発刊にあたって

1996 年に設立された日本緩和医療学会は,年々その活動規模を拡充し,今や会員数も1 万人を突破するまでとなりました。この間,多くの指導的立場の先人が,わが国の緩和ケアの普及・啓発とレベルアップ,そして緩和ケアに従事・関係・支え合う医療者の方々への教育とその知識,技量向上のために様々な分野,地域で尽力してこられました。その数多い業績の中でも,緩和ケア教育と緩和ケアの均てん化のために必須とされる多くの一般的・専門的知識を網羅した各種ガイドラインを上梓することは,当学会に最も期待される事業の一つであり,長きに亘り緩和医療ガイドライン委員会の指導の下に,多くの緩和ケアに必要なガイドラインの作成がなされて参りました。

2004 年に会員向けに公開された「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」に始まり,2006 年に「終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン」が,そして2008 年には「がん補完代替医療ガイドライン」などが相次いで刊行されました。特に,がん患者にとって最もつらい症状の一つであるがん疼痛克服のために,基本となる薬物療法についてのガイドラインは,刊行に対する会員からの要望が最も高いものでした。そして2010 年に「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2010 年版」が上梓され,第5 刷まで版を重ねてきた次第です。しかし,この数年,トラマドール,オキシコドン注射薬,メサドン,フェンタニル口腔粘膜吸収剤などの新しいオピオイド鎮痛薬が上市されるなど,がん疼痛ケアを取り巻く環境に多くの変化がみられ,当初より予定していた改訂版の刊行について,緩和ケアに関わる医療者の多くから期待される状況が醸し出されて参りました。そして今,日本緩和医療学会の緩和医療ガイドライン委員会太田惠一郎委員長の指導の下,がん疼痛薬物療法ガイドライン改訂WPG の余宮きのみ委員長および多くのWPG 員がその総力を挙げ,結果として,ここに待望の「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2014 年版」が改訂版として上梓されることになりました。本ガイドラインの目的,執筆方法,構成,推奨の強さ,エビデンスレベル等の扱いとコンセプトは本質的には2010 年版を基盤とし,あえて大きな変更は行わず,したがって目次に掲げられた項目もほぼ同じ内容,配置となっています。しかし,オピオイド鎮痛薬や患者の認識,薬物療法以外の治療法,神経障害性疼痛,海外ガイドラインの抜粋など,近年の新しい薬剤や理論,治療法の進展,海外からの新たな情報など,変遷の多い項目については,その記述量を増やし,2010 年版に比べ約60 ページの総ページ数増加となっており,時代に即した新鮮な内容を十分に盛り込んであります。

本ガイドラインが,わが国の緩和医療・ケアを今も支え,これからも支えていくメディカルスタッフの方々の大きな一助となり,それが「より良い緩和医療・ケアを切望する患者・家族により良い緩和医療・ケアを届ける」ことに繋がることを祈願して,巻頭のことばとさせていただきます。

2014 年5 月

特定非営利活動法人 日本緩和医療学会

理事長 細川豊史