食道がん 〜治療ガイドライン

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目次:


III.疫学・現況・危険因子

要約

わが国における食道癌の動態は,罹患率注1は男性でゆるやかに増加傾向にあり,女性は横ばいである。死亡率は男性においては横ばい,女性においては減少している。

現況として,性別では男性が多く,年齢は60〜70 歳代が多い。占居部位は胸部中部食道に最も多い。組織型は扁平上皮癌が圧倒的に多い。また,同時性,異時性の重複癌が多いことが知られている。

危険因子として扁平上皮癌では喫煙・飲酒が挙げられる。腺癌の危険因子として,欧米ではGERD による下部食道の持続的な炎症に起因するバレット上皮がその発生母地として知られているが,わが国においては発生数が少なく明らかとなってはいない。

A
  罹患率・死亡率

地域がん登録全国推計によるがん罹患データを基にした国立がん研究センターがん対策情報センターの集計によると食道癌の罹患率(粗罹患率)は2004 年の推計によると男性が24.4 人(人口10 万人対),女性が4.0 人(人口10 万人対)であった。年齢調整罹患率注2は男性は増加傾向にあり,女性は近年は増減の傾向はない(図1)。

厚生労働省の人工動態調査によると2008 年の食道癌死亡者数は11.746 人(粗死亡率注3 人口10 万人対9.3 人)であり,全悪性新生物の死亡者数の3.4%に相当し,粗死亡率は男性は,16.3 人(人口10 万人対)で,肺,胃,大腸,肝臓,膵臓に次いで高く,女性は2.7 人(人口10 万人対)で女性は10 番目以上である1)。年齢調整死亡率注4は,食道癌は男性においては横ばい,女性においては減少している(図2)。

人口動態統計による癌死亡データならびにそれを用いた種々のグラフは,国立がん研究センターがん対策情報センター(http://ganjoho.jp/professional/statistics/index.html)より入手可能である1)


注1)罹患率:ある集団を設定し,その集団で一定期間に発生した罹患数を集団の人口で割ったもの。記載されたデータは地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(1975〜2005 年)をもとに国立がん研究センターがん対策情報センターにより集計された。

注2)年齢調整罹患率:人口構成が基準人口と同じだったら実現されたであろう罹患率。

注3)粗死亡率:一定期間の死亡数をその期間の人口で割った死亡率。

注4)年齢調整死亡率:人口構成が基準人口と同じだったら実現されたであろう死亡率。がんは高齢になるほど死亡率が高くなりため,高齢者が多い集団は高齢者が少ない集団よりがんの粗死亡率が高くなることから,集団全体の死亡率を,基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせた形で求められる。基準人口として,国内では通例昭和60 年(1985 年)モデル人口(昭和60 年人口をベースに作られた仮想人口モデル)が用いられる。

図1:食道癌の罹患率の年次推移
(地域がん登録全国推計値.国立がん研究センターがん対策情報センターよりデータ引用)

図2:食道癌の死亡率の年次推移
〔人口動態統計(厚生労働省大臣官房統計情報部).国立がん研究センターがん対策情報センターよりデータ引用〕

B
  わが国における食道癌の現況

わが国における食道癌の現況として,日本食道学会の全国調査(2002 年)2)によると,性別では男女比が約6:1 と男性に多く,年齢は60 代,70 代に好発し,全体の年代の約68%を占める。占居部位は,胸部中部食道が51.6%と最も多く,次いで胸部下部食道(24.2%),胸部上部食道(13.4%),腹部食道(4.5%),頸部食道(4.0%)であった。組織型は扁平上皮癌が92.9%と圧倒的に多く,腺癌が2.4%であった。22.7%に悪性腫瘍の家族歴を認め,食道癌は家族歴をもつ全体の17%に認められ,最も多いのは胃癌の28.9%であった。食道癌症例の他臓器重複癌は同時・異時を含めて約20%に認められ,胃癌,咽頭癌の順で多く,食道癌診療において重要な問題である(XIII.重複癌に対する診療の項参照)。

C
  危険因子

食道癌の危険因子は飲酒と喫煙である。

わが国で90%以上と頻度の高い扁平上皮癌では飲酒および喫煙が危険因子として重要であり,その両者を併用することで危険性が増加することが知られている3-6)。2009 年10 月にWHOのワーキンググループはアルコール飲料に関連したアセトアルデヒドをGroup 1 のcarcinogenとした6)。また,食生活において,栄養状態の低下や果物や野菜を摂取しないことによるビタミンの欠乏も危険因子とされ,緑黄色野菜や果物は予防因子とされる7, 8)

腺癌は,わが国では発生頻度は数%であるが,欧米で増加傾向にあり,約半数以上を占める。GERD による下部食道の持続的な炎症に起因するバレット上皮がその発生母地として知られており,GERD の存在やその発生要因の高いBMI,喫煙などが発生に関与しているという報告がある9-12)。わが国では,症例数が少ないため明らかなエビデンスは証明されていない。

Clinical Question

CQ III-1

わが国において食道腺癌は増加しているか?

Answer

欧米でGERD の発生とともに食道腺癌が増加していることは知られている11)。わが国でも,生活習慣の欧米化,Helicobacter pylori 感染率の減少に伴って増加する可能性が議論されるが,現在のところ増加の傾向は明らかとなっていない13, 14)。今後の傾向については十分なサーベイランスが必要と考えられる。

CQ III-2

アルコール飲料の摂取と喫煙は食道癌のリスクを増加させるか?

Answer

多量飲酒は食道扁平上皮癌の危険因子であり,その発生に強い関連性がある3-6)。この要因としてアルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の遺伝子多型が関与しているとの報告がある15, 16)。喫煙は口腔,鼻腔,咽喉頭,食道における発癌に強く関与しており,食道扁平上皮癌の危険因子である3-6)。アルコール摂取と喫煙を併せるとその危険率はさらに上昇する3-5, 15)。また,喫煙は腺癌においても危険因子であることが報告されている9)

【参考文献】

1) 国立がん研究センターがん対策情報センター: がん情報サービス.
http://ganjoho.jp/professional/statistics/index.html

2) Ozawa S, et al: Comprehensive registry of esophageal cancer in Japan, 2002. Esophagus. 2010; 7(1): 7-22.

3) Steevens J, et al: Alcohol consumption, cigarette smoking and risk of subtypes of oesophageal and gastric cancer: a prospective cohort study. Gut. 2010; 59(1): 39-48.

4) Sakata K, et al: Smoking, alcohol drinking and esophageal cancer: findings from the JACC Study. J Epidemiol. 2005; 15: S212-9.

5) Ishiguro S, et al: Effect of alcohol consumption, cigarette smoking and flushing response on esophageal cancer risk: a population-based cohort study (JPHC study). Cancer Lett. 2009; 275(2): 240-6.

6) Secretan B, et al: A review of human carcinogens--Part E: tobacco, areca nut, alcohol, coal smoke, and salted fish. Lancet Oncol. 2009; 10(11): 1033-4.

7) Freedman ND, et al: Fruit and vegetable intake and esophageal cancer in a large prospective cohort study. Int J Cancer. 2007; 121(12): 2753-60.

8) Lagiou P, et al: Diet and upper-aerodigestive tract cancer in Europe: the ARCAGE study. Int J Cancer. 2009; 124(11): 2671-6.

9) Yousef F, et al: The incidence of esophageal cancer and high-grade dysplasia in Barrett’s esophagus: a systematic review and meta-analysis. Am J Epidemiol. 2008; 168(3): 237-49.

10) Abnet CC, et al: A prospective study of BMI and risk of oesophageal and gastric adenocarcinoma. Eur J Cancer. 2008; 44(3): 465-71.

11) Lagergen J, et al: Symptomatic gastroesophageal reflux as a risk factor for esophageal adenocarcinoma. N Eng J Med. 1999; 340(11): 825-31.

12) Kubo A, et al: Body mass index and adenocarcinomas of the esophagus or gastric cardia: a systematic review and meta-analysis. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2006; 15(5): 872-8.

13) Shibata A, et al: Trend in incidence of adenocarcinoma of the esophagus in Japan, 1993-2001. Jpn J Clin Oncol. 2008; 38(7): 464-8.

14) 菊地正悟: Barrett 食道癌の現状と病態 疫学からみたBarrett 食道癌. 日消誌. 2008; 105(9): 1325-9.

15) Cui R, et al: Functional variants in ADH1B and ALDH2 coupled with alcohol and smoking synergistically enhance esophageal cancer risk. Gastroenterology. 2009; 137(5): 1768-75.

16) Yokoyama T, et al: Alcohol flushing, alcohol and aldehyde dehydrogenase genotypes, and risk for esophageal squamous cell carcinoma in Japanese men. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2003; 12(11 Pt 1): 1227-33.


IV.食道癌の診断

A
  癌の進行度診断

要約

食道癌は各種画像診断により腫瘍の壁深達度の診断,リンパ節転移の診断,遠隔転移の診断により進行度診断を行う。進行度診断に加え,病巣特性(悪性度)の把握および全身状態の評価を踏まえ,治療方針を患者に提示する。診断根拠,診断過程などを患者に説明し,理解と同意を得て,治療方針を決定する。

Clinical Question

CQ IV-1

食道癌の発見の契機および食道癌診断のファーストステップは何か?

Answer

Comprehensive Registry of Esophageal Cancer in Japan 2002 によると粘膜下層(T1b)までの病変では59%が症状はなく,検診や他疾患のための検査などで発見されている。一方,筋層以深に及ぶ病変では狭窄感39%,嚥下困難22%など,大部分が有症状で発見されている。また粘膜下層までの病変の90%が内視鏡検査で,5%が食道造影検査で発見されている17)。近年開発された画像強調内視鏡を用いると食道扁平上皮癌をより効率良く発見することができる18)。一方,筋層以深に及ぶ病変では77%が内視鏡検査で,15%が食道造影検査で発見されている。食道癌全体では93%が内視鏡検査,食道造影検査のいずれかで発見されている17)

推奨事項

表在癌では愁訴のないことが多く,その発見には,内視鏡検査の機会において食道病変に留意する19)[グレードA]

有症状の場合,内視鏡検査ないし食道造影検査のいずれかを行う。[グレードA]

CQ IV-2

壁深達度診断はどのように行うか?

Answer

表在癌では色素内視鏡検査を含む内視鏡検査,拡大内視鏡検査,食道造影検査,超音波内視鏡検査などを行い,総合的に診断する20-27)。狭窄が強く,内視鏡検査が不十分である場合は食道造影,CT,超音波内視鏡検査(以下EUS)MRI 検査にて診断する28)

隣接臓器への浸潤の診断にはCT, EUS,MRI 検査が有用である。臨床症状,画像診断において気管および気管支浸潤が疑われる場合,喀血や急性の呼吸不全の可能性があり,また治療により瘻孔形成の可能性も高く気管支内視鏡検査を行う。

推奨事項

色素内視鏡検査を含む内視鏡検査,食道造影検査,CT,EUS,MRI 検査などにより壁深達度の診断を行う。[グレードB]

隣接臓器への浸潤の診断にはCT 検査,超音波内視鏡検査(EUS)を行う。必要に応じてMRI検査を追加する。[グレードB]

気管および気管支浸潤が疑われる場合,気管支内視鏡検査を行う。[グレードB]

CQ IV-3

遠隔転移,リンパ節転移の診断の方法は?

Answer
  1. 問診および視・触診
  2. 超音波検査(腹部および頸部)
  3. CT,MRI 検査
  4. 超音波内視鏡
  5. FDG-PET 検査
  6. 骨シンチグラフィー
などの検査を行い,総合的に診断する。術前深達度がT1bSM 以深の症例では術前にFDG-PET 検査を施行する事が望まれる29, 30)

CQ IV-4

食道癌の重複癌の検索は?

