クリニカルクエスチョン・推奨一覧

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1 疫学

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総論
CQ1 前立腺癌の罹患率・死亡率はいくらか? 2012年の全世界での前立腺癌罹患数は約110万人で,男性癌の14.8%(第2位)を占め,死亡数は年間約31万人(6.6%)で5番目に多い。年齢調整罹患率は10万人あたり30.7(第2位),年齢調整死亡率は10万人あたり7.8(第5位)である。いずれも欧米等の先進国で高く,PSA検査導入後は死亡率が減少傾向にある。本邦における罹患数は2011 年に78,728人(第2位(男性))で,2015 年に98,400 人(第1位(男性))へ増加することが予測されている。一方,本邦における2014年の死亡数は11,507人(第7位(男性))で,年齢調整死亡率は10万人あたり7.3(第9位(男性))であった。
CQ2 前立腺癌罹患リスクとしての先天的・遺伝的要因は何か? 前立腺癌の家族歴は罹患リスクを2.4〜5.6倍に高める。HOXB13 G84E変異保因者の罹患リスクは3.3〜20.1倍高いとされる。その他の遺伝子変異や一塩基多型も罹患リスクとなるが,オッズ比はおおよそ1.5 未満であり,その影響は大きくない。
CQ3 前立腺癌罹患リスクとしての後天的・局所的要因は何か? 前立腺癌との関連性が推測されている後天的要因としては,①生活習慣(食事,運動,嗜好品,機能性食品 等),②肥満,糖尿病およびメタボリック症候群,③前立腺の炎症や感染,④前立腺肥大症や男性下部尿路症状,⑤環境因子や化学物質への曝露,等が挙げられる。しかし,いずれの要因についても相反する研究があり,方法論的にも交絡因子を除外するには限界があるので,前立腺癌の罹患に関与する後天的要因を特定することは困難である。
CQ4 前立腺癌の自然史は? 前立腺癌の多くは数十年の経過で極めて緩徐に成長すると考えられる。そのため,前立腺癌保有者の多くは診断されることなく他の疾患で死亡し,一部が検診あるいは臨床症状の発現から診断されるものと推定される。前立腺癌は総じて進行は緩徐であるが,臨床的に診断される前立腺癌の一部は進行して致死的となる。

2 (化学)予防

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総論
CQ1 生活習慣の改善は前立腺癌の予防に有用か? 環境要因としてライフスタイルを改善することで前立腺癌の発症を予防できたとの明確なエビデンスはないが,生活習慣の改善が前立腺癌の予防に有効である可能性はある。食生活では,魚類に多く含まれているドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA),あるいは乳製品,カルシウム,脂肪等の摂取が前立腺癌のリスクに影響すると報告されているが,相反する報告もあり,いまだ明らかにされていない。最近では肥満やメタボリック症候群と前立腺癌の関連も指摘されている。ライフスタイルを変えることで,前立腺癌の予防に有効である可能性が示唆されている。 C1
CQ2 大豆,緑茶,トマト等に含まれる機能因子は前立腺癌の予防に関与するか? 前立腺癌では,食生活を中心とする生活環境要因が重要な役割を果たしている可能性がある。これまでの研究では,大豆の中に含まれるイソフラボン,緑茶に含まれるカテキン,トマトに含まれるリコペン等の機能因子による前立腺癌発症予防が注目されている。(推奨グレードC1)しかし,海産物等に含まれるセレニウムやビタミンD,種実類や魚卵に含まれるビタミンE等の機能因子に関しては,前立腺癌に対する予防効果は明らかではない。(推奨グレードC2)最終的に,疫学的研究や臨床研究からは,有効性において結論が出ている機能因子はなく,今後さらなる研究の発展が望まれている。 C1およびC2
CQ3 5α還元酵素阻害薬は化学予防薬として有用か? 大規模RCT等により有意な前立腺癌罹患率減少効果を認めたが,悪性度の高い癌を増加させる可能性を完全に否定することはできない。現時点では生存率への有意な効果や影響はないと考えられる。 C2
CQ4 前立腺癌の化学予防として有用な薬剤は存在するか? 前立腺癌の化学予防については,アスピリン,スタチン,メトホルミンが多く検討されているが,その効果については報告によって様々である。これらの薬剤が化学予防として有用かどうかは,現時点では明らかではない。 C2

