第1章 診断 ─ Clinical Question・推奨・解説─
■まえがき■
本ガイドラインの第1 版が発刊されて4 年になり,今回の改訂となった。この間,膵・消化管NEN の診断に関してはソマトスタチン受容体シンチグラフィ(SRS)が保険承認されるなどいくつかの進歩があったが,一方で保険適用外であっても血漿VIP の測定ができなくなるなど新たな問題も出てきた。また,第1 版の発刊と前後してIto ら1)による膵・消化管NEN の第2 回国内疫学調査の結果が報告され,消化管NEN の重要性について再認識することとなった。このような背景をもとに本ガイドラインの診断CQ に関する検討と改訂を行った。
第1 版では存在診断と局在診断を別のCQ で示していたが,第2 版では利便性を考慮してそれぞれの非機能性/機能性NEN に関する一つのCQ のなかに記載を行った。最も頻度の高い非機能性膵・消化管NEN の診断アルゴリズムと機能性膵NEN のなかで最も多いインスリノーマの診断アルゴリズムを作成した。新たに保険収載になった検査を追加した一方で,行えなくなった検査を含むCQ に関しては現状に合わせて推奨および解説の修正を行い,限られた検査のなかでの診断の進め方を示した。COLUMN に関しても新たな知見や概念をもとに修正を行うとともに,診断の参考になる重要な点,注意すべき点に関して項目を追加した。
膵・消化管NEN を見逃さないために,また適切な治療を選択するために,診断を正確に進めることは重要である。診断の各CQ の推奨・解説が以降の病理診断,外科治療,内科・集学的治療,MEN1/VHL に繋がっていくように配慮して作成しており,活用していただきたい。
文献
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- Ito T, Igarashi H, Nakamura K, et al. Epidemiological trends of pancreatic and gastrointestinal neuroendocrine tumors in Japan: a nationwide survey analysis. J Gastroenterol. 2015; 50(1): 58-64.
- CQ1-1
- インスリノーマを疑う症状は何か,次に推奨される検査は何か?
[アルゴリズム1]
-
-
1.症状
空腹時の低血糖発作が主要な症状である。
自律神経症状,中枢神経症状がみられる。自律神経機能障害がある場合や,低血糖発作を繰り返す場合は自律神経症状を欠くことがある。また,低血糖症状が自覚されず,非典型的な症状(痙攣発作,認知症など)が初発症状のことがある。
-
2.検査
下記のステップで低血糖の鑑別診断を行うことが推奨される(アルゴリズム1 インスリノーマの診断を参照)(グレード A,合意率 100%)。確定診断は,72 時間絶食試験や混合食試験が推奨される(グレード A,合意率 100%)。
局在診断のため,US,CT,MRI,EUS-FNA などの検査が推奨される。症例ごとに必要な検査を検討し実施する(画像診断に関しては診断 CQ2,遠隔転移に関しては診断 CQ4 を参照(グレード A,合意率 100%)。
画像検査で局在が確定診断できない場合にはカルシウム溶液を用いるSASI テスト(COLUMN❷参照)が推奨される(グレード A,合意率 100%)。
-
解説
1.症状
インスリノーマの低血糖発作は空腹時が多いが,食後の低血糖の場合もある。中枢神経症状として複視,物がかすんで見える,混迷,異常行動,健忘がある。進行すると意識障害,昏睡に陥り,長時間に及ぶと不可逆的脳障害が生じる。痙攣がみられることもある。自律神経症状として発汗,空腹感,虚脱,震え,嘔気,不安感,動悸がみられる。中枢神経症状に前駆して起こることが多いが,ない場合もある。低血糖症状が自覚されず,非典型的な症状(痙攣発作,認知症など)が初発症状のことがある1)。特に自律神経機能障害がある場合や,低血糖発作を繰り返す場合2)は自律神経症状を欠くことがある(表1)3)。
精神症状は多様であり,長期間診断に至らないこともあるので注意が必要である(COLUMN❶参照)。
2.検査
低血糖の鑑別診断のための検査は以下のものがある4)。
- 1)Whipple の3 徴,①低血糖に合致する症状があり,②症状があるときの血糖値が低く,③血糖上昇処置により症状が改善することを確認する。
- 2)血糖値が低下しているにもかかわらず〔55 mg/dL 未満,特異度を高めるためには45 mg/dL(2.5 mmol/L)未満〕,インスリンが検出される(測定感度以下に抑制されない)ことを確認する。血糖測定について,簡易法で測定した血糖値は誤差が大きいため判断に用いない。
- 3)外因性のインスリン,経口血糖降下剤,内因性のインスリン異常分泌(自律性のインスリン分泌),インスリン自己免疫症を鑑別するため病歴聴取とC-ペプチドおよびプロインスリン測定を行う。
- 4)インスリノーマの確定診断のためには低血糖を誘発する条件で検査を行う。空腹時低血糖を示す症例では72 時間絶食試験を行う。食後にのみ低血糖を示す症例では混合食試験(mixed meal test)を行う。72 時間絶食試験の実施が困難な症例で,C-ペプチド抑制試験が有用なことがある5)。近年,48 時間絶食試験とグルカゴン負荷試験の併用が診断に有用であるとの報告がある6)。
絶食試験などで否定されても低血糖を繰り返す例などに,カルシウム溶液を用いるSASI テスト(COLUMN❷参照)の有用性が報告されている7, 8)。
- 低血糖の鑑別に際して以下の注意が必要である。
- ①薬物治療中の糖尿病患者では糖尿病の治療内容を調節し,低血糖を合併し得るほかの病態(重篤な疾患,コルチゾール欠乏症,インスリノーマ以外の腫瘍,IGF-Ⅱ産生腫瘍など)の存在が疑われる症例では,Whipple の3 徴を確認後,各病態の診断・治療を行う。
- ②低血糖誘発試験で否定されても繰り返し低血糖症状を呈して臨床的にインスリノーマが疑わしい場合に,C-ペプチド抑制試験や,ときにはSASI テストを用いてインスリノーマやNIPHS の診断が得られる場合がある。
- ③膵由来の不適切な低血糖では,低血糖誘発試験でC-ペプチドが抑制されず,経口血糖降下剤・インスリン抗体・インスリン受容体抗体が検出されない。
- ④低血糖時にインスリン高値となる病態はインスリノーマ以外にあり,それらを鑑別しつつ,画像診断を行う2, 9, 10)。インスリンやインスリン分泌を促す薬剤の使用(隠れて使用している場合もある),胃バイパス術後のダンピング症候群11),反応性低血糖,インスリン抗体やインスリン受容体抗体などを否定する必要がある。72 時間絶食試験では,低血糖時にインスリン値が抑制されないことと,グルカゴン筋注によって血糖上昇を認めることが必須である2)。
文献
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COLUMN
❶慢性反復性低血糖の非典型的な症状
慢性に反復される低血糖では,低血糖に伴う交感神経刺激症状より中枢神経症状が前面にたつ。中枢神経症状にはさまざまな表れ方があり,CQ1-1 の推奨文に記載したもののほかに各症例個別の症状がある。朝起きられない,記憶力低下,傾眠状態,錯乱,不安・焦燥感などの一見低血糖症状と気づきにくい症状が主症状の場合がある。低血糖発作の症状の多様性を知っておくことが重要である。
❷SASI テスト
インスリノーマの場合には,刺激薬としてグルコン酸カルシウムを使用するが,前値と比べて200%以上の上昇がみられたものを栄養動脈と判断する。非家族性インスリノーマはほとんどが単発性であるので,画像診断で腫瘍が描出されればそれがインスリノーマである場合が多いが,画像診断で腫瘍として描出されない場合(occult sporadic insulinoma)には,SASI テストが有用である1)。その場合,切除標本に単発性のインスリノーマがみつかる場合のほかに,微小インスリノーマが多発している場合やnesidioblastosis を伴うランゲルハンス島の過形成や増生がみられる,CHI を含むいわゆるNIPHS に属する場合もある(COLUMN❸参照)。
ガストリノーマでは刺激薬としてグルコン酸カルシウムを使用するが,前値より20%以上の上昇があり,絶対値で80 pg/mL の上昇がみられた動脈を栄養動脈と判断して局在診断する2)。
❸Non-insulinoma pancreatogenous hypoglycemia syndromes(NIPHS)/ 成人型nesidioblastosis
非インスリノーマ膵原性低血糖症。新生児の先天性高インスリン血症(congenital hyperinsulinemia;CHI)と類似する病態であり,ランゲルハンス島の増生により低血糖症状が発症する場合がある3-5)。インスリン値の抑制のない低血糖を示すものの,画像診断でインスリノーマが描出されない場合に鑑別すべき疾患である。病理的には膵臓の内分泌細胞のびまん性の過形成(nesidioblastosis)が認められる。腫瘍形成がみられないので,18F-DOPA PET/CT(小児に対して)あるいはSASI テストが局在診断法として有用である。SASI テストでは前値より100%以上のインスリン値の上昇がある場合が多いが,50~70%以上の上昇にとどまる場合もあり,鑑別診断に苦慮することもある3-5)。
文献
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- CQ1-2
- ガストリノーマを疑う症状は何か,次に推奨される検査は何か?
[アルゴリズム2]
-
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1.症状
胃酸過剰分泌による消化性潰瘍や逆流性食道炎による症状(腹痛,出血,胸やけ)と膵酵素不活性化による下痢がある。潰瘍は治りにくく,再発しやすい。多発性潰瘍,十二指腸下行脚以降の潰瘍,穿孔もみられる。
-
2.検査
①空腹時血清ガストリン値と,②胃液pH 測定(胃酸分泌測定検査もしくは24 時間胃内pH モニタリング)が必須である(グレード B,合意率 100%)。カルシウム静注試験が有用である(グレード B,合意率 100%)。MEN1 の合併の診断のために,血中補正カルシウム値とインタクトPTH の測定が推奨される(グレード A,合意率 100%)。
局在診断のために,MRI,CT,US,内視鏡,EUS-FNA,SASI テスト,SRS などの検査が推奨される。症例ごとに必要な検査を検討し実施する(画像診断に関しては診断 CQ2,遠隔転移に関しては診断 CQ4,SASI テストに関してはCOLUMN❷を参照)(グレード A,合意率 100%)。
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解説
1.症状
ガストリノーマでは消化性潰瘍が9割以上の患者にみられ,1 cm 以内の単発性潰瘍が多い。十二指腸の球部(75%),十二指腸遠位(14%),空腸(11%)に多く,再発しやすい。腹痛,脂肪性下痢がよくみられる1, 2)。
2.検査
診断には,空腹時血清ガストリン値の高値と胃酸の過剰分泌がともに存在することを証明する1)。胃酸分泌低下に伴う続発性の高ガストリン血症はヘリコバクター・ピロリ菌感染症,萎縮性胃炎(G 細胞過形成),PPI やH2 受容体拮抗薬長期使用がある。慢性腎不全でも高値を示す。PPI 使用患者では,1週間以上PPI を中止してからガストリンを測定する必要があるが,潰瘍再発のリスクがある。PPI 中止後に潰瘍再燃や,胃酸分泌過剰症状が強くなった場合はH2 受容体拮抗薬を投与し,測定の48 時間前に中止して測定する。2/3 の症例で,空腹時血清ガストリンは正常上限の10 倍以下である3)。1,000 pg/mL 以上の症例ではガストリノーマが強く疑われる。胃酸分泌阻害薬の使用がなく,萎縮性胃炎のない患者でガストリン値が正常上限~1,000 pg/mL の場合は鑑別のためにカルシウム静注試験が望ましい。以前行われていたセクレチン負荷試験と同程度の診断率である4, 5)。胃酸分泌亢進については,空腹時胃内pH 測定で2.0 未満,24 時間胃内pH モニタリングではpH 2.0 以下のholding time(維持時間)が90% 以上をもって確定する。ガストリノーマ患者の99% で空腹時胃内pH が2.0 以下である6)。局在診断のために,MRI,CT,US,内視鏡,EUS が推奨される。微小なガストリノーマの局在診断にカルシウム溶液を用いるSASI テストが有用であり7, 8),十二指腸粘膜下の病変の局在の診断に有用である。十二指腸ガストリノーマが膵ガストリノーマより頻度が高い。十二指腸ガストリノーマは,非家族性の場合は単発性が多いが,MEN1 の場合は半数以上で多発し,無数に発生している場合もある。異所性ガストリン産生腫瘍の報告もある9)。
文献
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- Jensen RT, Cadiot G, Brandi ML, et al.; Barcelona Consensus Conference participants. ENETS Consensus Guidelines for the management of patients with digestive neuroendocrine neoplasms: functional pancreatic endocrine tumor syndromes. Neuroendocrinology. 2012; 95(2): 98-119.(レベルⅥ)
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- Berna MJ, Hoffmann KM, Long SH, et al. Serum gastrin in Zollinger-Ellison syndrome: II. Prospective study of gastrin provocative testing in 293 patients from the National Institutes of Health and comparison with 537 cases from the literature. Evaluation of diagnostic criteria, proposal of new criteria, and correlations with clinical and tumoral features. Medicine (Baltimore). 2006; 85(6): 331-364.(レベルⅤ)
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- Roy PK, Venzon DJ, Feigenbaum KM, et al. Gastric secretion in Zollinger-Ellison syndrome. Correlation with clinical expression, tumor extent and role in diagnosis–a prospective NIH study of 235 patients and a review of 984 cases in the literature. Medicine (Baltimore). 2001; 80(3): 189-222.(レベルⅣb)
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- Ito T, Igarashi H, Jensen RT. Zollinger-Ellison syndrome: recent advances and controversies. Curr Opin Gastroenterol. 2013; 29(6): 650-661.(レベルⅥ)
- CQ1-3
- グルカゴノーマを疑う症状は何か,次に推奨される検査は何か?