Answer

Comprehensive Registry of Esophageal Cancer in Japan 2002 では同時性,異時性を合わせて18%(744/4235),同時性重複癌は7%(313/4235)と報告されている。同時性重複臓器としては胃3.5%(149/4235),頭頸部1.8%(75/4235),大腸癌0.6%(27/4235)肺癌1.0%(14/4235)などの報告があり,食道癌診断時,重複癌の検索が必要である。

推奨事項

食道癌症例では他臓器癌の検索を行う。[グレードB]

B
  全身状態の評価

要約

食道癌根治術,特に開胸開腹を伴う手術は消化器癌手術の中でも最も侵襲の大きな術式である。近年の外科手術手技,麻酔手技,術後管理などの進歩により,食道癌根治術の安全性は高まってきたが,現在においても術後合併症発症率や,手術関連死亡率は,他疾患と比較して高率である31-33)。また,食道癌の好発年齢は65〜70 歳の高齢者層であり,これらの年齢層が各種の生活習慣病(高血圧,糖尿病,高脂血症など)を有している頻度が高いことに留意する必要がある。したがって,根治手術の適応は,各種重要臓器機能を評価して慎重に決定することが望ましい。また,化学療法・放射線療法あるいは化学放射線療法の施行に際しても重要臓器機能が一定の基準を満たしていることが望ましい。

そこで,以下に,全身状態・重要臓器機能を評価するために必要な主な諸検査と個々の検査における判断の目安を記載するが,全身状態に基づく治療適応の決定はあくまで総合的に評価されるべきものであり,厳密な数値基準を設けることは容易ではない。

活動状態(Performance status:PS)34)

全身状態を総合的に評価する上で,簡便かつ有用な指標としてよく用いられる。食道癌根治手術や化学療法,放射線療法を施行する臨床試験においては,下記のPS 0〜2 を適格症例とすることが一般的である。

表1:Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)活動状態スコア

PS 0

無症状で社会活動ができ,制限を受けることなく,発病前と同等に振る舞える。

PS 1

軽度の症状があり,肉体的労働は制限を受けるが,歩行,軽労働や坐業はできる。例えば軽い家事,事務など。

PS 2

歩行や身の回りのことはできるが,時に少し介助がいることもある。軽労働はできないが,日中の50%以上は起居している。

PS 3

身の回りのある程度のことはできるが,しばしば介助がいり,日中の50%以上は就床している。

PS 4

身の回りのことができず,常に介助がいり,終日就床を必要としている。

肺機能検査

食道癌患者は加齢,喫煙歴が危険因子となっており,慢性閉塞性肺疾患の罹患頻度も比較的高い。開胸の可否を決定する際の重要な指標となる。スパイロメトリーにより%VC,FEV1.0%,%RV/TLC,動脈血ガス分析を行い,胸部X 線所見,CT 所見,喫煙歴,既往歴を考慮して総合的に判断する。%VC:40%以下,FEV1.0%:50%以下,FEV1.0:1.5 L 未満,%RV/TLC:56%以上,動脈血酸素分圧:60 Torr 以下の症例については開胸術の適応を慎重に決定することが望ましい35, 36)

心機能検査

弁膜疾患や心筋症による心不全,重症不整脈,発症後3 カ月以内の心筋梗塞は原則として手術適応外と考えられる37)。安静時および運動負荷心電図を原則として施行し,何らかの異常所見が認められた場合,ホルター心電図,心エコー,心臓カテーテル検査,運動負荷心筋シンチグラフィーを施行する35)

術前に心機能異常が認められた場合や抗血小板療法,抗凝固療法を行っている場合には循環器内科医にコンサルトしておくのが望ましい。

肝機能検査

重症肝炎や劇症肝炎は原則として外科治療の適応外と考えられる。慢性肝炎,肝硬変症例については,血算,血液凝固能検査,血液生化学検査,ICG 負荷試験(15 分値),肝炎ウイルス検査を行い総合的に評価する。特殊な病態を除いて,肝機能障害に基づくICG 負荷試験(15 分値)40%以上の場合は原則として手術適応外となるが,20〜40%の場合には低侵襲手術の適応も考慮し,十分な注意を要する37)

HBs 抗原陽性例において全身化学療法を施行することでB 型肝炎ウイルスの再活性化が生じる可能性があることが指摘されている38)。またB 型肝炎ウイルス感染既往例(HBs 抗原陰性でHBc 抗体またはHBs 抗体が陽性)でも,化学療法によって劇症肝炎を起こすことがあり事前に肝臓専門医へコンサルトしておくのが望ましい。

腎機能検査

一般尿検査,血清Cr,BUN,電解質,クレアチニンクリアランス(Ccr)などが評価項目となる。腎機能低下のみで手術適応外とすることは比較的少ないが,血清Cr 2.0 mg/dL 以上,Ccr 30%以下の症例では,透析療法を要する可能性を説明することが望ましい37)

耐糖能検査

糖尿病,耐糖能低下例では周術期の血糖コントロールを厳密に施行する必要がある。空腹時血糖値測定,75 g 経口ブドウ糖負荷試験,HbA1c 測定,尿糖定量検査,尿ケトン体検査を施行する。術前のコントロールの目安は,空腹時血糖< 140 mg/dL,1 日尿糖排泄量10 g 以下,尿ケトン体陰性である。

その他

精神障害の有無を含む中枢神経機能を総合的に評価する。急性期脳血管障害は一般には食道癌根治術の適応にならない。うつ状態,不安,せん妄,認知症などについては精神科医の専門的評価を求めることが望ましい。

Clinical Question

CQ IV-5

食道癌周術期合併症危険因子はどのようなものが報告されているのか?

Answer

術前のリスク因子としては,当該施設年間手術症例数,年齢(>70 歳),性別(男性>女性),腫瘍進行度,飲酒歴,喫煙歴,慢性閉塞性肺疾患の既往,低栄養,呼吸機能(動脈血酸素分圧,肺活量,%FEV 1.0 低下),心機能(心疾患の既往,労作時呼吸困難,駆出率<40%),肝機能(肝硬変・腹水の存在,血清アルブミン低値,血清ALP 高値),腎機能(血清BUN 高値),術前補助療法などが報告されている39-44)。近年,術後のSystemic Inflammatory Response Syndrome(SIRS)の継続期間やSIRS 診断基準陽性数,術後血清IL-6 値,術後血清CRP 値が術後合併症の発症予測に有用であるという報告もある45)。しかしながら,単一の指標で数値判断することは容易ではなく,総合的リスク評価が求められる。

CQ IV-6

耐術能を総合評価するスコアリングシステムはあるのか?

Answer

Physiological and operative severity score for the enumeration of mortality and morbidity(POSSUM)score や,American Society of Anesthesiology(ASA)grade, composite risk score による身体機能のgrading system などが報告され,術後合併症発症や手術関連死亡の予測に有用である可能性が示されている39, 46-48)

CQ IV-7

化学療法,放射線療法,化学放射線療法の施行に際して一定の基準はあるのか?

Answer

使用する抗悪性腫瘍薬の種類や用量,また放射線照射野の大きさによりこれに耐え得る臓器機能も異なるため明確な数値基準を記載することは困難であるが,現在多施設共同試験として施行されている臨床試験における全身状態に関連した登録基準を参考として下記に記載する。年齢に関しては,個々の臨床試験においては登録基準が設けられているが,実地臨床では暦年齢よりも個々の症例の臓器機能,活動状態を総合的に判断することが望ましい。また,化学放射線療法や手術療法と併用する化学療法などに比して,放射線単独療法の場合治療に伴う侵襲は少ないものと想定されるため,全身状態不良の症例も治療対象となることがある。

下記の基準は,あくまで臨床試験においてこれを満たした場合に食道癌に対する治療を行う対象として問題ないという目安であり,これに満たない場合は個々の状況に応じて判断する。

  • Performance status(ECOG)が0,1,2 のいずれかである。
  • 白血球数
≧4,000/mm3
  • ヘモグロビン
≧10 g/dL
  • 血小板数
≧100,000/mm3
  • 総ビリルビン
≦1.2 mg/dL
  • GOT
≦施設基準値上限×2 倍
  • GPT
≦施設基準値上限×2 倍
  • クレアチニン
≦1.2 mg/dL
  • BUN
≦25 mg/dL
  • クレアチニンクリアランス
≧60 mL/min(計算値可)
  • PaO2
≧70 Torr
【参考文献】

17) The Japanese Society for Esophageal Diseases: Comprehensive Registry of Esophageal Cancer in Japan (1998, 1999). 3rd ed, 2002.

18) Muto M, et al: Early detection of superficial squamous cell carcinoma in the head and neck region and esophagus by narrow band imaging: a multicenter randomized controlled trial. J Clin Oncol. 2010; 28(9): 1566-72.

19) Jacobson BC, et al: The role of endoscopy in the assessment and treatment of esophageal cancer. Gastrointest Endosc. 2003; 57(7): 817-22.

20) 島田英雄, 他:【食道表在癌の深達度診断】 食道表在癌の深達度診断 超音波内視鏡の立場から. 胃と腸. 2010; 45(9): 1467-81.

21) 小田丈二, 他: 【食道表在癌の深達度診断】 食道表在癌のX 線学的深達度診断 X 線造影像にみられる側面変形による深達度亜分類診断の試み. 胃と腸. 2010; 45(9): 1451-66.

22) 川田研郎, 他:【食道表在癌の深達度診断】 食道表在癌の深達度診断 超音波内視鏡の立場から. 胃と腸. 2010; 45(9): 1527-34.

23) 高橋亜紀子, 他: 【食道表在癌の深達度診断】 食道表在癌の深達度診断 NBI 拡大内視鏡の立場から. 胃と腸. 2010; 45(9): 1504-14.

24) 有馬美和子, 他: 【食道表在癌の深達度診断】 食道表在癌の深達度診断 FICE 拡大内視鏡の立場から. 胃と腸. 2010; 45(9): 1515-25.

25) 井上晴洋, 他: 【早期食道癌の診断 最近の進歩】 早期食道癌の深達度診断の進歩 NBI 拡大内視鏡を中心に. 胃と腸. 2011; 43(10): 1479-88.

26) 門馬久美子, 他: 【食道表在癌2011】 食道表在癌の深達度診断 通常観察と色素内視鏡. 胃と腸. 2011; 46(5): 650-63.

27) May A, et al: Accuracy of staging in early oesophageal cancer using high resolution endoscopy and high resolution endosonography: a comparative, prospective, and blinded trial. Gut. 2004; 53(5): 634-40.

28) Drudi FM, et al: Esophagogram and CT vs endoscopic and surgical specimens in the diagnosis of esophageal carcinoma. Radiol Med. 2002; 103(4): 344-52.

29) Chatterton BE, et al: Positron tomography changes management and prognostic stratification in patients with oesophageal cancer: results of a muticentre prospective study. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2009; 3(3): 354-61.

30) Van Westreenen HL, et al: Limited additional value of positron emission tomography in staging oesophageal cancer. Br J Surg. 2007; 94(12): 1515-20.

31) Stein HJ, et al: Improved prognosis of resected esophageal cancer. World J Surg. 2004; 28(6): 520-5.

32) Griffin SM, et al: Early complications after Ivor Lewis subtotal esophagectomy with two-field lymphadenectomy: risk factors and management. J Am Coll Surg. 2002; 194(3): 285-97.

33) Tachibana M, et al: Extended esophagectomy with 3-field lymph node dissection for esophageal cancer. Arch Surg. 2003; 138(12): discussion 1390.

34) Oken MM, et al: Toxicity and response criteria of the Eastern Cooperative Oncology Group. Am J Clin Oncol. 1982; 5(6): 649-55.

35) Saito T, et al: Prediction of operative mortality based on impairment of host defense systems in patients with esophageal cancer. J Surg Oncol. 1993; 52(1): 1-8.

36) 齋藤貴生, 他: 全身状態の定量的評価に基づく食道癌手術適応基準についての検討. 日外会誌. 1990; 91(5): 556-63.

37) 桑野博行, 他: 食道癌の術前検査および処置の原則. 食道外科の要点と盲点. 中山書店, pp128-9, 2003.

38) Yeo W, et al: Hepatitis B virus reactivation in lymphoma patients with prior resolved hepatitis B undergoing anticancer therapy with or without rituximab. J Clin Oncol. 2009; 27(4): 605-11.

39) McCulloch P, et al: Mortality and morbidity in gastro-oesophageal cancer surgery: initial results of ASCOT multicentre prospective cohort study. BMJ. 2003; 327(7425): 1192-7.

40) Birkmeyer JD, et al: Surgeon volume and operative mortality in the United States. N Engl J Med. 2003; 349(22): 2117-27.

41) Bailey SH, et al: Outcomes after esophagectomy: a ten-year prospective cohort. Ann Thorac Surg. 2003; 75(1): 217-22; discussion 222.

42) Avendano CE, et al: Pulmonary complications after esophagectomy. Ann Thorac Surg. 2002; 73(3): 922-6.

43) Ferguson MK, et al: Preoperative prediction of the risk of pulmonary complications after esophagectomy for cancer. J Thorac Cardiovasc Surg. 2002; 123(4): 661-9.

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45) Haga Y, et al: Systemic inflammatory response syndrome and organ dysfunction following gastrointestinal surgery. Crit Care Med. 1997; 25(12): 1994-2000.

46) Copelaud GP, et al: POSSUM: a scoring system for surgical audit. Br J Surg. 1991; 78(3): 355-60.

47) Vacanti CJ, et al: A statistical analysis of the relationship of physical status to postoperative mortality in 68,388 cases. Anesth Analg. 1970; 49(4): 564-6.

