CQ・推奨・明日への提言一覧(CQ一覧)

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CQ
No.
CQ 推奨 推奨度 明日への提言
1.診断法
1-1 膵癌のリスクファクターとは何か?
  1. 1.膵癌のリスクファクターとして下記のものがある。

    家族歴:膵癌,遺伝性膵癌症候群

    合併疾患:糖尿病,慢性膵炎,遺伝性膵炎,膵管内乳頭粘液性腫瘍,膵嚢胞, 肥満

    嗜 好:喫煙,大量飲酒

  日常診療において,家族歴,既往歴,喫煙歴,飲酒歴などを詳細に聴取し,膵癌のリスクファクターを拾い上げることが,膵癌の早期発見の第一歩である。遺伝性膵癌症候群,遺伝性膵炎などの遺伝性疾患,家族性膵癌,慢性膵炎,IPMN は膵癌の前癌病変を形成する可能性があるので,検体検査や画像検査による定期的な検診が勧められる。検診の方法については確立されたものはないが,費用対効果のよいもの,患者の精神的負担が少ないものが望ましい。糖尿病は膵癌発生のマーカーとして注意を要するので,糖尿病を診療する医師と広く知識を共有することが重要である。肥満,喫煙,多量飲酒は膵癌リスクを高める因子であるので,特に遺伝的背景や合併疾患のある膵癌の高リスク群に対して,若年成人からの肥満の予防,禁煙,適量範囲内の飲酒などの生活習慣の指導が重要である。
  1. 2.家族歴,合併疾患,嗜好などの危険因子を複数有する場合には,膵癌の高リスク群として検査を行うことが勧められる(グレードB)。
B
  1. 3.膵管内乳頭粘液性腫瘍と膵嚢胞は膵癌の前癌病変として慎重な経過観察が勧められる(グレードB)。
B
1-2 膵癌の発見はどのようにしたらよいか?
  1. 1.腹痛,腰背部痛,黄疸,体重減少では膵癌を疑い検査を行う(グレードB)。糖尿病新発症や悪化では,膵癌合併を疑い,検査を行う(グレードB)。
B
B
膵癌は特異的な症状に乏しい。エビデンスの大部分は進行膵癌における分析に基づいたもので一部には無症状の症例もある。したがって,臨床症状は膵癌早期発見の指標にはならないが,腹痛などの腹部症状を認める場合や,糖尿病発症がみられた場合には,膵癌の可能性も考慮して検査を行うことが望ましい。この際,腫瘍マーカーが早期の膵癌では異常値を示さないことが多いことに留意が必要である。US で膵管拡張や嚢胞を認めた例や血清膵酵素高値例に対してはMRCP やEUS を行い,膵管狭窄を認めた場合は,膵腫瘤がなくともERCP を行うことが望ましい。危険因子を複数有する多危険群に対して,血液検査とUS 検査を定期的に行うことにより,膵癌の早期発見率が向上する。1cm 以下の腫瘤を検出した場合,造影CT で腫瘤が検出できなくとも膵癌を否定してはいけないことにも注意すべきである。
  1. 2.血中膵酵素測定は膵癌に特異的ではないが,早期診断に有用性が認められている(グレードB)。
B
  1. 3.腫瘍マーカー測定は膵癌診断やフォローアップに勧められる(グレードB)が,早期診断には有用ではない(グレードC1)。
B
C1
  1. 4.US は膵癌のスクリーニングに勧められる(グレードB)が,腫瘍検出率は低い(グレードC1)。主膵管の拡張や囊胞が膵癌の間接所見として重要である(グレードB)。このような所見が認められた場合は,すみやかに次のステップに進む。
B
C1
B
1-3 膵癌を疑った場合,次に行うべき検査は何か?
  1. 1.膵癌を診断するためにはCT(造影が望ましい)やMRI(MRCP)(造影および3 テスラ以上が望ましい)を行うことが強く勧められる(グレードA)。
A 造影CT,MRI(特に造影)は膵癌の存在診断に有用であり,血中膵酵素,腫瘍マーカー,US で膵癌が疑われれば次に行うべき検査である。しかし,小さい膵癌では腫瘤の描出が困難なこともあり,EUS やEUS-FNA,時に膵管上皮内癌に対してはERCP とともに,細胞診や組織診による確定診断を専門施設において行うことが望ましい。
  1. 2.上記検査で異常所見があっても膵癌の確定診断に至らない場合には,次のステップ(CQ1-4)により確定診断することが望ましい(グレードB)。
B
1-4 膵癌の診断を確定するための次のステップはどうするか?
  1. 1.CT あるいはMRI (MRCP)で確定診断が得られない場合には,EUS,ERCP のいずれかひとつを,あるいは組み合わせて用い,必要に応じてPET を加える(グレードB)。超音波内視鏡は腹部超音波検査やCT などで腫瘤を捉えることが困難な病変に対しても有用である(グレードC1)。
B
C1
