胃がん 〜治療ガイドライン

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目次:


治療法

A
  治療法の種類と適応

日常診療で推奨される治療法選択のアルゴリズム

アルゴリズムへ


胃癌取扱い規約第 14 版の T,N,M,Stage の抜粋
N1:
領域リンパ節(No. 1〜12,14v)の転移個数が 1〜2 個,N2:3〜6 個,N3:7 個以上
M1:
領域リンパ節以外の転移がある(CY1 も含む)
Stage:表 1 参照
表 1 進行度分類(Stage)
  N0 N1 N2 N3 M1
T1a(M), T1b(SM) ⅠA ⅠB ⅡA ⅡB
T2(MP) ⅠB ⅡA ⅡB ⅢA
T3(SS) ⅡA ⅡB ⅢA ⅢB
T4a(SE) ⅡB ⅢA ⅢB ⅢC
T4b(SI) ⅢB ⅢB ⅢC ⅢC

日常診療で推奨される進行度別治療法の適応

表 2 日常診療で推奨される進行度別治療法の適応
  N0 N1(1〜2 個) N2(3〜6 個) N3(7 個以上)
T1a(M) ⅠA
ESD/EMR(一括切除)
〔分化型,2 cm 以下,
UL( − )〕
胃切除 D1(上記以外)
ⅠB
定型手術
ⅡA
定型手術

ⅡB

定型手術

T1b(SM) ⅠA
胃切除 D1
(分化型,1.5 cm 以下)
胃切除 D1+
(上記以外)
T2(MP) ⅠB
定型手術
ⅡA
定型手術
補助化療(pStage ⅡA)
ⅡB
定型手術
補助化療(pStage ⅡB)
ⅢA
定型手術
補助化療(pStage ⅢA)
T3(SS) ⅡA
定型手術
ⅡB
定型手術
補助化療(pStage ⅡB)
ⅢA
定型手術
補助化療(pStage ⅢA)
ⅢB
定型手術
補助化療(pStage ⅢB)
T4a(SE) ⅡB
定型手術
補助化療(pStage ⅡB)
ⅢA
定型手術
補助化療(pStage ⅢA)
ⅢB
定型手術
補助化療(pStage ⅢB)
ⅢC
定型手術
補助化療(pStage ⅢC)
T4b(SI) ⅢB
定型手術+合併切除
補助化療(pStage ⅢB)
ⅢB
定型手術+合併切除
補助化療(pStage ⅢB)
ⅢC
定型手術+合併切除
補助化療(pStage ⅢC)
ⅢC
定型手術+合併切除
補助化療(pStage ⅢC)
Any T/N,
M1

化学療法,放射線治療,緩和手術,対症療法

N:転移個数をカウントする領域リンパ節は,No.1〜12,14v であり,それ以外のリンパ節転移は M1 とする。

この表に示す適応は,病理学的進行度の治療成績データをもとに作成されたものであり,治療前または手術中の所見に基づくものではない。臨床所見に応じた治療法の適応は,ⅡA−1のアルゴリズムを参照されたい。

本版では,第 2 版まで示されていた「臨床研究としての進行度別治療法の適応」の一覧表は廃止した。臨床研究としての種々の治療法は別章に列挙して解説を加えた〔ⅢA参照〕。

臨床研究としての治療法〔解説ⅢA参照〕

以下の治療法は,日常診療として推奨されるには至っていないものの,有望な治療法として期待されており,臨床研究として前向きデータ集積が行われることが望ましい。これらの治療を行う場合は,あらかじめ患者にその理由を説明し,十分な理解を得たのち同意を得ることが望ましい。

  1. 早期胃癌に対する ESD(拡大適応)
  2. 腹腔鏡下胃切除術
  3. 胃局所切除術
  4. 術前補助化学療法
  5. S-1 以外の術後補助化学療法
  6. 術前化学放射線療法
  7. 術後化学放射線療法
  8. 減量手術

B
  手 術

手術の種類と定義

治癒手術における定型手術と非定型手術
1)定型手術

主として治癒を目的とし標準的に施行されてきた胃切除術法を定型手術という。胃の 2/3 以上切除と D2リンパ節郭清を行う(リンパ節郭清の定義は (ⅡB-3を参照)。

