった。また,PR/SD 群とPD 群の生存期間中央値はそれぞれ282日と146 日であるが統計学的有意差は認めなかった(p=0.06)。この結果からニモツズマブにより中等度の有効性が期待される脳幹グリオーマが存在することが示された7)。
その他,Wolff らは自施設であるMD アンダーソンがんセンターで加療された31 例の再発性脳幹グリオーマに対する治療について後方視的に解析している。エトポシド,テモゾロミド,シスプラチンなどの化学療法の効果は認められず,腫瘍縮小効果および無増悪性期間の延長に寄与した治療方法は,再放射線治療(20 Gy)であった8)。
以上より,現時点では明らかに治療効果を示す薬剤は同定されていない。
注:トポテカン,O6ベンジルグアニン,オキサリプラチン,チピファルニブ,ニモツズマブは適応外使用
CQ5-1,5-2 のシステマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((infant or child or adolescent or pediatric))AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem))NOT(relapse or recurrence or refractory))AND chemotherapy)AND(“1995/01”[Date- Publication]:“2017/08”[Date-Publication]))AND English[Language])NOT review[Publication Type])NOT case reports[Publication Type]
結果:46 件
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
CQ5-1
- 1)
- Wagner S, Warmuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006;79(3):281-7.[PMID:16598416]
- 2)
- Korones DN, Fisher PG, Kretschmar C, et al. Treatment of children with diffuse intrinsic brain stem glioma with radiotherapy, vincristine and oral VP-16:a Children’s Oncology Group phase Ⅱ study. Pediatr Blood Cancer. 2008;50(2):227-30.[PMID:17278121]
- 3)
- Cohen KJ, Heideman RL, Zhou T, et al. Temozolomide in the treatment of children with newly diagnosed diffuse intrinsic pontine gliomas:a report from the Children’s Oncology Group. Neuro Oncol. 2011;13(4):410-6.[PMID:21345842]
- 4)
- Bailey S, Howman A, Wheatley K, et al. Diffuse intrinsic pontine glioma treated with prolonged temozolomide and radiotherapy–results of a United Kingdom phase Ⅱ trial(CNS 2007 04). Eur J Cancer. 2013;49(18):3856-62.[PMID:24011536]
- 5)
- Pollack IF, Stewart CF, Kocak M, et al. A phase Ⅱ study of gefitinib and irradiation in children with newly diagnosed brainstem gliomas:a report from the Pediatric Brain Tumor Consortium. Neuro Oncol. 2011;13(3):290-7.[PMID:21292687]
- 6)
- Macy ME, Kieran MW, Chi SN, et al. A pediatric trial of radiation/cetuximab followed by irinotecan/cetuximab in newly diagnosed diffuse pontine gliomas and high-grade astrocytomas:A Pediatric Oncology Experimental Therapeutics Investigators’ Consortium study. Pediatr Blood Cancer. 2017;64(11):10.1002/pbc.26621.[PMID:28544128]
- 7)
- Hummel TR, Salloum R, Drissi R, et al. A pilot study of bevacizumab-based therapy in patients with newly diagnosed high-grade gliomas and diffuse intrinsic pontine gliomas. J Neurooncol. 2016;127 (1):53-61.[PMID:26626490]
- 8)
- Turner CD, Chi S, Marcus KJ, et al. Phase Ⅱ study of thalidomide and radiation in children with newly diagnosed brain stem gliomas and glioblastoma multiforme. J Neurooncol. 2007;82(1):95-101.[PMID:17031553]
- 9)
- Jennings MT, Sposto R, Boyett JM, et al. Preradiation chemotherapy in primary high-risk brainstem tumors:phase Ⅱ study CCG-9941 of the Children’s Cancer Group. J Clin Oncol. 2002;20(16):3431-7.[PMID:12177103]
- 10)
- Frappaz D, Schell M, Thiesse P, et al. Preradiation chemotherapy may improve survival in pediatric diffuse intrinsic brainstem gliomas:final results of BSG 98 prospective trial. Neuro Oncol. 2008;10(4):599-607.[PMID:18577561]
- 11)
- Gokce-Samar Z, Beuriat PA, Faure-Conter C, et al. Pre-radiation chemotherapy improves survival in pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 2016;32(8):1415-23.[PMID:27379495]
CQ5-2
- 1)
- Broniscer A, Iacono L, Chintagumpala M, et al. Role of temozolomide after radiotherapy for newly diagnosed diffuse brainstem glioma in children:results of a multiinstitutional study(SJHG-98). Cancer. 2005;103(1):133-9.[PMID:15565574]
- 2)
- Kim CY, Kim SK, Phi JH, et al. A prospective study of temozolomide plus thalidomide during and after radiation therapy for pediatric diffuse pontine gliomas:preliminary results of the Korean Society for Pediatric Neuro-Oncology study. J Neurooncol. 2010;100(2):193-8.[PMID:20309719]
- 3)
- Porkholm M, Valanne L, Lönnqvist T, et al. Radiation therapy and concurrent topotecan followed by maintenance triple anti-angiogenic therapy with thalidomide, etoposide, and celecoxib for pediatric diffuse intrinsic pontine glioma. Pediatr Blood Cancer. 2014;61(9):1603-9.[PMID:24692119]
CQ5-3 のシステマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((infant or child or adolescent or pediatric))AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem))AND(relapse or recurrence or refractory))AND chemotherapy)AND(“1995/01”[Date-Publication]:“2017/08”[Date-Publication]))AND English[Language])NOT review[Publication Type])NOT case reports[Publication Type])
結果:24 件
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Kadota RP, Stewart CF, Horn M, et al. Topotecan for the treatment of recurrent or progressive central nervous system tumors-a pediatric oncology group phase Ⅱ study. J Neurooncol. 1999;43(1):43-7.[PMID:10448870]
- 2)
- Nicholson HS, Kretschmar CS, Krailo M, et al. Phase 2 study of temozolomide in children and adolescents with recurrent central nervous system tumors:a report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2007;110(7):1542-50.[PMID:17705175]
- 3)
- Warren KE, Gururangan S, Geyer JR, et al. A phase Ⅱ study of O6-benzylguanine and temozolomide in pediatric patients with recurrent or progressive high-grade gliomas and brainstem gliomas:a Pediatric Brain Tumor Consortium study. J Neurooncol. 2012;106(3):643-9.[PMID:21968943]
- 4)
- Beaty O 3rd, Berg S, Blaney S, et al. A phase Ⅱ trial and pharmacokinetic study of oxaliplatin in children with refractory solid tumors:a Children’s Oncology Group study. Pediatr Blood Cancer. 2010;55(3):440-5.[PMID:20658614]
- 5)
- Fouladi M, Nicholson HS, Zhou T, et al. A phase Ⅱ study of the farnesyl transferase inhibitor, tipifarnib, in children with recurrent or progressive high-grade glioma, medulloblastoma/primitive neuroectodermal tumor, or brainstem glioma:a Children’s Oncology Group study. Cancer. 2007;110(11):2535-41.[PMID:17932894]
- 6)
- Gururangan S, Chi SN, Young Poussaint T, et al. Lack of efficacy of bevacizumab plus irinotecan in children with recurrent malignant glioma and diffuse brainstem glioma:a Pediatric Brain Tumor Consortium study. J Clin Oncol. 2010;28(18):3069-75.[PMID:20479404]
- 7)
- Bartels U, Wolff J, Gore L, et al. Phase 2 study of safety and efficacy of nimotuzumab in pediatric patients with progressive diffuse intrinsic pontine glioma. Neuro Oncol. 2014;16(11):1554-9.[PMID:24847085]
- 8)
- Wolff JE, Rytting ME, Vats TS, et al. Treatment of Recurrent Diffuse Intrinsic Pontine Glioma, Experience of MD Anderson Cancer Center. J Neurooncol. 2012;106(2):391-7.[PMID:21858608]
4 章 視神経視床下部神経膠腫 optic pathway/hypothalamic glioma:OPHG
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
廣瀬 雄一
藤田医科大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
総括
副委員長
西川 亮
埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科/脳神経外科
総括
委員
竹島 秀雄
宮崎大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
診断に関するCQ
協力委員
坂本 博昭
大阪市立総合医療センター小児脳神経外科/脳神経外科
診断・外科的治療に関するCQ
委員
中村 英夫
久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
遺伝的背景に関するCQ
委員
隈部 俊宏
北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療に関するCQ
委員
唐澤 克之
都立駒込病院 放射線診療科/放射線科
放射線治療に関するCQ
委員
中田 光俊
金沢大学大学院医薬保健総合研究科 脳・脊髄機能制御学/脳神経外科
化学療法に関するCQ
協力委員
原 純一
大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科/小児科
化学療法に関するCQ
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
1
診断
坂本 博昭
竹島 秀雄(宮崎大学医学部 脳神経外科)
渡邉 孝(宮崎大学医学部 脳神経外科)
宇田 武弘(大阪市立大学医学部 脳神経外科)
2
遺伝的背景
中村 英夫
牧野 敬史(熊本市立熊本市民病院 脳神経外科)
3
外科的治療
隈部 俊宏
坂本 博昭(大阪市立総合医療センター 小児脳神経外科)
齋藤 竜太(名古屋大学医学部 脳神経外科)
石橋 謙一(大阪市立総合医療センター 脳神経外科)
4
化学療法
中田 光俊
原 純一(大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科)
笹川 泰生(金沢大学医薬保健研究域医学系 脳・脊髄機能制御学)
多賀 祟(滋賀医科大学 小児科)
清谷 知賀子(成育医療研究センター 脳神経腫瘍科)
5
放射線治療
唐澤 克之
藤井 元彰(三井記念病院 放射線治療科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
視神経視床下部神経膠腫(optic pathway/hypothalamic glioma:OPHG)に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,OPHG 患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された10 名によって構成されている。
システマティックレビュー(SR)チーム:重要臨床課題ごとにSR チームを1~4 名で編成した。OPHG が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年11 月30 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で,OPHG のガイドライン作成ワーキンググループが発足。若干の課題については委員の追加を行った。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2015 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014 に準拠した方法により行ったが,OPHG が稀少疾患であるためエビデンスが少なく,上記の方法の適用が困難な場面に遭遇した。
推奨作成とその決定:臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,ガイドライン作成ワーキンググループが各CQ に対する推奨内容について討議した上で,決定のための郵送による投票を行った。最終的に2020 年8 月3 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会にて参加委員全員の投票により決定した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年6 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
1)臨床的特徴
視神経・視交叉から視床下部に発生する浸潤性の脳実質内腫瘍で,小児脳腫瘍の2~5%を占める。過半数が5 歳以下に発生し,10 歳までの例は毛様細胞性星細胞腫が多い。神経線維腫症1 型(NF1)に伴って生じるものもあり,その場合は視交叉より後方には発生しにくく,比較的良好な予後をたどるなど,NF1 の合併例と非合併例との間には臨床像や予後に差異があることも報告されている。ただし,乳幼児期の孤発例ではNF1 の臨床的診断基準を満たさないながらNF1 に伴って生じた腫瘍と同様に良好な予後を示すことがある1-4)。
神経症状や所見としては,視力低下や失明,視野欠損など視機能障害で発症することが多いが,年少時では視機能障害の発見は遅れる。水平性の振子様眼振(pendular nystagmus)はこの腫瘍でみられる特徴的な眼振である。NF1 の例では一側眼窩内の視神経腫瘍によって患側の視機能障害や眼球突出をきたすことがある。内分泌学的異常では低身長など下垂体前葉ホルモンの障害が多いが,尿崩症も発生する。また,視床下部障害により思春期早発,過度の肥満が発生することがあり,乳幼児期にるいそうを呈する間脳症候群(diencephalic syndrome)はこの腫瘍に特徴的である。発達遅滞やけいれんを呈することもある。腫瘍によって非交通性の水頭症を合併すれば,頭蓋内圧亢進の症状や所見を呈し,進行すれば意識障害をきたす。
典型例では上記のような神経徴候を含めた臨床所見と画像検査(MRI)で診断し得るが,非典型例では組織診断を要することもある。視機能障害の評価が困難な乳幼児の例,あるいはNF1 の例でOPHG のスクリーニング検査では,MRI により診断や腫瘍増大の有無が評価できる。腫瘍の局在はMRI を用いて分類され5),視覚路にあたる視神経(一側あるいは両側),視神経交叉,視索,外側膝状体,視放線に腫瘤を形成し,視覚路に沿って,あるいはその周囲の脳実質内に伸展する。腫瘍はT1 強調画像で等信号,T2 強調画像で等信号から高信号を呈し,びまん性で不均一な造影効果を受けやすく,著明な増強効果を受けることも少なくない。水頭症は15~30%に合併する。囊胞の合併,視床下部や第三脳室への伸展,あるいはトルコ鞍上部で脳実質内からくも膜下腔へのexophytic な進展があってもよい。石灰化の所見は稀である。
OPHG の名称は組織型による分類ではなく,腫瘍の発生部位と画像所見に基づくものである。すなわち典型例では神経徴候を含めた臨床学的所見と画像検査で診断された腫瘍の総称であり,単一の組織診断が下されるとは限らないのが実情である。組織診断された場合にはWHO grade Ⅰの毛様細胞性星細胞腫であることが多いが,grade Ⅱ以上の悪性度を持つ神経膠腫や神経膠腫以外の腫瘍もこの部位には発生する。
2)疫学的特徴
比較的多数の症例を含む臨床研究において腫瘍発生に関する性差は示されていないが,カナダのHospital for Sick Children in Toronto からの報告6)ではNF1 合併例では男児の発生が多かったとされている。また同研究の中でNF1 合併例でのOPHG 診断年齢は5.05 歳であったのに対してNF1 非合併例でのOPHG 診断年齢は7.09 歳であり,統計的に有意な差であったことも報告されているが,NF1 合併例では早期にスクリーニング検査が行われた可能性もあることには注意を要する。NF1(出生約3,000 人に1 人の割合で生じる)全体の中でOPHG が発生する割合は報告によって異なるが,MRI でスクリーニングを行った複数の研究結果を合わせると,その10~15%にOPHG が発生すると考えられる。
脳腫瘍全国集計調査報告(2017)7)によれば,視床下部腫瘍の10%,視神経腫瘍の37%が毛様細胞性星細胞腫であったと報告されており,神経上皮由来腫瘍では毛様細胞性星細胞腫が最も多い。ただし,全年齢での脳実質内腫瘍という点では視床下部では中枢神経系原発悪性リンパ腫が最も多く(16%),毛様細胞性星細胞腫はこれに次ぐ。なお,毛様細胞性星細胞腫は7.2%が視神経,5%が視床下部,42.3%が小脳に発生したと報告されている。本疾患は必ずしも外科的治療の絶対的な対象とされなかったことが影響し,腫瘍組織型が確認されていない症例が数多く含まれるため,組織型の正確な情報を得ることは難しい。
3)診療の全体的な流れ
一般的に脳腫瘍の診断では,画像所見と病理診断から診断を確定することが望ましい。しかし,OPHG では非症候性もしくは症状が軽微な場合には経過観察も一つの選択肢であり,画像所見のみによる診断も許容され,生検も含めた外科的腫瘍切除は必要とされないこともある。視機能障害や水頭症など腫瘍による圧排に基づく症状が進行性である場合や,画像検査で明らかな病変拡大が認められる場合は,局所病変を制御するために腫瘍切除が行われることがある。前述の通り本疾患は毛様細胞性星細胞腫であることが最も多いが,より悪性度が高い腫瘍である可能性が否定できないことは念頭に置く必要がある。OPHG は小脳に発生する毛様細胞性星細胞腫とは腫瘍生物学的に異なる可能性があり,この点は腫瘍の組織学的評価に遺伝子診断まで加えるべきかという議論にも関連する。放射線治療は,腫瘍制御の観点からは治療効果が高いことが確認されているが,視床下部機能障害,二次的悪性腫瘍,脳血管障害,高次機能障害などの発現の危険があり,これらの晩期合併症は一旦発生すれば重篤であるため,長期生存が期待できる症例では薬物療法が優先される。放射線治療後の二次がんの発生率はNF1 に合併するOPHG では非合併例よりも高い(CQ8 参照)。放射線治療は腫瘍の局在と大きさなどのために手術困難な場合や,薬物療法に対する治療反応性が低い場合に行われることが多い。薬物療法の主体は化学療法であるが,今後分子標的薬の導入も見込まれている。
❖ 文献
- 1)
- Deliganis AV, Geyer JR, Berger MS. Prognostic significance of type 1 neurofibromatosis(von Recklinghausen Disease)in childhood optic glioma. Neurosurgery. 1996;38(6):1114-9.[PMID:8727140]
- 2)
- Laithier V, Grill J, Le Deley MC, et al;French Society of Pediatric Oncology. Progression-free survival in children with optic pathway tumors:dependence on age and the quality of the response to chemotherapy–results of the first French prospective study for the French Society of Pediatric Oncology. J Clin Oncol. 2003;21(24):4572-8.[PMID:14673044]
- 3)
- Nicolin G, Parkin P, Donald Mabbott D, et al. Natural history and outcome of optic pathway gliomas in children. Pediatr Blood Cancer. 2009;53(7):1231-7.[PMID:19621457]
- 4)
- Stokland T, Liu JF, Ironside JW, et al. A multivariate analysis of factors determining tumor progression in childhood low-grade glioma:a population-based cohort study(CCLG CNS9702). Neuro Oncol. 2010;12(12):1257-68.[PMID:20861086]
- 5)
- Taylor T, Jaspan T, Milano G, et al;PLAN Study Group. Radiological classification of optic pathway gliomas:experience of a modified functional classification system. Br J Radiol. 2008;81(970):761-6.[PMID:18796556]
- 6)
- Lassaletta A, Scheinemann K, Zelcer SM, et al. Phase Ⅱ weekly vinblastine for chemotherapy-naïve children with progressive low-grade glioma:A Canadian Pediatric Brain Tumor Consortium Study. J Clin Oncol. 2016;34(29):3537-43.[PMID:27573663]
- 7)
- The Committee of Brain Tumor Registry of Japan. Report of Brain Tumor Registry of Japan(2005-2008), 14th edition. Neurol Med Chir(Tokyo). 2017;57(Suppl 1):9-102.
2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:OPHG の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後の改善
- (3)トピック:OPHG の生命予後,機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍を診療する医療者や施設,患者・家族,ケアギバー(caregiver)
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本・海外とも既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)重要臨床課題
課題1:診断方法の確立
課題2:外科的治療の意義
課題3:薬物治療の意義
課題4:放射線治療の意義
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
初発治療時が小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満)の小児例に加え15~29 歳のAYA(adolescent and young adult)世代
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:1 カ月
文献の選出:3 カ月
エビデンス総体の評価と統合:4 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:OPHG に関してはなし。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed,医中誌
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2019 年6 月まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドラインの作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合は量的統合を実施。
課題1:診断
- CQ1
- 臨床経過,臨床所見,画像検査からOPHG と診断することは推奨されるか?
- 推奨度1C
- 推奨
臨床経過,臨床所見,画像所見がOPHG に典型的な臨床的特徴を呈する場合はOPHG と診断し治療方針を決定することを提案する。非典型的な臨床的特徴を呈する場合は病理組織診断を行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,OPHG は他の腫瘍と異なり組織診断名ではなく特徴的な発生部位や臨床症状を呈する疾患群の呼称である。組織学的には高分化型星細胞腫である毛様細胞性星細胞腫(WHO grade Ⅰ)がOPHG の主体を占めるが,より悪性度の高い腫瘍の場合があるため,臨床診断されたOPHG の治療方針は一様であるとは言えない。OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連しているため,適切な治療を行うための診断法の妥当性,特に組織診断の必要性について検証を行う。また,OPHG はNF1 合併の有無によって臨床像や予後が異なるため,NF1 遺伝子異常の探索の必要性について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的手技による侵襲
2.推奨の解説
NF1 合併例と非合併例に分けて記載する。
(1)NF1 合併例
1990 年代前半までは,NF1 合併例において視覚路に発生しOPHG と臨床診断された腫瘍では,摘出(生検)を行って組織診断が施行されることが多かった1,2)。白金製剤を中心とした化学療法が低悪性度神経膠腫に有効であるとPacker らが1997 年に報告した後,外科的摘出を治療の第一選択としない報告が増えていった。1990 年代後半からは,NF1 に合併するOPHG として典型的な臨床経過,臨床所見,画像所見を呈していれば,組織診断なしで毛様細胞性星細胞腫として治療方針が決定されている3-13)。
しかし,NF1 合併例でもOPHG 特に毛様細胞性星細胞腫としては非典型的な症例,すなわち10 歳以上,視床下部や第三脳室の腫瘍,脳実質外伸展を呈する腫瘍,囊胞病変を伴う腫瘍の中には,WHO grade ⅡまたはⅢ相当の神経膠腫,あるいは神経膠腫以外の腫瘍の可能性があるため組織診断が行われる14,15)。上記の場合に加え,治療を開始してからではあるが,急激な腫瘍の増大や化学療法が有効ではない例も組織診断が必要であるとする報告がある16)。腫瘍摘出(生検)を行うには,腫瘍の摘出に伴う種々の合併症(CQ4 参照)を考慮する必要がある。
OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連している17)ため,腫瘍がWHO grade Ⅰ の毛様細胞性星細胞腫として臨床的に典型的ではない点があれば,組織診断が必要と判断するのが妥当である。NF1 合併例の推奨文では「臨床経過(発症年齢など),臨床所見(視覚障害や内分泌障害など),画像所見(腫瘍の局在や形態など)がOPHG に典型的な所見を呈する例では,毛様細胞性星細胞腫と判断して治療方針を決定してもよいが,非典型的な点があれば組織診断を勧める」と提案する。
(2)NF1 非合併例
NF1 非合併例においても視覚路に発生した腫瘍がOPHG として典型的な臨床所見を呈する場合は,腫瘍摘出や生検による組織診断は必ずしも必要ではないとする報告がある18-21)。しかし,NF1 非合併例でOPHG と臨床診断された47 例中45 例で組織診断が行われ,40 例(症例全体の85%)は毛様細胞性星細胞腫であったが,残り5 例(同11%)は他の低悪性度神経膠腫であったとする報告がある22)。このようにNF1 合併例よりも非合併例では,臨床的な特徴からOPHG と診断された腫瘍でも毛様細胞性星細胞腫以外の腫瘍である割合が高い傾向にあり,NF1 合併例と比較して非合併例では腫瘍の摘出や生検による組織診断を行う傾向にある6,12,23-30)。
臨床的にOPHG と診断された例で,診断時の年齢が10 歳を超えれば組織学的悪性度が有意に高く17),18 歳以上のAYA(adolescents and young adults)世代の例では高悪性度神経膠腫であったとする報告がある17,31)。OPHG では,診断時の年齢が10 歳未満の例と比較して10 歳以上の群で有意に生検率が高く26),診断時の年齢が10 歳以上の例が多く含まれる報告では組織診断が施行される割合が76~100%と高率である25,32-36)。
腫瘍の局在や形態から述べると,腫瘍が視床下部や第三脳室周囲に存在する例,あるいは脳実質外伸展例に対しては,毛様細胞性星細胞腫以外の神経膠腫や頭蓋咽頭腫の可能性を考慮する必要がある19)。また,囊胞病変を伴う例で手術到達が可能な症例,あるいは減圧が必要な症例では摘出手術により組織診断がなされている14,37)。腫瘍により水頭症を合併している乳幼児例では,髄液短絡術施行時に神経内視鏡による生検が施行されている20)。これらに加え,急激な腫瘍の増大がみられる場合や,毛様細胞性星細胞腫として予想される治療効果が得られない場合,生検を考慮すべきとする報告もある37)。腫瘍摘出(生検)を行うには,NF1 合併例と同様に,腫瘍の摘出に伴う合併症(CQ4 参照)を考慮する。
以上,NF1 非合併例ではOPHG と臨床診断できても,毛様細胞性星細胞腫より高悪性度の神経膠腫であったり,それ以外の腫瘍である可能性がNF1 合併例よりも高い傾向にあるため,OPHG として典型的な臨床所見に欠ける場合はより積極的に組織診断を勧める。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((((optic nerve)OR optic chiasma)OR optic tract)OR optic pathway)OR hypothalamus))AND glioma)AND(hasabstract[text]AND English[lang]AND((infant[MeSH]OR child[MeSH]OR adolescent[MeSH])OR young adult[MeSH]))))NOT((((((((optic nerve)OR optic chiasma)OR optic tract)OR optic pathway)OR hypothalamus))AND glioma)AND(Case Reports[ptyp]AND hasabstract[text]AND English[lang]AND((infant[MeSH]OR child[MeSH]OR adolescent[MeSH])OR young adult[MeSH])))))AND mri
この検索式で得られた報告の中で,OPHG の診断方法で病理組織診断に対する臨床診断の優位性を統計学的に検討したものはなかった。そのため,症例数の多い報告を採用して二次スクリーニング文献とし,定性的なシステマテックレビューを行った。
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課題2:遺伝的背景
- CQ2
- 遺伝学的背景の探索は必要か?
- 推奨度2D
- 推奨
NF1 遺伝子異常の探索は二次的な中枢神経系腫瘍の発生等を留意することにおいて意義はあるが推奨するレベルではない。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,OPHG は他の腫瘍と異なり組織診断名ではなく特徴的な発生部位や臨床症状を呈する疾患群の呼称である。組織学的には高分化型星細胞腫である毛様細胞性星細胞腫(WHO grade Ⅰ)がOPHG の主体を占めるが,より悪性度の高い腫瘍の場合があるため,臨床診断されたOPHG の治療方針は一様であるとは言えない。OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連しているため,適切な治療を行うための診断法の妥当性,特に組織診断の必要性について検証を行う。また,OPHG はNF1 合併の有無によって臨床像や予後が異なるため,NF1 遺伝子異常の探索の必要性について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的手技による侵襲
2.推奨の解説
OPHG はしばしばNF1 患者に発生する。経過観察中にOPHG が発生する場合もあるが,脳腫瘍の方が先に発症し診断され,しかし実はNF1 合併例であるというOPHG も存在する。しかし,視力障害発症例はNF1 合併例よりも非合併例に多いと報告されている1)。OPHG のNF1 遺伝子異常の検出はNF1 の臨床症状が不確実であった場合に有用であるが,巨大なNF1 遺伝子の解析の困難さを考えると必ずしも必須ではないと思われる。NF1 の中で,視神経膠腫を持つ症例では,NF1 遺伝子の5’ 端領域に遺伝子変異が集中するという報告もあれば2),関係ないという報告もある3)。皮膚症状などの臨床診断基準を満たせば,ある程度NF1 合併例かどうか予測できる。非NF1 とNF1 関連視神経膠腫では,発生部位に違いがあり,非NF1 では視索に多いことで水頭症の併発が多いという報告もある1)。NF1 以外の遺伝子異常に関しては症例報告がいくつかあるが4-8),確立された事象ではない。OPHG においてNF1 と非NF1 との予後の比較の報告に関しては,Stokland らは157例のOPHG において,OS では差がないものの,5 年PFS がNF1 では70.8%,非NF1 では46.7%と単変量解析にてp<0.001,Kaplan-Meier 法におけるlog-rank test にてp=0.003と有意にNF1 の方が良好であったと報告している9)。現在,NF1 に合併するOPHG に対しての分子標的治療薬なども存在せず,単にPFS がNF1 において良好であるということだけでは,NF1 の遺伝子診断を積極的に推奨する理由にはならない。また,NF1 では家族歴にNF1 が存在しない弧発例が50%程度であるが,OPHG の患者でNF1 かどうか判別できない症例において,NF1 遺伝子変異があるかどうかの診断をつけることによってその後の治療法の選択が何か変わることはない。以上のことを総合的に勘案すると,現時点で積極的なNF1(を含めた)遺伝子診断は,患者や家族が望む場合に限定されると考える。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((optic pathway glioma AND neurofiromatosis type 1)AND hypothalamus)OR(optic pathway hypothalumus glioma AND neurofibromatosis type 1)OR(optic pathway glioma AND genetic analysis)OR(optic pathway glioma AND molecular analysis)
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
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課題3:外科的治療
- CQ3
- 外科的治療の意義はあるか?
- 推奨度1C
- 推奨
絶対的に推奨される外科治療介入時期はなく,症例ごとに患者年齢,視機能,水頭症の有無,NF1 合併の有無などを考慮し,小児科・眼科・腫瘍内科・放射線治療科・放射線診断科・脳神経外科等から成り立つ集学的治療チームによって検討することを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢および局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
外科治療の適応およびその推奨される時期はいつかという臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない1-4)。症候性になった場合に手術を含めた治療が選択されているが,手術単独ではなく化学放射線療法を含めての治療であり,純粋に手術に対して評価することは難しい。手術適応やこれらの治療方法は一貫しておらず,いずれの評価項目においても大きなバイアスを有する。したがって手術療法開始時期に関してのエビデンスレベルの高い推奨を述べることはできない。現時点では,症例ごとに患者年齢,視機能評価,水頭症の有無,NF1 合併の有無などを考慮し,小児科・眼科・腫瘍内科・放射線治療科・放射線診断科・脳神経外科等から成り立つ集学的治療チームによって手術時期を決定すべきであると考えられる。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する4 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
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- CQ4
- 腫瘍切除率は予後に影響するか?
- 推奨度1D
- 推奨
可及的摘出によって治療成績が上がるというエビデンスはなく,手術操作に伴った合併症も無視できず,摘出率を追求するような摘出を行わないことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢及び局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
腫瘍切除率は予後に影響するか,という臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない。バイアスリスクや非一貫性,不精確性,非直接性のすべてに問題がある。結論として,腫瘍摘出率が治療予後を改善するという報告は過去一切認められない1,2)。Ahn らによる韓国において1982~1999 年に手術摘出が行われた33 例の報告をみると,術後8 例(24%)が放射線治療追加を受けているという条件下で,手術後の5 年無増悪生存割合は52.4%であり,少なくとも手術単独では5 年後に半分以上は再発することになる1)。視交叉に腫瘍が浸潤せずに片側の視神経に限局し,有効な視力が得られず眼瞼下垂があり痛みが化学療法によっても改善しない場合,手術適応があると提唱する報告はみられる3,4)が,例え片側の視神経に限局し完全摘出した場合でも手術単独では5~10%の確率で視交叉に再発する可能性があることには注意しなければならない1)。また摘出率を高くすることによって,追加治療の中心となる化学療法の治療効果を向上することも判明していない5)。
腫瘍摘出率を上げることによって,再発までの期間や全生存期間の延長が証明されなかったとしても,例えばQOL を改善する,化学放射線療法開始までの期間を延長するという評価項目でその利点を明示することができれば摘出率を向上させる意義があるが,この点においてもエビデンスは存在しない。したがって,摘出率を追い求めるような手術は推奨されない6,7)。
さらに手術の問題点として合併症発生が避けて通れないことが挙げられる。手術合併症としては,意識障害・視機能障害の悪化・内分泌機能障害・脳梗塞が特に問題となる8,9)。
合併症に関して最近の文献で最もよくまとめられているのは,2012 年のHupp らの文献8)である。彼らは1992~2009 年にドイツの国立神経放射線データセンターに蓄積された84 例に対する102 手術を検討した。その結果17 例(16.7%)で術後画像上脳梗塞が確認された。2 歳未満では7/17 例(41.2%)の高率であった。なお脳梗塞による症状を呈したものは13/102 例(12.7%)であり,また生検では1 例も脳梗塞は生じていなかった。この結果と対比するために,2004~2009 年の51 例の小脳の低悪性度神経膠腫に対する65 手術を検討したところ,わずか1 例(1.5%)の全摘出症例のみで脳梗塞を生じていたに過ぎなかった。なお脳梗塞発生に関して組織型やDodge 分類は関係しなかった。
Sawamura らの2007 年の文献9)では,1992 年以降の19 例(年齢中央値3.1 歳)を検討し,生検5/12 例(41.6%),摘出術5/7 例(71.4%)で,全体としては10/19 例(52.6%)で合併症を生じていた。生検で合併症出現頻度が高いのは,澤村らは生検術の範疇に限局した開頭摘出を含めている(11/12 例)からと考えられる。画像評価が含まれていないために梗塞を生じた評価はあくまでも症状によるものであるが,その頻度は2/19(10.5%)であった。したがって,症候性脳梗塞の頻度は,Hupp らの検討とほぼ同様となる。
Ahn らの文献1)では,1982~1999 年の33 症例(平均年齢8.3 歳)を検討している。このうち,27 例は90%を超えた可及的摘出術,6 例は部分摘出術を行った。2 例(6%)が術後1 年以内に肺梗塞とびまん性脳梗塞で死亡した。その他の合併症は,5 例で一過性片麻痺,2 例で感染症,1 例でシャント機能不全,を生じた。彼らの結論は,OPHG に対しての可及的摘出術はPFS の延長や神経内分泌学的症状の改善には役立たず,手術は腫瘍拡大時における水頭症コントロールのため,もしくは放射線治療開始延期を目的に行うべきとしている。彼らが提唱している治療アルゴリズムには,年代が古いために化学療法の概念が入っていない点に注意が必要となる。
Steinbok らの2002 年の文献10)では,18 例のOPHG に対して17 回の手術を行っている。8 例は亜全摘,6 例は部分摘出,3 例は限局した摘出術であった。限局した手術で特に間脳機能温存に注意を払うと合併症発生率は低くなると報告している。摘出率と腫瘍再発との間には関連がなかった。これらの結果から,彼らはOPHG に対する手術は組織確認と視神経や髄液循環系への減圧を目的に行うべきであるとしている。
Valdueza らの1994 年の文献11)では,初回から摘出術を1980~1993 年に行った20 例(年齢中央値9 歳)を検討している。10 例は70~90%の亜全摘,6 例は部分摘出,4 例は生検術であった。腫瘍再発時に4 回の追加手術が行われた。これら24 手術のうち5 回(20.8%)で合併症を生じた。1 例は脳梗塞のため片麻痺と失語症,4 例で内分泌障害,4 例で視機能障害の悪化をきたした。彼らは可及的摘出は良好な結果で遂行できたと評価している。7歳未満の場合,視索を含まない大きな腫瘍に対しては摘出を,視索を含む場合には放射線治療の前に減圧手術を,再発時には腫瘍の位置によって放射線治療の前に摘出を考慮すべきであるとしている。また7 歳以上の場合は再発腫瘍に対して摘出術を勧めている。
Nicolin らによる2009 年の133 小児例中の治療を要した69 例の検討5)では,化学療法単独,化学療法と手術併用,手術単独の間でPFS には有意差がなかったと報告している。
このようにOPHG に対して可及的摘出により治療成績が上がるというエビデンスはなく,上記のような手術操作に伴った合併症を生ずることから,生検術に取って代わって摘出率を追い求めるような摘出を行う論理的根拠はない。
しかしながら近年,初発のみならず再発時にもより積極的に手術(部分摘出術,debulking)を行うという考え方が改めて提唱されている12)。彼らは,問題となる手術合併症を生ずることなく,13/17 例(76.5%)(初発症例では7/10 例,再発症例では6/7 例)で手術単独で腫瘍制御ができ,また可及的摘出と化学療法を併用した4 例は全例腫瘍制御ができていることを強調している。また10 例のケースシリーズにて,より安全に摘出率を上げる方法として,術中MRI を用いる方法も提唱されている13)。画像診断もきちんとできていなかった古き時代と比較し,MRI・ニューロナビゲーションシステム・術中MRI といった手術支援システムと手術技術の進歩があることは間違いないであろう。しかしこれらの報告で,PFS, OS が改善したという結果は明示できていない。本疾患は症例数が少なすぎることと,観察期間が少なくとも10 年といった年限で評価しないと結果が判明しないことにより,純粋に手術の効果を明らかにすることは今後も難しいことが予想されるが,今後手術の役割が重要視される可能性はあるかもしれない。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する13 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
❖ 文献
- 1)
- Ahn Y, Cho BK, Kim SK, et al. Optic pathway glioma:outcome and prognostic factors in a surgical series. Childs Nerv Syst. 2006;22(9):1136-42.[PMID:16628460]
- 2)
- Mishra MV, Andrews DW, Glass J, et al. Characterization and outcomes of optic nerve gliomas:a population-based analysis. J Neurooncol. 2012;107(3):591-7.[PMID:22237948]
- 3)
- Borghei-Razavi H, Shibao S, Schick U. Prechiasmatic transection of the optic nerve in optic nerve glioma:technical description and surgical outcome. Neurosurg Rev. 2017;40(1):135-41.[PMID:27230830]
- 4)
- Massimi L, Tufo T, Di Rocco C. Management of optic-hypothalamic gliomas in children:still a challenging problem. Expert Rev Anticancer Ther. 2007;7(11):1591-610.[PMID:18020927]
- 5)
- Nicolin G, Parkin P, Mabbott D, et al. Natural history and outcome of optic pathway gliomas in children. Pediatr Blood Cancer. 2009;53(7):1231-7.[PMID:19621457]
- 6)
- Fouladi M, Wallace D, Langston JW, et al. Survival and functional outcome of children with hypothalamic/chiasmatic tumors. Cancer. 2003;97(4):1084-92.[PMID:12569610]
- 7)
- Sutton LN, Molloy PT, Sernyak H, et al. Long-term outcome of hypothalamic/chiasmatic astrocytomas in children treated with conservative surgery. J Neurosurg. 1995;83(4):583-9.[PMID:7674005]
- 8)
- Hupp M, Falkenstein F, Bison B, et al. Infarction following chiasmatic low grade glioma resection. Childs Nerv Syst. 2012, 28(3):391-8.[PMID:21987345]
- 9)
- Sawamura Y, Kamada K, Kamoshima Y, et al. Role of surgery for optic pathway/hypothalamic astrocytomas in children. Neuro Oncol. 2008;10(5):725-33.[PMID:18612049]
- 10)
- Steinbok, P, Hentschel S, Almqvist P, et al. Management of optic chiasmatic/hypothalamic astrocytomas in children. Can J Neurol Sci. 2002;29(2):132-8.[PMID:12035834]
- 11)
- Valdueza JM, Lohmann F, Dammann O, et al. Analysis of 20 primarily surgically treated chiasmatic/hypothalamic pilocytic astrocytomas. Acta Neurochir(Wien). 1994;126(1):44-50.[PMID:8154322]
- 12)
- Goodden J, Pizer B, Pettorini B, et al. The role of surgery in optic pathway/hypothalamic gliomas in children. J Neurosurg Pediatr. 2014;13(1):1-12.[PMID:24138145]
- 13)
- Millward CP, Perez Da Rosa S, Avula S, et al. The role of early intra-operative MRI in partial resection of optic pathway/hypothalamic gliomas in children. Childs Nerv Syst. 2015;31(11):2055-62.[PMID:26216059]
- CQ5
- 再発時摘出の意義はあるのか?
- 推奨度2D
- 推奨
QOL の維持を念頭に置いて腫瘍容積減量によって神経症状が改善することが期待できる場合に部分摘出を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢及び局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
再発時摘出の意義はあるのか,という臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない。バイアスリスクや非一貫性,不精確性,非直接性のすべてに問題がある。再発時の摘出術が有益であることをはっきりと示した論文はないと結論づけざるを得ない。さらに,2000 年より以前の報告は,Packer レジメンを中心とした化学療法が治療の中心となった現在とは再発時の治療概念が異なるため,外科治療の役割も現在求められるものとは異なっていることに注意が必要である。すなわち,放射線治療を行った後での再発に対しては,手術摘出によって状況を改善させざるを得なかったのである。近年はOPHG に対しては化学療法が積極的に行われ,治療手段としての放射線治療を先延ばしにしたうえで,さらに強度変調放射線治療(IMRT)を中心とした精密な放射線治療が可能となっているので,再発時においてもこれらの治療法とうまく組み合わせることを考慮して,摘出率のみを追求せず,QOL の維持を念頭に置いて外科治療を行うべきであると考えられる。
こういった中で少数例であるが,化学療法を行った後の再発に対してや,腫瘍容積減量によって神経症状が改善することが期待できる場合に部分摘出を行っている報告がある。再発時の手術は,化学療法によってもうまく腫瘍を制御できなかった場合に,減圧手術,囊胞性病変に対する開放術・オンマヤリザーバー挿入・シャント手術を考慮すべきであるとされている1)。ただし,再手術は必ずしも容易ではないことも注意喚起されており2),外科療法を行う場合,細心の注意を払ったうえでの介入が必要である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する2 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
❖ 文献
- 1)
- Bowers DC, Krause TP, Aronson LJ, et al. Second surgery for recurrent pilocytic astrocytoma in children. Pediatr Neurosurg. 2001;34(5):229-34.[PMID:11423771]
- 2)
- Sawamura Y, Kamada K, Kamoshima Y, et al. Role of surgery for optic pathway/hypothalamic astrocytomas in children. Neuro Oncol. 2008;10(5):725-33.[PMID:18612049]
課題4:化学療法
- CQ6
- 初期治療として化学療法は有効か?
- 推奨度1B
- 推奨
初期治療としての化学療法(維持療法を含む)は,腫瘍の縮小や進行の抑制を期待できるため,行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する薬物療法も集学的治療の一部として考えられる。その適否,使用薬剤,および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
さまざまな化学療法レジメが施行されているが,first line としてカルボプラチン注1)とビンクリスチン注2)の組み合わせが広く行われている。また,second line としてビンブラスチン注3)が用いられることが多い。これらの薬剤を含めた治療成績を以下に解説する。
OPHG の腫瘍増殖は一般的に緩徐であるが,その発生部位により視神経や視床下部の機能障害が大きく,治療介入が必要になる。手術は視交叉以前の片側視神経に生じたもの以外の完全な摘出は困難である(CQ3 参照)。放射線治療は,認知機能障害,内分泌障害や血管障害,二次がん等の晩期合併症が指摘されているので,その適応は限定的に考えられている(CQ8 参照)。そこで,進行例や有症状例に対して,腫瘍安定化,症状改善,放射線治療遅延を目的に化学療法が行われるようになった。OPHG は増殖が緩徐であることから強度の強い化学療法を短期間行うより,強度の弱い治療を長期間行う方が効果的と考えられ1),欧米では比較的治療期間の長い,全治療期間が1 年から1 年半程度の臨床試験が行われ,一定の効果を上げている。各臨床試験において導入療法と維持療法の区別が明確でない試験も多く,また治療内容,期間もさまざまである。下記に欧米中心に行われた大規模な臨床試験の結果の概略を示す。なお,我が国では大規模試験は行われていない。
Packer らは1990 年代初めに,手術以外未治療の15 歳以下の進行性low-grade glioma(LGG)78 例(OPHG 56 例を含む)に,カルボプラチン175 mg/m2/週とビンクリスチン1.5 mg/m2/週による10 週間の導入療法後,画像ないし臨床的改善・安定を得た例にはカルボプラチン(週1 回4 週間),ビンクリスチン(週1 回3 週間)を6 週ごと,計12 サイクル反復する維持療法を行い,OPHG で59%の治療反応率(CR:complete response+PR:partial response+MR:minor response)と,98%の腫瘍安定率(CR+PR+MR+SD:stable disease)を得たと報告した1)。
米国Pediatric Oncology Study Group(POG)は,1989~1994 年に5 歳以下のOPHG に対し,カルボプラチン560 mg/m2を4 週おきに,効果があれば18 サイクル行う第Ⅱ相試験(POG8936)を行った。50 例(うち21 例がNF1 陽性)に治療がなされ,3 年無再発生存割合/全生存割合は58/90%であった。腫瘍増大の中央期間は132 週(13 カ月)であった。また,18 カ月の治療で70%近くの症例がSD 以上であり,維持療法の意義が示唆された2)。
1996~2004 年に,ドイツを中心に17 歳未満のLGG 1,031 例を包括的に追跡するHIT-LGG 1996 研究が行われた。化学療法群は216 例(NF1 55 例)で,カルボプラチン550 mg/m2を3 週ごと計4 回とビンクリスチン週1 回計10 回による導入療法の後,カルボプラチンとビンクリスチン併用による4 週ごと計11 サイクルの維持療法が行われ,CR+PR が35%,腫瘍安定率は92%で,画像上の最大反応は中央値3.5 カ月で認められた。本試験により大規模研究でのmonthly カルボプラチン+ビンクリスチン療法の効果が示された。また1 歳未満,間脳症候群,診断時播種がPFS の予後不良因子で,これらのリスク因子を伴わない非NF1 例では10 年PFS 41%であるのに対し,何らかのリスク因子を持つ非NF1 例では10 年PFS 16%にとどまっていることが報告された3)。Mirow らは,2014 年にこの試験の1 歳未満の症例について報告している。36 例(うち32 例がOPHG)に治療が行われ,24 例が予定通り治療完了。最良効果までの期間,増大までの期間はそれぞれ,中央値3.6 カ月,1.4 年で,21 例にサルベージ治療が必要だった。いずれも維持療法中に治療効果が出現する症例が多く,維持療法の有効性が示唆される4)。
HIT-LGG-1996 ではOPHG 83 例を含む109 例のNF1 が登録されたが,うち65 例が要治療と判断され,55 例で化学療法が,10 例で放射線治療が行われた。化学療法は全例がカルボプラチン+ビンクリスチンで,98%が初期治療に反応し,全NF1 の5 年EFS 24%で,治療群では5 年PFS 72%,12 年OS 96%と報告された。自然経過観察群で治療不要だったのは37%であった5)。
米国Children’s Oncology Group(COG)では1997~2005 年に,10 歳未満のLGG を対象としたCOG A9952 試験を行った。本試験では,非NF1 ではOPHG 138 例を含む274 例が,137 例ずつCV 療法(カルボプラチン,ビンクリスチン)またはTPCV 療法(チオグアニン,プロカルバジン,lomustine,ビンクリスチン)にランダマイズされたが,それぞれの治療反応率と腫瘍安定率は,CV 療法が50%と67%,TPCV 療法が52%と68%と両者で差がなく,初期治療はいずれも有効と考えられた。5 年EFS はCV 療法39%,TPCV 療法52%だがログランクテストでの有意差もなく,5 年OS はCV 療法86%,TPCV 療法87%だった6)。またCV 療法を行った非NF1 137 例(OPG 71 例)とNF1 127 例(OPG 110 例)の比較では,治療反応率は非NF1 51%,NF1 66%,腫瘍安定率は非NF1 68%,NF1 73%で,5 年EFS では非NF1 39%,NF1 69%(p<0.001),OPHG に限っても非NF1 38%,NF1 68%(p<0.001)と,NF1 例の方が良好だった。5 年OS では非NF1 87%(OPHG 86%),NF1 98%(OPHG 99%)で差はなかった7)。CV レジメンは先のPacker らのレジメンに比し,維持療法の期間が短い(12 回vs. 8 回)。患者背景,観察期間が異なるので単純比較は難しいが,維持療法が12 回の方がややPFS が良いように思われる。
フランスのBB-SFOP 研究では,1990~2004 年にOPHG 180 例(NF1 60 例)にカルボプラチン/プロカルバジン,エトポシド/カルボプラチン,ビンクリスチン/シクロホスファミドの6 剤を7 サイクル計16 カ月投与し,126 例(70%)が治療を完遂したが,長期経過観察では非NF1,NF1 いずれもOS にplateau が認められず,5 年95%,10 年92%,15 年81%,18 年76%と低下し続け,2/3 が腫瘍進行で死亡したと報告した。診断時年齢1 歳未満と頭蓋内圧亢進例が予後不良で,間脳症候群のない男児は予後が良好だった8)。
カナダの小児脳腫瘍コンソーシアムは,2007~2010 年に18 歳未満の化学療法の既往のないLGG にビンブラスチン6 mg/m2の週1 回投与を70 週まで繰り返す治療研究を行った。54 例が登録され,うちOPHG は30 例,NF1 は13 例であった。最良効果として,CR+MR は25.9%(CR1, PR9, MR4, SD34),SD 以上は47 例(87%)で得られ,25 例のOPHG のうち5 例(20%)で視力の回復が得られた。反応のみられた症例の最良効果までの期間の中央値は52 週(NF1 例は25.5 週,非NF1 例は52 週)であり,カルボプラチン+ビンクリスチンレジメンに比べ治療効果に大きな差はないが,効果発現までの時間は遅く,維持療法(長期治療)の有効性が示唆される9)。
- 注1)
小児悪性固形腫瘍として保険適応
- 注2)
悪性星細胞腫,乏突起膠腫成分を有する神経膠腫として保険適応
- 注3)
悪性リンパ腫,絨毛性疾患,再発または難治性の胚細胞腫瘍,ランゲルハンス細胞組織球症として保険適応
システマティックレビュー結果
<検索式>
(“optic glioma” OR “optic pathway glioma” OR “hypothalamic glioma” OR “low-grade glioma” OR “pilocytic astrocytoma”)AND(“chemotherapy” OR “drug”)AND(“metaanalysis” OR “systematic review” OR “trial”)
上記の検索式でOPHG と化学療法に関する論文をPubMed を用いて検索し,105 文献ヒットした。その中からCQ6 に該当する9 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Packer RJ, Ater J, Allen J, et al. Carboplatin and vincristine chemotherapy for children with newly diagnosed progressive low-grade gliomas. J Neurosurg. 1997;86(5):747-54.[PMID:9126887]
- 2)
- Mahoney DH Jr, Cohen ME, Friedman HS, et al. Carboplatin is effective therapy for young children with progressive optic pathway tumors:a Pediatric Oncology Study Group phase Ⅱ study. Neuro Oncol. 2000;2(4):213-20.[PMID:11265230]
- 3)
- Gnekow AK, Falkenstein F, von Hornstein S, et al, Long term follow up of the multicenter, multidiciplinary study HIT-LGG-1996 for low grade glioma in children and adolescents of German speaking Socienty of Pediatric Oncology and Hematology. Neuro Oncol. 2012;14(10):1265-84.[PMID:
22942186]
- 4)
- Mirow C, Pietsch T, Berkefeld S, et al. Children <1 year show an inferior outcome when treated according to the traditional HIT-LGG treatment strategy:a report from the German multicenter trial HIT-LGG 1996 for children with low grade glioma(LGG). Pediatr Blood Cancer. 2014;61(3):457-63.[PMID:24039013]
- 5)
- Driever PH, von Hornstein S, Pietsch T, et al. Natural history and management of low-grade glioma in NF-1 children. J Neurooncol. 2010;100(2):199-207.[PMID:20352473]
- 6)
- Ater JL, Zhou T, Holmez E, et al. Randomized study of two chemotherapy regimens for treatment of low grade glioma in young children:a report from the Pediatric Oncology Group. J Clin Oncol. 2012;30(21):2641-7.[PMID:22665535]
- 7)
- Ater JL, Xia C, Mazewski CM, et al. Nonrandomized comparison of Neurofibromatosis type 1 and Non-Neurofibromatosis type 1 children who received carboplatin and vincristine for progressive low-grade glioma:report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2016;122(12):1928-36.[PMID:27061921]
- 8)
- Rakotonjanahary J, De Carli E, Delion M, et al. Mortality in children with optic pathway glioma treated with up-front BB-SFOP chemotherapy. PLoS One. 2015;10(6):e0127676.[PMID:26098902]
- 9)
- Lassaletta A, Scheinemann K, Zelcer SM, et al. Phase Ⅱ weekly vinblastine for chemotherapy-naïve children with progressive low-grade glioma:a Canadian Pediatric Brain Tumor Consortium Study. J Clin Oncol. 2016;34(29):3537-43.[PMID:27573663]
- CQ7
- 再発時の化学療法は生命予後を改善するか?
- 推奨度1C
- 推奨
再発時の化学療法は腫瘍の進行を抑制し,生命予後の改善をもたらす可能性があるため行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する薬物療法も集学的治療の一部として考えられる。その適否,使用薬剤,および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
OPHG の再発時において,化学療法が他の治療に比して生存期間を有意に延長できるか否かについて,高いレベルのエビデンスを示す論文はない。しかしながら,手術による切除は視機能や視床下部障害を考慮すると困難な場合が多い。また,再発時であっても放射線照射の時期を遅らせるためにも,再度化学療法が試みられる。ビンブラスチン,ベバシズマブ注1)+イリノテカン注2)およびテモゾロミド注3)についての文献を参照する。
Bouffet らは41 例(1.4~18.2 歳:中央値7.2 歳)の再発low-grade glioma(LGG)の患児(視路/視床下部膠腫は34 名)に対してビンブラスチン療法(静注,6 mg/m2,週1 回,52 週間)を前方視的登録研究として約1 年間継続して施行した。治療を完了できたのは31 例で,治療反応率(CR+PR+MR)は36%(18 例)であった。その後の平均観察期間は67 カ月で,23 例で進行しなかった。5 年生存率は93.2%(3 例が死亡),5 年無増悪生存率は42.3%であった。副作用のほとんどは好中球減少症(グレード4:18 例)のみであった1)。
Gururangan らは35 例(0.6~17.6 歳:中央値8.4 歳)の再発LGG の患児(毛様性星細胞腫が46%,詳細な部位の記載はなし)に対してベバシズマブ+イリノテカン療法を平均12 コースにわたり施行した。29 例(83%)は6 カ月以上治療を施行できた。6 カ月と2 年無増悪生存率はそれぞれ85.4%,47.8%であった2)。
一方で,Nicholson らは113 例(1~23 歳:中央値11 歳)の小児および若年者の再発脳腫瘍[LGG が22 例(詳細な部位や病理の記載はなし)]に対してテモゾロミド経口投与(200 mg/m2/day,5 日間,毎月)を12 サイクルにわたり施行した。全体でCR は1 例,PR は5 例のみであった。LGG についてはCR,PR はなく,SD を含めたno response は41%であった。以上の結果から,小児LGG に対するテモゾロミドの効果は限定的と述べている3)。
- 注1)
悪性神経膠腫として保険適応
- 注2)
小児悪性固形腫瘍として保険適応
- 注3)
悪性神経膠腫として保険適応
システマティックレビュー結果
<検索式>
(“optic glioma” OR “optic pathway glioma” OR “hypothalamic glioma” OR “low-grade glioma” OR “pilocytic astrocytoma”)AND(“chemotherapy” OR “drug”)AND(“metaanalysis” OR “systematic review” OR “trial”)
上記のようにOPHG と化学療法に関する論文をカバーするようにPubMed を用いて検索し,105 文献ヒットした。その中からCQ7 に該当する3 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Bouffet E, Jakacki R, Goldman S, et al. Phase Ⅱ study of weekly vinblastine in recurrent or refractory pediatric low-grade glioma. J Clin Oncol. 2012;30(12):1358-63.[PMID:22393086]
- 2)
- Gururangan S, Fangusaro J, Poussaint TY, et al. Efficacy of bevacizumab plus irinotecan in children with recurrent low-grade gliomas–a Pediatric Brain Tumor Consortium study. Neuro Oncol. 2014;16(2):310-7.[PMID:24311632]
- 3)
- Nicholson HS, Kretschmar CS, Krailo M, et al. Phase 2 study of temozolomide in children and adolescents with recurrent central nervous system tumors:a report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2007;110(7):1542-50.[PMID:17705175]
課題5:放射線治療
- CQ8
- 放射線治療は有効か?
- 推奨度2C
- 推奨
手術および化学療法が優先されるが,限られた場合*に放射線療法が行われることを提案する。
* 限られた場合とは,放射線療法の局所制御のメリットから,化学療法が不応であり,腫瘍の増大部位や大きさ,速度によって,手術による減圧が不能であったり,視機能温存が不能であったりする場合など,を想定している。また有害事象としての血管腫発生の頻度が10 歳以上の照射では減少するため,この年齢以上では根治的な放射線療法も提案され得る。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する放射線治療も外科治療や薬物療法と同じく集学的治療の一部として考えられる。その適否,線量,照射範囲および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
OPHG は一般に低悪性度の神経膠腫である割合が高く,生命予後は比較的良好である。特にNF1 に合併した症例では自然退縮例も報告され,治療開始時期に関しては早期,つまり年少時に介入すべきかどうか,慎重に判断すべきである。患者は0~4 歳の幼児が多く,放射線療法は,この年齢層においては,後述するように正常組織の発達を阻害する各種の有害事象をもたらすリスクがあり,手術,化学療法がより優先的に用いられている。一方で放射線療法は,腫瘍が化学療法に対して不応となり,症状を伴う腫瘍の増大を生じ,手術で減圧が不能な大きさ,部位である場合や,視神経に生じた腫瘍が増大し,視機能低下をきたし,化学療法,手術によっても視機能温存が困難な場合など,限られた条件のもとでは積極的に施行することが提案される1-3)。
OPHG の放射線療法に関する前方視的比較試験は存在しない。Fouladi らの観察研究1)によれば,73 例のOPHG に対し,その診断直後に放射線療法,化学療法単独治療,無治療経過観察を行った群を観察し,ランダム化比較ではないものの6 年無増悪生存割合がそれぞれ62%,12%,37%であった。放射線療法が独立した予後良好因子であった。
その一方でOPHG はウイリス動脈輪に近いため,まだ血管が発達していない幼児に対して治療を行うと,治療後の血管の発達が阻害され,モヤモヤ血管,海綿状血管腫などの血管形成障害が起こることが懸念される4,5)ほか,白質脳症6),視床下部下垂体への照射による内分泌機能障害7),二次がんのリスク4,8)を生ずる。Tsang らの報告4)によれば,放射線療法を行った89 例のOPHG のうち,グレード2 より重篤な血管形成障害が7 例に生じ(10 年累積発生率7.1%),発生例と非発生例の照射時年齢の中央値はそれぞれ6.4 歳と8.1 歳であった。また10 歳以下の症例の10 年累積発生率は11.3%で,11 歳以上の症例では0%であった。Merchant らの78 例の小児のグリオーマ(うち58 例がOPHG)の原体照射による第Ⅱ相試験の報告5)によれば,7 年の血管障害の発生率は4.79±2.73%で,年齢別の6 年の血管障害の発生率5 歳未満の8 例では12.5±12.6%,5 歳以上の66 例では3.8±2.6%であった(p=0.105)。
Lacaze らによる27 例のOPHG の小児に対し初期治療として化学療法を施行した報告6)によれば,化学療法後に放射線療法を加えなかった19 例の知能指数は平均107±17 であったのに対し,放射線療法を加えた8 例の知能指数は平均88±24 であった。彼らは可能であれば,放射線療法を避けるか,遅らせることを結論づけている。
Gan らによる166 例の小児のOPHG の長期観察の報告7)によれば,20 年の内分泌に関する無イベント生存割合は4%であり,多変量解析の結果では,腫瘍の視床下部浸潤(ハザード比2.20,95%CI:1.41-3.42,p<0.001)と並んで,放射線療法は有意な予後不良因子であった(ハザード比1.98 倍,95%CI:1.16-3.39,p=0.013)。
二次がんに関してはSharif らのNF1 に合併したOPHG 58 例を,放射線療法を行った18 例と行わなかった40 例に分けて解析した報告8)によれば,二次がんが生じる確率は前者が50%,後者が20%であり,放射線療法による二次性の中枢神経腫瘍の発生のハザード比が3.04(95%CI:1.29-7.15)と有意に,特にNF1 合併例において高率であった。またTsang らの報告によれば,NF1 に合併した症例では14 例中4 例(29%)に,合併していない症例では75 例中4 例(5.3%)にそれぞれ放射線療法が原因と考えられる二次がんが発生した。そのためNF1 に合併した症例では他の治療不応例の救済の目的以外では極力放射線療法を避けるべきであるとしている4)。
放射線療法の線量は他の低悪性度神経膠腫に準じて45~54 Gy/25~30 分割3-4,9)で,腫瘍局所に適切なマージンを付加したターゲットに対して可及的に線量集中性を改善した通常分割の定位的照射法を用いて行うことが推奨される10,11)。また患者が小児であることを考慮して,一回線量は1.8 Gy 程度に下げて投与することが推奨される8)。最近では陽子線治療もその線量集中性と,周囲の高線量域の体積が低く抑えられるために用いられるようになってきている12)。
OPHG の放射線療法は耐容線量の低い視神経・下垂体を含んだ領域へ精密に照射するという技術的な困難さと対象患児の晩期有害事象という問題を孕んでいるため,集学的がん治療グループでの適応判断のもと,患児,その家族と治療方針について細やかな相談の後,高精度な放射線治療の手法を用いて行われることが必要である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“radiotherapy”[Subheading]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “radiation therapy, radio”[MeSH Terms]OR(“radiation”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “radiotherapeutic”[All Fields])OR “radiotherapy procedures”[All Fields]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “general radiotherapy”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “radiotherapy”[All Fields])OR “general radiotherapy”[All Fields])AND irradiation[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“radiotherapy”[Subheading]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “radiotherapy procedures, irradiation”[MeSH Terms]OR(“radiotherapeutical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “irradiation”[All Fields])OR “radiotherapeutical procedures”[All Fields]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “general radiotherapy”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “radiotherapy”[All Fields])OR “general radiotherapy”[All Fields])AND irradiation[All Fields])
上記の検索式でPubMed を用いて検索し,410 文献ヒットした。その中からCQ8 に該当する12 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Fouladi M, Wallace D, Langston JW, et al. Survival and functional outcome of children with hypothalamic/chiasmatic tumors. Cancer. 2003;97(4):1084-92.[PMID:12569610]
- 2)
- Khafaga Y, Hassounah M, Kandil A, et al. Optic gliomas:A retrospective analysis of 50 cases. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2003;56(3)807-12.[PMID:12788189]
- 3)
- Terashima K, Chow K, Jones J, et al. Long-term outcome of centrally located low-grade glioma in children. Cancer. 2013;119(14);2630-8.[PMID:23625612]
- 4)
- Tsang DS, Murphy ES, Merchant TE. Radiation therapy for optic gliomas in children. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2017;99(3):642-51.[PMID:29280458]
- 5)
- Merchant TE, Kun LE, Wu S, et al. Phase Ⅱ trial of conformal radiation therapy for pediatric low-grade glioma. J Clin Oncol. 2009;27(22):3598-604.[PMID:19581536]
- 6)
- Lacaze E, Kieffer V, Streri A, et al. Neuropsychological outcome in children with optic pathway tumours when first-line treatment is chemotherapy. Br J Cancer. 2003;89(11):2038-44.[PMID:14647135]
- 7)
- Gan HW, Phipps K, Aquilina K, et al. Neuroendocrine Morbidity After Pediatric Optic Gliomas:A Longitudinal Analysis of 166 Children Over 30 Years. J Clin Endocrinol Metab. 2015;100(10):3787-99.[PMID:26218754]
- 8)
- Sharif S, Ferner R, Birch JM, et al. Second primary tumors in neurofibromatosis 1 patients treated for optic glioma:substantial risks after radiotherapy. J Clin Oncol. 2006;24(16):2570-5.[PMID:16735710]
- 9)
- Stieber VW. Radiation therapy for visual pathway tumors. J Neuroophthalmol. 2008;28(3):222-30.[PMID:18769290]
- 10)
- Walker D. Recent advances in optic nerve glioma with a focus on the young patient. Curr Opin Neurol. 2003;16(6):657-64.[PMID:14624073]
- 11)
- Combs SE, Schulz-Ertner D, Moschos D, et al. Fractionated stereotactic radiotherapy of optic gliomas:Tolerance and long-term outcome. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2005;62(3):814-9.[PMID:15936565]
- 12)
- Indelicato DJ, Rotondo RL, Uezono H, et al. Outcomes Following Proton Therapy for Pediatric Low-Grade Glioma. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2019;104(1):149-56.[PMID:30684665]
5 章 小児・AYA 世代上衣腫 ependymoma in childhood, adolescent and young adult
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
宇塚 岳夫
獨協医科大学 脳神経外科/脳神経外科
総括
副委員長
隈部 俊宏
北里大学 脳神経外科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
協力委員
前林 勝也
日本医科大学付属病院 放射線治療科/放射線科
放射線治療
協力委員
原 純一
大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児血液腫瘍科/小児科
化学療法
協力委員
坂本 博昭
大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
協力委員
師田 信人
北里大学 脳神経外科/脳神経外科
化学療法
委員
夏目 敦至
名古屋大学 脳神経外科/脳神経外科
再発時の治療
委員
橋本 直哉
京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
1
外科的治療
坂本 博昭
橋本 直哉
柴原 一陽(北里大学 脳神経外科)
國廣 誉世(大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児脳神経外科)
小川 隆弘(京都府立医科大学 脳神経外科)
2
放射線治療
前林 勝也
太田 篤(新潟大学 放射線科)
斎藤 紘丈(新潟大学 放射線科)
中野 智成(新潟大学 放射線科)
棗田 学(新潟大学脳研究所 脳神経外科)
岡田 正康(新潟大学脳研究所 脳神経外科)
渡邉 潤(新潟大学脳研究所 脳神経外科)
栗林 茂彦(東京女子医科大学 放射線腫瘍学講座)
秋元 裕義(日本医科大学付属病院 放射線治療科)
3
化学療法
原 純一
師田 信人
吉藤 和久(北海道立子ども総合医療・療育センター 脳神経外科)
藤崎 弘之(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
4
再発時の治療
夏目 敦至
大岡 史治(名古屋大学 脳神経外科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
小児・AYA 世代上衣腫に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,上衣腫患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された9 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにガイドライン作成ワーキンググループがシステマティックレビュー(SR)チームの責任者となり,責任者よりSR 委員を選出してもらい,各課題1~8 名で編成した。上衣腫が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年3 月上衣腫診療ガイドライン作成ワーキンググループが発足。委員長および担当者を決定した。
スコープ:ガイドライン作成ワーキンググループ委員で検討を繰り返し,作成した。
システマティックレビュー:各CQ に担当者を募り,リーダーとなるガイドライン作成ワーキンググループ委員と相談しながらエビデンスを収集した。
2014 年3 月version 1.0 を作成
2015 年1 月version 2.0 を作成
2016 年2 月version 3.0 を作成
2016 年8 月version 4.0 を作成
2020 年9 月version 5.0 を作成
2020 年10 月version 6.0 を作成
2020 年12 月version 7.0 を作成
2021 年1 月version 8.0 を作成
2021 年3 月version 9.0(最終版)を作成
作成グループ会議:2014 年3 月から2019 年12 月の期間は,年間2 回程度の日程でガイドライン作成ワーキンググループ会議を行った。2020 年6 月からは毎月1 回オンライン会議を行った。
推奨作成とその過程:2021 年1 月と2 月にガイドライン作成ワーキンググループ内における推奨グレードの投票を行った。最終的にはオンライン会議にて討論し,ガイドライン作成ワーキンググループ内での意見が一致した状態で推奨グレードを提案した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年9 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.小児・AYA 世代上衣腫の基本的特徴
1)はじめに
2021 年12 月に公開されたWHO 脳腫瘍分類第5 版において,The Consortium to Inform Molecular and Practical Approaches to CNS tumor Taxonomy-Not Official WHO(cIMPACT-NOW)update 71)の提言に基づき,上衣腫の分類は大幅に改訂された。一方,臨床の現場ではいまだWHO 脳腫瘍分類第4 版による分類が広く行われていると考えられるため,本ガイドラインでは新分類を視野に入れつつ,用語などはWHO 脳腫瘍分類第4 版(以後WHO 2016)2)に準拠するものとする。
使用する「上衣腫」に関連する用語の定義は以下の如くである。WHO 2016 に記載されているEpendymal tumours を「上衣系腫瘍」と表記する。「上衣腫」とのみ表記する場合は,WHO 2016 における上衣腫(ependymoma, WHO grade Ⅱ)・ependymoma, RELA fusion-positive(WHO grade Ⅱ/Ⅲ)・退形成性上衣腫(anaplastic ependymoma, WHO grade Ⅲ)を含むものとする。狭義のWHO grade Ⅱの上衣腫を示す場合は,「上衣腫(WHO grade Ⅱ)」と表記することとする。上衣腫のgrading の記載については,前述のcIMPACT-NOW では,Ⅰ~Ⅳのローマ数字ではなく,1~4 のアラビア数字で記載している。これらは今後のWHO 分類にも採用されるものと思われるが,現在のWHO 脳腫瘍分類の表明とは異なるため,本ガイドラインではローマ数字Ⅰ~Ⅳのgrading で記載することとした。
本ガイドラインは「小児・AYA 世代」患者の診療を行う医療者を主な対象としている。上衣腫において,小児期から成人期にかけて明確な腫瘍の性状の違いはないが,小児期からの切れ目のない継続医療(移行期医療)が必要と考えられるためである。
2)疫学的特徴
上衣腫は脳室壁や脊髄中心管を構成する上衣細胞(ependymal cell)への分化を示す腫瘍である。脳腫瘍全国集計調査報告3)では,上衣腫の頻度は原発性脳腫瘍の1%と稀な腫瘍である。年齢層は乳幼児から高齢者まで,幅広く認められることが特徴である。年齢層別にみると,0~29 歳では全脳腫瘍の7.0%,0~4 歳までに限ると20.2%を占め,特に乳幼児では重要な腫瘍である。
発生部位は脳室系に関係していることが多く,成人ではテント上,小児では第四脳室発生が多い。テント上では脳室系と無関係な脳実質内に発生することもある。テント上発生が30%程度,後頭蓋窩発生が60%程度,脊髄発生が10%程度と報告されている2)。
脊髄腫瘍としての上衣腫は頻度が高く,成人の脊髄神経膠腫の約半分を占めるが,小児では稀である。脊髄上衣腫は神経線維腫症2 型に合併する症例もしばしばみられ,脊髄円錐と馬尾には粘液乳頭状上衣腫が高頻度にみられるなど,頭蓋内上衣腫とは異なる臨床的・生物学的特徴を持つため,脊髄上衣腫は本ガイドラインでは扱わない。
3)画像所見
脳室内の境界明瞭な腫瘍として描出されることが多い。MRI T1 強調画像では低信号,T2 強調画像では高信号を呈することが多く,造影効果はさまざまな程度で認められる。腫瘍内部には石灰化や囊胞,腫瘍内出血などがしばしば認められ,内部が不均一であることも特徴の一つである。脳実質への広汎な浸潤や周囲の強い脳浮腫をきたすことは稀である。小児では第四脳室に好発し,外側孔(Luschka 孔)から小脳橋角部へ進展する症例も認められる。また,脳室内発生の場合は閉塞性水頭症を合併しやすい。比較的髄液播種をきたしやすい腫瘍であり,髄液播種にも注意が必要である。
術前画像診断では,後頭蓋窩発生の上衣腫は髄芽腫やatypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)との鑑別が難しい例がある。テント上脳室外発生の場合,膠芽腫や退形成性星細胞腫との鑑別が問題となる。
4)病理診断
上衣腫(WHO grade Ⅱ)は小型で均一な腫瘍細胞が血管周囲性偽ロゼット配列を示すことが特徴であり,多くの症例で観察される。中心管を模した上衣ロゼットが上衣腫の診断に有用であるが,典型的なロゼット形成は比較的少数の症例にしか観察されないことも知られている。免疫染色では腫瘍細胞はglial fibrillary acidic protein(GFAP)が陽性となる。また,多くはS100 蛋白,vimentin が陽性であり,Olig2 は陰性となる。Epithelial membrane antigen(EMA)染色は上衣腫の診断に有用であり,ドット状もしくはリング状の陽性所見を認めることが多い。Isocitrate dehydrogenase(IDH)R132H での染色が陰性である点も重要である。
退形成性上衣腫はWHO grade Ⅲに属し,上衣腫(WHO grade Ⅱ)と比較して細胞密度が高く,多数の核分裂像を有し,微小血管増殖や壊死像を伴うものとされている。しかし,WHO 2016 では退形成上衣腫の診断根拠となる核分裂像の個数は明記されていない。
上衣腫の診断とさらにそのgrading に関する病理診断の難しさについてはいくつかの報告がある。Sasaki らは,我が国の治療担当施設で小児上衣腫と診断された130 例を対象に,熟練した3 名の病理医による中央診断の結果を報告している4)。中央診断において病理医間の診断一致率は脊髄上衣腫では100%,後頭蓋窩腫瘍では93%であったが,テント上(大脳半球)腫瘍では病理医間の一致率は77%であった。さらに,ヨーロッパの3 つの前方視的臨床試験における上衣腫187 例について,熟練した5 名の病理医が独立して診断したところ,grade Ⅱにおける症例ごとの診断一致率は19~59%,grade Ⅲは41~81%と広いばらつきを認めた5)。このように上衣腫の病理診断およびgrading の確定が困難であることが,予後予測因子としてのgrading の不明確性に影響しているものと考えられる。
WHO2016 では,上衣腫は5 つのサブタイプと3 つのgrade に分類されている。
WHO grade Ⅰには上衣下腫(subependymoma)や粘液乳頭状上衣腫(myxopapillary ependymoma)などが含まれる。上衣下腫は成人の脳室壁に好発し,粘液乳頭状上衣腫は若年成人の終糸に好発する。いずれの腫瘍も全摘出(gross total resection:GTR)後の予後は非常に良好である。いずれも成人に好発するため,本ガイドラインではこれらの腫瘍については取り扱わない。
WHO grade Ⅱにはpapillary, clear cell, tanycytic といったvariant が含まれる。WHO2016 には遺伝子診断によって分類されるEpendymoma, RELA fusion-positive という項目が新たに付け加えられた。本腫瘍は小児のテント上上衣腫の70%程度を占め,WHO grade ⅡもしくはⅢに分類される。退形成性上衣腫はこれまでどおりWHO grade Ⅲに分類される。本ガイドラインではWHO grade Ⅱの上衣腫とgrade Ⅲの退形成性上衣腫およびgrade Ⅱ/ⅢのRELA fusion-positive 上衣腫について取り扱う。
5)分子生物学的知見
近年の上衣腫における分子生物学的知見の報告は目覚ましく増加し,以前から年齢・発生部位によって臨床的特徴が異なると報告されていた症例群の背景が明らかとなってきた。テント上・下の上衣腫は病理組織所見としては類似するものの,もはやそれぞれ別の疾患として論じられるべきである。分子生物学的分類を理解することは,今後の診療に役立つためだけでなく,これまでの治療成績に関する報告を考察する上でも,極めて重要である。
分子生物学的には,頭蓋内上衣腫はテント上と後頭蓋窩で大きく異なる。テント上上衣腫では,染色体粉砕(chromothripsis)により形成されるC11orf95-RELA 融合遺伝子が2/3 程度と高頻度に認められることが報告された5)。RELA 遺伝子もC11orf95 遺伝子も共に11 番染色体長腕に存在し,マウスの実験ではC11orf95-RELA 融合遺伝子を導入することにより,NF-kB シグナルの活性化による上衣腫の発生が認められ,C11orf95-RELA 融合遺伝子はドライバー遺伝子であることが確認された。また,RELA 融合遺伝子を認めたテント上上衣腫の多くは退形成性上衣腫WHO grade Ⅲと診断されている4)。cIMPACT-NOW update 7 ではC11orf95-RELA 融合遺伝子におけるC11orf95 の役割が強調されており,疾患名もSupratentorial ependymoma, C11orf95 fusion-positive とすることが提言されている1)。また,C11orf95 遺伝子はその機能的意義として,RELA 遺伝子だけでなく他の多くの遺伝子と融合遺伝子を形成し,腫瘍形成の主因子となることが判明し,Zinc Finger Translocation Associated(ZFTA)遺伝子と呼称されることとなった1)。
また,テント上上衣腫においては,RELA融合遺伝子群と相互排他的にYAP1-MAMLD1 融合遺伝子が発現しているグループ(YAP1 融合遺伝子群)も存在する。これらテント上上衣腫15 例の報告では,全例が3 歳未満で,年齢中央値は8.2 カ月であり,乳児に好発することが示唆されている6)。15 例中13 例が女児で,病理組織学的には11 例がWHO grade Ⅲに分類されたものの,フォローアップ期間中央値4.84 年で全例再発を認めていない。YAP1 融合遺伝子群についてはcIMPACT-NOW1)でも提言されており,今後分類に追加されるサブタイプと考えられる。一方,RELA やYAP1 などの融合遺伝子が存在しないテント上上衣腫も約30%みられるが,それらの腫瘍の生物学的悪性度の評価は定まっておらず7),今後メチル化プロファイルなどによる精査が必要である。
後頭蓋窩上衣腫は全ゲノム的な発現プロファイルやメチル化プロファイルの違いから,Group A(posterior fossa type A:PFA)とB(posterior fossa type B:PFB)に分類される8)。PFA はCpG island に高メチル化を多数認め,また30%程度に染色体1q のDNA コピー数増加がみられる7)。一方,PFB では6q,22q の欠失や9q,15q,18q などの増加など1q 増加以外のさまざまな染色体異常を示す。PFA は幼年の男児に多く,WHO grade Ⅲが多い傾向があり,転移・再発が多い。PFB は年長児や成人に多く,性差はなく,PFA に比べて予後が良好である。PFA・PFB の鑑別には,H3K27me3 の免疫染色が有用である。前述のSasaki らの報告4)では,後頭蓋窩上衣腫のうち,退形成性上衣腫と診断された症例の大部分はPFA であった。
また,前方視的臨床試験であるHIT 2000-E プロトコールに含まれていた28 例の18 カ月未満の上衣腫についての遺伝子検索結果が報告され9),8 カ月未満の上衣腫28 例はすべて退形成性上衣腫であった。28 例中21 例(75%)が後頭蓋窩局在であり,全例PFA であり,テント上局在の7 例(25%)のうち,4 例がRELA 融合遺伝子陽性で,2 例がYAP1 融合遺伝子陽性であった。これらの結果より,18 カ月未満の上衣腫は,PFA/RELA 融合遺伝子/YAP1 融合遺伝子の3 群が大半を占めることが示唆されている。
上衣腫の分子生物学的分類における予後解析では,PFA が予後不良であり,PFB は予後良好であるとする報告が多い10)。特に一番染色体長碗のgain を伴うPFA の予後は不良である10)。RELA 融合遺伝子群の予後については,報告にばらつきがみられる10)。YAP1 群の発生頻度はRELA 群に比べて低いが,予後は良好である。
本ガイドラインで取り上げた臨床試験や報告の多くは,上記の分子生物学的知見について勘案されたものでないことに注意する必要がある。現在のところ,分子生物学的分類は治療方法の選択に直結しないが,予後を予測するのに重要な示唆が得られる。今後はこれらの分子生物学的分類に基づいた臨床試験が行われ,手術・放射線治療・化学療法の有効性がサブグループごとに変わっていく可能性がある。
6)治療
上衣腫の治療における手術についてのエビデンスは,一つの方向に向かっており理解しやすい。すなわち,大部分の報告において可能な限り全摘出を行うことが予後の改善につながっている。また放射線治療については,サブタイプによっては不要という報告があるものの,多くは有用性を支持する報告である。
上衣腫において最も悩ましいのは,乳幼児の治療である。これは放射線治療の晩期合併症が発生しやすいためである。乳幼児の上衣腫に対しても,おそらく放射線治療は有効であると考えられるが,晩期合併症を考慮すると,化学療法を先行することにより放射線治療の回避もしくは延期が望まれるところである。問題は,何歳なら照射を行ってよいのかというカットオフ値であろう。本ガイドラインでは「3 歳」という年齢を提示した。これは歴史的に複数の臨床試験に用いられてきた年齢区分であり,ある程度エビデンスが存在するためである。しかし,その区切り自体に強いエビデンスではなく,あくまで一つの目安として考えるべきであると思われる11)。放射線治療は,年齢のみならず,摘出術後の状態,残存腫瘍の部位や量,病理組織所見と遺伝子分類などを考慮し,生命予後と晩期合併症のバランスを考えた上で照射量,照射範囲,照射方法を慎重に判断する必要がある。2018 年にEuropean Association of Neuro-Oncology(EANO)から示されたガイドライン12)では,摘出術後の後療法として,12 カ月未満には化学療法を,12~18 カ月には54 Gy の局所照射を,18 カ月以上では59.4 Gy の局所照射を推奨している。しかし,後のCQ で記述しているとおり,上衣腫に放射線治療の効果はあるものの,12 カ月以上3 歳未満児への放射線治療に関しては,局所照射であっても,晩期脳障害が許容できるかどうかの十分なエビデンスの蓄積は認められなかった。そのため本のガイドラインでは,3 歳未満・3 歳以上という区切りを用いているものの,その取り扱いについては十分慎重を期して解説文を記載した。また,今回のシステマティックレビューからは,12 カ月あるいは18 カ月という年齢の区切りに関するエビデンスはは十分ではないと判断し,その採用を見送った。詳しくは課題2:放射線治療,課題3;化学療法を参照されたい。
7)治療成績と予後因子
脳腫瘍全国集計調査報告2)によると,手術+放射線治療を受けた症例の5 年生存割合は,上衣腫(WHO grade Ⅱ)では約70%,退形成性上衣腫(WHO grade Ⅲ)では約30%である。年齢的には3 歳未満での発症は予後不良因子とする報告が多い。低年齢発症の場合には組織的悪性度が高いこと,後頭蓋窩発生の割合が大きく全摘出が難しいこと,また低年齢層への放射線治療が避けられてきたことなどの要因が予後に影響を及ぼしている可能性が考えられている。摘出率については,全摘出が遂行可能であった例は,有意差をもって予後良好であるとする報告が多い。摘出術後の放射線治療が標準的治療と考えられるが,いくつかの報告では放射線治療の効果が示されておらず,放射線治療を必要としない症例群の存在も示唆されている。上記以外の予後不良因子として,治療前の播種病変の存在が報告されている。
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2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:小児・AYA 世代上衣腫の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後の改善
- (3)トピック:生命予後,機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍(15 歳未満および16~29 歳のAdolescent and Young Adult:AYA 世代を含めた年齢)を診療する医療者,患者・家族
- (5)既存ガイドラインとの関係:上衣腫診療については,EANO ガイドライン(2016)を参考にした。
- (6)重要臨床課題
課題1:手術摘出
課題2:放射線治療
課題3:化学療法
課題4:再発時の治療
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
- a)脊髄髄内に発生する上衣腫は本ガイドラインの対象疾患には含めず,頭蓋内上衣腫に限定する。
- b)頭蓋内上衣腫の2016 年WHO 分類第4 版による悪性度のWHO grade ⅡとⅢの両方を含める。
- c)厚労省から示された小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満および16~29 歳のAYA 世代を含めた年齢)
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:2 カ月
文献の選出:2 カ月
エビデンス総体の評価と統合:6 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:European Association for Neuro-Oncology(EANO)よりガイドラインが報告されている(スコープ引用文献12 を参照)。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験の報告は,海外からいくつか報告されている。その他,非ランダム化比較試験,観察研究を検索対象とした。MRI 時代以前の観察研究や,症例報告に関しては一部を除いて省略した。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed
- SR/MA 論文について:検索されたSR はすべて参考としたが,構造化抄録には加えなかった。MA 論文は認めなかった。
- 既存のガイドラインの検索:EANO からのガイドラインを参考とした(スコープ引用文献12 を参照)。
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いた。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2019 年12 月31 日まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合が量的統合を実施。
課題1:外科的治療
- CQ1
- 肉眼的全摘出は生命予後を改善するか?
- 推奨度1C
- 推奨
生命予後の改善が期待できるので肉眼的全摘出を推奨する。
解説
1.CQ の設定
小児期とadolescent and young adult(AYA)世代の頭蓋内上衣腫に対する手術摘出として,アウトカムの「益」としてはOS やPFS の延長を,また「害」としては神経症状の悪化によるQOL の低下を設定し,肉眼的全摘出(GTR)とそれ以下の摘出度との間で比較した。また,初回摘出術後の残存腫瘍に対する再摘出の有効性,および最近提唱されている全ゲノム的な発現プロファイルから分類される後頭蓋窩上衣腫サブタイプにおける摘出度と予後との関連性も検討した。PICO の設定に従い,30 歳以上の症例を多く含む報告や,再発例および脊髄上衣腫を対象とした報告は除外し,稀少疾患である頭蓋内上衣腫に対して定性的システマテックレビューを行った。
2.腫瘍の摘出度とOS・PFS
頭蓋内上衣腫では腫瘍のGTR ができれば生命予後が改善すると考えられてきたが,今回システマティックレビューにより,この仮説を評価した。上衣腫の摘出度の判定は,術中所見ではなく,摘出術後早期の画像検査によって厳密に評価することが求められるようになったため,画像評価が行われた報告を採用した。近年の摘出度の評価法に準じて1),摘出術後の画像検査で残存腫瘍を認めないものをGTR とし,GTR 以外のnon-GTR にはnear total resection,亜全摘出,部分摘出および生検が含まれる。これまで摘出度と予後との関係を明確にするためのランダム化比較試験の報告はないため,年齢・部位・組織学的悪性度・放射線治療・化学療法など複数の予後因子を評価した報告で,多変量解析を用いたサブ解析により腫瘍の摘出度の評価を行った報告を採用した。統計学的に適切な評価を得るために,GTR 群・non-GTR 群の症例数がそれぞれ20 例以上の報告を採用した。
Non-GTR よりもGTR でOS の延長が有意差ありとする報告は7 件,PFS の延長が有意差ありとする報告は6 件であった。これらの報告で,摘出術後に放射線治療などの後療法が施行された5 年OS はGTR 群80~93.6%,non-GTR 群51~53%であり,5 年PFS はGTR 群53~81.5%,non-GTR 群33~42%であった。一方,OS ではGTR 群とnon-GTR 群に有意差を認めないとする報告は1 件のみで,PFS で有意差のない報告は3 件といずれも少なかった。Non-GTR 群がGTR 群よりもOS,PFS が有意に良好であるとする報告はなかった。発生部位を後頭蓋窩あるいはテント上に分けて摘出度と予後との関係を検討した報告はなかった。
1)前方視的研究の報告
摘出術後の後療法として放射線治療と化学療法のどちらを先に行う方が予後良好かを検討するためのランダム化比較試験の報告2) (3 歳以上 18 歳以下,テント上 26 例,後頭蓋窩29 例,GTR 51%)では,GTR 群のPFS がnon-GTR 群よりも有意に良好で,3 年PFS がGTR 群83.3%,non-GTR 群38.5%であった。化学療法の違いによって予後の改善が得られるかをランダム化比較試験で検討した報告3)(3 歳未満の 82例,GTR 37%)では,non-GTR 群と比較してGTR 群で有意にOS とPFS が良好であった。摘出術後に放射線治療を避けて化学療法を先行して治療効果をみた報告4)(3歳未満の症例,テント上13例,後頭蓋窩69 例,GTR 60%)では,non-GTR 群に比較してGTR 群のOS・PFS はともに有意に良好で,4 年OS はGTR 群74%,non-GTR 群35%であった。摘出術後に標準的な54.0 Gy と高線量の59.4 Gyとの放射線治療を施行して予後を比較した報告5)(10歳以下,テント上31例,後頭蓋窩122 例,GTR 82%)では,GTR 群のOS,PFS はnon-GTR 群よりも良好であった。この報告では,GTR 群では5 年OS 93.6%,7 年OS 88.0%,non-GTR 群では5 年OS 53.4%,7 年OS 52.4%であり,PFS はGTR 群では5 年で81.5%,7 年で77.3%,non-GTR 群では5 年で41.0%,7 年で34.2%であった。組織学的悪性度と摘出術後の残存腫瘍の有無によって異なる後療法を施行して治療効果を検討した報告6)(3歳以上21歳以下,テント上50 例,後頭蓋窩110 例,GTR 76%)では,GTR 群の方がnon-GTR 群よりも有意にOS が良好で,5 年OS はGTR 群87.8%,non-GTR 群61.2%であった。この報告では,5 年PFS はGTR 群72.1%,non-GTR 群45.3%で,有意差に至らなかった(p=0.058)。GTR 群と non-GTR群との間で OS・PFSに有意差を認めなかった報告は 1 件7)(3 歳以下,テント上76 例,後頭蓋窩13 例,GTR 49%)で,3 歳以下の例を対象に摘出術後に化学療法を施行し,再発を認めた際に放射線治療を行い,治療効果を前方視的に検討している。この報告では,5 年OS・PFS はGTR 群で68.1%・48.9%,non-GTR 群で51.8%・25.8%であった。
2)後方視的研究の報告
腫瘍の摘出術後,年少児に対しては化学療法を施行した後に放射線治療を施行し,治療効果を検討した報告8)(15 歳未満,テント上 18例,後頭蓋窩 65例,GTR 72%)では,GTR 群のOS・PFS がnon-GTR よりも有意に良好で,5 年OS はGTR 群80%,non-GTR 群51%であり,5 年PFS はGTR 群53%,non-GTR 群33%であった。摘出術後に放射線治療や一部の例に化学療法を施行し治療効果を検討した報告9)(0.1~18歳,テント上 24例,後頭蓋窩58 例,GTR 68%)では,OS はnon-GTR 群よりもGTR 群で有意に良好であったが,PFS は両郡間に有意差は認めなかった。摘出術後に異なった方法で放射線治療を施行してその有効性を検討した報告10)(25 歳以下,テント上 147 例,後頭蓋窩 55例,GTR 86%)では,GTR 群のOS はnon-GTR 群よりも有意に良好であった。
以上の結果から,年少児からAYA 世代の年齢の症例を対象とした前方視的研究,あるいは後方視的研究のサブ解析では,GTR 群のOS・PFS がnon-GTR 群よりも有意に良好であるとする報告が多く,これに反する報告は非常に少ない。ただ,摘出術後に後療法が施行されているので,摘出度によってどの程度の予後を改善できるかは不明である。結論として,摘出度と予後との関係をランダム化比較試験で検討した報告はないのでエビデンスレベルが高いとは言えないが,後述のように腫瘍の摘出により重篤な神経症状の悪化が予想される場合を除き,生命予後の改善が期待できるためGTR を推奨する。
3.残存腫瘍に対する再摘出の有効性
初回摘出術後に残存した腫瘍に対する再摘出,いわゆるsecond-look surgery によってGTR が達成できれば予後の改善が期待されるため,初回摘出術後に再摘出,あるいは再々摘出が行われてきた5,11)。これらの報告でのGTR の達成率は81.7%および80.2%であり,前項1)で述べたGTR 率(30~80%台)と比較して高値である。
再摘出による予後への影響を中心に検討した報告は少なく,システマティックレビューでは次の3 つの報告を採用した。
小児テント上下の上衣腫110 例を対象に再摘出の有効性を検討した多施設前方視的研究の報告12)では,初回摘出術後の残存腫瘍に対し化学療法や放射線治療を行い,残存腫瘍の再摘出,あるいは複数回の摘出術によって,GTR 達成率は初回摘出の61.0%から82.7%まで上昇した。この報告では,初回摘出でGTR を達成できた群と複数回の摘出でGTR を達成できた群との間に,PFS や局所非再発率に有意差は認めないことから,再摘出によってGTR が達成できれば初回摘出でGTR となった場合と同等の効果があることが示唆された。この再摘出の適応は外科医の判断に委ねられているが,適応とならないのは,腫瘍が基底核に浸潤している例,脳底動脈を巻き込んでいる例,脳幹部の腹側まで進展している例など,再摘出によって高度の神経障害が予想される場合としている。この手術適応で複数回の摘出を行った29 例中,神経症状の悪化は2 例(6.8%)にみられ,このうち1 例は改善したことから再摘出による神経障害の悪化は許容範囲としている。
小児テント上下の上衣腫160 例を対象とした多施設前方視的研究6)では,初回手術で残存腫瘍を認めた50 例中46 例(92.0%)で,摘出術後の後療法を行う前に残存腫瘍を再度摘出した。少数例で3 回以上の摘出を行っている。その結果,初回摘出でのGTR 達成率68.8%が再摘出によって75.6%と上昇した。再摘出の手術合併症は46 例中5 例(10.9%)に認め,このうち4 例は小脳・下位脳神経の障害で,残り1 例は出血を呈したが神経症状は改善したことから,再摘出に伴う神経症状の悪化は許容範囲としている。
発生部位・組織学的悪性度・摘出度によって異なった後療法を施行し,放射線治療の有効性を前方視的に検討した報告13)(1 歳から 21 歳までのテント上下の上衣腫 356 例,GTR 82.0%)では,亜全摘出(摘出術後の画像所見で0.5 cm より大きな残存腫瘍を認める)に終わったのは64 例(全例の18.0%)であった。亜全摘出例に化学療法を行い,64 例中25例(39.0%)で残存腫瘍に対し再摘出を施行し,後療法として局所放射線治療を行ったところ,5・10 年のPFS はそれぞれ50.5%・45.9%であった。一方,亜全摘出術後に化学療法を行ったが再摘出しなかった例(39 例)に放射線治療を行った群の5・10 年のPFS はそれぞれ28.5%・25.0%であった。これら再摘出した群と行わなかった群でのPFS を比較すると,再摘出した群の方が良好な傾向を認めたが,この差は有意ではなかった(p=0.116)。
以上,初回摘出術後に画像上残存腫瘍を認めた場合,再摘出を行う,あるいは化学療法などを施行した後に再摘出を行うことが,予後を改善するのに有効かどうかに関しては,報告が少なく十分なエビデンスがない。しかし,前述のMassimino らの再摘出の適応12)を参考にし,重篤な障害をきたさずに再摘出を施行してGTR が達成できれば,non-GTR よりも良好なOS やPFS が期待できるため,再摘出を考慮してもよい。
4.腫瘍摘出によるQOL の低下
腫瘍の摘出技術が向上し,摘出に際して神経障害の発生頻度は減少しているものの,脳深部に局在する腫瘍や,大きい腫瘍であれば,摘出に伴う神経機能障害を起こしやすい。発生部位がテント上であれば摘出に伴い腫瘍周囲の脳損傷が発生しやすく,大脳深部に発生すれば腫瘍到達までの大脳の切開などによる損傷も加わる。後頭蓋窩では,大きな腫瘍では摘出時の小脳または脳幹の損傷によって,脳幹の機能障害,錐体路障害や小脳障害による歩行障害や運動障害が発生する。第四脳室から小脳橋角部や脳幹前面に進展した腫瘍では,摘出時の脳神経の障害によって顔面神経麻痺や眼球運動障害が発生し,下位脳神経の障害による構音障害,重篤なものとして嚥下障害による気管切開や胃瘻造設の必要性が指摘されてきた。また,後頭蓋窩腫瘍に特有な無言症(mutism)があり,重篤な場合は回復しにくく,これにより高次脳機能障害が発生して患者のQOL を大きく低下させる。
今回,摘出術による神経障害の悪化をより客感的に評価するため,システマティックレビューでは次の3 つの報告を採用した。
小児の後頭蓋窩上衣腫(45 例)を対象に,摘出術後の神経障害を後方視的に検討した単施設からの報告14)では,20%に声帯機能低下を認め,24%に嚥下障害のために胃瘻を必要とした。複数回の腫瘍摘出の後に局所放射線治療を施行し,神経障害を前方視的に評価した単施設からの報告11)(0.8~22.7歳,後頭蓋窩のみ96例)では,摘出術後に運動失調55%,外転神経麻痺51%,顔面神経麻痺50%,四肢麻痺40%,嚥下障害39%,体幹失調・筋緊張低下24%を認めた。重篤な障害として歩行障害18%,嚥下障害9%があり,嚥下障害が最も改善しにくく,28%で胃瘻,16%で気管切開を必要とした。治療後60 カ月以上生存した48 例中42 例(87.5%)では神経症状の改善を認めたが,四肢麻痺と運動失調は改善が乏しかった。顔面神経麻痺,構音障害,歩行障害は摘出術後36 カ月まで改善し,その後障害は固定化した。複数回の手術摘出によりGTR は80.2%であったが,摘出度と神経障害の関連は示されていない。摘出術後に神経学的異常を認めなかった例(21%)の大半は腫瘍の外側進展が少ない例であったことから,外側進展が手術摘出における神経障害の危険因子であると推測される。また,水頭症やシャント設置も神経症状出現の危険因子であったとしている。
摘出度と高次脳機能との関連性に関しては,摘出術後に放射線治療を施行し5 年後のQOL を評価した単一施設での前方視的研究の報告15)(1~25 歳,テント上 25例,後頭蓋窩98 例,GTR 82%)がある。摘出度については,肉眼的全摘出をGTR,5 mm 以下の残存腫瘍の場合をnear total resection,5 mm を超える残存腫瘍を認める場合をsubtotal resection と定義している。サブ解析として腫瘍の摘出度とIntelligence Quotient(IQ)の有意な関連性は認められなかったが,集団行動が取れない等の適応行動障害は,subtotal resection 群ではGTR 群やnear total resection 群より単変量解析で有意(p=0.046)に強く認められたとしている。この報告では,後頭蓋窩上衣腫の摘出術後無言症の記載はなく,無言症の高次脳機能への影響は検討されていない。しかし,近年は小脳と高次脳機能との関連が推測されているため,重篤な無言症の発生はQOL を低下させることを認識すべきである。
今回のシステマティックレビューでは,腫瘍の摘出度と神経障害の関連性は明らかではないが,後頭蓋窩上衣腫では第四脳室の外側に進展した場合に,手術摘出による神経障害が発生しやすいことが推測できた。初回の手術摘出であっても,残存腫瘍に対する再手術摘出の場合でも,重篤な神経障害が発生すれば十分な回復は期待できないことを認識し,手術摘出に臨むべきであると思われる。
5.分子分類での摘出度による予後への影響
後頭蓋窩上衣腫は,全ゲノム的な発現プロファイルの違いからPFA とPFB に分けられ,PFA はPFB と比較して有意に予後が不良であることが明らかとなってきた16,17)。PFA とPFBのサブグループで,腫瘍摘出度と予後との関係に注目した前方視的研究の報告はない。今回のシステマティックレビューでは,複数の予後因子が評価されている報告を採用し,摘出度と予後との関係を検討した。
PFA を対象にOS に対する摘出度を含めた複数の予後因子を検討した報告は4 件あり,すべて後方視的研究で少数の成人例を含む報告もある。このうち3 件の報告16-18)ではGTR 群はnon-GTR 群よりも有意にOS が良好で,残り1 件の報告19)では有意差は認めなかった。PFS は上記4 件のすべての報告において,GTR 群がnon-GTR 群よりも有意に良好であった。
PFB を対象にOS に対する摘出度を含む複数の予後因子の解析を行った4 件の後方視的研究がある。このうち2 件の報告18,20)でGTR 群がnon-GTR 群より有意にOS が良好であったが,他の2 件の報告16,17)では両群間で有意差を認めなかった。PFS に関して,1 件の報告18)でGTR 群がnon-GTR 群より有意に良好であったが,他の2 件の報告16,17)では両群間に有意差を認めなかった。
以上から,後頭蓋窩上衣腫をPFA およびPFB に分類して摘出度と予後とを検討すると,両群ともにGTR によるOS・PFS はnon-GTR よりも良好な傾向があると推測できる。しかし,この分類に従って腫瘍の摘出度と予後との関係を検討した報告は少なく,明確な結論を出すことはできない。現状では,後頭蓋窩上衣腫の手術摘出時にリアルタイムでPFA やPFB の分子診断はできないため,重篤な神経障害を呈さない限りGTR を提案する。
6.まとめ
多数の前方視的・後方視的研究における予後因子の解析結果から,小児とAYA 世代の頭蓋内上衣腫に対してはGTR を達成できれば,non-GTR に比べてOS・PFS は改善することが示唆される。エビデンスレベルは高くはないが,手術摘出により重篤な神経症状の悪化が予想される場合を除き,GTR を強く推奨する。また,初回摘出術後に残存腫瘍を認めた場合は,手術摘出による神経障害の悪化を十分に考慮した上で,再摘出手術によりGTR を目指すことを提案する。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((Ependymoma[mh:noexp]OR Ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])))AND((Brain Neoplasms[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial *[tiab]OR intracranial*[tiab]OR ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa[tiab])))AND(((“surgery”[sh]OR “surgery”[tiab]OR “surgical procedures, operative”[mh])OR(“surgical”[tiab]AND “procedures”[tiab]AND “operative”[tiab])))))AND(((infant[mh]OR child[mh]OR adolescent[mh]OR young adult[mh]OR adult[mh:noexp])))))AND 1900/1/1:2019/12/31[dp]))AND((English[la]or Japanese[la]))))NOT Case Reports[pt]
以上の検索式より,一次スクリーニングとして179 文献を抽出した。医中誌の検索による8 文献,およびハンドサーチによる20 文献を加え,188 文献について二次スクリーニングを行い,44 文献について構造化抄録を作成した。最終的にCQ1 では20 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
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課題2:放射線治療
- CQ2
- 3 歳以上の症例に放射線治療は有用か?
- 推奨度1C
- 推奨1
摘出術後に腫瘍が残存した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫の症例に対しては,摘出術後に放射線治療を行うことを推奨する。
- 推奨度2C
- 推奨2
肉眼的に全摘出された退形成性上衣腫の症例に対しては,摘出術後に放射線治療を行うことを提案する。
解説
上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかに関しては,現在まで,本来の結論を導くことができるような十分にデザインされた臨床試験は行われていない。また,上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかを検討した報告1-10)はいくつかあるものの,その結果のみで結論を出すことは難しい。現状では,より若年の症例には放射線治療を避ける試みがなされており,通常診療でも年齢によって治療戦略の立て方が異なっていることが多い。本項では3 歳以上の症例に放射線治療が有用かどうかを,今までの報告から検討した。
放射線治療が有効であるとした報告の中で,比較的症例数が多い,前方視的,などのインパクトのあるものが5 編あった。一つ目は,小児上衣腫の手術と照射の役割を検討することを目的に,1973~2005 年のThe Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)のデータベースから抽出された上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫2,408 例を対象に行った研究1)である。最も強い予後因子は全摘出であり,全摘出例への摘出術後放射線治療の有効性は示されなかった。しかし,部分摘出例では摘出術後に放射線治療を追加することで予後が有意に改善し,摘出術後放射線治療の有効性が示された。最も症例数の多いこの報告からは,限定的ではあるが摘出術後の放射線治療が有効であると考えられる。ただし,対象症例は30 歳未満が30%程度であり,本ガイドラインの対象よりも高い年齢層が多く含まれているという点に注意を要する。2 つ目はSEER データベース(1973~2003 年)から抽出された小児上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫635 例を対象とし,予後因子について検討した研究2)である。年齢と腫瘍発生部位が予後因子として報告された。5 年生存率(5 年OS)はテント上59.5%,後頭蓋窩57.1%,脊髄86.7%であり,解析対象に非常に予後良好な55 例(8.7%)の脊髄原発例が含まれているため,小児頭蓋内上衣腫の予後を規定する因子は年齢のみと考えた方がよいかもしれない。一方で,放射線治療は単変量解析では全体のOS の改善に寄与し,多変量解析でも後頭蓋窩上衣腫のOS の改善に寄与する(5 年OS 57.1% vs. 48.2%)ことが示された。特に後頭蓋窩上衣腫に対する放射線治療の有効性が示されたと結論している。3 つ目は,153 例の小児限局性上衣腫への手術+摘出術後照射の有効性を検討した単施設前方視的臨床研究3)である。対象の年齢中央値は2.9(0.9~22.9)歳であった。研究計画されていた放射線治療はClinical Target Volume(CTV)マージン1.0 cm の局所照射で,1.5 歳未満の全摘例には54 Gy/30 回,それ以外の症例には59.4 Gy/33 回の投与線量が設定されていた。131 例で59.4 Gy,22 例で54.0 Gy の照射が行われた。全体での7 年locoregional control rate(LCR),EFS,OS は87.3%,69.1%,81.0%で,局所再発,遠隔転移の累積発生率は16.3%,11.5%であった。何らかの理由で摘出術後早期に放射線治療をしなかった46 例を除いた107 例の結果は,7 年LCR,EFS,OS は88.7%,76.9%,85.0%で,局所再発,遠隔転移の累積発生率は12.6%,8.6%であった。過去の報告と比較して試験全体の治療成績が比較的良好であったこと,有害事象として脳幹壊死は1.6%と多くなかったことなどから,可及的摘出術後の局所への高線量の放射線治療が重要であると結論している。しかし,本研究のみから,摘出術後に1.5 歳未満児に54 Gy/30 回,それ以外に59.4 Gy/33 回を標準的投与線量としてよいかについては,今後十分な検討が必要である。4 つ目は,フランスでの24 施設の後方視的症例集積研究4)であり,中央値46(18~82)歳の成人上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫の152 例が対象であった。予後因子として摘出度,grade(Marseille),年齢,KPS が示された。放射線治療に関する結果では,Marseille の低Grade(93.8%がWHO grade Ⅱ)の部分摘出の場合にはPFS で有意な有効性があり,OS に関しても有効な傾向を示したが,Marseille の高Grade(90%がWHO grade Ⅲ)の全摘出の場合にはPFS には有効な傾向を示したが,OS に差はなかった。この報告は,本ガイドラインが対象とする年齢層よりも高い年齢層が多く含まれていること,WHO grade Ⅲの症例が28.3%と少ないことなどの注意点があるものの,その結果に関しては,症例限定的ではあるが放射線治療の有効性が示されている。5 番目の報告5)は顕微鏡下手術における平均年齢23(1~75)歳の頭蓋内上衣腫の予後因子を単一施設で後方視的に検討したもので,WHO grade は無増悪生存期間・全生存期間ともに明らかな予後因子であることが認められた。摘出術後の放射線治療に関しては上衣腫全体での放射線治療の有効性は示されなかったものの,退形成性上衣腫で全摘出された症例で最も有効性が高いことが示された。つまり,摘出術後の放射線治療の有効性は上衣腫全体では認めないが,退形成性上衣腫では全摘出であっても追加した方がよいという結果であり,放射線治療の有効性が症例限定的に示された。このように放射線治療は,部分摘出術後・退形成性上衣腫・小児後頭蓋窩腫瘍で有効である可能性が示唆されるが,報告によって有効性が示された群が相反する結果も認められた。
一方で,放射線治療の有効性がないとする少数の報告も認められた。しかし,放射線治療が有効であるとする研究と比較すると,対象症例数が少ない研究が多い。その中でも解析症例数の多い研究に,米国のNational Cancer Database(NCDB)から抽出した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫1,318 例[年齢中央値43(18~54)歳]を対象とした研究6)がある。WHO grade Ⅱ/Ⅲは1,055/263 例,テント上/下は848/470 例で,485 例に亜全摘出/肉眼的全摘出,662 例に摘出術後放射線治療,75 例に化学療法が実施された。その結果,予後因子として年齢,WHO grade,腫瘍サイズ,性別,腫瘍部位が示されたが,放射線治療はWHO grade や摘出度,腫瘍部位を考慮しても生存への寄与は認められなかった。この研究では本ガイドラインで対象としている年齢層より高年齢の症例が多いことに注意が必要であるが,症例限定ではあるが摘出術後の放射線治療の有効性が示されていない報告である。5 つ目の報告は,SEER データベースから全摘出術後のテント上上衣腫を抽出した研究7)である。対象は92 例で,年齢中央値は17.5(1~83)歳であった。結果は,5 年OS 83.2%,10 年OS 71.4%,他因死を除く補正生存率(修正生存率,cause specific survival:CSS)5 年84.1%,10 年CSS 71.4%であった。放射線治療は半数の症例に実施されたが,放射線治療の有無でCSS,OS ともに差を認めなかった。本ガイドラインの対象年齢層より高い年齢が含まれていること,対象がテント上の全摘出された上衣腫に限定されていることに注意が必要である。しかし,本報告も症例限定ではあるが摘出術後の放射線治療の有効性を認めなかった研究の一つである。
これらの結果から,大部分が後方視的検討ではあるものの,残存腫瘍を認める上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫に対する摘出術後放射線治療の有効性は,多くの検討で肯定的な結果であった。摘出術後に腫瘍が残存した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫には放射線治療を追加することで予後が改善すると考えられる。また,肉眼的全摘出された退形成性上衣腫に関しては,摘出術後残存を認める腫瘍ほど肯定的な報告は多くないが,摘出術後に放射線治療を施行した方がOS あるいはPFS を改善するとした報告が散見される。よって退形成性上衣腫の場合には,全摘術後でも放射線治療を行うことを検討すべきである。一方,肉眼的全摘出がなされた上衣腫(WHO grade Ⅱ)に関しては,前述したとおりに相反する報告がそれぞれに散見されることから,画一的に摘出術後の放射線治療の実施の是非を決めることはできず,推奨度を決めるのは難しい。摘出腔周囲の再発時に手術が可能かどうか・年齢・全身状態・腫瘍部位・腫瘍サイズ,分子生物学的情報(現段階ではまだ一般的ではないが組織学的悪性度以外の情報)等を考慮し,症例に応じて判断するのも一法であろう。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((((outcome*[tiab])OR(prognos*[tiab]))OR(impair*[tiab]))OR(late effect*[tiab]))OR(cognitive[tiab]))OR(development*[tiab]))OR(disorder*[tiab]))OR(risk factor*[tiab]))OR(side effect*[tiab]))OR(adverse effect*[tiab]))OR(toxi*[tiab]))OR(damage[tiab]))OR(sequela*[tiab]))AND((((“Ependymoma”[Mesh:NoExp]OR ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])AND(“Brain Neoplasms”[Mesh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR Intracranial*[tiab]OR Ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa*[tiab]))AND(“Radiotherapy”[Mesh]OR “radiotherapy”[Subheading]OR Radiotherapy[tiab]OR Irradiation[tiab]OR reIrradiation[tiab]OR “Proton therapy”[tiab]OR “radiation therapy”[tiab]))AND(1900/1/1:2019/12/31[dp])))NOT(Case Reports[pt])
以上の検索式より,一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ2 では10 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Rodríguez D, Cheung MC, Housri N, et al. Outcomes of malignant CNS ependymomas:an examination of 2408 cases through the Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)database(1973-2005). J Surg Res. 2009;156(2):340-51.[PMID:19577759]
- 2)
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- CQ3
- 3 歳未満の症例に放射線治療は有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
3 歳未満の症例に対しては,放射線治療を回避するか,できるだけ長期の開始遅延を目指すことを提案する。
解説
上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかに関しては,現在までこれに答えることができる十分にデザインされた臨床試験は行われていない。特に現状では,より低年齢の症例に対して放射線治療を避ける傾向があり,通常診療でも年齢により異なる方針で治療している施設が多い。本項では3 歳未満の症例に放射線治療が有用かどうかを,今までの報告から検討した。
予後不良と考えられている3 歳未満の症例に放射線治療を行うことで,治療成績が向上するとした前方視研究のサブ解析や比較的症例数の多い後方視的研究などの代表的な報告を提示する。1990~2005 年までのpopulation-based study がカナダから報告1)されている。診断時3 歳未満の悪性脳腫瘍579 例中の上衣腫75 例(13%)が対象であった。後頭蓋窩局在が80%,WHO grade Ⅱが67%,診断時に転移を認めた症例が29%であった。治療は,手術単独23%,摘出術後手術+化学療法37%,手術+放射線治療19%,手術+化学放射線療法21%であった。各治療群の5 年EFS はそれぞれ,22.0%,11.5%,46.2%,64.8%であり,摘出術後に放射線治療を追加された症例群でEFS が長く,化学放射線療法を受けた症例群で最も良好であった。しかし,より年齢の低い症例には摘出術後に化学療法だけが行われていることが多く,より年齢の高い症例には放射線治療を含む治療が行われていたことが多かったことに注意が必要である。この試験は比較試験ではなく,治療ごとの症例背景も異なることから,3 歳未満の症例に摘出術後放射線治療に意義があると結論づけるのは難しい。
SEER のデータベースからの検討結果2)も報告されている。3 歳未満の症例の多くが摘出術後照射を受けておらず,摘出術後照射なしの3歳未満の症例は比較的予後不良であった。一方で,摘出術後照射を受けた症例は他の年齢層の症例と同様の生存率であったことから,3 歳未満の症例にも放射線治療を追加することで腫瘍制御が期待できる可能性が示唆されたが,結論を得るためには今後の臨床試験が望まれる,と結んでいる。
HIT-SKK 87 試験では,登録された3 歳未満の症例についてサブ解析による結果3)が示されている。生存に関する予後良好因子として,摘出術後照射が示された。
Merchant らは2 つの報告4,5)を行っている。双方とも放射線治療の方針は,1.5 歳未満の全摘出例には54 Gy/30 回,それ以外の症例には59.4 Gy/33 回の投与線量が設定されていた。2019 年の頭蓋内限局性上衣腫153 例の単施設前方視的試験の報告5)では,ほとんどの症例に摘出術後に放射線治療が実施されていた。諸家の報告と比較して,3 歳未満の症例の治療成績が比較的良好であったこと,有害事象も脳幹壊死は1.6%と多くなかったことから,3 歳未満の症例についても摘出術後の放射線治療を奨めている。ACNS0121 試験は,Children Oncology Group(COG)による多施設前方視的試験であり,全摘出できたテント上のWHO grade Ⅱの腫瘍は経過観察,部分切除例にはsecond look surgery での全摘出を期待して化学療法が設定された。摘出術後に放射線治療を受けた3 歳未満とそれ以上の年齢の症例のEFS が類似したことから,3 歳未満の症例にも摘出術後に放射線治療を行うことを推奨している。
4 つの独立した後方視研究をまとめた820 例を対象とした報告6)がある。小児の後頭蓋上衣腫について分子生物学的サブタイプ(PFA・PFB)を含めて予後因子解析が行われた。OS に関連した最も強い予後因子はPFA・PFB の分子生物学的サブタイプであり,他に摘出率や摘出術後放射線治療の有無が挙げられた。4 歳以下の後頭蓋例ではPFA が多くを占めていた。PFA で亜全摘の症例は予後不良であり,PFA が多くを占める4 歳以下の症例には放射線治療の追加を推奨している。一方で,若年時に放射線治療を施行した症例には長期的に重篤な影響が残るため,摘出術後早期の放射線治療回避の臨床試験を検討するために,このサブタイプでの治療選択や層別化が重要であるとしている。
このように腫瘍制御のためには,放射線治療は3 歳未満の症例に対する有効性が示唆されているが,明確に摘出術後に放射線治療を施行すべきといえる結果はない。一方で,乳幼児への放射線治療による晩期脳障害は,低年齢になるほど脳の脆弱性が高いため増強してしまう。そのため,乳幼児への放射線治療を遅延あるいは回避させるための臨床試験や臨床研究は少なくない1-10)。
POG が行った介入試験では,3 歳未満の悪性脳腫瘍に対して摘出術後化学療法を行うことで放射線治療の遅延あるいは回避が可能かを検討した7)。1986~1990 年に登録された乳幼児の悪性脳腫瘍症例に放射線治療前の摘出術後化学療法を行った試験で,36 カ月未満の悪性脳腫瘍198 例が対象であった。摘出術後化学療法はCPA+VCR レジメンとCDDP+VP-16 レジメンを繰り返し行い,24 カ月未満の132 例には2 年間の,24~36 カ月の66 例には1 年間の化学療法を行うか,その期間内に病変が進行すれば放射線治療が行われた。全腫瘍の奏効率(CR+PR)は39%で,髄芽腫,悪性神経膠腫,上衣腫の順に高く,脳幹神経膠腫,胎児腫瘍では低かった。PFS は,24~36 カ月児は1 年41%,24 カ月未満児は2 年39%であり,化学療法によるCR 例ではPFS がGTR 例に近い値となった。中枢神経障害はベースラインと1 年後で明らかな低下は示されなかった。化学療法後の放射線治療遅延による認知機能低下も有意に上昇しないことから,肉眼的全摘出例や化学療法でCR を得た症例には放射線治療の遅延が可能であり,症例によっては放射線治療回避も可能と結論している。さらに,同じPOG による化学療法の強化で3 歳未満の小児悪性脳腫瘍に放射線治療の遅延が可能なレジメンがあるか検討した介入試験のサブ解析の報告8)がある。1992 年に開始され338 例が登録された。上衣腫に関しては強化化学療法でもOS の延長は認めなかったが,EFS は改善しており,化学療法の強化により放射線治療を遅延させられる可能性を示唆している。さらに,United Kingdom Children’s Cancer Study Group/International Society of Paediatric Oncology(UKCCSG/SIOP)による3 歳未満の悪性脳腫瘍の患児を対象に,化学療法の強度を高めて放射線治療を回避・遅延させることを目的とした臨床試験(CNS9204 試験)があり,その中のサブ解析の一つに頭蓋内上衣腫を対象とした報告9)がある。結果は,1992~2003 年に89 例が登録され,80 例の限局性頭蓋内上衣腫例のうち化学療法中の増悪で放射線治療が施行されたのは34 例であった。80 例のOS とEFS は3 年で79.3%と47.6%,5 年で63.4%と41.8%であり,比較的多くの症例で放射線療法を回避あるいは遅延させつつ,生存率を損なうことがなかったとしている。まとめとして,3 歳未満の上衣腫では化学療法による放射線治療の回避も重要な役割を果たす可能性があるとしている。
Head Start Ⅲは,放射線治療の遅延や回避の可能性を探究した前方視的臨床試験である10)。強力な化学療法で放射線治療を遅延させることが可能か検討した多施設臨床試験であり,2004~2009 年に登録された10 歳未満の頭蓋内上衣腫を対象とした。この報告の結論は,テント上上衣腫では放射線治療を遅延あるいは回避できる可能性があるものの,後頭蓋窩上衣腫では難しいのではないか,というものであった。
このように,放射線治療により腫瘍制御の可能性は高まるが,放射線治療による脳障害を含む晩期合併症が増加してしまうこともあり,それぞれの研究で相反する結果が生じている可能性がある。放射線治療の有効性を示すことができる十分に良くデザインされた臨床試験は今までないことから,予後不良である3 歳未満の上衣腫に対して摘出術後早期に放射線治療をすべきか,の答えを出すのは現状では難しい。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,CQ2 に記載した検索式による検索を行った(参照)。
一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ3 では10 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Purdy E, Johnston DL, Bartels U, et al. Ependymoma in children under the age of 3 years:a report from the Canadian Pediatric Brain Tumour Consortium. J Neurooncol. 2014;117(2):359-64.[PMID:24532240]
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- 3)
- Timmermann B, Kortmann RD, Kühl J, et al. Role of radiotherapy in anaplastic ependymoma in children under age of 3 years:results of the prospective German brain tumor trials HIT-SKK 87 and 92. Radiother Oncol. 2005;77(3):278-85.[PMID:16300848]
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- 5)
- Merchant TE, Bendel AE, Sabin ND, et al. Conformal Radiation Therapy for Pediatric Ependymoma, Chemotherapy for Incompletely Resected Ependymoma, and Observation for Completely Resected, Supratentorial Ependymoma. J Clin Oncol. 2019;37(12):974-83.[PMID:30811284]
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- 9)
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- CQ4
- 全脳全脊髄照射は有用か?
