本ガイドラインの概要

『GIST 診療ガイドライン』の初版が2008 年の3 月に刊行され,その後改訂を重ね,2014 年の4 月に第3 版が刊行された。3~5 年を目途に改訂する方針を踏まえ,また新たな知見が報告されたことから,改訂作業を行うこととなったが,前版までとは異なり,『Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014』の形式に則って,改訂することとした。それに伴い,診療ガイドライン改訂ワーキンググループとは独立したシステマティックレビューチーム(SR チーム)を組織し,2 回の文献スクリーニングを経て,エビデンスの評価・統合を行い,それぞれのClinical Question(CQ)に対するシステマティックレビューレポートを作成した。これを踏まえて診療ガイドライン改訂ワーキンググループでCQ に対する推奨の強さを決定し,推奨文・解説文を作成した。また,CQ は,実臨床においての具体的な判断を行うポイントを明確にし,アルゴリズムに沿って抽出した。

ガイドライン作成においては,エビデンスを重視しつつも,消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor;GIST)が稀少腫瘍であるために十分なエビデンスの得られないCQ もあることから,益と害のバランスに加えて,GIST 診療の専門家の間でコンセンサスが得られている事象,患者の希望・医療経済的観点などを総合的に考慮して,エビデンスの強さによらず,強い推奨をつけた箇所もあった。推奨の強さに関しては委員が投票を行って決定しており,その合意率を掲載した。

1.本ガイドラインの目的

本ガイドラインの主な目的は,稀少腫瘍であるがゆえに一般臨床医が十分に経験することの困難なGIST において,その診療方針を分かりやすく示すことで,適切な医療の実践を通して患者の予後を改善することである。本ガイドラインの記載は,海外とは医療状況が異なる部分があることから,できるだけ本邦の臨床現場に即した内容となるよう心掛け,また,稀少腫瘍特有のエビデンスの少ない状況を鑑みて,システマティックレビューのエビデンスだけでなく,専門家の間でコンセンサスが得られている事象を適宜加味している。さらにGIST 診療に携わる医師以外の医療従事者や患者,その家族が診療概要を理解する一助となる情報を提供することも目指している。

2.本ガイドラインが対象とする利用者

本ガイドラインが対象とする主な利用者は,GIST の診療にかかわる非専門家の一般臨床医である。医師以外の医療従事者・患者・家族にも参考になる参考情報を提供する。

3.本ガイドラインが対象とする患者

本ガイドラインでは,あらゆる年齢層の様々な病態により発生するGIST を対象とする。成人発症例が多いことから,本文中の記載は主として成人GIST を念頭に置いているが,若年者・小児の症例は成人GIST と病態が異なる部分が多いため,記載内容をよく確認して対応することが望まれる。

4.利用上の注意

日本と海外とでは医療状況が異なる部分があり,本ガイドラインは日本での保険診療の範囲内で標準的な診療を行うための指針であることに留意が必要である。

本ガイドラインは,診療方針や治療法を規制したり,医師の裁量権を制限したりするものではなく,患者の状態や希望,施設の状況等によっては本ガイドラインの記載とは別の選択が行われることがありうる。また,本ガイドラインは医療訴訟等の参考資料となることを想定しておらず,治療結果に対する責任の所在は直接の治療担当医にあり,本ガイドライン作成に携わった学会および個人にはない。

5.診療ガイドライン改訂方法

1 改訂基本方針

『Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014』に則って,第3 版の内容を踏襲しながら,新たなエビデンスの得られた部分を中心に改訂した。海外の状況とのバランスを考え,NCCN ガイドラインおよびESMO ガイドラインも適宜参考としたが,本邦の実情に即した記載を重視した。個別の作業については,本ガイドライン改訂作業中に公開された『Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2017』も併せて参考とした。

2 スコープ作成

ガイドラインの作成にあたっての方向性を示すためにスコープの草案を作成し,2017 年10 月4 日および2017 年12 月3 日に開催された改訂ワーキンググループ会議で議論を行い,承認を得た。その中で,今回のガイドライン改訂における重要な課題として以下のものが挙げられた。

(1)『 Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014』の形式に則って,第 3 版の内容を踏襲しながら,新たなエビデンスの得られた部分を改変する。

(2) 診療ガイドライン改訂ワーキンググループとは独立したSR チームを組織し,エビデンスの選択・評価・統合を行い,それぞれのCQ に対するシステマティックレビューレポートを作成する。

(3)各CQ・BQ のアルゴリズム対応箇所を明示したうえで,前版のアルゴリズムを改変する。

3 CQ・BQ 作成

前版で掲載されたCQ を再検討するとともに,新たなCQ を加えることとした。既に一般的な知識となっている臨床上の課題についてはBackground Question(BQ)とした。重要臨床課題からCQ・BQ は無限に発生しうるが,アルゴリズムとCQ・BQ の連動性を鑑み,CQ・BQ の増えすぎに留意しながら適宜CQ・BQ をまとめ,改訂ワーキンググループでの議論を通して決定した。全てのCQ・BQ は,極力,推奨が明瞭な回答となるようClosed Question 形式を心がけた。

CQ・BQ設定の際はアルゴリズムや参考図表内での位置付けがわかりやすいように配慮した。

4 文献検索と採択基準

文献検索は日本医学図書館協会に依頼した。作成されたCQ からキーワードを抽出し,原則として前版から継続して設定されたCQ は2013 年7 月1 日~2018 年1 月31 日まで,第4 版で新設されたCQ は全年代を対象に,PubMed とCochrane Library を検索した。

