甲状腺腫瘍 〜診療ガイドライン

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目次:

3-a. 乳頭癌

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CQ 16
妥当性(予後予測性)および利便性に優れた甲状腺乳頭癌のリスク分類法は何か?
推奨グレード
B 一般的かつ国際的に広く受け入れられているリスク分類がいくつか存在し,癌死あるいは再発予測に有用である。T4(Ex2),N1 b,M1 などは高危険度群と考えられる。危険因子の評価が簡便であれば利便性に優れていると考えられ,TNM が最も推奨されるリスク分類である。
【背 景・目 的】

疾患特異的生存に対して高危険度群と低危険度群が存在し,多くの危険因子の検討がなされている。代表的リスク分類での危険因子は年齢(高齢),性(男性),被膜外浸潤,腫瘍径,リンパ節転移,遠隔転移,腫瘍の分化度などが一般的である。評価が簡便であれば利便性に優れており,国際的な普及の面からもTNM を推奨する論文が多い。このような背景を踏まえて乳頭癌に対するリスク分類を検討する。

【解 説】

リスク分類としてAGES,AMES,MACIS,EORTC,TNM などがあり,有用性を検証する論文が多くみられる 1)〜10)。構成する危険因子は,年齢,性,被膜外浸潤,腫瘍径,リンパ節転移,遠隔転移,病理診断による腫瘍の分化度などが一般的である 2)3)8)10)〜16)。これらの因子を解析し独自のリスク分類(high-,intermediate-,lowriskgroup など)を提唱するものもある 10)11)14)〜16)。特に,被膜外浸潤と遠隔転移が重要であると指摘するものが多い 4)6)8)10)11)14)。Sugitani らは高・低危険度群により癌死危険度分類を提唱した 15)。Noguchi らは多変量解析による危険因子により高・中・低危険度群の3 群に分類して疾患特異的10年生存率の差を示した 16)。個々の危険因子は大きく分けると,術前・術中に判断できるものと術後の病理診断によって初めて判明するものがある。また,AGES やMACIS のようにスコア化して評価する分類もある 2)4)5)10)。術前・術中に判断できる因子のみの分類は,術式の決定(例えば甲状腺全摘→アイソトープのように病理診断を待たずに治療方針を決定できる)に有用であり,代表的なものはAMES,MACIS,TNM である。特に,より簡便なTNM を推奨する論文が多く, 普及の面から施設間の比較も容易であるとされる 3)。Brierley らはproportion of variance explained(PVE)を用いてAGES,AMES,MACIS,EORTC,Ohio,TNM など代表的な10 のリスク分類を分析し,TNM(PVE:23. 3)が最も優れているとした 3)。Lang らも同様にPVE を用いて14 のリスク分類を比較し,MACIS(18. 7),TNM (17. 9),EORTC(16. 6)が上位であった 5)。Yildirim らは独自のリスク分類を提唱して既存の分類とPVE を比較した。独自モデル(23. 4)を除くとTNM(21. 6),AMES(21. 6),MACIS(21. 3),EORTC(18. 7)の順でTNM が上位であった 10)。Lundgren らはリンパ節転移,遠隔転移を含むTNM が優れたリスク分類として各Stage 間の疾患特異的生存に対するオッズ比を計算し,StageⅡと比較してStageⅠ(OR:0.3;95% CI:0.1-0. 8),Stage Ⅲ(OR:3. 3;95 % CI:2. 1-5. 1),Stage Ⅳ(OR:6. 0;95 % CI:3. 3-10. 9)と有意差を報告した 6)。Loh らも各Stage 間の再発と生存を分析し,すべてのStage 間で有意差を報告した 7)。また,TNM は2002年に第6 版に改訂され,わが国の甲状腺癌取扱い規約も第6 版に改訂された。この6th TNM についても評価され,有用性は高まったと報告されている 1)8)9)。Ito らはpTNM よりcTNM がより有用であると指摘した 1)。Wada ら,Lang らはStage ⅢとⅣでより有用になったと指摘した 8)9)。以上より,TNM が妥当性・利便性に優れていると考える。

表1.甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)のTNM 分類 (第6版)
TNM Stage < 45 歳未満> < 45 歳以上>
Stage Ⅰ AnyTAnyNM0 T1N0 M0
Stage Ⅱ AnyTAnyNM1 T2N0 M0
Stage Ⅲ T3N0 M0 or T1-3N1 aM0
Stage ⅣA T1-3N1 bM0 or T4aAnyNM0
Stage ⅣB T4bAnyNM0
Stage ⅣC AnyTAnyNM1
Tumor stage Nodal stage Metastasis stage
T1:≦ 2 cm N0:no node metastasis M0:no distant metastasis
T2:2 cm <,≦ 4 cm N1 a:central node metastasis M1:distant metastasis
T3:4 cm <,minimal extension N1 b:lateral node metastasis  
T4 a:extended invasion    
T4 b:unresectable invasion    
表2.代表的リスク分類の危険因子(○)
  AGES AMES MACIS EORTC TNM
年齢
× × ×
腫瘍径 ×
病理での分化度 × × × ×
甲状腺被膜外浸潤
リンパ節転移 × × × ×
遠隔転移
治癒切除 × × × ×
AGES: age, histologic grade, tumor extension(invasion or distant metastases), size
AMES: age, distant metastases, tumor extension, size
MACIS: distant metastasis, age, completeness of resection, invasion, size
EORTC: European Organization for Research on Treatment of Cancer
(×:危険因子に含まれない)
【検索式・参考にした二次資料】

PubMed により以下のキーワード(prognostic factor OR staging system AND thyroid carcinoma)を検索し,重要なものを選択した。さらに,選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。また,甲状腺外科研究会編:甲状腺癌取扱い規約 第6 版.金原出版,2005 を参考にした。

【参考文献】

1) Ito Y, Miyauchi A, Jikuzono T, et al. Risk factors contributing to a poor prognosis of papillary thyroid carcinoma:validity of UICC/AJCC TNM classification and stage grouping. World J Surg 2007;31:838-848.(RS)

2) Dean DS, Hay ID. Prognostic indicators in differentiated thyroid carcinoma. Cancer Control 2000;7:229-239.(SR)

3) Brierley JD, Panzarella T, Tsang RW, et al. A comparison of different staging systems predictability of patient outcome. Thyroid carcinoma as an example. Cancer 1997;79:2414- 2423.(SR)

4) Jukkola A, Bloigu R, Ebeling T, et al. Prognostic factors in differentiated thyroid carcinomas and their implications for current staging classifications. Endocr Relat Cancer 2004;11:571-579. (RS)

5) Lang BH, Lo CY, Chan WF, et al. Staging systems for papillary thyroid carcinoma:a review and comparison. Ann Surg 2007;245:366-378.(SR)

6) Lundgren CI, Hall P, Dickman PW, et al. Clinically significant prognostic factors for differentiated thyroid carcinoma:a population-based, nested case-control study. Cancer 2006;106:524-531. (RS)

7) Loh KC, Greenspan FS, Gee L, et al. Pathological tumor-node-metastasis (pTNM) staging for papillary and follicular thyroid carcinomas:a retrospective analysis of 700 patients. J Clin Endocrinol Metab 1997;82:3553-3562.(RS)

8) Wada N, Nakayama H, Suganuma N, et al. Prognostic value of the sixth edition AJCC/UICC TNM classification for differentiated thyroid carcinoma with extrathyroid extension. J Clin Endocrinol Metab 2007;92:215-218.(RS)

9) Lang B, Lo CY, Chan WF, et al. Restaging of differentiated thyroid carcinoma by the sixth edition AJCC/UICC TNM staging system:stage migration and predictability. Ann Surg Oncol 2007;14:1551-1559.(RS)

10) Yildirim E. A model for predicting outcomes in patients with differentiated thyroid cancer and model performance in comparison with other classification systems. J Am Coll Surg 2005;200: 378-392.(RS)

11) Tsuchiya A, Suzuki S, Kanno M, et al. Prognostic factors associated with differentiated thyroid cancer. Surg Today 1995;25:778-782.(RS)

12) Cappelli C, Pirola I, Braga M et al. Prognostic factors in well-differentiated thyroid carcinoma in patients treated and followed in the same institution. Ann Ital Chir 2006;77:107-113.(RS)

13) Lin JD, Liou MJ, Chao TC, et al. Prognostic variables of papillary and follicular thyroid carcinoma patients with lymph node metastases and without distant metastases. Endocr Relat Cancer 1999;6:109-115.(RS)

14) Sebastian SO, Gonzalez JM, Paricio PP, et al. Papillary thyroid carcinoma:prognostic index for survival including the histological variety. Arch Surg 2000;135:272-277.(RS)

15) Sugitani I, Kasai N, Fujimoto Y, et al. A novel classification system for patients with PTC: addition of the new variables of large (3 cm or greater) nodal metastases and reclassification during the follow-up period. Surgery 2004;135:139-148.(RS)

16) Noguchi S, Murakami N, Kawamoto H. Classification of papillary cancer of the thyroid based on prognosis. World J Surg 1994;18:552-558.(RS)


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CQ 17
甲状腺乳頭癌に対する甲状腺(準)全摘術は甲状腺葉(峡)切除術に比べて予後を向上させるか?
推奨グレード
A 甲状腺(準)全摘術で残存葉再発は予防できる。
C1 甲状腺(準)全摘術でリンパ節再発は減らせない。
C1 甲状腺(準)全摘術で遠隔転移の発生は減らせない。
B 甲状腺(準)全摘術が,甲状腺葉(峡)切除術に比べて,再発・生命予後を向上させるというエビデンスは弱いが,委員会のコンセンサスとして,ハイリスクと評価した甲状腺乳頭癌に対して甲状腺(準)全摘術を推奨する。
【背 景・目 的】

欧米のガイドラインでは,臨床的顕性癌に対して甲状腺(準)全摘術(以下,全摘術)が推奨されており(推奨グレードA)1)2),米国の癌登録や欧米のアンケート調査の結果においても,実地臨床で甲状腺全摘術が行われていることが多いと判断される3)4)。一方,日本においては,リスクを問わず甲状腺葉(峡)切除術(以下,葉切除術)が甲状腺乳頭癌に対して最も広く行われている術式である4)。欧米では全摘術と放射性ヨード内用療法を組み合わせ,TSH を抑制しサイログロブリンの測定によって経過観察することが一般的であるが,日本では実地臨床として放射性ヨード内用療法をルーチンに行うことは現時点では不可能である。以下のようにエビデンスレベルの高いデータも少ないため,委員会での議論を経て日本の現状を踏まえた推奨術式についてコンセンサスを形成した。

【解 説】

甲状腺乳頭癌において,全摘術と葉切除術による生命予後を比較した論文はすべて後ろ向きの症例集積研究である。全摘術と葉切除術で生命予後は全摘術のほうが良好とした論文がある3)5)〜9)。甲状腺乳頭癌の生命予後が良いため,有意差を出すためには1, 000例以上の症例集積および数十年間の経過観察データが必要であることから考えると,その間の術式の統一性,経過観察の厳密さなどが単一施設においても数十年間一定であることは考え難く,介入の普遍性が信頼できるか判断するには限界がある。さらに,欧米でのこれらの検討には術後の放射性ヨード内用療法が追加されている可能性があり,単純に術式のみを比較したものではない。したがってエビデンスは弱いと判断した。生命予後に差はないが,再発は全摘術のほうが葉切除術より低リスク患者を対象としても優れているという論文がある10)〜12)。甲状腺乳頭癌は触診でわからない多発病巣やリンパ節転移が多いことは周知の事実であるが,画像診断が発達しておらず触診のみで術式を決定していた過去のデータでは当然葉切除術のほうが全摘術より残存葉再発は多く,さらに葉切除術では術野が小さく郭清範囲が狭くなることからリンパ節再発も多くなると考えられる。一方で,生命予後はもちろん再発に関しても全摘術と葉切除術に差はないという論文も多い13)〜17)。さらに日本において低リスクの甲状腺乳頭癌で全摘を行わなかった場合の残存甲状腺再発率は1%程度であるというデータが複数の委員から示された。以上のように甲状腺切除範囲については,現在までエビデンスの高いデータが得られているわけではない。

日本の現状を鑑みた委員会での議論の結果,ハイリスクと評価された甲状腺乳頭癌に対して全摘術を推奨グレードB とすることでコンセンサスが得られた。

どのような症例をハイリスクと評価するか,委員会のメンバーにアンケートを行ったうえで議論を重ねた。ハイリスクと評価することに異論がなかったのは,5 cm を越える大きな乳頭癌,3 cm 以上のリンパ節転移,内頚静脈・頚動脈・主要な神経(反回神経など)・椎前筋膜へ浸潤するリンパ節転移,累々と腫れているリンパ節転移,気管および食道粘膜面を越えるEx,遠隔転移の存在のある乳頭癌である。これらの所見が一つでも認められれば全摘術を推奨する。一方,T1(2 cm 以下)N0 M0 の明かに低リスクと評価されるものは葉切除術でよいというコンセンサスも得られた。これらのどちらにも当てはまらない症例はグレーゾーンとして残るが,グレーゾーンの中でも委員会のコンセンサスとして全摘術を勧めるものとしてT3(4 cm 以上の乳頭癌),明らかなN1(N1 a・N1 b を問わず)が提案された。

グレーゾーンに相当する症例において全摘術を行うかどうかの判断は,反回神経麻痺・副甲状腺機能低下症の発生頻度(☞コラム7 参照)と,リスク分類(☞CQ16 参照)を用いた再発予後・生命予後の予測とのバランスをもとに,個々の症例において手術を実施する施設で最終決定することが求められる。すなわち,反回神経麻痺・副甲状腺機能低下症といった合併症の発生を少しでも低く抑える点に重点を置いて葉切除術を選択する場合,全摘術による反回神経麻痺・副甲状腺機能低下症のリスクが低い実績があり再発を少しでも低く抑える可能性に重点を置いて全摘術を選択する場合,どちらも適切な選択と考えられる。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed による検索(total thyroidectomy OR near total thyroidectomy AND prognosis)をキーワードに検索し,重要なものを選択した。NCCN Practice Guidelines in Oncology Thyroid carcinoma. NCCN Guidelines. 2009;V.1., Guidelines for the management of thyroid cancer. British Thyroid Association(BTA). 2001 およびGuidelines for the management of thyroid cancer Second edition. British Thyroid Association(BTA). 2007,甲状腺外科研究会:甲状腺癌取扱い規約 第6 版.金原出版,2005 を参考資料として用いた。

【参考文献】

1) Cooper DS, Doherty GM, Haugen BR, et al. Revised American Thyroid Association management guidelines for patients with thyroid nodules and differentiated thyroid cancer. Thyroid 2009;19:1167-1214.(Others)

2) Pacini F, Schlumberger M, Dralle H, et al. European consensus for the management of patients with differentiated thyroid carcinoma of the follicular epithelium. Eur J Endocrinol 2006;154: 787-803.(Others)

3) Bilimoria KY, Bentrem DJ, Ko CY, et al. Extent of surgery affects survival for papillary thyroid cancer. Ann Surg 2007;246:375-381.(RS)

4) Shigematsu N, Takami H, Ito N, et al. Nationwide survey on the treatment policy for well- differentiated thyroid cancer-results of a questionnaire distributed at the 37 th meeting of the Japanese Society of Thyroid Surgery. Endocr J 2005;52:479-491.(RS)

5) Samaan NA, Schultz PN, Hickey RC, et al. The results of various modalities of treatment of well differentiated thyroid carcinomas:a retrospective review of 1599 patients. J Clin Endocrinol Metab 1992;75:714-720.(RS)

6) Hay ID, Bergstralh EJ, Grant CS, et al. Impact of primary surgery on outcome in 300 patients with pathologic tumor-node-metastasis stage Ⅲ papillary thyroid carcinoma treated at one institution from 1940 through 1989. Surgery 1999;126:1173-1181.(RS)

7) Loh KC, Greenspan FS, Gee L, et al. Pathological tumor-node-metastasis (pTNM) staging for papillary and follicular thyroid carcinomas:a retrospective analysis of 700 patients. J Clin Endocrinol Metab 1997;82:3553-3562.(RS)

8) Segal K, Friedental R, Lubin E, et al. Papillary carcinoma of the thyroid. Otolaryngol Head Neck Surg 1995;113:356-363.(RS)

9) Mazzaferri EL, Jhiang SM. Long-term impact of initial surgical and medical therapy on papillary and follicular thyroid cancer. Am J Med 1994;97:418-428.(RS)

10) Hay ID, Grant CS, Bergstralh EJ, et al. Unilateral total lobectomy:is it sufficient surgical treatment for patients with AMES low-risk papillary thyroid carcinoma? Surgery 1998;124: 958-964.(RS)

11) Lundgren CI, Hall P, Dickman PW, et al. Influence of surgical and postoperative treatment on survival in differentiated thyroid cancer. Br J Surg 2007;94:571-577.(RS)

12) Handkiewicz-Junak D, Wloch J, Roskosz J, et al. Total thyroidectomy and adjuvant radioiodine treatment independently decrease locoregional recurrence risk in childhood and adolescent differentiated thyroid cancer. J Nucl Med 2007;48:879-888.(RS)

13) Shaha AR, Shah JP, Loree TR. Low-risk differentiated thyroid cancer:the need for selective treatment. Ann Surg Oncol 1997;4:328-333.(RS)

14) Kim S, Wei JP, Braveman JM, et al. Predicting outcome and directing therapy for papillary thyroid carcinoma. Arch Surg 2004;139:390-394.(RS)

15) Wanebo H, Coburn M, Teates D, et al. Total thyroidectomy does not enhance disease control or survival even in high-risk patients with differentiated thyroid cancer. Ann Surg 1998;227:912- 921.(RS)

16) Hundahl SA, Fleming ID, Fremgen AM, et al. A National Cancer Data Base report on 53, 856 cases of thyroid carcinoma treated in the U.S., 1985-1995. Cancer 1998;83:2638-2648.(RS)

17) Haigh PI, Urbach DR, Rotstein LE. Extent of thyroidectomy is not a major determinant of survival in low-or high-risk papillary thyroid cancer. Ann Surg Oncol 2005;12:81-89.(RS)


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CQ 18
甲状腺乳頭癌に対する気管周囲リンパ節郭清は非郭清に比べて予後を向上させるか?
推奨グレード
B 気管周囲リンパ節郭清が生命予後を向上させるという明らかな根拠はない。しかし,再手術の際には合併症の発生頻度が増すことを考慮すると,初回手術時気管周囲リンパ節郭清を行うほうがよい。郭清を行う必要がある明らかな転移がある場合には,気管周囲のリンパ節郭清は予後を向上させる。
【背 景・目 的】

明らかに転移を疑わせるリンパ節腫脹を認める症例では,気管周囲のリンパ節郭清は推奨されている。しかし,頸部エコーなどの画像検査においても腫大を認めない症例では,予後を向上させるという報告や,予後に変わりがなく副甲状腺機能低下や反回神経麻痺等の合併症のリスクが上昇するため否定的な報告もあり,結論が出ていないのが現状である。本項では,甲状腺乳頭癌における気管周囲のリンパ節郭清における予後について検討する。

【解 説】

Tisell らによる前向き研究では,気管周囲のリンパ節郭清を行った甲状腺癌症例の死亡率は1. 5%であり,郭清を行っていない施設と比較して(11. 8%,8. 4%)有意に予後を改善させたと報告し,合併症を注意したうえでの気管周囲のリンパ節郭清は,予後を改善すると述べている 1)。そのほかの報告はすべて後ろ向き研究であるが,気管周囲リンパ節郭清は,再発率を低下させる 2)3)。また,局所再発すると疾患特異的生存率が減少し,遠隔転移が増加すると報告されている 2)4)。以上のように,気管周囲のリンパ節郭清は,疾患特異的生存率を向上させ,再発率を低下させるという報告が散見される。

しかし,気管周囲のリンパ節郭清を行った群と行わなかった群では,再発,死亡率および遠隔転移に有意差はなかったと報告されているものもある 5)。また,central dissection, posterolateral dissection, combined central and posterolateral dissection の3 グループに分けて検討された報告では,再発率に違いはなく,再発部位は郭清範囲に依存しなかった。Central compartment における再発率は,central dissection の有無には影響されなかった。3 グループにおいて,DFS に差はなかったと述べられている 6)。術後に副甲状腺機能低下症や反回神経麻痺の危険性が有意に高まるとも述べられている 7)。このように,逆に否定的な報告も散見され,未だ決着がみられていないのが現状であると考えられる。

そのため,現段階では気管周囲のリンパ節郭清を行う必要がないという明確なエビデンスはなく,再手術の際には反回神経麻痺や副甲状腺機能低下などの合併症発生頻度が増すことを考慮すると,先に述べた合併症に十分留意したうえで,郭清を行う必要があると考えられる。この他に,転移リンパ節と生存率との関係については,リンパ節転移の有無または転移リンパ節数による全生存率に差はなかったと報告されているものと 8),気管周囲の転移リンパ節数が6 個以上の場合には,再発率が高かったと報告されているものがある 9)。術前の診断をもとに気管周囲の治療的郭清と予防的郭清とを比較した報告では,両群間で合併症やリンパ節の節外浸潤,転移リンパ節に有意差がなかったとも述べられている。これは,気管周囲は頸部エコーなどの画像診断が難しい領域であり,また,微小なリンパ節であっても転移を認めるものもあり,確実な気管周囲の転移リンパ節の診断が困難であるためと考えられる。今後の画像診断の精度の向上が第一に望まれるところであるが,現時点では,これらの点から考慮すると,予防的な郭清の意義はあると考えられる。

英国では以前のガイドラインにより,甲状腺全摘術と両側気管周囲リンパ節の郭清が推奨され,その結果永続的な副甲状腺機能低下症が多く発生したため,2007年の改訂では,術中に気管周囲のリンパ節腫脹が認められた場合には,気管周囲をリンパ節郭清すると記されている 10)。画一的な予防郭清は必要ではないとしたものではあるが,逆に,リンパ節腫脹は郭清の対象となるため,気管周囲のリンパ節腫脹の判定精度の向上が求められるといえる。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。また二次資料としてAmerican Thyroid Association のガイドライン2006年版を参考にした。

【参考文献】

1) Tisell LE, Nilsson B, Molne J, et al. Improved survival of patients with papillary thyroid cancer after surgical microdissection. World J Surg 1996;20:854-859.(PS)

2) Scheumann GF, Gimm O, Wegener G, et al. Prognostic significance and surgical management of locoresional lymph node metastases in papillary thyroid cancer. World J Surg 1994;18:559- 567.(RS)

3) Simon D, Goretzki PE, Witte J, et al. Incidence of regional recurrence guiding radicality in differentiated thyroid carcinoma. World J Surg 1996;20:860-866.(RS)

4) Ito Y, Jikuzono T, Higashiyama T, et al. Clinical significance of lymph node metastasis of thyroid papillary carcinoma located in one. World J Surg 2006;30:1821-1828.(RS)

5) Wada N, Duh QY, Sugino K, et al. Lymph node metastasis from 259 papillary thyroid microcarcinomas:frequency,pattern of occurrence and recurrence, and optimal strategy for neck dissection. Ann Surg 2003;237:399-407.(RS)

6) Shah MD, Hall FT, Eski SJ, et al. Clinical course of thyroid carcinoma after neck dissection. Laryngoscope 2003;113:2102-2107.(RS)

7) White ML, Gauger PG, Doherty GM. Central lymph node dissection in differentiated thyroid cancer. World J Surg 2007;31:895-904.(RS)

8) Sato N, Oyamatsu M, Koyama Y, et al. Do the level of nodal disease according to the TNM classification and the number of involved cervical nodes reflect prognosis in patients with differentiated carcinoma of the thyroid gland ? J Surg Oncol 1998;69:151-155.(RS)

9) Pereira JA, Jimeno J, Miquel J, et al. Nodal yield, morbidity, and recurrence after central neck dissection for papillary thyroid carcinoma. Surgery 2005;138:1095-1100.(RS)

10) Guidelines for the management of thyroid cancer, second edition.(The Lavenham Press, Suffolk, British Thyroid Association and Royal College of Physicians)2007;15.(Others)


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CQ 19
甲状腺乳頭癌に対する内深頸リンパ節郭清は非郭清に比べて予後を向上させるか?
推奨グレード
B 内深頸リンパ節郭清が生命予後を向上させるとの根拠は乏しいが,局所再発(リンパ節再発)のリスクを減少させ再発予後を改善する。
【背 景・目 的】