3 検診

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総論
CQ1 前立腺がん検診により前立腺癌の転移性癌罹患率・死亡率は低下するか? 信頼性の高いRCT と実践的な前向きの検証研究で,PSA 検査を基盤とした前立腺がん検診の実施により,進行性癌や転移性癌の罹患率が低下し,前立腺癌死亡率が低下することが証明された。 B
CQ2 前立腺がん検診で推奨されるPSAカットオフ値と検診受診間隔は? PSAカットオフ値は,全年齢で0.0~4.0ng/mL,あるいは年齢階層別カットオフ値(50~64歳:0.0~3.0ng/mL,65~69歳:0.0~3.5ng/mL,70歳以上:0.0~4.0ng/mL)が推奨される。 B
PSA 0.0~ 1.0ng/mL の場合は3年毎,PSA 1.1ng/mL ~カットオフ値上限では毎 年の検診受診が推奨される。 B
CQ3 前立腺がん検診の受診が推奨される対象者の年齢や健康状態の条件は? 60歳以下での定点的なPSA検査を行い,PSA基礎値を確認することで,個々の受診者における今後の長期的な前立腺癌の発症・転移・癌死に関するリスク管理を行うことが重要である。高齢者におけるPSA検診継続の判断をするための,余命を予測する正確なモデルは現時点ではないが,将来の方向性として,健康状態評価手段(G8 geriatric screening tool等)を検診受診推奨判定に用いることは,方策の1つである。 B
CQ4 前立腺がん検診の主な利益と不利益は? 前立腺がん検診を受診することの主な利益は,進行性癌,転移性癌への進展抑制と前立腺癌の死亡率が低下することである。また癌を早期に発見することにより個々の症例において多くの治療法から適正な選択が可能になることである。
一方,不利益は検診では発見できない癌があること,不必要な前立腺生検の増加,前立腺生検に伴う合併症,過剰診断,過剰治療のリスクの増加,治療に伴う合併症によるQOL の低下が挙げられる。
B
CQ5 前立腺がん検診の費用対効果比・検診効率についての評価は? 前立腺がん検診は過剰診断・過剰治療による余剰費用の負担が大きいため,費用対効果は劣るとされてきた。しかし2014年に報告された欧州でのRCTの結果を用いた費用効果分析では,55〜59歳で検診間隔が2年のグループにおける増分費用効果比は質調整生存年(QALY)1年増加あたり7.3万ドルと試算され,従来の報告と異なり費用対効果が優れることが示された。一方で,63歳を超えるグループでは過剰診断によるQALYの減少により費用対効果がやはり劣ることも示された。 C1

4 病期・リスク分類・ノモグラム

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総論
CQ1 前立腺癌の病期診断はどのように行われるべきか? 直腸診や画像検査等の所見を基に適確な病期診断を行うことが必要である。 B
CQ2 前立腺癌のリスク分類は有用か? 前立腺癌におけるリスク分類は,根治的治療後の治療成績(再発率)を予測するうえで有用である。 B
CQ3 前立腺癌ノモグラムは有用か? ノモグラムはエビデンスに基づいた現在最も正確な予測ツールであり,前立腺癌診療においても使用が推奨される。 B

5 診断方法(マーカー,画像,生検)

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総論
CQ1 PSA検査の特異度を向上させるために推奨される方法は? % free PSA,PSA濃度(PSAD)およびノモグラム等はPSA検査の特異度を向上させる可能性がある。 C1
CQ2 前立腺生検で推奨される生検部位と生検本数は? 初回生検では,辺縁領域(PZ)を中心とした10〜12カ所の多数カ所生検が推奨される。 A
再生検では,尖部や腹側生検を追加した多数カ所生検が癌検出率を高める可能性がある。 B
CQ3 経直腸生検,経会陰生検,あるいはその併用のいずれが推奨されるか? 経直腸生検と経会陰生検の癌検出率は同等であるが,合併症の中で感染症に関するリスクは経直腸生検の方が高い。 A
CQ4 原発巣の評価(T-病期診断)にはどのような検査が推奨されるか? 原発巣の評価(T-病期診断)は画像診断による。特に3テスラMRIを用いて,T2強調画像にダイナミック造影,拡散強調画像を加えたmultiparametric MRIを施行することにより,診断能向上が認められる。 B
CQ5 転移巣の評価(NおよびM-病期診断)にはどのような検査が推奨されるか? リンパ節評価にはリンパ節郭清術が最も優れるが,閉鎖リンパ節のみを対象とした郭清では不十分である。 B
リンパ節の評価においては,CT やMRI は感度,特異度ともに十分ではない。 C1
未治療症例でPSA≧10.0ng/mL,かつ直腸診陽性またはGleasonスコア≧8の症例, および骨転移を示唆する症状のある症例においては,骨シンチグラフィーが有用である。 B

