高齢社会を迎えたわが国では,2010 年時点の平均寿命が男性79.6 歳,女性が86.4 歳,65 歳以上の高齢者人口が2,956 万人に及んでいます.1947 年時点の平均寿命は男性50.1 歳,女性54.0 歳でしたから,わずか60 余年の間に平均寿命が男女とも約30 年も延長したことになります.急激な高齢化により疾病構造も様変わりし,骨粗鬆症や変形性関節症,腰部脊柱管狭窄症などが,整形外科の主要疾患に仲間入りしました.一方,診断・治療技術も近年めざましい進歩をとげました.画像診断をはじめとする診断技術の進歩により病変の早期かつ正確な診断が可能となり,数々の優れた薬剤や高度な手術法の開発により優れた治療成績が得られるようになったのです.しかし一方で,幾多の診断技術や治療法のオプションの中から,個々の患者さんのために最も適切な方法を選ぶにあたり,何らかのガイドラインが必要になってきました.
ほとんどの患者さんが求めている医療は,安全で確実な医療,すなわち標準的な医療です.日本整形外科学会では,運動器疾患の患者さんに標準的な医療を提供するために,各疾患に対するエビデンスに基づいた「ガイドライン」を策定し,時間が経過したものについては改訂作業を進めています.この診療ガイドラインが,医療の現場,および医師教育の場で十分に活かされ,運動器医療の向上につながっていくことを願ってやみません.
2012 年1 月
日本整形外科学会理事長
岩本 幸英