リンパ節腫大を認める症例は再発リスクが高い。触知可能な臨床的リンパ節転移はもちろん,近年は超音波検査にてリンパ節腫大が認められる症例ではリンパ節郭清は必須と考えられ,これらは治療的郭清とされる。一方,非触知かつ画像検査でも腫大を認めない症例のリンパ節郭清は予防的郭清と考えられ,否定的な報告が多い。このような背景を踏まえて甲状腺乳頭癌の内深頸リンパ節郭清の意義について検討する。

【解 説】

乳頭癌においてリンパ節郭清が予後に関係するかどうかを検討する場合は,生命予後と再発予後に分けて考える必要がある。内深頸リンパ節郭清が生命予後を向上させるという報告は少ないが,再発予後に関してはリスクを減少させると考えられる 1)〜6)。リンパ節腫大を認める症例では再発率(20. 0〜42. 1%)が高く,Sugitani ら 1)によればリンパ節腫大あり・なしでの10年無再発生存はそれぞれ76%,91%であり,Wada ら 5)によればリンパ節腫大のある症例の再発リスクは14. 9 倍であった。

乳頭癌のリンパ節転移の特徴として,複数のリンパ節レベルで高率にみられ,中心部をskip して側頸部にみられる(7. 4〜9. 6%)ことも少なくない 5)7)。触知可能なリンパ節転移はもちろん,近年は超音波検査を中心とする画像診断にて腫大が認められる場合は治療的郭清としてリンパ節郭清は必須と考えられ,腫大を認めない場合は予防的郭清として否定的な意見が多い 1)4)〜6)8)9)。Sugitani ら 1),Ito ら 6)は超音波検査でリンパ節転移を認める場合の内深頸領域の治療的郭清の意義と認めない場合の郭清省略の妥当性を提唱したが,男性,高齢,大きな原発腫瘤,被膜外浸潤,遠隔転移などの危険因子の条件つきで同部位の予防的郭清を推奨している。一方,Davidson ら 2),Balazs ら 4)は非系統的郭清群で再発率が高いと報告した。

また,リンパ節転移は予後因子として重要であり多くのリスク分類で危険因子とされている。リンパ節転移個数などの情報が重要との報告もあり,予後予測において内深頸リンパ節郭清は意義があると考えられる 10)。しかし,一方ではリンパ節転移の予後因子としての意義や系統的郭清を疑問視する報告もある 8)9)11)12)。以上より,内深頸リンパ節郭清が生命予後を向上させるという根拠は乏しいと考えられる。Noguchi ら 13)は内深頸リンパ節郭清による生命予後の改善を報告している。少なくとも,術前・術中にリンパ節腫大を認める症例に限れば,再発リスクを減少させ再発予後を向上させるという点で内深頸リンパ節の治療的郭清には妥当性があると考えられる 1)〜6)

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed により以下のキーワード(lymph node metastasis OR nodal metastasis AND papillary thyroid carcinoma)を検索し,重要なものを選択した。さらに,選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Sugitani I, Fujimoto Y, Yamada K, et al. Prospective outcomes of selective lymph node dissection for papillary thyroid carcinoma based on preoperative ultrasonography. World J Surg 2008; 32:2494-2502.(PS)

2) Davidson HC, Park BJ, Johnson JT. Papillary thyroid cancer:controversies in the management of neck metastasis. Laryngoscope 2008;118:2161-2165.(RS)

3) Ohshima A, Yamashita H, Noguchi S, et al. Is a bilateral modified radical neck dissection beneficial for patients with papillary thyroid cancer? Surg Today 2002;32:1027-1030.(RS)

4) Balazs G, Gyory F, Lukacs G, et al. Long-term follow-up of node-positive papillary thyroid carcinomas. Langenbecks Arch Surg 1998;383:180-182.(RS)

5) Wada N, Masudo K, Nakayama H, et al. Clinical outcomes in older or younger patients with papillary thyroid carcinoma:impact of lymphadenopathy and patient age. Eur J Surg Oncol 2008;34:202-207.(RS)

6) Ito Y, Miyauchi A. Lateral lymph node dissection guided by preoperative and intraoperative findings in differentiated thyroid carcinoma. World J Surg 2008;32:729-739.(RS)

7) Roh JL, Kim JM, Park CI. Lateral cervical lymph node metastases from papillary thyroid carcinoma:pattern of nodal metastases and optimal strategy for neck dissection. Ann Surg Oncol 2008;15:1177-1182.(RS)

8) Caron NR, Tan YY, Ogilvie JB, et al. Selective modified radical neck dissection for papillary thyroid cancer-is level Ⅰ, Ⅱ and Ⅴ dissection always necessary? World J Surg 2006;30:833- 840.(RS)

9) Sato N, Oyamatsu M, Koyama Y, et al. Do the level of nodal disease according to the TNM classification and the number of involved cervical nodes reflect prognosis in patients with differentiated carcinoma of the thyroid gland? J Surg Oncol 1998;69:151-155.(RS)

10) Kupferman ME, Weinstock YE, Santillan AA, et al. Predictors of level V metastasis in well- differentiated thyroid cancer. Head Neck 2008;30:1469-1474.(RS)

11) Bhattacharyya N. Surgical treatment of cervical nodal metastases in patients with papillary thyroid carcinoma. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 2003;129:1101-1104.(RS)

12) Turanli S. Is the type of dissection in lateral neck metastasis for differentiated thyroid carcinoma important? Otolaryngol Head Neck Surg 2007;136:957-960.(RS)

13) Noguchi S, Murakami N, Yamashita H, et al. Papillary thyroid carcinoma:modified radical neck dissection improves prognosis. Arch Surg 1998;133:276-280.(RS)


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CQ 20
甲状腺微小乳頭癌(腫瘍径1 cm 以下)において,ただちに手術を行わず非手術経過観察を行い得るのはどのような場合か?
推奨グレード
C1 術前診断(触診・頸部超音波検査など)により明らかなリンパ節転移や遠隔転移,甲状腺外浸潤を伴う微小乳頭癌は絶対的手術適応であり,経過観察は勧められない。これらの転移や浸潤の徴候のない患者が,十分な説明と同意のもと非手術経過観察を望んだ場合,その対象となり得る。
【背 景・目 的】

甲状腺微小乳頭癌の発見は過去には,ラテント癌(甲状腺癌以外の原因による死亡者における剖検での発見,頻度は最大36%と報告されている),偶発癌(甲状腺良性疾患に対する手術検体の病理組織検査により発見,頻度は1. 3〜22%と報告されている)およびオカルト癌(リンパ節転移や遠隔転移病変が先に発見され,後の精査により甲状腺内に微小な原発巣が発見されるもので稀)の場合に限られていた。しかし,最近の超音波検査などによる検診の普及と超音波ガイド下細胞診など診断技術の進歩により,臨床の場に供される微小癌の頻度が激増している。潜在微小癌の頻度が一般人口の10%以上あるのに対し,臨床癌の罹患率が0. 1%以下であること,乳頭癌の治療成績が一般に良好であることから,偶然発見された微小癌に対して,手術を行わずに経過観察する試みも行われている。

本項では甲状腺微小乳頭癌の治療成績および予後因子を検討するとともに,増加し続ける微小癌に対し,ただちに手術を行わずに経過観察するとしたらどのような症例が対象となり得るかについて検討した。なお,本項は「癌は小さくても切除すべき」という意見に反対するものではなく,微小癌に対し手術を行うことを否定するものでもない。

【解 説】

Davies らによる米国における大規模データベースに基づく1973〜2002年の甲状腺癌の頻度についての報告によれば,この30年間で甲状腺癌の頻度は10 万人当たり3. 6 人から8. 7 人と2. 4 倍(95% CI:2. 2-2. 6)に増加しており,それは乳頭癌の増加(10 万人当たり2. 7 人から7. 7 人,2. 9 倍,95% CI:2. 6-3. 2)によるとされる。特に1 cm 以下の乳頭癌の増加が著しい。一方で,この30年間で甲状腺癌による死亡率(10 万人当たり約0. 5人)は不変であり,微小癌の発見・治療は甲状腺癌の予後改善に寄与しないとした 1)。2009年に改訂されたAmerican Thyroid Association(ATA)のガイドラインでは,1 cm以下の甲状腺結節に対するルーチンの細胞診は勧められていない。

微小乳頭癌の手術治療成績についての報告はすべて後ろ向き研究である。Noguchi らによる2, 070 例(1966〜1995年)の症例集積研究では,再発は73 例(3. 5%)であった 2)。Hay らによる900 例(1945〜2004年)の報告では,原病死は3 例(0. 3%)で疾患特異的死亡率は20年で0. 1%,40年で0. 7%,再発は20年で5. 7%と予後良好であった 3)

原病死が極めて稀であるため,手術治療された微小乳頭癌の生命予後規定因子について検討した論文は少ない。Chow らによれば,年齢,性別,腫瘍径,リンパ節転移,多発病巣の有無,腺外浸潤,治療法のうち疾患特異的生存に対して有意な危険因子は見出せなかったという 4)。一方,Sugitani らは発見の契機が重要な生命予後規定因子であるとし,初診時に臨床的に明らかな1 cm 以上のリンパ節転移や反回神経麻痺による嗄声のない無症候性群148 例では原病死はなかったが,これらの転移・浸潤徴候を伴う有症候性群30 例では原病死を4 例認めたと報告した 5)

術後再発危険因子についてはいくつかの検討がされており,(術前より明らかな側頸部の)リンパ節転移を重要視するものが多い 2)〜4)6)〜10)。その他,原発巣の大きいもの 2)8)9)11),高齢者 8),多発病巣あり 3)4)などが再発危険因子として挙げられているが,報告により有意性の評価はさまざまである。治療法(手術範囲,放射性ヨードによるアブレーションの有無)が再発率に影響するとした論文は少ない 4)

非手術経過観察の臨床試験に関する報告は日本の2 施設からのものに限られ,エビデンスとして症例数・観察期間が十分とはいえないが,ともに前向き研究であり貴重である。Ito らは隈病院において1993〜2001年に細胞診で微小乳頭癌と診断された732 例中,インフォームドコンセントにて非手術経過観察を選択した162 例について年1〜2 回の超音波による経過観察を18〜113 カ月(平均46. 5 カ月)行った。側頸部にリンパ節転移が疑われるもの,腫瘍が気管や反回神経に近いもの,細胞診で異型性が強いものはあらかじめ除外した。非手術経過観察の結果,70%以上の症例で腫瘍径は増大しなかった(5年以上の経過観察で腫瘍径が2 mm 以上増大した症例は27. 5%,不変60. 3%,縮小12. 1%)。経過中に2 例(1. 2%)で側頸部リンパ節転移が出現したが,遠隔再発や原病死は認めなかった。56 例が経過観察後に手術を行った(腫瘍増大7,リンパ節転移2,その他は種々の理由による) 12)。杉谷らは癌研病院において,1995年以降微小乳頭癌と診断された患者のうち,臨床的に明らかなリンパ節転移や反回神経麻痺による嗄声といった症状のない無症候性のもの35 例44 病巣の1〜10年(平均3. 6年)の非手術経過観察を6〜12 カ月ごとの頸部超音波,血液検査,胸部X 線または肺CT などにより行った。その結果,腫瘍体積が50%以上増大した症例は18. 2%,不変65. 9%,縮小15. 9%で,リンパ節転移や腺外浸潤,遠隔転移が出現した症例はなかった。経過観察後の手術への方針変更は2 例(腫瘍増大1,後方進展1)で行われた 13)

以上,さらなる症例数と観察期間の蓄積が必要ではあるが,潜在癌と臨床癌の頻度の乖離および微小癌の良好な治療成績から考えて,転移や浸潤の徴候のない微小乳頭癌に対する非手術経過観察は治療選択肢として妥当性があると考えられる。一方で激しいリンパ節転移や遠隔転移により発症する乳頭癌で原発巣が微小なものがあり,そのような症例には不幸な転帰をたどるものがある。すなわち,原発腫瘍径によってのみ定義される微小乳頭癌には危険度の異なる種類があると考えられるが,それらを区別する絶対確実な方法はない。それゆえ,非手術経過観察を行う場合には,腫瘍径の増大やリンパ節転移の出現により手術が必要となる可能性はもとより,極めて低い確率ながら遠隔転移の出現や未分化転化などのリスクが存在し得ることを十分説明し,同意を得る必要がある。そのうえで,年1〜2 回の定期的経過観察を確実に継続することが重要である。定期検査の際には頸部超音波検査を中心に行い,腫瘍径の3 mm 以上の増大や新たな病変の出現,リンパ節転移の出現に注意し,これらの所見が明らかな場合には手術に方針を変更するべきである。

【検索式・参考にした二次資料】

検索式により抽出された論文のrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。また,二次資料として2009年版のATA ガイドライン(Thyroid. 2009;19:1167-1214)を参考にした。

【参考文献】

1) Davies L, Welch HG. Increasing incidence of thyroid cancer in the United States, 1973-2002. JAMA 2006;295:2164-2167.(RS)

2) Noguchi S, Yamashita H, Uchino S, et al. Papillary microcarcinoma. World J Surg 2008;32:747- 753.(RS)

3) Hay ID, Hutchinson ME, Gonzalez-Lasada T, et al. Papillary thyroid microcarcinoma:a study of 900 cases observed in a 60-year period. Surgery 2008;144:980-987.(RS)

4) Chow SM, Law SC, Chan JK, et al. Papillary microcarcinoma of the thyroid-prognostic significance of lymph node metastasis and multifocality. Cancer 2003;98:31-40.(RS)

5) Sugitani I, Fujimoto Y. Symptomatic versus asymptomatic papillary thyroid microcarcinoma:a retrospective analysis of surgical outcome and prognostic factors. Endocr J 1999;46:209-216. (RS)

6) Wada N, Duh QY, Sugino K, et al. Lymph node metastasis from 259 papillary thyroid microcarcinomas:frequency, pattern of occurrence and recurrence, and optimal strategy for neck dissection. Ann Surg 2003;237:399-407.(RS)

7) Ito Y, Tomoda C, Uruno T, et al. Preoperative ultrasonographic examination for lymph node metastasis:usefulness when designing lymph node dissection for papillary microcarcinoma. World J Surg 2004;28:498-501.(RS)

8) Cappelli C, Castellano M, Braga M, et al. Aggressiveness and outcome of papillary thyroid carcinoma(PTC)versus microcarcinoma(PMC):a mono-institutional experience. J Surg Oncol 2007;95:555-560.(RS)

9) Besic N, Pilko G, Petric R, et al. Papillary thyroid microcarcinoma:prognostic factors and treatment. J Surg Oncol 2008;97:221-225.(RS)

10) Kim TY, Hong SJ, Kim JM, et al. Prognostic parameters for recurrence of papillary thyroid microcarcinoma. BMC Cancer 2008;8:296.(RS)

11) Roti E, Rossi R, Trasforini G, et al. Clinical and histological characteristics of papillary thyroid microcarcinoma:results of a retrospective study in 243 patients. J Clin Endocrinol Metab 2006;91:2171-2178.(RS)

12) Ito Y, Uruno T, Nakano K, et al. An observation trial without surgical treatment in patients with papillary microcarcinoma of the thyroid. Thyroid 2003;13:381-387.(PS)

13) 杉谷 巌,鎌田信悦.甲状腺微小乳頭癌の対処法:非手術経過観察の妥当性.頭頸部腫瘍2001; 27:102-106.(PS)


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コラム7 甲状腺手術に伴う合併症のうち,永続性反回神経麻痺,永続性副甲状腺機能低下症の発生頻度は何%以下が望ましいか?
要旨

甲状腺手術に伴う反回神経麻痺,副甲状腺機能低下の発生頻度は,術式や郭清の有無により大きく異なり,初回手術か再手術かによっても異なる。良性腫瘍に対する手術に限った場合,永続性反回神経麻痺は0. 1〜0. 9%の症例に起こるとされており,発生頻度としては1%以下が望ましい 1)〜3)。しかし,甲状腺癌症例に限ると発生頻度は,0. 5〜3. 5%と報告されている 4)〜8)。発生頻度にばらつきがあるが,これは取り扱う症例の重症度の違いや,術式の違いにより異なるものと推察される。また,良性悪性含めた甲状腺手術での永続性反回神経麻痺の発生頻度は0. 4〜1. 8%であり,甲状腺手術全体では2%以下が望ましい 9)〜11)。ところで,術後の喉頭観察方法を具体的に記載していない文献も多く,実際の頻度はさらに多い可能性もある。
永続性副甲状腺機能低下症の発生頻度は反回神経麻痺と同様,施設や症例などの違いにより異なる。甲状腺癌手術に伴う発生頻度は全体で3. 3〜20. 4%程度といわれているが,施設間のばらつきが大きい 5)〜8)。また,甲状腺癌に対する気管傍リンパ節郭清がもたらす副甲状腺機能低下は0〜4. 6%程度であるが 12)〜14),再手術例では頻度が上昇するといわれている 15)ので,5%以下が望ましいといえる。

【解 説】

甲状腺手術に伴う合併症は,反回神経麻痺,副甲状腺機能低下,血腫,創部感染,甲状腺機能低下などが挙げられるが,この中でも発生頻度の高い反回神経麻痺と副甲状腺機能低下が問題となる。ところで,声帯運動が障害されるいわゆる声帯麻痺には,反回神経の障害により生ずる声帯麻痺の他いくつかの原因があるが,甲状腺手術後に発生する声帯麻痺の多くは反回神経の損傷により生ずる。また,永続性反回神経麻痺とは当然のことながら,長期間持続している不可逆性の状態を意味している。一過性反回神経麻痺については,例外的には1年以上経過して回復する例も報告されているが,6 カ月以内にほとんどの症例が回復している 2)6)7)9)16)。反回神経麻痺の予防には反回神経を確認のうえ,温存することが大切である 10)

反回神経麻痺の発生頻度は,悪性か良性か,術式が全摘,亜全摘,葉切除(葉峡切除)のいずれなのか,頸部郭清を行っているか否か,またその郭清範囲,さらには初回手術か再手術かなどにより異なる。特に,初回手術例と比べ再手術例においてその発生頻度は高くなるという報告が多い 10)。ところで,甲状腺癌の手術で反回神経麻痺が発生する頻度は0. 5〜3. 5%といわれているが,拡大手術や頸部郭清を行った場合には頻度が増し 5)17),被膜外浸潤のある症例ではさらに危険性が増すといわれている 17)18)。特に重要な甲状腺分化癌に対する気管傍リンパ節郭清と反回神経麻痺の発生頻度については,0〜4. 5%と施設により若干異なる 12)13)15)19)

甲状腺手術に伴う副甲状腺機能低下症の発生頻度については多くの報告がある。しかし,施設により扱う甲状腺癌の重症度も異なり,行っている術式も異なるので一概に比較することには無理がある。一つの目安として,甲状腺手術(良性)に伴う永続性副甲状腺機能低下症の発生頻度は0〜3. 4%といわれている 1)〜3)。甲状腺癌手術に伴う発生頻度は全体で3. 3〜20. 4%程度であり 5)〜8),甲状腺全摘に伴う頻度は20〜34%との報告もある 20)。しかし,注意すべきは諸外国の中には甲状腺の一部を残しても甲状腺全摘術と分類しているところがあるので,必ずしもわが国での意味するところと同じではない点である。甲状腺の一部を残した場合,副甲状腺が残存している可能性が大きくなるので,必然的に術後の副甲状腺機能低下症の発生頻度は低くなる。ところで,甲状腺癌に対する気管傍リンパ節郭清がもたらす永続性副甲状腺機能低下症の発生頻度は0〜4. 6%程度であるが,再手術例では危険性が増す 15)。また,副甲状腺の自家移植によってCa 値に有意差がみられなかったとの報告もあるが,55%で回復している報告もある 7)

【参考文献】

1) Bellantone R, Lombardi CP, Bossola M, et al. Total thyroidectomy for management of benign thyroid disease:review of 526 cases. World J Surg 2002;26:1468-1471.

2) Liu Q, Djuricin G, Prinz RA, et al. Total thyroidectomy for benign thyroid disease. Surgery 1998;123:2-7.

3) Reeve TS, Delbridge L, Cohen A, et al. Total thyroidectomy. The preferred option for multinodular goiter. Ann Surg 1987;206:782-786.

4) Misiolek M, Waler J, Namyslowski G, et al. Recurrent laryngeal nerve palsy after thyroid cancer surgery:a laryngological and surgical problem. Eur Arch Otorhinolaryngol 2001;258:460-462.

5) Rafferty MA, Goldstein DP, Rotstein L, et al. Completion thyroidectomy versus total thyroidectomy:is there a difference in complication rates? An analysis of 350 patients. J Am Coll Surg 2007;205:602-607.

6) FILHO JG, et al. Surgical complication after thyroid surgery performed in a cancer hospital. Otolaryngol Head Neck Surg 2005;132:490-494.

7) 韓 相善,北村溥之,高北晋一,他:甲状腺癌手術の合併症の検討.耳鼻臨床 1998;91:933-936.

8) 宮田耕志,北村溥之,金子賢一,他:甲状腺手術の合併症.耳鼻臨床 1993;86:389-395.

9) Filho JG, Kowalski LP :Postoperative complications of thyroidectomy for differentiated thyroid carcinoma. Am J Otolaryngol 2004;25:225-230.

10) Erbil Y, Barbaros U, Işsever H, et al. Predictive factors for recurrent laryngeal nerve palsy and hypoparathyroidism after thyroid surgery. Clin Otolaryngol 2007;32:32-37.

11) 本間明宏,飯塚桂司,米川博之,他:反回神経麻痺を生じた甲状腺腫瘍手術症例の検討.耳喉頭頸 1995;67 :61-64.

12) Kupferman ME, Patterson DM, Mandel SJ, et al. Safety of modified radical neck dissection for differentiated thyroid carcinoma. Laryngoscope 2004;114:403-406.

13) Khafif A, Ben-Yosef R, Abergel A, et al. Elective paratracheal neck dissection for lateral metastases from papillary carcinoma of the thyroid:is it indicated? Head Neck 2008;30:306-310.

14) Pereira JA, Jimeno J, Miquel J, et al. Nodal yield, morbidity, and recurrence after central neck dissection for papillary thyroid carcinoma. Surgery 2005;138:1095-1100.

15) Roh JL, Park JY, Rha KS, et al. Is central neck dissection necessary for the treatment of lateral cervical nodal recurrence of papillary thyroid carcinoma? Head Neck 2007;29:901-906.

16) 藤本吉秀.甲状腺手術の合併症.耳鼻臨床 1996;89:414-417.

17) Sevim T. Risk factors for permanent laryngeal nerve paralysis in patients with thyroid carcinoma. Clin Otolaryngol 2007;32:378-383.

18) 近藤昭男,記本晃治,谷口雅彦,他.甲状腺分化癌における反回神経麻痺について.耳鼻臨床1999;補101 :112-117.

19) Kim MK, Mandel SH, Baloch Z, et al. Morbidity following central compartment reoperation for recurrent or persistent thyroid cancer. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 2004;130:1214-1216.

20) 宮内 昭,松塚文夫,隈 寛二.甲状腺全摘術における副甲状腺機能の温存.手術1989;43:975- 983.


