診療ガイドライン

画像診断領域

1 総論

1 粘膜下腫瘍の診断に有用な画像検査

(1)腫瘍径2 cm 未満の病変

検診やスクリーニングのX 線造影検査や内視鏡検査で粘膜下腫瘍(submucosal tumor;SMT)が疑われた場合,内視鏡による生検が必須となる。また,腫瘍径が治療方針決定の目安となるため計測を行う。腫瘍径2 cm 未満のSMT で半球状,平滑な輪郭を呈し,潰瘍や陥凹を伴わない場合,年1~2 回のフォローアップを行う。

(2)腫瘍径2 cm 以上の病変

腫瘍径2 cm 以上,5 cm 未満,不整な辺縁,潰瘍や陥凹形成,増大傾向を示す場合はCT,EUS,EUS‒FNA による精査を行う。腫瘍径5.1 cm 以上の病変,有症状例,生検でGIST と診断された病変については手術を前提とした病期診断を行う。CT はスライス厚/スライス間隔は5 mm 以下の連続スライスを標準とするが,2 mm スライス厚以下の3 次元データを取得するのが望ましい。病期診断(腹腔内播種や腹水をみる)のためには上腹部から骨盤までを含んだ範囲の経口・静脈性の造影CT が必要となる。1 回の撮像であれば門脈相の撮影を推奨するが,肝転移のより正確な評価のために造影前と動脈相・門脈相・遅延相を撮影する多相撮像が推奨される。消化管の伸展を良好にし,より観察しやすくする目的で水や発泡剤に経口造影剤を適宜併用する。アレルギーなどで造影CT が行えない場合や造影CT でも判断に困る場合は,MRI の撮影を行う。拡散強調画像は,腹腔内播種病変の検出に期待される。以上の画像検査で診断困難な場合,FDG‒PET/CT を行う。FDG‒PET/CT は腹膜播種病変や予期せぬ遠隔転移の診断に有用性が高い。

2 薬物療法の効果判定に有用な画像診断

(1)消化管造影・内視鏡検査・超音波検査

消化管造影や内視鏡検査では,腫瘍の大きさや形状の変化はわかるが,内部の変化については判定ができない。超音波検査は被ばくがなく簡便に繰り返すことができるため,大きさの変化に基づく薬効判定を行うことは可能であるが,定量化の方法は確立されていない。

(2)造影CT・MRI

NCCN の診療ガイドラインやESMO のコンセンサスレポートで,造影CT を用いて病変の大きさの変化を計測することが推奨されている1,2)。GIST 薬効判定は大きさの変化はなくても腫瘍血流低下・嚢胞化して治療効果が得られている場合が少なくないため,CT 値を測定し定量的に変化を見る。10%以上の腫瘍径の縮小,または15%以上のCT 値の減少があればPR とみなしてよいとされている3)表1)。GISTのCT所見は薬物療法開始後,1~2カ月で急激に変化する。また,再燃があると急激に腫瘍の増大がみられることがある。検査間隔は,薬物療法開始後は1~2 カ月毎,その後は画像所見の変化や症状がない限り3~6 カ月毎,画像上再発を疑う所見がみられた時は1~2 カ月毎に短縮する設定が有効と考えられる。MRI で着目した病変の大きさ・内部構造の変化・血流の多寡を経過観察することは可能であるが,薬効判定においてMRI がCT に優る有用性は被ばくがない点以外は明らかではない。

表1 CT による治療効果判定の修正基準3)

(3)FDG‒PET/CT

FDG‒PET/CT は薬物療法により生じた代謝・血流の変化を鋭敏に反映し得ることが知られている。これは糖代謝の低下が治療開始後早期から起こり,形態学的に腫瘍が縮小するタイミングよりも先行するためである。GIST のFDG‒PET/CT 所見は薬物療法開始後,1~2 カ月で急激に変化する。薬効判定を実施するためのFDG‒PET/CT の検査間隔については,フレア現象(薬物療法開始後,奏効しているにも関わらず免疫細胞などの活動性の亢進のためにFDG の集積が増加する現象)を考慮し,少なくとも10 日以上間隔を空けることが推奨されている1)。FDG‒PET/CT が腫瘍縮小をより早期に予測できるという点で薬物療法をモニターするための有益なツールになる。しかし,本邦ではGIST の薬効判定に対しFDG‒PET/CT の保険適用がまだ認められていない。

参考文献

1)
Demetri GD, von Mehren M, Antonescu CR, et al. NCCN Task Force report:update on the management of patients with gastrointestinal stromal tumors. J Natl Compr Canc Netw. 2010;8 Suppl 2:S1‒41.
2)
Blay JY, Bonvalot S, Casali P, et al;GIST consensus meeting panelists. Consensus meeting for the management of gastrointestinal stromal tumors. Report of the GIST Consensus Conference of 20‒21 March 2004, under the auspices of ESMO. Ann Oncol. 2005;16:566‒78.
3)
Choi H, Charnsangavej C, Faria SC, et al. Correlation of computed tomography and positron emission tomography in patients with metastatic gastrointestinal stromal tumor treated at a single institution with imatinib mesylate:proposal of new computed tomography response criteria. J Clin Oncol. 2007; 25:1753‒9.

2 CQ

画像
1(BQ)
GISTが疑われる患者の確定診断に EUS‒FNA は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さB(中)
GIST が疑われる患者の確定診断にEUS‒FNA を行うことを弱く推奨する
合意率:100%(17/17 名)

解説

GIST の確定診断には組織診断が必須であるため,組織を採取する方法として生検鉗子,EUS‒FNA,粘膜の切開生検やボーリングバイオプシーがある。粘膜が欠損し腫瘍が露出した場合は通常の生検鉗子で組織採取が可能であるが,腫瘍が露出していない場合はEUS‒FNA や切開が必要となる。EUS‒FNA では合併症がほとんど無く診断に十分な生検検体が得られるため,免疫組織化学染色と組み合わせてGIST の診断がほぼ確実に施行可能である。しかし,GIST が疑われる患者の確定診断にEUS‒FNA がどのくらいの有用性があるかは不明である。

定性的システマティックレビューを行った結果,診断の指標も研究により異なったが,すべての研究で報告されている正診率に関しては,コホート研究および症例対照研究でそれぞれ,62.5~97%,61.6~100%であった1‒17)

以上よりGIST の確定診断にEUS‒FNA は有用と考えられるが,他の確定診断の方法との有効性および安全性に関する検討が十分されておらず,対象および術者,施設などのバイアスは排除されない。また,EUS‒FNA は一般内視鏡検査のように簡単に行える検査ではなく,保険適用があるとはいえEUS‒FNA で用いるコンベックス型の超音波内視鏡を配備した施設は本邦では多くない。これらを踏まえ,EUS‒FNA は確定診断が得られることから選択肢の一つとして提案すべき検査であるが,臨床的有用性を含めて総合的な判断により選択すべきと考えられる。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 86 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 20 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計106 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された12 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Sepe PS, Brugge WR. A guide for the diagnosis and management of gastrointestinal stromal cell tumors. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2009;6:363‒71.
2)
Scarpa M, Bertin M, Ruffolo C, et al. A systematic review on the clinical diagnosis of gastrointestinal stromal tumors. J Surg Oncol. 2008;98:384‒92.
3)
Hedenström P, Nilsson B, Demir A, et al. Characterizing gastrointestinal stromal tumors and evaluating neoadjuvant imatinib by sequencing of endoscopic ultrasound‒biopsies. World J Gastroenterol. 2017; 23:5925‒35.
4)
Hedenström P, Marschall HU, Nilsson B, et al. High clinical impact and diagnostic accuracy of EUS‒guided biopsy sampling of subepithelial lesions:a prospective, comparative study. Surg Endosc. 2018; 32:1304‒13.
5)
Philipper M, Hollerbach S, Gabbert HE, et al. Prospective comparison of endoscopic ultrasound‒guided fine‒needle aspiration and surgical histology in upper gastrointestinal submucosal tumors. Endoscopy. 2010;42:300‒5.
6)
Akahoshi K, Sumida Y, Matsui N, et al. Preoperative diagnosis of gastrointestinal stromal tumor by endoscopic ultrasound‒guided fine needle aspiration. World J Gastroenterol. 2007;13:2077‒82.
7)
Okasha HH, Naguib M, El Nady M, et al. Role of endoscopic ultrasound and endoscopic‒ultrasound‒guided fine‒needle aspiration in endoscopic biopsy negative gastrointestinal lesions. Endosc Ultrasound. 2017;6:156‒61.
8)
Bean SM, Baker A, Eloubeidi M, et al. Endoscopic ultrasound‒guided fine‒needle aspiration of intrathoracic and intra‒abdominal spindle cell and mesenchymal lesions. Cancer Cytopathol. 2011;119:37‒48.
9)
Sepe PS, Moparty B, Pitman MB, et al. EUS‒guided FNA for the diagnosis of GI stromal cell tumors: sensitivity and cytologic yield. Gastrointest Endosc. 2009;70:254‒61.
10)
Hoda KM, Rodriguez SA, Faigel DO. EUS‒guided sampling of suspected GI stromal tumors. Gastrointest Endosc. 2009;69:1218‒23.
11)
Chatzipantelis P, Salla C, Karoumpalis I, et al. Endoscopic ultrasound‒guided fine needle aspiration biopsy in the diagnosis of gastrointestinal stromal tumors of the stomach. A study of 17 cases. J Gastrointestin Liver Dis. 2008;17:15‒20.
12)
Okubo K, Yamao K, Nakamura T, et al. Endoscopic ultrasound‒guided fine‒needle aspiration biopsy for the diagnosis of gastrointestinal stromal tumors in the stomach. J Gastroenterol. 2004;39:747‒53.
13)
Vander Noot MR 3rd, Eloubeidi MA, Chen VK, et al. Diagnosis of gastrointestinal tract lesions by endoscopic ultrasound‒guided fine‒needle aspiration biopsy. Cancer. 2004;102:157‒63.
14)
Ando N, Goto H, Niwa Y, et al. The diagnosis of GI stromal tumors with EUS‒guided fine needle aspiration with immunohistochemical analysis. Gastrointest Endosc. 2002;55:37‒43.
15)
Gu M, Ghafari S, Nguyen PT, et al. Cytologic diagnosis of gastrointestinal stromal tumors of the stomach by endoscopic ultrasound‒guided fine‒needle aspiration biopsy:cytomorphologic and immunohistochemical study of 12 cases. Diagn Cytopathol. 2001;25:343‒50.
16)
Hedenstrom P, Nilsson B, Andersson C, et al. A personalized treatment of gastrointestinal stromal tumors is enabled by analyzing endoscopic ultrasound‒guided biopsies:a prospective, ten‒year cohort study. United European Gastroenterology Journal. Conference:24th United European Gastroenterology Week, UEG 2016. Austria. 2016;4(5 Supplement 1):A 599.
17)
Hedenström P, Marschall HU, Nilsson B, et al. High clinical impact and diagnostic accuracy of EUS‒guided biopsy sampling of subepithelial lesions:a prospective, comparative study. Surg Endosc. 2017; 32:1304‒13.

画像
2(BQ)
GIST患者の病期診断や再発診断に CT,MRIは有用か

推奨の強さ1(強い)
エビデンスの強さB(中)
GIST 患者の病期診断や再発診断にCT,MRI を行うことを強く推奨する
合意率:82.4%(14/17 名)

解説

GIST の病期診断,再発診断は通常CT,とくに体幹部造影CT が行われる。ヨード造影剤が禁忌の症例あるいはCT で判断が困難な場合にはMRI も行われる。CT,MRI を行う有用性について,画像検査を行わない場合と比較した報告はなく,本BQ に対する直接的なエビデンスはないが,臨床上,CT,MRI は病期診断,再発診断を必要とするGIST 患者にルーチンで使用されており,これを代替する手法も確立されていないことから,スタンダードとしての位置づけとなっている。よって,GIST 患者において病期診断や再発診断が必要な場合に使用するモダリティとしてCT,MRI を強く推奨する。

ただし,個々の症例における病期診断,あるいは再発診断の必要性については別の議論を要し,本BQ では網羅していないことには注意を要する。CT は少ないながらも放射線被ばくや造影剤投与に関するリスクを伴い,医療経済的観点の上でも,過度な検査は避けるべきである。リスク・ベネフィットに応じて検査適応を決めるべきであることは言うまでもない。早期再発診断を目的とした無症状者に対する術後定期フォローについては,十分な科学的根拠をもった術後サーベイランスの基準・方法は確立されておらず,生存率への寄与を示す報告もない。今後の検討が待たれる。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 196 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 11 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献7 編を追加して,計191 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された7 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した1‒7)

参考文献

1)
Joensuu H, Reichardt P, Eriksson M, et al. Gastrointestinal stromal tumor:a method for optimizing the timing of CT scans in the follow‒up of cancer patients. Radiology. 2014;271:96‒103.
2)
Cai PQ, Lv XF, Tian L, et al. CT Characterization of Duodenal Gastrointestinal Stromal Tumors. AJR Am J Roentgenol. 2015;204:988‒93.
3)
Plumb AA, Kochhar R, Leahy M, et al. Patterns of recurrence of gastrointestinal stromal tumour(GIST)following complete resection:implications for follow‒up. Clin Radiol. 2013;68:770‒5.
4)
Ghanem N, Altehoefer C, Furtwängler A, et al. Computed tomography in gastrointestinal stromal tumors. Eur Radiol. 2003;13:1669‒78.
5)
Samiian L, Weaver M, Velanovich V. Evaluation of gastrointestinal stromal tumors for recurrence rates and patterns of long‒term follow‒up. Am Surg. 2004;70:187‒91.
6)
Yu MH, Lee JM, Baek JH, et al. MRI features of gastrointestinal stromal tumors. AJR Am J Roentgenol. 2014;203:980‒91.
7)
Tateishi U, Hasegawa T, Satake M, et al. Gastrointestinal stromal tumor. Correlation of computed tomography findings with tumor grade and mortality. J Comput Assist Tomogr. 2003;27:792‒8.

画像
3(BQ)
GIST 患者の病期診断や再発診断に FDG‒PET/CT は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さC(弱)
GIST 患者の病期診断や再発診断にFDG‒PET/CT を行うことを弱く推奨する
合意率:94.1%(16/17 名)

解説

病期診断,再発診断におけるFDG‒PET/CT の有用性については,予後改善効果について検証した文献はないが,病変検出の診断成績についてCT 等の従来法と対比して検証した報告がある。Gayed らは,54 例,122 病変のGIST の検証にて,病期診断における診断成績は,CT は感度93%,特異度100%,FDG‒PET は感度86%,特異度98%であり,両者に統計学的有意差はなかったと報告している1)。偽陰性を生じた病変の傾向がCT とFDG‒PET で異なり,FDG‒PET では肝・肺・腹膜の小病変が,CT では骨(扁平骨)の病変が偽陰性になったとしている。また本邦の多施設共同研究で41 例のGIST をまとめたKaneta らの報告では,病期診断目的に撮像された8 例のうち1 例にFDG‒PET で新たに腹膜播種が,また再発診断33 例のうち2 例に新たに転移(肝,骨,腸)が見つかったとしている2)。病期診断では2 例偽陰性(胃・小腸病変),再発診断では2 例偽陰性(小さな肝転移),1 例偽陽性(食道)が報告されている。

FDG‒PET/CT は空間分解能の限界で小さな転移巣がしばしば偽陰性となる傾向があるものの,CT と比較して病期診断・再発診断における転移巣の診断能に有意差は示されておらず,病期診断・再発診断に使用することは可能であると考えられる。日常臨床においても,CT,MRI で判断に迷う場合などにFDG‒PET/CT を施行している施設もある。さらにGIST におけるFDG 集積が悪性度や予後と関係したとする報告があり,FDG‒PET/CT を行うことで腫瘍の質的な追加情報を得られる可能性もある。しかしながら,GIST の病期診断・再発診断にFDG‒PET/CT を行う有用性を示すエビデンスは不十分であり,また,造影CT との併用が必要なのか,FDG‒PET のみに置換してもよいのかについても明確な答えはない。FDG‒PET/CT は被ばく,コスト,可用性,保険の査定条件が都道府県によって異なるなどの問題があり,益と害のバランスを総合的に見ればやや益が勝るものの,エビデンスとして強いものはない。以上より,GIST の病期診断・再発診断に行うことを弱く推奨する,とした。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 113 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 3 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献1 編を追加して,計117 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された7 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した1‒7)

参考文献

1)
Gayed I, Vu T, Iyer R, et al. The role of 18 F‒FDG PET in staging and early prediction of response to therapy of recurrent gastrointestinal stromal tumors. J Nucl Med. 2004;45:17‒21.
2)
Kaneta T, Takahashi S, Fukuda H, et al. Clinical significance of performing 18 F‒FDG PET on patients with gastrointestinal stromal tumors:a summary of a Japanese multicenter study. Ann Nucl Med. 2009;23:459‒64.
3)
Kim SJ, Lee SW. Performance of F‒18 FDG PET/CT for predicting malignant potential of gastrointestinal stromal tumors:A systematic review and meta‒analysis. J Gastroenterol Hepatol. 2018;33:576‒82.
4)
Goerres GW, Stupp R, Barghouth G, et al. The value of PET, CT and in‒line PET/CT in patients with gastrointestinal stromal tumours:long‒term outcome of treatment with imatinib mesylate. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2005;32:153‒62.
5)
Winant AJ, Gollub MJ, Shia J, et al. Imaging and clinicopathologic features of esophageal gastrointestinal stromal tumors. AJR Am J Roentgenol. 2014;203:306‒14.
6)
Schmidt S, Dunet V, Koehli M, et al. Diffusion‒weighted magnetic resonance imaging in metastatic gastrointestinal stromal tumor(GIST):a pilot study on the assessment of treatment response in comparison with 18 F‒FDG PET/CT. Acta Radiol. 2013;54:837‒42.
7)
Koch MR, Jagannathan JP, Shinagare AB, et al. Imaging features of primary anorectal gastrointestinal stromal tumors with clinical and pathologic correlation. Cancer Imaging. 2013;12:557‒65.