US,CT などで質的診断に至らない場合には,EUS,ERCP,PET などの検査を必要に応じて組み合わせ総合的に診断していくべきである。小さい膵癌では,これらの検査を駆使しても現在の画像解析能力では腫瘤の描出が困難なことも多い。間接所見で膵癌が強く疑われる場合には,細胞診や組織診による確定診断を専門施設において行うことが望ましい。
種々の画像診断により膵癌と診断され切除された病変において良性疾患が5〜10% 存在すること,膵癌患者に対する手術侵襲が大きいことを考慮すると,少なくとも画像診断で膵癌の診断に難渋する場合には病理組織学的な確定診断を試みることが望ましい。組織採取に伴う偶発症も存在するが,その程度や頻度と手術侵襲を勘案すれば組織採取が勧められる。特に化学療法(化学放射線療法)を行う際は,適切な薬剤選択のためにも病理診断を行うことが強く勧められる。組織採取の方法はいくつか存在するが,患者の病態を考慮して最も安全で確実な方法を選択することが重要である。採取方法の優劣を示す明らかなエビデンスはないことより,組織採取の手段は患者および主治医によって決定されるべきである。遺伝子検索についてはいまだ研究段階であり今後の発展が期待される。
  1. 2.各種の画像検査により膵腫瘤の確定診断がつかない症例では,細胞診・組織診による確定診断が望ましい(グレードB)。
B
  1. 3.切除不能膵癌と診断され化学(放射線)療法を開始する際には,細胞診・組織診による病理診断が勧められる(グレードB)。
B
  1. 4.遺伝子検索は細胞診・組織診の補助的診断として有用である(グレードC1)。
C1
  1. 5.上記検査で異常所見が認められるも膵癌の確定診断に至らない場合には,以後の定期的な検査と慎重な経過観察が勧められる(グレードB)。
B
1-5 膵癌の病期はどのように決定するか? 膵癌の病期診断(TNM因子)にはMDCTやEUSが勧められる(グレードB)。 B 正確な病期診断はいまだに困難であるが,MDCT,EUS を中心にUS,MRI などいくつかの画像診断を組み合わせて総合的に判断するのが現実的である。また,エビデンスはないものの,遠隔転移診断ではFDG-PET/CT や審査腹腔鏡が有用であることもあり,症例を適切に選択すれば病期診断の決定の一助になるかもしれない。
1-6 Borderline resectable 膵癌の診断:わが国におけるborderline resectable とは?
  1. 1.NCCN ガイドラインのborderline resectable 膵癌の定義は米国では広く用いられているが,NCCN ガイドラインは門脈浸潤例の取り扱いなどがわが国の実情とは異なることが問題であり,わが国独自のborderline resectable 膵癌の定義が必要である。
  膵癌は随伴膵炎のため動脈周囲の脂肪組織濃度の上昇を伴う場合があり,画像では随伴する膵炎による炎症性変化なのか膵癌による神経叢浸潤なのか鑑別診断に苦慮する場合がある。
Borderline resectable診断方法のさらなる改善が膵癌症例の治療方針決定に必要である。さらに,日常臨床の術前診断において,癌が上腸間膜動脈に密に接していてもencasement がない場合は,わが国の『膵癌取扱い規約』(第6 版)のAsm −,PL +にあたるが,術前画像診断の上腸間膜動脈浸潤の有無に関する精度にいまだ問題があり,術前診断方法のさらなる改善が必要である。
  1. 2.Borderline resectable 膵癌の診断は,MD-CT を用いて,単純撮影だけでなく,動脈相・膵実質相・門脈相の3 相でかつ3mm 以下のthin sliceでの撮影を行うことが望ましい(グレードB)。
B
1-7 長期予後が期待できる早期の膵癌を診断するにはどうするか?
  1. 1.主膵管の拡張,嚢胞が間接所見として重要であり,US,CT で腫瘍の直接描出が困難な場合でも,MRCP,EUS を行うことが勧められる(グレードC1)。
C1 危険因子を有する症例に対するスクリーニングが早期発見につながるかの検討では,家族性膵癌,家族性異型多発母斑黒色腫症候群(FAMMM),遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC),Peutz-Jeghers 症候群などの危険因子を有する無症状の44 例における初回EUS の検討において,3 例(6.8%)に膵癌が認められ,1 例はStage Ⅰであった(レベルⅣa)。またp-16Leiden 変異を認める患者79 例における1 年ごとのMRCP施行の検討では,観察期間中央値4 年で7 例(9%)に膵癌がみられ,うち4 例がTS1 症例であった(レベルⅣa)。今後,国内でも遺伝性膵癌症候群などの危険因子を有する症例に対して画像診断を含めた定期的な検査体系の構築が望まれるが,検査の間隔,どの画像診断法を選択すべきかなどは未解決であり今後の検討課題である。
