肝がん 〜診断・治療アルゴリズム


肝細胞癌サーベイランスアルゴリズム・ 診断アルゴリズム(図 1)の解説

1.サーベイランス開始にあたって

サーベイランスを開始するかどうかの決定は,対象者のリスク評価から始まる。B 型慢性肝炎,C 型慢性肝炎,肝硬変のいずれかが存在すれば肝細胞癌の高危険群といえる。さらに,年齢,性別,糖尿病の有無,BMI,AST,ALT,血小板,飲酒量,HBV-DNA 量(B 型慢性肝炎患者)等の危険因子を勘案して検査間隔を決定する。なかでもB 型肝硬変,C 型肝硬変患者は,超高危険群に属する。

2.サーベイランスの実際

サーベイランスの至適間隔に明確なエビデンスはない。検査間隔を短くすることのデメリットはコストであるが,リスクが低い集団ほど1 人の癌患者をみつけるためのコストは上昇する。ここでは1 つの案として,超高危険群に対しては,3〜4 カ月に1 回の超音波検査,高危険群に対しては,6 カ月に1 回の超音波検査を行うことを提案する。腫瘍マーカー検査については,AFP,AFP-L3分画およびPIVKA-Ⅱを超高危険群では3〜4 カ月に1 回,高危険群では6 カ月に1 回測定することを推奨する。ただし,2013 年現在,上記超高危険群・高危険群に対する月1回のAFP およびPIVKA-Ⅱ測定は保険適用となっているが,AFP-L3 分画の測定は,肝細胞癌が強く疑われる場合にのみ算定できるとされている。

3.超音波検査で結節性病変を指摘

超音波検査で結節性病変が新たに指摘された場合,dynamic CT あるいは,dynamic MRI を撮像し,鑑別診断を行う。腎機能低下例,造影剤アレルギー例などでは造影超音波も考慮される。超音波の描出不良等を理由に超音波で結節の描出がなくてもCT/MRI を撮影する場合もある。

4.Dynamic CT/MRI による診断
4-1.早期造影効果あり

典型的肝細胞癌像とは,動脈相で高吸収域として描出され,門脈・平衡相で周囲肝実質と比較して相対的に低吸収域(washout)となる結節と定義される。典型的所見を呈する場合は,肝細胞癌として治療方針決定に進む。早期造影効果があり,後期washout を認めない場合,腫瘍径1 cm 以下であれば,3 カ月毎の経過観察を行い,1 cm を超える場合は,Gd-EOB-DTPA 造影MRI,造影超音波,血管造影下CT,肝腫瘍生検などを考慮する。経過観察は,超音波で描出できる場合は超音波にて行い,超音波で描出できない場合はdynamic CT あるいはdynamic MRI にて行う。超音波での経過観察中,サイズアップを認めた場合は,dynamic CT あるいはdynamic MRI を再施行する。

4-2.早期造影効果なし

Dynamic CT/MRI 検査で早期造影効果を認めない場合,腫瘍径1.5 cm 以下であれば,3 カ月毎の経過観察を行い,1.5 cm を超える場合は,Gd-EOB-DTPA 造影MRI,造影超音波,血管造影下CT,肝腫瘍生検などを考慮する。経過観察の方法は,4-1 と同様。

4-3.非典型的画像

動脈相,門脈・平衡相の造影パターンから肝内胆管癌,転移性肝癌,その他の良性肝腫瘍などが積極的に疑われる場合,おのおのの精査を行う。

5.腫瘍マーカーの上昇

AFP の持続的上昇あるいは,200 ng/ml 以上の上昇,PIVKA-Ⅱの40 mAU/ml 以上の上昇,AFP-L3 分画の15%以上の上昇を認めた場合,超音波検査で腫瘍が検出できなくても,dynamic CT あるいはdynamic MRI を撮像することを考慮する。

6.Option 検査

肝細胞特異性造影剤MRI(Gd-EOB-DTPA 造影MRI,SPIO 造影MRI など),造影超音波,血管造影下CT,肝腫瘍生検はoptional な検査として,精査目的に担当医の裁量で行う。

図1 肝細胞癌サーベイランスアルゴリズム・診断アルゴリズム

肝細胞癌治療アルゴリズム(図2)の解説

肝細胞癌の治療法選択における妥当な基準は?

【推奨】

肝細胞癌の病態に応じた治療法の選択基準として「エビデンスに基づく肝細胞癌治療アルゴリズム」(図 2)が推奨される。(グレード B)

【サイエンティフィックステートメント】

肝細胞癌の治療に関するアルゴリズムを,肝障害度・腫瘍数・腫瘍径の3 因子を基に設定した。肝障害度A またはB の症例においては,①腫瘍が1個ならば腫瘍径にかかわらず第一選択として肝切除が推奨される〔ただし,腫瘍径が3 cm 以内ならばラジオ波焼灼療法(RFA)も選択される〕(LF001781) Level 2b,L3F058922) Level 2a),②腫瘍数が2 個または3 個で腫瘍径が3 cm 以内ならば肝切除または穿刺局所療法が推奨される(LF001781) Level 2b,L3F058922) Level 2a),③同腫瘍数で腫瘍径が3 cm超ならば第一選択として肝切除,第二選択として肝動脈塞栓療法が推奨される(LF062833) Level 1b),④腫瘍数が4 個以上ならば第一選択として肝動脈塞栓療法,第二選択として全身化学療法(肝動注療法や経口投与法がある)が推奨される(LF062833) Level 1b,LF100334) Level 3,LF120545) Level 1b)。肝障害度C の症例においては,①腫瘍数が3個以下で腫瘍径が3 cm以内(および腫瘍が1 個ならば腫瘍径が5 cm 以内)で,患者年齢が65 歳以下ならば肝移植が推奨される(LF005406) Level 2b,LF121287) Level 2b),②腫瘍数が4 個以上ならば緩和ケアが推奨される。なお,脈管侵襲を有する肝障害度A の症例では,肝切除,化学療法,肝動脈塞栓療法が選択される場合がある。また,肝外転移を有するChild-Pugh 分類A の症例では,全身化学療法が推奨される(LF120545) Level 1b)。