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コラム8 甲状腺乳頭癌に対する甲状腺切除範囲をめぐる論争と日本の現状について
【解 説】

甲状腺乳頭癌に対する初回治療方針において,諸外国とわが国とでは大きな相違がある。欧米から発表されたガイドラインでは,ほとんどの乳頭癌患者に対し甲状腺全摘(または準全摘)手術を行うことが推奨されており,術後放射性ヨード(Ⅰ-131)内用により遺残甲状腺組織のアブレーションを行ったうえで,生涯にわたり甲状腺ホルモン(levothyroxine:LT4)を十分量投与してTSH 抑制療法を行うことが標準治療とされている。一方,日本では特に癌死する可能性が低いとみなされる低危険度群乳頭癌の場合,術前超音波検査(US)などにより原発巣およびリンパ節転移の広がりを確認したうえで,可及的に甲状腺を温存する術式(腺葉切除や亜全摘)が採用されることが多く,術後Ⅰ-131 によるアブレーションはほとんど行われていない。

表1 にそれぞれの方針を支持する根拠をまとめた。諸外国の方針によれば,乳頭癌の微小病巣が一掃されることで再発抑止効果が期待されるが,日本の方針には術後合併症の頻度が低く抑えられる長所がある。また,これらの方針選択の背景には彼我の社会環境に基づく医療事情の違いも大きく影響している(表2)。

乳頭癌の場合,微小な腺内転移(多発)やリンパ節転移が存在する確率(報告によっては80%)と再発率(通常10%以下),癌死率(低危険度群では1〜2%)との間に大きな乖離が認められる事実からわかるとおり,癌でありながら患者の生涯にわたり無害に経過し生命に影響しない病変が実在する。癌死する危険のほとんどない低危険度群乳頭癌に対しては,できるだけ後遺症の少ない手術を行い,患者の負担となる補助療法も行わないのが日本流のやり方ということになる。2009年夏にトロントで開催されたWorld Congress on Thyroid Cancer においても,リスク(癌死危険度)に応じて初回治療を縮小する方向での議論がなされた。しかしながら,それを受けて先頃改訂されたアメリカ甲状腺学会(American Thyroid Association;ATA)のガイドラインでは,腺葉切除の適応となる低危険度乳頭癌を腫瘍径1 cm 未満で単発性,明らかなリンパ節転移や腺外浸潤がなく,頭頸部への放射線外照射歴もないものに限定している。乳頭癌の良好な予後を鑑みると,依然として「低危険度癌」の範囲が狭い印象を受ける。

乳頭癌の頻度と予後を考慮すると,前向きに大規模なランダム化比較試験(RCT)を行って,純粋に科学的に二つの治療方針の優劣についてエビデンスを得ることは容易ではない。現実には患者の自己決定権も尊重しつつ,個々の患者の利益を損なうことのない治療法を選択する必要がある。

日本では現在,甲状腺癌に対する放射性ヨード大量内用療法を施行し得る施設は64施設158 床(2007年)と依然減少傾向である。施設減少の原因は施設基準に見合った対価が支払われていない点にある。Ⅰ-131 によるアブレーションの適応を高危険度群症例に限ったとしても絶対的に医療資源が不足している。欧米で普及しているrecombinant human TSH(rhTSH)のアブレーションへの適応拡大を含め,必要な治療を十分に行うことができる医療環境の整備が待たれる。

表1. 甲状腺乳頭癌に対する初回治療方針の根拠
甲状腺(準)全摘手術+Ⅰ-131 によるアブレーション,TSH 抑制療法を行う 可及的に甲状腺を温存し,補助療法は行わない
  • 両側切除群は片側切除群に比べ,局所およびリンパ節再発率が低い
  • 甲状腺全摘術を行うことで,腺内に癌が遺残することがない
  • 低危険度癌の生命予後は温存手術を行っても極めて良好で,さらなる治療によってもそれ以上改善することはない
  • 術前超音波検査で対側病変をチェックしたうえで温存手術を行った場合,残存甲状腺再発は少ない
  • 経験豊富な内分泌外科医であれば,術後合併症(反回神経麻痺,副甲状腺機能低下)の頻度は少なくできる
  • 術後合併症の頻度が低い
  • 術後甲状腺ホルモン分泌が正常に維持されることが多い
  • 甲状腺全摘により,術後放射性ヨードによる転移の検索・治療が容易にできる
  • アブレーションにより,頸部再発は減少し,後発遠隔転移も減少する
  • 右の方針では遠隔転移などが発見された場合,放射性ヨード内用治療を行うためには残存甲状腺全摘手術が必要で,その場合,合併症の頻度が高い
  • アブレーションの効果は高危険度癌に限られ,低危険度癌では明らかでない
  • 術後経過観察において,血中サイログロブリン(Tg)値測定と全身のⅠ-131 スキャンをヨード摂取制限,LT4補充中止(またはrhTSH 使用)して行うことにより,再発を早期に発見できる
  • 術後再発のチェックは頸部超音波検査や胸部X 線,CTなどで行う
  • 定期的経過観察において,LT4 補充を中断してのTg 測定,Ⅰ-131 スキャンは患者の負担が大きい
  • 抗Tg 抗体陽性の場合,Tg 値は信頼できないことがある
  • 左のような精緻な経過観察が予後を改善するかどうかについての十分なデータがない
  • TSH 抑制療法により再発率が減少し,癌死が減少する
  • 低危険度癌ではTSH抑制療法の効果は明らかでない
  • 過度のTSH 抑制は骨粗鬆症などの合併症を惹起するおそれがある
表2.欧米と日本の社会環境・医療事情の相違
欧米諸国 日本
  • 多くの国々がヨード不足地域にある
  • 高悪性度の甲状腺癌が多い
  • 術後サーベイランスは内科医や放射線科医に委ねられることが多い
  • 術後再発は時に訴訟原因となる
  • 超音波検査は一般的でなく高額
  • ヨード摂取が充足している
  • 低危険度の甲状腺癌が多い
  • 術後サーベイランスは外科医自身が行うことが多い
  • 放射性ヨード使用に関する法的規制が厳しく,採算性からも放射性ヨード使用可能施設が限られている
  • 超音波検査が広く普及している

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コラム9 甲状腺葉切除術と気管周囲リンパ節郭清について
【解 説】

甲状腺乳頭癌において葉切除術を行う場合,反対側の気管周囲リンパ節(3 番)の郭清を行うか行わないか意見が分かれる。「甲状腺癌取扱い規約」でD1 およびD2 a 術式のリンパ節郭清は,対側V(甲状腺下縁より尾側)は必須ではないと記載されている。すなわち日本で多く行われている術式(甲状腺葉切除術+リンパ節郭清術)において,気管周囲リンパ節を片側としても両側としても規約上はD1 あるいはD2 a で,健側の気管周囲リンパ節郭清を行ったのかどうか明示されない。治療的郭清における予後向上が期待できることから(☞CQ18 参照),葉切除術においても両側気管周囲リンパ節郭清を行ったほうがよいという意見がある一方,気管周囲に再発したときの再手術の合併症リスクが高くなることも示されている。残存甲状腺切除を行わないといけなくなったときのことを考え,葉切除術の場合は反対側の気管周囲リンパ節郭清は行わないという意見もある。

リンパ節郭清を行ったほうがよいのは治療的郭清の場合であり,リンパ節転移を疑う所見のない場合に行う予防的郭清では予後向上は示されていない。したがって,気管周囲リンパ節転移を疑う所見のない葉切除術の場合は,気管周囲リンパ節郭清も患側だけとすることが可能である。


3-b. 濾胞性腫瘍

甲状腺の濾胞性腫瘍とは良性の濾胞腺腫(follicular adenoma)と悪性の濾胞癌(follicular carcinoma)のことをいう。本章では主として診断と治療に問題の多い濾胞癌について取り上げる。濾胞癌には以下のような特徴が挙げられる。

A.臨床的には

①甲状腺悪性腫瘍の5〜7%を占める(乳頭癌に次いで2 番目)。

②術前診断が難しい(術前診断が容易な乳頭癌とは対照的)。

③遠隔転移を起こす(リンパ行性転移を起こす乳頭癌とは対照的に,濾胞癌は血行性転移を起こす)。

B.病理学的には

①濾胞状構造を基本とする。

②乳頭癌に認められる特徴的な核所見がない。

③診断基準は被膜浸潤,脈管侵襲,あるいは甲状腺外への転移のいずれかを認める場合に濾胞癌と診断する。
(組織構造,細胞,および核の異型性は良性・悪性の区別に関与しない)

C.病理学上,浸潤様式から2 つに分類する

①微少浸潤型(minimally invasive)
浸潤部位が組織学的に少数存在する場合

②広汎浸潤型(widely invasive)
肉眼的に周囲甲状腺組織に広い範囲に浸潤部位が存在する場合。顕微鏡レベルのものであっても,それが広範囲にみられれば広汎浸潤型とする。

D.病理学上の特殊型 Variants

 

①好酸性細胞型濾胞癌 Follicular carcinoma, oxyphilic cell variant:好酸性顆粒状の広い細胞質,核小体が明瞭。

②明細胞型濾胞癌 Follicular carcinoma, clear cell variant:淡明な細胞質を特徴とする。腎細胞癌との鑑別が必要。

以上の病理学的診断は甲状腺癌取扱い規約 第6 版(2005年) 1)とWHO 分類(2004年) 2)による。

【参考文献】

1) 甲状腺外科研究会編.甲状腺癌取扱い規約 第6 版,金原出版,2005.(Others)

2) World Health Organization classification of Tumours. Pathology and genetics of tumours of endocrine organs. Kleihues P and Sobin L. ed. IARC press. 2004.(Others)

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CQ 21
術前の細胞診で濾胞癌の診断が可能か,また術中の迅速病理診断で濾胞癌の診断は可能か?
推奨グレード
C3 術前の細胞診で濾胞癌の診断は現在のところ不可能である。細胞診の“ 濾胞性腫瘍”という診断は濾胞癌を十分に示唆する所見ではない。術中の迅速病理診断で濾胞癌の診断は不可能である(ただし,術前の細胞診において「濾胞性腫瘍」と「乳頭癌,その他」と大きく鑑別することは十分に意義がある)。
【背 景・目 的】

乳頭癌のほとんどの症例では術前の細胞診においてその診断が確定し,手術前に治療方針を決定することができる。濾胞癌では術前の細胞診と術中の迅速病理診断で「濾胞癌」という診断を下せるのか?

【解 説】
(1)確定診断の方法

濾胞癌の定義は「乳頭癌に特徴的な核所見を欠如している濾胞上皮細胞の悪性腫瘍」であるが,その判断が非常に難しい。濾胞癌にはその濾胞状構造が正常甲状腺のそれと区別が困難なほど高分化した症例が存在する。一般的に悪性腫瘍の病理診断においては構造異型,細胞異型と核異型が大きな診断の根拠になる〔乳頭癌では術前の細胞診で構造異型,細胞異型と核異型が判明するため診断が確定し,手術前に症例の治療方針が決定している(☞CQ8 参照)〕。ところが濾胞癌の確定診断では腫瘍の全体像を観察して病理学的に腫瘍細胞の1. 被膜浸潤か2. 脈管侵襲を証明することと定義されている。その検索には被膜全体を含めて多数の部位を病理切片にする必要がある。濾胞性腫瘍において,それが存在するものが濾胞癌であり,欠如するものが濾胞腺腫と診断される。構造異型,細胞異型と核異型は濾胞癌の診断必須の事項ではない。

(2)濾胞性腫瘍の細胞診

一般的な細胞診所見は,細胞が多く採取され,小濾胞を形成し,コロイド成分は少ない。核の異型性の程度は少ない。細胞診の結果の報告では良性悪性を判断できず,“follicular neoplasm” などと表現されることがある。濾胞癌は一般的に穏やかな細胞診所見を示す。

細胞診で“follicular lesion”,“follicular neoplasm” とか“Hurthle neoplasm” としたもので濾胞癌を十分に診断できるという報告はなかった 1)〜4)。また,細胞診で“follicular lesion”,“follicular neoplasm” や“Hurthle neoplasm” と超音波所見を組合せたもの 1),あるいは他の所見(性,年齢,腫瘍のサイズ)と組合せたものにおいても 3)濾胞癌との診断は十分ではなかった。また,逆に病理診断で濾胞癌と診断された症例からみると,濾胞癌22 例中,細胞診で良性と診断したのは8 例(36. 4%),判定不能は11 例(50%),悪性は3 例(13. 6%)であり濾胞癌の診断は非常に困難である 5)

術中迅速病理診断を施行して濾胞癌と診断できることはなかった 6)〜8)。術中迅速病理診断を行って濾胞癌の診断率を高めることは不可能である。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus より別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Rago T, Di Coscio G, Basolo F, et al. Combined clinical, thyroid ultrasound and cytological features help to predict thyroid malignancy in follicular and Hupsilonrthle cell thyroid lesions: results from a series of 505 consecutive patients. Clin Endocrino(l Oxf)2007;66:13-20.(RS)

2) Pu RT, Yang J, Wasserman PG, et al. Does Hurthle cell lesion/neoplasm predict malignancy more than follicular lesion/neoplasm on thyroid fine-needle aspiration? Diagn Cytopathol 2006;34:330-334.(RS)

3) Yang GC, Goldberg JD, Ye PX. Risk of malignancy in follicular neoplasms without nuclear atypia:statistical analysis of 397 thyroidectomies. Endocr Pract 2003;9:510-516.(RS)

4) Kim ES, Nam-Goong IS, Gong G, et al. Postoperative findings and risk for malignancy in thyroid nodules with cytological diagnosis of so-called “follicular neoplasm”. Korean J Intern Med 2003; 18:94-97.(RS)

5) 小林 薫,横沢 保,深田修司,他.甲状腺濾胞癌の超音波診断,内分泌外科 2003;20:175-181. (RS)

6) McHenry CR, Rosen IB, Walfish PG, et al. Influence of fine-needle aspiration biopsy and frozen section examination on the management of thyroid cancer. Am J Surg 1993;166:353-356.(RS)

7) Huber GF, Dziegielewski P, Matthews TW, et al. Intraoperative frozen-section analysis for thyroid nodules: a step toward clarity or confusion? Arch Otolarygol Head Nech Surg 2007; 133:874-881.(RS)

8) Udelman R, Westra WH, Donovan PI, et al. Randomized prospective evaluation of frozen-section analysis for follicular neoplasms of the thyroid. Ann Surg 2001;233:716-722.(RCT)


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CQ 22
甲状腺濾胞癌の浸潤様式からみた分類(広汎浸潤型と微少浸潤型)は予後を反映するか?
推奨グレード
B 広汎浸潤型と微少浸潤型の分類には予後を予測する妥当性がある。広汎浸潤型は微少浸潤型に比較して予後が不良になる。特に脈管侵襲の程度が有意に予後と相関する。手術直後の病理学的診断で広汎浸潤型と微少浸潤型に分類することが勧められる。
【背 景・目 的】

濾胞癌は術前診断が難しく,病理検査を行って初めて濾胞癌と診断される場合がほとんどである。病理学的診断において分類して予後の推定が可能であれば,その後の治療戦略を立てるために有用である。

【解 説】
(1)浸潤様式からみた分類とは

腫瘍の全体像を観察して病理学的に腫瘍細胞の被膜浸潤か脈管侵襲の存在を証明して濾胞癌と診断する。濾胞癌は浸潤の程度からみて,①微少浸潤型 minimally invasive type(浸潤部位が組織学的に少数存在)と②広汎浸潤型 widely invasive type(肉眼的に周囲甲状腺組織に広い範囲に浸潤を示す)に分類される。浸潤が顕微鏡レベルのものであっても,それが広範囲にみられれば広汎浸潤型に分類する。

(2)被膜浸潤と脈管侵襲とは

被膜浸潤が陽性とは腫瘍組織が被膜を完全に貫通して「きのこ型」を呈するものと定義する。一般的に被膜に対して腫瘍側から凸の状態を示す。脈管侵襲が陽性とは一層の血管内皮細胞の内側に腫瘍細胞が侵入していることによって定義する。脈管侵襲は腫瘍の内部ではなく,腫瘍の被膜内,あるいは被膜のすぐ外側に認められる。

浸潤様式からみた分類(広汎浸潤型と微少浸潤型)と予後に関連した文献はすべて後向きの研究(RS)であり,症例集積研究であった。広汎浸潤型の濾胞癌は微少浸潤型に比較して明らかに遠隔転移と再発が多く,予後が不良である 1)〜4)。特に脈管侵襲の程度が強い症例は遠隔転移の頻度が高く,予後不良を強く示唆する。

浸潤の分類を広汎浸潤型,脈管侵襲のみの型,被膜浸潤のみの型に3 分類しても広汎浸潤型は他の型よりも予後不良を示す 5)

被膜浸潤の程度が予後に影響を与えるとする報告もある 6)が,影響を与えないとする報告が多い 5)7)。濾胞癌における悪性度の指標として被膜浸潤より脈管侵襲のほうが高いといえる。

最小限の被膜浸潤のみを示す濾胞癌は再発や遠隔転移の可能性は低く,脈管侵襲が広汎に存在する濾胞癌は再発と遠隔転移の可能性が高くなる。

濾胞癌の予後を推定し,その後の治療戦略を立てるために,手術直後の病理学的診断で広汎浸潤型と微少浸潤型に分類することが勧められる。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Lo CY, Chan WF, Lam KY, et al. Follicular thyroid carcinoma:the role of histology and staging systems in predicting survival. Ann Surg 2005;242:708-715.(RS)

2) Lang BH, Lo CY, Chan WF, et al. Prognostic factors in papillary and follicular thyroid carcinoma:their implications for cancer staging. Ann Surg Oncol 2007;14:730-738.(RS)

3) Ito Y, Hirokawa M, Higashiyama T, et al. Prognosis and prognostic factors of follicular carcinoma in Japan:importance of postoperative pathological examination. World J Surg 2007;31:1417- 1424.(RS)

4) Asari R, Koperrek O, Scheuba C, et al. Follicular thyroid carcinoma in an iodine-replete endemic goiter region;a prospective collected, retrospectively analyzed clinical trial. Ann Sug 2009; 249:1023-1031.(RS)

5) D’Avanzo A, Treseler P, Ituarte PH, et al. Follicular thyroid carcinoma:histology and prognosis. Cancer 2004;100:1123-1129.(RS)

6) Besic N, Auersperg M, Golouh R. Prognostic factors in follicular carcinoma of the thyroid -a multivariate survival analysis. Eur J Surg Oncol 1999;25:599-605.(RS)

7) Furlan JC, Bedard YC, Rosen IB. Clinicopathologic significance of hitologic vascular invasion in papillary and follicular thyroid carcinomas. J Am Coll Surg 2004;198:341-348.(RS)


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CQ 23
甲状腺葉切除後に病理診断で濾胞癌が判明した場合,再手術で甲状腺補完全摘を行うほうがよいのはどのような場合か?
推奨グレード
B 病理診断された濾胞癌が広汎浸潤型であった場合やinsular component などの低分化成分を多く含む場合は,甲状腺補完全摘を行い,放射性ヨードを用いた遠隔転移巣の検索や放射性ヨード内用療法を行うことが勧められる。ただしこれらを追加することにより予後が改善したとするエビデンスはない(☞CQ24 参照)。
【背 景・目 的】

甲状腺補完全摘は,残存甲状腺の癌の再発を防ぐ意味で行われる場合もあるが 1),放射性ヨードを利用した遠隔転移巣の検索や放射性ヨード内用療法を目的として行われることが多い。濾胞癌は術前診断が難しく,病理検査で濾胞癌と診断される場合がほとんどである。この場合,明らかに予後不良な病理所見が認められた場合,補完全摘が勧められる。濾胞癌において予後不良を示唆する所見がどのようなものかを検討した。

【解 説】

濾胞癌の予後に関連した文献はすべて後ろ向きの研究であり,ほとんどが症例集積研究であった。

現在,WHO 分類 2)およびわが国の「甲状腺癌取扱い規約」 3)では低分化成分を含む濾胞癌は低分化癌に分類されるが,実際の臨床の場では濾胞性腫瘍として手術がなされ,低分化成分を含む濾胞癌であることが判明することも稀でない。低分化成分を含む“ 濾胞癌” のわが国における検討 4)では,低分化成分を含むものの予後は明らかに悪く,多変量解析では非根治(遠隔転移の存在などによる)例とともに原病死に関係する独立した予後因子とされている。 また低分化成分のうちinsular component を含む濾胞癌は,遠隔転移を起こしやすく予後不良であることも報告されている 5)6)。低分化成分を含むものを除いた場合,広汎浸潤型の濾胞癌は微少浸潤型のものより明らかに遠隔転移が多く予後不良である 4)7)〜10)。広汎浸潤型は手術時にすでに遠隔転移をきたしていることが多いが,遠隔転移のない濾胞癌で術後経過を比較した場合でも,広汎浸潤型のものは微少浸潤型よりも有意に再発・遠隔転移は多い 4)7)10)

論文により必ずしも評価は一定してないが,濾胞癌の予後因子としてこの他に高齢者 7)8),男性例 4)11),腫瘍径が大きいこと 4)などが挙げられている。また広汎浸潤型は高齢者に多く,腫瘍径が大きい傾向がみられる。微少浸潤型の予後は良好とされているが,長期間観察したものでは5〜15%に遠隔転移が認められている 8)〜10)。微少浸潤型を被膜浸潤だけのものと脈管侵襲を伴ったものに分けた場合,脈管侵襲を伴った微少浸潤型は遠隔転移が多いとする報告 11)12)がみられる。しかしこの両者は差がないとする報告 7)13)も存在する。

以上より,現在のところ補完全摘を勧めるものとしては広汎浸潤型であるか,insular component などの低分化成分を含む場合と考えられる。補完全摘を勧めるとまではいえないが,術後サイログロブリンが低下せず上昇傾向にあるような場合は遠隔転移を念頭に画像検査など十分に行うべきであろう。また微少浸潤型であっても脈管侵襲を伴ったものや高齢者,男性例,腫瘍径が大きいものでは,遠隔転移の出現に十分注意して経過観察を行うべきと思われる。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Kim ES, Kim TY, Koh JM, et al. Completion thyroidectomy in patients with thyroid cancer who initially underwent unilateral operation. Clin Endocrinol 2004;61:145-148.(RS)

2) DeLellis RA, Lloyd RV, Heiutz PU, et al. WHO Classification of Tumours. Pathology and Genetics of Tumours of Endocrine organs. IARC Press, Lyon, France. 2004, pp73-76.(Others)

3) 甲状腺外科研究会編.甲状腺癌取扱い規約 第6 版,金原出版,2005,pp23-25.(Others)

4) Ito Y, Hirokawa M, Higashiyama T, et al. Prognosis and prognostic factors of follicular carcinoma in Japan:importance of postoperative pathological examination. World J Surg 2007;31:1417- 1424.(RS)

5) Collini P, Sampietro G, Rosai J, et al. Minimally invasive(encapsulated)follicular carcinoma of the thyroid gland is the low-risk counterpart of widely invasive follicular carcinoma but not of insular carcinoma. Virchow Arch 2003;442:71-74.(RS)

6) Yamashita H, Noguchi Y, Noguchi S, et al. Significance of an insular component in follicular thyroid carcinoma with distant metastasis at initial presentation. Endocr Pathol 2005;16:41-48. (RS)

7) Lo CY, Chan WF, Lam KY, et al. Follicular thyroid carcinoma:the role of histology and staging systems in predicting survival. Ann Surg 2005;242:708-715.(RS)

8) 杉野公則.甲状腺濾胞性腫瘍の手術適応,術式,治療成績,予後因子.内分泌外科 2008;25:29- 33.(NR)

9) 新橋 渉,杉谷 巌.甲状腺濾胞性腫瘍の手術適応,術式,治療成績,予後因子.内分泌外科 2008;25:34-37.(NR)

10) Asari R, Koperek O, Scheuba C, et al. Follicular thyroid carcinoma in an iodine-replete endemic goiter region;a prospective collected, retrospectively analyzed clinical trial. Ann Surg 2009; 249:1023-1031.(RS)

11) D’Avanzo A, Treseler P, Ituarte PH, et al. Follicular thyroid carcinoma:histology and prognosis. Cancer 2004;100:1123-1129.(RS)

12) van Heerden JA, Hay ID, Goellner JR, et al. Follicular thyroid carcinoma with capsular invasion alone:a nonthreatening malignancy. Surgery 1992;112:1130-1138.(RS)

13) Furlan JC, Bedard YC, Rosen IB. Clinicopathologic significance of hitologic vascular invasion in papillary and follicular thyroid carcinomas. J Am Coll Surg 2004;198:341-348.(RS)


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CQ 24
広汎浸潤型濾胞癌に対する甲状腺全摘+アブレーション+ TSH 抑制療法は非全摘術に比べて予後を向上させるか?
推奨グレード
C1 広汎浸潤型濾胞癌に甲状腺全摘+アブレーション+TSH 抑制療法を行った場合,非全摘術に比べて,予後を改善させるというエビデンスはない。しかし予後不良を呈する広汎浸潤型濾胞癌にはこれらの治療法を考慮してよいと考えられる。
【背 景・目 的】

広汎浸潤型濾胞癌は微少浸潤型に比較して再発と遠隔転移が多く,生命予後も不良といえる(☞CQ22 参照)。ここでは病理検査などで広汎浸潤型と診断された場合,どのように対処すべきかについて検討する。

【解 説】
(1)甲状腺全摘術

甲状腺全摘を行うと,再発の検出に血清サイログロブリン値測定が有効になり,直接放射性ヨードによるシンチグラフィが可能になり早期の遠隔転移の検出と直接放射性ヨード内用療法が可能になる。広汎浸潤型濾胞癌はその後の対応を可能にするために,甲状腺全摘,あるいは片葉切除後の甲状腺補完全摘が推奨される(☞CQ23 参照)。