画像
4(CQ)
GIST に対する薬物療法の治療効果判定にFDG‒PET/CT の追加は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さC(弱)
GIST に対する薬物療法の治療効果判定にFDG‒PET/CT を追加することを弱く推奨する
合意率:100%(17/17 名)

解説

FDG‒PET は腫瘍の代謝変化を捉えることが可能である。海外ではFDG‒PET/CT を用いた薬物治療の効果判定を行う際の基準がEORTC によって定義され,ベースラインと比較したSUV 値の変化に基づく1)。また,Positron Emission Tomography Response Criteria In Solid Tumors 1.0(PERCIST 1.0)というRECIST に準拠した判定基準も存在する2)。薬物療法の回数やFDG‒PET/CT の検査間隔はプロトコールによって異なるが,フレア現象(薬物療法開始後,奏効しているにも関わらず免疫細胞などの活動性の亢進のためにFDG の集積が増加する現象)を考慮し3),薬物療法開始後の検査は少なくとも10 日以上間隔を空けることが推奨されている2)。しかし,FDG‒PET/CT は2010 年4 月にGIST の病期診断,転移または再発診断に対する保険適用が認められたものの,薬物療法の効果判定に対してはまだ認可されていない。

GIST の薬物療法における効果判定のためにFDG‒PET/CT を通常の検査であるCT に追加することは有効かどうか,検討をした比較研究は少ない。したがって,本邦においてはGIST の薬物療法における効果判定を目的として,CT を使用したフォローアップが一般に行われているが,患者の予後向上,QOL の向上に繋がる十分な根拠はない。

システマティックレビューの結果,薬物療法における効果判定のためにCT のみで評価した場合とFDG‒PET を追加した場合の効果指標を診断オッズ比として算出したところ,統合値は5.657(95%CI:2.634‒12.15, p<0.001)となり,FDG‒PET/CT を追加した場合,有意に診断オッズ比が高く,GIST の薬物療法における効果判定に有用であることが判明した4‒8)。唯一,18 例の症例集積研究で使用されたFDG‒PET/CT はcoincidence PET であり,現在,一般臨床ではあまり使用されていないものであったが,イマチニブ400 mg/日または800 mg/日を投与されたGIST 患者全例を対象に治療成功期間(time to treatment failure;TTF)をエンドポイントとして評価した報告があった。すべての報告において共通している点はCT でのサイズ変化よりもPET での代謝の変化を評価することで,より的確な治療効果や予後を予測することが可能であったということである。ただし,CT もFDG‒PET/CT も少ないながら放射線被ばくを伴う検査であるため,GIST の全症例における効果判定に両者を毎回施行することはできない。このリスク・ベネフィットを検討した報告は検索した文献には見当たらず,今後の課題であることは言うまでもない。

FDG‒PET は2010 年4 月にGIST の病期診断,転移・再発診断に対する保険適用が認められたものの,薬物療法効果判定に対してはまだ認可されていない状況である。本定性的システマティックレビューによりFDG‒PET/CT を追加した方がより正確に効果判定が実施できることは明白であり,また既に海外では使用されている検査であるため,将来の保険適用を十分に期待し,本CQ に対し推奨をあえて記載するものである。

以上のような背景を踏まえ,本邦ではGIST の薬物療法における効果判定のためにCT を用いるが,FDG‒PET/CT を追加した方がより正確に判定できるため,特に腹膜播種のリスクが高い症例においては施行することが望ましいと考えられる4‒8)

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 183 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 30 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献1 編を追加して,計214 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された5 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューおよびメタアナリシスを実施した1‒5)

参考文献

1)
Young H, Baum R, Cremerius U, et al. Measurement of clinical and subclinical tumor response using[18F]‒fluorodeoxyglucose and positron emission tomography:review and 1999 EORTC recommendations. European Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)PET Study Group. Eur J Cancer. 1999;35:1173‒82.
2)
Wahl RL, Jacene H, Kasamon Y, et al. From RECIST to PERCIST:Evolving Considerations for PET response criteria in solid tumors. J Nucl Med. 2009;50 Suppl 1:122S‒50S.
3)
Demetri GD, von Mehren M, Antonescu CR, et al. NCCN Task Force report:update on the management of patients with gastrointestinal stromal tumors. J Natl Compr Canc Netw. 2010;8 Suppl 2:S1‒41.
4)
Chacón M, Eleta M, Espindola AR, et al. Assessment of early response to imatinib 800 mg after 400 mg progression by 18F‒fluorodeoxyglucose PET in patients with metastatic gastrointestinal stromal tumors. Future Oncol. 2015;11:953‒64.
5)
Choi H, Charnsangavej C, Faria SC, et al. Correlation of computed tomography and positron emission tomography in patients with metastatic gastrointestinal stromal tumor treated at a single institution with imatinib mesylate:proposal of new computed tomography response criteria. J Clin Oncol. 2007; 25:1753‒9.
6)
Goldstein D, Tan BS, Rossleigh M, et al. Gastrointestinal stromal tumours:correlation of F‒FDG gamma camera‒based coincidence positron emission tomography with CT for the assessment of treatment response‒‒an AGITG study. Oncology. 2005;69:326‒32.
7)
Stroobants S, Goeminne J, Seegers M, et al. 18FDG‒Positron emission tomography for the early prediction of response in advanced soft tissue sarcoma treated with imatinib mesylate(Glivec). Eur J Cancer. 2003;39:2012‒20.
8)
Yokoyama K, Tsuchiya J, Nakamoto Y, et al. Additional value of [18F]FDG PET or PET/CT for response assessment of patients with gastrointestinal stromal tumor undergoing molecular targeted therapy:A meta‒analysis. Diagnostics(Basel). 2021;11:475.

病理診断領域

1 総論

1 GIST の病理診断

(1)組織像と免疫染色

GIST は組織学的に紡錘形細胞あるいは類上皮細胞からなる1‒3)。紡錘形細胞型では腫瘍細胞が束状あるいは渦巻き状に配列し,小腸発生例ではしばしばskeinoid fiber と呼ばれる好酸性物質の沈着を伴う。類上皮細胞型では円形核を有する上皮様細胞が一様にシート状に増殖し,しばしば粘液腫状基質を伴う。いずれの細胞型においても,種々の程度に出血,壊死を伴うことがある。

免疫染色では95%の症例でKIT が陽性で,60~80%にCD34 が陽性である1‒3)。平滑筋アクチン,S‒100 蛋白の陽性率はそれぞれ20~40%, 5%程度である。GIST の約5%が免疫染色でKIT 陰性であるが,その多くが胃に発生し,類上皮細胞形態を示し,PDGFRA 遺伝子変異を有する。DOG1 は,KIT 陽性・陰性に関わらず,ほとんど(95%以上)のGIST で陽性になり,診断的価値が高い。

(2)鑑別診断

GIST と鑑別すべき腫瘍のうち,主に紡錘形細胞から成る腫瘍としては,平滑筋腫,平滑筋肉腫,神経鞘腫,デスモイド,炎症性筋線維芽細胞腫瘍(inflammatory myofibroblastic tumor;IMT),孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor;SFT)などがある。類上皮細胞からなる腫瘍としては,低分化癌,カルチノイド(神経内分泌腫瘍),悪性黒色腫,グロームス腫瘍,PEComa などがある1)

2 GIST の再発リスク分類

(1)分類方法

転移のみられないGIST の場合には,良性または悪性と診断するのではなく,腫瘍径と核分裂像数を組み合わせた再発リスク分類が行われ,超低リスク(very low risk)・低リスク(low risk)・中リスク(intermediate またはmoderate risk)・高リスク(high risk)に分類される。早くからいわゆるFletcher/NIH 分類(表1)が用いられてきた2)。GIST は腫瘍発生部位により予後が異なることが示唆されており,腫瘍径・核分裂像数とともに発生部位を考慮に入れた,いわゆるMiettinen/AFIP 分類も再発リスクを推定する基準として用いられている(表23)。さらに局所再発・腹膜播種の強い危険因子である腫瘍破裂を加えたmodified Fletcher/Joensuu 分類が,再発高リスク群を効率的に選択する分類法として有用と報告されている(表34,5)

同じ腫瘍でも,用いる分類方法によりリスク評価が異なる場合がある。また,これらの分類では,腫瘍径や核分裂像数が基準値の境界付近の場合,判定によりリスク評価が大きく変わる場合がある。一方,Contour maps は腫瘍径と核分裂像数・部位・腫瘍破裂を指標として再発リスクを10~20%刻みの数値としてマッピングされたエリアで示しており,患者に対し再発の頻度を具体的に説明するうえで有用とされている(図16)

表1 Fletcher/NIH コンセンサス分類2)
表2 Miettinen/AFIP 分類3)
表3 modified Fletcher/Joensuu 分類4,5)

図1 Contour maps(術後10 年での再発確率)6)
(2)核分裂像数の計測方法

核分裂像数の記載に際し,顕微鏡の接眼レンズ視野数(直径)に注意すべきである。例えば,いわゆるMiettinen 分類では50 視野あたりの核分裂像数を用いているが,視野数14 の接眼レンズと倍率40 倍の対物レンズの場合,強拡大50 視野(50 high‒power‒fields;HPFs)の合計面積が約5 mm2になる。病理診断において汎用されている視野数22 の接眼レンズと40 倍の対物レンズの顕微鏡を用いた場合には,強拡大21 視野分の合計面積が約5 mm2に相当する(もし,このレンズの条件でカウントした場合の強拡大50 視野(50HPFs)の合計面積は5 mm2を遥かに超え,核分裂像数を過大評価してしまうことになる)。顕微鏡や観察者間での差異をなくすべく,5 mm2換算での核分裂像数の記載が推奨される7)表4 に接眼レンズ視野数と視野面積などの換算表を記載した(例:接眼レンズ視野数22 の顕微鏡の場合,強拡大21 視野の合計面積は5 mm2であるため,21 視野での核分裂像数をカウントする。または,強拡大50 視野の合計面積11.9 mm2×0.42=5 mm2であるため,50 視野での核分裂像数をカウントし,×0.42 して換算する)。

表4 顕微鏡の接眼レンズ視野数と視野面積の関係

3 GIST の遺伝子異常

GIST ではc‒kit 遺伝子変異が最も多く,特にexon 11 変異はGIST 全体の70~80%に存在する8‒10)。c‒kit 遺伝子exon 11 変異例のほとんどが紡錘形細胞形態を呈し,悪性度は様々であるが,codon557‒558 を含む欠失型変異例は,外科切除後無治療の場合,再発リスクが高い傾向がある10)。exon 9 変異は5~10%程度であり,その多くは小腸に発生し,紡錘形細胞形態を示し,再発リスクが高い傾向がある。exon 8, 13, 17 変異は非常に稀である。

PDGFRA 遺伝子変異は10%程度で,exon 18 に最も多く,稀にexon 12, 14 に認められる8,11)。PDGFRA 遺伝子変異例のほとんどは胃に発生し,類上皮細胞型で,経過は比較的緩徐な傾向がある。GIST の10%前後はc‒kit/PDGFRA 遺伝子には変異の無い,いわゆる野生型GIST であるが,その多くがSDH 欠失またはNF1 関連であり,極めて稀にBRAF やRAS などの変異を有する場合がある8)

なお,PDGFRA 遺伝子のexon 18 D842V 変異を有するGIST,SDH 欠失GIST,NF1 関連GIST,BRAF 遺伝子変異を有するGIST など,イマチニブの効果が期待できない可能性が高い遺伝子異常があることに留意が必要である。

参考文献

1)
Hirota S. Differential diagnosis of gastrointestinal stromal tumor by histopathology and immunohistochemistry. Transl Gastroenterol Hepatol. 2018;3:27.
2)
Fletcher CD, Berman JJ, Corless C, et al. Diagnosis of gastrointestinal stromal tumors:A consensus approach. Hum Pathol. 2002;33:459‒65.
3)
Miettinen M, Lasota J. Gastrointestinal stromal tumors:pathology and prognosis at different sites. Semin Diagn Pathol. 2006;23:70‒83.
4)
Joensuu H. Risk stratification of patients diagnosed with gastrointestinal stromal tumor. Hum Pathol. 2008;39:1411‒9.
5)
Rutkowski P, Bylina E, Wozniak A, et al. Validation of the Joensuu risk criteria for primary resectable gastrointestinal stromal tumour‒ the impact of tumour rupture on patient outcomes. Eur J Surg Oncol. 2011;37:890‒6.
6)
Joensuu H, Vehtari A, Riihimäki J, et al. Risk of recurrence of gastrointestinal stromal tumour after surgery:an analysis of pooled population‒based cohorts. Lancet Oncol. 2012;13:265‒74.
7)
Casali PG, Abecassis N, Aro HT, et al;ESMO Guidelines Committee and EURACAN. Gastrointestinal stromal tumours:ESMO‒EURACAN Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow‒up. Ann Oncol. 2018;29(Suppl 4):iv68‒78.
8)
Yamamoto H, Oda Y. Gastrointestinal stromal tumor:recent advances in pathology and genetics. Pathol Int. 2015;65:9‒18.
9)
Hirota S, Isozaki K, Moriyama Y, et al. Gain‒of‒function mutations of c‒kit in human gastrointestinal stromal tumors. Science. 1998;279:577‒80.
10)
Martín J, Poveda A, Llombart‒Bosch A, et al;Spanish Group for Sarcoma Research. Deletions affecting codons 557‒558 of the c‒KIT gene indicate a poor prognosis in patients with completely resected gastrointestinal stromal tumors:a study by the Spanish Group for Sarcoma Research(GEIS). J Clin Oncol. 2005;23:6190‒8.
11)
Heinrich MC, Corless CL, Duensing A, et al. PDGFRA activating mutations in gastrointestinal stromal tumors. Science. 2003;299:708‒10.

2 CQ

病理
1(BQ)
GIST の鑑別には HE 染色での形態診断と KIT免疫染色は有用か

推奨の強さ1(強い) 
エビデンスの強さC(弱)
GIST の鑑別にはHE 染色での形態診断とKIT 免疫染色を行うことを強く推奨する
合意率:100%(17/17 名)

解説

GIST はHE 染色標本で,紡錘形細胞あるいは類上皮細胞の形態を示し,時に両者が混在する場合もある。免疫染色では95%のGIST がKIT 陽性を示す。HE 染色で組織像がGIST として矛盾なく,KIT が陽性と判断されればGIST と診断できる1‒3)。GIST の鑑別診断として代表的な紡錘形細胞腫瘍は,平滑筋腫・平滑筋肉腫・神経鞘腫・デスモイド・炎症性筋線維芽細胞腫瘍(inflammatory myofibroblastic tumor;IMT)・孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor;SFT)であり,類上皮細胞腫瘍は低分化癌・神経内分泌腫瘍・悪性黒色腫・グロームス腫瘍などがある。これらの腫瘍の大半は,通常KIT 陰性であり,KIT 免疫染色が鑑別に有用である。ただし,神経内分泌癌や悪性黒色腫はKIT 陽性となることがあるため,注意が必要である。

免疫染色で用いられる抗KIT 抗体には,ウサギモノクローナル抗体とウサギポリクローナル抗体がある4,5)。KIT 免疫染色に際し,特にポリクローナル抗体では不適切な賦活化処理などによっては偽陽性を起こすことがあり4),また組織固定の条件などによっては偽陰性となることもあるため,施設ごとに免疫条件の精度管理を適切に行う必要がある。

本BQ に関連する大多数の論文が後ろ向き症例集積研究であり,エビデンスの強さは弱いが,専門家が議論し,既に実臨床に広く浸透していると考えられるため,推奨の強さは「強い」とした。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 47 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 0 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献4 編を追加して,計51 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された6 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Yamaguchi U, Hasegawa T, Masuda T, et al. Differential diagnosis of gastrointestinal stromal tumor and other spindle cell tumors in the gastrointestinal tract based on immunohistochemical analysis. Virchows Arch. 2004;445:142‒50.
2)
Miettinen M, Sobin LH, Sarlomo‒Rikala M. Immunohistochemical spectrum of GISTs at different sites and their differential diagnosis with a reference to CD117(KIT). Mod Pathol. 2000;13:1134‒42.
3)
Hasegawa T, Matsuno Y, Shimoda T, et al. Gastrointestinal stromal tumor:consistent CD117 immunostaining for diagnosis, and prognostic classification based on tumor size and MIB‒1 grade. Hum Pathol. 2002;33:669‒76.
4)
Lucas DR, al‒Abbadi M, Tabaczka P, et al. c‒Kit expression in desmoid fibromatosis. Comparative immunohistochemical evaluation of two commercial antibodies. Am J Clin Pathol. 2003;119:339‒45.
5)
Saito M, Sakurai S, Motegi A, et al. Comparative study using rabbit‒derived polyclonal, mouse‒derived monoclonal, and rabbit‒derived monoclonal antibodies for KIT immunostaining in GIST and other tumors. Pathol Int. 2007;57:200‒4.

病理
2(BQ)
GISTの鑑別診断に KIT以外の免疫染色は有用か

推奨の強さ1(強い)
エビデンスの強さC(弱)
GIST の鑑別診断にKIT 以外の免疫染色も併用することを強く推奨する
合意率:88.2%(15/17 名)

解説

GIST の診断において,DOG1 は感度・特異度ともに高く,ほとんどの症例(95%以上)が陽性である。GIST の約5%は免疫染色でKIT 陰性であるが,基本的にはDOG1 陽性である1)。SDH 欠失型GIST では,SDHB 免疫染色が陰性となる2)。GIST 以外の腫瘍は,KIT・DOG1 以外の特徴的な免疫染色パターンを示す3)。Desmin はGIST で陽性になることは稀であり,たとえ陽性であっても部分的な発現に留まるのに対し,平滑筋腫ではびまん性に強発現する。平滑筋腫の腫瘍細胞自体はKIT 陰性であるが,しばしばKIT 陽性の肥満細胞やカハール介在細胞が多数混在することがあるため,GIST と誤認しないよう注意が必要である。CD34 はGIST の60~80%に陽性である。孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor;SFT)はCD34 陽性であるが,STAT6 の核発現が特徴であり,GIST と鑑別できる。デスモイドはβ‒catenin が陽性(核発現),炎症性筋線維芽細胞腫瘍(inflammatory myofibroblastic tumor;IMT)はALK が陽性になり,GIST との鑑別に有用である。S‒100 蛋白はほとんどのGIST で陰性であり,陽性の場合でも部分的な発現に留まり,神経鞘腫や悪性黒色腫のようなびまん性発現は通常,認められない。

免疫染色を行った後にもGIST か否かの確定診断に至らない場合は,GIST の病理診断に精通した専門家へのコンサルトを考慮する。

本BQ に関連する大多数の論文が後ろ向き症例集積研究であり,エビデンスの強さは弱いが,専門家が議論し,既に実臨床に広く浸透していると考えられるため,推奨の強さは「強い」とした。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 155 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 2 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献2 編を追加して,計159 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された19 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Miettinen M, Wang ZF, Lasota J. DOG1 antibody in the differential diagnosis of gastrointestinal stromal tumors:a study of 1840 cases. Am J Surg Pathol. 2009;33:1401‒8.
2)
Miettinen M, Wang ZF, Sarlomo‒Rikala M, et al. Succinate dehydrogenase‒deficient GISTs:a clinicopathologic, immunohistochemical, and molecular genetic study of 66 gastric GISTs with predilection to young age. Am J Surg Pathol. 2011;35:1712‒21.
3)
Hirota S. Differential diagnosis of gastrointestinal stromal tumor by histopathology and immunohistochemistry. Transl Gastroenterol Hepatol. 2018;3:27.

