I 進行期分類
子宮体癌に対する本邦の進行期分類は,FIGO(International Federation of Gynecology and Obstetrics),UICC(Union for International Cancer Control),WHO(World Health Organization)などの国際的機関によって提案された規則を基に,国際標準に準拠した規約にするために『子宮体癌取扱い規約』として日本産科婦人科学会によって策定されてきた。まず,1987 年に最初の『子宮体癌取扱い規約 第1 版』が発刊され,子宮体癌の進行期は手術前に決定される,いわゆる臨床進行期分類が用いられてきた(日産婦1983,FIGO 1982)。その後,1996 年に改訂版の『子宮体癌取扱い規約 第2 版』が発刊され1),術後に進行期を決定する手術進行期分類が採用された。さらに,2008 年にFIGO 進行期の改定案が出され2),本邦では2012 年に日本産科婦人科学会,日本病理学会,日本医学放射線学会,日本放射線腫瘍学会の協力のもと,FIGO 改定案に合わせた『子宮体癌取扱い規約 第3 版』が発刊された3)。しかし,FIGO とWHO の改定は必ずしも呼応するものではなく,2014 年にWHO から新しい組織学的分類が提示された4)。その後,日本産科婦人科学会では最新のWHO 分類を本邦の実情に合わせた新たな取扱い規約を策定し,『子宮体癌取扱い規約 病理編 第4 版』が2017 年7 月に出版された5)。本治療ガイドラインでの本文中の進行期分類に関しては,原則として『子宮体癌取扱い規約 病理編 第4 版』に準じて記載している。第4版での進行期分類は第3 版を基本としているが,注意事項の文言が多少変更となっている。
子宮体部肉腫の進行期分類は,これまで子宮内膜癌の進行期分類(FIGO 1988)が適用され6),1996 年刊行の『子宮体癌取扱い規約 第2 版』に記載されたが1),子宮内膜癌とは異なる本腫瘍のbiological behavior を反映させた進行期分類の必要性が高まり,子宮体部肉腫の進行期分類が新たに作成され,FIGO(2008 年)7)ならびに日本産科婦人科学会(2014 年)8)で承認され『子宮体癌取扱い規約 病理編 第4 版』(2017 年7 月)に掲載された5)。この中で,平滑筋肉腫/子宮内膜間質肉腫と腺肉腫はT1 の分類が異なる点に注意が必要である。なお,癌肉腫は子宮肉腫の進行期分類ではなく,子宮内膜癌の進行期分類を使用することが決められている3,5)。
1.子宮内膜癌
(1)子宮内膜癌 手術進行期分類(日産婦2011,FIGO2008)2,9)
- Ⅰ期:
- 癌が子宮体部に限局するもの
- ⅠA 期:
- 癌が子宮筋層1/2 未満のもの
- ⅠB 期:
- 癌が子宮筋層1/2 以上のもの
- Ⅱ期:
- 癌が頸部間質に浸潤するが,子宮をこえていないもの*
- Ⅲ期:
- 癌が子宮外に広がるが,小骨盤腔をこえていないもの,または所属リンパ節へ広がるもの
- ⅢA 期:
- 子宮漿膜ならびに/あるいは付属器を侵すもの
- ⅢB 期:
- 腟ならびに/あるいは子宮傍組織へ広がるもの
- ⅢC 期:
- 骨盤リンパ節ならびに/あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの
- ⅢC1 期:
- 骨盤リンパ節転移陽性のもの
- ⅢC2 期:
- 骨盤リンパ節への転移の有無にかかわらず,傍大動脈リンパ節転移陽性のもの
- Ⅳ期:
- 癌が小骨盤腔をこえているか,明らかに膀胱ならびに/あるいは腸粘膜を侵すもの,ならびに/あるいは遠隔転移のあるもの
- ⅣA 期:
- 膀胱ならびに/あるいは腸粘膜浸潤のあるもの
- ⅣB 期:
- 腹腔内ならびに/あるいは鼠径リンパ節転移を含む遠隔転移のあるもの
*頸管腺浸潤のみはⅡ期ではなくⅠ期とする。
- ▶︎▶︎注1
- すべての類内膜癌は腺癌成分の形態によりGrade 1,2,3 に分類される。
- ▶︎▶︎注2
- 腹腔洗浄細胞診陽性の予後因子としての重要性については一貫した報告がないので,ⅢA 期から細胞診は除外されたが,将来再び進行期決定に際し必要な推奨検査として含まれる可能性があり,すべての症例でその結果は登録の際に記録することとした。
- ▶︎▶︎注3
- 子宮内膜癌の進行期分類は癌肉腫にも適用される。癌肉腫,明細胞癌,漿液性癌(漿液性子宮内膜上皮内癌を含む)においては横行結腸下の大網の十分なサンプリングが推奨される。
[分類にあたっての注意事項]
- (1)初回治療として手術がなされなかった症例(放射線や化学療法など)の進行期は,MRI,CT などの画像診断で日産婦2011 進行期分類を用いて推定する。
- (2)各期とも腺癌の組織学的分化度/異型度を併記する。
- (3)従来,子宮内膜異型増殖症は日産婦1995 分類により0 期として登録してきたが,FIGO 2008 分類に従い0 期のカテゴリーを削除する。子宮内膜異型増殖症は別に登録を行う。
- (4)所属リンパ節とは骨盤リンパ節(基靱帯リンパ節,仙骨リンパ節,閉鎖リンパ節,外腸骨リンパ節,鼠径上リンパ節,内腸骨リンパ節,総腸骨リンパ節)と傍大動脈リンパ節をいう。
- (5)本分類は手術後分類であるから,従来Ⅰ期とⅡ期の区別に用いられてきた部位別掻爬などの所見は考慮しない。
- (6)子宮筋層の厚さは腫瘍浸潤の部位において測定することが望ましい。
- (7)腹水(洗浄)細胞診陽性は進行期決定には採用しないが,別に記録する。
- (8)従来Ⅱa 期(FIGO 1988)であった頸管腺のみに癌が及ぶものは,FIGO 2008 進行期分類ではⅠ期に分類する。
- (9)従来のⅠa 期(FIGO 1988)(癌が子宮内膜に限局するもの)と筋層浸潤が1/2 未満のものをFIGO 2008 進行期分類ではⅠA 期とし,筋層浸潤が1/2 以上のものをⅠB 期としている。
〔子宮体癌取扱い規約 病理編 第4 版(2017 年),金原出版 より〕
(2)子宮内膜癌 TNM 分類(UICC 第8 版に準じる†)10,11)
TNM 分類 | FIGO 分類 | |
TX | 原発腫瘍が評価できないもの | |
T0 | 原発腫瘍を認めないもの | |
T1 | Ⅰ期 | 癌が子宮体部に限局するもの |
T1a |
ⅠA 期 |
癌が子宮筋層1/2 未満のもの |
T1b |
ⅠB 期 |
癌が子宮筋層1/2 以上のもの |
T2 | Ⅱ期 | 癌が頸部間質に浸潤するが,子宮をこえていないもの |
