診療ガイドライン

1 危険因子・予防

総論

腎癌の発症には特定の環境因子や遺伝因子が関与していることが報告されているが,ほとんどは後ろ向き研究に基づくものであるためエビデンスレベルは高くない。

1 生活習慣・環境因子

食生活に関するものとしては赤身肉の摂取量が多いほど腎癌を発症しやすいとされているが,この傾向は女性に限定されるとの報告もある 12)。肥満や高血圧といった生活習慣病の多くが悪性腫瘍のリスクとなることが知られているが,腎癌に関しても同様の傾向が認められる。肥満に関しては若年者の発癌リスクが上昇する 3)。また,ナトリウム摂取の過多は高血圧の発症を介して発癌リスクを上昇させると推測されている 4)。飲酒に関しては,非飲酒群と比較して飲酒群でリスクが低下していたことが報告されている 5)。職業上の危険因子としては,大規模な症例対照研究が米国において行われ,有機溶媒を用いる従事者の腎癌発症率が高かったことが報告されている 6)

2 遺伝因子

von Hippel-Lindau(VHL)遺伝子の胚細胞変異が有名である。本邦の疫学調査研究では,VHL 病患者409 例中206 例(50.3%)に腎癌が発症し,診断時の年齢の中央値は35 歳であった 7)。そのため遺伝子カウンセリングを含め15 歳からの画像スクリーニングが推奨されている 8)FLCN 遺伝子の変異が原因とされるBirt-Hogg-Dube(BHD)症候群の2016 年の本邦例の集計では,312 例中 60 例(19.2%)に腎腫瘍性病変が認められた 9)

他の遺伝子変異としてはMET,fumarate hydratase(FH),phosphatase and tensin homologue(PTEN),BRCA1 associated protein-1(BAP1),succinate dehydrogenase(SDHA/SDHB/SDHC/SDHD),polybromo1(PBRM1),cyclin-dependent kinase inhibitor 2B(CDKN2B)等が報告されているが,いずれも例数が少なく詳細は不明である。

一塩基多型(single nucleotide polymorphism;SNP)による体質要因の解析結果が多数報告されているが,いまだ確定した結論は得られていない。

腎癌の早期発見には,腹部超音波検査が推奨される。Mihara らの報告では,健康診断で腹部超音波検査を受けた219,640 例のうち723 例(0.33%)に悪性腫瘍が発見され,192 例 (0.09%)が腎癌であった 10)。一般に健康診断における腎癌の発見率は0.04〜0.1%であり,他の悪性腫瘍に比して高い 11)

ただし,確定診断にはCT 検査が優れている。腎血管筋脂肪腫と腎癌の鑑別には腹部超音波検査だけでは不十分であり,スクリーニングとして腹部超音波検査を行い,腎癌が疑われた場合にCT 検査を施行することが推奨されている 12)。ただし,血流の指標を併せもつ超音波検査(パワードップラーやカラードップラー)では腎癌に対する診断精度が向上する 13)。特に腫瘍塞栓の頭側端の診断や血流評価に関しては,CT 検査よりも有用であるとの報告もみられる 14 15)

一方,検尿や静脈性尿路造影検査については腎癌の早期発見における有用性の報告は認め られず,実臨床でも腎癌のスクリーニング検査としては実施されていない。FDG-PET 検査 についても,FDG が主に腎から排泄されることや低異型度癌では低集積となることから, 腎癌の早期発見における FDG-PET/CT の果たす役割は限定的である。

近年では血液や尿のサンプルから各種バイオマーカーを用いた腎癌の診断が試みられてい るが,大規模な一般集団を対象としたエビデンスレベルの高い報告はいまだ存在しない。

参考文献

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Bos SD, Mensink HJ. Can duplex Doppler ultrasound replace computerized tomography in staging patients with renal cell carcinoma?Scand J Urol Nephrol. 1998; 32: 87-91. (IVb)
15)
Spahn M, Portillo FJ, Michel MS, et al. Color Duplex sonography vs. computed tomography: accuracy in the preoperative evaluation of renal cell carcinoma. Eur Urol.2001; 40: 337-42. (IVb)

CQ1
腎癌の発症について,肥満・職業・生活習慣・環境・遺伝因子に注意を喚起することは推奨されるか?

推奨グレードC1
生活習慣・環境因子…
喫煙や肥満により腎癌の発症リスクが上昇する。
推奨グレードB
遺伝因子…
von Hippel-Lindau(VHL)腫瘍抑制遺伝子やBirt-Hogg-Dube(BHD)腫瘍抑制遺伝子の胚細胞変異により腎癌の発癌リスクが上昇する。

背景・目的

喫煙を代表とする生活習慣や肥満等の生活習慣病は,多くの悪性腫瘍でリスクとなることが知られている。しかし,長期間にわたって影響を与える生活習慣について割り付けを行って比較するという研究は実行困難であるため,エビデンスレベルの高い報告はない。

また,VHL 病やBHD 症候群等の遺伝性腫瘍症候群家系では若年から高頻度に腎癌を発症することが知られている。2011 年版の『腎癌診療ガイドライン』でも,これらの因子を後ろ向きに大規模調査した結果が報告されている。これらの遺伝子の胚細胞変異による影響については,長期観察による発癌リスクの測定が行われている。しかし比較試験を行うことは不可能であるため,エビデンスレベルには限界がある。

解説

1 生活習慣・環境因子

数多くの大規模な前向きコホート研究が報告されているが,2011 年版の『腎癌診療ガイドライン』作成時から新たな危険因子は提唱されていない。

食生活では,1,000 kcal あたりの赤身肉摂取量が中央値62.7 g の群では摂取量が中央値9.8 g の群と比較して発癌リスクがハザード比:1.19(95%CI:1.01〜1.40)と上昇していた 1)。別の前向き試験では,この相関は女性に限定的であり,1 日の赤身肉摂取量が80 g を超える群では10 g 未満の群と比較して発癌リスクがオッズ比:2.03(95%CI:1.14〜3.63)とされていた 2)

その他の体質要因も含めた総合的な米国のVITamin And Lifestyle(VITAL)研究では,肥満・喫煙・高血圧・腎疾患・ウイルス性肝炎が腎癌の発症リスクを上げていた 3)。また,欧州の報告でも男性における高度肥満(BMI≧30 kg/m2)・高血圧・高血糖および女性のBMI 高値は腎癌のリスクを上げるとされている 4)

さらに,高齢者のみならず若年者でもBMI が27.5 kg/m2 を超える群は22.5 kg/m2 未満の群と比較して発癌リスクがハザード比:2.43(95%CI:1.54〜3.83)と上昇していた 5)

本邦のデータでも,BMI が23〜24.9 kg/m2 の群と比較して27 kg/m2 以上の群では発癌リスクがハザード比:1.99(95%CI:1.04〜3.81)となっていたが,21 kg/m2 未満というやせ形の男性にもハザード比:1.86(95%CI:1.01〜3.45)と発癌リスクの上昇がみられており,他国にはないU 字形の関連がみられている 6)

1 日のナトリウム摂取量が中央値3.4 g(男性)・2.8 g(女性)の群では1.9 g(男性)・1.5 g(女性)の群と比較すると発癌リスクがハザード比:1.40(95%CI:0.99〜1.97)であったが,このリスクは高血圧の発症を介していると推測されている 7)

職業上のリスクとしては,これまで有機溶媒・カドミウム・アスベストを使用する環境での労働が腎癌の危険因子とされていた。この延長上ともいえる大規模な症例対照研究が米国において行われ,具体的な職業毎のオッズ比が報告されている 8)

一方で,1日にアルコールを12〜24 g 摂取している群では,非飲酒群と比較して発癌リスクがオッズ:0.72(95%CI:0.54〜0.96),24〜60 g 摂取している群ではオッズ比:0.67(95%CI:0.50〜0.89)と低下すると報告されており 9),アルコール摂取は腎癌の発症に対して予防的な効果をもつ可能性が示唆されている。

2 遺伝因子

遺伝性腎癌に関しては,VHL病(原因遺伝子:VHL),BHD症候群(原因遺伝子:FLCN)10)やME,FH 遺伝子の胚細胞変異家系例に加え,散発性腎癌に対する大規模な全 ゲノム解析の結果,新たに腎癌の発癌に関与していると考えられる遺伝子としてPTEN,BAP1 11),SDHA /SDHB /SDHC /SDHD,PBRM1,CDKN2B が最近報告されている 12)

VHL 遺伝子の胚細胞変異によって発症するVHL 病に関する本邦の疫学調査研究では,全患者409 例中206 例(50.3%)に腎癌が発症し,診断時の年齢の中央値は35 歳であった 13)。BHD 症候群についても2016 年の本邦例の集計で312 例中60 例(19.2%)に腎腫瘍性病変がみられ,さらに41 歳以上の群では34.8%と高率になることが報告されている 10)。PTEN の遺伝子変異保有者については,欧米例の観察研究により生涯における腎癌の発症リスクが年齢調整罹患率:30.6(95% CI:17.8〜49.4)と上昇しているという報告がなされた 14)。その他の遺伝子によって発症する遺伝性腎癌については,有病率が低いためか世界的にも症例報告のみで多数例を対象とした報告がなされておらず,腎癌の発症頻度等の実態はいまだ不明である。

遺伝性腎癌家系では若年から腎癌が発症するため,VHL 病では遺伝子カウンセリングを含めた15 歳からの画像スクリーニングが推奨されている 15)

SNP による体質要因の解析結果が多数報告されている。しかし,測定しているSNP の数や遺伝子上の分布がそれぞれの報告で異なっていることから,どの遺伝子座にあるSNP の変化が腎癌の発癌に決定的であるのかという点に関して一致した結果は得られていない。

参考文献

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Karami S, Colt JS, Schwartz K, et al. A case-control study of occupation/industry and renal cell carcinoma risk. BMC Cancer. 2012; 12: 344. (IVb)
9)
Wozniak MB, Brennan P, Brenner DR, et al. Alcohol consumption and the risk of renal cancers in the European prospective investigation into cancer and nutrition(EPIC). Int J Cancer. 2015; 137: 1953-66. (IVa)
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執印太郎,篠原信雄,矢尾正祐,他. von Hippel-Lindau病全国疫学調査における腎癌の臨床的解析. 日泌会誌. 2012; 103: 552-6.(V)
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15)
執印太郎(編). フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病診療ガイドライン. 東京: 中外医学社; 2011.

CQ2
腎癌の早期発見にどのような検査が推奨されるか?

推奨グレードB
腎癌の早期発見には腹部超音波検査が有用で,確定診断としてCT 検査を施行する。
推奨グレードC2
腎癌スクリーニングにおいてFDG-PET/CT の使用は限定的であり,顕微鏡的血尿の有無や静脈性尿路造影検査も有用でない。

背景・目的

健康診断や他疾患の検査において,腹部超音波検査やCT 検査により偶然に発見される腎癌の頻度は高い。これら偶発腎癌の多くは早期癌であり,根治的治療による長期生存が期待できる。一方,腎癌のスクリーニング検査として効率的で,早期発見を可能とする腫瘍マーカーはない。ここでは,腎癌の早期発見のために推奨される検査について述べる。

解説

腎癌は他の癌種と比較して腹部超音波検査で発見される頻度が高く,スクリーニング法として腹部超音波検査が汎用されている。Mihara らの報告では,健康診断で腹部超音波検査を受けた219,640 例のうち 723 例(0.33%)に悪性腫瘍が発見され,192 例(0.09%)が腎癌であった 1)。一般に健康診断における腎癌の発見率は0.04〜0.1%であり,他の悪性腫瘍と比較して健康診断で発見される頻度は高い 2)。偶発腎癌における限局性腎癌の割合は74.6%で,症候性腎癌における35.8%に比べて有意に高い 3)。一方,腹部超音波検査で腎腫瘤性病変が疑われた場合,確定診断にはCT 検査が有用である。特に3 cm 以下の小径腎腫瘍の描出に関しては,腹部超音波検査よりもCT 検査が優れている 45)。腎血管筋脂肪腫と腎癌の鑑別には腹部超音波検査だけでは不十分であり 6),スクリーニングとしては検出率と費用対効果の観点から腹部超音波検査を先に行い,確定診断としてはCT 検査が推奨される 7)。しかし腹部超音波検査では,臓器血流を描出するパワードップラーや血流の方向性を表示できるカラードップラーを用いると,腎実質の血流変化を検出することで診断精度が向上する。カラードップラーの腎腫瘤性病変に対する正診率は94.6%,感度は93.5%であり,31%の患者においてB モード超音波検査では得られなかった情報が得られる 8)。特に腫瘍塞栓を有する腎癌では,塞栓の頭側端の診断や血流評価に関してはCT 検査よりも有用とする報告もある 910)。 さらに,超音波検査用の経静脈性造影剤の使用により,造影CT 検査よりも腫瘍血流の描出が良好であるとも報告されている 11)

一方,腎癌の早期発見における検尿や静脈性尿路造影検査の有用性を示した報告はみられず,実臨床でも腎癌のスクリーニング検査としては実施されていない。FDG-PET 検査についても,FDG が主に腎から排泄されることや低異型度癌では低集積となることから,腎癌スクリーニングにおけるFDG-PET/CT の果たす役割は限定的である。ただし,124I-girentuximab PET/CT を用いたオープンラベル多施設共同研究の結果では,淡明細胞型腎細胞癌を正確に検出できたとの報告がある 12)

最近,腎癌のバイオマーカーとして血清マイクロRNA 1314)や尿中タンパク 15)の探索あるいはメタボロミクス 1617),プロテオミクス 18),アミノ酸プロファイル解析 19)による血中・尿中の候補分子が報告されているが,大規模な一般集団を対象にしたスクリーニングの成績や十分な評価はなく,実用段階には至っていない。

参考文献

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Mihara S, Kuroda K, Yoshioka R, et al. Early detection of renal cell carcinoma by ultrasonographic screening—based on the results of 13 years screening in Japan. Ultrasound Med Biol.1999; 25: 1033-9. (IVb)
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Kawada S, Yonemitsu K, Morimoto S, et al. Current state and effectiveness of abdominal ultrasonography in complete medical screening. J Med Ultrason(2001). 2005; 32: 173-9. (IVb)
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2 診断

総論

近年,画像診断技術の進歩や人間ドック等スクリーニングの機会の増加とともに腎腫瘍の発見頻度が増加している。これらの患者に対してどのような検査を行って腎癌の診断をすべきかという点は,前回までの『腎癌診療ガイドライン』(2007 年版,2011 年版)では独立したクリニカルクエスチョンとされていた。しかし,多くの臨床の場において腎機能が正常である限り造影CT が最も精度が高いことは明白であること,また腎機能障害や造影剤過敏症のため造影CT が撮像できないときはMRI を用いて診断することは広く周知されている 1)。その一方で,これらの検査でも確定診断に至らないような小径腎腫瘍(本邦においては女性に好 発する腎血管筋脂肪腫等)に対しては,積極的に腫瘍生検を行う試みが広まってきている 23)。この点は,小径腎腫瘍に対する監視療法の適応を拡大しつつある欧米の流れにも沿うものともいえる。また,進行性・転移性癌であっても,治療法選択に病理組織型が反映されることもあり,腫瘍生検が行われる機会が増加している 4)。そのため,今回の『腎癌診療ガイドライン』の改訂にあたっては,腫瘍生検を行うべき患者に焦点を当ててCQ2 を設定した。

一方,腎癌診断後に病期診断のためにどのように検査を進めるかという点はいまだ議論の多い点である。もちろん肺転移,縦隔リンパ節転移,肝転移,膵転移等に対するCT 検査の有用性は論をまたないが,骨転移に対する検査として骨シンチグラフィーが本当に実施されるべきなのか 5),全身検索に有用とされる新規画像診断であるpositron emission tomography(PET)/CTを病期診断に用いることが有用なのか 6)という点も考慮される必要があり,CQ3 として明記した。

診断の一環として,これら患者における予後予測因子を明確にすることは限局性腎癌のみならず遠隔転移を有するような進行腎癌の治療戦略を立てるうえでも重要である(CQ4)。古くから本邦では里見らの先駆的業績に基づき,炎症反応を伴う腎癌はrapid growing type のものが多く予後不良であることが知られていた 7)。一方,欧米ではこれらの点はあまり注目されていなかった。近年多くの臨床経験が積み重ねられ,腎癌診断時のみならず転移診断時,さらに各種全身治療(サイトカイン療法,分子標的治療等)施行時の予後予測因子について明らかになってきた。その中で注目されたものが赤沈,C 反応性タンパク(C-reactive protein;CRP)といった炎症反応であるが 89),本邦では赤沈の測定がほとんど実施されず,CRP を予後予測因子として頻用している。また,分子標的薬時代の現在においてもCRP の重要性には変わりなく,治療前の予後予測因子のみならず治療後の効果を予測する因子にもなりうると報告されている 1011)

CQ5 では,生命予後予測分類(リスク分類)の臨床的有用性について検討した。これまで分子標的薬の使用にあたってMemorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)のリスク分類 12)が広く用いられてきたが,近年欧米では新たな予後予測分類であるInternational Metastatic Renal Cell Carcinoma Database Consortium(IMDC)分類が導入され,予後予測に活用されつつある 13)。本邦においても多施設共同研究の結果からJapanese Metastatic Renal Cancer(JMRC)分類が報告されている 14)。ただし大きな問題点は,いずれの予後予測分類においても予後予測因子として重要とされるCRP が予後不良因子として組み込まれていない点である。その原因として,血清CRP 検査の標準化がなされておらず,適切なカットオフ値が設定されていないことが挙げられる。今後,キット間の差の有無等を含め,さらなる検討を加えることでCRP を組み込んだ新たな予後予測分類が作成される可能性がある。現時点ではMSKCC 分類が治療法選択の中心とされているものの,今後はIMDC 分類,JMRC 分類のみならず新たなリスク分類が実臨床において治療法選択に活用されていくものと予測される。

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CQ1
透析患者における腎癌のスクリーニングは推奨されるか?

推奨グレードC1
透析患者においては通常よりも腎癌発生率が高いことから,スクリーニングによる早期発見,治療により予後の改善が期待できる可能性が高い。若年者,長期透析患者においては腹部超音波検査,CT 検査による定期的なスクリーニングが有用と思われるが,現状では高いエビデンスは存在しない。

背景・目的

通常の腎癌では,スクリーニングによる早期発見が手術後の予後改善につながることが指摘されている。ここでは,同様のことが透析患者に発生する腎癌についても当てはまるか否かを検討する。

解説

透析患者では健常人に比べて悪性腫瘍の発生率が高いといわれており,欧米からの報告ではその頻度は約1.4 倍 12)とされている。その中でも腎癌の発生頻度は他の癌種に比べて高く,Stewart らはオセアニアの23,764 例の透析患者を検討し,健常人との標準化発生比(standardized incidence ratio;SIR)は5.4(95%CI:4.3〜6.7)と報告している 1)。米国の482,510 例の透析患者の検討では腎/腎盂癌のSIR を4.03(95%CI:3.88〜4.19)と報告している 2)

本邦では,Ishikawa らが透析患者3,155 例において腎癌のSIR を検討し,男性で9.7(95% CI:8.3〜11.2),女性で11.0(95%CI:8.2〜14.4)と報告している 3)。また透析期間と腎癌の発症率には正の相関関係があり,透析期間5年以内では10 万例あたり年間88 例であるのに対して,透析期間25 年以上で 10 万例あたり年間625 例に達することも報告されている 3)。欧米に比較して本邦において腎癌の割合が高い理由としては,透析期間が長いこと,腎移植が少ないことが可能性として挙げられている 4)

透析腎癌の予後については,通常の腎癌と比べてlow stage,low grade で予後が良好であることが報告されている 5)。しかし,このフランスの報告では透析腎癌患者の平均透析期間は65 カ月である。本邦からの報告では,透析腎癌手術患者の平均術前透析期間は120 カ月と欧米よりも長い 6)。また,stage 毎の予後では透析腎癌と通常の腎癌では差がなく,透析腎癌は決して予後良好とはいえないことも報告されている 6)。またSassa らは,透析期間が10〜20 年,20 年超と長くなるにしたがってhigh stage 患者が増え,病理学的にも肉腫様成分,脈管侵襲陽性の患者が増加することも報告している 7)。このように,長期透析患者が多い本邦では欧米よりも悪性度の高い進行腎癌が増えている可能性がある。

しかし,透析患者に対するスクリーニングの有効性を示す無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)はいまだない。Ishikawa らは,本邦の多施設のアンケート調査により663 例の偶発癌と62 例の症候性癌を比較し,全生存率,癌特異的生存率ともに偶発癌が良好であったことを報告している 8)。Ikezawa らも単施設の偶発癌277 例と症候性癌124 例を検討し,症候の有無が全生存,癌特異的生存における独立した予後因子であることを報告している 9)。Sarasin らは,超音波検査,CT 検査ともに癌死のリスクを半減できる可能性があるが,若年者に限定されると報告している 10)。このように,スクリーニングにより偶発癌として発見することが予後を延長させる可能性がある。

ただし,検査方法,頻度についても適正な方法はいまだ確立されていない。Takebayashi らは23 例の手術患者において術前に施行したヘリカルCT の検出能を検討した。感度は早期相が遅延相よりも優れていることを報告している(96% vs 83%)11)。また,腎移植後の自己腎に対する1 年毎の超音波検査あるいはCT 検査が腎癌の早期発見に有用であったことも報 告されている 12)。今後,前向き試験によって透析患者に対するスクリーニングの意義が検討されることが望まれる。

以上,透析患者に発生する腎癌の頻度は健常人と比べて高く,検診による早期発見が予後の改善につながる可能性がある。特に長期透析患者が多い本邦ではその有用性は高い可能性がある。しかしながら,すべて後ろ向き研究の結果であり,高いエビデンスで証明されているものではない。また検査法,頻度について,よりエビデンスレベルの高い所見を導く研究の実施が望まれる。

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CQ2
腎腫瘍の生検はどのような場合に推奨されるか?

