診療ガイドライン

重要臨床課題1「後腹膜腫瘍の診断」

CQ1
後腹膜腫瘍の診断において,生検の実施は推奨されるか?

推奨の強さ弱い
エビデンスの強さC
後腹膜腫瘍の診断において,生検を行うことを条件付きで推奨する。
(合意率:100%(13/13))
エビデンスの強さ(A,B,C,D)
■C:効果の推定値に対する確信は限定的である
推奨の強さ(1,2)
■2:弱い(実施すること/しないこと を提案する)

解説文

稀な疾患である後腹膜腫瘍は良性のものから悪性のものまで多岐にわたり,組織型も多彩である。それらの適切な治療および患者管理のためには正確な診断がまず求められる。腫瘍に対する今日の診療において生検に基づく病理診断は,放射線画像診断とならび標準的な手順となっているが,後腹膜という特殊な解剖学的部位を対象とすることから,その他の部位における腫瘍生検のアプローチの仕方や正診率,有害事象などの付随する内容がそのまま後腹膜腫瘍の生検においても適用できるという根拠はないため,この点を改めて検証する必要があると考えられる。したがって「後腹膜腫瘍の診断において,生検の実施は推奨されるか?」を検討すべきCQ として設定し,1)正診率の向上,2)医療コストの増大,3)診断に要する時間の延長,4)有害事象の発生,を評価すべきアウトカムと位置づけて,システマティックレビューによる解析を行った。なお,正診率の向上は,患者がより適切な治療を受けられることにつながり,最終的には生存率の向上に帰結すると考えられる。

上記の4 つのアウトカムについて文献データベースを用いた検索を行ったが,2)と3)については今回適当な文献が抽出されず,エビデンスの有無を検討できなかった。1)正診率の向上については,横断研究の論文1 編1)および症例集積研究論文3 編2〜4)を抽出でき,前者1)では術前針生検の高い正診率(98%)が示されていた。また,4)有害事象の発生に関しては,横断研究の論文2 編15)と症例集積研究論文3 編346)を抽出でき,それらでは針生検に伴う合併症には微量の出血や腹水貯留,腹痛などの軽微なものが少数例において認められたと記載されており,生検時における腫瘍の再発も極めて低い頻度(2%)であることが示されていたが,いずれの研究においても対照群が設けられていない上に,観察対象の腫瘍の種類や例数などにバイアスもあるためエビデンスは弱いものとみなされ,生検の実施を強く推奨しうる要因は認められないと判断される。さらに,生検に伴う身体への侵襲や経済的負担などのために生検を望まない患者が存在することも考えられる。また,穿刺吸引細胞診で得られた腫瘍検体を診断に用いることも考慮されるが,術前診断を確実に実施できる手技は現在生検をおいて他にないことから,患者の生存率の向上に寄与すると考えられる高い正診率も考慮して,後腹膜腫瘍の診断において生検を行うことを提案する。

参考文献

1)
Wilkinson MJ, Martin JL, Khan AA, et al:Percutaneous core needle biopsy in retroperitoneal sarcomas does not influence local recurrence or overall survival. Ann Surg Oncol 22:853-858, 2015
2)
Ikoma N, Torres KE, Somaiah N, et al:Accuracy of preoperative percutaneous biopsy for the diagnosis of retroperitoneal liposarcoma subtypes. Ann Surg Oncol 22:1068-1072, 2015
3)
Hwang SY, Warrier S, Thompson S, et al:Safety and accuracy of core biopsy in retroperitoneal sarcomas. Asia Pac J Clin Oncol 12:e174-178, 2016
4)
Alford S, Choong P, Chander S, et al:Value of PET scan in patients with retroperitoneal sarcoma treated with preoperative radiotherapy. Eur J Surg Oncol 38:176-180, 2012
5)
Van Houdt WJ, Schrijver AM, Cohen-Hallaleh RB, et al:Needle tract seeding following core biopsies in retroperitoneal sarcoma. Eur J Surg Oncol 43:1740-1745, 2017
6)
Berger-Richardson D, Burtenshaw SM, Ibrahim AM, et al:Early and Late Complications of Percutaneous Core Needle Biopsy of Retroperitoneal Tumors at Two Tertiary Sarcoma Centers.Ann Surg Oncol 26:4692-4698, 2019

CQ2
後腹膜腫瘍の診断において,MRI や PET/CT の実施は推奨されるか?

推奨の強さ弱い
エビデンスの強さC
後腹膜腫瘍の診断において,MRI やPET/CT を行うことを提案する。
(合意率:90%(9/10))
エビデンスの強さ(A,B,C,D)
■C:効果の推定値に対する確信は限定的である
推奨の強さ(1,2)
■2:弱い(実施すること/しないこと を提案する)

解説文

悪性腫瘍の日常診療では病状の評価や治療方針の決定に画像診断が用いられている。その中で後腹膜肉腫診療の画像診断で現在標準に行われているのは造影CT 検査である。一方,MRI はその高いコントラスト分解能により骨盤部病変や神経孔浸潤の診断などに有用であり,またFDG-PET/CT は糖代謝を画像化し腫瘍の良悪性や腫瘍の悪性度の評価,さらに空間分解能の高いCT と組み合わせることで再発,転移の早期診断に寄与すると想定される。後腹膜腫瘍はその発生部位の特性より診断について画像検査に負うところが大きい。今回,良悪性の診断率の向上にCT と比較してMRI,PET/CT が有用か,遠隔転移診断率の向上に役立つかについて検討を行った。

良悪性の診断率の向上については,MRI は高いコントラスト分解能から後腹膜脂肪肉腫の形状,マージン,内部成分などを鋭敏に反映するため,脂肪肉腫の亜型診断に役立つとの複数の報告がある1〜4)。今回検証できた症例集積研究論文 4 件は後腹膜に発生した脂肪肉腫に関する論文で,脂肪肉腫のサブタイプの鑑別や高分化型脂肪肉腫のsclerosing variant や粘液性間質などの所見についての報告であり,平滑筋肉腫やその他50 種類を超える軟部肉腫全体にMRI の有用性を外挿するにはエビデンスがないと言わざるを得ない。

FDG-PET/CT は糖代謝を通して細胞の活動性をSUV 値で評価できる画像検査である。SUVmax 値から単純に良悪性の判定を行うことはできないが,腫瘍内部が不均一な腫瘤ではFDG 集積病変を狙った経皮的針生検が良悪性の判定に寄与するとの報告5)や,SUVmax 値がKi-67,腫瘍細胞分裂像数および組織学的悪性度と相関があるとする報告6)がある。

初回治療後の経過観察や遠隔転移診断率の向上については,判断の難しい肝腫瘤と転移の鑑別にMRI が,また神経線維腫症I 型を背景としたMPNST のような多病巣性病変の検出にFDG-PET/CT が有用な可能性があるが,小肺転移の検出においてはPET/CT よりも高精細CT のほうが有用とする報告がある7)。FDG-PET/CT と造影CT との感度および特異度の比較を表1 に示す8)