病理
3(BQ)
免疫染色でKIT 陰性または弱陽性のGIST の診断に遺伝子解析は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さC(弱)
免疫染色でKIT 陰性または弱陽性のGIST の診断に遺伝子解析を行うことを弱く推奨する
合意率:100%(12/12 名)

解説

GIST の約5%は免疫染色でKIT 陰性である。特にPDGFRA 変異例はしばしばKIT が陰性または弱陽性を示す1,2)。また,検体の固定状態により,KIT が弱陽性になる可能性もある。病理2(BQ)で述べた通り,DOG1 やその他の免疫染色を補助的に用いることにより組織標本のみからGIST と診断できる場合が多いと考えられるが,遺伝子解析でc‒kit またはPDGFRA 遺伝子変異を確認すれば,より確実にGIST の診断を得られる。なお,極めて稀な例として,脱分化を示すGIST では,c‒kit 遺伝子変異が存在するにも関わらず,免疫染色でKIT が陰性となりうることが報告されている3)

本BQ に関連する大多数の論文が後ろ向き症例集積研究であり,エビデンスの強さは弱い。専門家が議論し,遺伝子解析を行うことの診断的な有用性に関しては一定のコンセンサスが得られているものの,検出された遺伝子型によって治療方針への影響は少ないと考えられるため,推奨の強さに関しては「弱い」とした。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 81 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 2 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献3 編を追加して,計86 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された4 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Medeiros F, Corless CL, Duensing A, et al. KIT‒negative gastrointestinal stromal tumors:proof of concept and therapeutic implications. Am J Surg Pathol. 2004;28:889‒94.
2)
Sakurai S, Hasegawa T, Sakuma Y, et al. Myxoid epithelioid gastrointestinal stromal tumor(GIST)with mast cell infiltrations:a subtype of GIST with mutations of platelet‒derived growth factor receptor alpha gene. Hum Pathol. 2004;35:1223‒30.
3)
Antonescu CR, Romeo S, Zhang L, et al. Dedifferentiation in gastrointestinal stromal tumor to an anaplastic KIT‒negative phenotype:a diagnostic pitfall:morphologic and molecular characterization of 8 cases occurring either de novo or after imatinib therapy. Am J Surg Pathol. 2013;37:385‒92.

病理
4(BQ)
GIST は臓器別に頻度や悪性度に違いはあるか

推奨の強さ
エビデンスの強さ
GIST は臓器別に発生頻度や悪性度に違いが見られる
合意率:100%(17/17 名)

解説

イマチニブに代表されるGIST 治療薬登場以前と以後では,患者の予後が大きく変わっているため,まずGIST の“悪性度”が意味するところを定義する必要がある。イマチニブの登場以前,転移・再発GIST に対する有効な治療法はなかったため,腫瘍の転移・再発と患者の生命予後は相関していたと考えられる。しかし,イマチニブを含む分子標的薬の登場以降,転移・再発GIST 患者の予後は劇的に改善しており,転移・再発と生命予後は必ずしも一致しない。本ガイドラインにおけるGIST の“悪性度”とは,腫瘍の転移・再発リスクを指すものとする。

これまでに複数のGIST の再発リスク分類が提唱されており1‒3),これらのリスク分類を用いたその後の比較,観察研究でも,その有用性が確認されている4,5)。いずれの報告でも,GIST は胃に最も多く発生し(50~70%),次いで十二指腸および小腸(20~30%),大腸(5~10%,ほとんどは直腸に発生)に発生すると報告されており,まれに食道や腸間膜,大網にも発生するが,頻度は低い1‒5)

胃原発GIST と比較し,胃以外に発生するGIST は転移・再発リスクが高いと報告されており,Miettinen 分類では胃,小腸,十二指腸,直腸発生GIST,modified Fletcher 分類では胃と胃以外に発生するGIST を区別して,リスク評価を行っている2,3)

本BQ に関連する大多数の論文が後ろ向き症例集積研究であり,エビデンスの強さについて言及することは困難であるが,専門家が議論し,既に実臨床でコンセンサスが十分に得られていると考えられる。有用性を問うBQ ではないため,推奨の強さはつけていない。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 121 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 7 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計128 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された12 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Fletcher CD, Berman JJ, Corless C, et al. Diagnosis of gastrointestinal stromal tumors:A consensus approach. Hum Pathol. 2002;33:459‒65.
2)
Miettinen M, El‒Rifai W, H L Sobin L, et al. Evaluation of malignancy and prognosis of gastrointestinal stromal tumors:a review. Hum Pathol. 2002;33:478‒83.
3)
Joensuu H, Vehtari A, Riihimäki J, et al. Risk of recurrence of gastrointestinal stromal tumour after surgery:an analysis of pooled population‒based cohorts. Lancet Oncol. 2012;13:265‒74.
4)
Yanagimoto Y, Takahashi T, Muguruma K, et al Re‒appraisal of risk classifications for primary gastrointestinal stromal tumors(GISTs)after complete resection:indications for adjuvant therapy. Gastric Cancer. 2015;18:426‒33.
5)
Liu X, Qiu H, Zhang P, et al;China Gastrointestinal Stromal Tumor Study Group(CN‒GIST). Prognostic factors of primary gastrointestinal stromal tumors:a cohort study based on high‒volume centers. Chin J Cancer Res. 2018;30:60‒71.

病理
5(BQ)
GIST の悪性度評価に再発リスク分類は有用か

推奨の強さ1(強い)
エビデンスの強さC(弱)
GIST の悪性度評価に再発リスク分類を行うことを強く推奨する
合意率:88.2%(15/17 名)

解説

GIST のリスク分類は,いずれも再発の高リスク症例を効率的に抽出することが報告されており1‒3),再発予測や術後補助療法の適応を決定するためにも,手術検体をいずれかのリスク分類に基づいて正しく評価することが重要である。

各リスク分類(表1~3)を用いて個別の症例を評価した場合,一部では異なったリスク群に振り分けられるGIST 症例が出てくるが,上記のリスク分類のいずれにおいても基本的には高リスク群を効率的に抽出できるものと考えられ,現状ではいずれの分類を用いることも許容範囲内である。表1 から表3 によるリスク評価が非連続的である(境界領域付近の大きさや核分裂像数を持つ症例ではリスク評価が大きく変わる)のに対し,Contour maps(図1)は連続的な指標として評価されており,再発の頻度を具体的に説明するうえで有用と考える3)

ただし,SDH 欠失型のGIST では,リスク分類のカテゴリーに関わらず遠隔転移が見られたとの報告もあり,転移予測が困難な可能性がある4)

本BQ に関連する大多数の論文が後ろ向き症例集積研究であり,エビデンスの強さは弱いが,専門家が議論し,再発リスク分類の有用性については既に実臨床でコンセンサスが十分に得られていると考えられるため,推奨の強さは「強い」とした。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 271 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 21 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計292 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された9編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Fletcher CD, Berman JJ, Corless C, et al. Diagnosis of gastrointestinal stromal tumors:A consensus approach. Hum Pathol. 2002;33:459‒65.
2)
Miettinen M, El‒Rifai W, H L Sobin L, et al. Evaluation of malignancy and prognosis of gastrointestinal stromal tumors:a review. Hum Pathol. 2002;33:478‒83.
3)
Joensuu H, Vehtari A, Riihimäki J, et al. Risk of recurrence of gastrointestinal stromal tumour after surgery:an analysis of pooled population‒based cohorts. Lancet Oncol. 2012;13:265‒74.
4)
Mason EF, Hornick J. Conventional Risk Stratification Fails to Predict Progression of Succinate Dehydrogenase‒deficient Gastrointestinal Stromal Tumors:A Clinicopathologic Study of 76 Cases. Am J Surg Pathol. 2016;40:1616‒21.

病理
6(BQ)
GIST の悪性度(再発リスク)評価に生検は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さC(弱)
GIST の悪性度(再発リスク)評価は生検標本では行わないことを弱く推奨する
合意率:87.5%(14/16 名)

解説

一般的に通常の内視鏡生検ではGIST の組織は採取され難く組織学的診断は困難であるが,ボーリング生検や超音波内視鏡下吸引生検(endoscopic ultrasound‒guided fine‒needle aspiration biopsy;EUS‒FNAB)等により十分な粘膜下の腫瘍組織が採取されれば,適切な免疫染色と併用してGIST の診断は可能である1‒3)

しかし,悪性度(再発リスク)の評価には核分裂像数の計測が必須であり,核分裂像数の非常に多い症例では生検標本でも高リスクの推定は可能であるが,通常の生検標本では核分裂像数の計測に必要な視野面積(5 mm2)を確保できず,また,同一腫瘍内でも不均一なこと(ばらつきが大きいこと)があるため,多くの症例ではリスク分類に基づいた正確な悪性度の評価は困難と考える。

Ki‒67の免疫染色を併用して生検標本の悪性度を評価している報告もみられるが2,3),GIST にはリンパ球浸潤が目立つ症例も多く,そのような腫瘍ではKi‒67 の陽性率が過大に算出される危険性がある。また,核分裂像数と同様にKi‒67 の陽性率に偏りのみられる症例も多く,微小な生検標本を用いての評価は推奨されない。

本BQ に関連する論文は後ろ向き症例集積研究が少数存在するのみで,エビデンスの強さは弱い。本解説は複数の専門家が文献と経験に基づいて議論した結果であり,推奨の強さも「弱い」とした。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 58 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 19 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計77 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された12 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Akahoshi K, Oya M, Koga T, et al. Clinical usefulness of endoscopic ultrasound‒guided fine needle aspiration for gastric subepithelial lesions smaller than 2 cm. J Gastrointestin Liver Dis. 2014;23:405‒12.
2)
Hedenström P, Nilsson B, Demir A, et al. Characterizing gastrointestinal stromal tumors and evaluating neoadjuvant imatinib by sequencing of endoscopic ultrasound‒biopsies. World J Gastroenterol. 2017; 23:5925‒35.
3)
Kobara H, Mori H, Rafiq K, et al. Analysis of the amount of tissue sample necessary for mitotic count and Ki‒67 index in gastrointestinal stromal tumor sampling. Oncol Rep. 2015;33:215‒22.

病理
7(BQ)
GIST において KIT免疫染色と c‒kit遺伝子変異とは関係があるか

推奨の強さ
エビデンスの強さ
GIST においてKIT 免疫染色とc‒kit 遺伝子変異とは明白な関係はない
合意率:100%(17/17 名)

解説

GIST において免疫染色でのKIT 発現パターンは細胞質,細胞膜またはその組み合わせであり,時にゴルジ野の陽性像も観察されるが,c‒kit 遺伝子変異が存在するexon あるいは変異亜型とKIT 免疫染色パターンの間には特定の関係は認められない1)。PDGFRA 変異型GIST は免疫染色でしばしばKIT 弱発現ないし陰性を示すが,KIT 免疫染色陽性の場合もある。稀なGIST の亜型であるSDH 欠失型やNF1, BRAF などの変異型でもKIT 免疫染色はほとんどの場合陽性である2‒4)。したがって,GIST においてKIT 免疫染色パターンとc‒kit 遺伝子異常とは明白な関係はない。

本BQ に関連する大多数の論文が後ろ向き症例集積研究であり,エビデンスの強さについて言及することは困難であるが,専門家が議論し,既に実臨床に広く浸透していると考えられる。また有用性を問うBQ ではないため,推奨の強さはつけていない。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 54 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 1 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献6 編を追加して,計61 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された8 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Rubin BP, Heinrich MC. Genotyping and immunohistochemistry of gastrointestinal stromal tumors:An update. Semin Diagn Pathol. 2015;32:392‒9.
2)
Doyle LA, Nelson D, Heinrich MC, et al. Loss of succinate dehydrogenase subunit B(SDHB)expression is limited to a distinctive subset of gastric wild‒type gastrointestinal stromal tumours:a comprehensive genotype‒phenotype correlation study. Histopathology. 2012;61:801‒9.
3)
Celestino R, Lima J, Faustino A, et al. Molecular alterations and expression of succinate dehydrogenase complex in wild‒type KIT/PDGFRA/BRAF gastrointestinal stromal tumors. Eur J Hum Genet. 2013; 21:503‒10.
4)
Yantiss RK, Rosenberg AE, Sarran L, et al. Multiple gastrointestinal stromal tumors in type Ⅰ neurofibromatosis: a pathologic and molecular study. Mod Pathol. 2005;18:475‒84.

病理
8(BQ)
イマチニブ一次耐性 GISTにおける遺伝子解析は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
イマチニブ一次耐性GIST において遺伝子解析を行うことを弱く推奨する
合意率:94.1%(16/17 名)

解説

切除不能・再発GIST と診断されてイマチニブが投与された場合に,イマチニブが一次耐性を示すケースがあるが,これは基本的にはGIST がイマチニブに一次耐性を示す遺伝子型であることを示している1)。c‒kit 遺伝子変異を有するGIST の大部分はイマチニブ感受性であるが,PDGFRA 遺伝子変異を有するGIST は半数以上がイマチニブに一次耐性を示す。特にPDGFRA 遺伝子のexon 18 D842V 変異例はイマチニブの効果が低いとされている。また,数は少ないが,病理9(BQ)に記載しているような,c‒kit 遺伝子にもPDGFRA 遺伝子にも変異の見られないGIST も基本的にイマチニブに一次耐性を示す。切除不能・再発GIST に対しては現在,チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor;TKI)のイマチニブ,スニチニブ,レゴラフェニブの3 剤が使用され,イマチニブに一次耐性を示した場合にはスニチニブ,レゴラフェニブが順に投与されることになるので,どのような遺伝子異常を有するGIST であるのかを確認する必要性は必ずしもないと言える。しかしながら,例えば,イマチニブに一次耐性を示すことが多いc‒kit 遺伝子のexon 9 変異を有するGIST にはスニチニブの方がより効果が期待できることから,遺伝子解析によりc‒kit 遺伝子のexon 9 変異を持つGIST であることがわかっている場合には,イマチニブ耐性・不耐が確認されれば早めにスニチニブへ移行するための判断材料にはなり得る。また,切除不能・再発GIST と診断されてイマチニブを投与されている症例でイマチニブに一次耐性を示す場合には,GIST の診断が誤っている可能性(本当は非GIST である可能性)があり,c‒kit 遺伝子・PDGFRA 遺伝子などの変異検索は,GIST の診断を確認するために有用な場合がある。以上より,イマチニブ一次耐性GIST における遺伝子解析の有用性は限定的と考えられる。

本BQ に関して,GIST における遺伝子解析の診療上の有用性に関しては専門家が議論し,一定のコンセンサスが得られていると考えられるが,関連論文の大多数は後ろ向き症例集積研究であり,エビデンスの強さは非常に弱く,推奨の強さは「弱い」とした。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 126 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 19 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献4 編を追加して,計149 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された7 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Miselli FC, Casieri P, Negri T, et al. c‒Kit/PDGFRA gene status alterations possibly related to primary imatinib resistance in gastrointestinal stromal tumors. Clin Cancer Res. 2007;13:2369‒77.

病理
9(BQ)
c‒kit・PDGFRA遺伝子以外の異常により発生する GISTはあるか

推奨の強さ
エビデンスの強さ
c‒kit・PDGFRA 遺伝子以外の異常により発生するGIST がある
合意率:100%(17/17 名)

解説

GIST ではその75~85%にc‒kit 遺伝子変異,約10%にPDGFRA 遺伝子変異がみられるが,残りの約10%にはc‒kit 遺伝子にもPDGFRA 遺伝子にも変異が見られない。この中ではNF1患者関連GIST が1~2%1),SDHB 遺伝子異常のGIST が2~5%2),BRAF 遺伝子変異を有するGIST が~1%3),上記のいずれにも遺伝子変異を認めないものが数%を占める。KRAS 遺伝子変異を有するGIST の報告があるが,その多くは分子標的薬治療後の二次耐性症例や高度に病勢の進行した症例において,c‒kit 遺伝子変異に付加された変異として認められるものと考えられている4)。また,NTRK 融合遺伝子変異を有するGIST の報告があるが,最近ではNTRK融合遺伝子変異を有する消化管間葉系腫瘍は基本的に非GIST であると報告され5),NTRK 融合遺伝子変異を有するGIST の存否については確定的な結論に至っていない。

なお,SDH 欠失GIST やNF1 関連GIST,BRAF 遺伝子変異を有するGIST など,c‒kit・PDGFRA 遺伝子以外の異常により発生するGIST にはイマチニブの効果が期待できない可能性が高いことに留意が必要であり,そのような遺伝子異常が判明している場合には,イマチニブによる術前・術後補助療法は安易に行うべきではない。また,特定のc‒kit, PDGFRA 遺伝子変異例もイマチニブの効果が低いとされている。GIST の遺伝子異常とイマチニブの効果の関係に関しては,病理8(BQ)も参照されたい。

c‒kit・PDGFRA 遺伝子以外の異常により発生するGIST の診断・治療については,GIST や肉腫の専門病院にコンサルト・紹介することが望まれる。

本BQ に関連する大多数の論文が後ろ向き症例集積研究であり,エビデンスの強さに言及することは困難であるが,既に多くの症例が報告されており,専門家の間でコンセンサスが十分に得られていると考えられる。有用性を問うBQ ではないため,推奨の強さはつけていない。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 75 編(検索年代:全期間),Cochrane 4 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献1 編を追加して,計80 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された14 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Kinoshita K, Hirota S, Isozaki K, et al. Absence of c‒kit gene mutations in gastrointestinal stromal tumours from neurofibromatosis type 1 patients. J Pathol. 2004;202:80‒5.
2)
Pasini B, McWhinney SR, Bei T, et al. Clinical and molecular genetics of patients with the Carney‒Stratakis syndrome and germline mutations of the genes coding for the succinate dehydrogenase subunits SDHB, SDHC, and SDHD. Eur J Hum Genet. 2008;16:79‒88.
3)
Agaram NP, Wong GC, Guo T, et al. Novel V600E BRAF mutations in imatinib‒naive and imatinib‒resistant gastrointestinal stromal tumors. Genes Chromosomes Cancer. 2008;47:853‒9.
4)
Antonescu CR, Romeo S, Zhang L, et al. Dedifferentiation in gastrointestinal stromal tumor to an anaplastic KIT‒negative phenotype:a diagnostic pitfall:morphologic and molecular characterization of 8 cases occurring either de novo or after imatinib therapy. Am J Surg Pathol. 2013;37:385‒92.
5)
Atiq MA, Davis JL, Hornick JL, et al. Mesenchymal tumors of the gastrointestinal tract with NTRK rearrangements:a clinicopathological, immunophenotypic, and molecular study of eight cases, emphasizing their distinction from gastrointestinal stromal tumor(GIST). Mod Pathol. 2021;34:95‒103.