推奨グレードC1
画像所見を基にして,①監視療法の候補患者,②アブレーション治療の候補患者,③良性腫瘍を疑う患者(CT にて高濃度で均一に造影される腫瘍),④悪性リンパ腫・膿瘍・転移性腫瘍を疑う患者,⑤術前補助療法の対象者や腎摘除術の非対象者で,組織型の確定診断が必要な患者に対して推奨される。

背景・目的

多くの固形癌に対しての生検は治療方針の決定におけるファーストステップの1つであるが,腎腫瘍は画像所見を中心に手術の適応を判断することが多い数少ない固形癌である。腎腫瘍に対する生検は偽陰性,出血等の合併症,播種等への懸念から,歴史的に日常診療に組み込まれてこなかったが,最近では安全性と正診率の向上から急速に普及してきている。この背景となっている最も大きな要因は,腹部精査および検診時の超音波検査,CT 検査等で偶発的に発見される小径腎腫瘍の増加であると考えられている。

解説

1 手技・安全性・正診率に関して

術前に針吸引またはコア生検を施行した腎腫瘍351 例の検討では,両方の生検方法を施行した290 例における正診率の高さで,コア生検が推奨されると報告している 1)。13 年間にわたる単一施設における529 例での検討では8.5%の患者で有害事象がみられたが,そのほとんどはGrade 1 の腎周囲血腫であり 2),28 カ月の観察期間中央値において腫瘍播種は1例も認めなかったと報告されている 3)。小径腎腫瘍(<4 cm)に対するメタアナリシスでは,腎生検は安全性が高い診断ツールであると結論付けられている 4)。現時点での推奨は次の3 項目である。①18 G 以上の針を用いた超音波またはCT ガイド下での生検,②断片化のない連続性を保った10 mm 以上の長さのある組織を少なくとも2 本以上採取,③中心部壊死組織を避けるための末梢域での採取 5-8)

最近の報告では偽陰性率は1%まで低下しており,悪性と良性の鑑別の正診率は94%,感度は83〜92%,特異度は83〜100%である 49-12)。小径腎腫瘍に対する経皮腎生検における分析疫学的研究/後ろ向き研究では,診断確定患者278 例(80.6%),診断不能患者67 例(19.4%),診断確定患者のうち221 例(79.4%)が悪性で,そのうち94.1%が腎癌であった。組織型や組織学的異型度(核異型度)が診断できたのは,それぞれ88%,63.5%であった 5)

57 論文5,228 例を対象とした小径腎腫瘍(<4 cm)に対するメタアナリシスでは,腎生検の正診率は92%,コア生検の感度は99.1%,特異度は99.7%,針吸引の感度は93.2%,特異度は89.8%であり,多変量解析では腫瘍径が大きい腫瘍(1 cm 刻みでの解析)と外方突出型腫瘍で正診率が高いと報告されている 4)。生検検体と手術検体における一致度でみると,組織型分類では0.68 と高いのに対して核異型度では0.34 と低い 4)。核異型度に関しては,low grade では>90%の一致率だがhigh grade では57%と低下しており 3),その背景として腎腫瘍における核異型度や遺伝子発現の不均一性等の関与が想定されている 13)

2 適応について

腎生検の適応として,American Urological Association(AUA)のガイドラインではリンパ腫,膿瘍,転移を疑った場合が挙げられている 14)。European Association of Urology(EAU)のガイドラインでは,①画像で良悪性の判定が困難な腫瘍に対しての不要な手術を避ける,②監視療法の対象となるような小径腎腫瘍の選択,③アブレーション治療前の組織診断,④転移性腎癌に対しての治療方針の立案,の4 項目が推奨されている 1215)

生検の適応になる良悪性の判定が困難な腫瘍の具体像について,American College of Radiology(ACR)のガイドラインに,CT により高濃度で均一に造影される腫瘍が挙げられている 16)。この場合,MRI の T2 強調像で低信号であれば特に良性の可能性が高くなる。CT で高濃度(> 45HU)かつ MRI の T2 強調像で低信号という所見は筋成分に相当しており,脂肪に乏しく筋成分豊富な血管筋脂肪腫(fat-poor AML)を示唆する 1718)。しかも,均一に造影されるのであればほとんどが筋成分で占められることを意味しており,このような所見を呈する腎癌は非常に頻度が低いことより,生検を行う意義が高くなる 17)

オンコサイトーマを疑った場合には嫌色素性腎細胞癌との鑑別が必要であり,生検でオンコサイトーマと診断されても慎重なフォローアップが必要になる 1920)

囊胞性腎腫瘍では,囊胞液内に上皮細胞が含まれていない可能性が高く 21),Bosniak 4 cyst のような固形状の腫瘤の場合は生検を考慮することもありえると考えられるが,基本的には囊胞性腎腫瘍に対しての生検は推奨されるべきではない 510)

初回生検の結果,監視療法を選択した小径腎腫瘍患者に対して再度の生検が考慮される場合として,腫瘍径が予想以上の速さで増大する患者や監視療法に不安を訴える患者が対象となる。

術前分子標的薬の投与前の組織診断としての報告があるが 22),これは腎癌の組織診断を得る必要性からの生検であり,治療方針の変更には影響を与えておらず,臨床の現場でどのように利用するかは,今後ゲノム的なアプローチを含めた検索が課題となると考えられている 1323)

以上,腎腫瘍に対する生検は,「高い安全性」と「悪性診断と組織分類の良好な成績」を認める一方,「核異型度分類(特にhigh grade)の低信頼性」「内包型腫瘍での低正診率」と「腫瘍径が小さくなるにつれての低正診率」を加味すべきである。現時点では,画像所見を基にした生検対象の候補者としては,上述の4項目が挙げられる。これらの患者に対して,例えば抗凝固薬や抗血栓薬を内服している患者では,これらの薬剤を中止することの副作用や腎周囲血腫,部位別の低正診率等を加味したうえで生検の適応を決定するべきである。しかし,生検で腎細胞癌の病理診断が得られたとしても治療戦略に違いが生じないような患者(例えば高齢者で手術療法や薬物療法を希望しない患者,画像上小径で典型的な腎血管筋脂肪腫の患者,全身状態が極めて不良で期待できる予後も非常に短い患者等)では,生検をする必要は必ずしもないと考えられる。また,採取する側の技術的な熟練度に加えて画像所見に基づく生検部位の決定や組織診断には放射線科医や病理診断医の協力が不可欠であり,チームとして経験を積みながら生検の適応を決めていくべきである。

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CQ3
腎癌の病期診断に胸部CTや骨シンチグラフィー,PETは推奨されるか?

推奨グレードA
腎癌の病期診断に胸部 CT は必要である。
推奨グレードC1
骨転移を疑う所見がある場合は,骨シンチグラフィーを施行することを考慮してもよい。
推奨グレードC2
骨転移を疑う所見がない場合は,骨シンチグラフィーを施行することは推奨されない。
推奨グレードC1
PET は,遠隔転移の検索,さらにフォローアップにおける再発の診断にその有用性が報告されている。しかしルーチン検査としての意義についてはいまだ明らかではない。

背景・目的

腎癌の病期診断において腹部CT は必須と考えられるが,ここでは転移巣検査のための胸部 CT,骨シンチグラフィー,PET の意義についてエビデンスに基づいて検証する。

解説

1 胸部CT

腎癌の遠隔転移臓器としては,肺が最も高頻度であることが知られている。肺転移の診断において,CT は単純写真に比較して診断感度が優れており,腎癌の術前病期診断における肺転移の評価は胸部CT により行われるべきである 1)。しかし,120 例の腎癌患者を対象とした後ろ向き研究では,T1 の腫瘍に関しては胸部X 線で十分であり,胸部CT の適応は胸部X 線で単発腫瘤が発見された場合,呼吸器症状がある場合,進行癌の場合等が挙げられている 2)。4 cm 以下のT1a 症例では4〜7cm のT1b 症例と比べ予後がかなり良好であることも知られており 3),T1a 症例では胸部X 線のみでも許容されると考えてもよい。

2 骨シンチグラフィー

Staudenherz らはCT,MRI,臨床症状等により骨転移が疑われる腎癌患者36 例の検討で,骨シンチグラフィーは閾値の設定により感度が大きくばらつき,典型的パターンは見出せなかったと報告している 4)。Seaman らは,骨転移を有する患者では骨痛あるいはALP 上昇を認めることがほとんどであることから,ALP 正常で骨痛のない患者では骨シンチグラフィーは省略可能であるとしている 5)。その後,Koga らは骨シンチグラフィーでの腎癌骨転移の診断能は,感度94%(32/34 例),特異度86%(147/171 例)で,骨転移のスクリーニング検査としては有用であるが特異度が低いことを報告した 6)。しかし,Uchida らは腎癌21 例を含む227 例の骨転移患者でFDG PETと骨シンチグラフィーを比較し,骨シンチグラフィーでは溶骨性転移における病変検出数(19 病変)がFDG PET(41 病変)よりも有意に低かったと報告している 7)。腎癌の骨転移のほとんどが溶骨性転移であることを鑑みると,骨シンチグラフィーの感度も高いとはいえないと考えられる。

したがって,骨シンチグラフィーは腎癌の病期診断のルーチン検査として施行することは推奨されず,原発巣の進展度が高く転移の可能性が高い患者あるいは骨痛や血液学的異常を伴う等,骨転移を強く疑う患者に施行するのが妥当である 8-10)

3 PET

近年,PET の普及に伴いその有用性に関する報告も多数認められる 11)。Safaei らは手術で腎癌と確定診断された患者を対象に術後にFDG PET を用いてre-staging を試み,その有用性を検討している 12)。20 例,25 カ所のPET で転移が疑われる箇所を生検により組織学的に診断した。その結果,PET による転移巣の診断は 84%と高い正診率であったと報告している。Wang らはメタアナリシスを行い,FDG PET 単独の転移巣の診断能は感度79%,特異度90%であったのに対してCT と組み合わせてFDG PET/CT とすることで感度91%,特異度88%と感度が上昇するが,有意な上昇ではないとしている 13)。またPark らは,FDG PET/CT の転移巣検出能について感度89.5%,特異度83.3%,正診率85.7%であり,従来の検査法と比べてほぼ同等で優越性はなかったとしている 14)。しかし,一度の検査で全身検索ができること,造影剤による腎機能障害,アレルギーの問題が回避できるメリットはあるとされている 15)

このように,FDG PET はCT と組み合わせても当初期待されたほどの正診率の改善がないことから,従来の検査によって診断が困難な場合に行うことが推奨されている。今後FDG に替わる他のトレーサーにより正診率が上昇することが期待される。

以上,腎癌の術前病期診断においては,他臓器転移の検索が重要である。胸部については正診率の高さから胸部CT を行うことが推奨されるが,低リスクの患者については胸部X 線を推奨する意見もある。骨転移については症状がない状態でのスクリーニングは陰性となる可能性が高く,推奨されない。PET/CT についても従来の検査法と比べて正診率が上昇するとの報告は少なく,現時点では期待されたほどの効果は報告されておらず,従来の画像検査を行っても転移か否か不明瞭な場合に,補助的な検査として施行するのが好ましいと考えられる。

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CQ4
腎癌の予後予測因子としてCRPは推奨されるか?

推奨グレードC1
癌の予後および病勢を評価する因子としてC 反応性タンパク(CRP)は重要であり,腎癌の治療においてCRP の測定が推奨される。

背景・目的

本邦においては,全身性の炎症反応マーカーである赤沈,CRP 等が腎癌の重要な予後予測因子となることが以前より指摘されていた 1)。前向き研究や均質なRCT はほとんど行われていないが,本邦および欧米からの多数の研究によりこれら炎症反応マーカーの予後予測 因子としての有用性が示されている。しかし,赤沈については近年本邦の多くの施設で測定される機会が減少しており,その実臨床での有用性は低くなっている。

解説

代表的な炎症反応マーカーであるCRP が腎癌の重要な予後予測因子となることが多数報告されている。腎摘除術後の予後予測因子として術前CRP が有用であり,高値例の予後が有意に不良であることが示されている 2-6)。中でもKarakiewicz ら 5)とIimura ら 6)は,術後 の癌特異的生存に対する予後予測能を向上させるという点からCRP の予後予測因子としての重要性を示している。また,Iimura ら 6)は腎摘除術または腎部分切除術が施行された249 例の検討から,CRP とTNM 分類を組み合わせて癌特異的生存に関する予後予測モデルを作成している。一方,転移を有する腎癌においてもCRP が重要な予後予測因子であることが,サイトカイン療法時代の1,463 例の有転移例を対象としたNaito らの報告等から明らかとなっている7)。分子標的治療でもCRP が重要な予後予測因子となることが報告されている 89)。さらに,Naito らの556 例の転移巣切除術施行例での検討から,CRP は転移巣切除後の予後予測因子となることも示されている 10)。進行腎癌例においても,CRP を組み込んだ予後予測モデルが提示されている 11)

さらに,CRP は治療介入前の予後予測因子となるのみならず,治療介入後の値の推移がその後の生存と関連し,病勢を反映するマーカーとなることが明らかとなっている。Tatokoro らは,40 例の転移性腎癌患者の腎摘除術前後のCRP 値の変化を検討した結果,術後にCRP 値が正常化しなかった患者の予後は有意に不良であったと報告している 12)。また,Ito ら 13)は根治的腎摘除術を施行された263 例の限局性腎癌で,術後のCRP 値の0.3 mg/dL 未満への低下の有無が予後予測因子となることを報告し,術後のCRP 値低下の重要性を示している。Saito ら 14)は,進行腎癌患者で集学的治療中のCRP 値の推移が全生存に対する予後予測因子となり,治療によるCRP 値の低下を認めた方が低下を認めない場合と比較してより長期の生存と関連することを報告している。Teishima らは,190 例の分子標的治療施行例で同様の結果を示し,分子標的治療施行例においてもCRP 値の推移の重要性を報告している 15)

様々な癌種において,全身性の炎症反応所見を示す例の予後が不良であることが報告されている。腎癌においても同様であるが,特に本邦においては1970 年代から炎症反応マーカーの予後評価における重要性が指摘されていた。中でも,代表的な炎症反応マーカーであり汎用性が高いCRP においては,多数例での検討で手術や全身薬物療法等の各治療セッティングにおいて有用な予後予測因子となることが示されている。一方,特に欧米において,炎症反応因子として血中の好中球/リンパ球比が腎癌の予後予測因子となることが報告されている 16)。これは欧米では癌の日常診療においてCRP が測定されていないためであると思われ,CRP との対比も今後の検討課題と思われる。

CRP は,腎癌において治療開始時の予後予測因子となるのみならず治療によるCRP 値の推移が生存と関連し,治療の評価にも有用なマーカーとなることが示唆されており,その有用性が高いと考えられる。

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CQ5
転移進行腎癌の予後予測因子による治療法選択は推奨されるか?

推奨グレードC1
MSKCC分類等の生命予後予測分類は,治療法選択の際の指標の1つとして推奨される。

背景・目的

分子標的薬が普及する以前,Motzer らは転移性腎癌の治療成績を後ろ向きに解析して統計学的に独立して生命予後と関連する因子を同定し,それらの因子の組み合わせによる生命予後予測分類を提唱した(MSKCC 分類)1)。MSKCC 分類は分子標的薬時代においても生命予後と関連していることが多数例での検証で示されている2)。また,Heng らは同様の手法を用いてvascular endothelial growth factor(VEGF)標的治療薬による治療を施行した転移性腎癌患者の成績を解析して生命予後と関連する因子を同定し,IMDC 分類を提唱した。IMDC 分類も分子標的薬時代の予後予測分類として広く使用されている 23)。日本人を対象にして開発された分類としては,Shinohara らが作成したJMRC 分類がある 45)。これらの予後予測分類を表1 に示す。

表1 転移性腎癌の予後予測分類
表1 転移性腎癌の予後予測分類

解説

1 生命予後予測分類と治療法選択

転移性腎癌に対する予後予測分類は分子標的薬開発時に臨床試験の患者適格基準に利用され,ソラフェニブの第III相臨床試験ではfavorable risk,intermediate risk 患者のみが,テムシロリムスの第III相臨床試験ではpoor risk に準ずる患者のみが適格患者とされた 67)。また,スニチニブの第III相臨床試験も大部分はfavorable risk,intermediate risk 患者であったため 8),2013 年までのEAU ガイドラインではソラフェニブ,スニチニブ,パゾパニブがfavorable risk,intermediate risk 患者への,テムシロリムスがpoor risk 患者への一次治療薬として推奨されていた 9)。ただし,一次治療においては分子標的薬同士で比較したRCT で生存期間延長を示したものはなく,分子標的薬の選択に生命予後予測分類を使用する根拠は薄い。RCT の少数サブグループ解析や後ろ向き調査ではpoor risk 患者に対しての一次治療としてスニチニブやパゾパニブの有効性を示す報告もあり 81011),2015 年のEAU ガイドラインではpoor risk 患者に対してもスニチニブ,パゾパニブは推奨されている(表212)。一方,二次治療以降についてはニボルマブとエベロリムスの比較第III相臨床試験のサブグループ解析で,poor risk 患者においてニボルマブの生命予後がエベロリムスよりも延長していたことが示されているが 13),今後大規模なRCT での検証が望まれる。

表2 予後予測分類による転移性腎癌に対する治療法選択(2015 年EAU ガイドライン)
表2 予後予測分類による転移性腎癌に対する治療法選択(2015 年EAU ガイドライン)

2 薬物療法の効果予測因子

後ろ向き調査において,VEGF 標的治療薬の無増悪生存期間短縮と関連があった因子は,生命予後予測分類不良 31415),Fuhrman grade 3/4 14),サイトカイン前治療 14),転移巣が横隔膜以下に存在 15),総腫瘍径>13 cm 15),低ナトリウム血症 16),programmed death ligand 1(PD-L1)高発現 17),VEGF receptor 2(VEGFR2)高発現 18),血清VEGFR 高値と血清neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL)高値の組み合わせ 19),VEGFの一塩基多型(single nucleotide polymorphism;SNP)20),血清CRP高値 1621),投与後の高血圧とアンジオテンシン系降圧薬の使用 22),早期腫瘍評価での10%以上の縮小なし 23),静脈塞栓 23),多発骨転移 23),LDH 上昇 23),症状あり 23),複数転移 23),インターロイキン-6 高値 24),CST6 プロモーター領域の高メチル化 25),LAD1 プロモーター領域の高メチル化 25),投与後の手足症候群 26),投与後の甲状腺機能低下症 27)等が報告されている。

Mammalian target of rapamycin(mTOR)阻害薬は,MTORTSC1TSC2 のいずれかに遺伝子変異 28),Fuhrman grade 1/2 29),LDH上昇 29)PIK3CA 遺伝子変異 29)を有する患者で効果が高いことが後ろ向き調査にて報告されている。

ニボルマブとエベロリムスの二次治療以降を対象とした比較第III相臨床試験のサブグループ解析では,poor risk 患者や男性でニボルマブの生命予後がエベロリムスよりも延長していた一方,75 歳以上ではニボルマブとエベロリムスで統計学的な生命予後の差を認めなかった 13)

以上,分子標的薬間の薬剤選択のためのバイオマーカーについては多くの報告があるものの,エビデンスレベルが高い研究はない。ニボルマブは,その薬理機序からPD-L1 発現がバイオマーカーとなることが期待されたが,第III相臨床試験時に同時に行われた解析でバイオマーカーとなる可能性が低いことが示された 13)。最近の臨床試験はバイオマーカーの探索も同時に行われている場合が多く,臨床応用可能なバイオマーカーの開発が期待される。

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3 外科療法・局所療法

総論

腎癌の外科療法・局所療法としては,原発巣に対する治療,転移巣に対する治療がある。原発巣に対する治療としては,腎摘除術と腎機能温存手術(腎部分切除術)があり,低侵襲治療として経皮的凍結療法(cryoablation)やラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation;RFA)がある。一方,転移巣に対する局所療法としては手術療法,放射線療法等がある。

1 原発巣に対する外科療法・局所療法

腎癌に対しては根治的腎摘除術が標準術式として位置付けられてきたが,近年画像診断技術の向上等により小径腎腫瘍が多く発見されるようになり,腎部分切除術が施行されることが多くなってきた。腎部分切除術は開放手術あるいは腹腔鏡手術で行われてきたが,最近ではロボット支援腎部分切除術も施行されるようになり,2016 年4 月に保険収載された。一方,腎摘除術も多くの患者に腹腔鏡手術が選択されているが,腫瘍径が大きい場合,静脈内腫瘍進展例,リンパ節転移例等では開放手術が選択される。また,小径腎腫瘍に対して低侵襲治療としてRFA や凍結療法が施行されてきたが,2011 年に凍結療法が保険収載された。合併症を有する場合やvon Hippel-Lindau(VHL)病等の遺伝性疾患における多発性・再発性腎癌等に実施されている。

1.腎部分切除術(CQ23)

小径腎腫瘍に対する腎摘除術と腎部分切除術後の治療成績を比較すると,制癌性は両術式とも同等であるが 12),腎摘除術を施行した場合,腎機能障害による合併症等により腎部分切除術に比し全生存率が低下することが明らかになってきた 34)。European Association of Urology(EAU),National Comprehensive Cancer Network(NCCN)等のガイドラインでは,4 cm 以下のT1a 腫瘍にはできる限り腎部分切除術を選択し,4〜7cm のT1b 腫瘍に対しても可能であれば腎部分切除術を実施するよう推奨している。

腎部分切除の術式としては,開放手術,腹腔鏡手術,ロボット支援手術が選択できる。腎部分切除術の術式選択には,難易度を表すR.E.N.A.L. Nephrometry Score 5)やPADUA classification 6)を参考にすることができる。難易度の高い場合は開放手術,難易度の低い場合は腹腔鏡手術が選択できるが,腎機能は温阻血時間によって左右されるため,温阻血時間はできるだけ短くする必要がある。難易度が高く温阻血時間が長くなることが予想される場合は,腎冷却により腎機能障害を軽減することができる。その場合は開放手術が選択されることが多い。腹腔鏡手術は難易度の高い手術であり手術手技の習得が必要であるため,習熟度によって適応は変わる。一方,ロボット支援手術は通常の腹腔鏡手術に比して温阻血時間を短縮できるため 78),保険収載によって今後ますます普及することが予想される。腹腔鏡手術の適応となる患者だけでなく開放手術が必要とされる患者にもロボット支援手術が選択可能となりえるが,手術手技の習得が必須である。なお,腹腔鏡手術,ロボット支援手術のアプローチとしては経腹膜到達法,後腹膜到達法があり,腫瘍の位置や腹部手術の既往等に基づいて選択する。開放手術では通常後腹膜到達法が選択される。

2.根治的腎摘除術(CQ14567

T1a /T1b 症例でも,腎部分切除術が困難な場合には腎摘除術の適応となる。このような患者では多くの場合腹腔鏡手術が選択され,現在では標準術式となっている。開放手術に比して制癌性は同等で,低侵襲で術後の回復が早いとされている 19)。到達法としては後腹膜到達法,経腹膜到達法があるが,腫瘍の部位,大きさ,腹部手術の既往等に基づいて選択する。腫瘍が大きい場合は後腹膜到達法では部位によって腫瘍を圧迫する可能性があり,経腹膜到達法を選択することが多い。一方,経腹膜到達法では腹腔内臓器損傷の危険性を考慮する必要がある。

腫瘍の大きさが7cm を超えるT2 腫瘍に対しても腹腔鏡手術が選択可能であるが,腫瘍が大きい場合は術野の広い経腹膜到達法が適切である。腫瘍が大きくなるほど難易度が高くなるため,10 cm を超えるような腫瘍の場合腹腔鏡手術の習熟が不十分であれば開放手術を選択する方が好ましい 10)

腎静脈〜下大静脈に腫瘍塞栓を認める場合は,通常開放手術の適応となる。腎静脈腫瘍塞栓の進展度によっては経腹膜到達法による腹腔鏡手術も可能であるが,一般的ではない。一方,下大静脈まで腫瘍塞栓が進展している場合,転移を認めなければ腎摘除術が推奨されるが,腫瘍塞栓の程度,全身状態,合併症の有無等によりその適応を慎重に判断するべきである 1112)

画像上リンパ節転移が疑われる場合は,予後の改善を期待してリンパ節郭清を施行する 13)。開放手術,腹腔鏡手術のいずれも選択できるが,腹腔鏡手術の習熟が不十分な場合は開放手術を選択する。画像上リンパ節転移を認めない場合は,一般的にリンパ節郭清は行われない 14)

腫瘍と同側の副腎への転移・浸潤が疑われる場合は副腎も同時に摘除するが,術式は開放手術,腹腔鏡手術ともに選択可能である。一方,副腎への転移・浸潤が疑われない場合,予後の改善が期待できず副腎機能が低下する可能性も考慮し,最近では副腎を温存する傾向にある 1516)

有転移例における腎摘除術については,サイトカイン療法時代には,予後の改善が期待できるため全身状態が良好な場合は全身薬物療法を施行する前に腎摘除術が施行されてきた。分子標的薬時代においても腎摘除術により予後の改善が期待できるとされているが 1718),全身状態不良例やpoor risk 患者,多臓器に大きな転移を有する症例等においては予後の改善が期待できず治療開始が遅れるため,分子標的治療が先行されることがある。転移巣が単発で切除可能な場合は,原発巣と転移巣を同時に切除する場合もある。

3.経皮的凍結療法・RFA(CQ9

癌に対する低侵襲治療として経皮的凍結療法やRFA 等の有用性が指摘され 19),小径腎腫瘍に対しても施行されてきた。小径腎腫瘍の標準治療は腎機能温存手術であるが,高齢者や重篤な合併症により全身麻酔下の手術が困難な患者,手術を希望しない患者,家族性・多発性腎癌患者等では,低侵襲な経皮的凍結療法や経皮的RFA が選択されてきた。以前は経皮的 RFA が多く行われていたが 20),2011 年7 月に凍結療法が保険収載となってからは凍結療法が施行される割合が高くなっている。組織診断や治療効果の評価等,問題点もあるが, 低侵襲で繰り返し実施できるため再発を繰り返す家族性腎癌には適した治療である。

2 転移巣に対する外科療法・局所療法

転移性腎癌の治療は薬物療法が中心となるが,切除可能な転移巣に対する手術療法,骨転移,脳転移等に対する定位放射線療法により,予後,QOL の改善が期待できる。

1.転移巣切除術(CQ8

診断時に転移を認める場合あるいは腎摘除術後に転移が出現した場合,転移巣の完全切除が可能であれば予後の改善・根治が期待でき,外科的切除の選択が考慮される 2122)。薬物療法では完全治癒は困難であるが,手術の場合は根治が得られる可能性がある。肺転移では,複数であっても少数で完全切除が可能な場合は手術を選択することがある 23)。リンパ節転移,膵転移,副腎転移も切除可能であれば手術により根治や長期無再発が期待できる。下肢や上肢の骨転移の場合も予後やQOL の改善が期待できる。肝転移,脳転移,脊椎骨転移等も,他臓器に転移がない場合には外科的切除を検討する価値はあるが,完全切除が困難な場合が多い。一方,全身状態不良,多臓器転移,完全切除が不可能な場合等は,外科療法の適応はない。

2.定位放射線療法(CQ10

転移巣に対する定位放射線療法は,予後,QOL の改善が期待できる。骨転移による疼痛を認める場合,放射線療法により病勢や疼痛のコントロールが期待できる 2425)。脳転移では転移数が少ない場合や病巣が小さい場合はガンマナイフ等の定位放射線療法により病勢および症状のコントロールが期待できる 2627)。分子標的薬との併用により効果の増強が期待できるとの報告もある 28)

3.その他

外科療法,放射線療法以外に,転移巣に対してRFA や凍結療法により治療を行った報告もあるが,明確なエビデンスはない。

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CQ1
Stage I,IIの腎癌に対する腎摘除術において腹腔鏡手術は推奨されるか?

