腎障害 〜診療ガイドライン

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目次:


推奨

  がん薬物療法前後の腎機能評価

CQ1

抗がん薬投与における用量調節のための腎機能評価にeGFR は推奨されるか?

  1. 抗がん薬投与量を調整するための腎機能評価には,患者が年齢・性別に応じた標準的な体格であれば,すなわち栄養不良,極端なるい痩あるいは極端な肥満がなければeGFR を用いることを推奨する。
  2. 栄養不良,極端なるい痩など筋肉量が標準値よりも著しく異なると考えられる患者では,eGFR はGFR を正確に反映しないことがある。そのような場合には,血清Cr 値からのeGFR ではなく,蓄尿によるGFR 測定など他の方法を併用することを推奨する。
  3. 体格にかかわらず固定用量が定められている薬剤については,1.73 m2あたりの体表面積補正をしないクレアチニン・クリアランス(Ccr)ないしeGFR(mL/分)に応じた用量調整を行う。
  4. 体格に応じ,体表面積あたりで用量が定められている薬剤では,体表面積補正(1.73 m2あたり)を行ったCcr あるいはeGFR(mL/分/1.73 m2)を用いることが合理的である。
  5. Cockcroft-Gault 式によるCcr(mL/分)はJaffé 法で測定された血清Cr 値を用いて計算されたものである。わが国で一般的な,酵素法で測定されたCr 値を用いる際には,実測Cr 値に0.2 を加える。
推奨グレード
行うことを弱く推奨する(提案する)
要 約

抗がん薬投与量を調整するための腎機能評価には,患者が年齢・性別に応じた標準的な体格であれば,すなわち栄養不良,極端なるい痩あるいは極端な肥満がなければeGFR を用いることを推奨する。栄養不良,極端なるい痩など筋肉量が標準値よりも著しく異なると考えられる患者では,eGFR はGFR を正確に反映しないことがある。そのような場合には,血清Cr 値からGFR を推算するのではなく,蓄尿によるGFR 測定など他の方法を併用することを推奨する。体格にかかわらず固定用量が定められている薬剤については,1.73 m2あたりの体表面積補正をしないクレアチニン・クリアランス(Ccr)ないしeGFR(mL/分)に応じた用量調整を行う。体格に応じ,体表面積あたりで用量が定められている薬剤では,体表面積補正(1.73 m2あたり)を行ったCcr あるいはeGFR(mL/分/1.73 m2)を用いることが合理的である。Cockcroft-Gault 式を用いたCcr(mL/分)はJaffé 法による血清Cr 値を用いたものである。わが国で一般的な酵素法によるCr 値を用いる際には,実測Cr 値に0.2 を加える。

背景・目的

安全で効果的な抗がん化学療法を実施するためには,抗がん作用が最大限発揮され,副作用を最小化するような適切な薬剤用量の設定が重要である。腎排泄型の薬剤に対しては,腎機能障害時に薬剤が蓄積し重篤な副作用が出現しうるため,腎機能に応じた用量調節が必要となる。

腎機能評価にはGFR が使用される。海外ではGFR 物質であるEDTA やiothalamate をクロム(Cr,chromium)やヨウ素(I)などの放射性同位元素で標識した51Cr(クロム)-EDTA や125I-sodium iothalamate のクリアランスを用いたGFR 測定1)が,わが国ではイヌリン・クリアランス1)がgold standard である。しかし,GFR を実測するためにはイヌリンや放射性物質により標識した外因性クリアランス物質を静注したうえで,蓄尿を必要とするので検査が煩雑になる。そのため通常は血清Cr からCcr やGFR を推算して用いることが多い。さまざまなGFR 推算式が考案されているが(メモ12-8),大部分は慢性腎臓病患者や健常者を対象として作成されており,がん患者に対する有効性は十分には検証されていない。

腎機能障害のある患者に対する用量調節は,治験時の薬物動態のデータに基づくことが多い。腎機能に応じた用量調節試験は,Cockcroft-Gault 式に基づくCcr を用いることが多かった。2010 年に米国のFDA が腎障害患者に対する薬物動態研究に関するガイダンスを発表し9),従来のCockcroft-Gault 式によるCcr に加え,MDRD 式によるeGFR を用いることを提唱したため,今後開発される薬剤についてはeGFR による用量調節が一般的になるかもしれない。欧州医薬品庁(EMA)の改訂ガイドライン案でもMDRD 式とCKD-EPI 式によるeGFR を用いた腎機能評価について記載されている10)。わが国では,厚生労働省による「経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン」のなかで,「臨床試験の評価において推奨される観察項目」として「腎機能指標(eGFR,Ccr など)」が示されている11)。これは,薬物用量調節に関するものではないが,今後,わが国の治験時の腎機能指標としてeGFR が用いられることが多くなるかもしれない。

本稿の目的は抗がん薬投与における腎機能評価法に関するこれまでの知見を検討し,実際の臨床におけるその有用性と限界を明らかにすることである。

解 説

薬剤の腎排泄経路は糸球体濾過と尿細管排泄であるが,尿細管の薬物排泄能を定量的に評価する簡便な方法はないため,通常はGFR に基づいて薬剤投与量を調節する。新規薬剤開発においても,GFR あるいはそれを反映するCcr を用いて用量が設定されることが多い。そのため,抗がん薬投与時の用量調節においてもGFR を基準とする。

GFR を測定するには,糸球体で完全に濾過され,タンパク質などに結合せず,体内で代謝されず,尿細管で分泌も再吸収もされない物質のクリアランスを測定することが必要であり,gold standard としてわが国ではイヌリン・クリアランスが,海外では,51Cr(クロム)-EDTA,125I-sodium iothalamate,iohexol などのクリアランス測定が用いられる。GFR の代用としてCcr が測定されることもあるが,Ccr(酵素法)はイヌリン・クリアランスで測定したGFR にくらべて20〜30%高値となる。これはCr が糸球体で濾過されるほかに尿細管から分泌されるためであり,GFR≒Ccr×0.715 の関係がある12)。これらの方法は,試薬の投与や蓄尿を必要とし,結果が報告されるまで時間を要することなどから臨床現場で使用するには制約がある。そのため血清Cr 値からGFR やCcr を推定する推算式が開発された。

従来はCockcroft-Gault 式による推算Ccr を用いて用量調節を行うことが一般的であった。しかしCcr はGFR より高値となるためGFR を正確に推定する各種の推算式が開発され,薬物の用量調節にも用いられるようになってきた13)。eGFR や推算Ccr の計算式の多くは,健常人や慢性腎臓病患者を対象として作成され,がん患者を対象としたものは少ない。がん患者を対象としたGFR 推算式にはWright 式5),Martin 式6),Jelliffe 式7)があるが,日本人がん患者を対象とした推算式はまだ開発されていない。そこで,「抗がん薬投与における用量調節のための腎機能評価にeGFR は推奨されるか」というクリニカル・クエスチョンに対して,抗がん薬投与における用量調節のための腎機能評価として「血清Cr 値から推算されるeGFR は,gold standard とされるイヌリン・クリアランスや51Cr(クロム)-EDTA・クリアランス,125I-sodium iothalamate・クリアランスによるGFRの代用となるか」,「eGFRは従来用いられているCockcroft-Gault 式によるCcr の代用となるか」という二つの問いを設定し,文献検索を行った。実測GFR とeGFR を比較した研究は12 件14-25),実測Ccr とeGFR を比較した研究は3 件26-28),Cockcroft-Gault 式によるCcr とeGFR などの推算式を比較した研究は3 件であった29-31)

がん患者を対象に,各種推算式の妥当性を検証した研究の結果は一致せず,一定の範囲で真のGFR の過大評価,過小評価につながる可能性が指摘されている。GFR の過大評価は抗がん薬の過量投与,副作用リスクの増加につながり,GFR の過小評価は,抗がん薬の不十分な投与量から抗がん作用の減弱につながる可能性がある。日本人がん患者を対象に日本腎臓学会のeGFR と実測GFR を比較した研究も少ないため今後の研究が望まれる。血清Cr ではなく血清シスタチンCからのGFR推算式の有用性に関する研究も必要であろう。研究の多くは,gold standard である実測GFR とeGFR を比較したものであり,eGFR に基づいて抗がん薬投与を行った場合の治療効果や副作用を検討したものではない。eGFR を用いた場合と,実測GFR あるいはCockcroft-Gault 式を用いたCcr の,臨床的アウトカムを比較した研究も必要である。

現時点では,日本腎臓学会の推算式を用いたeGFR でおおよその腎機能を評価し,腎機能が正常であれば抗がん薬投与量調節は不要と考えてよいであろう。ただし治験時のデータに基づいて投与量を調整する際には,同じ腎機能評価法や推算式を使用して評価すると安全である。いずれの推算式を用いる場合でも,抗がん薬投与量調節が必要な腎機能の症例や境界領域の症例で,体格が標準範囲を著しく逸脱するような場合では,血清Cr 値からのeGFR ではなく,蓄尿による実測GFR(メモ2)やシスタチンC による推算GFR など他の方法を併用することが安全であろう。蓄尿による実測GFR はイヌリン・クリアランスが望ましいが,実施困難な場合には,Ccr(酵素法)に0.715 を乗じて近似する方法もある12)

Ccr やGFR に応じて薬剤用量を調節する際に注意すべき点がある。Ccr やGFR を評価する際,体表面積補正をするかどうかという点と,Cockcroft-Gault 式に使用する血清Cr 値の測定法に関してである。

薬剤用量は,(1)患者体格(体重や体表面積)にかかわらず一定の固定用量(mg/日)が定められている場合と,(2)患者体格(体重や体表面積)に応じて用量が定められている場合とがある。体格にかかわらず固定用量が定められている薬剤については,体表面積補正をしないCcr ないしeGFR(mL/分)に応じた用量調整を行う(メモ3)。これについては,日本腎臓学会編CKD 診療ガイド2012 でも,「腎機能が低下した患者に腎排泄性薬物を使用する際には,腎機能を体表面積を補正しないeGFR(mL/分)で評価して薬物の減量や投与間隔の延長を行う」ことが推奨されている13)。EMA の「腎機能が低下した患者への医薬品薬物動態評価ガイドライン改定案」も,GFR は体表面積補正をしない値で測定・表記することを推奨している10)。一方,体表面積(mg/m2)や体重(mg/kg)あたりで用量が定められている薬剤では,標準体型の体表面積(1.73 m2)で補正したCcr あるいはeGFR(mL/分/1.73 m2)を用いることが合理的である。体表面積に応じて薬物用量が調節された薬剤を,mL/分あたりのCcr ないしGFR で補正した場合には,二重に体格の因子が加味され体格の大きな患者では過量投与,小さい患者では過小投与につながるからである。なお,Cockcroft-Gault 式で算出されるCcr は体表面積補正されていないmL/分だが,MDRD 式や日本腎臓学会のGFR 推算式では1.73 m2あたりに体表面積補正された値(mL/分/1.73 m2)となっているので適用にあたっては注意しなくてはならない。

わが国では酵素法でCr 値を測定することが多いが,Cockcroft-Gault 式はJaffé 法で測定されたCr 値から計算されることに注意する必要がある。Jaffé法では酵素法Cr 値より0.2 mg/dL 高く測定されるので,酵素法Cr 値を用いてCockcroft-Gault のCcr を計算するときには,酵素法Cr 値に0.2 を加える。

なお,尿路系腫瘍に抗がん薬治療をする患者のなかには片腎のことがあるが,eGFR は両腎機能の総和を反映するので,片腎患者に対しても使用可能である。


メモ1 各種腎機能推算式

1)Cockcroft-Gault 式2)

推算Ccr(mL/分)=(140-年齢)×体重(kg)÷(72×血清Cr)

女性は上記の値に0.85 を乗ずる。血清Cr 値はJaffé 法で測定された値を用いるが,酵素法で測定された血清Cr 値には,0.2 を加える。

2)日本腎臓学会のGFR 推算式3)

eGFR(mL/分/1.73 m2)=194×血清Cr-1.094×年齢-0.287
女性は上記の値に0.739 を乗ずる。

3)MDRD 式4)

eGFR(mL/分/1.73 m2)=175×血清Cr-1.154×(年齢)-0.203×(0.742[女性の場合])×(1.212[黒人の場合])

4)Wright 式5)

eGFR(mL/分)={[6580-(38.8×年齢)]×体表面積×[1-0.168×(男性0,女性1)]}/血清Cr
血清Cr 値はJaffé 法で測定。体表面積の推算式についてはメモ2 を参照。

5)Martin 式6)

eGFR(mL/分)={163×体重[kg]×[1-(0.00496×年齢)]×[1-0.252×(男性0,女性1)]}/血清Cr

6)Jelliffe 式7)

推算Ccr(mL/分/1.73 m2)=[98-16(年齢-20)/20)]/血清Cr
20〜80 歳の場合。女性では上記の値に0.9 を乗ずる。

7)CKD-EPI 式8)

eGFR(mL/分/1.73 m2)=141×(血清Cr/κ)α×0.993 年齢
κは男性で0.9,女性で0.7。
αは血清Cr がκより大きいときは-1.209,そうでないときは男性は-0.411,女性は-0.329。
女性の場合はさらに1.018 をかける。
黒人の場合はさらに1.159 をかける。

注:血清Cr 値の単位はWright 式,Martin 式はμmol/L,その他はmg/dL

メモ2 蓄尿による実測GFR の測定法

正確な腎機能評価が必要な場合には,イヌリン・クリアランスの測定が推奨される。標準法と簡易法があり,標準法は1%イヌリンを含む生理食塩液を持続静注し,30 分間隔で蓄尿と中間点採血を3 回行い,3 回のクリアランスの平均値を求める方法である。簡易法は,イヌリンの持続静注下で1 時間程度の蓄尿を行い,蓄尿前後での採血2 回でクリアランスを求める方法である。図にイヌリン・クリアランス簡易法を示す13)。イヌリン・クリアランス測定にあたっては,約700 mL の飲水負荷が必要になるので,体液量過剰とならないように注意する。

図 イヌリン・クリアランス簡易法
 イヌリン・クリアランス簡易法
  1. 1)イヌリン投与開始45 分後に完全排尿。排尿時に採血。
  2. 2)60 分蓄尿を目安に尿意があった時点で採尿。採尿時に採血。
  3. 3)蓄尿時間を正確に記録。
  4. 4)イヌリンの血中濃度は2 点の採血の平均を用いる。

日本腎臓学会編.CKD 診療ガイド2012.東京医学社,2012.

