1章 小児肝がん
- はじめに
小児期に発症する原発性肝悪性腫瘍のうち,主に上皮性成分からなるものが小児肝がんと総称される。これらには小児に特有な腫瘍としての肝芽腫と,成人にみられる肝細胞癌に相当する成人型肝がんに分けられる。最も発生数の多い肝芽腫は胎児性腫瘍の性格を示し,その発生頻度は,15 歳未満の小児100 万人あたり0.7〜1 人であるとされる。欧米では全小児がんの1%未満を占めるにすぎないとされるが,わが国では日本小児血液・がん学会の疾患登録に年間50〜60 例の登録があり,小児悪性固形腫瘍の中では神経芽腫,腎芽腫に次いで3 番目に多い。一方,肝細胞癌の発生頻度は極めて低く,成人肝細胞癌とくらべて肝炎関連発癌が少ないのが特徴である。
肝芽腫は一般に化学療法感受性が非常に高い腫瘍であり,シスプラチンを含む化学療法が標準治療となっている。完全切除の可否が患者の予後を大きく左右するが,切除困難例・不能例に対しても術前化学療法を施行することにより切除可能となることはまれではなく,その治療成績は化学療法の発達とともに飛躍的に向上した。また化学療法後も切除不能である症例には全肝摘出・肝移植が有効である場合がある。一方,肝細胞癌は一般に化学療法感受性が肝芽腫にくらべて低く切除不能例の予後は極めて不良である。
- CQ1
- 小児肝がんの治療方針の決定に必要な分類と検査は
背 景
小児肝がんの治療方針の決定には2 つのステップが必要である。一つ目は診断,二つ目はリスク分類の決定である。現在の標準的診断法およびリスク分類について文献的な検討を行った。
- 推奨グレード1C
- 小児肝がんの治療方針決定には,精度の高い画像診断・血清AFP に加え,病期分類が必要である。
解 説
小児肝腫瘍の診断に用いる画像診断の優劣を統計学的に検討した研究は文献上なく,画像診断の指針のほとんどが小児放射線科医によるレビューである。Roebuck のレビューによると1),小児肝腫瘍の診断において有用な画像検査は腹部超音波検査とMRI である。悪性腫瘍が疑われる場合はCT による肺病変の評価は必須である。超音波は腫瘍と血管との関係を観察するのに理想的であり,CT やMRI 画像を参照の上で再度超音波検査を施行することや,カラードプラ超音波を併用することが有用であるとしている。
小児肝がんの腫瘍マーカーとしてα-フェトプロテイン(AFP)は特異性が高く,診断価値が高いことは普遍的に知られている。さらに,診断の補助のみならず,肝芽腫においては予後予測因子としても重要である。最近の報告ではAFP100 ng/mL 未満あるいは1,200,000 ng/mL 以上の症例の予後が不良であることが国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)の臨床試験に参加した541 例の肝芽腫の後方視的解析で示され,AFP は予後を予測する重要な因子の一つと位置づけられている2)。
肝芽腫の臨床病期分類はSIOPEL の用いる術前病期分類PRETEXT(pretreatment extent of disease system)と,米国小児がんグループ(COG)の用いる術前病期分類が混在する。各研究グループ間の治療成績の比較を目的に,さらには将来的な国際共同臨床試験の開始を見越して,現在は世界的に客観的な分類が可能であるPRETEXT 分類がすべての主要な研究グループで使用されている。PRETEXT 分類は腫瘍が占拠する区域の数ならびに肝外病変や血管浸潤等の付記因子を,精度の高い画像所見を元に判定するものである3)。SIOPEL および日本小児肝癌スタディグループ(JPLT)の現行の臨床試験は,PRETEXT に基づくリスク分けを行い,それぞれのリスクに応じた強度の治療が行われている4-8)。一方,COGの病期分類では初発時に一期的切除ができるか否かで病期が決定される。すなわち,一期的切除が可能であったものがstageⅠ,一期的切除を行った結果,顕微鏡的残存があるものがstageⅡ,切除不能または肉眼的残存・腹腔内リンパ節浸潤がstage Ⅲ,遠隔転移のある症例がstage Ⅳである。
なお,肝芽腫の病理組織分類については現時点で治療方針の決定に用いられるのはCOG のstageⅠで純胎児型(pure fetal type)であるものだけである。このグループの患者は予後が極めて良好であり,一期的切除後に化学療法が施行されない9)。
文 献
- 1)
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- 2)
- Maibach R, Roebuck D, Brugieres L, et al. Prognostic stratification for children with hepatoblastoma: the SIOPEL experience. Eur J Cancer 2012 ; 48 : 1543-9.
- 3)
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- 4)
- Perilongo G, Shafford E, Maibach R, et al. Risk-adapted treatment for childhood hepatoblastoma. final report of the second study of the International Society of Paediatric Oncology--SIOPEL 2.Eur J Cancer 2004 ; 40 : 411-21.
- 5)
- Perilongo G, Maibach R, Shafford E, et al. Cisplatin versus cisplatin plus doxorubicin for standard-risk hepatoblastoma. N Engl J Med 2009 ; 361 : 1662-70.
- 6)
- Zsiros J, Maibach R, Shafford E, et al. Successful treatment of childhood high-risk hepatoblastoma with dose-intensive multiagent chemotherapy and surgery : final results of the SIOPEL-3HR study. J Clin Oncol 2010 ; 28 : 2584-90.
- 7)
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- 8)
- Hishiki T, Matsunaga T, Sasaki F, et al. Outcome of hepatoblastomas treated using the Japanese Study Group for Pediatric Liver Tumor (JPLT) protocol-2 : report from the JPLT. Pediatr Surg Int 2011 ; 27 : 1-8.
- 9)
- Malogolowkin MH, Katzenstein HM, Meyers RL, et al. Complete surgical resection is curative for children with hepatoblastoma with pure fetal histology : a report from the Children’s Oncology Group. J Clin Oncol 2011 ; 29 : 3301-6.
- CQ2
- 腫瘍生検は必要か
背 景
小児肝腫瘍の多くは年齢と画像診断,腫瘍マーカーにより診断の絞り込みが可能であるが,国際的多施設共同研究の多くが肝腫瘍の組織学的確定診断を推奨している。その意義と必要性・方法について文献的な検討を行った。
- 推奨グレード1C
- 腫瘍生検は6 カ月未満の乳児と3 歳以上の年長児において必須であり,その他の年齢でも推奨される。
解 説
生検の有用性に焦点をあてて検討した臨床試験は過去になく,生検の必要性を示す根拠はない。乳幼児においてα-フェトプロティン(AFP)の生理的な上昇があること,FNH(focal nodular hyperplasia)1),infantile hemangiendothelioma 2)でAFP の異常高値を呈するものがあること,また年長児ではhepatocellular carcinoma の可能性があることから,各国際臨床研究グループではAFP の上昇がみられたとしても組織学的な診断が必要であるという立場をとっている。国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)は過去の臨床試験(SIOPEL-1〜3)では生後6 カ月未満と3 歳以上の患者についてのみ生検を必須としており,それ以外の年齢についてはAFP の上昇があれば肝芽腫とみなし治療の開始を許容していた3)。しかし, 最近の臨床試験(SIOPEL-4 以降)では年齢やAFP 値に関わらず全患者の生検を必須としている3)。Small cell undifferentiated subtype の予後が不良であることがSIOPEL,米国小児がんグループ(COG)双方の大規模なコホートの後方視的解析で示されており4, 5),今後肝芽腫の組織型がリスク分類に反映される可能性も低くはない。世界の趨勢を鑑みても,AFP の上昇が認められていても,年齢に関わらず全身状態が不良で速やかに治療を開始する必要のある場合を除き生検を行うことが推奨され,特に生後6 カ月未満および3 歳以上の患児については生検が強く推奨される。生検に伴うリスクの懸念があるが,SIOPEL-1 での合併症の発症率は7%でいずれも軽微なものであったとしている5)。
文 献
- 1)
- Mneimneh W, Farges O, Bedossa P, et al. High serum level of alpha-fetoprotein in focal nodular hyperplasia of the liver. Pathol Int 2011 ; 61 : 491-4.
- 2)
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- 3)
- Zsiros J, Brugieres L, Brock P, et al. Dose-dense cisplatin-based chemotherapy and surgery for children with high-risk hepatoblastoma(SIOPEL-4) : a prospective, single-arm, feasibility study. Lancet Oncol 2013 ; 14 : 834-842.
- 4)
- Maibach R, Roebuck D, Brugieres L, et al. Prognostic stratification for children with hepatoblastoma : the SIOPEL experience. Eur J Cancer 2012 ; 48 : 1543-9.
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- Meyers RL, Rowland JR, Krailo M, et al. Predictive power of pretreatment prognostic factors in children with hepatoblastoma : a report from the Children’s Oncology Group. Pediatr Blood Cancer 2009 ; 53 : 1016-22.
- CQ3
- 初診時(化学療法前)に切除可能であれば切除した方がよいか
背 景
小児肝がんの中には占拠部位や腫瘍の大きさにより,初診時に切除可能な例が存在する。これらの症例で,初診時に肝切除をした方が術前化学療法後に肝切除をする場合よりも治療成績が良いかどうかを検討した。
推奨1
- 推奨グレード2C
- 肝芽腫予後良好例の治療では一期的切除により化学療法を軽減できる。しかし,術前化学療法により切除範囲や手術合併症を減少させる可能性があり,総合的な判断の下に一期的切除を行うことを考慮する。
推奨2
- 推奨グレード2C
- 肝細胞癌では初診時に一期的切除が可能であれば切除したほうがよい。
解 説
従来,小児肝がんの治療においては,肝の原発腫瘍を全摘することができなければその予後は著しく不良であるとされてきた。しかし近年,小児肝芽腫では術前化学療法が有効であり1-3),術前化学療法により完全切除率が上昇することが報告されてきた3)。また,診断時に切除可能な症例でも,術前化学療法を行ってから肝切除を行うことにより切除時の手術合併症の発生を抑える可能性がある1, 4)。その結果,国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)ではPRETEXT Ⅰ期例では初めに肝切除を行ってから術後化学療法を行っていたが1), 現在はドイツの研究グループと同様に一期的切除をしないように推奨している。しかし,SIOPEL の登録例にも腫瘍破裂や出血に対する緊急手術,有茎性腫瘍,小さな腫瘍などで一期的切除を受けた症例も含まれている4, 5)。
これに対して,CCG/POG〔現,米国小児がんグループ(COG)〕の研究では初回手術でstage Ⅰ,Ⅱの肝芽腫症例は一期的に切除され,stage Ⅰの予後良好組織型(favorable histology:FH)では9 例全例が無病生存しており,stage Ⅰの予後不良組織型(unfavorable histology:UH)とstage Ⅱはそれぞれ91%,100%の生存率を示している2)。組織型が純胎児型(pure fetal type)の腫瘍は予後良好とされており6),腫瘍が完全切除できれば化学療法は不要とされるため一期的切除の利点と考えられる7)。将来的な化学療法の軽減を意図する試みにおいては,術後化学療法の軽減だけではなく術前化学療法の軽減も含まれ,今後の臨床研究の展開が期待される。一期的切除の絶対的適応は,術前も術後も化学療法を必要としない症例であり,病理組織所見などの予後因子の解析からこのような症例を抽出していく必要があると思われる。しかし,一期的切除においても手術の技術が標準化されていなければ手術の難易度が施設によって異なり,肝臓手術に精通した施設での一期的切除の判断を基準にすることも重要である8)。
肝細胞癌については術前化学療法の効果は現状では乏しく,SIOPEL の研究でもシスプラチン(CDDP)+ドキソルビシン(DXR)の術前化学療法により完全切除が可能となったのは37 例中で14 例(2 例の全肝切除と肝移植例を含む)であり,そのうちの生存例は8 例のみであった9)。一方,CCG/POG の研究ではstage Ⅰの一期的切除例8 例中8 例が完全切除され,そのうち7 例が生存している10)。また,ドイツの研究でも肝細胞癌で一期的切除が可能なものでは一期的切除を行った方が良い治療成績が示されており11),今後肝細胞癌に対する有効な化学療法が開発されるまでは,初診時に一期的切除が可能であれば切除したほうが良い。
文 献
- 1)
- Pritchard J, Brown J, Shafford E, et al. Cisplatin, doxorubicin, and delayed surgery for childhood hepatoblastoma : a successful approach--results of the first prospective study of the International Society of Pediatric Oncology. J Clin Oncol 2000 ; 18 : 3819-28.
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- Ortega JA, Douglass EC, Feusner JH, et al. Randomized comparison of cisplatin/vincristine/fluorouracil and cisplatin/continuous infusion doxorubicin for treatment of pediatric hepatoblastoma :A report from the Children’s Cancer Group and the Pediatric Oncology Group. J Clin Oncol 2000; 18 : 2665-75.
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- Fuchs J, Rydzynski J, Hecker H, et al. German Cooperative Liver Tumour Studies HB 89 and HB 94 : The influence of preoperative chemotherapy and surgical technique in the treatment of hepatoblastoma--a report from the German Cooperative Liver Tumour Studies HB 89 and HB 94. Eur J Pediatr Surg 2002 ; 12 : 255-61.
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- 6)
- Haas JE, Muczynski KA, Krailo M, et al. Histopathology and prognosis in childhood hepatoblastoma and hepatocarcinoma. Cancer 1989 ; 64 : 1082-95.
- 7)
- Malogolowkin MH, Katzenstein HM, Meyers RL, et al. Complete surgical resection is curative for children with hepatoblastoma with pure fetal histology : a report from the Children’s Oncology Group. J Clin Oncol 2011 ; 29 : 3301-6.
- 8)
- Czauderna P, Otte JB, Aronson DC, et al. Childhood Liver Tumour Strategy Group of the International Society of Paediatric Oncology (SIOPEL) : Guidelines for surgical treatment of hepatoblastoma in the modern era--recommendations from the Childhood Liver Tumour Strategy Group of the International Society of Paediatric Oncology (SIOPEL). Eur J Cancer 2005 ; 41 : 1031-6.
- 9)
- Czauderna P, Mackinlay G, Perilongo G, et al. Liver Tumors Study Group of the International Society of Pediatric Oncology. Hepatocellular carcinoma in children : results of the first prospective study of the International Society of Pediatric Oncology group. J Clin Oncol 2002 ; 20 : 2798-804.
- 10)
- Katzenstein HM, Krailo MD, Malogolowkin MH, et al. Hepatocellular carcinoma in children and adolescents : results from the Pediatric Oncology Group and the Children’s Cancer Group intergroup study. J Clin Oncol 2002 ; 20 : 2789-97.
- 11)
- von Schweinitz D, Bürger D, Mildenberger H. Is laparatomy the first step in treatment of childhood liver tumors?--The experience from the German Cooperative Pediatric Liver Tumor Study HB-89. Eur J Pediatr Surg 1994 ; 4 : 82-6.
- CQ4
- 肝芽腫に対する腫瘍の完全切除の意義は
背 景
肝芽腫では肝切除による腫瘍摘除と化学療法を組み合わせた治療が行われており,肝切除の意義はあくまでも化学療法との組み合わせにおいて論じられる。これまでの臨床研究(試験)の報告から肝芽腫治療における肝切除の意義を文献的に検討した。
- 推奨グレード1A
- 肝芽腫では腫瘍の完全切除率と生存率が相関する。また定型的肝切除は非定型的肝切除に比し腫瘍切除率が高く,局所再発率が低い。
解 説
肝芽腫では腫瘍の完全切除率と生存率が相関することから,肝芽腫治療の原則は原発腫瘍の完全切除とされる。ドイツにおけるGerman Cooperative Pediatric Liver Tumor Study HB 94 によれば,切除後のstage Ⅰ(完全切除),Ⅱ(組織学的残存),Ⅲ(肉眼的残存),Ⅳ(遠隔転移あり)のそれぞれの無病生存率(DFS)は96%,100%,76%,36%であり,外科的根治性が重要な予後因子である1)。また切除不可能な肝両葉への浸潤例や遠隔転移例においても,化学療法後の腫瘍切除の可否がDFS と相関し2, 3),わが国の日本小児肝癌スタディグループ(JPLT)4, 5)や国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)6, 7)においても腫瘍切除と生存率の相関を示す同様の結果が得られている。
また術式については,肝区域(外側・内側・前・後区域)に準拠した定型的肝切除が非定型的肝切除に比し腫瘍切除率が高く,局所再発率が低いため,定型的肝切除を選択すべきである8)。
文 献
- 1)
- Fuchs J, Rydzynski J, Von Schweinitz D, et al. Study Committee of the Cooperative Pediatric Liver Tumor Study Hb 94 for the German Society for Pediatric Oncology and Hematology : Pretreatment prognostic factors and treatment results in children with hepatoblastoma : a report from the German Cooperative Pediatric Liver Tumor Study HB 94. Cancer 2002 ; 95 : 172-82.
- 2)
- von Schweinitz D, Hecker H, Harms D, et al. Complete resection before development of drug resistance is essential for survival from advanced hepatoblastoma--a report from the German Cooperative Pediatric Liver Tumor Study HB-89. J Pediatr Surg 1995 ; 30 : 845-52.
- 3)
- Zsiros J, Brugieres L, Brock P, et al. Dose-dense cisplatin-based chemotherapy and surgery for children with high-risk hepatoblastoma(SIOPEL-4) : a prospective, single-arm, feasibility study. Lancet Oncol 2013 ; 14 : 834-42.
- 4)
- Sasaki F, Matsunaga T, Iwafuchi M, et al. Outcome of hepatoblastoma treated with the JPLT-1(Japanese Study Group for Pediatric Liver Tumor) Protocol-1 : A report from the Japanese Study Group for Pediatric Liver Tumor. J Pediatr Surg 2002 ; 37 : 851-6.
- 5)
- Hishiki T, Matsunaga T, Sasaki F, et al. Outcome of hepatoblastomas treated using the Japanese Study Group for Pediatric Liver Tumor (JPLT) protocol-2 : report from the JPLT. Pediatr Surg Int 2011 ; 27 : 1-8.
- 6)
- Perilongo G, Shafford E, Maibach R, et al. Risk-adapted treatment for childhood hepatoblastoma. final report of the second study of the International Society of Paediatric Oncology--SIOPEL 2. Eur J Cancer 2004 ; 40 : 411-21.
- 7)
- Zsíros J, Maibach R, Shafford E, et al. Successful treatment of childhood high-risk hepatoblastoma with dose-intensive multiagent chemotherapy and surgery : final results of the SIOPEL-3HR study. J Clin Oncol 2010 ; 28 : 2584-90.
- 8)
- Fuchs J, Rydzynski J, Hecker H, et al. The influence of preoperative chemotherapy and surgical technique in the treatment of hepatoblastoma--a report from the German Cooperative Liver Tumour Studies HB 89 and HB 94. Eur J Pediatr Surg 2002 ; 12 : 255-61.
- CQ5
- 肝細胞癌に対する腫瘍の完全切除の意義は
背 景
小児の肝細胞癌は肝芽腫に比べて頻度が低く,これを対象とした臨床試験の報告は極めて少ない。わが国において行われている日本小児肝癌スタディグループ(JPLT)の臨床試験にも肝細胞癌の症例が含まれるが,まとまった治療成績は報告されていない。これまでのわずかな臨床試験の報告から肝細胞癌に対する腫瘍の完全切除の意義を文献的に検討した。
- 推奨グレード1B
- 肝細胞癌において腫瘍の完全切除の可否は予後に大きく関与する。
解 説
CCG/POG〔現,米国小児がんグループ(COG)〕の共同研究によると,肝細胞癌の診断時病期ごとの5 年生存率はI,Ⅲ,Ⅳ(CQ1 参照)がそれぞれ88%,23%,10%であり5 年無イベント生存率(EFS)は88%,8%,0%と報告されている1)。すなわち,治療開始時に完全切除し得ないと術後の化学療法の効果は期待し難く,治療成績は極めて不良であることが示唆される。一方,国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)のSIOPEL-1 によるとシスプラチン(CDDP)とドキソルビシン(DXR)を用いた術前化学療法により49%の症例で部分寛解が得られ,腫瘍の完全切除率は36%,5 年生存率と5 年EFS はそれぞれ28%,17%であり,腫瘍を完全切除できたものだけが生存している2)。そして, 生存率に関与する因子はPRETEXT(pretreatment extent of disease system)による術前病期分類と遠隔転移であり,少なくとも遠隔転移のない症例では腫瘍の進展度,すなわち腫瘍の完全切除の可能性が予後に関与する。以上の結果から肝細胞癌においては外科的完全切除の可否が予後を大きく左右する。
文 献
- 1)
- Katzenstein HM, Krailo MD, Malogolowkin MH, et al. Hepatocellular carcinoma in children and adolescents : results from the Pediatric Oncology Group and the Children’s Cancer Group intergroup study. J Clin Oncol 2002 ; 20 : 2789-97.
- 2)
- Czauderna P, Mackinlay G, Perilongo G, et al. Liver Tumors Study Group of the International Society of Pediatric Oncology : Hepatocellular carcinoma in children : results of the first prospective study of the International Society of Pediatric Oncology group. J Clin Oncol 2002 ; 20 : 2798-804.
- CQ6
- 肝腫瘍切除の前に血管造影は必要か
背 景
肝臓の手術では腫瘍と肝内の脈管(肝動脈,門脈,肝静脈)との関係を解剖学的に把握しておくことが,手術の安全性や腫瘍の切除可能性の予測に関わる重要な術前情報となる。そこで,外科医にとって肝腫瘍を切除する前の術前検査として血管造影が必要かどうかを検討した。
- 推奨グレード1B
- 超音波,CT,MRI 検査により小児肝がんの切除可能性は評価可能であり,術前の画像検査として必ずしも肝血管造影を行う必要はない。
解 説
定型的な肝切除は肝区域レベルの切除で行われ,腫瘍の局在により1〜3 区域の切除区域が決定される。この腫瘍占拠部位と主要血管との位置関係,主要血管への腫瘍の浸潤を術前に把握するための画像検査として,直接造影としての肝血管造影検査を行うことがある。しかし,画像診断技術が著しく進歩している今日でも,肝血管造影は術前検査として必要な検査であろうか?
現在,肝腫瘍の切除可能性を評価する方法として,肝血管造影以外に超音波1),CT 2, 3),MRI 3)などの検査法があり,それぞれ画像検査としての特徴は異なるものの診断精度は今も向上しており,極めて有用な手段となっている。国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)は術前病期分類PRETEXT(pretreatment extent of disease system)が予後を反映すると報告し4),その術前病期を決定するために超音波,CT,MRI や肝血管造影の所見を中央診断している5)。しかし,そのガイドラインでも肝血管造影は必須ではなく,切除可能性を評価する手段としてヘリカルCT によるCT アンギオグラフィーや造影MRI,ドプラ超音波検査などによる画像診断法が示されている6, 7)。初診時に肝の4 区域を占めるPRETEXT-Ⅳや大血管へ浸潤した高リスク症例を対象とした最近のSIOPEL 研究でも,術前化学療法中の切除可能性の評価に超音波やCT,MRI を用いている8)。
文 献
- 1)
- de Campo M, de Campo JF. Ultrasound of primary hepatic tumours in childhood. Pediatr Radiol 1988 ; 19 : 19-24.
- 2)
- King SJ, Babyn PS, Greenberg ML, et al. Value of CT in determining the resectability of hepatoblastoma before and after chemotherapy. AJR Am J Roentgenol 1993 ; 160 : 793-8.
- 3)
- Boechat MI, Kangarloo H, Ortega J, et al. Primary liver tumors in children : comparison of CT and MR imaging. Radiology 1988 ; 169 : 727-32.
- 4)
- Aronson DC, Schnater JM, Staalman CR, et al. Predictive value of the pretreatment extent of disease system in hepatoblastoma : results from the International Society of Pediatric Oncology Liver Tumor Study Group SIOPEL-1 study. J Clin Oncol 2005 ; 23 : 1245-52.
- 5)
- Schnater JM, Aronson DC, Plaschkes J, et al. Surgical view of the treatment of patients with hepatoblastoma : results from the first prospective trial of the International Society of Pediatric Oncology Liver Tumor Study Group. Cancer 2002 ; 94 : 1111-20.
- 6)
- Czauderna P, Otte JB, Aronson DC, et al. Guidelines for surgical treatment of hepatoblastoma in the modern era--recommendations from the Childhood Liver Tumour Strategy Group of the International Society of Paediatric Oncology(SIOPEL). Eur J Cancer 2005 ; 41 : 1031-6.
- 7)
- Perilongo G, Maibach R, Shafford E, et al. Cisplatin versus cisplatin plus doxorubicin for standard-risk hepatoblastoma. N Engl J Med 2009 ; 361 : 1662-70.
- 8)
- Zsiros J, Brugieres L, Brock P, et al. Dose-dense cisplatin-based chemotherapy and surgery for children with high-risk hepatoblastoma(SIOPEL-4): a prospective, single-arm, feasibility study. Lancet Oncol 2013 ; 14 : 834-42.
- 9)
- Fuchs J, Rydzynski J, Hecker H, et al. The influence of preoperative chemotherapy and surgical technique in the treatment of hepatoblastoma--a report from the German Cooperative Liver Tumour Studies HB 89 and HB 94. Eur J Pediatr Surg 2002 ; 12 : 255-61.
- CQ7
- 肺転移巣に対する外科療法の役割は
背 景
小児肝がんの肺転移巣に対する外科療法がどのような意義を有するかについて検討した。
- 推奨グレード1C
- 化学療法後も残存する切除可能な肺転移巣に対しては外科療法が推奨される。
解 説
初発時に肺転移を有する肝芽腫は全体の約20%を占め,肺転移のない症例にくらべ予後が不良である。肺転移に対する第一選択の治療法は化学療法であり,化学療法後に残存する転移巣が切除の対象となる。肝芽腫の肺転移切除に関する前方視的研究はこれまでになく,その有用性について根拠が十分であるとはいい難い。しかし,肺転移切除後に長期生存を得るものは少なくない1, 2)。Meyers らは初発時からある肺転移巣に対し切除を行った9 例中8 例が長期生存を得たのに対し,肺転移再発を来し切除を行った13 例では13 例中8 例で寛解となったものの,長期生存は3 例だったと報告している2)。
至適な肺転移切除の時期についても明確に推奨する根拠に乏しい。最新の国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)臨床試験(SIOPEL-4)では,39 例の肺転移症例が高用量シスプラチン(CDDP)を軸とする強力な化学療法により治療され,肝原発巣切除の時点で肺転移が消失した完全寛解(CR)症例は約半数の20 例,部分寛解(PR)と判定されたものが18 例であった3)。この18 例のうち,原発巣切除後の化学療法で肺転移が消失したものが6 例あり,計26 例,すなわち全体の2/3 の症例は化学療法のみで肺転移が消失したという結果であった。化学療法のみで肺転移が消失した症例がSIOPEL-1〔PLADO:CDDP 80 mg/m2,ドキソルビシン(DXR)60 mg/m2〕では31 例中12 例1),SIOPEL-3HR では69 例中36 例4)であったという結果をみるかぎり,化学療法の強度が増すにつれ,化学療法のみで肺転移巣が消失する可能性も高いことが示唆される。現時点では化学療法の効果がみられている間はそれを継続し,効果のなくなった時点で残存肺病変の切除を考慮するのが妥当であると考えられる。
ただし,CQ8 に述べるように,原発巣が肝移植の適応となる場合は,その条件として肝外の病変がコントロールされている必要がある。このため,肺病変が切除可能であれば肝移植の前に切除を行いCR の状態にする必要がある。
文 献
- 1)
- Perilongo G, Brown J, Shafford E, et al. Hepatoblastoma presenting with lung metastases : treatment results of the first cooperative, prospective study of the International Society of Paediatric Oncology on childhood liver tumors. Cancer 2000 ; 89 : 1845-53.
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- 3)
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- 4)
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- CQ8
- 小児肝がんに対する肝移植の適応は
背 景
近年,肝移植は小児肝がんに対する有効な治療戦略の一つとして選択され,部分肝切除による全摘が不可能な症例に対する唯一の有効な治療法と考えられている。わが国でも保険適用となっている。そこで,現在の小児肝がんに対する肝移植の適応について検討した。
- 推奨グレード1B
- 肝芽腫のうち化学療法後も切除不能でかつ,肝外病変がなく化学療法に反応したもの, または完全摘出後に肝内に再発したものや不完全摘出に終わったもので肝外病変がないものが,肝移植の適応となる。
解 説
肝芽腫に対する全肝摘出・肝移植は,現在,わが国でも保険収載され標準的な治療法の一つとなっている。米国で1988〜2010 年の期間に肝移植を受けた肝芽腫の5 年生存率は73%であった1)。その他小規模コホートにおける肝移植の治療成績は60〜90%とばらつきはあるものの概ね同等の成績である2)。わが国では圧倒的に生体ドナーからの移植が多く,Sakamoto らはその成績について全国調査の結果を報告している3)。39 例の集計を行い,5 年生存率は77.3%と治療成績は良好であった。このように肝移植が切除不能肝芽腫に対する有効な手段であるという事実は広く受け入れられているが,どの症例に肝移植が必要かについては未だ議論が絶えず,科学的根拠に基づくコンセンサスは得られていない。国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)の外科療法ガイドラインでは,肝移植が必要となりうる症例を以下のように挙げ,早期の移植可能施設へのコンサルテーションを推奨している4)。
- 肝内多発性のPRETEXT(pretreatment extent of disease system)Ⅳ肝芽腫
- 大きな単発性のPRETEXT Ⅳ肝芽腫。最新の画像検査をもって4 区域全てを占めていることが確認されているもの。術前化学療法によって明らかなdown staging が起こらない限りは移植が最適である。
- 肝門部を占拠する単発性の腫瘍で,化学療法が奏効したとしても門脈・主要静脈が腫瘍からfree になる見込みのないもの(すなわち,部分肝切除での全摘が不可能と思われるもの)。
多発性のPRETEXT Ⅳについては術前化学療法によりたとえ1 区域がfree になったとしても,肝移植を積極的に考慮すべきであるとしている。これは全肝摘出した標本の組織学的検討により画像上腫瘍が消失したと思われた部位に顕微鏡的に腫瘍が残存しているケースがあることを根拠としている5)。
上記のガイドラインには,特に一期的切除において肝移植を推奨する主旨で記載されているが,これは初回手術としての肝移植(primary transplantation)が部分肝切除後の肝移植(rescue transplantation)より有意に治療成績が良いとするOtte らの報告に基づいている6)。しかし,この研究はあくまで後方視的な疫学研究であり,患者背景や治療内容は様々な上,移植の適応も施設により異なる。また,条件の良い症例が一期的肝移植群に多く含まれている可能性が高く,このデータを用いて一概にprimary transplantation の優位性を示すことは困難である。
わが国では脳死肝移植の頻度は極めて低く,生体ドナーに頼らざるを得ない。このため,肝切除で治癒できる可能性のある症例については極力肝移植を回避する考えが一般的であり,肝移植の適応を欧米諸国と全く相違ない形にすることは現実的に不可能である。Sakamoto らによると,わが国で肝移植を施行された39 例の解析では,3 年無病生存率(DFS)はprimary transplantation 62.2%,rescue transplantation 78.0%であり,統計学的有意差はなかった3)。この結果のみからは切除の難易度の高い症例であっても部分肝切除の可能性を模索することの正当性はあると思われる。ただし,こうした症例では多くの場合,切除の可否を画像所見のみで判定することは難しく,症例によっては術中超音波を含めた術中の判断で切除可否を決定せざるを得ないことも想定される。このため,切除困難が予想される症例については早期から肝移植の可能な施設へのコンサルト,さらには必要に応じて移植施設での手術を検討することが推奨される。
切除不能な小児肝細胞癌に対する肝移植に関しては,それが有効な手段であるという施設単位の報告は散見されるものの,小児肝細胞癌に対する肝移植の適応についての科学的な根拠となるエビデンスはなく,本ガイドラインへの記述は控える。
文 献
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- Cruz RJ Jr, Ranganathan S, Mazariegos G, et al. Analysis of national and single-center incidence and survival after liver transplantation for hepatoblastoma : new trends and future opportunities. Surgery 2013 ; 153 : 150-9.
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- CQ9
- 肝芽腫に対する標準的化学療法は
背 景
肝芽腫に対する標準的化学療法としては,欧米やわが国の多施設共同研究により,シスプラチン(CDDP)を含む化学療法が確立されてきた。さらに,標準リスク群に対しては治療の軽減が,高リスク群に対しては治療強度を上げる試みがなされてきており,従来の標準的化学療法から,リスクに応じたレジメンの選択がなされるようになってきている。
- 推奨グレード1A
- 肝芽腫には化学療法が有効であり,CDDP を含む化学療法が強く推奨される。
解 説
米国小児がんグループ(POG)は,肝芽腫症例に対して,シスプラチン/ビンクリスチン/フルオロウラシル(CDDP/VCR/5-FU)を用いたpilot study を行い(POG-8697),これによりstage I, II の5 年生存率は,90%を超えた1)。その後,CCG/POG〔現,米国小児がんグループ(COG)〕の共同研究INT-0098 では,CDDP/VCR/5-FU とシスプラチン/ドキソルビシン(CDDP/DXR)がランダマイズされ,5 年無イベント生存率(EFS),全生存率(OS)は2 群間で有意差は認めなかったが,毒性がCDDP/DXR の方が多かったため,北米ではCDDP/VCR/5-FU が標準治療となった2)。
国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)による最初の多施設共同試験であるSIOPEL-1 において,すべての肝芽腫症例に対し,CDDP とDXR を用いた術前化学療法 (PLADO:CDDP 80 mg/m2,DXR 60 mg/m2)を行った後に切除を行う戦略がとられ,3 年OS は79%,EFS は67%と良好な結果が得られた3)。SIOPEL では,PRETEXT (pretreatment extent of disease system)という病期分類が導入され,SIOPEL-1 において,このPRETEXT が有意な予後因子であることが示された。この結果から,肝芽腫は,標準リスク群(PRETEXT I, II, III で転移,肝外病変,血管浸潤のいずれをも伴わず,α- フェトプロティン(AFP)>100 ng/mL), 高リスク群(PRETEXT IV 及び,遠隔転移,肝外病変,血管浸潤のいずれかを伴うか,AFP<100 ng/mL)にリスク分類され,以後SIOPEL の臨床試験では,標準リスク群に対しては,治療毒性の軽減を目指し,高リスク群に対しては治療を強化して予後を改善しようとする戦略がとられることとなった。
SIOPEL-3 では,標準リスク肝芽腫に対しCDDP 単独療法とCDDP/DXR 併用のランダム化非劣性比較試験が行われ,3 年EFS,OS とも両群間で有意差はなく,CDDP 単独療法が PLADO と同等に有効であると報告された4)。米国小児がんグループ(COG)によるP9645 では,stage I で,病理所見がpure fetal type であった11 例において,切除のみで化学療法を行わなかったが,再発はなかった5)。
高リスク群肝芽腫に対しては,プラチナ系薬剤のdose intensity(単位時間あたりの薬剤投与量)を高めることで,予後改善が図られてきた。SIOPEL-3HR では,CDDP/DXR とカルボプラチン(CBDCA)を14 日ごとに交替で使用することで,治療の強化が図られ,高リスク群全体の3 年OS は69%, EFS は65%と,予後の改善が認められた6)。SIOPEL-4 では,さらに,1 週ごとにCDDP を投与するweekly CDDP とDXR の併用を術前に3 ブロック行う強化された治療が導入され,治療終了時にCR が79%となり,3 年OS が83%,3 年EFS が76%と著明な生存率の向上を報告している。転移例についても3 年OS が79%,3 年EFS が77%と以前の治療成績に比べ飛躍的に治療成績が向上した7)。米国ではCOG とPOG のIntergroup Liver Tumor Study Group では,stage III,IV の肝芽腫に対して,CBDCA とCDDP を14 日ごとに交替で投与するレジメンと,従来のCDDP/5-FU/VCR を比較するランダム化臨床試験が実施された(P9645)。アミフォスチンにより毒性軽減が可能であるかも検討されたが,毒性軽減効果は認められず,結局CBDCA/CDDP 交替療法により治療成績が向上する可能性が統計学的に否定されたため,3 年間でランダム化は中止され,以後はCDDP/5-FU/VCR のみとなった8)。
現在SIOPEL のガイドラインでは,PRETEXT I-III で転移など他の予後不良因子がない標準リスク群はCDDP 単独療法,転移を伴うあるいはAFP100 mg/mL 未満の超高リスク群にはSIOPEL-4 のweekly CDDP/DXR, それ以外の高リスク群にはSIOPEL-3HR が推奨されている9)。
わが国の日本小児肝癌スタディグループ(JPLT)においては,CITA を第一選択として用いる治療が標準的化学療法として確立され,反応不良例にITEC(IFM,THP,ETP,CBDCA),転移例に大量化学療法を用いるJPLT-2 プロトコールが行われた。JPLT-2 では標準リスク群については欧米の臨床研究の結果とほぼ同等の成績が得られたが,肝移植が正式に導入されておらず,また転移例の予後は依然不良であった10)。
文 献
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- Douglass EC, Reynolds M, Finegold M, et al. Cisplatin, vincristine, and fluorouracil therapy for hepatoblastoma : a Pediatric Oncology Group study. J Clin Oncol 1993 ; 11 : 96-9.
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- Zsiros J, Brugieres L, Brock P, et al. International Childhood Liver Tumours Strategy Group(SIOPEL): Dose-dense cisplatin-based chemotherapy and surgery for children with high-risk hepatoblastoma(SIOPEL-4): a prospective, single-arm, feasibility study. Lancet Oncol 2013 ; 14 : 834-42.
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- CQ10
- 肝細胞癌に対する化学療法の適応は
背 景
小児の肝細胞癌の治療においては原発腫瘍が完全摘出できるかどうかが治療の成否を決定し,術前および術後の化学療法について有効性が明らかな化学療法レジメンは未だ確立されていない。ここでは,肝細胞癌における化学療法の意義について検証した。
- 推奨グレード2C
- 小児の肝細胞癌は化学療法の感受性が低く,シスプラチン(CDDP)を用いた化学療法が行われるが,有効性は明らかではない。
解 説
小児の肝細胞癌に対する術後化学療法の意義について,明らかな有効性を示した報告はない。CCG/POG〔現,米国小児がんグループ(COG)〕のINT-0098(1989〜1992 年)では46 例中stage I の8 例で一期的に原発腫瘍の完全摘出が行われ,CDDP を含む術後化学療法後に7 例が無病生存であった1)。原発腫瘍の完全摘出のみによる治療成績が30%前後であることより2),完全摘出例における術後化学療法の有効性を示唆する結果ではあるが,結論づけるには術後化学療法の有無によるランダム化比較試験が必要と考察している。
術前化学療法の意義については,さらに限定的である。INT-0098 において,一期的腫瘍切除が行えず術前化学療法を行ったstage III 25 例とstage IV 13 例では,それぞれ1 例のみで待機的な原発腫瘍の完全切除が可能であった1)。一方,1990〜1994 年に行われた国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)のSIOPEL-1 では全例にシスプラチン/ドキソルビシン(CDDP/DXR)を用いた術前化学療法が施行され,39 例中14 例(36%)で原発腫瘍を完全摘出したと報告している3)。しかしながら,SIOPEL-1 を含めて全体の5 年生存率は30%以下であり1, 3-5),術前化学療法が治療成績の向上に寄与したとする根拠は明らかでない。
成人の肝細胞癌では分子標的薬ソラフェニブの有効性が示されているが,小児の肝細胞癌におけるソラフェニブの意義については未だ確立していない。Schmid らは,ソラフェニブとPLADO(CDDP/DXR)の併用療法を行った小児肝細胞癌12 例の後方視的解析を報告している。12 例中6 例(内2 例は局所再発後肝移植)が,フォローアップ期間中央値20 カ月で寛解であった。7 例の切除不能例で,PLADO/ソラフェニブは部分寛解(PR)4 例,不変(SD)2 例,増悪(PD)1 例であった6)。PLADO/ソラフェニブは小児の肝細胞癌において有望な治療と考えられるが,その検証には前方視的臨床試験が必要である。
文 献
- 1)
- Katzenstein HM, Krailo MD, Malogolowkin MH, et al. Hepatocellular carcinoma in children and adolescents : results from the Pediatric Oncology Group and the Children’s Cancer Group intergroup study. J Clin Oncol 2002 ; 20 : 2789-97.
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- CQ11
- 小児肝がんに対する大量化学療法の適応は
背 景
抗がん剤に感受性のある固形腫瘍において,治療強度の強化のために自家造血細胞移植救援療法を併用した大量化学療法が試みられている。ここでは,小児肝がんにおける大量化学療法の意義について検証する。
- 推奨グレードなし
- 小児肝がんにおいて,大量化学療法を行う十分な科学的根拠はない。
解 説
肝芽腫において,ランダム化比較試験で自家造血細胞移植の救援を伴う大量化学療法の有効性を検討した報告はない。自家造血細胞移植の救援を必要としない大量化学療法としては,CCG/POG〔現,米国小児がんグループ(COG)〕がプラチナ製剤の用量強化の有効性をシスプラチン/ カルボプラチン(CDDP/CBDCA)療法で検討しているた1)。中間解析の結果,CDDP/CBDCA 群の無イベント生存率(EFS)は対象群であるシスプラチン/ フルオロウラシル/ ビンクリスチン(CDDP/VCR/5-FU)群に比べ不良であり,有害事象も有意に増加したためプラチナ製剤による強化は有効でないと結論された。また国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)では,自家造血細胞移植の救援を必要としないシクロホスファミド(CPA)の大量化学療法の第Ⅱ相試験を行ったが2),重篤な有害事象は認めないものの部分奏効が17 例中1 例であり,最終的には全例が死亡したことから,単独の大量CPA 投与は無効と結論している。
一方でドイツのGerman Cooperative Pediatric Liver Tumor Study では,HB89/HB94 に登録された141 例のうち進行期症例2 例と再発症例12 例に対して,第一選択レジメンであるIPA 療法〔イホスファミド+シスプラチン+ドキソルビシン(IFM+CDDP+DXR)〕に薬剤耐性ありとの仮定にたち全例にカルボプラチン+エトポシド(CBDCA+ETP)療法を施行し,半数の7 症例が無病生存中と報告している3)。また,この結果を受けてHB99 では多発性または血管浸潤を有するstage III とstage IV の肝芽腫症例に対して自家造血細胞移植を伴う大量CBDCA+ETP 療法の有効性を前方視的に検討したが4),有意な予後改善は認められなかった5)。日本小児肝癌スタディグループ(JPLT)によるJPLT-2 の解析でも大量化学療法の有効性は明らかとなっていない6)。その他にも症例報告は散見され6),わが国からも,大量化学療法の有効性を示唆する結果は報告されている7, 8)。しかしながら,いずれも少数例での検討であり,肝芽腫における大量化学療法の意義は不明である。
肝細胞癌においては,化学療法の適応の項でも記載しているように,元来が化学療法に抵抗性であるため9, 10),難治例に対する大量化学療法の意義はない。
文 献
- 1)
- Malogolowkin MH, Katzenstein H, Krailo MD, et al. Intensified platinum therapy is an ineffective strategy for improving outcome in pediatric patients with advanced hepatoblastoma. J Clin Oncol 2006 ; 24 : 2879-84.
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- CQ12
- 静注化学療法と比較した動注化学療法(塞栓術を含めて)の意義は
背 景
肝芽腫において腫瘍摘除前に動注化学療法または動注化学塞栓療法が用いられることがある。肝芽腫における動注化学療法,動注化学塞栓療法の意義を文献的に検討した。
- 推奨グレード2C
- 小児肝がんに対する動注化学塞栓療法を行う十分な科学的根拠はない。
解 説
塞栓術を伴わない動注化学療法と静注化学療法の比較を試みた臨床試験はわが国の日本小児肝癌スタディグループ(JPLT)によるJPLT-1 のみである1)。肝の2 区域までに限局した未治療症例を対象に術前1 回のみシスプラチン(CDDP)とピラルビシン(THP)を動注してから切除を行い,術後5 コースの静注化学療法を行う「動注群」と,一期的切除後に6 コースの静注化学療法を行う「静注群」の比較が行われ,両者の間に腫瘍摘除率および生存率に差がなかったと報告されている。一方,3 区域以上の症例に対しては動注を繰り返す動注群と静注を繰り返す静注群での比較が行われたが,両者の無病生存率(DFS)には統計学的な有意差はなく,むしろ静注群の治療成績が良い傾向がみられた。
一方,動注化学塞栓療法の検討はいずれも切除不能例を対象とした少数例の観察研究で,その多くは静注化学療法抵抗性の症例である。Malogolowkin らは6 例の肝芽腫と3 例の肝細胞癌の切除不能肝腫瘍を対象に複数回の動注化学塞栓療法を施行し,全例において部分奏効を認め,うち5 例では腫瘍の完全摘出または部分摘出(組織学的残存あり)が可能であり,3 例が腫瘍なしで生存していると報告した2)。副作用はトランスアミナーゼ,ビリルビンの上昇,発熱,腹痛,悪心,嘔吐,一過性の凝固障害で,動注化学塞栓療法は腫瘍の切除可能性を高めるのに有効であることを示唆した。これを追試した試験ではやはり少数例の観察ながら同様の結果が得られており,動注化学塞栓療法は切除不能で静注化学療法に抵抗性の肝腫瘍に対し治療の選択肢となり得ると示唆されている3, 4)。
文 献
- 1)
- Sasaki F, Matsunaga T, Iwafuchi M, et al . Outcome of hepatoblastoma treated with the JPLT-1(Japanese Study Group for Pediatric Liver Tumor) Protocol-1 : A report from the Japanese Study Group for Pediatric Liver Tumor. J Pediatr Surg 2002 ; 37 : 851-6.
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- Xuewu J, Jianhong L, Xianliang H, et al. Combined treatment of hepatoblastoma with transcatheter arterial chemoembolization and surgery. Pediatr Hematol Oncol 2006 ; 23 : 1-9.
- CQ13
- 肝芽腫に対する放射線治療は有効か
背 景
肝芽腫に対する補助療法は化学療法であり,標準治療として放射線治療を併用することはない。肝芽腫における放射線治療の意義について検討した。
- 推奨グレード2C
- 肝芽腫に対して放射線治療を初期の補助療法として明らかな治療効果を示した報告はなく,その意義については不明である。
解 説
肝芽腫が不完全切除の場合に放射線治療が有効である可能性について,米国小児がんグループ(POG)より73 例の登録例中放射線治療を受けた5 例についての報告がある1)。それによると,5 例中3 例が放射線治療により完全奏効を示し,そのうち1 例は切除後の残存腫瘍が放射線治療後消失し,他の2 例は放射線治療後切除可能となったことが報告されている。また,Habrand らも小児肝がんに対する放射線治療の成績を報告し,肝芽腫不完全摘出7 例に術後照射を行い6 例が生存し,切除不能であった巨大腫瘍の1 例では術前照射により切除可能となり,1 例は肝再発病巣に照射し生存していると述べている2)。この報告の中では肝細胞癌について放射線治療は無効であった。
小児肝がんに関する初期治療としての放射線治療の有効性については,明らかな治療効果を示した臨床研究は見当たらない。国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)によるSIOPEL-1 でも例外的な局所治療として報告されている3)。肝芽腫は放射線に感受性があることが示唆され,切除が不能な残存腫瘍に対する代替的な局所治療として実施を検討してもよいが,科学的根拠は不十分である。
検索式・参考とした二次資料
検索フィールド:PubMed
“hepatoblastoma” “radiation” “hepatic tumor” “childhood”のKey word を使用して検索し,本テーマに関連する3 文献を選択した。
検索期間:2000 年1 月1 日〜2014 年7 月31 日
検索式:
- 1.hepatoblastoma
- 1,644 件
- 2.1 × radiation
- 40 件
また,PDQ Ⓡ Cancer Information Japan を参考とした。
文 献
- 1)
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- Habrand JL, Nehme D, Kalifa C, et al. Is there a place for radiation therapy in the management of hepatoblastomas and hepatocellular carcinomas in children? Int J Radiat Oncol Biol Phys 1992 ; 23 : 525-31.