【解 説】

肝障害度A,B 症例における肝切除とRFA の選択に関しては,日本肝癌研究会の全国追跡調査を集計したArii らの論文(LF001781) Level 2b)およびHasegawa らの論文(L3F058922) Level 2a)を根拠とした。Hasegawa らは,2000 年から2003 年の間に治療された腫瘍個数3 個以下・腫瘍径3 cm以内の肝細胞癌に対する肝切除2,857例,RFA 3,022例,経皮的エタノール注入(PEI)1,306例を解析した。さらに,検索年度外である が,治療開始期間を2000 年から2005 年間に延長し総数12,968 例を対象に肝障害度,腫瘍個数,腫瘍径,治療法別に予後解析した結果が示されている(参考文献8) Level 2a)。これによると肝障害度A,B の単発においては肝切除が有意に成績良好で,2,3 個・3 cm 以内では肝切除とRFA の生存率に有意差は認められなかった。肝動脈塞栓療法に関する根拠として,Child-Pugh 分類A,B 症例の多発性肝細胞癌における有意の予後向上をランダム化比較試験(RCT)で実証したLlovet らの論文(LF062833) Level 1b)を採用した。塞栓療法無効例や肝外転移例に対しては,ソラフェニブの有効性を示したRCT(LF120545) Level 1b)を根拠とした。本アルゴリズムでは原則的に肝障害度の使用を推奨するが,内科的治療を考慮する場合にはChild-Pugh 分類の使用も可とする。肝移植に関しては,前向きコホート研究でミラノ基準を提唱したMazzaferro らの論文(LF005406) Level 2b)および本邦の生体肝移植を対象としたTodo らの論文(LF121287) Level 2b)を根拠とした。なお,2011 年12 月までに肝切除とRFA を比較したRCT 2 編が報告されているが(L3F058469) Level 1b L3F0441410) Level 1b),いずれも研究デザインに問題があり参考にとどめた。

図2 エビデンスに基づく肝細胞癌治療アルゴリズム

【参考文献】

1) LF00178 Arii S, Yamaoka Y, Futagawa S, Inoue K, Kobayashi K, Kojiro M, et al. Results of surgical and nonsurgical treatment for small-sized hepatocellular carcinomas:a retrospective and nationwide survey in Japan. The Liver Cancer Study Group of Japan. Hepatology 2000;32(6):1224-9..

2) L3F05892 Hasegawa K, Makuuchi M, Takayama T, Kokudo N, Arii S, Okazaki M, et al. Surgical resection vs. percutaneous ablation for hepatocellular carcinoma:a preliminary report of the Japanese nationwide survey. J Hepatol 2008;49(4):589-94.

3) LF06283 Llovet JM, Real MI, Montana X, Planas R, Coll S, Aponte J, et al;Barcelona Liver Cancer Group. Arterial embolisation or chemoembolisation versus symptomatic treatment in patients with unresectable hepatocellular carcinoma:a randomised controlled trial. Lancet 2002;359(9319):1734-9.

4) LF10033 Sumie S, Yamashita F, Ando E, Tanaka M, Yano Y, Fukumori K, et al. Interventional radiology for advanced hepatocellular carcinoma:comparison of hepatic artery infusion chemotherapy and transcatheter arterial lipiodol chemoembolization. AJR Am J Roentgenol 2003;181(5):1327-34.

5) LF12054 Llovet JM, Ricci S, Mazzaferro V, Hilgard P, Gane E, Blanc JF, et al;SHARP Investigators Study Group. Sorafenib in advanced hepatocellular carcinoma. N Engl J Med 2008;359(4):378-90.

6) LF00540 Mazzaferro V, Regalia E, Doci R, Andreola S, Pulvirenti A, Bozzetti F, et al. Liver transplantation for the treatment of small hepatocellular carcinomas in patients with cirrhosis. N Engl J Med 1996;334(11):693-9.

7) LF12128 Todo S, Furukawa H, Tada M;Japanese Liver Transplantation Study Group. Extending indication:role of living donor liver transplantation for hepatocellular carcinoma. Liver Transpl 2007;13(11 Suppl 2):S48-54.

8) 参考文献 Hasegawa K, Kokudo N, Makuuchi M, Izumi N, Ichida T, Kudo M, et al. Comparison of resection and ablation for hepatocellular carcinoma:A cohort study based on a Japanese nationwide survey. J Hepatol 2013;58(4):724-9.

9) L3F05846 Huang J, Yan L, Cheng Z, Wu H, Du L, Wang J, et al. A randomized trial comparing radiofrequency ablation and surgical resection for HCC conforming to the Milan criteria. Ann Surg 2010;252(6):903-12.

10) L3F04414 Chen MS, Li JQ, Zheng Y, Guo RP, Liang HH, Zhang YQ, et al. A prospective randomized trial comparing percutaneous local ablative therapy and partial hepatectomy for small hepatocellular carcinoma. Ann Surg 2006;243(3):321-8.