CT,FDG-PET/CT では検査実施の不利益として被曝があげられる。若年患者で治療後の画像フォローアップにおける累積放射線被曝の影響を考慮する必要があると想定され,胸部は低線量CT で,腹部と骨盤部についてはMR で評価することを考慮してもよいかもしれないとの提案がなされているが9),実際の被曝の影響を検証した報告は今回の検索では見つけられなかった。

表1 フォローアップ時の診断率8)

参考文献

1)
Song T, Shen J, Liang BL, et al:Retroperitoneal liposarcoma:MR characteristics and pathological correlative analysis. Abdom Imaging 32:668-674, 2007
2)
Bestic JM, Kransdorf MK, White LM, et al:Sclerosing Variant of Well-Differentiated Liposarcoma:Relative Prevalence and Spectrum of CT and MRI Features. Am J Roentgenol 201:154-161, 2013
3)
Hong SH, Kim KA, Woo OH, et al:Dedifferentiated liposarcoma of retroperitoneum:spectrum of imaging findings in 15 patients. Clin Imaging 34:203-210, 2010
4)
Morag Y, Yablon C, Brigido MK, et al:Imaging appearance of well-differentiated liposarcomas with myxoid stroma. Skeletal Radiol 47:1371-1382, 2018
5)
Alford S, Choong P, Chander S, et al:Value of PET scan in patients with retroperitoneal sarcoma treated with preoperative radiotherapy. Eur J Surg Oncol 38:176-180, 2012
6)
Liu DN, Li ZW, Wang HY, et al:Use of 18F-FDG-PET/CT for Retroperitoneal/Intra-Abdominal Soft Tissue Sarcomas. Contrast Media Mol Imaging 2018:2601281, 2018
7)
Iagaru A, Chawla S, Menendez L, et al:18F-FDG PET and PET/CT for detection of pulmonary metastases from musculoskeletal sarcomas. Nucl Med Commun 27:795-802, 2006
8)
Niccoli-Asabella A, Altini C, Notaristefano A, et al:A retrospective study comparing contrast-enhanced computed tomography with 18F-FDG-PET/CT in the early follow-up of patients with retroperitoneal sarcomas. Nucl Med Commun 34:32-39, 2013
9)
Messiou C, Morosi C:Imaging in retroperitoneal soft tissue sarcoma. J Surg Oncol 117:25-32, 2018

重要臨床課題2「初発後腹膜肉腫の治療」

CQ3
後腹膜肉腫において,R0切除の実施は推奨されるか?

推奨の強さ弱い
エビデンスの強さB
後腹膜肉腫において,R0 切除を行うことを条件付きで推奨する。
(合意率:69%(9/13))
エビデンスの強さ(A,B,C,D)
■B:効果の推定値に中程度の確信がある
推奨の強さ(1,2)
■2:弱い(実施すること/しないこと を提案する)

解説文

後腹膜肉腫手術においてR0 切除を行う意義

一般的に後腹膜に発生する肉腫は四肢に発生する肉腫よりも予後が不良である。その理由には,後腹膜肉腫が発生部位の解剖学的特性のため発見が遅れること,腫瘍が後腹膜臓器,腸間膜,腹部血管などの重要器官に隣接していることが多いために十分な切除縁を確保した切除が困難であること,などがあげられる。

後腹膜肉腫手術におけるR0 切除の意義について,とくに全生存率および無再発生存率への影響を重視しシステマティックレビューを行った。全生存率においては10 編,無再発生存率においては9 編(重複あり)の報告が抽出され,これらについてメタアナリシスを行った。その結果,全生存率ではリスク比0.68(95%信頼区間:0.61-0.76)(図11〜10),無再発生存率ではリスク比0.59(95%信頼区間:0.48-0.71)(図2124〜79〜11)と,いずれにおいても,R0 切除を行っている症例がR1 あるいはR2 切除に比べて予後が良好である結果が示された。したがって後腹膜肉腫の初回手術時には,周囲の隣接臓器も含めて可能な限り広範切除を行うことが推奨されている1213)。しかしながら,いずれの報告も後方視的解析であること,解析対象が脂肪肉腫,平滑筋肉腫などの異なる組織型を含んでいること,術前や術後に放射線療法や化学療法などの補助療法を行った症例が不規則に含まれていることなどの問題点があり,結果の解釈には注意を要する。

図1 後腹膜肉腫切除例における切除断端病理所見の影響 R0 vs. R1 全生存率
図2 後腹膜肉腫切除例における切除断端病理所見の影響 R0 vs. R1 無再発生存率

Bonvalot らはフランスの多施設で切除を行った後腹膜脂肪肉腫382 例につき検討し(うち106 例が高分化型脂肪肉腫),隣接臓器を含めて腫瘍をen bloc に切除する,いわゆる“compartmental complete resection” を行うことの意義を検討した5)。その結果,compartmental complete resection を行った患者では3 年以内の再発率が10%で,単純切除を行ったグループの47%に比べて有意に低かったと報告している。しかし,全生存率については両群で差がみられなかった(62% vs 67%)。その理由の一つには,たとえcompartmental complete resection を行っても切除断端が高率に陽性であったことがあげられている。一方でMemorial Sloan Kettering のTan ら1)は,compartmental complete resection ではなく,surgical margin 陰性を目指したoncological resection を一貫して行っており,その675 例の経験について検討している。その結果,5 年生存率は69%で,compartmental complete resection と同等の予後であったと報告している。したがって,後腹膜肉腫に対してどの程度までの広範切除を行うべきなのかについては,いまだ一定の見解が得られていない。もう一つの問題は,後腹膜肉腫,とくに脂肪肉腫に関しては,画像的に腫瘍と同定される部分と実際の腫瘍の広がりに乖離があるということである。高分化型脂肪肉腫の場合は,画像上あるいは肉眼上腫瘍の辺縁と思われる部分を術中に確認しつつ十分に切除縁を確保して切除を行ったつもりでも,実際の病理診断では高分化型脂肪肉腫成分が広範囲に断端陽性となっていることがある。さらに高分化型脂肪肉腫の場合は肉眼的にも正常の脂肪組織と区別することが難しい場合がある。したがってどこまで広範囲に切除すれば良いのかを判断することが極めて難しい。また巨大な高分化型脂肪肉腫では,切離面すべてを病理検索できているわけではないので,診断を行う病理医の立場からすると,切離断端が陰性であると断言することは難しい。したがって脂肪肉腫に関しては,腫瘍切離断端病理所見と予後の関係を論じる場合には注意が必要である。また,後腹膜脂肪肉腫の切除で高分化型成分での断端陽性の意義について論じた論文は存在しないため,今後の検討課題と思われる。

以上より,後腹膜肉腫においてはR0 切除を目指したoncological resection を行うことを提案する。臓器合併切除については,術後合併症や機能障害発生の可能性に配慮し,過不足のない手術を行うことが望まれる。

