診療ガイドライン

第II章 疫学・現況・危険因子

要約

わが国における食道癌の動向は,罹患率は男性でゆるやかに増加傾向にあり,女性は横ばいである。死亡率は男性においては横ばい,女性においては減少している。性別では男性が多く,年齢は60~70 歳代が多い。占居部位は胸部中部食道に最も多い。組織型は扁平上皮癌が約90%と多い。また,同時性,異時性の重複癌が多いことが知られている。扁平上皮癌の危険因子としては,喫煙・飲酒が挙げられる。腺癌の危険因子としては,欧米では胃食道逆流症(Gastroesophageal Reflux Disease,GERD)による下部食道の持続的な炎症に起因するバレット上皮がその発生母地として知られているが,わが国においては発生数が少なく明らかとなってはいない。

総論

1 罹患率・死亡率

地域がん登録全国推計によるがん罹患データを基にした国立がん研究センターがん対策情報センターの集計によると,食道癌の罹患率(粗罹患率)は2011 年の推計では男性が31.7 人(人口10 万人対),女性が5.2 人(人口10 万人対)であった。年齢調整罹患率では男性は緩やかな増加傾向にあり,女性は近年増減の傾向はない(図1)。

図1 食道癌の罹患率の年次推移

厚生労働省の人口動態調査によると,2013 年の食道癌死亡者数は11,543 人(粗死亡率人口10 万人対9.2 人)であり,全悪性新生物の死亡者数の3.2%に相当し,粗死亡率は男性15.8 人(人口10 万人対)で,肺,胃,大腸,肝臓,膵臓に次いで高く,女性は2.9 人(人口10 万人対)で女性では10 番目以降である 1)。年齢調整死亡率は,食道癌は男性においては横ばい,女性においては減少している(図2)。人口動態統計による癌死亡データならびにそれを用いた種々のグラフは,国立がん研究センターがん対策情報センター(http://ganjoho.jp/reg_stat/index.html)より入手可能である 1)

図2 食道癌の死亡率の年次推移

用語説明
【罹患率】
ある集団を設定し,その集団で一定期間に発生した罹患数を集団の人口で割ったもの。記載されたデータは地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(1975~2011 年)をもとに国立がん研究センターがん対策情報センターにより集計された。
【年齢調整罹患率】人口構成が基準人口と同じだったら実現されたであろう罹患率。
【粗死亡率】一定期間の死亡数をその期間の人口で割った死亡率。
【年齢調整死亡率】人口構成が基準人口と同じだったら実現されたであろう死亡率。がんは高齢になるほど死亡率が高くなるため,高齢者が多い集団は高齢者が少ない集団よりがんの粗死亡率が高くなることから,集団全体の死亡率を,基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせた形で求められる。基準人口として,国内では通例昭和60 年(1985 年)モデル人口(昭和60 年人口をベースに作られた仮想人口モデル)が用いられる。


2 わが国における食道癌の現況

日本食道学会の全国調査(2008 年)2)によると,性別では男女比が約6:1 と男性に多く,年齢は60~70 歳代に好発し,年齢層の約69%を占める。占居部位は,胸部中部食道が約50%と最も多く,次いで胸部下部食道(約25%),胸部上部食道(約12%),腹部食道(約6%),頸部食道(約5%)であった。組織型は扁平上皮癌が約90%と圧倒的に多く,腺癌が約4%であった。食道癌症例の他臓器重複癌は同時・異時を含めて約23%に認められ,胃癌,咽頭癌の順で多く,食道癌診療において重要な問題となっている。

3 危険因子

わが国における食道癌の危険因子は飲酒と喫煙である。わが国で90%以上と頻度の高い扁平上皮癌では飲酒および喫煙が危険因子として重要であり,その両者を併用することで危険性が増加することが知られている 3-6)。2009 年10 月にWHO の下部組織であるIARC(International Agency for Research on Cancer)の作業部会はアルコール飲料に関連したアセトアルデヒドをGroup 1 の発癌物質とした 6)。また,食生活において,栄養状態の低下や果物や野菜を摂取しないことによるビタミンの欠乏も危険因子とされ,緑黄色野菜や果物は予防因子とされる 7, 8)

腺癌は,わが国では発生頻度は数%であるが,欧米で増加傾向にあり,約半数以上を占める。GERD による下部食道の持続的な炎症に起因するバレット上皮がその発生母地として知られており,GERD の存在やその発生要因であるBMI(Body Mass Index)高値,喫煙などが発生に関与しているという報告がある 9-12)。わが国では,症例数が少ないため明らかなエビデンスは示されていない。

参考文献

1)
国立がん研究センターがん対策情報センター,がん情報サービス.
http://ganjoho.jp/reg_stat/index.html
2)
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Clinical Question

CQ1‒1
食道癌発生予防の観点から健常者が禁煙することを推奨するか?

エビデンスの強さB
食道癌発生予防の観点から健常者には禁煙を強く推奨する。(合意率95%[19/20])

解説文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed:147 編,Cochrane:32 編,医中誌:26 編が抽出され,他より必要と考えられる論文81 編を加えて一次,二次スクリーニングを経て定性的・定量的システマティックレビューを行った。

本CQ に対してメタアナリシスが可能な情報のある論文は喫煙については35 編であり食道癌死亡率の低下に関するコホート研究が2 編,発生率の低下に関するコホート研究が3 編,両者とも解析しているコホート研究が1 編あった。食道癌発生率低下に関する症例対照研究が29 編あった。扁平上皮癌についての解析が19 編,腺癌についての解析が18 編,日本人を対象とした研究が3 編であった。

喫煙についての35 編の観察研究についてアウトカムを食道癌の発生率あるいは死亡率の低下としてメタアナリシスを施行したところ,リスク比が0.74,95%CI が0.68-0.80,p 値<0.00001 と有意に禁煙がそのリスクを軽減するという結果となった。観察研究でありランダム化比較試験ではないが,現在の喫煙者に禁煙を推奨する根拠としては十分であると考えられた。また,サブグループ解析として日本人(統合値:0.65(0.51-0.83)p 値<0.0004),扁平上皮癌(統合値:0.60(0.50-0.72)p 値<0.00001),死亡率(統合値:0.73(0.63-0.84)p 値<0.0001),発生率(統合値:0.74(0.67-0.80)p 値<0.00001)を各々検討したが,いずれの解析も禁煙により有意に食道癌のリスクが低下した。腺癌に関しては統合値:0.93(0.84-1.03)p 値=0.18 と統計学的には食道癌のリスクは低下しなかった。以上より,喫煙者の禁煙は食道癌発生のリスクを減少させると考えられた。

以上,益と害のバランス,エビデンスレベル,対象者の希望などを勘案し,推奨文は「食道癌発生予防の観点から健常者には禁煙を強く推奨する」とした。

CQ1‒2
食道癌発生予防の観点から健常者が禁酒することを推奨するか?

エビデンスの強さC
食道癌発生予防の観点から健常者には禁酒を推奨するが,推奨度は決められない。(2 回投票を行ったが推奨度は決められなかった)

解説文

CQ1-1 と同様に文献検索を行い,スクリーニングを行った。

本CQ に対してメタアナリシスが可能な情報のある論文は飲酒については18 編であった。禁酒による食道癌発生リスクの低下に関しては,食道癌死亡率に関するコホート研究が2 編あり,全て日本人を対象にしたものである。解析可能な症例対照研究が16 編あった。日本人を対象とした研究は5 編であった。扁平上皮癌,腺癌のみを解析可能な研究が各々10 編,5 編であった。

禁酒についての観察研究18 編についてアウトカムを食道癌の発生率あるいは死亡率の低下としてメタアナリシスを施行したところリスク比が1.09,95%CI が0.94-1.26,p 値=0.24 と有意差を認めなかった。サブグループ解析として日本人(統合値:1.25(0.87-1.80)p 値=0.23),扁平上皮癌(統合値:1.14(0.97-1.34)p 値=0.11),死亡率(統合値:0.57(0.28-1.16)p 値=0.12),発生率(統合値:1.13(0.98-1.30)p 値=0.10)を各々検討したが,いずれの解析も禁酒が食道癌のリスクを低下させることはなかった。腺癌に関しては統合値:1.45(1.08-1.94)p 値=0.01 と禁酒によりリスクは上昇した。

報告の中から,5 年以上の禁酒期間があった群,および10 年以上の禁酒期間があった群で解析可能なものを抽出して再解析を行ったところ,5 年以上の禁酒期間で比較できたのは症例対照研究6 編,10 年以上の禁酒期間で比較できたのは症例対照研究7 編であった。各々についてアウトカムを食道癌の発生率あるいは死亡率の低下としてメタアナリシスを施行したところ5 年間の禁酒期間を置いたものはリスク比が0.78,95%CI が0.66-0.93,p 値=0.007,10 年間の禁酒期間を置いたものはリスク比が0.65,95%CI が0.57-0.74,p 値=0.00001 と一定期間を禁酒することで食道癌の予防効果があることが分かった。

飲酒量と食道癌の発生については多くの報告があるが,エタノールの代謝におけるアセトアルデヒド代謝能等のさまざまな因子が関連することから,一概にエタノール摂取の中止が食道癌発生を予防することについては明らかなエビデンスはないと考えられた。しかしながら,飲酒量が食道癌の発症に大きく関与していることは多くの報告 1-4)があり,一定期間の禁酒期間により食道癌の発生のリスクが減少すること,10 数年後に元に戻るとする報告 4)もある。

以上,益と害のバランス,エビデンスレベル,対象者の希望などを勘案し,推奨文は「食道癌発生予防の観点から健常者には禁酒を弱く推奨する」として,推奨度決定のための投票を行ったところ,1 回目の投票で70%の合意率が得られなかった。再度議論を行い再投票したが70%の合意率が得られなかったため推奨度は決定できなかった。

参考文献

1)
Sakata K, et al; JACC Study Group: Smoking, alcohol drinking and esophageal cancer: findings from the JACC Study: J Epidemiol. 2005; 15 Suppl 2: S212-9.
2)
Ishiguro S, et al; JPHC Study Group: Effect of alcohol consumption, cigarette smoking and flushing response on esophageal cancer risk: a population-based cohort study(JPHC study). Cancer Lett. 2009; 275(2): 240-6.
3)
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4)
Jarl J, et al: Time pattern of reduction in risk of oesophageal cancer following alcohol cessation―a meta-analysis. Addiction. 2012; 107(7): 1234-43.

CQ2
食道癌を根治した患者に対して禁煙と禁酒の継続を推奨するか?

エビデンスの強さC
食道癌を根治した患者に対しては禁煙と禁酒の継続を強く推奨する。(合意率95%[19/20])

解説文

CQ1-1 と同様に文献検索を行い,スクリーニングを行った。

一次スクリーニングで57 編,二次スクリーニングで3 編に絞り込んだ。本CQ に関連する論文は食道癌治療後の禁煙に関するコホート研究3 編であった 1-3)。初回治療を受けたがん患者29,796 名を対象とした研究で,食道癌については日本人(大阪)1,027 人を対象としている。本研究では食道癌治療後の生存者で禁煙により二次性癌が減少する(IRR 0.49(95%CI 0.28-0.86))ことが示された 1)。またKatada らは内視鏡的切除を施行し根治した食道癌患者を対象に検討し,禁酒が異時性の多発癌のリスクを減少することを示した 2)。この検討では短期間の禁煙はリスクを減少しなかった。他癌も含めた報告では,喫煙者や飲酒者に飲酒喫煙関連の二次性癌発生のリスクが高いことやその相乗効果,非喫煙者,過去の喫煙者,喫煙者の順に二次性癌発生のリスクが上昇するという報告が散見される 3, 4)

これらのことから,食道癌の治療後の患者においても禁酒および禁煙は異時性の二次性癌や多発癌の発生リスクを減少させると予測される。

以上,益と害のバランス,エビデンスレベル,患者の希望などを勘案し,推奨文は「食道癌を根治した患者に対しては禁煙と禁酒の継続を強く推奨する」とした。

参考文献

1)
Tabuchi T, et al: Tobacco smoking and the risk of subsequent primary cancer among cancer survivors: a retrospective cohort study. Ann Oncol. 2013; 24(10): 2699-704.
2)
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3)
Tabuchi T, et al: Joint and independent effect of alcohol and tobacco use on the risk of subsequent cancer incidence among cancer survivors: A cohort study using cancer registries. Int J Cancer. 2015; 137(9): 2114-23.
4)
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第III章 食道癌治療のアルゴリズムおよびアルゴリズムに基づいた治療方針

1 食道癌取扱い規約とTNM(UICC)分類

本ガイドライン作成において引用した文献は,その時点の食道癌取扱い規約やTNM(UICC)分類に基づくため,対象とする病期に若干の相違があることに注意されたい。

TNM(UICC)第8 版では,扁平上皮癌と腺癌の予後の違いから組織型別の分類を採用しているが,これはおもに欧米における治療成績に基づいている。本ガイドラインでは,Stage 別治療アルゴリズムについては日本食道学会食道癌取扱い規約第11 版に準拠している。

TNM 第7 版(2009)より作成 / 食道癌取扱い規約第10 版(2007)

食道癌取扱い規約第11 版(2015)

TNM 第8 版(2017)<Squamous Cell Carcinoma>

TNM 第8 版(2017)<Adenocarcinoma>

参考文献

1)
L. H. Sobin 他 編,UICC 日本委員会TNM 委員会 訳: TNM 悪性腫瘍の分類(第7 版)日本語版.金原出版,2010.
2)
日本食道学会 編: 臨床・病理 食道癌取扱い規約第10 版.金原出版,2007.
3)
日本食道学会 編: 臨床・病理 食道癌取扱い規約第11 版.金原出版,2015.
4)
J. D. Brierley, et al(eds.): TNM Classification of Malignant Tumours, 8th ed. JOHN WILEY & SONS, LTD., 2017.

2 cStage 0, Ⅰ食道癌治療アルゴリズム(⇒アルゴリズム

要約

cStage 0,Ⅰ食道癌の治療方針決定においては,内視鏡検査,頸部・胸部・腹部CT 検査,PET 検査などによる臨床病期の評価を第一に行う。次に,壁深達度の評価が,内視鏡的切除術(Endoscopic Resection,ER),手術あるいは化学放射線療法の治療選択の判断に重要である。

壁深達度の評価に迷う場合,全身状態不良の場合などは,まず侵襲の低いER の適応を考慮する。cStage 0(T1a)と診断されER の適応となる場合,ER 後狭窄発生のリスクを予測するため病変の周在性評価が必要になる。周在性が3/4 周以上の病変の場合は,ER 後狭窄のリスクが高いため狭窄予防の処置を講ずる必要がある。

ER 後の組織学的評価は,追加治療の要否を検討する上で極めて重要である。組織学的にpT1a-EP/LPM と診断された場合は経過観察とするが,pT1a-MM/pT1b-SM と診断された場合は追加治療(手術または化学放射線療法)を考慮する必要がある。cStage I(T1b)と診断された場合は,耐術能を評価した上で,外科手術または化学放射線療法の適応を検討する。

Clinical Question

CQ3
食道表在癌に対して臨床的にT1a-EP/LPM とT1a-MM を鑑別する際,鑑別方法として何を推奨するか?

エビデンスの強さC
T1a-EP/LPM とT1a-MM の鑑別において,超音波内視鏡もしくは拡大内視鏡による精査を弱く推奨する。(合意率94.7%[18/19])

解説文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed:139 編,Cochrane:54 編,医中誌:166 編が抽出され,これに深達度診断の総説などの参考文献18 編を追加し合計377 編を一次スクリーニングにかけた。そのうち77 編を二次スクリーニングにかけて,最終的に13 編の論文 1-13)を対象に定性的・定量的システマティックレビューを行った。

13 編の論文は全てわが国からの論文で,ランダム化比較試験は存在せず,各モダリティーの比較試験も存在しなかった。13 編のうち,2 編は非拡大内視鏡 1, 2),6 編は拡大内視鏡 4-6),4 編は超音波内視鏡(Endoscopic Ultrasonography,EUS)10-13)の診断精度を検討していた。残りの1 編は非拡大内視鏡後に拡大内視鏡 3)を行っていた。

直接診断法を比較できる論文が存在しなかったため,Summary ROC curve を用いて各モダリティーの比較を行った。結果は,EUS および拡大内視鏡は非拡大内視鏡と比較して高い診断精度を有していた。EUS と拡大内視鏡の併用による上乗せ効果を厳密に評価できる試験は存在しなかった。そのため,「EUS もしくは拡大内視鏡による精査を弱く推奨する」という推奨文とした。なお非拡大内視鏡,拡大内視鏡,EUS は保険診療として普及しており,低コストで侵襲も少ないため,併用して行うことに問題はないと考えられる。

研究の多くは前向きに診断したデータを後ろ向きに解析するもので,厳密な意味での前向き研究は1 つのみであった。また,QUADAS(Quality Assessment of Diagnostic Accuracy Studies)を用いた研究の質評価ではバイアスリスクが高いと判定される研究が多かった。以上からエビデンスの強さはC とした。

超音波内視鏡および拡大内視鏡による精査は保険診療で行える治療であり,益と害のバランス,エビデンスの強さ,患者の希望などを勘案し,「T1a-EP/LPM とT1a-MM の鑑別において,超音波内視鏡もしくは拡大内視鏡による精査を弱く推奨する」とした。

参考文献

1)
島田英雄,他: 【食道表在癌の深達度診断】食道表在癌の深達度診断 通常観察の立場から.胃と腸.2010; 45(9): 1467-81.
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3)
Ebi M, et al: Multicenter, prospective trial of white-light imaging alone versus white-light imaging followed by magnifying endoscopy with narrow-band imaging for the real-time imaging and diagnosis of invasion depth in superficial esophageal squamous cell carcinoma. Gastrointest Endosc. 2015; 81(6): 1355-61.
4)
Kumagai Y, et al: Magnifying endoscopy, stereoscopic microscopy and the microvascular architecture of superficial esophageal carcinoma. Endoscopy. 2002; 34(5): 369-75.
5)
有馬美和子,他:【食道表在癌の深達度診断】食道表在癌の深達度診断 FICE拡大内視鏡の立場から.胃と腸.2010; 45(9): 1515-25.
6)
藤原純子,他:【日本食道学会拡大内視鏡分類】日本食道学会拡大内視鏡分類と深達度 深達度診断におけるB2 血管の意義.胃と腸.2014; 49(2): 174-85.
7)
大嶋隆夫,他: 食道表在癌の質的診断,深達度診断における拡大内視鏡の有用性について.Prog Dig Endosc.2006; 68(2): 27-30.
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有馬美和子,他: 拡大内視鏡を斬る 食道癌のスクリーニング・深達度診断における拡大内視鏡の位置づけと展望.消内視鏡.1998; 10(4): 490-7.
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土橋 昭,他:【日本食道学会拡大内視鏡分類】日本食道学会拡大内視鏡分類と深達度 鑑別・深達度診断におけるB1 血管の意義.胃と腸.2014; 49(2): 153-63.
10)
清水勇一,他: 食道表在癌の超音波内視鏡像の検討.臨病理.1995; 43(3): 221-6.
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Esaki M, et al: Probe EUS for the diagnosis of invasion depth in superficial esophageal cancer: a comparison between a jelly-filled method and a water-filled balloon method. Gastrointest Endosc. 2006; 63: 389-95.
12)
村田洋子:【食道表在癌2011】食道表在癌の深達度診断 超音波内視鏡.胃と腸.2011; 46(5): 687-93.
13)
有馬美和子,他:【食道表在癌の内視鏡診断 最近の進歩】食道表在癌深達度診断の進歩 拡大内視鏡vs EUS EUS の意義.胃と腸.2006; 41(2): 183-96.

CQ4
食道表在癌に対して臨床的にT1a-M とT1b-SM を鑑別する際,鑑別方法として何を推奨するか?

エビデンスの強さC
T1a-M とT1b-SM の鑑別において,超音波内視鏡もしくは拡大内視鏡による精査を弱く推奨する。(合意率100%[19/19])

解説文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed:139 編,Cochrane:54 編,医中誌:166 編が該当した。これに深達度診断の総説などの参考文献18 編を追加し合計377 編を一次スクリーニングにかけた。そのうち77 編を二次スクリーニングにかけて,最終的に11 編の論文 1-11)を対象に定性的・定量的システマティックレビューを行った。

11 編の論文のうち9 編はわが国 1-9)からの論文で,1 編は韓国 11),1 編は中国 10)からの論文であった。ランダム化比較試験は存在せず,各モダリティーを比較できる試験も存在しなかった。11 編のうち,1 編は拡大内視鏡 2),8 編はEUS 3-8, 10, 11)の診断精度を検討していた。残りの2 編のうち1 編は非拡大内視鏡後に拡大内視鏡,EUS 1)を行っており,他の1 編は拡大内視鏡後にEUS 9)を行っていた。

次に各モダリティーの診断精度をSummary ROC curve で評価したところ,わが国からの報告と海外の報告に明らかな格差がみられた。このシステマティックレビューはわが国でのガイドライン作成を意図したものであるため,以後の解析はわが国からの報告を対象として行った。

直接診断法を比較できる論文が存在しなかったため,Summary ROC curve を用いて各モダリティーの比較を行った。結果は,拡大内視鏡は非拡大内視鏡と比較して高い診断精度を有しており,EUS は非拡大内視鏡と比較してわずかに高い診断精度を有していた。わが国では,M 癌とSM1 癌の鑑別は極めて困難なためM 癌とSM1 癌を同一カテゴリーとして,“T1b-SM1 以浅癌とT1b-SM2 以深癌を鑑別する”論文が多く報告されている。“T1b-SM1 以浅癌とT1b-SM2 以深癌の鑑別”は,“M 癌とSM 癌の鑑別”と臨床的にほぼ同じ意義を持つ。“T1b-SM1 以浅癌とT1b-SM2 以深癌の鑑別”においても,拡大内視鏡とEUS は非拡大内視鏡と比較して高い診断精度を有していた点も参考とし推奨文を作成した。なお非拡大内視鏡,拡大内視鏡,EUS は保険診療として普及しており,低コストで侵襲も少ないため,併用して行うことに問題はないと考えられる。

研究の多くは前向きに診断したデータを後ろ向きに解析するもので,厳密な意味での前向き研究は存在しなかった。また,QUADAS を用いた研究の質評価ではバイアスリスクが高いと判定される研究が多かった。以上からエビデンスの強さはC とした。

超音波内視鏡および拡大内視鏡による精査は保険診療で行える治療であり,益と害のバランス,エビデンスの強さ,患者の希望などを勘案し,「T1a-M とT1b-SM の鑑別において,超音波内視鏡もしくは拡大内視鏡による精査を弱く推奨する」とした。

参考文献

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有馬美和子,他:【食道表在癌の内視鏡診断 最近の進歩】食道表在癌深達度診断の進歩 拡大内視鏡vs EUS EUS の意義.胃と腸.2006; 41(2): 183-96.
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He LJ, et al: Endoscopic ultrasonography for staging of T1a and T1b esophageal squamous cell carcinoma. World J Gastroenterol. 2014; 20(5): 1340-7.
11)
Jung JI, et al: Clinicopathologic factors influencing the accuracy of EUS for superficial esophageal carcinoma. World J Gastroenterol. 2014; 20(20): 6322-8.

CQ5
壁深達度が内視鏡治療適応と考えられる食道癌に対しては周在性の評価を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さA
壁深達度が内視鏡治療適応と考えられる食道癌に対しては治療前に周在性の評価を行うことを強く推奨する。(合意率100%[20/20])

解説文

腫瘍径の大きい食道癌に対して内視鏡治療を行った場合,瘢痕収縮により,食道内腔が狭くなることは経験的に知られていることであり,2007 年発行の『食道癌診断・治療ガイドライン第2 版』においては内視鏡治療の絶対適応病変は周在性2/3 周以下と記載されている。

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed:87 編,医中誌:96 編が抽出された。内視鏡治療に関連した原著論文にしぼって一次,二次スクリーニングを行い,3 編の観察研究に対して定性的・定量的システマティックレビューを行った。

Katada らは,内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection,EMR)施行216 病変中13 病変に術後狭窄を来たし,それらは全て3/4 周を超える切除が行われていたことを報告した 1)。Ono らは,内視鏡的粘膜下層剝離術(Endoscopic Submucosal Dissection,ESD)症例のうち,周在性が3/4 周を超える症例では6 症例中,5 症例に術後狭窄を来たしたことを報告した 2)。Shi らは,食道癌ESD 症例のうち,周在性が3/4 周を超える症例では34 症例中,32 症例に術後狭窄を来たしたことを報告した 3)

これら3 論文をメタアナリシスした結果,周在性が3/4 周を超える症例に対して内視鏡治療をした場合に狭窄を来たす危険性は,3/4 周以下症例と比較して,リスク比30.93(95%CI 18.85-50.76)(p 値<0.001)であった。

術後狭窄の可能性を予見することは重要である。内視鏡検査時における周在性評価は保険診療で行える治療であり特別な手間もコストもかかるものではない。益と害のバランス,エビデンスの強さ,患者の希望などを勘案し,「壁深達度が内視鏡治療適応と考えられる食道癌に対しては治療前に周在性の評価を行うことを強く推奨する」とした。

参考文献

1)
Katada C, et al: Esophageal stenosis after endoscopic mucosal resection of superficial esophageal lesions. Gastrointest Endosc. 2003; 57(2):165-9.
2)
Ono S, et al: Predictors of postoperative stricture after esophageal endoscopic submucosal dissection for superficial squamous cell neoplasms. Endoscopy. 2009; 41(8): 661-5.
3)
Shi Q, et al: Risk factors for postoperative stricture after endoscopic submucosal dissection for superficial esophageal carcinoma. Endoscopy. 2014; 46(8): 640-4.

CQ6
食道癌の内視鏡治療後の狭窄予防に何を推奨するか?

