Ⅲ.小細胞肺癌(SCLC)
- 総論
- 小細胞肺癌の治療方針
解説
小細胞肺癌は肺癌全体の約10~15%を占める癌であり,増殖速度が速く早期にリンパ節転移や遠隔転移を認める悪性度の高い腫瘍であるが,放射線治療や薬物療法に対する感受性が高いことが特徴である。
小細胞肺癌においても外科切除の適応にあたってはUICC-TNM 分類が重要視されているが,内科治療(化学放射線療法もしくは薬物療法)の選択の面からは,限局型(limited disease;LD)と進展型(extensive disease;ED)の分類が汎用されている。LD は定まった定義はないものの,多くの臨床試験において「病変が同側胸郭内に加え,対側縦隔,対側鎖骨上窩リンパ節までに限られており,悪性胸水,心嚢水を有さないもの」が採用されており,本ガイドラインでもこれに基づいた定義を行っている(小細胞肺癌の限局型および進展型の定義,参照)。
以下,小細胞肺癌の治療についてLD,ED,予防的全脳照射(PCI),再発に大別して治療法を述べる。
1)限局型小細胞肺癌(LD)
LD の治療の主体は薬物療法と放射線治療の併用療法であるが,臨床病期Ⅰ,ⅡA 期(第8 版)においては外科治療を含む治療により,5 年生存率が40~70%の良好な成績が報告されており(CQ1),外科治療+術後薬物療法〔CDDP+ETP(PE)療法4 コース〕が標準治療とされている(CQ2)。なお,医学的な理由で手術ができない臨床病期Ⅰ,ⅡA 期症例に対しては,選択肢の1 つとして定位照射が勧められる(CQ3)。
臨床病期Ⅰ,ⅡA 期以外のLD の治療は,薬物療法と放射線治療の併用が複数の比較試験やメタアナリシスから標準治療と考えられている(CQ4)。薬物療法と併用する際の放射線治療のタイミングは早期同時併用療法が推奨され(CQ5),放射線の照射方法に関しては1 日2 回照射を行う加速過分割照射が推奨される(CQ6)。近年行われた加速過分割照射法45 Gy と通常照射法66 Gy の比較試験において,通常照射法の優越性は示せなかったがOS に差を認めなかったことから,加速過分割照射が困難な場合は通常照射法も選択肢となる。放射線治療と併用する薬物療法は,今までの比較試験の結果などからPE 療法4 コースが標準である(CQ7)。
2)進展型小細胞肺癌(ED)
ED における治療の主体は薬物療法であるが,今までの比較試験の結果から,PS や年齢で推奨されるレジメンが異なっている。PS 0-2,70 歳以下においては,本邦で行われたPE 療法とCDDP+CPT-11(PI)療法の比較試験の結果からPI 療法が推奨される。海外にて行われたPE 療法とPI 療法の比較試験の追試では,本邦で行われた試験の結果を再現することはできなかったが,プラチナ製剤+ETP 療法とプラチナ製剤+CPT-11 の比較試験のメタアナリシスではCPT-11 併用群で有意にOS を延長し,PFS やORR も改善する傾向にあることが示されている(CQ9)。なお,本邦で行われた比較試験は70 歳以下を対象としているため,71 歳以上におけるPI 療法のエビデンスは乏しく,PS 0-2 の71 歳以上75 歳未満およびCPT-11 の毒性(下痢や間質性肺炎の併存など)が懸念される症例にはPE 療法が推奨される(CQ10)。また,PS 0-1 のED 症例にはCBDCA+ETP(CE)+アテゾリズマブ(PD-L1 阻害薬)療法のCE 療法に対する比較試験と,プラチナ製剤併用療法(PE 療法またはCE 療法)+デュルバルマブ(PD-L1 阻害薬)療法とプラチナ製剤併用療法の比較試験の結果から,プラチナ製剤併用療法+PD-L1 阻害薬も推奨される(CQ11)。PS 3 および75 歳以上に関しては,本邦で行われた比較試験の結果から分割PE 療法とCE 療法が標準治療とされている(CQ12)。一方で,PS 4 では毒性の増強や治療関連死の危険性を十分考慮する必要があり,薬物療法の適応は困難と考えられる(CQ13)。
3)予防的全脳照射(PCI)
小細胞肺癌は初回治療の感受性が良好であり,一部では完全奏効が得られるものの,初再発として脳転移を呈することが多いため,PCI の有効性を検証するいくつかの比較試験が行われている。LD が大部分を占めるメタアナリシスにおいてPCI 施行により脳転移再発の抑制とOS の有意な延長が示されており,LD で初回治療により CR が得られた症例に対しては PCI(25 Gy/10 回)は標準治療となっている(CQ14)。一方,ED においては,海外で行われたPCI の有効性を検証する比較試験でPCI 施行群でOS の延長が示されたが,ランダム化時点で画像検査による脳転移の否定が必須でないなどの試験デザインの問題が指摘されていた。本邦においてプラチナ製剤併用療法に奏効し,脳転移のないED に対するPCI 施行群と非施行群の第Ⅲ相試験が行われ,PCI 施行群で脳再発率は少なかったもののOS の延長は示されなかった。この結果から本邦においてED 症例に対するPCI は推奨されない(CQ16)。
4)再発小細胞肺癌
小細胞肺癌は,初回治療にいったん奏効しても大部分で再発,増悪をきたす。再発小細胞肺癌は,初回治療が奏効し初回治療終了から再発までが60~90 日以上のsensitive relapse とそれ以外のrefractory relapse に分類され,sensitive relapse では薬物療法の効果が期待できる(再発小細胞肺癌におけるsensitive relapse とrefractory relapse の分類,参照)。Sensitive relapse に対しては,いくつかの比較試験の結果からNGT 単剤療法,PEI(CDDP+ETP+CPT-11)療法が標準治療となっている。PEI 療法に関しては比較試験においてNGT 療法と比較し有意なOS の延長が示されたが,予防的G-CSF 投与下においても発熱性好中球減少症を約30%に認めており,毒性の面などからその適応に関しては検討する必要がある。その他,アムルビシン塩酸塩(AMR)療法やCBDCA+ETP 療法(プラチナ再投与)などの成績も示されており,治療の選択肢と考えられる(CQ17)。Refractory relapse に対しては,海外で行われたAMR 療法とNGT 療法の比較試験のサブグループ解析で良好な成績が示されていることからAMR 単剤療法が推奨される(CQ18)。
5)高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する小細胞肺癌
がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌を対象として,ペムブロリズマブの有効性,安全性を評価する第Ⅱ相試験が行われ,ORR は37%,PFS 中央値5.4 カ月であった。その結果,MSI-High を有する固形癌に対してペムブロリズマブが承認されている。本試験に登録された患者の癌腫としては,大腸癌(36%),子宮内膜癌(15%),小腸癌(8%),膵癌(8%)の順に多く,小細胞肺癌も少数例であるが含まれていた(2%)1)。
6)神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumors)
肺腫瘍の組織型分類に関する国際的な規約「WHO 分類」が,2015 年に第4 版へ改訂されたことを受け,WHO 分類に準拠した肺癌取扱い規約第8 版による組織分類(日本肺癌学会編)が公表されている。これによると,それまで大細胞癌の亜型に含まれていた大細胞神経内分泌癌(Large cell neuroendocrine carcinoma,LCNEC)は,小細胞癌,カルチノイド腫瘍とともに,独立したカテゴリーである神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumors)として集約された。LCNEC に対して,小細胞癌と同様に治療を行っていくべきかの結論は明らかになっていないが,小細胞癌に準じて治療選択がなされることも多い。
なお,肺あるいは消化管原発の再発低悪性度神経内分泌腫瘍(いわゆるカルチノイド腫瘍)を対象とした第Ⅲ相試験が行われた。その結果,エベロリムスがプラセボに比較してPFS の延長効果を示し,肺神経内分泌腫瘍に対してエベロリムスが承認されている2)。
引用文献
- 1)
- Diaz L, Marabelle A, Kim TW, et al. Efficacy of pembrolizumab in phase 2 KEYNOTE-164 and KEYNOTE-158 studies of microsatellite instability high cancers. Ann Oncol. 2017; 28(suppl_5): v122-41.
- 2)
- Yao JC, Fazio N, Singh S, et al. Everolimus for the treatment of advanced, non-functional neuroendocrine tumours of the lung or gastrointestinal tract(RADIANT-4): a randomised, placebo-controlled, phase 3 study. Lancet. 2016; 387(10022): 968-77.
■小細胞肺癌の限局型(Limited disease;LD)および進展型(Extensive disease;ED)の定義
肺癌取扱い規約第8版(日本肺癌学会編)では小細胞肺癌について,「limited disease」(限局型)と「extensive disease」(進展型)の分類には意見の一致が得られておらず,「limited」と「extensive」の定義が確立していない現状では,TNM の記載は重要であるとしている。
しかし,小細胞肺癌の治療選択の面からは,限局型と進展型の区分は重要と考えられるため,本ガイドラインでは多くの第Ⅲ相臨床試験で採用されている定義,すなわち病変が同側胸郭内に加え,対側縦隔,対側鎖骨上窩リンパ節までに限られており悪性胸水,心嚢水を有さないものを限局型小細胞肺癌と定義付けた。
- 1
- 限局型小細胞肺癌(LD-SCLC)
-
- CQ1
- 臨床病期Ⅰ-ⅡA 期(第8 版)の小細胞肺癌に外科治療は勧められるか?
- エビデンスの強さC
- 臨床病期Ⅰ-ⅡA 期(第8 版)の小細胞肺癌に対して,外科治療を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:90%〕
解説
LD に対する標準治療は化学放射線療法とされているが,なかでも臨床病期Ⅰ-ⅡA 期(第8 版),特にcT1N0M0 については,外科治療を含む治療法により,治癒や長期生存が期待できる症例があることが報告されており1)2),外科治療単独あるいはこれに薬物療法や放射線治療を加えることで,5 年生存率が40~70%に達することが報告されている3)~6)。術式では,肺葉切除以上の術式が,部分切除術と比較してOS が良好であると報告されており7),また薬物療法単独群や化学放射線療法群よりは,外科治療に薬物療法を加えた群での局所制御率とOS 中央値が有意に良好であることが報告されている8)9)。
しかしながら,外科治療の対象となる症例数は少ないため,外科治療を含む治療法とこれ以外の治療法の比較試験は存在せず,今後も施行の可能性は極めて乏しいことが予想される。臨床病期Ⅰ-ⅡA 期(第8 版)の小細胞肺癌に対する外科治療を含む治療は治癒が得られる可能性があり,切除後に小細胞肺癌の診断が得られるケースも存在することから,すでに実地臨床においてもこの方針が踏襲されつつある10)。エビデンスの質の高い研究を列挙することは困難であるが,治療法の選択肢の1 つとして推奨され得る治療法であると考えられる。
以上より,臨床病期Ⅰ-ⅡA 期(第8 版)の小細胞肺癌に対して外科治療を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
一方,リンパ節転移を認めるLD における外科治療の有用性は明らかではない。IASLC による小細胞肺癌患者5,002 例のデータベースから,577 例に外科治療が施行された結果が報告されており,病理病期N0 症例ではOS 中央値が未到達(2 年生存率80%)であったのに対し,N1 症例では28 カ月(2 年生存率55%)と低下することが示されている11)。
- CQ2
- 小細胞肺癌の完全切除例に対して,追加の治療は勧められるか?
- エビデンスの強さC
- 小細胞肺癌の完全切除例に対して,プラチナ製剤併用療法を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
解説
外科治療と併用される治療法として,どのタイミングでどの治療法を組み合わせるのがよいかということに関しては,推奨の根拠となる十分なエビデンスは存在しない。主として術前,術後の全身薬物療法が併用された報告が多く5)6)12),術後の放射線治療については報告が少ない13)14)。
Ⅰ期の完全切除例の術後治療に関するコホート研究では,術後に薬物療法を施行した群で,外科治療単独群と比較しOS は有意に良好であり,生存に関する多変量解析では,術後薬物療法または術後薬物療法+予防的全脳照射(PCI)で有意に良好な結果であった15)。本邦で行われた,外科治療後にCDDP+ETP(PE)療法による薬物療法の有用性を検証する第Ⅱ相試験(JCOG9101 試験)では,臨床病期Ⅰ期の44 症例では3年生存率68%であり,病理病期ⅠA 期症例では5 年生存率73%であった16)。その後,小細胞肺癌を含む肺原発の高悪性度神経内分泌癌の完全切除例を対象として,CDDP+CPT-11(PI 療法)とPE 療法を比較する第Ⅲ相試験(JCOG1205/1206 試験)が行われた。主要評価項目である無再発生存期間は両群間で明らかな差を認めず(HR 1.076,95%CI:0.666-1.738,P=0.619),小細胞肺癌のサブグループ解析でも同様であった(HR 1.029,95%CI:0.544-1.944)。3 年生存率は, PI 療法群で79.0%,PE療法群で84.1%と,ともに良好であった17)。
術後の放射線治療に関しては,完全切除されたLD 3,017 例の後ろ向き研究において,放射線治療施行群の5 年生存率は,放射線治療非施行群に比べて有意に劣っていたことが報告されている。一方,この研究におけるサブグループ解析で,pN0 群の5 年生存率は放射線治療施行群で劣っていたが,pN2 症例では,放射線治療施行群で有意に良好であった18)。
外科治療の対象となるLD の症例数が極めて少ないことから,エビデンスの質の高い研究を列挙することは困難であるが,小細胞肺癌は薬物療法に対する感受性が高いこと,また術後の薬物療法に対する良好な治療成績が報告されていること,さらに実地臨床においては切除して初めて小細胞肺癌と診断される症例も存在することなどを考慮に入れると,外科治療後の薬物療法は行うよう勧められる。
以上より,小細胞肺癌の手術後の治療として薬物療法を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ3
- 医学的な理由で手術ができない臨床病期Ⅰ-ⅡA 期(第8 版)の小細胞肺癌の放射線照射法として,定位照射は勧められるか?
