成人の血液疾患領域において,個別の疾患レベルでは,これまでも研究班などで作成された優れたガイドラインがいくつもあったが,造血器腫瘍全体を統一された形式で俯瞰したものは事実上存在しなかった。このたび,日本血液学会の編纂により,多岐にわたる造血器腫瘍を包摂して,最新の診療ガイドラインが刊行される運びとなったことは誠に意義深いことである。
本ガイドラインは2011 年5 月に,日本血液学会会員から各疾患のエキスパートが一堂に会して,実質的な作成作業が始まった。疾患別作成委員会内に作られたワーキンググループ(WG)の精力的な活動のもと,極めて順調に原稿が寄せられたことが記憶に新しい。いずれも充実した内容で,分量の関係で項目を厳選するなどの調整を行った結果,一層密度の高いものとなった。その後,独立した評価委員会による3 回にわたる評価・修正を行い,さらに関連学会や研究班からの意見をいただくとともに日本血液学会会員から広くパップブリックコメントを募集した。その集大成が本ガイドラインである。
本書は主要疾患ごとに,エッセンスを的確に集約した総論,現時点での治療の考え方をわかりやすく図示したアルゴリズム,選び抜かれたClinical question(CQ)からなっている。CQ のパートでは重要な文献に基づいて適切なエビデンスとそのレベルが明確に記載され,現時点での診療の到達点が見事に記されている。全体として現在のガイドラインで汎用される形式に則り,診療上標準となる情報を濃縮したものとなった。読み返してみると,造血器腫瘍領域にこれまでなかった待望の書であることを改めて感じ,血液の診療に携わる医師のみならず,他領域の医師や医療関係者にも広く役立つ内容であると確信する。本書の誕生の場に参加できたことを大変光栄に感じるところである。
本書に関しては,文献の内容をコンパクトに把握できる構造化抄録も作成され,本文の一部とともにweb で閲覧可能となる。本書が多くの方にさまざまな形で幅広く活用されることが望まれる。一方,最新の情報を維持するためには,適切な方法で内容の追加,アップデートしていく必要があろう。そのような意味で,本書は造血器腫瘍の診療の携わる方に育てていただくものと考える。
最後に,本ガイドライン作成に不可欠のリーダーシップを発揮された金倉 譲 日本血液学会理事長,実質的な作成作業を取りまとめてくださった大西一功 疾患別作成委員会委員長,的確な評価と修正指示を取りまとめてくださった直江知樹委員長をはじめとする評価委員の方々,各疾患別WG 責任者をはじめとする全ての執筆者ならびに作成委員会の各委員の方々,そして事務局として実務の労を執られた南谷泰仁氏(東京大学血液・腫瘍内科)に深甚の感謝の意を表したい。
2013 年9 月
ガイドライン作成委員会委員長 黒川峰夫