[アルゴリズム3]
解説
1.症状
グルカゴノーマの診断は症状から疑うことが推奨される1-3)。耐糖能異常(30~90%),体重減少(60~90%)がよくみられ,遊走性壊死性紅斑(55~90%)がみられる場合は強く疑う4)。粘膜症状(舌炎,口唇炎,胃炎)(30~40%),下痢(10~15%)もみられる。検査で貧血(30~80%)や低アミノ酸血症(30~100%)がみられる。遊走性壊死性紅斑は栄養障害,短腸症候群でも認められることがある。
2.検査
診断には血漿グルカゴン値の測定が有用である(COLUMN❹参照)。2 型糖尿病,脂肪肝,肝硬変,肥満,低血糖,敗血症,外傷,腹部手術,膵炎,クッシング症候群,先端巨大症,腎不全,家族性高グルカゴン血症でも増加する5)。原発腫瘍は膵に局在することが多い。局在診断のためにはMRI,CT,US,EUS-FNA,SRS などが推奨される。
文献
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- 5)
- Ouyang D, Dhall D, Yu R. Pathologic pancreatic endocrine cell hyperplasia. World J Gastroenterol. 2011; 17(2): 137-143.(レベルⅤ)
COLUMN
❹グルカゴン測定法
RIA 法によるグルカゴンの測定は,グルカゴン以外にも前駆体からのさまざまなペプチドとの交差反応があり不正確であった。サンドイッチELISA 法により交差反応の問題はかなり解消されたが,診断が確立したグルカゴノーマでの測定結果の検討やRIA 法との比較は十分に行われていないため,今後の検討が必要である。RIA 法で異常高値の測定値が得られた症例で画像検索では腫瘍が発見されず,サンドイッチELISA で再検査すると正常上限であったという報告例があり,グルカゴノーマが疑わしい場合は両者の測定が有用なことがある。
- CQ1-4
- VIP 産生腫瘍(VIP オーマ)を疑う症状は何か,次に推奨される検査は何か?
[アルゴリズム3]
-
-
1.症状
大量の水様性下痢と低カリウム血症,無(低)酸症,高クロール血症,代謝性アシドーシスなどである。また,低カリウム血症や脱水による疲労感,筋力低下,息切れ,筋肉の痙攣,こむら返り,その他に嘔気,嘔吐,顔面紅潮や高血糖,高カルシウム血症,低マグネシウム血症がある。
-
2.検査
血漿VIP 濃度測定は有用であるが,現在国内での測定は不可能である。鑑別診断には便のosmotic gap の測定が有用である(グレード B,合意率 100%)。
局在診断のためには各種画像検査が推奨される。症例ごとに必要な検査を検討し実施する(画像診断に関しては診断 CQ2,遠隔転移に関しては診断 CQ4 を参照)(グレード A,合意率 100%)。
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解説
1.症状
VIP による腸管分泌亢進による大量の水様性下痢を特徴とする。水様性下痢は絶食状態でも生じる。通常1 日に1 L 以上であるが,半数以上の患者では3 L を超えることがあり,膵性コレラと呼ばれる。低カリウム血症や無(低)酸症をきたすのに加え,脱水による易疲労感,筋力低下,嘔気,皮膚紅潮,高血糖なども特徴的症状であり,代謝性アシドーシスを合併するとWDHA 症候群(watery diarrhea-hypokalemia-achlorhydria syndrome)と呼ばれる。便は紅茶色で,臭いがなく,osmotic gap が低い分泌性下痢を特徴とする。腹痛はないか軽度である1-8)。腹部単純写真で拡張した腸管が認められる。
2.検査
血漿VIP 濃度測定が推奨されるが,国内での測定が現在不可能であるため,臨床的な判断や生検組織の病理所見で診断を行う。症状や画像検査により疑われる症例においてソマトスタチンアナログの治療によく反応する場合がある。画像上,VIP オーマは成人では膵尾部に3 cm 以上の腫瘍としてみつかることが多い4)が,消化管にも発生する。褐色細胞腫でVIP を同時産生する場合もある。褐色細胞腫の場合,生検は禁忌である。小児では2~4 歳に多く,交感神経節や副腎に発生することが多い5)。測定可能な場合,VIP は間欠的に分泌されるので,下痢発作時や複数回での測定が理想である8)。
文献
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- CQ1-5
- ソマトスタチノーマを疑う症状は何か,次に推奨される検査は何か?
[アルゴリズム3]
解説
1.症状
ソマトスタチノーマは膵臓や十二指腸・空腸に発生する。最も頻度の多い症状は腹痛や体重減少である1)。膵ソマトスタチノーマでは,ソマトスタチノーマ症候群として知られる3 主徴(糖尿病,下痢・脂肪便,胆石症)がみられることがある2, 3)が,無症状のことも多い。十二指腸ソマトスタチノーマでは,占拠性病変としての腹痛や黄疸などの症状が主である1, 3, 4)。
2.検査
局在診断のためにはMRI,CT,US,EUS-FNA,SRS などが推奨される。
遺伝性症候群としてはMEN1 のほか,神経線維腫症1 型(NF1;von Recklinghausen 病)で十二指腸ソマトスタチノーマが合併することがある1, 3, 5)。また,体細胞レベルでのHIF2A 遺伝子の機能獲得型モザイク変異により,多発性の褐色細胞腫 /パラガングリオーマに多血症やソマトスタチノーマを合併する症候群も報告されている6)。
文献
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- CQ1-6
- カルチノイド症候群の症状は何か,次に推奨される検査は何か?
[アルゴリズム3]
解説
1.症状
セロトニンを含む複数のアミン,ペプチドの過剰分泌による症状と,セロトニン前駆体のトリプトファンの低下による症状が同時的,異時的に起こる。皮膚紅潮は顔面,胸部に誘因なく発症し,発汗を伴わない(dry flushing)1-4)。下痢は分泌性下痢と蠕動亢進によるもので苦痛を伴う4)。ペラグラ症状はトリプトファンの低下に関係している5)。心不全は後期に生じセロトニンによる弁膜上皮の増殖と線維化による弁膜症によるもので右心不全が多い5-8)。心臓以外の腹腔内や後腹膜,皮膚などの広範囲の線維化による症状が生じる場合もある5)。初期の顔面紅潮や下痢は赤面症や過敏性大腸症候群と誤診されやすい。胃発生のNEN による場合は,ヒスタミン産生によりかゆみを伴う非定型的皮膚紅潮と消化性潰瘍が多い。原発腫瘍は中腸が多いが,気管支,肺のほか前腸,後腸(虫垂,大腸),膵,性腺,甲状腺など広く発生し得る1-4)。
2.検査
尿中5-HIAA 測定の感度は60~73%,特異度は88%である(正常値は2~8 mg/24 時間)。中腸由来の腫瘍では84% の診断率であるが,前腸,後腸由来の腫瘍では診断率が著しく低下する。セロトニンを含む特定の食品(チョコレート,バナナ,キウイ,パイナップル,プラム,トマト,アボカド,ホウレンソウ,ブロッコリー,カリフラワー,ナッツ,グレープフルーツ,メロンなど)の摂取や薬品(アセトアミノフェン,フェナセチン,カフェイン,アセトアニリドなど)の服用により偽陽性になることがある。尿中5-HIAA を低下させる薬剤にヘパリン,イミプラミン,イソニアジド,レボドパ,モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬,メチルドパ,クロルプロマジン,プロメタジン,三環系抗うつ薬などがある4)。
局在診断のためにはMRI,CT,US,EUS-FNA,SRS などが推奨される。
文献
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COLUMN
❺カルチノイドクリーゼ
腫瘍から生理活性物質が急激に放出され,急性の致死的症状を呈することをカルチノイドクリーゼという。重度の皮膚発赤,気管支攣縮,循環動態異常と不整脈による著明な低血圧が生じる1, 2)。麻酔,手術,頻繁な腹部の触診,検査(造影検査,PET,生検),ストレスなどで誘発されると報告されている。ソマトスタチンアナログの点滴静注が有用とされてきたが,無効とする報告もある3-5)(内科・集学的治療 CQ2 参照)。
文献
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- CQ2
- 非機能性膵NEN を疑う症状は何か,次に推奨される検査は何か?
[アルゴリズム4]
-
-
1.症状
症状としては,特異的なものはない。
-
2.検査
診断のためには各種画像検査が推奨される。鑑別診断のために組織診または細胞診などの病理診断の施行が推奨される。症例ごとに必要な検査を検討し実施する(遠隔転移に関しては診断 CQ4 を参照)(グレード A,合意率 100%)。
-
解説
1.症状
特異的な症状はない。黄疸や膵炎を契機に診断されることがある。また,腫瘍増大に伴う非特異的症状として腹部膨満感,腹痛,イレウス症状などがみられることがある1)。進行したものでは遠隔転移によって発見されることが多い。
2.検査
US, CT, MRI, EUS, SRS などの画像検査を行う。組織診断を行う場合にはEUS-FNA が勧められる。体外式US での検出率は80%程度と報告されている。EUS を行えば検出率は92%まで向上する2)。腫瘍が膵尾部の場合にはUS では検出が困難な場合がある。CT ではMDCTによる造影ダイナミックCT を行うことで83%の検出率が報告されている3)。特にヨード造影剤静注開始から約40 秒後に撮影する後期動脈相(膵実質相とも呼ばれる)の検出率が最も高い3)。MRI に関しては造影ダイナミックMRI が優れていると報告されている4)。SRS は肝外転移の検出能は造影CT より高く,特に骨転移やリンパ節転移の診断に優れている5-7)。
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- CQ3
- 消化管NEN の内視鏡所見の特徴は何か,次に推奨される検査は何か?
[アルゴリズム4]
-
-
1.特徴
消化管NET の特徴的内視鏡所見は,類円形の粘膜下腫瘍様隆起であり,増大すれば中心陥凹や潰瘍形成を伴う。消化管NEC は進行癌の形態をとる場合が多い。
-
2.検査
内視鏡検査の次に推奨される検査は,内視鏡下生検,EUS-FNA である。遠隔転移除外のために各種画像検査が推奨される。症例ごとに必要な検査を検討し実施する(遠隔転移に関しては診断 CQ4 を参照)(グレード A,合意率 100%)。
-
解説
消化管NET の内視鏡所見は,腫瘍が粘膜深層にある内分泌細胞/APUD 細胞より発生し膨張性に発育するため,典型的には表面平滑で類円形,半球状,無茎性の粘膜下腫瘍様隆起を呈する1-3)(図1)。色調は黄色調であることが多いが,正常色調であることもある1-3)。増大すると表面に中心陥凹や潰瘍形成を伴うことが多い1-3)。隆起の立ち上がりは無茎性であることが多いが,亜有茎性の立ち上がりを示すこともある1-3)。表面の拡張した血管透見もよくみられる所見である1)。
消化管NEC は発育速度が非常に速いため,進行した状態で発見されることが多い。2 型進行癌の形態をとる場合が多く,また,周堤などの隆起部は非腫瘍性上皮で被覆されていることが多い4)。
内視鏡所見より消化管NET が疑われた場合は,診断確定のため内視鏡下生検を行う。NETは粘膜下腫瘍様の形態を示すが,粘膜深層から発生した病変であるため,内視鏡下生検による組織学的診断率は高い3)。通常の生検で陰性の場合,ボーリング生検やEUS-FNA,粘膜下層までにとどまる病変であれば,内視鏡的切除による治療的診断が検討される(内科・集学的治療 CQ1-1~1-3 参照)。
治療方針決定のため深達度診断,腫瘍サイズ計測が重要であるが,これにはEUS が有用である。消化管NET は境界明瞭な低エコーの腫瘤として描出され(図2),深達度診断能は高い5)。消化管NEN の診断が得られた場合,転移の有無の検索を行う(診断 CQ4 参照)。
図1 直腸NET の内視鏡像 |
図2 図1 の症例のEUS 像 |
文献
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- CQ4
- NEN の転移の検索に推奨される画像検査は何か?