エビデンスの強さA
食道癌の内視鏡治療後の狭窄予防として,予防的バルーン拡張術,ステロイド局注,ステロイド内服のいずれかを行うことを強く推奨する。(合意率90%〔18/20〕)

解説文

CQ5 の推奨文でも述べられたように,周在性が3/4 周を超える食道癌に対して内視鏡治療を行った場合,狭窄を来たす危険性が高いために 1-3),何らかの狭窄予防対策が求められる。

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed:122 編,医中誌:61 編が抽出された。内視鏡治療に関連した原著論文にしぼって一次,二次スクリーニングを行い,1 編の症例集積,4 編の観察研究に対して定性的システマティックレビューを行った。

井上らは,食道全周性ESD 症例6 例に対し術後早期からの予防的バルーン拡張術を行い,拡張をくり返すことで全例,狭窄を回避できたことを報告した 4)。Ezoe らは同様に3/4 周を超える内視鏡切除が行われた食道癌症例29 例に対し術後1 週間以内からの予防的バルーン拡張術を施行した結果,非施行群に比べて有意に狭窄の頻度が低いことを報告した 5)

一方,Hashimoto らは食道亜全周切除症例21 例に対し切除後トリアムシノロン粘膜下局注を行い,非局注群に比べ有意に狭窄の頻度が低く,術後に要したバルーン拡張の頻度も少ないことを報告した 6)。Hanaoka らも3/4 周を超える内視鏡切除が行われた食道癌症例30 例(全周切除例を除く)に対し切除後トリアムシノロン粘膜下局注を行う前向き検討を行い,同様の有効性を報告した 7)。また,Yamaguchi らは亜全周~全周切除症例19 例にプレドニゾロン内服投与(30 mg/日から減量,8 週間投与)を行い,その狭窄予防効果を報告した 8)

なお,これらの狭窄予防法に関して,どれが優れた方法かを多数例で比較検討した報告はない。トリアムシノロン粘膜下局注とプレドニゾロン内服投与の狭窄予防効果を前向きに比較検討するJCOG1217 試験が行われているが,現時点で結果は判明していない。また,これらの狭窄予防法を複数組み合わせた場合の比較研究も行われていない。現時点で保険収載されている方法はバルーン拡張のみであるが,比較的低コストで安全な方法として実臨床で行われているステロイド局注,ステロイド内服についてもあえて検討に加えた。

狭窄症状が現れてから食道拡張を行うよりも狭窄予防を行う方が患者に対する益は大きいと考えられる。よって,周在性が3/4 周を超える食道癌に対し内視鏡治療を行った場合,予防的バルーン拡張術,ステロイド局注,ステロイド内服のいずれかを行うことを強く推奨する。ただし,合併症発生率に関してまとまった報告はないものの,予防的バルーン拡張術では術中穿孔,ステロイド局注では晩期穿孔,ステロイド内服では全身性感染症の危険性があることを十分説明する必要がある。

参考文献

1)
Katada C, et al: Esophageal stenosis after endoscopic mucosal resection of superficial esophageal lesions. Gastrointest Endosc. 2003; 57(2): 165-9.
2)
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井上晴洋,他: 【食道扁平上皮癌に対するESD の適応と実際】食道全周性ESD と予防的拡張術.胃と腸.2009; 44(3): 394-7.
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CQ7
cStageⅠ食道癌に対して手術を行わない場合,化学放射線療法または放射線療法のどちらを推奨するか?

エビデンスの強さC
内視鏡的切除の対象とならないcStageⅠ食道癌患者に対して手術を行わない場合,化学放射線療法を行うことを強く推奨する。(合意率84.2%[16/19])

解説文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed:108 編,Cochrane:18 編,医中誌:48 編が抽出された。それ以外に必要と考えられた6 編を加え,一次,二次スクリーニングを経て10 編を対象に定性的システマティックレビューを行った。cStageⅠのみを対象として放射線療法と化学放射線療法を比較したランダム化比較試験は存在しなかった。他のStage,腺癌を含むランダム化比較試験が1 編 1),システマティックレビューが2 編存在した 2, 3)。cStageⅠ食道癌を対象とした化学放射線療法に関する単群前向き試験が2 編 4, 5),cStageⅠ,Ⅱの80 歳以上を対象とした放射線療法に関する単群前向き研究が1 編あった 6)。cStageⅠのみを対象とした後ろ向きコホート研究を4 編(両群を比較した研究2 編,放射線療法単群2 編)認めた 7-10)

Cooper らはT1-3 N0-1 M0 食道癌を対象として,放射線療法と化学放射線療法を比較したランダム化比較試験を行った 1)。一部は非ランダム化で行われた試験で,5 年生存率は放射線療法単独で0%,化学放射線療法のランダム化群では26%であった。化学放射線療法のランダム化群の21%の患者は経過中無再発生存であった。Grade 4 の有害事象は放射線療法単独で2%であったのに対して,化学放射線療法ランダム化群では8%と高かった。上記試験を含めたcStageⅠに限定しない2 編のシステマティックレビューは共に化学放射線療法の放射線療法に対する生存期間・無再発生存期間の優越性を示していた 2, 3)。1 つのシステマティックレビューでは有害事象に関する検討も行われ,化学放射線療法においては明らかに放射線療法を上回る有害事象が認められた(Grade 3 以上の急性期有害事象 ハザード比:5.16)3)

わが国で行われたcStageⅠを対象とした前向き第Ⅱ相試験(JCOG9708 試験)で化学放射線療法(60 Gy,シスプラチン+5-FU)の結果は完全奏効割合87.5%,4 年生存率80.5%,4 年無再発生存率68.1%と有望な結果が示され,Grade 4 以上の有害事象は認めなかった 5)。もう1 編の化学放射線療法(55-66 Gy,シスプラチン+5-FU)に腔内照射(10-12 Gy)を加えた治療の前向き試験でも5 年生存率は66.4%と良好な結果であった 4)。cStageⅠ食道癌を対象に化学放射線療法と放射線療法を比較した2 編の後ろ向きコホート研究では生存期間に有意差は認めなかった 7, 10)。2 編の放射線単独療法に関する後ろ向き研究で5 年生存率は50.4~58.7%であった 8, 9)。上記4 編の後ろ向きコホート研究はそれぞれ少数例での報告(N=36~68)で,背景因子の調整もされていなかった。

以上を総合すると,cStageⅠに限定しないシステマティックレビューの結果でGrade 3 以上の有害事象の増加を認めるものの,許容範囲であり,化学放射線療法は放射線療法よりも生存期間が有意に長かったこと,cStageⅠを対象としたJCOG9708 試験等で化学放射線療法は高い奏効割合が示されていることから,cStageⅠ食道癌に対する根治的治療として放射線単独療法よりも化学放射線療法を推奨する。

一方,手術不耐となる高齢者や臓器機能低下症例など合併症リスクの高いcStageⅠ食道癌患者に対しては,益と害のバランスについて十分に検討する必要がある。

以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望などを勘案し,「内視鏡的切除の対象とならないcStageⅠ食道癌患者に対して手術を行わない場合,化学放射線療法を行うことを強く推奨する」とした。

参考文献

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3 cStageⅡ, Ⅲ食道癌治療アルゴリズム(⇒アルゴリズム

要約

cStageⅡ,Ⅲ食道癌の治療方針決定においては,CT 検査,上部消化管内視鏡検査,PET 検査などによる臨床病期診断を正確に行った上で,まずは全身状態の評価により耐術能の有無を判断する。耐術能に問題がない場合には,第一選択として術前化学療法を施行しその後に根治切除を行う。術前治療を行わない根治切除や術前化学放射線療法も選択肢の一つとなるが,手術を先行した場合は切除標本における病理組織診断に応じて(とくにリンパ節転移陽性例では)術後化学療法を考慮する。耐術能はないが化学放射線治療が施行可能な症例や手術拒否例に対しては根治的化学放射線療法(50 Gy 以上)を考慮し,完全奏効が得られれば以後経過観察を,遺残や再発を来たすような場合には救済治療としての外科的切除も検討する。なお,耐術能がなく化学放射線療法も適応外の症例に対しては放射線療法(腎機能低下症例,高齢者など),化学療法(放射線照射歴のある患者など)や緩和的対症療法あるいは姑息的な目的での化学療法を考慮する。

Clinical Question

CQ8
cStageⅡ,Ⅲ食道癌に対して,手術療法を中心とした治療と根治的化学放射線療法のどちらを推奨するか?

エビデンスの強さC
cStageⅡ,Ⅲ食道癌に対して,手術療法を中心とした治療を行うことを弱く推奨する。(合意率70%[14/20])

解説文

cStageⅡ,Ⅲ食道癌に対しては,JCOG9907 試験の結果を受けて術前化学療法+手術が推奨されている 1)。一方で,根治的化学放射線療法も根治可能な治療の一つである。

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed:486 編,Cochrane:306 編,医中誌:167 編が抽出され,一次,二次スクリーニングを経て,3 編のランダム化比較試験と,11 編の観察研究に対して定性的システマティックレビューを行った。

手術と根治的化学放射線療法の治療成績を直接比較したランダム化比較試験は,過去に3 編の報告があった 2-4)。しかし,いずれも海外からの報告であるため,わが国とは治療レジメンが異なり,わが国の治療方針とは大きく異なるものであった。

わが国における根治的化学放射線療法の治療成績は,単群第Ⅱ相試験であるJCOG9906 試験において,5 年生存率36.8%という結果が示されていた 5)

また観察研究に関しては,cStageⅡ,Ⅲ食道癌に対する手術と根治的化学放射線療法を比較したものは過去に10 編あり,そのうちわが国からの報告は6 編であった 6-15)。いずれもランダム化比較試験ではないため,背景因子の差があることに加え,治療レジメンもわが国で現在標準的に行われているものと異なる報告が多かった。生存期間の比較では,10 編のうち3 編において有意に手術群の全生存期間が延長された。一方で,根治的化学放射線療法群の全生存期間延長が示されたのは1 編であった。

したがって,今回のシステマティックレビューの結果を用いて本CQ への結論を導くことは困難であった。

毒性に関して,根治的化学放射線療法においてはJCOG9906 試験で晩期毒性として,食道炎(Grade 3/4)13%,心囊液貯留(Grade 3/4)16%,胸水貯留(Grade 3/4)9%が認められたことに加え,放射線性肺臓炎(Grade 3/4)が4%に生じ,死亡例が4 例あったと報告されている。一方,手術群においては,10 編の観察研究のうちわが国からの報告の6 編において手術関連死亡の報告があり,0~4%と報告されている。さらにJCOG9907 試験においては330 例中2 例で手術関連死亡が生じており,根治的化学放射線療法,手術いずれにおいても重篤な有害事象が発生する可能性があることに留意が必要である。

以上のように根治的化学放射線療法と比較して手術が全生存率を向上させるという根拠は少なく,毒性に関してもいずれの治療も一定の危険性を伴う。しかし,JCOG9907 試験において術前化学療法+手術群の5 年生存率が55%であったのに対して,JCOG9906 試験では37%であったこと 16),これまでにわが国で報告されている単施設観察研究においても手術群の成績が良好とするものが多いことから,cStageⅡ,Ⅲ食道癌患者には術前化学療法+手術を弱く推奨する。

さらに現在cStageⅡ,Ⅲ食道癌を対象として根治的化学放射線療法を先行し,救済手術として手術介入を積極的に行うことの有用性を検討することを目的としたJCOG0909 試験が進行中である。根治的化学放射線療法を先行した場合,遺残・再発病変に対する救済手術の益と害に関しても併せて考慮する必要がある。Tachimori らの報告では,総線量60 Gy を伴う根治的化学放射線療法後の救済食道切除術においては術後合併症発生率が増加し,通常手術において2%であった手術後在院死亡率が8%に増加すると報告されている 17)。JCOG0909 試験では,JCOG9906 試験で観察された有害事象の軽減と救済手術のリスク軽減を目的とし,三次元治療計画,多門照射を導入したことに加え,1 回線量を1.8 Gy,総線量50.4 Gy に変更している。本試験はすでに患者集積が終了して現在観察期間中であり,根治的化学放射線療法と手術を組み合わせた集学的治療の有用性を明らかにする上で本試験の結果が待たれる。

手術療法を中心とした治療および根治的化学放射線療法はいずれも保険診療で行える治療であり,益と害のバランス,エビデンスの強さ,患者の希望などを勘案し,「cStageⅡ,Ⅲ食道癌に対して,手術療法を中心とした治療を行うことを弱く推奨する」とした。

参考文献

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Yamashita H, et al: A single institutional non-randomized retrospective comparison between definitive chemoradiotherapy and radical surgery in 82 Japanese patients with resectable esophageal squamous cell carcinoma. Dis Esophagus. 2008; 21(5): 430-6.
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CQ9
cStageⅡ,Ⅲ食道癌に対して手術療法を中心とした治療を行う場合,術前化学療法,術後化学療法,術前化学放射線療法の何れを推奨するか?

エビデンスの強さB
cStageⅡ,Ⅲ食道癌に対して手術療法を中心とした治療を行う場合,
①術前化学療法と術後化学療法の比較では術前化学療法を強く推奨する。(合意率89.5%[17/19])
エビデンスの強さC
②術前化学療法と術前化学放射線療法の比較では術前化学療法を弱く推奨する。(合意率 100%[18/18])

解説文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed:419 編,Cochrane:321 編,医中誌:98 編,および追加4 編が一次スクリーニングされ,二次スクリーニングを経て定性的・定量的システマティックレビューを行った。

術前化学療法と術後化学療法の比較においては,JCOG9907 試験にてシスプラチン,5-FU による補助化学療法の施行時期についての検討が行われ,術前化学療法群が術後化学療法群に比べて全生存期間で有意に良好であった。また両治療において術後合併症の差は認められなかった 1)。この結果を受けて,cStageⅡ,Ⅲ胸部食道癌症例ではシスプラチン,5-FU による術前化学療法が強く推奨され,標準治療として位置付けられている 2)

次に術前化学療法と術前化学放射線療法の比較を行った。術前化学療法と術前化学放射線療法を比較するランダム化試験はStahl ら 3)による食道胃接合部の腺癌を対象とした1 編のみであった。症例集積不良のため打ち切りとなり,エンドポイントの全生存期間での有意性は示されなかったものの,3 年生存率では術前化学放射線療法群が術前化学療法群と比較して有意に延長し,術前化学放射線療法が有用である可能性が示されている。しかし対象が食道胃接合部腺癌であり,本CQ で対象とする集団と異なっていることから,現時点ではわが国で術前化学放射線療法を標準治療として推奨する根拠としては不十分と考えられた。

術前化学療法と術前化学放射線療法の比較では結論に至る根拠に乏しいため,術前化学放射線療法と手術単独の比較を行った。わが国では術前化学放射線療法の意義を検討したランダム化比較試験は施行されていないが,欧米では手術単独による局所制御の限界からその有用性を検証したランダム化比較試験が1980 年代後半より数多く報告されている 4-16)。Shapiro らによるCROSS trial 16)では術前化学放射線療法群と手術単独群を比較し,術前化学放射線療法群で全生存期間の有意な延長を認めた。とくに扁平上皮癌では術前化学放射線療法による予後上乗せ効果が顕著であった。またSjoquist ら 17)による術前化学療法または術前化学放射線療法を行った群と手術単独群を比較したメタアナリシスにおいても術前化学放射線療法群で術後生存率が有意に向上することが報告されている。

欧米で行われた術前化学放射線療法と手術単独を比較するランダム化比較試験13 編 4-16)のうち5 年生存率をアウトカムとした4 編 13-16)のランダム化比較試験に対して定性的システマティックレビュー,メタアナリシスを行ったところ,術前化学放射線療法により5 年生存率が延長する傾向はみられたものの有意な差は認めなかった。4 編のランダム化比較試験では,cStageⅠやcStage Ⅳが含まれていたこと,化学療法にカルボプラチン,パクリタキセルが使用されているものやシスプラチンのみ使用するものも含まれており,本CQ で対象とする集団とは一部異なっていた。

術前治療に伴う毒性について,Kumagai ら 18)のメタアナリシスにおいて食道癌全体では術前化学療法および術前化学放射線療法を手術単独と比較した何れの場合も術前治療に起因した死亡率の増加は認めなかったことが報告されている。しかしながら食道扁平上皮癌に限定すると術前化学放射線療法群では術後死亡率や治療関連死の割合が手術単独群に比べて増えることが報告されている。またKlevebro ら 19)によると,術前化学療法と術前化学放射線療法を比較すると術前化学放射線療法では術後死亡率や合併症の割合が有意に高くなることが報告されている。

わが国における現在の標準治療はシスプラチン,5-FU による術前化学療法であるが,術前化学放射線療法も有用である可能性が示唆される。現在の標準治療であるシスプラチン,5-FU による術前化学療法に対し,ドセタキセルを追加した3 剤併用術前化学療法および術前化学放射線療法を比較するランダム化試験としてJCOG1109 試験が現在進行中であり,その結果が待たれる 20)

術前化学療法,術前化学放射線療法はいずれも保険診療で行える治療であり,益と害のバランス,エビデンスの強さ,患者の希望などを勘案し,
「cStageⅡ,Ⅲ食道癌に対して手術療法を中心とした治療を行う場合,
①術前化学療法と術後化学療法の比較では術前化学療法を強く推奨する
②術前化学療法と術前化学放射線療法の比較では術前化学療法を弱く推奨する」
とした。

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CQ10
cStageⅡ,Ⅲ食道癌に術前補助療法+手術を行った場合,術後補助療法を推奨するか?

エビデンスの強さD
cStageⅡ,Ⅲ胸部食道扁平上皮癌に術前補助療法+手術を行った場合,術後化学療法を行わないことを弱く推奨する。(合意率85%[17/20])

解説文

cStageⅡ,Ⅲ胸部食道癌に対しては,まずJCOG9204 試験によって術後化学療法の手術単独に対する優越性が示され 1),その後JCOG9907 試験によって術前化学療法の術後化学療法に対する優越性が示された 2)ことから,術前化学療法+手術が現時点で日本における標準治療となっている。しかし,術前化学療法の後に手術を行った場合の術後化学療法の有用性については十分な検証は行われていない。

本CQ に対する文献検索の結果一次スクリーニングされたPubMed:315 編,Cochrane:188 編,医中誌:633 編について,二次スクリーニングを経て1 編のランダム化比較試験 3)と,1 編の症例対照研究 4)に対して定性的システマティックレビューを行った。

わが国におけるランダム化比較試験は存在せず,1 つのランダム化比較試験は海外の報告であった。その内容は,切除可能な食道扁平上皮癌に対して,術前化学療法の後根治手術を施行,術後に補助化学療法を行う群(A 群:175 例)と行わない群(B 群:171 例)を,無再発生存期間を主要評価項目として比較したもので,5 年無再発生存率はA 群35.0%,B 群19.1%,ハザード比0.62,p 値<0.001 であった 3)。しかし本報告においては,術式や化学療法がわが国と異なることや術前ステージングの記載がないなどのことにより,直ちにわが国の実地臨床に適用できるものではないと考えられる。なお,欧州では腺癌を対象として,術前・術後化学療法が行われている 5, 6)

一般に,術後化学療法は有害事象の発生頻度が高いことから完遂率が低く 2, 5, 6),現時点で術後化学療法による有益性が勝っているとは判断できない。

術後化学療法は保険診療で行える治療であるが,益と害のバランス,エビデンスの強さ,患者の希望などを勘案し,「cStageⅡ,Ⅲ胸部食道扁平上皮癌に術前補助療法+手術を行った場合,術後化学療法を行わないことを弱く推奨する」とした。

参考文献

1)
Ando N, et al: Surgery plus chemotherapy compared with surgery alone for localized squamous cell carcinoma of the thoracic esophagus: a Japan Clinical Oncology Group Study––JCOG9204. J Clin Oncol. 2003; 21(24): 4592-6.
2)
Ando N, et al: A randomized trial comparing postoperative adjuvant chemotherapy with cisplatin and 5-fluorouracil versus preoperative chemotherapy for localized advanced squamous cell carcinoma of the thoracic esophagus(JCOG9907). Ann Surg Oncol. 2012; 19(1): 68-74.
3)
Zhao Y, et al: Perioperative versus Preoperative Chemotherapy with Surgery in Patients with Resectable Squamous Cell Carcinoma of Esophagus: A Phase Ⅲ Randomized Trial. J Thorac Oncol. 2015; 10(9): 1349-56.
4)
Ardalan B, et al: Neoadjuvant, surgery and adjuvant chemotherapy without radiation for esophageal cancer. Jpn J Clin Oncol. 2007; 37(8): 590-6.
5)
Cunningham D, et al: Perioperative chemotherapy versus surgery alone for resectable gastroesophageal cancer. N Engl J Med. 2006; 355(1): 11-20.
6)
Ychou M, et al: Perioperative chemotherapy compared with surgery alone for resectable gastroesophageal adenocarcinoma: an FNCLCC and FFCD multicenter phase Ⅲ trial. J Clin Oncol. 2011; 29(13): 1715-21.

CQ11
cStageⅡ,Ⅲ食道癌に術前治療なく手術を行った場合,術後化学療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
cStageⅡ,Ⅲ食道癌に術前治療なく手術を行い,病理組織結果でリンパ節転移陽性であった場合には術後化学療法を行うことを弱く推奨する。(合意率85%[17/20])

解説文

わが国において,cStageⅡ,Ⅲ胸部食道癌に対してはJCOG9907 試験の結果に基づき,シスプラチン+5-FU による術前化学療法を行った後に根治手術を施行することが推奨されている。しかし実地臨床においては,狭窄により経口摂取困難な症例や化学療法施行に際して障害となる因子が存在する場合に,患者状態に応じて手術単独療法あるいは術後化学療法が施行されている。さらにcStageⅠの診断で手術を行った結果,pStageⅡ,Ⅲである場合も存在するため,手術療法を先行した場合の術後化学療法の必要性に関して検討が必要である。

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed:260 編,Cochrane:258 編,医中誌:132 編が一次スクリーニングされた。二次スクリーニングを経て,3 編のランダム化比較試験に対して定性的・定量的システマティックレビューを行った 1-3)。3 つのランダム化比較試験はいずれもバイアスリスクは低く非一貫性も認めなかった。しかしpStage Ⅳ症例が含まれており,また術後化学療法にビンデシンが使用されているものが含まれていた。結果としては,全てのランダム化比較試験で術後化学療法は5 年生存率を改善せず,3 つのランダム化比較試験を用いたメタアナリシスにおいても同様の結果となった 4)

JCOG8806 試験(術後シスプラチン+ビンデシン2 コース群と手術単独群の比較)では5 年生存率に有意差は認められず,術後化学療法による生存率の上乗せ効果を認めなかった 1)。その後JCOG9204 試験(術後シスプラチン+5-FU 2 コース群と手術単独群の比較)では,全生存率ではその差が明らかではなかったが,5 年無再発生存率は,術後化学療法群における有意な延長を認めた。とくに病理学的リンパ節転移陽性例での無再発生存期間の延長を認めた 2)。一方,病理学的リンパ節転移陰性例では無再発生存期間の延長を認めなかった。フランスで行われた術後化学療法のランダム化試験(術後シスプラチン+5-FU 6~8 コース群と手術単独群の比較)では,約半数が姑息的切除例であったが,生存期間中央値は両群間に差はみられず,シスプラチン+5-FU の術後化学療法は有用ではないと報告している 3)。これら3 つのランダム化比較試験をもとにしたメタアナリシスでもリスク比0.95(0.78-1.15)(p 値=0.59)と術後化学療法の生存率改善効果は認められなかった。

これまでのJCOG 臨床試験における手術単独群の長期成績は,欧米における臨床試験の手術+補助療法群の成績を大きく上回っており,わが国と欧米のリンパ節郭清に関する考え方の違いやその郭清精度の差が大きく影響していると考えられる。これは,わが国と欧米の臨床試験結果を比較する際に留意すべき点と考えられる。

以上のように術後化学療法が治癒切除例の全生存率を改善するという根拠はない。また術後化学療法は手術単独と比較し,頻度は低いものの治療関連死や一定の割合で有害事象を認めており,JCOG9204 試験では120 例中1 例(0.8%)で治療関連死を認めた。JCOG9204 試験では術後化学療法に伴うGrade 3 以上の有害事象として貧血(1.7%),白血球減少(4.2%),顆粒球減少(15.8%),血小板減少(2.5%),嘔気・嘔吐(8.3%),下痢(2.5%)を認め,Grade 4 以上の有害事象として顆粒球減少(2.5%),不整脈(0.8%),感染(0.8%),発熱(0.8%)を認めた。しかしながら,JCOG9204 試験では無再発生存率が有意に改善しており,とくに病理学的リンパ節転移陽性症例に対する術後化学療法の無再発生存期間の延長は明らかにされている。わが国での根拠を重視すると,術前未治療で治癒切除が行われたリンパ節転移陽性例に対する術後化学療法(シスプラチン+5-FU,2 コース)は術後無再発生存期間の延長に意義があるものと考えられる。

術後化学療法(シスプラチン+5-FU,2 コース)は保険診療で行える治療であり,益と害のバランス,エビデンスの強さ,患者の希望などを勘案し,「cStageⅡ,Ⅲ食道癌に術前治療なく手術を行い,病理組織結果でリンパ節転移陽性であった場合には術後化学療法を行うことを弱く推奨する」とした。

参考文献

1)
Ando N, et al: A randomized trial of surgery with and without chemotherapy for localized squamous carcinoma of the thoracic esophagus:the Japan Clinical Oncology Group Study. J Thorac Cardiovasc Surg. 1997; 114(2): 205-9.
2)
Ando N, et al: Surgery plus chemotherapy compared with surgery alone for localized squamous cell carcinoma of the thoracic esophagus: a Japan Clinical Oncology Group Study––JCOG9204. J Clin Oncol. 2003; 21(24): 4592-6.
3)
Pouliquen X, et al: 5-Fluorouracil and cisplatin therapy after palliative surgical resection of squamous cell carcinoma of the esophagus. A multicenter randomized trial. French Associations for Surgical Research. Ann Surg. 1996; 223(2): 127-33.
4)
Zhang SS, et al: Adjuvant chemotherapy versus surgery alone for esophageal squamous cell carcinoma: a meta-analysis of randomized controlled trials and nonrandomized studies. Dis Esophagus. 2014; 27(6): 574-84.

CQ12
cStageⅡ,Ⅲ,Ⅳa 食道癌に対して根治的化学放射線療法後に完全奏効を得た場合,追加化学療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
cStageⅡ,Ⅲ,Ⅳa 食道癌に対して根治的化学放射線療法後に完全奏効を得た場合,追加化学療法を行うことを弱く推奨する。(合意率90%[18/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:351 編,Cochrane:22 編,医中誌:144 編が抽出され,それ以外に1 編の論文が追加された。一次スクリーニングで25 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで4 編の論文が抽出された 1-4)。完全奏効後,追加化学療法と経過観察を比較した試験はなかった。そのため,根治的化学放射線療法に関する大規模な試験4 編を抽出し,定性的システマティックレビューを行った。

4 試験の化学放射線療法は全て放射線療法と同時に化学療法を行った後,2 コースの追加化学療法(シスプラチン+5-FU)を施行するものであった。わが国で行われた2 試験では追加化学療法前に治療効果判定を行い,部分奏効か完全奏効となった場合にのみ追加化学療法が施行された。明確な差を示したエビデンスはないものの,追加で化学療法を行うことで有害事象は増加することが予測される。

化学放射線療法同時併用後に完全奏効を得た場合の追加化学療法を上乗せすることに対するエビデンスはなく,その意義は明確化されていない。しかし,現在の化学放射線療法を確立した過去の大規模な臨床試験では2 コースの追加化学療法が含まれており,国際標準と考えられている。ただし,患者の状態によっては害が益を上回ることが予測されるため十分に注意が必要である。2 コースの追加化学療法は保険診療内で実施可能である。

以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望などを勘案し,推奨文は「cStageⅡ,Ⅲ,Ⅳa 食道癌に対して根治的化学放射線療法後に完全奏効を得た場合,追加化学療法を行うことを弱く推奨する」とした。

参考文献

1)
Cooper JS, et al: Chemoradiotherapy of locally advanced esophageal cancer:long-term follow-up of a prospective randomized trial(RTOG 85-01). Radiation Therapy Oncology Group. Jama. 1999; 281(17): 1623-7.
2)
Minsky BD, et al: INT 0123(Radiation Therapy Oncology Group 94-05)phase Ⅲ trial of combined-modality therapy for esophageal cancer: high-dose versus standard-dose radiation therapy. J Clin Oncol. 2002; 20(5): 1167-74.
3)
Ohtsu A, et al: Definitive chemoradiotherapy for T4 and/or M1 lymph node squamous cell carcinoma of the esophagus. J Clin Oncol. 1999; 17(9): 2915-21.
4)
Kato K, et al: PhaseⅡ study of chemoradiotherapy with 5-fluorouracil and cisplatin for StageⅡ-Ⅲ esophageal squamous cell carcinoma:JCOG trial(JCOG 9906). Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2011; 81(3): 684-90.