メモ3 体表面積補正をしないGFRとは

eGFR(mL/分/1.73 m2)は標準的な体表面積におけるGFR を予測するものであり,個々の患者の実際のGFR を表したものではない。年齢別,性別の標準的な体格と大きく異なる患者では,GFR を過大評価したり過小評価することがある。そのため薬物の投与設計では必ず体表面積補正をしないGFR(mL/分)で腎機能を評価しなければならない。

「体表面積補正をしない」という意味は,GFR の単位を1.73 m2あたりに補正するのではなく,個々人の実測GFR で表すということである。推算式で計算された数値は,すでに1.73 m2あたりの体表面積に補正されているので,「体表面積補正をしない」数値を計算するには,本人の体表面積を求めたうえで以下のように計算する。

体表面積補正しないGFR(mL/分)=eGFR(mL/分/1.73 m2)÷1.73×本人の体表面積(m2

体表面積の推算式として代表的なものにDuBois 式32)がある。

体表面積(m2)=0.007184×体重(kg)0.425×身長(cm)0.725

【参考文献】

1) Soveri I, et al.;for the SBU GFR Review Group. Measuring GFR:a systematic review. Am J Kidney Dis. 2014;64:411-24. PMID:24840668

2) Cockcroft DW, et al. Prediction of creatinine clearance from serum creatinine. Nephron. 1976;16:31-41. PMID:1244564

3) Matsuo S, et al.;for the Collaborators developing the Japanese equation for estimated GFR. Revised equations for estimated GFR from serum creatinine in Japan. Am J Kidney Dis. 2009;53:982-92. PMID:19339088

4) Levey AS, et al.;for the Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration. Using standardized serum creatinine values in the modification of diet in renal disease study equation for estimating glomerular filtration rate. Ann Intern Med. 2006;145:247-54. PMID:16908915

5) Wright JG, et al. Estimation of glomerular filtration rate in cancer patients. Br J Cancer. 2001;84:452-9. PMID:11207037

6) Martin L, et al. Improvement of the Cockcroft-Gault equation for predicting glomerular filtration in cancer patients. Bull Cancer. 1998;85:631-6. PMID:9752271

7) Jelliffe RW. Creatinine clearance:bedside estimate. Ann Intern Med. 1973;79:604-5. PMID:4748282

8) Levey AS, et al.;for the CKD-EPI(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration). A new equation to estimate glomerular filtration rate. Ann Intern Med. 2009;150:604-12. PMID:19414839

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10) European Medicines Agency. Guideline on the evaluation of the pharmacokinetics of medicinal products in patients with decreased renal function. http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Scientific_guideline/2014/02/WC500162133.pdf

11) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構.「経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン」について.薬食審査発0709 第1 号(平成22 年7 月9 日).http://www.pmda.go.jp/files/000208192.pdf

12) 堀尾勝ほか.腎機能に応じた投薬量の設定―eGFR 使用の注意点.日本腎臓学会誌.2008;50:955-8.

13) 日本腎臓学会.CKD 診療ガイド2012.東京医学社,2012.

14) Dooley MJ, et al. Carboplatin dosing:gender bias and inaccurate estimates of glomerular filtration rate. Eur J Cancer. 2002;38:44-51. PMID:11750838

15) Poole SG, et al. A comparison of bedside renal function estimates and measured glomerular filtration rate(Tc99mDTPA clearance)in cancer patients. Ann Oncol. 2002;13:949-55. PMID:12123341

16) Marx GM, et al. Evaluation of the Cockroft-Gault, Jelliffe and Wright formulae in estimating renal function in elderly cancer patients. Ann Oncol. 2004;15:291-5. PMID:14760124

17) de Lemoss ML, et al. Evaluation of predictive formulae for glomerular filtration rate for carboplatin dosing in gynecological malignancies. Gynecol Oncol. 2006;103:1063-9. PMID:16875719

18) Shimokata T, et al. Prospective evaluation of pharmacokinetically guided dosing of carboplatin in Japanese patients with cancer. Cancer Sci. 2010;101:2601-5. PMID:20860621

19) Ainsworth NL, et al. Evaluation of glomerular filtration rate estimation by Cockcroft-Gault, Jelliffe, Wright and Modification of Diet in Renal Disease(MDRD)formulae in oncology patients. Ann Oncol. 2012;23:1845-53. PMID:22104575

20) Hartlev LB, et al. Monitoring renal function during chemotherapy. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2012;39:1478-82. PMID:22699525

21) Craig AJ, et al. Overestimation of carboplatin doses is avoided by radionuclide GFR measurement. Br J Cancer. 2012;107:1310-6. PMID:22935580

22) Dooley MJ, et al. Dosing of cytotoxic chemotherapy:impact of renal function estimates on dose. Ann Oncol. 2013;24:2746-52. PMID:23928359

23) Shepherd ST, et al. Performance of formulae based estimates of glomerular filtration rate for carboplatin dosing in stage 1 seminoma. Eur J Cancer. 2014;50:944-52. PMID:24445148

24) Shibata K, et al. Renal function evaluation in patients with cancer who were scheduled to receive carboplatin or S-1. Clin Exp Nephrol. 2015;19:1107-13. PMID:25894220

25) Hingorani S, et al. Estimating GFR in adult patients with hematopoietic cell transplant:comparison of estimating equations with an iohexol reference standard. Clin J Am Soc Nephrol. 2015;10:601-10. PMID:25717073

26) Goto T, et al. Impact of different methods of estimating renal function on determining eligibility for cisplatin(CDDP)-based chemotherapy in patients with invasive urothelial carcinoma. Hinyokika Kiyo. 2011;57:671-6. PMID:22240299

27) Uozumi J, et al. Is the eGFR formula adequate for evaluating renal function before chemotherapy in patients with urogenital cancer? A suggestion for clinical application of eGFR formula. Clin Exp Nephrol. 2015;19:738-45. PMID:25281007

28) Inoue N, et al. Are the equations for the creatinine-based estimated glomerular filtration rate applicable to the evaluation of renal function in Japanese children and adult patients receiving chemotherapy? Clin Exp Nephrol. 2015;19:298-308. PMID:24792810

29) 田中佑佳ほか. Modification of Diet in Renal Disease(MDRD)式に基づいた理論的Carboplatin 投与量の臨床的妥当性と副作用発現.癌と化学療法.2009;36:2593-8.

30) Launay-Vacher V, et al. Lung cancer and renal insufficiency:prevalence and anticancer drug issues. Lung. 2009;187:69-74. PMID:18941834

31) Jennings S, et al. Evaluation of creatinine-based formulas in dosing adjustment of cancer drugs other than carboplatin. J Oncol Pharm Pract. 2010;16:113-9. PMID:19578094

32) DuBois D, et al. A formula to estimate the approximate surface area if height and weight be known. Arch Intern Med. 1916;17:863-71.


CQ2

抗がん薬によるAKI の早期診断に,バイオマーカーによる評価は推奨されるか?

現状では,抗がん薬投与によるAKI の早期診断にバイオマーカーによる評価は強く推奨できない。わが国では,尿中タンパク,尿中アルブミン,血清シスタチンC,β2 ミクログロブリン,尿中NAG,尿中L-FABP がAKI に対するバイオマーカーとして測定可能だが,その他も含めて,いまだAKI のバイオマーカーとして強く推奨できるものはない。

推奨グレード
行うことを弱く推奨する(提案する)
要 約

ここ数年,AKI に対する新規のバイオマーカーがいくつか報告されている。しかし今日まで,いずれのバイオマーカーも日常臨床で使用できるほどの高い信頼性,感度,検査・判定の迅速性を得ることはできていない。

背景・目的

① AKI の診断基準

2004 年にAcute Dialysis Quality Initiative(ADQI)が,初めて統一されたAKI の診断基準を提唱した。どの施設でも簡単に測定できる血清Cr と尿量に着目し,RIFLE(Risk, Injury, Failure, Loss, End-stage kidney disease)分類として5 段階にわけられた(表11)。さらに2007 年にAKIN(Acute Kidney Injury Network)よりAKIN 分類が提唱された(表22)。AKIN 分類では48 時間以内に血清Cr の1.5 倍以上または0.3 mg/dL 以上の増加,または6 時間超の尿量減少(<0.5 mL/kg/時)をAKI の診断基準としており,血清Cr の増加,尿量減少の程度により3 段階の重症度に分類される。さらに重症度は7 日以内の血清Cr の増加,尿量減少で評価する。

表1 ADQI によるAKI の診断基準(RIFLE 分類)
  血清Cr またはGFR による診断基準 尿量による診断基準
Risk 血清Cr 上昇≧正常値の1.5 倍,またはGFR 低下>正常値の25% <0.5 mL/kg/時が 6 時間持続
Injury 血清Cr 上昇≧正常値の2 倍,またはGFR 低下>正常値の50% <0.5 mL/kg/時が12 時間持続
Failure 血清Cr 上昇≧正常値の3 倍,またはGFR 低下>正常値の75%,
または急性上昇≧0.5 mg/dL を伴う血清Cr≧4 mg/dL
<0.3 mL/kg/時が24 時間持続
または無尿が12 時間持続
Loss 腎代替療法が必要な状態が4 週間超持続  
ESKD 透析療法が3 ヵ月超持続  

Crit Care. 2004;8:R204-12.(DOI 10.1186/cc2872)©Bellomo R, et al.;licensee BioMed Central Ltd. 2004. http://ccforum.com/content/8/4/R204

表2 AKIN によるAKI の診断基準(AKIN 分類)

ステージ

血清Cr による診断基準 尿量による診断基準

1

血清Cr 上昇≧1.5〜2 倍または0.3 mg/dL <0.5 mL/kg/時が6 時間超持続

2

血清Cr 上昇>2〜3 倍 <0.5 mL/kg/時が12 時間超持続

3

血清Cr 上昇>3 倍または急性上昇0.5 mg/dL を
伴う血清Cr ≧4 mg/dL
<0.3 mL/kg/時が24 時間超持続,
または無尿が12 時間持続

Crit Care. 2007;11:R31.(DOI 10.1186/cc5713)©Mehta RL, et al.;licensee BioMed Central Ltd. 2007.

表3 抗がん薬によるAKI の例(わが国で保険収載されている抗がん薬のみ掲載)
腎血管病変
  毛細管漏出症候群 インターロイキン2
  TMA ベバシズマブ,ゲムシタビン,シスプラチン,マイトマイシンC,インターフェロン
糸球体病変
  微小変化群 インターフェロン,ペメトレキセド
  巣状糸球体硬化症 インターフェロン,ペメトレキセド,ゾレドロン酸
尿細管間質病変
  急性尿細管壊死 白金製剤,ゾレドロン酸,インターフェロン,ペントスタチン,イマチニブ,パミドロン酸
  尿細管炎(ファンコニー症候群) シスプラチン,イホスファミド,アザシチジン,イマチニブ,パミドロン酸
  マグネシウム喪失 シスプラチン,抗EGFR 抗体薬
  腎性尿崩症 シスプラチン,イホスファミド,ペメトレキセド
  抗利尿ホルモン不適切分泌症候群 シクロホスファミド,ビンクリスチン
  急性間質性腎炎 ソラフェニブ,スニチニブ
  尿細管閉塞性腎障害 メトトレキサート

Kidney Int. 2015;87:909-17, Clin J A Soc Nephrol. 2012;7:1713-21.©[2012]American Society of Nephrology. より改変.

② 背景・目的

抗がん薬による腎障害の頻度は高く,薬剤性腎障害の15%を占めるとされ,抗菌薬,非ステロイド性抗炎症薬に次いで頻度が高い3)。また,抗がん薬による薬剤性AKI もよく知られており,導入化学療法を受けた537 人の急性骨髄性白血病あるいは高リスク骨髄異形成症候群患者のうち36%にAKI が発症し,さらにESRDに至った症例では死亡率が61.7%であった4)。さらに別の報告では,AKI を合併したがん患者の死亡率は73%ときわめて高いことが報告されている5)。抗がん薬によるAKI は,CKD やESRD のリスクが増すだけでなく,腎機能低下により抗がん薬投与用量調節が必要になり,目前に迫った次の抗がん薬投与に支障をきたすことも問題となる。数多くの化学療法のレジメンが存在するため,AKI も多様な臨床症状を呈する。抗がん薬によるAKI の例を表3 に示す6, 7)。尿細管障害として代表的な薬剤は白金製剤であり,おもな障害部位は尿細管間質である。たとえば,シスプラチンでは約1/3 の患者がAKI をきたすことが知られている8)。血管障害としては抗VEGF 抗体であるベバシズマブが有名であり,TMA を誘発する。

血清Cr と尿量に基づいたRIFLE 分類やAKIN 分類の登場は,AKI の診断を大きく前進させたが,いまだ問題点は多い。血清Cr は年齢や体重,性差,薬剤,筋肉代謝,タンパク摂取,体液過剰の影響を受けるなど,AKI のマーカーとして多くの欠点を有する9, 10)。さらに,血清Cr は最初に腎障害を受けてから上昇するまで48〜72 時間かかるとされており,迅速なAKI の診断および治療介入を妨げる要因の一つとなっている10)。血清Cr の欠点を補うため,AKI に対する多くの新しいバイオマーカーの有用性が検討されてきた。しかし,AKI の新規バイオマーカーが臨床で使えるようになるには,性差,年齢差,原疾患に応じた閾値の設定が必須であり,いまだハードルが高い11)

本稿の目的は,抗がん薬に起因するAKI に対するバイオマーカーの最新知見を検討し,実際の臨床におけるその有用性と限界を明らかにすることである。

解 説

本稿でのバイオマーカーとは,客観的な評価が可能で,生理学的あるいは病理学的変化,および治療介入に対する薬理学的反応の指標となるものである12)。抗がん薬に起因するAKI に対するバイオマーカーの条件はがんに対するいかなる治療からの干渉も受けないことであり,役割としては①リスク評価,②早期診断,③病期分類,④鑑別診断,⑤治療効果指標,⑥予後判定,が考えられる。とくに血清Cr やeGFR とくらべて早期の診断が可能なバイオマーカーの実用化が期待される。

本稿では,わが国における実臨床において保険診療で使用可能なバイオマーカーと,実臨床で使用できないものをわけて記載した。また,2010 年に安全性予測試験コンソーシアム(Predictive Safety Testing Consortium[PSTC])の腎毒性作業部会が,薬物の毒性試験およびバイオマーカー性能分析の結果をFDA と欧州医薬品審査庁(European Medicines Evaluation Agency[EMEA])に提出し,そのなかでKidney Injury Molecule-1(Kim-1),尿中アルブミン,尿タンパク,β2ミクログロブリン,血清シスタチンC,クラステリン,trefoil factor 3(TFF-3)が腎機能の安全性に関するバイオマーカーとしてあげられている13)。この報告ではあくまで安全性評価の目的に限定されているが,この七つについては抗がん薬に起因するAKI に対するバイオマーカーとしての有用性について本稿で論じる必要があると考えた。