推奨グレードB
Stage Iの腎癌に対する腹腔鏡下根治的腎摘除術は,標準術式として推奨される。
推奨グレードC1
腫瘍径の大きな腫瘍では腹腔鏡手術による合併症の頻度が高くなるとの報告もあり,Stage IIの腎癌に対する腹腔鏡手術には熟練した手術手技と適切な患者選択が必要である。

背景・目的

現在,腎癌に対する腎摘除術においては腹腔鏡手術が広く行われるようになっている。ここでは,そのStage 毎のアウトカム,安全性について検証する。

解説

MacLennan らは,外科療法を施行されたStage I,IIの腎癌におけるメタアナリシスにおいて,腹腔鏡手術と開放手術を施行された患者を比較し,非再発率,癌特異的生存率,全生存率に差がないことから,両者に同等の制癌効果が期待できるとしている 1)。さらに,腹腔鏡手術では開放手術に比較して手術時間が長いものの,出血量,鎮痛薬使用量,入院期間,術後回復において開放手術よりも優れていることを報告している 2)。また,Berger らは腹腔鏡下根治的腎摘除術を施行され,10 年以上経過観察しえた73 例について,10 年,12 年の癌特異的生存率をそれぞれ 92%,78%と報告し,腹腔鏡手術では開放手術に匹敵する良好な制癌効果が長期的に得られると述べている 3)

腫瘍径が比較的大きな腎癌に対する腹腔鏡手術の有用性について,Dillenburg らは7 cm を超える腫瘍(T2 またはT3a)を有する患者48 例に対する開放手術(25 例)と後腹膜腔鏡下手術(23 例)の非無作為化前向き研究において,後腹膜腔鏡下手術の方が出血量,入院期間,術後鎮痛薬の使用が有意に少なく,術後回復(QOL)も良好であったと報告している 4)。Hemal らはStage I,IIの腎癌132 例に対する腹腔鏡手術の非無作為化前向き研究において,Stage II患者ではStage I患者に比較して手術時間の延長,出血量の増加,鎮痛薬使用の増加がみられるものの,安全に腹腔鏡手術を施行可能であったとしている 5)。一方,Gong らによるT1/T2 腎癌141 例に対する腹腔鏡手術の後ろ向きコホート研究では,T2 の方が開放手術への移行,術中合併症の頻度が高いが,術後合併症,入院期間に差は認められていない 6)。Hattori らは,7cm を超える腎癌131 例の開放手術(79 例)と腹腔鏡手術(52 例)を後ろ向きに比較し,腹腔鏡手術の方が術中合併症の頻度は高いものの術中出血量は少なく,術後5年,10 年の非再発率,癌特異的生存率は同等と報告している 7)。Laird らは,腹腔鏡下根治的腎摘除術を施行された腎癌397 例(T1 206 例,T2 71 例,T3 118 例,T4 2 例)の成績を解析している。その結果,T1,T2 症例については手技的にも制癌効果のうえでも安全に施行されている一方,T3 症例については有意な出血量の増加がみられており,安全な手術を行うためにはより高度な手技への習熟と患者選択が必要であるとしている 8)。Luciani らは,7 cm を超える腎癌222 例に対する腹腔鏡下根治的腎摘除術のアウトカムを解析し,pT3 症例では開放手術への移行が多く,癌特異的生存率が不良であると報告している。また,手術は安全に施行可能であるとしつつも,10 cm を超える大きい腫瘍に対しては開放手術への移行率が高くなる旨を説明すべきとしている 9)

以上のように,Stage I,IIの腎癌に対する腹腔鏡手術は開放手術と比較して全生存率,癌特異的生存率,非再発率に差はなく,同等の制癌効果が得られる。また,腹腔鏡手術では鎮痛薬使用の減少,入院期間の短縮,早期の術後回復が期待できる。ただし,Stage IIに対する腹腔鏡手術ではStage Iと比較して出血量が増大し開放手術への移行率が高く,合併症等について患者や家族への十分な説明を行う必要があり,より熟練した手術手技と適切な患者選択が必要である。

参考文献

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CQ2
腫瘍径4 cm以下(T1a)の腎癌患者において腎部分切除術は推奨されるか?

推奨グレードA
腎部分切除術は根治的腎摘除術と同等の制癌性であり,腎機能温存の観点からは有用であり,推奨される。

背景・目的

従来,小径腎腫瘍の治療法としては根治的腎摘除術が施行されてきたが,近年,制癌のみならず慢性腎臓病の予防の観点からも腎機能温存が重要視され,腎部分切除術による腎機能温存手術の適応が拡大している。ここでは,現時点におけるT1a 腎癌に対する腎部分切除術のエビデンスからその有用性を検証する。

解説

唯一の無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)であるEORTC 30904 において,5 cm 以下の腎腫瘍患者に対する腎部分切除術と根治的腎摘除術では全生存率に有意差を認めなかった 1)。また,MacLennan らはシステマティックレビューにより腫瘍径4 cm 以下のT1a 症例に対する腎部分切除術の制癌成績が術式を問わず根治的腎摘除術と比較し同等であることを示し 2),またCrépel らは大規模コホート研究においても腎部分切除術と根治的腎摘除術を比較し癌特異的生存率は同等であったとしている 3)

一方,Zini らはT1a 腎癌においては腎部分切除術は根治的腎摘除術に比べ全死亡率および非癌関連死亡率を有意に低下させるとしている 4)。同様にThompsonらは,65 歳未満のpT1a 腎癌において根治的腎摘除術は腎部分切除術に比べ全生存率を低下させるとし 5),Huang らは根治的腎摘除術は腎部分切除術に比べ全生存率を低下させ,心血管イベントの発生を有意に上昇させるとしている 6)

腎部分切除術の合併症に関しては,出血量,輸血等の周術期合併症の頻度および入院期間は根治的腎摘除術と同等であると報告されている 7-9)

また,McKiernan らは腎部分切除術と根治的腎摘除術を施行した患者に対して10 年間の腎機能を前向きに比較し,根治的腎摘除術で有意に腎機能障害を引き起こす危険が高く,腎部分切除術は長期腎機能温存に有用であったとしている 10)。さらに,唯一のRCT である EORTC 30904 においても6.7 年の観察期間において腎部分切除術が推算糸球体濾過率(estimated glomerular filtration rate;eGFR)<60 mL/分/1.73 m2となるリスクを低下させるとしている 1)

さらにQOL に関しては,Poulakis らは腎部分切除術および根治的腎摘除術後のSF-36 およびEORTC QLQ-C30 を比較し,腎部分切除術は包括的および疾患特異的QOLともに優れていたとしている 11)。MacLennan らのシステマティックレビューによっても,術式を問わず腎部分切除術の術後QOL の優位性が示されている 12)

開放腎部分切除術と腹腔鏡下腎部分切除術の比較では,Gill ら 13)や Gong ら 14)はT1a 症例に対する腹腔鏡下腎部分切除術は開放腎部分切除術と比較して術中出血量が少なく,入院期間が短く低侵襲な点で優れているが,手術時間および温阻血時間を延長し,術後腎機能および癌制御には差がないとしている。

ロボット支援腎部分切除術と腹腔鏡下腎部分切除術または開放腎部分切除術の3 者を比較したRCT はこれまで存在しないが,ロボット支援腎部分切除術と腹腔鏡下腎部分切除術を比較したシステマティックレビューおよびメタアナリシスを行ったChoi ら 15)は,ロボット支援腎部分切除術は開放腎部分切除術および根治的腎摘除術への移行率が低く,温阻血時間 が短く,術後 eGFR の低下が少なく,また入院期間が短いとしている。同様に,ロボット支援腎部分切除術と開放腎部分切除術を比較したシステマティックレビューおよびメタアナリシスを行ったWu らの報告では 16),ロボット支援腎部分切除術が開放腎部分切除術と比較して周術期合併症,術中出血量,入院期間の点で優れていたとしている。

以上より,腎門部腫瘍等の部分切除術では難易度の高い患者においては腎摘除術も考慮されるべきではあるが,腫瘍径4 cm 以下の腎癌患者に対する腎部分切除術は,根治的腎摘除術と比較して同等の制癌性を有するのみならず,腎機能温存や術後QOL の優位性,非癌関連死亡率の低下および全生存期間の延長が示されており,現状では標準術式として推奨される。部分切除の術式の選択に関しては,現時点でT1a 症例に対する明確な術式選択基準は存在せず,施設や術者毎に施行可能な術式を選択することが推奨される。

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CQ3
腹腔鏡手術で腎部分切除困難な腫瘍に対するロボット支援腎部分切除術は推奨されるか?

推奨グレードC1
腹腔鏡手術で腎部分切除困難患者に対してロボット支援腎部分切除術は試みてもよいが,本邦において本技術はいまだ発展途上であり,困難患者に対する手術適応は術者の経験に応じて決定されるべきである。

背景・目的

本邦において2016 年度より小径腎腫瘍に対してロボット支援腎部分切除術が保険収載され,今後適応患者の拡大が予想される。ここでは,これまで腹腔鏡手術による部分切除が容易でなかった患者に対するロボット支援腎部分切除術の手術成績をレビューし,その有用性を検証する。

解説

小径腎腫瘍に対する腎部分切除術の困難さの指標には,腫瘍径のみならず腫瘍の解剖学的な位置を考慮したR.E.N.A.L. Nephrometry Score 1)あるいはPADUA classification 2)を用いた評価が用いられる。さらに,完全埋没腫瘍あるいは腎門部腫瘍に対する腎部分切除術も高難度の手技と考えられている。

Patton らはロボット支援,腹腔鏡下,および開放腎部分切除術を施行した3群のR.E.N.A.L. Nephrometry Score を比較し,ロボット支援腎部分切除術は腹腔鏡手術よりも高スコア,開放手術と同等のスコアを有する腎腫瘍に対して施行されたにもかかわらず,出血量,術後合併症および入院期間で有意に優れていたと報告している 3)

これまで,小径腎腫瘍患者に対するロボット支援腎部分切除術と腹腔鏡下腎部分切除術を比較したRCT の報告はないが,両術式を比較したシステマティックレビューおよびメタアナリシスでは 4),ロボット支援腎部分切除術は開放手術および根治的腎摘除術への移行率が低く,温阻血時間が短く,術後eGFR の低下が少なく,また入院期間が短いとしている。しかし,腹腔鏡手術で腎部分切除困難患者に対する解析はなされていない。

完全埋没腫瘍に対するロボット支援腎部分切除術の成績では,Autorino らは完全埋没腫瘍と部分埋没腫瘍および外方突出腫瘍に対するロボット支援腎部分切除術の治療成績を比較し,完全埋没腫瘍では温阻血時間は有意に長かったが,出血量,切除断端陽性率,周術期合併症,術後腎機能および入院期間に差は認めなかったと報告した 5)。また,Komninos らも同様の成績を示し,周術期手術因子,術後腎機能の変化に差を認めなかったが,埋没の程度が大きくなると切除断端陽性率が高くなる傾向にあったと報告している 6)。Kara らは完全埋没腫瘍に対して施行されたロボット支援腎部分切除術と開放腎部分切除術を比較検討し,手術時間,温阻血時間,周術期合併症および術後腎機能に有意差を認めなかったが,術中出血量および入院期間の点でロボット支援腎部分切除術が優れており,熟達した術者が施行すれば腹腔鏡手術では困難である完全埋没腫瘍に対しても開放手術と同等の成績を示すことができる可能性を示した 7)

一方,これまで腎門部腫瘍に対するロボット支援腎部分切除術と腹腔鏡下腎部分切除術の手術成績を比較した報告はないが,Eyraud らはロボット支援腎部分切除術を施行した腎門部腫瘍と非腎門部腫瘍を比較し,腎門部腫瘍では温阻血時間が長く術中出血量が多かったが,切除断端陽性率,周術期合併症および術後腎機能に差を認めなかったとし 8),同様にDulabon らは腎門部腫瘍では温阻血時間が長かったが,その他の周術期成績に差を認めなかったと報告している 9)

さらに,R.E.N.A.L. Nephrometry Score≧7の困難患者に対するロボット支援腎部分切除術と腹腔鏡下腎部分切除術の比較では,Long らは根治的腎摘除術への移行率およびeGFR の低下率ではロボット支援腎部分切除術が有意に優れていたが,温阻血時間,出血量,輸血率および術後合併症には差を認めなかった 10)。Wang らは腹腔鏡下腎部分切除術では有意に手術時間が長く出血量が多かったが,温阻血時間,輸血率,根治的腎摘除術への移行率,入院期間および術後腎機能に差は認めず,3 年無再発生存率も同等であったと報告した 11)

以上より,腹腔鏡下アプローチでは腎部分切除が困難な患者でも,ロボット支援手術の導入により部分切除がより容易になる可能性がある。上記の成績は限られたhigh-volume center からの報告であることを考慮してもある程度満足できる短期成績であり,開放手術と同等の手術適応を有し,かつ腹腔鏡手術の低侵襲性を兼ね備えた手術法として普及することが予想される。しかし,本邦において本技術はいまだ発展途上であり,困難患者に対する手術適応は術者の経験に応じて決定されるべきである。また,これまでの報告はいずれも少数例の後ろ向き研究であり,現時点では癌制御や周術期成績等を含め,困難患者に対するロボット支援腎部分切除術の他の術式に対する優位性を示す十分なエビデンスはないと考えられる。

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CQ4
転移性腎癌症例において腎摘除術は推奨されるか?

推奨グレードC2
Poor risk 患者やperformance status 不良患者等の予後不良と考えられる転移性腎癌に対する即時腎摘除術は慎重に判断されるべきである。
推奨グレードC1
全身状態良好で転移巣の腫瘍量が少ない等の予後良好と考えられる腎癌に対しては,待機的な腎摘除術も含めた原発巣切除について,患者毎に考慮されるべきである。

背景・目的

転移巣を有する腎癌患者に対する腎摘除術は,サイトカイン療法時代から広く行われてきた。現時点におけるエビデンスを整理し,腎摘除術の有用性について考察する。

解説

転移性淡明細胞型腎細胞癌に対する腎摘除術に関連して,2つのRCT(CARMENA 試験 1)およびSURTIME 試験2))の結果が報告された。

CARMENA 試験 1)は即時腎摘除術の有用性について,腎摘除術後にスニチニブを投与する群(標準治療群)に対し,腎摘除術を施行せずスニチニブ単独治療を行う群(試験治療群)の非劣性を検証するRCT である 1)。この試験は,主治医が腎摘除術可能と判断した転移性淡明細胞型腎細胞癌576 例を対象とし,地域,Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)予後スコアを層別因子として1:1に無作為割り付けし,全生存期間を主要エンドポイントとして計画された。患者集積の困難さもあり,2回目の中間解析結果(450 例)をもって試験終了となったが,全生存期間の中央値(ITT 解析)は試験治療群(224 例)で18.4 カ月,標準治療群(226 例)で13.9 カ月であり,試験治療群の非劣性(ハザード比:0.89,95%CI 0.71〜1.10,非劣性の95%CI 上限≦ 1.20)が示された。

SURTIME 試験 2)は待機的腎摘除術の有用性について,腎摘除術後にスニチニブを投与(即時腎摘除)する群に対し,スニチニブ投与後に腎摘除術を施行(待機的腎摘除)する群の優越性を検証するRCT である。この試験は,Culp らの報告した7つの予後不良因子 3)(LDH 基準値上限の1.5 倍以上,アルブミンがCTCAE のGrade 2 以上,腫瘍随伴症状,肝転移,後腹膜リンパ節転移,横隔膜上リンパ節転移,T3 以上)のうち3つ以下を満たす転移性淡明細胞型腎細胞癌458 例を対象とし,無増悪生存期間を主要エンドポイントとして計画された。患者集積の困難さから目標登録数が98 例に,主要エンドポイントが28 週目の無増悪生存率に変更された。総登録99 例でのITT 解析で28 週目の無増悪生存率は即時腎摘除群(50 例)で42%,待機的腎摘除群(49 例)で43 %であり,統計的な有意差は認めなかった(p=0.61)。副次的エンドポイントである全生存期間中央値では待機的腎摘除群が32.4 カ月と即時腎摘除群の15.0 カ月よりも長い結果であった(ハザード比:0.57,95%CI:0.34〜0.95,p=0.03)。周術期合併症の頻度は2群間に差がなかった(即時腎摘除群:52.2%,待機的腎摘除群:52.9%)。

CARMENA 試験は対象として40%以上の患者がMSKCC 分類poor risk 群に属しており,転移巣の腫瘍量が多い比較的予後不良の患者群を対象としていることもあり,必ずしも腎摘除術の恩恵を期待できる患者群を対象とした試験ではない。 SURTIME 試験は不十分な患者数での探索的な試験結果であり,これらの報告の解釈には注意が必要である。

転移性淡明細胞型腎細胞癌の即時腎摘除術に関して,即時腎摘除術に対してスニチニブ投薬を優先する治療の非劣性がCARMENA 試験にて示され,待機的腎摘除術の安全性がSURTIME 試験にて確認されたことから,予後因子(全身状態,腫瘍随伴症状,栄養状態,貧血,血清Ca,血清清LDH,好中球数,血小板数,転移部位および転移腫瘍量,原発巣の進展度等)を踏まえ,poor risk 患者(IMDC/MSKCC/JMRC 分類)や予後不良と考えられる患者に対して,即時腎摘除術は慎重に判断されるべきである。一方で,症状や血液検査異常がなく全身状態良好で,転移腫瘍量や数も少ない等,予後良好と考えられる患者には,そのリスク・ベネフィットについて医療者と患者が十分に相談したうえで原発巣切除について考慮すべきである。どのような患者が真に腎摘除術の恩恵を受けるかは今後の検討課題であり,予後良好と考えられる患者を対象としたたTARIBO 試験 4)が現在進行中である。近年,転移性腎癌の治療にimmuno-oncology(I-O)治療が導入され標準薬物療法が変化していることもあり 5),待機的な腎摘除術も含めた原発巣切除については,患者毎に検討されるべきである。

参考文献

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CQ5
根治的腎摘除術においてリンパ節郭清は推奨されるか?

推奨グレードC2
リンパ節腫大が認められない場合はリンパ節転移の可能性は非常に低く,リンパ節郭清は再発予防や生存率向上に寄与しないため推奨されない。
推奨グレードB
リンパ節腫大を認め転移が疑われる場合は,リンパ節郭清により正確な病期診断および生存率の向上が期待されるため推奨される。

背景・目的

腎癌に対するリンパ節郭清は病期診断として十分な役割を有するが,生命予後に影響を与えるか否かは議論の分かれる点である。ここでは,リンパ節郭清の意義について検索し,リンパ節郭清が推奨されるか否かを明らかにする。

解説

腎癌全体のリンパ節転移の頻度 13〜21%とされ,限局性腎癌においては2〜9%と稀であるが,進行腎癌は62〜66%と上昇する 1)。遠隔転移のない腎癌3,507 例に対して腎摘除術を施行した検討では165 例(4.7%)にリンパ節転移を認め,pT1,pT2,pT3 でそれぞれ1.1%, 4.5%,12.3%にリンパ節転移を認めた 2)。リンパ節転移の疑いのない患者における検討で, 根治的腎摘除術のみを施行した患者とリンパ節郭清を併用した患者の5年生存率は79%および 78%と差を認めなかった 3)。また,転移を有さない腎癌(T1-3N0M0)に対するリンパ節郭清の有用性を検討した唯一のRCT(EORTC 30881)において,リンパ節郭清が行われた患者の4%のみにリンパ節転移を認めた。しかし,リンパ節郭清の有無により全生存期間,疾患進行までの期間,無増悪生存期間に有意差を認めず,リンパ節郭清の有用性は確認できなかった 4)。特にT1 /T2 腫瘍でリンパ節腫大を認めない場合,リンパ節郭清の役割は病期診断に限られる。なお,EAU ガイドラインではリンパ節腫大を認めない限局性腎癌に対するリンパ節郭清は推奨されていない 5)

一方,high risk 腎癌患者(T3-4,高Fuhrman grade,10 cm以上の腫瘍サイズ,肉腫様成分または凝固壊死の存在等)に対するリンパ節郭清は生存率の向上に寄与するとの報告も散見される 6-8)。前述のEORTC 30881 のサブ解析では,T3 症例のうちリンパ節郭清を施行された患者は施行されなかった患者に比較して5 年で15%の生存利益を認めている 1)。遠隔転移がなくリンパ節転移のある40 例の検討では,リンパ節郭清による癌特異的生存期間の中央値は20.3 カ月で30%は再発しておらず,リンパ節郭清と補助療法を選択するべきであるとしているが 9),RCT のない現状では強く推奨することはできないとの主張もある 10)。現状では,リンパ節腫大を認める場合には正確な診断が可能であり,リンパ節郭清により予後改善が期待できるため推奨されるとの意見が多い 1112)。なお,腫大したリンパ節で組織学的に転移を認めるのは約30%であり,術中迅速病理により不必要なリンパ節郭清を避けることができるとの報告もある 13)。遠隔転移を有する患者を対象に,腎摘除術およびリンパ節郭清を施行した検討から免疫療法の効果および予後予測に有用であり,予後の改善が期待できるとされるが 1415),分子標的薬導入後の報告はまだない。

参考文献

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CQ6
腎癌に対する腎摘除術において患側の副腎温存は推奨されるか?

