初版の序

日本整形外科学会は事業の一環として,整形外科疾患の診療ガイドラインの作成を平成14 年度から開始した.今回,3 年の歳月を要し本診療ガイドラインが完成した.

一般的に診療ガイドラインとは質の高い新しい情報に基づいて医療を提供するのに役立つ素材であり,患者と主治医がより良い解決策を探って行こうとするときに,その手引きとして傍らに置いておく資料である.今日,診療ガイドラインを出版するにあたり,診療ガイドラインを個々の患者に短絡的に当てはめてはならないことをまず強調したい.

本診療ガイドラインは,広範囲な科学論文の検索から,疾患の専門医たちによる厳密な査読をおこない,信頼性と有益性を評価したうえで作成された.論文のエビデンスを根拠とする推奨レベルには特に多くの議論を費やした.その結果,当初,推奨度はA の「強く推奨する」からD の「推奨しない」の4 段階としていたが,項目によっては科学的論文数が不十分であったり,結論の一致を見ない項目があるために,その推奨レベルとして(I)レベル「(I):委員会の審査基準を満たすエビデンスがない,あるいは複数のエビデンスがあるが結論が一様でない」を新たに追加した.このような項目に関しては,整形外科専門家集団としての委員会案をできるだけその項目中に示すように努力した.

さらにこの診療ガイドライン作成中に,文献上認められる診断名の定義が統一されたものではないことに気づいた.このために策定委員会として診断基準を提示する必要があると考えて策定委員会案を前文に示した.また,診断方法も一定した基準がない現状を考えて,多くの医師が利用できるように,策定委員会案として診断の章に診断手順を示した.

近年の医学の進歩に伴い,従来からおこなわれてきた治療法は今後劇的に変化する可能性がある一方で,種々の治療法が科学的根拠に基づくことなく選択されている.さらにわが国ではさまざまな民間療法が盛んにおこなわれており,なかには不適切な取り扱いを受けて大きな障害を残す例も認められている.このように不必要な治療法,公的に認められていない治療法,特に自然軽快か治療による改善か全く区別のつかないような治療法に多くの医療費が費やされている現状は,早急に改善されるべきと考えられる.

今回作成された診療ガイドラインは,現在の治療体系を再認識させるとともに,有効で効率的な治療への第一歩であると考えられる.しかし,科学的な臨床研究により新たな臨床知見が出現する可能性もあり,今後定期的に改訂を試みなければならない.今回,取り上げた5 疾患が頻度の高い疾病であることを鑑みれば,倫理規定を盛り込んだ前向きな臨床研究をおこなう必要を強く実感する.このように,より良い診療ガイドラインを科学的根拠に基づいて作成し続けることは,患者の利益,医学発展,医療経済の観点から日本整形外科学会の責務であると考えている.

2005 年4 月

日本整形外科学会
診療ガイドライン委員会委員長
四宮 謙一