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- CQ14
- 再発腫瘍に対する治療方針は
背 景
小児肝がんにおいても再発後の予後は,再発部位,再発時期,前治療,患児の状態などに影響される。ここでは,再発性小児肝がんの治療方針における外科療法および化学療法の役割について検討する。
- 推奨グレード2C
- 化学療法も行われるが,可能な限り再発部位の完全摘出を考慮する。
解 説
小児肝がんの再発は局所再発と遠隔転移に分けられるが,一般にその予後は不良である。Black らは,肺転移による再発5 例に対して,積極的な転移巣切除を行い4 例の長期生存例を報告した1)。肺転移切除が有効な因子としては,1)初発時の原発巣の完全切除,2)原発巣の完全切除後6 カ月以降の再発,3)初発時に薬剤感受性を有すること,4)化学療法に反応しなくなったと判断されたあとの早い時期の切除,5)最大限の化学療法中に出現してきた全ての肉眼的病巣の切除,があげられている。米国小児がんグループ(CCG)の報告では,初診時にstage I の肝芽腫33 例中10 例が再発し,うち6 例で肺転移を伴っていたが,再発部位が肺単独かつ切除可能であった3 例のみが長期生存している2)。Robertson らは肝移植後に肺転移と脳転移で再発した症例に対して,積極的な転移巣切除と化学療法および放射線治療を併用し,長期生存したと報告している3)。以上は,肝芽腫においては再発であっても積極的に腫瘍摘出を行うことで,長期生存が望める可能性を示唆している。
再発後の化学療法に関しては,確立されたレジメンは存在しない。The German Cooperative Pediatric Liver Tumor Study のHB94 では進行期症例を対象に,再発時の化学療法レジメンとしてのカルボプラチン+エトポシド(CBDCA+ETP)の有効性を検討し,IPA 療法〔イホスファミド+シスプラチン+ドキソルビシン(IFM+CDDP+DXR)〕に反応不良であった18 例中12 例において肺転移の消失を含む効果を認めている4)。国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)では再発あるいは治療抵抗性肝芽腫に対してイリノテカン(CPT-11)単剤の第Ⅱ相試験が行われた。CPT-11 は20 mg/m2 をday 1〜5,day 8〜12 に21 日ごとに投与された。再発11 例,治療抵抗性13 例の合計24 例が登録され,23 例の評価可能症例では,部分寛解(PR)6 例,不変(SD)11 例, 増悪(PD)6 例であり,4 例が早期PD であった(RR:26 %,EPR:17%)。残存腫瘍が完全切除できた8 例では7 例で腫瘍が消失した。最終フォローアップで,12 例が生存し,うち6 例が無病生存しており,1 年無増悪生存(PFS)は24%であった。再発症例の方が,治療抵抗性症例より,RR が高かった(46% vs. 8%)。肺転移のみの例の方が,他の病変部位の例より奏効率がよかった(50% vs. 13%)。主なgrade 3〜4 毒性は下痢と好中球減少で,半数にみられた。この結果から,肝芽腫再発例に対し,CPT-11 は有効で,毒性も許容範囲内であり,再発時の治療として考慮すべき薬剤と結論されている5)。また,初発時の治療がCDDP 単剤であった場合,再発時にはDXR の効果が期待できる6)。以上より,肝芽腫再発時に用いる薬剤としては,ETP,CDDP,CPT-11,初発時未使用であればDXR が考慮される。
肝細胞癌の再発後の予後はさらに不良である。小児肝細胞癌再発例におけるソラフェニブの意義については確立していない。動注化学塞栓療法などにより腫瘍の縮小を図り,できるだけ完全摘出を行う7)。
検索式・参考とした二次資料
検索フィールド:PubMed
検索期間:2000 年1 月1 日〜2014 年7 月31 日
検索式:
- 1.hepatoblastoma
- 1,644 件
- 2.1 × relapse
- 154 件
- 1.hepatocellular carcinoma
- 46,636 件
- 2.1 × chemotherapy
- 9,983 件
- 3.2דchildhood” OR“ children”
- 765件
この中から本テーマに関連する7 文献を選択した。
また,PDQ Ⓡ Cancer Information Japan を参考とした。
文 献
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- CQ15
- 難治性小児肝がんに対する新規治療薬は
背 景
再発,治療抵抗性肝芽腫の予後は不良であり,新規治療薬の開発が治療成績改善には必要である。本項では小児肝がんに対する新規治療について文献的に検討した。
- 推奨グレード2C
- 治療抵抗性肝芽腫に対してイリノテカン(CPT-11)の有効性が示されているが,新規分子標的薬は未だ開発中である。
解 説
肝芽腫再発例,治療抵抗例に対して,CPT-11 が有効であった症例の報告がなされ,米国小児がんグループ(COG)の第Ⅱ相臨床試験では50 mg/m2 を5 日間,3 週ごとに投与され,1 例であるが肝芽腫症例が寛解に入った1)。CQ14 で述べたようにCPT-11は再発・治療抵抗性に効果を示したため,初発の高リスク群で試されることとなった。COG-AHEP0731 では,転移のある肝芽腫初発例において,CPT-11 とビンクリスチン(VCR)の併用療法を先行投与して効果を評価している2)。
肝芽腫では,insulin-like growth factor,phosphatidylinositol 3-kinase/AKT/mTOR,VEGF, HGF-cMet といった分子や経路が治療標的になる可能性が示唆されている3)。しかし,候補薬剤を一つ一つ評価していくのは,まれな腫瘍である肝芽腫においては現実的に不可能と考えられる。今後の治療開発には,さらなる分子レベルでの病態の理解と,国際共同研究が必要である。
肝細胞癌に対しては,前述の様に成人で有効性が示されているソラフェニブが,小児肝細胞癌でも有望視されている。PLADO/ソラフェニブ併用療法の後方視的解析が報告されており4),一定の効果が得られているが,小児肝細胞癌治療における意義の確立には前方視的臨床試験が必要である。
文 献
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- CQ16
- 小児肝がん治療における合併症とその対応は
背 景
小児肝がんの治療に伴う合併症には治療中にみられる合併症と治療後の長期的な視野からみた合併症があり,その内容により対応が異なるが,小児がんの中でも小児肝がん治療に伴う特有の合併症とその対応について検討した。
推奨1
- 推奨グレード1B
- 小児肝がん治療の外科的合併症は一般的な肝臓手術に伴うものであり,その対応は肝臓手術のそれに準ずる。
推奨2
- 推奨グレード1B
- 小児肝がん治療の化学療法に伴う合併症はキードラッグであるシスプラチン(CDDP)によるものが主体であり,その対策が必要である。
解 説
小児肝がんの基本的治療はCDDP を中心とした化学療法と腫瘍の外科療法によって行われている1)。したがって,小児肝がんの主な合併症は手術と化学療法に伴うものであり,その対応が必要とされる。
手術に伴う合併症には術後出血,胆管狭窄や胆管炎,横隔膜損傷,血管損傷などがあり,米国小児がんグループ(COG)のINT-0098 では178 例中35 例で手術合併症が認められており,その中で8 例は手術合併症が死亡原因につながった可能性が指摘されている2)。国際小児がん学会-上皮性肝がん研究グループ(SIOPEL)では手術による合併症を防ぐために肝臓手術に精通した外科医が最新の設備を有する施設で手術を行うべきという指針を出しており3),高リスク症例を対象としたSIOPEL-3 の最終報告では151 例の登録症例中5 例のみが腫瘍生検を含めた外科療法に伴う合併症で死亡したとされている4)。
次に化学療法に伴う主な合併症として,小児肝がんに対するキードラッグであるCDDP による主な有害事象である腎障害と聴力障害があげられる。CDDP による腎障害では糸球体濾過量低下と尿細管障害による低マグネシウム血症がみられるが,治療終了後には改善が見込まれる5)。標準リスク症例を対象としたSIOPEL-3 では,CDDP の術前術後化学療法で治療され腎機能が評価された80 例の糸球体濾過量は,3 例(3.7%)が60 mL/分/1.73 m2 以下であり,19 例(23.7%)が60〜79 mL/分/1.73 m2 と全体の27.5%で腎機能の低下を認めている1)。COG はプラチナ製剤を含む,腎毒性を有する抗がん剤の,種類別の晩期腎合併症に対するスクリーニング検査のガイドラインを示しているが5),CDDP により治療された小児肝がんの患児では長期的な腎機能の評価が必要である。
聴力障害については,小児はプラチナ製剤による耳毒性への感受性が成人より高く6, 7),CDDP の累積投与量が400 mg/m2 を超えると音声周波数帯域(500〜2,000 Hz)に影響して深刻な難聴の危険性が生じる6, 8)。標準リスク症例を対象としたSIOPEL-3ではCDDP が最低量で400 mg/m2 投与され,Brock らの基準9)を用いた評価では168 例中53 例(32%)がgrade 1 以上の聴力障害を指摘され,12 例(7%)はgrade 3 以上であった1)。また,高リスク症例を対象としたSIOPEL-4 では,術前に少なくとも430 mg/m2 のCDDP が投与された症例の中で,聴力障害の評価が可能であった61 例中36 例(59%)がgrade 1 以上の聴力障害を認め,16 例(26%)はgrade 3 以上であった10)。このCDDP の耳毒性に対していくつかの耳保護剤の臨床試験が行われているが,今のところ有効な薬剤は開発されていない8)。
文 献
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2章 小児腎腫瘍
- はじめに
小児腎腫瘍のうち,腎芽腫は最も頻度の高い腫瘍である。腎芽腫は米国において小児がんでは4 番目に多く,年間に約500 例が診断されている。わが国では年間40〜60 例しか登録例がなく,登録されていない例があるとしても,その発生数には日米で大きな差がある。
多施設共同研究は,米国ウィルムス腫瘍スタディ(NWTS)グループと欧州の国際小児がん学会(SIOP)が代表的である。わが国では,日本ウィルムス腫瘍スタディ(JWiTS)がNWTS 治療レジメンをはじめ,わが国の実情にあった研究プロトコールを策定している。いずれのグループにおいても,アクチノマイシン(ACD),ビンクリスチン(VCR)の2 剤あるいはドキソルビシン(DXR)を追加した3 剤併用化学療法に加え,病期によって放射線治療を追加するという標準治療を提唱している。
エビデンスを求めると,症例数の多い欧米からの報告が多く,わが国からの報告は少ない。本ガイドラインは,2011 年の初版に続き,新たなエビデンスに基づき,小児がんを専ら扱う実地医家のために小児腎腫瘍のうち,腎芽腫,腎明細胞肉腫,腎ラブドイド腫瘍について解説した。
- CQ1
- 小児腎腫瘍の治療方針の決定に必要な分類と検査は
背 景
小児腎腫瘍の治療に必要な分類は,病理組織分類と病期分類である。検査法では,画像診断と臨床検査が用いられる。ここではこれらの要点を解説する。
推奨1
- 推奨グレード1A
- 病理組織分類では,米国ウィルムス腫瘍スタディ(NWTS)分類と欧州の国際小児がん学会(SIOP)分類が有用である。予後不良の組織型としてびまん性退形成腎芽腫(diffuse anaplasia in nephroblastoma), 腎明細胞肉腫(clear cell sarcoma of the kidney:CCSK),腎ラブドイド腫瘍(rhabdoid tumor of the kidney:RTK)がある。
解 説1
病理組織分類には,米国のNWTS と欧州のSIOP 分類が使用されている。NWTS 分類(表1)は,化学療法前の病理組織分類である。予後良好組織型と予後不良組織型に分類される。
一方,SIOP 分類(表2)では術前治療群と術前非治療群に分け病理組織分類を行っている1)。SIOP では3 つの予後グループに分類している。
わが国では,2008 年,日本病理学会小児腫瘍組織分類委員会が,SIOP 分類に準じた新しい分類(表3)を発表した。それによると,従来の分類はRTK とCCSK は腎芽腫の不全型として分類されていたが,新分類ではNWTS やSIOP 分類と同様に腎芽腫には含めないこととした2)。
予後良好組織型(favorable histology:FH)は,組織学的に正常の腎になっていく組織によく似た未分化小円形細胞(blastemal cell),間質細胞(stromal cell),上皮様細胞(epithelial cell)の3 要素から成り,腎の発生の各段階に類似した組織像を呈す2)。
退形成(anaplasia)とは,異常な多極性核分裂像(multipolar polyploid mitotic figures)を認め,核の最大径が周囲の細胞の3 倍以上になる場合をいい,限局型とびまん型に分けられる2, 3)。退形成成分を認める腎芽腫は,後述のCCSK やRTK とともに予後不良組織型(unfavorable histology:UH)に分類される。
CCSK は,核小体の不明瞭な円形〜卵円形の核を有する細胞質の少ない腫瘍細胞で,繊細だがはっきりとした樹枝状に広がる毛細血管の網目による隔壁で腫瘍細胞が無数の小島に区切られる組織像を呈することが特徴である2, 4)。
RTK は,ふくろうの眼(owl-eye)と形容される巨大な単一の核小体を有する卵円形の核と球状の好酸性細胞質封入体が存在する大型の細胞が特徴的である2)。22 番染色体の欠失が高頻度に認められ,22q11.2 に存在するSMARCB1(hSNF5/INI1)遺伝子に変異あるいは欠失がみられる。SMARCB1 遺伝子の免疫染色(INI1/BAF47/SNF5)がRTK の診断に有用である2)。
先天性間葉芽腎腫(congenital mesoblastic nephroma:CMN)は紡錘形腫瘍細胞が腎実質内に浸潤性に増殖し,糸球体,尿細管などを破壊することなく流線型に存在するclassic type,楕円形核で分裂細胞に富む腫瘍細胞が流線配列を示さずびまん性に存在するcellular type,両者が不規則に混在するmixed type に分類される。Cellular type の CMNでは infantile fibrosarcomaと同様に染色体転座t(12;15)(p13;q25)によりETV6-NTRK3 融合遺伝子が形成される2)。
推奨2
- 推奨グレード1B
- 病期分類は腫瘍の解剖学的進展度を表しており,手術所見と手術術式(腫瘍完全切除か否か)を分類の条件としている2 つの分類が最も多く使用されている。化学療法前にはNWTS 病期分類,化学療法後にはSIOP 病期分類が使用されている。
解 説2
病期分類は腫瘍の解剖学的進展度に基づいており,遺伝性,病理組織,腫瘍マーカーなどは考慮されていない5)。病期が上がれば腫瘍はより進展しておりその予後もより不良となる。現在,日本で使用されている分類は,NWTS 病期分類,SIOP 病期分類である。いずれの病期分類も予後と相関しており,適切な治療選択には欠かせないものとなっている5)。
NWTS 病期分類(表4)の特徴は,化学療法前の手術時の肉眼所見および摘出標本の組織学的腫瘍進展度をもとに分類されることである6)。NWTS を引き継いでいる米国小児がんグループ(COG)では,従来の病期分類を一部改訂している5)。主な改訂点は,腫瘍の漏れ(spillage)と生検の取り扱いに統一性を持たせたことである。すなわち,NWTS-5 ではspillage を側腹部に限局するものであれば,stage Ⅱとしていたが,spillage はすべてstage Ⅲとした。また生検も従来局所的な漏れ(local spillage)であればstage Ⅱとしていたが,これもstage Ⅲに統一した。
一方,SIOP 分類(表5)は化学療法後の病期分類であることが,NWTS 分類との基本的な相違である。化学療法後に手術を施行するが,摘出検体の腎洞・腎門部に腫瘍壊死組織や化学療法により変化した脂肪組織がみられても,予後不良因子とはならない,という立場をとっている1, 7)。しかし,切除断端やリンパ節に同様の変化がみられた場合には,腫瘍残存の可能性ありとして,病期を上げること(アップステージ)としている。化学療法により壊死に陥ったリンパ節がみられる場合は,そうでない場合より予後不良の可能性が高いと判断している1)。
推奨3
- 推奨グレード1A
- 画像診断は,外科療法のアプローチや術前化学療法の必要性などの,病理組織診断確定までの診療方針の決定に利用されている。
推奨4
- 推奨グレード1D
- 一般臨床検査では,特異的な腫瘍マーカーはない。
解 説3,4
小児腎腫瘍では,その他の腹部腫瘍との鑑別には画像検査は有用である。画像診断の第一の目的は腎原発の腫瘍の診断を確定することである。画像診断は,病理組織診断確定までの,外科療法のアプローチや術前化学療法の必要性などの診療方針の決定に利用されている。反対側腎の腫瘍や血管内腫瘍進展,肺転移の有無などの重要な情報が得られる。初診時にはまず腹部超音波検査を施行する。水腎,多発性囊胞腎などの非腫瘍性腫瘤を除外しておくことも重要であるが,ドプラ超音波検査で腎血管,下大静脈への腫瘍進展の有無を確認することが重要である。腹部造影CT では,超音波検査で同定できなかった造腎組織遺残(nephrogenic rests)などの検出に有用とされる。肺転移では転移巣の同定に有用である8, 9)。
胸部X 線撮影では認められない肺転移巣がCT で認められる場合の全肺照射の役割については明確ではない。しかし,肺転移がみられる腎芽腫では肺転移巣に対する初期化学療法の反応性が予後に影響を与える10)。
一般臨床検査では,特異的な腫瘍マーカーはない。Denys-Drash 症候群では蛋白尿に注意が必要である。RTK または先天性間葉芽腎腫では血清カルシウム高値がみられることがある11)。後天的von Willebrand 病が8%にみられるため,凝固系検査も注意が必要である12)。
文 献
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- CQ2
- 標準的な外科療法は
背 景
外科療法において各々の手術の質的エビデンスを求めることは難しい。しかし小児腫瘍治療専門施設では,外科療法においても最低限の質的保証が求められている。ここでは,小児腎腫瘍の標準的な外科療法について解説する。
- 推奨グレード1C
- 腫瘍を破裂させずに完全に摘出することと,腫瘍の進展度を評価することである。
解 説
米国ウィルムス腫瘍スタディ(NWTS)が提唱する要点は以下のとおりである。
1.対側腎を検索する
術前に両側性病変が示唆される場合には,患側の腎摘を行う前に視診と触診で対側腎を検索する。局所の病期は外科医が手術所見から決定する。腸骨動脈周囲,大動脈周囲,腹腔動脈周囲のリンパ節はルーチンにサンプリングするが,系統的なリンパ節郭清は推奨しない。術中操作に伴う血行性転移を最小限に留めるため,できるだけ原発巣を授動する前に腎動静脈を剥離,結紮するよう努める。
2.腎静脈・下大静脈腫瘍への腫瘍進展の有無を確認する
術前に超音波検査で腫瘍の血管内進展の有無を確認しておく。腎静脈や下大静脈内に腫瘤を触知した場合,可能であれば静脈を切開して腫瘍を血管内壁から剥離し,腎と一塊にして摘出してから腎静脈を結紮,切離することが望ましい。腫瘍血栓が肝静脈より頭側にまで進展している場合,化学療法を先行させる。
3.腎芽腫に腎部分切除術をしない
腫瘍に接していない副腎は残して良いが,腎上極から発生した腫瘍の場合には副腎を合併切除する。原則として,腎芽腫に腎部分切除術をしない。
腎部分切除術が例外的に適応となるのは,片腎患者,同時性または異時性両側例,Beckwith-Wiedemann 症候群のように腫瘍が多発する場合である。
4.生検が行われた場合,腫瘍汚染されたことになる
経皮針生検や開放生検(open biopsy)は推奨されない。術前の経皮針生検や開放生検は,局所spillage(腫瘍の漏れ)ありと考える。術中,腎摘前に生検を行った場合,局所spillage ありと考える。生検が行われた場合,腫瘍が漏れた場合,あるいは腫瘍が破裂した場合,腹膜は腫瘍汚染されたものと考える。腹膜の腫瘍細胞による汚染の程度を正しく評価することは正確な病期分類に重要である。“spillage”とは,偶発的か不可避的か意図的かを問わず,術中に腫瘍被膜が破れ,腫瘍細胞が被膜外に漏れ出た状況をさす。術中に腹腔内が腫瘍細胞で汚染されたか否か,汚染範囲は局所か広汎かを外科医は記録する。腫瘍が周囲臓器に癒着している場合でも,腫瘍と周囲組織がen bloc に摘出されたなら腫瘍は「漏れた」ことにならない。しかし,別々の検体として摘出した場合や,腫瘍組織に切り込んだ場合には,腫瘍spillage があったと考える。開腹の際,血性腹水を認める場合,腹水中の腫瘍細胞の有無にかかわらず,広汎な汚染があったものと考える。
時に腫瘍後面が破裂することがあるが,出血や血腫形成を認めない場合,穿孔は後腹膜腔に限局されるので,局所汚染と考える。血腫ができると,腫瘍細胞は血液とともに播種されるので,顕微鏡的残存腫瘍ありと考え,stage III と判定する。血腫の上縁,下縁,内側縁,外側縁をクリップでマーキングし,それに基づいて放射線治療の照射範囲を決定する。腫瘍が腎被膜と腹膜を穿破して腹腔に露出している場合,広汎汚染ありと考える。原発巣から離れた部位の腹膜や奬膜表面に腫瘍結節を認める場合,広汎汚染ありと考える。
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- CQ3
- 両側性腎芽腫(stage Ⅴ)に推奨されるマネージメント・外科療法は
背 景
腎芽腫の約5%は診断時に両側性に病変が認められるstage Ⅴである。米国ウィルムス腫瘍スタディ〔NWTS;現,米国小児がんグループ(COG)〕と国際小児がん学会(SIOP)とでは治療方針が異なるが,集学的治療の導入により,生存率は向上した。しかし,腎温存の観点からはまだ満足のゆく結果は得られておらず,長期的合併症として腎障害の発生が懸念されており,腎実質腎温存を主眼においた手術の実施が必要である。ここでは,両側性腎芽腫の治療及び手術の方針について,文献をもとに検討する。。
推奨1
- 推奨グレード1B
- 両側腎芽腫のうち,局所病期がより進行している側に適合した化学療法を施行する。
推奨2
- 推奨グレード1C
- まず化学療法を施行して腫瘍の縮小を図った後に,腎温存手術(nephron sparing surgery:NSS)(腎部分切除術,楔状切除術など)にてできるだけ正常腎を残して腫瘍を摘出する。
推奨3
- 推奨グレード2D
- 治療開始前に病理組織診断のための両側腫瘍生検を行う十分な根拠がない。
解 説
従来NWTS では,両側腎芽腫の外科療法は腫瘍の大きい方の腎摘出術をまず行っていたが,両側に病変のある患者に腎摘出を行うと後発性の腎不全を併発しやすいことが明らかになっている1)。そこで,両側性腎芽腫例では,腫瘍の根治とともに,可能な限り多くの正常腎組織を温存し,慢性腎不全のリスクを減少する必要がある2-4)。したがってNWTS では後発性の腎不全のリスクをできるだけ小さく抑えるために手術前に化学療法を施行して腫瘍の縮小を図り,可及的に腎容量の温存を図り手術するNSS を施行する治療戦略が推奨された。ヨーロッパを中心としたSIOP でも術前化学療法を施行し腫瘍の縮小を得てから腫瘍切除を実施するという方針で,できるだけ腎温存に努めるという基本方針は同じである。術後化学療法は両側腎腫瘍のより進行した側の局所病期と摘出腫瘍の病理所見により決定される5)。両側性腎芽腫治療成功の鍵は,手術前にどれだけ有効な化学療法を施行できたかということと,手術で正常腎組織をどれだけ温存できるかにかかっているといってもよい。
現在の米国国立癌研究所- 公開データベース(NCI PDQ Ⓡ)ではNWTS の治療方針に従い治療ガイドラインが作成されている。すなわち最初に両側腫瘍生検とリンパ節サンプリングを実施し,左右の腎芽腫の病期(局所病期)の決定を行う。その後より進行している側の局所病期に応じた化学療法を6 週間実施後,画像評価を行い,腫瘍の縮小は認められないが手術により治癒切除可能と判断されれば,NSS を施行する。逆に腫瘍がさらに増大している場合は,治療抵抗性の原因を検索するために再度生検を実施し,病理組織診断を確認する6, 7)。
しかし,最近のCOG 両側性腎芽腫の治療法では,腫瘍生検の必要性に関して変更が試みられている。造腎組織遺残(nephrogenic rest)と腎芽腫との鑑別では,開腹生検であっても,直径2 cm 未満の切除組織や針生検の検体では必ずしも診断が確定しない8)。また退形成型(anaplasia)では,病変分布が均一ではないため,退形成の病変部をうまく採取できていない可能性があり,したがってこれも確定診断困難ということになる。実際,腎部分切除術後の局所再発では,退形成型組織遺残と考えられる症例もあると報告されている。結局,両側の腫瘍摘出をせずに生検だけで病変を確実に診断できないと結論づけられる。一方,開腹生検にしても針生検にしても,腹部の腫瘍の漏れ(spillage)が生じるという観点からいうと,開腹手術で腫瘍破裂をきたした場合と同等と考えられる。手術時に腫瘍破裂がおこればstage Ⅲとして治療されるのに対し,生検の場合には従来stage Ⅱと診断されていたが,両側性腎腫瘍の予後が不良であったのは,生検により病期がアップステージしたのに,病期に対して不十分な治療を施行していたことが一因であると考えられた8)。以上から,COG では治療前の両側腎腫瘍生検は不要であること,また化学療法の強化が必要であると結論し,両側腎芽腫に対して生検せずにまず3 剤による化学療法を行い,腫瘍の縮小を図ってからできるだけ腎を温存して腫瘍を摘出するという基本方針で,新しい臨床試験を開始する予定である。
わが国においても,日本ウィルムス腫瘍スタディ(JWiTS)の両側性腎芽腫の予後に関する検討で,10 年以上を経て腎障害が進行する症例があり,残存腎が少ないほど腎障害が起こる可能性が高くなることが判明している4)。この結果から,わが国でも両側性腎芽腫に対しては,後発性の腎不全のリスクをできるだけ小さく抑えるために可及的に腎容量の温存を図る外科的戦略がとられるべきであるという結論に達し,次期プロトコールでは欧米と同様に,腎機能の温存を主眼に置いた治療が計画されて,新たな臨床試験を開始する予定である。JWiTS の新しいプロトコールでは生検なしでまず3 剤による化学療法を6 週間実施することになっている。そこで腫瘍の縮小が得られればさらに12 週まで化学療法を追加した後に,できるだけ腎実質を温存してNSS を実施し,もし6 週目に腫瘍の縮小が得られなければ,その時点で腫瘍生検を実施し,病理組織所見と局所病期に従って化学療法を続行するか,手術を行うかを決定する。さらに術後は,化学療法後の病理組織診断9)と局所病期に従って,化学療法と必要に応じて放射線治療を追加することを検討している。
化学療法後の腎摘出に関しては,両側の腫瘍を同時に摘出するのか,別々に摘出するのか,また別々に摘出する場合には大きい方と小さい方のどちらから先に摘出するのかが問題となる。小さな腫瘍を核出する場合など,侵襲の少ない場合には同時手術で問題はないと思われるが,腫瘍がある程度大きくて術中腎動静脈の阻血の可能性がある場合,術後に一時的な腎血流の低下により急性の腎障害が発症する可能性がある。もし両側同時に手術し,両側の腎障害をきたすと術後急性腎不全になる危険性があるため,左右別々に手術したほうが安全である。その場合はまず小さい方の腫瘍に対して手術を行い,十分な腎機能を確保した後に大きい方の腫瘍の切除を行うと,より安全に手術が可能と考えられる。
両側腎芽腫に対する腎移植は通常,治療終了後少なくとも1 年から2 年再発がないことを確信してから施行することが望ましいとされている10)。また,両側腫瘍の約10%を占める退形成型では,さらに積極的な化学療法および放射線治療,セカンドルック手術における積極的外科的アプローチが有用といわれている11)。
文 献
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- CQ4
- Stage Ⅰの予後良好組織型の腎芽腫に推奨される化学療法は
背 景
Stage Ⅰの予後良好組織型(favorable histology:FH)の腎芽腫では,無再発生存率(RFS)はおおよそ90%以上である。外科療法の介入時期の違いにより,化学療法には,術後化学療法と術前化学療法の2 種類がある。ここでは,推奨すべき化学療法について解説する。
推奨1
- 推奨グレード1B
- 腎摘出術後化学療法レジメンとして,ビンクリスチン (VCR)とアクチノマイシン(ACD)併用による化学療法が有効である。
推奨2
- 推奨グレード1B
- 腎摘出術前化学療法レジメンとしてのVCR とACD 併用による化学療法と,腎摘出術後の化学療法レジメンとしてのVCR とACD の併用による化学療法が有効である。
解 説
米国ウィルムス腫瘍スタディ(NWTS)では患側腎の全摘出を化学療法に先立つ第一の治療として選択している。NWTS は全てこの原則に従い,患側腎の全摘出後の化学療法について報告している。
NWTS-2 1)では,VCR およびACD による併用化学療法を6 カ月間行う群と15 カ月間行う群の2 群に分けてランダム化比較試験を行い,16 年RFS を6 カ月間治療群で98.9%,15 カ月間治療群では90.5%(P=0.02)と報告している2)。NWTS-3 1)では,VCR とACD による併用化学療法を10 週間行う群と6 カ月間行う群に分けてランダム化比較試験を行い,16 年RFS は10 週間群で88.9%,6 カ月間群で92.5%(P=0.08)と有意差なしと報告している。NWTS-4 3)ではstage I/FH またはstage II/FH またはstage Ⅰで退形成型の群を低リスクグループとし,この群に対し,VCR とACD の併用による化学療法を2 群に分けてランダム化比較試験を行った。すなわち,ACD を5 日間の分割投与群と1 回で投与する群(パルス群)に分けた。その結果,2 年RFS は分割投与群で92.5%,パルス群で94.9%と報告している。
ところで,NWTS-5 では,生後24 カ月未満で腫瘍の重量が550 g 未満であったstage I/FH の腎芽腫に対し,腎全摘出術のみで化学療法を行わないというパイロット研究を行った。その結果,2 年無病生存率(DFS)が86.5%となり,研究中止基準として事前に定めた90%を下回ったため,中間解析の時点でこの研究は中止となった4)。しかし,5 年推定生存率は98%(化学療法EE4A 99%)で,ほとんどの患者は化学療法で救済できたという5)。しかし,手術治療のみで化学療法を行わなかった2 歳未満で腫瘍重量が550 g 未満のstageⅠの腎芽腫での再発症例は,分子生物学的検討からWT1 変異と11p15 におけるヘテロ接合性の消失(loss of heterozygosity:LOH)が認められた6)。2 歳未満で550 g 未満のstageⅠの腎芽腫症例に化学療法を行わなくてもよいかどうかについての結論が出ていない。現在COG では,stage I/FH を中央病理診断と分子解析(染色体1p および16q におけるLOH)に基づいて層別化し,2 歳以上または腫瘍重量550g 以上の腎芽腫では,VCR とACD に,アドリアマイシン(ADM)を追加した化学療法を検討している。
英国小児がん研究グループ(UKCCSG)のUKW-1 7)では,stageⅠ/FH の腎芽腫には腎摘出術後に放射線治療は行わず,VCR 単独の化学療法を6 カ月間行うという非ランダム化試験を行い,6 年生存率を96%と報告し,この群にはACD は不要でVCR 単独で治療可能と結論している。その後UKW-2 とUKW-3 でも同様に,腎摘出術後に放射線治療を行わずVCR 単独の化学療法を10 週間行うという非ランダム化試験を行った。その結果,2 歳未満のstage I/FH の腎芽腫では4 年無イベント生存率(EFS)は93.2%,2 歳以上4 歳未満では87.2%であったが,4 歳以上では71.3%という有意に低い成績であり,このVCR 単独療法は4 歳未満の低年齢患者に限る方がよいと結論している8)。また,文献報告例を基に状態遷移マルコフモデルを用いた検討においてもstage I 腎芽腫のVCR 単独化学療法では生存率98.6%(EE4A では生存率98.8%)と2 剤併用化学療法と有意差なしと報告されている9)。
以上の研究結果より,stage I/FH の腎芽腫に対する患側腎全摘出術後に放射線治療を行わずVCR とACD 併用による化学療法を行うことが推奨される。
現在,米国国立癌研究所-公開データベース(NCI PDQ Ⓡ)上では,stage I/FH の腎芽腫に対しては,腫瘍摘出術とリンパ節サンプリングを行った後に,放射線治療は行わず,VCR およびパルスACD による化学療法を18 週間行う治療を推奨している。
一方,SIOP では術前化学療法後のSIOP 病期分類を用いて術後化学療法の方針を決めている。SIOP-9 では,術前に4 または8 週間のACD+VCR が投与されランダム化比較試験が行われた10)。その結果,4 週間と8 週間の術前化学療法では,2 年EFS は各々84%,83%,5 年OS は各々92%,87%で,有意差はなかった。
SIOP では,外科療法における腫瘍破綻を回避し,腫瘍容量の減少を図り,ダウンステージへの誘導を目的に,術前化学療法の有用性を検討してきた。その結果,術前化学療法は有用と結論している10)。術前化学療法の期間についてはSIOP-9 で4 週間施行群と8 週間施行群とほぼ同等の効果が得られている。
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- CQ5
- Stage Ⅱの予後良好組織型の腎芽腫に推奨される化学療法は
背 景
Stage Ⅱの予後良好な腎芽腫(びまん性退形成以外の腎芽腫)の治療については,大規模な多施設共同研究の結果,米国では腎摘出後の化学療法を行う治療方針,欧州を中心とした国際小児がん学会(SIOP)では,術前化学療法の後に腎摘出を行い,術後化学療法を施行する治療方針を推奨している。わが国では米国式の治療方針がとられることが多く,日本ウィルムス腫瘍スタディ(JWiTS)も米国の治療方針に準じた治療プロトコールにて全国で多施設臨床試験を行っている。
推奨1
- 推奨グレード1B
- 腎摘出後化学療法レジメンとしてビンクリスチン(VCR)およびアクチノマイシン(ACD)併用による術後化学療法を施行する。
推奨2
- 推奨グレード1B
- 腎摘出術前にVCR とACD 併用による化学療法を施行し,腎摘出後にVCR,ACD とドキソルビシン(DXR)の併用による化学療法を施行する。
解 説
米国ウィルムス腫瘍スタディ(NWTS)によるNWTS-1 ではstageⅡ-Ⅲ/ 予後良好組織型(favorable histology:FH)の腎芽腫に対し,術後放射線治療にVCR およびACD による併用化学療法を行ったが,2 年無再発生存率(RFS)が81%とstageⅠ/FH に比べ低い成績しか得られなかった1)。このため,NWTS-2 ではstageⅡ-Ⅲ/FH 症例に対しVCR およびACD による2 剤併用化学療法を行う群と,これにDXR を加えて3 剤を併用する群に分けてランダム化比較試験を行ったが,その結果16 年RFS は2 剤併用群で72.4%,3 剤併用群で84.6%(P=0.05)と有意差を認め,DXR の追加は有効であったと報告している2)。しかし16 年全生存率(OS)は2 剤併用群で80.4%,3 剤併用群では86.7%(P=0.58)と有意差はなかった3)。NWTS-3 では2 剤併用群と3 剤併用群に,さらに腫瘍床への20 Gy の放射線治療を行う群と行わない群に分けてランダム化比較試験を行った4)。その結果,stage Ⅱ/FH の腎芽腫に対しては,2 剤併用化学療法群で放射線治療なしの群とその他の3 群とで治療成績に有意差がなかった。このため,stage Ⅱ/FH の腎芽腫に対しては,DXR の追加や放射線治療は不要であると結論された。NWTS-4 6)ではstage Ⅱ/FH の腎芽腫に対し,VCR とACD の併用による化学療法を2 群に分けてランダム化比較試験を行った。すなわち,ACD をNWTS-1〜3 と同じく5 日間に分けて投与する群と,総量として同量のACD を1 回で投与する群(パルス療法)に分けた。また治療期間を15 カ月の群と6 カ月の群に分けてランダム化比較試験を行った。その結果,パルス療法では治療効果は同等で毒性は低く,経済的にも安価であると結論され,また治療期間も6 カ月でも15 カ月と差がなく,6 カ月で十分と結論された。さらに,わが国ではJWiTS が,米国NWTS に準じた治療方針によって全国で多施設共同研究を行い,欧米と遜色ない治療成績が得られた5)。
以上より,stageⅡ/FH の腎芽腫に対して患側腎を摘出後にVCR とACD 併用による化学療法を6 カ月行う,という治療法は複数のランダム化比較試験のエビデンスがあるため,推奨度1 と考えられる。4 年RFS は85%,4 年OS は96%である6, 7)。
一方SIOP-9 では,術前に4 または8 週間のACD+VCR 投与のランダム化試験が行われた8)。術後の評価で,stageⅡ/FH,あるいは標準的組織型と診断された群には27 週間のACD+VCR+DXR〔またはエピルビシン(EPI)〕が投与された。所属リンパ節転移のないN0 群では放射線治療は行わず(AVE 群),リンパ節転移のあるN1 群には15 Gy の腹部放射線治療が行われた。AVE 群の2 年EFS は84%,OS は88%であり,stage Ⅱ+N1 とstage Ⅲ を合わせたAVERTH 群での2 年EFS は71 %,OS は85%であった。
文 献
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- CQ6
- Stage Ⅲ,Ⅳの予後良好組織型の腎芽腫に推奨される化学療法は
背 景
米国ウィルムス腫瘍スタディ(NWTS)stage Ⅲの予後良好組織型(favorable histology:FH)の腎芽腫では4 年無再発生存率(RFS)90%,stage Ⅳでは80%と報告されている1)。現時点でどのような治療法が推奨されるのか文献をもとに検討する。
- 推奨グレード1C
- 化学療法剤としてアクチノマイシン(ACD)+ビンクリスチン(VCR)+ドキソルビシン(DXR)の組み合わせと,腹部放射線治療が有効である。
解 説
NWTS stage Ⅲでは,腎摘出後,腹部放射線治療(10.8 Gy)に,化学療法としてACD+VCR+DXR(24 週間)が有効とされている2)。Stage Ⅳでは,腹部放射線治療のほか両側肺野照射(12 Gy)を追加している。ただし肺野照射は,6 週の化学療法に完全寛解(CR)が得られなかった症例を適応としている。肺転移巣が手術により完全切除された場合にも第1 週から肺野照射を行う。肺門部リンパ節または大動脈周囲リンパ節に転移がみられる場合には,局所照射を腹部片側放射線治療に含め行う。両側肺野照射施行の場合には,副作用軽減のためACD およびDXR は50%減量としている。また,腹部放射線治療を20 Gy とした場合では,ACD+VCR のみとした場合でも同様の効果があったとしている。しかし,腹部放射線治療による合併症を軽減するために,照射線量を減らし,かわりにDXR を追加することが有利と考えられている。ただしDXR の副作用として心毒性があり,心不全が起こりうることを銘記しておく必要がある3)。NWTS-4 では,pulse-intensive regimen が導入され,何回かに分割されていた抗がん剤の投与を短期間に集中させることにより,副作用の軽減,治療期間の短縮,医療費の節約を実現するとともに,従来の標準治療と同様の成績を実現した1)。stage Ⅲ/FH 2 年無再発生存率(RFS)は91.1%,2 年OS は98.2%で,stage Ⅳ/FH では,各々80.6%,89.5%であった1)。
一方,国際小児がん学会(SIOP)では,術前ACD+VCR の投与が有効と考えられている。しかし,stage Ⅲ,低リスク腫瘍であっても腎摘出後に腹部放射線治療(15 Gy)と術後化学療法(ACD+VCR+DXR)を28 週間必要としている4)。その成績は,stage Ⅱ+N1,Ⅲが2 年RFS は71%,5 年OS は85%であったとしている。最近のSIOP の報告では,stage Ⅱ-Ⅲの中間リスク群においてはDXR を省略しても,それまでと同等の成績が得られている。Stage Ⅳでは,術前化学療法(ACD+VCR+DXR)を6 週間施行する。腎摘出後の遠隔転移巣遺残に対しては可能なかぎり外科的切除を試みる。術前化学療法と外科療法により寛解が得られたならば,局所の病期に応じた術後化学療法が行われる。使用される抗がん剤はACD+VCR+DXR である。術後は合計27 週間このレジメンで化学療法を行い,寛解が得られない場合には,イホスファミド(IFM),カルボプラチン(CBDCA),エトポシド(ETP)などが使用される。また,肺転移巣が術後9 週までに消失しない場合には,肺照射(12 Gy)を追加する。
SIOP では,外科手術における腫瘍破裂を回避し,腫瘍容量の減少を図り,ダウンステージへの誘導を目的に,術前化学療法の有用性を検討してきた。その結果,術前化学療法は有用と結論している4)。術前化学療法はSIOP-9 では4 週間施行群と8 週間施行群とほぼ同等の効果が得られている。
一方,NWTS であっても術前化学療法が行われることがある。すなわち腫瘍が肝静脈より上部の下大静脈に進展している場合,または腫瘍が大きいため初回手術の摘出のリスクが高すぎると考えられる場合,生検および術前化学療法を実施している5)。NWTS では,手術不能の腫瘍患者には生検後の初期治療として,VCR およびACD,場合によってはDXR による化学療法を実施している。この3 剤を用いても腫瘍の大きさが縮小しない場合,放射線治療を用いている6)。一般に,診断後6 週以内に腫瘍が十分に退縮したら手術を実施する。Stage Ⅲの腫瘍に関しては,さらに術後放射線治療を実施する。
文 献
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- 2)
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- 3)
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- CQ7
- 腎明細胞肉腫に推奨される化学療法は
背 景
腎明細胞肉腫(clear cell sarcoma of the kidney:CCSK)では,依然として全生存率(OS)が予後良好組織型(favorable histology:FH)腎芽腫と比較して低い。ここでは,CCSK の化学療法レジメンについて解説する。
- 推奨グレード1C
- 米国ウィルムス腫瘍スタディ(NWTS)stageⅠ-Ⅲでは,腎摘出術後化学療法レジメンとしてビンクリスチン(VCR)+ドキソルビシン(DXR)+エトポシド(ETP)+シクロホスファミド(CPM)の組み合わせが推奨される。
解 説
CCSK における5 年無イベント生存率(EFS)は,米国臨床試験のNWTS-1〜3 では,stage Ⅰで100%,stage Ⅱで87%,stage Ⅲで74%,stage Ⅳで36%である1, 2)。CCSK の患児のOS は,FH 腎芽腫より低い。NWTS-3 では,VCR,アクチノマイシン(ACD)と放射線治療の併用にDXR を追加することにより,CCSK 患者の無病生存率(DFS)の改善が得られた3)。 NWTS-4 では,VCR,DXR およびACD にて15 カ月間治療した患者の無再発生存率(RFS)が,6 カ月間治療した患者よりも改善したことが示された(8 年時点で87.5% vs. 60.6%)2)。しかしOS では両者に有意差を認めなかった2)。CCSK は腎芽腫と比べ,再発までの期間は長いといわれていたが,NWTS-3 では最長4 年という報告がある(DXR 投与群では,非投与群に比べて再発までの期間が長い傾向があった)3)。しかしNWTS-4 では再発までの期間は5 カ月〜3.06 年(平均1.4 年)と以前に比し短くなった2)。NWTS-5 では,stage Ⅰ-ⅣのCCSK には,VCR,DXR,CPM,ETP を併用した化学療法レジメンが施行され,腫瘍床に対して放射線治療が施行された。この治療法を用いると,5 年EFS は約89%,OS は約79%であった4)。Stage Ⅰの5 年EFS とOS は100%,stage Ⅱの5 年EFS は約87%,OS は約97%,stage Ⅲの5 年EFS は約74%,OS は約87%,stage Ⅳの5 年EFS は約35%,OS は45%であった。NWTS-5 と同様の治療をわが国で行った日本ウィルムス腫瘍スタディ(JWiTS)によるJWiTS-1 では,5 年EFS は約72.9%,OS は約74.5%であった5)。
一方,欧州を中心とした国際小児がん学会(SIOP)の治療研究(SIOP 93-01,SIOP 2001 プロトコール)では,191 例のCCSK に対し大部分の症例(189 例)で術前化学療法を施行した後に腎摘出術を行い,術後化学療法を施行する方針で治療が行われた。術後の化学療法のレジメンは,stage Ⅰ,ⅡはACD,VCR ± DXR の組み合わせで行われたが,stage Ⅲ以上ではこれにカルボプラチン(CBDCA),ETP,CPM などを加えたhigh risk regimen が用いられた。また,stage Ⅲ以上の症例では大部分に腹部照射が行われた。その結果,5 年EFS は79%,OS は86%であり,NWTS の治療成績とほぼ同等の結果が得られている6)。
NWTS-4 では再発は86 例中23 例にみられた。再発部位は肺が最も多く,ついで骨,原発切除後局所となっている2)。Stage Ⅰの32 例中8 例(25%)に再発がみられている(平均観察期間10.3 年)。そのうち7 例は2 年以内に再発がみられたという。NWTS-5 では,再発は3 年以内が多く,部位としては脳が多かった。一方,欧州のSIOP とイタリア小児血液がん学会(AIEOP)の臨床試験の結果では,237 例のCCSK のうち37 例(16%)に再発がみられ,再発までの期間の中央値は17 カ月,再発部位は遠隔転移での再発が大部分であり,脳(13 例),肺(7 例),骨(5 例)の順に多かった7)。再発例に対しては化学療法,外科療法,大量化学療法などが行われ,59%がsecond CR を達成したが,うち68%が再再発し,5 年EFS は18%,OS は26%であったと報告されている。
二次がんは,急性リンパ性白血病,慢性骨髄性白血病,急性骨髄単球性白血病がみられている。晩期合併症としては,腎不全,尿細管壊死(3 例),慢性活動性肝炎(門脈線維化),側弯症,原発性卵巣機能不全がみられた。再発23 例中,13 例が死亡している。NWTS-3 では90 例中35 例が再発,30 例が死亡しており,それに比べ予後は改善している。
NCI PDQ Ⓡでは,腎摘除術に加え,全患者に10.8 Gy を用いる腹部放射線治療と,化学療法レジメンとしてVCR+DXR+ETP+CPM の組み合わせを推奨している4)。しかしながらstage Ⅳの成績は不良のため,米国小児がんグループ(COG)の最新の治療研究ではCBDCA の併用が検討されている。
文 献
- 1)
- Green DM, Breslow NE, Beckwith JB, et al. Comparison between single-dose and divided-dose administration of dactinomycin and doxorubicin for patients with Wilms’ tumor : a report from the National Wilms’ Tumor Study Group. J Clin Oncol 1998 ; 16 : 237-45.
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- CQ8
- 腎ラブドイド腫瘍に推奨される化学療法は
背 景
本腫瘍は小児腎腫瘍の約2 %を占める比較的まれな予後不良な腫瘍である。腫瘍の起源細胞はいまだ不詳である。現在では腎明細胞肉腫(clear cell sarcoma of the kidney:CCSK)と同様に腎芽腫とは異なる腎腫瘍とされている。治療成績を文献から検討する。
- 推奨グレード2D
- 推奨すべき有効な化学療法レジメンがない。
解 説
腎ラブドイド腫瘍(rhabdoid tumor of the kidney:RTK)には有効な治療法が確立されていない1)。これまでの米国ウィルムス腫瘍ステディ(NWTS)の成績では,4 年全生存率(OS)はstageⅠで33.3%,stage Ⅱで46.9%,stage Ⅲで21.8%,stage Ⅳで8.4%である2)。
1996 年,欧州の国際小児がん学会(SIOP)では22 例のRTK を集積してその結果について報告しているが3),これによるとstageⅠ(SIOP 病期分類)が0 例,stage Ⅱが5 例(23%),stage Ⅲが10 例(46%),stage Ⅳが5 例(23%)であった。転移病変は18 例(82%)にみられた。うち8 例は初診時に転移陽性,10 例は初診から2 週間〜9 カ月後に出現している。追跡し得た19 例中,最終的に2 例(stage Ⅱ)のみが生存しており,残りの17 例(89.5%)は2 週間〜20 カ月後に死亡している。NWTS-5 では治療成績不良のため,シクロホスファミド(CPM),エトポシド(ETP)およびカルボプラチン(CBDCA)を併用するラブドイド腫瘍の治療群を閉鎖した。ETP とシスプラチン(CCDP) との併用,ETP とイホスファミド(IFM) との併用, およびIFM,CBDCA およびETP の併用(ICE 化学療法)が用いられている4, 5)。NWTS-1〜5 からの142 症例の検討2)によると,診断時の病期と年齢は予後と相関することがわかった。StageⅠおよびstage Ⅱ疾患の患者のOS は42%であり,stage Ⅲおよびstage ⅣのOS は16%であった。診断時年齢が6 カ月未満では4 年OS は9%であったが,2 歳以上では41%であった。たとえ病期が進行していても2 歳以上の年長児の方が予後が良いことがわかった。中枢神経系(central nervous system:CNS)病変を有した患者は1 人を除いて全員が死亡した2)。以上から,進行した病期と中枢神経系病変の合併が予後不良予測因子になりうると結論している2)。
RTK の治療成功例の報告も少しずつみられており,1999 年Waldron ら5)は,stage Ⅳ(肺と腎門部,下大静脈分岐部,大動脈周囲リンパ節転移陽性)の31 カ月の男児に腫瘍摘除後に放射線治療とドキソルビシン(DXR)を含めた化学療法を施行して60 カ月以上の寛解が得られたと報告している。本症は極めて予後不良であるが,現在のところ化学療法剤としてDXR の有効性が生存例とともに報告されている4, 6, 7)。
文 献
- 1)
- Ahmed HU, Arya M, Levitt G, et al. Part I : Primary malignant non-Wilms’ renal tumours in children. The Lancet Oncology 2007 ; 8 : 730-7.
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- CQ9
- 腎芽腫症に対する治療方針は
背 景
造腎組織遺残(nephrogenic rest:NR)および腎芽腫症(nephroblastomatosis:NBM)は腎組織内に胎児性腎組織(造腎組織)が単発,あるいは巣状に遺残しているものをさし,腎芽腫の前駆病変と考えられている。ここではこれらの治療方針について文献をもとに検討する。
推奨1
- 推奨グレード2D
- 多剤併用化学療法が行われる。
推奨2
- 推奨グレード2D
- できるだけ腎機能を損なわないようにして,腎部分切除を施行してもよい。
解 説
NR は正常腎組織内に胎児性腎組織(造腎組織)が巣状に遺残しているものをさす。しばしば多発性(multifocal),あるいはびまん性(diffuse)に発生し,NBM と呼ばれる。腎芽腫に合併して認められることが多いため,腎芽腫の前駆病変と考えられている。発生部位によって2 型に分類され,腎葉の周辺部にみられる辺葉造腎組織遺残(perilobar nephrogenic rest:PLNR)と,腎葉内部にみられる葉内造腎組織遺残(intralobar nephrogenic rest:ILNR) とに分けられる。NR が過形成をきたしたhyperplasitic NR は治療上腎芽腫との鑑別が重要である。NR は通常は顕微鏡的小病変であるが,時に肉眼でも確認できるような大きな結節を形成する。このようにNR が過形成をきたしたものを hyperplasitic NR と呼ぶが,この病変は腎芽腫との鑑別が問題となる場合がある。両者の組織所見が類似しているため,特に生検組織では腎芽腫とNR の両者を鑑別することはしばしば困難である1)。
両側性腎芽腫では,とりわけNR,NBM の合併率が高い。また,腎芽腫を好発する症候群のうち,Beckwith-Wiedemann 症候群,半身肥大ではPLNR が多くみられ,Denys-Drash 症候群,WAGR 症候群ではILNR が多くみられる2, 3),腎芽腫の原因遺伝子が発症に関与していると考えられている。NBM を合併した腎芽腫は,合併しない腎芽腫に比べて再発率が高いと報告されているが,これは残存腎に新たに別の腎芽腫が発症したためと考察されている4)。
本症は基本的には良性の病変であり,また,将来新たに腎芽腫が発生するリスクが高いため,腎実質の温存を主眼においた治療方針が推奨される。化学療法に感受性が高く,多剤併用化学療法で縮小し,なかには消失するものもあると報告されている4, 5)。また,化学療法を施行したほうが,将来的な腎芽腫の発生率が低いという報告がある6)。さらに化学療法で腫瘍を縮小させることで腫瘤の圧迫による正常腎実質の障害を防ぐ効果も期待されるため,NR が疑われる場合は,まず化学療法にて治療を開始することが望ましい。将来新たに腎芽腫が発症する危険性があるため,まず化学療法による腫瘍の縮小を図り, 腫瘍が増大傾向を示さない限り摘除術を控える可及的腎組織保存方針が一般的である。
化学療法のレジメンは,腎芽腫に用いられるものが使用されることが多い。Cozzi ら5)は,まずアクチノマイシン(ACD)とビンクリスチン(VCR)の2 剤併用化学療法を施行し,増大,あるいは大きさ不変の腫瘤と,内部が不均一となった腫瘤のみを腎温存手術(nephron sparing surgery:NSS)にて摘出する治療方針で良好な結果を得たと報告している。NSS に関しては,腹腔鏡下腎部分切除により腫瘤を完全切除した報告もある7)。
文 献
- 1)
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- 2)
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- CQ10
- 安全性を考慮した基本的な化学療法の方針は
背 景
米国ウィルムス腫瘍スタディ (NWTS)で多施設共同研究が行われた結果,アクチノマイシン(ACD),ビンクリスチン(VCR)の2 剤あるいはドキソルビシン(DXR)を追加した3 剤併用化学療法に加え,病期によって放射線治療を追加するという集学的治療法(NWTS-5 プロトコール)により,著明な生存率の改善がもたらされた。一方,有害な副反応の報告もみられており,いまや有害な副反応をいかに軽減することができるかが課題となっている。
ここでは,小児腎腫瘍の化学療法を安全に施行するための方針について述べる。
- 推奨グレード1B
- 乳児では治療の強度を軽減する化学療法が必要である。
解 説
NWTS では新生児および生後12 カ月未満の乳児はいずれも化学療法の用量を,1 歳以上の小児用量の50%に減量する必要があるとしている1)。治療の有効性を維持しながら,投与量減量により1 歳未満の患児で報告されている毒性を軽減することが目的である2)。米国では,NWTS を引き継いで,米国小児がんグループ (COG)のRenal tumor Committee が治療研究を行っているが,現行のhigher risk favorable histology Wilms tumors に対する治療プロトコール(AREN0533)でも,レジメン DD-4A を施行する際に,表1 のように抗がん剤の投与量は1 歳以下で50%に減量されていて,最大投与量も設定されている。
腎芽腫の化学療法には,肝毒性作用による肝中心静脈閉塞症が報告されているので肝機能検査を慎重に監視する必要がある3, 4)。 放射線増感剤であるACD およびDXR は,放射線治療を実施している間は投与してはならない。化学療法を受けた患児では,二次がんの発生リスクが高くなっている。このリスクは,放射線およびDXR を含めた治療強度や遺伝的因子にも左右される5)。DXR では心不全のリスクが高まる。これはDXR の蓄積用量,心臓への放射線治療の有無および性別(女児はリスクが高い)によってリスクの程度が左右される6)。
したがって化学療法の基本的方針としては,有効性を維持しながらできる限り治療の強度を軽減することが課題となっている。
文 献
- 1)
- Corn BW, Goldwein JW, Evans I, et al. Outcomes in low-risk babies treated with half-dose chemotherapy according to the Third National Wilms’ Tumor Study. J Clin Oncol 1992 ; 10 : 1305-9.
