はじめに

(1)目的

がんの治療に伴う化学療法や放射線療法で好中球減少症を伴うあるいは伴うことが予想される病態に対して,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte-colony stimulating factor:G-CSF)の使用を“医師,看護師,薬剤師などの医療スタッフ”が考慮する際の参考になり,その適切な使用により治療が完遂しやすくなり,最終的には患者さんに生存期間の延長とともに生活の質“Quality of Life:QOL”の向上という恩恵がもたらされることを目指して,本ガイドラインは作成された。

(2)対象

わが国で,固形腫瘍および造血器腫瘍の診療において,化学療法や放射線療法を取り扱う医療従事者(一般臨床医,看護師,薬剤師)とする。

(3)エビデンスレベルおよび推奨グレード

日本医療機能評価機構(Medical Information Network Distribution Service:Minds)が作成したMinds 診療ガイドライン作成の手引き(2007)1)に従い,エビデンスレベルの分類は表1を参照し,推奨グレード表2を決定した。2005 年以前の資料は米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology:ASCO)のガイドライン(2006)2)から外挿しているが,ガイドライン,レビューを参考にするときは参考文献に記載した。

①エビデンスレベルの分類
Minds 診療ガイドライン作成の手引き(2007)1)に沿って行った。

表1 エビデンスレベルの分類
システマティック・レビュー/ランダム化(無作為化)比較試験のメタアナリシス
1 つ以上のランダム化比較試験による
非ランダム化比較試験による
Ⅳa 分析疫学的研究(コホート研究)
Ⅳb 分析疫学的研究(症例対照研究,横断研究)
記述研究(症例報告やケース・シリーズ)
患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見

②推奨グレード
Minds 診療ガイドライン作成の手引き(2007)1)を用いたが,一部表現を改めた。

表2 推奨グレードの分類
A 強い科学的根拠があり,行うよう強く勧められる。
B 科学的根拠があり,行うよう勧められる。
C1 科学的根拠は明確ではないが,行うよう勧められる。
C2 科学的根拠が明確ではなく,行わないよう勧められる。
D 無効性あるいは害を示す科学的根拠があり,行わないよう勧められる。

(4)利益相反(COI)およびワーキンググループの独立

本ガイドラインの作成に関わった委員は,本学会の「がん臨床研究の利益相反に関する指針」に沿って対応した。各委員のCOI は 別項 に記載している。

また,本ガイドラインの経費は,すべて日本癌治療学会の予算から支出されている。

(5)作成の経緯

日本癌治療学会において,2001年にG-CSF 適正使用ガイドライン3)が,わが国における臨床の現場で“医師”がG-CSF の使用にあたって役立つ資料として作成された。保険適応とは異なり,世界の文献によるエビデンスを重視したASCO ガイドライン(1994)2)4)を基にして,米国感染症学会(Infectious Diseases Society of America : IDSA)のガイドライン(1997)5),わが国における発熱性好中球減少症(febrile neutropenia:FN)のガイドライン(1998)6)を参考に策定された。

その後,諸外国においては,新たなガイドラインが作成され7),また,改訂も行われたが8)~10),本学会のG-CSF 適正使用ガイドラインは,その後,10 年以上にわたり改訂も行われておらず,経年的な状況の変化から,実情に合わない点も出てきていることから,G-CSF の使用にあたって“医師,看護師,薬剤師などの医療スタッフ”の役に立ち,最終的には患者さんに恩恵がもたらされるガイドラインを目指して改訂作業が開始された。

2011 年2 月にG-CSF 適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループが設置され,関係領域の専門家として,日本血液学会から1名,日本臨床腫瘍学会から2名の委員の推薦を得,また,薬学を専門とする立場から薬剤師1名,看護学を専門とする立場から看護師2 名に参加していただいている。これにより,本ワーキンググループは,委員10 名,協力委員4 名から構成されることとなった。作成委員会の名簿は別項に掲載した。