6 病理学的事項

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総論
CQ1 ISUP2014 の改訂によって何が変わったのか? 前立腺癌の悪性度評価法として汎用されてきたGleason分類に代わり新しいグレードグループ分類が提唱され,ISUP2014のコンセンサス会議で承認された。今後はこの新分類による評価とGleasonスコアの併記を経て,将来的には新分類に一本化されると予測される。 
CQ2 Index tumor とはどのような病変か? 前立腺癌は異なるクローンにより多発することが知られているが,生命予後に影響を及ぼす可能性があり,治療の対象となる病変は限られる。このような病変がindextumor(もしくはdominant nodule)である。近年ではindex tumor のみを治療対象とする局所療法が試みられている。
CQ3 Intraductal carcinoma of the prostate(IDC-P)の診断的意義は? 治療方法に関わらず,浸潤癌内のIDC-P の存在はPSA 再発,臨床再発,癌特異的死亡率,全生存率に影響を及ぼす病理学的予後不良因子である。浸潤癌成分を認めない生検標本内でのIDC-Pの存在は,背景に高悪性度前立腺癌が存在する可能性を示唆する。
CQ4 前立腺癌の遺伝子異常はどこまでわかっているのか? 前立腺癌にはTMPRSS2:ERG 融合遺伝子を有する癌が多く存在し,その産物であるERGタンパク質を用いた診断が臨床応用されるようになった。また進行性前立腺癌ではDNA修復に関わる遺伝子の異常等も指摘されており,今後は遺伝子異常を基にした個別化医療が進むものと思われる。

7 監視療法

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総論
CQ1 どのような患者が監視療法に適しているのか? PSA ≦ 10ng/mL,臨床病期≦ pT2,陽性コア数≦2本(ただし,ターゲット生検,saturation 生検の場合はこの限りではない),Gleason スコア≦6,さらにPSA 濃度(PSAD)<0.2あるいは<0.15ng/mL/mLの症例が適応となる。 B
CQ2 監視療法中の経過観察方法と治療開始基準は何か? 監視療法中の経過観察方法は,3〜6カ月毎の直腸診とPSA 検査,および1〜3年毎の前立腺生検の実施である。治療開始基準は監視療法中に行われる前立腺再生検の結果でGleasonスコアの上昇または陽性コア数の増加(病理学的基準逸脱(reclassification)),および臨床病期の進行が認められた場合である。治療開始基準におけるPSA倍加時間(PSADT)やPSA年間増加度(PSAV)の意義は確立されていない。 B
CQ3 監視療法の長期的な安全性は? 長期間にわたる検討結果はまだないが,中期的な検討結果から,低リスク前立腺癌患者は,監視療法と根治的治療で予後に差がない可能性があり,監視療法のよい適応であると考えられる。特に,期待余命が10年以下の患者はいうまでもなく,期待余命が10〜20年の患者においても予後に差がない可能性が高い。また,短期・中期的な検討では,監視療法は患者のQOL に大きな影響を及ぼさないことが示されている。 B