病理
10(BQ)
GIST が多発する病態はあるか

推奨の強さ
エビデンスの強さ
GIST が多発する病態がある
合意率:100%(17/17 名)

解説

GIST 症例の多くはc‒kit, PDGFRA 遺伝子の体細胞変異により単発するが,稀に異なる遺伝子変異を有する散発性のGIST が多発することもある。また,家族性,症候性にGIST が多発する下記の病態が存在する1‒3)

・家族性GIST(c‒kit 遺伝子変異)

c‒kit 遺伝子の生殖細胞レベルでの変異を原因とする多発性GIST 家系が存在し,これまでに30 以上の家系が報告されている。散発性GIST と同様なc‒kit 遺伝子の変異を伴い,胃,小腸にカハール介在細胞の過形成を伴うGIST の多発を認める。PDGFRA 変異を有する多発性GIST 家系の報告もあるが,多発腫瘍が真にGIST であるか否かは議論の余地がある。

・NF1 関連GIST

NF1 の患者の一部に,GIST を合併することが報告されている。主として小腸に多発するが,胃に発生することもある。数十個から数百個発生する症例も存在し,播種と間違えないよう注意が必要である。筋層間神経叢にカハール介在細胞の過形成様病変を伴う。

・Carney‒Stratakis 症候群およびCarney triad

GIST と傍神経節腫の合併を特徴とする遺伝性のCarney‒Stratakis 症候群と非遺伝性のCarney triad(GIST と傍神経節腫,肺軟骨腫の3 つを合併)では,いずれもSDHB 蛋白の発現欠失を示すGIST が,胃に限局して,しばしば多発する。遺伝性のCarney‒Stratakis 症候群ではSDH の構成サブユニットであるSDHB,‒C および‒D 遺伝子の生殖細胞系列変異が報告されており,非遺伝性のCarney triad はSDHC 遺伝子プロモーター領域のメチル化による発現抑制が原因とされている。これらの症例に,カハール介在細胞の過形成は報告されていない。

本BQ に関連する大多数の論文が後ろ向き症例集積研究であり,エビデンスの強さについて言及することは困難であるが,既に多くの症例が報告されており,専門家の間でコンセンサスが十分に得られていると考えられる。また有用性を問うBQ ではないため,推奨の強さはつけていない。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 313 編(検索年代:全期間),Cochrane 12 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計325 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された7 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Burgoyne AM, Somaiah N, Sicklick JK. Gastrointestinal stromal tumors in the setting of multiple tumor syndromes. Curr Opin Oncol. 2014;26:408‒14.
2)
Gopie P, Mei L, Faber AC, et al. Classification of gastrointestinal stromal tumor syndromes. Endocr Relat Cancer. 2018;25:R49‒58.
3)
Ricci R. Syndromic gastrointestinal stromal tumors. Hered Cancer Clin Pract. 2016;14:15.

外科治療領域

1 総論

転移のない切除可能な限局性GIST と診断された場合,基本的に外科切除の適応であるが,腫瘍の大きさや解剖学的局在などによって治療方針や術式が異なる可能性がある。切除不能・転移・再発GIST に対する初回治療の第一選択はイマチニブ投与であるが,薬剤耐性により二次治療へ移行した後は治療に難渋することもあり,チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor;TKI)治療中における外科治療も検討課題である。

1 原発GIST に対する外科治療

(1)切除可能な限局性粘膜下腫瘍の治療方針

本邦においては消化器内視鏡検診などにより,比較的小さな胃粘膜下腫瘍(submucosal tumor;SMT)が発見されることが多い。このため主に胃SMT を念頭に,アルゴリズム4「切除可能な限局性消化管粘膜下腫瘍の治療方針」を作成した。特に2 cm 未満の胃SMT で組織学的にGIST と診断された場合や,2 cm 以上,5 cm 未満のSMT に対する治療方針に迷うことがあるため,外科1(CQ)外科2(CQ)を設定した。2 cm 未満の胃GIST に対する予後解析や外科切除の有用性を示した報告はないが,切除症例の後ろ向きコホート研究の結果1,2)や,外科切除の安全性と完全切除率が高いこと3)などから,組織学的にGIST と診断またはGIST を疑う悪性所見を認める場合には,外科切除の適応となり得る(アルゴリズム4外科1(CQ))。2 cm 以上,5 cm 未満のSMT も同様に,GIST と診断あるいはGIST を含む悪性腫瘍が強く疑われる場合は,外科切除の適応とすべきである(アルゴリズム4外科2(CQ))。

(2)限局性GIST の外科治療と術前・術後補助療法

5 cm 未満の比較的小さなGIST に対しては腹腔鏡下手術が行われることが多いが,5 cm 以上のGIST あるいはGIST を含む悪性腫瘍が強く疑われるSMT に対する腹腔鏡下手術の適応に関しては不明であったため,外科3(CQ)を設定した。腫瘍径5 cm 以上で,開腹手術と腹腔鏡下手術のアウトカムが比較可能なメタアナリシス4‒6)の結果などから,5 cm 以上のGIST に対しても腹腔鏡下手術は適応となると考えられるが,8 cm を超えるGIST に対するエビデンスは乏しく,開腹手術を上回るメリットが得られない大きさのGIST には推奨されない(アルゴリズム4外科3(CQ))。また,外科切除が適応となるGIST に対しては,臓器機能温存手術を目指すべきであるが(外科4(BQ)),より重要なのは腫瘍破裂を回避し完全切除を行うことである。このため,10 cm 以上の胃GIST を対象に術前補助療法の有用性が日韓合同の多施設共同研究(第Ⅱ相臨床試験)で検討され,高いR0 切除率が示された7)。腫瘍径が10 cm 以上のような大きなGIST や,非治癒切除,特に術中の腫瘍破裂を生じる可能性が高いと判断されるGIST はイマチニブによる術前補助療法の適応となり得る(アルゴリズム5外科5(CQ))。また,術前もしくは術中に腫瘍破裂が確認された場合は,基本的にイマチニブによる術後補助療法の適応となる(アルゴリズム6外科6(CQ))。

2 転移・再発GIST に対する外科治療

(1)初回治療としての外科切除

大腸癌などで肝転移切除の予後改善効果が示されていることや,切除不能・転移性GIST に対するイマチニブ治療開始時の最大腫瘍径が無増悪期間と相関する8)ことなどから,外科切除単独または外科切除によって腫瘍量を減量した後にイマチニブ治療を行うことの有用性が,前向きコホート研究や患者背景の異なる複数の後ろ向き症例集積研究によって検討されたものの9‒15),外科切除単独またはイマチニブ投与に先行して外科切除を行うことによる予後向上を示すエビデンスは得られなかった。また,少数例の検討ではあるもののイマチニブ投与期間と生存期間の有意な相関を示した報告もあり14),転移・再発GIST に対する治療の第一選択はイマチニブ投与であると考えられる(アルゴリズム67外科8(CQ))。

(2)TKI 治療中の外科切除

イマチニブ奏効中や薬剤耐性獲得後に外科切除を行うことの有用性が,小規模のRCT や複数の後ろ向き観察研究によって検討された16‒18)。これらの検討は症例数の少なさやバイアスの問題が挙げられ,現時点では外科手術の有用性を示す十分なエビデンスは得られていない。本治療は,高度な経験を有するGIST や肉腫の専門施設において行うことが望ましい試験的な治療であると考えられる(アルゴリズム78外科9(CQ)10(CQ))。

参考文献

1)
Joensuu H, Vehtari A, Riihimäki J, et al. Risk of recurrence of gastrointestinal stromal tumour after surgery:an analysis of pooled population‒based cohorts. Lancet Oncol. 2012;13:265‒74.
2)
Yanagimoto Y, Takahashi T, Muguruma K, et al. Re‒appraisal of risk classifications for primary gastrointestinal stromal tumors(GISTs)after complete resection:indications for adjuvant therapy. Gastric Cancer. 2015;18:426‒33.
3)
Nishida T, Goto O, Raut CP, et al. Diagnostic and treatment strategy for small gastrointestinal stromal tumors. Cancer. 2016;122:3110‒8.
4)
Ye L, Wu X, Wu T, et al. Meta‒analysis of laparoscopic vs. open resection of gastric gastrointestinal stromal tumors. PLoS One. 2017;12:e0177193.
5)
Lian X, Feng F, Guo M, et al. Meta‒analysis comparing laparoscopic versus open resection for gastric gastrointestinal stromal tumors larger than 5 cm. BMC Cancer. 2017;17:760.
6)
Cui JX, Gao YH, Xi HQ, et al. Comparison between laparoscopic and open surgery for large gastrointestinal stromal tumors:A meta‒analysis. World J Gastrointest Oncol. 2018;10:48‒55.
7)
Kurokawa Y, Yang HK, Cho H, et al. Phase Ⅱ study of neoadjuvant imatinib in large gastrointestinal stromal tumours of the stomach. Br J Cancer. 2017;117:25‒32.
8)
Van Glabbeke M, Verweij J, Casali PG, et al. Initial and late resistance to imatinib in advanced gastrointestinal stromal tumors are predicted by different prognostic factors:a European Organisation for Research and Treatment of Cancer‒Italian Sarcoma Group‒Australasian Gastrointestinal Trials Group study. J Clin Oncol. 2005;23:5795‒804.
9)
Kanda T, Masuzawa T, Hirai T, et al. Surgery and imatinib therapy for liver oligometastasis of GIST: a study of Japanese Study Group on GIST. Jpn J Clin Oncol. 2017;47:369‒72.
10)
An HJ, Ryu MH, Ryoo BY, et al. The effects of surgical cytoreduction prior to imatinib therapy on the prognosis of patients with advanced GIST. Ann Surg Oncol. 2013;20:4212‒8.
11)
Bischof DA, Kim Y, Blazer DG 3rd, et al. Surgical management of advanced gastrointestinal stromal tumors:an international multi‒institutional analysis of 158 patients. J Am Coll Surg. 2014;219:439‒49.
12)
Chang SC, Liao CH, Wang SY, et al. Feasibility and Timing of Cytoreduction Surgery in Advanced(Metastatic or Recurrent)Gastrointestinal Stromal Tumors During the Era of Imatinib. Medicine(Baltimore). 2015;94:e1014.
13)
Tan GH, Wong JS, Quek R, et al. Role of upfront surgery for recurrent gastrointestinal stromal tumours. ANZ J Surg. 2016;86:910‒5.
14)
Sato S, Tsujinaka T, Yamamoto K, et al. Primary surgery as a frontline treatment for synchronous metastatic gastrointestinal stromal tumors:an analysis of the Kinki GIST registry. Surg Today. 2016; 46:1068‒75.
15)
Shi YN, Li Y, Wang LP, et al. Gastrointestinal stromal tumor(GIST)with liver metastases:An 18‒year experience from the GIST cooperation group in North China. Medicine(Baltimore). 2017;96:e8240.
16)
Du CY, Zhou Y, Song C, et al. Is there a role of surgery in patients with recurrent or metastatic gastrointestinal stromal tumours responding to imatinib:a prospective randomised trial in China. Eur J Cancer. 2014;50:1772‒8.
17)
Fairweather M, Balachandran VP, Li GZ, et al. Cytoreductive Surgery for Metastatic Gastrointestinal Stromal Tumors Treated With Tyrosine Kinase Inhibitors:A 2‒institutional Analysis. Ann Surg. 2018;268:296‒302.
18)
Kikuchi H, Hiramatsu Y, Kamiya K, et al. Surgery for metastatic gastrointestinal stromal tumor:to whom and how to? Transl Gastroenterol Hepatol. 2018;3:14.

2 CQ

外科
1(CQ)
2 cm 未満の胃 GISTに対して,外科切除は推奨されるか

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
2 cm 未満の胃GIST に対して,外科切除を行うことを弱く推奨する
合意率:91.7%(11/12 名)

解説

2 cm 未満の胃GIST に対して,前3 版のガイドラインでは外科切除を推奨している1)。NCCN ガイドラインでは「high‒risk features」を伴う2 cm 未満の胃GIST に対して外科切除を推奨しており,high‒risk features を伴わない場合はEUS による定期フォローも可能としている2)。なお,胃以外の2 cm 未満のGIST に対しては,全てのガイドラインが外科切除を推奨している1‒5)

2 cm 未満の胃GIST に対して,OS やRFS をエンドポイントとした前向きコホート研究も,非切除を対象とした比較試験もない。全米の地域がん登録であるSEER(Surveillance Epidemiology and End Results)データベースを活用した報告では(2 cm 未満GIST 全体の解析で,胃GIST が解析症例の62%を占める),2 cm 未満で腫瘍がGIST のみの5 年疾患特異的死亡率は12.9%で,リンパ節や遠隔転移があると,その値は,それぞれ31.4%と36.5%に上昇した6)。また,切除した場合としなかった場合の5 年疾患特異的死亡率は,それぞれ17.5%と39.8%であった。ただし,SEER では,外科切除等を受けず病理診断されなかったGIST は登録されていないことを念頭に置く必要がある。

また,切除症例を対象とした幾つかの後ろ向きコホート研究では,2 cm 未満のGIST 患者の再発予後を見ると,術後10 年の無再発生存率が数%の低下を示している7,8)。症例報告あるいは症例集積研究で,2 cm 未満の胃GIST で転移を伴うGIST も報告されている9,10)

2 cm 未満の胃GIST の外科切除を行う時,胃局所切除が主体であり,外科切除の安全性と完全切除率は高い5)

以上をまとめると,2 cm 未満の胃GIST に対してその予後を解析した研究,外科切除の有用性を研究した報告はないが,2 cm 未満の胃GIST に対して,外科切除を行うことを専門家のコンセンサスとして弱く推奨する。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 153 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 7 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献2 編を追加して,計162 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された22 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューおよびメタアナリシスを実施した。外科切除と経過観察とを比較したRCT は存在しなかった。

参考文献

1)
Nishida T, Hirota S, Yanagisawa A, et al;GIST Guideline Subcommittee. Clinical practice guidelines for gastrointestinal stromal tumor(GIST)in Japan:English version. Int J Clin Oncol. 2008;13:416‒30.
2)
von Mehren M, Randall RL, Benjamin RS, et al. Gastrointestinal stromal tumors, version 2.2014. J Natl Compr Canc Netw. 2014;12:853‒62.
3)
Casali PG, Abecassis N, Aro HT, et al;ESMO Guidelines Committee and EURACAN. Gastrointestinal stromal tumours:ESMO‒EURACAN Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow‒up. Ann Oncol. 2018;29(Suppl 4):iv267.
4)
Koo DH, Ryu MH, Kim KM, et al. Asian Consensus Guidelines for the Diagnosis and Management of Gastrointestinal Stromal Tumor. Cancer Res Treat. 2016;48:1155‒66.
5)
Nishida T, Goto O, Raut CP, et al. Diagnostic and treatment strategy for small gastrointestinal stromal tumors. Cancer. 2016;122:3110‒8.
6)
Coe TM, Fero KE, Fanta PT, et al. Population‒Based Epidemiology and Mortality of Small Malignant Gastrointestinal Stromal Tumors in the USA. J Gastrointest Surg. 2016;20:1132‒40.
7)
Joensuu H, Vehtari A, Riihimäki J, et al. Risk of recurrence of gastrointestinal stromal tumour after surgery:an analysis of pooled population‒based cohorts. Lancet Oncol. 2012;13:265‒74.
8)
Yanagimoto Y, Takahashi T, Muguruma K, et al. Re‒appraisal of risk classifications for primary gastrointestinal stromal tumors(GISTs)after complete resection:indications for adjuvant therapy. Gastric Cancer. 2015;18:426‒33.
9)
Rossi S, Gasparotto D, Toffolatti L, et al. Molecular and clinicopathologic characterization of gastrointestinal stromal tumors(GISTs)of small size. Am J Surg Pathol. 2010;34:1480‒91.
10)
Yegin EG, Kani T, Banzragch M, et al. Survival in patients with hypoechoic muscularis propria lesions suggestive of gastrointestinal stromal tumors in gastric wall. Acta Gastroenterol Belg. 2015;78:12‒7.