4 cStage Ⅳ食道癌治療アルゴリズム(⇒アルゴリズム

要約

cStage Ⅳ食道癌の治療方針決定においては,他のcStage と同様にCT 検査,消化管内視鏡検査,PET 検査などによる正確な臨床病期診断に加え,PS の評価が重要となる。

PS 良好な場合は,cStage Ⅳa 食道癌において化学放射線療法は根治が期待できる治療選択肢の一つである。しかし化学放射線療法後の遺残に対する救済手術は手術関連死亡が増加する可能性があり,益と害のバランスに十分配慮して総合的に判断する必要がある。癌が局所を超えて進行し,全身への治療が必要なcStage Ⅳb 食道癌の場合は化学療法が中心となるが,通過障害がある場合は緩和的放射線療法も考慮される。

一方PS 不良な場合は,緩和的対症療法が中心となる。しかしcStage Ⅳa の場合は放射線治療が食道癌による嚥下障害の改善に有効であり,一定の有害事象を伴うものの長期生存例も得られており,治療選択肢に挙げられる。

Clinical Question

CQ13
cStage Ⅳa 食道癌に対して化学放射線療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
cStage Ⅳa 食道癌に対して根治的化学放射線療法を行うことを弱く推奨する。(合意率85%[17/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:204 編,Cochrane:114 編,医中誌:145 編が抽出され,それ以外に1 編の論文が追加された。一次スクリーニングで49 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで抽出された6 編の論文に対し定性的システマティックレビューを行った。6 編のうちCQ の主旨に関するランダム化試験としてやや古く質の低いランダム化比較試験が1 編,根治的化学放射線療法に関するものが5 編であった。

根治的化学放射線療法は切除不能局所進行食道癌において根治の可能性がある治療選択肢の一つである。その一方,化学放射線療法による奏効により致死的な合併症(腫瘍穿孔・穿通)を来たす可能性があることも知られている。わが国における,PS 良好な切除不能局所進行食道癌に対する治療はJCOG0303 試験の結果から根治的化学放射線療法が選択されることが多いが,その治療導入による長期生存割合(メリット)と致死的合併症発生割合(デメリット)について比較し,本治療法の妥当性について検討した。

治療成績としては長期生存に関するデータは乏しいものの,2 または3 年生存割合がおよそ20~30%と報告されている 1-3)ことから,長期生存が得られる患者の割合は15~20%程度存在するものと推定される。また各報告のなかには一定数のPS2 の患者が含まれており,「健康時と比較した場合の体重減少」などPS 不良に関連する因子を有する症例における予後が不良であるという共通点が認められており,長期生存例にはPS 良好例の割合が多く含まれている可能性がある。一方で,cStage Ⅳa 患者における治療導入のリスクである,致死的合併症(穿孔・穿通)はおよそ10~20%の患者に認められていた 4)

抽出された論文のうち,1 編は切除不能局所進行食道癌に対する,放射線単独療法と化学放射線療法に関する比較であった 1)。やや古く質の低いランダム化比較試験と考えられ,照射/化学療法スケジュールは現在のものと大きく異なることに注意を要するものの,結果としては両群における生存期間に差は認められなかった。その他の5 編のうち,3 編が化学放射線療法 2, 3, 5),そして2 編が導入化学療法後に化学放射線療法を行った単群の前向き試験 6, 7)であった(注:JCOG0303 試験はランダム化比較試験だが,両群ともに化学放射線療法であるため,本項では単群の前向き試験として扱っている)。

PS 良好なcStage Ⅳa 食道癌に対する根治的化学放射線療法については,他の治療選択肢(無治療,または放射線療法単独,または化学療法単独)との直接的な比較を行ったデータは存在しないものの,治療導入により一定の割合で根治および長期生存が見込める治療法と考えられる。今回参考とした論文で用いられている化学療法レジメンは,シスプラチン+5-FU 療法が主であり,わが国でも保険診療内で実施可能である。ただし,その治療導入には10~20%程度の致死的合併症のリスクは不可避であり,治療のメリット・デメリットについて医師-患者間での十分な話し合いの上で選択すべき治療方法である。

以上の結果から,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望などを勘案し,推奨文は「cStage Ⅳa 食道癌に対して根治的化学放射線療法を行うことを弱く推奨する」とした。

参考文献

1)
Slabber CF, et al: A randomized study of radiotherapy alone versus radiotherapy plus 5-fluorouracil and platinum in patients with inoperable, locally advanced squamous cancer of the esophagus. Am J Clin Oncol. 1998; 21(5): 462-5.
2)
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3)
Ishida K, et al: PhaseⅡ study of cisplatin and 5-fluorouracil with concurrent radiotherapy in advanced squamous cell carcinoma of the esophagus: a Japan Esophageal Oncology Group(JEOG)/Japan Clinical Oncology Group trial(JCOG9516). Jpn J Clin Oncol. 2004; 34(10): 615-9.
4)
Tsushima T, et al: Risk Factors for Esophageal Fistula Associated With Chemoradiotherapy for Locally Advanced Unresectable Esophageal Cancer: A Supplementary Analysis of JCOG0303. Medicine(Baltimore). 2016; 95(20): e3699.
5)
Higuchi K, et al: Definitive chemoradiation therapy with docetaxel, cisplatin, and 5-fluorouracil(DCF-R)in advanced esophageal cancer: a phase 2 trial(KDOG 0501-P2). Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2014; 89(4): 872-9.
6)
Tomblyn MB, et al: Cetuximab plus cisplatin, irinotecan, and thoracic radiotherapy as definitive treatment for locally advanced, unresectable esophageal cancer: a phase-Ⅱ study of the SWOG(S0414). J Thorac Oncol. 2012; 7(5): 906-12.
7)
Chiarion SV, et al: PhaseⅡ trial of docetaxel, cisplatin and fluorouracil followed by carboplatin and radiotherapy in locally advanced oesophageal cancer. Br J Cancer. 2007; 96(3): 432-8.

CQ14
PS 不良なcStage Ⅳa 食道癌に対して放射線療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さD
PS 不良なcStage Ⅳa 食道癌に対して放射線療法を行うことを弱く推奨する。(合意率95%[19/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:386 編,医中誌:150 編,Cochrane:139 編の論文より一次スクリーニングで38 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで内容を検討し最終的に4 編の論文を抽出し定性的システマティックレビューを行った。

cStage Ⅳa を対象に化学放射線療法を実施した報告が2 編ある。2 つの報告は,それぞれ単施設および多施設共同第Ⅱ相試験として行われた。いずれの試験もわが国からの報告であり,2 週間の休止期間を含む60 Gy/30 Fr の放射線治療とシスプラチン,5-FU の化学療法を併用している。単施設からの報告では,54 症例を対象として奏効割合87%,生存期間中央値9 カ月,2 年全生存割合23%,Grade 3 以上の白血球減少,血小板減少がそれぞれ24%,28%に,穿孔が9%と一定の毒性も認められた 1)。多施設試験の報告では60 例を対象として奏効割合68%,生存期間中央値305.5 日,2 年全生存割合31.5%,Grade 4 以上の毒性8.3%,治療関連死3.4%であった 2)。ともに一定の有害事象は認めるものの,生存に関しては良好な成績を得ていた。ただし,PS の詳細が不明あるいはPS 不良がほとんど含まれていないため,本CQ が対象とするPS 不良に対する化学放射線療法の意義については不明である。加えて一般にPS 不良な場合,化学放射線療法の実施は困難である。

腔内照射を使用した2 つの比較試験のうち1 つは異なる2 つの腔内照射のスケジュールを比較したもの 3),もう1 つは腔内照射に外照射を追加するか否かの比較試験である 4)。いずれの試験においても,嚥下可能生存率が6 カ月後で50%以上(中央値7 カ月前後)と良好な緩和効果が得られている。ただし,いずれの試験もPS2 までを対象としており,よりPS 不良な症例に対する腔内照射の意義は不明である。また,腔内照射の2 つのスケジュールを比較した試験では 3),多変量解析においてPS が嚥下可能生存率に関する有意な因子として報告されている。しかし,わが国においては腔内照射がほとんど実施されておらず,これらの結果は本CQ との直接性に乏しい。

以上を総括するとcStage Ⅳa 食道癌に化学放射線療法,放射線療法が有効であるとする報告があるが,PS 不明例,PS 良好例に対しての報告であったり,わが国ではほどんど実施されていない腔内照射を用いた放射線療法であり,直接性のある有効性のエビデンスはない。一方で,放射線治療が食道癌による嚥下障害の改善に有効であることは定性的には示されており,一定の有害事象を伴うものの長期生存例も得られている。また,実臨床では,患者が長期生存を望める治療を強く希望することが多い。治療内容も全て保険診療の範囲内で実施可能である。

以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望などを勘案し,推奨文は「PS 不良なcStage Ⅳa 食道癌患者に対して放射線療法を行うことを弱く推奨する」とした。

参考文献

1)
Ohtsu A, et al: Definitive chemoradiotherapy for T4 and/or M1 lymph node squamous cell carcinoma of the esophagus. J Clin Oncol. 1999; 17(9): 2915-21.
2)
Ishida K, et al: PhaseⅡ study of cisplatin and 5-fluorouracil with concurrent radiotherapy in advanced squamous cell carcinoma of the esophagus: a Japan Esophageal Oncology Group(JEOG)/Japan Clinical Oncology Group trial(JCOG9516). Jpn J Clin Oncol. 2004; 34(10): 615-9.
3)
Sur RK, et al: Prospective randomized trial of HDR brachytherapy as a sole modality in palliation of advanced esophageal carcinoma––an International Atomic Energy Agency study. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2002; 53(1): 127-33.
4)
Sur R, et al: Randomized prospective study comparing high-dose-rate intraluminal brachytherapy(HDRILBT)alone with HDRILBT and external beam radiotherapy in the palliation of advanced esophageal cancer. Brachytherapy. 2004; 3(4): 191-5.

再掲
CQ12
cStageⅡ,Ⅲ,Ⅳa 食道癌に対して根治的化学放射線療法後に完全奏効を得た場合,追加化学療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
cStageⅡ,Ⅲ,Ⅳa 食道癌に対して根治的化学放射線療法後に完全奏効を得た場合,追加化学療法を行うことを弱く推奨する。(合意率90%[18/20])

解説文

参照
第Ⅲ章 食道癌治療のアルゴリズムおよびアルゴリズムに基づいた治療方針
3.cStageⅡ, Ⅲ CQ12

CQ15
cStage Ⅳa 食道癌に対して化学放射線療法後に遺残した場合,手術療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さD
cStage Ⅳa 食道癌に対して化学放射線療法後に遺残した場合,手術療法を行わないことを弱く推奨する。(合意率85%[17/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:290 編,Cochrane:27 編,医中誌:117 編が抽出され,それ以外に2 編の論文が追加された。一次スクリーニングで42 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで2 編の論文が抽出され,定性的システマティックレビューを行った。

初回治療で外科的切除の適応にならないcStage Ⅳa 患者に根治的化学放射線療法を行い,遺残したものの奏効により切除可能性が認められる場合に,手術療法を加えることの有用性を検討したが,根治的化学放射線療法後に手術療法と非手術療法を比較した試験は存在しなかった。そのため,根治的化学放射線療法後に手術療法を行った2 論文の治療成績を,わが国における非手術療法を主とした治療成績と比較し考察を行うこととした。

抽出された2 編はともに,cStage Ⅳa 患者(主にT4b 症例)に対し50 Gy 以上の根治的化学放射線療法後に手術療法を行った後ろ向きの観察研究であった。イタリアからの報告では,対象51 例のうち96.1%が手術療法を行い,うち39.2%がR0 切除となった。R0 切除例ではR1/2 切除例よりも予後が良好な傾向がみられたが,対象全体における生存期間中央値は11.1 カ月,3 年生存割合は8.8%,5 年生存割合は5.9%であった 1)。また手術関連死亡は10.2%であった。一方,わが国からの報告では,対象37 例のうち,臨床的完全奏効となった症例は経過観察とし,化学放射線療法による奏効が得られた13 例にのみ手術が行われ,うち12 例がR0 切除となった 2)。イタリアからの報告と同様にR0 切除例ではR1/2 切除例よりも予後が良好な傾向がみられたが,対象全体における生存期間中央値は10.1 カ月,1 年生存割合は45%,2 年生存割合は35%,そして5 年生存割合は23%であった。また手術関連死亡についての記載はなかった。

わが国の現時点におけるcStage Ⅳa 食道癌の標準治療はJCOG0303 試験の結果から,シスプラチン+5-FU を用いた標準的化学放射線療法(シスプラチン:70 mg/m2 1 日目,5-FU:700 mg/m2 1-4 日目,4 週毎×2 コース,60 Gy/30 Fr)である。JCOG0303 試験の標準的化学放射線療法群71 例のうち,プロトコール治療後の遺残・再発に対し手術療法が行われたのは12 例と全体の約17%であった 3)。試験全体の生存期間中央値は13 カ月,1 年生存割合が56.8%,そして3 年生存割合が27.6%であったが,完全奏効が得られない症例についての予後は不良であり,日常診療ではR0 切除を目指した手術療法も行われている。一方で上述のごとく,手術関連死亡が増加する可能性があり,手術療法を行う場合には益と害のバランスに十分配慮して総合的に判断する必要がある。

なお本CQ の治療介入は手術療法であるため,保険診療内で実施可能である。

JCOG0303 試験と前述の2 編の治療成績を比較するにあたっては,①JCOG0303 試験は臨床試験であり病態のより安定した症例が多く含まれていた,②前述の2 編は古いデータであり現在と比べて手術成績の差や再発後の治療選択肢が異なる,といった点を含め考察する必要がある。しかしながら,根治照射後の手術は侵襲が大きく術後合併症と治療関連死のリスクがあることは事実である。益と害を考慮した場合,現時点で積極的な手術介入による患者の予後向上・QOL 向上に繋がる十分な根拠が存在しないことを踏まえて,本項では推奨文を「cStage Ⅳa 食道癌に対して化学放射線療法後に遺残した場合,手術療法を行わないことを弱く推奨する」とした。現在,この対象に対し,標準治療である根治的化学放射線療法と,強力な導入化学療法後切除可能となった患者を切除する治療法の比較試験(JCOG1510 試験)が予定されている。

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CQ16
cStage Ⅳb 食道癌に対して化学療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
cStage Ⅳb 食道癌に対して化学療法を行うことを弱く推奨する。(合意率85%[17/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:401 編,Cochrane:372 編,医中誌:76 編が抽出され,それ以外に1 編の論文が追加された。一次スクリーニングで43 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで41 編の論文が抽出された。うちCQ の主旨に関するランダム化試験としてランダム化比較試験が3 編,化学療法の介入が行われ,益と害の評価ができるものが35 編であった。これらを対象に定性的システマティックレビューを行った。

この対象に対する無治療群と化学療法群でのランダム化比較試験は1 編のみであり,二次治療としてプラセボ対ゲフィチニブの投与を比較した試験である 1)。この試験ではプラセボに対するゲフィチニブの優越性が示されなかった。その他の薬剤を用いた第Ⅱ相試験では,一次治療としてシスプラチン+5-FU の併用療法にて,奏効割合30%前後,生存期間中央値6.6~9.5 カ月の報告 2-5)があり,標準治療として認識されている。シスプラチンをネダプラチンに変更した5-FU とネダプラチン併用療法も第Ⅱ相試験として,奏効割合39.5%,生存期間中央値8.8 カ月と報告されており,腎機能や心機能の影響でシスプラチン使用困難時の選択肢の一つとなっている 6)。いずれも保険診療で実施可能である。

二次治療においては,パクリタキセル100 mg/m2毎週投与6 回を7 週間ごとに繰り返す治療法では,奏効割合44.2%,生存期間中央値10.4 カ月と良好な成績が示されている 7)。ドセタキセルの単剤70 mg/m2 3 週間毎投与では奏効割合は16%であるが,生存期間中央値8.1 カ月であった 8)。有害事象については,PS 良好な患者を対象にした場合には,許容範囲であるが,多剤併用療法では10~20%程度のGrade 3 以上の重篤な有害事象が認められており,PS 良好な患者であっても注意が必要である。神経障害や,味覚障害など,日常生活に影響を及ぼす有害事象が発生した場合には,患者の生活の質に配慮しつつ治療の継続の可否を判断する必要がある。

これらの臨床試験では,PS0-1 の患者が主に登録され,臓器機能も保たれていることが多い。このような対象については,明確な比較試験はないものの,ある程度予後に対する有効性が得られると推測される。PS 不良な対象に対する化学療法のエビデンスはなく,現時点で化学療法の有効性を示す根拠はないため推奨されない。PS 不良な対象についてはまず緩和的対症療法を行い,改善が認められれば化学療法の対象となる場合もあるが,益と害のバランスを考えて慎重に検討すべきである。

以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望などを勘案し,推奨文は「cStage Ⅳb食道癌に対して化学療法を行うことを弱く推奨する」とした。

参考文献

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CQ17
通過障害があるcStage Ⅳb 食道癌に対して緩和的放射線療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
通過障害があるcStage Ⅳb 食道癌に対して緩和的放射線療法を行うことを弱く推奨する。(合意率100%[20/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:302 編,医中誌:46 編,Cochrane:79 編の論文より一次スクリーニングで29 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで内容を検討し最終的に3 編の論文と1 編の抄録を抽出し,定性的システマティックレビューを行った。

cStage Ⅳb を対象とする緩和目的の化学放射線療法の結果を報告した論文では,嚥下障害を伴うPS2 以下(40 例中38 例がPS1 以下)のcStage Ⅳb 食道癌40 例を対象としてシスプラチン+5-FU を併用した40 Gy/20 Fr の化学放射線療法を行い,75%で嚥下スコアの改善を認めた。血液毒性は認められるものの許容範囲内で,生存期間中央値308 日,1 年生存割合45%と比較的良好な治療成績が報告されているが,食道穿孔を5%,照射後30 日以内の死亡を5%に認めた 1)

嚥下障害を伴うcStage Ⅳb およびcStage Ⅲまでの耐術能不良例を対象とし,放射線単独療法と化学放射線療法を比較検討した報告は 2),抄録のみではあるがランダム化比較試験であり対象・介入がCQ にほぼ一致しているため最終検討に含めた。対象のPS については不明である。この研究では,220 例を対象とし,35 Gy/15 Fr または30 Gy/10 Fr の緩和照射と同じ照射スケジュールにシスプラチンと5-FU を併用した化学放射線療法を比較している。嚥下障害の改善は,緩和照射群,化学放射線療法群それぞれで,68%,74%で有意差はなく,化学放射線療法群で消化管毒性(悪心,嘔吐)が有意に多かった。生存期間中央値は緩和照射群203 日,化学放射線療法群210 日で有意差はなかった。

放射線療法の治療効果をメタリックステントと比較した報告が2 編ある 3, 4)。いずれの報告においても,ステント群でより早期に嚥下改善が得られるものの,嚥下改善維持期間は放射線療法群(腔内照射)で良好であった。これらの報告ではわが国ではほとんど用いられていない腔内照射法が用いられており,本CQ との直接性は乏しい。

以上を総括すると,一定の有害事象は認めるものの,放射線療法は嚥下困難改善に有効であり,有害反応も重篤なものが多いとは言えない。嚥下障害を認める患者の症状改善への希望は一般に強く,また治療は保険診療の範囲内で実施可能である。益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望などを勘案し,推奨文は「通過障害があるcStage Ⅳb 食道癌に対して緩和的放射線療法を行うことを弱く推奨する」とした。

参考文献

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第IV章 内視鏡治療

要約

内視鏡的切除術(Endoscopic Resection, ER)には病変粘膜を把持,もしくは吸引し,スネアにより切除を行う内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection, EMR)と,IT ナイフ,Hook ナイフなどによる広範囲の病変の一括切除が可能な内視鏡的粘膜下層剝離術(Endoscopic Submucosal Dissection, ESD)の方法がある 1-4)。その他の内視鏡的治療として光線力学的治療(Photodynamic Therapy,PDT),アルゴンプラズマ凝固法(Argon Plasma Coagulation:APC),電磁波凝固法が行われる。

総論

1 内視鏡的切除の適応

壁深達度が粘膜層(T1a)のうち,EP,LPM 病変では,リンパ節転移は極めて稀であり,これにより十分に根治性が得られる。壁深達度が粘膜筋板に達したもの,粘膜下層にわずかに浸潤するもの(200μm まで)では内視鏡的切除が可能であるが,リンパ節転移の可能性があり,相対的な適応となる 5-7)。粘膜下層(T1b)に深く入ったもの(200μm 以上)では50%程度の転移率があり 8),表在癌であっても進行癌に準じて治療を行う。

粘膜切除が3/4 周以上に及ぶ場合,内視鏡的切除後の瘢痕狭窄の発生が予測されるため十分な治療前説明と狭窄予防が必要である 9, 10)

2 切除標本による組織診断

治療前の壁深達度診断には限界があり,さらに広範囲な病変では壁深達度の正確な診断は困難である。また,浸潤部組織型や脈管侵襲等の術前診断はできない。切除標本による組織診断は,追加治療の要否決定に重要であり,一括切除組織標本による診断が不可欠である。

3 内視鏡的切除不能病変に対する治療

ER の辺縁遺残病変に対する追加治療,放射線治療や化学放射線療法後の追加ER に際しての粘膜挙上困難例,出血傾向のある症例など内視鏡的切除不能症例に対する治療の選択肢として,PDT 11),APC 12)などを考慮する。

4 一括切除の優位性

切除標本の組織的診断において一括切除が望ましい。従来のEMR において分割切除されていた病変もESD 導入により一括切除が可能となり,今後の器材開発,技術の普及が期待される。

5 偶発症

ER では,切除に伴う出血(0.2%),食道穿孔(1.9%),切除後の瘢痕性の狭窄(6.0~16.7%)など偶発症が報告されており8),その予防,対策,治療について十分な説明が必要である。

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Clinical Question

CQ18
食道表在癌に対して内視鏡治療を行いpT1a-MM であった場合,追加治療を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さD
pT1a-MM かつ脈管侵襲陽性である場合,追加治療を行うことを強く推奨する。(合意率85%[17/20])

解説文

内視鏡治療切除標本の病理組織学的診断でpT1a-MM であった場合に,追加治療の有用性を明らかにしたランダム化比較試験や症例対照研究の報告はない。

手術による治療成績の報告では,pT1a-MM 扁平上皮癌症例切除標本でのリンパ節転移頻度は0~27%と報告されており,主な報告例を集計すると30/210(14.2%,95%CI:9.85-19.76)であった 1-8)。腺癌では,pT1a-MM での転移頻度はほとんど報告がないが,pT1a では0~5%と報告され,主な報告例を集計すると,91/1882(4.9%,95%CI:3.95-5.9)であった 9-11)。一方で,内視鏡治療切除標本でpT1a-MM と評価された症例のリンパ節転移再発の頻度は,扁平上皮癌で0~4.2%,集計で5/223(2.24%,95%CI:0.73-5.15)7, 12, 13),腺癌で0%と報告されており 14),とくに扁平上皮癌において,手術標本で評価されたpT1a-MM 例と内視鏡治療標本で評価されたpT1a-MM 例ではリンパ節転移の頻度が大きく異なる。両者のリンパ節転移頻度の違いの主な要因は,手術標本と内視鏡切除標本の病理診断方法の違いと考えられる。手術標本は内視鏡切除標本と比べると切片幅が厚いために,pT1a-MM と評価された症例の中に,pT1b 症例が含まれている可能性を否定できない。その根拠として,pT1a-MM のリンパ管侵襲頻度が大きく異なることが挙げられる(内視鏡切除例pT1a-MM:0~8.1% 7, 12),手術標本:18.2~41.2% 1-4, 7))。

食道表在癌手術例におけるリンパ節転移のリスク因子の検討で,pT1a-MM 症例に限った報告は少ないが,pT1a-MM 50 例での解析では,リンパ管侵襲陰性陽性でリンパ節転移頻度が有意に異なると報告されている(陰性例:4/38(10.5%),陽性例:5/12(41.7%))4)。また,リンパ節転移のリスク因子についての多変量解析では,リンパ管侵襲陽性のオッズ比は,T1 症例全体での検討で3.63~6.11 5, 6),pT1a-MM/pT1b-SM1 症例での検討で3.83 4),pT1a-MM 症例のみの検討で7.333 と報告されている 7)。内視鏡切除例での異時性転移のリスク因子の検討では,pT1 全例のリンパ節または遠隔転移の頻度は,3.73%(15/402)で,pT1a-EP/LPM では0.36%(1/280),pT1a-MM では4.29%(3/70),pT1b-SM1 では11.7%(2/17),pT1b-SM2 では25.7%(9/35)と深達度が進行するほど頻度が高くなり,多変量解析では深達度のみが有意なリスク因子であり,pT1a-EP/LPM に対してpT1a-MM のハザード比は13.1(95%CI:1.3-133.7,p 値=0.03)であった 13)。一方,表在癌全体では,リンパ管侵襲陽性は異時性転移の有意なリスク因子にはならなかったが,pT1a のみの解析で5 年累積転移発生割合はリンパ管侵襲陽性例が陰性例と比較して有意に高かった(46.7% vs. 0.7%,p 値<0.0001) 13)。検討した論文は全て後ろ向き症例集積であり,内視鏡切除例ではリンパ管侵襲陽性症例に対しては,主に化学放射線療法による追加治療が行われているので,評価は難しいが,内視鏡切除後pT1a-MM と診断された症例は,pT1a-EP/LPM と比べると転移再発のリスクが高く,リスク因子としてはリンパ管侵襲陽性が挙げられる。

内視鏡治療切除標本の病理組織学的診断でpT1a-MM であった場合の根治的な追加治療としては外科手術または化学放射線療法が考慮される。T1a 症例に対する外科手術の5 年疾患特異生存割合は98~100%,全生存割合は82~100%と良好な治療成績が報告されている 7, 8, 10)一方で,術後合併症による死亡割合は,0.2~3.6%と報告されている 4, 8, 11, 15)。cStageⅠ(cT1N0M0)に対する化学放射線療法の治療成績は,4 年全生存割合80.5%,5 年全生存割合66,4%,5 年疾患特異生存割合76.8%,cT1a 例で85.2%と報告されているが,cT1b 症例が多く含まれる 16, 17)。重篤な晩期合併症として,食道瘻3.2%,食道狭窄3.2%,Grade 3 の心虚血1%,呼吸不全2.8%が報告されているが,治療関連死亡例の報告はない 16, 17)。また,内視鏡切除後追加化学放射線療法については,少数例の検討だがpT1a-MM およびT1b-SM1 では5 年全生存割合,疾患特異生存割合はいずれも100%,pT1a-MM では3 年疾患特異生存割合は92.9%で,有害事象についていずれも詳細な報告はないが,重篤な有害事象や治療関連死亡は認めていない 12, 18)。益と害のバランスを考えると,内視鏡治療を行いpT1a-MM であった場合の追加治療は,再発リスクの高い症例に対して行うべきと考えられる。

以上の結果から,多くが後方視的な症例集積の報告でありエビデンスの高い知見は現在までに得られておらず,エビデンスの強さはD とした。追加治療として主に行われている化学放射線療法は保険診療で実施可能であり,益と害のバランス,エビデンスの強さ,患者の希望などを勘案し,「pT1a-MM かつ脈管侵襲陽性である場合,追加治療を行うことを強く推奨する」とした。

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再掲
CQ5
壁深達度が内視鏡治療適応と考えられる食道癌に対しては周在性の評価を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さA
壁深達度が内視鏡治療適応と考えられる食道癌に対しては治療前に周在性の評価を行うことを強く推奨する。(合意率100%[20/20])

解説文

参照
第Ⅲ章 食道癌治療のアルゴリズムおよびアルゴリズムに基づいた治療方針
2.cStage 0,Ⅰ CQ5

再掲
CQ6
食道癌の内視鏡治療後の狭窄予防に何を推奨するか?

