はじめに

一般社団法人 日本癌治療学会理事長
北川雄光

がん診療ガイドラインの策定,普及は国民が安心してどこでも標準的ながん診療を受けられる状況を構築するうえで極めて重要な事業であり,がん対策基本法の制定,施行のもとさらなる推進が図られています。がん医療の質の向上,均霑化のためには,診療ガイドラインの実践状況を客観的に評価し,さらなる普及に資する事業の重要性も注目されています。本学会は領域職種横断的ながん診療に貢献する学術団体として従前より,がん診療ガイドラインに関与する各種学術団体の情報交換,標準化,一般への普及に注力して参りました。

本学会のこの活動への着手は,2001 年の臨床腫瘍データベース委員会の発足に端を発します。同委員会では関係する専門学会,研究会への協力を要請し,同委員会分科会委員を介して各種ガイドライン作成作業に関与するとともに,同委員会に独立した評価委員会を設置しました。こうして,同委員会の活動は各専門学会,研究会とともにがん診療ガイドラインの策定作業への参画,公開,評価を行ってきました。

2004 年には臨床腫瘍データベース委員会をがん診療ガイドライン委員会に名称変更し,現在までに本学会ホームページにおいて23 臓器3 領域にのぼるガイドラインを公開してきました。また,制吐薬適正使用ガイドラインをはじめがん診療に共通するさまざまな支持療法に関するガイドラインの策定に関与し,公開してきました。さらに,厚生労働省委託事業として運営されている日本医療機能評価機構による公開事業,国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス事業とも相互に連携しながら診療ガイドラインの公開,一般への普及に努力して参りました。本学会ホームページに掲載されたがん診療ガイドラインへのアクセス数も年々増加し,臨床医および国民の皆様の関心の高まりが感じられます()。

診療ガイドラインは時代とともにその在り方も変遷し,エビデンスの確かさのみならず,患者さんの要望,意向,診療の益と害のバランス,医療コストの評価などさまざまな要素を加味した「エビデンス総体」の評価が行われるようになりました。本学会では,ガイドライン策定,評価手法も含めてその標準化,均霑化をはかり,がん診療の質の向上に貢献していきたいと考えております。

最後に本事業の着想,開始からリーダーシップを発揮して頂いた歴代理事長の杉町圭蔵先生,北島政樹先生,門田守人先生,前原喜彦先生,西山正彦先生ならびに歴代委員長の佐治重豊先生,平田公一先生,池田 正先生,石岡千加史先生,藤原俊義先生はじめ,各専門学会,研究会から本活動にご尽力頂いたすべての皆様に心より感謝の意を表して,序にかえさせていただきます。