造血器腫瘍 〜治療ガイドライン
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I.白血病
1
急性骨髄性白血病
(acute myeloid leukemia:AML)
(acute myeloid leukemia:AML)
◆総論
1.AML の病態と治療
急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)は分化・成熟能が障害された幼若骨髄系細胞のクローナルな自律性増殖を特徴とする多様性に富む血液腫瘍である。骨髄における白血病細胞の異常な増殖の結果,正常な造血機能は著しく阻害され,白血球減少,貧血,血小板減少に伴うさまざまな症状を呈する。適切な治療がなされない場合は,感染症や出血により短期間で致死的となる重篤な疾患である。
初発AML に対する基本的な治療戦略は治癒を目指した強力な化学療法であり,多剤併用療法が基本となる。しかし,その適応は化学療法による臓器毒性や合併症に耐えられるかを年齢,臓器機能,全身状態などによって慎重かつ厳密に判断する必要がある(表1)1)2)。AML に対する化学療法は寛解導入療法と,寛解が得られた後に行う寛解後療法からなる。化学療法のみでは良好な長期予後が得られない症例に対しては,第一寛解期で同種造血幹細胞移植が適応となる。
寛解導入療法に対する不応例や,完全寛解(complete remission:CR)に到達したものの,その後再発をきたした症例は,再発・難治例として救援療法が必要となる。しかし,再発・難治例においては化学療法のみでの治癒は期待しがたいため,可能な症例では同種造血幹細胞移植が適応となる。
高齢者AML では,臓器機能などの患者側要因により,若年成人と同等の治療強度を持つ化学療法を一律に実施することは困難である。全身状態や臓器機能が充分に保たれている場合には化学療法の適応となるが,一般的に高齢者AML に対する化学療法は治療関連合併症の頻度・程度が高く,強力化学療法の適応は慎重に判断しなければならない。
項目 | 基準 |
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年齢 | 65 歳未満 |
心機能 | 左室駆出率(LVEF)50%以上 |
肺機能 | PaO2M/ 60Torr 以上またはSpO2 90%以上(room air) |
肝機能 | 血清ビリルビン2.0 mg/dL 以下 |
腎機能 | 血清クレアチニン施設基準値の上限の1.5 倍以下 |
感染症 | 制御不能の感染症の合併なし |
JALSG(日本成人白血病治療共同研究グループ)における臨床第Ⅲ相試験で定める適格規準などを参考に強力化学療法を行うにあたり上記規準が目安となるが,患者の全身状態やその他の合併症を考慮して総合的に判断する必要がある。
2.AML の診断と病型分類
AML の診断は,①骨髄における白血病細胞の存在(WHO 分類では20%以上,FAB 分類では30%以上),②白血病細胞が骨髄系起源であること,③白血病細胞の染色体核型・遺伝子変異解析によって行われ,その後WHO 分類(2008)によって病型分類される(表2)3)。従来汎用されてきたFAB 分類はde novo AML のみを対象としてきたが,WHO 分類では治療関連AML と骨髄異形成に関連した変化を有するAML およびAML 関連前駆細胞性腫瘍(骨髄肉腫,芽球形質細胞様樹状細胞腫瘍)を含むとともに,反復遺伝子異常を有するAML とダウン症に伴う骨髄増殖症を一つのカテゴリーとして定義している。WHO 分類ではこれらカテゴリーに該当しない症例を分類不能のAML(AML, not otherwise specified)としているが,その細分類にはFAB 分類における形態学的・免疫組織学的診断が用いられる4)。
Acute myeloid leukemia with recurrent genetic abnormalities
Therapy-related myeloid neoplasms Acute myeloid leukemia, not otherwise specified
Myeloid proliferations related to Down syndrome Blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasms |
3.AML の予後因子
標準的な化学療法を受けた若年成人AML 全体では,70〜80%のCR と40%前後の5 年無再発生存が得られるが,種々の予後因子により予後良好群,中間群,不良群の3 種類に区別される。
AML の予後には患者側要因と白血病細胞側要因の双方が関係するとともに,治療反応性も長期予後に影響を及ぼす因子となる(表3)2)5)〜7)。
患者側要因として,年齢(60 歳以上),全身状態(Performance Status:PS 3 および4),合併症の存在(感染症など)が予後不良因子として重要である。
白血病細胞側要因として,染色体核型,発症様式(de novo または二次性),初診時白血球数,細胞形態(異形成の有無,FAB 病型,myeloperoxidase:MPO 染色陽性率)が予後因子となる。
近年,染色体異常のみならず,種々の遺伝子変異が予後因子として重要であることが報告されており,特にAML の約1/4 に認められる正常染色体核型(予後中間群)の予後を細分化する因子として注目されている。NPM1 遺伝子変異陽性例は寛解導入率に対して良好な因子である。CEBPA 遺伝子変異は寛解導入と長期予後に対する良好な因子として知られる。一方,FLT3-ITD 遺伝子変異は長期予後に対する不良因子として重要である。これら遺伝子変異と従来の染色体核型に基づく予後因子を組み合わせた,新たな予後層別化システムがEuropean LeukemiaNet より提唱されている(表4)8)。
層別化因子 | 良好となる因子 | 不良となる因子 |
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年齢 | 50 歳以下 | 60 歳以上 |
全身状態(PS) | PS 2 以下 | PS 3 以上 |
発症様式 | de novo | 二次性 |
染色体核型 | t (8;21)(q22;q22) inv (16)(p13.1q22) t (16;16)(P13.1;q22) t (15;17)(q22;q21) |
3q異常[inv (3)(q21q26.2) t (3;3)(q21;q26.2)など] 5 番・7 番染色体の欠失または長碗欠失 t (6;9)(p23;q24)複雑核型 |
遺伝子変異 | NPM1 変異 CEBPA 変異 |
FLT3-ITD 変異 |
寛解までに要した治療回数 | 1 回 | 2 回以上 |
ELN Genetic Risk Group | Subsets |
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Favorable |
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Intermediate-I |
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Intermediate-II |
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Adverse |
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【参考文献】
1) Ohtake S, et al. Randomized study of induction therapy comparing standard-dose idarubicin with highdose daunorubicin in adult patients with previously untreated acute myeloid leukemia : the JALSG AML201 Study. Blood. 2011 ; 117(8) : 2358-65.(1iiDiv)
2) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Acute Myeloid Leukemia. Version 2. 2012.(ガイドライン)
3) Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2008.
4) Bennett JM, et al. Proposed revised criteria for the Classification of acute myeloid leukemia. A report of the French-American-British Cooperative Group. Ann Intern Med. 1985 ; 103(4) : 620-5.
5) Grimwade D, et al. The importance of diagnostic cytogenetics on outcome in AML : analysis of 1,612 patients entered into the MRC AML 10 trial. The Medical Research Council Adult and Children’s Leukaemia Working Parties. Blood. 1998 ; 92(7) : 2322-33.(3iiiD)
6) 日本血液学会.日本リンパ網内系学会編.造血器腫瘍取扱い規約 第1 版.2010 年3 月.(ガイドライン)
7) Kuriyama K, et al. Trial to extract prognostic factors prior to the start of induction chemotherapy for adult AML. Berlin : Springer. 1998 ; pp901-5.
8) Dohner H, et al. Diagnosis and management of acute myeloid leukemia in adults : recommendations from an international expert panel, on behalf of the European LeukemiaNet. Blood. 2010 ; 115(3) : 453-74.(レビュー)
◆アルゴリズム
(※)CQ番号(ピンク色部分)をクリックすると,解説画面へ移動します
1.若年者AML
AML と診断された場合は上記のアルゴリズムに従うことが推奨される。若年AML に対する標準的寛解導入療法はアントラサイクリン+標準量シタラビン(AraC)(CQ2)である。その際のアントラサイクリン系薬剤の至適な種類と投与量は一つに限定されないが,高用量ダウノルビシン(DNR)またはイダルビシン(IDR)(常用量)の使用が推奨される(CQ2)。1 コース目の寛解導入療法で非寛解症例に対しては同一レジメンが繰り返されることが多く(CQ5),2 コース目の治療でも寛解が得られない場合は,大量あるいは中等量Arac を含む救援療法が行われる。
地固め療法は染色体などの予後因子により層別化して行われる。予後良好群に対しては,AraC 大量療法(CQ6, 7)が,予後中間群,不良群に対しては同種造血幹細胞移植が推奨されるが(CQ9),適切なドナーが不在の場合は,非交差耐性のアントラサイクリン系薬剤を含んだレジメンが実施される(CQ8)。維持療法の有用性は明らかではない。
2.高齢者AML
高齢者の定義は定かではないが,わが国では65 歳以上とすることが多い。標準的な治療が可能かどうかは,PS や合併症,さらには染色体分析の結果を参考に担当医師により判断される。治療可能と判断された症例に対してはDNR+AraC またはDNR+エノシタビン(BHAC)が推奨される(CQ4)。高齢者AML に対する標準的寛解後療法は確立されてないが,わが国では,非交差耐性のアントラサイクリン系薬剤を含む多剤併用レジメンが実施されることが多い。最近では,予後不良の症例には寛解後療法として骨髄非破壊的前処置による同種造血幹細胞移植も行われることがある。標準治療は困難だが,治療は可能と判断された症例には,低用量AraC や新規薬剤による治療が行われる。
CQ1 | AMLの診断時に必要な遺伝子検査は何が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- 染色体核型検査は病型分類,予後予測,治療法選択において必須である。WHO 分類では染色体正常核型の症例においてはFLT3,NPM1,CEBPA 遺伝子変異の解析を行うことが推奨されている。
【解 説】
AML 細胞の染色体核型は,寛解導入療法に対する反応性および生存に対する最も強い予後因子であり,WHO 分類における病型診断,さらには治療法の選択においても重要な情報となる。
若年成人においては,染色体核型に基づき,予後良好群,中間群,不良群の3 群に分類される1)2)。NCCN ガイドラインでは,t (8;21)(q22;q22),inv (16)(p13.1q22) またはt (16;16)(p13.1;q22) が予後良好な染色体核型,inv (3)(q21q26.2) またはt (3;3)(q21;q26.2),-5 または del (5q),-7 またはdel (7q),t (6;9)(p23;q34),複雑核型が予後不良染色体核型とされ,それ以外の核型は予後中間群に分類される。MLL 遺伝子(11q23)を含む染色体転座は予後不良群とされていたが,t (9;11)(p22;q23) については予後中間群に分類される。MRC AML-11 試験の結果によると,高齢者AML においてもこれらの染色体核型に基づく層別化が該当することが示されている3)。
一方,予後良好群として分類されているt (8;21)(q22;q22),inv (16)(p13.1q22) またはt (16;16)(p13.1;q22) 核型を有する症例においても,KIT,FLT3 遺伝子変異を併せ持つ症例は予後不良である可能性があることや,染色体正常核型を中心とする予後中間群においては,FLT3,NPM1,CEBPA 遺伝子などをはじめとする多くの遺伝子変異の存在の有無により,その長期予後が異なる可能性が示唆されている4)。WHO 分類(2008)においてもNPM1,CEBPA 遺伝子変異を有する症例はAML with recurrent genetic abnormalities 中の暫定的な一病型(provisional entity)として記載されているとともに,染色体正常核型の症例においてはFLT3,NPM1,CEBPA 遺伝子変異の解析を行うことが推奨されている5)。
本邦においてはこれら遺伝子変異検索の保険適用が得られておらず,また多くの遺伝子変異解析は研究室レベルでのみ実施可能である。
European LeukemiaNet は,FLT3,NPM1,CEBPA 遺伝子変異の解析は臨床試験においては行うべきであるが,日常臨床においては,染色体正常核型の場合に解析を推奨するとしている6)。
【参考文献】
1) Grimwade D, et al. The importance of diagnostic cytogenetics on outcome in AML : analysis of 1,612 patients entered into the MRC AML 10 trial. The Medical Research Council Adult and Children’s Leukaemia Working Parties. Blood. 1998 ; 92(7) : 2322-33.(3iiiD)
2) Slovak ML, et al. Karyotypic analysis predicts outcome of preremission and postremission therapy in adult acute myeloid leukemia : a Southwest Oncology Group/Eastern Cooperative Oncology Group Study. Blood. 2000 ; 96(13) : 4075-83.(3iiiD)
3) Grimwade D, et al. The predictive value of hierarchical cytogenetic classification in older adults with acute myeloid leukemia (AML) : analysis of 1065 patients entered into the United Kingdom Medical Research Council AML11 trial. Blood. 2001 ; 98(5) : 1312-20.(3iiiD)
4) Marcucci G, et al. Molecular genetics of adult acute myeloid leukemia : prognostic and therapeutic implications. J Clin Oncol. 2011 ; 29(5) : 475-86.(レビュー)
5) Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2008.
6) Döhner H, et al. Diagnosis and management of acute myeloid leukemia in adults : recommendations from an international expert panel, on behalf of the European LeukemiaNet. Blood. 2010 ; 115(3) : 453-74.(レビュー)
CQ2 | 若年者de novo AML に対する標準的寛解導入療法としてどのレジメンが勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー1
- 若年成人de novo AML に対する標準的寛解導入療法はアントラサイクリン(イダルビシンまたは高用量ダウノルビシン)+ 標準量シタラビンである。
【解 説】
従来,60 歳未満の若年成人de novo AML に対する標準的寛解導入療法は,ダウノルビシン(DNR)45〜60 mg/m2 3 日間+シタラビン(AraC)100 mg/m2 または200 mg/m2 7 日間持続投与の“3+7”療法であったが,イダルビシン(IDR)+AraC とDNR+AraC との比較試験およびメタアナリシスの結果,IDR+AraC のDNR+AraC に対する優越性が報告された1)。しかし,従来のDNR 投与量(45〜60 mg/m2)はIDR 投与量(12 mg/m2)と比較して,生物学的に少ないことが指摘された。
Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)では,60 歳未満のde novo AML に対し増量DNR(90 mg/m2)3 日間+AraC(100 mg/m2)7 日間と従来のDNR(45 mg/m2)3 日間+AraC(100 mg/m2)7 日間とのランダム化比較試験を実施し,寛解率,生存割合ともに高用量DNR(90 mg/m2)群が有意に優れていたことから,DNR+AraC“3+7”療法におけるDNR 至適投与量は90 mg/m2 3 日間であることが示された2)。
DNR(90 mg/m2)+AraC とIDR+AraC との比較試験は行われていないが,Japan Adult Leukemia Study Group(JALSG)で実施されたDNR(50 mg/m2)5 日間+AraC とIDR+AraC とのランダム化比較試験(AML 201 stydy)の結果では,寛解率および生存割合ともに同等性が示されている3)。
その他のアントラサイクリン系薬剤として,ミトキサントロン(MIT)(12 mg/m2)とDNR(45 mg/m2)との比較試験が行われているが,生存割合に有意差は認められていない4)。
したがって,若年成人de novo AML に対する標準的寛解導入療法は,IDR+AraC または高用量DNR+AraC である。ただし,高用量DNR の投与法として,DNR(90 mg/m2)3 日間とDNR(50 mg/m2)5 日間の比較試験は実施されていない。
【参考文献】
1) A systematic collaborative overview of randomized trials comparing idarubicin with daunorubicin (or other anthracyclines) as induction therapy for acute myeloid leukaemia. The AML Collaborative Group. Br J Haematol. 1998 ; 103(1) : 100-9.(1iiA)
2) Fernandez HF, et al. Anthracycline dose intensification in acute myeloid leukemia. N Engl J Med. 2009 ; 361(13) : 1249-59.(1iiDiv)
3) Ohtake S, et al. Randomized study of induction therapy comparing standard-dose idarubicin with highdose daunorubicin in adult patients with previously untreated acute myeloid leukemia : the JALSG AML201 Study. Blood. 2011 ; 117(8) : 2358-65.(1iiDiv)
4) Arlin Z, et al. Randomized multicenter trial of cytosine arabinoside with mitoxantrone or daunorubicin in previously untreated adult patients with acute nonlymphocytic leukemia (ANLL). Lederle Cooperative Group. Leukemia. 1990 ; 4(3) : 177-83.(1iiA)
CQ3 | 若年者de novo AML の寛解導入療法(アントラサイクリン+標準量シタラビン)に他の薬剤の追加やシタラビン大量療法の組み込みは有効か |
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推奨グレードカテゴリー3
- 標準的寛解導入療法であるアントラサイクリン(イダルビシンまたはダウノルビシン)+標準量シタラビン療法に他剤を追加した場合の優越性は認められていない。また,シタラビン大量療法を組み入れた場合の優越性のエビデンスは乏しく,有害事象の危険性が増すため推奨されない。
【解 説】
アントラサイクリン[イダルビシン(IDR)またはダウノルビシン(DNR)]3 日間+標準量シタラビン(AraC)7 日間による寛解導入療法にチオグアニンやエトポシド(ETP)を加えた場合の優越性に関するエビデンスは乏しい。Australian Leukemia Study Group(ALSG)では,DNR(50 mg/m2)3 日間+AraC(100 mg/m2)7 日間とDNR(50 mg/m2)3 日間+AraC(100 mg/m2) 7 日間+ETP(75 mg/m2)7 日間とのランダム化比較試験が行われた。寛解期間中央値はエトポシド追加群で有意に長期であった(18 カ月vs 12 カ月)が,寛解率,生存割合では両群間に有意差を認めていない1)。
寛解導入療法におけるAraC 大量療法(HiDAC)の意義については,ALSG とSouthwestern Oncology Group(SWOG)でランダム化比較試験が実施されている。
ALSG ではDNR(50 mg/m2)3 日間+ETP(75 mg/m2)7 日間+AraC(100 mg/m2)7 日間とDNR(50 mg/m2)3 日間+ETP(75 mg/m2)7 日間+AraC(3 g/m2)12 時間毎4 日間のランダム化比較試験が実施された。5 年無再発生存割合(RFS)はHiDAC 群が有意に優れていた(48% vs 25%)が,生存割合,寛解率では有意差を認めていない2)。
SWOG ではDNR(45 mg/m2)3 日間+AraC(200 mg/m2)7 日間とDNR(45 mg/m2)3 日間+AraC(2 g/m2)12 時間毎6 日間のランダム化比較試験が実施された。4 年RFS はHiDAC 群が優れていた(33% vs 21%,p=0.049)が,生存割合,寛解率では有意差を認めていない。また,HiDAC 群では有意に治療関連死亡(TRM)と神経毒性が高頻度に認められている3)。
HiDAC と高用量DNR またはIDR 併用療法に関するエビデンスはない。
標準的寛解導入療法であるアントラサイクリン(DNR またはIDR)+標準量AraC 療法に他剤の追加した場合,およびHiDAC 療法を組み入れた場合の優越性に関するエビデンスは乏しい。また,HiDAC を組み入れた場合にはTRM,神経毒性などの有害事象の危険性が増すため,HiDAC の組み入れは推奨されない。
【参考文献】
1) Bishop JF, et al. Etoposide in acute nonlymphocytic leukemia. Australian Leukemia Study Group. Blood. 1990 ; 75(1) : 27-32.(1iiDiv)
2) Bishop JF, et al. A randomized study of high-dose cytarabine in induction in acute myeloid leukemia. Blood. 1996 ; 87(5) : 1710-7.(1iiA)
3) Weick JK, et al. A randomized investigation of high-dose versus standard-dose cytosine arabinoside with daunorubicin in patients with previously untreated acute myeloid leukemia : a Southwest Oncology Group study. Blood. 1996 ; 88(8) : 2841-51.(1iiA)
CQ4 | 高齢者AML に対して推奨される寛解導入療法は何か |
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推奨グレードカテゴリー2A
- 60 歳から65 歳までの高齢者AML においては,若年成人と同等の寛解導入療法を実施した方が良好な寛解率と生存割合が期待できる。しかし,高齢者AML では全身状態(PS),併存症などの程度により,治療強度の軽減やbest supportive care の選択を検討することが必要である。
【解 説】
高齢者の定義は明確ではないが,一般的に60 歳以上のAML 患者では,暦年齢だけではなく,全身状態(performans status:PS)や併存症ならびにAML の特性(染色体核型や発症様式)によって治療法の選択を行うべきである。
高齢者AML に対する寛解導入療法で若年者と同様に標準的寛解導入化学療法を行う場合と,低用量の治療ないしbest supportive care を比較する前方向視的試験では,標準的寛解導入療法群は寛解率・生存割合ともに成績が勝ることが示されている1)。しかし,高齢者AML においてはPS,合併症が治療成績に及ぼす影響が強いことに留意する必要がある。合併症がなく良好な全身状態(PS 0〜1)であり,予後良好な染色体核型を有する高齢者AML では,年齢に関係なく標準的なアントラサイクリン3 日間+標準量シタラビン(AraC)7 日間からなる寛解導入療法の恩恵を受けることができる可能性がある。しかし,75 歳以上,あるいは60〜74 歳までの患者であっても重篤な併存症やPS 3 以上の場合には,治療関連死亡(TRM)の危険性が高いため,他の治療強度の低い治療法またはbest supportive care を選択すべきである2)。MRC AML14 試験では,低用量AraC(20 mg/m2 皮下注1 日2 回)療法においても,30 日以内のTRM は26%に認めている3)。
Dutch-Belgian Hemato-Oncology Cooperative Group(HOVON)/Swiss Group for Clinical Cancer Research(SAKK)/German AML Study Group(AMLSG)では,60 歳以上の高齢者AML に対し,標準量のダウノルビシン(DNR)(45 mg/m2)+AraC と高用量DNR(90 mg/m2)+AraC 療法のランダム化比較試験が実施された。高用量DNR(90 mg/m2)群は標準量のDNR 群に比較して有意に高い寛解率を示したが,生存割合に有意差を認めていない。年齢別に解析した場合,60〜65 歳までの症例においてのみ,高用量DNR(90 mg/m2)群は標準量のDNR 群に比較して有意に高い寛解率と生存割合を示している4)。Japan Adult Leukemia Study Group(JALSG)においては,65 歳未満のAML は同じ治療強度が選択されているが重篤な有害事象は報告されていない5)。
年齢,PS,合併症などに基づく高齢者AML に対する治療強度の減弱規準に関しての明確なエビデンスはない。JALSG GML200 試験では,65〜69 歳までの症例に対してはDNR(40 mg/m2)3 日間+エノシタビン(BHAC)(200 mg/m2)8 日間,70 〜 79 歳の症例に対してはDNR(30 mg/m2)3 日間+BHAC(200 mg/m2)8 日間による寛解導入療法が実施されており,年齢に基づくDNR 投与量の目安になると思われる6)。
【参考文献】
1) Löwenberg B, et al. On the value of intensive remission-induction chemotherapy in elderly patients of 65+years with acute myeloid leukemia : a randomized phase Ⅲ study of the European Organization for Research and Treatment of Cancer Leukemia Group. J Clin Oncol. 1989 ; 7(9) : 1268-74.(1iiA)
2) Döhner H, et al. Diagnosis and management of acute myeloid leukemia in adults : recommendations from an international expert panel, on behalf of the European LeukemiaNet. Blood. 2010 ; 115(3) : 453-74.(レビュー)
3) Burnett AK, et al. A comparison of low-dose citarabine and hydroxyurea with or without all-trans retinoic acid for acute myeloid leukemia and high-risk myelodysplastic syndrome in patients not considered fit for intensive treatment. Cancer. 2007 ; 109(6) : 1114-24.(1iiA)
4) Löwenberg B, et al. High-dose daunorubicin in older patients with acute myeloid leukemia. N Engl J Med. 2009 ; 361(13) : 1235-48.(1iiA)
5) Ohtake S, et al. Randomized study of induction therapy comparing standard-dose idarubicin with highdose daunorubicin in adult patients with previously untreated acute myeloid leukemia : the JALSG AML201 Study. Blood. 2011 ; 117(8) : 2358-65.(1iiDiv)
6) Wakita A, et al. Randomized comparison of fixed-schedule versus response-oriented individualized induction therapy and use of ubenimex during and after consolidation therapy for elderly patients with acute myeloid leukemia : the JALSG GML200 Study. Int J Hematol. 2012 ; 96(1) : 84-93.(1iiiDiv)
CQ5 | 1 回の寛解導入療法で完全寛解が得られない場合,どのような治療法を選択すべきか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 同一の寛解導入療法をもう一度繰り返すべきか,治療法を変えるべきかのエビデンスは存在しない。しかし,一定度の寛解が得られることから,同一の寛解導入療法を再度繰り返すことは妥当と考えられる。
【解 説】
わが国におけるAML の寛解導入療法はJapan Adult Leukemia Study Group(JALSG)のプロトコールで行われることが多い。JALSG ではこれまでAML87,89,92,95,97,201 の研究を終了し,現在AML209 研究を実施している。いずれのプロトコールでも1 コース目で寛解しなかった場合は,もう1 コース同じ治療を繰り返すことになっている。これらの成績では1 コースでの寛解率は57〜72%と差があるものの,いずれの研究でも寛解率はおしなべて80%前後である1)〜5)。1コースで寛解しなかった症例では1 コース目の抗白血病剤に抵抗性である場合が多く,同じ治療法を用いた場合の2 コース目の寛解率は低く,治療薬を代えることの理由にはなる。しかし,2 コース目の治療を替えたことにより,寛解率あるいは全生存割合(OS)が向上するというエビデンスはない。
【参考文献】
1) Ohno R, et al. Randomized study of individualized induction therapy with or without vincristine, and of maintenance-intensification therapy between 4 or 12 courses in adult acute myeloid leukemia. AML-87 Study of the Japan Adult Leukemia Study Group. Cancer. 1993 ; 71(12) : 3888-95.(1iiDiv/3iDiv)
2) Kobayashi T, et al. Randomized trials between behenoyl cytarabine and cytarabine in combination induction and consolidation therapy, and with or without ubenimex after maintenance/intensification therapy in adult acute myeloid leukemia. The Japan Leukemia Study Group. J Clin Oncol. 1996 ; 14 (1) : 204-13.(1iiDiv/3iDiv)
3) Miyawaki S, et al. No benefi cial effect from addition of etoposide to daunorubicin, cytarabine, and 6-mercaptopurine in individualized induction therapy of adult acute myeloid leukemia : the JALSG-AML92 study. Japan Adult Leukemia Study Group. Int J Hematol. 1999 ; 70(2) : 97-104.(1iiDiv/3iDiv)
4) Ohtake S, et al. Randomized trial of response-oriented individualized versus fixed-schedule induction chemotherapy with idarubicin and cytarabine in adult acute myeloid leukemia : the JALSG AML95 study. Int J Hematol. 2010 ; 91(2) : 276-83.(1iiDiv/3iDiv)
5) Miyawaki S, et al. A randomized, postremission comparison of four courses of standard-dose consolidation therapy without maintenance therapy versus three courses of standard-dose consolidation with maintenance therapy in adults with acute myeloid leukemia : the Japan Adult Leukemia Study Group AML 97 Study. Cancer. 2005 ; 104(12) : 2726-34.(1iiDii/3iDiv)
CQ6 | シタラビン大量療法はすべてのAML の寛解後療法として行うべきか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- AML の寛解後療法としては60 歳以下のCBF 白血病に対してシタラビン大量療法は無病生存期間の延長が期待でき推奨される。
【解 説】
Cancer and Leukemia Study Group B(CALGB)はAML 寛解後療法としてシタラビン(AraC)通常量(100 mg/m2/day,5 日間持続),中等量(400 mg/m2/day,5 日間持続)およびAraC 大量療法(3 g/m2,1 日2 回3 時間で静注,day1,3,5 に投与)の3 群を前方視的に比較した。その結果,60 歳以下でAraC 大量療法の有効性が確認された1)。
CALGB はこの研究でさらに解析を行い,core binding factor(CBF)白血病ではAraC 大量療法が最も効果が高く,正常核型でも効果を認めたが,その他の核型では効果が乏しかった2)。また,CALGB の後方視的な解析でもt (8;21)AML に対して 3 コース以上の AraC 大量療法が有効であることが示されている3)。わが国で行われた前方視的試験では,2 g/m2,1 日2 回,5 日とこれまでの多剤併用療法と比較して両群に無病生存期間(DFS),全生存期間(OS)ともに差がなかったが,CBF 白血病ではAraC 大量療法群でDFS の改善傾向が認められた4)。近年,ドイツのグループからもAraC 36 g/m2 と12 g/m2 の前方視的比較試験の成績が報告されたが,両群間でDFS/OS に差がなく,染色体によるサブグループ解析でも差がなかった5)。
【参考文献】
1) Mayer RJ, et al. Intensive postremission chemotherapy in adults with acute myeloid leukemia. Cancer and Leukemia Group B. N Engl J Med. 1994 ; 331(14) : 896-903.(1iiA)
2) Bloomfield CD, et al. Frequency of prolonged remission duration after high-dose cytarabine intensification in acute myeloid leukemia varies by cytogenetic subtype. Cancer Res. 1998 ; 58(18) : 4173-9.(2Dii)
3) Byrd JC, et al. Patients with t (8;21)(q22;q22) and acute myeloid leukemia have superior failure-free and overall survival when repetitive cycles of high-dose cytarabine are administered. J Clin Oncol. 1999 ; 17(12) : 3767-75.(3iiiDii)
4) Miyawaki S, et al. A randomized comparison of 4 courses of standard-dose multiagent chemotherapy versus 3 courses of high-dose cytarabine alone in postremission therapy for acute myeloid leukemia in adults : the JALSG AML201 Study. Blood. 2011 ; 117(8) : 2366-72.(1iiDii)
5) Schaich M, et al. Cytarabine dose of 36g/m (2) compared with 12 g/m (2) within first consolidation in acute myeloid leukemia : results of patients enrolled onto the prospective randomized AML96 study. J Clin Oncol. 2011 ; 29(19) : 2696-702.(1iiA)
CQ7 | 寛解後療法としてのシタラビン大量療法の投与量,標準的回数および期間は何が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー3
- シタラビン大量療法の標準的回数と期間に関して明確な基準は存在しない。CBF 白血病ではシタラビン大量療法は3 コース以上が推奨される。
【解 説】