2)非定型手術

進行度に応じて切除範囲やリンパ節郭清範囲を変えて行う非定型手術には,縮小手術と拡大手術がある。

(1)縮小手術:
切除範囲やリンパ節郭清程度が定型手術に満たないもの(D1,D1+ など)。
(2)拡大手術:
① 他臓器合併切除を加える拡大合併切除手術,② D2 以上のリンパ節郭清を行う拡大郭清手術。
非治癒手術

治癒が望めない症例に対して行う手術で,その目的から緩和手術と減量手術に分けられる。

1)緩和手術(姑息手術:palliative surgery)

治癒切除不能症例における出血や狭窄などの切迫症状を改善するために行う手術で,Stage Ⅳ症例に対する日常診療としての選択肢の一つである。腫瘍による狭窄や持続する出血に対し,安全に胃切除が行える場合は姑息的胃切除が行われるが,切除が困難または危険な場合には胃空腸吻合術などのバイパス手術が行われる。バイパス手術では,単純な胃空腸吻合術よりも,胃を体部で部分的にあるいは完全に切離して癌病巣を空置する空置的胃空腸吻合術のほうが QOL などの治療成績が良好との報告がある57)

2)減量手術(reduction surgery)

切除不能の肝転移や腹膜転移などの非治癒因子を有し,かつ,出血,狭窄,疼痛など腫瘍による症状のない症例に対して行う胃切除術をいう。腫瘍量を減らし,症状の出現や死亡までの時間を延長するのが目的であるが,明らかなエビデンスはなく,臨床研究の位置づけである〔ⅢA-8参照〕。現在,化学療法と減量手術とを比較する日韓合同の臨床試験(JCOG 0705/REGATTA)が行われている 61)

胃の切除範囲

胃手術の種類

胃癌に対して行われる手術は,切除範囲の多い順に以下のようなものがある。

  1. 胃全摘術
  2. 幽門側胃切除術
  3. 幽門保存胃切除術(Pylorus-preserving gastrectomy:PPG)

    胃上部 1/3 と幽門前庭部 3,4 cm 程度を温存する。

  4. 噴門側胃切除術
  5. 胃分節切除術

    明確な定義は確立していない。横断切除とも呼ばれる比較的小範囲の全周性切除を指すことが多いが,PPG を含め噴門と幽門の両者を温存する胃切除術という意味で用いられることもある。

  6. 胃局所切除術
  7. 非切除手術(吻合術,胃瘻・腸瘻造設術)
胃切除範囲の決定
1)切離断端距離の確保

治癒をめざす手術では,腫瘍の辺縁から十分な断端距離が取れるよう切除範囲を決定する。

T2 以深の場合,限局型の腫瘍では 3 cm 以上,浸潤型では 5 cm 以上の近位側断端距離を術中判定において確保するよう努める。断端距離がこれより短く断端陽性が疑われる場合は,腫瘍に近い切離断端部の全層を迅速病理診断に提出し,断端陰性を確認することが望ましい。食道浸潤胃癌では 5 cm 以上の断端の確保は必ずしも必要ではないが,断端の迅速病理診断を行うことが望ましい。

T1 腫瘍では,肉眼的に 2 cm 以上の切離断端距離を確保するよう努める。辺縁が不明瞭な腫瘍で切離断端が近くなることが予想される場合は,術前内視鏡生検により腫瘍辺縁を確認してマーキングを行い,術中の切除範囲の決定に供することが望ましい。

2)切除術式の選択

cN( + )または T2 以深の腫瘍に対する定型手術においては,通常,幽門側胃切除術か胃全摘術かの選択となる。幽門側胃切除術は,前項の近位側切離断端距離を確保できる腫瘍が適応となり,胃全摘術はこの確保が難しい腫瘍が適応となる。近位側切離断端が確保できる病変でも,膵浸潤のために膵脾合併切除が行われる場合は,必然的に胃全摘術となる。また大彎病変で No. 4sb リンパ節に転移を認める場合は,脾摘を伴う胃全摘術も考慮する。食道胃接合部領域の腺癌で病変の大半が食道に存在する場合は,食道癌に準じた中下部食道切除・噴門側胃切除と胃管再建も行われ る。

cN0 の T1 腫瘍に対しては,腫瘍の位置に応じて以下の切除範囲の縮小を考慮してもよい。

  1. 幽門保存胃切除術(PPG):胃中部の腫瘍で,遠位側縁が幽門から 4 cm 以上離れているもの。
  2. 噴門側胃切除術:胃上部の腫瘍で,1/2 以上の胃を温存できるもの。
    胃局所切除術および胃分節切除術は,いまだ研究的な手術法とみなすべきである。