- 推奨度1C
- 推奨1
脊髄播種のない症例に対しては,全脳全脊髄照射を施行しないことを推奨する。
- 推奨度1D
- 推奨2
脊髄播種を有する症例に対しては,全脳全脊髄照射を施行することを推奨する。
解説
頭蓋内上衣腫は髄液播種をきたしやすい腫瘍であり,かつては全脳全脊髄照射を用いられることが多かった。その後は全脳全脊髄照射,全脳照射,後頭蓋窩照射,局所照射,定位放射線照射など照射範囲に関して多彩な方法が報告されてきた1-17)。より望ましい照射範囲を決定するための十分にデザインされたランダム化比較試験や前方視的研究は実施されておらず,現段階では確定的な結論を導くことはできない。
比較的症例数の多い前・後方視的研究で,頭蓋内限局性上衣腫に関する放射線治療の照射範囲について検討した18 の報告1-17)があった。その中で,頭蓋内限局性上衣腫には予防的な全脳全脊髄照射は必要ないであろうと結論した報告1-6,8,9,11-16)が14 と多くを占めていた。
予防的な全脳全脊髄照射は不要と結論した報告の中で,ランダム化比較試験のサブ解析や症例数の多い前・後方視的研究の結果を示す。1974~2006 年にハイデルベルグ大学にて限局性頭蓋内上衣腫57 例に対して摘出術後放射線治療をした後方視的研究4)が報告されている。WHO grade Ⅰ/Ⅱが27 例,grade Ⅲが30 例であった。4 例の粘液乳頭状上衣腫が含まれている。41 例に後頭蓋窩照射,16 例に全脳全脊髄照射が併用され,最終的に腫瘍床に54 Gy/30 回を目指して局所照射が追加された。3 年,5 年全生存率は各々83%,71%で,後頭蓋窩照射併用群と全脳全脊髄照射併用群の間で有意差を認めなかった。5 年局所非再発率と5 年無遠隔転移生存率は後頭蓋窩照射併用群で60%,83%で,全脳全脊髄照射併用群で67%,93%であり,いずれも有意差を認めなかった。全生存に影響する因子として,腫瘍床への投与線量45 Gy 以上が示され,照射範囲よりも局所線量の増加が重要であると結論された。1964~2006 年にフロリダ大学にて限局性頭蓋内上衣腫(44 例)に対して放射線治療を施行した後方視的研究1)の報告もある。上衣下腫,上衣芽細胞腫および再照射例は除外されている。29 例に局所照射が施行され,11 例に全脳全脊髄照射が併用されていた。いずれの方法においても再発形式は95%が局所再発であり,残りの5%は局所再発なしの脊髄播種であった。全脳全脊髄照射を受けた症例は1 例も脊髄への再発を認めなかったが,全生存と無病生存の双方ともに予後因子として放射線治療法は示されず,予防的な全脳全脊髄照射の有用性は認められなかった。まとめると,予防的全脳全脊髄照射の併用により無脊髄播種生存率や脊髄播種出現率は改善されるが,局所照射のみの再発形式も摘出腔周囲の局所かそれに加えて脊髄播種を伴ったものが多く,脊髄播種のみの症例はわずかであった。また他の報告も,照射範囲は全生存期間・無病生存期間の予後因子とはならず1-6,8,9,11,13-16),局所への投与線量が全生存期間・無病生存期間の予後因子である8,12-15)とするものが多い。これらの結果から,頭蓋内限局性上衣腫には,全脳全脊髄照射や全脳照射などの広範囲の照射を行うよりも,局所照射を用いて腫瘍への投与線量増加を目指すのが良いと考えられる。また,これらの報告の中で,脊髄播種を有する頭蓋内上衣腫に関しては治療的全脳全脊髄照射を用いているが,成績は十分とは言えず,より良い治療の開発が待たれるとする報告が多く認められた。
なお,定位放射線治療による報告もみられたが,1 つの報告5)のみで症例数も12 例と少ないため参考程度と考えるべきである。著者らは照射野外の再発率や全生存率が過去の全脳全脊髄照射や後頭蓋窩照射を併用していた時期の結果と大きな違いがないことから,定位放射線治療は許容される治療となるかもしれない,と結んでいる。
以上の結果から,腫瘍局在やWHO grade に関係なく,限局性頭蓋内上衣腫に対しては全脳全脊髄照射や全脳照射などの広い照射範囲は必要とはせず,局所照射が推奨される。一方で,脊髄播種を有する頭蓋内上衣腫には,他の有効な治療がないとの理由もあるが,全脳全脊髄照射が推奨される。なお,3 歳児未満の症例には,別項に記載している通り,症例に応じて判断することになるが,再発時に速やかに放射線治療を実施できる体制を取った上で,化学療法を先行させて放射線治療を遅延させる方法を検討するなど,乳幼児への放射線障害を低減する方法を常に念頭に置くことが重要である。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,CQ2 に記載した検索式による検索を行った(参照)。
一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ4 では17文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Swanson EL, Amdur RJ, Morris CG, et al. Intracranial ependymomas treated with radiotherapy:long-term results from a single institution. J Neurooncol. 2011;102(3):451-7.[PMID:20706771]
- 2)
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課題3:化学療法
- CQ5
- 化学療法は推奨されるか?
- CQ5-1
- 3 歳以上症例に対して,化学療法は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨1
摘出術後に化学療法を行わないことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
二期的摘出を前提とした化学療法を行うことを提案する。
- CQ5-2
- 3 歳未満症例に対して,化学療法は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
乳幼児に対する放射線治療による晩期合併症を軽減するために,放射線治療時期を遅延させる目的で化学療法を先行することを提案する。
解説
1.診断時3 歳以上症例
化学療法の生存への寄与について直接比較した報告がなく,化学療法の効果に関する情報は非常に限定的である1-5)。一定数以上(20 例以上)の症例を前方視的に収集した報告は4 編しかなく1-4),うち3 編は化学療法を含む治療全体での評価であり,これまでの報告と比べて生存率の向上は得られなかったとしている1-3)。残りの1 編は摘出術後に腫瘍が残存した例で腫瘍の縮小を期待して化学療法を行い,その後,二期的手術で全摘を目指し,その後局所放射線治療を行うという試験である4)。本試験では,摘出術後腫瘍残存例でも化学療法で腫瘍縮小が得られ,二期的手術で全摘することで,初回手術で全摘された症例に匹敵する成績が得られたと報告されている。腫瘍縮小効果については,放射線治療前に化学療法が行われ,奏効が記載されているのは上記の文献のうち2 編の試験であるが,完全および部分奏効が50~60%の症例で認められている3,4)。このように,化学療法で腫瘍が縮小する一群が存在する。効果のあった化学療法はシクロホスファミド(CPA)またはイホスファミド(IFM),エトポシド(VP-16),ビンクリスチン(VCR)併用レジメンまたはこれらにシスプラチン(CDDP)を追加したものである。しかし,腫瘍に対する縮小効果は二期的手術の介入がなければ最終的な生存期間の延長に繋がっておらず,化学療法の有無を直接比較した臨床成績が報告されていない現時点では,化学療法が生存期間延長に直接寄与するかについては明確ではない。
2.診断時3 歳未満症例
乳幼児期の放射線治療への脳の脆弱性を考慮して,放射線治療を回避または遅延させる目的で摘出術後化学療法の有用性についての検討が行われてきた6-13)。しかし,3 歳以上を対象とした上述の試験同様,これまで直接比較する試験が行われていないため,その有用性については明確とは言い難く,これまでのところ,化学療法の実施によって放射線治療を不要とする,または,その時期を3 歳以降まで遅らせることができるかについては,相反する報告がみられる。これには化学療法レジメンの違いなどが影響している可能性がある。化学療法への奏効について記載のある4 編のうち,3 編では30%程度の奏効が報告されており6-8),その中のひとつではテント上発症例の方が奏効した割合が高いと述べている6)。その他の報告のうち,UKCCSG(英国小児がんグループ)/SIOP(欧州小児がんグループ)で行われた試験では施行された化学療法の強度が強い方が予後良好であったとしているほか9),POG(米国小児がんグループ)の強度の異なる2 種類の化学療法レジメンの比較試験では,強度の高いレジメンによる生存期間延長への寄与はなかったものの,2 年無イベント生存率は有意に良好であった10)。なお,これらの試験での放射線治療の適応は,3 歳到達時,化学療法終了時の腫瘍残存例,再発時などさまざまであるが,摘出術後,化学療法を先行させ,一定期間は放射線治療を行わない点は共通している。一方,化学療法の副作用としてPOG の試験では3%程度の化学療法による死亡例が発生し,またUKCCSG/SIOP のレジメンでも死亡例はないものの全例でCTCAE グレード4 の血液毒性が観察されている。
このように,一定以上の強度を有する化学療法には上衣腫に対し抗腫瘍効果があると考えられる。しかし,3 歳以上での報告同様,生存期間延長への寄与は明確ではなく,現時点では,一定期間放射線治療の開始を遅らせるあるいは再発の時期を遅らせる可能性が示唆されるに止まる。したがって,晩期放射線合併症の観点から,化学療法の毒性を理解した上で,放射線治療を摘出術後直ちには行わない場合の選択肢とはなり得る。
3.根拠
1)化学療法の有無による違いの検討
AIEOP(イタリア小児血液がんグループ)のコホート研究では,多分割放射線治療に加え,摘出術後腫瘍残存例(17 例)にのみ,摘出術後化学療法(VCR,CPA,VP-16)を行ったが,化学療法を行わなかった全摘例(46 例)と比べ,無増悪生存率,全生存率とも有意に不良であり,化学療法は予後不良である腫瘍残存例の治療成績を向上させることはできなかった。化学療法関連死亡はなかった3)。また,単一施設での後方視的調査でも摘出術後化学療法[CDDP,VCR,VP-16,CPA,カルボプラチン(CBDCA)]を行った群(17 例)と,化学療法なし群(21 例)では,化学療法群で無増悪生存率が低い傾向が認められた5)。
一方,3 歳以上を対象として腫瘍縮小を得た後に二期的手術で全摘を目指す目的で,摘出術後残存腫瘍のある例にのみ放射線治療前化学療法(VCR,VP-16,CDDP,CPA)を実施した米国小児がんグループ(COG)のコホート研究がある4)。摘出術後腫瘍残存化学療法実施41 例と,全摘出43 例(補助療法は放射線治療のみ)の5 年無増悪生存率,全生存率ともそれぞれ約50%と70%と,一般的には腫瘍残存例の方が予後不良にもかかわらず差がなかった。しかし,化学療法の恩恵を受けたのは,化学療法で腫瘍縮小が得られ二期的手術で90%以上の腫瘍摘出が可能であった例に限られた。
このように,化学療法が直接生存に寄与していることを示す情報はなく,化学療法の役割は,残存腫瘍の全摘を可能とするために,残存腫瘍を縮小させることに留まり,あくまで二期的摘出を前提とした場合のみに考慮してよい。なお,化学療法奏効率は50%程度であり,COG のコホートでは化学療法関連死は2.4%であった4)。
2)化学療法の内容・投与法についての検討
これまで化学療法についてのランダム化比較試験は3 編あるが,化学療法の有無ではなくレジメンの比較を目的とするものである。うち1 編は放射線治療を併用した上での化学療法レジメンの比較で,VCR,CCNU,プレドニゾロン群(14 例)と,8-drug in-1 レジメン(18 例)を比較した。5 年無増悪生存率,全生存率ともに差はなかった。化学療法死が1 例に認められている1)。
他の2 編は3 歳未満の小児悪性脳腫瘍を対象とした非照射での化学療法レジメンの比較であり,その中に含まれる上衣腫のサブ解析である。CCG では摘出術後寛解導入化学療法としての,レジメンA(VCR,CDDP,CPA,VP-16)(35 例)とレジメンB(VCR,CBDCA,IFM,VP-16)(39 例)に74 例を割り付けたが,奏効率,無増悪生存率に差はなかった7)。また,POG の試験では化学療法(CPA,VCR,CDDP,VP-16)の用量の違いの比較であったが,1.8 倍へ投与量を増やすことで無増悪生存率は改善したが(p=0.0062),全生存率は改善しなかった。WHO grade Ⅲのみを対象とすると,1.8 倍投与+放射線治療群で全生存率が良く,標準投与量(放射線の有無にかかわらず)や放射線なし(化学療法の量にかかわらず)より優れていた10)。
ランダム化比較試験ではないが,3 歳未満上衣腫に対する非照射での化学療法を実施したUKCCSG/SIOP の試験がある。化学療法は約1 年間繰り返すが,実際に投与された抗がん剤の用量と予後との関係を後方視的に検討したところ,用量が多いほど治療成績は良好であった9)。
以上のように,化学療法の有用性が明らかではない状況での化学療法レジメンの検討であるが,4 編中,3 歳未満を対象とした2 編では予後と抗がん剤の用量とに弱いながらも関係がみられた。これらの試験では,化学療法関連死亡が0~10%で観察された。
3)自家造血幹細胞移植併用大量化学療法に関する報告
WHO grade Ⅲのみ,テント上下発症例を対象とした研究がある。摘出術後29 例に寛解導入療法(CDDP,VCR,VP-16,CPA,メトトレキサート:MTX),地固め療法(CBDCA,ThioTEPA,VP-16)を施行,放射線は3 歳以上の後頭蓋例のすべてとテント上の残存例,3 歳未満(35 カ月以下)の残存例に併用した。5 年無増悪生存率が12%,5 年全生存率が38%であり,過去の報告と比べ明らかな予後改善・延命効果はなく,逆に化学療法関連死が10.3%で認められた8)。
4)化学療法と放射線治療の順に関する報告
3 歳以上のWHO grade Ⅲ,テント上下例を対象とした報告がある。1990 年まではIFM,VP-16,MTX,CDDP,シタラビン,1991 年以降はCDDP,CCNU,VCR を使用し,放射線前化学療法2 コース先行の40 例と放射線後化学療法15 例を検討した。3 年無増悪生存率はともに60%台と差はなかった2)。
5)テント上下で化学療法の有効性の違いを記述した報告
WHO grade ⅡとⅢを対象としたコホート研究がある。摘出術後残存腫瘍19 例に対しCDDP,VP-16,CPA,MTX,テモゾロミド(TMZ),CBDCA を自家造血細胞移植併用で使用した。テント上では全8 例で完全奏効が得られ,再発は1 例で3 年全生存率は100%であったが,後頭蓋窩では完全奏効が11 例中4 例,再発が8 例で3 年全生存率は73%と低かった。以上より,後頭蓋窩では放射線治療が必要であると結論している。対象者に化学療法死はなく,一過性の副作用のみを(発生率記載なし)認めた6)。
6)乳幼児例での化学療法による放射線治療実施時期遅延に関する報告
乳幼児例(3~4 歳以下)で脳の脆弱性による放射線晩期合併症について,化学療法を先行させることで,摘出術後放射線治療を遅延または回避できないかを検証した試験が複数存在する。
その中で,最も症例数の多いものとして,3 歳以下(47 カ月以下)のWHO grade ⅡとⅢ,テント上下の89 例を対象とし,摘出術後VP-16,CBDCA,MTX,CPA,CDDP を含む化学療法を約1 年間実施,進行時のみに放射線治療を行った試験(UKCCSG/SIOP)では,転移のない80 例の5 年間累積非照射率42%,5 年無イベント生存率と全生存率はそれぞれ41.8%と63.4%,放射線治療実施年齢中央値3.6 歳であった。また,全摘例とそれ以外の例とで生存率の差はなかった。以上より,化学療法により照射時期の遅延は可能と結論している。化学療法関連死亡は観察されなかった9)。
この他にも小規模ながら主なものとして8 件の報告がある。多くは放射線治療は化学療法終了時の腫瘍残存例または進行時としており,3~4 年無イベント生存率0~30%,全生存率50%前後である6-8,10-13)。これらの試験に含まれる予後良好であるテント上発症例,全摘例,WHO grade Ⅱ例の割合には大きな差はないが,用いられている化学療法はさまざまである。前述のPOG,UKCCSG/SIOP の試験では化学療法の強度が成績に影響することを示唆している9-11)。
- 注意:
- 我が国では上衣腫に適応のある薬剤はないが,ビンクリスチン,シスプラチン,エトポシド,チオテパなどは適応症として小児悪性固形腫瘍がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((Ependymoma[mh:noexp]OR Ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])AND(Brain Neoplasms[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR intracranial*[tiab]OR ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa[tiab]))AND(“drug therapy”[sh]OR “Antineoplastic Agents/therapeutic use”[mh]OR “Antineoplastic Agents”[PA]))AND(“Adolescent”[mh]OR “Adult”[mh:NoExp]OR “Young Adult”[mh]OR “Child”[mh]OR “Infant”[mh]))AND((“2017/01/01”[Date-Publication]:“2019/12/31”[Date-Publication])))AND((English[Language])OR(Japanese[Language])))NOT(Case Reports[Publication Type])
以上の検索式より,一次スクリーニングとして293 文献を抽出し,24 文献の二次スクリーニングを行った後,13 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ5 では13 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
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- Massimino M, Gandola L, Giangaspero F, S et al;AIEOP Pediatric Neuro-Oncology Group. Hyperfractionated radiotherapy and chemotherapy for childhood ependymoma:final results of the first prospective AIEOP(Associazione Italiana di Ematologia-Oncologia Pediatrica)study. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2004;58(5):1336-45.[PMID:15050308]
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- 6)
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- Strother DR, Lafay-Cousin L, Boyett JM, et al. Benefit from prolonged dose-intensive chemotherapy for infants with malignant brain tumors is restricted to patients with ependymoma:a report of the Pediatric Oncology Group randomized controlled trial 9233/34. Neuro Oncol. 2014;16(3):457-65.[PMID:24335695]
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課題4:再発時の治療
- CQ6
- 再発時の適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨1
再手術:再発時に再摘出術を行うことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
放射線治療:再発時に再照射を行うことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨3
化学療法:再発時に化学療法は行わないことを提案する。
解説
25 歳以下の再発上衣腫117 例の予後に関するシステマティックレビューが報告されている。総じて,初回再発からの無増悪生存期間は6.7 カ月,再発からの生存期間は11.2 カ月と予後不良であった。その内訳は,再発後の全生存期間は,テント上と後頭蓋窩で,それぞれ8.3,20.1 カ月であった。再発時の治療別の診断後からの全生存期間は手術24.2 カ月,放射線治療29.2 カ月,化学療法19.3 カ月であった。また,年齢別では3 歳以下31.0 カ月,3 歳以上17.5 カ月であった1)。再発時の治療は,経過観察,手術,放射線治療,化学療法単独もしくはこれらの併用が選択され得る2)。本CQ の注意点として,照射未施行症例は除外されている点に注意されたい。照射未施行の症例の再発時には,照射前の残存腫瘍として考えるべきであり,照射以外に手術摘出も考慮する必要がある。
1.再手術
再発上衣腫に対する再手術は無益とは言えない。再発時に再手術のみを行ったエビデンスレベルの高い報告は限られた。再発後の再手術された17 例中,全摘出を達成された12 例の5 年生存割合が58%3)であり,再発腫瘍に対して再摘出が行われた57 例のメタ解析4)では全摘出群と部分摘出群の5 年生存割合は,それぞれ44%と23%であった。しかし,機能温存のために初回手術で全摘出が不可能であったならば,再手術も困難である5)。したがって,QOL を維持・向上できるかどうか,適応を検討の上,症例を選択する6)。
2.放射線治療
再発時の再照射に関しては,症例背景が不揃いで不十分な期間の観察研究しかない制限があり,エビデンスレベルの高い報告は限られる。再発上衣腫に対する再照射は否定されないが,適応については放射線治療医と十分に検討した方がよい7)。
268 例の小児再発上衣腫に対する再照射について11 編の論文をまとめた総説によると,再発後は摘出術と放射線治療が望ましく,もし初回放射線後12 カ月未満の再発であれば30.6 Gy/17 fr,12 カ月以上経過しているようであれば36 Gy/20 fr が望ましいと述べている8)。最近,全脳脊髄照射(CSI)の有用性も報告されるようになってきた。遠隔転移のある症例9 例においては,2 年無増悪割合12.5%,2 年生存割合62.5%であった。例え局所再発であってもCSI(1.8 Gy 分割で23.4~36 Gy の全脊髄照射に,腫瘍床に54~59.4 Gy を照射)を行った結果,5 年無増悪生存割合が83.3%に対して,局所照射のそれは15.2%に留まったと報告されている9)。
CSI の毒性についても十分考慮しなければならない。Bouffet らは,再発上衣腫に対する54 Gy の最大線量による局所もしくは59.4 Gy のCSI の毒性と予後の評価を行った。113 例中再発した47 例のうち再照射した18 例(年齢0.8~8.9 歳,テント上4 例,後頭蓋窩14 例)を評価した。初回手術全摘・亜全摘17 例,部分摘出1 例で,初発時放射線治療単独群11例,放射線+化学療法群7 例であった。その結果,追跡期間中央値2.1 年間(0.7~5.8 年)で,3 年生存割合は再照射なし群(7%±6%)と比較して,再照射あり群で81%±12%(p<0.0001)と有意に高く,また再照射後から再発までの期間は最初の再発までの期間より有意に長かった。一方で,高次脳機能評価を行った7 例全例で,高次脳機能評価項目すべてにおいて低下を認めた。平均3.7 年間で18 例中2 例が内分泌異常を呈し,1 例が特別支援教育を要した。
一方で,定位的放射線手術(SRS)による腫瘍の局所制御の有用性の報告もある10)。Stauder らは,再発頭蓋内上衣腫に対するSRS の腫瘍制御率および合併症率を明らかにすることを目的とし,26 例(49 病変;テント上31 病変,後頭蓋窩18 病変)におけるOS, PFS, LCR,放射線脳壊死の発生率を後方視的に評価した。各病変に対するmedian marginal dose は18Gy(12~24 Gy)であった。生存期間中央値はSRS 後5.5 年,無増悪生存期間中央値は14.7 カ月(2.9 カ月~11.2 年)であった。1 年生存割合96%,3 年生存割合69%であった。7 例(27%)に遠隔腫瘍再発を認めた。照射範囲によるものの2 例(8%)に症候性放射線壊死を認めた。SRS は比較的短期の局所制御率が良好であり,短期的には生存率を上げる可能性がある11)。12 例17 病変に対してSRS を実施し,3 年間で68%において良好な局所コントロールが得られたという2000 年のStafford らの報告を裏付けた12)。以上より,比較的短期での観察結果しかなく,また放射線壊死を伴う例があるが,SRS は考慮してもよい。
3.化学療法
1995 年以前は,テント上下の再発悪性小児脳腫瘍を対象に化学療法の有効性が検討されていた。症例数は少ないが,その一部に再発上衣腫が含まれており,ここでは,再発上衣腫の結果を抜粋する。1984 年にPediatric Oncology Group(POG)より,ビンクリスチン+プロカルバジン+プレドニンとナイトロジェンマスタードを上乗せしたレジメンを比較検討したランダム化比較試験の結果が報告された。評価を受けた再発上衣腫10 例のうち,CR,PR はそれぞれ1 例であった。また,ナイトロジェンマスタードを上乗せした群では高い毒性を認めた13)。
その後,白金製剤もしくはアルキル化剤を基軸とする化学療法が試された。5 例の再発上衣腫に対してビンクリスチン,シスプラチンもしくはカルボプラチン,CCNU,エトポシド,ブレオマイシン併用による治療の症例報告が行われたが,CR+PR は1 例のみで,PD が3 例であった14)。また,2005 年にイタリアのグループから報告された成人再発上衣腫28 例での後方視的研究では,白金製剤の有無で有効性が比較されたが,シスプラチンを含むレジメンでも全生存期間,無増悪生存期間に有意差はみられなかった15)。アルキル化剤においては,1993 年にFrench Society of Pediatric Oncology(SFOP)がイホスファミド単剤の第Ⅱ相臨床試験の結果を報告し,8 例中CR 0 例,PR 1 例,OR+SD 5 例,PD 2 例であった16)。チオテパに関連する検討としては,高用量ブスルファン(150 mg/m2/day)+チオテパ(150 mg/m2/day)+自家骨髄移植に腫瘍部照射(45~55 Gy)を行った報告がある。8 例中3 例のCR 症例が認められたものの,1 例の治療合併症死亡例があり,消化管と粘膜障害などの毒性も多く認められ,治療効果に比し毒性が高かった17)。テモゾロミドについては,再手術,再照射を行っても再増悪した18 例の成人再発上衣腫に対して投与された。22%の奏効割合(CR+PR)が報告されている18)が,過去に白金製剤などを含む化学療法が行われた例には有効性を認めなかった19)。2007 年にChildren’s Oncology Group(COG)が第Ⅱ相試験を行い,12 例中SD 5 例,他7 例は7 コースまでにPD になった20)。
その他の薬剤としては,エトポシドの効果検討がなされ,観察後7 カ月の段階で,2 例でPR,4 例でSD であった21)。
以上より,薬剤の有効性が乏しいことから,現状で推奨できるレジメンはない。少数例で化学療法に反応することがあるが,頻度は低く,また効果があっても生存期間の延長につながることは少ないため,化学療法は行わないことを提案する。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((“Ependymoma”[mh:NoExp]OR ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab]))AND((“Brain Neoplasms”[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR Intracranial*[tiab]OR Ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa*[tiab])))AND((“Recurrence”[mh]OR Recurren*[tiab]OR Neoplasm, Residual[mh]OR Neoplasm Recurrence, Local[mh]OR relaps*[tiab]OR Regrowth[tiab]))))AND((“Infant”[mh]OR “Child”[mh]OR “Adolescent”[mh]OR “Young Adult”[mh]OR “Adult”[mh:NoExp]))))AND 1900/1/1:2016/12/31[dp])))AND((Japanese[la]OR English[la]))))NOT case reports[pt]
以上の検索式より,一次スクリーニングとして250 文献を抽出し,194 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ6 では21 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
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6 章 髄芽腫 medulloblastoma
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
橋本 直哉
京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科
総括
委員
白土 博樹
北海道大学医学部病態情報学講座 放射線医学分野/放射線科
放射線治療
協力委員
溝脇 尚志
京都大学大学院医学研究科 放射線腫瘍学・画像応用治療学/放射線科
放射線治療
委員
若林 俊彦
名古屋共立病院 集束超音波治療センター/脳神経外科
外科的治療
協力委員
坂本 博昭
大阪市立総合医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
協力委員
高橋 義信
京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
協力委員
原 純一
京大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児血液腫瘍科/小児科
予後予測因子・化学療法
委員
寺島 慶太
国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科/小児科
化学療法
協力委員
山本 哲哉
横浜市立大学医学研究科 脳神経外科/脳神経外科
再発治療
委員
中村 英夫
久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
再発治療
協力委員
五味 玲
自治医科大学 とちぎ子ども医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科
晩期障害
委員
隈部 俊宏
北里大学医学部 脳神経外科性/脳神経外科
他のガイドラインとの整合
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
1
外科的治療
橋本 直哉
高橋 義信
小川 隆弘(京都府立医科大学 脳神経外科)
寺川 雄三(北海道大野記念病院 脳神経外科)
2
神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
原 純一
寺島 慶太
山崎 夏維(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
奥廣 有喜(名古屋大学大学院 医学系研究科 分子細胞免疫学分野)
3
放射線治療
溝脇 尚志
白土 博樹
宇藤 恵(京都大学医学部附属病院 放射線治療科)
森 崇(北海道大学病院 放射線治療科)
出水 祐介(兵庫県立粒子線医療センター 附属神戸陽子線センター 放射線治療科)
河村 淳史(兵庫県立こども病院 脳神経外科)
4
陽子線治療
5
化学療法
寺島 慶太
原 純一
山崎 夏維(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
奥廣 有喜(名古屋大学大学院 医学系研究科 分子細胞免疫学分野)
木村 由衣(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科)
吉村 聡(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科)
津村 悠介(名古屋大学医学部附属病院 小児科)
6
再発時の治療
山本 哲哉
中村 英夫
井原 哲(東京都立小児総合医療センター 脳神経外科)
広川 大輔(神奈川県立こども医療センター 脳神経外科)
三宅 勇平(横浜市立大学附属病院 脳神経外科)
牧野 敬史(熊本市立熊本市民病院 脳神経外科)
黒田 順一郎(熊本大学 脳神経外科)
7
治療による晩期障害
五味 玲
五味 玲(自治医科大学 とちぎ子ども医療センター 小児脳神経外科)
室井 愛(筑波大学 脳神経外科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
髄芽腫に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,髄芽腫患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された13 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにガイドライン作成ワーキンググループがシステマティックレビュー(SR)チームの責任者となり,責任者よりSR 委員を選出してもらい,各課題2~5 名で編成した。髄芽腫が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2016 年2 月,髄芽腫ガイドライン第1 回会議を開催し,ガイドライン作成ワーキンググループが発足。課題をどのようにするか討議し各課題のリーダーを決定した。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2017 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014 に準拠した方法により行った。稀少疾患であるためエビデンスが少なく,Minds に準拠した方法の適用が困難な場面に遭遇したが,論議しながら完成に向かった。
ガイドライン作成ワーキンググループ会議:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会の開催に合わせて,ガイドライン作成ワーキンググループ会議を行った。その後,2020 年5 月からは月1 回のガイドライン作成ワーキンググループ(オンライン)会議を計15 回行った。2021 年5 月11 日のガイドライン作成ワーキンググループ会議で各CQ における推奨グレードの決定を行った。
推奨作成とその過程:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,メールおよびオンライン会議で討議した。推奨グレードに関しては髄芽腫ガイドライン作成ワーキンググループ委員およびSR チームの24 名にて投票を行い,ガイドライン作成ワーキンググループ内における推奨グレードをまず決定し,最終的に2022 年1 月14 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会にて統括委員の投票により推奨を承認した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年9 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
主に小児の小脳虫部ないしは脳幹背側に好発する胎児性の神経上皮性腫瘍である。病理学的に,核異型と核分裂像に富む未分化な小型円形の腫瘍細胞が高密度に配列して構成される1)。①発生部を中心に局所に浸潤性に発育し,②全中枢神経系に髄液腔内播種を早期にきたし,③腫瘍の進行とともに血行性に遠隔転移を示す。腫瘍名の由来は,中枢神経系の発生において未分化神経管上皮細胞が神経細胞とグリア細胞へ分化する前の髄芽細胞medulloblast を概念上想定し,その腫瘍型を髄芽腫(medulloblastoma)と命名したところにある(Bailey and Cushing)2)。現在では発生起源は胎生期の上・下髄帆にある外顆粒細胞や上衣下基質細胞とされるが結論には至っていない。小脳虫部の下半部から第4 脳室に発育・浸潤することが最も多く,小脳半球に主座を置くこともある。
1)疫学
WHO 脳腫瘍分類20161)によると,胎児性脳腫瘍のうち最も頻度が高く,小児脳腫瘍では星細胞系腫瘍に次いで多く,25%程度の頻度と記載されている。小児100 万人あたりの年間発生数は6 例程度である。また,髄芽腫を含む胎児性腫瘍の年齢調整罹患率は,人口10 万人あたり米国0.24 人,日本0.14 人と米国で罹患率が高い3)。
我が国の脳腫瘍全国集計調査報告 第14 版(2005-2008)4)によれば,原発性脳腫瘍の1.0%を占め,14 歳以下の小児期脳腫瘍の10.1%を占める。小児期脳腫瘍のうちでは膠芽腫を含む星細胞系腫瘍(23.3%),胚細胞性腫瘍(14.7%)についで3 番目の頻度である。我が国では年間約100~120 人が新規に診断されていると推定される。好発年齢は14 歳以下が全体の78%程度を占めており,特に2~9 歳に好発する。男性にやや多い。成人発生は国内では約15%で,その約80%は21~40 歳に発生する。小児例と比較すると,小脳半球に発生することが多い。
2)臨床症状と画像所見
頭蓋内圧亢進症状が約半数と最も多く,頭痛,局所巣症状,脳神経麻痺などを呈する4)。第4 脳室を占拠し閉塞性水頭症をきたし,頭痛のほかに不機嫌,嘔気,嘔吐,意識障害を契機に診断される。体幹や四肢の失調も起こりやすい。
CT では境界が明瞭な等~高吸収域を示し,一様に強い造影効果を示すことが多いが,低吸収で造影効果を示さないもの,囊胞様変化を含むもの,石灰化を含む場合などもある。MRI ではT1 強調画像で低~等信号,T2 強調画像では等~高信号域を示すことが多く,T1 低信号・T2 高信号の小囊胞が散在し,全体として不均一な様相を呈する5-7)。ガドリニウム(Gd)造影では中等度から高度に造影増強されることが多いが,軽度造影されるものからほとんど造影されないものも10%程度存在する。造影増強効果は不均一(heterogenous)なことが多い。どの断面でも境界明瞭,ほぼ円形に描出される。診断時に大脳,脊髄に播種が認められる症例もある。
3)病理組織分類と分子生物学的知見(WHO 脳腫瘍分類2016)
2016 年のWHO 脳腫瘍分類1)では,古典的な髄芽腫(classic type)のほかに,3 種の亜型①desmoplastic/nodular medulloblastoma,②medulloblastoma with extensive nodularity,③large cell/anaplastic medulloblastoma が記述されている(表1)。
また,近年では遺伝子変異に基づいた分子生物学的4 型分類が提唱され8,9),予後との相関性の観点から2016 年のWHO 分類にも取り入れられた。これは当初WNT 遺伝子変異群,sonic hedgehog(SHH)遺伝子変異群,group 3,group 4 とされたが,group 3 と4 の種別が不十分であるとの判断から,WHO 分類ではまずWNT 群,SHH 群,non-WNT/non-SHH 群の3 群に分け,SHH 群はTP53 遺伝子変異の有無にて予後が大きく異なるため,さらに2 群に分けることとしている(表1)。
乳幼児(<3 歳),小児(3~17 歳)および成人(18 歳以上)という年齢区分に留意しつつ概略を述べると,WNT 群は80%が小児期症例であり,90%以上がclassic type を示す。予後が大変良好であり,10 年生存率はほぼ100%に近い。
SHH 群は,ほかに比較して男女差がなく全年齢層に均等に分布,病理組織ではclassic type とdesmoplastic/nodular type が多い。予後はWNT 群に次いで良好であるが,小児期症例では50%にTP53 変異を認め,そのうちの半数以上でgermline でもTP53 変異があり,これらの予後は不良である。
Group 3 は男性が女性のほぼ2 倍であり,70%が小児期に発生する。明らかに予後不良で5 年生存率は50~60%である。ほとんどがclassic type であるが,large cell/anaplastic medulloblastoma の比率や診断時の転移/播種率が最も高い。
Group 4 は最も頻度が高く(40%前後),病理組織ではclassic type がほとんどである。男性がほぼ3 倍,小児期に85%が発生し,5 年生存率は70%程度で,乳幼児期の治療成績が悪い。
今後はこれらの知見10,11)に基づいた臨床試験が行われ,外科的治療・放射線治療・化学療法の有効性が分子亜型ごとに示され変化していく可能性がある。本ガイドラインで取り上げた臨床試験や症例報告の多くは,上記の分子生物学的知見は考慮されたものでないことに注意する必要がある。
4)治療と予後
本腫瘍の治療は集学的治療(手術摘出と化学放射線療法)が原則であり,予後は治療法の発展により改善し,5 年生存率は50~70%となっている3,4)。すでに述べたように,乳幼児(<3 歳),小児(3~17 歳)および成人(18 歳以上)で各々の病態が異なり,組織型,分子生物学的分類,手術摘出度,播種などが予後に相関があると考えられているため,これらの特徴を踏まえて治療計画が立案される。臨床的には,年齢,播種の有無,摘出量からの臨床リスク分類が用いられる12-16)。すなわち,①診断時の年齢が3 歳未満,②術後のMRI における残存腫瘍面積が1.5 cm2以上,③髄腔内播種所見あり,により高リスク群(high-risk group)と標準リスク群(average-risk group)に大別する。標準リスク群は①~③のいずれにも該当しないグループ,高リスク群は①~③のいずれかに該当するグループとなる。さらに①の3 歳未満の症例では当面の放射線治療(RT)を回避する治療計画が立てられる(表2)。
5)診療の全体的な流れ
術前診断では,後頭蓋窩発生の上衣腫や毛様細胞性星細胞腫,atypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)との鑑別が難しい例がある。小脳半球に発生した場合,他のグリオーマ系腫瘍との鑑別が問題となる。
術前診断後に,合併する水頭症に対する緊急の処置が必要な例がある。
摘出後の治療方針に関しては,臨床リスク分類に応じて化学療法と放射線治療を組み合わせた治療を行う。このうち,3 歳未満群では放射線治療を極力回避し,化学療法を選択する。
❖ 文献
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- 8)
- Northcott PA, Jones DT, Kool M, et al. Medulloblastomics:the end of the beginning. Nat Rev Cancer. 2012;12(12):818-34.[PMID:23175120]
- 9)
- Taylor MD, Northcott PA, Korshunov A, et al. Molecular subgroups of medulloblastoma:the current consensus. Acta Neuropathol. 2012;123(4):465-72.[PMID:22134537]
- 10)
- Kool M, Korshunov A, Remke M, et al. Molecular subgroups of medulloblastoma:an international meta-analysis of transcriptome, genetic aberrations, and clinical data of WNT, SHH, Group 3, and Group 4 medulloblastomas. Acta Neuropathol. 2012;123(4):473-84.[PMID:22358457]
- 11)
- Gajjar A, Bowers DC, Karajannis MA, et al. Pediatric Brain Tumors:Innovative Genomic Information Is Transforming the Diagnostic and Clinical Landscape. J Clin Oncol. 2015;33(27):2986-98.[PMID:26304884]
- 12)
- Chang CH, Housepian EM, Herbert C Jr. An operative staging system and a megavoltage radiotherapeutic technic for cerebellar medulloblastomas. Radiology. 1969;93(6):1351-9.[PMID:4983156]
- 13)
- Albright AL, Wisoff JH, Zeltzer PM, et al. Effects of medulloblastoma resections on outcome in children:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1996;38(2):265-71.[PMID:8869053]
- 14)
- Zeltzer PM, Boyett JM, Finlay JL, et al. Metastasis stage, adjuvant treatment, and residual tumor are prognostic factors for medulloblastoma in children:conclusions from the Children’s Cancer Group 921 randomized phase Ⅲ study. J Clin Oncol. 1999;17(3):832-45.[PMID:10071274]
- 15)
- Packer RJ, Sutton LN, Elterman R, et al. Outcome for children with medulloblastoma treated with radiation and cisplatin, CCNU, and vincristine chemotherapy. J Neurosurg. 1994;81(5):690-8.[PMID:7931615]
- 16)
- Packer RJ, Boyett JM, Janss AJ, et al. Growth hormone replacement therapy in children with medulloblastoma:use and effect on tumor control. J Clin Oncol. 2001;19(2):480-7.[PMID:11208842]
2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:髄芽腫の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後,QOL の改善
- (3)トピック:生命予後,機能予後,QOL の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍(15 歳未満および16~29 歳のadolescent and young adult:AYA 世代を含めた年齢)を診療する医療者や施設,患者・家族
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本では既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)臨床的課題
課題1:手術摘出
課題2:神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
課題3:放射線治療
課題4:陽子線治療
課題5:化学療法
課題6:再発時の治療
課題7:治療による晩期障害
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
- a)髄芽腫
- b)厚生省から示された小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満および16~29 歳のAYA 世代を含めた年齢)
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:2 カ月
文献の選出:3 カ月
エビデンス総体の評価と統合:4 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:なし
- 個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
- ②データベース
- 個別研究論文:PubMed
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- 2018 年12 月まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合は量的統合を実施。
課題1:外科的治療
- CQ1
- 肉眼的全摘出は生命予後を改善するか?
- 推奨度2C
- 推奨
髄芽腫患者に対して全摘出を行うことを提案する。
解説
髄芽腫に対する手術摘出度あるいは残存腫瘍量と予後の関係を前方視的試験によって解析した研究はない。1996 年にAlbright ら1)が,術者が評価した腫瘍摘出度は予後に相関しないものの,術後残存腫瘍の最大面積が1.5 cm2以上あると,髄液播種のみられない3 歳以上の症例ではPFS が短くなることを報告した。その後Zeltzer ら2)は術後残存腫瘍の最大面積1.5 cm2以上を予後因子に加えることを提唱し,髄液播種,年齢が3 歳以上,術後腫瘍残存量(最大断面面積1.5 cm2以上)を予後不良因子として,標準リスク群と高リスク群の臨床リスク分類に従って髄芽腫の治療を行うことが現在の標準となっている(Albright とZeltzer の論文はOS の検討がされていないことから,システマティックレビューからは除外された)。手術摘出度が真の予後因子であるのかについての検討は,症例集積あるいは後方視的コホート研究で検討するほかない。
2000 年にJenkin ら3)は,単一施設の連続173 例の後方視的検討で,2 回の手術を要した症例も含めた最終的な摘出率において,全摘出77 例,亜全摘(摘出率90~99%)50 例,部分摘出(摘出率50~89%)30 例,部分摘出(摘出率50%未満)16 例の5 年生存率はそれぞれ63%,50%,41%,17%と報告した。この摘出度は術者が決定しており,全摘出群は非全摘出群と比較して有意に(p=0.002)OS を延長したが,摘出後に標準的な放射線治療が遂行可能であった場合には,全摘出は有意な予後因子とはならなかった。したがって全摘出により合併症を起こす可能性が高い場合は,術後の合併症によって放射線治療を省略するよりはむしろ摘出を制限することも考慮すべきであると結論づけた。
2005 年のSFOP4)の多施設共同研究では,術後3 日以内の画像検査で確認された残存・転移のない群(R0M0)47 例について検討された。この報告では手術記録で摘出度を決定しており,残存腫瘍はないと記載されていれば全摘出とし,癒着が強く切除できなかったと記載があれば術後の画像検査で残存腫瘍を認めなくても全摘出とはせずに亜全摘出と定義した。亜全摘出群34 例の5 年PFS は0%であったのに対して全摘出群13 例では41%と有意に延長した(p=0.0065)ものの,OS では有意差はなかったとした。このように,摘出度を画像検査だけではなく,手術記録に基づいてのリスク階層化を導入している点で結果の解釈には注意が必要である。
2006 年のUrberuaga ら5)の単一施設79 例の検討では,術後画像検査で残存腫瘍がないことを全摘出と定義し,単変量解析でOS,PFS ともに全摘出が予後良好因子であり,多変量解析でも予後良好因子(HR=3.17,95% CI:1.64-6.15,p<0.01)であったと報告した。
一方で,2008 年のAkyüz ら6)の単一施設の203 例の後方視的検討では,手術摘出度は生存期間に影響しなかったと報告した。
このように,手術的摘出度の予後に対する影響は報告によってばらつきがみられる。しかし,これまでの報告全体としては,全摘出した場合にはOS もPFS も延長する傾向があることは確かである。ただし,手術によって神経症状を悪化させる危険性が高い場合には,無理に全摘出を行うことは控え,術後速やかに放射線治療を行うことが重要である。
2016 年のThompson ら7)の787 例の後方視的国際共同研究では,分子的亜型分類が組み込まれた。全摘出の予後因子としての効果は,多変量解析に分子的亜型分類を含めると大きく減衰した。全摘出は,術後腫瘍残存量が1.5 cm2以上と比較してPFS は延長した(HR=1.45,95% CI:1.07-1.95,p=0.02)が,全摘出と術後腫瘍残存量1.5 cm2未満ではOS,PFS ともに有意差はみられなかった(OS/HR=1.05,95% CI:0.71-1.53,p=0.82,PFS/HR=1.14,95% CI:0.75-1.72,p=0.55)。WNT,SHH,group 3 では,全摘出してもOS に影響がなかった。術後腫瘍残存量1.5 cm2未満に対する全摘出の絶対的利点はないため,神経学的悪化が予測される場合には,小さな残存腫瘍に対する手術摘出は勧められないというこれまでの方針を支持するものである。
分子的亜型分類を加味したエビデンスの構築が希求されており,分子亜型それぞれにおいて手術摘出度が生命予後にどのような影響を及ぼすかについては,現在も重要な臨床課題である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((“Epidemiologic Study Characteristics”[Mesh])OR “ Statistics as Topic[”Mesh]))OR “clinical study”[PT]))AND((((((((((medulloblastoma[mh])OR medulloblastoma*[tiab])OR((melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR((childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR medulloblastoma*[tiab])OR((desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR((adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab]))))AND((surgery[SH]OR surgery[TIAB]OR surgical[TIAB]OR “surgical procedures, operative”[MH]OR(surgical[TIAB]AND procedure*[TIAB]AND operative[TIAB])OR operative[TIAB]OR operation[TIAB]OR resect*[TIAB])))AND((prognosis[MH]OR prognos*[TIAB]OR “disease progression”[MH]OR(disease*[TIAB]AND progress*[TIAB])OR(disease*[TIAB]AND exacerbat*[TIAB])OR mortality[MH]OR mortal*[TIAB]OR(case*[TIAB]AND fatality[TIAB]AND rate*[TIAB])OR(death[TIAB]AND rate*[TIAB])OR “survival analysis”[MH]OR(surviv*[TIAB]AND(analysis[TIAB]OR analyses[TIAB]))OR “neoplastic processes”[MH]OR(neoplastic[TIAB]AND process*[TIAB]))))))AND 1900/1/1:2018/12/31[DP]
以上の検索式により662 文献を抽出し,一次スクリーニングで69 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に17 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。システマティックレビュー後のさらなる検討から7 文献を採用し,作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Albright AL, Wisoff JH, Zeltzer PM, et al. Effects of medulloblastoma resections on outcome in children:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1996;38(2):265-71.[PMID:8869053]
- 2)
- Zeltzer PM, Boyett JM, Finlay JL, et al. Metastasis stage, adjuvant treatment, and residual tumor are prognostic factors for medulloblastoma in children:conclusions from the Children’s Cancer Group 921 randomized phase Ⅲ study. J Clin Oncol. 1999;17(3):832-45.[PMID:10071274]
- 3)
- Jenkin D, Shabanah MA, Shail EA, et al. Prognostic factors for medulloblastoma.Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;47(3):573-84.[PMID:10837938]
- 4)
- Grill J, Sainte-Rose C, Jouvet A, et al.;French Society of Paediatric Oncology. Treatment of medulloblastoma with postoperative chemotherapy alone:an SFOP prospective trial in young children. Lancet Oncol. 2005;6(8):573-80.[PMID:16054568]
- 5)
- Urberuaga A, Navajas A, Burgos J, et al. A review of clinical and histological features of Spanish paediatric medulloblastomas during the last 21 years. Childs Nerv Syst. 2006;22(5):466-74.[PMID:16283195]
- 6)
- Akyüz C, Varan A, Küpeli S, et al. Medulloblastoma in children:a 32-year experience from a single institution. J Neurooncol. 2008;90(1):99-103.[PMID:18566744]
- 7)
- Thompson EM, Hielscher T, Bouffet E, et al. Prognostic value of medulloblastoma extent of resection after accounting for molecular subgroup:a retrospective integrated clinical and molecular analysis. Lancet Oncol. 2016;17(4):484-95.[PMID:26976201]
課題2:神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
- CQ2
- 手術後の予後因子は何か?
- 推奨度1B
- 推奨
予後因子として,組織型(予後良好な順でdesmoplastic nodular/extensive nodularity, classic, large cell/anaplastic),転移の有無(転移有が予後不良),遺伝子プロファイルで分類される亜型(WNT 型が予後良好)を用いることを推奨する。
解説
予後を予測する因子は実施する治療によって変わる。例えば,治療が摘出のみであれば,当然転移の有無と残存した腫瘍の大きさがOS に大きな影響を与える。また,放射線治療の導入,さらに有効な化学療法の採用によって予後因子は変化している。最新の治療を受けたコホートでは,後述の4 型の亜群によっては転移の有無すら予後を反映しない可能性が最近示されている1-3)。このように,リスク因子は解析対象としたコホートの治療によって変化するものであるので,本CQ では,これらの違いがあってもなおかつ検出される因子を採用することとした。
治療の層別化に用いる予後因子としては,治療反応性などではなく,診断後直ちに情報が得られる臨床情報(年齢,性別,転移の有無,病理組織型,術後腫瘍残存の有無など)が有用である。しかし,これらの因子は交絡が存在するため,多変量解析による結果が最も重要視される。ほぼすべての研究で予後因子として多変量解析で抽出されているのが,転移の有無,および組織型(classic, desmoplastic nodular/extensive nodularity, large cell/anaplastic)であった2,4-12)。一方,性別,年齢は解析されたほとんどの研究で予後因子とはならなかった1,2,6,8,11,13)。術後の腫瘍残存については,多変量解析が行われた9 編の解析のうち2 編で予後不良因子として抽出され7,13),1 編では単変量解析では有意であったものの,多変量解析では有意差は消失している11)。また,乳幼児に限定した解析では,単変量解析のみが行われた3 編の報告では予後不良因子として抽出されているが14-16),多変量解析を行った4 編の報告では3 編で予後因子として否定されている4-6)。以上のことから,現時点では独立した強力な予後因子として組織型,転移の有無を挙げることができる。組織型では,desmoplastic nodular/extensive nodularity が最も予後が良く,classic, large cell/anaplastic と続く。転移の有無では転移無が予後良好である。
2011 年に,遺伝子発現プロファイルに基づき,髄芽腫は少なくともWNT 型,SHH 型,non-WNT/non-SHH 型に分類されることが明らかとなり,2016 年のWHO 脳腫瘍分類でも採用されている2)。後者はさらにGroup 3 とGroup 4 に分類されることもある。これまでのところ,過去に集積された症例を世界中から集めた後方視的なコホートを用いた解析のデータにとどまるが,一貫してWNT 型が最も予後良好である。残りの2 群もしくは3 群間の予後の差はさほど顕著なものではない5)。しかし,基本的にWNT 型が存在しない乳幼児例に限定しての解析では,単変量解析ながら3 編すべての解析でSHH 型が予後良好であることが示されている3,16,17)。SHH 型の多くは上記に予後良好因子として記載したdesmoplastic nodular/extensive nodularity の組織型を有するため,多変量解析での検討が必要である。上記の3 型(または4 型)分類とは別個に,MYC 遺伝子の増幅が独立した予後不良因子であることが報告されている。しかし,その後4 型分類と組み合わせた解析ではGroup 3 以外では明らかではないことが示されている18)。
上述のように,髄芽腫は少なくとも3 種類以上の異なった疾患(亜群)からなる集合体であることから,現在はそれぞれの亜群の中での予後因子が提唱されているものの3,19,20),現時点では十分検証されたとまでは言えないため,今回各亜群別の予後因子の推奨は時期尚早と判断した。以上のことから,独立した強力な予後因子として,組織型,転移の有無,遺伝子プロファイルによる分類(WNT 型とそれ以外)を推奨する。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])))AND((((((“Combined Modality Therapy”[Mesh:NoExp]OR Chemoradiotherapy[mh]OR Chemotherapy, Adjuvant[mh]OR Radiotherapy, Adjuvant[mh])))OR((Adjuvant[tiab]AND(Chemoradiotherapy[tiab]OR Chemoradiotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab]OR chemothrapy[tiab]OR chemotherapies[tiab]OR radiotherapy[tiab]OR radiotherapies[tiab]OR “drug therapy”[tiab]OR “drug therapies”[tiab]))))OR(((Multimodal[tiab]AND(Treatment[tiab]OR treatments[tiab]OR therapy[tiab]OR therapies[tiab]))OR(“Combined Modality”[tiab]AND(therapy[tiab]OR therapies[tiab]))OR((Concurrent[tiab]OR Concomitant[tiab]OR Synchronous[tiab])AND(Chemoradiotherapy[tiab]OR Chemoradiotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab])))))OR((therapy planning[tiab]OR therapeutic planning[tiab]OR therapeutic design[tiab]OR treatment design[tiab]OR plan[tiab]OR planning[tiab])))))AND((“Epidemiologic Study Characteristics”[MH]OR “Statistics as Topic”[Mesh]OR “Clinical Study”[Publication Type]))))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により556 文献を抽出し,一次スクリーニングで37 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に20 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Fernandez-Teijeiro A, Betensky RA, Sturla LM, et al. Combining gene expression profiles and clinical parameters for risk stratification in medulloblastomas. J Clin Oncol. 2004;22(6):994-8.[PMID:14970184]
- 2)
- Northcott PA, Korshunov A, Witt H, et al. Medulloblastoma comprises four distinct molecular variants. J Clin Oncol. 2011;29(11):1408-14.[PMID:20823417]
- 3)
- Kool M, Korshunov A, Remke M, et al. Molecular subgroups of medulloblastoma:an international meta-analysis of transcriptome, genetic aberrations, and clinical data of WNT, SHH, Group 3, and Group 4 medulloblastomas. Acta Neuropathol. 2012;123(4):473-84.[PMID:22358457]
- 4)
- Rutkowski S, Bode U, Deinlein F, et al. Treatment of early childhood medulloblastoma by postoperative chemotherapy alone. N Engl J Med. 2005;352(10):978-86.[PMID:15758008]
- 5)
- Rutkowski S, Gerber NU, von Hoff K, et al.; German Pediatric Brain Tumor Study Group. Treatment of early childhood medulloblastoma by postoperative chemotherapy and deferred radiotherapy. Neuro Oncol. 2009;11(2):201-10.[PMID:18818397]
- 6)
- Ashley DM, Merchant TE, Strother D, et al. Induction chemotherapy and conformal radiation therapy for very young children with nonmetastatic medulloblastoma:Children’s Oncology Group study P9934. J Clin Oncol. 2012;30(26):3181-6.[PMID:22851568]
- 7)
- Rutkowski S, von Hoff K, Emser A, et al. Survival and prognostic factors of early childhood medulloblastoma:an international meta-analysis. J Clin Oncol. 2010;28(33):4961-8.[PMID:20940197]
- 8)
- Lamont JM, McManamy CS, Pearson AD, et al. Combined histopathological and molecular cytogenetic stratification of medulloblastoma patients. Clin Cancer Res. 2004;10(16):5482-93.[PMID:15328187]
- 9)
- Ellison DW, Kocak M, Dalton J, et al. Definition of disease-risk stratification groups in childhood medulloblastoma using combined clinical, pathologic, and molecular variables. J Clin Oncol. 2011;29(11):1400-7.[PMID:20921458]
- 10)
- von Hoff K, Hinkes B, Gerber NU, et al. Long-term outcome and clinical prognostic factors in children with medulloblastoma treated in the prospective randomised multicentre trial HIT’91. Eur J Cancer. 2009;45(7):1209-17.[PMID:19250820]
- 11)
- Michiels EM, Heikens J, Jansen MJ, et al. Are clinical parameters valuable prognostic factors in childhood primitive neuroectodermal tumors? A multivariate analysis of 105 cases. Radiother Oncol. 2000;54(3):229-38.[PMID:10738081]
- 12)
- Ryan SL, Schwalbe EC, Cole M, et al. MYC family amplification and clinical risk-factors interact to predict an extremely poor prognosis in childhood medulloblastoma. Acta Neuropathol. 2012;123(4):501-13.[PMID:22139329]
- 13)
- Lannering B, Rutkowski S, Doz F, et al. Hyperfractionated versus conventional radiotherapy followed by chemotherapy in standard-risk medulloblastoma:results from the randomized multicenter HIT-SIOP PNET 4 trial. J Clin Oncol. 2012;30(26):3187-93.[PMID:22851561]
- 14)
- von Bueren AO, von Hoff K, Pietsch T, et al. Treatment of young children with localized medulloblastoma by chemotherapy alone:results of the prospective, multicenter trial HIT 2000 confirming the prognostic impact of histology. Neuro Oncol. 2011;13(6):669-79.[PMID:21636711]
- 15)
- Grill J, Sainte-Rose C, Jouvet A, et al.;French Society of Paediatric Oncology. Treatment of medulloblastoma with postoperative chemotherapy alone:an SFOP prospective trial in young children. Lancet Oncol. 2005;6(8):573-80.[PMID:16054568]
- 16)
- Lafay-Cousin L, Smith A, Chi SN, et al. Clinical, Pathological, and Molecular Characterization of Infant Medulloblastomas Treated with Sequential High-Dose Chemotherapy. Pediatr Blood Cancer. 2016;63(9):1527-34.[PMID:27145464]
- 17)
- Robinson GW, Rudneva VA, Buchhalter I, et al. Risk-adapted therapy for young children with medulloblastoma(SJYC07):therapeutic and molecular outcomes from a multicentre, phase 2 trial. Lancet Oncol. 2018;19(6):768-84.[PMID:29778738]
- 18)
- Shih DJH, Northcott PA, Remke M, et al. Cytogenetic prognostication within medulloblastoma subgroups. J Clin Oncol. 2014;32(9):886-96.[PMID:24493713]
- 19)
- Schwalbe EC, Lindsey JC, Nakjang S, et al. Novel molecular subgroups for clinical classification and outcome prediction in childhood medulloblastoma:a cohort study. Lancet Oncol. 2017;18(7):958-71.[PMID:28545823]
- 20)
- Sharma T, Schwalbe EC, Williamson D, et al. Second-generation molecular subgrouping of medulloblastoma:an international meta-analysis of Group 3 and Group 4 subtypes. Acta Neuropathol. 2019;138(2):309-26.[PMID:31076851]
課題3:放射線治療
- CQ3
- 全脳脊髄照射において,標準線量からの線量低減または線量増加は有用か?
- 推奨度1D
- 推奨1
全脳脊髄照射において,標準リスク群に対して標準線量からの線量低減を行わないことを推奨する。
- 推奨度1D
- 推奨2
全脳脊髄照射において,高リスク群に対して標準線量からの線量増加を行わないことを推奨する。
解説
3 歳以上の髄芽腫に対する集学的治療において全脳脊髄照射(CSI)は必要不可欠であり,標準治療の一環として,CSI と後頭蓋窩または腫瘍床へのブースト照射(総線量54 Gy 程度)が通常分割照射法を用いて実施されている。現在,標準的なCSI 線量として,標準リスク群では24 Gy 程度(23.4 Gy/13 分割が頻用されている),高リスク群では36 Gy 程度(35.2~36 Gy/20~22 分割)が用いられている(CQ5,CQ6 参照)。標準リスク群に対する晩期障害軽減を目的としたCSI 線量低減,また高リスク群に対する治療成績改善を目的としたCSI 線量増加が試みられているが,現時点におけるそれらの意義や位置づけは確立していない。
1.標準リスク群に対する標準線量(24 Gy 程度)からのCSI 線量低減について
評価対象となった22 編1-22)中,標準線量未満のCSI が実施された試験は2 編のみであったが,そのうち1 編は18 Gy のCSI を実施された症例が全88 例中11 例(うち陽子線治療が3 例)と少なく1),残りの1 編は18 GyE(陽子線治療)のCSI 実施症例が含まれていたものの,18 GyE のCSI が実施された症例数は不明であった7)。なお,急性期有害事象,成長障害に関しては標準線量未満のCSI を実施した論文は認められなかった。
一般論としてCSI 線量低減により急性期および晩期障害のリスク低減が期待されるものの,上述したように標準リスク群に対するCSI 線量低減の有用性を検証するランダム化比較試験もしくは傾向スコア・マッチング研究は存在せず,併用化学療法の有無や種類・タイミングに深刻なばらつきを認めたため,CSI 線量低減による生存率および急性期・晩期障害に対する影響の評価は極めて困難であった。また化学療法に関しては,我が国において使用できないlomustine(CCNU)が含まれるレジメンが散見された。これらのバイアスリスク,非直接性を考慮した結果エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。
上記システマティックレビューの結果から,CSI 線量低減が生存率および急性期・晩期障害に及ぼす影響を評価することは困難であった。またCSI 線量低減により急性期・晩期障害のリスク低減が得られる可能性は期待されるものの,生存率の維持が可能と判断する根拠に乏しく,線量低減に伴う生存率低下のリスクが危惧される。そのため,現状ではCSIにおいて,標準リスク群に対して標準線量からの線量低減を行わないことを提案することが妥当と判断した。
なお,システマティックレビュー対象外の文献ではあるが,2021 年6 月にACNS033123)が出版されたため,重要文献として本ガイドラインに記載する。ACNS0331 は標準リスク群に対してブースト照射として後頭蓋照射を実施する群と,腫瘍床照射を実施する群にランダム化割付し検証した第Ⅲ相試験である。さらに本試験では3~7 歳の226 例に対してCSI 線量を23.4 Gy 群と18 Gy 群にランダム化割付し,primary endpoint である無イベント生存割合(EFS)を検証した。その結果,認知機能は23.4 Gy 群において有意に低下したものの,5 年時点でのEFS は23.4 Gy 群では82.9%,18 Gy 群では71.4%であり,18 Gy 群は23.4 Gy 群と比較してEFS が有意に短かった(HR=1.07, 80% CI:2.10, p=0.028)。また5 年時点での全生存割合(OS)は23.4 Gy 群では85.6%,18 Gy 群では77.5%であり,18 Gy 群は23.4 Gy 群と比較してOS が有意に短く(p=0.049),今回の推奨を支持する結果であった。
2.高リスク群に対する標準線量(36 Gy 程度)からのCSI 線量増加について
二次スクリーニング後の35 文献のうち,対象が高リスク群かつ設定されたアウトカムに関する記載のある文献は11 編であった。11 編中4 編(POG963124),HIT200025),POG903126),SJMG-9612)において標準線量よりも高いCSI 線量が用いられていた。生存率では9 編4,7,12,24-29),急性期有害事象では7 編12,24-27,29,30),二次がんは4 編4,18,26,29),精神・認知機能障害では1 編7),聴力障害では4 編7,25,27,30),内分泌機能障害では1 編7)が評価対象となり,成長障害に関しては該当する文献を認めなかった。CSI 線量増加により二次がんの発生率は同等かつ生存率を改善する可能性が示唆されたが,上述したように高リスク群に対する線量増加群vs. 標準線量群の治療成績を検証するランダム化比較試験もしくは傾向スコア・マッチング研究が存在せず,高リスクである定義や根拠,化学療法の有無・種類・タイミングに深刻なばらつきを認めたため,線量増加による生存率および急性期・晩期障害の評価は極めて困難であった。また,化学療法に関しては我が国において使用できないCCNU が含まれるレジメンが散見された。そのため,すべてのアウトカムにおいて,深刻なバイアスリスク・非直接性が存在し,エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。
上記システマティックレビューの結果から,線量増加に伴い益(生存率の改善)を得られる可能性は否定できないが,同時に害(晩期障害の増加)も危惧された。小児がんである髄芽腫患者において,治癒が得られた際にQOL の低下・社会生活の妨げとなる害(晩期障害の増加)を考慮する必要性は極めて高い。エビデンスレベルが非常に弱い現状においては,益よりも害を考慮し,CSI において,高リスク群に対して標準線量からの線量増加を行わないことを提案することが妥当と判断した。
- 注意:
- lomustine(CCNU)は国内未承認
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((medulloblastoma)AND radiotherapy))AND(Comparative Study[ptyp]OR Clinical Trial[ptyp])AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により241 文献を抽出し,一次スクリーニングで106 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に35 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Clinical Outcomes Among Children With Standard-Risk Medulloblastoma Treated With Proton and Photon Radiation Therapy:A Comparison of Disease Control and Overall Survival. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;94(1):133-8.[PMID:26700707]
- 2)
- Carrie C, Muracciole X, Gomez F, et al.;French Society of Pediatric Oncology. Conformal radiotherapy, reduced boost volume, hyperfractionated radiotherapy, and online quality control in standard-risk medulloblastoma without chemotherapy:results of the French M-SFOP 98 protocol. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2005;63(3):711-6.[PMID:15927408]
- 3)
- Lannering B, Rutkowski S, Doz F, et al. Hyperfractionated versus conventional radiotherapy followed by chemotherapy in standard-risk medulloblastoma:results from the randomized multicenter HIT-SIOP PNET 4 trial. J Clin Oncol. 2012;30(26):3187-93.[PMID:22851561]
- 4)
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- 5)
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- 6)
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- 7)
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- 17)
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- 18)
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- 19)
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- 20)
- Ris MD, Packer R, Goldwein J, et al. Intellectual outcome after reduced-dose radiation therapy plus adjuvant chemotherapy for medulloblastoma:a Children’s Cancer Group study. J Clin Oncol. 2001;19(15):3470-6.[PMID:11481352]
- 21)
- Mulhern RK, Kepner JL, Thomas PR, et al. Neuropsychologic functioning of survivors of childhood medulloblastoma randomized to receive conventional or reduced-dose craniospinal irradiation:a Pediatric Oncology Group study. J Clin Oncol. 1998;16(5):1723-8.[PMID:9586884]
- 22)
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- 23)
- Michalski JM, Janss AJ, Vezina LG, et al. Children’s Oncology Group Phase Ⅲ Trial of Reduced-Dose and Reduced-Volume Radiotherapy With Chemotherapy for Newly Diagnosed Average-Risk Medulloblastoma. J Clin Oncol. 2021:Jco2002730 in press.
- 24)
- Esbenshade AJ, Kocak M, Hershon L, et al. A Phase Ⅱ feasibility study of oral etoposide given concurrently with radiotherapy followed by dose intensive adjuvant chemotherapy for children with newly diagnosed high-risk medulloblastoma(protocol POG 9631):A report from the Children’s Oncology Group. Pediatr Blood Cancer. 2017;64(6):10.[PMID:28000417]
- 25)
- von Bueren AO, Kortmann RD, von Hoff K, et al. Treatment of Children and Adolescents With Metastatic Medulloblastoma and Prognostic Relevance of Clinical and Biologic Parameters. J Clin Oncol. 2016;34(34):4151-60.[PMID:27863192]
- 26)
- Tarbell NJ, Friedman H, Polkinghorn WR, et al. High-risk medulloblastoma:a pediatric oncology group randomized trial of chemotherapy before or after radiation therapy(POG 9031). J Clin Oncol. 2013;31(23):2936-41.[PMID:23857975]
- 27)
- Zeltzer PM, Boyett JM, Finlay JL, et al. Metastasis stage, adjuvant treatment, and residual tumor are prognostic factors for medulloblastoma in children:conclusions from the Children’s Cancer Group 921 randomized phase Ⅲ study. J Clin Oncol. 1999;17(3):832-45.[PMID:10071274]
- 28)
- Taylor RE, Bailey CC, Robinson KJ, et al. Outcome for patients with metastatic(M2-3)medulloblastoma treated with SIOP/UKCCSG PNET-3 chemotherapy. Eur J Cancer. 2005;41(5):727-34.[PMID:15763649]
- 29)
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- 30)
- Kortmann RD, Kühl J, Timmermann B, et al. Postoperative neoadjuvant chemotherapy before radiotherapy as compared to immediate radiotherapy followed by maintenance chemotherapy in the treatment of medulloblastoma in childhood:results of the German prospective randomized trial HIT’91. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;46(2):269-79.[PMID:10661332]
課題4:陽子線治療
- CQ4
- 放射線治療として陽子線治療は推奨されるか?
- 推奨度2D
- 推奨
放射線治療として陽子線治療を行うことを条件付きで提案する。
解説
小児がんに対する陽子線治療が保険適用となったものの,現状ではアクセスが限られることが問題である。このような中,広く普及し従来標準的に用いられてきたX 線治療に比し,陽子線治療の優位性を明らかにすることは重要である。そこで本CQ が設定された。
選択された12 文献には,ランダム化比較試験をはじめとするエビデンスレベルの高い報告はなく,定性的システマティックレビューを実施した。
各アウトカムの評価対象となった研究は,多くても4 編,ほとんどが観察研究(前方視的または後方視的コホート研究)であったが,医療費のみモデル解析であった。
評価対象となった研究に基づくエビデンス総体の評価結果は,生存率1-4),脳・脊髄障害5)については,陽子線治療とX 線治療で明らかな差はなく,急性期有害事象6),成長障害7),精神・認知機能障害1,4,8),聴力障害1,4,9),内分泌機能障害1,4,7)については,陽子線治療はX 線治療と比べて軽減できる可能性が示されたが,ほとんどの研究が非直接性・バイアスリスク・不精確さにおいて深刻またはとても深刻と判定されたため,エビデンスの強さは生存率,内分泌機能障害が弱い,それ以外は非常に弱いと判断された。また,医療費10-12)については,陽子線治療はX 線治療と比べて低減できる可能性が示されたが,いずれもモデル解析である上に,モデル計算の根拠となる有害事象軽減のエビデンスの多くが非常に弱く,深刻な非直接性・バイアスリスク・不精確さがあるため,エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。なお,二次がん3,4)については,陽子線治療とX 線治療の優劣は判断困難と考えられた。
放射線治療として陽子線治療を用いて,線量増加等の積極的に治療成績を改善する試みはなく,現在までの報告では治療成績はX 線治療とほぼ同等であり,益(生存率の改善)が得られる可能性は少ない。一方,害(有害事象)を減らせる可能性があるということが示唆されるものの,そのエビデンスの強さは非常に弱い。また,陽子線治療施設数が少ないため,希望しても適切なタイミングでの治療を受けられない可能性がある。陽子線治療装置の導入・運用コストは高額である一方で医療費全体としては減らせる可能性が示唆されるものの,試算の根拠となる有害事象軽減に関するエビデンスの強さは前述のように非常に弱い。また,患者(家族)の医療費負担は発症が20 歳未満であればX 線治療と同じであるが,施設が近隣にない場合は移動や宿泊のコストが発生する。以上を総合的に判断した結果,希望するタイミングで治療を受けられる,施設が近隣にあるといった条件が合致する患者には陽子線治療を提案してもよいと考えた。
よって,本CQ に対する推奨は,「放射線治療として陽子線治療を条件付きで行うことを提案する(2D)」とした。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(proton AND(medulloblastoma OR craniospinal irradiation))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により149 文献を抽出し,一次スクリーニングで35 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に12 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Jimenez RB, Sethi R, Depauw N, et al. Proton radiation therapy for pediatric medulloblastoma and supratentorial primitive neuroectodermal tumors:outcomes for very young children treated with upfront chemotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2013;87(1):120-6.[PMID:23790826]
- 2)
- Sethi RV, Giantsoudi D, Raiford M, et al. Patterns of failure after proton therapy in medulloblastoma;linear energy transfer distributions and relative biological effectiveness associations for relapses. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2014;88(3):655-63.[PMID:24521681]
- 3)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Clinical Outcomes Among Children With Standard-Risk Medulloblastoma Treated With Proton and Photon Radiation Therapy:A Comparison of Disease Control and Overall Survival. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;94(1):133-8.[PMID:26700707]
- 4)
- Yock TI, Yeap BY, Ebb DH, et al. Long-term toxic effects of proton radiotherapy for paediatric medulloblastoma:a phase 2 single-arm study. Lancet Oncol. 2016;17(3):287-98. [PMID:26830377]
- 5)
- Giantsoudi D, Sethi RV, Yeap BY, et al. Incidence of CNS Injury for a Cohort of 111 Patients Treated With Proton Therapy for Medulloblastoma:LET and RBE Associations for Areas of Injury. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;95(1):287-96.[PMID:26691786]
- 6)
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- 7)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Endocrine outcomes with proton and photon radiotherapy for standard risk medulloblastoma. Neuro Oncol. 2016;18(6):881-7.[PMID:26688075]
- 8)
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- 9)
- Moeller BJ, Chintagumpala M, Philip JJ, et al. Low early ototoxicity rates for pediatric medulloblastoma patients treated with proton radiotherapy. Radiat Oncol. 2011;6:58.[PMID:21635776]
- 10)
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- 11)
- Vega RBM, Kim J, Bussière M, et al. Cost effectiveness of proton therapy compared with photon therapy in the management of pediatric medulloblastoma. Cancer. 2013;11(9 24):4299-307.[PMID:24105630]
- 12)
- Hirano E, Fuji H, Onoe T, et al. Cost-effectiveness analysis of cochlear dose reduction by proton beam therapy for medulloblastoma in childhood. J Radiat Res. 2014;55(2):320-7.[PMID:24187330]
課題5:化学療法
- CQ5
- 3 歳以上の標準リスク群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度1B
- 推奨
シスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした多剤併用化学療法と,24 Gy 程度の全脳脊髄照射と総線量54 Gy 程度の局所照射を組み合わせた通常分割放射線治療による,術後化学放射線治療を推奨する。
解説
本疾患は放射線治療および化学療法が有効な治療であることが既知の事実であり,現在の3 歳以上標準リスク群の髄芽腫治療においては術後に両者を行うのが一般的になっている。一方,その急性期および晩期の合併症は,生命の危機を及ぼすことがあり,かつ長期生存者のQOL を著しく低下させることが知られている。したがって,益と害のバランスを考慮した術後治療の推奨は重要な臨床課題であると考える。
髄芽腫の治療の黎明期において,腫瘍摘出術のみでは髄芽腫は不治の病であったが,術後放射線治療,特に全脳脊髄照射(CSI)の導入後,髄芽腫は治癒を期待できる疾患となった。しかしながら,発達中の小児の脳,特に大脳に高線量の放射線治療を行った結果,生存者に重度の発達障害を起こすことが判明した。脳への照射を軽減するためにCSI の線量を低減する試みがランダム化比較試験として行われたが,CSI 線量36 Gy 群と23.4 Gy 群の再発率が7.9% vs. 28.3%(p<0.01)と単純なCSI 減量は再発率を有意に上昇させることが示された1)。
その後,放射線治療に化学療法を追加することで,生存率の向上を目指す比較臨床試験が複数行われた。米国と欧州で約36 Gy のCSI にビンクリスチン,lomustine(CCNU)ベースの化学療法を追加する2 つのランダム化比較試験が行われた。米国試験(局所50~55 Gy,CSI を35~40 Gy)では髄芽腫全体では化学療法追加による有意な生存率向上は認めず,転移のない患者群の5 年無イベント生存割合(event-free survival:EFS)は59%であった2)。欧州試験(局所55 Gy,全脳35~45 Gy,全脊髄30~35 Gy)でも化学療法の上乗せ効果は認めず,転移のない群の5 年生存率は64.6%であった3)。
その後,米国ではPacker らによって開発が行われてきたビンクリスチンとCCNU の併用にシスプラチンを加えたレジメンの検証が行われた。この試験ではCSI 線量を23.4 Gy に減量したのにも関わらず,5 年EFS 79.7%という非常に良好な生存率が得られた4)。このことは,CSI の線量を多くするよりも,シスプラチンを含む有効な化学療法を併用することの方が予後の向上に重要であることを示している。引き続き行われたCOG A9961 試験では,このレジメンのCCNU をシクロホスファミドに置換したレジメンの優越性がRCT で検証されたが,優越性は示すことができず,感染症などの重篤な有害事象が多いという結果であった。そのため,現在に至るまでCCNU を含むPacker レジメンと23.4 Gy CSI に局所ブーストを行う方法が世界的に標準治療となっている5)。続いて米国St.Jude 小児病院から,23.4 Gy のCSI と局所ブースト照射の後に,化学療法の間隔を開けないために自己末梢血幹細胞救援を併用したシスプラチン,大量シクロホスファミド,ビンクリスチンの3 剤による化学療法を4 回繰り返す方法を行い,5 年EFS 83%と優れた結果が報告され,一定量以上のシクロホスファミドの有効性が示された6)。
一方,欧州ではSIOP と英国小児がん研究グループ(United Kingdom Children’s Cancer Study Group:UKCCSG)の共同研究でシクロホスファミド,カルボプラチン,ビンクリスチン,エトポシドによる多剤併用化学療法を35 Gy CSI とブースト照射の前後に行った(サンドイッチ療法)群と,放射線治療単独で治療した群を比較する臨床試験が行われた。OS では有意差を認めなかったが,5 年EFS では74.2% vs. 59.8%(p=0.04)と有意に化学療法群の生存率が高かった7)。
以上のことから,標準リスクでは効果の弱い化学療法では放射線治療への上乗せ効果は見られないが,CCNU とビンクリスチンにシスプラチンを加えて用いることでCSI の線量を36 Gy から23.4 Gy に軽減することが可能となった。なお,lomustine(CCNU)が未承認のわが国ではCOG A9961 試験でシクロホスファミドに置換したレジメンでもCCNU レジメンと近似したEFS が得られたことから,シクロホスファミドに置換したレジメンが実地臨床では広く使われている。
放射線治療と化学療法の実施の順序については,欧米で術後に放射線治療前に1~2コースの化学療法を組み入れるいわゆるサンドイッチ療法の検討が行われた。欧州では,プロカルバジン,ビンクリスチン,メトトレキサート多剤併用化学療法8)あるいはシスプラチン,イホスファミド,大量メトトレキサート,エトポシド,シタラビン(AraC)による多剤併用化学療法9,10)を放射線治療の前に挟み込むことの有用性の検討がランダム化比較試験で行われたが,ともに有用性を示すことができなかった。また,8 in 1 レジメンという8 種類の抗がん剤を1 日で投与する多剤併用化学療法を放射線治療前に行い標準リスク群でCSI 軽減(全脳27 Gy,全脊髄30~36 Gy)を目指す単アーム試験が行われた。7 年EFS 62%と従来と匹敵する結果が得られたが,放射線治療先行との比較は行われていない11)。以上の結果より,標準リスク群髄芽腫の術後治療は,放射線治療のあとに化学療法を行うことが一般的になった。サンドイッチ療法は1 コースの化学療法の後に放射線治療を行うために,化学療法がビンクリスチン投与を除いて約2 カ月中断するという問題がある。
欧州では,過分割照射36 Gy CSI と通常分割照射の23.4 Gy CSI を無作為割り付けし,シスプラチン,CCNU,ビンクリスチンを投与した国際的治療グループによるランダム化比較試験を行ったが,5 年EFS 78% vs. 77%と,過分割照射の優越性は示せなかった12)。フランスで行われたCSI 36 Gy(36 分割)と68 Gy(68 分割)の過分割照射のみで後治療を行った試験で,3 年EFS 81%という生存率は興味深いが,放射線治療単独の本戦略の評価には長期成績の報告を待たなければならないであろう13)。
髄芽腫の治療選択において,副作用および治療後のQOL は非常に重要な要素である。本CQ を検討する際に評価した複数の論文で,急性合併症が報告されているが,放射線治療や化学療法の種類によって急性毒性の差を認めていない。また,晩期合併症を治療レジメンごとに比較した論文はないが,放射線量が少ないレジメンの方が二次がん,認知機能低下,内分泌機能などの影響が少ないと理論的に推論することは妥当である。
これらのアウトカムのエビデンスより,シスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンによる多剤併用化学療法に,24 Gy 程度の通常分割全脳脊髄照射と局所追加照射を組み合わせた放射線治療による術後化学放射線治療を推奨する。
- 注意:
- lomustine(CCNU):国内未承認
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シタラビン(cytarabine):髄芽腫に対しては保険適応外
8 in 1 レジメン:メチルプレドニゾロン,ビンクリスチン,lomustine,プロカルバジン,ハイドロキシウレア(髄芽腫には保険適応外),シスプラチン,シタラビン,シクロホスファミドの8 種類の薬剤を1 日に投与する化学療法
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radio-therapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。CQ5 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの7 文献,EFS アウトカムの13 文献,有害事象・QOL アウトカムの13 文献を採用した。
❖ 文献
- 1)
- Deutsch M, Thomas PR, Krischer J, et al. Results of a prospective randomized trial comparing standard dose neuraxis irradiation(3,600 cGy/20)with reduced neuraxis irradiation(2,340 cGy/13)in patients with low-stage medulloblastoma. A Combined Children’s Cancer Group-Pediatric Oncology Group Study. Pediatr Neurosurg. 1996;24(4):167-76;discussion 76-7.[PMID:8873158]
- 2)
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- 6)
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- CQ6
- 3 歳以上の高リスク群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
36 Gy 程度の全脳脊髄照射と54 Gy 程度の局所照射を術後に行い,その後にシスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした治療強度を増した多剤併用化学療法を複数コース行うことを提案する。
解説
髄芽腫の標準リスク群のCQ5 で解説したように,全脳脊髄照射(CSI)の導入後,髄芽腫は治癒を期待できる疾患となった。しかしながら,残存腫瘍または播種を伴う高リスク群では,標準リスク群に比べ生存率が低く,化学療法の併用を行っても満足のいく治療成績を得るには至っていない。米国と欧州で放射線治療にビンクリスチン,lomustine(CCNU)ベースの化学療法を追加する2 つのランダム化比較試験が行われた。
米国試験(局所50~55 Gy,CSI を35~40 Gy)では腫瘍が大きく転移もあった群のサブ解析において,放射線治療単独群では5 年EFS が0%であったのに対し,化学療法併用群で46%と有意に高い5 年EFS を得た(p=0.006)1)。一方,欧州試験(局所55 Gy,全脳35~45 Gy,全脊髄30~35 Gy)のランダム化比較試験においても,中間解析で腫瘍が大きかった,あるいは亜全摘であった群において5 年EFS の差が両群間で有意に高く,化学療法の追加効果が顕著であった。そのため欧州試験は途中で打ち切られ,術後残存腫瘍がある群では長期追跡後の生存率も最終的に有意に高かった2)。ただし,この試験では転移については評価されていない。欧州で,プロカルバジン,ビンクリスチン,メトトレキサート多剤併用化学療法を放射線治療の前に追加するランダム化比較試験が行われたが,高リスク群において,化学療法追加群と追加しない群の5 年EFS に有意な差は認めなかった(56% vs. 53%,p=0.7)3)。また8 in 1 レジメンを放射線治療前に行うCSI 軽減(全脳27 Gy 全脊髄30~36 Gy)アーム試験が行われたが,高リスク群で7 年EFS 45%と改善は認めなかった4)。
その後,欧米で化学療法を強化する試みが行われ,米国のCCG921 試験では,術後に放射線治療(CSI 36 Gy+局所線量54 Gy)と照射中のビンクリスチン投与を行い,その後8 in 1 とビンクリスチン/CCNU/プレドニゾロン(VCP)の2 つの化学療法レジメンを比較するRCT が行われた。結果は,高リスク群では,VCP 治療の方が8 in 1 レジメンより5 年PFS を有意に延長した(63±5% vs. 45±5%,p=0.006)5)。一方,米国のPOG9031 では高リスク群に通常分割の放射線治療を強化し(CSI 40 Gy+局所線量54.4 Gy),シスプラチン/エトポシド/シクロホスファミド/ビンクリスチンによる化学療法を放射線治療の前後に行うサンドイッチ療法と通常の放射線治療後に行う方法に割り付けるランダム化比較試験が行われた。化学療法スケジュールによるEFS とOS 差は認めなかったが,5 年EFS 68.1±3%,5 年OS 74.6±3%と比較的良好な生存率を得た6)。米国St.Jude 小児病院から化学療法の間隔を開けないために自己末梢血幹細胞救援を併用したシスプラチン,大量シクロホスファミド,ビンクリスチンの3 剤による化学療法を4 回繰り返す方法を,36~39.6 Gy のCSI と局所ブーストの後に行い,5 年EFS 70%,5 年OS 70%と高リスク群では最も良好な生存率を示した7)。
一方,ドイツのHIT2000 試験においては,4 歳以上の高リスク群においても,メトトレキサートの脳室内投与の効果を検証している。メトトレキサートは予定量の75%以上投与した症例で予後改善(EFS 61.5% vs. 46.2%,p=0.004)しており,年長児の高リスク群に対するメトトレキサート脳室内投与の有効性を示した8)。
米国COG では,放射線治療中の併用抗がん剤としてビンクリスチンの他に,放射線増感薬としての効果を期待してカルボプラチンを併用する第Ⅰ/Ⅱ相試験が77 例の転移症例を対象に実施された。少量のカルボプラチンをCSI 36 Gy と局所ブースト照射中に30 日間連続投与するもので,照射後にビンクリスチンとシクロホスファミドによる化学療法を実施した。後半の症例では照射後化学療法にシスプラチンを追加した。全体での5 年EFS71%という良好な生存率を得られたが,シスプラチンの追加は予後の向上をもたらさなかった9)。
高リスク群でも術後に放射線治療前後に化学療法を挟み込むサンドイッチ療法の有用性が検証された。ドイツで行われたHIT’91 試験では,放射線治療(CSI 35.2 Gy,局所55.2 Gy)後にいわゆる標準リスク群におけるPacker レジメン(シスプラチン/CCNU/ビンクリスチン)を投与する方法と,シスプラチン/イホスファミド/メトトレキサート/エトポシド/シタラビンによる多剤併用化学療法を放射線治療前後に行う方法とのランダム化比較試験が行われ,その長期フォローアップデータによると,髄液播種を有する群10 年のOS70%/34%(p=0.02),脊髄転移や遠隔転移を有する群の10 年OS 42%/45%(p=0.99)であり,髄液播種を有する症例に限ると放射線治療後にPacker レジメンを投与した群のほうが良好な生存率であった10,11)。欧州ではさらに,SIOP/UKCCSG によるPNET-3 試験が行われたが,同様に放射線治療前に化学療法行うことの有用性は認められなかった12)。
標準リスク群と同様に高リスク群においても,過分割照射の有用性を検討する臨床試験が行われた。米国CCG9931 試験において,化学療法先行後に過分割照射(CSI 40 Gy+局所線量72 Gy)を行ったが,5 年EFS 43%±5%,5 年OS 52%±5%と生存率の改善は認めなかった13)。
以上をまとめると,高リスク群髄芽腫の術後治療において,初期の研究では放射線単独治療であったが,まったく治癒が得られず,その後,化学療法の併用や過分割照射についてさまざまな工夫がなされてきた。しかし,いかなる化学療法を用いてもCSI 36 Gy では5 年EFS は60~70%までにとどまり,CSI の線量の減量にも成功していない。今後は,さらなる分子生物学的リスク細分化によって,治療の強化が有効な群,CSI 減量などの治療軽減を目指す群,新規治療薬を試す群と,層別化・個別化治療を行って,高リスク群の治療開発を続けていかなくてはならない。このように標準治療は定まっていない中で,第Ⅰ/Ⅱ相試験ではあるが,米国COG のカルボプラチンと放射線の併用療法が毒性も考えると有望な治療法とも考えられる。
これらのアウトカムのエビデンスより,3 歳以上の高リスク群髄芽腫の標準的術後治療は,より高い生存率という益を最優先して治療を選択するという論点より,まだ開発途上の状況ではあるが,36 Gy 程度の全脳脊髄照射と54 Gy 程度の局所照射を術後に行い,その後にシスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした多剤併用化学療法を一定の期間での薬剤投与量(dose intensity)を最大化するなど治療強度を増すことを提案する。
- 注意:
- lomustine(CCNU):国内未承認
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シタラビン(cytarabine):髄芽腫に対しては保険適応外
8 in 1 レジメン:メチルプレドニゾロン,ビンクリスチン,lomustine,プロカルバジン,ハイドロキシウレア(髄芽腫には保険適応外),シスプラチン,シタラビン,シクロホスファミドの8 種類の薬剤を1 日に投与する化学療法
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radio-therapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。CQ6 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの9 文献,EFS アウトカムの13 文献,有害事象・QOL アウトカムの10 文献を採用した。
❖ 文献
- 1)
- Evans AE, Jenkin RD, Sposto R, et al. The treatment of medulloblastoma. Results of a prospective randomized trial of radiation therapy with and without CCNU, vincristine, and prednisone. J Neurosurg. 1990;72(4):572-82.[PMID:2319316]
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- von Hoff K, Hinkes B, Gerber NU, et al. Long-term outcome and clinical prognostic factors in children with medulloblastoma treated in the prospective randomised multicentre trial HIT’91. Eur J Cancer. 2009;45(7):1209-17.[PMID:19250820]
- 11)
- Kortmann RD, Kühl J, Timmermann B, et al. Postoperative neoadjuvant chemotherapy before radiotherapy as compared to immediate radiotherapy followed by maintenance chemotherapy in the treatment of medulloblastoma in childhood:results of the German prospective randomized trial HIT’91. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;46(2):269-79.[PMID:10661332]
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- CQ7
- 3 歳未満の群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度2D
- 推奨1
乳幼児の髄芽腫において,転移がなくdesmoplastic nodular/extensive nodularity サブタイプの患者群では,放射線治療を行わず,メトトレキサート(脳室内または髄腔内投与を含む),白金製剤,アルキル化剤,ビンクリスチン,エトポシドを中心とした多剤併用化学療法による術後治療を提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
Desmoplastic nodular/extensive nodularity 以外の組織学的サブタイプおよび転移がある場合は,標準的な後治療は確立されておらず,上記の治療に大量化学療法や局所放射線療法を組み合わせた強化治療を行うことを提案する。
解説
3~4 歳未満の乳幼児の髄芽腫治療において,放射線治療,特に全脳脊髄照射(CSI)の,精神運動発達に及ぼす影響は甚大であり,乳幼児の治療戦略として,CSI は選択肢にはなりにくい。治療選択肢の限界と,腫瘍の持つ治療抵抗性の特性が合わさり,全体として乳幼児の髄芽腫は再発死亡リスクが高いと考えられてきた。しかしながら,病理亜分類および分子生物学的特性から,乳幼児の髄芽腫の中には,放射線治療を行わず,または局所放射線治療のみで,長期生存が可能な一群が存在することが明らかになった。したがって,乳幼児髄芽腫においてもリスク分類を行い,それぞれの群で益と害のバランスを考慮して術後治療の推奨を行う。
1990 年代に米国とフランスで,放射線治療を回避し多剤併用化学療法のみで初期治療を行った臨床試験が行われた。フランスのSFOP では,カルボプラチンおよびプロカルバジン,エトポシドおよびシスプラチン,ビンクリスチン,シクロホスファミドの3 種の化学療法を術後に7 サイクル行う単アーム第Ⅱ相試験が行われた。5 歳未満の79 人が登録され,全体の5 年PFS は残存なし(R0)転移なし(M0)群73%,残存あり(R1)M0 群で41%,残存問わず(Rx)転移あり(M+)群で13%であった1)。また,米国CCG-9921 試験は。3 歳未満のあらゆる悪性脳腫瘍を対象としたランダム化第Ⅱ相試験で,術後に2 つの多剤併用化学療法レジメン,レジメンA:ビンクリスチン,シスプラチン,シクロホスファミド,およびエトポシドの組み合わせ,またはレジメンB:ビンクリスチン,カルボプラチン,イホスファミドおよびエトポシドのいずれかに割り付けられ両群とも5 コースの化学療法が行われた。治療開始前に転移がなく化学療法後に残存腫瘍がなかった患者は放射線治療を行わず治療終了,転移がなく残存があった症例はその時点で生後18カ月以上ならCSI と局所放射線治療,18 カ月未満は局所放射線治療のみを行い治療終了,転移症例はCSI と局所放射線治療を行って治療終了した。髄芽腫92 例の5 年無イベント生存割合(EFS)は32%であった。レジメンA 群とB 群の5 年EFS はそれぞれ37%と26%と有意差は認めなかった2)。
同時期にドイツでは,乳幼児髄芽腫に対して,メトトレキサート脳室内投与を含んだ多剤併用化学療法の単アーム第Ⅱ相臨床試験が行われた(HIT-SKK1992)。43 人の3 歳未満の髄芽腫に,術後カルボプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチン,エトポシドの全身投与に加え,メトトレキサート脳室内投与と大量メトトレキサート療法を加えた9 週間サイクルの化学療法を3 回行った。初期治療で放射線治療は行わなかった。全体の5 年EFS は58%であった。R0M0,R+M0,RxM+群の5 年EFS はそれぞれ,82%,50%,33%であった。既知の転移の有無に加え,乳幼児の髄芽腫の組織学的サブタイプが強力な予後因子であることが本試験で明らかになった。Desmoplastic nodular type とclassic type の5 年EFS はそれぞれ85%と34%と有意差を認め,組織学的サブタイプが独立したリスク因子であった3)。さらに後継レジメンHIT2000 においても同様の結果が確認され,メトトレキサート脳室内投与を予定通り投与できた患者の方が,投与量が少なかった患者よりも予後が良いという結果が報告された4)。メトトレキサート脳室内投与の神経毒性は懸念されるが,HIT2000 で同治療を受けた評価可能な202 例の小児髄芽腫患者中,神経毒性を認めたのは9 例であった4)。
米国COG は,3 歳未満の転移のない乳幼児髄芽腫74 例に対して,化学療法と局所放射線治療を組み合わせる臨床試験(P9934)を行った。シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を4 コース行ったあと,残存腫瘍にはセカンドルック手術を推奨し,局所放射線治療を行い,シクロホスファミド,ビンクリスチン,経口エトポシドによる維持療法を行った。全体の4 年EFS は50%であった。ここでも,desmoplastic nodular type とそれ以外の組織サブタイプでは,4 年EFS がそれぞれ58%,23%と有意差を認めた5)。
国際的な臨床試験Head Start では,乳幼児の悪性脳腫瘍に対して,放射線治療を行わず自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を試みてきた。3 歳未満の転移のない髄芽腫21 例に対して,シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を5 コース行った後,セカンドルック手術を推奨し,チオテパ,カルボプラチン,エトポシドによる自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を行った。全体の5 年EFS は52%であった。R0 とdesmoplastic nodular type は予後良好の傾向を認めた6)。また米国のCCG-99703 パイロット試験では,髄芽腫を含む複数の3 歳未満の乳児脳腫瘍を対象に,シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を3コース行った後,チオテパ,カルボプラチンによる自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を地固め療法として3 コース行う治療法の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験が行われた。チオテパの投与量はさまざまであり,副次的評価項目ではあるが,36 例の髄芽腫の5 年EFS は60%であった。病理中央診断できた32 例中14 例がdesmoplastic/nodular type であり,その5 年EFS は79%であった7)。
米国St. Jude 小児病院と米国と豪州合計6 施設で行われた,3 歳未満の髄芽腫を,M0 のdesmoplastic nodular type を低リスク,M0 のその他の組織型の髄芽腫を中間リスク,M+を高リスクと分類した。寛解導入化学療法は大量メトトレキサート療法,ビンクリスチン,シクロホスファミド(高リスクのみビンブラスチン追加)を4 コース行った。強化療法として,低リスクは放射線治療を省略し,追加のカルボプラチン,シクロホスファミド,エトポシドを2 コース行った。中間リスクは54 Gy の局所放射線治療を行い,高リスクはトポテカンとシクロホスファミドを2 コースまたは3 歳を超えてのCSI を行った。その後,シクロホスファミド,トポテカン,エルロチニブによる内服維持療法を6 サイクル(24 週間)行った。低リスク群は,23 例が試験治療を行ったが,中間解析結果では,1 年EFS が78.3%と低く登録中止となり,5 年EFS は55.3%であった。中間リスクは16 例が試験治療を行い,5 年EFS は24.6%であった。高リスクは26 例が試験治療を行い,5 年EFS が16.7%であった8)。
これらのエビデンスより,RT による発達や認知機能への影響という害がより大きくなる乳幼児の髄芽腫において,転移がなくdesmoplastic nodular/extensive nodularity サブタイプの患者群では,放射線治療を行わず,メトトレキサート髄腔内投与を含む,白金製剤,アルキル化剤,ビンクリスチン,エトポシドを中心とした多剤併用化学療法による術後治療を提案する。一方,それ以外の組織学的サブタイプおよび転移がある場合は,標準的な後治療は確立されておらず,上記の治療に大量化学療法や局所放射線療法を組み合わせた強化治療を行うことを提案する。
- 注意:
- カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
イリノテカン(irrinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
エルロチニブ(erlotinib):髄芽腫に対しては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radiotherapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。乳幼児髄芽腫の臨床試験は対象年齢の上限が,試験によって異なり,3 歳未満から5 歳未満と幅があるが,希少疾患で臨床試験報告論文の数が限られるため,CQ7 のシステマティックレビューでは5 歳未満までを含めた。CQ7 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの8 文献,EFS アウトカムの8 文献,有害事象・QOL アウトカムの7 文献を採用した。
❖ 文献
- 1)
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課題6:再発時の治療
- CQ8
- 局所再発時の適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨1
髄芽腫の局所再発に対し,腫瘍の進行の抑制と生命予後の改善を期待し,化学療法を実施することを提案する。
- 推奨度2D
- 推奨2
髄芽腫の局所再発に対し,摘出が安全に行いうる場合や摘出により症状の改善が期待できる場合等に,外科治療を提案する。
- 推奨度2D
- 推奨3
放射線治療は初期治療で放射線を使用しなかったか減量されている場合等に,個々の状況に応じて緩和的にまたは根治的に実施することを提案する。
解説
初発髄芽腫の治療成績は,外科治療と化学療法および放射線療法の組み合わせにより,標準リスク群で5 年無イベント生存割合(EFS)70~80%程度,また高リスク群では35~70%程度,乳児症例における5 年無病生存割合(DFS)30~50%程度で,治療法の改良により初回治療後の寛解期間は延長してきている1-11)。これに対し再発髄芽腫に対する標準的な治療法は確立されておらず,その長期生存率は不良であることから,再発髄芽腫に対する治療は臨床上重要な課題である。
報告されている再発治療の有効性については,10 年生存率で見た場合に多剤化学療法で24%,放射線治療で45%(標準リスク群)といったデータが参考になる1,12)。また,再発形式として後頭蓋窩局所再発はむしろ少なく,HIT-91 の再発40 例では播種性再発が32 例(80%)となっている13)。播種性再発や高リスク群での再発,外科切除不能例,放射線治療施行後の再発症例では,再発後の治療を強く支持する研究データは得られていない。しかしながら再発後の無治療で経過観察された場合には,生命にかかわる急速な症状悪化を招きかねず,再発病変に対する治療に対する患者や家族の希望は強いため,緩和医療も含めた包括的な治療計画が望まれる。
再発治療において,過去に報告された医学データを利用するにあたり,試験の対象(髄芽腫のみか他の腫瘍型が含まれているか),リスク分類,再発形式(局所再発または播種性再発),初回化学療法や放射線治療の違い等に着目した。本ガイドラインでレビューの対象とした441 文献の中で,化学療法に関する介入研究は12 文献のみであった14-25)。このうち,10 文献が単アーム試験,2 文献がそれぞれ異なる薬剤の比較であり,プラセボを対象とした比較試験は行われていない。さらに,対象症例については,3 文献が髄芽腫のみ,9 文献は原始神経外胚葉腫瘍(primitive neuroectodermal tumor:PNET)をはじめとした他の小児脳腫瘍型を含み,検討の対象となる症例数は極めて限られていた。また,治療においては,多くの試験で化学療法に加えて放射線治療や外科治療が併用され,治療介入の方法は不均一であった。さらに,初回治療において放射線治療が行われている場合とそうでない場合では,再発時の治療法や予後に違いがみられることが想定される。このように,均質で十分な医学データが得られてないことを考慮したうえで,腫瘍の制御率ならびにOS の延長を重視した解析を行った。また,髄芽腫の局所再発に対する外科治療や放射線治療に関しては,前方視的臨床試験の報告がなく,特定の条件下での治療について強い推奨をもたらすものではない。そのため本CQ では,上記介入研究12 文献以外にも,診療上参考になる文献について記載することとした。
髄芽腫の局所再発に対する単剤化学療法については,高用量チオテパ,テモゾロミド,パクリタキセルといった薬剤の有効性が2 つの試験で報告されている14,25)。これら2 試験の対象となった症例の約9 割が初回治療で放射線治療を併用していた。Osorio らは,再発髄芽腫26 例に対し高用量チオテパ(200 mg/m2/day)を3 日間投与したのちに自家造血幹細胞移植を行い,4 週間以降に再投与する治療法で,5 例に45 カ月以上の生存を確認,OS 中央値11.7 カ月であったと報告している25)。この試験は髄芽腫以外の複数の異なる腫瘍型の再発も対象として含まれており,全体の治療関連死は3.4%にみられた。Cefalo らの報告では,初回治療で大量化学療法や全脳脊髄照射(CSI)が行われているか否かによりテモゾロミド150・180・200 mg/m2/day の3 種類の投与量を設定し,28 日ごとに5 日間経口投与した14)。37 例(脊髄播種病変あり7 例,遠隔転移あり30 例)のresponse rate は42.5%,6 カ月PFS 30%,12 カ月PFS 7.5%であり,PNET 5 例を含めた解析で1 年OS は41.2%,治療関連死はなく,グレード3~4 の血液毒性が2 割の患者に認められた。またHurwitz らの髄芽腫再発16 例に対するパクリタキセルの報告によれば,350 mg/m2/day を3 週間ごとに投与する方法で,CR 1 例,SD 6 例,PD 9 例であり,無増悪生存期間(PFS)は2.9 カ月であった19)。この試験は複数の異なる腫瘍型の再発を対象とし,全体の有害事象はグレード3 のアレルギー反応1 例と敗血症7 例のほか,治療関連死1 例,脳幹圧迫ある髄芽腫で痙攣後の死亡が1 例みられた。
多剤化学療法についてDunkel らは,25 例の再発髄芽腫に対する自家造血幹細胞移植を併用したカルボプラチン,チオテパ,エトポシドの大量化学療法レジメンを報告した17)。カルボプラチンは造血幹細胞移植の8 日前から500 mg/m2で開始し,3 日間使用したのち,チオテパ300 mg/m2/day およびエトポシド250 mg/m2/day が投与された。この治療での成績は10 年EFS 24%,10 年OS 24%,OS 中央値が26.8 カ月,6 例は151.2 カ月(中央値)増悪なく生存した。治療関連死は3 例(14%)であった。またDupuis-Girod らは,CSI を回避した初回治療時3 歳未満の髄芽腫再発20 例に対するブスルファンとチオテパのレジメンを報告した22)。ブスルファンを150 mg/m2/day で4 日間経口投与したのちチオテパ300 mg/m2/day を3 日間使用して自家造血幹細胞移植を行った。外科治療を追加した4 例を除く16 例の解析で(後頭蓋窩局所再発9,脊髄再発および髄液播種3,両方を認めるもの4),CR が4 例(25%)認められ,RR は75%と良好な結果が示されており,治療関連死を1 例認めた。この試験では幹細胞移植後36 例において放射線治療が併用されている。イリノテカンについては,髄芽腫再発9 例に対するベバシズマブとの併用治療について後方視的研究で,PFS 11 カ月,OS 13 カ月,6 カ月時点でのPR 3 例,CR 1 例と報告されている26)。イリノテカンはテモゾロミドとの併用療法での第Ⅱ相試験も報告されているが,66 例の再発例に対しCR2,PR13,生存期間中央値16.7 カ月であり,期待された結果は得られていない27)。
Müller らはHIT-REZ 試験において,初回治療として外科的摘出と化学療法のみ行い,放射線治療を回避した乳幼児17 例に対して,完全寛解後初回再発時の治療としてCSI および局所放射線治療を行った結果を報告している28)。CSI は35.2 Gy(23.4~40.0 Gy)および後頭蓋窩ブースト55.0 Gy で行われ,カルボプラチンやエトポシドを使った化学療法が併用された。17 例の治療成績はPFS 2.9±1.1 年,OS 3.8±0.8 年,5 年PFS 40%,5 年OS 39%であった。6 例の局所再発,11 例の遠隔再発(髄液細胞診陽性1 例,脊髄病変あり3例,遠隔転移あり3 例,脊髄病変と遠隔転移あり3 例)の治療成績は局所再発例と遠隔転移例それぞれ3 年PFS 67%±19%および36%±15%(log-rank,p=0.948),3 年OS 67%±19%および55%±15%(log-rank,p=0.914)であり,有意差は認められていない。この報告では,大量化学療法やメトトレキサート髄注療法もCSI と併用または前後して行われていていることから,放射線治療単独の効果を示すものではないが,初回治療で放射線治療を回避した乳幼児髄芽腫の初回再発に対し,放射線治療の効果を示唆するデータとして重要である。
初回治療で放射線を併用した再発髄芽腫症例については,Bakst らが13 例の初期治療で放射線治療を行っている髄芽腫再照射治療を報告している29)。再照射の内訳は後頭蓋窩46%,テント上・全脳31%,脊髄23%,全脳全脊髄8%であり,外科治療や化学療法が併用されている。治療は局所分割照射とIMRT がほぼ同数で行われ,CSI 18 Gy およびブースト12 Gy が使用された。照射後の急性期障害は認めず,観察期間内(中央値30 カ月)に無症候性の放射線壊死が1 例認められた。治療成績は5 年DFS 48%,5 年OS 65%と一定の治療効果が得られた。この研究では,異なる照射部位に対し局所または拡大照射が行われており,再発形式について詳細な記載はないため再発腫瘍全般での再照射治療の効果については結論できない。しかしながら,局所再発や限局的な遠隔再発に対し再照射治療を行う場合には参考となる報告である。
Wetmore らは,初回治療で手術および化学放射線治療を行った再発髄芽腫38 例中14 例に再照射を行った結果,5 年OS 55%±14%(vs. 33%±16%)および10 年OS 46%±14%(vs. 0%)ともに,非照射例に対し有意に生存期間が上回ったと報告した(p=0.036)12)。CSI 36 Gy(総線量18~54 Gy/1 日線量1.5~2 Gy)と局所照射が併用され,総線量の中央値は91.9 Gy(73.8~109.8 Gy)であった。再照射14 例の放射線壊死は9/14 例(64%)であったのに対し,非照射例では7/24 例(29%)と有意な増加を認めたが(p=0.0468),無症候性であったため追加の治療は行われていない。標準リスク11 例および高リスク4 例の生存期間はそれぞれ5.39 年と4.94 年であった。初回治療から10 年生存した割合は標準リスク群45%,高リスク群0%であり,再治療でのリスクを考慮したうえで,特に標準リスク群では再発に対しては再照射の有効性が期待できる結果である。
髄芽腫の局所再発に対する外科治療についてOS 延長を直接証明した報告はなく,評価も一定していない。Sabel らは標準リスク群の髄芽腫を対象としたHIT-SIOP PNET4 試験の初回再発72 例の解析を行っている30)。うち18 例(25%)に外科的切除が行われ,その再発部位の内訳は後頭蓋窩単発6 例,脊髄またはテント上5 例,脳脊髄多発7 例であった。再発72 例全体の3 年OS および5 年OS はそれぞれ20±5%,6.0±4%であり,外科的切除(p<0.01)ならびに後頭蓋窩局所再発(p<0.01)はともに独立した予後因子であった。局所再発の外科治療については,侵襲性や化学療法・放射線治療の成績も考慮したうえで,摘出が安全に行える場合,摘出により症状の改善が期待できる場合など個々の症例の状況に応じた適応判定を行うべきである。
以上のことから,髄芽腫の局所再発に対して化学療法の効果が一部示されており,症例の状況に応じて放射線治療の併用を考慮できる。また,大量化学療法における治療関連死,放射線治療における晩期障害について注意する必要がある。小児患者の尊厳を含めた倫理的判断に基づき,治療によるリスクや侵襲性を十分に考慮した包括的な適応判断がなされることが望ましい。
- 注意:
- チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
テモゾロミド(temozolomide):髄芽腫に対しては保険適応外,ユーイング肉腫に対してイリノテカンとの併用で保険承認
パクリタキセル(paclitaxecel):髄芽腫,小児固形腫瘍に対しては保険適応外
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
ブスルファン(busulfan):髄芽腫に対しては保険適応外,ユーイング肉腫ファミリー腫瘍及び神経芽細胞腫における自家造血幹細胞移植の前治療としては保険承認適応
イリノテカン(irrinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
ベバシズマブ(bevacizumab):髄芽腫,小児固形腫瘍に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫,小児悪性腫瘍対しては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab]))))AND(((((((Neoplasm Recurrence,Local[mh]OR Neoplasm, Residual[mh]OR Neoplasm Seeding[mh]OR Recurrence [mh])))OR(((Local[tiab]OR Locoregional[tiab])AND(Neoplasm Recurrence[tiab]OR Neoplasm Recurrences[tiab]))))OR(((minimal[tiab]and residual[tiab]and(disease[tiab]OR diseases[tiab]))OR(residual[tiab]AND(neoplasm[tiab]OR neoplasms[tiab])))))OR((neoplasm[tiab]and seeding*[tiab])))OR((Recurrences[tiab]OR Recrudescence[tiab]OR Recrudescences[tiab]OR Relapse[tiab]OR Relapses[tiab]OR Regrowth[tiab])))))AND((“Epidemiologic Study Characteristics”[Mesh]OR “Statistics as Topic”[Mesh]OR “Clinical Study”[Publication Type]))))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により検索された441 文献のなかから介入研究12 文献を抽出して内容を確認し,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
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- CQ9
- 播種再発に対する適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨
寛解を目的とした治療を目指すが,治療反応性が不良の場合は,緩和的治療も提案される。
解説
髄芽腫において再発の場合は局所再発と播種再発が認められるが,MRI を撮影する時期がずれれば,必ずしも正確な鑑別ができない場合がある。原発巣近傍の再発が認められ,なおかつ播種も認められる場合は,原発巣の再発から播種したのではないかという可能性もあるが,原発巣近傍に局所再発が認められずに播種再発だけ認められた場合は,初回治療の早い時期にすでに播種しており,後療法抵抗性の腫瘍細胞が播種していた場所で残存し,再発したと予想される。Hsieh ら1)は,髄芽腫12 例の脊髄播種症例を術前,術後1 カ月以内で,放射線治療や化学療法以前に認められた播種症例をearly metastasis 群(9 例),放射線治療や化学療法を含むすべての初期治療終了後に播種再発した症例をlate metastasis 群(3 例)に分けて解析しているが,early metastasis 群が統計学的に有意に予後良好(p=0.0047, log-rank test)という結果であった。Late metastasis 群が予後不良の理由としては,late metastasis としての播種再発は,初期治療抵抗性の腫瘍細胞の残存が再発の起源になっている可能性が高いと考えられる。髄芽腫の播種再発は局所再発に比べて予後不良かという問題に関しては,Bowers ら2)が,治療後の再発形式で予後を比較している。彼らは41 例の髄芽腫再発症例において,21 例の原発巣の部位だけの再発群と20 例の局所再発群と播種を伴う再発群の生存予後を比較している。手術,化学療法,放射線療法と再発後の治療はばらつきがあるものの,彼らの解析では,初期治療にてBaby POG protocol(POG infant brain tumor regimen/シクロホスファミド,ビンクリスチン,シスプラチン,エトポシド)を受けているかどうか(p=0.030,log-rank test),再発時に播種なく原発巣だけの局所再発だけかどうか(p=0.008,log-rank test),再発時には放射線治療を加えているかどうか(p=0.015,log-rank test)ということが有意に生存を延長させる因子であったが,多変量解析の結果では,原発巣の場所における局所再発(21 例)という因子だけが,播種を伴う症例(20 例)に比べて明らかに生存が延長しており(p=0.03),独立した予後良好因子であった。さらに,局所再発と播種再発を生物学的に異なるものとして区別すべきかという問題はあるが,近年髄芽腫の分子生物学的分類が提唱されて後,Ramaswamy ら3)は3 つのコホート研究を集計した。髄芽腫分子生物学的分類4 型のそれぞれの再発形式では,Sonic Hedghoc(SHH)型は他の型に比べて局所再発が多く,播種再発が少ないという結果であった。局所再発と播種の両方もあるMixed な再発形式もSHH 型は少ないことから,生物学的に他のグループより局所に再発しやすい,もしくは播種しにくいということは言えるかもしれない。しかしWNT 型は再発が少なくてこの研究では解析されていない。
髄芽腫の再発治療においては,一般的に局所再発だけであれば手術という選択肢も可能な場合があるが,播種を伴う再発であればほとんど外科的介入はなく,他の治療に委ねられる場合が多い。初期治療として放射線治療を行っている場合,salvage therapy としての再照射を行う可能性は存在するものの4,5),全例に施行可能とは言いがたく,一般的ではない。Bakst ら5)は初期治療にて放射線照射を行っている髄芽腫症例に対して再発時に再照射を行った13 例を検討している。再照射の中央線量は30 Gy,1 回線量中央値は1.5 Gy であり,54%の症例において強度変調放射線治療が使用されていた。13 例の5 年PFS は48%,5 年OS は65%であり,放射線障害による急性期障害,急死や,二次がんは観察期間中には認められておらず,放射線壊死が1 例,38%に聴力障害,15%に下垂体機能不全,1 例に認知機能障害の有害事象が認められたと報告している。しかし,この治療成績は放射線治療単独ではなく,再発時の手術や化学療法と併用しており,また,局所再発と播種再発の治療成績を区別していないために,播種再発で放射線治療の再照射の有用性を正確には評価できない。現時点では,播種再発症例において初期治療で放射線照射を施行していない場合では,積極的に再発時放射線照射ということが選択肢になるが,すでに放射線治療を行っている症例の再発時の再照射は再発腫瘍のコントロール,有害事象の面からも積極的に推奨できないと思われる。
再発時の化学療法においては一般的な化学療法に加えて,末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法などのintensive な治療の報告も多数ある6-9)。しかしながら,レジメンとして統一したものではなく,主にカルボプラチン,エトポシド,チオテパ,シクロホスファミド,メルファラン,carmustine(BCNU),lomustine(CCNU)など使用されている場合が多い。Gilman ら6)は18 例の再発髄芽腫の患者に対して連続した大量化学療法(First cycle:チオテパ600~750 mg,BCNU 300~450 mg,Second cycle:チオテパ600~750 mg,カルボプラチン1,200 mg)による治療を行っているが,局所再発と播種再発の治療成績の区別はない。しかし,18 例中15 例が播種再発であり,播種再発の割合が高い報告である。末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法の予後不良因子として一般的に播種再発があるといわれているが,彼らは必ずしも播種再発が予後不良因子とは結論づけておらず,播種再発例における生存率は,33%(15 例中5 例,観察期間54~135 カ月)という治療成績であった。8 例において何らかの治療関連死亡が認められており,比較的高頻度な有害事象と思われる。いくつかの報告をまとめても,現時点で有害事象も併せて考え,播種再発において必ずしも末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法が必須とは言い難い。さらに大量化学療法の中でも最も優れたレジメンを同定しがたく,また,欧米と本邦では保険制度等の違いから使用できる薬剤が異なっており,今後本邦での臨床研究を通じた使用薬剤の適応拡大が待望されている。Kim ら10)は5 種類の通常量の化学療法剤を使用したsalvage therapy として7 例の脊髄播種症例を含む再発小児悪性腫瘍に対する化学療法の有効性を検討している。イリノテカン300 mg/m2,ビンクリスチン2 mg/m2,シスプラチン60 mg/m2,シクロホスファミド1,000 mg/m2,エトポシド100 mg/m2の薬剤を使用しているが,大量化学療法より副作用は軽微であり,3 例がCR,2 例がPR という比較的良好な治療反応性を認めている。しかし6 例がPD であり,この結果からはいかに多くの薬剤を使用した多剤併用化学療法を行っても通常の量では,播種再発の髄芽腫をコントロールすることは困難であるとの印象である。
21 例の播種再発髄芽腫に対して,Yoshimura ら11)は6~7 mg/m2のニムスチンの髄腔内灌流もしくは3~3.5 mg/m2の髄腔内投与を行っている。約50%の症例において反応が認められ,21 例中7 例がCR となり,比較的長期の生存を獲得している。播種確認後の5 年生存率は46.4%であり,彼らは播種が存在する髄芽腫患者の治療法において化学療法剤の髄腔内投与の有効性を示している。この治療法による副作用として灌流療法による副作用はほとんどみられていない一方,髄腔内投与(Bolus injection)に関しては脊髄炎が認められた症例があり,頻回の投与と局所的に薬剤が高濃度になることは避けるべきと言及している。現在,髄芽腫の初期治療において,予防的,あるいは腫瘍縮小を目的としてメトトレキサートの髄腔内投与を行うことも多いが,播種再発に化学療法剤の髄腔内投与が有効な治療かどうかは報告が少なく,現時点ではその有効性は判断できない。播種再発の症例において治癒を目指してさまざまな治療を行ったとしても,現存の治療では有効性があるとは言い難いとも報告されている。Massimino ら4)は播種再発が認められた髄芽腫症例にシスプラチンとエトポシドを用いた標準的化学療法(6 例),もしくはエトポシド,シクロホスファミド,ビンクリスチン,カルボプラチン,チオテパなどを用いた大量化学療法(10 例)を施行し,さらに7 例は全脳脊髄照射(CSI),3 例は局所照射を行うというintensive な治療を行った。DFS 中央値は16 カ月,OS 中央値は41 カ月,3 年DFS が19%,3 年OSが56%という治療成績であり,観察期間での生存例は1 例のみであった。これらの結果を鑑み,彼らは別の報告で髄芽腫の再発症例に対しできるだけ短い入院期間を目指し,QOL を重視した再発の治療を推奨している12)。彼らは18 例の再発の髄芽腫患者の治療後,17 例に再再発が認められ,16 例は播種病変を確認されている。3 回目の再発10 例中9 例が播種再発であり,全例に化学療法が施行されているが,手術や放射線治療が行われたものはない。本報告の再発症例全例の入院期間は4 日から129 日(平均19 日)であり,治療による有害事象がなかったと報告している。治療成績においては,8 例の再発髄芽腫の症例の平均DFS は7 カ月,平均OS も7 カ月であり,最終的には全例死亡している。以上より,播種再発は局所再発と比較してやはり予後不良であると考えるべきである。
髄芽腫の播種再発に対しては,現存の治療にて治癒できる症例は稀と言わざるを得ない。対象が小児であるがゆえに積極的な治療を行うべきと考える一方で,QOL を保ちながら緩和的な治療を導入することも重要であると考えられる。
- 注意:
- シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫,小児悪性固形腫瘍には保険適応外
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
メルファラン(melphalan):小児固形腫瘍の造血幹細胞移植時の前処置として保険適応
carmustine(BCNU):国内未承認
lomustine(CCNU):国内未承認
イリノテカン(irinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫,小児悪性腫瘍対しては保険適応外
ニムスチン(nimustine:ACNU):脳腫瘍に対する自覚的ならびに他覚的症状の緩和として静脈内投与は保険適応,髄腔内投与薬としては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])AND(Neoplasm Recurrence, Dissemination[Mesh]OR Neoplasm Seeding[Mesh]))OR((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])AND(Multiple Recurrence[Mesh]OR Dissemination[Mesh]))OR((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])OR(Neoplasm Recurrence[Mesh]OR Neoplasm Recurrences[tiab]OR Recurrences[tiab]OR Relapse[tiab]OR Relapses[tiab]OR Regrowth[tiab])))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により抽出された641 文献のなかから,できるだけ播種再発を多く含む症例の24 文献を抽出し,システマティックレビューを行い,構造化抄録を作成した。さらにその中で局所再発でも同様な治療を行うもの,また症例数が少ないものなどを排除し,最終的に12 文献を取り上げて,解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Hsieh PC, Wu CT, Lin KL, et al. The clinical experience of medulloblastoma treatment and the significance of time sequence for development of leptomeningeal metastasis. Childs Nerv Syst. 2008;24(12):1463-7.[PMID:18802711]
- 2)
- Bowers DC, Gargan L, Weprin BE, et al. Impact of site of tumor recurrence upon survival for children with recurrent or progressive medulloblastoma. J Neurosurg. 2007;107(1 Suppl):5-10.[PMID:17644914]
- 3)
- Ramaswamy V, Remke M, Bouffet E, et al. Recurrence patterns across medulloblastoma subgroups:an integrated clinical and molecular analysis. Lancet Oncol. 2013;14(12):1200-7.[PMID:24140199]
- 4)
- Massimino M, Gandola L, Spreafico F, et al. No salvage using high-dose chemotherapy plus/minus reirradiation for relapsing previously irradiated medulloblastoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2009;73(5):1358-63.[PMID:19019566]
- 5)
- Bakst RL, Dunkel IJ, Gilheeney S, et al. Reirradiation for recurrent medulloblastoma. Cancer. 2011;117(21):4977-82.[PMID:21495027]
- 6)
- Gilman AL, Jacobsen C, Bunin N, et al. Phase Ⅰ study of tandem high-dose chemotherapy with autologous peripheral blood stem cell rescue for children with recurrent brain tumors:a Pediatric Blood and MarrowTransplant Consortium study. Pediatr Blood Cancer. 2011;57(3):506-13.[PMID:21744474]
- 7)
- Park JE, Kang J, Yoo KH, et al. Efficacy of high-dose chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed medulloblastoma:a report on the Korean Society for Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)-S-053 study. J Korean Med Sci. 2010;25(8):1160-6.[PMID:20676326]
- 8)
- Dunkel IJ, Gardner SL, Garvin JH, Jr., et al. High-dose carboplatin, thiotepa, and etoposide with autologous stem cell rescue for patients with previously irradiated recurrent medulloblastoma. Neuro Oncol. 2010;12(3):297-303.[PMID:20167818]
- 9)
- Gururangan S, Krauser J, Watral MA, et al. Efficacy of high-dose chemotherapy or standard salvage therapy in patients with recurrent medulloblastoma. Neuro Oncol. 2008;10(5):745-51.[PMID:18755919]
- 10)
- Kim H, Kang HJ, Lee JW, et al. Irinotecan, vincristine, cisplatin, cyclophosphamide, and etoposide for refractory or relapsed medulloblastoma/PNET in pediatric patients. Childs Nerv Syst. 2013;29(10):1851-8.[PMID:23748464]
- 11)
- Yoshimura J, Nishiyama K, Mori H, et al. Intrathecal chemotherapy for refractory disseminated medulloblastoma. Childs Nerv Syst. 2008;24(5):581-5.[PMID:18057943]
- 12)
- Massimino M, Casanova M, Polastri D, et al. Relapse in medulloblastoma:what can be done after abandoning high-dose chemotherapy? A mono-institutional experience. Childs Nerv Syst. 2013;29(7):1107-12.[PMID:23595805]
課題7:治療による晩期障害
- CQ10
- 髄芽腫に特徴的な晩期障害とそれをきたしやすい背景因子は何か?