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- CQ11
- 標準的放射線治療とは。その適応は
背 景
放射線治療は腎芽腫に対して有効であり,腎腫瘍摘出後の再発防止目的の腹部放射線治療や,遠隔転移巣のコントロール目的で行われている。しかし,放射線治療による晩期合併症を考慮した場合,その適応や照射線量の設定には慎重にならなければいけない。
また,画像診断の進歩や放射線治療の進歩に伴い,その適応や意義も変化してゆく可能性がある。ここでは腎芽腫に対する適切な放射線治療とは何かを検証する。
推奨1
- 推奨グレード1C
- Stage ⅠとⅡの予後良好組織型(favorable histology:FH)腎芽腫では術後放射線治療を施行しない。
推奨2
- 推奨グレード1B
- Stage Ⅲ/FH 腎芽腫では術後放射線治療を行う。
推奨3
- 推奨グレード2D
- CT のみで検出され,胸部X 線撮影では確認できない肺転移巣への全肺照射の役割については,明確にされていない。
解 説
1.原発巣への術後照射
原発巣への放射線治療は,腫瘍摘出後の照射が原則である。米国ウィルムス腫瘍スタディ(NWTS)ではstageⅠ,Ⅱは放射線治療の適応外である1-3)。Stage Ⅱ/FH 腎芽腫で,ビンクリスチン(VCR)とアクチノマイシン(ACD)の2 剤併用化学療法施行群では術後照射の有無によって生存率に有意差がないという結果が出ている。一方,stage Ⅲ/FH 腎芽腫では,照射線量10.8 Gy/6 分割照射にVCR, ACD とドキソルビシン(DXR)の3 剤による化学療法を併用した群と,照射線量10 Gy/10 分割照射にVCR とACD の2 剤による化学療法を併用した群で,同等の治療成績が得られた3, 4)。この結果から,放射線治療による晩期合併症の軽減のためstage Ⅲでの原発巣への術後照射は10.8 Gy/6 分割照射が推奨されている。遠隔転移例(stage Ⅳ),両側性腎芽腫(stage Ⅴ)では原発巣の局所stage Ⅲ(遠隔転移がないと想定し腹部の所見だけから判定した病期)の場合に同様の術後照射が行われる。
NWTS-2 の結果では,腫瘍の局所再発の原因として,①予後不良組織型(unfavorable histology:UH)であること,②放射線治療の開始が規定より10 日以上遅延した場合,③照射野が不適切な場合,が挙げられていた。しかし,放射線治療の開始時期において,その後の検討でUH は,治療開始が10 日以上遅延しても局所再発は高くならないということが報告された5)。腹部局所再発症例の予後は不良で,NWTS では局所再発をきたした患児の87%が死亡している4)。
局所の腫瘍の漏れ(spillage)の取り扱いについては議論がある。NWTS-4 ではstage Ⅱの局所再発率は全組織型を合わせて16.5%であったが,これはstage Ⅱで術後照射を施行しなかったためと考察されている。NWTS-4 での局所再発症例の2 年生存率は43%であった。一方,stage Ⅲで化学療法3 剤(VCR+ACD+DXR)と術後照射併用後の腫瘍再発率は7.8%であった6)。英国小児がん研究グループ(UKCCSG)のUKW2 では,局所のspillage に対して局所照射(20 Gy)と化学療法3 剤の併用で良好な局所制御が報告されている7)。最新のNWTS からの報告では,stageⅡ/FH 腎芽腫では,局所のspillage があっても2 剤併用化学療法のみで,放射線治療なしでも良好な治療成績が得られたと報告されており8),局所のspillage に対する放射線治療に関しては,なしの方向で再考しなければならない可能性がある。
2.多発性肺転移に対する全肺照射
胸部X 線撮影で多発性肺転移が認められた場合には,全肺照射(12 Gy/8 分割)が推奨され,その治療成績は良好である。NWTS-3 と4 では,肺転移を有するFH 腎芽腫の4 年無再発生存率(RFS)は71.9%(全生存率78.4%)であった3)。UKCCSG でもFH 腎芽腫肺転移例では良好な成績を報告している9)。国際小児がん学会(SIOP)では術前化学療法開始後9 週までに肺転移巣が消失した場合には全肺照射を省略している10)。この治療方針での4 年無イベント生存率(EFS)は83%であった10)。
CT でのみ検出され,胸部X 線撮影で確認できない肺転移巣への全肺照射の役割については明確にされていない。NWTS-3 と4 における4 年EFS は全肺照射施行群では89%で,全肺照射非施行群では80%で両者間に有意差を認めなかった11)。NWTS では全肺照射の選択は,最終的には主治医の判断に委ねられている。日本ウィルムス腫瘍スタディ(JWiTS)では,CT でのみ検出され胸部X 線撮影で確認できない肺転移巣の場合に,全肺照射を推奨していない。Stage Ⅳの症例で全肺照射と腹部照射を同時に行った場合,心肺に対する照射量が多くなり,放射線障害を起こす可能性が高くなる12)。肺照射と腹部照射を両方行う場合,別々に照射すると両者の照射野の重なる部分の放射線量が多くなるため,連続して行う必要がある。
全肺照射と化学療法による合併症として,放射線肺炎とカリニ肺炎の発症に注意が必要である13)。放射線治療直後の化学療法は50%用量減量が推奨されている。NWTS とSIOP の相違を表1 14)に示す。
3. 肝転移に対する肝照射
肝転移に対する放射線治療は,外科的切除不能と診断された場合に考慮する。びまん性肝転移に対しては全肝照射が適応となる。肝機能障害は照射範囲と照射線量ならびに化学療法の用量依存性に増悪するので,放射線増感作用を有する化学療法剤との併用に注意することが必要である。肝転移に対する放射線治療の成績は良好である15, 16)。
4.予後不良組織型(UH)に対する放射線治療
退形成型腎芽腫の治療成績は不良で,NWTS-5 ではstageⅠの4 年EFS は69.5%であった17)。これはNWTS-4 での成績よりも不良であったため,米国小児がんグループ(COG)ではstageⅠに対しても放射線治療を併用する新しい治療法の臨床試験が進行中である。腎明細胞肉腫(clear cell sarcoma of the kidney:CCSK)では病期にかかわらず腹部放射線治療を行うことが推奨されてきた。NWTS の結果ではstageⅠのCCSK の治療成績が良好であったため,COG ではstageⅠに対して放射線治療を施行しない新しい治療法の臨床試験が進行中である。腎ラブドイド腫瘍(rhabdoid tumor ofthe kidney:RTK)の予後は極めて不良で,全病期において原発巣の放射線治療が適応とされているが,その有用性はまだ明確にされていない。
文 献
- 1)
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- CQ12
- 再発後の治療法は
背 景
腎芽腫は全生存率(OS)が向上しているにもかかわらず,再発については確立した治療法がない。ここでは現況を文献検索から検討する。
- 推奨グレード2D
- 再発に対する治療法は確立していないが,多剤化学療法が施行される。
解 説
予後良好組織型(favorable histology:FH)腎芽腫の約15%,退形成型腎芽腫の約50%が再発する1)。退形成型腎芽腫またはFH 腎芽腫で進行した病期症例は,一般に再発しやすく2),男児の予後の方が不良である3, 4)。
米国のウィルムス腫瘍スタディ/小児がんグループ(NWTS/COG)では,再発までの期間や再発部位は予後とは相関性が乏しいとしている3, 4)。しかし国際小児がん学会(SIOP)では,肺転移再発は,診断から1 年以内の方が1 年以降の肺転移再発よりも予後不良としている(5 年生存率47% vs. 75%)5)。
NWTS-5 ではビンクリスチン(VCR)とアクチノマイシン(ACD)の2 剤治療後の再発58 例を,再発プロトコールに沿って,可能であれば腫瘍の切除,放射線治療,VCR+ACD+シクロホスファミド(CPM)+エトポシド(ETP)を使用した交替化学療法レジメンで治療した。再発後の4 年無イベント生存率(EFS)は71%,全生存率(OS)は82%であった。再発病変が肺のみの症例では,4 年EFS は68% ,OS は81%であった4)。
またNWTS-5 では3 剤(VCR+ACD+DXR)治療後再発60 例を再発プロトコールに沿って,CPM+ETP とカルボプラチン(CBDCA)+ETP の交替化学療法と外科療法,放射線治療で治療した。その結果,再発後の4 年EFS は42%,OS は48%であった。再発病変が肺のみの症例では,4 年EFS は49%,OS は53%であった3)。以上から,片側性腎芽腫であれば,術後にVCR+ACD+DXR のレジメンによる化学療法と放射線治療で再発をきたしてもその約半分は再発治療により救済できうることになる。
診断時にstageⅡ-Ⅳ退形成型腎芽腫では,再発すると予後不良である6)。また,腎摘出術後6 カ月以内の再発,あるいは初回3 剤療法後の再発は予後不良といわれている7)。
局所的再発後の2 年生存率は43%であるが8),予後はこの数年間で改善されている7)。再発腫瘍はイホスファミド(IFM),ETP およびCBDCA に感受性があるが,血液毒性の報告もみられる9)。
高用量の化学療法後に自家造血細胞移植を行う治療が行われている10-12)。またCCG/POG〔現,米国小児がんグループ(COG)〕間の研究では,CPA+ETP(CE 療法)とCBDCA+ETP(PE 療法)とを交互に併用したのち,手術を実施する救済的寛解レジメンが用いられた。腫瘤が消失した症例にはCE 療法とPE 療法とを交互に5 回ずつ用いる寛解維持化学療法を割り当て,残りの患者には外科療法および自家骨髄移植を割り当てた。全患者に局所放射線治療が実施された。全対象患者の3 年生存率は52%で,化学強化療法と自家骨髄移植のサブグループでそれぞれ64%,42%であった13)。
腎明細胞肉腫(clear cell sarcoma of the kidney:CCSK)の再発治療は初期治療の方法により異なるが,CPA およびCBDCA を使用していなかった場合は,再発治療のレジメンとして検討すべきである。脳転移をともなった再発症例であっても,外科療法または放射線治療による局所のコントロールとともにレジメンとしてICE 療法(IFM+CBDCA+ETP)により治療に奏効したとの報告もある14)。
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- CQ13
- 晩期合併症にはどのようなものがあるか
背 景
化学療法と放射線治療は腫瘍患児の生存率向上に寄与する一方,長期経過において様々な有害な続発症をもたらす。こうした有害な続発症は一般に晩期合併症と呼ばれる。晩期合併症としては,臓器機能障害や二次がんが重要である。ここでは晩期合併症について検討する。
- 推奨グレード 1A
- 晩期合併症には,腎障害,心血管障害,肝障害,二次がんの発生などが挙げられる。
解 説
晩期合併症は基本的には,受けた治療の種類と程度による。集中的な強い化学療法や放射線治療を受ければ晩期合併症の発生も多くなる。これらには,腎障害,心血管障害,肝障害,二次がんの発生などが挙げられる。
1.腎障害
腎障害については,米国ウィルムス腫瘍スタディ(NWTS)プロトコールで加療された腎芽腫5,823 例中,55 例に腎不全がみられた1)。そのうち30 例は両側性腫瘍で,15 例は一側性腫瘍,1 例が孤立腎腫瘍であった。診断から腎不全発症までは平均21 カ月であった。両側性腫瘍における腎不全発生率は,NWTS-1, 2 で16.4%,NWTS-3 で9.9%,NWTS-4 で3.8%であった。一側性腫瘍における腎不全発生率は低かった。腎不全の原因は,治療抵抗性腫瘍または再発性腫瘍に対する両側腎摘除術が最も多く(24例),Drash 症候群(12 例),対側腎における腫瘍の進展(5 例),放射線腎炎(6 例),その他(5 例)であった。一側性腫瘍では腎不全の発生する確率は少なかった1)。
また両側性腫瘍では,NWTS の治療研究において,放射線治療を含め加療された81例を対象に長期に腎機能を評価した2)。追跡中央値27 カ月で,28 例は血中尿素窒素および/ または血清クレアチニン値上昇を示した。このうち18 例は中等度の腎不全,10 例は重症腎不全であった。腎不全の原因では,化学療法の種類や程度とともに再発の有無も重要な因子と考えられた。上記のうち7 例は腫瘍再発による腎機能障害,1 例はゲンタマイシンによる腎機能障害であったという2)。 両側性腫瘍に対する日本ウィルムス腫瘍スタディ(JWiTS)の検討では,31 例中両側の腎が部分切除にて温存できたのはわずか36%であり,10 年後には37%の症例が腎機能異常を示し,21%の症例が透析や腎移植を必要としていた3)。
放射線腎症は線量と関係している。両側腎に対して25 Gy を超える線量は,6 カ月以上経過してから腎不全を引き起こすことがある4, 5)。Denys-Drash 症候群,WAGR 症候群または男性尿生殖器奇形を有する場合では,診断から20 年時における腎不全発生率は高く,各々62.4%,38.3%,および10.9%であった。このような症候群を呈さない片側症例であっても健側腎葉内に造腎組織遺残(nephrogenic rest:NR)が存在することで,腎不全の累積危険度は20 年で3.3%に増加する(NR が存在しない場合には0.7%)6)。
2.心血管障害
心血管障害については,アントラサイクリン〔ドキソルビシン(DXR)など〕の使用によりうっ血性心不全や左心室後負荷増大を引き起こす7, 8)。心血管障害発生のリスクは薬剤の蓄積用量と投与量の多寡による。DXR(平均蓄積用量303 mg/m2)を投与された腎芽腫97 例中,25%に左心室後負荷の増大が心臓超音波検査で認められている6)。
3.肝障害
肝障害については,化学療法剤〔ビンクリスチン(VCR)やアクチノマイシン(ACD)〕と肝に対する放射線治療により発生する。NWTS の報告では,重症肝障害の発生率はACD 60μg/kg 投与群では14.3%,45μg/kg では3.7%,15μg/kg では2.8%であり,一回投与量の増加とともに重症肝障害の発生率も高い9)。
4.二次がん
二次がんの発生については,NWTS では,5,278 例中43 例に二次がんがみられたという〔人口基礎コホート標準化発生5.1 例,標準化発生比(SIR)8.4〕10)。また,国際小児がん学会(SIOP)では1,988 例中9 例に二次がんがみられた(人口基礎コホート標準化発生1.3 例,SIR4.15)11)。British Childhood Cancer Survivor Study 12)では,腎芽腫生存者1,441 例中81 例に二次がんがみられた。内訳は固形腫瘍52 例(人口基礎コホート標準化発生6.7 例),基底細胞癌26 例,急性骨髄性白血病3 例であった。二次がん累積発生率は,診断から15 年時で1.6%と報告されている10)。また年齢からみた固形腫瘍の累積発生率は,30 歳まで2.3%(1.4〜3.5%),40 歳まで6.8%(4.6〜9.5%),50 歳12.2%(7.3〜18.4%)であった12)。二次がんの発生は経年とともに増加傾向にある10, 12)。DXR 投与と35 Gy 以上の腹部放射線治療を受けた234 例中,8 例に二次がんが発生(人口基礎コホート標準化発生0.22 例,SIR36)しており,DXR と腹部放射線治療によりさらに発生率は増加する10)。
5.放射線障害
放射線治療による晩期合併症としては,放射線治療を受けて5 年以上を経過した34 例での検討で13),23 例(68%)に放射線治療に起因すると考えられる障害がみられた。側弯14 例,筋肉の委縮4 例,低身長4 例,後弯5 例,腸骨の萎縮3 例が認められた。また,軽度の腸閉塞が6 例,慢性腎障害が1 例にみられた。卵巣機能障害は女性13 例のうち4 例にみられた。放射線肺炎は全肺照射を行った7 例中3 例にみられ,放射線照射野からの二次がん発生は3 例にみられた。
6.高血圧
腎芽腫で腎摘出を受けた症例では,若年から高血圧を発症しやすいという報告がある14)。片側の腎摘出術をうけた75 例の検討では,16 例(21.3%)でGFR の低下,5 例(6.7%)に高血圧が認められ,うち3 例が降圧薬を服用していた。
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- CQ14
- 再発に対する追跡はどのように行うか
背 景
小児腎腫瘍の追跡経過観察も小児腫瘍の専門医が行うことが望ましい。小児腫瘍に対して加療をうけた患者の一般的長期追跡ガイドラインは米国小児がん学会(COG)により策定されているが,ここでは,特に腎芽腫治療後のサーベイランスに関する文献を中心に検討した。
- 推奨グレード2D
- 腎芽腫治療終了後の再発に対する追跡では,(1)腎芽腫症または腎芽腫発生素因のある症候群(WAGR 症候群,Denys-Drash 症候群,Beckwith-Wiedmann 症候群)では,8 歳まで3~4 カ月ごと,(2)この危険因子がない場合には最初の2 年間は3 カ月ごと,以後2 年間は6 カ月ごと,の画像診断検査が推奨される。
解 説
再発部位で最も多いのは肺であり,CT 検査は胸部単純X 線撮影に比べ被曝線量は多くなるが早期発見に最も有用である。再発追跡に対する画像検査とその施行頻度については一定のコンセンサスが得られているわけではない。
再発までの危険性が大きい期間を表すコリンズの法則(再発危険期間を初診時年齢+9 カ月で表す)は腎芽腫にも有効であったとの報告もある1)。しかし腎芽腫の場合には,多発またはびまん性造腎組織遺残(nephrogenic rest:NR)が存在すること〔腎芽腫症(nephroblastomatosis:NBM)〕が腎芽腫の危険因子であることが知られている2)。これによると,腎芽腫治療後で腎芽腫症を伴わない(A 群)63 例と腎芽腫症を伴う(B 群)18 例で比較検討している。再発はA 群で17%,B 群で50%にみられた。再発までの期間は平均10 カ月(A 群)と25 カ月(B 群)であった。腎芽腫発生部位以外のNR の存在は,治療後の再発危険の可能性が大きい。
腎芽腫のdoubling time は11〜40 日と考えられているため3-5),腹部(腎)超音波検査は3〜4 カ月ごとに施行することが望ましい6)。4〜6 カ月以上の間隔では実際その間に腫瘍発生の報告があった3)。腎芽腫発生素因のある症候群(WAGR 症候群,Denys-Drash 症候群,Beckwith-Wiedmann 症候群)では,サーベイランスの必要性が強調されている。しかし,サーベイランスの有用性はいまだ明らかとなっておらず,後方視的研究がいくつかあるのみである7-9)。この領域ではランダム化比較試験がない。2005 年,英国Wilms tumour Surveillance Working Group では,5%を超える腎芽腫発生のリスクがある場合に,5 歳(Beckwith-Wiedmann 症候群などは7 歳)まで3〜4 カ月ごとの腹部超音波検査サーベイランスを推奨している10)。しかし,エビデンスレベルとともに推奨レベルは低い。
一方,NR や腎芽腫発生素因のある症候群がない場合にも,追跡方法に明らかなエビデンスは今のところないが,腎芽腫治療終了後最初の2 年間は3 カ月ごと,以後2 年間は6 カ月ごとの腹部超音波検査が推奨されている。
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3章 骨肉腫
- はじめに
骨肉腫は「腫瘍性の骨・軟骨形成もしくは類骨基質形成を示す悪性腫瘍」と定義される。骨肉腫は,希少がんである原発性悪性骨腫瘍の中では最も発生頻度が高く(原発性悪性骨腫瘍全体の約40%),日本整形外科学会/国立がん研究センターによる全国骨腫瘍登録におけるわが国の年間新規患者数は約200〜250 人である。多くは10 歳台に発生し,10 歳台後半に発生のピークがある。性差は約1.5:1 で男性にやや多い。発生部位は,大腿骨遠位,脛骨近位,上腕骨近位の順に多く,膝関節周囲に最も好発する。骨肉腫は発生部位と組織像から亜分類され,組織学的悪性度や先行病変の有無も加味すると10 近い亜型が存在するが,大多数を占めるのは通常型骨肉腫である。多くの場合,発生の原因は不明であるが,放射線治療や骨Paget 病,線維性骨異形成などに続発性に発生することがある。また,骨肉腫が発生しやすい疾患として網膜芽細胞腫,がん家系としてLi-Fraumeni 症候群が知られている。
骨肉腫の病期分類は国際対がん連合(UICC)によるTNM 分類が用いられることが多い。骨肉腫に対する治療の基本は,局所根治術としての手術(広範切除)と遠隔転移予防・治療のための全身化学療法である。Stage I 腫瘍に対する標準的治療は外科療法単独であり,5 年生存率は90%程度と予後良好である。Stage II,III 腫瘍に対する標準治療は術前化学療法,外科療法,術後化学療法からなり,5 年生存率は60〜80%である。転移を有するstage IV 腫瘍に対しては,様々な集学的治療が試みられているが,標準的治療は確立されていない。肺転移単独stage IVA の5 年生存率は約30〜50%,肺外転移を伴うstage IVB では0〜20%である。
CQ1
骨肉腫の治療方針の決定に必要な分類と検査は
背 景
骨肉腫は,小児,若年者の四肢(膝関節周囲,上腕骨近位など)に好発する高悪性腫瘍である。無治療の場合,原発巣は数カ月で巨大な腫瘍となる。主要な神経・血管を巻きこんだり,病的骨折を生じた場合は,患肢の切断を余儀なくされることもある。診断の遅れが治療成績に大きく影響するため,迅速に正確な検査を行い,治療を開始することが重要である。治療方針決定のためには,病理学的悪性度の評価とともに,病変の進展,遠隔転移の有無の評価(病期診断)を行うことが重要である。
骨肉腫は希少がんであり,これらの検討を正確・迅速に行い的確な治療を実施するためには,骨軟部腫瘍専門医に加えて,骨軟部腫瘍に精通した病理医や放射線診断医,小児科医,腫瘍内科医の協力が得られる体制が整っている専門的医療機関に速やかに紹介することが望ましい。
- 推奨グレード1A
- 病理検査により骨肉腫と診断された場合,治療方針決定のために,単純X 線,CT,MRI,骨シンチグラフィー,Tl シンチグラフィー,18F-FDG PET/CT などの画像検査によって病変の進展,遠隔転移の有無の評価(病期診断)を行うことが重要である。
解 説
1.骨肉腫の病理組織分類(表1)
骨肉腫の組織像は非常に多彩で,核の異型,多形性,核分裂像を有する腫瘍細胞以外に破骨細胞,巨細胞,線維芽細胞様細胞,炎症細胞浸潤などを認め,骨,軟骨,線維組織などの様々な間質を形成する。通常型骨肉腫は,その組織成分の割合で骨芽細胞型,軟骨細胞型,線維細胞型に亜分類される。通常型以外にも血管拡張型,小細胞型,高悪性度表面発生骨肉腫などの組織亜型がある。通常型骨肉腫では組織亜型による予後の差が認められないことから,同一の治療法が行われている。低悪性度骨肉腫には,傍骨性骨肉腫,骨膜性骨肉腫,低悪性度骨内骨肉腫がある。また,先行する疾患に続発した二次性骨肉腫として,放射線治療後,線維性骨異形成などの良性骨病変に生じるもの,Paget 病に続発するものなどがある。
2.骨肉腫における画像検査
手術術式の決定や病期決定には,詳細な画像検査が不可欠である。しかし,一方,いたずらに検査に日数を費やすと,局所病変の増大や遠隔転移を生じ,患肢温存が困難になったり,予後を悪化させる危険性もあるため,単純X 線,MRI などの必要最小限の検査後は可及的速やかに専門施設へ紹介することが強く推奨される。専門施設では,単純X 線,CT,MRI,骨シンチグラフィー,Tl シンチグラフィー,18F-FDG PET/CT などの画像検査をすみやかに行う。
1)単純X 線検査
骨肉腫の画像診断において単純X 線検査は簡便かつ最も重要な検査である。骨盤,脊椎などの体幹部では単純X 線検査のみでは腫瘍の描出が困難なため,CT 検査やMRI 検査も追加する。単純X 線検査では,病変の部位,骨破壊,腫瘍性骨形成,骨膜反応,病的骨折の有無などをチェックする。骨肉腫では,不規則で未熟な骨形成,辺縁のはっきりしない骨破壊(moth-eaten, permeative),骨膜反応(軟部組織に向かって骨化が放射線状に伸びるspicula や骨膜が腫瘍により押し上げられて形成されたCodman 三角など)などが認められる。
2)CT 検査
全身の遠隔転移検索のためにCT 検査を行う。肺転移やリンパ節転移の診断においては,CT 検査が最も優れている。転移巣内に骨形成が認められることもあるが,一般に未熟な骨組織のことが多く,非特異的腫瘤陰影となることが多い。CT 検査では,数mm の肺転移病変を確認できる。リンパ節転移は,造影CT 画像でスクリーニングされるが,骨肉腫における初診時リンパ節転移の頻度は5%以下である。一般的に広範な肺転移を認める場合や脳神経症状を認める場合以外,造影CT などによる脳転移の検索は行われない。原発巣の骨破壊の程度の評価,石灰化の有無の評価などに関してはCT 検査がMRI よりも優れている。
3)MRI 検査
原発巣の詳細な評価のためにMRI 検査を行う。T1 強調画像で腫瘍本体や周囲の反応層は骨髄や正常な軟部組織に比較して低信号,T2 強調画像では壊死や出血を伴う部位は高信号,新生骨や線維性基質は低信号を示し,病変は不均一な所見を呈する。T1 強調画像,T2 強調画像,造影MRI を組み合わせることで,正常骨髄や健常骨組織,血管,神経など周囲の重要な軟部組織と腫瘍との関係を正確に評価することが可能であり,特に手術計画を立てる上で非常に重要な検査である。
4)骨シンチグラフィー
骨転移のスクリーニングは,骨シンチグラフィーで行われる。感度は高いものの(90%以上),特異度は低く,異常が認められた場合は,単純X 線検査,CT,MRI など他のモダリティーを追加して確認することが必要である。原発性悪性骨腫瘍の骨転移の検索について,全身MRI,骨シンチグラフィー,FDG-PET 検査を比較した後ろ向き研究によると,骨肉腫においては,FDG-PET 検査では偽陰性や偽陽性が多く,骨シンチグラフィーは標準的検査から除外できないとされている1)。
文 献
- 1)
- Franzius C, Sciuk J, Daldrup-Link HE, et al. FDG-PET for detection of osseous metastases from malignant primary bone tumours : comparison with bone scintigraphy. Eur J Nucl Med 2000 ; 27 : 1305-11.
- CQ2
- 予後因子で治療法を変更することができるか
背 景
骨肉腫における予後因子としては原発腫瘍の部位および大きさ,初発時の転移の有無,術前化学療法の奏効率と根治手術の達成度などがある1)。現在までに予後因子によって治療を変更するべきかどうか数々の臨床試験が行われてきた。これらの試験結果から,予後因子で治療を変更することが予後改善につながるかを検討した。
- 推奨グレード2C
- 骨肉腫では,予後不良因子があったとしても治療法を変更することで予後が改善するというエビデンスはなく,予後因子で治療法を変更することを推奨しない。ただし術前化学療法の奏効が不良であった場合,術後に術前使用しなかった抗がん剤を使用することを検討してもよい。
解 説
骨肉腫に関して,現在までに多くの予後因子が提唱されてきた。治療開始時の腫瘍悪性度・進行度に関連する因子として,組織亜型,遠隔転移の有無,発生部位,腫瘍最大径,腫瘍体積,血清LDH 値,血清ALP 値,年齢,性別など,治療関連因子として,化学療法の奏効性に関与する因子(腫瘍量,化学療法の強度,薬剤投与量,MTX 血中濃度,化学療法後の腫瘍壊死率)や手術根治性に関与する因子(根治性達成度,発生部位)などである。最近では,遺伝子・蛋白質解析の結果(多剤耐性遺伝子,Rb 遺伝子,HER2/erbB-2 など)を予後因子とする報告もある。
手術単独の時代は,骨肉腫自体の病態に基づいた病理学的悪性度,遠隔転移の有無,腫瘍径,発生部位などが大きな予後因子であった。5 cm 以下の比較的小さい腫瘍径で発見された場合,手術単独でも生存率が40%程度あるとの報告もあり,腫瘍径は重要な予後因子であった。補助化学療法が開始された1980 年代の報告では,肺転移の存在,腫瘍診断の遅れ,局所腫瘍の大きさ,血清ALP 値やLDH 値が予後と相関すると報告されている。その後,大量メトトレキサート(MTX),ドキソルビシン(DXR),シスプラチン(CDDP)の3 剤からなるMAP 療法による術前・術後化学療法が導入されると,術前化学療法の奏効性,特に組織学的な壊死率が重要な予後因子であることが示された。以降,欧米やわが国において,術前化学療法の奏効性を向上させる研究と,効果が不十分であった化学療法抵抗群の救済療法の開発に関する数々の臨床研究が行われるようになった。
現在では,大量MTX 療法におけるMTX の増量,イホスファミド(IFM)16 g/m2大量化学療法,短期集中投与など,化学療法治療強度の強化が図られ,術前化学療法の効果と残存腫瘍の外科的な完全切除と初診時遠隔転移が有意な予後因子として残っている。共同骨肉腫研究グループ(COSS)の1,700 例2)やイタリアのInstituto Ortopedico Rizzoli (IOR)の1,400 例3)による解析では,組織学的効果と根治手術の完遂度が大きな予後因子であり,切除不能な遠隔転移の有無,体幹発生などが予後不良因子として抽出されている。これらの結果,わが国では,術前化学療法(MAP 療法)の奏効が悪かった場合は,術前使用しなかった抗がん剤(IFM)を用いて術後化学療法に変更する事が日常診療では行われている。現在,欧米とわが国では術前化学療法の奏効が不十分であった場合,術後化学療法を変更した方が予後改善につながるかどうかのランダム化比較試験が行われており,その結果次第では今後の治療方針が変わる可能性がある。
文 献
- 1)
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- CQ3
- 術前化学療法の治療効果は画像で評価できるか。術前化学療法が著効した場合,縮小手術は可能か
背 景
骨肉腫の術前化学療法の開始時と終了時に行う画像検査によって治療効果判定を行い,切除計画の参考にすることが広く行われている。特に,造影MRI,血管造影,Tlシンチグラフィー,18F-FDG PET/CT の所見の変化が,組織学的効果と相関するとされている。
関節近傍に好発する骨肉腫に患肢温存術を行う場合,現在,腫瘍用人工関節による再建が広く行われているが,人工関節の感染,緩みなど長期的な問題点も存在するため,術前化学療法がよく奏効したと考えられる症例に対して,関節の温存など,切除縁を縮小した手術が試みられている。
- 推奨グレード2C
- 術前化学療法の前後に,単純X 線,造影MRI などの画像検査を行うことで,組織学的効果を予測し,切除計画の参考にすることを推奨する。化学療法が奏効したと判断される症例でも,辺縁切除を推奨する十分なデータは集積されておらず,広範切除を推奨する。
解 説
骨肉腫では,術前化学療法の効果良好群では5 年生存率が70%を超えることが複数の多施設共同前向き試験で報告されている。また,術前化学療法の効果が重要な予後因子でもあることが多くの研究で報告されている。一方,骨肉腫は術前化学療法が奏効した場合でも,腫瘍内に多くの基質が残存し,腫瘍径自体は縮小しないことが多いため,腫瘍径のみで治療効果を判定することは困難であり,術前化学療法の効果を判定する方法として,様々な画像検査法が検討されてきた。
治療効果を判定する方法として,以前は血管造影検査が広く行われていた。動注化学療法を行った場合,術前化学療法前後に行った血管造影検査による血管新生や腫瘍血管の変化は腫瘍残存部位や組織学的壊死率と相関するとされている1)。しかし,多剤併用全身化学療法の奏効性が向上したことで,骨肉腫に対する化学療法としては,簡便で侵襲の少ない抗がん剤の静脈投与が一般的となり,侵襲が大きい動脈造影検査は近年あまり行われなくなった。非侵襲的検査であるTl シンチグラフィーは,被曝の問題はあるものの,簡便かつ低侵襲で,信頼性の高い検査とされている2-4)。18F-FDG PET/CT における著効群と無効群の予測において,化学療法前後のSUV(standardized uptake value)の変化のカットオフ値を-52%としたときの感度は66.6%,特異度は86.6%であったと報告されている5)。しかし,これらの組織学的効果と画像検査との比較研究はそのほとんどが単一施設で行われた後方視研究報告であり,現時点では,画像検査のみで残存腫瘍細胞の有無を完全に予測することは困難と考えられる。
術前化学療法の奏効率は4 剤併用術前化学療法で50〜60%であり,奏効例では切除縁を縮小した手術を行っても,局所再発率は10%以下であったとの単施設研究もある6, 7)。
一方,イタリアのInstituto Ortopedico Rizzoli(IOR)の後方視研究では,局所制御率は,完全切除例では化学療法著効群95%,通常奏効ないし不良群でも90%であったのに対し,不完全切除例では局所制御率は70%に低下し,術前化学療法著効群でも局所再発率は20〜30%であったと報告されている8)。
現時点では,化学療法が奏効したと判断される症例においても,切除縁を縮小した辺縁切除術を標準治療として採用することの妥当性・安全性について十分なデータは蓄積されていない。
文 献
- 1)
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- CQ4
- 低悪性度骨肉腫の治療法は
背 景
低悪性度骨肉腫では,局所再発が唯一の予後不良因子とされている。また,有効な薬物療法は報告されていない。
- 推奨グレード1C
- 低悪性度骨肉腫に対しては原発巣の広範切除を行うことが推奨される。腫瘍内切除,辺縁切除,あるいは切除後の病理評価で切除断端陽性と診断されたときは,追加広範切除を行うことを考慮する。
解 説
低悪性度骨肉腫は,化学療法や放射線治療に対する感受性は低く,外科療法が唯一の根治的治療法である。補助療法としての術後放射線治療の有効性を示す報告はない。
低悪性度骨肉腫の局所再発は,腫瘍内切除や不完全切除などの不十分な切除縁が原因であることが多い。特に骨盤などの体幹部発生の低悪性度骨肉腫における局所再発は予後不良因子であり,再発時には25〜35%の症例で脱分化を起こし,遠隔転移も生じると報告されている。前医の手術などで十分な切除縁が確保されていないと考えられる症例では,広範切除以上の切除縁を確保するために追加広範切除や切断術を検討することが推奨される。低悪性度骨肉腫においては,初回治療における局所制御が極めて重要であり,機能障害や切断を回避するためであっても不十分な切除縁での切除を行ってはならない。
低悪性度骨肉腫の治療成績に関する報告
1.傍骨性骨肉腫1, 2)
初回治療後5〜10 年経過観察した研究では,局所再発率は3〜20%であり,辺縁切除・不完全切除が局所再発の危険因子であったと報告されている。遠隔転移や腫瘍関連死は約10%で,そのうち24〜43%で脱分化が観察された。予後因子は不完全切除で,脱分化関連因子は病理学的悪性度,溶骨陰影,骨髄浸潤,転移であった。
2.骨膜性骨肉腫3, 4)
局所再発率は約10%,5 年累積生存率は89%,10 年累積生存率は83%と報告されている。予後不良因子は局所再発であった。
3.骨内低悪性度骨肉腫5, 6)
局所再発率は約15%であり,腫瘍内切除では局所再発を生じるため,広範切除が推奨されている。病理学的悪性度が予後不良因子であり,再発時の悪性度の増加やまれに遠隔転移も生じる。
文 献
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- CQ5
- 通常型骨肉腫の標準的外科療法は
背 景
骨肉腫は,放射線治療や化学療法のみによる根治は難しく,外科療法が不可欠である。化学療法が著効した場合も,多くの症例で残存腫瘍細胞が組織学的に確認される(完全消滅例は5%以下)。また,局所再発例では遠隔転移を併発することも多く,予後を悪化させる。初診時遠隔転移例においても,肉眼病変の完全切除が可能であった症例では5 年生存率20〜30%が期待されるのに対して,完全切除が不可能であった場合には長期生存を期待することは難しい。
- 推奨グレード1B
- 広範切除を推奨する。術前化学療法中に腫瘍の明らかな増悪が確認された場合には,より十分な切除縁を確保した広範切除術,切断,離断術を考慮する。
解 説
骨肉腫の治療においては,術前化学療法の導入と画像診断技術の向上により,正確な切除縁の設定が可能になったことで,近年では,80〜90%の症例で患肢温存が可能となっており,広範切除と人工関節などの再建手術による患肢温存術が標準治療となっている。
切除標本の肉眼的所見と組織学的所見,MRI などの画像検査所見を詳細に比較・検討する地道な研究が積み重ねられた結果,安全な切除縁についての知見が確立されてきた。MRI など画像検査で認められる腫瘍辺縁より2〜3 cm の切除縁を設定し,健常な組織で腫瘍を包むように切除すること(広範切除)によって局所再発率は明らかに低下してきた1-4)。さらに,術前化学療法が奏効すると,骨肉腫原発巣は硬度を増し,切除縁周囲の確認や手術操作が容易となり,著効した例では,腫瘍周辺の微小浸潤,微小転移の根絶も期待できる。一方,術前化学療法が奏効せず腫瘍の増大が続いているような症例では,より広い切除縁を設定する必要がある5)。
骨肉腫の外科療法に関して,切除縁設定の安全性や妥当性について比較試験が実施されたことはないが,日本整形外科学会骨軟部腫瘍委員会により切除縁評価法が発表されており4),広範切除が達成された場合,10%以下の局所再発率と報告されている2)。
文 献
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- CQ6
- 切断,離断を行う際に,どのような検討を行うべきか
背 景
腫瘍が重要な神経・血管を巻き込んでいる症例や病的骨折例など,患肢温存術では安全に広範切除縁が確保できない場合は,切断,離断を検討する。患肢温存を行うために安易に切除縁を縮小することは,腫瘍細胞の遺残や術中の神経・血管損傷などのトラブルにつながりかねないため厳に慎むべきである。
- 推奨グレード2B
- 患肢の温存・機能維持のために重要な血管,神経などを温存(再建)して,広範切除が行えないときは,切断,離断を考慮する。
解 説
骨肉腫に対する放射線治療,術中照射,処理骨体外照射に関する研究から,放射線治療によって骨肉腫を局所コントロールするためには70 Gy 以上の照射線量が必要であり,その場合も5 年局所制御率60%,局所再発率は25〜50%程度とされている1)。わが国では,10 数年前より,局所集中性に優れた炭素イオンによる重粒子線治療に関する臨床試験が実施された。放射線治療抵抗性の骨軟部腫瘍において前向き第Ⅰ・Ⅱ相研究が行われた結果,脊索腫などの低悪性度骨腫瘍では,炭素イオン線治療によって,合併症を回避しつつ70%強の局所制御率が達成されることが明らかにされた。骨肉腫でも,仙骨,体幹部発生例,高齢者など手術的治療の困難な症例に対する局所治療として有望な代替治療候補と考えられるようになり,治療有効例も報告されている。しかし,急速に進行する大多数の通常型骨肉腫に対する効果,安全性に関しては未知であり,高い支持性や機能再建が必要な四肢への応用においては,晩期の拘縮,線維化,浮腫,骨折など機能障害発生の危惧もあり,通常型骨肉腫に対する治療法としては未だ研究の域を出ない。
化学療法単独による骨肉腫の局所根治性に関する報告は極めて少なく,前向きコホート研究が1 件報告されているのみである。化学療法が奏効した31 例に対して,患者の同意取得の後,原発巣の外科療法を行わず,再発するまで経過観察した研究である。21 例で局所の再燃を生じ,局所と肺に同時再発した3 例や手術拒否の5 例はすべて腫瘍死したという結果から,骨肉腫の原発巣に対する外科切除は必須であると結論されている4)。
イタリアのInstituto Ortopedico Rizzoli(IOR)の報告では,骨肉腫の無再発生存率(RFS)は完全切除群で95%であるのに対して,不完全切除群では70%あったとされている5)。腫瘍が重要な神経・血管を巻き込んでいる場合や病的骨折例など,患肢温存術では病変の完全な切除,広範切除縁(CQ5 参照)が確保できないと考えられる場合は,切断,離断を検討する。
文 献
- 1)
- DeLaney TF, Park L, Goldberg SI, et al. Radiotherapy for local control of osteosarcoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2005 ; 61 : 492-8.
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- 5)
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- CQ7
- 病的骨折を併発した骨肉腫に対する患肢温存手術の妥当性は
背 景
従来,病的骨折を併発した骨肉腫は,骨折に伴う周囲の正常組織への腫瘍細胞の播種の危険性などから,切断,離断術が望ましいと考えられてきた1)。しかし,強力な術前化学療法と種々の画像検査法が導入された結果,化学療法が奏効した場合には,広範切除縁での患肢温存手術が可能と考えられる症例も多くなっている2-7)。
- 推奨グレード2C
- 病的骨折を併発しても,化学療法が奏効した場合,広範切除縁による切除を安全に達成可能であれば患肢温存手術を検討してもよい。
解 説
病的骨折を併発した骨肉腫においては,切断,離断しない場合,骨折により播種された腫瘍細胞による局所再発率が高くなるため,切断,離断を行うことが望ましいとされてきた1)。しかし,最近の骨肉腫の病的骨折例についての後方視的コホート研究では,局所再発率は患肢温存群25%,切断,離断群20%,5 年累積生存率は患肢温存群63%,切断,離断群55%であり,両者の間に統計学的有意差は認められなかったと報告されている3)。また別の研究では,骨肉腫における病的骨折の頻度は6%で,そのうち75%の症例で患肢温存手術が計画され,その85%で広範切除縁が確保されていたと報告されている5)。後方視的コホート研究のみの報告であるが,骨肉腫において病的骨折を併発した症例でも,術前化学療法が奏効し,術前画像検査から安全な広範切除縁が確保できると判断された場合は,患肢温存手術を考慮してもよいと考えられる。
文 献
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- Jaffe N, Spears R, Eftekhari F, et al. Pathologic fracture in osteosarcoma. Impact of chemothera-py on primary tumor and survival. Cancer 1987 ; 59 : 701-9.
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- CQ8
- 通常型骨肉腫の標準的化学療法は
背 景
骨肉腫の治療の歴史は原発巣の外科療法から始まった。切除,離断によって肉眼的腫瘍を完全に取り除いても,肺転移を主とする遠隔転移が多発したため,1980 年代のRosen やJaffe の研究をさきがけとして,化学療法を追加,工夫することで骨肉腫の予後の改善が図れるか数々の研究,臨床試験が行われてきた。
- 推奨グレード1B
- 通常型骨肉腫では,大量メトトレキサート(MTX),ドキソルビシン(DXR),シスプラチン(CDDP)の3 剤からなるMAP 療法による術前・術後化学療法を行うことが推奨される。
解 説
ランダム化比較試験により限局性通常型骨肉腫における術前化学療法と術後化学療法が共に有効であることが明らかにされている。これらの試験では化学療法群は非実施群に比較して予後が有意に良好であった1, 2)。骨肉腫に対して用いられる抗がん剤は大量MTX,DXR,CDDP,イホスファミド(IFM),エトポシド(ETP),シクロホスファミド(CPA),カルボプラチン(CBDCA)等である。これらの薬剤を3 種類含むレジメンの方が2 種類含むレジメンよりも優れているというメタ分析の結果が報告されている。また,このメタ分析では大量MTX を含まない3 剤併用レジメンは大量MTX を含む3 剤併用レジメンより成績が劣ることも示唆されている3)。一方,手術によって切除された腫瘍の壊死率によって術後の化学療法を変更する試験も多数行われている。術前化学療法によって高い腫瘍壊死率が得られた場合,術前化学療法と同一のレジメンが継続され,腫瘍壊死率が不良な場合,術前療法で用いられなかった薬物を組み込んだレジメンに変更するものである。しかし,現在まで,術後薬剤の変更によって予後が明らかに改善するという十分なエビデンスはない4, 5)。
米国小児がんグループ(COG)は,限局性骨肉腫と診断された小児および若年成人を対象にしたランダム化比較試験を実施した6)。初期治療としてMAP 療法を施行後,患者の半数はIFM 投与群にランダムに割り付けられた。その後2 度目のランダム化で半数の患者が,ムラミルトリペプチド- ホスファチジルエタノールアミン(L-MTPPE)を投与される群に割り付けられた。その結果,IFM を追加しても治療成績は改善されなかったが,L-MTP-PE の追加により無イベント生存率(EFS)の改善(P=0.08)および全生存率(OS)の有意な改善(78% vs. 70%;P=0.03)がもたらされた。European and American Osteosarcoma Study Group(EURAMOS)はMAP 療法後,壊死率が90%未満であった患者に,同じ化学療法を継続する群と,同じ化学療法にIFM およびETP を追加する群のランダム化比較試験を行った。この試験の結果,IFMおよびETP の追加で予後の改善は認められなかったと報告されている。現在,日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)0905 でも術前化学療法の壊死率が90%未満の患者に同一の化学療法を継続する群と,同じ化学療法にIFM を追加する群のランダム化比較試験が行われているが,その結果は未だ出ていない。
文 献
- 1)
- Link MP, Goorin AM, Miser AW, et al. The effect of adjuvant chemotherapy on relapse-free survival in patients with osteosarcoma of the extremity. N Engl J Med 1986 ; 314 : 1600-6.
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- Meyers PA, Schwartz CL, Krailo MD, et al. Osteosarcoma : the addition of muramyl tripeptide to chemotherapy improves overall survival--a report from the Children’s Oncology Group. J Clin Oncol 2008 ; 26 : 633-8.
- CQ9
- 一期的に手術可能な通常型骨肉腫に対して術前化学療法は必要か
背 景
骨肉腫においては,術前化学療法を施行することによって,微小転移巣の撲滅,原発巣局所の鎮静化,化学療法効果の病理学的判定を行える可能性があるため,現在,実地診療においては大多数の施設で術前化学療法の後に手術が施行されている。一期的に手術可能な骨肉腫に対する術前化学療法の必要性について検討した。
- 推奨グレード2D
- 一期的に手術可能な通常型骨肉腫に対して術前化学療法を施行することによって予後が改善するという明らかなエビデンスはない。しかし,実地診療においては術前化学療法を数カ月行ってから広範切除を行う例が多い。
解 説
一期的に手術可能な通常型骨肉腫に対して術前化学療法を施行することによって予後が改善するという明確なエビデンスはない。術前化学療法が奏効した場合は,効果を認めた同一の薬剤で術後も補助化学療法を継続することで,5 年生存率は75〜80%に達するとされている一方,術前化学療法の無効例では,薬剤変更や薬剤追加で治療を強化するなどの試みがなされているが,有効な救済プロトコールは開発されていない1)。術前化学療法が無効であった場合に,手術のタイミングが遅れることで患肢温存の可能性を失い,転移のリスクを高めるとの危惧もあり,通常型骨肉腫全例に術前化学療法を実施することに対しては批判もある。しかし,他方,一期的手術で安全に患肢温存術可能と考えられる早期発見例は比較的少ないことも事実であり,現在,わが国ではほぼ全例に術前化学療法が実施されているのが現状である。
米国小児がんグループ(POG)により行われた臨床試験2)の中間解析によると,術前化学療法を実施した群,非実施群とも,患肢温存率は約50%,5 年無増悪生存率(PFS)は65%と同等の成績で,術前化学療法を実施することの優位性は証明できなかった。しかし,反対に術前化学療法による予後の悪化も観察されておらず,術前化学療法の実施を否定する結果でもなかった。
実地臨床上は,術前化学療法中に腫瘍の増大を認める例は比較的まれであり,病的骨折例や骨盤巨大症例でも術前化学療法を実施することによって腫瘍の硬化・縮小が認められることで安全な局所切除,患肢温存が可能になる例も存在するなど,術前化学療法が有効と考えられる症例も少なからず存在する。
文 献
- 1)
- Provisor AJ, Ettinger LJ, Nachman JB, et al. Treatment of nonmetastatic osteosarcoma of the extremity with preoperative and postoperative chemotherapy : a report from the Children’s Cancer Group. J Clin Oncol 1997 ; 15 : 76-84.
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- CQ10
- 肺転移に対する自家造血細胞移植併用大量化学療法は有効か
背 景
骨肉腫と診断された患者の約20%が初診時に転移を有している。肺転移は骨肉腫の転移部位として最も多く,約半数を占める。転移のある骨肉腫患者の予後は転移のない場合より明らかに不良であることから,予後改善のため,現在までに大量化学療法を含む数々の臨床試験が行われてきた。これらの試験結果より自家造血細胞移植併用大量化学療法が骨肉腫肺転移に対して有効であるかを検討した。
- 推奨グレード2D
- 骨肉腫の肺転移に対する治療法は転移巣切除が第一選択である。肺転移巣が多発性で切除不能であっても,大量化学療法によって予後が改善したというデータはなく,肺転移に対する自家造血細胞移植併用大量化学療法は推奨しない。
解 説
近年,限局性骨肉腫患者の予後は,MAP 療法(3 種類の抗がん剤による治療)を主とした化学療法と手術の組み合わせで著明に改善した。しかし転移症例の予後は依然として不良であり,5 年生存率は20%程度である。高用量で強度を高めた化学療法が骨肉腫進行例に有効であったといういくつかの報告から1, 2),転移を有する予後不良患者に対する自家造血細胞移植併用大量化学療法の効果が期待され,いくつかの臨床試験が行われた。イタリア肉腫研究グループ(ISG)とスカンジナビア肉腫研究グループ(SSG)が共同で行ったISG/SSG Ⅰ研究では,治療終了後30 カ月以内に多発または単発の転移再発を来した32 例に対してカルボプラチン(CBDCA)とエトポシド(ETP)を使用した2 回の自家造血細胞移植併用大量化学療法が行われた。32 例中25 例で完全寛解(CR)が得られたが,その後の再発率が高く,結果的には3 年生存率は20%,3 年無病生存率(DFS)は12%と通常の化学療法で治療を行った場合と同等の結果であった3)。ISG/SSG Ⅱ研究では初発時に骨盤原発または転移を有する患者に対して,強度を高めた術前化学療法,手術,術後化学療法に加えてISG/SSG Ⅰ研究と同様のレジメンで2 回の自家造血細胞移植併用大量化学療法が行われた。本試験では,有害事象が非常に多く,全体の41%しかプロトコールを完遂することができなかった。DFS の中央値は18 カ月,5 年DFS は27%,5 年生存率は31%で,大量化学療法を施行しなかった群と予後に差を認めなかった4)。
文 献
- 1)
- Bacci G, Picci P, Avella M, et al. The importance of dose-intensity in neoadjuvant chemotherapy of osteosarcoma : A retrospective analysis of high-dose methotrexate, cisplatinum and adriamycin used preoperatively. J Chemother 1990 ; 2 : 127-35.
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- Fagioli F, Aglietta M, Tienghi A, et al. High-dose chemotherapy in the treatment of relapsed osteosarcoma : An Italian sarcoma group study. J Clin Oncol 2002 ; 20 : 2150-6.
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- CQ11
- 摘出不能な骨肉腫に放射線治療は有効か
背 景
骨肉腫の局所治療の第一選択は外科療法である。しかし,発生部位によっては摘出不能な場合もあるため,摘出不能,または不十分な切除症例に対して放射線治療の有効性を検討するいくつかの試験または後方視研究が報告されている。また,陽子線や重粒子線などの新しい放射線治療も試みられている。このような試験の結果をふまえ,摘出不能な骨肉腫に放射線治療が有効かを検証した。
- 推奨グレード1C
- 摘出不能な骨肉腫に対して,放射線治療が手術と同様に有効であるという明確な根拠はないため,根治目的での放射線治療は推奨しない。ただし,症状緩和目的には使用されることがある。
解 説
骨肉腫に対する放射線治療の有効性に関する明確な根拠はない。41 例の切除不能または不十分に切除された骨肉腫患者に対する放射線治療の後方視研究では,5 年の局所制御率で比較すると,肉眼的残存や不十分な切除の場合がそれぞれ78.4%,77.8%であったのに対して,腫瘍切除を行っていない例では40%と明らかに不良であった。また,生存率にも有意な差を認め,肉眼的残存,不十分な切除,腫瘍切除なしでは,それぞれ74.4%,74.1%,25%であり,骨肉腫に対する放射線治療は,術後の補助療法という意味では有効である可能性も否定できないが,手術の代替治療としての位置づけは難しいと結論している1)。
Massachusetts General Hospital からは,切除不能,部分切除,断端陽性の残存腫瘍の骨肉腫55 例に対して,通常の照射線量より高線量を照射する目的で陽子線治療を実施し,3 年および5 年の局所制御率はそれぞれ82%,72%であったと報告されている。本試験では,切除不能,部分切除,断端陽性の残存腫瘍の間で,局所制御率に差はなかったと報告されており,陽子線治療は高線量の照射が可能であるという理由から,通常の放射線治療より効果が期待できる可能性が示唆される2)。また,近年,特に日本では切除不能骨肉腫に対して重粒子線治療も行われている。78 例の切除不能の骨肉腫に対して重粒子線治療を行った報告では,5 年生存率は33%,局所制御率は62%であった。特に腫瘍体積が500 cm3 以下の38 例では,5 年生存率46%,局所制御率88%と良好な成績が報告されている3)。
文 献
- 1)
- DeLaney TF, Park L, Goldberg SI, et al. Radiotherapy for local control of osteosarcoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2005 ; 61 : 492-8.
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- CQ12
- 骨肉腫肺転移に対する外科療法と化学療法は
背 景
骨肉腫肺転移は,化学療法が奏効し積極的に転移巣の切除を行った場合,長期生存,根治する例も観察される。骨肉腫遠隔転移例の80%は肺転移単独で,その他の部位の転移は約10%である。骨肉腫の肺転移は肺の表面近くに生じることが多く,楔状切除によって大きな肺機能低下を生じることなく,多数の肺転移巣の切除,複数回の手術を行うことが可能である。肺転移症例の治療成績は5 年生存率で10〜40%と報告されており,肺転移の発生時期が大きな予後予測因子とされている。初診時肺転移例の5 年生存率は15〜24%1-6)であるのに対して,骨肉腫治療後1〜2 年以降の肺転移例では,肺転移治療後の5 年生存率は30%を超える8-10)。一方,治療途中あるいは治療終了後1 年未満の再発例の予後は不良である1)。
- 推奨グレード1C
- 肺転移巣切除が治癒に結びつく可能性も期待されるので,条件が整えば,外科療法を考慮する。切除不能な肺転移に対しては化学療法が行われる。肺転移切除後に化学療法を行うことの有効性は検証されていない。
解 説
初診時肺転移例は,一般的に限局例と同じ術前化学療法が施行され,全ての肉眼的病変の外科療法を行うことで完全寛解を目指す。外科療法のタイミングとしては,原発巣切除と肺転移切除を同時,ないしは原発巣切除後数週間の間隔をおいて肺転移切除術が行われ,完全寛解例では5 年生存率50%を超えるとの報告もある。一方,化学療法中や治療終了後1 年以内の再発転移例は,一般に化学療法が無効あるいは効果不十分と考えられ,予後も不良である。迅速な薬剤変更が必要で,内科的治療を優先する。片側,数個までの肺転移であれば外科療法による完全寛解が目指されるが,未だ3 年以上の生存例は少ない1, 9)。繰り返し肺転移切除を実施することによる予後の延長は観察されるが,4 回目以降は,再燃までの期間が短縮するという報告もある11)。変更薬剤の効果が得られない場合は緩和療法も考慮されるべきである。術前化学療法の奏効例で治療終了後1〜2 年以上の無病期間を経て肺転移を起こした場合,転移巣切除による根治も期待されるので,可能であれば外科療法を積極的に行うべきであるとする報告が多い8-12)。
一方,肺転移切除後に化学療法を行うことの有用性に関するコンセンサスは得られておらず,今後,比較試験による検討も必要と考えられる9, 10)。
完全に切除できない多発肺転移例,胸膜播種例には,症状緩和,延命を目的として,新規薬剤による治験や,初回の補助化学療法で使用されなかった薬剤を用いた緩和的化学療法が行われる。
文 献
- 1)
- Tsuchiya H, Kanazawa Y, Abdel-Wanis ME, et al. Effect of timing of pulmonary metastases identification on prognosis of patients with osteosarcoma : the Japanese Musculoskeletal Oncology Group study. J Clin Oncol 2002 ; 20 : 3470-7.
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- CQ13
- 局所再発を起こした場合の治療法は
背 景
骨肉腫の局所再発は,初回手術の不十分な切除縁,あるいは補助化学療法で根絶しえなかった原発巣周辺の残存微小病変が原因で生じると考えられている。局所再発に対しては,再度広範切除縁での切除または切断,離断術と化学療法が行われるが,肺転移単独再発例よりも予後不良とされている。
- 推奨グレード1C
- 再発腫瘍の広範切除あるいは切断,離断術と化学療法を考慮する。
解 説
骨肉腫の局所再発には,手術で達成された切除縁が最も強く影響する。局所再発率は患肢温存例全体で約10%,広範切除縁を確保した切断で約5%とされている1)。術前化学療法の効果が不十分で,広範切除以下の切除縁で切除された症例の局所再発率は30%と報告されている2)。局所再発は,通常,治療終了後2 年以内に起こることが多いが,治療終了後5 年以降の局所再発例もある。その様式は,局所再発単独が60%,局所再発と遠隔転移同時あるいは遠隔転移発生後の局所再発が40%とされている。
局所再発に対しては,再度広範切除縁での患肢温存手術または切断,離断術と化学療法が行われるが,5 年生存率20〜30%,10 年生存率10%と肺転移単独再発例よりも予後不良と報告されている。また,局所再発例における化学療法の有効性は検証されていない3)。
局所再発例における予後不良因子は,不完全切除縁,局所再発までの期間,局所再発時の腫瘍量,術前化学療法の奏効性などとされている。
文 献
- 1)
- Kempf-Bielack B, Bielack SS, Jürgens H, et al. Osteosarcoma relapse after combined modality therapy : an analysis of unselected patients in the Cooperative Osteosarcoma Study Group (COSS). J Clin Oncol 2005 : 23 ; 559-68.
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- Bacci G, Ferrari S, Mercuri M, et al. Predictive factors for local recurrence in osteosarcomas : 540 patients with extremity tumors followed for minimum 2.5 years after neoadjuvant chemotherapy. Acta Orthop Scand 1998 ; 69 : 230-6.
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- Ferrari S, Bricoli A, Mercuri M, et al. Late relapse in osteosarcoma. J Pediatr Hematol Oncol 2006 ; 28 : 418-22.
- CQ14
- 治療後の経過観察の方法は
背 景
骨肉腫においては,有効な化学療法の導入に伴い,遠隔転移までの期間が延びた結果,治療終了後10 年以上経過してから局所再発や遠隔転移を起こす症例も近年報告されるようになった。一方,明文化された適切な経過観察の方法は存在しない。
- 推奨グレード1C
- 骨肉腫の治療後は,腫瘍の再発や転移のほかに,治療に関連した心筋障害,腎障害,聴覚障害,不妊,二次がんなどの有害事象を生じる可能性があり,これらの晩期合併症にも注意しながら経過観察をする必要がある。
解 説
骨肉腫の治療後には,局所再発や遠隔転移の他に,心筋障害,腎障害,聴覚障害,不妊,二次がんなどの治療に関連した有害事象を生じる危険性も高く,これらの晩期合併症にも注意しながら経過観察する必要がある。
局所再発,遠隔転移ともに治療終了後2 年以内に生じることが多いが,近年,有効な術前化学療法の導入に伴い,遠隔転移までの期間が延びた結果,まれではあるが治療終了後10 年以上経過してから局所再発や遠隔転移を起こす症例も報告されている。
治療終了後にどの程度の頻度で経過観察や画像検査を行うべきかについてのランダム化比較試験はない。国際的な臨床試験では最初の2 年間は6 週〜3 カ月ごと,次の3〜4 年目は2〜4 カ月ごと,5〜10 年目は6 カ月ごと,それ以降は6〜12 カ月ごとに経過観察が行われていることが多く,診察時には胸部X 線を撮影することが推奨されている。原発巣の単純X 線は4 年目までは4 カ月ごとに撮影することが推奨されている。経過観察をいつまで継続するべきかということに関する明確なエビデンスはない。
文 献
- 1)
- Bielack S, Carrle D, Casali PG et al. Osteosarcoma : ESMO clinical recommendations for diagnosis, treatment and follow-up. Ann Oncol 2009 ; 20 Suppl 4 : 137-9.
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- Ferrari S, Smeland S, Mercuri M, et al. Neoadjuvant chemotherapy with high-dose Ifosfamide, high-dose methotrexate, cisplatin, and doxorubicin for patients with localized osteosarcoma of the extremity : a joint study by the Italian and Scandinavian Sarcoma Groups. J Clin Oncol 2005 ; 23 : 8845-52.
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- Meyers PA, Schwartz CL, Krailo MD, et al : Osteosarcoma : the addition of muramyl tripeptide to chemotherapy improves overall survival--a report from the Children’s Oncology Group. J Clin Oncol 2008 ; 26 : 633-8.