1.保険診療で測定可能なバイオマーカー
a)尿中アルブミン

尿中アルブミンは糸球体透過性亢進や近位尿細管再吸収障害により増加する。実際,短期間あるいは長期間の腎毒性抗がん薬の投与により,尿中微量アルブミンが増加することが報告されている14)。しかし,AKI 以外にも発熱や運動,脱水,糖尿病,高血圧などでも増加することが知られており,AKI のバイオマーカーとしての特異度は限定的と考えられている15)

b)尿タンパク

糸球体障害の検出においては尿タンパクがBUN および血清Cr よりも診断能が上回るといわれているが16),AKI のバイオマーカーとしては特異性が低いことも報告されており17),その有用性は確立していない。

c)血清シスタチンC

シスタチンはヒトの体内でもっとも重要なシステインプロテアーゼ阻害物質である。シスタチンC は13 kDa のタンパクで,すべての有核細胞から分泌されるが,血漿タンパクと結合しないという特徴がある。それゆえに腎糸球体では自由に濾過され,近位尿細管で再吸収後,小胞体受容体であるメガリンによって99%以上が分解される18)。Cr とは異なりシスタチンC は尿細管から尿中に分泌されず,性別・筋肉量に依存しない。軽度〜中等度腎障害患者でも血清シスタチンC はGFR とよく相関するため19),血清Cr よりも早期腎障害を感度よく捉えることが可能であり,血清シスタチンC はAKI の有用なマーカーといわれている20)。しかし,血清シスタチンC は①糖尿病や多量のコルチコステロイド,甲状腺機能亢進症,炎症,高ビリルビン血症,高トリグリセライド血症の影響を受ける21),②GFR<15 mL/分/1.73 m2に達すると上昇は緩慢になり,5〜6 mg/L 程度で横ばいになる22),といった限界がある。Benöhr ら23)はシスプラチン投与3 日前とくらべて5 日後では有意に血清シスタチンCが上昇していることを示した。現状で抗がん薬投与に起因するAKI に対するバイオマーカーとしての有用性は確立されていない。血清シスタチンC の測定は保険適用だが,尿中シスタチンC の測定に適用はない。

d)β2ミクログロブリン

β2ミクログロブリンは分子量11,800,アミノ酸99 個からなるポリペプチドで,主要組織適合性抗原であるHLA クラスT抗原のL 鎖として全身の有核細胞表面に分布する。糸球体基底膜を自由に通過して,ほとんどは近位尿細管で再吸収されるが,尿細管障害では再吸収が低下し尿中への排泄が増加するため,AKI のマーカーとしての有用性が期待されている。実際に,尿細管障害時には血清Cr よりも4〜5 日早く尿中β2ミクログロブリンが上昇することが報告されている24)。しかし,酸性尿中や室温ではきわめて不安定であるという欠点があり,バイオマーカーとしての限界も指摘されている25)

e)NAG

腎においてNAG はライソゾームに存在する糖質分解酵素であり,近位尿細管細胞の小胞体で産生される。尿細管障害により尿中への排泄が増加するため,尿中NAG もAKI の有用なマーカーとして報告され,血漿Cr よりも12 時間〜4 日早く異常値を示すと報告された26)。Goren ら27)は12 例でシスプラチン投与前後のNAG 量を比較している。彼らの検討では,シスプラチン投与後NAG 量は上昇し,3 日目に最高値となりその後低下した。Ikeda ら28)はシスプラチン投与後のNAGとβ2ミクログロブリンを8 例で検討した。β2ミクログロブリンは投与3 日目で最高値となり1 週間で前値まで低下したのに対して,NAG は投与2 週間後まで増加する症例があったことを報告している。しかし,尿中NAG は多くの腎毒性物質やマグネシウム,内因性尿素29)に活性が抑制されるという欠点がある。さらにAKI 以外でも関節リウマチ30)や耐糖能異常31),甲状腺機能亢進症32)でも尿中NAG は高値となるため,AKI に対する特異性は低いといわれている。

f)尿中L-FABP

L-FABP は腎において近位尿細管に発現する脂肪酸の輸送タンパクであり,さらに抗酸化作用も有する33)。ヒトL-FABP はhypoxia-inducible factor 1a 応答配列をもつためL-FABP の発現は低酸素によって誘導される34)。尿細管障害で尿中への排泄が増加することが知られており,心臓血管手術後にAKI となった症例では,手術直後から尿中L-FABP の増加が認められ35),尿中L-FABP 高値はAKI の独立した予測因子であると報告されている36)。AKI に対するバイオマーカーとして,L-FABP はKim-1,NGAL,NAG と同等であることが示され37),わが国ではL-FABP がAKI 診断に対して保険適用されている。しかし,抗がん薬投与に起因するAKI に対するバイオマーカーとしての有用性はヒトにおいてほとんど検証されておらず,今後の検討が必要である。

2.保険診療で測定できないバイオマーカー
a)尿中Kim-1

Kim-1 は細胞膜貫通型糖タンパクで,腎障害時に近位尿細管細胞で産生され,腎虚血後12 時間で細胞外ドメイン部分の尿中への排泄が増加する38)。シスプラチンによる腎毒性モデル動物では血清Cr よりも早くKim-1 が上昇することから,尿細管障害のバイオマーカーとして有用と報告された39)。さらにシステマティックレビューでは,Kim-1 は腎障害後24 時間以内に変動するバイオマーカーであると報告された40)。Kim-1 は米国FDA からAKI のマーカーとして承認されている。Tekce ら41)はeGFR≧90 mL/分の22 例におけるシスプラチン投与後のAKI 8 例,非AKI 症例14 例で,血清Kim-1 と尿中Kim-1 をシスプラチン投与前,投与1,3,5 日後で比較した。投与1 日後では血清Cr,eGFR,血清Kim-1 に両群間の差はなかったが,尿中Kim-1 はAKI 群のほうが有意に高値であった。3 日後には血清Cr,eGFR,尿中Kim-1 が両群で有意な差を認めたが,血清Kim-1 は有意な差を認めなかった。したがって,尿中Kim-1 はシスプラチンによるAKI の早期マーカーとして期待されている。しかし,尿中でKim-1 の安定性が著しく低下するとの報告もあり,さらに検討を要するといわれている42)

b)NGAL

Neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL)は25 kDa の糖タンパクであり,おもに活性化された好中球から分泌され,正常時は近位尿細管で100%再吸収される。尿細管障害時にはヘンレ上行脚と一部の集合管に発現し,血中,尿中への排泄が増加するため,AKI 後2〜4 時間で異常値を示すとされる。2,500 例を超える症例を集めたメタ解析の結果から,NGAL はAKI の診断だけでなく,腎予後についても有用なマーカーといわれている43)。Peres ら44)はシスプラチン投与後AKI 群のほうが非AKI 群と比較してNGAL は高値であったが,有意差はなかったと報告した。またGaspari ら45)はシスプラチン投与後1,4 時間後,および1,2,3,7,15 日後のNGAL を12 例のAKI 群と12 例の非AKI 群で比較した。血清Cr はシスプラチン投与後3 日目からAKI 群と非AKI 群で有意差を認めたのに対して,NGAL は1 日後より有意差を認めた。したがって,NGAL は血清Cr より早期にシスプラチンによるAKI を診断できるバイオマーカーとしての可能性がある。

c)クラステリン

クラステリンは76〜80 kDa の糖タンパクで,腎障害時には抗アポトーシス作用による腎保護作用があるものと想定されている。近位尿細管障害の検出では,尿中クラステリンがBUN および血清Cr より優れていることが報告された16)。しかしヒトのAKI に対する検討は不十分であり,さらに抗がん薬によるAKI のバイオマーカーとなるかどうかは不明である。

d)尿中TFF-3

TEF-3 はAKI では尿中排泄が減少する。尿中TFF-3 はモデル動物の検討においてAKI の有用なマーカーであることが示されているが,ヒトに対する検討は不十分である46)

e)エンドセリン1

エンドセリン1 は血管収縮作用を有し,21 個のアミノ酸からなり,腎ではメサンギウム細胞や集合管に発現する。Takeda ら47)は尿中エンドセリン1 様免疫活性/Cr をシスプラチン投与前,投与1,2 週間後に測定し,投与前とくらべて投与1,2 週間後に有意に上昇することを報告した。シスプラチン投与後,β2ミクログロブリン/Cr とエンドセリン1 様免疫活性/Cr は2 日目にピークに達し,その後低下したが,NAG/Cr のピークは6 日目であった。

上述以外にも,インターロイキン18,アンジオテンシノーゲン,tissue inhibitor of metalloproteinase-2,インスリン様成長因子(IGF)-binding protein 7 などが,AKI に対するバイオマーカーとしての有用性を検討されている33)

このように,モデル動物に対する検討ではさまざまなバイオマーカーの有用性が報告されているが48),ヒトに対してはきわめてエビデンスに乏しい。その原因として,①AKI の診断基準が統一されていなかったため,報告により差異があること,②AKI 全体を検討した報告は数多く存在するが,抗がん薬によるAKI に限って評価した報告はきわめて少ないこと,③多くのバイオマーカーでは明らかな閾値が設定できていないため,個々の研究での評価が困難であること,④抗がん薬治療は多剤併用で行われることが多く,さらにそれぞれの抗がん薬により腎障害のメカニズムが異なり,複数のメカニズムが想定される抗がん薬もあるため(シスプラチンなど),単一のバイオマーカーで評価することの妥当性が不明であること(事実,複数のバイオマーカーを組み合わせることの有用性も報告されている17))。⑤血清を用いた場合,腎のAKI を評価しているというより,抗がん薬による全身の影響を評価している可能性が否定できず,また,その際,年齢やCKD も含めた既往の合併症などがどのように影響するか不明であることなどがあげられる。

バイオマーカーはわれわれの抗がん薬に起因するAKI に対する理解を深めてくれるが,診断に寄与するかどうか不明な点が多い。抗がん化学療法および腎専門医は,いつバイオマーカーが必要か,どのバイオマーカーが有用か,バイオマーカーのデータをどのように解釈し実際の治療に反映させるか,個々の患者において判断する必要がある。

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  がん薬物療法時の腎機能低下予防

(1)総論

CQ3

腎機能の低下した患者に対して毒性を軽減するために抗がん薬投与量減量は推奨されるか?

腎機能の低下した患者において薬物有害事象のリスクが高まる薬剤では,減量投与を行うことを推奨する。ただし,治癒を目標とする場合にはリスク・ベネフィットのバランスを考慮して最終的に投与量を決定する必要がある。

推奨グレード
行うことを弱く推奨する(提案する)
要 約

腎機能の低下した患者において薬物有害事象のリスクが高まる薬剤では,減量投与を行うことを推奨する。ただし,治癒を目標とする場合には利益/不利益のバランスを考慮して最終的に投与量を決定する必要がある。

背景・目的

腎は多くの抗がん薬とその代謝物の排泄経路であり,腎機能障害が存在すると抗がん薬の排泄や代謝が遅延して毒性が増強する場合があり,減量投与が考慮される1)。また,肝臓で代謝される抗がん薬であっても,腎機能低下患者で減量を考慮する場合がある。たとえばイリノテカンは透析患者への投与時には減量が必要と考えられている2-5)。またソラフェニブもおもに肝臓で代謝されるが,減量投与を考慮すべきという意見がある6)。本稿では減量投与に関するエビデンスを総括し,主要な抗がん薬について減量指針を提示する。

解 説

このCQ3 に答えるには,腎機能低下患者において通常量投与時と減量投与時の薬物有害事象頻度を比較した研究が必要であるが,今回用いた検索式では該当する論文は抽出されなかった。このような研究は倫理的に問題があり,実施が難しいものと推測される。入手可能なエビデンス7-10)の多くは腎機能正常患者と腎機能低下患者(減量投与)における薬剤有害事象の頻度を比較した研究だが,このような研究も非常に少なく,エビデンスの質は非常に低いと判断される(D:効果の推定値がほとんど確信できない)。

推奨度の決定にあたっては利益と不利益のバランスの考慮がとくに重要となるが,減量された場合の治療としての有効性に関するエビデンスも薬物有害事象と同様に不足しており,弱い推奨となった。

しかし実臨床においては,腎機能に合わせて投与量を減量し薬物血中濃度をコントロールしようとする試みが行われており,少数であるが参考となる研究やガイドラインが存在する。たとえばカルボプラチンにおいては第T相試験の結果に基づいてtarget AUC とCockcroft-Gault 式による推定Ccr から投与量を計算するCalvert 式が存在する(詳細についてはCQ10 を参照)11)。また,日本人でのデータをもとにした修正Calvert 式も報告されている12)

日本において減量投与方法を網羅したガイドラインは存在しないが,日本腎臓病薬物療法学会13)が多くの抗がん薬の減量方法について見解を示しているほか(),各種成書に抗がん薬の減量に関する記載が存在する14)。海外においてはFDA15)や欧州医薬品庁(EMA)16)が各薬剤の添付文書において腎機能低下患者での投与方法について記載するよう指針を出しており,これらの機関が公開している添付文書が参考になる可能性がある。

なお,抗がん薬では有効域と毒性域がきわめて近接しており,治療薬物モニタリング(TDM)が有用と考えられ,実際に一部の抗がん薬ではランダム化比較試験でTDM の有効性が証明されている17, 18)。しかし,現在のところ抗がん薬の血中濃度測定を行う試みは一般的ではない。

現実的な対応として,腎機能低下患者では前述の用量調節指針を参考に投与を開始し,通常よりも有害事象のモニタリングを密に行って,以後の治療における用量の増減を検討することが望ましいと思われる。また,治癒を目標とする症例においては利益/不利益のバランスを考慮して最終的に投与量を決定する必要がある。

 おもな抗がん薬における腎機能低下時の減量方法
一般名

常用量

GFR またはCcr(mL/分)

血液透析(HD),
腹膜透析(PD)

>80

70

60

50

40

30

20

10>

中等度腎障害

重度腎障害

末期腎不全

シスプラチン1, 13) 添付文書参照 Ccr 31〜45 mL/分:
50%に減量,
Ccr 46〜60 mL/分:
75%に減量
禁忌だが必要な場合は
50%に減量して投与
禁忌だが,必要な場合にはHD 患者は透析後に50% をCAPD 患者は50%に減量して投与
カルボプラチン13) 1 回300〜400 mg/m2投与し,少なくとも4 週間休薬する。これを1 クールとする。 Calvert の式:AUC 目標値×(GFR+25)(mg)によって算出し,単独投与の場合,初回はAUC 7 mg/mL・分を,繰り返し投与のときはAUC 4〜5 mg/mL・分を目標に投与する。透析患者のGFR は5〜10 を代入する。ただし本法の血清Cr 値はJaffé 法を用いているため,CG 式を用いるとCcr よりもGFR に近似する。酸素法で測定される日本ではCG 式を用いるとCcr が高めに推算されるため過量投与になりやすく,血清Cr 値に0.2 を加える方法19)や体表面積補正を外したeGFR を用いることが推奨される。
メトトレキサート13, 20) 添付文書参照 50%に減量 排泄遅延により副作用が強くあらわれるおそれがあるため禁忌
カペシタビン21) 添付文書参照 Ccr 30〜50 mL/分では75% に減量 禁忌
テガフール・ギメラシル・
オテラシルカリウム13, 22)
Ccr≧80 mL/分では通常,体表面積に合わせて1回40,50,60 mg を初回基準量とし,1 日2 回28 日間連日経口投与し,その後14 日間休薬する。これを1 クールとして投与を繰り返す。80>Ccr≧60 mL/分では初回基準量より必要に応じて1 段階減量,60>Ccr≧40 mL/分では原則として1 段階減量,40>Ccr≧30 mL/分では原則として2 段階減量する。Ccr<30 mL/分は投与不可。
減量方法:40 mg/回→ 休薬,50 mg/回→40 mg/回→休薬,60 mg/回→50 mg/回→40 mg/回→休薬または腎機能に応じて適宜減量を考慮。
重篤な腎機能障害のある患者では,5-FU の異化代謝酵素阻害薬ギメラシルの腎排泄が著しく低下し,血中5-FU の濃度が上昇し,骨髄抑制などの副作用が強く現れるおそれがあるため禁忌。
イホスファミド23) 添付文書参照 Ccr 46〜60 mL/分では80%に減量   Ccr 31〜45 m L/分では75%に減量 Ccr 30 mL/分以下では70%に減量 透析性があが,追加投与の必要なし。

CAPD:連続携行式腹膜透析,CG:Cockcroft-Gault

日本腎臓病薬物療法学会. 腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧
(2015 改訂26 版)http://jsnp.org/ckd/yakuzaitoyoryo.php より抜粋.

【参考文献】

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(2)白金製剤

CQ4

シスプラチンによるAKI を予測するために,リスク因子による評価は推奨されるか?