早期発見に関する地域連携の重要性の報告も散見されている(レベルⅣb)。危険因子を有する症例に対するスクリーニング,精査,経過観察の体制を病診で連携し,地域連携クルニカルパス等を用いて全国の各地区で構築していくことが望まれる。今後,患者の検査負担,費用対効果,X線被爆の問題を考慮した長期的な戦略の確立を目指した大規模な前向き研究が望まれる。
  1. 2.上記の画像診断で限局的な膵管狭窄が認められた場合は,ERCPを施行し,膵液細胞診を繰り返し施行することが勧められる(グレードC1)。
C1
2.外科的治療法
2-1 Stage Ⅳa 膵癌に対する手術的切除療法の意義はあるか? Stage Ⅳa までの膵癌(注)には根治を目指した手術切除療法を行うことが推奨される(グレードB)。
(注)『膵癌取扱い規約』(第6 版)のStage Ⅳaで上腸間膜動脈(SMA)もしくは腹腔動脈幹(CA)に浸潤のないものが対象。
B 本CQ に対する推奨のエビデンスとなっている臨床試験(レベルⅡ)で対象となった病期の膵癌ではR0 手術が可能であり,一部の患者では治癒を含む長期生存が得られる。したがって,治癒の可能性を期待した治療方針を選択する場合には,切除手術を実施することが理にかなっている。さらに,入院期間,費用,長期生存率においても外科切除群が化学放射線療法群に比較して利益がある。一方,化学療法のエビデンスも積み重ねられており,ゲムシタビン塩酸塩,S-1 あるいはゲムシタビン塩酸塩+ S-1 による治療と外科切除術を前向きに比較する試験が行われる必要も出てくる。動脈に接しているような場合に,down-staging を目指した治療が行われることが多くなってきている。Borderline resectable 膵癌を含むのがわが国の『膵癌取扱い規約』(第6 版)におけるStage Ⅳa であることから, 術前の病期診断の精度をあげるとともに,borderline resectable 膵癌に対して,術前治療の意義が前向きに試験されるべきである。Stage Ⅳa 膵癌は術前の画像診断で正確に判断できないこともあり,術前治療がなされた場合には,診断的腹腔鏡あるいは開腹手術を行ったうえでの治療方針決定が重要なことを認識すべきである。
2-2 腹腔洗浄細胞診陽性症例の切除の意義はあるか? 腹腔洗浄細胞診陽性の膵癌に対しての膵切除を行うべきか否かは明らかではない。今後,臨床試験や研究の蓄積によって明らかにされるべきである(グレードC1)。 C1 膵癌は悪性度が極めて高いため,肝転移やリンパ節転移などの予後に与える影響が,腹腔内遊離癌細胞からの影響を薄めてしまう可能性はある。いずれにせよ,切除手術の是非については今後検討を重ねて明らかにされるべきである。
2-3 膵頭部癌に対しての膵頭十二指腸切除において,胃(全胃あるいは亜全胃)を温存する意義はあるか? 膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除において,胃(全胃あるいは亜全胃)温存によって手術時間は短縮され,出血量は少なく,また生存率低下はない(グレードC1)。 C1 PPPD とPD の検討は膵頭部癌や乳頭部癌を広く含んだ癌を対象としたものが多く,膵頭部癌に限ったものは少ない。解析での早期や長期の合併症,QOL の検討もその定義が論文で異なり,根治性の検討において長期観察したものは少ない。最近のメタアナリシスでは,PPPD がPD より手術時間が短く,出血量が少ないが,予後は変わりないとの報告がある。膵頭部癌のみに絞り,術後早期や長期の合併症,栄養状態,膵機能,QOLなどについての詳細なRCTの検討が望まれる。
一方で,胃(全胃あるいは亜全胃)温存による術後合併症の低下,QOL,術後膵機能,栄養状態の改善については明らかではない(グレードC1)。 C1
2-4 膵癌に対する門脈合併切除は予後を改善するか? 膵癌に対して根治性向上を目的とした予防的門脈合併切除により予後が改善するか否かは明らかではない。門脈合併切除により切除断端および剥離面における癌浸潤を陰性にできる症例に限り適応となる(グレードC1)。 C1 門脈浸潤の疑われる例,あるいは門脈浸潤陽性例に対する場合は,少なくとも主要動脈浸潤を伴わず,切除断端および剥離面における癌浸潤を陰性にできれば,門脈合併切除により長期生存例が得られることがあると考えられる。