4章 中枢神経外胚細胞腫瘍
- はじめに
胚細胞腫瘍は小児ではまれな腫瘍であり,青年期,若年成人に多い。小児期では乳幼児期と思春期に発生のピークがみられる。同じ組織型であっても乳幼児と思春期でみられる悪性胚細胞腫瘍の生物学的特徴は異なる。わが国での発生頻度は不明であるが,米国での統計では小児がんの3%と報告されている。胚細胞腫瘍の母体となる原始胚細胞は胎生期に卵黄囊から腸間膜を経由して性腺に遊走するために,胚細胞腫瘍は性腺の他,仙尾部,後腹膜,縦隔と正中部位に発生する。
胚細胞腫瘍の種類は多岐にわたり,その悪性度も様々である。本章では成熟奇形腫は除き,頭蓋外に発生した胚細胞腫瘍について述べる。また,予後良好であるが,小児ではまれであるため,小児における十分なエビデンスの存在しないセミノーマ(精巣と縦隔に発生),未分化胚細胞腫(卵巣に発生)については成人領域のガイドラインを参照していただきたい。また,15 歳以上の胚細胞腫瘍(おもに性腺,縦隔原発)は若年齢での胚細胞腫瘍と生物学的差異があり,より予後不良であるためこれらについても本ガイドラインの対象ではない。
悪性胚細胞腫は化学療法に対する感受性が極めて高く,未熟奇形腫とstage I の精巣腫瘍以外はすべて化学療法の適応となる。また,発生部位,組織型ごとの標準的治療法は存在せず,すべての部位のすべての組織型の悪性胚細胞腫に対してプラチナ製剤を骨子とした化学療法が適用され,その導入以来めざましい治療成績の向上が得られた。現在では,外科療法による病巣摘出とともに有効な化学療法を併用することで75〜90%以上の5 年生存率が報告されるに至っている。一方,組織型や発生部位の多様性はもとより,年齢に伴う特異性や進行度など,予後に関連し,また治療法の選択に際して考慮すべき因子もある。そのため最良の生命予後を得,かつ付随する後遺症を最小限にするためには,こうした小児胚細胞腫瘍の治療経験を有するしかるべき施設にて扱われることが望ましい。
本ガイドラインでは現行の小児胚細胞腫瘍に対する治療法や適応について記載するが,化学療法レジメンについては成人の性腺腫瘍に対して開発されてきたものが多く,小児の胚細胞腫に対する化学療法のデータは乏しい。しかし成人におけるデータの多くは小児胚細胞腫に適応しうると考えられる。
- CQ1
- 中枢神経外胚細胞腫瘍の治療方針決定に必要な分類と診断方法は
背 景
胚細胞腫瘍は良性腫瘍である成熟奇形腫から極めて悪性度の高い腫瘍まで,多くの種類からなる。したがって治療法も種類によって大きく異なり,正確な診断が必要である。発生部位は,性腺,仙尾部,後腹膜,縦隔などと多岐にわたり,また,年齢による生物学的差異が存在する。さらに進行度や原発部位,あるいはリスク分類に応じて,行うべき外科療法や化学療法のあり方が異なる。すなわち,治療初期段階で腫瘍摘出を行った後,化学療法を加えずその後の綿密な経過観察を主体とすべき例や必要十分な化学療法を追加して治療を終了すべき例,あるいは診断的腫瘍生検と術前化学療法を先行させた後根治的手術を計画すべき例などである。このような厳密な治療の最適化は晩期合併症(例えば二次がん,不妊症,聴力障害,腎障害)を来す可能性を最小化する。それゆえ本腫瘍の治療法選択にあたっては,疾患の多様性を熟知し,症例ごとの臨床事項を良く評価した上で決定する必要がある。
- 推奨グレード1A
- 組織型,病期,さらにこれらを用いた予後予測分類を用いて治療方針を決定する。
解 説
1.組織分類
組織型は成熟奇形腫,未熟奇形腫,悪性胚細胞腫瘍に大別され,このうち悪性胚細胞腫瘍は未分化胚細胞腫/胚細胞腫(ジャーミノーマ)/セミノーマ,胎児性癌,多胎芽腫,卵黄囊腫瘍,絨毛癌に分類される(表1)。日本病理学会小児腫瘍組織分類委員会の小児胚細胞腫瘍群腫瘍の分類が推奨される1)。成熟奇形腫は3 胚葉成分に由来する分化した組織から構成され,卵巣と性腺外部位に発生する。一方,未熟奇形腫はやはり3 胚葉由来の組織より構成されるが,より未熟な分化段階の組織を含む。悪性胚細胞腫瘍のうち,未分化胚細胞腫/胚細胞腫(ジャーミノーマ)/セミノーマは組織学的には同一の疾患で部位により名称が異なる。それぞれ,卵巣,中枢神経,精巣に発生し予後は極めて良好である。このうちセミノーマは若年成人で多く発症し,20 歳未満ではまれである。免疫染色で胎盤性アルカリホスファターゼ,CD117(c-KIT),podoplanin(D2-40)が細胞膜に陽性を示し,OCT3/4,SALL4 が核に陽性である。胎児性癌は小児では通常複合組織型をとる。多胎芽腫は卵巣に発生する極めて悪性のまれな腫瘍であり,しばしば他の悪性胚細胞腫瘍との混合型を呈する。卵黄囊腫瘍はα-フェトプロテイン(AFP)を産生し半減期は5〜7 日であり,治療効果判定に有用である。卵黄囊腫瘍は乳幼児の男児で最もよくみられる精巣の悪性胚細胞腫瘍である。乳幼児での仙尾部の悪性胚細胞腫瘍はほぼ例外なく卵黄囊腫瘍である。絨毛癌はβ-ヒト絨毛ゴナドトロピン(HCG)を産生し,半減期は24〜36 時間である。胎児性癌同様,若年成人において複合組織型で発症する。これらの腫瘍は奇形腫の中に含まれていることも多く,成分の有無について慎重に検討することが必要である。
2.病期分類
病期分類については表2 に示すもの2)が有用である。ただし,卵巣胚細胞腫瘍は国際産科婦人科連合(FIGO)の病期分類が用いられる。
卵巣胚細胞腫瘍には表3 に示すFIGO の分類が小児を含めて最もよく用いられている3, 4)。
3.予後分類
予後と発生部位との関係では性腺発生例が最も良好である。胚細胞腫瘍は15 歳以上の若年成人と乳幼児期に発生のピークがある。若年成人発症腫瘍では小児例ではみられない12 番染色体短腕の同腕染色体が認められ,たとえ病理組織学的に同一であっても生物学的差異が存在する5-7)。また,青年および若年成人での縦隔悪性胚細胞腫瘍はクラインフェルター症候群で好発し,本疾患の22%が同症候群患者で,その年齢中央値は15 歳であったとの報告がある8)。このような生物学的差異を反映して若年成人例の方が小児例と比較すると予後が不良であり,前者では成人の治療ガイドラインに準拠して治療を行うべきである。
米国小児がんグループ(COG)は米国とヨーロッパの今までの研究成果に基づいて以下の予後分類を提唱しており,これに基づいた治療を行う。
低リスク:stage I の性腺腫瘍。未熟奇形腫を含む9, 10)。
中間リスク:stage II, III の性腺腫瘍,stage IV の精巣腫瘍,stage I,II の性腺外腫瘍
高リスク:stage IV の卵巣腫瘍とstage III,IV の性腺外腫瘍
Stage I の精巣胚細胞腫瘍,成熟奇形腫,未熟奇形腫以外では摘出術に加えてプラチナ製剤を中心とした化学療法を実施する。摘出術を最初に実施することが困難な場合は,術前化学療法により腫瘍の縮小を図った後に実施する。なお,化学療法により治療成績が極めて向上したこともあり,上記の胚細胞腫瘍の予後は発生部位により大きく変わることはないが,高リスクのうち12 歳以上の縦隔腫瘍は特に予後不良である11)。横紋筋肉腫,血管肉腫,未分化肉腫に類似した肉腫様成分を含むことがあり,これらは極めて悪性であり,進行して腫瘍成分の大部分を占めるに至ることがある12)。また,縦隔腫瘍の卵黄囊腫瘍の成分は造血器腫瘍を伴うことがある13)。したがって,CQ4 で述べるように,縦隔腫瘍は外科療法が特に重要である。
4.診断方法
胚細胞腫瘍の好発部位に発生した腫瘍でAFP またはβ-HCG の上昇が認められれば容易に診断できる。腫瘍マーカーの上昇がみられない場合は病理診断が必要であるが,奇形腫に悪性成分が混在することがあるため,十分な量の腫瘍検体を丹念に検討する必要がある。画像診断としては,胚細胞腫瘍はしばしば石灰化成分を有し,これが診断の根拠の一つとなるためCT 検査が必要である。また,CT 検査は治療効果が得られた場合に,経過中に出現する石灰化や歯などへの腫瘍成分の分化を評価するのにも有用である。胚細胞腫瘍はリンパ節,肺,肝以外に,まれながらも骨に転移するので,病期診断には骨シンチグラフィーも必要である。
絨毛癌で産生されるHCG を特異的に測定するためにはHCG のαサブユニットとβサブユニットのうち,後者を測定しなければならない。αサブユニットはLH, FSH,TSH と共通である。HCG は女子では黄体の保持を促進してプロゲステロンを分泌させるが,男子ではHCG のLH 様作用のためテストステロン産生を刺激し,思春期早発症を呈することがある。
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- CQ2
- 一期的手術の原則とその方法は
背 景
小児の中枢神経外胚細胞性腫瘍においては,プラチナ製剤を中心とした化学療法への反応性が良好であるため,生検にて組織診断と悪性度の判定を行った後,化学療法を行うのが通常である。一方,未熟奇形腫と成熟奇形腫では摘出が唯一の治療法であるが,外科療法による合併切除や副損傷は患者のQOL に大きく関わってくる。発生部位によって臨床像に特徴があり,それぞれの外科療法について留意すべき点がある。
- 推奨グレード1A
- 中枢神経外胚細胞腫瘍においては,可能ならば一期的全摘を目指す。
解 説
1.総論
わが国において1996〜2000 年に登録された,日本小児外科学会による小児固形悪性腫瘍予後追跡調査の胚細胞性腫瘍の項によると,良性奇形腫395 例と悪性奇形腫114 例の5 年生存率は,それぞれ97.0%と93.5%で,P=0.1547 と差のないことが示された。その5 年前と比較すると遠隔転移を有する悪性奇形腫の5 年生存率がstage II,III と変わらない程度にまで改善しており,悪性奇形腫の治療に化学療法の進歩が大きく寄与していることが示された。したがって腫瘍マーカーが上昇して悪性奇形腫が疑われる場合,容易に全摘できると判断されない限り手術は生検にとどめ,化学療法後に二期的手術として残存腫瘍摘出を行うことが推奨される。なお,CQ1 で述べたが,腫瘍マーカーの上昇があり,好発部位の腫瘍であれば,生検も不要である。
一方,良性奇形腫においては手術による切除のみが治療手段となるため,手術による合併切除や副損傷の有無とその程度が患者のQOL に大きく関わる。完全切除を目指しつつ,状況によっては敢えて全摘しないという選択肢の考慮も必要である。また,一部の胎児診断される奇形腫においては,分娩時期・分娩方法にも配慮が必要である。
2.発生部位別手術
1)頭蓋外頭頸部
悪性奇形腫は少ないが1),気道の圧迫や閉塞による呼吸障害が問題となる。また腫瘍の存在部位によっては,摘出術による反回神経麻痺が起こりうる。胎児口腔から突出する奇形腫は上顎から発生する上顎体(Epignathus)で,腫瘤が巨大である場合,帝王切開の途中で臍帯が繋がったままの状態で気管内挿管や気管切開を行う,EXIT(extra utero intrapartum treatment)2)の検討が必要である。
2)胸部・縦隔
前縦隔の胸腺原発例が多く,良性も悪性もみられる。胎児で腫瘤が大きな囊腫成分を含む際には子宮内穿刺吸引が選択肢となり得る3)。悪性の場合は,急速な増大による気道や大血管の圧迫のために重篤な状況に陥ることがあり4),腫瘍の大きさ・存在部位・症状の有無などにより術式を考慮する5, 6)。
3)後腹膜
後腹膜の未熟奇形腫では急速な増大によって呼吸困難に陥る。また腎血管性高血圧を呈する例があり,oncogenic emergency と考えるべきである7)。未熟型では術後再発の危険性があり8),術中の腎動脈攣縮から腎不全やvanishing kidney となるものがある9)。腫瘍が巨大な場合,下大静脈や腎静脈を合併切除することによって手術合併症をむしろ減少させうる可能性もある10)。術前に上部後腹膜腫瘍と診断したものが,開腹時に横隔膜頭側の胸腔原発と判明する例があり11),術前診断に留意が必要である。
4)卵巣
従来は正常卵巣部分を含めての腫瘍切除が行われてきた。今日では,妊孕性の保存という観点から,良性奇形腫を含む囊胞状卵巣腫瘍では正常部分の卵巣の温存が行われている12, 13)。しかし5 年以上経過してからの同側再発があり,また正常にみえる対側卵巣にも後に腫瘍発生がみられるので,片側性の場合においても対側卵巣の詳細な観察が必要である。
未熟奇形腫ではgliomatosis peritonei(GP)が起きやすく再発しやすい14)。成人の未熟奇形腫では組織学的なグレード分類によって化学療法が行われる。一方,小児の未熟奇形腫は,GP も含めて総じて良性と考えられている。しかし死亡例も少数ながらみられる14)。GP をみた場合は,再発や転移に厳重な経過観察を要する15)。
5)精巣
小児精巣腫瘍は,成人例と異なって単一組織型の良性のものが多いため16, 17),2000 年頃より正常精巣部分を残して腫瘍部分のみを切除する精巣温存手術が行われ,良好な成績が示されてきた。しかしまだ治療法として確立されたものではない17, 18)。悪性腫瘍としては卵黄囊腫瘍が60%と最も多く,高位除睾術が基本とされている。精巣のみ摘出し,後に悪性成分が検出された場合は,精索の摘出を追加する。
6)仙尾部
尾骨を切除することが重要で19, 20),乳児期後期の悪性奇形腫の再発母地を残さないようにする。正中仙骨動脈が非常に太い場合,および骨盤腔内腫瘍が大きい場合(Altman 分類2 および3)は,まず仰臥位にて腫瘍周囲の剥離と正中仙骨動脈の処理をし,その後に後方から腫瘍を切除する。両側の尿管が圧迫されて腎不全になった例や21),Altman 分類2 や3 などでは,膀胱障害や腎障害を呈するものがある22, 23)。また,再手術は膀胱機能障害の大きなリスクであり24),初回手術における慎重な完全切除が重要とされる。
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- CQ3
- 標準的化学療法と治療期間は
背 景
小児領域における化学療法は成人精巣胚細胞腫瘍に対する化学療法のエビデンスに基づいて作成されてきた。しかし,小児胚細胞腫瘍は成人例より予後が良好であることもあり,小児期では肺毒性を危惧して標準治療薬であるブレオマイシン(BLM)の投与量が減じられている。現在,主として2 種類の治療レジメンがあるが,それらについて解説する。必要とされるコース数は成人領域と異なり,比較試験で確定されたものはなく経験に基づいている。
推奨1
- 推奨グレード1A
- PEB 療法〔シスプラチン(CDDP)+エトポシド(ETP)+BLM〕が推奨される。
- 推奨グレード1B
- CDDP の腎・聴器毒性が懸念される場合はJEB 療法〔カルボプラチン(CBDCA)+ETP+BLM〕が推奨される。
推奨2
- 推奨グレード1B
- 治療期間は腫瘍マーカーの陰性化と腫瘍の縮小が得られた後,さらに2 コース追加することが推奨される。
解 説
小児領域では第III 相比較試験は1 試験のみである。この比較試験である米国小児がんグループのPOG-9049 およびCCG-8882 は299 例の高リスク症例(stage III+IV 性腺原発例とすべての病期の性腺外原発例)を対象としてPEB 療法(CDDP+ETP+BLM)のCDDP を標準量(100 mg/m2)と倍量(200 mg/m2)とでランダム化比較試験で検討したものである1)。その結果,6 年無イベント生存率(EFS)は80.5%± 4.8%vs. 89.6%± 3.6%(P=0.0284)と倍量投与群が優れていたが,全生存率(OS)では86.0%± 4.1% vs. 91.7%± 3.3%と有意差を認めなかった。毒性は倍量投与群で多くみられ,全感染症死7 例中6 例は倍量投与群であり,さらに標準量群ではほとんどみられなかった腎障害,聴器毒性(grade 3/4)が倍量投与群で高頻度に認められた。特に聴器毒性は深刻であり,他覚的難聴が14%にみられ,しかも低年齢児では評価が困難であることから,14%という頻度は過小評価と考えられている。
このように両者の治療効果の差は僅少であるうえ,倍量投与の毒性は許容できるものではないことより,現時点での標準的化学療法はCDDP 100 mg/m2 よりなるPEB 療法である。元来この比較試験で用いられた3 薬剤の組み合わせは成人でのデータを援用したものであるが,小児で用いられているPEB は肺毒性を軽減するため,成人では毎週投与されるBLM を各コース一回投与と投与量が減じられている。標準的PEB の毒性はCDDP による腎障害,聴器毒性,ETP による二次性白血病,BLM による肺線維症が考えられるが,この比較試験の147 例のデータによると,クレアチニンクリアランスの低下や自覚的および他覚的難聴はともに認められず,呼吸機能不全が6 例(4%)でみられただけであったが,短期の観察であるため,過小評価である可能性がある。また,このレジメンではETP による急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)を生じる可能性があり,縦隔原発性例2例で二次性AML を発症した。しかし,ETP によるAML でみられる11q23 の異常を認めなかったため,縦隔胚細胞腫瘍から時折発生するAML であったと考えられる。
この試験で得られた部位別の成績は以下の通りである。縦隔(38 例):4 年EFS 69±10%2),仙尾部(44 例):4 年EFS 84±6%3),腹部・後腹膜(25 例):6 年EFS 83±11%4)。なお精巣原発例ではすべての病期で90%以上のEFS が得られている1)。
一方,CDDP の腎,聴器毒性を減らすため,より非血液毒性の低いCBDCA に置き換える試み(JEB 療法)が英国小児がん研究グループ(UKCCSG)でなされている5)。それによるとJEB で治療を受けた137 例の5 年EFS は87.8%(95% CI:81.1-92.4%),OS は 90.9%(95% CI:83.9-95.0%)と,JEB の有効性はPEB と同様と報告され,しかも腎,聴器毒性は少ない。CDDP とCBDCA の比較は小児領域では行われていないが,成人領域で非セミノーマ精巣胚細胞腫を対象としたCDDP とCBDCA のランダム化比較試験(ETP+BLM 併用)が行われ,CDDP レジメンが優っていたとの報告がある6)。JEB レジメンの毒性としては137 例中,grade 2(WHO 分類)以上の腎毒性のみられた例はなく,grade 3,4 の肺毒性がそれぞれ1 例と2 例にみられている。聴器毒性もgrade 3 以上はなく非血液毒性はまれである。しかし,骨髄抑制は比較的強度であり,延べ703 コース中68 コースで4 週以内に次のコースに進めなかった5)。
必要とされる化学療法のコース数は,POG/CCG で用いられている4 コースが成人での研究結果も合わせて考えると標準的なコース数と考えられる1)。しかし,POG-9049/CCG-8882 では,4 コース後で完全寛解(CR)を達成していない症例(残存腫瘍が成熟または未熟奇形種であることが摘出術と病理学的診断で確認された症例は除く)にはさらに2 コース追加することを規定していたが,CR が達成された症例は約半数にとどまり,結果的には残りの半数の症例は合計6 コースの治療を受けたことになる1)。一方,JEB レジメンを用いるイギリスのUKCCSG では腫瘍の縮小を伴う腫瘍マーカーの陰性化が得られてからさらに2 コースを追加する方法をとっているが,結果的にはコース数の中央値は5 コース(3〜8 コース)であった5)。結局,標準的な必要コース数は腫瘍マーカーの陰性化と腫瘍の縮小が得られた後さらに2 コース追加するということになる。
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- CQ4
- 術前化学療法の適応は
背 景
悪性腫瘍の治療の第一歩は腫瘍の全摘出であるが,小児例では進展していることも多く,切除が困難であったり,健常臓器の合併切除を要したりすることも少なくない。しかし,胚細胞腫瘍は化学療法に対する反応が良好である小児腫瘍の中でも特に効果的であることから,術前化学療法をまず実施する。
- 推奨グレード1A
- 術前化学療法は,完全切除が困難な場合と遠隔転移のある場合に実施することが推奨される。
解 説
精巣以外の胚細胞腫瘍は進行した大きな腫瘤として発見されることが多く,しばしば根治的切除が困難である。根治的切除は治癒のためには重要であり,術前化学療法を行って腫瘍が縮小してから切除した方がその可能性が高くなる。26 例の縦隔原発悪性胚細胞腫瘍についてのドイツからの報告では,遠隔転移や病期は予後には影響せず,5 年無イベント生存率(EFS)完全切除群vs. それ以外:94±6% vs. 42±33% ; P<0.002 で,完全切除の有無が唯一の予後因子であったと報告している1)。また,仙尾部の悪性胚細胞腫瘍では良好な予後を得るためには尾骨の切除は必須であり,完全切除例の予後が顕微鏡的残存あるいは肉眼的残存例に比較して有意に良好である2)。さらに重要なことは,完全切除割合は遅延手術の方が高く,転移のある局所進展腫瘍例では術前化学療法後に局所遅延手術を受けた例のほうが,一期的手術後に化学療法を実施した例より予後が良好であった(5 年EFS 79±9% vs. 45±15%:P<0.05)。
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- CQ5
- 未熟奇形腫に対する化学療法の適応は
背 景
成人の卵巣原発の未熟奇形腫では化学療法の併用が必要であるが,小児での未熟奇形腫での適応は明らかではなかった。
- 推奨グレード1A
- 完全切除された場合は,部位や悪性成分の含有にかかわらず化学療法は行わず,経過観察を推奨する。
解 説
44 例の1〜20 歳までの卵巣未熟奇形腫女性を摘出手術のみを行って経過観察をしたところ,4 年無イベント生存率(EFS)97.7%(95% CI:84.9-99.7%)と全生存率(OS)100%の成績が得られた。うち13 例の腫瘍は卵黄囊腫瘍の成分を含んでおり,20 例では血清AFP 値の上昇がみられた1)。また,性腺外腫瘍22 例を含む小児未熟奇形腫73 例では手術のみで観察し,3 年EFS が93%(95% CI:86-98%)という成績が米国より報告されている。この報告では5 例が再発したが,うち4 例は化学療法にて寛解を得,残りは報告時点では治療中であった2)。これらのことから,小児未熟奇形腫は全摘できればほとんどの症例は治癒し,再発した場合でも化学療法の追加で高い確率で治癒を得ることができると考えられる。
一方,成熟奇形腫においても154 例の非精巣原発腫瘍の場合,完全摘出された場合の6 年無再発生存率(RFS)は96%であるのに対し,不完全摘出の場合には55%であるとの報告もあり3),完全摘出のもつ意義は大きい。
文 献
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- CQ6
- Stage Ⅰ性腺胚細胞腫瘍に対する外科療法ならびに化学療法の適応は
背 景
性腺胚細胞腫瘍は悪性度の高い腫瘍であり,同時に化学療法に対する反応性がよいため,従来術後化学療法が行われることが多かった。しかし,最近では臨床試験の結果に基づき,精巣腫瘍stage I に限っては高位除睾術のみの治療に止め化学療法は推奨されない。
- 推奨グレード1A
- Stage Ⅰ精巣胚細胞腫は摘出術のみで,慎重に経過を観察する,また卵巣腫瘍については化学療法を実施することが推奨される。
解 説
小児期の精巣腫瘍で頻度が高いものは奇形腫あるいは卵黄囊腫瘍で,4 歳以下の男児に好発する。卵黄囊腫瘍の多くはstage I であるが,経陰囊的な腫瘍生検は鼠径部リンパ節への転移のリスクを生ずる。そのため精巣腫瘍評価の初期対応は適切になされる必要がある。Stage I 精巣胚細胞腫の予後は良好であり,1990 年に英国小児がん研究グループ(UKCCSG)より高位除睾術後,化学療法を行わず経過観察を行い,腫瘍マーカーが陰性化しない症例と再発症例にのみ化学療法を行うことで73 例全例で無病生存が得られたことが報告された1)。その後,CCG/POG〔現,米国小児がんグループ(COG)〕の共同研究でも同様の成績が報告され2),高位除睾術のみで化学療法や放射線治療は行わず,慎重に経過観察するのが標準的である。再発がみられればプラチナ製剤を含む化学療法を実施する。なお,stage II 以上の性腺胚細胞腫瘍は性腺外腫瘍と同様の治療を実施する。
傍精巣横紋筋肉腫の際に行われる病期の評価のための後腹膜リンパ節郭清は,若年男子の精巣胚細胞腫においてはCT,MRI などの画像所見,腫瘍マーカー値の情報がこれに代え得ること,また射精障害をきたす可能性があることから,推奨されていない。
一方,stage I の卵巣胚細胞腫瘍も精巣原発腫瘍と同様,患側卵巣と卵管摘出のみで化学療法を行わないで多くの症例で治癒が期待できる3, 4)。しかし,小児領域での報告は症例数が少なく,また,stage IA の成人を対象とした報告でも生存率は優れているが約3 分の1 が再発のため化学療法を必要とするなど5),現時点では手術のみでの経過観察は推奨されない。Stage II 以上の卵巣腫瘍と同様の治療を行う。
文 献
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- CQ7
- 放射線治療の役割は
背 景
化学療法の有効性が高いため放射線治療は一般的ではないが,放射線治療の有効性について検討した。
- 推奨グレード2D
- 放射線治療を考慮する。
解 説
胚細胞腫瘍の初期治療は,現在はプラチナ製剤を中心とした化学療法が行われ,放射線治療は実施されない。放射線治療の経験を述べた文献においても,放射線治療が化学療法より有効であると述べるものはみられない1-6)。化学療法抵抗性再発例での検討ではドイツから報告があり,それによると45 Gy 以上を照射した5 例中3 例で寛解が得られたとのことである7)。化学療法抵抗性の摘出が困難な腫瘍に対しては,十分な照射線量での放射線治療は有効なこともあると考えられる。
文 献
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- CQ8
- 化学療法抵抗性または化学療法後の再発腫瘍に対する治療法は
背 景
進行期胚細胞腫瘍の20〜30%は再発する。原発部位,再発時期や再発後の化学療法反応性により予後が異なるので,それらを勘案した治療選択が必要である。
- 推奨グレード1C
- 成人における標準レジメンであるVIP 療法〔ビンブラスチン(VBL)+イホスファミド(IFM)+シスプラチン(CDDP)〕または成人で救済療法として用いられるパクリタキセル(PTX),ゲムシタビン(GEM),オキサリプラチン(L-OHP)の併用療法やTIP 療法(PTX+IFM+CDDP)および自家造血細胞移植併用大量化学療法の適用を考慮する。
解 説
成人領域では精巣原発例が予後良好であり,標準的な救済化学療法(VIP 療法:VBL+IFM+CDDP)で長期生存が期待できるのに対し,精巣以外の非セミノーマはVIP 療法で長期生存が得られる可能性は10%以下であり1),大量化学療法や新規薬剤の臨床試験の候補となる。
PTX は単剤での有効性が証明された薬剤であり,TIP 療法としてIFM とCDDP との併用レジメンとして用いられる2)。その他に単剤で効果が確認された薬剤としてGEM,L-OHP があり,GEM/PTX3),GEM/L-OHP4)の組み合わせの他,これら3 剤を併用するレジメン5)も報告されている。予後良好因子を有する例には,これらの成人に対して開発された救済療法が有効と考えられる。しかし,これらの成績はあくまで成人でのものであるため,小児に適用する場合には注意を要する。
文 献
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- CQ9
- 自家造血細胞移植併用大量化学療法の適応と有効性は
背 景
成人領域では高リスク症例や治療抵抗例,再発例に対する治療として積極的な治療開発が行われている。小児ではこのような症例が少ないために治療開発が進んでいない。
- 推奨グレード2C
- 初期治療抵抗例,初回治療への反応が不良であった再発例,縦隔原発の再発例では救済療法として自家造血細胞移植併用大量化学療法は選択肢となりうる。
解 説
成人領域では自家造血細胞移植併用大量化学療法は,予後不良例に対する初期治療として,また再発例に対する救済療法として精力的に検討されている。中間および高リスク群(成人領域のリスク分類は小児領域におけるそれとは異なる)に対する初期治療としての大量化学療法の有用性はまだ証明されておらず,米国と欧州からそれぞれ報告された第III 相試験〔カルボプラチン(CBDCA),エトポシド(ETP),シクロホスファミド(CPA)〕では否定的な結果であった1, 2)。一方,治療抵抗例や再発例に対する大量化学療法では連続的に2 コースを繰り返す方法が高い有効性を示しており,特に精巣再発に対する救済療法としての有効性が高い3)。
Bhatia らは初回再発の精巣胚細胞腫瘍に対しCBDCA+ETP 大量化学療法を2 サイクル実施し,57%の無再発生存率(RFS)(観察期間中央値39 カ月)を得たと報告している4)。さらに有効性を高めるために様々な試みがなされている。パクリタキセル(PTX)とイホスファミド(IFM)の併用療法を連続的に行い,引き続き大量化学療法を行うというものである。大量化学療法としてはCBDCA+ETP を3 コース5),または1 コースのCBDCA+ETP+チオテパ(TESPA)6)を投与するものが第II 相試験で検証されている。前者では107 例のCDDP 耐性で,かつ通常,化学療法への反応が期待できない予後不良例を対象とし,47%の5 年無病生存率(DFS)(観察期間中央値61 カ月)を得ている。後者はCDDP を含む化学療法後の再発または耐性の80 例を対象とし,25%の3 年無増悪生存率(PES)を得ている。CDDP を含む化学療法に耐性,縦隔原発,血中ヒト絨毛ゴナドトロピン(HCG)が1,000 U/L 以上,などの予後不良因子を有する患者は大量化学療法の恩恵はほとんど期待できないとされているが,これらの結果はこのような患者に治癒の可能性を開くものと期待される。結局,大量化学療法の有効性については,用いるレジメンと対象とする症例の状態により異なる可能性が高い。
なお,小児例に対する大量化学療法については欧州骨髄移植グループ(EBMT)の登録例のデータが報告されており,性腺外胚細胞腫瘍再発14 例中8 例が観察期間66 カ月で無病生存中とのことである7)。
文 献
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- CQ10
- 治療に関連する合併症とその後の経過観察は
背 景
外科療法に伴う合併症の他に,抗がん剤による合併症が問題となりうる。
- 推奨グレード1A
- 術前からの臓器不全の存在には注意が必要であり,治療後の醜形とともに慎重に経過を追い,心理的アプローチも導入すべきである。また,プラチナ製剤による腎障害や聴器障害,アルキル化剤や放射線治療による妊孕性低下に対しても注意が必要である。
解 説
良性奇形腫(成熟奇形腫と未熟奇形腫)では手術のみが治療手段である。切除可能な一部の悪性奇形腫においても手術は有力な治療方法であるが,術後化学療法によって重要臓器の温存が可能になってきているので,初回手術時の重要臓器合併切除は避けるべきである1)。後腹膜の奇形腫では,腎動脈の攣縮によって腎機能を失う例がある2)。
巨大な仙尾部奇形腫の腹腔からの血管制御において,腹腔鏡下手術では血管を見誤って切離してしまう危険性がある3)。また,骨盤腔内腫瘍が大きい場合は,膀胱障害や腎障害を呈するものがあり,家族への出生前からのカウンセリングとその後の支持的経過観察が必要とされる4-6)。仙尾部奇形腫の再手術は膀胱機能障害の大きなリスクであるので,初回手術による完全切除が重要である7)。また,臀部の醜形は小児の心にとって大きな重荷となる。十分な心理的アプローチによる経過観察が必要である8)。
胚細胞腫瘍で用いられる標準的化学療法(PEB,JEB 療法)(CQ3 参照)による晩期合併症としてシスプラチン(CDDP)による聴力障害が問題となる。高音域の障害はほぼ必発で不可逆的であるが,日常生活には支障がないことがほとんどである。しかし,言葉の習得前に生じると破裂音や摩擦音の発音に支障を来すことがあるので注意が必要である。その他,エトポシド(ETP)による二次性白血病,ブレオマイシン(BLM)による肺線維症が晩期合併症として考えられるが,米国小児がんグループ(COG)からはPEB による合併症として肺合併症が147 例の4%に認められたと報告されているが,ETP によると思われる白血病は観察されていない。再発などの難治例でイホスファミド(IFM)や大量化学療法で高用量のアルキル化剤を用いた場合には,二次がんや性腺機能障害,不妊の危惧がある。欧米では,卵巣組織の凍結保存が女児の妊孕性保存療法として検討されている。男児では,まだ精巣組織保存はマウスでの成功例のみとされている。
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5章 網膜芽細胞腫
- はじめに
網膜芽細胞腫は,小児期に最も多い眼部悪性腫瘍である。小児期から成人期までの全年齢に認めるが,5 歳までに95%が発見される。小児がんの2.5〜4%を占め,15,000〜30,000 出生に一人の頻度で発症する。
日本を含めた先進諸国では殆どが眼球内腫瘍の状態で診断され,10 年全生存率は90%以上に達している。このため,多くの患児では,治療目標は救命から眼球温存あるいは視機能温存へと移行している。生命予後の改善は,医療制度の整備と診断技術の進歩により,ほとんどが眼球内腫瘍の段階で早期診断されるようになったことによるものである。発展途上国の一部では,依然として進行例の診断が多く,近年,早期診断のための国際的支援が行われている。
腫瘍が眼球外に進展している場合は予後不良であり,生命予後を基準として治療方法が評価される。腫瘍が眼球内にとどまる場合には,眼球の温存率もしくは視機能予後を基準として治療方法が評価される。網膜芽細胞腫では両眼に発症する場合(両眼性)が30%ほどあり,生命予後は個体,眼球予後は眼球,と異なった基準で比較する必要がある。またがん抑制遺伝子である網膜芽細胞腫遺伝子(RB1)の生殖細胞系列変異をもつ遺伝性症例の場合は,治療後に二次がんを生じる危険性が高く,これが生命予後を左右するため,短期のみではなく長期予後も検討する必要があり,結果の解釈を困難にしている。視力予後は,眼球内の腫瘍の部位により大きく異なるため,報告から治療方法の有用性を比較することは困難である。
網膜芽細胞腫では,その頻度と上記のような状況から,従来は,ランダム化比較試験は少なく,エビデンスレベルの高い論文が少ないため,診断・治療の方法は,一部の施設の方針に影響されやすかった。これらの問題の解決のために,大規模な多施設共同試験,国際共同臨床試験が行われ,診断・治療の方法についての国際的コンセンサス形成の動きがある。今回のガイドラインでは,これらの制限の中で,可能な限りエビデンスに基づき作成するよう心がけた。海外のエビデンスが,そのままわが国の診療に適応できない場合には,解説に記載した。
- CQ1
- 網膜芽細胞腫の治療方針の決定に必要な分類と検査は何か。腫瘍生検による病理診断は必要か
背 景
網膜芽細胞腫では,近年,眼球あるいは視機能の温存をめざした温存治療が行われるようになっており,この場合,腫瘍生検により病理診断を行う必要性,安全性が問題となる。温存治療を行う場合も,眼球摘出を行う場合にも,その転帰とよく相関する分類,分類のための検査を知る必要がある。
- 推奨グレード2B
- 網膜芽細胞腫の病期分類はTNM 分類(第7 版)を用いることを推奨する(2B)。眼球温存治療を行う場合,眼底検査など臨床所見に基づき分類を行い,腫瘍生検は行わないことを強く推奨する(1B)。眼球摘出を行う場合,転移の危険因子がある場合に骨髄検査,髄液検査,PET 検査を行い,病期分類を決定する(2B)。頭部MRI は治療前に行うことが推奨される(2C)。
解 説
病期分類は治療方針を決める基準となるものである。網膜芽細胞腫国際病期分類システムが2003 年から検討され,2006 年に提唱された(表1)1)。この分類を元に,2009 年にTNM 分類第7 版2)が規定され,主にTNM 病理分類(表2)に反映されている。これと並行して眼球温存の基準となる眼球内網膜芽細胞腫の国際分類(ICRB)が提唱された(表3)3)。この分類がTNM 臨床分類(表4)に反映されている。本来はTNM の臨床および病理分類を用いることが推奨されるが,簡便であることから小児腫瘍医は国際病期分類システムを,眼球温存を目指す眼科医はICRB を用いることが多い。なお,TNM 分類には,国際対がん連合(UICC)4)と米国がん合同委員会(AJCC)の2 種類があり,原則としてUICC 版を用いることが推奨される。UICC はAJCC も踏襲して決定されているためほぼ一致しているが,N およびM の臨床分類など異なっている点があるため注意を要する。
眼球温存治療を行う場合,臨床診断に基づき分類し,治療方針を決定する。T1〜T3 は眼科検査所見に基づく分類であり,T4 はMRI など画像検査に基づく分類である。眼球内の腫瘍生検を行うことは視機能に対する重篤な合併症を生じる危険性があり,また不用意に強膜創を作成することで腫瘍細胞の眼球外撒布を生じ術後転移の危険性を高くすることが懸念されるため5),原則として禁忌である。臨床診断を行う上で眼底検査が最も重要である。眼内腫瘍は透明組織を通して直接観察可能であり,腫瘍血管と石灰化を伴う白色腫瘍であれば,経験のある眼科医であれば確定診断としてよい。一方で,中間透光体の混濁など典型的所見が確認できない場合には超音波検査による石灰化の検出,MRI による腫瘍の評価が診断に役立つ。石灰化は組織学的に90%で検出されるが6),びまん性網膜芽細胞腫では検出率は低い。画像検査を行っても診断が確定できない場合,針生検の可能性が検討される。
針生検は,眼球外播種の危険性を考慮して実際に行われることは少ない。欧米の多施設アンケート調査で,治療を受けた3,600 例以上の網膜芽細胞腫のうち8 例のみで診断目的に針生検を行っており,内6 例が確定診断できたが,2 例は非腫瘍性疾患の診断にとどまった7)。針生検後転移を生じた症例はないため,症例を選べば針生検による眼球外播種の危険性は高くないと推定されるが,症例の蓄積が必要である。
腫瘍の浸潤範囲を推定するために画像検査が有用である。T1〜T2 の病変であれば眼球外浸潤を伴うことは考えにくく,画像検査は必須ではない。T3 以上の病変では腫瘍の浸潤範囲評価のために画像検査を行うことが望ましい。眼球表面コイルを用いた1.5 テスラMRI で,視神経浸潤は53.8%,脈絡膜浸潤は75.0%,石灰化は91.7%の感度で検出される8)。しかし,明らかに視神経が腫大している症例を除くと,篩状板を越えた視神経浸潤を検出できるのはMRI では60%,CT では0%であり,画像検査には限界がある9)。
全身転移検索は眼内病変の病期に依存する。腫瘍が病理組織検査で眼球内に限局しているか,視神経浸潤があっても視神経断端が陰性の場合,眼球摘出のみで後療法を行わなくても5 年生存率が98%であることから,全例を対象に治療前の全身転移検索を行うことは推奨されない。ただし,ICRB D 群の17%,E 群の24%が病理組織学的検査で転移の高リスク病変であったことが判明しており,臨床的に眼球内限局病変であることと転移を生じないことは一致しないことに注意が必要である10)。検査方法としては骨髄検査,髄液検査,全身CT,PET,骨シンチグラフィーなどが行われる。
骨髄検査,髄液検査は,眼球外浸潤が疑われる場合および転移のある場合には必須であるが,眼球内限局腫瘍では全例陰性であったと報告されていて11),検査の危険性を考慮して適応を判断する必要がある。FDG-PET は全身検索として頻用されるが,感度の限界があり,中枢神経系病変は検出困難であり,また被曝することを考慮する必要がある。骨シンチグラフィーは偽陰性が多く,転移の明らかな症例に限定して行うべきである12)。
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- CQ2
- 遺伝子検査は行うべきか
背 景
網膜芽細胞腫の原因遺伝子は,古典的ながん抑制遺伝子である網膜芽細胞腫遺伝子(RB1)であり,分子生物学の技術進歩により変異の検出率が格段に向上した。しかしながら検出率の限界があるため,検査の目的,倫理的観点からも検査の適応を考える必要がある。
- 推奨グレード2B
- 遺伝子検査は,可能であれば行うことが望ましい。発病者の変異が検出できた場合,同胞や子供の保因者診断が可能である(2A)。専門資格を有する遺伝カウンセラーによるカウンセリングを行った後に遺伝子検査を行うことが強く推奨される。
解 説
網膜芽細胞腫の遺伝子変異は,約40%が16 のホットスポットに生じるが,その他は遺伝子全体に分布する1)。したがって,遺伝子検査を行う場合はRB1 遺伝子全体を対象に検査する必要がある。
両眼性の場合には,理論的には生殖細胞系列変異を有するため,末梢血にもRB1 変異を有する。遺伝子検査として,G-banding(染色体検査),FISH(fluorescence in situ hybridization)法,断片解析,塩基配列,プロモーターのメチル化解析などの手法が用いられる。検査方法により検出率は異なるが,G-banding ではいわゆる13q-症候群と呼ばれる合併奇形を伴う症例を検出でき3%程度,FISH 法では8%程度,各種塩基配列解析で70〜75%,プロモーターのメチル化解析では10〜12%の検出率と考えられている。その他,遺伝的モザイクが10%程度存在し,解釈を困難にしている2)。
遺伝子の生殖細胞系列変異が検出された場合には,同胞や子孫の遺伝子検査を行い,同一の異常が検出されればほぼ確実に腫瘍を生じるため,密な眼底検査を行い,腫瘍を認めれば早期に治療を行うべきである。一方,同一の異常が検出されなければ理論的には発病しないため,定期検査は不要である3)。
発端者の遺伝子異常が検出されなければ,同胞などの発病に関する情報を得ることはできない。
浸透率の低い(low-penetrance)網膜芽細胞腫の家系が存在し,家族性片眼性が多発することが知られている。産生されるpRB 蛋白が減少している場合,変異により機能の低下しているpRB 蛋白が産生される場合がある4)。2008 年の診療報酬改訂で,臨床遺伝学の専門的知識をもつ者が遺伝カウンセリングを実施することで遺伝カウンセリング加算が創設された。被験者が,専門家によるカウンセリングで遺伝子検査の意義,限界を理解したうえで遺伝子検査を受けることが望まれる。
文 献
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- CQ3
- 眼球摘出の適応と播種の危険性は
背 景
網膜芽細胞腫では,近年,眼球あるいは視機能の温存をめざした温存治療が行われるようになっており,診断時の検査から温存可能なのか,あるいは眼球摘出を行うべきなのかを判断することが重要である。眼球摘出手術では,手術操作により腫瘍細胞が撒布される危険性があるのかを明らかにする必要がある。
- 推奨グレード2B
- 視力の期待できない巨大腫瘍,視神経浸潤,緑内障や大量の眼球内出血などの随伴所見を有する場合には眼球摘出が推奨される(2B)。片眼性であっても視力の期待できる非進行眼であれば温存を試みてよい(2C)。眼球摘出手術により腫瘍細胞が撒布され転移・眼窩内再発を増加させるというエビデンスはない(2C)。
解 説
網膜芽細胞腫の治療目的は,生命の危険を減らすことであり,可能な範囲で眼球を温存することである。眼球温存を行う基準は施設により異なるが,一般には視力の期待できない巨大腫瘍の場合,疼痛を伴う場合,視神経浸潤,前房浸潤を伴う場合には眼球摘出を行う1)。それ以外であれば,十分なインフォームドコンセントのもとに眼球温存治療を行う。眼球温存治療自体が生命予後を悪化させるというエビデンスはない2)。化学療法を主体とした治療法(chemoreduction)が広く行われている現状では,両眼性,片眼性にかかわらず視力の期待できる眼球では眼球温存治療を選択することが多い。
眼球内進行期では,臨床的に眼球内に限局していると判断された場合であっても,国際分類D 群で17%,E 群で24%は病理学的に転移の高リスク群であるため3),眼球温存治療を行う危険性は十分説明する必要がある。
眼球摘出の操作により眼球内腫瘍細胞が眼球外に撒布される可能性は否定できないが,これまでに比較検討試験は行われていないため評価できない。一般には,危険性は無視できる程度と考えられていて,また病勢の進行した眼球を残し転移を生じる危険性がより大きな問題であるため,眼球摘出は妥当な治療法と考えられている。
文 献
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- CQ4
- 片眼性の眼球温存治療は許容されるか
背 景
片眼性網膜芽細胞腫では,腫瘍を認めない一方の視機能は保たれており,生命予後の観点からは,患側眼球の摘出が有効な治療法である。温存治療を行う場合には,治療中の進展・転移など温存治療に伴う危険性と,治療による温存達成の可能性を評価して治療法を決める必要がある。
- 推奨グレード2C
- 片眼性であっても視力の期待できる非進行眼であれば温存を試みてよい(2C)。眼球温存治療を行うことに伴う危険性は十分説明する必要がある(1A)。
解 説
疾患の全母集団の予後調査から,眼球温存治療自体が生命予後を悪化させるというエビデンスはない1)。眼球が温存されることと,そのために生じうる治療関連有害事象を比較検討することが重要であり,親の価値観に大きく左右される。
眼球摘出を行うことの利点は,病理学的な腫瘍浸潤範囲の評価が可能となることであり,転移の高リスク群であれば予防的化学療法を行い,低リスク群であれば後療法は行わない層別化が可能である。眼球温存治療を行う場合,転移のリスク評価が困難であるため,高リスク群に対して眼球温存治療を行う場合が生じうる。結果的に眼球摘出の判断が遅れ,転移を増加させる危険性が懸念される。眼球内進行期では,臨床的に眼球内に限局していると判断された場合であっても,国際分類D 群で17%,E 群で24%は病理学的に転移の高リスク群である2)。緑内障と牛眼を伴う場合,組織学的に転移の高リスク群である可能性が高い3)。化学療法を行った後に摘出された眼球の病理検査では,腫瘍の浸潤範囲が過小評価される危険性がある4)。これらの危険性を十分に説明し,治療方針を決めることが重要である。一方,眼球を摘出した場合には整容面および精神的負担が生じる。
片眼性網膜芽細胞腫に対し,初期化学療法と局所治療の併用療法を行うことで32%は放射線外照射を行わずに眼球温存できるが5),眼内進行期では眼球温存は困難である5, 6)。リスクにより層別化を行い,予後を前向きに検討した報告があるが7),初期治療法選択にバイアスがあり,眼球温存治療を行う基準に関するエビデンスは乏しい。
文 献
- 1)
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- CQ5
- 局所治療単独(小線源治療,レーザー,冷凍凝固)の適応は
背 景
網膜芽細胞腫に対する温存治療では,放射線治療や全身化学療法を用いることなく,局所治療のみで目的が達成できる場合がある。局所治療のみで温存治療を試みる適応を明らかにする必要がある。
- 推奨グレード2B
- 小線源治療は腫瘍径15 mm 以下かつ腫瘍厚10 mm 以下の限局腫瘍,ダイオードレーザーによる経瞳孔温熱療法は播種を伴わない1.5 mm 以下の腫瘍,冷凍凝固は周辺部で播種を伴わない2.5 mm 以下の腫瘍が単独治療の適応である。
解 説
局所治療は,レーザー,冷凍凝固,小線源治療など複数あり,特に小線源治療は治療可能施設が限定される。同一眼球内に複数生じている場合には種々の治療法を組み合わせて行う必要がある。
小線源治療は,放射線小線源を腫瘍部の強膜に一時的に縫着し局所放射線治療を行う治療法であり,核種として主に125I(γ線)と106Ru(β線)が用いられる。小線源治療の適応は,腫瘍径15 mm 以下かつ腫瘍厚10 mm 以下(106Ru 線源は5 mm 以下)の単一領域の腫瘍である。線源を取り除く手術が必要であり,また乳頭や黄斑部の線量を十分考慮した治療計画が必要である1)。小線源治療による二次がんは外照射に比べ少ないと考えられているが2),小線源治療自体による二次がんの危険性は検討されていない。
レーザー治療は,可視光レーザーによる腫瘍血管凝固から,赤外線レーザーによる温熱療法(経瞳孔温熱療法)に移行してきた。経瞳孔温熱療法は,硝子体および網膜下播種を伴わない1.5 mm 以下の腫瘍がよい適応であり,それ以上の腫瘍は化学療法との併用など,他の治療法が望ましい3, 4)。
冷凍凝固は,周辺部の限局性腫瘍に対し直接破壊を行う治療法である。腫瘍径2.5 mm 以下,腫瘍厚1.0 mm 以下で播種を伴わない場合がよい適応である5)。
現在の腫瘍臨床において,抗腫瘍効果はRECIST(response evaluation criteria in solid tumors)による評価が主流となりつつある。しかしながら,球面をなす網膜から生じる腫瘍であり単純な長径での判断は困難であること,石灰化を残すことが多く腫瘍細胞が消失しても腫瘤として残存するため完全寛解(CR)の判断が画像検査ではできないこと,小さな眼球内播種は画像検査で描出されないこと,腫瘍を直接観察できることなどから,通常は眼底所見に基づき治療効果判定を行う。
文 献
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- CQ6
- 眼球温存治療後,眼底検査で腫瘍が不活化している場合に行う内眼手術は安全か
背 景
眼球温存治療の合併症として白内障,網膜剥離,眼球内出血を生じることがある。これらに対する内眼手術は眼球外への腫瘍播種を生じる危険性があり,腫瘍が瘢痕化した後どの程度経過すれば安全に手術を行うことができるのか,重要な課題である。
- 推奨グレード2C
- 腫瘍の不活化の後,どの程度の期間を経過すれば内眼手術が安全であるかは未確立であり,可能な範囲で内眼手術は遅らせるべきである。
解 説
眼球内腫瘍の活動性がある場合,眼球内の手術治療は転移を生じる可能性が高いため,原則禁忌である。ぶどう膜炎や原因不明の硝子体出血の診断で硝子体手術を行い網膜芽細胞腫が発見された症例で,後に転移を生じた例が複数報告され,網膜芽細胞腫が判明した場合にはできるだけ早期に眼球摘出,放射線治療,抗がん剤の治療が推奨される1, 2)。白内障手術が転移の原因になる場合もあり,眼球温存治療の終了直後には腫瘍残存の可能性を十分考慮し,内眼手術には慎重になるべきである。
眼球内腫瘍の局所再発は通常数カ月以内に生じるため,内眼手術は腫瘍の不活化の後少なくとも1 年は待つことが望ましい。しかしながら,やむをえない手術の場合には術中の眼内サンプルの細胞診を行うべきである。手術を行ったことに対する後療法の有効性は確立していない。
文 献
- 1)
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- CQ7
- 眼球温存のための全身化学療法レジメンは
背 景
眼球温存のための全身化学療法は,放射線治療による二次がん誘発の可能性への危惧から,初期治療として用いられるようになった。治療にあたっては,全身の副作用を十分考慮する必要がある。これまで放射線治療との比較試験,レジメン同士の比較試験などは行われず,慣習的に行われているのが現状である。その点を十分に理解してレジメンを選択する必要がある。
- 推奨グレード2C
- ビンクリスチン(VCR),カルボプラチン(CBDCA),エトポシド(ETP)の2〜3 剤を組み合わせたレジメンを用いる。多くのレジメンがあるが,その有用性についての比較試験は行われていないため,最適化されていない。全身化学療法単独で治癒することは少なく,多くの場合,局所治療の併用が必要である。
解 説
局所治療単独で治癒が望める場合には, 初期治療として局所治療を行うべきである。局所治療単独での治癒が望めない場合は,放射線治療が標準的治療であったが,遺伝性例での二次がん誘発の可能性や,眼窩骨発達への影響,眼球への影響など多くの合併症・後遺症が指摘され,初期治療として全身化学療法が用いられるようになった。今日では,全身化学療法により腫瘍の縮小を図り,局所治療を併用することで治癒を目指すchemoreduction が主流になっている。この治療法は1996 年に複数施設の治療成績が報告されて以来一般的治療となったが,長期は副作用が判明していないため治療の妥当性は現時点では確立したとはいえない。また,放射線治療との比較試験,レジメン間の比較試験は行われずに臨床導入されているため,今後,妥当性を検討する必要がある。
注意すべき点として,①大部分の症例では化学療法単独で治癒と温存が達成されることはなく,局所治療の併用が必要であり,予後は局所治療の影響を大きく受けること,②他のがん腫と異なり同一眼球内に多発することが多く,治療効果が単純な腫瘍縮小や生存率ではなく眼球保存率や無再発生存率(RFS)で評価されること,③特に生殖細胞系列の変異を有する遺伝性例の場合,全身化学療法による二次がん誘発の可能性の有無が確定していないこと,が挙げられる(CQ17 参照)。
単剤で網膜芽細胞腫に対する治療効果が検討された薬剤はごく一部であり,実際にはVCR,CBDCA,ETP の2〜3 剤併用治療が慣用的に用いられている。
放射線治療を回避しての眼球温存達成の成否は,全身化学療法後の局所療法の有用性に大きく依存する。従来の局所療法に加えて,世界的に眼動注や硝子体注入などの局所化学療法が採用されるようになり,その有用性が報告されるようになっている(CQ8 参照)。全身化学療法の必要性と有用性の評価も変わっていく可能性があり,最新の報告に留意する必要がある。
1.単剤の抗腫瘍効果
CBDCA 単剤の第Ⅱ相試験で,36 眼中33 眼で反応があり,眼球保存率はReese-Ellsworth 分類Ⅰ〜Ⅲ群で93.3%,Ⅳ〜Ⅴ群で25.0%と報告されている1)(表1)。静脈投与時,1 時間後の前房濃度は5.13μg/mL,硝子体濃度は4.05μg/mL,1 カ月後にも硝子体内には約10%の濃度が残存していると報告されており,薬剤移行も良好と考えられる2)。CBDCA 投与後に経瞳孔温熱療法を併用するchemothermotherapy と呼ばれる治療法は,96.1%で腫瘍縮小が得られ,6.8%で再発,また眼球温存は97%で可能であったと報告されているが,病期の詳細が不明である3)。経口ETP を21 日間連続投与する試みは無効であり,1 例は後に白血病を生じており,推奨されない4)。
2.VEC 療法:VCR+ETP+CBDCA
最も多数例の治療報告がある。6 コース施行群と6 コース未満群をランダム化されていない比較試験で検討した研究では,局所治療を93%で必要とした。6 コース未満群では網膜腫瘍再発が2%,硝子体播種再発が24%,網膜下播種再発が31%であったが,6 コース群ではそれぞれ1%,0%,0%であり,再発率が有意に低いことから6 コースの治療および後療法の組み合わせが最良であると結論された5)。
同一施設で,6 コース行った症例の予後は,眼球摘出率がReese-Ellsworth 分類Ⅰ〜Ⅳ群15%,Ⅴ群53%,放射線を回避できたのはⅠ〜Ⅳ群10%,Ⅴ群47%である6)。その後,国際分類に基づく予後が提示されており,放射線および眼球摘出を回避できるのはA 群100%,B 群93%,C 群90%,D 群44%,E 群0%と報告されている7)。
副作用に関しては,いずれも軽度であるが,血球減少が89%,発熱が28%,消化管症状・脱水・VCR による神経障害が40%に生じたが,二次がんの発症は報告されていない8)。その後の同グループからの報告では二次がんの発症が報告されている(CQ17 参照)。
3.EC 療法:ETP+CBDCA
24 例を対象に,ETP とCBDCA を3 日間投与,3〜4 週ごとに腫瘍の反応をみながら2〜5 コース行い,各回に局所治療を行った場合,21 例で完全寛解(CR)が報告されている。Reese-Ellsworth 分類Ⅰ〜Ⅲ群では71%が放射線を用いずにCR を達成したが,Ⅳ〜Ⅴ群は全例が放射線もしくは眼球摘出を要した9)。
4.VC 療法:VCR+CBDCA
43 眼に化学療法のみ8 コースを行い,腫瘍の増大がある症例に局所治療を行った場合,一部症例では化学療法中に腫瘍増大があり,大部分の症例で局所治療を要した。眼球摘出と放射線治療を事象とした無イベント生存率(EFS)はReese-Ellsworth 分類Ⅰ〜Ⅲ群で59.2%,Ⅳ〜Ⅴ群で26.3%であり,眼球保存率は同様に83.3%と52.6%であり,非進行例でのETP を除く治療法の可能性を示唆している10)。
5.シクロスポリンA との併用療法
抗がん剤の多剤耐性(multi-drug resistance:MDR)に関与すると考えられるP 糖蛋白(P-glycoprotein)を阻害するシクロスポリンA を併用する治療法が報告されている。併用により眼球内CBDCA 濃度が上昇することが確認されているが,実際の治療効果に関する比較はなされていない11)。
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- CQ8
- 局所化学療法は有効か
背 景
眼球内に限局している腫瘍で温存治療を選択する場合,初期治療として局所化学療法が有効であれば全身副作用を軽減するためには,望ましい。初期治療として全身化学療法が行われる場合も,単独で治癒にいたることは少なく,局所化学療法が根治的治療として有効か否か,治療法とその有用性について検索を行った。
- 推奨グレード2B
- 抗がん剤の結膜下注射,選択的眼動脈注入,硝子体注入が一部の施設で行われている。いずれも単独治療としての効果は未確立であり,他の治療と併用して行われている。
解 説
眼球内に限局した腫瘍では,いくつかの局所化学療法が試みられている。米国を中心に,結膜下カルボプラチン注入が行われている。第Ⅰ/Ⅱ相試験では,硝子体播種のある5 眼中3 眼,網膜限局腫瘍の5 眼中2 眼で有効,網膜下播種には無効であり,有害事象として一過性の眼球周囲の浮腫と視神経萎縮が報告された1)。その後の追試で眼窩蜂窩織炎様の炎症や瘢痕化が問題として報告されている2)。国際分類C/D の患者を対象に,全身化学療法と本治療を併用した治療の有用性を検討する臨床試験が北南米の臨床試験として行われている(http://www.cancer.gov/clinicaltrials/COG-ARET0231)。
わが国で行われている局所治療には,選択的眼動脈注入,硝子体注入がある3)。いずれも特定の施設のみで行われている。
眼動脈注入はSeldinger 法およびバルーンカテーテルを用いて眼動脈へ選択的に抗がん剤を注入する方法であり,全身副作用を軽減しつつ局所の治療効果を達成することが目的である。単独治療としての効果は未評価である3)。
その後,バルーンカテーテルを用いない方法で,直接眼動脈に注入する眼動脈注入単独の第Ⅰ/Ⅱ相試験を行い,9 例中7 例で眼球摘出を回避できたと米国から報告された4)。欧米では,この方法を用いた眼動注を採用する施設が増え,さらにアジア,中近東でも採用されるようになっている。初発例で初期治療として用いた場合の有用性,全身化学療法後に用いた場合の有用性,再発時の有用性の報告が相次ぎ,その後も報告が続いている5-9)。米国国立がん研究所公開データベース(NCI PDQ Ⓡ)のRetinoblastoma Treatment では,片眼性,両眼性のそれぞれの標準的治療選択肢(standardtreatment options)の中で,温存治療方法として他の局所療法とともに並記されており,北米では臨床試験が始まっている。長期的な有用性と合併症について確証するために,さらに臨床試験が計画されている。
網膜芽細胞腫では,診断時,温存治療の最中,あるいは再発時に腫瘍が播種することがあり,全身化学療法,眼動注の双方ともに抗がん剤の薬剤到達性の問題から制御困難である。動注硝子体注入は,静脈投与では硝子体濃度を十分高めることが困難であることから直接注入する術式であり,約50%の眼球温存が達成されているが,種々の治療法を組み合わせた結果であり,単独治療としての効果は未確立である10)。この動注硝子体注入も,その後世界的に採用されるようになり効果についての報告が続き11, 12),NCI PDQ Ⓡ:Retinoblastoma Treatment の治療選択肢にも記載されるようになった。合併症についてのメタ解析の報告までなされているが13),眼動注と同様,今後世界的規模で,長期的な有用性と合併症についての解析が行われていくと考えられる。
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- 眼球摘出後の化学療法は必要か
背 景
腫瘍が眼球内にとどまる場合には,転移の危険性は低い。眼球摘出を行った場合には,転移や再発の可能性があり,予防的な化学療法の必要性が問題となる。転移・再発のリスクの評価方法と,後療法の適応が問題になるために検討を要する。
- 推奨グレード2B
- 摘出された眼球の病理学的検索により,視神経切除断端陽性,強膜外浸潤があれば局所放射線治療を併用した全身化学療法,脈絡膜全層の浸潤を伴う視神経浸潤があれば全身化学療法が後療法として推奨される。断端陰性で視神経浸潤を伴っていても他の危険因子がなければ後療法は不要である。
解 説
