2019 年版 ガイドライン改訂にあたって

昨今,診療の質の向上を目的として,多くの領域で診療ガイドラインが作成されています。公益社団法人日本口腔外科学会と一般社団法人日本口腔腫瘍学会も合同で口腔癌診療ガイドラインを作成しており,第1 版を2009 年に,第2 版を2013 年に発刊しています。今回の第3 版は,前回から6 年が経過しての発刊になり,最新のエビデンスに基づいた口腔癌診療の指針を求めていた方々に対して大変長らくお待たせをしてしまい,心からお詫びを申し上げます。今回の改訂では,GRADE(Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation)アプローチという最新の手法を取り入れた質の高い診療ガイドラインの作成を目指したため,その初めての作業に多くの時間と労力を費やしてしまいました。さらに,UICC によるTNM 分類や口腔癌取扱い規約の改訂に時期を合わせたこともあり,今回の2019 年版の発刊となりました。これまで世界的にはGRADE アプローチを採用した診療ガイドラインは多く出されていますが,癌診療の分野ではまだ少ないようです。かなりの時間を要しましたが,最新の手法を用いた質の高い診療ガイドラインを作成できたことを大変嬉しく思っています。

従前の口腔癌診療ガイドラインは口腔癌診療の全体像を理解する手引き書として大変好評でしたが,系統的な手法を用いて研究の質の評価や結果の要約を行ったものではありませんでした。診療ガイドラインとは,「Minds 診療ガイドライン作成マニュアル Ver.2.0」によると,「診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスのシステマティックレビュー(systematic review: SR)とその総体評価,益と害のバランスなどを考量して,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義されています。そのため,今回の改訂では,臨床課題(clinical questions: CQ)の推奨を呈示する方法には,SR と診療ガイドライン作成の国際標準様式として用いられている最新のGRADE アプローチを採用し,エビデンスのSR を行ってCQ の推奨を決定し,Part 2 に掲載することとしました。推奨の決定にあたっては,各々の治療法に対して重要なアウトカムについてのエビデンスの質を客観的指標に基づいて決定し,エビデンスの質,利益と害のバランス,価値観,リソースを勘案しました。さらに,臨床現場での判断に関わる全てのステークホルダーが参画する必要がありますので,口腔外科医はもちろんこと,他科や他職種の医療従事者,さらには患者をパネリストとして迎え,推奨決定に参画してもらいました。なお,好評であった従前の口腔癌診療ガイドラインの記載内容は,引き続き総説としてPart 1 に掲載し,口腔癌のバイオマーカーという新たな項目を設けるとともに,分子標的薬と免疫療法に関しては新規の薬剤に関する記載を加え,さらには全項目において最新の文献検索を追加して改訂を行いました。

最後になりますが,本診療ガイドラインの発刊にあたって,ご尽力いただいた多くの先生方に心より感謝を申し上げるとともに,本診療ガイドラインが口腔癌診療の現場で活用されることを祈念しています。

2019 年10 月

一般社団法人日本口腔腫瘍学会学術委員会 口腔癌治療ガイドライン改定委員会
委員長:中村 誠司
公益社団法人日本口腔外科学会学術委員会 口腔癌診療ガイドライン策定小委員会
委員長:横尾  聡