推奨グレードC1
画像上副腎転移や副腎への直接浸潤が疑われない場合には,副腎温存が推奨される。

背景・目的

従来,根治的腎摘除術では同時に副腎摘除が行われていたが,小径腎腫瘍や腎下極の腎癌等で副腎に明らかな病変がない場合の副腎摘除の必要性について議論されてきた。近年,画像診断技術の進歩によって診断率も向上しており,副腎病変が認められない患者での転移のリスクや摘除の意義について再検証する必要がある。これまで根治的腎摘除術における同時副腎摘除の意義に関する均質なRCT はないため,ここではアウトカム研究やシステマティックレビューによりその意義を検証する。

解説

腎癌の患側副腎摘除と患者予後について,von Knobloch らの調査では副腎摘除を行った腎癌患者617 例のうち副腎転移が認められたのは23 例(3.7%)で,ルーチンの副腎摘除を行っても患者予後には影響を及ぼしていない 1)。Weight らは4,018 例の腎摘除術または部分切除術を行った患者で,副腎摘除を行った1,541 例と行っていない2,477 例を比較し,副腎転移があった患者は88 例(2.2%)であり,患側同時副腎摘除を行っても癌特異的生存率は改善しないことを報告している 2)。一方で,Kuczyk らは,転移を有さない患者375 例と副腎のみに転移を有し副腎摘除を行った患者13 例の長期予後に有意な差はなく,副腎のみに転移を有する患者に対する副腎摘除は有効な治療であるとしている 3)

Ito らによる同側副腎転移を有する30 例と同側副腎転移を認めない926 例についての解析では,腫瘍径(5.5 cm 超),T3 以上,リンパ節転移,副腎以外の遠隔転移の存在が副腎転移の危険因子であり,術前のCT によって 83.3%(20/24 例)の患者で同側副腎転移が診断可能であった 4)。Yap らによる根治的腎摘除術を行った5,135 例の解析では,40.1%の患者で副腎摘除が行われ,1.4%に副腎浸潤が認められている。その頻度は7 cm を超える腫瘍では3.2%,4〜7 cm では0.89%,4 cm 未満では0.63%であり,副腎浸潤の危険因子は7 cm を超える腫瘍,脂肪織浸潤であった 5)。Kutikov らは7 cm 以上の腫瘍に対して根治的腎摘除術を行った179 例を解析し,同時に副腎摘除を施行した91 例のうち4 例(4.4%)に副腎浸潤が認められたが,上極の腫瘍に転移・浸潤が多いわけではなく,上極の大きな腫瘍であっても画像上副腎への 転移や浸潤がなければ同時副腎摘除の必要はないとしている 6)。Su らの患側同時副腎摘除を行った腎摘除術患者のシステマティックレビューでは,11,736 例のうち同側副腎転移があった患者は4.5%であった。副腎摘除が予後に寄与せず,上極の腫瘍であっても同側副腎転移の頻度に差を認めなかった。CT またはMRI による術前画像診断の感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率はそれぞれ92%,95%,71.6%,98.5%であり,術前画像診断で副腎転移が疑われる患者のみ副腎摘除を行うべきとしている 7)

Yap らは,正常な副腎を摘除することによる患者予後への影響について報告している。1,651 例の腎摘除術を行った患者のうち30%が副腎摘除を行っており,10 年死亡率は副腎摘除群で26%,副腎温存群で20%であった。同側副腎摘除による生存率の低下の可能性があり, 副腎摘除が癌特異的生存の改善には寄与しないことから,副腎温存の重要性を示唆してい る 8)。また,Nason らによる同時副腎摘除を行った199 例と副腎を温存した380 例を比較した報告では,副腎温存を行った患者の方が全生存率,癌特異的生存率ともに良好であった 9)。Yokoyama らは,副腎摘除によって副腎機能が低下する可能性があるため,術前のCT 等による副腎転移の評価が重要であると報告している 10)

腎摘除術時の患側同時副腎摘除について,1995〜2004 年にカナダオンタリオ州で治療を受けた5,135 例の解析ではその頻度は減少傾向にあり(1995 年40.6%,2004 年34.8%) 5),MSKCC において1989〜2012 年の腎摘除術または部分切除術を施行した802 例の解析でも,同時副腎摘除は年々減少傾向にある 11)

腫瘍径が副腎転移の危険因子である可能性はあるものの,腎摘除術に伴う患側同時副腎摘除は癌特異的生存率を改善せず,副腎機能低下および生存率を低下させる可能性があることも示唆されており,画像診断で副腎転移・浸潤が疑われない限り副腎を温存すべきである。

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CQ7
下大静脈腫瘍塞栓を有する腎癌患者に対する腫瘍塞栓摘除術は推奨されるか?

推奨グレードC1
下大静脈腫瘍塞栓を有する腎癌患者のうち,転移のない局所性腎癌患者において腫瘍塞栓摘除術は推奨される。

背景・目的

腎癌は静脈系に進展しやすいという特性を有しており,腎静脈から下大静脈内,時に右房内まで連続した腫瘍塞栓を形成する。臨床の現場では,このような患者に対して伝統的に腎摘除術および腫瘍塞栓摘除術が行われてきた 12)。ここでは,腎摘除術ならびに腫瘍塞栓摘除術によって生存率が有意に改善されるか否かについて文献的に明らかにすることを目的とした。

解説

下大静脈腫瘍塞栓を有する腎癌患者に対する腎摘除術および腫瘍塞栓摘除術の有用性を検討したRCT の報告はほとんどない。そのため,主にケースシリーズを参考とする。

腫瘍塞栓摘除術の術式は,腫瘍塞栓のレベルと下大静脈閉塞の度合によって決定される 3)。腫瘍塞栓レベルにより周術期合併症が増加するとされる 4)。レベルIII(肝静脈上〜横隔膜下)〜IV(横隔膜上)の腫瘍塞栓摘除術には一定の周術期死亡例が存在すると報告されており 5),その適応については注意を要する。腫瘍塞栓摘除術前に予防的に施行される腎動脈塞栓術や下大静脈フィルター留置の有用性を示した明確なエビデンスはない 67)

欧州13 施設における静脈内腫瘍塞栓を有する腎癌患者1,192 例に対する腎摘除術および腫瘍塞栓摘除術の成績と予後因子の解析結果が報告されている 8)。術後生存期間の中央値は腎静脈内腫瘍塞栓群で52.0 カ月,横隔膜下腫瘍塞栓群で25.8 カ月,横隔膜上腫瘍塞栓群で18.0 カ月であった。腫瘍塞栓が腎静脈内に止まっている群と下大静脈内に進展している群との間で,全生存期間に有意差を認めている。独立した予後予測因子として,腫瘍サイズ(p=0.013),腎周囲脂肪織浸潤(p=0.003),リンパ節転移(p<0.001),遠隔転移(p<0.001),下大静脈内進展(p=0.008)が同定された。

Haddad らはレベルIII〜IVの下大静脈腫瘍塞栓を有する腎癌患者166 例の腫瘍塞栓摘除術後の独立した予後予測因子として,リンパ節転移(ハザード比:3.94,p<0.0001),遠隔転移(ハザード比:2.39,p=0.01),high grade(ハザード比:2.25,p=0.02),腫瘍壊死(ハザード比:3.11,p=0.004),ALP 高値(ハザード比:2.30,p=0.006)を挙げているが 9),腫瘍塞栓レベルIII群とレベルIV群の生存期間に有意差を認めていない。

遠隔転移のある場合に,腎摘除術および腫瘍塞栓摘除術が予後を改善するか否かについて,明確なエビデンスは存在しない。転移を有する腎癌に対する薬物療法の中心は分子標的薬に移行しており,遠隔転移を有する患者に対するcytoreductive nephrectomy と分子標的治療の有用性を検討するRCT が現在行われている。それらのRCT では下大静脈腫瘍塞栓を有する患者も含まれており,分子標的治療単独群と腎摘除術および腫瘍塞栓摘除術に分子標的治療を組み合わせた群の予後を比較検討している。

現状では,腫瘍塞栓が腎静脈内に止まっている腎癌患者において腎摘除術および腫瘍塞栓摘除術は生存率の延長が期待される。下大静脈腫瘍塞栓を有する患者においては,リンパ節転移や遠隔転移を認めない患者では腫瘍塞栓摘除術が生存率の向上に寄与すると考えられる。腫瘍塞栓摘除術には一定の治療関連死が存在するため,手術適応については患者毎に慎重に決定することが重要である。

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CQ8
転移巣に対する外科療法は推奨されるか?

推奨グレードB
転移を有する腎癌患者のうち,performance status が良好で,無病期間が長く,完全切除が可能な場合等,注意深く選択された患者において転移巣切除術は生存率の向上が期待される。

背景・目的

転移を有する腎癌に対して分子標的薬が導入され,サイトカイン療法時代に比較して予後の改善が得られている。しかし,薬物療法単独でcomplete response(CR)が得られることは稀であり,選択された患者において転移巣切除術や放射線療法等の局所療法を組み合わせることで疼痛を含めた病状がコントロールされ,長期生存が得られている。ここでは,これまでの報告から,転移巣切除術が実際に予後改善につながっているか,その予後因子は何かについて明らかにすることを目的とする。

解説

転移を有する腎癌患者に対する転移巣の外科療法の有用性を検討した均質なRCT の報告はない。

2014 年に報告されたシステマティックレビューにおいて,転移巣の完全切除術は一貫して全生存や癌特異的生存における有益性が示されている。転移巣切除術は,脳および骨転移を除いたほとんどの臓器に対して最も適切な局所療法である。しかしレビューされた研究の質は低く,報告されている生存の有益性は転移巣切除術によるものか,転移巣切除術を可能とする腫瘍の生物学的特性による選択バイアスか,あるいは両者の影響かは明らかにされていないため,その解釈には注意が必要である 1)

転移巣切除術の予後不良因子として,T3 以上,Fuhrman grade 3 以上,肺外転移,無病期間12 カ月以下,多臓器転移を挙げている報告がある 2)

本邦においては,転移巣切除術が施行された556 例の成績が後ろ向きに検討され,全生存期間の中央値は80.1 カ月と長く,転移巣切除術の意義が示唆されている。予後不良因子として不完全切除術,脳転移,CRP高値,high grade が挙げられている 3)

複数の転移を認める場合においても完全切除が重要な因子で,Mayo Clinic からの報告では転移巣の完全切除術が施行された患者の癌特異的生存期間の中央値が4.8 年,5 年癌特異的生存率が49.4%に対し,不完全切除群ではそれぞれ1.3 年,19%であった 4)

転移臓器別にみると,肺転移では最近の報告において完全切除患者における5 年全生存率が45〜61.5%に対して不完全切除患者では0〜20%である 5-8)。予後因子として完全切除,転移巣の大きさや個数,無病期間,リンパ節転移が報告されている。Meimarakis らは,これらの因子を用いた予後リスク分類(Munich score)により予後が層別化されることを報告している 7)。肺転移切除術の術後死亡率は0〜2.1%で,安全に施行可能である。

骨転移は,単発の場合,骨転移切除術後の5年全生存率は35〜44%であるが 9-11),多発骨転移の場合の5年全生存率は10〜11%,他臓器に転移がある場合の5年全生存率は6〜8% と不良である 10)。予後因子として単発,骨転移単独,異時発生,腎摘除術の既往,病的骨折がないこと,切除断端陰性,手術既往,放射線療法の既往 1213)等が報告されている。骨転移の中で,脊椎転移に関して267 例の多数例を後ろ向きに調査した報告があり,5 年全生存率7.8%,全生存期間中央値11.3 カ月で,Fuhrman grade 4,術前神経学的異常,脊椎外転移を認める場合には予後が不良であった 14)

肝転移切除術後の5 年生存率は38〜62%と報告されているが 15-17),肝転移は腎癌の予後不良因子と考えられており,実際に手術適応になる患者は1%以下であったという報告がある 16)。Staehler らは肝転移切除術を施行した群と拒否した群を比較し,手術群の5 年全生存率は62.2%,全生存期間中央値142 カ月に対し,非手術群ではそれぞれ29.3%,27 カ月であった 18)。Hatzaras らは43 例に肝転移切除術を施行し,3 年全生存率は62.1%,術後合併症は23.3%,死亡率は2.3%で,以前よりも肝転移切除術の安全性は高くなっている 19)。予後因子として,無病期間,肝外転移を認めないこと,切除断端陰性が報告されている 1719)

膵転移切除術の治療成績をシステマティックレビューした報告では,5 年全生存率は切除例で72.6%,非切除例では14%であった 20)。最近の報告においても,膵転移切除例の5 年生存率は52〜88%である 21-26)。合併症の発生率は5〜48%で,膵瘻,創部感染,肺合併症等が起こりうるが,最近では手術に関連した合併症や死亡のリスクは低下している。予後因子として,膵転移巣のサイズが2.5 cm 以上,複数転移が報告されている 27)

脳転移については,単発で表在性の脳転移に対して転移巣切除術が施行され,転移巣切除術が施行された場合の生存期間の中央値が25.3 カ月で,非手術例の8.6 カ月よりも延長していたことが報告されている 28)

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CQ9
小径腎腫瘍に対する経皮的局所療法は推奨されるか?

推奨グレードC1
小径腎腫瘍に対する経皮的凍結療法(cryoablation)およびラジオ波焼灼術(RFA)等の局所療法は,高齢者,重篤な合併症を有するhigh risk 患者,手術療法を希望しない患者等に対しては推奨される。

背景・目的

近年,悪性腫瘍に対してアブレーションによる局所療法(focal therapy)の有用性が注目されている 1)。小径腎腫瘍の標準治療は腎機能温存を目的とした腎部分切除術が第一選択とされているが,高齢者,重篤な合併症をもつhigh risk 患者,手術療法を希望しない患者では,局所麻酔で施行でき腎機能の温存が可能なCT あるいはMRI ガイド下の経皮的凍結療法(cryoablation)または経皮的RFA が低侵襲治療として選択できる。

ここでは,これらの治療法の特徴および問題点を示し,腎部分切除術と比較した中・長期成績,合併症について検証する。

解説

腎癌アブレーション治療を考慮しえる対象患者は,2016 年版NCCN ガイドライン 2)では高齢あるいは健康リスクがあり手術困難なT1a 症例,2015 年版EAU ガイドライン 3)でも同様な余命の短い患者,2014 年版European Society for Medical Oncology(ESMO)ガイドライン 4)ではさらに単腎あるいは腎機能低下患者,遺伝性,多発両側性腎癌も加えた3 cm 以下の腫瘍とされている。本邦でも2002 年から手術適応がない小径腎腫瘍に対する代替治療として経皮的RFA が行われてきたが 5),2016 年9 月時点ではいまだ保険収載に至っていない。一方,凍結療法が2011 年7 月に小径腎腫瘍に保険収載され,またRFA と比較して治療範囲の視認が良好で疼痛が少ないこともあり,現在は凍結療法の方がより高頻度に施行されるようになってきている。

凍結療法は腫瘍に凍結針を刺入し,-40°C以下に急速冷凍すると細胞内液の凍結に伴い細胞内小器官や細胞膜が障害されて細胞死が起き,さらに-20°C以下に比較的緩徐に冷却すると細胞浮腫や炎症,微小血管塞栓による虚血で腫瘍の細胞死を誘導する治療法である 1)

RFA は,腫瘍内に電極を穿刺し電磁波を発生させて60°C 以上に熱し,腫瘍組織を熱凝固させる治療法である。治療効果に影響を与える因子として腫瘍径および腫瘍局在が重要で,Gervais ら 6)は3 cm 以下の腫瘍であれば100%の完全壊死が認められたのに対し,3〜5 cm では92%,5 cm 以上では25%にのみ完全壊死を認めたと報告している。最近ではmultiple-electrode switching system を用いることにより2 本ないし3 本のRFA 電極を同時に接続することが可能となり,これを用いれば腫瘍径が3 cm を超えるcentral type の腎癌であっても一度のRFA のみで82%の患者で完全壊死が得られたとの報告がある 7)

両治療法とも効果判定は造影CT または造影MRI で行い,腫瘍内に造影効果を認めれば腫瘍残存と判定し再度治療を施行する。局所に再発が疑われた場合に繰り返し治療できるのが利点であり,腎癌が多発,再発するVHL 病等,遺伝性腎癌の患者での有用性が報告されている 5)。局所再発率は経皮的RFA で2.5〜6.5% 89)に対して経皮的凍結療法では6〜13% 10-12)とやや高い傾向にあるが,両治療法とも再度施行することによりほとんどの患者で局所制御がなされている。

経皮的凍結療法の予後に関して,Georgiades ら 13)は134 例にCT ガイド下凍結療法を行い,5 年無病生存率は97%,5 年癌特異的生存率は100%であったと報告している。RFA の予後に関して,最近Ma ら 14)は健常人のT1a 症例52 例の検討で,5 年および10 年の無再発生存率はともに94.2%であり,5 年および10 年の全生存率は95.7%,91.1%であったと報告している。腎部分切除術との比較では,経皮的RFA,経皮的凍結療法ともに癌特異的生存率,無病生存率についてほぼ同等とする報告が多い 15-18)。しかし,腎部分切除術との大規模な比較試験はなく,現在のところ小径腎腫瘍の第一選択は腎部分切除術とされている。

重篤な合併症の発生率は,経皮的凍結療法は0〜7.5% 131920),経皮的RFA は0〜6% 691921)で,腎部分切除術の4〜30% 22)と比較して低いものの,腎洞近傍のcentral type や腎下極の尿管に近接した腫瘍のRFA では熱損傷による尿路狭窄・閉塞に注意が必要である 23)。施行後の腎機能に関しては,凍結療法では施行前と変わらないとの報告 24)や他のアブレーション治療や腎部分切除術と同等であるとの報告 20)があり,経皮的RFA では腎部分切除術よりも低下が軽度であるとされている 172125)

その他のアブレーション治療による局所療法としてマイクロ波凝固療法(MCT),high-intensity focused ultrasound(HIFU),不可逆的電気穿孔術(irreversible electroporation; IRE)等があるが,いずれもエビデンスは十分に確立されていない 26-29)

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CQ10
腎癌転移巣に対する放射線療法は推奨されるか?

推奨グレードB
腎癌転移巣に対する放射線療法は推奨されるか?
推奨グレードB
腎癌の骨転移に対する放射線療法により,疼痛とQOL の改善を認める。

背景・目的

悪性腫瘍の脳転移,骨転移等の転移巣に対する放射線療法は,緩和医療の一環としてしばしば実施される。腎癌は放射線抵抗性とされているが,緩和目的としては通常分割法でも十分に効果があり,実地臨床でもしばしば施行される。一方,定位放射線療法は脳転移だけでなく近年は骨転移に対しても用いられはじめている。

ここでは,腎癌の転移巣に対する放射線療法に関して解説する。

解説

Wowra らやShuto らは,腎癌の脳転移に対するガンマナイフの有用性を報告している 12)。Wowra らは,75 例の腎癌脳転移患者を対象に合計350 病変に対してガンマナイフを施行し,外来通院で繰り返し行うことが可能で,72%の患者に神経学的な症状の改善が認められ,腎癌脳転移の局所制御率は95%と良好であったと報告している。また,Shuto らは69 例の腎癌脳転移患者を対象に合計 314 病変に対してガンマナイフを施行し,腎癌脳転移の局所制御率は 82.6%と良好であったとしている。このことから,ガンマナイフは腎癌の脳転移に対する治療戦略の1 つと考えられる。また,Yamamoto らは腎癌脳転移の36 例を含む1,194 例の脳転移患者に対してガンマナイフ単独治療を施行し,5〜10 個の脳転移患者に対する治療効果を2〜4 個の脳転移患者と比較し,全生存率に差を認めていない 3)

腎癌の脳転移に対するX 線による定位放射線療法の有用性も報告されている 45)。患者数は少ないものの,Hara らは18 例の腎癌脳転移患者に対して,Samlowski らは32 例の腎癌脳転移患者71 病変に対して定位放射線療法を施行し,局所制御は良好であったと報告している。一方,腎癌脳転移に対する全脳照射に関して,Wrónski らは119 例に対して,Cannady らは46 例に対して施行したが,いずれも明らかな有用性は認められなかったとしている 67)。これらのことから,全脳照射と比較してガンマナイフ単独治療や定位放射線療法は低侵襲性であり有害事象の頻度も低いため,転移巣の数が10 個以内の脳転移患者に対しては治療選択肢となる可能性が高いと考えられる。

一方,分子標的治療との併用については106 例の脳脊髄転移患者(脳転移51 例,脊髄転移55 例)に対するガンマナイフおよびチロシンキナーゼ阻害薬(ソラフェニブあるいはスニチニブ)の併用療法の成績を検討し,15 カ月後の局所制御率は98%と良好であったとしている 8)。ほかにも脳転移に対する分子標的治療と放射線療法の併用については有効であったとの報告が散見されるが,エビデンスレベルは不十分であり今後の研究が待たれる。

骨転移に対する外照射では,一般的に8 Gy/1 分割,20Gy/5 分割,24Gy/6 分割,30Gy/10 分割等が用いられる。50〜80%に鎮痛が認められ,3 分の1 程度で完全除痛が得られる。8 Gy/1 分割は再照射率は高いものの,いずれの分割法でも初期効果としての鎮痛効果は変わらないとされている 9)。腎癌についてもほぼ同様であり,Lee らは腎癌骨転移31 例に 30Gy/10 分割の放射線療法を実施し,83%で除痛が認められ,33%で QOL が改善したと報告している 10)。またRades らは,87 例の腎癌骨転移による脊椎圧迫患者の放射線療法について多施設間の後ろ向き調査を行い,8 Gy/1 分割,20Gy/5 分割の短期照射法と30 Gy/10 分割以上の長期照射法で効果に差を認めなかったとしている 11)

しかし,腎癌の生物学的特性から1回線量を増加させれば効果が上がると考えられており,近年の高精度照射技術の発展に伴い海外では腎癌骨転移に対して定位放射線療法も行われるようになってきている。Taunkらのレビューによれば,15〜24Gy/1 分割,24〜30 Gy/2〜3 分割等の大線量が用いられ,高い局所制御率が報告されている 12)。しかし,単施設内での報告が多く,エビデンスとしての確立が待たれる。

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4 全身治療

総論

1 腎癌の薬物療法

腎癌の薬物療法は,1980 年代から開始されたサイトカイン療法が長らく一般的であったが,当初その根拠となるエビデンスはレベルの低いものであった。インターフェロン(IFN)-α に関しては2 つの無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)により,女性ホルモン療法あるいはビンブラスチンと比較して全生存期間の延長効果が認められたこともあり 12),改めて標準治療とみなされたが,その奏効率は 15%前後であった。本邦における転移性腎癌患者の全生存期間の中央値は18 カ月程度と報告されており 3),欧米の結果と比較すると良好であったが,IFN-αやインターロイキン(IL)-2 による治療に進行する患者に対してはほかに有効な治療法は存在せず,その予後は極めて不良であった。

本邦で2008 年に使用可能となった血管新生阻害薬ソラフェニブ 4)は,当初サイトカイン無効例に対して使用され,臨床的有用性が示された。しかし,一次治療としての有用性はIFN-αとの比較で明らかでなかった 5)。一方,一次治療でスニチニブはIFN-αとのRCT により無増悪生存期間の延長が認められ 6),新しい標準治療薬として認められた。また,ソラフェニブ,スニチニブおよびその両剤での治療後の患者に対してプラセボを対照としたRCT が行われ,エベロリムスが血管新生阻害薬治療後の標準治療となった 7)。欧米で施行されたMemorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)分類のpoor risk 群に準ずる患者を対象に施行されたRCT においてテムシロリムス単独療法がIFN-α,およびテムシロリムス+ IFN-αの群と比較して全生存期間の延長を認め 8),日本を含む東アジアの第II相臨床試験の結果も根拠に承認された。以上の薬剤に加えて,二次治療以降としてアキシチニブが 9),一次治療としてパゾパニブが承認され 10),現在では分子標的薬6 剤が本邦で使用可能となっている。また,これらの薬剤の本邦での有用性に関しては,日本独自または東アジアの第II相臨床試験あるいは国際試験として施行された第III相RCTに参加することにより示されている。