眼球摘出を行った後は腫瘍の進展度を評価し,再発や転移のリスクを評価する必要がある。病理組織学的診断に基づき転移予防のための後療法の必要性が判断され,後療法として,その進展度に従い全身化学療法,放射線治療が行われる。摘出眼球の視神経切除断端陽性であった場合の追加切除,もしくは眼窩内容除去の有効性は未確立である。
再発や転移のリスク評価のためには,MRI による術前の画像検査は,感度,特異度ともに低いことが明らかにされており,摘出された眼球の病理学的検索を行い,腫瘍の進展度を評価する必要があるとされる1)。
病理学的に再発・転移の危険因子である可能性がある病態としては,視神経浸潤の有無(断端陽性,陰性),強膜浸潤および強膜外浸潤,脈絡膜浸潤,前房浸潤,腫瘍の分化の程度などが報告されている。Chantada らは,眼球内限局例と,視神経浸潤があっても断端陰性で脈絡膜浸潤もない場合は,後療法なしで5 年生存率は98%,強膜浸潤・脈絡膜全層浸潤を伴う視神経浸潤・視神経断端陽性では後療法を行っても再発・転移が多く,後療法は必要であるものの現在の治療方針では不足がある可能性を示唆している2)。
眼球保存治療を行った後に眼球摘出を要した場合では,強膜浸潤と両眼摘出を要したことが予後の危険因子であったが,5 年無再発生存率(RFS)は96%であり,前房浸潤,脈絡膜浸潤,篩状板を越える視神経浸潤,クモ膜下腔浸潤は有意な危険因子ではなかった。このため摘出の判断を誤らなければ眼球保存治療自体の危険性は高くないと推定される3)。
病理学的検討では,Marback らはCD34 抗体を用いて評価した腫瘍の血管新生の定量がその後の播種の危険性をよく表すと報告している4)。
眼球摘出後の後療法は,腫瘍の浸潤範囲に基づいて判断される。摘出眼球の標本作成法,脈絡膜浸潤の評価方法,視神経浸潤の評価方法などのガイドラインが2009 年に策定され5),これに基づく国際共同研究が検討されている。
視神経断端陽性,眼球外浸潤の存在がある場合に,切除断端が陰性になるまで切除する,すなわち眼窩内容除去術を行うべきであるかどうかは,これまで検討されていない。これまではこのような場合,放射線外照射を併用した全身化学療法が行われ,再発が生じるのは半数に満たない2)。積極的な追加切除は整容的な不利を伴うことになり,症例も少ないことから多施設での検討が望まれる。
文 献
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- CQ10
- 遠隔転移など眼球外進展例に対する最適な治療法は
背 景
網膜芽細胞腫は眼球外に進展した場合は予後不良であり,救命のために集学的治療を行うことが多い。生命予後はその進展度に依存している。
- 推奨グレード2B
- 標準的治療は行われておらず,種々の治療が行われている。眼窩内進展例は全身化学療法と放射線治療の併用,眼窩を越えた遠隔転移例では,大量化学療法と放射線治療の併用による救命例の報告が多い。
解 説
網膜芽細胞腫の5 年生存率は90%以上であるが,これは殆どの例が眼球内腫瘍の状態で診断されるためである。眼球外に浸潤・転移した場合の予後は不良である。症例数が少ないことから,治療法は確立していないが,集学的治療により予後の向上を認めている。中枢神経系転移例は,これらの集学的治療に関わらず救命例の報告が殆どない。治癒後には,治療による合併症,二次がん発症など,長期的な経過観察が必要である。
1.眼窩進展例・所属リンパ節転移例
進展は,導出血管を介するか強膜浸潤により生じる。腫瘍摘出後に多剤併用化学療法,放射線治療が併用され,生命予後が向上し60〜85%の生存率が報告されている。治療後の再発は,中枢神経系に起こることが多いため,中枢神経到達性の良好な薬剤を選択する。
エトポシド(ETP),カルボプラチン(CBDCA)を5 日間投与,2 コースの第Ⅱ相試験では,20 例のうち9 例で完全奏効,8 例で部分奏効を認め,生存期間の延長を認めた報告がある1)。ビンクリスチン(VCR),シクロホスファミド(CPA)をweekly 1 year 2)もしくは3 weekly 1 year 3),ドキソルビシン(DXR)を8 回と髄注を併用した治療法の成績では,weekly 投与群で無病生存率(DFS)46%,3 weekly 投与群で83%であり,治療効果が向上しているが治療毒性に注意を要する1)。
2.骨髄転移,軟部組織浸潤のある例
上記と同様の治療法で,10 例中6 例で完全奏効と良好な奏効率が報告されている1)。長期予後に関しての記載はない。ETP,プラチナ誘導体に加えDXR を加えることにより良好な奏効率が得られるとの報告がなされている4)。
イダルビシン(IDR)の第Ⅱ相試験5)では,骨髄病変は全例消失したものの,中枢神経系病変は進行し,また副作用として全例にgrade 4 の骨髄抑制,30%でgrade 2 の嘔気を生じた。
骨髄転移,眼窩浸潤を認める症例に自家造血細胞移植を併用したチオテパ(TESPA),ETP,CBDCA 併用大量化学療法を行い,4 例全例で完全寛解を維持している報告がある6)。また,眼窩内再発と骨髄転移を有する4 例にVCR,CPA,ETP とシスプラチン(CDDP)もしくはCBDCA を投与,その後大量化学療法と自家造血細胞移植を行い,腫瘍部に放射線治療を行うことで,全例の46 カ月以上の生存が報告されている7)。CARBOPEC 療法(CBDCA+ETP+CPA)と自家造血細胞移植を行うことで,3 年生存率67%が報告されている8)。その後も同様の有用性を示唆する報告がされている9-12)。
3.中枢神経浸潤・転移例
中枢神経系転移のある症例では,全身化学療法,大量化学療法,放射線治療を併用した集学的治療が行われているが, 長期生存例の報告がほとんどない3)。上記のCARBOPEC 療法と自家造血細胞移植を行うことで,中枢神経系転移4 例のうち1 例のみ63 カ月の無再発生存が報告されている8)。Dunkel らは,化学療法および大量化学療法を受けた7 例中,2 例(1 例は,治療後放射線治療を併用),40 カ月,101 カ月無再発生存していると報告している13)。
文 献
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- CQ11
- 全身化学療法で三側性網膜芽細胞腫,眼球内新生腫瘍は予防できるか
背 景
1.三側性網膜芽細胞腫:RB1 遺伝子の生殖細胞系列変異をもつ遺伝性症例で,正中部に発症する続発腫瘍であり,松果体に最も多く認める。致死的な疾患であり,早期診断が予後の改善につながる可能性が示唆されている。眼球温存目的で放射線治療にかえ初期治療として全身化学療法を行った多数例の報告で,三側性網膜芽細胞腫が1 例も生じなかったという報告が単一施設から報告されている。致死的疾患であり予防治療が可能であれば行うべきである。
2.網膜芽細胞腫の新生腫瘍:網膜芽細胞腫は,同一眼球内,あるいは対側の眼球内に多発する可能性のある疾患であり,初期治療により新生腫瘍の出現を予防できるのであれば,予後改善の可能性があり,治療後の経過観察の頻度を減らすことが可能になる。
- 推奨グレード2D
- 全身化学療法の導入によって,三側性網膜芽細胞腫の頻度が低下したとの報告があり,その可能性が示唆されているが,確証されていない。化学療法を行っても,遺伝性症例では10〜48%に新生腫瘍を発症するため,慎重な経過観察が必要である。若年発症,家族歴があること,発見時に非進行期であることがその後の新生腫瘍の危険因子である。
解 説
1.三側性網膜芽細胞腫
網膜芽細胞腫患者の松果体など大脳正中部付近に生じる続発腫瘍であり,転移とは異なる。同部位に存在する網膜類似細胞由来と考えられ,両眼性網膜芽細胞腫の5 %程度に発症し致死的な疾患である。
三側性網膜芽細胞腫の頻度と化学療法の関係は,これまで1 施設の報告のみで続報がない。Shields ら1)は,1995〜1999 年に治療した214 例の検討で,66%が化学療法を受けたが47 カ月の経過で1 例も頭蓋内腫瘍を発症せず,既報から推定される5〜15 例より有意に少なかった。一方,化学療法を行わなかった群からは頭蓋内腫瘍が1 例発症し,推定値と有意差がないことから,化学療法により三側性網膜芽細胞腫の発症を予防できる可能性を示唆した。その後,上記論文の施設を含めた2 施設で1993〜2008 年にビンクリスチン(VCR),エトポシド(ETP),カルボプラチン(CBDCA)の全身化学療法を初期治療として受けた245 例(遺伝性例187 例,非遺伝性例58 例)の後方視的検討では,遺伝性症例で1 例に松果体芽細胞腫のあったことが報告され,なお従来の発症率より低いと主張されている2)。
他施設からの報告がなく追試がないことから,現時点での判断はできない。またShields らの報告は後方視的研究であり,症例のバイアスの可能性を排除できない。少なくとも現時点では,三側性網膜芽細胞腫の予防効果を期待して全身化学療法を行うことはエビデンスがない。
2.網膜芽細胞腫の新生腫瘍
Shields ら3)は,106 例162 眼を6 コースの化学療法で治療し,片眼性の場合は孤発例の9%,家族性の80%に,両眼性の場合は孤発例の19%,家族性の38%に治療後の新生腫瘍を発症したと報告している。全体では新生腫瘍の発生頻度は1 年後で23%,5 年後で24%であり,若年であることと家族歴のあることが危険因子であった。
Schueler ら4)は化学療法を行った後,48%に新生腫瘍が生じ,3.2 歳より後には生じなかった。新生腫瘍を生じた眼球はより若年であり,腫瘍数が少なかったが,最終的な眼球あたりの腫瘍数は同等であったことから,腫瘍の発症予防効果は否定的である。
Wilson ら5)は,遺伝性症例58 例の検討で,12%の症例に化学療法開始後新生腫瘍が生じ,発症までの期間の中央値は3 カ月,2 年後の新生腫瘍発生率は10±3%と報告した。診断時年齢6 カ月以下,家族歴があること,Reese-Ellsworth 分類Ⅰ〜Ⅲ群であることが新生腫瘍の危険因子であった(CQ7 参照)。
文 献
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- CQ12
- 眼球温存のための放射線外照射の適応およびその照射方法は
背 景
網膜芽細胞腫の温存治療では,かつては放射線外照射が標準的治療であったが,二次がんや照射による顔面骨障害のリスクから,放射線外照射を回避して温存することが目標とされるようになっている。このような状況下にあって,なお眼球温存の放射線治療を採用する適応と,用いられる照射方法について明らかにする。
- 推奨グレード2C
- 初期治療として化学療法を選択することが多く,放射線外照射を行うことはまれである。化学療法後の不応例,眼球内再発例で視機能の温存が期待される場合に,照射に伴う骨障害,二次がんのリスクを考慮し,放射線治療の適応を判断する。海外では強度変調放射線治療(IMRT)や陽子線治療が臨床に導入されている。
解 説
網膜芽細胞腫は放射線感受性が高く,1990 年代前半までは眼球温存治療の主体をなしてきたが,1990 年代半ばから比較試験がなされないまま初期治療として全身化学療法が導入され1),眼球温存治療の主流になった。これは放射線治療による骨障害,二次がんの危険性が認識されたことが大きな理由である。しかし化学療法および局所治療で制御困難な場合に,放射線治療は依然として有効な治療法の一つであり,有害事象を減らすための新たな照射方法も行われている。
骨障害に関して,照射時期が早いほど骨が未熟であり放射線感受性が高く,将来的な変形を生じやすい。化学療法の有害事象が許容されるのであれば,放射線治療を回避する,もしくは照射時期を遅らせる目的で化学療法を行うことは妥当と考えられるが,これについては検証されていない。
二次がんに関しては,米国の遺伝性症例に関する疫学調査により,50 年後の発症率が照射群,非照射群でそれぞれ38.2%,21.0%であり2),照射野内の二次がん発症率が3.1 倍になることが報告されていて,放射線治療は二次がんの明らかな危険因子である。ただし,現在の化学療法主体の治療法による二次がん発症率は10 数年の予後しか判明しておらず,今後長期予後が判明することにより化学療法を行うことの妥当性は再評価されるべきである。
上記のような背景を理解した上で,現時点では放射線治療に伴う有害事象が明らかであるため,可能であれば放射線治療は回避し,化学療法主体の眼球温存治療が推奨される。化学療法主体の治療法では制御困難な眼内腫瘍の場合,眼球温存に伴う利益が考えられる有害事象を上回ると判断される場合,放射線外照射が選択される。
放射線治療の方法は,リニアックを用いたX 線照射が一般的に行われる。水晶体遮蔽を併用して前方照射を行う方法と,水晶体を回避して側方照射を行う方法があり,眼球温存率は同等であり,前者のほうが局所治療を必要とする例が少なく,白内障の頻度も低い結果が報告されている3)。初期治療として放射線治療を行った場合,腫瘍の再発は7%に生じ,再発期間は中央値12 カ月,全例40 カ月までに生じる4)。照射線量を減らすため,化学療法と26 Gy の低線量照射を併用し,少数例であるが80%の眼球温存が報告されている5)。
IMRT は,鋸状縁と硝子体の線量を維持しつつ眼窩および涙腺の線量を減らすことが可能である6)。化学療法と低線量IMRT の併用により,5 年で68%の眼球温存が報告されている7)。骨障害および二次がんに対して,IMRT を行うことの利点は確立していない。
陽子線治療は,眼窩骨および眼窩内の被曝線量を減らしつつ均一な線量分布を作ることが可能である8)。治療効果は少数例の報告のみであり,有効性の評価は困難である。10 年後の照射野内二次がん発症率は,陽子線で0%,光子線で14%であり,有意に陽子線で少ない9)。
IMRT,陽子線治療とも,小児の場合,照射野を正確に設定するためには全身麻酔(もしくは深い鎮静)の上,更に眼球を固定することが必要になる。現在の日本の医療事情ではこれに対応できる施設はなく,実現困難である。
文 献
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- CQ13
- 遠隔転移再発例への治療法は
背 景
網膜芽細胞腫の再発例の予後は,再発腫瘍の進展度に依存する。眼球内に認める場合には,予後良好であり温存治療の対象となる。眼球外に再発した場合には,生命予後は不良であり1),救命のために集学的治療が行われる。特に予後不良な遠隔転移再発の治療について検討した。
- 推奨グレード2B
- 遠隔転移再発例の予後は不良であり,初発時に遠隔転移を認める場合と同様に,腫瘍の進展状況に応じて,全身化学療法あるいは大量化学療法,放射線治療を併用した集学的治療を行う必要がある。
解 説
初期治療として眼球温存治療が行われ,遺伝性症例で新たに眼球内腫瘍を認める場合には,再発ではなく新生腫瘍として,局所療法により治療される場合が多い2)。再発腫瘍が眼球内に限局する場合には,生命予後は良好である。腫瘍が小さな場合,局所化学療法も含めた局所療法により,視機能あるいは眼球の温存が達成可能である。腫瘍が大きい場合には,局所療法を併用した温存治療が行われ,これらの効果が期待できない場合に,放射線治療や眼球摘出の採用が検討される3)。
再発腫瘍が眼球外に認められる場合には,生命予後は不良であり1),初発時に眼球外進展を認める場合とほぼ同様の治療方針がとられる(CQ10 参照)。
眼球摘出後の再発など,再発腫瘍が眼窩内に限局する場合には,遠隔転移の危険もあるため,全身化学療法と放射線治療を併用した治療が行われる4)。
再発腫瘍が眼窩を越えて認められる場合には,全身化学療法と自家造血細胞移植を併用した大量化学療法と放射線治療の併用により生命予後は向上しているが5),初発例と同様,中枢神経浸潤あるいは転移を認める場合には,救命の報告がほとんどない(CQ10 参照)。
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- CQ14
- 眼球摘出後の経過観察はどのように行うべきか
背 景
眼球摘出後には,再発・転移の可能性があることから,経過観察が必要である。摘出後には,多くは義眼を装着するため,義眼装用による問題に対応する必要がある。これら二つの観点から,どのような経過観察が推奨されるかを明らかにする。
- 推奨グレード2B
- 3 歳までは頻回の診察,それ以後も長期間の診察が推奨される。摘出眼球の眼窩内再発の有無,義眼の装用状況の確認を行う。初診時片眼性であっても生後44 カ月までは他眼の診察を行うことが推奨される。定期的画像検査,血液検査の意義は確立していない。
解 説
眼球摘出後の眼窩内再発1)および遠隔転移2)は大部分が1 年以内に生じる。5 年間再発がなければ治癒したと判断してよい2)。摘出時に片眼性であってもその後残存眼に新生腫瘍を生じる可能性があり,生後44 カ月までは慎重な経過観察が望ましい3)。この間の定期検査の最適なスケジュールは確立していない。カナダでは原則として,3 歳までは3〜4 週ごとに全身麻酔下の眼底検査,3〜9 歳までは6 カ月ごとの外来診察,15 歳までは年1 回の診察,以後2〜3 年ごとの診察を推奨している4)。わが国の医療事情では欧米諸国のような全身麻酔下の眼底検査を定期的に行うことは困難である5)。
摘出眼球で眼球外浸潤などの危険因子がなかった場合,眼窩内再発の早期発見のための画像検査は有効性が確立していない。眼部の突出などの症状を伴う場合はMRI を用いた画像検査が必須である。遠隔転移の早期発見に有効な方法は確立していないため,血液検査を含めスクリーニング検査は通常行われない。転移の疑われる所見があれば画像検査,病理組織学的検査は必須である。
文 献
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- CQ15
- 眼球温存治療を行った場合の経過観察はどのように行うべきか
背 景
眼球温存の治療後には,再発や新生腫瘍の可能性があり,腫瘍そのものや治療による合併症の可能性がある。これらの観点から,どのような経過観察が推奨されるかを明らかにする。
- 推奨グレード2B
- 腫瘍瘢痕からの再発,新生腫瘍,眼球合併症に関して定期的に眼底検査を行う。最終治療から1 年間は1〜3 カ月ごと,その後も間隔を延ばしながら長期間診察を行うことが推奨される。
解 説
眼球温存治療後の経過観察は,眼球内の腫瘍再発と続発合併症の診察が必要になる。
眼球温存治療後の眼合併症について,Anagnoste らは冷凍凝固と化学療法の併用で生じた裂孔原性網膜剥離を報告し,局所治療併用時の眼合併症の危険性を述べている1)。放射線治療を併用した場合,白内障,網膜症の危険性があり,これらは治療直後から,また比較的時間をあけて生じる場合もある。
腫瘍の再発は,多くが治療終了後1 年以内に生じる。また,生殖細胞系列の遺伝子変異を有する場合,新生腫瘍が生じる可能性があり,月齢6 カ月以下では71%,6 カ月以降では25%と報告されている2)。早期発見により局所治療で腫瘍制御を行うことが目的であり,通常1 年間は1〜3 カ月ごと,その後は間隔を開けながら診察を継続することが推奨されている3)。
経過観察は,全身麻酔下に眼底検査を行うことが海外では推奨されている3)。カナダのガイドラインでは,最終治療から12 カ月,生殖細胞系列の変異を有する場合は3 歳まで,全身麻酔下に眼底検査を行うことを推奨している4)。現在の日本では小児医療体制が不十分であり,外来覚醒下,鎮静下の眼底検査を行わざるを得ない施設が多い。
文 献
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- CQ16
- 家族歴のある場合の経過観察はどのように行うべきか
背 景
網膜芽細胞腫は,網膜芽細胞腫遺伝子(RB1)の異常によって起こる疾患であり,特にRB1 遺伝子の生殖細胞系列変異をもつ場合,常染色体劣性遺伝で,次世代に発症する。家族歴のある場合,患者同胞の発症の可能性を考え,どのような経過観察が必要かを明らかにする。
- 推奨グレード2B
- 家族歴のある未発病者の検査は,出生直後から3〜4 歳までは3〜4 カ月ごと,5〜6 歳までは6 カ月ごとに行うことが推奨される。可能であれば全身麻酔下で行うことが望ましい。
解 説
オランダの全例調査の結果,家族性発症の場合は生後48 カ月までに全例発症していることから,患者同胞の検査は4 歳まで行うことが推奨される1)。
米国国立がん研究所公開データベース(NCI PDQ Ⓡ)では,3〜5 歳まで,もしくは遺伝子変異のないことが確認されるまでのスクリーニング眼底検査が推奨されている。一方,カナダのガイドラインでは遺伝子検査による保因者診断を行うことを推奨していて,遺伝子検査を行わないスクリーニング眼底検査は言及していない(遺伝子検査についてはCQ2 参照)。
家族歴のある網膜芽細胞腫の発見時期と発見時進行度を比較すると,スクリーニングを行った群のほうが,行わなかった群より若年で発見され,非進行例が多く,眼球温存率もよい結果が報告されている3, 4)。
文 献
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- CQ17
- 二次がんのスクリーニング検査は必要か
背 景
網膜芽細胞腫では,がん抑制遺伝子である網膜芽細胞腫遺伝子(RB1)の生殖細胞系列変異をもつ遺伝性症例では,二次がんのリスクが高いことがよく知られており,発症の有無が生命予後を左右する。早期診断ができれば救命の可能性も高くなるが,スクリーニング方法は施設により異なる。二次がんスクリーニングの有用性について検討する。
- 推奨グレードC
- 有効な二次がんのスクリーニング方法はない。放射線治療を行った場合には,照射野のMRI 画像は早期発見に有効である可能性があるが,定期的な検査を継続していくことは現実的ではなく,有用性も示されていない。全身化学療法を行った場合には,血液検査が白血病の早期発見につながる可能性がある。
解 説
網膜芽細胞腫の患児は二次がんを発症するリスクが高い。二次がん発症のリスク因子として遺伝性症例であること,放射線治療歴,放射線治療時の年齢,すでに二次がんを発症していること,があげられる。網膜芽細胞腫遺伝子(RB1)の生殖細胞系列変異をもつ遺伝性症例では,放射線治療歴の有無に関わらず,二次がん発症のリスクが高い。診断後50 年の時点で放射線治療群の38.2%,非治療群の21.0%に二次がんを生じると報告されている1)。照射計画と照射技術の進歩によって,放射線治療の影響の軽減が期待されるが,最近の報告では,放射線治療群30.4%,非治療群9.4%となっている2)。
放射線治療は,照射野内の二次がんの確率を高くするため,眼窩や頭部のMRI 検査は早期発見に有効である可能性があるが,実際の効果に関する報告はない。
二次がんは放射線治療を受けていない遺伝性症例患児にも生じることから,放射線治療の照射野内のみのスクリーニングでは不十分である。しかし,二次がんスクリーニングのために全身MRI の検査を繰り返すことは実際的ではないと考えられ,カナダのガイドラインでは,リスクの高い患者へのカウンセリングが有用であるとしている。血液検査は,臓器障害の検索,骨髄浸潤の検索に有用である可能性はあるが,その有用性は確立していない。
遺伝性症例で,全身化学療法を受けた場合に,二次性の急性骨髄性白血病の発症が増加することが危惧されているが,確証にはいたっていない3, 4)。報告例は少ないが長期的に経過観察することが望ましい。
文 献
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6章 神経芽腫
- はじめに
神経芽腫は,胎生期の神経堤細胞を起源とする細胞が癌化したものであり,体幹の交感神経節,副腎髄質に多く発生する。約65%が腹部であり,その半数が副腎髄質,それ以外には頸部,胸部,骨盤部などから発生する。悪性度の高いものや,自然退縮を生じるものなど様々な腫瘍動態を示す。
発症頻度は米国の報告で,15 歳未満の小児腫瘍の8〜10%を占め,7,000 人に対して1 人の発生割合である。小児がんの中では白血病,脳腫瘍に次いで多くみられる腫瘍である。小児慢性特定疾患研究事業の登録によると,わが国では年間320 例前後の新規患児が発生している。年齢分布では0 歳で最も高いピークがあり,3 歳に第2 の高いピークをもつ2 峰性のパターンを示す。1 歳未満は51%,1〜3 歳が28%,4 歳以上は21%であった。
神経芽腫患者の約70%は診断時に転移巣がみられるが,予後は診断時年齢,臨床病期,生物学的因子と強く関連する。年長児の進行期にある神経芽腫では,強力な治療を行っても長期生存の可能性は明らかに低いが,1 歳未満の乳児では,進行期にあっても長期生存の可能性が高く,限局例の一部では自然退縮することも知られている。
- CQ1
- 神経芽腫の治療方針の決定に必要な分類と検査は
背 景
神経芽腫の初診時に,治療方針決定のために必要なリスク分類と必要な検査について検討した。
- 推奨グレード1B
- 神経芽腫の国際標準のリスク分類は国際神経芽腫リスクグループ分類 (INRGR)であり,画像診断,病理診断とともに分子生物学的な診断が必須である。
解 説
神経芽腫は多様性を示すがんとして知られ,その治療は,リスク分類に従って選択されるのが一般的である1)。治療方針決定に必要なリスクは,一般的には低,中,高の3 群に分類され,診断時年齢,病期,組織分類などの臨床的因子に,MYCN 遺伝子増幅,腫瘍細胞の染色体数(ploidy),11 番染色体長腕(11q)の欠失などの分子生物学的因子を組み合せて判定する2)。各国の治療グループごとにリスク分類が作成されていたが,2009 年に国際的標準でのリスク分類として,INRGR が提唱された3)。本リスク分類では,超低,低,中,高の4 群に分類され,年齢因子は18 カ月が採用された4)(表1)。
病期分類は国際的に最も多く用いられている国際神経芽腫病期分類(INSS)が改訂され,国際神経芽腫リスクグループ病期分類(INRGSS)が提言された(表2)。INRGSS では診断時の画像検査をもとにL1,L2,M,MS に判定される5)。
国際的な診断基準は以下のいずれかを満たす場合である。
- ①光学顕微鏡検査による腫瘍組織の明確な病理診断が得られていること。その際に免疫組織検査,電子顕微鏡所見,尿中または血清バニリルマンデル酸,ホモバニリン酸などカテコラミン代謝産物の上昇が認められることを参考とする。
- ②骨髄吸引や外科生検組織により明確な腫瘍細胞(例えば免疫組織学的に陽性の細胞集塊)が認められ,かつ上述の尿中または血清カテコラミン代謝産物値が高値を示していること。骨髄病変の確認のためには両側後腸骨稜からの骨髄穿刺吸引と生検が推奨される。
さらに,リスク因子の検索のための検査は治療前に行うことが必要である。
- ①病期分類のために,原発巣のCT もしくはMRI が必要である。遠隔転移巣の診断のための123I-MIBG シンチグラフィーが必要である。MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)スキャンが陰性であれば,テクネシウム99 を用いた骨シンチグラフィーを実施する。骨転移の確認のためにX 線写真撮影が推奨される。
- ②病理診断と分子生物学的診断のためには,組織生検が必要である。生検で得られた組織はすべてをホルマリン固定せずに,分子生物学的検査のために凍結検体,未固定生検体を採取しておくことが必須である6)。病理分類は,国際神経芽腫病理分類(INPC)に従って分類することが推奨される7)(表3)。
- ③MYCN 遺伝子増幅は,神経芽腫における強力な予後不良因子である1)。臨床研究の発展につれて,MYCN 遺伝子以外の生物学的因子が,治療や臨床的に重要な予後因子として有用であることが明らかとなってきた。腫瘍細胞の染色体数(ploidy)ではdiploidy がhyperdiploidy に比べて予後不良であるとされている。また,1 番染色体短腕(1p)の欠失および11 番染色体長腕(11q)の欠失が予後不良と相関するとの報告がなされている8)。他にも,17 番染色体長腕(17q)の増幅やTrkA 遺伝子の発現,遺伝子発現プロファイリングは予後の予測に有用であるとされているが,リスク分類因子としての実用化には至っていない9)。
文 献
- 1)
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- CQ2
- PET 検査は有意義か
背 景
近年の画像診断の進歩により,2-[fluorine-18]-fluoro-2-deoxy-D-glucose(FDG)-PET(PET)が多くの腫瘍性疾患の診断に応用されるようになった。PET 検査の神経芽腫診断への応用を検討した報告を検索し,有用性を検証した。
- 推奨グレード2C
- 神経芽腫診断においてPET 検査の有用性は限定的である。
解 説
神経芽腫診断において,MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)シンチグラフィーの方がPET 検査よりも鋭敏であるという報告が多い。113 例の神経芽腫症例でのPET 検査とMIBG シンチグラフィーの比較検討で,stage 1 ないしstage 2 では,PET 検査の優位性があったものの,進行神経芽腫stage 4 症例においては,MIBG が有意に有用であった1)。また,PET/CT を用いた場合も同様の傾向があり,28 例の再発・難治の高リスク神経芽腫の検討では,全例でMIBG 陽性であったが,PET/CT では24 例(86%)でのみ陽性であった2)。この報告では,PET/CT では,MIBG と比較して,5 例の骨・骨髄転移と4 例の軟部組織,6 例の頭蓋骨転移を検出できなかった。一般的にPET では骨・骨髄転移の描出が悪いため,高リスクの患者において,MIBG とPET の一致率は,40〜50%と報告されている3, 4)。
しかしながら,PET はカテコラミン産生能に関連しないので,MIBG 集積不良例,すなわちカテコラミン非産生性腫瘍の診断に有効な可能性がある。特に,軟部組織の評価に対しては,PET は補完的な役割をもつ可能性がある3)。
なお,治療反応性の評価法としては,MIBG 陽性の部位は,MIBG でのフォローアップが適切であるが,MIBG 陰性かつPET 陽性の部位に関しては,PET でのフォローアップが有効である3)。また,PET で陰性化したとしても,MIBG では残存することが多く,臨床的な意義に関しては明らかになっていない。
文 献
- 1)
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- CQ3
- 局所性神経芽腫の生検と一期的切除の適応についての指標は
背 景
遠隔転移のない神経芽腫について診断時の画像所見から,一期的に切除するか,生検を行って化学療法後に二期的切除術を行うべきかを決める指標について検討した。
- 推奨グレード1B
- 局所性神経芽腫において,外科的リスク因子(surgical risk factors:SRFs)のある症例は生検を先行させることが推奨されるが,判断の指標となるものとしてIDRF(imagedefined risk factor)が推奨されている。
解 説
2005 年に外科的リスク因子という概念を導入し,診断時の画像所見においてこれらが認められる症例と認められない症例について,後方視的に検討した報告1)がある。欧州の共同研究で,外科的リスク因子を有する症例では完全切除率が低下し,外科関連合併症が増加することが明らかになった。外科的リスク因子を設定し,その有用性を検討した初めての報告で,症例数も多く有用な解析である。さらに,これらに改定が加えられ,IDRF という概念が提唱され,国際神経芽腫リスクグループ(INRG)に取り入れられた2)。IDRF は,局所性神経芽腫の症例に対し,画像所見から手術のリスクを推定し,初期手術として摘出を試みるのか生検のみで留めるのかを判定するための評価項目である。従来の国際神経芽腫病期分類(INSS)は術後の分類であったが,IDRF は画像診断から術前に病期分類を行うことができ,今後の治療法選択に有用な指針になると考えられる。
なお,2011 年に詳細なIDRF 判定のガイドラインが発表されており3),血管と腫瘍との関係についてより客観的な判定が可能となった。
文 献
- 1)
- Cecchetto G, Mosseri V, De Bernardi B, et al. Surgical risk factors in primary surgery for localized neuroblastoma : the LNESG1 study of the European International Society of Pediatric Oncology Neuroblastoma Group. J Clin Oncol 2005 ; 23 : 8483-9.
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- CQ4
- ダンベル腫瘍への椎弓切除の有効性は
背 景
椎管内浸潤(ダンベル)腫瘍に対する有効な治療法を検討する。
- 推奨グレード2C
- 神経芽腫の脊髄圧迫症状で緊急の対処を要する緊急手術(72 時間以内) 以外は,椎弓切除の有効性は明らかでない。
解 説
13 例のダンベル型神経芽腫で神経症状のあるものに対し,全例で化学療法が行われ,3 例が回復,4 例改善,6 例不変で,不変6 例中2 例が緊急椎弓切除をうけて回復したことより,化学療法不応性の症例では椎弓切除が有効であるとの報告がある1)。
イタリア小児血液がん学会(AIEOP)からの34 例の後方視的検討では,いったん麻痺が生じると,神経症状の改善を目的とした手術および化学療法と化学療法のみを受けた症例の比較では,神経症状の改善に差はなく,満足のいく神経症状の改善はみられなかった2)。一方,これらの腫瘍の5 年全生存率(OS)は100%と生命予後は極めて良かった。米国小児がんグループ(POG)からの83 例の後方視的検討では,急性期の椎弓切除例と化学療法のみの症例との比較では,神経症状の改善率が83%と92%で差はなかった3)。わが国の94/98 乳児プロトコールでは33 例のダンベル症例に対して,低用量のビンクリスチン(VCR),シクロホスファミド(CPA),ピラルビシン(THP)の治療を行うことで,椎弓切除を行わず,神経症状の改善が33%でみられ,神経症状の増悪例はなかった4)。
文 献
- 1)
- Yiin JJ, Chang CS, Jan YJ, et al. Treatment of neuroblastoma with intraspinal extensions. J Clin Neurosci 2003 ; 10 : 579-83.
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- De Bernardi B, Balwierz W, Bejent J, et al. Epidural compression in neuroblastoma : Diagnostic and therapeutic aspects. Cancer Lett 2005 ; 228 : 283-99.
- CQ5
- 神経芽腫の内視鏡手術による腫瘍摘出の是非は
背 景
内視鏡手術による腫瘍摘出の治療効果判定への有効性を検証した。
- 推奨グレード2C
- 内視鏡手術による腫瘍摘出についての是非は明らかでない。腫瘍の部位,大きさ,血管浸潤の有無によって適応を決定すべきである。
解 説
血管侵襲のない5 cm 以下の副腎原発腫瘍に対して,腹腔鏡下手術と開腹術による腫瘍摘出とは合併症に差がないことが,76 例の検討で示されている1)。12 施設の過去10 年間の小児腹腔鏡下副腎摘出の後方視的検討では,140 例中,開腹に移行したのは13 例で,2 例に輸血を要し,1 例(褐色細胞腫)に再発を認め,輸血や合併症は有意に高いという結果には至っていない2)。胸腔内腫瘍に対する胸腔鏡下手術に対しても,有用性が示されているが,施設レベルの検討にとどまっている3)。したがって,内視鏡下での腫瘍切除の有効性は示されているがエビデンスレベルは低い。
文 献
- 1)
- Kelleher CM, Smithson L, Nguyen LL, et al. Clinical outcomes in children with adrenal neuroblastoma undergoing open versus laparoscopic adrenalectomy. J Pediatr Surg 2013 ; 48 : 1727-32.
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- CQ6
- 腹部神経芽腫の手術における腎合併切除の意義は
背 景
腹部神経芽腫症例,特に広範なリンパ節転移があるような症例では,片側の腎を合併切除することで,切除率を上げることが可能となる。こうした局所療法の強化のために腎合併切除の適応と有効性を検討した。
- 推奨グレード1B
- 神経芽腫の手術における腎臓摘出は行わないことを推奨する。
解 説
腹部原発神経芽腫の手術について検討された報告1, 2)では,一期的切除例で化学療法後の切除例に比べて腎摘出が2 倍の頻度となっていたが,予後には関連がなく,むしろこうした症例はsecond look 手術を行うことが推奨された。大量化学療法による腎合併症のことも考えると,腎摘出まで行って一期的切除を行うことは,利益が少なく,推奨されない。このような患者の治療成績は,外科的な根治性よりも腫瘍の生物学的特性そのものによって予後が規定される。
文 献
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- CQ7
- 放射線治療の有効性とその適応は
背 景
神経芽腫の治療法として,放射線治療の適応と有効性を検討した。
推奨1
- 推奨グレード1C
- 進行神経芽腫に対して,術後の原発腫瘍の制御および骨転移部への局所療法として,放射線治療を行う。
解 説 1
神経芽腫において放射線治療の有効性を検証したランダマイズスタディはないが,さまざまな介入試験でその有用性が検証されている。
高リスク群に対する後方視的研究では,大量化学療法後の21 Gy の局所放射線治療によって,21 例中1 例のみ照射部位に再発したと報告されている1)。10 Gy の局所照射のみでは,局所再発は52%に認められたのに対して,さらに10 Gy の全身放射線照射(total body irradiation:TBI)を追加した場合の局所再発は22%に減少したとの報告もあり2),20 Gy 以上の局所放射線治療が局所再発制御に有効であると考えられる。
原発部位に関する照射については,Kushner らは21 Gy の照射で,原発部位での再発率は3 年で10.1%であったと報告している3)。また,Gatcombe らは高リスク群神経芽腫34 例の報告で,中央値22 Gy の照射で原発部位は3 年94%の制御率であったとしている4)。
推奨2
- 推奨グレード2C
- 低中間リスク群の場合でも,肝転移による呼吸不全,化学療法に反応しないダンベル型の場合に,放射線治療を行う場合がある。
解 説 2
低中間リスク群の場合,できる限り放射線治療を避けることが望ましいが,stage MS の乳児例において肝転移のため呼吸不全が認められる症例や,化学療法に反応しないダンベル型で神経障害が進行する症例に,放射線治療を行う場合がある5)。
しかしながら,いずれの場合においても,放射線治療による長期的な合併症を十分に考慮して治療にあたることが必要である6, 7)。
文 献
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- CQ8
- 術中照射は有効か
背 景
進行神経芽腫の局所療法として,術中照射の適応と有効性を検討した。
- 推奨グレード2C
- 進行神経芽腫の局所療法としての術中照射(intraoperative radiation therapy:IORT)の有効性については明らかでない。
解 説
IORT の放射線治療としての有効性を検証した報告は少なく,少数例での解析が行われているのみである。進行神経芽腫の局所制御療法としてのIORT の有効性を示したものや1, 2),明らかに全摘できた症例では有効であるが,亜全摘以下の症例では有効性が不十分であるとの報告がある3, 4)。さらに照射野外からの再発を指摘している報告もある3-5)。一方,局所再発した症例に対し,再切除時にIORT を行って50.4%の症例で局所コントロールが可能であったという報告が出ている6)。
しかしながら合併症として,大動脈,腎動脈や腸間膜動脈狭窄などが報告されており1, 2, 7),今後の検証が必要な治療法であると考えられる。
文 献
- 1)
- Gillis AM, Sutton E, Dewitt KD, et al. Long-term outcome and toxicities of intraoperative radiotherapy for high-risk neuroblastoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2007 ; 69 : 858-64.
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- CQ9
- 無治療経過観察の適応と安全性は
背 景
マススクリーニングによって発見された神経芽腫を中心に,無治療経過観察を行った報告がみられることから,無治療経過観察の適応と安全性を検討した。
- 推奨グレード1B
- 低リスク群に分類される神経芽腫には,自然退縮や分化傾向をもつものがあり,これらを適応とすれば,安全に無治療経過観察を行うことができる。
解 説
無治療経過観察の適応として最も多く報告されているのは,わが国で行われた生後6 カ月時のマススクリーニングによって発見された限局例で,一定の条件〔腫瘍径5 cm 以下,Evans 病期分類I またはII(腫瘍が片側のみに限局している),摘出にリスクを伴わない,重篤な症状を呈していない,代諾者の同意が得られているなど〕を満たせば無治療経過観察によって60〜70%の症例において退縮または変化なしであるとしている1-4)。さらにドイツから,乳児のMYCN 遺伝子増幅のない限局例に対し前方視的観察研究が行われ,無治療経過観察が行われた93 例中44 例が自然退縮,10 例が変化なしという結果が報告されている5)。また,イタリアから出生前診断から出生後3 カ月までの副腎神経芽腫6)に対して,米国小児がんグループ(COG)からは乳児期早期(生後6 カ月未満の副腎腫瘍を対象)に対しても無治療経過観察が可能である7),という報告がある。
以上より,少なくとも1 歳未満発症の限局性神経芽腫に対し,無治療経過観察は適応となる。しかしながら,いずれの報告にも少数例ではあるが,増大例や遠隔転移を生じた症例が報告されている。無治療経過観察可能な症例を厳密に予測することは不可能で,慎重な経過観察が求められる。
文 献
- 1)
- Yamamoto K, Hanada R, Tanimura M, et al. Natural history of neuroblastoma found by mass screening. Lancet 1997 ; 349 : 1102.
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- CQ10
- 外科的全摘可能な低リスク群腫瘍に対する標準治療は
背 景
外科的全摘可能な低リスク群腫瘍に対する適切な治療法を検討した。
- 推奨グレード1B
- 低リスク群に分類された患者の治療では,外科的に全摘できた症例は,外科的摘出術のみにて経過観察する。
解 説
低リスク群の治癒率は90%以上であることから1-6),外科的摘出術のみにて経過観察する1, 2, 5, 6)。2000 年以降に欧州7),北米8),日本9)からそれぞれ多施設共同の観察研究結果が報告され,低リスク群症例においては,手術による摘出後化学療法の有無により予後に差がないことが明らかとなった。ただし,LDH 高値かつ国際神経芽腫病理分類(INPC)unfavorable 7),国際神経芽腫病期分類(INSS)2B かつINPC unfavorable またはdiploid,INSS 2B かつ18 カ月以上8)などの条件を満たす場合は予後不良と報告されている(CQ1 参照)。なお,複数の研究は,スクリーニングなどにより乳児期に発見された神経芽腫が疑われる一部の症例は,外科的介入および病理診断なしに安全に経過観察できることを示唆している10-12)。
文 献
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- CQ11
- 外科的全摘不能な低リスク群腫瘍に対する標準治療は
背 景
低リスク群腫瘍の外科的全摘出術が不能な患者に対する標準治療法を検討した。
- 推奨グレード2C
- 外科的全摘出術が不能な患者には低用量の化学療法を試行する。
解 説
低リスク群では手術摘出のみを原則とするが,脊髄圧迫症状を呈する症例や,stage MS で肝腫大の著明な症例には化学療法を用いる1)。化学療法による後遺障害を最小限にとどめるため,各薬物の総投与量を低く抑えるべきである。米国小児がんグループ(COG)-9641 では,外科的切除不能で症状を有した一部の限られた症例に,カルボプラチン(CBDCA),エトポシド(ETP),シクロホスファミド(CPA),ドキソルビシン(DXR)を組み合わせた化学療法を2〜4 コース施行し,5 年無病生存率(DFS)は91%と良好であった2)。フランス小児がん学会(SFOP)ではCBDCA,ETP,CPA,DXR,ビンクリスチン(VCR)の組み合せによる化学療法を2〜4 コース施行しており,62%の症例でDXR が投与されないレジメンであったが,5 年DFS は90%と良好であり,低用量の化学療法は有効であるとしている3, 4)。わが国の研究では,外科的切除不能な低リスク群症例に低用量のCPA,VCR もしくはCPA,ピラルビシン(THP),VCR の化学療法を6 コース試行し,5 年DFS は95%と良好であり,手術後の化学療法も不要であった5)。
文 献
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- Strother DR, Children’s Oncology Group. Phase III Study of Primary Surgical Therapy in Children With Low-Risk Neuroblastoma, COG-P9641, Clinical trial, Completed. Pediatr Blood Cancer 2006 ; 47 : 384.
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- 5)
- Iehara T, Hamazaki M, Tajiri T, et al. Successful treatment of infants with localized neuroblastoma based on their MYCN status. Int J Clin Oncol 2013 ; 18 : 389-95.
- CQ12
- Stage MS 腫瘍への放射線治療,化学療法の意義と適応は
背 景
Stage MS 腫瘍への放射線治療,化学療法を試行する場合とその意義を検討した。
- 推奨グレード2C
- 神経芽腫stage MS 症例への放射線治療,化学療法は予後不良因子をもつ場合や重篤な症状を有する場合に施行される。
解 説
腫瘍の分化や自然退縮は,特に乳児のstage MS 腫瘍にみられるため,本群の治療法は,臨床症状によって異なる1)。このタイプの腫瘍は重篤な症状が無い場合は,無治療で観察が可能である。生後2 カ月未満に多い巨大な肝腫大による圧迫症状,呼吸不全などの合併症は治療の対象となる。米国小児がんグループ(COG)の研究では,80 例のstage MS 症例について,保存的治療44 例が5 年全生存率(OS)100%であったのに対し,低用量シクロホスファミド(CPA)の化学療法と放射線治療4.5 Gy/3 日間を受けた36 症例は81%であった。本報告では,予後良好因子をもつ症例は最小限の治療で良好な成績が得られ,2 カ月未満の重篤な症例は化学療法や放射線治療が有効であるとしている2)。フランス小児がん学会(SFOP)からの94 例の後方視的報告では,無症状の症例は対症療法のみで,重篤な症状を有する症例は放射線治療やCPA,ビンクリスチン(VCR)からなる初期治療を受け,3 年OS はそれぞれ100%と80%であった。治療を要する症例のOS が81%,80%であることからさらに治療を強化する必要性を示唆しているが,治療群は悪性度の高い腫瘍が選択されている可能性もあり,治療法の有効性は腫瘍の生物学的特性に依存している可能性もある。したがって,stage MS 腫瘍への化学療法,放射線治療は個々の症例に応じて判断する必要がある3)。
文 献
- 1)
- Nuchtern JG, London WB, Barnewolt CE, et al. A prospective study of expectant observation as primary therapy for neuroblastoma in young infants : a Children’s Oncology Group study. Ann Surg 2012 ; 256 : 573-80.
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- CQ13
- 中間リスク群腫瘍に対する標準治療は
背 景
中間リスク群における有効な標準的治療法を検討した。
- 推奨グレード2C
- 中間リスク群に対する標準的治療法は確立していないが,生検後に4〜8 コースの中等度の化学療法を試行し,二期的に原発腫瘍の摘出術を行う治療法が一般的である。
解 説
中間リスク群は多様な病態を示し,一般的にMYCN 遺伝子非増幅かつ病理診断が予後良好な国際神経芽腫病期分類(INSS)stage 3 の腫瘍と,生後365 日以内のMYCN非増幅の遠隔転移をもつ症例,主にINSS stage 4 が含まれる。これらの腫瘍において,原発腫瘍は一期的切除が不能であり,初回手術は生検に留め,化学療法後に二期的に摘出術が行われる。中間リスク群の過去の治癒率は75〜80%であったが,近年の報告では化学療法の減量によっても90%前後の良好な成績を示している1)。
米国小児がんグループ(COG)A3961 では,先行研究より化学療法薬の減量を計り3 年全生存率(OS)が98%と良好な成績を示している。この研究では,カルボプラチン(CBDCA),シクロホスファミド(CPA),ドキソルビシン(DXR)およびエトポシド(ETP)の薬剤の組み合わせの化学療法を4 コース,反応不良例や予後不良因子をもつ症例には8 コース実施する2)。
欧州のグループは,生後365 日以内のMYCN 遺伝子非増幅のstage 4,4S 群に対してCBDCA,CPA,DXR およびETP の薬剤の組み合わせの化学療法を2 から最大8 コース行い,2 年OS が95.6%と良好な成績を示している3)。
同じく欧州神経芽腫研究グループ(SIOPEN)研究では,1 歳以上のMYCN 遺伝子非増幅のstage 3 症例にCBDCA,CPA,DXR およびETP の薬剤の組み合わせの化学療法を2〜8 コース行い,5 年OS が87.6%と報告している4)。
放射線治療は標準的治療としては使用されないが,乳児のstage 4 の症例において,骨転移なしが5 年無イベント生存率(EFS)で90±5.5%,骨転移ありが27±10.6%(P<0.0001)と,骨転移を有する症例はその予後が不良であることがフランス小児がん学会(SFOP)から報告されており5),一部の残存腫瘍に対して行われていたが,中間リスク群に対する放射線治療の適応は意見の分かれるところである。先述のCOG-A3961では残存腫瘍への照射例は0.6%と非常にまれであった2)。
文 献
- 1)
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- CQ14
- 神経芽腫のstage 4 に対する外科療法の原則は
背 景
遠隔転移のある神経芽腫のstage 4 の症例について,外科療法の結果が予後に寄与するかを検討した。
- 推奨グレード2C
- 神経芽腫のstage 4 原発の完全切除を行う外科療法は予後の改善につながらない。したがって,将来の治療のために臓器切除をできるだけ回避して機能温存に努めることが肝要である。
解 説
遠隔転移を有する神経芽腫において,外科療法に関する検討は多方面から行われているが,前方視的なランダム化比較研究の報告はない。
外科療法について,肉眼的全摘が全生存率に寄与しているとの報告がある1, 2)。また,大量化学療法で完全寛解が得られた症例では局所の完全切除が予後に関連するとの報告もみられる3, 4)。一方,完全切除は生存率向上には影響が小さく,術中照射の追加による局所コントロールや転移巣のコントロールの方がより予後改善に重要であるとの報告もある5-7)。これらの報告では,遠隔転移をもつ患者の治療成績は,外科的な切除範囲よりも腫瘍の生物学的特性の方に左右されていると論じている。つまり,手術による全摘を推奨する報告においては,術前化学療法に対する反応が良好な腫瘍ほど切除率が向上するといったバイアスがかかっている可能性もあり,その結果は慎重に検討されるべきである。
2011 年刊行の本ガイドライン第1 版以降,後方視的臨床研究の報告が2 報出ている。ドイツの臨床試験NB97 における,診断時18 カ月以上stage 4 の278 例の外科療法の検討では,手術の程度(画像上残存腫瘍のない場合,90%以上切除できている場合,50〜90%切除の場合,50%未満または生検のみの場合)は生命予後,局所再発のいずれにおいても5 年全生存率(OS),無イベント生存率(EFS)のいずれの延長にも寄与していないと結論している8)。中国からも同様の18 カ月以上stage 4 の64 例の検討では95%以上切除とそれ以外を比較し,3 年EFS において有意差はなく,限定的な改善のみであったと報告している9)。これら2 報とも切除率が高い症例において外科的合併症が多くなると指摘しており,総合的に判断すると外科的拡大切除がstage 4 の症例に対し,“益”となっているデータはみられない。
また,2011 年に発表されたreview paper 10)では,肉眼的に腫瘍及び周囲リンパ節切除を行ったcomplete resection (CR)と肉眼的に95%以上の腫瘍を切除したgross total resection(GTR)とを比較した報告は 4 報あり,1 報が CR が有意に予後の改善に寄与している11),1 報が有意ではないが寄与している傾向あり3),2 報が予後の改善に寄与しない5, 12)という結論であった。
全体的にみると,積極的な外科療法を肯定する報告はいずれも2000 年台前半までで,時代とともに化学療法や免疫療法が強化されていくにつれ,外科切除率を高めても予後改善に寄与しないという報告が増えている。
したがって,拡大切除による外科的合併症を考慮すると,重要な周囲臓器温存を心がけ,外科療法による合併症を回避することに留意して行うことが肝要と考えられる。
文 献
- 1)
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- CQ15
- 高リスク群に対する寛解導入療法は
背 景
高リスク群神経芽腫に対する寛解導入療法の有効性について検証した。なお,神経芽腫に対する寛解導入療法とは,大量化学療法を行うまでの化学療法を指す。
- 推奨グレード1C
- 高リスク群神経芽腫に対する寛解導入療法は,シスプラチン(CDDP),エトポシド(ETP),ドキソルビシン(DXR),シクロホスファミド(CPA),トポテカンなどからなる多剤併用療法が一般的である。
解 説
米国小児がんグループ(COG)-3881 では,5 コースのCDDP,ETP,DXR,CPA からなる高用量の多剤併用の寛解導入療法を行い,寛解導入率は78%との成績を得ている1, 2)。さらに,COG では,トポテカン従来の寛解導入療法に加えて,84%に反応が認められたと報告している3)。
欧州神経芽腫研究グループ(SIOPEN) のHR-NBL1/SIOPEN 研究では,rapid COJEC 療法という,CDDP,ビンクリスチン(VCR),カルボプラチン(CBDCA),ETP,CPA を10 日サイクルの短期間で繰り返す寛解導入療法を用いている4)。Rapid COJEC 療法では,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を用いた方が発熱性好中球減少症の少ないことが示されている。DXR を用いない寛解導入療法で,COG と同等の寛解導入率とされている。
わが国の進行神経芽腫研究では,CDDP,VCR,ピラルビシン(THP),CPA からなる高用量の多剤併用の寛解導入療法を28 日ごとに5〜6 コース行い,寛解導入率は93%と良好な成績であった5)。
各国の臨床試験では,CDDP とCPA は次第に高用量になる傾向があり,それに伴って,腎障害や骨髄抑制の副作用が重篤となっていることが問題である2, 6)。
文 献
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- Matthay KK, Villablanca JG, Seeger RC, et al. Treatment of high-risk neuroblastoma with intensive chemotherapy, radiotherapy, autologous bone marrow transplantation, and 13-cis-retinoic acid. Children’s Cancer Group. N Engl J Med 1999 ; 341 : 1165-73.
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- CQ16
- 高リスク群に対する自家造血細胞移植併用大量化学療法の有効性は
背 景
高リスク群に対する自家造血細胞併用大量化学療法の有効性を検証した。
- 推奨グレード2C
- 無イベント生存率(EFS)では,大量化学療法群は比較対照群に比べ統計学的に有意に優れていることが示されているため,その観点からは,高リスク群に対する自家造血細胞移植併用大量化学療法は有効であるといえる。しかしながら全生存率(OS)では統計学的に有意な差が証明されなかった。
解 説
現在,世界的な高リスク群神経芽腫に対する標準的治療戦略は,化学療法・外科療法・放射線治療を総合した集学的治療が採用されている。これに加えて欧米では免疫療法が新たに採用され,これまで停滞していた高リスク群に対する治療成績が向上し始めている。化学療法は寛解導入療法と地固め療法からなり,地固め療法として骨髄破壊的大量化学療法(単回か複数回)かあるいは通常量の化学療法(複数回あるいは地固めなし)が採用されている。これらは複数の異なる治療形態を組みあわせた一連の総合的な治療であり,その中のどこかを取り出してその治療形態のみの有効性を評価することは慎重さが必要である。
その条件のもとに,骨髄破壊的大量化学療法を評価すると,2013 年にYalçin はCochrane 系統的レビュー評価を行い1),3 つのランダム化比較試験を選択し2-4),高リスク群に対する自家造血細胞移植併用大量化学療法の有効性は,高リスク群を1 歳以上とした研究で,地固め療法として骨髄破壊的大量化学療法を行った群の方が,通常化学療法群あるいは地固め療法を行わない群に比べ,EFS では,統計学的に有意に優れていると評価した(ハザード比0.79, 95% 信頼区間0.70-0.90)。しかし,OS では,両群に統計学的に有意な差はなかった(ハザード比0.86, 95% 信頼区間0.73-1.01)。有害事象については断定的な結論は得られなかった。多変量解析では二次がんと治療関連死亡については,両群で差はなかった。腎障害・間質性肺炎・肝中心静脈閉塞症などは骨髄破壊的大量化学療法群で有意に高頻度にみられるとする報告もあるが,重症感染症や敗血症には有意差はなかった。
PDQ Ⓡ上では上記と同じ3 つのランダム化比較試験の結果から,3 年EFS は通常化学療法群で22〜31%に対し,大量化学療法群で31〜47%と報告している2-4)。
大量化学療法としては,以前は全身照射を併用する治療法が多く採用されていたが,短期および晩期障害のリスクの点から近年では非全身照射が採用されることが多い。しかし全身照射と非全身照射の比較試験は行われていない。大量化学療法薬剤にはカルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(ETP)+メルファラン(MEL)(CEM 療法)かブスルファン(BU)+MEL(BUMEL 療法)のいずれかが用いられ,どちらが優れているかの検討が行われている5)。また大量化学療法を複数回行う地固め療法(tandem regimen)も検討されている6)。
文 献
- 1)
- Yalçin B, Kremer LC, Caron HN, et al. High-dose chemotherapy and autologous haematopoietic stem cell rescue for children with high-risk neuroblastoma. Cochrane Database Syst Rev 2013 ; 8 : CD006301.