シスプラチンによるAKI を予測する因子として,低アルブミン血症,喫煙,女性,高齢(1 歳あたり1.03 倍リスクが増える),他の抗がん薬の併用,血清カリウム,心・血管系疾患や糖尿病の合併,進行がん,シスプラチン総投与量などが報告されている。シスプラチンによるAKI を防ぐために,投与前にリスク因子を評価することを推奨する。

推奨グレード
行うことを弱く推奨する(提案する)
要 約

シスプラチンによるAKI を予測する因子として,低アルブミン血症,喫煙,女性,高齢(1 歳あたり1.03 倍リスクが増える),他の抗がん薬の併用,血清カリウム,心・血管系疾患や糖尿病の合併,進行がん,シスプラチン総投与量などが報告されている。しかし,それぞれの報告でAKI の定義が一定しておらず,さらにリスク因子の閾値が明らかではなく,リスク因子を有する場合の対応についても確立していないなど,今後の検討課題は残る

背景・目的

シスプラチンは多くのがん種に対する抗がん薬治療のkey drug であり,もっとも汎用されている抗がん薬の一つである。しかし,シスプラチンには骨髄抑制や消化管毒性,神経毒性などが知られ,なかでも腎毒性はその後のシスプラチン投与規定因子ともなりうる重要な副作用である。シスプラチン投与症例の1/3 はAKI を合併すると想定され1),AKI によりその後のシスプラチン投与が制限されることも少なくない。さらにAKI から慢性尿細管間質線維化症や不可逆的な慢性尿細管症となりCKD に進行することもある2, 3)。本稿ではシスプラチンによるAKI 発症を予測するリスク因子を検した。

解 説

シスプラチンによる腎障害はおもに近位尿細管,とくにS3 セグメントの障害によるとされている4)。シスプラチンが基底膜側から細胞内に取り込まれ,ミトコンドリアDNA を障害してアポトーシスが活性化する。さらにシスプラチンの細胞内沈着により,炎症や酸化ストレス,虚血性障害も発生する2)。また,低マグネシウム血症も腎障害の原因の一つと考えられている。マグネシウムは腎尿細管における能動輸送機構に関与するとされ,Sobrero らは低マグネシウム血症により腎尿細管細胞におけるシスプラチン濃度が上昇し,近位尿細管障害が起こると想定している5)

de Jongh ら6)は,局所進行性あるいは転移性悪性腫瘍400 例に対するシスプラチン毎週投与症例を検討した。400 例中36%はシスプラチン単剤,49%はエトポシド,15%はパクリタキセルを併用している。Ccr 25%以上の低下は116 例(29%)にみられ,腎障害によるシスプラチン投与継続不可症例は29 例(7%)であった。シスプラチン投与後腎機能低下の独立した予測因子は,多変量解析では,パクリタキセル併用(オッズ比4.0,p=0.001),低アルブミン血症(オッズ比3.5,p=0.006),喫煙(オッズ比2.5,p=0.002),女性,高齢であった。年齢別では48 歳未満26%,48〜62 歳35%,62 歳超41%と加齢とともに腎障害のリスクが増え,1 歳あたり1.03 倍リスクが増加した( オッズ比1.03,p=0.007)。性別では女性のほうが男性より2 倍リスクが高かった(オッズ比2.0,p=0.025)。女性は男性よりシスプラチン排泄能が低いという報告もあるが7),この原因は明らかではない。喫煙の関与については酸化ストレスの影響などが推測されているが8),喫煙が心血管障害を引き起こし,二次的にシスプラチン投与後の腎機能につながった可能性も否定できない。また,低アルブミン血症では非タンパク結合型シスプラチン濃度が上昇することにより腎毒性が増すと考えられている6)。なお,本報告はCcr 25%以上の低下を腎障害の定義としており,厳密にはAKI を予測する因子として評価した報告ではない。

Stewart ら9)は425 例(シスプラチン総投与量220mg/m2[中央値])の検討を報告した。シスプラチン投与終了後4 週までの血清Cr 最大増加量の予測因子は,多変量解析では血清アルブミン,血清カリウム,体表面積,投与回数であると報告した。本報告の問題点として,腎機能の評価を血清Cr のみで行っていることや,シスプラチン投与終了後4 週までの血清Cr 最大増加量で評価しているが,決して確立した評価方法・時期ではないことがあげられる。さらに抗がん薬も含めて他の多くの薬を併用しており,シスプラチンがどの程度腎機能の変化に寄与しているか不明である。

Mizuno ら10)は1,721 例のシスプラチン投与症例を検討した。多変量解析では,病期診断stage 4 の進行がん(オッズ比1.8,p=0.011),シスプラチン総投与量が中等度AKI(シスプラチン投与7 日以内の血清Cr が1.5〜1.9 倍増加)のリスク因子で,心血管疾患の合併,糖尿病の合併,病期診断stage 4 の進行がんが重度AKI(シスプラチン投与7 日以内の血清Cr が2.0 倍以上増加)のリスク因子であった。

このように,現在までAKI を予測する因子としていくつかの報告がある。しかし,いずれもAKIの定義が一定しておらず,RIFLE 分類やAcute Kidney Injury Network(AKIN)の分類に則った報告がない。さらにリスク因子の閾値が明らかでなく,リスク因子を有する場合の対応についても確立していない。今後の検討課題と考える。

【参考文献】

1) Arany I, et al. Cisplatin nephrotoxicity. Semin Nephrol. 2003;23:460-4. PMID:13680535

2) Pabla N, et al. Cisplatin nephrotoxicity:mechanisms and renoprotective strategies. Kidney Int. 2008;73:994-1007. PMID:18272962

3) Perazella MA, et al. Nephrotoxicity from chemotherapeutic agents:clinical manifestations, pathobiology, and prevention/therapy. Semin Nephrol. 2010;30:570-81. PMID:21146122

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5) Sobrero A, et al. Current strategies to reduce cisplatin toxicity. J Chemother. 1990;2:3-7. PMID:2185345

6) de Jongh FE, et al. Weekly high-dose cisplatin is a feasible treatment option:analysis on prognostic factors for toxicity in 400 patients. Br J Cancer. 2003;88:1199-206. PMID:12698184

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9) Stewart DJ, et al. Association of cisplatin nephrotoxicity with patient characteristics and cisplatin administration methods. Cancer Chemother Pharmacol. 1997;40:293-308. PMID:9225947

10) Mizuno T, et al. The risk factors of severe acute kidney injury induced by cisplatin. Oncology. 2013;85:364-9. PMID:24335484


CQ5

シスプラチン分割投与は腎障害の予防に推奨されるか?

腎障害の予防にシスプラチン分割投与の意義は確立していないため推奨されない。

推奨グレード
行わないことを強く推奨する
要 約

シスプラチンの分割投与による腎障害の予防は確立していないため推奨できない。

背景・目的

白金製剤,とくにシスプラチンの腎障害には,その主たる排泄器官が腎であることが関係しており,尿細管の壊死が原因と考えられている。腎障害の予防・軽減の方法として,大量補液によるhydration とマグネシウム投与が用いられることが多い。腎障害の予防・軽減を目的として,白金製剤の分割投与法を好んで用いる医師がいるものの,持続投与のほうが分割投与よりも腎障害が少ないことを示した研究が小児がん患者で報告されている。本稿では,現在行われている腎障害軽減を期待したシスプラチン分割投与について,推奨レベルを検討する。

解 説

現在までに,腎障害軽減を主要評価項目とした白金製剤分割投与に関する前向きランダム化比較試験は論文として報告されていない。成人を対象に分割投与の腎障害予防効果を直接検証した報告もなく,シスプラチン分割投与を他の投与方法と比較した観察研究が3 件あるのみである。その内容と結果を以下にまとめる。

Forastiere らは,静注(20 分)の5 分割投与と持続静注(24 時間)の分割投与同士を比較し報告している1)。この研究は頭頸部がん患者に対して,シスプラチン30 mg/m2(24 時間)持続静注の5 日間持続静注を6 例に実施し,また別の5 例に対してシスプラチン30 mg/m2(20 分)急速静注の5 日間間欠的ボーラス投与を実施して,総白金濃度,非タンパク結合型白金濃度,有害事象を比較したものである。その結果,24 時間持続静注群における最大非タンパク結合型白金濃度は圧倒的に低いにも関わらず,非タンパク結合型白金への暴露(AUC)は1.5〜2 倍大きいことが報告された。臨床的に認識できないレベルの腎障害を,尿中排泄腎酵素NAG とアラニンで測定し評価したところ,聴力障害,吐き気・嘔吐と同様に,腎障害には両群で差がなかった。それに対して,骨髄抑制,低マグネシウム血症は,24 時間持続静注群で高頻度に観察され,このことは,白金の総暴露量が,最大濃度よりも寄与していることが示唆されるとしている。著者らは,持続分割投与の有害事象は臨床的に許容される範疇であったことから,この投与方法でより大規模な試験が行われることを推薦している。なお,本研究は分割投与同士の比較であるため,分割投与によるメリットは不明である。

Ikeda らは,胃がんおよび食道がん患者に対する5-FU+シスプラチン併用療法の至適投与方法を検討し報告している2)。この研究は9 例の患者に対する全12 サイクルの治療における薬理学的(AUC およびCmax)な相違を比較し評価している。比較は3 群で実施しており,4 サイクルの80 mg/m2(2 時間),4 サイクルの20 mg/m2(2 時間)5 日間投与,4 サイクルの100 mg/m2(120 時間)投与をそれぞれ比較している。5-FU の投与は持続点滴で800 mg/m2(24 時間)5 日間投与と統一されている。著者らは持続点滴投与方法を薬理学的にもっとも至適な投与方法と結論づけているが,有害事象についてはその優位性を認めていない。

また高橋らは,シスプラチン投与方法の相異(5 分割投与,24 時間持続点滴,12 時間持続点滴,6 時間持続点滴)による体内動態および腎障害を比較検討しているが,臨床的有害事象に差はみられていない3)

上記,三つの研究で,投与方法による腎障害に差はなく,分割投与方法を積極的に推薦するには根拠に欠ける。したがって,現時点では適切にデザインされた研究がないため,腎障害予防目的のシスプラチン分割投与を積極的に推奨する根拠はないといえる。ただしNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドライン2014 の膀胱がんの項において,腎機能が境界域あるいは最小限の障害のある症例においては,分割投与(具体案として35 mg/m2のday 1,day 2 投与あるいはday 1,day 8 投与)を考慮することと記載されている4)。しかしながら,この分割投与に関する引用文献は示されていない。そして分割投与に伴う治療効果に関しても不明とされている。

なお腎障害の予防・軽減には持続投与が安全という見解がある。Erdlenbruch らは,小児4 例の骨肉腫患者に120 mg/m2のシスプラチンを72 時間かけて持続投与した群と,小児6 例の髄芽腫患者に40 mg/m2を3 日間にわたりそれぞれ1 時間で急速静注した分割投与群の体内動態,腎障害を比較した5)。分割投与群では,アルブミンに結合していない遊離白金濃度の最大値が19 倍高く,GFR の最低値は持続投与群にくらべ低く,1 年以内の腎障害も持続する率が高かった。著者らは,持続投与法は分割投与法にくらべて腎障害が少ないと結論づけている。

【参考文献】

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CQ6

シスプラチン投与時の補液(3 L/日以上)は腎障害を軽減するために推奨されるか?

シスプラチン投与時の補液(3 L/日以上)は,腎障害を軽減するために推奨される。

推奨グレード
行うことを強く推奨する
要 約

前臨床(動物実験)段階でシスプラチンの腎毒性が指摘されたため,当初から補液を含む支持療法を用いて開発がなされた。よってランダム化比較試験などの質の高いエビデンスは存在しないが,シスプラチン投与時の補液は強く推奨される。

背景・目的

白金製剤はさまざまながんに使用される腎排泄型の抗がん薬であり,腎毒性を有することが知られている。なかでもシスプラチンの腎毒性が強いため,さまざまな検討がなされている。腎毒性の予防策としては補液,利尿薬の投与が主たる手段と考えられており,補液量の寡多や利尿薬の投与の有無については別のCQ があるためここでは触れない。

解 説

本CQ に答えるために,本来はヒトを対象としたシスプラチン投与時の補液の有無をランダム化した比較試験が必要であるが,そのような試験は今回の検索式では発見し得なかった。存在する関連文献の多くは腎障害を論じたレビューであり,代表的なレビュー1)では補液推奨の根拠として,対照群,投与前補液群,マンニトール投与群の3 群を検討して後2 群で腎毒性が軽減した動物実験2)を引用している。他のレビューでも,補液および利尿薬による強制利尿を推奨しているものが多い。シスプラチンの開発が行われたのは1970 年代であり,現在とは治療法開発の方法論が異なること,かつ開発早期に腎毒性の存在が認識されていたことから,ヒトで検証試験が行われていないことは止むを得ないと考えられる。結果として,エビデンスの質は非常に低いと判断される(D:効果の推定値がほとんど確信できない)。

現存するさまざまながん薬物療法のエビデンスにおいて,シスプラチンを用いる際には通常補液を行うよう実施計画に規定されている。その他の白金製剤(カルボプラチンなど)では,通常補液に関してはそのように規定されていない。日本におけるシスプラチンの添付文書では,用法・用量の項に投与前,投与時,投与後に補液を行うよう記載されているが,カルボプラチンにはそのような記載はない。米国でもシスプラチンの添付文書には,補液を行うよう記載されているが,カルボプラチンにはそのような記載はない(シスプラチンと異なり通常大量補液や強制利尿は行われない,と明記されている)。

上記および利益/不利益のバランスを考慮して推奨度を検討すると,シスプラチンの投与時には補液は強く推奨される。カルボプラチンを含めた他の白金製剤の投与時には補液は推奨されない。なお,シスプラチン投与時の補液については,生理食塩水または1/2 生理食塩水を,シスプラチン投与前は2 L 前後,シスプラチン投与後は 1 L 程度以上投与することがかつてはよく行われた。この補液量を少なくし,経口補水などを活用するいわゆる“short hydration”についてはCQ7 を参照のこと。

【参考文献】

1) Finley RS, et al. Cisplatin nephrotoxicity:a summary of preventative interventions. Drug Intell Clin Pharm. 1985;19:362-7. PMID:3891281

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CQ7

シスプラチン投与時のshort hydration は推奨されるか?