外科
2(CQ)
2 cm 以上,5 cm 未満の粘膜下腫瘍に対して,外科切除は推奨されるか

推奨の強さ1(強い)
エビデンスの強さC(弱)
2 cm 以上,5 cm 未満のGIST あるいはGIST を含む悪性腫瘍を強く疑う粘膜下腫瘍に対して,外科切除を行うことを強く推奨する
合意率:100%(17/17 名)

解説

組織学的診断のついていない2 cm 以上,5 cm 未満の粘膜下腫瘍(submucosal tumor;SMT)を外科的切除することで,患者の予後(OS,RFS 等)改善に益があるか検討した研究はない。二次スクリーニングにて抽出された原著報告は,全て後ろ向きコホート研究で,SMT を対象としたものは4 編で,全て切除手技の安全性を検討する研究であった。8 編はGIST の外科切除例を対象としており,非切除など適正な対照群を設定した研究はなかった。GIST に関して,複数の報告で,胃GIST の腫瘍径と外科切除後の再発予後との関連が報告されている1‒3)。本邦からの報告では,2 cm 未満の群と比較し,2~5 cm,5.1~10 cm,10.1 cm 以上の各群はRFS より見た予後は不良で,ハザード比はそれぞれ5.91(95%CI:0.79‒44.01,p=0.0829),28.25(95%CI:3.82‒208.83,p<0.0001),51.75(95%CI:6.80‒394.07,p<0.0001)と高くなっていた2)

外科切除に伴う害(有害事象や機能障害等)は,その頻度は低く,あってもその多くは軽度である4)

なお,切除症例の後ろ向き解析のため,対象症例はGIST あるいは悪性腫瘍を疑うSMT,あるいは症状が有るなど外科治療が必要と考えられる症例が解析対象となっている。悪性腫瘍を疑うSMT の所見としては,従来,後ろ向き視点からの解析並びに専門家のコンセンサスとして腫瘍性潰瘍,内部エコーの不均一,辺縁不整,経過観察中の増大が上げられている4,5)

これらを総合すると,上記の様な「外科治療を必要と判断された」腫瘍がそもそもの解析対象となっていることから,「GIST あるいはGIST を含む悪性腫瘍を強く疑う」を付記した上で,現時点では2~5 cm のSMT は外科切除の適応と考えられ,外科切除を行うことを強く推奨する。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 189 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 84 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献5 編を追加して,計278 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された14 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

なお,上記に2018 年以降2020 年までの同様の趣旨の論文4 編を加え検討しても,内容に変更は無かった。

参考文献

1)
Kim IH, Kwak SG, Chae HD. Prognostic Factors of Patients with Gastric Gastrointestinal Stromal Tumor after Curative Resection:A Retrospective Analysis of 406 Consecutive Cases in a Multicenter Study. Eur Surg Res. 2015;55:12‒23.
2)
Yanagimoto Y, Takahashi T, Muguruma K, et al. Re‒appraisal of risk classifications for primary gastrointestinal stromal tumors(GISTs)after complete resection:indications for adjuvant therapy. Gastric Cancer. 2015;18:426‒33.
3)
Joensuu H, Vehtari A, Riihimäki J, et al. Risk of recurrence of gastrointestinal stromal tumour after surgery:an analysis of pooled population‒based cohorts. Lancet Oncol. 2012;13:265‒74.
4)
Nishida T, Goto O, Raut CP, et al. Diagnostic and treatment strategy for small gastrointestinal stromal tumors. Cancer 2016;122:3110‒8.
5)
von Mehren M, Randall RL, Benjamin RS, et al. Gastrointestinal stromal tumors, version 2.2014. J Natl Compr Canc Netw. 2014;12:853‒62.

外科
3(CQ)
5 cm 以上の粘膜下腫瘍に対して,腹腔鏡下手術は推奨されるか

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
5 cm 以上の粘膜下腫瘍に対して,腹腔鏡下手術を行うことを弱く推奨する
合意率:100%(17/17 名)

解説

粘膜下腫瘍(submucosal tumor;SMT)に対する手術はリンパ節郭清を必要とせず,再建を伴わない消化管局所切除で完結することが多い。単純切除に低侵襲アプローチを考慮するのは自然であり,愛護的操作が求められるのは開腹手術でも腹腔鏡下手術でも変わらない。開腹手術と同等の皮膚切開長を要する大きさの腫瘍を除けば,腹腔鏡下手術の適応に腫瘍径のカットオフ値を設定する明確な根拠はない。

腫瘍径5 cm 以上で,開腹手術と腹腔鏡下手術のアウトカムが比較可能なメタアナリシスは3 編で,対象は2 編が胃GIST,1 編がGIST であった1‒3)。いずれも出血量,手術時間,周術期合併症,在院日数といった短期アウトカムは同等もしくは腹腔鏡下手術が良好であった。無病生存期間(disease‒free survival;DFS)やOS などの長期アウトカムも同様に,同等もしくは腹腔鏡下手術で良好であった。また,腫瘍学的に懸念される顕微鏡的切除断端陽性割合や腫瘍破裂に関しては,イベント数が少ないこともあるが手術アプローチの違いによる発生頻度の差を示唆する報告はなかった。ただし,メタアナリシス論文に含まれる症例の多くは腫瘍径が8 cm 以下であり,実臨床では8 cm を超える場合は開腹手術が選択されているようである。開腹手術を上回るメリットが得られない大きさのGIST には腹腔鏡下手術は推奨されない。

実臨床では,SMT は画像上発生臓器が特定できないこともある。また,本ガイドラインでは腫瘍径が5 cm を超えると組織型に関係なく手術適応となることも考慮し,本CQ はあえて臓器や組織型を限定しなかった。一方,システマティックレビューで抽出された論文をみると,ほとんどが対象疾患の臓器や組織型を限定しており,中でも胃GIST に限定した論文が68.7%(46/67 編)を占めた。しかし,5 cm 以上のSMT の中で胃GIST が最も頻度が高いこと,胃GIST 以外でも腹腔鏡下手術が開腹手術に劣るという結果がなかったことから,本CQ の対象を胃GIST に限定する必要はないと判断した。なお,術式については,消化管内腔を開放するか否か,内視鏡を併用するか否か,などの相違は,アウトカムに影響するか不明であり,ここでは区別しないこととした。

SMT に対する本邦の腹腔鏡下手術件数は年々増加しており,益と害のバランス,エビデンスの強さ,患者希望などを勘案し,推奨は「5 cm 以上の粘膜下腫瘍に対して,腹腔鏡(補助)下手術を行うことを弱く推奨する」とした。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 322 編(検索年代:全期間),Cochrane 21 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献1 編を追加して,計344 編がスクリーニング対象となった。RCT はなかった。2 回のスクリーニングを経て抽出された67 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Ye L, Wu X, Wu T, et al. Meta‒analysis of laparoscopic vs. open resection of gastric gastrointestinal stromal tumors. PLoS One. 2017;12:e0177193.
2)
Lian X, Feng F, Guo M, et al. Meta‒analysis comparing laparoscopic versus open resection for gastric gastrointestinal stromal tumors larger than 5 cm. BMC Cancer. 2017;17:760.
3)
Cui JX, Gao YH, Xi HQ, et al. Comparison between laparoscopic and open surgery for large gastrointestinal stromal tumors:A meta‒analysis. World J Gastrointest Oncol. 2018;10:48‒55.

外科
4(BQ)
外科切除が適応となるGIST に対して,臓器機能温存手術は推奨されるか

推奨の強さ1(強い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
外科切除が適応となるGIST に対して,臓器機能温存手術を行うことを強く推奨する
合意率:100%(17/17 名)

解説

GIST の手術において,系統的リンパ節郭清はその効果が不明なため,行うことは推奨されない。通常,腫瘍の切除断端を確保した消化管の局所切除が行われる。局所切除により消化管の通過障害をきたす可能性がある場合などを除き,臓器機能の温存に努めることが推奨される。

消化器外科における機能温存手術の具体的な定義はないため,ここでは全摘の回避,および再建することが難しい特定の機能を持つ部位(噴門,幽門,肛門など)を切除しない手術とする。特に,食道切除や膵頭十二指腸切除などの高い侵襲を伴う手術や,直腸切断術などの生活の質に大きな影響を与える手術を回避する意義は大きい。

システマティックレビューの対象となった15 論文のうち,十二指腸GIST に対する局所切除と膵頭十二指腸切除のアウトカムを比較した症例対照研究が7 編存在し1‒7),それらに対しメタアナリシスを行った。のべ232 例の局所切除,104 例の膵頭十二指腸切除を対象として解析を行った結果,局所切除は膵頭十二指腸切除に比べ,リスク比が0.51(95%CI:0.37‒0.70,p<0.0001)と有意に術後合併症が少なかった(図1)。

図1 十二指腸GIST に対する十二指腸局所切除と膵頭十二指腸切除の比較―術後合併症をアウトカムとしたメタアナリシス―

腫瘍学的に懸念される腫瘍破裂や切除断端陽性割合に関しては,症例数,イベント数ともに少ない中での検討となったが,臓器機能温存手術を選択したことによる明らかなリスク増加は示唆されなかった。

今後イマチニブによる術前補助療法が臨床導入されると,腫瘍縮小により機能温存手術の適応も変わる可能性がある。RCT がなく,エビデンスの強さはD(非常に弱い)となったが,益と害のバランス,患者希望などを勘案し,推奨は「外科切除が適応となるGIST に対して,臓器機能温存手術を行うことを強く推奨する」とした。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 242 編(検索年代:全期間),Cochrane 9 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献1 編を追加して,計252 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された15 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューおよびメタアナリシスを実施した。機能温存手術と非温存手術を比較したRCT は存在しなかった。

参考文献

1)
Chen P, Song T, Wang X, et al. Surgery for Duodenal Gastrointestinal Stromal Tumors:A Single‒Center Experience. Dig Dis Sci. 2017;62:3167‒76.
2)
Duffaud F, Meeus P, Bachet JB, et al. Conservative surgery vs. duodeneopancreatectomy in primary duodenal gastrointestinal stromal tumors(GIST):a retrospective review of 114 patients from the French sarcoma group(FSG). Eur J Surg Oncol. 2014;40:1369‒75.
3)
Liang X, Yu H, Zhu LH, et al. Gastrointestinal stromal tumors of the duodenum:surgical management and survival results. World J Gastroenterol. 2013;19:6000‒10.
4)
Bourgouin S, Hornez E, Guiramand J, et al. Duodenal gastrointestinal stromal tumors(GISTs):arguments for conservative surgery. J Gastrointest Surg. 2013;17:482‒7.
5)
Colombo C, Ronellenfitsch U, Yuxin Z, et al. Clinical, pathological and surgical characteristics of duodenal gastrointestinal stromal tumor and their influence on survival:a multi‒center study. Ann Surg Oncol. 2012;19:3361‒7.
6)
Beham A, Schaefer IM, Cameron S, et al. Duodenal GIST:a single center experience. Int J Colorectal Dis. 2013;28:581‒90.
7)
Tien YW, Lee CY, Huang CC, et al. Surgery for gastrointestinal stromal tumors of the duodenum. Ann Surg Oncol. 2010;17:109‒14.

外科
5(CQ)
大きなGIST や,不完全切除の可能性が高いと判断されるGIST に対して,イマチニブによる術前補助療法は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さC(弱)
腫瘍径が10 cm 以上のような大きなGIST や,不完全切除の可能性が高いと判断されるGIST に対して,イマチニブによる術前補助療法を行うことを弱く推奨する
合意率:100%(16/16 名)

※黒川委員はCOI のため,本CQ の投票には参加していない。

解説

イマチニブによる術前補助療法の有用性を検討したRCT は存在せず,既報の多くは術前補助療法を実施した症例における後ろ向き研究であり,OS,RFS への影響については現時点で明確なエビデンスは存在しない。一方で,腫瘍の縮小効果や完全切除率の向上を認めるという前向きの介入研究が存在しており,腫瘍径が10 cm 以上のような大きなGIST や,不完全切除,特に腫瘍破裂の可能性が高いと判断されるGIST に対して,イマチニブによる術前補助療法を行うことは弱く推奨される。ただし,胃以外のGIST に関してはエビデンスが乏しく,胃GIST のエビデンスを適応できるかどうかは不明である。

前向き介入研究として,単アームではあるものの日韓合同の多施設共同研究(第Ⅱ相臨床試験)の報告を認めた1)。その研究では,10 cm 以上の胃GIST を対象とし6~9 カ月のイマチニブによる術前補助療法を行った53 例を対象とし,R0 切除率を主要評価項目として検討された。過去の報告からこの集団の術前補助療法なしのR0 切除率が70%と見積もられているのに比して,本研究では91%(95%CI:79‒97%,p<0.001)と有意に高いR0 切除率を示した。また,本試験において,プロトコールに従った6 カ月以上のイマチニブによる術前補助療法は87%と高い完遂率を示し,その安全性も確認された。

イマチニブによる術前補助療法の投与期間について検討された後ろ向き検討では,最良効果を示した時期の中央値(四分位範囲)は28 週(18~37 週)であり,治療前と比較した腫瘍径の中央値(四分位範囲)は43%(31~48%)であった2)。先述の前向き介入研究の結果も踏まえ,術前のイマチニブ投与期間については,現時点では6 カ月以上が望ましいと考えられる。

なお,術前補助療法後の再発リスク分類評価の妥当性については定まっておらず,術後補助療法の適応規準についても今後の検討課題である。

その他,直腸GIST,十二指腸GIST に対してイマチニブによる術前補助療法を実施することで,機能温存手術を実施しえたといった旨の少数例の報告例は認めるもののいずれも後ろ向き研究であり,前向きの比較試験も皆無であることから機能温存面での有用性は不明である3‒5)

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 64 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 5 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献3 編を追加して,計72 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された17 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Kurokawa Y, Yang HK, Cho H, et al. Phase Ⅱ study of neoadjuvant imatinib in large gastrointestinal stromal tumours of the stomach. Br J Cancer. 2017;117:25‒32.
2)
Tirumani SH, Shinagare AB, Jagannathan JP, et al. Radiologic assessment of earliest, best, and plateau response of gastrointestinal stromal tumors to neoadjuvant imatinib prior to successful surgical resection. Eur J Surg Oncol. 2014;40:420‒7.
3)
Wilkinson MJ, Fitzgerald JE, Strauss DC, et al. Surgical treatment of gastrointestinal stromal tumour of the rectum in the era of imatinib. Br J Surg. 2015;102:965‒71.
4)
Kaneko M, Nozawa H, Emoto S, et al. Neoadjuvant Imatinib Therapy Followed by Intersphincteric Resection for Low Rectal Gastrointestinal Stromal Tumors. Anticancer Res. 2017;37:5155‒60.
5)
Crocetti D, Sapienza P, Cisano C, et al. Pancreas preserving surgery for duodenal gastrointestinal stromal tumor removal. Minerva Chir. 2016;71:281‒5.

外科
6(CQ)
術前もしくは術中に腫瘍破裂が確認されたGIST に対して,イマチニブによる術後補助療法は有用か

推奨の強さ1(強い)
エビデンスの強さB(中)
術前もしくは術中に腫瘍破裂が確認されたGIST に対して,イマチニブによる術後補助療法を行うことを強く推奨する
合意率:100%(17/17 名)

解説

腫瘍破裂を伴うGIST はいくつかの後ろ向き研究によりその予後が極めて不良であることが報告されてきた1‒3)。その結果,術後の再発予測として用いられる再発リスク分類(modified Fletcher 分類)において独立した予後規定因子として取り上げられ,単独で高リスクと定義された4)。高リスク群に対して,イマチニブによる術後補助療法を行うことは強く推奨される。

システマティックレビューにおいては,腫瘍破裂を認める患者のみを標的とした報告は認めなかった。しかし,高リスク群を対象に術後1 年間と3 年間のイマチニブによる術後補助療法を比較したRCT であるSSGⅩⅧ試験の中で,腫瘍破裂を認めた症例が1 年群で35 例,3 年群で44 例含まれていた。その比較検討では,3 年群のRFS のハザード比は0.47(95%CI:0.25‒0.89,p=0.02)であり,3 年間のイマチニブによる術後補助療法の有用性を認めるといった結果であった5)

その他にも3 編のRCT が存在し6‒8),同様に中~高リスク群に対する術後補助療法の有用性を検討した結果が報告された。腫瘍破裂を認めた患者に対するサブグループ解析の結果では,2 編で術後補助療法の有用性が示され,残り1 編でも有用な傾向を認めた。

しかし,腫瘍破裂を伴うGIST に対し,術後補助療法終了後の長期成績については明らかになっていない。高リスク群の中でもさらに再発リスクが高いと想定される腫瘍破裂を伴うGIST に対する術後補助療法の至適期間については,さらなる検討の必要がある。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 582 編(検索年代:全期間),Cochrane 36 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献2 編を追加して,計620 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出され19 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Takahashi T, Nakajima K, Nishitani A, et al. An enhanced risk‒group stratification system for more practical prognostication of clinically malignant gastrointestinal stromal tumors. Int J Clin Oncol. 2007;12:369‒74.
2)
Rutkowski P, Bylina E, Wozniak A, et al. Validation of the Joensuu risk criteria for primary resectable gastrointestinal stromal tumour‒the impact of tumour rupture on patient outcomes. Eur J Surg Oncol. 2011;37:890‒6.
3)
Hølmebakk T, Hompland I, Bjerkehagen B, et al. Recurrence‒Free Survival After Resection of Gastric Gastrointestinal Stromal Tumors Classified According to a Strict Definition of Tumor Rupture:A Population‒Based Study. Ann Surg Oncol. 2018;25:1133‒9.
4)
Joensuu H, Vehtari A, Riihimaki J, et al. Risk of recurrence of gastrointestinal stromal tumour after surgery:an analysis of pooled population‒based cohorts. Lancet Oncol. 2012;13:265‒74.
5)
Joensuu H, Eriksson M, Sundby Hall K, et al. One vs three years of adjuvant imatinib for operable gastrointestinal stromal tumor:a randomized trial. JAMA. 2012;307:1265‒72.
6)
Casali PG, Le Cesne A, Poveda Velasco A, et al. Time to Definitive Failure to the First Tyrosine Kinase Inhibitor in Localized GI Stromal Tumors Treated With Imatinib As an Adjuvant:A European Organisation for Research and Treatment of Cancer Soft Tissue and Bone Sarcoma Group Intergroup Randomized Trial in Collaboration With the Australasian Gastro‒Intestinal Trials Group, UNICANCER, French Sarcoma Group, Italian Sarcoma Group, and Spanish Group for Research on Sarcomas. J Clin Oncol. 2015;33:4276‒83.
7)
Hølmebakk T, Hompland I, Bjerkehagen B, et al. Recurrence‒Free Survival After Resection of Gastric Gastrointestinal Stromal Tumors Classified According to a Strict Definition of Tumor Rupture:A Population‒Based Study. Ann Surg Oncol. 2018;25:1133‒9.
8)
McCarter MD, Antonescu CR, Ballman KV, et al;American College of Surgeons Oncology Group(ACOSOG)Intergroup Adjuvant Gist Study Team. Microscopically positive margins for primary gastrointestinal stromal tumors:analysis of risk factors and tumor recurrence. J Am Coll Surg. 2012; 215:53‒9.

