卵巣がん治療ガイドライン 2015 年版 (第4版) 序文

日本婦人科腫瘍学会のガイドライン委員会が2002 年に設置され,宇田川康博委員長と八重樫伸生副委員長のご尽力によって,婦人科がんで最初の『卵巣がん治療ガイドライン2004年版』が発刊されました。総論,上皮性卵巣腫瘍,胚細胞腫瘍,資料集の4章から成る本書には,宇田川委員長の序文で上梓に至るまでの経緯が述べられており,治療ガイドラインの作成の試みとして,1997 年に日本産科婦人科学会によって婦人科腫瘍委員会の中に「卵巣がんの治療の基準化に関する検討小委員会(藏本博行委員長)」が立ち上げられ,その3年後にその報告書(日産婦誌 52:1321─1341, 2000)が同学会誌に掲載されたことが嚆矢とされています。その後,ガイドラインの検証として本学会の全会員にアンケート調査を行い,その結果(日婦腫瘍会誌 26:109─115,2008)を踏まえて『卵巣がん治療ガイドライン2007年版』として改訂されました。さらに,八重樫委員長の下で大幅な改訂作業が再び進められ,再発上皮性悪性卵巣腫瘍,表層上皮性・間質性境界悪性腫瘍,腹膜癌・卵管癌,性索間質性腫瘍が追加された『卵巣がん治療ガイドライン2010年版』が刊行されました。そして,日本癌治療学会がん診療ガイドライン評価委員会による「総説形式からCQ形式」への変更を求めるとの評価を受けて3 度目の改訂作業に着手し,ここに第4 版となる『卵巣がん治療ガイドライン2015年版』出版の運びとなりました。2012 年11 月22 日に開催された第1 回作成委員会は,歴代委員長,委員長,副委員長,小委員長,委員,幹事をあわせて55名と,初版の18 名の3倍にものぼる構成となりました。委員には,日本病理学会と日本放射線腫瘍学会からもご推薦を頂き,これまでも加わって頂いていた腫瘍内科医の方々とともに緩和医療の専門家にも新しくご参加頂きました。最後の2014年12月21日までに8回の作成委員会を開催し,その間に学会ホームページ上でパブリック・コメントを会員に募集し,また第56回学術講演会(2014 年7 月18 日:宇都宮市,鈴木光明会長)においてコンセンサス・ミーティングを実施し,最終段階として40名の委員によって構成される評価委員会で検討致しました。この3 年間の作業工程において,国内外の卵巣がん・腹膜癌・卵管癌の治療に関するデータを渉猟し,また現在のわが国における叡智を結集し,最終的に日本の実地治療に最も適合し得ると考えられる治療指針を41 項目にわたって提示致しました。本ガイドラインが,卵巣がん・腹膜癌・卵管癌の治療にあたる医療従事者にとって必携の書となり,それが患者さんとそのご家族にとって最良の結果が得られることにつながるものと確信しております。

今回の第4 版では,以下の点を主に改変・変更致しました。

  1. 「フローチャート」を明解に整理し,巻頭にまとめて別掲しました。
  2. 本章の前に「本ガイドラインにおける基本事項」として,進行期分類,組織学的分類,手術術式,化学療法,緩和ケアを設けることで,本文の理解をより促すように努めました。
  3. 基本事項の中で,日本産科婦人科学会が2014 年に卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の新FIGO 手術進行期分類(FIGO 2014)を採用したことを受けて新旧の両分類を掲載し,また2014年に改訂されたWHO の卵巣腫瘍組織学的分類を2009年の『卵巣腫瘍取扱い規約』とともに加えました。
  4. 早期から積極的に取り込むことが推奨されている緩和ケアは卵巣癌の治療では特に重要視すべきとの観点から,基本事項の最後に解説を行いました。
  5. 「ガイドライン総説」の章には,作成費用と利益相反を新たに明記しました
  6. 「卵巣癌」の章では,遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer;HBOC)の検査基準と対応,分子標的治療の項目を新たに設けました。また,臨床の現場でしばしば問題となる腫瘍マーカーのみを指標とした再発治療の介入や治療後のホルモン補充療法(HRT)の指針を項目として採り上げました。
  7. 「上皮性境界悪性腫瘍」の章では,手術や化学療法の内容を左右することになる組織学的定義を詳述しました。