- 2)
- Matthay KK, Villablanca JG, Seeger RC, et al. Treatment of high-risk neuroblastoma with intensive chemotherapy, radiotherapy, autologous bone marrow transplantation, and 13-cis-retinoic acid. Children’s Cancer Group. N Engl J Med 1999 ; 341 : 1165-73.
- 3)
- Berthold F, Boos J, Burdach S, et al. Myeloablative megatherapy with autologous stem-cell rescue versus oral maintenance chemotherapy as consolidation treatment in patients with high-risk neuroblastoma : a randomised controlled trial. Lancet Oncol 2005 ; 6 : 649-58.
- 4)
- Pritchard J, Cotterill SJ, Germond SM, et al. High dose melphalan in the treatment of advanced neuroblastoma : results of a randomised trial(ENSG-1) by the European Neuroblastoma Study Group. Pediatr Blood Cancer 2005 ; 44 : 348-57.
- 5)
- Ladenstein R, Pötschger U, Hartman O, et al. 28 years of high-dose therapy and SCT for neuroblastoma in Europe : lessons from more than 4000 procedures. Bone Marrow Transplant 2008 ; 41 : S118-27.
- 6)
- Seif AE, Naranjo A, Baker DL, et al. A pilot study of tandem high-dose chemotherapy with stem cell rescue as consolidation for high-risk neuroblastoma : Children’s Oncology Group study ANBL00P1. Bone Marrow Transplant 2013 ; 48 : 947-52.
- CQ17
- 高リスク群に対する同種移植の有効性は
背 景
高リスク群に対する同種移植の有効性を検証した。
- 推奨グレードなし
- 現時点では,同種移植は,高リスク群神経芽腫のような生命予後の非常に不良な群に対して,その予後改善のために臨床試験の枠組みの中で取り組むべき治療法であると考えられている。
解 説
これまで高リスク群神経芽腫に対する同種移植は,自家移植よりも優れているとはいえないと結論されていた。しかし,同種移植が有効であったとする個々の症例報告は散見され,また最近では移植前処置の選択肢やドナーの選択肢が広がり,有害事象を減らし有効率を増す試みがされている。また生存割合も決して低すぎない成績が報告されている。
高リスク群神経芽腫に対する同種移植についてのまとまった報告は,1994 年にMatthay 1)やLadenstein 2)により行われたのが初めである。それらはともに後方視的検討であったが,全生存率(OS)と無増悪生存率(PFS)は同種移植と自家移植で有意差がなく,同種移植の方が優れているとはいえないと結論されていた。2008 年のLadenstein 3)により行われた欧州骨髄移植グループ(EBMT)への神経芽腫移植4,098 例の登録例の検討による報告でも,5 年OS は同種移植59 例で25%であるのに比し,自家移植3,350 例では37%であり,有意に自家移植が優れていた。Ladenstein は多変量解析の結果により神経芽腫の予後は,診断時年齢2 歳未満で,自家造血細胞移植を行い,ブスルファン(BU)/メルファラン(MEL)の前処置を行い,移植前に完全寛解である群で予後が優れているとしている3)。しかし同種移植が有効であったとする個々の症例報告は散見され4, 5),また近年では,先述のLadenstein 3)が5 年OS を25%と報告し,2013 年にHale 6)は国際骨髄移植登録(IBMTR)に登録された143 例の神経芽腫の同種移植の後方視的検討で,前治療に自家移植を行っていない群46 例では5 年OSは29%と報告,同年Palliard 7)はフランスで前方視的に行ったreduced intensity conditioning による同種移植で3 年無イベント生存率(EFS)を28.6%と報告するなど,満足な成績ではないが決して低くない生存割合が報告されている。
現在では,同種移植については,ドナー・移植前処置・移植時期の選択など様々な解決すべき課題があり,これらの課題を解くためにも高リスク群神経芽腫のような生命予後の非常に不良な群に対しては,その予後改善を目的に臨床試験の枠組みの中で取り組むべき治療法であると考えられる。
文 献
- 1)
- Matthay KK, Seeger RC, Reynolds CP, et al. Allogeneic versus autologous purged bone marrow transplantation for neuroblastoma : a report from the Childrens Cancer Group. J Clin Oncol 1994 ; 12 : 2382-9.
- 2)
- Ladenstein R, Lasset C ,Hartmann O, et al. Comparison of auto versus allografting as consolidation of primary treatments in advanced neuroblastoma over one year of age at diagnosis : report from the European Group for Bone Marrow Transplantation. Bone Marrow Transplant 1994 ; 14 : 37-46.
- 3)
- Ladenstein R, Pötschger U, Hartman O, et al. EBMT Paediatric Working Party : 28 years of high-dose therapy and SCT for neuroblastoma in Europe : lessons from more than 4000 procedures. Bone Marrow Transplant 2008 ; 41 Suppl 2 : S118-27.
- 4)
- Barrett D, Fish JD, Grupp SA. Autologous and allogeneic cellular therapies for high-risk pediatric solid tumors. Pediatr Clin North Am 2010 ; 57 : 47-66.
- 5)
- Kanold J, Paillard C, Tchirkov A, et al : Allogeneic or haploidentical HSCT for refractory or relapsed solid tumors in children : toward a neuroblastoma model. Bone Marrow Transplant 2008 ; 42 Suppl 2 : S25-30.
- 6)
- Hale GA, Arora M, Ahn KW, et al. Allogeneic hematopoietic cell transplantation for neuroblastoma : the CIBMTR experience.Bone Marrow Transplant 2013 ; 48 : 1056-64.
- 7)
- Paillard C, Rochette E, Lutz P, et al. Reduced-intensity conditioning followed by allogeneic transplantation in pediatric malignancies : a report from the Société Française des Cancers de l’Enfant and the Société Française de Greffe de Moelle et de Thérapie Cellulaire. Bone Marrow Transplant 2013 ; 48 : 1401-8.
- CQ18
- 再発腫瘍に対する救済療法は
背 景
再発神経芽腫に対する救済療法を検証した。
推奨1
- 推奨グレード1A
- 診断時低リスク群または中間リスク群の再発に対する救済療法は,局所再発か転移性再発か,診断時の腫瘍の生物学的特性が良好か不良か,再発した時期がいつか,現在の年齢などにより異なる。米国小児がんグループ(COG)の経験では,それぞれの再発様式に見合った治療を行うことにより予後は良好である。
推奨2
- 推奨グレード1A
- 診断時高リスク群の再発では,確立した救済療法はなく,予後は不良である。この群に対しては臨床試験に基づく試験的治療を検討しても良い。
解 説
診断時低リスク群あるいは中間リスク群の再発では,局所再発か転移性再発か,診断時の腫瘍の生物学的特性が良好か不良か,再発した時期がいつか,現在の年齢がいくつかなどにより異なる。COG の経験1, 2)ではそれぞれの再発様式に見合った治療を行うことにより予後は良好である。
診断時高リスク群の神経芽腫の再発は予後不良である。2011 年にInternational Neuroblastoma Risk Group Project からなされた報告では,初回の再発を認めた全ての神経芽腫2,260 人の予後は,全生存率(OS)で20±1%であった3)。2011 年のGerman Society for Pediatric Oncology and Hematology(GPOH)からの後方視的研究で報告された診断時高リスク群で自家造血細胞移植を施行された後の再発の集団で,再発後無治療群(74 人)の3 年OS は4.0±2.6%にすぎなかった4)。同じ報告から,再発後に化学療法だけを行った群(135 人)では3 年OS は9.6±2.8%であったが,化学療法に加えて自家造血細胞移植を併用できた群(23 人)では43.0±10.9%と上昇がみられた。このことは,高リスク群の再発では自家造血細胞移植まで施行可能となれば,予後が改善できる可能性を示唆している4)。
再発後の化学療法についてはトポテカン,イリノテカン(CPT-11),テモゾロミド(TMZ)などを含む多剤併用化学療法が複数報告されている。2007 年にGPOH からは,多施設・前方視的研究として,トポテカン+シクロホスファミド(CPA)+エトポシド(ETP)の併用療法で,再発後の有効率(CR+PR)を61%と報告した5)。2011 年にCOG から,多施設・前方視的研究として,CPT-11+TMZ の併用療法で,画像評価可能な腫瘍がみられる再発群では有効率(CR+PR)を11%,骨髄やMIBG(メタヨードベンジルグアニジン)シンチグラフィーで確認される再発群では有効率(CR+PR)を20%と報告した。また両群を合わせての2 年無増悪生存率(PFS)は13±9%,2 年OS は30±10%であった6)。2010 年にCOG から,多施設・前方視的・ランダム化比較研究としてトポテカン+CPA 群とトポテカン単独群を比較した結果が報告され,併用群(57 人)では有効率(CR+PR)を32%,単独群(59 人)では19%と報告し,併用群の方が単独群よりも有効であるとした。しかし両群を合わせての3 年PFS は4±2%,3 年OS は15±4%にすぎない7)。
また2013 年にスローンケタリング記念がんセンター(MSKCC)から,単独施設・後方視的研究として,イホスファミド(IFM)+カルボプラチン(CBDCA)+ETP の併用療法で新規再発群の有効率(major esponse+minor response)を82%と報告している8)。
文 献
- 1)
- Strother DR, London WB, Schmidt ML, et al. Outcome after surgery alone or with restricted use of chemotherapy for patients with low-risk neuroblastoma : results of Children’s Oncology Group Study P9641. J Clin Oncol 2012 ; 30 : 1842-8.
- 2)
- Baker DL, Schmidt ML, Cohn SL, et al. Outcome after reduced chemotherapy for intermediaterisk neuroblastoma. N Engl J Med 2010 ; 363 : 1313-23.
- 3)
- London WB, Castel V, Monclair T, et al. Clinical and biologic features predictive of survival after relapse of neuroblastoma : a report from the International Neuroblastoma Risk Group project. J Clin Oncol 2011 ; 29 : 3286-92.
- 4)
- Simon T, Berthold F, Borkhardt A, et al.Treatment and outcomes of patients with relapsed, high-risk neuroblastoma : results of German trials. Pediatr Blood Cancer 2011 : 56 : 578-83.
- 5)
- Simon T, Längler A, Harnischmacher U, et al. Topotecan, cyclophosphamide, and etoposide(TCE)in the treatment of high-risk neuroblastoma. Results of a phase-II trial. J Cancer Res Clin Oncol 2007 : 133 : 653-61.
- 6)
- Bagatell R, London WB, Wagner LM, et al. Phase II study of irinotecan and temozolomide in children with relapsed or refractory neuroblastoma : a Children’s Oncology Group study. J Clin Oncol 2011 ; 29 : 208-13.
- 7)
- London WB, Frantz CN, Campbell LA, et al. Phase II randomized comparison of topotecan plus cyclophosphamide versus topotecan alone in children with recurrent or refractory neuroblastoma : a Children’s Oncology Group study. J Clin Oncol 2010 ; 28 : 3808-15.
- 8)
- Kushner BH, Modak S, Kramer K, et al. Ifosfamide, carboplatin, and etoposide for neuroblastoma : a high-dose salvage regimen and review of the literature. Cancer 2013 ; 119 : 665-71.
- CQ19
- 中枢神経系再発への対応は
背 景
神経芽腫の中枢神経系(central nervous system:CNS)再発への対応について検証した。
- 推奨グレード1C
- 神経芽腫の中枢神経系再発には,確立した救済療法はなく,予後は非常に不良である。この群に対しては世界的にみても臨床試験に基づく試験的治療は十分に行われていない。緩和ケアも考慮すべきである。
解 説
神経芽腫の中枢神経系転移は初発時にはほとんどみられない。しかし,再発時には5〜10%に中枢神経系再発がみられ,その予後は極めて不良であり,生存期間中央値は6 カ月と報告されている1)。中枢神経系再発は,診断時の腰椎穿刺やMYCN 遺伝子増幅が危険因子としてあげられている1, 2)。脳外科療法による手術は,浮腫の軽減や出血の抑制あるいは腫瘍の切除のために行われる。放射線治療としては中央値21.6 Gy の全脳全脊髄照射(craniospinal irradiation:CSI)にOmmaya チューブ内への放射線免疫療法併用16 例と局所放射線照射(radiation therapy:RT)13 例を後方視的に検討したスローンケタリング記念がんセンター(MSKCC)の報告では,CSI 群では中央値28 カ月の追跡で75%の患者が生存していたのに比べ,RT 群では13 例全ての患者が中央値8.8 カ月で死亡していた3)。また同じくMSKCC からの報告で,GD2 またはB7H3 を標的とするモノクローナル抗体に131I を付着させたものをOmmaya チューブから注入する放射線免疫療法に,CSI と経口テモゾロミド療法とイソトレチノイン(13-cis-retinoic acid:13-cis-RA)を併用した集学的治療を21 人に行い,17 人が中央値33 カ月生存していると報告している4)。
文 献
- 1)
- Kramer K, Kushner B, Heller G, et al. Neuroblastoma metastatic to the central nervous system. The Memorial Sloan-kettering Cancer Center Experience and A Literature Review. Cancer 2001 ; 91 : 1510-9.
- 2)
- Matthay KK, Brisse H, Couanet D, et al. Central nervous system metastases in neuroblastoma : radiologic, clinical, and biologic features in 23 patients. Cancer 2003 ; 98 : 155-65.
- 3)
- Croog VJ, Kramer K, Cheung NK, et al. Whole neuraxis irradiation to address central nervous system relapse in high-risk neuroblastoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2010 ; 78 : 849-54.
- 4)
- Kramer K, Kushner BH, Modak S, et al. Compartmental intrathecal radioimmunotherapy : results for treatment for metastatic CNS neuroblastoma. J Neurooncol 2010 ; 97 : 409-18.
- CQ20
- 神経芽腫への分化誘導療法は有効か
背 景
進行神経芽腫に対する,骨髄破壊的大量化学療法後の分化誘導療法の有効性について検討した。
- 推奨グレード1A
- 進行神経芽腫に対する骨髄破壊的大量化学療法後の非進行例へ,イソトレチノイン(13-cis-retinoic acid:13-cis-RA)投与の有効性が示唆されている。
解 説
434 例のstage 4 症例のうち,骨髄破壊的大量化学療法後の13-cis-RA 投与例130 例と非投与例128 例で,3 年無病生存率(DFS)が46%と29%(P=0.027)と有意に,13-cis-RA 投与例の予後が良好であった。この結果をもって骨髄破壊的大量化学療法後に存在しうる微小残存腫瘍を治療するには,13-cis-RA による分化誘導療法が用いられるようになった。その後の長期予後報告では,13-cis-RA を投与された患者の5 年無イベント生存率(EFS)は,維持療法を受けなかった患者よりも高かった(42% vs.31%)が,有意差は認められなかった。本試験では,自家造血細胞移植と13-cis-RA の投与あり,なしに割り付けられた患者の2 回目のランダム化時からの5 年全生存率(OS)は59%と41%であった。地固め化学療法と13-cis-RA に割り付けられた患者と投与しない地固め化学療法患者の5 年OS は38%と36%であった2)。また,最近では骨髄破壊的大量化学療法後の分化誘導療法レジメンとともに免疫療法が実施される3, 4)。
わが国では13-cis-RA の使用が認可されていないので,使用することは現在困難である。
文 献
- 1)
- Matthay KK, Villablanca JG, Seeger RC, et al. Treatment of high-risk neuroblastoma with intensive chemotherapy, radiotherapy, autologous bone marrow transplantation, and 13-cis-retinoic acid. Children’s Cancer Group. N Engl J Med 1999 ; 341 : 1165-73.
- 2)
- Matthay KK, Reynolds CP, Seeger RC, et al. Long-term results for children with high-risk neuroblastoma treated on a randomized trial of myeloablative therapy followed by 13-cis-retinoic acid : a children’s oncology group study. J Clin Oncol 2009 ; 27 : 1007-13.
- 3)
- Yu AL, Gilman AL, Ozkaynak MF, et al. Anti-GD2 antibody with GM-CSF, interleukin-2, and isotretinoin for neuroblastoma. N Engl J Med 2010 ; 363 : 1324-34.
- 4)
- Cheung NK, Cheung IY, Kushner BH, et al. Murine anti-GD2 monoclonal antibody 3F8 combined with granulocyte-macrophage colony-stimulating factor and 13-cis-retinoic acid in high-risk patients with stage 4 neuroblastoma in first remission. J Clin Oncol 2012 ; 30 : 3264-70.
- CQ21
- 神経芽腫への免疫療法は有効か
背 景
神経芽腫への免疫療法について検証した。
- 推奨グレード1A
- 大量化学療法後の非進行病変の高リスク群神経芽腫に対し,抗GD2 抗体の有効性が示されている。
解 説
米国小児がんグループ(COG)は2001〜2009 年の期間で,寛解導入化学療法・外科療法・放射線治療・大量化学療法と自家造血細胞移植療法を施行した後に進行病変がない状態の患者を対象とし,キメラ抗GD2 抗体ch14.18 とGM-CSF およびインターロイキン-2・イソトレチノイン(13-cis-retinoic acid:13-cis-RA)を併用投与する群と,13-cis-RA だけを投与する群にランダム化比較試験第Ⅲ相試験を行った。226 例がランダム化比較試験に登録され,免疫療法群113 例と対照群113 例で試験が開始された。その結果,2 年無イベント生存率(EFS)は免疫療法群で66±5%,対照群で46±5%(P=0.01),2 年全生存率(OS)では免疫療法群で86±4%,対照群で75±5%(P=0.02)と報告し,抗GD2 抗体を含む免疫療法の有効性を示した1)。
抗GD2 抗体以外の免疫療法は,新たな治療選択肢として多くの研究者が新規治療法の開発を目指しているが,まだ少数の薬剤でしか臨床的検討が行われていない。多くの候補療法はその有効性が確立していない。Ganglioside を標的とするワクチン療法やキメラ抗体受容体を使用する免疫療法,あるいはMYCN やALK を標的とする治療法などが模索されているが,いずれも研究段階である2)。
文 献
- 1)
- Yu AL, Gilman AL, Ozkaynak MF, et al. Anti-GD2 antibody with GM-CSF, interleukin-2, and isotretinoin for neuroblastoma. N Engl J Med 2010 ; 363 : 1324-34.
- 2)
- Mackall CL, Merchant MS, Fry TJ. Immune-based therapies for childhood cancer. Nat Rev Clin Oncol 2014 ; 11 : 693-703.
- CQ22
- 神経芽腫へのMIBG 治療は有効か,その適応は
背 景
MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)治療は,高リスク群神経芽腫の治療の一部として,治療プロトコールの様々なタイミングで施行されている。MIBG 治療の有効性と適応について検討した。
- 推奨グレード2C
- MIBG 治療の有効性は再発・難治例で示されてはいるが,初発例に対する有効性は明らかでない。
解 説
MIBG 治療は,再発・難治神経芽腫症例に使用され,10〜50%の有効性が報告されている。1998 年に報告された単剤投与の第I 相試験では,再発・難治症例30 例の37%に有効であった1)。また,164 例の再発・難治症例に対する第Ⅱ相試験では,18 mCi/kg を使用し,自家造血細胞移植を併用し,36%の有効性(CR+PR)が得られている2)。
最近では初発症例に対しても,臨床試験として施行されている3)。米国小児がんグループ(COG)-ANBL09P1 では,新規診断の高リスク群神経芽腫に対して131I-MIBG 治療を含むパイロット試験を行っている。このパイロット研究では5 サイクルの多剤化学療法および131I-MIBG の投与を含む寛解導入化学療法レジメンを行い,ブスルファン(BU)/ メルファラン(MEL)による自家造血細胞移植および外照射療法を行うもので,その耐容性と実行可能性が評価される。
MIBG 治療は,ラジオアイソトープを用いるため,被曝の問題から2〜7 日間の隔離が必要となる。そのため,低年齢の患者では適応しにくい治療法といえる。
主な副作用は,血液学的毒性であり,非血液毒性としては,粘膜障害,下痢,腎機能障害などがある3)。造血細胞の救援を行わない場合の最大耐用量は12 mCi/kg とされ,18 mCi/kg を使用する場合は,自家造血細胞移植などの併用が行われている。移植前処置に組み合わせた場合,合併症による死亡例も報告されている。
ヨウ化カリウムで甲状腺被曝を予防しても,短期的には甲状腺機能障害は52%の患者に発症すると報告されている。長期的には,15 年の観察期間で,甲状腺機能障害は80%を超える頻度で発症するという報告があり4),長期フォローアップが重要である。
わが国では保険適用になっていない。
文 献
- 1)
- Matthay KK, DeSantes K, Hasegawa B, et al. Phase I dose escalation of 131I-metaiodobenzylguanidine with autologous bone marrow support in refractory neuroblastoma. J Clin Oncol 1998 ; 16 : 229-36.
- 2)
- Matthay KK, Yanik G, Messina J, et al. Phase II study on the effect of disease sites, age, and prior therapy on response to iodine-131-metaiodobenzylguanidine therapy in refractory neuroblastoma. J Clin Oncol 2007 ; 25 : 1054-60.
- 3)
- Bleeker G, Schoot RA, Caron HN, et al. Toxicity of upfront 131I-metaiodobenzylguanidine (131IMIBG)therapy in newly diagnosed neuroblastoma patients : a retrospective analysis. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2013 ; 40 : 1711-7.
- 4)
- Clement SC, van Eck-Smit BL, van Trotsenburg AS, et al. Long-term follow-up of the thyroid gland after treatment with 131I-Metaiodobenzylguanidine in children with neuroblastoma : importance of continuous surveillance. Pediatr Blood Cancer 2013 ; 60 : 1833-8.
- CQ23
- 治療効果判定の方法は
背 景
神経芽腫による治療効果判定方法の有効性を検証した。
- 推奨グレード1C
- 治療反応性は予後に関連している。高リスク群患者では,MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)などで治療効果判定を行うことを推奨する。
解 説
高リスク群患者では,腫瘍体積の減少率,分裂細胞数の減少と組織学的分化度の亢進も予後と相関する1, 2)。同様に,寛解導入療法終了後のMIBG 陽性細胞の残存は予後不良マーカーとなる3)。寛解導入治療後に骨髄中に腫瘍細胞が残存していることは予後不良であるので,骨髄中の微小残存病変(minimal residual disease:MRD)と予後との相関をみる研究がなされているが,いずれの研究においてもMRD 検出の感度に依存するため,必須の判定方法ではない4-6)。
文 献
- 1)
- Yoo SY, Kim JS, Sung KW, et al. The degree of tumor volume reduction during the early phase of induction chemotherapy is an independent prognostic factor in patients with high-risk neuroblastoma. Cancer 2013 ; 119 : 656-64.
- 2)
- George RE, Perez-Atayde AR, Yao X, et al.Tumor histology during induction therapy in patients with high-risk neuroblastoma. Pediatr Blood Cancer 2012 ; 59 : 506-10.
- 3)
- Yanik GA, Parisi MT, Shulkin BL, et al. Semiquantitative mIBG scoring as a prognostic indicator in patients with stage 4 neuroblastoma : a report from the Children’s oncology group. J Nucl Med 2013 ; 54 : 541-8.
- 4
- Burchill SA, Lewis IJ, Abrams KR, et al. Circulating neuroblastoma cells detected by reverse transcriptase polymerase chain reaction for tyrosine hydroxylase mRNA are an independent poor prognostic indicator in stage 4 neuroblastoma in children over 1 year. J Clin Oncol 2001 ; 19 : 1795-801.
- 5)
- Seeger RC, Reynolds CP, Gallego R, et al. Quantitative tumor cell content of bone marrow and blood as a predictor of outcome in stage IV neuroblastoma : a Children’s Cancer Group Study. J Clin Oncol 2000 ; 18 : 4067-76.
- 6)
- Bochennek K, Esser R, Lehrnbecher T, et al. Impact of minimal residual disease detection prior to autologous stem cell transplantation for post-transplant outcome in high risk neuroblastoma. Klin Padiatr 2012 ; 224 : 139-42.
- CQ24
- 眼球クローヌス/ ミオクローヌス症候群への対応は
背 景
神経芽腫の患児ではまれに,腫瘍に随伴した神経所見として,小脳性運動失調,眼球クローヌス/ミオクローヌス症候群(opsoclonus-myoclonus syndrome:OMS)が認められる。その対処法について検討した。
- 推奨グレード2C
- 眼球クローヌス/ミオクローヌス症候群を伴う症例の生命予後は良好であるが,神経症状に関する有効な治療法は確立されていない。
解 説
OMS の発症頻度は,全神経芽腫の1〜3%と報告されており,逆にOMS を認める症例の40〜50%以上に神経芽腫が発見されるという1-3)。発症原因に関しては,免疫学的な機序が考えられているが,未だ十分に解明されていない。
原発腫瘍には典型的には,リンパ球が散在性に浸潤し,組織学的にも分化している腫瘍が多い4)。MYCN 遺伝子の非増幅など,生物学的特性も良好な腫瘍である場合が多く,腫瘍の性状からは,良好な生命予後であることが多い。
治療としては,原発巣の摘出によって臨床症状が改善する場合もあるが,多くの場合は対症療法が必要となる5)。副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)やデキサメタゾンなどのステロイド療法が奏効することが多いが,減量とともに症状が再燃する例も認められる。その他,血漿交換,γ-グロブリン,リツキシマブなどを用いて効果が得られる症例もある1, 3, 6)。
しかし,治療によっても神経学的に長期の合併症を残す症例があり,精神運動遅滞などの広汎性後遺神経障害および認知障害を来す1, 3, 5, 6)。米国小児がんグループ(POG)からの報告では,神経学的合併症を残さなかった9 例中6 例が化学療法を行っていたとされるが,少数例の報告であり,大規模な調査が必要である7)。
文 献
- 1)
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- 2)
- Brunklaus A, Pohl K, Zuberi SM, et al. Investigating neuroblastoma in childhood opsoclonus-myoclonus syndrome. Arch Dis Child 2012 ; 97 : 461-3.
- 3)
- Matthay KK, Blaes F, Hero B, et al. Opsoclonus myoclonus syndrome in neuroblastoma a report from a workshop on the dancing eyes syndrome at the advances in neuroblastoma meeting in Genoa, Italy, 2004. Cancer Lett 2005 ; 228 : 275-82.
- 4)
- Cooper R, Khakoo Y, Matthay KK, et al. Opsoclonus-myoclonus-ataxia syndrome in neuroblastoma : histopathologic features-a report from the Children’s Cancer Group. Med Pediatr Oncol 2001 ; 36 : 623-9.
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- Mitchell WG, Davalos-Gonzalez Y, Brumm VL, et al. Opsoclonus-ataxia caused by childhood neuroblastoma : developmental and neurologic sequelae. Pediatrics 2002 ; 109 : 86-98.
- 6)
- Pranzatelli MR, Tate ED, Travelstead AL, et al. Rituximab (anti-CD20) adjunctive therapy for opsoclonus-myoclonus syndrome. J Pediatr Hematol Oncol 2006 ; 28 : 585-93.
- 7)
- Russo C, Cohn SL, Petruzzi MJ, et al. Long-term neurologic outcome in children with opsoclonus-myoclonus associated with neuroblastoma : a report from the Pediatric Oncology Group. Med Pediatr Oncol 1997 ; 28 : 284-8.
7章 横紋筋肉腫
- はじめに
横紋筋肉腫(rhabdomyosarcoma:RMS)は将来骨格筋を形成する,あるいは,悪性転化後に骨格筋分化能を発現した胎児の中胚葉または間葉組織に由来する,骨格筋の形質を有する悪性腫瘍である。軟部悪性腫瘍としては小児で最も多い。わが国では,年間50〜100 例の小児例が発症している。全身のあらゆる部位から発生するが,泌尿生殖器,傍髄膜・眼窩を含む頭頸部,四肢が好発部位である。局所の腫脹,疼痛,腫瘍による圧迫症状を呈する。病理組織学的亜型(胞巣型あるいは胎児型),治療前ステージ分類と手術後グループ分類によりリスク分類され,層別化された治療が行われる。外科療法,放射線治療,化学療法の組み合わせが標準治療である。外科療法については,初発時は,全摘除により機能や整容面が著しく損なわれる手術は推奨されない。一方で,局所再発の治療においては,可能な限り外科療法を行うことにより予後の改善が期待される。放射線感受性の高い腫瘍であるので,胎児型のgroup I 症例を除いて,全症例に放射線治療が必要である。化学療法については,ビンクリスチン(VCR),アクチノマイシン(ACD),シクロホスファミド(CPA)の3 剤併用を行うVAC 療法が長期成績の判明している標準療法である。
欧米や日本の横紋筋肉腫スタディグループの成績では,3 年無増悪生存率(PFS)が,低リスク群で80〜100%,中間リスク群で50〜80%,高リスク群で30〜50%となっている。長期生存した症例では,長期合併症として,男性では総投与量8〜9 g/m2以上の高用量のCPA 投与を受けた場合は不妊について,また,放射線治療を受けた場合は局所の成長障害,二次がんについて留意する必要がある。
- CQ1
- 横紋筋肉腫の治療方針の決定に必要な分類と検査は
背 景
横紋筋肉腫(rhabdomyosarcoma:RMS)においては,治療前ステージ分類(表1),手術後グループ分類(表2),組織型によるリスク分類(表3)を決定し層別化治療を行う。表3-a に,世界的に最も歴史が古く大規模な米国横紋筋肉腫治療研究グループ(IRSG)の第5 世代臨床研究(IRS-V:1997〜2004 年)のリスク分類を示す。病理組織亜型,治療前ステージ分類(stage),術後グループ分類(group)と年齢により,低リスクA 群,低リスクB 群,中間リスク群,高リスク群の4 つのリスク群に分類され,層別化治療研究が行われた1, 2)。IRS-V の高リスク群では新規治療の探索としての臨床試験が行われたため,高リスク群の中では予後良好で,これまでの標準治療でも予後が期待できる10 歳未満の胎児型group IV 症例は中間リスク群に組み込まれた。わが国では,日本横紋筋肉腫研究グループ(JRSG)を設立し,事前に行った後方視的調査結果3)をもとに,成績の不良な胞巣型stage 2, 3,group III を高リスク群に組み込み,表3-b のように改変したリスク分類を用い,2004 年より,わが国で最初の横紋筋肉腫の全国共同治療研究を行った。IRSG はその後,米国小児がんグループ(COG)に組み込まれ,軟部肉腫委員会(STS)として第6 世代以降の研究を続けている。表3-c に最近のSTS のリスク分類を示す2, 4)。IRS-V では低リスクB 群であった集団の一部の治療成績が良好であるため低リスクA 群に相当するlow subset 1 に含まれ,IRS-V では中間リスク群であった10 歳未満の胎児型group IV が高リスク群に分類されている5)。
- 推奨グレード1B
- 治療前ステージ分類と術後グループ分類,組織型によりリスク分類を決定し層別化治療を行う。その決定のために画像検査(CT,MRI,核医学検査),骨髄検査,髄液検査(傍髄膜症例)を施行後,腫瘍切除または生検を行い,融合遺伝子検索も含めた病理学的検索を行うことが強く推奨される。
解 説
背景に記した組織型,治療前ステージ分類(stage),術後グループ分類(group),リスク分類の決定のため,横紋筋肉腫が疑われた場合,生検を行う前に,血液検査,尿検査,画像検査(CT,MRI,PET/CT,タリウムシンチ,骨シンチ),骨髄検査,髄液検査(傍髄膜症例)を行い,全身検索を行う。腫瘍切除,生検前にキャンサーボードを行い,組織採取法(針生検は診断に十分な組織が採取できない可能性が高く,開放生検が原則である),検体処理(全てをホルマリン処理せず,融合遺伝子検索のために,一部を凍結検体として保存する),その後の治療について決定しておく。四肢原発腫瘍においては,領域リンパ節への転移が多く,原発腫瘍以外に領域リンパ節の生検を行うことが望ましい6)。また,10 歳以上の傍精巣原発腫瘍においては,後腹膜リンパ節郭清を必要とする7)。生検後に横紋筋肉腫と判明し化学療法開始前に再切除が可能な場合,化学療法前腫瘍再切除(pretreatment re-excision:PRE)が推奨される。
病理組織学的には胎児型と胞巣型に分類され,胞巣型はさらにPAX3-FOXO1(FKHR),PAX7-FOXO1,PAX3-NCOA1 などの融合遺伝子陽性例と陰性例に分類される。胞巣型は胎児型と比べて予後不良であり,中でもPAX3-FOXO1 融合遺伝子を有する,転移をきたした進行症例の予後は極めて不良である8)。PAX-FOXO1 融合遺伝子陰性胞巣型横紋筋肉腫と胎児型横紋筋肉腫は分子生物学的に類似しており,また,融合遺伝子陽性例と比較して予後良好である9)。現状では,胞巣型と胎児型に分けた分類が行われているが,将来的に,予後と相関した分類として,PAX-FOXO1 融合遺伝子の有無により分類されるようになる可能性がある2, 10)。
文 献
- 1)
- Raney RB, Maurer HM, Anderson JR, et al. The Intergroup Rhabdomyosarcoma Study Grou(IRSG): Major Lessons From the IRS-I Through IRS-IV Studies as Background for the Current IRS-V Treatment Protocols. Sarcoma 2001 ; 5 : 9-15.
- 2)
- Arndt CA. Risk stratification of rhabdomyosarcoma : a moving target. Am Soc Clin Oncol Educ Book 2013 : 415-9.
- 3)
- Hosoi H, Teramukai S, Matsumoto Y, et al. A review of 331 rhabdomyosarcoma cases in patients treated between 1991 and 2002 in Japan. Int J Clin Oncol 2007 ; 12 : 137-45.
- 4)
- Hawkins DS, Spunt SL, Skapek SX, et al. Children’s Oncology Group’s 2013 blueprint for research : Soft tissue sarcomas. Pediatr Blood Cancer 2013 ; 60 : 1001-8.
- 5)
- Malempati S, Hawkins DS. Rhabdomyosarcoma : review of the Children’s Oncology Group(COG)Soft-Tissue Sarcoma Committee experience and rationale for current COG studies. Pediatr Blood Cancer 2012 ; 59 : 5-10.
- 6)
- La TH, Wolden SL, Rodeberg DA, et al. Regional nodal involvement and patterns of spread along in-transit pathways in children with rhabdomyosarcoma of the extremity : a report from the Children’s Oncology Group. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2011 ; 80 : 1151-7.
- 7)
- Wiener ES, Anderson JR, Ojimba JI, et al. Controversies in the management of paratesticular rhabdomyosarcoma : is staging retroperitoneal lymph node dissection necessary for adolescents with resected paratesticular rhabdomyosarcoma? Semin Pediatr Surg 2001 ; 10 : 146-52.
- 8)
- Sorensen PH, Lynch JC, Qualman SJ, et al. PAX3-FKHR and PAX7-FKHR gene fusions are prognostic indicators in alveolar rhabdomyosarcoma : a report from the children’s oncology group. J Clin Oncol 2002 ; 20 : 2672-9.
- 9)
- Williamson D, Missiaglia E, de Reyniès A, et al. Fusion gene-negative alveolar rhabdomyosarcoma is clinically and molecularly indistinguishable from embryonal rhabdomyosarcoma. J Clin Oncol 2010 ; 28 : 2151-8.
- 10)
- Skapek SX, Anderson J, Barr FG, et al. PAX-FOXO1 fusion status drives unfavorable outcome for children with rhabdomyosarcoma : a children’s oncology group report. Pediatr Blood Cancer 2013 ; 60 : 1411-7.
- CQ2
- PET は転移巣や腫瘍生存(viability)の診断に有用か
背 景
PET は,成人がんの転移巣の診断や腫瘍生存(viability)の評価に有用とされ,実施されている検査である。横紋筋肉腫においても検討され,その有用性と注意点が報告されつつある。
推奨1
- 推奨グレード2B
- PET/CT は,転移巣の検出に有用であり,治療開始前の病期診断のために実施することを推奨する。
解 説 1
FDG-PET/CT と従来の検査(全身CT,MRI,99mTc による骨シンチグラフィー,胸部X 線など)の後方視的な比較検討により,転移病変の検索において,PET/CT は従来の検査に比べ,感度,特異度とも概ね高いと報告されている1-4)。肺転移については,従来のthin-slice のCT に比べ,PET/CT の感度が低いと報告されており,注意が必要である1, 2)。
2011 年版より,後方視的な解析や症例報告は増加したが,前方視的な検討の報告がない。
推奨2
- 推奨グレード2C
- PET の治療後の腫瘍生存(viability)の診断については,造影CT,MRI などの従来の検査より有効性が高く,実施することを推奨する。
解 説 2
小児,思春期・若年成人(AYA)の13 例の横紋筋肉腫におけるPET と通常の画像検査(原発巣のMRI,全身CT,骨シンチグラフィー)による,化学療法3 コース後の治療早期反応性の評価では,固形がん治療効果判定のためのガイドライン(RECIST)と画像解析による治療評価を行い,PET/CT では92%の明確な反応が評価できたのに対し,従来の検査では84%である。完全寛解(CR)の評価はPET/CT で69%が可能であったのに対し,従来の検査では8%と腫瘍のviability についてPET による評価の有効性が報告されている3)。一方で,治療開始早期のPET/CT の評価94 例の横紋筋肉腫において,第15 週の化学療法後の放射線治療前と放射線治療後のPET による原発腫瘍の局所無再発率について検討された。局所無再発率は,放射線治療前のPET 陰性例97%,陽性例81%,放射線治療後のPET 陰性例94%,陽性例75%であり,放射線治療前後のPET 陰性例での局所無再発率は高いが,放射線治療前後のPET 陽性例においても81%,75%が局所再発しないため,すぐには治療介入せず,注意深く観察することが提案されるなど,治療開始早期のPET/CT での腫瘍生存の評価による局所再発の推定には十分な注意が必要である5)。
文 献
- 1)
- Federico SM, Spunt SL, Krasin MJ, et al. Comparison of PET-CT and conventional imaging in staging pediatric rhabdomyosarcoma. Pediatr Blood Cancer 2013 ; 60 : 1128-34.
- 2)
- Ricard F, Cimarelli S, Deshayes E, et al. Additional Benefit of F-18 FDG PET/CT in the staging and follow-up of pediatric rhabdomyosarcoma. Clin Nucl Med 2011 ; 36 : 672-7.
- 3)
- Eugene T, Corradini N, Carlier T, et al. 18F-FDG-PET/CT in initial staging and assessment of early response to chemotherapy of pediatric rhabdomyosarcomas. Nucl Med Commun 2012 ; 33 : 1089-95.
- 4)
- Tateishi U, Hosono A, Makimoto A, et al. Comparative study of FDG PET/CT and conventional imaging in the staging of rhabdomyosarcoma. Ann Nucl Med 2009 ; 23 : 155-61.
- 5)
- Dharmarajan KV, Wexler LH, Gavane S, et al. Positron emission tomography (PET) evaluation after initial chemotherapy and radiation therapy predicts local control in rhabdomyosarcoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2012 ; 84 : 996-1002.
- CQ3
- 生検と一期的手術の適応は
背 景
横紋筋肉腫に対する初回手術としては生検と一期的手術があるが,診断を目的とするものと治療を目的とするものに応じて,また腫瘍の部位などを考慮して適応を決定する必要がある。
- 推奨グレード1A
- 一期的に腫瘍の完全切除が可能で,機能障害が許容範囲である場合には腫瘍摘出が強く推奨されるが,完全切除が不能な場合などでは生検が推奨される。
解 説
CT,MRI などの画像検査により完全摘出が可能であると判断される局所性の腫瘍に対しては一期的手術による完全摘出が推奨されるが,機能温存あるいは整容的な障害が許容しうることが原則である1)。腫瘍が大きく手術侵襲が大きい場合や,部位的に摘出不能(例:眼窩,傍髄膜部など)の場合などは腫瘍生検にとどめる。生検後,化学療法を行い腫瘍縮小後に待機手術を行うことにより切除率の向上を図る。また手術時に明らかな残存腫瘍がある場合にはチタニウムのclip でマーキングを行うことも推奨される。
以下の場合,腫瘍生検が推奨される。
- 1)完全摘出不能
- 2)腫瘍発生部位
a)眼窩
b)傍髄膜
c)腟
d)胆道系,傍脊椎
などで,外科的摘出が不能の場合
生検方法としては開創による1 cm 角程度の腫瘍組織採取が望ましく,針生検は正確な診断が難しい場合があるので推奨されない。組織診断用の検体と同時に,融合遺伝子の検索などの分子生物学的診断用の凍結検体採取を行うことが推奨される。また術後グループ分類のための所属リンパ節生検は特に四肢や10 歳以上の傍精巣原発では重要である2)。しかしCT やPET などの画像検査所見と病理所見との一致率に関しては現時点で行われている研究では高いとはいえない3)。
文 献
- 1)
- Okcu MF, Hicks J, Horowitz M. Rhabdomyosarcoma and undifferentiated sarcoma in childhood and adolescence : Clinical presentation, diagnostic evaluation, and staging. UptoDate 18.2 June, 11, 2009.
- 2)
- Wiener ES, Anderson JR, Ojimba JI, et al. Controversies in the management of paratesticular rhabdomyosarcoma : is staging retroperitoneal lymph node dissection necessary for adolescents with resected paratesticular rhabdomyosarcoma? Semin Pediatr Surg 2001 ; 10 : 146-52.
- 3)
- Alcorn KM, Deans KJ, Congeni A, et al. Sentinel Lymph Node Biopsy in pediatric soft tissue sarcoma patients : Utility and concordance with imaging. J Pediatr Surg 2013 ; 48 : 1903-6.
- CQ4
- 傍精巣腫瘍の場合の病期を決定するための同側後腹膜リンパ節郭清(SIRPLND)は再発を減少させるか
背 景
傍精巣原発の横紋筋肉腫の病期を決定するために,腫瘍側の精巣動静脈ならびに腎静脈レベルまでの範囲でリンパ節を含む組織を郭清することをstaging ipsilateral retroperitoneal lymph node dissection(SIRPLND)という。術後グループ分類のためにSIRPLND を行う必要性について考慮しなければならない。
- 推奨グレード2B
- 10 歳以上の傍精巣原発症例ではSIRPLND を行うことが推奨される。
解 説
10 歳未満の症例ではCT 上領域リンパ節腫大がない,あるいはgroup I である場合にはSIRPLND は必要としないが,CT 上リンパ節腫大を認める例ではSIRPLND を行う。横紋筋肉腫共同研究(IRS)-III とIV における傍精巣原発横紋筋肉腫では,10 歳以上の症例ではSIRPLND を実施しないことにより再発率が上昇するため,SIRPLND を行うべきとされた。これはSIRPLND を行ったIRS-III のgroup I,II の10 歳以上の症例では3 年無病生存率(DFS)が92%であったのに比べ,行わなかったIRS-IV では86%であったことによるものである1)。
一方,1973〜2009 年までの255 例を検討した米国のSurveillance Epidemiology and End Results(SEER)データベースの解析では,初発年齢10 歳以上の患者の場合,所属リンパ節の転移(N1)は13%で,それ以下の年齢の4%に比し約3.2 倍と高頻度であり,retroperitoneal lymph node dissection(RPLND)にて10 歳未満では郭清群と非郭清群の5 年全生存率(OS)はそれぞれ100%と97%と有意差は認められなかったが(P=0.37),10 歳以上では非郭清群64%に対して郭清群では86%と有意差(P=0.019)を認めたとしている2)。
SIRPLND を行う際は射精機能に配慮して操作範囲の交感神経の温存に努める。
十分経験のある外科医であれば腹腔鏡下のSIRPLND も許容される。
文 献
- 1)
- Wiener ES, Anderson JR, Ojimba JI, et al. Controversies in the management of paratesticular
rhabdomyosarcoma : is staging retroperitoneal lymph node dissection necessary for adolescents with resected paratesticular rhabdomyosarcoma? Semin Pediatr Surg 2001 ; 10 : 146-52. - 2)
- Dang ND, Dang PT, Samuelian J, et al. Lymph node management in patients with paratesticular rhabdomyosarcoma : a population-based analysis. Cancer 2013 ; 119 : 3228-33.
- CQ5
- リンパ節郭清の範囲,方法と意義は
背 景
初回手術において術後グループ分類は治療方針の決定の上で極めて重要であるため,原則的に所属リンパ節転移の有無についてサンプリングを行う。
- 推奨グレード2B
- 臨床的あるいは画像診断上で腫大したリンパ節がなければ,必ずしも郭清が必要とは限らないが,画像上あるいは術中所見により腫大が認められる場合には積極的にサンプリングを行い1),切除可能なリンパ節は摘除を行うことを推奨する。
解 説
郭清については傍精巣原発では病期決定用同側後腹膜リンパ節郭清(staging ipsilateral retroperitoneal lymph node dissection:SIRPLND)を行った横紋筋肉腫共同研究(IRS)-III に比べて行わなかったIRS-IV の生存率が悪化したため,現在ではSIRPLND を推奨している。SIRPLND を行ったIRS-III のgroup I,II の10 歳以上の症例では3 年無病生存率(DFS)が92%であったのに比べ,行わなかったIRS-IV では86%であった2)。また初発年齢10 歳以上の患者の場合,所属リンパ節の転移(N1)は13%でそれ以下の年齢の4%に比し,約3.2 倍と高頻度である3)。
会陰部・肛門部の原発の症例では46%に鼠径リンパ節への転移がみられ予後不良である。さらに,初診年齢が10 歳以上では転移率が64%であり,IRS-IV では5 年全生存率(OS)33%と予後不良である。リンパ節郭清も考慮する4)が,有効性については明らかではない。
膀胱・前立腺原発の場合は初回生検の際に総腸骨動脈周囲リンパ節と傍大動脈リンパ節のサンプリングも行い,また他に臨床的に転移を疑うリンパ節があればこれも生検することが望ましい。有効性については明らかではない。
四肢では病期分類には所属リンパ節の評価は欠かせない因子であるため,原則的に領域リンパ節の転移の有無を判定するためにサンプリングを行う5, 6)。IRS-V 外科治療ガイドラインでは臨床的にリンパ節転移が考えられれば,所属リンパ節郭清をする前に,臨床的転移部位のより近位でリンパ節生検を行うこと,すなわち上肢の場合には同側の鎖骨上窩(斜角筋)リンパ節の生検,下肢の場合は腸骨と傍大動脈リンパ節の双方,もしくはどちらかのリンパ節の生検を行うことが推奨されている。これらのリンパ節に転移があれば,所属リンパ節転移ではなく,遠隔転移とみなす。
文 献
- 1)
- Alcorn KM, Deans KJ, Congeni A, et al. Sentinel Lymph Node Biopsy in pediatric soft tissue sarcoma patients : Utility and concordance with imaging. J Pediatr Surg 2013 ; 48 : 1903-6.
- 2)
- Wiener ES, Anderson JR, Ojimba JI, et al. Controversies in the management of paratesticular rhabdomyosarcoma : is staging retroperitoneal lymph node dissection necessary for adolescents with resected paratesticular rhabdomyosarcoma? Semin Pediatr Surg 2001 ; 10 : 146-52.
- 3)
- Dang ND, Dang PT, Samuelian J, et al. Lymph node management in patients with paratesticular rhabdomyosarcoma : a population-based analysis. Cancer 2013 ; 119 : 3228-33.
- 4)
- Blakely ML, Andrassy RJ, Raney RB, et al. Intergroup Rhabdomyosarcoma Studies I through IV : Prognostic factors and surgical treatment guidelines for children with rhabdomyosarcoma of the perineum or anus : a report of Intergroup Rhabdomyosarcoma Studies I through IV, 1972 through 1997. J Pediatr Surg 2003 ; 38 : 347-53.
- 5)
- McMulkin HM, Yanchar NL, Fernandez CV, et al. Sentinel lymph node mapping and biopsy : a potentially valuable tool in the management of childhood extremity rhabdomyosarcoma. Pediatr Surg Int 2003 ; 19 : 453-6.
- 6)
- De Corti F, Dall’Igna P, Bisogno G, et al. Sentinel node biopsy in pediatric soft tissue sarcomas of extremities. Pediatr Blood Cancer 2009 ; 52 : 51-4.
- CQ6
- 化学療法前腫瘍再切除(PRE)の適応は
背 景
初回手術において明らかな残存腫瘍があり,再切除で腫瘍全摘が可能と考えられる場合,および切除断端が組織学的に陽性の場合には,術後化学療法や放射線治療を行う前に再手術による完全切除を行うことが望ましい。これを化学療法前腫瘍再切除(pretreatment re-excision:PRE)という1)。
- 推奨グレード2B
- 初回手術が生検のみ,あるいは残存腫瘍がみられ,再切除で腫瘍全摘が可能と考えられる場合,および切除断端が組織学的に陽性の場合にはPRE を行うことが推奨される。
解 説
PRE によって完全切除となった場合には,術後グループ分類が変更となり,術後治療も軽減される。四肢,体幹,傍精巣原発の腫瘍に関してはPRE の適応が言及されている2)。ただし,四肢については化学療法後広範切除による全摘が可能であるなら,初回手術におけるPRE としての切断は回避が望ましい。また傍精巣の場合は経陰囊的に腫瘍が横紋筋肉腫と想定されずに切除され,術後の病理診断で横紋筋肉腫と診断されたような場合に,陰囊皮膚などの切除を治療前の再切除として施行することは積極的に行われるべきである3)。
文 献
- 1)
- Hays DM, Lawrence W Jr, Wharam M, et al. Primary reexcision for patients with ‘microscopic residual’ tumor following initial excision of sarcomas of trunk and extremity sites. J Pediatr Surg 1989 ; 24 : 5-10.
- 2)
- Andrassy RJ, Corpron CA, Hays D, et al. Extremity sarcomas : an analysis of prognostic factors from the Intergroup Rhabdomyosarcoma Study III. J Pediatr Surg 1996 ; 31 : 191-6.
- 3)
- Cecchetto G, De Corti F, Rogers T, et al. Surgical compliance with guidelines for paratesticular rhabdomyosarcoma (RMS). Data from the European Study on non-metastatic RMS. J Pediatr Surg 2012 ; 47 : 2161-2.
- CQ7
- 頭頸部原発腫瘍に対する手術方針は
背 景
頭頸部原発横紋筋肉腫の手術については可能であれば広範囲切除が適切である。しかし,広い切除縁をとることは傍髄膜などでは一般的に不可能であり,傍髄膜以外の頭頸部でも頭頸部の浅い部位に発生した患者を除いて一般的には難しい。
- 推奨グレード2B
- 頭頸部原発横紋筋肉腫の手術は広範切除を行うことが難しい場合は,可能であれば化学療法,放射線治療などにより腫瘍の縮小を図った後の二期的切除が推奨される。
解 説
いずれの部位もまず生検を行う。化学療法,放射線治療などにより腫瘍の縮小を図った後に,経験のある専門チームにより整容的,機能的に許容範囲内での切除が推奨される1)。切除縁を十分にとることができなかった場合には周囲の正常組織より複数個所の生検を行い,病理所見を確認することも推奨される。また頭頸部原発腫瘍においてリンパ節転移はまれであり,臨床的にリンパ節の腫脹が認められなければ郭清は必ずしも必要ではない。腫脹している場合には生検を行う。
前・中頭蓋底(鼻部,副鼻腔,側頭下窩とその隣接部位)の腫瘍に対する頭蓋顔面外科療法は,経験ある専門チームにより行うことができるが,手術により整容性や機能性が損なわれる可能性は十分に考慮する。
眼窩原発腫瘍は他部位原発のものより予後良好であり,眼球温存を優先し,まず生検を行う2)。局所再発した場合,転移巣が制御されていれば眼球も含めた眼窩内容の全摘術が推奨される3)。
文 献
- 1)
- Merks JHM, De Salvo GL, Bergeron C, et al. Parameningeal rhabdomyosarcoma in pediatric age : results of a pooled analysis from North American and European cooperative groups. Ann Oncol 2014 ; 25 : 231-6.
- 2)
- Oberlin O, Rey A, Anderson J, et al. International Society of Paediatric Oncology Sarcoma Committee, Intergroup Rhabdomyosarcoma Study Group, Italian Cooperative Soft Tissue Sarcoma Group, German Collaborative Soft Tissue Sarcoma Group : Treatment of orbital rhabdomyosarcoma : survival and late effects of treatment--results of an international workshop. J Clin Oncol 2001 ; 19 : 197-204.
- 3)
- Raney B, Huh W, Hawkins D, et al. Soft Tissue Sarcoma Committee of the Children’s Oncology Group, Arcadia, CA : Outcome of patients with localized orbital sarcoma who relapsed following treatment on Intergroup Rhabdomyosarcoma Study Group (IRSG) Protocols-III and -IV, 1984-1997 : a report from the Children’s Oncology Group. Pediatr Blood Cancer 2013 ; 60 : 371-6.
- CQ8
- 四肢原発腫瘍に対する手術方針は
背 景
四肢原発の横紋筋肉腫はリンパ節転移や遠隔転移の頻度が比較的高く,組織型も予後不良型(胞巣型)の頻度が高い。リンパ節転移の頻度は約50%ともいわれる1, 2)。四肢では一般的に軟部組織を大きく合併切除するか,筋の一区画を全摘除することによって,局所制御に必要な広範なマージンを得ることが可能であるが,腫瘍の大きさや浸潤の程度に応じて,筋肉を起始部から付着部までの全てを切除しないように努める。
- 推奨グレード2B
- 可能である限り,機能を温存するよう配慮した手術を行うことが推奨される。
解 説
軟部肉腫に対する切除縁に関しては1999 年のAssociation of Directors of Anatomic and Surgical Pathology(ADASP) guideline 3)では2 cm 以上とることが推奨されているが,2010 年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)4)では1 cm(anatomic barrier がある部位ではさらに小さくすることが可能)とされている。主要な血管に腫瘍が浸潤している場合でも,患肢切断を回避する必要があるときには,血管移植片を用いて患肢温存を図ることも可能である。他にも患肢温存が可能となる方法があれば適用してよい。
四肢発生の中でも再発や死亡率が高いのは,初回手術で肉眼的に腫瘍が残存したgroup III である。生検のみ,あるいは極めて小さい範囲での切除のみにとどまった場合,機能などを大きく損なうことが無ければ,group I あるいはII の状態にするために化学療法前腫瘍再切除(pretreatment re-excision:PRE)を施行すべきである。
領域リンパ節の評価は病期分類を行う上で重要となるので,臨床的にリンパ節転移がないものでも下肢原発であれば大腿三角のリンパ節,上肢原発であれば腋窩リンパ節のサンプリングを行う。
文 献
- 1)
- Paulino AC, Pappo A. Alveolar rhabdomyosarcoma of the extremity and nodal metastasis : Is the in-transit lymphatic system at risk? Pediatr Blood Cancer 2009 ; 53 : 1332-3.
- 2)
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- 3)
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- 4)
- Casali PG, Blay JY. ESMO/CONTICANET/EUROBONET Consensus Panel of experts : Soft tissue sarcomas : ESMO Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow-up. Ann Oncol 2010 ; 21 suppl 5 : v198-203.