シタラビン(AraC)大量療法は,AML の寛解後療法として欧米では標準治療となっている。そのランドマークとなった研究は1994 年にCancer and Leukemia Study Group B(CALGB)から報告された研究である1)。この研究では寛解症例に対してAraC 3 g/m2 6 回を4 コース繰り返した方が,400 mg/m2/日または100 mg/m2 持続点滴5 日間を4 回繰り返した治療よりも有意に無病生存期間(DFS)と全生存期間(OS)が良好であった。しかし,この研究ではどのくらいAraC を繰り返せば良いのかは示されていない。CALGB はさらに9222 研究で,3 コースのAraC 大量療 法(3 g/m2 5 日間で6 回投与)と1 コースのAraC 大量療法の後,2 コースの多剤併用化学療法を行う群とで比較試験を行ったが,両群間でDFS/OS とも統計学的な有意差は認めなかった2)。 AraC 大量療法の標準的な回数や期間に関する前方視的試験はなく,また,AraC 大量療法とアントラサイクリンを含む多剤併用療法の比較試験でも優位性は示されていない3)〜5)。一方,t (8;21) AML では3 コース以上のAraC 大量療法は1 コースのAraC 大量療法より成績は良好である6)。欧米でのAraC 大量療法は1 回投与量が3 g/m2 であることが多いが,この方法では中枢神経系合併症が多いとされており,わが国では保険上認められている用量は2 g/m2 である。これらの事情を考慮して治療を選択する必要がある。
【参考文献】
1) Mayer RJ, et al. Intensive postremission chemotherapy in adults with acute myeloid leukemia. Cancer and Leukemia Group B. N Engl J Med. 1994 ; 331(14) : 896-903.(1iiA)
2) Moore JO, et al. Sequential multiagent chemotherapy is not superior to high-dose cytarabine alone as postremission intensification therapy for acute myeloid leukemia in adults under 60 years of age : Cancer and Leukemia Group B Study 9222. Blood. 2005 ; 105(9) : 3420-7.(1iiDii)
3) Bradstock KF, et al. A randomized trial of high-versus conventional-dose cytarabine in consolidation chemotherapy for adult de novo acute myeloid leukemia in first remission after induction therapy containing high-dose cytarabine. Blood. 2005 ; 105(2) : 481-8.(1iiDii)
4) Schaich M, et al. Cytarabine dose of 36 g/m (2) compared with 12 g/m(2) within first consolidation in acute myeloid leukemia : results of patients enrolled onto the prospective randomized AML96 study. J Clin Oncol. 2011 ; 29(19) : 2696-702.(1iiA)
5) Miyawaki S, et al. A randomized comparison of 4 courses of standard-dose multiagent chemotherapy versus 3 courses of high-dose cytarabine alone in postremission therapy for acute myeloid leukemia in adults : the JALSG AML201 Study. Blood. 2011 ; 117(8) : 2366-72.(1iiDii)
6) Byrd JC, et al. Patients with t (8;21)(q22;q22) and acute myeloid leukemia have superior failure-free and overall survival when repetitive cycles of high-dose cytarabine are administered. J Clin Oncol. 1999 ; 17(12) : 3767-75.(3iiiDii)
CQ8 | シタラビン大量療法以外のAML 地固め療法は何が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- AML 第一寛解期の地固め療法を非交差耐性のアントラサイクリン系薬剤を用いて施行する場合は,4 回の治療が推奨される。
【解 説】
AML では寛解後地固め療法を行わないと再発が必至であり,寛解を維持するための種々の寛解後療法が試されてきた。早くから欧米ではシタラビン(AraC)大量療法が地固め療法の主流であったが,わが国では保険上の制約からAraC 大量療法が行えなかった時期が長く,非交差耐性のアントラサイクリン系薬剤とAraC 標準量を用いた寛解後療法が行われてきた経緯がある。65 歳以下のAML 寛解症例に対してはJapan Adult Leukemia Study Group(JALSG)がAML97 において従来の3 回の地固め療法+6 回の維持療法対4 回の地固め療法を行い,維持療法は行わない治療とのランダム化比較試験を実施した。この結果では,両者に無病生存割合(DFS)にも全生存割合(OS)にも全く差を認めなかった1)。すなわち,4 回の地固め療法を行うことで維持療法を行わなくても同等の治療効果が期待できる。さらにJALSG では4 回の地固め療法と3 回のAraC 大量療法とのランダム化比較試験を行い,両治療法にDFS,OS に有意差を認めなかった2)。また,Cancer and Leukemia Study Group B(CALGB)は3 コースのAraC 大量療法(3 g/m2 5 日間で6 回投与)と1 コースのAraC 大量療法+2 コースの多剤併用化学療法を行う群との比較試験を行ったが,DFS/OS ともに全く差を認めなかった3)としているが,両群ともにAraC 大量療法が入っており,純粋な治療法の回数の比較は難しい。
【参考文献】
1) Miyawaki S, et al. A randomized, postremission comparison of four courses of standard-dose consolidation therapy without maintenance therapy versus three courses of standard-dose consolidation with maintenance therapy in adults with acute myeloid leukemia : the Japan Adult Leukemia Study Group AML 97 Study. Cancer. 2005 ; 104(12) : 2726-34.(1iiDii)
2) Miyawaki S, et al. A randomized comparison of 4 courses of standard-dose multiagent chemotherapy versus 3 courses of high-dose cytarabine alone in postremission therapy for acute myeloid leukemia in adults : the JALSG AML201 Study. Blood. 2011 ; 117(8) : 2366-72.(1iiDii)
3) Moore JO, et al. Sequential multiagent chemotherapy is not superior to high-dose cytarabine alone as postremission intensification therapy for acute myeloid leukemia in adults under 60 years of age : Cancer and Leukemia Group B Study 9222. Blood. 2005 ; 105(9) : 3420-7.(1iiDii)
CQ9 | 若年者AML の第一寛解期に同種造血幹細胞移植の適応はどのように決定すべきか |
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推奨グレードカテゴリー1
- 現時点では初診時の染色体異常による患者層別化が重要である。予後良好な染色体異常を有するgood-risk の患者では造血幹細胞移植の有用性は示されていない。それ以外のAML においては,HLA 適合血縁者間同種造血幹細胞移植が勧められる。
【解 説】
これまで,第一寛解期における同種造血幹細胞移植と寛解後化学療法を比較した多数のランダム化比較試験が施行されたが,結果は一定でなく無病生存割合(DFS)で移植群の有効性を示す研究はあるものの,ほとんどの研究は全生存割合(OS)での有効性を示すことができなかった。また,化学療法の予後不良因子から両者を比較する検討も十分な統計学的power(症例数)がなく結論を導き出すことはできなかった。しかし,24 の臨床研究(症例数3,638)を対象としたメタアナリシスの結果では,AML 第一寛解期では,予後不良および中間染色体異常のある症例では,移植による生存割合が有意に勝るが,予後良好染色体異常のある症例では移植の優位性は確認できなかった1)。この結果からは,染色体異常の有無と種類によって第一寛解期には移植適応を決定することが標準的と言える。民族遺伝学的背景の異なるわが国に欧米のデータを外挿することの妥当性は十分に検証されていないが,わが国で施行されたランダム化比較試験でも同様な結果が得られている。しかし,予後因子の定義が異なる(染色体異常のみではない)ことに加えて,症例が少なくコンプライアンスも低く,臨床試験としての質は高くない2)。最近では,遺伝子変異の有無も予後因子として注目されている。一つのランダム化比較試験のサブグループ解析では,正常核型AML 第一寛解期においてNPM1 の遺伝子変異がありFLT3-ITD のない症例を除いた症例群では,HLA 適合血縁者間移植後の無再発生存割合(RFS)が有意に勝ることが確認されている3)。CEBPA の遺伝子変異に関してのデータはない。また,予後良好染色体群におけるKIT の遺伝子異常に関してもデータはない。臨床では非血縁者間移植も染色体異常を指標として選択されているのが現状であるが,血縁者間移植と同等のエビデンスは確立されていない。
【参考文献】
1) Koreth J, et al. Allogeneic stem cell transplantation for acute myeloid leukemia in first complete remission : a systematic review and meta-analysis of prospective clinical trial. JAMA. 2009 ; 30 (22) : 2349-61.(1iiA)
2) Sakamaki H, et al. Allogeneic stem cell transplantation versus chemotherapy as post-remission therapy for intermediate or poor risk adult acute myeloid leukemia : results of the JALSG AML97 study. Int J Hematol. 2010 ; 91(2) : 284-92.(1iiDi)
3) Schlenk RF, et al. Mutations and treatment outcome in cytogenetically normal acute myeloid leukemia. N Engl J Med. 2008 ; 358(18) : 1909-18.(2Diii)
CQ10 | 移植適応のない高齢者AML に寛解後療法を施行するメリットはあるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 移植適応のない高齢者AML に対する寛解後療法のメリットは明らかにされていないが,一部の症例では寛解後療法を行うことの有用性が示唆されている。
【解 説】
Cancer and Leukemia Study Group B(CALGB)は寛解後療法としてシタラビン大量投与(AraC 3 g/m2 6 回を4 コース繰り返す)の有用性を検討し,60 歳以上の症例におけるAraC 大量投与はその標準量投与と比較して無病生存率(DFS)を改善しないことを明らかにした1)。高齢者AML を対象としたMRC-AML 11 試験も1 回の強化療法後に同様の化学療法を繰り返しても再発率,DFS,OS に有意差はみられないことを示している2)。一方,AML HD98-B 試験は寛解達成後の強化療法によって,予後良好染色体異常を持つ高齢者AML の20〜30%に長期生存が得られることを示しており3),同様の傾向はMRC-AML11 試験においても確認されている。これらの研究からは,一部の高齢者AML では寛解後療法を施行するメリットがあることが示唆される。しかし,染色体異常以外の患者選択に関する指標(年齢,併存症など)は明確にされていない。至適な寛解後療法に関しても確立したエビデンスはないが,Acute Leukemia French Association(ALFA)9803 試験は強力な化学療法1 回と外来での化学療法6 回を比較し,後者で寛解後2 年のOS が優れ,再発には差がないものの,治療関連死亡(TRM)は外来化学療法で少なかったと報告している4)。
【参考文献】
1) Mayer RJ, et al. Intensive postremission chemotherapy in adults with acute myeloid leukemia. Cancer and Leukemia Group B. N Engl J Med. 1994 ; 331(14) : 896-903.(1iiA)
2) Goldstone AH, et al. Attempts to improve treatment outcomes in acute myeloid leukemia(AML) in older patients : the results of the United Kingdom Medical Research Council AML 11 trial. Blood. 2001 ; 98(5) : 1302-11.(1iiA)
3) Frohling S, et al. Cytogenetics and age are major determinants of outcome in intensively treated acute myeloid leukemia patients older than 60 years : results from AMLSG trial AMD HD98-B. Blood. 2006 ; 108(10) : 3280-8.(2A)
4) Gardin C, et al. Postremission treatment of elderly patients with acute myeloid leukemia in first complete remission after intensive induction chemotherapy : results of the multicenter randomized Acute Leukemia French Association(ALFA) 9803 trial. Blood. 2007 ; 109(12) : 5129-35.(1iiA)
CQ11 | 非寛解期AML に対する同種造血幹細胞移植の適応に関する指標はあるか |
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推奨グレードカテゴリー3
- 非寛解期AML に対する移植適応を決定する明確な指標は確立されていない。現時点では後方視的解析に基づく予後因子と移植に関連する因子(ドナーソースなど)を総合的に評価し,患者とのshared decision making で移植適応を決めることが勧められる。非寛解期AML において移植前に化学療法を施行することのメリットがある症例を予測する指標は確立していない。
【解 説】
初回再発期において同種造血幹細胞移植と化学療法の有用性を前方視的に比較検討した報告はない。Breems らは15〜60 歳の初回再発AML の移植成績を後方視的に解析し,4 つの予後因子(第一寛解の期間,診断時の染色体異常,初回再発時の年齢,初回再発前の造血幹細胞移植の有無)を同定し,これを基に初回再発期を3 つの予後グループに分類している(favorable,intermediate,unfavorable)。第二寛解期が達成できた症例に限定して移植と化学療法を比較した検討では,いずれの群においても5 年全生存割合(OS)で移植の優位性が示されている1)。日本の初回再発期AML の移植成績の後方視的解析で,第二寛解期を達成することで3 年OS は有意に改善することが報告されている2)。一方,芽球の割合の少ない初回再発期に同種移植を行うことで第二寛解期と同等の生存割合が得られるとの報告もあるが,そのエビデンスレベルは低い3)。非寛解期AML に対する同種造血幹細胞移植の成績は散見されるが,すべてが少数例での報告が多いことと患者のselection bias により,その移植適応の指標を導き出すことは難しい。しかしthe Center for International Blood and Marrow Transplant Research(CIBMTR)はAML 非寛解期移植1,673 例を解析し,第一寛解期の期間,末梢血中の芽球割合,ドナーの種類,PS,染色体異常の有無から,移植後の3 年OS 42%の予後良好群から6%の予後不良群までの患者の層別化がある程度可能であることを報告している4)。
【参考文献】
1) Breems DA, et al. Prognostic index for adults patients with acute myeloid leukemia in first relapse. J Clin Oncol. 2005 ; 23(9) : 1969-78.(2A)
2) Kurosawa S, et al. Prognostic factors and outcomes of adults patients with acute myeloid leukemia after first relapse. Hematologica. 2010 ; 95(11) : 1857-64.(3iA)
3) Clift RA, et al. Allogeneic marrow transplantation during untreated first relapse of acute myeloid leukemia. J Clin Oncol. 1992 ; 10(11) : 1723-9.(3iiA)
4) Duval M, et al. Hematopoietic stem-cell transplantation for acute leukemia in relapse or primary induction failure. J Clin Oncol. 2010 ; 28(23) : 3730-8.(3iA)
CQ12 | AML において治療後の好中球減少期にG-CSF を使用するのは有用か |
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推奨グレードカテゴリー2B
(寛解導入療法)
カテゴリー2A
(寛解後療法) - AML の寛解導入療法,寛解後療法時におけるG-CSF 投与は,好中球減少期間の短縮やQOL の改善が期待でき,高齢者や重症感染症を併発した症例では検討しても良い。
【解 説】
AML 治療は,寛解導入療法,寛解後療法ともに強化され,寛解率は80%,5 年全生存割合(OS)は50%前後と向上している。この治療の強化は,骨髄抑制による出血や易感染性の対策の向上により可能になった。
このAML の寛解導入療法や地固め療法後に出現する感染症を予防できるかどうか,これまでにいくつかのG-CSF 投与の第Ⅲ相試験が実施された。
若年成人AML を対象とした第Ⅲ相試験では,好中球数減少期間,発熱期間,非経口抗生剤の投与期間さらには入院期間の短縮が示されている1)。わが国で行われた研究でも,好中球数減少期間,発熱期間の短縮が観察されている2)。
骨髄抑制が高度となる高齢者AML を対象にした試験でも,好中球数減少期間,発熱期間,非経口抗生剤の投与期間の短縮が認められている3)4)。また,死亡率は減少しなかったが,寛解率は向上したとの報告もある5)。
AML 細胞は,G-CSF 受容体を発現することから,AML へのG-CSF の投与は問題視されているが,再発率の増加はみられず,長期観察においても生存期間に悪影響を与えていないと報告されている6)。
AML の寛解導入,地固め療法時においては,G-CSF 投与により好中球減少期間は短縮するものの,重症感染症の発症率や死亡率は減少せず,生存期間の延長も認められていない。したがって,European LeukemiaNet の勧告やNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインでは高齢者や重症感染症を併発した症例以外のAML 症例へのG-CSF の投与は推奨していない。しかし,American Society of Clinical Oncology(ASCO)のガイドラインでは寛解導入療法後のG-CSF 投与は妥当,地固め療法後は推奨できるとしている7)。
一方,治療後の好中球減少期に顆粒球を輸注することによる感染症発症予防の試験が実施され,少数例の検討ではその有効性が示された8)。しかし,多数例の検討では細菌性の敗血症の減少のみで,その他の感染症の発症は減少せず,有害事象の頻度が高かったとの報告9)があり,その評価は一定しない。
【参考文献】
1) Heil G, et al. A randomized, double-blind, placebo-controlled, phase Ⅲ study of filgrastim in remission induction and consolidation therapy for adults with de novo acute myeloid leukemia. The International Acute Myeloid Leukemia Study Group. Blood. 1997 ; 90(12) : 4710-8.(1iD)
2) Usuki K, et al. Efficacy of granulocyte colony-stimulating factor in the treatment of acute myelogenous leukemia : multicentre randomized study. Br J Haematol. 2002 ; 116(1) : 103-12.(1iiD)
3) Growin JE, et al. A double-blind placebo-controlled trial of granulocyte colony-stimulating factor in elderly patients with previously untreated acute myeloid leukemia. : A Southwest Oncology Group Study (9031). Blood. 1998 ; 91(10) : 3607-15.(1iD)
4) Amadori S, et al. Use of glycosylated recombinant human G-CSF (lenograstim) during and/or after induction chemotherapy in patients 61 years of age and older with acute myeloid leukemia : final results of AML-13. A randomized phase-3 study. Blood. 2005 ; 106(1) : 27-34.(1iiD)
5) Dombret H, et al A controlled study of recombinant human granulocyte colony-stimulating factor in elderly patients after treatment for acute myelogenous leukemia. N Eng J Med. 1995 ; 332 (25) : 1678-83.(1iiD)
6) Heil G, et al. Long-term survival data from a phase 3 study of Filgrastim as an adjunct to chemotherapy in adults with de novo acute myeloid leukemia. Leukemia. 2006 ; 20(3) : 404-9.(1iD)
7) Smith TJ, et al. 2006 update of recommendations for the use of white blood cell growth factor : an evidence-based clinical practice guide line. J Clin Oncol. 2006 ; 24(19) : 3187-205.(ガイドライン)
8) Gomez-Villagran JL, et al. A controlled trial of prophylactic granulocyte transfusions during induction chemotherapy for acute nonlymphoblastic leukemia. Cancer. 1984 ; 54(4) : 734-8.(3iD)
9) Strauss RG, et al. A controlled trial of prophylactic granulocyte transfusions during initial induction chemotherapy for acute myelogenous leukemia. N Eng J Med. 1981 ; 305(11) : 597-603.(1iiD)
CQ13 | AML の化学療法において,どのような場合に腫瘍崩壊症候群の予防を実施すべきか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- AML の化学療法時,末梢白血球数が高値*あるいは急増し,尿酸値や血清クレアチニン値が上昇している症例に対しては腫瘍崩壊症候群の予防が推奨される。
【解 説】
腫瘍崩壊症候群は腫瘍細胞の破壊により尿酸,リン酸,カリウムなどが血液中に一気に放出され,高尿酸血症,高リン血症,高カリウム血症状態となり,急性腎不全や呼吸不全,場合によっては心停止が引き起こされる症候群である。したがって,大量の腫瘍細胞が短時間で破壊される場合に,腫瘍崩壊症候群発症のリスクが高くなる。血液悪性腫瘍では,増殖スピードが早く,抗腫瘍薬に感受性の高いリンパ系腫瘍の治療に際して発症する確率が高い。
尿酸値や血清クレアチニン値が上昇している症例の寛解導入療法の時期には特に注意が必要である1)2)。
腫瘍崩壊症候群を予防するためには,増加した白血病細胞を緩やかに減少させることが有効で,内服薬のヒドロキシウレアでの治療が勧められている。また,水分補給や尿酸の生成を減らすべくアロプリノールも投与される。機械的に白血病細胞を除去するアフェレーシスも勧められているが,その効果は一時的で,早期死亡は減少させるが長期予後は改善しないと報告されている3)4)。また,腫瘍崩壊症候群のハイリスク症例には尿酸を分解し水溶性のアラントインにするラスブリカーゼの使用5)がNCCN ガイドラインやEuropean LeukemiaNet の勧告,日本臨床腫瘍学会の腫瘍崩壊症候群(TLS)診療ガイダンスにも記載されている。
*白血球著増(hyperleukeocytosis)は,一般に>10 万/μL と定義される。
【参考文献】
1) Seftel MD, et al. Fulminant tumor lysis syndrome in acute myelogenous leukaemia with inv (16)(p13;q22). Eur J Haematol. 2002 ; 69(4) : 193-9.(3iD)
2) Montesinos P, et al. Tumor lysis syndrome in patients with acute myeloid leukemia : identifi cation of risk factors and development of a predictive model. Haematologica. 2008 ; 93(1) : 67-74.(3iD)
3) Bug G, et al. Impact of leukapheresis on early death rate in adult acute myeloid leukemia presenting with hyperleukocytosis. Transfusion. 2007 ; 47(10) : 1843-50.(3iiiD)
4) Giles FJ, et al. Leukapheresis reduces early mortality in patients with acute myeloid leukemia with high white cell counts but does not improve long-term survival. Leuk Lymphoma. 2001 ; 42(1-2) : 67-73.(3iiiB)
5) Wang LY, et al. Recombinant urate oxidase (Rasburicase) for the prevention and patients with hematologic malignacies. Acta Haematol. 2006 ; 115(1-2) : 35-8.(2D)
CQ14 | AML において中枢神経系白血病の予防は勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- AML は中枢神経系白血病の発症頻度が低く,すべての症例に対して抗がん剤の髄腔内投与による予防は推奨されていないが,FAB 分類でのM4,M5,biphenotype や末梢血中白血球が10 万/μL を超える症例では予防治療が推奨される。
【解 説】
中枢神経系白血病は,白血病細胞が脳軟膜に浸潤し,通常髄膜白血病として発症する。しかし,稀には脳,脊髄実質に浸潤し腫瘤を形成することもある。診断は,脳脊髄液中に白血病細胞を確認することでなされ,脳脊髄圧の上昇に起因する頭痛,嘔吐,乳頭浮腫,項部硬直など髄膜刺激症状,脳神経麻痺などが主な症状である。発症時期は白血病の発症と同時期のこともあるが,骨髄では白血病が再発していない寛解期に発症することが多い。そのような症例でも,中枢神経系白血病の発症後,数カ月以内に骨髄再発が認められる。中枢神経系白血病のAML での発症頻度は5%以下と報告され1)〜4),寛解後療法として,AraC 大量療法や同種造血幹細胞移植が行われた場合は,その発症頻度はさらに低下することが示されている4)。その中枢神経系白血病の予防治療の前方視的研究は1986 年のthe Medical Research Council(MRC)1)から報告されたものと1992 年the Southwest Oncology Group(SWOG)5)からの2 報のみである。前者ではAraC とMTX,後者ではAraC の髄腔内投与が行われたが,その有効性は明らかではなかった。このようにAML では中枢神経系白血病の発症頻度は低く,予防治療の有効性も確認されていない。NCCN ガイドラインでも中枢神経系白血病の予防治療は推奨していないが,発症頻度の高い,FAB 分類でのM4,M5,biphenotype や末梢白血球数が10 万/μL を超える症例は例外としている。
中枢神経系白血病が発症した場合の治療は,European LeukemiaNet ではAraC 40〜50 mg の週2〜3 回髄腔内投与が推奨されている。また,薬剤性の軟膜炎を予防するためステロイドの投与も記載されている。
【参考文献】
1) Rees JK, et al. Principal results of the medical research council’s 8th acute myeloid leukemia trial. Lancet. 1986 ; 2(8518) : 1236-41.(1iiD)
2) Castagnola C, et al. The value of combination therapy in adult acute myeloid leukemia with central nervous system involvement. Haematokogica. 1997 ; 82(5) : 577-80.(3iD)
3) Shihadeh F, et al. Cytogenetic profile of patients with acute myeloid leukemia and central nervous system disease. Cancer. 2012 ; 118(1) : 112-7.(3iiiD)
4) MartÍnez-Cuadrón D, et al. Central nervous system involvement at first relapse in patients with acute myeloid leukemia. Haematologica. 2011 ; 96(9) : 1375-9.(3iD)
5) Morrison FS, et al. Late intensification with POMP chemotherapy prolongs survival in acute myelogenous leukemia-Results of a Southwest Oncology Group study of rubidazone versus adreamycin for remission induction, prophylactic intrathecal therapy late intensification, and levamisole maintenance. Leukemia. 1992 ; 6(7) : 708-14.(1iiD)
CQ15 | 腫瘤形成性AML に対して通常の寛解導入療法を行うのは妥当か |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 腫瘤形成性AML に対しては単独発症の場合であっても通常の寛解導入療法が考慮される。
【解 説】
腫瘤形成性AML の腫瘤は骨髄球系の白血病細胞により構成され,緑色を呈することから緑色種(chloroma)と称され,myeloblastoma,monoblastoma とも記述されていたが,WHO 分類では骨髄肉腫(myeloid sarcoma)と記載されている。腫瘤形成性AML の発症頻度は3%程度1)で,腫瘤は,皮膚,リンパ節,消化管,骨,腎臓,軟部組織,神経組織,卵巣,精巣など体のあらゆる部位に出現する。腫瘤の出現は白血病の発症時のことが多いが,白血病の発症や再発の前駆症状として出現することもある。また,骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS),骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms:MPN)あるいはMDS/MPN の急性転化時にも認められる。
腫瘤形成性AML は発症頻度も低いことから,治療法についての前方視的研究は行われておらず,症例報告を取りまとめたものがほとんどである。1986 年にEshghabadi らは1 例の自験例に文献考察を加えて併用化学療法を勧めている2)。2002 年には山内と安田が,2 例の自験例を含めた74 例の腫瘤形成性AML の治療成績を検討し,化学療法の有効性を報告している3)。MD アンダーソンがんセンターでの研究では,腫瘤形成性AML 23 例のうち通常の化学療法を受けた16 例と通常のAML 1,720 例とを比較し,寛解率,2 年の無イベント生存割合(EFS),全生存割合(OS)に差がなかったことを示し,白血病の発症に先行した腫瘤形成性AML に対する早期の化学療法の実施を勧めている4)。また,NCCN ガイドラインやEuropean LeukemiaNet においても腫瘤形成性AML に対して化学療法が推奨されている。
【参考文献】
1) Muss HB, et al. Chloroma and other myeloblastic tumors. Blood. 1973 ; 42(5) : 721-8.(3iD)
2) Eshghabadi M, et al. Isolated granulocytic sarcoma : report of a case and review of the literature. J Clin Oncol. 1986 ; 4(6) : 912-7.(3iiiD)
3) Yamauchi K, et al. Comparison in treatments of nonleukemic granulocytic sarcoma : report of two cases and a review of 72 cases in the literature. Cancer. 2002 ; 94(6) : 1739-46.(3iiiD)
4) Tsimberidou AM, et al. Myeloid sarcoma is associated with superior event-free survival and overall survival compared with acute myeloid leukemia. Cancer. 2008 ; 113(6) : 1370-8.(3iiiD)
2
急性前骨髄球性白血病
(acute promylocytic leukemia:APL)
(acute promylocytic leukemia:APL)
◆総論
1.病因・病態
急性前骨髄球性白血病(acute promylocytic leukemia:APL)は,FAB 分類ではM3,WHO 分類(2008)では反復性染色体異常t (15;17)(q22;q12);PML-RARA を伴う急性前骨髄球性白血病,の名称で呼ばれている。AML の10〜15%を占めており,30〜50 歳台の若年層に好発し60 歳以上で減少傾向となる1)。APL の治療は,PML-RARA 融合遺伝子に作用する,オールトランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid:ATRA)と亜ヒ酸(arsenic trioxide:ATO)の有効性が確立されている点が他の急性白血病と大きく異なっている。APL は発病初期に線溶亢進型の播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)がみられ致命的な臓器出血を合併しやすいが,DIC をコントロールすると完全寛解率は80〜90%以上,無病生存割合(DFS)は60〜80%以上であり,他のAML と比較して高い治癒率が得られる2)。このように,APL は疾患特異的な分子に作用する分子標的療法が有効な白血病である。
2.予後因子2)
予後因子による層別化として低リスク(白血球≦10,000/μL),高リスク(白血球>10,000/μL)の2 群分類が広く用いられているほか,血小板数を加えた3 群分類,低リスク(白血球≦10,000/μL,血小板>40,000/μL),中リスク(白血球≦10,000/μL,血小板≦40,000/μL),高リスク(白血球>10,000/μL)も用いられている。
3.寛解導入療法3)4)
ATRA とアントラサイクリン系薬剤[イダルビシン(IDR)またはダウノルビシン(DNR)]とシタラビン(AraC)の併用療法が基本であり,寛解導入率は概ね90〜95%である。DIC に対する十分な治療を行う。APL が臨床的,形態学的に疑われる場合は可及的速やかにATRA 投与を開始し,t (15;17) やPML-RARA の検査結果による確定診断を待つことが出血合併症の予防に有効である。ATRA 投与中はAPL 分化症候群(differentiation syndrome:DS)の合併に注意する(CQ4)。
4.地固め療法3)4)
寛解導入療法と同じくアントラサイクリン系薬剤とAraC が基本であり,2 ないし3 コース行われる。なおAraC の併用は高リスク群でのみ有用,また地固め療法においてもATRA の併用が有効であるとする報告もある。実地臨床ではいずれの方法を用いても問題ない。最も重要なポイントは地固め療法終了時に分子生物学的寛解が達成されていることである。
5.維持療法と経過観察3)4)
地固め療法終了時にRQ-PCR 法によりPML-RARA の陰性化が確認された場合,維持療法が考慮されるが高リスク群にのみ有効との報告もある。ATRA またはATRA/メルカトプリン(6MP)/メトトレキサート(MTX)(内服または皮下注)併用療法が考慮される。維持療法終了後の経過観察にはRQ-PCR 法によるPML-RARA の追跡が有用であり,血液学的再発に先行する分子生物学的再発が検出できる。
6.再発APL の治療3)4)
ATRA と化学療法による治療後の再発APL に対し,ATO による再完全寛解率は80〜90%ときわめて高く,ATO 単独で分子生物学的寛解を得られることが特筆すべき特徴である。また第二選択薬としてタミバロテンも有効である。
7.今後の展望4)
APL はATRA を用いた標準治療がほぼ確立されている。しかしながら治療初期にみられるDIC 対策は依然として極めて重要である。近年ATO やタミバロテンにより再発例においても高い寛解率が得られるようになり,現在これらの薬剤を初発例に対して用いた研究が進行中である。
【参考文献】
1) Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2008 ; pp112-4.