- 推奨度1B
- 推奨1
無言症/後頭蓋窩症候群では学習機能が低下するので特に注意して経過を見ることを推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
髄芽腫治療後に経時的に認知機能障害は進行し,特に高リスク群と低年齢(7 歳以下)でその傾向が強いので特に注意して経過を見ることを推奨する。
解説
髄芽腫治療の進歩によって長期生存が得られるようになると,さまざまな晩期障害が認められるようになった。小児がん患者全体を対象とした長期生存者に対する長期フォローアップの指標はいくつか発表されており,例えば海外のものではCOG のガイドライン(http://www.survivorshipguidelines.org)があり,国内でも日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group:JCCG)の小児がん長期フォローアップガイドがある。また,妊孕性に関しては日本癌治療学会のガイドライン(http://www.jsco-cpg.jp/fertility/)がある。髄芽腫治療後のフォローアップの指標としても参考となる。
今回はあくまで髄芽腫の治療による晩期障害に焦点をあてて推奨を作成した。晩期障害からみて,髄芽腫のフォローアップで特に注意すべき場合がどのような症例かを検討した。晩期障害に関する文献は,髄芽腫以外の小児脳腫瘍も含むものが多く,ほとんどが後方視的な検討であり,それらは参考として,本推奨は髄芽腫の治療による晩期障害の前方視的コホート研究を中心にまとめた。
1990 年代のPOG8631 の知的予後に関する報告1)は3 歳以上の髄芽腫で残存腫瘍が1.5 cm2未満の22 例において,全脳脊髄の照射量36 Gy/23.4 Gy と8.85 歳を基準としたyounger/older で4 群に分類し,IQ を比較したものである。症例数も少なくそれぞれの群間で有意差は出ておらず,また縦断的研究ではなく,ワンポイントでの評価ではある。いずれの群でも単にFull scale IQ が低下していることは示しているが,その原因が何であるのかには言及していない。この研究では評価方法としてはWISK ⅢもしくはWAIS-R をIQ の評価として用いており,学習能力評価としてWide Range Achievement Test Ⅲを用いている。
これ以降の論文でも,主にIQ の評価はWISK Ⅲ or ⅣとWAIS-R が用いられるが,そもそも髄芽腫患者の場合小脳失調症状を後遺することが多く,それがFull scale IQ の低下に影響している可能性も考える必要がある。したがって,純粋な認知機能低下の進行を捉えるためには,前方視的に縦断的に調査しIQ でもどの要素が変化していくのかを評価することが必要である。
2000 年代のCCG9892 の知的予後に関する結果2)は,3~15 歳で播種のない(標準リスク群)43 例で全脳脊髄照射(CSI)23.4 Gy+ブースト照射32.4 Gy,ビンクリスチン/lomustine(CCNU)/シスプラチンで治療した結果を,放射線治療後を起点に4 年後まで経時的に調査した結果である。評価方法は,WISK-R/WISC-Ⅲ/WPPSI-R/SB4/McCarthy とさまざまである。ここではFull Scale IQ が経時的に低下する(4.3/年)ことを示す一方で,男女差(女子の方がVerbal IQ 低下が大きい),診断時の年齢による差(7 歳未満では低下するが7 歳以上では低下しない),Baseline IQ での差(IQ>100 では低下の程度が大きい)などを示している。
2000 年代のもう一つの論文はSJMB96 に登録された症例のうち111 例での検討である3)。最大6 年(平均3.14 年)の経時的な認知機能評価を受けた。高リスク群(CSI:36~39.6 Gy)/標準リスク群(CSI:23.4 Gy)と診断時の年齢(7 歳以上/7 歳未満)で4 群に分類された。化学療法は4 サイクルの大量化学療法(シクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチン)が行われた。認知機能評価の初回は手術摘出後(登録時)で,その後1,2,5 年の段階で評価した。多変量解析の結果全体ではmean IQ(-1.59/y,p=.006),読み(-2.95/y,p<.0001),書き(-2.94/y,p<.0001),算数(-1.87/y,p=.003)とも低下したが,群間比較ではmean IQ は高リスク群では低下したが(-3.00/y,p=.004),標準リスクでは低下していなかった(-0.99/y,p=.13)(ただし2 群間に有意差はない)。また同様にmean IQ は7 歳未満群では低下したが(-3.05/y,p=.0005),7 歳以上群では低下しなかった(-0.61/y,p=.37)(2 群間に有意差あり)。治療線量より治療時年齢の方がIQ 低下の要素として強いと示された。ただし研究全体の規模からすると評価を受けた登録例は少なく,評価方法に関しても年齢によってさまざまであった。
2010 年代になるといくつかの前方視的コホート研究が発表されている。
1 つ目はCOG A9961 の標準リスク群に対する放射線治療(CSI 23.4 Gy/ブースト照射32.4 Gy)と大量化学療法(CCNU/シスプラチン/ビンクリスチン,またはシクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチン)後の知的・学業予後に関する報告4)である。登録全体379 例中110 例について5 年以上の経過で評価した。Baseline の評価は放射線治療から9 カ月以内に施行された。評価方法は,IQ に関してはWPPSI-R/WISC-Ⅲ/WAIS-R/WAIS-Ⅲを用い,学習能力評価にはWide Range Achievement Test Ⅲなどが用いられた。全症例をまとめたデータでFull Scale IQ は5 年間にわたり年間1.9 ポイント低下した。IQ および学習能力の低下は,男女差はなく,無言症の有無でFull Scale IQ とPerformance IQ およびReading で有意差があった。Baseline IQ の方が高い(IQ>100)方がFull Scale IQ 低下の程度が有意に大きく,診断時7 歳以上と7 歳以下では7 歳以下の症例のPerformance IQ 低下率が有意に高く,摘出率では全摘群の方が低下率は高いが有意差はなかった。
無言症の有無での評価はSJMB03 に登録された327 例中,後頭蓋窩症候群(主には無言症)を呈した36 例についての前方視的試験報告5)がある。SJMB03 治療は播種と脳幹浸潤がない例で,肉眼的全摘出された群を標準リスク群としてそれ以外を高リスク群とし,標準リスク群にはCSI 23.4 Gy,高リスク群にはCSI 36~39.6 Gy で局所55.8 Gy の放射線治療を行っている。放射線照射治療6 週後から,4 サイクルの高用量のシクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチンからなる化学療法を施行した。同じ試験の登録例で後頭蓋窩症候群を呈さなかった例で年齢・人種・リスク分類・手術・性別を一致させた36 例を対照として,神経心理学的評価を経時的に1,3,5 年後に,知的能力の他に遂行速度,注意力,ワーキングメモリー,空間認知機能などさまざまな視点で評価した。後頭蓋窩症候群の有無によりbaseline からこれらの能力に差があるが,対照群が5 年間で不変なのに対し,後頭蓋窩症候群は不変もしくは低下しており有意差がみられた。この2 つの報告を合わせて評価シートを作成すると,後頭蓋窩症候群がある群とない群ではQOL や高次機能においてbaseline でも差があり5 年後さらに差が広がる,というエビデンスが示された。
遂行速度,注意力,ワーキングメモリーなどについて前方視的で縦断的に検討した報告6)もある。これは上記のSJMB03 の登録(この時点ではまだ318 例)から後頭蓋窩症候群を除き,その他の不適格例を除いた126 例の検討である。Baseline の機能の評価は手術後(登録直後)に行い,1,3,5 年後と経時的に前方視的試験で行われた。評価はWoodcock-Johnson Tests of Cognitive Abilities Third Edition, Woodcock-Johnson Tests of Achievement Third Edition を用いた。遂行能力はbaseline から低下しており,経時的変化は低年齢,高リスク群,baseline score が高い場合により低下する傾向にあった。計算式で推定すると,標準リスク群では診断時年齢6 歳では軽度低下がみられたが,10 歳では変化なく,14 歳では上昇・改善し,一方高リスク群では6 歳,10 歳では著明に低下したが,14 歳では低下がみられなかった。Baseline での遂行能力の低下は小脳失調を避けがたい疾患特異性の影響が考えられる。ワーキングメモリーや注意力はbaseline での低下はなく,経時的変化については高リスク群,baseline score が高い場合により低下する傾向にあった。
ここまで記載したものは北米からの報告だが,欧州からはHIT-SIOP PNET4 phase 3 European RCT の報告がある7)。標準リスク群の髄芽腫患者を過分割照射群(過分割群:1 日2 回1 Gy 照射,CSI 36 Gy,後頭蓋窩60 Gy)と標準分割照射群(標準分割群:1 日1.8 Gy 週5 日照射,CSI 23.4 Gy,後頭蓋窩54 Gy)にランダム化を行い,照射中のビンクリスチンと8 サイクルのCCNU/シスプラチン/ビンクリスチンを行った。認知機能については9 カ月寛解状態を得た137 例(過分割群71/107 例,標準分割群66/109 例)で平均3 年の経過で評価を行った。評価法はWISC を基本に各国によって評価法を選択した。年齢についても8 歳以上と以下で比較した。結果としてこの研究では治療法や年齢による有意な差は認められず,全体的にも経時的なIQ の低下はみられていない。北米の結果と異なり,IQ の低下を認めなかった理由として観察期間が短いことが影響している可能性はある。
陽子線治療によるQOL の変化を前方視的に観察したマサチューセッツ総合病院からの報告8)がある。評価法としてこれまでの報告と異なりPedsQL version4.0を用いており,self-report ができる年齢層が対象となった。2002~2015 年の登録例161 例中116 例で,平均5 年間の経過で評価を行った。この症例群には8 歳以上も以下もいて,標準リスクと高リスクもあり,また播種や後頭蓋窩症候群のある例ない例も含まれており,かなり雑多な集団である。評価はTCS(total core score)で行われるが,当初TCS が低かった児でも徐々に改善するが,最終的に健常小児と比較すると低い値であった。評価法として興味は惹かれるが,陽子線の影響を真に評価をするまでには至らない。
以上をまとめると,髄芽腫に対する治療によるIQ の低下は認めないという報告もある一方,北米での前方視的試験の結果からは,無言症/後頭蓋窩症候群のある場合は認知機能(特に学習)に関して低下する,ということが言える。また,髄芽腫の治療後5 年の経過で経時的にIQ が低下するが,高リスク群でその傾向が強い。ただしこれが,疾患によるものなのか,治療(特に放射線照射線量)の差によるものなのかはわからない。また低年齢(7 歳以下)では低下の程度が強いことも示唆された。問題は,経過観察は長くても10 年程度で,平均では5 年に満たない場合が多い点で,晩期合併症に対する真の評価としては,より長期の結果が望まれる。そのようなデータは前方視的コホート研究ではまだ存在せず,後方視的のデータしかなく,したがって,さまざまなバイアスを有しており正確な評価とならない。
代表的な後方視的検討結果報告としてChildhood Cancer Survivor Study からの報告9,10)を参考として紹介する。2017 年のものは1970~1986 年に診断され5 年以上生存した380 例についてその同胞と比較した研究で,聴力低下,脳卒中頻度,けいれん,平衡機能低下,白内障の頻度が高く,学習,結婚,自立した生活などでも差がみられた。2019 年のものは1970~1999 年に診断され5 年以上生存していた髄芽腫患者の晩期のmorbidity/mortality に関する報告である。これによると5 年経過後も死亡する例はあり,再発によるものも,それ以外の原因もある。これらを除いた997 例の生存者で後方視的にみた場合,年を追って重篤な合併症を持つ頻度が増している。また,これは1970 年代に治療した群と1990 年代に治療した群で比較すると後者で有意にその頻度が高い。特に聴力障害や心血管系のリスクが高い。治療別にみると,高リスク群で治療を行った場合に頻度が高い。ただし,内分泌障害や神経学的な障害の頻度は決して高くない。これらの報告はあくまで後方視的に長期間の治療例を評価したもので,背景因子が異なり合併症の頻度に何が影響したのかはわからない。あくまで,長期間の経過観察が必要である,とするのみである。
また,今回はシステマティックレビューの対象には認知機能障害に関するもののみが残ったが,晩期合併症としてはこのほかにも内分泌障害11),性腺機能障害12),聴力障害9),海綿状血管腫の形成13),その他血管障害9),二次がん14)などの可能性がある。二次がんとしては悪性神経膠腫,血液がん,甲状腺癌などが報告されている。しかし,これらの報告は,髄芽腫以外の小児脳腫瘍を含んでいたり,後方視的な治療症例集積で背景因子がさまざまあることなどが指摘され,今回は情報として参考までに記載しておくにとどめる。
やはり今後は結果が得られるまで時間はかかるであろうが長期間の前方視的研究が必要で,その結果によって治療法の選択を検討したり,どの時期にどのような介入が必要となるかなどの臨床的疑問に対する回答が抽出されることを期待する。
現時点で提言できることは,髄芽腫に関して,再発のみならず晩期合併症を考慮した長期的かつ多角的(多職種を含む)フォローアップが必要であるということに尽きる。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab]))))))AND(((((((((long term adverse effects[mh])OR long term effect*[tiab])OR long term outcome[tiab])OR lete effect*[tiab]))OR((quality of life[mh])OR quality of life[tiab]))OR(((cognition disorders[mh])OR cognitive funtion[tiab])OR neurocognitive function[tiab]))OR(((((((((((((((social adjustment[mh])OR social outcome[tiab])OR functional outcome[tiab])OR physical outcome[tiab])OR developmental disorders[mh])OR growth disorders[mh])OR(growth and development/radiation effects[mh]))OR physiology/radiation effects[mh])OR intelligence/radiation effects[mh])OR intelligence/drug effects[mh])OR learning disorders[mh])OR intellectual outcome[tiab])OR academic success[mh])OR academic outcome[tiab])OR academic achievement[tiab]))OR((((growth hormone/radiation effects[mh])OR GH hormone[tiab])OR radiation injuries[mh])))))AND 1900/7/1:2018/12/31[dp]
以上の検索式から597 文献が抽出され,一次スクリーニングで75 文献に絞られた。二次スクリーニングを行って,前方視的コホート研究8 文献を採択し,システマティックレビューを行って評価シートの作成,エビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Mulhern RK, Kepner JL, Thomas PR, et al. Neuropsychologic functioning of survivors of childhood medulloblastoma randomized to receive conventional or reduced-dose craniospinal irradiation:a Pediatric Oncology Group study. J Clin Oncol. 1998;16(5):1723-8.[PMID:9586884]
- 2)
- Ris MD, Packer R, Goldwein J, et al. Intellectual outcome after reduced-dose radiation therapy plus adjuvant chemotherapy for medulloblastoma:a Children’s Cancer Group study. J Clin Oncol. 2001;19(15):3470-6.[PMID:11481352]
- 3)
- Mulhern RK, Palmer SL, Merchant TE, et al. Neurocognitive consequences of risk-adapted therapy for childhood medulloblastoma. J Clin Oncol. 2005;23(24):5511-9.[PMID:16110011]
- 4)
- Ris MD, Walsh K, Wallace D, et al. Intellectual and academic outcome following two chemotherapy regimens and radiotherapy for average-risk medulloblastoma:COG A9961. Pediatr Blood Cancer. 2013;60(8):1350-7.[PMID:23444345]
- 5)
- Schreiber JE, Palmer SL, Conklin HM, et al. Posterior fossa syndrome and long-term neuropsychological outcomes among children treated for medulloblastoma on a multi-institutional, prospective study. Neuro Oncol. 2017;19(12):1673-82.[PMID:29016818]
- 6)
- Palmer SL, Armstrong C, Onar-Thomas A, et al. Processing speed, attention, and working memory after treatment for medulloblastoma:an international, prospective, and longitudinal study. J Clin Oncol. 2013;31(28):3494-500.[PMID:23980078]
- 7)
- Câmara-Costa H, Resch A, Kieffer V, et al.;Quality of Survival Working Group of the Brain Tumour Group of SIOP-Europe. Neuropsychological Outcome of Children Treated for Standard Risk Medulloblastoma in the PNET4 European Randomized Controlled Trial of Hyperfractionated Versus Standard Radiation Therapy and Maintenance Chemotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015;92(5):978-85.[PMID:26194675]
- 8)
- Kamran SC, Goldberg SI, Kuhlthau KA, et al. Quality of life in patients with proton-treated pediatric medulloblastoma:Results of a prospective assessment with 5-year follow-up. Cancer. 2018;124(16):3390-400.[PMID:29905942]
- 9)
- King AA, Seidel K, Di C, et al. Long-term neurologic health and psychosocial function of adult survivors of childhood medulloblastoma/PNET:a report from the Childhood Cancer Survivor Study. Neuro Oncol. 2017;19(5):689-98.[PMID:28039368]
- 10)
- Salloum R, Chen Y, Yasui Y, et al. Late Morbidity and Mortality Among Medulloblastoma Survivors Diagnosed Across Three Decades:A Report From the Childhood Cancer Survivor Study. J Clin Oncol. 2019;37(9):731-40.[PMID:30730781]
- 11)
- Laughton SJ, Merchant TE, Sklar CA, et al. Endocrine outcomes for children with embryonal brain tumors after risk-adapted craniospinal and conformal primary-site irradiation and high-dose chemotherapy with stem-cell rescue on the SJMB-96 trial. J Clin Oncol. 2008;26(7):1112-8.[PMID:18309946]
- 12)
- Balachandar S, Dunkel IJ, Khakoo Y, et al. Ovarian function in survivors of childhood medulloblastoma:Impact of reduced dose craniospinal irradiation and high-dose chemotherapy with autologous stem cell rescue. Pediatr Blood Cancer. 2015;62(2):317-21.[PMID:25346052]
- 13)
- Lew SM, Morgan JN, Psaty E, et al. Cumulative incidence of radiation-induced cavernomas in long-term survivors of medulloblastoma. J Neurosurg. 2006;104(2 Suppl):103-7.[PMID:16506497]
- 14)
- Packer RJ, Zhou T, Holmes E, et al. Survival and secondary tumors in children with medulloblastoma receiving radiotherapy and adjuvant chemotherapy:results of Children’s Oncology Group trial A9961. Neuro Oncol. 2013;15(1):97-103.[PMID:23099653]
- CQ3
- ジャーミノーマに対して積極的な摘出手術は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨
ジャーミノーマに対して積極的な摘出をしないことを推奨する。
解説
Aizer らは,1998~2012 年に治療した頭蓋内原発胚細胞腫瘍71 例について検討し,14 例がbifocal tumor であり,うち10 例で組織診断を行い,7 例がジャーミノーマ,3 例はNGGCT であり,NGGCT の3 例はいずれもβ-HCG が正常値で,AFP は正常か軽度上昇であったことを報告した1)。すなわちbifocal tumor であったとしてもジャーミノーマであるとは断定できない。また,Delphi committee では,2 回の投票とrevision を経て,38 のconsensus statements draft のうち34 のstatement に合意が得られた。手術に関しては,statement 17 において腫瘍マーカーの上昇がない場合は生検による組織診断が必要であるとされた2)。これは世界各国の主要な臨床家による投票であり,必ずしも文献的な高いエビデンスを要求していないが,識者によるコンセンサスといえるものである。以上より,bifocal tumor でジャーミノーマが強く疑われても,また腫瘍マーカーがすべて陰性であっても,生検は推奨される。
Linstadt らは,生検で組織診断したジャーミノーマ13 例,未生検の鞍上部・松果体病変20 例に対する放射線療法の成績を報告した3)。放射線療法は腫瘍に対して40~55 Gy 照射している。生検によるジャーミノーマ診断例は観察期間中央値5.3 年で再発例は認めず,5 年生存率100%であったが,未生検例では,20 例中3 例(15%)が再発後死亡しており,再発後の病理組織は確認されていない。未生検では再発率が高いことより,ジャーミノーマ以外の腫瘍型が混入することが示唆される。つまり,古典的な診断的照射は不適切であり,組織診断が必要であると考えられるようになった。一方,Sawamura らは,29 例のジャーミノーマに対して,16 例で生検,5 例で部分摘出,8 例で全摘出を行った結果を報告している4)。術後全例で放射線療法を行い,化学療法はそれぞれ16 例,4 例,4 例で行った。その結果,約40 カ月のフォロー期間中に再発したものは,全摘出した1 例のみであり,摘出度による差は認められなかった。ジャーミノーマは化学放射線療法が奏効することから(放射線療法の項目で詳述),組織診断のための生検術に留めても予後は劣らないと考えられ,多少ともリスクのある積極的な摘出は推奨できない。生検術の術式は,腫瘍部位によって,開頭術,経蝶形骨洞手術,定位脳手術,内視鏡手術などから選択する。
Luther らは,腫瘍マーカー陰性で組織学的にもジャーミノーマと診断した6 例中1 例は放射線療法にてCR 後10 カ月で再発を認め,初発時11 U/L であった髄液β-HCG が再発時57.4 U/L と上昇を認めたと報告した5)。彼らは再発後の病理組織は確認していないが,腫瘍マーカーの上昇を考慮し,ジャーミノーマ以外の腫瘍の混在を示唆している。また,Kinoshita らは,21 例の内視鏡的診断を行った症例の初回診断において16 例のジャーミノーマという病理学的診断を得ているが,そのうち1 例(診断時HCG 陰性,AFP 33.2μg/L)において,化学放射線療法にて完全に腫瘍の縮小が得られないという理由で残存腫瘍を摘出した。2 回目の病理組織診断でimmature teratoma の診断を得ており,内視鏡的生検術のpitfall として報告している6)。これらの報告から,小さな組織で診断する生検術の限界には留意する必要がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の手術について下記検索式による検索を2017 年3 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして90 文献を抽出し,56 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ3 では6 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Aizer AA, Sethi RV, Hedley-Whyte ET, et al. Bifocal intracranial tumors of nongerminomatous germ cell etiology:diagnostic and therapeutic implications. Neuro Oncol. 2013;15(7):955-60.[PMID:23640532]
- 2)
- Murray MJ, Bartels U, Nishikawa R, et al. Consensus on the management of intracranial germ-cell tumours. Lancet Oncol. 2015;16(9):e470-7.[PMID:26370356]
- 3)
- Linstadt D, Wara WM, Edwards MS, et al. Radiotherapy of primary intracranial germinomas:the case against routine craniospinal irradiation. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1988;15(2):291-7.[PMID:3403312]
- 4)
- Sawamura Y, de Tribolet N, Ishii N, et al. Management of primary intracranial germinomas:diagnostic surgery or radical resection? J Neurosurg. 1997;87(2):262-6.[PMID:9254091]
- 5)
- Luther N, Edgar MA, Dunkel IJ, et al. Correlation of endoscopic biopsy with tumor marker status in primary intracranial germ cell tumors. J Neurooncol. 2006;79(1):45-50.[PMID:16598424]
- 6)
- Kinoshita Y, Yamasaki F, Tominaga A, et al. Pitfalls of Neuroendoscopic Biopsy of Intraventricular Germ Cell Tumors. World Neurosurg. 2017;106:430-4.[PMID:28711530]
- CQ4
- NGGCT に対して摘出手術は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨1
成熟奇形腫に対して摘出術を推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
成熟奇形腫以外のNGGCT については,化学放射線療法を行った後に,残存する腫瘍に対する摘出術を推奨する。
解説
Zygourakis らの報告では,奇形腫11 例で手術を行い,8 例で全摘出を行い,7 例が混合胚細胞腫瘍で,うち1 例のみ再発を認めた1)。Noudel らは,奇形腫14 例について報告し,10 例は初期治療として摘出術を行い,残りの4 例は化学療法後に摘出を行った。成熟奇形腫8 例において平均9 年の経過観察で87.5%の生存率を得た2)。Matsutani らは,16 例の成熟奇形腫で摘出術を行い,10 年生存率が78.3%であった3)。Kageyama らは,成熟奇形腫5 例に対して全摘出を行い,全例が社会復帰したと報告している4)。Delphi committee において,成熟奇形腫,悪性転化のない未熟奇形腫に対しては全摘出を選択するとされた5)。以上のように,成熟奇形腫は摘出により良好な予後が得られることから,摘出術が勧められる。
Nakamura らは,AFP>100 ng/mL,もしくはHCG またはβ-HCG>100 mIU/mL を呈した14 例の連続NGGCT に対して,組織診断を行わずに術前化学放射線療法を行った。11 例で残存腫瘍を認め,手術を行った。摘出腫瘍の組織学的診断は,成熟奇形腫3 例,線維性組織3 例,壊死組織2 例で,その他の3 例においては奇形腫あるいは中胚葉性の腫瘍組織が認められた。5 年無増悪生存率が86%,5 年生存率が93%であり,腫瘍マーカーによる診断治療介入とsecond-look surgery の有用性を示した5)。Goldman らによるNGGCT 102 例(腫瘍マーカーによる診断,3~24 歳,中央値12 歳)を対象とした前方視的試験では,規定の化学療法先行後,PD でない症例に対し,CR であれば放射線療法を,CR でなければsecond-look surgery 後に放射線療法ないしsecond-look surgery 後に大量化学療法を行って,さらに引き続き放射線療法を行った。結果は5 年無増悪生存率84%,5 年生存率93%であったが,この臨床試験のサブ解析にて診断時播種のなかった症例においてsecond-look surgery を行った症例の5 年無増悪生存率92%,5 年生存率98%と極めて良い結果であった6)。初回治療後にsecond-look surgery を行った症例は15 例であったが,摘出組織は腫瘍が2 例(胎児性癌1 例,混合性胚細胞腫瘍1 例),奇形腫9 例(成熟奇形腫6例,悪性奇形腫3 例),そして繊維組織が主体で腫瘍細胞を認めないものが4 例であった。腫瘍再発時にsecond-look surgery を行った症例は5 例で,その組織はすべて奇形腫であった。
Delphi committee においても,画像診断と腫瘍マーカーの上昇により胚細胞腫瘍と診断される場合には生検術は必須ではないとされた7)。NGGCT に対しては,β-HCG やAFP が高値を示す場合は組織診断のための手術を行わずに化学放射線療法を考慮してもよい。しかし,どの程度の値であれば組織診断のための手術を実施しなくてよいのか,については国際的なコンセンサスは存在しない(CQ1 解説参照)。
Kim らは,NGGCT 52 例のうち21%にgrowing teratoma syndrome を認めたことを報告しており,化学療法から診断までの期間が平均12.8 カ月で,9 例で全摘出が行われて再発は1 例であった8)。Ogiwara らは,胚細胞腫瘍23 例中7 例(30%)で再増大後に手術を行い,病理診断は成熟奇形腫5 例,異型細胞を伴う繊維形成が1 例,繊維形成のみが1 例であり,全例で全摘出を行って再発なく経過したことを報告した9)。
以上のように,NGGCT では,化学放射線療法中あるいは後に腫瘍が増大することを認識し,化学あるいは放射線療法後に残存腫瘍が存在する場合に手術を考慮する必要がある。化学放射線療法中あるいは後の摘出組織は,上述のように成熟奇形腫であることが多いと報告されているが,治療後修飾された組織での診断であり,初発時の組織が成熟奇形腫であったことを意味するわけでない。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の手術についての検索を2017 年3 月に行った。検索式はCQ3 参照。
一次スクリーニングとして90 文献を抽出し,56 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ4 では9 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Zygourakis CC, Davis JL, Kaur G, et al. Management of central nervous system teratoma. J Clin Neurosci. 2015;22(1):98-104.[PMID:25150764]
- 2)
- Noudel R, Vinchon M, Dhellemmes P, et al. Intracranial teratomas in children:the role and timing of surgical removal. J Neurosurg Pediatr. 2008;2(5):331-8.[PMID:18976103]
- 3)
- Matsutani M, Takakura K, Sano K. Primary intracranial germ cell tumors:pathology and treatment. Prog Exp Tumor Res. 1987;30:307-12.[PMID:2819945]
- 4)
- Kageyama N, Kobayashi T, Kida Y, et al. Intracranial germinal tumors. Prog Exp Tumor Res. 1987;30:255-67.[PMID:3628811]
- 5)
- Nakamura H, Makino K, Kochi M, et al. Evaluation of neoadjuvant therapy in patients with nongerminomatous malignant germ cell tumors. J Neurosurg Pediatr. 2011;7(4):431-8. [PMID:21456918]
- 6)
- Goldman S, Bouffet E, Fisher PG, et al. Phase Ⅱ Trial Assessing the Ability of Neoadjuvant Chemotherapy With or Without Second-Look Surgery to Eliminate Measurable Disease for Nongerminomatous Germ Cell Tumors:A Children’s Oncology Group Study. J Clin Oncol. 2015:33(22):2464-71.[PMID:26101244]
- 7)
- Murray MJ, Bartels U, Nishikawa R, et al. Consensus on the management of intracranial germ-cell tumours. Lancet Oncol. 2015;16(9):e470-7.[PMID:26370356]
- 8)
- Kim CY, Choi JW, Lee JY, et al. Intracranial growing teratoma syndrome:clinical characteristics and treatment strategy. J Neurooncol. 2011;101(1):109-15.[PMID:20532955]
- 9)
- Ogiwara H, Kiyotani C, Terashima K, et al. Second-look surgery for intracranial germ cell tumors. Neurosurgery. 2015;76(6):658-61.[PMID:25988926]
- CQ5
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍に合併した水頭症に対して手術は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨
内視鏡下第三脳室底開窓術などの水頭症を解除する手術を推奨する。
解説
Shono らは,12 例のジャーミノーマに対して,軟性鏡を用いて内視鏡下生検術を行い,8 例は同時に第三脳室底開窓術を施行した1)。手術死亡や永続的な合併症は認めず,その後のシャント手術は不要であった。化学放射線療法にて全例でCR を得た。Luther らは,第三脳室底開窓術と生検術を同時に行った32 例において,NGGCT を含む胚細胞腫瘍,松果体芽腫,上衣腫の髄液播種リスクの高いと判断された22 例の2 年無髄液播種生存率は94.7%で,同様の疾患の髄液播種率が8~24%であることから,第三脳室底開窓術と生検術の同時施行が髄液播種リスクを上昇しないと報告した2)。水頭症を合併する例では,内視鏡手術による生検と同時に第三脳室底開窓術などの水頭症を解除する手術を推奨する。ただし,化学放射線療法による腫瘍縮小で水頭症が解除されうることを念頭に置く必要がある。
水頭症の解除を脳室腹腔短絡術で行ってよいかどうかについて,Xu らは,原発性中枢神経系腫瘍のシャント術に関連する神経管外転移についてシステマティックレビューを行い,106 例のシャントに関連する神経管外転移のうち25 例(25%)(VP シャント24 例,VA シャント1 例)がジャーミノーマであったと報告した。この25 例全例(100%)腹腔内に転移しており,さらに同時にリンパ節に4%,骨に4%の神経管外転移が認められている。これは,髄芽腫の22 例(21%)より多く,最も多い腫瘍組織型であったことから,中枢神経原発胚細胞腫瘍に合併した水頭症に対するシャント術による神経管外転移に注意を要する3)。こうした合併症を避けるためにも,中枢神経原発胚細胞腫瘍に合併した水頭症に対しては,可能な限り第三脳室開窓術が推奨される。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の手術についての検索を2017 年3 月に行った。検索式はCQ3 参照。
一次スクリーニングとして90 文献を抽出し,56 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ5 では3 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Shono T, Natori Y, Morioka T, et al. Results of a long-term follow-up after neuroendoscopic biopsy procedure and third ventriculostomy in patients with intracranial germinomas. J Neurosurg Pediatr. 2007;107(3):193-8.[PMID:17918523]
- 2)
- Luther N, Stetler WR Jr., Dunkel IJ, et al. Subarachnoid dissemination of intraventricular tumors following simultaneous endoscopic biopsy and third ventriculostomy. J Neurosurg Pediatr. 2010;5(1):61-7.[PMID:20043737]
- 3)
- Xu K, Khine KT, Ooi YC, et al. A systematic review of shunt-related extraneural metastases of primary central nervous system tumors. Clin Neurol Neurosurg. 2018;174:239-43.[PMID:30292900]
- CQ6
- ジャーミノーマにおいて化学放射線療法は必要か?
- 推奨度1B
- 推奨1
脊髄播種のないジャーミノーマにおいては化学療法を併用した全脳室を照射野内に含める放射線照射を推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
脊髄播種のないジャーミノーマに対しては,予防的脊髄照射を行わないことを推奨する。
- 推奨度1B
- 推奨3
化学療法単独で治療しないことを推奨する。
解説
ジャーミノーマは放射線治療と化学療法への感受性が高い腫瘍であり,腫瘍摘出術を行わなくても,適切な治療を行えば,非常に高い生存率が期待できる悪性脳腫瘍である。ジャーミノーマは,脳室壁を伝うような腫瘍進展をきたすことが知られており,腫瘍への局所照射のみでは,照射野外への再発を十分に予防することができない。しかし,脊髄予防照射を行っていない症例で脊髄再発の報告が非常に少ないことから,ジャーミノーマの脊髄腫瘍進展はほぼないと考えられる。一方で,全脳脊髄照射は非常に有効な治療であり,一定以上の線量を全脳または全脳脊髄照射を行うことにより,ジャーミノーマの5 年無病生存率は90%を超える1,2)。しかしながら,長期生存が期待される小児および若年成人において,全脳または全脳脊髄への放射線療法が成長発達に与える影響は大きく,高次機能異常や内分泌異常などの問題が,長期にわたって若年生存者に大きくのしかかる3-6)。Heaston らは,対象疾患はWilms 腫瘍であるが,脊髄にも照射された25 例の放射線療法の長期生存例の脊椎発達障害について報告している。脊髄照射に伴う小児の脊椎発達障害はほぼ全例で発生しており,3 歳未満では8 Gy,3 歳以上では14 Gy 以上の照射で照射後5年以内に5%の割合で生ずるとされており,長期生存が期待されるジャーミノーマ患者において脊髄照射は留意すべき点であると考えられる7)。
播種のないジャーミノーマに対してドイツで行われた全脳脊髄照射(CSI)による前方視的多施設共同試験MAKEI 83/86/89 の報告によると,MAKEI 83/86(11 例)では全脳脊髄照射36 Gy+局所照射14 Gy,MAKEI 89(49 例)では全脳脊髄照射30 Gy+局所照射15 Gy が照射され,それぞれの5 年無増悪生存率は100%,88.8%,5 年全生存率は100%,92%と報告されている1)。Cho らは,60 例のジャーミノーマに対して段階的に腫瘍部分の総線量を59 から39.3 Gy(中央値45 Gy),全脳脊髄照射の線量を36.5 から19.5 Gy(うち22 例は脊髄線量が19.5 Gy)まで減少させる照射を行い,全例で再発を認めておらず,線量は腫瘍部分には39.3 Gy,脊髄には19.5 Gy まで減少させることができると報告している8)。
照射野の設定については,播種のないジャーミノーマにおける照射後の再発と照射野との関連を評価することを目的に行われたSFOP TGM-TC-90 試験では,カルボプラチン,エトポシド,イホスファミドによる化学療法を先行後,腫瘍局所(腫瘍部分+2 cm マージン)に40 Gy の照射が行われた。60 例中10 例に再発を認め,うち8 例は脳室周囲であった。この結果から,腫瘍局所のみの照射は再発のリスクが高く,播種のないジャーミノーマにおいても全脳室照射は必要であると結論された9)。
同様に,播種のないジャーミノーマに対する非ランダム化試験であるSIOP CNS GCT96 試験では,全脳脊髄照射24 Gy+局所照射16 Gy の放射線療法単独群と化学療法を併用した40 Gy の局所照射群との比較が行われた。放射線療法単独群125 例中4 例で腫瘍局所に再発を認める一方,化学療法併用局所照射群65 例中7 例に再発を認め,うち6 例は照射野外の脳室内再発であった。化学療法併用であっても照射範囲に全脳室を含める必要があると考えられる10)。このように,ジャーミノーマの放射線療法の線量と照射野については,将来的なQOL を考慮しながら,化学療法を併用することで,線量の減量と照射野の縮小を図る試みが,日本をはじめ世界各地で行われてきた。中枢神経外胚細胞腫瘍の化学療法として,ブレオマイシン,エトポシド,シスプラチンの3 剤を併用するBEP 療法が確立しているが,中枢神経系ジャーミノーマの化学放射線治療においては,白金製剤とエトポシドの2 剤による併用療法,あるいはイホマイドなどのアルキル化剤も加えた3 剤による併用療法が,臨床試験で繰り返し選ばれている。SIOP CNS 96 試験に加えて,Matsutani および日本小児脳腫瘍研究グループ11,12)は,75 例の脊髄播種のないジャーミノーマに対し,3 コースのカルボプラチン,エトポシドと拡大局所照射野に視床下部-下垂体系の耐容線量ともいわれる24 Gy を併用する前方視的臨床試験を行い,92%にCR が得られて,中央値が2.9 年の観察期間において12%に再発が認められ,10 年全生存率は97.5%と報告した。この拡大局所照射野は後の全脳室照射野に近いが,全脳室照射野に比べて第四脳室下半がカバーされていない。両試験において,再発は照射外で多く認めた一方で,脊髄再発はほとんど観察されていない。Khatua ら13)は,脊髄播種のないジャーミノーマ20 例(うち混合腫瘍でないジャーミノーマ19 例)に対して4 コースのカルボプラチン,エトポシドによる化学療法を,その後に全脳室照射21.6 Gy,および腫瘍局所へのブースト(総線量30~30.6 Gy)の放射線療法を同時もしくは逐次で行い,後方視的に解析した。3 年無再発生存率は89%で,全生存率は100%であった。これらの良好な結果から,現在SIOP ではSIOP CNS GCT Ⅱ14)において,脊髄播種のないジャーミノーマに対し,化学療法によるCR 症例には線量を全脳室照射24 Gy まで,また我が国においてもカルボプラチン,エトポシド療法と線量を全脳室照射23.4 Gy まで低減させる臨床試験(jRCTs031180223)が行われている。これらの観察が,ジャーミノーマにおいて脳室照射を推奨する根拠である。さらなる放射線療法の減量や縮小は,臨床試験の中で行われるべきである。ジャーミノーマのなかで基底核および視床に発生した腫瘍に関しては例外的な治療を推奨する報告もある15)。Wang らは,15 例の基底核もしくは視床の胚細胞腫の治療成績を報告しているが,9 例はジャーミノーマであり,再発はない。彼らは他の部位のジャーミノーマと比較して基底核や視床の胚細胞腫は脳実質への浸潤の可能性が高いため,全脳室照射より全脳照射(20~24 Gy)に加えて局所照射を行い40~45 Gy の照射を推奨している15)。
シスプラチンとカルボプラチンの比較試験は,中枢神経外胚細胞腫瘍において行われているが,中枢神経ジャーミノーマにおいては,その優劣を検証した臨床試験はない16,17)。また,白金製剤とエトポシドの2 剤による併用療法,あるいはアルキル化剤も加えた3 剤による併用療法を比較した臨床試験もこれまでに行われていないため,治療毒性を考慮すると,中枢神経ジャーミノーマにおいては,白金製剤とエトポシドの2 剤による併用療法が推奨される。また,SIOP におけるレジメンにおいては,カルボプラチンとエトポシドの2 剤投与とシクロホスファミドとエトポシドの2 剤が交互に投与され,良好な治療成績を得ているが,どちらのレジメンが優れているかの評価は難しい10)。放射線療法の毒性を取り除くために,強力な化学療法単独でジャーミノーマを治療する試みは行われてきた。最初の化学療法単独のトライアルとして,Balmaceda らは71 例の中枢神経原発胚細胞腫瘍において45 例のジャーミノーマをカルボプラチン,エトポシド,ブレオマイシンのレジメンにて治療しているが,50%以上の症例において再発をきたしている18)。Kellie らは19例の腫瘍マーカー陰性のジャーミノーマの症例において,レジメンA(シスプラチン,エトポシド,シクロホスファミド,ブレオマイシン)と強力な化学療法から導入し,レジメンB(カルボプラチン,エトポシド,ブレオマイシン)の維持療法を追加するという治療を行っている。結果は19 例中8 例に再発がみられ,放射線療法が追加されている19)。da Silva らは,25 例の中枢神経原発胚細胞腫を初期治療として化学療法のみ(第1 クール:カルボプラチンとエトポシド,第2 クール:シクロホスファミドとエトポシドを交互に2 回ずつ投与),で治療を行っており,そのうち15 例はジャーミノーマにもかかわらず,7 例に再発し放射線療法の追加治療を行っている20)。これらの複数の臨床試験から示された再発率の高さから,化学療法単独による治療は推奨されない。
播種のないジャーミノーマに対する脊髄照射については,多数の文献から症例を集めたRogersらの報告によると,播種のないジャーミノーマに対して全脳全脊髄照射+局所照射を行った343 例のうち,脊髄播種を認めたものは4 例(1%)であったのに対して,全脳もしくは全脳室照射+局所照射を行った276 例のうち,脊髄播種を認めたものは8 例(3%)と報告されている21)。また,脊髄照射の生存への寄与を検討したShikama らの報告では,国内6 施設から180 人のデータを集め,多変量解析が行われた。その結果,脊髄照射のハザード比は1.050(95%信頼区間:0.355-3.170)と脊髄照射は必ずしも生存に寄与していないことが示された22)。播種のないジャーミノーマに対する予防的脊髄照射の必要性は乏しい。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,最初は放射線治療と化学療法を別の課題として2017 年2 月に検索したが,最終的には,ジャーミノーマの化学放射線療法としてまとめた。検索式はジャーミノーマに関してのものを放射線療法と化学療法から抽出し,下記に示す。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法で96 文献,化学療法で270 文献を抽出し,それぞれ26 文献,35 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正を加えた。途中で中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法と化学療法として課題を別にするより,ジャーミノーマの化学放射線療法,NGGCT の化学放射線療法として課題を作成した方が理解しやすいとの結論に達し,課題3 はジャーミノーマの化学放射線療法とし,最終的にCQ6 では22 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Bamberg M, Kortmann RD, Calaminus G, et al. Radiation therapy for intracranial germinoma:results of the German cooperative prospective trials MAKEI 83/86/89. J Clin Oncol. 1999;17(8):2585-92.[PMID:10561326]
- 2)
- Ogawa K, Shikama N, Toita T, et al. Long-term results of radiotherapy for intracranial germinoma:a multi-institutional retrospective review of 126 patients. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2004;58(3):705-13.[PMID:14967424]
- 3)
- Sands SA, Kellie SJ, Davidow AL, et al. Long-term quality of life and neuropsychologic functioning for patients with CNS germ-cell tumors:from the First International CNS Germ-Cell Tumor Study. Neuro Oncol. 2001;3(3):174-83.[PMID:11465398]
- 4)
- Liang SY, Yang TF, Chen YW, et al. Neuropsychological functions and quality of life in survived patients with intracranial germ cell tumors after treatment. Neuro Oncol. 2013;15(11):1543-51.[PMID:24101738]
- 5)
- Martens T, Rotermund R, Eulenburg CZ, et al. Long-term follow-up and quality of life in patients with intracranial germinoma. Neurosurg Rev. 2014;37(3):445-50;discussion 451.[PMID:24715277]
- 6)
- Park Y, Yu ES, Ha B, et al. Neurocognitive and Psychological Functioning of Children with an Intracranial Germ Cell Tumor. Cancer Res Treat. 2017;49(4):960-9.[PMID:28052648]
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- Heaston DK, Libshitz HI, Chan RC. Skeletal effects of megavoltage irradiation in survivors of Wilms’s tumor. AJR Am J Roentgenol. 1979;133(3):389-95.[PMID:223422]
- 8)
- Cho J, Choi JU, Kim DS, et al. Low-dose craniospinal irradiation as a definitive treatment for intracranial germinoma. Radiother Oncol. 2009;91(1):75-9.[PMID:19019472]
- 9)
- Alapetite C, Brisse H, Patte C, et al. Pattern of relapse and outcome of non-metastatic germinoma patients treated with chemotherapy and limited field radiation:the SFOP experience. Neuro Oncol. 2010;12(12):1318-25.[PMID:20716594]
- 10)
- Calaminus G, Kortmann R, Worch J, et al. SIOP CNS GCT 96:final report of outcome of a prospective, multinational nonrandomized trial for children and adults with intracranial germinoma, comparing craniospinal irradiation alone with chemotherapy followed by focal primary site irradiation for patients with localized disease. Neuro Oncol. 2013;15(6):788-96.[PMID:23460321]
- 11)
- Matsutani M, Japanese Pediatric Brain Tumor Study Group. Combined chemotherapy and radiation therapy for CNS germ cell tumors–the Japanese experience. J Neurooncol. 2013;54(3):311-6.[PMID:11767296]
- 12)
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- 13)
- Khatua S, Dhall G, O’Neil S, et al. Treatment of primary CNS germinomatous germ cell tumors with chemotherapy prior to reduced dose whole ventricular and local boost irradiation. Pediatr Blood Cancer. 2010;55(1):42-6.[PMID:20222020]
- 14)
- https://clinicaltrials.gov/ct2/show/record/NCT01424839
- 15)
- Wang M, Zhou P, Zhang S, et al. Clinical features, radiologic findings, and treatment of pediatric germ cell tumors involving the basal ganglia and thalamus:a retrospective series of 15 cases at a single center. Childs Nerv Syst. 2018;34(3):423-30.[PMID:29067503]
- 16)
- Horwich A, Sleijfer DT, Fosså SD, et al. Randomized trial of bleomycin, etoposide, and cisplatin compared with bleomycin, etoposide, and carboplatin in good-prognosis metastatic nonseminomatous germ cell cancer:a Multiinstitutional Medical Research Council/European Organization for Research and Treatment of Cancer Trial. J Clin Oncol. 1997;15(5):1844-52.[PMID:9164194]
- 17)
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- 18)
- Balmaceda C, Heller G, Rosenblum M, et al. Chemotherapy without irradiation–a novel approach for newly diagnosed CNS germ cell tumors:Results of an international cooperative trial. J Clin Oncol. 1996;14(11):2908-15.[PMID:8918487]
- 19)
- Kellie SJ, Boyce H, Dunkel IJ, et al. Intensive cisplatin and cyclophosphamide-based chemotherapy without radiotherapy for intracranial germinomas:failure of a primary chemotherapy approach. Pediatr Blood Cancer. 2004;43(2):126-33.[PMID:15236278]
- 20)
- da Silva NS, Cappellano AM, Diez B, et al. Primary chemotherapy for intracranial germ cell tumors:results of the third international CNS germ cell tumor study. Pediatr Blood Cancer. 2020;54(3):377-83.[PMID:20063410]
- 21)
- Rogers SJ, Mosleh-Shirazi MA, Saran FH. Radiothraphy of localized intracranial germinoma:time tosever historical ties? Lancet Oncol. 2005;6(7):509-19.[PMID:15992700]
- 22)
- Shikama N, Ogawa K, Tanaka S, et al. Lack of benefit of spinal irradiation in the primary treatment of intracranial germinoma:a multiinstitutional, retrospective review of 180 patients. Cancer. 2005;104(1):126-34.[PMID:15895370]
- CQ7
- NGGCT には化学放射線療法を行うことが有用か?
- 推奨度1B
- 推奨
成熟奇形腫を除くNGGCT では化学放射線療法を推奨する。
解説
NGGCT はジャーミノーマ以外の複数の胚細胞腫瘍組織型の総称であり,さらにはジャーミノーマを含む複数の異なる組織型の成分が混在する混合型NGGCT が多い。強力な集学的治療を行っても生存率が低い,卵黄囊腫,胎児性癌,絨毛癌が大部分を占めるタイプから,比較的生存率の高い,奇形腫やジャーミノーマ中心の混合性タイプ,さらには手術摘出が基本で後治療を行わなくても再発が稀な成熟奇形腫まで,予後が大きく異なる腫瘍が含まれることがNGGCT の治療を複雑にしている。
NGGCT の多くでは,血中または脳脊髄液中にHCG/β-HCG やAFP といった腫瘍マーカーが検出される。診断を補助する有用な腫瘍マーカーである一方で,NGGCT が組織診断されずに腫瘍マーカーのみで診断されて,化学放射線治療で治療開始されることが多く,その場合に腫瘍の適切なリスク分類が困難となる。特に欧米では比較的低い腫瘍マーカーの閾値でNGGCT を臨床診断し,全脳脊髄照射やアルキル化剤を含む強力な治療を開始することが多く,NGGCT の一部の患者で過剰治療の懸念があり,さらには発生頻度が比較的低い高悪性度NGGCT の真の治療成績が臨床試験の結果に反映されていない可能性がある。
我が国においては,東京大学シリーズ(1963~1994)および旧厚生省がん研究助成金による多施設前方視的試験(1995~2003)において,NGGCT の中で組織型と腫瘍マーカー高値によって,治療成績が異なる中間リスク群と高リスク群に分類できることを示した。中間リスク群NGGCT は拡大局所照射(腫瘍床,第三脳室,側脳室,トルコ鞍,松果体を含む,全脳室照射とほぼ同等の照射野)または全脳室分割照射約23.4 Gy と局所への追加照射合計50.4 Gy とカルボプラチンとエトポシドによる2 剤併用化学療法で,平均観察期間3.7 年時点での中間報告によると,無増悪生存割合は89%であった1)。高リスク群NGGCT に対しては,旧厚生省がん研究助成金による多施設前方視的試験をはじめとする国内外の臨床試験で,放射線療法と白金製剤,イホマイドなどのアルキル化剤,エトポシドによる3 剤併用化学療法によって治療が行われており,一定の生存率が得られている。放射線療法の方法や化学療法の強度や期間について,臨床試験ごとに異なっており,比較試験は行われたことがなく,標準的な化学放射線療法は定まっていない1-3)。高リスク群NGGCT の治療成績は依然として満足のいくものでなく,初期からの治療抵抗例,早期の播種再発例も少なくない。脊髄播種がなくても全脳脊髄照射が必要であるのかという問いに対して,まだ答えは示されていない1)。脊髄播種のないNGGCT における放射線療法の照射野については議論がある。大半の脊髄播種のないNGGCT において,化学療法を併用した場合に全脳脊髄照射が不要であることは,SIOP GCT 96 試験および旧厚生省がん研究助成金による多施設前方視的試験(1995~2003)で示唆された1,2)。ジャーミノーマとの混合性腫瘍が多い中間リスク群NGGCT において,局所照射で充分であるのか,全脳室照射が必要かどうかは,さらなる検証が必要である。
ジャーミノーマと異なりNGGCT は3~4 歳未満の低年齢小児に発生することがあり,中枢神経への放射線療法の影響が甚大である低年齢患者に対する,年長児や若年成人とは異なった治療戦略が必要である。しかし,低年齢のNGGCT に対しても,現時点で標準的といえる治療法は確立していない。乳幼児に対する脳腫瘍摘出術と強力な多剤併用化学療法が施行できる専門施設での治療が望まれる。
NGGCT における化学療法先行後の残存腫瘍へのsecond-look surgery についてはCQ4の推奨2 を参照のこと。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,最初は放射線治療と化学療法を別の課題として2017 年2 月に検索したが,最終的には,NGGCT の化学放射線療法としてまとめた。検索式はNGGCT に関するものを放射線療法と化学療法から抽出し,下記に示す。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法で96 文献,化学療法で270 文献を抽出し,それぞれ26 文献,35 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正を加えた。途中で中枢神経原発胚細胞腫瘍の放射線療法と化学療法として課題を別にするより,ジャーミノーマの化学放射線治療,NGGCT の化学放射線療法として課題を作成した方が理解しやすいとの結論に達し,課題4 はNGGCT の化学放射線療法とし,最終的にCQ7 では3 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Matsutani M, Japanese Pediatric Brain Tumor Study Group. Combined chemotherapy and radiation therapy for CNS germ cell tumors–the Japanese experience. J Neurooncol. 2001;54(3):311-6.[PMID:11767296]
- 2)
- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
- 3)
- Goldman S, Bouffet E, Fisher PG, et al. Phase Ⅱ Trial Assessing the Ability of Neoadjuvant Chemotherapy With or Without Second-Look Surgery to Eliminate Measurable Disease for Nongerminomatous Germ Cell Tumors:A Children’s Oncology Group Study. J Clin Oncol. 2015;33(22):2464-71.[PMID:26101244]
- CQ8
- 再発ジャーミノーマに対し救済治療を行う必要があるか?
- 推奨度1B
- 推奨
治癒を目指して治療を行うことを推奨する。
解説
再発ジャーミノーマについては,救済治療により治癒可能であることが報告されている。いずれの報告も,症例報告または症例報告の記述的研究1)であり,後方視的解析2)であり,これらの報告から,再発時に何らかの救済治療追加を行うことは有意義であることは読み取れるが,治療方法の優劣を判断するのは困難であり,標準的な治療方針を確定することはできない。
Kamoshima らは,再発までの期間の中央値が50 カ月の晩期再発ジャーミノーマ25 例について,再発様式の解析と再発後の救済治療の転帰を報告している。初発の治療法,再発時の治療は統一されたものではない。25 例のうち,治療により救命されたのは17 例(68%)である。再発時に化学放射線療法を行った13 例全例が生存しているのに対し,放射線のみで治療された11 例中7 例が,化学療法のみで治療された1 例が再発のために死亡したと報告している。化学放射線療法を行った13 例の放射線療法は,8 例が全脳脊髄照射(CSI),4 例が局所照射,1 例が全脳室照射であり,放射線のみで治療された11 例中7 例が死亡しており,それらはすべて局所照射が行われている。生存の4 例中2 例はCSI,2 例が局所照射である。つまり再発時には放射線の局所照射だけでは治癒できないと思われる2)。
Hu らは,11 例の再発ジャーミノーマに対する救済治療とその転帰について報告している。初発時の放射線療法は,全脳照射,全脳室照射,腫瘍への局所照射,ガンマナイフ治療と異なった治療を受けた症例から構成される。再発時の救済治療もCSI 単独4 例,全脳脊髄照射と化学療法併用5 例,全脳照射と化学療法併用1 例,ガンマナイフ治療1 例と異なっている。全体の5 年生存率が71%であるのに対して,CSI を採用した症例は92%で,再発時のCSI 採用の有無が予後因子になっていたと報告している3)。
Modak らは,初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経原発胚細胞腫瘍に対する,チオテパを中心とした大量化学療法の有用性を検討した報告の中で,9 例の再発ジャーミノーマの転帰を示している。初発時には放射線療法のみのもの,放射線治療と化学療法併用が含まれる。9 例中7 例(78%)が生存期間中央値48 カ月で,無病生存していると報告している4)。生存7 例のうち4 例は放射線療法を行っておらず,2 例は全脳照射で,1 例がCSI であり,死亡した2 例において1 例は放射線療法を行っておらず,1 例は局所照射である。
Baek らは,初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経系胚細胞腫瘍に対する大量化学療法の臨床試験KSPNO S-053 の結果を報告している。対象となった20 例中10 例は,2 回目の大量化学療法を施行された。前方視的試験であるが,初発時の治療法は異なっており,再発時にも,治療法が統一されていない。再発ジャーミノーマ9 例のうち,大量化学療法のみで治療された7 例中4 例が無病生存しているのに対して,大量化学療後に放射線療法を併用した2 例は2 例とも無病生存している5)。
救済治療後の障害やQOL については,Baek らの報告では,特に大量化学療法を行うことで重篤な有害事象をきたすことやQOL を極端に落とすということはないという記載がある。しかし,これまでの報告数が少なく,放射線療法単独,化学放射線療法,大量化学療法,大量化学療法の併用の治療法について,優劣を判断することはできない。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍における再発の治療方針について下記検索式による検索を2017 年7 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして420 文献を抽出し,41 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ8 では5文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Janjetovic S, Bokemeyer C, Fiedler W, et al. Late recurrence of a pineal germinoma 14 years after radiation and chemotherapy:a case report and review of the literature. Onkologie. 2013;36(6):371-3.[PMID:23774153]
- 2)
- Kamoshima Y, Sawamura Y, Ikeda J, et al. Late recurrence and salvage therapy of CNS germinomas. J Neurooncol. 2008;90(2):205-11.[PMID:18604473]
- 3)
- Hu YW, Huang PI, Wong TT, et al. Salvage treatment for recurrent intracranial germinoma after reduced-volume radiotherapy:a single-institution experience and review of the literature. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012;84(3):639-47.[PMID:22361082]
- 4)
- Modak S, Gardner S, Dunkel IJ, et al. Thiotepa-based high-dose chemotherapy with autologous stem-cell rescue in patients with recurrent or progressive CNS germ cell tumors. J Clin Oncol. 2004;22(10):1934-43.[PMID:15143087]
- 5)
- Baek HJ, Park HJ, Sung KW, et al. Myeloablative chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed or progressed central nervous system germ cell tumors:results of Korean Society of Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)S-053 study. J Neurooncol. 2013;114(3):329-38.[PMID:23824533]
- CQ9
- 再発NGGCT に対し救済治療は有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
寛解を目指した治療を提案する。治療反応性が不良の場合は,緩和的治療を提案する。
解説
再発NGGCT の予後はかなり厳しい。再発ジャーミノーマと異なり,再発NGGCT 対して救済治療による救命例の報告は少なく,いずれも症例報告またはケースシリーズの記述的研究1),後方視的解析2)であり,一般的に治療方針を推奨することはできない。
Modak らは3),初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経系胚細胞腫瘍に対する,チオテパを中心とした大量化学療法の有用性を検討した報告の中で,12 例の再発NGGCT の転帰を示している。12 例中,無病生存しているのは,生存期間中央値35 カ月で,4 例(33%)であると報告している。この4 例においては,初発時1 例のみ局所の放射線療法を行っており,残りの3 例はシスプラチン,イホマイド,エトポシドの化学療法だけ施行している。再発時,チオテパを中心とした大量化学療法を行っているが,その後の放射線療法は初発時放射線治療を行っていない2 例に追加照射をされている。彼らは導入化学療法による完全寛解の達成の有無が予後を決定すると解析している。
Baek らは,初期治療中の治療抵抗例および再発中枢神経系胚細胞腫瘍に対する大量化学療法の臨床試験KSPNO S-053 の結果を報告している1)。対象となった20 例中10 例は,2 回目の大量化学療法を施行された。再発NGGCT 11 例のうち,無病生存は導入化学療法で完全寛解となった4 例であり,導入化学療法による完全寛解達成の成否が予後を左右すると解析している。これらの4 例中3 例は,再発後に23.4 Gy から39.6 Gy の全脳脊髄照射を含む放射線療法を併用されているが,そのうち1 例は初発部位(松果体および視床下部)に合計75.6 Gy(初回45 Gy,再発時30.6 Gy)照射されている。残りの1 例は初発時に50Gy 初発部位(松果体)に照射されているため,再発時放射線療法は施行されていない。
Murray らは,SIOP-96 の臨床研究にて登録されたNGGCT の再発例32 例について検討しており,再発時の大量化学療法を行った症例22 例とスタンダードな化学療法(カルボプラチンもしくはシスプラチン,イホマイド,エトポシドなど)を行った10 例における5 年生存率を比較している2)。SIOP-96 の臨床研究におけるNGGCT に対する治療プロトコールは,単発例であればシスプラチン,イホマイド,エトポシド(ICE)のレジメンで4 コースの化学療法を行い,54 Gy の局所の放射線療法を行い,bifocal tumor 以外の多発例には30 Gy の全脳脊髄照射および24 Gy の局所の照射を行うものである。再発時スタンダードな化学療法を行った症例の5 年生存率は0 であり,大量化学療法を行った症例でも22 例中5 年生存できた症例は3 例だけであった。この3 例に対する再発時の放射線療法は,1 例において局所照射されているが,他の2 例において放射線療法は施行されていない。この結果からは,再発時放射線療法が可能であったかどうかは予後に影響しないといえる。
これらの報告のように,再発時のNGGCT の救済治療は初期治療,特に放射線療法の有無は再発時の照射に影響する。大量化学療法が施行できても,寛解する例は多くない。また,再発NGGCT の治療による無病生存例の報告においても,治療後の障害やQOL についての情報は乏しい。大量化学療法,連続大量化学療法と放射線療法の併用による無病生存の達成があるものの,これらの救済治療による生存率は高いとはいえず,新規の治療法が開発される必要がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍における再発の治療方針についての検索を2017 年7 月に行った。検索式はCQ8 参照。
一次スクリーニングとして420 文献を抽出し,41 文献の構造化抄録を作成した。それらのエビデンス総体をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ9 では3 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Baek HJ, Park HJ, Sung KW, et al. Myeloablative chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed or progressed central nervous system germ cell tumors:results of Korean Society of Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)S-053 study. J Neurooncol. 2013;114(3):329-38.[PMID:23824533]
- 2)
- Murray MJ, Bailey S, Heinemann K, et al. Treatment and outcomes of UK and German patients with relapsed intracranial germ cell tumors following uniform first-line therapy. Int J Cancer. 2017;141(3):621-35.[PMID:28463397]
- 3)
- Modak S, Gardner S, Dunkel IJ, et al. Thiotepa-based high-dose chemotherapy with autologous stem-cell rescue in patients with recurrent or progressive CNS germ cell tumors. J Clin Oncol. 2004;22(10):1934-43.[PMID:15143087]
- CQ10
- 中枢神経原発胚細胞腫瘍におけるフォローアップは必要か?
- 推奨度1B
- 推奨
可能な限り長期に追跡することを推奨する。
解説1:長期的なフォローアップについて
CNSGCT の追跡としては,長くても10 年程度までの報告が多い。MAKEI89 やSIOP-CNS-GCT-96 による前方視的試験のnon-germinomatous germ cell tumors(NGGCT)の報告によれば1,2),5 年から10 年で生存割合はプラトーに到達するようにみえる。しかし,CNSGCT の,より長期の予後について,前述の米国SEER database に1973~2005 年に報告されたジャーミノーマ405 例とNGGCT 94 例のデータが報告によると,5 年以上の生存者について,ジャーミノーマにおいてKaplan-Meier 生存曲線は,人口統計に比べてはるかに速いペースで,30 年以上ほぼコンスタントに下がり続けることが分かる3)。(1.中枢神経原発胚細胞腫瘍の基本的特徴(総論)図1 を参照のこと。)ジャーミノーマの5 年以上生存者405 例においてみられた46 例の死亡の16%は癌死で,その約半数は胚細胞腫の再発であり,再発死亡例の死亡までの期間中央値は9.1 年であった。したがって,このKaplan-Meier 生存曲線がコンスタントに下がり続けることを考えると,胚細胞腫の再発はおよそ20年で出尽くすともいえるかもしれない。ところが腫瘍再発による死亡以外の死因では,主に放射線療法による晩期障害と考えられる脳卒中が多く,脳卒中による死亡の危険率は人口統計よりも59 倍高く,脳卒中による死亡までの期間中央値は23.8 年とのことであった。Kaplan-Meier 生存曲線が20 年を超えるあたりから加速度的に下がり続けるようにみえるのは,この脳卒中など原病以外の疾病が原因と考えられる。したがって,CNSGCT の追跡は,疾病管理という意味でも,またQOL や社会的なサポートという意味でも,永続的な診療やケアが必要であると考えられる。
❖ 文献
- 1)
- Calaminus G, Bamberg M, Harms D, et al. AFP/beta-HCG secreting CNS germ cell tumors:long-term outcome with respect to initial symptoms and primary tumor resection. Results of the cooperative trial MAKEI 89. Neuropediatrics. 2005;36(2):71-7.[PMID:15822019]
- 2)
- Calaminus G, Frappaz D, Kortmann RD, et al. Outcome of patients with intracranial non-germinomatous germ cell tumors-lessons from the SIOP-CNS-GCT-96 trial. Neuro Oncol. 2017;19(12):1661-72.[PMID:29048505]
- 3)
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解説2:フォローアップにおける具体的な事項
長期フォローアップにおける基礎的な背景因子として,それぞれの治療による障害の可能性を認識することが第一である。いずれも単変量解析ではあるが,全脳照射と基底核部病変が認知機能についての予後不良因子と報告されている1)。放射線療法の影響の程度は,線量・照射野・照射時年齢などさまざまな要因に影響される。目安として,照射線量ごとの認知機能・内分泌機能予後を示した(図1 2),表1 1,3-16))。また,化学療法に関しても表2 17)に示すように,それぞれの薬剤に対して長期的に考慮すべき合併症が存在する。
フォローアップにおいては以下の項目について観察を行うことが推奨される。
【神経症状,脳脊髄MRI,腫瘍マーカー】
神経症状,脳と脊髄のMRI および腫瘍マーカーによる再発の有無の観察を行う。神経症状ならびに脳と脊髄のMRI は,放射線療法による脳血管腫や二次がん(髄膜腫やグリオーマ等)の有無の観察18)のため,再発のおそれがなくなったとしても継続して行うことを考慮する。さらに胚細胞腫に限らず,ステロイドなどの投与歴などの症例において,副腎不全による死亡も報告されており,定期的な副腎機能のチェックは必要と思われる19)。画像検査の間隔については,治療終了後少なくとも2 年間は3 カ月ごと,それ以降は4 カ月~1 年ごとの頭部MRI を行うことが一般的である20)。
【認知機能,就学・就労】
小児CNSGCT 経験者には認知機能障害の中でも特に,記憶障害が多くみられるため,全般的知能検査に記憶機能検査を加えることが重要である21)。通常の教育を受けられる者も多いが,学習困難があれば特別支援教育が必要となる。CNSGCT 経験者にとって就労が困難となる原因には,認知機能のほかに視覚機能(視力・視野・眼球運動障害)も指摘されており,障害者枠就労や障害年金も考慮される4,5,22)。Sugiyama らは,中学もしくは高校卒業後に就職したジャーミノーマ長期生存者11 例中7 例が30 歳以上になって記憶・計算の問題により失職したことを報告している3)。これらのことから,認知機能について,少なくとも就学前・進学前・就職前(進路選択)のタイミングを含めつつ,その後も定期的な評価が必要と考えられる。検査にあたっては,視覚機能や運動機能についても評価し23-25),その結果を認知機能検査者にあらかじめ伝える必要がある。
【下垂体前葉,後葉機能および妊孕性】
内分泌合併症は,CNSGCT の長期生存者に最も多い合併症である24)。尿崩症については,治療後にも改善せず存在し続けることが報告されている25)。成長ホルモン投与の遅れは,成長障害のみならず,骨量減少のリスクを高めるため,早期補充が必要である26,27)。性機能については,性腺機能低下だけでなく思春期早発も起こるなど多様な症状が生じる4,24)。甲状腺機能低下や脂質代謝・糖代謝異常による肥満の報告もあり,これらの内分泌異常は治療後新たに起こることも稀ではない4,5,23,24,28,29)。中枢神経原発胚細胞腫瘍治療に対する妊孕性の温存に関しては,児や親権者の理解度,また倫理的な背景も考慮すべきであるが,小児がん経験者における不妊の問題を直視し,児や親権者の理解度,倫理的な背景を考慮して対応することが求められる。詳細に関しては日本がん治療学会の妊孕性ガイドラインを参照している(http://www.jsco-cpg.jp/fertility/)。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,中枢神経原発胚細胞腫瘍の長期予後について下記検索式による検索を2016 年12 月に行った。
以上の検索式より,一次スクリーニングとして295 文献を抽出し,32 文献のエビデンス総体を作成した。それらの構造化抄録をもとに推奨と解説文を作成したが,その後にもいくつかの文献を加える必要があり,随時訂正し,最終的にCQ10 では解説文を2 つに分け,解説1 では3 文献,解説2 では29 文献を抽出するに至った。
❖ 文献
- 1)
- Liang SY, Yang TF, Chen YW, et al. Neuropsychological functions and quality of life in survived patients with intracranial germ cell tumors after treatment. Neurooncol. 2013;15(11):1543-51.[PMID:24101738]
- 2)
- Sklar CA, Antal Z, Chemaitilly W, et al. Hypothalamic-Pituitary and Growth Disorders in Survivors of Childhood Cancer:An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(8):2761-84.[PMID:29982476]
- 3)
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- 6)
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- 7)
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- 8)
- Krull KR, Zhang N, Santucci A, et al. Long-term decline in intelligence among adult survivors of childhood acute lymphoblastic leukemia treated with cranial radiation. Blood. 2013;122(4):550-3.[PMID:23744583]
- 9)
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- 10)
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- 11)
- Mulhern RK, Kepner JL, Thomas PR, et al. Neuropsychologic functioning of survivors of childhood medulloblastoma randomized to receive conventional of reduced-dose craniospinal irradiation:a Pediatric Oncology Group study. J Clin Oncol. 1998;16(5):1723-8.[PMID:9586884]
- 12)
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- 14)
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- 16)
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- Children’s Oncology Group. Long-Term Follow-Up Guidelines for Survivors of Childhood, Adolescent, and Young Adult Cancers, Version 5.0-October 2018 http://www.survivorshipguidelines.org/pdf/2018/COG_LTFU_Guidelines_v5.pdf
- 18)
- Nakamura H, Makino K, Ushio Y, et al. Therapy-associated secondary tumors in patients with non-germinomatous malignant germ cell tumors. J Neurooncol. 2011;105(2):359-64.[PMID:21533838]
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- 20)
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- Shim KW, Park EK, Lee YH, et al. Treatment strategy for intracranial primary pure germinoma. Childs Nerv Syst. 2013;29(2):239-48.[PMID:22965772]
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割 | 氏名 | 所属機関/専門分野 | 作成上の役割 |
---|---|---|---|
委員長 | 廣瀬 雄一 | 藤田医科大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 | 総括 |
副委員長 | 西川 亮 | 埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科/脳神経外科 | 総括 |
協力委員 | 師田 信人 | 北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 | 診断 |
委員 | 隈部 俊宏 | 北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 | 外科的治療 他のガイドラインとの整合性 |
委員 | 唐澤 克之 | 都立駒込病院 放射線診療科/放射線科 | 放射線治療 |
委員 | 中田 光俊 | 金沢大学医薬保健研究域医学系 脳・脊髄機能制御学/脳神経外科 | 化学療法 |
協力委員 | 柳澤 隆昭 | 東京慈恵会医科大学 脳神経外科/脳神経外科 | 化学療法 |
委員 | 中村 英夫 | 久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 | DIPG の分子生物学的特徴,解説 |
委員 | 杉山 一彦 | 広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科 | 他のガイドラインとの整合性 |
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号 | 課題名 | 課題責任者 | SR 委員 |
---|---|---|---|
総論 | DIPG の分子生物学的特徴 | 中村 英夫 | 篠島 直樹(熊本大学医学部 脳神経外科) |
1 | 診断 | 師田 信人 | 吉村 淳一(長野赤十字病院 脳神経外科) |
2 | 外科的治療 | 隈部 俊宏 | 齋藤 竜太(名古屋大学医学部 脳神経外科) 吉村 淳一(長野赤十字病院 脳神経外科) |
3 | 放射線治療 | 唐澤 克之 | 藤井 元彰(三井記念病院 放射線治療科) |
4 | 化学療法 | 中田 光俊 | 柳澤 隆昭(東京慈恵会医科大学 脳神経外科) 鈴木 智成(埼玉医科大学国際医療センター 脳脊髄腫瘍科) 山崎 文之(広島大学 脳神経外科) |
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
DIPG に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,DIPG 患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された9 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにシステマティックレビュー(SR)チームを2~3 名で編成した。DIPG が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年11 月30 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で,DIPG のガイドライン作成ワーキンググループが発足。課題の一部については委員の追加を行った。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2015 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2014 に準拠した方法により行ったが,DIPG が稀少疾患であるためエビデンスが少なく,上記の方法の適用が困難な場面に遭遇した。
推奨作成とその決定:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,ガイドライン作成ワーキンググループが各CQ に対する推奨内容について討議した。全委員を対象に,各CQ に対する推奨について郵送により投票を行うこととした。2019 年6 月2 日に投票方法を周知し,投票を行った。7 月6 日,第43 回脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で投票結果が報告され,すべての推奨が承認された。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年6 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
1)臨床的特徴
脳幹部でも主に橋に発生する浸潤性の脳実質内腫瘍で,小児期,特に学童期に好発し,生命予後が不良な腫瘍である。脳幹(主に橋)の中をびまん性・浸潤性に発育するため,大きな腫瘤を形成することはないが,複数の脳神経核や重要神経回路の機能障害をきたしながら病状が進行する。具体的には外眼筋麻痺や顔面神経の障害,錐体路徴候,体幹失調で発症し,急速に進行していくことが多い。
びまん性橋グリオーマ(diffuse intrinsic pontine glioma:DIPG)の名称は組織型による分類ではなく,腫瘍の発生部位と画像所見に基づくものである。すなわち典型例では神経徴候を含めた臨床学的所見と画像検査(MRI)で診断されることが多い。生検術によるものも含めて組織診断されることは少ないのが実情であるが,組織診断された場合にはびまん性星細胞腫であることが多い。最近の遺伝子解析の発達により,この腫瘍には特徴的な遺伝子異常が多いことが知られるようになった。2016 年に世界保健機関(World Health Organizaion:WHO)から出版された脳腫瘍分類では,脳幹,視床といった脳の正中部に発生し,特定のヒストン遺伝子の異常を示す腫瘍をdiffuse midline glioma と分類するようになり,WHO grade Ⅳの最高悪性度に分類される。これまでにDIPG と分類されていた腫瘍のかなりの部分が,このdiffuse midline glioma に相当すると考えられるが,diffuse midline glioma の診断には遺伝子異常の確認が必要であり,今後の診断体系に変更が生じる可能性もある。これまでに知られているDIPG の遺伝子異常については後述する「備考:DIPG の分子生物学的特徴」を参照されたい。
注:本ガイドラインで扱う疾患「びまん性橋グリオーマ」は英語名diffuse intrinsic pontine glioma に対応する。この名称は,橋から発生する腫瘍の中でも外惻(第四脳室内や小脳橋角部といった髄外)に突出するexophytic pontine glioma と対をなすものとして命名されたものある。Exophytic pontine glioma は,時には外科的切除の対象となることもあるが,保存的に経過観察することも許容される予後良好な腫瘍で,橋自体が腫大する形で発育する「びまん性橋グリオーマ」とは臨床像も大きく異なる。後者の英語名に含まれる “intrinsic” は橋の髄内(実質内)にある腫瘍を指す単語であり,委員会内では英語名を忠実に和訳した「びまん性髄内橋グリオーマ」という腫瘍名も検討されたが,結論としては英語名を直訳しない「びまん性橋グリオーマ」を選んだ。ただし,略語については文献や臨床の場でも使われることの多いDIPG(diffuse intrinsic pontine glioma)とした。
2)疫学的特徴
生存期間中央値は12 カ月以下,1 年生存率は50%以下と生命予後が不良な腫瘍である。脳腫瘍の中でもっとも予後が悪い腫瘍の一つで,この20年間で治療効果による予後の改善がみられない腫瘍である。脳腫瘍全国集計調査報告(2017)によれば,びまん性星細胞腫,退形成性星細胞腫のいずれも数%が橋に主座のある腫瘍であったとの統計があるが,本疾患は外科的手術の対象とならないことが多いと考えられるので,組織型の情報も含めた正確な情報を得ることは難しい。
3)診療の全体的な流れ
組織診断することなく神経徴候を含める臨床所見と画像検査(MRI)によって診断した後,放射線治療が行われることが多い。一時症状および画像所見の改善が60~80%にみられるが,約6 カ月で再発する。腫瘍に対する化学療法の有効性は示されていない。ステロイドによる一時的な症状の改善は期待できる。診断された時点で,生存できる期間がある程度決まるので,残された時間をどのように使うのか,状態悪化時に挿管・気管切開・呼吸器装着を行うかどうか,水頭症併発時の手術など姑息的治療を行うか,など患者や家族の予後不良な疾患の受け入れと,提供できる支援としては緩和医療が必要となる。
治療早期から緩和医療の同時進行,あるいは緩和医療への移行も念頭に置きながら,姑息的治療の選択にあたっては家族の意思を尊重しつつ慎重に判断することが望まれる。
4)備考:DIPG の分子生物学的特徴
2016 年のWHO 改訂により,脳腫瘍特にグリオーマにおいて,その分子遺伝学的プロファイルが診断に加味されるようになった。この改訂によって中枢神経系の中心に位置し,浸潤性の性格を持つ星細胞優位の腫瘍であり,H3F3A もしくはHIST1H3B/C をコードする遺伝子においてK27M の変異を有する悪性度の高いグリオーマをdiffuse midline glioma と定義された。DIPG は,このdiffuse midline glioma の代表的な腫瘍である。DIPG の80%近くの症例において,このどちらかの遺伝子変異が認められ,この2 つの遺伝子変異は相互排他的と報告されている1)。
(1)予後因子に関して
2012 年のKhuong-Quang らによる報告では,小児DIPG 42 例においてK27M-H3 変異が独立予後不良因子であった2)。2014 年に症例を増やした小児DIPG 72 例における解析でも同様の結果が得られており3),K27M-H3 変異検索は組織学的grading より予後予測因子として意義があると考えられる。
(2)分子標的治療に関して
①変異遺伝子に対する標的治療
2014 年にBuczkowicz らは,臨床データと組織サンプルが得られた小児DIPG 74 例の遺伝子発現やメチル化などの網羅的解析を行い,3 群にサブグループ化し(MYCN, silent, H3-K27M),それぞれの群で標的治療の可能性のあるいくつかの候補分子を同定した1)。特にH3-K27M ではACVR1 変異が20%で認められ,この下流のSMAD 経路は恒常的に活性化しており治療標的に成り得ると考察している。
また,2014 年にTaylor らは,26 例のDIPG の約30%でみられたACVR1(ALK2)変異を標的とした治療の有望性について報告している4)。すなわちACVR1 変異のある患者由来DIPG 細胞株を用い,ALK2 inhibitor により抗腫瘍効果が得られたことを示している。
②エピジェネティクス変化に対する治療
2014 年Ahsan らは,エピジェネティクス解析を行い,成人GBM や小児の非脳幹GBM と比較して小児DIPG に特異的なエピジェネティクス変化を同定した5)。グローバルDNAメチル化としての5-methylcytosine(5mC)レベルは,小児DIPG に限らず小児非脳幹GBM および成人GBM で有意に低下していた。一方,H3K27 トリメチル化の有意な低下と,クロマチン活性に関与する5-hydroxymethylation of cytosine(5hmC)レベルの有意な上昇が,小児DIPG で特異的に認められた。治療としてヒストン脱メチル化阻害薬やヒストン脱アセチル化阻害薬などのエピジェネティクスmodifiers が期待されると結論づけている。さらにGrasso らは,エピジェネティクスmodifiers によるDIPG の治療効果をin vitro,in vivo で検討している6)。患者由来DIPG 細胞培養系で薬剤スクリーニングを行い,抗腫瘍効果のある薬剤としてヒストン脱アセチル化酵素阻害薬のpanobinostat を同定しin vitro,in vivo でその抗腫瘍効果を証明した。さらにヒストン脱メチル化阻害薬のGSK-J4 を併用することで相乗的な抗腫瘍効果が得られたと報告している。
❖ 文献
- 1)
- Buczkowicz P, Hoeman C, Rakopoulos P, et al. Genomic analysis of diffuse intrinsic pontine gliomas identifies three molecular subgroups and recurrent activating ACVR1 mutations. Nat Genet. 2014;46(5):451-6.[PMID:24705254]
- 2)
- Khuong-Quang DA, Buczkowicz P, Rakopoulos P, et al. K27M mutation in histone H3.3 defines clinically and biologically distinct subgroups of pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Acta Neuropathol. 2012;124(3):439-47.[PMID:22661320]
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- Buczkowicz P, Bartels U, Bouffet E, et al. Histopathological spectrum of paediatric diffuse intrinsic pontine glioma:diagnostic and therapeutic implications. Acta Neuropathol. 2014;128(4):573-81.[PMID:25047029]
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- Taylor KR, Mackay A, Truffaux N, et al. Recurrent activating ACVR1 mutations in diffuse intrinsic pontine glioma. Nat Genet. 2014;46(5):457-61.[PMID:24705252]
- 5)
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- 6)
- Grasso CS, Tang Y, Truffaux N, et al. Functionally defined therapeutic targets in diffuse intrinsic pontine glioma. Nat Med. 2015;21(6):555-9.[PMID:25939062]
2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:びまん性橋グリオーマ(DIPG)の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後の改善
- (3)トピック:DIPG の生命予後,機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍を診療する医療者や施設,患者・家族,ケアギバー(caregiver)
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本および海外で既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)重要臨床課題
課題1:診断
課題2:外科的治療
課題3:放射線治療
課題4:化学療法 - (7)ガイドラインがカバーする範囲
初発治療時が小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満の小児例に加え,15~29 歳のAYA 世代)。脳幹部に発生する腫瘍の中で病変が限局性のものや脳実質外にexophytic に発育する腫瘍とは予後が異なるので,これらは含まない。
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール | 文献検索:1 カ月 文献の選出:3 カ月 エビデンス総体の評価と統合:4 カ月 |
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:DIPG に関してはなし。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed,医中誌
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2018 年7 月まで
- ①エビデンスタイプ
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。 - (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
- CQ1
- 臨床経過,臨床所見,画像検査からDIPG と診断することは推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
臨床経過,臨床所見,画像検査からDIPG と診断することを提案する。注:DIPG の名称は組織型による分類ではなく,その一方,最新の脳腫瘍分類でのdiffuse midline glioma(診断確定に遺伝子解析を要する)に相当する腫瘍が大部分を占めると考えられる。生検術の是非については議論が分かれるが,この点については解説を参照されたい。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,DIPG は特殊な腫瘍であり,腫瘍の発生部位と画像所見に基づく疾患群を指すことに留意する必要がある。そのためDIPG の診断が,必ずしも組織学的悪性度の診断につながるわけでない。適切な治療を行うための診断法の妥当性について検証を行う。
- アウトカム:
- 臨床経過,臨床所見,画像診断からDIPG と診断した場合の誤診率
2.推奨の解説
DIPG 診断・治療の歴史において,Albright らによる1993 年の論文が果たした役割は極めて大きい1)。定位的あるいは開頭術で手術を受けた45 名のびまん性の脳幹部腫瘍全例がグリオーマであったことより,DIPG の診断はMRI で可能であり生検術は不要とされた。結果として,以後20年近くにわたり治療の大勢は外科的組織診断による裏付けなく進められることとなった。そのため,対象とする論文名にDIPG が冠されていても,現時点ではほとんどの文献において病理学的信憑性は曖昧であることを念頭に置く必要がある。
DIPG では放射線治療による一時的腫瘍縮小効果の他に有効な治療がなく,予後も極めて不良であるため,DIPG の臨床経過・臨床所見,画像診断について,前方視的に検討したエビデンスの高い論文は存在しない。そのため,文献としては単一施設での症例集積による臨床研究・症例報告を対象に検討した。
1)臨床経過・臨床所見
医療機関受診に至る典型的な臨床経過・臨床所見は,DIPG のスコープに記載されている通りである。水頭症を合併することは,通常は末期まで稀と考えられている。この臨床像について,DIPG の診断率と結びつけて検討した論文は認めなかった。逆にDIPG と診断されたにもかかわらず長期生存している5 例(全192 例)について後方視的に検討した論文では,3 歳以下2 例,発症から診断まで6 カ月以上3 例,外転・顔面神経麻痺なし1 例が臨床所見上の非典型所見として挙げられている2)。いずれも従来から指摘されていた非典型例の経過・所見であるが,典型例における頻度が記載されていないため,その信頼性を確定することは困難である。なお,後述の画像所見と関連するが,この5 例中3 例のMRI 所見は典型的DIPG と診断されている。
2)MRI 所見
DIPG の典型的なMRI 所見は一般的に以下の通りと考えられている。
2:境界不鮮明
3:T1 低信号域
4:T2 高信号域
5:ガドリニウム造影効果は,あっても不整形
6:囊胞形成や橋表面(第4 脳室底も含む)への露出を伴わない。
MRI が非腫瘍性脳幹部病変との鑑別に有効とした文献は認めたが3),DIPG の組織診断の有用性を直接検討した文献は認めなかった。CQ2 との関係でMRI における脳幹部腫瘍におけるDIPG の頻度に触れた文献は症例集積として存在するが,MRI の質的診断価値(DIPG か非DIPG 脳幹部腫瘍か)についての考察は行われていない。外科的組織診断とMRI 所見を比較した文献は1 編のみであった。Dellaretti らは,定位的生検術を施行した44 例についてMRI 所見と組織像を比較検討した4)。画像所見をびまん性vs. 局在性,造影効果ありvs. なし,で4 群に分類し,44 例中41 例で組織診断が可能であり,うち37 例(90.2%)がDIPG と診断されている。造影効果を伴う場合,DIPG の高悪性度群および非DIPG の頻度が高くなるため生検術の必要性を文献では訴えているが,同時にMRI 所見のみでDIPG の診断・予後予測が困難であることを結果的に示唆する内容となっている。非DIPG に高悪性度腫瘍が多いことを論じた文献は認めたが,画像上の非典型的MRI 所見を示した脳幹部腫瘍のうち,どれだけが非DIPG だったかの情報は記載されていなかった5)。
現在,DIPG にそぐわない非典型的MRI 所見を示す脳幹部腫瘍に対する外科的組織診断の必要性は徐々に認識される傾向にあるが,非典型的所見かどうかが外科医間でどれだけ一致するかを調べた興味深い文献が認められた6)。脳幹部腫瘍16 例の画像を86 名の小児神経外科医が診断したところ,全員が典型的あるいはDIPG として画像所見が典型的あるいは非典型的であると診断が一致した症例は存在せず,75%以上がいずれかの診断で一致した症例が7 例(43.8%)であった。DIPG の典型的MRI 画像の知識はあっても,臨床現場でのMRI 診断の難しさを反映した結果となっている。
以上をまとめると,MRI によりDIPG の存在・進展を診断することは可能であるが,治療法に結びつく組織学的・生物学的悪性度の診断を行うことは現時点では困難である,ということになる。
3)その他の画像所見
MRI DTI(diffusion tensor imaging)あるいはspectroscopy を用いてDIPG の特徴を調べた報告は散見されるが,いずれも単発でありエビデンスとしては低い。また,PET による悪性度診断の報告もあるが,現時点では日常臨床への影響は考えにくいため,ガイドラインには含めなかった。
4)組織診断
近年の分子生物学的診断法の進歩を反映し,生検術による組織診断の機運は高まっている。定位的生検術に関しては,新たな手術法の開発もありより安全に実施されるようになってきているが7),脳腫瘍生検術における診断率は一般に95%前後であり,永続的合併症発生率も1%ほどである。小児脳幹部腫瘍の定位的生検術の文献で多数例を扱った報告はまだ少ない8)。生検術の是非については議論が分かれるが,組織診断・遺伝子解析が直ちに患児への治療という形で恩恵につながるわけではないことを配慮する必要がある。生検術実施にあたっては,確定診断に至らない可能性・合併症出現の可能性をよく説明したうえで実施し,分子生物学的検索など臨床研究に役立てる場合には施設の倫理審査委員会の承諾を得る必要がある9)。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,DIPG の診断について下記検索式による文献検索を2017 年5 月に行った。
検索ワードはdiffuse intrinsic pontine glioma, brainstem glioma, diagnosis, MRI で行った。PubMed 上でAND あるいはOR で組み合わせたが,brainstem glioma では中脳腫瘍,低悪性度腫瘍も含まれるためdiffuse intrinsic pontine glioma を主に文献検索を進めた。また,diagnosis だけでは論文が絞りきれないため,診断に有用な臨床所見の検索にclinical finding を加えた。さらに,推奨作成過程で生検術をCQ2 でなくCQ1 の診断で扱うことになったため,上記に加えてbiopsy も追加して文献検索を行った。そのうえで抄録をもとに一次スクリーニングとして11 文献を抽出し,システマティックレビューを行った。最終的にその中から9 文献を用いて推奨を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Albright AL, Packer RJ, Zimmerman R, et al. Magnetic resonance scans should replace biopsies for the diagnosis of diffuse brain stem gliomas:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1993;33(6):1026-9.[PMID:8133987]
- 2)
- Jackson S, Patay Z, Howarth R, et al. Clinico-radiologic characteristics of long-term survivors of diffuse intrinsic pontine glioma. J Neurooncol. 2013;114(3):339-44.[PMID:23813229]
- 3)
- Schumacher M, Schulte-Mönting J, Stoeter P, et al. Magnetic resonance imaging compared with biopsy in the diagnosis of brainstem diseases of childhood:a multicenter review. J Neurosurg. 2007;106(2 Suppl):111-9.[PMID:17330536]
- 4)
- Dellaretti M, Touzet G, Reyns N, et al. Correlation among magnetic resonance imaging findings, prognostic factors for survival, and histological diagnosis of intrinsic brainstem lesions in children. J Neurosurg Pediatr. 2011;8(6):539-43.[PMID:22132909]
- 5)
- Klimo P Jr, Nesvick CL, Broniscer A, et al. Malignant brainstem tumors in children, excluding diffuse intrinsic pontine gliomas. J Neurosurg Pediatr. 2016;17(1):57-65.[PMID:26474099]
- 6)
- Hankinson TC, Campagna EJ, Foreman NK, et al. Interpretation of magnetic resonance images in diffuse intrinsic pontine glioma:a survey of pediatric neurosurgeons. J Neurosurg Pediatr. 2011;8(1):97-102.[PMID:21721895]
- 7)
- Puget S, Beccaria K, Blauwblomme T, et al. Biopsy in a series of 130 pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 2015;31(10):1773-80.[PMID:26351229]
- 8)
- Rajshekhar V, Moorthy RK. Status of stereotactic biopsy in children with brain stem masses:insights from a series of 106 patients. Stereotact Funct Neurosurg. 2010;88(6):360-6.[PMID:20861659]
- 9)
- Walker DA, Liu J, Kieran M, et al;CPN Paris 2011 Conference Consensus Group. A multi-disciplinary consensus statement concerning surgical approaches to low-grade, high-grade astrocytoma and diffuse intrinsic pontine gliomas in childhood(CPN Paris 2011)using the Delphi method. Neuro Oncol.2013;15(4):462-8.[PMID:23502427]
課題2:外科的治療
- CQ2
- 腫瘍切除は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
DIPG に対する腫瘍切除は行わないことを提案する。
- CQ3
- 水頭症に対する手術は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
DIPG 治療経過中に水頭症を生じた場合,水頭症手術を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
DIPG はその病変の局在から外科的切除術の対象とされないことが多い。ただし,腫瘍進行に伴う水頭症の合併が症状の悪化を招くことがあり,これに対応した治療は望まれるところである。外科的治療の適否については検証が必要である。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的治療による侵襲
2.推奨の解説
CQ2
腫瘍摘出の意義と,生検術を行うか,行わないかの議論は別である。生検術は特に臨床試験を行ううえで腫瘍の分子生物学的特徴を明確にし,さらに標的療法を行っていくためにも推奨する傾向にある1)。本項目ではあくまでもDIPG に対する腫瘍摘出の意義に関してまとめる。
第一にこれまで発表された論文,特に年代の古いものではDIPG の定義が曖昧であるために,DIPG に対する外科的治療の意義に関して正確な結論を導き出すのが難しい。
1980 年代後半にEpstein から発表された形態学的なintrinsic brainstem glioma の分類2,3)は依然として頻用される。Epstein らは1986 年の発表ではfocal, diffuse, cervicomedullary の3 型に分類した2)が,1988 年にはさらにcystic を加え最終的に4 型に分類している3)。diffuse type のbrainstem glioma で橋に存在するものがDIPG に相当すると考えて,過去の論文の記述からDIPG に対する外科的治療の意義を推測することになる。
Epstein らの1988 年の文献3)では,66 例の小児intrinsic brain stem glioma のうち27 例がdiffuse であり,これらはすべて組織学的に悪性であり,手術の恩恵はなく,1 例は手術死亡し,全例が術後6~9 カ月で死亡した。この結果からdiffuse intrinsic brainstem glioma に対しての手術適応はないとしている。この症例群のかなりの部分がDIPG に相当すると予想されるが,想像の域を出ない。
Behnke ら4)は1987~1994 年の連続した小児intra-axial exophytic tumor 30 例に対して手術を行った。術後ほとんどの症例で術前に認められた症状は悪化するが,2~3 カ月で回復するとしている。しかし2 例では術後2 日目と2 週間目に死亡している。血管腫(2 例)・grade 1 の星細胞腫(6 例)・grade 2 の乏突起膠腫(1 例)・grade 2 の上衣腫(1 例)の計10 例は術後2 年の段階で全例が生存している。一方,grade 2 以上の星細胞腫とprimitive neuroectodermal tumor(PNET)はどんなに摘出率が高くとも全例死亡した。術前神経学的脱落症状のあるもの,pontine hypertrophy,Onion-skin-like changes between layers of normal brainstem parenchyma and tumor tissue が認められる症例は,予後が悪いと報告している。開頭顕微鏡下手術は,MRI や生検ではわからない情報が得られるために有用というのが結論であるが,手術を推奨する考えに偏っていると評価せざるを得ない。
Wagner ら5)は1983~2001 年にHIT-GBM database に登録された新規pontine glioma 153 例を対象とした。場所はpons に限局されているが,diffuse, focal を分類していない。DIPG と推測される96 例中6 例(6.3%)に摘出術が行われた。結果的に手術・放射線・化学療法すべてが行われた症例の予後は単変量解析で良好であった。手術の意義に関しては論議されていないが,表に記載されている “Larger tumor”(定義が一切記載されていない)に対する摘出術は,単変量解析にてp=0.048 となっており,予後良好因子と読み取ることはできる。
Yoshimura ら6)は1962~1996 年の72 例のbrainstem glioma を検討した。64 例がdiffuse で,そのうち40 例に対して剖検が行われた。このうち2 例が延髄,38 例が橋に存在しているため,38 例が真の意味でのDIPG に相当すると判断される。年齢は3~46(平均12.6)歳で,4 例に部分摘出術以上,34 例に対して生検もしくは摘出術は行われなかった。表から摘出例の生存期間中央値は44 週,生検・非摘出例のそれは32 週と計算され,log-rank test にてp=0.408 で生存期間延長効果は認められなかった。
Behnke4),Wagner5)らの文献からintrinsic brainstem glioma に対して摘出術がある程度の意味合いを有することが予想されるが,これらにはfocal intrinsic type のbrainstem glioma とpons 以外に位置する腫瘍が含まれており,しかもそれがどの割合かは全く不明であるために,純粋にDIPG に対する摘出効果を明らかにすることができない。
結論として,DIPG に対する可及的摘出術の意義を明らかにした文献は存在しないと言える。また,合併症発生率が高く,術後早期死亡例の報告も多い3,4)。したがって,DIPG に対する腫瘍切除は推奨されない。
ただし,これは一般論であって,局所的な造影領域あるいは囊胞成分の急速な拡大に対する摘出術等,各症例に応じた腫瘍切除が否定されるものではない。このような状況下での腫瘍摘出の有効性,問題点に関して検討を行った論文は過去一切存在しないためである。
CQ3
DIPG ではおよそ15~60%の確率で,その診断確定から平均5 カ月で水頭症を生ずると報告されている。DIPG に併発した水頭症に対して手術を行うべきであるかどうかに関しては,いずれも単施設の後方視的検討結果によるため,高いエビデンスレベルにはない。また,その少ない対象疾患がDIPG に限定していない点にも注意が必要となる。
DIPG に合併した水頭症に対して,保存的療法のみでは限界があり,脳室腹腔短絡術(ventriculoperitoneal shunt:VPS)もしくは内視鏡的第三脳室開窓術(endoscopic third ventriculostomy:ETV)の適応を検討する必要がある。Amano らは,水頭症手術が行われた12 例はそれ以外の4 例に比較して長期生存したと報告している1)。Roujeau らは,51 例のDIPG を対象とし,水頭症を生じた11 例とそれ以外40 例の生存期間を検討した2)。Roujeau らは,適切に治療されれば水頭症の有無は生存率に影響しなかったこと,腫瘍の進行状況と水頭症発生とも関係なかったことから,水頭症が起きたらより積極的に治療すべきであるとしている2)。Amano らも,水頭症を神経兆候・画像診断から診断することは重要で,もし水頭症を生じた場合は適切な水頭症手術を行うべきとしている1)。
DIPG の4~50%に存在する播種病変を伴った水頭症では,水頭症の原因はDIPG によって中脳水道から第4 脳室への髄液流通障害による閉塞性水頭症だけではなく,吸収障害も伴った複数の要因に由来することが多いため,髄液を腹腔内へ流し出すことによって水頭症を改善させるVPS を優先的に選択する必要がある。播種病変が明らかになっていない場合,VPS とETV のいずれを選択するかの結論は出ていない。ETV においても施行直後から水頭症症状改善は得られ,体内に異物が挿入されないことから感染のリスクが低いという利点を強調する論文がみられる1,3,4)。一方で,ETV 後にVPS を必要とした症例が,Klimo らの報告3)では13 例中1 例,Roujeau らの報告2)では2 例中1 例と少なからず存在しており,上述のように髄液吸収障害による水頭症発現機序も考慮すると,最初からVPS を選択した方が良いという意見も存在する2)。なお,ETV を行う場合には脳底槽の変形・狭小化を念頭に置き,脳幹部や偏移した脳底動脈損傷を避けるように慎重かつ十分な開窓を症例ごとに検討すべきとされている4)。また,非常に稀な現象ではあるが,VPS を介して腹腔内に腫瘍播種を生ずることも報告されている5)。このように,DIPG 経過中に生ずる水頭症に対して手術を行うことは勧められているが,VPS を選択すべきであるか,ETV を選択すべきであるかは結論づけられていないのが現状である。
システマティックレビュー結果
CQ2
<検索式>
diffuse[All Fields]AND intrinsic[All Fields]AND(“pons”[MeSH Terms]OR “pons”[All Fields]OR “pontine”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])
“resection”“surgery”といったterm を加えて手術に関連したものだけをsearch するとあまりにも文献数が少なくなるために,下記のようにDIPG 全体をカバーするようにすべての論文を抽出し,一次スクリーニングを行い,その後,二次スクリーニングで文献を絞った。
❖ 文献
- 1)
- Walker DA, Liu J, Kieran M, et al;CPN Paris 2011 Conference Consensus Group. A multi-disciplinary consensus statement concerning surgical approaches to low-grade, high-grade astrocytoma and diffuse intrinsic pontine gliomas in childhood(CPN Paris 2011)using the Delphi method. Neuro Oncol. 2013;15(4):462-8.[PMID:23502427]
- 2)
- Epstein F, McCleary EL. Intrinsic brain-stem glioma of childhood:surgical indications. J Neurosurg. 1986;64(1):11-5.[PMID:3941334]
- 3)
- Epstein F, Wisoff JH. Intrinsic brainstem tumors in childhood:surgical indications. J Neurooncol. 1988;6(4):309-17.[PMID:3221258]
- 4)
- Behnke J, Christen HJ, Mursch K, et al. Intra-axial endophytic tumors in the pons and/or medulla oblongata Ⅱ. Intraoperative findings, postoperative results, and 2-year follow up in 25 children. Childs Nerv Syst. 1997;13(3):135-46.[PMID:9137855]
- 5)
- Wagner S, Warmuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006;79(3):281-7.[PMID:16598416]
- 6)
- Yoshimura J, Onda K, Tanaka R, et al. Clinicopathological study of diffuse type brainstem gliomas:analysis of 40 autopsy cases. Neurol Med Chir(Tokyo). 2003;43(8):375-82.[PMID:12968803]
CQ3
<検索式>
diffuse[All Fields]AND intrinsic[All Fields]AND(“pons”[MeSH Terms]OR “pons”[All Fields]OR “pontine”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“hydrocephalus”[MeSH Terms]OR “hydrocephalus”[All Fields]))OR((“brain stem”[MeSH Terms]OR(“brain”[All Fields]AND “stem”[All Fields])OR “brain stem”[All Fields]OR “brainstem”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“hydrocephalus”[MeSH Terms]OR “hydrocephalus”[All Fields])
結果:252 件
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Amano T, Inamura T, Nakamizo A, et al. Case management of hydrocephalus associated with the progression of childhood brain stem gliomas. Childs Nerv Syst. 2002;18(11):599-604.[PMID:12420118]
- 2)
- Roujeau T, Di Rocco F, Dufour C, et al. Shall we treat hydrocephalus associated to brain stem glioma in children? Childs Nerv Syst. 2011;27(10):1735-9.[PMID:21928037]
- 3)
- Klimo P Jr, Goumnerova LC. Endoscopic third ventriculocisternostomy for brainstem tumors. J Neurosurg. 2006;105(4 Suppl):271-4.[PMID:17328276]
- 4)
- Kobayashi N, Ogiwara H. Endoscopic third ventriculostomy for hydrocephalus in brainstem glioma:a case series. Childs Nerv Syst. 2016;32(7):1251-5.[PMID:27041375]
- 5)
- Barajas RF Jr, Phelps A, Foster HC, et al. Metastatic Diffuse Intrinsic Pontine Glioma to the Peritoneal Cavity Via Ventriculoperitoneal Shunt:Case Report and Literature Review. J Neurol Surg Rep. 2015;76(1):e91-6.[PMID:26251821]
課題3:放射線治療
- CQ4
- 放射線治療は行うべきか?
- 疾患の治療時期に応じて,解説を以下の項目に分けた。
- CQ4-1
- 初発のDIPG に対して,放射線治療は行うべきか?
- 推奨度1B
- 推奨
初発のDIPG に対して,放射線治療を行うことを推奨する。
- CQ4-2
- 照射後再発時のDIPG に対して,放射線治療は行うべきか?
- 推奨度2C
- 推奨
照射後再発時のDIPG に対して,放射線治療を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
DIPG の治療の中心となる放射線治療について,その線量や照射範囲に関して検証を行う。一般的に,小児脳腫瘍に対する放射線治療は3 歳以上であるか否かによって方針が分かれるが,DIPG は3 歳未満で診断されることは稀であるので,年齢に関する検証は行わない。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科治療による侵襲
2.推奨の解説
CQ4-1
DIPG の予後は不良で,放射線治療を行わない場合の生存期間は約3.5~5 カ月とされている1,2)。
DIPG が稀少疾患であることから,放射線治療の効果についても後方視的な観察研究が多いが,1991 年には2~13 歳のDIPG に対する放射線治療について非照射群での全生存期間中央値が140 日であったのに対して照射群では280 日であったとの報告がある1)。1983~2001 年までドイツで行われた多施設共同前方視的コホート研究HIT-GBM に登録された153 例の治療成績を検討したWagner らの報告によると,54 Gy/30 fr の通常分割照射が行われた放射線治療群(125 例)の全生存期間中央値は11 カ月であったのに対して,非照射群(21 例)では5 カ月であり,放射線治療群において生存期間の有意な延長を認めている3)。
照射の分割様式については,過分割照射(hyperfractionated radiotherapy)と通常分割照射との比較,および寡分割照射(hypofractionated radiotherapy)と通常分割照射との比較が行われている。
POG-9239 試験は過分割照射と通常分割照射を比較した多施設共同第Ⅲ相ランダム化比較試験で,全130 例を過分割照射群(総線量70.2 Gy,1.17 Gy×2 回/日)64 例と通常分割照射群(総線量54 Gy,1.8 Gy/日)66 例に振り分けて検討された。その結果,過分割照射群と通常分割照射群で,死亡までの期間(8 カ月/8.5 カ月),EFS(5 カ月/6 カ月)いずれにおいても両群に有意な差はなく,過分割照射による生存率の改善は認められなかった4)。
寡分割照射と通常分割照射との比較については,Zaghloul らにより第Ⅲ相ランダム化比較試験が行われ,その結果が2014 年に報告された5)。全71 例を寡分割照射群(39 Gy/13fr,2.6 週)35 例と通常分割照射群(54 Gy/30 fr,6 週)36 例に振り分けて検討された。その結果,全生存期間は寡分割照射群では7.8 カ月,通常分割照射では9.5 カ月で,両群に有意な差はみられなかった。急性および晩期有害事象についても両群に差はなく,治療期間の短縮,治療負担の軽減から寡分割照射は有利ではないかと述べている。
現在では腫瘍部分に1~2 cm のマージンをつけた部分に対して,一回線量1.8~2 Gy,総線量54~60 Gy の通常分割照射による放射線治療が標準治療とされており,放射線治療により症状の緩和のみならず,8~14 カ月の生存を期待できる。
CQ4-2
放射線療法は,照射後の再発例に用いても予後を改善する,という後方視的な報告が出されつつある。Wolff らのMD アンダーソンがんセンターにおける後方視的な解析によれば1),化学療法が大部分を占める26 種類のレジメンで61 回の治療を試みた31 例の再発DIPG のうち,初発部位に対し再照射が行われた7 例の奏効率は57%(7 例中4 例)で,再照射が行われなかった群の奏効率10%(52 例中5 例)に比較して有意に高く(p=0.008),また他のレジメンに比べて,EFS が有意に長かった(p=0.017)。彼らの用いた放射線の総線量は18~20 Gy で,グレード3 以上の有害事象は1 例も認められなかった。
Lassaletta らのカナダからの後方視的な報告によれば2),2011~2016 年に治療したDIPG の再照射16 例と,過去の再照射を行わなかった46 例を比較して,生存期間中央値が有意に延長した(218 日vs. 92 日,p=0.0001)。彼らの放射線の総線量は21.6~36 Gy と比較的高い線量を用いたが,30 Gy/10 fr を投与した1 例に橋の壊死が生じた。
またJanssens らによるヨーロッパ7 カ国の施設から集積された小児DIPG の照射後再発例についてのマッチドコホート研究3)では,再照射を行った31 例と行わずにbest supportive care(BSC)で観察した39 例を比較すると全生存期間の中央値が13.7 カ月vs. 10.4 カ月(p=0.04)と,有意に再照射群で改善していた。そして再照射を行った31 例中24 例で症状の軽快が認められた。また,グレード3 以上の有害事象は1 例も認められなかった。照射の線量は6 例の30 Gy/10 回の照射例以外は18~20 Gy の通常分割で行われた。
以上より,未だ前方視的研究の報告はないものの,放射線療法はDIPG の放射線治療後の再発例に対しても,生存期間の延長効果をもたらし,かつ有害事象も許容範囲内であることから,治療手段として用いることを提案する。
システマティックレビュー結果
CQ4-1
<検索式>
((((((((infant or child or adolescent or pediatric))AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)))AND radiotherapy)AND English[Language])NOT review[Publication Type])NOT case reports[Publication Type]
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
なお,DIPG については放射線治療が治療の中心であったため,解説文の作成にあたり対象として放射線非照射群の予後に関する情報を得るために以下の検索式で文献を集め(24 文献),マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した(文献1 および2)。
(((infant or child or adolescent or pediatric)AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)))AND natural history
❖ 文献
- 1)
- Langmoen IA, Lundar T, Storm-Mathisen, et al. Management of pediatric pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 1991;7(1):13-5.[PMID:2054800]
- 2)
- Sun T, Wan W, Wu Z, et al. Clinical outcomes and natural history of pediatric brainstem tumors:with 33 cases follow-ups. Neurosurg Rev. 2013;36(2):311-9;discussion 319-20.[PMID:23138258]
- 3)
- Wagner S, Wamuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006;79(3):281-7.[PMID:16598416]
- 4)
- Mandell LR, Kadota R, Freeman C, et al. There is no role for hyperfractinated radiotherapy in the management of children with newly diagnosed diffuse intrinsic brainstem tumors:results of a pediatric oncology group phase Ⅲ trial comparing conventional vs. hyperfractionated radiotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1999;43(5):959-64.[PMID:10192340]
- 5)
- Zaghloul MS, Eldebawy E, Ahmed S, et al. Hypofractionaed conformal radiotherapy for pediatric diffuse intrinsic pontine glioma(DIPG):A randomized controlled trial. Radiother Oncol. 2014;111(1):35-40.[PMID:24560760]
CQ4-2
<検索式>
(((infant or child or adolescent or pediatric)AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)))AND re-irradiation
これをすべて一次スクリーニングとし(26 文献),マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Wolff JE, Rytting ME, Vats TS, et al. Treatment of recurrent diffuse intrinsic pontine glioma:the MD Anderson Cancer Center experience. J Neurooncol. 2012;106(2):391-7.[PMID:21858608]
- 2)
- Lassaletta A, Strother D, Laperriere N, et al. Reirradiation in patients with diffuse intrinsic pontine gliomas:The Canadian experience. Pediatr Blood Cancer. 2018;65(6):e26988.[PMID:29369515]
- 3)
- Janssens GO, Gandola L, Bolle S, et al. Survival benefit for patients with diffuse intrinsic pontine glioma(DIPG)undergoing re-irradiation at first progression:A matched-cohort analysis on behalf of the SIOP-E-HGG/DIPG working group. Eur J Cancer. 2017;73:38-47.[PMID:28161497]
課題4:化学療法
- CQ5
- 化学療法を行うべきか?