-
US, CT, MRI, FDG-PET/CT, SRS が推奨される。状況に応じて適切な検査を選択し施行する(グレード A,合意率 100%)。
解説
NEN は多くの症例で転移を伴うので,遠隔転移の検索を行うことは重要である。肝転移の頻度が最も高く,次いでリンパ節転移であるが,骨転移も比較的頻度が高い1)。
1.US
病変ベースの肝転移の検出率が,通常のB モードの68% に対し,造影剤を用いて99% に向上したとする報告がある2)。
2.CT
報告により異なるが,病変ベースの感度,特異度,正診率は61~90%,90~92%,58~90%と報告されている3-6)。部位別の感度は,肺で100%,肝で85%,リンパ節で57~88%,骨で47~70% と部位によって異なる3-7)。肝をはじめとする転移巣の検出率向上のため,ヨード造影剤の使用による多相性の撮像が推奨される4)。
3.MRI
Gd-DOTA を造影剤として用いたMRI,CT,SRS によるNET の肝転移の検出能は,それぞれ95%,79%,49% と造影MRI の検出能が有意に高かったと報告されている8)。造影CT はGd-EOB-DTPA を用いた造影MRI で描出された腫瘍の80% を同定できたにすぎなかった9)。
4.FDG-PET/CT
高分化なNET では必ずしも糖代謝が亢進しておらず,18F-FDG-PET/CT の陽性率は低い10)。一方,NEC に代表されるように,増殖能の高い腫瘍の転移・再発巣の検索には有用であり,SRS の集積と逆相関があるため11),相補的な役割を担うと考えられる。
5.SRS
111In-Pentetreotide は,ソマトスタチン受容体に親和性を有するオクトレオチドを,キレートを介し111In 標識した放射性医薬品である。111In は単一光子放出核種であり,SPECT(single photon emission computed tomography)製剤と呼ばれる。全身の前面像・後面像のみならず,SPECT 像を撮像することが多い。感度,特異度,正診率はそれぞれ52%,93%,58% との報告があり3),感度は必ずしも高くないが,特異度は高い。
ソマトスタチン受容体イメージングとして68Ga 標識のPET 製剤(68Ga-DOTATOC,68Ga-DOTATATE)を用いたPET/CT もあるが本邦未承認である。PET 製剤を用いたソマトスタチン受容体イメージングは,SPECT 製剤によるSRS と比べ多数の文献にて優れた診断精度が報告されている3, 12, 13)。
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第2章 病理 ─ Clinical Question・推奨・解説─
■まえがき■
神経内分泌腫瘍はneuroendocrine neoplasms(NEN)と総称され,今回のガイドラインのなかで,病理診断における大きな変化は,NET G3 の新設,MANEC のMiNEN への改変である。
WHO2010 では,膵消化管での神経内分泌腫瘍は,組織像にはよらずに増殖能(核分裂像,Ki-67 指数)により,低値の場合は高分化腫瘍NET G1(<3%),G2(3~20%)と称され,高値(>20%)の場合は低分化癌NEC G3(大細胞型,小細胞型)に大別された。その後形態学的に神経内分泌パターンを呈する“高分化腫瘍”NET でも Ki-67 が高値(>20%)の症例も多く報告され,低分化でKi-67 指数が>20%のNEC とは,予後,治療,バイオマーカーも異なることが判明した。結果としてWHO2017 ではこれらの腫瘍群はNET G3 と呼称されることになった。したがってWHO2017 ならびに近年提唱されたWHO2019 では,膵・消化管神経内分泌腫瘍は,neuroendocrine neoplasms(NEN)と総称され,組織学的に神経内分泌パターンを示す腫瘍を高分化と称し,Ki-67 指数が<3%,3~20%,>20%の判定によりそれぞれNET G1,G2,G3 と分類し,形態学的に低分化な神経内分泌腫瘍でKi-67 指数が20%を超える腫瘍を神経内分泌癌NEC(G3 は付記しない)(大細胞型,小細胞型)と呼ぶこととなった。
NET G3 とNEC は,前者ではATRX/DAXX の遺伝子変異があり,p53,Rb などの遺伝子変異はみられず,NEC とは逆の関係にあるという差異がみられ,現在では両者は遺伝的に異なる腫瘍と位置付けられている。また,NET G3 ではSSTR2 の発現がより高頻度にみられる点も注目されている。
一方,上皮性腫瘍のうち非神経内分泌腫瘍と神経内分泌腫瘍が混在する腫瘍は,WHO2010 ではmixed adeno-neuroendocrine carcinoma(MANEC)と称されていたが,非内分泌腫瘍のなかには腺房細胞癌などもあり,神経内分泌腫瘍にはNEC ばかりでなくNET の各群も含まれることが判明し,現在ではmixed neuroendocrine-non-neuroendocrine neoplasms(MiNENs)と呼ばれるようになった。遺伝子レベルでは,両者とも共通のKRAS 変異,p53 変異などを認めるところから,衝突癌ではなく単一(モノ)クローン性の腫瘍と考えられている。
本ガイドライン第2 版の発刊と同時期に膵・消化管を含めた神経内分泌腫瘍を含むWHO Digestive Tract 2019 も刊行され,各消化管に発生する神経内分泌腫瘍も上記の膵NEN と同様の分類を用いることになった(表)。
- CQ1
- 膵・消化管NEN の病理診断を得るために推奨される方法は何か?
-
膵・消化管NEN の病理診断として,生検診断が推奨される(グレード B,合意率 90%)。膵NEN に対する生検方法としては,EUS-FNA が推奨される(グレード C1,合意率 90%)。消化管NEN に対しては通常の内視鏡下生検で診断可能である(グレード B,合意率 90%)。
同時性に肝転移を有する場合は,肝腫瘍生検からの診断も可能である。増悪時にはKi-67 指数が上昇しgrade が原発巣と異なる場合があり,増悪時の治療選択にあたっては再生検も考慮される。
解説
生検の役割は組織診断,悪性度診断が挙げられる。膵NEN に対する組織採取法としては,EUS-FNA が広く施行されている。EUS-FNA による病理診断に関しては,感度は82.6~100%,正診率は83.3~93%と報告されている1-3)。消化管NEN に対しては通常の内視鏡下生検で診断可能であることが多い。
また,NEN に対する生検の役割として,鑑別診断のみならずWHO 分類に基づいた悪性度診断(Ki-67 指数)も求められる。
膵NEN に対するEUS-FNA 標本と切除標本Ki-67 指数の一致率は70~90%4-9)であり,システマティックレビューでは83%とされる10)。不一致の要因としてKi-67 指数の腫瘍内不均一性により,hot spot が採取できていないことが指摘されている6, 11)。EUS-FNA で正確にKi-67 を評価するには,2,000 個以上(WHO 分類では500 個を推奨)の腫瘍細胞をEUS-FNA 検体で採取することが有用であるとされている6)。WHO2017 分類では,Ki-67 指数は印刷した画像を用いて,最も核の標識率が高いhot spot を対象に500 個以上の腫瘍細胞で評価する方法を推奨している。また腫瘍径が小さい方が腫瘍内の不均一性が少なく,一致率が高い7, 8)とされており,腫瘍径が大きい場合は,ストローク中の角度を変えて広範囲から採取する方法(fanning method)12)や,吸引圧をより高くするなどの工夫13)が有用とされている。
同時性に肝転移を有する場合は,肝腫瘍生検からの診断も可能である。膵NEN の原発と転移巣ではKi-67 指数に有意な差はない(P=0.94)という報告や,肝転移の方が高いという報告もある14, 15)。一方,肝転移とリンパ節転移との比較では,肝転移のKi-67 指数が有意に高く(P<0.0001),臨床的判断には肝転移からの生検が有用であるとの報告がある16)。また,増悪時にはKi-67 指数が上昇したとの報告もあり,増悪時の治療選択にあたっては再生検も考慮される17)。
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- CQ2-1
- 病理組織診断書に記載することが推奨される項目は何か?
-
NEN の発生した臓器名,組織形態的および免疫組織化学的な所見,WHO 分類(NET G1~3,NEC),Ki-67 指数やTNM 分類を記載する(グレード A,合意率 100%)。
【推奨される記載項目】
①採取部位,②採取法,③肉眼所見:腫瘍の局在,大きさ,形態(結節型,浸潤型など),④組織型分類:NET G1~3,NEC(小細胞型,大細胞型),MiNEN,⑤細胞増殖動態:核分裂像指数,Ki-67 指数(絶対値を記載),⑥免疫染色像:神経内分泌マーカー(クロモグラニン A,シナプトフィジン),各種ホルモン(インスリン,グルカゴン,ソマトスタチンなど),⑥進展様式・間質量,二次変性(線維化,嚢胞変性,石灰化,壊死など),⑦脈管侵襲(リンパ管侵襲,静脈侵襲),⑧神経浸潤,⑨主膵管内進展(膵NEN の場合),⑩局所進展:T 分類,⑪リンパ節転移:N 分類,⑫遠隔転移の有無:M 分類,⑬切除断端:腫瘍露出の有無,断端までの距離,⑭その他:多発病変の有無,SSTR2 の発現
解説
膵消化管NEN はWHO2019 分類1)に準じて,高分化型のNET と低分化型のNEC(小細胞型,大細胞型),MiNEN(COLUMN❷参照)に分類される。さらにNET は細胞増殖動態(核分裂指数,Ki-67 指数)によって,NET G1,NET G2,NET G3 に分類される(NET G3 とNEC の組織学的鑑別法は病理 CQ6 を参照)。内分泌症状を引き起こすものや血中ホルモンの異常高値を示すものは機能性腫瘍に分類される。該当するホルモンの免疫染色は,機能性腫瘍の責任病変の検索に有用である。多発病変の場合,必ずしも最大の腫瘍が責任病巣とは限らないため,複数の病変での評価が求められる。多くのNEN ではソマトスタチン受容体2(SSTR2)が発現しており,SSTR2 の免疫染色は,腫瘍の分化度の評価やソマトスタチンアナログ治療効果の推定に有用である2, 3)。
TNM 分類は腫瘍のサイズ,深達度や進行度で規定される。特殊染色・免疫染色を用いた脈管侵襲の有無や,神経侵襲や壊死の有無を検索し記載することが望まれる。膵NET と虫垂NET のTNM 分類は,従来のENETS 分類とAJCC/UICC 分類に相違があったが,UICC(第8 版)では従来のENETS 分類がNET に固有のTNM 分類として導入され,WHO2019 分類でも同様に,UICC(第8 版)のNET のTNM 分類4)が採用されている。消化管NET に関しても,臓器ごとのUICC(第8 版)のTNM 分類4)が推奨される。NEC およびNEC の成分を含むMiNEN は各臓器とも通常型の癌腫のTNM 分類に準じて記載する。
文献
- 1)
- Klimstra D, Klöppel G, La Rosa S, et al. Classification of neuroendocrine neoplasm of the digestive system. WHO Classification of Tumours Editorial Board, ed. WHO Classification of Tumours, 5th ed, Vol.1, Digestive System Tumours. pp16-21. World Health Organization, Lyon, 2019. (レベルⅥ)
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- Kasajima A, Papotti M, Ito W, et al. High interlaboratory and interobserver agreement of somatostatin receptor immunohistochemical determination and correlation with response to somatostatin analogs. Hum Pathol. 2018; 72: 144-152. (レベルⅣ)
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- Konukiewitz B, Schlitter AM, Jesinghaus M, et al. Somatostatin receptor expression related to TP53 and RB1 alterations in pancreatic and extrapancreatic neuroendocrine neoplasms with a Ki67-index above 20. Mod Pathol. 2017; 30(4): 587-598. (レベルⅣ)
- 4)
- Brierley JD, Gospodarowicz MK, Wittekind C, eds. TNM Classification of Malignant Tumours, 8th ed. Wiley-Blackwell, Hoboken, 2017.(レベルⅥ)
- CQ2-2
- NEN の主な病理所見は何か?
[アルゴリズム5]
-
膵NET の多くは境界明瞭な髄様性腫瘤を形成し,消化管NET は粘膜深部から粘膜下に境界明瞭な腫瘤を形成する。組織学的には神経内分泌分化を示唆する類器官構造パターン(索状,胞巣状,偽腺管状など)を示し(高分化),富血管性(多血性)腫瘍の様相を呈する(図1)(グレード A,合意率 100%)。
NEC は浸潤性の境界不明瞭な広がりを示し,しばしば壊死を伴う。組織学的に小細胞型はN/C 比の高い異型細胞の索状~びまん性浸潤からなり,類器官構造は不明瞭となる(低分化)(図1)。大細胞型は大型な核と広めの細胞質を有する類円形~多稜形細胞の大型胞巣状~充実性の増殖からなる(グレード A,合意率 100%)。
解説
免疫組織化学的に,クロモグラニンA の発現が乏しい場合,膵腫瘍ではsolid pseudopapillary neoplasm(充実性偽乳頭状腫瘍)との鑑別を要する。
NET には多彩な組織亜型〔オンコサイト型,淡明細胞型,ラブドイド型,多形型,パラガングリオーマ様型(Zellballen パターン),紡錘細胞型など〕が存在する(図2)1-3)。腫瘍内部にはさまざまな二次的変化(線維化,浮腫,嚢胞化,石灰化など)がみられる。産生ホルモンの種類や発生臓器によって特徴的な病理像が存在する1-3)。インスリン産生腫瘍では硝子様間質を伴い,アミロイド(islet amyloid polypeptide;IAPP または amylin)の沈着が証明されることがある。MEN1 合併ガストリノーマの責任病巣の多くは十二指腸に存在する (MEN1/VHL CQ1 参照)。膵ソマトスタチン産生腫瘍はZellballen パターンを特徴とするのに対し,Vater 乳頭部やその近傍に発生するソマトスタチン産生腫瘍は砂粒体を伴った腺管状配列を特徴とし,von Recklinghausen(VRH)病 /neurofibromatosis type(NF1)に合併する(図2)。神経節細胞(ganglion cells)の増生を含む神経節細胞性傍神経節腫(gangliocytic paraganglioma)の組織像を示すこともある(図2)。VIP オーマには上皮性腫瘍(NET)と神経性腫瘍(神経節神経腫,神経節細胞芽腫,褐色細胞腫など)が含まれる。前者は成人例の膵,消化管や腎,肺などに発生し,後者は小児の交感神経節や副腎,後腹膜や縦隔に発生する。セロトニン産生膵NET は主膵管近傍に局在し,硬化性間質を伴い,主膵管を全周性にあるいは側方から狭窄し,尾側膵管の拡張をきたす。胃NET は発生様式によって,主に自己免疫性胃炎に関連して発生する1 型,MEN1/Zollinger-Ellison 症候群に関連する2 型,孤発性に発生する3 型に分類される。1 型や2 型は enterochromaffin-like(ECL)細胞性で,VMAT2 陽性を示す内分泌細胞微小胞巣(endocrine cell micronest;ECM)やNET が多発性にみられる。中腸由来NET はセロトニンを産生するenterochromaffin(EC)細胞性で,peripheral palisading を伴った島状配列を示すことが多く,CDX2 陽性率が高い。虫垂腫瘍の多くはEC 細胞性で,しばしばS100 陽性神経系細胞と複合してみられる。後腸(直腸)NET はL 細胞性が多い1, 3)。消化管NEC ではしばしば腺癌や扁平上皮癌が共存病変として同定されるが,膵NEC でも腺癌成分の共存や腺癌と共通した分子学的特性が示されている4-7)。
文献
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- Yachida S, Vakiani E, White CM, et al. Small cell and large cell neuroendocrine carcinomas of the pancreas are genetically similar and distinct from well-differentiated pancreatic neuroendocrine tumors. Am J Surg Pathol 2012; 36(2): 173-184. (レベルⅣ)
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- Basturk O, Tang L, Hruban RH, et al. Poorly differentiated neuroendocrine carcinomas of the pancreas: a clinicopathologic analysis of 44 cases. Am J Surg Pathol. 2014; 38(4): 437-447. (レベルⅣ)
- 7)
- Konukiewitz B, Jesinghaus M, Steiger K, et al. Pancreatic neuroendocrine carcinomas reveal a closer relationship to ductal adenocarcinomas than to neuroendocrine tumors G3. Hum Pathol. 2018; 77: 70-79. (レベルⅣ)
- CQ3
- 病理組織標本の取り扱い方法として何が推奨されるか?