- エビデンスの強さD
- 医学的な理由で手術ができない臨床病期Ⅰ-ⅡA 期(第8 版)の小細胞肺癌の放射線照射法として,定位照射を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:89%〕
解説
LD に対する標準治療は化学放射線療法とされているが,臨床病期Ⅰ-ⅡA 期(第8 版),特にcT1N0M0 については,治癒や長期生存が期待できる症例が存在することが報告されており,外科治療を含む治療法が選択される。しかしながら,切除不能症例に対する標準治療は定まっていない。これらの中で,臨床病期Ⅰ-ⅡA 期の非小細胞肺癌に対する根治療法として,SBRT が局所制御の向上と毒性の軽減の点で代表的な治療法として行われているが,2012 年以降,小細胞肺癌に対するSBRT の安全性と良好な局所制御に関する成績が国内外から報告されている19)~24)。日本放射線腫瘍学研究機構が行った本邦の遡及的調査の結果,64 例(手術不能66%)に35~60 Gy/3-19 Fr の寡分割照射が行われ,OS 中央値が23.5 カ月,2 年の全生存率,局所制御率はそれぞれ76.3%,89.3%であった22)。米国の多施設コホート研究では,2005~15 年に74 例(手術不能88%)に48~60 Gy/3-5 Fr のSBRT が施行され,OS 中央値が17.8 カ月,3 年の全生存率,局所制御率はそれぞれ34.6%,96.1%であった23)。いずれの研究でも再発形式として遠隔転移の頻度が高く,化学療法併用の症例のOS が良好であった。また,米国のNCDB 調査報告として,2004~13 年にT1-T2N0M0 でSBRT を施行した症例は285 例であり,OS 中央値23.5 カ月,3 年生存率35.2%であった。また,Ⅰ期小細胞肺癌にSBRT が用いられる割合は,2004 年の0.4%に対し,2013 年には6.4%と10 倍以上に増加していた25)。NCDB を用いた治療法別の成績を検討した別の報告では,縮小手術例と比べてSBRT のOS は有意な差を認めなかった(HR 1.24,95%CI:0.95-1.61,P=0.11)。また非手術例に限るとSBRT は従来照射法より良好なOS であった(HR 1.30,95%CI:1.02-1.66,P=0.04)26)。NCDB(2004~14 年)を用いた報告では,化学療法併用時の照射法別の成績を通常分割照射(CFRT)1,958 例とSBRT 149 例において比較し,OS に有意差は認められず(OS 中央値CFRT:31.2 カ月,SBRT:29.2 カ月,P=0.77),傾向スコアマッチした群の比較でも同様であった27)。また別のNCDB(2004~15 年)を用いた報告では,化学療法併用症例においてSBRT がOS 良好な傾向にあった(HR 0.73,P=0.06)28)。
SBRT の報告数は少なく,それぞれの症例数も十分ではないが,いずれも安全で良好な局所制御が報告されている。Ⅰ-ⅡA 期の小細胞肺癌はLD に含まれており,切除不能の場合,加速過分割照射法を用いた化学放射線療法が標準治療であるため,放射線治療法にSBRT を採用することは肺毒性の軽減,利便性,コスト削減の点からは有利な点も多い。
以上より,医学的な理由で手術ができない臨床病期Ⅰ-ⅡA 期(第8 版)の小細胞肺癌の放射線照射法として定位照射を行うよう提案する。エビデンスの強さはD,ただし総合的評価では行うことを弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ4
- 限局型小細胞肺癌(PS 0-2)において,化学放射線療法は勧められるか?
- エビデンスの強さA
- 限局型小細胞肺癌(PS 0-2)に対して,化学放射線療法を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
解説
LD に対して薬物療法と胸部放射線治療の併用は,薬物療法単独に比べてOS を改善することが2 つのメタアナリシスにより明らかにされている。13 の比較試験のメタアナリシスでは,薬物療法に胸部放射線治療を併用すると,死亡の絶対リスクが14%減少し,3 年生存率が5.4±1.4%改善することが報告されている29)。11 の比較試験のメタアナリシスでは,薬物療法に胸部放射線治療を併用すると,2 年生存率が5.4%,局所制御率が25.3%改善することが報告されている30)。有害事象に関しては,薬物療法と胸部放射線治療の併用により治療関連死が1.2%増加することが報告されており,併用の際には有害事象の発生について十分に注意する必要がある。
以上より,限局型小細胞肺癌(PS 0-2)に対して化学放射線療法を行うよう推奨する。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ5
- 限局型小細胞肺癌(PS 0-2)の化学放射線療法における放射線治療のタイミングは,早期同時併用が勧められるか?
- エビデンスの強さB
- 限局型小細胞肺癌(PS 0-2)の化学放射線療法における放射線治療は,早期同時併用を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
解説
薬物療法に胸部放射線治療を併用する場合のタイミングとして,主に同時併用(早期・後期)と逐次併用が挙げられる。CDDP+ETP 療法に過分割照射を用いた放射線同時併用と逐次併用の比較試験(JCOG9104 試験)では,前者において良好なOS 中央値が得られ(27.2 カ月vs 19.7 カ月,P=0.097),毒性も忍容可能であった31)。同時併用における放射線療法の時期を検討する比較試験においては,いくつかの試験で早期同時併用することによりOS が改善することが示されている32)~37)。放射線治療のタイミングを検討したこれらの試験のメタアナリシスでは,早期同時併用の2 年生存率の有意な改善38),プラチナ製剤併用療法を用いた場合の早期同時併用の2 年生存率の有意な改善39),治療開始(放射線治療もしくは薬物療法)から放射線治療の終了日までの期間が30 日以内であった場合の5 年生存率の有意な改善40),薬物療法のコンプライアンスが同様であった場合に早期もしくは短期間の放射線併用療法でOS の有意な改善41)などが報告されている。これらの結果は早期の放射線治療の施行と照射期間の短縮が独立した因子あるいは相互的に影響して予後を改善する可能性を支持している。
一方,有害事象に関しては,同時併用や早期同時併用において食道炎や肺臓炎,骨髄抑制(白血球減少,好中球減少,貧血)の頻度が増加することが報告されている。
以上より,限局型小細胞肺癌(PS 0-2)の化学放射線療法における放射線治療は早期同時併用を行うよう推奨する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ6
- 限局型小細胞肺癌(PS 0-2)に対する放射線照射法は,通常照射法と加速過分割照射法のどちらが勧められるか?
- エビデンスの強さB
- 限局型小細胞肺癌(PS 0-2)に対する放射線照射法は,加速過分割照射法を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
解説
化学療法と放射線療法を併用する際の放射線照射方法に関しては,過分割照射法と通常照射法を比較した3 つのランダム化試験が報告されている。通常照射法45 Gy/25 回/5 週と加速過分割照射法45 Gy/30 回/3 週の比較試験では,加速過分割照射法群で有意にOS を延長した42)。一方,通常照射法50.4 Gy/28 回/6 週と2.5 週間の休止期間を含む過分割照射48 Gy/32 回/6 週の比較試験ではOS,局所制御率,無再発生存期間において両群間で差がなかった43)。有害事象に関しては,加速過分割照射法で通常照射法より食道炎の頻度が高かった。上記2 試験が異なる結果となった理由として,全照射期間の違いや通常照射法の線量の違いが挙げられる。全照射期間の延長は照射中の腫瘍の加速再増殖を促す可能性があるため,全照射期間の短縮は治療成績の向上につながると考えられ,照射期間の違いが治療成績に影響した可能性がある。また,通常照射法45 Gy/25 回/5 週と加速過分割照射法45 Gy/30 回/3 週を用いた試験では,総線量は同じであるものの生物学的な効果を示す線量として加速過分割照射法が高い線量となっており,通常照射法の線量の違いが治療成績に影響した可能性も指摘されている。その後,加速過分割照射法45 Gy/30 回/19 日に対する通常照射法66 Gy/33 回/45 日の優越性を検証する比較試験が行われ,主要評価項目であるOS に差を認めず,通常照射法の加速過分割照射法に対する優越性は示されなかった。無増悪生存期間,局所制御率にも差を認めず,有害事象に関しては,加速過分割照射法群でGrade 4 の好中球減少の頻度が高かったが,その他の有害事象には差を認めなかった44)。
以上より,限局型小細胞肺癌(PS 0-2)に対する放射線照射法は,加速過分割照射法を行うよう推奨する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
なお,加速過分割照射による有害事象の増強が懸念される場合や,加速過分割照射が困難な場合は,通常照射でも同程度の治療効果が得られるという報告から,通常照射法も選択肢となる。
- CQ7
- 限局型小細胞肺癌(PS 0-2)に対する化学放射線療法に併用する最適な薬物療法は何か?
- エビデンスの強さC
-
- a. 限局型小細胞肺癌(PS 0-2)に対する放射線治療と同時併用する際の薬物療法は,シスプラチン+エトポシド療法を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
- エビデンスの強さD
-
- b. シスプラチン+エトポシド療法の投与が困難な場合,カルボプラチン+エトポシド療法後に逐次放射線療法を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:100%〕
解説
- a. 化学放射線療法に併用する薬物療法のレジメンに関しては,放射線治療の照射方法を一定にして薬物療法のレジメンを比較検討した臨床試験はない。薬物療法と過分割照射による放射線治療の同時併用の比較試験においてCDDP+ETP(PE)療法が多く用いられており31)42)~44),本邦で行われたPE 療法(1 サイクル)と過分割照射同時併用療法後にCDDP+CPT-11(PI)療法へ変更する群(3 サイクル)とPE 療法を継続する群(3 サイクル)を比較した第Ⅲ相試験(JCOG0202 試験)において,PI 群におけるOS の延長効果を認めなかった45)。
以上より,限局型小細胞肺癌(PS 0-2)に対する放射線療法と同時併用する際の薬物療法は,CDDP+ETP 療法を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- b. CDDP+ETP 療法以外の化学放射線療法に併用するレジメンとしては,CBDCA+ETP 療法などが検討されているが,エビデンスは少なく骨髄抑制の頻度が高いことが報告されている46)47)。高齢者に関しては,LD に対する化学放射線療法を評価する多くの臨床試験において対象が75 歳以下に限定されておりデータは少ない。一部の臨床試験では年齢制限を設けておらず,少数ではあるが75 歳以上の患者も登録されており,70 歳以上と70 歳以下のサブグループ解析では,毒性は有意に増すもののOS などの治療成績は同等と報告されている48)。また,70 歳以上のLD 症例における8,637 例のコホート研究では,薬物療法と放射線治療(同時併用もしくは遂時併用)を施行した群で,薬物療法単独群よりOS の有意な延長を認めたことが報告されている49)。LD の治療目標は治癒であることから,高齢であることのみを理由に治療強度を減弱させるのは好ましくないが,化学放射線療法の同時併用療法は,その毒性を鑑みると慎重に行う必要がある。実臨床においてはCDDP+ETP 療法の投与が困難な症例,高齢者,PS 不良例においては毒性を考慮し薬物療法+遂時放射線療法が選択されることが多い。
以上より,CDDP+ETP 療法の投与が困難な場合には,CBDCA+ETP 療法後に逐次放射線療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ8
- PS 3-4 の限局型小細胞肺癌に対して,薬物療法は勧められるか?
- エビデンスの強さC
-
- a. PS 3 の限局型小細胞肺癌に対して,薬物療法を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:100%〕
-
- b. PS 4 の限局型小細胞肺癌に対して,薬物療法は行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。
〔推奨度決定不能〕
解説
- a. PS 3 のLD に対する化学放射線療法のデータはない。進展型小細胞肺癌ではPS 不良例に対しても至適な薬物療法を検討する臨床試験がいくつか行われており50)51),PS 悪化の原因が小細胞肺癌によるものであり,小細胞肺癌に対する治療効果によってPS の改善が得られる可能性があれば薬物療法単独治療の対象になり得る。また,薬物療法中もしくは薬物療法後にPS が0-2 に改善した場合,LD に対して薬物療法と放射線治療の併用が薬物療法単独に比べてOS を改善することが2 つのメタアナリシスにより明らかにされており29)30),同時併用でなくとも放射線治療を追加することでOS が延長する可能性があることから,薬物療法施行後にPS の改善が得られれば放射線治療の追加も検討する。
以上より,PS 3 の限局型小細胞肺癌に対して薬物療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- b. PS 4 に対する薬物療法の有効性や安全性のデータは極めて少ない50)。小細胞肺癌に対する薬物療法の有効性を考慮すると,PS の悪化の原因が小細胞肺癌によるもので小細胞肺癌に対する治療効果によってPS の改善が得られる可能性があれば,薬物療法の対象になり得ると考えられるが,PS 4 に対しては毒性を考慮する必要がある。
以上より,PS 4 の限局型小細胞肺癌に対して薬物療法を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではなく,推奨度決定不能とした。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
引用文献
- 1)
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- レジメン
- 限局型小細胞肺癌
- 2
- 進展型小細胞肺癌(ED-SCLC)
-
- CQ9
- 進展型小細胞肺癌(PS 0-2,70 歳以下)における最適な一次治療は何か?