2-5 膵癌に対して拡大リンパ節・神経叢郭清の意義はあるか? 膵癌に対する拡大リンパ節・神経叢郭清が生存率向上に寄与するか否かは明らかでなく,行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない(グレードC2)。 C2 本CQ で紹介したRCT は目的が同じでも各々の国の医療事情を反映して微妙にプロトコールが異なるためその結果の解釈には注意を要する。しかしいずれのRCTでも拡大郭清手術に予後を改善する効果はなく,むしろ術後の合併症が多い傾向にあり,拡大郭清手術の意義はほぼ否定されたと言ってよい。膵癌の手術では切除断端を癌陰性にすることがまず大原則であり,そのための努力を惜しんではいけない。しかし,高度な局所浸潤やリンパ節転移があるような症例は,たとえ拡大郭清手術を行ったとしても予後は極めて不良である。したがって,このような症例はできるだけ合併症が起こらないように注意して手術を行い,その後の補助療法に予後改善効果を期待したほうがよい。
ただ最近では診断精度の進歩により,より早期の段階で見つかる膵癌も増えてきた。このような症例にどこまで郭清を行うべきなのかは今後の検討を要する。拡大手術を一概に否定するのではなく,今後は積極的な郭清手術が必要な症例とそうでない症例を見極めるための検討が必要なのかもしれない。
2-6 (開腹後)非切除例での予防的バイパスは推奨されるか? 外科切除を目的に開腹し非切除となった黄疸を伴う膵癌に対して,胆管空腸吻合術による減黄術,予防的胃空腸吻合術が推奨される(グレードB)。 B 臨床の場では非切除膵癌が大多数を占める現実を考えると減黄術,消化管バイパス,癌性疼痛除去などは重要であるが,わが国ではやや置き去りにされてきた問題でもある。鏡視下手術でのバイパスや新規ステントの開発・改善などが進んでいるため,信頼度の高いRCTを行い,問題を整理していく必要がある。
2-7 膵癌に対する内視鏡的手術の意義は? 膵癌に対する内視鏡的手術は症例を選べば安全に施行可能である。長期遠隔成績を向上させるか否かについてはhigh volume centerでの症例の蓄積により明らかにされるべきである(グレードC1)。 C1 1990 年代に始まった腹腔鏡下膵切除術は20 年経過した現在でもいまだ膵癌に対する実施例は少数にとどまっている。短期成績は開腹術と比較して遜色ないため,患者の希望があれば内視鏡的手術を選択することは可能と思われる。しかしリンパ節郭清個数が少ないという報告があることや長期成績の報告が少ないことから,膵癌への本術式の適応の意義は今後high volume center での症例の蓄積により明らかにされるべきであろう。
2-8 膵癌では手術例数の多い施設で治療を受けるのがよいか? 膵頭十二指腸切除など膵癌に対する外科切除術では,手術症例数が一定以上ある専門医のいる施設では合併症が少ない傾向があり,合併症発生後の管理も優れている(グレードB)。 B 多数の症例に基づいたHVC での合併症発生率,長期生存率での優位性が示されているが,HVC を定義する症例数はばらついている。また,症例数だけでは高難度な膵切除術を安全・確実に施行できる十分条件にはならない。どの地域に住む患者もアクセスがよく,高い診断精度・技術を持ち,合併症の少ない標準的な手術と術後早期からの補助療法を受け,かつ全体の医療コストが妥当な医療供給体制が求められる。NCD(National Clinical Database),地域がん登録などの大規模全数調査データベースがわが国においても充実しつつある。膵癌登録のデータは長年の蓄積があるが,そもそもHVC における診療成績の積み重ねでもある。膵癌登録は,今後NCD に組み込まれることが確定しており,わが国の膵癌に対する診療体制の現状把握・改善に大きく寄与するものと思われる。
2-9 Borderline resectable 膵癌の治療:わが国における外科的切除の意義は? Borderline resectable膵癌に対して補助(術前)治療を行うことで,外科的切除の治療成績が改善するかについては今後の臨床試験や研究で明らかにされるべきである(グレードC1)。 C1 有効な術前治療の開発により術後の補助療法も含めた集学的治療を施行することで,borderline resectable 膵癌の予後は改善する可能性がある。さらに術前治療後に切除すると生命予後延長効果が期待できる症例を選別することで,borderline resectable 膵癌の新たな治療方針を確立できる可能性がある。
3.補助療法
3-1 膵癌に対する術前治療(①化学放射線療法,②化学療法)は推奨されるか? 術前治療(①化学放射線療法,②化学療法)の有用性を支持する論文が増加傾向にある。しかしこれが長期遠隔成績を向上させるか否かについては,今後の臨床試験や研究の蓄積によって明らかにされるべきである(グレードC1)。 C1 今後,ランダム化比較試験の蓄積などによって,膵癌に対する術前化学放射線療法や術前化学療法が生存期間(率)の向上に寄与するか否かを明らかにしていく必要がある。術前化学放射線療法では,肝転移予防対策が重要課題である。
