概 説

(Ⅰ)目的・対象

消化管間質腫瘍Gastrointestinal stromal tumor GIST は、消化管、腸間膜に発生する腫瘍で、その頻度は10 万人に1〜2 人とまれである。また、わが国においては胃に発生する頻度が高い特徴がある。そのため、本ガイドラインの目的は第1版に示されている様に、“わが国における実地臨床に即したGIST に対する治療方針を、エビデンスを基に構築する”ことである。しかし、希少腫瘍であるために、確固たるエビデンスが確立している領域は少なく、確立された診断・治療方針も少ない。従って、本疾患の専門家の意見をまじえ、エビデンスを基に診療方針を構築し提示することにより、このまれなGIST 腫瘍に対する診断・治療方法の地域や施設のばらつきを防ぎ、医療の質の向上と均てん化が期待される。

対象者は、本ガイドラインの場合、主にGIST 診断・治療を行う医師と医療スタッフである。その理由は、GIST がまれな腫瘍であるためエビデンスの充分な集積がされていない領域、特に画像診断や外科治療の部分があり、この領域については本分科会委員のコンセンサスによりガイドラインを作成しており、この“consensus-based guidelines”ガイドラインを有効に、かつ、正しく使用するには、ある程度の基本医学知識や良識を要すためである。

(Ⅱ)採用したエビデンスの質評価基準と推奨グレードの分類

本ガイドラインは日本癌治療学会がん診療ガイドライン委員会の方針に従い、“evidence-based medicine(EBM)”の手法により作成された。エビデンスレベルと推奨グレードの分類は,医療技術評価総合研究医療情報サービス事業Minds(マインズ)に準じて行った。

エビデンスレベル分類
システマティック・レビュー/RCT メタアナリシス
1 つ以上のランダム化比較試験による
非ランダム化比較試験による
Ⅳa 分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究)
Ⅳb 分析疫学的研究(症例対照研究, 横断研究)
記述研究(症例報告やケースシリーズ)
患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見
推奨度決定は次の要素から総合的に判断した。
  1. エビデンスのレベル
  2. エビデンスの数と結論のばらつき
    同じ結論のエビデンスが多ければ多いほど、そして結論のばらつきが小さければ小さいほど推奨グレードは強いものとなる。可能ならメタアナリシスを行う。
  3. 臨床的有効性の大きさ
  4. 臨床上の有用性
    医師の能力、地域性、医療資源、保険制度
  5. 害やコストに関するエビデンス
推奨グレード
A 強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる
B 科学的根拠があり、行うよう勧められる
C1 科学的根拠はないが、行うよう勧められる
C2 科学的根拠がなく、行わないように勧められる
D 無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないように勧められる

C は、上記のようにC1, C2 に分類した。GIST は他の腫瘍と違いまれな腫瘍であるため、科学的根拠はないが、実際に日常診療において行われている診断・治療がある。本疾患を専門としている医師においては、これらの診断・治療で勧められることと、勧められないことがある。本分科会委員で、これらを討議し、推奨グレードC1 とC2 に分類した。

(Ⅲ)文献検索方法

GIST の関連する文献を検索するにあたっては、GIST と“GIST”以前の診断名で使用されたことのある消化管の平滑筋腫・平滑筋肉腫(leiomyoma & leimyosarcoma)や、未だ臨床現場で臨床診断名として使用されることの多い粘膜下腫瘍(submucosal tumor; SMT)も合わせて検索した。まず、文献検索と記載にあたっては、①.病理組織診断、②.放射線診断、③.外科治療、④.薬物治療の4つの領域に分け議論を進め、それぞれの領域が並行して2013 年6 月末までの文献検索を行った。

検索データベースは原則PubMed を用い、それぞれの領域の委員が協議の上、適切なkey words を設定、必要に応じkey words を変更或いは追加し文献を絞り込んだ。抽出された文献をできるだけ多く読み込み、吟味し、可及的に漏れの無い検索を行うため、会議録や他のガイドラインも適宜採用、用手検索で抽出した文献も必要に応じ採用した。

上記疾患名に関連する全体の文献総数は9229 文献で、各分野毎のkey words と研究の方法、エビデンスレベルで抽出文献を絞り込み、実際の文献に当たり読み込んだ。文献を読んだ後は、推奨の強さの決め方と同じ方法でさらに文献を絞り込み、採用文献はそれぞれ、①病理診断(21 文献)、②画像診断(16 文献)、③外科治療(39 文献)、④内科治療(23 文献)であった。

(Ⅳ)ガイドラインの構成

CQ (Clinical Question)は、臨床的に重要で詳細に解説を加える必要があると思われる事項について作成された2010 年11 月の第2 版補訂版を参照し整理し、小委員会の全体会議で必要事項を追加し、各領域でCQ に関係するkey words を設定、文献検索を追加し作成した。

本ガイドラインは、概説、画像診断、病理診断、外科治療および内科治療の項目よりなり、診断・治療項目については、その領域における診断・治療の基本的な方針、Q and A を記載している。治療の基本的な方針においては、必要である場合はその解説としてComment を附記している。Q and A は、質問、回答、推奨度、解説の順で配列しており、枠内には、CQ に対する回答を、枠外には、その根拠となるデータや解説を述べている。