- エビデンスの強さA
-
- a. 進展型小細胞肺癌(PS 0-2,70 歳以下)にはシスプラチン+イリノテカン療法を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
- エビデンスの強さA
-
- b. 進展型小細胞肺癌(PS 0-2,70 歳以下)にはシスプラチン+エトポシド療法を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:100%〕
解説
- a. ED に対して,1980 年代以降CDDP+ETP(PE)療法とのランダム化比較試験が行われた。2000 年に報告されたCDDP を含む薬物療法とそれ以外との比較試験のメタアナリシスでは,CDDP を含むレジメンがORR および1 年生存率が有意に高く,治療関連死には差を認めなかったとしている1)。2000 年以降,PS 0-2 を対象とした,PE 療法とDXR+CPA+ETP(ACE)療法との比較試験が実施され,ORR,OS に有意差はなく,ACE 療法が有意に好中球減少,敗血症の割合が高かったことが示されていることから2),世界的にはPE 療法が標準治療と考えられてきた。
本邦で70 歳以下のPS 0-2 を対象とした,PE 療法とCDDP+CPT-11(PI)療法とのランダム化比較試験(JCOG9511 試験)が行われ,PI 療法が有意にOS を延長することが示された(中央値9.4 カ月vs 12.8 カ月,HR 0.60,95%CI:0.43-0.83,P=0.002)3)。その後,北米を中心にPE 療法とPI 療法との第Ⅲ相試験による追試が行われたが,各試験単独では両群間でOS に有意差を認めず,JCOG9511 試験の結果を再現することはできなかった4)~7)。しかしながら,これら第Ⅲ相試験を含むプラチナ製剤+ETP とプラチナ製剤+CPT-11 とのランダム化比較試験のメタアナリシスでは,CPT-11 群が有意にOS を延長し,PFS およびORR もCPT-11 群で改善する傾向にあることが示された8)~10)。
また,PI 療法もしくはPE 療法とCDDP+AMR(PA)療法とのランダム化比較試験が,本邦および中国で非劣性のデザインで行われ,PI 療法に対してPA 療法はOS の非劣性を証明することはできなかった(PI vs PA:中央値17.7 カ月vs 15.0 カ月,HR 1.43,95%CI:1.10-1.85)11)。一方,PE 療法に対しては,非劣性は証明されたものの両群のOS に有意差はなかった(PE vs PA:中央値10.3 カ月vs 11.8 カ月,HR 0.81,95%CI:0.63-1.03)12)。
PI 療法の特徴として血液毒性が軽度な一方,嘔吐,下痢の頻度が高いことが示されている8)~10)13)。また,間質性肺炎を有する患者には禁忌とされている。そのため,下痢の発症が懸念される患者,間質性肺炎の発症が懸念される,もしくは間質性肺炎を合併している患者にはPE 療法を行うよう勧められる。
以上より,進展型小細胞肺癌(PS 0-2,70 歳以下)にはPI 療法を行うよう推奨する。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- b. 一方,PE 療法は世界的に標準とされるレジメンであるが,JCOG9511 試験においてPI 療法に劣り,複数のメタアナリシスでも同様の結果が認められている。
以上より,進展型小細胞肺癌(PS 0-2,70 歳以下)にはPE 療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ10
- 進展型小細胞肺癌(PS 0-2,71 歳以上)における最適な一次治療は何か?
- エビデンスの強さB
-
- a. 進展型小細胞肺癌(PS 0-2,71 歳以上)に対してシスプラチンの一括投与が可能な場合にはシスプラチン+エトポシド療法を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:95%〕
- エビデンスの強さC
-
- b. 進展型小細胞肺癌(PS 0-2,71 歳以上)に対してシスプラチンの一括投与が困難な場合にはカルボプラチン+エトポシド療法あるいはsplit PE 療法を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:95%〕
解説
- a. 1980 年代以降CDDP+ETP(PE)療法は小細胞肺癌の治療に頻用され,海外の第Ⅲ相試験では年齢制限なく臨床試験が行われていることが多い。本邦では75 歳未満のPS 0-3 の小細胞肺癌(LD,ED を含む)に対しPE 療法とCPA+DXR+VCR(CAV)療法とCAV/PE 交代療法を比較する第Ⅲ相試験が行われ,PE 療法とCAV/PE 療法のORR がCAV 療法より有意に高く(PE 78%,CAV/PE 76%,CAV 55%,P<0.005),毒性は許容範囲であった14)。
以上より,進展型小細胞肺癌(PS 0-2,71 歳以上)に対して,CDDP の一括投与が可能な場合にはPE 療法を行うよう推奨する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
なお,CDDP+CPT-11(PI)療法に関して,71 歳以上の高齢者の小細胞肺癌に対する本邦のエビデンスは現時点では存在しない。しかしながら,本邦で行われたPS 0-2 のED に対する第Ⅲ相試験の結果,PI がPE に比べ有意にOS を延長することが示されたこと3),ならびに本邦で行われた74 歳までのPS 0-1 の進行非小細胞肺癌を対象にCDDP+CPT-11,CDDP+GEM,CDDP+VNR,CBDCA+PTX の4 群を比較する第Ⅲ相試験15)の結果より毒性は許容範囲であることから,実地臨床ではPI が74 歳までのED に使用されることもある。
- b. 本邦で,70 歳以上のPS 0-2 の高齢者および70 歳未満のPS 3 の患者を対象としたCBDCA+ETP(CE)療法とsplit PE(SPE 療法:CDDP 3 日間分割投与)との第Ⅲ相試験(JCOG9702 試験)が行われ,CE 群でGrade 3/4 の血小板減少がより多く認められた(CE 56% vs SPE 16%,P<0.01)が,ORR(73% vs 73%),70 歳以上かつPS 0-2 のサブグループにおけるOS(中央値10.8 カ月vs 10.1 カ月)はほぼ同様であった16)。
以上より,進展型小細胞肺癌(PS 0-2,71 歳以上)に対して,CDDP の一括投与が困難な場合にはCE 療法あるいはSPE 療法を推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ11
- 進展型小細胞肺癌(PS 0-1)に対して,プラチナ製剤併用療法にPD-L1 阻害薬の上乗せは勧められるか?
- エビデンスの強さA
- 進展型小細胞肺癌(PS 0-1)には,プラチナ製剤/エトポシド併用療法+PD-L1 阻害薬の併用治療を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
解説
PS 0-1 のED 症例を対象に,CBDCA+ETP(CE 療法)+アテゾリズマブ(PD-L1 阻害薬)後にアテゾリズマブ単剤での維持療法を行う群(併用群)とCE 療法+プラセボ(プラセボ群)を比較する第Ⅲ相試験(IMpower133 試験)が行われた17)。併用群はプラセボ群に対して,主要評価項目であるOS の有意な延長を認めた(12.3 カ月vs 10.3 カ月,HR 0.70,95%CI:0.54-0.91,P=0.007)。また,副次評価項目であるPFS についても有意な延長を認めた(5.2 カ月vs 4.3 カ月,HR 0.77,95%CI:0.62-0.96,P=0.02)。なお,本試験において用いられたプラチナ製剤はCBDCA であるが,プラセボ群のOS中央値は,既報告のCDDP+ETP(PE療法)における9.1 カ月~10.3 カ月3)~6)に劣らない結果であった。毒性についてGrade 3 以上の皮疹(2% vs 0%)やインフュージョンリアクション(2% vs 0.5%)などの免疫関連の毒性が併用群において増加する傾向であることには留意する必要があるものの,肺臓炎(0.5% vs 1%)を含め,全体として併用群におけるGrade 3 以上の毒性の増加は認められなかった(56.6% vs 56.1%)。また,同試験においてアテゾリズマブ併用群でQOL の維持および一部の指標で改善が示された18)。
さらに,PS 0-1 のED 症例を対象に,プラチナ製剤併用療法〔CDDP+ETP(PE 療法)またはCBDCA+ETP(CE 療法)〕+デュルバルマブ(PD-L1 阻害薬)後にデュルバルマブ単剤での維持療法を行う群(デュルバルマブ併用群),およびプラチナ製剤併用療法+デュルバルマブ(PD-L1 阻害薬)+トレメリムマブ(CTLA-4 阻害薬)後にデュルバルマブ単剤での維持療法を行う群(デュルバルマブ+トレメリムマブ併用群)の有用性を,プラチナ製剤併用療法(化学療法群)と比較する第Ⅲ相試験(CASPIAN 試験)が行われた19)。OS の中間解析において,デュルバルマブ併用群は化学療法群に対して,主要評価項目であるOS の有意な延長を認めた(13.0 カ月vs 10.3 カ月,HR 0.73,95%CI:0.59-0.91,P=0.0047)。なお,副次評価項目であるPFSは,HR 0.73(5.1カ月vs 5.4カ月,95%CI:0.65-0.94)であった。毒性について,甲状腺機能低下症(9% vs 1%)や甲状腺機能亢進症(5% vs 0%)などの免疫関連の毒性がデュルバルマブ併用群において増加する傾向であることには留意する必要があるものの,肺臓炎(2% vs 3%)を含め,全体として併用群におけるGrade 3 以上の毒性の増加は認められなかった(62% vs 62%)。また,同試験においてデュルバルマブ併用群でQOL の維持および一部の指標で改善が示された20)。
以上より,進展型小細胞肺癌(PS 0-1)にはプラチナ製剤併用療法+PD-L1 阻害薬の併用治療を行うよう推奨する。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
なお,安全性の観点から現時点で前述したレジメン以外の併用療法は勧められない。詳細については,項末のレジメンを参照のこと。
- CQ12
- 進展型小細胞肺癌(PS 3)に対して,薬物療法は勧められるか?
- エビデンスの強さC
- 進展型小細胞肺癌(PS 3)に対して,カルボプラチン+エトポシド療法あるいはsplit PE療法を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:91%〕
解説
海外で行われた,PS 3 を含めた 2つの第Ⅲ相試験21)22)(ただし,いずれも WHO PS 3)があり,PS 3 に関しては小細胞肺癌に対する治療効果によってPS の改善が得られる可能性があれば薬物療法の対象になり得る。
本邦で,70 歳以上のPS 0-2 の高齢者および70 歳未満のPS 3 の患者を対象としたCBDCA+ETP(CE)療法とsplit PE(SPE 療法:CDDP 3 日間分割投与)との第Ⅲ相試験(JCOG9702 試験)が行われ,CE 群でGrade 3/4 の血小板減少がより多く認められた(CE 56% vs SPE 16%,P<0.01)が,ORR(73% vs 73%),70 歳未満のPS 3 のサブグループ解析におけるOS(中央値7.1 カ月vs 6.9 カ月)はほぼ同様であった16)。しかし,この試験におけるPS 3 の登録は8%(18/220 例)にとどまることは留意すべきである。
以上より,進展型小細胞肺癌(PS 3)に対してCE 療法もしくはsplit PE 療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ13
- 進展型小細胞肺癌(PS 4)に対して,薬物療法は勧められるか?
- エビデンスの強さD
- 進展型小細胞肺癌(PS 4)に対して,薬物療法は行わないよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:70%〕
解説
PS 4 を含めた第Ⅲ相試験22)はあるが,PS 4 の割合は3%(9/339 例)とごくわずかであり,かつ薬物療法同士の比較試験でありBSC との比較試験ではない。したがって,この試験では薬物療法を勧められるかどうかのエビデンスにはならない。その他にPS 4 を主たる対象とした前向き試験は行われておらず,むしろ毒性を考慮すべきPS 4 に関するエビデンスはないのが現状である。
以上より,進展型小細胞肺癌(PS 4)に対して薬物療法は行わないよう提案する。エビデンスの強さはD,ただし総合的評価では行わないよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
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- レジメン
- 進展型小細胞肺癌
- 3
- 予防的全脳照射(PCI)
- CQ14
- 限局型小細胞肺癌の初回治療で完全寛解が得られた症例に対して,予防的全脳照射は勧められるか?
- エビデンスの強さB
- 予防的全脳照射を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:83%〕
解説
メタアナリシスでは,予防的全脳照射(PCI)は完全寛解(CR)例(CR の判定には胸部単純X 線撮影によるものも含まれていた)に限れば3 年脳転移再発率を58.6%から33.3%へと有意に低下させ,3 年生存率を15.3%から20.7%へと有意に向上させることが報告1)されている。そのうちの大多数をLD 例が占めており,LD 例では小細胞癌の初期治療でCR が得られた症例には,PCI を行うことが標準治療として推奨される。
毒性に関しては,PCI の脳に対する毒性の評価を加えたランダム化比較試験が行われ,PCI による精神症状や脳萎縮の発現などの有意な増強は認められなかったとの報告2)があり,また,他のランダム化比較試験においても,PCI による明らかな脳への毒性の増強は認められなかったとの報告3)がある。いずれの試験においてもPCI の開始前にすでに40~60%の症例で精神神経症状が認められていたが,その原因として喫煙,腫瘍随伴症候群(paraneoplastic syndrome),あるいは薬物療法の影響などが挙げられ,PCI による毒性の増強に否定的な見解が示されているが,観察期間も1~2 年と短く,長期生存例における晩期の神経毒性については明らかとなっていない。
以上より,LD の初回治療でCR が得られた症例に対してPCI を行うよう推奨される。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ15
- 予防的全脳照射の勧められる線量は何か?
- エビデンスの強さB
- 25 Gy/10 回相当を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:82%〕
解説
予防的全脳照射(PCI)の線量についてはこれまで24~36 Gy/8~18 回が用いられ,線量が多いほど効果が高い傾向が示唆されていたが1),25 Gy/10 回と36 Gy/18 回あるいは36 Gy/24 回(1 日2 回)の第Ⅲ相試験4)が行われ,主要評価項目である2 年での脳転移の発生率に高線量群29%,標準線量群23%(HR 0.80,95%CI:0.57-1.11,P=0.18)と有意差を認めないだけではなく,2 年生存率が高線量群37%,標準線量群42%(HR 1.20,95%CI:1.00-1.44,P=0.05)と高線量群において悪いことが報告された。また,3 年以上の経過観察の結果では,遅発性有害反応の出現が線量によって差がないとの報告5)がある一方で,他の評価法では,認知機能障害が高線量群に多いとの報告6)もある。軽度の会話能力の低下や下肢の筋力低下,知的障害や記銘力の低下は両群ともに報告されている5)。また,1 回線量については,遅発性有害反応軽減のため,1 回2.5 Gy を超えないことが望ましい6)。
なお,PCI の施行時期については,メタアナリシスにおいて,化学放射線療法終了後6 カ月以上経ってからのPCI は有意に脳転移を抑制しないことが示されており1),化学放射線療法終了後に良好な治療効果が確認され次第,できるだけ早期(治療開始から6 カ月以内)に行うことを提案する。
以上より,PCI の線量分割法は25 Gy/10 回相当を行うことが提案される。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ16
- 進展型小細胞肺癌における薬物療法後の予防的全脳照射は勧められるか?