- 推奨度2C
- 推奨
DIPG に対して化学療法を行わないことを提案する。
なお,疾患の治療時期に応じて,解説を以下の項目に分けた。
CQ5-1 放射線治療との併用について
CQ5-2 放射線治療後の化学療法について
CQ5-3 再発(進行)時の化学療法について
解説
1.CQ の設定
課題4:薬物療法(抗がん剤,分子標的治療薬など)の有効性
DIPG の治療における抗腫瘍薬の効果についてはエビデンスが少ないのが現状であるが,一般的な神経膠腫に対する薬物療法の進歩が目立っている中で,DIPG に対する薬物療法の意義を検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,有害事象の発現
2.推奨の解説
CQ5-1 放射線治療との併用について
DIPG に対する標準治療は54~60 Gy の放射線療法であり,1 年生存率は45%程度とされている。単独放射線治療よりも良好な予後を獲得するためにさまざまな薬剤併用放射線療法が報告されてきた。
Wagner らは,白金製剤やアルキル化剤等の併用について1983~2001 年にHIT-GBM(“Hirntumor-Glioblastoma multiforme”)データベースに登録されたDIPG 153 例に対し後方視的に解析している。治療として単独放射線治療あるいは放射線治療と化学療法[エトポシド+トロフォスファミド,カルボプラチン+エトポシド+イホスファミド+(ビンクリスチン)]の併用が行われた。放射線治療単独群(17 例)と放射線化学療法群(88 例)の全生存期間中央値は9 カ月,11 カ月であり,放射線化学療法群が延長した(p=0.03)。また,腫瘍径が大きいDIPG(橋の長さの50%以上)に対しては,放射線治療および化学療法がともに予後延長に寄与していた1)。Korones らは,Children’s Oncology Group(COG)9836 に登録された30 例のDIPG に対して放射線治療とエトポシド,ビンクリスチン併用療法を施行し解析している。全生存期間中央値9 カ月,1 年生存率27%,2 年生存率3%の結果であり,化学療法併用による予後延長効果は得られなかった2)。また,放射線治療とテモゾロミド併用療法に関して報告がある。Cohen らは,63 例の脳幹グリオーマに対し放射線治療とテモゾロミドを併用し全生存期間中央値9.6 カ月であったと報告している3)。Bailey らが報告した43 例の脳幹グリオーマに対する放射線治療とテモゾロミド併用療法では,全生存期間中央値9.5 カ月であった4)。これらの報告では,放射線治療にテモゾロミドを併用しても予後延長効果には寄与しない可能性が高いと述べられている。
放射線治療に分子標的治療薬を併用した臨床試験についても報告されている。Pollack らは43 例の脳幹グリオーマに対し放射線とEGFR チロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブの併用療法を施行した結果,1 年および2 年生存率は56.4%,19.6%であった。2 年生存率19.6%は他の臨床試験より良い結果であり,ゲフィチニブに感受性が高い集団が含まれている可能性が示唆されている5)。Macy らは,25 例の脳幹グリオーマに対し放射線治療に抗EGFR 抗体薬であるセツキシマブを併用した結果,無増悪生存期間中央値7.1 カ月,1 年無増悪生存割合29.6%,全生存期間中央値12.1 カ月であった。セツキシマブの併用は,無増悪期間の延長には寄与するかもしれないが,全生存期間の延長には寄与せず,今後,脳幹グリオーマに対するセツキシマブを使用した臨床試験は施行しない方針とされた6)。
Hummel らは,15 例の脳幹グリオーマに対し放射線と抗VEGF 抗体ベバシズマブ併用療法を施行した。無増悪生存期間中央値8.2 カ月,全生存期間中央値10.4 カ月であり,ベバシズマブ併用による予後延長効果は期待できないと報告した7)。
その他の併用薬剤として,12 例の脳幹グリオーマに対し放射線とサリドマイドの併用療法が報告されている。結果は全生存期間中央値9 カ月であり,予後延長効果は認められなかった8)。
一方,放射線治療前に化学療法を施行する臨床試験の報告がされている。Jennings らは,化学療法後に多分割放射線治療を行うChildren’s Cancer Group(CCG)の第Ⅱ相試験(CCG-9941)を報告している。63 例の脳幹グリオーマに対し化学療法(レジメンA:カルボプラチン+エトポシド+ビンクリスチンもしくはレジメンB:シスプラチン+シクロホスファミド+エトポシド+ビンクリスチン)を先行し,放射線治療(72 Gy)を行った。レジメンA とB の全生存期間中央値に差はなく,両群ともにヒストリカルコントロールとの差も認めなかった。したがって,化学療法先行の有効性は期待できないと述べられている9)。Frappaz らはBSG(Brain Stem Glioma)98 clinical trial の最終レポートを報告している。BSG 98 プロトコールは,ニトロソウレア(BCNU)+シスプラチン+大量メトトレキセートを3 カ月ごとに施行し,病変の進行時に放射線治療を追加する内容である。全生存期間中央値は,ヒストリカルコントロール群9 カ月に対し,BSG 98 群は17 カ月に延長した(p=0.02)。ただし,化学療法の毒性が強く入院期間延長や感染症リスクがあるため,患者本人および家族とよく相談すべきであると指摘している10)。Gokce-Samar らは,25 例の脳幹グリオーマに対し,BSG 98 プロトコール群(16 例)と分子標的治療薬群(9 例)を比較している。分子標的治療薬はエルロチニブ(EGFR チロシンキナーゼ阻害薬)もしくはシレンジタイド(インテグリン阻害薬)が使用された。BSG 98 プロトコール群の全生存期間中央値は16.1 カ月で,分子標的治療薬群の8.8 カ月よりも明らかに延長した(p=0.0003)。この結果から,BSG 98 プロトコールが脳幹グリオーマに対し有効性を期待できると述べられている11)。
現時点では,放射線治療に併用する薬剤の予後延長効果については肯定的な結果よりも否定的な結果が多く,確実に効果が期待できる薬剤はないと判断する。ただし,放射線治療と併用しないBSG 98 プロトコールは化学療法の毒性が強いながらも,脳幹グリオーマの予後延長効果に寄与する可能性がある。
注:エトポシド,トロフォスファミド,カルボプラチン,イホスファミド,ゲフィチニブ,セツキシマブ,サリドマイド,メトトレキセート,エルロチニブ,シレンジタイドは適応外使用
CQ5-2 放射線治療後の化学療法について
Broniscer らは,多施設共同研究で放射線治療後(55.8 Gy)の脳幹グリオーマ33 例に対するテモゾロミドの効果を検討している。テモゾロミドは200 mg/m2を5 日間投与,23 日休薬を1 サイクルとして12 サイクル行われた。無増悪生存期間中央値は8.8 カ月,1 年無増悪生存割合27%,全生存期間中央値12 カ月,1 年生存割合48%であり,ヒストリカルコントロールを上回る結果は得られず,テモゾロミド維持療法の有効性は否定されている1)。Kim らは新規脳幹グリオーマに対し,放射線治療にテモゾロミドとサリドマイド併用療法を加え,維持療法としてテモゾロミド(150~200 mg/m2)とサリドマイド(150~600 mg/m2)併用療法を行っている。評価された脳幹グリオーマ12 例においては無増悪期間中央値7.2 カ月,全生存期間中央値12.7 カ月で放射線治療単独療法と不変であり,テモゾロミドとサリドマイド併用維持療法の有効性は認められなかった。しかし,1 年生存率は58%であり,他の臨床試験の1 年生存率34.4%よりも高い結果であり,副作用は主にコントロール可能な骨髄抑制のみであったため今後症例数を増やし,再検討が必要と報告している2)。Porkholm らは,脳幹グリオーマ41 例に対し放射線治療後サリドマイド(1~6 mg/kg),エトポシド(20~70 mg/m2),セレコキシブ(230 mg/m2もしくは7 mg/kg)の3 剤併用維持療法を施行し,コントロール群8 例と比較している。3 剤併用維持療法群とコントロール群の全生存期間中央値はそれぞれ12 カ月,10.5 カ月で有意差は認めなかったが,3 剤併用療法群では7 例の長期生存例(24~60 カ月)を認めた。したがって,一部の症例には有効性があるため,大規模な症例数での再検討が必要であると述べている3)。
現時点では,初期治療後の維持化学療法として有効性が確立された治療方法はない。しかし,各臨床試験では少数の有効症例も認めているため,大規模な臨床試験を展開し,有効症例/無効症例の分子生物学的背景の解析が必要と考えられる。
注:サリドマイド,エトポシド,セレコキシブは適応外使用
CQ5-3 再発(進行)時の化学療法について
再発および進行性脳幹グリオーマに対する治療は期待できず,緩和医療の導入が一般的とされているが,化学療法を行った複数の臨床試験結果が報告されている。
①トポテカン(我が国では一般名ノギテカン)
小児再発性中枢神経腫瘍(計41 例)に対するトポテカン単剤療法の有効性を評価した。トポテカンは,1.0 mg/m2/日(3 日間)を3 週間ごとに投与された。19 例の脳幹腫瘍に対し,安定(stable disease:SD)4 例(21%),進行(progressive disease:PD)15 例(79%)と抗腫瘍効果は認めなかった。grade 4 の有害事象は,好中球減少(32%),血小板減少(23%)であった1)。
②テモゾロミド
113 例の再発性中枢神経腫瘍(脳幹グリオーマ16 例)を対象としてテモゾロミド180 mg/m2/日(脳脊髄照射既往あり)もしくは200 mg/m2/日(脳脊髄照射既往なし)の用量で5 日間投与-23 日間休薬のサイクルで単剤療法の効果を評価した。脳幹グリオーマに対する結果は,評価不能な1 例を除き15 例全例で効果なく,5 サイクルまでに腫瘍進行を認めた。grade 3/4 の有害事象は,好中球減少(19%)と血小板減少(25%)であった2)。DNA 修復酵素[O6-methylguanine-DNA methyltransferase(MGMT)]はテモゾロミドの抵抗性に関連しており,Warren らはMGMT を不活化するO6-benzylguanine(O6-BG)とテモゾロミドの併用療法を報告している。再発性脳幹グリオーマ16 例に対し,O6-BG 120 mg/m2+テモゾロミド75 mg/m2が投与された。併用療法の抗腫瘍効果はなく,6 カ月の無増悪生存率は0%であり,有効性は認めなかった3)。
③第3 世代白金製剤(オキサリプラチン)
再発性固形腫瘍124 例(脳幹グリオーマ10 例)に対し,オキサリプラチン(3 週間ごとに130 mg/m2静脈投与)の効果が評価された。脳幹グリオーマで評価可能な9 例中,SD 1 例,PD/no response 8 例であり,オキサリプラチンの有効性は認めなかった4)。
④分子標的治療薬
再発性脳幹グリオーマを対象としてRas 経路を抑制するファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬tipifarnib,VEGF を阻害するベバシズマブ,EGFR を阻害するニモツズマブの報告がされている。Tipifarnib(200 mg/m2)が35 例の再発脳幹グリオーマに投与された結果,部分奏効(partial response:PR)1 例,SD 4 例であり6 カ月無増悪生存期間は3%であった。したがって,tipifarnib はほとんど効果がないと結論づけられた5)。ベバシズマブは,16 例の再発性脳幹グリオーマに対しSD 5 例(3 カ月以上)であり,効果が乏しい結果であった6)。ニモツズマブが44 例の再発進行性脳幹グリオーマに投与された。評価可能であった19 例に対しPR 2 例,SD 6 例,PD 11 例であり,ニモツズマブ導入後からの生存期間中央値は3.2 カ月であった。また,PR/SD 群とPD 群の生存期間中央値はそれぞれ282日と146 日であるが統計学的有意差は認めなかった(p=0.06)。この結果からニモツズマブにより中等度の有効性が期待される脳幹グリオーマが存在することが示された7)。
その他,Wolff らは自施設であるMD アンダーソンがんセンターで加療された31 例の再発性脳幹グリオーマに対する治療について後方視的に解析している。エトポシド,テモゾロミド,シスプラチンなどの化学療法の効果は認められず,腫瘍縮小効果および無増悪性期間の延長に寄与した治療方法は,再放射線治療(20 Gy)であった8)。
以上より,現時点では明らかに治療効果を示す薬剤は同定されていない。
注:トポテカン,O6ベンジルグアニン,オキサリプラチン,チピファルニブ,ニモツズマブは適応外使用
CQ5-1,5-2 のシステマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((infant or child or adolescent or pediatric))AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem))NOT(relapse or recurrence or refractory))AND chemotherapy)AND(“1995/01”[Date- Publication]:“2017/08”[Date-Publication]))AND English[Language])NOT review[Publication Type])NOT case reports[Publication Type]
結果:46 件
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
CQ5-1
- 1)
- Wagner S, Warmuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006;79(3):281-7.[PMID:16598416]
- 2)
- Korones DN, Fisher PG, Kretschmar C, et al. Treatment of children with diffuse intrinsic brain stem glioma with radiotherapy, vincristine and oral VP-16:a Children’s Oncology Group phase Ⅱ study. Pediatr Blood Cancer. 2008;50(2):227-30.[PMID:17278121]
- 3)
- Cohen KJ, Heideman RL, Zhou T, et al. Temozolomide in the treatment of children with newly diagnosed diffuse intrinsic pontine gliomas:a report from the Children’s Oncology Group. Neuro Oncol. 2011;13(4):410-6.[PMID:21345842]
- 4)
- Bailey S, Howman A, Wheatley K, et al. Diffuse intrinsic pontine glioma treated with prolonged temozolomide and radiotherapy–results of a United Kingdom phase Ⅱ trial(CNS 2007 04). Eur J Cancer. 2013;49(18):3856-62.[PMID:24011536]
- 5)
- Pollack IF, Stewart CF, Kocak M, et al. A phase Ⅱ study of gefitinib and irradiation in children with newly diagnosed brainstem gliomas:a report from the Pediatric Brain Tumor Consortium. Neuro Oncol. 2011;13(3):290-7.[PMID:21292687]
- 6)
- Macy ME, Kieran MW, Chi SN, et al. A pediatric trial of radiation/cetuximab followed by irinotecan/cetuximab in newly diagnosed diffuse pontine gliomas and high-grade astrocytomas:A Pediatric Oncology Experimental Therapeutics Investigators’ Consortium study. Pediatr Blood Cancer. 2017;64(11):10.1002/pbc.26621.[PMID:28544128]
- 7)
- Hummel TR, Salloum R, Drissi R, et al. A pilot study of bevacizumab-based therapy in patients with newly diagnosed high-grade gliomas and diffuse intrinsic pontine gliomas. J Neurooncol. 2016;127 (1):53-61.[PMID:26626490]
- 8)
- Turner CD, Chi S, Marcus KJ, et al. Phase Ⅱ study of thalidomide and radiation in children with newly diagnosed brain stem gliomas and glioblastoma multiforme. J Neurooncol. 2007;82(1):95-101.[PMID:17031553]
- 9)
- Jennings MT, Sposto R, Boyett JM, et al. Preradiation chemotherapy in primary high-risk brainstem tumors:phase Ⅱ study CCG-9941 of the Children’s Cancer Group. J Clin Oncol. 2002;20(16):3431-7.[PMID:12177103]
- 10)
- Frappaz D, Schell M, Thiesse P, et al. Preradiation chemotherapy may improve survival in pediatric diffuse intrinsic brainstem gliomas:final results of BSG 98 prospective trial. Neuro Oncol. 2008;10(4):599-607.[PMID:18577561]
- 11)
- Gokce-Samar Z, Beuriat PA, Faure-Conter C, et al. Pre-radiation chemotherapy improves survival in pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 2016;32(8):1415-23.[PMID:27379495]
CQ5-2
- 1)
- Broniscer A, Iacono L, Chintagumpala M, et al. Role of temozolomide after radiotherapy for newly diagnosed diffuse brainstem glioma in children:results of a multiinstitutional study(SJHG-98). Cancer. 2005;103(1):133-9.[PMID:15565574]
- 2)
- Kim CY, Kim SK, Phi JH, et al. A prospective study of temozolomide plus thalidomide during and after radiation therapy for pediatric diffuse pontine gliomas:preliminary results of the Korean Society for Pediatric Neuro-Oncology study. J Neurooncol. 2010;100(2):193-8.[PMID:20309719]
- 3)
- Porkholm M, Valanne L, Lönnqvist T, et al. Radiation therapy and concurrent topotecan followed by maintenance triple anti-angiogenic therapy with thalidomide, etoposide, and celecoxib for pediatric diffuse intrinsic pontine glioma. Pediatr Blood Cancer. 2014;61(9):1603-9.[PMID:24692119]
CQ5-3 のシステマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((infant or child or adolescent or pediatric))AND glioma)AND(pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem))AND(relapse or recurrence or refractory))AND chemotherapy)AND(“1995/01”[Date-Publication]:“2017/08”[Date-Publication]))AND English[Language])NOT review[Publication Type])NOT case reports[Publication Type])
結果:24 件
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Kadota RP, Stewart CF, Horn M, et al. Topotecan for the treatment of recurrent or progressive central nervous system tumors-a pediatric oncology group phase Ⅱ study. J Neurooncol. 1999;43(1):43-7.[PMID:10448870]
- 2)
- Nicholson HS, Kretschmar CS, Krailo M, et al. Phase 2 study of temozolomide in children and adolescents with recurrent central nervous system tumors:a report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2007;110(7):1542-50.[PMID:17705175]
- 3)
- Warren KE, Gururangan S, Geyer JR, et al. A phase Ⅱ study of O6-benzylguanine and temozolomide in pediatric patients with recurrent or progressive high-grade gliomas and brainstem gliomas:a Pediatric Brain Tumor Consortium study. J Neurooncol. 2012;106(3):643-9.[PMID:21968943]
- 4)
- Beaty O 3rd, Berg S, Blaney S, et al. A phase Ⅱ trial and pharmacokinetic study of oxaliplatin in children with refractory solid tumors:a Children’s Oncology Group study. Pediatr Blood Cancer. 2010;55(3):440-5.[PMID:20658614]
- 5)
- Fouladi M, Nicholson HS, Zhou T, et al. A phase Ⅱ study of the farnesyl transferase inhibitor, tipifarnib, in children with recurrent or progressive high-grade glioma, medulloblastoma/primitive neuroectodermal tumor, or brainstem glioma:a Children’s Oncology Group study. Cancer. 2007;110(11):2535-41.[PMID:17932894]
- 6)
- Gururangan S, Chi SN, Young Poussaint T, et al. Lack of efficacy of bevacizumab plus irinotecan in children with recurrent malignant glioma and diffuse brainstem glioma:a Pediatric Brain Tumor Consortium study. J Clin Oncol. 2010;28(18):3069-75.[PMID:20479404]
- 7)
- Bartels U, Wolff J, Gore L, et al. Phase 2 study of safety and efficacy of nimotuzumab in pediatric patients with progressive diffuse intrinsic pontine glioma. Neuro Oncol. 2014;16(11):1554-9.[PMID:24847085]
- 8)
- Wolff JE, Rytting ME, Vats TS, et al. Treatment of Recurrent Diffuse Intrinsic Pontine Glioma, Experience of MD Anderson Cancer Center. J Neurooncol. 2012;106(2):391-7.[PMID:21858608]
4 章 視神経視床下部神経膠腫 optic pathway/hypothalamic glioma:OPHG
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割 | 氏名 | 所属機関/専門分野 | 作成上の役割 |
---|---|---|---|
委員長 | 廣瀬 雄一 | 藤田医科大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 | 総括 |
副委員長 | 西川 亮 | 埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科/脳神経外科 | 総括 |
委員 | 竹島 秀雄 | 宮崎大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 | 診断に関するCQ |
協力委員 | 坂本 博昭 | 大阪市立総合医療センター小児脳神経外科/脳神経外科 | 診断・外科的治療に関するCQ |
委員 | 中村 英夫 | 久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 | 遺伝的背景に関するCQ |
委員 | 隈部 俊宏 | 北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 | 外科的治療に関するCQ |
委員 | 唐澤 克之 | 都立駒込病院 放射線診療科/放射線科 | 放射線治療に関するCQ |
委員 | 中田 光俊 | 金沢大学大学院医薬保健総合研究科 脳・脊髄機能制御学/脳神経外科 | 化学療法に関するCQ |
協力委員 | 原 純一 | 大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科/小児科 | 化学療法に関するCQ |
委員 | 杉山 一彦 | 広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科 | 他のガイドラインとの整合性 |
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号 | 課題名 | 課題責任者 | SR 委員 |
---|---|---|---|
1 | 診断 | 坂本 博昭 | 竹島 秀雄(宮崎大学医学部 脳神経外科) 渡邉 孝(宮崎大学医学部 脳神経外科) 宇田 武弘(大阪市立大学医学部 脳神経外科) |
2 | 遺伝的背景 | 中村 英夫 | 牧野 敬史(熊本市立熊本市民病院 脳神経外科) |
3 | 外科的治療 | 隈部 俊宏 | 坂本 博昭(大阪市立総合医療センター 小児脳神経外科) 齋藤 竜太(名古屋大学医学部 脳神経外科) 石橋 謙一(大阪市立総合医療センター 脳神経外科) |
4 | 化学療法 | 中田 光俊 | 原 純一(大阪市立総合医療センター小児医療センター 血液腫瘍科) 笹川 泰生(金沢大学医薬保健研究域医学系 脳・脊髄機能制御学) 多賀 祟(滋賀医科大学 小児科) 清谷 知賀子(成育医療研究センター 脳神経腫瘍科) |
5 | 放射線治療 | 唐澤 克之 | 藤井 元彰(三井記念病院 放射線治療科) |
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
視神経視床下部神経膠腫(optic pathway/hypothalamic glioma:OPHG)に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,OPHG 患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された10 名によって構成されている。
システマティックレビュー(SR)チーム:重要臨床課題ごとにSR チームを1~4 名で編成した。OPHG が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年11 月30 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で,OPHG のガイドライン作成ワーキンググループが発足。若干の課題については委員の追加を行った。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2015 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014 に準拠した方法により行ったが,OPHG が稀少疾患であるためエビデンスが少なく,上記の方法の適用が困難な場面に遭遇した。
推奨作成とその決定:臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,ガイドライン作成ワーキンググループが各CQ に対する推奨内容について討議した上で,決定のための郵送による投票を行った。最終的に2020 年8 月3 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会にて参加委員全員の投票により決定した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年6 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
1)臨床的特徴
視神経・視交叉から視床下部に発生する浸潤性の脳実質内腫瘍で,小児脳腫瘍の2~5%を占める。過半数が5 歳以下に発生し,10 歳までの例は毛様細胞性星細胞腫が多い。神経線維腫症1 型(NF1)に伴って生じるものもあり,その場合は視交叉より後方には発生しにくく,比較的良好な予後をたどるなど,NF1 の合併例と非合併例との間には臨床像や予後に差異があることも報告されている。ただし,乳幼児期の孤発例ではNF1 の臨床的診断基準を満たさないながらNF1 に伴って生じた腫瘍と同様に良好な予後を示すことがある1-4)。
神経症状や所見としては,視力低下や失明,視野欠損など視機能障害で発症することが多いが,年少時では視機能障害の発見は遅れる。水平性の振子様眼振(pendular nystagmus)はこの腫瘍でみられる特徴的な眼振である。NF1 の例では一側眼窩内の視神経腫瘍によって患側の視機能障害や眼球突出をきたすことがある。内分泌学的異常では低身長など下垂体前葉ホルモンの障害が多いが,尿崩症も発生する。また,視床下部障害により思春期早発,過度の肥満が発生することがあり,乳幼児期にるいそうを呈する間脳症候群(diencephalic syndrome)はこの腫瘍に特徴的である。発達遅滞やけいれんを呈することもある。腫瘍によって非交通性の水頭症を合併すれば,頭蓋内圧亢進の症状や所見を呈し,進行すれば意識障害をきたす。
典型例では上記のような神経徴候を含めた臨床所見と画像検査(MRI)で診断し得るが,非典型例では組織診断を要することもある。視機能障害の評価が困難な乳幼児の例,あるいはNF1 の例でOPHG のスクリーニング検査では,MRI により診断や腫瘍増大の有無が評価できる。腫瘍の局在はMRI を用いて分類され5),視覚路にあたる視神経(一側あるいは両側),視神経交叉,視索,外側膝状体,視放線に腫瘤を形成し,視覚路に沿って,あるいはその周囲の脳実質内に伸展する。腫瘍はT1 強調画像で等信号,T2 強調画像で等信号から高信号を呈し,びまん性で不均一な造影効果を受けやすく,著明な増強効果を受けることも少なくない。水頭症は15~30%に合併する。囊胞の合併,視床下部や第三脳室への伸展,あるいはトルコ鞍上部で脳実質内からくも膜下腔へのexophytic な進展があってもよい。石灰化の所見は稀である。
OPHG の名称は組織型による分類ではなく,腫瘍の発生部位と画像所見に基づくものである。すなわち典型例では神経徴候を含めた臨床学的所見と画像検査で診断された腫瘍の総称であり,単一の組織診断が下されるとは限らないのが実情である。組織診断された場合にはWHO grade Ⅰの毛様細胞性星細胞腫であることが多いが,grade Ⅱ以上の悪性度を持つ神経膠腫や神経膠腫以外の腫瘍もこの部位には発生する。
2)疫学的特徴
比較的多数の症例を含む臨床研究において腫瘍発生に関する性差は示されていないが,カナダのHospital for Sick Children in Toronto からの報告6)ではNF1 合併例では男児の発生が多かったとされている。また同研究の中でNF1 合併例でのOPHG 診断年齢は5.05 歳であったのに対してNF1 非合併例でのOPHG 診断年齢は7.09 歳であり,統計的に有意な差であったことも報告されているが,NF1 合併例では早期にスクリーニング検査が行われた可能性もあることには注意を要する。NF1(出生約3,000 人に1 人の割合で生じる)全体の中でOPHG が発生する割合は報告によって異なるが,MRI でスクリーニングを行った複数の研究結果を合わせると,その10~15%にOPHG が発生すると考えられる。
脳腫瘍全国集計調査報告(2017)7)によれば,視床下部腫瘍の10%,視神経腫瘍の37%が毛様細胞性星細胞腫であったと報告されており,神経上皮由来腫瘍では毛様細胞性星細胞腫が最も多い。ただし,全年齢での脳実質内腫瘍という点では視床下部では中枢神経系原発悪性リンパ腫が最も多く(16%),毛様細胞性星細胞腫はこれに次ぐ。なお,毛様細胞性星細胞腫は7.2%が視神経,5%が視床下部,42.3%が小脳に発生したと報告されている。本疾患は必ずしも外科的治療の絶対的な対象とされなかったことが影響し,腫瘍組織型が確認されていない症例が数多く含まれるため,組織型の正確な情報を得ることは難しい。
3)診療の全体的な流れ
一般的に脳腫瘍の診断では,画像所見と病理診断から診断を確定することが望ましい。しかし,OPHG では非症候性もしくは症状が軽微な場合には経過観察も一つの選択肢であり,画像所見のみによる診断も許容され,生検も含めた外科的腫瘍切除は必要とされないこともある。視機能障害や水頭症など腫瘍による圧排に基づく症状が進行性である場合や,画像検査で明らかな病変拡大が認められる場合は,局所病変を制御するために腫瘍切除が行われることがある。前述の通り本疾患は毛様細胞性星細胞腫であることが最も多いが,より悪性度が高い腫瘍である可能性が否定できないことは念頭に置く必要がある。OPHG は小脳に発生する毛様細胞性星細胞腫とは腫瘍生物学的に異なる可能性があり,この点は腫瘍の組織学的評価に遺伝子診断まで加えるべきかという議論にも関連する。放射線治療は,腫瘍制御の観点からは治療効果が高いことが確認されているが,視床下部機能障害,二次的悪性腫瘍,脳血管障害,高次機能障害などの発現の危険があり,これらの晩期合併症は一旦発生すれば重篤であるため,長期生存が期待できる症例では薬物療法が優先される。放射線治療後の二次がんの発生率はNF1 に合併するOPHG では非合併例よりも高い(CQ8 参照)。放射線治療は腫瘍の局在と大きさなどのために手術困難な場合や,薬物療法に対する治療反応性が低い場合に行われることが多い。薬物療法の主体は化学療法であるが,今後分子標的薬の導入も見込まれている。
❖ 文献
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2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:OPHG の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後の改善
- (3)トピック:OPHG の生命予後,機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍を診療する医療者や施設,患者・家族,ケアギバー(caregiver)
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本・海外とも既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)重要臨床課題
課題1:診断方法の確立
課題2:外科的治療の意義
課題3:薬物治療の意義
課題4:放射線治療の意義 - (7)ガイドラインがカバーする範囲
初発治療時が小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満)の小児例に加え15~29 歳のAYA(adolescent and young adult)世代
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール | 文献検索:1 カ月 文献の選出:3 カ月 エビデンス総体の評価と統合:4 カ月 |
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:OPHG に関してはなし。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed,医中誌
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2019 年6 月まで
- ①エビデンスタイプ
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。 - (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドラインの作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合は量的統合を実施。
課題1:診断
- CQ1
- 臨床経過,臨床所見,画像検査からOPHG と診断することは推奨されるか?
- 推奨度1C
- 推奨
臨床経過,臨床所見,画像所見がOPHG に典型的な臨床的特徴を呈する場合はOPHG と診断し治療方針を決定することを提案する。非典型的な臨床的特徴を呈する場合は病理組織診断を行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,OPHG は他の腫瘍と異なり組織診断名ではなく特徴的な発生部位や臨床症状を呈する疾患群の呼称である。組織学的には高分化型星細胞腫である毛様細胞性星細胞腫(WHO grade Ⅰ)がOPHG の主体を占めるが,より悪性度の高い腫瘍の場合があるため,臨床診断されたOPHG の治療方針は一様であるとは言えない。OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連しているため,適切な治療を行うための診断法の妥当性,特に組織診断の必要性について検証を行う。また,OPHG はNF1 合併の有無によって臨床像や予後が異なるため,NF1 遺伝子異常の探索の必要性について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的手技による侵襲
2.推奨の解説
NF1 合併例と非合併例に分けて記載する。
(1)NF1 合併例
1990 年代前半までは,NF1 合併例において視覚路に発生しOPHG と臨床診断された腫瘍では,摘出(生検)を行って組織診断が施行されることが多かった1,2)。白金製剤を中心とした化学療法が低悪性度神経膠腫に有効であるとPacker らが1997 年に報告した後,外科的摘出を治療の第一選択としない報告が増えていった。1990 年代後半からは,NF1 に合併するOPHG として典型的な臨床経過,臨床所見,画像所見を呈していれば,組織診断なしで毛様細胞性星細胞腫として治療方針が決定されている3-13)。
しかし,NF1 合併例でもOPHG 特に毛様細胞性星細胞腫としては非典型的な症例,すなわち10 歳以上,視床下部や第三脳室の腫瘍,脳実質外伸展を呈する腫瘍,囊胞病変を伴う腫瘍の中には,WHO grade ⅡまたはⅢ相当の神経膠腫,あるいは神経膠腫以外の腫瘍の可能性があるため組織診断が行われる14,15)。上記の場合に加え,治療を開始してからではあるが,急激な腫瘍の増大や化学療法が有効ではない例も組織診断が必要であるとする報告がある16)。腫瘍摘出(生検)を行うには,腫瘍の摘出に伴う種々の合併症(CQ4 参照)を考慮する必要がある。
OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連している17)ため,腫瘍がWHO grade Ⅰ の毛様細胞性星細胞腫として臨床的に典型的ではない点があれば,組織診断が必要と判断するのが妥当である。NF1 合併例の推奨文では「臨床経過(発症年齢など),臨床所見(視覚障害や内分泌障害など),画像所見(腫瘍の局在や形態など)がOPHG に典型的な所見を呈する例では,毛様細胞性星細胞腫と判断して治療方針を決定してもよいが,非典型的な点があれば組織診断を勧める」と提案する。
(2)NF1 非合併例
NF1 非合併例においても視覚路に発生した腫瘍がOPHG として典型的な臨床所見を呈する場合は,腫瘍摘出や生検による組織診断は必ずしも必要ではないとする報告がある18-21)。しかし,NF1 非合併例でOPHG と臨床診断された47 例中45 例で組織診断が行われ,40 例(症例全体の85%)は毛様細胞性星細胞腫であったが,残り5 例(同11%)は他の低悪性度神経膠腫であったとする報告がある22)。このようにNF1 合併例よりも非合併例では,臨床的な特徴からOPHG と診断された腫瘍でも毛様細胞性星細胞腫以外の腫瘍である割合が高い傾向にあり,NF1 合併例と比較して非合併例では腫瘍の摘出や生検による組織診断を行う傾向にある6,12,23-30)。
臨床的にOPHG と診断された例で,診断時の年齢が10 歳を超えれば組織学的悪性度が有意に高く17),18 歳以上のAYA(adolescents and young adults)世代の例では高悪性度神経膠腫であったとする報告がある17,31)。OPHG では,診断時の年齢が10 歳未満の例と比較して10 歳以上の群で有意に生検率が高く26),診断時の年齢が10 歳以上の例が多く含まれる報告では組織診断が施行される割合が76~100%と高率である25,32-36)。
腫瘍の局在や形態から述べると,腫瘍が視床下部や第三脳室周囲に存在する例,あるいは脳実質外伸展例に対しては,毛様細胞性星細胞腫以外の神経膠腫や頭蓋咽頭腫の可能性を考慮する必要がある19)。また,囊胞病変を伴う例で手術到達が可能な症例,あるいは減圧が必要な症例では摘出手術により組織診断がなされている14,37)。腫瘍により水頭症を合併している乳幼児例では,髄液短絡術施行時に神経内視鏡による生検が施行されている20)。これらに加え,急激な腫瘍の増大がみられる場合や,毛様細胞性星細胞腫として予想される治療効果が得られない場合,生検を考慮すべきとする報告もある37)。腫瘍摘出(生検)を行うには,NF1 合併例と同様に,腫瘍の摘出に伴う合併症(CQ4 参照)を考慮する。
以上,NF1 非合併例ではOPHG と臨床診断できても,毛様細胞性星細胞腫より高悪性度の神経膠腫であったり,それ以外の腫瘍である可能性がNF1 合併例よりも高い傾向にあるため,OPHG として典型的な臨床所見に欠ける場合はより積極的に組織診断を勧める。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((((optic nerve)OR optic chiasma)OR optic tract)OR optic pathway)OR hypothalamus))AND glioma)AND(hasabstract[text]AND English[lang]AND((infant[MeSH]OR child[MeSH]OR adolescent[MeSH])OR young adult[MeSH]))))NOT((((((((optic nerve)OR optic chiasma)OR optic tract)OR optic pathway)OR hypothalamus))AND glioma)AND(Case Reports[ptyp]AND hasabstract[text]AND English[lang]AND((infant[MeSH]OR child[MeSH]OR adolescent[MeSH])OR young adult[MeSH])))))AND mri
この検索式で得られた報告の中で,OPHG の診断方法で病理組織診断に対する臨床診断の優位性を統計学的に検討したものはなかった。そのため,症例数の多い報告を採用して二次スクリーニング文献とし,定性的なシステマテックレビューを行った。
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課題2:遺伝的背景
- CQ2
- 遺伝学的背景の探索は必要か?
- 推奨度2D
- 推奨
NF1 遺伝子異常の探索は二次的な中枢神経系腫瘍の発生等を留意することにおいて意義はあるが推奨するレベルではない。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,OPHG は他の腫瘍と異なり組織診断名ではなく特徴的な発生部位や臨床症状を呈する疾患群の呼称である。組織学的には高分化型星細胞腫である毛様細胞性星細胞腫(WHO grade Ⅰ)がOPHG の主体を占めるが,より悪性度の高い腫瘍の場合があるため,臨床診断されたOPHG の治療方針は一様であるとは言えない。OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連しているため,適切な治療を行うための診断法の妥当性,特に組織診断の必要性について検証を行う。また,OPHG はNF1 合併の有無によって臨床像や予後が異なるため,NF1 遺伝子異常の探索の必要性について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的手技による侵襲
2.推奨の解説
OPHG はしばしばNF1 患者に発生する。経過観察中にOPHG が発生する場合もあるが,脳腫瘍の方が先に発症し診断され,しかし実はNF1 合併例であるというOPHG も存在する。しかし,視力障害発症例はNF1 合併例よりも非合併例に多いと報告されている1)。OPHG のNF1 遺伝子異常の検出はNF1 の臨床症状が不確実であった場合に有用であるが,巨大なNF1 遺伝子の解析の困難さを考えると必ずしも必須ではないと思われる。NF1 の中で,視神経膠腫を持つ症例では,NF1 遺伝子の5’ 端領域に遺伝子変異が集中するという報告もあれば2),関係ないという報告もある3)。皮膚症状などの臨床診断基準を満たせば,ある程度NF1 合併例かどうか予測できる。非NF1 とNF1 関連視神経膠腫では,発生部位に違いがあり,非NF1 では視索に多いことで水頭症の併発が多いという報告もある1)。NF1 以外の遺伝子異常に関しては症例報告がいくつかあるが4-8),確立された事象ではない。OPHG においてNF1 と非NF1 との予後の比較の報告に関しては,Stokland らは157例のOPHG において,OS では差がないものの,5 年PFS がNF1 では70.8%,非NF1 では46.7%と単変量解析にてp<0.001,Kaplan-Meier 法におけるlog-rank test にてp=0.003と有意にNF1 の方が良好であったと報告している9)。現在,NF1 に合併するOPHG に対しての分子標的治療薬なども存在せず,単にPFS がNF1 において良好であるということだけでは,NF1 の遺伝子診断を積極的に推奨する理由にはならない。また,NF1 では家族歴にNF1 が存在しない弧発例が50%程度であるが,OPHG の患者でNF1 かどうか判別できない症例において,NF1 遺伝子変異があるかどうかの診断をつけることによってその後の治療法の選択が何か変わることはない。以上のことを総合的に勘案すると,現時点で積極的なNF1(を含めた)遺伝子診断は,患者や家族が望む場合に限定されると考える。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((optic pathway glioma AND neurofiromatosis type 1)AND hypothalamus)OR(optic pathway hypothalumus glioma AND neurofibromatosis type 1)OR(optic pathway glioma AND genetic analysis)OR(optic pathway glioma AND molecular analysis)
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Singhal S, Birch JM, Kerr B, et al. Neurofibromatosis type 1 and sporadic optic gliomas. Arch Dis Child. 2002;87(1):65-70.[PMID:12089128]
- 2)
- Bolcekova A, Nemethova M, Zatkova A, et al. Clustering of mutations in the 5’ tertile of the NF1 gene in Slovakia patients with optic pathway glioma. Neoplasma. 2013;60(6):655-65.[PMID:23906300]
- 3)
- Hutter S, Piro RM, Waszak SM, et al. No correlation between NF1 mutation position and risk of optic pathway glioma in 77 unrelated NF1 patients. Hum Genet. 2016;135(5):469-75.[PMID:26969325]
- 4)
- Gonzalez-Martin J, Glover S, Dixon S, et al. Neurofibromatosis type 1 and McCune-Albright syndrome occurring in the same patient. Br J Dermatol. 2000;143(6):1288-91.[PMID:11122036]
- 5)
- Kebudi R, Tuncer S, Upadhyaya M, et al. A novel mutation in the NF1 gene in two siblings with neurofibromatosis type 1 and bilateral optic pathway glioma. Pediatr Blood Cancer. 2008;50(3):713-5.[PMID:17514731]
- 6)
- Erbay SH, Oljeski SA, Bhadelia R. Rapid development of optic glioma in a patient with hybrid phakomatosis:neurofibromatosis type 1 and tuberous sclerosis. AJNR Am J Neuroradiol. 2004;25(1):36-8.[PMID:14729526]
- 7)
- Yeung JT, Pollack IF, Shah S, et al. Optic pathway glioma as part of a constitutional mismatch-repair deficiency syndrome in a patient meeting the criteria for neurofibromatosis type 1. Pediatr Blood Cancer. 2013;60(1):137-9.[PMID:22848017]
- 8)
- Kocova M, Kochova E, Sukarova-Angelovska E. Optic glioma and precocious puberty in a girl with neurofibromatosis type 1 carrying an R681X mutation of NF1:case report and review of the literature. BMC Endocr Disord. 2015;15:82.[PMID:26666878]
- 9)
- Stokland T, Liu JF, Ironside JW, et al. A multivariate analysis of factors determining tumor progression in childhood low-grade glioma:a population-based cohort study(CCLG CNS9702). Neuro Oncol. 2010;12(12):1257-68.[PMID:20861086]
課題3:外科的治療
- CQ3
- 外科的治療の意義はあるか?
- 推奨度1C
- 推奨
絶対的に推奨される外科治療介入時期はなく,症例ごとに患者年齢,視機能,水頭症の有無,NF1 合併の有無などを考慮し,小児科・眼科・腫瘍内科・放射線治療科・放射線診断科・脳神経外科等から成り立つ集学的治療チームによって検討することを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢および局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
外科治療の適応およびその推奨される時期はいつかという臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない1-4)。症候性になった場合に手術を含めた治療が選択されているが,手術単独ではなく化学放射線療法を含めての治療であり,純粋に手術に対して評価することは難しい。手術適応やこれらの治療方法は一貫しておらず,いずれの評価項目においても大きなバイアスを有する。したがって手術療法開始時期に関してのエビデンスレベルの高い推奨を述べることはできない。現時点では,症例ごとに患者年齢,視機能評価,水頭症の有無,NF1 合併の有無などを考慮し,小児科・眼科・腫瘍内科・放射線治療科・放射線診断科・脳神経外科等から成り立つ集学的治療チームによって手術時期を決定すべきであると考えられる。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する4 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
❖ 文献
- 1)
- Fouladi M, Wallace D, Langston JW, et al. Survival and functional outcome of children with hypothalamic/chiasmatic tumors. Cancer. 2003;97(4):1084-92.[PMID:12569610]
- 2)
- Goodden, J, Pizer B, Pettorini B, et al. The role of surgery in optic pathway/hypothalamic gliomas in children. J Neurosurg Pediatr. 2014;13(1):1-12.[PMID:24138145]
- 3)
- Massimi L, Tufo T, Di Rocco C. Management of optic-hypothalamic gliomas in children:still a challenging problem. Expert Rev Anticancer Ther. 2007;7(11):1591-610.[PMID:18020927]
- 4)
- Varan A, Batu A, Cila A, et al. Optic glioma in children:a retrospective analysis of 101 cases. Am J Clin Oncol. 2013;36(3):287-92.[PMID:22547006]
- CQ4
- 腫瘍切除率は予後に影響するか?
- 推奨度1D
- 推奨
可及的摘出によって治療成績が上がるというエビデンスはなく,手術操作に伴った合併症も無視できず,摘出率を追求するような摘出を行わないことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢及び局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
腫瘍切除率は予後に影響するか,という臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない。バイアスリスクや非一貫性,不精確性,非直接性のすべてに問題がある。結論として,腫瘍摘出率が治療予後を改善するという報告は過去一切認められない1,2)。Ahn らによる韓国において1982~1999 年に手術摘出が行われた33 例の報告をみると,術後8 例(24%)が放射線治療追加を受けているという条件下で,手術後の5 年無増悪生存割合は52.4%であり,少なくとも手術単独では5 年後に半分以上は再発することになる1)。視交叉に腫瘍が浸潤せずに片側の視神経に限局し,有効な視力が得られず眼瞼下垂があり痛みが化学療法によっても改善しない場合,手術適応があると提唱する報告はみられる3,4)が,例え片側の視神経に限局し完全摘出した場合でも手術単独では5~10%の確率で視交叉に再発する可能性があることには注意しなければならない1)。また摘出率を高くすることによって,追加治療の中心となる化学療法の治療効果を向上することも判明していない5)。
腫瘍摘出率を上げることによって,再発までの期間や全生存期間の延長が証明されなかったとしても,例えばQOL を改善する,化学放射線療法開始までの期間を延長するという評価項目でその利点を明示することができれば摘出率を向上させる意義があるが,この点においてもエビデンスは存在しない。したがって,摘出率を追い求めるような手術は推奨されない6,7)。
さらに手術の問題点として合併症発生が避けて通れないことが挙げられる。手術合併症としては,意識障害・視機能障害の悪化・内分泌機能障害・脳梗塞が特に問題となる8,9)。
合併症に関して最近の文献で最もよくまとめられているのは,2012 年のHupp らの文献8)である。彼らは1992~2009 年にドイツの国立神経放射線データセンターに蓄積された84 例に対する102 手術を検討した。その結果17 例(16.7%)で術後画像上脳梗塞が確認された。2 歳未満では7/17 例(41.2%)の高率であった。なお脳梗塞による症状を呈したものは13/102 例(12.7%)であり,また生検では1 例も脳梗塞は生じていなかった。この結果と対比するために,2004~2009 年の51 例の小脳の低悪性度神経膠腫に対する65 手術を検討したところ,わずか1 例(1.5%)の全摘出症例のみで脳梗塞を生じていたに過ぎなかった。なお脳梗塞発生に関して組織型やDodge 分類は関係しなかった。
Sawamura らの2007 年の文献9)では,1992 年以降の19 例(年齢中央値3.1 歳)を検討し,生検5/12 例(41.6%),摘出術5/7 例(71.4%)で,全体としては10/19 例(52.6%)で合併症を生じていた。生検で合併症出現頻度が高いのは,澤村らは生検術の範疇に限局した開頭摘出を含めている(11/12 例)からと考えられる。画像評価が含まれていないために梗塞を生じた評価はあくまでも症状によるものであるが,その頻度は2/19(10.5%)であった。したがって,症候性脳梗塞の頻度は,Hupp らの検討とほぼ同様となる。
Ahn らの文献1)では,1982~1999 年の33 症例(平均年齢8.3 歳)を検討している。このうち,27 例は90%を超えた可及的摘出術,6 例は部分摘出術を行った。2 例(6%)が術後1 年以内に肺梗塞とびまん性脳梗塞で死亡した。その他の合併症は,5 例で一過性片麻痺,2 例で感染症,1 例でシャント機能不全,を生じた。彼らの結論は,OPHG に対しての可及的摘出術はPFS の延長や神経内分泌学的症状の改善には役立たず,手術は腫瘍拡大時における水頭症コントロールのため,もしくは放射線治療開始延期を目的に行うべきとしている。彼らが提唱している治療アルゴリズムには,年代が古いために化学療法の概念が入っていない点に注意が必要となる。
Steinbok らの2002 年の文献10)では,18 例のOPHG に対して17 回の手術を行っている。8 例は亜全摘,6 例は部分摘出,3 例は限局した摘出術であった。限局した手術で特に間脳機能温存に注意を払うと合併症発生率は低くなると報告している。摘出率と腫瘍再発との間には関連がなかった。これらの結果から,彼らはOPHG に対する手術は組織確認と視神経や髄液循環系への減圧を目的に行うべきであるとしている。
Valdueza らの1994 年の文献11)では,初回から摘出術を1980~1993 年に行った20 例(年齢中央値9 歳)を検討している。10 例は70~90%の亜全摘,6 例は部分摘出,4 例は生検術であった。腫瘍再発時に4 回の追加手術が行われた。これら24 手術のうち5 回(20.8%)で合併症を生じた。1 例は脳梗塞のため片麻痺と失語症,4 例で内分泌障害,4 例で視機能障害の悪化をきたした。彼らは可及的摘出は良好な結果で遂行できたと評価している。7歳未満の場合,視索を含まない大きな腫瘍に対しては摘出を,視索を含む場合には放射線治療の前に減圧手術を,再発時には腫瘍の位置によって放射線治療の前に摘出を考慮すべきであるとしている。また7 歳以上の場合は再発腫瘍に対して摘出術を勧めている。
Nicolin らによる2009 年の133 小児例中の治療を要した69 例の検討5)では,化学療法単独,化学療法と手術併用,手術単独の間でPFS には有意差がなかったと報告している。
このようにOPHG に対して可及的摘出により治療成績が上がるというエビデンスはなく,上記のような手術操作に伴った合併症を生ずることから,生検術に取って代わって摘出率を追い求めるような摘出を行う論理的根拠はない。
しかしながら近年,初発のみならず再発時にもより積極的に手術(部分摘出術,debulking)を行うという考え方が改めて提唱されている12)。彼らは,問題となる手術合併症を生ずることなく,13/17 例(76.5%)(初発症例では7/10 例,再発症例では6/7 例)で手術単独で腫瘍制御ができ,また可及的摘出と化学療法を併用した4 例は全例腫瘍制御ができていることを強調している。また10 例のケースシリーズにて,より安全に摘出率を上げる方法として,術中MRI を用いる方法も提唱されている13)。画像診断もきちんとできていなかった古き時代と比較し,MRI・ニューロナビゲーションシステム・術中MRI といった手術支援システムと手術技術の進歩があることは間違いないであろう。しかしこれらの報告で,PFS, OS が改善したという結果は明示できていない。本疾患は症例数が少なすぎることと,観察期間が少なくとも10 年といった年限で評価しないと結果が判明しないことにより,純粋に手術の効果を明らかにすることは今後も難しいことが予想されるが,今後手術の役割が重要視される可能性はあるかもしれない。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する13 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
❖ 文献
- 1)
- Ahn Y, Cho BK, Kim SK, et al. Optic pathway glioma:outcome and prognostic factors in a surgical series. Childs Nerv Syst. 2006;22(9):1136-42.[PMID:16628460]
- 2)
- Mishra MV, Andrews DW, Glass J, et al. Characterization and outcomes of optic nerve gliomas:a population-based analysis. J Neurooncol. 2012;107(3):591-7.[PMID:22237948]
- 3)
- Borghei-Razavi H, Shibao S, Schick U. Prechiasmatic transection of the optic nerve in optic nerve glioma:technical description and surgical outcome. Neurosurg Rev. 2017;40(1):135-41.[PMID:27230830]
- 4)
- Massimi L, Tufo T, Di Rocco C. Management of optic-hypothalamic gliomas in children:still a challenging problem. Expert Rev Anticancer Ther. 2007;7(11):1591-610.[PMID:18020927]
- 5)
- Nicolin G, Parkin P, Mabbott D, et al. Natural history and outcome of optic pathway gliomas in children. Pediatr Blood Cancer. 2009;53(7):1231-7.[PMID:19621457]
- 6)
- Fouladi M, Wallace D, Langston JW, et al. Survival and functional outcome of children with hypothalamic/chiasmatic tumors. Cancer. 2003;97(4):1084-92.[PMID:12569610]
- 7)
- Sutton LN, Molloy PT, Sernyak H, et al. Long-term outcome of hypothalamic/chiasmatic astrocytomas in children treated with conservative surgery. J Neurosurg. 1995;83(4):583-9.[PMID:7674005]
- 8)
- Hupp M, Falkenstein F, Bison B, et al. Infarction following chiasmatic low grade glioma resection. Childs Nerv Syst. 2012, 28(3):391-8.[PMID:21987345]
- 9)
- Sawamura Y, Kamada K, Kamoshima Y, et al. Role of surgery for optic pathway/hypothalamic astrocytomas in children. Neuro Oncol. 2008;10(5):725-33.[PMID:18612049]
- 10)
- Steinbok, P, Hentschel S, Almqvist P, et al. Management of optic chiasmatic/hypothalamic astrocytomas in children. Can J Neurol Sci. 2002;29(2):132-8.[PMID:12035834]
- 11)
- Valdueza JM, Lohmann F, Dammann O, et al. Analysis of 20 primarily surgically treated chiasmatic/hypothalamic pilocytic astrocytomas. Acta Neurochir(Wien). 1994;126(1):44-50.[PMID:8154322]
- 12)
- Goodden J, Pizer B, Pettorini B, et al. The role of surgery in optic pathway/hypothalamic gliomas in children. J Neurosurg Pediatr. 2014;13(1):1-12.[PMID:24138145]
- 13)
- Millward CP, Perez Da Rosa S, Avula S, et al. The role of early intra-operative MRI in partial resection of optic pathway/hypothalamic gliomas in children. Childs Nerv Syst. 2015;31(11):2055-62.[PMID:26216059]
- CQ5
- 再発時摘出の意義はあるのか?
- 推奨度2D
- 推奨
QOL の維持を念頭に置いて腫瘍容積減量によって神経症状が改善することが期待できる場合に部分摘出を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢及び局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
再発時摘出の意義はあるのか,という臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない。バイアスリスクや非一貫性,不精確性,非直接性のすべてに問題がある。再発時の摘出術が有益であることをはっきりと示した論文はないと結論づけざるを得ない。さらに,2000 年より以前の報告は,Packer レジメンを中心とした化学療法が治療の中心となった現在とは再発時の治療概念が異なるため,外科治療の役割も現在求められるものとは異なっていることに注意が必要である。すなわち,放射線治療を行った後での再発に対しては,手術摘出によって状況を改善させざるを得なかったのである。近年はOPHG に対しては化学療法が積極的に行われ,治療手段としての放射線治療を先延ばしにしたうえで,さらに強度変調放射線治療(IMRT)を中心とした精密な放射線治療が可能となっているので,再発時においてもこれらの治療法とうまく組み合わせることを考慮して,摘出率のみを追求せず,QOL の維持を念頭に置いて外科治療を行うべきであると考えられる。
こういった中で少数例であるが,化学療法を行った後の再発に対してや,腫瘍容積減量によって神経症状が改善することが期待できる場合に部分摘出を行っている報告がある。再発時の手術は,化学療法によってもうまく腫瘍を制御できなかった場合に,減圧手術,囊胞性病変に対する開放術・オンマヤリザーバー挿入・シャント手術を考慮すべきであるとされている1)。ただし,再手術は必ずしも容易ではないことも注意喚起されており2),外科療法を行う場合,細心の注意を払ったうえでの介入が必要である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する2 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
❖ 文献
- 1)
- Bowers DC, Krause TP, Aronson LJ, et al. Second surgery for recurrent pilocytic astrocytoma in children. Pediatr Neurosurg. 2001;34(5):229-34.[PMID:11423771]
- 2)
- Sawamura Y, Kamada K, Kamoshima Y, et al. Role of surgery for optic pathway/hypothalamic astrocytomas in children. Neuro Oncol. 2008;10(5):725-33.[PMID:18612049]
課題4:化学療法
- CQ6
- 初期治療として化学療法は有効か?
- 推奨度1B
- 推奨
初期治療としての化学療法(維持療法を含む)は,腫瘍の縮小や進行の抑制を期待できるため,行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する薬物療法も集学的治療の一部として考えられる。その適否,使用薬剤,および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
さまざまな化学療法レジメが施行されているが,first line としてカルボプラチン注1)とビンクリスチン注2)の組み合わせが広く行われている。また,second line としてビンブラスチン注3)が用いられることが多い。これらの薬剤を含めた治療成績を以下に解説する。
OPHG の腫瘍増殖は一般的に緩徐であるが,その発生部位により視神経や視床下部の機能障害が大きく,治療介入が必要になる。手術は視交叉以前の片側視神経に生じたもの以外の完全な摘出は困難である(CQ3 参照)。放射線治療は,認知機能障害,内分泌障害や血管障害,二次がん等の晩期合併症が指摘されているので,その適応は限定的に考えられている(CQ8 参照)。そこで,進行例や有症状例に対して,腫瘍安定化,症状改善,放射線治療遅延を目的に化学療法が行われるようになった。OPHG は増殖が緩徐であることから強度の強い化学療法を短期間行うより,強度の弱い治療を長期間行う方が効果的と考えられ1),欧米では比較的治療期間の長い,全治療期間が1 年から1 年半程度の臨床試験が行われ,一定の効果を上げている。各臨床試験において導入療法と維持療法の区別が明確でない試験も多く,また治療内容,期間もさまざまである。下記に欧米中心に行われた大規模な臨床試験の結果の概略を示す。なお,我が国では大規模試験は行われていない。
Packer らは1990 年代初めに,手術以外未治療の15 歳以下の進行性low-grade glioma(LGG)78 例(OPHG 56 例を含む)に,カルボプラチン175 mg/m2/週とビンクリスチン1.5 mg/m2/週による10 週間の導入療法後,画像ないし臨床的改善・安定を得た例にはカルボプラチン(週1 回4 週間),ビンクリスチン(週1 回3 週間)を6 週ごと,計12 サイクル反復する維持療法を行い,OPHG で59%の治療反応率(CR:complete response+PR:partial response+MR:minor response)と,98%の腫瘍安定率(CR+PR+MR+SD:stable disease)を得たと報告した1)。
米国Pediatric Oncology Study Group(POG)は,1989~1994 年に5 歳以下のOPHG に対し,カルボプラチン560 mg/m2を4 週おきに,効果があれば18 サイクル行う第Ⅱ相試験(POG8936)を行った。50 例(うち21 例がNF1 陽性)に治療がなされ,3 年無再発生存割合/全生存割合は58/90%であった。腫瘍増大の中央期間は132 週(13 カ月)であった。また,18 カ月の治療で70%近くの症例がSD 以上であり,維持療法の意義が示唆された2)。
1996~2004 年に,ドイツを中心に17 歳未満のLGG 1,031 例を包括的に追跡するHIT-LGG 1996 研究が行われた。化学療法群は216 例(NF1 55 例)で,カルボプラチン550 mg/m2を3 週ごと計4 回とビンクリスチン週1 回計10 回による導入療法の後,カルボプラチンとビンクリスチン併用による4 週ごと計11 サイクルの維持療法が行われ,CR+PR が35%,腫瘍安定率は92%で,画像上の最大反応は中央値3.5 カ月で認められた。本試験により大規模研究でのmonthly カルボプラチン+ビンクリスチン療法の効果が示された。また1 歳未満,間脳症候群,診断時播種がPFS の予後不良因子で,これらのリスク因子を伴わない非NF1 例では10 年PFS 41%であるのに対し,何らかのリスク因子を持つ非NF1 例では10 年PFS 16%にとどまっていることが報告された3)。Mirow らは,2014 年にこの試験の1 歳未満の症例について報告している。36 例(うち32 例がOPHG)に治療が行われ,24 例が予定通り治療完了。最良効果までの期間,増大までの期間はそれぞれ,中央値3.6 カ月,1.4 年で,21 例にサルベージ治療が必要だった。いずれも維持療法中に治療効果が出現する症例が多く,維持療法の有効性が示唆される4)。
HIT-LGG-1996 ではOPHG 83 例を含む109 例のNF1 が登録されたが,うち65 例が要治療と判断され,55 例で化学療法が,10 例で放射線治療が行われた。化学療法は全例がカルボプラチン+ビンクリスチンで,98%が初期治療に反応し,全NF1 の5 年EFS 24%で,治療群では5 年PFS 72%,12 年OS 96%と報告された。自然経過観察群で治療不要だったのは37%であった5)。
米国Children’s Oncology Group(COG)では1997~2005 年に,10 歳未満のLGG を対象としたCOG A9952 試験を行った。本試験では,非NF1 ではOPHG 138 例を含む274 例が,137 例ずつCV 療法(カルボプラチン,ビンクリスチン)またはTPCV 療法(チオグアニン,プロカルバジン,lomustine,ビンクリスチン)にランダマイズされたが,それぞれの治療反応率と腫瘍安定率は,CV 療法が50%と67%,TPCV 療法が52%と68%と両者で差がなく,初期治療はいずれも有効と考えられた。5 年EFS はCV 療法39%,TPCV 療法52%だがログランクテストでの有意差もなく,5 年OS はCV 療法86%,TPCV 療法87%だった6)。またCV 療法を行った非NF1 137 例(OPG 71 例)とNF1 127 例(OPG 110 例)の比較では,治療反応率は非NF1 51%,NF1 66%,腫瘍安定率は非NF1 68%,NF1 73%で,5 年EFS では非NF1 39%,NF1 69%(p<0.001),OPHG に限っても非NF1 38%,NF1 68%(p<0.001)と,NF1 例の方が良好だった。5 年OS では非NF1 87%(OPHG 86%),NF1 98%(OPHG 99%)で差はなかった7)。CV レジメンは先のPacker らのレジメンに比し,維持療法の期間が短い(12 回vs. 8 回)。患者背景,観察期間が異なるので単純比較は難しいが,維持療法が12 回の方がややPFS が良いように思われる。
フランスのBB-SFOP 研究では,1990~2004 年にOPHG 180 例(NF1 60 例)にカルボプラチン/プロカルバジン,エトポシド/カルボプラチン,ビンクリスチン/シクロホスファミドの6 剤を7 サイクル計16 カ月投与し,126 例(70%)が治療を完遂したが,長期経過観察では非NF1,NF1 いずれもOS にplateau が認められず,5 年95%,10 年92%,15 年81%,18 年76%と低下し続け,2/3 が腫瘍進行で死亡したと報告した。診断時年齢1 歳未満と頭蓋内圧亢進例が予後不良で,間脳症候群のない男児は予後が良好だった8)。
カナダの小児脳腫瘍コンソーシアムは,2007~2010 年に18 歳未満の化学療法の既往のないLGG にビンブラスチン6 mg/m2の週1 回投与を70 週まで繰り返す治療研究を行った。54 例が登録され,うちOPHG は30 例,NF1 は13 例であった。最良効果として,CR+MR は25.9%(CR1, PR9, MR4, SD34),SD 以上は47 例(87%)で得られ,25 例のOPHG のうち5 例(20%)で視力の回復が得られた。反応のみられた症例の最良効果までの期間の中央値は52 週(NF1 例は25.5 週,非NF1 例は52 週)であり,カルボプラチン+ビンクリスチンレジメンに比べ治療効果に大きな差はないが,効果発現までの時間は遅く,維持療法(長期治療)の有効性が示唆される9)。
- 注1)
小児悪性固形腫瘍として保険適応
- 注2)
悪性星細胞腫,乏突起膠腫成分を有する神経膠腫として保険適応
- 注3)
悪性リンパ腫,絨毛性疾患,再発または難治性の胚細胞腫瘍,ランゲルハンス細胞組織球症として保険適応
システマティックレビュー結果
<検索式>
(“optic glioma” OR “optic pathway glioma” OR “hypothalamic glioma” OR “low-grade glioma” OR “pilocytic astrocytoma”)AND(“chemotherapy” OR “drug”)AND(“metaanalysis” OR “systematic review” OR “trial”)
上記の検索式でOPHG と化学療法に関する論文をPubMed を用いて検索し,105 文献ヒットした。その中からCQ6 に該当する9 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Packer RJ, Ater J, Allen J, et al. Carboplatin and vincristine chemotherapy for children with newly diagnosed progressive low-grade gliomas. J Neurosurg. 1997;86(5):747-54.[PMID:9126887]
- 2)
- Mahoney DH Jr, Cohen ME, Friedman HS, et al. Carboplatin is effective therapy for young children with progressive optic pathway tumors:a Pediatric Oncology Study Group phase Ⅱ study. Neuro Oncol. 2000;2(4):213-20.[PMID:11265230]
- 3)
- Gnekow AK, Falkenstein F, von Hornstein S, et al, Long term follow up of the multicenter, multidiciplinary study HIT-LGG-1996 for low grade glioma in children and adolescents of German speaking Socienty of Pediatric Oncology and Hematology. Neuro Oncol. 2012;14(10):1265-84.[PMID:
22942186]
- 4)
- Mirow C, Pietsch T, Berkefeld S, et al. Children <1 year show an inferior outcome when treated according to the traditional HIT-LGG treatment strategy:a report from the German multicenter trial HIT-LGG 1996 for children with low grade glioma(LGG). Pediatr Blood Cancer. 2014;61(3):457-63.[PMID:24039013]
- 5)
- Driever PH, von Hornstein S, Pietsch T, et al. Natural history and management of low-grade glioma in NF-1 children. J Neurooncol. 2010;100(2):199-207.[PMID:20352473]
- 6)
- Ater JL, Zhou T, Holmez E, et al. Randomized study of two chemotherapy regimens for treatment of low grade glioma in young children:a report from the Pediatric Oncology Group. J Clin Oncol. 2012;30(21):2641-7.[PMID:22665535]
- 7)
- Ater JL, Xia C, Mazewski CM, et al. Nonrandomized comparison of Neurofibromatosis type 1 and Non-Neurofibromatosis type 1 children who received carboplatin and vincristine for progressive low-grade glioma:report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2016;122(12):1928-36.[PMID:27061921]
- 8)
- Rakotonjanahary J, De Carli E, Delion M, et al. Mortality in children with optic pathway glioma treated with up-front BB-SFOP chemotherapy. PLoS One. 2015;10(6):e0127676.[PMID:26098902]
- 9)
- Lassaletta A, Scheinemann K, Zelcer SM, et al. Phase Ⅱ weekly vinblastine for chemotherapy-naïve children with progressive low-grade glioma:a Canadian Pediatric Brain Tumor Consortium Study. J Clin Oncol. 2016;34(29):3537-43.[PMID:27573663]
- CQ7
- 再発時の化学療法は生命予後を改善するか?
- 推奨度1C
- 推奨
再発時の化学療法は腫瘍の進行を抑制し,生命予後の改善をもたらす可能性があるため行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する薬物療法も集学的治療の一部として考えられる。その適否,使用薬剤,および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
OPHG の再発時において,化学療法が他の治療に比して生存期間を有意に延長できるか否かについて,高いレベルのエビデンスを示す論文はない。しかしながら,手術による切除は視機能や視床下部障害を考慮すると困難な場合が多い。また,再発時であっても放射線照射の時期を遅らせるためにも,再度化学療法が試みられる。ビンブラスチン,ベバシズマブ注1)+イリノテカン注2)およびテモゾロミド注3)についての文献を参照する。
Bouffet らは41 例(1.4~18.2 歳:中央値7.2 歳)の再発low-grade glioma(LGG)の患児(視路/視床下部膠腫は34 名)に対してビンブラスチン療法(静注,6 mg/m2,週1 回,52 週間)を前方視的登録研究として約1 年間継続して施行した。治療を完了できたのは31 例で,治療反応率(CR+PR+MR)は36%(18 例)であった。その後の平均観察期間は67 カ月で,23 例で進行しなかった。5 年生存率は93.2%(3 例が死亡),5 年無増悪生存率は42.3%であった。副作用のほとんどは好中球減少症(グレード4:18 例)のみであった1)。
Gururangan らは35 例(0.6~17.6 歳:中央値8.4 歳)の再発LGG の患児(毛様性星細胞腫が46%,詳細な部位の記載はなし)に対してベバシズマブ+イリノテカン療法を平均12 コースにわたり施行した。29 例(83%)は6 カ月以上治療を施行できた。6 カ月と2 年無増悪生存率はそれぞれ85.4%,47.8%であった2)。
一方で,Nicholson らは113 例(1~23 歳:中央値11 歳)の小児および若年者の再発脳腫瘍[LGG が22 例(詳細な部位や病理の記載はなし)]に対してテモゾロミド経口投与(200 mg/m2/day,5 日間,毎月)を12 サイクルにわたり施行した。全体でCR は1 例,PR は5 例のみであった。LGG についてはCR,PR はなく,SD を含めたno response は41%であった。以上の結果から,小児LGG に対するテモゾロミドの効果は限定的と述べている3)。
- 注1)
悪性神経膠腫として保険適応
- 注2)
小児悪性固形腫瘍として保険適応
- 注3)
悪性神経膠腫として保険適応
システマティックレビュー結果
<検索式>
(“optic glioma” OR “optic pathway glioma” OR “hypothalamic glioma” OR “low-grade glioma” OR “pilocytic astrocytoma”)AND(“chemotherapy” OR “drug”)AND(“metaanalysis” OR “systematic review” OR “trial”)
上記のようにOPHG と化学療法に関する論文をカバーするようにPubMed を用いて検索し,105 文献ヒットした。その中からCQ7 に該当する3 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Bouffet E, Jakacki R, Goldman S, et al. Phase Ⅱ study of weekly vinblastine in recurrent or refractory pediatric low-grade glioma. J Clin Oncol. 2012;30(12):1358-63.[PMID:22393086]
- 2)
- Gururangan S, Fangusaro J, Poussaint TY, et al. Efficacy of bevacizumab plus irinotecan in children with recurrent low-grade gliomas–a Pediatric Brain Tumor Consortium study. Neuro Oncol. 2014;16(2):310-7.[PMID:24311632]
- 3)
- Nicholson HS, Kretschmar CS, Krailo M, et al. Phase 2 study of temozolomide in children and adolescents with recurrent central nervous system tumors:a report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2007;110(7):1542-50.[PMID:17705175]
課題5:放射線治療
- CQ8
- 放射線治療は有効か?
- 推奨度2C
- 推奨
手術および化学療法が優先されるが,限られた場合*に放射線療法が行われることを提案する。
* 限られた場合とは,放射線療法の局所制御のメリットから,化学療法が不応であり,腫瘍の増大部位や大きさ,速度によって,手術による減圧が不能であったり,視機能温存が不能であったりする場合など,を想定している。また有害事象としての血管腫発生の頻度が10 歳以上の照射では減少するため,この年齢以上では根治的な放射線療法も提案され得る。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する放射線治療も外科治療や薬物療法と同じく集学的治療の一部として考えられる。その適否,線量,照射範囲および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
OPHG は一般に低悪性度の神経膠腫である割合が高く,生命予後は比較的良好である。特にNF1 に合併した症例では自然退縮例も報告され,治療開始時期に関しては早期,つまり年少時に介入すべきかどうか,慎重に判断すべきである。患者は0~4 歳の幼児が多く,放射線療法は,この年齢層においては,後述するように正常組織の発達を阻害する各種の有害事象をもたらすリスクがあり,手術,化学療法がより優先的に用いられている。一方で放射線療法は,腫瘍が化学療法に対して不応となり,症状を伴う腫瘍の増大を生じ,手術で減圧が不能な大きさ,部位である場合や,視神経に生じた腫瘍が増大し,視機能低下をきたし,化学療法,手術によっても視機能温存が困難な場合など,限られた条件のもとでは積極的に施行することが提案される1-3)。
OPHG の放射線療法に関する前方視的比較試験は存在しない。Fouladi らの観察研究1)によれば,73 例のOPHG に対し,その診断直後に放射線療法,化学療法単独治療,無治療経過観察を行った群を観察し,ランダム化比較ではないものの6 年無増悪生存割合がそれぞれ62%,12%,37%であった。放射線療法が独立した予後良好因子であった。
その一方でOPHG はウイリス動脈輪に近いため,まだ血管が発達していない幼児に対して治療を行うと,治療後の血管の発達が阻害され,モヤモヤ血管,海綿状血管腫などの血管形成障害が起こることが懸念される4,5)ほか,白質脳症6),視床下部下垂体への照射による内分泌機能障害7),二次がんのリスク4,8)を生ずる。Tsang らの報告4)によれば,放射線療法を行った89 例のOPHG のうち,グレード2 より重篤な血管形成障害が7 例に生じ(10 年累積発生率7.1%),発生例と非発生例の照射時年齢の中央値はそれぞれ6.4 歳と8.1 歳であった。また10 歳以下の症例の10 年累積発生率は11.3%で,11 歳以上の症例では0%であった。Merchant らの78 例の小児のグリオーマ(うち58 例がOPHG)の原体照射による第Ⅱ相試験の報告5)によれば,7 年の血管障害の発生率は4.79±2.73%で,年齢別の6 年の血管障害の発生率5 歳未満の8 例では12.5±12.6%,5 歳以上の66 例では3.8±2.6%であった(p=0.105)。
Lacaze らによる27 例のOPHG の小児に対し初期治療として化学療法を施行した報告6)によれば,化学療法後に放射線療法を加えなかった19 例の知能指数は平均107±17 であったのに対し,放射線療法を加えた8 例の知能指数は平均88±24 であった。彼らは可能であれば,放射線療法を避けるか,遅らせることを結論づけている。
Gan らによる166 例の小児のOPHG の長期観察の報告7)によれば,20 年の内分泌に関する無イベント生存割合は4%であり,多変量解析の結果では,腫瘍の視床下部浸潤(ハザード比2.20,95%CI:1.41-3.42,p<0.001)と並んで,放射線療法は有意な予後不良因子であった(ハザード比1.98 倍,95%CI:1.16-3.39,p=0.013)。
二次がんに関してはSharif らのNF1 に合併したOPHG 58 例を,放射線療法を行った18 例と行わなかった40 例に分けて解析した報告8)によれば,二次がんが生じる確率は前者が50%,後者が20%であり,放射線療法による二次性の中枢神経腫瘍の発生のハザード比が3.04(95%CI:1.29-7.15)と有意に,特にNF1 合併例において高率であった。またTsang らの報告によれば,NF1 に合併した症例では14 例中4 例(29%)に,合併していない症例では75 例中4 例(5.3%)にそれぞれ放射線療法が原因と考えられる二次がんが発生した。そのためNF1 に合併した症例では他の治療不応例の救済の目的以外では極力放射線療法を避けるべきであるとしている4)。
放射線療法の線量は他の低悪性度神経膠腫に準じて45~54 Gy/25~30 分割3-4,9)で,腫瘍局所に適切なマージンを付加したターゲットに対して可及的に線量集中性を改善した通常分割の定位的照射法を用いて行うことが推奨される10,11)。また患者が小児であることを考慮して,一回線量は1.8 Gy 程度に下げて投与することが推奨される8)。最近では陽子線治療もその線量集中性と,周囲の高線量域の体積が低く抑えられるために用いられるようになってきている12)。
OPHG の放射線療法は耐容線量の低い視神経・下垂体を含んだ領域へ精密に照射するという技術的な困難さと対象患児の晩期有害事象という問題を孕んでいるため,集学的がん治療グループでの適応判断のもと,患児,その家族と治療方針について細やかな相談の後,高精度な放射線治療の手法を用いて行われることが必要である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“radiotherapy”[Subheading]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “radiation therapy, radio”[MeSH Terms]OR(“radiation”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “radiotherapeutic”[All Fields])OR “radiotherapy procedures”[All Fields]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “general radiotherapy”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “radiotherapy”[All Fields])OR “general radiotherapy”[All Fields])AND irradiation[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“radiotherapy”[Subheading]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “radiotherapy procedures, irradiation”[MeSH Terms]OR(“radiotherapeutical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “irradiation”[All Fields])OR “radiotherapeutical procedures”[All Fields]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “general radiotherapy”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “radiotherapy”[All Fields])OR “general radiotherapy”[All Fields])AND irradiation[All Fields])
上記の検索式でPubMed を用いて検索し,410 文献ヒットした。その中からCQ8 に該当する12 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Fouladi M, Wallace D, Langston JW, et al. Survival and functional outcome of children with hypothalamic/chiasmatic tumors. Cancer. 2003;97(4):1084-92.[PMID:12569610]
- 2)
- Khafaga Y, Hassounah M, Kandil A, et al. Optic gliomas:A retrospective analysis of 50 cases. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2003;56(3)807-12.[PMID:12788189]
- 3)
- Terashima K, Chow K, Jones J, et al. Long-term outcome of centrally located low-grade glioma in children. Cancer. 2013;119(14);2630-8.[PMID:23625612]
- 4)
- Tsang DS, Murphy ES, Merchant TE. Radiation therapy for optic gliomas in children. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2017;99(3):642-51.[PMID:29280458]
- 5)
- Merchant TE, Kun LE, Wu S, et al. Phase Ⅱ trial of conformal radiation therapy for pediatric low-grade glioma. J Clin Oncol. 2009;27(22):3598-604.[PMID:19581536]
- 6)
- Lacaze E, Kieffer V, Streri A, et al. Neuropsychological outcome in children with optic pathway tumours when first-line treatment is chemotherapy. Br J Cancer. 2003;89(11):2038-44.[PMID:14647135]
- 7)
- Gan HW, Phipps K, Aquilina K, et al. Neuroendocrine Morbidity After Pediatric Optic Gliomas:A Longitudinal Analysis of 166 Children Over 30 Years. J Clin Endocrinol Metab. 2015;100(10):3787-99.[PMID:26218754]
- 8)
- Sharif S, Ferner R, Birch JM, et al. Second primary tumors in neurofibromatosis 1 patients treated for optic glioma:substantial risks after radiotherapy. J Clin Oncol. 2006;24(16):2570-5.[PMID:16735710]
- 9)
- Stieber VW. Radiation therapy for visual pathway tumors. J Neuroophthalmol. 2008;28(3):222-30.[PMID:18769290]
- 10)
- Walker D. Recent advances in optic nerve glioma with a focus on the young patient. Curr Opin Neurol. 2003;16(6):657-64.[PMID:14624073]
- 11)
- Combs SE, Schulz-Ertner D, Moschos D, et al. Fractionated stereotactic radiotherapy of optic gliomas:Tolerance and long-term outcome. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2005;62(3):814-9.[PMID:15936565]
- 12)
- Indelicato DJ, Rotondo RL, Uezono H, et al. Outcomes Following Proton Therapy for Pediatric Low-Grade Glioma. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2019;104(1):149-56.[PMID:30684665]
5 章 小児・AYA 世代上衣腫 ependymoma in childhood, adolescent and young adult
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
宇塚 岳夫
獨協医科大学 脳神経外科/脳神経外科
総括
副委員長
隈部 俊宏
北里大学 脳神経外科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
協力委員
前林 勝也
日本医科大学付属病院 放射線治療科/放射線科
放射線治療
協力委員
原 純一
大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児血液腫瘍科/小児科
化学療法
協力委員
坂本 博昭
大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
協力委員
師田 信人
北里大学 脳神経外科/脳神経外科
化学療法
委員
夏目 敦至
名古屋大学 脳神経外科/脳神経外科
再発時の治療
委員
橋本 直哉
京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合性
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
1
外科的治療
坂本 博昭
橋本 直哉
柴原 一陽(北里大学 脳神経外科)
國廣 誉世(大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児脳神経外科)
小川 隆弘(京都府立医科大学 脳神経外科)
2
放射線治療
前林 勝也
太田 篤(新潟大学 放射線科)
斎藤 紘丈(新潟大学 放射線科)
中野 智成(新潟大学 放射線科)
棗田 学(新潟大学脳研究所 脳神経外科)
岡田 正康(新潟大学脳研究所 脳神経外科)
渡邉 潤(新潟大学脳研究所 脳神経外科)
栗林 茂彦(東京女子医科大学 放射線腫瘍学講座)
秋元 裕義(日本医科大学付属病院 放射線治療科)
3
化学療法
原 純一
師田 信人
吉藤 和久(北海道立子ども総合医療・療育センター 脳神経外科)
藤崎 弘之(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
4
再発時の治療
夏目 敦至
大岡 史治(名古屋大学 脳神経外科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
小児・AYA 世代上衣腫に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,上衣腫患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された9 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにガイドライン作成ワーキンググループがシステマティックレビュー(SR)チームの責任者となり,責任者よりSR 委員を選出してもらい,各課題1~8 名で編成した。上衣腫が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年3 月上衣腫診療ガイドライン作成ワーキンググループが発足。委員長および担当者を決定した。
スコープ:ガイドライン作成ワーキンググループ委員で検討を繰り返し,作成した。
システマティックレビュー:各CQ に担当者を募り,リーダーとなるガイドライン作成ワーキンググループ委員と相談しながらエビデンスを収集した。
2014 年3 月version 1.0 を作成
2015 年1 月version 2.0 を作成
2016 年2 月version 3.0 を作成
2016 年8 月version 4.0 を作成
2020 年9 月version 5.0 を作成
2020 年10 月version 6.0 を作成
2020 年12 月version 7.0 を作成
2021 年1 月version 8.0 を作成
2021 年3 月version 9.0(最終版)を作成
作成グループ会議:2014 年3 月から2019 年12 月の期間は,年間2 回程度の日程でガイドライン作成ワーキンググループ会議を行った。2020 年6 月からは毎月1 回オンライン会議を行った。
推奨作成とその過程:2021 年1 月と2 月にガイドライン作成ワーキンググループ内における推奨グレードの投票を行った。最終的にはオンライン会議にて討論し,ガイドライン作成ワーキンググループ内での意見が一致した状態で推奨グレードを提案した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年9 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.小児・AYA 世代上衣腫の基本的特徴
1)はじめに
2021 年12 月に公開されたWHO 脳腫瘍分類第5 版において,The Consortium to Inform Molecular and Practical Approaches to CNS tumor Taxonomy-Not Official WHO(cIMPACT-NOW)update 71)の提言に基づき,上衣腫の分類は大幅に改訂された。一方,臨床の現場ではいまだWHO 脳腫瘍分類第4 版による分類が広く行われていると考えられるため,本ガイドラインでは新分類を視野に入れつつ,用語などはWHO 脳腫瘍分類第4 版(以後WHO 2016)2)に準拠するものとする。
使用する「上衣腫」に関連する用語の定義は以下の如くである。WHO 2016 に記載されているEpendymal tumours を「上衣系腫瘍」と表記する。「上衣腫」とのみ表記する場合は,WHO 2016 における上衣腫(ependymoma, WHO grade Ⅱ)・ependymoma, RELA fusion-positive(WHO grade Ⅱ/Ⅲ)・退形成性上衣腫(anaplastic ependymoma, WHO grade Ⅲ)を含むものとする。狭義のWHO grade Ⅱの上衣腫を示す場合は,「上衣腫(WHO grade Ⅱ)」と表記することとする。上衣腫のgrading の記載については,前述のcIMPACT-NOW では,Ⅰ~Ⅳのローマ数字ではなく,1~4 のアラビア数字で記載している。これらは今後のWHO 分類にも採用されるものと思われるが,現在のWHO 脳腫瘍分類の表明とは異なるため,本ガイドラインではローマ数字Ⅰ~Ⅳのgrading で記載することとした。
本ガイドラインは「小児・AYA 世代」患者の診療を行う医療者を主な対象としている。上衣腫において,小児期から成人期にかけて明確な腫瘍の性状の違いはないが,小児期からの切れ目のない継続医療(移行期医療)が必要と考えられるためである。
2)疫学的特徴
上衣腫は脳室壁や脊髄中心管を構成する上衣細胞(ependymal cell)への分化を示す腫瘍である。脳腫瘍全国集計調査報告3)では,上衣腫の頻度は原発性脳腫瘍の1%と稀な腫瘍である。年齢層は乳幼児から高齢者まで,幅広く認められることが特徴である。年齢層別にみると,0~29 歳では全脳腫瘍の7.0%,0~4 歳までに限ると20.2%を占め,特に乳幼児では重要な腫瘍である。
発生部位は脳室系に関係していることが多く,成人ではテント上,小児では第四脳室発生が多い。テント上では脳室系と無関係な脳実質内に発生することもある。テント上発生が30%程度,後頭蓋窩発生が60%程度,脊髄発生が10%程度と報告されている2)。
脊髄腫瘍としての上衣腫は頻度が高く,成人の脊髄神経膠腫の約半分を占めるが,小児では稀である。脊髄上衣腫は神経線維腫症2 型に合併する症例もしばしばみられ,脊髄円錐と馬尾には粘液乳頭状上衣腫が高頻度にみられるなど,頭蓋内上衣腫とは異なる臨床的・生物学的特徴を持つため,脊髄上衣腫は本ガイドラインでは扱わない。
3)画像所見
脳室内の境界明瞭な腫瘍として描出されることが多い。MRI T1 強調画像では低信号,T2 強調画像では高信号を呈することが多く,造影効果はさまざまな程度で認められる。腫瘍内部には石灰化や囊胞,腫瘍内出血などがしばしば認められ,内部が不均一であることも特徴の一つである。脳実質への広汎な浸潤や周囲の強い脳浮腫をきたすことは稀である。小児では第四脳室に好発し,外側孔(Luschka 孔)から小脳橋角部へ進展する症例も認められる。また,脳室内発生の場合は閉塞性水頭症を合併しやすい。比較的髄液播種をきたしやすい腫瘍であり,髄液播種にも注意が必要である。
術前画像診断では,後頭蓋窩発生の上衣腫は髄芽腫やatypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)との鑑別が難しい例がある。テント上脳室外発生の場合,膠芽腫や退形成性星細胞腫との鑑別が問題となる。
4)病理診断
上衣腫(WHO grade Ⅱ)は小型で均一な腫瘍細胞が血管周囲性偽ロゼット配列を示すことが特徴であり,多くの症例で観察される。中心管を模した上衣ロゼットが上衣腫の診断に有用であるが,典型的なロゼット形成は比較的少数の症例にしか観察されないことも知られている。免疫染色では腫瘍細胞はglial fibrillary acidic protein(GFAP)が陽性となる。また,多くはS100 蛋白,vimentin が陽性であり,Olig2 は陰性となる。Epithelial membrane antigen(EMA)染色は上衣腫の診断に有用であり,ドット状もしくはリング状の陽性所見を認めることが多い。Isocitrate dehydrogenase(IDH)R132H での染色が陰性である点も重要である。
退形成性上衣腫はWHO grade Ⅲに属し,上衣腫(WHO grade Ⅱ)と比較して細胞密度が高く,多数の核分裂像を有し,微小血管増殖や壊死像を伴うものとされている。しかし,WHO 2016 では退形成上衣腫の診断根拠となる核分裂像の個数は明記されていない。
上衣腫の診断とさらにそのgrading に関する病理診断の難しさについてはいくつかの報告がある。Sasaki らは,我が国の治療担当施設で小児上衣腫と診断された130 例を対象に,熟練した3 名の病理医による中央診断の結果を報告している4)。中央診断において病理医間の診断一致率は脊髄上衣腫では100%,後頭蓋窩腫瘍では93%であったが,テント上(大脳半球)腫瘍では病理医間の一致率は77%であった。さらに,ヨーロッパの3 つの前方視的臨床試験における上衣腫187 例について,熟練した5 名の病理医が独立して診断したところ,grade Ⅱにおける症例ごとの診断一致率は19~59%,grade Ⅲは41~81%と広いばらつきを認めた5)。このように上衣腫の病理診断およびgrading の確定が困難であることが,予後予測因子としてのgrading の不明確性に影響しているものと考えられる。
WHO2016 では,上衣腫は5 つのサブタイプと3 つのgrade に分類されている。
WHO grade Ⅰには上衣下腫(subependymoma)や粘液乳頭状上衣腫(myxopapillary ependymoma)などが含まれる。上衣下腫は成人の脳室壁に好発し,粘液乳頭状上衣腫は若年成人の終糸に好発する。いずれの腫瘍も全摘出(gross total resection:GTR)後の予後は非常に良好である。いずれも成人に好発するため,本ガイドラインではこれらの腫瘍については取り扱わない。
WHO grade Ⅱにはpapillary, clear cell, tanycytic といったvariant が含まれる。WHO2016 には遺伝子診断によって分類されるEpendymoma, RELA fusion-positive という項目が新たに付け加えられた。本腫瘍は小児のテント上上衣腫の70%程度を占め,WHO grade ⅡもしくはⅢに分類される。退形成性上衣腫はこれまでどおりWHO grade Ⅲに分類される。本ガイドラインではWHO grade Ⅱの上衣腫とgrade Ⅲの退形成性上衣腫およびgrade Ⅱ/ⅢのRELA fusion-positive 上衣腫について取り扱う。
5)分子生物学的知見
近年の上衣腫における分子生物学的知見の報告は目覚ましく増加し,以前から年齢・発生部位によって臨床的特徴が異なると報告されていた症例群の背景が明らかとなってきた。テント上・下の上衣腫は病理組織所見としては類似するものの,もはやそれぞれ別の疾患として論じられるべきである。分子生物学的分類を理解することは,今後の診療に役立つためだけでなく,これまでの治療成績に関する報告を考察する上でも,極めて重要である。
分子生物学的には,頭蓋内上衣腫はテント上と後頭蓋窩で大きく異なる。テント上上衣腫では,染色体粉砕(chromothripsis)により形成されるC11orf95-RELA 融合遺伝子が2/3 程度と高頻度に認められることが報告された5)。RELA 遺伝子もC11orf95 遺伝子も共に11 番染色体長腕に存在し,マウスの実験ではC11orf95-RELA 融合遺伝子を導入することにより,NF-kB シグナルの活性化による上衣腫の発生が認められ,C11orf95-RELA 融合遺伝子はドライバー遺伝子であることが確認された。また,RELA 融合遺伝子を認めたテント上上衣腫の多くは退形成性上衣腫WHO grade Ⅲと診断されている4)。cIMPACT-NOW update 7 ではC11orf95-RELA 融合遺伝子におけるC11orf95 の役割が強調されており,疾患名もSupratentorial ependymoma, C11orf95 fusion-positive とすることが提言されている1)。また,C11orf95 遺伝子はその機能的意義として,RELA 遺伝子だけでなく他の多くの遺伝子と融合遺伝子を形成し,腫瘍形成の主因子となることが判明し,Zinc Finger Translocation Associated(ZFTA)遺伝子と呼称されることとなった1)。
また,テント上上衣腫においては,RELA融合遺伝子群と相互排他的にYAP1-MAMLD1 融合遺伝子が発現しているグループ(YAP1 融合遺伝子群)も存在する。これらテント上上衣腫15 例の報告では,全例が3 歳未満で,年齢中央値は8.2 カ月であり,乳児に好発することが示唆されている6)。15 例中13 例が女児で,病理組織学的には11 例がWHO grade Ⅲに分類されたものの,フォローアップ期間中央値4.84 年で全例再発を認めていない。YAP1 融合遺伝子群についてはcIMPACT-NOW1)でも提言されており,今後分類に追加されるサブタイプと考えられる。一方,RELA やYAP1 などの融合遺伝子が存在しないテント上上衣腫も約30%みられるが,それらの腫瘍の生物学的悪性度の評価は定まっておらず7),今後メチル化プロファイルなどによる精査が必要である。
後頭蓋窩上衣腫は全ゲノム的な発現プロファイルやメチル化プロファイルの違いから,Group A(posterior fossa type A:PFA)とB(posterior fossa type B:PFB)に分類される8)。PFA はCpG island に高メチル化を多数認め,また30%程度に染色体1q のDNA コピー数増加がみられる7)。一方,PFB では6q,22q の欠失や9q,15q,18q などの増加など1q 増加以外のさまざまな染色体異常を示す。PFA は幼年の男児に多く,WHO grade Ⅲが多い傾向があり,転移・再発が多い。PFB は年長児や成人に多く,性差はなく,PFA に比べて予後が良好である。PFA・PFB の鑑別には,H3K27me3 の免疫染色が有用である。前述のSasaki らの報告4)では,後頭蓋窩上衣腫のうち,退形成性上衣腫と診断された症例の大部分はPFA であった。
また,前方視的臨床試験であるHIT 2000-E プロトコールに含まれていた28 例の18 カ月未満の上衣腫についての遺伝子検索結果が報告され9),8 カ月未満の上衣腫28 例はすべて退形成性上衣腫であった。28 例中21 例(75%)が後頭蓋窩局在であり,全例PFA であり,テント上局在の7 例(25%)のうち,4 例がRELA 融合遺伝子陽性で,2 例がYAP1 融合遺伝子陽性であった。これらの結果より,18 カ月未満の上衣腫は,PFA/RELA 融合遺伝子/YAP1 融合遺伝子の3 群が大半を占めることが示唆されている。
上衣腫の分子生物学的分類における予後解析では,PFA が予後不良であり,PFB は予後良好であるとする報告が多い10)。特に一番染色体長碗のgain を伴うPFA の予後は不良である10)。RELA 融合遺伝子群の予後については,報告にばらつきがみられる10)。YAP1 群の発生頻度はRELA 群に比べて低いが,予後は良好である。
本ガイドラインで取り上げた臨床試験や報告の多くは,上記の分子生物学的知見について勘案されたものでないことに注意する必要がある。現在のところ,分子生物学的分類は治療方法の選択に直結しないが,予後を予測するのに重要な示唆が得られる。今後はこれらの分子生物学的分類に基づいた臨床試験が行われ,手術・放射線治療・化学療法の有効性がサブグループごとに変わっていく可能性がある。
6)治療
上衣腫の治療における手術についてのエビデンスは,一つの方向に向かっており理解しやすい。すなわち,大部分の報告において可能な限り全摘出を行うことが予後の改善につながっている。また放射線治療については,サブタイプによっては不要という報告があるものの,多くは有用性を支持する報告である。
上衣腫において最も悩ましいのは,乳幼児の治療である。これは放射線治療の晩期合併症が発生しやすいためである。乳幼児の上衣腫に対しても,おそらく放射線治療は有効であると考えられるが,晩期合併症を考慮すると,化学療法を先行することにより放射線治療の回避もしくは延期が望まれるところである。問題は,何歳なら照射を行ってよいのかというカットオフ値であろう。本ガイドラインでは「3 歳」という年齢を提示した。これは歴史的に複数の臨床試験に用いられてきた年齢区分であり,ある程度エビデンスが存在するためである。しかし,その区切り自体に強いエビデンスではなく,あくまで一つの目安として考えるべきであると思われる11)。放射線治療は,年齢のみならず,摘出術後の状態,残存腫瘍の部位や量,病理組織所見と遺伝子分類などを考慮し,生命予後と晩期合併症のバランスを考えた上で照射量,照射範囲,照射方法を慎重に判断する必要がある。2018 年にEuropean Association of Neuro-Oncology(EANO)から示されたガイドライン12)では,摘出術後の後療法として,12 カ月未満には化学療法を,12~18 カ月には54 Gy の局所照射を,18 カ月以上では59.4 Gy の局所照射を推奨している。しかし,後のCQ で記述しているとおり,上衣腫に放射線治療の効果はあるものの,12 カ月以上3 歳未満児への放射線治療に関しては,局所照射であっても,晩期脳障害が許容できるかどうかの十分なエビデンスの蓄積は認められなかった。そのため本のガイドラインでは,3 歳未満・3 歳以上という区切りを用いているものの,その取り扱いについては十分慎重を期して解説文を記載した。また,今回のシステマティックレビューからは,12 カ月あるいは18 カ月という年齢の区切りに関するエビデンスはは十分ではないと判断し,その採用を見送った。詳しくは課題2:放射線治療,課題3;化学療法を参照されたい。
7)治療成績と予後因子
脳腫瘍全国集計調査報告2)によると,手術+放射線治療を受けた症例の5 年生存割合は,上衣腫(WHO grade Ⅱ)では約70%,退形成性上衣腫(WHO grade Ⅲ)では約30%である。年齢的には3 歳未満での発症は予後不良因子とする報告が多い。低年齢発症の場合には組織的悪性度が高いこと,後頭蓋窩発生の割合が大きく全摘出が難しいこと,また低年齢層への放射線治療が避けられてきたことなどの要因が予後に影響を及ぼしている可能性が考えられている。摘出率については,全摘出が遂行可能であった例は,有意差をもって予後良好であるとする報告が多い。摘出術後の放射線治療が標準的治療と考えられるが,いくつかの報告では放射線治療の効果が示されておらず,放射線治療を必要としない症例群の存在も示唆されている。上記以外の予後不良因子として,治療前の播種病変の存在が報告されている。
❖ 文献
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- 2)
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2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:小児・AYA 世代上衣腫の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後の改善
- (3)トピック:生命予後,機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍(15 歳未満および16~29 歳のAdolescent and Young Adult:AYA 世代を含めた年齢)を診療する医療者,患者・家族
- (5)既存ガイドラインとの関係:上衣腫診療については,EANO ガイドライン(2016)を参考にした。
- (6)重要臨床課題
課題1:手術摘出
課題2:放射線治療
課題3:化学療法
課題4:再発時の治療
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
- a)脊髄髄内に発生する上衣腫は本ガイドラインの対象疾患には含めず,頭蓋内上衣腫に限定する。
- b)頭蓋内上衣腫の2016 年WHO 分類第4 版による悪性度のWHO grade ⅡとⅢの両方を含める。
- c)厚労省から示された小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満および16~29 歳のAYA 世代を含めた年齢)
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:2 カ月
文献の選出:2 カ月
エビデンス総体の評価と統合:6 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:European Association for Neuro-Oncology(EANO)よりガイドラインが報告されている(スコープ引用文献12 を参照)。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験の報告は,海外からいくつか報告されている。その他,非ランダム化比較試験,観察研究を検索対象とした。MRI 時代以前の観察研究や,症例報告に関しては一部を除いて省略した。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed
- SR/MA 論文について:検索されたSR はすべて参考としたが,構造化抄録には加えなかった。MA 論文は認めなかった。
- 既存のガイドラインの検索:EANO からのガイドラインを参考とした(スコープ引用文献12 を参照)。
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いた。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2019 年12 月31 日まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合が量的統合を実施。
課題1:外科的治療
- CQ1
- 肉眼的全摘出は生命予後を改善するか?
- 推奨度1C
- 推奨
生命予後の改善が期待できるので肉眼的全摘出を推奨する。
解説
1.CQ の設定
小児期とadolescent and young adult(AYA)世代の頭蓋内上衣腫に対する手術摘出として,アウトカムの「益」としてはOS やPFS の延長を,また「害」としては神経症状の悪化によるQOL の低下を設定し,肉眼的全摘出(GTR)とそれ以下の摘出度との間で比較した。また,初回摘出術後の残存腫瘍に対する再摘出の有効性,および最近提唱されている全ゲノム的な発現プロファイルから分類される後頭蓋窩上衣腫サブタイプにおける摘出度と予後との関連性も検討した。PICO の設定に従い,30 歳以上の症例を多く含む報告や,再発例および脊髄上衣腫を対象とした報告は除外し,稀少疾患である頭蓋内上衣腫に対して定性的システマテックレビューを行った。
2.腫瘍の摘出度とOS・PFS
頭蓋内上衣腫では腫瘍のGTR ができれば生命予後が改善すると考えられてきたが,今回システマティックレビューにより,この仮説を評価した。上衣腫の摘出度の判定は,術中所見ではなく,摘出術後早期の画像検査によって厳密に評価することが求められるようになったため,画像評価が行われた報告を採用した。近年の摘出度の評価法に準じて1),摘出術後の画像検査で残存腫瘍を認めないものをGTR とし,GTR 以外のnon-GTR にはnear total resection,亜全摘出,部分摘出および生検が含まれる。これまで摘出度と予後との関係を明確にするためのランダム化比較試験の報告はないため,年齢・部位・組織学的悪性度・放射線治療・化学療法など複数の予後因子を評価した報告で,多変量解析を用いたサブ解析により腫瘍の摘出度の評価を行った報告を採用した。統計学的に適切な評価を得るために,GTR 群・non-GTR 群の症例数がそれぞれ20 例以上の報告を採用した。
Non-GTR よりもGTR でOS の延長が有意差ありとする報告は7 件,PFS の延長が有意差ありとする報告は6 件であった。これらの報告で,摘出術後に放射線治療などの後療法が施行された5 年OS はGTR 群80~93.6%,non-GTR 群51~53%であり,5 年PFS はGTR 群53~81.5%,non-GTR 群33~42%であった。一方,OS ではGTR 群とnon-GTR 群に有意差を認めないとする報告は1 件のみで,PFS で有意差のない報告は3 件といずれも少なかった。Non-GTR 群がGTR 群よりもOS,PFS が有意に良好であるとする報告はなかった。発生部位を後頭蓋窩あるいはテント上に分けて摘出度と予後との関係を検討した報告はなかった。
1)前方視的研究の報告
摘出術後の後療法として放射線治療と化学療法のどちらを先に行う方が予後良好かを検討するためのランダム化比較試験の報告2) (3 歳以上 18 歳以下,テント上 26 例,後頭蓋窩29 例,GTR 51%)では,GTR 群のPFS がnon-GTR 群よりも有意に良好で,3 年PFS がGTR 群83.3%,non-GTR 群38.5%であった。化学療法の違いによって予後の改善が得られるかをランダム化比較試験で検討した報告3)(3 歳未満の 82例,GTR 37%)では,non-GTR 群と比較してGTR 群で有意にOS とPFS が良好であった。摘出術後に放射線治療を避けて化学療法を先行して治療効果をみた報告4)(3歳未満の症例,テント上13例,後頭蓋窩69 例,GTR 60%)では,non-GTR 群に比較してGTR 群のOS・PFS はともに有意に良好で,4 年OS はGTR 群74%,non-GTR 群35%であった。摘出術後に標準的な54.0 Gy と高線量の59.4 Gyとの放射線治療を施行して予後を比較した報告5)(10歳以下,テント上31例,後頭蓋窩122 例,GTR 82%)では,GTR 群のOS,PFS はnon-GTR 群よりも良好であった。この報告では,GTR 群では5 年OS 93.6%,7 年OS 88.0%,non-GTR 群では5 年OS 53.4%,7 年OS 52.4%であり,PFS はGTR 群では5 年で81.5%,7 年で77.3%,non-GTR 群では5 年で41.0%,7 年で34.2%であった。組織学的悪性度と摘出術後の残存腫瘍の有無によって異なる後療法を施行して治療効果を検討した報告6)(3歳以上21歳以下,テント上50 例,後頭蓋窩110 例,GTR 76%)では,GTR 群の方がnon-GTR 群よりも有意にOS が良好で,5 年OS はGTR 群87.8%,non-GTR 群61.2%であった。この報告では,5 年PFS はGTR 群72.1%,non-GTR 群45.3%で,有意差に至らなかった(p=0.058)。GTR 群と non-GTR群との間で OS・PFSに有意差を認めなかった報告は 1 件7)(3 歳以下,テント上76 例,後頭蓋窩13 例,GTR 49%)で,3 歳以下の例を対象に摘出術後に化学療法を施行し,再発を認めた際に放射線治療を行い,治療効果を前方視的に検討している。この報告では,5 年OS・PFS はGTR 群で68.1%・48.9%,non-GTR 群で51.8%・25.8%であった。
2)後方視的研究の報告
腫瘍の摘出術後,年少児に対しては化学療法を施行した後に放射線治療を施行し,治療効果を検討した報告8)(15 歳未満,テント上 18例,後頭蓋窩 65例,GTR 72%)では,GTR 群のOS・PFS がnon-GTR よりも有意に良好で,5 年OS はGTR 群80%,non-GTR 群51%であり,5 年PFS はGTR 群53%,non-GTR 群33%であった。摘出術後に放射線治療や一部の例に化学療法を施行し治療効果を検討した報告9)(0.1~18歳,テント上 24例,後頭蓋窩58 例,GTR 68%)では,OS はnon-GTR 群よりもGTR 群で有意に良好であったが,PFS は両郡間に有意差は認めなかった。摘出術後に異なった方法で放射線治療を施行してその有効性を検討した報告10)(25 歳以下,テント上 147 例,後頭蓋窩 55例,GTR 86%)では,GTR 群のOS はnon-GTR 群よりも有意に良好であった。
以上の結果から,年少児からAYA 世代の年齢の症例を対象とした前方視的研究,あるいは後方視的研究のサブ解析では,GTR 群のOS・PFS がnon-GTR 群よりも有意に良好であるとする報告が多く,これに反する報告は非常に少ない。ただ,摘出術後に後療法が施行されているので,摘出度によってどの程度の予後を改善できるかは不明である。結論として,摘出度と予後との関係をランダム化比較試験で検討した報告はないのでエビデンスレベルが高いとは言えないが,後述のように腫瘍の摘出により重篤な神経症状の悪化が予想される場合を除き,生命予後の改善が期待できるためGTR を推奨する。
3.残存腫瘍に対する再摘出の有効性
初回摘出術後に残存した腫瘍に対する再摘出,いわゆるsecond-look surgery によってGTR が達成できれば予後の改善が期待されるため,初回摘出術後に再摘出,あるいは再々摘出が行われてきた5,11)。これらの報告でのGTR の達成率は81.7%および80.2%であり,前項1)で述べたGTR 率(30~80%台)と比較して高値である。
再摘出による予後への影響を中心に検討した報告は少なく,システマティックレビューでは次の3 つの報告を採用した。
小児テント上下の上衣腫110 例を対象に再摘出の有効性を検討した多施設前方視的研究の報告12)では,初回摘出術後の残存腫瘍に対し化学療法や放射線治療を行い,残存腫瘍の再摘出,あるいは複数回の摘出術によって,GTR 達成率は初回摘出の61.0%から82.7%まで上昇した。この報告では,初回摘出でGTR を達成できた群と複数回の摘出でGTR を達成できた群との間に,PFS や局所非再発率に有意差は認めないことから,再摘出によってGTR が達成できれば初回摘出でGTR となった場合と同等の効果があることが示唆された。この再摘出の適応は外科医の判断に委ねられているが,適応とならないのは,腫瘍が基底核に浸潤している例,脳底動脈を巻き込んでいる例,脳幹部の腹側まで進展している例など,再摘出によって高度の神経障害が予想される場合としている。この手術適応で複数回の摘出を行った29 例中,神経症状の悪化は2 例(6.8%)にみられ,このうち1 例は改善したことから再摘出による神経障害の悪化は許容範囲としている。
小児テント上下の上衣腫160 例を対象とした多施設前方視的研究6)では,初回手術で残存腫瘍を認めた50 例中46 例(92.0%)で,摘出術後の後療法を行う前に残存腫瘍を再度摘出した。少数例で3 回以上の摘出を行っている。その結果,初回摘出でのGTR 達成率68.8%が再摘出によって75.6%と上昇した。再摘出の手術合併症は46 例中5 例(10.9%)に認め,このうち4 例は小脳・下位脳神経の障害で,残り1 例は出血を呈したが神経症状は改善したことから,再摘出に伴う神経症状の悪化は許容範囲としている。
発生部位・組織学的悪性度・摘出度によって異なった後療法を施行し,放射線治療の有効性を前方視的に検討した報告13)(1 歳から 21 歳までのテント上下の上衣腫 356 例,GTR 82.0%)では,亜全摘出(摘出術後の画像所見で0.5 cm より大きな残存腫瘍を認める)に終わったのは64 例(全例の18.0%)であった。亜全摘出例に化学療法を行い,64 例中25例(39.0%)で残存腫瘍に対し再摘出を施行し,後療法として局所放射線治療を行ったところ,5・10 年のPFS はそれぞれ50.5%・45.9%であった。一方,亜全摘出術後に化学療法を行ったが再摘出しなかった例(39 例)に放射線治療を行った群の5・10 年のPFS はそれぞれ28.5%・25.0%であった。これら再摘出した群と行わなかった群でのPFS を比較すると,再摘出した群の方が良好な傾向を認めたが,この差は有意ではなかった(p=0.116)。
以上,初回摘出術後に画像上残存腫瘍を認めた場合,再摘出を行う,あるいは化学療法などを施行した後に再摘出を行うことが,予後を改善するのに有効かどうかに関しては,報告が少なく十分なエビデンスがない。しかし,前述のMassimino らの再摘出の適応12)を参考にし,重篤な障害をきたさずに再摘出を施行してGTR が達成できれば,non-GTR よりも良好なOS やPFS が期待できるため,再摘出を考慮してもよい。
4.腫瘍摘出によるQOL の低下
腫瘍の摘出技術が向上し,摘出に際して神経障害の発生頻度は減少しているものの,脳深部に局在する腫瘍や,大きい腫瘍であれば,摘出に伴う神経機能障害を起こしやすい。発生部位がテント上であれば摘出に伴い腫瘍周囲の脳損傷が発生しやすく,大脳深部に発生すれば腫瘍到達までの大脳の切開などによる損傷も加わる。後頭蓋窩では,大きな腫瘍では摘出時の小脳または脳幹の損傷によって,脳幹の機能障害,錐体路障害や小脳障害による歩行障害や運動障害が発生する。第四脳室から小脳橋角部や脳幹前面に進展した腫瘍では,摘出時の脳神経の障害によって顔面神経麻痺や眼球運動障害が発生し,下位脳神経の障害による構音障害,重篤なものとして嚥下障害による気管切開や胃瘻造設の必要性が指摘されてきた。また,後頭蓋窩腫瘍に特有な無言症(mutism)があり,重篤な場合は回復しにくく,これにより高次脳機能障害が発生して患者のQOL を大きく低下させる。
今回,摘出術による神経障害の悪化をより客感的に評価するため,システマティックレビューでは次の3 つの報告を採用した。
小児の後頭蓋窩上衣腫(45 例)を対象に,摘出術後の神経障害を後方視的に検討した単施設からの報告14)では,20%に声帯機能低下を認め,24%に嚥下障害のために胃瘻を必要とした。複数回の腫瘍摘出の後に局所放射線治療を施行し,神経障害を前方視的に評価した単施設からの報告11)(0.8~22.7歳,後頭蓋窩のみ96例)では,摘出術後に運動失調55%,外転神経麻痺51%,顔面神経麻痺50%,四肢麻痺40%,嚥下障害39%,体幹失調・筋緊張低下24%を認めた。重篤な障害として歩行障害18%,嚥下障害9%があり,嚥下障害が最も改善しにくく,28%で胃瘻,16%で気管切開を必要とした。治療後60 カ月以上生存した48 例中42 例(87.5%)では神経症状の改善を認めたが,四肢麻痺と運動失調は改善が乏しかった。顔面神経麻痺,構音障害,歩行障害は摘出術後36 カ月まで改善し,その後障害は固定化した。複数回の手術摘出によりGTR は80.2%であったが,摘出度と神経障害の関連は示されていない。摘出術後に神経学的異常を認めなかった例(21%)の大半は腫瘍の外側進展が少ない例であったことから,外側進展が手術摘出における神経障害の危険因子であると推測される。また,水頭症やシャント設置も神経症状出現の危険因子であったとしている。
摘出度と高次脳機能との関連性に関しては,摘出術後に放射線治療を施行し5 年後のQOL を評価した単一施設での前方視的研究の報告15)(1~25 歳,テント上 25例,後頭蓋窩98 例,GTR 82%)がある。摘出度については,肉眼的全摘出をGTR,5 mm 以下の残存腫瘍の場合をnear total resection,5 mm を超える残存腫瘍を認める場合をsubtotal resection と定義している。サブ解析として腫瘍の摘出度とIntelligence Quotient(IQ)の有意な関連性は認められなかったが,集団行動が取れない等の適応行動障害は,subtotal resection 群ではGTR 群やnear total resection 群より単変量解析で有意(p=0.046)に強く認められたとしている。この報告では,後頭蓋窩上衣腫の摘出術後無言症の記載はなく,無言症の高次脳機能への影響は検討されていない。しかし,近年は小脳と高次脳機能との関連が推測されているため,重篤な無言症の発生はQOL を低下させることを認識すべきである。
今回のシステマティックレビューでは,腫瘍の摘出度と神経障害の関連性は明らかではないが,後頭蓋窩上衣腫では第四脳室の外側に進展した場合に,手術摘出による神経障害が発生しやすいことが推測できた。初回の手術摘出であっても,残存腫瘍に対する再手術摘出の場合でも,重篤な神経障害が発生すれば十分な回復は期待できないことを認識し,手術摘出に臨むべきであると思われる。
5.分子分類での摘出度による予後への影響
後頭蓋窩上衣腫は,全ゲノム的な発現プロファイルの違いからPFA とPFB に分けられ,PFA はPFB と比較して有意に予後が不良であることが明らかとなってきた16,17)。PFA とPFBのサブグループで,腫瘍摘出度と予後との関係に注目した前方視的研究の報告はない。今回のシステマティックレビューでは,複数の予後因子が評価されている報告を採用し,摘出度と予後との関係を検討した。
PFA を対象にOS に対する摘出度を含めた複数の予後因子を検討した報告は4 件あり,すべて後方視的研究で少数の成人例を含む報告もある。このうち3 件の報告16-18)ではGTR 群はnon-GTR 群よりも有意にOS が良好で,残り1 件の報告19)では有意差は認めなかった。PFS は上記4 件のすべての報告において,GTR 群がnon-GTR 群よりも有意に良好であった。
PFB を対象にOS に対する摘出度を含む複数の予後因子の解析を行った4 件の後方視的研究がある。このうち2 件の報告18,20)でGTR 群がnon-GTR 群より有意にOS が良好であったが,他の2 件の報告16,17)では両群間で有意差を認めなかった。PFS に関して,1 件の報告18)でGTR 群がnon-GTR 群より有意に良好であったが,他の2 件の報告16,17)では両群間に有意差を認めなかった。
以上から,後頭蓋窩上衣腫をPFA およびPFB に分類して摘出度と予後とを検討すると,両群ともにGTR によるOS・PFS はnon-GTR よりも良好な傾向があると推測できる。しかし,この分類に従って腫瘍の摘出度と予後との関係を検討した報告は少なく,明確な結論を出すことはできない。現状では,後頭蓋窩上衣腫の手術摘出時にリアルタイムでPFA やPFB の分子診断はできないため,重篤な神経障害を呈さない限りGTR を提案する。
6.まとめ
多数の前方視的・後方視的研究における予後因子の解析結果から,小児とAYA 世代の頭蓋内上衣腫に対してはGTR を達成できれば,non-GTR に比べてOS・PFS は改善することが示唆される。エビデンスレベルは高くはないが,手術摘出により重篤な神経症状の悪化が予想される場合を除き,GTR を強く推奨する。また,初回摘出術後に残存腫瘍を認めた場合は,手術摘出による神経障害の悪化を十分に考慮した上で,再摘出手術によりGTR を目指すことを提案する。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((Ependymoma[mh:noexp]OR Ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])))AND((Brain Neoplasms[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial *[tiab]OR intracranial*[tiab]OR ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa[tiab])))AND(((“surgery”[sh]OR “surgery”[tiab]OR “surgical procedures, operative”[mh])OR(“surgical”[tiab]AND “procedures”[tiab]AND “operative”[tiab])))))AND(((infant[mh]OR child[mh]OR adolescent[mh]OR young adult[mh]OR adult[mh:noexp])))))AND 1900/1/1:2019/12/31[dp]))AND((English[la]or Japanese[la]))))NOT Case Reports[pt]
以上の検索式より,一次スクリーニングとして179 文献を抽出した。医中誌の検索による8 文献,およびハンドサーチによる20 文献を加え,188 文献について二次スクリーニングを行い,44 文献について構造化抄録を作成した。最終的にCQ1 では20 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
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課題2:放射線治療
- CQ2
- 3 歳以上の症例に放射線治療は有用か?
- 推奨度1C
- 推奨1
摘出術後に腫瘍が残存した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫の症例に対しては,摘出術後に放射線治療を行うことを推奨する。
- 推奨度2C
- 推奨2
肉眼的に全摘出された退形成性上衣腫の症例に対しては,摘出術後に放射線治療を行うことを提案する。
解説
上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかに関しては,現在まで,本来の結論を導くことができるような十分にデザインされた臨床試験は行われていない。また,上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかを検討した報告1-10)はいくつかあるものの,その結果のみで結論を出すことは難しい。現状では,より若年の症例には放射線治療を避ける試みがなされており,通常診療でも年齢によって治療戦略の立て方が異なっていることが多い。本項では3 歳以上の症例に放射線治療が有用かどうかを,今までの報告から検討した。
放射線治療が有効であるとした報告の中で,比較的症例数が多い,前方視的,などのインパクトのあるものが5 編あった。一つ目は,小児上衣腫の手術と照射の役割を検討することを目的に,1973~2005 年のThe Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)のデータベースから抽出された上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫2,408 例を対象に行った研究1)である。最も強い予後因子は全摘出であり,全摘出例への摘出術後放射線治療の有効性は示されなかった。しかし,部分摘出例では摘出術後に放射線治療を追加することで予後が有意に改善し,摘出術後放射線治療の有効性が示された。最も症例数の多いこの報告からは,限定的ではあるが摘出術後の放射線治療が有効であると考えられる。ただし,対象症例は30 歳未満が30%程度であり,本ガイドラインの対象よりも高い年齢層が多く含まれているという点に注意を要する。2 つ目はSEER データベース(1973~2003 年)から抽出された小児上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫635 例を対象とし,予後因子について検討した研究2)である。年齢と腫瘍発生部位が予後因子として報告された。5 年生存率(5 年OS)はテント上59.5%,後頭蓋窩57.1%,脊髄86.7%であり,解析対象に非常に予後良好な55 例(8.7%)の脊髄原発例が含まれているため,小児頭蓋内上衣腫の予後を規定する因子は年齢のみと考えた方がよいかもしれない。一方で,放射線治療は単変量解析では全体のOS の改善に寄与し,多変量解析でも後頭蓋窩上衣腫のOS の改善に寄与する(5 年OS 57.1% vs. 48.2%)ことが示された。特に後頭蓋窩上衣腫に対する放射線治療の有効性が示されたと結論している。3 つ目は,153 例の小児限局性上衣腫への手術+摘出術後照射の有効性を検討した単施設前方視的臨床研究3)である。対象の年齢中央値は2.9(0.9~22.9)歳であった。研究計画されていた放射線治療はClinical Target Volume(CTV)マージン1.0 cm の局所照射で,1.5 歳未満の全摘例には54 Gy/30 回,それ以外の症例には59.4 Gy/33 回の投与線量が設定されていた。131 例で59.4 Gy,22 例で54.0 Gy の照射が行われた。全体での7 年locoregional control rate(LCR),EFS,OS は87.3%,69.1%,81.0%で,局所再発,遠隔転移の累積発生率は16.3%,11.5%であった。何らかの理由で摘出術後早期に放射線治療をしなかった46 例を除いた107 例の結果は,7 年LCR,EFS,OS は88.7%,76.9%,85.0%で,局所再発,遠隔転移の累積発生率は12.6%,8.6%であった。過去の報告と比較して試験全体の治療成績が比較的良好であったこと,有害事象として脳幹壊死は1.6%と多くなかったことなどから,可及的摘出術後の局所への高線量の放射線治療が重要であると結論している。しかし,本研究のみから,摘出術後に1.5 歳未満児に54 Gy/30 回,それ以外に59.4 Gy/33 回を標準的投与線量としてよいかについては,今後十分な検討が必要である。4 つ目は,フランスでの24 施設の後方視的症例集積研究4)であり,中央値46(18~82)歳の成人上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫の152 例が対象であった。予後因子として摘出度,grade(Marseille),年齢,KPS が示された。放射線治療に関する結果では,Marseille の低Grade(93.8%がWHO grade Ⅱ)の部分摘出の場合にはPFS で有意な有効性があり,OS に関しても有効な傾向を示したが,Marseille の高Grade(90%がWHO grade Ⅲ)の全摘出の場合にはPFS には有効な傾向を示したが,OS に差はなかった。この報告は,本ガイドラインが対象とする年齢層よりも高い年齢層が多く含まれていること,WHO grade Ⅲの症例が28.3%と少ないことなどの注意点があるものの,その結果に関しては,症例限定的ではあるが放射線治療の有効性が示されている。5 番目の報告5)は顕微鏡下手術における平均年齢23(1~75)歳の頭蓋内上衣腫の予後因子を単一施設で後方視的に検討したもので,WHO grade は無増悪生存期間・全生存期間ともに明らかな予後因子であることが認められた。摘出術後の放射線治療に関しては上衣腫全体での放射線治療の有効性は示されなかったものの,退形成性上衣腫で全摘出された症例で最も有効性が高いことが示された。つまり,摘出術後の放射線治療の有効性は上衣腫全体では認めないが,退形成性上衣腫では全摘出であっても追加した方がよいという結果であり,放射線治療の有効性が症例限定的に示された。このように放射線治療は,部分摘出術後・退形成性上衣腫・小児後頭蓋窩腫瘍で有効である可能性が示唆されるが,報告によって有効性が示された群が相反する結果も認められた。
一方で,放射線治療の有効性がないとする少数の報告も認められた。しかし,放射線治療が有効であるとする研究と比較すると,対象症例数が少ない研究が多い。その中でも解析症例数の多い研究に,米国のNational Cancer Database(NCDB)から抽出した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫1,318 例[年齢中央値43(18~54)歳]を対象とした研究6)がある。WHO grade Ⅱ/Ⅲは1,055/263 例,テント上/下は848/470 例で,485 例に亜全摘出/肉眼的全摘出,662 例に摘出術後放射線治療,75 例に化学療法が実施された。その結果,予後因子として年齢,WHO grade,腫瘍サイズ,性別,腫瘍部位が示されたが,放射線治療はWHO grade や摘出度,腫瘍部位を考慮しても生存への寄与は認められなかった。この研究では本ガイドラインで対象としている年齢層より高年齢の症例が多いことに注意が必要であるが,症例限定ではあるが摘出術後の放射線治療の有効性が示されていない報告である。5 つ目の報告は,SEER データベースから全摘出術後のテント上上衣腫を抽出した研究7)である。対象は92 例で,年齢中央値は17.5(1~83)歳であった。結果は,5 年OS 83.2%,10 年OS 71.4%,他因死を除く補正生存率(修正生存率,cause specific survival:CSS)5 年84.1%,10 年CSS 71.4%であった。放射線治療は半数の症例に実施されたが,放射線治療の有無でCSS,OS ともに差を認めなかった。本ガイドラインの対象年齢層より高い年齢が含まれていること,対象がテント上の全摘出された上衣腫に限定されていることに注意が必要である。しかし,本報告も症例限定ではあるが摘出術後の放射線治療の有効性を認めなかった研究の一つである。
これらの結果から,大部分が後方視的検討ではあるものの,残存腫瘍を認める上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫に対する摘出術後放射線治療の有効性は,多くの検討で肯定的な結果であった。摘出術後に腫瘍が残存した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫には放射線治療を追加することで予後が改善すると考えられる。また,肉眼的全摘出された退形成性上衣腫に関しては,摘出術後残存を認める腫瘍ほど肯定的な報告は多くないが,摘出術後に放射線治療を施行した方がOS あるいはPFS を改善するとした報告が散見される。よって退形成性上衣腫の場合には,全摘術後でも放射線治療を行うことを検討すべきである。一方,肉眼的全摘出がなされた上衣腫(WHO grade Ⅱ)に関しては,前述したとおりに相反する報告がそれぞれに散見されることから,画一的に摘出術後の放射線治療の実施の是非を決めることはできず,推奨度を決めるのは難しい。摘出腔周囲の再発時に手術が可能かどうか・年齢・全身状態・腫瘍部位・腫瘍サイズ,分子生物学的情報(現段階ではまだ一般的ではないが組織学的悪性度以外の情報)等を考慮し,症例に応じて判断するのも一法であろう。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((((outcome*[tiab])OR(prognos*[tiab]))OR(impair*[tiab]))OR(late effect*[tiab]))OR(cognitive[tiab]))OR(development*[tiab]))OR(disorder*[tiab]))OR(risk factor*[tiab]))OR(side effect*[tiab]))OR(adverse effect*[tiab]))OR(toxi*[tiab]))OR(damage[tiab]))OR(sequela*[tiab]))AND((((“Ependymoma”[Mesh:NoExp]OR ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])AND(“Brain Neoplasms”[Mesh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR Intracranial*[tiab]OR Ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa*[tiab]))AND(“Radiotherapy”[Mesh]OR “radiotherapy”[Subheading]OR Radiotherapy[tiab]OR Irradiation[tiab]OR reIrradiation[tiab]OR “Proton therapy”[tiab]OR “radiation therapy”[tiab]))AND(1900/1/1:2019/12/31[dp])))NOT(Case Reports[pt])
以上の検索式より,一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ2 では10 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
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- CQ3
- 3 歳未満の症例に放射線治療は有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
3 歳未満の症例に対しては,放射線治療を回避するか,できるだけ長期の開始遅延を目指すことを提案する。
解説
上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかに関しては,現在までこれに答えることができる十分にデザインされた臨床試験は行われていない。特に現状では,より低年齢の症例に対して放射線治療を避ける傾向があり,通常診療でも年齢により異なる方針で治療している施設が多い。本項では3 歳未満の症例に放射線治療が有用かどうかを,今までの報告から検討した。
予後不良と考えられている3 歳未満の症例に放射線治療を行うことで,治療成績が向上するとした前方視研究のサブ解析や比較的症例数の多い後方視的研究などの代表的な報告を提示する。1990~2005 年までのpopulation-based study がカナダから報告1)されている。診断時3 歳未満の悪性脳腫瘍579 例中の上衣腫75 例(13%)が対象であった。後頭蓋窩局在が80%,WHO grade Ⅱが67%,診断時に転移を認めた症例が29%であった。治療は,手術単独23%,摘出術後手術+化学療法37%,手術+放射線治療19%,手術+化学放射線療法21%であった。各治療群の5 年EFS はそれぞれ,22.0%,11.5%,46.2%,64.8%であり,摘出術後に放射線治療を追加された症例群でEFS が長く,化学放射線療法を受けた症例群で最も良好であった。しかし,より年齢の低い症例には摘出術後に化学療法だけが行われていることが多く,より年齢の高い症例には放射線治療を含む治療が行われていたことが多かったことに注意が必要である。この試験は比較試験ではなく,治療ごとの症例背景も異なることから,3 歳未満の症例に摘出術後放射線治療に意義があると結論づけるのは難しい。
SEER のデータベースからの検討結果2)も報告されている。3 歳未満の症例の多くが摘出術後照射を受けておらず,摘出術後照射なしの3歳未満の症例は比較的予後不良であった。一方で,摘出術後照射を受けた症例は他の年齢層の症例と同様の生存率であったことから,3 歳未満の症例にも放射線治療を追加することで腫瘍制御が期待できる可能性が示唆されたが,結論を得るためには今後の臨床試験が望まれる,と結んでいる。
HIT-SKK 87 試験では,登録された3 歳未満の症例についてサブ解析による結果3)が示されている。生存に関する予後良好因子として,摘出術後照射が示された。
Merchant らは2 つの報告4,5)を行っている。双方とも放射線治療の方針は,1.5 歳未満の全摘出例には54 Gy/30 回,それ以外の症例には59.4 Gy/33 回の投与線量が設定されていた。2019 年の頭蓋内限局性上衣腫153 例の単施設前方視的試験の報告5)では,ほとんどの症例に摘出術後に放射線治療が実施されていた。諸家の報告と比較して,3 歳未満の症例の治療成績が比較的良好であったこと,有害事象も脳幹壊死は1.6%と多くなかったことから,3 歳未満の症例についても摘出術後の放射線治療を奨めている。ACNS0121 試験は,Children Oncology Group(COG)による多施設前方視的試験であり,全摘出できたテント上のWHO grade Ⅱの腫瘍は経過観察,部分切除例にはsecond look surgery での全摘出を期待して化学療法が設定された。摘出術後に放射線治療を受けた3 歳未満とそれ以上の年齢の症例のEFS が類似したことから,3 歳未満の症例にも摘出術後に放射線治療を行うことを推奨している。
4 つの独立した後方視研究をまとめた820 例を対象とした報告6)がある。小児の後頭蓋上衣腫について分子生物学的サブタイプ(PFA・PFB)を含めて予後因子解析が行われた。OS に関連した最も強い予後因子はPFA・PFB の分子生物学的サブタイプであり,他に摘出率や摘出術後放射線治療の有無が挙げられた。4 歳以下の後頭蓋例ではPFA が多くを占めていた。PFA で亜全摘の症例は予後不良であり,PFA が多くを占める4 歳以下の症例には放射線治療の追加を推奨している。一方で,若年時に放射線治療を施行した症例には長期的に重篤な影響が残るため,摘出術後早期の放射線治療回避の臨床試験を検討するために,このサブタイプでの治療選択や層別化が重要であるとしている。
このように腫瘍制御のためには,放射線治療は3 歳未満の症例に対する有効性が示唆されているが,明確に摘出術後に放射線治療を施行すべきといえる結果はない。一方で,乳幼児への放射線治療による晩期脳障害は,低年齢になるほど脳の脆弱性が高いため増強してしまう。そのため,乳幼児への放射線治療を遅延あるいは回避させるための臨床試験や臨床研究は少なくない1-10)。
POG が行った介入試験では,3 歳未満の悪性脳腫瘍に対して摘出術後化学療法を行うことで放射線治療の遅延あるいは回避が可能かを検討した7)。1986~1990 年に登録された乳幼児の悪性脳腫瘍症例に放射線治療前の摘出術後化学療法を行った試験で,36 カ月未満の悪性脳腫瘍198 例が対象であった。摘出術後化学療法はCPA+VCR レジメンとCDDP+VP-16 レジメンを繰り返し行い,24 カ月未満の132 例には2 年間の,24~36 カ月の66 例には1 年間の化学療法を行うか,その期間内に病変が進行すれば放射線治療が行われた。全腫瘍の奏効率(CR+PR)は39%で,髄芽腫,悪性神経膠腫,上衣腫の順に高く,脳幹神経膠腫,胎児腫瘍では低かった。PFS は,24~36 カ月児は1 年41%,24 カ月未満児は2 年39%であり,化学療法によるCR 例ではPFS がGTR 例に近い値となった。中枢神経障害はベースラインと1 年後で明らかな低下は示されなかった。化学療法後の放射線治療遅延による認知機能低下も有意に上昇しないことから,肉眼的全摘出例や化学療法でCR を得た症例には放射線治療の遅延が可能であり,症例によっては放射線治療回避も可能と結論している。さらに,同じPOG による化学療法の強化で3 歳未満の小児悪性脳腫瘍に放射線治療の遅延が可能なレジメンがあるか検討した介入試験のサブ解析の報告8)がある。1992 年に開始され338 例が登録された。上衣腫に関しては強化化学療法でもOS の延長は認めなかったが,EFS は改善しており,化学療法の強化により放射線治療を遅延させられる可能性を示唆している。さらに,United Kingdom Children’s Cancer Study Group/International Society of Paediatric Oncology(UKCCSG/SIOP)による3 歳未満の悪性脳腫瘍の患児を対象に,化学療法の強度を高めて放射線治療を回避・遅延させることを目的とした臨床試験(CNS9204 試験)があり,その中のサブ解析の一つに頭蓋内上衣腫を対象とした報告9)がある。結果は,1992~2003 年に89 例が登録され,80 例の限局性頭蓋内上衣腫例のうち化学療法中の増悪で放射線治療が施行されたのは34 例であった。80 例のOS とEFS は3 年で79.3%と47.6%,5 年で63.4%と41.8%であり,比較的多くの症例で放射線療法を回避あるいは遅延させつつ,生存率を損なうことがなかったとしている。まとめとして,3 歳未満の上衣腫では化学療法による放射線治療の回避も重要な役割を果たす可能性があるとしている。
Head Start Ⅲは,放射線治療の遅延や回避の可能性を探究した前方視的臨床試験である10)。強力な化学療法で放射線治療を遅延させることが可能か検討した多施設臨床試験であり,2004~2009 年に登録された10 歳未満の頭蓋内上衣腫を対象とした。この報告の結論は,テント上上衣腫では放射線治療を遅延あるいは回避できる可能性があるものの,後頭蓋窩上衣腫では難しいのではないか,というものであった。
このように,放射線治療により腫瘍制御の可能性は高まるが,放射線治療による脳障害を含む晩期合併症が増加してしまうこともあり,それぞれの研究で相反する結果が生じている可能性がある。放射線治療の有効性を示すことができる十分に良くデザインされた臨床試験は今までないことから,予後不良である3 歳未満の上衣腫に対して摘出術後早期に放射線治療をすべきか,の答えを出すのは現状では難しい。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,CQ2 に記載した検索式による検索を行った(参照)。
一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ3 では10 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Purdy E, Johnston DL, Bartels U, et al. Ependymoma in children under the age of 3 years:a report from the Canadian Pediatric Brain Tumour Consortium. J Neurooncol. 2014;117(2):359-64.[PMID:24532240]
- 2)
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- 3)
- Timmermann B, Kortmann RD, Kühl J, et al. Role of radiotherapy in anaplastic ependymoma in children under age of 3 years:results of the prospective German brain tumor trials HIT-SKK 87 and 92. Radiother Oncol. 2005;77(3):278-85.[PMID:16300848]
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- 5)
- Merchant TE, Bendel AE, Sabin ND, et al. Conformal Radiation Therapy for Pediatric Ependymoma, Chemotherapy for Incompletely Resected Ependymoma, and Observation for Completely Resected, Supratentorial Ependymoma. J Clin Oncol. 2019;37(12):974-83.[PMID:30811284]
- 6)
- Ramaswamy V, Hielscher T, Mack SC, et al. Therapeutic Impact of Cytoreductive Surgery and Irradiation of Posterior Fossa Ependymoma in the Molecular Era:A Retrospective Multicohort Analysis. J Clin Oncol. 2016;34(21):2468-77.[PMID:27269943]
- 7)
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- 8)
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- 9)
- Grundy RG, Wilne SA, Weston CL, et al;Children’s Cancer and Leukaemia Group(formerly UKCCSG)Brain Tumour Committee. Primary postoperative chemotherapy without radiotherapy for intracranial ependymoma in children:the UKCCSG/SIOP prospective study. Lancet Oncol. 2007;8(8):696-705.[PMID:17644039]
- 10)
- Venkatramani R, Ji L, Lasky J, et al. Outcome of infants and young children with newly diagnosed ependymoma treated on the “Head Start” Ⅲ prospective clinical trial. J Neurooncol. 2013;113(2):285-91.[PMID:23508296]
- CQ4
- 全脳全脊髄照射は有用か?