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V.内視鏡的治療

要約

内視鏡的治療(endoscopic treatment)には,主に内視鏡的切除術(endoscopic resection: ER)がある。

内視鏡的切除術には従来の病変粘膜を把持,もしくは吸引し,スネアにより切除を行う内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)と,IT ナイフ,Hook ナイフなどによる広範囲の病変の一括切除が可能な内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)の方法がある49-52)。その他の内視鏡的治療として光線力学的治療(PDT),アルゴンプラズマ凝固法,電磁波凝固法が行われる。

内視鏡的切除の適応:壁深達度が粘膜層(T1a)のうち,EP,LPM 病変では,リンパ節転移は極めて稀であり,これにより十分に根治性が得られる。壁深達度が粘膜筋板に達したもの,粘膜下層にわずかに浸潤するもの(200μm まで)では粘膜切除が可能であるが,リンパ節転移の可能性があり,相対的な適応となる53-55)。粘膜下層(T1b)に深く入ったもの(200 μm 以上)では50%程度の転移率があり17),表在癌であっても進行癌(固有筋層以深へ浸潤した癌)に準じて治療を行う。

粘膜切除が3/4 周以上に及ぶ場合,粘膜切除後の瘢痕狭窄の発生が予測されるため十分な術前説明と狭窄予防が必要である56, 57),また表層拡大型癌では複数カ所で深部浸潤することがあるため慎重な深達度診断を要する。

切除組織標本による診断:各種壁深達度診断には限界があり,さらに広範囲な病変では壁進達度の正確な診断は困難である。そのため一括切除組織標本による診断が必要である。

内視鏡的粘膜切除不能病変に対する治療:EMR の辺縁遺残病変に対する追加治療,放射線治療や化学放射線療法の追加治療などによる粘膜挙上困難例,出血傾向のある症例など内視鏡的切除不能症例に対する治療の選択肢として,光線力学的治療(PDT)58),アルゴンプラズマ凝固療法(APC)59)などを考慮する。

一括切除の優位性:切除標本の組織的診断において一括切除が望ましい。従来分割切除されていた病変もendoscopic submucosal dissection(ESD)により,一括切除が可能となり,今後の器具の開発,技術の普及が期待される。

偶発症:ESD を含む内視鏡的粘膜切除では,切除に伴う出血,食道穿孔,切除後の瘢痕性の狭窄など偶発症が報告されており,その予防,対策,治療について周知が必要である。切除組織診断における追加治療の要否については,様々な議論がなされている。

内視鏡的切除の適応


CQ V-1

内視鏡的切除により完全切除され,切除標本において粘膜癌と診断された症例に対して,追加治療は必要か?

Answer

壁深達度EP,LPM の外科的切除症例でのリンパ節転移率は5%以下と報告されている。粘膜癌のEMR の5 年生存率90%以上で死亡原因は他病死が大部分であり追加治療の必要はない。しかし粘膜筋板まで浸潤する病変(MM)においてはリンパ節再発,他臓器転移にて再発死亡の報告もあり,追加治療の要否は年齢,全身状態等により総合的に判断する。

推奨事項

組織学的検索において壁深達度T1a-EP,LPM かつ完全切除と診断された場合は追加治療を行う必要がない。[グレードB]

CQ V-2

内視鏡的切除により深達度がT1aEP,LPM で側方切離断端が陽性の場合,追加治療は必要か?

Answer

焼却効果にて腫瘍が消失した可能性もあるため,直ちに追加治療を施行する必要はない。しかし,遺残の有無を検討するために,3〜6 月毎に内視鏡観察を行い,局所再発が認められた場合は再切除を行う。ただし,局所再発例の内視鏡切除は難易度が高く,偶発症の危険が高いため専門施設での治療が望まれる。

CQ V-3

内視鏡的切除後に深達度T1aMM と診断された場合,追加治療は必要か?

Answer

壁深達度MM で脈管侵襲陽性,またはINFc や垂直断端陽性の場合は外科治療,化学放射線治療,放射線治療または化学療法等の追加治療を考慮する。また,側方切離断端のみが陽性の場合は慎重な経過観察を行い,局所再発のみならずリンパ節転移,遠隔転移の有無を検索する。これら全てが陰性の場合は十分なIC のもとで経過観察を行う選択肢もあり得るが,リンパ節再発の可能性があるため,6〜12 カ月毎の内視鏡検査に加え,3〜6 カ月毎のCT またはEUS によるサーベイランスを要する。

CQ V-4

内視鏡的切除により深達度がT1bSM の場合,追加治療は必要か?

Answer

脈管侵襲の有無,垂直断端陽性の有無を問わず,外科治療,化学放射線治療,放射線治療または化学療法等の追加治療を考慮する。

CQ V-5

内視鏡的切除において一括切除は分割切除より優れているか?

Answer

内視鏡的粘膜切除後の組織学的評価は予後の推測,追加治療の必要性を考える上で極めて重要であり,一括切除により,正確な組織学的な検索は可能となる点において一括切除は分割切除より優れている。また一括切除は分割切除より局所再発の率が低いとの報告が多数みられる。内視鏡切除の手技はEMR とESD に大別されるが,いずれも一括切除が原則となる。EMR では切除面積に制限があるため,EMR では一括切除が困難と予測される場合はESD による切除が望まれる。ESD を施行するにあたっては,出血,食道穿孔などの偶発症の予防法や,発生時の対処法を身につけておく必要がある。

推奨事項

内視鏡的切除では一括切除が原則である。[グレードC1]

CQ V-6

粘膜挙上不能例,出血傾向のある症例など,内視鏡的粘膜切除不能病変に対する治療の選択肢は?

Answer

光線力学的療法(PDT)注1,アルゴンプラズマ凝固療法(APC)注2などが選択される。

推奨事項

様々な理由により内視鏡的粘膜切除不能の場合,光線力学的治療(PDT),アルゴンプラズマ凝固療法(APC)を提示する。[グレードC1]

CQ V-7

バレット食道癌に対する内視鏡的治療の適応は?

Answer

バレット食道では粘膜筋板が2 層化する場合が多く,浅層筋板(SMM),深層筋板(DMM)に分けられる。扁平上皮癌ではT1a をEP,LPM,MM に亜分類し,それぞれのリンパ節転移率が明らかにされているが,バレット食道腺癌では亜分類別のリンパ節転移率は明らかにされていない。また,扁平上皮癌では粘膜下層への浸潤距離200μm でT1b をSM1 とSM2 に分けているが,バレット食道腺癌における粘膜下層浸潤の亜分類は定められていない。

欧米での報告では粘膜内癌(EP,SMM,LPM,DMM)のリンパ節転移率はほぼ0%であり60),内視鏡的治療の適応と報告されているが,組織型別や潰瘍合併の有無などの詳細は検討はなされていない。したがって,現時点では扁平上皮癌に準じEP,SMM,LPM までの分化型腺癌は内視鏡治療の適応と考えられるが,DMM 浸潤例,潰瘍合併例,未分化型癌に対する適応拡大は今後の課題である。


注1)光線力学的治療(PDT)58):腫瘍親和性のある光感受性物質ポルフィマーナトリウム(フォトフリン)を静脈内に投与し,腫瘍に選択的に取り込まれた光感受性物質に630 nm の赤色光線を照射し,腫瘍組織を壊死させる治療である。1994 年10 月早期肺がん,早期胃がん,子宮初期癌とともに表在性食道がんは保険適用が認可されている。

表在食道癌での局所制御率は90%と報告されている。EMR 不能例,EMR 後,放射線治療後,化学放射線治療後の遺残病変に対して有効であるとの報告がある。

注2)アルゴンプラズマ凝固療法(APC)59):内視鏡的にアルゴンガスを噴出し,高周波電流を放電させ,熱凝固により組織を焼灼する治療である。

切除標本の取扱い,治療の完全性の評価法

内視鏡的切除後の治療方針決定のための切除標本の取扱いと病理組織学的診断の手順は以下 のとおりである。

  1. 病理組織学的根治度の評価は一括切除が対象となる。
  2. 切除標本の取扱い・標本作製は,食道癌取扱い規約第10版に準じ以下のように行う。
  • EMR 標本やESD 標本は近位側,遠位側を明記した後,速やかに生体内とほぼ同様の大きさに伸展固定する。
  • 標本の切り出し時には,ヨード染色を施行し,病変部の不染域を確認することが望ましい。
  • 標本の切り出しは癌巣の広がりを考慮し,切除断端が正確に判断できるように行う。病変が切除断端から十分離れていると考えられる場合は,標本からできるだけ多くの情報が得られるように標本の長軸と直交するように切り出す。病変が切除断端に近接していると考えられる場合は病変と切除断端の距離が最も近い部分に接線をおき,それに直交するように切り出す。切り出しは2〜3 mm 間隔で全割し,標本は粘膜筋板と上皮全層が観察される割面を作製する(図3)。
  1. 病理組織学的診断は,上述のように作製された全割切片の組織学的検索のもとに行われる。
  2. 病理組織学的診断は,内視鏡的切除後に追加治療を実施する必要性を決定するために行 う。したがって,病変が完全に切除されているか,リンパ節転移陽性の可能性があるかを 明確にするために,深達度,脈管侵襲の有無,および切除断端の状況を記載する。

図3:内視鏡的切除標本の切り出し方
ヨード染色で病変の不染域確認のもとに切り出す。

【参考文献】

49) Oyama T, et al: Endoscopic submucosal dissection of early esophageal cancer. Clin Gastroenterol Hepatol. 2005; 3(7 Suppl 1): S67-70.

50) Fujishiro M, et al: Endoscopic submucosal dissection of early esophageal cancer. Clin Gastroenterol Hepatol. 2006; 4(6): 688-94.

51) Ishihara R, et al: Comparison of EMR and endoscopic submucosal dissection for en bloc resection of early esophageal cancers in Japan. Gastrointest Endosc. 2008; 68(6): 1066-72.

52) Takahashi H, et al: Endoscopic submucosal dissection is superior to conventional endoscopic resection as a curative treatment for early squamous cell carcinoma of the esophagus. Gastrointest Endosc. 2010; 72(2): 255-64.

53) 小山恒男, 他: 【食道m3・sm1 癌の診断と遠隔成績】 第46 回食道色素研究会アンケート調査報告, 転移のあったm3・sm1 食道癌の特徴. 胃と腸. 2002; 37(1): 71-4.

54) Katada C, et al: Clinical outcome after endoscopic mucosal resection for esophageal squamous cell carcinoma invading the muscularis mucosae--a multicenter retrospective cohort study. Endoscopy. 2007; 39(9): 779-83.

55) Shimizu Y, et al: Long-term outcome after endoscopic mucosal resection in patients with esophageal squamous cell carcinoma invading the muscularis mucosae or deeper. Gastrointest Endosc. 2002; 56(3): 387-90.

56) Mizuta H, et al: Predictive factors for esophageal stenosis after endoscopic submucosal dissection for superficial esophageal cancer. Dis Esophagus. 2009; 22(7): 626-31.

57) Katada C, et al: Esophageal stenosis after endoscopic mucosal resection of superficial esophageal lesions. Gastrointest Endosc. 2003; 57(2): 165-9.

58) Yano T, et al: Photodynamic therapy as salvage treatment for local failures after definitive chemoradiotherapy for esophageal cancer. Gastrointest Endosc. 2005; 62(1): 31-6.

59) 田辺 聡, 他: アルゴンプラズマ凝固(APC)による焼灼治療の現況と展望. 日本消化器内視鏡学会雑誌. 2004; 46(11): 1391-98.

60) Bollschweiler E, et al: High rate of lymph-node metastasis in submucosal esophageal squamous-cell carcinomas and adenocarcinomas. Endoscopy. 2006; 38(2): 149-56.


VI.外科治療

要約

食道癌の発生部位,占居範囲,深達度,転移の有無,患者の全身状態,治療する施設などによって治療方針は様々であり,複数の選択肢が存在する。治療法の中にはすでに日常の臨床で施行され定型化されているものと,まだエビデンスは乏しいが臨床研究段階にあり普及しつつある治療法も存在する。

外科治療においても,切除断端距離やリンパ節郭清範囲,再建に用いる臓器と再建経路,補助療法を加えた集学的治療,および根治的(化学)放射線治療後のサルベージ手術は,各施設で各々施行されており,エビデンスに基づいた現時点で最も妥当と考えられる標準的な治療法を1 つだけに絞り込むのは困難である。

食道は頸部,胸部,腹部と解剖学的に広い範囲に存在する臓器であり,周囲臓器も占居部位によって様々である。発生部位や進行度および患者の全身状態によって治療方針は大きく異なるが,外科治療はその中で中心となってきた治療法である。一般に内視鏡治療の絶対適応は深達度がEP あるいはLPM であるが,広範囲に広がる早期癌でリンパ節転移を認めない症例にはリンパ節郭清を行わない食道切除再建を行うことがある。癌が粘膜筋板に達したものでは約9.3%のリンパ節転移率がみられ,深達度が深くなるにつれて転移率は高くなり,粘膜下組織に深く浸潤したものでは50%程度の転移率である53)。表在癌であってもリンパ節転移がある程度疑われるものに対してはT2 以深の癌に準じてリンパ節郭清を行う,とする意見が一般的である61)。T4 症例は治癒切除が可能であると判断される場合に限り手術を考慮してもよい。一般的には遠隔リンパ節および他臓器への転移を認めるものに関しては初回治療では手術療法を選択しない。

現在,胸部食道癌における頸部・胸部・腹部の3 領域リンパ節郭清術に代表される手術術式の定型化および標準化による外科治療法の確立,さらにそれに基づいた鏡視下手術の導入普及62, 63),また縮小手術などによる手術の低侵襲化が図られているが,その根拠となるエビデンスは十分とはいえないのが現状である。

【参考文献】

53) 小山恒男, 他: 【食道m3・sm1 癌の診断と遠隔成績】 第46 回食道色素研究会アンケート調査報告, 転移のあったm3・sm1 食道癌の特徴. 胃と腸. 2002; 37(1): 71-4.