リンパ節郭清

本版より,リンパ節郭清範囲 D1/D1+/D2を以下のように術式ごとに定義し,その適応をⅡB-3-bのように定めた。これは,過去のリンパ節転移頻度と郭清効果に関する詳細なデータ解析に基づいて決定された胃癌取扱い規約第 13 版の内容を,大幅に簡略化したものである。

リンパ節郭清範囲の定義

系統的リンパ節郭清範囲を,胃切除術式別に以下のように規定する。部分的に規定の範囲を超えて郭清した場合や一部のみ規定に満たない場合は,D1(+No. 8a),D2(-No. 10)などのように付記するが,データベース登録時はすべてを満たす D レベルに分類する。

1)胃全摘術(図 2

D0:D1 に満たない郭清

D1:No. 1〜7

D1+:D1+No. 8a,  9 , 11p

D2:D1+No. 8a, 9, 10, 11p, 11d, 12a

ただし食道浸潤癌では D1+ に No. 110を,D2には No. 19,20,110,111 を追加する。

2)幽門側胃切除術(図 3

D0:D1 に満たない郭清

D1:No. 1, 3, 4sb, 4d, 5, 6, 7

D1+:D1+No. 8a,  9 

D2:D1+No. 8a, 9, 11p, 12a

3)幽門保存胃切除術(図 4

D0:D1 に満たない郭清

D1:No. 1, 3, 4sb, 4d, 6, 7

D1+:D1+No. 8a,  9 

4)噴門側胃切除術(図 5

D0:D1 に満たない郭清

D1:No. 1, 2, 3a, 4sa, 4sb, 7

D1+:D1+No. 8a,  9 , 11p

ただし食道浸潤癌では D1+ に No.110を追加する。

図 2 胃全摘術の郭清

図 3 幽門側胃切除術の郭清

図 4 幽門保存胃切除術の郭清

図 5 噴門側胃切除術の郭清

食道浸潤癌における胸部下部傍食道リンパ節(No. 110)は,切離断端陰性が十分に確保される範囲の食道に付着するリンパ節を郭清対象とする。食道胃接合部腺癌(Ae)に食道切除・噴門側胃切除を行う場合は,食道癌取扱い規約に準じる。

リンパ節郭清の適応

原則として,cN( + )または T2 以深の腫瘍に対しては D2 郭清を,cT1N0 腫瘍に対しては D1 または D1+郭清を行う。術前・術中の腫瘍深達度診断には限界があり,またリンパ節転移がないことを肉眼で確認することはほぼ不可能である。疑わしい場合は原則 D2郭清を行う。

1)D1 郭清

EMR・ESD の対象とならない T1a,および 1.5 cm 以下の大きさの分化型 T1b で,cN0 のもの。

2)D1+(「D1 プラス」)郭清

上記以外の T1 腫瘍で cN0 のもの。

3)D2郭清

治癒切除可能な T2 以深の腫瘍,および cN( + )の T1 腫瘍。ただし,上部進行胃癌において No. 10,11d の完全郭清のために行われる脾合併切除については古くから議論があり,現在 JCOG0110 試験にて検討中である(症例集積終了,経過追跡中)24)。少なくとも,胃上部の大彎に浸潤する進行胃癌に対する治癒切除術では,脾摘による完全郭清を行うことが望ましい。

4)D2+(「D2プラス」)郭清

D2を超える拡大リンパ節郭清は非定型手術に分類される。その意義については以下のような議論がある。

予防的 No. 16 郭清の意義は,わが国の RCT(JCOG9501)で否定された14)。No. 16 転移例で他に非治癒因子がない場合は,D2+No. 16 手術により R0 手術が可能となるが,予後は不良である。

下部胃癌における No. 14v は胃癌取扱い規約第 13 版で第 2 群リンパ節としていたが,今回の改訂では D2に含めないこととした。しかし下部胃癌で No. 6 に転移を有する症例での No. 14v の郭清効果は否定できず,No. 6 との連続性を考慮してこれを郭清した場合は,D2(+No. 14v)と記録して将来の解析に備えたい。

No. 13 リンパ節転移は胃癌取扱い規約第 14 版から M1 となったが,十二指腸浸潤胃癌の治癒切除例では No. 13 転移陽性でも長期生存例がみられるため17),D2(+No. 13)も選択肢となり得る。