加えて,使用される語句や用語の統一を図り,2013 年5 月発刊の日本産科婦人科学会編『産科婦人科用語集・用語解説集』をはじめ各専門領域の用語を採用しました。最善を尽くして完成させたガイドラインでありますが,日々の臨床の進歩・発展は目覚ましく,本学会会員諸氏,本書を手にされた多くの方々,そしてご後援頂いた日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会,婦人科悪性腫瘍研究機構,日本放射線腫瘍学会,日本病理学会にご叱正を請いながら,次の改訂に繋げていくことは申し上げるに及びません。

今回の改訂にあたり,宇田川康博名誉教授,八重樫伸生教授のおふたりの歴代委員長には常に貴重で的確なご助言を頂きました。また,作成のパートナーである三上幹男副委員長,そして,岡本愛光,伊藤 潔,森重健一郎,鈴木 直の各小委員長,永瀬 智,金内優典,村松俊成,蝦名康彦,大竹秀幸の各幹事の懸命且つ献身的なご尽力に深甚なる謝意を表します。さらに,嘉村敏治前理事長,吉川裕之理事長をはじめ,理事会,評議員会,会員の皆様の暖かいご支援に心からお礼申し上げます。最後に,編集の過程で昼夜を問わずご苦労頂いた本学会事務局の安田利恵さん,ならびに金原出版株式会社編集部の安達友里子さんをはじめ関係の方々に感謝申し上げます。

2015年3 月

日本婦人科腫瘍学会卵巣がん治療ガイドライン委員会
委員長 片渕 秀隆


卵巣がん治療ガイドライン2010 年版(第3 版)序文


卵巣がん治療ガイドライン2010 年版(第3 版)序文

卵巣がんに対する治療法の進歩は目覚ましいものがあり,実地診療に追われる個々の医師が最新かつ最善の治療法を常時把握し続けることは困難な状況です。治療ガイドラインの最大の目的はそういった実地診療に携わる医療関係者を助けることにありますので,頻繁な改訂が望まれます。ただし,現実的な問題から3 年に一度の改訂を繰り返しており,今回の2010 年版は第 3版に相当するものであります。3 年ぶりの改訂とはいえ,重要な臨床試験結果が次々と発表され,今回の改訂に反映されています。特に国内から出されたエビデンスがかなり引用され,実際に推奨文に生かされているのが今回の大きな特徴といえます。これは婦人科腫瘍領域の臨床試験に関する国内の整備と充実ぶりを物語るものであり,今後ますますの発展が期待されます。

さて,今回の改訂のポイントは以下のようにまとめられます。

  1. Ⅰ.大規模な改訂部分(章を追加する改訂)
    • 旧版までは第2 章の上皮性卵巣腫瘍の中の一項目として扱われていた再発卵巣癌を第3章として独立させ内容を充実させました。
    • 同様に旧版で第2 章の上皮性卵巣腫瘍の中の一項目として扱われていた境界悪性腫瘍を第4章として独立させ内容を充実させました。
    • 腹膜癌・卵管癌に関する章を新たに起こし第5 章としました。
    • 性索間質性腫瘍に関する章を新たに起こし第7 章としました。
  2. Ⅱ.中規模な改訂部分(章の中にとどまる改訂)
    • 初回化学療法の項で,dose dense TC 療法を追記しました。
    • 標準的初回化学療法のオプションを整理しました。
    • 特殊組織型に対する化学療法のオプションを追加しました。
    • 支持療法(副作用対策)の項では日本の現状に合わせた記載に変更しました。
    • 術前化学療法後の手術の記述を変更しました。
    • 手術療法の用語を整理しました。
  3. Ⅲ.全体の形式に関する変更点
    • 子宮頸癌治療ガイドライン2007 年版,子宮体がん治療ガイドライン2009 年版に倣い,参考文献にエビデンスレベルを追加しました。
    • 推奨のコメントには推奨グレードのみを記述し,エビデンスレベルは削除しました。
    • フローチャートの解説文の中に記述していたエビデンスレベルや推奨グレードは削除しました。