8 前立腺全摘除術

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総論
CQ1 前立腺全摘除術が推奨されるのはどのような患者か? 期待余命が10年以上の低〜中間リスク限局性前立腺癌症例に推奨される。 A
高リスク限局性前立腺癌症例に対しても適応がある。 B
CQ2 前立腺全摘除術でリンパ節郭清はどのような患者に推奨されるか?
また郭清の範囲はどのようにすべきか?
中間〜高リスク症例で行うべきである。 B
拡大リンパ節郭清を行うべきであり,範囲は外腸骨,閉鎖,内腸骨を基本とする。限 局リンパ節郭清は推奨されない。 B
CQ3 術後の尿禁制回復にはどのような因子が関係するか?
また術後尿失禁に対する有効な治療法はあるか?
術前因子として,年齢,肥満(BMI),併存症,勃起能,骨盤底筋の解剖等の関与が考えられている。 C1
尿禁制を保つために神経温存ならびに尿道括約筋の温存は有効とされている。 A
術後尿失禁の治療として骨盤底筋体操,および人工尿道括約筋植込術は有効とされている。 B
CQ4 前立腺全摘除術における性機能を保つ有効な手技として神経温存手術は推奨されるか?
また術後性機能障害に対する有効な治療法はあるか?
性機能を保つため,術中の神経温存が有効とされている。 B
神経温存手術後のPDE5 阻害薬内服が有効とされている。 B
CQ5 ロボット支援前立腺全摘除術,腹腔鏡下前立腺全摘除術,恥骨後式前立腺全摘除術の治療成績に違いがあるか? ロボット支援前立腺全摘除術(RALP),腹腔鏡下前立腺全摘除術(LRP)は恥骨後式前立腺全摘除術(RRP)と比較し同等の制癌効果が得られる。 B
RALPおよびLRPはRRPに比べ低侵襲であり,出血量の減少,尿禁制や性機能等の術 後QOL 早期回復が認められる。 B
CQ6 術後アジュバント療法が推奨されるのはどのような患者か?
またどのような治療が推奨されるか?
期待余命15年以上のpT3N0M0,特に精囊浸潤例に対しては,術後アジュバント放射線療法が推奨される。 B
リンパ節転移陽性例に対しては,ホルモン療法(アンドロゲン遮断療法)が推奨される。 B
リンパ節転移陽性例に対しては,骨盤内照射+ホルモン療法(アンドロゲン遮断療法) が推奨される。 C1

9 放射線療法(外照射)

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総論
CQ1 根治的X線外照射での至適線量,分割方法,照射範囲はどのようなものか? BED1.5で170 〜190Gy(通常分割照射で72Gy/36fr. 〜80Gy/40fr. 相当)の線量が推奨される。 A
通常分割照射が推奨される。 A
低〜中間リスク症例において中程度寡分割照射は通常分割照射の代替として推奨される。 B
中間〜高リスク症例に対して骨盤リンパ節領域に対する予防的照射(全骨盤照射)を画 一的に行うことは推奨されない。 D
CQ2 陽子線および重粒子線治療はどのような患者に推奨されるか? 限局性および局所進行性前立腺癌に対する陽子線および重粒子線治療は良好な臨床試験結果が報告されているが,既存の治療に対して明確な優位性を示すためにはさらに高レベルの臨床試験が必要である。 C1
CQ3 根治的外照射においてホルモン療法は治療成績を改善するか?
また至適な併用のタイミング,薬剤,期間はどのようなものか?
中間リスク症例に対しては,4〜6カ月程度のホルモン療法(照射前 ± 同時併用)が推奨される。 B
高リスク症例に対してはアジュバント療法が推奨されるが,80Gy程度の高線量照射では,その有効性は不明確である。 C1
ホルモン療法を併用する際は照射前に開始する。 A
併用薬剤はLH-RHアゴニスト(またはアンタゴニスト)±抗アンドロゲン薬が推奨される。 B
6カ月を超えるネオアジュバントホルモン療法が治療成績を改善する明確なエビデンスはない。 C2
CQ4 ホルモン療法不応癌での局所再燃に対する放射線療法は有効か?
N1あるいはM1前立腺癌での局所放射線療法は有効か?
ホルモン療法不応癌での局所再燃例は放射線療法の適応となる。 C1
N1前立腺癌では,ホルモン療法に放射線療法を併用することで予後が改善する。 C1
M1 前立腺癌での局所放射線療法の有効性は明らかではない。 C2
CQ5 放射線療法後の二次発癌(膀胱癌,直腸癌)の治療法別発生リスクに違いはあるか? 治療法別に二次発癌発生リスクには違いがある。旧来の照射野の広い二次元照射や術後照射では,現在の高精度外照射や組織内照射に比べて二次発癌発生リスクが高い。
CQ6 外照射の有害事象とその対策 外照射の主な有害事象は,消化管障害,尿路障害,性機能障害で,それらの発生頻度は照射線量の増加により高まる。 A
外照射の有害事象の予防には強度変調放射線治療(IMRT)を用いて直腸,膀胱,尿道 球部への照射線量を低減させることが重要である。 B

10 放射線療法(組織内照射)