(2)アブレーション

アブレーションは甲状腺分化癌の手術後の残存する甲状腺組織を破壊する。Mazzafferi ら 1)は長期の経過観察の結果,手術時に明らかな遠隔転移のない甲状腺分化癌(乳頭癌と濾胞癌),甲状腺準全摘にアブレーションを加えると,癌の再発と死亡率の両者を低下させるとしている。さらに,Mazzafferi らは甲状腺分化癌に対しては甲状腺全摘とアブレーションは有効な治療としている 2)。Sawka ら 3)のシステマティック・レビューによるとアブレーションは甲状腺分化癌の再発を減少させる可能性がある。しかしながら,いくらかの結果の間に一致しないところもあり,低リスク群の患者にとって甲状腺全摘とアブレーション施行の有益性があるかは不明としている。また,他の報告4)では病期の高い症例,45 歳以下の症例,特別の症例(多発性,リンパ節転移あり,甲状腺外浸潤あり,脈管侵襲あり,病理学的に悪性度の高いタイプ)に有効であるとしている。しかし,アブレーションの効果を甲状腺濾胞癌において広汎浸潤型と微少浸潤型で比較した報告は見当たらない。

(3)TSH 抑制療法

甲状腺分化癌(乳頭癌と濾胞癌)の手術後の主たる不利な臨床の出来事major adverse clinical events(癌の進行,再発,死亡の3 つ)を検討したところ,TSH 抑制療法はその主たる不利な臨床の出来事のリスクを低下させたことが明らかになった(McGriff らのメ タアナリシス 5))。甲状腺分化癌においてTSH 抑制療法と主たる不利な臨床の出来事の低下の因果関係の評価としては「かなり確からしい関係」probable association が示唆される。TSH 抑制療法は分化癌の術後の治療として正当化されるようである。しかし,TSH 抑制療法の効果を甲状腺濾胞癌において広汎浸潤型と微少浸潤型で比較した報告はない。

(4)広汎浸潤型に対する対応

広汎浸潤型濾胞癌に限定して全摘と非全摘を比較した研究,さらにアブレーションとTSH 抑制療法の比較研究もなされていない。しかし広汎浸潤型濾胞癌の予後は明らかに不良であることを考えた場合,エビデンスはないが,甲状腺全摘を施行し〔あるいは片葉切除後であれば補完全摘を施行し(☞CQ23 参照)〕,さらにアブレーションとTSH抑制療法を継続することが妥当であると考えられる。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。また,二次資料としてAmerican Thyroid Association のガイドライン2006年版を参考にした。

【参考文献】

1) Mazzaferri EL, Jhiang SM. Long-term impact of initial surgical and medical therapy on papillary and follicular thyroid cancer. Am J Med 1994;97:418-428.(RS)

2) Mazzaferri EL, Kloos RT. Current approaches to primary therapy for papillary and follicular thyroid cancer. J Clin Endocrinol Metab 2001;86;1447-1463.(NR)

3) Sawka AM, Brierley JD, Tsang RW, et al. An updated systematic review and commentary examining the effectiveness of radioactive iodine remnant ablation in well-differentiated thyroid cancer. Endocrinol Metab Clin North Am 2008;37:457-480.(SR〈RS〉)

4) Sampson E, Brierley JD, Le LW, et al. Clinical management and outcome of papillary and follicular(differentiated)thyroid cancer presenting with distant metastasis at diagnosis. Cancer 2007;110;1451-1456.(RS)

5) McGriff NJ, Csako G, Gourgiotis L, et al. Effects of thyroid hormone suppression therapy on adverse clinical outcomes in thyroid cancer. Ann Med 2002;34:554-564.(RS)


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CQ 25
好酸性細胞型濾胞癌は通常型濾胞癌と比べて予後に差異が存在するか?
推奨グレード
C1 欧米では好酸性細胞型濾胞癌は通常型濾胞癌と比べて悪性度が高く予後は不良であるという報告が多い。しかし,一部の欧米の報告と日本の報告では予後に差異はない。
【背 景・目 的】

好酸性細胞型濾胞癌Follicular carcinoma, oxyphilic cell variant はHurthle cell carcinoma ともいわれ,WHO 分類と日本の「甲状腺癌取扱い規約」において濾胞癌の特殊型と定義されている。腫瘍の断面は赤褐色(レンガ色)を呈し,出血,嚢胞,線維化,梗塞を伴うことが多い。HE 染色において好酸性顆粒状の広い細胞質と明瞭な核小体が認められる。電子顕微鏡では細胞質にはミトコンドリアが豊富に詰まっているのが観察される。以前は,好酸性細胞型濾胞癌は通常型の濾胞癌とは別の疾患単位になるのではないか,あるいはこのタイプの良性腫瘍というものはなく,すべてmalignant potentialをもつのではないかとも考察されていた歴史がある。このタイプの濾胞癌は日本において非常に少ない。通常型濾胞癌に比べて生物学的に多くの点で異なるため特殊型variant とされている。長年,予後に差異があるか否かの論争が繰り返されている 1)

【解 説】
(1)発症の危険因子

通常型濾胞癌はヨード欠乏が危険因子であるがヨードの過剰摂取が一つの危険因子である。家族性濾胞癌は極めて稀であるが,好酸性細胞型濾胞癌の癌家系において19 p13. 2 に遺伝子異常を認めることが報告 2)されている。放射線被曝歴も乳頭癌同様に危険因子である。Sugino 3)らは良性の好酸性細胞型腺腫は女性に多いが,好酸性細胞型濾胞癌は男性に多いと報告している。

(2)臨床上の特徴

通常型は単発であるのに対し多発であることが多い。放射性ヨード内用療法への感受性は通常型の75%程度が感受性を示すのに対し,好酸性細胞型の95%が感受性を示さないとの報告 4)がされている。

(3)予 後

欧米では,通常型濾胞癌に比較してこのタイプは悪性度が高く予後が不良であるという報告 4)〜7)が多い。ところが通常型濾胞癌と比較して予後には差異はないとする報告 8)〜10)や,むしろ予後は通常型濾胞癌よりも良好とする報告 11)も存在する。日本の報告 3)12)によると,予後は通常型と比較して不良といえるものではなかった。

好酸性細胞型濾胞癌の予後が通常型濾胞癌に比べて不良であるとされることが多い。しかし,そうでないとする意見もある。好酸性細胞型濾胞癌を経験した時は術後の注意深い経過観察が必要である。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) 藤本吉秀.濾胞癌診療を振り返って.内分泌外科 2008;25:57-61.(NR)

2) Canzian F, Amati P, Harach HR, et al. A gene predisposing to familial thyroid tumors with cell oxyphilia maps to chromosome 19 p13. 2. Am J Hum Genet 1998;63:1743-1748.(Others)

3) Sugino K, Ito K, Mimura T, et al. Hurthle cell tumor of the thyroid:analysis of 188 cases. World J Surg 2001;25:1160-1163.(RS)

4) Yutan E, Clark OH. Hurthle cell carcinoma. Curr Treat Options Oncol 2001;2:331-335.(SR)

5) Shaha AR, Loree TR, Shah JP. Prognostic factors and risk group analysis in follicular carcinoma of the thyroid. Surgery 1995;118:1131-1138.(RS)

6) Kushchayeva Y, Duh QY, Kebebew E, et al. Comparison of clinical characteristics at diagnosis and during follow-up in 118 patients with Hurthle cell or follicular thyroid cancer. Am J Surg 2008;195:457-462.(RS)

7) Kushchayeva Y, Duh QY, Kebebew E, et al. Prognostic indications for Hurthle cell cancer. World J Surg 2004;28:1266-1270.(RS)

8) Grant CS, Hay ID, Ryan JJ, et al. Diagnostic and prognostic utility of flow cytometric DNA measurements in follicular thyroid tumors. World J Surg 1990;14:283-290.(RS)

9) Lang W, Choritz H, Hundeshagen H. Risk factors in follicular thyroid carcinomas. A retrospective follow-up study covering a 14-year period with emphasis on morphological findings. Am J Surg Pathol 1986;10:246-255.(RS)

10) Haigh PI, Urbach DR. The treatment and prognosis of Hurthle cell follicular thyroid carcinoma compared with its non-Hurthle cell counterpart. Surgery 2005;138:1152-1158.(RS)

11) Besic N, Auersperg M, Golouh R. Prognostic factors in follicular carcinoma of the thyroid--a multivariate survival analysis. Eur J Surg Oncol 1999;25:599-605.(RS)

12) Ito Y, Hirokawa M, Higashiyama T, et al. Prognosis and prognostic factors of follicular carcinoma in Japan:importance of postoperative pathological examination. World J Surg 2007;31:1417- 1424.(RS)


3-c. 髄様癌

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CQ 26
髄様癌症例に対するRET 遺伝子検査はどのような点で有用か?
推奨グレード
A すべての髄様癌について,遺伝性か散発性かを鑑別する点において,RET 遺伝子検査を行うことが推奨される。
【背 景・目 的】

甲状腺髄様癌の術前の治療方針を決定するうえで最も重要なことは,遺伝性と散発性を鑑別することである。遺伝性の場合は,常染色体優性遺伝性疾患である多発性内分泌腺腫症2 型(multiple endocrine neoplasia type 2;MEN 2)あるいは家族性髄様癌(familial medullary thyroid carcinoma;FMTC)である。MEN 2 A は甲状腺髄様癌・副腎褐色細胞腫・副甲状腺過形成を主徴とし,MEN 2 B は甲状腺髄様癌・副腎褐色細胞腫に加えて,舌・口唇などの粘膜下神経腫,マルファン様体型,四肢過伸展,腸管神経節腫,角膜神経肥厚などの身体的特徴を併発する。FMTC は甲状腺髄様癌のみを遺伝性に発症する。MEN 2 とFMTC の原因遺伝子であるRET 遺伝子検査の有用性を知る目的で文献を検索した。

【解 説】

RET 遺伝子検査(以下,RET 検査)は,臨床的に甲状腺髄様癌と診断がついた患者,あるいはそれが強く疑われる患者が対象となる。本検査により遺伝性症例の95%以上にRET 変異が証明され,変異はほぼエクソン 10, 11, 13〜16 のいずれかに認められる。本検査は従来の血縁者に対するカルシトニンスクリーニングと比較してより優れた検査法である 1)2)。家族歴や臨床的特徴だけで遺伝性と散発性を完全に区別することは不可能であり,臨床的に一見散発性にみえる髄様癌の約4〜10%はRET 検査により遺伝性の症例であることが判明する 3)。しかしRET 検査は今のところ保険適応はなく,本検査を行うにあたっては,遺伝カウンセリングを行ったうえでRET 検査について文書で同意を得る手続きが必要であることに留意を要する。遺伝性髄様癌の手術は甲状腺全摘が基本術式であり,術前に副腎褐色細胞腫の有無を検索し,手術適応があれば副腎手術を優先する。

RET 変異を有する小児では早期に甲状腺全摘を行うことが可能となるため,RET 変異に基づいて何歳で甲状腺全摘を勧めるかが問題となる。欧米の論文では,MEN 2 Bでは1 歳までに,MEN 2 A では5 歳までに甲状腺全摘を勧めるとするものが多い 4)〜6)。カルシトニン基礎値が正常で頸部超音波検査で異常がみられない場合は,カルシトニン誘発刺激試験は微小髄様癌の診断を行う方法として有用である 7)。Brandi らは,RET変異の部位により髄様癌を3 つのリスクグループに分類して,悪性度の程度に応じて甲状腺全摘の時期を考慮すべきであると提唱した 4)。2009年に発表されたAmerican Thyroid Association(ATA)の髄様癌に関するガイドライン 8)では,髄様癌のリスクレベルをA〜D の4 段階に分け,より詳細な分類を行っている。レベルA の変異(コドン768,790,791,804,891,その他稀な変異を含む)は髄様癌の悪性度としては最も穏やかで,カルシトニン基礎値が正常もしくは誘発刺激試験が正常で,頸部超音波検査にて異常がなく,進行した髄様癌の家族歴がない場合には,家族の選択に基づいて甲状腺全摘は5 歳を超えて行ってもよいとしている。レベルB の変異(コドン609,611,618,620,630.その他稀な変異を含む)では,5 歳までに手術を考慮するが,レベルA に準じた対応も可能であるとしている。レベルC はコドン634 の変異で,5 歳までに全摘をすべきであるとしている。レベルD の変異(コドン883,918)はできるだけ早期で生後1年以内に全摘をすべきであるとしている。

表1.主なRET 遺伝子変異部位と臨床病型との関連
エクソン コドン 臨床病型
MEN 2A MEN 2B FMTC
10 609  
611  
618  
620  
11 630  
634  
13 768    
14 804    
15 891    
16 918    

20 歳以下のRET 変異を有する小児に対して甲状腺全摘を行った症例を蓄積した研究から,各変異において,年齢を経るにしたがって前癌状態のC 細胞過形成から髄様癌へと進展することが確認されている 9)〜11)。Machens らの報告 9)によると,髄様癌でリンパ節転移陰性(N0)の症例の手術時平均年齢は細胞外ドメイン変異(コドン609,611,618,620,630,634)で10. 2 歳,細胞内ドメイン変異(コドン768,790,791,804,891)で16. 6 歳であった。コドン634 変異に絞ると,C 細胞過形成の手術時平均年齢は6. 9歳,N0 髄様癌は10. 1 歳,N1 髄様癌は16. 7 歳であった。20 歳以下のRET 変異を有する小児に対する甲状腺全摘例の術後再発に関する研究では,術後カルシトニン基礎値あるいは誘発刺激試験によるピーク値上昇を含む再発が50 例中6 例(12%,手術時平均年齢10 歳,平均追跡期間7年)に認められたとする報告 10)と,46 例中5 例(11%,手術時平均年齢13 歳,平均追跡期間6. 4年)に認められたとする報告 11)がある。これらの研究で永久性反回神経麻痺の症例は報告されていないが,永久性副甲状腺機能低下症の発生率は2〜6%と報告されている。

予防的甲状腺全摘術のランダム化比較試験は現実的ではないため,予防的甲状腺全摘術が長期的に予後を改善するだけでなく,術後QOL を考慮したうえで,最も優れている方法かどうかは,まだ明らかではない。わが国において,何歳からRET 検査を勧め るべきか,また変異のタイプに応じて何歳から全摘を行うべきかに関するコンセンサスはまだ存在しない。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。二次資料としてAmerican Thyroid Association の甲状腺髄様癌に関するガイドライン 8)を参考にした。

【参考文献】

1) Eng C, Clayton D, Schuffenecker I, et al. The relationship between specific RET proto-oncogene mutations and disease phenotype in multiple endocrine neoplasia type 2. International RET mutation consortium analysis. JAMA 1996;276:1575-1579.(RS)

2) Machens A, Dralle H. Genotype-phenotype based surgical concept of hereditary medullary thyroid carcinoma. World J Surg 2007;31:957-968.(RS)

3) Elisei R, Romei C, Cosci B, et al. RET genetic screening in patients with medullary thyroid cancer and their relatives:experience with 807 individuals at one center. J Clin Endocrinol Metab 2007;92:4725-4729.(PS)

4) Brandi ML, Gagel RF, Angeli A, et al. Guidelines for diagnosis and therapy of MEN type 1 and type 2. J Clin Endocrinol Metab 2001;86:5658-5671.(Others)

5) Szinnai G, Meier C, Komminoth P, et al. Review of multiple endocrine neoplasia type 2 A in children:therapeutic results of early thyroidectomy and prognostic value of codon analysis. Pediatrics 2003;111:e132-139.(SR)

6) Machens A, Holzhausen HJ, Thanh PN, et al. Malignant progression from C-cell hyperplasia to medullary thyroid carcinoma in 167 carriers of RET germline mutations. Surgery 2003;134: 425-431.(RS)

7) Niccoli-Sire P, Murat A, Rohmer V, et al. When should thyroidectomy be performed in familial medullary thyroid carcinoma gene carriers with non-cysteine RET mutations? Surgery 2003; 134:1029-1037.(RS)

8) Kloos RT, Eng C, Evans DB, et al. Medullary thyroid cancer:management guidelines of the American Thyroid Association. Thyroid 2009;19:565-612.(Others)

9) Machens A, Niccoli-Sire P, Hoegel J, et al. Early malignant progression of hereditary medullary thyroid cancer. N Engl J Med 2003;349:1517-1525.(RS)

10) Skinner MA, Moley JA, Dilley WG, et al. Prophylactic thyroidectomy in multiple endocrine neoplasia type 2 A. N Engl J Med 2005;353:1105-1113.(PS)

11) Frank-Raue K, Buhr H, Dralle H, et al. Long-term outcome in 46 gene carriers of hereditary medullary thyroid carcinoma after prophylactic thyroidectomy:impact of individual RET genotype. Eur J Endocrinol 2006;155:229-236.(PS)


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CQ 27
遺伝性髄様癌症例において随伴する疾病の各々の頻度は?
推奨グレード
B 遺伝性髄様癌に随伴する疾病として褐色細胞腫,原発性副甲状腺機能亢進症,皮膚苔癬アミロイドーシス,ヒルシュスプルング病,マルファン症候群様徴候,腸管神経節腫,角膜神経の肥厚などが知られている。これらの頻度は調査方法や臨床病型(MEN やFMTC など)によって異なる。MEN 2 A では褐色細胞腫は頻度にばらつきがあるものの30〜70%に,原発性副甲状腺機能亢進症は10〜35%に随伴する。FMTC ではほとんどの疾病は随伴しない。
【背 景・目 的】

遺伝性髄様癌ではさまざまな随伴病変が知られている。その内容,頻度を検討した。RET 遺伝子検査が行われているか否か,そしてその精度などによっても集積症例の背景が異なり,かつMEN(多発性内分泌腺腫症),FMTC (家族性髄様癌)の定義の差異によっても随伴する疾病の頻度が異なってくることに注意を要する。

【解 説】

50 家系以上(477 家系および94 家系)の遺伝性髄様癌(MEN 2 A, MEN 2 B, FMTC などを含める)を対象とした多施設の後ろ向き症例集積研究では,褐色細胞腫(Pheo)は63〜82%に,原発性副甲状腺機能亢進症(pHPT)は26〜35%に随伴すると報告されている 1)2)。後述する報告よりも随伴頻度が高い理由の一つは,コドン634 に変異がある場合はPheo とpHPT の頻度が有意に高いためで,この634 変異症例の割合が比較的多いことにある 3)4)。MD アンダーソンがんセンターでの47 家系86 症例を対象とした遺伝性髄様癌の集積結果ではPheo 24%,pHPT 12%,皮膚苔癬アミロイドーシス12%(いずれもMEN 2 A),ヒルシュスプルング病1%(MEN 2 A),マルファン症候群様徴候5%,腸管神経節腫2%,角膜神経の肥厚10%(いずれもMEN 2 B)と報告されている 5)

わが国の集積調査は90年代に行われており,MEN 2 A においてPheo は68%に,pHPT は13%に随伴すると報告されている 6)。Decker らによる単一施設でのMEN 2 Aを対象とした症例の疾病頻度は,Pheo 31〜32%,pHPT 22%,皮膚苔癬アミロイドーシス25%,ヒルシュスプルング病17%と報告されている 7)。また留意すべきことは,ヒルシュスプルング病合併のMEN 2 A のRET 遺伝子変異はエクソン10(コドン609,618,620)に集中することである。HoweらによるRET 遺伝子発見前のMEN 2A 12 家系86 症例の集積研究ではPheo は38%に,pHPT は32%に随伴すると報告されている 8)。家族歴からMEN 2 A と診断した症例のみを対象とした研究であるため,前述の報告よりは随伴頻度が必然的にやや高い値となる。

FMTC についてはPheo,pHPT,皮膚苔癬アミロイドーシスの発生頻度は極めて低いが,稀に認められる 9)。わが国の集積調査ではPheo,pHPT とも認めていない 6)

MEN 2 B についてはVasen らからの18 例の多施設集積研究がある。18 例中Pheo 8例,神経腫18 例,口唇の凹凸18 例,マルファン様徴候17 例,腸管の異常12 例,角膜神経の肥厚9 例,骨格異常14 例,思春期の遅延6 例と報告されている 10)。MEN 2 B における髄様癌は比較的早期に発症するが,それ以前にも甲状腺以外の徴候を認めることが特徴であり,MEN 2 B は身体的特徴から臨床的に診断可能の場合がある。また多くは新生突然変異によるものであり,両親には変異がみられない。よって本疾患の早期診断のためには甲状腺以外の臨床徴候を把握しておくことが肝要である。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。

【参考文献】

1) Eng C, Clayton D, Schuffenecker I, et al. The relationship between specific RET proto-oncogene mutations and disease phenotype in multiple endocrine neoplasia type 2. International RET mutation consortium analysis. JAMA 1996;276:1575-1579.(CS)

2) Frank-Raue K, Hoppner W, Frilling A, et al. Mutations of the ret protooncogene in German multiple endocrine neoplasia families:relation between genotype and phenotype. German Medullary Thyroid Carcinoma Study Group. J Clin Endocrinol Metab 1996;81:1780-1783.(CS)

3) Schuffenecker I, Virally-Monod M, Brohet R, et al. Risk and penetrance of primary hyperparathyroidism in multiple endocrine neoplasia type 2 A families with mutations at codon 634 of the RET proto-oncogene. Groupe D’etude des Tumeurs a Calcitonine. J Clin Endocrinol Metab 1996;83:487-491.(CS)

4) Quayle FJ, Fialkowski EA, Benveniste R, et al. Pheochromocytoma penetrance varies by RET mutation in MEN 2 A. Surgery. 2007;142:800-805. discussion 805 e1.(CS)

5) Yip L, Cote GJ, Shapiro SE, et al. Multiple endocrine neoplasia type 2: evaluation of the genotype-phenotype relationship. Arch Surg 2003;138:409-416. discussion 416.(CS)

6) Iihara M, Yamashita T, Okamoto T, et al. A nationwide clinical survey of patients with multiple endocrine neoplasia type 2 and familial medullary thyroid carcinoma in Japan. Jpn J Clin Oncol 1997;27:128-134.(CS)

7) Decker RA, Peacock ML. Occurrence of MEN 2 a in familial Hirschsprung’s disease: a new indication for genetic testing of the RET proto-oncogene. J Pediatr Surg 1998;33:207-214.(CS)

8) Howe JR, Norton JA, Wells SA Jr. Prevalence of pheochromocytoma and hyperparathyroidism in multiple endocrine neoplasia type 2A: results of long-term follow-up. Surgery 1993;114:1070-1077.(CS)

9) Verga U, Fugazzola L, Cambiaghi S, et al. Frequent association between MEN 2 A and cutaneous lichen amyloidosis. Clin Endocrinol(Oxf)2003;59:156-161.(CS)

10) Vasen HF, van der Feltz M, Raue F, et al. The natural course of multiple endocrine neoplasia type IIb. A study of 18 cases. Arch Intern Med 1992;152:1250-1252.(CS)

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CQ 28
散発性あるいは遺伝性髄様癌に対する甲状腺全摘は非全摘に比べて予後を改善するか?またリンパ節郭清は予後を改善するか?
推奨グレード
A 遺伝性髄様癌では甲状腺全摘が推奨される。
C1 散発性髄様癌において,全摘が非全摘に比べて再発や死亡の予後を改善するかは明らかでない。
C1 リンパ節郭清の有無や郭清範囲の違いがどのように予後に影響を与えるかは明らかではない。しかし,少なくとも気管周囲郭清は必須であり,患側あるいは両側の側頸部郭清の追加については,髄様癌の予後因子(CQ30 参照)を踏まえ,個々の状況に応じて決定する。
【背 景・目 的】

髄様癌を遺伝性と散発性に分け,術式は甲状腺全摘と非全摘,あるいはリンパ節郭清の有無,範囲が予後に影響を与えるかを検討した。

【解 説】

遺伝性髄様癌の術式に関する報告は2 つあり,全摘/ 非全摘は同等との結果と全摘のほうが優れているとの結果である 1)2)。Iihara らは全摘(n = 102)の10年生存率は94%に対し,亜全摘(n = 24)では90%と,両者の違いはないとしている。宮澤らは全摘の再発率14%に対し,非全摘では45%と報告している。また,Kebebew らの単一施設での症例集積研究では,平均観察期間8. 6年で,無再発生存において有意差をもって全摘が優れているとされたが,この研究では遺伝性46 例と散発性58 例の両者を含んで解析している 3)。遺伝性髄様癌は両側のC 細胞領域に発症するため,たとえ臨床的に片側葉の病変であっても甲状腺全摘が推奨される。

