第2 版 序文

2007 年に日本皮膚科学会,日本皮膚悪性腫瘍学会および日本癌治療学会の共同事業として作成された初版「皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン」(斎田俊明ら,編集)から,8 年が経過し,改訂第2 版が完成しました。本ガイドラインは,メラノーマ,有棘細胞癌,基底細胞癌,乳房外パジェット病の診療ガイドラインの改訂版と,先んじて上梓されている「皮膚リンパ腫診療ガイドライン第2 版」の二つのガイドラインを合本化したものです。合本化にあたり両ガイドライン作成委員会は共同で推奨度や用語を統一する協議を行いました。

改訂にあたり,ガイドライン作成委員会では,「皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン」が皮膚科学会の若手会員に,どの程度普及し,どのように評価されているかをアンケート調査しました。アンケート対象者は,2011 年8 月28 日に開催の「皮膚悪性腫瘍と化学療法」(日本皮膚科学会生涯教育シンポジウム)に参加した291 名で,226 名(皮膚科専門医41 名,非専門医169 名,不明16 名)であり,回収率は78%でした。半数以上の回答者が,患者説明に利用し,治療計画立案に役立つと考え,総合的に有用と回答しました。同時にガイドラインの改訂は,定期的に行うべきとする意見が過半数で,次いで新薬開発時,海外ガイドラインと連動すべきという意見が多くみられました。ガイドラインを題材にした講習会開催には,過半数が有用と回答し,やや有用を加えると80%超でした(厚生労働省「がん診療ガイドラインの作成(新規・更新)と公開の維持およびその在り方に関する研究」(平田班)の平成23 年度報告書参照)。

ガイドライン委員会ではアンケートのご意見を参考にしつつ,より良質で,新たな治療法を組み入れた改訂版を目指しました。診療ガイドラインに求められる次なるミッションは,普及と情報提供だけではなく,法制化された「がん登録」とリンクしたアウトカムの評価だと思われます。新薬が続々に開発され,上市されていますが診療ガイドラインは科学的根拠に基づいて作成されるため最新情報の提供を目的としていません。本診療ガイドラインが刊行されるまでにわが国で使用可能になった薬剤については「補遺」に記載しましたが,診療アルゴリズムへの組み入れは次回の改訂に委ねることになりました。

刊行にあたり膨大な文献を渉猟し,何度も協議を繰り返した作成委員の先生方にお礼申し上げます。とくに,原稿をまとめあげた古賀弘志先生(信州大学)と,全編にわたり詳細にご高覧いただき,貴重なアドバイスをいただいた日本皮膚腫瘍学会前理事長の斎田俊明先生にお礼申し上げます。また,日本皮膚科学会ガイドライン委員会の先生方やパブリックコメントを寄せていただいた先生方に感謝いたします。

2015 年春

日本皮膚科学会ガイドライン作成委員会
「皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2 版」
作成委員長 岩月啓氏
「皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2 版」
(メラノーマ,有棘細胞癌,基底細胞癌,乳房外パジェット病)
作成責任者 土田哲也
「皮膚リンパ腫診療ガイドライン」
作成責任者 菅谷 誠


初版序文(皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン【第1 版】)


初版序文(皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン【第1 版】)

皮膚悪性腫瘍の発生頻度には著しい人種差がみられ,欧米白人にはきわめて高頻度に生じるが,黒人での発生は少なく,黄色人種はその中間である。これは,皮膚のメラニン色素量の多寡による日光紫外線への防御能の差異を反映するものである。しかし近年,わが国でも各種皮膚悪性腫瘍患者の増加傾向が目立つ。高齢化社会への移行や生活様式,生活環境の変化などが患者増加の重要な要因と考えられる。

皮膚悪性腫瘍の診療ガイドラインは,欧米において優れたものがすでに複数作成,公開されている。しかし,同じ皮膚悪性腫瘍であっても人種により病型や症状に大きな差がみられることが稀でない。また,保険制度や社会の慣習の違いに起因する診療実態の相違も無視できない。今回,この皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインを作成するのは,日本の医療事情を踏まえつつも,EvidencebasedMedicine(EBM)の手法に拠って最新,最良の皮膚悪性腫瘍の診療ガイドラインを提示し,本邦における皮膚悪性腫瘍の診療レベルの向上に寄与したいと考えたからである。

多種類の皮膚悪性腫瘍の中から,今回は悪性度と頻度から重要と考えられる悪性黒色腫(メラノーマ:MM),有棘細胞癌(SCC),基底細胞癌(BCC),乳房外パジェット病の4 がん種を取り上げた。日本皮膚科学会の承認のもとに,日本癌治療学会の「がん診療ガイドライン委員会」の領域担当委員と日本皮膚悪性腫瘍学会のメンバーを中心に16 名の医師が皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン作成委員会を構成し,作業を進めた。皮膚科医のみでなく,日本放射線腫瘍学会から鹿間直人先生に加わっていただき,またEBM の専門家として日本医療機能評価機構医療情報サービス事業(MINDS)の元編集委員である幸野健先生にもご参加いただいた。