3-2 膵癌の術中放射線療法は推奨されるか? 膵癌に対する術中放射線療法の有用性は明らかではない。日本で行われたランダム化比較試験では,術中放射線療法単独の効果は認められなかった(グレードC2)。 C2 わが国からの多施設共同RCT により,膵癌に対する補助療法としてIORT 単独治療には生存延長効果がないことがエビデンスとして示された。しかし,補助化学療法または術前・術後照射などとの併用によるIORT の有用性が今後認められる可能性は否定できない。こうしたIORT とほかの治療法の併用効果に関しては今後の研究課題であろう。
3-3 膵癌の術後化学放射線療法は推奨されるか? 膵癌に対する術後化学放射線療法の有用性は明らかではなく,試験的な位置づけとして行われるべきである(グレードC1)。 C1 RCT の結果からはフルオロウラシルをベースとした膵癌に対する補助化学放射線療法の有用性は証明されなかった。しかし,R1切除症例に対し有用である可能性が示されたこと,後ろ向き研究ではあるが多数例の報告から予後を延長させる可能性が示されていること,ゲムシタビン塩酸塩による補助化学放射線療法の解析がいまだに不十分であることから,今後さらなる検討が必要である。
3-4 術後補助化学療法を行うことは推奨されるか? 術後補助化学療法は切除単独に比べ良好な治療成績を示しており,実施することが勧められる(グレードA)。術後補助療法のレジメンはS-1 単独療法が推奨され(グレードA),S-1 に対する忍容性が低い症例などではゲムシタビン塩酸塩単独療法が勧められる(グレードB)。 A
A
B
術後補助化学療法の標準治療は,従来のゲムシタビン塩酸塩から新たにS-1 に切り替えられた。今後数年の間に,ゲムシタビン塩酸塩と経口フッ化ピリミジンとの併用療法の臨床試験の結果が明らかになる予定である。今後,これらの臨床試験の結果にも注目したい。
4.放射線療法
4-1 局所進行切除不能膵癌に対して推奨される一次治療は何か? 局所進行切除不能膵癌に対する一次治療としては,化学放射線療法または化学療法単独による治療が推奨される(グレードA)(化学放射線療法,化学療法の具体的な治療レジメンは,CQ4-2,CQ5-2において推奨する)。 A 局所進行切除不能膵癌の治療成績は,ゲムシタビン塩酸塩やS-1 などの新規抗がん薬を用いた治療により少しずつ向上してきているが(CQ4-2,CQ5-2),まだ満足いくものではなく,臨床試験での治療開発が望まれる状況である。化学放射線療法の利点としては,化学療法単独に比し,2 年生存割合などの中長期的な生存割合の向上を図れることや,局所制御による疼痛緩和が期待できることなどがある(CQ4-6)。一方,化学療法単独の利点は,化学放射線療法に比し有害事象が軽く,外来治療が可能なことが挙げられる。治療方針決定の際には,それぞれの治療の有効性とともに治療方法・治療スケジュール,有害事象なども含めた説明をすることが必要である。また今後の臨床試験によって両治療法の優劣や位置づけを明らかにすることが重要である。
4-2 局所進行切除不能膵癌に対して推奨される化学放射線療法は何か? 局所進行切除不能膵癌に対して,放射線療法を行う場合には,フッ化ピリミジン系抗がん薬またはゲムシタビン塩酸塩との併用が推奨される(グレードB)。放射線療法については,3 次元治療計画を行い,腫瘍に対する正確な照射と正常臓器への線量低減を図ることが推奨される。 B 一般的に,膵癌は早期に遠隔転移をきたす率が高く,局所進行切除不能膵癌に対する治療においては,局所治療と全身療法とのバランスが重要と考えられる。化学放射線療法におけるレジメンの完遂率,有効性については,放射線療法の線量や照射野の設定,線量分割,照射方法によっても大きく影響されることに注意されたい。また,現在進行しつつある分子レベルでの研究成果に基づき,個々の進行パターンや効果を予測し治療法を選択する試みも進められており,今後の発展が期待される。
いずれにしても,過去20 年間における放射線治療技術の進歩を膵癌治療へすみやかに,かつ適切に反映させる努力が望まれる。
4-3 局所進行切除不能膵癌に対する外部放射線療法では,どのような臨床標的体積を設定するのがよいか? 局所進行切除不能膵癌に対する外部放射線療法では,肉眼的腫瘍体積と転移頻度の高いリンパ節群のみを含んだ臨床標的体積にすることが勧められる(グレードC1)。 C1 高精度放射線治療技術の登場により,膵癌に対しても線量集中性の高い放射線療法が行えるようになった。適切な照射範囲については,リンパ節転移の頻度を根拠にしてCTV を設定した照射範囲別の比較試験を行い,規準を作っていく価値があると考える。