-
検体採取後は直ちに固定する(グレード A,合意率 100%)。固定には10%中性緩衝ホルマリンを使用する(グレード A,合意率 100%)。固定には十分な固定液を使用し,1 週間を超える長期間の固定は避ける(グレード A,合意率 100%)。作製されたホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)は冷暗所で保存し,可及的に新しい検体を検査に使用する(グレード A,合意率 100%)。核酸をFFPE から抽出する薄切の際は,検体ごとにミクロトーム刃を交換し,コンタミネーションを避ける(グレード A,合意率 100%)。
解説
NEN の適切な病理診断,グレード分類や脈管侵襲などの評価において均てん化された免疫染色の重要性が高まっている。MEN1 など,遺伝性疾患の診断やゲノム医療に向け,核酸を用いた検査も重要となってきている。これらの検査を適切に実行するためにはホルマリン固定パラフィン包埋組織・細胞検体(FFPE)の適切な作製と取り扱いが重要である。すなわち,プレアナリシス(解析前)段階 (固定前,固定,固定後プロセス)では,可及的にゲノム診療用病理組織検体取り扱い規定に準じてFFPE 標本を作製し,アナリシス(解析)段階を施行する必要がある1-4)(固定時間に関して下記参照)。
1.プレアナリシス段階
検体採取後は直ちに固定することが望ましい。固定には 10%中性緩衝ホルマリンの使用が望ましい。固定はゲノム研究用病理組織検体取り扱い規定などを参考に,十分な量の固定液を使用し,1 週間を超える長期間の固定は避けるべきである。ホルマリンの浸透速度は1 mm/時間程度である。そのため大きな検体であっても,厚さは,0.5~1 cm 程度までが望ましい5)。作製されたFFPE は冷暗所で保存し,可及的に新しい検体を検査に使用するべきである。
2.アナリシス段階
クロモグラニンなどによる神経内分泌分化の同定は,その他の腫瘍(solid pseudopapillary neoplasm, acinar cell carcinoma/neoplasm, serous cystic neoplasm)との鑑別においても重要であるが,方法としては免疫染色が主流である。WHO 分類によるgrading では 免疫染色によるKi-67 指数の計測が必須とされている。治療効果予測に ソマトスタチン受容体サブタイプ2(SSTR2)などの免疫染色も行われる。脈管侵襲判定には弾性線維染色やCD34,D2-40 免疫染色が施行される。自動染色機の使用は染色法の均てん化,標準化に有用である。
ゲノム診療などで核酸をFFPE から抽出する際は,解析に必要な腫瘍量を有し,壊死や出血の少ない検体・ブロックを病理医が選択し,薄切の際は検体ごとにミクロトーム刃を交換し,コンタミネーションを避けるべきである3, 4)。
文献
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- Zarbo RJ. The oncologic pathology report. Quality by design. Arch Pathol Lab Med. 2000; 124(7): 1004-1010.(レベルⅣ)
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- 一般社団法人日本病理学会編.ゲノム診療用病理組織検体取り扱い規定,日本病理学会,東京,2018. http://pathology.or.jp/genome_med/pdf/textbook.pdf (レベルⅣ)
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- 一般社団法人日本病理学会編.ゲノム研究用病理組織検体取り扱い規定.日本病理学会,東京,2016. https://pathology.or.jp/genome_med/pdf/textbook.pdf (レベルⅣ)
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- Bancroft JD, Stevens A, eds. Theory and practice of histological techniques, 4th ed. p30. Churchill Livingstone, New York, 1996. (レベルⅣ)
- CQ4-1
- 術中迅速検体の取り扱い方法は?
-
検体は,固定液や生食水に浸漬せず,乾燥しないように注意し速やかに病理検査室に提出する(グレード A,合意率 100%)。病理組織学的な評価はHE 染色を基本とする(グレード A,合意率 100%)。
解説
新鮮検体はパラフィルムや生食水で軽く湿らせたガーゼに挟むのがよいが,生食水に浸漬してはならない。凍結検体から作製した染色切片は固定検体から作製したものより評価が困難である。また,脂肪組織や石灰化の多い検体は標本作製が困難である。術中迅速診断終了後,それに用いた検体は速やかに10%中性緩衝ホルマリン液に浸漬・固定し,永久標本を作製後再評価する。しかし,標本作製面が凍結切片と異なり評価が変わる可能性がある。
- CQ4-2
- 術中迅速診断の目的は何か?
-
- 1)腫瘍部が採取されているか否かの確認(グレード B,合意率 100%)
- 2)切除断端が肉眼的に病変に近接している場合の断端評価(グレード B,合意率 100%)
- 3)リンパ節転移や腹膜播種の有無,随伴病変の確認(グレード B,合意率 100%)
解説
微小病変では,術前に想定していた病変の同定が難しい場合があり,術中エコーが無効,あるいは不確かな場合には術中迅速診断による組織学的確認が推奨される。しかし,組織型 /深達度 /広がりの診断は術中迅速では困難であり,永久標本で行う必要がある。その際,組織型の確定には免疫染色を併用する 1)。
境界明瞭な腫瘍が多いため,断端評価は一般の腺癌と異なり必要でない場合が多いが1),病変が肉眼的に切除断端に近接している場合,切除範囲や術式の変更のための術中迅速診断が必要となる。
しかし,米国膵NET グループの大規模研究では,膵NEN の組織学的断端陰性(R0 切除:断端から1 mm 以内に腫瘍が存在しない)例は断端陽性(R1 切除)と比較して無再発生存率は良好であるが,全生存率は両者で同等であった。また,術中迅速診断でR1 と診断された場合に追加切除を行ってR0 としても,初回にR0 切除できた例と比較して全生存率や無再発生存率は不良であり,さらに無再発生存率はR1 症例と同等であったと報告されている2)。
消化管NET の場合,迅速診断で断端評価が必要になる状況は限られるが,迅速診断により術式の変更を検討する場合がある。
膵消化管NEC は一般の腺癌に準じた迅速病理診断を行う。
なお,術中迅速診断の目的と要望事項はあらかじめ病理医に伝達しておく必要がある。
文献
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- CQ5
- Ki-67 指数の推奨される測定法は?
-
- Ki-67 染色を行った標本を鏡顕し,陽性細胞の頻度が最も高い部位を“hot spot”として同定する(グレード A,合意率 100%)。
- 陽性細胞 /陽性細胞+陰性細胞(検討した細胞の総数)を算出してKi-67 指数(パーセンテージ)を記載する(グレード A,合意率 100%)。
解説
Ki-67 は細胞増殖関連核抗原であり,病変における陽性細胞の割合を求めるのが基本である。この陽性細胞の割合はKi-67 指数(proliferation index)と規範され,その病変の細胞増殖動態をある程度正確に反映することから,近年NEN も含めた数多くのヒト腫瘍の病理組織診断で用いられている。
このKi-67 指数の推奨される測定法として最近のWHO2017 で推奨された方法を記載する。
- Ki-67 染色を行った標本を鏡顕し,陽性細胞の頻度が最も高い部位を“hot spot”として必要な場合には複数同定し,通常のCCD camera で取り込み印刷する。
- 印刷した紙上で,陽性細胞を丸く囲み,陰性細胞に中心部を通る線を書いて陽性,陰性の細胞を同定して各々の数を求める。
- 陽性細胞 /陽性細胞+陰性細胞(検討した細胞の総数)を算出してKi-67 指数と規範し,報告する。
この方法は顕微鏡を覗きながら計測するいわゆる“eye balling”,“eye counting”,高価な機器を必要とする“automated counting”と比較するとより再現性が高いKi-67 指数をより平易 /安価に供することが示されている。しかし依然として以下の問題点がある。
- a.必要腫瘍細胞数は500 個とされているが1-6),実際には生検標本などを中心に困難な症例が少なくない。このような場合でも実際に何個の腫瘍細胞を計測したのか?(例えば 25/250,10%)を診断書に明記して報告することが必要である。
- b.“hot spot”はいわゆる intratumoral heterogeneity の問題を克服するために複数のspot での検討が必要な場合もある。しかし生検検体などで染色動態がほぼ均一な場合には1 カ所での検討でも許容される。
- c.免疫組織化学での陽性の定義はどの場合でも困難であるが,膵NEN 症例でのKi-67 指数の算定には原則的に薄く染色されている症例でも陽性と判定する。しかし陽性か陰性か疑義があるような細胞は陰性と判定する。
文献
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- CQ6
- NET G3 とNEC の鑑別法は何か?