このように,分子標的薬が一次治療の標準治療となっているが,患者選択を行うとIL-2 の単独療法あるいはIFN-αとの併用療法でも比較的良好な結果が報告されている 1112)。また,抗腫瘍免疫反応を促進または抑制する免疫チェックポイントが存在することが明らかになり,その構成分子に対する抗体薬が開発され,その有用性が検討された。血管新生阻害による治療後の患者に対して抗PD-1 抗体であるニボルマブとエベロリムスの比較試験が行われ,腎癌に対してもニボルマブが有意な腫瘍の縮小および全生存期間の延長効果を有することが明らかとなり,本邦でも治療薬として承認された 13)。これら開発中も含めた新規の免疫療法薬にはチェックポイント分子を抑制するのみでなく促進するものもあり,総じてimmuno-oncology(I-O)drug と呼ばれる。際立った特徴として,一度効果が発現すると長期間持続するdurable response が得られる可能性が高いことが挙げられる。また,時に投与中止後も効果が継続する患者も存在する。これらのことはIL-2 療法でも経験されていたことであるし,免疫療法は患者の免疫システムが腫瘍を標的とする免疫反応を惹起し効果を発現することを考えれば驚くべきことではない。また,時に治療開始後に一時的に病勢の進行がみられてもその後効果が発現する,いわゆるpseudo-progression を認めることや,初期効果と全生存が必ずしもparallel ではない等,治療開始後も有用性の判定が既存の悪性腫瘍治療薬と共通しえないという問題点もある 14)。さらに,抗腫瘍免疫反応の増強は一方で自己免疫反応を引き起こし,immune-related AE(irAE)と呼ばれる一連の自己免疫疾患様有害事象を引き起こす。 頻度は低いものの重篤化することもあり,常に留意すべきであると考えられる 1516)。全身治療の治療薬として,分子標的薬やI-O drug に分類されないものにテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S-1)がある。本邦で開発され胃癌等に対する治療薬として承認されているが,腎癌にも有効性が示されており 17),審査情報提供検討委員会において検討が行われ,2016 年4 月より原則としてサイトカイン療法および分子標的治療が困難な場合に限り保険審査上その使用が認められることになった。

以上の薬剤は,臨床研究の結果治療薬として承認されたわけであるが,いずれの臨床研究においても問題点は存在する。まず,テムシロリムスとニボルマブの結果を除くと,いずれのRCT の結果も無増悪生存期間の延長は認めるものの全生存期間には差がないことが挙げられる。この点に関しては様々な理由が考えられるが,分子標的薬が全生存期間の延長に寄与しているのか否かという基本的な疑問が提示されることになった。分子標的薬導入以前と以後の生存の検討では,導入後に全生存期間が延長しており 18),結果としては予後は改善したといえる。ただし,それぞれの薬剤をいかに使い分けるかに関しては明らかでない点が多い。その最大の理由は,それぞれの薬剤で効果予測因子,バイオマーカーが同定されていないことである。さらに,術前および術後補助薬物療法が有用なのか否か,非淡明細胞型腎細胞癌の標準治療は何なのか等,解決されていない点も少なくない。現在も種々の研究が行われており,その成果の発表が待たれる。

研究のデザイン自体は質の高いRCT が行われたとしても,対照薬の設定の妥当性に問題が存在することがある。研究開始当初は適切な設定であっても新規に有用な治療法の登場で,結果が明らかになった際には評価に問題がある場合もある。また,臨床研究間の生存期間の単純な比較は意味をなさず,複数の薬剤の有用性の相対的な比較は容易ではない。また,同一の薬剤でも逐次療法のどのセッティングで用いられるかにより当然結果は異なってくる。承認後,投与法の工夫によってより高い効果が得られることもある 19)ので,対照薬の投与法も正確な有用性の比較には大切な点である。このように,薬物療法についての本ガイドラインはあくまで“ガイドライン”であり,実診療での個々の患者に対する最適な薬剤や投与法の選択は,腫瘍の進展度や併存症等の患者背景や腫瘍の性状等に基づいて慎重かつ詳細に検討し,決定する必要があることはいうまでもない。

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CQ1
腎癌に対する術前補助薬物療法は推奨されるか?

推奨グレードC1
腎癌の原発巣,転移巣に対する外科療法を想定した分子標的薬による術前補助療法は,安全かつ有効である可能性はある。

背景・目的

腎癌の外科療法を前提とした術前補助薬物療法について議論する場合,①使用薬剤(免疫療法薬,分子標的薬),②適応(局所限局性・局所進行,転移性),③エンドポイント(腫瘍長径縮小率,切除性の向上,無増悪生存,癌特異的生存,全生存,安全性)等,様々な論点が存在する。術前補助薬物療法の有無あるいは使用する薬剤に関するRCT はなく,論点を均質化した高いレベルのエビデンスは存在しない。また,論点が多様であるため複数の前向き,後ろ向き研究のシステマティックレビューも難しい。したがって,高い推奨グレードを担保するようなエビデンスの構築は現時点では不可能であるが,ここではできる限り上記の論点について整理しながら,現在の全身治療の主役である分子標的薬を中心に術前補助薬物療法の有用性,安全性について検証する。

解説

1 原発巣の腫瘍長径縮小率

原発巣の腫瘍長径縮小率(以下,縮小率)については,使用薬剤,適応を問わず多くの研究で報告されている 1-12)。使用薬剤により,また同一薬剤であっても報告により幅があるものの,原発巣の縮小率,縮小の絶対値の中央値(あるいは平均値),原発巣におけるResponse Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)による奏効率(以下,奏効率)は,それぞれ9.6〜28.3%,0.8〜3.1cm,0〜45.8%である 1-12)。縮小率の大きな報告例を以下に挙げる。

Zhang らによると,ソラフェニブを平均96 日投与後に原発巣切除を施行した18 例(淡明細胞型腎細胞癌15 例)において平均縮小率は20.5%,奏効率は22.2%であったが,progressive disease(PD)も1 例に認めている 10)。Rini らは,スニチニブを中央値3 サイクル投与した28 例35 腫瘍(淡明細胞型腎細胞癌22 例27 腫瘍)において縮小率中央値は22%(淡明細胞型腎細胞癌では28%)であり,奏効率は37%(淡明細胞型腎細胞癌では48%)と報告している 7)。Karam らは,アキシチニブを最長12 週間投与したT3a 淡明細胞型腎細胞癌24 例における縮小率中央値は28.3%,奏効率は45.8%で,PD は認めなかったと報告している 8)。Rini らによると,パゾパニブを中央値8 週間投与した25 例(淡明細胞型腎細胞癌24 例)における縮小率中央値は26%,奏効率は36%で,PD は認めなかった 11)

2 局所限局性・局所進行患者に対する術前補助薬物療法

局所限局性・局所進行患者に対する術前補助薬物療法は,原発巣の縮小や下大静脈腫瘍塞栓のレベルダウンによる切除性の向上をエンドポイントとした報告が多い。また,転移・再発患者に対する術前補助薬物療法は,腫瘍量減量腎摘除術(cytoreductive nephrectomy;CRN)の適応の判断や転移・再発巣の完全切除を目的としたものとなっている 71113-18)

1.腎摘除術あるいは腎部分切除術の可否

原発巣に対する手術が不可と判断される理由は報告により様々であるが,画一的な客観的基準は示されておらず,術前補助薬物療法なしでも手術可能であったかどうかは不明瞭であることに留意する必要がある。

Thomas らは,腎摘除術不可と判断された19 例にスニチニブを中央値2 サイクル投与した結果,4 例(21%)で腎摘除術が可能になったと報告している。3 例は原発巣の縮小により腫瘍切除が容易になったM0 症例,1 例は転移巣の縮小によりCRN の適応と判断されたM1 症例であった 13)。Bex らは,CRN が不可あるいは不適当と判断されたM1 症例10 例に対してスニチニブを投与した結果,原発巣と転移巣の縮小によって3 例(30%)でCRN を施行できたと報告している 14)。Rini らは,原発巣切除不可と判断された28 例中13 例において中央値4 サイクルのスニチニブ投与後に根治的腎摘除術(4 例)あるいは腎部分切除術(9 例) を遂行できたとしている。そのうち10 例がM0 症例であった 7)。Rini らは,腎部分切除術が不可と判断された13 例において,8〜16 週間のパゾパニブ投与後に6 例(46%)で腎部分切除術が施行可能になったとしている 11)

2.下大静脈腫瘍塞栓のレベルダウン

下大静脈腫瘍塞栓を有する腎癌への術前補助薬物療法の有用性を示唆する症例報告は散見されるが,10 例以上をまとめた研究の結果から判断すると,下大静脈腫瘍塞栓に対する術前補助薬物療法の有用性は限定的である。

Cost らは,25 例(淡明細胞型腎細胞癌19 例,M1 症例22 例)に対する薬物療法(中央値2 サイクル,使用薬剤:スニチニブ12 例,ベバシズマブ9 例,テムシロリムス3 例,ソラフェニブ1 例)を施行し,9 例に腎摘除術および腫瘍塞栓摘除術を行っている。腫瘍塞栓のレベルダウンを認めたのはスニチニブの3 例(12%)で,そのうち術式変更可能と考えられたのはレベルIVからIIIとなった1 例(4%)のみであった。また,1 例(4%)でレベルIIからIII への上昇を認めている 15)。Bigot らは,14 例の淡明細胞型腎細胞癌(M1 症例5 例)に対する 術前補助薬物療法(中央値2 サイクル,使用薬剤:スニチニブ11 例,ソラフェニブ3 例)の結果について報告している。腫瘍塞栓のレベルダウンを認めたのはレベルIIからIになった1 例(7%)のみで,1例(7%)でレベルIIIからIVへの上昇を認めている 16)

3.転移・再発巣の完全切除

転移・再発巣の完全切除により進行腎癌の予後が改善する可能性があるため,転移・再発巣に対しても外科療法を想定した薬物療法を行った研究が存在する。

Karam らは,転移・再発例22 例(淡明細胞型腎細胞癌15 例)に対して分子標的治療後に転移巣切除術を行った。転移巣切除前の評価では,partial response(PR)4 例,stable disease (SD)11 例,PD 4 例であった。術後中央値42 週で11 例に再発を認め,術後中央値2年で21 例が生存していた。9 例で術後補助薬物療法も併用されている 17)。Brehmer らは,局所療法だけでは制御不能と判断された転移・再発例34 例(淡明細胞型腎細胞癌32 例)に対して薬物療法(スニチニブ30 例)を行った。29 例(85.3%)で何らかの局所療法が施行され,無病生存期間,全生存期間の中央値が12 カ月,67 カ月であった。25 例(73.5%)で転移・再発巣完全切除が施行され,平均35.6 カ月の薬物療法中止期間を得たと報告している 18)

3 分子標的薬による術前補助療法

分子標的薬を用いた術前補助薬物療法を行った場合,腫瘍縮小に伴う線維化による癒着および出血量の増加,血管新生阻害による創治癒遅延が懸念されているため,薬剤の半減期を考慮した術前の休薬期間に留意する必要がある。

Jonasch らによると,ベバシズマブによる術前補助療法では20.9%に創哆開あるいは創治癒遅延を認め,ヒストリカル対照群の2%よりも高率だった 1)。Cowey らによると,ソラフェニブによる術前補助療法後の手術成績はヒストリカル対照群と変わらず,創哆開,創治癒遅延,出血過多は認めなかった 2)。Powles らは,スニチニブによる術前補助療法後,創治癒遅延を13%に認めた。線維化は3 サイクル後の腎摘除術施行時には顕著であったと報告している 19)。Karam らは,アキシチニブによる術前補助療法においては術中合併症や異常出血は認めず,術後創表層哆開を4.2%に認めたと報告している 8)。Rini らは,パゾパニブによる術前補助療法後の手術が施行された25 例において創感染を8%に認めたものの,筋膜哆開はなかったとしている。また,腎部分切除患者20 例では5 例に尿漏が生じたが,ステント留置が必要となったのは1例のみであった 11)

4 免疫療法薬による術前補助療法

免疫療法薬による術前補助療法については,研究自体が少ない。

Bex らは,転移性腎癌に対してIFN-αにより転移巣がPR またはSD と評価された場合にCRN を施行した後の成績を報告している。8 週間の治療により,転移巣は16 例中3 例で PR,5 例でSD であったためCRN が施行された。術後IFN-αによる維持療法により2 例がcomplete response(CR)となっている 20)。Shinoharaらは,31 例の転移性腎癌に対してIFN-α単独あるいは併用療法を先行したところ,11 例(35%)がPR と判定されたと報告している。原発巣の平均縮小率は18.2%で,原発巣と転移巣の縮小率は有意に相関していた。転移巣の進行を認めなかった17 例に腎摘除術が施行され,生存期間中央値は42 カ月であった。これは転移巣の進行した14例の7カ月と比べ有意に良好であった 21)。Klatteらは,Stage I〜IV の腎癌116 例を無作為化せずに術前にIL-2 を投与するか否かの2群に振り分けたところ,術前投与群は非投与群と比較して癌特異的生存,無増悪生存とも有意に良好であったと報告している 22)

以上,適切な適応による患者選択を前提とすれば,分子標的薬による術前補助療法の腫瘍縮小効果や切除性の向上は十分に期待できるものの,無増悪生存,癌特異的生存,全生存等,予後改善につながるかどうかのエビデンスが確立されておらず,現在行われているRCT の結果が待たれる。また,切除性の向上についての画一的な判断基準および標準的な治療プロトコールが存在しないこと,確実に効果を保証する薬剤が存在しないこと,薬剤の効果を予測する信頼性の高いマーカーが欠如していること等,課題も多い。したがって,術前補助薬物療法を行うにあたっては,そのリスクとベネフィットについて医療者と患者が十分に理解したうえで行う必要があり,分子標的薬の適応が根治的切除不能または転移性の腎癌に限られていることにも留意が必要である。

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CQ2
腎癌に対する根治的腎摘除術後の再発予防のために補助薬物療法は推奨されるか?

推奨グレードC2
術後再発予防のための補助薬物療法は現時点では保険適用外であり,無再発生存期間および全生存期間の延長効果に一定の見解はなく,重篤な有害事象の報告もあるため,推奨されない。

背景・目的

腎癌に対して根治的腎摘除術を施行した後,一定の割合で再発を認めるが,腎癌における再発リスクの評価は十分には確立されておらず,再発リスクの高い患者群が必ずしも明確ではない。また転移性腎癌に対する薬物療法の有効性に関しては多くのエビデンスが示されているが,根治的腎摘除術の術後補助薬物療法としての有効性は明らかではない。ここでは,腎癌に対する根治的腎摘除術後の再発予防における補助薬物療法の有用性について検証する。

解説

術後補助薬物療法におけるIFN-αの有用性を検討したRCT では生存率の改善を認めず,一方ではインフルエンザ症状や肝機能障害等の重篤な有害事象がみられたと報告されている 1)。また,IL-2 を使用した研究(単独またはIFN-α併用)でも予後の改善は認めなかった。これらサイトカイン療法に関するシステマティックレビューによれば,治療薬群はプラセボ群との比較で無再発生存期間(ハザード比:1.18,p=0.23),全生存期間(ハザード比:1.13,p=0.48)ともに有意差を認めず,重篤な有害事象も報告されていることから,術後補助薬物療法としてのサイトカイン療法は推奨されない 2)。また,IFN-αおよびIL-2 にフルオロウラシル(5-FU)を併用した研究においても,予後の改善は認められていない 34)

自家腫瘍ワクチンによる術後補助療法では,有意に5 年無増悪生存率の改善がみられた報告があるが(77.4% vs 67.8%,p=0.0204)5),無作為化後の脱落例が多く適応基準を満たしていない患者やプロトコール違反により除外された患者が多かったため,適正な解釈が困難である 6)

分子標的薬による術後補助療法に関しては,2 つのRCT の結果が報告されている。ASSURE 試験は,1,943 例のpT1b・Fuhrman grade 3〜4,pT2 以上あるいはpN+の患者をスニチニブ,ソラフェニブ,プラセボに無作為に割り付けたものである。この研究では,治療薬群はプラセボ群と比較し無再発生存期間(スニチニブ群…ハザード比:1.02,p=0.8038;ソラフェニブ群…ハザード比:0.97,p=0.7184),全生存期間(スニチニブ群…ハザード比:1.17,p=0.1762;ソラフェニブ群…ハザード比:0.98,p=0.8577)ともに有意差を認めず,さらにはGrade 3 以上の有害事象がスニチニブ群の63%,ソラフェニブ群の71%にみられた 7)。また,S-TRAC 試験は615 例のhigh risk 淡明細胞型腎細胞癌患者をスニチニブ,プラセボに無作為に割り付けし,1 年間投与したものである。この研究ではスニチニブ群はプラセボ群と比較して無再発生存期間の延長を認めたものの(6.8 年 vs 5.6 年,ハザード比:0.76,p=0.03),患者背景がhigh risk 患者であり,スニチニブによるGrade 3 以上の有害事象が有意に多く認められ,全生存期間においては2群間に有意差を認めなかった(ハザード比:1.01,p=0.94)8)

根治的腎摘除術後の再発予防のための補助薬物療法に関して,ATLAS 試験 9)(アキシチニブ vs プラセボ),PROTECT 試験 10)(パゾパニブ vs プラセボ)の結果が報告された。主要エンドポイントである無病生存期間に関して,ATLAS 試験(ハザード比:0.87,95%CI:0.66〜1.15,p=0.32),PROTECT 試験(ハザード比:0.86,95%CI:0.70〜1.06,p=0.16)で延長効果を認めなかった。術後再発予防としての分子標的薬の補助薬物療法は,予後延長効果が検証されず,一定の有害事象もあるため推奨されない。その他のRCT としては,SORCE 試験(ソラフェニブ vs プラセボ),EVEREST 試験(エベロリムス vs プラセボ)の2つが現在進行中である11)

他の分子標的薬については,炭酸脱水素酵素(CA)IXに対するキメラ型抗体である girentuximab(WX-G250)を使用したARISER 試験が行われている。淡明細胞型腎細胞癌において,von Hippel-Lindau(VHL)遺伝子変異によるCAIX の発現亢進は予後と関連しており,CA IXは腫瘍特異的抗原と考えられている 612)。この研究では無再発生存期間に有意差はみられなかったが(ハザード比:0.97,p=0.74)312),サブグループ解析においてCA IXの高発現患者で無再発生存期間の有意な延長が報告されている。

ホルモン療法(プロゲステロン製剤),化学療法(テガフール・ウラシル),サリドマイドによる術後補助療法は,予後改善を認めなかった 7)

参考文献

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CQ3
進行腎癌に対する一次分子標的治療は何が推奨されるか?

推奨グレードB
IMDC 分類 favorable risk の淡明細胞型腎細胞癌については,スニチニブ,パゾパニブが推奨される。
推奨グレードB
IMDC 分類intermediate risk,poor risk の淡明細胞型腎細胞癌については,カボザンチニブが推奨される。
推奨グレードC1
IMDC 分類intermediate risk の淡明細胞型腎細胞癌に対して,免疫チェックポイント阻害薬やカボザンチニブが使用しにくい状況ではスニチニブ,パゾパニブが推奨される。
推奨グレードC1
IMDC 分類poor risk の淡明細胞型腎細胞癌に対して,免疫チェックポイント阻害薬やカボザンチニブが使用しにくい状況ではスニチニブ,テムシロリムスが推奨される。

背景・目的

2016 年9 月の時点で本邦において腎癌に対して保険承認されている分子標的薬は,ソラフェニブ,スニチニブ,アキシチニブ,パゾパニブ,エベロリムス,テムシロリムスの合計6 剤である。ここでは,このうち一次治療として推奨される薬剤について検証する。

解説

根治的腎摘除術後,未治療の転移性腎癌患者においてスニチニブ50 mg/日4 週投与2 週休薬とIFN-α(皮下注900 万単位週3 回)を比較する無作為化盲目的第III相試験が行われた。750 例の淡明細胞型腎細胞癌で,大部分がfavorable〜intermediate risk であった。無増悪生存期間の中央値は11 カ月 vs 5 カ月(ハザード比:0.42,p<0.001)とスニチニブ群で優れていた。PR 以上の治療効果もスニチニブ群が47%,IFN-α群は12%で,QOL に関してもスニチニブ群が有意に良好であった(いずれもp<0.001)。全生存期間中央値は中間解析ではスニチニブ群が有意に延長していたが,最終解析ではスニチニブ群が26.4 カ月,IFN-α群は21.8 カ月で有意差はなく(p=0.051),クロスオーバーの患者を除いた場合はスニチニブ群が26.4 カ月,IFN-α群は20.0 カ月とスニチニブ群で有意に良好であった(p=0.036)12)。本邦でも腎癌患者に対するスニチニブの成績が報告されており 34),第II相試験においては奏効率が47%,全生存期間は一次治療33.1 カ月,二次治療32.5 カ月であった 3)。未治療の進行または転移性腎癌(淡明細胞型腎細胞癌を含む組織型)において,イピリムマブとニボルマブの併用療法(イピリムマブ1mg/kg およびニボルマブ3mg/kg を3週間間隔で計4回投与後,ニボルマブ3 mg/kg を2週間間隔投与)とスニチニブ単独療法(50mg/日 4週投与2週休薬)を比較する第Ⅲ相試験(CheckMate 214)が行われた5)。全体では547 例がイピリムマブとニボルマブの併用療法,535 例がスニチニブ単独療法を受けた。そのうちInternational Metastatic Renal Cell Carcinoma Database Consortium(IMDC)分類 favorable risk 群に属する249 例 の解析(探索的 エンドポイント)では,125 例がイピリムマブとニボルマブの併用療法,124 例がスニチニブ単独療法を受けた。18 カ月全生存率はイピリムマブ+ニボルマブ併用群で88%,スニチニブ単独群で93%であり,有意差は認められなかった(ハザード比:1.45,99.8%CI:0.51〜4.12,p=0.27)。しかし,奏効率はイピリムマブ+ニボルマブ併用群の29%に対しスニチニブ単独群で52%と有意に高く(p 0.001),無増悪生存期間中央値もイピリムマブ+ニボルマブ併用群の15.3 カ月に対しスニチニブ単独群では25.1 カ月と有意に延長していた(ハザード比:2.18,99.1%CI:1.29〜3.68,p<0.001)。完全奏効率についてはイピリムマブ+ニボルマブ併用群で11%,スニチニブ単独群で6%であった。

パゾパニブは,転移性淡明細胞型腎細胞癌患者を対象とした前向き無作為化第III相試験のサブグループ解析で,未治療患者においてはパゾパニブ群はプラセボ群と比較して有意な無増悪生存期間の延長を認めた(11.1 カ月 vs 2.8 カ月,ハザード比:0.40,p<0.0001)6)が,全生存期間の有意な延長は認められなかった 7)。さらに,未治療の淡明細胞型腎細胞癌患者を対象とした前向き無作為化第III相試験(VEG108844)および第II相試験(VEG113078)を統合し,1,110 例を解析したスニチニブに対する非劣性試験において,無増悪生存期間中央値はスニチニブ群9.5 カ月,パゾパニブ群8.4 カ月,全生存期間中央値はスニチニブ群29.1 カ月,パゾパニブ群28.3 カ月で,パゾパニブのスニチニブに対する非劣性が証明された(ハザード比:1.047)8)。また,パゾパニブとスニチニブに対する患者の嗜好を比較した第III相試験では,QOL および疲労感の点からパゾパニブの方がスニチニブよりも忍容性が高く,患者嗜好が高いことが示された 9)