2) Sanz MA, et al. Definition of relapse risk and role of nonanthracycline drugs for consolidation in patients with acute promyelocytic leukemia : a joint study of the PETHEMA and GIMEMA cooperative groups. Blood. 2000 ; 96(4) : 1247-53.(3iiiDii)
3) Sanz MA, et al. Management of acute promyelocytic leukemia : recommendations from an expert panel on behalf of the European Leukemia Net. Blood. 2009 ; 113(9) : 1875-91.(ガイドライン)
4) Sanz MA, et al. Modern Approaches to Treating Acute Promyelocytic Leukemia. J Clin Oncol. 2011 ; 29(5) : 495-503.(レビュー)
◆アルゴリズム
(※)CQ番号(ピンク色部分)をクリックすると,解説画面へ移動します
APL の診断(CQ1)ではFISH やRT-PCR 法によるPML-RARA の検出が重要である。t (15 ;17) 以外の転座ではオールトランス型レチノイン酸(ATRA)や亜ヒ酸(ATO)の反応性が異なるからである。APL の初期治療においては凝固異常に伴う脳出血と肺出血による早期死亡が非寛解の主因となるので凝固検査を頻回に行う必要がある。APL の無病生存割合(DFS)における予後不良因子は治療前白血球数10,000/μL 以上である。
未治療APL の寛解導入療法(CQ2)ではATRA と化学療法の併用が標準療法である。初回寛解導入療法では治療抵抗例はほとんどなく,出血とAPL 分化症候群などによる早期死亡が非寛解の主因である。したがって,出血予防(CQ3)とAPL 分化症候群対策(CQ4)が重要である。
血液学的寛解が得られた後,2 ないし3 コースの化学療法からなる地固め療法(CQ5)を行い,RQ-PCR 法を用いた骨髄細胞のPML-RARA 陰性化による分子生物学的寛解への到達を目指す。地固め療法におけるATRA の併用やATO の導入が試みられている。
維持療法(CQ6)としての多剤併用化学療法は予後を改善しない。ATRA 単独療法やATRA にメトトレキサート(MTX)/メルカトプリン(6MP)を併用した維持療法の有効性が報告されているが,その効果は地固め療法までの治療にも影響される。
再発時(CQ7)の第一選択はATO 治療である。血液学的再発では出血やAPL 分化症候群も合併しやすく,PML-RARA のみ陽性の分子生物学的再発時に治療を行うのがよい。再寛解後(CQ8),亜ヒ酸による地固め療法を行い,骨髄PML-RARA が陽性ならば同種造血幹細胞移植,陰性化すれば自家造血幹細胞移植が勧められる。移植の適応がない場合はATO 治療後の再発例にも有効なゲムツヅマブ オゾガマイシン(GO)が勧められる。
CQ1 | 初発APL の治療開始前に行うべき検査と予後因子は何か |
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推奨グレードカテゴリー2A
- FISH ないしはRT-PCR によるPML-RARA の早期診断が勧められる。
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推奨グレードカテゴリー1
- 予後因子である治療前白血球数により治療戦略を立てることが勧められる。
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推奨グレードカテゴリー2B
- 臓器出血による早期死亡の予防のために頻回の凝固検査が勧められる。
【解 説】
APL の約98%にt (15;17) 由来のPML-RARA が陽性である1)。残る少数例の大部分もRARA に転座するが,オールトランス型レチノイン酸(ATRA)および亜ヒ酸(ATO)に対する反応性が異なる1)。例えば,t (11;17) 由来のPLZF-RARA 陽性例にはともに無効である。したがって,ATRA と化学療法の併用による初期治療が標準療法であるAPL においてはFISH やRT-PCR 法によりPML-RARA が陽性か否かを早期に診断することが重要である。また,PML-RARA の定量は微小残存病変の検出に有用であり,地固め療法後の有無は重要な予後因子となり,治療方針を左右するので診断時にその有無を確認する必要がある2)。
顆粒が乏しいM3v の診断はときに困難である。M3v は白血球高値例に多く,CD2 陽性と相関する。M3v の全生存割合(OS),無病生存割合(DFS)はM3 と比較すると有意に低いが,白血球数などで補正するとM3v のみでは有意差がなくなる3)。
APL におけるDFS における予後不良因子は治療前白血球数10,000/μL 以上である4)5)。また,CD56 陽性は約10%にみられ,白血球数高値,PML 切断点bcr3 と相関する。CD56 陽性例は髄外再発のリスクも高く,再発に対する独立した予後不良因子である6)。FLT3 遺伝子変異はAPL の約40%にみられ,治療前白血球数,M3v やbcr3 と相関する。多数例の解析では非寛解と相関し,5 年再発率やOS とは相関しなかった7)。
ATRA と化学療法による初期治療に対する治療抵抗例はほとんどなく,出血とAPL 分化症候群などによる早期死亡が問題である。APL 分化症候群を予測する指標はないが,凝固異常を頻回にチェックして出血の予防を行うことが重要である(CQ3,CQ4)。
【参考文献】
1) Grimwade D, et al. Characterization of acute promyelocytic leukemia cases lacking the classic t (15;17) : results of the European Working Party. Blood. 2000 ; 96(4) : 1297-308.(3iDiv)
2) Grimwade D, et al. Prospective minimal residual disease monitoring to predict relapse of acute promyelocytic leukemia and to direct pre-emptive arsenic trioxide therapy. J Clin Oncol. 2009 ; 27 (22) : 3650-8.(3iDii)
3) Tallman MS, et al. Does microgranular variant morphology of acute promyelocytic leukemia independently predict a less favorable outcome compared with classical M3 APL? A joint study of the North American Intergroup and the PETHEMA Group. Blood. 2010 ; 116(25) : 5650-9.(3iA)
4) Asou N, et al. Analysis of prognostic factors in newly diagnosed acute promyelocytic leukemia treated with all-trans retinoic acid and chemotherapy. Japan Adult Leukemia Study Group. J Clin Oncol. 1998 ; 16(1) : 78-85.(3iDii)
5) Sanz MA, et al. Definition of relapse risk and role of nonanthracycline drugs for consolidation in patients with acute promyelocytic leukemia : a joint study of the PETHEMA and GIMEMA cooperative groups. Blood. 2000 ; 96(4) : 1247-53.(3iiiDii)
6) Montesinos P, et al. Clinical significance of CD56 expression in patients with acute promyelocytic leukemia treated with all-trans retinoic acid and anthracycline-based regimens. Blood. 2011 ; 117 (6) : 1799-805.(3iDi)
7) Gale RE, et al. Relationship between FLT3 mutation status, biologic characteristics, and response to targeted therapy in acute promyelocytic leukemia. Blood. 2005 ; 106(12) : 3768-76.(3iA)
CQ2 | 初発APL の寛解導入療法として何が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー1
- 初発APL の初回寛解導入療法として,ATRA とアントラサイクリン系を主体とした化学療法の併用が勧められる。
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推奨グレードカテゴリー2B
- 未治療APL の初回寛解導入療法において,ATRA と化学療法に加えて亜ヒ酸を用いる治療は無病生存割合を改善する可能性がある(国内適応外)。
【解 説】
初発APL 例に対する初回寛解導入療法において,化学療法のみの群と化学療法にオールトランス型レチノイン酸(ATRA)を加えた群の大規模ランダム化比較試験がヨーロッパと米国で行われ,ともに寛解率には有意差を認めなかったが,無病生存割合(DFS)はATRA 併用群が有意に良好であった1)2)。わが国でもJapan Adult Leukemia Study Group(JALSG) APL92 研究においてATRA と化学療法の併用を行い,化学療法のみの以前のAML87,AML89 研究と比較して優れた無イベント生存割合(EFS)が得られた3)。
ATRA に併用する化学療法の内容については十分なエビデンスはない。アントラサイクリン系の有効性が高く,いずれの治療法においても用いられる4)。60 歳未満の治療前白血球数10,000/μL 以下を対象に,アントラサイクリン系に加えてシタラビン(AraC)の有無による比較試験を行ったヨーロッパAPL2000 研究では2 年累積再発率(cumulative incidence of relapse:CIR),EFS,全生存割合(OS)いずれもAraC 併用群が有意に優れていた5)。しかしながら,両群のアントラサイクリンは同量であり,AraC 併用の分だけ治療強度が強かったと考えられる。アントラサイクリン系のみを化学療法に用いるPETHEMA 研究とAPL2000 研究の結果を比較すると,白血球数10,000/μL 以下の症例ではPETHEMA 治療の方が3 年CIR は有意に低かった6)。一方,白血球数10,000/μL 以上の症例ではAraC を併用したAPL2000 のOS が良好でCIR も低い傾向にあった。白血球数低値例の化学療法の併用時期も意見が分かれる。ヨーロッパAPL93 研究では白血球数5,000/μL 以下を対象に最初から化学療法を併用する群と白血球数に応じて化学療法を追加する群の比較試験が行われ,2 年OS に差はないが,前者のCIR が有意に低かった7)。JALSG では治療前白血球数に応じて併用する化学療法を層別化し,白血球数3,000/μL 未満かつAPL 細胞1,000/μL 未満の例ではATRA 単独で治療を開始して白血球増加例に化学療法を追加し,各群に遜色ない成績が得られている8)。
再発例に有効な亜ヒ酸(ATO)を初回寛解導入に用いた上海グループの研究ではATRA 単独,ATO 単独群と比較して両者の併用群のDFS が有意に良好であった9)。また,ATO 単独で寛解導入と寛解後治療を行うインドグループの成績では寛解率86%,DFS 80%,OS 74%と良好な成績が得られ,初回寛解導入におけるATO の導入は有効と考えられる10)。
【参考文献】
1) Fenaux P, et al. Effect of all transretinoic acid in newly diagnosed acute promyelocytic leukemia. Results of a multicenter randomized trial. European APL 91 Group. Blood. 1993 ; 82(11) : 3241-9.(1iiDii)
2) Tallman MS, et al. All-trans-retinoic acid in acute promyelocytic leukemia. N Engl J Med. 1997 ; 337(15) : 1021-8.(1iiA)
3) Kanamaru A, et al. All-trans retinoic acid for the treatment of newly diagnosed acute promyelocytic leukemia. Japan Adult Leukemia Study Group. Blood. 1995 ; 85(5) : 1202-6.(2Dii)
4) Head D, et al. Effect of aggressive daunomycin therapy on survival in acute promyelocytic leukemia. Blood. 1995 ; 86(5) : 1717-28.(2A)
5) Adès L, et al. Is cytarabine useful in the treatment of acute promyelocytic leukemia? Results of a randomized trial from the European Acute Promyelocytic Leukemia Group. J Clin Oncol. 2006 ; 24(36) : 5703-10. (1iiDi)
6) Adès L, et al. Treatment of newly diagnosed acute promyelocytic leukemia (APL) : a comparison of French-Belgian-Swiss and PETHEMA results. Blood. 2008 ; 111(3) : 1078-84.(3iiiDi)
7) Fenaux P, et al. A randomized comparison of all transretinoic acid (ATRA) followed by chemotherapy and ATRA plus chemotherapy and the role of maintenance therapy in newly diagnosed acute promyelocytic leukemia. The European APL Group. Blood. 1999 ; 94(4) : 1192-200.(1iiDii)
8) Asou N, et al. A randomized study with or without intensified maintenance chemotherapy in patients with acute promyelocytic leukemia who have become negative for PML-RARalpha transcript after consolidation therapy : the Japan Adult Leukemia Study Group(JALSG) APL97 study. Blood. 2007 ; 110(1) : 59-66.(1iiDii/3iiiDii)
9) Shen ZX, et al. All-trans retinoic acid/As2O3 combination yields a high quality remission and survival in newly diagnosed acute promyelocytic leukemia. Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 ; 101 (15) : 5328-35. (1iiDii)
10) Mathews V, et al. Single-agent arsenic trioxide in the treatment of newly diagnosed acute promyelocytic leukemia : long-term follow-up data. J Clin Oncol. 2010 ; 28(24) : 3866-71.(3iiiA)
CQ3 | 初発APL の寛解導入療法におけるDIC 対策として何が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 初発APL のATRA と化学療法による初回寛解導入療法において,低フィブリノゲン血症(<100 mg/dL), 白血球数高値(> 20,000/μL)およびPS 2〜3 の症例は出血の高リスク群であり,十分な出血予防が勧められる。
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推奨グレードカテゴリー2A
- 寛解導入療法中の出血予防には,血小板輸血により血小板数30,000〜50,000/μL 以上,凍結血漿によりフィブリノゲン150 mg/dL 以上に保つ補充療法が薦められる。
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推奨グレードカテゴリー3
- 低分子ヘパリン,ダナバロイドナトリウム,遺伝子組み換えトロンボモジュリンなどによる抗凝固療法およびトラネキサム酸による抗線溶療法の効果は証明されていない。
【解 説】
初発APL の寛解導入療法においてはオールトランス型レチノイン酸(ATRA)の導入により減少したとは言え臓器出血が最も大きな非寛解の原因である。Japan Adult Leukemia Study Group(JALSG)APL97 研究では283 例中の非寛解16 例のうち9 例(3%)に脳出血や肺出血による早期死亡を認めた1)。PETHEMA 研究でも出血による早期死亡を5%に認めている2)。さらに,スウェーデンの人口動態調査では105 例のAPL 例の29%が早期死亡であり,うち41%に出血を認めた。早期死亡の35%は主に診断以前に出血を併発し,ATRA 治療を受けていなかった3)。このように,臨床試験に登録されない実地診療例では依然早期死亡例は多いと予想され,早期診断による出血予防が重要である。
JALSG APL97 研究において臓器出血を併発した18 例と併発しなかった261 例を比較し,出血の高リスク因子は多変量解析において低フィブリノゲン血症(<100 mg/dL),白血球数高値(>20,000/μL)および全身状態(performance status:PS)2〜3 であった1)。
APL の凝固異常は線溶過剰が主体であり,血小板輸血により血小板数をできれば50,000/μL 以上,少なくとも30,000/μL 以上,凍結血漿によりフィブリノゲン150 mg/dL 以上を目標とする補充療法が推奨される。ATRA 療法による寛解導入時のこれらの目標値を比較した試験はない。化学療法のみの時代に,血小板およびフィブリノゲンの補充療法のみ,ヘパリンによる抗凝固療法およびトラネキサム酸等による抗線溶療法の3 群による後方視的解析が行われ,寛解率,出血による早期死亡に有意差を認めなかった4)。低分子ヘパリン,ダナバロイドナトリウム,遺伝子組み換えトロンボモジュリンなどによる抗凝固療法およびトラネキサム酸による抗線溶療法の有効性は十分証明されていない。トラネキサム酸による抗線溶療法についてはATRA と併用することで血栓症が増加する危険がある5)。低分子ヘパリン,ダナバロイドナトリウム,メシル酸ガベキサートやメシル酸ナファモスタットの合成蛋白分解酵素阻害剤による抗凝固療法については,比較試験の報告に乏しい。遺伝子組換えトロンボモジュリン使用については,DIC からの早期離脱と新鮮凍結血漿輸血量の減少が得られたとの報告があるが,少数例の解析である6)。APL の凝固異常は症例によって大きく異なり,特定の症例には抗凝固療法や抗線溶療法が有効な可能性もあり,今後の研究課題である。さらに,ATRA はAPL の凝固異常を直接および間接に改善するので,臨床的にAPL が疑われた場合にはPML-RARA の結果を待たずに早期にATRA を含む治療を開始することは出血予防につながる7)。
【参考文献】
1) Yanada M, et al. Severe hemorrhagic complications during remission induction therapy for acute promyelocytic leukemia : incidence, risk factors, and influence on outcome. Eur J Haematol. 2007 ; 78(3) : 213-9.(3iDii)
2) de la Serna J, et al. Causes and prognostic factors of remission induction failure in patients with acute promyelocytic leukemia treated with all-trans retinoic acid and idarubicin. Blood. 2008 ; 111 (7) : 3395-402.(3iA)
3) Lehmann S, et al. Continuing high early death rate in acute promyelocytic leukemia : a population-based report from the Swedish Adult Acute Leukemia Registry. Leukemia. 2011 ; 25(7) : 1128-34.(3iD)
4) Rodeghiero F, et al. Early deaths and anti-hemorrhagic treatments in acute promyelocytic leukemia. A GIMEMA retrospective study in 268 consecutive patients. Blood. 1990 ; 75(11) : 2112-7.(3iiiB)
5) Brown JE et al. All-trans retinoic acid (ATRA) and tranexamic acid : a potentially fatal combination in acute promyelocytic leukaemia. Br J Haematol. 2000 ; 110(4) : 1010-2.(3iiA)
6) Ikezoe T, et al. Recombinant human soluble thrombomodulin safely and effectively rescues acute promyelocytic leukemia patients from disseminated intravascular coagulation. Leukemia Res. 2012 ; 36(11) : 1398-402.(3iiD)
7) Di Bona E, et al. Early haemorrhagic morbidity and mortality during remission induction with or without all-trans retinoic acid in acute promyelocytic leukaemia. Br J Haematol. 2000 ; 108(4) : 689-95.(2A)
CQ4 | APL 分化症候群の治療は何が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- APL 分化症候群(DS)の診断と治療のポイントは臨床症状による早期発見と,DS の重症度によるATRA やATO 投与の中止,副腎皮質ステロイドの早期開始が推奨される。初診時白血球数が多い症例,治療中に白血球が増加する症例では,化学療法の併用が推奨される。プレドニゾロンの予防投与は勧められない。
【解 説】
1.症候と診断
フランスのAPL93 研究1),米国のIntergroup study 0129 研究2),およびスペインのLPA96 とLPA99 研究3)によれば,APL 分化症候群(differentiation syndrome:DS)の発生率は2.5〜26%であり,全症例に対する死亡率は0〜3.4%である。DS の発現日(診断日)は,治療開始から中央値7〜11 日(0〜47 日)である。頻度の高い症候は,①頻呼吸,呼吸困難,低酸素血症(SpO2 の低下),②不明熱,③体重増加,④浮腫,⑤血圧低下,⑥急性腎不全,うっ血性心不全,⑦肺浸潤影,胸水,心嚢水(胸部X 線,CT など),である。
2.DS 発症の危険因子
寛解導入療法では初診時白血球数の少ない症例でオールトランス型レチノイン酸(ATRA)単独治療中の場合,白血球増加がみられれば速やかに化学療法を追加する。初診時の白血球数とDS の発症率は必ずしも相関しないことが知られているが,重症のDS は白血球増加時,特に5,000/μL 以上が有意な発症危険因子として指摘されている1)〜3)。
3.治療
DS の重症度によりATRA や亜ヒ酸(ATO)を休薬することと,デキサメタゾン(DEX)またはメチルプレドニゾロンパルス療法である。DS が重症化した場合(腎不全や呼吸不全による集中治療を要する)やDEX の効果がみられない場合にのみ休薬するとする意見もある。しかし,DS の多面的な症候に関する明確な重症度規準がないため,DS 診断時でのATRA の治療効果とDS による臓器不全の重症度を症例ごとに考慮して判断する。ATRA は症状が完全に消失してから再開するが,再開時の投与量は初回の75%量から開始し,3〜5 日間症状が再燃しないことを確認してから元の量に戻していく方法もある。DEX は10 mg を1 日2 回経静脈的に投与する。投与開始は症状や症候が出現した早期であるほど望ましく,症状が完全に消失するまで継続する。
4.発症予防としての化学療法の併用,追加
化学療法の併用により白血球数の増加が抑制され,DS の発症をおさえていると考えられる。フランスのAPL93 研究では4),白血球5,000/μL 未満の症例で,ATRA と化学療法同時(実際には3 日後)開始群と単独ATRA 治療群を比較しているが,前者でDS 発症率は低かった。またATRA 単独治療の場合,day5 で6,000/μL 以上,day10 で10,000/μL 以上,day15 で15,000/μL 以上となれば速やかに化学療法が追加される方針が示されている。
5.副腎皮質ステロイドの予防投与
副腎皮質ステロイドの予防的投与によりDS の死亡率を減少させたとするエビデンスは乏しく,標準治療にはなっていない。スペインでのLPA99 研究では,プレドニゾロン0.5 mg/kg/日をday1〜15 まで内服しDS の発症予防効果を検討したが,過去のLPA96 研究と比較して発症率に差はなかった5)。
【参考文献】
1) De Botton S, et al. Incidence, clinical features, and outcome of All trans-retinoic acid syndrome in 413 cases of newly diagnosed acute promyelocytic leukemia. Blood. 1998 ; 92(8) : 2712-8.(3iiiDiv)
2) Tallman MS, et al. Clinical description of 44 patients with acute promyelocytic leukemia who developed the retinoic acid syndrome. Blood. 2000 ; 95(1) : 90-5.(3iiiDiv)
3) Montesinos P, et al. Differentiation syndrome in patients with acute promyelocytic leukemia treated with all-trans retinoic acid and anthracycline chemotherapy : characteristics, outcome, and prognostic factors. Blood. 2009 ; 113(4) : 775-83.(3iiiDiv)
4) de Botton S, et al. Early onset of chemotherapy can reduce the incidence of ATRA syndrome in newly diagnosed acute promyelocytic leukemia (APL) with low white blood cell counts : results from APL 93 trial. Leukemia. 2003 ; 17(2) : 339-42.(3iiiDiv)
5) Sanz MA, et al. Risk-adapted treatment of acute promyelocytic leukemia with all-trans-retinoic acid and anthracycline monochemotherapy : a multicenter study by the PETHEMA group. Blood. 2004 ; 103(4) : 1237-43.(3iiiDiv)
CQ5 | 未治療APL のATRA と化学療法による寛解後の至適な地固め療法は何か |
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推奨グレードカテゴリー1
- 寛解導入療法後,血液学的完全寛解が達成された場合,引き続きアントラサイクリン系薬剤またはシタラビン併用による地固め療法を2 ないし3 コース行うことが推奨される。
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推奨グレードカテゴリー2B
- 治療前白血球数高値の高リスク群ではアントラサイクリン系薬剤とシタラビン併用の地固め療法が推奨される。
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推奨グレードカテゴリー2A
- 地固め療法終了時の分子生物学的寛解が長期生存の必須条件であり,骨髄PML-RARA の測定が推奨される。
【解 説】
アントラサイクリン系薬剤[イダルビシン(IDR),ダウノルビシン(DNR),ミトキサントロン(MIT)]が基本であるが,これに併用されるシタラビン(AraC)とオールトランス型レチノイン酸(ATRA)の意義が検討されてきた。AraC を併用しているフランスのAPL93 およびAPL2000 研究と,AraC を用いないスペインのLPA99 研究の比較検討が行われた1)。低および中リスク群では無イベント生存割合(EFS)に差はなかったが,高リスク群ではAPL93,2000 群で82.2%,LPA99 群で67.3%,と有意にAraC 併用群が優れていた。スペインのLPA2005 研究では,過去のLPA99 研究を改訂し高リスク群でAraC を追加したところ,LPA99 研究に比し優れた成績が得られた2)。イタリアのAIDA2000 研究では過去のAIDA0493 研究を改訂し,全例でATRA の併用と高リスク群でのAraC の併用を行ったところ,高リスク群で再発率が有意に減少した3)。高齢者では,地固め療法での感染症などによる治療関連死亡(TRM)が多いため,より毒性の少ないものが推奨される4)。最も重要なポイントは,地固め療法終了時に分子生物学的寛解が達成されていることである。この時点でRQ-PCR 法による骨髄細胞のPML-RARA が陽性の場合は予後不良であるため,亜ヒ酸(ATO)治療などの二次治療を行い,PML-RARA が陰性になれば自家造血幹細胞移植が考慮される。二次治療後もPML-RARA が陽性の場合は,同種造血幹細胞移植が考慮される5)。他のAML のように寛解後に中枢神経系再発予防のためメトトレキサート(MTX),AraC の髄注を行うこともあるが,高リスク群以外では特に推奨されていない6)。
【参考文献】
1) Adés L, et al. Treatment of newly diagnosed acute promyelocytic leukemia (APL) : a comparison of French-Belgian-Swiss and PETHEMA results. Blood. 2008 ; 111(3) : 1078-84.(3iiiDi)
2) Sanz MA, et al. Risk-adapted treatment of acute promyelocytic leukemia based on all-trans retinoic acid and anthracycline with addition of cytarabine in consolidation therapy for high-risk patients : further improvements in treatment outcome. Blood. 2010 ; 115(25) : 5137-46.(3iiiDii)
3) Lo-Coco F, et al. Front-line treatment of acute promyelocytic leukemia with AIDA induction followed by risk-adapted consolidation for adults younger than 61 years : results of the AIDA-2000 trial of the GIMEMA Group. Blood. 2010 ; 116(17) : 3171-9.(3iiiDii)
4) Ades L et al. Outcome of acute promyelocytic leukemia treated with all trans retinoic acid and chemotherapy in elderly patients : the European group experience. Leukemia. 2005 ; 19(2) : 230-3.(3iiiDi)
5) Esteve J et al. Outcome of patients with acute promyelocytic leukemia failing to front-line treatment with all-trans retinoic acid and anthracycline-based chemotherapy(PETHEMA) protocols LPA96 and LPA99 : Benefit of an early intervention. Leukemia. 2007 ; 21(3) : 446-52.(3iiiA/2A)
6) Montesinos P et al. Central nervous system involvement at first relapse in patients with acute promyelocytic leukemia treated with all-trans retinoic acid and anthracycline monochemotherapy without intrathecal prophylaxis. Haematologica. 2009 ; 94(9) : 1242-9.(3iiiDi)
CQ6 | 未治療APL の寛解例における至適な維持療法は何か |
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推奨グレードカテゴリー2A
- 地固め療法終了時にRT-PCR 法によるPML-RARA が陰性化していることが確認された場合,高リスク群ではATRA 内服を中心とした維持療法が考慮される。
【解 説】
維持療法に関して3 つの重要な報告がある。イタリアのAIDA0493 研究ではオールトランス型レチノイン酸(ATRA),ATRA/メトトレキサート(MTX)/メルカトプリン(6MP),MTX/6MP,維持療法なし,の4 群の比較研究が行われたが,12 年無病生存割合(DFS)は4 群に有意差はなかった1)。フランスのAPL93 研究では同じ4 群での比較検討を行っているが,10 年累積再発率はATRA/MTX/6MP 群が最も低く,特に初診時白血球高値群(WBC>5,000/μL)において有効であった2)。また維持療法なしに比べて,ATRA 単独,MTX/6MP も有効であった。わが国のAPL97 研究では3),6 コースの主に点滴静注による多剤併用化学療法と無治療観察群の前方向的比較研究が実施されたが,両群に有意差はなく,むしろ化学療法群で不良な傾向にあった。したがって多剤併用化学療法は維持療法として有効でなく,勧められない。以上より,低リスク群(白血球≦10,000/μL,血小板>40,000/μL),および中リスク群(白血球≦10,000/μL,血小板≦40,000/μL)での最適な維持療法は今後の課題であるが,高リスク群(白血球>10,000/μL)ではATRA 内服を中心とした維持療法が考慮されるであろう。ただし,本適応での投与は国内適応外である。
【参考文献】
1) Avvisati G, et al. AIDA 0493 protocol for newly diagnosed acute promyelocytic leukemia : very long-term results and role of maintenance. Blood. 2011 ; 117(18) : 4716-25.(1iiDii)
2) Ades L, et al. Very long-term outcome of acute promyelocytic leukemia after treatment with all-trans retinoic acid and chemotherapy : the European APL Group experience. Blood. 2010 ; 115 (9) : 1690-6.(1iiDi)
3) Asou N, et al. A randomized study with or without intensifi ed maintenance chemotherapy in patients with acute promyelocytic leukemia who have become negative for PML-RARalpha transcript after consolidation therapy : The Japan Adult Leukemia Study Group(JALSG) APL97 study. Blood. 2007 ; 110(1) : 59-66.(1iiDii)
CQ7 | 再発APL の至適な再寛解導入療法は何か |
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推奨グレードカテゴリー2A
- RQ-PCR 法による骨髄細胞のPML-RARA が陽性化すれば,血液学的寛解であっても再寛解導入療法を開始する。
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推奨グレードカテゴリー2A
- 亜ヒ酸を含むレジメンが第一選択となる。
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推奨グレードカテゴリー2B
- 亜ヒ酸が使用できないとき,ゲムツヅマブ オゾガマイシンまたはタミバロテンを含むレジメンの使用を考慮する。
【解 説】
寛解後のRQ-PCR 法によるPML-RARA のモニタリング時に,血液学的に寛解状態でありながら,骨髄検査でPML-RARA が陽性化している症例では,ほとんどの症例が後に血液学的再発をきたす1)ことから,分子生物学的再発の状態で治療を始めた方が,その後の再発率・全生存割合(OS)ともに有意に優れる2)3)。オールトランス型レチノイン酸(ATRA)をベースとした寛解導入療法施行症例の再発では,亜ヒ酸(ATO)の投与により80〜90%の症例で分子生物学的再寛解が得られ,1〜3 年のOS は50〜70%に達する4)〜8)。
ATO 単独投与時には白血球数増加を半数に認め,25%がAPL 分化症候群(differentiation syndrome:DS)を発症する5)ことから,白血球増加例ではアントラサイクリン系などの抗がん剤を併用したほうが安全である。DS 発症時は,副腎皮質ホルモンの投与を開始し,重症であればATO の投与を中止する。ATO は,QT 延長の副作用があり,致命的なtorsade de pointes タイプの心室性不整脈を引き起こすことがある。そのため,ATO 投与期間中は心電図を定期的にモニタリングし,血清電解質濃度を適正に維持する(K>4.0 mEq/dL,Mg>1.8 mg/dL)。
ATO とATRA はin vitro で,APL 細胞に対して相乗的に作用することが知られているが,小規模なランダム化比較試験において,ATO にATRA を追加した群に予後の改善がみられなかったことから,ATRA 治療後の再発例ではATO にATRA を併用する意義は大きくないと考えられている8)。
ATO を使用できない場合,ゲムツヅマブ オゾガマイシン(GO)が第一選択となる。分子再発例に対するGO 単剤の投与では,2 回投与で81.8%の症例に分子生物学的再寛解が得られたと報告されている9)。GO は類洞閉塞症候群をきたす可能性があり,移植予定例には使用を避けるか,移植までに一定期間をあける必要がある。合成レチノイン酸タミバロテンについては,ATRA 治療後の再発例に対する第Ⅱ相試験で58%の再寛解導入率であったが10),現時点ではATO,GO に次ぐ治療と考えられる。
【参考文献】