- エビデンスの強さB
- 予防的全脳照射を行わないよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:89%〕
解説
ED で初期治療に反応したもの(PR 症例が87%)に対する第Ⅲ相試験が行われ,予防的全脳照射(PCI)によりOS 中央値が約1 カ月延長すること(6.7 カ月vs 5.4 カ月,HR 0.68,95%CI:0.52-0.88,P=0.003)を報告7)しているが,登録前に脳転移の有無が画像診断により確認されていたものが29%にとどまっているなど,試験デザインの問題が指摘されている。
プラチナ製剤併用初回薬物療法後に奏効した脳転移のないED に対するPCI 施行群とPCI 未施行群との第Ⅲ相試験の結果が本邦より報告8)され,12 カ月時点で脳転移の出現頻度は,PCI 施行により有意に減少したが(32.4% vs 58.0%,P<0.001),主要評価項目であるOS は中間解析の結果,10.1 カ月と15.1 カ月(HR 1.38,95%CI:0.95-2.02,P=0.091)であり,早期無効中止の結果であった。ただし本試験は初回薬物療法直後とその後の定期的な脳MRI 検査(1 年間は3 カ月おき,その後半年おき)を前提としたことに留意すべきである。
以上より,ED の初回薬物療法奏効後に脳転移の認められない症例に対してPCI は行わないよう推奨する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
引用文献
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- 8)
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- レジメン
- 予防的全脳照射(PCI)
- 4
- 再発小細胞肺癌
-
■再発小細胞肺癌におけるsensitive relapse とrefractory relapse の分類
再発小細胞肺癌に対するCDDP+ETP1),ETP2),teniposide(本邦未承認)3)など多くの第Ⅱ相試験において,初回薬物療法終了後から再発までの期間が長い患者は,再発後の薬物療法のORR が高いことが報告されている。このため,初回薬物療法が奏効し,かつ初回治療終了後から再発までの期間が長い患者(60~90 日以上の場合が多い)は「sensitive relapse」,それ以外は「refractory relapse」と定義されることが多く,sensitive relapse のほうが再発時の薬物療法の効果が高く,生存期間が長い4)5)。
引用文献
- 1)
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- 5)
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- CQ17
- 再発小細胞肺癌(sensitive relapse)に対する最適な薬物療法は何か?
- エビデンスの強さA
- 再発小細胞肺癌(sensitive relapse)に対してノギテカン単剤療法,シスプラチン+エトポシド+イリノテカン(PEI)療法,アムルビシン単剤療法,カルボプラチン+エトポシド療法を行うよう推奨する。。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
解説
〈NGT 単剤療法〉
Sensitive relapse を含む再発小細胞肺癌を対象としたBSC と内服NGT*単剤療法を比較する第Ⅲ相試験において,内服NGT*療法群のOS の優越性が示された(13.9 週vs 25.9 週,HR 0.64,95%CI:0.45-0.90,P=0.01)1)。また,sensitive relapse を対象としたNGT 単剤療法とCPA+DXR+VCR(CAV)療法を比較する第Ⅲ相試験では,NGT 単剤療法とCAV 療法のOS は同等であり,NGT 単剤療法群で症状改善の優越性が示された2)。また,sensitive relapse を対象としたNGT 単剤療法と内服NGT*単剤療法を比較する第Ⅲ相試験では,OS は同等であった(35.0 週 vs 33.0 週,HR 0.98,95%CI:0.77-1.25)3)。これらの結果より,NGT 単剤療法がsensitive relapse に対する標準治療とみなされている。
〈CDDP+ETP+CPT-11(PEI)療法〉
本邦で,NGT 単剤療法とPEI 療法を比較する第Ⅲ相試験(JCOG0605 試験)が行われ,PEI 療法のOS の優越性が証明された(18.2 カ月vs 12.5 カ月,HR 0.67,95%CI:0.51-0.88,P=0.0079)4)。しかしながら,PEI 療法はG-CSF 製剤の予防投与を行っているにもかかわらずGrade 3 以上の発熱性好中球減少症の発現頻度31%(NGT 単剤群で7%)と報告されており,PEI 療法は患者の条件が許す場合のオプションの1 つと考えられる。
〈AMR 単剤療法〉
AMR 単剤療法とNGT 単剤療法を比較する3つの試験が行われ5)~7),sensitive relapse のみを対象としたランダム化比較第Ⅱ相試験においてはOS 中央値9.2 カ月vs 7.6 カ月と同等であり5),第Ⅲ相試験のサブグループ解析においてもsensitive relapse のOS は中央値9.2 カ月vs 9.9 カ月(HR 0.936,95%CI:0.724-1.211)とAMR 単剤療法のNGT 単剤療法に対する優越性は示されなかった6)。9 つの試験のシステマティックレビューが行われた結果,日本人のsensitive relapse に対するAMR単剤療法の効果はORR 61%,1 年生存率51%と報告されている8)。
〈CBDCA+ETP 療法〉
プラチナ製剤+ETP 療法後のsensitive relapse 症例に対し,内服NGT*単剤療法とCBDCA+ETP 療法(再投与)を比較する第Ⅲ相試験(GFPC01-13 試験)が行われた。主要評価項目であるPFS は,CBDCA+ETP 療法群で有意な延長効果が示された(中央値4.7 カ月vs 2.7 カ月,HR 0.57,90%CI:0.41-0.73,P=0.0041)が,OS は中央値7.5 カ月vs 7.4 カ月(HR 1.03,95%CI:0.87-1.19)と同等であった。主なGrade 3 以上の有害事象は,両群ともに血液毒性,発熱性好中球減少症であり,頻度は同様であった9)。
以上より,再発小細胞肺癌(sensitive relapse)に対してNGT 単剤療法,PEI 療法,AMR 単剤療法,CBDCA+ETP 療法を行うよう推奨する。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
*内服NGT は,本邦で保険償還されていない。
- CQ18
- 再発小細胞肺癌(refractory relapse)に対する最適な薬物療法は何か?
- エビデンスの強さC
- 再発小細胞肺癌(refractory relapse)に対して,アムルビシン単剤療法を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:96%〕
解説
BSC と内服NGT*単剤療法を比較する第Ⅲ相試験において,内服NGT*単剤療法のOS の優越性が証明された(13.9 週 vs 25.9週,HR 0.64,95%CI:0.45-0.90,P=0.01)ものの,refractory relapse に対する効果は十分とはいえなかった1)。Refractory relapse に対する薬物療法の意義は確立されていないと考えられるが,AMR のシステマティックレビューが行われた結果,日本人のrefractory relapse に対するAMR単剤療法の効果はORR 38%,1 年生存率34%と報告されており8),sensitive relapse を含むBSC と内服NGT*単剤療法を比較する第Ⅲ相試験のBSC 群の6 カ月生存率26%より優れていると判断される。
再発小細胞肺癌に対するNGT 単剤療法とAMR 単剤療法の第Ⅲ相試験のサブグループ解析では,refractory relapse において,OS は中央値5.7 カ月vs 6.2 カ月(HR 0.776,95%CI:0.589-0.997)と,AMR 単剤療法によるOS の延長効果が認められている6)。また,本邦においてもrefractory relapse 症例に対するAMR 単剤療法の第Ⅱ相試験(JCOG0901 試験)が行われ,ORR は32.9%,OS 中央値は8.9 カ月であった10)。
以上より,再発小細胞肺癌(refractory relapse)に対してAMR 単剤療法を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
*内服NGT は,本邦で保険償還されていない。
引用文献
- 1)
- O’Brien ME, Ciuleanu TE, Tsekov H, et al. Phase Ⅲ trial comparing supportive care alone with supportive care with oral topotecan in patients with relapsed small-cell lung cancer. J Clin Oncol. 2006; 24(34): 5441-7.
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- 6)
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- レジメン
- 再発小細胞肺癌
Ⅳ.転移など各病態に対する治療方針
- 総論
- 転移など各病態に対する治療方針
解説
進行期の肺癌では脳・骨など遠隔転移の頻度が高く,これらの制御は予後のみならず全身状態に大きな影響を与える。本項では日常臨床で多く遭遇する骨転移・脳転移・胸部緩和照射・癌性胸膜炎・癌性心膜炎・Oligometastatic disease(オリゴ転移)についてクリニカルクエスチョン(CQ)を設定した。
いずれの病態においても共通する基本的な考え方としては,無症状であれば全身化学療法を優先,有症状例もしくは近いうちに有症状・機能低下をきたす可能性が高い症例に対しては局所治療を優先する,となる。また,その時点で使用可能な化学療法レジメンの効果(特にORR・PFS などの短期指標)も治療選択における重要な情報である。組織型に関して,小細胞肺癌の場合は進展が急速であること,細胞傷害性抗癌薬の感受性が非小細胞肺癌と比較し良好であることなどから,実診療においては薬物療法を優先する場合が多い。各治療法の決定においては呼吸器内科医・呼吸器外科医・腫瘍内科医・放射線腫瘍医・整形外科医・脳神経外科医・緩和治療医などとの緊密な連携,キャンサーボードなど多職種での検討が重要である。
近年の肺癌薬物療法の進歩は局所療法の選択にも少なからず影響を与えている。特に非小細胞肺癌におけるドライバー遺伝子変異/転座陽性例は,分子標的治療薬によって短期間で良好な腫瘍縮小が期待できることが多い。また,非小細胞肺癌・小細胞肺癌のいずれにおいても免疫チェックポイント阻害薬による治療レジメンが用いられるようになり,予後についても症例によっては長期成績が期待できるようになってきている。このような症例に対する局所治療を導入するにあたっては,効果のみならず侵襲度や晩期毒性も含めた検討がこれまで以上に重要となっている。
以下,局所治療の中ではエビデンスが比較的豊富な骨転移・脳転移病態における治療方針ならびに胸部緩和照射について概説する。
1)骨転移
有症状例では局所治療の適応となる。多くは放射線治療が選択されるが(CQ1,2),oncologic emergency である脊髄圧迫に対しては外科治療も選択肢となる(CQ3)。局所治療を要する骨転移は多くの場合で生命予後に直結することは少ないものの,生活の質(QOL)に与える影響は大きい。このため治療選択には予後との兼ね合いも重要となる。こうした観点から,放射線治療については単回照射の選択肢があることはより知られてよい(CQ2)。
2)脳転移
有症状例を中心として放射線治療や摘出術などが局所治療の対象となるが(CQ7~10),無症状でも局所治療を選択する場合がある(CQ6,9,10,12)。放射線治療の選択については,4 個以下で腫瘍径3 cm 程度までであれば定位照射,それ以外の多発脳転移については全脳照射を行うのが基本的な考え方であるが,近年,5~10 個以上の多発脳転移に対する定位照射の前向きな観察研究の結果も報告されており,全脳照射による認知低下が危惧される場合の治療選択肢として提案し得る(CQ9)。
薬物療法においては,特に非小細胞肺癌におけるドライバー遺伝子変異/転座陽性例で分子標的治療薬により長期の局所制御が得られる症例も経験される(CQ12)。これらの症例では数年以上の長期生存が得られる可能性があることから,局所治療を行う場合は晩期毒性に今まで以上の注意を払う必要がある。
3)胸部緩和照射
肺癌局所に対する放射線治療の役割は,局所制御を目的とした根治照射以外に,症状の軽減を目的とした緩和照射も重要である。特に肺癌患者では,QOL や生命予後に影響を及ぼす重篤な症状も多い(CQ13)。
4)Oligometastatic disease(オリゴ転移)
Oligometastatic diseaseは,転移病巣数が限られており,進行期(Ⅳ期)肺癌であっても局所治療の追加によって生存の延長が期待される疾患群とされる。現状では,その定義や局所治療の具体的な方法に明確なコンセンサスがない。しかし,昨今Oligometastatic disease に関する重要な臨床試験や提言がなされており,臨床的に重要な問題であると考え,2021 年版より新たに当該CQ を設定した(CQ16)。
Oligometastatic diseaseは,時間軸の違いにより分類化される。同時性(synchronous)か異時性(metachronous)か,治療により誘発された(induced)か,残存病変(persistence)か増悪病変(progression)か,などによって分かれる。近年,非小細胞肺癌で発表された比較試験のエビデンスは,ほとんどがsynchronous oligometastatic disease を対象としている。Oligometastatic disease の診断には,画像評価が極めて重要である。そのため,PET-CT や頭部MRI での適切な評価が勧められる。欧州の報告では,Oligometastatic disease の定義として“すべての病変に局所治療が可能な,3 臓器以内5 個以下の転移”とされている。
局所治療は,治療効果だけではなく晩期毒性や後遺症を加味して後治療に影響を及ぼさないよう治療の選択を行うことが望ましい。2020 年4 月の診療報酬改定に伴い,体幹部定位放射線治療(SBRT)の保険適用範囲に「5個以内のオリゴ転移」が追加され,今後,治療機会が増えることが予想される。ただし,Oligometastatic disease に対する放射線治療は,その転移臓器や病変の大きさ,個数によって最適な治療法は異なるため,病変ごとに安全かつ有効な照射方法を検討する必要がある。なお,骨転移(CQ2)や脳転移(CQ6)への局所治療については,既存のCQ に従い治療方針を検討されたい。
Oligometastatic disease に関する局所治療のエビデンスは現時点で十分ではなく,個々の対象に応じて慎重に吟味する必要があることに加え,高度な集学的治療への医療アクセスも求められる。今後のエビデンス集積のためにも,臨床試験等での実践が勧められる。
- 1
- 骨転移
-
- CQ1
- 症状を有する骨転移に対して,放射線治療が勧められるか?