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総論
CQ1 永久挿入密封小線源療法の治療成績は他の治療と比べてどのような優位点があるか? 永久挿入密封小線源療法(LDR)は低リスク症例においては前立腺全摘除術と同等の生化学的非再発率が得られる。また,リスクが高くなるにつれて前立腺全摘除術よりも良好な生化学的非再発率が期待できるが,全生存率の優位性に関しては明確なエビデンスはない。 C1
LDRは,高線量のEBRTと比較して長期的にはより良好な生化学的非再発率が得られ るが,全生存率の優位性に関しては明確なエビデンスはない。 C1
CQ2 永久挿入密封小線源療法と外照射とホルモン療法の3者併用療法はどのような患者に推奨されるか? 高リスク症例に推奨される。ただし一部にホルモン療法の必要ない患者群が存在し得る。くわえて,中間リスク症例の一部にも適応があるが,明確な基準はない。 C1
CQ3 永久挿入密封小線源療法はQOL保持の点で推奨されるか? 尿禁制等の排尿機能の保持において,前立腺全摘除術よりも優れており,EBRTとは同等である。 B
性機能の保持において,治療後早期は前立腺全摘除術よりも優れており,EBRTとは 同等である。 C1
CQ4 高線量率組織内照射の単独治療はどのように行われるか?
またどのような患者に推奨されるか?
高線量率組織内照射単独治療にはコンセンサスを得た統一的な線量分割がなく,1回線量6〜20Gy,総線量19〜54Gy,分割回数1〜9回,治療日数1〜5日,刺入回数1〜3回の報告があり,世界的な傾向として,より寡分割,1回大線量,短期治療になりつつある。 C1
高線量率組織内照射単独治療は,低〜中間リスク症例がよい適応とする考え方と,中間〜高リスク症例まで積極的に適応に含める考え方の2つに分かれている。EBRTよ りも短期間で治療を終了したい患者や,LDRではEBRT併用が必要かもしれない中間〜 高リスク症例で十分な線量増加を図りたい患者に推奨される。 C1

11 Focal therapy(凍結療法,HIFU)

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総論
CQ1 低リスク限局性前立腺癌に対してfocal therapyは推奨されるか? Focal therapyは,MRI所見に基づいた生検,あるいはテンプレート生検により癌の局在診断が行われた低リスク限局性前立腺癌に対する治療選択肢の1つとなる可能性がある。 C1
CQ2 限局性前立腺癌に対してQOLを保つことを目的にfocal therapyは推奨されるか? 根治手術の適応にならない,あるいは希望しない限局性前立腺癌に対しては,治療の限界を十分に理解したうえで,症例によってはQOLを保つことを目的にfocaltherapy が推奨される。 C1

12 救済療法:根治的治療(手術・放射線)後の再発治療

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総論
CQ1 前立腺全摘除術後の再発様式と定義は?
また,根治的前立腺全摘除術後再発の早期発見のためにPSA の定期モニタリングは推奨されるか?
根治的前立腺全摘除術後の再発様式は,局所再発を生じていく場合もあれば,遠隔転移として進展をきたす場合もある。根治的前立腺全摘除術後再発の早期発見のためには,PSA値の定期的なモニタリングが最も重要な診断法で,生化学的再発に関するPSA カットオフ値は0.2ng/mL とするのが妥当である。 B
CQ2 根治的前立腺全摘除術後の再発に対し,救済放射線療法は推奨されるか? 根治的前立腺全摘除術後の生化学的再発に対する救済放射線療法(SRT)は有効な治療選択肢であり,PSA<0.5ng/mL での開始が望ましい。 B
CQ3 根治的放射線療法後の再発様式と定義は? 根治的放射線療法後の生化学的再発の定義は,PSA 最低値+ 2.0ng/mL である。 A
CQ4 根治的放射線療法後の再発に対し,いつどのような救済療法が推奨されるか? 生化学的再発(PSA再発)に対しては,経過観察またはホルモン療法が推奨される。 C1
臨床的再発のうち,局所再発に対しては,経過観察,ホルモン療法に加え根治可能な救済局所療法(前立腺全摘除術,凍結療法,組織内照射,高密度焦点式超音波療法 (HIFU))が推奨される。 C1
臨床的再発の遠隔転移に対しては,ホルモン療法が推奨される。 A