- CQ9
- 膀胱・前立腺原発腫瘍に対する切除方針は
背 景
膀胱・前立腺腫瘍に対しては根治を目指した侵襲的切除と機能を考慮した非侵襲的切除があり,それらの治療成績について多くの報告がなされている。
- 推奨グレード1B
- 可能な限り,機能温存に努めて手術を行うことが推奨される。
解 説
横紋筋肉腫共同研究(IRS)によるIRS-IV,国際小児がん学会(SIOP)によるMMT-84 と89,イタリア共同研究グループ(ICG)によるRMS-79 と88,Cooperative Weichteilsarkom Study Group によるCWS-91 の膀胱・前立腺原発症例をメタ分析した報告では,この部位では379 例中胎児型の限局した症例が322 例(85%)と多く,5 年無病生存率(DFS)は75%,全生存率(OS)は84%であった1)。根治を目指した侵襲的切除と機能を考慮した非侵襲的切除の間には治療成績に差はないとする報告が多くあり,同部位原発腫瘍の切除の基本方針は機能温存である2)。
IRS-I〜III では171 人の膀胱原発腫瘍のうち,40 例が膀胱部分切除を受け,うち,33 例(82.5%)は一期的手術として行われた3)。7 例(17.5%)は腫瘍縮小を待って10〜57 週で待機手術の形で行われた。31 例(31/40 例:78.5%)が2〜16 年無病生存であった。診断時に腫瘍径5 cm 以上であるものが多く,初回手術で膀胱尿道機能を温存したまま腫瘍を全摘除できることはまれであり,多くの例では生検にとどまる(内視鏡を用いた経尿道的操作,経会陰的,経恥骨上的,あるいは開腹)。開腹にて生検を行う場合には総腸骨動脈周囲リンパ節と傍大動脈リンパ節のサンプリングも行う。すべての保存的治療が終了した後も臨床的寛解に至らず生検により確認される残存腫瘍や,化学療法や放射線治療の施行にもかかわらず早期に治療抵抗性や腫瘍の増悪がみられる場合には,根治的外科手術を考慮するが,膀胱部分切除,前立腺部分切除にとどめ,極力機能温存に努める。また小線源治療を併用することで侵襲的根治術の回避が可能であるとする報告もある。
前立腺腫瘍の場合,IRS-III 研究4)では,全症例中約5%で平均年齢は5.3 歳,一般的に組織型は胎児型で腫瘍径5 cm を超える大きな腫瘍が多く,97.7%が全摘出困難で生検のみがほとんどである。待機的手術が行われ(38/44 例:86.3%),予後は81.8%(36/44 例,経過観察中央値6 年)が無病生存である5)。部分切除などの手法が適応できず,また保存的治療に対する反応が不十分な場合には,尿路変更を伴う骨盤内臓器全摘術や膀胱全摘術を行う。この場合でも特に化学療法や放射線治療を先行した症例では腫瘍の完全摘除に際して直腸を温存できることが多い6)。
一方,SIOP によるMMT-84, 89, 95 の治療成績の比較分析においても,MMT-84 ではno significant surgery とされる手術(膀胱部分切除または前立腺部分切除にとどまるもの)が31%(4/13)であったものが,MMT-95 では61%(38/62)に増加しており,機能温存手術の傾向が認められる7)。
文 献
- 1)
- Rodeberg DA, Anderson JR, Arndt CA, et al. Comparison of outcomes based on treatment algorithms for rhabdomyosarcoma of the bladder/prostate : combined results from the Children’s Oncology Group, German Cooperative Soft Tissue Sarcoma Study, Italian Cooperative Group, and International Society of Pediatric Oncology Malignant Mesenchymal Tumors Committee. Int J Cancer 2011 ; 128 : 1232-9.
- 2)
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- Hays, DM, Lawrence, W Jr, Crist, WM, et al. Partial cystectomy in the management of rhabdomyosarcoma of the bladder : a report from the Intergroup Rhabdomyosarcoma Study. J Pediatr Surg 1990 ; 25 : 719-23.
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- CQ10
- 遠隔転移巣に対する局所治療の方針は
背 景
遠隔転移巣に対する局所治療としては外科療法,放射線治療などが考慮されるが,転移巣の部位,数,大きさなどにより方針を考慮する必要がある。
- 推奨グレード2B
- 転移巣に対する外科療法は,孤立性病変で切除可能な場合のみ推奨される。放射線治療は神経圧迫やその他局所症状の緩和に有効である場合が多く,推奨される。
解 説
手術による切除が可能で,かつ,転移巣が他にない場合には外科療法による切除が行われる場合もあり得るが,転移巣の全身的検索が重要である。それ以外は化学療法+原発腫瘍床および転移巣への放射線治療が一般的である。
肺転移のみでかつ,転移巣が1 つのみで手術切除可能である場合は切除を行う。
肺転移は米国やヨーロッパのcooperative groups 2)では各種転移の中で最も頻度が高い。具体的な頻度は47%(370/788,胸腔を含む)とされ,このうち145 例が肺単独転移である。肺転移が切除可能で原発部位も切除可能あるいは既に全摘出されている場合は,外科的摘出も考慮しうる。全身的に2 箇所の手術に耐えうる状況であれば摘出が一つの方法であり,それ以外は放射線治療が選択肢である。全肺野に多数の転移巣がみられる場合の全肺照射14.4 Gy の有効性は不明である3)。
骨髄転移については横紋筋肉腫で2 番目に多い転移部位で遠隔転移例の38%を占める。骨転移も併発していることが多く,26%が骨転移を合併する。時に原発巣が不明で白血病と見誤られることがある4)。しかも,しばしば,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を治療開始以前あるいは治療開始後から発症し,従来的なDIC 治療には抵抗性である。骨髄and/or 骨転移は最も強い予後不良因子である。骨転移数が5 箇所以内と少なく,照射可能であれば放射線治療が局所での有効性が高い3, 4)。その他はビスホスホネート5),骨転移部位に対するストロンチウム内照射などを含めてエビデンスがない6)。
遠隔リンパ節転移は横紋筋肉腫の遠隔転移の中で4 番目を占める。可能であれば放射線治療,改善しない場合は二期的手術切除も考慮する。わが国の大量化学療法に対する後方視的解析では,遠隔転移症例で有望な可能性のある治療法である。しかし,海外ではまだ通常の化学療法に比べて有用性を示すエビデンスはない。今後,前方視的な臨床研究が行われる必要がある。
放射線治療は通常,転移部位に対しては50.4 Gy が推奨されているが,眼窩には45 Gy である。マージンは原則では2 cm であるが,リスク臓器の線量制約によって,それ以下のマージンでも許容される。
文 献
- 1)
- Temecka BK, Wexler LH, Steinberg SM, et al. Metastasectomy for sarcomatous pediatric histologies : results and prognostic factors. Ann Thorac Surg 1995 ; 59 : 1385-9.
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- CQ11
- 放射線治療の至適開始時期,基本方針は
背 景
横紋筋肉腫に対する治療は,外科療法,放射線治療,化学療法による集学的治療が重要であるが,局所の腫瘍制御のためには外科療法または放射線治療,あるいはその両方が不可欠である。機能温存あるいは整容的な障害が許容しうる場合には,初回手術での完全摘除が推奨されるが,顕微鏡的または肉眼的な残存病変が認められる場合には,局所制御を得るために放射線治療が実施される。
- 推奨グレード2B
- 発生部位,治療前ステージ分類などの要因に応じて第1〜19 週の間に放射線治療を開始することを推奨する。
解 説
生検や手術後の顕微鏡的もしくは肉眼的残存がある場合には,放射線治療の適応になる。胎児型で完全切除された症例は放射線治療を行わなくても予後良好であるが,胞巣型の場合には放射線治療は有益である1, 2)。開始時期については,局所制御や生存に関わる報告は限られている。これまでの米国の横紋筋肉腫共同研究(IRS)では,発生部位,治療前ステージ分類などの要因に応じて第1〜19 週の間に放射線治療を開始してきた。頭蓋内進展を伴うgroup Ⅲの肉眼的腫瘍残存のある傍髄膜原発横紋筋肉腫においては化学療法と同時に開始(第1 週から開始)することが強く勧められる3)。それ以外の場合は,放射線治療の開始時期は,化学療法を第3〜13 週から開始するのが一般的である。
文 献
- 1)
- Wolden SL, Anderson JR, Crist WM, et al. Indications for radiotherapy and chemotherapy after complete resection in rhabdomyosarcoma : A report from the Intergroup Rhabdomyosarcoma Studies I to III. J Clin Oncol 1999 ; 17 : 1027-38.
- 2)
- Schuck A, Mattke AC, Schmidt B, et al. Group II Rhabdomyosarcoma and Rhabdomyosarcoma like Tumors : Is Radiotherapy Necessary? J Clin Oncol 2004 ; 22 : 143-9.
- 3)
- Spalding AC, Hawkins DS, Michalski JM, et al. The effect of radiation timing on patients with high-risk features of parameningeal rhabdomyosarcoma : an analysis of IRS-IV and D9803. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2013 ; 87 : 512-6.
- CQ12
- 頭頸部,眼窩,傍髄膜原発腫瘍に対する放射線治療を化学療法と同時に開始する適応は
背 景
傍髄膜原発横紋筋肉腫は髄膜に浸潤しやすく,化学療法や放射線治療後であっても髄膜浸潤をきたし,致命的となる。頭蓋内進展〔intracranial extension:ICE(腫瘍が脳または脊髄の硬膜に接着,置換,浸潤,破壊することなどにより,造影MRI 上の硬膜に異常信号を認めた場合)〕,脳神経麻痺や頭蓋底骨溶骨といった髄膜浸潤の徴候を認める場合の予後は不良である1-5)。放射線治療を化学療法と同時に開始することで,局所制御の成績を改善できる場合がある。
推奨1
- 推奨グレード2A
- 傍髄膜原発横紋筋肉腫において,ICE のある場合には,化学療法と同時に放射線治療を開始することが勧められる。
推奨2
- 推奨グレード1A
- 傍髄膜以外の頭頸部,眼窩原発横紋筋肉腫に対しては,脊髄圧迫や視力消失,その他の機能障害の危険が差し迫った場合には緊急照射を行う。
解 説
傍髄膜原発横紋筋肉腫に対する放射線治療の時期については,横紋筋肉腫共同研究(IRS)によるIRS-II〜IV の後方視的検討によると,ICE の有無に関わらず,脳神経麻痺や頭蓋底骨溶骨といった髄膜浸潤の徴候が認められる患者に対しては,診断から2 週間以内に放射線治療を開始することで局所制御の改善が認められ,一方で髄膜浸潤の徴候が認められない場合は,放射線治療の開始が10 週間を超えても局所制御に影響はないと報告された1)。しかし,その後のIRS-V(D9803)の後方視的検討では,脳神経麻痺,頭蓋底骨溶骨所見があってもICE のない症例は化学療法と同時に放射線治療を開始しなくても,IRS-IV とD9803 の5 年の局所制御率や治療奏効維持生存率(FFS),全生存率(OS)に差を認めなかった2)。
以上より,group Ⅲ肉眼的腫瘍残存のある傍髄膜原発横紋筋肉腫において,ICE のある場合には化学療法と同時に開始(第1 週から開始)することが強く勧められる。このため,治療開始前には頭蓋底への浸潤の存在と硬膜上またはそれを越える進展を確認するために,造影剤を用いた原発部位および脳の磁気共鳴画像法(MRI)を実施すべきである。
文 献
- 1)
- Michalski JM, Meza J, Breneman JC, et al. Influence of radiation therapy parameters on outcome in children treated with radiation therapy for localized parameningeal rhabdomyosarcoma in Intergroup Rhabdomyosarcoma Study Group trials II through IV. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2004 ; 59 : 1027-38.
- 2)
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- 3)
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- 4)
- Yang JC, Wexler LH, Meyers PA, et al. Parameningeal rhabdomyosarcoma : outcomes and opportunities. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2013 ; 85 : e61-6.
- 5)
- Merks JH, De Salvo GL, Bergeron C, et al. Parameningeal rhabdomyosarcoma in pediatric age : results of a pooled analysis from North American and European cooperative groups. Ann Oncol 2014 ; 25 : 231-6.
- CQ13
- 強度変調放射線治療(IMRT),陽子線治療の適応は
背 景
放射線治療は局所制御として重要な役割を果たすが,一方で成長発達途上にある小児に対する放射線治療は,成長障害,変形,二次がんといった晩期有害事象という大きな問題をあわせもつ。したがって,可能な限り正常組織を避け,腫瘍のみに放射線を照射する技法が開発され,実施されるようになってきた。たとえば,強度変調放射線治療(intensity modulated radiation therapy:IMRT),陽子線治療は,横紋筋肉腫の治療にも実施されつつある。
推奨1
- 推奨グレード2B
- IMRT の適応は頭頸部や膀胱・前立腺に発生した横紋筋肉腫では推奨される。
解 説 1
米国小児がんグループ(COG)によるCOG-D9803 では,375 例の横紋筋肉腫患者にIMRT または3D-CRT を施行した。179 例からデータを解析し,5 年の局所領域再発率には有意差なし〔3D-CRT vs. IMRT;全生存率(OS)18% vs.15%,無イベント生存率(EFS)72% vs. 76%〕。多変量解析でも部位による差なし1)。IMRT では,3D-CRT に比べ,近接危険臓器への線量を減量し,標的臓器への線量の均質化と高線量照射が可能であった1-3)。晩期有害事象の軽減については今後の評価が待たれる。
推奨2
- 推奨グレード2C
- 陽子線治療の適応は近接危険臓器への線量をIMRT よりさらに減量できるため推奨される。
解 説 2
陽子線治療については,傍髄膜17 例,膀胱・前立腺7 例など単施設での治療計画での標的臓器,近接危険臓器の線量の比較において,陽子線は3D-CRT,IMRT より近接危険臓器の線量の減量が可能であった4-6)。臨床的な晩期有害事象の評価については,傍髄膜17 例で,成長障害(身長増加率低下)3 例,内分泌障害2 例,軽度の顔面萎縮7 例,永久歯萌出障害3 例,齲歯5 例,慢性鼻腔副鼻腔通過障害2 例とこれまでの3D-CRT,IMRT に比べて軽度であったが,観察期間平均5 年と短く,長期間の観察が必要である4)。
文 献
- 1)
- Lin C, Donaldson SS, Meza JL, et al. Effect of radiotherapy techniques (IMRT vs. 3D-CRT) on outcome in patients with intermediate-risk rhabdomyosarcoma enrolled in COG D9803--a report from the Children’s Oncology Group. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2012 ; 82 : 1764-70.
- 2)
- Hein PA, Gladstone DJ, Bellerive MR, et al. Importance of protocol target definition on the ability to spare normal tissue : an IMRT and 3D-CRT planning comparison for intraorbital tumors. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2005 ; 62 : 1540-8.
- 3)
- Wolden SL, Wexler LH, Bellerive MR, et al. Importance of protocol target definition on the ability to spare normal tissue : an IMRT and 3D-CRT planning comparison for intraorbital tumors. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2005 ; 61 : 1432-8.
- 4)
- Childs SK, Kozak KR, Friedmann AM, et al. Proton radiotherapy for parameningeal rhabdomyosarcoma : clinical outcomes and late effects. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2012 ; 82 : 635-42.
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- CQ14
- 低リスク群に対する標準的化学療法は
背 景
横紋筋肉腫の低リスク群は高率に治癒が期待される一群であり,治療成績を保ちながら治療関連毒性を軽減することが目標となる。
低リスク群は長期の生存率が85〜95%の患者群である。
- ①低リスクA 群,low subset 1 群
- ②低リスクB 群,low subset 2 群
- 推奨グレード2B
- 低リスクA 群,low subset 1 群に対しては48 週のVA 療法〔ビンクリスチン(VCR)+アクチノマイシン(ACD)〕が長期成績の確立した治療として推奨される。
- 推奨グレード2B
- 低リスクB 群,low subset 2 群に対しては42 週のVAC2.2 療法(CPA 2.2 g/m2/ サイクル)が長期成績の確立した治療として推奨される。
- 1)
- Crist W, Gehan EA, Ragab AH, et al. The Third Intergroup Rhabdomyosarcoma Study. J Clin Oncol 1995 ; 13 : 610-30.
- 2)
- Crist WM, Anderson JR, Meza JL, et al. Intergroup rhabdomyosarcoma study-IV : results for patients with nonmetastatic disease. J Clin Oncol 2001 ; 19 : 3091-102.
- 3)
- Malempati S, Hawkins DS. Rhabdomyosarcoma : review of the Children’s Oncology Group(COG)Soft-Tissue Sarcoma Committee experience and rationale for current COG studies. Pediatr Blood Cancer 2012 ; 59 : 5-10.
- 4)
- Raney RB, Walterhouse DO, Meza JL, et al. Results of the Intergroup Rhabdomyosarcoma Study Group D9602 protocol, using vincristine and dactinomycin with or without cyclophosphamide and radiation therapy, for newly diagnosed patients with low-risk embryonal rhabdomyosarcoma : a report from the Soft Tissue Sarcoma Committee of the Children’s Oncology Group. J Clin Oncol 2011 ; 29 : 1312-8.
- 5)
- Walterhouse D, Pappo AS, Meza JL, et al. Shorter duration therapy that includes vincristine(V), dactinomycin(A), and lower doses of cyclophosphamide (C) with or without radiation therapy for patients with newly diagnosed low-risk embryonal rhabdomyosarcoma (ERMS): A report from the Children’s Oncology Group(COG). J Clin Oncol 2011 ; 29 : abstr 9516.
- 6)
- Russell H, Swint JM, Lal L, et al. Cost minimization analysis of two treatment regimens for lowrisk rhabdomyosarcoma in children : a report from the Children’s Oncology Group. Pediatr Blood Cancer 2014 ; 61 : 970-6.
- 7)
- Arndt C, Hawkins D, Anderson JR, et al. Age is a risk factor for chemotherapy-induced hepatopathy with vincristine, dactinomycin, and cyclophosphamide. J Clin Oncol 2004 ; 22 : 1894-901.
- 8)
- Walterhouse DO, Pappo AS, Meza JL, et al. Vincristine(V), dactinomycin(A), and lower doses of cyclophosphamide (C) with or without radiation therapy for patients with newly diagnosed low-risk embryonal rhabdomyosarcoma(ERMS): A report from the Children’s Oncology Group(COG). J Clin Oncol 2012 ; 30 : abstr 9509.
低リスクA 群を,CQ1 表3-a に示す。米国小児がんグループ軟部肉腫委員会(COG-STS)では,従来低リスクB 群の一部であったstage 1/group IIb, c またはstage 2/group II の胎児型横紋筋肉腫も横紋筋肉腫共同研究(IRS)のIRS-IV では低リスクA 群に劣らぬ好成績であったことから,IRS-VI に相当するCOG-ARST0331 試験からは,上記も低リスクA 群(low subset 1 群)として分類して試験治療を行っている(CQ1 表3-b)1-3)。
低リスクB 群をCQ1 表3-a に示す。COG-ARST0331 以降はstage 1/group IIb, cまたはstage 2/group II は低リスクB 群から除外して,low subset 2 群として臨床試験を行っていることは上記に述べた通りである。
推奨1
解 説 1
COG の行った長期的な成績が確立している治療としては,D9602 試験4)のVA 療法が挙げられ,5 年無増悪生存率(PFS)は89%であった。後継のARST0331 試験は,低リスク群を対象として,VAC1.2 療法4 サイクルとVA 療法4 サイクルからなる臨床試験を行った5)。Low subset 1 群では,2 年推定PFS 88%,全生存率(OS)97%と良好な成績であった。シクロホスファミド(CPA)4.8 g/m2 の投与量は,これまでの臨床試験と比較して格段に少なく,かつ治療期間も短いため,医療経済的にD9602 で行われた一年間のVA 療法より好ましいと考えられ,米国では低リスクA 群に対する標準療法として確立する可能性がある6)。
推奨2
解 説 2
COG の行った長期的な成績が確立している治療としては,IRS-IV のVAC2.2 療法(CPA 2.2 g/m2/ サイクル)が挙げられ,5 年PFS 84%,OS 95%であった2)。しかし,肝中心静脈閉塞症(veno-occlusive disease)の急性毒性7)や不妊の長期合併症が問題となった。ARST0331 は,低リスクB 群も対象として行われ,CPA が4.8 g/m2 まで減量されたが治療成績の低下をきたし,特に腟原発の症例で局所再発が相次ぎ,3 年PFS が63%であった8)。
文 献
- CQ15
- 中間リスク群に対する標準的化学療法は
背 景
横紋筋肉腫の中間リスク群は55〜80%の生存率の一群である。治療成績の向上を必要とする群と治療関連毒性の軽減が可能である群が混在しており,これらを目標として臨床試験が行われている。
中間リスク群は,予後不良部位に発生し(stage 2, 3),初回手術で肉眼的残存腫瘍のある(group III)胎児型横紋筋肉腫,および遠隔転移のないすべての胞巣型横紋筋肉腫である。日本横紋筋肉腫研究グループ(JRSG)では,胞巣型のgroup III,stage 2, 3 症例は予後が不良である1, 2)ことより,高リスク群に組み込んで治療を行っている。
- 推奨グレード2B
- 42 週のVAC2.2 療法(シクロホスファミド(CPA)2.2 g/m2/サイクル)が推奨される。
解 説
中間リスク群における長期成績の判明している治療は2.2 g/m2 のCPA を用いたVAC2.2 療法である。米国小児がんグループ(COG)のD9803 1)では,VAC2.2 療法14 サイクルの治療により4.3 年無増悪生存率(PFS)が73%と良好な成績であった。このうち,胞巣型のstage 2, 3,group II, III 症例の治療成績は55〜60%であり,中間リスク群の中では不良であった。治療関連毒性として,肝中心静脈閉塞症(veno-occlusive disease)の急性毒性3)や不妊の長期合併症に留意が必要である。
文 献
- 1)
- Arndt CA, Stoner JA, Hawkins DS, et al. Vincristine, actinomycin, and cyclophosphamide compared with vincristine, actinomycin, and cyclophosphamide alternating with vincristine, topotecan, and cyclophosphamide for intermediate-risk rhabdomyosarcoma : children’s oncology group study D9803. J Clin Oncol 2009 ; 27 : 5182-8.
- 2)
- Meza JL, Anderson J, Pappo AS, et al. Analysis of prognostic factors in patients with nonmetastatic rhabdomyosarcoma treated on intergroup rhabdomyosarcoma studies III and IV : the Children’s Oncology Group. J Clin Oncol 2006 ; 24 : 3844-51.
- 3)
- Arndt C, Hawkins D, Anderson JR, et al. Age is a risk factor for chemotherapy-induced hepatopathy with vincristine, dactinomycin, and cyclophosphamide. J Clin Oncol 2004 ; 22 : 1894-901.
- CQ16
- 高リスク群に対する標準的化学療法は
背 景
横紋筋肉腫の高リスク群は予後不良の一群であり,集学的治療によって治療成績を向上させることが目標となる。米国小児がんグループ軟部肉腫委員会(COG-STS)では,高リスク群は初診時遠隔転移のある(stage 4/group IV)横紋筋肉腫と定義されている。
- 推奨グレード2B
- 確立された標準療法は定まっていない。
解 説
高リスク群では,長期治療成績の明らかになっている治療はVAC2.2 療法〔シクロホスファミド(CPA)2.2 g/m2/ サイクル〕であるが,治療成績は不良である。これまでの臨床試験で, イホスファミド(IFM), エトポシド(ETP), ドキソルビシン(DXR),トポテカン,イリノテカン(CPT-11),メルファラン(MEL)など様々な治療薬剤の組み合わせが試験されたが,VAC2.2 療法を凌駕する治療は確認されていない1-4)。
文 献
- 1)
- Sandler E, Lyden E, Ruymann F, et al. Efficacy of ifosfamide and doxorubicin given as a phase II “window” in children with newly diagnosed metastatic rhabdomyosarcoma : a report from the Intergroup Rhabdomyosarcoma Study Group. Med Pediatr Oncol 2001 ; 37 : 442-8.
- 2)
- Breitfeld PP, Lyden E, Raney RB, et al. Ifosfamide and etoposide are superior to vincristine and melphalan for pediatric metastatic rhabdomyosarcoma when administered with irradiation and combination chemotherapy : a report from the Intergroup Rhabdomyosarcoma Study Group. J Pediatr Hematol Oncol 2001 ; 23 : 225-33.
- 3)
- Pappo AS, Lyden E, Breitfeld P, et al. Two consecutive phase II window trials of irinotecan alone or in combination with vincristine for the treatment of metastatic rhabdomyosarcoma : the Children’s Oncology Group. J Clin Oncol 2007 ; 25 : 362-9.
- 4)
- Walterhouse DO, Lyden ER, Breitfeld PP, et al. Efficacy of topotecan and cyclophosphamide given in a phase II window trial in children with newly diagnosed metastatic rhabdomyosarcoma : a Children’s Oncology Group study. J Clin Oncol 2004 ; 22 : 1398-403.
- CQ17
- 高リスク群に対する自家造血細胞移植併用大量化学療法は有効か
背 景
高リスク群の横紋筋肉腫においては,長期成績の判明しているVAC2.2 療法〔シクロホスファミド(CPA)2.2 g/m2/ サイクル〕による治療を行っても,極めて予後不良であるため,新規治療の開発が必須である。新規治療開発の一つとして大量化学療法による予後改善の試みがなされている。
- 推奨グレード2B
- 横紋筋肉腫においては大量化学療法の有効性を示す根拠はない。
解 説
高リスク群の症例数は限られており,大量化学療法に関するランダム化比較試験による検証はこれまでに行われていない。以下に,多数例での検討を示す。
国際小児がん学会(SIOP)のMMT4-91 では,転移性の横紋筋肉腫42 症例に対して,メルファラン(MEL)による大量化学療法が試験され,3 年無増悪生存率(PFS)は29.7%であった1)。この試験では,同じ先行化学療法を受けた44 症例に対して,維持療法を施行しており,3 年PFS は19.2%であり有意差を認めなかった。
イタリアのRMS4.99 では,70 例の高リスク症例に対して,CPA, エトポシド(EPT),MEL,チオテパ(TESPA)による3 サイクルの大量化学療法が行われた2)。62 例に対して大量化学療法が行われ,3 年PFS は42.3%であり,大量化学療法の優位性を示すことはできなかったと結論づけている。
SIOP のMMT-98 では,101 例の高リスク症例に対して,CPA,EPT,カルボプラチン(CBDCA)のそれぞれの単剤による4 サイクルの大量化学療法が行われた。3 年PFS は16.17%であり,大量化学療法の優位性を示すことはできなかった3)。
また,ドイツのCooperative Weichteilsarkom Stage Group によるHD CWS-96 では,治療担当医の判断により,大量化学療法と経口維持療法のいずれかが施行された。96 例中45 例に対して,TESPA とCPA,MEL とEPT によるタンデムの大量化学療法が行われた4)。大量化学療法群の全生存率(OS)は24.4%で,経口維持療法のOS は57.8%であった。ランダム化比較試験でなかったためバイアスが存在するが,両群の予後因子の分布に関して有意差は認めていない。この試験においても大量化学療法の優位性を示すことはできなかった。
システマティックレビューにおいても,現時点では,横紋筋肉腫に対する超大量化学療法の優位性は示されていない5, 6)。評価対象となった試験ではバイアスの存在のために大量化学療法の有効性を過小評価,または,過大評価している可能性があり,今後の臨床試験で検証する際にはランダム化比較試験での検証が望まれる。
文 献
- 1)
- Carli M, Colombatti R, Oberlin O, et al. High-dose melphalan with autologous stem-cell rescue in metastatic rhabdomyosarcoma. J Clin Oncol 1999 ; 17 : 2796-803.
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- McDowell HP, Foot AB, Ellershaw C, et al. Outcomes in paediatric metastatic rhabdomyosarcoma : results of The International Society of Paediatric Oncology (SIOP) study MMT-98. Eur J Cancer 2010 ; 46 : 1588-95.
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- CQ18
- 再発後治療の化学療法レジメンにはどのようなものがあるか
背 景
再発横紋筋肉腫の生存率は非常に低く,横紋筋肉腫共同研究(IRS)のIRS-III,IV,V での5 年生存率は20%以下である。組織型による再発後の5 年全生存率(OS)は,ブドウ状型64%であるが,胎児型26%,胞巣型5%と報告されている1, 2)。再発後治療の予後に対して最も重要と考えられる治療は,肉眼的全切除以上の腫瘍全摘除術とされている1, 2)。
- 推奨グレード2B
- 強く推奨される化学療法レジメンはない。
解 説
1.ICE 療法(IFM+CBDCA+ETP)
再発後治療の化学療法レジメンとして比較的エビデンスの高いものは,小児固形腫瘍の再発後治療として実施されたカルボプラチン(CBDCA)とエトポシド(ETP)併用療法およびイホスファミド(IFM)を加えたICE 療法である。胎児型横紋筋肉腫に対する奏効率,再発後の生存率は比較的良好であるが,胞巣型では不良であり,効果は短期,限定的であった3-5)。
2.イリノテカン
イリノテカン(CPT-11)とビンクリスチン(VCR)併用のCPT-11 の効果が報告され,米国小児がんグループ(COG)による初期治療段階のプロスペクティブ・ランダム化試験COG-ARST0121 では,再燃または進行した横紋筋肉腫患者を対象に,6 週間の治療サイクルでVCR+CPT-11(20 mg/m2/日)を1 日1 回×5 日間,第1,2,4,5 週に投与する治療法(レジメン1A)と,6 週間の治療サイクルでCPT-11(50 mg/m2/日)を1 日1 回×5 日間,第1,4 週に投与する治療法(レジメン1B)において,差は認められなかった。再発に対する治療開始から1 年後,レジメン1A では治療奏効維持生存率(FFS)が37%,OS が55 %,レジメン1B ではFFS が38 %,OS が60 % であった6)。米国小児がんグループ軟部肉腫委員会(COG-STS)は,その研究に対して,より簡易的なレジメン1B を推奨した6)。これは,フランス小児がん学会(SFOP)と英国小児腫瘍グループ(UKCCSG)で行われた再発または治療抵抗性横紋筋肉腫に対するCPT-11 単独の第II 相試験の結果より優れていた7)。
3.ビノレルビン
ビノレルビン(VNB)単剤あるいはVNB とシクロホスファミド(CPA)併用の有効性・安全性が第II 相試験により示され,奏効率は36〜50%と報告されている。第II相試験では,再発横紋筋肉腫の患者11 人中4 人がVNB 単剤に対して反応を示し8),別の試験では,若年患者(9〜29 歳)の12 人中6 人が部分寛解となった9)。
4.ビノレルビンとシクロホスファミド
パイロット研究で,横紋筋肉腫の患者9 人中3 人に客観的反応がみられた10)。フランスの第II 相研究(N=50)では,再発または難治性横紋筋肉腫の小児が,VNB および低用量経口CPA による治療を受けた。完全奏効が4 人,部分奏効が14 人に認められ,客観的奏効率は36%であった11)。
5.その他
1900 年代に米国小児がんグループ(POG)で行われた再発小児固形腫瘍に対するトポテカンとCPA の併用療法の第II 相試験が行われ,横紋筋肉腫15 例中10 例に部分寛解以上が得られた12)。ゲムシタビン(GEM)については,ドセタキセル,オキサリプラチンの併用療法が再発腫瘍に試験されているが,横紋筋肉腫に対しては症例も少なく,効果は限定的である13, 14)。
文 献
- 1)
- Pappo AS, Shapiro DN, Crist WM, et al. Biopsy and therapy of pediatric rhabdomyosarcoma. J Clin Oncol 1995 ; 13 : 2123-39.
- 2)
- Raney RG, Anderson JR, Barr FG, et al. Rhabdomyosarcoma and undifferentiated sarcoma in the first two decades of life : a selective review of intergroup rhabdomyosarcoma study group experience and rationale for Intergroup Rhabdomyosarcoma Study V. J Pediatr Hematol Oncol 2001 ; 23 : 215-20.
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- Kung FH, Desai SJ, Dickerman JD, et al. Ifosfamide/carboplatin/etoposide (ICE) for recurrent malignant solid tumors of childhood : a Pediatric Oncology Group Phase I/II study. Pediatr Hematol Oncol 1995 ; 17 : 265-9.
- 4)
- Van Winkle P, Angiolillo A, Krailo M, et al. Ifosfamide, carboplatin, and etoposide(ICE) reinduction chemotherapy in a large cohort of children and adolescents with recurrent/refractory sarcoma : the Children’s Cancer Group(CCG) experience. Pediatr Blood Cancer 2005 ; 44 : 338-47.
- 5)
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- CQ19
- 再発腫瘍に対する局所治療の役割は
背 景
再発腫瘍に対する局所療法としては外科療法,放射線治療などが考慮されるが,転移巣の部位,数,大きさなどにより方針を考慮する必要がある。
- 推奨グレード2B
- 孤立性局所性の再発巣であれば外科療法,放射線治療などの局所治療が推奨される。
解 説
再発横紋筋肉腫の生存率は非常に低く,横紋筋肉腫共同研究(IRS)のIRS-III,IV,V での5 年生存率は20%以下である。組織型による再発後5 年全生存率(OS)はブドウ状型では64%であるが,胎児型は26%,胞巣型は5%と報告されている1, 2)。放射線治療の他,適応は限られるが,外科療法による切除も再発部位が他に転移巣を伴わず切除可能である場合や,まれにダンベル腫瘍や腫瘍圧迫による障害の解除など対症的に行われる場合もある。
Hayes-Jordan(2006)の報告によると32 例の再発横紋筋肉腫のうち19 例に外科的切除を,13 例に部分切除/ 生検を行ったところ,7 例(37%)は再発なく経過,8 例(42%)は腫瘍死し,4 例(21%)は追跡不能であったとして,再発病変に対する外科療法は生存率の改善に寄与するのではないかとの考察をしている3)。
Andrassy ら4)のGerman cooperative group によると再発に対して外科療法を受けた17 例の検討において無病生存率(DFS)は胎児型と胞巣型との間に有意差はなかったとしているが,OS では胎児型が有意に良好であったとしている。また根治的な外科療法と局所手術との比較ではOS に差はなかったとしている。
Corti ら5)のイタリア小児血液がん学会(AIEOP)からの報告では再発病変に対して外科療法を行った手術群のOS は54%であり,非手術群の24.7%との間に有意差(P=0.0117)が認められたとし,積極的な外科療法を推奨している。
再発腫瘍に対する放射線治療ではリスク臓器の耐容線量内で照射可能であれば,再照射も含めて照射は可能となるが,多発性の再発などでは適応となりにくい場合がある。
Dantonello ら6)の報告においても再発病変に対して外科療法や放射線治療により局所治療を行った群では再発後の5 年生存率が53.7±19%で,行わなかった群の26.7±22%と比較して有意に成績がよかった(P=0.03)と報告している。
眼窩の局所再発の場合に小線源治療を行った報告がドイツから出ているが,症例数は10 例で年齢中央値6.5 歳(1〜19 歳),推計5 年生存率は62±18%で,照射部位での照射による有害事象は軽度でgrade 3 や4 のものはなかったという。顔の変形なども8 例では問題なく,2 例で軽度であったという7)。
文 献
- 1)
- Pappo AS, Shapiro DN, Crist WM, et al. Biopsy and therapy of pediatric rhabdomyosarcoma. J Clin Oncol 1995 ; 13 : 2123-39.
- 2)
- Raney RG, Anderson JR, Barr FG, et al. Rhabdomyosarcoma and undifferentiated sarcoma in the first two decades of life : a selective review of intergroup rhabdomyosarcoma study group experience and rationale for Intergroup Rhabdomyosarcoma Study V. J Pediatr Hematol Oncol 2001 ; 23 : 215-20.
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- Andrassy RJ. Advances in the surgical management of sarcomas in children. Am J Surg 2002 ; 184 : 484-91.
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- Strege RJ, Kovács G, Meyer JE, et al. Perioperative intensity-modulated brachytherapy for refractory orbital rhabdomyosarcomas in children. Strahlenther Onkol 2009 ; 185 : 789-98.
- CQ20
- 有効な分子標的治療は
背 景
小児がんの治療成績は,集学的・層別化治療の進歩により改善したが,今なお予後が不良なままのものが残されている。これら難治性小児がんに対しては従来の治療では成績の改善は得られず,病態解明に基づく特異性の高い,新しい治療薬や治療法の開発が望まれている。近年の分子遺伝学の進歩により,がん発症・進展分子機構が解明され,それに基づく分子標的治療が臨床応用され,急性前骨髄球性白血病に対する全トランス型レチノイン酸や慢性骨髄性白血病のイマチニブなど,治療成績の著しい向上が得られた治療薬も登場した。小児がんに対しても,分子標的治療が臨床応用されつつある。
- 推奨グレードD
- 現状では十分なエビデンスが得られている治療とは言い難く,今後とも臨床試験研究が必要な分野である。
解 説
米国国立がん研究所(NCI)によるサポートを受けたThe Pediatric Preclinical Testing Program(PPTP)が実施され,肉腫群に含まれる横紋筋肉腫に対しても分子標的治療では極めて多数のターゲットが設定され,第I, II 相試験が行われているが,いずれも,比較的少数例が対象となっている1-4)。多くの試験はユーイング肉腫や骨肉腫を含めた再発症例に対する試験研究となっている。
米国小児がんグループ(COG)では,小児,思春期・若年成人(AYA)の再発または治療抵抗性固形腫瘍に対する単独投与での高リスク群横紋筋肉腫に対し,IGF-I 受容体抗体であるシクスツムマブ(IMC-A12)単独投与による第Ⅱ相試験を行い,横紋筋肉腫20 例中部分寛解は1 例であったが,3 例で不変(SD)であった1)。この結果から高リスク群横紋筋肉腫に対して,治療間隔を短縮したVDC+IE 交替療法とVI,VAC 療法により治療強度を上げた化学療法と放射線治療,外科療法による集学的治療ARST0431 を基本骨格に,テモゾロミドを加えた治療,IGF-I 受容体抗体であるシクスツムマブを併用した治療のランダム化試験を行い,その効果が待たれる。
文 献
- 1)
- Weigel B, Malempati S, Reid JM, et al. Phase 2 trial of cixutumumab in children, adolescents, and young adults with refractory solid tumors : a report from the Children’s Oncology Group. Pediatr Blood Cancer 2014 ; 61 : 452-6.
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- Geoerger B, Kieran MW, Grupp S, et al. Phase II trial of temsirolimus in children with highgrade glioma, neuroblastoma and rhabdomyosarcoma. Eur J Cancer 2012 ; 48 : 253-62.
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- CQ21
- 肝中心静脈閉塞症(VOD)の診断基準にはどのようなものがあるか
背 景
肝中心静脈閉塞症(veno-occlusive disease:VOD)は,放射線治療,化学療法後に,他に原因となる疾患がなく,疼痛を伴う肝腫大,腹水貯留,体重増加,およびビリルビン上昇を呈し,循環障害性肝障害をきたす疾患で,病変の首座が類洞内皮細胞にあることから類洞閉塞症候群(sinusoidal obstruction syndrome:SOS)とも呼ばれている1, 2)。
病因は,放射線治療,化学療法により肝内細静脈,類洞内皮細胞障害,凝固系の活性化により,肝中心静脈の内腔狭小化,閉塞,循環障害性肝障害をきたす。前処置薬剤との関連が報告されており,特にブスルファン(BU),シクロホスファミド(CPA)が重要である1, 2)。
- 推奨グレード1B
- 米国小児がんグループ(COG)のhepatopathy の診断基準を用いることが推奨される3)。
解 説
横紋筋肉腫の治療におけるVAC 療法〔ビンクリスチン(VCA)+アクチノマイシン(ACD)+シクロホスファミド(CPA)〕あるいはVA 療法によりVOD 発症の報告がみられる3)。VA やVAC も含むレジメンでのVOD 発症率は1.4%で,VAC レジメンのみの治療では3.1%の発症率といわれる4)。VOD の診断基準にはシアトル基準,バルチモア基準の2 つが汎用でされているが5, 6),これは造血細胞移植後のVOD の診断基準であり,横紋筋肉腫のVAC またはVA 治療における肝障害について,現在のCOG の臨床試験では,VOD と称し,独自の診断基準を用いている2)。
化学療法時のVOD では,骨髄移植時のVOD と比べて高ビリルビン血症はまれであり,肝酵素上昇が著明であることが多く,何より重要なのは,多くが予後良好であり短期間に回復する3)。さらに超音波検査上での門脈の逆流はまれであり,遅れて出現する3)。また,肝生検により確定診断されるが,凝固障害や血小板減少時の実施は危険であり,化学療法後のVOD は予後良好で短期間で回復することからも,安易な肝生検は行わない。
文 献
- 1)
- DeLeve LD, Shulman HM, McDonald GB. Toxic injury to hepatic sinusoids : sinusoidal obstruction syndrome(veno-occlusive disease). Semin Liver Dis 2002 ; 22 : 27-42.
- 2)
- 日本造血細胞移植学会ガイドライン委員会,日本造血細胞移植学会ガイドライン委員会GVHD ガイドライン部会:造血細胞移植ガイドラインGVHD.日本造血細胞移植学会,2008.
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- CQ22
- 標準治療による長期合併症や再発の経過観察はどのように行うか
背 景
横紋筋肉腫の治療成績は向上したが,低リスク群で10〜20%,中間リスク群で20〜30%,高リスク群で40〜70%に再発が生じる。診断後2 年以内の再発が多く,診断後3 年を超えた再発はまれである。
横紋筋肉腫は全身のあらゆる部位に発生するため,晩期合併症も多岐にわたる。再発,晩期合併症の早期発見のためのフォローアップについて以下に記載する。
- 推奨グレード2B
- 再発の経過観察および長期合併症の早期発見のために定期的な診察,画像検査,検査が推奨される。
解 説
再発部位は局所,領域リンパ節,遠隔転移である。初発治療終了後のフォローアップとしては,問診,全身診察に加えて,局所,領域リンパ節の画像検査(CT またはMRI),肺転移の検索に胸部CT,骨転移の検索に骨シンチグラフィーまたは全身骨X 線検査が行われる。再発のためのフォローアップの間隔についてのガイドラインは存在しないが,米国小児がんグループ(COG)や日本横紋筋肉腫研究グループ(JRSG)の臨床試験では原発部位のCT またはMRI,胸部X 線またはCT を,治療後1 年間は3 カ月ごとに,3 年までは4 カ月ごとに行っている。骨シンチグラフィーまたは全身骨X 線については,JRSG では1 年ごとに行われている。5 年以降の再発はまれであり,身体所見と血液検査によるフォローアップが行われる。
長期フォローアップについては,COG やJPLSG の長期フォローアップガイドライン1)に身体所見,検査項目,フォロー間隔,について詳細に記載されており,参照しながら診療に当たることが望ましい。
化学療法による晩期合併症を以下に挙げる。全リスク群に共通して投与されるシクロホスファミド(CPA)投与においては不妊が問題となる1)。性別や思春期前後によっても異なるが,総投与量7.5 g/m2 以上は危険因子とされており,LH,FSH,エストラジオール(女性),テストステロン値,精巣容積(男性)の測定が望まれる。また,CPA 投与による二次性白血病について,全血球計算(CBC)と血液像の確認が必要である1)。
VDC+IE 療法がCOG の高リスク治療レジメンで採用され,今後,高リスク群の治療基本骨格として用いられる見込みである。以下に使用薬剤について記す。
アントラサイクリン系薬剤による心筋症については,血圧,心電図,心エコー,BNP 測定を行う1)。IFM による尿細管障害については,リンを含めた血中の電解質,尿糖,尿蛋白,尿中のβ2-マイクログロブリン,NAG の測定が必要である1)。IFM による不妊については,60 g/m2 以上の投与は危険因子とされており,CPA と同様の注意が必要である1)。エトポシド(ETP)による二次性白血病について,CBC と血液像の確認が必要である1)。
放射線治療による晩期合併症としては,照射部位における骨軟部組織の成長障害,歯牙形成異常,白内障,下垂体機能低下症,性腺機能障害,二次がんの発生が報告されている 1, 2)。
横紋筋肉腫共同研究(IRS)のIRS-II およびIII の眼窩原発を除く頭頸部の213 例からでのデータ3)では,成長障害 (48%),顔面非対称(35%),歯牙異常(29%),視力障害 (17%),聴覚障害(17%),学習障害(16%)が指摘されている。
また,IRS-I,II における膀胱・前立腺原発の109 例の解析4)では,54 例(約50%)の症例で膀胱が温存されており,そのうち38 例(73%)で膀胱機能は良好であった。しかし,9 例において遺尿,尿失禁を認め,また5 例で頻尿を認めている。腎機能についてはほとんどの症例で保たれていた。膀胱への放射線治療による慢性的な出血性膀胱炎も報告されている。
上記の化学療法,放射線治療,手術に伴う長期合併症に留意し,各専門科と連携して合併症の経過観察,治療に当たることが望ましい。
文 献
- 1)
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8章 ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
- はじめに
ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(Ewing’s sarcoma family of tumors:ESFT)は,小児期から青年期に最も多く発症する肉腫である。診断は,病理学的診断に加え分子生物学的診断を行うことでより確実となる。病期は,限局例(75%)と転移例(25%)に分類され,予後も明らかに異なっている。予後不良因子としては,体幹部,骨盤部,15 歳以上,腫瘍体積200 mL 以上,診断時から再発までの期間が2 年以内,転移例などが挙げられる。
治療法は,化学療法の進歩とともに治療成績の改善を認めており,外科療法,放射線治療と組み合わせた集学的治療が必要である。発症部位は様々であり,骨盤部,脊椎などは外科療法,放射線治療を行い難い部位のため,集学的治療の工夫が必要である。
局所例は,原発部位に対する治療が重要で,外科療法の切除程度により放射線治療の照射線量も異なってくる。3〜5 年の無病生存率(DFS)は,70%前後である。
転移例に対する治療法は確立されておらず,予後は非常に不良である。転移部位は,肺,骨髄,骨が多く,一般に,転移例の中では,肺のみの転移は比較的予後が良いが,複数の部位に転移があると予後は不良である。3〜5 年のDFS は20%前後である。多剤併用化学療法に加え,大量化学療法を併用した造血細胞移植が行われることもあるが,治療成績の改善は十分ではない。
治療成績の改善により長期生存者が増加するとともに,抗がん剤や放射線治療による二次がんが増加しており,二次がんを含めた晩期合併症の長期にわたるフォローアップが重要となる。
- CQ1
- ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)の治療方針の決定に必要な分類と検査,診断のために必要な検査は
背 景
ESFT に対する診断は,基本的に腫瘍部位の生検の病理組織学診断,免疫組織学的診断により行われるが,近年は,ESFT の病理発生に関連する融合遺伝子が明らかになってきており,これを検索することにより診断の精度が向上する。
限局性か転移性かによりESFT の治療方針は異なってくる。ESFT が転移しやすい部位としては,骨髄,骨,肺が挙げられる。転移部位の検索には,単純X 線,骨シンチグラフィー,骨髄穿刺,骨髄生検,computed tomography(CT),magnetic resonance imaging(MRI)などがあり,最近ではFDG-PET(18F fluorodeoxyglucosepositron emission tomography)またはFDG-PET/CT が転移部位の全身検索に用いられている。
- 推奨グレード1A
- CT,骨シンチグラフィー,MRI,骨髄穿刺,骨髄生検に加えFDG-PET,FDG-PET/CT の検査・生検による病理,細胞遺伝学的検査を行うことを強く推奨する。
解 説
確定診断には腫瘍部位の生検は必須であり,正確な病理診断のためには,針生検よりも十分な検体が採取できる開放生検の方がよい。生検の進入経路にあたる組織は腫瘍細胞に汚染されてしまうので,広範切除の際に病巣を含めて切除する必要がある。生検は,すでに治療の一環であり,専門医が行うべきである1)。ESFT は腫瘍細胞が小型類円形の小円形細胞腫瘍であり,通常のHE 染色標本のみでは神経芽腫,横紋筋肉腫などとの鑑別が困難な場合が多い。免疫組織学的染色では,MIC2 遺伝子産物で表面膜蛋白の一つであるCD99 が陽性であれば,ESFT の可能性が高いが,CD99 は滑膜肉腫や非ホジキンリンパ腫や一部の消化管間質腫瘍にも陽性となる。CD99 以外にvimentin 3),neuron-specific enolase(NSE),S-100 蛋白,CD57(Leu-7), synaptophysin 4)が陽性となる。
ESFT の細胞遺伝学的研究により,22 番染色体のバンドq12 にあるEWS 遺伝子座の変異が一貫して同定されており,この遺伝子座の変異には,11 番または21 番など他の染色体が関与している可能性がある。特徴として,EWS 遺伝子のアミノ末端が他の遺伝子のカルボキシル末端に接している。大部分の患者では,こうしたカルボキシル末端は,EWS ファミリー転写因子遺伝子の一つであり11 番染色体のバンドq24 に位置するFLI1 のものである。EWS 遺伝子と融合するこの他のEWS ファミリーメンバーを頻度順に挙げると,21 番染色体に位置するERG,7 番染色体に位置するETV1,17 番染色体に位置するE1AF,2 番染色体に位置するFEV となり,それぞれt(21;22),t(7;22),t (17;22),t (2;22)の転座を起こす5, 6)(表1)。
ESFT の融合遺伝子であるEWSFLI1,EWSERG,EWSETV1,EWSFEV などが検出されれば確定診断となる。このように免疫組織学的診断でのMIC2 遺伝子産物CD99 やEWSFLI1,EWSERG を含む融合遺伝子を検索し診断を確定することを推奨する。
限局性か転移性かによりESFT の治療方針は異なってくる。治療前,治療後の画像検査のガイドラインは,The Children’s Oncology Group Bone Tumor Committee 7)から出されている。 初診時には約25%の症例が転移病変を有し,肺(50%),骨(25%),骨髄(20%)が好発部位である。一方,原発部位周囲のリンパ節転移は非常にまれである。骨髄転移の検索には骨髄穿刺や骨髄生検,骨転移の検索では骨シンチグラフィーやMRI,肺転移の検索にはCT,全身検索には全身MRI やFDG-PET が用いられている。最近の論文では,FDG-PET 単独よりも,FDG-PET にCT を加えた方が,より正確に転移部位の検索ができるという報告8)もある。
以上より,治療方針決定に必要な分類は,限局性か転移性かを診断すべきで,転移部位の検索には,肺,骨,骨髄が好発転移部位であるため,CT,骨シンチグラフィー,MRI,骨髄穿刺,骨髄生検に加えFDG-PET,FDG-PET/CT の検査を行うことを推奨する。
文 献
- 1)
- Mankin HJ, Mankin CJ, Simon MA. The hazard of the biopsy, revisited. Members of the Musclerskeletal Tumors Society. J Bone Joint Surg Am 1996 ; 78 : 656-63.
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- Navarro S, Cavazzana AO, Llomobatt-Bosch, et al. Comparison of Ewing’s sarcoma of bone and peripheral primitive neuroepithelioma. An immunocytochemical and ultrastructual analysis of two peripheral primitive neuroectodermal neoplasms. Arch Pathol lab Med 1994 ; 118 : 608-15.
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- CQ2
- 推奨される手術法(切除範囲)は
背 景
切除の際の切除縁の違いによる再発率に関して検討した。
- 推奨グレード1A
- ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)に対して,手術単独で局所治療を行う場合には,他の骨・軟部肉腫の手術と同様に広範切除を行うことを強く推奨する。
解 説
十分な広範切除以上の切除縁が達成された患者では,不十分な切除縁しか得られず術後に放射線治療を追加した場合よりも局所再発率が低いとの報告が多い1, 2)。
文 献
- 1)
- Paulussen M, Ahrens S, Dunst J, et al. Localized Ewing tumor of bone : final results of the cooperative Ewing’s Sarcoma Study CESS 86. J Clin Oncol 2001 ; 19 : 1818-29.
- 2)
- Schuck A, Ahrens S, Paulussen M, et al. Local therapy in localized Ewing tumors : results of 1058 patients treated in the CESS 81, CESS 86, and EICESS 92 trials. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2003 ; 55 : 168-77.
- CQ3
- 限局例における外科切除縁と放射線照射線量の関係は
背 景
ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)は放射線感受性が高い腫瘍であり,放射線治療は化学療法の導入以前より標準治療の一部として応用されてきた。放射線治療の線量については50〜60 Gy が根治線量であるが,手術の切除度合や初期(術前)化学療法の効果により臨床試験ごとに幅があるのが現状であり,各臨床試験における線量に関して検討した。
- 推奨グレード1B
- 不十分な広範切除以下で初期(術前)化学療法の効果が不十分な場合や,辺縁切除,部分切除の場合は,術後照射を行うことが推奨される。
解 説
Ozaki らは,ユーイング肉腫共同研究(CESS)-81・86・91 の外科療法情報が利用できる限局例244 例を後方視的に検討している1)。局所再発率は,放射線治療単独例の102 例中15 例(15%)に対し,手術施行例241 例中10 例(4%)で有意に低かった。
根治切除例では遠隔転移は認められたが,局所再発はなかった。根治切除と広範切除(腫瘍反応層より2〜3 cm 外側に切除縁を設定して切除)を適切切除と定義し,辺縁切除と腫瘍内切除を不適切切除と定義して切除度合による局所再発を検討すると,適切切除では177 例中8 例(5%)であったのに対し,不適切切除では67 例中8 例(12%)と局所再発率に有意差を認めていた。
化学療法の組織学的治療効果と予後の関係では,CESS-86 で組織学的反応良好群の10 年無病生存率(DFS)が64%であったのに対し,組織学的反応不良群では38%と差がみられたとの報告があり2),組織学的治療効果も予後因子と考えられている。
Schuck らは,CESS-81・86,欧州ユーイング肉腫共同研究(EICESS)-92 の1,058 人に対する切除縁と放射線治療との予後に関して検討している3)。広範切除後の非照射群における再発は,組織学的奏効度良好群101 例中1 例(1%)に対し,不良群では25 例中3 例(12%)と増加していた。広範切除後の術後照射群における再発は,組織学的奏効度良好群89 例中5 例(5.6%)に対し,不良群でも59 例中3 例(5%)であった。以上より広範切除であっても組織学的奏効度が不良な場合は,局所放射線治療が有効であると報告している。
広範切除以上で初期(術前)化学療法の効果が十分な場合は術後照射の必要性がなく,不十分な広範切除以下で初期(術前)化学療法の効果が不十分な場合や,辺縁切除・部分切除の場合は,局所制御が良好な術後放射線治療を併用することが推奨される。
文 献
- 1)
- Ozaki T, Hillmann A, Hoffmann C, et al. Significanse of Surgical Margin on the prognosis of patients with Ewing’s sarcoma. Cancer 1996 ; 78 : 892-900.
- 2)
- Paulussen M, Ahrens S, Dunst J, et al. Localised Ewing tumor of bones : Final results of the cooperative Ewing’s sarcoma study CESS 86. J Clin Oncol 2001 ; 19 : 1818-29.
- 3)
- Schuck A, Ahrens S, Paulussen M, et al. Local therapy in localized Ewing tumors : result of 1058 patients treated in the CESS 81, CESS 86, and EICESS 92 trials. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2003 ; 55 : 168-77.