外来でシスプラチンを投与する際は,腎機能・PS・年齢を考慮したうえでshort hydration を推奨する。ただし,short hydration を安全に行うには,十分な経口水分補給と尿量確保が必須であり,化学療法施行当日から3 日目まで,食事など通常の摂取量に加えて,1 日あたり1,000 mL 程度の追加補給が可能な症例が対象となる。また,経口水分補液が不十分となった場合,迅速に点滴による水分補給が行える環境が整えられていることが必要である。

推奨グレード
行うことを弱く推奨する(提案する)
要 約

シスプラチン投与時は,腎機能・PS・年齢を考慮したうえでshort hydration を推奨する。ただし,short hydration を安全に行うには,十分な経口水分補給が必須であり,化学療法施行当日から3 日目まで,食事など通常の摂取量に加えて,1 日あたり1,000 mL 程度の追加補給が可能な症例が対象となる。また,経口水分補給が不十分となった場合,迅速に点滴による水分補給が行える環境が整えられていることが必要である。さらに,short hydration を行ううえで,利尿薬(マンニトールまたはフロセミド)による尿量の確保とマグネシウム,カリウムの補給,血清電解質の確認も必要である。

背景・目的

シスプラチンの投与前後には,腎障害予防のためhydration することが定められている。わが国では,シスプラチン投与前後にそれぞれ4 時間以上かけて1,000〜2,000 mL の補液投与と,500〜1,000 mL 以上の輸液に希釈したシスプラチンを2 時間以上かけて投与することとされている。しかし,このhydration 法は長時間におよぶため,入院する必要がある。以前より,シスプラチンによる腎障害予防のhydration 法を検討した報告がいくつかなされている。そこで今回,2,000〜2,500 mL の補液を4 時間程度で投与するshort hydration 法の安全性について評価した。

解 説

高用量シスプラチン(≧75 mg/m2)をshort hydration 法で投与した際の安全性について,2007 年にTiseo ら1)が2 施設における後ろ向き観察研究を報告している。これによると,シスプラチン投与日に計4 時間かけて2,000 mL 程度の生理食塩液とフロセミド投与を実施したところ,腎毒性による化学療法中止が107 例中5 例(4.6%)が発生し,このうち2 例がNational Cancer Institute のCommon Toxicity Criteria Grade 2 の腎毒性であった。わが国でもHorinouchi ら2),Hotta ら3)がそれぞれシスプラチンを75 mg/m2以上,60 mg/m2以上で投与した患者を対象に小規模前向き試験を実施している。カリウム,マグネシウム,マンニトールの投与を組み込んだshort hydration 法で,血清Cr 値がグレード2(Common Terminology Criteria for Adverse Events ver. 4.0 基準範囲上限に基づく)以上となった割合は,それぞれ2.2%(1/44 人),0%(0/46 人)であった。その他,評価したすべての文献4-10)において,short hydration 法が従来のhydration 法にくらべて腎障害発現率の増加なく,安全に実施可能であると結論づけており,結果に一貫性があると判断した。今回評価したshort hydration 法は,補液総量約1,600〜2,500 mLを4 時間程度かけて投与しており,カリウム,マグネシウムの補給と利尿薬(フロセミドやマンニトール)による尿量確保を行っていた。一方,米国のNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)では,多くのがん腫においてシスプラチンの投与前後に計1,000〜3,000 mLを250〜500 mL/時で投与する化学療法オーダーテンプレートを示している11)。また,わが国は,日本肺癌学会・日本臨床腫瘍学会よりshort hydration 法について言及した「手引き」が作成されており,対象患者を限定することで安全に投与可能であると考えられる12)。対象患者は,年齢75 歳未満,血清Cr 値が施設基準値以下,Ccr≧60 mL/分,Eastern Cooperative Oncology Group scale(ECOG)のPS 0〜1,胸水・腹水貯留がなく,1 時間あたり500 mL 程度の補液に耐えうる心機能(心臓超音波検査にて左室駆出率≧60%など)であること,適切な制吐療法を実施し,シスプラチン投与日から3 日間は1,000 mL/日程度の経口補給が可能であることなどが条件になる。そのため,病識が良好でアドヒアランスが担保されていることも患者選定の際,重要になる。また,重篤な副作用の発現や水分摂取が不十分となった場合に迅速に対応できる施設で行うべきである。エビデンス総体の評価については,対象研究がすべて観察研究であり,C(弱)から開始した。評価を下げる項目であるバイアスリスク,非直接性,非一貫性,不正確,出版バイアスに関して深刻な問題はないと判断した。また,評価をあげる項目である介入による効果,用量-反応勾配,交絡因子もあてはまらないと判断し,エビデンス総体はC(弱)とした。

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9) Vogl SE, et al. Toxicity of cis-diamminedichloroplatinum Ⅱ given in a two-hour outpatient regimen of diuresis and hydration. Cancer. 1980;45:11-5. PMID:7188679

10) Vogl SE, et al. Safe and effective two-hour outpatient regimen of hydration and diuresis for the administration of cis-diamminedichloroplatinum(Ⅱ). Eur J Cancer. 1981;17:345-50. PMID:6790287

11) National Comprehensive Cancer Network. NCCN Chemotherapy Order Templates(NCCN Templates®

12) 日本肺癌学会ガイドライン検討委員会,日本臨床腫瘍学会ガイドライン委員会.シスプラチン投与におけるショートハイドレーション法の手引き.2015 年8 月.https://www.haigan.gr.jp/uploads/photos/1022.pdf.


CQ8

利尿薬投与はシスプラチンによる腎障害の予防に推奨されるか?

利尿薬投与はシスプラチンによる腎障害の予防に明確な推奨ができない。小規模なランダム化比較試験においてその効果が証明されていないため,推奨するだけの根拠がない。ただし,利尿薬投与は1970 年代から広く行われているシスプラチン投与時の腎障害予防法であり,シスプラチンを含む治療法の大規模な臨床試験において,本法を用いたうえでの有効性,安全性が示されている。したがって,本法を否定する根拠もない。

推奨グレード
行うことを弱く推奨する(提案する)
要 約

利尿薬投与はシスプラチンによる腎障害の予防に明確な推奨ができない。小規模なランダム化比較試験においてその効果が証明されていないため,推奨するだけの根拠がない。ただし,利尿薬投与は1970 年代から広く行われているシスプラチン投与時の腎障害予防法であり,白金製剤を含む治療法の大規模な臨床試験において,本法を用いたうえでの有効性,安全性が示されている。したがって,本法を否定する根拠もない。

背景・目的

1970 年代に補液および利尿薬を用いることで高用量のシスプラチン投与が可能になることが報告されて以来,シスプラチン投与における腎障害予防の方法として,浸透圧利尿薬のマンニトールやループ利尿薬のフロセミドが使用されている。これらの利尿薬投与はシスプラチンによる腎障害予防に有効であるかを検証する。

解 説

シスプラチンの第Ⅰ 相試験において,用量規定因子は腎機能障害であることが示された1)。補液と利尿薬により毒性のある白金代謝物を速やかに排泄し尿細管との接触時間を低下させることで腎機能障害を軽減する試みがなされてきた。しかし,薬物動態解析において,利尿薬はシスプラチン投与後の遊離型白金の半減期には影響を与えず,尿中排泄率を低下させ,血清中の白金濃度を上昇させるとされており2, 3),利尿薬が腎障害予防効果を有するとしても,その機序は十分解明されていない。

補液とマンニトールにより腎機能障害が軽減されることを最初に報告したのはHayes らである。60 例のがん患者において,補液およびマンニトール併用下で高用量のシスプラチン(120 mg/m2)が投与された。解析された52 例では,一時的な血清Cr 値の上昇のみで,重篤な腎機能障害は生じなかった。ほとんどの症例で血清Cr 値の上昇は2 mg/dL 未満であり,10 例でそれ以上の上昇を認めたものの,そのうち9 例はベースに腎機能低下があり腎機能障害の高リスク患者であった4)。この報告により,それ以後のシスプラチンを含む治療法の大部分の臨床試験において利尿薬が使用されることとなった。

Ostrow らはマンニトールとフロセミドを比較する最初の試験を行った。既存の治療に耐性となった進行がん患者22 例が,シスプラチン100 mg/m2の投与において,マンニトール37.5 g を6 時間かけて点滴する群と,40 mg のフロセミドを治療60 分前に静注する群に割り付けられ,すべての症例で投与後1 L の生理食塩水が補液された。Ccr が50 mL/分以下,血清Cr が2 mg/dL 超と定義された腎機能障害の割合は,マンニトール群の22 回投与で28%,フロセミド群の25 回投与で19%であった。Ccr の平均値はマンニトール群,フロセミド群でそれぞれ34 mL/分,26 mL/分であった。マンニトール群のほうにより強い腎機能障害が発症した傾向があるが,統計学的には有意差を認めなかった。したがって,どちらの利尿薬にも優越性が示されなかったと解釈されている5)

Al-Sarraf らは前方視的ランダム化第Ⅱ相試験として,補液のみと補液+マンニトールの2 群におけるシスプラチン投与後の腎機能障害の発現頻度を比較した。補液のみ群の30%および補液+マンニトール群の15%に,初回投与後の腎機能障害が生じた。全体の腎機能障害の頻度は39%,32%であった。したがって,マンニトールによるシスプラチンの腎機能障害予防効果は初回投与においてのみ認められたが,それ以降の投与においては明らかではなかった6)

Santoso らは補液(生理食塩水500 mL),補液+フロセミド(40 mg),補液+マンニトール(50 g)の3 群のランダム化比較試験により,シスプラチンの投与による腎機能障害の予防効果を比較した。49 例の婦人科がん患者に対し,シスプラチン75 mg/m2+パクリタキセルまたは5-FU の治療を行い,上記の併用療法をランダムに割り付けた。15 例が補液のみ群,17 例が補液+フロセミド群,17 例が補液+マンニトール群に割りつけられ,ベースラインのCcr は3 群ともほぼ同等であるにもかかわらず,シスプラチン治療後は補液のみ群,補液+フロセミド群,補液+マンニトール群のCcr(±標準偏差)が80.4(±33.5),81.4(±23.3),60.6(±26.8)mL/分と有意に補液+マンニトール群が他の2 群に対して劣る結果であった7)。この試験は,補液+マンニトール群の成績が悪いことから中止となっており,サンプルサイズが小さいこと,マンニトールの量が以前の試験よりも多いこと,Ccr の蓄尿が厳密に行われていないことなどが指摘されており,ランダム化比較試験ではあるものの質の高い試験とはいいがたい。

したがって,白金製剤に起因する腎障害予防の目的で,1970 年代に開始され広く行われている利尿薬投与には,明確にその有効性を示すランダム化比較試験がなく,推奨するだけの根拠がないのが現状である。European Society of Clinical Pharmacy Special Interest Group(ESCP SIG)によるシスプラチンに起因する腎障害予防のための推奨文においては,利尿薬の投与を推奨する理由がないとしている8)。ただし,シスプラチン投与における利尿薬の使用は長年にわたり広く行われており,この方法を用いてさまざまな治療法のエビデンスが創出されているため,安全性は確立している。近年試されているshort hydration 法においても,利尿薬使用を前提として,その安全性が報告されている。したがって,利尿薬により明らかな不利益が証明されない限りは,推奨しない根拠も乏しい。

【参考文献】

1) Higby DJ, et al. Diaminodichloroplatinum:a phaseT study showing responses in testicular and other tumors. Cancer. 1974;33:1219-5. PMID:4856724

2) Dumas M, et al. Evaluation of the effect of furosemide on ultrafilterable platinum kinetics in patients treated with cis-diamminedichloroplatinum. Cancer Chemother Pharmacol. 1989;23:37-40. PMID:2909288

3) Belt RJ, et al. Pharmacokinetics of non-protein-bound platinum species following administration of cis-dichlorodiammineplatinum(Ⅱ). Cancer Treat Rep. 1979;63:1515-21. PMID:498151

4) Hayes DM, et al. High dose cis-platinum diammine dichloride:amelioration of renal toxicity by mannitol diuresis. Cancer. 1977;39:1372-81. PMID:856437

5) Ostrow S, et al. High-dose cisplatin therapy using mannitol versus furosemide diuresis:comparative pharmacokinetics and toxicity. Cancer Treat Rep. 1981;65:73-8. PMID:6784924

6) Al-Sarraf M, et al. Cisplatin hydration with and without mannitol diuresis in refractory disseminated malignant melanoma:a southwest oncology group study. Cancer Treat Rep. 1982;66:31-5. PMID:6796269

7) Santoso JT, et al. Saline, mannitol, and furosemide hydration in acute cisplatin nephrotoxicity:a randomized trial. Cancer Chemother Pharmacol. 2003;52:13-8. PMID:12719883

8) Launay-Vacher V, et al.;for the European Society of Clinical Pharmacy Special Interest Group on Cancer Care. Prevention of cisplatin nephrotoxicity:state of the art and recommendations from the European Society of Clinical Pharmacy Special Interest Group on Cancer Care. Cancer Chemother Pharmacol. 2008;61:903-9. PMID:18317762


CQ9

マグネシウム投与はシスプラチンによる腎障害の予防に推奨されるか?

マグネシウム投与により,低マグネシウム血症予防効果は期待できる。また腎機能への好影響も示唆されており,腎障害の予防のためにマグネシウム投与は推奨される。

推奨グレード
行うことを弱く推奨する(提案する)
要 約

マグネシウム予防投与によりシスプラチン投与後の低マグネシウム血症を予防し腎障害の軽減が期待できる。

背景・目的

シスプラチン投与時には,おもに腎からの排泄亢進と消化管毒性により,低マグネシウム血症が高頻度に発現する。低マグネシウム血症が腎障害を引き起こす可能性も報告されており,マグネシウムの予防投与により腎障害の軽減が期待されている。

解 説

高用量シスプラチンを投与した患者においてマグネシウム投与と非投与で腎障害を比較した研究は,これまでにランダム化比較試験が2 件とレトロスペクティブな解析が1 件ある1-3)

Willox らは,16 例の精巣腫瘍および1 例の卵巣腫瘍でシスプラチン投与する予定の患者をマグネシウム投与する群とマグネシウム非投与群にランダム化し治療を行ったところ,マグネシウム非投与群では糸球体障害(NAG 高値)が有意にみられたことを報告している1)。またBodnar らは,シスプラチン投与予定の卵巣腫瘍患者を二重盲検にてマグネシウム投与群とマグネシウム非投与(プラセボ)群にランダム化して比較し,マグネシウム投与群はプラセボ群と比較し有意にGFR が良好であったことを報告している2)。どちらの研究も,マグネシウム予防投与により腎機能へ好影響が指摘されているが,小規模なサンプルサイズでエンドポイントや統計学的な仮説が不明確である。したがって腎機能障害の予防効果は期待できるが,明確に検証されたとはいえない。

しかしながらマグネシウム予防投与により低マグネシウム血症予防作用が生じ,それに伴い腎障害を含めた有害反応を軽減できることは推察され,マグネシウム予防投与による有害反応も軽微であることを考慮すると,現時点でマグネシウム予防投与は推奨される。

【参考文献】

1) Willox JC, et al. Effects of magnesium supplementation in testicular cancer patients receiving cis-platin:a randomised trial. Br J Cancer. 1986;54:19-23. PMID:3524645

2) Bodnar L, et al. Renal protection with magnesium subcarbonate and magnesium sulphate in patients with epithelial ovarian cancer after cisplatin and paclitaxel chemotherapy:a randomised phase Ⅱ study. Eur J Cancer. 2008;44:2608-14. PMID:18796350

3) Yoshida T, et al. Protective effect of magnesium preloading on cisplatin-induced nephrotoxicity:a retrospective study. Jpn J Clin Oncol. 2014;44:346-54. PMID:24503028


CQ10

腎機能に基づくカルボプラチン投与量設定は推奨されるか?