その他

迷走神経温存手術

迷走神経肝枝(前幹),腹腔枝(後幹)を温存することにより術後胆石症発生の減少,下痢の頻度の軽減,術後体重減少の早期回復など,QOL の改善に貢献するという報告がある。PPG では幽門機能温存のために肝枝の温存を行うことが望ましい。

大網切除

T3(SS)以深の腫瘍に対する定型手術では通常大網も切除される。T1/T2 腫瘍では,胃大網動脈から 3 cm 以上離して切除すれば,それより結腸側の大網は温存してもよい。

網嚢切除

胃後壁漿膜に腫瘍が露出した症例では,網嚢内の微小な播種病変を切除する目的で網嚢切除が行われることがあるが,これが腹膜再発の予防に有用であるとのエビデンスはない。血管や膵の損傷をきたすこともあることから,少なくとも T2 までの胃癌においては省略することが望ましい。

ただし,小規模なランダム化比較試験の結果,漿膜浸潤陽性胃癌では網嚢切除が予後を改善するという報告がなされており77),多施設共同の大規模ランダム化試験が開始された。

他臓器合併切除(合切)

原発巣あるいは転移巣が胃の周辺臓器に直接浸潤し,これらの他臓器を合併切除することにより治癒が望める場合に行う。

下部食道へのアプローチ法

食道浸潤が 3 cm 以内の胃癌では,開腹・経横隔膜アプローチ法が標準となる(JCOG 9502)9)。これ以上の食道浸潤があり,かつ治癒手術が可能と考えられる場合は,開胸アプローチを考慮する。

腹腔鏡下胃切除術

手術機器の発達により,近年早期胃癌を対象に試みられている方法である。開腹手術に比較して創が小さいことから,手術侵襲や術後の疼痛が少ない利点がある。しかし手術手技には熟練を要し,安全性や長期予後に関する確たるエビデンスはなく,早期胃癌に対する研究的治療として行われる〔ⅢA-2参照〕。

再建法

以下のような再建法が用いられる。それぞれに長短がある。これらにパウチを作成する試みもなされているが,その有用性に関してはいまだ研究段階である。

胃全摘術後の再建法
  • Roux-en-Y 法
  • 空腸間置法
  • double tract 法
幽門側胃切除術後の再建法
  • Billroth Ⅰ法
  • Billroth Ⅱ法
  • Roux-en-Y 法
  • 空腸間置法
幽門保存胃切除術後の再建法
  • 胃胃吻合法
噴門側胃切除術後の再建法
  • 食道残胃吻合法
  • 空腸間置法
  • double tract 法

C
  内視鏡的切除

内視鏡的切除の種類

EMR(Endoscopic Mucosal Resection)

胃の粘膜病変を挙上して鋼線のスネアをかけ,高周波により焼灼切除する方法である。

ESD(Endoscopic Submucosal Dissection)

高周波ナイフを用いて病巣周囲の粘膜を切開し,さらに粘膜下層を剥離して切除する方法である。

内視鏡的切除における標本の取扱い

標本の取扱い

切除標本の取扱いは,胃癌取扱い規約第 14 版に準ずる。

分化型癌と未分化型癌

生検および内視鏡的切除後の組織像について,分化型癌と未分化型癌を区別する。胃癌取扱い規約第 14 版の組織型分類のうち,悪性上皮性腫瘍・一般型の pap,tub1,tub2 を分化型癌とし,por1,por2,sig,muc を未分化型癌とする。

組織学的優位性および UL の評価

分化型癌と未分化型癌が混在する場合は,優勢な組織像に従って分類する。また複数の組織型が混在する場合は,量的に優勢な組織型から順に記載する(tub2>tub1 など)。UL は組織学的な UL の存在をもって UL( + )と判定するが,UL の判定はしばしば病理学的にも困難であり,内視鏡や X 線等の画像診断所見も考慮して最終判定することが望ましい。

内視鏡的切除の適応

本ガイドラインでは初版以来,下記の「絶対適応病変」に対する ESD・EMR を日常診療として推奨し,「適応拡大病変」に対する ESD を臨床研究として位置づけてきている。後者に関しては「Ⅲ章 A.臨床研究としての治療法の解説」に記述すべきではあるが,多くの施設で適応拡大病変の全部または一部に対して日常的にESD が試みられている現状と,ESD の根治性の評価および ESD 後の治療方針決定の重要性を考慮し,本項で「絶対適応病変」と併せて記述することとした。適応拡大病変に対する ESD にはまだ十分なエビデンスがなく,慎重に試みられるべき治療法であることを再認識されたい。