散発性髄様癌で全摘と非全摘を比較した前向き研究は少ない。Miyauchi らの観察研究ではエンドポイントを術後の刺激試験によるカルシトニン値の正常化としており,全摘群で18 例中13 例,非全摘群では19 例中14 例の正常化が得られ,両者には差がないとしている 4)。同様な結果の論文が2 つあるが,いずれも同一施設からの報告である 5)6)。ここで非全摘術はランダム化されたものではなく,超音波検査にて対側の甲状腺葉に病変がないと判断した症例のみを対象としている。他の症例集積研究では,無再発率において全摘が非全摘と同等もしくはそれ以上と報告されている 1)3)。散発性髄様癌において,全摘が非全摘に比べて再発や死亡の予後を改善するかは明らかでなく,症例によっては非全摘でも全摘と同等な予後が得られる可能性がある。

リンパ節郭清の有無が予後に影響を及ぼすかについては単一施設での症例集積研究がいくつか報告されている 3)7)。Kebebew らの散発性と遺伝性を含めた104 例の報告ではリンパ節郭清の有無で予後に差はみられず,Grozinsky-Glasberg らの散発性41 例,遺伝性10 例を合わせた報告でも全摘+リンパ節郭清群の15年生存率80%に対し,全摘単独群では79%と両者に違いを認めていない。一方で症例数は少ないが,甲状腺全摘にリンパ節郭清を加える術式で無再発生存率が良好との報告もある 8)。ただ,これらはいずれも進行度に応じた治療法を選択し,後ろ向きに解析しているため解釈には注意を要する。遺伝性髄様癌については多施設での139 例の症例集積研究がある 9)。エンドポイントを刺激試験による術後カルシトニン値の正常化とし,系統的リンパ節郭清を行った群と非郭清群との比較を行っている。郭清群では69 例中47 例,非郭清群では17 例中7例の正常化が得られ,郭清群でカルシトニン値の正常化率が高い。Scollo らは散発性54例,遺伝性47 例に甲状腺全摘および気管周囲,そして両側頸部郭清を行い,リンパ節転移の有無を検討した。気管周囲,腫瘍と同側の外側頸部,対側の外側頸部領域でのリンパ節転移陽性率は,散発性でそれぞれ50%,57%,28%,遺伝性では45%,36%,19%であり,散発性,遺伝性のいずれにおいてもリンパ節転移を比較的高率に認めた 10)。Machens とDralle らは遺伝性+散発性195 例の領域別リンパ節転移個数とその関係を分析した。気管周囲リンパ節転移がない場合の患側と対側の外側頸部リンパ節転移(skip metastasis)の頻度はそれぞれ10%と5%程度であり,気管周囲リンパ節転移個数が1〜3 個では患側外側頸部リンパ節転移の頻度は77%と高率であり,4 個以上では患側外側区域には98%に転移が存在した。対側外側頸部リンパ節転移の頻度は,気管周囲リンパ節転移の個数が1〜9 個では38%であったが,10 個以上では77%と高率であった 11)。また彼らは遺伝性+散発性300 例の解析にて,カルシトニン値と各領域のリンパ節転移の陽性率を検討している。術前カルシトニン基礎値別に患側と対側外側頸部リンパ節転移の陽性率は,20〜200 pg/ml で,それぞれ12%と0%,200〜2, 000 pg/mlで43%と14%,2, 000〜10, 000 pg/ml で74%と44%,10, 000 pg/ml 以上で96%と80%であったことから,再手術のリスクを減らすためには200 pg/ml 以上の場合は気管周囲+両側外側頸部郭清の必要があるかもしれないと述べている 12)

リンパ節郭清の有無や郭清範囲の違いが予後にどのような影響を及ぼすかについての明らかなエビデンスはまだ存在しないが,気管周囲のリンパ節転移陽性率や同部のリンパ節再発がその後のQOL に与える影響を考慮すると,少なくとも気管周囲郭清は必要である。患側あるいは両側の側頸部郭清の追加については,術前のカルシトニン基礎値や年齢,腫瘍径,甲状腺被膜外浸潤の有無,リンパ節転移の有無など髄様癌の予後因子を考慮しながら決定していく。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに,リンパ節郭清に関してのみ,2010年5 月まで文献検索を追加し,その中から重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) 宮澤幸正,坂田治人,川島太一,他.散発性甲状腺髄様癌に対する診断と治療.臨外2004;59(4): 413-417.(CS)

2) Iihara M, Yamashita T, Okamoto T, et al. A nationwide clinical survey of patients with multiple endocrine neoplasia type 2 and familial medullary thyroid carcinoma in Japan. Jpn J Clin Oncol 1997;27:128-134.(CS)

3) Kebebew E, Ituarte PH, Siperstein AE, et al. Medullary thyroid carcinoma:clinical characteristics, treatment, prognostic factors, and a comparison of staging systems. Cancer 2000;88:1139-1148.(RS)

4) Miyauchi A, Matsuzuka F, Hirai K, et al. Prospective trial of unilateral surgery for nonhereditary medullary thyroid carcinoma in patients without germline RET mutations. World J Surg 2002; 26:1023-1028.(RS)

5) Miyauchi A, Matsuzuka F, Hirai K, et al. Unilateral surgery supported by germline RET oncogene mutation analysis in patients with sporadic medullary thyroid carcinoma. World J Surg 2000;24:1367-1372.(RS)

6) Ito Y, Miyauchi A, Yabuta T, et al. Alternative surgical strategies and favorable outcomes in patients with medullary thyroid carcinoma in Japan: experience of a single institution. World J Surg 2009;33:58-66.(RS)

7) Grozinsky-Glasberg S, Benbassat CA, Tsvetov G, et al. Medullary thyroid cancer: a retrospective analysis of a cohort treated at a single tertiary care center between 1970 and 2005. Thyroid 2007;17:549-556.(CS)

8) Greenblatt DY, Elson D, Mack E, et al. Initial lymph node dissection increases cure rates in patients with medullary thyroid cancer. Asian J Surg 2007;30:108-112.(RS)

9) Dralle H, Scheumann GF, Proye C, et al. The value of lymph node dissection in hereditary medullary thyroid carcinoma: a retrospective, European, multicentre study. J Intern Med 1995;238:357-361.(CS)

10) Scollo C, Baudin E, Travagli JP, et al. Rationale for central and bilateral lymph node dissection in sporadic and hereditary medullary thyroid cancer. J Clin Endocrinol Metab 2003;88:2070- 2075.(RS)

11) Machens A, Hauptmann S, Dralle H. Prediction of lateral lymph node metastases in medullary thyroid cancer. Br J Cancer 2008;95:586-591.(RS)

12) Machens A, Dralle H. Biomarker-based risk stratification for previously untreated medullary thyroid carcinoma. J Clin Endocrinol Metab 2010;95:2655-2663.(RS)

CS:Case Series


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CQ 29
進行・再発髄様癌症例に対する化学療法は有効か?
推奨グレード
C1 進行・再発髄様癌に対する全身化学療法,ソマトスタチン誘導体および肝転移に対する化学塞栓療法の抗腫瘍効果は奏効率,奏効期間ともに限定的であり積極的には推奨されない。ただし病状の進行に伴う下痢などの症状がこれらの治療によって軽快することがある。
【背 景・目 的】

診察あるいは画像検査で明らかな(原発あるいは再発)腫瘍が認められ,かつ外科治療の適応がない進行・再発甲状腺髄様癌に対する化学療法の効果について報告されている文献を吟味した。髄様癌では血清カルシトニン値やCEA 値が鋭敏な腫瘍マーカーであり,画像診断に先行してこれらが術後に上昇して再発の兆しとなることも多いが,腫瘍径として測定可能な再発病変が認められない症例を対象とした化学療法の報告は見当たらない。

【解 説】

化学療法の効果に関するエビデンスを検証する際の要点は明確な研究対象,明確に定義されたアウトカム,適切かつ十分な追跡,治療効果の統計学推定である。治療効果の区間推定には二項分布を用いた。

(1)全身化学療法(表1

進行・再発甲状腺髄様癌に対する化学療法としてドキソルビシン,シスプラチン,5-FU,ダカルバジン,ビンクリスチン,ストレプトゾシンが単剤または併用療法の効果が報告されている。CR が得られた一例報告はあるが 1),その後の症例集積研究や前向き介入研究では観察されていない。PR の点推定値は10〜60%であるが,稀な疾患であることからいずれの報告も対象は少数例であり区間推定の幅は極めて広い 2)〜9)。Orlandi らはPR 例におけるtime to progression を6〜9 カ月としており,化学療法は奏効率・奏効期間ともに限定的である。ただし奏効例では病状の進行に伴う症状(下痢やフラッシングなど)の軽快も観察されている 6)8)

(2)肝転移に対する化学塞栓療法

進行・再発病変の主座が肝転移の症例に対しては化学塞栓療法の前向き介入研究が報告されている。Lorenz ら10)は11 例に選択的動注法によって化学塞栓療法を施行した。治療の直後に死亡した1 例を除く10 例で,50%以上の腫瘍縮小をみたPR が3 例(30%,95% CI:7-65%),50%未満の腫瘍縮小をみたMR(minor response)が2 例,SD が4 例,PD が1 例であった。Fromigue ら11)の報告では化学塞栓療法を受けた12 例のうち,PR5 例(42%,95% CI:15-72%),SD 2 例,そしてPD2 例であった。いずれの研究でも内科的治療による管理が困難な下痢や肝転移による上腹部痛を有する症例で症状の軽快が認められた。

表1.進行・再発髄様癌に対する化学療法とその効果
報告者 研究
デザイン
髄様癌
症例数
レジメン Tumor response
(% CR + PR, 95% CI)
Gottlieb JA RS 5 DOX 75 mg/m² every 3 wks CR 0, PR 3(60% , 95% CI:15-95%)
Shimaoka K RCT 10 DOX 60 mg/m²
versus
DOX only:CR 0, PR 1(25% , 95% CI:0.6-81%)
      DOX 60 mg/m² + CDDP 40 mg/m²/every 3 wks DOX + CDDP:CR 0, PR 2(33 % , 95 % CI:4-78%)
Scherübl H P2 10 DOX(50 mg/m²)+ vindesine(3 mg/m²)+ CDDP(60 mg/m²)on day 1/every 3 wks CR 0, PR 1(10% , 95% CI:0. 2-44%), SD 6, PD 3
Orlandi F RS 5 DTIC 250 mg/m²/0. 5 hrs + 5-FU 450 mg/m²/12 hrs iv on days 1-5, every 4 wks CR 0, PR 3(60% , 95% CI:15-95%), SD 1, PD 1
Wu LT RS 7 CPA(750 mg/m²)on day1, vincristine(1. 4 mg/m²)on day1, DTIC(600 mg/m² for 2 days)every 3 wks CR 0, PR 2(28% , 95% CI:4-71%), SD 2, PD 3
Schlumberger M RS? 20 DTIC 200 mg/m² + 5-FU 400 mg/m² iv daily for 5 days;3 wks later, Streptozocin 500 mg/m² + 5-FU 400 mg/m² iv daily for 5 days/At 6 wks, this cycle was repeated CR 0, PR 3(15% , 95% CI:3-38%), SD 1, PD 6
Nocera M RS? 20 DOX 60 mg/m² iv on day 1 + Streptozocin 500 mg/m²/4 hrs on days 2-6;4 wks later, 5-FU 400 mg/m² + DTIC 200 mg/m² days 1-5/At 8 wks, this cycle was repeated. CR 0, PR 3(15 % , 95 % CI:3-38 %), SD 10, PD 7
Matuszczyk A RS? 9 DOX 15 mg/m²/weekly x 8 wks OR 3 cycles of DOX 60 mg/m² every 3 wks CR 0, PR 1(11% , 95% CI:0. 3-48%), SD 1, PR 7
RS: retrospective study
RCT: randomized controlled trial
P2: phase Ⅱ study
DOX: doxorubicin
CDDP: cisplatin
DTIC: dacarbazine
CPA: cyclophosphamide
CR: complete response, PR:partial response, SD:stable disease, PD:progressive disease
(3)ソマトスタチン誘導体

髄様癌はカルシトニンやCEA のみならず,ソマトスタチンを含むさまざまなペプチドを産生し得ることが知られている。さらに髄様癌の約半数ではソマトスタチン受容体を有することから 12),進行再発例に対するソマトスタチン誘導体の効果が検討されてきた。しかしこれまでの介入研究では,血清カルシトニン値の若干の低下やそれに伴う臨床症状の改善をみることはあるものの,明らかな抗腫瘍効果は証明されていない 12)〜16)

【検索式・参考にした二次資料】

文献データベースに対する検索式は別に示す。二次資料としてBritish Thyroid Association(BTA)2006年のガイドライン第2版 17),American Thyroid Association(ATA)のガイドライン2006年版 18),National Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドライン(NCCN 2009 v1) 19),そしてATA の甲状腺髄様癌に特化したガイドライン 20)を参照した。

【参考文献】

1) Petursson SR. Metastatic medullary thyroid carcinoma:Complete response to combination chemotherapy with dacarbazine and 5-fluorouracil. Cancer 1988;62:1899-1903.(CR)

2) Gottlieb JA, Hill CS Jr. Chemotherapy of thyroid cancer with adriamycin. Experience with 30 patients. N Engl J Med 1974;290:193-197.(RS)

3) Shimaoka K, Schoenfeld DA, DeWys WD, et al. A randomized trial of doxorubicin versus doxorubicin plus cisplatin in patients with advanced thyroid carcinoma. Cancer 1985;56:2155- 2160.(RCT)

4) Scherubl H, Raue F, Ziegler R. Combination chemotherapy of advanced medullary and differentiated thyroid cancer. Phase Ⅱ study. J Cancer Res Clin Oncol 1990;116:21-23.(PS)

5) Orlandi F, Caraci P, Berruti B, et al. Chemotherapy with dacarbazine and 5-fluorouracil in advanced medullary thyroid cancer. Ann Oncol 1994;5:763-765.(RS)

6) Wu LT, Averbuch SD, Ball DW, et al. Treatment of advanced medullary thyroid carcinoma with a combination of cyclophosphamide, vincristine, and dacarbazine. Cancer 1994;73:432-436. (RS)

7) Schlumberger M, Abdelmoumene N, Delisle MJ, et al. Treatment of advanced medullary thyroid cancer with an alternating combination of 5 FU-streptozocin and 5 FU-dacarbazine. Br J Cancer 1995;71:363-365.(研究デザイン不明)

8) Nocera M, Baudin E, Pellegriti G, et al. Treatment of advanced medullary thyroid cancer with an alternating combination of doxorubicin-streptozocin and 5 FU-dacarbazine. Br J Cancer 2000; 83:715-718.(RS)

9) Matuszczyk A, Petersenn S, Bockisch A, et al. Chemotherapy with doxorubicin in progressive medullary and thyroid carcinoma of the follicular epithelium. Horm Metab Res 2008;40:210- 213.(RS)

10) Lorenz K, Brauckhoff M, Behrmann C, et al. Selective arterial chemoembolization for hepatic metastases from medullary thyroid carcinoma. Surgery 2005;138:986-993.(PS)

11) Fromigue J, De Baere T, Baudin E, et al. Chemoembolization for liver metastases from medullary thryoid carcinoma. J Clin Endocrinol Metab 2006;91:2496-2499.(PS)

12) Lupoli G, Cascone E, Arlotta F, et al. Treatment of advanced medullary thyroid carcinoma with a combination of recombiant interferon alpha-2 b and octreotide. Cancer 1996;78:1114-1118. (RS)

13) Mahler C, Verhelst J, De Longueville M, et al. Long-term treatment of metastatic medullary thyroid carcinoma with the somatostatin analogue octreotide. Clin Endocrinol 1990;33:261-269. (RS)

14) Modigliani E, Cohen R, Joannidis S, et al. Results of long-term continuous subcutaneous ocreotide administration in 14 patients with medullary thyroid carcinoma. Clin Endocrinol 1992;36:183- 186.(RS)

15) Diez JJ, Iglesias P. Somatostatin analogs in the treatment of medullary thyroid carcinoma. J Endocrinol Invest 2002;25:773-778.(RS)

16) Vitale G, Tagliaferri P, Caraglia M, et al. Slow release lanreotide in combination with interferon- alpha 2 b in the treatment of symptomatic advanced medullary thyroid carcinoma. J Clin Endocrinol Metab 2000;85:983-988.(研究デザイン不明)

17) British Thyroid Associations & Royal College of Physicians. Guidelines for the Management of Thyroid Cancer in Adults(2 nd Edtion August 2007). www.british-thyroid-association.org

18) Cooper DS, Doherty GM, Haugen BR, et al;American Thyroid Association Guidelines Taskforce.Management guidelines for patients with thyroid nodules and differentiated thyroid cancer. Thyroid 2006;16:109-142. http://www.thyroid.org/professionals/publications/documents/Guidelinesthy2006.pdf

19) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology:Thyroid Carcinoma(2009 v1). http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/PDF/thyroid.pdf

20) Kloos RT, Eng C, Evans DB, et al.:Medullary Thyroid Cancer:Management Guidelines of the American Thyroid Association. Thyroid 2009;19:565-612. http://www.thyroid.org/professionals/publications/documents/MTC_Guidelines.pdf


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CQ 30
髄様癌の予後因子は何か?
推奨グレード
B 甲状腺髄様癌の再発あるいは(がん)死に関連する予後因子として,(1)患者要因として①年齢が高い,②男性であること,また(2)腫瘍要因として進行した病態(③リンパ節転移,④甲状腺被膜外進展,⑤遠隔転移),さらに(3)治療要因として,⑥(準)全摘に満たない手術,⑦非根治的手術が報告されている。一方,術後カルシトニン値の正常化を期待できない因子として術前基礎カルシトニン値高値とリンパ節転移が指摘されている。進行・再発症例では血清カルシトニン値やCEA 値のdoubling time が予後を反映する。
【背 景・目 的】

甲状腺髄様癌は血清CEA 値やカルシトニン値が鋭敏な腫瘍マーカーとなるので,身体所見や画像診断から明らかになる計測可能な再発のみならず,これらの検査値がアウトカムとなる。これらのアウトカムに対する予後因子について文献を通覧した。

【解 説】

予後に関するエビデンスを検証する際の要点はアウトカムの明確な定義,適切な追跡期間,十分な追跡率,追跡開始時点の明確な定義,予後との関連の統計学的な証明である 1)。これら5 要件を満たす文献のみ採用した。なお予後因子には免疫組織学的所見も報告されているが 2)3),ここでは日常臨床で利用可能な因子のみを扱う。なお,予後因子研究は患者特性や介入と治療アウトカムとの関連性を統計学的に検証するものであり,これのみでは因果関係(例えば介入の効果)を証明することにならないことを銘記する必要がある。

(1)腫瘍による死亡や身体所見・画像診断から明らかになる再発をアウトカムとする予後因子(表12

採用した研究はすべて後ろ向きコホート研究である。研究対象には初回治療例と再発例の両者が含まれている可能性があり妥当性の吟味に重要であるが,この点を明記した論文はほとんどない。予後因子は交絡するので多変量解析の結果をエビデンスとした。Scopsi らは散発性の109 例を対象とし年齢60 歳以上〔ハザード比(HR):2. 97〕,軟部組織浸潤(HR:7. 10),遠隔転移あり(HR:3. 09)が生存の,そして男性(HR:2. 34),軟部組織浸潤(HR:4. 46),アミロイド沈着なし(HR:2. 84)が再発の予後因子であると報告した 4)。Hyer らは162 例(うち散発性110 例,遺伝性52 例)を対象に生存の予後因子を検討し,年齢(40 歳未満のHR を1. 0 とした場合,年齢40〜49 歳で1. 93,年齢50〜59 歳で3. 73,年齢60 歳以上で7. 2),リンパ節転移(なしのHR を1. 0 とした場合,N1 aで2. 46,N1 b で6. 06),診断時遠隔転移(なしのHR を1. 0 とした場合,ありで4. 58),甲状腺切除範囲(甲状腺温存手術のHR を1. 0 とした場合,甲状腺(準)全摘術で0. 34)が有意であったとしている 5)。Gulben らも散発性の32 例を検討し,非根治手術(HR:4. 89),甲状腺被膜浸潤(HR:13. 68),遠隔転移(HR:6. 19)を予後因子としている 6)

多施設共同研究で上記5 要件のすべてを満たす報告はないが,多数例での検討がなされているのでエビデンスとして採用した。German MTC Registry は741 例(散発性559例,遺伝性182 例)を集積し,男性(HR:2. 19),診断時40 歳以上(HR:2. 22)が生存の予後因子であると報告している 7)。French Calcitonin Tumors Study Groupは899例(散発性515 例,遺伝性384 例)の検討でStage が一つ上がるごとに5. 9 倍,手術時年齢が1歳上がるごとに3. 5%,非根治手術は(根治手術に比べて)3. 9 倍に死亡のリスクが上がるとした 8)。Roman らは米国のSEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)Registry から1, 252 例のデータを分析し生命予後因子が年齢(40 歳未満HR:1. 0,40〜64 歳HR:2. 35,年齢65 歳以上HR:6. 55),進行度(甲状腺に限局HR:1. 0,局所に進展HR:2. 69,遠隔転移HR:4. 47),外科治療(非手術HR:1. 0,腺葉切除HR:0. 47,甲状腺(準)全摘で郭清なしHR:0. 29,甲状腺(準)全摘で限定した郭清HR:0. 17,甲状腺全摘で系統的郭清ありHR:0. 25),外照射(なしHR:1. 0,ありHR:1. 65)であると報告した 9)

表1.腫瘍による死亡や身体所見や画像診断から明らかになる再発をアウトカムとする予後因子
報告者 対象者数
(散発性/遺伝性)
<初回手術例/
再手術例>
アウトカム 追跡期間(率) 追跡開始
時点
多変量解析による
予後因子(HR)
Scopsi L 109(109/0)
<記述なし>
OS, RFS 中央値
5. 3年
(100%)
初回手術時(手術例)
または診断時(非手術例)
生存(OS):
年齢60 歳以上(2. 97),軟部組織浸潤(7. 10),遠隔転移あり(3. 09)
再発(RFS):
男性(2. 34),軟部組織浸潤(4. 46),アミロイド沈着なし(2. 84)
Hyer SL 162(110/52)
<記述なし>
CSS, OS 中央値
9. 0年
(100%)
診断時 年齢40 歳未満(1. 0),年齢40〜49歳(1.93),年齢50〜59歳(3.73),年齢60 歳以上(7. 2);リンパ節転移なし(1. 0),リンパ節転移N1 a(2. 46),N1 b(6. 06);診断時遠隔転移あり(4. 58);甲状腺(準)全摘(0. 34),甲状腺温存手術(1. 0)
Gülben K 32(32/0)
<記述なし>
OS 中央値
48カ月
初回治療時 非根治手術(4. 89),甲状腺被膜浸潤(13. 68),遠隔転移(6. 19)
すべて後ろ向き研究
CSS: cause-specific survival
OS: overall survival
RFS: relapse-free survival
HR: hazard ratio
表2.腫瘍による死亡や身体所見や画像診断から明らかになる再発をアウトカムとする予後因子(多施設研究)
報告者 研究グループ 対象者数
(散発性/
遺伝性)
初回手術例/
再手術例>
アウトカム 追跡期間(率) 追跡開始
時点
多変量解析による
予後因子(HR)
Raue F German
MTC
Registry
741
(559/182)
<記述なし>
Survival 中央値
14.4年
(100%)
記載なし 男性(2.19),診断時40 歳以上(2. 22)
Modigliani E French
Calcitonin
Tumors
Study Group
899
(515/384)
<記述なし>
Survival 中央値
3.2年
(100%)
記載なし Stage が一つ上がるごとに5.9 倍,手術時年齢が1歳上がるごとに3.5%,非根治手術は3.9 倍)
Roman S SEER
Registry
1,252
(記述なし)
<1,252/0>
OS 記載なし 診断の時点 年齢40 歳未満(1.0),年齢40〜64 歳(2.35),年齢65 歳以上(6.55);甲状腺に限局(1. 0),局所に進展(2. 69),遠隔転移(4.47);非手術(1.0),腺葉切除(0.47),甲状腺(準)全摘で郭清なし(0.29),甲状腺(準)全摘で限定した郭清(0. 17),甲状腺全摘で系統的郭清あり(0. 25);外照射なし(1.0),照射あり(1.65)
HR: hazard ratio
MTC: medullary thyroid carcinoma
SEER: Surveillance, Epidemiology, and End Results(USA)
(2)術後カルシトニン値の正常化biochemical cure をアウトカムする予後因子(表3

