神経内分泌腫瘍は全身に発生しうる腫瘍であるが、消化器系臓器に発生することが多く、中でも膵・消化管神経内分泌腫瘍が多い。歴史的に神経内分泌腫瘍は小腸カルチノイドとして登場した。直ぐに神経内分泌細胞に由来する腫瘍であり、悪性であるという報告が多数発表されたが、比較的緩徐な経過をとる腫瘍という意味を持つカルチノイドという名称が約100年も続いた。比較的稀な腫瘍であり病理学的分類法も不統一のまま経過していたが、2000年のWHOの消化器系腫瘍病理分類において、カルチノイドの名称は消えて、新分類法が作成された。2010年の同分類の改定では、細胞増殖に関連するKi67指数によるGrade分類に基づくより客観的な分類法としてNET G1, NET G2, NEC(large cell or small cell type), mixed and adenoneuroendocrine carcinoma(MANEC), hyperplastic and preneoplastic lesionsの5分類法が作成された。膵・消化管神経内分泌腫瘍を悪性腫瘍と捉えて分類し、より客観的に臨床と研究の討議ができる基盤が整備されたことになる。

患者数の増加が報告されていて、米国では30年間に約5倍の患者数の増加が報告されている。本邦においても2005年からの5年間に患者数の有意な増加が推定されている。臨床的には新治療薬の開発とソマトスタチン受容体を利用する診断技術と治療法の進歩が著しい。ソマトスタチン類似薬やいくつかの分子標的薬の有用性が臨床試験で認められて、本邦でも比較的早期に承認された。しかし、未だにソマトスタチン受容体シンチグラフィーや68Ga-DOTATOC・PET/CTなどの技術導入が遅れているために、腫瘍の全身的分布の把握に支障をきたしている。EUではソマトスタチン受容体を利用する内照射療法が研究的に多くの患者でなされて、良好な成績が報告されている。本邦での研究推進が強く望まれる。

膵・消化管神経内分泌腫瘍は希少癌に属し専門的知識の普及が遅れる傾向があり、早期診断による早期治療の観点から診療ガイドラインの必要性が強く望まれていた。5年前から、膵・消化管神経内分泌腫瘍に興味を持ち、診療と研究に携わってきた多くの診療・研究分野に亘る専門的医師達が集まりガイドライン作成委員会を結成して、厚生労働科学研究費補助金と日本癌治療学会の支援を受けて、文献検索を行い、会議を開催しての討議を経て診療ガイドライン案を作成した。関連諸学会での公開討論を経て、日本神経内分泌腫瘍研究会のガイドライン委員会での討議を経て、2012年に結成された日本神経内分泌腫瘍研究会のホームページ上に公開している。

今回、日本癌治療学会からも公開できることは、知識の普及の観点から誠に喜ばしいことであり、多くの協力者と共に喜びたい。なお、本ガイドラインは来春に、小修正とアルゴリズムを追加して出版する予定で作業が進んでいることも付け加えておきたい。

2014 年 秋

日本神経内分泌腫瘍研究会

理事長、兼ガイドライン委員長 今村正之