1) Diverio D, et al. Early detection of relapse by prospective reverse transcriptase-polymerase chain reaction analysis of the PML/RARalpha fusion gene in patients with acute promyelocytic leukemia enrolled in the GIMEMA-AIEOP multicenter“ AIDA” trial. Blood. 1998 ; 92(3) : 784-9.(1iiDiv)
2) Lo Coco F, et al. Therapy of molecular relapse in acute promyelocytic leukemia. Blood. 1999 ; 94 (7) : 2225-9.(2A)
3) Esteve J, et al. Outcome of patients with acute promyelocytic leukemia failing to front-line treatment with all-trans retinoic acid and anthracycline-based chemotherapy (PETHEMA protocols LPA96 and LPA99) : benefit of an early intervention. Leukemia. 2007 ; 21(3) : 446-52.(3iiiA)
4) Soignet SL, et al. Complete remission after treatment of acute promyelocytic leukemia with arsenic trioxide. N Engl J Med. 1998 ; 339(19) : 1341-8.(3iiiDiv)
5) Soignet SL, et al. United States multicenter study of arsenic trioxide in relapsed acute promyelocytic leukemia. J Clin Oncol. 2001 ; 19(18) : 3852-60.(3iiiA)
6) Niu C, et al. Studies on treatment of acute promyelocytic leukemia with arsenic trioxide : remission induction, follow-up, and molecular monitoring in 11 newly diagnosed and 47 relapsed acute promyelocytic leukemia patients. Blood. 1999 ; 94(10) : 3315-24.(3iiiDii)
7) Shigeno K, et al. Arsenic trioxide therapy in relapsed or refractory Japanese patients with acute promyelocytic leukemia : updated outcomes of the phase Ⅱ study and postremission therapies. Int J Hematol. 2005 ; 82(3) : 224-9.(3iiiA)
8) Raffoux E, et al. Combined treatment with arsenic trioxide and all-trans retinoic acid in patients with relapsed acute promyelocytic leukemia. J Clin Oncol. 2003 ; 21(12) : 2326-34.(1iiDiv)
9) Lo-Coco F, et al. Gemtuzumab ozogamicin (Mylotarg) as a single agent for molecularly relapsed acute promyelocytic leukemia. Blood. 2004 ; 104(7) : 1995-9.(3iiiDiv)
10) Tobita T, et al. Treatment with a new synthetic retinoid, Am80, of acute promyelocytic leukemia relapsed from complete remission induced by all-trans retinoic acid. Blood. 1997 ; 90(3) : 967-73.(3iiA)
CQ8 | 亜ヒ酸によるAPL 第二寛解例の寛解後治療として何が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- 亜ヒ酸による再寛解APL 例では亜ヒ酸による地固め療法後,RQ-PCR法による骨髄PML-RARA 陰性例には自家移植が勧められる。
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推奨グレードカテゴリー2A
- 骨髄PML-RARA 陽性例には同種移植が勧められる。
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推奨グレードカテゴリー2B
- 移植の適応がない症例ではゲムツヅマブ オゾガマイシンが勧められる。
【解 説】
亜ヒ酸(ATO)の登場以前にはオールトランス型レチノイン酸(ATRA)と化学療法による再寛解導入療法が行われていた。その第二寛解期の自家移植と同種移植を比較したヨーロッパグループのAPL91 とAPL93 研究では7 年全生存割合(OS)が自家移植群59.8%,同種移植群51.8%と自家移植が優れていた1)。無再発生存割合(RFS)は79.4% vs 92.3%と同種移植が良かったが,治療関連死亡(TRM)が6%と39%と同種移植に多かった。European Group for Blood and Marrow Transplantation(EBMT)の多数例の登録例を解析した結果では自家移植の無病生存割合(DFS) 51%,同種移植では59%であった2)。
ATO による再寛解後にATO ベースの寛解後治療を行った場合,1.5 年OS 66%,RFS 56%と一定の長期生存も得られるが,再発も比較的多い3)。ATO による再寛解後,ATO のみによる地固め療法とATO と化学療法の併用による地固め療法のOS を比較した上海グループの研究では後者が有意に優れていた4)。ATO による再寛解後の自家移植とATO ベースの寛解後治療を比較したインドの成績では自家移植群の無イベント生存割合(EFS) 83%に対して,ATO 群は34%であった5)。ATO による再寛解後に移植の適応がない症例には,ATO 治療後の再発例にも有効なゲムツヅマブ オゾガマイシン(GO)が薦められる6)。
再寛解後の治療についてはランダム化比較試験が行われていないので十分なエビデンスはない。50 歳以下の血縁ドナーがいる例には同種移植が選択肢になるが,それ以外では自家移植が薦められる。自家移植は再発率が比較的高いので骨髄細胞のPML-RARA が陽性の症例には同種移植,陰性例には自家移植がよい。
【参考文献】
1) de Botton S, et al. Autologous and allogeneic stem-cell transplantation as salvage treatment of acute promyelocytic leukemia initially treated with all-trans-retinoic acid : a retrospective analysis of the European acute promyelocytic leukemia group. J Clin Oncol. 2005 ; 23(1) : 120-6.(2A)
2) Sanz MA, et al. Hematopoietic stem cell transplantation for adults with acute promyelocytic leukemia in the ATRA era : a survey of the European Cooperative Group for Blood and Marrow Transplantation. Bone Marrow Transplant. 2007 ; 39(8) : 461-9.(3iiDi)
3) Soignet SL, et al. United States multicenter study of arsenic trioxide in relapsed acute promyelocytic leukemia. J Clin Oncol. 2001 ; 19(18) : 3852-60.(3iiiA)
4) Niu C, et al. Studies on treatment of acute promyelocytic leukemia with arsenic trioxide : remission induction, follow-up, and molecular monitoring in 11 newly diagnosed and 47 relapsed acute promyelocytic leukemia patients. Blood. 1999 ; 94(10) : 3315-24.(3iiiDii/2Dii)
5) Thirugnanam R, et al. Comparison of clinical outcomes of patients with relapsed acute promyelocytic leukemia induced with arsenic trioxide and consolidated with either an autologous stem cell transplant or an arsenic trioxide-based regimen. Biol Blood Marrow Transplant. 2009 ; 15(11) : 1479-84.(2Dii)
6) Lo-Coco F, et al. Gemtuzumab ozogamicin (Mylotarg) as a single agent for molecularly relapsed acute promyelocytic leukemia. Blood. 2004 ; 104(7) : 1995-9.(3iiiDiv)
CQ9 | 高齢者APL の至適な治療方法は何か |
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推奨グレードカテゴリー2A
- 全身状態が比較的良好な高齢者に対しては治癒を目指した治療を計画するが,治療強度は若年者より弱めるべきである。
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推奨グレードカテゴリー2B
- 重篤な併存症を持ち,アントラサイクリン系抗がん剤の投与が困難な高齢者に対しては,亜ヒ酸をベースにした治療を行ってもよい。
【解 説】
高齢者APL は,初発時白血球数が少ない低リスク例が多く,治療反応性は若年者と変わらないものの,感染症などの合併症によって死亡する患者が多い。そのため化学療法の強度を弱めることにより,高齢者APL の治療成績改善が期待される。
スペインのPETHEMA グループはオールトランス型レチノイン酸(ATRA)とイダルビシン併用の寛解導入療法とアントラサイクリン系抗がん剤中心の地固め療法からなるLPA96/99 研究を 年齢制限なしで行った。60 歳以上の寛解率は84%と良好だったものの,早期死亡の原因は感染症死が多く,寛解後療法中の死亡は71 歳以上では19%と若年者に比べ高率であった1)。イタリアのGIMEMA グループは地固め療法3 コースからなるAIDA 療法を60 歳以上には1 コースに減らすことにより,治療関連有害事象を減らし,同等の治療成績を得た2)。
亜ヒ酸(ATO)は年齢依存の副作用が少なく,高齢者APL に対しても期待される。米国Intergroup C9710 研究では,地固め療法でATO を単独で追加した群は61〜79 歳の高齢者群でも有意な予後の改善を認めた3)。MD アンダーソンがんセンターは,寛解導入・地固め療法にATO とATRA を併用投与した試験を行い,60 歳以上での寛解率は83%,10 例中9 例が寛解維持(観察中央期間17 カ月)との良好な結果を報告している4)。
以上より,高齢者には,通常の抗がん剤より致命的な有害事象をきたすことの少ないATO ベースの治療を行うのも妥当と考えられる。
【参考文献】
1) Sanz MA, et al. All-trans retinoic acid and anthracycline monochemotherapy for the treatment of elderly patients with acute promyelocytic leukemia. Blood. 2004 ; 104(12) : 3490-3.(1iiDii)
2) Mandelli F, et al. Treatment of elderly patients (>or=60 years) with newly diagnosed acute promyelocytic leukemia. Results of the Italian multicenter group GIMEMA with ATRA and idarubicin (AIDA)protocols. Leukemia. 2003 ; 17(6) : 1085-90.(1iiA)
3) Powell BL, et al. Arsenic trioxide improves event-free and overall survival for adults with acute promyelocytic leukemia : North American Leukemia Intergroup Study C9710. Blood. 2010 ; 116 (19) : 3751-7.(2Dii)
4) Estey E, et al. Use of all-trans retinoic acid plus arsenic trioxide as an alternative to chemotherapy in untreated acute promyelocytic leukemia. Blood. 2006 ; 107(9) : 3469-73.(3iDiv)
CQ10 | 妊娠中に発症したAPL をどのように治療すべきか |
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推奨グレードカテゴリー4
- 妊娠初期において,患者が妊娠中絶に同意しない場合は,催奇性の高いATRA の投与を避ける。
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推奨グレードカテゴリー2A
- 妊娠の中後期においては,ATRA も含めて抗がん剤の投与は比較的安全となるが,流産や未熟産のリスクは高くなることから,治療クールの合間の計画的出産を検討する。
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推奨グレードカテゴリー2B
- 亜ヒ酸は妊娠のすべての期間に使用すべきではない。
【解 説】
APL はAML の中でも比較的若年者に発症し,妊娠と合併する頻度が高い。APL は発症時に著明な出血傾向を呈するとともに,オールトランス型レチノイン酸(ATRA)や亜ヒ酸(ATO)には強い催奇性がある1)2)。ATO は,胎児に対する重篤な毒性2)から,妊娠全期で投与を避ける必要がある。
妊娠初期は,抗がん剤治療により胎児に重大な奇形を引き起こす可能性が高い。また胎児死亡の可能性も高く,母体の生命の安全を優先し,妊娠中絶を十分に検討する必要がある。挙児希望などの理由により妊娠中絶を行わない場合は,ATRA やATO の投与は避け,アントラサイクリン単剤で治療を行うことが望ましい3)。その場合,脂溶性が高く胎盤移行率の高いイダルビシン(IDR)よりもダウノルビシン(DNR)の投与の方が好ましいという意見がある4)。完全寛解が得られ,妊娠中期に移行後は,ATRA 併用の抗がん剤治療を行う。
妊娠中・後期は,ATRA を含む抗癌剤治療を行っても出生児に奇形が出現する可能性は比較的低いとされる5)。しかし,流産や,低体重児の出産・新生児好中球減少症・心合併症などのリスクは高くなる3)ため,心機能評価など胎児のモニタリングを頻回かつ厳密に行う必要がある。
一般に32 週を超えれば新生児科医師との連携の下,早産させることが可能となる。36 週以前の出産では,新生児呼吸窮迫症候群によるリスク低減のため,ステロイドの前投与が望ましい3)。
出産後,抗がん剤治療中は授乳を避ける。また,維持療法中の妊娠は避けるように指導する。妊娠合併APL で中絶手術を行う場合,全身状態の悪い時期に行わず待機的に行うことも選択肢となるが,緊急手術が必要になる場合もある。産科医,麻酔科医,新生児科医と十分に連携を取らなければならない。
【参考文献】
1) Lammer EJ, et al. Retinoic acid embryopathy. N Engl J Med. 1985 ; 313(14) : 837-41.(3iiiC)
2) Golub MS, et al. Developmental and reproductive toxicity of inorganic arsenic : animal studies and human concerns. J Toxicol Environ Health B Crit Rev. 1998 ; 1(3) : 199-241.(レビュー)
3) Sanz MA, et al. Management of acute promyelocytic leukemia : recommendations from an expert panel on behalf of European Leukemia Net. Blood. 2009 ; 113(9) : 1875-91(ガイドライン)
4) Cardonick E, et al. Use of chemotherapy during human pregnancy. Lancet Oncol. 2004 ; 5(5) : 283-91.(レビュー)
5) Culligan DJ, et al. The management of acute promyelocytic leukemia presenting during pregnancy. Clin Leukemia. 2007 ; 1(3) : 183-91.(3iiiC)
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急性リンパ芽球性白血/リンパ芽球性リンパ腫
(acute lymphoblastic leukemia:lymphoblastic lymphoma:ALL/LBL)
(acute lymphoblastic leukemia:lymphoblastic lymphoma:ALL/LBL)
◆総論
以前は,急性白血病と悪性リンパ腫は,それぞれ骨髄由来とリンパ節由来の腫瘍と考えられ,骨 髄にリンパ芽球が浸潤している場合は急性リンパ芽球性白血病(acute lymphoblastic leukemia: ALL),骨髄への浸潤がない場合はリンパ芽球性リンパ腫(lymphoblastic lymphoma:LBL)とし ていた。
WHO 分類(2008)では,リンパ系腫瘍をB 細胞系とT/NK 細胞(T 細胞およびnatural killer:NK 細胞)系とに大別し,正常リンパ系細胞の分化段階と概括対応させて細分類した(表1)1)。すなわち,ALL/LBL は前駆B 細胞(precursor B-cell)由来と前駆T 細胞(precursor T-cell)由来に分類され,それぞれ,B 細胞リンパ芽球性白血病/ リンパ腫とT 細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫と呼ばれ,B 細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫は,非特定型(not otherwise specified)と反復性遺伝子異常を伴う(with recurrent genetic abnormalities)タイプに分類される1)。以下の表に,反復性遺伝子異常を伴うB 細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫の細分類も含めて記載する。
FAB 分類2)のL3 は,WHO 分類では成熟B 細胞腫瘍(mature B-cell neoplasms)であるバーキットリンパ腫(Burkitt lymphoma)に包含され,ALL/LBL には含まれていない1)。
予後因子は,年齢,初診時白血球数,完全寛解までの期間およびPhiladelphia(Ph)染色体ないしt (4;11)である3)。Ph染色体が認められる[B lymphoblastic leukemia/lymphoma with t (9;22)(q34;q11.2) ; BCR-ABL1]場合は,イマチニブを代表とするチロシンキナーゼ阻害剤の有効性が明らかになっているので,治療の選択には,Ph 染色体ないしBCR-ABL1 融合遺伝子を探索することが重要である。
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【参考文献】
1) Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2008.
2) Bennett JM, et al. : The morphological classification of acute lymphoblastic leukaemia : Concordance among observers and clinical correlations. Br J Haematol. 1981 ; 47(4) : 553-61.
3) 竹内 仁.急性リンパ性白血病.血液専門医テキスト.日本血液学会編,南江堂,東京,2011.
◆アルゴリズム
(※)CQ番号(ピンク色部分)をクリックすると,解説画面へ移動します
LBL は,WHO 分類ではALL と同じカテゴリーに属し,ALL と同じ治療が推奨される(CQ1)。
寛解導入治療の選択は,まずPhiladelphia(Ph)染色体の有無で分類し,Ph 陽性であればイマチニブを含む治療が推奨される(CQ2)。Ph 陰性の場合,思春期・若年成人(おおむね30 歳まで)であれば小児プロトコールが推奨されるが(CQ3),高齢者(おおむね55〜60 歳以上)や一般成人の場合の確立された治療法はない(CQ4, 5)。マーカーによる選択に関しては,T 細胞性ALL(T-ALL)とB 細胞性ALL(B-ALL)で異なった治療を行うべきであるとの明確な根拠はない(CQ6)。プレドニゾロン(PSL)の前投与は,小児では一般的であり,成人ALL でもPSL 前投与の反応性をみることに意義はあるが,層別化の指標となり得るかどうかはまだ明らかではない(CQ7)。
完全寛解(complete remission:CR)に到達すれば,Ph 染色体の有無や年齢にかかわらず,化学療法剤による中枢神経系(central nervous system:CNS)再発予防は不可欠であるが,全脳照射の適応は限定的である(CQ8)。CR 時あるいはその後の経過での微小残存病変(minimal residual disease:MRD)の観察は有意義であるが(CQ9),成人ALL におけるMRD による層別化治療の成績は明らかではない。寛解後療法として大量キロサイドや大量メトトレキサート(MTX)は適切な治療選択肢であるが(CQ10),自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は行うべきではない(CQ11)。治療前に縦隔病変の認められるT 細胞性LBL(T-LBL)に対する縦隔照射は局所再発予防目的であるが,必ずしも成功しているとは言い難く,縦隔照射を含まない治療も妥当である(CQ12)。
Ph 陽性症例だけではなくPh 陰性であっても,HLA 一致適合ドナーがいれば,第一CR 期の同種造血幹細胞移植は推奨される(CQ13)。また,減弱前処置による造血幹細胞移植も試みるに値する(CQ14)。
再発した場合治療は,前治療歴と再発までの期間を考慮して治療薬剤を選択し,症例によっては新規薬剤の使用も考慮する(CQ15)。
CQ1 | 骨髄浸潤のないリンパ芽球性リンパ腫の治療はALL と同じ治療が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 骨髄浸潤の有無にかかわらず,リンパ芽球性リンパ腫の治療はALL と同様に行うことが推奨される。(縦隔病変を有する場合の対応については,CQ11 参照)
【解 説】
LBL は,生物学的にはALL と同一の疾患であり,骨髄浸潤の割合が25%未満の場合にLBL と診断される。LBL の約80%以上はT 細胞性LBL(T-LBL)が占め,若年男性,縦隔病変を有することが多く,骨髄浸潤を認めない(骨髄芽球比率が5%未満)症例の割合は36〜85%と報告されている1)〜4)。一方,少数例の検討であるが,B 細胞性LBL(B-LBL)は若年女性,節外病変(特に皮膚病変)を有し,骨髄浸潤を認めない症例が多いことが報告されている5)〜7)。
また,ALL 治療レジメンの適用により,LBL の治療成績は飛躍的に向上したことが報告されているが1),ランダム化比較試験によるエビデンスはない。
成人T-LBL 45 例を対象としたドイツの多施設共同後方視的研究では,ALL レジメンを施行し,7 年全生存割合(OS)および無病生存割合(DFS)はそれぞれ51%,62%であったことを報告した1)。また,成人LBL 33 例を対象とした,MD アンダーソンがんセンターの単施設後方視的研究では,hyper-CVAD/MA 療法(CPA, VCR, DXR, DEX,高用量MTX,高用量AraC)を施行し,3 年無増悪生存割合(PFS)およびOS はそれぞれ66%,70%であった2)。これら2 報告において,骨髄浸潤の有無は予後因子にはならなかった。
【参考文献】
1) Hoelzer D, et al. Outcome of adult patients with T-lymphoblastic lymphoma treated according to protocols for acute lymphoblastic leukemia. Blood. 2002 ; 99(12) : 4379-85.(3iiiA)
2) Thomas DA, et al. Outcome with the hyper-CVAD regimens in lymphoblastic lymphoma. Blood. 2004 ; 104(6) : 1624-30.(3iiiA)
3) Hunault M, et al. Outcome of adult T-lymphoblastic lymphoma after acute lymphoblastic leukemia-type treatment : a GOELAMS trial. Haematologica. 2007 ; 92(12) : 1623-30.(3iiiDiv)
4) Le Gouill S, et al. Adult lymphoblastic lymphoma : a retrospective analysis of 92 patients under 61 years included in the LNH87/93 trials. Leukemia. 2003 ; 17(11) : 2220-4.(3iiiDiv)
5) Soslow RA, et al. B-lineage lymphoblastic lymphoma is a clinicopathologic entity distinct from other histologically similar aggressive lymphomas with blastic morphology. Cancer. 1999 ; 85 (12) : 2648-54.(3iiiDiv)
6) Lin P, et al. Precursor B-cell lymphoblastic lymphoma : a predominantly extranodal tumor with low propensity for leukemic involvement. Am J Surg Pathol. 2000 ; 24(11) : 1480-90.(3iiiDiv)
7) Maitra A, et al. Precursor B-cell lymphoblastic lymphoma. A study of nine cases lacking blood and bone marrow involvement and review of the literature. Am J Clin Pathol. 2001 ; 115(6) : 868-75.(3iiiDiv)
CQ2 | Ph 陽性ALL に対してチロシンキナーゼ阻害剤はどの薬剤をどのように使うべきか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- Ph 陽性ALL の寛解導入療法,地固め療法においてイマチニブを併用することにより,より高い完全寛解率と生存割合が期待でき,推奨される。
【解 説】
成人のPh 陽性ALL に対する初回治療におけるチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の使用について記述する。高齢者のPh 陽性ALL に関しては高齢者の項(CQ4)を,移植におけるTKI の使用に関しては移植の項(CQ10)を参照されたい。
Ph 陽性ALL の初回治療におけるTKI の使用法について検討した第Ⅲ相試験は存在していない。一方,イマチニブを用いた第Ⅱ相試験は7 試験が論文として発表されている1)〜7)。いずれも寛解導入療法,地固め療法,イマチニブの使用方法が一定ではないため,どの治療法がよいかは判定しがたいが,完全寛解(CR)率は90%以上,PCR の陰性率も定義の差はあるものの38〜71%と報告されている。
さらに,どの報告においても第一寛解期の50〜79%の症例で同種造血幹細胞移植が行われており,生存割合の比較検討が困難となっている。
いずれにしてもLALA-94 8)に代表されるTKI を用いない化学療法に比べ,historical control ではあるものの,高いCR 率と生存割合を示しており,その使用が推奨される。
イマチニブ以外のTKI に関しては,ダサチニブを用いた第Ⅱ相試験が2 試験報告されており,今後の検討結果が待たれる9)10)。
【参考文献】
1) de Labarthe A, et al ; Group for Research on Adult Acute Lymphoblastic Leukemia (GRAALL). Imatinib combined with induction or consolidation chemotherapy in patients with de novo Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia : results of the GRAAPH-2003 study. Blood. 2007 ; 109(4): 1408-13.(3iiiDiv)
2) Wassmann B, et al. Alternating versus concurrent schedules of imatinib and chemotherapy as front-line therapy for Philadelphia-positive acute lymphoblastic leukemia(Ph+ALL). Blood. 2006 ; 108(5) : 1469-77.(2Div)
3) Ribera JM, et al ; Programa Español de Tratamiento en Hematología ; Grupo Español Trasplante Hemopoyético Groups. Concurrent intensive chemotherapy and imatinib before and after stem cell transplantation in newly diagnosed Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia. Final results of the CSTIBES02 trial. Haematologica. 2010 ; 95(1) : 87-95.(3iiiDiv)
4) Yanada M, et al ; Japan Adult Leukemia Study Group. High complete remission rate and promising outcome by combination of imatinib and chemotherapy for newly diagnosed BCR-ABL-positive acute lymphoblastic leukemia : a phase Ⅱ study by the Japan Adult Leukemia Study Group. J Clin Oncol. 2006 ; 24(3) : 460-6.(3iiiDiv)
5) Lee KH, et al. Clinical effect of imatinib added to intensive combination chemotherapy for newly diagnosed Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia. Leukemia. 2005 ; 19(9) : 1509-16.(3iiiDiv)
6) Thomas DA, et al. Treatment of Philadelphia chromosome-positive acute lymphocytic leukemia with hyper-CVAD and imatinib mesylate. Blood. 2004 ; 103(12) : 4396-407.(3iiiDiv)
7) Bassan R, et al. Chemotherapy-phased imatinib pulses improve long-term outcome of adult patients with Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia : Northern Italy Leukemia Group protocol 09/00. J Clin Oncol. 2010 ; 28(22) : 3644-52.(3iiiA)
8) Dombret H, et al ; Groupe d’Etude et de Traitement de la Leucémie Aiguë Lymphoblastique de l’Adulte(GET-LALA Group). Outcome of treatment in adults with Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia--results of the prospective multicenter LALA-94 trial. Blood. 2002 ; 100(7) : 2357-66.(3iiiDiv)
9) Ravandi F, et al. First report of phase 2 study of dasatinib with hyper-CVAD for the frontline treatment of patients with Philadelphia chromosome-positive(Ph+) acute lymphoblastic leukemia. Blood. 2010 ; 116(12) : 2070-7.(3iiiDiv)
10) Foa R, et al ; GIMEMA Acute Leukemia Working Party. Dasatinib as first-line treatment for adult patients with Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia. Blood. 2011 ; 118(25) : 6521-8.(3iiiDiv)
CQ3 | 思春期・若年成人ALL は小児プロトコールでの治療が推奨されるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- 思春期・若年成人ALL は,小児プロトコールによる治療が勧められる。
【解 説】
16〜20 歳の未治療ALL 患者での小児プロトコール(Children’s Cancer Group:CCG)の成績と成人プロトコール(Cancer and Leukemia Group B:CALGB)の成績を後方視的に比較し,完全寛解(CR)率は90%と同じであったが,7 年全生存割合(OS)はそれぞれ67%と46%で有意にCCG が優れていることが報告された。その理由として,ステロイド,ビンクリスチン(VCR),L-アスパラギナーゼ(L-Asp)などの薬剤量が多いことと中枢神経系白血病予防が頻回であることが指摘された1)。Sweden でも,小児プロトコール36 例(15〜18 歳,中央値15.6 歳)と成人プロトコール23 例(15〜20 歳,中央値18.2 歳)を後方視的に比較し,5 年無イベント生存割合(EFS)は前者が優れていた(74% vs 39%,p<0.01)が,high risk 症例が成人プロトコール群に多いというバイアス(14% vs 39%,p=0.03)が存在していた2)。
小児と成人プロトコールを比較した前方視的研究はないが,小児プロトコール(PETHEMA ALL96)を標準risk の思春期(15〜18 歳,n=35)および若年成人(19〜30 歳,n=46)ALL に行い,CR 率98%,6 年EFS 61%,6 年OS 68%と良好で,思春期と若年成人間に差はなかった3)。
小児プロトコールを60 歳までの成人に適用した報告では,CR 率89〜93.5%,全例のOS 率も60〜63%と従来の成績より良好であった4)5)。一方,寛解導入中の死亡率は45 歳以上の症例で13%(45 歳未満は4%)4),50 歳以上で20% 5)であり,注意が必要である。
以上から小児プロトコールは,思春期・若年成人では良好な成績であり,死亡率も許容範囲と考えられる。
Japan Adult Leukemia Study Group(JALSG) ALL202-U 研究では,15〜24 歳までのBCRABL 陰性ALL を対象に小児白血病研究会(Japan Association of Childhood Leukemia Study:JACLS)と同じ治療を行った6)。プレドニゾロンの前投与,寛解導入療法でのL-Asp の増量と地固め療法でのL-Asp とメトトレキサート(MTX)の増量が特徴であった。CR 率は94%(121/134 例)で,ALL97 での同年代の成績(CR 率84%)に比し有意に優れていた(p<0.01)。
【参考文献】
1) Stock W et al. What determines the outcomes for adolescents and young adults with acute lymphoblastic leukemia treated on cooperative group protocols? A comparison of Children’s Cancer Group and Cancer and Leukemia Group B studies. Blood. 2008 ; 112(5) : 1646-54.(3iiiA)
2) Hallböök H et al. Treatment outcome in young adults and children>10 years of age with acute lymphoblastc leukemia in Sweden. Cancer. 2006 ; 107(7) : 1551-61.(3iiiDi)
3) Ribera JM et al. Comparison of the results of the treatment of adolescents and young adults with standard- risk acute lymphoblastic leukemia with the program Español de Tratamiento en Hematología pediatric-based protocol ALL-96. J Clin Oncol. 2008 ; 26(11) : 1843-9.(3iiiA)
4) Huguet F et al : Pediatric-inspired therapy in adults with Philadelphia chromosome-negative acute lymphoblastic leukemia : the GRAALL-2003 study. J Clin Oncol. 2009 ; 27(6) : 911-8.(3iiA)
5) Storring JM et al. Treatment of adults with BCR-ABL negative acute lymphoblastic leukaemia with a modified paediatric regimen. Br J Haematol. 2009 ; 146(1) : 76-85.(3iiA)
6) 近藤英生:思春期・若年成人急性リンパ性白血病を対象とした化学療法の安全性の検討:JALSG ALL202-U の中間解析.臨床血液.2012 ; 53(8) : 747-52.(3iC)
CQ4 | 高齢者ALL の治療法は何が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 高齢者のPh 陽性ALL に対してはイマチニブの併用により寛解率の改善が期待できるため,使用が推奨される。Ph 陰性ALL に対する治療法は確立されていない。
【解 説】