[アルゴリズム6]
-
NET G3 とNEC の鑑別は組織学的分化度によってなされる(グレード A,合意率 90%)。
解説
NET G3 およびNEC という criteria がWHO2017 分類に膵NEN に関して示され,WHO2019 分類では消化管NEN でも同様に採用された1)(表1)。NET G3 はNET G1 やG2 に類似する高分化腫瘍,NEC は低分化な癌腫で,生検でも多くの場合鑑別可能であるが,ときに両者の鑑別が困難な場合もある(特に,NET G3 と大細胞型NEC の鑑別,小さな生検での診断)2, 3)(図1)。NET G3 の病理像は基本的にNET G1 やG2 と同様で,境界明瞭な髄様性・膨張性の充実性腫瘤を形成し,比較的緩徐な発育を示し,組織学的に神経内分泌分化を示す緻密な類器官構造(索状,胞巣状,偽腺管状など)をとり,細胞異型は軽度~中等度にとどまり,腫瘍内部にNET G1 やG2 に相当する成分が共存する。一方,NEC は境界不明瞭な髄様性腫瘤を形成し,急速な発育を示し,組織学的に高度異型細胞が大型胞巣状~シート状・びまん性の増殖を示し,類器官構造は不明瞭となる(図2~4)。
両者とも,核分裂像が比較的容易に観察されるが,NEC では極めて多数みられる(40~50 個以上 /2 mm2)。両者ともKi-67 指数は 20%を超えるが,NEC ではたいてい50%を超える異常高値を示す。NEC では高頻度に広い壊死巣がみられるのに対し,NET G3 では壊死がみられても小範囲である。なお,NET でも,梗塞,治療,組織崩壊,自己融解などによる広範な変性・壊死をきたし得ることに留意する必要がある。両者ともホルモン過剰症状を示すことは稀である。ソマトスタチン受容体(特に SSTR2)の発現に関して,NET G3 では明瞭な陽性所見がびまん性にみられるのに対し,NEC では部分的陽性,弱陽性あるいは陰性であることが多い4)。NEC には悪性度の極めて高い腫瘍にみられるp53 蛋白のびまん性過剰発現,Rb 蛋白のびまん性欠失,CDKN2A/p16 蛋白のびまん性過剰発現がみられ,これらの免疫染色はNET G3 とNEC の鑑別に極めて有用になる4-6)(図1~4)。NET G3 はNET G1 やG2 と同様の組織発生や遺伝子異常を示し,膵ではMEN1,VHL,DAXX/ATRX,mTOR 経路関連因子の異常が指摘されている。一方,NEC に関して,消化管のみならず,最近では膵でも,腺癌を先行病変とする組織発生が考慮され,膵NEC に膵管癌に高率にみられるKRAS の変異が証明されることがあり,可能な施設ではKRAS 変異の解析がNET G3 とNEC の鑑別に有用である5, 6)。遺伝性腫瘍症候群(MEN1,VHL 病,NF1 など)では,NET G3 を合併し得るが,NEC との関連性は低く,みられても偶発的な側面が強い。
文献
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- Klimstra DS, Klöppel G, La Rosa S, et al. Classification of neuroendocrine neoplasms of the digestive system. WHO Classification of Tumours Editorial Board, ed. WHO Classification of Tumours, 5th ed, Vol.1, Digestive System Tumours. pp16-21. World Health Organization, Lyon, 2019. (レベルⅥ)
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- Tang LH, Basturk O, Sue JJ, et al. A Practical Approach to the Classification of WHO Grade 3 (G3) Well Differentiated Neuroendocrine Tumor (WD-NET) and Poorly Differentiated Neuroendocrine Carcinoma(PD-NEC) of the Pancreas. Am J Surg Pathol. 2016; 40(9): 1192-1202. (レベルⅣ)
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- Konukiewitz B, Schlitter AM, Jesinghaus M, et al. Somatostatin receptor expression related to TP53 and RB1 alterations in pancreatic and extrapancreatic neuroendocrine neoplasms with a Ki67-index above 20. Mod Pathol. 2017; 30(4): 587-598. (レベルⅣ)
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COLUMN
❶MiNEN (mixed neuroendocrine-non-neuroendocrine neoplasm)
WHO2010 でのMANEC (mixed adeno-neuroendocrine carcinoma)は,主に両成分とも腺癌と high-grade(G3)な神経内分泌癌(NEC)の組み合わせを対象とした名称であった。これに対し,扁平上皮癌や腺房細胞癌などとNEC の組み合わせや,NEN の成分がG1/2 に相当する場合がある。MiNEN はこれら多彩な病態をカバーする総称(conceptual category)である1-4)。
MiNEN に該当する腫瘍は組織学的に大きく2 つのパターンに分かれる。一つはneuroendocrine 成分(NET,NEC)とnon-neuroendocrine 成分(腺癌,腺房細胞癌,扁平上皮癌など)がそれぞれ領域性をもちながら増殖し一つの腫瘤を形成しているものである。もう一つは,neuroendocrine cells やnon-neuroendocrine cells,さらに両者の分化を併せもつamphicrine cells が密接に混じり合いながら増殖し一つの腫瘤を形成するものである(図1,2)。いずれの場合においても,各成分が30%以上を占め,両者の成分が組織形態学的,免疫組織学的に証明される1, 2)。両者の成分の組織型やグレードを別個に評価することが可能な腫瘍では,診断書に記載するべきである。
病理総論的にいえば,MiNEN に限らず,一つの腫瘍内に複数の形質がみられることは何ら珍しいことではない。重要なことは,治療ターゲットになる先進部や転移巣の優勢な組織像を慎重に見極めることである。例えば,neuroendocrine 成分がNEC の場合は,NEC 成分がnon-neuroendocrine 成分よりも進行していることが多い5)。このため,NEC 成分については,全体の30%未満の領域で観察された場合においても,診断書にその旨を記載することが望ましい。
❷遺伝性腫瘍症候群に合併するNET の特徴的な病理所見
NET は遺伝性腫瘍症候群 (multiple endocrine neoplasm type 1;MEN1),von Hippel-Lindau(VHL)病,神経線維腫症Ⅰ型(NF1;von Recklinghausen 病)病などに合併し,若年発生,多発性といった遺伝性疾患としての特徴がみられる。
MEN1 では膵にNET が多発する。最大の腫瘤が内分泌症状や転移の責任病巣とは限らない。組織像は散発例と同様であるが,輪郭が不鮮明なものや,高度に硬化したもの,好酸性細胞や淡明細胞が目立つものなど多彩な像が同一膵内に観察される。十二指腸にもNET が好発し,特にMEN1 に合併するガストリノーマ(Zollinger-Ellison 症候群)の責任病巣は十二指腸粘膜に存在することが多い6)。十二指腸ガストリノーマは小さく,膵内のNET や近傍のリンパ節転移巣が主病巣の様相を呈することがあるため,十二指腸病変の有無を十分に検索する必要がある7)。
VHL ではときに膵NET の合併がみられる。悪性度は散発例と変わらない。腫瘍細胞には部分的あるいは広範囲に泡沫状・微小空胞状の淡明な胞体所見がみられる(CQ2-2 図2 参照)7)。類似腫瘍としてlipid-rich variant of pancreatic endocrine neoplasm も報告されている8)。この淡明化は,ほかのVHL 関連腫瘍(腎細胞癌,膵漿液性嚢胞腫瘍,血管芽腫)と共通する特徴で,VHL 遺伝子異常により生じる低酸素誘導因子HIF(hypoxia inducible factor)の活性化の関与が指摘されている9)。ただし,淡明細胞はMEN1 や散発例にもみられる10)。
神経線維腫症Ⅰ型(NF1)も,稀に膵や消化管にNET が発生し,なかでもVater 乳頭部やその近傍に好発する。砂粒体を含む腺管形成,ソマトスタチン産生(無症候性)といった特徴を示し,稀に神経節細胞傍神経節腫(gangliocytic paraganglioma)の所見を呈することもある(CQ2-2 図2 参照)11)。
❸虫垂 goblet cell adenocarcinoma(GCA)
虫垂GCA は腺癌の一亜型であり1),これまで虫垂NET の特殊型として扱われていたgoblet cell carcinoid を含むが,虫垂NET とは異なる病態である。同義語にはgoblet cell carcinoid のほか,goblet cell carcinoma, crypt cell carcinoma, microglandular carcinoma, adenocarcinoid などが存在する。MiNEN とは別に扱われる。TNM 分類は虫垂腺癌に準じる1)。
基本となる組織像(典型像)は,杯細胞類似の粘液細胞が腸管の陰窩に類似した細管状や胞巣状の配列を示すといった所見で,内分泌細胞やパネート様細胞が種々の程度に混じる amphicrine(同一細胞に腺細胞・内分泌細胞両方の特徴を含む)な性格を有する(図3)。しばしば細胞外粘液や神経周囲浸潤がみられる。核異型は軽度,間質反応に乏しく,核分裂像はほとんどみられず,低悪性度の様相を呈する(low-grade GCA)。
これらの典型像を踏まえ,大きく2 つの病態を認識する必要がある(図3)。一つは主にこのlow grade GCA 成分からなる早期病変で,種々の程度の壁肥厚を示すが,限局性で臨床的に見過ごされやすい病変である。もう一つは進行病変で,通常の腺癌の様相を呈する。後者では異型の強い腺系細胞の弧在性~複雑な構築の細管状,篩状,シート状の浸潤や杯細胞 /印環細胞様細胞の大きな集簇を含む浸潤を示し,desmoplastic な間質反応,多数の核分裂像,壊死,P53 異常を伴う(high-grade GCA)。通常の管状腺癌が混在する場合もある12)。浸潤性で硬く,大型の腫瘤を形成する。女性では卵巣転移がみられる13)。通常の腺癌との違いは,病変内に種々の程度にlow-grade GCA 成分を含み,いわゆるadenocarcinoma ex goblet cell carcinoid(low grade GCA の高悪性転化)の病態を示すことである14)。
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第3章 外科治療 ─ Clinical Question・推奨・解説─
■まえがき■
『膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン』第1 版では,外科治療のパートに19 個のクリニカル・クエスチョン(CQ)が設けられていた。今回の外科治療の章では,主に原発巣の切除の適応,術式に関するCQ を扱うこととし,遠隔転移に対する手術は集学的治療の一部であることを明確にするために内科・集学的治療の章で扱うこととした。また,旧ガイドラインで扱わなかった食道NEC に対する外科治療のCQ を新たに加えた。またCQ 以外にコラムを設け,経過観察法,腹腔鏡下手術の適応,脈管侵襲,胆道NEN について解説を加えた。
今回の改訂では大きく2 つの点に留意した。すなわち,2017 年に改訂されたWHO 分類との整合性を保つ必要があった点と,治療手段として最終的に外科治療を行う臨床医の評価をガイドラインに適切に反映させる必要があった点である。
2017 年WHO 分類では膵神経内分泌腫瘍(NEN)に新たな分類法が導入された。2010 年WHO 分類ではKi-67 指数が20%を超える腫瘍はすべてNEC とされていたのに対し,2017 年分類では分化度により,まず高分化型のNET と低分化型のNEC に分け,NET のなかでKi-67 指数が20%を超える腫瘍を膵NET G3 とした。このように,旧分類の膵NEC が膵NET G3と膵NEC に分けられることになったため,手術適応の記載をこれに合わせて行う必要があった。これまで旧分類での膵NEC は手術適応とは考えられていなかったが,改訂では膵NET G3 に対する手術適応は膵NEC とは別であることを明記した。
次に旧ガイドラインでは非機能性膵NET の手術適応について,「非機能性NET と診断された場合,リンパ節郭清を伴う膵切除が推奨される。2 cm 以上の非機能性NET に対しては定型的膵切除術が推奨される」となっている。これは非機能性膵NET では腫瘍のグレードや,腫瘍径にかかわらず,かなりの割合でリンパ節転移と肝転移が起こることが示されているためである1, 2)。
一方,最新のNCCN ガイドラインならびにENETS コンセンサスガイドラインでは非機能性膵NET の治療方針を腫瘍径を基に提示し,NCCN ガイドラインでは腫瘍径2 cm 以下,ENETS ガイドラインでは腫瘍径2 cm 未満で,条件付きで経過観察のオプションを記載している。また本邦の学会,研究会においても,偶然発見された小さい非機能性膵NET の手術については議論の多いところであった。
手術治療を選択するか,経過観察を選択するかを決定するためにはそれぞれのメリット・デメリットが考慮されなければならない。日本と欧米の状況の大きな違いの一つは,膵臓手術の術後有病率と死亡率の低さであろう。非機能性膵NET は手術適応を第一選択としたうえで,国際的にどのように扱われているかを十分に解説した。
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- CQ1
- 非機能性膵NET の手術適応と推奨される術式は何か?
[アルゴリズム6]
-
原則として診断がついた全例に切除を行うことを推奨する(グレード B,合意率 100%)。
術式は局在やリンパ節転移のリスクを考慮して,核出術(+リンパ節サンプリング)やリンパ節郭清を伴う膵切除術を選択する(グレード B,合意率 100%)。
解説
診断がついた場合は基本的に切除を行うことが望ましい。
しかし,無症状で偶然発見される悪性度の極めて低いと思われる非機能性膵NET が診断される機会が非常に増えてきていること,さらには腫瘍の局在によっては小さいながらも過大侵襲となる膵切除術を要することもあることから(特に膵頭部腫瘍に対する膵頭十二指腸切除術),腫瘍進行のリスクと手術に伴う合併症のリスクを十分に説明したうえで,1 cm 未満,無症状で偶然発見された腫瘍,かつ画像上,転移・浸潤所見を認めないという一定の条件を満たす非機能性腫瘍に対しては即座の手術ではなく経過観察(6~12 カ月ごと)を選択肢とし,腫瘍の増大,症状の出現などの変化がみられた場合に手術を行うことを考慮してもよい1, 2)。
最近では腫瘍径2 cm 未満の小さな非機能性膵NET の経過観察が安全に行えるとする報告が増えてきている3-7)。一方,腫瘍径2 cm 未満でも経過観察は不可とする立場の報告もあるが,これらは切除病理診断を基にした後ろ向き探索から腫瘍径2 cm 未満であってもリンパ節転移の頻度が高いことや組織グレードが高いG2,G3 が含まれることを根拠としている8, 9)。したがって,腫瘍径や組織グレード(Ki-67 指数),画像所見を中心とした評価で上記のような悪性度が低いと判断される一定の条件をもつ症例は慎重な経過観察対象とすることは許容される。
患者の耐術能や術式に関連する合併症リスクも考慮した最新の米国NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドライン10)では腫瘍径1 cm 未満,欧州ENETS(European Neuroendocrine Tumor Society)ガイドライン11)では腫瘍径2 cm 未満であれば,条件付きで経過観察の選択肢を提示している。膵NET では局在や進行度に応じて術式がバラエティーに富むが,特に小さい非機能性膵NET が膵頭部に局在し,侵襲の大きい膵頭十二指腸切除術を要する場合には経過観察を選択することが多いことは本邦の日常診療でも経験され,NCCN,ENETS ガイドラインのいずれでも腫瘍局在を経過観察の選択因子の一つに挙げている。
術式に関しては局在のほかに腫瘍径ごとのリンパ節転移の頻度に注目した議論もこれまでなされてきた。欧米からは上記のように腫瘍径1 cm 未満であってもリンパ節転移の頻度が高いことが報告されているが12-14),報告には低分化型腫瘍が高頻度に含まれており解釈に注意を要する。1 cm 未満の膵NET G1 でのリンパ節転移は極めて低いと考えられているが15-17),一方で1 cm 未満のG1 非機能性膵NET が広範な転移をきたすことがあるのも事実である。低頻度ながらも小さな非機能性膵NET にリンパ節転移があることをもって,全例にリンパ節郭清を伴う膵切除術を行うことが予後改善や患者QOL 改善に寄与するかを今後検討していく必要がある。また非機能性膵NET 切除後の予後解析においてはリンパ節転移が予後規定因子であるとする報告18, 19)と,予後規定因子とならないとする報告20, 21)があるが,これは小さな非機能性腫瘍では,しばしばリンパ節のサンプリングが行われず,術後病理診断でも評価が行われていないことに起因している可能性もある。したがって縮小手術を行う場合でも,周辺リンパ節サンプリングを行うことが望ましい。
画像診断の進歩に伴い,小さな非機能性膵NET の質的診断も可能となってきた。早期造影効果を示さないなど,非典型的画像所見を示す腫瘍はリンパ節転移の頻度が高くなることが報告されており22, 23),また膵実質や膵管への浸潤所見などを認める場合には,腫瘍径が小さくても系統的リンパ節郭清を伴う膵切除術を行うべきである24)。術前のグレード評価も超音波内視鏡下穿刺吸引法である程度可能となったが,まだすべての施設で一般的に行える検査法ではない。膵切除術のアウトカムには施設間格差があることが知られており,さらに最近では高い技術を要する腹腔鏡下手術(COLUMN❷参照)で行われることも多いため,診断と治療はハイボリュームセンターで行われることが望ましい(ハイボリュームセンターとは対象疾患の手術件数が多い施設のことをいう)。
転移を有する場合の治療については内科・集学的治療 CQ3 を参照。
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- CQ2
- インスリノーマの手術適応と推奨される術式は何か?