カルボプラチンを投与される成人がん患者において,目標とするAUC を設定したうえで腎機能に基づいて投与量を決定する方法は,体表面積に基づく一般的な方法と比較して治療効果を高めかつ副作用を軽減させるというエビデンスは十分ではない。しかし,この腎機能に基づく投与量設定法は合理的であり,かつ日常臨床では広く普及している。

推奨グレード
行うことを強く推奨する
要 約

カルボプラチンを投与される成人がん患者において,目標とするAUC を設定したうえで腎機能に基づいて投与量を決定する方法は,体表面積に基づく一般的な方法と比較して治療効果を高めかつ副作用を軽減させるというエビデンスは十分ではない。しかし,この腎機能に基づく投与量設定法は合理的であり,かつ日常臨床では広く普及していることから,推奨の強さは「強い」とした。

背景・目的

白金製剤であるカルボプラチンは体内投与後にそのほとんどが腎から排泄されるため,GFR に基づいて体内薬物動態を予測できる。さらに,体内薬物曝露量の指標であるAUC と血液毒性および抗腫瘍効果はよく相関する。そのため,目標とするAUC を設定したうえでGFR に基づいて投与量を決定する方法が広く普及している。GFR はCcr で代用することが多い。本稿では,日常臨床で用いられている,腎機能に基づくカルボプラチンの投与量設定が妥当であるかについて検討した。

解 説

カルボプラチンは婦人科がんや肺がんをはじめとする幅広い抗腫瘍スペクトルを有する白金製剤である。体内に投与されたカルボプラチンのほとんどは腎から排泄されるため,GFR に基づいて体内薬物動態を予測できる1)。さらに,体内薬物曝露量の指標であるAUC とカルボプラチンの用量制限毒性である血液毒性,とくに血小板減少,および抗腫瘍効果の相関は強い。したがって,カルボプラチンによる副作用および効果の個体間差は,治療前のGFRに起因するAUCの個体間差によって説明できる2)。目標とするAUC を設定したうえでGFR に基づいて投与量を決定すれば,AUC の個体間差は最小限となり,その結果として重篤な血液毒性や過少治療の危険性を低減させることが期待できる。このような考えから,Calvert らはGFR に基づいてカルボプラチンの投与量を決定する計算式(Calvert 式)を作成し,それは今日まで日常臨床で広く用いられている3)

Calvert 式:投与量[mg]=目標AUC[mg/mL×分]×(GFR[mL/分]+25)

投与量の計算には,あらかじめ設定された目標AUC と患者のGFR 値をCalvert 式に代入する。臨床試験に基づいてAUC は5〜7 に設定されるが,卵巣がん患者を対象としたモデル解析によると,カルボプラチンの抗腫瘍効果はAUC 5〜7 でほぼ頭打ちとなるが,血小板減少など血液毒性はAUC の増加とともにさらに増強することが示されている4)。そのほか,Egorin ら5, 6),Chatelut ら7)も同様に腎機能に基づくカルボプラチンの投与量計算式を作成しているが,計算が簡便であることから現在ではCalvert 式が用いられている。いずれにせよ,このように腎機能に基づいて投与量を決定する方法は合理的であるが,体表面積に基づく一般的な方法と比較して治療効果を高めかつ副作用を軽減させるという観点で前向きに検証した臨床試験は存在せず,そのエビデンスは十分ではない。

また,Calvert 式の作成過程ではクロムの放射性同位元素51Cr で標識したEDTA のクリアランス測定による実測GFR が用いられた。日本ではGFR のgold standard であるイヌリン・クリアランスが保険診療として測定できるが,その手順が煩雑であることから日常臨床ではCcr で代用することが多い。しかし,血清中に存在するCr は糸球体濾過に加えて尿細管からも約20〜30%が分泌されるため,その分だけCcr はGFR より高値となる点に注意が必要である。Ccr の計算に用いられる血清Cr 値の測定には,Jaffé 法と酵素法が用いられる。Jaffé 法の場合,血清中の非特異的物質の影響を受けるため,血清Cr 測定値は真値より約0.2 mg/dL 高値となる。しかし,Ccr の計算においては,この測定値の誤差と尿細管分泌によるGFR との差は相殺されることになり,結果的にJaffé 法で測定された血清Cr を用いたCcr はGFR にほぼ近似する。一方,酵素法の場合,血清Cr 測定値は正確であり,Ccr はGFR より高値となる。したがって,Ccr をGFR の代用としてCalvert 式に用いるとカルボプラチンの過剰投与となる危険性がある。日本では1990 年代半ば以降ほとんどの医療施設において酵素法が使用されているが,欧米では最近までJaffé 法が用いられてきた。海外で行われたカルボプラチンの臨床試験の解釈には注意が必要である。その対策として,Ccr の計算において,酵素法による血清Cr 測定値に0.2 を加える方法が提唱されている8, 9)。GFR を使用する場合,日本腎臓学会によって作成された,GFR 推算式(eGFR)から体表面積補正をしないGFR を計算して用いる(CQ1 参照)。一方,現在も日本の臨床試験の多くは酵素法で測定した血清Cr 値から推算したCcr をそのままGFR として用いている。これらの試験のエビデンスを臨床で用いる場合,実際のAUC と設定AUC とのあいだに明らかなバイアスが存在していても,それぞれの試験と同じ方法で推算されたGFR を用いることになる。しかし,腎機能に基づく投与量個別化の目的を考えれば,実際のAUC と設定AUC のバイアスがないように,臨床試験の段階から正確に評価された腎機能を用いるのが適切である。

米国では,血清Cr 測定法は2010 年までに酵素法と同様に正確な同位体希釈質量分析法(IDMS 法)に移行した。それに伴って,腎機能の過大評価によるカルボプラチンの過量投与を回避するためにCalvert 式に用いるGFR の上限値(125 mL/分)を設けることが推奨されている。婦人科領域では,極端に低い血清Cr 値に下限値(0.7 mg/dL)を設けることも行われている。これらの方法では,実際のAUC は大半の患者で設定AUC より大きく,また腎機能の良い一部の患者では設定AUC より小さくなっている点に注意が必要である。

Calvert 式の“GFR+25”はカルボプラチンの総クリアランスに相当しており,そのうち“GFR”は腎クリアランス,定数“25”は非腎クリアランスに相当する。非腎クリアランスはおもに体格の大きさに依存する。Calvert 式は英国で作成されており,白人と比較して平均的な体格が小さい日本人に対してCalvert 式を用いる場合,とくに重度の腎機能低下例ではGFR と比較して相対的に非腎クリアランスの割合が高くなるため,カルボプラチンが過量投与になる可能性がある10)

Ccr の測定には蓄尿(通常は24 時間)が必要であるが,血清Cr 値から計算される推算値をGFR の代用として用いることがある。Ccr の推算式にはCockcroft-Gault 式やJelliffe 式,GFR の推算式には欧米のMDRD 式,CKD-EPI 式,Wright 式,前述した日本人のGFR 推算式(eGFR)がある(CQ1 参照)。これらの推算式を用いる場合には人種差や病態など患者背景,血清Cr 測定法に注意しなければならない。また,推算式の使用は血清Cr が安定していることが前提であり,腎不全の急性期など腎機能の変動が大きいときや,サルコペニアや低栄養状態など極端に筋肉量が減った状態では腎機能が過大評価される。

【参考文献】

1) Calvert AH, et al. PhaseT studies with carboplatin at the Royal Marsden Hospital. Cancer Treat Rev. 1985;12 Suppl A:51-7. PMID:3910222

2) Harland SJ, et al. Pharmacokinetics of cis-diammine-1,1-cyclobutane dicarboxylate platinum(Ⅱ)in patients with normal and impaired renal function. Cancer Res. 1984;44:1693-7. PMID:6367971

3) Calvert AH, et al. Carboplatin dosage:prospective evaluation of a simple formula based on renal function. J Clin Oncol. 1989;7:1748-56. PMID:2681557

4) Jodrell DI, et al. Relationships between carboplatin exposure and tumor response and toxicity in patients with ovarian cancer. J Clin Oncol. 1992;10:520-8. PMID:1548516

5) Egorin MJ, et al. Pharmacokinetics and dosage reduction of cis-diammine(1,1-cyclobutanedicarboxylato)platinum in patients with impaired renal function. Cancer Res. 1984;44:5432-8. PMID:6386150

6) Egorin MJ, et al. Prospective validation of a pharmacologically based dosing scheme for the cis-diamminedichloroplatinum(Ⅱ)analogue diamminecyclobutanedicarboxylatoplatinum. Cancer Res. 1985;45:6502-6. PMID:3904984

7) Chatelut E, et al. Prediction of carboplatin clearance from standard morphological and biological patient characteristics. J Natl Cancer Inst. 1995;87:573-80. PMID:7752255

8) Ando Y, et al. Adjustment of creatinine clearance improves accuracy of Calvert’s formula for carboplatin dosing. Br J Cancer. 1997;76:1067-71. PMID:9376268

9) Ando M, et al. Multi-institutional validation study of carboplatin dosing formula using adjusted serum creatinine level. Clin Cancer Res. 2000;6:4733-8. PMID:11156227

10) Shimokata T, et al. Prospective evaluation of pharmacokinetically guided dosing of carboplatin in Japanese patients with cancer. Cancer Sci. 2010;101:2601-5. PMID:20860621


(3)その他の薬剤

CQ11

大量メトトレキサート療法に対するホリナート救援療法時の腎障害予防には尿のアルカリ化が推奨されるか?

メトトレキサートに対するホリナート救援療法時の腎障害予防には尿のアルカリ化が推奨される。

推奨グレード
行うことを強く推奨する
要 約

メトトレキサートに対するホリナート救援療法では,尿のアルカリ化と十分な輸液による利尿に加えて,メトトレキサート血中濃度をモニターし,血中濃度に応じてホリナートの増量や投与期間の延長を行うことが推奨される。

背景・目的

メトトレキサートに対するホリナート救援療法は1970 年代に開発された治療法であり,尿のアルカリ化や十分な輸液による利尿などの支持療法は,ほぼ1990 年代までに確立した方法である。本稿では最近の知見をふまえて,この方法について再検討する。

解 説

メトトレキサートの90%以上は腎から排泄される。動物実験では,メトトレキサートによる腎障害はメトトレキサートあるいはその代謝産物である7-OH-MTX などが尿細管に沈着することによって惹起されることが示されている。メトトレキサートおよびその代謝産物の溶解度は尿PH に依存し,6.0 から7.0 に上昇すると溶解度は5〜8 倍高くなるとされている1)。メトトレキサートに対するホリナート救援療法は1970 年代に開発され,大量(一般的に500〜1000 mg/m2以上)のメトトレキサートを投与することによりがん細胞に受動的にメトトレキサートを取り込ませ,一定時間後にメトトレキサート解毒剤としてのホリナートを投与することにより,これを能動的に取り込むことが可能な正常細胞を救援することを理論的根拠とする。メトトレキサートに対するホリナート救援療法は,骨肉腫や急性白血病,悪性リンパ腫に有効性を示したが,1970 年代の集計では治療関連死が約6%と高率であり2),その病態としてメトトレキサートによる腎障害がメトトレキサート自体の排泄遅延をきたし,骨髄抑制その他の重篤な有害事象が増強することが重要視された2)。その後,尿のアルカリ化3)と十分な輸液4)による利尿に加え,メトトレキサート血中濃度をモニターすることにより血中濃度に応じてホリナートの増量や投与期間の延長を行う方法5)が普及した。これらの技術的改善に伴い,メトトレキサートに対するホリナート救援療法の治療関連死は減少し,2004 年の骨肉腫3,887 例の集計データでは0.08%と報告されている6)。以上より,ランダム化比較試験によるエビデンスはないが,メトトレキサートに対するホリナート救援療法時の腎障害予防には,尿のアルカリ化と十分な輸液による尿量の確保が推奨される。一方で,上述2004 年の集計でもグレード2(WHO 基準,血清クレアチニン基準範囲上限×1.5〜3.0)以上の腎機能障害が68 例(1.8%)に観察され,そのような場合の治療関連死が4.4%と依然として高いことが報告されている6)。腎機能障害によるメトトレキサートの排泄遅延に対しては,ホリナートの増量が有効とする報告がある7)

また最近では,血中メトトレキサートを直接分解するリコンビナント酵素製剤の有効性が前向き試験8)や後ろ向き解析9)で報告され,米国では承認されているが,わが国では未承認である。メトトレキサートは分子量454.44 と小分子であるため血液透析により除去できるが,タンパク結合率が約50%,分布容積が数10 L であり,4 時間の血液透析での除去率は10.8%であった報告されている(医薬品情報より)。しかしHigh-Flux 膜による血液透析でメトトレキサート除去効率を高くしたというケースシリーズの報告もあり10, 11),治療方法の一つとして考慮してもよい。

一方,通常量のメトトレキサートを含む併用化学療法,すなわち乳がんに対するCMF 療法や尿路上皮がんに対するM-VAC 療法において,腎障害予防を目的としたホリナートや尿のアルカリ化の有用性を示す明確なエビデンスはない。また,通常量のメトトレキサートを含む併用化学療法実施時に非ステロイド性抗炎症薬を併用した場合,有害事象が増強されることが報告されているため,メトトレキサートと非ステロイド性抗炎症薬の併用は避けるべきである1)

【参考文献】

1) Widemann BC, et al. Understanding and managing methotrexate nephrotoxici ty. Oncologi s t . 2006;11:694-703. PMID:16794248

2) Von Hoff DD, et al. Incidence of drug-related deaths secondary to high-dose methotrexate and citrovorum factor administration. Cancer Treat Rep. 1977;61:745-8. PMID:301783

3) Mir O, et al. Hyper-alkalinization without hyper-hydration for the prevention of high-dose methotrexate acute nephrotoxicity in patients with osteosarcoma. Cancer Chemother Pharmacol. 2010;66:1059-63. PMID:20155268

4) Romolo JL, et al. Effect of hydration on plasma-methotrexate levels. Cancer Treat Rep. 1977;61:1393-6. PMID:303939

5) Stoller RG, et al. Use of plasma pharmacokinetics to predict and prevent methotrexate toxicity. N Engl J Med. 1977;297:630-4. PMID:302412

6) Widemann BC, et al. High-dose methotrexate-induced nephrotoxicity in patients with osteosarcoma. Cancer. 2004;100:2222-32. PMID:15139068

7) Flombaum CD, et al. High-dose leucovorin as sole therapy for methotrexate toxicity. J Clin Oncol. 1999;17:1589-94. PMID:10334548

8) Buchen S, et al. Carboxypeptidase G2 rescue in patients with methotrexate intoxication and renal failure. Br J Cancer. 2005;92:480-7. PMID:15668713

9) Widemann BC, et al. Glucarpidase, leucovorin, and thymidine for high-dose methotrexate-induced renal dysfunction:clinical and pharmacologic factors affecting outcome. J Clin Oncol. 2010;28:3979-86. PMID:20679598

10) Wall SM, et al. Effective clearance of methotrexate using high-flux hemodialysis membranes. Am J Kidney Dis. 1996;28:846-54. PMID:8957036

11) Saland JM, et al. Effective removal of methotrexate by high-flux hemodialysis. Pediatr Nephrol. 2002;17:825-9. PMID:12376811


C12

血管新生阻害薬投与時にタンパク尿を認めたときは休薬・減量が推奨されるか?

血管新生阻害薬投与時にタンパク尿を認めたときは,タンパク尿のグレードと薬物治療継続のリスク・ベネフィットを加味したうえでの休薬・減量が推奨される。

推奨グレード
行うことを強く推奨する
要 約

 血管新生阻害薬を投与する際には,定期的な血圧測定と尿検査による高血圧,タンパク尿の早期発見に加えて,降圧薬の積極投与による十分な血圧コントロールを行う。タンパク尿が出現した際は,治療薬の一時休薬や減量しての治療継続は現実的な選択肢であるが,グレード1 のタンパク尿であれば,進行がん患者に対する治療リスクとベネフィットを加味したうえで,治療継続も考慮する。グレード2 以上のタンパク尿が出現した場合には一時休薬や減量を行い,必要に応じて腎臓専門医へ介入を依頼する。

背景・目的

血管新生阻害薬は種々のがん腫で臨床導入されており,おもにVEGF 経路の抑制によって腫瘍の血管新生を阻害する。その薬効と有害事象は,細胞障害性抗がん薬とは異なるパターンを示す。タンパク尿は高血圧に並び,血管新生阻害薬による治療中に生じる有害事象の一つである1)。タンパク尿や微量アルブミン尿の出現は,腎機能障害や心血管合併症の独立したリスク因子であることが明らかにされており2),血管新生阻害薬投与時にタンパク尿が出現した際も,適切な管理が必要とされる。血管新生阻害薬にはさまざまな種類があり,適応となるがん腫や治療ラインも異なっている。進行性腎細胞がんのように,薬物治療開始時にほとんどの症例が単腎であるようながん腫に対しても血管新生阻害薬は投与されている。さらには,血管新生阻害薬は単剤で投与される場合もあれば多剤併用療法の一部として用いられることもある。このような多様な背景もあり,血管新生阻害薬投与中のタンパク尿の出現頻度は薬剤ごとに異なることが明らかにされている1)。国内の特定使用成績調査よると,進行性結腸・直腸がん2,696 例に対するベバシズマブ投与中のタンパク尿出現頻度は4.60%であり,そのうち重篤なものは0.11%と報告されている3)。進行性腎細胞がんおよび消化管間質腫瘍2,141 例に対するスニチニブ投与中のタンパク尿出現頻度は1.59%で,進行性腎細胞がんでの出現頻度は1.20%,消化管間質腫瘍では2.98%と報告されている4)。進行性腎細胞がん3,335 例に対するソラフェニブ投与中のタンパク尿出現頻度は0.71%で,重篤例は報告されていない5)。日本人のサイトカイン療法不応性進行性腎細胞がん64 例に対するアキシチニブの第Ⅱ相臨床試験では,タンパク尿の出現頻度は58%で,そのうち9%がグレード3 以上の重篤例であったと報告されている6)

解 説

血管新生阻害薬すなわちVEGF 経路の阻害薬による治療中に生じるタンパク尿の正確な発症メカニズムは明らかにされていないが,糸球体上皮細胞のVEGF 産生が阻害されることに由来する糸球体構造と濾過機能の破綻が推測されている7)。ACE阻害薬やARB には輸出細動脈を拡張させ糸球体内圧を低下させタンパク尿を減少させる作用があることから,血管新生阻害薬を投与する際には定期的な血圧測定とタンパク尿検査による早期発見に加えて,降圧薬の積極投与による十分な血圧コントロールが行われている1)

血管新生阻害薬ごとにタンパク尿の出現頻度は異なるものの,尿タンパクは用量依存性に起こると考えられている8, 9)。そのため,タンパク尿が出現した際には,血管新生阻害薬の減量や一時休薬が現実的な選択肢である。実際,各種分子標的薬の治療効果を検討する臨床試験でも,薬剤投与中にグレード2 以上のタンパク尿が出現した場合には減量または休薬してから再投与することが多い10)。予後の限られた進行がん患者に対する治療中にグレード1 のタンパク尿が生じた場合,すべての症例で休薬や減量が必要とは限らず,薬物治療継続の利益/不利益を検討し,患者の希望も考慮して判断する必要がある。しかしながら各種血管新生阻害薬の投与中にネフローゼ症候群を発症した症例が確認されており11-13),一時休薬や減量をしてもタンパク尿が増悪するような場合には腎臓専門医との連携による治療も考慮すべきである1)

【参考文献】

1) Izzedine H, et al. VEGF signalling inhibition-induced proteinuria: Mechanisms, significance and management. Eur J Cancer. 2010;46:439-48. PMID:20006922

2) Kandula P, et al. Proteinuria and hypertension with tyrosine kinase inhibitors. Kidney Int. 2011;80:1271-7. PMID:21900879

3) アバスチン® 点滴静注用 特定使用成績調査最終解析結果.治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌を対象とした全例調査.