適応の原則

リンパ節転移の可能性が極めて低く〔ⅢA-1表 4 参照〕,腫瘍が一括切除できる大きさと部位にあること。

絶対適応病変

2 cm 以下の肉眼的粘膜内癌(cT1a)と診断される分化型癌。肉眼型は問わないが,UL( ー )に限る。

適応拡大病変

① 2 cm を超える UL( ー )の分化型 cT1a,② 3 cm 以下の UL( + )の分化型 cT1a,③ 2 cm 以下の UL( ー )の未分化型 cT1a,については脈管侵襲(ly,v)がない場合にはリンパ節転移の危険性が極めて低く,適応を拡大してよい可能性がある84,86)。これらの病変は EMR では不完全切除となる可能性が高いため,ESD を行うべきである。現時点では長期予後に関するエビデンスが乏しいため,JCOG0607 等の結果が出るまでは,臨床研究として行うべきである〔ⅢA-1参照〕。

遺残再発病変に対する適応

初回の EMR/ESD 時の病変が適応内病変で,その後に粘膜内癌で局所再発した病変であれば,適応拡大病変として取り扱うことが可能である。しかし,再 ESD を支持する明確なエビデンスはなく,症例数の多い長期経過観察のデータが得られるまでは臨床研究として行うことが望ましい。

内視鏡的切除の根治性

根治性の評価

EMR および ESD の根治性は,局所の完全切除とリンパ節転移の可能性なしという 2 つの要素によって決定され,この 2 つの要素のどちらが欠けても遺残再発もしくはリンパ節転移による再発の可能性が残り,治癒切除とはならない。

1)治癒切除

腫瘍が一括切除され,腫瘍径が 2 cm 以下,分化型癌で,深達度が pT1a,HM0,VM0,ly( ー ),v( ー )であること。これらがすべて満たされた場合を治癒切除とする。

2)適応拡大治癒切除

一括切除が施行され,切除標本が,① 2 cm を超える UL( ー )の分化型 pT1a,② 3cm 以下の UL( + )の分化型 pT1a,③ 2 cm 以下の UL( ー )未分化型 pT1a,④ 3 cm 以下の分化型かつ深達度が pT1b(SM1)(粘膜筋板から 500μm 未満),のいずれかであり,かつ HM0,VM0,ly( ー ),v( ー )であった場合を適応拡大治癒切除とする。

ただし,上記のうち未分化型成分が混在する分化型癌症例に関してのエビデンスはいまだ十分とはいえず,当面,以下の症例は非治癒切除として扱い追加外科切除とする:① で,未分化型成分が長径で 2 cm を超えるもの;② で未分化型成分を有するもの;④ で SM 浸潤部に未分化型成分があるもの。

3)非治癒切除

上記の絶対適応・拡大適応の治癒切除条件に 1 つでも当てはまらない場合を非治癒切除とする。

EMR/ESD 後の治療方針

アルゴリズムへ


切除後の病理診断により根治度の判定を行い,その後の方針を決定する。

治癒切除の場合

H. pylori 感染の有無を検査し,陽性者では除菌を行う104)。年に 1〜2 回の内視鏡検査による経過観察が望ましい。

適応拡大治癒切除の場合

H. pylori 感染の有無を検査し,陽性者では除菌を行う。経過観察では,年に 1〜2 回の内視鏡検査に加えて,腹部超音波検査,CT 検査などで転移の有無を調べることが望ましい。

非治癒切除の場合
1)追加外科切除を必須とする非治癒切除

以下の 2)以外の非治癒切除の場合には外科切除を選択する。

2)追加外科切除を必須としない非治癒切除

分化型癌の一括切除で側方断端陽性または分割切除のみが非治癒因子であった場合,転移の危険性は低い。この場合には,施設の方針により,患者へのインフォームド・コンセントの後,再 ESD,追加外科切除,切除時の焼灼効果(burn effect)に期待した慎重な経過観察,焼灼法(レーザー,アルゴンプラズマ凝固など)を選択する。ただし,適応拡大病変に対する ESD のうち,① 分化型,pT1a(M),UL( + ),3 cm 以下,および ② 分化型,pT1b(SM1),3 cm 以下,の場合には内視鏡を再検し遺残の大きさを確認する。遺残癌の大きさと ESD 標本内の癌の大きさの合計が 30 mm を超える場合は追加外科切除とする。また,SM 浸潤部で分割切除あるいは断端陽性になった場合にも,病理診断そのものが不確実となるため,追加外科切除とする。