なお,本CQ では推奨決定の投票にて合意の基準を満たさなかったが,議論をし尽くしたことにより,「実施することを提案(条件付きで推奨)する」に決定することとした。

参考文献

1)
Tan MCB, Brennan MF, Kuk D, et al:Histology-based Classification Predicts Pattern of Recurrence and Improves Risk Stratification in Primary Retroperitoneal Sarcoma. Ann Surg 263:593-600, 2016
2)
Pierie JP, Betensky RA, Choudry U, et al:Outcomes in a series of 103 retroperitoneal sarcomas. Eur J Surg Oncol 32:1235-1241, 2006
3)
Stahl JM, Corso CD, Park HS, et al:The effect of microscopic margin status on survival in adult retroperitoneal soft tissue sarcomas. Eur J Surg Oncol 43:168-174, 2017
4)
Paryani NN, Zlotecki RA, Swanson EL, et al:Multimodality local therapy for retroperitoneal sarcoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys 82:1128-1134, 2012
5)
Bonvalot S, Rivoire M, Castaing M, et al:Primary retroperitoneal sarcomas:a multivariate analysis of surgical factors associated with local control. J Clin Oncol 27:31-37, 2009
6)
Erzen D, Sencar M, Novak J:Retroperitoneal sarcoma:25 years of experience with aggressive surgical treatment at the Institute of Oncology, Ljubljana. Surg Oncol 91:1-9, 2005
7)
Abdelfatah E, Guzzetta AA, Nagarajan N, et al:Long-term outcomes in treatment of retroperitoneal sarcomas:A 15 year single-institution evaluation of prognostic features. J Surg Oncol 114:56-64, 2016
8)
Maurice MJ, Yih JM, Ammori JB, et al:Predictors of surgical quality for retroperitoneal sarcoma:Volume matters. J Surg Oncol 116:766-774, 2017
9)
Cho SY, Moon KC, Cheong MS, et al:Significance of microscopic margin status in completely resected retroperitoneal sarcoma. J Urol 186:59-65, 2011
10)
Papoulas M, Weiser R, Rosen G, et al:Visceral Fat Content Correlates with Retroperitoneal Soft Tissue Sarcoma(STS)Local Recurrence and Survival. World J Surg 39:1895-1901, 2015
11)
Avancès C, Mottet N, Mahatmat A, et al:Prognostic factors for first recurrence in patients with retroperitoneal sarcoma. Urol Oncol 24:94-96, 2006
12)
Bonvalot S, Miceli R, Berselli M, et al:Aggressive surgery in retroperitoneal soft tissue sarcoma carried out at high-volume centers is safe and is associated with improved local control. Ann Surg Oncol 17:1507-1514, 2010
13)
Gronchi A, Miceli R, Shurell E, et al:Outcome prediction in primary resected retroperitoneal soft tissue sarcoma:histology-specific overall survival and disease-free survival nomograms built on major sarcoma center data sets. J Clin Oncol 31:1649-1655, 2013

CQ4
初発後腹膜肉腫において,補助化学療法の実施は推奨されるか?

推奨の強さ
エビデンスの強さD
初発後腹膜肉腫に対する補助化学療法について,現時点では明確な推奨を提示できない。
(合意率:83%(10/12))
エビデンスの強さ(A,B,C,D)
■D:効果の推定値がほとんど確信できない

解説文

軟部肉腫に対する補助化学療法の意義は,後腹膜原発のものを含めていまだ確立されたものはない。軟部肉腫全体として複数の無作為化比較試験が行われたが,その結果は一貫していない。2008 年に報告されたメタアナリシスではドキソルビシン・イホスファミド併用療法群のコントロール群に対する生存期間のオッズ比が0.56(95%信頼区間0.36-0.85;P=0.01)で補助化学療法群の有用性を示す結果であった1)。しかし,2014 年の2 つの大きな第Ⅲ相試験のプール解析では,補助化学療法群で無再発生存期間はハザード比0.74(95%信頼区間0.60-0.92;P=0.0056)と有意に良好だったものの,生存期間の延長は認められなかった2)。なお,後者の試験には約10%の割合で原発巣が“central” の症例が含まれており,後腹膜肉腫が一定数含まれていると推測される。

今回,後腹膜肉腫の補助化学療法についてシステマティックレビューを行い,最終的に2 論文34)がスクリーニングされた。全生存期間を最も重要なアウトカムとして評価した。両論文とも後方視的な検討であり,前向きの臨床試験の報告は認められなかった。一つの論文3)は,米国からのデータベースを用いて8,653 例の後腹膜腫瘍切除の患者を検討した報告であり,1,525 例(17.6%)が周術期に化学療法をうけていた。傾向スコアによるマッチングの結果でも,化学療法あり群での生存期間中央値は化学療法なし群と比較し有意に不良であった(40 ヵ月対52 ヵ月;P=0.002)。多変量解析の結果でも,化学療法あり群でのハザード比1.17(95%信頼区間1.04-1.31;P=0.009)と有意に不良であった。もう一つの論文4)は単施設の183 例の連続症例の報告である。83 例が後腹膜原発であった。術前化学療法群では化学療法なし群と比較しハザード比4.6(P=0.002),術後化学療法群ではハザード比3.0(P=0.01)といずれも有意に不良であった。なお,有害事象に関する報告はなかった。

両論文とも傾向スコアによるマッチングや多変量解析の手法で他の予後因子(組織型,組織の分化度・グレード,手術マージンなど)で調整しているにもかかわらず,化学療法群でむしろ予後不良な結果であった。これらは単純に化学療法を行うことが予後を悪化させると解釈することも可能ではあるが,後方視的な検討であることから調整しきれない予後不良因子の影響と考えるほうが自然である。つまり,臨床医が臨床的に予後不良と判断した症例に化学療法が行われることが多いため,化学療法群には自然と予後不良の症例が多く集まり,結果として予後不良に見えていると解釈することができる。とは言え,化学療法の有効性は全く示されておらず,術前・術後を含めて化学療法を推奨する根拠はないのが現状である。現在,EORTC で後腹膜肉腫を対象に術前化学療法+手術vs 手術単独を比較したSTRASS2 試験が進行中であり,その結果が待たれるところである。

以上より,後腹膜肉腫において,補助化学療法の実施について,現時点では明確な推奨を提示できないと判断した。

参考文献

1)
Pervaiz N, Colterjohn N, Farrokhyar F, et al:A systematic meta-analysis of randomized controlled trials of adjuvant chemotherapy for localized resectable soft-tissue sarcoma. Cancer 113:573-581, 2008
2)
Cesne AL, Ouali M, Leahy MG, et al:Doxorubicin-based adjuvant chemotherapy in soft tissue sarcoma:pooled analysis of two STBSG-EORTC phase Ⅲ clinical trials. Ann Oncol 25:2425-2432, 2014
3)
Miura JT, Charlson J, Gamblin TC, et al:Impact of chemotherapy on survival in surgically resected retroperitoneal sarcoma. Eur J Surg Oncol 41:1386-1392, 2015
4)
Singer S, Corson JM, Demetri GD, et al:Prognostic factors predictive of survival for truncal and retroperitoneal soft-tissue sarcoma. Ann Surg 221:185-195, 1995

CQ5
初発後腹膜肉腫において,補助放射線療法の実施は推奨されるか?