4-4 局所進行切除不能膵癌に対し,化学放射線療法前の導入化学療法の意義はあるか? 局所進行切除不能膵癌に対し化学放射線療法前に導入化学療法を行うことで,同時化学放射線療法を施行するメリットの高い症例群が選別され,選別例では良好な治療成績が報告されている点から意義があり,治療選択肢として考慮されてもよい(グレードC1)。 C1 局所進行切除不能膵癌において導入化学療法を行うことで,潜在的な遠隔転移を有する症例を選別し,同時化学放射線療法に適する症例群を選別し得るメリットがある。現在,フランスのGroupe Cooperateur Multidisciplinaire en Oncologie(GERCOR)において,導入化学療法後に,化学療法群と化学放射線療法群に割り付ける国際共同ランダム化比較試験が進行中であり,その結果が注目されている。今後,ランダム化比較試験の蓄積などにより,同時化学放射線療法前に導入化学療法を行うことで治療成績が向上するか否かを明らかにしていく必要がある。
4-5 局所進行切除不能膵癌に対し術中放射線療法の効果はあるか? 局所進行切除不能膵癌に対し術中放射線療法の有用性を支持する報告はあるが,これが予後を改善させるか否かについての科学的根拠は十分ではない(グレードC1)。 C1 エビデンスは低いものの,局所進行切除不能膵癌でバイパス手術を施行する際には,術中放射線療法を用いることにより1回で大線量(20〜25Gy程度)を照射することが可能となり,これに引き続いての外照射療法の期間や入院期間を短縮できるという臨床的な利点がある。また外照射による化学放射線療法(40〜50Gy 程度)に術中放射線療法を追加し,放射線の総線量を腫瘍の根治可能と考えられる線量レベルにまで高めることにより長期生存の可能性が開かれるという点からも,実施可能な施設で本治療法を行うことは選択肢のひとつと思われる。
4-6 放射線療法は局所進行切除不能膵癌のQOL を改善するか? 局所進行切除不能膵癌のQOL改善には,化学放射線療法(グレードB)や放射線療法(グレードC1)が勧められる。 B
C1
放射線療法が,癌性疼痛などの症状緩和に有効なことは,日常診療でよく経験される。放射線療法は,鎮痛薬などの対症療法とは異なり,症状の原因となる腫瘍そのものを縮小させる原因療法であるため,有効なら鎮痛薬を減量ないし中止することもでき,経済的なメリットも期待できる治療法である。
QOL 改善目的の緩和的放射線療法においては,照射野に予防域を設ける必要はなく,症状の責任病巣に限局した照射野でよい。線量分割についても,基本的には症状が緩和できる程度でよいが,遠隔転移のない場合は,治療が奏効し,ある程度の期間生存し得た場合の晩期有害事象にも配慮し,50.4Gy/28分割/5.5週や50Gy/25分割/5週などの通常分割照射が望ましい。
一方,遠隔転移などで長期生存が期待しがたい場合は,40Gy/20 分割/4 週や,30Gy/10 分割/2 週などのように,期待される予後に応じて治療期間が短縮される。
いずれにせよ,化学療法を同時併用する場合は,有害事象が増強されるおそれがあるため,治療期間を短縮したい場合でも,一回線量は3Gy のようには上げずに,通常分割照射の範囲内にとどめるのが無難である。
4-7 膵癌骨転移に対する放射線療法は有用か? 骨転移による疼痛緩和に放射線療法は有用である(グレードA) A 遠隔転移を有する膵癌治療の主体は全身化学療法であるが,骨転移に伴う症状が顕在化してきた症例に対して放射線療法が有効であることはしばしば経験される。病態に応じてオピオイドやビスフォスフォネートなど薬物療法も組み合わせつつ,放射線療法が可能な施設では積極的に施行することが推奨される。全身化学療法中である場合は有害事象を避けるため照射野を大きくしすぎないこと,ゲムシタビン塩酸塩を継続している場合は胸部照射との併用は禁忌とされていることに注意が必要である。また,放射線療法の一種としてSr-89 によるアイソトープ治療について国内で多施設共同オープン試験(レベルⅢ)が行われ有効性が示されたことを受け,2007 年末より保険治療として施行可能となった。骨髄抑制が著明な症例や期待予後が非常に短い症例では投与を避けるべきで,化学療法継続中の症例でも慎重な適応判断が求められるが,外照射治療が困難な場合など症例によっては選択肢のひとつになり得る。症状や予後なども含めて総合的に判断し,最適な治療を提供していくことが望まれる。
5.化学療法
5-1 遠隔転移を有する膵癌患者に対して化学療法は推奨されるか? 遠隔転移を有する膵癌患者に対して化学療法はbest supportive care に比べ予後を改善することから推奨される(グレードA)。 A 遠隔転移を有する膵癌患者に対して化学療法は推奨されるが,PSが低下し,化学療法を施行し得ない患者あるいは化学療法不応性の患者に対しては,医師を含む緩和ケアチームが患者および患者家族に十分説明し,同意を得たうえで,疼痛除去,栄養治療,減黄治療,腹水治療を含めたBSCを行う必要がある。