次回の改訂の宿題

日本癌治療学会がん診療ガイドライン評価委員会による卵巣がん治療ガイドライン2007 年版に対する評価では,総説形式ではなくQ&A方式にするように奨められておりました。しかし,日本婦人科腫瘍学会員に対するアンケート調査結果では,半数以上の会員から現在の形式が支持されていることがわかりましたので,今回はそのまま総説形式を踏襲しました。この問題は次回改訂の課題にしたいと思います。

今回の改訂版を発刊するに当たり,膨大な量の文献を渉猟し,地道にかつ迅速に改訂作業をしていただいた作成委員の先生方にまずは御礼申し上げます。また,常に密な連絡を取り合いながら献身的なサポートをいただいた副委員長の片渕秀隆先生,困難な作業を短時間にまとめられた小委員長の青木大輔先生,大道正英先生,紀川純三先生,深澤一雄先生,節目節目で貴重なアドバイスをいただきました前任者であり日本婦人科腫瘍学会理事長の宇田川康博先生には本当に感謝の言葉もありません。ありがとうございます。さらに,評価委員の先生方,パブリックコメントの求めに応じて貴重なご意見をいただいた多くの先生に改めて感謝いたします。最後に,膨大な資料やメールのやり取りをこなしていただきました学会事務局の方々,金原出版の方々に心より感謝申し上げます。

2010年秋

日本婦人科腫瘍学会卵巣がん治療ガイドライン検討委員会
委員長 八重樫 伸生


卵巣がん治療ガイドライン2007 年版(第2 版)序文


卵巣がん治療ガイドライン2007 年版(第2 版)序文

日本婦人科腫瘍学会によりこのたび刊行された「卵巣がん治療ガイドライン2007 年版」は,2004 年の初版本に新たに改訂を加えたものである。医学の進歩はまさに目覚ましいものがあり,わずか3 年の間に多くのエビデンスが蓄積され,今回それに伴って多くの改訂を行った。

今回新たに改訂を行ったポイントは以下のごとくである。

1. 推奨の基準

初版では推奨基準としてA からD の4 段階のほかにA′,Eという曖昧かつグレードの低い基準を設けたが,改訂版ではこれらを廃止し,推奨基準をAからDの4段階に統一した。また,既に日常診療としてほぼコンセンサスが得られているものについては,わが国の実情に鑑みて一部推奨のグレードを変更した。

2. 目次の配置

章によっては使用する用語の変更や治療法の重要度の変遷により項目の順序を変更した。

3. 引用文献の配置

初版では引用文献を巻末に一括掲載したが,改訂版では各項の記述の後に掲載した。

4. 各論

  1. TC療法実施時の減量基準を掲載した。
  2. 支持療法では下痢対策を加えた。
  3. 腹腔内化学療法については米国を中心に有用性を示す新たな報告が出されたことから,その内容と対応につき記載を加えた。
  4. 境界悪性腫瘍の腹膜病変(peritoneal implant)に関する記述を追加した。
  5. 再発卵巣癌の治療フローチャートに臨床試験の項目を追加し,試験に参加することの必要性につき解説した。

本書はあくまでもわが国における現時点での最も標準的と考えられる治療法を示したものであって,強制力を持つものではない。その使用にあたっては,個々の医療機関の状況,患者の個別性,価値観や希望,社会的背景等を勘案して医師が柔軟に使いこなすべきものと考える。一方でその効用は,患者に格差のない最良の治療をもたらすとともに,医師に対しても逸脱した治療によるトラブルの回避へと結びつく。

このような趣旨のもとに本書を作成し,さらに改訂作業を進めてきたが,ガイドラインとはあくまでも現時点での治療のコンセンサスをまとめたものであって,完全なものではない。数年毎の改訂によりグレードアップを図っていくものと考えている。その意味でも本書が十分に活用され,多くの方々からご批判やご助言をいただくことを切に望むものである。先に行ったアンケート調査による2004 年版ガイドラインの検証作業も次回の改訂に生かされることとなろう。