エビデンスの強さA
食道癌の内視鏡治療後の狭窄予防として,予防的バルーン拡張術,ステロイド局注,ステロイド内服のいずれかを行うことを強く推奨する。(合意率90%[18/20])

解説文

参照
第Ⅲ章 食道癌治療のアルゴリズムおよびアルゴリズムに基づいた治療方針
2.cStage 0,Ⅰ CQ6

第V章 外科治療

1 頸部食道癌に対する手術

要約

頸部食道癌の手術では喉頭合併切除が必要な症例が多く,喉頭温存を目指して術前化学放射線療法や根治的化学放射線療法を行うことが多い。喉頭温存手術は発声機能が温存される一方,誤嚥や肺炎を生じやすく,適応には十分な配慮が必要である。喉頭合併切除術は発声機能の喪失によるQOL の低下が問題である。頸部食道癌に対する外科手術と根治的化学放射線療法の予後について有意差を示した報告はなく,QOL 等も十分に考慮した治療法を選択するべきである。

総論

頸部食道癌は気管や大血管,神経,甲状腺などが密集している領域に発生するため,隣接臓器浸潤の頻度が高い。また,リンパ節転移の頻度も高く,進行癌の状態で診断されることが多い。しかしながら胸部食道癌に比較して広い領域に転移を来たすことは少ないため,手術の適応となる症例は比較的多い。頸部食道癌の手術における大きな問題は,喉頭を合併切除しなければならない症例が多いことである。そのため,喉頭温存目的に術前化学放射線療法を施行して腫瘍の縮小を得てから手術を施行する場合 1)や,根治的化学放射線療法を行って,局所の遺残や再発が認められた場合に救済手術を施行することもある 2)

喉頭温存手術は咽頭,喉頭,気管に腫瘍浸潤を認めない症例が適応となる。発声機能の温存が最大の利益であるが,一方で誤嚥や肺炎を生じやすいという不利益があり,一次的に気管切開を要することも多い 3)。そのため喉頭挙上術といった誤嚥防止策を付加するなど,適応および術式に関しては十分な配慮が必要である 4)

喉頭合併切除術(咽頭喉頭食道切除術)は腫瘍が咽頭,喉頭,気管に浸潤している際に必要となる。また,浸潤が咽頭に直接及んでいない場合でも,再建腸管との吻合のために必要な頸部食道が確保できないような症例では適応となる。喉頭合併切除では発声機能が失われるために,QOLが著しく低下することが問題である。

頸部食道癌に対する切除術後の主な再建法としては,遊離空腸移植 5)による再建と胃管による再建 6)が挙げられる。第一選択は遊離空腸移植であるが,胸部食道癌の合併例や頸部食道癌の肛門側が胸部食道にかかる症例などでは胃管再建が選択される。

頸部食道癌のリンパ節転移頻度は比較的高いが,その多くは頸部領域と上縦隔の一部に限定しており,この領域を中心に郭清が行われている。しかしながら,頸部食道癌のリンパ節郭清効果に関する報告は少なく,今後の課題である。

頸部食道癌に対する外科手術と根治的化学放射線療法の予後について有意差を示した報告はなく,QOL 等も十分に考慮した治療法を選択するべきである。

参考文献

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Clinical Question

CQ19
喉頭温存を希望する喉頭合併切除適応食道癌に対して,術前あるいは根治的化学放射線療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さD
喉頭温存を希望する喉頭合併切除適応食道癌に対して,術前あるいは根治的化学放射線療法を行うことを強く推奨する。(合意率84.2%[16/19])

解説文

頸部食道癌の中で,喉頭合併切除の適応となる症例に対する治療法の選択は実臨床での大きな問題である。喉頭合併切除を行うと発声機能が失われ,QOL が著しく低下する 1)。このため,喉頭温存を目指して術前あるいは根治的化学放射線療法を行うことが多い。

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed および医中誌で130 編が抽出された。さらにそれ以外で抽出した7 編の文献と合わせ一次,二次スクリーニングを行い,12 編の観察研究 2-13)に対して定性的・定量的システマティックレビューを行った。

わが国からは頸部食道癌に対する手術と根治的化学放射線療法の喉頭温存率の比較 2)や,化学放射線療法の導入による喉頭温存への戦略 3, 4)などが報告されている。それらによると化学放射線療法による喉頭温存率は53~78%であり,手術単独での温存率19~24%に対して優位な成績であった。その他にも手術単独との比較ではないものの,術前化学放射線療法後の手術 5-7)や根治的化学放射線療法 8, 9)の報告があり,40~67%で喉頭温存が可能であった。また最近,わが国で頸部食道癌に対する根治的化学放射線療法の多施設共同第Ⅱ相試験が行われ,完全奏効割合73.3%という結果が報告されている 10)

日本食道学会が最近行った全国調査では,喉頭温存が困難なために術前療法(化学療法,化学放射線療法)を行った患者の24.5%で喉頭温存が可能となり,根治的化学放射線療法では47.3%で喉頭温存が可能であった 11)

化学放射線療法と手術の比較が可能な3 つの観察研究 2, 3, 11)によりメタアナリシスを行ったところ,化学放射線療法の喉頭温存率が有意に良好であった(オッズ比0.33,p 値<0.00001)。

また,生存率に関して化学放射線療法と手術を比較した報告では,いずれも有意差を認めず 2, 3, 12-14),5 年生存率の比較が可能な3 つの研究 2, 3, 12)のメタアナリシスを行った結果でも同様に有意差を認めなかった(オッズ比1.38,p 値=0.22)。

有害事象に関しては,化学放射線療法でGrade 3 以上の白血球減少を38%程度まで認める他,Grade 3 以上の食道炎,嚥下困難,嚥下痛などを5~20%程度認めた 12)。また,喉頭温存手術では肺炎がやや多く,気管切開率が高いとする報告もあり,嚥下障害も認めることから喉頭挙上などの機能低下を軽減する工夫も考慮すべきである 3-5)

以上を総括すると,術前あるいは根治的化学放射線療法は喉頭温存率を向上させる目的において有用である。しかしながら,生存率の向上に関する有用性は認められない。さらに化学放射線療法後や喉頭温存術後には嚥下障害を来たす場合があることから,経口摂取に関するQOL にも十分配慮して治療を行う必要がある。エビデンスの程度と,益と害のバランスを考慮しつつ,患者の希望が多く,保険診療で実施可能な治療法であることより,推奨文は「喉頭温存を希望する喉頭合併切除適応食道癌に対して,術前あるいは根治的化学放射線療法を行うことを強く推奨する」とした。

参考文献

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CQ20
切除可能な頸部食道癌に対する手術において,頸部リンパ節および上縦隔リンパ節の郭清を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
切除可能な頸部食道癌に対する手術において,頸部リンパ節および上縦隔リンパ節の郭清を行うことを弱く推奨する。(合意率80%[16/20])

解説文

頸部食道癌は腹部リンパ節に転移を来たすことは非常に稀であるが,上縦隔リンパ節にはしばしば転移を認めるため,郭清領域に関しては慎重に検討する必要がある。

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed および医中誌で108 編が抽出された。さらにそれ以外で抽出した20 編を追加し,一次,二次スクリーニングを経て,9 編の観察研究に対する定性的システマティックレビューを行った。

9 編は全て郭清範囲の相違による成績の比較検討を行っていない症例集積研究であった。うち7 編がわが国からの報告であった。このうち50 例以上の頸部食道癌を検討した報告が3 編認められた 1-3)。それらによればT1b 以深の症例でリンパ節転移が出現し,頸部食道傍リンパ節[101]に41~59%の転移を認め,鎖骨上リンパ節[104]に33~42%,深頸リンパ節[102]に19~37%,浅在性リンパ節[100]に2~7%の転移を認めた。縦隔リンパ節では反回神経リンパ節[106rec]転移を11~25%に,胸部上部食道傍リンパ節[105]への転移を0~12%に認めた。占居部位別の検討では,Ce 限局症例で[101],[102],[104]の転移率が高く,pT3 以深で[106rec]と[105]にも転移を認めた。CeUt では[101],[102],[104]の他に,[106rec]と[105]に比較的高率に転移を認めた。CePh では[101],[102],[104]への転移が高率であるが,縦隔への転移は認めなかった。また咽頭後リンパ節[103]に5%程度の転移を認めた。これら以外の6 編の報告 4-9)でも,同様の傾向を認めた。

予後に関する報告は2 編で認められた 1, 3)が,いずれもリンパ節転移の程度に伴い予後が不良となるとするのみで,郭清効果への言及は認められなかった。

頸部郭清に伴う重篤な合併症の報告はないが,上縦隔郭清に関する合併症では副甲状腺機能低下症を53%に認め,気管壊死と大血管破裂をそれぞれ13%に認めたとする報告がある 4)。このため縦隔郭清を行うにあたっては,的確なアプローチ法の選択と慎重な手術操作が望まれる。

以上を総括すると,頸部食道癌全体ではT1b 以深でリンパ節転移が認められ,[101],[102],[104]への転移頻度が高い。Ce およびCeUt 症例では[106rec],[105]にも転移を認める。しかしながらこれらのリンパ節に対する郭清効果は不明であり,縦隔郭清には気管壊死や大血管破裂などの重篤な合併症が認められることから,患者の希望にも十分配慮して郭清を行うべきである。以上,エビデンスの強さ,益と害のバランス,保険診療の範囲内で実施可能であることなどを勘案し,推奨文は「切除可能な頸部食道癌に対する手術において,頸部リンパ節および上縦隔リンパ節の郭清を行うことを弱く推奨する」とした。

参考文献

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2 胸部食道癌に対する手術

要約

胸部食道癌は頸・胸・腹の広範囲にリンパ節転移がみられることが多く,T1b-SM2,3 以上は進行癌として右開胸により胸腹部食道を全摘し,頸部,胸部,腹部の3 領域のリンパ節を含めた切除範囲とすることが一般的である。胸部中部食道癌においても規約改訂により鎖骨上リンパ節[104]は2 群となりD2 郭清には3 領域郭清が必要となった。

体腔鏡下手術は左側臥位での胸部操作が主流であったが,腹臥位での胸部操作も行われている。現時点では臨床研究段階であり,標準的開胸手術と長期成績を比較するランダム化比較試験(JCOG1409 試験)が開始され,その結果が待たれるところである。

総論

胸部食道癌は頸・胸・腹の広範囲にリンパ節転移がみられることが多く,縦隔リンパ節を十分に郭清する必要性から右開胸を行い,リンパ節郭清とともに胸腹部食道は全摘し,頸部,胸部,腹部の3 領域のリンパ節を含めた切除範囲とすることが一般的である。壁深達度がT1a-MM 以深であればリンパ節転移の可能性があり,T1b-SM2,3 では進行癌として対処する必要がある 1-2)

主病変の占居部位や大きさ,深達度などによって,リンパ節転移の分布や転移率に差がみられるため,個々の症例に応じてCT,US,MRI,PET などを用いて術前評価を行い,郭清範囲を決定する。日本食道学会の全国登録におけるデータの解析 3)から『食道癌取扱い規約第11 版』では胸部中部食道癌においても鎖骨上リンパ節[104]は2 群となりD2 郭清には3 領域郭清が必要となった。鎖骨上リンパ節[104]郭清は胸部操作での郭清が不可能であり,この領域の確実なリンパ節郭清を行うには頸部からのアプローチが必要である。

胸部食道癌に対する根治手術は頸部,胸部,腹部の3 経路からアプローチするのが一般的である。頸部食道傍リンパ節[101]の郭清に関しては,頸部からだけではなく縦隔からのアプローチも可能とする意見もある。

体腔鏡を用いた食道切除,再建術は低侵襲性,根治性,遠隔治療成績などに関して現時点では臨床研究段階であるが,将来的に期待できる治療法である。胸腔鏡,腹腔鏡下食道切除再建術や,縦隔鏡,腹腔鏡を用いた内視鏡補助下経食道裂孔的非開胸食道抜去術などが報告され,NCD(National Clinical Database)における2011~2013 年の症例の解析では37.6%の症例に体腔鏡を用いた手術が行われている。死亡率は2.44%であり全体死亡率3.03%に比較しても安全に施行されていた。体腔鏡下手術の適応は施設間で差がありcT3 症例,術前化学放射線治療施行症例まで適応としている施設もある。

体腔鏡下手術を安全に施行し,手術時間の短縮やリンパ節郭清程度を上げるために小開胸を併用しその小切開創から直接操作する方法やVATS(Video-Assisted Thoracoscopic Surgery)法,片手を挿入し手術を行うHALS(Hand-Assisted Laparoscopic Surgery)法がある。従来は左側臥位での胸部操作が主流であったが,最近では腹臥位での完全胸腔鏡下胸部操作も行われている。また,頸部創から縦隔鏡を挿入し縦隔リンパ節郭清をする術式,腹腔鏡を用いて経食道裂孔的に縦隔リンパ節郭清を行う術式も行われている。体腔鏡下手術では,拡大視効果により微細解剖を認識した脈管や神経の温存と精度が高いリンパ節郭清ができるという報告もあるが,従来の標準的開胸手術との長期成績を比較するランダム化比較試験(JCOG1409 試験)が開始され,その結果が待たれるところである 4)

参考文献

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Clinical Question

CQ21
胸部食道癌に対して胸腔鏡下食道切除術を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
胸部食道癌に対して,胸腔鏡下食道切除術を行うことを,弱く推奨する。(合意率95%[19/20])

解説文

わが国では,これまで開胸による食道切除術が主流であったが,1995 年に赤石らにより胸腔鏡下食道切除術が導入されて以後 1),手術手技の向上や機器の進歩に伴い胸腔鏡下食道切除術が急速に普及しつつある。胸壁破壊を最小限にとどめることによる低侵襲性と拡大視効果による精緻な手術操作が期待されるが,その安全性,有効性に関する十分な結論は現時点では得られていない。

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:447 編,Cochrane:199 編,医中誌:120 編が抽出された。一次,二次スクリーニングを経て,1 編のランダム化比較試験と,34 編の観察研究に対して定性的および定量的システマティックレビューを行った。

有効性に関しては,開胸手術と胸腔鏡下手術の治療成績を直接比較したランダム化比較試験は,過去にオランダを中心とした欧州からの報告が1 編あるのみである 2)。この試験は術後の呼吸器合併症を含む短期成績のみを検討した試験であり,長期生存に関する報告は行われていない。また,開胸手術と胸腔鏡下手術における長期生存を比較した報告は観察研究のみであるが過去に11 編あり 3-13),そのうちわが国からの報告は5 編である 3, 8, 10-12)。この5 編のうち3 編では5 年全生存率に関する胸腔鏡下手術の優位性が示されているが,そのうち2 編は開胸手術群をヒストリカルコントロールとしている。5 年全生存率に関する開胸手術の優位性を示した報告はない。いずれの報告も後ろ向きコホート研究のため,今回のシステマティックレビューの結果を用いて長期予後に関する結論を導くことは困難である。

安全性に関しては,前出のランダム化比較試験において,両群間に術後30 日死亡に関する有意差は認められない 2)。10 編の観察研究によるメタアナリシスを行ったが,両群間に有意差を認めない 4, 10, 12-19)図1)。術後肺炎に関しては,ランダム化比較試験において開胸手術群34%に対し,胸腔鏡下手術群12%と有意に低い発生率であった 2)。しかし,わが国における2011 年のNCD に登録された,食道切除再建症例5,354 例の解析では,全合併症率が,開胸手術群40.8%に対し,胸腔鏡下手術群44.3%と有意に高率である。また30 日以内の再手術率に関しても,開胸手術群5.6%に対し,胸腔鏡下手術群8.0%と有意に高率である 19)。cStage I を対象にしたJCOG0502 において開胸手術群と胸腔鏡下手術群を比較した検討では,術後合併症に差を認めないが,再手術の割合が胸腔鏡下手術群で増加すると報告されている 20)。現時点でわが国においては胸腔鏡下手術群の合併症が高率であることは否定できない。

図1 30 日死亡率(観察研究10 編のメタアナリシス)

術後在院期間に関しては,前出のランダム化比較試験において,開胸手術群中央値14 日(1-120)に対し,胸腔鏡下手術群中央値11 日(7-80)と有意に短い結果である 2)。観察研究10 編によるメタアナリシスを行った結果からも,異質性が高いものの,開胸手術群に比し胸腔鏡下手術群で有意な短縮が認められている 5, 6, 18, 21-27)図2)。

図2 術後在院期間(観察研究10 編のメタアナリシス)

胸腔鏡下食道切除術は在院日数を短縮させる可能性があるが,現時点で患者の生存に寄与する十分な根拠はない。以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望などを勘案し,推奨文は「胸部食道癌に対して,胸腔鏡下食道切除術を行うことを,弱く推奨する」とした。現在わが国にて,「臨床病期Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ食道癌(T4 を除く)に対する胸腔鏡下手術と開胸手術のランダム化比較第Ⅲ相試験(JCOG1409 試験)」が開始されており,その結果が待たれる。

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CQ22
食道癌根治術において頸部リンパ節郭清を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さB
胸部上中部食道癌に対しては頸部リンパ節郭清を行うことを強く推奨する。(合意率90%[18/20])

解説文

『食道癌取扱い規約第11 版』が2015 年10 月に出版され,頸部リンパ節郭清の範囲が変更された。胸部中部食道癌(Mt)では[104](鎖骨上リンパ節)が3 群から2 群に変更され,また胸部下部食道癌(Lt)では[101](頸部食道傍リンパ節)が3 群から2 群,[104]が4 群から3 群に変更された。胸部上部食道癌(Ut)はもとより,Mt やLt においてもより頸部リンパ節郭清が重要と認識されるようになった。

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:251 編,医中誌:166 編が抽出された。一次,二次スクリーニングを経て,1 編のランダム化比較試験,5 編の観察研究に対して定性的システマティックレビューを行った。

わが国における頸部リンパ節郭清を施行した群と施行していない群の治療成績と合併症について直接比較したランダム化比較試験の報告では,症例数が少ないため有意差を認めなかったが,全生存期間が延長される傾向があった 1)。また,わが国から報告されている頸部リンパ節郭清による生存期間の延長を認めた観察研究は3 編あり 2-4),1 編は胸部下部食道癌では生存期間の延長を認めなかったものの,胸部上中部食道癌では生存期間の延長を認めた 3)。もう1 編は胸部下部食道癌のみを対象とした観察研究であったが,上縦隔リンパ節または中縦隔にリンパ節転移を認めた場合,生存期間の延長を認めた 4)。また,別のわが国と海外の2 つの観察研究では頸部リンパ節郭清群において術前に頸部超音波検査で頸部リンパ節郭清の適応を決めるなどの操作が加わっており,評価困難であった 5, 6)

また,頸部リンパ節郭清は胸部上部中部食道癌に対して比較的高い郭清効果指数(転移リンパ節頻度(%)×5 年生存率(%)/100)を示していた 7)。また胸部下部食道癌では郭清効果指数は[101]では0.8-2.7 を示し,[104]では0-0.6 と比較的低値であったが,[101]の転移陽性率は4.7~12.4%,[104]の転移陽性率は3.7~7%であった 7, 8)。これらの結果から,食道癌に対する頸部リンパ節郭清は生存期間の延長を認める報告が多く有用である。

一方,安全性に関しては,1 編のランダム化比較試験の報告において,術後合併症として横郭神経麻痺の増加,気管切開の増加を認めたものの,反回神経麻痺,呼吸器合併症,縫合不全の増加を認めなかった 1)。また,わが国および海外の2 編の観察研究では,反回神経麻痺,縫合不全等の増加があると報告されていたが 3, 6),わが国の報告の3 編では術後合併症の発生率に差を認めなかった 2-5)。術後在院死亡に関してわが国で報告されている4 つの観察研究において頸部リンパ節郭清によりその増加を認めていない 2-5)

頸部リンパ節郭清は胸部上中部食道癌において生存期間の延長を認める報告が多い。安全性に関しては合併症を増加させるリスクも否定できないが,わが国においては在院死を増加させる報告はなく,安全に施行可能とする報告が多い。以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望などを勘案し,推奨文は「胸部上中部食道癌に対しては頸部リンパ節郭清を行うことを強く推奨する」とした。

参考文献

1)
Nishihira T, et al: A prospective randomized trial of extended cervical and superior mediastinal lymphadenectomy for carcinoma of the thoracic esophagus. Am J Surg. 1998; 175(1): 47-51.
2)
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3 食道胃接合部癌(腹部食道癌)に対する手術

要約

食道胃接合部癌,とくに西分類の腺癌もしくはSiewert typeⅡの治療方針や手術術式については議論が分かれる。日本胃癌学会・日本食道学会合同作業部会による後方視解析にて4 cm 以下の食道胃接合部癌に対する至適郭清範囲について提案がなされた。現在,より進行した腫瘍に対する郭清範囲について前向きの臨床研究が行われている。

総論

食道胃接合部癌の定義について海外ではSiewert 分類が使用されるが,わが国では日本胃癌学会,日本食道学会ともに西分類を採用している。Siewert 分類については,typeⅠは胸部食道癌,type Ⅲは噴門癌として取り扱われることが多い。一方,西分類では扁平上皮癌は胸部食道癌に準じて治療されることが多い。したがって,西分類の腺癌もしくはSiewert typeⅡの治療方針や手術術式については議論が分かれるところである。

食道胃接合部癌は頸部,縦隔,上腹部,腹部大動脈周囲まで極めて広範囲にリンパ節転移を示すことがあり,適切な郭清範囲について一定の見解は得られていなかった。日本胃癌学会・日本食道学会合同作業部会では,手術症例の後方視解析により郭清効果指数(転移率×転移例での5 年生存率)に基づいて推奨する郭清範囲を設定した。今後,これに基づいて症例を集積することによりリンパ節郭清の有効性が検証されることが期待される。しかし,この後方視解析では,4 cm 以下の腫瘍を対象にしていること,上中縦隔や腹部大動脈周囲のリンパ節郭清例が少数であることなどの課題が指摘されている。現在,より進行した腫瘍に対する郭清範囲について前向きの臨床研究が行われている。

また,日本胃癌学会・日本食道学会合同作業部会では,内視鏡所見を基本とする食道胃接合部の定義を提唱した。そして,リンパ節郭清のアルゴリズムにおいても腫瘍の主占居部位が接合部の口側か肛門側かを基準にしている。しかし,実臨床においては進行癌では内視鏡による接合部の同定は不可能であることも多く,また,高頻度に裂孔ヘルニアを伴うことより透視やCT でも推測困難なことが多い。したがって,実臨床では食道胃接合部の判断が曖昧になることはやむを得ないとも言える。リンパ節の郭清範囲に応じて食道および胃の切除範囲は決まるが,食道胃全摘から下部食道+噴門側胃切除までさまざまな術式が想定される。食道胃接合部癌の手術においては,手術侵襲は切除範囲だけではなく,アプローチ方法にも影響されるため,手術侵襲と根治度のバランスを考慮する必要がある。

Clinical Question

CQ23
食道胃接合部癌に対する手術において下縦隔リンパ節郭清を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
食道胃接合部癌に対する手術において下縦隔リンパ節郭清を行うことを弱く推奨する。(合意率95%[19/20])

解説文

『食道癌取扱い規約第11 版』では「食道胃接合部の上下2 cm を食道胃接合部領域とし,この領域内に癌腫の中心があるものを食道胃接合部癌」と定義している。食道胃接合部癌の至適リンパ節郭清範囲については大規模なランダム化比較試験は行われておらず,エビデンスがないのが現状である。術式についての大規模ランダム化比較試験としてはJCOG9502 試験があるが,この試験では食道浸潤が3 cm 以内の胃癌および食道胃接合部腺癌に対して左開胸と経裂孔アプローチを比較し経裂孔アプローチのより良好な短期・長期成績が示された 1, 2)。この試験において左開胸による下縦隔リンパ節郭清の完全郭清は生存に寄与せず,さらに術後合併症が経裂孔群と比較して左開胸群で有意に多かったことを踏まえて,『胃癌治療ガイドライン』では食道胃接合部癌に対しては非開胸・経裂孔アプローチが標準術式と記載されている。一方で同ガイドラインにおいては長径4 cm 以下の食道胃接合部癌に対するリンパ節郭清アルゴリズムが掲載されており,腫瘍の中心が接合部または食道側にある場合は組織型にかかわらず下縦隔郭清が推奨されているが,腫瘍の中心が胃側にある場合はいずれの組織型においても推奨されていない。ただしJCOG9502 試験も下縦隔郭清の有無を比較したものではなく,食道胃接合部癌における下縦隔リンパ節郭清自体の臨床的意義については未だ明らかにされていない。

本CQ に対して文献検索を行ったところ,PubMed:284 編,Cochrane:80 編,医中誌:176 編が抽出された。本CQ では前述の食道胃接合部癌の定義(食道癌取扱い規約第11 版)に基づき西分類およびSiewert TypeⅡに該当する癌を対象とした論文を抽出した。下縦隔リンパ節郭清施行の有無で生存予後を比較したランダム化比較試験は行われておらず,大部分が単施設(一部多施設を含む)による症例集積研究であった。一次,二次スクリーニングを経て,20 編の症例集積研究に対して定性的システマティックレビューを行った 2-21)