外科
7(BQ)
完全切除後の GISTに対して,定期フォローは有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
完全切除後のGIST に対して,定期フォローを行うことを弱く推奨する
合意率:94.1%(16/17 名)

解説

完全切除後のGIST 患者において,定期フォローの有無による介入試験はなく,定期フォローが患者生存やQOL を改善するか否かについては評価不能であった。各国からのガイドラインはいずれも完全切除後の定期フォローを推奨しているものの,いずれも専門家のコンセンサスに基づくものであった1,2)

定期フォローによる再発の早期発見と患者予後の関連を調べた症例研究では,前向き登録された233 名の初発GIST 患者のうち,術後再発を生じた94 名の再発後PFS と疾患特異的生存が分析された。その多変量解析では発見時無症状と少ない腫瘍量(3 個以下の肝転移,単発ないしは転移腫瘍径の総和が10 cm 以下の腹膜転移)が有意な予後良好因子であった3)。また,転移性GIST に対してイマチニブ治療を行った818 名を分析した研究では,最大転移巣の長径が12 cm 未満の患者は12 cm 以上の患者に比べて無増悪期間(time to progression;TTP)が有意に長かった4)。これらの研究は再発の早期診断が患者の生存期間を延長する可能性を示唆していると思われるが,リードタイムバイアスの影響を否定できず,いずれもエビデンスレベルは低いと評価された。

至適なフォロー間隔や観察期間については定まったものはない。本邦における712 名からなる後ろ向きコホート研究では,高リスクGIST 患者の5 年無再発生存率は約60%であるのに対し,中リスクGIST では約90%,低リスクGIST では95%以上と報告されている5)。また,術後補助療法に関するRCT(SSGXVIII/AIO 試験)のデータをもとに再発時期を分析した研究では,再発ハザードは術後補助療法の終了後,半年から1 年くらいに上昇したと報告されている6)。このように定期フォローの重要度はGIST 患者で一様ではない。再発リスクや術後経過年数,補助療法の有無に応じて,フォローの内容や間隔を考慮する必要がある。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 342 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 42 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献1 編を追加して,計385 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された24 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Nishida T, Blay JY, Hirota S, et al. The standard diagnosis, treatment, and follow‒up of gastrointestinal stromal tumors based on guidelines. Gastric Cancer. 2016;19:3‒14.
2)
Joensuu H, Martin‒Broto J, Nishida T, et al. Follow‒up strategies for patients with gastrointestinal stromal tumour treated with or without adjuvant imatinib after surgery. Eur J Cancer. 2015;51:1611‒7.
3)
D’Ambrosio L, Palesandro E, Boccone P, et al. Impact of a risk‒based follow‒up in patients affected by gastrointestinal stromal tumour. Eur J Cancer. 2017;78:122‒32.
4)
Van Glabbeke M, Verweij J, Casali PG, et al. Initial and late resistance to imatinib in advanced gastrointestinal stromal tumors are predicted by different prognostic factors:a European Organisation for Research and Treatment of Cancer‒Italian Sarcoma Group‒Australian Gastrointestinal Trials Group study. J Clin Oncol. 2005;23:5795‒804.
5)
Yanagimoto Y, Takahashi T, Muguruma K, et al. Re‒appraisal of risk classifications for primary gastrointestinal stromal tumors(GISTs)after complete resection:indications for adjuvant therapy. Gastric Cancer. 2015;18:426‒33.
6)
Joensuu H, Reichardt P, Eriksson M, et al. Gastrointestinal stromal tumor:a method for optimizing the timing of CT scans in the follow‒up of cancer patients. Radiology. 2014;271:96‒103.

外科
8(CQ)
転移性 GISTに対して,初回治療としての外科切除は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
転移性GIST に対して,初回治療としての外科切除を行わないことを弱く推奨する
合意率:94.1%(16/17 名)

解説

大腸癌などでは肝転移切除の予後改善効果が示されていることから本CQ が設定された。

転移性GIST の外科切除に関する研究はいくつかあるものの,本CQ に合致する外科切除を先行して行った症例を対象にした研究報告は5 編のみで,前向きコホート研究1 編と後ろ向き症例集積研究4 編であった。

前向きコホート研究は本邦からの多施設共同研究で,3 個以下の肝転移を有するGIST 患者が登録され,外科切除(術後イマチニブなし)とイマチニブ治療が選ばれた患者群において,それぞれRFS,PFS が追跡された。観察期間中の死亡例はなかったものの,外科切除群のRFS の中央値は145 日と短く(3 年無再発生存率16.7%),外科切除の有用性は示されなかった1)

4 編の後ろ向き症例集積研究では,全ての研究において対象患者の多くで外科切除後のイマチニブ治療が追加されていた2‒5)。切除可能な再発GIST において外科切除を先行して実施した24 名と手術を行わなかった6 名を比較した研究では外科切除群で有意にOS が良好であった2)。一方,肝切除後にチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor;TKI)を投与した23 名とTKI 治療単独の98 名を比べた別の研究ではOS に統計学的に有意な違いは認められなかった3)。また,転移・再発巣の外科切除を行った76 名のGIST 患者の解析では,イマチニブ治療を先行して行った22 名と手術後にイマチニブ治療を行った54 名のPFS,OS はともに統計学的に有意な違いは見られなかった4)。これら後ろ向き症例集積研究は患者背景の違いによる選択バイアスを排除できず,症例数も少ないことからエビデンスとしては非常に弱い内容であった。

外科切除とTKI 治療を組み合わせることで,転移性GIST 患者の生存期間を延長させる可能性は残るものの,先行して外科切除を行う有用性を支持するエビデンスは乏しく,上記推奨となった。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 347 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 67 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献1 編を追加して,計415 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された13 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Kanda T, Masuzawa T, Hirai T, et al. Surgery and imatinib therapy for liver oligometastasis of GIST: a study of Japanese Study Group on GIST. Jpn J Clin Oncol. 2017;47:369‒72.
2)
Tan GH, Wong JS, Quek R, et al. Role of upfront surgery for recurrent gastrointestinal stromal tumours. ANZ J Surg. 2016;86:910‒5.
3)
Shi YN, Li Y, Wang LP, et al. Gastrointestinal stromal tumor(GIST)with liver metastases:An 18‒year experience from the GIST cooperation group in North China. Medicine(Baltimore). 2017;96:e8240.
4)
Chang SC, Liao CH, Wang SY, et al. Feasibility and timing of cytoreduction surgery in advanced(metastatic or recurrent)gastrointestinal stromal tumors during the era of imatinib. Medicine(Baltimore). 2015;94:e1014.
5)
Bischof DA, Kim Y, Blazer DG 3rd, et al. Surgical management of advanced gastrointestinal stromal tumors:an international multi‒institutional analysis of 158 patients. J Am Coll Surg. 2014;219:439‒49.

外科
9(CQ)
イマチニブ奏効中の転移・再発 GISTに対して,外科切除は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
イマチニブ奏効中の転移・再発GIST に対して,外科切除を行わないことを弱く推奨する
合意率:94.1%(16/17 名)

解説

転移・再発GIST に対するイマチニブは約80%の症例に有効性を示すが,B2222 試験の結果によると,投与開始から2 年以内に約半数で二次耐性が生じる1)。そこで,主に耐性病変出現の回避を目的として,イマチニブ奏効中に外科切除が行われることがあるが,その有用性は明らかではない。このため,本CQ が設定された。

本CQ に合致するRCT は1 編のみであるが,患者の登録が進行せず早期終了となった。登録症例数は41 例にとどまり,手術+イマチニブ群19 例と,イマチニブ群21 例で検討された。観察期間中央値は23 カ月,2 年無増悪生存率は手術+イマチニブ群が88.4%,イマチニブ単独群が57.7%で統計学的な有意差はなかったが(p=0.089),OS 中央値は手術+イマチニブ群が到達せず,イマチニブ単独群が49 カ月で,手術+イマチニブ群が有意に良好であった(p=0.024)2)。イマチニブ奏効中に手術を行った患者とイマチニブを継続した患者を比較した観察研究は3 編の後ろ向き研究のみで,それぞれ12 例と38 例,42 例と92 例,27 例と144 例の手術群と手術なし群を比較検討し,1 編でRFS,2 編でOS が手術群において有意に良好であった3‒5)。しかし,これらの観察研究は患者背景のバイアスが非常に大きく,症例数も少ないためエビデンスとしては非常に弱い内容であった。

また,イマチニブ奏効中の転移・再発GIST に対して,外科切除を実施する意義がある症例は少なからず存在すると思われるものの,現時点では外科切除の有用性を示す十分なエビデンスは得られていない。本治療は高度な経験を有するGIST や肉腫の専門施設において行うことが望ましい試験的な治療であることから,専門家のコンセンサスとして「行わないことを弱く推奨する」とした。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 161 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 22 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献4 編を追加して,計187 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された25 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Demetri GD, von Mehren M, Blanke CD, et al. Efficacy and safety of imatinib mesylate in advanced gastrointestinal stromal tumors. N Engl J Med. 2002;347:472‒80.
2)
Du CY, Zhou Y, Song C, et al. Is there a role of surgery in patients with recurrent or metastatic gastrointestinal stromal tumours responding to imatinib:a prospective randomised trial in China. Eur J Cancer. 2014;50:1772‒8.
3)
Bauer S, Hartmann JT, de Wit M, et al. Resection of residual disease in patients with metastatic gastrointestinal stromal tumors responding to treatment with imatinib. Int J Cancer. 2005;117:316‒25.
4)
Park SJ, Ryu MH, Ryoo BY, et al. The role of surgical resection following imatinib treatment in patients with recurrent or metastatic gastrointestinal stromal tumors:results of propensity score analyses. Ann Surg Oncol. 2014;21:4211‒7.
5)
Rubió‒Casadevall J, Martinez‒Trufero J, Garcia‒Albeniz X, et al;Spanish Group for Research on Sarcoma(GEIS). Role of surgery in patients with recurrent, metastatic, or unresectable locally advanced gastrointestinal stromal tumors sensitive to imatinib:a retrospective analysis of the Spanish Group for Research on Sarcoma(GEIS). Ann Surg Oncol. 2015;22:2948‒57.

外科
10(CQ)
薬剤耐性の転移・再発 GISTに対して,外科切除は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
薬剤耐性の転移・再発GIST に対して,外科切除を行わないことを弱く推奨する
合意率:100%(17/17 名)

解説

転移・再発GIST はチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor;TKI)単独では治癒に至らず,薬剤耐性獲得により治療に難渋することもある。そこで,主に耐性病変の完全切除を目的として外科切除が行われることがあるが,その有用性は明らかではない。このため,本CQ が設定された。

本CQ に合致するRCT はなく,後ろ向き観察研究のみであった。イマチニブ部分耐性に対して外科切除の有無を比較した研究は1 編のみであり,外科切除を行った38 例と非切除19 例が比較検討され,PFS, OS ともに外科切除群で有意に良好であった1)。イマチニブ部分耐性と全身耐性に対する外科切除後の長期成績に関する報告はそれぞれ4 編と2 編で,術後PFS とOS はいずれも全身耐性に比べ部分耐性で良好であった2‒5)。スニチニブ部分耐性に対して外科切除の有無を比較した研究は1 編のみであり,外科切除を行った26 例と非切除43 例が比較検討され,PFS, OS ともに外科切除群で有意に良好であった6)。スニチニブ耐性に対する外科切除後の長期成績に関する報告は2 編で,外科切除時のスニチニブ治療効果とPFS やOS に相関を認めなかった5,7)。これらの観察研究は患者背景のバイアスが非常に大きく,症例数も少ないためエビデンスとしては非常に弱い内容であった。

薬剤耐性の転移・再発GIST に対して,外科切除を実施する意義がある症例は少なからず存在すると思われるものの,現時点では外科切除の有用性を示す十分なエビデンスは得られていない。本治療は高度な経験を有するGIST や肉腫の専門施設において行うことが望ましい試験的な治療であることから,専門家のコンセンサスとして「行わないことを弱く推奨する」とした。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 209 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 15 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献2 編を追加して,計126 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された12 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。イマチニブ耐性GIST に関する報告が8 編,スニチニブ耐性GIST に関する報告が3 編,レゴラフェニブ耐性GIST に関する報告は0 編であった。

参考文献

1)
Gao X, Xue A, Fang Y, et al. Role of surgery in patients with focally progressive gastrointestinal stromal tumors resistant to imatinib. Sci Rep. 2016;6:22840.
2)
Hasegawa J, Kanda T, Hirota S, et al. Surgical interventions for focal progression of advanced gastrointestinal stromal tumors during imatinib therapy. Int J Clin Oncol. 2007;12:212‒7.
3)
Mussi C, Ronellenfitsch U, Jakob J, et al. Post‒imatinib surgery in advanced/metastatic GIST:is it worthwhile in all patients? Ann Oncol. 2010;21:403‒8.
4)
Kanda T, Ishikawa T, Kosugi SI, et al. Prognostic factors after imatinib secondary resistance:survival analysis in patients with unresectable and metastatic gastrointestinal stromal tumors. Int J Clin Oncol. 2016;21:295‒301.
5)
Fairweather M, Balachandran VP, Li GZ, et al. Cytoreductive Surgery for Metastatic Gastrointestinal Stromal Tumors Treated With Tyrosine Kinase Inhibitors:A 2‒institutional Analysis. Ann Surg. 2018;268:296‒302.
6)
Yeh CN, Wang SY, Tsai CY, et al. Surgical management of patients with progressing metastatic gastrointestinal stromal tumors receiving sunitinib treatment:A prospective cohort study. Int J Surg. 2017; 39:30‒6.
7)
Raut CP, Wang Q, Manola J, et al. Cytoreductive surgery in patients with metastatic gastrointestinal stromal tumor treated with sunitinib malate. Ann Surg Oncol. 2010;17:407‒15.

内科治療領域

1 総論

1 転移・再発GIST の治療

(1)GIST の薬物治療(一次治療)

転移や局所進行のため切除不能であれば,内科治療が第一選択となる。病理組織学的にGIST の確定診断(アルゴリズム123)が得られていることを確認し,主要臓器機能が温存されていれば,食後に1 回イマチニブ400 mg/日の連日投与を行う(内科1(CQ))。イマチニブ治療中は一般的ながん薬物治療と同様に,定期的な問診,採血および画像診断(画像4(CQ))による経過観察を行い,可能な限りイマチニブ治療を継続する(内科2(BQ))。重篤な有害事象が確認された場合は,休薬または300 mg/日までの減量を行うが,減量しても重篤な有害事象が出現したり,明らかな腫瘍増大が確認されたりした場合はイマチニブ治療を中止する。イマチニブの血中濃度測定は,イマチニブの増量や減量の判断材料となりうるが,用法・用量の変更には総合的な判断が必要である(内科3(CQ))。腫瘍の体細胞変異とイマチニブ治療のPFS との関連を示唆する後ろ向き研究はあるものの,遺伝子変異によりイマチニブを含む薬剤選択を支持する報告はなく(内科12(CQ)),遺伝子変異に関わらずイマチニブ,スニチニブ,レゴラフェニブ,ピミテスピブ2023 年度2 月部分改訂の順で投与すべきである。

(2)イマチニブ耐性に対する薬物治療(二次治療以降)

イマチニブ耐性に対しては,スニチニブ治療が推奨される(内科6(BQ))。スニチニブはECOG performance status 0 または1 の全身状態が良好な患者に有効性が示されており,標準用法・用量は50 mg/日の4 週投与,2 週休薬である。有害事象に応じて37.5 mg/日,25 mg/日に減量するが,25 mg/日未満への減量については有効性が不明である。標準用法・用量に不耐の場合,減量以外に用法変更も選択肢となる(内科11(CQ))。スニチニブは手足皮膚反応,高血圧,倦怠感,甲状腺機能低下,蛋白尿や骨髄抑制など多彩な有害事象が生じうることに注意が必要である1)。イマチニブ同様,定期的な経過観察と画像検査を行い,耐えられない有害事象あるいは明らかな増大を認めればスニチニブ治療を中止する。

イマチニブ400 mg/日の耐性例に対するイマチニブ増量は,本邦では保険適用されていないことに留意する。スニチニブと直接比較したデータはないものの増量によるPFS の改善や一部の遺伝子変異例に対して治療効果が報告されており,増量が選択肢となっている国もある(内科4(CQ))。

スニチニブ耐性に対してはレゴラフェニブ治療が推奨される(内科7(BQ))。標準用量は160 mg/日で,3 週投与,1 週休薬である。スニチニブ同様,全身状態良好な患者が対象であり,投与中は定期的な経過観察が必要である。有害事象もスニチニブと類似しているが,重篤な肝障害のリスクに注意が必要である。投与開始から8 週間は定期的(1 回/週)に肝機能検査を実施する。標準用法・用量で重篤な有害事象が出現した場合は,80 mg/日までを下限として減量するが,減量以外に用法変更も選択肢となりうる(内科11(CQ))。

レゴラフェニブ耐性に対してはピミテスピブ治療が推奨される(内科13(CQ))。標準用量は160 mg/日で,5 日投与,2 日休薬である。他の薬剤と同様に全身状態の良好な患者が対象であり,投与中は定期的な経過観察が必要である。有害事象としては下痢や眼症状が特徴的であり,臨床試験の結果などを参照し休薬・減量など適切な対応が必要である。 2023 年度2 月部分改訂

レゴラフェニブやピミテスピブ2023 年度2 月部分改訂耐性に対するチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor;TKI)の再投与については,個々の症例で投与の益が害を上回ると期待できれば投与を考慮する(内科8(CQ))。

(3)その他の治療

転移病変に対する局所治療として切除(外科10(CQ)),放射線治療(内科9(CQ)),肝病変に対する肝動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization;TAE)やRFA(内科10(CQ))などが治療の候補となりうる(アルゴリズム8)。これらの局所治療が生存期間の延長を示す研究はなく,個々の患者に最適な治療を選択する必要がある。スニチニブ,レゴラフェニブ耐性例に対する用法および用量の変更,TKI と局所療法の組み合わせやc‒kit・PDGFRA 遺伝子以外の異常により発生するGIST の治療については十分なエビデンスは存在していない。分析学的妥当性が確立されたNGS 検査等により,包括的なゲノムプロファイルを取得し治療を検討することも選択肢となるため,症例毎に肉腫治療の専門家を含めたカンファランスやGIST や肉腫の専門施設へのコンサルト・紹介などの柔軟な対応が求められる。

2 術後補助療法

完全切除されたGIST で腫瘍径が大きい,核分裂像数が多い,あるいは腫瘍破裂を認める場合は,再発する可能性が高くなる。これら再発高リスクGIST(病理5(BQ))に対して,3 年間のイマチニブ治療がRFS とOS において1 年間を上回ることを示す比較試験が存在する。現時点では再発高リスクGIST に対する3 年間のイマチニブ治療が標準となっている(内科5—1(BQ))。さらに3 年を超えるイマチニブの有用性は示されておらず,今後の研究が待たれるところである(内科5—2(CQ))。スニチニブ,レゴラフェニブは術後補助療法としての有効性は示されていない。

参考文献

1)
Demetri GD, van Oosterom AT, Garrett CR, et al. Efficacy and safety of sunitinib in patients with advanced gastrointestinal stromal tumour after failure of imatinib:a randomised controlled trial. Lancet. 2006;368:1329‒38.