T3 | Ⅲ期 | 癌が子宮外に広がるが,小骨盤腔をこえていないもの,または所属リンパ節へ広がるもの |
T3a |
ⅢA 期 |
子宮漿膜ならびに/あるいは付属器を侵すもの |
T3b |
ⅢB 期 |
腟ならびに/あるいは子宮傍組織へ広がるもの |
N1, N2* |
ⅢC 期 |
骨盤リンパ節ならびに/あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの |
N1* |
ⅢC1 期 |
骨盤リンパ節転移陽性のもの |
N2* |
ⅢC2 期 |
骨盤リンパ節への転移の有無にかかわらず,傍大動脈リンパ節転移陽性のもの |
T4/M1 | Ⅳ期 | 癌が小骨盤腔をこえているか,明らかに膀胱ならびに/あるいは腸粘膜を侵すもの,ならびに/あるいは遠隔転移のあるもの |
T4** |
ⅣA 期 |
膀胱ならびに/あるいは腸粘膜浸潤のあるもの |
M1 |
ⅣB 期 |
腹腔内ならびに/あるいは鼠径リンパ節転移を含む遠隔転移のあるもの |
*TNM 第8 版で改定された10)。
**胞状浮腫のみでT4 へ分類しない。生検で確認すべきである。
N:所属リンパ節
- NX
- 所属リンパ節に転移を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき
- N0
- 所属リンパ節に転移を認めない
- N1*
- 骨盤リンパ節に転移を認める
- N2*
- 骨盤リンパ節への転移の有無にかかわらず,傍大動脈リンパ節に転移を認める
- ▶︎▶︎注
- TNM 分類UICC 第8 版(日本語版)で,従来 “所属リンパ節” と邦訳されていた “regional lymph node” の用語が “領域リンパ節” と変更されている12)。
M:遠隔転移
- M0
- 遠隔転移を認めない
- M1
- 遠隔転移を認める
[分類にあたっての注意事項]
- ① 初回治療として手術がなされなかった症例(放射線や化学療法など)の進行期は,MRI やCT などの画像診断で進行期分類を用いて推定する。
- ② 下記の検索はT,N,M 判定のための最低必要な検査法で,これが行われていない場合にはTX,NX,MX の記号で示す。FIGO 進行期分類は手術進行期分類に,TNM 分類は臨床的,組織学的分類にそれぞれ基づいている。T カテゴリー:臨床的な検索および画像診断,N カテゴリー:臨床的な検索および画像診断,M カテゴリー:臨床的な検索および画像診断
- ③ pT,pN,pM 分類についてはTNM 分類に準じ,病理学的pTNM が用いられる。
- ④ 手術前に他の治療法が行われている例では,y 記号を付けて区別する。
例:ypT2bpN1M0 - ⑤ 再発腫瘍ではr の記号を付けて区別する。
例:rM1
† TNM 分類UICC 第8 版に関する詳細は,英語版10)ならびに日本語版12)を参照されたい。
〔子宮体癌取扱い規約 病理編 第4 版(2017 年),金原出版 より〕
2.子宮体部肉腫
原発性子宮肉腫の進行期を決定するため,開腹所見による腫瘍の進行度の把握を原則とする。癌肉腫は,子宮肉腫の進行期分類ではなく,子宮内膜癌の進行期分類を使用する。癌肉腫を除く平滑筋肉腫/子宮内膜間質肉腫および腺肉腫に本進行期分類が適用され,組織学的な確定と組織型による分類が必要である。また,平滑筋肉腫/子宮内膜間質肉腫と腺肉腫はT1 の分類が異なる。
(1)平滑筋肉腫/子宮内膜間質肉腫 TNM 分類(UICC 第8 版に準じる†)10)/手術進行期分類
(日産婦2014 8),FIGO 2008 13))
TNM 分類 | 日産婦・FIGO 分類 | |
T1 | Ⅰ期 | 腫瘍が子宮に限局するもの |
T1a |
ⅠA 期 |
腫瘍サイズが5 cm 以下のもの |
T1b |
ⅠB 期 |
腫瘍サイズが5 cm をこえるもの |
T2 | Ⅱ期 | 腫瘍が骨盤腔に及ぶもの |
T2a |
ⅡA 期 |
付属器浸潤のあるもの |
T2b |
ⅡB 期 |
その他の骨盤内組織へ浸潤するもの |
T3 | Ⅲ期 | 腫瘍が骨盤外に進展するもの |
T3a |
ⅢA 期 |
1 部位のもの |
T3b |
ⅢB 期 |
2 部位以上のもの |
N1 |
ⅢC 期 |
骨盤リンパ節ならびに/あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの |
T4 |
ⅣA 期 |
膀胱粘膜ならびに/あるいは直腸粘膜に浸潤のあるもの |
M1 |
ⅣB 期 |
遠隔転移のあるもの |
- ▶︎▶︎注1
- 平滑筋肉腫/子宮内膜間質肉腫では,腫瘍が子宮に限局するⅠ期を,ⅠA 期:腫瘍サイズが5 cm 以下のもの,ⅠB 期:腫瘍サイズが5 cm をこえるものと定義した。
- ▶︎▶︎注2
- 腫瘍が骨盤外の腹腔内組織に浸潤するものをⅢ期とし,単に骨盤内から腹腔に突出しているものは除く。
- ▶︎▶︎注3
- 他臓器の進展は組織学的検索が望ましい。
N:所属リンパ節
- NX
- 所属リンパ節に転移を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき
- N0
- 所属リンパ節に転移を認めない
- N1
- 所属リンパ節に転移を認める
- ▶︎▶︎注1
- 所属リンパ節は閉鎖リンパ節,外腸骨リンパ節,鼠径上リンパ節,内腸骨リンパ節,総腸骨リンパ節,仙骨リンパ節,基靱帯リンパ節および傍大動脈リンパ節である14)。
- ▶︎▶︎注2
- リンパ節郭清の未施行例では,触診,視診,画像診断を参考にして転移の有無を判断する。
- ▶︎▶︎注3
- TNM 分類UICC 第8 版(日本語版)で,従来 “所属リンパ節” と邦訳されていた “regionallymph node” の用語が “領域リンパ節” と変更されている12)。
M:遠隔転移
- M0
- 遠隔転移を認めない
- M1
- 遠隔転移を認める
〔子宮体癌取扱い規約 病理編 第4 版(2017 年),金原出版 より〕
(2)腺肉腫 TNM 分類(UICC 第8 版に準じる†)10)/手術進行期分類(日産婦20148),FIGO200813))
TNM 分類 | 日産婦・FIGO 分類 | |
TI | Ⅰ期 | 腫瘍が子宮に限局するもの |
T1a |
ⅠA 期 |
子宮体部内膜,頸部内膜に限局するもの(筋層浸潤なし) |
T1b |
ⅠB 期 |
筋層浸潤が1/2 以内のもの |
T1c |
ⅠC 期 |
筋層浸潤が1/2 をこえるもの |
T2 | Ⅱ期 | 腫瘍が骨盤腔に及ぶもの |