- エビデンスの強さA
- 放射線治療を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
解説
肺癌の骨転移は約30~50%に生じるとされる。本邦における230 例の非小細胞肺癌での後方視的な解析1)では,30.4%に骨転移が認められている。そのうちの65.7%は初回ステージング時で認められ,50%は骨関連事象(SRE)をその経過で認めた。また,非小細胞肺癌(197 人)と小細胞肺癌(77 例)を含む計274 例の多施設共同前方視的研究2)では、登録時にⅣ期非小細胞肺癌で47.6%,進展型小細胞肺癌で40.4%に骨転移を認め,各々16%,8.5%,経過中には全体の9.5%にSRE を認めた。一方,小細胞肺癌92 例を対象とした海外からの後方視的解析3)によると,経過中,63%に骨転移を認め,SRE はその35%に認められた。
未治療の骨転移合併肺癌では,可能なら全身治療としての薬物療法を導入すべきであるが,症状を有する,または病的骨折の危険性が高い,または脊椎転移が脊髄圧迫を生じている場合は放射線治療が優先されることがある。
16 のランダム化比較試験のメタアナリシス4)によると,放射線治療による痛みの改善は50~80%と高率に得られ,有害事象の頻度も少なかった(病的骨折2.8~3.2%,脊髄圧迫1.9~2.8%)。
以上より,放射線治療によって高い局所制御率と臨床的有効性がメタアナリシスにて確認されている。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ2
- 症状を有する骨転移に対する適切な照射法は何か?
- エビデンスの強さA
- a. 分割照射を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
- エビデンスの強さA
- b. 単回照射を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:97%〕
解説
従来,骨転移に対する放射線治療としては総線量20~30 Gy の分割照射が行われてきた。8 Gy 単回照射については,総線量20~30 Gy の分割照射との比較を行った前向き試験がいくつかあり,これら16 のランダム化比較試験に関するメタアナリシスが報告されている4)。これによると痛みの改善は単回照射群58% vs分割照射群59%と同等であった(HR 0.99,95%CI:0.95-1.03)。有害事象も病的骨折3.2% vs 2.8%(P=0.75),脊髄圧迫2.8% vs 1.9%(P=0.13)と有意差を認めなかったが,再照射率は20% vs 8%と単回照射群で有意に高かった(HR 2.5,95%CI:1.76-3.56)。このメタアナリシスに含まれる試験で照射後の長期フォローアップを行った研究5)でも,有害事象は両群で有意差を認めず,再照射率は単回照射群で有意に高かった(27% vs 9%,P=0.002)。
以上より,骨転移に対する標準的な照射方法としては,20 Gy/5 回,30 Gy/10 回などの分割照射が勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。一方,期待生存期間3 カ月以内,連日の治療が困難,原腫瘍が増悪しているなど,症例によっては8 Gy 単回照射が選択肢と考えられる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。
なお,体幹部定位放射線治療(SBRT)を用いた高線量単回照射(12 Gyまたは16 Gy)と通常分割照射(30 Gy/10 回)を比較した単施設ランダム化第Ⅱ相試験(対象は主に転移性非脊椎腫瘍)では,疼痛緩和効果が前者で有意に高く,再照射割合,有害事象発生割合に有意差はなかった6)。SBRT については,有痛性非脊椎病変を対象とした35 Gy/5 回の2 施設第Ⅱ相試験7)が本邦からも報告されており,全疼痛緩和率(CR+PR)が75%と良好な結果を示している。SBRT を用いた高線量照射に対するこれらの試験は疼痛緩和効果を主要評価項目としたものであるが,長期的な局所制御や有害事象についても,今後の検討課題と考えられる。
※本邦では2020 年4 月から転移性脊椎腫瘍(直径5 cm 以下)と5 個以内のオリゴ転移に対するSBRT が保険適用となった。
下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ3
- 病的骨折の危険性の高い骨転移,または脊椎転移が脊髄圧迫を生じている骨転移に対して,外科治療が勧められるか?
- エビデンスの強さC
- 外科治療を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:100%〕
解説
病変が2.5 cm 以上,もしくは荷重骨で皮質の50%以上に破壊がみられる場合は病的骨折のリスクが高いとされている。病的骨折の危険性の高い骨転移に対し外科治療の意義や術式に関するランダム化比較試験はない。切迫骨折または病的骨折の状態にある四肢長管骨を対象とした前向き観察研究8)では,術後6 週と3 カ月の両評価点において重篤な合併症なく,疼痛や機能面(MSTS1987, MSTS1993,TESS)での有意な改善が認められた。しかし,健康関連QOL(SF-36)においては有意な改善が得られなかった。多くの後方視的報告においても,疼痛や機能の維持・改善は示されているものの,QOL に関しては予後や全身状態による影響も大きく,明らかな益は示されていない9)。
脊髄圧迫を呈する転移性骨腫瘍に対して除圧術+放射線治療と放射線治療単独のランダム化比較試験において10),治療後の歩行可能者割合は84% vs 57%(オッズ比6.2,95%CI:2.0-19.8,P=0.001)と手術群で良好で,歩行を維持できた期間も前者で長かった(122 日間vs 13 日間,P=0.003)ことから,試験は早期中止となった。しかし,この試験は100 例の集積に10 年を要するなど,患者選択にバイアスがかかっている可能性や放射線治療単独群における歩行維持期間が短すぎることなど,いくつかの問題が指摘されている。そこで,この試験の患者と予後因子を合わせたペアマッチ解析が検討されたが11),治療後の歩行可能者割合は69% vs 68%と有意差を認めず,単変量解析でも治療内容は予後に影響しなかった。
以上より,病的骨折のリスクが高い骨転移では,外科治療を行うことで術後早期より疼痛緩和や機能面での改善が期待できる。しかし,その適応や術式には病勢や予後,全身状態など総合的な判断を要し,多職種からなる集学的な検討が望ましい。脊椎転移が脊髄圧迫を生じている骨転移に対する外科治療は少数の比較試験で有効性が示唆されているものの,相反する報告も存在している。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ4
- 病的骨折の危険性が高い骨転移,または脊椎転移が脊髄圧迫を生じている骨転移に対して,放射線治療が勧められるか?
- エビデンスの強さC
- 放射線治療を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
解説
従来,病変が2.5 cm 以上,もしくは荷重骨で皮質の50%以上に破壊がみられる場合は病的骨折のリスクが高いとされ,固定と放射線治療の適応がある12)。脊髄圧迫については,単群第Ⅱ相試験ではあるが(解析対象209 例のうち17%が肺癌),放射線治療によって82%で除痛が得られ,76%で歩行機能が回復または維持していたと報告されている13)。また,この中で画像上圧迫を認めるものの症状が顕在化していない時期に放射線治療をすることで,全例にその後の歩行能力が保持されていたとも報告されている。また,小細胞肺癌の転移性脊髄圧迫に対し放射線治療を行った120 例の後方視的解析14)では,60%で歩行機能が回復または維持されていた。
以上より,病的骨折の危険性が高い,または脊椎転移による脊髄圧迫が切迫していると判断される場合には,明らかな神経症状がなくても放射線治療を行うよう勧められる。単群試験やこれまでのコンセンサスによる部分が多いため,エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ5
- 骨転移を有する症例に対して,骨関連事象の抑制(発現率を軽減し,発現までの時期を延長させる)に骨修飾薬(ゾレドロン酸またはデノスマブ)は勧められるか?
- エビデンスの強さB
- 骨修飾薬(ゾレドロン酸またはデノスマブ)による治療を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
解説
乳癌および前立腺癌以外の肺癌を中心とした固形癌の骨転移患者(非小細胞肺癌50%,小細胞肺癌8%)を対象に,ビスフォスフォネート(BP)製剤であるゾレドロン酸とプラセボを,骨関連事象(SRE)の発症率および発症までの期間で比較した第Ⅲ相試験が行われた15)。21 カ月までのSRE 発現割合は,ゾレドロン酸4 mg 投与群が38.9%,プラセボ投与群が48.0%とゾレドロン酸投与群が有意に低く,発症時期を2 カ月以上延長させた(236 日 vs 155 日)。疼痛スコアや鎮痛剤の使用およびPS の変化に関しても,有意ではないものの改善傾向であった。
乳癌,前立腺癌を除く,進行癌(非小細胞肺癌40%)と多発性骨髄腫患者を対象に,デノスマブとゾレドロン酸を,SRE 発症までの期間で比較した第Ⅲ相試験が行われた。初回SRE 発症までの期間は,デノスマブ群20.6 カ月,ゾレドロン酸群16.3 カ月で,非劣性が証明されたが,優越性は証明されなかった。一方で,疼痛スコアの増悪や骨病変に対する放射線治療のリスクは,デノスマブ群が有意に少なかった16)17)。
以上より,骨転移を有する症例では,SRE の発現率の軽減とSRE 発現までの期間を延長させることが複数の研究で示されているため,ゾレドロン酸またはデノスマブの投与は勧められる。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
BP 製剤とデノスマブの重要な有害事象に顎骨壊死が報告されている。顎骨壊死のリスク因子は,直近の歯科的処置やBP 製剤の36 カ月以上の長期投与が挙げられている18)。そのため,日常診療におけるBP 製剤の長期使用では,顎骨壊死は十分に注意すべき有害事象である。デノスマブとゾレドロン酸の比較試験の統合解析では,両薬剤で,顎骨壊死の頻度に有意差を認めず19),デノスマブもBP 製剤と同様な対応が必要である(参考資料:http://jsbmr.umin.jp/guide/pdf/bronjpositionpaper2012.pdf)。
BP 製剤の腎機能障害は,BP 製剤を使用した症例の4%に報告されている20)。一方,デノスマブは,海外第Ⅲ相試験19)において,クレアチニンクリアランス値が30 mL/min 未満の重度腎疾患患者および透析の必要な末期腎不全患者は対象から除外されており,慎重投与となっている。
デノスマブで注意すべき有害事象は,低カルシウム(Ca)血症である。低Ca 血症の頻度がBP 製剤と比較して有意に多いという報告(ゾレドロン酸投与群5.8%,デノスマブ投与群10.8%)があり,予防のためにCa 製剤,ビタミンD 製剤の内服,定期的な血清Ca の測定が推奨されている19)。
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- レジメン
- 転移性骨腫瘍に対する治療
- 2
- 脳転移
-
- CQ6
- 遠隔転移が単発の脳転移のみのⅣ期症例に対して,定位放射線照射や外科治療は勧められるか?
- エビデンスの強さC
- 脳以外の病巣がコントロールされており,かつ単発の脳転移に対して,定位放射線照射*や外科治療を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:85%〕
*定位放射線照射(STI)は,線量分割の違いにより,1 回照射の場合を定位手術的照射(SRS),分割照射の場合を定位放射線治療(SRT)と定義されている。ガンマナイフ,サイバーナイフやリニアックによる1 回照射はSRS に含まれる。脳幹など重要組織が近接している場合や大きい腫瘍にはSRT で治療を行うことがある。
解説
全身コントロール良好な単発性脳転移を有する症例を対象とした,SRS と手術+全脳照射の比較試験において,SRS 単独群のOS 中央値は約10 カ月と報告されている1)。またPS 良好な単発性脳転移を有する症例を対象とした手術と手術+全脳照射の比較試験において,手術単独群のOS 中央値は約10 カ月と報告されている(全脳照射の追加によるOS の延長はなし:CQ10)2)。これらはいずれも他癌腫を含んだデータで,肺癌患者は3~6 割程度を占めていた。近年報告された,非小細胞肺癌患者を対象とした観察研究のシステマティックレビューでは,原発巣がコントロールされ,脳転移に対してSRS や手術などの局所治療を行った患者のOS 中央値19.7 カ月(範囲6.8-52 カ月)と報告されている3)。
以上より,脳以外の病巣がコントロールされており,かつ単発の脳転移に対して,SRS や外科治療を行う妥当性はあると考えられる。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ7
- 症状を有する脳転移に対して,外科治療は勧められるか?
- エビデンスの強さC
- 症状を有する単発性脳転移に対して,腫瘍摘出術を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:100%〕
解説
肺癌は脳転移を生じる頻度が高く,これによって生じた様々な神経症状はQOL を低下させる。このため,QOL 改善を目的とした手術が治療選択肢の1 つとして汎用されてきた。単発性脳転移を有する固形癌患者を対象とした手術と手術+全脳照射とのランダム化比較試験において,手術単独群のOS 中央値は約10 カ月,頭蓋内無増悪期間中央値は約6 カ月であった(全脳照射の追加によるOS の延長はなし:CQ10)2)。疾患の性質からBSC との比較試験は存在しないが,症状を有する単発性脳転移に対する手術については治療選択肢として提案可能である。一方,定位照射の有効性が期待できる場合には手術より優先されることが考えられる。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ8
- 症状を有する脳転移に対して,放射線治療は勧められるか?
- エビデンスの強さC
- 症状を有する脳転移に対して,放射線治療を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
解説
肺癌は脳転移を生じる頻度が高く,これによって生じた様々な神経症状はQOL を低下させる。2 つの前向き試験では放射線治療によって70~90%の患者に症状の寛解が得られたと報告されており4),CQ9 に示すように全脳照射やSRS のいずれにおいても良好な頭蓋内無増悪期間およびOS が報告されている。
以上より,エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
なお,ステロイド+全脳照射とステロイド単独療法の非劣性を検討した第Ⅲ相試験において,OS とQOL の指標である質調整生存期間(QALY)の非劣性は証明されなかったものの,OS・QOL に有意差はなかった5)。本試験の患者背景はKPS 70 未満の割合が約4 割と多く,RPA・GPA などの予後予測因子も不良なものが大多数を占めていた。またOS 中央値は両群とも8~9 週程度と非常に短く,このために全脳照射の有用性が認められなかったと考えられている。よって,予後不良と考えられる場合はステロイド単独治療も選択肢である。
- CQ9
- 多発性脳転移に対して,放射線治療は勧められるか?