推奨の強さ弱い
エビデンスの強さD
i)初発後腹膜肉腫全般において,補助放射線療法の実施に関しては現時点では明確な推奨を提示できない。
(合意率:70%(7/10))
ii)初発脂肪肉腫においては,補助放射線療法を行うことを提案する。
(合意率:80%(8/10))
エビデンスの強さ(A,B,C,D)
■D:効果の推定値がほとんど確信できない
推奨の強さ(1,2)
■2:弱い(実施することを提案する)

解説文

肉腫の手術治療においては,適切な切除縁の確保が必要である。しかし後腹膜に発生した場合は重要臓器が近接しているため適切な切除縁の確保がしばしば困難であり,四肢発生に比べて再発率が高い。そのため補助療法としての放射線治療が行われることが少なくない。そこで,本CQ では,後腹膜肉腫に対する補助放射線療法の実施について検討した。補助放射線療法を施行するかどうかの臨床判断において検討すべきアウトカムとして,「全生存率の改善」が最も重要であるが,局所再発により消化管通過障害や腹部膨満感などの苦痛が発生する可能性があることを考慮すると,「局所再発率の低下」も同程度に重要と想定された。また,治療法の選択において「有害事象の発生」も重要な要素と考えられ,これら3 つのアウトカムについて文献検索を施行し,採用25 文献についてシステマティックレビューを行った。その結果ランダム化比較試験はみられず,術前補助放射線療法施行群と対照群を比較した少数の観察研究(「全生存率の改善」2 件12),「局所再発率の低下」1 件2),「有害事象の発生」1 件3))により,エビデンス総体が作成された。

「全生存率の改善」は,死亡率を指標としてメタアナリシスを行った結果,補助放射線療法施行群で36.3%(1,064/2,935),対照群で42.2%(1,582/3,753),リスク差−0.07(95%信頼区間−0.09-−0.04)であり,補助放射線療法施行群で死亡率が低い傾向にあった。「局所再発率の低下」についても,補助放射線療法群は25.0%(44/176),対照群は41.1%(177/431),リスク差−0.16(95%信頼区間−0.24-−0.08)であり,補助放射線療法群で再発率が低い傾向にあった。「有害事象の発生」は,30 日死亡率において補助放射線療法群2.8%(4/144),対照群2.8%(2/72),リスク差0 で差はみられなかった。また,いずれのアウトカムにおいても,脂肪肉腫の割合が多かった。エビデンスの強さは,すべてのアウトカムで各種のバイアスリスクが高く,「非常に弱い(D)」となり,益と害の効果の差を明確にする確実性の高いエビデンスは認めなかった。なお,患者の価値観や好みを検討した論文はなく,実際の患者の意向はばらつきがあると推測される。利益とコスト,資源の関連についての検討はみられなかったが,本邦では補助放射線治療は保険適応となる。

システマティックレビュー終了後に,現時点では唯一の多施設共同ランダム化比較試験であるEORTC-62092(STRASS)試験の結果が論文公表されたため,検討に加えた4)。後腹膜肉腫の術前補助放射線療法施行後手術群と手術単独群の比較(N=266,1:1 割付)において,主要エンドポイントである腹部無再発生存(abdominal recurrence-free survival:ARFS)期間(観察期間中央値43.1 ヵ月)は,術前補助放射線療法施行後手術群の中央値4.5 年(95%信頼区間3.9-not estimable),手術単独群5 年(95%信頼区間3.4-not estimable),ハザード比1.01(95%信頼区間0.71-1.44;P=0.95)で有意差はみられず,術前補助放射線療法は後腹膜腫瘍の標準的治療とされるべきではないと結論された。サブグループ解析では,登録患者数の74%を占める脂肪肉腫において,術前補助放射線療法施行後手術群の3 年ARFS 割合は71.6%(95%信頼区間61.3-79.6%)と,手術単独群の60.4%(95%信頼区間49.8-69.5%)と比べて高かった(ハザード比0.64,95%信頼区間 0.40-1.01)。重篤な有害事象は術前補助放射線療法後手術群で24%(30/133),手術単独群で10%(13/133)にみられ,術前補助放射線療法後手術群において死亡が1 例(胃胸腔瘻)認められた。

以上より,エビデンスの強さは非常に弱いものの,STRASS 試験からは術前放射線療法の腹部無再発生存に対する手術への上乗せ効果は否定された。しかし,本CQ で最も重要なアウトカムに設定した全生存についての確定的なデータはないこと,手術手技など臨床状況が日本とは異なる欧州で行われた試験であることから,後腹膜肉腫全般について補助放射線療法についての推奨を決定するエビデンスは乏しいと考えられ,委員会での検討,投票により合意率70%(7/10)で「現時点では明確な推奨を提示できない」とした。ただし,脂肪肉腫についてはSTRASS 試験の副次的解析や過去の論文のSR において一定の効果が示されており,補助放射線療法を否定する根拠となるような害はみられないため,実施することを提案することについての合意率は80%(8/10)となり,委員会の意見とした。

今後の研究課題として,全生存への寄与,部位や腫瘍径による有効性および安全性の違い,術前放射線療法と術後放射線療法の差異などにつき,日本発の確信性の高いエビデンス構築が期待される。

参考文献

1)
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2)
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3)
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4)
Bonvalot S, Gronchi A, Péchoux CL, et al:Preoperative radiotherapy plus surgery versus surgery alone for patients with primary retroperitoneal sarcoma(EORTC-62092:STRASS):a multicentre, open-label, randomised, phase 3 trial. Lancet Oncol 21:1366-1377, 2020

CQ6
初発後腹膜肉腫において,粒子線療法の実施は推奨されるか?