T2a |
ⅡA 期 |
付属器浸潤のあるもの |
T2b |
ⅡB 期 |
その他の骨盤内組織へ浸潤するもの |
T3 | Ⅲ期 | 腫瘍が骨盤外に進展するもの |
T3a |
ⅢA 期 |
1 部位のもの |
T3b |
ⅢB 期 |
2 部位以上のもの |
N1 |
ⅢC 期 |
骨盤リンパ節ならびに/あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの |
T4 |
ⅣA 期 |
膀胱粘膜ならびに/あるいは直腸粘膜に浸潤のあるもの |
M1 |
ⅣB 期 |
遠隔転移のあるもの |
- ▶︎▶︎注1
- 腺肉腫では,腫瘍が子宮に限局するⅠ期を,ⅠA 期:子宮体部内膜,頸部内膜に限局するもの(筋層浸潤なし),ⅠB 期:筋層浸潤が1/2 以内のもの,ⅠC 期:筋層浸潤が1/2 をこえるものによりそれぞれ亜分類される。
- ▶︎▶︎注2
- 腫瘍が骨盤外の腹腔内組織に浸潤するものをⅢ期とし,単に骨盤内から腹腔に突出しているものは除く。
- ▶︎▶︎注3
- 他臓器の進展は組織学的検索が望ましい。
N:所属リンパ節
- NX
- 所属リンパ節に転移を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき
- N0
- 所属リンパ節に転移を認めない
- N1
- 所属リンパ節に転移を認める
- ▶︎▶︎注1
- 所属リンパ節は閉鎖リンパ節,外腸骨リンパ節,鼠径上リンパ節,内腸骨リンパ節,総腸骨リンパ節,仙骨リンパ節,基靱帯リンパ節および傍大動脈リンパ節である14)。
- ▶︎▶︎注2
- リンパ節郭清の未施行例では,触診,視診,画像診断を参考にして転移の有無を判断する。
- ▶︎▶︎注3
- TNM 分類UICC 第8 版(日本語版)で,従来 “所属リンパ節” と邦訳されていた “regionallymph node” の用語が “領域リンパ節” と変更されている12)。
M:遠隔転移
- M0
- 遠隔転移を認めない
- M1
- 遠隔転移を認める
[分類にあたっての注意事項]
- ① 初回治療として手術がなされなかった症例(放射線や化学療法など)の進行期は,MRI やCT などの画像診断で進行期分類を用いて推定する。
- ② 子宮内膜間質肉腫および腺肉腫については,子宮体部腫瘍と卵巣・骨盤内子宮内膜症を伴う卵巣・骨盤内腫瘍が同時に存在する場合,それぞれ独立した腫瘍として取り扱うことに注意する。
- ③ 下記の検索はT,N,M 判定のための最低必要な検査法で,これが行われていない場合にはTX,NX,MX の記号で示す。FIGO 進行期分類は手術進行期分類に,TNM 分類は臨床的,組織学的分類にそれぞれ基づいている。T カテゴリー:臨床的な検索および画像診断,N カテゴリー:臨床的な検索および画像診断,M カテゴリー:臨床的な検索および画像診断
- ④ pT,pN,pM 分類についてはTNM 分類に準じ,病理学的pTNM が用いられる。
- ⑤ 手術前に他の治療法が行われている例では,y 記号を付けて区別する。
例:ypT2bpN1M0 - ⑥ 再発腫瘍ではr の記号を付けて区別する。
例:rM1
† TNM 分類UICC 第8 版に関する詳細は,英語版10)ならびに日本語版12)を参照されたい。
〔子宮体癌取扱い規約 病理編 第4 版(2017 年),金原出版 より〕
Ⅱ リンパ節の部位と名称
従来の子宮体癌取扱い規約におけるリンパ節の名称に関しては子宮頸癌取扱い規約ならびに1991 年日本癌治療学会リンパ節合同委員会の提唱に基づき命名されてきた。2002 年に日本癌治療学会リンパ節規約が改訂された14)ことを受け,『卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 臨床編 第1 版』(2015 年)よりリンパ節の部位と名称が以下のように定められた15)。これを勘案して,『子宮体癌取扱い規約 病理編 第4 版』(2017 年)においても同一の名称が用いられることとなった。
- 1)リンパ節は,主要血管の走行に沿って存在するものが多い。原則的にその血管名に従って命名される。
- 2)近傍に目標となる血管のないものでは,神経,靱帯名などにより命名される。
- 3)解剖学における新学名(Nomina Anatomica Parisiensia)を尊重するが,臨床上慣用されてきた名称も許容する。国際的にも採用され得る命名を採る。
- 4)命名の極端な細分化を避ける。
- 5)原則としてリンパ節番号は用いない。
①傍大動脈リンパ節(腹部大動脈周囲リンパ節) para-aortic nodes
腹部大動脈および下大静脈に沿うもの。
①-1 高位傍大動脈リンパ節:
下腸間膜動脈根部より頭側で,横隔膜脚部までの大動脈周囲にあるリンパ節。この領域の下大静脈周辺のリンパ節も含む11)。
①-2 低位傍大動脈リンパ節:
下腸間膜動脈根部から大動脈分岐部の高さまでの大動脈および下大静脈周辺のリンパ節を指し,下腸間膜動脈根部の高さに接するリンパ節も含まれる。
大動脈左側から下大静脈右側までのリンパ節を便宜上傍大動脈リンパ節とよぶが,細区分が必要な場合には,大動脈前面から左側にかけてのリンパ節を傍大動脈リンパ節,大動脈と下大静脈の間に存在するリンパ節を大動静脈間リンパ節,下大静脈前面から右側にかけてのリンパ節を下大静脈周囲リンパ節と記載する。
これまでの子宮体癌取扱い規約では高位傍大動脈リンパ節を「左腎静脈下縁から下腸間膜動脈根部上縁までの領域」と規定していたが,『卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 臨床編 第1 版』(2015 年)で,左腎静脈より頭側のリンパ節も含まれるようになった。以後,下腸間膜動脈根部より尾側を「低位傍大動脈リンパ節」とし,下腸間膜動脈根部より頭側で,横隔膜脚部までを「高位傍大動脈リンパ節」として分類されることになった11)。
②総腸骨リンパ節 common iliac nodes
総腸骨動静脈に沿うリンパ節。浅外側総腸骨リンパ節,深外側総腸骨リンパ節,内側総腸骨リンパ節に細区分される。
③外腸骨リンパ節 external iliac nodes
外腸骨血管分岐部より足方で,外腸骨血管の外側あるいは動静脈間にあるもの。
④鼠径上リンパ節 suprainguinal nodes(大腿上リンパ節 suprafemoral nodes)
外腸骨血管が鼠径靱帯下に入る直前にあるもの。