5-2-1

再改定
2015.5

遠隔転移を有する膵癌に対して推奨される一次化学療法は何か? 遠隔転移を有する膵癌に対する一次化学療法としては,FOLFIRINOX 療法,またはゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法が推奨される(グレードA)。
ただし,化学療法に十分な経験のある医師のもとで,全身状態(PS)や骨髄機能などより,これらの治療法が適切と判断される症例を選択して実施する。これらの治療法が適切と判断されない場合は,ゲムシタビン塩酸塩単剤治療,ゲムシタビン塩酸塩+エルロチニブ塩酸塩併用治療,またはS-1 単剤治療が推奨される(グレードA)。
A





A
遠隔転移を有する膵癌に対して推奨される一次化学療法として,従来のゲムシタビン塩酸塩単剤治療,ゲムシタビン塩酸塩+エルロチニブ塩酸塩併用療法,S-1 単剤治療に加え,2013 年12 月にFOLFIRINOX 療法,2014 年12 月にゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法が保険収載された。膵癌診療ガイドラインの推奨も2013 版では「ゲムシタビン塩酸塩単剤治療,ゲムシタビン塩酸塩+エルロチニブ塩酸塩併用治療,またはS-1 単剤治療が推奨される(グレードA)。」,改訂版では「FOLFIRINOX 療法,ゲムシタビン塩酸塩単剤治療,ゲムシタビン塩酸塩+エルロチニブ塩酸塩併用治療,またはS-1 単剤治療が推奨される(グレードA)。ただし,FOLFIRINOX 療法は,化学療法に十分な経験のある医師のもとで,全身状態(PS),年齢,骨髄機能,黄疸・下痢の有無,UGT1A1 の遺伝子多型などを考慮し,実施に際しては,緊急時にも適切な対応ができるよう,有害事象に対する十分な観察と対策が必要である。」,今回の再改訂版では「FOLFIRINOX 療法,またはゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法が推奨される(グレードA)。ただし,化学療法に十分な経験のある医師のもとで,全身状態(PS)や骨髄機能などより,これらの治療法が適切と判断される症例を選択して実施する。 これらの治療法が適切と判断されない場合は,ゲムシタビン塩酸塩単剤治療,ゲムシタビン塩酸塩+エルロチニブ塩酸塩併用治療,またはS-1 単剤治療が推奨される(グレードA)。」と変更され,治療選択肢が広がった。一方,どの治療法をどのような患者に適応すべきかは十分に明らかにされておらず,今後の臨床データの蓄積や前向き臨床試験などにより明確にされることを期待したい。

5-2-2

再改定
2015.5

局所進行切除不能膵癌に対して推奨される一次化学療法は何か? 局所進行切除不能膵癌に対する一次化学療法として、ゲムシタビン塩酸塩単剤治療、またはS-1 単剤治療が推奨される(グレードA)。 A FOLFIRINOX 療法,ゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法は遠隔転移を有する膵癌患者を対象に第V相試験が行われており,局所進行切除不能膵癌に対するエビデンスがないことから,今回の改訂では局所進行切除不能膵癌に対して推奨される一次化学療法としての推奨から除外した。しかし,治癒切除不能膵癌に対する化学療法として既に保険収載されており,今後FOLFIRINOX 療法,ゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法が局所進行切除不能膵癌に対しても,より有効で,安全な治療法として確立することが望まれる。
5-3 切除不能膵癌に対して推奨される化学療法の投与期間はどれくらいか? 切除不能膵癌に対する化学療法は,投与継続困難な有害事象の発現がなければ,病態が明らかに進行するまで投与を継続する(グレードB)。 B なし

5-4

改定
2015.7

切除不能膵癌に対して二次化学療法は推奨されるか? 海外における二次治療のランダム化比較試験により,支持療法に比べ化学療法の有用性が示されており,二次化学療法の実施が推奨される(グレードB)。
二次化学療法のレジメンは一次治療に応じて,一次治療がゲムシタビン塩酸塩ベースの治療であればフッ化ピリミジン薬を中心とした治療を,一次治療がフッ化ピリミジンベースの治療であればゲムシタビン塩酸塩を中心とした治療を選択する(グレードC1)。
B