2 CQ

内科
1(CQ)
標準用量開始が可能な転移・再発GIST に対して,イマチニブの標準用量開始と比べて低用量開始は有用か

推奨の強さ1(強い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
標準用量開始が可能な転移・再発GIST に対して,イマチニブの低用量開始を行わないことを強く推奨する
合意率:92.9%(13/14 名)

解説

イマチニブの標準用量(400 mg/日)開始が可能な症例に対する低用量開始の有効性を示す研究報告が存在しなかったため,低用量開始を示唆するエビデンスはない。転移・再発GIST に対するイマチニブの有用性を示す臨床試験は,標準用量あるいは高用量(600 mg/日)で開始されていること,イマチニブの添付文書に「通常,成人にはイマチニブとして1 日1 回400 mg を食後に経口投与」と示されていることから,標準用量可能な症例に対する低用量開始は妥当ではないとのコンセンサスが得られた。この推奨は標準用量開始が可能な症例が対象であり,全身状態や主要臓器機能などにより標準用量開始が不適切と判断される患者や,有害事象により標準用量が困難な場合は,安全性を考慮して減量を積極的に検討する必要がある。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 30 編(検索年代:全期間),Cochrane 5 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計35 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された文献はなく,定性的システマティックレビューを実施しなかった。

内科
2(BQ)
転移・再発GIST に対して,チロシンキナーゼ阻害薬が有効性を示した場合,治療中断は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さC(弱)
転移・再発GIST に対して,チロシンキナーゼ阻害薬が有効性を示した場合,治療中断を行わないことを弱く推奨する
合意率:88.2%(15/17 名)

解説

転移・再発GIST に対して,イマチニブが有効性を示した場合に治療中断を検討したRCT は2 編あり,いずれもイマチニブの中断によりPFS の悪化がみられている1,2)。OS については統計学的に有意差はみられていない。いずれも小規模(50 例前後)な試験であり,有害事象の違いについても比較検証はされていない。QOL については1 編のRCT で記載され有意差はみられない1)。以上より,益と害のバランスは害が勝ると考えられたが,小規模なRCT によるためエビデンスの強さは弱く,「治療中断を行わないことを弱く推奨する」とした。患者の嗜好については毒性とのバランスでばらつく可能性がある。イマチニブ以外のチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor;TKI)についてRCT は報告されていない。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 102 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 50 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,これにハンドサーチ文献3 編を追加して,計155 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された7 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Blay JY, Le Cesne A, Ray‒Coquard I, et al. Prospective multicentric randomized phase Ⅲ study of imatinib in patients with advanced gastrointestinal stromal tumors comparing interruption versus continuation of treatment beyond 1 year:the French Sarcoma Group. J Clin Oncol. 2007;25:1107‒13.
2)
Le Cesne A, Ray‒Coquard I, Bui BN, et al;French Sarcoma Group. Discontinuation of imatinib in patients with advanced gastrointestinal stromal tumours after 3 years of treatment:an open‒label multicentre randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2010;11:942‒9.

内科
3(CQ)
転移・再発 GISTに対して,イマチニブの血中濃度測定は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
転移・再発GIST に対して,イマチニブの血中濃度測定を行うことを弱く推奨する
合意率:87.5%(14/16 名)

解説

転移・再発GIST に対するイマチニブの血中濃度測定の有用性を示すエビデンスは得られていない。一方,実臨床の場において血中濃度測定は,イマチニブ減量後の増量,薬物コンプライアンスの確認,イマチニブ200 mg/日以下への減量などの限られた状況において,臨床判断の一助となりうる。さらに術後補助療法においては,薬剤効果を判断する病変が存在しないため,イマチニブ治療の継続あるいは中止,投与量の変更の判断に資する場合がある。転移・再発GIST 全例に有用とは言い難い反面,上述のような場面では有用な場合もあることから,血中濃度測定を行うことを弱く推奨するとの判断となった。

血中濃度測定の結果のみで臨床判断を行い得るほど絶対的なものではないことから,総合的な臨床判断の一つの材料として利用されるべきであることに注意が必要である。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 22 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 23 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計45 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された12 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

内科
4(CQ)
イマチニブ400 mg/日投与中に増悪した転移・再発GIST に対して,投与量増加は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
イマチニブ400 mg/日投与中に増悪した転移・再発GIST に対して,投与量増加を行わないことを弱く推奨する
合意率:94.1%(16/17 名)

解説

イマチニブ400 mg/日投与中に増悪した転移・再発GIST に対して,投与量増加の有用性を検討したRCT はなく,スニチニブと比較した症例対照研究とシステマティックレビュー論文について検討を行った1‒4)。イマチニブの増量はスニチニブと比べPFS では劣り,OS には差がみられなかった。毒性のプロファイルには違いがみられた。益と害のバランスは,スニチニブと比べPFS が劣ることから害が勝ると考えられた。症例対照研究のみであり,エビデンスの強さは非常に弱く,イマチニブ400 mg/日投与中に増悪した転移・再発GIST に対してイマチニブの投与量増加を行わないことを弱く推奨するとした。しかし,イマチニブ投与量増加後にスニチニブを使用する場合と,最初からスニチニブへ切り替える場合についての比較はなされていないことに注意が必要である。本邦ではイマチニブ400 mg/日を超える用量での使用はGIST に対して保険適用外であるが,c‒kit 遺伝子exon 9 変異陽性の場合,イマチニブ800 mg/日の有効性も報告されており5),海外のガイドラインでは推奨されている6)

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 76 編(検索年代:2013 年以降),Cochrane 29 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計105 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された16 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Hislop J, Mowatt G, Sharma P, et al. Systematic review of escalated imatinib doses compared with sunitinib or best supportive care, for the treatment of people with unresectable/metastatic gastrointestinal stromal tumours whose disease has progressed on the standard imatinib dose. J Gastrointest Cancer. 2012;43:168‒76.
2)
Hislop J, Quayyum Z, Elders A, et al. Clinical effectiveness and cost‒effectiveness of imatinib dose escalation for the treatment of unresectable and/or metastatic gastrointestinal stromal tumours that have progressed on treatment at a dose of 400 mg/day:a systematic review and economic evaluation. Health Technol Assess. 2011;15:1‒178.
3)
Vincenzi B, Nannini M, Fumagalli E, et al. Imatinib dose escalation versus sunitinib as a second line treatment in KIT exon 11 mutated GIST:a retrospective analysis. Oncotarget. 2016;7:69412‒9.
4)
Dong Z, Gao J, Gong J, et al. Clinical benefit of sunitinib in gastrointestinal stromal tumors with different exon 11 mutation genotypes. Future Oncol. 2017;13:2035‒43.
5)
Gastrointestinal Stromal Tumor Meta‒Analysis Group(MetaGIST). Comparison of two doses of imatinib for the treatment of unresectable or metastatic gastrointestinal stromal tumors:a meta‒analysis of 1,640 patients. J Clin Oncol. 2010;28:1247‒53.
6)
Casali PG, Abecassis N, Aro HT, et al;ESMO Guidelines Committee and EURACAN. Gastrointestinal stromal tumours:ESMO‒EURACAN Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow‒up. Ann Oncol. 2018;29(Suppl 4):iv267.

内科
5-1(BQ)
再発高リスクまたは腫瘍破裂GIST に対して,完全切除後3 年間のイマチニブによる術後補助療法は有用か

推奨の強さ1(強い)
エビデンスの強さB(中)
再発高リスクまたは腫瘍破裂GIST に対して,完全切除後3 年間のイマチニブによる術後補助療法を行うことを強く推奨する
合意率:100%(17/17 名)

解説

再発高リスク(modified Fletcher 分類,リスク分類については病理5(BQ)を参照)GIST を対象として完全切除後3 年間のイマチニブと1 年間のイマチニブを比較した良質なRCT が1 編あり,RFS,OS の有意な改善が認められた1,2)。長期の経過観察でもRFS,OS の改善は維持されていた。3 年間のイマチニブによりGrade 3 以上の有害事象は増加した。良質なRCT 1 編によるためエビデンスの強さは中,益と害のバランスは益が勝ると考えられ,強く推奨するとした。患者の嗜好についても一貫していると考えられる。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 435 編(検索年代:全期間,Cochrane 65 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計500 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された43 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Joensuu H, Eriksson M, Sundby Hall K, et al. One vs three years of adjuvant imatinib for operable gastrointestinal stromal tumor:a randomized trial. JAMA. 2012;307:1265‒72.
2)
Joensuu H, Eriksson M, Sundby Hall K, et al. Adjuvant Imatinib for High‒Risk GI Stromal Tumor: Analysis of a Randomized Trial. J Clin Oncol. 2016;34:244‒50.

内科
5-2(CQ)
再発高リスクまたは腫瘍破裂GIST に対して,完全切除後3 年間を超えるイマチニブによる術後補助療法は有用か

推奨の強さNot Graded
エビデンスの強さD(非常に弱い)
推奨なし
合意率:―(2 回投票を行ったが合意形成に至らなかった)

解説

再発高リスクまたは腫瘍破裂GIST に対して,完全切除後3 年間を超えるイマチニブによる術後補助療法を検討したRCT は報告されておらず,観察研究が1 編あるのみであった1)。イマチニブの服用期間1 年,1~3 年,3~5 年,5 年超での群間比較ではあるが,3 年間を超えるイマチニブでOS,PFS の改善傾向が認められた。有害事象は報告されていない。エビデンスレベルは非常に弱く,益と害のバランスも評価が困難であり,2 回投票を行ったが合意形成に至らず,現時点では完全切除後3 年間を超えるイマチニブによる術後補助療法を行うことも行わないことも推奨をつけることができなかった。現在3 年を超えるイマチニブの意義を検討するRCT が進行中であり2),その結果が待たれる。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 435 編(検索年代:全期間,Cochrane 65 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計500 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された43 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Lin JX, Chen QF, Zheng CH, et al. Is 3‒years duration of adjuvant imatinib mesylate treatment sufficient for patients with high‒risk gastrointestinal stromal tumor? A study based on long‒term follow‒up. J Cancer Res Clin Oncol. 2017;143:727‒34.
2)
Casali PG, Abecassis N, Aro HT, et al;ESMO Guidelines Committee and EURACAN. Gastrointestinal stromal tumours:ESMO‒EURACAN Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow‒up. Ann Oncol. 2018;29(Suppl 4):iv267.

内科
6(BQ)
イマチニブ不耐・不応の転移・再発GIST に対して,スニチニブは有用か

推奨の強さ1(強い)
エビデンスの強さB(中)
イマチニブ不耐・不応の転移・再発GIST に対して,スニチニブの使用を強く推奨する
合意率:100%(17/17 名)

解説

イマチニブ不耐・不応の転移・再発GIST に対して,スニチニブとプラセボを比較した良質なRCT が1 編あり,time to tumor progression は有意にスニチニブで改善したが,OS には有意差はみられなかった1)。プラセボ群ではスニチニブへのクロスオーバーが認められていたため,rank preserving structural failure time(RPSFT)分析を用いて解析するとスニチニブによるOS の改善傾向が認められた2)。毒性はスニチニブで増加した。良質なRCT1 編によるためエビデンスの強さは中,益と害のバランスは益が勝ると考えられ,強く推奨するとした。患者の嗜好についても一貫していると考えられる。

なお,推奨文には記載していないが,イマチニブ不応のGIST に対して二次治療でのパゾパニブ3),レゴラフェニブ4)の有効性も報告されている(保険適用外)。イマチニブ不応のGIST にはc‒kit 遺伝子変異を有さないものも存在し,例えばPDGFRA D842V 変異はイマチニブ耐性として知られているが,avapritinib の有効性が報告され5),海外では承認されている(本邦未承認)。標準治療に不耐・不応あるいはc‒kit 遺伝子変異やPDGFRA 遺伝子変異を有しない場合は,分析学的妥当性が確立されたNGS 検査等により,包括的なゲノムプロファイル取得を検討する。NTRK 融合遺伝子を認めれば,エヌトレクチニブ6)やラロトレクチニブ7)の有効性が期待される。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 196 編(検索年代:全期間),Cochrane 35 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計231 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された23 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Demetri GD, van Oosterom AT, Garrett CR, et al. Efficacy and safety of sunitinib in patients with advanced gastrointestinal stromal tumour after failure of imatinib:a randomised controlled trial. Lancet. 2006;368:1329‒38.
2)
Demetri GD, Garrett CR, Schöffski P, et al. Complete longitudinal analyses of the randomized, placebo‒controlled, phase Ⅲ trial of sunitinib in patients with gastrointestinal stromal tumor following imatinib failure. Clin Cancer Res. 2012;18:3170‒9.
3)
Mir O, Cropet C, Toulmonde M, et al;PAZOGIST study group of the French Sarcoma Groupe‒Grouped’Etude des Tumeurs Osseuses(GSF‒GETO). Pazopanib plus best supportive care versus best supportive care alone in advanced gastrointestinal stromal tumours resistant to imatinib and sunitinib(PAZOGIST):a randomised, multicentre, open‒label phase 2 trial. Lancet Oncol. 2016;17:632‒41.
4)
Naito Y, Doi T, Takahashi T, et al. Regorafenib as second line therapy for imatinib‒resistant gastrointestinal stromal tumor(GIST):A phase Ⅱ study. Ann Oncol. 2019;30(Suppl 6):vi88.
5)
Heinrich MC, Jones RL, von Mehren M, et al. Avapritinib in advanced PDGFRA D842V‒mutant gastrointestinal stromal tumour(NAVIGATOR):a multicentre, open‒label, phase 1 trial. Lancet Oncol. 2020;21:935‒46. Erratum in:Lancet Oncol. 2020;21:e418.
6)
Doebele RC, Drilon A, Paz‒Ares L, et al;trial investigators. Entrectinib in patients with advanced or metastatic NTRK fusion‒positive solid tumours:integrated analysis of three phase 1‒2 trials. Lancet Oncol. 2020;21:271‒82. Erratum in:Lancet Oncol. 2020;21:e70. Erratum in:Lancet Oncol. 2020; 21:e341. Erratum in:Lancet Oncol. 2020;21:e372.
7)
Hong DS, DuBois SG, Kummar S, et al. Larotrectinib in patients with TRK fusion‒positive solid tumours:a pooled analysis of three phase 1/2 clinical trials. Lancet Oncol. 2020;21:531‒40.

内科
7(BQ)
スニチニブ不耐・不応の転移・再発GIST に対して,レゴラフェニブは有用か

推奨の強さ1(強い)
エビデンスの強さB(中)
スニチニブ不耐・不応の転移・再発GIST に対して,レゴラフェニブの使用を強く推奨する
合意率:100%(17/17 名)

解説

レゴラフェニブ療法の承認の根拠となるRCT が1 編存在し,PFS におけるプラセボに対するレゴラフェニブ療法の優越性が示されている1)。本試験ではプラセボ群が増悪後に実薬群へのクロスオーバーを行っているため,OS における優越性については評価出来ていない。その後に報告されたメタアナリシス2)や前身の第Ⅱ相臨床試験の長期成績3)でも,イマチニブおよびスニチニブ不応後の転移・切除不能GIST に対するレゴラフェニブの有用性を支持する結果が示されている。

また,イマチニブおよびスニチニブ不応後の転移・切除不能GIST に対するイマチニブ再導入に関するRCT(RIGHT 試験)4)にてイマチニブ再導入によるPFS の改善が示されているが,イマチニブ群において奏効例はなくPFS 中央値も1.8 カ月と長期的な効果が得られている症例が少なかったことを踏まえると,本対象はレゴラフェニブの投与が優先されるべきと考えられる。

RCT は1 編のみであるが,稀少腫瘍であること,他に推奨される薬剤がないことから推奨の強さは「強い」とした。

検索資料・ハンドサーチ

本BQ に対する文献検索の結果,PubMed 64 編(検索年代:全期間),Cochrane 50 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計114 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された26 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

またガイドライン改訂ワーキンググループにおける推奨の強さ決定の際に,イマチニブおよびスニチニブ不応後の転移・切除不能GIST に対するイマチニブ再導入に関するRCT(RIGHT 試験)についても,解説文内で触れるべきであるという意見が出たため補足説明および文献追加を行った。

参考文献

1)
Demetri GD, Reichardt P, Kang YK, et al;GRID study investigators. Efficacy and safety of regorafenib for advanced gastrointestinal stromal tumours after failure of imatinib and sunitinib(GRID):an international, multicentre, randomised, placebo‒controlled, phase 3 trial. Lancet. 2013;381:295‒302.
2)
Zhang Z, Jiang T, Wang W, et al. Efficacy and safety of regorafenib for advanced gastrointestinal stromal tumor after failure with imatinib and sunitinib treatment:A meta‒analysis. Medicine(Baltimore). 2017;96:e8698.
3)
Ben‒Ami E, Barysauskas CM, von Mehren M, et al. Long‒term follow‒up results of the multicenter phase Ⅱ trial of regorafenib in patients with metastatic and/or unresectable GI stromal tumor after failure of standard tyrosine kinase inhibitor therapy. Ann Oncol. 2016;27:1794‒9.
4)
Kang YK, Ryu MH, Yoo C, et al. Resumption of imatinib to control metastatic or unresectable gastrointestinal stromal tumours after failure of imatinib and sunitinib(RIGHT):a randomised, placebo‒controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2013;14:1175‒82.

内科
8(CQ)
レゴラフェニブ不耐・不応の転移・再発GIST に対して,イマチニブまたはスニチニブの再投与は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
レゴラフェニブ不耐・不応の転移・再発GIST に対して,イマチニブまたはスニチニブの再投与を行うことを弱く推奨する
合意率:94.1%(16/17 名)

解説

レゴラフェニブに不耐・不応の症例に対して,他のチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor;TKI)が有用性を示したという論文は見当たらなかった。しかし,イマチニブ,スニチニブに不耐・不応のGIST に対するイマチニブ,スニチニブの再投与についての有効性は報告されており1,2),また少数ながらレゴラフェニブ既治療症例を含む標準治療に対するイマチニブとプラセボのRCT であるRIGHT 試験3)においてイマチニブの投与の有効性が検証されていることから,レゴラフェニブ不耐・不応のGIST に対して,イマチニブまたはスニチニブの再投与は一定の有効性があることが予測される4)またそのRCT において特に重篤な有害事象は報告されておらず,イマチニブまたはスニチニブの再投与を行うことは推奨される。2023 年度2 月部分改訂しかし,エビデンスの強さも非常に弱いことから,弱く推奨するとした。ただし,2022 年より四次治療薬としてピミテスピブが承認されたため,再投与の前にピミテスピブの投与が推奨される。2023 年度2 月部分改訂

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 108 編(検索年代:全期間),Cochrane 40 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計148 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された10 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

いずれの研究もレゴラフェニブ不耐・不応例ではなく時代背景によりイマチニブまたはスニチニブ不耐・不応例を対象としていた。標準治療終了後のイマチニブまたはスニチニブの再投与については有効性が示されていた。安全性についてはRCT で報告されていたが,コホート研究および症例対照研究では集計方法が異なり記載されていなかった。

参考文献

1)
Italiano A, Cioffi A, Coco P, et al. Patterns of care, prognosis, and survival in patients with metastatic gastrointestinal stromal tumors(GIST)refractory to first‒line imatinib and second‒line sunitinib. Ann Surg Oncol. 2012;19:1551‒9.
2)
Sawaki A, Kanda T, Komatsu Y, et al. Impact of rechallenge with imatinib in patients with advanced gastrointestinal stromal tumor after failure of imatinib and sunitinib. Gastroenterol Res Pract. 2014; 2014:342986.
3)
Kang YK, Ryu MH, Yoo C, et al. Resumption of imatinib to control metastatic or unresectable gastrointestinal stromal tumours after failure of imatinib and sunitinib(RIGHT):a randomised, placebo‒controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2013;14:1175‒82.
4)
Vincenzi B, Nannini M, Badalamenti G, et al. Imatinib rechallenge in patients with advanced gastrointestinal stromal tumors following progression with imatinib, sunitinib and regorafenib. Ther Adv Med Oncol. 2018;10:1758835918794623.