- 推奨度1C
- 推奨1
脊髄播種のない症例に対しては,全脳全脊髄照射を施行しないことを推奨する。
- 推奨度1D
- 推奨2
脊髄播種を有する症例に対しては,全脳全脊髄照射を施行することを推奨する。
解説
頭蓋内上衣腫は髄液播種をきたしやすい腫瘍であり,かつては全脳全脊髄照射を用いられることが多かった。その後は全脳全脊髄照射,全脳照射,後頭蓋窩照射,局所照射,定位放射線照射など照射範囲に関して多彩な方法が報告されてきた1-17)。より望ましい照射範囲を決定するための十分にデザインされたランダム化比較試験や前方視的研究は実施されておらず,現段階では確定的な結論を導くことはできない。
比較的症例数の多い前・後方視的研究で,頭蓋内限局性上衣腫に関する放射線治療の照射範囲について検討した18 の報告1-17)があった。その中で,頭蓋内限局性上衣腫には予防的な全脳全脊髄照射は必要ないであろうと結論した報告1-6,8,9,11-16)が14 と多くを占めていた。
予防的な全脳全脊髄照射は不要と結論した報告の中で,ランダム化比較試験のサブ解析や症例数の多い前・後方視的研究の結果を示す。1974~2006 年にハイデルベルグ大学にて限局性頭蓋内上衣腫57 例に対して摘出術後放射線治療をした後方視的研究4)が報告されている。WHO grade Ⅰ/Ⅱが27 例,grade Ⅲが30 例であった。4 例の粘液乳頭状上衣腫が含まれている。41 例に後頭蓋窩照射,16 例に全脳全脊髄照射が併用され,最終的に腫瘍床に54 Gy/30 回を目指して局所照射が追加された。3 年,5 年全生存率は各々83%,71%で,後頭蓋窩照射併用群と全脳全脊髄照射併用群の間で有意差を認めなかった。5 年局所非再発率と5 年無遠隔転移生存率は後頭蓋窩照射併用群で60%,83%で,全脳全脊髄照射併用群で67%,93%であり,いずれも有意差を認めなかった。全生存に影響する因子として,腫瘍床への投与線量45 Gy 以上が示され,照射範囲よりも局所線量の増加が重要であると結論された。1964~2006 年にフロリダ大学にて限局性頭蓋内上衣腫(44 例)に対して放射線治療を施行した後方視的研究1)の報告もある。上衣下腫,上衣芽細胞腫および再照射例は除外されている。29 例に局所照射が施行され,11 例に全脳全脊髄照射が併用されていた。いずれの方法においても再発形式は95%が局所再発であり,残りの5%は局所再発なしの脊髄播種であった。全脳全脊髄照射を受けた症例は1 例も脊髄への再発を認めなかったが,全生存と無病生存の双方ともに予後因子として放射線治療法は示されず,予防的な全脳全脊髄照射の有用性は認められなかった。まとめると,予防的全脳全脊髄照射の併用により無脊髄播種生存率や脊髄播種出現率は改善されるが,局所照射のみの再発形式も摘出腔周囲の局所かそれに加えて脊髄播種を伴ったものが多く,脊髄播種のみの症例はわずかであった。また他の報告も,照射範囲は全生存期間・無病生存期間の予後因子とはならず1-6,8,9,11,13-16),局所への投与線量が全生存期間・無病生存期間の予後因子である8,12-15)とするものが多い。これらの結果から,頭蓋内限局性上衣腫には,全脳全脊髄照射や全脳照射などの広範囲の照射を行うよりも,局所照射を用いて腫瘍への投与線量増加を目指すのが良いと考えられる。また,これらの報告の中で,脊髄播種を有する頭蓋内上衣腫に関しては治療的全脳全脊髄照射を用いているが,成績は十分とは言えず,より良い治療の開発が待たれるとする報告が多く認められた。
なお,定位放射線治療による報告もみられたが,1 つの報告5)のみで症例数も12 例と少ないため参考程度と考えるべきである。著者らは照射野外の再発率や全生存率が過去の全脳全脊髄照射や後頭蓋窩照射を併用していた時期の結果と大きな違いがないことから,定位放射線治療は許容される治療となるかもしれない,と結んでいる。
以上の結果から,腫瘍局在やWHO grade に関係なく,限局性頭蓋内上衣腫に対しては全脳全脊髄照射や全脳照射などの広い照射範囲は必要とはせず,局所照射が推奨される。一方で,脊髄播種を有する頭蓋内上衣腫には,他の有効な治療がないとの理由もあるが,全脳全脊髄照射が推奨される。なお,3 歳児未満の症例には,別項に記載している通り,症例に応じて判断することになるが,再発時に速やかに放射線治療を実施できる体制を取った上で,化学療法を先行させて放射線治療を遅延させる方法を検討するなど,乳幼児への放射線障害を低減する方法を常に念頭に置くことが重要である。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,CQ2 に記載した検索式による検索を行った(参照)。
一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ4 では17文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Swanson EL, Amdur RJ, Morris CG, et al. Intracranial ependymomas treated with radiotherapy:long-term results from a single institution. J Neurooncol. 2011;102(3):451-7.[PMID:20706771]
- 2)
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- Merchant TE, Li C, Xiong X, et al. Conformal radiotherapy after surgery for paediatric ependymoma:a prospective study. Lancet Oncol. 2009;10(3):258-66.[PMID:19274783]
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課題3:化学療法
- CQ5
- 化学療法は推奨されるか?
- CQ5-1
- 3 歳以上症例に対して,化学療法は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨1
摘出術後に化学療法を行わないことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
二期的摘出を前提とした化学療法を行うことを提案する。
- CQ5-2
- 3 歳未満症例に対して,化学療法は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
乳幼児に対する放射線治療による晩期合併症を軽減するために,放射線治療時期を遅延させる目的で化学療法を先行することを提案する。
解説
1.診断時3 歳以上症例
化学療法の生存への寄与について直接比較した報告がなく,化学療法の効果に関する情報は非常に限定的である1-5)。一定数以上(20 例以上)の症例を前方視的に収集した報告は4 編しかなく1-4),うち3 編は化学療法を含む治療全体での評価であり,これまでの報告と比べて生存率の向上は得られなかったとしている1-3)。残りの1 編は摘出術後に腫瘍が残存した例で腫瘍の縮小を期待して化学療法を行い,その後,二期的手術で全摘を目指し,その後局所放射線治療を行うという試験である4)。本試験では,摘出術後腫瘍残存例でも化学療法で腫瘍縮小が得られ,二期的手術で全摘することで,初回手術で全摘された症例に匹敵する成績が得られたと報告されている。腫瘍縮小効果については,放射線治療前に化学療法が行われ,奏効が記載されているのは上記の文献のうち2 編の試験であるが,完全および部分奏効が50~60%の症例で認められている3,4)。このように,化学療法で腫瘍が縮小する一群が存在する。効果のあった化学療法はシクロホスファミド(CPA)またはイホスファミド(IFM),エトポシド(VP-16),ビンクリスチン(VCR)併用レジメンまたはこれらにシスプラチン(CDDP)を追加したものである。しかし,腫瘍に対する縮小効果は二期的手術の介入がなければ最終的な生存期間の延長に繋がっておらず,化学療法の有無を直接比較した臨床成績が報告されていない現時点では,化学療法が生存期間延長に直接寄与するかについては明確ではない。
2.診断時3 歳未満症例
乳幼児期の放射線治療への脳の脆弱性を考慮して,放射線治療を回避または遅延させる目的で摘出術後化学療法の有用性についての検討が行われてきた6-13)。しかし,3 歳以上を対象とした上述の試験同様,これまで直接比較する試験が行われていないため,その有用性については明確とは言い難く,これまでのところ,化学療法の実施によって放射線治療を不要とする,または,その時期を3 歳以降まで遅らせることができるかについては,相反する報告がみられる。これには化学療法レジメンの違いなどが影響している可能性がある。化学療法への奏効について記載のある4 編のうち,3 編では30%程度の奏効が報告されており6-8),その中のひとつではテント上発症例の方が奏効した割合が高いと述べている6)。その他の報告のうち,UKCCSG(英国小児がんグループ)/SIOP(欧州小児がんグループ)で行われた試験では施行された化学療法の強度が強い方が予後良好であったとしているほか9),POG(米国小児がんグループ)の強度の異なる2 種類の化学療法レジメンの比較試験では,強度の高いレジメンによる生存期間延長への寄与はなかったものの,2 年無イベント生存率は有意に良好であった10)。なお,これらの試験での放射線治療の適応は,3 歳到達時,化学療法終了時の腫瘍残存例,再発時などさまざまであるが,摘出術後,化学療法を先行させ,一定期間は放射線治療を行わない点は共通している。一方,化学療法の副作用としてPOG の試験では3%程度の化学療法による死亡例が発生し,またUKCCSG/SIOP のレジメンでも死亡例はないものの全例でCTCAE グレード4 の血液毒性が観察されている。
このように,一定以上の強度を有する化学療法には上衣腫に対し抗腫瘍効果があると考えられる。しかし,3 歳以上での報告同様,生存期間延長への寄与は明確ではなく,現時点では,一定期間放射線治療の開始を遅らせるあるいは再発の時期を遅らせる可能性が示唆されるに止まる。したがって,晩期放射線合併症の観点から,化学療法の毒性を理解した上で,放射線治療を摘出術後直ちには行わない場合の選択肢とはなり得る。
3.根拠
1)化学療法の有無による違いの検討
AIEOP(イタリア小児血液がんグループ)のコホート研究では,多分割放射線治療に加え,摘出術後腫瘍残存例(17 例)にのみ,摘出術後化学療法(VCR,CPA,VP-16)を行ったが,化学療法を行わなかった全摘例(46 例)と比べ,無増悪生存率,全生存率とも有意に不良であり,化学療法は予後不良である腫瘍残存例の治療成績を向上させることはできなかった。化学療法関連死亡はなかった3)。また,単一施設での後方視的調査でも摘出術後化学療法[CDDP,VCR,VP-16,CPA,カルボプラチン(CBDCA)]を行った群(17 例)と,化学療法なし群(21 例)では,化学療法群で無増悪生存率が低い傾向が認められた5)。
一方,3 歳以上を対象として腫瘍縮小を得た後に二期的手術で全摘を目指す目的で,摘出術後残存腫瘍のある例にのみ放射線治療前化学療法(VCR,VP-16,CDDP,CPA)を実施した米国小児がんグループ(COG)のコホート研究がある4)。摘出術後腫瘍残存化学療法実施41 例と,全摘出43 例(補助療法は放射線治療のみ)の5 年無増悪生存率,全生存率ともそれぞれ約50%と70%と,一般的には腫瘍残存例の方が予後不良にもかかわらず差がなかった。しかし,化学療法の恩恵を受けたのは,化学療法で腫瘍縮小が得られ二期的手術で90%以上の腫瘍摘出が可能であった例に限られた。
このように,化学療法が直接生存に寄与していることを示す情報はなく,化学療法の役割は,残存腫瘍の全摘を可能とするために,残存腫瘍を縮小させることに留まり,あくまで二期的摘出を前提とした場合のみに考慮してよい。なお,化学療法奏効率は50%程度であり,COG のコホートでは化学療法関連死は2.4%であった4)。
2)化学療法の内容・投与法についての検討
これまで化学療法についてのランダム化比較試験は3 編あるが,化学療法の有無ではなくレジメンの比較を目的とするものである。うち1 編は放射線治療を併用した上での化学療法レジメンの比較で,VCR,CCNU,プレドニゾロン群(14 例)と,8-drug in-1 レジメン(18 例)を比較した。5 年無増悪生存率,全生存率ともに差はなかった。化学療法死が1 例に認められている1)。
他の2 編は3 歳未満の小児悪性脳腫瘍を対象とした非照射での化学療法レジメンの比較であり,その中に含まれる上衣腫のサブ解析である。CCG では摘出術後寛解導入化学療法としての,レジメンA(VCR,CDDP,CPA,VP-16)(35 例)とレジメンB(VCR,CBDCA,IFM,VP-16)(39 例)に74 例を割り付けたが,奏効率,無増悪生存率に差はなかった7)。また,POG の試験では化学療法(CPA,VCR,CDDP,VP-16)の用量の違いの比較であったが,1.8 倍へ投与量を増やすことで無増悪生存率は改善したが(p=0.0062),全生存率は改善しなかった。WHO grade Ⅲのみを対象とすると,1.8 倍投与+放射線治療群で全生存率が良く,標準投与量(放射線の有無にかかわらず)や放射線なし(化学療法の量にかかわらず)より優れていた10)。
ランダム化比較試験ではないが,3 歳未満上衣腫に対する非照射での化学療法を実施したUKCCSG/SIOP の試験がある。化学療法は約1 年間繰り返すが,実際に投与された抗がん剤の用量と予後との関係を後方視的に検討したところ,用量が多いほど治療成績は良好であった9)。
以上のように,化学療法の有用性が明らかではない状況での化学療法レジメンの検討であるが,4 編中,3 歳未満を対象とした2 編では予後と抗がん剤の用量とに弱いながらも関係がみられた。これらの試験では,化学療法関連死亡が0~10%で観察された。
3)自家造血幹細胞移植併用大量化学療法に関する報告
WHO grade Ⅲのみ,テント上下発症例を対象とした研究がある。摘出術後29 例に寛解導入療法(CDDP,VCR,VP-16,CPA,メトトレキサート:MTX),地固め療法(CBDCA,ThioTEPA,VP-16)を施行,放射線は3 歳以上の後頭蓋例のすべてとテント上の残存例,3 歳未満(35 カ月以下)の残存例に併用した。5 年無増悪生存率が12%,5 年全生存率が38%であり,過去の報告と比べ明らかな予後改善・延命効果はなく,逆に化学療法関連死が10.3%で認められた8)。
4)化学療法と放射線治療の順に関する報告
3 歳以上のWHO grade Ⅲ,テント上下例を対象とした報告がある。1990 年まではIFM,VP-16,MTX,CDDP,シタラビン,1991 年以降はCDDP,CCNU,VCR を使用し,放射線前化学療法2 コース先行の40 例と放射線後化学療法15 例を検討した。3 年無増悪生存率はともに60%台と差はなかった2)。
5)テント上下で化学療法の有効性の違いを記述した報告
WHO grade ⅡとⅢを対象としたコホート研究がある。摘出術後残存腫瘍19 例に対しCDDP,VP-16,CPA,MTX,テモゾロミド(TMZ),CBDCA を自家造血細胞移植併用で使用した。テント上では全8 例で完全奏効が得られ,再発は1 例で3 年全生存率は100%であったが,後頭蓋窩では完全奏効が11 例中4 例,再発が8 例で3 年全生存率は73%と低かった。以上より,後頭蓋窩では放射線治療が必要であると結論している。対象者に化学療法死はなく,一過性の副作用のみを(発生率記載なし)認めた6)。
6)乳幼児例での化学療法による放射線治療実施時期遅延に関する報告
乳幼児例(3~4 歳以下)で脳の脆弱性による放射線晩期合併症について,化学療法を先行させることで,摘出術後放射線治療を遅延または回避できないかを検証した試験が複数存在する。
その中で,最も症例数の多いものとして,3 歳以下(47 カ月以下)のWHO grade ⅡとⅢ,テント上下の89 例を対象とし,摘出術後VP-16,CBDCA,MTX,CPA,CDDP を含む化学療法を約1 年間実施,進行時のみに放射線治療を行った試験(UKCCSG/SIOP)では,転移のない80 例の5 年間累積非照射率42%,5 年無イベント生存率と全生存率はそれぞれ41.8%と63.4%,放射線治療実施年齢中央値3.6 歳であった。また,全摘例とそれ以外の例とで生存率の差はなかった。以上より,化学療法により照射時期の遅延は可能と結論している。化学療法関連死亡は観察されなかった9)。
この他にも小規模ながら主なものとして8 件の報告がある。多くは放射線治療は化学療法終了時の腫瘍残存例または進行時としており,3~4 年無イベント生存率0~30%,全生存率50%前後である6-8,10-13)。これらの試験に含まれる予後良好であるテント上発症例,全摘例,WHO grade Ⅱ例の割合には大きな差はないが,用いられている化学療法はさまざまである。前述のPOG,UKCCSG/SIOP の試験では化学療法の強度が成績に影響することを示唆している9-11)。
- 注意:
- 我が国では上衣腫に適応のある薬剤はないが,ビンクリスチン,シスプラチン,エトポシド,チオテパなどは適応症として小児悪性固形腫瘍がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((Ependymoma[mh:noexp]OR Ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])AND(Brain Neoplasms[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR intracranial*[tiab]OR ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa[tiab]))AND(“drug therapy”[sh]OR “Antineoplastic Agents/therapeutic use”[mh]OR “Antineoplastic Agents”[PA]))AND(“Adolescent”[mh]OR “Adult”[mh:NoExp]OR “Young Adult”[mh]OR “Child”[mh]OR “Infant”[mh]))AND((“2017/01/01”[Date-Publication]:“2019/12/31”[Date-Publication])))AND((English[Language])OR(Japanese[Language])))NOT(Case Reports[Publication Type])
以上の検索式より,一次スクリーニングとして293 文献を抽出し,24 文献の二次スクリーニングを行った後,13 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ5 では13 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Robertson PL, Zeltzer PM, Boyett JM, et al. Survival and prognostic factors following radiation therapy and chemotherapy for ependymomas in children:a report of the Children’s Cancer Group. J Neuro Surg. 1998;88(4):695-703.[PMID:9525716]
- 2)
- Timmermann B, Kortmann RD, Kühl J, et al. Combined postoperative irradiation and chemotherapy for anaplastic ependymomas in childhood:results of the German prospective trials HIT 88/89 and HIT 91. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;46(2):287-95.[PMID:10661334]
- 3)
- Massimino M, Gandola L, Giangaspero F, S et al;AIEOP Pediatric Neuro-Oncology Group. Hyperfractionated radiotherapy and chemotherapy for childhood ependymoma:final results of the first prospective AIEOP(Associazione Italiana di Ematologia-Oncologia Pediatrica)study. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2004;58(5):1336-45.[PMID:15050308]
- 4)
- Garvin JH Jr, Selch MT, Holmes E, et al;Children’s Oncology Group. Phase Ⅱ study of pre-irradiation chemotherapy for childhood intracranial ependymoma. Children’s Cancer Group protocol 9942:a report from the Children’s Oncology Group. Pediatr Blood Cancer. 2012;59(7):1183-9.[PMID: 22949057]
- 5)
- Pejavar S, Polley MY, Rosenberg-Wohl S, et al. Pediatric intracranial ependymoma:the roles of surgery, radiation and chemotherapy. J Neurooncol. 2012;106(2):367-75.[PMID:21826561]
- 6)
- Venkatramani R, Ji L, Lasky J, et al. Outcome of infants and young children with newly diagnosed ependymoma treated on the “Head Start” Ⅲ prospective clinical trial. J Neurooncol. 2013;113(2):285-91.[PMID:23508296]
- 7)
- Geyer JR, Sposto R, Jennings M, et al.;Children’s Cancer Group. Multiagent chemotherapy and deferred radiotherapy in infants with malignant brain tumors:a report from the Children’s Cancer Group. J Clin Oncol. 2005;23(30):7621-31.[PMID:16234523]
- 8)
- Zacharoulis S, Levy A, Chi SN, et al. Outcome for young children newly diagnosed with ependymoma, treated with intensive induction chemotherapy followed by myeloablative chemotherapy and autologous stem cell rescue. Pediatr Blood Cancer. 2007;49(1):34-40.[PMID:16874765]
- 9)
- Grundy RG, Wilne SA, Weston CL, et al;Children’s Cancer and Leukaemia Group(formerly UKCCSG)Brain Tumour Committee. Primary postoperative chemotherapy without radiotherapy for intracranial ependymoma in children:the UKCCSG/SIOP prospective study. Lancet Oncol. 2007;8(8):696-705.[PMID:17644039]
- 10)
- Strother DR, Lafay-Cousin L, Boyett JM, et al. Benefit from prolonged dose-intensive chemotherapy for infants with malignant brain tumors is restricted to patients with ependymoma:a report of the Pediatric Oncology Group randomized controlled trial 9233/34. Neuro Oncol. 2014;16(3):457-65.[PMID:24335695]
- 11)
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- 12)
- Timmermann B, Kortmann RD, Kühl J, et al. Role of radiotherapy in anaplastic ependymoma in children under age of 3 years:results of the prospective German brain tumor trials HIT-SKK 87 and 92. Radiother Oncol. 2005;77(3):278-85.[PMID:16300848]
- 13)
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課題4:再発時の治療
- CQ6
- 再発時の適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨1
再手術:再発時に再摘出術を行うことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
放射線治療:再発時に再照射を行うことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨3
化学療法:再発時に化学療法は行わないことを提案する。
解説
25 歳以下の再発上衣腫117 例の予後に関するシステマティックレビューが報告されている。総じて,初回再発からの無増悪生存期間は6.7 カ月,再発からの生存期間は11.2 カ月と予後不良であった。その内訳は,再発後の全生存期間は,テント上と後頭蓋窩で,それぞれ8.3,20.1 カ月であった。再発時の治療別の診断後からの全生存期間は手術24.2 カ月,放射線治療29.2 カ月,化学療法19.3 カ月であった。また,年齢別では3 歳以下31.0 カ月,3 歳以上17.5 カ月であった1)。再発時の治療は,経過観察,手術,放射線治療,化学療法単独もしくはこれらの併用が選択され得る2)。本CQ の注意点として,照射未施行症例は除外されている点に注意されたい。照射未施行の症例の再発時には,照射前の残存腫瘍として考えるべきであり,照射以外に手術摘出も考慮する必要がある。
1.再手術
再発上衣腫に対する再手術は無益とは言えない。再発時に再手術のみを行ったエビデンスレベルの高い報告は限られた。再発後の再手術された17 例中,全摘出を達成された12 例の5 年生存割合が58%3)であり,再発腫瘍に対して再摘出が行われた57 例のメタ解析4)では全摘出群と部分摘出群の5 年生存割合は,それぞれ44%と23%であった。しかし,機能温存のために初回手術で全摘出が不可能であったならば,再手術も困難である5)。したがって,QOL を維持・向上できるかどうか,適応を検討の上,症例を選択する6)。
2.放射線治療
再発時の再照射に関しては,症例背景が不揃いで不十分な期間の観察研究しかない制限があり,エビデンスレベルの高い報告は限られる。再発上衣腫に対する再照射は否定されないが,適応については放射線治療医と十分に検討した方がよい7)。
268 例の小児再発上衣腫に対する再照射について11 編の論文をまとめた総説によると,再発後は摘出術と放射線治療が望ましく,もし初回放射線後12 カ月未満の再発であれば30.6 Gy/17 fr,12 カ月以上経過しているようであれば36 Gy/20 fr が望ましいと述べている8)。最近,全脳脊髄照射(CSI)の有用性も報告されるようになってきた。遠隔転移のある症例9 例においては,2 年無増悪割合12.5%,2 年生存割合62.5%であった。例え局所再発であってもCSI(1.8 Gy 分割で23.4~36 Gy の全脊髄照射に,腫瘍床に54~59.4 Gy を照射)を行った結果,5 年無増悪生存割合が83.3%に対して,局所照射のそれは15.2%に留まったと報告されている9)。
CSI の毒性についても十分考慮しなければならない。Bouffet らは,再発上衣腫に対する54 Gy の最大線量による局所もしくは59.4 Gy のCSI の毒性と予後の評価を行った。113 例中再発した47 例のうち再照射した18 例(年齢0.8~8.9 歳,テント上4 例,後頭蓋窩14 例)を評価した。初回手術全摘・亜全摘17 例,部分摘出1 例で,初発時放射線治療単独群11例,放射線+化学療法群7 例であった。その結果,追跡期間中央値2.1 年間(0.7~5.8 年)で,3 年生存割合は再照射なし群(7%±6%)と比較して,再照射あり群で81%±12%(p<0.0001)と有意に高く,また再照射後から再発までの期間は最初の再発までの期間より有意に長かった。一方で,高次脳機能評価を行った7 例全例で,高次脳機能評価項目すべてにおいて低下を認めた。平均3.7 年間で18 例中2 例が内分泌異常を呈し,1 例が特別支援教育を要した。
一方で,定位的放射線手術(SRS)による腫瘍の局所制御の有用性の報告もある10)。Stauder らは,再発頭蓋内上衣腫に対するSRS の腫瘍制御率および合併症率を明らかにすることを目的とし,26 例(49 病変;テント上31 病変,後頭蓋窩18 病変)におけるOS, PFS, LCR,放射線脳壊死の発生率を後方視的に評価した。各病変に対するmedian marginal dose は18Gy(12~24 Gy)であった。生存期間中央値はSRS 後5.5 年,無増悪生存期間中央値は14.7 カ月(2.9 カ月~11.2 年)であった。1 年生存割合96%,3 年生存割合69%であった。7 例(27%)に遠隔腫瘍再発を認めた。照射範囲によるものの2 例(8%)に症候性放射線壊死を認めた。SRS は比較的短期の局所制御率が良好であり,短期的には生存率を上げる可能性がある11)。12 例17 病変に対してSRS を実施し,3 年間で68%において良好な局所コントロールが得られたという2000 年のStafford らの報告を裏付けた12)。以上より,比較的短期での観察結果しかなく,また放射線壊死を伴う例があるが,SRS は考慮してもよい。
3.化学療法
1995 年以前は,テント上下の再発悪性小児脳腫瘍を対象に化学療法の有効性が検討されていた。症例数は少ないが,その一部に再発上衣腫が含まれており,ここでは,再発上衣腫の結果を抜粋する。1984 年にPediatric Oncology Group(POG)より,ビンクリスチン+プロカルバジン+プレドニンとナイトロジェンマスタードを上乗せしたレジメンを比較検討したランダム化比較試験の結果が報告された。評価を受けた再発上衣腫10 例のうち,CR,PR はそれぞれ1 例であった。また,ナイトロジェンマスタードを上乗せした群では高い毒性を認めた13)。
その後,白金製剤もしくはアルキル化剤を基軸とする化学療法が試された。5 例の再発上衣腫に対してビンクリスチン,シスプラチンもしくはカルボプラチン,CCNU,エトポシド,ブレオマイシン併用による治療の症例報告が行われたが,CR+PR は1 例のみで,PD が3 例であった14)。また,2005 年にイタリアのグループから報告された成人再発上衣腫28 例での後方視的研究では,白金製剤の有無で有効性が比較されたが,シスプラチンを含むレジメンでも全生存期間,無増悪生存期間に有意差はみられなかった15)。アルキル化剤においては,1993 年にFrench Society of Pediatric Oncology(SFOP)がイホスファミド単剤の第Ⅱ相臨床試験の結果を報告し,8 例中CR 0 例,PR 1 例,OR+SD 5 例,PD 2 例であった16)。チオテパに関連する検討としては,高用量ブスルファン(150 mg/m2/day)+チオテパ(150 mg/m2/day)+自家骨髄移植に腫瘍部照射(45~55 Gy)を行った報告がある。8 例中3 例のCR 症例が認められたものの,1 例の治療合併症死亡例があり,消化管と粘膜障害などの毒性も多く認められ,治療効果に比し毒性が高かった17)。テモゾロミドについては,再手術,再照射を行っても再増悪した18 例の成人再発上衣腫に対して投与された。22%の奏効割合(CR+PR)が報告されている18)が,過去に白金製剤などを含む化学療法が行われた例には有効性を認めなかった19)。2007 年にChildren’s Oncology Group(COG)が第Ⅱ相試験を行い,12 例中SD 5 例,他7 例は7 コースまでにPD になった20)。
その他の薬剤としては,エトポシドの効果検討がなされ,観察後7 カ月の段階で,2 例でPR,4 例でSD であった21)。
以上より,薬剤の有効性が乏しいことから,現状で推奨できるレジメンはない。少数例で化学療法に反応することがあるが,頻度は低く,また効果があっても生存期間の延長につながることは少ないため,化学療法は行わないことを提案する。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((“Ependymoma”[mh:NoExp]OR ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab]))AND((“Brain Neoplasms”[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR Intracranial*[tiab]OR Ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa*[tiab])))AND((“Recurrence”[mh]OR Recurren*[tiab]OR Neoplasm, Residual[mh]OR Neoplasm Recurrence, Local[mh]OR relaps*[tiab]OR Regrowth[tiab]))))AND((“Infant”[mh]OR “Child”[mh]OR “Adolescent”[mh]OR “Young Adult”[mh]OR “Adult”[mh:NoExp]))))AND 1900/1/1:2016/12/31[dp])))AND((Japanese[la]OR English[la]))))NOT case reports[pt]
以上の検索式より,一次スクリーニングとして250 文献を抽出し,194 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ6 では21 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Byer L, Kline CN, Coleman C, et al. A systematic review and meta-analysis of outcomes in pediatric, recurrent ependymoma. J Neurooncol. 2019;144(3):445-52.[PMID:31502040]
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- 3)
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6 章 髄芽腫 medulloblastoma
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割
氏名
所属機関/専門分野
作成上の役割
委員長
橋本 直哉
京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科
総括
委員
白土 博樹
北海道大学医学部病態情報学講座 放射線医学分野/放射線科
放射線治療
協力委員
溝脇 尚志
京都大学大学院医学研究科 放射線腫瘍学・画像応用治療学/放射線科
放射線治療
委員
若林 俊彦
名古屋共立病院 集束超音波治療センター/脳神経外科
外科的治療
協力委員
坂本 博昭
大阪市立総合医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
協力委員
高橋 義信
京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科
外科的治療
協力委員
原 純一
京大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児血液腫瘍科/小児科
予後予測因子・化学療法
委員
寺島 慶太
国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科/小児科
化学療法
協力委員
山本 哲哉
横浜市立大学医学研究科 脳神経外科/脳神経外科
再発治療
委員
中村 英夫
久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科
再発治療
協力委員
五味 玲
自治医科大学 とちぎ子ども医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科
晩期障害
委員
隈部 俊宏
北里大学医学部 脳神経外科性/脳神経外科
他のガイドラインとの整合
委員
杉山 一彦
広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科
他のガイドラインとの整合
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号
課題名
課題責任者
SR 委員
1
外科的治療
橋本 直哉
高橋 義信
小川 隆弘(京都府立医科大学 脳神経外科)
寺川 雄三(北海道大野記念病院 脳神経外科)
2
神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
原 純一
寺島 慶太
山崎 夏維(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
奥廣 有喜(名古屋大学大学院 医学系研究科 分子細胞免疫学分野)
3
放射線治療
溝脇 尚志
白土 博樹
宇藤 恵(京都大学医学部附属病院 放射線治療科)
森 崇(北海道大学病院 放射線治療科)
出水 祐介(兵庫県立粒子線医療センター 附属神戸陽子線センター 放射線治療科)
河村 淳史(兵庫県立こども病院 脳神経外科)
4
陽子線治療
5
化学療法
寺島 慶太
原 純一
山崎 夏維(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
奥廣 有喜(名古屋大学大学院 医学系研究科 分子細胞免疫学分野)
木村 由衣(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科)
吉村 聡(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科)
津村 悠介(名古屋大学医学部附属病院 小児科)
6
再発時の治療
山本 哲哉
中村 英夫
井原 哲(東京都立小児総合医療センター 脳神経外科)
広川 大輔(神奈川県立こども医療センター 脳神経外科)
三宅 勇平(横浜市立大学附属病院 脳神経外科)
牧野 敬史(熊本市立熊本市民病院 脳神経外科)
黒田 順一郎(熊本大学 脳神経外科)
7
治療による晩期障害
五味 玲
五味 玲(自治医科大学 とちぎ子ども医療センター 小児脳神経外科)
室井 愛(筑波大学 脳神経外科)
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
髄芽腫に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,髄芽腫患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された13 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにガイドライン作成ワーキンググループがシステマティックレビュー(SR)チームの責任者となり,責任者よりSR 委員を選出してもらい,各課題2~5 名で編成した。髄芽腫が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2016 年2 月,髄芽腫ガイドライン第1 回会議を開催し,ガイドライン作成ワーキンググループが発足。課題をどのようにするか討議し各課題のリーダーを決定した。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2017 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014 に準拠した方法により行った。稀少疾患であるためエビデンスが少なく,Minds に準拠した方法の適用が困難な場面に遭遇したが,論議しながら完成に向かった。
ガイドライン作成ワーキンググループ会議:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会の開催に合わせて,ガイドライン作成ワーキンググループ会議を行った。その後,2020 年5 月からは月1 回のガイドライン作成ワーキンググループ(オンライン)会議を計15 回行った。2021 年5 月11 日のガイドライン作成ワーキンググループ会議で各CQ における推奨グレードの決定を行った。
推奨作成とその過程:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,メールおよびオンライン会議で討議した。推奨グレードに関しては髄芽腫ガイドライン作成ワーキンググループ委員およびSR チームの24 名にて投票を行い,ガイドライン作成ワーキンググループ内における推奨グレードをまず決定し,最終的に2022 年1 月14 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会にて統括委員の投票により推奨を承認した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年9 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
主に小児の小脳虫部ないしは脳幹背側に好発する胎児性の神経上皮性腫瘍である。病理学的に,核異型と核分裂像に富む未分化な小型円形の腫瘍細胞が高密度に配列して構成される1)。①発生部を中心に局所に浸潤性に発育し,②全中枢神経系に髄液腔内播種を早期にきたし,③腫瘍の進行とともに血行性に遠隔転移を示す。腫瘍名の由来は,中枢神経系の発生において未分化神経管上皮細胞が神経細胞とグリア細胞へ分化する前の髄芽細胞medulloblast を概念上想定し,その腫瘍型を髄芽腫(medulloblastoma)と命名したところにある(Bailey and Cushing)2)。現在では発生起源は胎生期の上・下髄帆にある外顆粒細胞や上衣下基質細胞とされるが結論には至っていない。小脳虫部の下半部から第4 脳室に発育・浸潤することが最も多く,小脳半球に主座を置くこともある。
1)疫学
WHO 脳腫瘍分類20161)によると,胎児性脳腫瘍のうち最も頻度が高く,小児脳腫瘍では星細胞系腫瘍に次いで多く,25%程度の頻度と記載されている。小児100 万人あたりの年間発生数は6 例程度である。また,髄芽腫を含む胎児性腫瘍の年齢調整罹患率は,人口10 万人あたり米国0.24 人,日本0.14 人と米国で罹患率が高い3)。
我が国の脳腫瘍全国集計調査報告 第14 版(2005-2008)4)によれば,原発性脳腫瘍の1.0%を占め,14 歳以下の小児期脳腫瘍の10.1%を占める。小児期脳腫瘍のうちでは膠芽腫を含む星細胞系腫瘍(23.3%),胚細胞性腫瘍(14.7%)についで3 番目の頻度である。我が国では年間約100~120 人が新規に診断されていると推定される。好発年齢は14 歳以下が全体の78%程度を占めており,特に2~9 歳に好発する。男性にやや多い。成人発生は国内では約15%で,その約80%は21~40 歳に発生する。小児例と比較すると,小脳半球に発生することが多い。
2)臨床症状と画像所見
頭蓋内圧亢進症状が約半数と最も多く,頭痛,局所巣症状,脳神経麻痺などを呈する4)。第4 脳室を占拠し閉塞性水頭症をきたし,頭痛のほかに不機嫌,嘔気,嘔吐,意識障害を契機に診断される。体幹や四肢の失調も起こりやすい。
CT では境界が明瞭な等~高吸収域を示し,一様に強い造影効果を示すことが多いが,低吸収で造影効果を示さないもの,囊胞様変化を含むもの,石灰化を含む場合などもある。MRI ではT1 強調画像で低~等信号,T2 強調画像では等~高信号域を示すことが多く,T1 低信号・T2 高信号の小囊胞が散在し,全体として不均一な様相を呈する5-7)。ガドリニウム(Gd)造影では中等度から高度に造影増強されることが多いが,軽度造影されるものからほとんど造影されないものも10%程度存在する。造影増強効果は不均一(heterogenous)なことが多い。どの断面でも境界明瞭,ほぼ円形に描出される。診断時に大脳,脊髄に播種が認められる症例もある。
3)病理組織分類と分子生物学的知見(WHO 脳腫瘍分類2016)
2016 年のWHO 脳腫瘍分類1)では,古典的な髄芽腫(classic type)のほかに,3 種の亜型①desmoplastic/nodular medulloblastoma,②medulloblastoma with extensive nodularity,③large cell/anaplastic medulloblastoma が記述されている(表1)。
また,近年では遺伝子変異に基づいた分子生物学的4 型分類が提唱され8,9),予後との相関性の観点から2016 年のWHO 分類にも取り入れられた。これは当初WNT 遺伝子変異群,sonic hedgehog(SHH)遺伝子変異群,group 3,group 4 とされたが,group 3 と4 の種別が不十分であるとの判断から,WHO 分類ではまずWNT 群,SHH 群,non-WNT/non-SHH 群の3 群に分け,SHH 群はTP53 遺伝子変異の有無にて予後が大きく異なるため,さらに2 群に分けることとしている(表1)。
乳幼児(<3 歳),小児(3~17 歳)および成人(18 歳以上)という年齢区分に留意しつつ概略を述べると,WNT 群は80%が小児期症例であり,90%以上がclassic type を示す。予後が大変良好であり,10 年生存率はほぼ100%に近い。
SHH 群は,ほかに比較して男女差がなく全年齢層に均等に分布,病理組織ではclassic type とdesmoplastic/nodular type が多い。予後はWNT 群に次いで良好であるが,小児期症例では50%にTP53 変異を認め,そのうちの半数以上でgermline でもTP53 変異があり,これらの予後は不良である。
Group 3 は男性が女性のほぼ2 倍であり,70%が小児期に発生する。明らかに予後不良で5 年生存率は50~60%である。ほとんどがclassic type であるが,large cell/anaplastic medulloblastoma の比率や診断時の転移/播種率が最も高い。
Group 4 は最も頻度が高く(40%前後),病理組織ではclassic type がほとんどである。男性がほぼ3 倍,小児期に85%が発生し,5 年生存率は70%程度で,乳幼児期の治療成績が悪い。
今後はこれらの知見10,11)に基づいた臨床試験が行われ,外科的治療・放射線治療・化学療法の有効性が分子亜型ごとに示され変化していく可能性がある。本ガイドラインで取り上げた臨床試験や症例報告の多くは,上記の分子生物学的知見は考慮されたものでないことに注意する必要がある。
4)治療と予後
本腫瘍の治療は集学的治療(手術摘出と化学放射線療法)が原則であり,予後は治療法の発展により改善し,5 年生存率は50~70%となっている3,4)。すでに述べたように,乳幼児(<3 歳),小児(3~17 歳)および成人(18 歳以上)で各々の病態が異なり,組織型,分子生物学的分類,手術摘出度,播種などが予後に相関があると考えられているため,これらの特徴を踏まえて治療計画が立案される。臨床的には,年齢,播種の有無,摘出量からの臨床リスク分類が用いられる12-16)。すなわち,①診断時の年齢が3 歳未満,②術後のMRI における残存腫瘍面積が1.5 cm2以上,③髄腔内播種所見あり,により高リスク群(high-risk group)と標準リスク群(average-risk group)に大別する。標準リスク群は①~③のいずれにも該当しないグループ,高リスク群は①~③のいずれかに該当するグループとなる。さらに①の3 歳未満の症例では当面の放射線治療(RT)を回避する治療計画が立てられる(表2)。
5)診療の全体的な流れ
術前診断では,後頭蓋窩発生の上衣腫や毛様細胞性星細胞腫,atypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)との鑑別が難しい例がある。小脳半球に発生した場合,他のグリオーマ系腫瘍との鑑別が問題となる。
術前診断後に,合併する水頭症に対する緊急の処置が必要な例がある。
摘出後の治療方針に関しては,臨床リスク分類に応じて化学療法と放射線治療を組み合わせた治療を行う。このうち,3 歳未満群では放射線治療を極力回避し,化学療法を選択する。
❖ 文献
- 1)
- Louis DN, Ohgaki H, Wiestler OD, et al. WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System. Lyon, International Agency for Research on Cancer, 2016.
- 2)
- Bailey P, Cushing H. A Classification of Tumors of the Glioma Group on a Histogenetic Basis with a Correlated Study of Prognosis. Philadelphia:Lippincott;1926.
- 3)
- Ostrom QT, Cioffi G, Gittleman H, et al. CBTRUS Statistical Report:Primary Brain and Other Central Nervous System Tumors Diagnosed in the United States in 2012-2016. Neuro Oncol. 2019;21(Suppl 5):v1-v100.[PMID:31675094]
- 4)
- The committee of Brain Tumor Registry of Japan:Report of Brain Tumor Registry of Japan(2005-2008)14th ed. Neurol med Chir(Tokyo). 2017;57(Suppl 1):9-102.
- 5)
- Meyers SP, Kemp SS, Tarr RW. MR imaging features of medulloblastomas. AJR Am J Roentgenol. 1992;158(4):859-65.[PMID:1546606]
- 6)
- Bühring U, Strayle-Batra M, Freudenstein D, et al. MRI features of primary, secondary and metastatic medulloblastoma. Eur Radiol. 2002;12(6):1342-8.[PMID:12042937]
- 7)
- Perreault S, Ramaswamy V, Achrol AS, et al. MRI surrogates for molecular subgroups of medulloblastoma. AJNR Am J Neuroradiol. 2014;35(7):1263-9.[PMID:24831600]
- 8)
- Northcott PA, Jones DT, Kool M, et al. Medulloblastomics:the end of the beginning. Nat Rev Cancer. 2012;12(12):818-34.[PMID:23175120]
- 9)
- Taylor MD, Northcott PA, Korshunov A, et al. Molecular subgroups of medulloblastoma:the current consensus. Acta Neuropathol. 2012;123(4):465-72.[PMID:22134537]
- 10)
- Kool M, Korshunov A, Remke M, et al. Molecular subgroups of medulloblastoma:an international meta-analysis of transcriptome, genetic aberrations, and clinical data of WNT, SHH, Group 3, and Group 4 medulloblastomas. Acta Neuropathol. 2012;123(4):473-84.[PMID:22358457]
- 11)
- Gajjar A, Bowers DC, Karajannis MA, et al. Pediatric Brain Tumors:Innovative Genomic Information Is Transforming the Diagnostic and Clinical Landscape. J Clin Oncol. 2015;33(27):2986-98.[PMID:26304884]
- 12)
- Chang CH, Housepian EM, Herbert C Jr. An operative staging system and a megavoltage radiotherapeutic technic for cerebellar medulloblastomas. Radiology. 1969;93(6):1351-9.[PMID:4983156]
- 13)
- Albright AL, Wisoff JH, Zeltzer PM, et al. Effects of medulloblastoma resections on outcome in children:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1996;38(2):265-71.[PMID:8869053]
- 14)
- Zeltzer PM, Boyett JM, Finlay JL, et al. Metastasis stage, adjuvant treatment, and residual tumor are prognostic factors for medulloblastoma in children:conclusions from the Children’s Cancer Group 921 randomized phase Ⅲ study. J Clin Oncol. 1999;17(3):832-45.[PMID:10071274]
- 15)
- Packer RJ, Sutton LN, Elterman R, et al. Outcome for children with medulloblastoma treated with radiation and cisplatin, CCNU, and vincristine chemotherapy. J Neurosurg. 1994;81(5):690-8.[PMID:7931615]
- 16)
- Packer RJ, Boyett JM, Janss AJ, et al. Growth hormone replacement therapy in children with medulloblastoma:use and effect on tumor control. J Clin Oncol. 2001;19(2):480-7.[PMID:11208842]
2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:髄芽腫の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後,QOL の改善
- (3)トピック:生命予後,機能予後,QOL の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍(15 歳未満および16~29 歳のadolescent and young adult:AYA 世代を含めた年齢)を診療する医療者や施設,患者・家族
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本では既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)臨床的課題
課題1:手術摘出
課題2:神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
課題3:放射線治療
課題4:陽子線治療
課題5:化学療法
課題6:再発時の治療
課題7:治療による晩期障害
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
- a)髄芽腫
- b)厚生省から示された小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満および16~29 歳のAYA 世代を含めた年齢)
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール
文献検索:2 カ月
文献の選出:3 カ月
エビデンス総体の評価と統合:4 カ月
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:なし
- 個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
- ②データベース
- 個別研究論文:PubMed
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- 2018 年12 月まで
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
- (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合は量的統合を実施。
課題1:外科的治療
- CQ1
- 肉眼的全摘出は生命予後を改善するか?
- 推奨度2C
- 推奨
髄芽腫患者に対して全摘出を行うことを提案する。
解説
髄芽腫に対する手術摘出度あるいは残存腫瘍量と予後の関係を前方視的試験によって解析した研究はない。1996 年にAlbright ら1)が,術者が評価した腫瘍摘出度は予後に相関しないものの,術後残存腫瘍の最大面積が1.5 cm2以上あると,髄液播種のみられない3 歳以上の症例ではPFS が短くなることを報告した。その後Zeltzer ら2)は術後残存腫瘍の最大面積1.5 cm2以上を予後因子に加えることを提唱し,髄液播種,年齢が3 歳以上,術後腫瘍残存量(最大断面面積1.5 cm2以上)を予後不良因子として,標準リスク群と高リスク群の臨床リスク分類に従って髄芽腫の治療を行うことが現在の標準となっている(Albright とZeltzer の論文はOS の検討がされていないことから,システマティックレビューからは除外された)。手術摘出度が真の予後因子であるのかについての検討は,症例集積あるいは後方視的コホート研究で検討するほかない。
2000 年にJenkin ら3)は,単一施設の連続173 例の後方視的検討で,2 回の手術を要した症例も含めた最終的な摘出率において,全摘出77 例,亜全摘(摘出率90~99%)50 例,部分摘出(摘出率50~89%)30 例,部分摘出(摘出率50%未満)16 例の5 年生存率はそれぞれ63%,50%,41%,17%と報告した。この摘出度は術者が決定しており,全摘出群は非全摘出群と比較して有意に(p=0.002)OS を延長したが,摘出後に標準的な放射線治療が遂行可能であった場合には,全摘出は有意な予後因子とはならなかった。したがって全摘出により合併症を起こす可能性が高い場合は,術後の合併症によって放射線治療を省略するよりはむしろ摘出を制限することも考慮すべきであると結論づけた。
2005 年のSFOP4)の多施設共同研究では,術後3 日以内の画像検査で確認された残存・転移のない群(R0M0)47 例について検討された。この報告では手術記録で摘出度を決定しており,残存腫瘍はないと記載されていれば全摘出とし,癒着が強く切除できなかったと記載があれば術後の画像検査で残存腫瘍を認めなくても全摘出とはせずに亜全摘出と定義した。亜全摘出群34 例の5 年PFS は0%であったのに対して全摘出群13 例では41%と有意に延長した(p=0.0065)ものの,OS では有意差はなかったとした。このように,摘出度を画像検査だけではなく,手術記録に基づいてのリスク階層化を導入している点で結果の解釈には注意が必要である。
2006 年のUrberuaga ら5)の単一施設79 例の検討では,術後画像検査で残存腫瘍がないことを全摘出と定義し,単変量解析でOS,PFS ともに全摘出が予後良好因子であり,多変量解析でも予後良好因子(HR=3.17,95% CI:1.64-6.15,p<0.01)であったと報告した。
一方で,2008 年のAkyüz ら6)の単一施設の203 例の後方視的検討では,手術摘出度は生存期間に影響しなかったと報告した。
このように,手術的摘出度の予後に対する影響は報告によってばらつきがみられる。しかし,これまでの報告全体としては,全摘出した場合にはOS もPFS も延長する傾向があることは確かである。ただし,手術によって神経症状を悪化させる危険性が高い場合には,無理に全摘出を行うことは控え,術後速やかに放射線治療を行うことが重要である。
2016 年のThompson ら7)の787 例の後方視的国際共同研究では,分子的亜型分類が組み込まれた。全摘出の予後因子としての効果は,多変量解析に分子的亜型分類を含めると大きく減衰した。全摘出は,術後腫瘍残存量が1.5 cm2以上と比較してPFS は延長した(HR=1.45,95% CI:1.07-1.95,p=0.02)が,全摘出と術後腫瘍残存量1.5 cm2未満ではOS,PFS ともに有意差はみられなかった(OS/HR=1.05,95% CI:0.71-1.53,p=0.82,PFS/HR=1.14,95% CI:0.75-1.72,p=0.55)。WNT,SHH,group 3 では,全摘出してもOS に影響がなかった。術後腫瘍残存量1.5 cm2未満に対する全摘出の絶対的利点はないため,神経学的悪化が予測される場合には,小さな残存腫瘍に対する手術摘出は勧められないというこれまでの方針を支持するものである。
分子的亜型分類を加味したエビデンスの構築が希求されており,分子亜型それぞれにおいて手術摘出度が生命予後にどのような影響を及ぼすかについては,現在も重要な臨床課題である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((“Epidemiologic Study Characteristics”[Mesh])OR “ Statistics as Topic[”Mesh]))OR “clinical study”[PT]))AND((((((((((medulloblastoma[mh])OR medulloblastoma*[tiab])OR((melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR((childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR medulloblastoma*[tiab])OR((desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR((adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab]))))AND((surgery[SH]OR surgery[TIAB]OR surgical[TIAB]OR “surgical procedures, operative”[MH]OR(surgical[TIAB]AND procedure*[TIAB]AND operative[TIAB])OR operative[TIAB]OR operation[TIAB]OR resect*[TIAB])))AND((prognosis[MH]OR prognos*[TIAB]OR “disease progression”[MH]OR(disease*[TIAB]AND progress*[TIAB])OR(disease*[TIAB]AND exacerbat*[TIAB])OR mortality[MH]OR mortal*[TIAB]OR(case*[TIAB]AND fatality[TIAB]AND rate*[TIAB])OR(death[TIAB]AND rate*[TIAB])OR “survival analysis”[MH]OR(surviv*[TIAB]AND(analysis[TIAB]OR analyses[TIAB]))OR “neoplastic processes”[MH]OR(neoplastic[TIAB]AND process*[TIAB]))))))AND 1900/1/1:2018/12/31[DP]
以上の検索式により662 文献を抽出し,一次スクリーニングで69 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に17 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。システマティックレビュー後のさらなる検討から7 文献を採用し,作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Albright AL, Wisoff JH, Zeltzer PM, et al. Effects of medulloblastoma resections on outcome in children:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1996;38(2):265-71.[PMID:8869053]
- 2)
- Zeltzer PM, Boyett JM, Finlay JL, et al. Metastasis stage, adjuvant treatment, and residual tumor are prognostic factors for medulloblastoma in children:conclusions from the Children’s Cancer Group 921 randomized phase Ⅲ study. J Clin Oncol. 1999;17(3):832-45.[PMID:10071274]
- 3)
- Jenkin D, Shabanah MA, Shail EA, et al. Prognostic factors for medulloblastoma.Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;47(3):573-84.[PMID:10837938]
- 4)
- Grill J, Sainte-Rose C, Jouvet A, et al.;French Society of Paediatric Oncology. Treatment of medulloblastoma with postoperative chemotherapy alone:an SFOP prospective trial in young children. Lancet Oncol. 2005;6(8):573-80.[PMID:16054568]
- 5)
- Urberuaga A, Navajas A, Burgos J, et al. A review of clinical and histological features of Spanish paediatric medulloblastomas during the last 21 years. Childs Nerv Syst. 2006;22(5):466-74.[PMID:16283195]
- 6)
- Akyüz C, Varan A, Küpeli S, et al. Medulloblastoma in children:a 32-year experience from a single institution. J Neurooncol. 2008;90(1):99-103.[PMID:18566744]
- 7)
- Thompson EM, Hielscher T, Bouffet E, et al. Prognostic value of medulloblastoma extent of resection after accounting for molecular subgroup:a retrospective integrated clinical and molecular analysis. Lancet Oncol. 2016;17(4):484-95.[PMID:26976201]
課題2:神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
- CQ2
- 手術後の予後因子は何か?
- 推奨度1B
- 推奨
予後因子として,組織型(予後良好な順でdesmoplastic nodular/extensive nodularity, classic, large cell/anaplastic),転移の有無(転移有が予後不良),遺伝子プロファイルで分類される亜型(WNT 型が予後良好)を用いることを推奨する。
解説
予後を予測する因子は実施する治療によって変わる。例えば,治療が摘出のみであれば,当然転移の有無と残存した腫瘍の大きさがOS に大きな影響を与える。また,放射線治療の導入,さらに有効な化学療法の採用によって予後因子は変化している。最新の治療を受けたコホートでは,後述の4 型の亜群によっては転移の有無すら予後を反映しない可能性が最近示されている1-3)。このように,リスク因子は解析対象としたコホートの治療によって変化するものであるので,本CQ では,これらの違いがあってもなおかつ検出される因子を採用することとした。
治療の層別化に用いる予後因子としては,治療反応性などではなく,診断後直ちに情報が得られる臨床情報(年齢,性別,転移の有無,病理組織型,術後腫瘍残存の有無など)が有用である。しかし,これらの因子は交絡が存在するため,多変量解析による結果が最も重要視される。ほぼすべての研究で予後因子として多変量解析で抽出されているのが,転移の有無,および組織型(classic, desmoplastic nodular/extensive nodularity, large cell/anaplastic)であった2,4-12)。一方,性別,年齢は解析されたほとんどの研究で予後因子とはならなかった1,2,6,8,11,13)。術後の腫瘍残存については,多変量解析が行われた9 編の解析のうち2 編で予後不良因子として抽出され7,13),1 編では単変量解析では有意であったものの,多変量解析では有意差は消失している11)。また,乳幼児に限定した解析では,単変量解析のみが行われた3 編の報告では予後不良因子として抽出されているが14-16),多変量解析を行った4 編の報告では3 編で予後因子として否定されている4-6)。以上のことから,現時点では独立した強力な予後因子として組織型,転移の有無を挙げることができる。組織型では,desmoplastic nodular/extensive nodularity が最も予後が良く,classic, large cell/anaplastic と続く。転移の有無では転移無が予後良好である。
2011 年に,遺伝子発現プロファイルに基づき,髄芽腫は少なくともWNT 型,SHH 型,non-WNT/non-SHH 型に分類されることが明らかとなり,2016 年のWHO 脳腫瘍分類でも採用されている2)。後者はさらにGroup 3 とGroup 4 に分類されることもある。これまでのところ,過去に集積された症例を世界中から集めた後方視的なコホートを用いた解析のデータにとどまるが,一貫してWNT 型が最も予後良好である。残りの2 群もしくは3 群間の予後の差はさほど顕著なものではない5)。しかし,基本的にWNT 型が存在しない乳幼児例に限定しての解析では,単変量解析ながら3 編すべての解析でSHH 型が予後良好であることが示されている3,16,17)。SHH 型の多くは上記に予後良好因子として記載したdesmoplastic nodular/extensive nodularity の組織型を有するため,多変量解析での検討が必要である。上記の3 型(または4 型)分類とは別個に,MYC 遺伝子の増幅が独立した予後不良因子であることが報告されている。しかし,その後4 型分類と組み合わせた解析ではGroup 3 以外では明らかではないことが示されている18)。
上述のように,髄芽腫は少なくとも3 種類以上の異なった疾患(亜群)からなる集合体であることから,現在はそれぞれの亜群の中での予後因子が提唱されているものの3,19,20),現時点では十分検証されたとまでは言えないため,今回各亜群別の予後因子の推奨は時期尚早と判断した。以上のことから,独立した強力な予後因子として,組織型,転移の有無,遺伝子プロファイルによる分類(WNT 型とそれ以外)を推奨する。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])))AND((((((“Combined Modality Therapy”[Mesh:NoExp]OR Chemoradiotherapy[mh]OR Chemotherapy, Adjuvant[mh]OR Radiotherapy, Adjuvant[mh])))OR((Adjuvant[tiab]AND(Chemoradiotherapy[tiab]OR Chemoradiotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab]OR chemothrapy[tiab]OR chemotherapies[tiab]OR radiotherapy[tiab]OR radiotherapies[tiab]OR “drug therapy”[tiab]OR “drug therapies”[tiab]))))OR(((Multimodal[tiab]AND(Treatment[tiab]OR treatments[tiab]OR therapy[tiab]OR therapies[tiab]))OR(“Combined Modality”[tiab]AND(therapy[tiab]OR therapies[tiab]))OR((Concurrent[tiab]OR Concomitant[tiab]OR Synchronous[tiab])AND(Chemoradiotherapy[tiab]OR Chemoradiotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab])))))OR((therapy planning[tiab]OR therapeutic planning[tiab]OR therapeutic design[tiab]OR treatment design[tiab]OR plan[tiab]OR planning[tiab])))))AND((“Epidemiologic Study Characteristics”[MH]OR “Statistics as Topic”[Mesh]OR “Clinical Study”[Publication Type]))))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により556 文献を抽出し,一次スクリーニングで37 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に20 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
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課題3:放射線治療
- CQ3
- 全脳脊髄照射において,標準線量からの線量低減または線量増加は有用か?
- 推奨度1D
- 推奨1
全脳脊髄照射において,標準リスク群に対して標準線量からの線量低減を行わないことを推奨する。
- 推奨度1D
- 推奨2
全脳脊髄照射において,高リスク群に対して標準線量からの線量増加を行わないことを推奨する。
解説
3 歳以上の髄芽腫に対する集学的治療において全脳脊髄照射(CSI)は必要不可欠であり,標準治療の一環として,CSI と後頭蓋窩または腫瘍床へのブースト照射(総線量54 Gy 程度)が通常分割照射法を用いて実施されている。現在,標準的なCSI 線量として,標準リスク群では24 Gy 程度(23.4 Gy/13 分割が頻用されている),高リスク群では36 Gy 程度(35.2~36 Gy/20~22 分割)が用いられている(CQ5,CQ6 参照)。標準リスク群に対する晩期障害軽減を目的としたCSI 線量低減,また高リスク群に対する治療成績改善を目的としたCSI 線量増加が試みられているが,現時点におけるそれらの意義や位置づけは確立していない。
1.標準リスク群に対する標準線量(24 Gy 程度)からのCSI 線量低減について
評価対象となった22 編1-22)中,標準線量未満のCSI が実施された試験は2 編のみであったが,そのうち1 編は18 Gy のCSI を実施された症例が全88 例中11 例(うち陽子線治療が3 例)と少なく1),残りの1 編は18 GyE(陽子線治療)のCSI 実施症例が含まれていたものの,18 GyE のCSI が実施された症例数は不明であった7)。なお,急性期有害事象,成長障害に関しては標準線量未満のCSI を実施した論文は認められなかった。
一般論としてCSI 線量低減により急性期および晩期障害のリスク低減が期待されるものの,上述したように標準リスク群に対するCSI 線量低減の有用性を検証するランダム化比較試験もしくは傾向スコア・マッチング研究は存在せず,併用化学療法の有無や種類・タイミングに深刻なばらつきを認めたため,CSI 線量低減による生存率および急性期・晩期障害に対する影響の評価は極めて困難であった。また化学療法に関しては,我が国において使用できないlomustine(CCNU)が含まれるレジメンが散見された。これらのバイアスリスク,非直接性を考慮した結果エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。
上記システマティックレビューの結果から,CSI 線量低減が生存率および急性期・晩期障害に及ぼす影響を評価することは困難であった。またCSI 線量低減により急性期・晩期障害のリスク低減が得られる可能性は期待されるものの,生存率の維持が可能と判断する根拠に乏しく,線量低減に伴う生存率低下のリスクが危惧される。そのため,現状ではCSIにおいて,標準リスク群に対して標準線量からの線量低減を行わないことを提案することが妥当と判断した。
なお,システマティックレビュー対象外の文献ではあるが,2021 年6 月にACNS033123)が出版されたため,重要文献として本ガイドラインに記載する。ACNS0331 は標準リスク群に対してブースト照射として後頭蓋照射を実施する群と,腫瘍床照射を実施する群にランダム化割付し検証した第Ⅲ相試験である。さらに本試験では3~7 歳の226 例に対してCSI 線量を23.4 Gy 群と18 Gy 群にランダム化割付し,primary endpoint である無イベント生存割合(EFS)を検証した。その結果,認知機能は23.4 Gy 群において有意に低下したものの,5 年時点でのEFS は23.4 Gy 群では82.9%,18 Gy 群では71.4%であり,18 Gy 群は23.4 Gy 群と比較してEFS が有意に短かった(HR=1.07, 80% CI:2.10, p=0.028)。また5 年時点での全生存割合(OS)は23.4 Gy 群では85.6%,18 Gy 群では77.5%であり,18 Gy 群は23.4 Gy 群と比較してOS が有意に短く(p=0.049),今回の推奨を支持する結果であった。
2.高リスク群に対する標準線量(36 Gy 程度)からのCSI 線量増加について
二次スクリーニング後の35 文献のうち,対象が高リスク群かつ設定されたアウトカムに関する記載のある文献は11 編であった。11 編中4 編(POG963124),HIT200025),POG903126),SJMG-9612)において標準線量よりも高いCSI 線量が用いられていた。生存率では9 編4,7,12,24-29),急性期有害事象では7 編12,24-27,29,30),二次がんは4 編4,18,26,29),精神・認知機能障害では1 編7),聴力障害では4 編7,25,27,30),内分泌機能障害では1 編7)が評価対象となり,成長障害に関しては該当する文献を認めなかった。CSI 線量増加により二次がんの発生率は同等かつ生存率を改善する可能性が示唆されたが,上述したように高リスク群に対する線量増加群vs. 標準線量群の治療成績を検証するランダム化比較試験もしくは傾向スコア・マッチング研究が存在せず,高リスクである定義や根拠,化学療法の有無・種類・タイミングに深刻なばらつきを認めたため,線量増加による生存率および急性期・晩期障害の評価は極めて困難であった。また,化学療法に関しては我が国において使用できないCCNU が含まれるレジメンが散見された。そのため,すべてのアウトカムにおいて,深刻なバイアスリスク・非直接性が存在し,エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。
上記システマティックレビューの結果から,線量増加に伴い益(生存率の改善)を得られる可能性は否定できないが,同時に害(晩期障害の増加)も危惧された。小児がんである髄芽腫患者において,治癒が得られた際にQOL の低下・社会生活の妨げとなる害(晩期障害の増加)を考慮する必要性は極めて高い。エビデンスレベルが非常に弱い現状においては,益よりも害を考慮し,CSI において,高リスク群に対して標準線量からの線量増加を行わないことを提案することが妥当と判断した。
- 注意:
- lomustine(CCNU)は国内未承認
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((medulloblastoma)AND radiotherapy))AND(Comparative Study[ptyp]OR Clinical Trial[ptyp])AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により241 文献を抽出し,一次スクリーニングで106 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に35 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
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課題4:陽子線治療
- CQ4
- 放射線治療として陽子線治療は推奨されるか?
- 推奨度2D
- 推奨
放射線治療として陽子線治療を行うことを条件付きで提案する。
解説
小児がんに対する陽子線治療が保険適用となったものの,現状ではアクセスが限られることが問題である。このような中,広く普及し従来標準的に用いられてきたX 線治療に比し,陽子線治療の優位性を明らかにすることは重要である。そこで本CQ が設定された。
選択された12 文献には,ランダム化比較試験をはじめとするエビデンスレベルの高い報告はなく,定性的システマティックレビューを実施した。
各アウトカムの評価対象となった研究は,多くても4 編,ほとんどが観察研究(前方視的または後方視的コホート研究)であったが,医療費のみモデル解析であった。
評価対象となった研究に基づくエビデンス総体の評価結果は,生存率1-4),脳・脊髄障害5)については,陽子線治療とX 線治療で明らかな差はなく,急性期有害事象6),成長障害7),精神・認知機能障害1,4,8),聴力障害1,4,9),内分泌機能障害1,4,7)については,陽子線治療はX 線治療と比べて軽減できる可能性が示されたが,ほとんどの研究が非直接性・バイアスリスク・不精確さにおいて深刻またはとても深刻と判定されたため,エビデンスの強さは生存率,内分泌機能障害が弱い,それ以外は非常に弱いと判断された。また,医療費10-12)については,陽子線治療はX 線治療と比べて低減できる可能性が示されたが,いずれもモデル解析である上に,モデル計算の根拠となる有害事象軽減のエビデンスの多くが非常に弱く,深刻な非直接性・バイアスリスク・不精確さがあるため,エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。なお,二次がん3,4)については,陽子線治療とX 線治療の優劣は判断困難と考えられた。
放射線治療として陽子線治療を用いて,線量増加等の積極的に治療成績を改善する試みはなく,現在までの報告では治療成績はX 線治療とほぼ同等であり,益(生存率の改善)が得られる可能性は少ない。一方,害(有害事象)を減らせる可能性があるということが示唆されるものの,そのエビデンスの強さは非常に弱い。また,陽子線治療施設数が少ないため,希望しても適切なタイミングでの治療を受けられない可能性がある。陽子線治療装置の導入・運用コストは高額である一方で医療費全体としては減らせる可能性が示唆されるものの,試算の根拠となる有害事象軽減に関するエビデンスの強さは前述のように非常に弱い。また,患者(家族)の医療費負担は発症が20 歳未満であればX 線治療と同じであるが,施設が近隣にない場合は移動や宿泊のコストが発生する。以上を総合的に判断した結果,希望するタイミングで治療を受けられる,施設が近隣にあるといった条件が合致する患者には陽子線治療を提案してもよいと考えた。
よって,本CQ に対する推奨は,「放射線治療として陽子線治療を条件付きで行うことを提案する(2D)」とした。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(proton AND(medulloblastoma OR craniospinal irradiation))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により149 文献を抽出し,一次スクリーニングで35 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に12 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Jimenez RB, Sethi R, Depauw N, et al. Proton radiation therapy for pediatric medulloblastoma and supratentorial primitive neuroectodermal tumors:outcomes for very young children treated with upfront chemotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2013;87(1):120-6.[PMID:23790826]
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- 5)
- Giantsoudi D, Sethi RV, Yeap BY, et al. Incidence of CNS Injury for a Cohort of 111 Patients Treated With Proton Therapy for Medulloblastoma:LET and RBE Associations for Areas of Injury. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;95(1):287-96.[PMID:26691786]
- 6)
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課題5:化学療法
- CQ5
- 3 歳以上の標準リスク群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度1B
- 推奨
シスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした多剤併用化学療法と,24 Gy 程度の全脳脊髄照射と総線量54 Gy 程度の局所照射を組み合わせた通常分割放射線治療による,術後化学放射線治療を推奨する。
解説
本疾患は放射線治療および化学療法が有効な治療であることが既知の事実であり,現在の3 歳以上標準リスク群の髄芽腫治療においては術後に両者を行うのが一般的になっている。一方,その急性期および晩期の合併症は,生命の危機を及ぼすことがあり,かつ長期生存者のQOL を著しく低下させることが知られている。したがって,益と害のバランスを考慮した術後治療の推奨は重要な臨床課題であると考える。
髄芽腫の治療の黎明期において,腫瘍摘出術のみでは髄芽腫は不治の病であったが,術後放射線治療,特に全脳脊髄照射(CSI)の導入後,髄芽腫は治癒を期待できる疾患となった。しかしながら,発達中の小児の脳,特に大脳に高線量の放射線治療を行った結果,生存者に重度の発達障害を起こすことが判明した。脳への照射を軽減するためにCSI の線量を低減する試みがランダム化比較試験として行われたが,CSI 線量36 Gy 群と23.4 Gy 群の再発率が7.9% vs. 28.3%(p<0.01)と単純なCSI 減量は再発率を有意に上昇させることが示された1)。
その後,放射線治療に化学療法を追加することで,生存率の向上を目指す比較臨床試験が複数行われた。米国と欧州で約36 Gy のCSI にビンクリスチン,lomustine(CCNU)ベースの化学療法を追加する2 つのランダム化比較試験が行われた。米国試験(局所50~55 Gy,CSI を35~40 Gy)では髄芽腫全体では化学療法追加による有意な生存率向上は認めず,転移のない患者群の5 年無イベント生存割合(event-free survival:EFS)は59%であった2)。欧州試験(局所55 Gy,全脳35~45 Gy,全脊髄30~35 Gy)でも化学療法の上乗せ効果は認めず,転移のない群の5 年生存率は64.6%であった3)。
その後,米国ではPacker らによって開発が行われてきたビンクリスチンとCCNU の併用にシスプラチンを加えたレジメンの検証が行われた。この試験ではCSI 線量を23.4 Gy に減量したのにも関わらず,5 年EFS 79.7%という非常に良好な生存率が得られた4)。このことは,CSI の線量を多くするよりも,シスプラチンを含む有効な化学療法を併用することの方が予後の向上に重要であることを示している。引き続き行われたCOG A9961 試験では,このレジメンのCCNU をシクロホスファミドに置換したレジメンの優越性がRCT で検証されたが,優越性は示すことができず,感染症などの重篤な有害事象が多いという結果であった。そのため,現在に至るまでCCNU を含むPacker レジメンと23.4 Gy CSI に局所ブーストを行う方法が世界的に標準治療となっている5)。続いて米国St.Jude 小児病院から,23.4 Gy のCSI と局所ブースト照射の後に,化学療法の間隔を開けないために自己末梢血幹細胞救援を併用したシスプラチン,大量シクロホスファミド,ビンクリスチンの3 剤による化学療法を4 回繰り返す方法を行い,5 年EFS 83%と優れた結果が報告され,一定量以上のシクロホスファミドの有効性が示された6)。
一方,欧州ではSIOP と英国小児がん研究グループ(United Kingdom Children’s Cancer Study Group:UKCCSG)の共同研究でシクロホスファミド,カルボプラチン,ビンクリスチン,エトポシドによる多剤併用化学療法を35 Gy CSI とブースト照射の前後に行った(サンドイッチ療法)群と,放射線治療単独で治療した群を比較する臨床試験が行われた。OS では有意差を認めなかったが,5 年EFS では74.2% vs. 59.8%(p=0.04)と有意に化学療法群の生存率が高かった7)。
以上のことから,標準リスクでは効果の弱い化学療法では放射線治療への上乗せ効果は見られないが,CCNU とビンクリスチンにシスプラチンを加えて用いることでCSI の線量を36 Gy から23.4 Gy に軽減することが可能となった。なお,lomustine(CCNU)が未承認のわが国ではCOG A9961 試験でシクロホスファミドに置換したレジメンでもCCNU レジメンと近似したEFS が得られたことから,シクロホスファミドに置換したレジメンが実地臨床では広く使われている。
放射線治療と化学療法の実施の順序については,欧米で術後に放射線治療前に1~2コースの化学療法を組み入れるいわゆるサンドイッチ療法の検討が行われた。欧州では,プロカルバジン,ビンクリスチン,メトトレキサート多剤併用化学療法8)あるいはシスプラチン,イホスファミド,大量メトトレキサート,エトポシド,シタラビン(AraC)による多剤併用化学療法9,10)を放射線治療の前に挟み込むことの有用性の検討がランダム化比較試験で行われたが,ともに有用性を示すことができなかった。また,8 in 1 レジメンという8 種類の抗がん剤を1 日で投与する多剤併用化学療法を放射線治療前に行い標準リスク群でCSI 軽減(全脳27 Gy,全脊髄30~36 Gy)を目指す単アーム試験が行われた。7 年EFS 62%と従来と匹敵する結果が得られたが,放射線治療先行との比較は行われていない11)。以上の結果より,標準リスク群髄芽腫の術後治療は,放射線治療のあとに化学療法を行うことが一般的になった。サンドイッチ療法は1 コースの化学療法の後に放射線治療を行うために,化学療法がビンクリスチン投与を除いて約2 カ月中断するという問題がある。
欧州では,過分割照射36 Gy CSI と通常分割照射の23.4 Gy CSI を無作為割り付けし,シスプラチン,CCNU,ビンクリスチンを投与した国際的治療グループによるランダム化比較試験を行ったが,5 年EFS 78% vs. 77%と,過分割照射の優越性は示せなかった12)。フランスで行われたCSI 36 Gy(36 分割)と68 Gy(68 分割)の過分割照射のみで後治療を行った試験で,3 年EFS 81%という生存率は興味深いが,放射線治療単独の本戦略の評価には長期成績の報告を待たなければならないであろう13)。
髄芽腫の治療選択において,副作用および治療後のQOL は非常に重要な要素である。本CQ を検討する際に評価した複数の論文で,急性合併症が報告されているが,放射線治療や化学療法の種類によって急性毒性の差を認めていない。また,晩期合併症を治療レジメンごとに比較した論文はないが,放射線量が少ないレジメンの方が二次がん,認知機能低下,内分泌機能などの影響が少ないと理論的に推論することは妥当である。
これらのアウトカムのエビデンスより,シスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンによる多剤併用化学療法に,24 Gy 程度の通常分割全脳脊髄照射と局所追加照射を組み合わせた放射線治療による術後化学放射線治療を推奨する。
- 注意:
- lomustine(CCNU):国内未承認
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シタラビン(cytarabine):髄芽腫に対しては保険適応外
8 in 1 レジメン:メチルプレドニゾロン,ビンクリスチン,lomustine,プロカルバジン,ハイドロキシウレア(髄芽腫には保険適応外),シスプラチン,シタラビン,シクロホスファミドの8 種類の薬剤を1 日に投与する化学療法
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radio-therapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。CQ5 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの7 文献,EFS アウトカムの13 文献,有害事象・QOL アウトカムの13 文献を採用した。
❖ 文献
- 1)
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- CQ6
- 3 歳以上の高リスク群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
36 Gy 程度の全脳脊髄照射と54 Gy 程度の局所照射を術後に行い,その後にシスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした治療強度を増した多剤併用化学療法を複数コース行うことを提案する。
解説
髄芽腫の標準リスク群のCQ5 で解説したように,全脳脊髄照射(CSI)の導入後,髄芽腫は治癒を期待できる疾患となった。しかしながら,残存腫瘍または播種を伴う高リスク群では,標準リスク群に比べ生存率が低く,化学療法の併用を行っても満足のいく治療成績を得るには至っていない。米国と欧州で放射線治療にビンクリスチン,lomustine(CCNU)ベースの化学療法を追加する2 つのランダム化比較試験が行われた。
米国試験(局所50~55 Gy,CSI を35~40 Gy)では腫瘍が大きく転移もあった群のサブ解析において,放射線治療単独群では5 年EFS が0%であったのに対し,化学療法併用群で46%と有意に高い5 年EFS を得た(p=0.006)1)。一方,欧州試験(局所55 Gy,全脳35~45 Gy,全脊髄30~35 Gy)のランダム化比較試験においても,中間解析で腫瘍が大きかった,あるいは亜全摘であった群において5 年EFS の差が両群間で有意に高く,化学療法の追加効果が顕著であった。そのため欧州試験は途中で打ち切られ,術後残存腫瘍がある群では長期追跡後の生存率も最終的に有意に高かった2)。ただし,この試験では転移については評価されていない。欧州で,プロカルバジン,ビンクリスチン,メトトレキサート多剤併用化学療法を放射線治療の前に追加するランダム化比較試験が行われたが,高リスク群において,化学療法追加群と追加しない群の5 年EFS に有意な差は認めなかった(56% vs. 53%,p=0.7)3)。また8 in 1 レジメンを放射線治療前に行うCSI 軽減(全脳27 Gy 全脊髄30~36 Gy)アーム試験が行われたが,高リスク群で7 年EFS 45%と改善は認めなかった4)。
その後,欧米で化学療法を強化する試みが行われ,米国のCCG921 試験では,術後に放射線治療(CSI 36 Gy+局所線量54 Gy)と照射中のビンクリスチン投与を行い,その後8 in 1 とビンクリスチン/CCNU/プレドニゾロン(VCP)の2 つの化学療法レジメンを比較するRCT が行われた。結果は,高リスク群では,VCP 治療の方が8 in 1 レジメンより5 年PFS を有意に延長した(63±5% vs. 45±5%,p=0.006)5)。一方,米国のPOG9031 では高リスク群に通常分割の放射線治療を強化し(CSI 40 Gy+局所線量54.4 Gy),シスプラチン/エトポシド/シクロホスファミド/ビンクリスチンによる化学療法を放射線治療の前後に行うサンドイッチ療法と通常の放射線治療後に行う方法に割り付けるランダム化比較試験が行われた。化学療法スケジュールによるEFS とOS 差は認めなかったが,5 年EFS 68.1±3%,5 年OS 74.6±3%と比較的良好な生存率を得た6)。米国St.Jude 小児病院から化学療法の間隔を開けないために自己末梢血幹細胞救援を併用したシスプラチン,大量シクロホスファミド,ビンクリスチンの3 剤による化学療法を4 回繰り返す方法を,36~39.6 Gy のCSI と局所ブーストの後に行い,5 年EFS 70%,5 年OS 70%と高リスク群では最も良好な生存率を示した7)。
一方,ドイツのHIT2000 試験においては,4 歳以上の高リスク群においても,メトトレキサートの脳室内投与の効果を検証している。メトトレキサートは予定量の75%以上投与した症例で予後改善(EFS 61.5% vs. 46.2%,p=0.004)しており,年長児の高リスク群に対するメトトレキサート脳室内投与の有効性を示した8)。
米国COG では,放射線治療中の併用抗がん剤としてビンクリスチンの他に,放射線増感薬としての効果を期待してカルボプラチンを併用する第Ⅰ/Ⅱ相試験が77 例の転移症例を対象に実施された。少量のカルボプラチンをCSI 36 Gy と局所ブースト照射中に30 日間連続投与するもので,照射後にビンクリスチンとシクロホスファミドによる化学療法を実施した。後半の症例では照射後化学療法にシスプラチンを追加した。全体での5 年EFS71%という良好な生存率を得られたが,シスプラチンの追加は予後の向上をもたらさなかった9)。
高リスク群でも術後に放射線治療前後に化学療法を挟み込むサンドイッチ療法の有用性が検証された。ドイツで行われたHIT’91 試験では,放射線治療(CSI 35.2 Gy,局所55.2 Gy)後にいわゆる標準リスク群におけるPacker レジメン(シスプラチン/CCNU/ビンクリスチン)を投与する方法と,シスプラチン/イホスファミド/メトトレキサート/エトポシド/シタラビンによる多剤併用化学療法を放射線治療前後に行う方法とのランダム化比較試験が行われ,その長期フォローアップデータによると,髄液播種を有する群10 年のOS70%/34%(p=0.02),脊髄転移や遠隔転移を有する群の10 年OS 42%/45%(p=0.99)であり,髄液播種を有する症例に限ると放射線治療後にPacker レジメンを投与した群のほうが良好な生存率であった10,11)。欧州ではさらに,SIOP/UKCCSG によるPNET-3 試験が行われたが,同様に放射線治療前に化学療法行うことの有用性は認められなかった12)。
標準リスク群と同様に高リスク群においても,過分割照射の有用性を検討する臨床試験が行われた。米国CCG9931 試験において,化学療法先行後に過分割照射(CSI 40 Gy+局所線量72 Gy)を行ったが,5 年EFS 43%±5%,5 年OS 52%±5%と生存率の改善は認めなかった13)。
以上をまとめると,高リスク群髄芽腫の術後治療において,初期の研究では放射線単独治療であったが,まったく治癒が得られず,その後,化学療法の併用や過分割照射についてさまざまな工夫がなされてきた。しかし,いかなる化学療法を用いてもCSI 36 Gy では5 年EFS は60~70%までにとどまり,CSI の線量の減量にも成功していない。今後は,さらなる分子生物学的リスク細分化によって,治療の強化が有効な群,CSI 減量などの治療軽減を目指す群,新規治療薬を試す群と,層別化・個別化治療を行って,高リスク群の治療開発を続けていかなくてはならない。このように標準治療は定まっていない中で,第Ⅰ/Ⅱ相試験ではあるが,米国COG のカルボプラチンと放射線の併用療法が毒性も考えると有望な治療法とも考えられる。
これらのアウトカムのエビデンスより,3 歳以上の高リスク群髄芽腫の標準的術後治療は,より高い生存率という益を最優先して治療を選択するという論点より,まだ開発途上の状況ではあるが,36 Gy 程度の全脳脊髄照射と54 Gy 程度の局所照射を術後に行い,その後にシスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした多剤併用化学療法を一定の期間での薬剤投与量(dose intensity)を最大化するなど治療強度を増すことを提案する。
- 注意:
- lomustine(CCNU):国内未承認
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シタラビン(cytarabine):髄芽腫に対しては保険適応外
8 in 1 レジメン:メチルプレドニゾロン,ビンクリスチン,lomustine,プロカルバジン,ハイドロキシウレア(髄芽腫には保険適応外),シスプラチン,シタラビン,シクロホスファミドの8 種類の薬剤を1 日に投与する化学療法
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radio-therapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。CQ6 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの9 文献,EFS アウトカムの13 文献,有害事象・QOL アウトカムの10 文献を採用した。
❖ 文献
- 1)
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- CQ7
- 3 歳未満の群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度2D
- 推奨1
乳幼児の髄芽腫において,転移がなくdesmoplastic nodular/extensive nodularity サブタイプの患者群では,放射線治療を行わず,メトトレキサート(脳室内または髄腔内投与を含む),白金製剤,アルキル化剤,ビンクリスチン,エトポシドを中心とした多剤併用化学療法による術後治療を提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
Desmoplastic nodular/extensive nodularity 以外の組織学的サブタイプおよび転移がある場合は,標準的な後治療は確立されておらず,上記の治療に大量化学療法や局所放射線療法を組み合わせた強化治療を行うことを提案する。
解説
3~4 歳未満の乳幼児の髄芽腫治療において,放射線治療,特に全脳脊髄照射(CSI)の,精神運動発達に及ぼす影響は甚大であり,乳幼児の治療戦略として,CSI は選択肢にはなりにくい。治療選択肢の限界と,腫瘍の持つ治療抵抗性の特性が合わさり,全体として乳幼児の髄芽腫は再発死亡リスクが高いと考えられてきた。しかしながら,病理亜分類および分子生物学的特性から,乳幼児の髄芽腫の中には,放射線治療を行わず,または局所放射線治療のみで,長期生存が可能な一群が存在することが明らかになった。したがって,乳幼児髄芽腫においてもリスク分類を行い,それぞれの群で益と害のバランスを考慮して術後治療の推奨を行う。
1990 年代に米国とフランスで,放射線治療を回避し多剤併用化学療法のみで初期治療を行った臨床試験が行われた。フランスのSFOP では,カルボプラチンおよびプロカルバジン,エトポシドおよびシスプラチン,ビンクリスチン,シクロホスファミドの3 種の化学療法を術後に7 サイクル行う単アーム第Ⅱ相試験が行われた。5 歳未満の79 人が登録され,全体の5 年PFS は残存なし(R0)転移なし(M0)群73%,残存あり(R1)M0 群で41%,残存問わず(Rx)転移あり(M+)群で13%であった1)。また,米国CCG-9921 試験は。3 歳未満のあらゆる悪性脳腫瘍を対象としたランダム化第Ⅱ相試験で,術後に2 つの多剤併用化学療法レジメン,レジメンA:ビンクリスチン,シスプラチン,シクロホスファミド,およびエトポシドの組み合わせ,またはレジメンB:ビンクリスチン,カルボプラチン,イホスファミドおよびエトポシドのいずれかに割り付けられ両群とも5 コースの化学療法が行われた。治療開始前に転移がなく化学療法後に残存腫瘍がなかった患者は放射線治療を行わず治療終了,転移がなく残存があった症例はその時点で生後18カ月以上ならCSI と局所放射線治療,18 カ月未満は局所放射線治療のみを行い治療終了,転移症例はCSI と局所放射線治療を行って治療終了した。髄芽腫92 例の5 年無イベント生存割合(EFS)は32%であった。レジメンA 群とB 群の5 年EFS はそれぞれ37%と26%と有意差は認めなかった2)。
同時期にドイツでは,乳幼児髄芽腫に対して,メトトレキサート脳室内投与を含んだ多剤併用化学療法の単アーム第Ⅱ相臨床試験が行われた(HIT-SKK1992)。43 人の3 歳未満の髄芽腫に,術後カルボプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチン,エトポシドの全身投与に加え,メトトレキサート脳室内投与と大量メトトレキサート療法を加えた9 週間サイクルの化学療法を3 回行った。初期治療で放射線治療は行わなかった。全体の5 年EFS は58%であった。R0M0,R+M0,RxM+群の5 年EFS はそれぞれ,82%,50%,33%であった。既知の転移の有無に加え,乳幼児の髄芽腫の組織学的サブタイプが強力な予後因子であることが本試験で明らかになった。Desmoplastic nodular type とclassic type の5 年EFS はそれぞれ85%と34%と有意差を認め,組織学的サブタイプが独立したリスク因子であった3)。さらに後継レジメンHIT2000 においても同様の結果が確認され,メトトレキサート脳室内投与を予定通り投与できた患者の方が,投与量が少なかった患者よりも予後が良いという結果が報告された4)。メトトレキサート脳室内投与の神経毒性は懸念されるが,HIT2000 で同治療を受けた評価可能な202 例の小児髄芽腫患者中,神経毒性を認めたのは9 例であった4)。
米国COG は,3 歳未満の転移のない乳幼児髄芽腫74 例に対して,化学療法と局所放射線治療を組み合わせる臨床試験(P9934)を行った。シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を4 コース行ったあと,残存腫瘍にはセカンドルック手術を推奨し,局所放射線治療を行い,シクロホスファミド,ビンクリスチン,経口エトポシドによる維持療法を行った。全体の4 年EFS は50%であった。ここでも,desmoplastic nodular type とそれ以外の組織サブタイプでは,4 年EFS がそれぞれ58%,23%と有意差を認めた5)。
国際的な臨床試験Head Start では,乳幼児の悪性脳腫瘍に対して,放射線治療を行わず自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を試みてきた。3 歳未満の転移のない髄芽腫21 例に対して,シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を5 コース行った後,セカンドルック手術を推奨し,チオテパ,カルボプラチン,エトポシドによる自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を行った。全体の5 年EFS は52%であった。R0 とdesmoplastic nodular type は予後良好の傾向を認めた6)。また米国のCCG-99703 パイロット試験では,髄芽腫を含む複数の3 歳未満の乳児脳腫瘍を対象に,シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を3コース行った後,チオテパ,カルボプラチンによる自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を地固め療法として3 コース行う治療法の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験が行われた。チオテパの投与量はさまざまであり,副次的評価項目ではあるが,36 例の髄芽腫の5 年EFS は60%であった。病理中央診断できた32 例中14 例がdesmoplastic/nodular type であり,その5 年EFS は79%であった7)。
米国St. Jude 小児病院と米国と豪州合計6 施設で行われた,3 歳未満の髄芽腫を,M0 のdesmoplastic nodular type を低リスク,M0 のその他の組織型の髄芽腫を中間リスク,M+を高リスクと分類した。寛解導入化学療法は大量メトトレキサート療法,ビンクリスチン,シクロホスファミド(高リスクのみビンブラスチン追加)を4 コース行った。強化療法として,低リスクは放射線治療を省略し,追加のカルボプラチン,シクロホスファミド,エトポシドを2 コース行った。中間リスクは54 Gy の局所放射線治療を行い,高リスクはトポテカンとシクロホスファミドを2 コースまたは3 歳を超えてのCSI を行った。その後,シクロホスファミド,トポテカン,エルロチニブによる内服維持療法を6 サイクル(24 週間)行った。低リスク群は,23 例が試験治療を行ったが,中間解析結果では,1 年EFS が78.3%と低く登録中止となり,5 年EFS は55.3%であった。中間リスクは16 例が試験治療を行い,5 年EFS は24.6%であった。高リスクは26 例が試験治療を行い,5 年EFS が16.7%であった8)。
これらのエビデンスより,RT による発達や認知機能への影響という害がより大きくなる乳幼児の髄芽腫において,転移がなくdesmoplastic nodular/extensive nodularity サブタイプの患者群では,放射線治療を行わず,メトトレキサート髄腔内投与を含む,白金製剤,アルキル化剤,ビンクリスチン,エトポシドを中心とした多剤併用化学療法による術後治療を提案する。一方,それ以外の組織学的サブタイプおよび転移がある場合は,標準的な後治療は確立されておらず,上記の治療に大量化学療法や局所放射線療法を組み合わせた強化治療を行うことを提案する。
- 注意:
- カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
イリノテカン(irrinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
エルロチニブ(erlotinib):髄芽腫に対しては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radiotherapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。乳幼児髄芽腫の臨床試験は対象年齢の上限が,試験によって異なり,3 歳未満から5 歳未満と幅があるが,希少疾患で臨床試験報告論文の数が限られるため,CQ7 のシステマティックレビューでは5 歳未満までを含めた。CQ7 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの8 文献,EFS アウトカムの8 文献,有害事象・QOL アウトカムの7 文献を採用した。
❖ 文献
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課題6:再発時の治療
- CQ8
- 局所再発時の適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨1
髄芽腫の局所再発に対し,腫瘍の進行の抑制と生命予後の改善を期待し,化学療法を実施することを提案する。
- 推奨度2D
- 推奨2
髄芽腫の局所再発に対し,摘出が安全に行いうる場合や摘出により症状の改善が期待できる場合等に,外科治療を提案する。
- 推奨度2D
- 推奨3
放射線治療は初期治療で放射線を使用しなかったか減量されている場合等に,個々の状況に応じて緩和的にまたは根治的に実施することを提案する。
解説
初発髄芽腫の治療成績は,外科治療と化学療法および放射線療法の組み合わせにより,標準リスク群で5 年無イベント生存割合(EFS)70~80%程度,また高リスク群では35~70%程度,乳児症例における5 年無病生存割合(DFS)30~50%程度で,治療法の改良により初回治療後の寛解期間は延長してきている1-11)。これに対し再発髄芽腫に対する標準的な治療法は確立されておらず,その長期生存率は不良であることから,再発髄芽腫に対する治療は臨床上重要な課題である。
報告されている再発治療の有効性については,10 年生存率で見た場合に多剤化学療法で24%,放射線治療で45%(標準リスク群)といったデータが参考になる1,12)。また,再発形式として後頭蓋窩局所再発はむしろ少なく,HIT-91 の再発40 例では播種性再発が32 例(80%)となっている13)。播種性再発や高リスク群での再発,外科切除不能例,放射線治療施行後の再発症例では,再発後の治療を強く支持する研究データは得られていない。しかしながら再発後の無治療で経過観察された場合には,生命にかかわる急速な症状悪化を招きかねず,再発病変に対する治療に対する患者や家族の希望は強いため,緩和医療も含めた包括的な治療計画が望まれる。
再発治療において,過去に報告された医学データを利用するにあたり,試験の対象(髄芽腫のみか他の腫瘍型が含まれているか),リスク分類,再発形式(局所再発または播種性再発),初回化学療法や放射線治療の違い等に着目した。本ガイドラインでレビューの対象とした441 文献の中で,化学療法に関する介入研究は12 文献のみであった14-25)。このうち,10 文献が単アーム試験,2 文献がそれぞれ異なる薬剤の比較であり,プラセボを対象とした比較試験は行われていない。さらに,対象症例については,3 文献が髄芽腫のみ,9 文献は原始神経外胚葉腫瘍(primitive neuroectodermal tumor:PNET)をはじめとした他の小児脳腫瘍型を含み,検討の対象となる症例数は極めて限られていた。また,治療においては,多くの試験で化学療法に加えて放射線治療や外科治療が併用され,治療介入の方法は不均一であった。さらに,初回治療において放射線治療が行われている場合とそうでない場合では,再発時の治療法や予後に違いがみられることが想定される。このように,均質で十分な医学データが得られてないことを考慮したうえで,腫瘍の制御率ならびにOS の延長を重視した解析を行った。また,髄芽腫の局所再発に対する外科治療や放射線治療に関しては,前方視的臨床試験の報告がなく,特定の条件下での治療について強い推奨をもたらすものではない。そのため本CQ では,上記介入研究12 文献以外にも,診療上参考になる文献について記載することとした。
髄芽腫の局所再発に対する単剤化学療法については,高用量チオテパ,テモゾロミド,パクリタキセルといった薬剤の有効性が2 つの試験で報告されている14,25)。これら2 試験の対象となった症例の約9 割が初回治療で放射線治療を併用していた。Osorio らは,再発髄芽腫26 例に対し高用量チオテパ(200 mg/m2/day)を3 日間投与したのちに自家造血幹細胞移植を行い,4 週間以降に再投与する治療法で,5 例に45 カ月以上の生存を確認,OS 中央値11.7 カ月であったと報告している25)。この試験は髄芽腫以外の複数の異なる腫瘍型の再発も対象として含まれており,全体の治療関連死は3.4%にみられた。Cefalo らの報告では,初回治療で大量化学療法や全脳脊髄照射(CSI)が行われているか否かによりテモゾロミド150・180・200 mg/m2/day の3 種類の投与量を設定し,28 日ごとに5 日間経口投与した14)。37 例(脊髄播種病変あり7 例,遠隔転移あり30 例)のresponse rate は42.5%,6 カ月PFS 30%,12 カ月PFS 7.5%であり,PNET 5 例を含めた解析で1 年OS は41.2%,治療関連死はなく,グレード3~4 の血液毒性が2 割の患者に認められた。またHurwitz らの髄芽腫再発16 例に対するパクリタキセルの報告によれば,350 mg/m2/day を3 週間ごとに投与する方法で,CR 1 例,SD 6 例,PD 9 例であり,無増悪生存期間(PFS)は2.9 カ月であった19)。この試験は複数の異なる腫瘍型の再発を対象とし,全体の有害事象はグレード3 のアレルギー反応1 例と敗血症7 例のほか,治療関連死1 例,脳幹圧迫ある髄芽腫で痙攣後の死亡が1 例みられた。
多剤化学療法についてDunkel らは,25 例の再発髄芽腫に対する自家造血幹細胞移植を併用したカルボプラチン,チオテパ,エトポシドの大量化学療法レジメンを報告した17)。カルボプラチンは造血幹細胞移植の8 日前から500 mg/m2で開始し,3 日間使用したのち,チオテパ300 mg/m2/day およびエトポシド250 mg/m2/day が投与された。この治療での成績は10 年EFS 24%,10 年OS 24%,OS 中央値が26.8 カ月,6 例は151.2 カ月(中央値)増悪なく生存した。治療関連死は3 例(14%)であった。またDupuis-Girod らは,CSI を回避した初回治療時3 歳未満の髄芽腫再発20 例に対するブスルファンとチオテパのレジメンを報告した22)。ブスルファンを150 mg/m2/day で4 日間経口投与したのちチオテパ300 mg/m2/day を3 日間使用して自家造血幹細胞移植を行った。外科治療を追加した4 例を除く16 例の解析で(後頭蓋窩局所再発9,脊髄再発および髄液播種3,両方を認めるもの4),CR が4 例(25%)認められ,RR は75%と良好な結果が示されており,治療関連死を1 例認めた。この試験では幹細胞移植後36 例において放射線治療が併用されている。イリノテカンについては,髄芽腫再発9 例に対するベバシズマブとの併用治療について後方視的研究で,PFS 11 カ月,OS 13 カ月,6 カ月時点でのPR 3 例,CR 1 例と報告されている26)。イリノテカンはテモゾロミドとの併用療法での第Ⅱ相試験も報告されているが,66 例の再発例に対しCR2,PR13,生存期間中央値16.7 カ月であり,期待された結果は得られていない27)。
Müller らはHIT-REZ 試験において,初回治療として外科的摘出と化学療法のみ行い,放射線治療を回避した乳幼児17 例に対して,完全寛解後初回再発時の治療としてCSI および局所放射線治療を行った結果を報告している28)。CSI は35.2 Gy(23.4~40.0 Gy)および後頭蓋窩ブースト55.0 Gy で行われ,カルボプラチンやエトポシドを使った化学療法が併用された。17 例の治療成績はPFS 2.9±1.1 年,OS 3.8±0.8 年,5 年PFS 40%,5 年OS 39%であった。6 例の局所再発,11 例の遠隔再発(髄液細胞診陽性1 例,脊髄病変あり3例,遠隔転移あり3 例,脊髄病変と遠隔転移あり3 例)の治療成績は局所再発例と遠隔転移例それぞれ3 年PFS 67%±19%および36%±15%(log-rank,p=0.948),3 年OS 67%±19%および55%±15%(log-rank,p=0.914)であり,有意差は認められていない。この報告では,大量化学療法やメトトレキサート髄注療法もCSI と併用または前後して行われていていることから,放射線治療単独の効果を示すものではないが,初回治療で放射線治療を回避した乳幼児髄芽腫の初回再発に対し,放射線治療の効果を示唆するデータとして重要である。
初回治療で放射線を併用した再発髄芽腫症例については,Bakst らが13 例の初期治療で放射線治療を行っている髄芽腫再照射治療を報告している29)。再照射の内訳は後頭蓋窩46%,テント上・全脳31%,脊髄23%,全脳全脊髄8%であり,外科治療や化学療法が併用されている。治療は局所分割照射とIMRT がほぼ同数で行われ,CSI 18 Gy およびブースト12 Gy が使用された。照射後の急性期障害は認めず,観察期間内(中央値30 カ月)に無症候性の放射線壊死が1 例認められた。治療成績は5 年DFS 48%,5 年OS 65%と一定の治療効果が得られた。この研究では,異なる照射部位に対し局所または拡大照射が行われており,再発形式について詳細な記載はないため再発腫瘍全般での再照射治療の効果については結論できない。しかしながら,局所再発や限局的な遠隔再発に対し再照射治療を行う場合には参考となる報告である。
Wetmore らは,初回治療で手術および化学放射線治療を行った再発髄芽腫38 例中14 例に再照射を行った結果,5 年OS 55%±14%(vs. 33%±16%)および10 年OS 46%±14%(vs. 0%)ともに,非照射例に対し有意に生存期間が上回ったと報告した(p=0.036)12)。CSI 36 Gy(総線量18~54 Gy/1 日線量1.5~2 Gy)と局所照射が併用され,総線量の中央値は91.9 Gy(73.8~109.8 Gy)であった。再照射14 例の放射線壊死は9/14 例(64%)であったのに対し,非照射例では7/24 例(29%)と有意な増加を認めたが(p=0.0468),無症候性であったため追加の治療は行われていない。標準リスク11 例および高リスク4 例の生存期間はそれぞれ5.39 年と4.94 年であった。初回治療から10 年生存した割合は標準リスク群45%,高リスク群0%であり,再治療でのリスクを考慮したうえで,特に標準リスク群では再発に対しては再照射の有効性が期待できる結果である。
髄芽腫の局所再発に対する外科治療についてOS 延長を直接証明した報告はなく,評価も一定していない。Sabel らは標準リスク群の髄芽腫を対象としたHIT-SIOP PNET4 試験の初回再発72 例の解析を行っている30)。うち18 例(25%)に外科的切除が行われ,その再発部位の内訳は後頭蓋窩単発6 例,脊髄またはテント上5 例,脳脊髄多発7 例であった。再発72 例全体の3 年OS および5 年OS はそれぞれ20±5%,6.0±4%であり,外科的切除(p<0.01)ならびに後頭蓋窩局所再発(p<0.01)はともに独立した予後因子であった。局所再発の外科治療については,侵襲性や化学療法・放射線治療の成績も考慮したうえで,摘出が安全に行える場合,摘出により症状の改善が期待できる場合など個々の症例の状況に応じた適応判定を行うべきである。
以上のことから,髄芽腫の局所再発に対して化学療法の効果が一部示されており,症例の状況に応じて放射線治療の併用を考慮できる。また,大量化学療法における治療関連死,放射線治療における晩期障害について注意する必要がある。小児患者の尊厳を含めた倫理的判断に基づき,治療によるリスクや侵襲性を十分に考慮した包括的な適応判断がなされることが望ましい。
- 注意:
- チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
テモゾロミド(temozolomide):髄芽腫に対しては保険適応外,ユーイング肉腫に対してイリノテカンとの併用で保険承認
パクリタキセル(paclitaxecel):髄芽腫,小児固形腫瘍に対しては保険適応外
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
ブスルファン(busulfan):髄芽腫に対しては保険適応外,ユーイング肉腫ファミリー腫瘍及び神経芽細胞腫における自家造血幹細胞移植の前治療としては保険承認適応
イリノテカン(irrinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
ベバシズマブ(bevacizumab):髄芽腫,小児固形腫瘍に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫,小児悪性腫瘍対しては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab]))))AND(((((((Neoplasm Recurrence,Local[mh]OR Neoplasm, Residual[mh]OR Neoplasm Seeding[mh]OR Recurrence [mh])))OR(((Local[tiab]OR Locoregional[tiab])AND(Neoplasm Recurrence[tiab]OR Neoplasm Recurrences[tiab]))))OR(((minimal[tiab]and residual[tiab]and(disease[tiab]OR diseases[tiab]))OR(residual[tiab]AND(neoplasm[tiab]OR neoplasms[tiab])))))OR((neoplasm[tiab]and seeding*[tiab])))OR((Recurrences[tiab]OR Recrudescence[tiab]OR Recrudescences[tiab]OR Relapse[tiab]OR Relapses[tiab]OR Regrowth[tiab])))))AND((“Epidemiologic Study Characteristics”[Mesh]OR “Statistics as Topic”[Mesh]OR “Clinical Study”[Publication Type]))))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により検索された441 文献のなかから介入研究12 文献を抽出して内容を確認し,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
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- CQ9
- 播種再発に対する適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨
寛解を目的とした治療を目指すが,治療反応性が不良の場合は,緩和的治療も提案される。
解説
髄芽腫において再発の場合は局所再発と播種再発が認められるが,MRI を撮影する時期がずれれば,必ずしも正確な鑑別ができない場合がある。原発巣近傍の再発が認められ,なおかつ播種も認められる場合は,原発巣の再発から播種したのではないかという可能性もあるが,原発巣近傍に局所再発が認められずに播種再発だけ認められた場合は,初回治療の早い時期にすでに播種しており,後療法抵抗性の腫瘍細胞が播種していた場所で残存し,再発したと予想される。Hsieh ら1)は,髄芽腫12 例の脊髄播種症例を術前,術後1 カ月以内で,放射線治療や化学療法以前に認められた播種症例をearly metastasis 群(9 例),放射線治療や化学療法を含むすべての初期治療終了後に播種再発した症例をlate metastasis 群(3 例)に分けて解析しているが,early metastasis 群が統計学的に有意に予後良好(p=0.0047, log-rank test)という結果であった。Late metastasis 群が予後不良の理由としては,late metastasis としての播種再発は,初期治療抵抗性の腫瘍細胞の残存が再発の起源になっている可能性が高いと考えられる。髄芽腫の播種再発は局所再発に比べて予後不良かという問題に関しては,Bowers ら2)が,治療後の再発形式で予後を比較している。彼らは41 例の髄芽腫再発症例において,21 例の原発巣の部位だけの再発群と20 例の局所再発群と播種を伴う再発群の生存予後を比較している。手術,化学療法,放射線療法と再発後の治療はばらつきがあるものの,彼らの解析では,初期治療にてBaby POG protocol(POG infant brain tumor regimen/シクロホスファミド,ビンクリスチン,シスプラチン,エトポシド)を受けているかどうか(p=0.030,log-rank test),再発時に播種なく原発巣だけの局所再発だけかどうか(p=0.008,log-rank test),再発時には放射線治療を加えているかどうか(p=0.015,log-rank test)ということが有意に生存を延長させる因子であったが,多変量解析の結果では,原発巣の場所における局所再発(21 例)という因子だけが,播種を伴う症例(20 例)に比べて明らかに生存が延長しており(p=0.03),独立した予後良好因子であった。さらに,局所再発と播種再発を生物学的に異なるものとして区別すべきかという問題はあるが,近年髄芽腫の分子生物学的分類が提唱されて後,Ramaswamy ら3)は3 つのコホート研究を集計した。髄芽腫分子生物学的分類4 型のそれぞれの再発形式では,Sonic Hedghoc(SHH)型は他の型に比べて局所再発が多く,播種再発が少ないという結果であった。局所再発と播種の両方もあるMixed な再発形式もSHH 型は少ないことから,生物学的に他のグループより局所に再発しやすい,もしくは播種しにくいということは言えるかもしれない。しかしWNT 型は再発が少なくてこの研究では解析されていない。
髄芽腫の再発治療においては,一般的に局所再発だけであれば手術という選択肢も可能な場合があるが,播種を伴う再発であればほとんど外科的介入はなく,他の治療に委ねられる場合が多い。初期治療として放射線治療を行っている場合,salvage therapy としての再照射を行う可能性は存在するものの4,5),全例に施行可能とは言いがたく,一般的ではない。Bakst ら5)は初期治療にて放射線照射を行っている髄芽腫症例に対して再発時に再照射を行った13 例を検討している。再照射の中央線量は30 Gy,1 回線量中央値は1.5 Gy であり,54%の症例において強度変調放射線治療が使用されていた。13 例の5 年PFS は48%,5 年OS は65%であり,放射線障害による急性期障害,急死や,二次がんは観察期間中には認められておらず,放射線壊死が1 例,38%に聴力障害,15%に下垂体機能不全,1 例に認知機能障害の有害事象が認められたと報告している。しかし,この治療成績は放射線治療単独ではなく,再発時の手術や化学療法と併用しており,また,局所再発と播種再発の治療成績を区別していないために,播種再発で放射線治療の再照射の有用性を正確には評価できない。現時点では,播種再発症例において初期治療で放射線照射を施行していない場合では,積極的に再発時放射線照射ということが選択肢になるが,すでに放射線治療を行っている症例の再発時の再照射は再発腫瘍のコントロール,有害事象の面からも積極的に推奨できないと思われる。
再発時の化学療法においては一般的な化学療法に加えて,末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法などのintensive な治療の報告も多数ある6-9)。しかしながら,レジメンとして統一したものではなく,主にカルボプラチン,エトポシド,チオテパ,シクロホスファミド,メルファラン,carmustine(BCNU),lomustine(CCNU)など使用されている場合が多い。Gilman ら6)は18 例の再発髄芽腫の患者に対して連続した大量化学療法(First cycle:チオテパ600~750 mg,BCNU 300~450 mg,Second cycle:チオテパ600~750 mg,カルボプラチン1,200 mg)による治療を行っているが,局所再発と播種再発の治療成績の区別はない。しかし,18 例中15 例が播種再発であり,播種再発の割合が高い報告である。末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法の予後不良因子として一般的に播種再発があるといわれているが,彼らは必ずしも播種再発が予後不良因子とは結論づけておらず,播種再発例における生存率は,33%(15 例中5 例,観察期間54~135 カ月)という治療成績であった。8 例において何らかの治療関連死亡が認められており,比較的高頻度な有害事象と思われる。いくつかの報告をまとめても,現時点で有害事象も併せて考え,播種再発において必ずしも末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法が必須とは言い難い。さらに大量化学療法の中でも最も優れたレジメンを同定しがたく,また,欧米と本邦では保険制度等の違いから使用できる薬剤が異なっており,今後本邦での臨床研究を通じた使用薬剤の適応拡大が待望されている。Kim ら10)は5 種類の通常量の化学療法剤を使用したsalvage therapy として7 例の脊髄播種症例を含む再発小児悪性腫瘍に対する化学療法の有効性を検討している。イリノテカン300 mg/m2,ビンクリスチン2 mg/m2,シスプラチン60 mg/m2,シクロホスファミド1,000 mg/m2,エトポシド100 mg/m2の薬剤を使用しているが,大量化学療法より副作用は軽微であり,3 例がCR,2 例がPR という比較的良好な治療反応性を認めている。しかし6 例がPD であり,この結果からはいかに多くの薬剤を使用した多剤併用化学療法を行っても通常の量では,播種再発の髄芽腫をコントロールすることは困難であるとの印象である。
21 例の播種再発髄芽腫に対して,Yoshimura ら11)は6~7 mg/m2のニムスチンの髄腔内灌流もしくは3~3.5 mg/m2の髄腔内投与を行っている。約50%の症例において反応が認められ,21 例中7 例がCR となり,比較的長期の生存を獲得している。播種確認後の5 年生存率は46.4%であり,彼らは播種が存在する髄芽腫患者の治療法において化学療法剤の髄腔内投与の有効性を示している。この治療法による副作用として灌流療法による副作用はほとんどみられていない一方,髄腔内投与(Bolus injection)に関しては脊髄炎が認められた症例があり,頻回の投与と局所的に薬剤が高濃度になることは避けるべきと言及している。現在,髄芽腫の初期治療において,予防的,あるいは腫瘍縮小を目的としてメトトレキサートの髄腔内投与を行うことも多いが,播種再発に化学療法剤の髄腔内投与が有効な治療かどうかは報告が少なく,現時点ではその有効性は判断できない。播種再発の症例において治癒を目指してさまざまな治療を行ったとしても,現存の治療では有効性があるとは言い難いとも報告されている。Massimino ら4)は播種再発が認められた髄芽腫症例にシスプラチンとエトポシドを用いた標準的化学療法(6 例),もしくはエトポシド,シクロホスファミド,ビンクリスチン,カルボプラチン,チオテパなどを用いた大量化学療法(10 例)を施行し,さらに7 例は全脳脊髄照射(CSI),3 例は局所照射を行うというintensive な治療を行った。DFS 中央値は16 カ月,OS 中央値は41 カ月,3 年DFS が19%,3 年OSが56%という治療成績であり,観察期間での生存例は1 例のみであった。これらの結果を鑑み,彼らは別の報告で髄芽腫の再発症例に対しできるだけ短い入院期間を目指し,QOL を重視した再発の治療を推奨している12)。彼らは18 例の再発の髄芽腫患者の治療後,17 例に再再発が認められ,16 例は播種病変を確認されている。3 回目の再発10 例中9 例が播種再発であり,全例に化学療法が施行されているが,手術や放射線治療が行われたものはない。本報告の再発症例全例の入院期間は4 日から129 日(平均19 日)であり,治療による有害事象がなかったと報告している。治療成績においては,8 例の再発髄芽腫の症例の平均DFS は7 カ月,平均OS も7 カ月であり,最終的には全例死亡している。以上より,播種再発は局所再発と比較してやはり予後不良であると考えるべきである。
髄芽腫の播種再発に対しては,現存の治療にて治癒できる症例は稀と言わざるを得ない。対象が小児であるがゆえに積極的な治療を行うべきと考える一方で,QOL を保ちながら緩和的な治療を導入することも重要であると考えられる。
- 注意:
- シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫,小児悪性固形腫瘍には保険適応外
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
メルファラン(melphalan):小児固形腫瘍の造血幹細胞移植時の前処置として保険適応
carmustine(BCNU):国内未承認
lomustine(CCNU):国内未承認
イリノテカン(irinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫,小児悪性腫瘍対しては保険適応外
ニムスチン(nimustine:ACNU):脳腫瘍に対する自覚的ならびに他覚的症状の緩和として静脈内投与は保険適応,髄腔内投与薬としては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])AND(Neoplasm Recurrence, Dissemination[Mesh]OR Neoplasm Seeding[Mesh]))OR((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])AND(Multiple Recurrence[Mesh]OR Dissemination[Mesh]))OR((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])OR(Neoplasm Recurrence[Mesh]OR Neoplasm Recurrences[tiab]OR Recurrences[tiab]OR Relapse[tiab]OR Relapses[tiab]OR Regrowth[tiab])))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により抽出された641 文献のなかから,できるだけ播種再発を多く含む症例の24 文献を抽出し,システマティックレビューを行い,構造化抄録を作成した。さらにその中で局所再発でも同様な治療を行うもの,また症例数が少ないものなどを排除し,最終的に12 文献を取り上げて,解説文を作成した。
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- 9)
- Gururangan S, Krauser J, Watral MA, et al. Efficacy of high-dose chemotherapy or standard salvage therapy in patients with recurrent medulloblastoma. Neuro Oncol. 2008;10(5):745-51.[PMID:18755919]
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課題7:治療による晩期障害
- CQ10
- 髄芽腫に特徴的な晩期障害とそれをきたしやすい背景因子は何か?