4) スーテント® カプセル12.5 mg 特定使用成績調査最終報告書.2012 年3 月作成.

5) ネクサバール® 錠200 mg(一般名:ソラフェニブトシル酸塩錠)特定使用成績調査最終報告書.2012 年10 月.http://www.nexavar.jp/unmember/pdf/rcc201305.pdf

6) Tomita Y, et al.;for the Japan Axitinib Phase Ⅱ Study Group. Key predictive factors of axitinib(AG-013736)-induced proteinuria and efficacy:a phase Ⅱ study in Japanese patients with cytokine-refractory metastatic renal cell Carcinoma. Eur J Cancer. 2011;47:2592-602. PMID:21889330

7) Wu S, et al. Antiangiogenic agents for the treatment of nonsmall cell lung cancer:characterizing the molecular basis for serious adverse events. Cancer Invest. 2011;29:460-71. PMID:21740083

8) Wu S, et al. Bevacizumab increases risk for severe proteinuria in cancer patients. J Am Soc Nephrol. 2010;21:1381-9. PMID:20538785

9) Land JD, et al. Proteinuria with first-line therapy of metastatic renal cell cancer. J Oncol Pharm Pract. 2016;22:235-41. PMID:25505255

10) Hainsworth JD, et al. Phase Ⅱ trial of bevacizumab and everolimus in patients with advanced renal cell carcinoma. J Clin Oncol. 2010;28:2131-6. PMID:20368560

11) Overkleeft EN, et al. Nephrotic syndrome caused by the angiogenesis inhibitor sorafenib. Ann Oncol. 2010;21:184-5. PMID:19889617

12) Eremina V, et al. VEGF inhibition and renal thrombotic microangiopathy. N Engl J Med. 2008;358:1129-36. PMID:18337603

13) Costero O, et al. Inhibition of tyrosine kinases by sunitinib associated with focal segmental glomerulosclerosis lesion in addition to thrombotic microangiopathy. Nephrol Dial Transplant. 2010;25:1001-3. PMID:20019017


CQ13

ビスホスホネート製剤,抗RANKL 抗体は腎機能が低下した患者に対しては減量が推奨されるか?

ビスホスホネート製剤は,腎機能が低下した患者に対して減量が推奨される。一方,抗RANKL 抗体は,腎機能が低下した患者に対して減量が推奨されない。

推奨グレード
行うことを強く推奨する
要 約

ビスホスホネート製剤は,腎機能が低下した患者に対して減量が推奨される。一方,抗RANKL 抗体は,腎機能が低下した患者に対して減量が推奨されない。

背景・目的

注射用ビスホスホネート製剤は,悪性腫瘍による高カルシウム血症の改善,多発性骨髄腫あるいは固形がん骨転移による骨病変に対する骨関連イベント(病的骨折,骨病変に対する放射線治療,骨病変に対する外科的手術,脊髄圧迫,高カルシウム血症と定義)の抑制における有用性が確立している。わが国で悪性腫瘍に使用されているのは,主としてゾレドロン酸とパミドロン酸であり,パミドロン酸は悪性腫瘍による高カルシウム血症と乳がんの溶骨性骨転移に対し,ゾレドロン酸は悪性腫瘍による高カルシウム血症,多発性骨髄腫あるいは固形がん骨転移による骨病変に対し承認されている。その他,欧州ではイバンドロン酸の静脈注射製剤が,骨転移関連イベント抑制目的に承認されている。ビスホスホネート製剤の有害事象のひとつに腎機能障害が知られており,本稿では腎機能に応じた減量の必要性に関して検討する。

解 説

高用量(90〜360 mg/月)のパミドロン酸投与は巣状糸球体硬化症や急性尿細管壊死を生じ,急性腎不全やネフローゼ症候群に進行することが報告された1)。その後,用量や投与時間に関する検討により,パミドロン酸90 mg を3 時間以上かけて投与したときには腎機能障害は軽度であり,第Ⅲ相試験でも,プラセボに比較して有意な腎機能障害が認められなかった。この結果に基づき,米国臨床腫瘍学会(ASCO)のガイドラインが改訂され,パミドロン酸90 mg を2 時間以上かけて投与するのであれば,Ccr が30〜60 mL/分の場合でもパミドロン酸の減量の必要はなく,Ccr が30 mL/分以下の場合はパミドロン酸の投与時間をさらに延長(4〜6 時間)するか,あるいは減量を考慮することが明記された2, 3)

ゾレドロン酸は,溶骨性変化を有する乳がん,多発性骨髄腫,肺がん,その他の固形腫瘍などを対象としたいくつかの第Ⅲ相試験において,4 mg または8 mg を5 分間で投与というプロトコールで開始されたが,8 mg を5 分間で投与した群に腎機能障害が高頻度に認められたために,2 段階のプロトコール改正が必要となった。第一に5 分間から15 分間への投与時間の延長,第二に8 mg 投与の中止および4 mg 投与への変更であり,これらの改訂により腎機能障害の頻度はプラセボあるいは対照群であるパミドロン酸と同等になった4-8)。2005 年にノバルティスファーマ社はFDA に添付文書改訂を申請し,Ccr が30〜60 mL/分の腎機能低下患者への投与に関して,Ccr が75 mL/分の患者と同等のAUC が得られるようにゾレドロン酸投与量の減量が設定された(Ccr が50〜60 mL/分の場合3.5 mg,Ccr が40〜49 mL/分の場合3.3 mg,Ccr が30〜39 mL/分の場合3.0 mg)。改訂されたASCO ガイドラインでは,ゾレドロン酸は4 mg を15 分以上かけて投与すること,Ccr が30〜60 mL/分の場合,添付文書の推奨にしたがって減量すること,Ccr が30 mL/分以下の場合はゾレドロン酸投与を推奨しないことが明記された。Shah らによる220 例の後ろ向き解析では,添付文書の推奨にしたがってゾレドロン酸の用量調節を行った場合,腎機能低下患者と正常患者における,有害事象としての急性腎不全の頻度は同等であったと報告された9)

イバンドロン酸は,静脈注射製剤が欧州にて承認され,骨転移の骨関連イベント抑制目的に使用されている(わが国では骨粗鬆症に対し経口薬のみ承認)。イバンドロン酸は腎機能障害の頻度がビスホスホネート静脈注射製剤のなかではもっとも低いとされている10)。しかし,Ccr が50 mL/分以下の場合,投与時間を15 分から1 時間に延長すること,Ccr が30 mL/分以下の場合は6 mg 投与から2 mg 投与に減量することが添付文書で推奨されている。

骨転移に対する治療薬として,抗RANKL 抗体が開発され,第Ⅲ相試験において,ゾレドロン酸よりも有意に骨関連イベントの発生を抑制した。有害事象として腎機能障害はなく,腎機能に応じた用量調節の必要はないとされている11)。ただし,Ccr 30 mL/分未満の患者および透析の必要なESRD 患者は臨床試験の対象から除外されているため,重篤な低カルシウム血症が発症する可能性を考慮し,重度の腎機能障害患者では抗RANCL 抗体の適応を慎重に判断する必要がある。

【参考文献】

1) Markowitz GS, et al. Collapsing focal segmental glomerulosclerosis following treatment with high-dose pamidronate. J Am Soc Nephrol. 2001;12:1164-72. PMID:11373339

2) Hillner BE, et al.;for the American Society of Clinical Oncology. American Society of Clinical Oncology 2003 update on the role of bisphosphonates and bone health issues in women with breast cancer. J Clin Oncol. 2003;21:4042-57. PMID:12963702

3) Kyle RA, et al.;for the American Society of Clinical Oncology. American Society of Clinical Oncology 2007 clinical practice guideline update on the role of bisphosphonates in multiple myeloma. J Clin Oncol. 2007;25:2464-72. PMID:17515569

4) Rosen LS, et al. Zoledronic acid versus pamidronate in the treatment of skeletal metastases in patients with breast cancer or osteolytic lesions of multiple myeloma:a phase Ⅲ, double-blind, comparative trial. Cancer J. 2001;7:377-87. PMID:11693896

5) Rosen LS, et al. Zoledronic acid is superior to pamidronate for the treatment of bone metastases in breast carcinoma patients with at least one osteolytic lesion. Cancer. 2004;100:36-43. PMID:14692022

6) Rosen LS, et al. Long-term efficacy and safety of zoledronic acid compared with pamidronate disodium in the treatment of skeletal complications in patients with advanced multiple myeloma or breast carcinoma:a randomized, double-blind, multicenter, comparative trial. Cancer. 2003;98:1735-44. PMID:14534891

7) Rosen LS, et al. Zoledronic acid versus placebo in the treatment of skeletal metastases in patients with lung cancer and other solid tumors:a phase Ⅲ, double-blind, randomized trial--the Zoledronic Acid Lung Cancer and Other Solid Tumors Study Group. J Clin Oncol. 2003;21:3150-7. PMID:12915606

8) Rosen LS, et al. Long-term efficacy and safety of zoledronic acid in the treatment of skeletal metastases in patients with nonsmall cell lung carcinoma and other solid tumors:a randomized, Phase Ⅲ, double-blind, placebo-controlled trial. Cancer. 2004;100:2613-21. PMID:15197804

9) Shah SR, et al. Risk of renal failure in cancer patients with bone metastasis treated with renally adjusted zoledronic acid. Support Care Cancer. 2012;20:87-93. PMID:21197550

10) Pivot X, et al. Renal safety of ibandronate 6 mg infused over 15 min versus 60 min in breast cancer patients with bone metastases:a randomized open-label equivalence trial. Breast. 2011;20:510-4. PMID:21727006

11) Henry DH, et al. Randomized, double-blind study of denosumab versus zoledronic acid in the treatment of bone metastases in patients with advanced cancer(excluding breast and prostate cancer)or multiple myeloma. J Clin Oncol. 2011;29:1125-32. PMID:21343556


(4)維持透析患者

C14

維持透析患者に対してシスプラチン投与後に薬物除去目的に透析療法を行うことは推奨されるか?

組織やタンパクに結合しているシスプラチンの大部分は透析を行っても体内に残り,透析後にリバウンドによる再上昇が認められるため,維持透析患者に対してシスプラチン投与後にタイミングに関わらず薬物除去目的の透析療法を行うことは推奨されない。

推奨グレード
行わないことを弱く推奨する(提案する)
要 約

組織やタンパクに結合しているシスプラチンの大部分は透析を行っても体内に残り,透析後にリバウンドによる再上昇が認められるため,維持透析患者に対してシスプラチン投与後に,タイミングに関わらず薬物除去目的の透析療法を行うことは推奨されない。ただし,これは症例報告に基づくエキスパートオピニオンであり,エビデンス―診療ギャップを解消するために今後さらなる臨床研究が必要である。

背景・目的

ESRD 患者では,シスプラチンの投与後に蓄積毒性に対する懸念から薬物除去目的に透析を行う場合もあると思われる。そこで今回,シスプラチンの投与後に薬物除去目的に透析療法を行うことの有効性について評価した。

解 説

シスプラチンは血中に入ると速やかに血漿タンパクと結合し,タンパク非結合型シスプラチン(free Pt)からタンパク結合型シスプラチン(≒total Pt)となる。シスプラチンの副作用としての腎障害については透析患者の場合はすでに腎機能は廃絶しているため,むしろ骨髄毒性・末梢神経障害などが問題になると考えられる。

透析患者にシスプラチンを投与し薬物動態を系統的に調べた研究は,症例報告以外にはほとんどない。宮川らは維持透析中に胃がんを発症した5 例にシスプラチンを投与し,薬物動態を調べた結果を報告している。透析開始と同時投与した場合ではfree Pt の血中濃度は急速に低下し,ダイアライザー後の血中濃度は測定感度以下となり,total Pt の血中濃度も初期に比較的急峻な変化を示した後ゆるやかに下降,投与後1 時間で透析開始した場合でもfree Pt およびtotal Pt の血中濃度は基本的に透析開始と同時投与した場合と同様の動きを示した,としているが,5 例のうちどの症例で透析開始と同時投与し,どの症例で投与後1 時間で透析開始したかは明記されていない1)。また,宮川らは同年に維持透析患者の胃がん症例2 例におけるシスプラチンの薬物動態の報告を行っているが,同一症例かどうかは不明である2)

症例報告では,「key drug のシスプラチンの効果を最大限に得るためにあえて投与翌日の透析とした」とする猪爪らの報告3)以外は,すべてシスプラチンを投与して30 分から1 時間後に透析を開始している。これは,シスプラチンを投与してから一定時間をおかないとfree Pt が血漿タンパクと結合する前に透析され血中から消失してしまい,有効な抗腫瘍効果が得られなくなるためである。シスプラチンを投与すると腎機能正常者では早期に血中濃度が急減し(α相),その後は緩徐に減少する(β相)という二相性パターンを示す。このパターンは慢性腎不全患者でもみられ,α相はシスプラチンの組織への移行によるものであると考えられている4)。β相は腎臓からの排泄によるもので,腎不全患者ではこの減少が一層少ないか,あるいは消失している。二相性パターンは,シスプラチンを投与して30 分から1 時間後に透析を開始した報告でも認められている。

生体内に投与されたシスプラチンは短時間のうちに血漿および組織中タンパクと結合し透析されなくなるため,約3.5〜4 時間の透析で10%前後が除去されるにすぎない5, 6)。除去されるシスプラチンのほとんどはfree Pt であり,組織やタンパクに結合しているシスプラチンの大部分は透析を行っても体内に残る。透析後はリバウンドにより,血中のfree Pt は再上昇する3, 8-12)。また,累積シスプラチン量が多くなると,透析による除去率がさらに低下するとされている10, 13)

以上より,free Pt は透析でほとんど除去可能であるが,組織やタンパクに結合しているシスプラチンの大部分は透析を行っても体内に残り,透析後にリバウンドによる再上昇が認められると考えられる。したがって,本CQ に対しては,「投与後に透析を行っても10%程度しか除去できないばかりか,リバウンド現象が起きるため,投与後のタイミング(直後,30 分〜1 時間後)に関わらず,除去目的での透析は推奨されない」と考えられる。ただし,症例報告に基づくエキスパートオピニオンであり,エビデンス―診療ギャップを解消するために今後さらなる臨床研究が必要な領域である。なお,透析患者でのシスプラチン使用においては50〜75%の減量が推奨されており14, 15),投与後に透析を施行した場合もシスプラチンの蓄積には注意する必要がある。

【参考文献】

1) 宮川政昭ほか.慢性腎不全維持透析患者におけるcis-diamminedichloroplatinum(CDDP)の体内動態.癌と化学療法.1987;14:2491-5.