ソラフェニブは,サイトカイン療法抵抗性腎癌患者903 例における第III相試験(TARGET)が行われ,ソラフェニブ(400 mg 1 日2 回)がプラセボに比較して有意に無増悪生存期間を延長させた 10)。未治療患者での成績は,無作為化第II相試験においてIFN-α(900 万単位 週3 回)に比較して無増悪生存期間が5.7 カ月 vs 5.6 カ月と差がなかったが,QOL は良好であった 11)。本邦においては,市販後全例調査でソラフェニブの有効性および安全性は示されているが 1213),一次治療としてはスニチニブやパゾパニブが使用困難な患者に対して主に使用されている。また,未治療の転移性腎癌患者365 例をソラフェニブ→スニチニブ群とスニチニブ→ソラフェニブ群の逐次療法のいずれかに割り付ける無作為化第III相試験(SWITCH)の結果,ソラフェニブ→スニチニブ群の総無増悪生存期間(無作為化から二次治療中の進行あるいは死亡が確認されるまでの期間)における優越性は示されず,全生存期間および一次治療の無増悪生存期間とも両群間に有意差を認めなかった 14)

アキシチニブの効果が高血圧の認められた患者において良好であるという報告があることから,未治療の転移性腎癌患者213 例にアキシチニブ5 mg 1 日2 回投与後,150/90 mmHg 以上の血圧上昇のない患者に7 mg → 10 mg 1 日2 回に増量する群と増量しない群に割り付ける無作為化第II相試験が行われた 15)。112 例が無作為化され,奏効率は全体で48%,無作為化患者では54% vs 34%(p=0.019)と有意差が認められた。無増悪生存期間は全体で14.6 カ月,無作為化患者では14.5 カ月 vs 15.7カ月(p=0.24)であった。さらに未治療の転移性淡明細胞型腎細胞癌患者288 例をアキシチニブ5 mg 1 日2 回とソラフェニブ400 mg 1 日2 回 に2:1 に割り付ける無作為化第III相試験が行われた 16)。主要エンドポイントは無増悪生存期間で,アキシチニブ群10.1カ月vsソラフェニブ群6.5 カ月(ハザード比:0.77,95%CI: 0.56〜1.05)であったが,有意差は認められなかった。Performance status(PS)0または腎摘除術後の患者では有意にアキシチニブ群の方が延長していた(ハザード比:0.64,0.67)。奏効率は32% vs 15%でアキシチニブ群の無増悪生存期間の方が良好であった。

テムシロリムスは,626 例のMSKCC 分類のpoor risk に準ずる未治療腎癌患者に対して,テムシロリムス群(25 mg/日 週1 回),IFN-α群(最大1,800 万単位 週3 回)および併用群(テムシロリムス15 mg/日 週1 回,IFN-α 600 万単位 週3 回)の3 群に無作為に割り付け,比較検討が行われた 17)。全生存期間中央値はテムシロリムス群が10.9 カ月,IFN-α群が7.3 カ月で,テムシロリムス群が良好であった(p=0.0069)。しかし,IFN-αとテムシロリムスの併用による優位性は認められなかった。日本人20 例を含むアジア人82 例における国際共同第II相試験では,clinical benefit(CR+PR+SD≧24 週)47.6%,奏効率11%,腫瘍増殖停止期間7.3 カ月と報告された 18)。スニチニブの第III相試験では48 例のpoor risk 患者が含まれており,テムシロリムスと同様の無増悪生存期間(4 カ月)が報告されている 1)

未治療の転移性腎癌患者471 例をエベロリムス→スニチニブとスニチニブ→エベロリムスの逐次療法のいずれかに割り付ける無作為化第II相試験(RECORD-3)の結果が報告された。一次治療無増悪生存期間は,エベロリムス群7.9 カ月 vs スニチニブ群10.7 カ月(ハザード比:1.4,95%CI:1.2〜1.8)でエベロリムスの非劣性は証明されなかった。それぞれ45%,43% が二次治療に入り,合わせた無増悪生存期間はエベロリムス→スニチニブ群21.1 カ月 vs スニチニブ→エベロリムス群25.8 カ月であったが,有意差は認めなかった(ハザード比:1.3,95%CI:0.9〜1.7)。全生存期間についても,22.4 カ月 vs 32.0 カ月であり有意差を認めなかった(ハザード比:1.2,95% CI:0.9〜1.6)19)

IMDC 分類intermediate/poor risk の未治療淡明細胞型腎細胞癌のコンポーネントを含む進行または転移性腎癌に対し,vascular endothelial growth factor receptor(VEGFR)2,MET,AXL 等を阻害するマルチキナーゼ阻害薬であるカボザンチニブ(60mg/日 連日投与)とスニチニブ(50mg/日 4週投与2週休薬)を比較する第Ⅱ相試験(CABOSUN)が行われた20)。全体で157 例が登録され,そのうち79 例がカボザンチニブ群,78 例がスニチニブ群に割り付けられた。主要エンドポイントである主治医判定による無増悪生存期間中央値は,スニチニブ群5.6 カ月に対してカボザンチニブ群8.2 カ月(ハザード比:0.66,95%CI:0.46~0.95,p=0.012)と有意に延長していた。また,副次的エンドポイントの1つである奏効率はスニチニブ群12%に比べてカボザンチニブ群33%と良好であった。本試験では,独立画像評価委員会によるレトロスペクティブな評価も行われた21)。主要エンドポイントである無増悪生存期間中央値は,カボザンチニブ群8.6 カ月とスニチニブ群5.3 カ月に比べて有意に良好であった(ハザード比:0.48,95%CI:0.31~0.74,p=0.0008)。

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CQ4
二次薬物療法としての分子標的治療は何が推奨されるか?

推奨グレードA
サイトカイン療法あるいは分子標的治療に抵抗性となった進行腎癌に対するアキシチニブを用いた分子標的治療は無増悪生存期間の延長が期待でき,推奨される。
推奨グレードC1
サイトカイン療法あるいは分子標的治療に抵抗性となった進行腎癌に対して,アキシチニブが使用しにくい状況ではソラフェニブも推奨される。
推奨グレードB
サイトカイン療法に抵抗性となった進行腎癌に対するスニチニブあるいはパゾパニブを用いた分子標的治療は無増悪生存期間の延長が期待でき,推奨される。
推奨グレードC1
チロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性となった進行腎癌に対して,カボザンチニブが使用しにくい状況では,エベロリムスを用いた分子標的治療は無増悪生存期間の延長が期待でき,推奨される。
推奨グレードA
チロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性となった進行腎癌に対するカボザンチニブを用いた分子標的治療は無増悪生存期間および全生存期間の延長が期待でき,推奨される。

背景・目的

ここでは,サイトカインや分子標的薬による一次治療に抵抗性となった進行腎癌に対する二次治療において,推奨される分子標的薬について検証する。

解説

チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor;TKI)あるいはサイトカインを用いた一次治療に対して抵抗性となった転移性腎癌患者723 例を対象に,二次治療としてアキシチニブとソラフェニブを比較した前向き無作為化第III相試験(AXIS 試験)において,無増悪生存期間はアキシチニブ群6.7 カ月であり,ソラフェニブ群の4.7 カ月に比較して有意な延長が認められた。前治療がサイトカインである群における無増悪生存期間はアキシチニブ群12.1 カ月,ソラフェニブ群6.5 カ月,前治療がスニチニブである群における無増悪生存期間はアキシチニブ群4.8 カ月,ソラフェニブ群3.4 カ月で,いずれも有意な延長を示した 1)。しかし,本試験における全生存期間はアキシチニブ群20.1 カ月,ソラフェニブ群19.2 カ月で,有意差は認められなかった 2)。また,この試験ではアキシチニブ群25 例,ソラフェニブ群29 例の日本人が含まれており,サブグループ解析を行った結果,日本人におけるアキシチニブ群の無増悪生存期間は12.1 カ月でソラフェニブ群の4.9 カ月と比べて有意に延長しており,奏効率もそれぞれ52.0%および3.4%でアキシチニブ群の方が有意に良好であった 3)。さらに,アキシチニブの有害事象のうち日本人において高頻度に認められたものは高血圧,発声障害,手足症候群,甲状腺機能低下症,口内炎等で,これらは対症療法やアキシチニブの減量・休薬により管理可能であり,忍容性は良好であった 4)。ただし,本邦における二次治療以降の第II相臨床試験では,アキシチニブの治療前にタンパク尿が存在する患者ではネフローゼ症候群を呈する可能性が高くなり,投与中止の原因となる場合があることが明らかにされている 5)

903 例を対象にプラセボを対照とした前向きRCT(TARGET 試験)におけるサイトカイン療法歴ありの患者群の無増悪生存期間は,ソラフェニブ群5.5 カ月 vs プラセボ群2.7 カ月(ハザード比:0.54)で,ソラフェニブ群で有意に延長していた 6)。また,スニチニブに抵抗性となった患者に対する二次治療として,テムシロリムスを対照とした前向きRCT(INTORSECT 試験)で,ソラフェニブ群の無増悪生存期間はテムシロリムス群との差を認めなかった(3.9 カ月 vs 4.3 カ月)が,全生存期間は有意な延長を示した(16.6 カ月 vs 12.3 カ月)7)。腎摘除術後で1 レジメン以上のサイトカイン療法に抵抗性となった129 例の日本人患者を対象としたソラフェニブの第II相試験において,RECIST による腫瘍評価でPR 14.7%,SD 72.1%,無増悪生存期間の中央値224 日,全生存期間の中央値288 日で,忍容性も良好であった 8)

IFN-αやIL-2 等のサイトカイン療法に抵抗性となった転移性腎癌患者に対する二次治療としてのスニチニブの有効性,安全性について検討した海外第II相試験の結果,スニチニブの有効性が証明された 910)。本邦における第II相試験では二次治療としてスニチニブを投与された患者26 例の奏効率は53.8%,無増悪生存期間10.6 カ月,全生存期間32.5 カ月と,欧米よりも良好な成績であった 11)

プラセボ対照のパゾパニブの局所進行または転移性腎癌患者に対する第III相試験のサブグループ解析では,202 例のサイトカイン既治療腎癌患者における無増悪生存期間はパゾパニブ群で7.4 カ月とプラセボ群の4.2 カ月に比して有意に延長していた 12)。また,スニチニブ,ベバシズマブを用いた一次治療に抵抗性となった転移性腎癌患者55 例を対象とした前向き第II相試験において,パゾパニブ投与開始8週後の奏効率は27%,SD は49%,無増悪生存期間中央値は7.5 カ月,24 カ月全生存率は43%であった 13)

ソラフェニブまたはスニチニブまたはその両方に抵抗性となった患者に対する二次治療以降の治療として,410 例をエベロリムス群とプラセボ群に2:1 に分けた前向きRCT(RECORD-1 試験)において,エベロリムス群の無増悪生存期間は4.0 カ月でプラセボ群の1.9 カ月と比較して有意に延長していた(ハザード比:0.3,p<0.0001)14)

カボザンチニブはRET,MET,およびVEGFR2 等の阻害薬であり,前治療のVEGFR-TKI に抵抗性となった658 例を対象とした第Ⅲ相試験(METEOR)において有効性が検証された 15)。対象は淡明細胞型腎細胞癌を有する18 歳以上の進行性あるいは転移性腎癌を有する患者で,主要エンドポイントは無増悪生存率,副次的エンドポイントは全生存率および奏効率であった。約70%は1剤のVEGFR-TKI 投与後,約30%は2剤以上のVEGFR-TKI 投与後であった。無増悪生存期間は無作為化されたはじめの375 例が解析され,カボザンチニブ群7.4 カ月,エベロリムス群3.8 カ月と,カボザンチニブ群で有意に延長していた(ハザード比:0.58,95%CI:0.45~0.75,p<0.001)15)。その後の658 例全例での解析でも,両群において初期解析と同様の無増悪生存期間が得られた(ハザード比:0.51,95%CI:0.41~0.62,p<0.0001)16)。全生存期間については,最終解析にてカボザンチニブ群21.4 カ月,エベロリムス群16.5 カ月とカボザンチニブ群で有意に延長していた(ハザード比:0.66,95%CI:0.53~0.83,p=0.00026)16)。奏効率については,全症例の解析にてカボザンチニブ群17%,エベロリムス群3%と,カボザンチニブ群で有意に高かった(p<0.0001)16)。探索的研究ではあるが,1剤のVEGFR-TKI 投与後の患者に限定した解析においても,カボザンチニブ群において全生存期間(ハザード比:0.65,95%CI:0.50~0.85),無増悪生存期間(ハザード比:0.52,95%CI:0.41~0.66)ともに延長していた 16)

lenvatinib(E7080)は,VEGFR,fibroblast growth factor receptor(FGFR),RET,c-KIT,platelet-derived growth factor receptor(PDGFR)β等を阻害するマルチキナーゼ阻害薬である。VEGF 標的治療後に進行した淡明細胞型腎細胞癌に対してエベロリムス10 mg/日,lenvatinib 24 mg/日,lenvatinib+エベロリムス併用(18 mg/日/5 mg/日)を比較する153 例の無作為化第II相試験が行われた。無増悪生存期間は,5.5 カ月 vs 7.4 カ月 vs 14.6 カ月(ハザード比:0.61,0.40)とエベロリムス単独療法に対して有意にlenvatinib 単独療法,併用療法で延長した。さらに,全生存期間も併用療法はエベロリムス単独療法に比較して15.4 カ月 vs 25.5 カ月と有意に延長した(ハザード比:0.51)17)。本邦でも腎癌におけるlenvatinib+エベロリムス併用の第I相試験が行われている。

参考文献

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CQ5
進行腎癌に対する三次治療以降の分子標的治療は何が推奨されるか?

推奨グレードC1
進行淡明細胞型腎細胞癌の三次治療として,前治療が2種類のVEGFR-TKI の場合,カボザンチニブが使用しにくい状況ではエベロリムスが推奨される。
推奨グレードC1
進行淡明細胞型腎細胞癌の三次治療として,前治療が1種類のVEGFR-TKI と1種類のmTOR 阻害薬であればソラフェニブ等のVEGFR-TKI が推奨される。
推奨グレードB
進行淡明細胞型腎細胞癌に対する三次治療として,前治療に少なくとも1種類のVEGFR-TKI を使用している患者に対してカボザンチニブが推奨される。

背景・目的

ここでは,進行腎癌に対する三次治療以降において推奨される分子標的薬について検証する。

解説

現在までに施行された進行腎癌に対する三次治療としての分子標的薬の前向き臨床試験は,数少なくRECORD-1 試験 12),GOLD 試験 3)およびMETEOR 試験45)に限られる。

RECORD-1 第III相臨床試験は,VEGFR-TKI 治療後に進行した腎癌を対象とし,経口mammalian target of rapamycin(mTOR)阻害薬であるエベロリムスの有用性を検討したものである。スニチニブ,ソラフェニブまたは両者の治療後に進行した進行腎癌患者416 例を,エベロリムス群277 例,プラセボ群139 例に2:1に割り当てた結果,無増悪生存期間(中央値,以下同様)がプラセボ群1.9 カ月に対してエベロリムス群4.9 カ月と有意な延長を認めた(ハザード比:0.33,p<0.001)1)。予定されていたサブグループ解析 2)で,前治療として2 種類のVEGFR-TKI 治療を受けていた108 例においても,無増悪生存期間がプラセボ群1.8 カ月に対してエベロリムス群4.0 カ月と有意な延長が認められ(ハザード比:0.32,p<0.001),三次治療としてのエベロリムスの有用性が示された。この結果,European Society for Medical Oncology(ESMO)ガイドライン 6)では2 種類のVEGFR-TKI 治療後の淡明細胞型腎細胞癌に対する三次治療としてエベロリムスは推奨されている。

METEOR 第Ⅲ相臨床試験において,前治療のVEGFR-TKI に抵抗性となった658 例を対象としたカボザンチニブの有効性が検証された 45)。約70%が1剤のVEGFR-TKI 投与後,約30%が2剤以上のVEGFR-TKI 投与後であった。最終解析において,無増悪生存期間はカボザンチニブ群7.4 カ月,エベロリムス群3.8 カ月とカボザンチニブ群で有意に延長していた(ハザード比:0.51,95%CI:0.41~0.62,p<0.0001)5)。全生存期間についても,カボザンチニブ群21.4 カ月,エベロリムス群16.5 カ月とカボザンチニブ群で有意に延長していた(ハザード比:0.66,95%CI:0.53~0.83,p=0.00026)5)。探索的研究ではあるが,2剤以上のVEGFR-TKI 投与後の群(三次治療以降の群)における解析にて,カボザンチニブ群において全生存期間(ハザード比:0.73,95%CI:0.48~1.10),無増悪生存期間(ハザード比:0.51,95%CI:0.35~0.74)が延長している傾向があった 5)

また欧米,オーストラリア,日本,韓国等の25 施設で,三次治療として分子標的治療を施行した1,012 例を国際的に集計した後ろ向き解析 7)ではエベロリムスが三次治療として最も多く使用されており(27.5%),エベロリムスの無増悪生存期間は3.7 カ月と報告されている。

dovitinib は,VEGFR およびFGFR の両者を阻害する経口のTKI である。GOLD 第III相臨床試験 3)は,前治療として1 種類のVEGF を標的とした薬剤(VEGFR-TKI またはベバシズマブ)と1 種類のmTOR 阻害薬を投与された淡明細胞型腎細胞癌患者に対する三次治療としてのdovitinib の有用性をソラフェニブを対照として検討したものである。284 例がdovitinib 群,286 例がソラフェニブ群に割り付けられた結果,無増悪生存期間がdovitinib 群で3.7 カ月,ソラフェニブ群で3.6 カ月となり(ハザード比:0.86,p=0.063),いずれも三次治療として比較的長い無増悪生存期間が得られたが,dovitinib の優位性は示されなかった。この結果から三次治療としてのソラフェニブの有用性が評価されることになり,ESMO ガイドライン 6)では各1 種類のVEGFR-TKI およびmTOR 阻害薬治療後の淡明細胞型腎細胞癌に対する三次治療としてソラフェニブが推奨されている。

三次治療として,ソラフェニブ以外の他のVEGFR-TKI の有効性も報告されている 7-9)。例えば,前述の国際的な大規模な集計では,三次治療全体として61.1%の患者でSD 以上の有効性が認められ,無増悪生存期間は3.9 カ月,全生存期間は12.4 カ月と,三次治療としての分子標的薬の有効性を報告している 7)。後ろ向き解析で背景因子に差があるものの,各薬剤間にも有効性に差が認められず,無増悪生存期間はソラフェニブで3.5 カ月,スニチニブで 4.9 カ月,アキシチニブで5.9 カ月,パゾパニブで4.6 カ月と報告されている。

なお,これらの結果は主に淡明細胞型腎細胞癌に関するものであり,現時点で非淡明細胞型腎細胞癌においても三次治療としての分子標的薬が推奨されるかは明らかになっていない 6)

以上,進行淡明細胞型腎細胞癌の三次治療として分子標的薬は有効であり,患者の全身状態等を考慮したうえで試みる価値があると考えられる。

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Motzer RJ, Escudier B, Oudard S, et al; RECORD-1 Study Group. Phase 3 trial of everolimus for metastatic renal cell carcinoma: final results and analysis of prognostic factors. Cancer. 2010; 116: 4256-65. (II)
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CQ6
進行腎癌に対する免疫療法は推奨されるか?

推奨グレードA
IMDC 分類intermediate risk,poor risk の淡明細胞型腎細胞癌に対するイピリムマブとニボルマブの併用療法は,一次治療として推奨される。
推奨グレードA
進行腎癌に対するペムブロリズマブとアキシチニブの併用療法は,一次治療として推奨される。
推奨グレードB
進行腎癌に対するアベルマブとアキシチニブの併用療法は,一次治療として推奨される。
推奨グレードA
進行腎癌に対するニボルマブは,血管新生阻害薬による治療後の二次治療(以降)として推奨される。
推奨グレードC1
進行腎癌に対するサイトカインを用いた一次治療は,患者を選択して施行することが推奨される。

背景・目的

ここでは,進行腎癌に対する推奨される免疫療法について検証する。

解説

進行腎癌に対するサイトカイン単独療法はIFN-α,IL-2 を用いて一般的に行われてきており,分子標的薬の出現以前には進行腎癌治療の中心を担っていた。2 つのRCT でIFN-α 単独療法の有用性と安全性が示されている 12)。欧米でのIFN-α,IL-2 の併用療法とそれぞれの単独療法との比較試験では異なる結果を示しており,併用の優位性は示されていないが 34),いずれもサイトカイン療法としてまとめると奏効率は5〜27%であった。本邦からは多施設共同の後ろ向き試験ではあるが,IFN-αを中心としたサイトカイン療法が予後改善につながっており,特に肺転移患者に対してはIFN-αおよびIL-2 併用療法を含むサイトカイン療法の成績が良好であると報告されている 5-7)。また,選択された患者ではIL-2 単独療法の有用性が示されているが 8),海外のIL-2 療法は高用量であり日本での用量に比して10 倍以上である 9)

サイトカインと分子標的薬の併用療法に関しては,2 つのRCT でIFN-αとベバシズマブの併用療法でIFN-α単独療法に比して奏効率と無増悪生存の改善が認められており,全生存は改善傾向がみられたものの有意差は得られていない 1011)。ほかには本邦から一次治療における第II相試験で有効性を示す報告 12)はあるが,現状では一定の見解は得られていない。

新たな免疫療法として,免疫チェックポイント阻害薬がメラノーマや非小細胞肺癌では腎癌に先んじて保険適用となり,他の癌種でも現在開発が進んでいる。また,免疫チェックポイントには免疫反応を促進する分子が存在し,その分子に対するagonistic antibody も開発 が進んでいることから,現在ではこれら新規免疫療法薬は総称してI-O drug と称されることが一般的になっている。腎癌に対する初のI-O drug として,ニボルマブが2016 年8 月に本邦でも保険適用となった。その基になったのが,CheckMate 025 試験である 13)。血管新生阻害薬による治療を受けた進行腎癌の二次治療として,ニボルマブとエベロリムスの比較第III相試験が行われた。無増悪生存期間の中央値はニボルマブ群4.6 カ月 vs エベロリムス群4.4 カ月(ハザード比:0.88,p=0.11)と差がなかったものの,全生存期間の中央値はニボルマブ群25.0 カ月 vs エベロリムス群19.6 カ月(ハザード比:0.73,p=0.002)とニボルマブ群で 有意に延長していた。また,Grade 3 以上の有害事象についてもニボルマブ群19%vsエベロリムス群37%とニボルマブ群で少なかった。