13 ホルモン療法

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総論
CQ1 転移性前立腺癌に対する一次ホルモン療法として,複合アンドロゲン遮断(CAB)療法は去勢単独療法と比べて優れているか? 一次ホルモン療法として,非ステロイド性抗アンドロゲン薬を用いた複合アンドロゲン遮断(CAB)療法は,去勢単独療法と比較して有効性が高く,有害事象・QOL・経済性も同等ないし許容される範囲内であるため,本邦では標準治療の1つとして推奨される。ただし,転移性前立腺癌におけるCAB 療法の優位性は明確には立証されていないことに留意する必要がある。 B
CQ2 一次ホルモン療法として,LH-RHアンタゴニストは推奨されるか? LH-RHアンタゴニスト(デガレリクス)は前立腺癌の一次ホルモン療法として推奨される。 B
CQ3 転移性前立腺癌に対する一次ホルモン療法として,間欠的ホルモン療法は推奨されるか? 間欠的ホルモン療法は持続的ホルモン療法と比較して全生存期間は同等であり,有害事象,QOL,経済性を勘案すると持続的ホルモン療法の代替療法として有望な選択肢である。しかし,至適プロトコールや真に恩恵を受ける患者群が解明されていないことに十分に留意する必要がある。 C1
CQ4 転移性前立腺癌に対して,初回ホルモン療法にドセタキセル化学療法を併用することは推奨されるか? 海外の大規模臨床試験では,転移性前立腺癌に対して,初回ホルモン療法にドセタキセル化学療法を併用することで,予後が改善することが報告された。ただし,日本人における症例選択には有害事象を含めた配慮が必要である。 B
CQ5 根治的治療が適さない限局性前立腺癌に対するホルモン単独療法は,予後改善が期待できるか? 根治的治療が適さない症例に対する一次ホルモン療法の有用性は,諸外国のデータからは長期生存率や疾患特異的生存率の改善に与える影響は少ないと判断される。しかし,ホルモン療法を取り巻く環境は諸外国と本邦では異なるため,本邦における明確な結論は明らかではない。根治的治療が適さない高齢者では,特に副作用のリスク評価を行ったうえで症例の選択を行えば治療効果を期待できる可能性がある。 C1
CQ6 ホルモン療法に伴う有害事象およびその対策にはどのようなものが推奨されるか? ホルモン療法の有害事象として,骨塩量の低下,骨折リスクの上昇がある。静注または経口ビスホスホネート製剤あるいは抗RANKL抗体の併用は,骨塩量の低下を予防し骨折のリスクを低下させる。 B
ホルモン療法による有害事象は治療中のQOLの低下を招くため,患者の訴えに応じ た適切な対処が推奨される。また,ホルモン療法が心血管疾患による死亡のリスクを 上昇させる明らかなエビデンスはないものの,その発症に関連する糖・脂質代謝異常, 体脂肪増加等の代謝異常の発症率を増加させるため,適宜検査を行い適切な介入が推 奨される。 C1

14 去勢抵抗性前立腺癌(新規ホルモン薬,化学療法薬)