終わりに,本ガイドライン2007 年版の作成にあたり,まさにボランティアの精神をもって献身的なご尽力をいただいた八重樫伸生副委員長と鈴木光明,青木大輔,杉山徹各小委員長をはじめ新旧の作成委員の先生方,編集でご苦労をおかけした金原出版編集部の方々,膨大な原稿を収集・整理していただいた学会事務局の方々に深く感謝いたします。

2007 年9 月

日本婦人科腫瘍学会卵巣がん治療ガイドライン作成委員会
委員長 宇田川 康博


卵巣がん治療ガイドライン2004 年版(第1 版)序文


卵巣がん治療ガイドライン2004 年版(第1 版)序文

わが国の婦人科がんの治療ガイドラインの作成の試みは,1997 年に日本産科婦人科学会が「卵巣がんの治療の基準化に関する検討小委員会」(蔵本博行委員長)を立ち上げ,卵巣がんの標準的な治療法につき当時の国内外のエビデンスに基づいて検討を重ね,その 3 年後に報告書が同学会誌に掲載されたことに始まる。しかし,この報告書はガイドライン全盛の昨今とは異なり,いまだ時期早尚という見解もあってガイドラインと命名されるまでには至らなかった。一方で,今世紀に入り「胃癌治療ガイドライン」の発行を皮切りに,がん治療ガイドラインの作成機運も高まってきたことから,日本婦人科腫瘍学会(野澤志朗前理事長)は,婦人科がんの治療ガイドライン作成を決断し,2002 年にガイドライン検討委員会を立ち上げた。委員会では,婦人科がんの中では卵巣がんの罹患数や死亡数が増加傾向にあり,しかも約半数の症例が進行して発見されるなど最も予後不良であることから,まず卵巣がん治療ガイドラインを作成することにした。

「卵巣がん治療ガイドライン」の目的とするところは,卵巣がんの日常診療に携わる医師に対して,現時点で広くコンセンサスが得られ適正と考えられる卵巣がんの治療法を示すことである。すなわち,診療上の参考に供するものであって,これにより医師の裁量権を狭めたり,治療法自体に制約を加えるものではない。したがって,医事紛争や医療訴訟に本ガイドラインを適用し,その資料として用いることは本ガイドラインの趣旨に反するものと考える。なお,本ガイドラインの記述内容に対しては日本婦人科腫瘍学会が責任を負うものとするが,治療結果に対する責任は直接の治療担当者に帰属すべきものである。

本ガイドラインの作成に当たっては,ガイドライン検討委員会の中に作成委員会と評価委員会を設置した。作成委員会は先に触れた日本産科婦人科学会の小委員会報告もたたき台の一つとして活用することとし,取り扱う対象を卵巣原発の表層上皮性・間質性悪性および境界悪性腫瘍,悪性および境界悪性胚細胞腫瘍,およびそれぞれの再発腫瘍とした。各疾患の治療については,始めにアルゴリズムを示し,各項では本文に加えて必要に応じてコメントや付記を設けて説明した。エビデンスの質と推奨の強さは,日本癌治療学会の抗がん剤適性使用ガイドライン作成委員会の基準に従った。ガイドライン原案は,評価委員会での検討に次いで本学会の審査を経て,全学会員に提示され,その過程で多くの提言や助言を容れた。さらに日本産婦人科医会や日本産科婦人科学会にも提示され,ここでも十分に意見を採り入れたうえで,同学会の承認を得た。最終的には本年夏に開催された日本婦人科腫瘍学会総会での承認を経て,この度の発刊に至った。

本ガイドラインを実地医療の場で十二分に活用していただくことはもちろんであるが,一方で今後定期的に改訂される予定であることから,多くの方々からのご批判やご助言をいただきたい。

終わりに,本ガイドラインの作成に当たり,献身的かつ多大なご尽力をいただきました八重樫伸生副委員長と作成委員会の先生方,編集にあたって種々のご苦労をおかけしました金原出版編集部の方々,膨大な原稿の収集と整理を担当していただいた学会事務局の方々に深甚なる謝意を表します。

2004 年8 月

日本婦人科腫瘍学会卵巣がん治療ガイドライン検討・作成委員会
委員長 宇田川 康博