高齢者の定義は論文によって異なるものの,55 あるいは60 歳以上と考えると,35〜10 年前までに治療を受けた患者の成績をみても高齢者の成績には年代による変化が認められていない1)。完全寛解(CR)率は30〜50 歳台の患者に比べ,80% vs 60%と低く,3 年全生存割合(OS)も35% vs 10%と不良である2)。
高齢者ALL の初回治療に関する臨床試験も少なく,CD20 陽性のALL に対するリツキシマブ(R)を寛解導入から併用する第Ⅱ相試験3)4)と,Ph 陽性ALL に対するイマチニブを用いた1 つの第Ⅲ相試験5)と2 つの第Ⅱ相試験6)7)が報告されているのみである。
R はCD20 陽性のB 細胞性ALL(B-ALL)あるいはバーキットリンパ腫に用いられ,前者ではhistorical control に比べ効果が認められず,後者では効果を認めるものの対象は9 例であり,さらなる検討が必要である3)4)。
Ph 陽性ALL に対するイマチニブの検討は化学療法との比較が第Ⅲ相試験として1 試験行われ,有意な寛解率の向上を認めたが,生存割合の改善は認められていない5)。2 つの第Ⅱ相試験においては治療方法がそれぞれ異なるものの,72〜100%のCR 率を報告しており,さらに検討が必要と考えられる。
【参考文献】
1) Pulte D, et al. Improvement in survival in younger patients with acute lymphoblastic leukemia from the 1980s to the early 21st century. Blood. 2009 ; 113(7) : 1408-11.(レビュー)
2) Larson RA. Acute lymphoblastic leukemia : older patients and newer drugs. Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2005 ; 131-136.(レビュー)
3) Thomas DA, et al. Chemoimmunotherapy with a modified hyper-CVAD and rituximab regimen improves outcome in de novo Philadelphia chromosome-negative precursor B-lineage acute lymphoblastic leukemia. J Clin Oncol. 2010 ; 28(24) : 3880-9.(3iiiDiv)
4) Thomas DA, et al. Chemoimmunotherapy with hyper-CVAD plus rituximab for the treatment of adult Burkitt and Burkitt-type lymphoma or acute lymphoblastic leukemia. Cancer. 2006 ; 106(7) : 1569-80. (3iiiD)
5) Ottmann OG, et al ; GMALL Study Group. Imatinib compared with chemotherapy as front-line treatment of elderly patients with Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia (Ph+ALL). Cancer. 2007 ; 109(10) : 2068-76.(1iiDiv)
6) Delannoy A, et al. Imatinib and methylprednisolone alternated with chemotherapy improve the outcome of elderly patients with Philadelphia-positive acute lymphoblastic leukemia : results of the GRAALL AFR09 study. Leukemia. 2006 ; 20(9) : 1526-32.(3iiiDiv)
7) Vignetti M, et al. Imatinib plus steroids induces complete remissions and prolonged survival in elderly Philadelphia chromosome-positive patients with acute lymphoblastic leukemia without additional chemotherapy : results of the Gruppo Italiano Malattie Ematologiche dell’Adulto(GIMEMA) LAL0201-B protocol. Blood. 2007 ; 109(9) : 3676-8.(3iiiDiv)
CQ5 | 一般成人Ph 陰性ALL の治療法は何が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- Ph 陰性ALL に対する標準治療は確立していない。
【解 説】
30 歳以上のPh 陰性ALL に対する化学療法の成績だけをまとめた論文は見当たらないが,2000 年以降に発表された200 例以上の成人ALL の治療成績を表1 に示す。完全寛解(CR)率は74〜92%,全例の生存割合は27〜54%である。生存割合に関しては,予後因子を考慮した造血幹細胞移植(stem cell transplantation:SCT)が何らかの形で含まれており,化学療法と移植をパッケージとした治療法の成績と理解すべきである。
試験名 | 発表年 | 研究期間 | 症例数 | 年齢 中央値 (range) |
SCT | Ph | L3 | CR 率 | 生存割合 |
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LALA 87 | 2000 | Nov 1986〜 July 1991 |
572 | 33 (15〜60) |
yes | yes | no | 76% | 27%(10 年) |
GMALL 05/93* | 2001 | Apr 1993〜 Oct 1999 |
1,163 | 35 (15〜65) |
yes | yes | no | 83% | 35%(5 年) |
JALSG ALL93 | 2002 | Dec 1993〜 Feb 1997 |
263 | 31 (15〜59) |
yes | yes | yes | 78% | 33%(6 年) |
GIMEMA 0288 | 2002 | Jan 1988〜 Apr 1996 |
778 | 27.5 (12〜60) |
yes | yes | no | 82% | 27%(9 年) |
Hyper-CVAD | 2004 | Feb 1992〜 Mar 2000 |
288 | 40 (15〜92) |
yes | yes | yes | 92% | 38%(5 年) |
LALA 94 | 2004 | Jun 1994〜 Jan 2002 |
922 | 33 (15〜55) |
yes | yes | no | 84% | 33%(5 年) |
MRC UKALL XII/ ECOG E2993 |
2005 | 1993〜 2003 |
1,521 | 15〜59 | yes | yes | yes | 91% | 38%(5 年) |
GMALL 07/2003* | 2007 | Apr 2003〜 Dec 2006 |
713 | 34 (15〜55) |
yes | yes | no | 89% | 54%(5 年) |
SWOG 9400 | 2008 | Aug 1995〜 May 2000 |
200 | 15〜65 | yes | yes | no | 80% | 33%(5 年) |
JALSG ALL97 | 2010 | May 1997 〜Dec 2001 |
404 | 38 (15〜64) |
yes | yes | no | 74% | 32%(5 年) |
*抄録
SCT:造血幹細胞移植
Ph:Ph 陽性例
L3:FAB 分類L3
yes は上記症例を含む,no は上記症例は除外。
上記の成績のうち,Ph 陰性例あるいは年齢をサブグループとして抽出した結果を以下に示す。Japan Adult Leukemia Study Group(JALSG)ALL93 におけるPh 陰性例のCR 率,生存割合はそれぞれ83 %,39 % で,30 歳以上の症例では,72 %,21 % であった1)。hyper-CVAD 療法(CPA, VCR, DXR, DEX)でのPh 陽性,バードキットタイプ以外の症例では,それぞれ91%,41%であり,40〜59 歳では,80%,30%であった2)。Medical Research Council(MRC)/Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)でのPh 陰性例では,93%,44%であり,35 歳以上のCR 率は89%で,生存割合は30〜39 歳,40〜49 歳,50 歳以上でそれぞれ34%,23%,15%であった3)。Southwestern Oncology Group(SWOG) 9400 における30〜49 歳,50〜65 歳のCR 率,生存割合はそれぞれ80%,32%と63%,23%であった4)。JALSG ALL97 では,Ph 陰性群をサブグループとして解析し,CR 率81%,生存割合39%であった。Ph 陰性群の年齢別の成績は,35〜54 歳,55〜64 歳でそれぞれ80%,38%と78%,26%であった5)。
以上から,Ph 陰性群の生存割合は全症例を含む生存割合よりやや良好で,30 歳以上の症例の生存割合は全体よりやや不良であることは示されたが,異なるプロトコールをランダム化して比較した試験はなく,プロトコール間の優劣は不明である。
【参考文献】
1) Takeuchi J et al. Induction therapy by frequent administration of doxorubicin with four other drugs, followed by intensive consolidation and maintenance therapy for adult acute lymphoblastic leukemia : the JALSG-ALL93 study. Leukemia. 2002 ; 16(7) : 1259-66.(3iiA)
2) Kantarjian H et al. Long-term follow-up results of hyperfractionated cyclophosphamide, vincristine, doxorubicin, and dexamethasone (Hyper-CVAD), a dose-intensive regimen, in adult acute lymphoblastic leukemia. Cancer. 2004 ; 101(12) : 2788-801.(3iDii)
3) Rowe JM et al. Induction therapy for adults with acute lymphoblastic leukemia : results of more than 1500 patients from the international ALL trial : MRC UKALL XII/ECOG E2993. Blood. 2005 : 106(12) : 3760-7.(3iiA)
4) Pullarkat V et al. Impact of cytogenetis on the outcome of adult acute lymphoblastic leukemia : results of Southwest Oncology Group 6400 study. Blood. 2008 ; 111(5) : 2563-72.(3iDii)
5) Jinnai I et al. Intensifi ed consolidation therapy with dose-escalated doxorubicin did not improve the prognosis of adults with acute lymphoblastic leukemia : the JALSG-ALL97 study. Int J Hematol. 2010 ; 92(3): 490-502.(3iDii)
CQ6 | T 細胞性ALL とB 細胞性ALL は同じ治療方法でよいか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 過去の臨床試験の成績から考察する限りでは,T 細胞性ALL とB 細胞性 ALL で治療を変えるべきであるという明確な根拠は存在しない。
【解 説】
T 細胞性ALL(T-ALL)は全ALL の20%前後にすぎず,過去の臨床試験ではB 細胞性ALL(B-ALL)とT 細胞性ALL の両者を含めて同じ化学療法が行われてきた(ただし,高リスク群を定義する際の初診時白血球数についてはT-ALL でより高い閾値を採用しているものが多い)。近年の大規模臨床試験の結果をみるとT-ALL の治療成績がB-ALL よりも若干優れているというものが多いが,その結果は一様ではない。各研究間で化学療法の内容も大きく異なる。
2000 年以降に発表された症例数100 例以上の臨床試験の結果を一覧すると,例えば最も規模の大きいMRC UKALL XII/ECOG E2993 では5 年全生存割合(OS)がT-ALL で48%,B-ALL で41%とT-ALL が有意に優れていた1)。この研究では大量シタラビン(AraC)は含まれていないが,大量メトトレキサート(MTX)(3 g/m2)が3 コース投与されている。MD アンダーソンがんセンターのhyper-CVAD/MA 療法はMTX は1 g/m2 が合計4 回,AraC は3 g/m2 が合計16 回投与されるプロトコールである2)。T-ALL の5 年OS は48%で,それ以外のALL(T-CALLAprecursor B-cell ALL,NULL ALL を含む)の5 年OS 36%を有意に上回った。中等量のMTX(600 mg/m2 を合計4 回)を採用した日本のJALSG-ALL93 試験では6 年OS がT-ALL で41.5%,B-ALL で35.9%とT-ALL が優れているものの有意差には至っていない3)。一方,2002 年に発表されたGIMEMA ALL 0288 試験では完全寛解到達患者の8 年後寛解維持率はB-ALL で34%,T-ALL で27%とB-ALL が有意に優れるという結果であった4)。この研究では大量AraC は用いられていないが,強化療法で1 g/m2 のMTX が3 コース投与されている。
これらの結果を総合的に考えると,大量MTX の採用はT-ALL において魅力的な選択肢ではあるが,必ずしもそれを含む試験においてT-ALL の治療成績が優れているとは言えない。今後,ネララビン(AraG)などの薬剤を早期から導入することによってT-ALL の治療成績が向上する可能性があるが,現時点では臨床データは乏しい。
【参考文献】
1) Rowe JM, et al. Induction therapy for adults with acute lymphoblastic leukemia : results of more than 1500 patients from the international ALL trial : MRC UKALL XII/ECOG E2993. Blood. 2005 ; 106(12) : 3760-7.(3iiA)
2) Kantarjian H, et al. Long-term follow-up results of hyperfractionated cyclophosphamide, vincristine, doxorubicin, and dexamethasone (Hyper-CVAD), a dose-intensive regimen, in adult acute lymphocytic leukemia. Cancer. 2004 ; 101(12) : 2788-801.(3iiA)
3) Takeuchi J, et al. Induction therapy by frequent administration of doxorubicin with four other drugs, followed by intensive consolidation and maintenance therapy for adult acute lymphoblastic leukemia : the JALSG-ALL93 study. Leukemia. 2002 ; 16(7) : 1259-66.(3iiA)
4) Annino L, et al. Treatment of adult acute lymphoblastic leukemia (ALL) : long-term follow-up of the GIMEMA ALL 0288 randomized study. Blood. 2002 ; 99(3) : 863-71.(1iiDii/3iiDii)
CQ7 | 成人ALL における寛解導入療法prephase でのプレドニゾロン反応性は予後判定に有用か |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 成人ALL の寛解導入療法において,prephase のPSL 7 日間投与の効果で,予後を判断できる可能性はある。
【解 説】
小児のALL 治療では,7 日間のプレドニゾロン(PSL)投与がprephase として行われ,day 8 の末梢血中の芽球が1,000/μl 以上あれば予後不良と報告されている1)。多くの小児プロトコールでは,このPSL 反応性によりリスクを決定し,治療法を変えている。
prephase のPSL 投与の効果を検証した成人プロトコールは,Gruppo Italiano Malattie EMatologiche dell’ Adulto(GIMEMA)ALL0288 試験だけである2)。この試験では,7 日間のPSL 投与(総投与量330 mg/m2)が行われ,prephase 以前にPSL を投与されていた121 例を除く657 例中429 例(69%)に効果が認められた。白血球数が多い症例およびB 細胞性ALL(B-ALL)に有効率が高かった。評価可能769 例のCR 率は82%で,PSL 有効例のCR 率は非有効例より優っていた(87% vs 70%,p=0.001)。全CR 例のCR 持続割合(CCR)は33%(9 年)で,PSL 有効例の8 年CCR は非有効例より優っていた(36% vs 24%,p=0.0004)。
prephase のPSL 投与を行い,その反応性が悪い症例に,寛解導入療法でCY を追加投与するGRAALL-2003 試験の成績は,CR 率93.5%(210/225),全例の生存割合60%(42 カ月)と良好であった3)。しかし,この良好な成績が,prephase のPSL 投与によるためかどうかは明らかではない。
【参考文献】
1) Donadieu J, Hill C. Early response to chemotherapy as a prognostic factor in childhood acute lymphoblastic leukemia : a methodological review. Brit J Haematol. 2001 : 115(1) ; 34-45.(3iiiDiv)
2) Annino L, et al. Treatment of adult acute lymphoblastic leukemia (ALL) : long-term follow-up of the GIMEMA ALL 0288 randomized study. Blood. 2002 ; 99(3) : 863-71.(1iiDii)
3) Huguet F et al : Pediatric-inspired therapy in adults with Philadelphia chromosome-negative acute lymphoblastic leukemia : the GRAALL-2003 study. J Clin Oncol. 2009 ; 27(6) : 911-8.(3iiA)
CQ8 | 成人ALL の治療において中枢神経系再発予防は勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- すべての症例に対して,抗がん剤の髄腔内投与および中枢神経系への移行性の良い全身化学療法の使用が推奨される。全脳照射はルーチンに施行すべきではなく,中枢神経再発ハイリスク例においては選択肢の一つである。
【解 説】
中枢神経系(central nervous system:CNS)再発への対策はALL 治療成績の向上に不可欠である。対策として,抗がん剤の髄腔内投与(Intrathecal:IT),中枢神経系への移行性の良い全身化学療法[大量メトトレキサート(MTX),大量シタラビン(AraC)]および全脳照射の選択肢がある1)〜5)。これらの組み合わせおよび治療強度は,CNS 再発リスクに応じて対策を講じるのが望ましい。
小児ALL に比較すると,成人ALL におけるエビデンスは極めて限られていて,標準的対策法は確立されていない。成人ALL 治療におけるCNS 再発予防法の確立のためには,以下の3 点が特に重要と考えられる。
- ① CNS 再発ハイリスク群の同定
- ② triple It (MTX+AraC+ステロイドの3 剤併用),大量MTX および大量AraC の投与量,投与回数のリスク別至適化
- ③ハイリスク群における全脳照射の意義
以下に,主に小児ALL を対象とした臨床試験によるエビデンスを列挙し,参考としたい。
MTX 単独投与に比較して,triple IT がCNS 単独再発リスクを有意に低下(p=0.004)させるが,骨髄再発はtriple IT で有意に多かった(p=0.01)6)。
全脳照射を施行しなかった場合,5 年間の累積CNS 単独再発は2.7%(95% CI:1.1-4.3)であり,診断時 CNS 病変を除く,CNS 再発リスク因子はt (1;19),T 細胞性であった 7)。
CNS 再発リスク因子は報告によって異なるが,一般にT 細胞性,初診時WBC 高値,予後不良染色体異常および寛解導入不応などがあり,予防的全脳照射の対象としているプロトコールが多い8)。
全脳照射による晩期毒性として,白質脳症,認知機能低下,内分泌異常および髄膜腫などの二次性腫瘍などがあり,選択には注意が必要である9)10)。
【参考文献】
1) Larson RA, et al. A randomized controlled trial of filgrastim during remission induction and consolidation chemotherapy for adults with acute lymphoblastic leukemia : CALGB study 9111. Blood. 1998 ; 92 (5) : 1556-64.(3iDiv)
2) Stock W, et al. What determines the outcomes for adolescents and young adults with acute lymphoblastic leukemia treated on cooperative group protocols? A comparison of Children’s Cancer Group and Cancer and Leukemia Group B studies. Blood. 2008 ; 112(5) : 1646-54.(3iiiA)
3) Kantarjian HM, et al. Results of treatment with hyper-CVAD, a dose-intensive regimen, in adult acute lymphocytic leukemia. J Clin Oncol. 2000 ; 18(3) : 547-61.(3iDiv)
4) Huguet F, et al. Pediatric-inspired therapy in adults with Philadelphia chromosome-negative acute lymphoblastic leukemia : the GRAALL-2003 study. J Clin Oncol. 2009 ; 27(6) : 911-8.(3iiA)
5) Takeuchi J, et al. Induction therapy by frequent administration of doxorubicin with four other drugs, followed by intensive consolidation and maintenance therapy for adult acute lymphoblastic leukemia : the JALSG-ALL93 study. Leukemia. 2002 ; 16(7) : 1259-66.(3iiA)
6) Matloub Y, et al. Intrathecal triple therapy decreases central nervous system relapse but fails to improve event-free survival when compared with intrathecal methotrexate : results of the Children’s Cancer Group(CCG) 1952 study for standard-risk acute lymphoblastic leukemia, reported by the Children’s Oncology Group. Blood. 2006 ; 108(4) : 1165-73.(1iiDiv)
7) Pui CH, et al. Treating childhood acute lymphoblastic leukemia without cranial irradiation. N Engl J Med. 2009 ; 360(26) : 2730-41.(2Div)
8) Pui CH, et al. Current management and challenges of malignant disease in the CNS in paediatric leukaemia. Lancet Oncol. 2008 ; 9(3) : 257-68.(3iiiD)
9) Filley CM, et al. Toxic leukoencephalopathy. N Engl J Med. 2001 ; 345(6) : 425-32.(3iiiDiv)
10) Hijiya N, et al. Cumulative incidence of secondary neoplasms as a first event after childhood acute lymphoblastic leukemia. JAMA. 2007 ; 297(11) : 1207-15.(3iiiDiv)
CQ9 | 寛解期成人ALL の治療における微小残存病変の評価の意義はあるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- 寛解療法後に微小残存病変があれば(0.1%ないし0.01%以上),再発の危険性が高まる。寛解療法後のどの時点で微小残存病変を測定すべきかのコンセンサスはない。
【解 説】
微小残存病変(minimal residual disease:MRD)をみるためには,ALL の初診時に免疫グロブリン(Ig)ないしT 細胞受容体(TCR)遺伝子再構成を見出し,この再構成のアリル特異的プライマーを作成しておく必要がある。治療後の検体中に同じ配列があるかどうかをPCR(polymerase chain reaction)法で同定する。また,BCR-ABL などのキメラ遺伝子や異常な表面マーカー(aberrant marker)を初診時に検査し,これらの異常をMRD 測定に用いることができるが,キメラ遺伝子検査の保険適用は一部の病院に限られている。
Ph 陰性ALL 116 例を対象として,aberrant marker をMRD の指標とした後方視的研究では,寛解導入終了時のMRD は独立した再発の予後因子であったが(p<0.0001),地固め後のMRD は予後と有意な関連はなかった1)。一方,T 細胞系以外のPh 陰性ALL 161 例を対象とした後方視的研究では,治療開始1 年以内のどの時点でもMRD が陽性であれば有意に再発までの期間が短かった2)。
未治療のB 細胞性ALL およびT 細胞性ALL 142 例を対象とした前方視的研究が行われた3)。治療後16 週で0.01%未満であり,22 週で全く検出されないものをMRD 陰性,それ以外をMRD 陽性と定義し,5 年全生存割合(OS)/ 無再発生存割合(RFS)を比較すると有意にMRD 陰性群が良好であった(75%/72% vs 33%/14%,p=0.001)。また,196 例の標準リスクALL を対象とした前方視的研究では,寛解導入療法中(day11)および寛解導入療法終了時(day24)にMRD 陰性であれば3 年再発率0%に対し,治療後16 週までMRD 陽性であれば3 年再発率96%と報告されている4)。日本でも成人ALL 27 例を対象に,寛解終了後100 日にMRD を測定した前方視的研究がある5)。MRD 陰性群の2 年OS/RFS は79.0%/79.4%で,陽性群の45.0%/40.0%に比して有意に高かった。
【参考文献】
1) Holowiecki J, et al. Status of minimal residual disease after induction predicts outcome in both standard and high-risk Ph-negative adult acute lymphoblastic leukemia. The Polish Adult Leukemia Group ALL 4-2002 MRD study. Br J Haematol. 2008 ; 142(2) : 227-37.(3iDii)
2) Patel B, et al. Minimal residual disease is a signifi cant predictor of treatment failure in non T-lineage adult acute lymphoblastic leukaemia : final results of the international UKALL XII/ECOG E2993. Br J Haematol. 2009 ; 148(1) : 80-9.(3iDii)
3) Bassan R, et al. Improved risk classification for risk-specific therapy based on the molecular study of minimal residual disease (MRD) in adult acute lymphoblastic leukemia (ALL) Blood. 2009 ; 113 (18) : 4153-62.(3iDii)
4) Bruüggemann M, et al. Clinical significance of minimal residual disease quantifi cation in adult patients with standard-risk acute lymphoblastic leukemia. Blood. 2006 ; 107(3) : 1116-23.(3iDii)
5) Kikuchi M, et al. Clinical significance of minimal residual disease in adult acute lymphoblastic leukemia. Int J Hematol. 2010 ; 92(3) : 481-9.(3iDii)
CQ10 | 成人ALL の寛解後療法において大量シタラビンや大量メトトレキサートは勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 成人ALL に対する寛解後療法として大量シタラビン(1〜3 g/m2)や大量メトトレキサート(1〜3 g/m2)は妥当な選択肢である。再発・難治例に対する救援化学療法としても用いられる。
【解 説】
成人ALL に対して,大量シタラビン(AraC)療法や大量メトトレキサート(MTX)療法は,当初,主に再発・難治例に対する救援療法として用いられた。大量MTX 療法は単独,もしくはアントラサイクリン系抗腫瘍薬またはミトキサントロン(MIT)との併用療法として用いられる1)2)。その後,ALL の初回治療でも大量AraC 療法が用いられるようになってきた。最近,成人ALL に対して大量AraC 療法,大量MTX,もしくはその両者を寛解後療法として用いた治療プロトコールの報告が増えており,これらの導入が成人ALL の予後改善に寄与している可能性がある。これらの治療では中枢神経系再発予防効果も期待される。しかし現在までに成人ALL において大量AraC,大量MTX それぞれの意義を検証したランダム化比較試験は報告されておらず,最適な用量・用法も確立していない。
成人ALL に対する寛解後療法に大量AraC,大量MTX の両者を用いるプロトコールでは,MD アンダーソンがんセンターから報告されているhyper-CVAD/MA 療法3)(CPA, VCR, DXR, DEX,高用量MTX,高用量AraC)が代表的なものである。この他にもPETHEMA ALL-93 試験4)。GRAALL-2003 試験5)でも寛解後療法に大量AraC,大量MTX の両方が用いられた。またMRC UKALL XII/ECOG E2993 試験では寛解後療法に大量MTX が用いられた6)。
日本国内で行われた治療研究のうちJALSG ALL93 試験やALL97 試験では寛解後療法に中等量MTX(500〜600 mg/m2)が用いられた。JALSG ALL 202-O 試験では寛解後療法の一部で大量MTX(3 g/m2)と中等量MTX(500 mg/m2)の比較試験が行われており,成人ALL の寛解後療法におけるMTX の適切な用量・用法が明らかになることが期待される。
【参考文献】
1) Kantarjian HM, et al. Mitoxantrone and high-dose cytosine arabinoside for the treatment of refractory acute lymphocytic leukemia. Cancer. 1990 ; 65(1) : 5-8.(3iiDii)
2) Camera A, et al. GIMEMA ALL-Rescue 97 : a salvage strategy for primary refractory or relapsed adult acute lymphoblastic leukemia. Haematologica. 2004 ; 89(2) : 145-53.(3iDiv)
3) Kantarjian HM, et al. Results of treatment with hyper-CVAD, a dose-intensive regimen, in adult acute lymphocytic leukemia. J Clin Oncol. 2000 ; 18(3) : 547-61.(3iDiv)
4) Ribera JM, et al. Comparison of intensive chemotherapy, allogeneic or autologous stem cell transplantation as post-remission treatment for adult patients with high-risk acute lymphoblastic leukemia. Results of the PETHEMA ALL-93 trial. Haematologica. 2005 ; 90(10) : 1346-56.(1iiDii)
5) Huguet F, et al. Pediatric-inspired therapy in adults with Philadelphia chromosome-negative acute lymphoblastic leukemia : the GRAALL-2003 study. J Clin Oncol. 2009 ; 27(6) : 911-8.(3iiA)
6) Rowe JM, et al. Induction therapy for adults with acute lymphoblastic leukemia : results of more than 1500 patients from the international ALL trial : MRC UKALL XII/ECOG E2993. Blood. 2005 ; 106(12) : 3760-7.(3iiA)
CQ11 | 成人Ph 陰性ALL に対する地固め療法として自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は妥当か |
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推奨グレードカテゴリー4
- 成人Ph 陰性ALL の初回寛解例に対する大量化学療法・自家造血幹細胞移植では,化学療法のみによる寛解後療法と比べて予後改善は期待できず,行うべきでない。
【解 説】
成人Ph 陰性ALL において,従来の化学療法のみによる寛解後療法と比較して自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)による予後改善が期待された。しかし,主にHLA 一致同胞ドナーがいないALL 患者を対象として行われた複数のランダム化比較試験において自家移植群は化学療法群と比較して無病生存期間や全生存期間における利点は示されなかった。
スペインのPETHEMA グループが高リスクALL を対象として行った臨床試験では,HLA 一致同胞ドナーがいない患者を寛解導入療法後に自家移植群,化学療法群に分けたが,両群の5 年無病生存割合に有意差は認められなかった1)。フランスのLALA-94 試験では寛解導入療法で完全寛解(CR)に至った初発時高リスクALL の患者と初回寛解導入療法で完全寛解に至らず救援療法により完全寛解が得られた患者を自家移植群と化学療法群に分け比較したところ,化学療法群で晩期再発が多い傾向があったが,無病生存期間中央値には有意差がみられなかった2)。MRC UKALL XII/ECOG E2993 試験では,成人ALL で寛解導入後にHLA 一致血縁ドナーがいない患者が化学療法群か自家移植群のいずれかにランダム化割り付けされた。5 年全生存割合は46% vs 37%(p=0.03)で,むしろ化学療法群の方が良好な治療成績となった3)。
【参考文献】
1) Ribera JM, et al. Comparison of intensive chemotherapy, allogeneic or autologous stem cell transplantation as post-remission treatment for adult patients with high-risk acute lymphoblastic leukemia. Results of the PETHEMA ALL-93 trial. Haematologica. 2005 ; 90(10) : 1346-56.(1iiDii)
2) Thomas X, et al. Outcome of treatment in adults with acute lymphoblastic leukemia : analysis of the LALA-94 trial. J Clin Oncol. 2004 ; 22(20) : 4075-86.(1iiDii)
3) Goldstone AH, et al. In adults with standard-risk acute lymphoblastic leukemia, the greatest benefit is achieved from a matched sibling allogeneic transplantation in first complete remission, and an autologous transplantation is less effective than conventional consolidation/maintenance chemotherapy in all patients : final results of the International ALL Trial (MRC UKALL XII/ECOG E2993). Blood. 2008 ; 111 (4) : 1827-33.(1iiA)
CQ12 | 縦隔病変を有するT 細胞性LBL に対して縦隔照射は行うべきか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 縦隔病変を有する成人T 細胞性LBL に対して,局所再発予防を目的とした縦隔照射が用いられることが多いが,米国のCALGB 8811 プロトコールなど縦隔照射を含まないALL に対する治療プロトコールを用いることも妥当である。
【解 説】
T 細胞性LBL(T-LBL)では診断時に縦隔腫瘤を有する例が多く,これが長径10 cm を超える巨大病変であることも少なくない。縦隔腫瘤を有するT-LBL では,全例,あるいは巨大病変を有する場合や化学療法後に残存腫瘤が認められた場合に限定して局所再発予防を目的とした縦隔照射が行われることが多い。しかし,これによる二次発癌や心血管系合併症などの晩期障害の増加が懸念されている。小児LBL では,ALL に対する強力な化学療法を行うことにより,縦隔照射を含むプロトコールと比較して遜色ない治療成績が報告されている1)。縦隔病変を有する成人LBL での縦隔照射の意義は,今のところ未解決の課題である。
