2012(第2 版)の序

2005 年4 月に「軟部腫瘍診断ガイドライン」が刊行されて以来すでに7 年の歳月が経過した.その間,軟部腫瘍の診療の本幹には大きな変化はないものの,PET などの新しい画像診断技術の進歩や遺伝子診断の普及などに加え,ガイドラインというものの性質上,常に一定期間ごとにup to date されることが必要であることから,改訂版作成の必要性が求められてきた.日本整形外科診療ガイドライン委員会のもとに軟部腫瘍診断ガイドライン改訂委員会が設けられ,2009 年1月から活動を開始した.

改訂に当たり,現在軟部腫瘍の治療で活発に活動している整形外科専門医の中から,策定委員会のメンバー10 人をできるだけ地域やグループに偏りがないように日本整形外科学会骨軟部腫瘍委員会で選定した.初版の「軟部腫瘍診断ガイドライン」では悪性軟部腫瘍の治療は専門家に一任すべきであるとの判断から,診断に関する領域のみを扱っていた.しかし策定委員会で改訂のコンセプトについて検討を行い,骨軟部腫瘍の専門家以外にも一般整形外科医や皮膚科医や形成外科医,腫瘍内科医,一般外科医,放射線科医など,悪性軟部腫瘍にかかわる可能性のある医師にも治療についての基本的な概念や方針について知識を提供する必要があること,また他領域の悪性腫瘍でも治療に関するガイドラインが作成されており同様の内容が求められていることから,治療に関する内容を新たに追加することとし,新たに「軟部腫瘍診療ガイドライン」として作成することとなった.診断の領域に関する内容についても「軟部腫瘍診断ガイドライン」を元にしつつ,大幅な修正・追加を行った.ほとんどの章において担当者が新たに推奨と解説文を作成し,委員全員で推敲を繰り返し行った.新たなガイドラインを作成するのと同等な非常に多くの労力を割いていただいた委員の皆様全員に心より感謝申し上げる次第である.

軟部腫瘍は病理組織分類が多岐にわたり,また悪性腫瘍に臨床の現場で遭遇することはあまり多くない.したがって本ガイドラインでは治療に関する情報も記載されているが,あくまでも悪性腫瘍の治療は十分な知識と経験をもった専門医が行うべきものであり,このガイドラインに沿った治療を専門医以外が行うことを推奨するものではない.悪性を疑うときには専門医へのコンサルトを行うことが推奨され,日本整形外科学会ホームページの「骨・軟部腫瘍診断治療相談コーナー」(http://www.joa.or.jp/jp/public/bone/index.html)では各施設の相談窓口が記載されているので参考にしていただきたい.また本ガイドラインはあくまでも現時点において日本国内で普遍的に行われている診断や治療の指針であり,すべての患者に当てはめられるものでないことをご留意願いたい.本ガイドラインには記載されていないが,十分なエビデンスの元に公的な倫理委員会の承認を得て行われる新たな診断や治療方法について否定するものではなく,診療の実践内容を否定するための材料として使用すべきではない.

2012 年1 月

日本整形外科学会
軟部腫瘍診療ガイドライン策定委員会
委員長 尾﨑 敏文