白血病,リンパ腫,骨髄腫などの造血器腫瘍は,病態が分子・遺伝子レベルで次々と明らかになり,診断法や治療法が急速に進歩している分野である。従来の標準的化学療法に加え,分子標的療法,造血幹細胞移植,抗腫瘍免疫療法,補助療法において毎年新たな報告がなされ,治療の選択肢が広がっている。EBM(evidence-based medicine)に重要な科学的根拠は年々増加しているが,日常の業務に多忙の臨床医が,造血器腫瘍領域における膨大な最新知識を常に入手し,そのエビデンス(科学的根拠)のレベル(質)を正確に判断するのは容易なことではない。また,造血器腫瘍の中には,頻度の低い疾患や,多数例解析によるエビデンスレベルが高い成績が存在しない場合も経験する。これらの理由から,現時点で明らかになっているエビデンスを整理し,医療の現場で適切に診断や治療が行えるように補助する診療ガイドラインの必要性が増してきている。
日本血液学会では,学会内外ならびに日本癌治療学会からの要望に応え,本学会が主体となり白血病,リンパ腫,骨髄腫の3 領域に関する造血器腫瘍診療ガイドラインを作成することが2010 年12 月の理事会で承認された。学会の診療・学術・教育の3 委員会が中心となって造血器腫瘍診療ガイドラインの作成・評価を行うことになり,黒川峰夫先生に作成委員会委員長,大西一功先生には疾患別作成委員会委員長を依頼した。2011 年より白血病,リンパ腫,骨髄腫の細かな病型別に数名の専門家からなる作成委員会が設けられ,ガイドラインの作成が開始された。ガイドライン案の作成後,独立した評価委員会による評価を行い,日本血液学会会員によるパブリックコメントも得て,出版の運びとなった。
本ガイドラインは,造血器腫瘍の各病型について,総論,アルゴリズム,Clinical question(CQ)の構成となっている。我が国の造血器腫瘍の特徴や医療の実情も加味した独自の診療ガイドラインであり,診断・治療・予後予測などの実地診療に有益な情報が簡潔に提供されている。なお,本ガイドラインは,現時点における標準的な診療情報の提供であり,個々の症例における診断・治療の決定・責任は医師と患者にあることを改めてご認識いただいた上で,ご活用いただければ幸いである。
今後も時代に即したより良い造血器腫瘍診療ガイドラインを提供するため,定期的に改訂する予定である。日本血液学会会員諸氏の継続的なご支援とご助力をお願いしたい。最後に,誠にご多忙な折に本造血器腫瘍ガイドラインの作成・評価をお引き受け頂いた先生方にこの場を借りて深謝する次第である。
2013 年10 月
日本血液学会理事長 金倉 譲