構造化抄録について
日本癌治療学会がん診療ガイドライン委員会における構造化抄録は,原則として財団法人日本医療技能評価機構“Minds”のフォーマットを用いている。Mindsは厚生労働省の委託を受けた日本医療技能評価機構が,日本人に多い疾患の標準的治療を広く国民に公表するためのサイトである。厚生労働省は乳がん,肺がん,胃がん,肝がん,前立腺がんについての研究班を組織して,肺がん,胃がん,肝がんについてはMindsホームページ(http://minds.jcqhc.or.jp/to/index.aspx)上にすでに公表されている。日本癌治療学会はこれらのがん種を含めた23がん種および症状緩和についてサイトアップを予定しているが,Mindsとの互換性を保持するため構造化抄録は日本医療技能評価機構の了承のもと同一のフォーマットを使用することとした。
Mindsの構造化抄録には一次研究用フォームとレビュー研究用フォームの2種類がある。両者に共通なのは基本情報(対象疾患),タイトル情報(論文タイトル,英文の場合は和訳),診療ガイドライン情報(ガイドラインでの引用の有無),書誌情報〔研究デザイン,PubMed ID,医中誌ID,雑誌名,雑誌ID,巻,号,ページ,ISSNナンバー,雑誌分野(医学,歯学,看護,その他),原本言語(日本語,英語,ドイツ語,その他),発行年月〕,著者,レビュワーコメントである。このほか一次研究用フォームについては8項目が記載される。すなわち目的,研究デザイン,セッティング,対象者情報(国籍,性別,年齢),介入(要因曝露),エンドポイント(アウトカム),主な結果,結論である。レビュー研究用フォームには目的,データソース,研究の選択,データ抽出,主な結果,結論,結果の6項目が記載される。Mindsではレビュワーコメントをさらに文献レビュワーと疾患レビュワーの二本立てとしているが,日本癌治療学会ガイドラインでは各専門学会医師のコメントが記載されるため,Mindsの疾患レビュワーコメントのみの記載となる。構造化抄録の一例(一次研究用フォーム)を末尾に示した。本例はMSワード用フォーマットであるが,エクセル用のフォーマットも用意されており個別学会により両者が選択されている。
構造化抄録で重要かつ労力を要する部分は一次研究用フォームの8項目,レビュー研究用フォームの6項目とレビュワーコメントである。他の部分は疾患専門家以外の例えば図書館司書などの方がむしろ適任な場合があり,実際Mindsでは,文献選択および疾患レビューを除く多くの作業を外注ないし非MDの職員が担当している。構造化抄録の本体ともなる8,6項目については,abstractのみで判明する明快な論文も存在するが,多くの場合は,論文を通読して主にIntroductionから目的とエンドポイントを,Materials and Methodsから採用基準,介入方法,ランダム化方法,エンドポイント測定方法,検出力分析の実行を,Resultからアウトカム,主な結論を読み取る必要がある。さらにレビュワーコメントについては疾患専門医が実際に当該疾患の診療に携わり,学会・論文などで得た知識と照らし合わせて対象論文を吟味し,エビデンスレベルを評価する必要がある。いずれにしても構造化抄録はエビデンスレベルの評価と勧告の強さを決定する基本となる重要な情報であり,十分な論文の吟味,明確な結果の表示,適切なレビュワーコメントが必要とされる。
(構造化抄録フォーマット供与については日本医療技能評価機構の山口直人理事からご理解をいただきました。深謝いたします。)
(久保田哲朗)
参考文献:
森實敏夫、他:EBM実践のための医学文献評価選定マニュアル.ライフサイエンス社,2004,東京.