G-CSF 使用法に関するエビデンスとなる無作為化比較試験がわが国では乏しく,現状では,海外のエビデンスに基づいたガイドラインを参照しながら作成せざるをえなかった。一部の抗がん薬では骨髄毒性の出現の程度に人種差が認められ11)~13),将来的には,国内でさらに本分野の研究がなされ,わが国のエビデンスが作成される必要がある。本ガイドライン作成にあたっては,前版と同様に改訂されたASCO のG-CSF 使用のガイドライン(2006)8)を参照した。したがって,原則として2005 年以前に発行された文献は検索対象とせず,2006 年以降の無作為化比較試験の文献を中心に検索した。ただし,それ以前であっても,本ガイドラインの推奨に影響すると思われる文献があれば採用した。また,学会発表のみのものは,ワーキンググループで重要と判断したもののみを使用した。ASCO のガイドラインを参照して本ガイドラインを作成したことから,海外の文献により推奨されることになるが,FN 発症頻度については,第Ⅰ/Ⅱ相試験を含め可能な限りわが国の文献も調査した。委員の中で意見が割れるものについても,合議の上で統一化に努めたが,腫瘍系や治療目標が異なっている場合もあり,両見解を併記したところもある。

本ガイドラインはがん治療に伴うG-CSF 使用の際に参考になることを目的としており,再生不良性貧血に伴う好中球減少症,先天性・特発性好中球減少症に関しては記載していない。バイオシミラー:biosimilar のG-CSF 製剤の取り扱いについては意見が分かれた。一部のフィルグラスチムバイオシミラーは欧州・米国では認可されガイドラインにも記載されている。また,わが国でも保険適応を獲得していることから,項目を立てて検討を行った。ポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)をG-CSF に付加した持続型製剤PEG 化G-CSFについては,2014 年9 月にわが国でも承認された。欧米の無作為化比較試験の成績に加え、改訂版ではわが国での試験結果も追記した。

G-CSF の適正使用,エヒデンスを明らかにすることにより,多くの場合は過剰投与を抑制する方向での適正使用を促すことになったが,必要な事例については患者の利益に結びつけるために積極的な使用を促す,さらに踏み込んだ記載を行った。一方,欧米では生活の質を調整した生存年(Quality Adjusted Life Years:QALYs)を用いてG-CSF の費用対効果の検討も行われている14)。現時点では診療・保険制度が異なっている欧米の報告は参考程度であるが,わが国でも検討すべき課題となることが予想される。

本ガイドラインは,第50回日本癌治療学会総会(横浜)でコンセンサスミーティングを行い,同時に,インターネット上でパブリックコメントを求め,寄せられた意見を踏まえ,最終案を取りまとめた。

(6)ガイドラインの外部評価

2013 年5 月16 日開催の第5 回がん診療ガイドライン評価委員会で本ガイドライン改訂案は,Appraisal of Guidelines for Research & Evaluation(AGREE) Ⅱの各項目に沿って,利用者にとって使いやすいものであるか,また,利用者を含む第三者がその確実性・信頼性を確認できるよう配慮がなされているかを重視して評価を行われた。指摘事項に沿い,本ガイドラインの対象がより明確化され,アルゴリズム,外部評価,更新手順などが本ワーキンググループで協議の上,修正された。

(7)ガイドラインの改訂

本ワーキンググループは発表後もG-CSF に関する最新データの収集に努め,新規薬剤の開発等,FN 治療に新たな事象が生じた際には,委員長は改訂ワーキンググループ を招集し(最低1年に一度),ガイドラインの内容をWeb 上で更新する。さらに,パブリックコメントを求め,その内容の確定作業を繰り返し行いつつ,5 年ごとに全面改訂を行う。