成人LBL では後方視的研究においてhyper-CVAD 療法(CPA, VCR, DXR, DEX)を中心とする化学療法を受けた患者で,縦隔照射例が非照射例に比べて局所再発率が低いことが示された2)。これを受けてLBL を対象としたhyper-CVAD/MA 療法(CPA, VCR, DXR, DEX,高用量MTX,高用量AraC)では,診断時に縦隔病変を有した患者で地固め療法と維持療法の間に縦隔照射(30〜39 Gy)が規定された3)。ドイツのBerlin-Frankfurt-Munster(BFM)レジメンでも,縦隔病変を有するT-LBL で寛解導入療法の後半に縦隔照射(24 Gy)を行うことが規定された。しかし再発例の半数で縦隔再発がみられ,これらのほとんとで縦隔照射の既往があったため,論文では,より高用量の縦隔照射が必要だろうと結論している4)。しかし,これらの2 つのプロトコールは縦隔照射の有無をランダム化して検討したものではない。対象疾患を成人LBL に限定した,縦隔照射を行わないプロトコールを用いた治療研究では目立った報告がないが,米国のCALGB 8811 の報告では,対象患者の15%(30 人)が縦隔病変を有しており,縦隔照射を行わないプロトコールであったにもかかわらず,T-ALL 患者だけで解析しても,縦隔病変を有することは予後良好因子であった5)。びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫など他の病型のリンパ腫と同様に,縦隔照射の適応を,寛解導入化学療法後の残存腫瘤やpositron emission tomography(PET)陽性残存病変などに限定するという方針を支持する臨床研究の報告はない。
【参考文献】
1) Reiter A, et al. Intensive ALL-type therapy without local radiotherapy provides a 90% event-free survival for children with T-cell lymphoblastic lymphoma : a BFM group report. Blood. 2000 ; 95(2) : 416-21.(3iiiDi)
2) Dabaja BS, et al. The role of local radiation therapy for mediastinal disease in adults with T-cell lymphoblastic lymphoma. Cancer. 2002 ; 94(10) : 2738-44.(3iiiDii)
3) Thomas DA, et al. Outcome with the hyper-CVAD regimens in lymphoblastic lymphoma. Blood 2004 ; 104(6) : 1624-30(3iiiA)
4) Hoelzer D, et al. Outcome of adult patients with T-lymphoblastic lymphoma treated according to protocols for acute lymphoblastic leukemia. Blood. 2002 ; 99(12) : 4379-85.(3iiiA)
5) Larson RA, et al. A five-drug remission induction regimen with intensive consolidation for adults with acute lymphoblastic leukemia : cancer and leukemia group B study 8811. Blood. 1995 ; 85 (8) : 2025-37.(3iDiv)
CQ13 | 第一寛解期の同種造血幹細胞移植はどのような症例に適応されるべきか(Ph 陽性,Ph 陰性を含む) |
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推奨グレードカテゴリー1
- 第一寛解期の成人ALL に対して,HLA 適合血縁,非血縁ドナーがいれば同種造血幹細胞移植によって生存割合の改善が期待できる。しかし,今後の化学療法の改善によって結論が変化する可能性がある。
【解 説】
第一寛解期ALL に対する造血幹細胞移植の適応はgenetic randomization,すなわち第一寛解が得られた患者をHLA 適合同胞ドナーがいる場合には同種移植群に割り付け,ドナーがいない場合には自家骨髄移植群あるいは化学療法群に割り付けるという前方視的比較試験で検証されてきた。この場合,実際に割り付けられた治療が行われていない[症例を実際に行われた治療で群別して解析するとバイアスを生じるので,割り付けられた群(ドナーあり群vs ドナーなし群)に従って解析される(intent-to-treat analysis)]。当初の研究は予後不良因子を有する群においてのみドナーあり群の生存期間が延長するという報告が多かったが,その後,逆の結果を示す大規模臨床研究も報告されている。
これらの臨床試験を統合したメタアナリシスの結果では,第一寛解期ALL 全体でのドナーあり群の死亡の相対危険度は0.88(95% CI:0.8-0.97,p=0.007)と有意に低く,サブグループ解析では標準リスク群で0.8(95%CI:0.68-0.94,p=0.006),高リスク群で0.88(95%CI:0.76-1.01,p=0.07)と標準リスク群のみで有意差が観察された1)。高年齢が高リスク群の定義に含まれている試験が多いが,年齢という因子は同種移植で改善するということは考えにくく,年齢を移植適応の判断時のリスク分類に用いるべきではないということが指摘されている。
JALSG ALL-93 およびALL-97 の化学療法のデータと日本造血細胞移植学会の移植データを用いて行われた臨床決断分析では,HLA 適合同胞がいる場合には第一寛解期に同種移植を行う決断をすることの優位性が示された2)。QOL 補正を行った比較でも,年齢によって群別化したすべてのサブグループにおいても移植群の優位性は変わらなかった。HLA A,B,DRB1 適合の非血縁ドナーからの移植データを用いた解析でもほぼ同様の結果が得られた。適合度のよい非血縁者間移植の治療成績はHLA 適合同胞からの治療成績とほぼ同等であることが報告されている3)。しかし,小児科型の化学療法の採用などによる化学療法の治療成績の改善によって,これらの結論が逆転する可能性は否定できない。また,HLA 不適合移植や臍帯血移植の適応を判断するための明確なデータはない。将来的には微小残存病変をモニターすることによって,同種造血幹細胞移植を必要とする患者をより正確に判別できるようになる可能性もある。
Ph 陽性ALL についてはチロシンキナーゼ阻害剤の導入によって化学療法の成績が著しく改善しているが,その効果が長期間維持されるかどうかについては不明である。現時点ではチロシンキナーゼ阻害剤導入以前の臨床試験の成績を参考にして4),第一寛解期での同種移植の実施が推奨される。
【参考文献】
1) Ram R, et al. Management of adult patients with acute lymphoblastic leukemia in first complete remission : systematic review and meta-analysis. Cancer. 2010 ; 116(14) : 3447-57.(1iiA)
2) Kako S, et al. A decision analysis of allogeneic hematopoietic stem cell transplantation in adult patients with Philadelphia chromosome-negative acute lymphoblastic leukemia in first remission who have an HLA-matched sibling donor. Leukemia. 2011 ; 25(2) : 259-65.(3iiA)
3) Kanda J, et al. Related transplantation with HLA 1-antigen mismatch in the graft-versus-host direction and HLA 8/8-allele-matched unrelated transplantation : A nationwide retrospective study. Blood. 2012 ; 119(10) : 2409-16.(3iiA)
4) Fielding AK, et al. Prospective outcome data on 267 unselected adult patients with Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia confirms superiority of allogeneic transplantation over chemotherapy in the pre-imatinib era : results from the International ALL Trial MRC UKALLXII/ECOG2993. Blood. 2009 ; 113(19) : 4489-96.(1iiA)
CQ14 | ALL に対する減弱前処置による同種造血幹細胞移植は有用か |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 通常の強度の移植前処置を行うことができない高齢者あるいは臓器障害を有する第一寛解期ALL 患者に対する減弱前処置による同種造血幹細胞移植によって,一部の患者に長期生存が得られており,その実施を検討するに値する。
【解 説】
高齢者ALL に対する化学療法の成績は不良である。一方,高齢者に対して通常の強度の前処置(myeloablative conditioning:MAC)による同種造血幹細胞移植の実施は難しい。そこで,強度を減弱した移植前処置(reduced-intensity conditioning:RIC)を用いるミニ移植が試みられている。特にUnited Kingdom Medical Research Council Adult Leukemia Working Party(MRC UKALL)XII/ECOG 2992 試験において35 歳以上の患者で移植関連死亡が増加したことから,ALL に対するミニ移植が注目されるようになった。しかし,現時点ではミニ移植と化学療法,あるいはミニ移植と通常の移植の前方視的比較試験の結果は得られていない。
MAC とRIC の比較についてはEuropean Group for Blood and Marrow Transplantation(EBMT)とCenter for International Blood and Marrow Transplant Research(CIBMTR)からそれぞれ大規模な後方視的研究が報告されている。前者は45 歳以上の第一,第二寛解期患者を対象として127 例のRIC 症例と449 例のMAC 症例を比較したところ,RIC 群(年齢中央値56 歳,範囲45〜73 歳)で再発が有意に増加するものの移植関連死亡(TRM)は有意に減少し,無白血病生存割合には差がみられなかった1)。後者も第一,第二寛解期患者を対象とした93 例のRIC 症例(年齢中央値45 歳,範囲17〜66 歳)と1,428 例のMAC 症例の比較であるが,こちらは16 歳以上の患者を含んでいる2)。多変量解析の結果,前処置の強度の違いは再発率,非再発死亡率,生存割合に有意差を与えなかった。個別の前処置に関してはフルダラビン(FLU)とメルファラン(MEL)の組み合わせによる前処置で良好な成績が得られている3)4)。
化学療法との優劣は不明であるが,高齢者ALL に対する通常の化学療法の治療成績は不良であるため,高齢者第一寛解期ALL に対するミニ移植の有用性を評価する前方視的比較試験の実施が期待される。
【参考文献】
1) Mohty M, et al. Reduced-intensity versus conventional myeloablative conditioning allogeneic stem cell transplantation for patients with acute lymphoblastic leukemia : a retrospective study from the European Group for Blood and Marrow Transplantation. Blood. 2010 ; 116(22) : 4439-43.(3iiA)
2) Marks DI, et al. The outcome of full-intensity and reduced-intensity conditioning matched sibling or unrelated donor transplantation in adults with Philadelphia chromosome-negative acute lymphoblastic leukemia in first and second complete remission. Blood. 2010 ; 116(3) : 366-74.(3iiA)
3) Stein AS, et al. Reduced-intensity conditioning followed by peripheral blood stem cell transplantation or adult patients with high-risk acute lymphoblastic leukemia. Biol Blood Marrow Transplant. 2009 ; 15(11) : 1407-14.(3iiA)
4) Cho BS, et al. Reduced-intensity conditioning allogeneic stem cell transplantation is a potential therapeutic approach for adults with high-risk acute lymphoblastic leukemia in remission : results of a prospective phase 2 study. Leukemia. 2009 ; 23(10) : 1763-70.(3iiA)
CQ15 | ALL 再発例(Ph 陰性前駆B 細胞ALL,Ph 陽性前駆B 細胞ALL,前駆T 細胞ALL)に対する再寛解導入療法の選択肢として何が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- ALL 再発例では前治療歴を考慮した再寛解導入療法を行う。晩期再発例では初回寛解導入療法と同一のレジメンによる再治療も選択肢に入る。
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推奨グレードカテゴリー2A
- Ph 陽性ALL のイマチニブ継続中の再発ではダサチニブへの変更が妥当である。
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推奨グレードカテゴリー2B
- 前駆T 細胞ALL ではネララビンが治療選択肢に加わる。
【解 説】
成人ALL の再発例の予後は一般に不良であるが,再寛解導入療法後に同種造血幹細胞移植が可能な患者ではこれによる予後改善が期待できる。ALL の再発は地固め療法中,維持療法中,維持療法終了後などさまざまな時期に起こり得るが,再発時期や前治療歴によって再寛解導入療法の内容が考慮される。AdVP 療法(DXR, VCR, PSL)やhyper-CVAD 療法(CPA, VCR, DXR, DEX)に代表されるアントラサイクリン系抗腫瘍薬,ビンクリスチン(VCR),ステロイド薬併用療法1),L-アスパラギナーゼ(L-Asp)を含む多剤併用療法2),大量シタラビン療法を含む多剤併用療法3)などが再発ALL に対する再寛解導入療法として治療成績が報告されている。再発時期別に分けて再寛解導入療法を多数例で検討した臨床試験は報告されていない。再発ALL に対する再寛解導入療法の完全寛解(CR)率は全体として50%を下回り,特に寛解期間が1 年未満の患者ではさらに低いとされる4)。
イマチニブ継続中のPh 陽性ALL の患者の再発例を対象としたダサチニブ単剤療法の第Ⅱ相試験では,血液学的奏効率が42%で,数カ月間奏効が維持できることが示されている5)。イマチニブ抵抗性変異を獲得した患者の一部ではダサチニブが有効であることが示唆される。なおPh 陽性ALL の再発例におけるダサチニブ併用化学療法の有効性と安全性は明らかではない。
T 細胞性ALL(T-ALL)の再発・難治例ではネララビン(AraG)療法の有効性が示されている。Cancer and Leukemia Study Group B(CALGB)が行った第Ⅱ相試験で,多くの前治療歴を有するT-ALL の患者において全奏効率が41%であった6)。
【参考文献】
1) Koller CA, et al. The hyper-CVAD regimen improves outcome in relapsed acute lymphoblastic leukemia. Leukemia. 1997 ; 11(12) : 2039-44.(3iiiDiv)
2) Esterhay RJ, Jr., et al. Moderate dose methotrexate, vincristine, asparaginase, and dexamethasone for treatment of adult acute lymphocytic leukemia. Blood. 1982 ; 59(2) : 334-45.(3iiDiv)
3) Kantarjian HM, et al. Mitoxantrone and high-dose cytosine arabinoside for the treatment of refractory acute lymphocytic leukemia. Cancer. 1990 ; 65(1) : 5-8.(3iiiDiv)
4) Tavernier E, et al. Outcome of treatment after first relapse in adults with acute lymphoblastic leukemia initially treated by the LALA-94 trial. Leukemia. 2007 ; 21(9) : 1907-14.(3iDii)
5) Ottmann O, et al. Dasatinib induces rapid hematologic and cytogenetic responses in adult patients with Philadelphia chromosome positive acute lymphoblastic leukemia with resistance or intolerance to imatinib : interim results of a phase 2 study. Blood. 2007 ; 110(7) : 2309-15.(3iDiv)
6) DeAngelo DJ, et al. Nelarabine induces complete remissions in adults with relapsed or refractory T-lineage acute lymphoblastic leukemia or lymphoblastic lymphoma : Cancer and Leukemia Group B study 19801. Blood. 2007 ; 109(12) : 5136-42.(3iDiv)
4
慢性骨髄性白血病/ 骨髄増殖性腫瘍
(chronic myelogenous leukemia : CML
/myeloproliferative neoplasms : MPN)
(chronic myelogenous leukemia : CML
/myeloproliferative neoplasms : MPN)
◆総論
骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms:MPN)は,造血幹細胞レベルでの腫瘍化によって発症する疾患であり,骨髄系細胞(顆粒球,赤芽球,骨髄巨核球,肥満細胞)の著しい増殖を特徴とする1)。MPN には,慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia:CML),慢性好中球性白血病(chronic neutrophilic leukemia:CNL),真性赤血球増加症または真性多血症(polycythemia vera:PV),原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF),本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET),慢性好酸球性白血病(chronic eosinophilic leukemia:CEL),好酸球増加症候群(hypereosinophilic syndrome:HES),肥満細胞症(mastocytosis),分類不能骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms,unclassifiable:MPN, U)が含まれる。発症初期のMPN は,分化能を有する骨髄細胞の過形成と,末梢血における顆粒球,赤血球,血小板の増加を示す。理学的には脾腫や肝種大を認める。MPN は発症時期,自覚症状に乏しいが,全身症状を伴い段階的に増悪し,最終的には骨髄の線維化,あるいは,形質転換して成熟能喪失(急性転化)へ至り,骨髄不全という致死的な終末期へと進行する。MPN の治療については,CML とそれ以外のMPN では方針が異なる。本ガイドラインでは,MPN のうち主にCML とPV,ET,そしてPMF の治療を提示する。
1.慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia:CML)
1)病期
CML は,多能性造血幹細胞の異常により惹起される白血病でt (9;22)(q34;q11) により形成されるPhiladelphia(Ph)染色体を特徴とする。Ph 染色体上のBCR-ABL1 融合遺伝子にコードされて産生されるBCR-ABL チロシンキナーゼ(tyrosine kinase:TK)が恒常的に活性化し,白血病細胞の増殖に関与し,3 つの病期を経て進行する2)。CML は,白血球や血小板の増加を認めるが自覚症状の乏しい慢性期(chronic phase:CP,診断後約3〜5 年間)で多くの患者(85%)が診断され,顆粒球の分化異常が進行する移行期(accelerated crisis:AP,3〜9 カ月間)を経て,未分化な芽球が増加して急性白血病に類似する急性転化期(blast phase:BP,約3〜6 カ月)へ進展し致死的となる。WHO 分類(2008)の規準に従いCP,AP,BP 期が定義される(表1)。
2)CML の予後分類
初診時の年齢,脾腫(肋骨弓下cm),血小板数,末梢血芽球(%)の4 因子を用いて計算されるSokal スコア3)や,年齢,脾腫(肋骨弓下cm),末梢血芽球(%),末梢血好酸球数(%),末梢血好塩基球(%),血小板数の6 因子を用いて計算されるHasford スコア4)は,これまでも化学療法やインターフェロンα(IFNα)療法時代に用いられてきたが,イマチニブ治療においても有用であり,Low,Intermediate,High の3 リスク群に分類される(http://www.leukemia-net.org/content/leukemias/cml/cml_score/)。イマチニブ治療患者を対象とした解析より構築された予後予測システムEUTOS スコア5) は, 初診時の好塩基球(%) と脾腫のみで計算され(7×basophils%+4×spleen size cm),87 以下のLow と87 より大きいHigh の2 リスク群が提唱されている(http://www.leukemia-net.org/content/leukemias/cml/eutos_score/)。
慢性期(chronic phase) 以下の移行期,急性芽球転化期を満たさないもの |
移行期(accelerated phase) 以下のいずれかひとつに該当するもの
|
急性転化期(Blast phase) 下記のいずれかひとつに該当するもの
|
3)CML の治療効果判定
CML 治療のコンセプトはPh 陽性(BCR-ABL1 陽性)白血病細胞のコントロールと病期進行の回避にあり,治療効果はEuropean LeukemiaNet (ELN) の判定規準に従う6)7)(表2)。
CP 期の治療効果は,血液学的奏効(hematologic response:HR),細胞遺伝学的奏効(cytogenetic response:CyR),分子遺伝学的奏効(molecular response:MR)の3 つのレベルで判定する(表2)。HR は末梢血所見の改善,CyR は骨髄細胞中のPh 染色体割合で,MR はポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)により血液細胞中のBCR-ABL1 遺伝子発現量で判断される。AP/BP 期では,血液学的奏効規準がCP 期と異なるが,CyR とMR は同じ規準を用いる。
血液学的奏効(Hematologic Response:HR) | 血液・骨髄検査所見および臨床所見 | |
---|---|---|
慢性期CML | 完全(complete)HR:CHR |
|
進行期CML (移行期+急性期) |
完全(complete)HR:CHR |
|
白血病の所見なし: No Evidence of Leukemia(NEL) |
|
細胞遺伝学的奏効(Cytogenetic Response:CyR) | 骨髄有核細胞中のPh 染色体(BCR-ABL)陽性率 |
---|---|
細胞遺伝学的大(major)奏効:MCyR |
0 〜35% 0% 1 〜35% |
細胞遺伝学的小(minor)奏効:Minor CyR | 36 〜65% |
細胞遺伝学的微小(minimum)奏効:Mini CyR | 66 〜95% |
細胞遺伝学的非(none)奏効:No CyR | >95% |
分子遺伝学的奏効(Molecular Response:MR) | BCR-ABL1 遺伝子レベル(RT-PCR 法) |
---|---|
分子遺伝学的大(major)奏効:MMR | BCR-ABL1IS*2 ≦ 0.1% |
分子遺伝学的に白血病未検出 |
BCR-ABL1IS*2 ≦ 0.01%, |
*1 ELN2009 では分子遺伝学的完全(complete)奏効(CMR)と定義された奏効レベル
*2 BCR-ABL1IS:国際指標で補正された値
4)CML の治療概略
- ①BCR-ABL1 チロシンキナーゼ阻害剤療法:BCR-ABL1 チロシンキナーゼを選択的に阻害し,血液学的,細胞遺伝学的,分子遺伝学的に優れた有効性を示すチロシンキナーゼ阻害剤(tyrosine kinase inhibitor:TKI)には,イマチニブ8)〜11)のほか,ニロチニブ12)とダサチニブ13)が臨床的に用いられる。イマチニブはIFNα+低用量シタラビン(AraC)との比較試験の5 年-長期成績の結果,IFNαに替わって初発CML-CP 期に対する第一選択薬となった9)。日本人においても,イマチニブ治療の優れた長期成績が確認された11)。
- ②ニロチニブとダサチニブは,イマチニブ治療に抵抗性・不耐容のCML に対する治療薬として開発された第二世代TKI であるが,イマチニブとの比較試験の結果12)13),初発CML-CP 期の治療としても選択できる。(第1.1 版追加コメント)また、新規第二世代TKI のボスチニブは、先に投与したTKI(イマチニブ、ニロチニブ、またはダサチニブ)治療に抵抗性・不耐容のCML に対する治療薬である32)。
- ③同種造血幹細胞移植(allogeneic stem cell transplantation:allo-HSCT):根治が期待できる治療法であるが,治療関連毒性のために早期死亡のリスクが高い。CML-CP から進行したTKI 耐性のAP/BP 期や初発時AP/BP 期に適応がある。また,適切なドナーの確保,移植関連毒性に耐え得る年齢的および全身状態であることなど適応を考慮する14)。
- ④IFNα:IFNα単剤15)あるいは低用量AraC との併用9)はイマチニブ以前の標準療法であり,一部の症例でPh 染色体の消失を認め,全生存期間(overall survival:OS)の改善に寄与することが知られている。
- ⑤その他の薬物療法:上記治療以外に選択される治療法であるが,Ph 染色体陽性細胞の十分な除去は困難であり,症状緩和的な治療法である。ヒドロキシウレア(HU),ブスルファン(BU),低用量AraC が含まれる。初回治療にBU は推奨されないが,HU はCML の診断がつくまで短期間投与されることがある。
5)CML 治療効果のモニタリング
European LeukemiaNet 2009 6)および改訂された2013 7)に従い,イマチニブなどのTKI 療法のモニタリングを行う6)7)。治療効果の判定方法は,CyR は,骨髄細胞の染色体検査以外に末梢血液細胞の蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization:FISH)で判定できる。MR は,末梢血液を用いて定量(quantitative)逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)でBCR-ABL1 遺伝子レベルをABL あるいは対象となる遺伝子の比を,国際指標(International Scale:IS)で補正してBCR-ABL1IS と表す。初回(1st line)治療では,治療後3 カ月までにBCR-ABL1IS≦10%または部分CyR(partial CyR:PCyR),6 カ月までにBCR-ABL1IS < 1%または完全CCyR(complete CyR:CCyR),12 カ月までにBCR-ABL1IS≦0.1%すなわちMajor MR(MMR),それ以後はBCR-ABL1IS≦0.1%を維持するOptimal(至適)な効果を得ることを目指す(表3-1)。そして,Warning(要注意)ではモニタリングを頻回に行い,Failure(治療の失敗)では,治療の変更を考慮する。
初回治療のイマチニブから第2 世代TKI に変更した場合は,3 カ月でBCR-ABL1IS≦10%またはPh 陽性細胞< 65%,6 カ月でBCR-ABL1IS≦10%またはMCyR,12 カ月でBCR-ABL1IS≦1%またはCCyR,それ以降BCR-ABL1IS≦0.1%を至適奏効としている(表3-2)。>/p>
ELN 2009 コンセンサス6)では,分子遺伝学的完全奏効(CMR)をBCR-ABL1 検出感度以下と定義されたが,ELN 2013 コンセンサス7)では,BCR-ABL1IS 0.01%以下をMR4,BCR-ABL1IS 0.0032%以下をMR4.5,BCR-ABL1IS 0.001%以下をMR5 とした規準16)を採用している。CML-CP 治療においては,少なくともMMR の治療効果を得ることが大切であり,定量RT-PCR の検索はELN やNCCN など海外のCML 治療ガイドラインでは必須検査とされている。わが国においては,Amp-CML TMA 法によるBCR-ABL1 の検査は保険適用となっているが,国際指標で補正されたBCR-ABL1 の定量RT-PCR 検査が保険診療で施行されることが求められる。
具体的なTKI の治療効果判定のタイミングは以下の通りである。
- ①治療開始前は,血算と血液像,骨髄の染色体検査を施行し,Ph 陽性率と付加的染色体異常の有無を確認する。
- ②治療開始直後は,血算と血液像を毎週〜2 週毎に検索する。
- ③CHR 到達後は,末梢血FISH を少なくとも3 カ月毎に検索し,FISH でPh 陽性率が5%以下となれば,骨髄の染色体検査を施行する。
- ④骨髄検査は3 カ月毎に施行し,CCyR の判定ができれば,以後は末梢血液定量RT-PCR でMR を検索する。定量RT-PCR の著しい増加があり,MMR の喪失を疑う場合は,骨髄検査を行う。また,BCR-ABL1 点突然変異解析(保険適用外)に加え,イマチニブ血中濃度(保険適用,特定薬剤管理料)が目標値に達しているは治療方針を決める参考になる。
評価時点 | 効果 | ||
---|---|---|---|
至適奏効 Optimal |
要注意 Warning |
不成功 Failure |
|
治療前 (ベースライン) |
指摘なし | 高リスク, またはCCA/Ph+ |
指摘なし |
3 ヵ月 | BCR-ABL1≦10%, またはPh+≦35% |
BCR-ABL1>10%, またはPh+=36〜95% |
CHR に未到達, またはPh+ >95% |
6 ヵ月 | BCR-ABL1≦1 % またはPh+=0% |
BCR-ABL1=1〜10%, またはPh+=1〜35% |
BCR-ABL1>10%, またはPh+>35% |
12 ヵ月 | BCR-ABL1≦0.1% | BCR-ABL1=0.1〜1% | BCR-ABL1>1%, またはPh+>0%(CCyR 未到達) |
その後, どの時点でも |
BCR-ABL1≦0.1% | CCA/Ph-(-7 または7q-) | CHR の喪失,CCyR の喪失, 確定したMMR 喪失*, ABL キナーゼドメインの変異, CCA/Ph + |
BCR-ABL1 はBCR-ABL1IS で表した値
MMR はBCR-ABL ≦ 0.1%でありMR3.0 あるいはそれ以上の効果
*連続した2 回のBCR-ABL1≧1%
CCA/Ph +:Ph 染色体の付加的染色体異常,CCA/Ph-:Ph 染色体以外の付加的染色体異常
評価時点 | 効果 | ||
---|---|---|---|
至適奏効 Optimal |
要注意 Warning |
不成功 Failure |
|
治療前 (ベースライン) |
指摘なし | イマチニブ治療にてCHR 未達成 やCHR の喪失,初回TKI 治療にて CyR 未到達,または高リスク |
指摘なし |
3 ヵ月 | BCR-ABL1≦10%, またはPh+<65% |
BCR-ABL1>10%, またはPh+=65〜95% |
CHR に未到達, またはPh+>95%, またはABL キナーゼドメインの変異 |
6 ヵ月 | <BCR-ABL1≦10% またはPh+<35% |
BCR-ABL1=1〜10%, またはPh+=35〜65% |
BCR-ABL1>10%, またはPh+>35% ABL キナーゼドメインの変異 |
12 ヵ月 | BCR-ABL1≦1 %, またはPh+= 0% |
BCR-ABL1=0.1〜1 %, またはPh+=1〜35% |
BCR-ABL1>10%, またはPh+>35%, またはABL キナーゼドメインの変異 |
その後, どの時点でも |
BCR-ABL1 ≦ 0.1% | CCA/Ph-(-7 または7q-), またはBCR-ABL1 > 0.1% |
CHR の喪失,CCyR の喪失, 確定したMMR 喪失*, ABL キナーゼドメインの変異, CCA/Ph |
BCR-ABL1 はBCR-ABL1IS で表した値
MMR はBCR-ABL ≦ 0.1%でありMR3.0 あるいはそれ以上の効果
*連続した2 回のMMR 喪失(BCR-ABL1>0.1%)で,そのうち1 つはBCR-ABL1≧1%
CCA/Ph +:Ph 染色体の付加的染色体異常,CCA/Ph-:Ph 染色体以外の付加的染色体異常
2.Ph 陰性の骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms:MPN)
Ph 陰性MPN の発症と進行にも疾患関連遺伝子(多くが細胞内あるいは細胞膜のチロシンキナーゼをコードする)の異常が大きく関与している。特に,PV のほぼ全例とET およびPMF の約半数がJAK2 遺伝子変異(V617F 変異)を有し,JAK2 の恒常的な活性化が発症に関与していると考えられる。一方,CEL/HES の一部がFIP1L1-PDGFRα 融合遺伝子を有し,mastocytosis がc-KIT の点突然変異を有している1)2)17)。
PV とET では重篤な血栓症の合併が予後に影響するため,血栓症のHigh リスク群を見極める必要がある。一方,PMF では急性期への進展が予後に影響するため,さまざまな予後リスク分類が試みられている。
3.真性赤血球増加症または真性多血症(polycythemia vera:PV)
1)PV の予後分類18)
PV の生命予後は良好であり,治療により10 年以上の生存期間中央値が期待できる。そのため,合併する血栓症の予防が治療の主眼となる。年齢60 歳以上または血栓症の既往歴がある患者は,血栓症のHigh リスク患者である(表4)。
2)PV の治療概略
- ①瀉血療法:Ht 値45%未満を目標に,血圧,脈拍などの循環動態をみながら1 回200〜400 mL の瀉血を月に1〜2 度のペースで行う。高齢者や心血管障害を有する例では,循環動態の急激な変化がないように,少量(100〜200 mL),頻回の瀉血が望ましい。
- ②低用量アスピリン療法:出血や消化器症状などの禁忌でなければ,75〜100 mg/日のアスピリンの経口投与が選択される。
- ③HU 療法:血栓症のHigh リスク群では,瀉血療法に加えて骨髄抑制薬であるHU 療法を併用する。(ただし,長期投与による二次発がんのリスクが完全には否定されていないため,特に若年者では,予後因子に基づき症例を選択する)
- ④IFNα療法:妊娠中や挙児希望者では,催奇形性の問題からHU に代わり選択される。
- ⑤高血圧,高脂血症,肥満,糖尿病などの,いわゆる血栓症の一般的なリスクファクターがある場合は,これらの治療を行う。
- ⑥PV 後骨髄線維症(myelofibrosis:MF):PMF に準じた治療法を選択する。
- ⑦急性骨髄性白血病(AML)あるいは骨髄異形成症候群(MDS)への進展:続発性のAML/MDS に対しては,AML/MDS の治療を行う。
報告者 | 予後因子 | リスク分類 |
---|---|---|
Tefferi et al. (Semin Hematol. 2005 : 42 : 206) |
年齢<60 歳 血栓症の既往なし 血小板数<150 万/μL 心血管病変の危険因子(喫煙,高血圧,うっ血性心不全がない) のすべての項目を満たす |
Low リスク群 |
Low リスク群にもHigh リスク群にも属さない | Intermediate リスク群 | |
年齢≧ 60 歳,または血栓症の既往がある | High リスク群 |
4.本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET)
1)ET の予後分類
ET の生命予後は良好であり,健常者とほぼ同等の生命予後が期待される。そのため,合併する血栓症の予防が治療の主眼となる。年齢60 歳以上または血栓症の既往歴がある患者は,血栓症のHigh リスク患者である。
血小板数増加や高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙などを血栓症の危険因子として扱うかは報告により異なっており,結論は得られていない。最近,白血球数やJAK2 変異の割合が多いと血栓症が生じやすいとの報告もある。一般的には,年齢,血栓症の既往,血小板数より,Low リスクとHigh リスクに分類されている(表5)19)。最近,年齢と初診時白血球数より,生命予後に関して3 つのリスクに分類する20)ことが提唱されている(表6)。
2)ET の治療概略
- ①血栓症Low リスクの治療:定期的な経過観察のみを行う。骨髄抑制をきたす薬剤や血小板を低減する薬剤の投与は不要である19)。
- ②血栓症High リスクの治療:合併する血栓症の予防を目的としてHU と低用量アスピリンを併用する21)22)。(ただし,長期投与による二次発がんのリスクが懸念されるため,特に若年者では,予後因子に基づき症例を選択する。)血小板数が著増している場合(血小板数150 万/μL 以上)のアスピリン単独投与は,出血を助長する危険があるため,HU 投与により血小板数を減らしてから投与する。ET の発症年齢はPV と比べ若く,やや女性に好発することから,妊娠,挙児希望が問題となることがある。このような場合は,HU に代わり,IFNαを投与する。HU 不耐容もしくは抵抗性の症例には,わが国では保険適用がないが,欧米ではアナグレライドが使用されている。アナグレライド(+低用量アスピリン)はHU(+低用量アスピリン)より静脈血栓症のリスクは低いが,心房血栓,重篤な出血,骨髄線維症への進展頻度が高い22)。
【第1.1版修正】
- ②血栓症High リスクの治療:合併する血栓症の予防を目的としてHU と低用量アスピリンを併用する21)22)。(ただし,長期投与による二次発がんのリスクが懸念されるため,特に若年者では,予後因子に基づき症例を選択する。)血小板数が著増してい る場合(血小板数150 万/μL以上)のアスピリン単独投与は,出血を助長する危険があるため,HU 投与により血小板数を減らしてから投与する。ET の発症年齢はPV と比べ若く,やや女性に好発することから,妊娠,挙児希望が問題となることがある。このような場合は,HU に代わり,IFNαを投与する。HU 不耐容もしくは抵抗性の症例には、アナグレリド(+アスピリン)を投与する。アナグレリド+ 低用量アスピリンは、HU+ 低用量アスピリンより静脈血栓症のリスクは低いが、心房血栓、重篤な出血、骨髄線維症への進展頻度が高く、EFS は劣るという報告22)と、アナグレリドはHU と較べEFS に有意差を認めない33)との報告がある。
予後因子 | リスク分類 |
---|---|
年齢<60 歳,かつ血栓症の既往はなし, かつ血小板数<150 万/μL |
Low リスク群 |
年齢≧60 歳,または血栓症の既往あり, または血小板数≧150 万/μL |
High リスク群 |
報告者 | 予後因子 | リスク分類 | 生存期間中央値(年) |
---|---|---|---|
Wolanskyj et al. (Mayo Clin Proc. 2006 ; 81 : 159) |
年齢<60 歳, かつ白血球数<15,000/μL |
Low リスク群 | 25.3 |
年齢≧60 歳, または白血球数≧15,000/μL |
Intermediate リスク群 | 16.9 | |
年齢≧60 歳, かつ白血球数≧15,000/μL |
High リスク群 | 10.3 |
5.原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)
1)PMF の予後分類
