皮膚悪性腫診療ガイドライン(第2 版)作成にあたって

1.ガイドラインの対象患者(target)

全年齢のメラノーマ,有棘細胞癌,基底細胞癌,乳房外パジェット病患者とそれらを将来的に発生させるリスクのある日本人集団を本ガイドラインの対象(target)とした。疾患の重症度は早期病変から遠隔転移のある進行期までを含んでいる。日本在住であっても,スキンタイプⅠ に属する白人では日本人よりも皮膚がんの発生頻度が高いため,本ガイドラインの使用が最善ではない可能性があることに注意が必要である。

2.ガイドラインの利用者(user)

対象疾患患者,患者の家族,対象患者を診察する全ての医師,看護師,薬剤師,その他の医療従事者を含む医療チーム,医療政策決定者を利用者とする。

3.ガイドライン作成手順

皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン作成委員会委員を選定し,クリニカルクエスチョン(CQ)決定のための会議を開催した。CQ 決定後は各疾患担当グループ内で文献検索,推奨度・推奨文作成,構造化抄録作成を進めた。各疾患のガイドライン原案ができた時点で全体会議を開催し,内容について検討し修正を行った。最終原案についてメールにて各委員に送付し,アンケート形式で意見を募り,その評点・コメントをもとに修正を繰り返すデルファイ法に準じて調整を行った。大きな意見の相違はなく調整は1 回で終了した。最終案について,ガイドライン作成委員会委員を兼任しない日本皮膚科学会代議員による外部評価を受けた。

4.エビデンスの検索・選択基準

使用したデータベース:MEDLINE,Cochrane Systematic Review,医学中央雑誌

選択基準:システマティックレビューおよび個々のランダム化比較試験(Randomized Control Trial:RCT)論文を優先して採用した。文献の言語は日本語および英語に限定した。動物実験および基礎研究文献は除外した。皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第1 版で採用した文献を基として,以後新たに発表された文献について上記データベースを用いて検索し,必要に応じてそれぞれ新旧文献を追加・削除する方針とした。疾患の人種差に関して,日本人患者以外を対象とした研究であっても日本人患者に適用可能と判断したものは採用した。乳房外パジェット病に関しては,他の疾患と比べて文献が少ないため,症例報告や総説,テキストも必要に応じてハンドサーチを行った。日本国内未承認薬および未認可の治療法についても,科学的根拠がありガイドラインとして掲載が適当と判断したものについては採用した。

表1 エビデンスのレベルと推奨度の決定基準

A.エビデンスのレベル分類
システマティック・レビュー/ メタアナリシス
1 つ以上のランダム化比較試験による
非ランダム化比較試験による
分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究)
記述研究(症例報告や症例集積研究)
専門委員会や専門家個人の意見
B.推奨度の分類
A 行うよう強く勧められる
(少なくとも1 つの有効性を示すレベルⅠもしくは良質のレベルⅡのエビデンスがあること)
B 行うよう勧められる
(少なくとも1 つ以上の有効性を示す質の劣るレベルⅡか良質のレベルⅢあるいは非常に良質のⅣのエビデンスがあること)
C1 行うことを考慮してもよいが,十分な根拠*がない
(質の劣るⅢ〜Ⅳ,良質な複数のⅤ,あるいは委員会が認めるⅥ)
C2 根拠*がないので勧められない
(有効のエビデンスがない,あるいは無効であるエビデンスがある)
D 行わないよう勧められる
(無効あるいは有害であることを示す良質のエビデンスがある)
*根拠とは臨床試験や疫学研究による知見を指す。
本文中の推奨度が必ずしも上表に一致しないものがある。国際的にも皮膚悪性腫瘍治療に関するエビデンスが不足している状況,また海外のエビデンスがそのまま我が国に適用できない実情を考慮し,さらに実用性を勘案し,(エビデンス・レベルを示した上で)委員会のコンセンサスに基づき推奨度のグレードを決定した箇所があるからである。

5.推奨とエビデンスの対応関係

皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第1 版で採用した表1 のエビデンスレベル・推奨度の分類と推奨度の決定基準を用いた。

6.改訂手続き

本ガイドラインは第2 版であるが,公開後3 年をめどに改訂予定とする。

7.公表

日本皮膚科学会会員向けに日本皮膚科学会ホームページに掲載するとともに日本皮膚科学会雑誌に発表する。日本癌治療学会ホームページからウェブリンクを張るとともに,日本医療評価機構Minds ホームページにも別途ウェブ掲載を行う予定である。

8.資金源

ガイドライン作成のための費用は全て日本皮膚科学会が負担した。委員は会議参加のための交通費,宿泊費の支給を受けたが,原稿作成,会議参加に対する報酬は受け取っていない。資金提供者である日本皮膚科学会によるガイドラインの内容に影響を及ぼすような介入はなかった。

9.利益相反

本ガイドラインで取り上げた薬剤および医療機器の開発・販売に関連した個人および団体への報酬で,日本皮膚科学会および日本皮膚悪性腫瘍学会の定める利益相反規定に抵触するものはなかった。

10.免責事項

診療ガイドラインは個々の状況に応じて柔軟に使いこなすべきものであって,医師の裁量権を規制するものではない。本ガイドラインを医事紛争や医療訴訟の資料として用いることは,本来の目的から逸脱するものである。ガイドラインは臨床医の視点において,現段階における医療水準を客観的事実から記載したものである。そのため,医薬品添付文書にはない使用法を記載した部分もある。

本邦においては適用外使用(未承認薬)であっても,本邦・海外においてエビデンスのある治療であれば,本ガイドラインに取り上げ推奨度も記載した。保険適用のない診療については全て推奨文内で明記した。すなわち,ガイドラインは学術的根拠に基づく記載であり,保険診療の手引書ではない。一方で,ガイドラインに記載のある未承認薬が保険診療において自由に使用可能であることも意味しない。未承認薬使用に際しては,各施設において倫理委員会の使用申請・承認を受けるなどの適切な対応が必要である。