- 推奨度1B
- 推奨1
無言症/後頭蓋窩症候群では学習機能が低下するので特に注意して経過を見ることを推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
髄芽腫治療後に経時的に認知機能障害は進行し,特に高リスク群と低年齢(7 歳以下)でその傾向が強いので特に注意して経過を見ることを推奨する。
解説
髄芽腫治療の進歩によって長期生存が得られるようになると,さまざまな晩期障害が認められるようになった。小児がん患者全体を対象とした長期生存者に対する長期フォローアップの指標はいくつか発表されており,例えば海外のものではCOG のガイドライン(http://www.survivorshipguidelines.org)があり,国内でも日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group:JCCG)の小児がん長期フォローアップガイドがある。また,妊孕性に関しては日本癌治療学会のガイドライン(http://www.jsco-cpg.jp/fertility/)がある。髄芽腫治療後のフォローアップの指標としても参考となる。
今回はあくまで髄芽腫の治療による晩期障害に焦点をあてて推奨を作成した。晩期障害からみて,髄芽腫のフォローアップで特に注意すべき場合がどのような症例かを検討した。晩期障害に関する文献は,髄芽腫以外の小児脳腫瘍も含むものが多く,ほとんどが後方視的な検討であり,それらは参考として,本推奨は髄芽腫の治療による晩期障害の前方視的コホート研究を中心にまとめた。
1990 年代のPOG8631 の知的予後に関する報告1)は3 歳以上の髄芽腫で残存腫瘍が1.5 cm2未満の22 例において,全脳脊髄の照射量36 Gy/23.4 Gy と8.85 歳を基準としたyounger/older で4 群に分類し,IQ を比較したものである。症例数も少なくそれぞれの群間で有意差は出ておらず,また縦断的研究ではなく,ワンポイントでの評価ではある。いずれの群でも単にFull scale IQ が低下していることは示しているが,その原因が何であるのかには言及していない。この研究では評価方法としてはWISK ⅢもしくはWAIS-R をIQ の評価として用いており,学習能力評価としてWide Range Achievement Test Ⅲを用いている。
これ以降の論文でも,主にIQ の評価はWISK Ⅲ or ⅣとWAIS-R が用いられるが,そもそも髄芽腫患者の場合小脳失調症状を後遺することが多く,それがFull scale IQ の低下に影響している可能性も考える必要がある。したがって,純粋な認知機能低下の進行を捉えるためには,前方視的に縦断的に調査しIQ でもどの要素が変化していくのかを評価することが必要である。
2000 年代のCCG9892 の知的予後に関する結果2)は,3~15 歳で播種のない(標準リスク群)43 例で全脳脊髄照射(CSI)23.4 Gy+ブースト照射32.4 Gy,ビンクリスチン/lomustine(CCNU)/シスプラチンで治療した結果を,放射線治療後を起点に4 年後まで経時的に調査した結果である。評価方法は,WISK-R/WISC-Ⅲ/WPPSI-R/SB4/McCarthy とさまざまである。ここではFull Scale IQ が経時的に低下する(4.3/年)ことを示す一方で,男女差(女子の方がVerbal IQ 低下が大きい),診断時の年齢による差(7 歳未満では低下するが7 歳以上では低下しない),Baseline IQ での差(IQ>100 では低下の程度が大きい)などを示している。
2000 年代のもう一つの論文はSJMB96 に登録された症例のうち111 例での検討である3)。最大6 年(平均3.14 年)の経時的な認知機能評価を受けた。高リスク群(CSI:36~39.6 Gy)/標準リスク群(CSI:23.4 Gy)と診断時の年齢(7 歳以上/7 歳未満)で4 群に分類された。化学療法は4 サイクルの大量化学療法(シクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチン)が行われた。認知機能評価の初回は手術摘出後(登録時)で,その後1,2,5 年の段階で評価した。多変量解析の結果全体ではmean IQ(-1.59/y,p=.006),読み(-2.95/y,p<.0001),書き(-2.94/y,p<.0001),算数(-1.87/y,p=.003)とも低下したが,群間比較ではmean IQ は高リスク群では低下したが(-3.00/y,p=.004),標準リスクでは低下していなかった(-0.99/y,p=.13)(ただし2 群間に有意差はない)。また同様にmean IQ は7 歳未満群では低下したが(-3.05/y,p=.0005),7 歳以上群では低下しなかった(-0.61/y,p=.37)(2 群間に有意差あり)。治療線量より治療時年齢の方がIQ 低下の要素として強いと示された。ただし研究全体の規模からすると評価を受けた登録例は少なく,評価方法に関しても年齢によってさまざまであった。
2010 年代になるといくつかの前方視的コホート研究が発表されている。
1 つ目はCOG A9961 の標準リスク群に対する放射線治療(CSI 23.4 Gy/ブースト照射32.4 Gy)と大量化学療法(CCNU/シスプラチン/ビンクリスチン,またはシクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチン)後の知的・学業予後に関する報告4)である。登録全体379 例中110 例について5 年以上の経過で評価した。Baseline の評価は放射線治療から9 カ月以内に施行された。評価方法は,IQ に関してはWPPSI-R/WISC-Ⅲ/WAIS-R/WAIS-Ⅲを用い,学習能力評価にはWide Range Achievement Test Ⅲなどが用いられた。全症例をまとめたデータでFull Scale IQ は5 年間にわたり年間1.9 ポイント低下した。IQ および学習能力の低下は,男女差はなく,無言症の有無でFull Scale IQ とPerformance IQ およびReading で有意差があった。Baseline IQ の方が高い(IQ>100)方がFull Scale IQ 低下の程度が有意に大きく,診断時7 歳以上と7 歳以下では7 歳以下の症例のPerformance IQ 低下率が有意に高く,摘出率では全摘群の方が低下率は高いが有意差はなかった。
無言症の有無での評価はSJMB03 に登録された327 例中,後頭蓋窩症候群(主には無言症)を呈した36 例についての前方視的試験報告5)がある。SJMB03 治療は播種と脳幹浸潤がない例で,肉眼的全摘出された群を標準リスク群としてそれ以外を高リスク群とし,標準リスク群にはCSI 23.4 Gy,高リスク群にはCSI 36~39.6 Gy で局所55.8 Gy の放射線治療を行っている。放射線照射治療6 週後から,4 サイクルの高用量のシクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチンからなる化学療法を施行した。同じ試験の登録例で後頭蓋窩症候群を呈さなかった例で年齢・人種・リスク分類・手術・性別を一致させた36 例を対照として,神経心理学的評価を経時的に1,3,5 年後に,知的能力の他に遂行速度,注意力,ワーキングメモリー,空間認知機能などさまざまな視点で評価した。後頭蓋窩症候群の有無によりbaseline からこれらの能力に差があるが,対照群が5 年間で不変なのに対し,後頭蓋窩症候群は不変もしくは低下しており有意差がみられた。この2 つの報告を合わせて評価シートを作成すると,後頭蓋窩症候群がある群とない群ではQOL や高次機能においてbaseline でも差があり5 年後さらに差が広がる,というエビデンスが示された。
遂行速度,注意力,ワーキングメモリーなどについて前方視的で縦断的に検討した報告6)もある。これは上記のSJMB03 の登録(この時点ではまだ318 例)から後頭蓋窩症候群を除き,その他の不適格例を除いた126 例の検討である。Baseline の機能の評価は手術後(登録直後)に行い,1,3,5 年後と経時的に前方視的試験で行われた。評価はWoodcock-Johnson Tests of Cognitive Abilities Third Edition, Woodcock-Johnson Tests of Achievement Third Edition を用いた。遂行能力はbaseline から低下しており,経時的変化は低年齢,高リスク群,baseline score が高い場合により低下する傾向にあった。計算式で推定すると,標準リスク群では診断時年齢6 歳では軽度低下がみられたが,10 歳では変化なく,14 歳では上昇・改善し,一方高リスク群では6 歳,10 歳では著明に低下したが,14 歳では低下がみられなかった。Baseline での遂行能力の低下は小脳失調を避けがたい疾患特異性の影響が考えられる。ワーキングメモリーや注意力はbaseline での低下はなく,経時的変化については高リスク群,baseline score が高い場合により低下する傾向にあった。
ここまで記載したものは北米からの報告だが,欧州からはHIT-SIOP PNET4 phase 3 European RCT の報告がある7)。標準リスク群の髄芽腫患者を過分割照射群(過分割群:1 日2 回1 Gy 照射,CSI 36 Gy,後頭蓋窩60 Gy)と標準分割照射群(標準分割群:1 日1.8 Gy 週5 日照射,CSI 23.4 Gy,後頭蓋窩54 Gy)にランダム化を行い,照射中のビンクリスチンと8 サイクルのCCNU/シスプラチン/ビンクリスチンを行った。認知機能については9 カ月寛解状態を得た137 例(過分割群71/107 例,標準分割群66/109 例)で平均3 年の経過で評価を行った。評価法はWISC を基本に各国によって評価法を選択した。年齢についても8 歳以上と以下で比較した。結果としてこの研究では治療法や年齢による有意な差は認められず,全体的にも経時的なIQ の低下はみられていない。北米の結果と異なり,IQ の低下を認めなかった理由として観察期間が短いことが影響している可能性はある。
陽子線治療によるQOL の変化を前方視的に観察したマサチューセッツ総合病院からの報告8)がある。評価法としてこれまでの報告と異なりPedsQL version4.0を用いており,self-report ができる年齢層が対象となった。2002~2015 年の登録例161 例中116 例で,平均5 年間の経過で評価を行った。この症例群には8 歳以上も以下もいて,標準リスクと高リスクもあり,また播種や後頭蓋窩症候群のある例ない例も含まれており,かなり雑多な集団である。評価はTCS(total core score)で行われるが,当初TCS が低かった児でも徐々に改善するが,最終的に健常小児と比較すると低い値であった。評価法として興味は惹かれるが,陽子線の影響を真に評価をするまでには至らない。
以上をまとめると,髄芽腫に対する治療によるIQ の低下は認めないという報告もある一方,北米での前方視的試験の結果からは,無言症/後頭蓋窩症候群のある場合は認知機能(特に学習)に関して低下する,ということが言える。また,髄芽腫の治療後5 年の経過で経時的にIQ が低下するが,高リスク群でその傾向が強い。ただしこれが,疾患によるものなのか,治療(特に放射線照射線量)の差によるものなのかはわからない。また低年齢(7 歳以下)では低下の程度が強いことも示唆された。問題は,経過観察は長くても10 年程度で,平均では5 年に満たない場合が多い点で,晩期合併症に対する真の評価としては,より長期の結果が望まれる。そのようなデータは前方視的コホート研究ではまだ存在せず,後方視的のデータしかなく,したがって,さまざまなバイアスを有しており正確な評価とならない。
代表的な後方視的検討結果報告としてChildhood Cancer Survivor Study からの報告9,10)を参考として紹介する。2017 年のものは1970~1986 年に診断され5 年以上生存した380 例についてその同胞と比較した研究で,聴力低下,脳卒中頻度,けいれん,平衡機能低下,白内障の頻度が高く,学習,結婚,自立した生活などでも差がみられた。2019 年のものは1970~1999 年に診断され5 年以上生存していた髄芽腫患者の晩期のmorbidity/mortality に関する報告である。これによると5 年経過後も死亡する例はあり,再発によるものも,それ以外の原因もある。これらを除いた997 例の生存者で後方視的にみた場合,年を追って重篤な合併症を持つ頻度が増している。また,これは1970 年代に治療した群と1990 年代に治療した群で比較すると後者で有意にその頻度が高い。特に聴力障害や心血管系のリスクが高い。治療別にみると,高リスク群で治療を行った場合に頻度が高い。ただし,内分泌障害や神経学的な障害の頻度は決して高くない。これらの報告はあくまで後方視的に長期間の治療例を評価したもので,背景因子が異なり合併症の頻度に何が影響したのかはわからない。あくまで,長期間の経過観察が必要である,とするのみである。
また,今回はシステマティックレビューの対象には認知機能障害に関するもののみが残ったが,晩期合併症としてはこのほかにも内分泌障害11),性腺機能障害12),聴力障害9),海綿状血管腫の形成13),その他血管障害9),二次がん14)などの可能性がある。二次がんとしては悪性神経膠腫,血液がん,甲状腺癌などが報告されている。しかし,これらの報告は,髄芽腫以外の小児脳腫瘍を含んでいたり,後方視的な治療症例集積で背景因子がさまざまあることなどが指摘され,今回は情報として参考までに記載しておくにとどめる。
やはり今後は結果が得られるまで時間はかかるであろうが長期間の前方視的研究が必要で,その結果によって治療法の選択を検討したり,どの時期にどのような介入が必要となるかなどの臨床的疑問に対する回答が抽出されることを期待する。
現時点で提言できることは,髄芽腫に関して,再発のみならず晩期合併症を考慮した長期的かつ多角的(多職種を含む)フォローアップが必要であるということに尽きる。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab]))))))AND(((((((((long term adverse effects[mh])OR long term effect*[tiab])OR long term outcome[tiab])OR lete effect*[tiab]))OR((quality of life[mh])OR quality of life[tiab]))OR(((cognition disorders[mh])OR cognitive funtion[tiab])OR neurocognitive function[tiab]))OR(((((((((((((((social adjustment[mh])OR social outcome[tiab])OR functional outcome[tiab])OR physical outcome[tiab])OR developmental disorders[mh])OR growth disorders[mh])OR(growth and development/radiation effects[mh]))OR physiology/radiation effects[mh])OR intelligence/radiation effects[mh])OR intelligence/drug effects[mh])OR learning disorders[mh])OR intellectual outcome[tiab])OR academic success[mh])OR academic outcome[tiab])OR academic achievement[tiab]))OR((((growth hormone/radiation effects[mh])OR GH hormone[tiab])OR radiation injuries[mh])))))AND 1900/7/1:2018/12/31[dp]
以上の検索式から597 文献が抽出され,一次スクリーニングで75 文献に絞られた。二次スクリーニングを行って,前方視的コホート研究8 文献を採択し,システマティックレビューを行って評価シートの作成,エビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
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- CQ1
- 臨床経過,臨床所見,画像検査からOPHG と診断することは推奨されるか?
- 推奨度1C
- 推奨
臨床経過,臨床所見,画像所見がOPHG に典型的な臨床的特徴を呈する場合はOPHG と診断し治療方針を決定することを提案する。非典型的な臨床的特徴を呈する場合は病理組織診断を行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,OPHG は他の腫瘍と異なり組織診断名ではなく特徴的な発生部位や臨床症状を呈する疾患群の呼称である。組織学的には高分化型星細胞腫である毛様細胞性星細胞腫(WHO grade Ⅰ)がOPHG の主体を占めるが,より悪性度の高い腫瘍の場合があるため,臨床診断されたOPHG の治療方針は一様であるとは言えない。OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連しているため,適切な治療を行うための診断法の妥当性,特に組織診断の必要性について検証を行う。また,OPHG はNF1 合併の有無によって臨床像や予後が異なるため,NF1 遺伝子異常の探索の必要性について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的手技による侵襲
2.推奨の解説
NF1 合併例と非合併例に分けて記載する。
(1)NF1 合併例
1990 年代前半までは,NF1 合併例において視覚路に発生しOPHG と臨床診断された腫瘍では,摘出(生検)を行って組織診断が施行されることが多かった1,2)。白金製剤を中心とした化学療法が低悪性度神経膠腫に有効であるとPacker らが1997 年に報告した後,外科的摘出を治療の第一選択としない報告が増えていった。1990 年代後半からは,NF1 に合併するOPHG として典型的な臨床経過,臨床所見,画像所見を呈していれば,組織診断なしで毛様細胞性星細胞腫として治療方針が決定されている3-13)。
しかし,NF1 合併例でもOPHG 特に毛様細胞性星細胞腫としては非典型的な症例,すなわち10 歳以上,視床下部や第三脳室の腫瘍,脳実質外伸展を呈する腫瘍,囊胞病変を伴う腫瘍の中には,WHO grade ⅡまたはⅢ相当の神経膠腫,あるいは神経膠腫以外の腫瘍の可能性があるため組織診断が行われる14,15)。上記の場合に加え,治療を開始してからではあるが,急激な腫瘍の増大や化学療法が有効ではない例も組織診断が必要であるとする報告がある16)。腫瘍摘出(生検)を行うには,腫瘍の摘出に伴う種々の合併症(CQ4 参照)を考慮する必要がある。
OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連している17)ため,腫瘍がWHO grade Ⅰ の毛様細胞性星細胞腫として臨床的に典型的ではない点があれば,組織診断が必要と判断するのが妥当である。NF1 合併例の推奨文では「臨床経過(発症年齢など),臨床所見(視覚障害や内分泌障害など),画像所見(腫瘍の局在や形態など)がOPHG に典型的な所見を呈する例では,毛様細胞性星細胞腫と判断して治療方針を決定してもよいが,非典型的な点があれば組織診断を勧める」と提案する。
(2)NF1 非合併例
NF1 非合併例においても視覚路に発生した腫瘍がOPHG として典型的な臨床所見を呈する場合は,腫瘍摘出や生検による組織診断は必ずしも必要ではないとする報告がある18-21)。しかし,NF1 非合併例でOPHG と臨床診断された47 例中45 例で組織診断が行われ,40 例(症例全体の85%)は毛様細胞性星細胞腫であったが,残り5 例(同11%)は他の低悪性度神経膠腫であったとする報告がある22)。このようにNF1 合併例よりも非合併例では,臨床的な特徴からOPHG と診断された腫瘍でも毛様細胞性星細胞腫以外の腫瘍である割合が高い傾向にあり,NF1 合併例と比較して非合併例では腫瘍の摘出や生検による組織診断を行う傾向にある6,12,23-30)。
臨床的にOPHG と診断された例で,診断時の年齢が10 歳を超えれば組織学的悪性度が有意に高く17),18 歳以上のAYA(adolescents and young adults)世代の例では高悪性度神経膠腫であったとする報告がある17,31)。OPHG では,診断時の年齢が10 歳未満の例と比較して10 歳以上の群で有意に生検率が高く26),診断時の年齢が10 歳以上の例が多く含まれる報告では組織診断が施行される割合が76~100%と高率である25,32-36)。
腫瘍の局在や形態から述べると,腫瘍が視床下部や第三脳室周囲に存在する例,あるいは脳実質外伸展例に対しては,毛様細胞性星細胞腫以外の神経膠腫や頭蓋咽頭腫の可能性を考慮する必要がある19)。また,囊胞病変を伴う例で手術到達が可能な症例,あるいは減圧が必要な症例では摘出手術により組織診断がなされている14,37)。腫瘍により水頭症を合併している乳幼児例では,髄液短絡術施行時に神経内視鏡による生検が施行されている20)。これらに加え,急激な腫瘍の増大がみられる場合や,毛様細胞性星細胞腫として予想される治療効果が得られない場合,生検を考慮すべきとする報告もある37)。腫瘍摘出(生検)を行うには,NF1 合併例と同様に,腫瘍の摘出に伴う合併症(CQ4 参照)を考慮する。
以上,NF1 非合併例ではOPHG と臨床診断できても,毛様細胞性星細胞腫より高悪性度の神経膠腫であったり,それ以外の腫瘍である可能性がNF1 合併例よりも高い傾向にあるため,OPHG として典型的な臨床所見に欠ける場合はより積極的に組織診断を勧める。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((((optic nerve)OR optic chiasma)OR optic tract)OR optic pathway)OR hypothalamus))AND glioma)AND(hasabstract[text]AND English[lang]AND((infant[MeSH]OR child[MeSH]OR adolescent[MeSH])OR young adult[MeSH]))))NOT((((((((optic nerve)OR optic chiasma)OR optic tract)OR optic pathway)OR hypothalamus))AND glioma)AND(Case Reports[ptyp]AND hasabstract[text]AND English[lang]AND((infant[MeSH]OR child[MeSH]OR adolescent[MeSH])OR young adult[MeSH])))))AND mri
この検索式で得られた報告の中で,OPHG の診断方法で病理組織診断に対する臨床診断の優位性を統計学的に検討したものはなかった。そのため,症例数の多い報告を採用して二次スクリーニング文献とし,定性的なシステマテックレビューを行った。
❖ 文献
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- CQ2
- 遺伝学的背景の探索は必要か?
- 推奨度2D
- 推奨
NF1 遺伝子異常の探索は二次的な中枢神経系腫瘍の発生等を留意することにおいて意義はあるが推奨するレベルではない。
解説
1.CQ の設定
一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,OPHG は他の腫瘍と異なり組織診断名ではなく特徴的な発生部位や臨床症状を呈する疾患群の呼称である。組織学的には高分化型星細胞腫である毛様細胞性星細胞腫(WHO grade Ⅰ)がOPHG の主体を占めるが,より悪性度の高い腫瘍の場合があるため,臨床診断されたOPHG の治療方針は一様であるとは言えない。OPHG では組織学的悪性度と予後は有意に関連しているため,適切な治療を行うための診断法の妥当性,特に組織診断の必要性について検証を行う。また,OPHG はNF1 合併の有無によって臨床像や予後が異なるため,NF1 遺伝子異常の探索の必要性について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科的手技による侵襲
2.推奨の解説
OPHG はしばしばNF1 患者に発生する。経過観察中にOPHG が発生する場合もあるが,脳腫瘍の方が先に発症し診断され,しかし実はNF1 合併例であるというOPHG も存在する。しかし,視力障害発症例はNF1 合併例よりも非合併例に多いと報告されている1)。OPHG のNF1 遺伝子異常の検出はNF1 の臨床症状が不確実であった場合に有用であるが,巨大なNF1 遺伝子の解析の困難さを考えると必ずしも必須ではないと思われる。NF1 の中で,視神経膠腫を持つ症例では,NF1 遺伝子の5’ 端領域に遺伝子変異が集中するという報告もあれば2),関係ないという報告もある3)。皮膚症状などの臨床診断基準を満たせば,ある程度NF1 合併例かどうか予測できる。非NF1 とNF1 関連視神経膠腫では,発生部位に違いがあり,非NF1 では視索に多いことで水頭症の併発が多いという報告もある1)。NF1 以外の遺伝子異常に関しては症例報告がいくつかあるが4-8),確立された事象ではない。OPHG においてNF1 と非NF1 との予後の比較の報告に関しては,Stokland らは157例のOPHG において,OS では差がないものの,5 年PFS がNF1 では70.8%,非NF1 では46.7%と単変量解析にてp<0.001,Kaplan-Meier 法におけるlog-rank test にてp=0.003と有意にNF1 の方が良好であったと報告している9)。現在,NF1 に合併するOPHG に対しての分子標的治療薬なども存在せず,単にPFS がNF1 において良好であるということだけでは,NF1 の遺伝子診断を積極的に推奨する理由にはならない。また,NF1 では家族歴にNF1 が存在しない弧発例が50%程度であるが,OPHG の患者でNF1 かどうか判別できない症例において,NF1 遺伝子変異があるかどうかの診断をつけることによってその後の治療法の選択が何か変わることはない。以上のことを総合的に勘案すると,現時点で積極的なNF1(を含めた)遺伝子診断は,患者や家族が望む場合に限定されると考える。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((optic pathway glioma AND neurofiromatosis type 1)AND hypothalamus)OR(optic pathway hypothalumus glioma AND neurofibromatosis type 1)OR(optic pathway glioma AND genetic analysis)OR(optic pathway glioma AND molecular analysis)
これをすべて一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
❖ 文献
- 1)
- Singhal S, Birch JM, Kerr B, et al. Neurofibromatosis type 1 and sporadic optic gliomas. Arch Dis Child. 2002;87(1):65-70.[PMID:12089128]
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- 3)
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- 5)
- Kebudi R, Tuncer S, Upadhyaya M, et al. A novel mutation in the NF1 gene in two siblings with neurofibromatosis type 1 and bilateral optic pathway glioma. Pediatr Blood Cancer. 2008;50(3):713-5.[PMID:17514731]
- 6)
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- 7)
- Yeung JT, Pollack IF, Shah S, et al. Optic pathway glioma as part of a constitutional mismatch-repair deficiency syndrome in a patient meeting the criteria for neurofibromatosis type 1. Pediatr Blood Cancer. 2013;60(1):137-9.[PMID:22848017]
- 8)
- Kocova M, Kochova E, Sukarova-Angelovska E. Optic glioma and precocious puberty in a girl with neurofibromatosis type 1 carrying an R681X mutation of NF1:case report and review of the literature. BMC Endocr Disord. 2015;15:82.[PMID:26666878]
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- Stokland T, Liu JF, Ironside JW, et al. A multivariate analysis of factors determining tumor progression in childhood low-grade glioma:a population-based cohort study(CCLG CNS9702). Neuro Oncol. 2010;12(12):1257-68.[PMID:20861086]
- CQ3
- 外科的治療の意義はあるか?
- 推奨度1C
- 推奨
絶対的に推奨される外科治療介入時期はなく,症例ごとに患者年齢,視機能,水頭症の有無,NF1 合併の有無などを考慮し,小児科・眼科・腫瘍内科・放射線治療科・放射線診断科・脳神経外科等から成り立つ集学的治療チームによって検討することを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢および局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
外科治療の適応およびその推奨される時期はいつかという臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない1-4)。症候性になった場合に手術を含めた治療が選択されているが,手術単独ではなく化学放射線療法を含めての治療であり,純粋に手術に対して評価することは難しい。手術適応やこれらの治療方法は一貫しておらず,いずれの評価項目においても大きなバイアスを有する。したがって手術療法開始時期に関してのエビデンスレベルの高い推奨を述べることはできない。現時点では,症例ごとに患者年齢,視機能評価,水頭症の有無,NF1 合併の有無などを考慮し,小児科・眼科・腫瘍内科・放射線治療科・放射線診断科・脳神経外科等から成り立つ集学的治療チームによって手術時期を決定すべきであると考えられる。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する4 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
❖ 文献
- 1)
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- CQ4
- 腫瘍切除率は予後に影響するか?
- 推奨度1D
- 推奨
可及的摘出によって治療成績が上がるというエビデンスはなく,手術操作に伴った合併症も無視できず,摘出率を追求するような摘出を行わないことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢及び局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
腫瘍切除率は予後に影響するか,という臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない。バイアスリスクや非一貫性,不精確性,非直接性のすべてに問題がある。結論として,腫瘍摘出率が治療予後を改善するという報告は過去一切認められない1,2)。Ahn らによる韓国において1982~1999 年に手術摘出が行われた33 例の報告をみると,術後8 例(24%)が放射線治療追加を受けているという条件下で,手術後の5 年無増悪生存割合は52.4%であり,少なくとも手術単独では5 年後に半分以上は再発することになる1)。視交叉に腫瘍が浸潤せずに片側の視神経に限局し,有効な視力が得られず眼瞼下垂があり痛みが化学療法によっても改善しない場合,手術適応があると提唱する報告はみられる3,4)が,例え片側の視神経に限局し完全摘出した場合でも手術単独では5~10%の確率で視交叉に再発する可能性があることには注意しなければならない1)。また摘出率を高くすることによって,追加治療の中心となる化学療法の治療効果を向上することも判明していない5)。
腫瘍摘出率を上げることによって,再発までの期間や全生存期間の延長が証明されなかったとしても,例えばQOL を改善する,化学放射線療法開始までの期間を延長するという評価項目でその利点を明示することができれば摘出率を向上させる意義があるが,この点においてもエビデンスは存在しない。したがって,摘出率を追い求めるような手術は推奨されない6,7)。
さらに手術の問題点として合併症発生が避けて通れないことが挙げられる。手術合併症としては,意識障害・視機能障害の悪化・内分泌機能障害・脳梗塞が特に問題となる8,9)。
合併症に関して最近の文献で最もよくまとめられているのは,2012 年のHupp らの文献8)である。彼らは1992~2009 年にドイツの国立神経放射線データセンターに蓄積された84 例に対する102 手術を検討した。その結果17 例(16.7%)で術後画像上脳梗塞が確認された。2 歳未満では7/17 例(41.2%)の高率であった。なお脳梗塞による症状を呈したものは13/102 例(12.7%)であり,また生検では1 例も脳梗塞は生じていなかった。この結果と対比するために,2004~2009 年の51 例の小脳の低悪性度神経膠腫に対する65 手術を検討したところ,わずか1 例(1.5%)の全摘出症例のみで脳梗塞を生じていたに過ぎなかった。なお脳梗塞発生に関して組織型やDodge 分類は関係しなかった。
Sawamura らの2007 年の文献9)では,1992 年以降の19 例(年齢中央値3.1 歳)を検討し,生検5/12 例(41.6%),摘出術5/7 例(71.4%)で,全体としては10/19 例(52.6%)で合併症を生じていた。生検で合併症出現頻度が高いのは,澤村らは生検術の範疇に限局した開頭摘出を含めている(11/12 例)からと考えられる。画像評価が含まれていないために梗塞を生じた評価はあくまでも症状によるものであるが,その頻度は2/19(10.5%)であった。したがって,症候性脳梗塞の頻度は,Hupp らの検討とほぼ同様となる。
Ahn らの文献1)では,1982~1999 年の33 症例(平均年齢8.3 歳)を検討している。このうち,27 例は90%を超えた可及的摘出術,6 例は部分摘出術を行った。2 例(6%)が術後1 年以内に肺梗塞とびまん性脳梗塞で死亡した。その他の合併症は,5 例で一過性片麻痺,2 例で感染症,1 例でシャント機能不全,を生じた。彼らの結論は,OPHG に対しての可及的摘出術はPFS の延長や神経内分泌学的症状の改善には役立たず,手術は腫瘍拡大時における水頭症コントロールのため,もしくは放射線治療開始延期を目的に行うべきとしている。彼らが提唱している治療アルゴリズムには,年代が古いために化学療法の概念が入っていない点に注意が必要となる。
Steinbok らの2002 年の文献10)では,18 例のOPHG に対して17 回の手術を行っている。8 例は亜全摘,6 例は部分摘出,3 例は限局した摘出術であった。限局した手術で特に間脳機能温存に注意を払うと合併症発生率は低くなると報告している。摘出率と腫瘍再発との間には関連がなかった。これらの結果から,彼らはOPHG に対する手術は組織確認と視神経や髄液循環系への減圧を目的に行うべきであるとしている。
Valdueza らの1994 年の文献11)では,初回から摘出術を1980~1993 年に行った20 例(年齢中央値9 歳)を検討している。10 例は70~90%の亜全摘,6 例は部分摘出,4 例は生検術であった。腫瘍再発時に4 回の追加手術が行われた。これら24 手術のうち5 回(20.8%)で合併症を生じた。1 例は脳梗塞のため片麻痺と失語症,4 例で内分泌障害,4 例で視機能障害の悪化をきたした。彼らは可及的摘出は良好な結果で遂行できたと評価している。7歳未満の場合,視索を含まない大きな腫瘍に対しては摘出を,視索を含む場合には放射線治療の前に減圧手術を,再発時には腫瘍の位置によって放射線治療の前に摘出を考慮すべきであるとしている。また7 歳以上の場合は再発腫瘍に対して摘出術を勧めている。
Nicolin らによる2009 年の133 小児例中の治療を要した69 例の検討5)では,化学療法単独,化学療法と手術併用,手術単独の間でPFS には有意差がなかったと報告している。
このようにOPHG に対して可及的摘出により治療成績が上がるというエビデンスはなく,上記のような手術操作に伴った合併症を生ずることから,生検術に取って代わって摘出率を追い求めるような摘出を行う論理的根拠はない。
しかしながら近年,初発のみならず再発時にもより積極的に手術(部分摘出術,debulking)を行うという考え方が改めて提唱されている12)。彼らは,問題となる手術合併症を生ずることなく,13/17 例(76.5%)(初発症例では7/10 例,再発症例では6/7 例)で手術単独で腫瘍制御ができ,また可及的摘出と化学療法を併用した4 例は全例腫瘍制御ができていることを強調している。また10 例のケースシリーズにて,より安全に摘出率を上げる方法として,術中MRI を用いる方法も提唱されている13)。画像診断もきちんとできていなかった古き時代と比較し,MRI・ニューロナビゲーションシステム・術中MRI といった手術支援システムと手術技術の進歩があることは間違いないであろう。しかしこれらの報告で,PFS, OS が改善したという結果は明示できていない。本疾患は症例数が少なすぎることと,観察期間が少なくとも10 年といった年限で評価しないと結果が判明しないことにより,純粋に手術の効果を明らかにすることは今後も難しいことが予想されるが,今後手術の役割が重要視される可能性はあるかもしれない。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する13 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
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- Millward CP, Perez Da Rosa S, Avula S, et al. The role of early intra-operative MRI in partial resection of optic pathway/hypothalamic gliomas in children. Childs Nerv Syst. 2015;31(11):2055-62.[PMID:26216059]
- CQ5
- 再発時摘出の意義はあるのか?
- 推奨度2D
- 推奨
QOL の維持を念頭に置いて腫瘍容積減量によって神経症状が改善することが期待できる場合に部分摘出を行うことを提案する。
解説
1.CQ の設定
OPHG はその好発年齢及び局在のため,根治を目指した積極的切除が行われることは多いとは言えず,外科的治療は薬物療法や放射線療法も含めた集学的治療の一部として考えられる。機能予後・生命予後の改善のための外科治療の意義について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
再発時摘出の意義はあるのか,という臨床上の問題に対して,QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生を評価項目として検討した。現時点でこの質問に答えるための資料は後方視的症例集積研究しか存在しない。バイアスリスクや非一貫性,不精確性,非直接性のすべてに問題がある。再発時の摘出術が有益であることをはっきりと示した論文はないと結論づけざるを得ない。さらに,2000 年より以前の報告は,Packer レジメンを中心とした化学療法が治療の中心となった現在とは再発時の治療概念が異なるため,外科治療の役割も現在求められるものとは異なっていることに注意が必要である。すなわち,放射線治療を行った後での再発に対しては,手術摘出によって状況を改善させざるを得なかったのである。近年はOPHG に対しては化学療法が積極的に行われ,治療手段としての放射線治療を先延ばしにしたうえで,さらに強度変調放射線治療(IMRT)を中心とした精密な放射線治療が可能となっているので,再発時においてもこれらの治療法とうまく組み合わせることを考慮して,摘出率のみを追求せず,QOL の維持を念頭に置いて外科治療を行うべきであると考えられる。
こういった中で少数例であるが,化学療法を行った後の再発に対してや,腫瘍容積減量によって神経症状が改善することが期待できる場合に部分摘出を行っている報告がある。再発時の手術は,化学療法によってもうまく腫瘍を制御できなかった場合に,減圧手術,囊胞性病変に対する開放術・オンマヤリザーバー挿入・シャント手術を考慮すべきであるとされている1)。ただし,再手術は必ずしも容易ではないことも注意喚起されており2),外科療法を行う場合,細心の注意を払ったうえでの介入が必要である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
下記のようにOPHG 全体をカバーするようにPubMed を用いて検索し,172 文献ヒットした。その中から該当する2 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“surgery”[Subheading]OR “surgery”[All Fields]OR “surgical procedures, operative”[MeSH Terms]OR(“surgical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “operative”[All Fields])OR “operative surgical procedures”[All Fields]OR “surgery”[All Fields]OR “general surgery”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “surgery”[All Fields])OR “general surgery”[All Fields])AND resection[All Fields])
❖ 文献
- 1)
- Bowers DC, Krause TP, Aronson LJ, et al. Second surgery for recurrent pilocytic astrocytoma in children. Pediatr Neurosurg. 2001;34(5):229-34.[PMID:11423771]
- 2)
- Sawamura Y, Kamada K, Kamoshima Y, et al. Role of surgery for optic pathway/hypothalamic astrocytomas in children. Neuro Oncol. 2008;10(5):725-33.[PMID:18612049]
- CQ6
- 初期治療として化学療法は有効か?
- 推奨度1B
- 推奨
初期治療としての化学療法(維持療法を含む)は,腫瘍の縮小や進行の抑制を期待できるため,行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する薬物療法も集学的治療の一部として考えられる。その適否,使用薬剤,および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
さまざまな化学療法レジメが施行されているが,first line としてカルボプラチン注1)とビンクリスチン注2)の組み合わせが広く行われている。また,second line としてビンブラスチン注3)が用いられることが多い。これらの薬剤を含めた治療成績を以下に解説する。
OPHG の腫瘍増殖は一般的に緩徐であるが,その発生部位により視神経や視床下部の機能障害が大きく,治療介入が必要になる。手術は視交叉以前の片側視神経に生じたもの以外の完全な摘出は困難である(CQ3 参照)。放射線治療は,認知機能障害,内分泌障害や血管障害,二次がん等の晩期合併症が指摘されているので,その適応は限定的に考えられている(CQ8 参照)。そこで,進行例や有症状例に対して,腫瘍安定化,症状改善,放射線治療遅延を目的に化学療法が行われるようになった。OPHG は増殖が緩徐であることから強度の強い化学療法を短期間行うより,強度の弱い治療を長期間行う方が効果的と考えられ1),欧米では比較的治療期間の長い,全治療期間が1 年から1 年半程度の臨床試験が行われ,一定の効果を上げている。各臨床試験において導入療法と維持療法の区別が明確でない試験も多く,また治療内容,期間もさまざまである。下記に欧米中心に行われた大規模な臨床試験の結果の概略を示す。なお,我が国では大規模試験は行われていない。
Packer らは1990 年代初めに,手術以外未治療の15 歳以下の進行性low-grade glioma(LGG)78 例(OPHG 56 例を含む)に,カルボプラチン175 mg/m2/週とビンクリスチン1.5 mg/m2/週による10 週間の導入療法後,画像ないし臨床的改善・安定を得た例にはカルボプラチン(週1 回4 週間),ビンクリスチン(週1 回3 週間)を6 週ごと,計12 サイクル反復する維持療法を行い,OPHG で59%の治療反応率(CR:complete response+PR:partial response+MR:minor response)と,98%の腫瘍安定率(CR+PR+MR+SD:stable disease)を得たと報告した1)。
米国Pediatric Oncology Study Group(POG)は,1989~1994 年に5 歳以下のOPHG に対し,カルボプラチン560 mg/m2を4 週おきに,効果があれば18 サイクル行う第Ⅱ相試験(POG8936)を行った。50 例(うち21 例がNF1 陽性)に治療がなされ,3 年無再発生存割合/全生存割合は58/90%であった。腫瘍増大の中央期間は132 週(13 カ月)であった。また,18 カ月の治療で70%近くの症例がSD 以上であり,維持療法の意義が示唆された2)。
1996~2004 年に,ドイツを中心に17 歳未満のLGG 1,031 例を包括的に追跡するHIT-LGG 1996 研究が行われた。化学療法群は216 例(NF1 55 例)で,カルボプラチン550 mg/m2を3 週ごと計4 回とビンクリスチン週1 回計10 回による導入療法の後,カルボプラチンとビンクリスチン併用による4 週ごと計11 サイクルの維持療法が行われ,CR+PR が35%,腫瘍安定率は92%で,画像上の最大反応は中央値3.5 カ月で認められた。本試験により大規模研究でのmonthly カルボプラチン+ビンクリスチン療法の効果が示された。また1 歳未満,間脳症候群,診断時播種がPFS の予後不良因子で,これらのリスク因子を伴わない非NF1 例では10 年PFS 41%であるのに対し,何らかのリスク因子を持つ非NF1 例では10 年PFS 16%にとどまっていることが報告された3)。Mirow らは,2014 年にこの試験の1 歳未満の症例について報告している。36 例(うち32 例がOPHG)に治療が行われ,24 例が予定通り治療完了。最良効果までの期間,増大までの期間はそれぞれ,中央値3.6 カ月,1.4 年で,21 例にサルベージ治療が必要だった。いずれも維持療法中に治療効果が出現する症例が多く,維持療法の有効性が示唆される4)。
HIT-LGG-1996 ではOPHG 83 例を含む109 例のNF1 が登録されたが,うち65 例が要治療と判断され,55 例で化学療法が,10 例で放射線治療が行われた。化学療法は全例がカルボプラチン+ビンクリスチンで,98%が初期治療に反応し,全NF1 の5 年EFS 24%で,治療群では5 年PFS 72%,12 年OS 96%と報告された。自然経過観察群で治療不要だったのは37%であった5)。
米国Children’s Oncology Group(COG)では1997~2005 年に,10 歳未満のLGG を対象としたCOG A9952 試験を行った。本試験では,非NF1 ではOPHG 138 例を含む274 例が,137 例ずつCV 療法(カルボプラチン,ビンクリスチン)またはTPCV 療法(チオグアニン,プロカルバジン,lomustine,ビンクリスチン)にランダマイズされたが,それぞれの治療反応率と腫瘍安定率は,CV 療法が50%と67%,TPCV 療法が52%と68%と両者で差がなく,初期治療はいずれも有効と考えられた。5 年EFS はCV 療法39%,TPCV 療法52%だがログランクテストでの有意差もなく,5 年OS はCV 療法86%,TPCV 療法87%だった6)。またCV 療法を行った非NF1 137 例(OPG 71 例)とNF1 127 例(OPG 110 例)の比較では,治療反応率は非NF1 51%,NF1 66%,腫瘍安定率は非NF1 68%,NF1 73%で,5 年EFS では非NF1 39%,NF1 69%(p<0.001),OPHG に限っても非NF1 38%,NF1 68%(p<0.001)と,NF1 例の方が良好だった。5 年OS では非NF1 87%(OPHG 86%),NF1 98%(OPHG 99%)で差はなかった7)。CV レジメンは先のPacker らのレジメンに比し,維持療法の期間が短い(12 回vs. 8 回)。患者背景,観察期間が異なるので単純比較は難しいが,維持療法が12 回の方がややPFS が良いように思われる。
フランスのBB-SFOP 研究では,1990~2004 年にOPHG 180 例(NF1 60 例)にカルボプラチン/プロカルバジン,エトポシド/カルボプラチン,ビンクリスチン/シクロホスファミドの6 剤を7 サイクル計16 カ月投与し,126 例(70%)が治療を完遂したが,長期経過観察では非NF1,NF1 いずれもOS にplateau が認められず,5 年95%,10 年92%,15 年81%,18 年76%と低下し続け,2/3 が腫瘍進行で死亡したと報告した。診断時年齢1 歳未満と頭蓋内圧亢進例が予後不良で,間脳症候群のない男児は予後が良好だった8)。
カナダの小児脳腫瘍コンソーシアムは,2007~2010 年に18 歳未満の化学療法の既往のないLGG にビンブラスチン6 mg/m2の週1 回投与を70 週まで繰り返す治療研究を行った。54 例が登録され,うちOPHG は30 例,NF1 は13 例であった。最良効果として,CR+MR は25.9%(CR1, PR9, MR4, SD34),SD 以上は47 例(87%)で得られ,25 例のOPHG のうち5 例(20%)で視力の回復が得られた。反応のみられた症例の最良効果までの期間の中央値は52 週(NF1 例は25.5 週,非NF1 例は52 週)であり,カルボプラチン+ビンクリスチンレジメンに比べ治療効果に大きな差はないが,効果発現までの時間は遅く,維持療法(長期治療)の有効性が示唆される9)。
- 注1)
- 注2)
- 注3)
小児悪性固形腫瘍として保険適応
悪性星細胞腫,乏突起膠腫成分を有する神経膠腫として保険適応
悪性リンパ腫,絨毛性疾患,再発または難治性の胚細胞腫瘍,ランゲルハンス細胞組織球症として保険適応
システマティックレビュー結果
<検索式>
(“optic glioma” OR “optic pathway glioma” OR “hypothalamic glioma” OR “low-grade glioma” OR “pilocytic astrocytoma”)AND(“chemotherapy” OR “drug”)AND(“metaanalysis” OR “systematic review” OR “trial”)
上記の検索式でOPHG と化学療法に関する論文をPubMed を用いて検索し,105 文献ヒットした。その中からCQ6 に該当する9 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Packer RJ, Ater J, Allen J, et al. Carboplatin and vincristine chemotherapy for children with newly diagnosed progressive low-grade gliomas. J Neurosurg. 1997;86(5):747-54.[PMID:9126887]
- 2)
- Mahoney DH Jr, Cohen ME, Friedman HS, et al. Carboplatin is effective therapy for young children with progressive optic pathway tumors:a Pediatric Oncology Study Group phase Ⅱ study. Neuro Oncol. 2000;2(4):213-20.[PMID:11265230]
- 3)
- Gnekow AK, Falkenstein F, von Hornstein S, et al, Long term follow up of the multicenter, multidiciplinary study HIT-LGG-1996 for low grade glioma in children and adolescents of German speaking Socienty of Pediatric Oncology and Hematology. Neuro Oncol. 2012;14(10):1265-84.[PMID:
22942186] - 4)
- Mirow C, Pietsch T, Berkefeld S, et al. Children <1 year show an inferior outcome when treated according to the traditional HIT-LGG treatment strategy:a report from the German multicenter trial HIT-LGG 1996 for children with low grade glioma(LGG). Pediatr Blood Cancer. 2014;61(3):457-63.[PMID:24039013]
- 5)
- Driever PH, von Hornstein S, Pietsch T, et al. Natural history and management of low-grade glioma in NF-1 children. J Neurooncol. 2010;100(2):199-207.[PMID:20352473]
- 6)
- Ater JL, Zhou T, Holmez E, et al. Randomized study of two chemotherapy regimens for treatment of low grade glioma in young children:a report from the Pediatric Oncology Group. J Clin Oncol. 2012;30(21):2641-7.[PMID:22665535]
- 7)
- Ater JL, Xia C, Mazewski CM, et al. Nonrandomized comparison of Neurofibromatosis type 1 and Non-Neurofibromatosis type 1 children who received carboplatin and vincristine for progressive low-grade glioma:report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2016;122(12):1928-36.[PMID:27061921]
- 8)
- Rakotonjanahary J, De Carli E, Delion M, et al. Mortality in children with optic pathway glioma treated with up-front BB-SFOP chemotherapy. PLoS One. 2015;10(6):e0127676.[PMID:26098902]
- 9)
- Lassaletta A, Scheinemann K, Zelcer SM, et al. Phase Ⅱ weekly vinblastine for chemotherapy-naïve children with progressive low-grade glioma:a Canadian Pediatric Brain Tumor Consortium Study. J Clin Oncol. 2016;34(29):3537-43.[PMID:27573663]
- CQ7
- 再発時の化学療法は生命予後を改善するか?
- 推奨度1C
- 推奨
再発時の化学療法は腫瘍の進行を抑制し,生命予後の改善をもたらす可能性があるため行うことを推奨する。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する薬物療法も集学的治療の一部として考えられる。その適否,使用薬剤,および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
OPHG の再発時において,化学療法が他の治療に比して生存期間を有意に延長できるか否かについて,高いレベルのエビデンスを示す論文はない。しかしながら,手術による切除は視機能や視床下部障害を考慮すると困難な場合が多い。また,再発時であっても放射線照射の時期を遅らせるためにも,再度化学療法が試みられる。ビンブラスチン,ベバシズマブ注1)+イリノテカン注2)およびテモゾロミド注3)についての文献を参照する。
Bouffet らは41 例(1.4~18.2 歳:中央値7.2 歳)の再発low-grade glioma(LGG)の患児(視路/視床下部膠腫は34 名)に対してビンブラスチン療法(静注,6 mg/m2,週1 回,52 週間)を前方視的登録研究として約1 年間継続して施行した。治療を完了できたのは31 例で,治療反応率(CR+PR+MR)は36%(18 例)であった。その後の平均観察期間は67 カ月で,23 例で進行しなかった。5 年生存率は93.2%(3 例が死亡),5 年無増悪生存率は42.3%であった。副作用のほとんどは好中球減少症(グレード4:18 例)のみであった1)。
Gururangan らは35 例(0.6~17.6 歳:中央値8.4 歳)の再発LGG の患児(毛様性星細胞腫が46%,詳細な部位の記載はなし)に対してベバシズマブ+イリノテカン療法を平均12 コースにわたり施行した。29 例(83%)は6 カ月以上治療を施行できた。6 カ月と2 年無増悪生存率はそれぞれ85.4%,47.8%であった2)。
一方で,Nicholson らは113 例(1~23 歳:中央値11 歳)の小児および若年者の再発脳腫瘍[LGG が22 例(詳細な部位や病理の記載はなし)]に対してテモゾロミド経口投与(200 mg/m2/day,5 日間,毎月)を12 サイクルにわたり施行した。全体でCR は1 例,PR は5 例のみであった。LGG についてはCR,PR はなく,SD を含めたno response は41%であった。以上の結果から,小児LGG に対するテモゾロミドの効果は限定的と述べている3)。
- 注1)
- 注2)
- 注3)
悪性神経膠腫として保険適応
小児悪性固形腫瘍として保険適応
悪性神経膠腫として保険適応
システマティックレビュー結果
<検索式>
(“optic glioma” OR “optic pathway glioma” OR “hypothalamic glioma” OR “low-grade glioma” OR “pilocytic astrocytoma”)AND(“chemotherapy” OR “drug”)AND(“metaanalysis” OR “systematic review” OR “trial”)
上記のようにOPHG と化学療法に関する論文をカバーするようにPubMed を用いて検索し,105 文献ヒットした。その中からCQ7 に該当する3 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Bouffet E, Jakacki R, Goldman S, et al. Phase Ⅱ study of weekly vinblastine in recurrent or refractory pediatric low-grade glioma. J Clin Oncol. 2012;30(12):1358-63.[PMID:22393086]
- 2)
- Gururangan S, Fangusaro J, Poussaint TY, et al. Efficacy of bevacizumab plus irinotecan in children with recurrent low-grade gliomas–a Pediatric Brain Tumor Consortium study. Neuro Oncol. 2014;16(2):310-7.[PMID:24311632]
- 3)
- Nicholson HS, Kretschmar CS, Krailo M, et al. Phase 2 study of temozolomide in children and adolescents with recurrent central nervous system tumors:a report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2007;110(7):1542-50.[PMID:17705175]
- CQ8
- 放射線治療は有効か?
- 推奨度2C
- 推奨
手術および化学療法が優先されるが,限られた場合*に放射線療法が行われることを提案する。* 限られた場合とは,放射線療法の局所制御のメリットから,化学療法が不応であり,腫瘍の増大部位や大きさ,速度によって,手術による減圧が不能であったり,視機能温存が不能であったりする場合など,を想定している。また有害事象としての血管腫発生の頻度が10 歳以上の照射では減少するため,この年齢以上では根治的な放射線療法も提案され得る。
解説
1.CQ の設定
OPHG に対する放射線治療も外科治療や薬物療法と同じく集学的治療の一部として考えられる。その適否,線量,照射範囲および有害事象について検証する。
- アウトカム:
- QOL の維持,生存期間の延長,有害事象の発生
2.推奨の解説
OPHG は一般に低悪性度の神経膠腫である割合が高く,生命予後は比較的良好である。特にNF1 に合併した症例では自然退縮例も報告され,治療開始時期に関しては早期,つまり年少時に介入すべきかどうか,慎重に判断すべきである。患者は0~4 歳の幼児が多く,放射線療法は,この年齢層においては,後述するように正常組織の発達を阻害する各種の有害事象をもたらすリスクがあり,手術,化学療法がより優先的に用いられている。一方で放射線療法は,腫瘍が化学療法に対して不応となり,症状を伴う腫瘍の増大を生じ,手術で減圧が不能な大きさ,部位である場合や,視神経に生じた腫瘍が増大し,視機能低下をきたし,化学療法,手術によっても視機能温存が困難な場合など,限られた条件のもとでは積極的に施行することが提案される1-3)。
OPHG の放射線療法に関する前方視的比較試験は存在しない。Fouladi らの観察研究1)によれば,73 例のOPHG に対し,その診断直後に放射線療法,化学療法単独治療,無治療経過観察を行った群を観察し,ランダム化比較ではないものの6 年無増悪生存割合がそれぞれ62%,12%,37%であった。放射線療法が独立した予後良好因子であった。
その一方でOPHG はウイリス動脈輪に近いため,まだ血管が発達していない幼児に対して治療を行うと,治療後の血管の発達が阻害され,モヤモヤ血管,海綿状血管腫などの血管形成障害が起こることが懸念される4,5)ほか,白質脳症6),視床下部下垂体への照射による内分泌機能障害7),二次がんのリスク4,8)を生ずる。Tsang らの報告4)によれば,放射線療法を行った89 例のOPHG のうち,グレード2 より重篤な血管形成障害が7 例に生じ(10 年累積発生率7.1%),発生例と非発生例の照射時年齢の中央値はそれぞれ6.4 歳と8.1 歳であった。また10 歳以下の症例の10 年累積発生率は11.3%で,11 歳以上の症例では0%であった。Merchant らの78 例の小児のグリオーマ(うち58 例がOPHG)の原体照射による第Ⅱ相試験の報告5)によれば,7 年の血管障害の発生率は4.79±2.73%で,年齢別の6 年の血管障害の発生率5 歳未満の8 例では12.5±12.6%,5 歳以上の66 例では3.8±2.6%であった(p=0.105)。
Lacaze らによる27 例のOPHG の小児に対し初期治療として化学療法を施行した報告6)によれば,化学療法後に放射線療法を加えなかった19 例の知能指数は平均107±17 であったのに対し,放射線療法を加えた8 例の知能指数は平均88±24 であった。彼らは可能であれば,放射線療法を避けるか,遅らせることを結論づけている。
Gan らによる166 例の小児のOPHG の長期観察の報告7)によれば,20 年の内分泌に関する無イベント生存割合は4%であり,多変量解析の結果では,腫瘍の視床下部浸潤(ハザード比2.20,95%CI:1.41-3.42,p<0.001)と並んで,放射線療法は有意な予後不良因子であった(ハザード比1.98 倍,95%CI:1.16-3.39,p=0.013)。
二次がんに関してはSharif らのNF1 に合併したOPHG 58 例を,放射線療法を行った18 例と行わなかった40 例に分けて解析した報告8)によれば,二次がんが生じる確率は前者が50%,後者が20%であり,放射線療法による二次性の中枢神経腫瘍の発生のハザード比が3.04(95%CI:1.29-7.15)と有意に,特にNF1 合併例において高率であった。またTsang らの報告によれば,NF1 に合併した症例では14 例中4 例(29%)に,合併していない症例では75 例中4 例(5.3%)にそれぞれ放射線療法が原因と考えられる二次がんが発生した。そのためNF1 に合併した症例では他の治療不応例の救済の目的以外では極力放射線療法を避けるべきであるとしている4)。
放射線療法の線量は他の低悪性度神経膠腫に準じて45~54 Gy/25~30 分割3-4,9)で,腫瘍局所に適切なマージンを付加したターゲットに対して可及的に線量集中性を改善した通常分割の定位的照射法を用いて行うことが推奨される10,11)。また患者が小児であることを考慮して,一回線量は1.8 Gy 程度に下げて投与することが推奨される8)。最近では陽子線治療もその線量集中性と,周囲の高線量域の体積が低く抑えられるために用いられるようになってきている12)。
OPHG の放射線療法は耐容線量の低い視神経・下垂体を含んだ領域へ精密に照射するという技術的な困難さと対象患児の晩期有害事象という問題を孕んでいるため,集学的がん治療グループでの適応判断のもと,患児,その家族と治療方針について細やかな相談の後,高精度な放射線治療の手法を用いて行われることが必要である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((“optic nerve glioma”[MeSH Terms]OR(“optic”[All Fields]AND “nerve”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic nerve glioma”[All Fields]OR(“optic”[All Fields]AND “glioma”[All Fields])OR “optic glioma”[All Fields])AND(“radiotherapy”[Subheading]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “radiation therapy, radio”[MeSH Terms]OR(“radiation”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “radiotherapeutic”[All Fields])OR “radiotherapy procedures”[All Fields]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “general radiotherapy”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “radiotherapy”[All Fields])OR “general radiotherapy”[All Fields])AND irradiation[All Fields])OR((“hypothalamus”[MeSH Terms]OR “hypothalamus”[All Fields]OR “hypothalamic”[All Fields])AND(“glioma”[MeSH Terms]OR “glioma”[All Fields])AND(“radiotherapy”[Subheading]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “radiotherapy procedures, irradiation”[MeSH Terms]OR(“radiotherapeutical”[All Fields]AND “procedures”[All Fields]AND “irradiation”[All Fields])OR “radiotherapeutical procedures”[All Fields]OR “radiotherapy”[All Fields]OR “general radiotherapy”[MeSH Terms]OR(“general”[All Fields]AND “radiotherapy”[All Fields])OR “general radiotherapy”[All Fields])AND irradiation[All Fields])
上記の検索式でPubMed を用いて検索し,410 文献ヒットした。その中からCQ8 に該当する12 文献を二次スクリーニングとして抽出した。
❖ 文献
- 1)
- Fouladi M, Wallace D, Langston JW, et al. Survival and functional outcome of children with hypothalamic/chiasmatic tumors. Cancer. 2003;97(4):1084-92.[PMID:12569610]
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- Khafaga Y, Hassounah M, Kandil A, et al. Optic gliomas:A retrospective analysis of 50 cases. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2003;56(3)807-12.[PMID:12788189]
- 3)
- Terashima K, Chow K, Jones J, et al. Long-term outcome of centrally located low-grade glioma in children. Cancer. 2013;119(14);2630-8.[PMID:23625612]
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- Tsang DS, Murphy ES, Merchant TE. Radiation therapy for optic gliomas in children. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2017;99(3):642-51.[PMID:29280458]
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- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割 | 氏名 | 所属機関/専門分野 | 作成上の役割 |
---|---|---|---|
委員長 | 宇塚 岳夫 | 獨協医科大学 脳神経外科/脳神経外科 | 総括 |
副委員長 | 隈部 俊宏 | 北里大学 脳神経外科/脳神経外科 | 他のガイドラインとの整合性 |
協力委員 | 前林 勝也 | 日本医科大学付属病院 放射線治療科/放射線科 | 放射線治療 |
協力委員 | 原 純一 | 大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児血液腫瘍科/小児科 | 化学療法 |
協力委員 | 坂本 博昭 | 大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科 | 外科的治療 |
協力委員 | 師田 信人 | 北里大学 脳神経外科/脳神経外科 | 化学療法 |
委員 | 夏目 敦至 | 名古屋大学 脳神経外科/脳神経外科 | 再発時の治療 |
委員 | 橋本 直哉 | 京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科 | 外科的治療 |
委員 | 杉山 一彦 | 広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科 | 他のガイドラインとの整合性 |
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号 | 課題名 | 課題責任者 | SR 委員 |
---|---|---|---|
1 | 外科的治療 | 坂本 博昭 橋本 直哉 |
柴原 一陽(北里大学 脳神経外科) 國廣 誉世(大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児脳神経外科) 小川 隆弘(京都府立医科大学 脳神経外科) |
2 | 放射線治療 | 前林 勝也 | 太田 篤(新潟大学 放射線科) 斎藤 紘丈(新潟大学 放射線科) 中野 智成(新潟大学 放射線科) 棗田 学(新潟大学脳研究所 脳神経外科) 岡田 正康(新潟大学脳研究所 脳神経外科) 渡邉 潤(新潟大学脳研究所 脳神経外科) 栗林 茂彦(東京女子医科大学 放射線腫瘍学講座) 秋元 裕義(日本医科大学付属病院 放射線治療科) |
3 | 化学療法 | 原 純一 師田 信人 |
吉藤 和久(北海道立子ども総合医療・療育センター 脳神経外科) 藤崎 弘之(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科) |
4 | 再発時の治療 | 夏目 敦至 | 大岡 史治(名古屋大学 脳神経外科) |
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
小児・AYA 世代上衣腫に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,上衣腫患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された9 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにガイドライン作成ワーキンググループがシステマティックレビュー(SR)チームの責任者となり,責任者よりSR 委員を選出してもらい,各課題1~8 名で編成した。上衣腫が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2014 年3 月上衣腫診療ガイドライン作成ワーキンググループが発足。委員長および担当者を決定した。
スコープ:ガイドライン作成ワーキンググループ委員で検討を繰り返し,作成した。
システマティックレビュー:各CQ に担当者を募り,リーダーとなるガイドライン作成ワーキンググループ委員と相談しながらエビデンスを収集した。
2015 年1 月version 2.0 を作成
2016 年2 月version 3.0 を作成
2016 年8 月version 4.0 を作成
2020 年9 月version 5.0 を作成
2020 年10 月version 6.0 を作成
2020 年12 月version 7.0 を作成
2021 年1 月version 8.0 を作成
2021 年3 月version 9.0(最終版)を作成
作成グループ会議:2014 年3 月から2019 年12 月の期間は,年間2 回程度の日程でガイドライン作成ワーキンググループ会議を行った。2020 年6 月からは毎月1 回オンライン会議を行った。
推奨作成とその過程:2021 年1 月と2 月にガイドライン作成ワーキンググループ内における推奨グレードの投票を行った。最終的にはオンライン会議にて討論し,ガイドライン作成ワーキンググループ内での意見が一致した状態で推奨グレードを提案した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年9 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.小児・AYA 世代上衣腫の基本的特徴
1)はじめに
2021 年12 月に公開されたWHO 脳腫瘍分類第5 版において,The Consortium to Inform Molecular and Practical Approaches to CNS tumor Taxonomy-Not Official WHO(cIMPACT-NOW)update 71)の提言に基づき,上衣腫の分類は大幅に改訂された。一方,臨床の現場ではいまだWHO 脳腫瘍分類第4 版による分類が広く行われていると考えられるため,本ガイドラインでは新分類を視野に入れつつ,用語などはWHO 脳腫瘍分類第4 版(以後WHO 2016)2)に準拠するものとする。
使用する「上衣腫」に関連する用語の定義は以下の如くである。WHO 2016 に記載されているEpendymal tumours を「上衣系腫瘍」と表記する。「上衣腫」とのみ表記する場合は,WHO 2016 における上衣腫(ependymoma, WHO grade Ⅱ)・ependymoma, RELA fusion-positive(WHO grade Ⅱ/Ⅲ)・退形成性上衣腫(anaplastic ependymoma, WHO grade Ⅲ)を含むものとする。狭義のWHO grade Ⅱの上衣腫を示す場合は,「上衣腫(WHO grade Ⅱ)」と表記することとする。上衣腫のgrading の記載については,前述のcIMPACT-NOW では,Ⅰ~Ⅳのローマ数字ではなく,1~4 のアラビア数字で記載している。これらは今後のWHO 分類にも採用されるものと思われるが,現在のWHO 脳腫瘍分類の表明とは異なるため,本ガイドラインではローマ数字Ⅰ~Ⅳのgrading で記載することとした。
本ガイドラインは「小児・AYA 世代」患者の診療を行う医療者を主な対象としている。上衣腫において,小児期から成人期にかけて明確な腫瘍の性状の違いはないが,小児期からの切れ目のない継続医療(移行期医療)が必要と考えられるためである。
2)疫学的特徴
上衣腫は脳室壁や脊髄中心管を構成する上衣細胞(ependymal cell)への分化を示す腫瘍である。脳腫瘍全国集計調査報告3)では,上衣腫の頻度は原発性脳腫瘍の1%と稀な腫瘍である。年齢層は乳幼児から高齢者まで,幅広く認められることが特徴である。年齢層別にみると,0~29 歳では全脳腫瘍の7.0%,0~4 歳までに限ると20.2%を占め,特に乳幼児では重要な腫瘍である。
発生部位は脳室系に関係していることが多く,成人ではテント上,小児では第四脳室発生が多い。テント上では脳室系と無関係な脳実質内に発生することもある。テント上発生が30%程度,後頭蓋窩発生が60%程度,脊髄発生が10%程度と報告されている2)。
脊髄腫瘍としての上衣腫は頻度が高く,成人の脊髄神経膠腫の約半分を占めるが,小児では稀である。脊髄上衣腫は神経線維腫症2 型に合併する症例もしばしばみられ,脊髄円錐と馬尾には粘液乳頭状上衣腫が高頻度にみられるなど,頭蓋内上衣腫とは異なる臨床的・生物学的特徴を持つため,脊髄上衣腫は本ガイドラインでは扱わない。
3)画像所見
脳室内の境界明瞭な腫瘍として描出されることが多い。MRI T1 強調画像では低信号,T2 強調画像では高信号を呈することが多く,造影効果はさまざまな程度で認められる。腫瘍内部には石灰化や囊胞,腫瘍内出血などがしばしば認められ,内部が不均一であることも特徴の一つである。脳実質への広汎な浸潤や周囲の強い脳浮腫をきたすことは稀である。小児では第四脳室に好発し,外側孔(Luschka 孔)から小脳橋角部へ進展する症例も認められる。また,脳室内発生の場合は閉塞性水頭症を合併しやすい。比較的髄液播種をきたしやすい腫瘍であり,髄液播種にも注意が必要である。
術前画像診断では,後頭蓋窩発生の上衣腫は髄芽腫やatypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)との鑑別が難しい例がある。テント上脳室外発生の場合,膠芽腫や退形成性星細胞腫との鑑別が問題となる。
4)病理診断
上衣腫(WHO grade Ⅱ)は小型で均一な腫瘍細胞が血管周囲性偽ロゼット配列を示すことが特徴であり,多くの症例で観察される。中心管を模した上衣ロゼットが上衣腫の診断に有用であるが,典型的なロゼット形成は比較的少数の症例にしか観察されないことも知られている。免疫染色では腫瘍細胞はglial fibrillary acidic protein(GFAP)が陽性となる。また,多くはS100 蛋白,vimentin が陽性であり,Olig2 は陰性となる。Epithelial membrane antigen(EMA)染色は上衣腫の診断に有用であり,ドット状もしくはリング状の陽性所見を認めることが多い。Isocitrate dehydrogenase(IDH)R132H での染色が陰性である点も重要である。
退形成性上衣腫はWHO grade Ⅲに属し,上衣腫(WHO grade Ⅱ)と比較して細胞密度が高く,多数の核分裂像を有し,微小血管増殖や壊死像を伴うものとされている。しかし,WHO 2016 では退形成上衣腫の診断根拠となる核分裂像の個数は明記されていない。
上衣腫の診断とさらにそのgrading に関する病理診断の難しさについてはいくつかの報告がある。Sasaki らは,我が国の治療担当施設で小児上衣腫と診断された130 例を対象に,熟練した3 名の病理医による中央診断の結果を報告している4)。中央診断において病理医間の診断一致率は脊髄上衣腫では100%,後頭蓋窩腫瘍では93%であったが,テント上(大脳半球)腫瘍では病理医間の一致率は77%であった。さらに,ヨーロッパの3 つの前方視的臨床試験における上衣腫187 例について,熟練した5 名の病理医が独立して診断したところ,grade Ⅱにおける症例ごとの診断一致率は19~59%,grade Ⅲは41~81%と広いばらつきを認めた5)。このように上衣腫の病理診断およびgrading の確定が困難であることが,予後予測因子としてのgrading の不明確性に影響しているものと考えられる。
WHO2016 では,上衣腫は5 つのサブタイプと3 つのgrade に分類されている。
WHO grade Ⅰには上衣下腫(subependymoma)や粘液乳頭状上衣腫(myxopapillary ependymoma)などが含まれる。上衣下腫は成人の脳室壁に好発し,粘液乳頭状上衣腫は若年成人の終糸に好発する。いずれの腫瘍も全摘出(gross total resection:GTR)後の予後は非常に良好である。いずれも成人に好発するため,本ガイドラインではこれらの腫瘍については取り扱わない。
WHO grade Ⅱにはpapillary, clear cell, tanycytic といったvariant が含まれる。WHO2016 には遺伝子診断によって分類されるEpendymoma, RELA fusion-positive という項目が新たに付け加えられた。本腫瘍は小児のテント上上衣腫の70%程度を占め,WHO grade ⅡもしくはⅢに分類される。退形成性上衣腫はこれまでどおりWHO grade Ⅲに分類される。本ガイドラインではWHO grade Ⅱの上衣腫とgrade Ⅲの退形成性上衣腫およびgrade Ⅱ/ⅢのRELA fusion-positive 上衣腫について取り扱う。
5)分子生物学的知見
近年の上衣腫における分子生物学的知見の報告は目覚ましく増加し,以前から年齢・発生部位によって臨床的特徴が異なると報告されていた症例群の背景が明らかとなってきた。テント上・下の上衣腫は病理組織所見としては類似するものの,もはやそれぞれ別の疾患として論じられるべきである。分子生物学的分類を理解することは,今後の診療に役立つためだけでなく,これまでの治療成績に関する報告を考察する上でも,極めて重要である。
分子生物学的には,頭蓋内上衣腫はテント上と後頭蓋窩で大きく異なる。テント上上衣腫では,染色体粉砕(chromothripsis)により形成されるC11orf95-RELA 融合遺伝子が2/3 程度と高頻度に認められることが報告された5)。RELA 遺伝子もC11orf95 遺伝子も共に11 番染色体長腕に存在し,マウスの実験ではC11orf95-RELA 融合遺伝子を導入することにより,NF-kB シグナルの活性化による上衣腫の発生が認められ,C11orf95-RELA 融合遺伝子はドライバー遺伝子であることが確認された。また,RELA 融合遺伝子を認めたテント上上衣腫の多くは退形成性上衣腫WHO grade Ⅲと診断されている4)。cIMPACT-NOW update 7 ではC11orf95-RELA 融合遺伝子におけるC11orf95 の役割が強調されており,疾患名もSupratentorial ependymoma, C11orf95 fusion-positive とすることが提言されている1)。また,C11orf95 遺伝子はその機能的意義として,RELA 遺伝子だけでなく他の多くの遺伝子と融合遺伝子を形成し,腫瘍形成の主因子となることが判明し,Zinc Finger Translocation Associated(ZFTA)遺伝子と呼称されることとなった1)。
また,テント上上衣腫においては,RELA融合遺伝子群と相互排他的にYAP1-MAMLD1 融合遺伝子が発現しているグループ(YAP1 融合遺伝子群)も存在する。これらテント上上衣腫15 例の報告では,全例が3 歳未満で,年齢中央値は8.2 カ月であり,乳児に好発することが示唆されている6)。15 例中13 例が女児で,病理組織学的には11 例がWHO grade Ⅲに分類されたものの,フォローアップ期間中央値4.84 年で全例再発を認めていない。YAP1 融合遺伝子群についてはcIMPACT-NOW1)でも提言されており,今後分類に追加されるサブタイプと考えられる。一方,RELA やYAP1 などの融合遺伝子が存在しないテント上上衣腫も約30%みられるが,それらの腫瘍の生物学的悪性度の評価は定まっておらず7),今後メチル化プロファイルなどによる精査が必要である。
後頭蓋窩上衣腫は全ゲノム的な発現プロファイルやメチル化プロファイルの違いから,Group A(posterior fossa type A:PFA)とB(posterior fossa type B:PFB)に分類される8)。PFA はCpG island に高メチル化を多数認め,また30%程度に染色体1q のDNA コピー数増加がみられる7)。一方,PFB では6q,22q の欠失や9q,15q,18q などの増加など1q 増加以外のさまざまな染色体異常を示す。PFA は幼年の男児に多く,WHO grade Ⅲが多い傾向があり,転移・再発が多い。PFB は年長児や成人に多く,性差はなく,PFA に比べて予後が良好である。PFA・PFB の鑑別には,H3K27me3 の免疫染色が有用である。前述のSasaki らの報告4)では,後頭蓋窩上衣腫のうち,退形成性上衣腫と診断された症例の大部分はPFA であった。
また,前方視的臨床試験であるHIT 2000-E プロトコールに含まれていた28 例の18 カ月未満の上衣腫についての遺伝子検索結果が報告され9),8 カ月未満の上衣腫28 例はすべて退形成性上衣腫であった。28 例中21 例(75%)が後頭蓋窩局在であり,全例PFA であり,テント上局在の7 例(25%)のうち,4 例がRELA 融合遺伝子陽性で,2 例がYAP1 融合遺伝子陽性であった。これらの結果より,18 カ月未満の上衣腫は,PFA/RELA 融合遺伝子/YAP1 融合遺伝子の3 群が大半を占めることが示唆されている。
上衣腫の分子生物学的分類における予後解析では,PFA が予後不良であり,PFB は予後良好であるとする報告が多い10)。特に一番染色体長碗のgain を伴うPFA の予後は不良である10)。RELA 融合遺伝子群の予後については,報告にばらつきがみられる10)。YAP1 群の発生頻度はRELA 群に比べて低いが,予後は良好である。
本ガイドラインで取り上げた臨床試験や報告の多くは,上記の分子生物学的知見について勘案されたものでないことに注意する必要がある。現在のところ,分子生物学的分類は治療方法の選択に直結しないが,予後を予測するのに重要な示唆が得られる。今後はこれらの分子生物学的分類に基づいた臨床試験が行われ,手術・放射線治療・化学療法の有効性がサブグループごとに変わっていく可能性がある。
6)治療
上衣腫の治療における手術についてのエビデンスは,一つの方向に向かっており理解しやすい。すなわち,大部分の報告において可能な限り全摘出を行うことが予後の改善につながっている。また放射線治療については,サブタイプによっては不要という報告があるものの,多くは有用性を支持する報告である。
上衣腫において最も悩ましいのは,乳幼児の治療である。これは放射線治療の晩期合併症が発生しやすいためである。乳幼児の上衣腫に対しても,おそらく放射線治療は有効であると考えられるが,晩期合併症を考慮すると,化学療法を先行することにより放射線治療の回避もしくは延期が望まれるところである。問題は,何歳なら照射を行ってよいのかというカットオフ値であろう。本ガイドラインでは「3 歳」という年齢を提示した。これは歴史的に複数の臨床試験に用いられてきた年齢区分であり,ある程度エビデンスが存在するためである。しかし,その区切り自体に強いエビデンスではなく,あくまで一つの目安として考えるべきであると思われる11)。放射線治療は,年齢のみならず,摘出術後の状態,残存腫瘍の部位や量,病理組織所見と遺伝子分類などを考慮し,生命予後と晩期合併症のバランスを考えた上で照射量,照射範囲,照射方法を慎重に判断する必要がある。2018 年にEuropean Association of Neuro-Oncology(EANO)から示されたガイドライン12)では,摘出術後の後療法として,12 カ月未満には化学療法を,12~18 カ月には54 Gy の局所照射を,18 カ月以上では59.4 Gy の局所照射を推奨している。しかし,後のCQ で記述しているとおり,上衣腫に放射線治療の効果はあるものの,12 カ月以上3 歳未満児への放射線治療に関しては,局所照射であっても,晩期脳障害が許容できるかどうかの十分なエビデンスの蓄積は認められなかった。そのため本のガイドラインでは,3 歳未満・3 歳以上という区切りを用いているものの,その取り扱いについては十分慎重を期して解説文を記載した。また,今回のシステマティックレビューからは,12 カ月あるいは18 カ月という年齢の区切りに関するエビデンスはは十分ではないと判断し,その採用を見送った。詳しくは課題2:放射線治療,課題3;化学療法を参照されたい。
7)治療成績と予後因子
脳腫瘍全国集計調査報告2)によると,手術+放射線治療を受けた症例の5 年生存割合は,上衣腫(WHO grade Ⅱ)では約70%,退形成性上衣腫(WHO grade Ⅲ)では約30%である。年齢的には3 歳未満での発症は予後不良因子とする報告が多い。低年齢発症の場合には組織的悪性度が高いこと,後頭蓋窩発生の割合が大きく全摘出が難しいこと,また低年齢層への放射線治療が避けられてきたことなどの要因が予後に影響を及ぼしている可能性が考えられている。摘出率については,全摘出が遂行可能であった例は,有意差をもって予後良好であるとする報告が多い。摘出術後の放射線治療が標準的治療と考えられるが,いくつかの報告では放射線治療の効果が示されておらず,放射線治療を必要としない症例群の存在も示唆されている。上記以外の予後不良因子として,治療前の播種病変の存在が報告されている。
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2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:小児・AYA 世代上衣腫の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後の改善
- (3)トピック:生命予後,機能予後の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍(15 歳未満および16~29 歳のAdolescent and Young Adult:AYA 世代を含めた年齢)を診療する医療者,患者・家族
- (5)既存ガイドラインとの関係:上衣腫診療については,EANO ガイドライン(2016)を参考にした。
- (6)重要臨床課題
課題1:手術摘出
課題2:放射線治療
課題3:化学療法
課題4:再発時の治療
- (7)ガイドラインがカバーする範囲
- a)脊髄髄内に発生する上衣腫は本ガイドラインの対象疾患には含めず,頭蓋内上衣腫に限定する。
- b)頭蓋内上衣腫の2016 年WHO 分類第4 版による悪性度のWHO grade ⅡとⅢの両方を含める。
- c)厚労省から示された小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満および16~29 歳のAYA 世代を含めた年齢)
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール | 文献検索:2 カ月 文献の選出:2 カ月 エビデンス総体の評価と統合:6 カ月 |
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:European Association for Neuro-Oncology(EANO)よりガイドラインが報告されている(スコープ引用文献12 を参照)。
- 個別研究論文:ランダム化比較試験の報告は,海外からいくつか報告されている。その他,非ランダム化比較試験,観察研究を検索対象とした。MRI 時代以前の観察研究や,症例報告に関しては一部を除いて省略した。
- ②データベース
- 個別研究論文:主にPubMed
- SR/MA 論文について:検索されたSR はすべて参考としたが,構造化抄録には加えなかった。MA 論文は認めなかった。
- 既存のガイドラインの検索:EANO からのガイドラインを参考とした(スコープ引用文献12 を参照)。
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いた。
- ④検索対象期間
- すべてのデータベースで2019 年12 月31 日まで
- ①エビデンスタイプ
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。 - (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合が量的統合を実施。
- CQ1
- 肉眼的全摘出は生命予後を改善するか?
- 推奨度1C
- 推奨
生命予後の改善が期待できるので肉眼的全摘出を推奨する。
解説
1.CQ の設定
小児期とadolescent and young adult(AYA)世代の頭蓋内上衣腫に対する手術摘出として,アウトカムの「益」としてはOS やPFS の延長を,また「害」としては神経症状の悪化によるQOL の低下を設定し,肉眼的全摘出(GTR)とそれ以下の摘出度との間で比較した。また,初回摘出術後の残存腫瘍に対する再摘出の有効性,および最近提唱されている全ゲノム的な発現プロファイルから分類される後頭蓋窩上衣腫サブタイプにおける摘出度と予後との関連性も検討した。PICO の設定に従い,30 歳以上の症例を多く含む報告や,再発例および脊髄上衣腫を対象とした報告は除外し,稀少疾患である頭蓋内上衣腫に対して定性的システマテックレビューを行った。
2.腫瘍の摘出度とOS・PFS
頭蓋内上衣腫では腫瘍のGTR ができれば生命予後が改善すると考えられてきたが,今回システマティックレビューにより,この仮説を評価した。上衣腫の摘出度の判定は,術中所見ではなく,摘出術後早期の画像検査によって厳密に評価することが求められるようになったため,画像評価が行われた報告を採用した。近年の摘出度の評価法に準じて1),摘出術後の画像検査で残存腫瘍を認めないものをGTR とし,GTR 以外のnon-GTR にはnear total resection,亜全摘出,部分摘出および生検が含まれる。これまで摘出度と予後との関係を明確にするためのランダム化比較試験の報告はないため,年齢・部位・組織学的悪性度・放射線治療・化学療法など複数の予後因子を評価した報告で,多変量解析を用いたサブ解析により腫瘍の摘出度の評価を行った報告を採用した。統計学的に適切な評価を得るために,GTR 群・non-GTR 群の症例数がそれぞれ20 例以上の報告を採用した。
Non-GTR よりもGTR でOS の延長が有意差ありとする報告は7 件,PFS の延長が有意差ありとする報告は6 件であった。これらの報告で,摘出術後に放射線治療などの後療法が施行された5 年OS はGTR 群80~93.6%,non-GTR 群51~53%であり,5 年PFS はGTR 群53~81.5%,non-GTR 群33~42%であった。一方,OS ではGTR 群とnon-GTR 群に有意差を認めないとする報告は1 件のみで,PFS で有意差のない報告は3 件といずれも少なかった。Non-GTR 群がGTR 群よりもOS,PFS が有意に良好であるとする報告はなかった。発生部位を後頭蓋窩あるいはテント上に分けて摘出度と予後との関係を検討した報告はなかった。
1)前方視的研究の報告
摘出術後の後療法として放射線治療と化学療法のどちらを先に行う方が予後良好かを検討するためのランダム化比較試験の報告2) (3 歳以上 18 歳以下,テント上 26 例,後頭蓋窩29 例,GTR 51%)では,GTR 群のPFS がnon-GTR 群よりも有意に良好で,3 年PFS がGTR 群83.3%,non-GTR 群38.5%であった。化学療法の違いによって予後の改善が得られるかをランダム化比較試験で検討した報告3)(3 歳未満の 82例,GTR 37%)では,non-GTR 群と比較してGTR 群で有意にOS とPFS が良好であった。摘出術後に放射線治療を避けて化学療法を先行して治療効果をみた報告4)(3歳未満の症例,テント上13例,後頭蓋窩69 例,GTR 60%)では,non-GTR 群に比較してGTR 群のOS・PFS はともに有意に良好で,4 年OS はGTR 群74%,non-GTR 群35%であった。摘出術後に標準的な54.0 Gy と高線量の59.4 Gyとの放射線治療を施行して予後を比較した報告5)(10歳以下,テント上31例,後頭蓋窩122 例,GTR 82%)では,GTR 群のOS,PFS はnon-GTR 群よりも良好であった。この報告では,GTR 群では5 年OS 93.6%,7 年OS 88.0%,non-GTR 群では5 年OS 53.4%,7 年OS 52.4%であり,PFS はGTR 群では5 年で81.5%,7 年で77.3%,non-GTR 群では5 年で41.0%,7 年で34.2%であった。組織学的悪性度と摘出術後の残存腫瘍の有無によって異なる後療法を施行して治療効果を検討した報告6)(3歳以上21歳以下,テント上50 例,後頭蓋窩110 例,GTR 76%)では,GTR 群の方がnon-GTR 群よりも有意にOS が良好で,5 年OS はGTR 群87.8%,non-GTR 群61.2%であった。この報告では,5 年PFS はGTR 群72.1%,non-GTR 群45.3%で,有意差に至らなかった(p=0.058)。GTR 群と non-GTR群との間で OS・PFSに有意差を認めなかった報告は 1 件7)(3 歳以下,テント上76 例,後頭蓋窩13 例,GTR 49%)で,3 歳以下の例を対象に摘出術後に化学療法を施行し,再発を認めた際に放射線治療を行い,治療効果を前方視的に検討している。この報告では,5 年OS・PFS はGTR 群で68.1%・48.9%,non-GTR 群で51.8%・25.8%であった。
2)後方視的研究の報告
腫瘍の摘出術後,年少児に対しては化学療法を施行した後に放射線治療を施行し,治療効果を検討した報告8)(15 歳未満,テント上 18例,後頭蓋窩 65例,GTR 72%)では,GTR 群のOS・PFS がnon-GTR よりも有意に良好で,5 年OS はGTR 群80%,non-GTR 群51%であり,5 年PFS はGTR 群53%,non-GTR 群33%であった。摘出術後に放射線治療や一部の例に化学療法を施行し治療効果を検討した報告9)(0.1~18歳,テント上 24例,後頭蓋窩58 例,GTR 68%)では,OS はnon-GTR 群よりもGTR 群で有意に良好であったが,PFS は両郡間に有意差は認めなかった。摘出術後に異なった方法で放射線治療を施行してその有効性を検討した報告10)(25 歳以下,テント上 147 例,後頭蓋窩 55例,GTR 86%)では,GTR 群のOS はnon-GTR 群よりも有意に良好であった。
以上の結果から,年少児からAYA 世代の年齢の症例を対象とした前方視的研究,あるいは後方視的研究のサブ解析では,GTR 群のOS・PFS がnon-GTR 群よりも有意に良好であるとする報告が多く,これに反する報告は非常に少ない。ただ,摘出術後に後療法が施行されているので,摘出度によってどの程度の予後を改善できるかは不明である。結論として,摘出度と予後との関係をランダム化比較試験で検討した報告はないのでエビデンスレベルが高いとは言えないが,後述のように腫瘍の摘出により重篤な神経症状の悪化が予想される場合を除き,生命予後の改善が期待できるためGTR を推奨する。
3.残存腫瘍に対する再摘出の有効性
初回摘出術後に残存した腫瘍に対する再摘出,いわゆるsecond-look surgery によってGTR が達成できれば予後の改善が期待されるため,初回摘出術後に再摘出,あるいは再々摘出が行われてきた5,11)。これらの報告でのGTR の達成率は81.7%および80.2%であり,前項1)で述べたGTR 率(30~80%台)と比較して高値である。
再摘出による予後への影響を中心に検討した報告は少なく,システマティックレビューでは次の3 つの報告を採用した。
小児テント上下の上衣腫110 例を対象に再摘出の有効性を検討した多施設前方視的研究の報告12)では,初回摘出術後の残存腫瘍に対し化学療法や放射線治療を行い,残存腫瘍の再摘出,あるいは複数回の摘出術によって,GTR 達成率は初回摘出の61.0%から82.7%まで上昇した。この報告では,初回摘出でGTR を達成できた群と複数回の摘出でGTR を達成できた群との間に,PFS や局所非再発率に有意差は認めないことから,再摘出によってGTR が達成できれば初回摘出でGTR となった場合と同等の効果があることが示唆された。この再摘出の適応は外科医の判断に委ねられているが,適応とならないのは,腫瘍が基底核に浸潤している例,脳底動脈を巻き込んでいる例,脳幹部の腹側まで進展している例など,再摘出によって高度の神経障害が予想される場合としている。この手術適応で複数回の摘出を行った29 例中,神経症状の悪化は2 例(6.8%)にみられ,このうち1 例は改善したことから再摘出による神経障害の悪化は許容範囲としている。
小児テント上下の上衣腫160 例を対象とした多施設前方視的研究6)では,初回手術で残存腫瘍を認めた50 例中46 例(92.0%)で,摘出術後の後療法を行う前に残存腫瘍を再度摘出した。少数例で3 回以上の摘出を行っている。その結果,初回摘出でのGTR 達成率68.8%が再摘出によって75.6%と上昇した。再摘出の手術合併症は46 例中5 例(10.9%)に認め,このうち4 例は小脳・下位脳神経の障害で,残り1 例は出血を呈したが神経症状は改善したことから,再摘出に伴う神経症状の悪化は許容範囲としている。
発生部位・組織学的悪性度・摘出度によって異なった後療法を施行し,放射線治療の有効性を前方視的に検討した報告13)(1 歳から 21 歳までのテント上下の上衣腫 356 例,GTR 82.0%)では,亜全摘出(摘出術後の画像所見で0.5 cm より大きな残存腫瘍を認める)に終わったのは64 例(全例の18.0%)であった。亜全摘出例に化学療法を行い,64 例中25例(39.0%)で残存腫瘍に対し再摘出を施行し,後療法として局所放射線治療を行ったところ,5・10 年のPFS はそれぞれ50.5%・45.9%であった。一方,亜全摘出術後に化学療法を行ったが再摘出しなかった例(39 例)に放射線治療を行った群の5・10 年のPFS はそれぞれ28.5%・25.0%であった。これら再摘出した群と行わなかった群でのPFS を比較すると,再摘出した群の方が良好な傾向を認めたが,この差は有意ではなかった(p=0.116)。
以上,初回摘出術後に画像上残存腫瘍を認めた場合,再摘出を行う,あるいは化学療法などを施行した後に再摘出を行うことが,予後を改善するのに有効かどうかに関しては,報告が少なく十分なエビデンスがない。しかし,前述のMassimino らの再摘出の適応12)を参考にし,重篤な障害をきたさずに再摘出を施行してGTR が達成できれば,non-GTR よりも良好なOS やPFS が期待できるため,再摘出を考慮してもよい。
4.腫瘍摘出によるQOL の低下
腫瘍の摘出技術が向上し,摘出に際して神経障害の発生頻度は減少しているものの,脳深部に局在する腫瘍や,大きい腫瘍であれば,摘出に伴う神経機能障害を起こしやすい。発生部位がテント上であれば摘出に伴い腫瘍周囲の脳損傷が発生しやすく,大脳深部に発生すれば腫瘍到達までの大脳の切開などによる損傷も加わる。後頭蓋窩では,大きな腫瘍では摘出時の小脳または脳幹の損傷によって,脳幹の機能障害,錐体路障害や小脳障害による歩行障害や運動障害が発生する。第四脳室から小脳橋角部や脳幹前面に進展した腫瘍では,摘出時の脳神経の障害によって顔面神経麻痺や眼球運動障害が発生し,下位脳神経の障害による構音障害,重篤なものとして嚥下障害による気管切開や胃瘻造設の必要性が指摘されてきた。また,後頭蓋窩腫瘍に特有な無言症(mutism)があり,重篤な場合は回復しにくく,これにより高次脳機能障害が発生して患者のQOL を大きく低下させる。
今回,摘出術による神経障害の悪化をより客感的に評価するため,システマティックレビューでは次の3 つの報告を採用した。
小児の後頭蓋窩上衣腫(45 例)を対象に,摘出術後の神経障害を後方視的に検討した単施設からの報告14)では,20%に声帯機能低下を認め,24%に嚥下障害のために胃瘻を必要とした。複数回の腫瘍摘出の後に局所放射線治療を施行し,神経障害を前方視的に評価した単施設からの報告11)(0.8~22.7歳,後頭蓋窩のみ96例)では,摘出術後に運動失調55%,外転神経麻痺51%,顔面神経麻痺50%,四肢麻痺40%,嚥下障害39%,体幹失調・筋緊張低下24%を認めた。重篤な障害として歩行障害18%,嚥下障害9%があり,嚥下障害が最も改善しにくく,28%で胃瘻,16%で気管切開を必要とした。治療後60 カ月以上生存した48 例中42 例(87.5%)では神経症状の改善を認めたが,四肢麻痺と運動失調は改善が乏しかった。顔面神経麻痺,構音障害,歩行障害は摘出術後36 カ月まで改善し,その後障害は固定化した。複数回の手術摘出によりGTR は80.2%であったが,摘出度と神経障害の関連は示されていない。摘出術後に神経学的異常を認めなかった例(21%)の大半は腫瘍の外側進展が少ない例であったことから,外側進展が手術摘出における神経障害の危険因子であると推測される。また,水頭症やシャント設置も神経症状出現の危険因子であったとしている。
摘出度と高次脳機能との関連性に関しては,摘出術後に放射線治療を施行し5 年後のQOL を評価した単一施設での前方視的研究の報告15)(1~25 歳,テント上 25例,後頭蓋窩98 例,GTR 82%)がある。摘出度については,肉眼的全摘出をGTR,5 mm 以下の残存腫瘍の場合をnear total resection,5 mm を超える残存腫瘍を認める場合をsubtotal resection と定義している。サブ解析として腫瘍の摘出度とIntelligence Quotient(IQ)の有意な関連性は認められなかったが,集団行動が取れない等の適応行動障害は,subtotal resection 群ではGTR 群やnear total resection 群より単変量解析で有意(p=0.046)に強く認められたとしている。この報告では,後頭蓋窩上衣腫の摘出術後無言症の記載はなく,無言症の高次脳機能への影響は検討されていない。しかし,近年は小脳と高次脳機能との関連が推測されているため,重篤な無言症の発生はQOL を低下させることを認識すべきである。
今回のシステマティックレビューでは,腫瘍の摘出度と神経障害の関連性は明らかではないが,後頭蓋窩上衣腫では第四脳室の外側に進展した場合に,手術摘出による神経障害が発生しやすいことが推測できた。初回の手術摘出であっても,残存腫瘍に対する再手術摘出の場合でも,重篤な神経障害が発生すれば十分な回復は期待できないことを認識し,手術摘出に臨むべきであると思われる。
5.分子分類での摘出度による予後への影響
後頭蓋窩上衣腫は,全ゲノム的な発現プロファイルの違いからPFA とPFB に分けられ,PFA はPFB と比較して有意に予後が不良であることが明らかとなってきた16,17)。PFA とPFBのサブグループで,腫瘍摘出度と予後との関係に注目した前方視的研究の報告はない。今回のシステマティックレビューでは,複数の予後因子が評価されている報告を採用し,摘出度と予後との関係を検討した。
PFA を対象にOS に対する摘出度を含めた複数の予後因子を検討した報告は4 件あり,すべて後方視的研究で少数の成人例を含む報告もある。このうち3 件の報告16-18)ではGTR 群はnon-GTR 群よりも有意にOS が良好で,残り1 件の報告19)では有意差は認めなかった。PFS は上記4 件のすべての報告において,GTR 群がnon-GTR 群よりも有意に良好であった。
PFB を対象にOS に対する摘出度を含む複数の予後因子の解析を行った4 件の後方視的研究がある。このうち2 件の報告18,20)でGTR 群がnon-GTR 群より有意にOS が良好であったが,他の2 件の報告16,17)では両群間で有意差を認めなかった。PFS に関して,1 件の報告18)でGTR 群がnon-GTR 群より有意に良好であったが,他の2 件の報告16,17)では両群間に有意差を認めなかった。
以上から,後頭蓋窩上衣腫をPFA およびPFB に分類して摘出度と予後とを検討すると,両群ともにGTR によるOS・PFS はnon-GTR よりも良好な傾向があると推測できる。しかし,この分類に従って腫瘍の摘出度と予後との関係を検討した報告は少なく,明確な結論を出すことはできない。現状では,後頭蓋窩上衣腫の手術摘出時にリアルタイムでPFA やPFB の分子診断はできないため,重篤な神経障害を呈さない限りGTR を提案する。
6.まとめ
多数の前方視的・後方視的研究における予後因子の解析結果から,小児とAYA 世代の頭蓋内上衣腫に対してはGTR を達成できれば,non-GTR に比べてOS・PFS は改善することが示唆される。エビデンスレベルは高くはないが,手術摘出により重篤な神経症状の悪化が予想される場合を除き,GTR を強く推奨する。また,初回摘出術後に残存腫瘍を認めた場合は,手術摘出による神経障害の悪化を十分に考慮した上で,再摘出手術によりGTR を目指すことを提案する。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((Ependymoma[mh:noexp]OR Ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])))AND((Brain Neoplasms[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial *[tiab]OR intracranial*[tiab]OR ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa[tiab])))AND(((“surgery”[sh]OR “surgery”[tiab]OR “surgical procedures, operative”[mh])OR(“surgical”[tiab]AND “procedures”[tiab]AND “operative”[tiab])))))AND(((infant[mh]OR child[mh]OR adolescent[mh]OR young adult[mh]OR adult[mh:noexp])))))AND 1900/1/1:2019/12/31[dp]))AND((English[la]or Japanese[la]))))NOT Case Reports[pt]
以上の検索式より,一次スクリーニングとして179 文献を抽出した。医中誌の検索による8 文献,およびハンドサーチによる20 文献を加え,188 文献について二次スクリーニングを行い,44 文献について構造化抄録を作成した。最終的にCQ1 では20 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
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課題2:放射線治療
- CQ2
- 3 歳以上の症例に放射線治療は有用か?
- 推奨度1C
- 推奨1
摘出術後に腫瘍が残存した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫の症例に対しては,摘出術後に放射線治療を行うことを推奨する。
- 推奨度2C
- 推奨2
肉眼的に全摘出された退形成性上衣腫の症例に対しては,摘出術後に放射線治療を行うことを提案する。
解説
上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかに関しては,現在まで,本来の結論を導くことができるような十分にデザインされた臨床試験は行われていない。また,上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかを検討した報告1-10)はいくつかあるものの,その結果のみで結論を出すことは難しい。現状では,より若年の症例には放射線治療を避ける試みがなされており,通常診療でも年齢によって治療戦略の立て方が異なっていることが多い。本項では3 歳以上の症例に放射線治療が有用かどうかを,今までの報告から検討した。
放射線治療が有効であるとした報告の中で,比較的症例数が多い,前方視的,などのインパクトのあるものが5 編あった。一つ目は,小児上衣腫の手術と照射の役割を検討することを目的に,1973~2005 年のThe Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)のデータベースから抽出された上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫2,408 例を対象に行った研究1)である。最も強い予後因子は全摘出であり,全摘出例への摘出術後放射線治療の有効性は示されなかった。しかし,部分摘出例では摘出術後に放射線治療を追加することで予後が有意に改善し,摘出術後放射線治療の有効性が示された。最も症例数の多いこの報告からは,限定的ではあるが摘出術後の放射線治療が有効であると考えられる。ただし,対象症例は30 歳未満が30%程度であり,本ガイドラインの対象よりも高い年齢層が多く含まれているという点に注意を要する。2 つ目はSEER データベース(1973~2003 年)から抽出された小児上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫635 例を対象とし,予後因子について検討した研究2)である。年齢と腫瘍発生部位が予後因子として報告された。5 年生存率(5 年OS)はテント上59.5%,後頭蓋窩57.1%,脊髄86.7%であり,解析対象に非常に予後良好な55 例(8.7%)の脊髄原発例が含まれているため,小児頭蓋内上衣腫の予後を規定する因子は年齢のみと考えた方がよいかもしれない。一方で,放射線治療は単変量解析では全体のOS の改善に寄与し,多変量解析でも後頭蓋窩上衣腫のOS の改善に寄与する(5 年OS 57.1% vs. 48.2%)ことが示された。特に後頭蓋窩上衣腫に対する放射線治療の有効性が示されたと結論している。3 つ目は,153 例の小児限局性上衣腫への手術+摘出術後照射の有効性を検討した単施設前方視的臨床研究3)である。対象の年齢中央値は2.9(0.9~22.9)歳であった。研究計画されていた放射線治療はClinical Target Volume(CTV)マージン1.0 cm の局所照射で,1.5 歳未満の全摘例には54 Gy/30 回,それ以外の症例には59.4 Gy/33 回の投与線量が設定されていた。131 例で59.4 Gy,22 例で54.0 Gy の照射が行われた。全体での7 年locoregional control rate(LCR),EFS,OS は87.3%,69.1%,81.0%で,局所再発,遠隔転移の累積発生率は16.3%,11.5%であった。何らかの理由で摘出術後早期に放射線治療をしなかった46 例を除いた107 例の結果は,7 年LCR,EFS,OS は88.7%,76.9%,85.0%で,局所再発,遠隔転移の累積発生率は12.6%,8.6%であった。過去の報告と比較して試験全体の治療成績が比較的良好であったこと,有害事象として脳幹壊死は1.6%と多くなかったことなどから,可及的摘出術後の局所への高線量の放射線治療が重要であると結論している。しかし,本研究のみから,摘出術後に1.5 歳未満児に54 Gy/30 回,それ以外に59.4 Gy/33 回を標準的投与線量としてよいかについては,今後十分な検討が必要である。4 つ目は,フランスでの24 施設の後方視的症例集積研究4)であり,中央値46(18~82)歳の成人上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫の152 例が対象であった。予後因子として摘出度,grade(Marseille),年齢,KPS が示された。放射線治療に関する結果では,Marseille の低Grade(93.8%がWHO grade Ⅱ)の部分摘出の場合にはPFS で有意な有効性があり,OS に関しても有効な傾向を示したが,Marseille の高Grade(90%がWHO grade Ⅲ)の全摘出の場合にはPFS には有効な傾向を示したが,OS に差はなかった。この報告は,本ガイドラインが対象とする年齢層よりも高い年齢層が多く含まれていること,WHO grade Ⅲの症例が28.3%と少ないことなどの注意点があるものの,その結果に関しては,症例限定的ではあるが放射線治療の有効性が示されている。5 番目の報告5)は顕微鏡下手術における平均年齢23(1~75)歳の頭蓋内上衣腫の予後因子を単一施設で後方視的に検討したもので,WHO grade は無増悪生存期間・全生存期間ともに明らかな予後因子であることが認められた。摘出術後の放射線治療に関しては上衣腫全体での放射線治療の有効性は示されなかったものの,退形成性上衣腫で全摘出された症例で最も有効性が高いことが示された。つまり,摘出術後の放射線治療の有効性は上衣腫全体では認めないが,退形成性上衣腫では全摘出であっても追加した方がよいという結果であり,放射線治療の有効性が症例限定的に示された。このように放射線治療は,部分摘出術後・退形成性上衣腫・小児後頭蓋窩腫瘍で有効である可能性が示唆されるが,報告によって有効性が示された群が相反する結果も認められた。
一方で,放射線治療の有効性がないとする少数の報告も認められた。しかし,放射線治療が有効であるとする研究と比較すると,対象症例数が少ない研究が多い。その中でも解析症例数の多い研究に,米国のNational Cancer Database(NCDB)から抽出した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫1,318 例[年齢中央値43(18~54)歳]を対象とした研究6)がある。WHO grade Ⅱ/Ⅲは1,055/263 例,テント上/下は848/470 例で,485 例に亜全摘出/肉眼的全摘出,662 例に摘出術後放射線治療,75 例に化学療法が実施された。その結果,予後因子として年齢,WHO grade,腫瘍サイズ,性別,腫瘍部位が示されたが,放射線治療はWHO grade や摘出度,腫瘍部位を考慮しても生存への寄与は認められなかった。この研究では本ガイドラインで対象としている年齢層より高年齢の症例が多いことに注意が必要であるが,症例限定ではあるが摘出術後の放射線治療の有効性が示されていない報告である。5 つ目の報告は,SEER データベースから全摘出術後のテント上上衣腫を抽出した研究7)である。対象は92 例で,年齢中央値は17.5(1~83)歳であった。結果は,5 年OS 83.2%,10 年OS 71.4%,他因死を除く補正生存率(修正生存率,cause specific survival:CSS)5 年84.1%,10 年CSS 71.4%であった。放射線治療は半数の症例に実施されたが,放射線治療の有無でCSS,OS ともに差を認めなかった。本ガイドラインの対象年齢層より高い年齢が含まれていること,対象がテント上の全摘出された上衣腫に限定されていることに注意が必要である。しかし,本報告も症例限定ではあるが摘出術後の放射線治療の有効性を認めなかった研究の一つである。
これらの結果から,大部分が後方視的検討ではあるものの,残存腫瘍を認める上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫に対する摘出術後放射線治療の有効性は,多くの検討で肯定的な結果であった。摘出術後に腫瘍が残存した上衣腫(WHO grade Ⅱ)・退形成性上衣腫には放射線治療を追加することで予後が改善すると考えられる。また,肉眼的全摘出された退形成性上衣腫に関しては,摘出術後残存を認める腫瘍ほど肯定的な報告は多くないが,摘出術後に放射線治療を施行した方がOS あるいはPFS を改善するとした報告が散見される。よって退形成性上衣腫の場合には,全摘術後でも放射線治療を行うことを検討すべきである。一方,肉眼的全摘出がなされた上衣腫(WHO grade Ⅱ)に関しては,前述したとおりに相反する報告がそれぞれに散見されることから,画一的に摘出術後の放射線治療の実施の是非を決めることはできず,推奨度を決めるのは難しい。摘出腔周囲の再発時に手術が可能かどうか・年齢・全身状態・腫瘍部位・腫瘍サイズ,分子生物学的情報(現段階ではまだ一般的ではないが組織学的悪性度以外の情報)等を考慮し,症例に応じて判断するのも一法であろう。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((((outcome*[tiab])OR(prognos*[tiab]))OR(impair*[tiab]))OR(late effect*[tiab]))OR(cognitive[tiab]))OR(development*[tiab]))OR(disorder*[tiab]))OR(risk factor*[tiab]))OR(side effect*[tiab]))OR(adverse effect*[tiab]))OR(toxi*[tiab]))OR(damage[tiab]))OR(sequela*[tiab]))AND((((“Ependymoma”[Mesh:NoExp]OR ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])AND(“Brain Neoplasms”[Mesh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR Intracranial*[tiab]OR Ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa*[tiab]))AND(“Radiotherapy”[Mesh]OR “radiotherapy”[Subheading]OR Radiotherapy[tiab]OR Irradiation[tiab]OR reIrradiation[tiab]OR “Proton therapy”[tiab]OR “radiation therapy”[tiab]))AND(1900/1/1:2019/12/31[dp])))NOT(Case Reports[pt])
以上の検索式より,一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ2 では10 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Rodríguez D, Cheung MC, Housri N, et al. Outcomes of malignant CNS ependymomas:an examination of 2408 cases through the Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)database(1973-2005). J Surg Res. 2009;156(2):340-51.[PMID:19577759]
- 2)
- McGuire CS, Sainani KL, Fisher PG. Both location and age predict survival in ependymoma:a SEER study. Pediatr Blood Cancer. 2009;52(1):65-9.[PMID:19006249]
- 3)
- Merchant TE, Li C, Xiong X, et al. Conformal radiotherapy after surgery for paediatric ependymoma:a prospective study. Lancet Oncol. 2009;10(3):258-66.[PMID:19274783]
- 4)
- Metellus P, Barrie M, Figarella-Branger D, et al. Multicentric French study on adult intracranial ependymomas:prognostic factors analysis and therapeutic considerations from a cohort of 152 patients. Brain. 2007;130(Pt 5):1338-49.[PMID:17449478]
- 5)
- Korshunov A, Golanov A, Sycheva R, et al. The histologic grade is a main prognostic factor for patients with intracranial ependymomas treated in the microneurosurgical era:an analysis of 258 patients. Cancer. 2004;100(6):1230-7.[PMID:15022291]
- 6)
- Nuño M, Yu JJ, Varshneya K, et al. Treatment and survival of supratentorial and posterior fossa ependymomas in adults. J Clin Neurosci. 2016;28:24-30.[PMID:26810473]
- 7)
- Ghia AJ, Mahajan A, Allen PK, et al. Supratentorial gross-totally resected non-anaplastic ependymoma:population-based patterns of care and outcomes analysis. J Neurooncol. 2013;115(3):513-20.[PMID:24085643]
- 8)
- Aizer AA, Ancukiewicz M, Nguyen PL, et al. Natural history and role of radiation in patients with supratentorial and infratentorial WHO grade Ⅱ ependymomas:results from a population-based study. J Neurooncol. 2013;115(3):411-9.[PMID:24057324]
- 9)
- Metellus P, Guyotat J, Chinot O, et al. Adult intracranial WHO grade Ⅱ ependymomas:long-term outcome and prognostic factor analysis in a series of 114 patients. Neuro Oncol. 2010;12(9):976-84.[PMID:20484442]
- 10)
- Guyotat J, Metellus P, Giorgi R, et al. Infratentorial ependymomas:prognostic factors and outcome analysis in a multi-center retrospective series of 106 adult patients. Acta Neurochir(Wien). 2009;151(8):947-60.[PMID:19499166]
- CQ3
- 3 歳未満の症例に放射線治療は有用か?
- 推奨度2C
- 推奨
3 歳未満の症例に対しては,放射線治療を回避するか,できるだけ長期の開始遅延を目指すことを提案する。
解説
上衣腫に対して放射線治療が有効かどうかに関しては,現在までこれに答えることができる十分にデザインされた臨床試験は行われていない。特に現状では,より低年齢の症例に対して放射線治療を避ける傾向があり,通常診療でも年齢により異なる方針で治療している施設が多い。本項では3 歳未満の症例に放射線治療が有用かどうかを,今までの報告から検討した。
予後不良と考えられている3 歳未満の症例に放射線治療を行うことで,治療成績が向上するとした前方視研究のサブ解析や比較的症例数の多い後方視的研究などの代表的な報告を提示する。1990~2005 年までのpopulation-based study がカナダから報告1)されている。診断時3 歳未満の悪性脳腫瘍579 例中の上衣腫75 例(13%)が対象であった。後頭蓋窩局在が80%,WHO grade Ⅱが67%,診断時に転移を認めた症例が29%であった。治療は,手術単独23%,摘出術後手術+化学療法37%,手術+放射線治療19%,手術+化学放射線療法21%であった。各治療群の5 年EFS はそれぞれ,22.0%,11.5%,46.2%,64.8%であり,摘出術後に放射線治療を追加された症例群でEFS が長く,化学放射線療法を受けた症例群で最も良好であった。しかし,より年齢の低い症例には摘出術後に化学療法だけが行われていることが多く,より年齢の高い症例には放射線治療を含む治療が行われていたことが多かったことに注意が必要である。この試験は比較試験ではなく,治療ごとの症例背景も異なることから,3 歳未満の症例に摘出術後放射線治療に意義があると結論づけるのは難しい。
SEER のデータベースからの検討結果2)も報告されている。3 歳未満の症例の多くが摘出術後照射を受けておらず,摘出術後照射なしの3歳未満の症例は比較的予後不良であった。一方で,摘出術後照射を受けた症例は他の年齢層の症例と同様の生存率であったことから,3 歳未満の症例にも放射線治療を追加することで腫瘍制御が期待できる可能性が示唆されたが,結論を得るためには今後の臨床試験が望まれる,と結んでいる。
HIT-SKK 87 試験では,登録された3 歳未満の症例についてサブ解析による結果3)が示されている。生存に関する予後良好因子として,摘出術後照射が示された。
Merchant らは2 つの報告4,5)を行っている。双方とも放射線治療の方針は,1.5 歳未満の全摘出例には54 Gy/30 回,それ以外の症例には59.4 Gy/33 回の投与線量が設定されていた。2019 年の頭蓋内限局性上衣腫153 例の単施設前方視的試験の報告5)では,ほとんどの症例に摘出術後に放射線治療が実施されていた。諸家の報告と比較して,3 歳未満の症例の治療成績が比較的良好であったこと,有害事象も脳幹壊死は1.6%と多くなかったことから,3 歳未満の症例についても摘出術後の放射線治療を奨めている。ACNS0121 試験は,Children Oncology Group(COG)による多施設前方視的試験であり,全摘出できたテント上のWHO grade Ⅱの腫瘍は経過観察,部分切除例にはsecond look surgery での全摘出を期待して化学療法が設定された。摘出術後に放射線治療を受けた3 歳未満とそれ以上の年齢の症例のEFS が類似したことから,3 歳未満の症例にも摘出術後に放射線治療を行うことを推奨している。
4 つの独立した後方視研究をまとめた820 例を対象とした報告6)がある。小児の後頭蓋上衣腫について分子生物学的サブタイプ(PFA・PFB)を含めて予後因子解析が行われた。OS に関連した最も強い予後因子はPFA・PFB の分子生物学的サブタイプであり,他に摘出率や摘出術後放射線治療の有無が挙げられた。4 歳以下の後頭蓋例ではPFA が多くを占めていた。PFA で亜全摘の症例は予後不良であり,PFA が多くを占める4 歳以下の症例には放射線治療の追加を推奨している。一方で,若年時に放射線治療を施行した症例には長期的に重篤な影響が残るため,摘出術後早期の放射線治療回避の臨床試験を検討するために,このサブタイプでの治療選択や層別化が重要であるとしている。
このように腫瘍制御のためには,放射線治療は3 歳未満の症例に対する有効性が示唆されているが,明確に摘出術後に放射線治療を施行すべきといえる結果はない。一方で,乳幼児への放射線治療による晩期脳障害は,低年齢になるほど脳の脆弱性が高いため増強してしまう。そのため,乳幼児への放射線治療を遅延あるいは回避させるための臨床試験や臨床研究は少なくない1-10)。
POG が行った介入試験では,3 歳未満の悪性脳腫瘍に対して摘出術後化学療法を行うことで放射線治療の遅延あるいは回避が可能かを検討した7)。1986~1990 年に登録された乳幼児の悪性脳腫瘍症例に放射線治療前の摘出術後化学療法を行った試験で,36 カ月未満の悪性脳腫瘍198 例が対象であった。摘出術後化学療法はCPA+VCR レジメンとCDDP+VP-16 レジメンを繰り返し行い,24 カ月未満の132 例には2 年間の,24~36 カ月の66 例には1 年間の化学療法を行うか,その期間内に病変が進行すれば放射線治療が行われた。全腫瘍の奏効率(CR+PR)は39%で,髄芽腫,悪性神経膠腫,上衣腫の順に高く,脳幹神経膠腫,胎児腫瘍では低かった。PFS は,24~36 カ月児は1 年41%,24 カ月未満児は2 年39%であり,化学療法によるCR 例ではPFS がGTR 例に近い値となった。中枢神経障害はベースラインと1 年後で明らかな低下は示されなかった。化学療法後の放射線治療遅延による認知機能低下も有意に上昇しないことから,肉眼的全摘出例や化学療法でCR を得た症例には放射線治療の遅延が可能であり,症例によっては放射線治療回避も可能と結論している。さらに,同じPOG による化学療法の強化で3 歳未満の小児悪性脳腫瘍に放射線治療の遅延が可能なレジメンがあるか検討した介入試験のサブ解析の報告8)がある。1992 年に開始され338 例が登録された。上衣腫に関しては強化化学療法でもOS の延長は認めなかったが,EFS は改善しており,化学療法の強化により放射線治療を遅延させられる可能性を示唆している。さらに,United Kingdom Children’s Cancer Study Group/International Society of Paediatric Oncology(UKCCSG/SIOP)による3 歳未満の悪性脳腫瘍の患児を対象に,化学療法の強度を高めて放射線治療を回避・遅延させることを目的とした臨床試験(CNS9204 試験)があり,その中のサブ解析の一つに頭蓋内上衣腫を対象とした報告9)がある。結果は,1992~2003 年に89 例が登録され,80 例の限局性頭蓋内上衣腫例のうち化学療法中の増悪で放射線治療が施行されたのは34 例であった。80 例のOS とEFS は3 年で79.3%と47.6%,5 年で63.4%と41.8%であり,比較的多くの症例で放射線療法を回避あるいは遅延させつつ,生存率を損なうことがなかったとしている。まとめとして,3 歳未満の上衣腫では化学療法による放射線治療の回避も重要な役割を果たす可能性があるとしている。
Head Start Ⅲは,放射線治療の遅延や回避の可能性を探究した前方視的臨床試験である10)。強力な化学療法で放射線治療を遅延させることが可能か検討した多施設臨床試験であり,2004~2009 年に登録された10 歳未満の頭蓋内上衣腫を対象とした。この報告の結論は,テント上上衣腫では放射線治療を遅延あるいは回避できる可能性があるものの,後頭蓋窩上衣腫では難しいのではないか,というものであった。
このように,放射線治療により腫瘍制御の可能性は高まるが,放射線治療による脳障害を含む晩期合併症が増加してしまうこともあり,それぞれの研究で相反する結果が生じている可能性がある。放射線治療の有効性を示すことができる十分に良くデザインされた臨床試験は今までないことから,予後不良である3 歳未満の上衣腫に対して摘出術後早期に放射線治療をすべきか,の答えを出すのは現状では難しい。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,CQ2 に記載した検索式による検索を行った(参照)。
一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ3 では10 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Purdy E, Johnston DL, Bartels U, et al. Ependymoma in children under the age of 3 years:a report from the Canadian Pediatric Brain Tumour Consortium. J Neurooncol. 2014;117(2):359-64.[PMID:24532240]
- 2)
- Koshy M, Rich S, Merchant TE, et al. Post-operative radiation improves survival in children younger than 3 years with intracranial ependymoma. J Neurooncol. 2011;105(3):583-90.[PMID:21637963]
- 3)
- Timmermann B, Kortmann RD, Kühl J, et al. Role of radiotherapy in anaplastic ependymoma in children under age of 3 years:results of the prospective German brain tumor trials HIT-SKK 87 and 92. Radiother Oncol. 2005;77(3):278-85.[PMID:16300848]
- 4)
- Merchant TE, Li C, Xiong X, et al. Conformal radiotherapy after surgery for paediatric ependymoma:a prospective study. Lancet Oncol. 2009;10(3):258-66.[PMID:19274783]
- 5)
- Merchant TE, Bendel AE, Sabin ND, et al. Conformal Radiation Therapy for Pediatric Ependymoma, Chemotherapy for Incompletely Resected Ependymoma, and Observation for Completely Resected, Supratentorial Ependymoma. J Clin Oncol. 2019;37(12):974-83.[PMID:30811284]
- 6)
- Ramaswamy V, Hielscher T, Mack SC, et al. Therapeutic Impact of Cytoreductive Surgery and Irradiation of Posterior Fossa Ependymoma in the Molecular Era:A Retrospective Multicohort Analysis. J Clin Oncol. 2016;34(21):2468-77.[PMID:27269943]
- 7)
- Duffner PK, Horowitz ME, Krischer JP, et al. Postoperative chemotherapy and delayed radiation in children less than three years of age with malignant brain tumors. N Engl J Med. 1993;328(24):1725-31.[PMID:8388548]
- 8)
- Strother DR, Lafay-Cousin L, Boyett JM, et al. Benefit from prolonged dose-intensive chemotherapy for infants with malignant brain tumors is restricted to patients with ependymoma:a report of the Pediatric Oncology Group randomized controlled trial 9233/34. Neuro Oncol. 2014;16(3):457-65.[PMID:24335695]
- 9)
- Grundy RG, Wilne SA, Weston CL, et al;Children’s Cancer and Leukaemia Group(formerly UKCCSG)Brain Tumour Committee. Primary postoperative chemotherapy without radiotherapy for intracranial ependymoma in children:the UKCCSG/SIOP prospective study. Lancet Oncol. 2007;8(8):696-705.[PMID:17644039]
- 10)
- Venkatramani R, Ji L, Lasky J, et al. Outcome of infants and young children with newly diagnosed ependymoma treated on the “Head Start” Ⅲ prospective clinical trial. J Neurooncol. 2013;113(2):285-91.[PMID:23508296]
- CQ4
- 全脳全脊髄照射は有用か?
- 推奨度1C
- 推奨1
脊髄播種のない症例に対しては,全脳全脊髄照射を施行しないことを推奨する。
- 推奨度1D
- 推奨2
脊髄播種を有する症例に対しては,全脳全脊髄照射を施行することを推奨する。
解説
頭蓋内上衣腫は髄液播種をきたしやすい腫瘍であり,かつては全脳全脊髄照射を用いられることが多かった。その後は全脳全脊髄照射,全脳照射,後頭蓋窩照射,局所照射,定位放射線照射など照射範囲に関して多彩な方法が報告されてきた1-17)。より望ましい照射範囲を決定するための十分にデザインされたランダム化比較試験や前方視的研究は実施されておらず,現段階では確定的な結論を導くことはできない。
比較的症例数の多い前・後方視的研究で,頭蓋内限局性上衣腫に関する放射線治療の照射範囲について検討した18 の報告1-17)があった。その中で,頭蓋内限局性上衣腫には予防的な全脳全脊髄照射は必要ないであろうと結論した報告1-6,8,9,11-16)が14 と多くを占めていた。
予防的な全脳全脊髄照射は不要と結論した報告の中で,ランダム化比較試験のサブ解析や症例数の多い前・後方視的研究の結果を示す。1974~2006 年にハイデルベルグ大学にて限局性頭蓋内上衣腫57 例に対して摘出術後放射線治療をした後方視的研究4)が報告されている。WHO grade Ⅰ/Ⅱが27 例,grade Ⅲが30 例であった。4 例の粘液乳頭状上衣腫が含まれている。41 例に後頭蓋窩照射,16 例に全脳全脊髄照射が併用され,最終的に腫瘍床に54 Gy/30 回を目指して局所照射が追加された。3 年,5 年全生存率は各々83%,71%で,後頭蓋窩照射併用群と全脳全脊髄照射併用群の間で有意差を認めなかった。5 年局所非再発率と5 年無遠隔転移生存率は後頭蓋窩照射併用群で60%,83%で,全脳全脊髄照射併用群で67%,93%であり,いずれも有意差を認めなかった。全生存に影響する因子として,腫瘍床への投与線量45 Gy 以上が示され,照射範囲よりも局所線量の増加が重要であると結論された。1964~2006 年にフロリダ大学にて限局性頭蓋内上衣腫(44 例)に対して放射線治療を施行した後方視的研究1)の報告もある。上衣下腫,上衣芽細胞腫および再照射例は除外されている。29 例に局所照射が施行され,11 例に全脳全脊髄照射が併用されていた。いずれの方法においても再発形式は95%が局所再発であり,残りの5%は局所再発なしの脊髄播種であった。全脳全脊髄照射を受けた症例は1 例も脊髄への再発を認めなかったが,全生存と無病生存の双方ともに予後因子として放射線治療法は示されず,予防的な全脳全脊髄照射の有用性は認められなかった。まとめると,予防的全脳全脊髄照射の併用により無脊髄播種生存率や脊髄播種出現率は改善されるが,局所照射のみの再発形式も摘出腔周囲の局所かそれに加えて脊髄播種を伴ったものが多く,脊髄播種のみの症例はわずかであった。また他の報告も,照射範囲は全生存期間・無病生存期間の予後因子とはならず1-6,8,9,11,13-16),局所への投与線量が全生存期間・無病生存期間の予後因子である8,12-15)とするものが多い。これらの結果から,頭蓋内限局性上衣腫には,全脳全脊髄照射や全脳照射などの広範囲の照射を行うよりも,局所照射を用いて腫瘍への投与線量増加を目指すのが良いと考えられる。また,これらの報告の中で,脊髄播種を有する頭蓋内上衣腫に関しては治療的全脳全脊髄照射を用いているが,成績は十分とは言えず,より良い治療の開発が待たれるとする報告が多く認められた。
なお,定位放射線治療による報告もみられたが,1 つの報告5)のみで症例数も12 例と少ないため参考程度と考えるべきである。著者らは照射野外の再発率や全生存率が過去の全脳全脊髄照射や後頭蓋窩照射を併用していた時期の結果と大きな違いがないことから,定位放射線治療は許容される治療となるかもしれない,と結んでいる。
以上の結果から,腫瘍局在やWHO grade に関係なく,限局性頭蓋内上衣腫に対しては全脳全脊髄照射や全脳照射などの広い照射範囲は必要とはせず,局所照射が推奨される。一方で,脊髄播種を有する頭蓋内上衣腫には,他の有効な治療がないとの理由もあるが,全脳全脊髄照射が推奨される。なお,3 歳児未満の症例には,別項に記載している通り,症例に応じて判断することになるが,再発時に速やかに放射線治療を実施できる体制を取った上で,化学療法を先行させて放射線治療を遅延させる方法を検討するなど,乳幼児への放射線障害を低減する方法を常に念頭に置くことが重要である。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,CQ2 に記載した検索式による検索を行った(参照)。
一次スクリーニングとして557 文献,二次スクリーニングとして187 文献を抽出し,ハンドサーチによる2 文献を加え,95 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ4 では17文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
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課題3:化学療法
- CQ5
- 化学療法は推奨されるか?