61) 新井正美, 他: 胸部食道癌におけるリンパ節転移の特徴と治療上の問題点. 日癌治療会誌. 1999; 34(2): 308.

62) Osugi H, et al: A comparison of video-assisted thoracoscopic oesophagectomy and radical lymph node dissection for squamous cell cancer of the oesophagus with open operation. Br J Surg. 2003; 90(1): 108-13.

63) Smithers BM, et al: Comparison of the outcomes between open and minimally invasive esophagectomy. Ann Surg, 2007; 245(2): 232-40.


A
  頸部食道癌に対する手術

要約

下咽頭から頸部食道では解剖学的構造や生理学的機能が複雑であり,なかでも喉頭合併切除による発声機能の喪失は術後のQOL に大きな差をもたらすため,根治性とQOL のバランスを十分に考慮して,治療法の選択を慎重に決定することが重要である64-72)

切 除

頸部食道癌は進行癌の頻度が高く,リンパ節転移率も高く,容易に他臓器浸潤を生じやすいが,リンパ節転移の範囲は比較的頸部に限局していることから,根治手術の適応になる症例は多い。広範囲に遠隔転移を認める症例や,上縦隔に多数のリンパ節転移を認める症例は根治切除の適応外になることが多い。

a.喉頭温存手術

喉頭,気管に腫瘍浸潤がなく,腫瘍口側が食道入口部より下方にとどまる症例が適応となる。

喉頭温存手術には胸部食道切除の必要性の有無により,喉頭温存頸部食道切除術と喉頭温存食道全摘術とがある。腫瘍の進展が胸部食道に及んでいるか,内視鏡的切除の適応とならない多発病変や吻合が困難な場合に,胸部食道を合併切除することがある。また術前治療にて癌腫の縮小が得られた場合,喉頭温存目的に本術式の適応となる症例もみられる。

b.咽頭喉頭食道切除術(喉頭合併切除)

腫瘍の進展が喉頭,気管,下咽頭に及ぶ症例,あるいは吻合に十分な頸部食道の温存が困難な症例が適応となる。

咽頭喉頭食道切除術には胸部食道切除の必要性の有無により,咽頭喉頭頸部食道切除術と咽頭喉頭食道全摘術とがある。腫瘍の進展が胸部食道に及んでいるか,内視鏡的切除の適応とならない多発病変や吻合が困難な場合に,胸部食道を合併切除することがある。

Clinical Question

CQ VI-1

喉頭合併切除の手術適応症例に対して,術前あるいは根治的な
化学放射線療法は喉頭摘出の回避の可能性を高めるか?

Answer

近年化学放射線療法の発展に伴い,喉頭摘出を回避する目的で術前あるいは根治的な化学放射線療法を行い,機能温存への配慮が行われている67-69)。化学放射線療法は治療成績の向上よりも喉頭摘出の回避という見地から,患者の選択として施行される場合が増えており,結果として喉頭温存可能な症例が増えているが,反面サルベージ手術も増加している67-69)。局所進行癌に対して術前化学放射線療法が予後の改善を認め,再発のリスクを軽減したという報告70)がある一方,術前放射線療法および術前化学放射線療法は予後の改善に寄与しなかったという報告71)もある。今後化学放射線療法が喉頭温存率および治療成績を向上させるか否か検証する必要がある71)。喉頭温存手術では誤嚥の予防のため喉頭挙上術などを付加する場合もある。しかし高齢者の場合には,喉頭温存手術後の誤嚥性肺炎の危険性や喉頭合併切除後の発声訓練の問題など,患者側の要因が喉頭温存手術の選択に大きく影響を与えることもある72)

推奨事項

推奨できるだけの十分な根拠はないが,術前あるいは根治的な化学放射線療法は喉頭温存に有効な症例があり,喉頭摘出を回避する目的で行うことがある。[グレードC1]

CQ VI-2

喉頭温存手術では口側切離断端の癌浸潤の有無を確認するために
迅速病理診断は有効か?

Answer

腫瘍上縁から2〜3 cm の口側切除断端が必要であるという報告73, 74)がみられるが,全てに十分な切除範囲を確保できないこともある72, 75)。口側切離断端の癌浸潤の有無を確認するためには,食道内腔の粘膜面はヨード染色を行い,切離断端は術中迅速病理診断にて癌浸潤のないことを確認することが望ましい。特に腫瘍の進展が食道入口部に近い場合では,手術前に腫瘍進展範囲が正確に診断できないことが多く,切離断端の癌浸潤の有無を確認する必要がある。迅速病理診断にて切離断端の癌浸潤陰性が確保できれば喉頭温存手術を施行している施設もある。

推奨事項

迅速病理診断は腫瘍口側の切離断端における癌浸潤の有無を確認するために有用である。[グレードB]

リンパ節郭清

頸部のリンパ節としては,食道癌取扱い規約では浅在性リンパ[100],頸部食道傍リンパ節[101],深頸リンパ節[102],咽頭周囲リンパ節[103],鎖骨上リンパ節[104]がある。胸部リンパ節としては,反回神経周囲リンパ節[106 rec],胸部上部食道傍リンパ節[105]が主である。

これらのうち[101],[106 rec]は頸部食道癌の1 群リンパ節で,[102][104][105]は2 群リンパ節に属し,可及的に郭清したほうが好ましい(附4 参照)。

Clinical Question

CQ VI-3

頸部食道癌においては上縦隔リンパ節郭清が必要であるか?

Answer

T1b 以上の癌では,頸部操作からリンパ節郭清可能である上縦隔リンパ節,主に反回神経周囲リンパ節[106 rec]や,胸部上部食道傍リンパ節[105]を郭清することが推奨されている71, 76-85)。CePh の症例では咽頭周囲リンパ節[103],特に外側咽頭後リンパ節の郭清を追加し,CeUt の症例では,必要に応じて胸骨縦切開にて反回神経周囲リンパ節[106 rec],胸部上部食道傍リンパ節[105]の郭清を追加する76-80)。外側咽頭後リンパ節(Rouviere lymph node)とは,軟口蓋の高さで後咽頭隙内の内頸動脈の内側に位置している79, 80)

推奨事項

T1b 以上の癌では頸部操作から可能な範囲の上縦隔リンパ節郭清が必要である。[グレードB]

再建方法

頸部操作のみによる切除では遊離腸管移植が一般的な再建であるが,場合によっては胃管再建術を行うこともある70, 86-89)。他には筋皮弁(myocutaneous flap)あるいは皮膚(skin roll)を用いた再建を行う場合もある90)。胸部食道の切除を加える場合には,通常の食道癌の再建と同様,胃または結腸を用いて再建するが,口側への距離が不十分な場合には遊離空腸移植を付加することもある。

Clinical Question

CQ VI-4

頸部食道切除後の再建法は遊離腸管移植あるいは胃管再建のどちらを選択すべきか?

Answer

頸部食道切除後の再建法はわが国では遊離腸管移植が一般的であり,第一選択とされている70, 86-89)。一方,欧米では胃管による再建は比較的合併症が少なく早期に経口摂取が可能であり比較的好ましいという報告が多い91-93)。最近は遊離腸管移植も安全で有用な再建であるという報告もみられる70, 89)。術前治療の影響で,再建法を変更する場合もあり,遊離空腸による再建が困難な場合には,食道全摘を行い,胃や結腸などを用いて再建することもある94)

推奨事項

頸部食道切除後の再建法は遊離腸管移植が第一選択とされている。[グレードC1]

胃管再建も選択され得る再建方法である。[グレードC1]

【参考文献】

64) 桑野博行, 他: 【QOL を考慮した高度進行消化器癌手術 切除と再建】 頸部領域の高度進行食道癌手術. 消外. 2007; 30(1): 13-9.

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68) 安田卓司, 他: 下咽頭・頸部食道癌の治療戦略 頸部食道癌に対する治療戦略 更なる根治性と機能性の向上を目指して. 日気管食道会報. 2008; 59(2): 99-102.

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86) 藤田博正, 他: 【手術の王道 消化管の手術】 食道 食道再建術. 消外. 2008; 31(12): 1743-50.

87) 安田卓司, 他:【消化管再建術の現状と将来 最良の再建術は何か】 頸部食道癌切除後再建術. 日外会誌. 2008; 109(5): 249-55.

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91) Triboulet JP, et al: Surgical management of carcinoma of the hypopharynx and cervical esophagus: analysis of 209 cases. Arch Surg. 2001; 136(10): 1164-70.

92) Ullah R, et al: Pharyngo-laryngo-oesophagectomy and gastric pull-up for post-cricoid and cervical oesophageal squamous cell carcinoma. J Laryngol Otol. 2002; 116(10): 826-30.

93) Puttawibul P, et al: Results of gastric pull-up reconstruction for pharyngolaryngo-oesophagectomy in advanced head and neck cancer and cervical oesophageal squamous cell carcinoma. Asian J Surg. 2004; 27(3): 180-5.

94) 藤田博正: パネルディスカッション 1「頸部食道癌の外科的治療」司会者のまとめ. 日気管食道会報. 2006; 57: 109-10.


B
  胸部食道癌に対する手術

要約

胸部食道癌は頸・胸・腹の広範囲にリンパ節転移がみられることが多く右開胸を行い,リンパ節郭清とともに胸腹部食道は全摘することが一般的である。食道の切除断端と腫瘍との距離については残置食道壁の癌遺残とリンパ節郭清範囲という両方の点から判断する必要がある。

胸部食道癌ではCT,MRI,PET などを用いての術前評価により癌腫の占居部位や大きさ,深逹度などによって,個々の症例に応じて郭清範囲を決定する。

再建経路としては胸壁前,胸骨後,後縦隔の3 経路がある。各々一長一短はあるが,最近では後縦隔経路を利用した再建が最も多く施行されている。再建臓器としては胃が最も多く用いられている。

切 除

胸部食道癌は頸・胸・腹の広範囲にリンパ節転移がみられることが多く,縦隔のリンパ節は十分に郭清する必要性から右開胸を行い,リンパ節郭清とともに胸腹部食道は全摘し,頸部,胸部,腹部の3 領域のリンパ節を含めた切除範囲とすることが一般的である。

食道の切除断端と腫瘍との距離はどの程度にすれば良いか。これは残置食道壁の癌遺残とリンパ節郭清範囲という両方の点から判断する必要がある。食道壁内の癌遺残に関しては腫瘍端の壁内進展,上皮内進展,脈管侵襲,壁内転移などが問題となる。粘膜下の進展は壁深達度とともに長くみられ,T2 症例で30 mm 進展していたとの報告もある95)。これらすべてを満足する切除範囲は確定できず,腫瘍占居部位によっては口側断端が長く取れない場合もある。術前の食道造影検査や内視鏡検査,術中口側断端の凍結迅速診断,術中食道切開による肉眼診断などによって判断される(附2 参照)。

体腔鏡を用いた食道切除,再建術

低侵襲性,根治性,遠隔治療成績などに関して現時点では研究段階であるが,将来的に期待できる治療法として,胸腔鏡,腹腔鏡下食道切除再建術96-102)や,縦隔鏡,腹腔鏡を用いた内視鏡補助下経食道裂孔的非開胸食道抜去術100)などが報告されている。体腔鏡下手術はリンパ節郭清を伴う切除法として施行されており,施設によりその適応は様々でありT3 癌まで行っている施設もある。経験症例数を重ねた施設では手術時間,出血量,郭清リンパ節個数などを指標にした場合,従来の標準的開胸手術例に比較して大差なく,術後の疼痛軽減,肺活量の回復が早いなどの利点が報告されている96, 98, 101, 102)。一方,反回神経麻痺などの発生は標準的開胸手術例に比較して多いとの報告もある98)

体腔鏡下手術を安全に施行し,手術時間の短縮やリンパ節郭清程度を上げるために小開胸を併用しその小切開創から直接操作する方法やVATS(video assisted thoracoscopic surgery)法98),片手を挿入し手術を行うHALS(hand assisted laparoscopic surgery)法97)がある。従来は左側臥位での胸部操作が主流であったが,最近では腹臥位での完全鏡視下胸部操作も行われている103-105)。また,頸部創から縦隔鏡を挿入し縦隔リンパ節郭清をする経食道裂孔的非開胸食道抜去術,腹腔鏡下に縦隔リンパ節郭清をする経食道裂孔的非開胸食道抜去術も報告されている100)。体腔鏡下手術では,拡大視効果により微細解剖を認識した脈管や神経の温存と精度が高いリンパ節郭清ができるという報告102, 106)もあるが,従来の標準的開胸切除郭清術と比較した長期成績についてはランダム化比較試験の施行が必要であり,現在では結論は得られていない。

Clinical Question

CQ VI-5

体腔鏡補助下食道癌根治術は開胸手術に比較して利点はあるのか?
根治性は劣らないのか?