20 編のうちわが国からの報告は12 編であった。本CQ におけるシステマティックレビューでは20 編中17 編はSiewert 分類 2, 4-7, 9, 11-21),2 編は西分類 8-10),1 編は接合部の上下1 cm 以内と定義されていた 3)。いずれもランダム化比較試験ではないため,背景因子の差があることに加え,アウトカムの評価方法にも一貫性に欠けていた。13 編のうち3 編はpT1 を除外対象としているが 2, 9, 12),17 編はpT1 を含んだ解析であった 3-8, 10, 11, 13-21)。20 編の報告からアウトカムとして下縦隔リンパ節転移率および郭清効果指数を抽出し本CQ に対する評価を行った。

下縦隔リンパ節転移率は4.3~31.3%([110]:3.3~30.4%,[111]:0~11.1%,[112]:0~15.3%)であった。組織別にみると,腺癌では4.3~30.4%([110]:3.3~16.1%,[111]:0~11.1%,[112]:0~15.3%),扁平上皮癌では25~31.3%([110]:15.4~30.4%,[111]:4.3~8.3%,[112]:0~8.3%)であった。食道浸潤長別に検討した報告によると,食道浸潤長が2 cm以内の場合の下縦隔リンパ節転移・再発割合は3.4%だったのに対し,食道浸潤長が2 cm を超えると26.4%と有意に高かった 22)。また,生存の延長の評価として,20 編中8 編で郭清効果指数が報告されており,下縦隔リンパ節郭清効果指数は2.8~17.6%([110]:1.1~14.3%,[111]:0~6.7%,[112]:0~5.4%)であった 8, 12, 13, 17-21)。なお食道胃接合部癌において下縦隔リンパ節郭清施行の有無で術後合併症,手術時間や術後QOL について比較したエビデンスは存在しなかった。

したがって,今回のシステマティックレビューの結果から本CQ への結論を導くことは困難であったが,益と害のバランス,下縦隔リンパ節の転移率および郭清効果指数のデータを考慮したエビデンスの強さ,患者の希望などを勘案し,「食道胃接合部癌に対する手術において下縦隔リンパ節郭清を行うことを弱く推奨する」とした。

参考文献

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CQ24
食道胃接合部癌に対する手術において胃全摘を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さD
食道胃接合部癌に対する手術において胃全摘は行わないことを弱く推奨する。(合意率90%[18/20])

解説文

『食道癌取扱い規約第11 版』では「食道胃接合部の上下2 cm を食道胃接合部領域とし,この領域内に癌腫の中心があるものを食道胃接合部癌」と定義されている。食道胃接合部癌の至適リンパ節郭清範囲は明確なエビデンスがなく,手術術式においても食道癌に準じた右開胸開腹食道切除・胃管再建や,胃癌に準じた経裂孔的下部食道切除・胃全摘などが行われており,術式の選択は外科医や施設による選択に委ねられているのが現状である。一般的に食道胃接合部癌の胃の切除範囲は,噴門側胃切除または胃全摘のいずれかが選択されることが多いが,これはリンパ節郭清範囲,すなわち[4],[5],[6]リンパ節の郭清の有無によって規定される。日本胃癌学会・日本食道学会合同作業部会による全国調査(273 施設3,177 例)では,2001~2010 年に切除された長径4 cm までの食道胃接合部癌における[4sa],[4sb],[4d],[5],[6]リンパ節転移頻度は腫瘍の中心や組織型にかかわらず極めて少ないと報告しているが,現状で食道胃接合部癌に対する胃切除範囲の明確な術式の推奨規定はない 1)

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:175 編,Cochrane:133 編,医中誌:243 編が抽出された。本CQ では西分類およびSiewert TypeⅡに該当する癌を対象とする胃全摘と噴門側胃切除についてシステマティックレビューを行った。抽出された文献からは,胃全摘または噴門側胃切除で生存予後を比較したランダム化比較試験は行われておらず,大部分が単施設(一部多施設を含む)による症例集積研究であった。一次,二次スクリーニングを経て,15 編の症例集積研究に対して定性的システマティックレビューを行った 2-16)

9 編のうちわが国からの報告は5 編であった 5, 7-16)。本CQ におけるシステマティックレビューでは15 編中13 編はSiewert 分類 2-4, 6, 8-16),2 編は西分類で定義されていた 5, 7)。いずれもランダム化比較試験ではないため,背景因子の差があることに加え,アウトカムの評価方法にも一貫性に欠けていた。15 編の報告からアウトカムとして,噴門側胃切除では郭清を行わないが胃全摘では郭清を行う[4d],[5],[6]リンパ節の転移率および郭清効果指数を抽出し本CQ に対する評価を行った。

[4d],[5],[6]リンパ節転移率は,[4]:0~6.3%,[5]:0~3.5%,[6]:0~5.0%であり,郭清効果指数は[4]:0~1.5,[5]:0~1.8,[6]:0~1.6 であった 5, 9-16)。なお食道胃接合部癌において胃全摘または噴門側胃切除で術後合併症,手術時間,術後体重減少や術後QOL について比較したエビデンスは存在しなかった。

したがって,今回のシステマティックレビューの結果から本CQ への結論を導くことは困難であったが,益と害のバランス,[4d],[5],[6]リンパ節転移率および郭清効果指数のデータを考慮したエビデンスの強さ,患者の希望などを勘案し,「食道胃接合部癌に対する手術において胃全摘は行わないことを弱く推奨する」とした。

参考文献

1)
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2)
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4 周術期管理とクリニカルパス

要約

食道癌に対するクリニカルパスは,合併症の少ない安全な周術期管理を行うために国内外の施設でさまざまな工夫が行われてきたが,エビデンスの明らかな報告は少ない。近年導入されるようになった周術期管理の新しい概念であるEnhanced recovery after surgery(ERAS)あるいはFast-track surgery の食道切除術における臨床的意義が検討されはじめている。

総論

クリニカルパスは,患者状態と診療行為の目標,および評価・記録を含む標準診療計画であり,標準からの偏位を分析することで医療の質を改善する手法である 1)。米国では,1980 年代よりDRG/PPS(Diagnosis Related Group/Prospective Payment System,診断群別包括支払い制度)の導入に伴い,在院日数短縮および医療費削減を主な目的としてクリニカルパスが導入された 2)。日本国内では1990 年代よりDPC(Diagnosis Procedure Combination)制度の導入時期に一致して多くの疾患に対するクリニカルパスの導入が始まった。クリニカルパスは医療の質の向上,スタッフ教育に加え,インフォームド・コンセントの充実を含めた患者中心のチーム医療を推進するために重要であると考えられている。

食道癌においては,合併症の少ない安全な周術期管理を行うために国内外の各施設でさまざまな工夫が行われてきたが,術式と周術期管理手技の多様さや施設間格差,さらに侵襲に対する反応の個体差から他の消化器癌に比して単純なクリニカルパスの作成は困難であると考えられてきた。体腔鏡下手術をはじめとした低侵襲手術の導入と並行して,安全な周術期管理手技として食道癌に対するクリニカルパスを導入する施設も増えてきていると考えられるが,エビデンスの明らかな臨床的有用性を示した報告は少ない 3, 4)

近年欧米では,Enhanced recovery after surgery(ERAS)あるいはFast-track surgery という新しい概念が周術期管理に導入されている。2001 年に欧州静脈経腸栄養学会(the European Society for Clinical Nutrition and Metabolism,ESPEN)において結成されたERAS Group が,2004 年に大腸切除術を対象にしたERAS プロトコールを発表し 5),以来さまざまな手術の周術期管理に応用されている。Fast-track surgery は,術後早期回復を目指し,エビデンスに基づいた手技を総合的に導入する集学的リハビリテーションプログラムであり,現在ではERAS とほぼ同義に用いられている。最近食道切除術におけるERAS およびFast-track surgery の臨床的意義が検討され,術後合併症や在院日数,死亡率を減少させると報告されているが,現時点でのエビデンスは高くない 6-9)

食道癌の周術期管理としては,これまで各施設が独自に設定したクリニカルパスの有用性を比較検討していたが,今後は周術期管理手技の総体であるERAS/Fast-track surgery としてその臨床的意義を検証する必要がある。

参考文献

1)
日本クリニカルパス学会.http://www.jscp.gr.jp/index.html
2)
Zehr KJ, et al: Standardized clinical care pathways for major thoracic cases reduce hospital costs. Ann Thorac Surg. 1998; 66(3): 914-9.
3)
Low DE, et al: Esophagectomy––it’s not just about mortality anymore: standardized perioperative clinical pathways improve outcomes in patients with esophageal cancer. J gastrointest Surg. 2007; 11(11): 1395-402.
4)
Munitiz V, et al: Effectiveness of a written clinical pathway for enhanced recovery after transthoracic(Ivor Lewis)oesophagectomy. British J Surg. 2010; 97(5): 714-8.
5)
Fearon KC, et al: Enhanced recovery after surgery: A consensus review of clinical care for patients undergoing colon resection. Clin Nutr. 2005; 24(3): 466-77.
6)
Findlay JM, et al: The effect of formalizing enhanced recovery after esophagectomy with a protocol. Dis Esophagus. 2015; 28(6): 567-73.
7)
Findlay JM, et al: Enhanced recovery for esophagectomy: a systematic review and evidence-based guidelines. Ann Surg. 2014; 259(3): 413-31.
8)
Markar SR, et al: Enhanced recovery pathways lead to an improvement in postoperative outcomes following esophagectomy: systematic review and pooled analysis. Dis Esophagus. 2015; 28(5): 468-75.
9)
Shewale JB, et al; University of Texas MD Anderson Esophageal Cancer Collaborative Group: Impact of a Fast-track Esophagectomy Protocol on Esophageal Cancer Patient Outcomes and Hospital Charges. Ann Surg. 2015; 261(6): 1114-23.

Clinical Question

CQ25
食道癌術後合併症予防のための周術期管理として何を推奨するか?

エビデンスの強さB
食道癌周術期管理において,術後合併症予防を目的として術前の呼吸器リハビリテーション,術後早期の経腸栄養導入,周術期メチルプレドニゾロンの投与を行うことを弱く推奨する。(合意率80%[16/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,一次スクリーニングで食道癌周術期管理において術後合併症予防に関連性のある23 編の論文を抽出し,二次スクリーニングで内容が適切でない文献を除去し,最終的には術前呼吸療法の有用性についてのランダム化比較試験3 編,術後早期の経腸栄養についてのランダム化比較試験2 編,ERAS についてのレビュー1 編,周術期ステロイドの有用性についてメタアナリシス1 編を含む4 編に対して定性的・定量的システマティックレビューを行った。

1) 術前呼吸療法・呼吸器リハビリテーションについて

食道癌術前に行われる呼吸療法あるいは呼吸器リハビリテーションの有用性について最近報告されているランダム化比較試験3 編 1-3)を用いて,術後肺炎・呼吸器合併症をアウトカムとして評価し,メタアナリシスを行った。リスク差の統合値は0.14,95%CI が0.02-0.27,p 値=0.02 となり,術前の呼吸療法あるいは呼吸器リハビリテーションが術後肺炎および呼吸器合併症のリスクを有意に低下させると考えられた(図1)。

図1 食道癌術前呼吸療法について―術後肺炎をアウトカムとしたメタアナリシス―
2) 術後経腸栄養療法

術後早期経腸栄養を静脈栄養と比較して報告された2 編のランダム化比較試験 4, 5)を評価し,術後感染症の発生率をアウトカムとしてメタアナリシスを行った。リスク差は0.38,95%CI 0.24-0.52(p 値<0.00001)となり,術後早期の経腸栄養導入は静脈栄養と比較して,創部感染などの術後感染症を減少させるというエビデンスがあると考えられた(図2)。

図2 食道癌術後早期経腸栄養療法について
―術後感染症の発生率をアウトカムとしたメタアナリシス―

この他に,2015 年に発表されたEnhanced Recovery for esophagectomy に関するレビュー 6)に,Enteral とParenteral nutrition を比較した項目があり,1 編のメタアナリシスと5 編のランダム化比較試験,1 本の観察研究が取り上げられているが,対象と評価方法がさまざまであり,これらを加えたメタアナリシスを行うことはできなかった。

3) 周術期ステロイドについて

Engelman らが2010 年に発表したメタアナリシス 7)は,8 編の論文を本ガイドライン作成委員会が定めた方法と同様の方法を用いて,術前投与されるステロイドと術後合併症について解析している。アウトカムとして,メチルプレドニゾロンの投与は術後臓器障害(オッズ比=0.30),呼吸器合併症(オッズ比=0.41),敗血症(オッズ比=0.37),肝障害(オッズ比=0.18)や心血管障害等の合併症を有意に減少させるとされた。また,ステロイドの有害事象としての縫合不全の増加や創治癒の遅延は報告されていない。このメタアナリシスの後に新たな報告は検索されず,周術期メチルプレドニゾロンの投与は術後合併症の予防に有用であると考えられる。

呼吸器リハビリテーション,経腸栄養,ステロイド投与は全て保険診療の範囲内で実施可能な治療であり,益と害のバランス,エビデンスの強さ,患者の希望などを勘案し,「食道癌周術期管理において,術後合併症予防を目的として術前の呼吸器リハビリテーション,術後早期の経腸栄養導入,周術期メチルプレドニゾロンの投与を行うことを弱く推奨する」とした。

参考文献

1)
van Adrichem EJ, et al: Comparison of Two Preoperative Inspiratory Muscle Training Programs to Prevent Pulmonary Complications in Patients Undergoing Esophagectomy: A Randomized Controlled Pilot Study. Ann Surg Oncol. 2014; 21(7): 2353-60.
2)
Inoue J, et al: Prevention of postoperative pulmonary complications through intensive preoperative respiratory rehabilitation in patients with esophageal cancer. Dis Esophagus. 2013; 26(1): 68-74.
3)
Dettling DS, et al: Feasibility and effectiveness of pre-operative inspiratory muscle training in patients undergoing oesophagectomy: a pilot study. Physiother Res Int. 2013; 18(1): 16-26.
4)
Xiao-Bo Y, et al: Efficacy of early postoperative enteral nutrition in supporting patients after esophagectomy. Minerva Chir. 2014; 69(1): 37-46.
5)
Barlow R, et al: Prospective multicentre randomised controlled trial of early enteral nutrition for patients undergoing major upper gastrointestinal surgical resection. Clin Nutr. 2011; 30(5): 560-6.
6)
Findlay JM, et al: Enhanced recovery for esophagectomy: a systematic review and evidence-based guidelines. Ann Surg. 2014; 259(3): 413-31.
7)
Engelman E, et al: Effect of Preoperative Single-Dose Corticosteroid Administration on Postoperative Morbidity. J Gastrointest Surg. 2010; 14(5): 788-804.

CQ26
食道癌周術期管理においてクリニカルパスを導入することを推奨するか?

エビデンスの強さC
食道癌周術期管理においてクリニカルパスを導入することを弱く推奨する。(合意率100%[20/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,一次スクリーニングにて18 編の論文が抽出され,二次スクリーニングにて内容が適切ではないと判断した論文を除外し,最終的に総説1 編 1),前向きコホート研究1 編 2),後ろ向きコホート研究6 編 1-8),合計8 編の論文に対して定性的・定量的システマティックレビューを行った。これらの論文全ては古典的なクリニカルパスではなく,ERAS あるいはFast-track surgery の効果を検証したものであった。ERAS およびFast-track surgery プロトコールの本態は,「周術期に特化して作成されたクリニカルパスのアウトライン」であり,既存のクリニカルパスのように各施設で個別に設定・検証されているものではなく,ESPEN 等の世界的学術団体レベルにおいてエビデンスの検証が行われかつ推奨されているものである。

これらの論文全てにおいてERAS またはFast-track surgery 導入のアウトカムとして術後在院日数が短縮したことが述べられていたが,前向き研究は1 編のみでエビデンスの強さは限定的である。

クリニカルパス導入により呼吸器合併症発生率が改善したとの観察研究が5 編あり,これらを用いてメタアナリシスを行った。統合値はリスク差0.07,95%CI 0.01-0.13,p 値=0.03 で,クリニカルパスの導入により呼吸器合併症の発症率が低下する可能性が示された(図1)。

図1 食道癌周術期管理におけるクリニカルパス導入
―呼吸器合併症の発症率をアウトカムとしたメタアナリシス―

一方,再入院率をアウトカムとして後ろ向き研究5 編を用いてメタアナリシスを行ったが,リスク差0.00(95%CI-0.05-0.04),p 値=0.90 で有意差は認められなかった(図2)。

図2 食道癌周術期管理におけるクリニカルパス導入―再入院率をアウトカムとしたメタアナリシス―

以上検討した論文は全て海外からの報告であり,術式についてもIvor Lewis oesophago-gastrectomy(ILOG)を対象とした観察研究が多く,今後わが国からの報告が待たれる。

以上を総括するとERAS またはFast-track surgery のように,もともとエビデンスに基づいたプロトコールにより構成された包括的な周術期クリニカルパスの導入は,ある程度有用であると考えられる。しかしながら,現時点の報告とその解析から得られるエビデンスの強さはC とした。

クリニカルパスの導入は保険診療の範囲内で実施可能な治療であり,益と害のバランス,エビデンスの強さ,患者の希望などを勘案し,「食道癌周術期管理においてクリニカルパスを導入することを弱く推奨する」とした。

参考文献

1)
Findlay JM, et al: Maynard Enhanced recovery for esophagectomy: a systematic review and evidence-based guidelines. Ann Surg. 2014; 259(3): 413-31.
2)
Ford SJ, et al: The implementation and effectiveness of an enhanced recovery programme after oesophago-gastrectomy: a prospective cohort study. Int J Surg. 2014; 12(4): 320-4.
3)
Cao S, et al: Fast-track rehabilitation program and conventional care after esophagectomy: a retrospective controlled cohort study. Support Care Cancer. 2013; 21(3): 707-14.
4)
Blom RL, et al: Initial experiences of an enhanced recovery protocol in esophageal surgery. World J Surg. 2013; 37(10): 2372-8.
5)
Li C, et al: An enhanced recovery pathway decreases duration of stay after esophagectomy. Surgery. 2012; 152(4): 606-14.
6)
Munitiz V, et al: Effectiveness of a written clinical pathway for enhanced recovery after transthoracic(Ivor Lewis)oesophagectomy. Br J Surg. 2010; 97(5): 714-8.
7)
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8)
Tang J, et al: Reduction in length of stay for patients undergoing oesophageal and gastric resections with implementation of enhanced recovery packages. Ann R Coll Surg Engl. 2013; 95(5): 323-8.

第VI章 切除不能進行・再発食道癌に対する化学療法

要約

化学療法は食道癌治療における唯一の全身治療としてさまざまな場面で用いられる。cStageⅠ-Ⅳの局所食道癌に対する化学放射線療法,術前化学療法や,切除不能進行・再発食道癌に対して用いられる。切除不能進行・再発食道癌に対しては,生存期間延長に関する明確なエビデンスはないものの,シスプラチン+5-FU 併用療法が用いられている。これらが不応となった場合の二次治療に関しても,タキサン系の薬剤などが用いられるが,少数例の第Ⅱ相試験の報告に限られ,使用については慎重を要する。

総論

切除不能進行・再発食道癌に対しては,全身化学療法が標準的に用いられる。無治療群との比較試験による,明確な生存期間延長効果は示されてないものの,単剤,あるいは併用にて有効性が報告されており,化学療法が標準的に用いられている。

1 一次治療において有効性が示されている薬剤,併用療法

単剤では,5-FU,プラチナ系薬剤,タキサン系薬剤,ビンカアルカロイド系薬剤などが,15~40%の奏効割合,3~10 カ月程度の生存期間中央値が報告されている。併用療法は,単剤に比して奏効割合が高く,20~60%と報告されている(表11-3)。2 剤,あるいは3 剤による併用療法も多数報告があるものの,単剤との比較を行った報告は1 編のみで,ほとんどが少数例による第Ⅱ相試験の報告である。2 剤併用療法として相乗効果が期待できるシスプラチン+5-FU の併用療法,また,ネダプラチン+5-FU の併用療法が使用されている。これらの対象に対してはシスプラチン+5-FU の併用療法が標準治療と考えられ,これにタキサン系薬剤を併用した3 剤併用療法の報告では,奏効割合60%と高い効果が示されているが 4, 5),生存期間延長効果については不明であり,現時点では臨床研究の一環として用いることが望ましい。現在シスプラチン+5-FU の併用療法と,それにドセタキセルを2 週間毎に併用した治療法の比較試験が行われており(JCOG1314 試験),その結果が待たれる。

表1 切除不能進行・再発食道癌に対する一次治療の報告

1) 2) 3) 4) 5)

2 二次治療において有効性が示されている薬剤,併用療法

シスプラチンと5-FU が不応となった場合の二次治療において,明確な生存期間延長効果を示した薬剤はない。フッ化ピリミジン系,プラチナ系以外の薬剤で,有効性を示した薬剤を用いるべきであるが,毒性との益と害のバランスを考慮する必要がある(表2)。ドセタキセルや,パクリタキセルなどのタキサン系薬剤が単剤で投与されることが多い 6, 7)。この対象に対する一次治療で用いた薬剤の再度投与,多剤併用療法 8)の意義については明確になっていない。

表2 切除不能進行・再発食道癌に対する二次治療以降の報告

6) 7) 8) 9)

分子標的治療薬に関する報告は少ないが,EGFR 阻害剤の報告があり,奏効割合は10~20%と報告されている。腺癌を含めた食道癌二次治療患者に対してプラセボとEGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)阻害剤であるゲフィチニブとの比較試験では,ゲフィチニブの有用性は示されなかった 10)。今後バイオマーカーなどの開発により,ある特定の対象での有用性が示される可能性はあるものの,現時点でのEGFR阻害剤の食道癌における有用性は不明である。

3 三次治療において有効性が示されている薬剤,併用療法

上記薬剤に対して不応,不耐となった場合には,明確な有効性を示した報告はなく,緩和的対症療法が推奨される。新たな作用機序を有する免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブの有効性が,第Ⅱ相試験において報告されている 9)が,臨床実地への応用は第Ⅲ相比較試験の結果を待つ必要がある。

参考文献

1)
Bleiberg H, et al: Randomised phaseⅡ study of cisplatin and 5-fluorouracil(5-FU)versus cisplatin alone in advanced squamous cell oesophageal cancer. Eur J Cancer. 1997; 33(8): 1216-20.
2)
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3)
Kato K, et al; The Japan Esophageal Oncology Group of the Japan Clinical Oncology Group(JCOG): A phaseⅡ study of nedaplatin and 5-fluorouracil in metastatic squamous cell carcinoma of the esophagus: The Japan Clinical Oncology Group(JCOG)Trial(JCOG 9905-DI). Esophagus. 2014; 11(3): 183-8.
4)
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5)
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6)
Muro K, et al: A phaseⅡ study of single-agent docetaxel in patients with metastatic esophageal cancer. Ann Oncol. 2004; 15(6): 955-9.
7)
Kato K, et al: A phaseⅡ study of paclitaxel by weekly 1-h infusion for advanced or recurrent esophageal cancer in patients who had previously received platinum-based chemotherapy. Cancer Chemother Pharmacol. 2011; 67(6): 1265-72.
8)
Jin J, et al: Second-line combination chemotherapy with docetaxel and nedaplatin for Cisplatin-pretreated refractory metastatic/recurrent esophageal squamous cell carcinoma. J Thorac Oncol. 2009; 4(8): 1017-21.
9)
Kudo T, et al: Nivolumab treatment for oesophageal squamous-cell carcinoma: an open-label, multicentre, phase 2 trial. Lancet Oncol. 2017; 18(5): 631-9.
10)
Dutton SJ, et al: Gefitinib for oesophageal cancer progressing after chemotherapy(COG): a phase 3, multicentre, double-blind, placebo-controlled randomized trial. Lancet Oncol. 2014; 15(8): 894-904.

Clinical Question

CQ27
切除不能進行・再発食道癌に対する一次治療として化学療法は何を推奨するか?