- CQ5-1
- 3 歳以上症例に対して,化学療法は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨1
摘出術後に化学療法を行わないことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
二期的摘出を前提とした化学療法を行うことを提案する。
- CQ5-2
- 3 歳未満症例に対して,化学療法は推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
乳幼児に対する放射線治療による晩期合併症を軽減するために,放射線治療時期を遅延させる目的で化学療法を先行することを提案する。
解説
1.診断時3 歳以上症例
化学療法の生存への寄与について直接比較した報告がなく,化学療法の効果に関する情報は非常に限定的である1-5)。一定数以上(20 例以上)の症例を前方視的に収集した報告は4 編しかなく1-4),うち3 編は化学療法を含む治療全体での評価であり,これまでの報告と比べて生存率の向上は得られなかったとしている1-3)。残りの1 編は摘出術後に腫瘍が残存した例で腫瘍の縮小を期待して化学療法を行い,その後,二期的手術で全摘を目指し,その後局所放射線治療を行うという試験である4)。本試験では,摘出術後腫瘍残存例でも化学療法で腫瘍縮小が得られ,二期的手術で全摘することで,初回手術で全摘された症例に匹敵する成績が得られたと報告されている。腫瘍縮小効果については,放射線治療前に化学療法が行われ,奏効が記載されているのは上記の文献のうち2 編の試験であるが,完全および部分奏効が50~60%の症例で認められている3,4)。このように,化学療法で腫瘍が縮小する一群が存在する。効果のあった化学療法はシクロホスファミド(CPA)またはイホスファミド(IFM),エトポシド(VP-16),ビンクリスチン(VCR)併用レジメンまたはこれらにシスプラチン(CDDP)を追加したものである。しかし,腫瘍に対する縮小効果は二期的手術の介入がなければ最終的な生存期間の延長に繋がっておらず,化学療法の有無を直接比較した臨床成績が報告されていない現時点では,化学療法が生存期間延長に直接寄与するかについては明確ではない。
2.診断時3 歳未満症例
乳幼児期の放射線治療への脳の脆弱性を考慮して,放射線治療を回避または遅延させる目的で摘出術後化学療法の有用性についての検討が行われてきた6-13)。しかし,3 歳以上を対象とした上述の試験同様,これまで直接比較する試験が行われていないため,その有用性については明確とは言い難く,これまでのところ,化学療法の実施によって放射線治療を不要とする,または,その時期を3 歳以降まで遅らせることができるかについては,相反する報告がみられる。これには化学療法レジメンの違いなどが影響している可能性がある。化学療法への奏効について記載のある4 編のうち,3 編では30%程度の奏効が報告されており6-8),その中のひとつではテント上発症例の方が奏効した割合が高いと述べている6)。その他の報告のうち,UKCCSG(英国小児がんグループ)/SIOP(欧州小児がんグループ)で行われた試験では施行された化学療法の強度が強い方が予後良好であったとしているほか9),POG(米国小児がんグループ)の強度の異なる2 種類の化学療法レジメンの比較試験では,強度の高いレジメンによる生存期間延長への寄与はなかったものの,2 年無イベント生存率は有意に良好であった10)。なお,これらの試験での放射線治療の適応は,3 歳到達時,化学療法終了時の腫瘍残存例,再発時などさまざまであるが,摘出術後,化学療法を先行させ,一定期間は放射線治療を行わない点は共通している。一方,化学療法の副作用としてPOG の試験では3%程度の化学療法による死亡例が発生し,またUKCCSG/SIOP のレジメンでも死亡例はないものの全例でCTCAE グレード4 の血液毒性が観察されている。
このように,一定以上の強度を有する化学療法には上衣腫に対し抗腫瘍効果があると考えられる。しかし,3 歳以上での報告同様,生存期間延長への寄与は明確ではなく,現時点では,一定期間放射線治療の開始を遅らせるあるいは再発の時期を遅らせる可能性が示唆されるに止まる。したがって,晩期放射線合併症の観点から,化学療法の毒性を理解した上で,放射線治療を摘出術後直ちには行わない場合の選択肢とはなり得る。
3.根拠
1)化学療法の有無による違いの検討
AIEOP(イタリア小児血液がんグループ)のコホート研究では,多分割放射線治療に加え,摘出術後腫瘍残存例(17 例)にのみ,摘出術後化学療法(VCR,CPA,VP-16)を行ったが,化学療法を行わなかった全摘例(46 例)と比べ,無増悪生存率,全生存率とも有意に不良であり,化学療法は予後不良である腫瘍残存例の治療成績を向上させることはできなかった。化学療法関連死亡はなかった3)。また,単一施設での後方視的調査でも摘出術後化学療法[CDDP,VCR,VP-16,CPA,カルボプラチン(CBDCA)]を行った群(17 例)と,化学療法なし群(21 例)では,化学療法群で無増悪生存率が低い傾向が認められた5)。
一方,3 歳以上を対象として腫瘍縮小を得た後に二期的手術で全摘を目指す目的で,摘出術後残存腫瘍のある例にのみ放射線治療前化学療法(VCR,VP-16,CDDP,CPA)を実施した米国小児がんグループ(COG)のコホート研究がある4)。摘出術後腫瘍残存化学療法実施41 例と,全摘出43 例(補助療法は放射線治療のみ)の5 年無増悪生存率,全生存率ともそれぞれ約50%と70%と,一般的には腫瘍残存例の方が予後不良にもかかわらず差がなかった。しかし,化学療法の恩恵を受けたのは,化学療法で腫瘍縮小が得られ二期的手術で90%以上の腫瘍摘出が可能であった例に限られた。
このように,化学療法が直接生存に寄与していることを示す情報はなく,化学療法の役割は,残存腫瘍の全摘を可能とするために,残存腫瘍を縮小させることに留まり,あくまで二期的摘出を前提とした場合のみに考慮してよい。なお,化学療法奏効率は50%程度であり,COG のコホートでは化学療法関連死は2.4%であった4)。
2)化学療法の内容・投与法についての検討
これまで化学療法についてのランダム化比較試験は3 編あるが,化学療法の有無ではなくレジメンの比較を目的とするものである。うち1 編は放射線治療を併用した上での化学療法レジメンの比較で,VCR,CCNU,プレドニゾロン群(14 例)と,8-drug in-1 レジメン(18 例)を比較した。5 年無増悪生存率,全生存率ともに差はなかった。化学療法死が1 例に認められている1)。
他の2 編は3 歳未満の小児悪性脳腫瘍を対象とした非照射での化学療法レジメンの比較であり,その中に含まれる上衣腫のサブ解析である。CCG では摘出術後寛解導入化学療法としての,レジメンA(VCR,CDDP,CPA,VP-16)(35 例)とレジメンB(VCR,CBDCA,IFM,VP-16)(39 例)に74 例を割り付けたが,奏効率,無増悪生存率に差はなかった7)。また,POG の試験では化学療法(CPA,VCR,CDDP,VP-16)の用量の違いの比較であったが,1.8 倍へ投与量を増やすことで無増悪生存率は改善したが(p=0.0062),全生存率は改善しなかった。WHO grade Ⅲのみを対象とすると,1.8 倍投与+放射線治療群で全生存率が良く,標準投与量(放射線の有無にかかわらず)や放射線なし(化学療法の量にかかわらず)より優れていた10)。
ランダム化比較試験ではないが,3 歳未満上衣腫に対する非照射での化学療法を実施したUKCCSG/SIOP の試験がある。化学療法は約1 年間繰り返すが,実際に投与された抗がん剤の用量と予後との関係を後方視的に検討したところ,用量が多いほど治療成績は良好であった9)。
以上のように,化学療法の有用性が明らかではない状況での化学療法レジメンの検討であるが,4 編中,3 歳未満を対象とした2 編では予後と抗がん剤の用量とに弱いながらも関係がみられた。これらの試験では,化学療法関連死亡が0~10%で観察された。
3)自家造血幹細胞移植併用大量化学療法に関する報告
WHO grade Ⅲのみ,テント上下発症例を対象とした研究がある。摘出術後29 例に寛解導入療法(CDDP,VCR,VP-16,CPA,メトトレキサート:MTX),地固め療法(CBDCA,ThioTEPA,VP-16)を施行,放射線は3 歳以上の後頭蓋例のすべてとテント上の残存例,3 歳未満(35 カ月以下)の残存例に併用した。5 年無増悪生存率が12%,5 年全生存率が38%であり,過去の報告と比べ明らかな予後改善・延命効果はなく,逆に化学療法関連死が10.3%で認められた8)。
4)化学療法と放射線治療の順に関する報告
3 歳以上のWHO grade Ⅲ,テント上下例を対象とした報告がある。1990 年まではIFM,VP-16,MTX,CDDP,シタラビン,1991 年以降はCDDP,CCNU,VCR を使用し,放射線前化学療法2 コース先行の40 例と放射線後化学療法15 例を検討した。3 年無増悪生存率はともに60%台と差はなかった2)。
5)テント上下で化学療法の有効性の違いを記述した報告
WHO grade ⅡとⅢを対象としたコホート研究がある。摘出術後残存腫瘍19 例に対しCDDP,VP-16,CPA,MTX,テモゾロミド(TMZ),CBDCA を自家造血細胞移植併用で使用した。テント上では全8 例で完全奏効が得られ,再発は1 例で3 年全生存率は100%であったが,後頭蓋窩では完全奏効が11 例中4 例,再発が8 例で3 年全生存率は73%と低かった。以上より,後頭蓋窩では放射線治療が必要であると結論している。対象者に化学療法死はなく,一過性の副作用のみを(発生率記載なし)認めた6)。
6)乳幼児例での化学療法による放射線治療実施時期遅延に関する報告
乳幼児例(3~4 歳以下)で脳の脆弱性による放射線晩期合併症について,化学療法を先行させることで,摘出術後放射線治療を遅延または回避できないかを検証した試験が複数存在する。
その中で,最も症例数の多いものとして,3 歳以下(47 カ月以下)のWHO grade ⅡとⅢ,テント上下の89 例を対象とし,摘出術後VP-16,CBDCA,MTX,CPA,CDDP を含む化学療法を約1 年間実施,進行時のみに放射線治療を行った試験(UKCCSG/SIOP)では,転移のない80 例の5 年間累積非照射率42%,5 年無イベント生存率と全生存率はそれぞれ41.8%と63.4%,放射線治療実施年齢中央値3.6 歳であった。また,全摘例とそれ以外の例とで生存率の差はなかった。以上より,化学療法により照射時期の遅延は可能と結論している。化学療法関連死亡は観察されなかった9)。
この他にも小規模ながら主なものとして8 件の報告がある。多くは放射線治療は化学療法終了時の腫瘍残存例または進行時としており,3~4 年無イベント生存率0~30%,全生存率50%前後である6-8,10-13)。これらの試験に含まれる予後良好であるテント上発症例,全摘例,WHO grade Ⅱ例の割合には大きな差はないが,用いられている化学療法はさまざまである。前述のPOG,UKCCSG/SIOP の試験では化学療法の強度が成績に影響することを示唆している9-11)。
- 注意:
- 我が国では上衣腫に適応のある薬剤はないが,ビンクリスチン,シスプラチン,エトポシド,チオテパなどは適応症として小児悪性固形腫瘍がある。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((Ependymoma[mh:noexp]OR Ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab])AND(Brain Neoplasms[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR intracranial*[tiab]OR ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa[tiab]))AND(“drug therapy”[sh]OR “Antineoplastic Agents/therapeutic use”[mh]OR “Antineoplastic Agents”[PA]))AND(“Adolescent”[mh]OR “Adult”[mh:NoExp]OR “Young Adult”[mh]OR “Child”[mh]OR “Infant”[mh]))AND((“2017/01/01”[Date-Publication]:“2019/12/31”[Date-Publication])))AND((English[Language])OR(Japanese[Language])))NOT(Case Reports[Publication Type])
以上の検索式より,一次スクリーニングとして293 文献を抽出し,24 文献の二次スクリーニングを行った後,13 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ5 では13 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Robertson PL, Zeltzer PM, Boyett JM, et al. Survival and prognostic factors following radiation therapy and chemotherapy for ependymomas in children:a report of the Children’s Cancer Group. J Neuro Surg. 1998;88(4):695-703.[PMID:9525716]
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- Massimino M, Gandola L, Giangaspero F, S et al;AIEOP Pediatric Neuro-Oncology Group. Hyperfractionated radiotherapy and chemotherapy for childhood ependymoma:final results of the first prospective AIEOP(Associazione Italiana di Ematologia-Oncologia Pediatrica)study. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2004;58(5):1336-45.[PMID:15050308]
- 4)
- Garvin JH Jr, Selch MT, Holmes E, et al;Children’s Oncology Group. Phase Ⅱ study of pre-irradiation chemotherapy for childhood intracranial ependymoma. Children’s Cancer Group protocol 9942:a report from the Children’s Oncology Group. Pediatr Blood Cancer. 2012;59(7):1183-9.[PMID: 22949057]
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- 7)
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- 8)
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- 9)
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- 10)
- Strother DR, Lafay-Cousin L, Boyett JM, et al. Benefit from prolonged dose-intensive chemotherapy for infants with malignant brain tumors is restricted to patients with ependymoma:a report of the Pediatric Oncology Group randomized controlled trial 9233/34. Neuro Oncol. 2014;16(3):457-65.[PMID:24335695]
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- 12)
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課題4:再発時の治療
- CQ6
- 再発時の適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨1
再手術:再発時に再摘出術を行うことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
放射線治療:再発時に再照射を行うことを提案する。
- 推奨度2C
- 推奨3
化学療法:再発時に化学療法は行わないことを提案する。
解説
25 歳以下の再発上衣腫117 例の予後に関するシステマティックレビューが報告されている。総じて,初回再発からの無増悪生存期間は6.7 カ月,再発からの生存期間は11.2 カ月と予後不良であった。その内訳は,再発後の全生存期間は,テント上と後頭蓋窩で,それぞれ8.3,20.1 カ月であった。再発時の治療別の診断後からの全生存期間は手術24.2 カ月,放射線治療29.2 カ月,化学療法19.3 カ月であった。また,年齢別では3 歳以下31.0 カ月,3 歳以上17.5 カ月であった1)。再発時の治療は,経過観察,手術,放射線治療,化学療法単独もしくはこれらの併用が選択され得る2)。本CQ の注意点として,照射未施行症例は除外されている点に注意されたい。照射未施行の症例の再発時には,照射前の残存腫瘍として考えるべきであり,照射以外に手術摘出も考慮する必要がある。
1.再手術
再発上衣腫に対する再手術は無益とは言えない。再発時に再手術のみを行ったエビデンスレベルの高い報告は限られた。再発後の再手術された17 例中,全摘出を達成された12 例の5 年生存割合が58%3)であり,再発腫瘍に対して再摘出が行われた57 例のメタ解析4)では全摘出群と部分摘出群の5 年生存割合は,それぞれ44%と23%であった。しかし,機能温存のために初回手術で全摘出が不可能であったならば,再手術も困難である5)。したがって,QOL を維持・向上できるかどうか,適応を検討の上,症例を選択する6)。
2.放射線治療
再発時の再照射に関しては,症例背景が不揃いで不十分な期間の観察研究しかない制限があり,エビデンスレベルの高い報告は限られる。再発上衣腫に対する再照射は否定されないが,適応については放射線治療医と十分に検討した方がよい7)。
268 例の小児再発上衣腫に対する再照射について11 編の論文をまとめた総説によると,再発後は摘出術と放射線治療が望ましく,もし初回放射線後12 カ月未満の再発であれば30.6 Gy/17 fr,12 カ月以上経過しているようであれば36 Gy/20 fr が望ましいと述べている8)。最近,全脳脊髄照射(CSI)の有用性も報告されるようになってきた。遠隔転移のある症例9 例においては,2 年無増悪割合12.5%,2 年生存割合62.5%であった。例え局所再発であってもCSI(1.8 Gy 分割で23.4~36 Gy の全脊髄照射に,腫瘍床に54~59.4 Gy を照射)を行った結果,5 年無増悪生存割合が83.3%に対して,局所照射のそれは15.2%に留まったと報告されている9)。
CSI の毒性についても十分考慮しなければならない。Bouffet らは,再発上衣腫に対する54 Gy の最大線量による局所もしくは59.4 Gy のCSI の毒性と予後の評価を行った。113 例中再発した47 例のうち再照射した18 例(年齢0.8~8.9 歳,テント上4 例,後頭蓋窩14 例)を評価した。初回手術全摘・亜全摘17 例,部分摘出1 例で,初発時放射線治療単独群11例,放射線+化学療法群7 例であった。その結果,追跡期間中央値2.1 年間(0.7~5.8 年)で,3 年生存割合は再照射なし群(7%±6%)と比較して,再照射あり群で81%±12%(p<0.0001)と有意に高く,また再照射後から再発までの期間は最初の再発までの期間より有意に長かった。一方で,高次脳機能評価を行った7 例全例で,高次脳機能評価項目すべてにおいて低下を認めた。平均3.7 年間で18 例中2 例が内分泌異常を呈し,1 例が特別支援教育を要した。
一方で,定位的放射線手術(SRS)による腫瘍の局所制御の有用性の報告もある10)。Stauder らは,再発頭蓋内上衣腫に対するSRS の腫瘍制御率および合併症率を明らかにすることを目的とし,26 例(49 病変;テント上31 病変,後頭蓋窩18 病変)におけるOS, PFS, LCR,放射線脳壊死の発生率を後方視的に評価した。各病変に対するmedian marginal dose は18Gy(12~24 Gy)であった。生存期間中央値はSRS 後5.5 年,無増悪生存期間中央値は14.7 カ月(2.9 カ月~11.2 年)であった。1 年生存割合96%,3 年生存割合69%であった。7 例(27%)に遠隔腫瘍再発を認めた。照射範囲によるものの2 例(8%)に症候性放射線壊死を認めた。SRS は比較的短期の局所制御率が良好であり,短期的には生存率を上げる可能性がある11)。12 例17 病変に対してSRS を実施し,3 年間で68%において良好な局所コントロールが得られたという2000 年のStafford らの報告を裏付けた12)。以上より,比較的短期での観察結果しかなく,また放射線壊死を伴う例があるが,SRS は考慮してもよい。
3.化学療法
1995 年以前は,テント上下の再発悪性小児脳腫瘍を対象に化学療法の有効性が検討されていた。症例数は少ないが,その一部に再発上衣腫が含まれており,ここでは,再発上衣腫の結果を抜粋する。1984 年にPediatric Oncology Group(POG)より,ビンクリスチン+プロカルバジン+プレドニンとナイトロジェンマスタードを上乗せしたレジメンを比較検討したランダム化比較試験の結果が報告された。評価を受けた再発上衣腫10 例のうち,CR,PR はそれぞれ1 例であった。また,ナイトロジェンマスタードを上乗せした群では高い毒性を認めた13)。
その後,白金製剤もしくはアルキル化剤を基軸とする化学療法が試された。5 例の再発上衣腫に対してビンクリスチン,シスプラチンもしくはカルボプラチン,CCNU,エトポシド,ブレオマイシン併用による治療の症例報告が行われたが,CR+PR は1 例のみで,PD が3 例であった14)。また,2005 年にイタリアのグループから報告された成人再発上衣腫28 例での後方視的研究では,白金製剤の有無で有効性が比較されたが,シスプラチンを含むレジメンでも全生存期間,無増悪生存期間に有意差はみられなかった15)。アルキル化剤においては,1993 年にFrench Society of Pediatric Oncology(SFOP)がイホスファミド単剤の第Ⅱ相臨床試験の結果を報告し,8 例中CR 0 例,PR 1 例,OR+SD 5 例,PD 2 例であった16)。チオテパに関連する検討としては,高用量ブスルファン(150 mg/m2/day)+チオテパ(150 mg/m2/day)+自家骨髄移植に腫瘍部照射(45~55 Gy)を行った報告がある。8 例中3 例のCR 症例が認められたものの,1 例の治療合併症死亡例があり,消化管と粘膜障害などの毒性も多く認められ,治療効果に比し毒性が高かった17)。テモゾロミドについては,再手術,再照射を行っても再増悪した18 例の成人再発上衣腫に対して投与された。22%の奏効割合(CR+PR)が報告されている18)が,過去に白金製剤などを含む化学療法が行われた例には有効性を認めなかった19)。2007 年にChildren’s Oncology Group(COG)が第Ⅱ相試験を行い,12 例中SD 5 例,他7 例は7 コースまでにPD になった20)。
その他の薬剤としては,エトポシドの効果検討がなされ,観察後7 カ月の段階で,2 例でPR,4 例でSD であった21)。
以上より,薬剤の有効性が乏しいことから,現状で推奨できるレジメンはない。少数例で化学療法に反応することがあるが,頻度は低く,また効果があっても生存期間の延長につながることは少ないため,化学療法は行わないことを提案する。
システマティックレビュー結果
このCQ に答えるため,下記検索式による検索を行った。
((((((((((((“Ependymoma”[mh:NoExp]OR ependymoma*[tiab]OR ependymal tumo*[tiab]))AND((“Brain Neoplasms”[mh]OR Brain[tiab]OR Cerebral*[tiab]OR Cerebellar*[tiab]OR Infratentorial*[tiab]OR supratentorial*[tiab]OR subtentorial*[tiab]OR Intracranial*[tiab]OR Ventricle*[tiab]OR Posterior Fossa*[tiab])))AND((“Recurrence”[mh]OR Recurren*[tiab]OR Neoplasm, Residual[mh]OR Neoplasm Recurrence, Local[mh]OR relaps*[tiab]OR Regrowth[tiab]))))AND((“Infant”[mh]OR “Child”[mh]OR “Adolescent”[mh]OR “Young Adult”[mh]OR “Adult”[mh:NoExp]))))AND 1900/1/1:2016/12/31[dp])))AND((Japanese[la]OR English[la]))))NOT case reports[pt]
以上の検索式より,一次スクリーニングとして250 文献を抽出し,194 文献の構造化抄録を作成した。最終的にCQ6 では21 文献を抽出し,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Byer L, Kline CN, Coleman C, et al. A systematic review and meta-analysis of outcomes in pediatric, recurrent ependymoma. J Neurooncol. 2019;144(3):445-52.[PMID:31502040]
- 2)
- Acquaye AA, Vera E, Gilbert MR, et al. Clinical presentation and outcomes for adult ependymoma patients. Cancer. 2017;123(3):494-501.[PMID:27679985]
- 3)
- Vinchon M, Leblond P, Noudel R, at al. Intracranial ependymomas in childhood:recurrence, reoperation, and outcome. Childs Nerv Syst. 2005;21(3):221-6.[PMID:15599561]
- 4)
- Zacharoulis S, Ashley S, Moreno L, et al. Treatment and outcome of children with relapsed ependymoma:a multi-institutional retrospective analysis. Childs Nerv Syst. 2010;26(7):905-11.[PMID:20039045]
- 5)
- Rudà R, Reifenberger G, Frappaz D, et al. EANO guidelines for the diagnosis and treatment of ependymal tumors. Neuro Oncol. 2018;20(4):445-56.[PMID:29194500]
- 6)
- Barrer SJ, Schut L, Sutton LN, et al. Re-operation for recurrent brain tumors in children. Childs Brain. 1984;11(6):375-86.[PMID:6510045]
- 7)
- Bouffet E, Hawkins CE, Ballourah W, et al. Survival benefit for pediatric patients with recurrent ependymoma treated with reirradiation. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012;83(5):1541-8.[PMID:22245198]
- 8)
- Tsang DS, Laperriere NJ. Re-irradiation for Paediatric Tumours. Clin Oncol(R Coll Radiol). 2019;31(3):191-8.[PMID:30385005]
- 9)
- Tsang DS, Murray L, Ramaswamy V, et al. Craniospinal irradiation as part of re-irradiation for children with recurrent intracranial ependymoma. Neuro Oncol. 2019;21(4):547-57.[PMID:30452715]
- 10)
- Regnier E, Laprie A, Ducassou A, Bet al. Re-irradiation of locally recurrent pediatric intracranial ependymoma:Experience of the French society of children’s cancer. Radiother Oncol. 2019;132:1-7.[PMID:30825956]
- 11)
- Stauder MC, Ni Laack N, Ahmed KA, et al. Stereotactic radiosurgery for patients with recurrent intracranial ependymomas. J Neurooncol. 2012;108(3):507-12.[PMID:22437346]
- 12)
- Stafford SL, Pollock BE, Foote RL, et al. Stereotactic radiosurgery for recurrent ependymoma. Cancer. 2000;88(4):870-5.[PMID:10679657]
- 13)
- Cangir A, Ragab AH, Steuber P, et al. Combination chemotherapy with vincristine(NSC-67574), procarbazine(NSC-77213), prednisone(NSC-10023)with or without nitrogen mustard(NSC-762)(MOPP vs OPP)in children with recurrent brain tumors. Med Pediatr Oncol. 1984;12(1):1-3.[PMID:6546602]
- 14)
- Douek E, Kingston JE, Malpas JS, et al. Platinum-based chemotherapy for recurrent CNS tumours in young patients. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1991;54(8):722-5.[PMID:1940946]
- 15)
- Brandes AA, Cavallo G, Reni M, et al. A multicenter retrospective study of chemotherapy for recurrent intracranial ependymal tumors in adults by the Gruppo Italiano Cooperativo di Neuro-Oncologia. Cancer. 2005;104(1):143-8.[PMID:15912507]
- 16)
- Chastagner P, Sommelet-Olive D, Kalifa C, et al. Phase Ⅱ study of ifosfamide in childhood brain tumors:a report by the French Society of Pediatric Oncology(SFOP). Med Pediatr Oncol. 1993;21(1):49-53.[PMID:8381203]
- 17)
- Grill J, Kalifa C, Doz F, et al. A high-dose busulfan-thiotepa combination followed by autologous bone marrow transplantation in childhood recurrent ependymoma. A phase-Ⅱ study. Pediatr Neurosurg. 1996;25(1):7-12.[PMID:9055328]
- 18)
- Ruda R, Bosa C, Magistrello M, et al. Temozolomide as salvage treatment for recurrent intracranial ependymomas of the adult:a retrospective study. Neuro Oncol. 2016;18(2):261-8.[PMID:26323606]
- 19)
- Chamberlain MC, Johnston SK. Temozolomide for recurrent intracranial supratentorial platinum-refractory ependymoma. Cancer. 2009;115(20):4775-82.[PMID:19569246]
- 20)
- Nicholson HS, Kretschmar CS, Krailo M, et al. Phase 2 study of temozolomide in children and adolescents with recurrent central nervous system tumors:a report from the Children’s Oncology Group. Cancer. 2007;110(7):1542-50.[PMID:17705175]
- 21)
- Chamberlain MC. Recurrent intracranial ependymoma in children:salvage therapy with oral etoposide. Pediatr Neurol. 2001;24(2):117-21.[PMID:11275460]
6 章 髄芽腫 medulloblastoma
- 総論
1 ガイドラインサマリー
2 診療アルゴリズム
3 作成組織・作成経過
1.作成組織
1)作成主体
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
2)ガイドライン作成ワーキンググループ
役割 | 氏名 | 所属機関/専門分野 | 作成上の役割 |
---|---|---|---|
委員長 | 橋本 直哉 | 京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科 | 総括 |
委員 | 白土 博樹 | 北海道大学医学部病態情報学講座 放射線医学分野/放射線科 | 放射線治療 |
協力委員 | 溝脇 尚志 | 京都大学大学院医学研究科 放射線腫瘍学・画像応用治療学/放射線科 | 放射線治療 |
委員 | 若林 俊彦 | 名古屋共立病院 集束超音波治療センター/脳神経外科 | 外科的治療 |
協力委員 | 坂本 博昭 | 大阪市立総合医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科 | 外科的治療 |
協力委員 | 高橋 義信 | 京都府立医科大学 脳神経外科/脳神経外科 | 外科的治療 |
協力委員 | 原 純一 | 京大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児血液腫瘍科/小児科 | 予後予測因子・化学療法 |
委員 | 寺島 慶太 | 国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科/小児科 | 化学療法 |
協力委員 | 山本 哲哉 | 横浜市立大学医学研究科 脳神経外科/脳神経外科 | 再発治療 |
委員 | 中村 英夫 | 久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 | 再発治療 |
協力委員 | 五味 玲 | 自治医科大学 とちぎ子ども医療センター 小児脳神経外科/脳神経外科 | 晩期障害 |
委員 | 隈部 俊宏 | 北里大学医学部 脳神経外科性/脳神経外科 | 他のガイドラインとの整合 |
委員 | 杉山 一彦 | 広島大学病院 がん化学療法科/脳神経外科 | 他のガイドラインとの整合 |
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
3)システマティックレビューチーム(SR チーム)
課題番号 | 課題名 | 課題責任者 | SR 委員 |
---|---|---|---|
1 | 外科的治療 | 橋本 直哉 高橋 義信 |
小川 隆弘(京都府立医科大学 脳神経外科) 寺川 雄三(北海道大野記念病院 脳神経外科) |
2 | 神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上 | 原 純一 寺島 慶太 |
山崎 夏維(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科) 奥廣 有喜(名古屋大学大学院 医学系研究科 分子細胞免疫学分野) |
3 | 放射線治療 | 溝脇 尚志 白土 博樹 |
宇藤 恵(京都大学医学部附属病院 放射線治療科) 森 崇(北海道大学病院 放射線治療科) 出水 祐介(兵庫県立粒子線医療センター 附属神戸陽子線センター 放射線治療科) 河村 淳史(兵庫県立こども病院 脳神経外科) |
4 | 陽子線治療 | ||
5 | 化学療法 | 寺島 慶太 原 純一 |
山崎 夏維(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科) 奥廣 有喜(名古屋大学大学院 医学系研究科 分子細胞免疫学分野) 木村 由衣(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科) 吉村 聡(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 脳神経腫瘍科) 津村 悠介(名古屋大学医学部附属病院 小児科) |
6 | 再発時の治療 | 山本 哲哉 中村 英夫 |
井原 哲(東京都立小児総合医療センター 脳神経外科) 広川 大輔(神奈川県立こども医療センター 脳神経外科) 三宅 勇平(横浜市立大学附属病院 脳神経外科) 牧野 敬史(熊本市立熊本市民病院 脳神経外科) 黒田 順一郎(熊本大学 脳神経外科) |
7 | 治療による晩期障害 | 五味 玲 | 五味 玲(自治医科大学 とちぎ子ども医療センター 小児脳神経外科) 室井 愛(筑波大学 脳神経外科) |
(所属機関は2021 年7 月1 日現在)
2.作成経過
1)作成方針
髄芽腫に対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,髄芽腫患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
2)使用上の注意
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3)利益相反
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4)作成資金
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5)組織編成
ガイドライン統括委員会:ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009 年11 月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2 名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成ワーキンググループ:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された13 名によって構成されている。
システマティックレビューチーム:重要臨床課題ごとにガイドライン作成ワーキンググループがシステマティックレビュー(SR)チームの責任者となり,責任者よりSR 委員を選出してもらい,各課題2~5 名で編成した。髄芽腫が稀少疾患であることを踏まえて,各チーム1 名ガイドライン作成ワーキンググループ委員が兼任することとした。
6)作成過程
準備:2016 年2 月,髄芽腫ガイドライン第1 回会議を開催し,ガイドライン作成ワーキンググループが発足。課題をどのようにするか討議し各課題のリーダーを決定した。
スコープ:ドラフトを作成し,メール回覧のうえ,メール討議を行い,改変を繰り返して完成し,委員全体にメールで回覧し意見を募った。
システマティックレビュー:2017 年10 月に開始。Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014 に準拠した方法により行った。稀少疾患であるためエビデンスが少なく,Minds に準拠した方法の適用が困難な場面に遭遇したが,論議しながら完成に向かった。
ガイドライン作成ワーキンググループ会議:脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会の開催に合わせて,ガイドライン作成ワーキンググループ会議を行った。その後,2020 年5 月からは月1 回のガイドライン作成ワーキンググループ(オンライン)会議を計15 回行った。2021 年5 月11 日のガイドライン作成ワーキンググループ会議で各CQ における推奨グレードの決定を行った。
推奨作成とその過程:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,メールおよびオンライン会議で討議した。推奨グレードに関しては髄芽腫ガイドライン作成ワーキンググループ委員およびSR チームの24 名にて投票を行い,ガイドライン作成ワーキンググループ内における推奨グレードをまず決定し,最終的に2022 年1 月14 日の脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会にて統括委員の投票により推奨を承認した。
その他,小児脳腫瘍編の共通項目も参照。
公開:2021 年9 月ホームページ上に公開した。
7)推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
8)外部評価を求めた団体・委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
9)WHO 脳腫瘍分類第5 版(WHO2021)の取り扱い
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
3.公開後の取り組み
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
小児脳腫瘍編の共通項目参照。
4 スコープ
1.疾患トピックの基本的特徴
主に小児の小脳虫部ないしは脳幹背側に好発する胎児性の神経上皮性腫瘍である。病理学的に,核異型と核分裂像に富む未分化な小型円形の腫瘍細胞が高密度に配列して構成される1)。①発生部を中心に局所に浸潤性に発育し,②全中枢神経系に髄液腔内播種を早期にきたし,③腫瘍の進行とともに血行性に遠隔転移を示す。腫瘍名の由来は,中枢神経系の発生において未分化神経管上皮細胞が神経細胞とグリア細胞へ分化する前の髄芽細胞medulloblast を概念上想定し,その腫瘍型を髄芽腫(medulloblastoma)と命名したところにある(Bailey and Cushing)2)。現在では発生起源は胎生期の上・下髄帆にある外顆粒細胞や上衣下基質細胞とされるが結論には至っていない。小脳虫部の下半部から第4 脳室に発育・浸潤することが最も多く,小脳半球に主座を置くこともある。
1)疫学
WHO 脳腫瘍分類20161)によると,胎児性脳腫瘍のうち最も頻度が高く,小児脳腫瘍では星細胞系腫瘍に次いで多く,25%程度の頻度と記載されている。小児100 万人あたりの年間発生数は6 例程度である。また,髄芽腫を含む胎児性腫瘍の年齢調整罹患率は,人口10 万人あたり米国0.24 人,日本0.14 人と米国で罹患率が高い3)。
我が国の脳腫瘍全国集計調査報告 第14 版(2005-2008)4)によれば,原発性脳腫瘍の1.0%を占め,14 歳以下の小児期脳腫瘍の10.1%を占める。小児期脳腫瘍のうちでは膠芽腫を含む星細胞系腫瘍(23.3%),胚細胞性腫瘍(14.7%)についで3 番目の頻度である。我が国では年間約100~120 人が新規に診断されていると推定される。好発年齢は14 歳以下が全体の78%程度を占めており,特に2~9 歳に好発する。男性にやや多い。成人発生は国内では約15%で,その約80%は21~40 歳に発生する。小児例と比較すると,小脳半球に発生することが多い。
2)臨床症状と画像所見
頭蓋内圧亢進症状が約半数と最も多く,頭痛,局所巣症状,脳神経麻痺などを呈する4)。第4 脳室を占拠し閉塞性水頭症をきたし,頭痛のほかに不機嫌,嘔気,嘔吐,意識障害を契機に診断される。体幹や四肢の失調も起こりやすい。
CT では境界が明瞭な等~高吸収域を示し,一様に強い造影効果を示すことが多いが,低吸収で造影効果を示さないもの,囊胞様変化を含むもの,石灰化を含む場合などもある。MRI ではT1 強調画像で低~等信号,T2 強調画像では等~高信号域を示すことが多く,T1 低信号・T2 高信号の小囊胞が散在し,全体として不均一な様相を呈する5-7)。ガドリニウム(Gd)造影では中等度から高度に造影増強されることが多いが,軽度造影されるものからほとんど造影されないものも10%程度存在する。造影増強効果は不均一(heterogenous)なことが多い。どの断面でも境界明瞭,ほぼ円形に描出される。診断時に大脳,脊髄に播種が認められる症例もある。
3)病理組織分類と分子生物学的知見(WHO 脳腫瘍分類2016)
2016 年のWHO 脳腫瘍分類1)では,古典的な髄芽腫(classic type)のほかに,3 種の亜型①desmoplastic/nodular medulloblastoma,②medulloblastoma with extensive nodularity,③large cell/anaplastic medulloblastoma が記述されている(表1)。
また,近年では遺伝子変異に基づいた分子生物学的4 型分類が提唱され8,9),予後との相関性の観点から2016 年のWHO 分類にも取り入れられた。これは当初WNT 遺伝子変異群,sonic hedgehog(SHH)遺伝子変異群,group 3,group 4 とされたが,group 3 と4 の種別が不十分であるとの判断から,WHO 分類ではまずWNT 群,SHH 群,non-WNT/non-SHH 群の3 群に分け,SHH 群はTP53 遺伝子変異の有無にて予後が大きく異なるため,さらに2 群に分けることとしている(表1)。
乳幼児(<3 歳),小児(3~17 歳)および成人(18 歳以上)という年齢区分に留意しつつ概略を述べると,WNT 群は80%が小児期症例であり,90%以上がclassic type を示す。予後が大変良好であり,10 年生存率はほぼ100%に近い。
SHH 群は,ほかに比較して男女差がなく全年齢層に均等に分布,病理組織ではclassic type とdesmoplastic/nodular type が多い。予後はWNT 群に次いで良好であるが,小児期症例では50%にTP53 変異を認め,そのうちの半数以上でgermline でもTP53 変異があり,これらの予後は不良である。
Group 3 は男性が女性のほぼ2 倍であり,70%が小児期に発生する。明らかに予後不良で5 年生存率は50~60%である。ほとんどがclassic type であるが,large cell/anaplastic medulloblastoma の比率や診断時の転移/播種率が最も高い。
Group 4 は最も頻度が高く(40%前後),病理組織ではclassic type がほとんどである。男性がほぼ3 倍,小児期に85%が発生し,5 年生存率は70%程度で,乳幼児期の治療成績が悪い。
今後はこれらの知見10,11)に基づいた臨床試験が行われ,外科的治療・放射線治療・化学療法の有効性が分子亜型ごとに示され変化していく可能性がある。本ガイドラインで取り上げた臨床試験や症例報告の多くは,上記の分子生物学的知見は考慮されたものでないことに注意する必要がある。
4)治療と予後
本腫瘍の治療は集学的治療(手術摘出と化学放射線療法)が原則であり,予後は治療法の発展により改善し,5 年生存率は50~70%となっている3,4)。すでに述べたように,乳幼児(<3 歳),小児(3~17 歳)および成人(18 歳以上)で各々の病態が異なり,組織型,分子生物学的分類,手術摘出度,播種などが予後に相関があると考えられているため,これらの特徴を踏まえて治療計画が立案される。臨床的には,年齢,播種の有無,摘出量からの臨床リスク分類が用いられる12-16)。すなわち,①診断時の年齢が3 歳未満,②術後のMRI における残存腫瘍面積が1.5 cm2以上,③髄腔内播種所見あり,により高リスク群(high-risk group)と標準リスク群(average-risk group)に大別する。標準リスク群は①~③のいずれにも該当しないグループ,高リスク群は①~③のいずれかに該当するグループとなる。さらに①の3 歳未満の症例では当面の放射線治療(RT)を回避する治療計画が立てられる(表2)。
5)診療の全体的な流れ
術前診断では,後頭蓋窩発生の上衣腫や毛様細胞性星細胞腫,atypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)との鑑別が難しい例がある。小脳半球に発生した場合,他のグリオーマ系腫瘍との鑑別が問題となる。
術前診断後に,合併する水頭症に対する緊急の処置が必要な例がある。
摘出後の治療方針に関しては,臨床リスク分類に応じて化学療法と放射線治療を組み合わせた治療を行う。このうち,3 歳未満群では放射線治療を極力回避し,化学療法を選択する。
❖ 文献
- 1)
- Louis DN, Ohgaki H, Wiestler OD, et al. WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System. Lyon, International Agency for Research on Cancer, 2016.
- 2)
- Bailey P, Cushing H. A Classification of Tumors of the Glioma Group on a Histogenetic Basis with a Correlated Study of Prognosis. Philadelphia:Lippincott;1926.
- 3)
- Ostrom QT, Cioffi G, Gittleman H, et al. CBTRUS Statistical Report:Primary Brain and Other Central Nervous System Tumors Diagnosed in the United States in 2012-2016. Neuro Oncol. 2019;21(Suppl 5):v1-v100.[PMID:31675094]
- 4)
- The committee of Brain Tumor Registry of Japan:Report of Brain Tumor Registry of Japan(2005-2008)14th ed. Neurol med Chir(Tokyo). 2017;57(Suppl 1):9-102.
- 5)
- Meyers SP, Kemp SS, Tarr RW. MR imaging features of medulloblastomas. AJR Am J Roentgenol. 1992;158(4):859-65.[PMID:1546606]
- 6)
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- 7)
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- 8)
- Northcott PA, Jones DT, Kool M, et al. Medulloblastomics:the end of the beginning. Nat Rev Cancer. 2012;12(12):818-34.[PMID:23175120]
- 9)
- Taylor MD, Northcott PA, Korshunov A, et al. Molecular subgroups of medulloblastoma:the current consensus. Acta Neuropathol. 2012;123(4):465-72.[PMID:22134537]
- 10)
- Kool M, Korshunov A, Remke M, et al. Molecular subgroups of medulloblastoma:an international meta-analysis of transcriptome, genetic aberrations, and clinical data of WNT, SHH, Group 3, and Group 4 medulloblastomas. Acta Neuropathol. 2012;123(4):473-84.[PMID:22358457]
- 11)
- Gajjar A, Bowers DC, Karajannis MA, et al. Pediatric Brain Tumors:Innovative Genomic Information Is Transforming the Diagnostic and Clinical Landscape. J Clin Oncol. 2015;33(27):2986-98.[PMID:26304884]
- 12)
- Chang CH, Housepian EM, Herbert C Jr. An operative staging system and a megavoltage radiotherapeutic technic for cerebellar medulloblastomas. Radiology. 1969;93(6):1351-9.[PMID:4983156]
- 13)
- Albright AL, Wisoff JH, Zeltzer PM, et al. Effects of medulloblastoma resections on outcome in children:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1996;38(2):265-71.[PMID:8869053]
- 14)
- Zeltzer PM, Boyett JM, Finlay JL, et al. Metastasis stage, adjuvant treatment, and residual tumor are prognostic factors for medulloblastoma in children:conclusions from the Children’s Cancer Group 921 randomized phase Ⅲ study. J Clin Oncol. 1999;17(3):832-45.[PMID:10071274]
- 15)
- Packer RJ, Sutton LN, Elterman R, et al. Outcome for children with medulloblastoma treated with radiation and cisplatin, CCNU, and vincristine chemotherapy. J Neurosurg. 1994;81(5):690-8.[PMID:7931615]
- 16)
- Packer RJ, Boyett JM, Janss AJ, et al. Growth hormone replacement therapy in children with medulloblastoma:use and effect on tumor control. J Clin Oncol. 2001;19(2):480-7.[PMID:11208842]
2.スコープ作成
1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
- (1)タイトル:髄芽腫の診療ガイドライン
- (2)目的:生命予後,機能予後,QOL の改善
- (3)トピック:生命予後,機能予後,QOL の改善
- (4)想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍(15 歳未満および16~29 歳のadolescent and young adult:AYA 世代を含めた年齢)を診療する医療者や施設,患者・家族
- (5)既存ガイドラインとの関係:日本では既存のガイドラインは作成されていない。
- (6)臨床的課題
課題1:手術摘出
課題2:神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
課題3:放射線治療
課題4:陽子線治療
課題5:化学療法
課題6:再発時の治療
課題7:治療による晩期障害 - (7)ガイドラインがカバーする範囲
- a)髄芽腫
- b)厚生省から示された小児がんとしてみなされる年齢(15 歳未満および16~29 歳のAYA 世代を含めた年齢)
2)システマティックレビューに関する事項
(1)実施スケジュール | 文献検索:2 カ月 文献の選出:3 カ月 エビデンス総体の評価と統合:4 カ月 |
- (2)エビデンスの検索
- ①エビデンスタイプ
- 既存のガイドライン:なし
- 個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
- ②データベース
- 個別研究論文:PubMed
- ③検索方法
- 介入の検索に関してはPICO フォーマットを用いる。
- ④検索対象期間
- 2018 年12 月まで
- ①エビデンスタイプ
- (3)文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。 - (4)エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 の方法に基づく。
エビデンス総体の統合は質的な統合を基本とし,適切な場合は量的統合を実施。
課題1:外科的治療
- CQ1
- 肉眼的全摘出は生命予後を改善するか?
- 推奨度2C
- 推奨
髄芽腫患者に対して全摘出を行うことを提案する。
解説
髄芽腫に対する手術摘出度あるいは残存腫瘍量と予後の関係を前方視的試験によって解析した研究はない。1996 年にAlbright ら1)が,術者が評価した腫瘍摘出度は予後に相関しないものの,術後残存腫瘍の最大面積が1.5 cm2以上あると,髄液播種のみられない3 歳以上の症例ではPFS が短くなることを報告した。その後Zeltzer ら2)は術後残存腫瘍の最大面積1.5 cm2以上を予後因子に加えることを提唱し,髄液播種,年齢が3 歳以上,術後腫瘍残存量(最大断面面積1.5 cm2以上)を予後不良因子として,標準リスク群と高リスク群の臨床リスク分類に従って髄芽腫の治療を行うことが現在の標準となっている(Albright とZeltzer の論文はOS の検討がされていないことから,システマティックレビューからは除外された)。手術摘出度が真の予後因子であるのかについての検討は,症例集積あるいは後方視的コホート研究で検討するほかない。
2000 年にJenkin ら3)は,単一施設の連続173 例の後方視的検討で,2 回の手術を要した症例も含めた最終的な摘出率において,全摘出77 例,亜全摘(摘出率90~99%)50 例,部分摘出(摘出率50~89%)30 例,部分摘出(摘出率50%未満)16 例の5 年生存率はそれぞれ63%,50%,41%,17%と報告した。この摘出度は術者が決定しており,全摘出群は非全摘出群と比較して有意に(p=0.002)OS を延長したが,摘出後に標準的な放射線治療が遂行可能であった場合には,全摘出は有意な予後因子とはならなかった。したがって全摘出により合併症を起こす可能性が高い場合は,術後の合併症によって放射線治療を省略するよりはむしろ摘出を制限することも考慮すべきであると結論づけた。
2005 年のSFOP4)の多施設共同研究では,術後3 日以内の画像検査で確認された残存・転移のない群(R0M0)47 例について検討された。この報告では手術記録で摘出度を決定しており,残存腫瘍はないと記載されていれば全摘出とし,癒着が強く切除できなかったと記載があれば術後の画像検査で残存腫瘍を認めなくても全摘出とはせずに亜全摘出と定義した。亜全摘出群34 例の5 年PFS は0%であったのに対して全摘出群13 例では41%と有意に延長した(p=0.0065)ものの,OS では有意差はなかったとした。このように,摘出度を画像検査だけではなく,手術記録に基づいてのリスク階層化を導入している点で結果の解釈には注意が必要である。
2006 年のUrberuaga ら5)の単一施設79 例の検討では,術後画像検査で残存腫瘍がないことを全摘出と定義し,単変量解析でOS,PFS ともに全摘出が予後良好因子であり,多変量解析でも予後良好因子(HR=3.17,95% CI:1.64-6.15,p<0.01)であったと報告した。
一方で,2008 年のAkyüz ら6)の単一施設の203 例の後方視的検討では,手術摘出度は生存期間に影響しなかったと報告した。
このように,手術的摘出度の予後に対する影響は報告によってばらつきがみられる。しかし,これまでの報告全体としては,全摘出した場合にはOS もPFS も延長する傾向があることは確かである。ただし,手術によって神経症状を悪化させる危険性が高い場合には,無理に全摘出を行うことは控え,術後速やかに放射線治療を行うことが重要である。
2016 年のThompson ら7)の787 例の後方視的国際共同研究では,分子的亜型分類が組み込まれた。全摘出の予後因子としての効果は,多変量解析に分子的亜型分類を含めると大きく減衰した。全摘出は,術後腫瘍残存量が1.5 cm2以上と比較してPFS は延長した(HR=1.45,95% CI:1.07-1.95,p=0.02)が,全摘出と術後腫瘍残存量1.5 cm2未満ではOS,PFS ともに有意差はみられなかった(OS/HR=1.05,95% CI:0.71-1.53,p=0.82,PFS/HR=1.14,95% CI:0.75-1.72,p=0.55)。WNT,SHH,group 3 では,全摘出してもOS に影響がなかった。術後腫瘍残存量1.5 cm2未満に対する全摘出の絶対的利点はないため,神経学的悪化が予測される場合には,小さな残存腫瘍に対する手術摘出は勧められないというこれまでの方針を支持するものである。
分子的亜型分類を加味したエビデンスの構築が希求されており,分子亜型それぞれにおいて手術摘出度が生命予後にどのような影響を及ぼすかについては,現在も重要な臨床課題である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((“Epidemiologic Study Characteristics”[Mesh])OR “ Statistics as Topic[”Mesh]))OR “clinical study”[PT]))AND((((((((((medulloblastoma[mh])OR medulloblastoma*[tiab])OR((melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR((childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR medulloblastoma*[tiab])OR((desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR((adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab]))))AND((surgery[SH]OR surgery[TIAB]OR surgical[TIAB]OR “surgical procedures, operative”[MH]OR(surgical[TIAB]AND procedure*[TIAB]AND operative[TIAB])OR operative[TIAB]OR operation[TIAB]OR resect*[TIAB])))AND((prognosis[MH]OR prognos*[TIAB]OR “disease progression”[MH]OR(disease*[TIAB]AND progress*[TIAB])OR(disease*[TIAB]AND exacerbat*[TIAB])OR mortality[MH]OR mortal*[TIAB]OR(case*[TIAB]AND fatality[TIAB]AND rate*[TIAB])OR(death[TIAB]AND rate*[TIAB])OR “survival analysis”[MH]OR(surviv*[TIAB]AND(analysis[TIAB]OR analyses[TIAB]))OR “neoplastic processes”[MH]OR(neoplastic[TIAB]AND process*[TIAB]))))))AND 1900/1/1:2018/12/31[DP]
以上の検索式により662 文献を抽出し,一次スクリーニングで69 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に17 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。システマティックレビュー後のさらなる検討から7 文献を採用し,作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Albright AL, Wisoff JH, Zeltzer PM, et al. Effects of medulloblastoma resections on outcome in children:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1996;38(2):265-71.[PMID:8869053]
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- Jenkin D, Shabanah MA, Shail EA, et al. Prognostic factors for medulloblastoma.Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;47(3):573-84.[PMID:10837938]
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- 7)
- Thompson EM, Hielscher T, Bouffet E, et al. Prognostic value of medulloblastoma extent of resection after accounting for molecular subgroup:a retrospective integrated clinical and molecular analysis. Lancet Oncol. 2016;17(4):484-95.[PMID:26976201]
課題2:神経認知機能を含む機能的予後と生命予後の向上
- CQ2
- 手術後の予後因子は何か?
- 推奨度1B
- 推奨
予後因子として,組織型(予後良好な順でdesmoplastic nodular/extensive nodularity, classic, large cell/anaplastic),転移の有無(転移有が予後不良),遺伝子プロファイルで分類される亜型(WNT 型が予後良好)を用いることを推奨する。
解説
予後を予測する因子は実施する治療によって変わる。例えば,治療が摘出のみであれば,当然転移の有無と残存した腫瘍の大きさがOS に大きな影響を与える。また,放射線治療の導入,さらに有効な化学療法の採用によって予後因子は変化している。最新の治療を受けたコホートでは,後述の4 型の亜群によっては転移の有無すら予後を反映しない可能性が最近示されている1-3)。このように,リスク因子は解析対象としたコホートの治療によって変化するものであるので,本CQ では,これらの違いがあってもなおかつ検出される因子を採用することとした。
治療の層別化に用いる予後因子としては,治療反応性などではなく,診断後直ちに情報が得られる臨床情報(年齢,性別,転移の有無,病理組織型,術後腫瘍残存の有無など)が有用である。しかし,これらの因子は交絡が存在するため,多変量解析による結果が最も重要視される。ほぼすべての研究で予後因子として多変量解析で抽出されているのが,転移の有無,および組織型(classic, desmoplastic nodular/extensive nodularity, large cell/anaplastic)であった2,4-12)。一方,性別,年齢は解析されたほとんどの研究で予後因子とはならなかった1,2,6,8,11,13)。術後の腫瘍残存については,多変量解析が行われた9 編の解析のうち2 編で予後不良因子として抽出され7,13),1 編では単変量解析では有意であったものの,多変量解析では有意差は消失している11)。また,乳幼児に限定した解析では,単変量解析のみが行われた3 編の報告では予後不良因子として抽出されているが14-16),多変量解析を行った4 編の報告では3 編で予後因子として否定されている4-6)。以上のことから,現時点では独立した強力な予後因子として組織型,転移の有無を挙げることができる。組織型では,desmoplastic nodular/extensive nodularity が最も予後が良く,classic, large cell/anaplastic と続く。転移の有無では転移無が予後良好である。
2011 年に,遺伝子発現プロファイルに基づき,髄芽腫は少なくともWNT 型,SHH 型,non-WNT/non-SHH 型に分類されることが明らかとなり,2016 年のWHO 脳腫瘍分類でも採用されている2)。後者はさらにGroup 3 とGroup 4 に分類されることもある。これまでのところ,過去に集積された症例を世界中から集めた後方視的なコホートを用いた解析のデータにとどまるが,一貫してWNT 型が最も予後良好である。残りの2 群もしくは3 群間の予後の差はさほど顕著なものではない5)。しかし,基本的にWNT 型が存在しない乳幼児例に限定しての解析では,単変量解析ながら3 編すべての解析でSHH 型が予後良好であることが示されている3,16,17)。SHH 型の多くは上記に予後良好因子として記載したdesmoplastic nodular/extensive nodularity の組織型を有するため,多変量解析での検討が必要である。上記の3 型(または4 型)分類とは別個に,MYC 遺伝子の増幅が独立した予後不良因子であることが報告されている。しかし,その後4 型分類と組み合わせた解析ではGroup 3 以外では明らかではないことが示されている18)。
上述のように,髄芽腫は少なくとも3 種類以上の異なった疾患(亜群)からなる集合体であることから,現在はそれぞれの亜群の中での予後因子が提唱されているものの3,19,20),現時点では十分検証されたとまでは言えないため,今回各亜群別の予後因子の推奨は時期尚早と判断した。以上のことから,独立した強力な予後因子として,組織型,転移の有無,遺伝子プロファイルによる分類(WNT 型とそれ以外)を推奨する。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])))AND((((((“Combined Modality Therapy”[Mesh:NoExp]OR Chemoradiotherapy[mh]OR Chemotherapy, Adjuvant[mh]OR Radiotherapy, Adjuvant[mh])))OR((Adjuvant[tiab]AND(Chemoradiotherapy[tiab]OR Chemoradiotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab]OR chemothrapy[tiab]OR chemotherapies[tiab]OR radiotherapy[tiab]OR radiotherapies[tiab]OR “drug therapy”[tiab]OR “drug therapies”[tiab]))))OR(((Multimodal[tiab]AND(Treatment[tiab]OR treatments[tiab]OR therapy[tiab]OR therapies[tiab]))OR(“Combined Modality”[tiab]AND(therapy[tiab]OR therapies[tiab]))OR((Concurrent[tiab]OR Concomitant[tiab]OR Synchronous[tiab])AND(Chemoradiotherapy[tiab]OR Chemoradiotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab])))))OR((therapy planning[tiab]OR therapeutic planning[tiab]OR therapeutic design[tiab]OR treatment design[tiab]OR plan[tiab]OR planning[tiab])))))AND((“Epidemiologic Study Characteristics”[MH]OR “Statistics as Topic”[Mesh]OR “Clinical Study”[Publication Type]))))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により556 文献を抽出し,一次スクリーニングで37 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に20 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Fernandez-Teijeiro A, Betensky RA, Sturla LM, et al. Combining gene expression profiles and clinical parameters for risk stratification in medulloblastomas. J Clin Oncol. 2004;22(6):994-8.[PMID:14970184]
- 2)
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- 3)
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- 4)
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課題3:放射線治療
- CQ3
- 全脳脊髄照射において,標準線量からの線量低減または線量増加は有用か?
- 推奨度1D
- 推奨1
全脳脊髄照射において,標準リスク群に対して標準線量からの線量低減を行わないことを推奨する。
- 推奨度1D
- 推奨2
全脳脊髄照射において,高リスク群に対して標準線量からの線量増加を行わないことを推奨する。
解説
3 歳以上の髄芽腫に対する集学的治療において全脳脊髄照射(CSI)は必要不可欠であり,標準治療の一環として,CSI と後頭蓋窩または腫瘍床へのブースト照射(総線量54 Gy 程度)が通常分割照射法を用いて実施されている。現在,標準的なCSI 線量として,標準リスク群では24 Gy 程度(23.4 Gy/13 分割が頻用されている),高リスク群では36 Gy 程度(35.2~36 Gy/20~22 分割)が用いられている(CQ5,CQ6 参照)。標準リスク群に対する晩期障害軽減を目的としたCSI 線量低減,また高リスク群に対する治療成績改善を目的としたCSI 線量増加が試みられているが,現時点におけるそれらの意義や位置づけは確立していない。
1.標準リスク群に対する標準線量(24 Gy 程度)からのCSI 線量低減について
評価対象となった22 編1-22)中,標準線量未満のCSI が実施された試験は2 編のみであったが,そのうち1 編は18 Gy のCSI を実施された症例が全88 例中11 例(うち陽子線治療が3 例)と少なく1),残りの1 編は18 GyE(陽子線治療)のCSI 実施症例が含まれていたものの,18 GyE のCSI が実施された症例数は不明であった7)。なお,急性期有害事象,成長障害に関しては標準線量未満のCSI を実施した論文は認められなかった。
一般論としてCSI 線量低減により急性期および晩期障害のリスク低減が期待されるものの,上述したように標準リスク群に対するCSI 線量低減の有用性を検証するランダム化比較試験もしくは傾向スコア・マッチング研究は存在せず,併用化学療法の有無や種類・タイミングに深刻なばらつきを認めたため,CSI 線量低減による生存率および急性期・晩期障害に対する影響の評価は極めて困難であった。また化学療法に関しては,我が国において使用できないlomustine(CCNU)が含まれるレジメンが散見された。これらのバイアスリスク,非直接性を考慮した結果エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。
上記システマティックレビューの結果から,CSI 線量低減が生存率および急性期・晩期障害に及ぼす影響を評価することは困難であった。またCSI 線量低減により急性期・晩期障害のリスク低減が得られる可能性は期待されるものの,生存率の維持が可能と判断する根拠に乏しく,線量低減に伴う生存率低下のリスクが危惧される。そのため,現状ではCSIにおいて,標準リスク群に対して標準線量からの線量低減を行わないことを提案することが妥当と判断した。
なお,システマティックレビュー対象外の文献ではあるが,2021 年6 月にACNS033123)が出版されたため,重要文献として本ガイドラインに記載する。ACNS0331 は標準リスク群に対してブースト照射として後頭蓋照射を実施する群と,腫瘍床照射を実施する群にランダム化割付し検証した第Ⅲ相試験である。さらに本試験では3~7 歳の226 例に対してCSI 線量を23.4 Gy 群と18 Gy 群にランダム化割付し,primary endpoint である無イベント生存割合(EFS)を検証した。その結果,認知機能は23.4 Gy 群において有意に低下したものの,5 年時点でのEFS は23.4 Gy 群では82.9%,18 Gy 群では71.4%であり,18 Gy 群は23.4 Gy 群と比較してEFS が有意に短かった(HR=1.07, 80% CI:2.10, p=0.028)。また5 年時点での全生存割合(OS)は23.4 Gy 群では85.6%,18 Gy 群では77.5%であり,18 Gy 群は23.4 Gy 群と比較してOS が有意に短く(p=0.049),今回の推奨を支持する結果であった。
2.高リスク群に対する標準線量(36 Gy 程度)からのCSI 線量増加について
二次スクリーニング後の35 文献のうち,対象が高リスク群かつ設定されたアウトカムに関する記載のある文献は11 編であった。11 編中4 編(POG963124),HIT200025),POG903126),SJMG-9612)において標準線量よりも高いCSI 線量が用いられていた。生存率では9 編4,7,12,24-29),急性期有害事象では7 編12,24-27,29,30),二次がんは4 編4,18,26,29),精神・認知機能障害では1 編7),聴力障害では4 編7,25,27,30),内分泌機能障害では1 編7)が評価対象となり,成長障害に関しては該当する文献を認めなかった。CSI 線量増加により二次がんの発生率は同等かつ生存率を改善する可能性が示唆されたが,上述したように高リスク群に対する線量増加群vs. 標準線量群の治療成績を検証するランダム化比較試験もしくは傾向スコア・マッチング研究が存在せず,高リスクである定義や根拠,化学療法の有無・種類・タイミングに深刻なばらつきを認めたため,線量増加による生存率および急性期・晩期障害の評価は極めて困難であった。また,化学療法に関しては我が国において使用できないCCNU が含まれるレジメンが散見された。そのため,すべてのアウトカムにおいて,深刻なバイアスリスク・非直接性が存在し,エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。
上記システマティックレビューの結果から,線量増加に伴い益(生存率の改善)を得られる可能性は否定できないが,同時に害(晩期障害の増加)も危惧された。小児がんである髄芽腫患者において,治癒が得られた際にQOL の低下・社会生活の妨げとなる害(晩期障害の増加)を考慮する必要性は極めて高い。エビデンスレベルが非常に弱い現状においては,益よりも害を考慮し,CSI において,高リスク群に対して標準線量からの線量増加を行わないことを提案することが妥当と判断した。
- 注意:
- lomustine(CCNU)は国内未承認
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((medulloblastoma)AND radiotherapy))AND(Comparative Study[ptyp]OR Clinical Trial[ptyp])AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により241 文献を抽出し,一次スクリーニングで106 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に35 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Clinical Outcomes Among Children With Standard-Risk Medulloblastoma Treated With Proton and Photon Radiation Therapy:A Comparison of Disease Control and Overall Survival. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;94(1):133-8.[PMID:26700707]
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- Carrie C, Muracciole X, Gomez F, et al.;French Society of Pediatric Oncology. Conformal radiotherapy, reduced boost volume, hyperfractionated radiotherapy, and online quality control in standard-risk medulloblastoma without chemotherapy:results of the French M-SFOP 98 protocol. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2005;63(3):711-6.[PMID:15927408]
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課題4:陽子線治療
- CQ4
- 放射線治療として陽子線治療は推奨されるか?
- 推奨度2D
- 推奨
放射線治療として陽子線治療を行うことを条件付きで提案する。
解説
小児がんに対する陽子線治療が保険適用となったものの,現状ではアクセスが限られることが問題である。このような中,広く普及し従来標準的に用いられてきたX 線治療に比し,陽子線治療の優位性を明らかにすることは重要である。そこで本CQ が設定された。
選択された12 文献には,ランダム化比較試験をはじめとするエビデンスレベルの高い報告はなく,定性的システマティックレビューを実施した。
各アウトカムの評価対象となった研究は,多くても4 編,ほとんどが観察研究(前方視的または後方視的コホート研究)であったが,医療費のみモデル解析であった。
評価対象となった研究に基づくエビデンス総体の評価結果は,生存率1-4),脳・脊髄障害5)については,陽子線治療とX 線治療で明らかな差はなく,急性期有害事象6),成長障害7),精神・認知機能障害1,4,8),聴力障害1,4,9),内分泌機能障害1,4,7)については,陽子線治療はX 線治療と比べて軽減できる可能性が示されたが,ほとんどの研究が非直接性・バイアスリスク・不精確さにおいて深刻またはとても深刻と判定されたため,エビデンスの強さは生存率,内分泌機能障害が弱い,それ以外は非常に弱いと判断された。また,医療費10-12)については,陽子線治療はX 線治療と比べて低減できる可能性が示されたが,いずれもモデル解析である上に,モデル計算の根拠となる有害事象軽減のエビデンスの多くが非常に弱く,深刻な非直接性・バイアスリスク・不精確さがあるため,エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。なお,二次がん3,4)については,陽子線治療とX 線治療の優劣は判断困難と考えられた。
放射線治療として陽子線治療を用いて,線量増加等の積極的に治療成績を改善する試みはなく,現在までの報告では治療成績はX 線治療とほぼ同等であり,益(生存率の改善)が得られる可能性は少ない。一方,害(有害事象)を減らせる可能性があるということが示唆されるものの,そのエビデンスの強さは非常に弱い。また,陽子線治療施設数が少ないため,希望しても適切なタイミングでの治療を受けられない可能性がある。陽子線治療装置の導入・運用コストは高額である一方で医療費全体としては減らせる可能性が示唆されるものの,試算の根拠となる有害事象軽減に関するエビデンスの強さは前述のように非常に弱い。また,患者(家族)の医療費負担は発症が20 歳未満であればX 線治療と同じであるが,施設が近隣にない場合は移動や宿泊のコストが発生する。以上を総合的に判断した結果,希望するタイミングで治療を受けられる,施設が近隣にあるといった条件が合致する患者には陽子線治療を提案してもよいと考えた。
よって,本CQ に対する推奨は,「放射線治療として陽子線治療を条件付きで行うことを提案する(2D)」とした。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(proton AND(medulloblastoma OR craniospinal irradiation))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により149 文献を抽出し,一次スクリーニングで35 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に12 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Jimenez RB, Sethi R, Depauw N, et al. Proton radiation therapy for pediatric medulloblastoma and supratentorial primitive neuroectodermal tumors:outcomes for very young children treated with upfront chemotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2013;87(1):120-6.[PMID:23790826]
- 2)
- Sethi RV, Giantsoudi D, Raiford M, et al. Patterns of failure after proton therapy in medulloblastoma;linear energy transfer distributions and relative biological effectiveness associations for relapses. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2014;88(3):655-63.[PMID:24521681]
- 3)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Clinical Outcomes Among Children With Standard-Risk Medulloblastoma Treated With Proton and Photon Radiation Therapy:A Comparison of Disease Control and Overall Survival. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;94(1):133-8.[PMID:26700707]
- 4)
- Yock TI, Yeap BY, Ebb DH, et al. Long-term toxic effects of proton radiotherapy for paediatric medulloblastoma:a phase 2 single-arm study. Lancet Oncol. 2016;17(3):287-98. [PMID:26830377]
- 5)
- Giantsoudi D, Sethi RV, Yeap BY, et al. Incidence of CNS Injury for a Cohort of 111 Patients Treated With Proton Therapy for Medulloblastoma:LET and RBE Associations for Areas of Injury. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;95(1):287-96.[PMID:26691786]
- 6)
- Song S, Park HJ, Yoon JH, et al. Proton beam therapy reduces the incidence of acute haematological and gastrointestinal toxicities associated with craniospinal irradiation in pediatric brain tumors. Acta Oncol. 2014;53(9):1158-64.[PMID:24913151]
- 7)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Endocrine outcomes with proton and photon radiotherapy for standard risk medulloblastoma. Neuro Oncol. 2016;18(6):881-7.[PMID:26688075]
- 8)
- Pulsifer MB, Sethi RV, Kuhlthau KA, et al. Early Cognitive Outcomes Following Proton Radiation in Pediatric Patients With Brain and Central Nervous System Tumors. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015;93(2):400-7.[PMID:26254679]
- 9)
- Moeller BJ, Chintagumpala M, Philip JJ, et al. Low early ototoxicity rates for pediatric medulloblastoma patients treated with proton radiotherapy. Radiat Oncol. 2011;6:58.[PMID:21635776]
- 10)
- Lundkvist J, Ekman M, Ericsson SR, et al. Cost-effectiveness of proton radiation in the treatment of childhood medulloblastoma. Cancer. 2005;103(4):793-801.[PMID:15637691]
- 11)
- Vega RBM, Kim J, Bussière M, et al. Cost effectiveness of proton therapy compared with photon therapy in the management of pediatric medulloblastoma. Cancer. 2013;11(9 24):4299-307.[PMID:24105630]
- 12)
- Hirano E, Fuji H, Onoe T, et al. Cost-effectiveness analysis of cochlear dose reduction by proton beam therapy for medulloblastoma in childhood. J Radiat Res. 2014;55(2):320-7.[PMID:24187330]
課題5:化学療法
- CQ5
- 3 歳以上の標準リスク群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度1B
- 推奨
シスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした多剤併用化学療法と,24 Gy 程度の全脳脊髄照射と総線量54 Gy 程度の局所照射を組み合わせた通常分割放射線治療による,術後化学放射線治療を推奨する。
解説
本疾患は放射線治療および化学療法が有効な治療であることが既知の事実であり,現在の3 歳以上標準リスク群の髄芽腫治療においては術後に両者を行うのが一般的になっている。一方,その急性期および晩期の合併症は,生命の危機を及ぼすことがあり,かつ長期生存者のQOL を著しく低下させることが知られている。したがって,益と害のバランスを考慮した術後治療の推奨は重要な臨床課題であると考える。
髄芽腫の治療の黎明期において,腫瘍摘出術のみでは髄芽腫は不治の病であったが,術後放射線治療,特に全脳脊髄照射(CSI)の導入後,髄芽腫は治癒を期待できる疾患となった。しかしながら,発達中の小児の脳,特に大脳に高線量の放射線治療を行った結果,生存者に重度の発達障害を起こすことが判明した。脳への照射を軽減するためにCSI の線量を低減する試みがランダム化比較試験として行われたが,CSI 線量36 Gy 群と23.4 Gy 群の再発率が7.9% vs. 28.3%(p<0.01)と単純なCSI 減量は再発率を有意に上昇させることが示された1)。
その後,放射線治療に化学療法を追加することで,生存率の向上を目指す比較臨床試験が複数行われた。米国と欧州で約36 Gy のCSI にビンクリスチン,lomustine(CCNU)ベースの化学療法を追加する2 つのランダム化比較試験が行われた。米国試験(局所50~55 Gy,CSI を35~40 Gy)では髄芽腫全体では化学療法追加による有意な生存率向上は認めず,転移のない患者群の5 年無イベント生存割合(event-free survival:EFS)は59%であった2)。欧州試験(局所55 Gy,全脳35~45 Gy,全脊髄30~35 Gy)でも化学療法の上乗せ効果は認めず,転移のない群の5 年生存率は64.6%であった3)。
その後,米国ではPacker らによって開発が行われてきたビンクリスチンとCCNU の併用にシスプラチンを加えたレジメンの検証が行われた。この試験ではCSI 線量を23.4 Gy に減量したのにも関わらず,5 年EFS 79.7%という非常に良好な生存率が得られた4)。このことは,CSI の線量を多くするよりも,シスプラチンを含む有効な化学療法を併用することの方が予後の向上に重要であることを示している。引き続き行われたCOG A9961 試験では,このレジメンのCCNU をシクロホスファミドに置換したレジメンの優越性がRCT で検証されたが,優越性は示すことができず,感染症などの重篤な有害事象が多いという結果であった。そのため,現在に至るまでCCNU を含むPacker レジメンと23.4 Gy CSI に局所ブーストを行う方法が世界的に標準治療となっている5)。続いて米国St.Jude 小児病院から,23.4 Gy のCSI と局所ブースト照射の後に,化学療法の間隔を開けないために自己末梢血幹細胞救援を併用したシスプラチン,大量シクロホスファミド,ビンクリスチンの3 剤による化学療法を4 回繰り返す方法を行い,5 年EFS 83%と優れた結果が報告され,一定量以上のシクロホスファミドの有効性が示された6)。
一方,欧州ではSIOP と英国小児がん研究グループ(United Kingdom Children’s Cancer Study Group:UKCCSG)の共同研究でシクロホスファミド,カルボプラチン,ビンクリスチン,エトポシドによる多剤併用化学療法を35 Gy CSI とブースト照射の前後に行った(サンドイッチ療法)群と,放射線治療単独で治療した群を比較する臨床試験が行われた。OS では有意差を認めなかったが,5 年EFS では74.2% vs. 59.8%(p=0.04)と有意に化学療法群の生存率が高かった7)。
以上のことから,標準リスクでは効果の弱い化学療法では放射線治療への上乗せ効果は見られないが,CCNU とビンクリスチンにシスプラチンを加えて用いることでCSI の線量を36 Gy から23.4 Gy に軽減することが可能となった。なお,lomustine(CCNU)が未承認のわが国ではCOG A9961 試験でシクロホスファミドに置換したレジメンでもCCNU レジメンと近似したEFS が得られたことから,シクロホスファミドに置換したレジメンが実地臨床では広く使われている。
放射線治療と化学療法の実施の順序については,欧米で術後に放射線治療前に1~2コースの化学療法を組み入れるいわゆるサンドイッチ療法の検討が行われた。欧州では,プロカルバジン,ビンクリスチン,メトトレキサート多剤併用化学療法8)あるいはシスプラチン,イホスファミド,大量メトトレキサート,エトポシド,シタラビン(AraC)による多剤併用化学療法9,10)を放射線治療の前に挟み込むことの有用性の検討がランダム化比較試験で行われたが,ともに有用性を示すことができなかった。また,8 in 1 レジメンという8 種類の抗がん剤を1 日で投与する多剤併用化学療法を放射線治療前に行い標準リスク群でCSI 軽減(全脳27 Gy,全脊髄30~36 Gy)を目指す単アーム試験が行われた。7 年EFS 62%と従来と匹敵する結果が得られたが,放射線治療先行との比較は行われていない11)。以上の結果より,標準リスク群髄芽腫の術後治療は,放射線治療のあとに化学療法を行うことが一般的になった。サンドイッチ療法は1 コースの化学療法の後に放射線治療を行うために,化学療法がビンクリスチン投与を除いて約2 カ月中断するという問題がある。
欧州では,過分割照射36 Gy CSI と通常分割照射の23.4 Gy CSI を無作為割り付けし,シスプラチン,CCNU,ビンクリスチンを投与した国際的治療グループによるランダム化比較試験を行ったが,5 年EFS 78% vs. 77%と,過分割照射の優越性は示せなかった12)。フランスで行われたCSI 36 Gy(36 分割)と68 Gy(68 分割)の過分割照射のみで後治療を行った試験で,3 年EFS 81%という生存率は興味深いが,放射線治療単独の本戦略の評価には長期成績の報告を待たなければならないであろう13)。
髄芽腫の治療選択において,副作用および治療後のQOL は非常に重要な要素である。本CQ を検討する際に評価した複数の論文で,急性合併症が報告されているが,放射線治療や化学療法の種類によって急性毒性の差を認めていない。また,晩期合併症を治療レジメンごとに比較した論文はないが,放射線量が少ないレジメンの方が二次がん,認知機能低下,内分泌機能などの影響が少ないと理論的に推論することは妥当である。
これらのアウトカムのエビデンスより,シスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンによる多剤併用化学療法に,24 Gy 程度の通常分割全脳脊髄照射と局所追加照射を組み合わせた放射線治療による術後化学放射線治療を推奨する。
- 注意:
- lomustine(CCNU):国内未承認
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シタラビン(cytarabine):髄芽腫に対しては保険適応外
8 in 1 レジメン:メチルプレドニゾロン,ビンクリスチン,lomustine,プロカルバジン,ハイドロキシウレア(髄芽腫には保険適応外),シスプラチン,シタラビン,シクロホスファミドの8 種類の薬剤を1 日に投与する化学療法
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radio-therapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。CQ5 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの7 文献,EFS アウトカムの13 文献,有害事象・QOL アウトカムの13 文献を採用した。
❖ 文献
- 1)
- Deutsch M, Thomas PR, Krischer J, et al. Results of a prospective randomized trial comparing standard dose neuraxis irradiation(3,600 cGy/20)with reduced neuraxis irradiation(2,340 cGy/13)in patients with low-stage medulloblastoma. A Combined Children’s Cancer Group-Pediatric Oncology Group Study. Pediatr Neurosurg. 1996;24(4):167-76;discussion 76-7.[PMID:8873158]
- 2)
- Evans AE, Jenkin RD, Sposto R, et al. The treatment of medulloblastoma. Results of a prospective randomized trial of radiation therapy with and without CCNU, vincristine, and prednisone. J Neurosurg. 1990;72(4):572-82.[PMID:2319316]
- 3)
- Tait DM, Thornton-Jones H, Bloom HJ, et al. Adjuvant chemotherapy for medulloblastoma:the first multi-centre control trial of the International Society of Paediatric Oncology(SIOP Ⅰ). Eur J Cancer. 1990;26(4):464-9.[PMID:2141512]
- 4)
- Packer RJ, Goldwein J, Nicholson HS, et al. Treatment of children with medulloblastomas with reduced-dose craniospinal radiation therapy and adjuvant chemotherapy:A Children’s Cancer Group Study. J Clin Oncol. 1999;17(7):2127-36.[PMID:10561268]
- 5)
- Packer RJ, Gajjar A, Vezina G, et al. Phase Ⅲ study of craniospinal radiation therapy followed by adjuvant chemotherapy for newly diagnosed average-risk medulloblastoma. J Clin Oncol. 2006;24(25):4202-8.[PMID:16943538]
- 6)
- Gajjar A, Chintagumpala M, Ashley D, et al. Risk-adapted craniospinal radiotherapy followed by high-dose chemotherapy and stem-cell rescue in children with newly diagnosed medulloblastoma(St Jude Medulloblastoma-96):long-term results from a prospective, multicentre trial. Lancet Oncol. 2006;7(10):813-20.[PMID:17012043]
- 7)
- Taylor RE, Bailey CC, Robinson K, et al.;International Society of Paediatric Oncology;United Kingdom Children’s Cancer Study Group. Results of a randomized study of preradiation chemotherapy versus radiotherapy alone for nonmetastatic medulloblastoma:The International Society of Paediatric Oncology/United Kingdom Children’s Cancer Study Group PNET-3 Study. J Clin Oncol. 2003;21(8):1581-91.[PMID:12697884]
- 8)
- Bailey CC, Gnekow A, Wellek S, et al. Prospective randomised trial of chemotherapy given before radiotherapy in childhood medulloblastoma. International Society of Paediatric Oncology(SIOP)and the(German)Society of Paediatric Oncology(GPO):SIOP Ⅱ. Med Pediatr Oncol. 1995;25(3):166-78.[PMID:7623725]
- 9)
- von Hoff K, Hinkes B, Gerber NU, et al. Long-term outcome and clinical prognostic factors in children with medulloblastoma treated in the prospective randomised multicentre trial HIT’91. Eur J Cancer. 2009;45(7):1209-17.[PMID:19250820]
- 10)
- Kortmann RD, Kühl J, Timmermann B, et al. Postoperative neoadjuvant chemotherapy before radiotherapy as compared to immediate radiotherapy followed by maintenance chemotherapy in the treatment of medulloblastoma in childhood:results of the German prospective randomized trial HIT’91. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;46(2):269-79.[PMID:10661332]
- 11)
- Gentet JC, Bouffet E, Doz F, et al. Preirradiation chemotherapy including “eight drugs in 1 day” regimen and high-dose methotrexate in childhood medulloblastoma:results of the M7 French Cooperative Study. J Neurosurg. 1995;82(4):608-14.[PMID:7897523]
- 12)
- Lannering B, Rutkowski S, Doz F, et al. Hyperfractionated versus conventional radiotherapy followed by chemotherapy in standard-risk medulloblastoma:results from the randomized multicenter HIT-SIOP PNET 4 trial. J Clin Oncol. 2012;30(26):3187-93.[PMID:22851561]
- 13)
- Carrie C, Muracciole X, Gomez F, et al.;French Society of Pediatric Oncology. Conformal radiotherapy, reduced boost volume, hyperfractionated radiotherapy, and online quality control in standard-risk medulloblastoma without chemotherapy:results of the French M-SFOP 98 protocol. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2005;63(3):711-6.[PMID:15927408]
- CQ6
- 3 歳以上の高リスク群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
36 Gy 程度の全脳脊髄照射と54 Gy 程度の局所照射を術後に行い,その後にシスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした治療強度を増した多剤併用化学療法を複数コース行うことを提案する。
解説
髄芽腫の標準リスク群のCQ5 で解説したように,全脳脊髄照射(CSI)の導入後,髄芽腫は治癒を期待できる疾患となった。しかしながら,残存腫瘍または播種を伴う高リスク群では,標準リスク群に比べ生存率が低く,化学療法の併用を行っても満足のいく治療成績を得るには至っていない。米国と欧州で放射線治療にビンクリスチン,lomustine(CCNU)ベースの化学療法を追加する2 つのランダム化比較試験が行われた。
米国試験(局所50~55 Gy,CSI を35~40 Gy)では腫瘍が大きく転移もあった群のサブ解析において,放射線治療単独群では5 年EFS が0%であったのに対し,化学療法併用群で46%と有意に高い5 年EFS を得た(p=0.006)1)。一方,欧州試験(局所55 Gy,全脳35~45 Gy,全脊髄30~35 Gy)のランダム化比較試験においても,中間解析で腫瘍が大きかった,あるいは亜全摘であった群において5 年EFS の差が両群間で有意に高く,化学療法の追加効果が顕著であった。そのため欧州試験は途中で打ち切られ,術後残存腫瘍がある群では長期追跡後の生存率も最終的に有意に高かった2)。ただし,この試験では転移については評価されていない。欧州で,プロカルバジン,ビンクリスチン,メトトレキサート多剤併用化学療法を放射線治療の前に追加するランダム化比較試験が行われたが,高リスク群において,化学療法追加群と追加しない群の5 年EFS に有意な差は認めなかった(56% vs. 53%,p=0.7)3)。また8 in 1 レジメンを放射線治療前に行うCSI 軽減(全脳27 Gy 全脊髄30~36 Gy)アーム試験が行われたが,高リスク群で7 年EFS 45%と改善は認めなかった4)。
その後,欧米で化学療法を強化する試みが行われ,米国のCCG921 試験では,術後に放射線治療(CSI 36 Gy+局所線量54 Gy)と照射中のビンクリスチン投与を行い,その後8 in 1 とビンクリスチン/CCNU/プレドニゾロン(VCP)の2 つの化学療法レジメンを比較するRCT が行われた。結果は,高リスク群では,VCP 治療の方が8 in 1 レジメンより5 年PFS を有意に延長した(63±5% vs. 45±5%,p=0.006)5)。一方,米国のPOG9031 では高リスク群に通常分割の放射線治療を強化し(CSI 40 Gy+局所線量54.4 Gy),シスプラチン/エトポシド/シクロホスファミド/ビンクリスチンによる化学療法を放射線治療の前後に行うサンドイッチ療法と通常の放射線治療後に行う方法に割り付けるランダム化比較試験が行われた。化学療法スケジュールによるEFS とOS 差は認めなかったが,5 年EFS 68.1±3%,5 年OS 74.6±3%と比較的良好な生存率を得た6)。米国St.Jude 小児病院から化学療法の間隔を開けないために自己末梢血幹細胞救援を併用したシスプラチン,大量シクロホスファミド,ビンクリスチンの3 剤による化学療法を4 回繰り返す方法を,36~39.6 Gy のCSI と局所ブーストの後に行い,5 年EFS 70%,5 年OS 70%と高リスク群では最も良好な生存率を示した7)。
一方,ドイツのHIT2000 試験においては,4 歳以上の高リスク群においても,メトトレキサートの脳室内投与の効果を検証している。メトトレキサートは予定量の75%以上投与した症例で予後改善(EFS 61.5% vs. 46.2%,p=0.004)しており,年長児の高リスク群に対するメトトレキサート脳室内投与の有効性を示した8)。
米国COG では,放射線治療中の併用抗がん剤としてビンクリスチンの他に,放射線増感薬としての効果を期待してカルボプラチンを併用する第Ⅰ/Ⅱ相試験が77 例の転移症例を対象に実施された。少量のカルボプラチンをCSI 36 Gy と局所ブースト照射中に30 日間連続投与するもので,照射後にビンクリスチンとシクロホスファミドによる化学療法を実施した。後半の症例では照射後化学療法にシスプラチンを追加した。全体での5 年EFS71%という良好な生存率を得られたが,シスプラチンの追加は予後の向上をもたらさなかった9)。
高リスク群でも術後に放射線治療前後に化学療法を挟み込むサンドイッチ療法の有用性が検証された。ドイツで行われたHIT’91 試験では,放射線治療(CSI 35.2 Gy,局所55.2 Gy)後にいわゆる標準リスク群におけるPacker レジメン(シスプラチン/CCNU/ビンクリスチン)を投与する方法と,シスプラチン/イホスファミド/メトトレキサート/エトポシド/シタラビンによる多剤併用化学療法を放射線治療前後に行う方法とのランダム化比較試験が行われ,その長期フォローアップデータによると,髄液播種を有する群10 年のOS70%/34%(p=0.02),脊髄転移や遠隔転移を有する群の10 年OS 42%/45%(p=0.99)であり,髄液播種を有する症例に限ると放射線治療後にPacker レジメンを投与した群のほうが良好な生存率であった10,11)。欧州ではさらに,SIOP/UKCCSG によるPNET-3 試験が行われたが,同様に放射線治療前に化学療法行うことの有用性は認められなかった12)。
標準リスク群と同様に高リスク群においても,過分割照射の有用性を検討する臨床試験が行われた。米国CCG9931 試験において,化学療法先行後に過分割照射(CSI 40 Gy+局所線量72 Gy)を行ったが,5 年EFS 43%±5%,5 年OS 52%±5%と生存率の改善は認めなかった13)。
以上をまとめると,高リスク群髄芽腫の術後治療において,初期の研究では放射線単独治療であったが,まったく治癒が得られず,その後,化学療法の併用や過分割照射についてさまざまな工夫がなされてきた。しかし,いかなる化学療法を用いてもCSI 36 Gy では5 年EFS は60~70%までにとどまり,CSI の線量の減量にも成功していない。今後は,さらなる分子生物学的リスク細分化によって,治療の強化が有効な群,CSI 減量などの治療軽減を目指す群,新規治療薬を試す群と,層別化・個別化治療を行って,高リスク群の治療開発を続けていかなくてはならない。このように標準治療は定まっていない中で,第Ⅰ/Ⅱ相試験ではあるが,米国COG のカルボプラチンと放射線の併用療法が毒性も考えると有望な治療法とも考えられる。
これらのアウトカムのエビデンスより,3 歳以上の高リスク群髄芽腫の標準的術後治療は,より高い生存率という益を最優先して治療を選択するという論点より,まだ開発途上の状況ではあるが,36 Gy 程度の全脳脊髄照射と54 Gy 程度の局所照射を術後に行い,その後にシスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした多剤併用化学療法を一定の期間での薬剤投与量(dose intensity)を最大化するなど治療強度を増すことを提案する。
- 注意:
- lomustine(CCNU):国内未承認
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シタラビン(cytarabine):髄芽腫に対しては保険適応外
8 in 1 レジメン:メチルプレドニゾロン,ビンクリスチン,lomustine,プロカルバジン,ハイドロキシウレア(髄芽腫には保険適応外),シスプラチン,シタラビン,シクロホスファミドの8 種類の薬剤を1 日に投与する化学療法
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radio-therapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。CQ6 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの9 文献,EFS アウトカムの13 文献,有害事象・QOL アウトカムの10 文献を採用した。
❖ 文献
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- CQ7
- 3 歳未満の群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度2D
- 推奨1
乳幼児の髄芽腫において,転移がなくdesmoplastic nodular/extensive nodularity サブタイプの患者群では,放射線治療を行わず,メトトレキサート(脳室内または髄腔内投与を含む),白金製剤,アルキル化剤,ビンクリスチン,エトポシドを中心とした多剤併用化学療法による術後治療を提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
Desmoplastic nodular/extensive nodularity 以外の組織学的サブタイプおよび転移がある場合は,標準的な後治療は確立されておらず,上記の治療に大量化学療法や局所放射線療法を組み合わせた強化治療を行うことを提案する。
解説
3~4 歳未満の乳幼児の髄芽腫治療において,放射線治療,特に全脳脊髄照射(CSI)の,精神運動発達に及ぼす影響は甚大であり,乳幼児の治療戦略として,CSI は選択肢にはなりにくい。治療選択肢の限界と,腫瘍の持つ治療抵抗性の特性が合わさり,全体として乳幼児の髄芽腫は再発死亡リスクが高いと考えられてきた。しかしながら,病理亜分類および分子生物学的特性から,乳幼児の髄芽腫の中には,放射線治療を行わず,または局所放射線治療のみで,長期生存が可能な一群が存在することが明らかになった。したがって,乳幼児髄芽腫においてもリスク分類を行い,それぞれの群で益と害のバランスを考慮して術後治療の推奨を行う。
1990 年代に米国とフランスで,放射線治療を回避し多剤併用化学療法のみで初期治療を行った臨床試験が行われた。フランスのSFOP では,カルボプラチンおよびプロカルバジン,エトポシドおよびシスプラチン,ビンクリスチン,シクロホスファミドの3 種の化学療法を術後に7 サイクル行う単アーム第Ⅱ相試験が行われた。5 歳未満の79 人が登録され,全体の5 年PFS は残存なし(R0)転移なし(M0)群73%,残存あり(R1)M0 群で41%,残存問わず(Rx)転移あり(M+)群で13%であった1)。また,米国CCG-9921 試験は。3 歳未満のあらゆる悪性脳腫瘍を対象としたランダム化第Ⅱ相試験で,術後に2 つの多剤併用化学療法レジメン,レジメンA:ビンクリスチン,シスプラチン,シクロホスファミド,およびエトポシドの組み合わせ,またはレジメンB:ビンクリスチン,カルボプラチン,イホスファミドおよびエトポシドのいずれかに割り付けられ両群とも5 コースの化学療法が行われた。治療開始前に転移がなく化学療法後に残存腫瘍がなかった患者は放射線治療を行わず治療終了,転移がなく残存があった症例はその時点で生後18カ月以上ならCSI と局所放射線治療,18 カ月未満は局所放射線治療のみを行い治療終了,転移症例はCSI と局所放射線治療を行って治療終了した。髄芽腫92 例の5 年無イベント生存割合(EFS)は32%であった。レジメンA 群とB 群の5 年EFS はそれぞれ37%と26%と有意差は認めなかった2)。
同時期にドイツでは,乳幼児髄芽腫に対して,メトトレキサート脳室内投与を含んだ多剤併用化学療法の単アーム第Ⅱ相臨床試験が行われた(HIT-SKK1992)。43 人の3 歳未満の髄芽腫に,術後カルボプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチン,エトポシドの全身投与に加え,メトトレキサート脳室内投与と大量メトトレキサート療法を加えた9 週間サイクルの化学療法を3 回行った。初期治療で放射線治療は行わなかった。全体の5 年EFS は58%であった。R0M0,R+M0,RxM+群の5 年EFS はそれぞれ,82%,50%,33%であった。既知の転移の有無に加え,乳幼児の髄芽腫の組織学的サブタイプが強力な予後因子であることが本試験で明らかになった。Desmoplastic nodular type とclassic type の5 年EFS はそれぞれ85%と34%と有意差を認め,組織学的サブタイプが独立したリスク因子であった3)。さらに後継レジメンHIT2000 においても同様の結果が確認され,メトトレキサート脳室内投与を予定通り投与できた患者の方が,投与量が少なかった患者よりも予後が良いという結果が報告された4)。メトトレキサート脳室内投与の神経毒性は懸念されるが,HIT2000 で同治療を受けた評価可能な202 例の小児髄芽腫患者中,神経毒性を認めたのは9 例であった4)。
米国COG は,3 歳未満の転移のない乳幼児髄芽腫74 例に対して,化学療法と局所放射線治療を組み合わせる臨床試験(P9934)を行った。シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を4 コース行ったあと,残存腫瘍にはセカンドルック手術を推奨し,局所放射線治療を行い,シクロホスファミド,ビンクリスチン,経口エトポシドによる維持療法を行った。全体の4 年EFS は50%であった。ここでも,desmoplastic nodular type とそれ以外の組織サブタイプでは,4 年EFS がそれぞれ58%,23%と有意差を認めた5)。
国際的な臨床試験Head Start では,乳幼児の悪性脳腫瘍に対して,放射線治療を行わず自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を試みてきた。3 歳未満の転移のない髄芽腫21 例に対して,シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を5 コース行った後,セカンドルック手術を推奨し,チオテパ,カルボプラチン,エトポシドによる自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を行った。全体の5 年EFS は52%であった。R0 とdesmoplastic nodular type は予後良好の傾向を認めた6)。また米国のCCG-99703 パイロット試験では,髄芽腫を含む複数の3 歳未満の乳児脳腫瘍を対象に,シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を3コース行った後,チオテパ,カルボプラチンによる自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を地固め療法として3 コース行う治療法の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験が行われた。チオテパの投与量はさまざまであり,副次的評価項目ではあるが,36 例の髄芽腫の5 年EFS は60%であった。病理中央診断できた32 例中14 例がdesmoplastic/nodular type であり,その5 年EFS は79%であった7)。
米国St. Jude 小児病院と米国と豪州合計6 施設で行われた,3 歳未満の髄芽腫を,M0 のdesmoplastic nodular type を低リスク,M0 のその他の組織型の髄芽腫を中間リスク,M+を高リスクと分類した。寛解導入化学療法は大量メトトレキサート療法,ビンクリスチン,シクロホスファミド(高リスクのみビンブラスチン追加)を4 コース行った。強化療法として,低リスクは放射線治療を省略し,追加のカルボプラチン,シクロホスファミド,エトポシドを2 コース行った。中間リスクは54 Gy の局所放射線治療を行い,高リスクはトポテカンとシクロホスファミドを2 コースまたは3 歳を超えてのCSI を行った。その後,シクロホスファミド,トポテカン,エルロチニブによる内服維持療法を6 サイクル(24 週間)行った。低リスク群は,23 例が試験治療を行ったが,中間解析結果では,1 年EFS が78.3%と低く登録中止となり,5 年EFS は55.3%であった。中間リスクは16 例が試験治療を行い,5 年EFS は24.6%であった。高リスクは26 例が試験治療を行い,5 年EFS が16.7%であった8)。
これらのエビデンスより,RT による発達や認知機能への影響という害がより大きくなる乳幼児の髄芽腫において,転移がなくdesmoplastic nodular/extensive nodularity サブタイプの患者群では,放射線治療を行わず,メトトレキサート髄腔内投与を含む,白金製剤,アルキル化剤,ビンクリスチン,エトポシドを中心とした多剤併用化学療法による術後治療を提案する。一方,それ以外の組織学的サブタイプおよび転移がある場合は,標準的な後治療は確立されておらず,上記の治療に大量化学療法や局所放射線療法を組み合わせた強化治療を行うことを提案する。
- 注意:
- カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
イリノテカン(irrinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
エルロチニブ(erlotinib):髄芽腫に対しては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radiotherapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。乳幼児髄芽腫の臨床試験は対象年齢の上限が,試験によって異なり,3 歳未満から5 歳未満と幅があるが,希少疾患で臨床試験報告論文の数が限られるため,CQ7 のシステマティックレビューでは5 歳未満までを含めた。CQ7 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの8 文献,EFS アウトカムの8 文献,有害事象・QOL アウトカムの7 文献を採用した。
❖ 文献
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課題6:再発時の治療
- CQ8
- 局所再発時の適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨1
髄芽腫の局所再発に対し,腫瘍の進行の抑制と生命予後の改善を期待し,化学療法を実施することを提案する。
- 推奨度2D
- 推奨2
髄芽腫の局所再発に対し,摘出が安全に行いうる場合や摘出により症状の改善が期待できる場合等に,外科治療を提案する。
- 推奨度2D
- 推奨3
放射線治療は初期治療で放射線を使用しなかったか減量されている場合等に,個々の状況に応じて緩和的にまたは根治的に実施することを提案する。
解説
初発髄芽腫の治療成績は,外科治療と化学療法および放射線療法の組み合わせにより,標準リスク群で5 年無イベント生存割合(EFS)70~80%程度,また高リスク群では35~70%程度,乳児症例における5 年無病生存割合(DFS)30~50%程度で,治療法の改良により初回治療後の寛解期間は延長してきている1-11)。これに対し再発髄芽腫に対する標準的な治療法は確立されておらず,その長期生存率は不良であることから,再発髄芽腫に対する治療は臨床上重要な課題である。
報告されている再発治療の有効性については,10 年生存率で見た場合に多剤化学療法で24%,放射線治療で45%(標準リスク群)といったデータが参考になる1,12)。また,再発形式として後頭蓋窩局所再発はむしろ少なく,HIT-91 の再発40 例では播種性再発が32 例(80%)となっている13)。播種性再発や高リスク群での再発,外科切除不能例,放射線治療施行後の再発症例では,再発後の治療を強く支持する研究データは得られていない。しかしながら再発後の無治療で経過観察された場合には,生命にかかわる急速な症状悪化を招きかねず,再発病変に対する治療に対する患者や家族の希望は強いため,緩和医療も含めた包括的な治療計画が望まれる。
再発治療において,過去に報告された医学データを利用するにあたり,試験の対象(髄芽腫のみか他の腫瘍型が含まれているか),リスク分類,再発形式(局所再発または播種性再発),初回化学療法や放射線治療の違い等に着目した。本ガイドラインでレビューの対象とした441 文献の中で,化学療法に関する介入研究は12 文献のみであった14-25)。このうち,10 文献が単アーム試験,2 文献がそれぞれ異なる薬剤の比較であり,プラセボを対象とした比較試験は行われていない。さらに,対象症例については,3 文献が髄芽腫のみ,9 文献は原始神経外胚葉腫瘍(primitive neuroectodermal tumor:PNET)をはじめとした他の小児脳腫瘍型を含み,検討の対象となる症例数は極めて限られていた。また,治療においては,多くの試験で化学療法に加えて放射線治療や外科治療が併用され,治療介入の方法は不均一であった。さらに,初回治療において放射線治療が行われている場合とそうでない場合では,再発時の治療法や予後に違いがみられることが想定される。このように,均質で十分な医学データが得られてないことを考慮したうえで,腫瘍の制御率ならびにOS の延長を重視した解析を行った。また,髄芽腫の局所再発に対する外科治療や放射線治療に関しては,前方視的臨床試験の報告がなく,特定の条件下での治療について強い推奨をもたらすものではない。そのため本CQ では,上記介入研究12 文献以外にも,診療上参考になる文献について記載することとした。
髄芽腫の局所再発に対する単剤化学療法については,高用量チオテパ,テモゾロミド,パクリタキセルといった薬剤の有効性が2 つの試験で報告されている14,25)。これら2 試験の対象となった症例の約9 割が初回治療で放射線治療を併用していた。Osorio らは,再発髄芽腫26 例に対し高用量チオテパ(200 mg/m2/day)を3 日間投与したのちに自家造血幹細胞移植を行い,4 週間以降に再投与する治療法で,5 例に45 カ月以上の生存を確認,OS 中央値11.7 カ月であったと報告している25)。この試験は髄芽腫以外の複数の異なる腫瘍型の再発も対象として含まれており,全体の治療関連死は3.4%にみられた。Cefalo らの報告では,初回治療で大量化学療法や全脳脊髄照射(CSI)が行われているか否かによりテモゾロミド150・180・200 mg/m2/day の3 種類の投与量を設定し,28 日ごとに5 日間経口投与した14)。37 例(脊髄播種病変あり7 例,遠隔転移あり30 例)のresponse rate は42.5%,6 カ月PFS 30%,12 カ月PFS 7.5%であり,PNET 5 例を含めた解析で1 年OS は41.2%,治療関連死はなく,グレード3~4 の血液毒性が2 割の患者に認められた。またHurwitz らの髄芽腫再発16 例に対するパクリタキセルの報告によれば,350 mg/m2/day を3 週間ごとに投与する方法で,CR 1 例,SD 6 例,PD 9 例であり,無増悪生存期間(PFS)は2.9 カ月であった19)。この試験は複数の異なる腫瘍型の再発を対象とし,全体の有害事象はグレード3 のアレルギー反応1 例と敗血症7 例のほか,治療関連死1 例,脳幹圧迫ある髄芽腫で痙攣後の死亡が1 例みられた。
多剤化学療法についてDunkel らは,25 例の再発髄芽腫に対する自家造血幹細胞移植を併用したカルボプラチン,チオテパ,エトポシドの大量化学療法レジメンを報告した17)。カルボプラチンは造血幹細胞移植の8 日前から500 mg/m2で開始し,3 日間使用したのち,チオテパ300 mg/m2/day およびエトポシド250 mg/m2/day が投与された。この治療での成績は10 年EFS 24%,10 年OS 24%,OS 中央値が26.8 カ月,6 例は151.2 カ月(中央値)増悪なく生存した。治療関連死は3 例(14%)であった。またDupuis-Girod らは,CSI を回避した初回治療時3 歳未満の髄芽腫再発20 例に対するブスルファンとチオテパのレジメンを報告した22)。ブスルファンを150 mg/m2/day で4 日間経口投与したのちチオテパ300 mg/m2/day を3 日間使用して自家造血幹細胞移植を行った。外科治療を追加した4 例を除く16 例の解析で(後頭蓋窩局所再発9,脊髄再発および髄液播種3,両方を認めるもの4),CR が4 例(25%)認められ,RR は75%と良好な結果が示されており,治療関連死を1 例認めた。この試験では幹細胞移植後36 例において放射線治療が併用されている。イリノテカンについては,髄芽腫再発9 例に対するベバシズマブとの併用治療について後方視的研究で,PFS 11 カ月,OS 13 カ月,6 カ月時点でのPR 3 例,CR 1 例と報告されている26)。イリノテカンはテモゾロミドとの併用療法での第Ⅱ相試験も報告されているが,66 例の再発例に対しCR2,PR13,生存期間中央値16.7 カ月であり,期待された結果は得られていない27)。
Müller らはHIT-REZ 試験において,初回治療として外科的摘出と化学療法のみ行い,放射線治療を回避した乳幼児17 例に対して,完全寛解後初回再発時の治療としてCSI および局所放射線治療を行った結果を報告している28)。CSI は35.2 Gy(23.4~40.0 Gy)および後頭蓋窩ブースト55.0 Gy で行われ,カルボプラチンやエトポシドを使った化学療法が併用された。17 例の治療成績はPFS 2.9±1.1 年,OS 3.8±0.8 年,5 年PFS 40%,5 年OS 39%であった。6 例の局所再発,11 例の遠隔再発(髄液細胞診陽性1 例,脊髄病変あり3例,遠隔転移あり3 例,脊髄病変と遠隔転移あり3 例)の治療成績は局所再発例と遠隔転移例それぞれ3 年PFS 67%±19%および36%±15%(log-rank,p=0.948),3 年OS 67%±19%および55%±15%(log-rank,p=0.914)であり,有意差は認められていない。この報告では,大量化学療法やメトトレキサート髄注療法もCSI と併用または前後して行われていていることから,放射線治療単独の効果を示すものではないが,初回治療で放射線治療を回避した乳幼児髄芽腫の初回再発に対し,放射線治療の効果を示唆するデータとして重要である。
初回治療で放射線を併用した再発髄芽腫症例については,Bakst らが13 例の初期治療で放射線治療を行っている髄芽腫再照射治療を報告している29)。再照射の内訳は後頭蓋窩46%,テント上・全脳31%,脊髄23%,全脳全脊髄8%であり,外科治療や化学療法が併用されている。治療は局所分割照射とIMRT がほぼ同数で行われ,CSI 18 Gy およびブースト12 Gy が使用された。照射後の急性期障害は認めず,観察期間内(中央値30 カ月)に無症候性の放射線壊死が1 例認められた。治療成績は5 年DFS 48%,5 年OS 65%と一定の治療効果が得られた。この研究では,異なる照射部位に対し局所または拡大照射が行われており,再発形式について詳細な記載はないため再発腫瘍全般での再照射治療の効果については結論できない。しかしながら,局所再発や限局的な遠隔再発に対し再照射治療を行う場合には参考となる報告である。
Wetmore らは,初回治療で手術および化学放射線治療を行った再発髄芽腫38 例中14 例に再照射を行った結果,5 年OS 55%±14%(vs. 33%±16%)および10 年OS 46%±14%(vs. 0%)ともに,非照射例に対し有意に生存期間が上回ったと報告した(p=0.036)12)。CSI 36 Gy(総線量18~54 Gy/1 日線量1.5~2 Gy)と局所照射が併用され,総線量の中央値は91.9 Gy(73.8~109.8 Gy)であった。再照射14 例の放射線壊死は9/14 例(64%)であったのに対し,非照射例では7/24 例(29%)と有意な増加を認めたが(p=0.0468),無症候性であったため追加の治療は行われていない。標準リスク11 例および高リスク4 例の生存期間はそれぞれ5.39 年と4.94 年であった。初回治療から10 年生存した割合は標準リスク群45%,高リスク群0%であり,再治療でのリスクを考慮したうえで,特に標準リスク群では再発に対しては再照射の有効性が期待できる結果である。
髄芽腫の局所再発に対する外科治療についてOS 延長を直接証明した報告はなく,評価も一定していない。Sabel らは標準リスク群の髄芽腫を対象としたHIT-SIOP PNET4 試験の初回再発72 例の解析を行っている30)。うち18 例(25%)に外科的切除が行われ,その再発部位の内訳は後頭蓋窩単発6 例,脊髄またはテント上5 例,脳脊髄多発7 例であった。再発72 例全体の3 年OS および5 年OS はそれぞれ20±5%,6.0±4%であり,外科的切除(p<0.01)ならびに後頭蓋窩局所再発(p<0.01)はともに独立した予後因子であった。局所再発の外科治療については,侵襲性や化学療法・放射線治療の成績も考慮したうえで,摘出が安全に行える場合,摘出により症状の改善が期待できる場合など個々の症例の状況に応じた適応判定を行うべきである。
以上のことから,髄芽腫の局所再発に対して化学療法の効果が一部示されており,症例の状況に応じて放射線治療の併用を考慮できる。また,大量化学療法における治療関連死,放射線治療における晩期障害について注意する必要がある。小児患者の尊厳を含めた倫理的判断に基づき,治療によるリスクや侵襲性を十分に考慮した包括的な適応判断がなされることが望ましい。
- 注意:
- チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
テモゾロミド(temozolomide):髄芽腫に対しては保険適応外,ユーイング肉腫に対してイリノテカンとの併用で保険承認
パクリタキセル(paclitaxecel):髄芽腫,小児固形腫瘍に対しては保険適応外
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
ブスルファン(busulfan):髄芽腫に対しては保険適応外,ユーイング肉腫ファミリー腫瘍及び神経芽細胞腫における自家造血幹細胞移植の前治療としては保険承認適応
イリノテカン(irrinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
ベバシズマブ(bevacizumab):髄芽腫,小児固形腫瘍に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫,小児悪性腫瘍対しては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab]))))AND(((((((Neoplasm Recurrence,Local[mh]OR Neoplasm, Residual[mh]OR Neoplasm Seeding[mh]OR Recurrence [mh])))OR(((Local[tiab]OR Locoregional[tiab])AND(Neoplasm Recurrence[tiab]OR Neoplasm Recurrences[tiab]))))OR(((minimal[tiab]and residual[tiab]and(disease[tiab]OR diseases[tiab]))OR(residual[tiab]AND(neoplasm[tiab]OR neoplasms[tiab])))))OR((neoplasm[tiab]and seeding*[tiab])))OR((Recurrences[tiab]OR Recrudescence[tiab]OR Recrudescences[tiab]OR Relapse[tiab]OR Relapses[tiab]OR Regrowth[tiab])))))AND((“Epidemiologic Study Characteristics”[Mesh]OR “Statistics as Topic”[Mesh]OR “Clinical Study”[Publication Type]))))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により検索された441 文献のなかから介入研究12 文献を抽出して内容を確認し,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
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- CQ9
- 播種再発に対する適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨
寛解を目的とした治療を目指すが,治療反応性が不良の場合は,緩和的治療も提案される。
解説
髄芽腫において再発の場合は局所再発と播種再発が認められるが,MRI を撮影する時期がずれれば,必ずしも正確な鑑別ができない場合がある。原発巣近傍の再発が認められ,なおかつ播種も認められる場合は,原発巣の再発から播種したのではないかという可能性もあるが,原発巣近傍に局所再発が認められずに播種再発だけ認められた場合は,初回治療の早い時期にすでに播種しており,後療法抵抗性の腫瘍細胞が播種していた場所で残存し,再発したと予想される。Hsieh ら1)は,髄芽腫12 例の脊髄播種症例を術前,術後1 カ月以内で,放射線治療や化学療法以前に認められた播種症例をearly metastasis 群(9 例),放射線治療や化学療法を含むすべての初期治療終了後に播種再発した症例をlate metastasis 群(3 例)に分けて解析しているが,early metastasis 群が統計学的に有意に予後良好(p=0.0047, log-rank test)という結果であった。Late metastasis 群が予後不良の理由としては,late metastasis としての播種再発は,初期治療抵抗性の腫瘍細胞の残存が再発の起源になっている可能性が高いと考えられる。髄芽腫の播種再発は局所再発に比べて予後不良かという問題に関しては,Bowers ら2)が,治療後の再発形式で予後を比較している。彼らは41 例の髄芽腫再発症例において,21 例の原発巣の部位だけの再発群と20 例の局所再発群と播種を伴う再発群の生存予後を比較している。手術,化学療法,放射線療法と再発後の治療はばらつきがあるものの,彼らの解析では,初期治療にてBaby POG protocol(POG infant brain tumor regimen/シクロホスファミド,ビンクリスチン,シスプラチン,エトポシド)を受けているかどうか(p=0.030,log-rank test),再発時に播種なく原発巣だけの局所再発だけかどうか(p=0.008,log-rank test),再発時には放射線治療を加えているかどうか(p=0.015,log-rank test)ということが有意に生存を延長させる因子であったが,多変量解析の結果では,原発巣の場所における局所再発(21 例)という因子だけが,播種を伴う症例(20 例)に比べて明らかに生存が延長しており(p=0.03),独立した予後良好因子であった。さらに,局所再発と播種再発を生物学的に異なるものとして区別すべきかという問題はあるが,近年髄芽腫の分子生物学的分類が提唱されて後,Ramaswamy ら3)は3 つのコホート研究を集計した。髄芽腫分子生物学的分類4 型のそれぞれの再発形式では,Sonic Hedghoc(SHH)型は他の型に比べて局所再発が多く,播種再発が少ないという結果であった。局所再発と播種の両方もあるMixed な再発形式もSHH 型は少ないことから,生物学的に他のグループより局所に再発しやすい,もしくは播種しにくいということは言えるかもしれない。しかしWNT 型は再発が少なくてこの研究では解析されていない。
髄芽腫の再発治療においては,一般的に局所再発だけであれば手術という選択肢も可能な場合があるが,播種を伴う再発であればほとんど外科的介入はなく,他の治療に委ねられる場合が多い。初期治療として放射線治療を行っている場合,salvage therapy としての再照射を行う可能性は存在するものの4,5),全例に施行可能とは言いがたく,一般的ではない。Bakst ら5)は初期治療にて放射線照射を行っている髄芽腫症例に対して再発時に再照射を行った13 例を検討している。再照射の中央線量は30 Gy,1 回線量中央値は1.5 Gy であり,54%の症例において強度変調放射線治療が使用されていた。13 例の5 年PFS は48%,5 年OS は65%であり,放射線障害による急性期障害,急死や,二次がんは観察期間中には認められておらず,放射線壊死が1 例,38%に聴力障害,15%に下垂体機能不全,1 例に認知機能障害の有害事象が認められたと報告している。しかし,この治療成績は放射線治療単独ではなく,再発時の手術や化学療法と併用しており,また,局所再発と播種再発の治療成績を区別していないために,播種再発で放射線治療の再照射の有用性を正確には評価できない。現時点では,播種再発症例において初期治療で放射線照射を施行していない場合では,積極的に再発時放射線照射ということが選択肢になるが,すでに放射線治療を行っている症例の再発時の再照射は再発腫瘍のコントロール,有害事象の面からも積極的に推奨できないと思われる。
再発時の化学療法においては一般的な化学療法に加えて,末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法などのintensive な治療の報告も多数ある6-9)。しかしながら,レジメンとして統一したものではなく,主にカルボプラチン,エトポシド,チオテパ,シクロホスファミド,メルファラン,carmustine(BCNU),lomustine(CCNU)など使用されている場合が多い。Gilman ら6)は18 例の再発髄芽腫の患者に対して連続した大量化学療法(First cycle:チオテパ600~750 mg,BCNU 300~450 mg,Second cycle:チオテパ600~750 mg,カルボプラチン1,200 mg)による治療を行っているが,局所再発と播種再発の治療成績の区別はない。しかし,18 例中15 例が播種再発であり,播種再発の割合が高い報告である。末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法の予後不良因子として一般的に播種再発があるといわれているが,彼らは必ずしも播種再発が予後不良因子とは結論づけておらず,播種再発例における生存率は,33%(15 例中5 例,観察期間54~135 カ月)という治療成績であった。8 例において何らかの治療関連死亡が認められており,比較的高頻度な有害事象と思われる。いくつかの報告をまとめても,現時点で有害事象も併せて考え,播種再発において必ずしも末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法が必須とは言い難い。さらに大量化学療法の中でも最も優れたレジメンを同定しがたく,また,欧米と本邦では保険制度等の違いから使用できる薬剤が異なっており,今後本邦での臨床研究を通じた使用薬剤の適応拡大が待望されている。Kim ら10)は5 種類の通常量の化学療法剤を使用したsalvage therapy として7 例の脊髄播種症例を含む再発小児悪性腫瘍に対する化学療法の有効性を検討している。イリノテカン300 mg/m2,ビンクリスチン2 mg/m2,シスプラチン60 mg/m2,シクロホスファミド1,000 mg/m2,エトポシド100 mg/m2の薬剤を使用しているが,大量化学療法より副作用は軽微であり,3 例がCR,2 例がPR という比較的良好な治療反応性を認めている。しかし6 例がPD であり,この結果からはいかに多くの薬剤を使用した多剤併用化学療法を行っても通常の量では,播種再発の髄芽腫をコントロールすることは困難であるとの印象である。
21 例の播種再発髄芽腫に対して,Yoshimura ら11)は6~7 mg/m2のニムスチンの髄腔内灌流もしくは3~3.5 mg/m2の髄腔内投与を行っている。約50%の症例において反応が認められ,21 例中7 例がCR となり,比較的長期の生存を獲得している。播種確認後の5 年生存率は46.4%であり,彼らは播種が存在する髄芽腫患者の治療法において化学療法剤の髄腔内投与の有効性を示している。この治療法による副作用として灌流療法による副作用はほとんどみられていない一方,髄腔内投与(Bolus injection)に関しては脊髄炎が認められた症例があり,頻回の投与と局所的に薬剤が高濃度になることは避けるべきと言及している。現在,髄芽腫の初期治療において,予防的,あるいは腫瘍縮小を目的としてメトトレキサートの髄腔内投与を行うことも多いが,播種再発に化学療法剤の髄腔内投与が有効な治療かどうかは報告が少なく,現時点ではその有効性は判断できない。播種再発の症例において治癒を目指してさまざまな治療を行ったとしても,現存の治療では有効性があるとは言い難いとも報告されている。Massimino ら4)は播種再発が認められた髄芽腫症例にシスプラチンとエトポシドを用いた標準的化学療法(6 例),もしくはエトポシド,シクロホスファミド,ビンクリスチン,カルボプラチン,チオテパなどを用いた大量化学療法(10 例)を施行し,さらに7 例は全脳脊髄照射(CSI),3 例は局所照射を行うというintensive な治療を行った。DFS 中央値は16 カ月,OS 中央値は41 カ月,3 年DFS が19%,3 年OSが56%という治療成績であり,観察期間での生存例は1 例のみであった。これらの結果を鑑み,彼らは別の報告で髄芽腫の再発症例に対しできるだけ短い入院期間を目指し,QOL を重視した再発の治療を推奨している12)。彼らは18 例の再発の髄芽腫患者の治療後,17 例に再再発が認められ,16 例は播種病変を確認されている。3 回目の再発10 例中9 例が播種再発であり,全例に化学療法が施行されているが,手術や放射線治療が行われたものはない。本報告の再発症例全例の入院期間は4 日から129 日(平均19 日)であり,治療による有害事象がなかったと報告している。治療成績においては,8 例の再発髄芽腫の症例の平均DFS は7 カ月,平均OS も7 カ月であり,最終的には全例死亡している。以上より,播種再発は局所再発と比較してやはり予後不良であると考えるべきである。
髄芽腫の播種再発に対しては,現存の治療にて治癒できる症例は稀と言わざるを得ない。対象が小児であるがゆえに積極的な治療を行うべきと考える一方で,QOL を保ちながら緩和的な治療を導入することも重要であると考えられる。
- 注意:
- シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫,小児悪性固形腫瘍には保険適応外
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
メルファラン(melphalan):小児固形腫瘍の造血幹細胞移植時の前処置として保険適応
carmustine(BCNU):国内未承認
lomustine(CCNU):国内未承認
イリノテカン(irinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫,小児悪性腫瘍対しては保険適応外
ニムスチン(nimustine:ACNU):脳腫瘍に対する自覚的ならびに他覚的症状の緩和として静脈内投与は保険適応,髄腔内投与薬としては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])AND(Neoplasm Recurrence, Dissemination[Mesh]OR Neoplasm Seeding[Mesh]))OR((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])AND(Multiple Recurrence[Mesh]OR Dissemination[Mesh]))OR((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])OR(Neoplasm Recurrence[Mesh]OR Neoplasm Recurrences[tiab]OR Recurrences[tiab]OR Relapse[tiab]OR Relapses[tiab]OR Regrowth[tiab])))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により抽出された641 文献のなかから,できるだけ播種再発を多く含む症例の24 文献を抽出し,システマティックレビューを行い,構造化抄録を作成した。さらにその中で局所再発でも同様な治療を行うもの,また症例数が少ないものなどを排除し,最終的に12 文献を取り上げて,解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Hsieh PC, Wu CT, Lin KL, et al. The clinical experience of medulloblastoma treatment and the significance of time sequence for development of leptomeningeal metastasis. Childs Nerv Syst. 2008;24(12):1463-7.[PMID:18802711]
- 2)
- Bowers DC, Gargan L, Weprin BE, et al. Impact of site of tumor recurrence upon survival for children with recurrent or progressive medulloblastoma. J Neurosurg. 2007;107(1 Suppl):5-10.[PMID:17644914]
- 3)
- Ramaswamy V, Remke M, Bouffet E, et al. Recurrence patterns across medulloblastoma subgroups:an integrated clinical and molecular analysis. Lancet Oncol. 2013;14(12):1200-7.[PMID:24140199]
- 4)
- Massimino M, Gandola L, Spreafico F, et al. No salvage using high-dose chemotherapy plus/minus reirradiation for relapsing previously irradiated medulloblastoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2009;73(5):1358-63.[PMID:19019566]
- 5)
- Bakst RL, Dunkel IJ, Gilheeney S, et al. Reirradiation for recurrent medulloblastoma. Cancer. 2011;117(21):4977-82.[PMID:21495027]
- 6)
- Gilman AL, Jacobsen C, Bunin N, et al. Phase Ⅰ study of tandem high-dose chemotherapy with autologous peripheral blood stem cell rescue for children with recurrent brain tumors:a Pediatric Blood and MarrowTransplant Consortium study. Pediatr Blood Cancer. 2011;57(3):506-13.[PMID:21744474]
- 7)
- Park JE, Kang J, Yoo KH, et al. Efficacy of high-dose chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed medulloblastoma:a report on the Korean Society for Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)-S-053 study. J Korean Med Sci. 2010;25(8):1160-6.[PMID:20676326]
- 8)
- Dunkel IJ, Gardner SL, Garvin JH, Jr., et al. High-dose carboplatin, thiotepa, and etoposide with autologous stem cell rescue for patients with previously irradiated recurrent medulloblastoma. Neuro Oncol. 2010;12(3):297-303.[PMID:20167818]
- 9)
- Gururangan S, Krauser J, Watral MA, et al. Efficacy of high-dose chemotherapy or standard salvage therapy in patients with recurrent medulloblastoma. Neuro Oncol. 2008;10(5):745-51.[PMID:18755919]
- 10)
- Kim H, Kang HJ, Lee JW, et al. Irinotecan, vincristine, cisplatin, cyclophosphamide, and etoposide for refractory or relapsed medulloblastoma/PNET in pediatric patients. Childs Nerv Syst. 2013;29(10):1851-8.[PMID:23748464]
- 11)
- Yoshimura J, Nishiyama K, Mori H, et al. Intrathecal chemotherapy for refractory disseminated medulloblastoma. Childs Nerv Syst. 2008;24(5):581-5.[PMID:18057943]
- 12)
- Massimino M, Casanova M, Polastri D, et al. Relapse in medulloblastoma:what can be done after abandoning high-dose chemotherapy? A mono-institutional experience. Childs Nerv Syst. 2013;29(7):1107-12.[PMID:23595805]
課題7:治療による晩期障害
- CQ10
- 髄芽腫に特徴的な晩期障害とそれをきたしやすい背景因子は何か?