- エビデンスの強さC
- 〈非小細胞肺癌の場合〉
- a. 多発性脳転移に対して,全脳照射を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:84%〕
- エビデンスの強さC
-
- b. 4 個以下で腫瘍径3 cm程度までであれば定位放射線照射*を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:97%〕
- エビデンスの強さC
-
- c. 5~10 個の脳転移に対して,定位放射線照射を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:61%〕
- エビデンスの強さC
- 〈小細胞肺癌の場合〉
- d. 多発性脳転移に対して,全脳照射を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:75%〕
- エビデンスの強さD
-
- e. 10 個までの脳転移に対して,定位放射線照射を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:75%〕
*定位放射線照射(STI)は,線量分割の違いにより,1 回照射の場合を定位手術的照射(SRS),分割照射の場合を定位放射線治療(SRT)と定義されている。ガンマナイフ,サイバーナイフやリニアックによる1 回照射はSRS に含まれる。脳幹など重要組織が近接している場合や大きい腫瘍にはSRTで治療を行うことがある。
解説
- a・b. 従来,多発性脳転移に対しては全脳照射が行われてきた。疾患の性質からBSC との比較試験は存在しないが,2 つの前向き試験では放射線治療によって70~90%の患者に症状の寛解が得られたと報告されている。それらの前向き試験ではそのOS 中央値は3.5~7.5 カ月程度であり,頭蓋内無増悪期間は中央値約6 カ月程度と報告されている6)~10)。
全脳照射は一般的には30 Gy/10 回/2週や37.5G y/15 回/3 週の照射法が使われることが多い。全脳照射後の認知機能低下について,脳転移術後照射の検討では両者に差はみられなかった11)。
4 個以下,3 cm 程度の脳転移に対してはSRS のエビデンスも蓄積されており,前向き試験のデータではOS 中央値は約8~15 カ月,照射1 年後の局所コントロール率は6~9 割程度と報告されている12)13)。
脳腫瘍に対する放射線照射の有害事象として治療後のQOL の低下が問題となることがある。手術やSRS に全脳照射を追加することで,活動性の低下や認知機能障害が生じることを示す報告13)~15)がある一方で,評価の方法や時期の違いの影響から差がなかったとする報告もある12)。一方,全脳照射を省くことで脳内再発によって認知機能の悪化がみられることがある。
以上より,多発性脳転移に対する全脳照射,4 個以下で腫瘍径3 cm 程度までに対するSRS は複数の前向き試験でその有効性が示唆されている。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- c. 5 個以上の脳転移に対するSRS の有効性については,前向き観察研究で5~10 個の脳転移と2~4 個の脳転移に対する治療成績の比較によって,生存率に差がなかったとする結果が本邦から報告されており,有害事象の出現率にも差を認めなかった(9% vs 9%,P=0.89)16)。ただし,本研究の適格基準として最大径3 cm 未満,最大腫瘍体積10 mL 未満,合計体積15 mL などが挙げられており,この結果を適応できる患者は限られる可能性がある。一方で,全脳照射後の認知機能低下について複数の報告がされている14)15)。これらのことから,同対象に対して定位照射も治療選択肢として提案できる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。また個数にかかわらず定位照射を選択した場合には,しばしば後発転移が生じることから定期的な画像診断を継続することが必要である。
- d・e. 小細胞肺癌のSTI についての多施設後方視的観察研究では,1 個,2~4 個,5~10 個でそれぞれ生存期間中央値が11カ月,8.7 カ月,8.0 カ月と報告されており,全脳照射と比較しても中枢神経転移の無増悪期間は短くなるもののOS に差は認められなかった17)。多発脳転移に対する全脳照射のエビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うように推奨(1 で推奨)できると判断した。また,10 個までの脳転移に対するSTI のエビデンスの強さはD,ただし総合的評価では行うように提案(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ10
- 手術や定位放射線照射に,全脳照射の追加は勧められるか?
- エビデンスの強さA
- 手術や定位放射線照射に,全脳照射の併用を行わないよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:100%〕
解説
症状を有する脳単発の脳転移を有する患者に対しての手術と,手術+全脳照射との併用療法を比較したランダム化比較試験は1 つあり,OS に有意差は認められなかったが(43 週vs 48 週,RR 0.91,95%CI:0.59-1.40,P=0.39),局所再発は有意に減少した(46% vs 10%,P<0.001)2)。
4 個以下の脳転移に対するSRS と,SRS+全脳照射との併用療法を比較した試験は複数あり,ランダム化比較試験のメタアナリシスで局所制御率については併用群で有意に良好であった(HR 2.61,95%CI:1.68-4.06,P<0.0001)が,OS に有意差を認めなかった(HR 0.98,95%CI:0.71-1.35,P=0.88)18)。4 個以下の脳転移に対して,3 cm を超える病変に対して手術が行われ,手術後残存腫瘍に対して全脳照射または再発時SRS を比較したランダム化比較試験が行われた19)。OS は両群ともに15.6 カ月で,非劣性仮説に対する片側P 値=0.027(HR 1.05,90%CI:0.83-1.33)であり,SRS 群の全脳照射群に対する非劣性が証明された。
認知機能に関しては1 つのランダム化比較試験ではSRS 群とSRS+全脳照射群間でMini Mental State Examination(MMSE)の結果に有意差は認められなかったが12),もう1 つのランダム化比較試験ではHopkins Verbal Learning Test-Revised(HVLT-R)を用いて評価を行ったところ,記憶学習能力が併用群で有意に低下したため早期中止となっている13)。同じく,複数の認知機能検査を用いて評価したランダム化比較試験でもSRS 群と比較してSRS+全脳照射群で3 カ月後の評価で有意に低下がみられた15)。
また,手術もしくはSRS を行った患者に対して全脳照射の追加を検討したランダム化比較試験において,全脳照射併用群は健康関連QOL が悪い傾向にあった14)。
以上より,脳転移に対する手術やSRS に全脳照射を追加すると,局所制御には有効であると考えられるが,一方では生存には寄与せず,認知機能低下などの有害事象も懸念されることが複数の臨床試験で示されている。このため手術やSRS 後に全脳照射を追加するかしないかは,腫瘍サイズや性状,手術所見などを踏まえて総合的に判断すべきである。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行わないよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ11
- 髄膜癌腫症に対する適切な治療法は何か?
- 髄膜癌腫症に対して,薬物療法・放射線治療を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。
〔推奨度決定不能〕
解説
髄膜癌腫症に対する薬物療法に関して,本邦で承認された薬剤・用量に限った場合,いくつかの小規模前向き研究がある。EGFR T790M 変異陽性の進行非小細胞肺癌を対象としたオシメルチニブの前向き臨床試験参加症例のうち,髄膜癌腫症を認めた22 例のpost-hoc 解析では,頭蓋内病変のORR 55%,PFS中央値 11.0 カ月であったと報告されている20)。また,T790M 変異陽性の髄膜癌腫症を有する症例を対象としたオシメルチニブの小規模前向き研究では,髄膜癌腫症が確定的な症例5 例のうち2 例でオシメルチニブの有効性が確認され,全13 症例のPFS 中央値は7.2 カ月であった21)。これらの結果により,髄液移行性の高い特定の薬剤において有効な可能性が示唆されるが,限られた小数例のコホートにとどまっておりエビデンスとして十分ではない。また,髄膜癌腫症に対する放射線治療(全脳照射)の有用性を検討した前向き臨床試験は存在しない。後方視的研究では,髄膜癌腫症に対する全脳照射の有用性は認められていないが22)23),なかには症状緩和が得られる症例が経験されることもある。
以上より,髄膜癌腫症に対し薬物療法・放射線治療を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではなく,推奨度決定不能とした。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- CQ12
- 無症候性脳転移に対して,薬物療法は勧められるか?
- エビデンスの強さC
- 薬物療法を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
解説
無症候性脳転移に対しては全身治療として薬物療法が治療の中心となるものの,放射線治療も高い局所制御を示すことからその時期を逸さないことは重要である。一方で近年,新規薬物療法の登場によって進行非小細胞肺癌の予後は延長しており,治療方針を決定する際の評価項目として,OS・脳転移制御率だけではなく神経学的予後に対する配慮もより重要となっている。
無症候性脳転移に対して薬物療法・放射線治療のどちらを先行させるかという重要なクリニカルクエスチョンが生じるが,現時点で明確なエビデンスは乏しいことから,脳転移巣のサイズ・個数・部位,医療状況などをもとに放射線腫瘍医と十分検討のうえで判断されるべきである。
放射線治療に関しては,CQ9 を参照すること。
〈分子標的治療〉
遺伝子変異を有する無症候性脳転移患者に対する分子標的治療薬の有効性は,多くが第Ⅲ相試験のサブグループ解析もしくは単群試験における少数例の報告である。TKI 未治療の脳転移症例に対する各TKI の全身における有効性はORR 53-83%,PFS 中央値6.6 カ月-未到達と良好である24)~28)。
EGFR 遺伝子変異陽性
本邦のEGFR 遺伝子変異陽性患者41例を対象にゲフィチニブ単剤を行った単群第Ⅱ相試験では,頭蓋内病変のORR は87.8%,頭蓋内病変のPFS 中央値は14.5 カ月(95%CI:10.2 カ月-18.3 カ月)であった29)。FLAURA 試験のサブグループ解析では,脳転移を有する128 例における頭蓋内病変のPFS 中央値はオシメルチニブ群未到達に対して第一世代EGFR-TKI 群13.9 カ月(HR 0.48,95%CI:0.26-0.86)とオシメルチニブ群で有意に延長していた。頭蓋内病変のORR も91%,68%とオシメルチニブ群で良好であった30)。T790M 変異陽性を対象としたAURA3 試験のサブグループ解析では,頭蓋内病変のPFS 中央値はオシメルチニブ群11.7 カ月に対して細胞傷害性抗癌薬群5.6 カ月(HR 0.32,95%CI:0.15-0.69)とオシメルチニブ群で有意に延長していた。測定可能病変を有する46 例の頭蓋内病変のORR も70%,31%とオシメルチニブ群で良好であった31)。これらの試験結果を含む324 症例のメタアナリシスでは,オシメルチニブの頭蓋内病変のORR は64%であった32)。
ALK 融合遺伝子陽性
クリゾチニブを投与した第Ⅱ相試験と第Ⅲ相試験の統合解析に未治療脳転移症例が109 例含まれ,全身のORR が53%であるのに対して頭蓋内病変のORR は18%と高くはないものの,頭蓋内病変増悪までの期間の中央値は7.0 カ月(95%CI:6.7 カ月-16.4 カ月)であった26)。ALEX 試験において,測定可能な未治療の脳転移を有する29 例における頭蓋内病変のORR は,クリゾチニブ群40.0%に対して,78.6%とアレクチニブ群で良好であった27)。セリチニブの第Ⅲ相試験におけるサブグループ解析では,22 例における頭蓋内病変のORR は72.7%であった28)。ロルラチニブの第Ⅱ相試験におけるサブグループ解析では,頭蓋内病変のORR はALK-TKI 未治療例(3 例)で66.7%,少なくとも1 つのALK 阻害薬既治療例(81 例)で63.0%であった33)。またCROWN 試験において,ロルラチニブの頭蓋内病変のORR は61%と,クリゾチニブの15%と比較して良好な傾向であることが報告された34)。ブリグチニブの第Ⅱ相試験におけるサブグループ解析では,クリゾチニブ既治療例(18 例)における頭蓋内病変のORR は67%,頭蓋内病変増悪までの期間の中央値は18.4 カ月であった35)。化学療法とALK-TKI を比較する5 つのランダム化比較試験のメタアナリシスでは,頭蓋内病変のORR に関するリスク比は3.54(95%CI:2.38-5.26),頭蓋内病変増悪までの期間に関するHR 0.52(95%CI:0.36-0.75)であった36)。
ROS1 融合遺伝子陽性
エヌトレクチニブの第Ⅰ・Ⅱ相試験におけるサブグループ解析では,ROS1-TKI 未治療例(20 例)の頭蓋内病変に対するORR が55%であった37)。
MET 遺伝子変異陽性
カプマチニブの第Ⅱ相試験におけるサブグループ解析では,測定可能病変を有する13 例の頭蓋内病変に対するORR が54%であった38)。
RET 融合遺伝子陽性
セルペルカチニブの第Ⅰ・Ⅱ相試験におけるサブグループ解析では,測定可能病変を有する11 例の頭蓋内病変に対するORR が91%であった39)。
〈細胞傷害性抗癌薬/血管新生阻害薬〉
無症候性脳転移患者に対する細胞傷害性抗癌薬の有効性が複数の試験で検討されている。非扁平上皮非小細胞肺癌43例を対象としてCDDP+PEM 療法を行った第Ⅱ相試験では,頭蓋内病変のORR は41.9%で,頭蓋内病変のPFS 中央値は5.7 カ月(95%CI:4.0 カ月-7.6 カ月)であった40)。同様に非扁平上皮非小細胞肺癌67例を対象にCBDCA+PTX+ベバシズマブ療法を行った第Ⅱ相試験では,頭蓋内病変のORR は61.2%で,頭蓋内病変のPFS 中央値は8.1 カ月(95%CI:5.5 カ月-11.3 カ月)であった41)。
〈免疫チェックポイント阻害薬〉
5~20 mm の脳転移を有するPD-L1 TPS 1%以上の未治療非小細胞肺癌を対象としたペムブロリズマブの第Ⅱ相試験において,10 mg/kg と承認用量とは異なるが,37 例における頭蓋内病変のORR は29.7%であった。神経障害としてGrade 1/2 の認知機能障害,頭痛,めまい,脳梗塞が報告されたが,治療関連死亡は認められず,免疫関連有害事象は既知のものと変わりなかった42)。
以上より,無症候性脳転移に対する薬物療法については,有効性を示唆するデータが複数報告されているものの,いずれも単群第Ⅱ相試験や第Ⅲ相試験のサブグループ解析である。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
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- レジメン
- 転移性脳腫瘍に対する治療
- 3
- 胸部病変に対する緩和的放射線治療
- CQ13
- 縦隔・肺門病変による気道狭窄,上大静脈狭窄など胸郭内の腫瘍増大に伴う症状の緩和を目的とした胸部放射線治療は,行うよう勧められるか?