2) 宮川政昭ほか.維持透析患者に合併した胃癌に対するCisplatinum を主体とした化学療法の検討.腎と透析.1987;23:179-82.

3) 猪爪隆史ほか.進行期メラノーマを合併した人工透析患者にDAC-Tam 療法を施行した1 例.Skin Cancer.2005;20:93-8.

4) 諏訪多順二ほか.慢性腎不全患者におけるCDDP の血中動態.癌と化学療法.1988;15:243-8.

5) Gouyette A, et al. Kinetics of cisplatin in an anuric patient undergoing hemofiltration dialysis. Cancer Treat Rep. 1981;65:665-8. PMID:7195773

6) 横木広幸ほか.慢性腎不全を合併した尿管癌症例に対するMethotrexate,Vinblastine,Adriamycin,Cis-platinum 併用療法の経験.癌と化学療法.1993;20:2405-7.

7) 清水麻衣ほか.慢性腎不全を有する進行舌癌患者に対する浅側頭動脈と後頭動脈よりの超選択的動注法を用いた連日同時放射線化学療法の経験―血中プラチナの体内動態の検討.日本口腔腫瘍学会誌.2010;22:45-51.

8) 新井陽子ほか.血液透析中の慢性腎不全患者に合併した進行食道癌に対して5-Fluorouracil+cis-dichlorodiammineplatinum+放射線照射同時併用療法が有効であった1 例.日本消化器病学会雑誌.2008;105:1482-8.

9) 鈴木貴博ほか.透析中の上顎癌例に対する選択的動注化学療法の経験.耳鼻咽喉科臨床.2006;99:439-44.

10) 徳永仁ほか.慢性腎不全を伴った尿路上皮腫瘍に対する血液透析併用M-VAC 療法時の薬物体内動態.癌と化学療法.2000;27:2079-85.

11) 佐藤豊実ほか.維持血液透析中の子宮体癌症例における血中Cisplatinumの濃度推移.日本産科婦人科学会雑誌.1996;48:303-6.

12) 綾部公懿ほか.慢性腎不全透析患者におけるCisplatin(CDDP)およびVindesine(VDS)の体内動態に関する検討.癌と化学療法.1989;16:3283-5.

13) 後藤伸之ほか.血液透析患者におけるCisplatin(CDDP)及びFluorouracil(5-FU)の体内動態.TDM 研究.1988;15:329-33.

14) Janus N, et al. Proposal for dosage adjustment and timing of chemotherapy in hemodialyzed patients. Ann Oncol. 2010;21:1395-403. PMID:20118214

15) Lichtman SM, et al. International Society of Geriatric Oncology(SIOG)recommendations for the adjustment of dosing in elderly cancer patients with renal insufficiency. Eur J Cancer. 2007;43:14-34. PMID:17222747


(5)特殊な合併症

CQ15

腫瘍崩壊症候群の予防にラスブリカーゼは推奨されるか?

腫瘍崩壊症候群の予防にラスブリカーゼは推奨される。

推奨グレード
行うことを強く推奨する
要 約

腫瘍崩壊症候群(TLS)予防のためのラスブリカーゼ投与の適応は,日本臨床腫瘍学会によるTLS 診療ガイダンス1)で各リスク別に述べられており,ラスブリカーゼ投与による血液透析導入のリスク低下も報告されている。ラスブリカーゼ投与は尿酸値を低下させ,腎障害予防作用を示し,TLS 予防に有効である。

背景・目的

ラスブリカーゼは遺伝子組換え型尿酸オキシダーゼであり,尿酸をアラントインに速やかに代謝する。尿酸と比較すると,アラントインの尿中溶解度はきわめて高いため,この代謝により血中の尿酸濃度は急速に低下する。投与に際しては,①酵素製剤であるため,過敏反応をきたす可能性があること,②抗体産生の報告があり,再投与が認められていないこと,③グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠損症症例への投与は禁忌であることなどに注意が必要である。本稿では,TLS の予防にラスブリカーゼが推奨されるか検討した。

解 説

TLS 予防のためのラスブリカーゼ投与の適応は,TLS 診療ガイダンス1)で各リスク別に述べられており,①高リスク症例,②中間リスク症例でアロプリノール,フェブキソスタットによる予防にも関わらず尿酸値が持続的に上昇する場合や,診断時に高尿酸血症が認められる場合に対して投与,あるいは投与を考慮するとされている1)。ラスブリカーゼのTLS 予防作用に関しては,TLS 高リスク症例を対象に,ラスブリカーゼ単剤(0.20 mg/kg/日day 1〜5)とラスブリカーゼとアロプリノール併用(ラスブリカーゼ0.20 mg/kg/日day 1〜3 およびアロプリノール300 mg/日day 3〜5),アロプリノール単剤(300 mg/日day 1〜5)にランダム割付けした第Ⅲ相試験において,ラスブリカーゼ単剤はアロプリノール単剤とくらべて有意にLaboratory TLS*の頻度を低下させることが示された2)。また,小児を対象としたいくつかの試験でも,アロプリノールに比しラスブリカーゼが有意に尿酸値を低下させることが示されている3, 4)。またラスブリカーゼの腎障害予防作用に関しては,白血病およびリンパ腫を対象とした複数の臨床試験のシステマティックレビューによると,ラスブリカーゼを併用した場合の血液透析導入の頻度は0〜2.8%,併用していない場合は15.9〜25.0%であり,ラスブリカーゼ使用により血液透析導入のリスクが低下する傾向が認められた5)。このほか,TLS 高リスク症例におけるラスブリカーゼ投与による尿酸値の低下は,いくつかのランダム化比較試験で示されている6, 7)。以上,ラスブリカーゼ投与は尿酸値を低下させ,腎障害予防作用を示し,TLS 予防に有効であると考えられる。

*Cairo-Bishop の診断基準による8)

【参考文献】

1) 日本臨床腫瘍学会.腫瘍崩壊症候群(TLS)診療ガイダンス. 金原出版,2013.

2) Cortes J, et al. Control of plasma uric acid in adults at risk for tumor Lysis syndrome:efficacy and safety of rasburicase alone and rasburicase followed by allopurinol compared with allopurinol alone--results of a multicenter phase Ⅲ study. J Clin Oncol. 2010;28:4207-13. PMID:20713865

3) Goldman SC, et al. A randomized comparison between rasburicase and allopurinol in children with lymphoma or leukemia at high risk for tumor lysis. Blood. 2001;97:2998-3003. PMID:11342423

4) Cheuk DK, et al. Urate oxidase for the prevention and treatment of tumour lysis syndrome in children with cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2014;8:CD006945. PMID:25121561

5) Jeha S, et al. Efficacy and safety of rasburicase, a recombinant urate oxidase(Elitek), in the management of malignancy-associated hyperuricemia in pediatric and adult patients:final results of a multicenter compassionate use trial. Leukemia. 2005;19:34-8. PMID:15510203

6) Vadhan-Raj S, et al. A randomized trial of a single-dose rasburicase versus five-daily doses in patients at risk for tumor lysis syndrome. Ann Oncol. 2012;23:1640-5. PMID:22015451

7) Kikuchi A, et al. A study of rasburicase for the management of hyperuricemia in pediatric patients with newly diagnosed hematologic malignancies at high risk for tumor lysis syndrome. Int J Hematol. 2009;90:492-500. PMID:19701676

8) Cairo MS, et al. Tumour lysis syndrome:new therapeutic strategies and classification. Br J Haematol. 2004;127:3-11. PMID:15384972


CQ16

抗がん薬によるTMA に対して血漿交換は推奨されるか?

抗がん薬によるTMA に対し,明確なエビデンスはないため,現時点では推奨されない。TMA による腎障害に対する血漿交換は,進展を抑制している症例が散見されるものの,その有効性を評価するまでには至らず,現時点では推奨されない。

推奨グレード
行わないことを弱く推奨する(提案する)
要 約

抗がん薬によるTMA に対する血漿交換の有効性については,信頼できるだけのエビデンスに乏しく,現状は推奨されない。マイトマイシンC についてはケースシリーズや横断研究での報告がいくつかあるものの,血漿交換単独での治療による評価はなく,抗血小板薬およびステロイドによる薬物療法や血漿交換後に血液透析を併用している例も多い。一方,TMA による腎障害については,血漿交換により腎機能のさらなる増悪を抑制する程度にとどまったとする症例報告が多く,血液透析の併用などもあり血漿交換の有用性を評価するまでには至らない。

背景・目的

TMA は血小板減少,微小血管症性溶血性貧血,臓器障害の三つを呈する疾患である。典型的なTMA はa disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13(ADAMTS13)活性が減少する血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)および志賀毒素による溶血性尿毒症症候群(HUS)である。一方で,TMA の病態は未解明な部分も多く,多彩な病態を呈するため,2013 年にTTP とHUS 以外のTMA を非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)と定義し診断基準が作成されている1)。TTP は先天性および後天性にADAMTS13 活性が低下するが,その多くは後天性であり,ADAMTS13 に対する自己抗体が関与している。そのため後天性TTP に対しては血漿交換が第一選択とされ,ADAMTS13 補充,ADAMTS13 阻害抗体の除去や止血因子であるvon Willebrand factor(vWF)の多量体である超高分子量VWF 多重体(UL-VWFM)の除去を目的としている。またHUS に対しては,血漿交換の有効性は確立しておらず,支持療法が主体である。aHUS においても補体系異常によるaHUS に対して血漿交換が行われるが,その病因が多彩であるため有効性は確立していない。薬物誘発性TMA には,チクロピジンなどの抗血小板薬におけるADAMTS13 に対する免疫学的自己抗体産生によるTTP があり,この場合には血漿交換が有効である。一方,シクロスポリンやタクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬はADAMTS13 活性低下が少なく,血管内皮障害などが主体であるaHUS とされ,血漿交換が有効でないことが多い。薬剤誘発性TMA の多くがaHUS に類似した病態を呈すると思われるが,その機序を含めて不明な点が多い。薬剤誘発性TMA の原因となる抗がん薬として,マイトマイシンC,シスプラチン,ブレオマイシン,ゲムシタビン,ペントスタチン,スニチニブなどがあげられている2)

TMA に対して抗血小板薬やステロイドの投与および血漿交換が行われているが,確立された治療法はない。本稿では,抗がん薬によるTMA に対する血漿交換の有効性について検証した。

解 説

マイトマイシンC によるTMAに対する血漿交換の有効性については,4 例のケースシリーズで3),抗血小板薬+血漿交換(3〜4 L)を1〜2 週間で5〜7 回行った結果が報告されている。このうち2 例は血小板数や赤血球数などの血液学的パラメーターは速やかに改善し,腎機能も6 週間以内に回復傾向にあった。1 例は血漿交換施行後に腎機能低下は継続したものの,その後4 ヵ月以上かけて緩やかな回復を示した。最後の1 例では,血漿交換施行後に血小板数は増加したものの,腎機能の改善は得られぬまま死亡した。これらの症例では,マイトマイシンC の総投与量について,TMA の発症との関連性はみられず,血漿交換の有用性についても明確な結論を認めなかった。一部の症例では,血漿交換単独ではなく抗血小板薬(ジピリダモール,スルフィンピラゾンなど)や血液透析療法(条件不明)を併用しているため,血漿交換単独での効果は評価が難しい。

また,がん関連溶血性尿毒症症候群(Cancer-associated HUS)として,ヘマトクリット≦25%,血小板数<10×104μL,血清Cr≧1.6 mg/dL の患者(マイトマイシンC 投与患者の99%,5-FU 投与患者の68%が該当)を対象とした横断研究において4),血漿交換を施行した37 例のうち,治療奏効例は11 例(30%)で,無効もしくは増悪例は26 例(70%)であった。さらに,12 例のマイトマイシンC を含む化学療法レジメンによりTMA を発症したケースシリーズにおいては5),全例が診断時に腎不全であり,2 例は血清Cr がそれぞれ1.8 mg/dL,2.7 mg/dL であったが,残りの10 例は3.4〜9.6 mg/dLであった。これらの患者のうち6 例が週3 回の2 L の血漿交換を1〜2 週間施行され,抗血小板薬やステロイドの併用を受けていた。しかし,血漿交換に反応したのは1 例のみで,この症例はステロイド,アザチオプリン,ジピリダモールの併用があった。

乳がん患者では,シクロホスファミド,シスプラチンおよびカルムスチンの3 剤による大量化学療法+自己血骨髄幹細胞移植後のTMA に対して,血漿交換を2〜49 回(中央値46 回)施行した横断研究が行われている6)。大量化学療法が行われた581 例のうち,TMA を発症したのは15 例(2.6%)であり,生存した患者は4 例であった。TMA を発症した15 例のうち,12 例にステロイド療法+血漿交換が施行されたが,TMA 診断後の生存期間は2〜76 日(中央値41 日)であり,生存した3 例では平均50 回の血漿交換が行われていた。

ゲムシタビン投与2,586 例中TMA が発症した9 例のケースシリーズ7)では,投与後8 ヵ月(3〜18 ヵ月),総投与量は19.2 g/m2(9〜56 g/m2)でTMA に進行した。このうち6 例は生存したが,3 例は死亡している。この9 例中,血漿交換を行ったのは5 例であり,2 例は死亡,3 例は慢性腎不全となり,そのうち2 例は血液透析が必要であった。この報告において,腎機能が回復した3 例はいずれも血漿交換を行っておらず,この詳細については不明である。

【参考文献】

1) 香美祥二ほか,非典型溶血性尿毒症症候群診断基準作成委員会.非典型溶血性尿毒症症候群 診断基準.日本腎臓学会誌.2013;55:91-3.

2) 松井勝臣ほか.薬剤性および移植関連aHUS.日本腎臓学会誌.2014;56:1067-74.

3) Chow S, et al. Plasmapheresis and antiplatelet agents in the treatment of the hemolytic uremic syndrome secondary to mitomycin. Am J Kidney Dis. 1986;7:407-12. PMID:3085480

4) Lesesne JB, et al. Cancer-associated hemolytic-uremic syndrome: analysis of 85 cases from a national registry. J Clin Oncol. 1989;7:781-9. PMID:2497229

5) Cantrell JE Jr, et al. Carcinoma-associated hemolytic-uremic syndrome: a complication of mitomycin C chemotherapy. J Clin Oncol. 1985;3:723-34. PMID:3923162

6) Fisher DC, et al. Thrombotic microangiopathy as a complication of high-dose chemotherapy for breast cancer. Bone Marrow Transplant. 1996;18:193-8. PMID:8832014

7) Humphreys BD, et al. Gemcitabine-associated thrombotic microangiopathy. Cancer. 2004;100:2664-70. PMID:15197810