4 文献を採用した。ここでは単変量解析の結果も含めてエビデンスとした。Flemingらは40 例(散発性23 例,遺伝性17 例)を対象とし,術前基礎カルシトニン値> 835 pg/ml,リンパ節転移あり,甲状腺外への進展そして初回手術後2年以上経過の例では有意に術後カルシトニン値の正常化率が低くなるとしている 10)。Weber らによる36 例(散発性16 例,遺伝性20 例;初回治療例36 例,再発例なし)を検討した多変量解析(ロジスティック・モデル)ではリンパ節転移ありのみが予後因子であった〔オッズ比(OR):19. 0〕 11)。Scollo らは101 例(散発性54 例,遺伝性47 例;初回治療例101 例,再発例なし)でリンパ節転移との関連を検討し,術後カルシトニン基礎値の正常化率はリンパ節転移個数が10 個以下で57%であるのに対し11 個以上では4%に過ぎなかったと報告した 12)。Machens らは224 例(初回治療例97 例,再発例127 例)を対象とした単変量解析で再発例,術前カルシトニン基礎値が高値,腫瘍径が大きい,甲状腺外への進展,リンパ節転移あり,そして遠隔転移ありで術後カルシトニン値の正常化率が有意に低いことを指摘した。また術前に臨床的なリンパ節転移を認めないN0 症例においては術前カルシトニン基礎値が300 pg/ml を超えるあるいは腫瘍径が10 mm を超えると,術後カルシトニン値の正常化率は50%以下であった。さらに多重ロジスティック・モデルによる解析では術前基礎カルシトニン値(100 pg/ml 以下OR:1.0,500〜1,000 pg/ml OR:19.7,> 1, 000 pg/ml OR:4. 2),リンパ節転移(なしOR:1. 0,ありOR:5. 9)が有意な予後因子であった 13)

(3)進行・再発症例における予後因子

血清カルシトニン値あるいはCEA 値が基準値を超えている進行・再発症例では,これらマーカー値の倍加時間doubling time(DT)がその後の予後を反映することが報告されている 14)〜16)。Barbet らの調査ではDT が6 カ月未満,6 か月以上2年未満,2年以上の3 群で,5年生存率はそれぞれ25%,92%,100%であった 15)

表3.術後カルシトニン値の正常化biochemical cure をアウトカムする予後因子
報告者 対象者数
(散発性/遺伝性)
<初回手術例/
再手術例>
追跡期間(率) 追跡開始
時点
単変量解析による
予後因子
多変量解析による
予後因子
Fleming JB 40(23/17)
<記述なし>
中央値
35カ月
(100%)
手術時 術前基礎カルシトニン値>835 pg/ml
リンパ節転移あり,
甲状腺外への進展,
初回手術後2年以上経過
(解析なし)
Weber T 36(16/20)
< 36/0 >
中央値
3. 7年
(100%)
手術時   リンパ節転移あり
(OR 19.0)
Scollo C 101(54/47)
< 101/0 >
術後
6週から
3 カ月
手術時 術後カルシトニン値の正常化率:リンパ節転移10 個以下では57%,11 個以上では4% (解析なし)
Machens A 224(記述なし)
< 97/127 >
(中央値
6日)
手術時 術前基礎カルシトニン値>300 pg/ml または
腫瘍径10 mm 以上では術後カルシトニン値の正常化率は50%以下
術前基礎Ct 値(OR):
100 以下(1. 0)
500-1000(19. 7)
> 1000(4. 2)
リンパ節転移(OR):
なし(1. 0)
あり(5. 9)
【検索式・参考にした二次資料】

文献データベースに対する検索式は別に示す。二次資料としてBritish Thyroid Association(BTA)2006年のガイドライン第2 版 17),American Thyroid Association(ATA)のガイドライン2006年版 18),National Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドライン(NCCN 2009 v1) 19),そしてATA の甲状腺髄様癌に特化したガイドライン 20)を参照した。

【参考文献】

1) Laupacis A, Wells G, Richardson WS, et al. Users’ guides to the medical literature. V. How to use an article about prognosis. JAMA 1994;272:234-237.

2) Schroder S, Bocker W, Baisch H, et al. Prognostic factors in medullary thyroid carcinomas. Survival in relation to age, sex, stage, histology, immunocytochemistry, and DNA content. Cancer 1988;61:806-816.(RS)

3) Takami H, Bessho T, Kameya T, et al. Immunohistochemical study of medullary thyroid carcinoma: Relationship of clinical features to prognostic factors in 36 patients. World J Surg 1988;12;572-579.(RS)

4) Scopsi L, Sampietro G, Boracchi P, et al. Multivariate analysis of prognostic factors in sporadic medullary carcinoma of the thyroid. Cancer 1996;78:2173-2183.(RS)

5) Hyer SL, Vini L, A'Hern R, et al. Medullary thyroid cancer: multivariate analysis of prognostic factors influencing survival. Eur J Surg Oncol 2000;26:686-690.(RS)

6) Gulben K, Berberĝlu U, Boyabalti M. Prognositc factors for sporadic medullary thyroid carcinoma. World J Surg 2006;30:84-90.(RS)

7) Raue F, Kotzerke J, Reinwein D, et al. Prognostic factors in medullary thyroid carcinoma:evaluation of 741 patients from the German Meullary Thyroid Carcinoma Register. Clinical Investigator 1993;71:7-12.(RS)

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10) Fleming JB, Lee JE, Bouvet M, et al. Surgical strategy for the trement of medullary thyroid carcinoma. Ann Surg 1999;230:697-707.(RS)

11) Weber T, Schilling T, Frank-Raue K, et al. Impact of modified radical neck dissection on biochemical cure in medullary thyroid carcinomas. Surgery 2001;130:1044-1049.(RS)

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13) Machens A, Schneyer U, Holzhaused HJ, et al. Prospects of remission in medullary thyroid carcinoma according to basal calcitonin level. J Clin Endocrinol Metab 2005;90:2029-2034.

14) Miyauchi A, Onishi T, Morimoto S, et al. Relation of doubling time f plasma calcitonin levels to prognosis and recurrence of medullary thyroid carcinoma. Ann Surg 1984;199:461-466.(RS)

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16) Giraudet AL, Ghulzan AA, Aupérin A, et al. Progression of medullary thyroid carcinoma: assessment with calcitonin and carcinoembryonic antigen doubling times. Eur J Endocrinol 2008;158:239-246.(RS)

17) British Thyroid Associations & Royal College of Physicians. Guidelines for the Management of Thyroid Cancer in Adults(2 nd Edtion August 2007). www.british-thyroid-association.org

18) Cooper DS, Doherty GM, Haugen BR, et al;American Thyroid Association Guidelines Taskforce. Management guidelines for patients with thyroid nodules and differentiated thyroid cancer. Thyroid 2006;16:109-142. http://www.thyroid.org/professionals/publications/documents/Guidelinesthy2006.pdf

19) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: Thyroid Carcinoma(2009 v1). http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/PDF/thyroid.pdf

20) Kloos RT, Eng C, Evans DB, et al. :Medullary Thyroid Cancer:Management Guidelines of the American Thyroid Association. Thyroid 2009;19:565-612. http://www.thyroid.org/professionals/publications/documents/MTC_Guidelines.pdf


3-d. 低分化癌

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CQ 31
低分化癌はどのように定義されているか?その頻度,予後はどのくらいか?
推奨グレード
B 低分化癌は,「高分化型の濾胞癌ないし乳頭癌と未分化癌との中間的な形態像および生物学的態度を示す濾胞上皮由来の悪性腫瘍」と定義される。その頻度は0. 3〜15%と地域,施設により差がみられる。その予後は乳頭癌ないし濾胞癌より悪く未分化癌よりよいが,術後5年生存率は40〜80%と地域,施設によりばらつきが大きい。
【解 説】

低分化癌は1980年代に坂本 1)やCarcangiu 2)によって提唱された概念で,2004年のWHO 分類で,濾胞癌や乳頭癌から独立した腫瘍組織型と定められた 3)。わが国の甲状腺癌取扱い規約では,以前から低分化型濾胞癌および低分化型乳頭癌の分類が用いられていたが,2005年の改訂でWHO 分類に対応し,独立した組織型として低分化癌は定義された 4)

低分化癌の病理診断の基準には,時代による変遷とともに日本と欧米で差違がみられる。低分化癌の基本組織所見としては,①索状(solid),②充実性(trabecular),③島状(insular)の3 つの増殖様式(低分化成分)が挙げられる。坂本が当初取り上げた硬性(scirrhous)浸潤様式 1)は,現在は低分化癌の付随的な組織所見と理解されている。腫瘍に占める低分化成分の割合についても違いがある。WHO 分類は大部分(majority)という表現であるが,取扱い規約では一部にでもみられれば低分化癌と診断される。低分化癌の診断基準の世界的な統一を目的としてトリノ会議が行われ,上記の基本組織所見に,④乳頭癌の核の特徴を欠くこと,⑤脳回状の核型,あるいは核分裂像ないし腫瘍壊死像がみられることを加えた厳しい診断基準が提案されている 5)。この基準ではWHO分類で新たに定められた乳頭癌の充実亜型(solid variant of papillary carcinoma)と充実性増殖を示す濾胞癌が除外される。

これらの診断基準の違いが低分化癌の頻度と予後のばらつきの一因となっている。日本での低分化癌の頻度は,取扱い規約では10〜20% 6)7)だが,WHO 分類では0. 8%,トリノ会議の基準では0. 3%であると報告されている 8)。欧米のデータでは,トリノ会議の基準で,北米での低分化癌の頻度が約1. 5% 9)であるのに対し,ヨーロッパ,特に北イタリアを中心とするアルプス地方では2〜4% 10)と優位に高い。低分化癌の頻度のばらつきには地域差も関与している。低分化癌の予後は,進行性乳頭癌と変わらないという報告もあるが 11),通常の乳頭癌ないし濾胞癌より悪く,特に45 歳以上で有意に不良であることが日本や欧米から報告されている 8)〜10)。ただし,予後の客観的な指標である術後5年生存率は40〜80%と地域,施設によるばらつきが大きい。予後に関する研究はすべて後ろ向き集積研究であり,今後,診断基準,治療法を統一した前向き研究が必要と考えられる。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Sakamoto A, Kasai N, Sugano H. Poorly differentiated carcinoma of the thyroid. A clinicopathologic entity for a high-risk group of papillary and follicular carcinomas. Cancer 1983;52:1849-1855.(RS)

2) Carcangiu ML, Zampi G, Rosai J. Poorly differentiated(“insular”)thyroid carcinoma:a reinterpretation of Langhans’ “wuchernde struma” Am J Surg Pathol 1984;8:655-668.(RS)

3) DeLellis RA, Llyoid RV, Heinzz PU, et al. Pathology & Genetics:Tumours of Endocrine Organs, WHO, Lyon, 2004.(Others)

4) 甲状腺外科研究会編.甲状腺癌取扱い規約 第6 版,金原出版,2005.(Others)

5) Volante M, Collini P, Nikiforov YE, et al. Poorly differentiated thyroid carcinoma:the Turin proposal for the use of uniform diagnostic criteria and an algorithmic diagnostic approach. Am J Surg Pathol 2007;31:1256-1264.(Others)

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8) Ito Y, Hirokawa M, Fukushima M, et al. Prevalence and prognostic significance of poor differentiation and tall cell variant in papillary carcinoma in Japan. World J Surg 2008;32:1535- 1543.(RS)

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Clinical Question・推奨一覧へ


CQ 32
低分化癌は術前に診断可能であるか?
推奨グレード
C2 低分化癌の術前診断法として,穿刺吸引細胞診検査の有用性が報告されているが,術前診断が可能であるとするエビデンスは乏しい。
【背 景・目 的】

甲状腺腫瘍の術前検査法として現在行われている画像検査法および穿刺吸引細胞診検査法により,低分化癌の術前診断が可能であるかを検討した。

【解 説】

甲状腺腫瘍の画像検査法としては,超音波検査,CT 検査,MRI 検査が用いられているが,いずれも低分化癌についての研究はほとんどみられない。画像検査法で報告がみられるのはPET-CT 検査で,グルコース代謝の亢進がみられないことが示されている 1)。しかし,1 例の検討で診断の感度,特異度も不明である。

低分化癌の穿刺吸引細胞診検査法についての研究は,ほとんどが少数例の症例集積検討である。低分化癌がWHO 分類で定められる以前の報告 2)〜6)は,細胞の出現量が多いことなどを特徴として挙げているが,術前診断の可能性については言及していない。WHO 分類後に行われた国内の比較的多数例の検討では,細胞の出現様式,細胞分裂像の増加などにより,低分化癌の推定が可能と報告されている 7)。しかし,いずれも後ろ向き研究であり,また,細胞診断の感度と特異度についての統計的なエビデンスはない。今後,統一した病理組診断の基準のもとに,前向きの検討が必要と考えられる。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Zettinig G, Leitha T, Niederle B, et al. FDG positron emission tomographic, radioiodine, and MIBI imaging in a patient with poorly diff erentiated insular thyroid carcinoma. Clin Nucl Med 2001; 26:599-601.(RS)

2) Pietribiasi F, Sapino A, Papotti M, et al. Fine-needle aspiration of an unusual case of poorly differentiated insular carcinoma of the thyroid. Am J Clin Pathol 1990;94:687-692.(RS)

3) Sironi M, Collini P, Cantaboni A. Fine needle aspiration cytology of insular thyroid carcinoma. A report of four cases. Acta Cytol 1992;36:435-439.(CaseR)

4) 荒井祐司,都竹正文,坂本穆彦.甲状腺乳頭癌の分化度推定に関与する細胞学的特徴の検討.日臨細胞会誌 1997;36:109-114.(RS)

5) 郡司有理子,西村理恵子,辻本正彦,他.甲状腺乳頭癌低分化型の細胞学的特徴.日臨細胞会誌 2000;39:292-297.(RS)

6) Nguyen GK, Akin MR. Cytopathology of insular carcinoma of the thyroid. Diagnostic Cytopathology 2001;25:325-330.(RS)

7) 前川観世子,廣川満良,柳瀬由香里,他.甲状腺低分化癌の細胞像.日臨細胞会誌 2009;48:268-273.(RS)


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CQ 33
低分化癌における甲状腺全摘および予防的リンパ節郭清は予後を改善するか?
推奨グレード
C1 低分化癌は悪性度が高く,術前の細胞診でそれが疑われれば全摘および広範囲なリンパ節郭清を施行するのは妥当ではあるが,それが予後を改善するという根拠は十分ではない。
【背 景・目 的】

術前の細胞診で低分化癌と診断される,あるいは臨床的に低分化癌が疑われる症例に対する術式選択について検討した。

【解 説】

低分化癌における手術術式と予後の関係に対する前向き研究は存在しない。しかし欧米からは低分化癌は通常予後不良であり,甲状腺全摘,リンパ節郭清,放射性ヨード内用療法,あるいは外照射といったあらゆる治療法を駆使すべきであるという意見が出されている 1)〜3)。わが国からも低分化癌は通常の高分化癌に比べてリンパ節転移が多いという意見が出され 4),かつ後ろ向き研究で低分化癌は浸潤性が高く,予後が不良であるという報告がある 5)。それを鑑みても術前に低分化癌が疑われる症例については甲状腺全摘を行い,予防的郭清を含めた広範囲なリンパ節郭清を施行することは妥当と考えられる。症例数は少ないが,局所をきちんとコントロールすれば,局所再発は抑えられるという報告もある 6)

その一方で,海外の後ろ向き研究では低分化癌において甲状腺全摘は患者の予後に影響を与えないという報告が複数ある 7)〜9)。しかしそれらは全摘をしていない症例数が少ない,きちんとした予後判定が行われていない,あるいは多変量解析によってバイアスを除去していないなどの問題点がある。リンパ節の郭清範囲と予後の関係を調べた研究は存在しない。

以上のことから,術前に低分化癌と診断された,あるいはそう疑われた症例に対しては常識的に甲状腺全摘および予防的郭清を含めた広範囲なリンパ節郭清を施行すべきではあろうが,それが予後を本当に改善するのかどうかについては十分な根拠がない。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Sywak M, Pasieka JL, Ogilvie T. A review of thyroid cancer with intermediate differentiation. J Surg Oncol 2004;86:44-54.(NR)

2) Cornetta AJ, Burchard AE, Pribitkin EA, et al. Insular carcinoma of the thyroid. ENT Journal 2003;82:384-389.(NR)

3) Flynn SD, Forman BH, Stewart AF, et al. Poorly differentiated(“insular”)carcinoma of the thyroid gland:an aggressive subset of differentiated thyroid neoplasms. Surgery 1988;104: 963-970.(CaseR)

4) 河西信勝.術式,治療法をどうするか-低分化癌-.臨外 1986;41:575-578.(Others)

5) Ito Y, Hirokawa M, Fukushima M, et al. Prevalence and prognostic significance of poor differentiation and tall cell variant in papillary carcinoma in Japan. World J Surg 2008;32:1535- 1543.(RS)

6) 橋本 大,岩江信法,魚住真樹.甲状腺島状癌(Insular carcinoma)の3 症例.日気食会報 2005; 56:302-307.(CaseR)

7) Carcangiu ML, Zampi G, Rosai J. Poorly differentiated(insular)thyroid carcinoma Am J Surg Pathol 1984;8:655-668.(RS)

8) Jung TS, Kim TY, Kim KW, et al. Clinical features and prognostic factors for survival in patients with poorly differentiated thyroid carcinoma and comparison to the patients with the aggressive variants of papillary thyroid carcinoma. Endocr J 2007; 54:265-274.(RS)

9) Lin JD, Chao TC, Hsueh C. Clinical characteristics of poorly differentiated thyroid carcinomas compared with those of classical papillary thyroid carcinomas. Clin Endocrinol 2007;66:224- 228.(RS)


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CQ 34
乳頭癌や瀘胞癌の診断で片側切除のみ行い,術後に低分化癌と診断された場合,追加手術は予後を改善するか?
推奨グレード
C1 術前に瀘胞癌と診断され,片側切除のみ行った症例に対する補完全摘の意義はあると考えられるが,低分化癌に対する追加手術が予後を改善するという十分な証拠はない。
【背 景・目 的】

術前に診断がつかず,術後の病理検査で低分化癌と診断された場合における追加手術の意義を検討した。

【解 説】

術後に低分化癌と診断された症例の取り扱いについては,ほとんど研究がないのが現状である。ただちに追加手術をするのがよいのか,あるいは経過観察を行い,再発が認められた時点で再手術とするのがよいのかについての検討はまったく行われていない。海外からは低分化癌の予後は甲状腺切除範囲に左右されないという報告はあるが 1)〜3),症例数が少なかったり,対象症例にバイアスがかかっていたりするので,結論の信頼性には疑問が残る。

ただ,瀘胞性腫瘍の疑いで片側切除のみ行い,術後低分化癌と診断された症例の生命予後は,遠隔転移のために明らかに不良であり,将来の放射性ヨード内用療法に備えて,あるいは血中サイログロブリン値をモニターする意味でも補完全摘をしたほうがよいという報告はある 4)。ただし,あくまで後ろ向き研究であり,補完全摘の結果,本当に予後が改善されたかどうかの検討はなされていない。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Carcangiu ML, Zampi G, Rosai J. Poorly differentiated(insular)thyroid carcinoma. Am J Surg Pathol 1984;8:655-668.(RS)

2) Jung TS, Kim TY, Kim KW, et al. Clinical features and prognostic factors for survival in patients with poorly differentiated thyroid carcinoma and comparison to the patients with the aggressive variants of papillary thyroid carcinoma. Endocr J 2007;54:265-274.(RS)

3) Lin JD, Chao TC, Hsueh C. Clinical characteristics of poorly differentiated thyroid carcinomas compared with those of classical papillary thyroid carcinomas. Clin Endocrinol 2007;66:224-228. (RS)

4) Ito Y, Hirokawa M, Higashiyama T, et al. Prognosis and prognostic factors of follicular carcinoma in Japan:Importance of postoperative pathological examination. World J Surg 2007;31:1417- 1424.(RS)


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CQ 35
低分化癌に対する手術以外の療法は予後を改善するか?
推奨グレード
C1 放射性ヨード内用療法,外照射および化学療法について,部分的に奏効するというデータはあるものの,予後を改善すると結論付けるには至らない。
【背 景・目 的】

低分化癌は予後不良の疾患であり,しばしば遠隔臓器への転移や切除不能症例が存在する。それらに対して手術以外の療法の意義を検討する。

【解 説】

瀘胞上皮由来の甲状腺癌に対しては,放射性ヨード内用療法が奏効することはよく知られている。低分化癌においても遠隔転移などに放射性ヨードの取り込みが高率に認められるという報告がある 1)〜3)。また,根治術が施行できたとしても,ルーチンに放射性ヨード内用療法を行うべきであるという意見も出されている 4)。一つの後ろ向き研究が,放射性ヨード内用療法を受けた低分化癌症例の予後は,受けなかった症例に比べて良好であると述べているが 5),複数の後ろ向き研究は有意差なしとしている 6)〜8)。低分化癌の多くが放射性ヨードを取り込むので,放射性ヨード内用療法を行うことは意味があると考えられるが,それが予後を改善するかどうかについては,むしろ否定的な意見のほうが多い。ただ,いずれもランダム化比較試験や前向き研究ではなく,これからの研究が待たれる。

外照射については有意ではないが有効であったという報告があり 5),かつ手術不能例に外照射および化学療法を併用すれば半数が手術可能になり,最高6年間再発がなかったという報告も出ている 9)。さらに局所の根治性が疑わしい症例には放射性ヨード内用療法に先駆けて外照射を行うほうがよいのではないかという意見もある 4)。しかし外照射が予後を改善するかどうかについては否定的な研究結果もある 7)8)。局所制御のために外照射を行うことは,他に選択肢のない場合も多く,妥当なものであると考えられるが,予後を改善するかどうかについては現時点で結論は出ていないといえる。

低分化癌の肺転移についてはカルボプラチンとエピルビシンの投与(6 コース)が有用であり,14 例中CR1 例,PR5 例,SD7 例であったと報告されている 10)。結局5 例が癌死したが肺転移の増悪による癌死は1 例だけであった。1 施設からだけの報告であり他施設による追試が待たれる。

現時点では手術以外の治療法が確実に予後を改善するという信頼できる証拠は得られず,推奨度は低く評価せざるを得なかった。今後の検討に期待したい。ただ,局所の制御目的での外照射や遠隔転移に対する放射性ヨード内用療法の妥当性については,専門家の意見はほぼ一致していると考えられる。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Justin EP, Seahold JE, Robinson RA, et al. Insular carcinoma:a distinct thyroid carcinoma with associated iodine-131 localization. J Nucl Med 1991;32:1358-1363.(RS)

2) Hiltzik D, Carlson DL, Tuttle M, et al. Poorly differentiated thyroid carcinomas defined on the basis of mitosis and necrosis:a clinicopathologic study of 58 patients. Cancer 2006;106:1286-1295.(RS)

3) Patel KN, Shaha AR. Poorly differentiated and anaplastic thyroid cancer. Cancer Control 2006;13:119-128.(RS)

4) Sanders Jr. EM, LiVolsi V, Brierley J. An evidence-based review of poorly differentiated thyroid cancer. World J Surg 2007;31:934-945.(NR)

5) Lin JD, Chao TC, Hsueh C. Clinical characteristics of poorly differentiated thyroid carcinomas compared with those of classical papillary thyroid carcinomas. Clin Endocrinol(Oxf)2007;66:224-228.(RS)

6) Volante M, Landolfi S, Chiusa L, et al. Poorly differentiated carcinomas of the thyroid with trabecular, insular, and solid patterns. Cancer 2004;100:950-957.(RS)

7) Jung TS, Kim TY, Kim KW, et al. Clinical features and prognostic factors for survival in patients with poorly differentiated thyroid carcinoma and comparison to the patients with the aggressive variants of papillary thyroid carcinoma. Endocr J 2007;54:265-274.(RS)

8) Lai HW, Lee CH, Chen JY, et al. Insular thyroid carcinoma:collective analysis of clinicohistologic prognostic factors and treatment effect with radioiodine or radiation therapy. J Am Coll Surg 2006;203:715-722.(RS, NR)

9) Auersperg M, Us-Krasovec M, Petric G, et al. Results of combined modality treatment in poorly differentiated and anaplastic thyroid carcinoma. Wien Klin Woschenschr 1990;27:267-270. (RS)

10) Santini F, Bottici V, Elisei L. Cytotoxic effects of carbolatinum and epirubicin in the setting of an elevated werum thyrotropin for advanced poorly differentiated thyroid cancer. J Clin Endocrinol Metab 2002;87:4160-4165.(RS)