推奨の強さ弱い
エビデンスの強さC
初発後腹膜肉腫において,切除困難例に対し重粒子線治療を行うことを提案する。
(合意率75%(9/12))
エビデンスの強さ(A,B,C,D)
■C:効果の推定値に対する確信は限定的である
推奨の強さ(1,2)
■2:弱い(実施すること/しないこと を提案する)

解説文

日本では粒子線治療として,陽子線治療と炭素イオン線治療(重粒子線治療)が臨床的に用いられている。従来の放射線治療と比べ,1)より強い生物学的効果(殺細胞効果)を持ち,2)体内の特定の部位(悪性腫瘍)に線量を集中させることができる。そのため,照射野周囲の正常組織への放射線障害を減少させながら,より強力な抗腫瘍効果が期待できる。

後腹膜肉腫の新しい治療法として,粒子線治療の有効性についてシステマティックレビューを行い,陽子線治療の3 論文と重粒子線治療の1 論文をスクリーニングした。すべて観察研究(症例集積)で対照のない論文であった。重粒子線治療の有効性を検討した論文1)は,切除不能例(初回治療例と再発例)を対象として重粒子線治療単独の治療成績を報告している。陽子線治療の2 論文23)は,術前補助療法として,切除可能例(初回治療例と再発例)に対する陽子線治療の有効性が検討されていた。陽子線治療だけでなく,強度変調放射線治療(IMRT)および両者の併用治療が行われた症例や術中放射線治療が追加された症例もすべて含めて解析が行われた論文2)と,治療成績について詳細な記載のない第Ⅰ相臨床試験の論文3)であった。陽子線治療に関するもう1 論文4)では,同一の後腹膜肉腫症例の画像を利用して陽子線治療,三次元原体照射(3D-CRT),IMRT の照射野を計画し,最適な放射線治療法を比較検討していて,実際に後腹膜肉腫を陽子線で治療して成績を解析していない。重粒子線照射単独で治療した切除困難な後腹膜肉腫の2 年および5 年全生存率は75%,50%,2 年および5 年無局所再発生存率は77%,69%であった1)。重粒子線照射単独による治療では,grade 3 以上の合併症を認めなかった。

術前陽子線治療やIMRT,術中照射後に切除術を行った症例の3 年全生存率は87%であった2)。3 年無局所再発生存率は,初回治療例90%,再発例30%であり,14%の症例で照射に関連する合併症を認めた。術前陽子線治療と切除術の第Ⅰ相臨床試験では,経過観察期間中央値18 ヵ月の最終観察時無病生存7 例,有病生存(転移)2 例で,局所再発は認めず,照射に関連するgrade 3 以上の合併症を認めなかった3)。照射野を検討した論文は,陽子線治療が他の放射線治療(3D-CRT,IMRT)に比べて腸管や腎臓への放射線障害を減少させると報告している4)

以上から,1 論文のみの観察研究であるが,切除困難な後腹膜肉腫に対する重粒子線治療は有効で副作用の少ない安全な治療法であることが示されており,切除困難例に対する重粒子線治療を提案する。一方,陽子線照射単独で治療成績を検討した論文はなく,3 論文とも補助療法としての術前陽子線治療の有効性を解析していた。術前陽子線治療,IMRT や術中照射は比較的合併症の少ない補助療法であり,原発例では局所コントロールを改善する可能性が示唆されている。しかし,複数の放射線治療を含めた解析や第Ⅰ相臨床試験の結果であるため,生存率や局所コントロールに対する術前陽子線治療の有効性については判断できない。日本の粒子線治療の保険適応は,切除非適応な後腹膜肉腫であるため,術前補助療法として陽子線治療を行うことは難しい。実臨床では,切除困難な後腹膜肉腫に対して陽子線治療が行われており,今後の治療成績の解析が期待される。また,後腹膜肉腫が腸管などと近接して粒子線照射困難な症例に対し,腸管などの放射線障害を避けるために外科的にスペーサ挿入が行われており,2019 年に吸収性組織スペーサが保険収載されている。

参考文献

1)
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4)
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CQ7
後腹膜肉腫において,high volume center での治療は推奨されるか?

推奨の強さ弱い
エビデンスの強さC
後腹膜肉腫において,high volume center での治療を行うことを提案する。
(合意率:91%(10/11))
エビデンスの強さ(A,B,C,D)
■C:効果の推定値に対する確信は限定的である
推奨の強さ(1,2)
■2:弱い(実施することを提案する)

解説文

稀な後腹膜肉腫において,high volume center での治療を行うか,否かは治療を開始する前に直面する重要な臨床的疑問である。後腹膜肉腫に対するhigh volume center での治療とhigh volume center 以外での治療の比較に関して9 編の文献を抽出しシステマティックレビューを行った1〜9)

後腹膜肉腫治療におけるhigh volume center の定義に定まったものはなく,それぞれの報告により異なる。米国National Cancer Database の総数8,721 例を用いた報告では,年間手術症例数が1 例増えるごとに,13 例に達するまでは全死亡に対するリスクが4%ずつ低下することから,high-volume hospital を年間手術症例数13 例以上に設定している1)。フランスの肉腫治療ネットワークであるNetSarc に属するNetSarc center での治療群とそれに所属しない施設での治療群の比較では,NetSarc center の26 施設での年間手術症例数の中央値は23 例(3〜209 例)で,それ以外での年間手術症例数の中央値は1 例(1〜2 例)であったと報告している2)。イングランド北西地域における後腹膜肉腫治療センター集約化前後の検討では,集約化前は2.5 例/年が集約化後には12.2 例/年と症例の増加を報告している3)。これらよりhigh volume center としての目安を年間手術症例数がおおむね10 例以上と想定することも可能であるが,すべて,海外からの報告であり本邦とは医療保険制度やサービス,地理的条件が異なり単純に置き換えることは難しい。

High volume center での治療が推奨されるかを検討するにあたっては「全生存率の改善」,「局所再発率の低下」,「遠隔転移発生率の低下」を正のアウトカム,「医療機関までの移動時間増加」を負のアウトカムとした。

全生存割合に関しては抽出した文献9 編中,5 編でhigh volume center での治療で全生存率の有意な改善がみられ,逆にhigh volume center 以外での治療が優位であるとする研究はなかったため,今回メタ解析は行っていないが,「high volume center での治療はhigh volume center 以外での治療に比較し全生存率を改善させる」とした。米国National Cancer Database を用いた研究は6 編14〜8)ありその期間と症例が相当数重複しており,集積数が総数8,721 例と最も多い文献をその代表とした。High-volume hospital では全生存割合が74.6%でlow-volume hospital の60.9%と比較し有意に(P<0.001)良好であったと報告している1)。フランスのNetSarc からの総数2,947 例の報告では,全生存割合に対する多変量解析において,腫瘍径,年齢,病理組織学的分化度とともに,「NetSarc center での手術」がオッズ比0.496,P<0.001 で予後を改善させる因子として抽出されている2)。イングランド北西地域における集約化前後の検討では,総症例数95 例の検討で5 年全生存割合が46%から60%に改善したが有意差は認められなかったと報告している3)

局所再発率に関しては,2 文献ありともにhigh volume center での治療は再発率を低下させると報告されている。一つはNetSarc からの報告でlocal progression free survival に対する多変量解析で,high volume center での治療が抽出されオッズ比0.530 で有意な差が認められている2)。もう一つは,集約化前後の治療成績を比較した文献で,集約化後に再発率は31.2%から12.7%と低下する傾向にあるが有意差は認められなかった3)

NetSarc からの報告で遠隔転移発生に対する多変量解析が行われているが,high volume center での治療は,遠隔転移発生低下の因子として抽出されなかった2)