血管の外側にあって,外腸骨リンパ節に連絡し,深腸骨回旋静脈よりも末梢にあるものを外鼠径上リンパ節といい,血管の内側にあり,閉鎖リンパ節に連絡するものを内鼠径上リンパ節という。
⑤内腸骨リンパ節 internal iliac nodes
内腸骨血管と外腸骨血管とによって作られるいわゆる血管三角部および内腸骨動静脈に沿うもの。
⑥閉鎖リンパ節 obturator nodes
外腸骨血管の背側で閉鎖孔および閉鎖神経,閉鎖動静脈周囲にあるもの。
⑦仙骨リンパ節 sacral nodes
内腸骨血管より内側で仙骨前面とWaldeyer 筋膜の間にあるもの。正中仙骨動静脈に沿うものを正中仙骨リンパ節,外側仙骨動静脈に沿うものを外側仙骨リンパ節という。
⑧基靱帯リンパ節 parametrial nodes
基靱帯およびその周辺に存在するもの。子宮傍組織リンパ節,尿管リンパ節などと称せられた表在性のもの(頸部傍組織リンパ節paracervical nodes),および基靱帯基部近くに存在する深在性のものすべてを含める。
⑨鼠径リンパ節* inguinal nodes
鼠径靱帯より足方にあるもの。
* 子宮内膜癌では同リンパ節への転移を認めるものは遠隔転移と規定されており,ⅣB 期となる。
[所属リンパ節]
子宮内膜癌ならびに子宮体部肉腫の所属リンパ節は基靱帯リンパ節,内腸骨リンパ節,閉鎖リンパ節,鼠径上リンパ節,外腸骨リンパ節,総腸骨リンパ節,仙骨リンパ節,傍大動脈リンパ節である11)。
〔子宮体癌取扱い規約 病理編 第4 版(2017 年),金原出版 より〕
〔子宮体癌取扱い規約 病理編 第4 版(2017 年),金原出版 より〕
Ⅲ 組織学的分類
子宮体癌の組織学的分類はWHO 分類が国際標準となっており,2014 年に第4 版が出版された。日本産科婦人科学会では,これらの改定に本邦の実情を合わせ,取扱い規約の病理編に限って改訂が成し遂げられた5)。その主な改訂点は,①子宮内膜増殖症は,異型のないものと異型のあるものに二分され,細胞異型に重きを置くことが明示された。後者の子宮内膜異型増殖症に対しては,類内膜上皮内腫瘍 endometrioid intraepithelial neoplasia(EIN)が同義語として位置付けられた。②類内膜腺癌endometrioid adenocarcinoma は類内膜癌endometrioid carcinoma とよばれるようになり,他の腺癌も「腺adeno」がない形となった。③ Grade の訳語は「異型度」と定められた。これによって子宮内膜間質肉腫に用いられてきた「悪性度」も「異型度」に変更された。④Ⅰ型(エストロゲン依存性)とⅡ型(エストロゲン非依存性)からなる混合癌では,Ⅱ型に属する腫瘍の割合が10%以上から5%以上に変更された。⑤脱分化癌dedifferentiated carcinoma が新たに加わった。⑥高異型度子宮内膜間質肉腫high-grade endometrial stromal sarcoma が再び疾患単位として明記された。⑦未分化子宮内膜肉腫undifferentiated endometrial sarcoma が未分化子宮肉腫undifferentiated uterine sarcoma に変更された。⑧神経内分泌腫瘍が独立し,低異型度神経内分泌腫瘍と高異型度神経内分泌癌に二分された。前者にはカルチノイド腫瘍,後者には小細胞神経内分泌癌と大細胞神経内分泌癌が含まれる。⑨扁平上皮癌squamous cell carcinoma,移行上皮癌transitional cell carcinoma,癌線維腫carcinofibroma が項目から削除された。
Ⅰ 上皮性腫瘍および前駆病変 Epithelial tumors and precursors
A.前駆病変 Precursors
- 子宮内膜増殖症Endometrial hyperplasia without atypia
- 子宮内膜異型増殖症Atypical endometrial hyperplasia/ 類内膜上皮内腫瘍Endometrioid intraepithelial neoplasia(EIN)
B.子宮内膜癌 Endometrial carcinomas
- 類内膜癌 Endometrioid carcinoma
- a.扁平上皮への分化を伴う類内膜癌 Endometrioid carcinoma with squamous differentiation
- b.絨毛腺管型類内膜癌 Endometrioid carcinoma with villoglandular variant
- c.分泌型類内膜癌 Endometrioid carcinoma with secretory variant
- 粘液性癌 Mucinous carcinoma
- 漿液性子宮内膜上皮内癌 Serous endometrial intraepithelial carcinoma
- 漿液性癌 Serous carcinoma
- 明細胞癌 Clear cell carcinoma
- 神経内分泌腫瘍 Neuroendocrine tumors
- a.低異型度神経内分泌腫瘍 Low-grade neuroendocrine tumor(NET)
- (1)カルチノイド腫瘍 Carcinoid tumor
- b.高異型度神経内分泌癌 High-grade neuroendocrine carcinoma(NEC)
- (1)小細胞神経内分泌癌 Small cell neuroendocrine carcinoma(SCNEC)
- (2)大細胞神経内分泌癌 Large cell neuroendocrine carcinoma(LCNEC)
- a.低異型度神経内分泌腫瘍 Low-grade neuroendocrine tumor(NET)
- 混合癌 Mixed cell carcinoma
- 未分化癌 Undifferentiated carcinoma/脱分化癌 Dedifferentiated carcinoma
C.類腫瘍病変 Tumor-like lesions
- 子宮内膜ポリープ Endometrial polyp
- 化生 Metaplasias
- アリアス-ステラ反応 Arias-Stella reaction
- リンパ腫様病変 Lymphoma-like lesion
Ⅱ 間葉性腫瘍 Mesenchymal tumors
- 富細胞平滑筋腫 Cellular leiomyoma
- 奇怪核を伴う平滑筋腫 Leiomyoma with bizarre nuclei