一次治療において,未治療の淡明細胞型腎細胞癌のコンポーネントを含む進行腎癌に対し,イピリムマブとニボルマブの併用療法とスニチニブを比較する国際第Ⅲ相試験(CheckMate214)が行われた 14)。本試験ではすべてのIMDC 分類の患者が登録されたが,主要エンドポイントはIMDC 分類intermediate/poor risk 群における奏効率,無増悪生存期間,全生存期間であった。奏効率はイピリムマブ+ニボルマブ併用群42%,スニチニブ群27%で,有意にイピリムマブ+ニボルマブ併用群で高く(p<0.001),さらに完全奏効率はスニチニブ群1%に対してイピリムマブ+ニボルマブ併用群で9%であったことが特記すべきことである。また無増悪生存期間中央値は,イピリムマブ+ニボルマブ併用群11.6 カ月,スニチニブ群8.4 カ月(p=0.03) で,有意水準を0.009 と設定していたために統計学的に有意差は認められなかった。全生存期間中央値は,イピリムマブ+ニボルマブ併用群が未達,スニチニブ群26.0 カ月で有意にイピリムマブ+ニボルマブ併用群で全生存期間が延長された(p<0.001)ことから,European Association of Urology(EAU) ガイドライン,National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインではすでにIMDC 分類intermediate/poor risk 群に対してイピリムマブとニボルマブの併用療法が推奨されている。有害事象に関しては,イピリムマブ+ニボルマブ併用群でGrade 3/4 が45.7%の患者に起こっており,これは CheckMate 025 試験 13)のニボルマブ単独療法でのGrade 3/4有害事象発生率19%に比べて高く,35%の患者で プレドニゾロン40 mg/日以上の高用量のステロイド治療が必要であったことから,イピリムマブとニボルマブの併用療法を行う場合には有害事象の発現に関してこれまで以上の注意深い経過観察と対応が必要である。

化学療法歴のない根治切除不能または転移性の腎癌(淡明細胞型腎細胞癌を含む組織型)患者においてペムブロリズマブとアキシチニブの併用療法(ペムブロリズマブ200mg 3週間隔点滴静注とアキシチニブ5mg1日2回経口投与)とスニチニブ単独療法(50mg/日 4週投与2週休薬)を比較する国際第Ⅲ相試験(KEYNOTE-426)が行われた 15)。全体では432 例がペムブロリズマブとアキシチニブの併用療法を,429 例がスニチニブ単独療法を受けた。本試験ではすべてのIMDC 分類の患者が登録され,主要エンドポイントは全患者における全生存期間と無増悪生存期間であった。1回目の中間解析(中央値12.8 カ月のフォローアップ)において,ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用群ではスニチニブ単独群と比べて有意に全生存期間が延長し(HR:0.53,95%CI:0.38~0.74),無増悪生存期間も有意に延長した(HR:0.69,95%CI:0.57~0.84)。また,客観的奏効率においても併用群の成績が有意に優れていた(59.3% vs 35.7%,p<0.001)。一方で層別解析の結果からは,IMDC 分類favorable risk の患者群での中間解析における全生存期間における統計学的な優位性は示されなかった(HR:0.64,95%CI:0.24~1.68)。なお,有害事象については併用群でわずかにGrade 3 以上の有害事象が多かったが(76% vs 71%)全体では両群でほぼ同等であり,外国人患者と比較して日本人患者で重篤な有害事象の発現率が明らかに高い傾向は認められなかった。一方で,ペムブロリズマブとアキシチニブの併用療法による有害事象において,外国人と比べて日本人患者にGrade 3 以上の肝機能異常が多くみられた(1例;0.3% vs 6例;13.6%)ことから,この点に注意が必要である。

同様に,化学療法歴のない根治切除不能または転移性の腎癌(淡明細胞型腎細胞癌を含む組織型)患者において,アベルマブとアキシチニブの併用療法(アベルマブ1回10mg/kg(体重)2週間隔点滴静注とアキシチニブ5mg1日2回経口投与)とスニチニブ単独療法(50mg/日 4週投与2週休薬)を比較する国際第Ⅲ相試験(JAVELIN Renal 101)が行われた 16)。本試験でもすべてのIMDC 分類の患者が登録され,442 例がアベルマブとアキシチニブの併用療法,444 例がスニチニブ単独療法を受けた。主要エンドポイントはPD-L1 陽性患者(アベルマブ+アキシチニブ併用群270 例,スニチニブ単独療法群290 例)における無増悪生存期間と全生存期間であった。アベルマブ+アキシチニブ併用群中央値9.9 カ月,スニチニブ単独群中央値8.4 カ月のフォローアップにおいて,PD-L1 陽性患者での無増悪生存期間が,スニチニブ単独群に比べてアベルマブ+アキシチニブ併用群で有意に延長していた(HR:0.61,95%CI:0.47~0.79)。また,PD-L1 陽性患者での客観的奏効率においても併用群の成績が有意に優れていた(55% vs 26%)。なお,全患者集団においてもスニチニブ単独群に比べてアベルマブ+アキシチニブ併用群で有意に無増悪生存期間が延長していた(HR:0.69,95%CI:0.56~0.84)。しかしながら全生存期間については,PD-L1 陽性患者集団,全患者集団ともイベント発生数が少なく,治療群間に有意な差は認めていない。なお,Grade 3 以上の有害事象については併用群と単独群において同等であった(いずれも71%)。

進行腎癌治療におけるサイトカイン単独療法は,肺転移のみの患者等,患者を選んで施行することが推奨されるが,分子標的薬の有効性はCQ3 にて示されているとおりであり,患者の状態に応じて選択すべきである。前回の『腎癌診療ガイドライン2011 年版』以降に新たなサイトカイン単独療法のRCT は施行されていないが,一次治療において複数の分子標的薬はIFN-α単独療法に対して奏効率と無増悪生存期間において優位性が示されているため,推奨グレードは引き下げた。海外のガイドラインと比較すると,National Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインでは淡明細胞型腎細胞癌に対する高用量のIL-2 療法が一次治療として推奨されているが,本邦で保険適用されているのは低用量のみであり,いずれの治療法もエビデンスレベルは低い。サイトカインと分子標的薬,抗癌剤の併用療法は,エビデンスレベルが高いものはIFN-αとベバシズマブの併用のみであったが,現在はESMO やNCCN のガイドラインでも一次治療として推奨されておらず,本邦でも腎癌に保険適応はされてない。

I-O drug については,淡明細胞型腎細胞癌のコンポーネントを含む進行腎癌に対するRCT で,血管新生阻害薬後の二次以降の治療としてニボルマブの有用性が示された後,一次治療においてイピリムマブとニボルマブの併用療法の有用性が示された。一次治療においてイピリムマブとニボルマブの併用療法はIMDC 分類intermediate poor risk 群に有効性が示されたが,intermediate risk 群 の患者はCheckMate 214 試験 14)においても約60%を占め,幅広い患者が含まれるため,免疫関連有害事象(irAE)の頻度が高いことも考慮すると,すべてのintermediate risk 群の患者にイピリムマブとニボルマブの併用療法が適応になるかは,今後実臨床で検討していく必要があると考えられる。また,上述したように一次治療としてI-O drug と血管新生阻害薬の併用療法の2つのRCT において有効性と安全性が示された 1617)。これらの結果を受けて,NCCN ガイドライン(Version2. 2020)ではIMDC 分類のすべてのリスクにおけるPreferred regimen としてペムブロリズマブとアキシチニブの併用療法が記載された。Favorable risk 群では,血管新生阻害薬の単独治療に加えてペムブロリズマブとアキシチニブの併用療法は新たな治療選択肢となっている。一方で,アベルマブとアキシチニブの併用療法は全生存期間での優位性が示されていないことから,NCCN ガイドラインにおいてOther recommended option との記載に止まっている。なお,intermediate/poor risk 群では,イピリムマブとニボルマブの併用療法との使い分けが問題となる。直接比較のデータは存在しないが,イピリムマブとニボルマブの併用療法(intention to treat 解析)における完全寛解率/病勢進行率が11%/22%であるのに対して 18),ペムブロリズマブとアキシチニブの併用療法における完全寛解率/病勢進行率は5.8%/10.9%,アベルマブとアキシチニブの併用療法における完全寛解率/病勢進行率は4.4%/11.1%と報告されている。このような両者の治療の特徴を十分に考慮し,薬物治療を選択する必要がある。なお,ペムブロリズマブとアキシチニブの併用療法およびアベルマブとアキシチニブの併用療法については,最終解析結果とともに長期経過観察のデータが待たれる。それぞれの優劣については,今後実臨床で検討していく課題であると考えられる。二次治療に関しては,CheckMate 025 試験 13)では,ニボルマブはエベロリムスと比較されているが,二次治療として最も汎用されているアキシチニブとの比較ができておらず,他の分子標的薬も含めて優劣は判断できない。現在,効果が予測できるバイオマーカーの開発が望まれている。 CheckMate 214 試験 14)では,PD-L1 が高発現している患者ではイピリムマブ+ニボルマブ併用群の方がスニチニブ群よりも顕著に全生存期間が延長したが,PD-L1 の発現に関わらずイピリムマブとニボルマブの併用療法は効果を認めており,PD-L1 の発現が明らかな治療効果予測因子とはいえないのが現状である。

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CQ7
非淡明細胞型腎細胞癌に対する薬物療法は何が推奨されるか?

推奨グレードC1
スニチニブを中心とした血管新生阻害薬が推奨される。
推奨グレードC1
テムシロリムスは血管新生阻害薬が使用しにくい状況では推奨される。

背景・目的

2004 年のWHO 分類 1)によると,腎実質上皮性腫瘍には,淡明細胞型腎細胞癌,乳頭状腎細胞癌,嫌色素性腎細胞癌,集合管癌,Xp11 転座型腎細胞癌等,異なった12 の組織型があり,さらに2013 年のInternational Society of Urological Pathology(ISUP)分類 2)では新たに5 つの組織型が追加された。淡明細胞型腎細胞癌の占める割合は 80〜85%と圧倒的に多く,転移性腎癌に対する薬物療法の第III相試験は淡明細胞型腎細胞癌を中心に行われ,ほとんどの試験で非淡明細胞型腎細胞癌は除外されている。非淡明細胞型腎細胞癌のみの第III相試験は,その希少性から一定期間内での患者集積は困難である。また,非淡明細胞型腎細胞癌発生の責任遺伝子は各組織型で異なっているため,有効な薬剤が組織型毎に異なる可能性が高い。ここでは,非淡明細胞型腎細胞癌に対して推奨される薬物療法について検証する。

解説

1 淡明細胞型腎細胞癌と非淡明細胞型腎細胞癌に対する分子標的薬の有効性の比較

淡明細胞型腎細胞癌と非淡明細胞型腎細胞癌に対する薬物療法における有効性を比較したシステマティックレビューおよびメタアナリシス 3)によると,分子標的薬の非淡明細胞型腎細胞癌に対する奏効率,無増悪生存期間,全生存期間はともに淡明細胞型腎細胞癌に対して有意に不良である。また,メタ回帰分析では乳頭状腎細胞癌患者の割合と分子標的薬の奏効率は負の相関を示した。すなわち,現状の分子標的薬の有効性は淡明細胞型腎細胞癌と比較すると非淡明細胞型腎細胞癌で低く,特に乳頭状腎細胞癌でその傾向が強い。

2 治療薬別にみた淡明細胞型腎細胞癌と非淡明細胞型腎細胞癌に対する有効性の比較

テムシロリムス,IFN-α,その両者を比較した第III相試験(ARCC)4)の後ろ向きサブグループ解析において組織型別に全生存期間が比較され 5),非淡明細胞型腎細胞癌におけるテムシロリムス群の全生存期間はIFN-α群に比して良好であった。この結果がmTOR 阻害薬であるテムシロリムスの非淡明細胞型腎細胞癌に対する有用性の根拠となったが,対照がIFN-αである点に注意が必要である。

その後,非淡明細胞型腎細胞癌に対する有用性の比較が分子標的薬間でなされてきた。スニチニブ不応後の二次治療において,テムシロリムスとソラフェニブを比較した第III相試験(INTORSECT)6)における探索的サブグループ解析では,非淡明細胞型腎細胞癌の全生存期間はソラフェニブ群で良好であった。未治療転移性腎癌において,エベロリムス→スニチニブ群とスニチニブ→エベロリムス群を比較する逐次療法の第II相試験(RECORD-3)7)では,事後解析の結果,一次治療のエベロリムス vs スニチニブにおける非淡明細胞型腎細胞癌の無増悪生存期間はスニチニブ群で良好であった。また,未治療転移性非淡明細胞型腎細胞癌に対するスニチニブとエベロリムスの有効性を比較した2つの無作為化第II相比較試験が施行された。ASPEN 試験 8)では無増悪生存期間は有意にスニチニブ群で良好であった。探索的サブグループ解析において,乳頭状腎細胞癌,分類不能癌でスニチニブ群が,嫌色素性腎細胞癌でエベロリムス群が良好な傾向を示した。ESPN 試験では 9),無増悪生存期間,全生存期間ともにスニチニブ群で良好な傾向を認めたが有意差を認めなかった。

以上,非淡明細胞型腎細胞癌に対する薬物療法において,mTOR 阻害薬はIFN-αよりも良好な結果を残したが,スニチニブを中心とする血管新生阻害薬はそのmTOR 阻害薬よりも良好な結果を残している。

3 非淡明細胞型腎細胞癌の組織型別の成績

組織型別に薬物療法の成績を検討した報告はあるものの,患者数は十分ではない。乳頭状腎細胞癌に対する第II相試験が最も多く,Xp11 転座型腎細胞癌,集合管癌に対する成績も報告されている。

乳頭状腎細胞癌に対する第II相試験において,epidermal growth factor receptor(EGFR)-TKI のerlotinib が一定の効果を認めている 10)。スニチニブには非淡明細胞型腎細胞癌に対する抗腫瘍活性は認めるものの,その効果は淡明細胞型腎細胞癌に対する場合と比較すると不良である 11-13)。エベロリムスの成績も不良である 14)。MET/VEGFR2 阻害薬であるforetinib は,他の薬剤と比較すると成績は良好であった。MET の生殖細胞変異は奏効率に対する効果予測因子であったが,その他のMET 経路の活性化とは相関がなかった 15)。Xp11 転座型腎細胞癌に対する薬物療法の後ろ向き解析では,スニチニブの成績は比較的良好であったが 1617),サイトカインの成績は不良であった 16)。集合管癌に対しては,ゲムシタビン+シスプラチン(GC 療法)18)やGC 療法にベバシズマブを加えたレジメンの有効性が報告されている 19)。ソラフェニブ,スニチニブ,テムシロリムス等の分子標的薬も,患者によっては効果が期待できる可能性がある 20)

以上,非淡明細胞型腎細胞癌という範疇には上記のごとく異なった多数の組織型が含まれる。そのうち多くを占めるのは乳頭状腎細胞癌であるが,それでもその頻度は少なく,エビデンスレベルの高い報告はない。特に本邦の非淡明細胞型腎細胞癌に対する薬物療法に関するエビデンスは極端に少ない。前述のとおり,mTOR 阻害薬よりもスニチニブを中心とした血管新生阻害薬の成績の方が良好な傾向を示しているため,実臨床の場においても淡明細胞型腎細胞癌に準じた治療を行っているのが現状である。しかし,多様性に富んだ非淡明細胞型腎細胞癌においては,各組織型に特異的な治療法のエビデンスの集積や新たな治療法の開発が必要と考えられる。

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5 病理

総論

腎癌の病理診断は主に外科的に切除された検体を対象とするが,最近では針生検検体も増加している。針生検は,①小径腎腫瘍の監視療法の可否,②切除不能腫瘍の補助療法のレジメン選択を目的として組織型の決定のために行われる 1-5)

1993 年に淡明細胞型腎細胞癌の癌抑制遺伝子であるvon Hippel-Lindau(VHL)遺伝子が単離されて以来,腎癌の分子生物学的研究は進歩し,組織型も細分化された。2016 年のWHO 分類(WHO 2016 年分類)6)では主に形態学的特徴によって命名された淡明細胞型,乳頭状,嫌色素性,後天性囊胞腎随伴,淡明細胞乳頭状腎細胞癌,粘液管状紡錘細胞癌,集合管癌の各組織型のほか,MiTファミリー転座型,遺伝性平滑筋腫症腎細胞癌症候群(hereditary leiomyomatosis and renal cell carcinoma;HLRCC)随伴,コハク酸脱水素酵素(succinate dehydrogenase;SDH)遺伝子欠損性腎細胞癌といった遺伝子異常によって定義される組織型が導入された 6)。本邦で使用されている分類はWHO 2004 年分類 7)に準拠した『腎癌取扱い規約(第4 版)』8)で,WHO 2016 年分類 6)とはかい離があるため,研究成果や診療成績を国際的に発信する際には注意が求められる。

今回のWHO 分類の改訂では,WHO 2004 年分類での多房囊胞性腎細胞癌は予後が極めて良好で,“neoplasm”という表記に変更され,“multilocular cystic renal cell neoplasm of low malignant potential”となった。長期透析を受けた腎に発生する組織型として,後天性囊胞腎随伴腎細胞癌と淡明細胞乳頭状腎細胞癌が加わった。透析腎には淡明細胞型腎細胞癌や乳頭状腎細胞癌等,非透析腎にみられる組織型に加えてこうした特殊な組織型がみられることが明記された。Xp11転座型腎細胞癌はWHO 2004 年分類,『腎癌取扱い規約』改訂時に分類に加えられているが,WHO 2016 年分類ではt(6;11)転座型腎細胞癌とあわせてMiT ファミリー転座型腎細胞癌という分類項目になった。転座の証明が確定診断には必須であり,そのうえで多数例を収集しての臨床病理学的検討が今後の課題である。しかし,染色体転座の遺伝学的検索は保険収載されておらず,転座関連遺伝子産物であるTFE3,TFEB タンパクに対する免疫組織化学染色(以下,免疫染色)が診断に用いられている。粘液管状紡錘細胞癌はWHO 2004 年分類の説明では低悪性腫瘍とされていたが,予後不良患者の報告があり低悪性であるとの記載は除かれた。この他,SDH 遺伝子欠損性腎細胞癌,HLRCC 随伴腎細胞癌が加えられた。両者は明らかな遺伝子異常を基盤とした組織型であるが,遺伝子検査は保険収載されていない。当面は免疫染色で患者を収集し,インフォームドコンセントを得たうえで可能な施設で遺伝子解析を行うことになると思われる。

病理組織学的な予後因子としては組織型,組織学的異型度(以下,核異型度),壊死,肉腫様変化,静脈侵襲の有無等が挙げられる 910)。腎癌は組織型によって大きく予後が異なる。集合管癌 11),HLRCC 随伴腎細胞癌 12)は予後不良であり,淡明細胞乳頭状腎細胞癌は予後良好である 13)。粘液管状紡錘細胞癌は当初は予後良好とされていたが予後不良例の報告が続き,前述のように組織型の記載から“low grade”の語句が除かれた 14)。核異型度は重要な予後因子であるが,異なる組織型に対して横断的に用いて予後を比較するのは困難である。汎用されている核異型度分類は本邦の『腎癌取扱い規約』の3 段階分類 8)およびFuhrman grade の4 段階分類 15)である。腫瘍細胞核の大小を,前者では正常尿細管核,後者では10,15,20 μm を基準としている。前者では構成成分の多寡に基づき不等号表記,後者では最も高い領域の核異型度を記載する。WHO 2016 年分類では,新たに核小体の大きさを指標とした核異型度分類(WHO/International Society of Urological Pathology(ISUP)分類)が加えられた 1617)。核小体が倍率400 倍で不明瞭;400 倍では観察されるが100 倍では観察されない;100 倍で好酸性明瞭な核小体が観察される;大型で奇怪な核を有する,類肉腫変化やラブドイド成分を伴う,との基準に従ってGrade 1〜4 に分類され,最高Gradeのものを記載する。この新しい核異型度分類は淡明細胞型および乳頭状腎細胞癌に限定して用いられ,他の組織型には適用しないこととされている。このほか,乳頭状腎細胞癌は組織学的特徴により1 型,2 型に分類されている 18)。前者は単層,小型,低異型度の腫瘍細胞からなり,後者は偽重層,大型,高異型度の腫瘍細胞からなるものである。嫌色素性腎細胞癌は一般に核は大型,不整形で,Fuhrman grade では3/4 に相当する患者が多く 19),他の組織型で用いられている核異型度分類は適用できない。そのため,嫌色素性腎細胞癌独自の核異型度分類が提唱されている 20)。予後予測への有用性は今後検証が求められる。紡錘細胞やラブドイド細胞への変化を含む肉腫様変化は予後不良因子として確立されているが,肉腫様変化の比率と予後との関連は十分に検証されていない。

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CQ1
病理組織学的な予後因子としてどのようなものが推奨されるか?

組織型,組織学的異型度(核異型度),肉腫様変化(紡錘細胞,ラブドイド細胞),壊死,脈管侵襲の有無が主要な病理組織学的予後因子である。

背景・目的

腎癌は組織型により悪性度が異なるため,正確な組織型診断が重要である。また,淡明細胞型腎細胞癌および乳頭状腎細胞癌では核異型度が重要な予後因子である。さらに,いずれの組織型においても紡錘細胞およびラブドイド細胞を特徴とする肉腫様変化の有無は予後不良因子である。なお,淡明細胞型腎細胞癌では壊死の有無も予後と関連するので,病理診断報告書に記載すべき項目である。

解説

腎癌の主な組織型である淡明細胞型腎細胞癌,乳頭状腎細胞癌,嫌色素性腎細胞癌におけるそれぞれの予後を比較した検討では,淡明細胞型腎細胞癌は乳頭状腎細胞癌や嫌色素性腎細胞癌に比べて有意に予後不良であるという結果が示されている 1-4)。また,乳頭状腎細胞癌は組織形態の違いにより1 型と2 型に分類されており,1 型は2 型に比べ予後良好とされている 56)。Xp11 転座型腎細胞癌は当初予後良好な組織型と考えられていたが,現在は乳頭状腎細胞癌と比べ予後不良であると考えられている 7)

腎癌の核異型度分類は従来の『腎癌取扱い規約』で使用されてきた3 段階分類とFuhrman grade の4 段階分類が現在併用されているが,国際的なデータ比較の際にはFuhrman grade が一般的に用いられてきた 8)。Fuhrman grade と予後は相関を示し,核異型度が増しgrade が高くなるにつれて有意に予後は不良になるとされている 9-11)。近年,Fuhrman grade は診断医により意見が分かれることがあるため,WHO 2016 年分類ではWHO/ISUP grading system による核異型度分類が推奨されている。WHO/ISUP grading system は淡明細胞型腎細胞癌および乳頭状腎細胞癌において適用することになっている 12)。一方,嫌色素性腎細胞癌は本来核異型を伴う腎癌であり,核異型度と予後の関連は確立されていない 13-16)

淡明細胞型腎細胞癌では腫瘍内の壊死の程度が予後に関与すると考えられ,多くの報告がなされており,腫瘍内の壊死の有無や割合を病理組織学的に評価することが推奨される 1718)。広範な壊死がある場合は有意に予後不良であるという報告がある 1920)

肉腫様変化はすべての組織型の腎癌から発生する低分化な癌成分と考えられており,予後不良因子の1 つである 2122)。肉腫様変化をきたした成分は薬物療法に対する反応が不良であるという報告もあり 23),病理組織学的にその有無を評価することが推奨される。

核異型や壊死のほかに,Union for International Cancer Control(UICC)/TNM 分類や腫瘍の大きさを加味して評価を行うSSIGN(stage, size, grade, necrosis)score による予後予測も提唱されている 2425)。また,腫瘍内のラブドイド変化 26)や顕微鏡的静脈侵襲 27)の有無についても予後との相関が報告されている。

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CQ2
転座型腎細胞癌の診断にはどのような検査法が推奨されるか?