D
  化学療法

切除不能進行・再発胃癌に対する化学療法は,最近の進歩により高い腫瘍縮小効果(奏効率)を実現できるようになった。しかし,化学療法による完全治癒は現時点では困難である。国内外の臨床試験成績からは生存期間の中央値(median survival time:MST)はおおよそ 6〜13 カ月である。癌の進行に伴う臨床症状発現時期の遅延および生存期間の延長が当面の治療目標である。

化学療法の臨床的意義は,PS 0-2 の症例を対象とした,抗癌剤を用いない対症療法(best supportive care:BSC)群と化学療法群との無作為化比較試験において,化学療法群に生存期間の延長が検証されたことからその意義が認められている108,110,112)。また少数例ではあるが長期生存(5 年以上)も得られている。したがって,切除不能進行・再発癌,非治癒切除症例に対して化学療法は第一に考慮されるべき治療法である。

適応の原則

切除不能進行・再発症例,あるいは非治癒切除(R2)症例で,全身状態が比較的良好,主要臓器機能が保たれている症例。具体的な適応条件としては,PS 0-2 で,T4b(SI)あるいは高度リンパ節転移症例,H1,P1 またはその他の M1 を有する初回治療あるいは再発症例,非治癒切除症例があげられる。

推奨される治療レジメン

第 3 相試験により得られ論文発表されたエビデンスのうち,わが国の日常臨床で推奨されるレジメンを以下に記す。これら以外のレジメンはすべて研究的なものと考え,今後の研究成果とその評価の確立を待つ。なお新しいエビデンス,あるいは適応承認を含む日常臨床上の有用性が確立した際には,ガイドライン速報としてWeb 上に公開する。

胃癌に対する初回治療としての化学療法は,第 3 相試験118)の結果,S-1+シスプラチンが現時点で推奨できる。イリノテカン+シスプラチンおよびイリノテカン+S-1 併用療法は,5-FU あるいは S-1 単独と比較して生存期間の延長を検証することができなかったことから,初回治療として選択することは推奨できない119,120)

経口不可,あるいは中等量の腹水貯留や腸管狭窄を呈している場合には,S-1+シスプラチンが必ずしも適応とならないことが多い。また高齢者についても S-1+シスプラチンの安全性,有用性は十分検証されたとはいえない。このような症例へのS-1+シスプラチンの適応については慎重に判断する。適応がないと判断された場合には,経口可能であれば S-1 単独120),経口不可であれば 5-FU 単独などの選択を考慮する。

なお,海外で行われた FLAGS 試験では S-1+シスプラチンの 5-FU+シスプラチンに対する優越性は証明できなかったが123),国内で実施された SPIRITS 試験118)とJCOG9912 試験120)の成績から当面の標準治療として S-1+シスプラチンを推奨する。

二次治療については,現時点では推奨できる単一のレジメンは存在しない。原則として初回治療で使用されていない薬剤の併用あるいは単独使用となる。

胃癌に特有な腹膜転移例では,メトトレキサート+5-FU,5-FU,タキサン系薬剤などが使用され有効例の報告がある。JCOG 0106 試験121)の結果,メトトレキサート+5-FU の 5-FU 単独に対する優越性は検証できなかったことから,この対象に対してメトトレキサート+5-FU を積極的に推奨できない。