[アルゴリズム7]
-
インスリノーマと診断された場合は手術を推奨する(グレード B,合意率 100%)。術式は核出術や膵部分切除術などの局所切除術を推奨する(グレード B,合意率 100%)。悪性度が高く浸潤所見がある場合は,リンパ節郭清を伴う膵切除術を推奨する(グレード B,合意率 100%)。
解説
インスリノーマは手術による根治が期待できる1-5)。主膵管損傷をきたさず,安全に施術できるのであれば核出術が推奨される6-8)。腫瘍と主膵管が近接しており,主膵管損傷の危険がある場合は膵部分切除術や膵分節切除術,膵尾部切除術などが推奨される。膵体尾部切除術を行う場合,腫瘍の被膜がはっきりしており,浸潤傾向がないなど,悪性所見を伴わない場合は脾動静脈温存手術が推奨される9-11)。腫瘍多発,尾側膵管の拡張,周囲組織への浸潤,リンパ節転移などを認める場合はリンパ節郭清を伴う膵切除術(膵頭十二指腸切除術 /膵体尾部切除術)が推奨される9-13)。基準を満たした施設では腹腔鏡下膵切除術も選択肢となる。
インスリノーマは術前にSASI テストを行うことが望ましい。SASI テストが行われず,画像診断法のみが行われていて,術中超音波検査などによっても腫瘍が確認できない場合は,盲目的な膵切除は推奨されない。いったん閉腹して,別途カルシウム溶液を用いるSASI テストをすることにより,微小インスリノーマ,ランゲルハンス島過形成,NIPHS(noninsulinoma pancreatogenous hypoglycemia syndrome,診断 CQ1-1 COLUMN 参照)などの局在を診断する9-13)。術中の局在診断においては術中超音波検査と触診が有用である。
ホルモン症状に対する治療,および転移を有する場合の治療については内科・集学的治療 CQ 2 および CQ3 を参照。
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- CQ3
- 膵および十二指腸ガストリノーマの手術適応と推奨される術式は何か?
[アルゴリズム8]
-
膵および十二指腸ガストリノーマに対してはリンパ節郭清を伴う切除術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
MEN1 に伴う膵,十二指腸ガストリノーマは異時性に多発するため,散発性と異なった治療方針が必要となる(MEN1/VHL CQ4 を参照,合意率 100%)。
解説
ガストリノーマは,ガストリノーマトライアングルといわれる十二指腸,膵の両方から発生し1),切除術によってのみ根治できる2, 3)。ガストリノーマはその 60~90%が転移をきたす3-5)。ガストリノーマの根治を目的としない胃全摘術や迷走神経切離術は推奨されない。
遠隔転移を伴わない場合,原発巣切除術が推奨される。リンパ節転移率が 60%以上と高く,郭清による予後改善効果が報告されていることからリンパ節郭清は必須である6, 7)。5.6%の症例で膵,十二指腸以外からの発生が報告されており8),SRS などによる術前の全身検索と,術中の腹部全体の詳細な検索が推奨される。
手術術式は,腫瘍の局在と進展程度により,十二指腸腫瘍摘除術,十二指腸切除術,膵頭十二指腸切除術(幽門輪温存,亜全胃温存),膵温存十二指腸全切除術などが選択される9)。浸潤や転移がない場合は十二指腸腫瘍,膵腫瘍とも部分切除術や核出術の適応となる。肉眼的なリンパ節転移がなくてもリンパ節郭清は必須である。血管など周辺臓器への浸潤がある場合でも合併切除により根治切除術が可能と判断される場合は積極的な切除術が推奨される10)。また,ガストリン産生腫瘍が膵,十二指腸になく,十二指腸周囲のリンパ節のみに認める症例がZollinger-Ellison 症候群患者の10~30%の頻度で報告されており11),郭清を伴った膵頭十二指腸切除術により,良好な予後が報告されている。非MEN1 症例の十二指腸ガストリノーマでも,十二指腸全切除術により再発率が低下することが報告されていることから12),多数の腫瘍を十二指腸内に認める十二指腸ガストリノーマ症例では,膵頭十二指腸切除術や十二指腸全切除術も考慮する。
ホルモン症状に対する治療,および転移を有する場合の治療については内科・集学的治療 CQ2, 3 を参照。
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- CQ4
- 稀な機能性膵NET の手術適応と推奨される術式は何か?
[アルゴリズム9]
-
治癒切除が可能な場合には,リンパ節郭清を伴う膵切除術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。治癒切除が不可能な場合には,症状の緩和目的で腫瘍減量手術が考慮され得る(グレード C1,合意率 100%)。
解説
インスリノーマ,ガストリノーマ以外の稀な機能性膵NET として,グルカゴノーマ,VIP オーマ,ソマトスタチノーマ,GRF オーマ,PP オーマ,ACTH オーマ,PTH オーマなどがあり悪性度は高く予後不良である1-6)。
機能性NET の治療目的は,生命予後の延長とホルモン症状の緩和である。外科切除は唯一,根治を可能とする治療であり,術前診断で治癒切除可能と判断された場合は外科切除が推奨される。リンパ節転移頻度は高く,リンパ節郭清を伴う定型的な膵切除術(膵頭十二指腸切除術,脾臓合併尾側膵切除術など)が推奨される2, 7-9)。
多くの場合,腫瘍径が大きい状態で診断されるが,腫瘍径が小さい(2 cm 未満)場合は,腫瘍核出術や膵部分切除術,脾臓温存尾側膵切除術などの機能温存術式や低侵襲治療である腹腔鏡下膵切除術を選択してもよい。この場合でも,リンパ節郭清は必須である3)。
ホルモン症状に対する治療,および転移を有する場合の治療については内科・集学的治療 CQ2, 3 を参照。
文献
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- CQ5
- 膵NET G3 および膵NEC の手術適応は何か?
-
膵NET G3 に対しては NET G1,NET G2 に準じ,肉眼的治癒切除可能であれば切除を行うことが推奨される(グレード C1,合意率 100%)。
膵NEC の手術適応は明らかでない(推奨なし,合意率 100%)。
解説
WHO2017 分類では膵NEN に新たな分類法が導入された1-5)。すなわち,WHO2010 分類ではKi-67 指数が 20%超であるものはすべてNEC に分類されていたのに対し,新分類では腫瘍の分化度により,まず高分化型膵NEN と低分化型膵NEN に分類し,高分化型膵NEN のなかでKi-67 指数が20%超のものを膵NET G3,低分化型膵 NEN を膵NEC (G3)と分類するようになった(病理 CQ6 参照)。
この背景には,膵NET G3 のKi-67 指数は20~50%とやや低く,プラチナ系薬剤を含む併用療法の奏効率が低いものの,予後は比較的良好であること,一方,膵NEC (G3)のKi-67 指数は通常50%超と高値であり,プラチナ系薬剤を含む併用療法の奏効がみられるものの,生命予後は極めて不良であることがある3-4)。また,膵NET G3 と膵NEC では起源となる細胞が異なり,相互のtransformation を生じることはないと考えられている6-8)。以上のことから,膵NET G3 については治療方針,手術適応に関しては膵NET G1,膵NET G2 に準じることを推奨する。
一方,膵NEC は発見時既に局所進行,あるいは遠隔転移陽性である症例がほとんどであるうえ,切除可能である症例であってもその切除後予後は極めて不良で,中央生存期間は通常12 カ月以内である9-11)。また,膵NEC のみの切除例の成績,切除後予後因子を検討した報告はないため,膵NEC に対する手術適応は現時点では不明である。
転移を有する場合の治療については内科・集学的治療 CQ3, 6 を参照。
文献
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- CQ6
- 食道NEN の切除適応と推奨される術式は何か?
[アルゴリズム10]
-
病理診断を含む正確な治療前診断のもと,進行度や全身状態などを考慮して総合的に治療方法を判断する(グレード C1,合意率 100%)。
解説
米国のNational Cancer Data Base(NCDB 2004-2013)を用いた解析では,膵・消化管NET 80,224 例のうち食道NEN は210 例(0.26%)を占める。その91.6%がNEC であり診断時に30.3%でリンパ節転移,48.7%で遠隔転移を認めている1)。
食道NET については,食道カルチノイドとして症例報告が散見されるのみである2)。粘膜層にとどまる小病変に対する内視鏡的切除の報告がみられるものの治療成績についてのエビデンスはない。食道NET の発生母地や悪性度が不明であることや,食道においては粘膜筋板からリンパ網が発達していることから,内視鏡的切除の適応は慎重に判断されるべきと考えられる3)。内視鏡的切除適応外の食道NET に対しては切除可能であれば手術が行われるが,切除範囲や治療成績についてのエビデンスはない。
切除可能な食道NEC について,これまで登録データベースを用いた後ろ向き研究4-6)が報告されている。患者背景などさまざまなバイアスのため治療法の優劣を判断する材料にはならないものの,リンパ節転移陽性例やステージⅢ症例では手術後の予後が不良であることが示されている。また,ENETS の膵・消化管NEC ガイドライン7)およびNCCN のpoorly differentiated NEC ガイドラインの項8)においては,肺外NEC に対してlocal disease では手術(±補助療法),locoregional disease では化学放射線療法が推奨されている。手術は,上述の報告ではリンパ節郭清を伴う定型的食道切除術が行われている4-6)。食道切除術は大きな侵襲を伴うことから,悪性度の高いNEC においては進行度と全身状態を考慮して通常の食道癌より慎重な手術適応の判断が必要である。
根治的化学放射線療法について,肺外NEC を対象としたNCCN ガイドラインのpoorly differentiated NEC の項8)では,放射線およびプラチナ系薬剤とエトポシドとの併用が記載されているが,食道NEC を対象とした上述の報告4, 5)においてもプラチナ系薬剤を軸とした化学療法と放射線照射が行われている。また,放射線照射については食道癌に対する照射野(原発巣およびリンパ流路を含む縦隔±頸部)と照射線量(50.4 Gy4)および40~70 Gy5))を用いているが,食道NEC に対する放射線照射法や併用化学療法についてもエビデンスは確立していない。
切除不能な食道NET および食道NEC に対する治療については,それぞれ内科・集学的治療 CQ5-2 およびCQ6 を参照。
COLUMN
切除可能食道NEC に対して手術を行う場合,術前・術後の補助療法は推奨されるか?
切除可能な膵・消化管NEC に対する補助療法については,ENETS の膵・消化管NEC ガイドライン7)では手術+プラチナ系薬剤を用いた術後化学療法が記載されており,NCCN ガイドラインのpoorly differentiated NEC の項8)では治療選択肢として,切除+術後化学療法±放射線治療および術前化学療法±放射線治療+切除が記載されている。これらより,切除可能な食道NEC においては,通常の食道癌では手術単独療法の適応であるステージⅠの場合でも,術前または術後の化学療法を念頭において治療を行う必要があると考えられる。
通常の食道癌においては臨床病期Ⅱ,Ⅲ症例に対して手術療法を中心とした治療を行う場合は,術前化学療法が推奨されている。一方,食道NEC に対する術前化学療法については症例報告が散見されるのみでありエビデンスがない。食道切除術は大きな侵襲を伴い術後化学療法は有害事象の発生頻度が高く完遂率が低いことなどから,食道NEC に対する術前化学療法について今後の議論が予想される。
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- CQ7
- 胃NET の手術適応と推奨される術式は何か?