エビデンスの強さC
切除不能進行・再発食道癌に対する一次治療として,シスプラチン+5-FU 療法を行うことを弱く推奨する。(合意率95%[19/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:401 編,Cochrane:372 編,医中誌:76 編が抽出され,それ以外に1 編の論文が追加された。一次スクリーニングで36 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで31 編の論文が抽出された。本CQ の主旨に関するランダム化試験としてランダム化比較試験が2 編,化学療法の介入が行われた27 編に対して定性的システマティックレビューを行った。

切除不能進行・再発食道癌に対して,無治療群との比較において,明確に生存期間の延長を示した化学療法はない。比較的古い試験でシスプラチン単独療法とシスプラチン+5-FU 療法を比較した試験では,併用療法の優越性は示されていない。また,一次治療としてシスプラチン+5-FU 療法にセツキシマブを併用する群と併用しない群の比較試験では,セツキシマブの明らかな上乗せ効果は示されなかった。しかしながら,シスプラチン+5-FU の併用療法にて,奏効割合30%前後,生存期間中央値6.6~9.5 カ月の報告 1-4)があり,現時点における標準治療として認識されている。5-FU にかえて,パクリタキセル 5),イリノテカン 6),カペシタビン 7)とシスプラチンを併用した治療法も報告され,シスプラチン+5-FU 併用療法と同程度の有効性を示しているが,これらの治療法の臨床的位置づけは明確ではない。有害事象については,Grade 3 以上の好中球減少,嘔気,倦怠感が10%程度認められる。シスプラチンをネダプラチンに変更したネダプラチン+5-FU 併用療法も第Ⅱ相試験として,奏効割合39.5%,生存期間中央値8.8 カ月と報告されており,腎機能や心機能の影響でシスプラチンを投与しにくい場合の選択肢の一つとなっている 8)。目的は治癒ではなく延命であるため,有害事象の程度,患者の希望などに配慮しながら治療の継続の可否を,適宜慎重に判断する必要がある。

近年,3 剤併用化学療法が報告されており,奏効割合60%前後,生存期間中央値10 カ月以上と高い有効性を示している 9-13)。現時点における標準治療であるシスプラチン+5-FU 併用療法と比較した場合の長期生存成績における優越性は実証されておらず,使用については慎重に判断する必要がある。現在シスプラチン+5-FU 併用療法と2 週間ごとのドセタキセルを併用したランダム化比較試験JCOG1314 試験が行われており 14),結果が待たれる。治療内容は,全て保険診療の範囲内で実施可能である。

以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望などを勘案し,推奨文は「切除不能進行・再発食道癌に対する一次治療として,シスプラチン+5-FU 療法を行うことを弱く推奨する」とした。

参考文献

1)
Iizuka T, et al: PhaseⅡ evaluation of cisplatin and 5-fluorouracil in advanced squamous cell carcinoma of the esophagus: a Japanese Esophageal Oncology Group Trial. Jpn J Clin Oncol. 1992; 22(3): 172-6.
2)
Hayashi K, et al: PhaseⅡ evaluation of protracted infusion of cisplatin and 5-fluorouracil in advanced squamous cell carcinoma of the esophagus: a Japan Esophageal Oncology Group(JEOG)Trial(JCOG9407). Jpn J Clin Oncol. 2001; 31(9): 419-23.
3)
Bleiberg H, et al: Randomised phaseⅡ study of cisplatin and 5-fluorouracil(5-FU)versus cisplatin alone in advanced squamous cell oesophageal cancer. Eur J Cancer. 1997; 33(8): 1216-20.
4)
Lorenzen S, et al: Cetuximab plus cisplatin-5-fluorouracil versus cisplatin-5-fluorouracil alone in first-line metastatic squamous cell carcinoma of the esophagus: a randomized phaseⅡ study of the Arbeitsgemeinschaft Internistische Onkologie. Ann Oncol. 2009; 20(10): 1667-73.
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Zhang X, et al: A phaseⅡ trial of paclitaxel and cisplatin in patients with advanced squamous-cell carcinoma of the esophagus. Am J Clin Oncol. 2008; 31(1): 29-33.
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Lee DH, et al: A phaseⅡ trial of modified weekly irinotecan and cisplatin for chemotherapy-naive patients with metastatic or recurrent squamous cell carcinoma of the esophagus. Cancer Chemother Pharmacol. 2008; 61(1): 83-8.
7)
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8)
Kato K, et al; The Japan Esophageal Oncology Group of the Japan Clinical Oncology Group(JCOG): A phaseⅡ study of nedaplatin and 5-fluorouracil in metastatic squamous cell carcinoma of the esophagus: The Japan Clinical Oncology Group(JCOG)Trial(JCOG9905-DI). Esophagus. 2014; 11(3): 183-8.
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Ilson DH, et al: PhaseⅡ trial of paclitaxel, fluorouracil, and cisplatin in patients with advanced carcinoma of the esophagus. J Clin Oncol. 1998; 16(5): 1826-34.
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12)
Hironaka S, et al; Japan Esophageal Oncology Group/Japan Clinical Oncology Group: PhaseⅠ/Ⅱ trial of 2-weekly docetaxel combined with cisplatin plus fluorouracil in metastatic esophageal cancer(JCOG0807). Cancer Sci. 2014; 105(9): 1189-95.
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Miyazaki T, et al: PhaseⅡ Study of Docetaxel, Nedaplatin, and 5-Fluorouracil Combined Chemotherapy for Advanced Esophageal Cancer. Ann Surg Oncol. 2015; 22(11): 3653-8.
14)
Kataoka K, et al; Japan Esophageal Oncology Group/Japan Clinical Oncology Group: A randomized controlled PhaseⅢ trial comparing 2 weekly docetaxel combined with cisplatin plus fluorouracil(2-weekly DCF)with cisplatin plus fluorouracil(CF)in patients with metastatic or recurrent esophageal cancer: rationale, design and methods of Japan Clinical Oncology Group study JCOG1314(MIRACLEstudy). Jpn J Clin Oncol. 2015; 45(5): 494-8.

CQ28
切除不能進行・再発食道癌に対する一次治療としてシスプラチン+5-FU 療法に不応の場合,二次治療として化学療法は何を推奨するか?

エビデンスの強さC
切除不能進行・再発食道癌に対する一次治療としてシスプラチン+5-FU 療法に不応の場合,二次治療としてパクリタキセル療法,ドセタキセル療法を行うことを弱く推奨する。(合意率100%[18/18])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:445 編,Cochrane:254 編,医中誌:156 編が抽出され,それ以外に1 編の論文が追加された。一次スクリーニングで14 編の論文が抽出され,二次スクリーニングで11 編の論文が抽出された。うちCQ の主旨に関するランダム化試験としてランダム化比較試験が1 編,化学療法の介入が行われた7 編に対して定性的システマティックレビューを行った。

切除不能進行・再発食道癌に対する一次治療としてシスプラチン+5-FU の併用療法が広く行われており,不応になった場合には,それ以外の薬剤を用いて治療されていることが多い。切除不能進行・再発食道癌に対する二次治療において,EGFR 阻害剤であるゲフィチニブと,プラセボを比較するランダム化試験が行われた。主要評価項目である全生存期間において,有意差を認めなかった(プラセボ群3.67 カ月,ゲフィチニブ群3.73 カ月,ハザード比0.90(95%CI 0.74-1.09))ため,ゲフィチニブの生存期間延長効果はないと判断された 1)。その他の薬剤については,単アームの第Ⅱ相試験の結果が報告されている。パクリタキセル100 mg/m2毎週投与6 回を7 週間ごとに繰り返す治療法では,奏効割合44.2%,生存期間中央値10.4 カ月と比較的良好な成績が示されている 2)。ドセタキセルの単剤70 mg/m2 3 週間毎投与では奏効割合は16%,生存期間中央値8.1 カ月(一次治療症例含む)であった 3)。比較試験による明確な生存期間延長効果は認められていないものの,緩和的対症療法のみの場合の予後が3~6 カ月であることを考慮すると,比較的状態のよい患者に対しては上記2 剤は有効であると考えられる。それ以外にも,イリノテカンとドセタキセルの併用療法,パクリタキセルとシスプラチンの併用療法,ドセタキセルとネダプラチンの併用療法などが報告されているが,いずれも有効性において単剤で用いられた場合と比較して大きな差を認めていない。

有害事象については,パクリタキセル投与時にはGrade 3 以上の好中球減少が52.8%,発熱性好中球減少が3.8%,肺炎が7.5%認められており,また,ドセタキセル投与においても,Grade 3 以上の好中球減少を88%に認め,それに引き続く感染も認められている。併用療法では,毒性が強くみられる傾向にあり,イリノテカンとドセタキセルの併用療法では肺炎が原因で1 名の治療関連死と,Grade 3 以上の疲労を21%に認めた。ドセタキセルとシスプラチンの併用でも,Grade 3 以上の疲労を32%に認めており,単剤投与と比べた場合有効性に差を認めないことを考えると,現時点において切除不能進行・再発食道癌に対する二次治療として多剤併用療法を積極的に推奨することは困難である。

これらのエビデンスは,臨床試験に参加できる比較的状態のよい患者を対象とした場合であることに留意する必要がある。食道狭窄があり,誤嚥などから肺炎になりやすい進行食道癌患者において,好中球減少は致死的有害反応につながる恐れもある。そのため患者の状態や,支持療法施行体制,有害反応のリスク評価などをしっかり行った上で判断し,状態によっては化学療法を行わないことも考慮する必要がある。目的は治癒ではなく延命であるため,有害事象の程度,患者の希望などに配慮しながら治療の継続の可否を,適宜慎重に判断する必要がある。治療内容は,全て保険診療の範囲内で実施可能である。

以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望などを勘案し,推奨文は「切除不能進行・再発食道癌に対する一次治療としてシスプラチン+5-FU 療法に不応の場合,二次治療としてパクリタキセル療法,ドセタキセル療法を行うことを弱く推奨する」とした。

参考文献

1)
Dutton SJ, et al: Gefitinib for oesophageal cancer progressing after chemotherapy(COG): a phase 3, multicentre, double-blind, placebo-controlled randomised trial. Lancet Oncol. 2014; 15(8): 894-904.
2)
Kato K, et al: A phaseⅡ study of paclitaxel by weekly 1-h infusion for advanced or recurrent esophageal cancer in patients who had previously received platinum-based chemotherapy. Cancer Chemother Pharmacol. 2011; 67(6): 1265-72.
3)
Muro K, et al: A phaseⅡ study of single- agent docetaxel in patients with metastatic esophageal cancer. Ann Oncol. 2004; 15(6): 955-9.

第VII章 放射線療法

要約

根治的放射線治療では化学療法の同時併用が推奨されている。切除可能進行癌では,現在臨床試験として術前化学放射線療法の導入が検討されている。切除不能症例ではPS に応じて化学放射線療法または放射線単独治療が適応となる。通過障害があるcStage Ⅳb 食道癌では緩和的放射線治療が検討される。化学放射線療法における総線量は60 Gy あるいは50.4 Gy が処方される場合が多く,治療期間の無用な遷延は避けるべきであるとされている。

総論

ランダム化比較試験とそのメタアナリシスにより,根治的治療では放射線治療単独よりも同時併用化学放射線療法が有効であることが実証されている 1, 2)。したがって,年齢や合併症等のために同時併用が困難な症例以外は,化学放射線療法がより推奨されている。

放射線治療の適応となるのは,病変が局所あるいは領域リンパ節にとどまる症例である。T1a もしくはT1b で内視鏡治療後に癌の遺残がある場合,あるいはリンパ節転移の可能性がある場合には(化学)放射線療法の追加が考慮される。

切除可能進行癌では,術前化学療法および外科手術がわが国における標準治療であり,手術に適さないかあるいは手術を希望しない症例が化学放射線療法の対象とされてきた。また,この対象に対して現在臨床試験において術前化学放射線療法が検討されている。切除不能症例では,PS が良好であれば化学放射線療法の適応となり,その後手術が検討される場合がある。PS が不良な症例では,放射線単独治療が検討される場合がある。通過障害があるcStage Ⅳb 食道癌に対して緩和的放射線治療が検討される場合がある。放射線治療は,術後残存例あるいは未治療例以外にも,遠隔転移のない術後再発例に対して行われる場合がある。

現在,大部分の施設ではCT を用いた三次元治療計画が行われ,腫瘍やリスク臓器の線量を考慮した高精度治療が行われるようになっている。放射線治療を単独で行う場合には,腫瘍細胞の加速再増殖により局所制御率が低下する可能性があるため,治療期間の無用な遷延は避けるべきであるとされている 3)。根治的治療における至適総線量については,米国RTOG(Radiation Therapy Oncology Group)を中心に行われた化学放射線療法における総線量50.4 Gy と64.8 Gy とのランダム化比較試験において高線量群の優位性が認められなかった 4)。わが国では主として60 Gy を用いた化学放射線療法が報告されてきたが,化学放射線療法による晩期毒性の軽減や根治照射後の救済手術を考慮して,50.4 Gy を用いた臨床試験も行われるようになった。実臨床では,全身状態,腫瘍体積や照射範囲,リスク臓器への線量等を考慮して線量を決定すべきである。なお,放射線治療単独の場合には,60~70 Gy が処方される場合が多い。

参考文献

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Clinical Question

CQ29
放射線治療において休止による照射期間の延長を避けることを推奨するか?

エビデンスの強さC
放射線治療において照射期間を延長しないことを弱く推奨する。(合意率95%[19/20])

解説文

固形癌に対する放射線治療においては,腫瘍細胞の加速再増殖を考慮し,治療期間の無用な遷延は避けるべきであるとされている。本CQ に対する文献検索の結果PubMed:185 編,Cochrane:192 編,医中誌:119 編が一次スクリーニングされた。二次スクリーニングを終えて,5 編のランダム化比較試験と4 編の観察研究に対して定性的システマティックレビューを行った。

5 つのランダム化比較試験は,照射期間に差がある異なる線量分割法を採用することで,治療成績を比較した試験であった 1-5)。通常分割照射で7-8 週となる照射期間に対し,後期加速分割照射により約1 週間短縮し治療期間6.4 週とした場合,局所制御率と生存率の有意な向上を示した報告が1 編 1),治療成績は改善傾向だが有意な違いはなかったとする報告が1 編あった 2)。通常分割照射に対して,土・日を含む週7 回照射を行うことで治療期間を短縮する試みが1 編報告され,局所一次効果の向上を示している 3)。一方,後期加速分割照射の6.4 週と全期間加速分割照射の4.4 週を比べ,後者は有害事象の増加のみで治療成績の向上はないとする報告がみられた 4)。また,1 回線量2 Gy の通常分割照射と1 回線量2.5 Gy,3 Gy とで比較した試験では,1 回2.5 Gy,21-23 分割(総治療期間30 日+/-3 日)で生存率が有意に良好であった 5)。これら5 つのランダム化比較試験はいずれも加速過分割照射法あるいは1 回線量を増加することによって照射期間を短縮する効果を評価したもので,治療休止による照射期間延長の影響は直接検討されていない。

観察研究では,放射線治療単独の場合に治療期間が延長すると局所制御率が下がるとする報告がみられた 6-9)。どの程度の延長が許容されるかについては十分な根拠は得られなかったが,5 cm を超えるサイズの腫瘍で休止期間の設定による1 週間の照射期間の延長は1.8 Gy の損失に相当するという報告が1 編みられ 6),照射期間が1 日延長すると局所制御率が2.3%低下するとする報告が1 編みられた 7)。生存率など治療成績の低下に影響する可能性のある因子としては,他に複数の交絡因子があるため,「照射期間の延長」自体が影響するかどうかについて十分な根拠をもって示された観察研究はなかった。

通常,休止による照射期間の延長は,急性期有害事象への対応結果として臨床的にやむを得ず生ずるもので,患者の希望によるものではない。また,放射線治療に関する保険診療上の違いはない。放射線治療の場合,上記のごとく照射期間の延長に応じて局所制御率が低下する可能性がある。ただし,本CQ に合致する強いエビデンスを提示した報告はなく,照射期間の延長がどの程度許容されるかは不明である。以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望などを勘案し,推奨文は「放射線治療において照射期間を延長しないことを弱く推奨する」とした。

参考文献

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再掲
CQ14
PS 不良なcStage Ⅳa 食道癌に対して放射線療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さD
PS 不良なcStage Ⅳa 食道癌に対して放射線療法を行うことを弱く推奨する。(合意率95%[19/20])

解説文

参照
第Ⅲ章 食道癌治療のアルゴリズムおよびアルゴリズムに基づいた治療方針
4.cStage Ⅳ CQ14

再掲
CQ17
通過障害があるcStage Ⅳb 食道癌に対して緩和的放射線療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
通過障害があるcStage Ⅳb 食道癌に対して緩和的放射線療法を行うことを弱く推奨する。(合意率100%[20/20])

解説文

参照
第Ⅲ章 食道癌治療のアルゴリズムおよびアルゴリズムに基づいた治療方針
4.cStage Ⅳ CQ17

第VIII章 集学的治療法

1 術前・術後補助療法

要約

現在,わが国におけるcStageⅡ,Ⅲ胸部食道癌に対する標準治療はシスプラチン+5-FU による術前化学療法+手術療法である。一方,欧米では術前化学放射線療法+手術療法が標準治療である。現行のシスプラチン+5-FU 療法に対するドセタキセルを加えたDCF 療法および術前化学放射線療法(シスプラチン+5-FU,放射線療法41.4 Gy)の優越性を検討するランダム化比較試験(JCOG1109 試験)が現在進行中である。

総論

食道癌に対しては,近年,化学療法,放射線療法,手術を組み合わせた集学的治療法が行われている。わが国では,JCOG9204 試験において手術単独療法とシスプラチン+5-FU による術後化学療法群が比較された 1)。同試験では両群の全生存期間に有意差がなかったものの,無再発生存期間(Disease-free Survival,DFS)は,手術単独群で5 年DFS 45%に対して術後化学療法群で5 年DFS 55%と有意に改善し,とくにこの予後改善効果は病理学的リンパ節転移陽性例において明らかであった。この結果,当時わが国では外科的切除後の病理組織診断によりリンパ節転移が認められた症例には術後化学療法を検討するという治療戦略が標準治療となった。引き続いて行われたJCOG9907 試験ではシスプラチン+5-FU による補助化学療法の施行時期についての検討が行われ,術前化学療法群が術後化学療法群に比べて全生存期間(5 年生存率55% vs. 43%),において有意に良好であることが示された 2)。この結果,現在わが国におけるcStage Ⅱ,Ⅲ胸部食道癌に対しては,シスプラチン+5-FU による術前化学療法を行った後に根治手術を施行する治療戦略が標準的となっている。

一方,欧米では術前に化学療法と放射線療法を併用した後に根治手術を行う,術前化学放射線療法が標準治療として行われている。術前化学放射線療法は術前化学療法に比べて高い局所制御率が得られる一方で,周術期合併症や手術関連死亡率が増加する可能性がある。これまでわが国では精度の高いリンパ節郭清術による局所制御を行っており,術前の放射線治療は必要ではないと考えられてきた。欧米では手術による局所制御が十分でないことから,術前化学放射線療法の有用性を検証したランダム化比較試験が数多く報告されている 3)。オランダで行われた大規模ランダム化比較試験であるCROSS trial では,術前化学放射線療法+手術群が手術単独群と比較し,有意に全生存期間を延長した(全生存期間中央値49.4 カ月vs. 24.0 カ月)4)。一方で術後合併症発生率は両群間で有意差はなかった。

JCOG9907 試験のサブグループ解析の結果から,cStage Ⅲ胸部食道癌症例において現行のシスプラチン+5-FU 療法による術前化学療法の予後上乗せ効果が十分ではない可能性が示唆されており,今後さらに強力なレジメンによる術前化学療法,あるいは局所制御をより重視した術前化学放射線療法を加える必要性が認識されている。食道癌に対して効果があると考えられている薬剤として,タキサン系抗腫瘍薬(パクリタキセル/ドセタキセル)がある。現在,先に述べたシスプラチン+5-FU 療法にドセタキセルを加えたDCF 療法が注目されている。2012 年より開始されているJCOG1109 試験は現行のシスプラチン+5-FU 療法に対するDCF 療法および術前化学放射線療法(シスプラチン+5-FU,放射線療法41.4 Gy)の優越性を検討するランダム化比較試験であり,cStageⅡ,Ⅲ胸部食道癌に対するわが国における標準治療確立のため,その結果が待たれている 5)

参考文献

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Clinical Question

再掲
CQ9
cStage Ⅱ,Ⅲ食道癌に対して手術療法を中心とした治療を行う場合,術前化学療法,術後化学療法,術前化学放射線療法の何れを推奨するか?

エビデンスの強さB
cStage Ⅱ,Ⅲ食道癌に対して手術療法を中心とした治療を行う場合,
①術前化学療法と術後化学療法の比較では術前化学療法を強く推奨する。(合意率 89.5%[17/19])
エビデンスの強さC
②術前化学療法と術前化学放射線療法の比較では術前化学療法を弱く推奨する。(合意率 100%[18/18])

解説文

参照
第Ⅲ章 食道癌治療のアルゴリズムおよびアルゴリズムに基づいた治療方針
3.cStage Ⅱ,Ⅲ CQ9

再掲
CQ10
cStage Ⅱ,Ⅲ食道癌に術前補助療法+手術を行った場合,術後補助療法を推奨するか?

エビデンスの強さD
cStage Ⅱ,Ⅲ胸部食道扁平上皮癌に術前補助療法+手術を行った場合,術後化学療法を行わないことを弱く推奨する。(合意率85%[17/20])

解説文

参照
第Ⅲ章 食道癌治療のアルゴリズムおよびアルゴリズムに基づいた治療方針
3.cStage Ⅱ,Ⅲ CQ10

再掲
CQ11
cStage Ⅱ,Ⅲ食道癌に術前治療なく手術を行った場合,術後化学療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
cStage Ⅱ,Ⅲ食道癌に術前治療なく手術を行い,病理組織結果でリンパ節転移陽性であった場合には術後化学療法を行うことを弱く推奨する。(合意率85%[17/20])

解説文

参照
第Ⅲ章 食道癌治療のアルゴリズムおよびアルゴリズムに基づいた治療方針
3.cStage Ⅱ,Ⅲ CQ11

2 化学放射線療法

要約

化学放射線療法は,局所進行食道癌に対して放射線療法単独よりも,患者の生存期間を延ばすことが証明されている。非外科的治療を行う場合の標準的な治療として位置づけられており,根治を目指した化学放射線療法は,cStage 0-Ⅳa で適応となる。切除可能症例での化学放射線療法と外科手術単独との比較では,同等の有効性が期待できるとの報告もあるが,直接比較した検討はなく,cStage Ⅱ、Ⅲでは,標準治療である術前化学療法+手術療法の成績が上回ると推定されるため,耐術能不良の場合や,手術拒否例に対する選択肢の一つとして位置付けられている。化学放射線療法後の遺残再発症例に対する救済治療を含めた治療戦略も考慮し適切な放射線量,照射範囲,化学療法を選択することが重要である。

総論

1) cStage 0,Ⅰに対する化学放射線療法

化学放射線療法の適応となるのは,内視鏡の適応が難しい3/4 周以上の周在性のもの,粘膜下層以下への浸潤を認めるものである。JCOG9708 試験では,完全奏効割合87.5%,4 年生存割合80.5%と良好な成績が示された 1)。治療後癌遺残症例は9 例(12.5%),再発は30 例(41%)に認められたが,多くは内視鏡治療や外科的切除にて根治可能病変であり,再発時根治切除不能病変を認めたのは9 例であった。cStage Ⅰ症例では,完全奏効後も食道に再発あるいは異時性多発病変を認めることが知られており 2),2 年目までは3~4 カ月毎,3 年目以降は6 カ月毎にCT および内視鏡検査を行い,内視鏡治療可能な段階で再発あるいは異時性多発病変を発見することが重要である。

また,内視鏡治療後に明らかな粘膜下浸潤や,粘膜内病変であっても脈管侵襲を認めるものについては,潜在的なリンパ節転移を10~50%程度認めることが報告されており,非治癒切除と考えられる 3)。こうした症例に対する追加治療は,現時点ではリンパ節郭清を伴う根治手術が標準であるが,シスプラチン+5-FU を併用した,領域リンパ節に対する予防的化学放射線療法の有用性を示唆する報告もある 4)。JCOG 0508 試験では,内視鏡治療が可能と予測される限定的な(SM2 まで)cT1bN0 食道癌に対して内視鏡治療を施行し,病理学的に完全切除が確認され,pT1a で脈管侵襲陽性もしくはpT1b であった症例に対し予防的化学放射線療法を施行した場合の3 年生存率(本試験の主要評価項目)は90.7%(90%CI,84.0-94.7)であった。一方,内視鏡治療で断端陽性となり,根治化学放射線療法を施行した15 例中3 例(20%)に原病死を認めた。cT1bN0 のうちどのような症例がこの治療法の適応となるかについては慎重な検証が必要である。この臨床試験は2016 年6 月の米国臨床腫瘍学会で報告され,論文化が待たれる。

2) cStage Ⅱ,Ⅲに対する化学放射線療法

cStage Ⅱ,Ⅲに対する化学放射線療法は手術単独と同等とする報告もあった 5)が,JCOG9906 試験の結果,完全奏効割合62.2%,3 年生存割合は44.7%,5 年生存割合36.8%と,直接比較することはできないが同じ対象に対する術前化学療法+手術(JCOG9907 試験)の成績(5 年生存割合55%)よりも劣ると考えられるため,手術拒否例や,耐術能に問題のある症例などに対する,根治が期待できる治療として推奨される 6)。米国RTOG によって行われた,RTOG9405/INT0123 試験においては,シスプラチン(75 mg/m2,1,29 日目),5-FU(1,000 mg/m2,1-4,29-32 日目)の化学療法に,放射線照射量50.4 Gy を併用する群と,64.8 Gy を併用する群が比較されたが,64.8 Gy 群では,毒性が強い反面生存期間の延長効果が示されなかった 7)。このことから,シスプラチン(75 mg/m2,1,29 日目),5-FU(1,000 mg/m2,1-4,29-32 日目)の化学療法に,放射線照射量50.4 Gy を併用する治療法(RTOG レジメン)は化学放射線療法の標準治療の一つと考えられている。わが国で行われたmodified RTOG(mRTOG)レジメンの第Ⅱ相試験では,本来のRTOG レジメンに領域リンパ節への予防照射を加えたレジメンが施行され,完全奏効割合70.6%,3 年生存割合63.8%と良好な結果が示された 8)。晩期毒性は60Gy が照射されたJCOG9906 試験に比して50.4 Gy を用いたmRTOG レジメンでは軽減された一方,化学療法の投与量の増加に伴う骨髄抑制や粘膜炎,消化器症状に注意が必要である。また,後述する救済治療が積極的に行われたことも治療成績の向上に寄与しており,化学放射線療法後の救済治療を含めて治療戦略を考える必要性がある。mRTOG レジメンに救済治療を加えた場合の判断規準や救済治療の安全性などについては,JCOG0909 試験において検討されている。

3) cStage Ⅳa に対する化学放射線療法

手術による切除は不能であるが,放射線の照射範囲内に病変が限局する場合には,化学放射線療法が標準治療となる。単施設のシスプラチン+5-FU に放射線60 Gy を併用した第Ⅱ相試験では,完全奏効割合33%,3 年生存割合23%,多施設共同試験であるJCOG9516 試験では完全奏効割合15%,2 年生存割合31.5%と報告されており 9, 10),シスプラチン+5-FU を併用した化学放射線療法が標準治療となっている。5-FU(700 mg/m2,1-4,29-32 日目),シスプラチン(70 mg/m2,1,29 日目)の標準化学療法と,5-FU(200 mg/m2),シスプラチン(4 mg/m2)を1-5,8-12,15-19,22-26,29-33,36-40 日目に行う低用量化学療法に,放射線照射量60 Gy をそれぞれ併用する治療法の比較では,2 つのランダム化試験において,低用量化学療法に明らかなメリットを見いだせなかった 11, 12)。シスプラチン+5-FU にさらにドセタキセルを併用した,DCF+放射線療法の臨床試験の結果,完全奏効割合42.1%と良好な結果が報告されているが,30%以上のGrade 3/4 食道炎,発熱性好中球減少症が認められているため,適応については慎重な検討が必要である 13)。強力な導入化学療法後に手術あるいは化学放射線療法を行う集学的治療法が検討され,1 年生存割合67.9%と良好な短期成績を示しており 14),比較試験(JCOG1510)が予定されている。

4) 化学放射線療法に用いられる放射線量と化学療法

RTOG8501 では,食道癌に対する放射線単独療法(64 Gy)と同時併用化学放射線療法(シスプラチン+5-FU+50 Gy)を比較し,化学放射線療法により有意差をもって治療成績が向上したため,化学放射線療法が標準治療として推奨されている 15)。また,化学療法と放射線療法のメタアナリシスより,化学療法と放射線療法のタイミングは,順次併用に比して同時併用が有意に生存期間を延長することが報告されている 16)。また,前述のRTOG9405/INT0123 試験においては,生存期間,局所制御割合いずれにおいても,高線量群の優越性は認められず,シスプラチン(75 mg/m2,1,29 日目),5-FU(1,000 mg/m2,1-4,29-32 日目)の化学療法に,併用する放射線照射量は50.4 Gy と結論づけられている。日本では60 Gy の放射線量に対し,シスプラチン(70 mg/m2,1,29 日目),5-FU(700 mg/m2,1-4,29-32 日目)など,より少ない投与量の抗腫瘍薬を組み合わせた報告が多い 17, 18)。救済治療も含めた集学的治療においてmRTOG レジメンも徐々に行われているが,有用性についてはJCOG0909 試験において検証が行われている。

 化学放射線療法前向き臨床試験のまとめ

1) 15) 7) 6) 8) 10) 12) 11) 13)
5) 根治的化学放射線療法による有害事象

化学放射線療法の有害事象は,主に急性期毒性と晩期毒性に分類される。急性期毒性は主に化学療法と放射線療法の併用期に認められ,治療開始から,1 カ月から2 カ月にわたり起こるものである。晩期毒性は放射線に伴うものが多く,治療終了後数カ月から数年の経過で認められる。急性期毒性は,消化器毒性,嘔気,嘔吐,腎機能障害,白血球減少,食道炎,嚥下困難などがあり,『制吐薬適正使用ガイドライン』19)や,『発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン』20)などに準拠した治療を行う。晩期毒性には,放射線性肺臓炎や,胸水,心囊水の貯留,収縮性心膜炎,甲状腺機能低下症などあり,10%程度の患者で日常生活に支障を来たす 21-23)。致死的な場合もあるため,定期的なフォローアップ,呼吸困難など自覚症状の問診と,早期の対応が重要である。

6) 根治的化学放射線療法後の局所遺残,再発例に対する救済治療

食道癌に対する化学放射線療法後に,局所に病変が遺残や再発した場合には,手術,内視鏡治療により長期生存が得られる場合がある。救済手術では,R0 切除が得られた場合に長期生存することが報告されているが,同時に術後合併症発生頻度,在院死亡割合が高くなることが指摘されている 24-28)。病変が粘膜内にとどまる場合には,救済内視鏡治療が安全に施行可能である 29, 30)。粘膜下層,固有筋層までの浸潤が疑われた場合でも光線力学療法(PDT)にて良好な効果が得られたとの報告もあり,選択肢の一つとして考えられる 31)

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Clinical Question

再掲
CQ7
cStage Ⅰ食道癌に対して手術を行わない場合,化学放射線療法または放射線療法のどちらを推奨するか?