転座型腎細胞癌が疑われる患者では,パラフィン包埋組織切片を用いた免疫組織化学染色がスクリーニングに役立つ。
転座型腎細胞癌が疑われる患者では,パラフィン包埋組織切片を用いたbreak-apart FISH により転座の有無が判定できる。
新鮮凍結標本が保管されている転座型腎細胞癌が疑われる患者では,RT-PCR や染色体分析を用いた融合遺伝子の特定が確定診断につながる。

背景・目的

小児や若年者に好発する腎癌として,MiT ファミリー転座型腎細胞癌が知られてきた。MiTファミリーはmicrophthalmia transcription factor(MiTF),TFE3,TFEB,TFECからなる転写因子群である。MiTファミリー転座型腎細胞癌はXp11 転座型とt(6;11)転座型を含む。診断には細胞遺伝学的解析を要するが,転座に関わるタンパク質 TFE3,TFEB の免疫染色がスクリーニングに有用である。

解説

WHO 2004 年分類(WHO 分類第3 版)で,Xp11 に存在する転写因子TFE3 の転座によるXp11 転座型腎細胞癌が導入された。WHO 2016 年分類(WHO分類第4版)では,Xp11 転座型腎細胞癌にTFE3 と同じMiT ファミリー遺伝子であるTFEBの転座によるt(6;11)転座型腎細胞癌を加えてMiT ファミリー転座型腎細胞癌と分類された。

Xp11 転座型腎細胞癌は小児の腎癌の約40%,成人の腎癌の約1.5〜4.5%を占めるが,t(6;11)転座型腎細胞癌は非常に稀であり,現在報告例は約50例程度,平均発症年齢は約30 歳である 1)。TFE3 の転座パートナーとしてはASPSCR1,PRCC,SFPQ,CLTC,NONO が知られており,TFEB の転座パートナーはMALAT1(Alpha)である。小児のMiT ファミリー転座型腎細胞癌は化学療法の既往が危険因子であることが知られている 2)。臨床的にはXp11 転座型腎細胞癌はリンパ節転移の頻度が高いことが特徴である。当初,予後良好とされていたが,成人例および再発例は予後不良との報告がある。t(6;11)転座型腎細胞癌は報告患者数が少ないものの,一般に予後良好である。

病理組織学的にXp11 転座型腎細胞癌は淡明〜好酸性の細胞質を有する大型の腫瘍細胞が乳頭状〜胞巣状配列を呈して増殖し,リンパ節転移や微小石灰化を伴うことが多い。t(6;11)転座型腎細胞癌は,充実性に配列する大型腫瘍細胞と細胞外基質を取り囲む好酸性細胞質を有する小型腫瘍細胞から構成されることが特徴的である。臨床的あるいは病理学的にMiT ファミリー転座型腎細胞癌が疑われる患者では,免疫染色,break-apart FISH,RT-PCR,染色体分析等の細胞遺伝学的検索が推奨される。

①免疫染色:Xp11転座型腎細胞癌ではTFE3,t(6;11)転座型腎細胞癌ではTFEBが癌細胞の核に過剰発現するため,抗TFE3 抗体,抗TFEB 抗体を用いて免疫組織学的に検出できる 2-4)。しかし,TFE3,TFEB とも非腫瘍組織でも少ないながら発現しており,偽陽性を示すことがある。また腫瘍組織も固定や染色の条件等により偽陽性や偽陰性となる場合がある。また,MiT ファミリー分子はメラノサイトや破骨細胞等への分化に関与する転写因子であり,メラノサイトに特徴的なHMB45 抗体で認識されるメラノゾーム関連抗原やMelan A,破骨細胞でみられるcathepsin K の発現を誘導する。そのためMiTファミリー転座型腎細胞癌はメラノゾーム関連抗原(クローンHMB45),Melan A,cathepsin Kが免疫染色で陽性となることが多く,診断に役立つ 156)

②Break-apart FISH:新鮮凍結標本が保管されていない患者でも,パラフィン包埋組織切片を用いてTFE3/TFEB のbreak-apart FISH を施行することによりMiT ファミリー遺伝子の転座の有無を判定することができる 57)

③新鮮凍結標本が保管されている患者では,RT-PCR や染色体分析により融合遺伝子の特定が確定診断につながる 38)

近年,MiT ファミリー転座型腎細胞癌以外にanaplastic lymphoma kinase(ALK)遺伝子を巻き込んだ融合遺伝子を有するALK 転座型腎細胞癌が同定された 9)

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CQ3
透析腎癌を特徴づける病理学的因子としてどのようなものが推奨されるか?

透析に関連した腎癌には後天性囊胞腎随伴腎細胞癌の頻度が高く,強い好酸性の細胞質を有する腫瘍細胞の篩状あるいは微小囊胞状構築,シュウ酸カルシウム結晶の沈着を特徴とする。

背景・目的

透析腎には乳頭状腎細胞癌の頻度が高いといわれていたが 1),透析腎に特有な組織型が確立され,WHO 2016 年分類に加えられた。すなわち,後天性囊胞腎にのみ発生する後天性囊胞腎随伴腎細胞癌および淡明細胞乳頭状腎細胞癌で,透析腎に発生する腎癌にはこれらの頻度が高いことが報告されてきた 2)

解説

透析状態の腎臓の背景には,囊胞を形成しない終末腎と多発性の囊胞を形成する後天性囊胞腎の2 つのパターンがみられる。終末腎に発生する腎腫瘍には,孤立性にみられる通常の腎癌が発生する場合と,透析腎に特徴的な像を呈する腎腫瘍が発生する場合が知られている 2)。腎腫瘍は一般的に多発性に発生することが多い。

以前の研究では透析腎には乳頭状腎細胞癌の頻度が,孤立性に発生するものよりもかなり高い(48%)とされていたが 1),最近の研究では後天性囊胞腎随伴腎細胞癌として知られる腎癌が36%と最も頻度が高い 2)。肉眼的には囊胞壁から発生しているようにみえるものが多いが,囊胞とは関係なく発生するものもある。組織学的には強い好酸性を示す細胞質を有する腫瘍細胞が管状,乳頭状,管状囊胞状,充実性に増殖するが,篩状あるいは微小囊胞状構築が特徴的とされる 23)。電子顕微鏡で観察すると,細胞質内には豊富なミトコンドリアが観察される。細胞境界は不明瞭なことが多い 3)。核は腫大し,核小体も明瞭でFuhrman grade 3 相当である場合が多い 23)。間質にはシュウ酸カルシウムの沈着がみられる。シュウ酸カルシウム結晶は通常のヘマトキシリン・エオジン染色では抜けてみえるが,偏光顕微鏡観察をすると多彩な色調の偏光がみられ,診断に有用である 23)。免疫染色ではAMACR 陽性,cytokeratin 7 陰性のことが多い。透析に伴って定期的にフォローアップされる場合が多いので早期に発見されることが多く予後良好であるが,肉腫様変化 245)や横紋筋肉腫様変化 5)したものでは転移をきたすことがある。これに対して,孤立性に生じる一般的な組織型のものよりも予後が不良との報告もある 2)。後天性囊胞腎随伴腎細胞癌は後天性囊胞腎を有する患者にしか生じない 2)。また,本腫瘍は10 年以上の透析歴を有する患者に多い 6)。WHO 2016 年分類 7)にも新たな組織型として加えられたが,乳頭状腎細胞癌を随伴する患者もあり染色体異常パターンも類似しているため,両者の違いを今後さらに明らかにしていく必要がある 89)。異型を呈する囊胞が本腫瘍の前駆病変である可能性がある 10)

次に多いのが淡明細胞乳頭状腎細胞癌と呼ばれる組織型であり,透析関連腎癌の23%を占める 2)。肉眼的に境界明瞭な病変を形成し,しばしば囊胞を形成する。組織学的には淡明な細胞質を有する腫瘍細胞が主として乳頭状に増殖し,管状,腺房状,充実性に増殖することもある。核異型は乏しく,しばしば核が基底膜側から離れて位置し,横並びに配列する傾向もみられる 2)。小型であることが多く,stage も低いことが多い。免疫染色では腫瘍細胞はcytokeratin 7 陽性,CD10,AMACR 陰性である。特徴的なのは炭酸脱水素酵素IXが基底外側面にカップ型陽性像を示すことである。予後は良好であり,再発・転移の報告はない。淡明細胞乳頭状腎細胞癌は囊胞を形成しない終末腎や後天性囊胞腎にみられるが,透析歴のない健常腎でも発症するとの報告がある 211)。本組織型もWHO 2016 年分類 7)に新たに加えられた。

一般的な組織像を呈する組織型には淡明細胞型腎細胞癌(18%),乳頭状腎細胞癌(15%),嫌色素性腎細胞癌(8%)等がある 2)。粘液管状紡錘細胞癌やXp11 転座型腎細胞癌が発生したという報告もある 6)

しかし,本邦からは欧米とは異なる透析腎癌の実態も報告されており 61213),今後の検証が待たれるところである。

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6 フォローアップ

総論

本分野では腎癌患者のフォローアップについて扱うが,無症状で偶然発見される小径腎腫瘍(small renal mass;SRM)が増加している現状 1),SRM の自然史の観察結果の集積によって,SRM に対する治療選択肢として監視療法が成立することが明らかになってきたこと 23) 等を鑑みて,監視療法についてもフォローアップの一項目として扱うこととなった。SRM とは腎臓に発生した最大径4 cm 以下の造影される腫瘍と定義されるが 2),一般に約 20%は 腎血管筋脂肪腫やオンコサイトーマ等の良性腫瘍が含まれる 4)。そのうえ,SRM の場合,悪性であったとしても進行が緩徐な腫瘍が多いので,監視療法という選択肢が出現してきたと思われる 3)。しかし,SRM には被膜外浸潤を有したりhigh grade の癌細胞を有したりするものも含まれており 5),腎癌患者に対する監視療法の適応を困難にしているところでもある。American Urological Association(AUA)ガイドラインでは,SRM に対する監視療法の適応について合併症を有し手術リスクの高いT1a 症例に対しては推奨(recommendation),健康なT1a 症例に対しては選択肢(option)としている 4)。一方European Association of Urology(EAU)のガイドラインでは,高齢で合併症を有するSRM で期待余命が短い場合に監視療法や局所療法が推奨されている 6)

一方,腎癌に対する治療を行った後のフォローアップは,術後の合併症の同定,腎機能の推移,局所療法後の再発,対側腎への再発,転移巣の出現等,様々な観点で行われるが,本分野では主にoncological な観点からのフォローアップについて言及する。また,CQ2 は「根治的腎摘除術後のフォローアップの際にどのようなプロトコールが推奨されるか?」となっているが,腎癌のサイズや部位によっては腎機能温存手術やアブレーションも行われるので,本分野では根治的腎摘除術以外の術式も含めたフォローアップについて言及している。 また,腎癌に特異的でフォローアップに有効な腫瘍マーカーは存在しないので,腎癌のフォローアップの中心は画像検査ということになる。さらに,根治的腎摘除術後のフォローアップについての検査項目や検査時期に対する検討を行った無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)の報告はない。以下に,比較的推奨されるべき術後のフォローアッププロトコールとしてAUA とEAU のガイドラインを取り上げ,それぞれの特徴について言及する 67)

両者を比較すると,AUA ガイドラインの方がフォローアップの間隔について術後stage 別により細かく分けられている 7)。また,コストを考慮してと類推されるが,胸部画像と腹部画像を分ける等,胸部X 線検査の活用も推奨している 7)。一方,EAU ガイドラインのフォローアッププロトコールはthe University of California Los Angeles Integrated Staging System(UISS)のリスク分類 8)を用いて低(low),中(intermediate),高(high)の3 つのリスクに分けて,フォローアップの間隔についてはAUA に比べて比較的大雑把な分け方である 6)。検査法については,low risk,intermediate risk 群でフォローアップ時期によるCT/MRI と超音波の使い分けはあるものの,CT の普及と検査時間の短縮を反映してか,胸腹部CT をまとめて行い,胸部X線検査については特に言及していない 6)。また,low risk 群については5 年以降は終診としている点も興味深い 6)

前述したように,いずれのフォローアッププロトコールも高いレベルのエビデンスに基づいて作成されたわけではないので,各プロトコールを参考にしながら本邦での現況にあわせてフォローアップを行っていくことが重要である。

参考文献

1)
Nguyen MM, Gill IS, Ellison LM. The evolving presentation of renal carcinoma in the United States: trends from the Surveillance, Epidemiology, and End Results program. J Urol. 2006; 176: 2397-400. (IVb)
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CQ1
早期の腎癌患者に対して監視療法は推奨されるか?

推奨グレードC1
腎癌患者に対する監視療法は,限局性で腫瘍径の小さな,いわゆる早期の腎癌患者には考慮してもよい。特に高齢者または合併症の多い患者では選択肢の1つである。

背景・目的

検診,人間ドック,他疾患の検査目的等で行われた画像診断によって無症状で偶然発見されるSRM が増加している 1)。SRM とは,腎臓に発生した最大径4 cm 以下の造影される腫瘍と定義される 2)。SRM のほとんどは腎癌であるが,一部にはオンコサイトーマや腎血管筋脂肪腫等の良性腫瘍が混在している。画像診断や経時的な腫瘍増大速度のみから良性・悪性の鑑別を正確に行うことは困難である 34)。腫瘍生検の有用性が報告されているが,多発性腫瘍等では生検部位が必ずしも腫瘍全体の組織型を反映しない等の問題点もある 5)。SRM の自然史の観察結果の集積によって,SRM に対する治療選択肢として監視療法が成立することが明らかになってきた 26)。しかし,T1a の腎癌の中にも病理組織学的には被膜外浸潤や異型度が高い腫瘍が少なからず含まれており,稀にフォローアップ中に転移をきたすことがある 7)。したがって,現時点では監視療法の適応は高齢者,合併症により手術リスクの高い患者,十分なインフォームドコンセントが行われた患者に限るべきとの意見がある 89)

ここでは,以上の背景を踏まえて腎癌患者に対する監視療法の適応や方針について解説する。

解説

無症状で画像診断により偶然発見される腎腫瘍の約 20%が良性腫瘍と報告されている 8)。一般に腫瘍径が小さいほど良性腫瘍の割合が増加するが,腫瘍径が小さいからといって悪性腫瘍を否定することは困難である。画像診断だけでは良性・悪性の鑑別が困難な場合には,治療方針の決定のために腫瘍生検が考慮される 1011)

SRM に対しては腎部分切除術が標準治療であるが,一部の患者に対するフォローアップの報告がなされている。Chawla らは限局性で造影効果のある腎腫瘍に対する監視療法について報告している。234 例の 286 腎腫瘍に対して平均34 カ月フォローアップを行い,診断時の平均腫瘍径は 2.6 cm(範囲:1.73〜4.08)で,腫瘍径の増大速度は1 年あたり平均 0.28 cm(範囲:0.09〜0.86)であった。このうち病理診断で腎細胞癌と診断された120 例では,腫瘍径の増大速度は1年あたり平均0.4 cm であった。フォローアップ中に転移を認めた患者は3 例 (1%)であった。約30%の患者で腫瘍径がほとんど増大せず,遠隔転移を認めなかった 12)。Crispen らは82 例の患者における87 のSRM に対して何らかの理由で監視療法を選択し,平均21 カ月後に遅延手術療法を行った成績を報告している。平均腫瘍径 2.1 cm で,監視療法を選択した理由は患者希望55%,単腎または腎機能低下21%,手術不可能24%であった。遅延手術療法を行った理由は,腫瘍増大38%,全身状態改善9%,医師の判断41%,患者の希望11%であった。73 例(84%)が病理組織学的に腎細胞癌と診断され,66 例(76%)が腎機能温存手術を受けていた。一部は病理組織学的にhigh risk 患者であったが,術後1 年および3 年の無再発生存率はそれぞれ100%および99%であり,SRM に対しては遅延手術療法が選択肢となる可能性が示唆された 13)。本邦においては,Ozono らが病理組織学的に腎細胞癌と診断され何らかの理由で監視療法を選択した56 例の自然史について報告している。腫瘍径の増大速度は1年あたり0.96 cm であり,診断時の腫瘍径が4 cm 以上の場合は増大速度と有意な相関を認めた。腫瘍倍加時間は603 日で,診断時の腫瘍体積との有意な相関は認めなかった 14)。Lane らは75 歳以上で診断された腫瘍径7 cm 以下(T1)の537 例の腎腫瘍に対して,手術療法が監視療法と比べて予後を改善するか否かを検討している。20%が監視療法,53%が腎部分切除術,27%が腎摘除術を受けた。フォローアップ期間の中央値は3.9 年で,148 例(28%)が死亡し,最も多かった死因は心血管障害(29%)で癌の増悪による死亡は4% であった。全生存期間に影響を与える因子は年齢と合併症で,治療法は有意な因子ではなかった 15)

SRM に対する監視療法に関するデータは,ほとんどが後ろ向き観察の集積であるが,Pierorazio らは即時治療に対する監視療法の有用性を前向き臨床研究として報告している。497 例のSRM 患者がDelayed Intervention and Surveillance for Small Renal Masses(DISSRM)に登録され,274 例(55%)に即時手術療法(PI),223 例(45%)に監視療法が選択された。PI 群および監視療法群における全生存率はそれぞれ2 年で 98%,96%,5年で 92%, 75%(p=0.06),5 年癌特異的生存率は99%,100%(p=0.3)であった。監視療法群で高齢者,合併症が多く,腫瘍径が小さかったが,短期〜中期の腫瘍制御においてはPI 群と有意差を 認めなかった 9)

AUA ガイドラインにおける監視療法の位置付けは,すべての限局性腎腫瘍において合理的な選択肢となりうる,特に期待余命が短い,または合併症を有し治療によるリスクの高い患者においてはまず検討すべきであるとされている。アルゴリズムにおいては,合併症を有し手術リスクの高いT1a 症例に対しては推奨(recommendation),健康なT1a 症例に対しては選択肢(option)となっている 8)。EAU ガイドラインにおいては,高齢で合併症を有するSRM で期待余命が短い場合に監視療法や局所療法が推奨されており,監視療法を行う場合には開始前に腫瘍生検が推奨されている 16)

監視療法における画像検査の間隔に関しては,AUA ガイドラインでは診断後6 カ月でCT またはMRI 検査を行い,腫瘍増大様式を確認したうえで,その後は超音波,CT またはMRI による画像検査を年1 回行うことを推奨している 17)。EAU ガイドラインでは診断後3,6 カ月にCT,MRI または超音波による画像検査を行い,その後3 年までは6 カ月毎,以降は年1回の画像検査の継続を推奨している 16)

参考文献

1)
Nguyen MM, Gill IS, Ellison LM. The evolving presentation of renal carcinoma in the United States: trends from the Surveillance, Epidemiology, and End Results program. J Urol. 2006; 176: 2397-400. (IVa)
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7)
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8)
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15)
Lane BR, Abouassaly R, Gao T, et al. Active treatment of localized renal tumors may not impact overall survival in patients aged 75 years or older. Cancer. 2010; 116: 3119-26. (IVb)
16)
Ljungberg B, Bensalah K, Canfield S, et al. EAU guidelines on renal cell carcinoma: 2014 update. Eur Urol. 2015; 67: 913-24.

17)
Donat SM, Diaz M, Bishoff JT, et al. Follow-up for Clinically Localized Renal Neoplasms: AUA Guideline. J Urol. 2013; 190: 407-16.

CQ2
根治的腎摘除術後のフォローアップの際にどのようなプロトコールが推奨されるか?

推奨グレードC1
現時点でエビデンスのある推奨プロトコールは存在しない。根治的腎摘除術後の再発リスクに応じて,適切なフォローアップの検査項目ならびに時期を決定すべきである。

背景・目的

限局性腎癌に関しては,根治的腎摘除術が行われた場合は20〜30%の患者で再発を経験する。転移部位としては肺が最も多く,50〜60%にみられる 1)。フォローアップを行う主な目的は,早期に再発,転移を発見することにある。早期に再発,転移を発見することで再発巣や転移巣に対する切除術が可能となり,また切除術が困難な場合でも様々な治療(免疫療法,分子標的治療)の効果を上げる可能性がある 2)

腎癌に特異的な腫瘍マーカーは現時点では同定されていないため,フォローアップの中心は画像検査ということになる。しかし,根治的腎摘除術後のフォローアップについての検査項目や検査時期に関する検討を行ったRCT は存在しないため,フォローアップの方法や頻度の生存率への影響に関する報告やエビデンスレベルの高い根治的腎摘除術後のフォローアッププロトコールに関する報告は認められない。フォローアップにおいては,純粋に医学的見地からみた再発,転移のリスクに応じた検査が必要になるが,その検査項目や検査時期に関してはそれに要する費用等にも注意を払う必要がある 34)

ここでは,比較的推奨される根治的腎摘除術後のフォローアッププロトコールについて解説したい。

解説

AUA ガイドラインが2013 年に,National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドライン,EAU ガイドラインが2014 年に改訂され,推奨するフォローアッププロトコールが変更された。

2013 年AUA ガイドライン,2014 年NCCN ガイドラインによるフォローアッププロトコールは類似しており,TN stage に応じてリスクを分類し,その分類毎に検査項目,検査時期が異なる(表1245)。一方,EAU ガイドラインではUISS リスク分類に沿った定期フォローアップが推奨されており,局所再発および遠隔転移の検出に有用であるとしている(表3426)。以下に,AUA と EAU のガイドラインについて概説する。

1 AUAガイドライン(表24)

1.pT1Nx-0 症例

術後3〜12 カ月以内にベースラインとなる腹部画像検査(CT,MRI,超音波)を施行することが推奨される。以降の画像検査については血行性転移,リンパ節転移が稀であるため医師の判断に委ねられ,必要に応じて検査を行うことが推奨されている。胸部画像検査については,胸部X 線検査が胸部CT よりも好ましいとされる。

2.pT2-4Nx-0 or pTanyN1 症例

30〜70%の患者に局所再発,遠隔転移の可能性があることより,術後3〜6 カ月以内にベースラインとなる腹部画像検査(CT,MRI)を行い,術後3 年までは6 カ月毎,4,5 年 目は1 年毎の定期検査(CT,MRI,超音波),5 年以降のフォローアップについては晩期再発の報告もあり,画像検査を継続することが推奨される。

2 EAUガイドライン(表42)

1.UISS リスク分類(表3)low risk 群

術後5 年間はフォローアップを行う。胸腹部CT/MRI(cross-sectionalimaging;CSI)を頻回に施行する必要はないとされ,フォローアップの検査内容としては術後6 カ月で超音波,術後1年目からCSI と超音波を1 年毎に交互に施行することが推奨される。

2.UISS リスク分類(表3)intermediate risk 群

術後3 年目のみ超音波施行で可だが,基本的なフォローアップはCSI を術後5 年目まで毎年行うことが推奨される。Low risk 群に比してより密なCSI によるフォローアップが必要とされる。

3.UISS リスク分類(表3)high risk 群

術後2,3 年目まではintermediate risk 群に比してより密なCSI による定期的なフォローアップが推奨される(なお,intermediate risk 群,high risk 群に関しては,術後5 年以降に2 年に1 度のCSI を施行することが推奨される)。

腎癌に関しては,晩期再発の患者も多数報告されている 7)。4 cm 以下のSRM を例にとっても,晩期再発の報告が散見されるためフォローアップは生涯行われることが望ましいとの考えもある 8)。将来的にはTN stage に加えて腫瘍因子,宿主側因子,遺伝子発現,また費用対効果等の経済的因子を含めた個別化された根治的腎摘除術後のフォローアッププロトコールの出現が望まれる 9)

現状ではTN stage が根治的腎摘除術後の最良の予後予測因子の1つであり,臨床病期を中心とした再発,転移のリスクにあわせた適切なフォローアッププロトコールを選択することが推奨される。

表1 NCCN ガイドライン
表1 NCCN ガイドライン
表2 AUA ガイドライン
表2 AUA ガイドライン
表3 UISS リスク分類
表3 UISS リスク分類
表4 EAU ガイドライン
表4 EAU ガイドライン

参考文献

1)
Eggener SE, Yossepowitch O, Pettus JA, et al. Renal cell carcinoma recurrence after nephrectomy for localized disease: predicting survival from time of recurrence. J Clin Oncol. 2006; 24: 3101-6. (IVb)
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