[アルゴリズム11]
-
Rindi 分類(内科・集学的治療 COLUMN❶参照)に応じた手術適応と術式選択が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
解説
胃NET はRindi 分類に基づき,萎縮性胃炎に伴う高ガストリン血症により生じるⅠ型,MEN1 およびZollinger-Ellison 症候群に伴う高ガストリン血症により生じるⅡ型,散発性でガストリン非依存性のⅢ型に分類される1-2)。
Ⅰ型は胃NET の70~80%を占め,一般的に1~2 cm 以下の小病変が胃体部に多発し,NET G1 が多く,転移のリスクは2~5%と報告されている。内視鏡的切除が一般的であるが,①内視鏡的に切除できない,②浸潤傾向を示す,③多発により内視鏡的完全切除が困難である,という場合には胃切除術を考慮する。幽門洞切除に関しては高ガストリン血症の是正によって腫瘍の退縮を認めるとの報告があり3),NCCN(2019)のガイドラインでは「大きさや数が増加している場合など,臨床的判断によって原発巣切除や幽門洞切除を考慮する」と記載されている4)。本邦においても少数例ではあるが多発病変に対する幽門洞切除が行われており,胃体上部にかかる多発病変に対して幽門洞切除によって腫瘍が消失し胃全摘を回避できたとの報告も見受けられる5)。一方,ENETS Guidelines Update 2016 では「幽門洞切除の意義については合意されておらず実臨床ではほとんど行われていない」と記載されている6)。
Ⅱ型は胃NET の5~6%を占め,一般的に1~2 cm 以下の小病変が胃体部に多発し,NET G1/G2 が多く,転移のリスクは10~30%と報告されている。Ⅱ型は多くの場合,MEN1 に合併しており,十二指腸病変に対する外科治療が主体となる。治療はⅠ型に準じ,腫瘍径が1 cm 以上か,脈管侵襲が示唆される場合は胃切除術を選択し,リンパ節郭清を行う。
Ⅲ型は胃NET の14~25%を占め,一般的に孤発性で2 cm を超え,Ki-67 が20%超であることが多く,筋層を越えて浸潤するものが大半である。転移のリスクは50%以上と報告され,リンパ節転移や肝転移を伴っていることが多い。外科治療としては,遠隔転移がなければ広範囲リンパ節郭清を伴う胃切除術を行う。Rindi 分類は1993 年に報告されたものであるため,Rindi Ⅲ型の中にはNET G3 とNEC が含まれていると考えられる。Rindi Ⅲ型の治療を,最新のWHO 分類に従ってNET G3 と NEC に分けて考えるかどうかは,今後の検討課題である。
胃NET 全体でみた場合,本邦における粘膜下層までの浸潤を伴う胃カルチノイド(449 例)の分析では,腫瘍径5 mm 以下の腫瘍の4.6%,5.1 mm 以上1 cm 以下の腫瘍の9.6%,1.01 cm 以上2 cm 以下の腫瘍の21.4%に転移が存在した7)。アジアからの胃NET (G1/G2/G3 を含む)187 例の報告では,腫瘍径1 cm以下ではリンパ節転移,遠隔転移ともに認めず,腫瘍径1.1 cm~2 cm の10.0%でリンパ節転移を認め,腫瘍径2.1 cm 以上では43.1%でリンパ節転移,49.0%で遠隔転移を認めた8)。このことから,1 cm 以上の腫瘍径の胃NET に対してはリンパ節郭清を伴う胃切除が推奨されることになる。
Ⅰ型では,腫瘍径1~2 cm であっても固有筋層への浸潤とリンパ節転移を認めない場合には内視鏡的切除でよいとの報告もあるが9, 10),高いレベルでのエビデンスではなく,議論が残されている。
ENETS ガイドライン6)では腫瘍径による外科切除適応を1 cm 以上としている。一方,NCCN のガイドラインでは外科切除適応について,Ⅰ型,Ⅱ型では具体的な大きさは明記せず,Ⅲ型では1 cm 以上としている4)。いずれのガイドラインも筋層浸潤例に対してはリンパ節郭清を推奨している4, 6, 11-13)。
本邦では,胃の悪性腫瘍に対する標準手術として2 群リンパ節郭清を伴う胃の2/3 以上切除が定着している。腫瘍径が1~2 cm の胃NET におけるリンパ節転移頻度が10~21%であること7, 8)を考慮すると,腫瘍径1 cm 以上,粘膜下層浸潤を伴う胃のNET に対しては,2 群リンパ節郭清を伴う(幽門洞を含めた)幽門側胃切除術,あるいは胃全摘術を推奨する。近年,腹腔鏡下胃切除術が普及しつつあり,治療の選択肢となり得る14)(COLUMN❷参照)。
遠隔転移を有する場合の治療については内科・集学的治療 CQ3 を参照。
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- CQ8
- ガストリノーマ以外の十二指腸 NET の手術適応と推奨される術式は何か?
[アルゴリズム12]
-
- 非乳頭部NET は次の場合に手術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
術式は,リンパ節郭清を伴う切除術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。- 腫瘍径が1 cm 以上の場合(1 cm 未満の場合は内視鏡的切除も考慮)
- 固有筋層以深の腫瘍浸潤を伴う(疑う)場合
- リンパ節転移を伴う(疑う)場合
- 内視鏡的切除標本で切除断端陽性所見や脈管侵襲所見を認める場合
- Ki-67 が高値の場合
- 乳頭部NET は基本的に手術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
術式はリンパ節郭清を伴う切除術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
十二指腸NET の内視鏡的切除適応については内科・集学的治療 CQ1-2 を参照。
- 非乳頭部NET は次の場合に手術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
解説
十二指腸NET は,本邦の消化器NET の16.7%を占め,直腸(55.7%)に次いで高頻度である1)。十二指腸NET の60~98%は非機能性でホルモン症状を伴わない。また,多くが散発性で,高分化型(G1)を呈する2)。機能性十二指腸NET は,ほぼガストリノーマであり,その他の機能性NET としてソマトスタチン産生十二指腸NET があるが,その症状を呈した報告は少ない3)。
Soga らの報告では655 例のうち,十二指腸NET のリンパ節転移率は腫瘍径5 mm 以下で10.6%,6~10 mm で13.9%に対して,1.1 cm~2.0 cm で24.7%と増加することを報告している4)。また,本邦での多施設共同後ろ向き研究では,転移の危険因子はNET G2,多発,腫瘍径1.1 cm 以上,脈管侵襲陽性,と報告されている5)。したがって,手術適応は,①腫瘍径が1 cm 以上の場合6),②固有筋層以深の腫瘍浸潤があるか疑われる場合,③リンパ節転移があるか疑われる場合,④内視鏡的切除標本に切除断端陽性所見や脈管侵襲所見が認められる場合,⑤Ki-67 が高値の場合7, 8),を組み合わせて判断する。1 cm 未満であっても,内視鏡的切除術が困難な場合は局所切除を含む手術適応となる。
手術術式は,腫瘍の局在と進展程度により,十二指腸部分切除術,膵頭十二指腸切除術(幽門輪温存,亜全胃温存),膵温存十二指腸全切除術などを選択する。散発性十二指腸NET の初発再発はリンパ節再発の頻度が高いため9),過不足のないリンパ節郭清を行うことが推奨される。膵頭十二指腸切除術は局所リンパ節郭清が十分に行える点で最も優れている10)。
乳頭部NET は乳頭部の解剖学的複雑さからリンパ節転移の予測は困難であり11),乳頭部NET に対する標準術式は膵頭十二指腸切除術である12)。ただし,2 cm 未満の腫瘍に対しては局所切除でも安全性と根治性を備えているという報告もあり13),特にリンパ節転移率の低い1 cm 未満の腫瘍に対して,進展度診断を詳細に行ったうえで縮小手術や,内視鏡的治療を選択してもよい。
転移を有する場合の治療については内科・集学的治療 CQ3 を参照。
文献
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- CQ9
- 小腸NET の手術適応と推奨される術式は何か?
-
小腸NET は根治的切除が可能な場合,切除術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
術式はリンパ節郭清を伴う小腸切除術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
解説
欧米では全NEN の1/3 を小腸NEN が占めるのに対し,本邦では小腸NEN の頻度は低率であり,消化管NEN のうち,空腸原発が1.6%,回腸原発が0.6%と報告されている1)。小腸NEN の症状は腸間膜の線維化による間欠的な血流障害などによる腹痛が多い。また肝転移を伴う病変の20~30%においてカルチノイド症候群を呈する。小腸NEN のほとんどがNETG1,G2 であるが,リンパ節転移(72%)や遠隔転移(55%)をきたす頻度が高い2-4)。粘膜下層浸潤までの小腸NET 94 例において,腫瘍径5 mm 以下の17.2%,1 cm 以下の30.2%,2 cm 以下の34.2%,2 cm 超の53.3%に転移が認められたと報告されている5)。また,小腸NET は腸管内に多発することがあり,全小腸にわたる検索が必要となる2)。
手術適応は根治切除可能な局所領域病変である。術式は原発巣を含めた小腸部分切除および腸間膜リンパ節郭清を行う。リンパ節郭清を行うことで生存率が改善するとの報告がある3, 4, 6, 7)。一方,上腸間膜動脈根部近くへのリンパ節転移をきたした症例や,skip 転移をきたした症例が報告されている8-11)。したがって,小腸切除の範囲や至適リンパ節郭清範囲については不明である。また,遠隔転移が存在する場合でも,原発巣切除は試みるべきである,とする報告もある3, 4)。
転移を有する場合の治療については内科・集学的治療 CQ3 を参照。
文献
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- Ito T, Sasano H, Tanaka M, et al. Epidemiological study of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors in Japan. J Gastroenterol. 2010; 45(2): 234-243. (レベルⅣb)
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- CQ10
- 虫垂NET の手術適応と推奨される術式は何か?
[アルゴリズム13]
-
虫垂NET はすべて手術適応である(グレード B,合意率 100%)。
- ①虫垂先端・体部に存在するもので,腫瘍径が2 cm 未満かつ脈管侵襲,NET G2 以上,虫垂間膜への浸潤のいずれもない場合は,虫垂切除術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
- ②虫垂先端・体部に存在するもので,腫瘍径が2 cm 以上,あるいは2 cm 未満で脈管侵襲,NET G2 以上,虫垂間膜への浸潤のいずれかがあるまたは疑われる場合は,回盲部を含む切除術と領域リンパ節郭清が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
- ③虫垂根部に存在するものは,腫瘍径によらず,回盲部を含む切除術と領域リンパ節郭清が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
解説
本邦における虫垂NEN は全NEN の 7.4%と頻度は低い1)。欧米では消化管NEN の38%と頻度が高く,虫垂腫瘍の30~80%が虫垂NEN と報告されている。発症年齢は報告によると38~51 歳であるが,若年者発生も報告されている。多くはNET G1,G2 である2-4)。低いステージでは予後は良好で5 年生存率は95~100%であるが,遠隔転移症例では12~28%である3)。
70%は虫垂先端部に発生する。虫垂根部に発生するものや,腫瘍径1~2 cm のもの,虫垂間膜に浸潤しているものは,再発リスクが高い。2 cm を超えるものはリンパ節転移陽性リスクとされている5)。
なお,虫垂NEN は,急性虫垂炎などに対する虫垂切除術後標本から偶発的にみつかることが最も多く,追加切除が必要な場合は3 カ月以内に施行するべきである3)。
いくつかの後ろ向き解析において,リンパ節転移の危険因子として,NET G2(/G3),脈管侵襲陽性,腫瘍径が挙げられているが6-10),リンパ節転移のみであれば手術により,予後も期待できると報告されている9)。追加切除が必要とされる群で,追加切除しなかった症例において,再発や原病死がなかったとする報告もあり6),結腸右半切除術は過大侵襲である可能性が提起されている。希少疾患であるため,これらを明確にする臨床研究は難しく,エビデンスに乏しい現状である。
転移を有する場合の治療については内科・集学的治療 CQ3 を参照。
文献
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- Ito T, Sasano H, Tanaka M, et al. Epidemiological study of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors in Japan. J Gastroenterol. 2010; 45(2): 234-243. (レベルⅣb)
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- CQ11
- 結腸NET の手術適応と推奨される術式は何か?
[アルゴリズム14]
-
結腸NET は以下の場合に,切除術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
- 腫瘍径が1 cm 以上,G2 以上,固有筋層浸潤または局所リンパ節転移のいずれかが疑われる場合
- 内視鏡的切除標本において脈管侵襲,固有筋層浸潤,切除断端陽性またはG2 以上のいずれかが存在する場合
術式は,リンパ節郭清を伴う結腸切除術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
解説
結腸NET は本邦の消化器NET の2.1%を占め,直腸NET に比べて頻度が低い1, 2)。結腸NET は比較的進行した段階で発見されることが多く3),リンパ節転移(30~40%)や肝転移(20~40%)を高頻度に伴う4-6)。一方,近年ではスクリーニングを目的とする下部消化管内視鏡検査時に結腸NET の小病変が偶然発見される機会が増えている5)。
手術適応は遠隔転移がなく根治切除可能な局所領域病変,すなわち,腸管とその領域リンパ節にとどまった病巣である。術式は,リンパ節郭清を伴う腸管切除術を選択する3, 7)。腫瘍径が1 cm 以上の場合や,術前検査で固有筋層浸潤やG2 以上,リンパ節転移を伴う場合は,第一選択として手術が推奨される。また,1 cm 未満で粘膜下層にとどまる病変に対しては,内視鏡的一括切除を先行することが多いが,内視鏡的切除術後の切除標本に脈管侵襲,固有筋層浸潤,切除断端陽性,G2 以上といった因子を認めた場合は,リンパ節転移の頻度が比較的高いため追加手術が推奨される3, 4, 7)。
転移を有する場合の治療については内科・集学的治療 CQ3 を参照。
文献
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- Ito T, Sasano H, Tanaka M, et al. Epidemiological study of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors in Japan. J Gastroenterol. 2010; 45(2): 234-243.(レベルⅣb)
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- CQ12
- 直腸NET の手術適応と推奨される術式は何か?