- エビデンスの強さA
- 放射線治療を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:94%〕
解説
肺癌治療においては根治治療を行うことが難しい場合でも,症状の緩和や延命を目的とした胸部への放射線治療の役割は大きく,対症的に放射線治療を行うよう勧められる。照射線量に関するシステマティックレビューでは,総合的な症状緩和効果は高線量分割照射のほうが低線量照射より優れ(77.1% vs 65.4%,P=0.003),1 年生存率も良好であった1)。ただし,治療による食道炎の頻度は高線量分割照射のほうが高かった(20.5% vs 14.9%,P=0.01)。一方,30 Gy/10 回と同等あるいはそれ以上の高線量分割照射と,より少ない総線量での照射とを比較した5 つの臨床試験のメタアナリシスでは,症状改善率(咳嗽:約50%,胸痛:50~86%,血痰:75~97%)や1 年および2 年生存率に差は認められなかった2)。以上,緩和的胸部照射については,いずれの報告においても高い割合で症状緩和が得られており,有効性がメタアナリシスで示されている。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。一方で患者背景などが様々であり,最適な線量を明示するだけの根拠は不足している。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
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- レジメン
- 胸部病変に対する治療
- 4
- 癌性胸膜炎
- CQ14
- 胸腔穿刺・ドレナージを行った癌性胸膜炎に対して,どのような治療が勧められるか?
- エビデンスの強さA
-
- a. 胸腔ドレナージ後の症例には,胸膜癒着術を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:92%〕
- エビデンスの強さC
-
- b. 薬物療法未治療例には,胸膜癒着術の代わりに薬物療法を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:88%〕
解説
- a. 胸膜癒着術の使用薬剤としては抗菌薬(TC,DOXY,MINOなど),抗癌薬(BLM,CDDPなど),鉱物(Talc),溶連菌製剤(OK-432)などが報告されている。
本邦でTalc が承認される前に行われたBLM,OK-432,CDDP+ETP(PE)胸腔内投与のランダム化比較第Ⅱ相試験(JCOG9515 試験)では,4 週間後の胸水コントロール率は,BLM 68.6%,OK-432 75.8%,PE 70.6%であった。PE では消化器毒性の頻度が多く,治療効果に有意差は認めなかったものの胸水コントロール率の高いOK-432が汎用される根拠となった1)。
各薬剤を比較したメタアナリシスでは,Talc 噴霧法による胸水制御が良好で,BLM,DOXY,TCなどより優れていた2)。Talc 噴霧法とTalc 懸濁法を比較した第Ⅲ相試験では,78%と71%で胸水制御が得られ,有意差は認めなかった3)。重篤な副作用として急性呼吸促迫症候群があるが,粒子径の大きいもの(平均24.5 μm)では低頻度であった(558 例中0 例)4)。よって,2013 年に本邦でもTalc 懸濁法が承認されてから,胸水制御のエビデンスのあるTalc が汎用されるようになった。胸腔ドレナージ後の胸膜癒着術は,ドレナージ単独より胸水コントロール率に優れていることがエビデンスの質の高い研究で示されている。
以上より,エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
- b. 分子標的治療薬による胸水制御を前向きに検討した報告はなかったが,日常臨床において,ドライバー遺伝子変異/転座陽性例では,胸水に対しても分子標的治療薬が有効であることはしばしば経験される。一方,胸水に対して胸膜癒着術を行わずに,細胞傷害性抗癌薬の投与を行うことが有効であると示した報告が2 つある。CBDCA+PEM+ベバシズマブ療法を行った第Ⅱ相試験(NEJ013A 試験)では,28 例の胸水コントロール率は92.9%で5),CBDCA+PTX+ベバシズマブ療法を行った第Ⅱ相試験では,23 例の胸水コントロール率は86.9%であった6)。前者では貧血(Grade 3 以上)が25%,後者では発熱性好中球減少症が26.1%で報告され,PointBreak 試験やECOG4599 試験より有害事象の頻度が高い傾向にあった。また,胸膜癒着術無効の非扁平上皮非小細胞肺癌に対して,CBDCA+PTX 療法またはCBDCA+PEM 療法にベバシズマブの併用治療を行った第Ⅱ相試験(NEJ013B 試験)では,20 例の胸水コントロール率は80%であった7)。
胸膜癒着術を行わずに全身薬物療法を導入することで,長期の持続ドレナージに伴うPS の増悪や全身薬物療法導入時期の遅れを回避できる可能性がある。一方で,前述の報告はドライバー遺伝子変異/転座陽性例や扁平上皮癌を対象としておらず,限られた患者集団およびレジメンでの単群の第Ⅱ相試験であり,十分なエビデンスがあるとは言い難い。
以上より,エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
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- Dresler CM, Olak J, Herndon JE 2nd, et al. Phase Ⅲ intergroup study of talc poudrage vs talc slurry sclerosis for malignant pleural effusion. Chest. 2005; 127(3): 909-15.
- 4)
- Janssen JP, Collier G, Astoul P, et al. Safety of pleurodesis with talc poudrage in malignant pleural effusion: a prospective cohort study. Lancet. 2007; 369(9572): 1535-9.
- 5)
- Usui K, Sugawara S, Nishitsuji M, et al. A phase Ⅱ study of bevacizumab with carboplatin-pemetrexed in non-squamous non-small cell lung carcinoma patients with malignant pleural effusions: North East Japan Study Group Trial NEJ013A. Lung Cancer. 2016; 99: 131-6.
- 6)
- Tamiya M, Tamiya A, Yamadori T, et al. Phase 2 study of bevacizumab with carboplatin-paclitaxel for non-small cell lung cancer with malignant pleural effusion. Med Oncol. 2013; 30(3): 676.
- 7)
- Noro R, Kobayashi K, Usuki J, et al. Bevacizumab plus chemotherapy in nonsquamous non-small cell lung cancer patients with malignant pleural effusion uncontrolled by tube drainage or pleurodesis: a phase II study North East Japan Study group trial NEJ013B. Thorac Cancer. 2020; 11(7): 1876-84.
- 5
- 癌性心膜炎
- CQ15
- 心嚢穿刺・ドレナージを要する癌性心膜炎に対して,どのような治療が勧められるか?
- エビデンスの強さC
- 心膜癒着術を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:79%〕
解説
心嚢水は単回穿刺では再貯留率が高いため,長期的な心嚢水制御のためにはドレナージが推奨される。BLM による心膜癒着術についての79 例を対象としたランダム化比較試験(JCOG9811 試験)では,主要評価項目であったドレナージ後2 カ月時点での心嚢液の増悪を伴わない生存率に有意差はないもののBLM 群でよい傾向があり(ドレナージ単独群29% vs BLM 群46%,P=0.086),OS の延長傾向(中央値79 日 vs 119 日)もみられた1)。心膜癒着術の使用薬剤としては,各種薬剤について少数例で検討されており,30 日後の心嚢水コントロール率,OS 中央値はそれぞれ,BLM 46~95%(119~125 日)1)2),MMC 75%(80 日)3),CBDCA 80%(69 日)4)と報告されている。
なお,血行動態が不安定な場合は心膜開窓術などの手術も治療選択肢であるが,心嚢水制御について前向きに検討した文献はなく,各施設の医療状況や経験をもとに判断されるべきである。
以上より,対象集団が少ないことからランダム化比較試験が施行しにくく,十分なエビデンスがないものの,短期の症状緩和に関する益と害のバランスを考慮した場合,心嚢ドレナージ後の心膜癒着術を考慮してよいと考えられる。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
引用文献
- 1)
- Kunitoh H, Tamura T, Shibata T, et al. A randomised trial of intrapericardial bleomycin for malignant pericardial effusion with lung cancer(JCOG9811). Br J Cancer. 2009; 100(3): 464-9.
- 2)
- Maruyama R, Yokoyama H, Seto T, et al. Catheter drainage followed by the instillation of bleomycin to manage malignant pericardial effusion in non-small cell lung cancer: a multi-institutional phase Ⅱ trial. J Thorac Oncol. 2007; 2(1): 65-8.
- 3)
- Kaira K, Takise A, Kobayashi G, et al. Management of malignant pericardial effusion with instillation of mitomycin C in non-small cell lung cancer. Jpn J Clin Oncol. 2005; 35(2): 57-60.
- 4)
- Moriya T, Takiguchi Y, Tabeta H, et al. Controlling malignant pericardial effusion by intrapericardial carboplatin administration in patients with primary non-small-cell lung cancer. Br J Cancer. 2000; 83(7): 858-62.
- 6
- Oligometastatic disease(オリゴ転移)
- CQ16
- Ⅳ期非小細胞肺癌に対し,局所治療を追加することは勧められるか?
- エビデンスの強さC
- 転移臓器・転移個数が限られているsynchronous oligometastatic disease で,薬物療法により病勢が安定している場合,局所治療の追加を行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,合意率:66%〕
※本エビデンスの元となっているoligometastatic disease は,そのほとんどが原発+2 個以内に限られている。
解説
少数の転移性病変(oligometastatic disease)を有するⅣ期非小細胞肺癌に対する局所治療の追加に関して,いくつかのランダム化比較第Ⅱ相試験の報告がある。それらの報告では,原発の診断から6 カ月以内にoligometastatic disease と診断されたsynchronous oligometastatic disease が主な対象であり,臓器数・転移個数が限定され,病変が限局しない転移様式(癌性胸膜炎・心膜炎,癌性リンパ管症,髄膜癌腫症など)は除外された。
初回化学療法後3 カ月間増悪のない,3 個以下の転移病変を有する非小細胞肺癌患者を対象に,維持薬物療法に対する局所治療(切除もしくは放射線治療)の追加を比較したランダム化第Ⅱ相試験が行われた。ランダム化された49 例の中間解析において,PFS のHR が0.35(11.9 カ月vs 3.9 カ月, 90%CI:0.18-0.66,P=0.005)と,局所治療群で有意に延長することが示された1)。その後の長期フォローの報告では,OS 中央値41.2 カ月vs 17.0 カ月であり,局所治療群で良好な傾向であった。有害事象については両群で同様であった2)。
プラチナ製剤併用療法4~6サイクル後に病変が安定しており,EGFR 遺伝子変異/ALK 融合遺伝子のない,5 個までの転移巣(肝転移,肺転移は3 個以下)を有する非小細胞肺癌を対象に,維持薬物療法に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)の追加を比較した単施設ランダム化第Ⅱ相試験が行われた。29 例が登録され,中間解析においてPFS はHR 0.30(9.7 カ月vs 3.5 カ月,95%CI:0.11-0.82,P=0.01)と,局所治療群で有意な延長を認めた。有害事象は両群で同様であった3)。
非小細胞肺癌を含む固形癌を対象にしたランダム化第Ⅱ相試験(SABR-COMET 試験)では,3 カ月以上薬物療法で制御されている,原発を含む5 個以下の転移病変を有する症例に対して,維持療法に対するSBRT の追加効果が評価された。この試験では,非小細胞肺癌が18%含まれていた。ランダム化された99 例において,主要評価項目であるOS はHR 0.57(41 カ月vs 28 カ月,95%CI:0.30-1.10,P=0.090)であり,有意な延長を認めた。Grade 2 以上の有害事象は,SBRT 群で19 例(29%)と維持療法群 例(9%)と比較し有意に多く,治療関連死はSBRT 群では3例(4.5%)に認められ,維持療法群では認められなかった4)。またQOL に関しては,両群間に差を認めなかった5)。
これらの複数の比較試験により,synchronous oligometastatic disease に対し薬物療法で安定が得られている場合には,局所治療の追加によって予後の延長が得られる可能性が示唆された。しかし,実際に登録された患者集団の転移個数については,いずれの試験でも転移病変が2 個以内の症例が9 割を占めており,患者選択に偏りがあった。また毒性について,局所治療により治療関連死が認められた試験もあることから,安全性については慎重に検証する必要がある。さらには,実地診療において局所治療へのアクセスの問題やそれぞれの転移に対して明確な治療法が示されていないこともあり,これらのエビデンスを日常臨床に外挿する際には,複数の領域を含めた集学的治療検討チームにより慎重に吟味されなければならない。
以上より,転移臓器・転移個数が限られているsynchronous oligometastatic disease で,薬物療法によりそれらの病勢が安定しているⅣ期非小細胞肺癌症例の場合,局所治療を追加することは症例によっては増悪までの期間を延長させることでメリットが得られる可能性がある。エビデンスの強さはC,また総合評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
引用文献
- 1)
- Gomez DR, Blumenschein GR Jr, Lee JJ, et al. Local consolidative therapy versus maintenance therapy or observation for patients with oligometastatic non-small-cell lung cancer without progression after first-line systemic therapy: a multicentre, randomised, controlled, phase 2 study. Lancet Oncol. 2016; 17(12): 1672-82.
- 2)
- Gomez DR, Tang C, Zhang J, et al. Local Consolidative therapy vs. maintenance therapy or observation for patients with oligometastatic non-small-cell lung cancer: long-term results of a multi-institutional, phase II, randomized study. J Clin Oncol. 2019; 37(18): 1558-65.
- 3)
- Iyengar P, Wardak Z, Gerber DE, et al. Consolidative Radiotherapy for limited metastatic non-small-cell lung cancer: a phase 2 randomized clinical trial. JAMA Oncol. 2018; 4(1): e173501.
- 4)
- Palma DA, Olson R, Harrow S, et al. Stereotactic ablative radiotherapy versus standard of care palliative treatment in patients with oligometastatic cancers(SABR-COMET): a randomised, phase 2, open-label trial. Lancet. 2019; 393(10185): 2051-8.
- 5)
- Olson R, Senan S, Harrow S, et al. Quality of life outcomes after stereotactic ablative radiation therapy(SABR)versus standard of care treatments in the oligometastatic setting: a secondary analysis of the SABR-COMET randomized trial. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2019; 105(5): 943-7.