医療機関までの移動時間に関しては,1 文献で検討され,hospital volume の段階ごとに医療機関までの距離が有意に長くなっていたと報告されている8)。このことからhigh volume center での治療は移動時間が増加するが,これは米国での結果であり,本邦における医療保険制度,地理的条件,交通機関の整備状況を勘案する必要がある。

すべての抽出された文献は後ろ向きコホート研究であり,背景因子の統一や観察期間が不十分なこともあり,バイアスリスクはあるが,全体を通じてhigh volume center 以外での治療が優位であるとする研究は皆無であった。一方,害に関しては医療機関へのアクセス低下と長い移動時間,それによる受療のしにくさにつながる可能性が懸念されるが,十分に有益性が勝ると考えられる。

以上より「後腹膜肉腫において,high volume center での治療を行うことを提案する」とした。

参考文献

1)
Villano AM, Zeymo A, Chan KS, et al:Identifying the Minimum Volume Threshold for Retroperitoneal Soft Tissue Sarcoma Resection:Merging National Data with Consensus Expert Opinion. J Am Coll Surg 230:151-160. e2, 2020
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3)
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Berger NG, Silva JP, Mogal H, et al:Overall survival after resection of retroperitoneal sarcoma at academic cancer centers versus community cancer centers:An analysis of the National Cancer Data Base. Surgery 163:318-323, 2018
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Keung EZ, Chiang YJ, Cormier JN, et al:Treatment at low-volume hospitals is associated with reduced short-term and long-term outcomes for patients with retroperitoneal sarcoma. Cancer 124:4495-4503, 2018
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Bagaria SP, Neville M, Gray RJ, et al:The Volume-Outcome Relationship in Retroperitoneal Soft Tissue Sarcoma:Evidence of Improved Short- and Long-Term Outcomes at High-Volume Institutions. Sarcoma 2018:3056562, 2018
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Merchant S, Cheifetz R, Knowling M, et al:Practice referral patterns and outcomes in patients with primary retroperitoneal sarcoma in British Columbia. Am J Surg 203:632-638, 2012

重要臨床課題3「再発・切除不能後腹膜肉腫の治療」

CQ8
再発後腹膜肉腫において,外科的切除の実施は推奨されるか?

推奨の強さ弱い
エビデンスの強さC
再発後腹膜肉腫において,外科的切除を行うことを提案する。
(合意率:8/9(89%))
エビデンスの強さ(A,B,C,D)
■C:効果の推定値に対する確信は限定的である
推奨の強さ(1,2)
■2:弱い(実施すること/しないこと を提案する)

解説文

後腹膜肉腫に対する外科的切除は,可能な範囲で肉眼的に完全切除することが求められている。しかし,初回手術で完全切除を施行しても一定の確率で局所再発することが知られている。局所再発後腹膜肉腫に対しての外科的切除は,侵襲の大きさから勧めるべきか判断に迷う場面に遭遇するが,他の治療に比べ外科的切除が有効であれば外科的切除を拒否する患者は少ない。今回,再発後腹膜肉腫に対して外科的切除を施行した場合と施行しなかった場合とを比較してシステマティックレビューを行った。「全生存率の改善」,「無増悪生存率の改善」,「術後機能の増悪」をアウトカムとしたところ,最終的に全生存率の改善に関しては6 論文が,無増悪生存率の改善に関しては1 論文がスクリーニングされた。一方,術後機能の増悪に関する論文は認めなかった。

「全生存率の改善」については,6 論文(retrospective,case-control study)いずれにおいても外科的切除を施行した群のほうが全生存率が良好な結果が報告されている。ただし,3 論文1〜3)は対象が後腹膜肉腫全般であるのに対して,1 論文は脂肪肉腫と平滑筋肉腫のみ4),1 論文は平滑筋肉腫のみ5)を対象とした検討である。また,1 論文6)は唯一本邦からの報告であるが,対象は後腹膜肉腫以外の後腹膜腫瘍も含まれている。再発後腹膜肉腫に対する手術適応は,耐術能があり切除可能であること,他部位に播種病変がないこと1)があげられている。また,切除可能かどうかSarcoma Tumor Board で検証して適応を決めているという報告もある3)

「無増悪生存率の改善」については1 論文4)で報告されている。対象は脂肪肉腫と平滑筋肉腫のみで,2 年無増悪生存率は切除群(43.1%),非切除群(45.7%)で有意差を認めていない。

「術後機能の増悪」については今回のシステマティックレビューでは報告が認められなかった。外科的切除症例において重篤な合併症が8.69〜17%に生じ,90 日以内の周術期死亡率が1.33〜7%であったとされているが13),有害事象や周術期合併症,周術期死亡についてのまとまった検討は今後さらに必要と考えられる。

これまで再発後腹膜肉腫に対する外科的切除について高いエビデンスレベルの研究報告はなく,前述した全生存率の改善についても選択バイアスが含まれていることを考慮しなくてはならない。また,外科的切除による生存期間の改善がコストや資源に見合ったものかは報告がなく不明確である。それでも,再発後腹膜肉腫に対する有効な治療法が限られていることから,手術可能と判断された症例については外科的切除を行うことを提案する。

参考文献

1)
Lochan R, French JJ, ManasAnn DM. Surgery for retroperitoneal soft tissue sarcomas:aggressive re-resection of recurrent disease is possible. Ann R Coll Surg Engl 93:39-43, 2011
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6)
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CQ9
切除不能後腹膜肉腫において,減量手術の実施は推奨されるか?

推奨の強さ
エビデンスの強さD
切除不能後腹膜肉腫に対する減量手術について,現時点では明確な推奨を提示できない。
(合意率82%(9/11))
エビデンスの強さ(A,B,C,D)
■D:効果の推定値がほとんど確信できない

解説文

本CQ は断端陰性の根治的切除(complete resection,R0)を試みたが,結果的に断端陽性(R1 またはR2)になった手術についてではなく,腫瘍量を減少させる目的として行った減量手術(debulking surgery)に関するものである。生存率の改善,遠隔転移率の低下,有害事象,機能あるいは症状の改善,以上の4 項目をアウトカムとしてシステマティックレビューを行い最終的に8 論文が選択された。いずれの論文も後方視的な観察研究(症例集積)である。

全生存率の改善について,不完全切除術(incomplete resection)は,開腹生検のみの手術と比較して,生存期間が長いことが複数の論文で報告されている1〜3)。生存期間中央値は,Lehnert らは不完全切除術で9 ヵ月,開腹生検で3 ヵ月1),Shibata らは不完全切除術で26 ヵ月,開腹生検で4 ヵ月と報告している。さらに初回手術例では不完全切除術でも比較的長期の予後(生存期間中央値46 ヵ月)が認められ,症例を慎重に選べば,減量手術が生存率を改善する可能性がある3)。また,debulking surgery という用語を用いている文献はなく,palliative procedure 4),incomplete palliative resection 5),R2 resection 2),incomplete resection13),partial resection 6)という用語が使用されている。これは手術計画が初めから減量手術を目的としたものか,結果として不完全切除術になってしまったのか論文間で一定ではなく,さらに切除した腫瘍量が症例や論文によって異なる可能性を示唆する。そのため生存期間中央値は26 ヵ月3),21 ヵ月7)と比較的長期の報告もあるが,9 ヵ月1),7 ヵ月5),1 年未満8)と短いものもあり,論文間の差が大きい。遠隔転移率の低下について,減量手術の効果を検討した論文はなかった。