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コラム10 CASTLE/ITT
要旨
甲状腺の胸腺様分化を示す癌(carcinoma showing thymus-like differentiation;CASTLE)は,甲状腺内に遺残した胸腺上皮から発生する稀な悪性上皮性腫瘍である。組織学的に扁平上皮癌や未分化癌との鑑別が問題となるが,手術による根治率が高く,比較的予後良好である。
【解 説】

CASTLE は1980年代に宮内ら 1)よって提唱された概念で,胸腺内上皮性胸腺腫(intrathyroidal epithelial thymoma;ITT)と同義である。胸腺様分化を伴う紡錘細胞腫瘍(spindle cell tumor with thymus-like differentiation;SETTLE)とともに2004年の WHO 分類 2)に掲載された。

CASTLE は極めて稀な腫瘍で,中年以降に発症することが多い。この点は若年性に発症することが多いSETTLE と異なる。肉眼的には,甲状腺内あるいは甲状腺周囲に,境界明瞭な灰白色の腫瘤を形成する。組織学的には,腫瘍細胞が不整な島状から索状の上皮構造を伴い増殖し,比較的密な線維性間質を伴う。腫瘍細胞が,扁平上皮様の細胞間橋や角化を示す例もみられる。ただし,扁平上皮癌と異なり,細胞分裂像や,壊死像はほとんどみられない。腫瘍細胞間および間質には種々の程度のリンパ球や形質細の浸潤がみられ,胸腺腫に類似する。免疫組織学的に腫瘍細胞は,浸潤するT リンパ球と同様にCD5 が陽性で,胸腺上皮起源と考えられる 3)4)。CASTLE の治療は,外科的な切除が第一選択である。手術後5年の根治率は90%と良好で,再発の危険が低い。術後の放射線治療は,リンパ節転移陽性例に適用すべきと考えられる 5)6)

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Miyauchi A, Kuma K, Matsuzuka F, et al. Intrathyroidal epithelial thymoma:an entity distinct from squamous cell carcinoma of the thyroid. World J Surg 1985;9:128-135.(RS)

2) DeLellis RA, Llyoid RV, Heinzz PU, et al. Pathology & Genetics:Tumours of Endocrine Organs, WHO, Lyon, 2004, 94-97.(Others)

3) Dorfman DM, Shahsafaei A, Miyauchi A. Intrathyroidal epithelial thymoma(ITET)/carcinoma showing thymus-like differentiation(CASTLE)exhibits CD5 immunoreactivity:new evidence for thymic differentiation. Histopathology 1998;32:104-109.(RS)

4) Reimann JD, Dorfman DM, Nose V. Carcinoma showing thymus-like differentiation of the thyroid(CASTLE):a comparative study:evidence of thymic differentiation and solid cell nest origin. Am J Surg Pathol 2006;30:994-1001.(RS)

5) Roka S, Kornek G, Schuller J, et al. Carcinoma showing thymic-like elements--a rare malignancy of the thyroid gland. Br J Surg 2004;91:142-145.(CaseR)

6) Ito Y, Miyauchi A, Nakamura Y, et al. Clinicopathologic significance of intrathyroidal epithelial thymoma/carcinoma showing thymus-like differentiation:a collaborative study with Member Institutes of The Japanese Society of Thyroid Surgery. Am J Clin Pathol 2007;127:230-236. (RS)


3-e. 未分化癌

甲状腺未分化癌は進行が早く,ほぼ100%が不幸な転帰をとる疾患である。過去の報告をみても生存率の中央値は2 カ月から9 カ月と惨憺たる結果である。多くは高齢者に発生し,また分化癌の合併ないしは既往を多くに認める。その発生が少ないこと,現在までに有効な治療手段が発見されていないことから,ガイドラインとして有用な情報を提供することが困難な疾患である。治療手段として大きく分けて,手術,放射線治療,化学療法が挙げられる。

過去の報告では,ランダム化比較試験はおろか,前向きな検討はほとんどなされていない。多くの場合,症例ごとに治療を模索し,長期間にわたる症例群の治療結果を後ろ向きに検討したものである。そのため治療の道標となるべく科学的根拠を示すことはできない。有効な治療手段がない疾患であるが,少しでも生存期間の延長が図れるように努力すべき症例と診断時にまったく治療ができずに早期に緩和ケアを導入すべき症例かを見極める必要もある。甲状腺未分化癌における予後因子として,年齢,腫瘍径,急性増悪所見,末梢白血球数などが報告されており,治療を開始する前にこれらの因子を勘案する必要がある 1)2)

根治的治療ないしは治癒を望むことが極めて難しい疾患群であることから,本稿はあくまで各主治医が実地診療において治療法を選択,提示するうえでの“ 指針” ないしは“ 方向性” であることになる。最終的な判断は各症例の社会的背景,合併症など個別に検討したうえで主治医が下すべきものである。その一助になることを心がけた。

甲状腺未分化癌のStage 分類(UICC,6th edition)
Stage T N M
ⅣA T4a any N M0
ⅣB T4b any N M0
ⅣC any T any N M1

All anaplastic thyroid carcinoma are considered T4
T4 a: tumor(any size) limited to the thyroid
T4 b: tumor(any size) extends beyond the thyroid capsule

【参考文献】

1) Kim TY, Kim KW, Jung TS, et al. Prognostic factors for Korean patients with anaplastic thyroid carcinoma. Head Neck 2007;29:765-772.(RS)

2) Sugitani I, Kasai N, Fujimoto Y, et al. Prognostic factors and therapeutic strategy for anaplastic carcinoma of the thyroid. World J Surg 2001;25:617-622.(RS)

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CQ 36
未分化癌に対する手術療法は非手術に比べて予後を改善するか?
推奨グレード
B 甲状腺未分化癌の多くは診断時にすでに進行例となっている。未分化癌に対する治療方針の中で手術療法の果たす役割は大きいものの,時期や方法には議論が多い。しかし長期生存例では根治手術がなされたものが多いことから手術療法を積極的に考慮すべきである。
C2 しかし,隣接臓器に浸潤している症例に対して,減量手術や拡大手術が予後の改善につながるという根拠はない。
【背 景・目 的】

予後の極めて不良な甲状腺未分化癌治療における手術の役割は局所病変のコントロールという点で意義深い。根治術が可能な未分化癌では手術が予後を改善するか,また手術的に根治不能と思われる場合にいわゆるdebulking surgery(減量手術)の意義について検討した。

【解 説】

甲状腺未分化癌治療における手術の果たす役割は議論が多い。それは診断時に進行性であることが多く,周辺臓器に浸潤ないしはすでに遠隔転移を認めることが多いために根治性の獲得が難しいことが多いからである。単に手術を行うだけでは根治的とはいえないことは知られているが,長期生存例では手術がなされていることも事実である。進行度,全身状態,遠隔転移の有無などから手術の適応が決められる。そのため頸部局所での進展度,遠隔転移の有無などを早急に把握しなければならない。原発腫瘤が限局性の場合には,手術が予後改善の最も良い治療手段の一つである(推奨グレードB)。疾患の特性上,個々の症例で治療方針が立てられる場合が多く,過去の報告においても治療成績にはバイアスがかかっていることは否めないが,根治的に切除することが予後の改善,生存期間の延長につながるという報告が多く 1)〜11),他の治療法を併用しても多変量解析を行ったものでは手術の根治性を独立した予後因子としている。Pierie ら 12)は31年間での67 例の甲状腺未分化癌の治療成績を報告しており,44 例に手術を行った。12例にcomplete surgery が,32 例にincomplete surgery がなされた。6 カ月,1 年,3 年の生存率はcomplete surgery でそれぞれ92%,92%,83%,incomplete surgery でそれぞれ53%,35%,0%,非手術例ではそれぞれ22%,4%,0%と報告している。Haigh ら 13)は26 年間での33 例の甲状腺未分化癌の治療成績を報告している。手術施行例26 例のうち,根治手術例8 例,非根治手術例18 例では生存期間の中央値が前者43 カ月,後者3 カ月と根治手術例の予後は有意差をもって良好であり,多変量解析では手術の根治性が独立した予後因子であることを報告した。一方,根治手術が可能な症例は多くは小さい腫瘤であり,手術の根治性は腫瘤径に依存している。Kim ら 14)は120 例の多変量解析を用いた検討で,手術治療は有意な因子ではないが,腫瘤の大きさを予後因子として挙げており,腫瘤の小さな症例に対しては手術を含めた積極的な治療を勧めている。一方でMcIver ら 15)のMayo clinic の報告のように手術治療や手術の根治性が有意な予後の改善につながらなかったとしているものもある 16)17)。なんとか病巣を減量しようとする,いわゆるdebulking surgery(減量手術)が予後にどのように影響するかは明らかな報告はない 6)12)18)。多くの未分化癌では初診時には隣接臓器に浸潤している進行癌である。隣接臓器を合併切除する拡大手術が明らかな予後を改善するという報告はなく,むしろ術後のQOL を考えて手術の方針を立てることが勧められる(推奨グレードC2)。先のPierie ら 12)の報告の他にも減量手術は非手術に比して予後の改善が期待できるという報告があり 5),術後のQOL の低下を極力避ける程度の減量手術は意義がある。後に述べる後療法と組み合わせて治療していくことも勧められる。一方で,呼吸困難のない症例での予防的気管切開は,予後改善効果が明らかでないばかりか,QOL を低下させ,感染などの合併症から放射線療法や化学療法の開始を遅らせることがしばしばあるため,推奨されない 19)20)

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Yau T, Lo CY, Epstein RJ, et al. Treatment outcomes in anaplastic thyroid carcinoma:survival improvement in young patients with localized disease treated by combination of surgery and radiotherapy. Ann Surg Oncol 2008;15:2500-2505.(RS)

2) Brignardello E, Gallo M, Baldi I, et al. Anaplastic thyroid carcinoma:clinical outcome of 30 consecutive patients referred to a single institution in the past 5 years. Eur J Endocrinol 2007; 156:425-430.(RS)

3) Kebebew E, Greenspan FS, Clark OH, et al. Anaplastic thyroid carcinoma. Treatment outcome and prognostic factors. Cancer 2005;103:1330-1335.(RS)

4) Kihara M, Miyauchi A, Yamauchi A, et al. Prognostic factors of anaplastic thyroid carcinoma. Surg Today 2004;34:394-398.(RS)

5) Sugino K, Ito K, Mimura T, et al. The important role of operations in the management of anaplastic thyroid carcinoma. Surgery 2002;131:245-248.(RS)

6) Machens A, Hinze R, Lautenschlager C, et al. Extended surgery and early postoperative radiotherapy for undifferentiated thyroid carcinoma. Thyroid 2001;11:373-380.(RS)

7) Voutilainen PE, Multanen M, Haapiainen RK, et al. Anaplastic thyroid carcinoma survival. World J Surg 1999;23:975-979.(RS)

8) Passler C, Scheuba C, Prager G, et al. Anaplastic(undifferentiated)thyroid carcinoma(ATC). A retrospective analysis. Langenbeck’s Arch Surg 1999;384:284-293.(RS)

9) 平井啓介,松塚文夫,宮内 昭,他.甲状腺未分化癌—基礎から新しい治療法の可能性まで,甲状腺未分化癌 30 例の臨床的検討,長期生存例の臨床的特徴.内分泌外科 1999;16:25-30.(RS)

10) Kobayashi T, Asakawa H, Umeshita K, et al. Treatment of 37 patients with anaplastic carcinoma of the thyroid. Head Neck 1996;18:36-41.(RS)

11) Junor EJ, Paul J, Reed NS. Anaplastic thyroid carcinoma:91 patients treated by surgery and radiotherapy. Eur J Surg Oncol 1992;18:83-88.(RS)

12) Pierie JP, Muzikansky A, Gaz RD, et al. The effect of surgery and radiotherapy on outcome of anaplastic thyroid carcinoma. Ann Surg Oncol 2002;9:57-64.(RS)

13) Haigh PI, Ituarte PH, Wu HS, et al. Completely resected anaplastic thyroid carcinoma combined with adjuvant chemotherapy and irradiation is associated with prolonged survival. Cancer 2001;91:2335-2342.(RS)

14) Kim TY, Kim KW, Jung TS, et al. Prognostic factors for Korean patients with anaplastic thyroid carcinoma. Head Neck 2007;29:765-772.(RS)

15) McIver B, Hay ID, Giuffrida DF, et al. Anaplastic thyroid carcinoma:a 50-year experience at a single institution. Surgery 2001;130:1028-1034.(RS)

16) Lu WT, Lin JD, Huang HS, et al. Does surgery improve the survival of patients with advanced anaplastic thyroid carcinoma? Otolaryngol Head Neck Surg 1998;118:728-731.(RS)

17) 新宮聖士,小林信也,春日好雄.甲状腺未分化癌の治療成績の検討.日臨外会誌 1998;59:1-5. (RS)

18) Ito Y, Higashiyama T, Hirokawa M, et al. Investigation of the validity of UICC stage grouping of anaplastic carcinoma of the thyroid. Asian J Surg 2009;32:47-50.(RS)

19) Are C, Shaha AR. Anaplastic thyroid carcinoma:biology, pathogenesis, prognostic factors, and treatment approaches Ann Surg Oncol 2006;13:453-464(NR)

20) Lang BH, Lo CY. Surgical options in undifferentiated thyroid carcinoma. World J Surg 2007;31:969-977.(NR)


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CQ 37
根治手術を施行し得た未分化癌に対する術後補助療法は予後を改善するか?
推奨グレード
C1 肉眼的に根治手術がなし得た未分化癌に術後補助療法を加えることで長期生存が得られる可能性がある。
C1 術後放射線外照射療法は補助療法としての有効性を指摘する報告が多い。
C2 術後補助化学療法は有効性を示す薬剤の報告は少ない。
【背 景・目 的】

根治手術がなし得た甲状腺未分化癌の補助療法の必要性とその効果について概説する。しかしながら根治手術がなされた症例において補助療法の有無での予後の比較検討はなされておらず,長期生存例の症例集積検討が報告されている程度である。

【解 説】

分化癌と異なり未分化癌ではわずかな病巣を残すことが短期間での再発や予後への影響につながる疾患である。根治的治療を目指すにはいかに残存未分化癌細胞を殲滅するかにかかっている。よって一般的には,たとえ手術で根治的に切除可能であったとしても,長期予後を期待するには不十分であり術後に補助療法を行うことが推奨される。補助療法として考慮すべきものは放射線外照射療法と化学療法が挙げられる。

Kebebew ら 1)は米国のSEER(the Surveillance, Epidemiology and End Results)のデータベースを用いて,1973 〜2000 年までの516 例の甲状腺未分化癌症例の予後を解析した。多変量解析の結果,手術治療や放射線治療の有無は単独では独立した予後因子にはならず,手術および放射線治療の併用の有無が独立した予後因子であったと報告している。Chen ら 2)も同様にSEER データベースを用いて検討し,同様な結果を報告しているが,病巣が腺外に浸潤していた場合には術後放射線治療が生存率の改善をみたものの,病巣が甲状腺内にとどまっていたものでは放射線治療の施行例,非施行例では予後に差はなかった。Kim ら 3)は根治手術施行例71例について予後因子を検討しているが,放射線治療は単変量解析でも多変量解析でも有意な独立した因子ではなかった。しかし長期生存例ではほとんどが根治手術後に放射線外照射治療を行っていることもあり,術後補助療法として推奨している。以上より,根治手術可能例で肉眼的に根治切除と考えても微小病変の存在は否定できず,術後に局所への放射線外照射を施行することが勧められる 4)〜12)

一方,術後補助療法としての化学療法については,現状ではその有用性は見出すことができない。未分化癌は局所進行性の他に遠隔転移も高頻度で認められ,生命予後に大きくかかわる。局所に関しては手術や放射線外照射で何とかコントロールがつく可能性があるものの,遠隔転移は予防できない。次のCQ38 の集学的治療において詳しく触れるが,全身療法としての化学療法の意義は大きく,過去にはドキソルビシン,シスプラチン,ブレオマイシンなど多くの薬剤が試されてきているものの,いずれも有効性に乏しいものであった。Ain 13)らは評価可能病変をもつ甲状腺未分化癌症例19 例についてパクリタキセル(120-140 mg/m²/96 hr)96 時間持続投与を行い,CR 1 例,PR 9 例,奏効率53%であったと報告している。また,最近,手術前後のウィークリーパクリタキセル投与により,CR 例ならびに生存期間の延長も報告されている 14)。単独治療としては期待できないものの,毒性が少なく,術後補助療法としては有望な薬剤である。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Kebebew E, Greenspan FS, Clark OH, et al. Anaplastic thyroid carcinoma. Treatment outcome and prognostic factors. Cancer 2005;103:1330-1335.(RS)

2) Chen J, Tward JD, Shrieve DC, et al. Surgery and radiotherapy improves survival in patients with anaplastic thyroid carcinoma. Analysis of the surveillance, epidermiology, and end results 1983-2002. Am J Clin Oncol 2008;31:460-464.(RS)

3) Kim TY, Kim KW, Jung TS, et al. Prognostic factors for Korean patients with anaplastic thyroid carcinoma. Head Neck 2007;29:765-772.(RS)

4) Yau T, Lo CY, Epstein RJ, et al. Treatment outcomes in anaplastic thyroid carcinoma:survival improvement in young patients with localized disease treated by combination of surgery and radiotherapy. Ann Surg Oncol 2008;15:2500-2505.(RS)

5) Chang HS, Nam KH, Chung WY, et al. Anaplastic thyroid carcinoma:a therapeutic dilemma. Yonsei Med J 2005;46:759-764.(RS)

6) De Crevoisier R, Baudin E, Bachelot A, et al. Combined treatment of anaplastic thyroid carcinoma with surgery, chemotherapy, and hyperfractionated acccelerated external radiotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2004;60:1137-1143.(PS)

7) Pierie JP, Muzikansky A, Gaz RD, et al. The effect of surgery and radiotherapy on outcome of anaplastic thyroid carcinoma. Ann Surg Oncol 2002;9:57-64.(RS)

8) Haigh PI, Ituarte PH, Wu HS, et al. Completely resected anaplastic thyroid carcinoma combined with adjuvant chemotherapy and irradiation is associated with prolonged survival. Cancer 2001;91:2335-2342.(RS)

9) Voutilainen PE, Multanen M, Haapiainen RK, et al. Anaplastic thyroid carcinoma survival. World J Surg 1999;23:975-979.(RS)

10) Passler C, Scheuba C, Prager G, et al. Anaplastic(undifferentiated)thyroid carcinoma(ATC). A retrospective analysis. Langenbeck’s Arch Surg 1999;384:284-293.(RS)

11) Kobayashi T, Asakawa H, Umeshita K, et al. Treatment of 37 patients with anaplastic carcinoma of the thyroid. Head Neck 1996;18:36-41.(RS)

12) Junor EJ, Paul J, Reed NS. Anaplastic thyroid carcinoma:91 patients treated by surgery and radiotherapy. Eur J Surg Oncol 1992;18:83-88.(RS)

13) Ain KB, Egorin MJ, DeSimone PA. Treatment of anaplastic thyroid carcinoma with Paclitaxel: Phase 2 trial using ninety-six-hour infusion. Thyroid 2000;10:587-594.(PS)

14) Higashiyama T, Ito Y, Hirokawa M, et al. Induction chemotherapy with weekly paclitaxel administration for anaplastic thyroid carcinoma. Thyroid 2010;20:7-14.(RS)


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CQ 38
未分化癌に対する集学的治療は予後を改善するか?
推奨グレード

未分化癌では診断時に局所進行性,ないしはすでに遠隔転移を認めることが多い。局所病変および遠隔転移病巣のコントロール,ひいては生存率やQOL を高める目的に集学的治療が行われる。過去に有効なレジメンの報告はないものの,奏効例では生存率の延長が示唆されている。
しかし,治療中においても効果判定は細やかに行い,効果を認めない場合には,治療方針の変更が必要である。

C1 行うよう勧められるが,その効果判定は細やかに行う必要があり,効果がない場合には方針の変更が必要である。
【背 景・目 的】

甲状腺未分化癌はしばしば初診時に局所進行性で,遠隔転移を有することが多い。実際には有効な根治的治療方法はないのが現状であるが,すぐに緩和治療に進むのか,集学的治療を行い,生存期間の延長を目指すのか判断に迷う。過去の報告から集学的治療の成績について言及し,治療方針決定の際の判断の一助としたい。

【解 説】

先に述べたように根治手術が可能な,ないしは減量手術が可能な症例においても,手術単独のみでは長期の予後は望めないことは示した。さらに未分化癌においては初診時に減量手術が不可能なほど局所進行性ないしは遠隔転移を認めることもしばしばある。このような症例については局所療法とともに全身療法としての集学的な治療が必要となる。

集学的治療における成績は以前より報告がなされ,いまだ長期生存率向上のための確実なプロトコールはないものの一定の効果は示唆されている 1)〜15)。現状では手術・化学療法・放射線外照射療法を組み合わせた集学的治療が基本である。Tennvall らは 4)1984 年より1999 年にかけて55 例の未分化癌症例について治療期間により3 つの集学的治療プロトコールを施行し報告している。治療開始時に放射線外照射(30 Gy)とドキソルビシン20 mg/ 週による化学療法を組み合わせ,手術でできるだけ切除し,術後に放射線外照射(16 Gy)と化学療法(ドキソルビシン20 mg/ 週)を行う2 つのプロトコール(放射線照射方法が通常法と分割照射の違い)と手術前に放射線照射(hyperfactionated accelerated radiotherapy:加速多分割照射)46 Gy と化学療法(ドキソルビシン20 mg/週)を行い,手術を行うプロトコールで予後の比較を行っている。生命予後については各プロトコールで差はないものの,局所コントロールについては術前照射群で最も良好な結果を報告している。Besic ら 5)は79 例の未分化癌症例のうち,手術のみを行ったグループ(26 例)と化学療法と放射線外照射で治療したグループ(53 例,そのうち12 例は後に手術施行)で予後の比較を行っている。この2 群間では1 年生存者数に差はなかったものの,術前に化学療法,放射線外照射療法を行い,手術治療を行った症例が最も1年生存率が良いという結果から,治療は化学療法・放射線外照射療法から始めて,その後に手術を行うプロトコールがよいと結論している。

一方,手術後(減量手術後)に化学療法・放射線外照射療法を行い,1 年生存率が60%であったとしている報告もある 16)。これらの報告では治療法選択のバイアスがあるために単純な比較はできないが,放射線外照射の意義は明らかである。放射線外照射治療は40 Gy 以上の線量を照射することが望ましく,腫瘍の増殖速度を考えると加速分割照射法で行うことが望ましい。しかし,脊髄神経への障害を配慮しなければならない。

化学療法に使用する薬剤は過去に,ドキソルビシンが最も多く使用され,これを中心に多剤を組み合わせた治療も報告されているが,副作用が強いものの奏効率は低い。現状では有効な薬剤はないが,CQ37 でも触れたが,パクリタキセルは毒性も低く,奏効率もある程度は期待できるため,集学的治療に組み込むことで予後の改善に期待できる薬剤である 6)。また,ネオアジュバント化学療法としてウィークリーパクリタキセルの有効性の報告があり,今後期待される治療法である 17)

未分化癌において生存率の向上を図るには集学的治療を行うことが必要である。3 つの治療法のうち過去の報告から手術治療が生存期間を延ばす因子として挙げているものが多い。よって,治療開始時に手術が可能な場合には,まずは手術を行い,その後,他の2 治療を行うことが望ましい。治療開始時に手術不能,ないしは遠隔転移を有している場合には放射線外照射・化学療法を先行させ,手術可能な状態が得られれば,手術を行う。遠隔転移を有している症例においても,局所病変のコントロールを行うことで予後の延長が得られるという報告もあり,局所病変が患者のQOL を低下させる可能性が強いことを考慮しても,局所治療も行う意義はある 12)。一方,Sugitani ら 18)は未分化癌の予後に関与する因子として,腫瘍径(> 5 cm),急性症状,遠隔転移,白血球増多を挙げている。これらの因子が1 個以下の症例では6 カ月生存率が62%であったのに対し,3 個以上の因子を有した症例では全例が6 カ月以内に死亡した。これらの予後因子を勘案して集学的治療を行うことを勧めている。また,治療中においてもその効果判定は細やかに行い,効果を認めない場合には,治療方針の変更が必要である。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Pudney D, Lau H, Faick V. Clinical experience of the multimodality management of anaplastic thyroid cancer and literature review. Thyroid 2007;17:1243-1250.(RS)