これまで広く用いられてきたLille 分類などに加え,3 つの国際的予後分類(international prognostic scoring system:IPSS)が臨床応用されている。年齢>65 歳,体重減少,夜間盗汗,発熱などの臨床症状,ヘモグロビン値(Hb)<10 g/dL,診断時WBC>25,000/μL,末梢血液中の芽球割合≧ 1%の5 つを予後因子とするIPSS 23),前述の5 因子に異なった重み付けをしたDynamic IPSS(DIPSS)24),DIPSS に染色体異常,血小板数,輸血依存性を付加したDIPSS Plus 25)が提唱されている(表7)。因子の数により,Low,Intermediate-1(Int-1),Intermediate-2(Int-2)そしてHigh の4 つのリスクグループに分類され,予後予測が可能であり,治療選択に用いられる。
予後予測モデル | 予後不良因子(スコア) | 予後評価 | ||
---|---|---|---|---|
スコア の合計 |
リスク分類 | 生存期間 中央値(年) |
||
Lille 分類 (Blood 1996 ; 88 : 1013) |
Hb<10 g/dL(1) WBC<4,000/μL(1) または >30,000μL(1) |
0 1 2 |
Low リスク Intermediate リスク High リスク |
7.8 2.2 1.1 |
IPSS (Blood 2009 ; 113 : 2895) | 年齢>65 歳(1) 発熱・夜間盗汗・体重減少の持続(1) Hb<10 g/dL(1) WBC>25,000/μL(1) 末梢血 芽球≧1%(1) |
0 1 2 ≧ 3 |
Low リスク Intermediate-1 リスク Intermediate-2 リスク High リスク |
11.3 7.9 4.0 2.3 |
DIPSS/aaDIPSS (Blood 2010 ; 115 : 1703) | DIPSS: 年齢>65 歳(1) 発熱・夜間盗汗・体重減少の持続(1) Hb<10 g/dL(2) WBC>25,000/μL(1) 末梢血 芽球≧1%(1) |
0 1 〜2 3 〜4 5 〜6 |
Low リスク Intermediate-1 リスク Intermediate-2 リスク High リスク |
到達せず 14.2 4.0 1.5 |
Age-adjusted DIPSS(65 歳未満): 発熱・夜間盗汗・体重減少の維持(2) Hb<10 g/dL(2) WBC>25,000/μL(1) 末梢血 芽球≧1%(2) |
0 1 〜2 3 〜4 > 4 |
Low リスク Intermediate-1 リスク Intermediate-2 リスク High リスク |
到達せず 9.8 4.8 2.3 |
|
DIPSS plus (J Clin Oncol 2011 ; 29 : 392) | 予後不良核型 (複雑核型(3 種類以上の異常),+8, -7/7q-,i(17q),-5/5q-,12p-,inv (3), 11q23 異常)(1) 血小板<100,000/μL(1) 輸血の必要性(1) DIPSS Intermediate-1 リスク(1) DIPSS Intermediate-2 リスク(2) DIPSS High リスク(3) |
0 1 2 〜3 4 〜6 |
Low リスク Intermediate-1 リスク Intermediate-2 リスク High リスク |
15.4 6.5 2.9 1.3 |
2)PMF の治療概略
- ①Low およびInt-1 リスクの治療:臨床症状,貧血症状を欠く患者の生存期間は10 年を超えるため,現時点では経過観察が望ましい。
- ②Int-2 およびHigh リスクの治療:適応可能年齢であれば,allo-HSCT は根治的治療法であり,診断早期より推奨される。allo-HSCT の適応とならない患者に対しては,臨床症状の軽減を主目的とする対症療法が施行される。
- ③薬物療法:タンパク同化ステロイドホルモン薬,HU,副腎皮質ステロイド,欧米では,サリドマイド(THAL),レナリドミド(LEN),JAK 阻害剤(ruxolitinib)26)などが用いられている。わが国でもJAK 阻害剤の臨床試験が行われており,保険適用となれば,使用可能である。
【第1.1版修正】
- ③薬物療法:タンパク同化ステロイドホルモン薬、HU、副腎皮質ステロイド、欧米では、サリドマイド(THAL)、レナリドミド(LEN)、JAK 阻害剤(ルキソリチニブ)26)などが用いられている。わが国でもルキソリチニブが保険適用となり、臨床応用が可能となった。
- ④脾臓摘出術・脾照射:巨大脾腫による疼痛,貧血,血球減少,重度の門脈圧亢進に対して脾臓摘出術や脾照射が施行される。
- ⑤急性白血病への進展:急性白血病に準じた治療を施行する。
6.その他のMPN の病態と治療について
上記以外のMPN で,比較的稀な疾患である慢性好中球性白血病(chronic neutrophilic leukemia: CNL)27),慢性好酸球性白血病(chronic eosinophilic leukemia:CEL)28),肥満細胞症(mastocytosis) 29),分類不能骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms,unclassifiable:MPN U)30)について追加する。
- ①CNL は成熟した好中球の著しい増加をみとめ,BCR-ABL1 融合遺伝子を認めないことが診断規準となっている。一般的には貧血,血小板減少を伴い緩徐な進行を示すが,生命予後は6 カ月から20 年と幅が広い。症状緩和的な治療が中心となる。時に急性白血病化をきたすが,化学療法に関連した二次がんとの関係は不明である。
- ②CEL は好酸球前駆細胞のクローナルな増殖の結果,末梢血にて著しい好酸球増多症を認めるMPN である。好酸球増加症候群(hypereosinphilic syndrome:HES)の骨髄増殖variant (HES/CEL) と捉えられ,無症状の症例から,臓器浸潤を伴いさまざまな臨床症状を伴い,生命予後も極めて幅が広い。HES の10〜14%でFIP1L1-PDGFα 融合遺伝子が検出され,クローナリティが証明される。こうしたHES/CEL では,FIP1L1-PDGFRα チロシンキナーゼを阻害するイマチニブの有効性が認められる31)。
- ③Mastocytosis は肥満細胞(mast cell)の腫瘍性増殖により引き起こされるMPN であり,慢性じんましん様の皮膚肥満細胞症から全身臓器に浸潤する肥満細胞症,肥満細胞白血病などに分類されその症状,予後も極めて多彩である。肥満細胞症では肥満細胞の増殖に関与しているc-KIT の点突然変異が報告されている29)。
- ④分類不能型MPN は上記のMPN の診断規準に完全に合致しないものの,2 つ以上のMPN の病状がオーバーラップしている疾患概念である。PV/ET/PMF の極めて発症早期の症例か,逆に進行した状態の症例のことが多い30)。
【参考文献】
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7) Baccarani M, et al. European LeukemiaNet recommendations for the management of chronic myeloid leukemia : 2013. Blood. 2013 ; 122(6) : 872-84.(レビュー)
8) O’Brien SG, et al. Imatinib compared with interferon and low-dose cytarabine for newly diagnosed chronic- phase chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2003 ; 348(11) : 994-1004.(1iiDiv)
9) Druker BJ, et al. Five-year follow-up of patients receiving imatinib for chronic myeloid leukemia. N Engl J Med 2006 ; 355(23) : 2408-17.(2Diii)
10) Kantarjian HM, et al. Survival benefit with imatinib mesylate versus interferon-alpha-based regimens in newly diagnosed chronic-phase chronic myelogenous leukemia. Blood. 2006 ; 108(6) : 1835-40.(3iiA)
11) Ohnishi K, et al. Long-term outcome following imatinib therapy for chronic myelogenous leukemia, with assessment of dosage and blood levels : the JALSG CML202 study. Cancer Sci. 2012 ; 103 (6) : 1071-8.(3iiiA)
12) Saglio G, et al. Nilotinib versus imatinib for newly diagnosed chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2010 ; 362(24) : 2251-9.(1iiDiv)
13) Kantarjian H, et al. Dasatinib versus imatinib in newly diagnosed chronic-phase chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2010 ; 362(24) : 2260-70.(1iiDiv)
14) Biggs JC, et al. Treatment of chronic myeloid leukemia with allogeneic bone marrow transplantation after preparation with BuCy2. Blood. 1992 ; 80(5) : 1352-7.(3iiiA)
15) Hehlmann R, et al. Randomized comparison of interferon-alpha with busulfan and hydroxyurea in chronic myelogenous leukemia. The German CML Study Group. Blood. 1994 ; 84(12) : 4064-77.(1iiA)
16) Cross NC, et al. Standardized definitions of molecular response in chronic myeloid leukemia. Leukemia. 2012 ; 26(10) : 2172-5.(レビュー)
17) Vardiman JW, et al. The 2008 revision of the World Health Organization(WHO) classification of myeloid neoplasms and acute leukemia : rationale and important changes. Blood. 2009 ; 114(5) : 937-51.(レビュー)
18) Tefferi A, et al. Polycythemia vera : scientific advances and current practice. Semin Hematol. 2005 ; 42(4): 206-20.(レビュー)
19) Ruggeri M, et al. No treatment for low-risk thrombocythaemia : results from a prospective study. Br J Haematol. 1998 ; 103(3) : 772-7.(2C)
20) Wolanskyj AP, et al. Essential thrombocythemia beyond the first decade : life expectancy, long-term complication rates, and prognostic factors. Mayo Clin Proc. 2006 ; 81(2) : 159-66.(3iiA)
21) Palandri F, et al. Long-term follow-up of 386 consecutive patients with essential thrombocythemia : safety of cytoreductive therapy. Am J Hematol. 2009 ; 84(4) : 215-20.(3iiA)
22) Harrison CN, et al. Hydroxyurea compared with anagrelide in high-risk essential thrombocythemia. N Engl J Med. 2005 ; 353(1) : 33-45.(1iiC)
23) Cervantes F, et al. New prognostic scoring system for primary myelofibrosis based on a study of the International Working Group for Myelofibrosis Research and Treatment. Blood. 2009 ; 113 (13) : 2895-901. (3iA)
24) Passamonti F, et al. A dynamic prognostic model to predict survival in primary myelofibrosis : a study by the IWG-MRT (International Working Group for Myeloproliferative Neoplasms Research and Treatment). Blood. 2010 ; 115(9) : 1703-8.(3iA)
25) Gangat N, et al. DIPSS plus : a refined Dynamic International Prognostic Scoring System for primary myelofibrosis that incorporates prognostic information from karyotype, platelet count, and transfusion status. J Clin Oncol. 2011 ; 29(4) : 392-7.(3iA)
26) Verstovsek S, et al. A double-blind, placebo-controlled trial of ruxolitinib for myelofibrosis. N Engl J Med. 2012 ; 366(9) : 799-807.(1iDiv)
27) Bain BJ, et al. Chronic neutrophilic leukaemia. Swerdlow SH, Campo, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2008 : pp38-9.(レビュー)
28) Bain BJ, et al. Chronic eosinophilic leukaemia, not otherwise specified. Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2008 : pp51-3.(レビュー)
29) Horny H-P, et al. Mastocytosis. Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2008 : pp54-63.(レビュー)
30) Kvasnicka HM, et al. Myeloproliferative neoplasm, unclassifiable. Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2008 : pp64-5.(レビュー)
31) Cools J, et al. A tyrosine kinase created by fusion of the PDGFRA and FIP1L1 genes as a therapeutic target of imatinib in idiopathic hypereosinophilic syndrome. N Engl J Med. 2003 ; 348 (13) : 1201-14.(3iiiDiv)
【第1.1版追記】
32) Gambacorti-Passerini C, et al. Bosutinib efficacy and safety in chronic phase chronic myeloid leukemia after imatinib resistance or intolerance:minimum 24-month follow-up. Am J Hematol 2014: 89(7): 732-42.(2Diii)
33) Gisslinger H, et al. Anagrelide compared with hydroxyurea in WHO-classified essential thrombocythemia: the ANAHYDRET Study, a randomized controlled trial. Blood. 2013;121(10):1720-1728.(1iiDiv)
◆アルゴリズム
(※)CQ番号(ピンク色部分)をクリックすると,解説画面へ移動します
1.CML のアルゴリズム
現在のCML 治療のKey Drug はTKI である。CML-CP 期にはTKI(イマチニブ,ニロチニブ,ダサチニブ)を投与する(CQ1)。治療開始後,至適奏効(Optimal)の場合は治療継続(CQ2),Warning(要注意)の場合はモニタリングを頻回にして,Failure(不成功)の場合はイマチニブは他のTKI へ,ニロチニブはダサチニブ,ダサチニブはニロチニブへ治療変更と同胞のHLA 検索を行う(CQ3)。点突然変異解析に加え,イマチニブ血中濃度が目標値に達しているかは治療方針を決める参考になる(CQ4)。CML-CP から進展したAP 期には未使用TKI で治療し,BP 期にはTKI 単独もしくは急性白血病に準じた化学療法を併用する(CQ5)。移植適応であれば,allo-HSCT を推奨する(CQ5)。TKI 治療中にT315I 点突然変異が確認された場合は,allo-HSCT もしくはT315I に有効な薬剤の臨床試験を選択することが考慮される。現在のところTKI を中止できる規準はなく,分子遺伝学的完全奏効(CMR)が得られても治療を継続すべきである(CQ6)。
【第1.1版修正】
1.CML のアルゴリズム
現在のCML 治療のKey Drug はTKI である。CML-CP 期にはTKI(イマチニブ,ニロチニブ,ダサチニブ)を投与する(CQ1)。治療開始後,至適奏効(Optimal)の場合は治療継続(CQ2),Warning(要注意)の場合はモニタリングを頻回にして,Failure(不成功)の場合はイマチニブは他のTKI へ,ニロチニブはダサチニブまたはボスチニブ,ダサチニブはニロチニブまたはボスチニブへ治療変更と同胞のHLA 検索を行う(CQ3)。点突然変異解析に加え,イマチニブ血中濃度が目標値に達しているかは治療方針を決める参考になる(CQ4)。CML-CP から進展したAP 期には未使用TKI で治療し,BP 期にはTKI 単独もしくは急性白血病に準じた化学療法を併用する(CQ5)。移植適応であれば,allo-HSCT を推奨する(CQ5)。TKI 治療中にT315I 点突然変異が確認された場合は,allo-HSCT もしくはT315I に有効な薬剤の臨床試験を選択することが考慮される。現在のところTKI を中止できる規準はなく,分子遺伝学的完全奏効(CMR)が得られても治療を継続すべきである(CQ6)。
2.MPN のアルゴリズム
PV,ET,PMF を診断し,リスク別に治療方針を立てることが基本となる。
PV とET の治療目標は,血栓症や出血を予防することである。全てのリスクカテゴリーに属するPV患者に対して低用量アスピリン投与(CQ8)と瀉血(CQ7)が有効である。Low リスクET(<60 歳,かつ血栓症の既往がない)の中で,心血管リスクファクター(喫煙,高血圧,高コレステロール血症,糖尿病)のある症例,JAK2 変異のある症例では,血栓症発症リスクを低下させるため抗血小板療法(アスピリン投与)を推奨する(CQ9)。これらのリスクのないLow リスクET に対する抗血小板療法の有用性は不明であり,さらに若年者に対しては化学療法による発がん性も心配されることから,一部の患者では無治療経過観察の方針も選択される(CQ10)。一方,High リスクのPV やET 症例(60 歳以上または血栓症の既往あり)にはヒドロキシウレア(HU)の投与を行ってもよい(CQ9)。妊娠合併ET に対する低用量アスピリンやインターフェロンα(IFNα)による治療介入は流産を減らす可能性がある(CQ10)。PMF に対しては薬物療法がPMF の予後を改善するかに関しては現時点で不明であるので,貧血,全身倦怠感,脾腫に伴う腹部膨満感などがある場合は,症状緩和を目的とした治療を行う。症状改善の手段の一つとしてHU などを用いた化学療法が有用である。また,JAK2 阻害剤などの臨床試験に参加することもできる。症状のない場合は無治療経過観察の方針が望ましい(CQ10)。PMF に対する根治的治療法はallo-HSCT である。予後予測モデルにより予後不良と判断され,適切なドナーが存在する場合は,allo-HSCT の適応を考慮する必要がある(CQ11)。
【第1.1版修正】
2.MPN のアルゴリズム
PV,ET,PMF を診断し,リスク別に治療方針を立てることが基本となる。
PV とET の治療目標は,血栓症や出血を予防することである。全てのリスクカテゴリーに属するPV患者に対して低用量アスピリン投与と瀉血(CQ7)が有効である。Low リスクET(<60 歳,かつ血栓症の既往がない)の中で,心血管リスクファクター(喫煙,高血圧,高コレステロール血症,糖尿病)のある症例,JAK2 変異のある症例では,血栓症発症リスクを低下させるため抗血小板療法(アスピリン投与)を推奨する(CQ8)。これらのリスクのないLow リスクET に対する抗血小板療法の有用性は不明であり,さらに若年者に対しては化学療法による発がん性も心配されることから,一部の患者では無治療経過観察の方針も選択される(CQ9)。一方,High リスクのPV やET 症例(60 歳以上または血栓症の既往あり)にはヒドロキシウレア(HU)の投与を行っても良い(CQ9)。HU 不耐容、あるいは抵抗性のHigh リスクET には、アナグレリド(+アスピリン)を投与する。妊娠合併ETに対する低用量アスピリンやインターフェロンα(IFNα)による治療介入は流産を減らす可能性がある (CQ10)。PMF に対しては薬物療法がPMF の予後を改善するかに関しては現時点で不明であるので,貧血,全身倦怠感,脾腫に伴う腹部膨満感などがある場合は,症状緩和を目的とした治療を行う。症状改善の手段の一つとしてHU などを用いた化学療法が有用である。PMF に対する根治的治療法はallo-HSCT である。予後予測モデルによりHigh リスクと判断され、適切なドナーが存在する場合は、allo-HSCT の適応を考慮する(CQ11)。適切なドナーが得られず、かつ全身倦怠感、脾腫に伴う腹部症状などがある場合は、ルキソリチニブを投与する(追加CQ)。Low リスクであり、かつ症状のない場合は無治療経過観察の方針が望ましい(CQ9)。
CQ1 | 初発CML-CP に対する治療として何を投与すべきか |
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推奨グレードカテゴリー1
- CML-CP に対しては,TKI であるイマチニブ400 mg QD(1 回/日),ニロチニブ300 mgBID(2 回/日),ダサチニブ100 mg QD のいずれかの投与を推奨する。3 剤の副作用プロファイルが異なることから,合併疾患などの患者背景を考慮して治療薬を選択することが望ましい。
【解 説】
初発CML-CP に対しては,TKI であるイマチニブと化学療法+インターフェロンα(IFNα)の併用療法との比較試験(IRIS 試験)の結果,イマチニブの優位性が示された1)。イマチニブ投与による8 年間全生存割合(OS)は85%(CML 関係死による死亡のみを対象とした8 年間OS は93%)と長期間の有効性と安全性も示された2)。その後,高用量(800 mg QD)イマチニブと通常用量(400 mg QD)イマチニブの比較試験が実施されたが,両群の有効性に関する差は明らかでない3)〜5)。したがって現時点では,イマチニブ400 mg QD が推奨投与の一つである。
イマチニブを対照薬として第2 世代TKI であるニロチニブ,ダサチニブの臨床第Ⅲ相試験が発表されている。ニロチニブ300 mg BID(ENESTnd 試験)6),ダサチニブ100 mg QD(DASISION 試験)7)は,細胞遺伝学的完全奏効(CCyR),分子遺伝学的大奏効(MMR)達成率について12 カ月時点でイマチニブ400 mg QD より優れていた。24 カ月までの公表されたデータによるとAP/BP への移行も少ない8)が,長期間の有効性や安全性の評価が必要である。
最新のELN 2013 コンセンサス版では,第2 世代のニロチニブとダサチニブ同士を直接比較した検討もないため,現時点では3 剤のうちどれを投与すべきか断定されていない9)。しかし,第2 世代TKI が速やかで非常に深い分子遺伝学的奏効(MR)をもたらす利点を考慮し,至適奏効達成の有無はELN 2009 コンセンサス版6)より早い時点で判断される。TKI 3 剤の副作用プロファイルが異なることから,合併する疾患など患者背景を考慮し,治療薬を選択することが望ましい。
【参考文献】
1) O’Brien SG, et al. Imatinib compared with interferon and low-dose cytarabine for newly diagnosed chronic- phase chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2003 ; 348(11) : 994-1004.(1iiDiv)
2) Deininger M, et al. International randomized study of interferon vs STI571(IRIS) 8-year follow up : sustained survival and low risk for progression or events in patients with newly diagnosed chronic myeloid leukemia in chronic phase(CML-CP) treated with imatinib. Blood. 2009 ; 114 : abstract #1126.(2Diii)
3) Baccarani M, et al. Comparison of imatinib 400 mg and 800 mg daily in the front-line treatment of highrisk, Philadelphia-positive chronic myeloid leukemia : a European LeukemiaNet Study. Blood. 2009 ; 113(19) : 4497-504.(1iiDiv)
4) Cortes JE, et al. Phase Ⅲ, Randomized, open-label study of daily imatinib mesylate 400 mg versus 800 mg in patients with newly diagnosed, previously untreated chronic myeloid leukemia in chronic phase using molecular end points : tyrosine kinase inhibitor optimization and selectivity study. J Clin Oncol. 2010 ; 28(3) : 424-30.(1iiDiv)
5) Hehlmann R, et al. Tolerability-Adapted Imatinib 800mg/d Versus 400mg/d Versus 400mg/d Plus Interferon- alpha in Newly Diagnosed Chronic Myeloid Leukemia. J Clin Oncol. 2011 ; 29 (12) : 1634-42.(1iiDiv)
6) Saglio G, et al. Nilotinib versus imatinib for newly diagnosed chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2010 ; 362(24) : 2251-9.(1iiDiv)
7) Kantarjian H, et al. Dasatinib versus imatinib in newly diagnosed chronic-phase chronic myeloid leukemia. N Eng J Med. 2010 ; 362(24) : 2260-70.(1iiDiv)
8) Kantarjian HM, et al. Nilotinib versus imatinib for the treatment of patients with newly diagnosed chronic phase, Philadelphia chromosome-positive, chronic myeloid leukemia : 24-month minimum follow-up of the phase 3 randomized ENESTnd trial. Lancet Oncol. 2011 ; 12(9) : 841-51.(1iiDiii)
9) Beccarani M, et al. European LeukemiaNet recommendations for the management of chronic myeloid leukemia : 2013. Blood. 2013 ; 122(6) : 872-84.(レビュー)
CQ2 | イマチニブにてOptimal な効果が得られているCML-CP 症例はイマチニブを継続すべきか,第2 世代TKI に変更するほうがよいか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- イマチニブの継続治療を推奨する。イマチニブの副作用などにより,アドヒアランス(内服治療の継続性)の低下が危惧される場合は,副作用のプロファイルの異なる第2 世代TKI に変更することも可能である。
【解 説】
2009 年ELN コンセンサス改訂版による“Optimal response”は,イマチニブ投与12 カ月時点での細胞遺伝学的完全奏効(CCyR)達成および18 カ月時点での分子遺伝学的大奏効(MMR)達成と規定されている1)。IRIS 試験のサブセット解析では,イマチニブ投与後12 カ月CCyR 達成例の5 年無増悪生存割合(PFS)は97%であり,18 カ月でMMR 達成例の7 年無イベント生存割合(EFS)95% , PFS 99%と極めて良好である。イマチニブ投与後12 カ月でMMR 達成例はCMLAP/BP への移行が8 年時点まで報告されていない2)〜4)。このようにOptimal 症例は,イマチニブ継続により良好な長期予後が得られると考えられる。
イマチニブ投与によるOptimal 症例を第2 世代TKI に変更するかについては,イマチニブ継続投与群と第2 世代TKI への変更群との臨床比較試験をすることで,明らかになると考えられる。現在,イマチニブを2 年以上投与し分子遺伝学的完全奏効(CMR)に到達していない症例を,ニロチニブ400 mg BID 群とイマチニブ維持群にランダム化し,CMR をエンドポイントとした臨床試験(ENESTcmr)が進行中であり,24 カ月時点での結果が発表された5)。ニロチニブへ変更することで12 カ月時点のCMR 達成率が有意に増加し(23% vs 11%,p=0.02),24 カ月時点ではさらに増加(32.7% vs 16.5%,p=0.005)し,BCR-ABL1 が検出限界以下の達成率が有意に高くなった(22.1% vs 8.7%,p=0.0087)。しかし,この結果が薬剤中止につながるのかは今後の長期観察を要する。
なお,MMR の維持とアドヒアランスには強い相関があり,90%以上イマチニブを服薬できた場合は有意にOptimal response を維持できるという6)。しかしながら,Optimal 症例においても副作用に耐えながらイマチニブを継続している不耐容症例が存在するため,このような症例には副作用のプロファイルが異なる第2 世代TKI へ治療変更するのも一つの選択肢と考えられる。
ELN 2013 コンセンサス版では,副作用などでイマチニブの至適奏効が得られない不耐容例などでは,早期にニロチニブやダサチニブへの変更を推奨している7)。
【参考文献】
1) Baccarani M, et al. Chronic myeloid leukemia : an update of concepts and management recommendations of European LeukemiaNet. J Clin Oncol. 2009 ; 27(35) : 6041-51.(レビュー)
2) Druker BJ, et al. Five-year follow-up of patients receiving imatinib for chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2006 ; 355(23) : 2408-17.(2Diii)
3) Huges TP, et al. Long-term prognostic significance of early molecular response to imatinib in newly diagnosed chronic myeloid leukemia : an analysis from the International Randomized Study of Interferon and STI571(IRIS). Blood. 2010 ; 116(19) : 3758-65.(2Diii)
4) Deininger M, et al. International randomized study of interferon vs STI571(IRIS) 8-year follow-up : sustained survival and low risk for progression or events in patients with newly diagnosed chronic myeloid leukemia in chronic phase(CML-CP) treated with imatinib. Blood. 2009 ; 114 : abstract #1126.(2Diii)
5) Hughes TP, et al. Switching to Nilotinib Is Associated with Continued Deeper Molecular Responses in CML-CP Patients with Minimal Residual Disease After 2 Years On Imatinib : Enestcmr 2-Year Followup Results Blood(ASH Annual Meeting Abstracts). 2012 ; 120 : abstract 694.(1iiDiv)
6) Marin D, et al. Adherence is the critical factor for achieving molecular responses in patients with chronic myeloid leukemia who achieve complete cytogenetic responses on imatinib. J Clin Oncol. 2010 ; 28(14) : 2381-8.(3iiDiv)
7) Baccarani M, et al. European LeukemiaNet recommendations for the management of chronic myeloid leukemia : 2013. Blood. 2013 ; 122(6) : 872-84.(レビュー)
CQ3 | Warning やFailure 症例に対してイマチニブの増量と第2 世代TKI のどちらを選択すべきか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- イマチニブ投与でFailure 例はイマチニブ増量よりも第2 世代TKIへの変更を推奨する。
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推奨グレードカテゴリー2A
- イマチニブ投与でWarning 例には,モニタリングを頻回に行いFailure となれば第2 世代TKI への変更を推奨する。
【解 説】
イマチニブFailure に対してイマチニブ400 mg を800 mg に,300 mg を600 mg に増量した場合,61 カ月の観察中央期間において細胞遺伝学的完全奏効(CCyR)達成率40%,3 年無イベント生存割合(EFS),全生存割合(OS)は47%,76%と良好であったとの報告がなされている1)。第2 世代TKI に関しては,ニロチニブ400 mg BID に変更した場合,24 カ月後のCCyR 達成率は44%であり,そのうちの56%が分子遺伝学的大奏効(MMR)を達成しOS は87%と良好であった2)。ダサチニブに関しては,イマチニブFailure に対して,ダサチニブ70 mg BID 群とイマチニブ大量(400 mg BID)群にランダマイズした第Ⅱ相試験(START-R)では,2 年間の観察期間においてCCyR 達成はダサチニブ群44%,イマチニブ大量群18%であった(p=0.0025)。18 カ月時点でのMMR 達成は各々29%,12%(p=0.028)であった3)。以上より,イマチニブFailure に対してはイマチニブ増量よりも第2 世代TKI の反応が良好であった。観察期間が短いものの,無増悪生存割合(PFS)の延長も示唆されることから,イマチニブFailure に対しては第2 世代TKI が推奨される。
【第1.1 版追加コメント】
また、新規第二世代TKI のボスチニブは先に投与したTKI(イマチニブ、ニロチニブ、またはダサチニブ)治療に抵抗性・不耐容のCML に対する治療薬である。イマチニブ600mg QD のFailure 症例(n=200)をボスチニブ500mg QD に変更した場合、24 ヶ月の観察期間の累積CCyR 達成率は46%、累積MMR達成率は34%であり、2 年OS は88%と良好であった9)。イマチニブFailure に対してボスチニブも選択肢の一つとなった。さらに、他のTKI 抵抗性CML に対して3rd line としても投与可能である10)。
IRIS 試験におけるランドマーク解析では,イマチニブ投与6 カ月時点で細胞遺伝学的非奏効(No CyR),細胞遺伝学的微小奏効(Mini CyR)/ 細胞遺伝学的小奏効(Minor CyR),細胞遺伝学的部分奏効(PCyR),CCyR における6 年EFS は59, 58, 85, 91%であり,ELN 2009 コンセンサス8)で定義されたSuboptimal response であるPCyR が得られていない場合の予後は不良である4)。しかし,18 カ月時点でのMMR 未達成のSuboptimal response はOptimal response と長期予後は同等である5)。英国のHammersmith 病院のデータでは,3, 6, 12 カ月のSuboptimal response でのPFS はFailure に近く,18 カ月時点でのSuboptimal response とOptimal response は同等のPFS であった6)。MD アンダーソンがんセンターの検討でも,6, 12 カ月のSuboptimal response 症例のEFS は不良であったが,18 カ月のSuboptimal response 症例のEFS はOptimal response 例と同等に良好であった7)。
CQ2 のOptimal 症例でも言及したように,副作用に耐えながらイマチニブを継続している不耐容症例が存在するため,このような症例には副作用のプロファイルが異なる第2 世代TKI へ治療変更するのも一つの選択肢と考えられる。
【参考文献】
1) Jabbour E, et al. Imatinib mesylate dose escalation is associated with durable responses in patients with chronic myeloid leukemia after cytogenetic failure on standard-dose imatinib therapy. Blood. 2009 ; 113(10) : 2154-60.(3iiiDiv)
2) Kantarjian HM, et al. Nilotinib is effective in patients with chronic myeloid leukemia in chronic phase after imatinib resistance or intolerance : 24-month follow-up results. Blood. 2011 ; 117 (4) : 1141-5.(3iiiDiv)
3) Kantarjian H, et al. Dasatinib or high-dose imatinib for chronic-phase chronic myeloid leukemia resistant to imatinib at a dose of 400 to 600 miligrams daily. Cancer. 2009 ; 115(18) : 4136-47.(3iiiDiv)