- 推奨度1B
- 推奨1
無言症/後頭蓋窩症候群では学習機能が低下するので特に注意して経過を見ることを推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
髄芽腫治療後に経時的に認知機能障害は進行し,特に高リスク群と低年齢(7 歳以下)でその傾向が強いので特に注意して経過を見ることを推奨する。
解説
髄芽腫治療の進歩によって長期生存が得られるようになると,さまざまな晩期障害が認められるようになった。小児がん患者全体を対象とした長期生存者に対する長期フォローアップの指標はいくつか発表されており,例えば海外のものではCOG のガイドライン(http://www.survivorshipguidelines.org)があり,国内でも日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group:JCCG)の小児がん長期フォローアップガイドがある。また,妊孕性に関しては日本癌治療学会のガイドライン(http://www.jsco-cpg.jp/fertility/)がある。髄芽腫治療後のフォローアップの指標としても参考となる。
今回はあくまで髄芽腫の治療による晩期障害に焦点をあてて推奨を作成した。晩期障害からみて,髄芽腫のフォローアップで特に注意すべき場合がどのような症例かを検討した。晩期障害に関する文献は,髄芽腫以外の小児脳腫瘍も含むものが多く,ほとんどが後方視的な検討であり,それらは参考として,本推奨は髄芽腫の治療による晩期障害の前方視的コホート研究を中心にまとめた。
1990 年代のPOG8631 の知的予後に関する報告1)は3 歳以上の髄芽腫で残存腫瘍が1.5 cm2未満の22 例において,全脳脊髄の照射量36 Gy/23.4 Gy と8.85 歳を基準としたyounger/older で4 群に分類し,IQ を比較したものである。症例数も少なくそれぞれの群間で有意差は出ておらず,また縦断的研究ではなく,ワンポイントでの評価ではある。いずれの群でも単にFull scale IQ が低下していることは示しているが,その原因が何であるのかには言及していない。この研究では評価方法としてはWISK ⅢもしくはWAIS-R をIQ の評価として用いており,学習能力評価としてWide Range Achievement Test Ⅲを用いている。
これ以降の論文でも,主にIQ の評価はWISK Ⅲ or ⅣとWAIS-R が用いられるが,そもそも髄芽腫患者の場合小脳失調症状を後遺することが多く,それがFull scale IQ の低下に影響している可能性も考える必要がある。したがって,純粋な認知機能低下の進行を捉えるためには,前方視的に縦断的に調査しIQ でもどの要素が変化していくのかを評価することが必要である。
2000 年代のCCG9892 の知的予後に関する結果2)は,3~15 歳で播種のない(標準リスク群)43 例で全脳脊髄照射(CSI)23.4 Gy+ブースト照射32.4 Gy,ビンクリスチン/lomustine(CCNU)/シスプラチンで治療した結果を,放射線治療後を起点に4 年後まで経時的に調査した結果である。評価方法は,WISK-R/WISC-Ⅲ/WPPSI-R/SB4/McCarthy とさまざまである。ここではFull Scale IQ が経時的に低下する(4.3/年)ことを示す一方で,男女差(女子の方がVerbal IQ 低下が大きい),診断時の年齢による差(7 歳未満では低下するが7 歳以上では低下しない),Baseline IQ での差(IQ>100 では低下の程度が大きい)などを示している。
2000 年代のもう一つの論文はSJMB96 に登録された症例のうち111 例での検討である3)。最大6 年(平均3.14 年)の経時的な認知機能評価を受けた。高リスク群(CSI:36~39.6 Gy)/標準リスク群(CSI:23.4 Gy)と診断時の年齢(7 歳以上/7 歳未満)で4 群に分類された。化学療法は4 サイクルの大量化学療法(シクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチン)が行われた。認知機能評価の初回は手術摘出後(登録時)で,その後1,2,5 年の段階で評価した。多変量解析の結果全体ではmean IQ(-1.59/y,p=.006),読み(-2.95/y,p<.0001),書き(-2.94/y,p<.0001),算数(-1.87/y,p=.003)とも低下したが,群間比較ではmean IQ は高リスク群では低下したが(-3.00/y,p=.004),標準リスクでは低下していなかった(-0.99/y,p=.13)(ただし2 群間に有意差はない)。また同様にmean IQ は7 歳未満群では低下したが(-3.05/y,p=.0005),7 歳以上群では低下しなかった(-0.61/y,p=.37)(2 群間に有意差あり)。治療線量より治療時年齢の方がIQ 低下の要素として強いと示された。ただし研究全体の規模からすると評価を受けた登録例は少なく,評価方法に関しても年齢によってさまざまであった。
2010 年代になるといくつかの前方視的コホート研究が発表されている。
1 つ目はCOG A9961 の標準リスク群に対する放射線治療(CSI 23.4 Gy/ブースト照射32.4 Gy)と大量化学療法(CCNU/シスプラチン/ビンクリスチン,またはシクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチン)後の知的・学業予後に関する報告4)である。登録全体379 例中110 例について5 年以上の経過で評価した。Baseline の評価は放射線治療から9 カ月以内に施行された。評価方法は,IQ に関してはWPPSI-R/WISC-Ⅲ/WAIS-R/WAIS-Ⅲを用い,学習能力評価にはWide Range Achievement Test Ⅲなどが用いられた。全症例をまとめたデータでFull Scale IQ は5 年間にわたり年間1.9 ポイント低下した。IQ および学習能力の低下は,男女差はなく,無言症の有無でFull Scale IQ とPerformance IQ およびReading で有意差があった。Baseline IQ の方が高い(IQ>100)方がFull Scale IQ 低下の程度が有意に大きく,診断時7 歳以上と7 歳以下では7 歳以下の症例のPerformance IQ 低下率が有意に高く,摘出率では全摘群の方が低下率は高いが有意差はなかった。
無言症の有無での評価はSJMB03 に登録された327 例中,後頭蓋窩症候群(主には無言症)を呈した36 例についての前方視的試験報告5)がある。SJMB03 治療は播種と脳幹浸潤がない例で,肉眼的全摘出された群を標準リスク群としてそれ以外を高リスク群とし,標準リスク群にはCSI 23.4 Gy,高リスク群にはCSI 36~39.6 Gy で局所55.8 Gy の放射線治療を行っている。放射線照射治療6 週後から,4 サイクルの高用量のシクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチンからなる化学療法を施行した。同じ試験の登録例で後頭蓋窩症候群を呈さなかった例で年齢・人種・リスク分類・手術・性別を一致させた36 例を対照として,神経心理学的評価を経時的に1,3,5 年後に,知的能力の他に遂行速度,注意力,ワーキングメモリー,空間認知機能などさまざまな視点で評価した。後頭蓋窩症候群の有無によりbaseline からこれらの能力に差があるが,対照群が5 年間で不変なのに対し,後頭蓋窩症候群は不変もしくは低下しており有意差がみられた。この2 つの報告を合わせて評価シートを作成すると,後頭蓋窩症候群がある群とない群ではQOL や高次機能においてbaseline でも差があり5 年後さらに差が広がる,というエビデンスが示された。
遂行速度,注意力,ワーキングメモリーなどについて前方視的で縦断的に検討した報告6)もある。これは上記のSJMB03 の登録(この時点ではまだ318 例)から後頭蓋窩症候群を除き,その他の不適格例を除いた126 例の検討である。Baseline の機能の評価は手術後(登録直後)に行い,1,3,5 年後と経時的に前方視的試験で行われた。評価はWoodcock-Johnson Tests of Cognitive Abilities Third Edition, Woodcock-Johnson Tests of Achievement Third Edition を用いた。遂行能力はbaseline から低下しており,経時的変化は低年齢,高リスク群,baseline score が高い場合により低下する傾向にあった。計算式で推定すると,標準リスク群では診断時年齢6 歳では軽度低下がみられたが,10 歳では変化なく,14 歳では上昇・改善し,一方高リスク群では6 歳,10 歳では著明に低下したが,14 歳では低下がみられなかった。Baseline での遂行能力の低下は小脳失調を避けがたい疾患特異性の影響が考えられる。ワーキングメモリーや注意力はbaseline での低下はなく,経時的変化については高リスク群,baseline score が高い場合により低下する傾向にあった。
ここまで記載したものは北米からの報告だが,欧州からはHIT-SIOP PNET4 phase 3 European RCT の報告がある7)。標準リスク群の髄芽腫患者を過分割照射群(過分割群:1 日2 回1 Gy 照射,CSI 36 Gy,後頭蓋窩60 Gy)と標準分割照射群(標準分割群:1 日1.8 Gy 週5 日照射,CSI 23.4 Gy,後頭蓋窩54 Gy)にランダム化を行い,照射中のビンクリスチンと8 サイクルのCCNU/シスプラチン/ビンクリスチンを行った。認知機能については9 カ月寛解状態を得た137 例(過分割群71/107 例,標準分割群66/109 例)で平均3 年の経過で評価を行った。評価法はWISC を基本に各国によって評価法を選択した。年齢についても8 歳以上と以下で比較した。結果としてこの研究では治療法や年齢による有意な差は認められず,全体的にも経時的なIQ の低下はみられていない。北米の結果と異なり,IQ の低下を認めなかった理由として観察期間が短いことが影響している可能性はある。
陽子線治療によるQOL の変化を前方視的に観察したマサチューセッツ総合病院からの報告8)がある。評価法としてこれまでの報告と異なりPedsQL version4.0を用いており,self-report ができる年齢層が対象となった。2002~2015 年の登録例161 例中116 例で,平均5 年間の経過で評価を行った。この症例群には8 歳以上も以下もいて,標準リスクと高リスクもあり,また播種や後頭蓋窩症候群のある例ない例も含まれており,かなり雑多な集団である。評価はTCS(total core score)で行われるが,当初TCS が低かった児でも徐々に改善するが,最終的に健常小児と比較すると低い値であった。評価法として興味は惹かれるが,陽子線の影響を真に評価をするまでには至らない。
以上をまとめると,髄芽腫に対する治療によるIQ の低下は認めないという報告もある一方,北米での前方視的試験の結果からは,無言症/後頭蓋窩症候群のある場合は認知機能(特に学習)に関して低下する,ということが言える。また,髄芽腫の治療後5 年の経過で経時的にIQ が低下するが,高リスク群でその傾向が強い。ただしこれが,疾患によるものなのか,治療(特に放射線照射線量)の差によるものなのかはわからない。また低年齢(7 歳以下)では低下の程度が強いことも示唆された。問題は,経過観察は長くても10 年程度で,平均では5 年に満たない場合が多い点で,晩期合併症に対する真の評価としては,より長期の結果が望まれる。そのようなデータは前方視的コホート研究ではまだ存在せず,後方視的のデータしかなく,したがって,さまざまなバイアスを有しており正確な評価とならない。
代表的な後方視的検討結果報告としてChildhood Cancer Survivor Study からの報告9,10)を参考として紹介する。2017 年のものは1970~1986 年に診断され5 年以上生存した380 例についてその同胞と比較した研究で,聴力低下,脳卒中頻度,けいれん,平衡機能低下,白内障の頻度が高く,学習,結婚,自立した生活などでも差がみられた。2019 年のものは1970~1999 年に診断され5 年以上生存していた髄芽腫患者の晩期のmorbidity/mortality に関する報告である。これによると5 年経過後も死亡する例はあり,再発によるものも,それ以外の原因もある。これらを除いた997 例の生存者で後方視的にみた場合,年を追って重篤な合併症を持つ頻度が増している。また,これは1970 年代に治療した群と1990 年代に治療した群で比較すると後者で有意にその頻度が高い。特に聴力障害や心血管系のリスクが高い。治療別にみると,高リスク群で治療を行った場合に頻度が高い。ただし,内分泌障害や神経学的な障害の頻度は決して高くない。これらの報告はあくまで後方視的に長期間の治療例を評価したもので,背景因子が異なり合併症の頻度に何が影響したのかはわからない。あくまで,長期間の経過観察が必要である,とするのみである。
また,今回はシステマティックレビューの対象には認知機能障害に関するもののみが残ったが,晩期合併症としてはこのほかにも内分泌障害11),性腺機能障害12),聴力障害9),海綿状血管腫の形成13),その他血管障害9),二次がん14)などの可能性がある。二次がんとしては悪性神経膠腫,血液がん,甲状腺癌などが報告されている。しかし,これらの報告は,髄芽腫以外の小児脳腫瘍を含んでいたり,後方視的な治療症例集積で背景因子がさまざまあることなどが指摘され,今回は情報として参考までに記載しておくにとどめる。
やはり今後は結果が得られるまで時間はかかるであろうが長期間の前方視的研究が必要で,その結果によって治療法の選択を検討したり,どの時期にどのような介入が必要となるかなどの臨床的疑問に対する回答が抽出されることを期待する。
現時点で提言できることは,髄芽腫に関して,再発のみならず晩期合併症を考慮した長期的かつ多角的(多職種を含む)フォローアップが必要であるということに尽きる。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab]))))))AND(((((((((long term adverse effects[mh])OR long term effect*[tiab])OR long term outcome[tiab])OR lete effect*[tiab]))OR((quality of life[mh])OR quality of life[tiab]))OR(((cognition disorders[mh])OR cognitive funtion[tiab])OR neurocognitive function[tiab]))OR(((((((((((((((social adjustment[mh])OR social outcome[tiab])OR functional outcome[tiab])OR physical outcome[tiab])OR developmental disorders[mh])OR growth disorders[mh])OR(growth and development/radiation effects[mh]))OR physiology/radiation effects[mh])OR intelligence/radiation effects[mh])OR intelligence/drug effects[mh])OR learning disorders[mh])OR intellectual outcome[tiab])OR academic success[mh])OR academic outcome[tiab])OR academic achievement[tiab]))OR((((growth hormone/radiation effects[mh])OR GH hormone[tiab])OR radiation injuries[mh])))))AND 1900/7/1:2018/12/31[dp]
以上の検索式から597 文献が抽出され,一次スクリーニングで75 文献に絞られた。二次スクリーニングを行って,前方視的コホート研究8 文献を採択し,システマティックレビューを行って評価シートの作成,エビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Mulhern RK, Kepner JL, Thomas PR, et al. Neuropsychologic functioning of survivors of childhood medulloblastoma randomized to receive conventional or reduced-dose craniospinal irradiation:a Pediatric Oncology Group study. J Clin Oncol. 1998;16(5):1723-8.[PMID:9586884]
- 2)
- Ris MD, Packer R, Goldwein J, et al. Intellectual outcome after reduced-dose radiation therapy plus adjuvant chemotherapy for medulloblastoma:a Children’s Cancer Group study. J Clin Oncol. 2001;19(15):3470-6.[PMID:11481352]
- 3)
- Mulhern RK, Palmer SL, Merchant TE, et al. Neurocognitive consequences of risk-adapted therapy for childhood medulloblastoma. J Clin Oncol. 2005;23(24):5511-9.[PMID:16110011]
- 4)
- Ris MD, Walsh K, Wallace D, et al. Intellectual and academic outcome following two chemotherapy regimens and radiotherapy for average-risk medulloblastoma:COG A9961. Pediatr Blood Cancer. 2013;60(8):1350-7.[PMID:23444345]
- 5)
- Schreiber JE, Palmer SL, Conklin HM, et al. Posterior fossa syndrome and long-term neuropsychological outcomes among children treated for medulloblastoma on a multi-institutional, prospective study. Neuro Oncol. 2017;19(12):1673-82.[PMID:29016818]
- 6)
- Palmer SL, Armstrong C, Onar-Thomas A, et al. Processing speed, attention, and working memory after treatment for medulloblastoma:an international, prospective, and longitudinal study. J Clin Oncol. 2013;31(28):3494-500.[PMID:23980078]
- 7)
- Câmara-Costa H, Resch A, Kieffer V, et al.;Quality of Survival Working Group of the Brain Tumour Group of SIOP-Europe. Neuropsychological Outcome of Children Treated for Standard Risk Medulloblastoma in the PNET4 European Randomized Controlled Trial of Hyperfractionated Versus Standard Radiation Therapy and Maintenance Chemotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015;92(5):978-85.[PMID:26194675]
- 8)
- Kamran SC, Goldberg SI, Kuhlthau KA, et al. Quality of life in patients with proton-treated pediatric medulloblastoma:Results of a prospective assessment with 5-year follow-up. Cancer. 2018;124(16):3390-400.[PMID:29905942]
- 9)
- King AA, Seidel K, Di C, et al. Long-term neurologic health and psychosocial function of adult survivors of childhood medulloblastoma/PNET:a report from the Childhood Cancer Survivor Study. Neuro Oncol. 2017;19(5):689-98.[PMID:28039368]
- 10)
- Salloum R, Chen Y, Yasui Y, et al. Late Morbidity and Mortality Among Medulloblastoma Survivors Diagnosed Across Three Decades:A Report From the Childhood Cancer Survivor Study. J Clin Oncol. 2019;37(9):731-40.[PMID:30730781]
- 11)
- Laughton SJ, Merchant TE, Sklar CA, et al. Endocrine outcomes for children with embryonal brain tumors after risk-adapted craniospinal and conformal primary-site irradiation and high-dose chemotherapy with stem-cell rescue on the SJMB-96 trial. J Clin Oncol. 2008;26(7):1112-8.[PMID:18309946]
- 12)
- Balachandar S, Dunkel IJ, Khakoo Y, et al. Ovarian function in survivors of childhood medulloblastoma:Impact of reduced dose craniospinal irradiation and high-dose chemotherapy with autologous stem cell rescue. Pediatr Blood Cancer. 2015;62(2):317-21.[PMID:25346052]
- 13)
- Lew SM, Morgan JN, Psaty E, et al. Cumulative incidence of radiation-induced cavernomas in long-term survivors of medulloblastoma. J Neurosurg. 2006;104(2 Suppl):103-7.[PMID:16506497]
- 14)
- Packer RJ, Zhou T, Holmes E, et al. Survival and secondary tumors in children with medulloblastoma receiving radiotherapy and adjuvant chemotherapy:results of Children’s Oncology Group trial A9961. Neuro Oncol. 2013;15(1):97-103.[PMID:23099653]
- CQ1
- 肉眼的全摘出は生命予後を改善するか?
- 推奨度2C
- 推奨
髄芽腫患者に対して全摘出を行うことを提案する。
解説
髄芽腫に対する手術摘出度あるいは残存腫瘍量と予後の関係を前方視的試験によって解析した研究はない。1996 年にAlbright ら1)が,術者が評価した腫瘍摘出度は予後に相関しないものの,術後残存腫瘍の最大面積が1.5 cm2以上あると,髄液播種のみられない3 歳以上の症例ではPFS が短くなることを報告した。その後Zeltzer ら2)は術後残存腫瘍の最大面積1.5 cm2以上を予後因子に加えることを提唱し,髄液播種,年齢が3 歳以上,術後腫瘍残存量(最大断面面積1.5 cm2以上)を予後不良因子として,標準リスク群と高リスク群の臨床リスク分類に従って髄芽腫の治療を行うことが現在の標準となっている(Albright とZeltzer の論文はOS の検討がされていないことから,システマティックレビューからは除外された)。手術摘出度が真の予後因子であるのかについての検討は,症例集積あるいは後方視的コホート研究で検討するほかない。
2000 年にJenkin ら3)は,単一施設の連続173 例の後方視的検討で,2 回の手術を要した症例も含めた最終的な摘出率において,全摘出77 例,亜全摘(摘出率90~99%)50 例,部分摘出(摘出率50~89%)30 例,部分摘出(摘出率50%未満)16 例の5 年生存率はそれぞれ63%,50%,41%,17%と報告した。この摘出度は術者が決定しており,全摘出群は非全摘出群と比較して有意に(p=0.002)OS を延長したが,摘出後に標準的な放射線治療が遂行可能であった場合には,全摘出は有意な予後因子とはならなかった。したがって全摘出により合併症を起こす可能性が高い場合は,術後の合併症によって放射線治療を省略するよりはむしろ摘出を制限することも考慮すべきであると結論づけた。
2005 年のSFOP4)の多施設共同研究では,術後3 日以内の画像検査で確認された残存・転移のない群(R0M0)47 例について検討された。この報告では手術記録で摘出度を決定しており,残存腫瘍はないと記載されていれば全摘出とし,癒着が強く切除できなかったと記載があれば術後の画像検査で残存腫瘍を認めなくても全摘出とはせずに亜全摘出と定義した。亜全摘出群34 例の5 年PFS は0%であったのに対して全摘出群13 例では41%と有意に延長した(p=0.0065)ものの,OS では有意差はなかったとした。このように,摘出度を画像検査だけではなく,手術記録に基づいてのリスク階層化を導入している点で結果の解釈には注意が必要である。
2006 年のUrberuaga ら5)の単一施設79 例の検討では,術後画像検査で残存腫瘍がないことを全摘出と定義し,単変量解析でOS,PFS ともに全摘出が予後良好因子であり,多変量解析でも予後良好因子(HR=3.17,95% CI:1.64-6.15,p<0.01)であったと報告した。
一方で,2008 年のAkyüz ら6)の単一施設の203 例の後方視的検討では,手術摘出度は生存期間に影響しなかったと報告した。
このように,手術的摘出度の予後に対する影響は報告によってばらつきがみられる。しかし,これまでの報告全体としては,全摘出した場合にはOS もPFS も延長する傾向があることは確かである。ただし,手術によって神経症状を悪化させる危険性が高い場合には,無理に全摘出を行うことは控え,術後速やかに放射線治療を行うことが重要である。
2016 年のThompson ら7)の787 例の後方視的国際共同研究では,分子的亜型分類が組み込まれた。全摘出の予後因子としての効果は,多変量解析に分子的亜型分類を含めると大きく減衰した。全摘出は,術後腫瘍残存量が1.5 cm2以上と比較してPFS は延長した(HR=1.45,95% CI:1.07-1.95,p=0.02)が,全摘出と術後腫瘍残存量1.5 cm2未満ではOS,PFS ともに有意差はみられなかった(OS/HR=1.05,95% CI:0.71-1.53,p=0.82,PFS/HR=1.14,95% CI:0.75-1.72,p=0.55)。WNT,SHH,group 3 では,全摘出してもOS に影響がなかった。術後腫瘍残存量1.5 cm2未満に対する全摘出の絶対的利点はないため,神経学的悪化が予測される場合には,小さな残存腫瘍に対する手術摘出は勧められないというこれまでの方針を支持するものである。
分子的亜型分類を加味したエビデンスの構築が希求されており,分子亜型それぞれにおいて手術摘出度が生命予後にどのような影響を及ぼすかについては,現在も重要な臨床課題である。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((“Epidemiologic Study Characteristics”[Mesh])OR “ Statistics as Topic[”Mesh]))OR “clinical study”[PT]))AND((((((((((medulloblastoma[mh])OR medulloblastoma*[tiab])OR((melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR((childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR medulloblastoma*[tiab])OR((desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))OR((adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab]))))AND((surgery[SH]OR surgery[TIAB]OR surgical[TIAB]OR “surgical procedures, operative”[MH]OR(surgical[TIAB]AND procedure*[TIAB]AND operative[TIAB])OR operative[TIAB]OR operation[TIAB]OR resect*[TIAB])))AND((prognosis[MH]OR prognos*[TIAB]OR “disease progression”[MH]OR(disease*[TIAB]AND progress*[TIAB])OR(disease*[TIAB]AND exacerbat*[TIAB])OR mortality[MH]OR mortal*[TIAB]OR(case*[TIAB]AND fatality[TIAB]AND rate*[TIAB])OR(death[TIAB]AND rate*[TIAB])OR “survival analysis”[MH]OR(surviv*[TIAB]AND(analysis[TIAB]OR analyses[TIAB]))OR “neoplastic processes”[MH]OR(neoplastic[TIAB]AND process*[TIAB]))))))AND 1900/1/1:2018/12/31[DP]
以上の検索式により662 文献を抽出し,一次スクリーニングで69 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に17 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。システマティックレビュー後のさらなる検討から7 文献を採用し,作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Albright AL, Wisoff JH, Zeltzer PM, et al. Effects of medulloblastoma resections on outcome in children:a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1996;38(2):265-71.[PMID:8869053]
- 2)
- Zeltzer PM, Boyett JM, Finlay JL, et al. Metastasis stage, adjuvant treatment, and residual tumor are prognostic factors for medulloblastoma in children:conclusions from the Children’s Cancer Group 921 randomized phase Ⅲ study. J Clin Oncol. 1999;17(3):832-45.[PMID:10071274]
- 3)
- Jenkin D, Shabanah MA, Shail EA, et al. Prognostic factors for medulloblastoma.Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;47(3):573-84.[PMID:10837938]
- 4)
- Grill J, Sainte-Rose C, Jouvet A, et al.;French Society of Paediatric Oncology. Treatment of medulloblastoma with postoperative chemotherapy alone:an SFOP prospective trial in young children. Lancet Oncol. 2005;6(8):573-80.[PMID:16054568]
- 5)
- Urberuaga A, Navajas A, Burgos J, et al. A review of clinical and histological features of Spanish paediatric medulloblastomas during the last 21 years. Childs Nerv Syst. 2006;22(5):466-74.[PMID:16283195]
- 6)
- Akyüz C, Varan A, Küpeli S, et al. Medulloblastoma in children:a 32-year experience from a single institution. J Neurooncol. 2008;90(1):99-103.[PMID:18566744]
- 7)
- Thompson EM, Hielscher T, Bouffet E, et al. Prognostic value of medulloblastoma extent of resection after accounting for molecular subgroup:a retrospective integrated clinical and molecular analysis. Lancet Oncol. 2016;17(4):484-95.[PMID:26976201]
- CQ2
- 手術後の予後因子は何か?
- 推奨度1B
- 推奨
予後因子として,組織型(予後良好な順でdesmoplastic nodular/extensive nodularity, classic, large cell/anaplastic),転移の有無(転移有が予後不良),遺伝子プロファイルで分類される亜型(WNT 型が予後良好)を用いることを推奨する。
解説
予後を予測する因子は実施する治療によって変わる。例えば,治療が摘出のみであれば,当然転移の有無と残存した腫瘍の大きさがOS に大きな影響を与える。また,放射線治療の導入,さらに有効な化学療法の採用によって予後因子は変化している。最新の治療を受けたコホートでは,後述の4 型の亜群によっては転移の有無すら予後を反映しない可能性が最近示されている1-3)。このように,リスク因子は解析対象としたコホートの治療によって変化するものであるので,本CQ では,これらの違いがあってもなおかつ検出される因子を採用することとした。
治療の層別化に用いる予後因子としては,治療反応性などではなく,診断後直ちに情報が得られる臨床情報(年齢,性別,転移の有無,病理組織型,術後腫瘍残存の有無など)が有用である。しかし,これらの因子は交絡が存在するため,多変量解析による結果が最も重要視される。ほぼすべての研究で予後因子として多変量解析で抽出されているのが,転移の有無,および組織型(classic, desmoplastic nodular/extensive nodularity, large cell/anaplastic)であった2,4-12)。一方,性別,年齢は解析されたほとんどの研究で予後因子とはならなかった1,2,6,8,11,13)。術後の腫瘍残存については,多変量解析が行われた9 編の解析のうち2 編で予後不良因子として抽出され7,13),1 編では単変量解析では有意であったものの,多変量解析では有意差は消失している11)。また,乳幼児に限定した解析では,単変量解析のみが行われた3 編の報告では予後不良因子として抽出されているが14-16),多変量解析を行った4 編の報告では3 編で予後因子として否定されている4-6)。以上のことから,現時点では独立した強力な予後因子として組織型,転移の有無を挙げることができる。組織型では,desmoplastic nodular/extensive nodularity が最も予後が良く,classic, large cell/anaplastic と続く。転移の有無では転移無が予後良好である。
2011 年に,遺伝子発現プロファイルに基づき,髄芽腫は少なくともWNT 型,SHH 型,non-WNT/non-SHH 型に分類されることが明らかとなり,2016 年のWHO 脳腫瘍分類でも採用されている2)。後者はさらにGroup 3 とGroup 4 に分類されることもある。これまでのところ,過去に集積された症例を世界中から集めた後方視的なコホートを用いた解析のデータにとどまるが,一貫してWNT 型が最も予後良好である。残りの2 群もしくは3 群間の予後の差はさほど顕著なものではない5)。しかし,基本的にWNT 型が存在しない乳幼児例に限定しての解析では,単変量解析ながら3 編すべての解析でSHH 型が予後良好であることが示されている3,16,17)。SHH 型の多くは上記に予後良好因子として記載したdesmoplastic nodular/extensive nodularity の組織型を有するため,多変量解析での検討が必要である。上記の3 型(または4 型)分類とは別個に,MYC 遺伝子の増幅が独立した予後不良因子であることが報告されている。しかし,その後4 型分類と組み合わせた解析ではGroup 3 以外では明らかではないことが示されている18)。
上述のように,髄芽腫は少なくとも3 種類以上の異なった疾患(亜群)からなる集合体であることから,現在はそれぞれの亜群の中での予後因子が提唱されているものの3,19,20),現時点では十分検証されたとまでは言えないため,今回各亜群別の予後因子の推奨は時期尚早と判断した。以上のことから,独立した強力な予後因子として,組織型,転移の有無,遺伝子プロファイルによる分類(WNT 型とそれ以外)を推奨する。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])))AND((((((“Combined Modality Therapy”[Mesh:NoExp]OR Chemoradiotherapy[mh]OR Chemotherapy, Adjuvant[mh]OR Radiotherapy, Adjuvant[mh])))OR((Adjuvant[tiab]AND(Chemoradiotherapy[tiab]OR Chemoradiotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab]OR chemothrapy[tiab]OR chemotherapies[tiab]OR radiotherapy[tiab]OR radiotherapies[tiab]OR “drug therapy”[tiab]OR “drug therapies”[tiab]))))OR(((Multimodal[tiab]AND(Treatment[tiab]OR treatments[tiab]OR therapy[tiab]OR therapies[tiab]))OR(“Combined Modality”[tiab]AND(therapy[tiab]OR therapies[tiab]))OR((Concurrent[tiab]OR Concomitant[tiab]OR Synchronous[tiab])AND(Chemoradiotherapy[tiab]OR Chemoradiotherapies[tiab]OR Radiochemotherapy[tiab]OR Radiochemotherapies[tiab])))))OR((therapy planning[tiab]OR therapeutic planning[tiab]OR therapeutic design[tiab]OR treatment design[tiab]OR plan[tiab]OR planning[tiab])))))AND((“Epidemiologic Study Characteristics”[MH]OR “Statistics as Topic”[Mesh]OR “Clinical Study”[Publication Type]))))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により556 文献を抽出し,一次スクリーニングで37 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に20 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Fernandez-Teijeiro A, Betensky RA, Sturla LM, et al. Combining gene expression profiles and clinical parameters for risk stratification in medulloblastomas. J Clin Oncol. 2004;22(6):994-8.[PMID:14970184]
- 2)
- Northcott PA, Korshunov A, Witt H, et al. Medulloblastoma comprises four distinct molecular variants. J Clin Oncol. 2011;29(11):1408-14.[PMID:20823417]
- 3)
- Kool M, Korshunov A, Remke M, et al. Molecular subgroups of medulloblastoma:an international meta-analysis of transcriptome, genetic aberrations, and clinical data of WNT, SHH, Group 3, and Group 4 medulloblastomas. Acta Neuropathol. 2012;123(4):473-84.[PMID:22358457]
- 4)
- Rutkowski S, Bode U, Deinlein F, et al. Treatment of early childhood medulloblastoma by postoperative chemotherapy alone. N Engl J Med. 2005;352(10):978-86.[PMID:15758008]
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- Rutkowski S, Gerber NU, von Hoff K, et al.; German Pediatric Brain Tumor Study Group. Treatment of early childhood medulloblastoma by postoperative chemotherapy and deferred radiotherapy. Neuro Oncol. 2009;11(2):201-10.[PMID:18818397]
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- Ashley DM, Merchant TE, Strother D, et al. Induction chemotherapy and conformal radiation therapy for very young children with nonmetastatic medulloblastoma:Children’s Oncology Group study P9934. J Clin Oncol. 2012;30(26):3181-6.[PMID:22851568]
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- Lannering B, Rutkowski S, Doz F, et al. Hyperfractionated versus conventional radiotherapy followed by chemotherapy in standard-risk medulloblastoma:results from the randomized multicenter HIT-SIOP PNET 4 trial. J Clin Oncol. 2012;30(26):3187-93.[PMID:22851561]
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- Lafay-Cousin L, Smith A, Chi SN, et al. Clinical, Pathological, and Molecular Characterization of Infant Medulloblastomas Treated with Sequential High-Dose Chemotherapy. Pediatr Blood Cancer. 2016;63(9):1527-34.[PMID:27145464]
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- Robinson GW, Rudneva VA, Buchhalter I, et al. Risk-adapted therapy for young children with medulloblastoma(SJYC07):therapeutic and molecular outcomes from a multicentre, phase 2 trial. Lancet Oncol. 2018;19(6):768-84.[PMID:29778738]
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- Schwalbe EC, Lindsey JC, Nakjang S, et al. Novel molecular subgroups for clinical classification and outcome prediction in childhood medulloblastoma:a cohort study. Lancet Oncol. 2017;18(7):958-71.[PMID:28545823]
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- Sharma T, Schwalbe EC, Williamson D, et al. Second-generation molecular subgrouping of medulloblastoma:an international meta-analysis of Group 3 and Group 4 subtypes. Acta Neuropathol. 2019;138(2):309-26.[PMID:31076851]
- CQ3
- 全脳脊髄照射において,標準線量からの線量低減または線量増加は有用か?
- 推奨度1D
- 推奨1
全脳脊髄照射において,標準リスク群に対して標準線量からの線量低減を行わないことを推奨する。
- 推奨度1D
- 推奨2
全脳脊髄照射において,高リスク群に対して標準線量からの線量増加を行わないことを推奨する。
解説
3 歳以上の髄芽腫に対する集学的治療において全脳脊髄照射(CSI)は必要不可欠であり,標準治療の一環として,CSI と後頭蓋窩または腫瘍床へのブースト照射(総線量54 Gy 程度)が通常分割照射法を用いて実施されている。現在,標準的なCSI 線量として,標準リスク群では24 Gy 程度(23.4 Gy/13 分割が頻用されている),高リスク群では36 Gy 程度(35.2~36 Gy/20~22 分割)が用いられている(CQ5,CQ6 参照)。標準リスク群に対する晩期障害軽減を目的としたCSI 線量低減,また高リスク群に対する治療成績改善を目的としたCSI 線量増加が試みられているが,現時点におけるそれらの意義や位置づけは確立していない。
1.標準リスク群に対する標準線量(24 Gy 程度)からのCSI 線量低減について
評価対象となった22 編1-22)中,標準線量未満のCSI が実施された試験は2 編のみであったが,そのうち1 編は18 Gy のCSI を実施された症例が全88 例中11 例(うち陽子線治療が3 例)と少なく1),残りの1 編は18 GyE(陽子線治療)のCSI 実施症例が含まれていたものの,18 GyE のCSI が実施された症例数は不明であった7)。なお,急性期有害事象,成長障害に関しては標準線量未満のCSI を実施した論文は認められなかった。
一般論としてCSI 線量低減により急性期および晩期障害のリスク低減が期待されるものの,上述したように標準リスク群に対するCSI 線量低減の有用性を検証するランダム化比較試験もしくは傾向スコア・マッチング研究は存在せず,併用化学療法の有無や種類・タイミングに深刻なばらつきを認めたため,CSI 線量低減による生存率および急性期・晩期障害に対する影響の評価は極めて困難であった。また化学療法に関しては,我が国において使用できないlomustine(CCNU)が含まれるレジメンが散見された。これらのバイアスリスク,非直接性を考慮した結果エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。
上記システマティックレビューの結果から,CSI 線量低減が生存率および急性期・晩期障害に及ぼす影響を評価することは困難であった。またCSI 線量低減により急性期・晩期障害のリスク低減が得られる可能性は期待されるものの,生存率の維持が可能と判断する根拠に乏しく,線量低減に伴う生存率低下のリスクが危惧される。そのため,現状ではCSIにおいて,標準リスク群に対して標準線量からの線量低減を行わないことを提案することが妥当と判断した。
なお,システマティックレビュー対象外の文献ではあるが,2021 年6 月にACNS033123)が出版されたため,重要文献として本ガイドラインに記載する。ACNS0331 は標準リスク群に対してブースト照射として後頭蓋照射を実施する群と,腫瘍床照射を実施する群にランダム化割付し検証した第Ⅲ相試験である。さらに本試験では3~7 歳の226 例に対してCSI 線量を23.4 Gy 群と18 Gy 群にランダム化割付し,primary endpoint である無イベント生存割合(EFS)を検証した。その結果,認知機能は23.4 Gy 群において有意に低下したものの,5 年時点でのEFS は23.4 Gy 群では82.9%,18 Gy 群では71.4%であり,18 Gy 群は23.4 Gy 群と比較してEFS が有意に短かった(HR=1.07, 80% CI:2.10, p=0.028)。また5 年時点での全生存割合(OS)は23.4 Gy 群では85.6%,18 Gy 群では77.5%であり,18 Gy 群は23.4 Gy 群と比較してOS が有意に短く(p=0.049),今回の推奨を支持する結果であった。
2.高リスク群に対する標準線量(36 Gy 程度)からのCSI 線量増加について
二次スクリーニング後の35 文献のうち,対象が高リスク群かつ設定されたアウトカムに関する記載のある文献は11 編であった。11 編中4 編(POG963124),HIT200025),POG903126),SJMG-9612)において標準線量よりも高いCSI 線量が用いられていた。生存率では9 編4,7,12,24-29),急性期有害事象では7 編12,24-27,29,30),二次がんは4 編4,18,26,29),精神・認知機能障害では1 編7),聴力障害では4 編7,25,27,30),内分泌機能障害では1 編7)が評価対象となり,成長障害に関しては該当する文献を認めなかった。CSI 線量増加により二次がんの発生率は同等かつ生存率を改善する可能性が示唆されたが,上述したように高リスク群に対する線量増加群vs. 標準線量群の治療成績を検証するランダム化比較試験もしくは傾向スコア・マッチング研究が存在せず,高リスクである定義や根拠,化学療法の有無・種類・タイミングに深刻なばらつきを認めたため,線量増加による生存率および急性期・晩期障害の評価は極めて困難であった。また,化学療法に関しては我が国において使用できないCCNU が含まれるレジメンが散見された。そのため,すべてのアウトカムにおいて,深刻なバイアスリスク・非直接性が存在し,エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。
上記システマティックレビューの結果から,線量増加に伴い益(生存率の改善)を得られる可能性は否定できないが,同時に害(晩期障害の増加)も危惧された。小児がんである髄芽腫患者において,治癒が得られた際にQOL の低下・社会生活の妨げとなる害(晩期障害の増加)を考慮する必要性は極めて高い。エビデンスレベルが非常に弱い現状においては,益よりも害を考慮し,CSI において,高リスク群に対して標準線量からの線量増加を行わないことを提案することが妥当と判断した。
- 注意:
- lomustine(CCNU)は国内未承認
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((medulloblastoma)AND radiotherapy))AND(Comparative Study[ptyp]OR Clinical Trial[ptyp])AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により241 文献を抽出し,一次スクリーニングで106 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に35 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Clinical Outcomes Among Children With Standard-Risk Medulloblastoma Treated With Proton and Photon Radiation Therapy:A Comparison of Disease Control and Overall Survival. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;94(1):133-8.[PMID:26700707]
- 2)
- Carrie C, Muracciole X, Gomez F, et al.;French Society of Pediatric Oncology. Conformal radiotherapy, reduced boost volume, hyperfractionated radiotherapy, and online quality control in standard-risk medulloblastoma without chemotherapy:results of the French M-SFOP 98 protocol. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2005;63(3):711-6.[PMID:15927408]
- 3)
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- 4)
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- 5)
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- 6)
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- 20)
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- 25)
- von Bueren AO, Kortmann RD, von Hoff K, et al. Treatment of Children and Adolescents With Metastatic Medulloblastoma and Prognostic Relevance of Clinical and Biologic Parameters. J Clin Oncol. 2016;34(34):4151-60.[PMID:27863192]
- 26)
- Tarbell NJ, Friedman H, Polkinghorn WR, et al. High-risk medulloblastoma:a pediatric oncology group randomized trial of chemotherapy before or after radiation therapy(POG 9031). J Clin Oncol. 2013;31(23):2936-41.[PMID:23857975]
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- Zeltzer PM, Boyett JM, Finlay JL, et al. Metastasis stage, adjuvant treatment, and residual tumor are prognostic factors for medulloblastoma in children:conclusions from the Children’s Cancer Group 921 randomized phase Ⅲ study. J Clin Oncol. 1999;17(3):832-45.[PMID:10071274]
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- Taylor RE, Bailey CC, Robinson KJ, et al. Outcome for patients with metastatic(M2-3)medulloblastoma treated with SIOP/UKCCSG PNET-3 chemotherapy. Eur J Cancer. 2005;41(5):727-34.[PMID:15763649]
- 29)
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- Kortmann RD, Kühl J, Timmermann B, et al. Postoperative neoadjuvant chemotherapy before radiotherapy as compared to immediate radiotherapy followed by maintenance chemotherapy in the treatment of medulloblastoma in childhood:results of the German prospective randomized trial HIT’91. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;46(2):269-79.[PMID:10661332]
- CQ4
- 放射線治療として陽子線治療は推奨されるか?
- 推奨度2D
- 推奨
放射線治療として陽子線治療を行うことを条件付きで提案する。
解説
小児がんに対する陽子線治療が保険適用となったものの,現状ではアクセスが限られることが問題である。このような中,広く普及し従来標準的に用いられてきたX 線治療に比し,陽子線治療の優位性を明らかにすることは重要である。そこで本CQ が設定された。
選択された12 文献には,ランダム化比較試験をはじめとするエビデンスレベルの高い報告はなく,定性的システマティックレビューを実施した。
各アウトカムの評価対象となった研究は,多くても4 編,ほとんどが観察研究(前方視的または後方視的コホート研究)であったが,医療費のみモデル解析であった。
評価対象となった研究に基づくエビデンス総体の評価結果は,生存率1-4),脳・脊髄障害5)については,陽子線治療とX 線治療で明らかな差はなく,急性期有害事象6),成長障害7),精神・認知機能障害1,4,8),聴力障害1,4,9),内分泌機能障害1,4,7)については,陽子線治療はX 線治療と比べて軽減できる可能性が示されたが,ほとんどの研究が非直接性・バイアスリスク・不精確さにおいて深刻またはとても深刻と判定されたため,エビデンスの強さは生存率,内分泌機能障害が弱い,それ以外は非常に弱いと判断された。また,医療費10-12)については,陽子線治療はX 線治療と比べて低減できる可能性が示されたが,いずれもモデル解析である上に,モデル計算の根拠となる有害事象軽減のエビデンスの多くが非常に弱く,深刻な非直接性・バイアスリスク・不精確さがあるため,エビデンスの強さは非常に弱いと判断された。なお,二次がん3,4)については,陽子線治療とX 線治療の優劣は判断困難と考えられた。
放射線治療として陽子線治療を用いて,線量増加等の積極的に治療成績を改善する試みはなく,現在までの報告では治療成績はX 線治療とほぼ同等であり,益(生存率の改善)が得られる可能性は少ない。一方,害(有害事象)を減らせる可能性があるということが示唆されるものの,そのエビデンスの強さは非常に弱い。また,陽子線治療施設数が少ないため,希望しても適切なタイミングでの治療を受けられない可能性がある。陽子線治療装置の導入・運用コストは高額である一方で医療費全体としては減らせる可能性が示唆されるものの,試算の根拠となる有害事象軽減に関するエビデンスの強さは前述のように非常に弱い。また,患者(家族)の医療費負担は発症が20 歳未満であればX 線治療と同じであるが,施設が近隣にない場合は移動や宿泊のコストが発生する。以上を総合的に判断した結果,希望するタイミングで治療を受けられる,施設が近隣にあるといった条件が合致する患者には陽子線治療を提案してもよいと考えた。
よって,本CQ に対する推奨は,「放射線治療として陽子線治療を条件付きで行うことを提案する(2D)」とした。
システマティックレビュー結果
<検索式>
(proton AND(medulloblastoma OR craniospinal irradiation))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により149 文献を抽出し,一次スクリーニングで35 文献を抽出し,二次スクリーニングを行った。最終的に12 文献にまで絞り込み,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Jimenez RB, Sethi R, Depauw N, et al. Proton radiation therapy for pediatric medulloblastoma and supratentorial primitive neuroectodermal tumors:outcomes for very young children treated with upfront chemotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2013;87(1):120-6.[PMID:23790826]
- 2)
- Sethi RV, Giantsoudi D, Raiford M, et al. Patterns of failure after proton therapy in medulloblastoma;linear energy transfer distributions and relative biological effectiveness associations for relapses. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2014;88(3):655-63.[PMID:24521681]
- 3)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Clinical Outcomes Among Children With Standard-Risk Medulloblastoma Treated With Proton and Photon Radiation Therapy:A Comparison of Disease Control and Overall Survival. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;94(1):133-8.[PMID:26700707]
- 4)
- Yock TI, Yeap BY, Ebb DH, et al. Long-term toxic effects of proton radiotherapy for paediatric medulloblastoma:a phase 2 single-arm study. Lancet Oncol. 2016;17(3):287-98. [PMID:26830377]
- 5)
- Giantsoudi D, Sethi RV, Yeap BY, et al. Incidence of CNS Injury for a Cohort of 111 Patients Treated With Proton Therapy for Medulloblastoma:LET and RBE Associations for Areas of Injury. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;95(1):287-96.[PMID:26691786]
- 6)
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- 7)
- Eaton BR, Esiashvili N, Kim S, et al. Endocrine outcomes with proton and photon radiotherapy for standard risk medulloblastoma. Neuro Oncol. 2016;18(6):881-7.[PMID:26688075]
- 8)
- Pulsifer MB, Sethi RV, Kuhlthau KA, et al. Early Cognitive Outcomes Following Proton Radiation in Pediatric Patients With Brain and Central Nervous System Tumors. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015;93(2):400-7.[PMID:26254679]
- 9)
- Moeller BJ, Chintagumpala M, Philip JJ, et al. Low early ototoxicity rates for pediatric medulloblastoma patients treated with proton radiotherapy. Radiat Oncol. 2011;6:58.[PMID:21635776]
- 10)
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- 11)
- Vega RBM, Kim J, Bussière M, et al. Cost effectiveness of proton therapy compared with photon therapy in the management of pediatric medulloblastoma. Cancer. 2013;11(9 24):4299-307.[PMID:24105630]
- 12)
- Hirano E, Fuji H, Onoe T, et al. Cost-effectiveness analysis of cochlear dose reduction by proton beam therapy for medulloblastoma in childhood. J Radiat Res. 2014;55(2):320-7.[PMID:24187330]
- CQ5
- 3 歳以上の標準リスク群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度1B
- 推奨
シスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした多剤併用化学療法と,24 Gy 程度の全脳脊髄照射と総線量54 Gy 程度の局所照射を組み合わせた通常分割放射線治療による,術後化学放射線治療を推奨する。
解説
本疾患は放射線治療および化学療法が有効な治療であることが既知の事実であり,現在の3 歳以上標準リスク群の髄芽腫治療においては術後に両者を行うのが一般的になっている。一方,その急性期および晩期の合併症は,生命の危機を及ぼすことがあり,かつ長期生存者のQOL を著しく低下させることが知られている。したがって,益と害のバランスを考慮した術後治療の推奨は重要な臨床課題であると考える。
髄芽腫の治療の黎明期において,腫瘍摘出術のみでは髄芽腫は不治の病であったが,術後放射線治療,特に全脳脊髄照射(CSI)の導入後,髄芽腫は治癒を期待できる疾患となった。しかしながら,発達中の小児の脳,特に大脳に高線量の放射線治療を行った結果,生存者に重度の発達障害を起こすことが判明した。脳への照射を軽減するためにCSI の線量を低減する試みがランダム化比較試験として行われたが,CSI 線量36 Gy 群と23.4 Gy 群の再発率が7.9% vs. 28.3%(p<0.01)と単純なCSI 減量は再発率を有意に上昇させることが示された1)。
その後,放射線治療に化学療法を追加することで,生存率の向上を目指す比較臨床試験が複数行われた。米国と欧州で約36 Gy のCSI にビンクリスチン,lomustine(CCNU)ベースの化学療法を追加する2 つのランダム化比較試験が行われた。米国試験(局所50~55 Gy,CSI を35~40 Gy)では髄芽腫全体では化学療法追加による有意な生存率向上は認めず,転移のない患者群の5 年無イベント生存割合(event-free survival:EFS)は59%であった2)。欧州試験(局所55 Gy,全脳35~45 Gy,全脊髄30~35 Gy)でも化学療法の上乗せ効果は認めず,転移のない群の5 年生存率は64.6%であった3)。
その後,米国ではPacker らによって開発が行われてきたビンクリスチンとCCNU の併用にシスプラチンを加えたレジメンの検証が行われた。この試験ではCSI 線量を23.4 Gy に減量したのにも関わらず,5 年EFS 79.7%という非常に良好な生存率が得られた4)。このことは,CSI の線量を多くするよりも,シスプラチンを含む有効な化学療法を併用することの方が予後の向上に重要であることを示している。引き続き行われたCOG A9961 試験では,このレジメンのCCNU をシクロホスファミドに置換したレジメンの優越性がRCT で検証されたが,優越性は示すことができず,感染症などの重篤な有害事象が多いという結果であった。そのため,現在に至るまでCCNU を含むPacker レジメンと23.4 Gy CSI に局所ブーストを行う方法が世界的に標準治療となっている5)。続いて米国St.Jude 小児病院から,23.4 Gy のCSI と局所ブースト照射の後に,化学療法の間隔を開けないために自己末梢血幹細胞救援を併用したシスプラチン,大量シクロホスファミド,ビンクリスチンの3 剤による化学療法を4 回繰り返す方法を行い,5 年EFS 83%と優れた結果が報告され,一定量以上のシクロホスファミドの有効性が示された6)。
一方,欧州ではSIOP と英国小児がん研究グループ(United Kingdom Children’s Cancer Study Group:UKCCSG)の共同研究でシクロホスファミド,カルボプラチン,ビンクリスチン,エトポシドによる多剤併用化学療法を35 Gy CSI とブースト照射の前後に行った(サンドイッチ療法)群と,放射線治療単独で治療した群を比較する臨床試験が行われた。OS では有意差を認めなかったが,5 年EFS では74.2% vs. 59.8%(p=0.04)と有意に化学療法群の生存率が高かった7)。
以上のことから,標準リスクでは効果の弱い化学療法では放射線治療への上乗せ効果は見られないが,CCNU とビンクリスチンにシスプラチンを加えて用いることでCSI の線量を36 Gy から23.4 Gy に軽減することが可能となった。なお,lomustine(CCNU)が未承認のわが国ではCOG A9961 試験でシクロホスファミドに置換したレジメンでもCCNU レジメンと近似したEFS が得られたことから,シクロホスファミドに置換したレジメンが実地臨床では広く使われている。
放射線治療と化学療法の実施の順序については,欧米で術後に放射線治療前に1~2コースの化学療法を組み入れるいわゆるサンドイッチ療法の検討が行われた。欧州では,プロカルバジン,ビンクリスチン,メトトレキサート多剤併用化学療法8)あるいはシスプラチン,イホスファミド,大量メトトレキサート,エトポシド,シタラビン(AraC)による多剤併用化学療法9,10)を放射線治療の前に挟み込むことの有用性の検討がランダム化比較試験で行われたが,ともに有用性を示すことができなかった。また,8 in 1 レジメンという8 種類の抗がん剤を1 日で投与する多剤併用化学療法を放射線治療前に行い標準リスク群でCSI 軽減(全脳27 Gy,全脊髄30~36 Gy)を目指す単アーム試験が行われた。7 年EFS 62%と従来と匹敵する結果が得られたが,放射線治療先行との比較は行われていない11)。以上の結果より,標準リスク群髄芽腫の術後治療は,放射線治療のあとに化学療法を行うことが一般的になった。サンドイッチ療法は1 コースの化学療法の後に放射線治療を行うために,化学療法がビンクリスチン投与を除いて約2 カ月中断するという問題がある。
欧州では,過分割照射36 Gy CSI と通常分割照射の23.4 Gy CSI を無作為割り付けし,シスプラチン,CCNU,ビンクリスチンを投与した国際的治療グループによるランダム化比較試験を行ったが,5 年EFS 78% vs. 77%と,過分割照射の優越性は示せなかった12)。フランスで行われたCSI 36 Gy(36 分割)と68 Gy(68 分割)の過分割照射のみで後治療を行った試験で,3 年EFS 81%という生存率は興味深いが,放射線治療単独の本戦略の評価には長期成績の報告を待たなければならないであろう13)。
髄芽腫の治療選択において,副作用および治療後のQOL は非常に重要な要素である。本CQ を検討する際に評価した複数の論文で,急性合併症が報告されているが,放射線治療や化学療法の種類によって急性毒性の差を認めていない。また,晩期合併症を治療レジメンごとに比較した論文はないが,放射線量が少ないレジメンの方が二次がん,認知機能低下,内分泌機能などの影響が少ないと理論的に推論することは妥当である。
これらのアウトカムのエビデンスより,シスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンによる多剤併用化学療法に,24 Gy 程度の通常分割全脳脊髄照射と局所追加照射を組み合わせた放射線治療による術後化学放射線治療を推奨する。
- 注意:
- lomustine(CCNU):国内未承認
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シタラビン(cytarabine):髄芽腫に対しては保険適応外
8 in 1 レジメン:メチルプレドニゾロン,ビンクリスチン,lomustine,プロカルバジン,ハイドロキシウレア(髄芽腫には保険適応外),シスプラチン,シタラビン,シクロホスファミドの8 種類の薬剤を1 日に投与する化学療法
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radio-therapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。CQ5 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの7 文献,EFS アウトカムの13 文献,有害事象・QOL アウトカムの13 文献を採用した。
❖ 文献
- 1)
- Deutsch M, Thomas PR, Krischer J, et al. Results of a prospective randomized trial comparing standard dose neuraxis irradiation(3,600 cGy/20)with reduced neuraxis irradiation(2,340 cGy/13)in patients with low-stage medulloblastoma. A Combined Children’s Cancer Group-Pediatric Oncology Group Study. Pediatr Neurosurg. 1996;24(4):167-76;discussion 76-7.[PMID:8873158]
- 2)
- Evans AE, Jenkin RD, Sposto R, et al. The treatment of medulloblastoma. Results of a prospective randomized trial of radiation therapy with and without CCNU, vincristine, and prednisone. J Neurosurg. 1990;72(4):572-82.[PMID:2319316]
- 3)
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- 6)
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- 9)
- von Hoff K, Hinkes B, Gerber NU, et al. Long-term outcome and clinical prognostic factors in children with medulloblastoma treated in the prospective randomised multicentre trial HIT’91. Eur J Cancer. 2009;45(7):1209-17.[PMID:19250820]
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- CQ6
- 3 歳以上の高リスク群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度2C
- 推奨
36 Gy 程度の全脳脊髄照射と54 Gy 程度の局所照射を術後に行い,その後にシスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした治療強度を増した多剤併用化学療法を複数コース行うことを提案する。
解説
髄芽腫の標準リスク群のCQ5 で解説したように,全脳脊髄照射(CSI)の導入後,髄芽腫は治癒を期待できる疾患となった。しかしながら,残存腫瘍または播種を伴う高リスク群では,標準リスク群に比べ生存率が低く,化学療法の併用を行っても満足のいく治療成績を得るには至っていない。米国と欧州で放射線治療にビンクリスチン,lomustine(CCNU)ベースの化学療法を追加する2 つのランダム化比較試験が行われた。
米国試験(局所50~55 Gy,CSI を35~40 Gy)では腫瘍が大きく転移もあった群のサブ解析において,放射線治療単独群では5 年EFS が0%であったのに対し,化学療法併用群で46%と有意に高い5 年EFS を得た(p=0.006)1)。一方,欧州試験(局所55 Gy,全脳35~45 Gy,全脊髄30~35 Gy)のランダム化比較試験においても,中間解析で腫瘍が大きかった,あるいは亜全摘であった群において5 年EFS の差が両群間で有意に高く,化学療法の追加効果が顕著であった。そのため欧州試験は途中で打ち切られ,術後残存腫瘍がある群では長期追跡後の生存率も最終的に有意に高かった2)。ただし,この試験では転移については評価されていない。欧州で,プロカルバジン,ビンクリスチン,メトトレキサート多剤併用化学療法を放射線治療の前に追加するランダム化比較試験が行われたが,高リスク群において,化学療法追加群と追加しない群の5 年EFS に有意な差は認めなかった(56% vs. 53%,p=0.7)3)。また8 in 1 レジメンを放射線治療前に行うCSI 軽減(全脳27 Gy 全脊髄30~36 Gy)アーム試験が行われたが,高リスク群で7 年EFS 45%と改善は認めなかった4)。
その後,欧米で化学療法を強化する試みが行われ,米国のCCG921 試験では,術後に放射線治療(CSI 36 Gy+局所線量54 Gy)と照射中のビンクリスチン投与を行い,その後8 in 1 とビンクリスチン/CCNU/プレドニゾロン(VCP)の2 つの化学療法レジメンを比較するRCT が行われた。結果は,高リスク群では,VCP 治療の方が8 in 1 レジメンより5 年PFS を有意に延長した(63±5% vs. 45±5%,p=0.006)5)。一方,米国のPOG9031 では高リスク群に通常分割の放射線治療を強化し(CSI 40 Gy+局所線量54.4 Gy),シスプラチン/エトポシド/シクロホスファミド/ビンクリスチンによる化学療法を放射線治療の前後に行うサンドイッチ療法と通常の放射線治療後に行う方法に割り付けるランダム化比較試験が行われた。化学療法スケジュールによるEFS とOS 差は認めなかったが,5 年EFS 68.1±3%,5 年OS 74.6±3%と比較的良好な生存率を得た6)。米国St.Jude 小児病院から化学療法の間隔を開けないために自己末梢血幹細胞救援を併用したシスプラチン,大量シクロホスファミド,ビンクリスチンの3 剤による化学療法を4 回繰り返す方法を,36~39.6 Gy のCSI と局所ブーストの後に行い,5 年EFS 70%,5 年OS 70%と高リスク群では最も良好な生存率を示した7)。
一方,ドイツのHIT2000 試験においては,4 歳以上の高リスク群においても,メトトレキサートの脳室内投与の効果を検証している。メトトレキサートは予定量の75%以上投与した症例で予後改善(EFS 61.5% vs. 46.2%,p=0.004)しており,年長児の高リスク群に対するメトトレキサート脳室内投与の有効性を示した8)。
米国COG では,放射線治療中の併用抗がん剤としてビンクリスチンの他に,放射線増感薬としての効果を期待してカルボプラチンを併用する第Ⅰ/Ⅱ相試験が77 例の転移症例を対象に実施された。少量のカルボプラチンをCSI 36 Gy と局所ブースト照射中に30 日間連続投与するもので,照射後にビンクリスチンとシクロホスファミドによる化学療法を実施した。後半の症例では照射後化学療法にシスプラチンを追加した。全体での5 年EFS71%という良好な生存率を得られたが,シスプラチンの追加は予後の向上をもたらさなかった9)。
高リスク群でも術後に放射線治療前後に化学療法を挟み込むサンドイッチ療法の有用性が検証された。ドイツで行われたHIT’91 試験では,放射線治療(CSI 35.2 Gy,局所55.2 Gy)後にいわゆる標準リスク群におけるPacker レジメン(シスプラチン/CCNU/ビンクリスチン)を投与する方法と,シスプラチン/イホスファミド/メトトレキサート/エトポシド/シタラビンによる多剤併用化学療法を放射線治療前後に行う方法とのランダム化比較試験が行われ,その長期フォローアップデータによると,髄液播種を有する群10 年のOS70%/34%(p=0.02),脊髄転移や遠隔転移を有する群の10 年OS 42%/45%(p=0.99)であり,髄液播種を有する症例に限ると放射線治療後にPacker レジメンを投与した群のほうが良好な生存率であった10,11)。欧州ではさらに,SIOP/UKCCSG によるPNET-3 試験が行われたが,同様に放射線治療前に化学療法行うことの有用性は認められなかった12)。
標準リスク群と同様に高リスク群においても,過分割照射の有用性を検討する臨床試験が行われた。米国CCG9931 試験において,化学療法先行後に過分割照射(CSI 40 Gy+局所線量72 Gy)を行ったが,5 年EFS 43%±5%,5 年OS 52%±5%と生存率の改善は認めなかった13)。
以上をまとめると,高リスク群髄芽腫の術後治療において,初期の研究では放射線単独治療であったが,まったく治癒が得られず,その後,化学療法の併用や過分割照射についてさまざまな工夫がなされてきた。しかし,いかなる化学療法を用いてもCSI 36 Gy では5 年EFS は60~70%までにとどまり,CSI の線量の減量にも成功していない。今後は,さらなる分子生物学的リスク細分化によって,治療の強化が有効な群,CSI 減量などの治療軽減を目指す群,新規治療薬を試す群と,層別化・個別化治療を行って,高リスク群の治療開発を続けていかなくてはならない。このように標準治療は定まっていない中で,第Ⅰ/Ⅱ相試験ではあるが,米国COG のカルボプラチンと放射線の併用療法が毒性も考えると有望な治療法とも考えられる。
これらのアウトカムのエビデンスより,3 歳以上の高リスク群髄芽腫の標準的術後治療は,より高い生存率という益を最優先して治療を選択するという論点より,まだ開発途上の状況ではあるが,36 Gy 程度の全脳脊髄照射と54 Gy 程度の局所照射を術後に行い,その後にシスプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチンを中心とした多剤併用化学療法を一定の期間での薬剤投与量(dose intensity)を最大化するなど治療強度を増すことを提案する。
- 注意:
- lomustine(CCNU):国内未承認
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
シタラビン(cytarabine):髄芽腫に対しては保険適応外
8 in 1 レジメン:メチルプレドニゾロン,ビンクリスチン,lomustine,プロカルバジン,ハイドロキシウレア(髄芽腫には保険適応外),シスプラチン,シタラビン,シクロホスファミドの8 種類の薬剤を1 日に投与する化学療法
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radio-therapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。CQ6 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの9 文献,EFS アウトカムの13 文献,有害事象・QOL アウトカムの10 文献を採用した。
❖ 文献
- 1)
- Evans AE, Jenkin RD, Sposto R, et al. The treatment of medulloblastoma. Results of a prospective randomized trial of radiation therapy with and without CCNU, vincristine, and prednisone. J Neurosurg. 1990;72(4):572-82.[PMID:2319316]
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- Gajjar A, Chintagumpala M, Ashley D, et al. Risk-adapted craniospinal radiotherapy followed by high-dose chemotherapy and stem-cell rescue in children with newly diagnosed medulloblastoma(St Jude Medulloblastoma-96):long-term results from a prospective, multicentre trial. Lancet Oncol. 2006;7(10):813-20.[PMID:17012043]
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- 11)
- Kortmann RD, Kühl J, Timmermann B, et al. Postoperative neoadjuvant chemotherapy before radiotherapy as compared to immediate radiotherapy followed by maintenance chemotherapy in the treatment of medulloblastoma in childhood:results of the German prospective randomized trial HIT’91. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;46(2):269-79.[PMID:10661332]
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- CQ7
- 3 歳未満の群にはどのような術後治療が推奨されるか?
- 推奨度2D
- 推奨1
乳幼児の髄芽腫において,転移がなくdesmoplastic nodular/extensive nodularity サブタイプの患者群では,放射線治療を行わず,メトトレキサート(脳室内または髄腔内投与を含む),白金製剤,アルキル化剤,ビンクリスチン,エトポシドを中心とした多剤併用化学療法による術後治療を提案する。
- 推奨度2C
- 推奨2
Desmoplastic nodular/extensive nodularity 以外の組織学的サブタイプおよび転移がある場合は,標準的な後治療は確立されておらず,上記の治療に大量化学療法や局所放射線療法を組み合わせた強化治療を行うことを提案する。
解説
3~4 歳未満の乳幼児の髄芽腫治療において,放射線治療,特に全脳脊髄照射(CSI)の,精神運動発達に及ぼす影響は甚大であり,乳幼児の治療戦略として,CSI は選択肢にはなりにくい。治療選択肢の限界と,腫瘍の持つ治療抵抗性の特性が合わさり,全体として乳幼児の髄芽腫は再発死亡リスクが高いと考えられてきた。しかしながら,病理亜分類および分子生物学的特性から,乳幼児の髄芽腫の中には,放射線治療を行わず,または局所放射線治療のみで,長期生存が可能な一群が存在することが明らかになった。したがって,乳幼児髄芽腫においてもリスク分類を行い,それぞれの群で益と害のバランスを考慮して術後治療の推奨を行う。
1990 年代に米国とフランスで,放射線治療を回避し多剤併用化学療法のみで初期治療を行った臨床試験が行われた。フランスのSFOP では,カルボプラチンおよびプロカルバジン,エトポシドおよびシスプラチン,ビンクリスチン,シクロホスファミドの3 種の化学療法を術後に7 サイクル行う単アーム第Ⅱ相試験が行われた。5 歳未満の79 人が登録され,全体の5 年PFS は残存なし(R0)転移なし(M0)群73%,残存あり(R1)M0 群で41%,残存問わず(Rx)転移あり(M+)群で13%であった1)。また,米国CCG-9921 試験は。3 歳未満のあらゆる悪性脳腫瘍を対象としたランダム化第Ⅱ相試験で,術後に2 つの多剤併用化学療法レジメン,レジメンA:ビンクリスチン,シスプラチン,シクロホスファミド,およびエトポシドの組み合わせ,またはレジメンB:ビンクリスチン,カルボプラチン,イホスファミドおよびエトポシドのいずれかに割り付けられ両群とも5 コースの化学療法が行われた。治療開始前に転移がなく化学療法後に残存腫瘍がなかった患者は放射線治療を行わず治療終了,転移がなく残存があった症例はその時点で生後18カ月以上ならCSI と局所放射線治療,18 カ月未満は局所放射線治療のみを行い治療終了,転移症例はCSI と局所放射線治療を行って治療終了した。髄芽腫92 例の5 年無イベント生存割合(EFS)は32%であった。レジメンA 群とB 群の5 年EFS はそれぞれ37%と26%と有意差は認めなかった2)。
同時期にドイツでは,乳幼児髄芽腫に対して,メトトレキサート脳室内投与を含んだ多剤併用化学療法の単アーム第Ⅱ相臨床試験が行われた(HIT-SKK1992)。43 人の3 歳未満の髄芽腫に,術後カルボプラチン,シクロホスファミド,ビンクリスチン,エトポシドの全身投与に加え,メトトレキサート脳室内投与と大量メトトレキサート療法を加えた9 週間サイクルの化学療法を3 回行った。初期治療で放射線治療は行わなかった。全体の5 年EFS は58%であった。R0M0,R+M0,RxM+群の5 年EFS はそれぞれ,82%,50%,33%であった。既知の転移の有無に加え,乳幼児の髄芽腫の組織学的サブタイプが強力な予後因子であることが本試験で明らかになった。Desmoplastic nodular type とclassic type の5 年EFS はそれぞれ85%と34%と有意差を認め,組織学的サブタイプが独立したリスク因子であった3)。さらに後継レジメンHIT2000 においても同様の結果が確認され,メトトレキサート脳室内投与を予定通り投与できた患者の方が,投与量が少なかった患者よりも予後が良いという結果が報告された4)。メトトレキサート脳室内投与の神経毒性は懸念されるが,HIT2000 で同治療を受けた評価可能な202 例の小児髄芽腫患者中,神経毒性を認めたのは9 例であった4)。
米国COG は,3 歳未満の転移のない乳幼児髄芽腫74 例に対して,化学療法と局所放射線治療を組み合わせる臨床試験(P9934)を行った。シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を4 コース行ったあと,残存腫瘍にはセカンドルック手術を推奨し,局所放射線治療を行い,シクロホスファミド,ビンクリスチン,経口エトポシドによる維持療法を行った。全体の4 年EFS は50%であった。ここでも,desmoplastic nodular type とそれ以外の組織サブタイプでは,4 年EFS がそれぞれ58%,23%と有意差を認めた5)。
国際的な臨床試験Head Start では,乳幼児の悪性脳腫瘍に対して,放射線治療を行わず自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を試みてきた。3 歳未満の転移のない髄芽腫21 例に対して,シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を5 コース行った後,セカンドルック手術を推奨し,チオテパ,カルボプラチン,エトポシドによる自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を行った。全体の5 年EFS は52%であった。R0 とdesmoplastic nodular type は予後良好の傾向を認めた6)。また米国のCCG-99703 パイロット試験では,髄芽腫を含む複数の3 歳未満の乳児脳腫瘍を対象に,シスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,ビンクリスチンによる化学療法を3コース行った後,チオテパ,カルボプラチンによる自己造血幹細胞救済を伴う大量化学療法を地固め療法として3 コース行う治療法の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験が行われた。チオテパの投与量はさまざまであり,副次的評価項目ではあるが,36 例の髄芽腫の5 年EFS は60%であった。病理中央診断できた32 例中14 例がdesmoplastic/nodular type であり,その5 年EFS は79%であった7)。
米国St. Jude 小児病院と米国と豪州合計6 施設で行われた,3 歳未満の髄芽腫を,M0 のdesmoplastic nodular type を低リスク,M0 のその他の組織型の髄芽腫を中間リスク,M+を高リスクと分類した。寛解導入化学療法は大量メトトレキサート療法,ビンクリスチン,シクロホスファミド(高リスクのみビンブラスチン追加)を4 コース行った。強化療法として,低リスクは放射線治療を省略し,追加のカルボプラチン,シクロホスファミド,エトポシドを2 コース行った。中間リスクは54 Gy の局所放射線治療を行い,高リスクはトポテカンとシクロホスファミドを2 コースまたは3 歳を超えてのCSI を行った。その後,シクロホスファミド,トポテカン,エルロチニブによる内服維持療法を6 サイクル(24 週間)行った。低リスク群は,23 例が試験治療を行ったが,中間解析結果では,1 年EFS が78.3%と低く登録中止となり,5 年EFS は55.3%であった。中間リスクは16 例が試験治療を行い,5 年EFS は24.6%であった。高リスクは26 例が試験治療を行い,5 年EFS が16.7%であった8)。
これらのエビデンスより,RT による発達や認知機能への影響という害がより大きくなる乳幼児の髄芽腫において,転移がなくdesmoplastic nodular/extensive nodularity サブタイプの患者群では,放射線治療を行わず,メトトレキサート髄腔内投与を含む,白金製剤,アルキル化剤,ビンクリスチン,エトポシドを中心とした多剤併用化学療法による術後治療を提案する。一方,それ以外の組織学的サブタイプおよび転移がある場合は,標準的な後治療は確立されておらず,上記の治療に大量化学療法や局所放射線療法を組み合わせた強化治療を行うことを提案する。
- 注意:
- カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
プロカルバジン(procarbazine):髄芽腫に対しては保険適応外
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫に対しては保険適応外
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
イホスファミド(ifosphamide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫に対しては保険適応外
チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
イリノテカン(irrinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
エルロチニブ(erlotinib):髄芽腫に対しては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])))AND((((((((drug therapy[MeSH Terms])OR drug therapy)OR drug therapies)OR chemotherapy)OR chemotherapies)OR pharmacotherapy)OR pharmacotherapies)OR(((((((((radiotherapy[mesh])OR radiotherapies)OR radiation therapy)OR radiation therapies)OR radiotherapy)OR targeted radiotherapy)OR targeted radiotherapies)OR targeted radiation therapy)OR targeted radiation therapies)OR(((((((((antineoplastic agents[mesh])OR antineoplastic drugs)OR antineoplastics)OR chemotherapeutic anticancer drug)OR cancer chemotherapy agents)OR chemotherapeutic anticancer agents)OR anticancer agents)OR antitumor drugs)OR antitumor agents))))AND clinical study[pt])AND 1900/7/1:2018/12/31[dp])
以上の髄芽腫治療に関連するキーワードを用いた検索式(CQ5~7 共通)にて,276 文献を抽出した。系統的一次検索で205 文献が抽出された。二次スクリーニングで40 文献をCQ5~7 のエビデンスとして採用した。乳幼児髄芽腫の臨床試験は対象年齢の上限が,試験によって異なり,3 歳未満から5 歳未満と幅があるが,希少疾患で臨床試験報告論文の数が限られるため,CQ7 のシステマティックレビューでは5 歳未満までを含めた。CQ7 のシステマティックレビュー後,さらなる検討を行い最終的にOS アウトカムの8 文献,EFS アウトカムの8 文献,有害事象・QOL アウトカムの7 文献を採用した。
❖ 文献
- 1)
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- CQ8
- 局所再発時の適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨1
髄芽腫の局所再発に対し,腫瘍の進行の抑制と生命予後の改善を期待し,化学療法を実施することを提案する。
- 推奨度2D
- 推奨2
髄芽腫の局所再発に対し,摘出が安全に行いうる場合や摘出により症状の改善が期待できる場合等に,外科治療を提案する。
- 推奨度2D
- 推奨3
放射線治療は初期治療で放射線を使用しなかったか減量されている場合等に,個々の状況に応じて緩和的にまたは根治的に実施することを提案する。
解説
初発髄芽腫の治療成績は,外科治療と化学療法および放射線療法の組み合わせにより,標準リスク群で5 年無イベント生存割合(EFS)70~80%程度,また高リスク群では35~70%程度,乳児症例における5 年無病生存割合(DFS)30~50%程度で,治療法の改良により初回治療後の寛解期間は延長してきている1-11)。これに対し再発髄芽腫に対する標準的な治療法は確立されておらず,その長期生存率は不良であることから,再発髄芽腫に対する治療は臨床上重要な課題である。
報告されている再発治療の有効性については,10 年生存率で見た場合に多剤化学療法で24%,放射線治療で45%(標準リスク群)といったデータが参考になる1,12)。また,再発形式として後頭蓋窩局所再発はむしろ少なく,HIT-91 の再発40 例では播種性再発が32 例(80%)となっている13)。播種性再発や高リスク群での再発,外科切除不能例,放射線治療施行後の再発症例では,再発後の治療を強く支持する研究データは得られていない。しかしながら再発後の無治療で経過観察された場合には,生命にかかわる急速な症状悪化を招きかねず,再発病変に対する治療に対する患者や家族の希望は強いため,緩和医療も含めた包括的な治療計画が望まれる。
再発治療において,過去に報告された医学データを利用するにあたり,試験の対象(髄芽腫のみか他の腫瘍型が含まれているか),リスク分類,再発形式(局所再発または播種性再発),初回化学療法や放射線治療の違い等に着目した。本ガイドラインでレビューの対象とした441 文献の中で,化学療法に関する介入研究は12 文献のみであった14-25)。このうち,10 文献が単アーム試験,2 文献がそれぞれ異なる薬剤の比較であり,プラセボを対象とした比較試験は行われていない。さらに,対象症例については,3 文献が髄芽腫のみ,9 文献は原始神経外胚葉腫瘍(primitive neuroectodermal tumor:PNET)をはじめとした他の小児脳腫瘍型を含み,検討の対象となる症例数は極めて限られていた。また,治療においては,多くの試験で化学療法に加えて放射線治療や外科治療が併用され,治療介入の方法は不均一であった。さらに,初回治療において放射線治療が行われている場合とそうでない場合では,再発時の治療法や予後に違いがみられることが想定される。このように,均質で十分な医学データが得られてないことを考慮したうえで,腫瘍の制御率ならびにOS の延長を重視した解析を行った。また,髄芽腫の局所再発に対する外科治療や放射線治療に関しては,前方視的臨床試験の報告がなく,特定の条件下での治療について強い推奨をもたらすものではない。そのため本CQ では,上記介入研究12 文献以外にも,診療上参考になる文献について記載することとした。
髄芽腫の局所再発に対する単剤化学療法については,高用量チオテパ,テモゾロミド,パクリタキセルといった薬剤の有効性が2 つの試験で報告されている14,25)。これら2 試験の対象となった症例の約9 割が初回治療で放射線治療を併用していた。Osorio らは,再発髄芽腫26 例に対し高用量チオテパ(200 mg/m2/day)を3 日間投与したのちに自家造血幹細胞移植を行い,4 週間以降に再投与する治療法で,5 例に45 カ月以上の生存を確認,OS 中央値11.7 カ月であったと報告している25)。この試験は髄芽腫以外の複数の異なる腫瘍型の再発も対象として含まれており,全体の治療関連死は3.4%にみられた。Cefalo らの報告では,初回治療で大量化学療法や全脳脊髄照射(CSI)が行われているか否かによりテモゾロミド150・180・200 mg/m2/day の3 種類の投与量を設定し,28 日ごとに5 日間経口投与した14)。37 例(脊髄播種病変あり7 例,遠隔転移あり30 例)のresponse rate は42.5%,6 カ月PFS 30%,12 カ月PFS 7.5%であり,PNET 5 例を含めた解析で1 年OS は41.2%,治療関連死はなく,グレード3~4 の血液毒性が2 割の患者に認められた。またHurwitz らの髄芽腫再発16 例に対するパクリタキセルの報告によれば,350 mg/m2/day を3 週間ごとに投与する方法で,CR 1 例,SD 6 例,PD 9 例であり,無増悪生存期間(PFS)は2.9 カ月であった19)。この試験は複数の異なる腫瘍型の再発を対象とし,全体の有害事象はグレード3 のアレルギー反応1 例と敗血症7 例のほか,治療関連死1 例,脳幹圧迫ある髄芽腫で痙攣後の死亡が1 例みられた。
多剤化学療法についてDunkel らは,25 例の再発髄芽腫に対する自家造血幹細胞移植を併用したカルボプラチン,チオテパ,エトポシドの大量化学療法レジメンを報告した17)。カルボプラチンは造血幹細胞移植の8 日前から500 mg/m2で開始し,3 日間使用したのち,チオテパ300 mg/m2/day およびエトポシド250 mg/m2/day が投与された。この治療での成績は10 年EFS 24%,10 年OS 24%,OS 中央値が26.8 カ月,6 例は151.2 カ月(中央値)増悪なく生存した。治療関連死は3 例(14%)であった。またDupuis-Girod らは,CSI を回避した初回治療時3 歳未満の髄芽腫再発20 例に対するブスルファンとチオテパのレジメンを報告した22)。ブスルファンを150 mg/m2/day で4 日間経口投与したのちチオテパ300 mg/m2/day を3 日間使用して自家造血幹細胞移植を行った。外科治療を追加した4 例を除く16 例の解析で(後頭蓋窩局所再発9,脊髄再発および髄液播種3,両方を認めるもの4),CR が4 例(25%)認められ,RR は75%と良好な結果が示されており,治療関連死を1 例認めた。この試験では幹細胞移植後36 例において放射線治療が併用されている。イリノテカンについては,髄芽腫再発9 例に対するベバシズマブとの併用治療について後方視的研究で,PFS 11 カ月,OS 13 カ月,6 カ月時点でのPR 3 例,CR 1 例と報告されている26)。イリノテカンはテモゾロミドとの併用療法での第Ⅱ相試験も報告されているが,66 例の再発例に対しCR2,PR13,生存期間中央値16.7 カ月であり,期待された結果は得られていない27)。
Müller らはHIT-REZ 試験において,初回治療として外科的摘出と化学療法のみ行い,放射線治療を回避した乳幼児17 例に対して,完全寛解後初回再発時の治療としてCSI および局所放射線治療を行った結果を報告している28)。CSI は35.2 Gy(23.4~40.0 Gy)および後頭蓋窩ブースト55.0 Gy で行われ,カルボプラチンやエトポシドを使った化学療法が併用された。17 例の治療成績はPFS 2.9±1.1 年,OS 3.8±0.8 年,5 年PFS 40%,5 年OS 39%であった。6 例の局所再発,11 例の遠隔再発(髄液細胞診陽性1 例,脊髄病変あり3例,遠隔転移あり3 例,脊髄病変と遠隔転移あり3 例)の治療成績は局所再発例と遠隔転移例それぞれ3 年PFS 67%±19%および36%±15%(log-rank,p=0.948),3 年OS 67%±19%および55%±15%(log-rank,p=0.914)であり,有意差は認められていない。この報告では,大量化学療法やメトトレキサート髄注療法もCSI と併用または前後して行われていていることから,放射線治療単独の効果を示すものではないが,初回治療で放射線治療を回避した乳幼児髄芽腫の初回再発に対し,放射線治療の効果を示唆するデータとして重要である。
初回治療で放射線を併用した再発髄芽腫症例については,Bakst らが13 例の初期治療で放射線治療を行っている髄芽腫再照射治療を報告している29)。再照射の内訳は後頭蓋窩46%,テント上・全脳31%,脊髄23%,全脳全脊髄8%であり,外科治療や化学療法が併用されている。治療は局所分割照射とIMRT がほぼ同数で行われ,CSI 18 Gy およびブースト12 Gy が使用された。照射後の急性期障害は認めず,観察期間内(中央値30 カ月)に無症候性の放射線壊死が1 例認められた。治療成績は5 年DFS 48%,5 年OS 65%と一定の治療効果が得られた。この研究では,異なる照射部位に対し局所または拡大照射が行われており,再発形式について詳細な記載はないため再発腫瘍全般での再照射治療の効果については結論できない。しかしながら,局所再発や限局的な遠隔再発に対し再照射治療を行う場合には参考となる報告である。
Wetmore らは,初回治療で手術および化学放射線治療を行った再発髄芽腫38 例中14 例に再照射を行った結果,5 年OS 55%±14%(vs. 33%±16%)および10 年OS 46%±14%(vs. 0%)ともに,非照射例に対し有意に生存期間が上回ったと報告した(p=0.036)12)。CSI 36 Gy(総線量18~54 Gy/1 日線量1.5~2 Gy)と局所照射が併用され,総線量の中央値は91.9 Gy(73.8~109.8 Gy)であった。再照射14 例の放射線壊死は9/14 例(64%)であったのに対し,非照射例では7/24 例(29%)と有意な増加を認めたが(p=0.0468),無症候性であったため追加の治療は行われていない。標準リスク11 例および高リスク4 例の生存期間はそれぞれ5.39 年と4.94 年であった。初回治療から10 年生存した割合は標準リスク群45%,高リスク群0%であり,再治療でのリスクを考慮したうえで,特に標準リスク群では再発に対しては再照射の有効性が期待できる結果である。
髄芽腫の局所再発に対する外科治療についてOS 延長を直接証明した報告はなく,評価も一定していない。Sabel らは標準リスク群の髄芽腫を対象としたHIT-SIOP PNET4 試験の初回再発72 例の解析を行っている30)。うち18 例(25%)に外科的切除が行われ,その再発部位の内訳は後頭蓋窩単発6 例,脊髄またはテント上5 例,脳脊髄多発7 例であった。再発72 例全体の3 年OS および5 年OS はそれぞれ20±5%,6.0±4%であり,外科的切除(p<0.01)ならびに後頭蓋窩局所再発(p<0.01)はともに独立した予後因子であった。局所再発の外科治療については,侵襲性や化学療法・放射線治療の成績も考慮したうえで,摘出が安全に行える場合,摘出により症状の改善が期待できる場合など個々の症例の状況に応じた適応判定を行うべきである。
以上のことから,髄芽腫の局所再発に対して化学療法の効果が一部示されており,症例の状況に応じて放射線治療の併用を考慮できる。また,大量化学療法における治療関連死,放射線治療における晩期障害について注意する必要がある。小児患者の尊厳を含めた倫理的判断に基づき,治療によるリスクや侵襲性を十分に考慮した包括的な適応判断がなされることが望ましい。
- 注意:
- チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
テモゾロミド(temozolomide):髄芽腫に対しては保険適応外,ユーイング肉腫に対してイリノテカンとの併用で保険承認
パクリタキセル(paclitaxecel):髄芽腫,小児固形腫瘍に対しては保険適応外
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
ブスルファン(busulfan):髄芽腫に対しては保険適応外,ユーイング肉腫ファミリー腫瘍及び神経芽細胞腫における自家造血幹細胞移植の前治療としては保険承認適応
イリノテカン(irrinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
ベバシズマブ(bevacizumab):髄芽腫,小児固形腫瘍に対しては保険適応外
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫,小児悪性腫瘍対しては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab]))))AND(((((((Neoplasm Recurrence,Local[mh]OR Neoplasm, Residual[mh]OR Neoplasm Seeding[mh]OR Recurrence [mh])))OR(((Local[tiab]OR Locoregional[tiab])AND(Neoplasm Recurrence[tiab]OR Neoplasm Recurrences[tiab]))))OR(((minimal[tiab]and residual[tiab]and(disease[tiab]OR diseases[tiab]))OR(residual[tiab]AND(neoplasm[tiab]OR neoplasms[tiab])))))OR((neoplasm[tiab]and seeding*[tiab])))OR((Recurrences[tiab]OR Recrudescence[tiab]OR Recrudescences[tiab]OR Relapse[tiab]OR Relapses[tiab]OR Regrowth[tiab])))))AND((“Epidemiologic Study Characteristics”[Mesh]OR “Statistics as Topic”[Mesh]OR “Clinical Study”[Publication Type]))))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により検索された441 文献のなかから介入研究12 文献を抽出して内容を確認し,Minds 2014 に基づいて定性的システマティックレビューを行った。作成した評価シートからエビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
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- CQ9
- 播種再発に対する適切な治療法は何か?
- 推奨度2D
- 推奨
寛解を目的とした治療を目指すが,治療反応性が不良の場合は,緩和的治療も提案される。
解説
髄芽腫において再発の場合は局所再発と播種再発が認められるが,MRI を撮影する時期がずれれば,必ずしも正確な鑑別ができない場合がある。原発巣近傍の再発が認められ,なおかつ播種も認められる場合は,原発巣の再発から播種したのではないかという可能性もあるが,原発巣近傍に局所再発が認められずに播種再発だけ認められた場合は,初回治療の早い時期にすでに播種しており,後療法抵抗性の腫瘍細胞が播種していた場所で残存し,再発したと予想される。Hsieh ら1)は,髄芽腫12 例の脊髄播種症例を術前,術後1 カ月以内で,放射線治療や化学療法以前に認められた播種症例をearly metastasis 群(9 例),放射線治療や化学療法を含むすべての初期治療終了後に播種再発した症例をlate metastasis 群(3 例)に分けて解析しているが,early metastasis 群が統計学的に有意に予後良好(p=0.0047, log-rank test)という結果であった。Late metastasis 群が予後不良の理由としては,late metastasis としての播種再発は,初期治療抵抗性の腫瘍細胞の残存が再発の起源になっている可能性が高いと考えられる。髄芽腫の播種再発は局所再発に比べて予後不良かという問題に関しては,Bowers ら2)が,治療後の再発形式で予後を比較している。彼らは41 例の髄芽腫再発症例において,21 例の原発巣の部位だけの再発群と20 例の局所再発群と播種を伴う再発群の生存予後を比較している。手術,化学療法,放射線療法と再発後の治療はばらつきがあるものの,彼らの解析では,初期治療にてBaby POG protocol(POG infant brain tumor regimen/シクロホスファミド,ビンクリスチン,シスプラチン,エトポシド)を受けているかどうか(p=0.030,log-rank test),再発時に播種なく原発巣だけの局所再発だけかどうか(p=0.008,log-rank test),再発時には放射線治療を加えているかどうか(p=0.015,log-rank test)ということが有意に生存を延長させる因子であったが,多変量解析の結果では,原発巣の場所における局所再発(21 例)という因子だけが,播種を伴う症例(20 例)に比べて明らかに生存が延長しており(p=0.03),独立した予後良好因子であった。さらに,局所再発と播種再発を生物学的に異なるものとして区別すべきかという問題はあるが,近年髄芽腫の分子生物学的分類が提唱されて後,Ramaswamy ら3)は3 つのコホート研究を集計した。髄芽腫分子生物学的分類4 型のそれぞれの再発形式では,Sonic Hedghoc(SHH)型は他の型に比べて局所再発が多く,播種再発が少ないという結果であった。局所再発と播種の両方もあるMixed な再発形式もSHH 型は少ないことから,生物学的に他のグループより局所に再発しやすい,もしくは播種しにくいということは言えるかもしれない。しかしWNT 型は再発が少なくてこの研究では解析されていない。
髄芽腫の再発治療においては,一般的に局所再発だけであれば手術という選択肢も可能な場合があるが,播種を伴う再発であればほとんど外科的介入はなく,他の治療に委ねられる場合が多い。初期治療として放射線治療を行っている場合,salvage therapy としての再照射を行う可能性は存在するものの4,5),全例に施行可能とは言いがたく,一般的ではない。Bakst ら5)は初期治療にて放射線照射を行っている髄芽腫症例に対して再発時に再照射を行った13 例を検討している。再照射の中央線量は30 Gy,1 回線量中央値は1.5 Gy であり,54%の症例において強度変調放射線治療が使用されていた。13 例の5 年PFS は48%,5 年OS は65%であり,放射線障害による急性期障害,急死や,二次がんは観察期間中には認められておらず,放射線壊死が1 例,38%に聴力障害,15%に下垂体機能不全,1 例に認知機能障害の有害事象が認められたと報告している。しかし,この治療成績は放射線治療単独ではなく,再発時の手術や化学療法と併用しており,また,局所再発と播種再発の治療成績を区別していないために,播種再発で放射線治療の再照射の有用性を正確には評価できない。現時点では,播種再発症例において初期治療で放射線照射を施行していない場合では,積極的に再発時放射線照射ということが選択肢になるが,すでに放射線治療を行っている症例の再発時の再照射は再発腫瘍のコントロール,有害事象の面からも積極的に推奨できないと思われる。
再発時の化学療法においては一般的な化学療法に加えて,末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法などのintensive な治療の報告も多数ある6-9)。しかしながら,レジメンとして統一したものではなく,主にカルボプラチン,エトポシド,チオテパ,シクロホスファミド,メルファラン,carmustine(BCNU),lomustine(CCNU)など使用されている場合が多い。Gilman ら6)は18 例の再発髄芽腫の患者に対して連続した大量化学療法(First cycle:チオテパ600~750 mg,BCNU 300~450 mg,Second cycle:チオテパ600~750 mg,カルボプラチン1,200 mg)による治療を行っているが,局所再発と播種再発の治療成績の区別はない。しかし,18 例中15 例が播種再発であり,播種再発の割合が高い報告である。末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法の予後不良因子として一般的に播種再発があるといわれているが,彼らは必ずしも播種再発が予後不良因子とは結論づけておらず,播種再発例における生存率は,33%(15 例中5 例,観察期間54~135 カ月)という治療成績であった。8 例において何らかの治療関連死亡が認められており,比較的高頻度な有害事象と思われる。いくつかの報告をまとめても,現時点で有害事象も併せて考え,播種再発において必ずしも末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法が必須とは言い難い。さらに大量化学療法の中でも最も優れたレジメンを同定しがたく,また,欧米と本邦では保険制度等の違いから使用できる薬剤が異なっており,今後本邦での臨床研究を通じた使用薬剤の適応拡大が待望されている。Kim ら10)は5 種類の通常量の化学療法剤を使用したsalvage therapy として7 例の脊髄播種症例を含む再発小児悪性腫瘍に対する化学療法の有効性を検討している。イリノテカン300 mg/m2,ビンクリスチン2 mg/m2,シスプラチン60 mg/m2,シクロホスファミド1,000 mg/m2,エトポシド100 mg/m2の薬剤を使用しているが,大量化学療法より副作用は軽微であり,3 例がCR,2 例がPR という比較的良好な治療反応性を認めている。しかし6 例がPD であり,この結果からはいかに多くの薬剤を使用した多剤併用化学療法を行っても通常の量では,播種再発の髄芽腫をコントロールすることは困難であるとの印象である。
21 例の播種再発髄芽腫に対して,Yoshimura ら11)は6~7 mg/m2のニムスチンの髄腔内灌流もしくは3~3.5 mg/m2の髄腔内投与を行っている。約50%の症例において反応が認められ,21 例中7 例がCR となり,比較的長期の生存を獲得している。播種確認後の5 年生存率は46.4%であり,彼らは播種が存在する髄芽腫患者の治療法において化学療法剤の髄腔内投与の有効性を示している。この治療法による副作用として灌流療法による副作用はほとんどみられていない一方,髄腔内投与(Bolus injection)に関しては脊髄炎が認められた症例があり,頻回の投与と局所的に薬剤が高濃度になることは避けるべきと言及している。現在,髄芽腫の初期治療において,予防的,あるいは腫瘍縮小を目的としてメトトレキサートの髄腔内投与を行うことも多いが,播種再発に化学療法剤の髄腔内投与が有効な治療かどうかは報告が少なく,現時点ではその有効性は判断できない。播種再発の症例において治癒を目指してさまざまな治療を行ったとしても,現存の治療では有効性があるとは言い難いとも報告されている。Massimino ら4)は播種再発が認められた髄芽腫症例にシスプラチンとエトポシドを用いた標準的化学療法(6 例),もしくはエトポシド,シクロホスファミド,ビンクリスチン,カルボプラチン,チオテパなどを用いた大量化学療法(10 例)を施行し,さらに7 例は全脳脊髄照射(CSI),3 例は局所照射を行うというintensive な治療を行った。DFS 中央値は16 カ月,OS 中央値は41 カ月,3 年DFS が19%,3 年OSが56%という治療成績であり,観察期間での生存例は1 例のみであった。これらの結果を鑑み,彼らは別の報告で髄芽腫の再発症例に対しできるだけ短い入院期間を目指し,QOL を重視した再発の治療を推奨している12)。彼らは18 例の再発の髄芽腫患者の治療後,17 例に再再発が認められ,16 例は播種病変を確認されている。3 回目の再発10 例中9 例が播種再発であり,全例に化学療法が施行されているが,手術や放射線治療が行われたものはない。本報告の再発症例全例の入院期間は4 日から129 日(平均19 日)であり,治療による有害事象がなかったと報告している。治療成績においては,8 例の再発髄芽腫の症例の平均DFS は7 カ月,平均OS も7 カ月であり,最終的には全例死亡している。以上より,播種再発は局所再発と比較してやはり予後不良であると考えるべきである。
髄芽腫の播種再発に対しては,現存の治療にて治癒できる症例は稀と言わざるを得ない。対象が小児であるがゆえに積極的な治療を行うべきと考える一方で,QOL を保ちながら緩和的な治療を導入することも重要であると考えられる。
- 注意:
- シクロホスファミド(cyclophosphamide):神経腫瘍の自覚的ならびに他覚的症状の寛解として保険適応
ビンクリスチン(vincristine):小児脳腫瘍に対して保険適応
シスプラチン(cisplatin):小児悪性脳腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシド点滴静注(etposide):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
エトポシドカプセル(etposide capsule):髄芽腫,小児悪性固形腫瘍には保険適応外
カルボプラチン(carbplatin):小児悪性固形腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用として保険適応
チオテパ(thiotepa):小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療として保険適応
メルファラン(melphalan):小児固形腫瘍の造血幹細胞移植時の前処置として保険適応
carmustine(BCNU):国内未承認
lomustine(CCNU):国内未承認
イリノテカン(irinotecan):小児悪性固形腫瘍として保険適応
メトトレキサート(methotrexate):髄芽腫,小児悪性腫瘍対しては保険適応外
ニムスチン(nimustine:ACNU):脳腫瘍に対する自覚的ならびに他覚的症状の緩和として静脈内投与は保険適応,髄腔内投与薬としては保険適応外
システマティックレビュー結果
<検索式>
(((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])AND(Neoplasm Recurrence, Dissemination[Mesh]OR Neoplasm Seeding[Mesh]))OR((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])AND(Multiple Recurrence[Mesh]OR Dissemination[Mesh]))OR((Medulloblastoma[Mesh]OR Medulloblastoma*[tiab]OR Melanocytic Medulloblastoma*[tiab]OR Childhood Medulloblastoma*[tiab]OR Medullomyoblastoma*[tiab]OR Desmoplastic Medulloblastoma*[tiab])OR(Neoplasm Recurrence[Mesh]OR Neoplasm Recurrences[tiab]OR Recurrences[tiab]OR Relapse[tiab]OR Relapses[tiab]OR Regrowth[tiab])))AND 1900/01/01:2018/12/31[dp]
以上の検索式により抽出された641 文献のなかから,できるだけ播種再発を多く含む症例の24 文献を抽出し,システマティックレビューを行い,構造化抄録を作成した。さらにその中で局所再発でも同様な治療を行うもの,また症例数が少ないものなどを排除し,最終的に12 文献を取り上げて,解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Hsieh PC, Wu CT, Lin KL, et al. The clinical experience of medulloblastoma treatment and the significance of time sequence for development of leptomeningeal metastasis. Childs Nerv Syst. 2008;24(12):1463-7.[PMID:18802711]
- 2)
- Bowers DC, Gargan L, Weprin BE, et al. Impact of site of tumor recurrence upon survival for children with recurrent or progressive medulloblastoma. J Neurosurg. 2007;107(1 Suppl):5-10.[PMID:17644914]
- 3)
- Ramaswamy V, Remke M, Bouffet E, et al. Recurrence patterns across medulloblastoma subgroups:an integrated clinical and molecular analysis. Lancet Oncol. 2013;14(12):1200-7.[PMID:24140199]
- 4)
- Massimino M, Gandola L, Spreafico F, et al. No salvage using high-dose chemotherapy plus/minus reirradiation for relapsing previously irradiated medulloblastoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2009;73(5):1358-63.[PMID:19019566]
- 5)
- Bakst RL, Dunkel IJ, Gilheeney S, et al. Reirradiation for recurrent medulloblastoma. Cancer. 2011;117(21):4977-82.[PMID:21495027]
- 6)
- Gilman AL, Jacobsen C, Bunin N, et al. Phase Ⅰ study of tandem high-dose chemotherapy with autologous peripheral blood stem cell rescue for children with recurrent brain tumors:a Pediatric Blood and MarrowTransplant Consortium study. Pediatr Blood Cancer. 2011;57(3):506-13.[PMID:21744474]
- 7)
- Park JE, Kang J, Yoo KH, et al. Efficacy of high-dose chemotherapy and autologous stem cell transplantation in patients with relapsed medulloblastoma:a report on the Korean Society for Pediatric Neuro-Oncology(KSPNO)-S-053 study. J Korean Med Sci. 2010;25(8):1160-6.[PMID:20676326]
- 8)
- Dunkel IJ, Gardner SL, Garvin JH, Jr., et al. High-dose carboplatin, thiotepa, and etoposide with autologous stem cell rescue for patients with previously irradiated recurrent medulloblastoma. Neuro Oncol. 2010;12(3):297-303.[PMID:20167818]
- 9)
- Gururangan S, Krauser J, Watral MA, et al. Efficacy of high-dose chemotherapy or standard salvage therapy in patients with recurrent medulloblastoma. Neuro Oncol. 2008;10(5):745-51.[PMID:18755919]
- 10)
- Kim H, Kang HJ, Lee JW, et al. Irinotecan, vincristine, cisplatin, cyclophosphamide, and etoposide for refractory or relapsed medulloblastoma/PNET in pediatric patients. Childs Nerv Syst. 2013;29(10):1851-8.[PMID:23748464]
- 11)
- Yoshimura J, Nishiyama K, Mori H, et al. Intrathecal chemotherapy for refractory disseminated medulloblastoma. Childs Nerv Syst. 2008;24(5):581-5.[PMID:18057943]
- 12)
- Massimino M, Casanova M, Polastri D, et al. Relapse in medulloblastoma:what can be done after abandoning high-dose chemotherapy? A mono-institutional experience. Childs Nerv Syst. 2013;29(7):1107-12.[PMID:23595805]
- CQ10
- 髄芽腫に特徴的な晩期障害とそれをきたしやすい背景因子は何か?
- 推奨度1B
- 推奨1
無言症/後頭蓋窩症候群では学習機能が低下するので特に注意して経過を見ることを推奨する。
- 推奨度1C
- 推奨2
髄芽腫治療後に経時的に認知機能障害は進行し,特に高リスク群と低年齢(7 歳以下)でその傾向が強いので特に注意して経過を見ることを推奨する。
解説
髄芽腫治療の進歩によって長期生存が得られるようになると,さまざまな晩期障害が認められるようになった。小児がん患者全体を対象とした長期生存者に対する長期フォローアップの指標はいくつか発表されており,例えば海外のものではCOG のガイドライン(http://www.survivorshipguidelines.org)があり,国内でも日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group:JCCG)の小児がん長期フォローアップガイドがある。また,妊孕性に関しては日本癌治療学会のガイドライン(http://www.jsco-cpg.jp/fertility/)がある。髄芽腫治療後のフォローアップの指標としても参考となる。
今回はあくまで髄芽腫の治療による晩期障害に焦点をあてて推奨を作成した。晩期障害からみて,髄芽腫のフォローアップで特に注意すべき場合がどのような症例かを検討した。晩期障害に関する文献は,髄芽腫以外の小児脳腫瘍も含むものが多く,ほとんどが後方視的な検討であり,それらは参考として,本推奨は髄芽腫の治療による晩期障害の前方視的コホート研究を中心にまとめた。
1990 年代のPOG8631 の知的予後に関する報告1)は3 歳以上の髄芽腫で残存腫瘍が1.5 cm2未満の22 例において,全脳脊髄の照射量36 Gy/23.4 Gy と8.85 歳を基準としたyounger/older で4 群に分類し,IQ を比較したものである。症例数も少なくそれぞれの群間で有意差は出ておらず,また縦断的研究ではなく,ワンポイントでの評価ではある。いずれの群でも単にFull scale IQ が低下していることは示しているが,その原因が何であるのかには言及していない。この研究では評価方法としてはWISK ⅢもしくはWAIS-R をIQ の評価として用いており,学習能力評価としてWide Range Achievement Test Ⅲを用いている。
これ以降の論文でも,主にIQ の評価はWISK Ⅲ or ⅣとWAIS-R が用いられるが,そもそも髄芽腫患者の場合小脳失調症状を後遺することが多く,それがFull scale IQ の低下に影響している可能性も考える必要がある。したがって,純粋な認知機能低下の進行を捉えるためには,前方視的に縦断的に調査しIQ でもどの要素が変化していくのかを評価することが必要である。
2000 年代のCCG9892 の知的予後に関する結果2)は,3~15 歳で播種のない(標準リスク群)43 例で全脳脊髄照射(CSI)23.4 Gy+ブースト照射32.4 Gy,ビンクリスチン/lomustine(CCNU)/シスプラチンで治療した結果を,放射線治療後を起点に4 年後まで経時的に調査した結果である。評価方法は,WISK-R/WISC-Ⅲ/WPPSI-R/SB4/McCarthy とさまざまである。ここではFull Scale IQ が経時的に低下する(4.3/年)ことを示す一方で,男女差(女子の方がVerbal IQ 低下が大きい),診断時の年齢による差(7 歳未満では低下するが7 歳以上では低下しない),Baseline IQ での差(IQ>100 では低下の程度が大きい)などを示している。
2000 年代のもう一つの論文はSJMB96 に登録された症例のうち111 例での検討である3)。最大6 年(平均3.14 年)の経時的な認知機能評価を受けた。高リスク群(CSI:36~39.6 Gy)/標準リスク群(CSI:23.4 Gy)と診断時の年齢(7 歳以上/7 歳未満)で4 群に分類された。化学療法は4 サイクルの大量化学療法(シクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチン)が行われた。認知機能評価の初回は手術摘出後(登録時)で,その後1,2,5 年の段階で評価した。多変量解析の結果全体ではmean IQ(-1.59/y,p=.006),読み(-2.95/y,p<.0001),書き(-2.94/y,p<.0001),算数(-1.87/y,p=.003)とも低下したが,群間比較ではmean IQ は高リスク群では低下したが(-3.00/y,p=.004),標準リスクでは低下していなかった(-0.99/y,p=.13)(ただし2 群間に有意差はない)。また同様にmean IQ は7 歳未満群では低下したが(-3.05/y,p=.0005),7 歳以上群では低下しなかった(-0.61/y,p=.37)(2 群間に有意差あり)。治療線量より治療時年齢の方がIQ 低下の要素として強いと示された。ただし研究全体の規模からすると評価を受けた登録例は少なく,評価方法に関しても年齢によってさまざまであった。
2010 年代になるといくつかの前方視的コホート研究が発表されている。
1 つ目はCOG A9961 の標準リスク群に対する放射線治療(CSI 23.4 Gy/ブースト照射32.4 Gy)と大量化学療法(CCNU/シスプラチン/ビンクリスチン,またはシクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチン)後の知的・学業予後に関する報告4)である。登録全体379 例中110 例について5 年以上の経過で評価した。Baseline の評価は放射線治療から9 カ月以内に施行された。評価方法は,IQ に関してはWPPSI-R/WISC-Ⅲ/WAIS-R/WAIS-Ⅲを用い,学習能力評価にはWide Range Achievement Test Ⅲなどが用いられた。全症例をまとめたデータでFull Scale IQ は5 年間にわたり年間1.9 ポイント低下した。IQ および学習能力の低下は,男女差はなく,無言症の有無でFull Scale IQ とPerformance IQ およびReading で有意差があった。Baseline IQ の方が高い(IQ>100)方がFull Scale IQ 低下の程度が有意に大きく,診断時7 歳以上と7 歳以下では7 歳以下の症例のPerformance IQ 低下率が有意に高く,摘出率では全摘群の方が低下率は高いが有意差はなかった。
無言症の有無での評価はSJMB03 に登録された327 例中,後頭蓋窩症候群(主には無言症)を呈した36 例についての前方視的試験報告5)がある。SJMB03 治療は播種と脳幹浸潤がない例で,肉眼的全摘出された群を標準リスク群としてそれ以外を高リスク群とし,標準リスク群にはCSI 23.4 Gy,高リスク群にはCSI 36~39.6 Gy で局所55.8 Gy の放射線治療を行っている。放射線照射治療6 週後から,4 サイクルの高用量のシクロホスファミド/シスプラチン/ビンクリスチンからなる化学療法を施行した。同じ試験の登録例で後頭蓋窩症候群を呈さなかった例で年齢・人種・リスク分類・手術・性別を一致させた36 例を対照として,神経心理学的評価を経時的に1,3,5 年後に,知的能力の他に遂行速度,注意力,ワーキングメモリー,空間認知機能などさまざまな視点で評価した。後頭蓋窩症候群の有無によりbaseline からこれらの能力に差があるが,対照群が5 年間で不変なのに対し,後頭蓋窩症候群は不変もしくは低下しており有意差がみられた。この2 つの報告を合わせて評価シートを作成すると,後頭蓋窩症候群がある群とない群ではQOL や高次機能においてbaseline でも差があり5 年後さらに差が広がる,というエビデンスが示された。
遂行速度,注意力,ワーキングメモリーなどについて前方視的で縦断的に検討した報告6)もある。これは上記のSJMB03 の登録(この時点ではまだ318 例)から後頭蓋窩症候群を除き,その他の不適格例を除いた126 例の検討である。Baseline の機能の評価は手術後(登録直後)に行い,1,3,5 年後と経時的に前方視的試験で行われた。評価はWoodcock-Johnson Tests of Cognitive Abilities Third Edition, Woodcock-Johnson Tests of Achievement Third Edition を用いた。遂行能力はbaseline から低下しており,経時的変化は低年齢,高リスク群,baseline score が高い場合により低下する傾向にあった。計算式で推定すると,標準リスク群では診断時年齢6 歳では軽度低下がみられたが,10 歳では変化なく,14 歳では上昇・改善し,一方高リスク群では6 歳,10 歳では著明に低下したが,14 歳では低下がみられなかった。Baseline での遂行能力の低下は小脳失調を避けがたい疾患特異性の影響が考えられる。ワーキングメモリーや注意力はbaseline での低下はなく,経時的変化については高リスク群,baseline score が高い場合により低下する傾向にあった。
ここまで記載したものは北米からの報告だが,欧州からはHIT-SIOP PNET4 phase 3 European RCT の報告がある7)。標準リスク群の髄芽腫患者を過分割照射群(過分割群:1 日2 回1 Gy 照射,CSI 36 Gy,後頭蓋窩60 Gy)と標準分割照射群(標準分割群:1 日1.8 Gy 週5 日照射,CSI 23.4 Gy,後頭蓋窩54 Gy)にランダム化を行い,照射中のビンクリスチンと8 サイクルのCCNU/シスプラチン/ビンクリスチンを行った。認知機能については9 カ月寛解状態を得た137 例(過分割群71/107 例,標準分割群66/109 例)で平均3 年の経過で評価を行った。評価法はWISC を基本に各国によって評価法を選択した。年齢についても8 歳以上と以下で比較した。結果としてこの研究では治療法や年齢による有意な差は認められず,全体的にも経時的なIQ の低下はみられていない。北米の結果と異なり,IQ の低下を認めなかった理由として観察期間が短いことが影響している可能性はある。
陽子線治療によるQOL の変化を前方視的に観察したマサチューセッツ総合病院からの報告8)がある。評価法としてこれまでの報告と異なりPedsQL version4.0を用いており,self-report ができる年齢層が対象となった。2002~2015 年の登録例161 例中116 例で,平均5 年間の経過で評価を行った。この症例群には8 歳以上も以下もいて,標準リスクと高リスクもあり,また播種や後頭蓋窩症候群のある例ない例も含まれており,かなり雑多な集団である。評価はTCS(total core score)で行われるが,当初TCS が低かった児でも徐々に改善するが,最終的に健常小児と比較すると低い値であった。評価法として興味は惹かれるが,陽子線の影響を真に評価をするまでには至らない。
以上をまとめると,髄芽腫に対する治療によるIQ の低下は認めないという報告もある一方,北米での前方視的試験の結果からは,無言症/後頭蓋窩症候群のある場合は認知機能(特に学習)に関して低下する,ということが言える。また,髄芽腫の治療後5 年の経過で経時的にIQ が低下するが,高リスク群でその傾向が強い。ただしこれが,疾患によるものなのか,治療(特に放射線照射線量)の差によるものなのかはわからない。また低年齢(7 歳以下)では低下の程度が強いことも示唆された。問題は,経過観察は長くても10 年程度で,平均では5 年に満たない場合が多い点で,晩期合併症に対する真の評価としては,より長期の結果が望まれる。そのようなデータは前方視的コホート研究ではまだ存在せず,後方視的のデータしかなく,したがって,さまざまなバイアスを有しており正確な評価とならない。
代表的な後方視的検討結果報告としてChildhood Cancer Survivor Study からの報告9,10)を参考として紹介する。2017 年のものは1970~1986 年に診断され5 年以上生存した380 例についてその同胞と比較した研究で,聴力低下,脳卒中頻度,けいれん,平衡機能低下,白内障の頻度が高く,学習,結婚,自立した生活などでも差がみられた。2019 年のものは1970~1999 年に診断され5 年以上生存していた髄芽腫患者の晩期のmorbidity/mortality に関する報告である。これによると5 年経過後も死亡する例はあり,再発によるものも,それ以外の原因もある。これらを除いた997 例の生存者で後方視的にみた場合,年を追って重篤な合併症を持つ頻度が増している。また,これは1970 年代に治療した群と1990 年代に治療した群で比較すると後者で有意にその頻度が高い。特に聴力障害や心血管系のリスクが高い。治療別にみると,高リスク群で治療を行った場合に頻度が高い。ただし,内分泌障害や神経学的な障害の頻度は決して高くない。これらの報告はあくまで後方視的に長期間の治療例を評価したもので,背景因子が異なり合併症の頻度に何が影響したのかはわからない。あくまで,長期間の経過観察が必要である,とするのみである。
また,今回はシステマティックレビューの対象には認知機能障害に関するもののみが残ったが,晩期合併症としてはこのほかにも内分泌障害11),性腺機能障害12),聴力障害9),海綿状血管腫の形成13),その他血管障害9),二次がん14)などの可能性がある。二次がんとしては悪性神経膠腫,血液がん,甲状腺癌などが報告されている。しかし,これらの報告は,髄芽腫以外の小児脳腫瘍を含んでいたり,後方視的な治療症例集積で背景因子がさまざまあることなどが指摘され,今回は情報として参考までに記載しておくにとどめる。
やはり今後は結果が得られるまで時間はかかるであろうが長期間の前方視的研究が必要で,その結果によって治療法の選択を検討したり,どの時期にどのような介入が必要となるかなどの臨床的疑問に対する回答が抽出されることを期待する。
現時点で提言できることは,髄芽腫に関して,再発のみならず晩期合併症を考慮した長期的かつ多角的(多職種を含む)フォローアップが必要であるということに尽きる。
システマティックレビュー結果
<検索式>
((((((((medulloblastoma[mh])OR(medulloblastoma*[tiab])OR(melanocytic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(childhood[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(medullomyoblastoma*[tiab])OR(desmoplastic[tiab]AND medulloblastoma*[tiab])OR(adult[tiab]AND medulloblastoma*[tiab]))))))AND(((((((((long term adverse effects[mh])OR long term effect*[tiab])OR long term outcome[tiab])OR lete effect*[tiab]))OR((quality of life[mh])OR quality of life[tiab]))OR(((cognition disorders[mh])OR cognitive funtion[tiab])OR neurocognitive function[tiab]))OR(((((((((((((((social adjustment[mh])OR social outcome[tiab])OR functional outcome[tiab])OR physical outcome[tiab])OR developmental disorders[mh])OR growth disorders[mh])OR(growth and development/radiation effects[mh]))OR physiology/radiation effects[mh])OR intelligence/radiation effects[mh])OR intelligence/drug effects[mh])OR learning disorders[mh])OR intellectual outcome[tiab])OR academic success[mh])OR academic outcome[tiab])OR academic achievement[tiab]))OR((((growth hormone/radiation effects[mh])OR GH hormone[tiab])OR radiation injuries[mh])))))AND 1900/7/1:2018/12/31[dp]
以上の検索式から597 文献が抽出され,一次スクリーニングで75 文献に絞られた。二次スクリーニングを行って,前方視的コホート研究8 文献を採択し,システマティックレビューを行って評価シートの作成,エビデンス総体を導き出して,それらに基づいて推奨と解説文を作成した。
❖ 文献
- 1)
- Mulhern RK, Kepner JL, Thomas PR, et al. Neuropsychologic functioning of survivors of childhood medulloblastoma randomized to receive conventional or reduced-dose craniospinal irradiation:a Pediatric Oncology Group study. J Clin Oncol. 1998;16(5):1723-8.[PMID:9586884]
- 2)
- Ris MD, Packer R, Goldwein J, et al. Intellectual outcome after reduced-dose radiation therapy plus adjuvant chemotherapy for medulloblastoma:a Children’s Cancer Group study. J Clin Oncol. 2001;19(15):3470-6.[PMID:11481352]
- 3)
- Mulhern RK, Palmer SL, Merchant TE, et al. Neurocognitive consequences of risk-adapted therapy for childhood medulloblastoma. J Clin Oncol. 2005;23(24):5511-9.[PMID:16110011]
- 4)
- Ris MD, Walsh K, Wallace D, et al. Intellectual and academic outcome following two chemotherapy regimens and radiotherapy for average-risk medulloblastoma:COG A9961. Pediatr Blood Cancer. 2013;60(8):1350-7.[PMID:23444345]
- 5)
- Schreiber JE, Palmer SL, Conklin HM, et al. Posterior fossa syndrome and long-term neuropsychological outcomes among children treated for medulloblastoma on a multi-institutional, prospective study. Neuro Oncol. 2017;19(12):1673-82.[PMID:29016818]
- 6)
- Palmer SL, Armstrong C, Onar-Thomas A, et al. Processing speed, attention, and working memory after treatment for medulloblastoma:an international, prospective, and longitudinal study. J Clin Oncol. 2013;31(28):3494-500.[PMID:23980078]
- 7)
- Câmara-Costa H, Resch A, Kieffer V, et al.;Quality of Survival Working Group of the Brain Tumour Group of SIOP-Europe. Neuropsychological Outcome of Children Treated for Standard Risk Medulloblastoma in the PNET4 European Randomized Controlled Trial of Hyperfractionated Versus Standard Radiation Therapy and Maintenance Chemotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015;92(5):978-85.[PMID:26194675]
- 8)
- Kamran SC, Goldberg SI, Kuhlthau KA, et al. Quality of life in patients with proton-treated pediatric medulloblastoma:Results of a prospective assessment with 5-year follow-up. Cancer. 2018;124(16):3390-400.[PMID:29905942]
- 9)
- King AA, Seidel K, Di C, et al. Long-term neurologic health and psychosocial function of adult survivors of childhood medulloblastoma/PNET:a report from the Childhood Cancer Survivor Study. Neuro Oncol. 2017;19(5):689-98.[PMID:28039368]
- 10)
- Salloum R, Chen Y, Yasui Y, et al. Late Morbidity and Mortality Among Medulloblastoma Survivors Diagnosed Across Three Decades:A Report From the Childhood Cancer Survivor Study. J Clin Oncol. 2019;37(9):731-40.[PMID:30730781]
- 11)
- Laughton SJ, Merchant TE, Sklar CA, et al. Endocrine outcomes for children with embryonal brain tumors after risk-adapted craniospinal and conformal primary-site irradiation and high-dose chemotherapy with stem-cell rescue on the SJMB-96 trial. J Clin Oncol. 2008;26(7):1112-8.[PMID:18309946]
- 12)
- Balachandar S, Dunkel IJ, Khakoo Y, et al. Ovarian function in survivors of childhood medulloblastoma:Impact of reduced dose craniospinal irradiation and high-dose chemotherapy with autologous stem cell rescue. Pediatr Blood Cancer. 2015;62(2):317-21.[PMID:25346052]
- 13)
- Lew SM, Morgan JN, Psaty E, et al. Cumulative incidence of radiation-induced cavernomas in long-term survivors of medulloblastoma. J Neurosurg. 2006;104(2 Suppl):103-7.[PMID:16506497]
- 14)
- Packer RJ, Zhou T, Holmes E, et al. Survival and secondary tumors in children with medulloblastoma receiving radiotherapy and adjuvant chemotherapy:results of Children’s Oncology Group trial A9961. Neuro Oncol. 2013;15(1):97-103.[PMID:23099653]