日本整形外科学会診療ガイドライン改訂にあたって

戦後半世紀を超え,物心両面において豊饒の時代を迎えたわが国においては,「少しでも良い医療を受けたい」という国民の意識は次第に高まりを見せている.整形外科専門医は,国民の期待に応えられるよう,進んだ診療情報をいち早く共有して,治療成績の「ばらつき」を少なくし,質の良い診療を提供できるよう努めなければならない.

そこで,整形外科診療において日常診療で頻繁に遭遇する疾患や重要度が高いと考えられる11 の疾患を選び,科学論文のエビデンスに基づいた診療ガイドラインの作成を平成14 年度にスタートさせた.整形外科疾患の診療が周辺への拡散傾向が憂慮されている時期に日本整形外科学会主導でこのようなガイドラインを作成することに意義があると思われたからである.勿論,臨床の場においては,科学的根拠に限りがあるので,専門家の広いコンセンサスに基づいた記述も加えさせて頂いている

診療は,それぞれの患者に応じてきめ細やかに行うテイラーメイドメディシンが基本であるが,推奨度別のエビデンスに基づいた情報を参考にしながら,医師が患者と対話をし,診断法や治療法を選択する際のガイドとして本書を活用して頂きたい.ガイドラインは医師と患者の間だけでなく,プライマリケア医と専門医間の連携を深める橋渡しにもなると思われる.

今回,11 の疾患のうち「腰椎椎間板ヘルニア」,「頚椎症性脊髄症」,「大腿骨頚部/ 転子部骨折」,「軟部腫瘍診断」,「頚椎後縦靱帯骨化症」の5 疾患について,日本整形外科学会の診療ガイドラインが出版されることになったが,今後も臨床研究の新しい進歩を取り入れ,利用者のご要望やご批判を伺いながら,適切な時期に本書の見直しを行う必要があると思われる.これまで本書の出版に向けて,大変な作業を続けてこられた日本整形外科学会や関連学会の委員会,査読委員の多くの方々の情熱と労力に改めて御礼を申し上げたい.

本書が,医師と患者の方々との信頼を深め,より良い整形外科診療のためのガイドブックとして役立つことを心より願うものである.

2005 年4 月

日本整形外科学会理事長
山本 博司