委員会では,予防,診断から治療法,経過観察に至るまで,一貫した診療ガイドラインの作成を目指し,最終的には悪性黒色腫24 問,有棘細胞癌11 問,基底細胞癌19 問,乳房外パジェット病15 問のClinical Question(CQ)を設定した。これらの各CQ について,主として『MEDLINE』と『医学中央雑誌』によって網羅的な文献検索を行い,これに各自ハンドリサーチの文献を加えた。なお,すでに欧米諸国から発表されている二次資料やガイドラインも大いに活用することとした。

収集した多数の文献を各委員が分担して検討し,「構造化抄録」を作成した。その後,すべての構造化抄録は,エビデンスレベルの分類も含めて幸野委員によってチェックされた。ガイドライン作成にあたっては,なるべくエビデンスレベルの高い文献を採用することを原則とした。しかし,日本人に関する知見は症例数が少ないものも採用し,評価対象とすることとした。これらの文献を基に,各CQ に関する「推奨文」を作成し,委員会で定めた基準によって「推奨度」を決定した。また,各推奨文にかかわる文献の要約や説明を「解説」として記述し,その末尾に「文献一覧」を付した。なお,以上の作業と並行して,対象4 がん種につき,診断から治療,経過観察までの診療アルゴリズムを作成し,このアルゴリズムの上に,各CQ を位置づけて掲示した。

以上のようにして作成したガイドラインは,日本癌治療学会がん診療ガイドライン委員会の評価委員会と日本皮膚科学会学術委員会へ提出し,両委員会からの評価,校閲を受けて,最終的な改訂を加えた。こうして今回の公開に至ったわけである。

この間,委員諸氏には多忙な日常診療の中,多大な労力を要する本ガイドラインの作成実務に携わっていただいた。ここに改めて謝意を表したい。また,ご指導,ご支援いただいた日本癌治療学会の関係諸氏,ならびにご校閲いただいた日本皮膚科学会学術委員会の古江増隆委員長,神保孝一,山崎雙次,土田哲也,天谷雅行,田中俊宏,松永佳世子,武藤正彦,森田栄伸の各委員に深甚なる謝意を表する。さらに,最終段階で乳房外パジェット病に関して貴重なコメントを付けて下さった大原國章先生(虎の門病院皮膚科)と熊野公子先生(神戸県立成人病センター皮膚科)に深謝したい。なお,当委員会の活動資金の一部は厚生労働省科学研究費補助金(平田班)に依ったことを付記する。

当然のことながら,診療ガイドラインは臨床現場における医師の裁量権を制約するものではない。本ガイドラインについても,実際の診療にあたっては,個別の状況に応じ柔軟に適用していただきたい。

本ガイドラインが,皮膚悪性腫瘍の診療にかかわる医療従事者に役立ちその診療レベルの向上に資することを願っている。さらには,皮膚腫瘍に悩む患者・家族の皆様にもお役に立つことができれば幸いである。

2007 年3 月

皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン作成委員会委員長
斎田 俊明
科学的根拠に基づく 皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン 【第1 版】
(悪性黒色腫,有棘細胞癌,基底細胞癌,乳房外パジェット病)
日本皮膚悪性腫瘍学会編



初版序文(皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインⅡ【第1 版】)


初版序文(皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインⅡ【第1 版】)

皮膚悪性腫瘍のうち,メラノーマ,有棘細胞癌,基底細胞癌,乳房外Paget 病の4 がん種については,すでに2007 年に『科学的根拠に基づく皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン』が上梓されているが,本ガイドラインは,その続編にあたるものである。

『皮膚リンパ腫』については欧米で,すでにいくつかのガイドラインが作成,公開されている。しかし,皮膚リンパ腫の発症頻度や病型には人種差がみられ,また,医療制度の違いもあって,欧米のガイドラインをそのまま適用することは難しい。

ガイドライン作成の根幹とも言うべき診断基準や病期分類が揃い,いよいよガイドライン作成の機は熟し,本ガイドライン策定委員会は,日本皮膚科学会と日本悪性腫瘍学会の共同事業として発足した。

海外のガイドラインを参考にしつつ,日本の実情に即した独自の皮膚リンパ腫の診療ガイドライン作成に取り組み,皮膚リンパ腫診療に対してコンセンサスのある診療指針を提示することを望まれて,ここに初版を完成させることができた。

皮膚リンパ腫に関する可能な限りの臨床研究論文を渉猟し,医学的視点からの検証を加えて,現時点において本邦での標準的診療を示した。

本ガイドラインが皮膚悪性腫瘍の診療に関わる医療従事者に役立ち,その診療レベルの向上に資することを願っている。さらには,皮膚腫瘍に悩む患者,家族の皆様にもお役に立つことができれば幸いである。

2010 年1 月

皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインⅡ : 皮膚リンパ腫作成委員会委員長 岩月 啓氏
科学的根拠に基づく 皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインⅡ 【第1 版】
(皮膚リンパ腫)
日本皮膚科学会/ 日本皮膚悪性腫瘍学会編