アルゴリズムは、

  1. 胃粘膜下腫瘍(SMT)の治療方針
  2. GIST 治療マニュアル(1)外科治療
  3. GIST 治療マニュアル(2)内科治療
  4. GIST 治療マニュアル(3)再発治療
  5. イマチニブ耐性GIST 治療
  6. GIST の術前治療(臨床試験)
  7. 病理組織診断-免疫染色による主な消化管間葉系腫瘍の鑑別
の7 項目より構成されている。1 として“胃粘膜下腫瘍(SMT)の治療方針”を記載した理由は、わが国におけるGISTが(1)胃の粘膜下腫瘍(submucosal tumor;SMT)として発見される頻度が高いこと(2)SMT 外観を呈する胃癌を鑑別することが重要であるためである。食道,小腸,大腸,腸間膜由来のGIST は,胃のGIST に準ずる点が多いが、2 以下のアルゴリズムをご参照していただきたい。

アルゴリズム内の実線は日常臨床の通常の流れを,点線はオプションとして選択可能な方法を示している。点線はアルゴリズム1 と6 にあり,この部分は十分なエビデンスはないものの,当分科会の議論で“実地臨床で行われることがあり,現時点で実践することに著しい不利益はない”と判断された選択肢である。特に6.臨床試験段階の治療は現在臨床試験が進行中であり,その結果を待つ必要があるため,多くの選択肢を点線(オプション治療)とした。また、アルゴリズムには、現実に日常診療の現場では行われることがあるが、GIST が希少疾患であるために確固たるエビデンスが無く、また、十分にはコンセンサスが得られきれない診療もエビデンスレベルを記入し、記載した。

(Ⅴ)作成の経緯と改訂の目標

GIST 診療ガイドライン第一案は2006 年3 月10 日に第78 回日本胃癌学会総会(大阪)においてパネルディスカッションとして報告され,日本癌治療学会の公式誌であるInternational Journal of Clinical Oncology に英文で公表された1)。本ガイドラインの疾患評価委員は,関連3 組織から本分科会に所属しない画像診断,外科治療,内科治療,病理診断についての4 名が選定された。これらの疾患評価委員の評価後,2007 年3 月2 日に第79 回日本胃癌学会総会(名古屋)において最終案が提示された。その後、本ガイドラインは日本癌治療学会ガイドライン評価委員の評価を経て,日本癌治療学会がん診療ガイドラインに公表され,初版として発刊された。

第1 回改訂(第2 版)は、2008 年6 月13 日にイマチニブ耐性GISTを対象にスニチニブが承認されたことを受け、第1 版ガイドライン“外科治療Ⅴ. 耐性GIST の外科治療”。“内科治療の適応と原則”および、“5.イマチニブ耐性GIST”に加筆を行い発刊した(2008 年11 月)。

第2 回改訂(第2 版補訂版)は、第2 版出版(2008 年11 月)後、GIST 診断・治療に対する基準が日本国内、諸外国で一部変化があったことを受け、第2版ガイドライン“診療アルゴリズム”“画像診断”“病理診断”“外科治療”“内科治療”に加筆を行い発刊した (2010年11月)。

今回の改訂は、第1 版が発刊され5年が経過し、リスク分類であきらかにされてきたことや、アジュバント治療で高いエビデンスが出たことを受け発刊となった。また、この改訂では、この間に明らかにされてきた“画像診断”“病理診断”“外科治療”“内科治療”の事項についても加筆を行い、アルゴリズムにおいては、臨床の場でより分かりやすく、用いやすくするように充実させた。

本ガイドラインの改訂は,日本癌治療学会がん診療ガイドライン委員会に従い、3年を目処とする。しかし,その間に重要なエビデンスが明らかとなった場合には,ガイドライン委員会の許可を得て改訂する場合もある。

(Ⅵ)作成関連学会、資金、利益相反と作成委員、評価委員

作成関連学会: GIST 診療ガイドライン作成分科会は第1 版と同様、日本癌治療学会、日本胃癌学会総会、GIST 研究会より推薦された委員、および、画像診断担当委員より構成されている。また、本ガイドラインは、これらの委員による作成後、関連3組織から本分科会に所属しない評価委員により評価された後、日本癌治療学会ガイドライン評価委員の評価を経て発刊されたものである。
金: 分科会のすべての費用は、日本癌治療学会がん診療ガイドライン委員会より負担された。
利益相反: 本分科会の作業は2学会の理事会・評議員会およびGIST 研究会運営委員会により承認されており、他のいかなる団体からの影響をも受けていない。本ガイドラインの作成に関わった委員は,本学会の“がん臨床研究の利益相反に関する指針”に沿って対応した。各委員のCOI は,別添一覧のとおりである。

作成委員会名簿

別掲作成委員会名簿を参照ください。

【文献】

1) Kubota T : Gastrointestinal stromal tumor(GIST) and imatinib. Int J Clin Oncol 11 : 184-189, 2006.