ガイドライン総説

Ⅰ 作成の目的

本ガイドラインでは,本邦で行われる卵巣がん,そして腹膜癌,卵管癌の治療において,より良い方法を選択するための一つの基準を示し,現在までに集積しているそれらの根拠を記している。ただし,本書に記載されていない治療法が行われることを制限するものではない。

主な目的は以下に述べる通りである。

  1. 卵巣がん(表層上皮性・間質性腫瘍,胚細胞腫瘍,性索間質性腫瘍),腹膜癌,卵管癌の現時点での適正と考えられる治療法を示す。
  2. これらの治療レベルの施設間差を少なくする。
  3. これらの治療の安全性の向上と予後の改善を図る。
  4. 適正な治療を行うことによって,患者の心身の負担,そして経済的負担を軽減する。
  5. 患者と医療従事者の相互理解に役立てる。

「卵巣癌」という用語は,狭義的に卵巣原発の表層上皮性・間質性の悪性腫瘍を意味し,英語ではepithelial ovarian cancer と表記されることが多い。本ガイドラインには,他の悪性卵巣腫瘍である胚細胞腫瘍,性索間質性腫瘍が含まれていることから,これら全てを包含して「卵巣がん」の用語を用い,本書の名称を『卵巣がん治療ガイドライン』としている。よって上皮性悪性卵巣腫瘍は「卵巣癌」,再発上皮性悪性卵巣腫瘍は「再発卵巣癌」という呼称を本文中では用いる。なお,腹膜癌と卵管癌は,同じ骨盤腔・腹腔内に発生する腫瘍として,治療法の選択では卵巣がんと密接に関連することから,本ガイドラインの中に加えている。

Ⅱ 利用の対象者

本ガイドラインは,卵巣がん,腹膜癌,卵管癌の診療に携わる医師を対象とする。

Ⅲ 取り扱う疾患

2004 年版,2007 年版,2010 年版の内容を踏まえ,取り扱う疾患は,卵巣原発の悪性および境界悪性腫瘍,腹膜癌ならびに卵管癌である。卵巣原発の腫瘍には,表層上皮性・間質性腫瘍(卵巣癌)の初回ならびに再発の治療,そして胚細胞腫瘍と性索間質性腫瘍の治療が含まれる。

Ⅳ 作成の基本方針

本ガイドラインの作成にあたり,日本婦人科腫瘍学会が設置する「ガイドライン委員会」の中に「卵巣がん治療ガイドライン作成委員会」と「同評価委員会」を独立して設け,両者の十分な検討を経て原案を作成した。その後,日本産科婦人科学会,日本癌治療学会,婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG),日本産婦人科医会,日本病理学会,日本放射線腫瘍学会などの関係する諸学会や諸団体の意見を取り入れて最終案をまとめ,本学会会員に公開しコンセンサスを得た後,学会の承認を経て発刊に至った。

本ガイドラインに採用したエビデンスの多くは欧米ならびに本邦における臨床試験から得られた内容である。しかし,欧米と本邦との様々な背景の違いから,欧米におけるエビデンスの中には本邦で受け入れ難いものもある。逆に,本邦で一般に行われている治療内容が欧米のものとは異なることもある。このような事例では,国内における現時点でのコンセンサスを優先させている内容もある。

さらに,以下の項目を作成方針の原則としている。

  1. 診療ガイドラインの作成のために用いられる国際的な標準的方法である「科学的根拠に基づく医療 Evidence-based Medicine」の手順に則って作成する。
  2. 2012 年12 月までに国内外で報告された文献やデータを渉猟し,エビデンスとして収集・集積する。ただし,2012 年12 月以降改訂中に報告された文献についても,必要と認められるものはエビデンスとして採用している。
  3. 個々のエビデンスの質の評価は,日本癌治療学会が提示している「抗がん剤適正使用のガイドライン」 1, 2)に基づくが,一部は本ガイドラインに則した内容に改変している(表1)。
  4. ガイドラインで示す推奨の基準は,同じく「抗がん剤適正使用のガイドライン」 1, 2)にある推奨の基準を基本とし,「Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007」 3)を参考にし,本ガイドラインに則した内容に一部を改変している(表2)。
  5. 各項目は,CQ(clinical question:臨床的疑問)推奨,そして,その【目的】【解説】からなる。2010 年版までは総説的な記載であったが,2015 年版からこのような形式とした。また,推奨に至るまでにさらなる詳細な解説が必要と判断された場合には,付記とし説明を加えている。
  6. ガイドラインに示された内容の根拠となっている文献を各項目の最後に【参考文献】として収録している。
  7. 世界的に評価・推奨された治療法の中には,本邦の医療保険制度の下では適用上問題が生じるものがある。この点に関して,本ガイドラインでは,先の「抗がん剤適正使用のガイドライン」 1, 2)の中に付記として示されている以下の内容に原則的に従っている。
表1 エビデンスの質評価基準(レベル)
レベルⅠ 複数のランダム化比較試験のメタアナリシス
レベルⅡ ランダム化比較試験,またはよくデザインされた非ランダム化比較試験
レベルⅢ よくデザインされた準実験的研究,または比較研究,相関研究,症例比較研究など,よくデザインされた非実験的記述研究
レベルⅣ 専門委員会の報告や意見,または権威者の臨床経験
表2 推奨の基準(グレード)
グレードA 行うよう強く奨められる
有効性を示すレベルⅠのエビデンスが原則として少なくとも1 つある
グレードB 行うよう奨められる
有効性を示すレベルⅡのエビデンスが原則として少なくとも1 つある
グレードC1 行うことを考慮してもよいが,未だ科学的根拠が十分ではない
(あるいは,十分な科学的根拠はないが,有効性を期待できる可能性がある)有効性を示すレベルⅢのエビデンスが複数あり,結果が概ね一貫している
グレードC2 十分な科学的根拠がなく,日常診療での実践は奨められない
グレードD 行うよう奨められない
有用性/有効性は示されず,かえって有害である可能性がある