- 活動性核分裂型平滑筋腫 Mitotically active leiomyoma
- 水腫状平滑筋腫 Hydropic leiomyoma
- 卒中性平滑筋腫 Apoplectic leiomyoma
- 脂肪平滑筋腫 Lipoleiomyoma
- 類上皮平滑筋腫 Epithelioid leiomyoma
- 類粘液平滑筋腫 Myxoid leiomyoma
- 解離性(胎盤分葉状)平滑筋腫 Dissecting(cotyledonoid)leiomyoma
- びまん性平滑筋腫症 Diffuse leiomyomatosis
- 静脈内平滑筋腫症 Intravenous leiomyomatosis
- 転移性平滑筋腫 Metastasizing leiomyoma
- 類上皮平滑筋肉腫 Epithelioid leiomyosarcoma
- 類粘液平滑筋肉腫 Myxoid leiomyosarcoma
- 子宮内膜間質結節 Endometrial stromal nodule
- 低異型度子宮内膜間質肉腫 Low-grade endometrial stromal sarcoma
- 高異型度子宮内膜間質肉腫 High-grade endometrial stromal sarcoma
- 未分化子宮肉腫 Undifferentiated uterine sarcoma
- 卵巣性索腫瘍に類似した子宮腫瘍 Uterine tumor resembling ovarian sex cord tumor(UTROSCT)
- 横紋筋肉腫 Rhabdomyosarcoma
- 血管周囲性類上皮細胞腫 Perivascular epithelioid cell tumor(PEComa)
- その他 Others
- • 痛みその他の苦しい症状を軽減する。
- • 生命を尊重し,死が特別なことではないことを認識する。
- • 死を早めたり遅らせたりしない。
- • 心理的な局面,スピリチュアルな局面に対するケアも軽視しない。
- • 最期まで患者が積極的に生きられるようサポートする環境を提供する。
- • 患者が闘病中や死別後に,患者家族がうまくやっていけるようにサポートする。
- • 患者と家族の要求に応えられるようにチームアプローチを適用する。
- • QOL を高めることによって,病状を改善する。
- • 病気の早い段階にも適用する。延命を目指すそのほかの治療,例えば化学療法や放射線治療に併用される。臨床上の様々な困難をより深く理解し管理するために必要な調査も含む。
- 1)
- 日本産科婦人科学会,日本病理学会,日本医学放射線学会 編.子宮体癌取扱い規約 改訂第2 版.金原出版,東京,1996(規約)
- 2)
- FIGO committee on gynecologic oncology. Revised FIGO staging for carcinoma of the vulva, cervix, and endometrium. Int J Gynecol Obstet 2009;105:103-4(規約)
- 3)
- 日本産科婦人科学会,日本病理学会,日本医学放射線学会,日本放射線腫瘍学会 編.子宮体癌取扱い規約第3 版.金原出版,東京,2012(規約)
- 4)
- Kurman RJ, Carcangiu ML, Herrigton CS, Young RH. WHO classification of tumors of female reproductive organs. 4th ed. International Agency for Research on Cancer, France, 2014, pp121-67(規約)
- 5)
- 日本産科婦人科学会,日本病理学会 編.子宮体癌取扱い規約 病理編 第4 版.金原出版,東京,2017(規約)
- 6)
- FIGO announcements, stages-1988 Revision. Gynecol Oncol 1989;35:125-7(規約)
- 7)
- Prat J. FIGO staging for uterine sarcomas. Int J Gynecol Obstet 2009;104:177-8(規約)
- 8)
- 小西郁生,青木大輔.卵巣癌・卵管癌・腹膜癌手術進行期分類の改訂および外陰癌,腟癌,子宮肉腫,子宮腺肉腫手術進行期分類の採用について.日産婦誌 2014;66:2736-41(規約)
- 9)
- 小西郁生,青木陽一.子宮頸癌,子宮体癌進行期分類の改定について.日産婦誌 2012;64:1471-7(規約)
- 10)
- UICC, TNM Classification of Malignant Tumours, 8th ed. Brierley J, Gospodarowicz M, Wittekind C, eds. John Wiley & Sons, West Sussex, 2017, pp171-8(規約)
- 11)
- 藤井知行,片渕秀隆,田代浩徳.子宮頸癌取扱い規約,子宮体癌取扱い規約の臨床に関わる改訂点について.日産婦誌 2017;69:1419-20(規約)
- 12)
- James D Brierley, Mary K Gospodarowicz, Christian Wittekind 編著.UICC 日本委員会TNM 委員会 訳.TNM 悪性腫瘍の分類 第8 版 日本語版.金原出版,東京,2017(規約)
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- FIGO committee on Gynecologic Oncology. FIGO staging for uterine sarcomas. Int J Gynecol Obstet 2009;104:179(規約)
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- 日本癌治療学会 編. 日本癌治療学会リンパ節規約.金原出版,東京,2002(規約)
- 15)
- 日本産科婦人科学会, 日本病理学会 編. 卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 臨床編 第1 版.金原出版,東京,2015(規約)
- 16)
- World Health Organization. WHO Definition of Palliative Care.