Answer

低侵襲性の証明については未だ研究途上である。拘束性肺障害,術後肺機能検査所見が改善するとの報告62, 96)や,IL-6,IL-8 などの血清中炎症性サイトカインの上昇が抑制されるという報告107)がある一方,術後肺合併症発生率の軽減にはつながっていないとする報告も多い105, 108, 109)。潜在的な低侵襲性は示唆されているものの63, 110),手術時間の延長などの指摘もある63, 110)。臨床的な利点の実証には大規模なランダム化比較試験が必要である。

根治性, 長期成績について十分な症例数, 観察期間をもって比較した報告は少なく62, 63, 101, 110)。結論は未確定である。体腔鏡補助下食道癌手術症例数が治療成績に影響を及ぼすことは従来から報告されている102, 111, 112)。本術式の施行により患者に利益をもたらし得る経験症例数は報告により様々であるが,一定の手技馴れ期間を要することは事実である96, 101)

推奨事項

推奨するに十分な根拠はないが,胸腔鏡・腹腔鏡を用いた手術を行っている施設もある。[グレードC1]

リンパ節郭清

胸部食道癌では頸部から腹部まで広汎にリンパ節転移がみられるが,癌腫の占居部位や大きさ,深達度などによって,リンパ節転移の分布や転移率に差がみられるので113, 114),個々の症例に応じてCT,US,MRI,PET などを用いて術前評価を行い郭清範囲を決定する。

胸部食道癌に対する根治手術は頸部,胸部,腹部の3 経路からアプローチされるのが一般的である。頸部食道傍リンパ節[101]の郭清に関しては,頸部からだけではなく縦隔からのアプローチも可能とする意見もある(附34 参照)115, 116)

a.胸部上部食道癌(Ut)

癌腫の占居部位に関しては,通常,Ut 症例では主に頸部から上縦隔にリンパ節転移の主座があり,頸部を含めたリンパ節郭清が行われる117, 118)附1 参照)。胸骨縦切開や胸骨柄切除を付加して頸胸境界部のより良き視野を確保するとの報告もある119)。Ut 症例では下縦隔や腹部にはリンパ節転移は比較的少ないが,左胃動脈の領域は郭清の対象となり117, 118),通常,頸・胸・腹の3 領域郭清を行う(附8 参照)。

b.胸部中部食道癌(Mt)

Mt 症例では頸部,上縦隔,中縦隔,下縦隔,腹部と頸部から腹部まで比較的均等に転移リンパ節が分布している120-122)附1 参照)。頸部の転移に関しては,大部分が頸部食道傍リンパ節[101]転移であるため,胸腔内からのアプローチでも郭清可能とする報告もある115, 116, 123)。術前の転移診断に基づいて胸部からの郭清では不十分と判断するときは頸部からも郭清を追加し,反回神経周囲LN を甲状腺下極まで郭清することが肝要である。特に101 L に関しては胸部操作からの郭清は困難で,頸部切開による追加郭清が必要となる。また鎖骨上リンパ節[104]郭清は胸部操作での郭清が不可能であり,この領域の確実なリンパ節郭清を行うには頸部からのアプローチが必要である122, 124)附34参照)。

c.胸部下部食道癌(Lt)

Lt 症例ではリンパ節転移の主座は縦隔および腹部であるが,頸部にも比較的頻度は少ないものの転移はみられる125)附1 参照)。Mt 症例と同様に頸部からの郭清を行うとする意見126, 127)と胸部からのアプローチで十分であるとする意見128-130)がある(附34 参照)。胸部下部食道の表在癌では上縦隔への転移頻度が比較的少ないため,症例によっては頸部リンパ節郭清を省略するなど郭清範囲を縮小できるとする意見もある。

Clinical Question

CQ VI-6

十分なリンパ節郭清には反回神経周囲頸部縦隔郭清が必要か?

Answer

郭清範囲に関して,遠隔成績の比較では3 領域郭清が良好であったとする報告131-133)と2 領域郭清と有意差がなかったとする報告134, 135)がみられるが,十分な統計学的評価が可能なランダム化比較試験は未だ行われていない(附8 参照)。最近では反回神経周囲のリンパ節郭清の重要性が認識されているが,胸腔からのアプローチにより頸部の反回神経周囲に存在する頸部傍食道リンパ節[101]を郭清範囲とすることは可能であるとする報告もあり,従前のいわゆる2 領域郭清とは郭清範囲,概念が変わりつつあり単純な比較が困難になっている。表在癌に関しては2 領域郭清で十分な郭清効果が得られるという報告もある136)。3 領域郭清が必要であるという科学的に十分な根拠はなく,同様に2 領域で十分な郭清とする根拠もない。

推奨事項

胸部食道癌において反回神経周囲の頸部上縦隔リンパ節郭清は重要である。[グレードB]

CQ VI-7

胸部下部食道癌において頸部リンパ節郭清範囲の省略は可能か?

Answer

胸部下部の表在癌については頸部へのリンパ節転移を認めず頸部リンパ節郭清を省略可能であるとする報告がある127, 128, 130)。固有筋層以深の癌では約20%に頸部リンパ節転移を認めるため3 領域リンパ節郭清が行われることも多いが,頸部郭清の有無によるランダム化比較試験の結果はない。また,欧米の腺癌を含めた報告でも胸部下部食道癌の23.0%の症例で頸部転移を認め,頸部の郭清が正確な病期診断と転移例の予後向上に有用であるとしている137)

再建方法

a.再建経路

胸壁前,胸骨後,後縦隔(胸腔内を含む)の3 経路がある。再建ルートは一様ではなく,各々に一長一短があるが,最近では高位胸腔内吻合を含めると後縦隔経路による再建が最も多く施行されている95)。後縦隔経路再建の場合は再発胃管癌の手術が困難になるため,長期生存例では再建胃管癌発生リスクも看過できないものとなりつつある。

b.再建臓器

再建臓器としては胃が最も多く用いられている95)。胃切除後,胃癌合併時や胃を温存する場合には結腸,回結腸や空腸が用いられる。

Clinical Question

CQ VI-8

再建経路の選択はどう決定されるのか?

Answer

食道癌の進行程度,手術の安全性,術後の嚥下機能,美容上の外観,再建臓器における術後遠隔時の異時性癌発生のリスクなどを考慮して個々に判断されることが多い。近年では後縦隔経路の再建が増加している。これは食道の解剖学的経路であり最も生理的であることから術後の嚥下機能の点で有利であると報告されている138, 139)。一方,胸骨後経路と比較して差がないとする報告140)もある。また,胸腔内吻合は縫合不全により縦隔炎を経て重篤な病態となり致命的となるリスクを有する。また,進行癌では,術後の再発を考慮し,後縦隔経路以外の非解剖学的経路が選択されることも多い。胸壁前経路は美容上の観点からは劣るものの術後遠隔時に再建臓器に癌が発生した場合,治療が比較的行いやすいことが多い。後縦隔で再建されている場合は再開胸して再建臓器まで到達することが困難である場合が多い141)。長期生存例での残胃癌発生のリスクも問題となることがある。再建臓器に胃を用いた場合,胃に潰瘍が発生した場合,後縦隔経路再建では周囲の気管,気管支や大動脈に穿孔し重篤化するという報告がある。しかし胸骨後経路再建の場合でも心嚢に穿孔した症例が報告されている142)

表2:各経路の利点と欠点(文献143144 より改変)

経 路

胸壁前

胸骨後

後縦隔

利 点

  1. 口側食道切除がより高位まで可能である。
  2. 吻合操作が容易。
  3. 縫合不全の処置が容易かつ安全。
  4. 再建臓器に癌ができた場合,治療がしやすい。
  1. 口側食道切除がより高位まで可能である。
  2. 再建距離が胸壁前より短い。
  3. 胸腔内吻合より縫合不全の処置が容易。
  4. 再建臓器に癌ができた場合,比較的治療がしやすい。
  1. 生理的ルートに最も近い。
  2. 手術侵襲が少なくなる。
  3. 縫合不全の発生頻度が少ない。

欠 点

  1. 再建距離が長い。
  2. 縫合不全の頻度が高い。
  3. 再建臓器が屈曲しやすい。
  4. 美容上の問題がある。
  5. 屈曲による通過障害を起こしやすい。
  1. 再建臓器により心臓を圧迫することがある。
  2. 胸鎖関節部が狭小の場合,再建臓器の圧迫壊死の可能性がある。
  1. 縫合不全が重篤化するリスクを有する(特に胸腔内吻合)。
  2. 口側食道切除が制限されることがある。
  3. 逆流が多い。
  4. 潰瘍が穿孔,重篤化することがある。
  5. 再建臓器に癌ができた場合,手術が困難。
  6. 再発時の放射線治療が困難な場合がある。

吻合法

吻合場所には頸部吻合と胸腔内吻合があり,腫瘍位置や再建臓器,再建経路などによって決定される。胸腔内吻合では縫合不全が重篤な合併症につながる畏怖がある。吻合法では手縫い縫合,器械吻合があるが胸腔内吻合ではサーキュラーステイプラーを用いた器械吻合が多く用いられている。縫合不全と吻合部狭窄は術後経過,QOL に大きな影響を及ぼすため症例に応じた適切な吻合法が求められる。

Clinical Question

CQ VI-9

胸部食道癌手術における安全な吻合法は?

Answer

これまでに行われた比較試験では,手縫い吻合と器械吻合で縫合不全率や狭窄率,死亡率などにおいて有意な差を認めないとの報告が多い145-147)。一方,器械吻合のほうが吻合部狭窄が有意に増加するとの報告や,径の小さいサーキュラーステイプラーの使用により狭窄率が増えるとの報告もある148-150)。手縫い吻合においては層々吻合や嵌入法が,器械吻合ではリニアステイプラーを用いた三角吻合や側々吻合などの工夫がされている151-154)。術後PPI 投与が狭窄予防につながるとの報告がある150)

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C
  食道胃接合部癌(腹部食道癌)に対する手術

要約

食道胃接合部癌(E,EG)においても,胸部食道癌と同様の右開胸による上縦隔を含めた郭清および胃管を用いての再建から左開胸・開腹法や左胸腹連続切開法による下部食道噴門側胃切除または下部食道胃全摘,開胸を行わず経食道裂孔に下縦隔へ到達する方法まで,種々の方法が行われる。下部食道傍リンパ節から上腹部リンパ節への転移が高率にみられる。主に胃管あるいは空腸による胸腔内吻合が行われる。

切除とリンパ節郭清

食道癌取扱い規約第10版より『食道胃接合部の上下2 cm を食道胃接合部領域とし,この領域内に癌腫の中心があるものを食道胃接合部癌』と定義した155)。したがって腹部食道癌はこれに含まれることとなった。胃側よりも食道側への浸潤範囲が広い食道胃接合部癌(E,EG)においても胸部食道癌と同様に右開胸による上縦隔を含めた郭清および胃管を用いての再建156, 157),あるいは頸部,上縦隔リンパ節郭清の意義は少ないと考え左開胸・開腹法や左胸腹連続切開法で,下部食道噴門側胃切除または下部食道胃全摘が行われることもある158, 159)。開胸を行わず食道裂孔を開大して経腹的に下縦隔へ到達する方法も行われている160)。下部食道傍リンパ節[110],噴門リンパ節[1][2],小彎リンパ節[3],左胃動脈幹リンパ節[7],腹腔動脈周囲リンパ節[9]などへの転移が高率にみられる(附34 参照)。

食道側より胃側への浸潤範囲が広い食道胃接合部癌(G,GE)では縦隔内のリンパ節転移頻度は低く,またその郭清効果も比較的低いため食道癌取扱い規約第10版では3 群リンパ節として分類されている。

再建方法

胃管を用いての胸腔内吻合,空腸を挙上しての空腸間置法またはRoux-en-Y 法による胸腔内吻合などが行われる。下部食道胃噴門切除例においての食道胃吻合は術後逆流性食道炎の発生が問題となることが多く,対策を要する。

Clinical Question

CQ VI-10

食道腺癌(バレット食道腺癌)についても術式,リンパ節郭清は同様か?

Answer

食道腺癌に関してはわが国では十分な症例数がなく,手術方法や郭清範囲のコンセンサスは得られていない。欧米の報告や,症例数は少ないもののわが国の報告においても食道腺癌についても扁平上皮癌と同等のリンパ節転移が認められている161-164)。一方,表在癌では組織型によりリンパ節転移および予後が大きく異なるとする報告もある165)。リンパ節郭清を伴う開胸による食道切除と食道裂孔からの食道切除とのランダム化比較試験において,術後合併症において経裂孔による手技が優り,生存率においては統計学的有意差を認めないが開胸による群において生存率が優る傾向を認めたとの報告がある156, 161, 162)。また,2 領域郭清により適切な病期診断と良好な予後が得られ,手術死亡は増加しないが術後合併症が増加するという報告157),術後合併症に差はなく,生存率に有意差は認めないが局所再発は減少したという報告などもある166)食道癌取扱い規約第10版ではリンパ節転移,他臓器転移,壁内転移について扁平上皮癌と同じ取扱いとしている155)

推奨事項

現在のところ食道腺癌(バレット食道腺癌)についても術式,リンパ節郭清は扁平上皮癌と同等とする報告は多いが十分な根拠はまだ得られていない。[グレードC1]

【参考文献】

155) 日本食道学会編: 臨床・病理食道癌取扱い規約, 第10 版, 金原出版, 2008.

156) Hulscher JB, et al: Extended transthoracic resection compared with limited transhiatal resection for adenocarcinoma of the esophagus. N Engl J Med. 2002; 347(21): 1662-9.