エビデンスの強さC
内視鏡的切除の対象とならないcStage Ⅰ食道癌患者に対して手術を行わない場合,化学放射線療法を行うことを強く推奨する。(合意率84.2%[16/19])

解説文

参照
第Ⅲ章 食道癌治療のアルゴリズムおよびアルゴリズムに基づいた治療方針
2.cStage 0,Ⅰ CQ7

再掲
CQ8
cStage Ⅱ,Ⅲ食道癌に対して,手術療法を中心とした治療と根治的化学放射線療法のどちらを推奨するか?

エビデンスの強さC
cStage Ⅱ,Ⅲ食道癌に対して,手術療法を中心とした治療を行うことを弱く推奨する。(合意率70%[14/20])

解説文

参照
第Ⅲ章 食道癌治療のアルゴリズムおよびアルゴリズムに基づいた治療方針
3.cStage Ⅱ,Ⅲ CQ8

再掲
CQ12
cStage Ⅱ,Ⅲ,Ⅳa 食道癌に対して根治的化学放射線療法後に完全奏効を得た場合,追加化学療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
cStage Ⅱ,Ⅲ,Ⅳa 食道癌に対して根治的化学放射線療法後に完全奏効を得た場合,追加化学療法を行うことを弱く推奨する。(合意率90%[18/20])

解説文

参照
第Ⅲ章 食道癌治療のアルゴリズムおよびアルゴリズムに基づいた治療方針
3.cStage Ⅱ,Ⅲ CQ12

再掲
CQ13
cStage Ⅳa 食道癌に対して化学放射線療法を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
cStage Ⅳa 食道癌に対して根治的化学放射線療法を行うことを弱く推奨する。(合意率85%[17/20])

解説文

参照
第Ⅲ章 食道癌治療のアルゴリズムおよびアルゴリズムに基づいた治療方針
4.cStage Ⅳ,CQ13

CQ30
治療前切除可能食道癌の化学放射線療法後に遺残・再発を認めた場合,救済手術を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
治療前切除可能食道癌の化学放射線療法後に遺残・再発を認めた場合,救済手術を行うことを弱く推奨する。(合意率95%[19/20])

解説文

根治的化学放射線療法後に遺残または再発した場合の治療選択肢は限られている。切除可能であれば手術は唯一の根治治療となり得る手段であるが,高い周術期死亡率が報告されており,その有用性は定かではない。

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:189 編,Cochrane:124 編,医中誌:84 編が一次スクリーニングされた。二次スクリーニングを終えて,ランダム化比較試験は存在せず,11 編の症例対照研究と4 編の症例集積に対して定性的システマティックレビューを行った。

11 編の症例対照研究では,比較対照を術前化学放射線療法+手術群としたものが8 編,手術単独群としたものが1 編,何らかの理由で根治的化学放射線治療後の遺残・再発に対して救済手術を行わなかった群としたものが2 編であった。いずれも本CQ への直接性は低く,救済手術を行うことでの予後改善効果については不明である。救済手術群における3 年全生存率は17.0~50.6% 1-12),5 年全生存率は25.4~50.6% 1-3, 6-13)であった(表1)。一方,在院死亡率については,術前化学放射線療法+手術群と比較した9 編の合計で8.9%(49/550)であった。これは術前化学放射線療法+手術群の在院死亡率6.3%(64/1020)と比べて高い数値であった 2, 4, 6-8, 10, 12-14)表2)。

表1 救済手術例の生存率
表2 在院死亡率の比較

サブグループ解析において,救済手術例における予後良好因子として,R0 切除と再発が報告されている。全15 編のうち8 編でサブグループ解析にてR0 切除の優位性が示されているが,再発例については評価が定まっていない。

以上より,R0 切除が見込まれる場合に救済手術は保険診療で実施可能な治療であり選択肢の一つとなる治療手段である。しかし死亡率の高い治療であるため,危険性や長期成績について十分なインフォームド・コンセントを得た上で,専門性の高い施設で行われるべき手術であり,慎重な対応が求められる。益と害のバランス,エビデンスの強さ,患者の希望などを勘案し,「治療前切除可能食道癌の化学放射線療法後に遺残・再発を認めた場合,救済手術を行うことを弱く推奨する」とした。

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第IX章 食道癌治療後の経過観察

要約

食道癌治療後の経過観察の目的は,①再発の早期発見・早期治療,②多発癌・重複癌の早期発見・早期治療である。さらに経過観察は治療後の全身管理・QOL の把握という点でも重要である。

食道癌治療後の経過観察の方法は,初回治療が何かによって,また初回治療時の癌の進行度によって異なる。早期発見・早期治療により長期生存が可能な場合があることを念頭において経過観察を行い,異時性食道多発癌や合併頻度が高い胃癌や頭頸部癌を中心とした異時性他臓器重複癌の発生に留意することが重要である。コンセンサスに基づいた経過観察システムを構築し,その有効性を検証することが求められる。

総論

1 内視鏡的切除術後の経過観察

内視鏡的切除術後の一定の経過観察法は未だ確立していない。局所再発は,初回治療後1 年以内に生じることが多いが2~3 年後に認められるときもあり,長期にわたる経過観察を要する 1, 2)。局所再発の検索は主としてヨード染色による食道内視鏡検査を用いて行われるが,切除後1 年間は3 カ月または6 カ月毎に行うという報告が多い 1-5)。分割切除例やヨード不染帯多発例は局所再発のリスクが高く,より厳重な食道内視鏡検査を要する 1-4, 6)。リンパ節再発・臓器再発は2~3 年を過ぎて発見されることもあり,定期的かつ長期の経過観察が必要である 7, 8)

検査法としては胸腹部造影CT,EUS などを用いて,6~12 カ月毎に行う 9)。参考として経過観察法の例を挙げると,JCOG0508 試験「粘膜下層浸潤臨床病期Ⅰ期(T1N0M0)食道癌に対する内視鏡的粘膜切除術(EMR)と化学放射線併用治療の有効性に関する第Ⅱ相試験」では,4 カ月毎の診察,頸部~腹部造影CT,腫瘍マーカーSCC の測定をEMR 後3 年間行うことになっている。

2 根治手術後の経過観察

わが国の根治手術後の再発は29~43%に認められ,再発例のうち約85%は術後2 年以内の早期に認められるが,それ以後の再発もあり注意を要する 10-12)。再発形式としては,リンパ節再発・局所再発・臓器再発・播種性再発があるが,複合再発であることも多い 12)

実際の食道癌根治切除後の経過観察法は施設毎に決められているのが現状で,定期的経過観察の有用性や有効な経過観察法を明らかにした報告はない。本ガイドライン検討委員会が行った全国調査 13)によると,切除後の最初の2 年以内は年4 回以上,3 年目以後は年2 回以上,腫瘍マーカーやCT を中心とした画像診断を含む経過観察を5 年目まで継続している施設が多いが,10 年間行う施設もある。実際は,主として胸腹部造影CT,上部消化管内視鏡などが中心に行われ,必要に応じて頸部・腹部US,骨シンチやPET-CT が行われる。CT の頻度は3~6 カ月毎の施設が多く,進行度に応じて,また術後年数に応じて変化する場合が多い。

3 根治的化学放射線療法後の経過観察

根治的化学放射線療法後の経過観察法は,通常はCT および食道内視鏡検査などが用いられるが,頻度や観察期間について,その妥当性を示す報告はない。全国調査 13)によると,化学放射線療法終了1 年目は大部分3 カ月毎,さらにcStageⅡ以上の進行癌の場合は,多くは3 年目まで同様の経過観察を継続し,調査が行われた全施設において少なくとも治療後5 年間は経過観察を行っていた。化学放射線療法後の遺残や再発としては食道原発巣やリンパ節再発が多く,その大部分は治療開始から1~2 年以内である。

食道癌の根治的化学放射線療法後は,再発の検索のみならず,放射線性肺臓炎,胸水,心囊水など放射線治療の晩期障害に対する経過観察も必要である 14)。これらは,患者のQOL を大きく損ねることもあり,晩期障害による死亡もあり得る。

4 異時性食道多発癌および他臓器重複癌に対する留意

食道癌は異時性に食道内に多発癌を生じることの比較的多い疾患である。また胃癌や頭頸部癌など異時性他臓器癌の発生も稀ではない 15, 16)。このことを念頭に上部消化管内視鏡検査を施行し,咽頭から全食道(手術例では残存食道)および胃にかけて定期的かつ慎重に観察していく必要がある。とくに,ヨード不染帯多発例や頭頸部癌合併例では異時性頭頸部の発生にとくに留意が必要である 16, 17)。頭頸部表在癌の発見には狭帯域光観察(NBI)を併用した拡大内視鏡が有用である 18)。さらに大腸癌,その他の癌の発生にも留意する必要がある。

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Clinical Question

CQ31
治療により一旦完治が得られた場合の経過観察として,高頻度の画像診断,低頻度の画像診断,画像診断を用いない経過観察の何れを推奨するか?

エビデンスの強さD
治療により一旦完治が得られた場合の経過観察として,高頻度の画像診断を含めた経過観察を行うことを弱く推奨する。(合意率85%[17/20])

解説文

食道癌に対する外科的完全切除や根治的化学放射線療法(CRT)により完全奏効が得られた患者の経過観察の方法についての検討をした比較研究は少ない。

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:324 編,Cochrane:274 編,医中誌:183 編が抽出された。一次,二次スクリーニングを経て,9 編の観察研究に対して定性的システマティックレビューを行った。異なる経過観察法の間での成績の比較については,唯一カナダより報告されている。それによると,完全切除後の経過観察として画像診断の併用の有無によって再発や死亡のリスクには差はなかったが,本研究は下部食道・胃の癌(多くは腺癌)を対象とした症例数の少ない後ろ向き試験である 1)

切除後に高頻度(術後早期は年3~4 回程度)の画像診断を含めた経過観察を行った報告によると,問診や血液検査値では異常なく,CT を中心とした画像のみで発見される頻度も25~60%である 2-4)。また食道癌の再発例のうち約85%は術後2 年以内の早期に診断されている 3-5)。一方,再発後の治療の効果については,根治切除が得られた後に,単発のリンパ節など限局した領域に再発が生じた食道癌患者に対して,完治を目指した手術,(化学)放射線療法は有用である(CQ33 を参照)。また,根治的化学放射線療法後は再発のみならず,放射線性肺臓炎,胸水や心囊水の貯留など放射線治療の晩期障害に対する経過観察も必要である 6)

以上のような背景を踏まえ,わが国では画像診断を併用した経過観察を行うことが多く,とくに治療後早期には頻回に行われるのが現状である。本ガイドライン検討委員会が行った全国調査 7)によると,切除後の最初の2 年以内は年4 回以上,3 年目以後は年2 回以上,腫瘍マーカーやCT を中心とした画像診断を含む経過観察を大部分の施設が5 年目まで(さらに約7 割が7 年まで)継続していることが多い。根治的化学放射線療法後では,切除後より短い間隔で行われることが多い。一方,NCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドライン 8)では,食道切除または根治的化学放射線療法後は「無症状の場合,2 年間は3~6 カ月毎,その後3~5 年間は6~12 カ月毎,それ以降は年に一度,問診と診察を行い,臨床的に必要と考えられたときに血液生化学検査,消化管内視鏡および生検,画像検査が加えられる」と記載されているが,その根拠は示されていない。わが国における経過観察のコストは保険診療の範囲内で実施可能であるため比較的低いが,その効果と総医療費の増加のバランスに関する検討 9),さらに頻回の画像診断による放射線被曝の問題などの検討は十分になされていないことにも留意が必要である。しかしながら,仮に生存率向上につながらないとわかっていても,患者は画像診断による経過観察を希望するという報告があることも重要である 10)

以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者の希望などを勘案し,推奨文は「治療により一旦完治が得られた場合の経過観察として,高頻度の画像診断を含めた経過観察を行うことを弱く推奨する」とした。

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CQ32
治療により一旦完治が得られた患者において,腫瘍マーカー(CEA,SCC 抗原など)の定期的な測定を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さD
治療により一旦完治が得られた患者において,腫瘍マーカー(CEA,SCC 抗原など)の定期的な測定を行うことを弱く推奨する。(合意率90%[18/20])

解説文

食道癌治療後の経過観察では,画像検査に加え腫瘍マーカーを測定することが多い。本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:178 編,Cochrane:102 編,医中誌:131 編が抽出された。腫瘍マーカー非測定を対象とした介入試験は0 編で,全て症例集積による観察研究であった。一次,二次スクリーニングを経て,13 編の観察研究に対して定性的システマティックレビューを行った。

現在,食道癌で保険適用となっている腫瘍マーカーは,CEA,SCC 抗原,p53 抗体である。扁平上皮癌の腫瘍マーカーとしてCYFRA21-1 があるが,保険適用外である。腫瘍マーカーの上昇が再発と相関するという報告や 1, 2),画像診断に先行するという報告 2, 3)があるが,多くは少数例の比較的古い報告である。画像診断が進歩した近年,定期的な腫瘍マーカーの測定が単独で早期発見に有用であるかは不明である。コスト面での有益性の検討も全くなされていない。2007 年に保険収載となった血清p53 抗体は,表在癌でも比較的感度が高いと報告されているが 4),治療後の再発のモニタリングとしての有用性を示す報告は少ない。

本ガイドライン検討委員会が行った全国調査 5)によると,わが国では大半の施設で再発診断としてCEA,SCC 抗原が測定されており,その頻度は治療後の最初の3 年間は年4 回,4 年目から6 年目まで年2 回であることが多かった。

以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,実臨床の現状,コストなどを勘案し,推奨文は「治療により一旦完治が得られた患者において,腫瘍マーカー(CEA,SCC 抗原など)の定期的な測定を行うことを弱く推奨する」とした。

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第X章 再発食道癌に対する治療

要約

食道癌初回治療は,内視鏡的治療・根治手術・根治的化学放射線療法など多岐にわたるため,再発食道癌の治療も初回治療の種類によって個別に考える必要がある。さらに,再発形式がリンパ節再発か局所再発か遠隔臓器再発か,または複合再発かによって治療法が異なり,また再発時の患者の全身状態も治療法の選択に影響を与える。再発食道癌に対する治療についての大規模臨床試験は行いにくいため,その有用性に関するエビデンスは少ないのが現状である。根治的化学放射線療法後の救済手術など,再発の種類によっては治癒が得られる場合もあるが,腫瘍増悪の抑制あるいはQOL の改善を目的とした治療が行われることも多い。

総論

1 内視鏡的切除術後の再発に対する治療

内視鏡的粘膜切除後の局所再発は,初回治療後1 年以内に生じることが多いが2~3 年後に認められるときもある。近年,臨床研究として,内視鏡的切除術の適応が拡大されつつある 1)。内視鏡的切除術後の追加治療の適応や種類は一定でなく,経過観察のみの症例もみられる 2)。(第Ⅳ章 内視鏡治療:参照)

2 根治手術後の再発に対する治療

わが国の食道癌根治手術後の再発は28~47%に認められ 1-4),欧米からの報告では50%以上の再発も稀ではない 5, 6)。再発形式は,リンパ節・局所再発が22~68%に,遠隔臓器転移が12~51%に生じ,両者の複合再発も7~27%にみられている。リンパ節再発の中では頸部・上縦隔の再発が多く,遠隔臓器再発では肺・肝・骨・脳の順に多いとされる。小腸や結腸への転移もある 1, 2)

食道癌根治切除後の再発例の生存率は極めて不良であり,再発診断時からの生存期間中央値は5~10 カ月である。一方,長期生存または完治する症例も報告されているため,再発巣に対する積極的治療も検討され得る 1-16)

食道癌根治切除後の再発の治療法は,再発部位・形式やその範囲に応じて選択される。再発時の全身状態や手術操作範囲内の再発か否か,術前または術後に放射線照射がされているかなどの状況で治療法が変わる。そのため種々の病態に応じた多数例での治療成績の報告はほとんどない。

3 根治的化学放射線療法完全奏効例の再発に対する治療

近年,切除不能食道癌に対してのみならず,切除可能と判断される食道癌に対しても初回治療として根治的化学放射線療法が選択される機会が増えてきている。完全奏効例も多く得られているが,局所再発を含めて再発症例も多い。再発に対する治療法は,病態や全身状態によりさまざまであり一定の見解はないが,再発が限局性の場合には,手術や内視鏡的切除などの救済治療が行われることもある 8, 17-23)。(第Ⅷ章 集学的治療法 2.化学放射線療法,救済手術に関してはCQ30:参照)。

参考文献

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Clinical Question

CQ33
根治切除後に限局した領域に再発が生じた場合,根治を目指した積極的治療を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さD
根治切除後に限局した領域に再発が生じた場合,根治を目指した手術,(化学)放射線療法を行うことを弱く推奨する。(合意率70%[14/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:70 編,Cochrane:177 編,医中誌:24 編が抽出された。一次,二次スクリーニングを経て,12 編の観察研究に対して定性的システマティックレビューを行った。

根治手術後の限局した領域に再燃・再発が生じた際,根治を目指した治療としては,手術もしくは(化学)放射線療法が挙げられる。頸部リンパ節など限局性のリンパ節再発に対する手術に関しては,これまでいくつかの研究でその有用性が示されているが 1-4),いずれも後ろ向きの観察研究による報告である。根治手術後の限局性再発に対する(化学)放射線療法の有用性を示す報告は比較的多く 5-10),実臨床においても広く行われている治療法であるが,化学療法単独など他の治療法との前向き比較試験での評価は行われていないのが現状である。臓器再発に対する切除術に関しては少数例での検討に留まっており 11, 12),その有用性は不明である。

どのような再発の状況なら根治が期待できるかの基準は明らかでなく,コストの問題を含めて根治を目指した積極的治療を行うことの益と害については明確な答えが出せない。しかし,積極的治療に対する患者(家族)の希望は,実臨床において比較的大きいと考えられる。患者に予後や有害事象について十分な説明をした上で,患者の希望も考慮してその適応を決定するべきである。

以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,コストの問題や実臨床の現状などを勘案し,推奨文は「根治切除後に限局した領域に再発が生じた場合,根治を目指した手術,(化学)放射線療法を行うことを弱く推奨する」とした。

参考文献

1)
Watanabe M, et al: Outcomes of lymphadenectomy for lymph node recurrence after esophagectomy or definitive chemoradiotherapy for squamous cell carcinoma of the esophagus. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2014; 62(11): 685-92.
2)
Watanabe M, et al: Salvage lymphadenectomy for cervical lymph node recurrence after esophagectomy for squamous cell carcinoma of the thoracic esophagus. Dis Esophagus. 2012; 25(1): 62-6.
3)
Nakamura T, et al: Multimodal treatment for lymph node recurrence of esophageal carcinoma after curative resection. Ann Surg Oncol. 2008; 15(9): 2451-7.
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6)
Zhu YL, et al: A retrospective evaluation of radiotherapy for the treatment of local esophageal squamous cell carcinoma recurrence after initial complete surgical resection. J Investig Med. 2013; 61(1): 34-9.
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Baxi SH, et al: Salvage definitive chemo-radiotherapy for locally recurrent oesophageal carcinoma after primary surgery: retrospective review. J Med Imaging Radiat Oncol. 2008; 52(6): 583-7.
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Yamashita H, et al: Salvage radiotherapy for postoperative loco-regional recurrence of esophageal cancer. Dis Esophagus. 2005; 18(4): 215-20.
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Hiyoshi Y, et al: Clinical significance of surgical resection for the recurrence of esophageal cancer after radical esophagectomy. Ann Surg Oncol. 2015; 22(1): 240-6.

第XI章 緩和医療

要約

緩和医療は全ての癌領域で共通に行われるべき医療であるが,食道癌においては,嚥下障害,栄養障害,瘻孔による咳嗽などによりQOL の低下を来たす場合が多く,治療の初期から症状緩和やQOL 保持・改善のための治療法を検討するべきである。しかしながら,その方法の決定は個々の施設に委ねられており,今後の評価が必要な分野である。全ての医療者が緩和医療に関する知識・技術に習熟していかなければならない。

総論

WHO(2002)によると,緩和ケアは「生命を脅かす疾患に伴う問題に直面する患者と家族に対し,痛みや身体的,心理社会的,スピリチュアルな問題を早期から正確にアセスメントし,解決することにより,苦痛の予防と軽減を図り,生活の質(QOL)を向上させるためのアプローチである」と定義される。平成26 年度の第2 期がん対策推進基本計画においては,「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が重点的に取り組むべき課題に挙げられている 1)。以上のことは,全ての癌患者に対して共通であり,日常診療として行われているが,担当医師・看護師のみならず緩和ケア専門医・精神腫瘍学専門医・臨床心理士・歯科医・薬剤師・社会福祉士・理学療法士などがチーム医療を行う必要がある。癌性疼痛に対しては,日本緩和医療学会作成の『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン』に基づいた方法が推奨される 2)

食道癌においては,診断時から食道狭窄による嚥下障害や栄養障害,誤嚥・瘻孔による咳嗽,腫瘍による胸痛などを伴い,QOL の低下を来たしている場合が少なくない。治癒を目的とした治療の場合でも,初期からの症状緩和やQOL の維持・改善のための治療を併せて行っていくことが重要である 3, 4)

食道癌終末期患者に対する緩和ケアにおいては,食道狭窄による嚥下障害とそれによる栄養障害,気道狭窄や気道との瘻孔に起因する症状,遠隔転移による悪液質などの症状,高Ca 血症などがとくに問題になる。その中でも食道狭窄症状や気道狭窄症状,瘻孔に起因する症状の改善としては,姑息的治療として放射線療法,化学放射線療法,食道ステント挿入,気管ステント挿入,食道バイパス手術などが行われることがある 5, 6)。(第Ⅶ章 放射線療法第Ⅷ章 集学的治療法 2.化学放射線療法:参照)

切除不能食道癌の嚥下困難の改善を目的とした治療法に関しては,2014 年のCochrane Database システマティックレビューにおいて,自己拡張型食道メタリックステントが,プラスチックステントや他の方法より有効かつ即効性があることが示されている 7)。ただし,ステント挿入による合併症発生やQOL の低下,挿入後の疼痛などの可能性もあることも留意しておかなければならず,施行時には十分な説明と同意のもとにそれらを行うことが求められる。食道ステント挿入以外では,放射線腔内照射,レーザー照射,温熱療法,エタノール注入などが食道通過障害の解除療法として報告されている。放射線腔内照射は,通過障害解除の即効性は食道ステントに比べて劣るものの,合併症の発生率が低く通過障害改善の持続も優れ,生存期間の延長とQOL 改善も期待できる治療法として,食道ステント挿入の代替治療法になり得ると報告されている 7)。しかし,腔内照射単独治療は,わが国ではほとんど行われていない(第Ⅶ章 放射線療法:参照)

食道気道瘻を形成した症例は,繰り返す誤嚥と肺炎でQOL の低下を来たすが,自己拡張型食道カバー付きステント挿入,場合によっては気管ステントとのダブルステント挿入の有効性を示す報告がある 8)

根治的化学放射線ないし放射線療法後で根治手術が期待できない高度狭窄症例などにおいて,食道ステント挿入が困難あるいは危険であると判断された場合,在宅療法への移行を目的として栄養瘻の造設が行われる。通常内視鏡を用いて造設可能な経皮的内視鏡的胃瘻造設術は有効であり,高度狭窄例に対して集学的治療施行前に行われる場合もある 9)。細径内視鏡も通過困難な高度狭窄例や腹部手術の既往などにより経皮的内視鏡的胃瘻造設術が困難な症例においては,開腹下に胃瘻や空腸瘻造設が行われる。

また,気道閉塞による突然の呼吸停止や大動脈への穿孔による大量吐血などの致死的病態は,食道癌治療に関わる医療者はしばしば遭遇する事象である。救命困難な場合がほとんどであり,事前の,とくに家族への十分な説明が重要である。患者や家族は,急変急死の恐怖を抱えながらの生活を余儀なくされるため,両者に対する心理的サポート・心のケアを怠ってはならない。

参考文献

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Clinical Question

CQ34‒1
根治的治療適応外の食道癌に対して,緩和的放射線療法施行前に食道ステント留置を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
根治治療適応外の食道癌に対して,緩和的放射線療法施行前に食道ステント留置を行うことを弱く推奨する。(合意率80%[16/20])

CQ34‒2
根治的治療の可能性がある食道癌に対して,根治的(化学)放射線療法施行前に食道ステント留置を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さD
根治的治療の可能性がある食道癌に対して,根治的(化学)放射線療法を施行前に食道ステント留置は行わないことを強く推奨する。(合意率80%[16/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:182 編,Cochrane:117 編,医中誌:87 編が抽出された。一次,二次スクリーニングを経て,2 編のランダム化比較試験と4 編の観察研究に対して定性的システマティックレビューを行った。

ステント留置による早期の嚥下困難の改善と放射線治療によるその効果の維持を目的とした食道ステント留置後の放射線治療の効果に関して,近年2 つのランダム化比較試験 1, 2)において,根治治療の適応がないと判断された食道の悪性狭窄を有する食道癌患者に対して,ステント留置後に放射線治療を行った群(1 つ 1)はirradiation ステントであり,わが国での使用は現在できない)は,ステント留置のみの群に比して嚥下困難の改善や生存延長が期待され,さらに合併症の増加はないことが示されている。観察研究 3-5)においては,嚥下困難の改善や生存率延長が期待できるとするものと差がないとするものがあるが,いずれの研究においてもステント留置後の放射線治療により有害事象が増加することはないと報告されている。ただし,これらの報告における放射線照射量は,30 Gy 2),40 Gy 以上 4)などさまざまであり,結果の解釈には注意を要する。また,食道気管(気管支)瘻に関しては,対象に含まれる場合と含まれない場合があり,瘻孔を有する患者に対するステント留置後の放射線治療の有効性や安全性は不明である。これらの研究の対象の多くは,根治的治療適応外の緩和的治療の対象症例であると考えられ,根治的治療の可能性が残されている状況ではないことに留意する必要がある。さらに,わが国においては,食道悪性狭窄に対する食道用ステントは保険診療の範囲内で実施可能となっているが,平成24 年11 月に厚生労働省医薬食品局安全対策課長・審査管理課医療機器審査管理室長から,「消化管用ステントに係わる使用法の注意の改訂について」の通知 6)が発出され,食道用ステント,胃十二指腸用ステント,大腸用ステントを含む消化管用ステントの添付文書の警告欄に「がんの浸潤が著しい患者へのステント留置は,留置部位での穿孔の報告があるため,適応の判断を慎重に行うこと」の記載が追加されていることへの留意も必要である。根治が望めない食道癌による食道狭窄に対して,経口摂取の早期改善を望む患者へは十分な危険性の説明を行った上でステント留置を行うべきである。

以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者の希望などを勘案し,CQ34-1 に対する推奨文は「根治治療適応外の食道癌に対して,緩和的放射線療法施行前に食道ステント留置を行うことを弱く推奨する」とした。

一方,2003 年に報告された日本食道疾患研究会(日本食道学会)のアンケート調査では,食道狭窄や瘻孔があるが根治の可能性が残されている進行食道癌患者(大部分cStageⅡまたはⅢ)に対して,放射線療法施行前,施行中にステント留置を行った場合,瘻孔形成やこれに伴う消化管出血などの致死的有害事象が高頻度に認められた 7)ため,前版の本ガイドラインでは,「(化学)放射線療法奏効例では狭窄の解除,予後の改善も期待できる現状では,早期のステント留置は避けるべきである」と記載されている。これ以後に,この事実を否定する研究結果はわが国からも報告されておらず,本ガイドラインでも採用されるべきものであると考えられる。患者が早期の嚥下困難の改善を希望する場合もあるが,十分な説明の上で根治的治療を勧めることが望まれる。ただし,近年,欧米では食道狭窄を伴う切除可能局所進行食道癌に対して,主としてプラスチックステントを留置して栄養改善を図りながら術前化学放射線療法を行うことも試みられているが,その有効性や安全性は明らかにはなっておらず,有害事象により根治食道切除が不能になる症例もあるため,推奨できないとする総説もあり 8),現在のところわが国では採用されていない。

以上,根治的治療の可能性が残される状況では,わが国では害が益を上回る可能性が示唆され,CQ34-2 に対する推奨文は「根治的治療の可能性がある食道癌に対して,根治的(化学)放射線療法を施行前に食道ステント留置は行わないことを強く推奨する」とした。

参考文献

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CQ35
放射線療法,化学放射線療法後に高度狭窄が残存しかつ根治切除が不可能である場合に,食道ステントを留置することを推奨するか?