http://www.who.int/cancer/palliative/definition/en/(レベルⅣ) - 17)
- Temel JS, Greer JA, Muzikansky A, Gallagher ER, Admane S, Jackson VA, et al. Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer. N Engl J Med 2010;363:733-42(レベルⅡ)
A.平滑筋腫 Leiomyoma
B.悪性度不明な平滑筋腫瘍 Smooth muscle tumor of uncertain malignant potential (STUMP)
C.平滑筋肉腫 Leiomyosarcoma
D.子宮内膜間質腫瘍と関連病変 Endometrial stromal and related tumors
E.その他の間葉性腫瘍 Miscellaneous mesenchymal tumors
Ⅲ 上皮性・間葉性混合腫瘍 Mixed epithelial and mesenchymal tumors
A.腺筋腫 Adenomyoma
B.異型ポリープ状腺筋腫 Atypical polypoid adenomyoma
C.腺線維腫 Adenofibroma
D.腺肉腫 Adenosarcoma
E.癌肉腫 Carcinosarcoma
Ⅳ その他の腫瘍 Miscellaneous tumors
A.アデノマトイド腫瘍 Adenomatoid tumor
B.神経外胚葉性腫瘍 Neuroectodermal tumors
C.胚細胞腫瘍 Germ cell tumors
Ⅴ リンパ性および骨髄性腫瘍 Lymphoid and myeloid tumors
A.リンパ腫 Lymphomas
B.骨髄性腫瘍 Myeloid neoplasms
Ⅵ 二次性腫瘍 Secondary tumors
〔子宮体癌取扱い規約 病理編 第4 版(2017 年),金原出版 より〕
Ⅳ 手術療法
子宮体癌の治療の第一選択は手術療法である。子宮全摘出術,両側付属器摘出術を基本として骨盤・傍大動脈リンパ節郭清(生検),大網切除術,腹腔細胞診などが行われる。また,子宮肉腫の治療も手術療法が第一選択であり,子宮癌肉腫の場合は骨盤・傍大動脈リンパ節郭清が考慮されるが,子宮平滑筋肉腫に対してのリンパ節郭清の有効性は明らかではない。手術術式名とその内容を下記に列挙した。
1.単純子宮全摘出術 simple (total) hysterectomy
腹式,腟式あるいは鏡視下に行われる。一般の単純子宮全摘出術に準ずるが,腫瘍性病変が存在する場合には子宮頸部組織を残さない術式が必要であり,筋膜内術式(Aldridge 術式)は不適当である。病巣最外端と切創縁との間の距離をおくため,腟壁を多少なりとも切除する必要がある。腟壁の一部(cuff)を切除する場合に拡大単純子宮全摘出術という用語が用いられることもある。
2.準広汎子宮全摘出術 modified radical hysterectomy
広汎子宮全摘出術と単純子宮全摘出術の中間的な術式である。膀胱子宮靱帯の前層を切断し,尿管を側方に寄せた後に子宮傍(結合)組織(parametrium)と腟壁を子宮頸部からやや離れた部位で切断する。リンパ節郭清の有無を問わない。
3.広汎子宮全摘出術 radical hysterectomy with pelvic lymphadenectomy
子宮および子宮傍(結合)組織,腟壁および腟傍(結合)組織の一部を摘出し,骨盤内所属リンパ節を郭清する術式である。子宮傍(結合)組織は前方の膀胱子宮靱帯(前層および後層),側方の基靱帯,後方の仙骨子宮靱帯,直腸腟靱帯に区分される。
諸種の術式のうち,欧米諸国ではWertheim 術式,わが国では岡林術式を基本として変遷を経た術式が汎用されている。岡林術式の特徴は膀胱子宮靱帯の前層を処理した後に,後層も切断して尿管と膀胱を完全に子宮・腟から分離して腟を十分に切除することにある。子宮頸癌に対する基本治療術式であり,一般に子宮頸癌ⅠB 期とⅡ期の症例が適応となっている。一方,子宮体癌においては,深い頸部間質浸潤例に対して用いられることがある。
〔子宮体癌取扱い規約 第3 版(2012 年),金原出版 より一部改変〕
Ⅴ 術後再発リスク分類
子宮体癌の第一選択は手術療法であり,摘出標本による組織学的検索が行われた後に進行期が決定される。その後,症例は術後再発リスクの評価に基づいてリスク分類され,術後補助療法が考慮される。まず,子宮体癌は組織型により予後が異なることが判明しており,3 つのグループに分けられる。最も予後が良いのは類内膜癌G1/G2 であり,次に,類内膜癌G3 で,最も予後が悪いグループは漿液性癌/明細胞癌とされている。そして,症例がどの組織型のグループに属し,どのようなリスク因子を有しているかにより,低リスク群,中リスク群,高リスク群に分類されることとなる。図1 に示すリスク分類は,『子宮体がん治療ガイドライン2013 年版』を踏襲した再発リスク分類を用いて作成されたものである。なお,臨床試験によって異なったリスク分類が採用されており,現時点で完全にコンセンサスを得た分類はない。
Ⅵ 化学療法
子宮体癌に対する化学療法は,本邦では術後補助療法として用いられることが多い。また,切除不能または残存病巣を有する進行・再発症例に対しても化学療法の有効性が示されている。子宮肉腫に対しても同様で,術後補助療法や進行・再発例に対して化学療法が考慮される。また,絨毛癌や侵入奇胎に対しては化学療法が著効し治療の中心となる。下記に基本的な使用薬剤と使用方法を列記した。
1.AP 療法(CQ17,CQ28)
アドリアマイシン(ドキソルビシン塩酸塩) 60 mg/m2(静注)
シスプラチン 50 mg/m2(点滴静注) 3 週毎
2.TC 療法(CQ17,CQ28)
パクリタキセル 175 mg/m2(点滴静注)
カルボプラチン AUC 5〜6(点滴静注) 3 週毎
3.DP 療法(CQ17,CQ28)
ドセタキセル 70 mg/m2(点滴静注)
シスプラチン 60 mg/m2(点滴静注) 3 週毎
4.TAP 療法(CQ28)
パクリタキセル 160 mg/m2(点滴静注)