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166) Bonavina L, et al: Results of surgical therapy in patients with Barrett’s adenocarcinoma. World J Surg. 2003; 27(9): 1062-6.


D
  その他の手術療法

要約

食道癌に対する根治的手術療法は切除,リンパ節郭清,再建を基本とするが,癌の進行度,悪性度,全身状態などの状況からこれらを完遂することが困難あるいは不要な場合に,その他の治療法を用いる場合がある。非開胸食道切除術注)は,内視鏡的治療が困難な粘膜癌や腹部食道癌などにおいて縦隔リンパ節郭清を省略することが可能と考えられる症例に対する根治手術として,また低肺機能などのために開胸,縦隔リンパ節郭清を行うことが困難な症例に対する姑息的手術として用いられてきた。近年,食道温存治療としての内視鏡的治療の適応拡大や化学放射線治療など集学的治療の普及により,その適応は限定されつつある。

食道癌ないし食道癌治療後の変化による食道狭窄のために経口摂取困難な症例に対する姑息的治療としてバイパス手術が行われる場合があるが,食道ステント挿入術の普及によりその適応が限定的になってきている。

非開胸食道切除術

非開胸的に頸部と腹部からの操作で胸部食道を剥離し抜去切除する方法として,1936 年 Turner167)により初めて紹介された。わが国では1971 年に秋山168)により導入され,以来,広く臨床応用されてきた。適応は頸部食道癌の切除再建法,胸部または腹部食道癌で胸膜の高度癒着や低肺機能のために開胸切除が困難な症例,高齢者,リンパ節郭清が不要な粘膜癌などの切除再建法として施行されてきた169, 170)。本術式では腹部から下縦隔のリンパ節郭清はある程度可能であるが,上〜中縦隔の郭清は困難である。

現在では,化学放射線療法や内視鏡的粘膜下層剥離術の普及によりその適応症例は限定されてきている。

切除不能例に対する治療法

他臓器浸潤や遠隔転移などで切除不能である進行食道癌の治療は,まず放射線治療や化学療法,または化学放射線療法に委ねられる。しかし,これらの治療でも改善しない食道狭窄や食道気管瘻を伴う症例では経口摂取障害となり,患者のQOL は著しく低下する。このような悪性食道狭窄閉塞症例に対する経口摂取を可能にするための対症療法としてバイパス手術がある。現在ではカバー付き食道ステント挿入術の普及によりその適応症例は限定されてきている。

バイパス手術は胸部食道を空置して,消化管を再建する方法であり,再建ルートは胸壁前あるいは胸骨後経路で行われる171, 172)。進行癌で栄養状態が低下している症例が多く,吻合部の縫合不全の発生率が高いことから予防策が重要である173)。近年,根治的化学放射線療法後のサルベージ手術において主病巣が切除不能と判断された場合の姑息的手術としても施行されている。


注)非開胸食道切除術(抜去術)はその手法から様々な表現(transhiatal esophagectomy,blunt resection of esophagus など)をされているが,本ガイドラインでは非開胸食道切除術とした。

Clinical Question

CQ VI-11

非開胸食道切除術の適応症例は何か?

Answer

本術式は,縦隔リンパ節郭清が十分に行えないにも関わらず手術侵襲も少なくない。食道温存を目的とした集学的治療が普及してきている近年では,その適応は限定的になりつつある。内視鏡粘膜切除術の導入以降,粘膜癌に対する本術式の適応は減少し,最近では粘膜下層切開剥離術の普及によりさらに適応症例は減少した。また近年,食道温存療法としての化学放射線療法の普及により耐術能不良症例に対する適応もより慎重に検討されている傾向にある。

欧米においては,主に食道胃接合部癌や術前化学放射線療法などとの併用療法として集学的治療の一環として本術式が行われている。2002 年に施行されたランダム化比較試験により開胸切除,縦隔リンパ節郭清術と比較して術後合併症が有意に少ないことが判明した。治療成績に関しては,開胸手術と非開胸食道切除術の両者で差がないとする報告や開胸術が勝るとの報告がある156, 174)

しかし,これらの成績の解釈には対象する癌腫の組織型や,開胸術式の精度についての吟味が必要である。

また,最近では非開胸食道切除術のリンパ節郭清の欠点を補うために,体腔鏡を併用した食道切除術も試みられている100)

【参考文献】

100) 丹黒 章, 他: 【最新食道手術】縦隔鏡補助下食道抜去術. 手術. 1999; 53(11): 1591-8.

156) Hulscher JB, et al: Extended transthoracic resection compared with limited transhiatal resection for adenocarcinoma of the esophagus. N Engl J Med. 2002; 347(21): 1662-9.

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173) 井出博子, 他: 食道外科における血管外科の応用. 日血管外会誌. 1997; 6(1): 37-43.

174) Barreto JC, et al: Transhiatal versus transthoracic esophagectomy for esophageal cancer. World J Gastroent. 2010; 16(30): 3804-10.


E
  周術期管理とクリニカルパス

要約

食道癌の周術期管理においては,その病態や手技の多様性からクリニカルパスの導入が困難であると考えられてきたが,安全な周術期管理を目指して,近年,多くの施設から食道切除再建術に対するパスが提唱され,実践されている。しかしながら,食道癌に限らず,周術期管理のクリニカルパスや周術期管理の有用性を示すための大規模臨床試験データは乏しい。

近年,食道癌の周術期栄養管理において,NST(nutrition support team)の介入を行い,経腸栄養の早期導入を行う施設が増えている。周術期管理のうち,ステロイド投与は,術後管理においては有用であり推奨される。禁煙,呼吸理学療法,術前口腔ケアなどは,術後合併症予防のために重要であると考えられている。

食道癌周術期管理におけるクリニカルパスの導入

クリニカルパスは,医療の標準化により質の向上を目指し,医師や看護師,薬剤師,栄養士,理学療法士など全ての医療者が安全にチーム医療を行うために作成される治療計画表である。米国では,1983 年よりDRG/PPS(diagnosis related group/prospective payment system;診断群別包括支払い制度)の導入に伴い,入院医療が出来高から定額制になり,在院日数短縮および医療費削減を主な目的としてパスが導入された。日本国内でもDPC(diagnosis procedure combination)制度の導入に前後して1990 年代より多くの疾患に対してクリニカルパスの導入が始まった。クリニカルパスは近年,医療の質の向上,安全なチーム医療のための教育のためだけでなく,インフォームド・コンセントの充実を含め患者中心の医療を推進するためと考えられている。

食道癌においては,病態や手術が全身状態に与える影響は大きく,併存疾患に対する管理も含め,周術期管理が多様で,施設間格差も大きく,単純なパスの作成は困難であると考えられてきた経緯があり,クリニカルパスの臨床的有用性を示した報告は少ない。現在報告されている食道癌に対するパスの多くは,安全に食道切除再建術に対する周術期管理を行うために,各施設独自に設定されたものが多く,現時点ではその有用性を比較検討してエビデンスを示すことは難しい175-179)

早期食道癌に対する内視鏡治療であるEMR やESD においては,当初よりその診療行程のパス化は進んでおり,多くの施設でパスが運用されている。また,胸腔鏡・腹腔鏡補助下食道切除・再建術においても,症例数の多いHigh-volume center においてはパスが導入され,実践されている180-182)

食道癌の周術期栄養管理

Nishi らは,食道癌術後縫合不全の自然治癒には45 kcal/kg/日以上の熱量が必要であり,血中のアルブミン濃度を3.5 g/dL 以上に保つ必要があると報告した183)。周術期における経腸栄養は,経静脈栄養に比べて周術期合併症発症率を低下させ,エンドトキシンや炎症性サイトカインの産生も抑制することが報告されている184-186)。食道癌根治術においては,経腸栄養を積極的に利用した周術期管理が有用である187)

食道癌根治術においては,小腸の消化吸収能力がほぼ正常に保たれていることが多く,術後免疫能の点からも中心静脈栄養より早期の経腸栄養を目指すことが望ましいと考えられるようになってきた。術中に経腸栄養チューブを留置し,術翌日〜3 日目に流動食の注入を開始する188, 189)

Clinical Question

CQ VI-12

周術期におけるステロイドの使用は侵襲を軽減するか?

Answer

小規模のランダム化比較試験の結果を含め,周術期におけるメチルプレドニゾロンの使用により,侵襲に伴う血中侵襲性サイトカインの上昇の抑制,気管内挿管の期間の短縮,SIRS(systemic inflammatory response syndrome;全身性炎症反応症候群)期間の短縮,各種臓器不全の減少などの報告がある190-195)。縫合不全や重篤な感染症など他の合併症の有意な増加も認めていない。

推奨事項

周術期におけるステロイドの使用は,術後管理においては推奨される。[グレードB]

CQ VI-13

食道癌周術期管理におけるクリニカルパスの導入により効率化を図れるか?

Answer

米国ではDRG/PPS の導入に伴い,在院期間の短縮を目的としてパスが導入された。食道癌においては疾患構成の多様さ,周術期管理の複雑さからクリニカルパスの導入およびその有用性を示した報告は限られている175-177, 179)

わが国においても食道癌周術期管理におけるクリニカルパスの導入はバリアンスや逸脱の多さが指摘されてきたが,周術期管理の標準化,スタッフ教育,在院日数減少,コスト削減,リスクマネージメント,患者満足度向上を目指すことができるとされている178)

標準的な開胸食道切除再建術においては術後13 日から21 日のクリニカルパスが提唱され,臨床現場で応用されている178, 180-182)。在院日数の短縮にクリニカルパスが貢献することを示すためには標準化されたパスを用いた大規模なランダム比較試験が必要である。

推奨事項

食道癌周術期管理におけるクリニカルパスは多くの施設で導入されているが,積極的に行うよう勧めるだけの根拠は明確でない。[グレードC1]

CQ VI-14

食道癌周術期の栄養管理において推奨される方法はあるか?

Answer

①NST(nutrition support team)の導入:チーム医療として医師・看護師,栄養士など多職種が患者の栄養管理について議論するNST が多くの施設で導入されており,スタッフ教育,医療の効率化に有用であると考えられている。クリニカルパスと同様,施設環境により標準化,導入効率およびその評価は多様であり,その臨床的有用性について現時点では一定の結論を見出すことができない196, 197)

②経腸栄養管理:術後侵襲期における免疫能保持の点から経腸栄養の有効性を示した報告は多く186, 188, 189),安全な周術期管理として多くの施設で採用されている。しかしその長期予後や臨床的有用性に関しての大規模比較試験は行われていない。

周術期栄養管理において,術前よりω3 脂肪酸や特定のアミノ酸を付加した流動食を用いることにより,免疫系を賦活し,術後合併症の発生リスクを減少させるという見解もある198, 199)。食道癌の周術期管理に関してはその有用性を示す報告はあるが,大規模比較試験は行われていない200-202)

推奨事項

多くの施設でNST が導入され,周術期経腸栄養管理が行われているが,現時点では行うよう勧めるだけの根拠が明確でない。[グレードC1]

CQ VI-15

術後合併症予防のため推奨される方法は?

Answer

Griffin らの報告32)によると,食道癌根治術後合併症発症率は45%であり,呼吸器合併症は17%,心血管系合併症は7%であった。手術手技に伴う合併症発症率は10%であり,内訳は,縫合不全4%,術後出血3%,乳び胸1%であった。在院死は4%,手術直接死亡は2%に認めた。Ando らの報告203)でも,呼吸器合併症発症率は19.5%と高率であり,在院死は7.9%,手術直接死亡は1.7%に認め,在院死の40〜60%は呼吸器合併症が原因であった。したがって,術後経過を良好にするには,呼吸器系を中心とした合併症の予防とその対策が最も重要であると考えられる204-207)

①禁煙:一般に喫煙患者において術後肺炎や手術部位感染のリスクが高くなることが知られており,可能であれば術前1 カ月以上の禁煙が推奨される208-211)

②呼吸理学療法:周術期の包括的な呼吸理学療法(術前からの呼吸訓練,体位排痰法,インセンティブスパイロメトリー,腹式呼吸,早期離床などの併用)を行うことにより,呼吸器合併症,在院日数は有意に減少したとの報告を多数認める212, 213)

③口腔ケア:食道癌手術後は誤嚥が起きやすい状況にあるが,術前の口腔環境と術後の肺炎との因果関係が示唆されており214, 215),口腔から上気道にかけての管理は重要である。小規模の比較試験の結果,術前の口腔ケアが術後肺炎リスクの減少に寄与するとの報告がある216, 217)。術前の口腔内環境の改善は,術後呼吸器合併症を減少させるためには重要であり,術前の適切な口腔ケアの施行によって術後肺炎の発生を低減できる可能性がある。

④短い手術時間と少ない術中出血量218, 219):手術時間と出血量は,食道癌術後の重篤合併症の危険因子であると考えられている。

⑤予防的抗菌薬投与:食道内の常在菌はグラム陽性球菌が主である220)。予防的抗菌薬投与には,手術加刀時十分な血中濃度が得られるように第一世代あるいは第二世代セフェム系薬を加刀の30〜60 分前までに投与する221)

⑥早期離床:リハビリテーションの介入による早期の離床が,合併症予防のために行われている222)

⑦疼痛管理:術後疼痛は,呼吸機能を抑制し離床を妨げる。術後疼痛の積極的軽減により呼吸・循環器系合併症発症率,在院死亡率が低下する204, 223, 224)

⑧血糖管理:食道癌術後患者で血糖値を90〜150 mg/dL に管理するintensive insulin therapy(強化インスリン療法)が糖尿病の有無にかかわらず安全に施行可能で,術後感染症の減少,SIRS 期間の短縮,および血清アルブミンの維持に優れていると報告された225)。一方でintensive insulin therapy による低血糖発作などの有害事象には十分な注意が必要であり,ICU 患者を対象として血糖値を80〜110 mg/dL に管理したintensive insulin therapy 群と140〜180 mg/dL に管理したコントロール群を比較した大規模なランダム化比較試験では,前者で死亡率が有意に高かったことから,極端に血糖値を抑えるintensive insulin therapy には否定的な見解が主流となっている226)

最近パラチノースを糖質源とした流動食を用いた経腸栄養管理について,無作為クロスオーバー試験の結果,安全な周術期血糖管理に有用であることが報告された227, 228)

⑨Mediator modulation:一般に手術侵襲に伴う重要臓器障害は,術後1 週間以内に発症することが多い219)。その過程には炎症性サイトカイン(TNFα,IL-1β,IL-6 など),抗炎症性サイトカイン(IL-10),好中球エラスターゼ,high mobility group box chromosomal protein 1(HMGB1)などの様々なmediator が関与している229-233)。周術期のステロイドや好中球エラスターゼ阻害薬の予防的投与によるmediator modulation が術後合併症の発症を抑制する可能性が示唆されている191, 234, 235)

【参考文献】

32) Griffin SM, et al: Early complications after Ivor Lewis subtotal esophagectomy with two-field lymphadenectomy: risk factors and management. J Am Coll Surg. 2002; 194(3): 285-97.