C1
膵癌に対する一次化学療法はゲムシタビン塩酸塩だけでなく,S-1 やゲムシタビン塩酸塩を含まない治療法も確立しつつあり,それに伴い二次化学療法も選択肢が増えるものと予想される。また,分子標的薬を含めた新規薬剤の開発が精力的に進められており,二次化学療法を含め,膵癌の生物学的特徴に基づく有効な治療法の確立が期待される。
6.ステント療法
6-1 閉塞性黄疸を伴う切除不能例に胆道ドレナージは推奨されるか? 切除不能膵癌に対する胆道ドレナージは,推奨される(グレードB)。
切除不能膵癌に対する胆道ドレナージは,開腹による外科的減黄術より内視鏡的減黄術が推奨される(グレードB)。
B
B
閉塞性黄疸を伴う切除不能膵癌に対する胆道ドレナージは,化学療法前の減黄目的のみならず,予後やQOL の改善が期待できるため,積極的に行うべきである。外科的胆道ドレナージは長期開存が期待でき,内視鏡的胆道ドレナージを含む非外科的胆道ドレナージは合併症の発現率が低く費用が少ないという結果だったが,その報告は過去のものが多く,現在の医療状況を反映していない。ステントの性能や内視鏡的技術の進歩は著しいため,現在の医療レベルに即した胆道ドレナージの有用性の検討が必要である。
6-2 切除不能膵癌に対する胆道ドレナージのアプローチルートは,経皮的と内視鏡的のどちらがよいか? 切除不能膵癌に対する胆道ドレナージは内視鏡的に行うことが奨められる(グレードB)。 B 経皮的胆道ドレナージは内視鏡的ドレナージに比べて侵襲度が高いことから,現在では後者が標準的な治療となっている。しかし,内視鏡的胆道ドレナージの成功率は100% でないことに注意し,内視鏡的ドレナージではコントロールが困難な肝門部狭窄などに関しては必要に応じて経皮的胆道ドレナージを行うことが望ましい。
6-3 膵癌による閉塞性黄疸に対するステントの種類は何が推奨されるか? 膵癌切除不能例による閉塞性黄疸に対しては,プラスチックステント(plastic stent;PS)よりも開存期間の長い自己拡張型メタリックステント(self─expandable metallic stent;SEMS)が推奨される(グレードC1)。SEMS のなかでは被覆型(covered type)の開存期間がuncovered type より長いことが報告されている(グレードC1)。施設ごとの技術,診療体制,患者の状態によってuncovered type やPS の選択を考慮してもよい。 C1
C1
現在まで報告されている多くの臨床試験は病態が異なる原疾患(膵頭部癌,胆管癌,リンパ節転移など)を限定せずに施行されており,また,その評価の方法も異なる。そのためRCT 自体の評価・解釈には限界があり,そうしたRCTをもとにしたメタアナリシスの結果の評価・解釈にも注意を要する。今後,膵癌による閉塞性黄疸のみに対象を絞った臨床試験が必要である。化学療法,化学放射線療法の進歩とともに膵癌切除不能例の予後も延長してきているが,これらの治療がステントの成績に与える影響の研究も十分ではなく,また,延長した予後に対するステント療法の改良すべき点も明らかにはなっていない。
Uncovered SEMSとcovered SEMS の比較評価に関して,前述の限界のなかではあるが,2012 年のASGE で発表された(今回の改訂では慎重な査読がなされた学会の抄録は引用文献として採用)北野らの論文は,わが国の30 を超える多施設で膵癌を対象に限定し行われた多施設共同研究であることと,わが国で最も多く使用されているステントを使用していること等より,現在のわが国の臨床の実情に最も即したRCT と考えられる。その結果はCovered SEMS がuncovered SEMS よりは開存期間が長いというものであった。しかし,ひとつのRCTのみで強力なエビデンスとは言い切れず,膵癌とほかの癌種が混じた海外の臨床試験では有意差が出ていないことなどより,弱い推奨にとどめておくのが現時点では妥当と考え,改訂委員会では推奨度をC1 とした。今回の改訂過程において,このuncovered SEMSとcovered SEMSの問題に関しては,RCTやメタアナリシスの評価・解釈の違いから,公聴会やpublic comments においてcovered SEMS に対して否定的な見解の意見もあった。そのため,わが国での実診療に支障が生じないように推奨内容,推奨度にも数度の修正が加えられた。Covered SEMS とuncovered SEMS の問題に関しては,次回のガイドライン改訂において再検討をするために,化学療法,化学放射線療法の進歩を踏まえてのエビデンスレベルの高い結果の報告を期待したい。
6-4 胃十二指腸閉塞をきたした切除不能例に対する治療法は何が推奨されるか? 全身状態が良好で比較的長期の予後が期待される症例には外科的胃空腸吻合術,それ以外の症例には内視鏡的十二指腸ステント挿入術が推奨される(グレードB)。 B 2010 年4 月に国内で認可された内視鏡的十二指腸ステント挿入術は,胃空腸吻合と並んで十二指腸閉塞をきたした膵癌切除不能症例に対する新たな治療選択肢である。現在までに報告されている胃空腸吻合術と内視鏡的十二指腸ステント群の比較試験の成績は対象がすべて膵癌ではなく,胃癌を一定の割合で含んで検討されていることに注意すべきであり,今後切除不能膵癌のみを対象とした胃空腸吻合術と内視鏡的十二指腸ステント挿入術を前向きに比較した多施設共同研究が望まれる。また,十二指腸ステントはaxial force,挿入後の短縮の有無などがステントの種類によって大きく異なるため,用いるステントの種類によって大きく成績が異なる可能性があることに留意すべきである。ステント留置後の化学療法が開存期間に影響を与えるかどうかの論証は十分なされておらず今後の課題である。

* 保険未収載の検査・治療