2013 年版 前文

肝癌診療ガイドライン初版(2005 年版)は,厚生労働省診療ガイドライン支援事業のサポートを受け作成された。わが国初の科学的根拠に基づく診療ガイドラインとして高い評価を受け,肝癌診療の現場で広く利用された。そして,その改訂作業は日本肝臓学会の事業として行われ,第2 版(2009 年版)が刊行され,引き続き多くの利用者を得てきた。

Evidence based medicine(EBM)の手法を用いて作成された診療ガイドラインは,一般に3〜4 年ごとに新しいエビデンスを取り入れて改訂される必要があるといわれている。第3 版(2013 年版)の改訂作業も日本肝臓学会の事業として2011 年9 月に開始された。改訂委員会の構成は日本肝臓学会会員の肝癌診療専門家が中心となり,外科医7 名,内科医5 名,放射線科医4 名,臨床統計学者1 名,医療経済学者1 名で構成された。初版,第2 版に比べて作業量も増加したため,委員を補佐する専門委員を15 名,さらに実際の作業を分担していただく実務協力者17 名に協力を仰いだ。

検討領域は,肝細胞癌の予防,診断およびサーベイランス,手術,穿刺局所療法,肝動脈化学塞栓療法(TACE),化学療法,放射線治療に加え,治療後のサーベイランス,再発予防,再発治療の章が新たに加わった。第2 版のクリニカルクエスチョン(CQ)51 を再検討し,廃止・統合・新設などの作業を行い,第3 版では57 のCQ とした。改訂のなかったCQ は17 件で,21 件の改訂が行われ,19 のCQ が新設された。各改訂委員,専門委員と実務協力者はそれぞれの専門領域を分担した。

ガイドライン作成の原則は,初版,第2 版同様にEBM の方法論を尊重し,「専門家の個人的な意見」をできるだけ排除してエビデンスに基づいたコンセンサスを得るよう努めた。エビデンス集作成のための基礎となる文献は引き続きMEDLINE,PubMed が中心となった。第2 版の検索範囲が2007 年6 月までであったため,今回はそれ以降とし2011 年12 月までのエビデンスを追加した。近年は,出版前にオンラインで公開が前倒しになることがほとんどであるため,2011 年12 月までにEpub となった論文も検討対象とした。検索総論文数は6,750,一次選択で1,648 に絞り込まれ,エビデンスレベルや内容を評価した後に最終的には596 論文が採用された。このうち初版・第2 版と同じ論文が245,新規採用が351 論文となった。したがって,第3 版においても論文検索の系統性と再現性が担保された形となり,検索式も掲載されている。また,初版と第2 版で附属CD-ROM に記録されていたアブストラクトテーブルは今回は日本肝臓学会ホームページにて公開することとし,附属CD-ROM を省略して軽量化した。

診断(サーベイランス)と治療のアルゴリズムはガイドラインの中心となる部分であり,改訂版のアンケート調査でも実際に最もよく利用されていることが明らかになっている。第2 版発刊以降に寄せられた改訂についての意見を参考にしながら,新たなエビデンスを加えて活発な議論が交わされ,簡便さや使いやすさを重視しながら改訂が行われた。

2013 年4 月までに合計8 回の改訂委員会が開催され,同月に草稿が完成した。5〜6 月の期間,日本肝臓学会会員にWeb 上で内容が公開され,パブリックコメントを求めて修正が行われた。並行して第49 回日本肝臓学会総会(東京都開催)で公聴会が開催され,討議された後に内容が確定した。今後,英訳作業や外部評価委員会による独立した評価も予定されている。そして,第4版に向けた次の改訂作業も2〜3 年以内に開始され,2012 年1 月以降のエビデンスが加えられる見込みである。

今回の改訂も前回同様,日本肝臓学会の限られた予算の中からの資金のみで作業を行った。日常診療でお忙しい中,文字通り「手弁当」で膨大な改訂作業を完遂していただいた改訂委員,専門委員,実務協力者の皆様に心より感謝いたします。特別委員としてご指導いただきました,有井滋樹先生,岡崎正敏先生,幕内雅敏先生には大変お世話になりました。また,本改訂事業に多大なるご理解とご協力をいただきました日本肝臓学会 小池和彦理事長をはじめ各理事の皆様,箱守春樹事務局長に深謝いたします。最後に論文検索をはじめ実務作業のすべてをサポートいただいた(一財)国際医学情報センターEBM 研究センター 渡辺諭史氏,杉本京子氏,森実まゆみ氏,金原出版 森 崇氏,吉田真美子氏に御礼申し上げます。

2013 年9 月

東京大学医学部肝胆膵外科・人工臓器移植外科
國土典宏,長谷川 潔


2005 年版 前文


2005 年版 前文

平成14〜15 年度の厚生労働省診療ガイドライン支援事業により「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン作成に関する研究班(班長 幕内雅敏)」が組織され,ガイドラインがまとめられた。