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F
  サルベージ手術

要約

サルベージ手術においてはその定義がしばしば問題になるが,狭義には根治的化学放射線療法後の遺残・再発腫瘍に対する根治切除を目的とした手術を意味する。わが国でサルベージ手術が報告されるようになったのは2000 年代からであり成績は確立していないが,一般的な食道癌手術よりも危険性が高いことや治癒切除例では予後の改善が得られるが,非治癒切除の頻度が高く,その場合は予後不良であることなどが認知されている。現在,遺残・再発腫瘍に対する根治的治療としてサルベージ手術(内視鏡的切除を含む)以外に認知されている治療法は存在しない。しかしながら,サルベージ手術とは危険性や長期成績について十分なインフォームド・コンセントを得て行うべき手術であり,慎重な対応が求められる。

定 義

食道癌取扱い規約第10版では,サルベージ手術とは根治的(化学)放射線療法後の癌遺残または再発に対する手術と定義されている155)。手術の内容には,食道切除,リンパ節摘出(郭清),内視鏡的切除などが含まれる(サルベージ内視鏡的治療については,XI.化学放射線療法の項参照)。内視鏡的治療後の遺残・再発腫瘍に対する追加切除についてもサルベージ手術と呼ぶことがあるが,本項には含めない。

根治的化学放射線療法における放射線量は,欧米ではINT0123 試験の結果に基づいて50.4Gy が標準となっている。一方,わが国では多くの施設が60 Gy 以上を根治線量としている。一般に50 Gy 以上照射した後の手術をサルベージ手術と定義している155)

サルベージ手術は治癒切除を目的とした治療である。しかしながら,救済治療という特性上,非治癒切除となることがあるが根治性は問わないとしている。

適 応

腫瘍側因子と患者側因子の評価により手術適応の有無を決定する。腫瘍側因子としては根治切除が可能で長期予後が見込めること,患者側因子としては耐術可能な全身状態であることや心・肺など重要臓器に機能障害を認めないことなどが挙げられる。

サルベージ手術の合併症率は手術単独症例や術前化学放射線療法(放射線量50 Gy 未満)と比べて高く,肺炎などの呼吸器合併症は9〜62%,縫合不全が14〜39%と報告されている236-248)。特に,通常手術に比べて気管壊死・穿孔や再建胃管壊死などの組織虚血による重篤な合併症の頻度が高いことが問題とされている。さらに,サルベージ手術は在院死亡率が7〜22%と報告されており237-248),通常手術に比べてリスクが高い手術であるといえる。手術適応においては合併症率,在院死亡率が高いことを考慮する必要がある。

サルベージ手術の術後生存率は5 年生存率で25〜35%と報告されており237-239, 241-248),症例によっては長期生存も期待できる。しかし,サルベージ手術では非治癒切除率が12〜50%と高く,それら非治癒切除例の予後は極めて不良であることから,根治切除の適応においては慎重な判断が求められる。

Clinical Question

CQ VI-16

切除可能な化学放射線療法後の遺残・再発腫瘍に対してサルベージ手術を考慮すべきか?

Answer

遺残・再発腫瘍に対するサルベージ手術は根治の望めるほとんど唯一の治療であり,術後生存率は5 年生存率で25〜35%と報告されている。ただしリスクは高いため適応を十分に評価した上で,インフォームド・コンセントを得て施行すべきである。

推奨事項

切除可能な化学放射線療法後の遺残・再発腫瘍に対してサルベージ手術を考慮する。[グレードC1]

CQ VI-17

サルベージ手術にはどのような術式があるか?

Answer

サルベージ手術は治癒切除を目的としており,食道切除を基本とするが,粘膜病変に対する内視鏡的切除や原発巣がCR の場合のリンパ節転移に対するリンパ節切除などがある249-256)

サルベージ手術のリスクを軽減させるために予防的リンパ節郭清を省略するという意見もあるが,現時点では推奨する十分なエビデンスは存在していない。

再建については二期分割手術の報告があるが,多くの施設では一期的再建を行っている。また再建経路では気道系の合併症を避けるために,皮下経路や胸骨後経路を採用する施設もあるが,推奨するエビデンスは存在しない。

推奨事項

サルベージ手術では合併症を減らす目的でさまざまな術式の工夫がなされているが,いずれも明確なエビデンスはない。[グレードC1]

CQ VI-18

サルベージ手術が推奨される臨床病期は?

Answer

サルベージ手術においては前述したように,治癒切除が最も重要な予後因子である。したがって化学放射線療法前の腫瘍深達度が浅い(cT1-2)症例はサルベージ手術の成績が良好と報告されており,サルベージ手術の良い適応と考えられる。一方,他臓器浸潤を認める食道癌(T4)に対して化学放射線療法によるdown-staging 後に外科切除を行った報告もみられるが,T4 症例に対するサルベージ手術は非治癒切除になる可能性も高く,積極的に推奨するエビデンスはない。

StageⅡ/Ⅲ(T4 を除く)(UICC 分類2002 年版)に対してはJCOG9906,9907 の結果より術前化学療法+手術が標準的治療と考えられており,根治的化学放射線療法は患者が手術を希望しない場合などの治療選択肢の一つと位置付けられている。しかし,根治的化学放射線療法の遺残・再発症例に可及的にサルベージ手術を追加することにより化学放射線療法の予後が改善されるとの報告もあり,わが国においてStageⅡ/Ⅲ(T4 を除く)(UICC 分類2002 年版)食道癌に対する根治的化学放射線療法+/−救済治療の第II 相試験(JCOG0909)が進行中である。

推奨事項

根治切除が期待できる進行度の低い症例はサルベージ手術の適応と考えられる。[グレードC1]

【参考文献】

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VII.術前補助療法

要約

術前補助療法は,切除可能なStageⅡ・Ⅲ胸部食道癌を対象に,手術単独療法あるいは術後補助療法との比較が行われてきた。StageⅠ食道癌に対する術前補助療法の意義は検討されていない。

術前化学療法:切除可能なStageⅡ・Ⅲ胸部食道癌(UICC 分類2002 年版)を対象としてシスプラチン+5-FU による術前化学療法と術後化学療法を比較したランダム化比較試験JCOG9907 では,術前化学療法群で全生存期間が有意に改善した。この結果を受け,切除可能なStageⅡ・Ⅲ胸部食道癌に対する術前化学療法+根治手術は,わが国における標準的治療として位置付けられるようになった。

術前化学放射線療法:欧米でのランダム化比較試験をもとにしたメタアナリシスでは術前化学放射線療法は手術単独療法と比較した場合,食道癌切除例の長期生存率を向上させ得る併用療法と位置付けられている。わが国においても局所進行例を対象に実施している施設があるが,現時点で術前化学放射線療法を推奨するだけの十分な根拠は得られていない。

術前補助療法の特徴として,術後補助療法に比べて,プロトコール治療を完遂しやすい点が挙げられる。また原発病巣を縮小し,リンパ節転移や微小転移をコントロールして,切除率を向上させ遠隔成績が向上する可能性が想定される。術前補助療法では切除検体の組織学的検索により化学療法,放射線療法に対する治療反応性をある程度評価することが可能である。一方,危惧される点として薬剤耐性誘発,無効症例では局所コントロールが遅れ転移による広がりを助長する,あるいは術前に放射線治療の行われた症例は手術操作の難易度が高まり,術後合併症のリスクを高めるなどの可能性が指摘されている。

今回のガイドライン改訂にて特筆すべき事項は,Japan Clinical Oncology Group(JCOG)食道がんグループにて施行した多施設臨床試験JCOG9907 の結果であり,患者状態に特段の障害因子がない場合術前化学療法を標準的治療とする論拠となっている257)

術前化学療法

欧米では術前化学療法による生存率改善効果の有無を検証したランダム化比較試験は数多く報告されている258-261)。これらのランダム化比較試験を基にしたメタアナリシスにおいては,エンドポイントの設定により生存率向上への効果は一定しておらず,切除可能例(T1-3N0,1M0,UICC 分類2002 年版)に対する術前化学療法の効果は明確でない262-265)

日本食道学会2007 年版のガイドラインではJCOG9204(1992〜1997 年:シスプラチン+5-FUによる術後補助化学療法群vs. 手術単独群)266)の結果を踏まえ,特にリンパ節転移陽性症例における術後化学療法の施行を推奨した。今回,JCOG9907(1999〜2006 年)にてシスプラチン+5-FU による補助化学療法の施行時期についての検討を行い,術前化学療法群が術後化学療法群に比べて全生存期間で有意に良好であることを示した257)。したがって,現在わが国における切除可能なStageⅡ・Ⅲ胸部食道癌に対する治療は,まずシスプラチン+5-FU による術前化学療法を行った後に根治手術を施行する方法が標準的治療として位置付けられている。

術前化学放射線療法

術前補助化学放射線療法とは手術(planned surgery)を前提とした治療戦略であり,根治を目的とした化学放射線療法後の遺残・再発に対する救済治療とは区別される。近年は,neoadjuvant chemoradiotherapy という用語よりむしろtri-modality therapy として,化学療法,放射線療法,手術を組み合わせた治療として認識され,照射量も根治的化学放射線療法の標準である50.4 Gy を照射する場合もある。

欧米では手術による局所制御の限界から,術前補助化学放射線療法の有用性を検証したランダム化比較試験が1980 年代後半より数多く報告されている267-275)。そのほとんどが術前補助化学放射線療法の上乗せ効果を認めていないものの,術前補助化学放射線療法群では一般に高いpCR 率が得られ,Walsh ら268)の食道腺癌を対象にした報告や,CALGB9781 study275)の報告では手術単独群に比べ術前補助化学放射線療法施行例で有意に術後生存率が向上した。扁平上皮癌を対象にしたBosset らのランダム化比較試験では,術前化学放射線療法は生存期間の延長はもたらさなかったが,無再発生存期間を有意に改善させた269)。その他のランダム化比較試験でも,全体の生存率では有意差はないものの,術前化学放射線療法の有効例では生存期間の延長効果を認めたという報告が多い270, 271)

術前化学放射線療法後の切除と切除単独を比較したメタアナリシス262, 263, 265, 276-278)によると,3 年生存率をエンドポイントとしたメタアナリシスの結果では,切除可能例に対する術前化学放射線療法(20〜45 Gy)は術後90 日以内の手術関連死亡率を有意に上げる一方で,局所 再発率を低下させ3 年生存率は有意に向上させている276, 277)

これまで欧米で行われてきたランダム化比較試験では,患者背景(組織型,Stage など)や化学放射線療法のプロトコールが一定していない。また手術の精度も結果に大きく関わってくることが示唆される。わが国での術前化学放射線療法のランダム化比較試験はなく,現時点で術前治療として推奨するだけの十分な根拠は得られていない。

Clinical Question

CQ VII-1

切除可能なStageⅡ・Ⅲ胸部食道癌に術前化学療法は推奨されるか?