エビデンスの強さD
放射線療法・化学放射線療法施行後に高度狭窄が残存し,かつ根治切除が不可能である患者に対して食道ステントを留置することは,エビデンスの強さ,患者の経口摂取の希望の強さ,ステント留置による合併症発生のリスクなどを勘案すると,現時点では推奨レベルを決定することはできない。経口摂取に対する要望が強く食道ステントを留置する場合には,合併症について十分な説明を行う必要がある。(合意率50%[10/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:182 編,Cochrane:117 編,医中誌:87 編が抽出された。一次,二次スクリーニングを経て,1 編のメタアナリシスと3 編の観察研究に対して定性的システマティックレビューを行った。

放射線療法,化学放射線療法後に高度狭窄が残存しかつ根治切除が不可能である症例に対して食道ステントを留置した場合,誤嚥性肺炎や食道気道瘻 1)や致死的な出血 2)など重篤な合併症を併発することを示した観察研究がある。しかしながら,2010 年に報告されたメタアナリシスにおいてのサブグループ解析によって,先行する化学放射線療法が,ステント留置による合併症発生率,留置手技に起因する死亡や全生存率の短縮に影響を及ぼすことはないことが示されている 3)。ただし,このメタアナリシスは自己拡張型ステント留置とそれ以外の治療の効果の比較に関するランダム化比較試験によるものであり,放射線療法後のステント留置の効果と害の比較を主題にしたものではない。一方,わが国においては食道狭窄に対する食道用ステント留置は保険診療の範囲内で実施可能となっているが,平成24 年11 月に厚生労働省医薬食品局安全対策課長・審査管理課医療機器審査管理室長から,「消化管用ステントに係わる使用法の注意の改訂について」の通知 4)が発出され,食道用ステント,胃十二指腸用ステントや大腸用ステントを含む消化管用ステントの添付文書の警告欄に「①ステント留置前に放射線療法又は化学療法を施行している患者,②がんの浸潤が著しい患者へのステント留置は,留置部位での穿孔の報告があるため,適応の判断を慎重に行うこと」の記載が追加されている。

このような益と害のバランス,エビデンスの程度,化学療法や化学放射線療法が終了し根治不可能な患者の経口摂取の希望の強さなどを踏まえて,本ガイドライン検討委員会における合意形成会議で議論がなされた。その結果,推奨文として「行うことを弱く推奨する」・「行わないことを弱く推奨する」が各々50%・50%と意見が分かれた。したがって,本CQ に対しては現時点で推奨レベルを決定することができなかった。

こうした症例で経口摂取に対する患者の希望が強い場合には,食道ステント留置により重篤な合併症が発症することがあることを十分に説明し,症例毎に益と害のバランスを十分に考慮して適応を決定するべきである。

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第XII章 バレット食道およびバレット癌に対する診療

要約

バレット粘膜を有する食道をバレット食道と呼ぶ 1, 2)。バレット粘膜は内視鏡で確認できる胃から連続性に食道に延びる円柱上皮のことであり,組織学的な特殊円柱上皮化生の確認は必要としない 1, 3-8)。バレット粘膜の診断には食道胃接合部の同定が必要であるが,原則として内視鏡による食道下部柵状血管の下端を食道胃接合部とする 1)。バレット粘膜は組織学的には①円柱上皮下の粘膜層内の食道腺導管あるいは粘膜下層の固有食道腺,②円柱上皮内の扁平上皮島,③円柱上皮下の粘膜筋板の二重構造のうち,いずれかの所見が認められる 1)。バレット癌はバレット粘膜に生じた腺癌と定義される 1)。早期癌,表在癌,進行癌の定義は食道癌と同一であるが,深層粘膜筋板が本来の粘膜筋板として取り扱われる 1)。バレット癌の治療はその占居部位における食道扁平上皮癌に準じて行われる 1)。内視鏡的切除術の適応は,現時点では壁深達度が粘膜固有層内にとどまるもの(EP[上皮内にとどまる(非浸潤性病変)],SMM[浅層粘膜筋板にとどまる]およびLPM[深層粘膜筋板に達しない])とされるが,症例の積み重ねが必要である。

参考文献

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Clinical Question

CQ36‒1
バレット食道をスクリーニングすることを推奨するか?

エビデンスの強さD
バレット食道をスクリーニングすることを弱く推奨する。(合意率95%[19/20])

CQ36‒2
バレット食道をサーベイランスすることを推奨するか?

エビデンスの強さD
バレット食道をサーベイランスすることを弱く推奨する。(合意率80%[16/20],2 回目の投票で決定した[初回60%[12/20],2 回目80%[16/20]])

解説文

一般にバレット食道を拾い上げることをスクリーニング,発見されたバレット食道の経過観察を行うことをサーベイランスという。

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:276 編,Cochrane:152 編,医中誌:168 編が抽出された。そのうち28 編は同じ論文が複数の検索で重複して検出されており,追加した7 編と合わせて575 編が一次スクリーニングの対象となった。二次スクリーニングを終えて,64 編の研究(7 編のメタアナリシスと18 編のランダム化比較試験,4 編のコホート研究,13 編の症例対照研究,12 編の横断研究,1 編の後ろ向き観察研究,6 編の総説,2 編のガイドライン,1 編の研究デザイン報告)に対して定性的システマティックレビューを行った。

①スクリーニングすべき対象,②スクリーニングの方法,③サーベイランスの必要性,④サーベイランスを行うべき対象,⑤サーベイランスの方法,⑥サーベイランスの間隔の項目に分けてシステマィックレビューを行った。

そのうち,はっきりした優位性を示すエビデンスがあるのは,⑤サーベイランスの方法における,共焦点レーザー内視鏡についての5 編のランダム化比較試験 1-5)のみであった。共焦点レーザー内視鏡は通常観察と併用することで上乗せ効果が得られ 1),共焦点レーザーを併用した狙撃生検とランダム生検を比較した検討ではランダム生検より病変検出精度が高いとする報告もある 4, 5)。エビデンスレベルは高いが,使用できる施設は限られている。

現在,イギリスを中心にサーベイランスの意義についての客観的評価や適切なサーベイランス方法を決めるためのランダム化比較試験(BOSS)が行われているが,結果は2023 年まで待たなければならない。また,わが国の実情にはそぐわないものが多く,このシステマティックレビューを参考に推奨文を作成することも困難である可能性が高い。

①のスクリーニングすべき対象についてはランダム化比較試験を行うことが難しいため,欧米のガイドラインではバレット食道の危険因子からスクリーニングすべき対象を決めている。バレット食道およびバレット腺癌の危険因子としては,GERD や中心性肥満,白人および男性,家族歴,喫煙が挙げられているが,アルコールはリスク因子ではないとされている。最近発表された米国ACG(American College of Gastroenterology)のガイドラインでは,5 年以上の慢性的なまたは週1 回以上の胸やけや酸逆流などの逆流症状のある男性,もしくは50 歳以上,白人,中心性肥満,喫煙歴,バレット食道または食道腺癌の家族歴,以上の危険因子のうち2 つ以上の危険因子がある症例にスクリーニングを考慮すべきとしている。他のコンセンサスレポート(BOB CAT)やイギリスのガイドラインでも同様なことが報告されているが,他の危険因子としてバレット食道の長さが挙げられている。

わが国におけるバレット食道のスクリーニングに関しては,有症状者,とくに胃食道逆流症状の継続している患者では,器質的疾患の除外目的に上部消化管内視鏡検査を行うことがGERD ガイドライン(日本消化器病学会)で推奨されている。一方で,無症状または継続した症状がない患者については,胃癌検診で行われる上部消化管内視鏡検査がバレット食道の発見契機となっていることが多く,他疾患のスクリーニングおよびサーベイランス目的に上部消化管内視鏡検査が施行された際にバレット食道が発見されているのが現状である。わが国では欧米に比べてShort segment バレット食道(SSBE)が多くLong segment バレット食道(LSBE)が非常に少ないことから,わが国独自のエビデンス構築が望まれる。バレット食道を発見する目的で上部消化管内視鏡検査を行うことについては,スクリーニングによる死亡率低下の有無や費用対効果が明らかになっていない現時点では,強く推奨することはできない。

③のサーベイランスの必要性に関しても十分なエビデンスはないが,サーベイランスによりバレット食道癌を早期発見できることから 6-10),欧米のガイドラインでもサーベイランスが推奨されている。④のサーベイランスを行うべき対象については,SSBE はLSBE に比べてdysplasia やバレット食道癌の発生率が有意に低いが 11),SSBE からもバレット食道癌が認められることがあり 12),LSBE だけではなくSSBE に対してもサーベイランスを行うべきと考えられる。欧米のガイドラインではdysplasia の有無によりリスク評価を行っているが,十分なエビデンスはない。⑤のサーベイランス方法については,欧米ではシアトルプロトコールによるランダム生検が標準的に行われている。また,バレット食道癌における癌の局在をみた検討では,癌はバレット食道の肛門側よりも口側に多く,口側の生検数を増やすことで診断精度が上がったとしている。わが国では,色素内視鏡や画像強調内視鏡が欧米に比べて普及していることから,それらの有用性を示した報告が多く,詳細な観察の上での狙撃生検が主に行われている。⑥のサーベイランスの間隔については,dysplasia の有無に基づいてサーベイランス間隔を変えている。米国ACG のガイドラインなどでは,dysplasia のない場合は3~5 年毎の,dysplasia が疑われる場合は1 年毎の生検を含めた内視鏡検査が推奨されている。

欧米におけるSSBE からの発癌は0.19%/年,LSBE からの発癌は0.33~0.63%/年と報告されており,欧米においてもバレット腺癌の発生頻度は非常に低い。わが国におけるバレット腺癌の発生頻度はまだ明らかになっていないが,LSBE の頻度が低いことから欧米よりも低いものと推定される。わが国では非常に短いバレット食道を診断することもあり,サーベイランスの対象となる症例数が多いことから,わが国での発癌の頻度はさらに低いと考えられる。SSBE からもバレット腺癌は発生することから,バレット食道に対してサーベイランスを行い,バレット食道癌をより早期に発見することは重要と考える。しかし,わが国でのバレット食道のサーベイランスによる死亡率減少や費用対効果に関するエビデンスはほとんどなく,現段階ではサーベイランスを強く推奨することはできない。また,適切なサーベイランスの方法については,わが国で行われている狙撃生検と欧米で推奨されているランダム生検のどちらが有用であるかの検討は行われておらず,間隔についてもエビデンスは十分ではない。したがって,現段階で推奨できるサーベイランスプロトコールはない。

益は,スクリーニングにおいてはバレット食道を拾い上げることができること,サーベイランスにおいてはバレット食道癌を早期に診断できることである。害は,内視鏡検査の一般的な合併症や検査にかかる費用である。有症状患者に対しては保険診療の範囲内で実施可能であるが,無症状の患者については保険診療では行うことができない。患者は,バレット食道癌の早期診断を希望すると考えられるが,その頻度は低く,費用対効果はかなり低いと予想される。

以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望など勘案し,推奨文は「バレット食道をスクリーニングすることを弱く推奨する」および「バレット食道をサーベイランスすることを弱く推奨する」とした。

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CQ37
バレット食道に対して内視鏡治療を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さB
①粘膜内腺癌を伴うバレット食道に対して,粘膜内腺癌に限定して内視鏡治療を行うことを強く推奨する。(合意率100%[20/20])
エビデンスの強さB
②バレット食道そのものに対して発癌予防目的に内視鏡治療を行わないことを強く推奨する。(合意率80%[16/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:157 編,Cochrane:64 編,医中誌:157 編,その他より10 編が一次スクリーニングされた。二次スクリーニングを終えて,2 編のメタアナリシスと11 編のランダム化比較試験,1 編の前向き観察研究,2 編の後ろ向き観察研究に対して定性的システマティックレビューを行った。

内視鏡治療で異型のないバレット食道を消失させることができるかについては,内視鏡治療としてアルゴンプラズマ凝固術(APC)1),光線力学的治療(PDT)2),ラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation, RFA)の有用性が報告されている。PDT とAPC を比較した検討 3-5)に対するメタアナリシス 6)では,PDT はAPC と同様にバレット食道の消失または短縮に有用であるが,光線過敏などの有害事象が有意に多かったと報告されている。RFA については欧米では全周性に焼灼することができる機器が販売されており,多くの検討が行われている。RFA により高率に腸上皮化生を消失させることができ,発癌も抑制できると報告されており 7),近年報告されたメタアナリシスでも,RFA は高率に腸上皮化生を消失させることができると結論づけられている 8)

バレット食道に対して内視鏡治療を行うことにより,バレット食道癌の発生を抑制できるかについても,APC とPDT,RFA の検討が報告されている。バレット食道に発生した高度異型(high grade dysplasia, HGD)またはバレット食道癌に対して内視鏡治療を行った後に,残存しているバレット食道に対してAPC を行った群と経過観察を行った群で比較したところ,APC を行った群で無再発期間が有意に長かった 9)。ただし,この検討は症例数が少なく,より多くの症例での検討では,APC を行うとバレット食道の短縮が得られたものの,HGD の発生は抑制することができなかったとの報告もある 10)。一方でPDT 11)およびRFA 7, 12)では発癌リスクを約50%減少させることができると報告されている。とくに,軽度異型(low grade dysplasia,LGD)を伴うバレット食道に対するRFA の効果については,近年RFA を行った群と経過観察した群でHGD やバレット食道癌の発生を比べたところ,RFA を行った群では1.5%であったのに対して,経過観察群では26.5%であり,RFA により有意に発癌を抑制することができることが報告されている 13)

LGD を伴うバレット食道に対するRFA の効果を示した上記の検討結果を受け,イギリスの消化器病学会では2013 年に発表したガイドライン 14)を改訂し,LGD を伴うバレット食道に対するRFA を推奨度A に引き上げた。一方で,近年発表されたオーストラリアのガイドラインでは,この結果を紹介しているものの,依然長期成績が不明であることから,LGD に対するRFA は推奨されていない 15)

上記のようにバレット食道からバレット腺癌への進展抑制について,PDT やRFA の有用性が報告されており,偶発症の少なさや日光過敏性の有害事象や遮光の必要性を考慮すると,PDT よりRFA が良いとされている。ただし,いずれの検討もすでにdysplasia が発生した症例を対象としており,長期成績も明らかになっていない。

HGD については,十分なエビデンスはないものの,いずれのガイドラインでも治療が推奨されている。治療の方法としては,内視鏡的切除術(ER)16)やRFA 7, 12)が挙げられており,後ろ向き研究ではあるが内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の有用性も報告されている 17, 18)

HGD は,わが国の病理組織学的診断では粘膜内腺癌に相当する。粘膜内腺癌については欧米と同様にわが国でも積極的に内視鏡治療が行われているものの,LGD を伴うバレット食道や異型のないバレット食道に対しては,わが国では内視鏡治療は行われていない。欧米で用いられているRFA 機器が使用できないことも一つの要因であるが,わが国ではバレット食道癌を正確に診断して内視鏡治療を行う方針が広く浸透しており,治療後に残存したバレット食道については慎重な経過観察が行われている。こうした状況に加えて,バレット食道に対する内視鏡治療の注意点として,バレット食道を短縮させることはできても完全に消失させることができなければ発癌のリスクはなくならないこと,内視鏡治療により異型腺管を埋め込んでしまうリスクなども指摘されており 6),現時点では異型のないバレット食道そのものに対する内視鏡治療はわが国では推奨できない。さらに,LGD や異型のないバレット食道に対する内視鏡治療に関しては,長期予後や死亡率に寄与するかどうかが十分明らかになっておらず,費用対効果に関する検討も必要と思われる。

粘膜内腺癌に限定して内視鏡治療を行うことの益は,バレット食道の粘膜内腺癌を治療できることである。害は,内視鏡的治療の一般的な合併症である。患者は,粘膜内腺癌を治療できることから治療を希望すると考えられる。治療は保険診療の範囲内で実施可能である。

バレット食道そのものに対して内視鏡治療を行わないことの益は,不必要または不十分である可能性のある内視鏡治療を行わないこと,および内視鏡治療により異型腺管を埋め込んでしまうリスクを避けられることである。害は,発癌のリスクを抑制する可能性のある治療を行わないことである。異型のないバレット食道およびLGD を伴うバレット食道に対する内視鏡治療の長期予後は不明であり,現段階では患者は希望しないと考えられる。治療は保険診療では行うことができず,費用対効果も不明である。

以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望などを勘案し,推奨文は
「①粘膜内腺癌を伴うバレット食道に対して粘膜内腺癌に限定して内視鏡治療を行うことを強く推奨する
②バレット食道そのものに対して発癌予防目的に内視鏡治療を行わないことを強く推奨する」
とした。

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CQ38
バレット食道に対して発癌予防目的に薬物治療を行うことを推奨するか?

エビデンスの強さC
バレット食道に対して発癌予防目的にCOX2 阻害薬などのNSAIDs,スタチンを投与しないことを弱く推奨する。(合意率100%[20/20])

解説文

本CQ に対して文献検索を行った結果,PubMed:157 編,Cochrane:64 編,医中誌:157 編,その他より7 編が一次スクリーニングされた。二次スクリーニングを終えて,4 編のメタアナリシスと1 編のランダム化試験,1 編の症例対照研究,6 編の観察研究に対して定性的システマティックレビューを行った。

薬物療法としては,プロトンポンプ阻害薬(PPI)1-3),アスピリン 4-7),非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAIDs)1, 4, 8),スタチン 6, 8-10)についてバレット食道からバレット腺癌への進展抑制効果が報告されている。COX2 阻害薬による発癌予防効果もメタアナリシスなどで報告されている 11)

上記のように発癌予防効果が期待されている薬剤があるものの,いずれも観察研究であり,メタアナリシスも観察研究を対象にした検討であり,エビデンスは十分とは言えない。なお,近年発表された症例対照研究では,PPI,アスピリン,NSAIDs,スタチンのいずれもバレット食道からの発癌を予防することはできなかったとされており 12),さらなる検討が必要である。

PPI に関しては発癌予防目的ではないが,バレット食道に合併する逆流症状に対しては効果があり,一般的に投与されている。

現在,アスピリンとPPI の発癌予防効果について大規模なランダム化比較試験であるAspECT が行われているが,結果は2019 年まで待たなければならない。

益は,バレット食道からの発癌を予防できる可能性のあることだがエビデンスレベルは低い。害は,COX2 阻害薬を含むNSAIDs,アスピリンでは消化管粘膜障害やそれに引き続く消化管出血の可能性があることであり,いずれも保険適用外である。

以上,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者希望などを勘案し,推奨文は「バレット食道に対して発癌予防目的にCOX2 阻害薬などのNSAIDs,スタチンを投与しないことを弱く推奨する」とした。

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第XIII章 附

附 1 占居部位 Location of the lesion

1 食道の定義

食道とは食道入口部から食道胃接合部までをいう。食道入口部は輪状軟骨の下縁のレベルに一致する。食道胃接合部esophagogastric junction EGJ の判定方法は後述する(食道癌取扱い規約11 版36 頁)。

2 食道の区分

食道を頸部食道Ce,胸部食道Te,腹部食道Ae に分ける。食道には下咽頭Ph と食道胃接合部領域zone of the esophagogastric junction が隣接する。食道胃接合部領域をさらに食道側Eと胃側G に分ける(図1)。註)

頸部食道(Ce)cervical esophagus:食道入口部より胸骨上縁まで
胸部食道(Te)thoracic esophagus:胸骨上縁から食道裂孔上縁まで

胸部上部食道(Ut)upper thoracic esophagus:胸骨上縁より気管分岐部下縁まで
胸部中部食道(Mt)middle thoracic esophagus:気管分岐部下縁より食道胃接合部までを2 分した上半分
胸部下部食道(Lt)lower thoracic esophagus:気管分岐部下縁より食道胃接合部までを2 等分した下半分の中の胸腔内食道
腹部食道(Ae)abdominal esophagus:腹腔内食道(食道裂孔上縁から食道胃接合部まで)

註)食道胃接合部の上下2 cm の部位を食道胃接合部領域zone of the esophagogastric junction とする。腹部食道Ae はこれに含まれる。

(日本食道学会編:臨床・病理 食道癌取扱い規約第11 版.より引用)

図1 占居部位
図2 食道胃接合部癌の分類と記載法

附2 壁深達度 Depth of tumor invasion(T)

註1 註2 註3 註4 註5 註7 註6
 食道表在癌の壁深達度亜分類
註1)
早期癌:原発巣の壁深達度が粘膜内にとどまる食道癌を早期食道癌early carcinoma of the esophagus と呼ぶ。リンパ節転移の有無を問わない。

例:早期癌:T1aNXMX

註2)
Barrett 食道腺癌の場合

T1a-SMM 癌腫が浅層粘膜筋板にとどまる病変

T1a-LPM 癌腫が深層粘膜筋板に達しない病変

T1a-DMM 癌腫が深層粘膜筋板に浸潤する病変

註3)
表在癌:癌腫の壁深達度が粘膜下層までにとどまるものを表在癌superficial carcinoma と呼ぶ。リンパ節転移の有無を問わない。

例:表在癌:T1NXMX

註4)
従来一般的に使用されてきた深達度亜分類はほぼ以下のように対応する。

M1:T1a-EP,M2:T1a-LPM,M3:T1a-MM,SM1:T1b-SM1,SM2:T1b-SM2,SM3:T1b-SM3

註5)
内視鏡的に切除された標本では粘膜下層を3 等分した距離が不明であるため,粘膜筋板から200μm 以内の粘膜下層にとどまる病変をT1b-SM1 とし,粘膜筋板から200μm を越える粘膜下層に浸潤する病変をT1b-SM2 とする。
註6)
心膜,大動脈,大静脈,気管,肺,横隔膜,胸管,反回神経,奇静脈など癌腫が浸潤した臓器を明記する。

例:T4a(肺)

註7)
リンパ節転移巣が食道以外の臓器に浸潤した場合はT4 扱いとし,「T4(転移リンパ節番号—浸潤臓器)」の順に記載する。

例:T4b(No. 112aoA-大動脈)

(日本食道学会編:臨床・病理 食道癌取扱い規約第11 版.より引用,一部改変)

附3 所属リンパ節名 Naming of regional lymph nodes

 リンパ節の番号と名称
 所属リンパ節番号station numbers of regional lymph nodes

附4 占居部位別リンパ節群分類

 占居部位別リンパ節群

(日本食道学会編:臨床・病理 食道癌取扱い規約第11 版.より引用)

附5 TNM 分類(1997年:第5 版)

附6 TNM 分類(2002年:第6 版)

附7 TNM 分類(2009年:第7 版)

附8 リンパ節郭清術 Lymph node dissection

3 領域:
頸,胸,腹の3 カ所の到達経路から各部のリンパ節郭清を行う。註)
2 領域:
胸,腹の2 カ所の到達経路から各部のリンパ節郭清を行う。
頸,腹の2 カ所の到達経路から各部のリンパ節郭清を行う。
頸,胸の2 カ所の到達経路から各部のリンパ節郭清を行う。
1 領域:
頸,胸,腹のいずれか1 カ所の到達経路からその部のリンパ節郭清を行う。

註)頸部リンパ節郭清はNo. 101,No. 104 を含む両側を郭清する。

(日本食道学会編:臨床・病理 食道癌取扱い規約第11 版.より引用)

附9 食道癌の生存曲線

1 内視鏡治療

2 手術切除例

3 臨床病期別