診療ガイドラインとは「特定の臨床状況のもとで,適切な判断や決断を下せるよう支援する目的で体系的に作成された文書」である。肝細胞癌の治療においては手術療法,局所療法,塞栓療法など複数の有力な治療法の中から,癌の進行度だけでなく肝障害度を考慮して個々の患者にとって最善の治療を提供しなければならない。これを支援するために国際標準であるEvidence Based Medicine(EBM)の手法にのっとりわが国で初めて作成されたのが本ガイドラインである。

本事業では原発性肝癌のうち肝細胞癌を対象とし,予防,画像診断,腫瘍マーカー,手術療法,経皮的局所療法,化学療法の各分野を網羅するために,日本肝癌研究会の常任幹事を中心として研究班が組織された。各分担研究者は,それぞれの専門領域を担当し,エビデンス集作成のための文献検索,論文の評価を行った。基礎となる文献は主としてMEDLINE(1966-2002)から検索し評価対象とした。機械的に選択された7,118 編の論文から一次選択を行うにあたっては,エビデンスレベルの評価法が最も重要である。EBMの基本であるエビデンスレベルの評価法を,肝細胞癌領域において確立し,作業を進める研究者が共通の理解のもとに一定の基準で行う必要があることが,作業を進める中で再認識された。そのために,臨床疫学の専門家である京都大学(現東京大学)松山裕助教授をアドバイザーとして招き,氏の指導のもとに,肝癌ガイドライン研究班独自のエビデンスレベルの評価法(基準)を確立した(表1-a)。この基準では診断・検査に関する論文の評価が困難なため,さらに別の基準を作成した(表1-b)。

次に,このエビデンススケールを用いて各論文のエビデンスレベルを評価しながら各分野それぞれ約100 編程度までの絞り込み(二次選択)を行った。この作業にあたっても論文の評価法についての疑問点を各分担研究者が出し合いながら,できるだけ一定の方法で論文選択ができるよう配慮した。肝細胞癌の領域ではエビデンスレベル1a または1b に相当するランダム化比較試験は少なく,エビデンスレベル2 に相当する「ランダム割付を伴わない同時または過去のコントロールを伴うコホート研究」や,エビデンスレベル4に相当する「処置前後の比較などの前後比較,対照群を伴わない研究」が圧倒的に多い。これらのレベルの中でさらに論文の優劣をつけて取捨選択をする必要が生じた。このため,各論文の対象症例数,追跡期間,脱落率を調べてそれによるランク付け(エビデンスレベルの亜分類)を行い,二次選択の採択基準とした(表1-c)。この作業のためには論文の抄録だけではなく,本文を詳細に調査する必要があり,膨大な仕事量となった。また,論文の二次選択の段階では,診療における疑問点(research question;リサーチクエスチョン)を念頭におく必要がある。各分担研究者の専門知識を動員して,いわば肝細胞癌診療についての総説を作成するつもりでリサーチクエスチョンを設定し論文の二次選択を行った。最終的には各分野それぞれ約100 編程度までの論文が絞り込まれ,エビデンス集(アブストラクトフォーム)が作成された。

さらに,各リサーチクエスチョンに対応するエビデンスをscientific statement(サイエンティフィックステートメント)としてまとめ,どのような診断・治療を行うべきかという「推奨」を作成した。推奨についても肝細胞癌独自のグレードを作成した(表2-a)。また,サイエンティフィックステートメントから導かれる結論が「推奨」という言葉になじまない「科学的事実」である場合には,その「根拠の強さ」のグレードを作成し対応させることにした(表2-b)。各分担研究者が設定したリサーチクエスチョン,サイエンティフィックステートメントのリストを出し合い,その内容についてお互いに評価・批判し合いながら「推奨」をまとめていく作業を行った。

本ガイドラインの完成直後にガイドライン評価委員会を組織し,本ガイドラインの内容の妥当性や普及・利用可能性についての評価を行っていただき,その評価結果を巻末に掲載した。今後は日本肝臓学会,日本肝癌研究会などで多くの専門家による評価がなされ,本ガイドラインが広く普及することを期待する。本ガイドラインが今後の肝細胞癌の診療に大いに役立つものと信じるが,臨床の現場での判断を強制するものではないし,医師の経験を否定するものでもない。本ガイドラインを参考にした上で,医師の裁量を尊重し,患者の意向を考慮して個々の患者に最も妥当な治療法を選択することが望ましい。

本ガイドラインは今後3〜4年ごとに日本肝臓学会において改訂がなされる予定である。最後に肝癌診療で多忙な中,本ガイドライン作成のために膨大な作業をこなし,熱心にご討議いただいた分担研究者,研究協力者の方々,そして,評価委員会の委員の方々に心より感謝いたします。

2005 年2 月

東京大学医学部肝胆膵外科・人工臓器移植外科
幕内雅敏