有害事象について,減量手術に限定して詳細な結果を述べている文献はない。しかしLehnert らは後腹膜肉腫切除手術全体の合併症率は26%で,不完全切除術あるいは開腹生検のみの手術関連死(30 日以内の死亡)は17%と報告している1)。またKoenig らは後腹膜肉腫切除手術全体の合併症率は28%,死亡率は6%と報告している5)。Doglietto らは部分切除術の死亡率12% 6),Yeh らは非手術的治療も含めた緩和的治療手技(palliative procedure)の合併症率29%,死亡率12%と報告している。とくに中下部消化管閉塞に対する手技は合併症率60%,死亡率17%と高く,非手術手技と比べると手術の合併症が圧倒的に多いことを指摘している4)。Shibata らは開腹生検のみを行った場合も含めて30 日以内死亡率5.5%と報告している3)。以上のように,切除術は合併症率と死亡率が高いことが推察される。

術後機能の改善については,Shibata らは部分切除術を行った75%に症状の改善や緩和を認めたと述べているが,効果の持続期間については言及がない3)。Yeh らは術後1 ヵ月で71%の症例で症状が改善していたが,術後100 日では54%に低下したと報告している4)。とくに腸管の閉塞に対する手技は成績が最も悪く,100 日後に症状の改善が持続していた症例は23%のみであった4)。しかし,手術以外の手技も含めて解析しているため,減量手術だけの治療効果ではない。

後腹膜肉腫の中で最も多い組織型は脂肪肉腫である124〜7)。その中でも高分化型脂肪肉腫は組織学的に低悪性でありとくに緩徐な発育をする。Shibata らの症例で,不完全切除を行った群では,切除を行わず予後が短かった群に比較し低悪性度の症例が多かったことからも3),高分化型脂肪肉腫に対し,症状の改善のため減量手術を行う場合は一定の効果が期待できるであろう。しかし,それ以外の組織型では減量手術により生存期間が延長する可能性はあるが,重篤な合併症が高頻度に発生し,症状緩和が得られる期間は短いと考えられる。以上より,切除不能後腹膜肉腫に対する減量手術の実施は,現時点では明確な推奨を提示できないとした。

参考文献

1)
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8)
Neuhaus SJ, Barry P, Clark MA, et al:Surgical management of primary and recurrent retroperitoneal liposarcoma. Br J Surg 92:246-252, 2005

CQ10
進行再発・転移性後腹膜肉腫において,薬物療法の実施は推奨されるか?

推奨の強さ
エビデンスの強さD
進行再発・転移性後腹膜肉腫に対する薬物療法について,現時点では明確な推奨を提示できない。
(合意率:70%(7/10))
エビデンスの強さ(A,B,C,D)
■D:効果の推定値がほとんど確信できない

解説文

軟部肉腫全般における再発症例に対する化学療法に関しては一定の効果があるとされている。2020 年に発刊された「軟部腫瘍診療ガイドライン2020(改訂第3 版)」では,切除不能進行・再発悪性軟部肉腫に対しては,一次治療としてドキソルビシン単剤の使用が推奨されている1)。しかし,一次治療において化学療法とbest supportive care を比較したランダム化試験は存在しない。Royal Marsden Hospital で実施された大規模観察研究では2),ドキソルビシンとドキソルビシン・イホスファミド併用療法の比較において,併用療法のほうが全生存期間が長いことが示されたが,EORTCが行った同様の比較試験では奏効率,無増悪生存期間は併用療法のほうが良好であったが,全生存期間には差が認められず,G3-4 の有害事象は併用群で有意に高率に認められた3)。さらに,ドキソルビシン単剤と併用療法あるいは他の治療とを比較したランダム化試験に関するメタ解析では,奏効率,無増悪生存期間,全生存期間のいずれも有意差は認められなかった4)。これらを根拠に,前述のガイドラインでは一次治療としてはドキソルビシン単剤による治療が標準治療として推奨されている。ただし,このガイドラインは主に四肢,体幹部に発生する整形外科領域の悪性軟部肉腫を対象としたものである。

対象を進行再発・転移性後腹膜肉腫に限定すると,化学療法に関する大規模な前向き臨床試験はこれまでになく,化学療法の意義が過小評価されてしまう可能性がある。実際,今回の文献検索では比較的少数の症例を用いた観察研究のみがリストアップされ,薬物療法を推奨するだけのエビデンスレベルを有する報告がないのが現状である。とはいえ,以下に観察研究3 報の結果を記載する。Italiano らは,高分化型脂肪肉腫あるいは脱分化型脂肪肉腫208 例を集計し,後ろ向きに解析しており,そのうち大多数(77.5%)が後腹膜発生であった。治療レジメンはさまざまであるが,ドキソルビシンを用いたレジメンが多く,単剤による治療が59%で行われていた。全体の奏効率は12%で,全生存期間の中央値は15.2 ヵ月であった5)。一方,Livingston らの報告では,再発・転移症例に対し化学療法が行われた後腹膜発生脂肪肉腫における無増悪生存期間と全生存期間の中央値は,それぞれ4 ヵ月,25 ヵ月であった。切除不能・転移性腫瘍に対する化学療法のobserved clinical benefit rate(CR,PR,6 ヵ月以上のSD)は38%であり,anthracycline を含むレジメンでより高いobjective response rate(24% vs0%,p=0.0019)を示していた6)。さらにToulmonde らは,化学療法を受けた進行期後腹膜肉腫255 症例を集積し,一次治療による奏効率を16%,奏効期間の中央値5.9 ヵ月,全生存期間は15.8 ヵ月と報告しているが,anthracycline を含むレジメンと含まないレジメンでは奏効率の差はみられなかった(17.7% vs 10.5%,p=0.2)。組織型別の奏効率は,脱分化型脂肪肉腫13%,高分化型脂肪肉腫11%,平滑筋肉腫18%,未分化肉腫4%であった7)。これらの報告はいずれも後ろ向き解析であり,組織型もさまざまな者を含んでいる上に,化学療法レジメンもまちまちであるため,奏効率や生存期間の数字は一定しない。いずれにせよ,ドキソルビシンを中心とした化学療法により,一定の縮小効果が認められることから,進行再発・転移性後腹膜肉腫に対する一次治療としては,ドキソルビシンを中心とした薬物療法が効果的であることが期待される。