内科
9(CQ)
転移・再発 GISTに対して,放射線治療は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
転移・再発GIST に対して,放射線治療を行わないことを弱く推奨する
合意率:94.1%(16/17 名)

解説

GIST の放射線感受性はあまり高くないとされているが,実際の臨床現場では行われることがあり,転移・再発GIST に対する放射線治療の有用性については重要臨床課題である。転移性GIST に対する放射線治療は有用か,というCQ に対して文献検索を行ったところ,2 編の観察研究が抽出された。

2 編とも症例集積研究で,1 編は多施設の前向き研究1),もう1 編は単施設の後ろ向き研究2)であった。前向き研究では25 例が登録され,チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor;TKI)使用中,もしくは使用後に増悪したGIST の肝,または腹腔内病変に対する30~40 Gy の放射線治療の有効性を見たものである。後ろ向き研究は15 例,22 の病変に対する放射線治療の有効性を見たものである。症例は1997 年からとやや古く,TKI が使用されていない症例が4 例含まれ,また病変部位や照射量も様々である。

PFS は前向き研究で4 カ月,後ろ向き研究で7.1 カ月と報告されている。また前向き研究では,照射部位の無増悪期間(time to progression;TTP)は16 カ月と記載されていた。症状緩和効果は後ろ向き研究のみで報告され,15 例中14 例に症状緩和が得られたと報告されている。治療関連有害事象は後ろ向き研究のみで報告され,15 例中1 例のみGrade 3 の下痢が見られたと報告されている。ただGrade 3 以上の有害事象のみ記載されており,Grade 2 以下は不明である。前向き研究では治療に関連しない有害事象も含め報告されている。

以上の結果から,放射線治療は一時的な腫瘍制御や症状緩和には有用な可能性はあるが,観察研究のみで患者背景のばらつきも大きく,エビデンスレベルは非常に弱いとした。益と害のバランスについては,症状緩和効果は期待されるものの,OS の改善に関して有効性を示しているものは少なく,大きな有害事象はないが,治療コスト・通院負担などを考慮すると明らかに益が害を上回るとは言い難い。

以上より,本CQ に対する推奨の強さは「弱い」とした。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 99 編(検索年代:全期間),Cochrane 15 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計114 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された2 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Joensuu H, Eriksson M, Collan J, et al. Radiotherapy for GIST progressing during or after tyrosine kinase inhibitor therapy:A prospective study. Radiother Oncol. 2015;116:233‒8.
2)
Cuaron JJ, Goodman KA, Lee N, et al. External beam radiation therapy for locally advanced and metastatic gastrointestinal stromal tumors. Radiat Oncol. 2013;8:274.

内科
10(CQ)
GIST の肝転移に対して,外科切除以外の局所療法は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
薬剤耐性のGIST の肝転移に対して,外科切除以外の局所療法を行うことを弱く推奨する
合意率:100%(17/17 名)

解説

GIST の肝転移に対して外科切除以外の局所療法(RFA 含む)は有効か,というCQ に対して文献検索を行い8 編の観察研究が抽出され,定性的システマティックレビューを行った。8 編の観察研究のうち,1 編は症例対照研究4),7 編は症例集積研究1‒3,5‒8)であった。

症例対照研究4)は海外の単施設の報告で,チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor;TKI)(イマチニブ,もしくはスニチニブ)治療中に増悪した肝転移に対し,ドキソルビシンを使用した肝動脈化学塞栓術(transcatheter arterial chemoembolization;TACE)を行った群と,ヒストリカルコントロールとしてTKI 再導入もしくはBSC を行った群を比較している。ドキソルビシンの使用法は日本の添付文書の使用法とは異なっている。

7 編の症例集積研究のうち,3 編は古い研究1‒3)でGIST 以外の肉腫も含めた研究であった。7 編の研究のうち4 編は5‒8)RFA,2 編は肝動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization;TAE),1 編はTACE,1 編はTAE もしくはTACE を行っていた。局所治療追加のタイミングについては,TKI 増悪,TKI 奏効中いずれも報告されていた。TKI はイマチニブやスニチニブなど様々で,同一研究中で混在していた。7 編の研究はいずれの研究も日本人以外を対象としていた。

PFS に関して,症例対照研究では,TACE 群におけるPFS は対照群よりも長かった(30 週vs 12.9 週)と報告されている。またTACE 群における局所治療を受けた部位の無増悪期間(time to progression;TTP)は47.1 週と報告されている。症例集積研究のうちGIST のみを対象とした研究は4 編で,そのうちRFA を実施した2 編の研究では中央値未到達,TAE を実施した1 つの研究では4.5 カ月,TACE を使用した報告では7.0 カ月と報告されている。

症状緩和効果についてはいずれの研究にも記載がなかった。

治療関連有害事象は,ほとんどの合併症は発熱や穿刺部痛などであり重篤な有害事象の報告は少ない。

以上のことから,本CQ に対するエビデンスは非常に弱いとした。一部の症例では腫瘍の増悪を抑えることが期待でき,有害事象も許容範囲内と考えられ,肝転移に限局した状況であるなら益が上回る可能性もあり「行うことを弱く推奨する」とした。なお,現在はレゴラフェニブやピミテスピブ2023 年度2 月部分改訂などの臨床導入により,上記エビデンスとは状況は異なっていることに注意が必要である。またどの患者に,いつのタイミングで追加するかなども明確ではなく,局所療法後薬物療法を継続することが重要である点に注意を要する。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 277 編(検索年代:全期間),Cochrane 30 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計307 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された8 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Jung JH, Won HJ, Shin YM, et al. Safety and Efficacy of Radiofrequency Ablation for Hepatic Metastases from Gastrointestinal Stromal Tumor. J Vasc Interv Radiol. 2015;26:1797‒802.
2)
Takaki H, Litchman T, Covey A, et al. Hepatic artery embolization for liver metastasis of gastrointestinal stromal tumor following imatinib and sunitinib therapy. J Gastrointest Cancer. 2014;4:494‒9.
3)
Hakimé A, Le Cesne A, Deschamps F, et al. A role for adjuvant RFA in managing hepatic metastases from gastrointestinal stromal tumors(GIST)after treatment with targeted systemic therapy using kinase inhibitors. Cardiovasc Intervent Radiol. 2014;37:132‒9.
4)
Cao G, Li J, Shen L, et al. Transcatheter arterial chemoembolization for gastrointestinal stromal tumors with liver metastases. World J Gastroenterol. 2012;18:6134‒40.
5)
Jones RL, McCall J, Adam A, et al. Radiofrequency ablation is a feasible therapeutic option in the multi modality management of sarcoma. Eur J Surg Oncol. 2010;36:477‒82.
6)
Kobayashi K, Szklaruk J, Trent JC, et al. Hepatic arterial embolization and chemoembolization for imatinib‒resistant gastrointestinal stromal tumors. Am J Clin Oncol. 2009;32:574‒81.
7)
Kobayashi K, Gupta S, Trent JC, et al. Hepatic artery chemoembolization for 110 gastrointestinal stromal tumors:response, survival, and prognostic factors. Cancer. 2006;107:2833‒41.
8)
Maluccio MA, Covey AM, Schubert J, et al. Treatment of metastatic sarcoma to the liver with bland embolization. Cancer. 2006;107:1617‒23.

内科
11(CQ)
スニチニブおよびレゴラフェニブの標準用法用量の不耐GIST に対して,スニチニブおよびレゴラフェニブの投与スケジュールの変更は推奨されるか

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
スニチニブおよびレゴラフェニブの標準用法用量の不耐GIST に対して,スニチニブおよびレゴラフェニブの投与スケジュールの変更を行うことを弱く推奨する
合意率:94.1%(16/17 名)

解説

本CQ に対する前向きの第Ⅲ相臨床試験は存在せず,スニチニブで前向きの第Ⅲ相臨床試験が1 編のみであった1)。レゴラフェニブでは前向きの研究は無く後ろ向き研究のみであった2‒8)。いずれも減量での連日投与などの報告であるが,前向き研究も,その他の後ろ向き研究も,安全性や有効性を大きく損なう報告は無く,正当なスケジュール投与が不能な場合には許容できると考える。しかし,強く推奨できる要素は無いため,スニチニブおよびレゴラフェニブの標準用法用量の不耐GIST に対して,スニチニブおよびレゴラフェニブの投与スケジュールの変更を行うことを弱く推奨する。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 46 編(検索年代:全期間),Cochrane 15 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計61 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された20 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
George S, Blay JY, Casali PG, et al. Clinical evaluation of continuous daily dosing of sunitinib malate in patients with advanced gastrointestinal stromal tumour after imatinib failure. Eur J Cancer. 2009;45: 1959‒68.
2)
Demetri GD, Heinrich MC, Fletcher JA, et al. Molecular target modulation, imaging, and clinical evaluation of gastrointestinal stromal tumor patients treated with sunitinib malate after imatinib failure. Clin Cancer Res. 2009;15:5902‒9.
3)
Saponara M, Lolli C, Nannini M, et al. Alternative schedules or integration strategies to maximise treatment duration with sunitinib in patients with gastrointestinal stromal tumours. Oncology Lett. 2014; 8:1793‒9.
4)
Komatsu Y, Ohki E, Ueno N, et al. Safety, efficacy and prognostic analyses of sunitinib in the post‒marketing surveillance study of Japanese patients with gastrointestinal stromal tumor. Jpn J Clin Oncol. 2015;45:1016‒22.
5)
Reichardt P, Kang YK, Rutkowski P, et al. Clinical outcomes of patients with advanced gastrointestinal stromal tumors:safety and efficacy in a worldwide treatment‒use trial of sunitinib. Cancer. 2015; 121:1405‒13.
6)
Nannini M, Nigro MC, Vincenzi B, et al. Personalization of regorafenib treatment in metastatic gastrointestinal stromal tumours in real‒life clinical practice. Ther Adv Med Oncol. 2017;9:731‒9.
7)
Schvartsman G, Wagner MJ, Amini B, et al. Treatment patterns, efficacy and toxicity of regorafenib in gastrointestinal stromal tumour patients. Sci Rep. 2017;7:9519.
8)
Son MK, Ryu MH, Park JO, et al. Efficacy and Safety of Regorafenib in Korean Patients with Advanced Gastrointestinal Stromal Tumor after Failure of Imatinib and Sunitinib:A Multicenter Study Based on the Management Access Program. Cancer Res Treat. 2017;49:350‒7.

内科
12(CQ)
GIST 治療におけるチロシンキナーゼ阻害薬の選択に遺伝子解析は有用か

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
GIST 治療におけるチロシンキナーゼ阻害薬の選択に遺伝子解析を行わないことを弱く推奨する
合意率:88.2%(15/17 名)

解説

本CQ に対する前向き試験のデータは存在しない。二次スクリーニングにて抽出された報告は,いずれも薬剤選択を目的とした遺伝子解析ではなく,同一の薬剤の治療効果と遺伝子解析結果の関連性の検討であり,本CQ への解答として十分な情報は得られなかった。

しかしながら,遺伝子解析結果により,チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor;TKI)治療のPFS における治療効果予測となる可能性を示唆するデータが存在することから1‒13),上記推奨内容とした。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 327 編(検索年代:全期間),Cochrane 41 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計368 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された41 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Zhi X, Zhou X, Wang W, et al. Practical role of mutation analysis for imatinib treatment in patients with advanced gastrointestinal stromal tumors:a meta‒analysis. PLoS One. 2013;8:e79275.
2)
Farag S, Somaiah N, Choi H, et al. Clinical characteristics and treatment outcome in a large multicentre observational cohort of PDGFRA exon 18 mutated gastrointestinal stromal tumour patients. Eur J Cancer. 2017;76:76‒83.
3)
Ben‒Ami E, Barysauskas CM, von Mehren M, et al. Long‒term follow‒up results of the multicenter phase Ⅱ trial of regorafenib in patients with metastatic and/or unresectable GI stromal tumor after failure of standard tyrosine kinase inhibitor therapy. Ann Oncol. 2016;27:1794‒9.
4)
Reichardt P, Demetri GD, Gelderblom H, et al. Correlation of KIT and PDGFRA mutational status with clinical benefit in patients with gastrointestinal stromal tumor treated with sunitinib in a worldwide treatment‒use trial. BMC Cancer. 2016;16:22.
5)
Patrikidou A, Domont J, Chabaud S, et al. Long‒term outcome of molecular subgroups of GIST patients treated with standard‒dose imatinib in the BFR14 trial of the French Sarcoma Group. Eur J Cancer. 2016;52:173‒80.
6)
Heinrich MC, Maki RG, Corless CL, et al. Primary and secondary kinase genotypes correlate with the biological and clinical activity of sunitinib in imatinib‒resistant gastrointestinal stromal tumor. J Clin Oncol. 2008;26:5352‒9.
7)
Heinrich MC, Owzar K, Corless CL, et al. Correlation of kinase genotype and clinical outcome in the North American Intergroup Phase Ⅲ Trial of imatinib mesylate for treatment of advanced gastrointestinal stromal tumor:CALGB 150105 Study by Cancer and Leukemia Group B and Southwest Oncology Group. J Clin Oncol. 2008;26:5360‒7.
8)
Debiec‒Rychter M, Dumez H, Judson I, et al. Use of c‒KIT/PDGFRA mutational analysis to predict the clinical response to imatinib in patients with advanced gastrointestinal stromal tumours entered on phase Ⅰ and Ⅱ studies of the EORTC Soft Tissue and Bone Sarcoma Group. Eur J Cancer. 2004;40: 689‒95.
9)
Heinrich MC, Corless CL, Demetri GD, et al. Kinase mutations and imatinib response in patients with metastatic gastrointestinal stromal tumor. J Clin Oncol. 2003;21:4342‒9.
10)
Yoo C, Ryu MH, Jo J, et al. Efficacy of Imatinib in Patients with Platelet‒Derived Growth Factor Receptor Alpha‒Mutated Gastrointestinal Stromal Tumors. Cancer Res Treat. 2016;48:546‒52.
11)
Osuch C, Rutkowski P, Brzuszkiewicz K, et al. The outcome of targeted therapy in advanced gastrointestinal stromal tumors(GIST)with non‒exon 11 KIT mutations. Pol Przegl Chir. 2014;86:325‒32.
12)
Kang HJ, Ryu MH, Kim KM, et al. Imatinib efficacy by tumor genotype in Korean patients with advanced gastrointestinal stromal tumors(GIST):The Korean GIST Study Group(KGSG)study. Acta Oncol. 2012;51:528‒36.
13)
Yoon DH, Ryu MH, Ryoo BY, et al. Sunitinib as a second‒line therapy for advanced GISTs after failure of imatinib:relationship between efficacy and tumor genotype in Korean patients. Invest New Drugs. 2012;30:819‒27.

内科
13(CQ)
レゴラフェニブ不耐・不応の転移・再発GIST に対して,ピミテスピブは有用か

推奨の強さ1(強い)
エビデンスの強さB(中)
レゴラフェニブ不耐・不応の転移・再発GIST に対して,ピミテスピブの使用を強く推奨する
合意率:86.7%(12/15 名)

解説

レゴラフェニブ不耐・不応の転移・再発GIST に対して,ピミテスピブとプラセボを比較した1編のRCT1)と1 編の単群の前向き試験2)が報告されている。RCT ではPFS の中央値がピミテスピブ群で2.8 カ月、プラセボ群で1.4 カ月と有意に延長(ハザード比 0.51; 95% CI 0.30-0.87, p=0.006)していた。クロスオーバーによるOS へのバイアスを補正するためのRPSFT(rank preserving structural failure time)モデルを用いた解析でも、OS 中央値がピミテスピブ群で13.8 カ月、プラセボ群で7.6 カ月(ハザード比 0.42; 95% CI 0.21-0.85, p=0.007)と、ピミテスピブ群の良好な結果が認められた。10%を超えるGrade3 以上の有害事象は下痢のみで、10%未満で貧血、腎障害、倦怠感や食欲不振と報告されている。重篤ではないがHSP90(heat shock protein 90)阻害薬に特徴的な眼障害が認められることから、ピミテスピブの投与を行う際には眼科との連携を考慮すべきである。1 編のRCT と1 編の単群試験があることからエビデンスの強さは中,益と害のバランスは益が勝ると考えられる。GIST が稀少疾患であることを考慮して、レゴラフェニブ不耐・不応の転移・再発GIST に対するピミテスピブの使用を強く推奨する。

検索資料・ハンドサーチ

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 20 編(検索年代:全期間),Cochrane 7 編(検索年代:全期間)の文献が抽出され,計27 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された2 編の論文を対象に,定性的システマティックレビューを実施した。

参考文献

1)
Kurokawa Y, Honma Y, Sawaki A, et al. Pimitespib in patients with advanced gastrointestinal stromal tumor (CHAPTER-GIST-301): a randomized, double-blind, placebo-controlled phase III trial. Annals of Oncology. 2022;33:959-967.
2)
Doi T, Kurokawa Y, Sawaki A, et al. Efficacy and safety of TAS-116, an oral inhibitor of heat shock protein 90, in patients with metastatic or unresectable gastrointestinal stromal tumour refractory to imatinib, sunitinib and regorafenib: a phase II, single-arm trial. European Journal of Cancer. 2019;121:29-39.

2023 年度2 月部分改訂