化学療法の実際

適応規準

化学療法実施の際には,以下の条件を参考として適応を判断することが望ましい。

  1. 臨床診断,病理組織診断が確認されている。
  2. PS:0-2 を対象とする。PS 3 以上は全身状態を考慮して投与を判断する。
  3. 主要臓器機能が保たれている。
    i )骨髄(白血球>4,000/μL,血小板>100,000/μL を原則とする)
    ii)肝機能(T. Bil<2.0 mg/dL,AST/ALT<100 IU/L を原則とする)
    iii)腎機能(S-Cr:施設正常値上限以下を原則とする)
  4. 適切なインフォームド・コンセントに基づき,患者本人から同意が得られている。
  5. 重篤な合併症を有さない。
治療実施に関連した注意点
  1. 治療開始に先立ち,治療前の PS,体重,発熱の有無,自覚症状(例えば食欲低下,下痢,嘔吐など),血液検査を確認する。異常(値)を認める際には延期を検討する。外来治療時にも,可能な限り当日の至急検査結果を確認して抗癌剤投与・継続の可否を判断する。
  2. 継続投与の場合には,前回投与時およびその後の経過において治療関連の有害事象の有無,腫瘍関連症状の有無等を詳細に検討し,継続可否の判断を行う。
  3. 治療コースを繰り返す場合には,蓄積性の有害事象(食欲不振,倦怠感,下痢,皮膚障害,味覚障害など)の変化に注意をする。必要であれば治療を中断し,回復を待つ。
  4. 治療効果判定を行う場合は,CT,内視鏡,上部消化管造影など適切な画像診断を用いて奏効度(胃癌取扱い規約,response evaluation criteria in solid tumors:RECIST などによる)を判定する。明らかな増悪がない場合には,原則として同一治療を繰り返し継続する。なお,腫瘍マーカーの変動は参考に留める。
  5. 前治療コースで重篤な有害事象が発現した場合には,上記の適応規準に回復した後に評価を行い,臨床的に有効性が期待できれば,投与量の減量,投与間隔の延長などを行って治療継続することは可能である。
治療薬剤(抗癌剤)

単剤,併用療法で全身投与として使用頻度の多いものは以下の薬剤である。5-FU,シスプラチン,イリノテカン,ドセタキセル,パクリタキセル,UFT,5’-ドキシフルリジン,S-1 などや,5-FU+シスプラチン(FP),メトトレキサート+5-FU+ロイコボリン,5-FU+l-ロイコボリン,イリノテカン+シスプラチン,S-1+ドセタキセル,S-1+シスプラチンなどが臨床応用されている。最近では,30〜50%程度の高い奏効率を示す治療法も多く報告されているが,奏効率と延命効果,QOL は必ずしも相関せず,最終的には生存期間を指標とした第 3 相比較試験を実施することにより臨床的有用性を検証する必要がある。

国内での臨床試験と治療成績

SPIRITS 試験及び JCOG9912 試験成績を統合して判断することにより,現時点で初回治療としては S-1+シスプラチン療法が生存期間の延長に最も寄与すると考えられる。国内で実施された JCOG9912 試験,SPIRITS 試験,GC0301/TOP-002 試験の成績が以下のように報告されている(表 3)。

表 3 国内での臨床試験と治療成績
試験名 レジメン 症例数 奏効率
(%)
無増悪期間
(月)
全生存期間(月)
P-value
SPIRITS118)
S-1
S-1+シスプラチン
150
148
31
54
4.0
6.0
11.0
13.0 0.0366
JCOG9912120)
5-FU
イリノテカン+シスプラチン
S-1
234
236
234
9
38
28
2.9
4.8
4.2
10.8
12.3 0.055
11.4 0.034
GC0301/
TOP-002119)
&S-1
S-1+イリノテカン
160
155
27
42
3.6
4.5
10.5
12.8 NS

なお,術後補助化学療法として S-1 を使用した場合,再発時に S-1+シスプラチンが有用であるかについての十分な証拠はなく,S-1 内服状況と再発までの期間などを勘案して適応を検討することが奨められる。

欧米における臨床試験

欧米では,多くの臨床試験が実施され,DCF(ドセタキセル+シスプラチン+5-FU)や ECF(エピルビシン+シスプラチン+5-FU)または EOX(エピルビシン+オキサリプラチン+カペシタビン)などの併用療法も使用されている。しかしながら国内胃癌患者にこれらの治療成績が適応できるかについては不明である。少なくとも報告された生存期間や無増悪期間,奏効率では国内で推奨されているレジメンを大きく上回るものはない。薬剤の耐用量は人種差や個人差が認められ,また医療環境の違いもあるため,欧米におけるレジメンをそのままわが国に適応することには慎重でなければならない(わが国ではオキサリプラチン,カペシタビンは胃癌に対して保険適用未承認)。

癌性腹膜炎症例に対する化学療法

癌性腹膜炎では,腹水貯留,消化管閉塞,経口摂取不良,低タンパク血症などの合併により全身状態が比較的不良であり注意を要する。初回化学療法例を対象とした比較試験 JCOG0106 が終了し,メトトレキサート+5-FU の 5-FU 単独に対する優越性は検証できなかった121)。その他,タキサン系薬剤や,経口可能な症例では S-1による奏効例が報告されている。

