発刊によせて

2003 年に約300 万人であったがん生存者は,2015 年には500 万人を超えると予測され(2015 年問題),がんが「不治の病」であった時代から「がんと共存する時代」となりつつある。2006 年に制定された「がん対策基本法」においては,病状,進行度に合わせてその時点で最善の治療やケアを受ける権利が患者にあるということが謳われているが,現実には,治癒を目指した治療からQOL を重視したケアまで,切れ目のない支援をするといった点で,今の日本のがん診療はいまだ不十分であるといえる。

がん患者にとっては,がん自体に対する不安は当然大きいが,がんの直接的影響や手術・化学療法・放射線治療などによる身体障害に対する不安も同じくらい大きいものである。しかし,これまで,がんそのもの,あるいはその治療過程において受けた身体的なダメージに対しては,積極的に対応がなされてこなかった。その一因は,がん患者のリハビリテーションに関する包括的なガイドラインが存在しないため,適切なリハビリテーションプログラムが組み立てられないことにある。

がんのリハビリテーションの領域を発展させていくためには,研究(Research)を推進し,それに裏付けされたガイドライン(Guideline)を策定し,そのガイドラインに基づいた臨床研修(Training)を実施し,専門的スタッフを育成することで医療の質を担保し,その上で医療を実践する(Practice)ことが必要である。そこで,がんのリハビリテーションに関するガイドラインおよびがんリハビリテーションの現状と問題点,行動計画を提言したグランドデザインを作成することを目的に,平成22 年度から平成24 年度までの3 年間,厚生労働科学研究補助金(第3 次対がん総合戦略研究事業)「がんのリハビリテーションガイドライン作成のためのシステム構築に関する研究(H22-3 次がん- 一般-038)において研究事業が展開されてきた(主任研究者 辻哲也)。

ガイドラインの作成にあたっては,厚生労働科学研究事業と連動する形で,日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会に,「がんのリハビリテーションガイドライン策定委員会」が設けられ策定作業にあたった。ガイドライン作成の工程表に則って,原発巣・治療目的・病期別に章立てされた「がんのリハビリテーションガイドライン(素案)」が作成され,リハビリテーション医学会ホームページでの公開とパブリックコメント募集を経て,必要な改訂が行われた後,このたびガイドラインとして出版を迎えることができた。

ばらつきなく,質の高いがんリハビリテーション医療を全国で提供するためには,一般市民への啓発活動,患者会との協力体制,リハビリテーション関連の学術団体が中心となった普及活動・臨床研究発展のための取り組み,リハビリテーション専門職の養成校の教育体制の充実,がん診療連携拠点病院を中心としたリハビリテーションスタッフ間の交流,がんリハビリテーション研修会の拡充等が早急な課題である。全国のがん医療に携わる方々に本ガイドラインを活用していただき,症状緩和や心理・身体面のケアから療養支援,復職支援などの社会的な側面のサポート体制が構築され,治癒を目指した治療からQOL を重視したケアまで切れ目のない支援をすることが可能となることを期待したい。

本研究の成果が,「がん対策基本法」において謳われている「がん患者の療養生活の質の維持向上」が具現化される一助となることを願うとともに,現場からのフィードバックに基づいて定期的な改訂を加え,より実践的なガイドラインに育てていきたいと考えている。読者諸氏からの忌憚のないご意見,叱咤激励をいただければ望外の喜びである。

2013 年4 月

日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会委員長
がんのリハビリテーションガイドライン策定委員会委員長

辻 哲也