- CQ4
- 限局例に対する標準的化学療法は
背 景
限局性ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)では,診断時に微小な転移を有していることが多いため,放射線治療や手術といった局所的な治療に加えて多剤併用化学療法を併用した集学的治療が必要である。標準的化学療法は,1980 年代から主に米国と欧州でそれぞれ大規模な臨床試験が行われ開発されてきた経緯がある。
- 推奨グレード1A
- 限局例に対する化学療法はビンクリスチン(VCR),ドキソルビシン(DXR),シクロホスファミド(CPA),アクチノマイシン(ACD),イホスファミド(IFM),エトポシド(ETP)のうち4〜6 剤を組み合わせた多剤併用化学療法が強く推奨される。ただし,適切な局所療法を併用することが必要である。
解 説
米国国立がん研究所(NCI)によるNCI-INT0091 においてVCR+DXR+CPA+ACD を組み合わせたVACD 療法とIE 療法(IFM+ETP)の交替療法とVACD 単独療法との前方視的ランダム化比較試験が行われ,VACD+IE 群の5 年無病生存率(DFS)が69%,VACD 単独群が54%と,VACD+IE 群で有意に治療成績の改善が得られた1)。さらに,その後行われた米国小児がんグループ(COG)AEWS0031 ではVDC+IE 療法を治療期間圧縮(2 週間ごと)群と標準治療期間(3 週間ごと)群で比較した前方視的ランダム化比較試験で,治療期間圧縮群で5 年無増悪生存率(PFS)が有意に改善し(73% vs. 65%,P=0.048),しかも,毒性は同等であった2)。
欧州では,ユーイング肉腫共同研究(CESS)-86 により,四肢発症の標準リスク(SR)群に対するVCR+ACD+CPA+DXR(VACA)や,体幹部発症の高リスク(HR)群に対するVCR+ACD+IFM+DXR(VAIA)などの化学療法の有効性が示された3)。また,欧州ユーイング肉腫共同研究(EICESS)のEICESS-92 により,四肢原発で腫瘍体積が100 mL 以下をSR 群,体幹部原発もしくは腫瘍体積が100 mL 以上をHR 群として,SR 群をVAIA 療法とVACA 療法に,HR 群をVAIA 療法とETP+VCR+ACD+IFM+DXR(EVAIA)にランダマイズし比較した4)。SR 群のVAIA 療法とVACA 療法の5 年DFS は68%と67%と有意差を認めなかったが,VACA 群で血液毒性が強く,SR 群ではVAIA が推奨された。一方,転移を有さないHR 群ではVAIA 療法とEVAIA 療法を比較すると,5 年DFS はそれぞれ44%,52%で,EVAIA 療法群の成績が良好であった。これにより,転移を認めないHR 群では,ETP を加えた治療が推奨された。最近のEuro-Ewing 99 においては4 剤(VCR+IFM+DXR+ETP)を使用したVIDE 療法が寛解導入療法に使用されている。
米国ならびに欧州の限局性ESFT 臨床研究においては,化学療法に加えて外科療法,放射線治療についても規定されており,適切な局所療法と化学療法の併用が治療成績を向上させるために重要である(局所療法についてはCQ2,CQ3,CQ7 参照)。
上述の通り,米国でも欧州でも限局性ESFT に対する標準的化学療法においてはETP が使用されるようになってきたため,治療関連二次がんの増加に注意が必要である。以前は放射線照射野からの二次性腫瘍が主であったが,最近,米国からアルキル化剤やアントラサイクリンを増量した強化レジメンの使用により,二次性白血病,骨髄異形成症候群の発症が増加したことが報告された。一般的にはESFT の二次性白血病の発生率は1〜2%であると考えられているが,Bhatia らは,強化レジメン(regimen C)により二次性白血病,骨髄異形成症候群の累積発症率が5 年で11%に上昇していることを明らかにした5)。強化レジメンではETP の増量はされておらず,アルキル化剤(CPA,IFM),アントラサイクリン系(DXR)の強化が二次性白血病,骨髄異形成症候群の発症に関与したものと考えられた。また,アルキル化剤の増量による治療成績の改善はみられなかった。欧州からは,ETP を含んだレジメン(EVAIA)による5 年二次性腫瘍累積発症率が1.7%であるのに対し,ETP を含まないレジメン(VAIA,VACA)で治療を受けた群の5 年二次性腫瘍累積発症率が0%であったことからETP が二次性腫瘍の発症にかかわっている可能性が示唆されたが,統計学的な有意差はみられなかった6)。
以上から,二次性白血病・骨髄異形成症候群の問題はあるが,限局性ESFT に対しては,ETP を加えた化学療法の有効性は明らかであり,米国では2 週間間隔のVDC+IE 療法が,欧州ではSR 群にはVAIA 療法,転移を有しないHR 群にはEVAIA 療法が推奨されている。
文 献
- 1)
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- CQ5
- 限局例に対する初回化学療法後の組織学的治療効果と予後との関係は
背 景
化学療法に対する組織学的治療効果は,治療反応性を反映するものと考えられ,主に欧州の臨床研究において組織学的治療効果と予後との相関について検討されてきた。
- 推奨グレード1C
- 限局性ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)の初回化学療法後の組織学的治療効果は予後と相関する。
解 説
イタリアのPicci らは,1997 年に限局性ESFT の118 例の初回化学療法の反応性の術後組織学的奏効度をgrade ⅠからⅢまでに分類し,予後との相関を後方視的に検討した1)。彼らは全範囲で壊死を認めるgrade Ⅲでは5 年無病生存率(DFS)は95%であったが,grade Ⅰ(壊死が50%未満),grade Ⅱ(壊死が50〜90%)の5 年DFS はそれぞれ34%,68%であり統計学的に有意差を認めたと報告した。
1998 年に米国のスローンケタリング記念がんセンター(MSKCC)からWunder らが,限局性ESFT の初回化学療法の反応性の術後組織学的奏効度と,5 年DFS を後方視的に比較した2)。彼らは14 例のgrade Ⅰの5 年DFS は0%,16 例のgrade Ⅱの5 年DFS は37.5 % であり,44 例のgrade Ⅲ(壊死が90〜99 %) とgrade Ⅳ(壊死が100%)の5 年DFS は84%と有意に良好であると報告した。
Paulussen らは,2001 年に欧州での301 名を対象とした大規模な臨床研究(CESS 86)にて組織学的反応良好群の10 年DFS が64%であったのに対し,組織学的反応不良群においては38%と差がみられたと報告し,組織学的奏効度は予後に密接に関連する可能性が高いと考えられた3)。残念ながら米国小児がんグループ(COG)の大規模臨床研究では術後組織学的奏効度と予後との関連は報告されていない。
Dunst らは欧州ユーイング肉腫共同研究(EICESS)において,広範切除を受けた限局性ESFT の組織学的奏効度と局所再発の関連について後方視的に検討した4)。外科療法のみの群においては広範切除+組織学的反応良好群の局所再発は1%であったのに対し,広範切除であっても組織学的反応不良群においては局所再発率が12%となることを報告している。また,彼らは広範切除+組織学的反応不良群に対して,術後放射線治療を加えた群では局所再発率は6%と低下することを示した。術前化学療法の組織学的奏効度が局所再発の制御においても重要な役割を果たしている可能性が示唆される。
Hawkins らはESFT におけるFDG-PET/CT による治療反応性の評価を行い,SUV(standardized uptake value)2 が2.5 未満の症例では4 年無増悪生存率(PFS)が72%であったのに対し,2.5 以上の症例では27%と有意に不良であることを報告した5)。また,組織学的奏効度とは68%で相関した。しかし,PET/CT による治療効果判定が,組織学的治療効果判定に代替できるものかどうかは,今後,前向き研究において検証されなければならない。
いずれの研究も後方視的解析であり,選択バイアスが加わっている可能性もあるため,エビデンスレベルは高くはないが,術前化学療法の組織学的奏効度はそれぞれの症例における化学療法の反応性を反映しており,予後とも相関するものと考えられる。
文 献
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- CQ6
- 限局例における骨髄への微小転移による全身再発への影響は
背 景
ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)に特異的な融合遺伝子(EWS/FLI1 またはEWS/ERG)が報告されて以来,診断時の末梢血や骨髄血中に腫瘍細胞特異的な融合遺伝子が検出されることが報告されている。診断時の骨髄や末梢血中に検出される微小な腫瘍細胞の存在と予後の関係に関しては,検討された症例数が少なく,かつ多くは後方視的研究であるため,予後に与える影響については明確な結論は得られていない。
限局性ESFT の診断時,あるいは治療中の骨髄中の微小転移や末梢血中の循環腫瘍細胞が全身再発に関係するかを検索した。
- 推奨グレード2C
- 限局例における骨髄での融合遺伝子の検出が全身再発に影響するかどうかは,明らかでない。
解 説
Delattre ら1)によりESFT に特異的な融合遺伝子(EWS/FLI1 またはEWS/ERG)が報告されて以来,骨髄,末梢血中にもこれらの融合遺伝子が検出されることが報告2, 3)され,それらの症例の予後に関して,後方視的な解析による報告がされている。
Fagnou ら4)は,67 例のESFT 患者(限局例44 例,転移例23 例)において,診断時に骨髄または末梢血中の融合遺伝子(EWS/FLI1 またはEWS/ERG)の有無をRT-PCR 法を用いて検査し,予後との関係に関して検討した。骨髄中の陽性例(限局例8 例,転移例6 例)の方が陰性例より全生存率(OS)は有意に低かったが,末梢血中の有無はOS には影響しなかった。
Schleiermacher ら5)は,後方視的にESFT 患者172 人(限局例125 例,転移例47 例)の診断時の骨髄または末梢血中の融合遺伝子(EWS/FLI1 またはEWS/ERG)をRT-PCR 法で検索した。骨髄検査では融合遺伝子は転移例39 例中18 例(46%),限局例92 例中18 例(19%)に検出され,転移例で有意に高頻度であった。骨髄中の融合遺伝子の陽性例と陰性例を無病生存率(DFS)で比較すると,有意に陽性例が予後不良であったが,末梢血中の融合遺伝子は,陽性例と陰性例との比較ではDFS に有意差はなかった。この中で,診断時の融合遺伝子の有無は予後に関係していると報告されているが,予後との関連性は観察期間や対象例数の違いによるものである可能性がある.
Avigad ら6)は,限局性ESFT26 例で,骨髄,末梢血のEWS/FLI1 の検出が,再発に関係する因子となりうるかどうかを検討している。診断時,14 例に骨髄検査を試行,うち6 例(43%)にRT-PCR 法でEWS/FLI1 が検出されているが,DFS には関係しなかったと報告している。一方,治療終了時に,骨髄または,末梢血中の融合遺伝子が検出されることは,再発の危険因子になりうると報告している。この研究は,治療終了後経過観察中のRT-PCR での融合遺伝子陽性を予後不良因子に挙げている。
以上のように,診断時に末梢血や骨髄血中のESFT に特異的な融合遺伝子をRT-PCR 法により検出することで明らかとなる微小な腫瘍細胞の存在が,予後に関係するかに関しては議論のあるところである。論文数が少なくいずれも後方視的な報告であり,検討された症例数も少ないため,予後に与える影響については明確な結論は得られていない。
文 献
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- CQ7
- 骨盤原発の限局例に対する適切な局所治療は
背 景
骨盤原発のユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)に対する治療は,外科療法や放射線治療に制限があり,十分に局所制御ができるとは限らないために予後不良といわれている。骨盤原発のESFT の治療成績について検討した。
- 推奨グレード2C
- 骨盤原発のESFT は,安全な切除縁が確保できれば術後患肢機能,局所制御はある程度計算でき,切除を行うことが考慮される。ただし,生命予後については,切除が可能でも術前化学療法の効果が不十分な症例では不良である。放射線単独治療のみに比べると,切除術を行った方が予後良好と考えられるが,厳密にはランダム化比較試験による検証が必要である。
解 説
Bacci らは77 例の限局例骨盤ESFT に集学的治療を行い,局所治療として手術のみ5 例,放射線治療のみ60 例,手術と術後照射を12 例に行った。19 例に局所再発,24 例に遠隔転移を認め,5 年無病生存率(DFS)は45%で,骨盤外発生のものと比べて予後不良であったと述べている1)。
Rödl らは35 例の骨盤発生のESFT に対し手術と放射線治療(術前あるいは術後)を施行した症例を検討し,限局例での5 年累積生存率は49%であったとしている。局所再発は辺縁切除例のみから2 例に発生したと報告しており,骨盤例においても可能であれば広範切除が重要と考えられる2)。
Donati らは,56 例の遠隔転移のない骨盤原発ESFT の治療成績について報告し,局所再発率は手術例(補助的放射線治療例を含む)で17.4%,放射線治療のみでは33.3%であり,5 年DFS は手術例(補助的放射線治療例を含む)で有意に良好で73.9%,放射線治療のみでは30.3%であったとしている3)。腫瘍体積,原発部位はDFS に有意な影響がなかったとしているが,腫瘍体積の小さな症例では手術が,腫瘍体積の大きな症例では放射線治療のみが選ばれる傾向があり,厳密には,手術と放射線治療のどちらもランダム化比較試験による検討が必要であるとしている。また補助的放射線治療の効果については,術前照射は腫瘍の縮小により,局所の根治性を高めることが期待できるとしているが,十分な切除縁が得られなかった場合の補助的照射の効果は期待できない可能性があると述べている。
限られた文献の検討であるが,いずれの報告においても,骨盤原発のESFT の治療の最も重要なものは化学療法としているが,局所治療については安全な切除縁が確保できるものであれば,手術が望ましいとしている。安全な切除縁が確保できない場合,術前の放射線治療が奏効すれば手術可能になる場合がある。放射線治療のみによる治療は,手術不能な患者に対してのみ考慮されてもよいと考えられる。
文 献
- 1)
- Bacci G, Ferrari S, Mercuri M, et al. Multimodal therapy for the treatment of nonmetastatic Ewing sarcoma of pelvis. J Pediatr Hematol Oncol 2003 ; 25 : 118-24.
- 2)
- Rödl RW, Hoffmann C, Gosheger G, et al. Ewing’s sarcoma of the pelvis : combined surgery and radiotherapy treatment. J Surg Oncol 2003 ; 83 : 154-60.
- 3)
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- CQ8
- 肺転移例に対する全肺照射は有効か
背 景
転移性ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)の肺転移例に対し,全肺照射による生存率への寄与を検討した。
- 推奨グレード2C
- 肺転移のある患者では,全肺照射による生存率の向上が示唆される。
解 説
Paulussen らは,1990〜1995 年までの欧州ユーイング肉腫共同研究(EICESS)に登録された肺または胸膜に転移を認めた171 人に対し,14 歳以下は15 Gy,14 歳以上は18 Gy の全肺照射の施行例と非施行例との予後の比較を行った1)。5 年無病生存率(DFS)は全肺照射施行例の40%に対し,非施行例は19%と全肺照射を行った方が有意に高かった(P<0.05)。
全肺照射の合併症として考えられているのは,肺機能低下や肺炎,胸郭成長障害および心機能への影響である。Bölling らは,1990〜1999 年までにEICESS-92 に登録された肺転移を認めた99 例に関して後方視的検討を行った2)。この研究では,肺転移のある症例は,化学療法で病巣がコントロールされていても両側の全肺照射(14 歳未満は14 Gy,14 歳以上は18 Gy)を推奨している。照射線量が12〜21Gy であったこの研究では,全肺照射例に対して肺機能検査を行っている。検査を行った28 例中12 例(43%)の患者は,特に肺機能異常は認めなかったが,残りの16 例(57%)では何らかの肺機能異常を認め,うち2 例は重症であった。肺機能異常の出現率は照射線量による差は認めなかった。この研究でも5 年全生存率(OS)は,全肺照射例の方が非照射例より良好(61% vs. 49%,P=0.036)であった。
近年の放射線治療の進歩により,全肺照射においても強度変調放射線治療(intersity modulated radiation therapy:IMRT)による心臓線量の低減が報告されている3)。
以上より,肺転移を併発した患者では,化学療法の治療効果にかかわらず,全肺照射を実施した方が予後は良好な傾向にある。全肺照射を行う場合は,12〜14 Gy が照射線量として提案される。しかし,放射線治療による肺機能異常の出現率は50%を超える報告もあり,十分注意する必要がある。
文 献
- 1)
- Paulussen M, Ahrens S, Burdach S, et al. Primary metastatic (stage IV) Ewing tumor. Survival analysis of 171 patients from the EICESS studies. Ann Oncol 1998 ; 9 : 275-81.
- 2)
- Bölling T, Schunk A, Paulessen M, et al. Whole lung irradiation in patients with exclusively pulmonary metastases of Ewing tumors. Toxicity analysis and treatment results of the EICESS-92 trial. Strahlenthr Onkol 2008 ; 184 : 193-7.
- 3)
- Kalapurakal JA, Zhang Y, Kepka A, et al. Cardiac-sparing whole lung IMRT in children with lung metastasis. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2013 ; 85 : 761-7.
- CQ9
- 転移例に対する標準的治療は
背 景
現時点において転移例に対して高い有効性が期待できる化学療法は存在しない。欧米の臨床研究において,ビンクリスチン(VCR)+ドキソルビシン(DXR)+シクロホスファミド(CPA)によるVDC 療法とイホスファミド(IFM)+エトポシド(ETP)によるIE 療法の交替療法,もしくはVCR+アクチノマイシン(ACD)+IFM+DXR によるVAIA 療法に外科療法,放射線治療を組み合わせた集学的治療を行うと一時的に寛解,もしくは部分寛解に至るが,全生存率(OS)は20%前後と不良である1, 2)。造血細胞移植併用大量化学療法が行われているが,治療成績が改善したという明らかなエビデンスは得られていない。転移例に対する自家造血細胞移植(autologus stem celltransplantation:ASCT)を併用した大量化学療法の有効性について検討した。
推奨1
- 推奨グレード2B
- 転移例に対して有効な標準的治療は確立してない。
解 説 1
米国では2004 年にMiser らが転移を有するユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)症例120 人に対しVCR+ACD+DXR+CPA 療法とIE 療法の交替療法と,VCR+ACD+DXR+CPA 単独療法の前方視的ランダム化比較試験を行い,IFM+ETP を加えても治療成績は改善しなかったと報告した1)。ただし,この研究では毒性(治療関連死亡,二次がん)についての差はみられなかった。その後,彼らは,転移性ESFT60例に対し,標準的なVACD+IE 療法の投与量に薬剤を増量し治療を行ったが,6 年無病生存率(DFS)は28%で治療成績の改善は認めなかった。また,7%に治療関連死を認め,9%に二次がんを発症し,薬剤投与量の増量による治療の強化は,標準治療と比較し無効であったと報告している3)。
スローンケタリング記念がんセンター(MSKCC)のKushner ら4)は,36 例のESFT に用量を強化したレジメンであるP6 高用量CDV(CPA 4.2 g/m2,DXR 75 mg/m2,VCR 2 mg/m2)とIE(IFM 1.8 g/m2,ETP 100 mg/m2)を行った。原発部位に対する治療反応性は良好であったが,全身転移例では予後の改善は得られなかった。
欧州ユーイング肉腫共同研究(EICESS)のEICESS-92 5)においても,高リスク群をVAIA 療法とETP を加えたEVAIA 療法に振り分け,転移例について検討したところ,転移群ではEVAIA 療法の有効性は証明できなかった。
Euro-Ewing 99 R3 6)により初発時に多発転移を有する群に対する6 コースのVCR+IFM+DXR+ETP 療法(VIDE),1 コースのVCR+ACD+IFM(VAI),外科療法+放射線治療による局所制御,大量化学療法からなる集学的治療の効果が検討された。3 年DFS は27%で,多変量解析によりリスク因子が明らかにされた。リスク因子として,年齢が14 歳以上,腫瘍体積が200 mL 以上,2 つ以上の骨転移,骨髄転移に加えて肺転移の存在が挙げられた。それぞれポイント化しスコアを算出すると,スコア3 以下の症例の無イベント生存率(EFS)は50%,スコア3 以上5 未満の症例のEFS は25%,スコア5 以上の症例のEFS は10%であった。このような手法により非常に予後不良な超ハイリスク群を早期に明らかにし,新規の治療を臨床試験として試みていくことも治療成績を向上させるために重要であると考えられる。
以上より,転移例に対する有効な化学療法は確立されておらず,欧米の臨床研究では,化学療法を強化しても,限局例に対する標準的化学療法と差を認めないことから,現時点では限局性に用いられている標準的化学療法を行うことが多い。
推奨2
- 推奨グレード2C
- 転移例に対して,化学療法に反応性が良く,移植時に完全寛解の場合は,自家造血細胞移植併用大量化学療法を行うことは有効である。
解 説 2
造血細胞移植併用大量化学療法は,現在でも有効性に関しては議論のあるところである。欧米から数々の造血細胞移植併用大量化学療法に関する報告がされているが,いずれも少数例の後方視的解析による報告が多い。
1990 年代に行われた全身放射線照射(total body irradiation:TBI)を併用した大量化学療法の成績では,Meyers ら7)が,前方視的検討による23 人の診断時,骨,骨髄に転移のある患者に大量のメルファラン(MEL),ETP,TBI(12 Gy)を併用した治療を行ったが,2 年無病生存率(DFS)は20%と効果は認められなかった。またBurdach ら8)は,meta EICESS において36 名の進行例に対しtandem(2 回または複数回)MEL/ETP(tandem ME)とhyper MEL/ETP/TBI(hyper ME)の自家移植と同種移植を行い比較検討した。5 年無イベント生存率(EFS)は,tandem ME,hyper ME では,それぞれ29%と22%で有意な差を認めず,tandem ME ASCT の有効性は証明できなかった。またTBI 併用レジメンおいては,治療による毒性死が多かった。
一方,2000 年代に報告された臨床研究では,大量化学療法施行例の内,予後不良例や転移例などでも化学療法に反応性が良く,CR 時に移植した症例は,治療成績の改善を認めたという報告9-11)もみられる。Oberlin ら9)は,75 例の転移例に対し移植前処置に大量ブスルファン(BU)にMEL を併用したASCT の成績を報告した。5 年DFS は47%で,肺のみ転移44 例は52%,骨のみ転移22 例は36%であったが,骨髄転移23 例のうち生存例は1 例のみであった。予後因子を多変量解析すると,年齢が15 歳以上,診断時の発熱,骨髄転移が予後不良因子であった。このことから,肺のみ,または,骨のみの転移であれば,大量化学療法は有効と考えられると報告している。
大量化学療法には様々な薬剤が用いられているが,BU,MEL を用いた前処置が良い成績9, 10)を得ている。Tandem ASCT の適応に関しては,局所治療ができない症例に効果があるという報告12, 13)がある。
同種造血細胞移植の報告では,Tiel ら14)が,欧州骨髄移植グループ(EBMT)とmeta EICESS に登録された同種細胞移植87 例を後方視的に解析している。移植前処置の大量化学療法に関して50 例のRIC(reduced-intensity conditioning)群と37 例のHIC(high-intensity conditioning)群に分けて予後を比較検討している。HIC 群よりRIC 群の方が移植合併症死は減少したが,移植後再発死が増加しRIC 群での治療成績の改善は認められず,現時点では,臨床的に効果のあるGvETE(graft-versus Ewing tumor effect)は観察されなかったと報告している。
以上の結果から全ての転移例に自家造血細胞移植併用大量化学療法は推奨できるだけの十分な根拠がない。後方視的であるが,移植時に転移巣も含め完全寛解例に対するASCT の有効性の報告はある。
文 献
- 1)
- Miser JS, Krailo MD, Tarbel NJ, et al. Treatment of metastatic Ewing’s sarcoma or primitive neuroectodermal tumor of bone : evaluation of combination ifosfamide and etoposide--a Children’s Cancer Group and Pediatric Oncology Group study. J Clin Oncol 2004 ; 22 : 2873-6.
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- 5)
- Paulussen M, Craft AW, Lewis I, et al. Results of EICESS-92 Study : two randomized trials of Ewing’s sarcoma treatment--cyclophosphamide compared with ifosfamide in standard-risk patients and assessment of benefit of etoposide add to standard treatment in high-risk patients. J Clin Oncol 2008 ; 26 : 4385-93.
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- 7)
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- CQ10
- 再発例の治療法は
背 景
再発ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)の全体的な予後は非常に不良であり5年全生存率(OS)は13〜17%程度である1-4)。Rodriguez-Glindo らは,診断後2 年以内の再発例の5 年OS は5%と不良であるが,2 年以後の再発例では5 年OS は34.9%と比較的良好であったと報告した1)。Bacci 2),Stahl 4),Barker 5)らも同様の報告をしており再発までの期間が最も重要な予後因子と考えられる。また,局所もしくは遠隔の孤発性再発よりは局所+複数の遠隔転移を有して再発する方が予後不良である3, 4)。
- 推奨グレード2C
- 再発ESFT に対する有効性が高い標準的治療は確立していない。
解 説
再発例に対しては,標準的化学療法は確立していないが,一般的にはビンクリスチン(VCR),ドキソルビシン(DXR),シクロホスファミド(CPA),アクチノマイシン(ACD),イホスファミド(IFM),エトポシド(ETP)などを組み合わせたVACD+IE 療法やVCR,ACD,IFM,DXR を組み合わせたVAIA 療法などの標準的化学療法に放射線治療や外科療法を組み合わせて行われることが多い。しかし,DXR は,初発時に十分な化学療法が行われた再発症例に対しては心筋毒性を考慮すると使用が困難であることが多い。再発時には腫瘍の化学療法抵抗性も強くなっているため,上述したように予後は非常に不良である。
エビデンスレベルは低いが,有効性が期待できる可能性がある化学療法はいくつか検討されている。米国のVan Winkle らの報告によれば,IFM+ETP に白金製剤であるカルボプラチン(CBDCA)を加えたICE 療法の奏効率は48%,2 年OS は33%であった6)。その他には,イリノテカン(CPT-11)とテモゾロミド(TMZ)の併用療法7),CPA とトポテカンの併用療法8)(TC 療法),ゲムシタビン(GEM)とドセタキセルの併用療法9)などの有効性が報告されている。
米国のBarker らは,後方視的に55 例の再発ESFT を解析し報告している5)。再発時の化学療法はアントラサイクリンを含まないIE 療法もしくはICE 療法,TC 療法などが主に使用されていた。再発後に化学療法を受けた患者のうち49%が完全寛解(CR)や部分寛解(PR)を得,化学療法に反応した患者の5 年OS は46%で,反応しなかった患者の5 年OS の0%と比べて有意に良好であった。化学療法に反応がみられた患者27 人のうち,13 人が造血細胞移植併用大量化学療法を受けた。化学療法に反応したが造血細胞移植併用大量化学療法を受けなかった14 人の5 年OS は21%であったのに対し,造血細胞移植併用大量化学療法を受けた患者の5 年OS は77%で有意に(P=0.018)良好であった。ただし,この研究は後方視的な解析で,症例数が少なく,強い選択バイアスが存在すると考えられる。
造血細胞移植併用大量化学療法に関して,以前は明らかな有効性が確認できないという報告が多かったが,Rasper らが2014 年にユーイング肉腫共同研究(CESS)の症例239 人を後方視的に解析し,有効性を報告している10)。造血細胞移植併用大量化学療法を受けた患者73 名の2 年無イベント生存率(EFS)は45%であったのに対し,受けない群161 人の2 年EFS は10%であった。特に早期再発した患者においては造血細胞移植併用大量化学療法群の2 年EFS が35%であったのに対し,造血細胞移植併用大量化学療法を受けない群は2 年EFS が0%であった。晩期の再発例では両群間に有意差はなく,造血細胞移植併用大量化学療法は早期再発群により有効であった。また,化学療法が奏効した68 人に対して多変量解析を行い,造血細胞移植併用大量化学療法を受けないことが独立した予後不良因子(hazard ratio;2.90)であることが判明した。以上から,再発後化学療法が有効であった症例に関しては造血細胞移植併用大量化学療法により予後の改善が期待できる可能性が示された。
転移性の再発ESFT では,インスリン様成長因子1 受容体(IGF1R)に対するモノクローナル抗体により,約10%に奏効が得られることが報告されている。本薬剤は,初発のESFT 症例に対して,現在,米国でランダム化第Ⅱ相試験が行われている状況である。
以上から,再発ESFT の全体的な予後は非常に不良であり,有効性が高い標準的治療は確立していない。造血細胞移植併用大量化学療法についても有効性を示すエビデンスは乏しいが,化学療法が比較的奏効した再発症例に関しては,造血細胞移植併用大量化学療法のメリットがある可能性が報告されている。
文 献
- 1)
- Rodriguez-Galindo C, Billups CA, Kun LE, et al. Survival after recurrence of Ewing tumors : the St Jude Children’s Research Hospital experience, 1979-1999. Cancer 2002 ; 94 : 561-9.
- 2)
- Bacci G, Ferrari S, Longhi A et al. Therapy and survival after recurrence of Ewing’s tumors : the Rizzoli experiences in 195 patients treated with adjuvant and neoadjuvant chemothearapy from 1979 to 1997. Ann Oncol 2003 ; 14 : 1654-9.
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- 4)
- Stahl M, Ranft A, Paulussen M, et al. Risk of recurrence and survival after relapse in patients with Ewing sarcoma. Pediatr Blood Cancer 2011 ; 57 : 549-53.
- 5)
- Barker LM, Pendergrass TW, Sanders JE, et al. Survival after recurrence of Ewing’s sarcoma family of tumors. J Clin Oncol 2005 ; 23 : 4354-62.
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- CQ11
- 局所治療の晩期合併症は
背 景
ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)に対する局所治療の晩期合併症について検討した。
- 推奨グレード2C
- ESFT に対する放射線治療の晩期合併症は,照射部の筋萎縮,脚長差,放射線治療後の肉腫である。手術,放射線治療に共通する晩期合併症は,脊柱側彎,四肢関節の可動域制限である。
解 説
Paulino らは,治療終了後5 年以上生存が得られたESFT のうち,局所治療による晩期合併症は,放射線治療のみの群では52.6%,手術と放射線治療を併用した群で40%,手術のみの群では25%と報告している。晩期合併症の内訳は,放射線治療では,照射部の筋萎縮,脚長差,放射線治療後肉腫であり,手術および放射線治療に共通するものとして,脊柱側彎,四肢の関節の可動域制限が報告されている1)。
放射線治療に関係したNavid ら2)の報告では,237 例中4 例に二次性固形腫瘍が発症し,照射野に一致して2 例の骨肉腫の発症があり,60 Gy を超えると発症率は有意に高くなる。Kuttesch ら3)の報告でも,局所照射では,48 Gy 以下の線量では二次性肉腫の発症は認めなかったが,60 Gy を超えると発症率は有意に高くなるとされている。
文 献
- 1)
- Paulino AC, Nguyen TX, Mai WY. An analysis of primary site control and late effects according to local control modality in non-metastatic Ewing sarcoma. Pediatr Blood Cancer 2007 ; 48 : 423-9.
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- CQ12
- 化学療法による晩期合併症は
背 景
ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)に対する治療は,アルキル化剤やトポイソメラーゼⅡ阻害薬を含む多剤併用化学療法に放射線治療を併用することにより予後の改善が図られてきた。一方,これら抗がん剤や放射線治療による晩期合併症,それらによる治療関連性の二次がんの報告も散見されるので,これらの治療による合併症に関して検討した。
- 推奨グレード1B
- アルキル化剤による妊孕性の低下,アントラサイクリン系による心機能障害,放射線治療,トポイソメラーゼなどによる二次がんの発症などについて,十分なフォローアップを推奨する。
解 説
ESFT に対する化学療法剤として,シクロホスファミド(CPA),イホスファミド(IFM),ドキソルビシン(DXR),オンコビン,アクチノマイシン(ACD)が用いられることが多い。
アルキル化剤のCPA とIFM は不妊症をきたし,特に男性の造精機能に影響をきたす。CPA で総投与量が7.5 g/m2 を超えると可能性が高くなり1),無精子症に移行する例もある1, 2)。The Childhood Cancer Survivor Study(CCSS)の5 年以上生存したESFT の長期生存者403 名に対し,妊孕性に関して調査したところ,女性は29.7%が妊娠し,男性は11.3%に妊娠させることが可能であったと報告4)している。いずれも同胞と比較すると低い妊孕率である。総投与量が60 g/m2 を超えるとIFM が造精機能障害を発症しやすくなる可能性が高くなる。また,IFM がFanconi 症候群をきたすような長期間続く尿細管障害は3),総投与量45 g/m2 以上だとリスクが高くなる。
アントラサイクリン系のDXR は,用量依存性に心筋障害を起こす。一般的に450 mg/m2 を超えると可能性が高くなる4)が,250 mg/m2 以下でも心筋障害を発症した報告5)がある。また,放射線治療の際,縱隔(心臓)を含んだ場合は総投与量を300 mg/m2 に減量する事を考慮する必要がある。
放射線治療と抗がん剤という大きな危険因子があるESFT の生存者に対して,二次がん発症には十分注意する必要がある。二次がんの発症頻度は0.9〜6%と様々な報告があるが,25 年以上生存した長期生存者の二次がんの発症率は9.0%と報告されている。
放射線治療による治療関連性の代表的二次がんとして骨肉腫があげられる。照射線量が40 Gy を超えると二次がんの発症危険因子は高くなり,10 年後から12 年後6)と比較的晩期に発症することが多い。Navid ら8)の報告では,237 例中4 例に二次性固形腫瘍が発症し,照射野に一致して2 例の骨肉腫の発症があり,60 Gy を超えると発症率は有意に高くなる。Kuttesch ら9)の報告でも,局所照射では,48 Gy 以下の線量では二次性肉腫の発症は認めなかったが,60 Gy を超えると発症率は有意に高くなる。Bacci ら7)の報告では,40〜60 Gy を照射している8 例に放射線関連骨肉腫が発症している。手術で局所治療をコントロールできれば,放射線治療を避けられるか,照射線量を減少させることが可能で,二次がんの発症リスクを減少できると報告している。
抗がん剤によると考えられる治療関連性白血病や治療関連性骨髄異形成症候群(therapy-related myelodysplastic syndrome:t-MDS)は,治療終了後1〜6 年頃と比較的早期に発症することが多い6)。Le Deley ら10)は,アルキル化剤や放射線治療は白血病発症には関与しなかったが,トポイソメラーゼⅡ阻害薬1.2〜6 g/m2 とアントラサイクリン系薬剤170 mg/m2 以上を投与すると,それ以下の症例と比較し,白血病発症危険率は7 倍上昇し,さらにトポイソメラーゼⅡ阻害薬の総投与量が6 g/m2 を超えると白血病発症率が上昇することも報告している。Bhatia ら11)は,1992〜1998 年までに米国小児がんグループ(COG)に登録されたESFT 患者は578 人(フォローアップ期間の中央値は8 年),うち11 人の患者が治療関連性MDS を発症したと報告している。特に各抗がん剤の総投与量の影響は大きく,IFM 90 g/m2 から140 g/m2,CPA 9.6 g/m2 から17.6 g/m2,DXR 375 mg/m2 から450 mg/m2 に増量したレジメンで治療を受けた群では治療関連性MDS の発症が他と比較して16 倍ほど有意に高く,5 年で11%に発症している。IFM 2),CPA,DXR を増量したことが治療関連性MDS の発症リスクを高くしていると報告している。
以上より,抗がん剤による治療関連性白血病は,トポイソメラーゼⅡ阻害薬であるエトポシド(ETP)だけではなくDXR,IFM,CPA などの薬剤の組み合わせでも発症する可能性は高く,十分に注意が必要である。
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- CQ13
- 再発の経過観察の方法は
背 景
ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)治療終了後の再発の経過観察方法について検討した。
- 推奨グレード1B
- ESFT の治療終了後3 年間は2 〜3 カ月ごと,以降治療終了5 年までは6 カ月ごと,その後は少なくとも年に1回の経過観察が必要である。画像検査は,局所の評価と胸部の単純X線あるいはCT 検査を行うべきである。
解 説
再発は,治療後3 年以内に認める場合が多い。ただし,まれに15 年以上経過して再発する場合がある。治療終了後3 年間は2〜3 カ月ごと,以降治療終了5 年までは6 カ月ごと,その後は少なくとも年に1 回の経過観察が必要である。画像検査は,局所の評価と胸部の単純X 線あるいはCT 検査を行うべきである1)。加えて骨転移が疑われる場合には,骨シンチグラフィーが有効である。またFDG-PET/CT やwhole body MRI の有効性も報告されている2)。
文 献
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9章 その他のまれな腫瘍
- はじめに
小児期には多くの種類の腫瘍が,全身の多種多様な組織・臓器に発生する特徴がある。しかも,組織像や発生部位によってその予後が大きく異なるととともに,治療も大きく異なる。以下に示すような腫瘍は,概して頻度はまれであるが,治療方針決定には正確な病理診断と病期の確定が必須であり,こうしたまれな腫瘍の可能性も念頭にいれたうえで,診断・治療計画を迅速に組み立てる必要がある。
- CQ1
- 以下の疾患群の治療方針の決定に必要な分類と検査は
- 乳児型線維肉腫
- 滑膜肉腫
- 胞巣状軟部肉腫
- 悪性ラブドイド腫瘍
背 景
上記の疾患群は,軟部組織から発生する軟部腫瘍に含まれ,全身のあらゆる部位に発生する。疾患に精通した小児腫瘍医,病理医,放射線診断医や小児外科医,整形外科医,皮膚科医といった医師の協力による集学的治療が必須である。また,組織像は多岐にわたることから治療方針の決定には正確な病期の決定と病理診断が必要になる。
推奨1
- 推奨グレード2C
- CT,MRI,核医学検査など各種画像検査を行い,原発巣と転移巣の評価をする。
解 説 1
原発巣に対してはX 線写真,CT,MRI などの画像検査で,腫瘍径,リンパ節,周辺臓器との関係を評価する。遠隔転移に関する評価は骨シンチグラフィーなどの核医学検査が検索に有用である。
小児非横紋筋肉腫性の軟部肉腫(soft tissue sarcoma:STS)に対して標準化された病期分類システムは存在しない1)。歴史的に汎用されている小児の非横紋筋肉腫性STS の病期分類には,横紋筋肉腫共同研究(IRS)で使用されている術後の残存腫瘍量または広がり,および転移の有無に基づいているグループ分類(表1)と,腫瘍の広がり(T),リンパ節(N),および転移の有無(M)を基に病期を判定するTNM 分類(表2)が使用されている2)。
推奨2
- 推奨グレード2C
- 確定診断には生検組織による病理組織診断が必須である。しかし,病理組織診断のみでは正確な診断が確定できないこともまれではなく,そういった場合は腫瘍特異的な遺伝子検査が診断に有用な場合がある。遺伝子検査を念頭に腫瘍組織検体の採取と凍結保存を計画的に行う必要があり,可能な限り十分な量の腫瘍組織を採取することが望ましい。
解 説 2
非横紋筋肉腫性STS は,病理学的に診断することが困難な場合が多い。従来の組織学的検査,免疫組織化学的検査の他,細胞遺伝学的検査や分子病理学的検査などを可能とするには,十分な量の腫瘍組織の計画的な採取と,凍結保存が必要である。これらの疾患群で特異的な免疫組織化学的検査や遺伝子異常を表3 に示す4)。これらの異常はRT-PCR を用いて検出が可能である。また,悪性ラブドイド腫瘍におけるINI1 遺伝子異常は,INI1/BAF47/SNF5 抗体を用いた免疫組織化学的検査で,核内発現の陰性化として確認することができ診断の補助になるが,INI1 の陰性化は類上皮肉腫など他の腫瘍でも認めるため特異的ではない5)。
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10章 腫瘍生検・中枢ルート
- はじめに
小児がん診療ガイドライン2016 年版から「腫瘍生検・中枢ルート」の章を新たに設けることとなった。疾患ごとに章立てされたガイドラインにおいて,横断的に必要とされる診療内容についてのガイドラインといった位置づけである。「腫瘍生検・中枢ルート」ガイドラインは,今回改訂第3 版が出版された「小児白血病・リンパ腫診療ガイドライン2016 年版」にも必要とされる内容も含んでいる。白血病・リンパ腫治療においては,支持療法の一環として中枢ルートの造設・管理が必要となることが多い。また,腫瘤を形成したリンパ腫の診断・分類のためには生検による組織採取が必要である。
腫瘍生検については3 つのCQ を設定した。腫瘍生検の目的を達成するためのサンプルについて,腫瘍生検施行時の合併症について,特に極めてリスクの高い巨大縦隔腫瘍については別立てで記載している。
中枢ルートについては,小児血液・がん患児を対象として,造設方法とその合併症,挿入中の標準的管理法と管理中に生じる合併症について4 つのCQ を設けて記載した。なお,非腫瘍性血液疾患である血友病については,小児血友病患者に対する中心静脈カテーテル使用のコンセンサスガイドラインが日本小児血液・がん学会雑誌(Vol. 52(2015)No. 2 p. G1-G43)に掲載されている。
- CQ1
- 腫瘍生検におけるサンプルのサイズ,質は
背 景
小児固形腫瘍における腫瘍生検の目的を達成するために,必要な腫瘍の量,質を検討した。
- 推奨グレード2C
- 腫瘍生検におけるサンプルのサイズ,質は,考えられる疾患の診断およびリスク判定に必要な量,質が求められる。
解 説
小児固形腫瘍においては,病理組織学的診断のみならず分子生物学的な検索による診断,リスク分類を行うことが必要で,安全かつ有効な生検を行うことが求められる。近年,分子生物学的検索技術の進歩により,より少ないサンプル量で正確な情報を得ることができるようになってきた。さらに,画像診断を併用して小病変や腫瘍内の標的部位に正確にアプローチする技術も進歩している。このような実情に合わせ,近年はcore needle biopsy1, 2)やfine needle aspiration3)による診断が,外科的アプローチによる生検と質的に変わらずより安全,非侵襲的に行うことが可能であるという後方視的検討がなされている。
したがって,腫瘍生検におけるサンプルのサイズ,質については,原則的には開胸や開腹アプローチによる生検を行い,十分な量,質を得ることが望ましい4)が,疑われている疾患に要する腫瘍量や質を考慮し,患児の全身状態,腫瘍のサイズや存在部位に応じて,core needle biopsy などの非侵襲的な生検方法も考慮することが推奨される。
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- CQ2
- 腫瘍生検において注意すべき合併症は
背 景
腫瘍生検において注意すべき合併症を検討した。
- 推奨グレード2C
- 腫瘍生検において注意すべき合併症は,腫瘍の存在部位,性状や大きさ,生検方法によって異なる。
解 説
小児固形腫瘍における腫瘍生検の合併症には様々なものがある。腫瘍からの出血,周囲の臓器・神経・血管の損傷,腫瘍撒布や患児の全身状態に関連した合併症(心不全,呼吸不全,肝不全,腎不全の悪化など)が挙げられる。また,開腹生検を行えば,麻痺性腸閉塞や腹水などの合併症が生じうる。開胸生検では気胸,胸水,横隔神経や反回神経などの神経障害が生じる可能性がある。これら開胸や開腹による生検では,生検後の抗がん剤やステロイド投与による免疫能の低下の影響で創部感染や創部治癒遅延のリスクがある。骨髄転移などにより出血傾向や易感染性に起因する感染症や出血にも留意する必要がある。
以下,部位別および生検方法について述べた報告を記載する。
全身麻酔下の経皮的肺生検においては64%の症例に合併症が生じ,出血(36%),気胸(29%)がその主なもので免疫能の低下や出血傾向がリスク因子であった1)。反面,75 回の経皮的肺生検において1 例のみに緊張性気胸を生じたという報告2)も存在する。
筋および骨病変のイメージガイド下の針生検では,軽微な合併症が127 回の生検のうち6 回しか認められなかったという後方視的検討が報告されている3)。イメージガイド下core needle biopsy のシステマティックレビュー4)によると,正診断率は94%,治療を要した合併症が生じる率は1%であった。進行神経芽腫においては,開胸や開腹による生検と画像ガイドによる針生検で合併症の発生率は同様であったという報告5)がある。
様々な部位の101 回の針生検において合併症なしという報告6)もある。22 回の経皮的肝生検と21 回の経頸静脈肝生検を比較した報告7)では,経皮的肝生検において3 件の出血を認めたが,経頸静脈肝生検では合併症がなかったとされる。
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- CQ3
- 巨大縦隔腫瘍における安全な腫瘍生検方法は
背 景
巨大縦隔腫瘍においては,気道圧迫による気道閉塞により重篤な合併症が生じることから,安全な生検方法について検討した。
- 推奨グレード2C
- 巨大縦隔腫瘍による気道閉塞や上大静脈症候群による合併症に留意し,適切なリスク予測に基づいた生検方法を選択するべきである。
解 説
巨大縦隔腫瘍の生検を行う際には,気道や肺動脈に対する圧迫から気道閉塞や循環虚脱が生じる恐れがあるので,術前に十分なリスク評価を行い,重症度に合わせて麻酔管理を行う必要がある。重篤な合併症は自発呼吸を止める全身麻酔の際に生じていることから,最重症例においては筋弛緩薬を使用せず,自発呼吸を維持しながらの全身麻酔1, 2)または静脈麻酔や局所麻酔の併用を考慮する3-5, 7)。静脈麻酔については近年デクスメデトミジンを使用した報告が散見される6, 7)。
リスク因子としては,気管断面積が50%未満,最大呼気流量が予測値の50%未満,主気管支の閉塞または強い狭小化に加え,急性呼吸困難や呼吸不全を示唆する臨床症状を挙げる報告や,起坐呼吸,上半身の浮腫,大血管の圧迫,胸水,気管圧迫を挙げる報告5)がみられる。
自発呼吸の維持,気管内挿管に備えた気管支鏡,硬性鏡の準備,呼吸状態を維持するための体位(上半身挙上や側臥位など)の工夫も必要とされる。さらにリスクが高い場合,緊急心肺バイパスに備え,大腿動静脈のカニュレーションや体外循環回路の準備を検討する8)。
なお,リスクが高い場合,末梢血,骨髄,胸水,表在リンパ節の採取により診断可能な例もあるため検討すべきである。気道圧迫症状を有する前縦隔腫瘍40 例中,リンパ性白血病およびリンパ腫症例31 例が上記サンプルから診断可能であったという報告がある3)。
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- CQ4
- 中枢ルート造設の方法にはどのようなものがあるか
背 景
小児がん患者に対する治療には長期間にわたり安定した中枢ルートの確保が必須である。多くの患者では安全かつ確実に中枢ルートの造設が可能であるが,度重なる入換えを余儀なくされ末梢静脈が枯渇した患者や血栓・腫瘍によって大静脈系,下大静脈系が閉塞している患者も存在する。そこでこれまでに行われてきた中枢ルート造設方法を検討した。
- 推奨グレード1B
- 主な中枢ルート造設方法にはカットダウン法,静脈穿刺法が挙げられる。
解 説
多くは長期留置型カテーテルとしてダクロンカフ付きのブロビアック/ヒックマンカテーテルまたは皮下埋め込み型中心静脈アクセスポートが用いられる。
1.カットダウン法
外頸静脈,腋窩静脈,大伏在静脈などを切開して直視下にカテーテルを挿入する1)。乳児でも挿入可能であるが,静脈を結紮する必要がある。
2.静脈穿刺法
静脈穿刺法にはランドマーク法と超音波ガイド法がある。ランドマーク法によって主に鎖骨下静脈から挿入されるが,内頸静脈または大腿静脈などが選択される場合もある。年長児に比べて乳幼児では静脈が細いため穿刺が難しい。成人では穿刺の成功率を高めるために超音波ガイド下鎖骨下静脈穿刺法が報告され,小児でも応用されている1, 2)。超音波ガイド下穿刺法は熟練した術者が行うことが推奨されており,新生児でも静脈穿刺は可能であるが,小児用プローベなど特殊な器械が必要である。
3.その他
上大静脈系または下大静脈系が閉塞している患者では,病態に応じて特殊な挿入方法が行われている。開存している静脈によって内胸静脈3),肋間静脈4),奇静脈5),肝静脈6),性腺静脈7),下腹壁静脈4)などから挿入され,上大静脈または下大静脈の直接穿刺法8)も行われる。
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- CQ5
- 中枢ルート造設における合併症とその対策は
背 景
小児がん患者では中枢ルート造設後,速やかに化学療法を開始しなければならない。しかし造設術に関わる合併症が発生すると治療が遅延する。そこで手術合併症を未然に防ぐ対策を検討した。
推奨1
- 推奨グレード1B
- 中枢ルート造設の術後早期合併症として出血,創感染,液漏れ,カテーテル屈曲,位置異常,血管外漏出,縦隔炎などが挙げられる。
推奨2
- 推奨グレード2C
- 対策として,愛護的な手術操作,止血確認,術中抗菌薬投与,創洗浄,術中X 線透視によるカテーテルの位置確認,カテーテルからの逆血・注入の確認,ポートと筋膜との固定が重要である。
解 説
小児がん患者では著しい骨髄抑制をきたしている場合も多く,時に栄養状態が悪い患者も存在する。したがって良性疾患の患者よりも手術合併症の発生率が高い。血小板減少は出血の誘因となり,白血球減少は易感染性をもたらす。出血に対しては愛護的手術操作とともに血小板数の補正と凝固機能の正常化も必要である。また感染予防のために中枢ルートの造設は手術室で無菌的に行うべきである。さらに術中抗菌薬の静脈内投与,閉創前の創洗浄1)が有効であり,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の術前投与も考慮に値する。
液漏れとカテーテル屈曲については,術中にカテーテルに破損がないこと,カテーテルとポートが確実に接続されていること,また逆血と注入を確認することによって予防可能である。
輸液の血管外漏出によって薬剤が縦隔内に注入された場合,重篤な縦隔炎を来す2)。血管外漏出を予防するためには術中X 線透視でカテーテルの先端の位置をみるだけでなく,カテーテルから抵抗なく血液が吸引できることを確認すべきである。たとえ生理食塩水が抵抗なく注入できても逆血が確認できない場合は血管外漏出のリスクがあると考えるべきである。
静脈穿刺法ではさらに動脈穿刺,血胸,気胸,ピンチ・オフ,仮性動脈瘤などが挙げられる。小児では静脈が細いため静脈穿刺法は成人ほど容易ではない3)。従来からランドマーク法が行われており,Karapinar ら3)の前方視的研究では穿刺法の合併症として動脈穿刺8.9%,位置異常7.3%,血腫5.2%,出血3.3%,気胸0.8%が発生し,全体の1.3%で重篤な合併症が発生した。その他,内胸動脈損傷による致死的な血胸4)や仮性動脈瘤5)も報告されている。またカテーテルが肋骨と鎖骨に挟まれることによっておこるピンチ・オフは約1%に発生し,閉塞やカテーテル断裂の原因となる6)。最近では超音波ガイド下穿刺法も報告されているが7),限られた施設の熟練した術者の報告が多く,乳幼児に対するカットダウン法と超音波ガイド下穿刺法の成績に関して大規模なランダム化比較試験の報告はない。
その他,皮下埋め込み型中心静脈アクセスポートでは皮下ポケットの中でポートが180 度反転することがあり,周囲組織に固定するべきである8)。
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- CQ6
- 中枢ルートの標準的管理法は
背 景
年少児の多くは中枢ルートの重要性が理解できず,乳幼児や学童では突然に予測不可能な行動を起こすことがある。小児において中枢ルートを合併症なく長期間維持するためには,適切にカテーテルを管理する必要がある。そこで中枢ルート管理の留意点について検討した。
- 推奨グレード1B
- カフ付きカテーテルでは挿入部を清潔に保ち滅菌ドレープで覆う。薬剤の投与,ルート交換などは無菌的操作で行う。薬剤投与後はヘパリン加生理食塩水でフラッシュし,使用しない場合も定期的にヘパリン加生理食塩水でロックする。乳幼児,学童では特に事故抜去やカテーテルの破損を防ぐように留意すべきである。
解 説
1.挿入部の管理
生後2 カ月以上の患者では皮膚消毒にアルコール添加クロルヘキシジンを用いることが推奨されている(2 カ月未満の患者ではクロルヘキシジンの効果と安全性に関して確認されていない)。クロルヘキシジンが使えない場合はヨードチンキ,ヨードホール,70%アルコールで代用できる。カテーテル挿入部には抗菌薬含有軟膏を使用せず,滅菌ガーゼまたは半透過性透明ドレッシングで覆うことが推奨されている。ガーゼと透明ドレッシングでカテーテル関連血流感染症(catheter-related bloodstream infection:CRBSI)のリスクに差はないが,挿入部の観察には透明ドレッシングが適している。ドレッシングの交換は7 日ごとに行う。
皮下埋め込み型中心静脈カテーテルポートでは皮膚の上からポートのセプタムを穿刺する必要がある。小児用ポートではセプタムの面積が狭いため,同じ場所を頻回に穿刺すると皮膚障害(びらん,潰瘍など)を発生することがある1)。そこでフューバー針の穿刺位置を毎回少しずつ変えることが望ましい。またポート直上の皮膚に発赤がみられたらポートの使用を中止する。
2.カテーテル閉塞の予防
薬剤投与後は血栓予防のためヘパリン加生理食塩水(100 単位/mL)でフラッシュする2)。長期間使用しない場合,カフ付きカテーテルでは1〜2 週間ごと,皮下埋め込み型カテーテルポートでは3〜4 週ごとにヘパリン加生理食塩水を充填している施設が多い。しかし血栓予防のためのヘパリン加生理食塩水充填の適切な間隔については,各施設の経験に基づいて決定されており,推奨される明らかなエビデンスはない。持続ヘパリン点滴(0.5 単位/ kg /時間)はカテーテル閉塞の予防に有効である(Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infection, 2011)。またカテーテルからの採血の可否に関するエビデンスはない。
3.ルート交換,接続
ルート交換,接続,修復,カテーテル挿入部の触診などの前後は手洗いをし,無菌的に行う。血液,血液製剤,脂肪製剤が投与されていない患者では96 時間より短い間隔で輸液セットを交換せず,少なくとも7 日間隔の交換が推奨される(Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infection, 2011)。
4.事故抜去,破損の予防
乳幼児や学童では,日常生活や遊びのなかで予測不可能な行動を起こすことがあり,体外に出ているカテーテルが外力で破損する可能性がある3)。カテーテルから輸液や薬剤を投与している間はルートを引っ張らないように十分留意すべきである。またカテーテルを使用していない時は体外のカテーテルを袋やガーゼで覆って衣服の下に入れで保護すべきである。
5.薬剤を用いた予防的カテーテル洗浄
CRBSI と閉塞の治療法として抗菌薬,エタノール,水酸化ナトリウム,ウロキナーゼ,タウロリジン,アンテプラーゼなどによるカテーテルロックが報告されているが,予防的にこれらの薬剤でカテーテル内を洗浄することの有効性はまだ証明されていない。
文 献
- 1)
- Bass J, Halton JM. Skin erosion over totally implanted vascular devices in children. Semin Pediatr Surg 2009 ; 18 : 84-6.
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- CQ7
- 中枢ルート挿入中の合併症とその対策は
背 景
中枢ルート挿入中に合併症が発生すると治療を中断しなければならず,さらに合併症が解決されなければルートを抜去せざるを得ない。カットダウン法では挿入の度に末梢静脈を結紮する必要があり,挿入可能な血管が減少していく。そこで中枢ルート挿入中のカテーテル関連血流感染症(catheter-related bloodstream infection:CRBSI)と閉塞に対する対策を検討した。
- 推奨グレード1A
- 中枢ルート挿入中の主な合併症として感染と閉塞が挙げられる。感染にはカテーテルから血中に細菌や真菌が侵入するCRBSI と挿入部からのトンネル感染がある。対策としては無菌操作が推奨される。
解 説
中枢ルート挿入中の小児がん患者の約12%はCRBSI が原因でカテーテルが抜去されている1)。また骨髄抑制を合併した小児がん患者ではCRBSI から敗血症や細菌性心内膜炎などの重篤な状態に陥る可能性がある2)。CRBSI の発生率は患者の要因,カテーテルの要因,施設の要因の影響を受ける。まずCRBSI を予防するためには医療従事者に対する感染対策の教育が重要であり,中枢ルートからの薬剤の投与,ルート交換は無菌的に行われるべきである。また中枢ルート管理チームを組織することがCRBSI やその他の合併症を減少させ医療コストの低下に効果的であった。(Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infection, 2011)。
CRBSI の予防と治療にはカテーテルの抗菌薬ロック療法(antibiotic lock technique:ALT),エタノールロック療法(ethanol lock technique:ELT),タウロリジン充填などが挙げられる。血栓による閉塞にはウロキナーゼ充填,アンテプラーゼ充填,薬剤による閉塞には水酸化ナトリウム充填の有効性が報告されている。
CRBSI に対する治療法として従来からALT が第一選択とされ,有効性が報告されてきた3, 4)。一方,成人例の比較検討で成功率はELT 67%,ALT 42%であり5),2003 年にはELT を行った小児例が報告された6)。CRBSI の既往がある患者では予防的ALTが推奨されている。またタウロリジンの有効性も報告されている7)。
血栓によるカテーテル閉塞を予防するにはヘパリン加生理食塩水(100 単位/mL)によるロックが推奨される8)。カテーテルが閉塞した場合,ウロキナーゼ(5,000〜6,000 単位/mL)ロックが行われているが,その他にアルテプラーゼ(組織性プラスミノーゲン活性化因子)による血栓解除法も報告されている9, 10)。また薬物が沈着して閉塞した場合,水酸化ナトリウムによるロックの有用性も報告されているが11),小児に対する大規模な試験はみられない。
文 献
- 1)
- Chen SH, Yang CP, Jaing TH, et al. Catheter-related bloodstream infection with removal of catheter in pediatric oncology patients : a 10-year experience in Taiwan. Int J Clin Oncol 2012 ; 17 : 124-30.
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- Cesaro S, Tridello G, Cavaliere M, et al. Prospective, randomized trial of two different modalities of flushing central venous catheters in pediatric patients with cancer. J Clin Oncol 2009 ; 27 : 2059-65.
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