[アルゴリズム14]
-
直腸NET は以下の場合に,切除術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
- 腫瘍径が1 cm 以上,G2 以上,固有筋層浸潤または局所リンパ節転移のいずれかが疑われる場合
- 内視鏡的切除標本において追加治療要因のいずれかが存在する場合
術式は,リンパ節郭清を伴う直腸切除術 /直腸切断術が推奨される(グレード B,合意率 100%)。
解説
本邦における直腸NET は,消化器NET の55.7%と高頻度であり1, 2),特に下部直腸に好発する3, 4)。手術適応は遠隔転移がなく根治的切除が可能な局所領域病変,すなわち,腸管とその領域リンパ節にとどまった病巣である。術式は,直腸癌の手術に準じて,全直腸間膜切除(total mesorectal excision;TME)によるリンパ節郭清を伴う直腸切除術 /直腸切断術が推奨される。直腸NET におけるリンパ節転移の危険因子は,腫瘍径1 cm 以上3-5),腫瘍表面性状(陥凹,潰瘍形成)3),脈管侵襲陽性3-5),固有筋層浸潤3-5)およびG2 以上6-7)であり,治療方針を検討するうえで留意すべきである。
腫瘍径1 cm 未満,深達度sm 以浅の直腸NET に対しては,本邦では内視鏡的一括切除を先行させることが多い(内科・集学的治療 CQ1 を参照)。切除材料の病理組織学的所見に,脈管侵襲,固有筋層浸潤,切除断端陽性,G2 以上などのリンパ節転移危険因子が認められた場合は,追加切除としてリンパ節郭清を伴う根治術を推奨する。
腫瘍径が1 cm 以上2 cm 未満の場合は,リンパ節転移頻度が18.5~30.4%と高頻度であることから2, 3),リンパ節郭清を伴う根治術を推奨する。欧米のガイドラインでは,腫瘍径1 cm 以上2 cm 未満で固有筋層・リンパ節転移がない場合,局所切除術の適応としているものもあるが,高いレベルのエビデンスはない8-10)。
腫瘍径2 cm 以上の場合は,リンパ節転移頻度が58~76%と高頻度であるため2-5),リンパ節郭清を伴う根治術が推奨される。
本邦では近年,腹腔鏡下手術が急速に普及しており,直腸NET に対しても,その安全性,有効性が報告されている11)。
経肛門的切除術,経仙骨的切除術などの局所切除術12)は,腫瘍径が大きく,内視鏡的切除術が困難な病変に対し適応となるが,近年,内視鏡的治療技術の進歩に伴い,その実施は減少している。
転移を有する場合の治療については内科・集学的治療 CQ3 を参照。
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- CQ13
- 食道以外の消化管NEC の手術適応と推奨される術式は何か?
-
手術適応は明らかでない(推奨なし,合意率 100%)。
手術を選択する場合は,リンパ節郭清を伴う根治的切除術を基本とし,集学的治療の一環として行うことを推奨する(グレード C1,合意率 100%)。
解説
消化管NEC は本邦の消化器NEN の6.2%を占め,前腸NEN では 12.6%,中腸NEN では9.1%,後腸NEN では2.3%の頻度である1)。NET G1,G2 と異なり極めて予後不良であり,肺小細胞癌の治療に準じプラチナ系薬剤を含む併用療法が推奨されている2)。根治的切除が可能な局所領域病変であっても,手術単独での治療成績は極めて不良であり,手術単独療法は推奨されない。欧米のガイドラインでは,手術を行う場合は,事前に遠隔転移の検索を十分に行い,これを除外したうえで,薬物療法や放射線治療を含めた集学的治療の一環として行うことが推奨されている3-5)。また,術後合併症リスクの高い患者,臓器においては,放射線治療と薬物療法による非手術治療も合理的な選択肢である3-5)。薬物療法は肺小細胞癌の治療に準じ,プラチナ系薬剤を含む併用療法を行う(内科・集学的治療 CQ6 を参照)。
手術の有効性を示すエビデンスは乏しいが,下部消化管NEC 100 例の手術治療成績をまとめた報告6)によれば,遠隔転移のない症例の全生存期間中央値は14.7 カ月であった。また,周術期薬物療法や放射線治療など集学的治療を伴う手術を行った群の全生存期間中央値は,手術単独群に比べてやや良好な傾向を認めた(20.4 カ月 vs. 15.4 カ月,P=0.08)。
転移を有する場合の治療については内科・集学的治療 CQ3 を参照。
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COLUMN
❶NEN における根治切除術後の経過観察法
一般的な術後予後不良因子としては,Ki-67 高値,低分化,リンパ節転移,遠隔転移,TNM stage,R2 切除などがある1, 2)。最近の報告では,胃NET におけるCEA,CD56 発現,クロモグラニンA 発現3),tumor-associated neutrophil-to-lymphocyte ratio 4),十二指腸NET のうち乳頭部NENs 5),カルチノイド症候群における5-HIAA 上昇や三尖弁不全6),直腸NET における耐糖能異常と脂質異常7)などが挙げられているが,経過観察法に取り入れるべき明確な予後不良因子はなかった。
最近5 年の根治切除術後の報告では,非機能性膵NET は比較的早期に再発を起こす症例があるため,腫瘍の悪性度に応じて肝臓を中心に,リンパ節,骨,肺,脳を含めたフォローアップが必要である8)。一方,遠隔期に転移再発をきたす症例もあるため,NET の術後には通常の消化器癌よりも長期間の経過観察が必要である。
近年,膵NET の根治切除術後に肝転移再発をきたす症例を,良好に予測する遺伝子指標が報告されている9)。原発巣PAX6 陽性例では肝転移再発率が低く,経過観察の間隔を長くできる可能性がある。膵NET と小腸NET において,根治切除術後に病理学的に肝転移切除標本を検索したところ,画像ではとらえられない1 mm 未満の微小転移病巣が55%に認められた。特に小腸NET 由来では67%と,膵NET 由来の32%より明らかに高頻度であった10)。微小転移病巣は門脈域を主体に存在し予後不良に関係していた。
膵NEC に対する適切な経過観察法の報告はない。ただし,再発率が高いため,綿密な経過観察が必要である。
NEN におけるR0 切除術後の生存率は原発臓器によって異なるため,原発臓器や腫瘍の悪性度によって経過観察の間隔を変えることが必要である。今後,各臓器において再発しやすいバイオマーカーの探索により,適切な経過観察法の確立が望まれる。
❷NEN に対する腹腔鏡手術の現状
現在,多くの消化管・膵NEN に対して腹腔鏡・胸腔鏡下手術や内視鏡手術用支援機器使用手術(ロボット支援手術)などの鏡視下手術が実施可能となった(表1)。また肝転移に対しても適応があれば鏡視下に肝切除術や腫瘍焼灼術を行うことができる。しかし低侵襲化が進む一方で,鏡視下手術では高い技術を要することから,多くの術式で厳しい施設基準が設けられている。特に難度の高い系統的肝切除術,膵頭十二指腸切除術,ロボット支援消化管手術ではNCD(National Clinical Database)への全例術前登録が義務付けられている。診療報酬点数表に掲載されていない手術を保険診療として行おうとする場合には,厚生局と協議のうえ,準用術式での請求が認められた場合のみ実施可能であるが,通常は保険診療外で臨床試験として行われる場合が多い。いずれにしても実施にあたっては各施設の倫理委員会の承認を得ることが必要である。
消化管領域ではNEN に対する鏡視下手術の安全性や長期予後に関する報告は少ないが,系統的リンパ節郭清を要する通常の食道癌,胃癌,大腸癌の鏡視下手術も開腹手術に比べて遜色のない結果が得られており,NEN についても安全に実施可能と思われる11-14)。十二指腸は腸管壁が薄く,内視鏡的粘膜下層剥離術では穿孔のリスクがあるため鏡視下十二指腸部分切除術,あるいは腹腔鏡・内視鏡合同手術(laparoscopic endoscopic cooperative surgery;LECS)が望ましいが12),いずれも本邦では診療報酬点数表には収載されておらず,現在は臨床試験として行われている。本邦で多い直腸NEN に対しては,今後,経肛門的手術(Trans anal minimally invasive surgery;TAMIS)14)も普及してくると思われる。
腹腔鏡下膵切除術の適応疾患として膵NEN は膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)とともに大きな割合を占めている11)。術式のバリエーションが多い膵領域では腹腔鏡下膵全摘術と腹腔鏡下膵中央切除が適応となり得るが,診療報酬点数表には収載されていない。腹腔鏡下膵切除術は良性~低悪性度腫瘍の場合に周術期成績,長期予後が開腹と同等か良好な成績が示されており15-17),膵NEN のうち,系統的リンパ節郭清や脈管合併切除術を要さない場合には,今後さらに普及すると思われる。
❸NEN における病理学的脈管侵襲の意義
膵内神経浸潤(ne),静脈侵襲(v),リンパ管侵襲(ly)の臨床的意義は不明である。
消化管NET 特に,胃や直腸の場合,いわゆるカルチノイド小病変を内視鏡的に切除し,病理組織学的に脈管侵襲所見があれば追加治療としてリンパ節郭清を伴う根治術が推奨される18)。しかし,膵NEN の場合,特に(非定型的な)縮小手術を行った後に,病理組織学的所見でly やv,ne を認めた際の追加治療について議論されることは少なく,また,そのような症例の長期予後に関する観察研究はほとんどない。
リンパ節転移は膵NEN の予後不良因子であると考えられており19, 20),リンパ節転移の程度により全生存期間は短縮する。米国National Cancer Data Base に登録された 2,735 例の非機能性膵NEN では,転移個数0,1~3 個,4 個以上の症例の生存期間中央値は11 年,8.7 年,7 年(P<0.001)であり,死亡に対するハザードが1~3 個(ハザード比:1.23),4 個以上(ハザード比:1.29)であった。SEER データベースによるリンパ節転移の検討では,lymph node ratio(LNR)がdisease-specific survival(DSS)と有意に相関し,LNR:0.2~0.5 の腫瘍死に対するハザードが2.0(95%信頼区間:1.2-3.1)であった20)。一方,G1 に限っては,リンパ節転移は生存期間に影響しないとする研究もあるが21),平均観察期間(37.5 カ月)が短く,その結論は議論の余地がある。
転移の成立には脈管侵襲が必須であり,脈管侵襲はリンパ節を含む転移と関連し22, 23),無再発生存期間(DFS)24, 25),全生存期間(OS)26-28)の危険因子になっている(表2)。
消化管NEN では全生検としての内視鏡的局所切除が可能である一方,膵NEN に同様の手技は事実上困難であり,膵NEN に対する小範囲切除後の追加治療適応(領域リンパ節郭清)を論じることは現実的ではない。一方,脈管侵襲の存在なくしては血行性転移やリンパ節転移が成立し得ないことを考えると,これらの腫瘍学的意義を明らかとするための大規模な観察研究が必要であろう。さらに,膵内神経浸潤(ne),静脈侵襲(v),リンパ管侵襲(ly)の病理学的診断方法は確立しておらず,検索すべき切片数や,免疫組織化学的手法についての標準化が望まれる。
❹胆道に発生するNEN の病態と手術適応
希少腫瘍であるNEN のなかでも胆道NEN の発症はさらに稀である。米国SEER のデータでは全消化管NEN のなかで胆嚢原発NET およびNEC はそれぞれ0.74%および0.68%であり,肝外胆管原発はそれぞれ0.19%および0.17%と極めて低頻度である29)。NEN の母地としては,上皮に存在する神経内分泌細胞やECL (enterochromaffin-like)細胞など諸説があるが,胆道にはこれらの細胞は極めて少ないとされ,慢性炎症に伴う化生上皮に神経内分泌細胞が出現し,発生母地になる可能性が考えられている30)。また,腺癌の合併が多いことから,先行した腺癌に神経内分泌腫瘍が出現する可能性も推測されている30)。
胆管における発生部位は,約半数が総胆管に発生し,総肝管,胆嚢管,肝門部領域の順に発生し,閉塞性黄疸が初発症状であることが多い30, 31)。胆嚢原発例は頸部に好発し,隆起性病変を呈することが多く,解剖学的に症状が出にくい32)。
胆道NEN は画像診断上,胆道癌と鑑別が困難である。腫瘍が粘膜下腫瘍の形態をとるため生検が偽陰性となることも多く,胆管発生例であっても術前の確定診断は容易ではない30, 31)。胆管NEN では他臓器のNEN と同様,造影CT 検査で早期濃染を示す例が多いとされる30)。胆嚢頸部に発生した症例では(亜)有茎性であることが多いため,しばしば通常のポリープとして治療が開始され,術後に確定診断されることが多い30, 33)。
治療は胆道癌と同様の手術,すなわちリンパ節郭清を伴う胆管切除術が行われる。肝門部領域原発例で残肝予備能が良好な場合は,系統的な肝切除術も選択される31, 34)。胆道NEN は一般に低分化型の症例が多いとされるが,原発部位によらず高分化型で根治切除術により比較的良好な予後が得られる症例が存在する31, 33)。一方で,低分化型でNEC と診断される症例は,早期再発により治療成績は極めて不良であるため31, 34),化学療法を中心とした集学的治療体系の確立が望まれる。
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