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総論
CQ1 去勢抵抗性前立腺癌に対する治療としてドセタキセルは推奨されるか?
また投与する際の至適投与方法,注意すべき有害事象にはどのようなものがあるか?
転移性去勢抵抗性前立腺癌に対する治療としてドセタキセルは70〜75mg/m2の3週毎+プレドニゾロン10mg の連日併用投与が推奨される。
注意すべき有害事象としては血液毒性として好中球減少症と貧血が,非血液毒性として脱毛,食欲不振,全身倦怠感,末梢神経障害,爪の変化,味覚障害,浮腫等が挙げられる。有害事象は発現の時期や用量依存と関連があり,注意が必要である。
A
CQ2 去勢抵抗性前立腺癌に対する治療としてエンザルタミドは推奨されるか?
また注意すべき有害事象にはどのようなものがあるか?
エンザルタミドは対照群(プラセボ)と比較して,ドセタキセル治療後の患者に対する全生存期間を有意に延長した。ドセタキセル治療前の患者に対しても画像上の増悪までの期間および全生存期間を有意に延長し,去勢抵抗性前立腺癌に対する治療薬として推奨される。
注意すべき有害事象として疲労感,食欲不振,脱力感等があるが,多くはGrade 1 〜2 であり,比較的安全性が高い。しかし,稀ではあるが重篤なものとして血小板減少,痙攣がある。治療開始後4週間は慎重に経過観察すべきである。
A
CQ3 去勢抵抗性前立腺癌に対する治療としてアビラテロンは推奨されるか?
また注意すべき有害事象にはどのようなものがあるか?
転移のある去勢抵抗性前立腺癌に対して,化学療法前あるいは化学療法後のアビラテロン+prednisone併用療法は,全生存期間や画像上の無増悪生存期間延長等の有効性を示し,推奨される。
有害事象には,肝機能障害や体液貯留,心血管系障害等があり,注意が必要である。
A
CQ4 ドセタキセル療法再燃後の去勢抵抗性前立腺癌に対する治療として,カバジタキセルは推奨されるか?
またカバジタキセルを投与する際の至適投与方法,注意すべき有害事象にはどのようなものがあるか?
ドセタキセル療法後の進行性去勢抵抗性前立腺癌に対して,カバジタキセルは25mg/m2の3週毎の投与で全生存期間の延長が証明されており,推奨される。至適投与方法は上記の標準用法に従うことが基本であるが,患者の併存疾患や年齢,有害事象の発現状況に応じて個別に対応すべきである。
カバジタキセル投与に関連した有害事象として,血液毒性では好中球減少症が必発であり注意が必要である。発熱性好中球減少症の予防のため,リスク因子を有する患者においてはG-CSF製剤の一次予防投与が推奨される。非血液毒性として下痢,肝機能障害,間質性肺炎が挙げられる。これらの有害事象対策を準備したうえでのカバジタキセルの開始が推奨される。
A
CQ5 ドセタキセルやカバジタキセルならびに新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(エンザルタミド・アビラテロン)の投与開始の判断あるいは効果判定のために,どのような評価方法(バイオマーカー,画像診断等)が推奨されるか? 去勢抵抗性前立腺癌に対するドセタキセルやカバジタキセルならびに新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬の投与開始の判断や治療効果判定の方法に関する明確な基準は存在しない。PSAをはじめとした血液マーカーや一般的な画像検査所見,患者状態(全身状態,疼痛の有無,臓器転移の有無等)の評価等を総合して症例毎に判断しているのが現状である。今後いくつかの新しいバイオマーカーや画像検査法の応用が期待されている。 C1
CQ6 去勢抵抗性前立腺癌に対する至適な逐次療法はあるか? 去勢抵抗性前立腺癌に対するエビデンスのある画一的な逐次療法は存在しない。患者背景(自覚症状や臓器転移の有無,全身状態)や前治療の効果,薬剤耐性機序を考慮した個々の患者に応じた逐次療法を考慮すべきである。 C1

15 骨転移治療(bone targeted therapy,bone health)

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総論
CQ1 前立腺癌骨転移の画像診断にはどの方法(モダリティー)が推奨されるか? 骨シンチグラフィー,18F-FDG-PET(PET/CT を含む),MRI が骨転移の診断に有効である。 B
CQ2 前立腺癌骨転移のモニタリングにおいて画像以外には何が推奨されるか? 骨代謝マーカーの時間的変化は,画像所見を補足するかたちで骨転移病態のモニタリングに有効である。 C1
CQ3 前立腺癌骨転移に対する骨修飾薬(BMA)はいつから使用することが推奨されるか? 骨転移を伴う去勢抵抗性前立腺癌に対しては強く推奨されるが(推奨グレードB),ホルモン療法感受性前立腺癌においては議論が多い(推奨グレードC2)。 BおよびC2

16 癌救急・緩和

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総論
CQ1 前立腺癌の骨転移による疼痛をどう管理するか? WHOが提唱する「がん疼痛治療の基本原則」による3段階のアプローチに則って使用する鎮痛薬の種類および投与量を決定する。部位が限定される場合は外照射が有効である。 A
CQ2 前立腺癌の脊椎転移から脊髄麻痺をきたした場合の対処法は? ステロイドの投与を即座に開始する。可及的速やかに放射線療法もしくは手術療法(椎弓切除術)を施行する。 A
CQ3 進行性前立腺癌による血尿に対して姑息的な放射線療法は推奨されるか? タンポナーデとなるような高度の血尿に対し,姑息的な放射線療法が有効である。 C1
CQ4 進行性前立腺癌による排尿困難に対して姑息的な経尿道的前立腺切除術(TURP)は推奨されるか? 排尿困難を有している進行性前立腺癌患者に対して,姑息的な意味での経尿道的前立腺切除術(TURP)が治療選択肢の1つとなる。 C1
CQ5 前立腺癌の進展に伴う水腎症から腎機能低下をきたしている場合に経皮的腎瘻は推奨されるか? 未治療の前立腺癌で尿管の狭窄から腎機能の低下をきたしている場合は,超音波ガイド下に経皮的腎瘻(PNS)を造設する。 C1