(8)二次資料

原則としてASCO におけるG-CSF 使用のガイドライン(2006)8),がん品質の研究と治療のための欧州機関(European Organisation for Research and Treatment of Cancer: EORTC)におけるG-CSF 使用のガイドライン(2010)9),全米総合がん情報ネットワーク(National Comprehensive Cancer Network: NCCN)におけるG-CSF 使用のガイドライン(2012)10)を二次資料として参照した。

【引用文献】

1) Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007, Medical Information Network Distribution Service,
http://minds.jcqhc.or.jp/ に検索できる形で掲載されている。

2) American Society of Clinical Oncology. Recommendations for the use of hematopoietic colony-stimulating factors: evidence-based, clinical practice guidelines. J Clin Oncol. 1994;12:2471-508.(ガイドライン)

3) G-CSF 適正使用ガイドライン(2001 年版)(ガイドライン)

4) Bennett CL, Smith TJ, Weeks JC, et al. The Health Services Research Committee of the American Society of Clinical Oncology. Use of hematopoietic colony-stimulating factors: the American Society of Clinical Oncology survey. J Clin Oncol. 1996;14:2511-20.(ガイドライン)

5) Hughes WT, Armstrong D, Bodey GP, et al. 1997 guidelines for the use of antimicrobial agents in neutropenic patients with unexplained fever. Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 1997;25:551-73.(ガイドライン)

6) Masaoka T. Management of fever of unknown origin in the neutropenic patient: the Japanese experience.Int J Hematol. 1998;68 Suppl 1:S9-11(Ⅳa)

7) Aapro MS, Cameron DA, Pettengell R, et al.; European Organisation for Research and Treatment of Cancer (EORTC) Granulocyte Colony-Stimulating Factor (G-CSF) Guidelines Working Party. EORTC guidelines for the use of granulocyte-colony stimulating factor to reduce the incidence of chemotherapy-induced febrile neutropenia in adult patients with lymphomas and solid tumours. Eur J Cancer. 2006;42:2433-53.(ガイドライン)

8) Smith TJ, Khatcheressian J, Lyman GH, et al. 2006 update of recommendations for the use of white blood cell growth factors: an evidence-based clinical practice guideline. J Clin Oncol. 2006;24:3187-205.(ガイドライン)

9) Aapro MS, Bohlius J, Cameron DA, et al; European Organisation for Research and Treatment of Cancer. 2010 update of EORTC guidelines for the use of granulocyte-colony stimulating factor to reduce the incidence of chemotherapy-induced febrile neutropenia in adult patients with lymphoproliferative disorders and solid tumours. Eur J Cancer. 2011;47:8-32.(ガイドライン)

10) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines®), Myeloid Growth Factors Version. 1. 2012 http://www.nccn.org/ (ガイドライン)

11) Kudoh S, Takeda K, Nakagawa K, et al. Phase Ⅲ study of docetaxel compared with vinorelbine in elderly patients with advanced non-small-cell lung cancer: results of the West Japan Thoracic Oncology Group Trial (WJTOG 9904). J Clin Oncol. 2006;24:3657-63.(Ⅱ)

12) Gandara DR, Kawaguchi T, Crowley J, et al Japanese-US common-arm analysis of paclitaxel plus carboplatin in advanced non-small-cell lung cancer: a model for assessing population-related pharmacogenomics. J Clin Oncol. 2009;27:3540-6.(Ⅱ)

13) Gridelli C, Perrone F, Gallo C, et al. Chemotherapy for elderly patients with advanced non-small-cell lung cancer: the Multicenter Italian Lung Cancer in the Elderly Study (MILES) phase Ⅲ randomized trial. J Natl Cancer Inst. 2003;95:362-72.(Ⅱ)

14) Kelvin W, Siu E, Krahn MD, et al. Cost-utility analysis of primary prophylaxis versus secondary prophylaxis with granulocyte colony-stimulating factor in elderly patients with diffuse aggressive lymphoma receiving curative-intent chemotherapy. J Clin Oncol. 2012;30:1064-71.(Ⅱ)