二次化学療法

前治療として抗癌剤治療が実施された症例において,治療終了後短期間で再発あるいは治療中に増悪した症例では,一般に前治療で使用されていない薬剤を選択して二次治療を行う。全身状態が良好な場合には,症状コントロールが期待できる可能性があるが,現状では二次治療により生存が延長するという明らかな証拠は確立していない。また,病状進行に伴い全身状態が低下していることが多いので,有害事象の発生とその程度には十分な注意が必要である。二次治療としてタキサン系薬剤,イリノテカンなどを用いたランダム化比較試験が実施されている。

全身状態不良例に対する化学療法

PS 3-4,あるいは高度の臓器障害のある患者は一般に適切な対症療法の適応であるが,あえて化学療法を行う場合はそのリスクについて十分な説明を行い同意を得る必要がある。化学療法により症状コントロールができない場合は抗癌剤治療を終了し,緩和ケアなどに切り替えるなど,適切な対応が必要である。

新規治療法の適用について

最近,奏効率の高い薬剤,あるいは併用療法が報告されている。しかし同時に強い有害事象を伴うので,適切な対応と十分な説明が必要である。化学療法歴を有する再発抵抗性症例に対して,これらの治療を行う場合は治療効果や有害事象が初回治療患者と異なることがあるので,慎重な配慮が必要である。

化学療法の実施者

抗癌剤治療は安易に施行すべきではなく,十分に修練を積んだ専門家,あるいはその指導のもとに施行することが推奨される。


E
  術後補助化学療法

術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy)は,治癒切除後の微小遺残腫瘍による再発予防を目的として行われる化学療法である。古くから多くの臨床試験が行われながら確実な延命効果は示されなかったが,2006 年,ACTS-GC 試験により S-1の有効性が示され,これがわが国における標準治療となった134)。〔S-1 以外の補助療法に関しては,ⅢA-5を参照〕

適 応

ACTS-GC 試験での対象症例は,胃癌取扱い規約第 13 版による根治 A,B 手術(D2以上のリンパ節郭清)を受けた pStage Ⅱ,ⅢA,ⅢB 症例(ただし T1 症例を除く)であり,本ガイドラインでもこの対象に対する S-1 補助化学療法を推奨する。 ただし胃癌取扱い規約第 14 版では,T および N の分類法と Stage が大幅に変更になっており,13 版からの単純な読み換えはできない。旧分類の Stage Ⅱ/Ⅲ症例が新分類ではどのように分類されるかを検討したところ(図 7),SS N0 症例(旧規約で Stage ⅠB,新規約で Stage ⅡA)と T1 症例を除けば,新旧の「Stage Ⅱ/Ⅲ集団」はほぼ同一となる(個々の症例の Stage が新旧で変わらないのではなく,Stage Ⅱ/Ⅲという枠の中に収まる)ことが判明した。したがって,ⅡA-2の表 2のごとく,本ガイドラインでも T3(SS)N0 を除く Stage Ⅱ/Ⅲを補助化学療法の対象とする。

zu07

図 7 新・旧規約での「Stage ⅡまたはⅢ」の比較

S-1 補助化学療法は黄色部分が対象となる。T1 および SS/N0 を除くと,新旧規約の Stage Ⅱ/Ⅲはほぼ重なる。(d)は稀な症例。

S-1 補助化学療法の実際

化学療法実施上の一般的基準や注意点は,ⅡD-3に準じる。手術からの回復を待って,術後 6 週間以内に S-1 投与を開始する。標準量 80 mg/m2/日の 4 週間投与 2 週間休薬を 1 コースとし,術後 1 年間継続する。非手術例に比べ術後投与では血液毒性・非血液毒性とも出現しやすいので,臨床・血液所見に応じて薬剤投与レベルを下げるか,投与スケジュールを 2 週間投与 1 週間休薬に変更するなどの対応を適宜行う134)


F
  緩和ケア

緩和ケアとは,生命を脅かす疾患に関連する問題に直面している患者とその家族に対して,痛みとその他の身体的問題,心理社会的問題,スピリチュアルな問題を早期に同定し,適切に評価し対応することを通して,苦痛を予防し緩和することによって,患者と家族の QOL を改善するアプローチである(WHO,2002 年)。がんの進行にともなって,より大きな意義をもつ。苦痛に対する援助技術,コミュニケーション技術や症状管理の技術が必要である。薬物療法の他に放射線治療,精神療法等も含まれる。苦痛の管理を中心に臨床研究が行われている。