また軟部肉腫に対する二次治療においては,現在本邦ではpazopanib,trabectedin,eribulin の3 剤が進行期軟部肉腫に対する保険適用を得ている。しかしこれらの薬剤に関する主要な報告において,後腹膜発生の肉腫だけを対象とした副解析が行われているものはない8〜10)。ただ,eribulin については,後腹膜肉腫で頻度の高い脂肪肉腫においてdacarbazine と比較し有意な全生存率の改善を認めており10),またtrabectedinも脂肪肉腫および平滑筋肉腫においてdacarbazine と比較し無増悪生存率の有意な改善を認めたと報告されている。

以上より,本稿では,後腹膜肉腫に関しての十分なエビデンスがあるとは言えないので,進行再発・転移性後腹膜肉腫に対して,薬物療法を行うことの是非については十分な評価ができないと記載した。

なお,わが国においても2019 年6 月より,多数の遺伝子変異を一度に検出できるがん遺伝子パネル検査が保険適用となった。またがんゲノム医療を提供するがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院の整備が進んでいる。現在,NCC オンコパネル,FoundationOne CDx,FoundationOne Liquid CDx の3 つの検査が承認を得ている。

また遺伝子パネル検査の結果に基づいて使用することができる薬剤のうち,肉腫に関連する可能性があるものとして,2019 年にentrectinib が,また2021 年にlarotrectinib が,それぞれNTRK 融合遺伝子を持つ固形腫瘍に承認された。しかしながら,肉腫におけるNTRK 融合遺伝子陽性率は成人で1.06%,小児で4.7%にとどまるとの報告がある11)

後腹膜肉腫を対象とした場合,遺伝子パネル検査によって有効な治療が見い出される可能性は,炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(inflammatory myofibroblastic tumor)に対するALK 阻害薬12)などを除いては,現時点では低いと言わざるを得ない。

参考文献

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10)
Schöffski P, Chawla S, Maki RG, et al:Eribulin versus dacarbazine in previously treated patients with advanced liposarcoma or leiomyosarcoma:a randomised, open-label, multicentre, phase 3 trial. Lancet 387:1629-1637, 2016
11)
Yoshino T, Pentheroudakis G, Mishima S, et al:JSCO-ESMO-ASCO-JSMO-TOS:international expert consensus recommendations for tumour-agnostic treatments in patients with solid tumours with microsatellite instability or NTRK fusions. Ann Oncol 31:861-872, 2020
12)
Schöffski P, Sufliarsky J, Gelderblom H, et al:Crizotinib in patients with advanced, inoperable inflammatory myofibroblastic tumours with and without anaplastic lymphoma kinase gene alterations(European Organisation for Research and Treatment of Cancer 90101 CREATE):a multicentre, single-drug, prospective, non-randomised phase 2 trial. Lancet Respir Med 6:431-441, 2018

CQ11
切除不能後腹膜肉腫において,放射線治療の実施は推奨されるか?

推奨の強さ
エビデンスの強さD
切除不能後腹膜肉腫に対する放射線治療について,現時点では明確な推奨を提示できない。
(合意率:91%(10/11))
エビデンスの強さ(A,B,C,D)
■D:効果の推定値がほとんど確信できない

解説文

「軟部腫瘍診療ガイドライン2020(改訂第3 版)」では軟部悪性腫瘍の主たる治療方針は外科的完全切除であり,放射線治療は手術に併用した時の局所制御率向上のエビデンスにより補助療法として推奨されている。その一方で軟部腫瘍治療のアルゴリズムでは切除不能な悪性腫瘍に対する治療ストラテジーとして化学療法と放射線療法が併記されているが,その根拠については定かでなく,日常臨床で行われてきたとのみ記述されているにすぎない。四肢発生例では進行例であっても切断により治癒切除が可能なのに対し,ここでいう切除不能原発病巣に,後腹膜を含む体幹部発生腫瘍の多くが該当する。実臨床で切除不能な局所病変を持つ患者の一次治療として,放射線あるいは化学療法以外に選択できる治療手段がないため,それらの有効性を検証する目的で無治療を対照とした比較試験により直接的なエビデンスを確立することは困難である。そのため手術と併用した補助放射線療法と手術単独との比較により得られたエビデンスから示唆される抗腫瘍効果を根拠として,放射線療法が切除不能病変に適用されてきたという経緯がある。近年ではさらに高い有効性を期待して粒子線治療を適用されることが多くなってきているが,重粒子線については他稿において検討されている。

本稿では,後腹膜発生肉腫における切除不能症例を対象に,放射線治療の実施について検討した。①生存率の改善,②局所制御率の改善,③有害事象の発生の3 つのアウトカムを設定して文献を検索したが,該当する文献は2 報と少なく,直接的に介入を比較したものはなかった。

組織拡張機(tissue expander)を用いて腸管を変位後に3 次元体放射線療法(3D conformal RT)を術前に行った38 例の報告1)において,切除不能であった11 例で予後の記載があった。それらの生存期間中央値は48 ヵ月(9〜77 ヵ月)であり,最終観察時には全員の死亡が確認されている。そのうち,初発腫瘍5 例の全生存期間は3 年,5 年でそれぞれ20%,0%であり,再発腫瘍6 例では5 年全生存期間は80%であった。なお,切除不能症例の局所制御については記載がなかった。合併症は全38 例で膀胱炎1 例,イレウス(保存治療)1 例であった。

切除不能後腹膜軟部肉腫21 例を対象に3D conformal RT を術前に行った報告2)では照射後に3 例が全切除可能となった。3 年,5 年全生存率はそれぞれ67%,33%,また3 年,5 年局所制御率はそれぞれ90%,60%であった。合併症は5 名に発生し,イレウス2 例,肝膿瘍,下肢浮腫,皮膚壊死がそれぞれ1 例発生した。

いずれの文献も切除不能症例に対する放射線照射の成績についての報告ではあるが,非照射症例との直接比較がないため,照射の有用性についてのエビデンスの有無を判定することはできなかった。益と害のバランスについても明確な判断はできない。また,患者の価値観や好み,負担の確実さの観点では放射線の有害事象を忌避する患者は少なくない。一方で,切除が不可能な腫瘍では局所をターゲットとした治療手段が他にないことから放射線を希望する患者も少なくないと考えられ,放射線治療の志向において確実性はない。さらに,照射によりコストに見合った利益があるか否かも不明である。以上より,本CQ に対して,ガイドライン委員会では91%の合意をもって「現時点では明確な推奨を提示できない」と判定した。

参考文献

1)
White JS, Biberdorf D, DiFrancesco LM, et al:Use of tissue expanders and pre-operative external beam radiotherapy in the treatment of retroperitoneal sarcoma. Ann Surg Oncol 14:583-590, 2007
2)
Greiner RH, Munkel G, Blattmann H, et al:Conformal radiotherapy for unresectable retroperitoneal soft tissue sarcoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys 22:333-341, 1992