アドリアマイシン(ドキソルビシン塩酸塩) 45 mg/m2(静注)
シスプラチン 50 mg/m2(点滴静注)
+G-CSF 製剤予防投与 3 週毎
5.メトトレキサート単剤療法(CQ41)
(1)5-day メトトレキサート療法
0.4 mg/kg あるいは20 mg/body 5 日間筋注 2 週毎
(2)メトトレキサート-ホリナートカルシウム療法
メトトレキサート 1.0 mg/kg 筋注(Day 1, 3, 5, 7)
ホリナートカルシウム(ロイコボリン) 0.1 mg/kg 筋注(Day 2, 4, 6, 8) 2 週毎
(3)weekly メトトレキサート療法
メトトレキサート 30〜50 mg/m2 筋注 毎週1 回
6.アクチノマイシンD 単剤療法(CQ41)
(1)5-day アクチノマイシンD 療法
アクチノマイシンD 10 μg/kg あるいは0.5 mg/body 5 日間静注 2 週毎
(2)アクチノマイシンD パルス療法
アクチノマイシンD 40 μg/kg あるいは1.25 mg/m2 静注 2 週に1 回
7.EMA/CO 療法(CQ42)
Day 1
メトトレキサート 300 mg/m2(点滴静注)
エトポシド 100 mg/m2(点滴静注)
アクチノマイシンD 0.5 mg/body(静注)
Day 2
エトポシド 100 mg/m2(点滴静注)
アクチノマイシンD 0.5 mg/body(静注)
ホリナートカルシウム(ロイコボリン) 15 mg/body(12 時間おきに4 回筋注)
Day 8
シクロホスファミド 600 mg/m2(点滴静注)
ビンクリスチン 0.8〜1.0 mg/m2(静注)
*Day 1,Day 2 とDay 8 を2 週毎に繰り返す
8.MEA 療法(CQ42)
Day 1
メトトレキサート 300 mg/body(点滴静注)
メトトレキサート 150 mg/body(静注)
エトポシド 100 mg/body(点滴静注)
アクチノマイシンD 0.5 mg/body(静注)
Day 2
エトポシド 100 mg/body(点滴静注)
アクチノマイシンD 0.5 mg/body(静注)
ホリナートカルシウム(ロイコボリン) 15 mg/body(12 時間おきに3 回筋注)
Day 3〜5
エトポシド 100 mg/body(点滴静注)
アクチノマイシンD 0.5 mg/body(静注)
*2〜3 週毎
9.FA 療法(CQ42)
Day 1〜5
フルオロウラシル(5-FU) 1,500 mg/body(点滴静注)
アクチノマイシンD 0.5 mg/body(静注)
*2〜3 週毎
10.EP/EMA 療法(CQ42)
Day 1
エトポシド 150 mg/m2(点滴静注)
シスプラチン 75 mg/m2(点滴静注)
Day 8
エトポシド 100 mg/m2(点滴静注)
メトトレキサート 300 mg/m2(点滴静注)
アクチノマイシンD 0.5 mg/body(静注)
Day 9
ホリナートカルシウム(ロイコボリン) 15 mg/body(12 時間おきに4 回筋注)
*Day 1 とDay 8, Day 9 を2 週毎に繰り返す
Ⅶ 放射線治療
子宮体癌の主治療は手術療法であり,根治的放射線治療は高齢者や合併症などの理由で手術適応とならない患者に対して考慮される。また,欧米では術後補助療法として放射線治療が用いられることが多いが,本邦での術後補助療法は化学療法が用いられることが多い。一方,腟断端再発に対しては放射線治療が奨められている。下記に放射線治療の分類と治療方法を列記した。
1.放射線治療の分類
(1)根治的放射線治療 curative radiation therapy, definitive radiation therapy
根治的手術を行わずに治癒を目的として行われる放射線治療。
(2)術後照射 postoperative irradiation
根治的手術療法後に骨盤内再発の予防を目的として行われる放射線治療。術後再発の一定のリスクがある場合に行われる。
(3)緩和的放射線治療 palliative radiotherapy
根治は難しいが,がんの進展や転移による疼痛,出血等の症状を緩和する目的で行われる放射線治療。
2.放射線治療の方法
(1)根治的放射線治療
原則として,外部照射と腔内照射の併用で行う。
①外部照射 external beam irradiation
肉眼的腫瘍体積(gross tumor volume;GTV)に加え,原則として全骨盤領域(子宮頸体部・子宮傍組織・腟・卵巣・骨盤リンパ節領域)を臨床標的体積(clinical target volume;CTV)とし,適切なマージンを加えて計画標的体積(planning target volume;PTV)とする。3 次元原体照射(3 dimensional conformal radiotherapy;3D-CRT),強度変調放射線治療(intensity-modulated radiation therapy;IMRT)などの方法がある。
②腔内照射 intracavitary irradiation(brachytherapy)
原則として,外部照射を先行する。
高線量率(high dose rate;HDR)腔内照射をIr-192 あるいはCo-60 を用いたremote afterloading system にて行う。原則として子宮内アプリケータ(チューブ)に線源を留置して行う。
治療ごとにアプリケータ位置確認画像の取得と計算を行う。2 方向のX 線画像による2 次元的計画,あるいはCT,MRI を用いた3 次元的計画で治療が行われる〔3 次元画像誘導小線源治療(3 dimensional image-guided brachytherapy;3D-IGBT)〕。
(2)術後照射
外部照射あるいは腔内照射で行う。外部照射法は「2.(1)根治的放射線治療」に準じる。外部照射のCTV は 2.(1)①の定義から子宮頸体部を除いた範囲とする。腔内照射は腟内アプリケータ(オボイド)あるいは腟シリンダーアプリケータを用いる。
(3)緩和的放射線治療
主に外部照射単独で行われる。3D-CRT のほか,IMRT,定位(的)放射線照射(stereotactic irradiation;STI)が適応になることがある。