文献検索では収集しきれなかった論文・前版引用文献の一部については,改訂ワーキンググループ委員・SR チーム委員によるハンドサーチにより適宜追加した。

本ガイドラインが対象とする領域では,質の高いエビデンスの集積が不十分であることが予想されたため,研究デザインの限定をせず,観察研究も積極的に採用した。ただし,症例集積・症例報告のうち,10 例以下の研究,英語または日本語以外の文献,遺伝子研究や動物実験は除外することとした。専門家のレビューや他国のガイドライン等は参考資料とし,システマティックレビューのエビデンスとしては用いなかった。

5 システマティックレビュー

改訂ワーキンググループで,各CQ における「益」と「害」のアウトカムを抽出して,その重要度を点数化し,システマティックレビューで評価するアウトカムを選択した。

その後のシステマティックレビューは,改訂ワーキンググループとは別組織のSR チームの委員が担当した。文献検索およびハンドサーチによって得られた論文を対象に2 回のスクリーニングを行い,採択された個別研究について,バイアスリスク・非直接性を評価した。個別研究のエビデンス評価結果に基づき,アウトカムごと,研究デザインごとにエビデンスを統合して「エビデンス総体」として評価,定性的システマティックレビュー,メタアナリシスを行って,システマティックレビューレポートを作成した。

6 推奨草案作成

システマティックレビューの結果に基づき,改訂ワーキンググループ委員がCQ に対するアウトカム全般に関する全体的なエビデンスの強さ(確実性)(表1),望ましい効果(益)と望ましくない効果(害)のバランス,患者の価値観や希望,コスト等を総合的に考慮して,推奨草案を作成した。

表1 アウトカム全般のエビデンスの強さ(確実性)

7 推奨決定

改訂ワーキンググループ委員が作成した推奨草案を元に,推奨決定会議を開催した。合意形成方法はGRADE Grid によるWeb 投票とし,特定項目への80%以上の得票集中をもって合意形成がなされたものとして,推奨の強さを決定した。1 回目の投票で80%以上の合意水準に達しなかった場合は,協議を行って2 回目の投票を行った。2 回目の投票でも合意形成に至らなかった場合は「推奨の強さは決定できない(Not Graded)」とし,その経過や結果の要約を解説に記載することとした。

推奨文は推奨の向き(2 方向)と推奨の強さ(2 段階)の組み合わせで記載し,推奨の強さ,合意率,エビデンスの強さ(確実性)を併記した。(表2表3

なお,一部のBQ については特定の診療行為を推奨する内容ではないことから,改訂ワーキンググループ委員による内容承認のみ行った。

表2 推奨文の記載

表3 推奨の強さとエビデンスの強さの種類

6.外部評価

1 GIST 診療ガイドライン評価ワーキンググループによる評価

改訂ワーキンググループは,GIST 診療ガイドライン評価ワーキンググループによる評価を受け,各コメントに対するガイドライン草案変更の必要性を討議して,対応を決定した。

2 日本癌治療学会会員向けパブリックコメント

日本癌治療学会ホームページにおいて,日本癌治療学会会員向けにパブリックコメントを募集し,改訂ワーキンググループは得られた各コメントに対してガイドライン草案変更の必要性を討議して対応を決定し,各種の意見を取り入れた。

3 日本癌治療学会がん診療ガイドライン評価委員会によるAGREEⅡ評価

日本癌治療学会がん診療ガイドライン評価委員会からのコメントに対してガイドライン改訂グループで討議し,その対応について決定した。

7.本ガイドラインの普及と改訂

本ガイドラインの刊行後,引き続き改訂ワーキンググループでの活動を継続し,内容の検討・広報・普及活動などを行う。本ガイドラインWeb 版は書籍版刊行後,半年を目処に公開する。また,日本癌治療学会機関誌「International Journal of Clinical Oncology(IJCO)」への英訳版の投稿を行う。次回全面改訂は3~5 年を目処として行う。ただし,日常診療に重大な影響を及ぼす新知見が報告された場合には,早期の改訂を行うこともある。

8.利益相反(COI)

1 利益相反申告

本ガイドライン改訂ワーキンググループおよびSR チームの委員は,日本癌治療学会の定款施行細則第4 号(学会の事業・活動における利益相反に関する指針運用規則)に則り,利益相反の自己申告を行い,利益相反委員会が利益相反の状況を確認した。利益相反の状況については年度ごとに,日本癌治療学会が運営するweb サイト「がん診療ガイドライン」上で公開する。
⇒「GIST 診療ガイドライン」の利益相反状況の開示について

2 利益相反申告に基づく推奨決定会議における制限

本ガイドライン改訂ワーキンググループの委員が推奨作成の根拠となる論文の著者である場合(学術的COI),関連する薬剤や医療機器製造・販売に関与する企業または競合企業に関するCOI を有する場合(経済的COI)には,委員の自己申告により,推奨決定会議における投票を棄権した。

3 本ガイドラインの独立性

本ガイドライン改訂・出版に関する費用は全て日本癌治療学会が支出し,特定企業からの資金提供は受けていない。また,全てのCQ・BQ における推奨決定に日本癌治療学会は直接関与していない。

【参考文献】

1)
小島原典子,中山健夫,森實敏夫,他 編.Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2017.公益財団法人日本医療機能評価機構.https://minds.jcqhc.or.jp/s/guidance_2017_0_h
2)
福井次矢,山口直人 監修,森實敏夫,吉田雅博,小島原典子 編.Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014.医学書院,東京,2014.