2) Wang Y, Tsang R, Asa S, et al. Clinical outcome of anaplastic thyroid carcinoma treated with radiotherapy of once- and twice-daily fractionation regimens. Cancer 2006;107:1786-1792. (RS)

3) De Crevoisier R, Baudin E, Bachelot A, et al. Combined treatment of anaplastic thyroid carcinoma with surgery, chemotherapy, and hyperfractionated acccelerated external radiotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2004;60:1137-1143.(PS)

4) Tennvall J, Lundell G, Wahlberg P, et al. Anaplastic thyroid carcinoma:three protocols combining doxorubicin, hyperfractionated radiotherapy and surgery. Br J Cancer 2002;86:1848-1853.(PS)

5) Besic N, Auersperg M, Us-Krasovec M, et al. Effect of primary treatment on survival in anaplastic thyroid carcinoma. Eur J Surg Oncol 2001;27:260-264.(RS)

6) Ain KB, Egorin MJ, DeSimone PA. Treatment of anaplastic thyroid carcinoma with Paclitaxel: Phase 2 trial using ninety-six-hour infusion. Thyroid 2000;10:587-594.(PS)

7) Busnardo B, Daniele O, Pelizzo MR, et al. A multimodality thrapeutic approach in anaplastic thyroid carcinoma; study on 39 patients. J Endocrinol Invest 2000;23:755-761.(RS)

8) Passler C, Scheuba C, Prager G, et al. Anaplastic(undifferentiated)thyroid carcinoma(ATC). A retrospective analysis. Langenbeck’s Arch Surg 1999;384:284-293.(RS)

9) Kobayashi T, Asakawa H, Umeshita K, et al. Treatment of 37 patients with anaplastic carcinoma of the thyroid. Head Neck 1996;18:36-41.(RS)

10) Chemotherapy committee, the Japanese society of thyroid surgery. Intensive chemotherapy for anaplastic thyroid carcinoma:combination of cisplatin, Doxorubicin, Etoposide and Peplomycin with Granulocyte colony-stimulating factor support. Jpn J Clin Oncol 1995;25:203-207.(RS)

11) Tennvall J, Lundell G, Hallquist A, et al. Combined doxorubicin, hyperfractionated radiotherapy, and surgery in anaplastic thyroid carcinoma. Report on two protocols. The Swedish Anaplastic Thyroid Cancer Group. Cancer 1994;74:1348-1354.(RS)

12) Levendag PC, De Porre PM, van Putten WL. Anaplastic carcinoma of the thyroid gland treated by radiation therapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys 1993;26:125-128.(RS)

13) Schlumberger M, Parmentier C, Delisle MJ, et al. Combination therapy for anaplastic giant cell thyroid carcinoma. Cancer 1991;67:564-566.(PS)

14) Chang HS, Nam KH, Chung WY, et al. Anaplastic thyroid carcinoma:a therapeutic dilemma. Yonsei Med J 2005;46:759-764.(RS)

15) 山下共行,嶋岡勝太郎,伊藤國彦,他.甲状腺未分化癌に対する化学療法の意義とその成績.内分泌外科 1992;9:213-218.(RS)

16) Sugino K, Ito K, Mimura T, et al. The important role of operations in the management of anaplastic thyroid carcinoma. Surgery 2002;131:245-248.(RS)

17) Higashiyama T, Ito Y, Hirokawa M, et al. Induction chemotherapy with weekly paclitaxel administration for anaplastic thyroid carcinoma. Thyroid 2010;20:7-14.(RS)

18) Sugitani I, Kasai N, Fujimoto Y, et al. Prognostic factors and therapeutic strategy for anaplastic carcinoma of the thyroid. World J Surg 2001;25:617-622.(RS)


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CQ 39
分化癌再発時に未分化癌と診断された場合に,未分化癌として治療するか?
推奨グレード
B 未分化癌は,生物学的性格・臨床像が分化癌とは異なり,分化癌を標的とした治療は無効であるため未分化癌としての対処が必要である。
【背 景・目 的】

甲状腺分化癌の再発病巣で未分化癌(未分化転化)が認められることがあることは経験的に知られている(☞コラム3 参照)。未分化転化の危険因子や臨床像,そのような場合の標準的治療とその裏付けとなる基礎的解析結果,さらに治療成績について検討した。

【解 説】

甲状腺分化癌の再発巣で未分化癌が認められることがあり,再発を繰り返すことで頻度が高くなると報告されている 1)。その頻度については調査・報告がなされておらず不明であるが,甲状腺癌死例の検討からみると,分化癌の再発時に未分化転化している症例があることは明らかである 2)3)。このような症例での個々の治療経験は報告されているものの,標準的治療とその成績についての検討,治療法の比較研究は存在しない。

再発巣が未分化癌であった場合,それまで分化癌に対して行われていた治療は奏効せず,進展は急速となり,予後は不良である。

未分化転化した癌細胞にはTSH 受容体は発現せず 4),サイログロブリンの産生能も認められず 5),ヨードの取り込み能はないことから,TSH 抑制療法や放射性ヨード内用療法は適応とはならない。手術的治療は,治癒切除されたリンパ節転移再発巣などに偶然に未分化癌が発見された例でのみ長期予後が期待できると報告されている 6)が,この場合でも術後の補助化学療法・放射線療法の追加が必要と考えられる 6)。それ以外の手術的治療は,未分化癌確認のための生検目的,気道確保目的,出血や感染のコントロール目的や,あるいは整容性を保つ目的から選択されることがあるが,ほとんどの場合根治的治療とはならない。気道を確保する目的での気管切開などの姑息手術は,窒息を回避することで予後やQOL を改善する効果があると報告されている 2)3)7)

分子生物学的解析から未分化癌では分化癌と同様の異常 8)9)に加えて,悪性度が増すような変化 10)〜14),遺伝子・染色体不安定性の亢進 15)〜18)が示されている。このような変化によって,同時に化学療法や放射線療法への抵抗性を獲得していると考えられている 19)。化学療法や放射線療法は,一般の未分化癌と同様の症例選択・方法で行われる場合が多いが,未分化転化した症例に対して化学療法が奏効したという報告はない。骨転移による疼痛・神経症状の緩和,あるいは上大静脈症候群の緩和目的で放射線外照射の適応があると考えられる。

以上のごとく,甲状腺癌再発巣での未分化転化に対しては症例数が少なく,個々の経験に頼った治療がなされている現状であり,今後全国的・国際的な症例の集積・治療法の臨床研究が必要な分野である。また,標準的治療法が確立されておらず,予後不良なことから緩和医療の介入も必要である(☞コラム11 参照)。米国では,新たな治療法開発への取り組みとして,甲状腺未分化癌患者に対し,分子標的薬剤の治験など新規治療法の臨床研究への参加が推奨されている 20)〜22)

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。また,二次資料として米国臨床内分泌学会・内分泌外科学会(AACE/AAES),米国甲状腺学会(ATA),National Comprehensive Cancer Networkのガイドラインを参考にした。

【参考文献】

1) Ozaki O, Ito K, Mimura T, et al. Anaplastic transformation of papillary thyroid carcinoma in recurrent disease in regional lymph nodes:a histologic and immunohistochemical study. J Surg Oncol 1999;70:45-48.(CaseR)

2) Kitamura Y, Shimizu K, Nagahama M, et al. Immediate causes of death in thyroid carcinoma: clinicopathological analysis of 161 fatal cases. J Clin Endocrinol Metab 1999;84:4043-4049.(RS)

3) 大住省三,高嶋成光,万代光一,他.甲状腺癌剖検症例13 例の検討.癌の臨 1996;42:267-272. (RS)

4) Brabant G, Maenhaut C, Kohrle J, et al. Human thyrotropin receptor gene:expression in thyroid tumors and correlation to markers of thyroid differentiation and dedifferentiation. Mol Cell Endocrinol 1991;82:R7-12.(Others)

5) Wiseman SM, Griffith OL, Deen S, et al. Identification of molecular markers altered during transformation of differentiated into anaplastic thyroid carcinoma. Arch Surg 2007;142:717- 727;discussion 727-729.(Others)

6) Ito Y, Higashiyama T, Hirokawa M, et al. Prognosis of patients with papillary carcinoma showing anaplastic transformation in regional lymph nodes that were curatively resected. Endocr J 2008;55:985-989.(CaseR)

7) Shaha AR. Airway management in anaplastic thyroid carcinoma. Laryngoscope 2008;118:1195-1198.(RS)

8) Takano T, Ito Y, Hirokawa M. BRAF V600 E mutation in anaplastic thyroid carcinomas and their accompanying differentiated carcinomas. Br J Cancer 2007;96:1549-1553.(Others)

9) Wang HM, Huang YW, Huang JS, et al. Anaplastic carcinoma of the thyroid arising more often from follicular carcinoma than papillary carcinoma. Ann Surg Oncol 2007;14:3011-3018. (Others)

10) Nakamura T, Yana I, Kobayashi T. p53 gene mutations associated with anaplastic transformation of human thyroid carcinomas. Jpn J Cancer Res 1992;83:1293-1298.(Others)

11) Bond JA, Oddweig Ness G, Rowson J, et al. Spontaneous de-differentiation correlates with extended lifespan in transformed thyroid epithelial cells:an epigenetic mechanism of tumour progression? Int J Cancer 1996;67:563-572.(Others)

12) Hunt JL, Tometsko M, LiVolsi VA, et al. Molecular evidence of anaplastic transformation in coexisting well-differentiated and anaplastic carcinomas of the thyroid. Am J Surg Pathol 2003; 27:1559-1564.(Others)

13) Aratake Y, Nomura H, Kotani T, et al. Coexistent anaplastic and differentiated thyroid carcinoma:an immunohistochemical study. Am J Clin Pathol 2006;125:399-406.(Others)

14) Wiseman SM, Masoudi H, Niblock P, et al. Derangement of the E-cadherin/catenin complex is involved in transformation of differentiated to anaplastic thyroid carcinoma. Am J Surg 2006; 191:581-587.(Others)

15) Wallin G, Backdahl M, Tallroth-Ekman E. Co-existent anaplastic and well differentiated thyroid carcinomas:a nuclear DNA study. Eur J Surg Oncol 1989;15:43-48.(RS)

16) Wiseman SM, Loree TR, Hicks WL Jr, et al. Anaplastic thyroid cancer evolved from papillary carcinoma:demonstration of anaplastic transformation by means of the inter-simple sequence repeat polymerase chain reaction. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 2003;129:96-100.(Others)

17) Rodrigues RF, Roque L, Rosa-Santos J. Chromosomal imbalances associated with anaplastic transformation of follicular thyroid carcinomas. Br J Cancer 2004;90:492-496.(Others)

18) Salvatore G, Nappi TC, Salerno P. A cell proliferation and chromosomal instability signature in anaplastic thyroid carcinoma. Cancer Res 2007;67:10148-10158.(Others)

19) O’Neill JP, O’Neill B, Condron C, et al. Anaplastic(undifferentiated)thyroid cancer:improved insight and therapeutic strategy into a highly aggressive disease. J Laryngol Otol 2005;119: 585-591.(NR)

20) Thyroid Carcinoma Task Force. AACE/AAES Medical/Surgical guidelines for clinical practice: management of thyroid carcinoma. American Association of Clinical Endocrinologists. American College of Endocrinology. Endocr Pract 2001;7:202-220.(Others)

21) Singer PA, Cooper DS, Daniels GH, et al. Treatment guidelines for patients with thyroid nodules and well-differentiated thyroid cancer. American Thyroid Association. Arch Intern Med 1996; 156:2165-2172.(Others)

22) Sherman SI, Angelos P, Ball DW, et al. National Comprehensive Cancer Network. Clinical Practice Guidelines in Oncology-v.1. 2009. Thyroid Carcinoma. http://www.nccn.org/(on line)(Others)


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コラム11 緩和ケアを考えるのはどのような時期か?告知すべきか?
要旨
甲状腺未分化癌は進行が速いため,症状の変化に応じて継続的に有効な治療・ケアを遅延なく提供する必要がある。予後は極めて不良であり,初診時から終末期を意識した緩和ケアの対象となる。告知に際しては,病名・病状や治療法の説明にとどまることなく,トレーニングや知識に基づいた緩和ケアと継続的なコミュニケーションが不可欠である。
【解 説】

甲状腺未分化癌は,一般の癌と大きく異なる疾患としての特性をもつ。高齢者が罹患することが多いので,患者本人だけでなく家族・関係者へのインフォームドコンセントが重要となる。治療にあたっては,患者本人以上に周囲関係者とのコミュニケーションが必要になることも決して少なくない。疼痛性の腫瘤や呼吸困難,通過障害など他覚的に認識できる症状が認められるため,適切な症状緩和や支持療法 1)〜4)が行われなければ,患者周囲の関係者の心理的反応は当然強いものがある。進行は極めて速く,癌告知に対する患者の一般的反応過程,すなわち初期の衝撃・否認・混乱から病状の認識・受容・適応を待つ時間的余裕のないうちに治療が開始されることが多くなる。患者のみならず,医療者の予想を上回る病状の進行も稀ではなく,結果として治療やケアが後手に回ることで相互の信頼関係の構築を妨げる結果となり得る。ほとんどの症例で根治的治療はなく,診断がすなわち“ 近い将来の死” を意味することとなる。積極的抗癌治療が開始され小康を得ても,少数の例外を除いて短期間の持続であることが多い。さらに治療が奏効しない場合,急速に(数日単位で)病状が悪化していく。したがって,患者側・医療者側ともに治療に対する満足感を得ることは極めて困難で,双方ともに不安・抑うつなど心理的ストレスを感じる機会は多く,そのような状況で互いに病気に対して正面から向き合うことは容易ではない。甲状腺未分化癌の予後は,平均して診断後半年以内 5)であり,一般的には“ 癌の終末期” と考えられる期間に等しい。欧米のガイドライン 6)〜8)でも根治切除不能な症例でのQOL の重視,緩和医療の介入,治験への参加が記載されている。

以上のような理由から,甲状腺未分化癌と診断した患者に対しては,診断当初から緩和ケアが介入すべきである。専門の緩和ケアチームが活動する施設は少ないのが現状であり,主治医が緩和医療 9)の基本スキルや最低限必要な薬剤などについて知識を深めておくことが重要である。確実な根治的治療ではない以上,手術や放射線療法,化学療法などの“ 積極的な抗癌治療” といえども少数の例外を除いて姑息治療と位置付けされ,治療に対する反応性を確認しつつ,経過の中で随時中止することが考慮されるべきである。一方で“ 積極的な支持療法” は,未分化癌の疑診の段階から最期まで途切れることなく継続されなければならない。病状の変化が激しい本疾患では患者・家族・医療者間の継続的なコミュニケーションにより,個々の例に応じて治療スタンスを随時変更していく必要があろう。スムーズな医療を行うためには,治療開始時に抗癌治療の中止や終末期の迎え方を含めた長期的な治療計画について話し合うことが極めて有用である。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。また,二次資料として米国臨床内分泌学会・内分泌外科学会(AACE/AAES),米国甲状腺学会(ATA),National Comprehensive Cancer Networkのガイドラインを参考にした。

【参考文献】

1) Kitamura Y, Shimizu K, Nagahama M, et al. Immediate causes of death in thyroid carcinoma: clinicopathological analysis of 161 fatal cases. J Clin Endocrinol Metab 1999;84:4043-4049.(RS)

2) Shaha AR. Airway management in anaplastic thyroid carcinoma. Laryngoscope 2008;118:1195- 1198.(RS)

3) Wang Y, Tsang R, Asa S, et al. Clinical outcome of anaplastic thyroid carcinoma treated with radiotherapy of once-and twice-daily fractionation regimens. Cancer 2006;107:1786-1792.(RS)

4) Brierley JD, Tsang RW. External beam radiation therapy for thyroid cancer. Endocrinol Metab Clin North Am 2008 ;37:497-509.(NR)

5) O’Neill JP, O’Neill B, Condron C, et al. Anaplastic(undifferentiated)thyroid cancer:improved insight and therapeutic strategy into a highly aggressive disease. J Laryngol Otol 2005;119:585-591.(NR)

6) Thyroid Carcinoma Task Force. AACE/AAES Medical/Surgical guidelines for clinical practice: management of thyroid carcinoma. American Association of Clinical Endocrinologists. American College of Endocrinology. Endocr Pract 2001;7:202-220.(Others)

7) Singer PA, Cooper DS, Daniels GH, et al. Treatment guidelines for patients with thyroid nodules and well-differentiated thyroid cancer. American Thyroid Association. Arch Intern Med 1996; 156:2165-2172.(Others)

8) Sherman SI, Angelos P, Ball DW, et al. National Comprehensive Cancer Network. Clinical Practice Guidelines in Oncology-v.1. 2009. Thyroid Carcinoma. http://www.nccn.org/(on line)(Others)

9) 門脇重憲,田原 信,西条長宏,他.臨床腫瘍学から見た緩和ケア.日臨 2007;65:5-10.(NR)


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コラム12 甲状腺扁平上皮癌は未分化癌と別個に分類されているが,治療の方針や予後は一般的な未分化癌と同様か?
要旨
甲状腺扁平上皮癌は発育・進行が急速で,放射線療法・化学療法には抵抗性であり,予後は未分化癌と同等である。根治術後の放射線治療が可能な症例でのみ長期予後が期待できる。進行例ではQOL に重点を置いた姑息療法,緩和医療を治療の中心とすべきである。
【解 説】

甲状腺原発扁平上皮癌(squamous cell carcinoma)は,「腫瘍全体が扁平上皮への分化を示す癌」と定義されている 1)。頻度は甲状腺癌の1%未満とされ,臨床的に未分化癌と差はなく,急速に発育し,腫瘍は硬く,局所での周囲進展のために気管や食道への狭窄症状が出現することが多いとされる。遠隔転移が20%程度,リンパ節転移も頻度が高く,未分化癌と同様の病期分類(3-e. 未分化癌:前文を参照)を行うと記載されている 1)。甲状腺癌取扱い規約(第6 版) 2)によると,「腫瘍の全体が扁平上皮への分化を示すものであり,未分化癌と同様の臨床経過をたどる。通常は周囲組織への浸潤が顕著である。乳頭癌の扁平上皮化生,他臓器の扁平上皮癌の浸潤または転移,胸腺様分化を示す癌との鑑別が必要である。」と記載されている。1977 〜2005 年のわが国の集計 3)では,88 例(全甲状腺癌中1. 7%)が登録され,2005 年のみの単年度では2 例(1. 2%)の登録となっており,わが国においても極めて稀な組織型である。片桐らのわが国における扁平上皮癌33 例の集計 4)では,平均年齢65. 2 歳,男女比1:1. 3,高齢者に多く認められ,突然に発症し急速な進行を示すという特徴をもち,半数以上(23/33)が切除不能で,放射線・化学療法に抵抗性を示し,半数は1 年未満で死亡,平均8. 4 カ月の予後は甲状腺未分化癌に匹敵したと報告されている。平成17 年の国内調査でも,26 例が集計され,男女比1:1. 3,平均67 歳,根治術が行われた14 例中12 例(85. 7%)に再発がみられ,根治術後の2年生存率は約20%に過ぎなかった〔第38 回 甲状腺外科研究会当番世話人アンケート調査報告:“ 甲状腺内胸腺腫(ITT/CASTLE)と甲状腺扁平上皮癌”〕。

乳頭癌の長期経過中 5)やtall cell variant 6)〜8)からの扁平上皮癌化も報告されているが,乳頭癌に扁平上皮癌への化生を有するものは比較的予後良好であり,未分化癌組織が混在する扁平上皮癌では未分化癌が予後を規定することとなる 9)ため,扁平上皮癌とは区別すべきであるとされる。さらに,他臓器原発の扁平上皮癌が甲状腺を冒した場合も,同様に甲状腺原発扁平上皮癌に比べて治療反応性で予後が良いと報告されている 10)。このような理由から,冒頭の定義のように腫瘍全体が扁平上皮癌であることが診断の条件となるが,稀な組織型であるため治療法についてのまとまった検討はない。

Cook ら 11)は単一施設での扁平上皮癌16 例の治療経験を報告しており,4 例は手術のみ,4 例は術後放射線外照射,6 例は放射線外照射のみで治療し,生存中央値は16 カ月であった。3 例の長期生存があり,いずれも根治的切除術後放射線外照射療法を受けている。手術のみ,放射線外照射のみでは,全例で治療後局所病変が再発・再燃していることから,根治切除後の放射線治療が行い得る症例に限って長期生存が期待できると考えられる。Booya ら 10)は10 例の検討から診断後の生存期間は平均8. 6 カ月と報告している。Zhou ら 12),Lam ら 13),Makay ら 14)も少数例の経験から同様の傾向を認めており,ほとんどの症例が4 カ月以内に死亡したと報告している。

化学療法はフルオロウラシルとシスプラチンの併用,ドキソルビシン,ブレオマイシン,ビンクリスチンの併用が試みられている 11)が,現在まで効果がみられたプロトコールは存在していない。タキサンなどの新規抗癌剤の使用経験は報告されていない。サイログロブリンやTTF-1 といった分化癌マーカーが陰性である 10)ことから放射性ヨードによる治療は無効であると考えられる。

以上の臨床的特徴から甲状腺原発の扁平上皮癌は未分化癌と同様の治療方針で対処すべきと考えられる。Booya ら 10)は気道の障害が大部分での死因と報告しており,未分化癌に比較すると扁平上皮癌では局所進展がさらに顕著であり,制御は極めて困難と考えられる。進行例ではQOL に重点を置いた姑息療法,緩和医療を治療の中心と考えざるを得ない。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。また,二次資料として「甲状腺癌取扱い規約 第6 版」,第38回甲状腺外科研究会当番世話人アンケート調査報告冊子,第40 回甲状腺外科学会抄録集を参考にした。

【参考文献】

1) Lam KY, Sakamoto A. Squamous cell carcinoma. In WHO Classification of tumors. Pathology & Genetics. Tumors of the Endocrine Organs. DeLellis RA, Lloyd RV, Heitz PU, Eng C(. Ed). IARC press, Lyon, p 81, 2004.

2) 甲状腺外科研究会編.扁平上皮癌.甲状腺癌取扱い規約 第6版,金原出版,p 29.2005.

3) 甲状腺外科学会,甲状腺悪性腫瘍登録委員会. 甲状腺悪性腫瘍登録集計(1997-2005).第40回甲状腺外科学会抄録集巻末,2007.

4) 片桐 誠,山根康彦,保田健太郎,他.甲状腺扁平上皮癌の治療と問題点-自験例と文献的検討. 日臨外会誌 1989;50:2326-2336.(CaseR)

5) Harada T, Shimaoka K, Katagiri M, et al. Rarity of squamous cell carcinoma of the thyroid: autopsy review. World J Surg 1994;18:542-546.(RS)

6) Bronner MP, LiVolsi VA. Spindle cell squamous carcinoma of the thyroid:an unusual anaplastic tumor associated with tall cell papillary cancer. Mod Pathol 1991;4:637-643.(RS)

7) Kleer CG, Giordano TJ, Merino MJ. Squamous cell carcinoma of the thyroid:an aggressive tumor associated with tall cell variant of papillary thyroid carcinoma. Mod Pathol 2000;13:742- 746.(CaseR)

8) Sutak J, Armstrong JS, Rusby JE. Squamous cell carcinoma arising in a tall cell papillary carcinoma of the thyroid. J Clin Pathol 2005;58:662-664.(CaseR)

9) 葛島達也,小林俊三,岩瀬弘敬,他.扁平上皮癌への化生を示した甲状腺癌の検討.日臨外会誌1994;55:294-297.(RS)

10) Booya F, Sebo TJ, Kasperbauer JL, et al. Primary squamous cell carcinoma of the thyroid: report of ten cases. Thyroid 2006;16:89-93.(RS)

11) Cook AM, Vini L, Harmer C. Squamous cell carcinoma of the thyroid:outcome of treatment in 16 patients. Eur J Surg Oncol 1999;25:606-609.(RS)

12) Zhou XH. Primary squamous cell carcinoma of the thyroid. Eur J Surg Oncol 2002;28:42-45. (CaseR)

13) Lam KY, Lo CY, Liu MC. Primary squamous cell carcinoma of the thyroid gland:an entity with aggressive clinical behaviour and distinctive cytokeratin expression profiles. Histopathology 2001;39:279-286.(CaseR)

14) Makay O, Kaya T, Ertan Y, et al. Primary squamous cell carcinoma of the thyroid:report of three cases. Endocr J 2008;55:359-364.(CaseR)