(4)同時化学放射線療法 concurrent chemoradiotherapy(CCRT)
放射線治療に化学療法を同時併用する治療方法。局所制御の向上と遠隔転移の予防を期待して行われる。根治的放射線治療,術後照射で適用されることがある。
付記1 3 次元原体照射 3 dimensional conformal radiotherapy(3D-CRT)
上述のPTV に対し,多分割コリメータ(multi-leaf collimator;MLC)を用いて照射野を整形し治療を行う外部照射。対向2 門照射法,直向4 門照射法などがある。
付記2 強度変調放射線治療 intensity-modulated radiation therapy(IMRT)
高精度外部照射の一つである。逆方向治療計画(inverse plan)に基づき,空間的・時間的に不均一な放射線強度をもつビームを多方向から照射する。それにより,不整形の腫瘍形状に合致した線量分布を作成し,同時に危険臓器への線量軽減を可能とする。また,再発/有害事象発生リスクに応じて線量分布の濃淡を作成することが可能である。
付記3 定位(的)放射線照射 stereotactic irradiation(STI)
高精度外部照射の一つである。病巣に対して多方向から放射線を集中的に照射することで,腫瘍に限局して大線量を投与し,同時に周囲の危険臓器への線量を極力減少させることを可能とする。限局性の小病巣(CTV)に適用する。1 回照射によるものを定位手術的照射(stereotactic radiosurgery;SRS),分割照射によるものを定位(的)放射線治療(stereotactic radiotherapy;SRT)という。特に体幹部腫瘍に対してSRT を行う場合に,体幹部定位放射線治療(stereotactic body radiation therapy;SBRT)とよぶ。
付記4 3 次元画像誘導小線源治療 3 dimensional image-guided brachytherapy(3D-IGBT)
腔内照射や組織内照射のアプリケータを装着した状態でCT やMRI を撮像し,腫瘍の大きさや形状に合わせ十分な線量を投与しつつ,周囲正常臓器への被曝線量を軽減する線量分布を3 次元的に作成し最適化して実施する小線源治療。
〔子宮体癌取扱い規約 第3 版(2012 年),金原出版 より一部改変〕
〔子宮頸癌治療ガイドライン2017 年版(2017 年),金原出版 より一部改変〕
Ⅷ 緩和ケア
これまでに日本婦人科腫瘍学会で作成されたがん治療ガイドラインでは,『卵巣がん治療ガイドライン2010 年版』の中で初めて「緩和医療」という項目が登場した。その後,『卵巣がん治療ガイドライン2015 年版』,『子宮頸癌治療ガイドライン2017 年版』では,「緩和ケア」という文言に代わり,「本ガイドラインにおける基本事項」の中に項目を設けて掲載されてきた。今回,子宮体がん治療ガイドラインでは初めて,子宮体がん治療に即した「緩和ケア」を基本事項に組み入れることとなった。
WHO の1990 年の定義では「緩和ケアとは,治癒を目指した治療が有効でなくなった患者に対する積極的な全人的ケアである」とされていたように,かつて緩和ケアは,積極的な治療が終了した,いわゆる末期状態に行われる医療であると考えられてきた。しかしながら,その後のがん医療を取り巻く環境の変化から,欧米を中心に緩和ケアを早期から積極的に取り込むことが提唱されるようになり,WHO では2002 年に緩和ケアを「生命を脅かすような疾患による問題に直面している患者とその家族に対して,疾患の早期より,痛みや身体的,心理社会的,スピリチュアルな問題の同定と評価と治療を行うことによって,予防したり軽減したりすることでQOL を改善するためのアプローチである」と改めて定義し(図2),以下のような具体例を挙げている16)。
がん患者の苦痛は全人的苦痛(total pain)と称され,非常に多岐にわたる。各種治療法の進歩に伴い,末期患者の長期生存が珍しくなくなった今日では,身体的苦痛の軽減のみならず,不安やいらだちといった精神的な苦痛,死生観や人生の意味に対するスピリチュアルな苦痛,家庭内の問題や経済上の問題などの社会的な苦痛に対しても,これまで以上に踏み込んだ緩和ケアが要求されるようになっている。
本邦では,2007 年に「がん対策基本法」が施行され,さらに翌年「がん対策推進基本計画」が閣議決定されて,国を挙げてがん医療に取り組むための基盤が整った。厚生労働省の指定するがん診療連携拠点病院は,質の高い緩和ケアの提供を目指し,緩和ケアチームの整備や,緩和ケア外来の設置,患者相談窓口の設置,緩和ケア地域連携の強化,緩和ケア研修会の実施などの機能を指定要件としている。また,基本計画では,がん診療に携わるすべての医師が緩和ケアの知識を習得することが定められており,がん診療連携拠点病院でがん診療に携わる医師は,日本緩和医療学会による「症状の評価とマネジメントを中心とした緩和ケアのための医師の継続教育プログラム」(Palliative care Emphasis program on symptom management and Assessment for Continuous medical Education;PEACE)の受講が義務付けられている。
子宮体がんは,生殖器官に発生する悪性腫瘍であるため,たとえ早期であっても,患者に対するきめ細かい身体的あるいは心理的支援,社会的配慮〔女性としてのQOL 維持(妊孕性温存や卵巣機能温存なども含む)〕が不可欠である。治療による性機能障害やボディーイメージの変容により,女性・妻・母としての役割を喪失したのではないか,という思いから,アイデンティティの危機に陥ることもある。早い段階からの緩和ケアの導入により,肺がん患者のQOL や予後の有意な改善がみられたという第Ⅲ相試験の報告17)もあり,子宮体がん治療においても,今後ますます緩和ケアの重要性が高まることが予想される。患者を中心に,医師のみならず看護師,薬剤師,社会福祉士,理学療法士,臨床心理士,ソーシャルワーカーなどの多職種でチーム医療を行うとともに,地域病院や在宅医療支援診療所,訪問看護ステーションなどと緊密な地域連携を図り,診断時から看取りまでの切れ目のない緩和ケアを提供する体制をつくることが急務である。