医療経済委員コメント

医療経済学的な視点からみた肝癌診療ガイドライン2013年版
— 特にCQ43 に関して —

国立保健医療科学院研究情報支援研究センター
福田 敬

切除不能肝細胞癌に対しては,ソラフェニブによる全身化学療法が推奨されている。一方で,ソラフェニブによる治療には薬剤費のみで1 カ月に54 万円程度の費用がかかる。治療効果に優れる医療は実施すべきであるが,費用が公的な医療保障制度で賄われている国においては,その費用対効果について検討しているところもある。

英国では,NICE(National Institute for Health and Care Excellence)が新規医療技術や医薬品についての費用対効果を含めた評価を行い,公的医療保障制度であるNHS(National Health Service)での使用を推奨するかどうかの勧告を行っている。切除不能肝細胞癌に対するソラフェニブによる治療については,2010 年5 月に技術評価ガイダンス(Technology Appraisal Guidance 189)が発行され,ソラフェニブによる治療は推奨されていない。NICE においては,費用対効果の評価におけるアウトカム指標として質調整生存年(Quality Adjusted Life Year;QALY)を用いている。QALY は生存年数に健康関連QOL(Quality of Life)で重み付けした指標で,ここで用いる健康関連QOL は0=死亡,1=完全な健康という尺度である。費用対効果は1QALY 増加あたりの費用を用いて検討されるが,NICE によるとこの費用が大きいため,NHS での使用は推奨しないという結論になっている。ただし,患者によっては他の治療法がないなどの理由から使用が検討されるべきだという観点から,抗癌剤基金(Cancer drug fund)が設立され,NICE での評価結果により非推奨となった抗癌剤についても,個別の患者について専門医からの申請により公費での使用が認められる場合がある。この意思決定は地域ごとに行われるが,たとえばロンドンの抗癌剤基金でも進行性肝癌に対するソラフェニブ療法はこの対象となっており,個々の申請に基づいて判断されるようになっている。

英国と同様に,新規薬剤の給付にあたって費用対効果の評価が要求されているオーストラリアにおいては,2008 年7 月に進行性肝癌に対する治療法としての評価がされ,必ずしも費用対効果に優れるとはいえないものの,他に治療法がない患者に対する臨床的な必要性が高いことや,臨床試験において有効性が示されていることなどから,WHO performance status が2 以下でChild-Pugh 分類A の患者に限定して使用を推奨している。

費用対効果の評価においては,諸外国の評価結果をそのまま日本に当てはめることは適切でない。特に,費用については諸外国と日本では医療保険制度や診療報酬等が異なるためである。日本でも2012 年より中央社会保険医療協議会(中医協)のもとで医療技術等の費用対効果の評価と応用に関する議論が進められており,今後,費用対効果の検討も必要になるものと思われる

【参考文献】

1) Carr BI, Carroll S, Muszbek N, Gondek K. Economic evaluation of sorafenib in unresectable hepatocellular carcinoma. J Gastroenterol Hepatol 2010;25(11):1739-46.

2) Vitale A, Volk ML, Pastorelli D, Lonardi S, Farinati F, Burra P, et al. Use of sorafenib in patients with hepatocellular carcinoma before liver transplantation:a cost-benefit analysis while awaiting data on sorafenib safety. Hepatology 2010;51(1):165-73.

3) Muszbek N, Shah S, Carroll S, McDonald H, Dale P, Maroun J, et al. Economic evaluation of sorafenib in the treatment of hepatocellular carcinoma in Canada. Curr Med Res Opin 2008;24(12):3559-69..