将来計画について
近年さまざまながん腫におけるガイドラインや抗がん剤、支持療法薬のガイドラインが次々と上梓されている。この動きは欧米に比べてやや遅れをとっていたもののそれぞれの分野の専門家諸氏が高邁な使命感につき動かされて急速に整備されてきた。これらはEBMの積み上げに基づく治療の発信と普及が主たる目的ではあるが、それまでの自己中心的でempiricな部分を排除してすべての患者に利益の高い標準的治療がいきわたるように考案されてきたものである。これらはがん治療を専門とする医師はもちろん、primary careをはじめ一般診療にあたる医師、さらには研修途上にある若手医師たちにもtextbookとして必須のものである。しかし、このガイドラインを医療者側だけが認識しているという一方的事実は情報公開の社会通念上はいうまでもなく倫理的に許されて良いはずはない。すべての人々がガイドラインの内容を把握していてはじめて医療者側と被医療者側の信頼が生まれinformed consentの意義が確立するものと信ずる。
一方で一つ一つのがん種にそれぞれのガイドラインがあることから、日進月歩する内容を紙ベースで更新しながら手元に置くことはほとんど不可能といっても良く、結局は情報の散逸につながるであろう。昨今のIT技術と知識の普及は目覚しいものがあり広く大衆に情報を知らしめるには、インターネットを通じた情報の発信が最も効率的で有効な方法であることに異論はないと考える。この普遍性を利用した手法がさまざまな分野で全世界的に応用されていることでも明らかであろう。がん診療のすべての分野を網羅した学問研究を主眼とする日本癌治療学会が先導したがん診療ガイドラインウェブ化は当然の義務の完遂であるといえる。さらに一歩進んでがん診療ガイドラインのウェブ化にあたっては全国民の福祉と権利を尊重した情報の一般公開作業が必要で、このことによって一般の人々がいながらにしてがん種にかかわらず診療の実態を把握し、EBMに基づいた厳格な治療への参加が容易になるといえる。患者が医師と面談しながらウェブサイトを開いてお互いに内容を確認しながら信頼を鎹に治療について話し合う光景が一般的になるよう、あらゆるがん種を網羅した最新のガイドラインの公開作業を急ぐものである。
(坂田 優)