Ⅴ.緩和ケア
- 総論
- 肺癌の緩和ケアについて
解説
進行期肺癌などの胸部悪性腫瘍では,一般的な悪性腫瘍の全身症状に加えて,呼吸困難などの特徴的な呼吸器症状が出現しやすい。さらに,転移や浸潤部位による痛みや神経症状など,様々な苦痛症状が生じ得る。
現在,特に肺癌領域の治療としては,従来の細胞障害性抗癌剤に加えて,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤が導入されてその進歩は目覚ましい。しかしながら,それらの新規治療によっても症状や苦痛が速やかに,またすべて緩和されることは難しく,ここに緩和ケアの介入が必要である。
WHO(世界保健機構)は,「緩和ケアとは,生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOL を,痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで,苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである」と定義している1)。また,本邦でも平成28 年末に改正された「がん対策基本法」において,手術,放射線治療,がん薬物療法と同じように,「がん治療の柱」に位置付けられている。
本邦における緩和ケアの実情としては,まずはがん治療に携わる医療者(がん治療チーム)が初期対応として「基本的緩和ケア」を担当し,必要に応じてまたはスクリーニングにより抽出された緩和ケアニードにあわせて,緩和ケア専門スタッフ(緩和ケア専門の医師や看護師)あるいは専門チームが介入して「専門的緩和ケア」に進むことが勧められている。
肺癌の領域においては,緩和ケアの有用性に関するエビデンスを構築すべく多くの臨床研究がこれまで行われてきた。特に,2010 年にTemel らが,肺癌の標準治療に診断早期からの専門的な緩和ケアを組み合わることによってQOL に有意な改善がもたらされ,さらにはOS を延長させる可能性を示した2)。本研究は大きな注目を集め,以降,「早期からの緩和ケア」の有用性を検証する追試が数多く行われ3)4),ASCO など主要学会からのガイドラインでも,肺癌をはじめとした進行癌において診断後早期から専門的な緩和ケアを導入することが推奨されている5)~7)。
また,全人的苦痛に対処するために,緩和ケアの専門医,専門看護師,ソーシャルワーカー,リハビリの専門家(リハビリテーション科医,理学療法士,作業療法士),精神科医,心理士,宗教家等が協働包括的緩和ケアチームを作って情報を共有し連携しながら,患者・家族の療養生活をサポートしていくべきことが提唱されている2)~7)。
このように,肺癌などの胸部悪性腫瘍を担当する医療者は,がん薬物療法などの癌治療と早期緩和ケアの融合がQOL や予後を改善することを十分に認識し,多職種チームで常に情報を共有し協働しながら,患者と家族の意向を尊重した療養生活を支援する役割を担っている。
このような背景のもと,肺癌診療ガイドラインの新規項目として,2019 年版より緩和ケアガイドラインを掲載した。
引用文献
- 1)
- 日本緩和医療学会.「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002)」定訳.https://www.jspm.ne.jp/recommendations/individual.html?entry_id=51
- 2)
- Temel JS, Greer JA, Muzikansky A, et al. Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2010; 363(8): 733-42.
- 3)
- Zimmermann C, Swami N, Krzyzanowska M, et al. Early palliative care for patients with advanced cancer: a cluster-randomized controlled trial. Lancet. 2014; 383(9930): 1721-30.
- 4)
- Bakitas MA, Tosteson TD, Li Z, et al. Early versus delayed initiation of concurrent palliative oncology care: patient outcomes in the ENABLE Ⅲ randomized controlled trial. J Clin Oncol. 2015; 33(13): 1438-45.
- 5)
- Shin J, Temel J. Integrating palliative care: when and how? Curr Opin Pulm Med. 2013; 19(4): 344-9.
- 6)
- Isenberg SR, Aslakson RA, Smith TJ. Implementing evidence-based palliative care programs and policy for cancer patients: epidemiologic and policy implications of the 2016 American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline update. Epidemiol Rev. 2017; 39(1): 123-31.
- 7)
- Ferrell BR, Temel JS, Temin S, et al. Integration of palliative care into standard oncology care: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline update. J Clin Oncol. 2017; 35(1): 96-112.
- 1
- 緩和ケア
- CQ1
- 進行・再発肺癌患者に対して,診断早期からの専門的な緩和ケアの提供は勧められるか?
- エビデンスの強さB
- 進行・再発肺癌患者に対して,診断早期からの専門的な緩和ケアの提供を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕
解説
進行・再発肺癌患者に対して,診断から治療開始後の早期に,専門的な緩和ケアの提供が有用であることが,複数のRCT で示されている。
Bakitas らは,進行癌患者332 人(うち肺癌117 人)を対象にRCT(ENABLEⅡ)を行い,特別に訓練された専門看護師による緩和ケア介入(心理・社会・身体に関する教育指導と,毎月の電話によるニードのフォロー)併用群では,死亡前1~3 週間のQOL(FACT-L),抑うつ(Epidemiological Studies Depression Scale)が対照群に比し有意に改善することを報告した1)。
Temel らは,“early palliative care;early PC”を「診断早期(診断から8 週間以内)に緩和ケア専門医と専門看護師からなるチームが月1 回以上関わること」としたうえで,新たに診断された進行非小細胞肺癌患者151 人を対象としたRCT を実施した。本試験対象患者の約半数はプラチナ製剤併用療法を,それ以外の患者も何らかの薬物療法を受けていた。Early PC 併用群では主要評価項目である12 週後のQOL(FACT-L),抑うつ(HADS-D, PHQ-9)が対照群に比較し有意に良好であり,OS が延長していた2)。
Bakitas らは,進行癌患者207 人(うち肺癌88 人)を対象に,緩和ケア介入(ENABLEⅡと同様の介入)のタイミングを比較するRCT(ENABLEⅢ)を行った。本試験では進行癌の診断から30~60 日に介入する群を早期介入群,診断後3 カ月以降に介入する群を晩期介入群とした。主要評価項目であるQOL(FACIT-Pal), symptom impact(QUAL-E), mood(CES-D)の PRO は両群間で有意差を認めなかったが,副次評価項目の1 つである1 年生存率は有意に早期介入群で良好であった3)。
Temel らのRCT はその後二次解析が行われ,early PC 群の介入内容に関する質的解析では,主に症状マネジメント,コーピング(個人がもつストレス対処法)の支援・強化,病状理解や生命予後についての認識の啓発支援が行われたことが示された4)。また,early PC 群では,大うつ病が改善し5),終末期緩和ケアへの移行の割合が高く6),治療の目標や予後についての理解が良好であることが7),対照群との違いとして挙げられた。これらから,専門家によるearly PC は,苦痛症状の緩和,適切なコーピング,腫瘍医との率直なコミュニケーションと適切な治療選択に好影響を与えて,健康行動を促すことなどが,有用性の理論的根拠として考えられている。
海外のガイドラインをみると,ESMO の進行非小細胞肺癌に対する臨床ガイドラインでは,「早期からの専門的な緩和ケアは標準的な腫瘍学的ケアと併用される」ことが推奨(IA)されており8),ASCO の臨床ガイドラインでも,「進行癌患者に対して早期の段階で “interdisciplinary palliative care;interdisciplinary PC”(協働包括的緩和ケア)を積極的治療と同時に提供する」ことが推奨(エビデンスレベル:中,推奨レベル:強)されている9)。
一方で,肺癌患者を含む進行癌患者を対象としたRCT では,早期からの専門的な緩和ケア群でQOL 改善傾向は認めたものの有意差は示さなかった10)11)。さらに,専門的な緩和ケアがすべての患者に有用かどうか,専門的な緩和ケアを誰がどのように行うかについては様々な議論があり,費用対効果のある緩和ケア提供モデルの確立,患者・家族に利益をもたらすメカニズムの解明とそれに基づく具体的な方法論の確立が必要である12)。
以上より,進行・再発肺癌患者に対して,診断から治療開始後の早期に専門的な緩和ケアの提供を行うことを推奨する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
引用文献
- 1)
- Bakitas M, Lyons KD, Hegel MT, et al. Effects of a palliative care intervention on clinical outcomes in patients with advanced cancer: the Project ENABLE Ⅱ randomized controlled trial. JAMA. 2009; 302(7): 741-9.
- 2)
- Temel JS, Greer JA, Muzikansky A, et al. Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2010; 363(8): 733-42.
- 3)
- Bakitas MA, Tosteson TD, Li Z, et al. Early versus delayed initiation of concurrent palliative oncology care: patient outcomes in the ENABLE Ⅲ randomized controlled trial. J Clin Oncol. 2015; 33(13): 1438-45.
- 4)
- Yoong J, Park ER, Greer JA, et al. Early palliative care in advanced lung cancer: a qualitative study. JAMA Intern Med. 2013; 173(4): 283-90.
- 5)
- Pirl WF, Greer JA, Traeger L, et al. Depression and survival in metastatic non-small-cell lung cancer: effects of early palliative care. J Clin Oncol. 2012; 30(12): 1310-5.
- 6)
- Greer JA, Pirl WF, Jackson VA, et al. Effect of early palliative care on chemotherapy use and end-of-life care in patients with metastatic non-small-cell lung cancer. J Clin Oncol. 2012; 30(4): 394-400.
- 7)
- Temel JS, Greer JA, Admane S, et al. Longitudinal perceptions of prognosis and goals of therapy in patients with metastatic non-small-cell lung cancer: results of a randomized study of early palliative care. J Clin Oncol. 2011; 29(17): 2319-26.
- 8)
- Planchard D, Popat S, Kerr K, et al. Metastatic non-small cell lung cancer: ESMO Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow-up. Ann Oncol. 2019 May 1; 30(5): 863-70.
- 9)
- Ferrell BR, Temel JS, Temin S, et al. Integration of palliative care into standard oncology care: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline update. J Clin Oncol. 2017; 35(1): 96-112.
- 10)
- Franciosi V, Maglietta G, Degli Esposti C, et al. Early palliative care and quality of life of advanced cancer patients––a multicenter randomized clinical trial. Ann Palliat Med. 2019; pii: apm.2019.02.07.
- 11)
- Zimmermann C, Swami N, Krzyzanowska M, et al. Early palliative care for patients with advanced cancer: a cluster-randomized controlled trial. Lancet. 2014; 383(9930): 1721-30.
- 12)
- Greer JA, Jackson VA, Meier DE, et al. Early integration of palliative care services with standard oncology care for patients with advanced cancer. CA Cancer J Clin. 2013; 63(5): 349-63.
- CQ2
- 進行・再発肺癌患者に対して,提供すべき診断早期の専門的な緩和ケアはどのようなものか?
- エビデンスの強さC
- Interdisciplinary PC(協働包括的緩和ケア)チームにより,以下の内容が実践されることが推奨される。
- 患者および家族を含む患者の生活支援者と医療スタッフとの間の意思疎通をはかり信頼関係を構築する
- 患者の身体的苦痛,心理・社会的苦痛などトータルペインを評価し緩和する
- 疾患と予後についての理解度を評価し,正確な理解を促す
- 治療の目標を明確にする
- 患者のコーピングを評価し,支援・強化する
- 医学的な意思決定をする際の支援を行う
- 他の医療・ケア提供者との協調が保てるようにする
- 必要時は他の医療・ケア提供者に紹介を行う
〔推奨の強さ:1,合意率:78%〕
解説
診断早期の専門的な緩和ケアは,患者の状態や状況にあわせて患者個々の希望や意向を最大限に叶えることができるように提供すべきである1)。この理念に基づき施行され,実際にQOL の改善を認めた複数の第Ⅲ相試験から,提供する緩和ケアの内容はいずれも上記推奨文中に記載された8 項目に集約された2)~4)。ASCO の臨床ガイドラインにおいても同8 項目が挙げられている5)。なお,ここでいうコーピングとは,がん患者および家族が抱える不安やストレスへの対処法のことを指す。
臨床試験の中で構築されたこれらの8 項目を実践するための協働包括的緩和ケアチームには,緩和ケアの専門医,専門看護師,ソーシャルワーカー,リハビリの専門家(リハビリテーション科医,理学療法士,作業療法士),精神科医,心理士,宗教家等が含まれていた2)~4)。がん治療に携わる医療者(がん治療チーム)自らも緩和ケアの提供者となることが理想的であるが,身体的苦痛・精神的苦痛・霊的苦痛などのトータルペインのアセスメントや,予後についてのできるだけ早い対話など,がん治療チームが実施するのに難渋する内容も提供すべき早期の緩和ケアに含まれており,これを協働包括的緩和ケアチームを介して提供することに臨床的意義があると考えられる。
診断早期の専門的な緩和ケアの8 項目については,ほぼすべてが欧米での臨床研究に基づくものであり,医療者と患者家族の関係性の違い,本邦におけるがん診療の状況(現場),臨床への宗教の関与や保険制度の違いなどと,かなり異なることは認識しておく必要がある。したがって,本邦における協働包括的緩和ケアチームの具体的なメンバーや,早期の緩和ケアとして提供すべき内容については,本邦での検証を含め今後さらなる検討が必要である。
以上より,進行・再発肺癌患者に対して,提供すべき診断早期の専門的な緩和ケアについては,多職種で構成された協働包括的緩和ケアチームによる上述8 項目の実践が推奨される。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
引用文献
- 1)
- Isenberg SR, Aslakson RA, Smith TJ. Implementing evidence-based palliative care programs and policy for cancer patients: epidemiologic and policy implications of the 2016 American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline update. Epidemiol Rev. 2017; 39(1): 123-31.
- 2)
- Bakitas MA, Tosteson TD, Li Z, et al. Early versus delayed initiation of concurrent palliative oncology care: patient outcomes in the ENABLE Ⅲ randomized controlled trial. J Clin Oncol. 2015; 33(13): 1438-45.
- 3)
- Zimmermann C, Swami N, Krzyzanowska M, et al. Early palliative care for patients with advanced cancer: a cluster-randomized controlled trial. Lancet. 2014; 383(9930): 1721-30.
- 4)
- Temel JS, Greer JA, Muzikansky A, et al. Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2010; 363(8): 733-42.
- 5)
- Ferrell BR, Temel JS, Temin S, et al. Integration of palliative care into standard oncology care: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline update. J Clin Oncol. 2017; 35(1): 96-112.