Answer

JCOG9907 の結果切除可能なStageⅡ・Ⅲ胸部食道癌症例ではシスプラチン+5-FU による術前化学療法の施行によって全生存期間が有意に改善することが示された257)。この要因の一つとして補助化学療法を術前に施行した方が,化学療法の完遂率が高いことが指摘されている。JCOG9907 の結果から,患者状態に特段の障害因子がない場合では,シスプラチン+5-FU 2 コースによる術前化学療法を施行することが推奨される。JCOG9907 試験のサブグループ解析の結果から,特にStageⅢ期症例において現行のシスプラチン+5-FU,2 コースによる術前化学療法の予後上乗せ効果が認められないため,現在,さらに強力なレジメンによる術前化学療法,あるいは局所制御をより重視した術前化学放射線療法が各施設の倫理手続きを経た上で臨床研究として行われている。一方,実地臨床においては狭窄により経口摂取困難な症例や化学療法施行に際して障害となる因子が存在する場合など患者状態に応じて手術単独療法あるいは術後化学療法が施行されている。

推奨事項

切除可能StageⅡ・Ⅲ(T1-3N0,1M0,UICC 分類2002 年版)胸部食道癌に術前化学療法を施行する。[グレードB]

CQ VII-2

切除可能なStageⅡ・Ⅲ胸部食道癌に術前化学放射線療法は推奨されるか?

Answer

術前化学放射線療法後の切除と切除単独を比較した欧米のランダム化比較試験267-275)では,そのほとんどが術前補助化学放射線療法の上乗せ効果を認めていないものの,一般に高いpCR 率が得られ,メタアナリシスによると局所再発率を低下させ3 年生存率を有意に向上させている265, 276, 277)

術前照射量に関しては,以前は20〜40 Gy 程度が多かったが,最近食道腺癌および扁平上皮癌を対象とした比較試験(術前シスプラチン+5-FU+50.4 Gy 照射で治療した30 例vs. 手術26 例)で根治照射量50.4 Gy を術前照射に用いるプロトコール(CALGB9781)275)が予後改善効果を示したことから,NCCN ガイドラインにも50.4 Gy が推奨量として示されている。

しかし,これまで欧米で行われてきたランダム化比較試験では,患者背景(組織型,Stage など)や化学放射線療法のプロトコールが一定しておらず,手術の精度も結果に大きく関わってくることが示唆される。わが国での術前化学放射線療法のランダム化比較試験はなく,現時点で術前治療として推奨するだけの十分な根拠は得られていない。

推奨事項

切除可能例に対する術前化学放射線療法は3 年生存率を向上させるとの欧米のメタアナリシスがある。しかしながら,わが国でのレベルの高いエビデンスはなく,術前治療として推奨するだけの十分な根拠はない。[グレードC1]

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VIII.術後補助療法

要約

術後補助療法は,切除可能なあるいは治癒切除が行われたStageⅡ・Ⅲ胸部食道癌を対象に,手術単独療法あるいは術前補助療法との比較が行われてきた。StageⅠ食道癌に対する術後補助療法の意義は検討されていない。

術後化学療法:わが国で行われた手術単独と術後化学療法(シスプラチン+5-FU,2 コース)併用のランダム化比較試験(JCOG9204 試験)では,術後化学療法によって手術単独に比較して無再発生存率が有意に向上したが,全生存率では有意差を認めなかった。JCOG9204 試験のサブグループ解析の結果より,リンパ節転移陽性群においてのみシスプラチン+5-FU,2 コースによる術後化学療法の再発予防効果が認められたことから,実地臨床においてはこれまで根治術後の病理診断の結果を参考に術後補助化学療法の適応が検討されてきた。しかしながら,前述のJCOG9907 の結果を受け,今後は患者の全身状態などを考慮した上で術前化学療法を施行することが標準的治療と位置付けられるようになった。

術後放射線療法:JCOG 食道がんグループが行った術前・術後照射と術後照射のランダム化比較試験の結果,プロトコール治療を行った適格症例の全生存率は術後照射群で有意に高い値を示し,わが国では一時期予防的術後照射が広く行われた。一方,海外での手術単独と術後照射(通常分割法で45〜60 Gy)のランダム化比較試験では,術後照射によって照射部位の局所再発は低下するものの,生存率の有意な向上を認めていない。したがって,治癒切除後の術後照射を標準的治療とする根拠は少ない。現時点において術後(化学)放射線療法の意義は不明である。非治癒切除例や術後局所再発例には実地臨床として(化学)放射線療法が行われ,有効との報告がみられる。十分な根拠はないものの,遠隔転移がなく肉眼的残存腫瘍のある非治癒切除例に何らかの局所療法は必要であり,(化学)放射線療法はその一つの有用な治療法と考えられる。

術後補助療法の理論的根拠は,外科的切除後の局所残存腫瘍,郭清領域外リンパ節転移,あるいは微小遠隔転移を制御して,遠隔成績の向上を期待するという考えである。術後補助療法の有利な点は,手術による正確な病期判定が可能であり,病期に応じた治療が可能であることなどが挙げられる。一方,不利な点としては評価可能病変がなく術後補助療法の効果判定が困難であること,術前補助療法と比較すると補助療法完遂率が低下する可能性などが指摘されている。

2007 年版のガイドラインでは,わが国ではまず根治的切除を行いその後に化学療法を加える術後化学療法が主流と記載していたが,前述のJCOG9907(1999〜2006 年:術前化学療法群vs.術後化学療法群)の結果を受け,現時点では術前化学療法が標準的治療として位置付けられている。

術後化学療法

JCOG 食道がんグループが扁平上皮癌を対象に行ったランダム化比較試験(JCOG8806:術後シスプラチン+ビンデシン,2 コースと手術単独例の比較)では5 年生存率に有意差は認められず,術後化学療法による生存率の上乗せ効果を認めなかった279)。その後化学療法をシスプラチン+5-FU として食道扁平上皮癌を対象に行ったランダム化比較試験(JCOG9204:術後シスプラチン+5-FU,2 コースと手術単独例の比較)では,全生存率ではその差が明らかではなかったが,5 年無再発生存率は術後化学療法群が手術単独群に比べ無再発生存期間が有意に延長し,特にリンパ節転移陽性例での再発予防効果を認めた。一方,リンパ節転移陰性例では再発予防 効果を認めなかった266)

フランスで行われた術後化学療法のランダム化比較試験(術後シスプラチン+5-FU,6〜8 コースと手術単独例の比較)では,約半数が姑息的切除例であったが,生存期間中央値は両群間に差はみられず,シスプラチン+5-FU の術後化学療法は有用ではないと報告している280)。これらのランダム化比較試験をもとにしたメタアナリシスでも,術後化学療法の生存率に対する効果を認めなかった262)

これまでのJCOG 臨床試験における外科手術成績は手術単独群についても,欧米における臨床試験の手術+補助療法群の成績を大きく上回っており,わが国と欧米のリンパ節郭清に関する考え方の違いやその郭清精度の差が大きく影響していると考えられる。これは,わが国と欧米の臨床試験結果を比較する際に留意すべき点と考えられる。

以上のように術後化学療法が治癒切除例の全生存率を向上させるという根拠はない。しかしながら,わが国でのランダム化比較試験(JCOG9204)では無再発生存率が有意に向上しており,特にリンパ節転移陽性症例に対する術後化学療法の再発予防効果は明らかにされている266)。リンパ節郭清精度の高いわが国の手術の特性を考慮し,わが国での根拠を重視すると,術前未治療で治癒切除が行われたリンパ節転移陽性例に対する術後化学療法(シスプラチン+5-FU,2 コース)は術後再発予防に意義があるものと考えられる。

術後放射線療法

わが国では過去に術前照射が標準的治療であった時代が長期間続いた。しかし,術前照射が生存率を向上させるという明確な報告はなかったため,JCOG 食道がんグループでは1981〜84 年に術前(30 Gy/15 回)・術後(24 Gy/12 回)照射と術後照射(50 Gy/25 回)のランダム化比較試験を施行した281)。この研究では非治癒切除や手術合併症のため解析から除外された症例が多く信頼性はやや低いが,プロトコール治療の行われた適格症例の全生存率は,術後照射群で有意に高い値を示した。本試験の結果,わが国では予防的術後照射が行われていた。

一方,海外で行われた手術単独と術後照射(通常分割法で45〜60 Gy)のランダム化比較試験4 報では,術後照射によって照射部位の局所再発率は低下するものの,生存率の有意な向上は認められていない282-285)。またこれらのランダム化比較試験をもとにしたメタアナリシスでも術後照射による生存率の向上を認めていない262)。したがって治癒切除後の術後照射を標準的治療とする根拠は少ない。ただし,中国で行われた大規模ランダム化比較試験のサブセット分析では285),StageⅢ期症例に限れば有意に生存率を向上させているので術後照射も適切な対象を選べば意義がある可能性も残っている。

Clinical Question

CQ VIII-1

切除可能なStageⅡ・Ⅲ胸部食道癌に対し,術前化学療法と
術後化学療法のどちらを優先すべきか?

Answer

JCOG9907 によってシスプラチン+5-FU による補助化学療法の施行時期についての検討が行われ,術前化学療法群が術後化学療法群に比べて全生存期間が有意に良好であることが示された257)。この結果に基づき,わが国における切除可能なStageⅡ・Ⅲ胸部食道癌に対する治療は,全身状態が許せばまずシスプラチン+5-FU による術前化学療法を行った後に根治手術を施行することが推奨される。一方,実地臨床においては狭窄により経口摂取困難な症例や化学療法施行に際して障害となる因子が存在する場合など,患者状態に応じて手術単独療法あるいは術後化学療法が施行されている。

JCOG9204 の結果では,特にリンパ節転移を有する症例(pN+)での術後化学療法による無再発生存率の向上が明らかであった。リンパ節郭清精度の高いわが国の手術の特性を考慮し,わが国での根拠を重視すると,術前未治療の治癒切除症例に術後化学療法は術後再発予防に意義があるものと考えられる。

推奨事項

術前評価にて治癒切除可能と判断される進行食道癌で全身状態が良好な症例には,生存期間の延長および術後再発予防の目的で術後化学療法よりも術前化学療法を施行する。[グレードB]

一方,術前未治療で治癒切除が施行された全身状態が良好な症例には,切除標本の病理診断結果によっては術後再発予防の目的で術後化学療法を考慮する。[グレードB]

CQ VIII-2

治癒切除症例に予防的術後照射は推奨されるか?

Answer

わが国では術前照射+術後照射より術後照射のほうが生存率を改善するとのランダム化比較試験の結果281),一時期予防的術後照射が一般に行われていた。一方,海外で行われた手術単独と術後照射(通常分割法で45〜60 Gy)のランダム化比較試験4 報では,術後照射によって照射部位の局所再発は有意に低下するものの,生存率の有意な向上を認めていない282-285)。したがって治癒切除後の術後照射は標準治療とは認められない。

推奨事項

治癒切除後の予防的術後照射は局所再発を低下させるものの,生存率の向上を認めず,標準治療として推奨するだけの根拠はない。[グレードC2]

CQ VIII-3

治癒切除症例に予防的術後化学放射線療法は推奨されるか?

Answer

吻合部を含む広範な術後照射野と化学療法を併用し局所再発を著しく減少させたとの遡及的報告はあるものの286),わが国で行われた術後化学療法と術後化学放射線療法との小規模ランダム化比較試験では両群に差がなかった287)。本報告以外に予防的術後化学放射線療法のランダム化比較試験はなく,術後化学放射線療法の意義は不明である。

推奨事項

治癒切除症例に術後化学放射線療法を推奨できるだけの十分な根拠はない。[グレードC2]

CQ VIII-4

非治癒切除例に術後(化学)放射線療法は推奨されるか?

Answer

非治癒切除例を対象とした術後照射のランダム化比較試験はない。遠隔転移のない術後残存例や術後局所再発例には(化学)放射線療法が有効との報告がみられ288, 289),また実地臨床で非治癒切除例に術後(化学)放射線療法が行われることが多い。遠隔転移がなく術後残存腫瘍のある非治癒切除例に何らかの局所療法は必要であり,(化学)放射線療法はその一つの有用な治療法と考えられるが,十分な根拠はない。

推奨事項

ランダム化比較試験はないが,遠隔転移がなく残存腫瘍のある非治癒切除例に(化学)放射線療法は有用な治療法である。[グレードC1]

【参考文献】

257) Ando N, et al: A randomized trial comparing postoperative adjuvant chemotherapy with cisplatin and 5-fluorouracil versus preoperative chemotherapy for localized advanced squamous cell carcinoma of the thoracic esophagus (JCOG9907). Ann Surg Oncol. 2012; 19(1): 68-74.

262) Malthaner RA, et al: Neoadjuvant or adjuvant therapy for resectable esophageal cancer: a systematic review and meta-analysis. BMC Med. 2004; 2: 35.

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287) Tachibana M, et al: Postoperative chemotherapy vs chemoradiotherapy for thoracic esophageal cancer: a prospective randomized clinical trial. Eur J Surg Oncol. 2003; 29(7): 580-7.

288) Nishimura Y, et al: Concurrent chemoradiotherapy with protracted infusion of 5-FU and cisplatin for postoperative recurrent or residual esophageal cancer. Jpn J Clin Oncol. 2003; 33(7): 341-5.

289) Nemoto K, et al: Radiation therapy for loco-regionally recurrent esophageal cancer after surgery. Radiother Oncol. 2001; 61(2): 165-8.