注) エビデンスの有無とは別に,一般的な常識レベルでの判断で推奨グレードA をつけることもある。
稀な疾患でエビデンスが極めて少ないために,ガイドライン作成委員会の判断で推奨グレードを決定していることもある。

  1. 本ガイドラインを利用する医師は「保険医」であるとの自覚に基づき,実地医療での抗がん剤使用は承認条件にある適応疾患を尊重する。
  2. ガイドラインと抗がん剤の承認条件にある適応疾患との相違は,実地医療においては当該患者の状況に応じて医師の裁量で対応する。
  3. 抗がん剤の単剤使用の場合は,本邦の薬事法による承認条件を満足する投与量や投与方法で施行する。
  4. 抗がん剤の併用療法の場合は,個々の抗がん剤の投与量や投与方法について本邦の薬事法による承認条件の範囲内で施行する。

Ⅴ 公 開

広く利用されるために,本ガイドラインの内容は小冊子として出版し,さらに本学会のホームページにも公開する。

Ⅵ 治療に対する責任

記述の全ての内容に対する責任は日本婦人科腫瘍学会が負う。しかし,個々の治療において本ガイドラインにあるそれぞれの内容を用いる最終判断はその利用者が行うべきものである。すなわち,治療の結果に対する責任は直接の治療担当者に帰属すべきものと考えられる。

Ⅶ 改 訂のステップ

  1. 医学の進歩と医療の変化に伴い,本ガイドラインの改訂作業を「卵巣がん治療ガイドライン検討委員会」において継続して行う。
  2. 2015 年版である本ガイドラインの作成後に新たに報告されたエビデンスを収集・集積し,データベースとして保存する。
  3. 本ガイドラインの使用にあたり臨床上の不都合が生じた案件について,関連する情報を収集する。
  4. 新たなエビデンスや情報を基に改訂作業を作成委員会と評価委員会で行い,関連する学会や団体の意見を十分に取り入れ,本学会会員に広く公開し,意見を求める。
  5. 以上の過程を経て,「卵巣がん治療ガイドライン検討委員会」は最終改訂案をまとめ,本学会の承認を経て改訂する。

Ⅷ 作成費用

本ガイドラインの作成費用は,公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会の資金により賄われ,費用の一部は厚生労働科学研究費補助金がん対策推進総合研究事業(平成26 年度)「がん診療ガイドライン普及促進とその効果に関する研究及び同ガイドライン事業の在り方に関する研究」(研究代表者:平田公一)の支援を受けている。その作成費用はガイドラインの内容に一切の影響を及ぼしていない。

Ⅸ 利益相反

日本婦人科腫瘍学会利益相反委員会は,本ガイドラインの作成ならびに評価を担当した委員,およびそれに関連する者(配偶者,一親等内の親族,または収入・資産を共有する者)の利益相反の状況を「がん臨床研究の利益相反に関する指針 http://www.jsgo.or.jp/topics/index01.html(日本婦人科腫瘍学会作成)」に沿って確認した。その結果,一部の委員について企業間との研究・講演活動等を通じた利益相反は存在していたが,本ガイドラインの推奨内容は,科学的根拠に基づくものであり,特定の団体や製品・技術との利害関係により影響を受けたものではない。

【参考文献】

1)有吉 寛.抗がん剤適正使用ガイドライン(案):厚生省(現厚生労働省)委託事業における「抗がん剤適正使用のガイドライン」(案) の開示に際して.癌と化学療法 2002;29:969-977

2)落合和徳,岡本愛光,勝俣範之.抗がん剤適正使用ガイドライン(案):婦人科癌.癌と化学療法2002;29:1047-1054

3)福井次矢,吉田雅博,山口直人編.Minds診療ガイドライン作成の手引き2007.医学書院,東京,2007;16