4) Hochhaus A, et al. Six-year follow-up of patients receiving imatinib for the first-line treatment of chronic myeloid leukemia. Leukemia. 2009 ; 23(6) : 1054-61.(2Diii)
5) Huges TP, et al. Long-term prognostic significance of early molecular response to imatinib in newly diagnosed chronic myeloid leukemia : an analysis from the International Randomized Study of Interferon and STI571(IRIS). Blood. 2010 ; 116(19) : 3758-65.(2Diii)
6) Marin D, et al. European LeukemiaNet criteria for failure or suboptimal response reliably identify patients with CML in early chronic phase treated with imatinib whose eventual outcome is poor. Blood. 2008 ; 112(12) : 4437-44.(3iiDiii)
7) Alvarado Y, et al. Significance of suboptimal response to imatinib, as defined by the European LeukemiaNet, in the long-term outcome of patients with early chronic myeloid leukemia in chronic phase. Cancer. 2009 ; 115(16) : 3709-18.(3iiDiii)
8) Beccarani M, et al. Chronic myeloid leukemia : an update of concepts and management recommendations of European LeukemiaNet. J Clin Oncol 2009 ; 27(35) : 6041-51.(レビュー)
【第1.1 版追記】
9) Gambacorti-Passerini C, et al. Bosutinib efficacy and safety in chronic phase chronic myeloid leukemia after imatinib resistance or intolerance:minimum 24-month follow-up. Am J Hematol 2014: 89(7): 732-42.(2Diii)
10) Khoury HJ, et al. Bosutinib is active in chronic phase chronic myeloid leukemia after imatinib and dasatinib and/or nilotinib therapy failure.Blood 2014: 119 (15): 3403-12.(2Diii)
CQ4 | イマチニブトラフ濃度の目標値を1,000 ng/mL としてイマチニブ療法は勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- CML のイマチニブ療法において治療効果が認められない場合,イマチニブのトラフ値を参考にすることができる。
【解 説】
CML 慢性期に対するイマチニブの抵抗性の理由として,ABL1 遺伝子点突然変異や付加的染色体異常など白血病細胞の問題のほかイマチニブの薬物動態に関わる問題が知られている。薬理学的に半減期の比較的長いイマチニブの薬物動態はトラフ値で評価することが可能であり,治療効果とトラフ値の相関についていくつかのコホート研究が報告されている。
Picard らは少なくとも12 カ月イマチニブ療法を受けている患者(n=68)のイマチニブトラフ値と細胞遺伝学的効果または分子遺伝学的効果との相関を初めて示した。さらにROC 曲線(receiver operating characteristic curve)よりイマチニブトラフ値の閾値を1,002 ng/mL に設定した場合,分子遺伝学的大奏効(MMR)達成を感度77%,特異度71%で予測可能であるとした1)。多数例の前方視的コホート研究(n=351)であるIRIS 試験のサブ解析は治療29 日目のイマチニブトラフ値が細胞遺伝学的完全奏効(CCyR)達成に関係することを示した2)。日本人多数例のコホート研究(n=254)ではイマチニブトラフ値とMMR 達成の相関が示された3)。標準投与量の400 mg 内服症例を対象とした複数のコホート研究において,イマチニブトラフ値が1,000 ng/mL 以上の症例で有意にMMR 達成率の高いことが追試されている3)〜5)。
高用量イマチニブの忍容性の問題はあるものの,TOPS 試験により標準量との比較にて高用量イマチニブの治療効果の早期達成が報告されているが6),トラフ値をターゲットとして治療介入を行うランダム化比較試験は報告されていない。しかしながら,比較的多数例の複数のコホート研究によりトラフ値と治療効果の関連性が示されていることから,期待される治療効果が得られない場合は点突然変異解析(保険適用外)に加え,イマチニブ血中濃度測定(保険適用,特定薬剤管理料)が治療内容の再考のみならず,併用薬との相互作用やコンプライアンスの確認に有用である。
【参考文献】
1) Picard S, et al. Trough imatinib plasma levels are associated with both cytogenetic and molecular responses to standard-dose imatinib in chronic myeloid leukemia. Blood. 2007 ; 109(8) : 3496-9.(3iiiDiv)
2) Larson RA, et al. Imatinib pharmacokinetics and its correlation with response and safety in chronic-phase chronic myeloid leukemia : a sub analysis of the iris study. Blood. 2008 ; 111(8) : 4022-8.(2Div)
3) Takahashi N, et al. Correlation between imatinib pharmacokinetics and clinical response in Japanese patients with chronic-phase chronic myeloid leukemia. Clin Pharmacol Ther. 2010 ; 88(6) : 809-13.(3iDiv)
4) Marin D, et al. Adherence is the critical factor for achieving molecular responses in patients with chronic myeloid leukemia who achieve complete cytogenetic responses on imatinib. J Clin Oncol. 2010 ; 28(14) : 2381-8.(3iiDiv)
5) Ishikawa Y, et al. Trough plasma concentration of imatinib reflects BCR-ABL kinase inhibitory activity and clinical response in chronic-phase chronic myeloid leukemia : a report from the BINGO study. Cancer Sci. 2010 ; 101(10) : 2186-92.(3iiDiv)
6) Cortes JE, et al. Phase Ⅲ, Randomized, open-label study of daily imatinib mesylate 400 mg versus 800 mg in patients with newly diagnosed, previously untreated chronic myeloid leukemia in chronic phase using molecular end points : tyrosine kinase inhibitor optimization and selectivity study. J Clin Oncol. 2010 ; 28(3) : 424-30.(1iiDiv)
CQ5 | 進行期CML(AP およびBP)の治療はTKI が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- AP の治療は,チロシンキナーゼ阻害剤(高用量イマチニブまたは第2 世代TKI)を推奨する。TKI で至適奏効が得られない場合は同種HSCT を考慮する。
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推奨グレードカテゴリー2A
- BP の治療はTKI 単剤またはTKI を含む化学療法で最大効果を得た後,可能な限り同種HSCT を推奨する。
【解 説】
CML-AP の治療は,TKI で開始され,イマチニブであれば高用量600 mgQD が推奨される1)2)。イマチニブ治療で血液学的奏効(HR) 82%,完全HR(CHR) 34%,細胞遺伝学的大奏効(MCyR)24%,細胞遺伝学的完全奏効(CCyR) 17%であり,12 カ月時点での無病生存割合(PFS)59%,全生存割合(OS)74%であった2)。historical control であるインターフェロンα(IFNα)や化学療法と比較し,イマチニブ治療群の4 年OS は53%,IFNα群42%,他のCT 群0〜21%とイマチニブの治療優位性が示されている3)。一方,イマチニブ治療抵抗性もしくは不耐容CML-AP 症例では第2 世代TKI が有用であるため,治療薬を第2 世代TKI に変更する。ニロチニブに切り替えにてCHR 26%,CCyR 16%(観察中央期間202 日)4),ダサチニブに切り替えにてCHR 45%CCyR 32%(観察中央期間14.1 カ月)であった5)。ニロチニブの24 カ月時点でのOS とPFS はそれぞれ70%と33%であった6)。なお,移植適応がある場合はTKI による治療反応性を見極めた上で,allo-HSCT を考慮してもよい。
CML-BP に対してはTKI 単剤7)8)またはAML/ALL に準じた化学療法の併用9)で治療する。しかしながらTKI 単剤もしくは化学療法の治療成績は十分とは言えないため,移植適応の患者ではallo-HSCT が強く推奨される。ドイツのCML グループの報告では進行期のCML に対するallo-HSCT の3 年OS は59%である10)。また,CML におけるTKI 治療中にT315I 変異が確認された場合,現在のTKI では臨床効果がないため,移植適応のある患者ではallo-HSCT あるいは臨床試験への参加が推奨される。
ELN 2013 コンセンサス11)では,AP/BP 期の治療方針として,前治療にTKI 投与のない初発AP/BP 期では,高用量のイマチニブ(400 mgBID)もしくはダサチニブ(70 mgBID または140 mgQD)を選択し,allo-HSCT のドナー探しを推奨している。そして,BP 期は可能な限り全員,AP 期はOptimal 奏効が得られない場合は,allo-HSCT を推奨し,allo-HSCT 前には化学療法の施行も認めている。TKI の治療歴があるAP/BP 期には未使用のTKI を選択し,可能な限り全員にallo-HSCT を推奨している。ただし,化学療法でallo-HSCT が施行できるように十分病勢をコントロールすべきとしている。なお,治療抵抗性のBP 期に対してはallo-HSCT は推奨されていない。
【参考文献】
1) Kantarjian HM, et al. Treatment of philadelphia chromosome-positive, accelerated-phase chronic myelogenous leukemia with imatinib mesylate. Clin Cancer Res. 2002 ; 8(7) : 2167-76.(3iiDiv)
2) Talpaz M, et al. Imatinib induces durable hematologic and cytogenetic responses in patients with accelerated phase chronic myeloid leukemia : results of a phase 2 study. Blood. 2002 ; 99(6) : 1928-37.(3iiDiv)
3) Kantarjian H, et al. Survival benefit with imatinib mesylate therapy in patients with accelerated-phase chronic myelogenous leukemia--comparison with historic experience. Cancer. 2005 ; 103 (10) : 2099-108.(3iiA)
4) le Coutre P, et al. Nilotinib(formerly AMN107), a highly selective BCR-ABL tyrosine kinase inhibitor, is active in patients with imatinib-resistant or -intolerant accelerated-phase chronic myelogenous leukemia. Blood. 2008 ; 111(4) : 1834-9.(3iiiDiv)
5) Apperley JF, et al. Dasatinib in the treatment of chronic myeloid leukemia in accelerated phase after imatinib failure : the START A trial. J Clin Oncol. 2009 ; 27(21) : 3472-9.(3iiiDiv)
6) le Coutre PD, et al. Nilotinib in patients with Ph+chronic myeloid leukemia in accelerated phase following imatinib resistance or intolerance : 24-month follow-up results. Leukemia. Leukemia. 2012 ; 26 (6) : 1189-94.(3iiiA)
7) Cortes J, et al. Dasatinib induces complete hematologic and cytogenetic responses in patients with imatinib-resistant or -intolerant chronic myeloid leukemia in blast crisis. Blood. 2007 ; 109 (8) : 3207-13.(3iiiDiv)
8) Nicolini FE, et al. Expanding nilotinib access in clinical trials(ENACT), an open-label, multicenter study of oral nilotinib in adult patients with imatinib-resistant or-intolerant chronic myeloid leukemia in the accelerated phase or blast crisis. Leuk Lymphoma. 2012 ; 53(5) : 907-14.(3iiiDiv)
9) Yanada M, et al. Imatinib combined chemotherapy for Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia : major challenges in current practice. Leuk Lymphoma. 2006 ; 47 (9) : 1747-53.(レビュー)
10) Saussele S, et al. Allogeneic hematopoietic stem cell transplantation(allo SCT) for chronic myeloid leukemia in the imatinib era : evaluation of its impact within a subgroup of the randomized German CML Study Ⅳ. Blood. 2010 ; 115(10) : 1880-5.(2A)
11) Baccarani M, et al. European LeukemiaNet recommendations for the management of chronic myeloid leukemia : 2013. Blood. 2013 ; 122(6) : 872-84.(レビュー)
CQ6 | CMR 到達後にTKI 中止は勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー4
- CMR が得られて安全にTKI 治療が終了できる規準が確立されるまでは,臨床試験以外の実臨床で TKI を中止すべきではない。
【解 説】
IRIS 試験の長期成績によれば,慢性期CML に対して初期よりイマチニブ治療を遂行された患者では,治療開始より数年間の年次増悪率は5%以下と,イマチニブ登場以前の10〜20%に比べて著明に良好である1)。しかしながら,細胞遺伝学的完全奏効(CCyR)に到達している患者に対してイマチニブ治療を中止すると全例が再発した2)。一方,分子遺伝学的奏効[分子遺伝学的大奏効(MMR)や分子遺伝学的完全奏効(CMR)]を長期に維持している患者の中には,イマチニブ中止によっても分子遺伝学的奏効(MR)が持続する患者群が存在することが示され3)4),多施設共同試験でイマチニブ中止試験(STIM 試験)が施行された5)。成人で2 年以上CMR 持続のCML-CP 患者100 人が登録されイマチニブが中止された。12 カ月以上の観察期間を有する69 人のCMR 維持率は1 年で41%,2 年で38%となり,長期にイマチニブを中止できた患者の存在が明確になった5)。一方,分子遺伝学的再発症例に対しイマチニブ再投与により,全例で分子遺伝学的効果を示しイマチニブ感受性が保たれていた。この試験では,50 カ月以上の長期にイマチニブが投与されていること,Sokal スコアが低いことがイマチニブ中止可能要因に挙げられた。
また,国内においてもイマチニブ投与が中止された後方視的調査が実施され,イマチニブ投与が中止された43 例で47%が長期間CMR を維持した。多変量解析の結果,インターフェロンα(IFNα)の前治療とイマチニブの総投与量が再燃予測因子であった6)。
イマチニブに比べて分子遺伝学的効果の高いダサチニブやニロチニブについては,大規模な中止試験は施行されておらず,十分なデータがない。CMR に達して安全にTKI を中止するためには,適切な臨床試験による至適なTKI 投与方法の検討が必要となる。CMR が得られて安全にTKI 治療が終了できる規準が確立されるまでは,臨床試験以外でTKI を中止するべきではない。
【参考文献】
1) Hochhaus A, et al. Six-year follow-up of patients receiving imatinib for the first-line treatment of chronic myeloid leukemia. Leukemia. 2009 ; 23(6) : 1054-61.(2Diii)
2) Goh HG, et al. Previous best responses can be re-achieved by resumption after imatinib discontinuation in patients with chronic myeloid leukemia : implication for intermittent imatinib therapy. Leuk Lymphoma. 2009 ; 50(6) : 944-51.(3iiDiv)
3) Rousselot P, et al. Imatinib mesylate discontinuation in patients with chronic myelogenous leukemia in complete molecular remission for more than 2 years. Blood. 2007 ; 109(1) : 58-60.(3iiiDiv)
4) Burchert A, et al. Sustained molecular response with interferon alfa maintenance after induction therapy with imatinib plus interferon alfa in patients with chronic myeloid leukemia. J Clin Oncol. 2010 ; 28 (8) : 1429-35.(3iiiDiv)
5) Mahon FX, et al. Discontinuation of imatinib in patients with chronic myeloid leukaemia who have maintained complete molecular remission for at least 2 years : the prospective, multicentre Stop Imatinib(STIM) trial. Lancet Oncol. 2010 ; 11(11) : 1029-35.(3iiiDiv)
6) Takahashi N, et al. Discontinuation of imatinib in Japanese patients with CML-CP. Haematologica. 2012 ; 97(6) : 903-6.(3iDiv)
CQ7 | すべてのPV 症例に瀉血は勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- あらゆるリスク群のPV 患者に瀉血を推奨する。瀉血後の目標Ht 値は45%である。低用量アスピリン,ヒドロキシウレア等による抗血小板療法,細胞減少療法併用症例では,もう少し高い値(48%または55%)でも許容されるかもしれない。
【解 説】
良好な生命予後が期待されるPV に対する治療の目標は,赤血球の増加による循環障害を改善し,血栓症や出血を予防することである。Ht 値を45%未満となるようコントロールすると血栓症発症率が低下する1)という報告から,PV 患者のHt 値は,瀉血によって45%未満となるようにコントロールすることが広く推奨されてきた。British Committee for Standards in Haematology より2005 年に発表されたガイドラインにおいても,瀉血後の目標Ht 値45%未満が推奨されている。ただし,Ht 値45%未満という目標は低用量アスピリン療法が行われる以前の報告に基づくものである。アスピリン,ヒドロキシウレア(HU)も併用した瀉血後の目標Ht 値に関する前方視的研究では,①アスピリン,HU 等で抗血小板療法を行っている患者では,Ht 値が55%未満の場合も,45%未満の場合と同程度の血栓症リスク,および生存割合であるという報告2)と,②Ht 値45%未満を目標に瀉血を行った場合,心血管障害による死亡と主要血栓症のリスクが,Ht 値45〜50%の場合と比べ有意に減少するという報告3)の,相反する結果となってしまっている。また小数例の後方視的研究では,Ht 値が48%を超えると血栓症が増加し,生存割合が低下すると報告されている4)。
これらを勘案すると,原則としてHt 値45%を瀉血の目標とすべきであるが,もう少し高い値も許容可能かもしれない。
【参考文献】
1) Pearson TC, et al. Vascular occlusive episodes and venous haematocrit in primary proliferative polycythaemia. Lancet. 1978 ; 2(8102) : 1219-22.(3iiiC)
2) Di Nisio M, et al. European Collaboration on Low-dose Aspirin in Polycythemia Vera(ECLAP) Investigators. The haematocrit and platelet target in polycythemia vera. Br J Haematol. 2007 ; 136 (2) : 249-59.(3iC)
3) Marchioli R,et al. Cardiovascular events and intensity of treatment in polycythemia vera. N Engl J Med. 2013 ; 368(1) : 22-33.(1iiiA)
4) Crisà E, et al. A retrospective study on 226 polycythemia vera patients : Impact of median hematocrit value on clinical outcomes and survival improvement with anti-thrombotic prophylaxis and non-alkylating drugs. Ann Hematol. 2010 ; 89(7) : 691-9.(3iiA)
CQ8 | 心血管リスクファクターを有するLow リスクET 症例に対してアスピリン投与は勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- Low リスクEt(60 歳未満,かつ血栓症の既往がない)のなかで,心血管リスクファクター(喫煙,高血圧,高コレステロール血症,糖尿病)のある症例,JAK2 変異のある症例では,血栓症発症リスクを低下させるために, 抗血小板療法(低用量アスピリン75〜100 mg/日)投与を推奨する。
【解 説】
High リスクEt(60 歳以上,または血栓症の既往がある)では,ヒドロキシウレア(HU)と低用量アスピリン投与が血栓症の発症を有意に抑制した1)が,Low リスクEt(60 歳未満,かつ血栓症の既往がない)に対する抗血小板療法の有用性はこれまで不明であった。Alvarez-Larrán らは,Low リスクET 患者300 例を後方視的に解析し,無治療経過観察群と抗血小板療法群(アスピリン投与を含む)における血栓症発症頻度を比較した2)。この解析によって,Low リスクET 患者のうち,心血管リスクファクター(喫煙,高血圧,高コレステロール血症,糖尿病)のある患者,JAK2 変異のある患者に対する抗血小板療法が血栓症発症リスクを低下させることが明らかとなったことより,Low リスクET でも一部の症例では抗血小板療法が推奨される2)。一方,それ以外のLow リスクET 患者では,抗血小板療法に出血リスクを凌駕する有益性は見出せず,投与は推奨されない。
【参考文献】
1) Harrison CN, et al. United Kingdom Medical Research Council Primary Thrombocythemia 1 Study. Hydroxyurea compared with anagrelide in high-risk essential thrombocythemia. N Engl J Med. 2005 ; 353(1) : 33-45.(1iiC)
2) Alvarez-Larrán A, et al. Observation versus antiplatelet therapy as primary prophylaxis for thrombosis in low-risk essential thrombocythemia. Blood. 2010 ; 116(8) : 1205-10.(3iiC)
CQ9 | 若年者Low リスクMPN 症例に対してヒドロキシウレアによる治療介入は勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー4
- 60 歳未満のLow リスクMPN 症例に対し,ヒドロキシウレアの有効性は示されていない。また,急性白血病化または二次がんの頻度を増加させる可能性が否定できないため,60 歳未満のLow リスクMPN 症例に対しヒドロキシウレアによる治療介入は推奨されない。
【解 説】
MPN の細胞数を減少させるためにヒドロキシウレア(HU)を第一選択薬として用いることが多い。High リスク症例に対しては,HU+低用量アスピリンの血栓症,出血予防に対する有用性が示されている1)が,Low リスク症例に対しての有用性は不明である。一方,ブスルファン(BU)などのアルキル化剤の二次発がんはよく知られているが,HU の二次発がんについても懸念されている。ET に対する化学療法による二次がんとしてはAML/MDS のほかNHL などのリンパ系腫瘍,非血液腫瘍としては肺がん,大腸がん,腎がん,膀胱がん,前立腺がんなどさまざまな固形がんが報告されている。しかし,HU 単剤による治療介入が無治療群と比較し二次発がんを増加させるかは不明である(11.2% vs 7.3%)2)。また,MPN の自然史として急性白血病化が知られているが,治療介入によりその頻度が増加するか否かが治療選択を行う上で重要なポイントとなる。11,039 症例の大規模なスウェーデンのコホート研究では2.6%がAML/MDS に転化したが,HU の投与歴により有意にリスクが増加することはなかった3)。
初発MPN に対するHU 単剤とコントロール群のランダム化比較試験がないため,HU による二次がんのリスクを考え,多くの臨床医は60 歳以上または血栓症の既往がある症例を選んでHU を使っている。European LeukemiaNet は若年者Low リスク症例に対して,HU を含めcytotoxic agent の使用を控えるよう推奨している4)。以上より現在のところ,もし必要であれば60 歳未満では発がん性のないIFNαが第一選択薬になると考えられる(ただし,わが国ではCML 以外のMPN にはIFNαは保険適用外である)。
High リスク群のPV/ET に対して,さらにPMF では症状緩和の目的でHU が必要になる場合があり,症例を選択してHU を安全に使用する必要がある。
【参考文献】
1) Harrison CN, et al. Hydroxyurea compared with anagrelide in high-risk essential thrombocythemia. N Engl J Med. 2005 ; 353(1) : 33-45.(1iiC)
2) Radaelli F, et al. Second malignancies in essential thrombocythemia(ET) : a retrospective analysis of 331 patients with long-term follow-up from a single institution. Hematology. 2008 ; 13(4) : 195-202.(3iiC)
3) Björkholm M, et al. Treatment-related risk factors for transformation to acute myeloid leukemia and myelodysplastic syndromes in myeloproliferative neoplasms. J Clin Oncol. 2011 ; 29(17) : 2410-5.(3iC)
4) Barbui T, et al. Philadelphia-negative classical myeloproliferative neoplasms : critical concepts and management recommendations from European LeukemiaNet. J Clin Oncol. 2011 ; 29(6) : 761-70.(レビュー)
CQ10 | 妊娠合併ET に対して流産を減少させるための治療介入は勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 流産を減らすことができる可能性があるため,少量アスピリンによる治療介入を推奨する。
【解 説】
妊娠合併ET では合併症として妊娠早期の流産が多く(約3 分の1),稀に母体の出血や血栓症が報告されているが,比較的まれなため,治療介入の有無によるランダム化比較試験はない。しかしながら,比較的多数例の後方視的な検討において,少量アスピリンが,妊娠中の合併症や早産を有意に減らすという報告がある。特にJAK2V617F は妊娠合併ET において合併症を引き起こす独立した要因であり,JAK2V617F 変異を認める場合は積極的な介入が必要とされる1)。別の後方視的な検討においては,インターフェロンα(IFNα)が,胎児死亡を有意に減らすという報告がある。特にJAK2V617F 変異は流産をきたす独立した予後不良因子であり,IFNαで血小板数を減らすことにより合併症を回避できる可能性がある2)。妊娠合併ET 400 例のシステマティックレビューではリスクを問わず,妊娠合併ET に対しての少量アスピリンの有用性について言及している3)。しかしながら,血小板数が100 万を超える症例では出血傾向を示すため少量アスピリンは禁忌となる。また,出産の1〜2 週前にはアスピリンを中止し,出産後出血がないことを確認した後,アスピリンを再開し6 週間は継続することが推奨されている3)。また,JAK2V617F 変異を有するHigh リスク症例に対しては少量アスピリン+IFNα(保険適用外)による治療介入も考慮される。
【参考文献】
1) Passamonti, et al. Aspirin in pregnant patients with essential thrombocythemia : a retrospective analysis of 129 pregnancies. J Thromb Haemost. 2010 ; 8(2) : 411-3.(3iC)
2) Melillo L, et al. Outcome of 122 pregnancies in essential thrombocythemia patients : A report from the Italian registry. Am J Hematol. 2009 ; 84(10) : 636-40.(3iC)
3) Griesshammer M, et al. Management of Philadelphia negative chronic myeloproliferative disorders in pregnancy. Blood Rev. 2008 ; 22(5) : 235-45.(レビュー)
CQ11 | PMF に対して同種造血幹細胞移植は勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 若年,High リスクPMF に対する造血幹細胞移植は治療オプションとして推奨される。
【解 説】
PMF の根治が望める治療はallo-HSCT であり,適切なドナーが存在する若年者では移植療法が広く行われている。しかしながら,allo-HSCT に関わる治療関連死亡(therapy-related mortality:TRM)は少なくない(30〜50%)。
最新の多施設前方視的共同研究が英国とフランスから報告されている。英国の報告では,51 例のPMF に対して骨髄破壊的移植または骨髄非破壊的移植(reduced-intensity stem cell transplantation:RIST)を行い,3 年全生存割合(OS)はそれぞれ44%と33%で,3 年TRM はそれぞれ41%と32%であった。再発はそれぞれ15%と46%に,extensive cGVHD をそれぞれ30%と35%に認めている1)。一方,フランスの報告では147 例のMF(PMF 53% , Secondary MF 47%)に対して骨髄破壊的移植またはRIST を行い,4 年OS は39%で,4 年無増悪生存割合(PFS)は32%,4 年非再発死亡割合(non-relapse mortality:NRM)が39%であった2)。TRM を減らすことが期待されるRIST で血液学的再発が多い傾向があるため,現在までのところPMF に対するRIST の有用性は明らかでない。
ランダム化比較試験によると,allo-HSCT の必要な症例と適切な移植時期,移植前処置は明らかとされておらず,現時点では総論の表7 に示した予後予測モデルにより予後不良(High またはInt-2 リスク)と判断され,適切なドナーが存在する若年者では,根治的な治療であるallo-HSCT が治療オプションとして推奨される。
【参考文献】
1) Stewart WA, et al. The role of allogeneic SCT in primary myelofibrosis : a British Society for Blood and Marrow Transplantation study. Bone Marrow Transplant. 2010 ; 45(11) : 1587-93.(3iiiA)
2) Robin M, et al. Allogeneic haematopoietic stem cell transplantation for myelofibrosis : a report of the Société Française de Greffe de Moelle et de Thérapie Cellulaire(SFGM-TC). Br J Haematol. 2011 ; 152(3) : 331-9.(3iiiA)
追加CQ | High リスク*PMF 患者の薬物療法の第一選択薬は何か。 |
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推奨グレードカテゴリー1
- ルキソリチニブは、IPSS リスク分類で中間-Ⅱ、または高リスクMF 患者の脾腫、全身症状(掻痒感、全身倦怠感、盗汗、骨痛など)の改善効果を有する。
【解 説】
2 つのフェーズ3 試験から、MF患者に対するルキソリチニブの使用は、プラセボ(COMFORT-Ⅰ試験)または既存の治療(best available therapy: BAT)(COMFORT-Ⅱ試験)と比較して、脾腫、全身症状(掻痒感、全身倦怠感、盗汗、骨痛など)の改善をもたらすことが示されている1)2)。両試験の長期フォローアップによると、ルキソリチニブ治療が継続された症例では、脾腫、全身症状の改善効果は長期間にわたって維持されている3)4)。これらの試験は生存をエンドポイントにしたものではないが、長期フォローアップの観察によると、ルキソリチニブ群において生存期間の有意な延長が認められている。なおCOMFORT 試験は、IPSSのIntermediate-2 リスクまたはHigh リスクかつ血小板数≧10 万個/μlのMF患者を対象としたものであるが、血球減少がある場合にも、少量からのルキソリチニブ投与による安全性と有効性が報告されている5)。
ルキソリチニブはすぐれた臨床効果を示すものの、腫瘍クローンの減少効果は僅かであることが知られている。そのため、予後予測モデルにより予後不良と判断され、適切なドナーが存在する若年者に対しては、allo-HSCT の可能性をまず考慮すべきである。
【参考文献】
1) Verstovsek S, et al. A double-blind, placebo-controlled trial of ruxolitinib for myelofibrosis. N Engl J Med. 2012;366:799-807.(1iC)
2) Harrison C, et al. JAK inhibition with ruxolitinib versus best available therapy for myelofibrosis. N Engl J Med. 2012;366:787-98.(1iiC)
3) Verstovsek S, et al. Efficacy, safety and survival with ruxolitinib in patients with myelofibrosis: results of a median 2-year follow-up of COMFORT-I. Haematologica. 2013;98:1865-71.(3iiA)
4) Cervantes F, et al. Three-year efficacy, safety, and survival findings from COMFORT-II, a phase 3 study comparing ruxolitinib with best available therapy for myelofibrosis. Blood. 2013;122:4047-53.(3iiA)
5) Talpaz M, et al. Interim analysis of safety and efficacy of ruxolitinib in patients with myelofibrosis and low platelet counts. J Hematol Oncol. 2013 Oct 29;6(1):81.(3iiC)
5
慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫
(chronic lymphocytic leukemia:CLL/small lymphocytic lymphoma:SLL)
(chronic lymphocytic leukemia:CLL/small lymphocytic lymphoma:SLL)
◆総論
慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)は単一な小型円形から軽度の異型を持つB リンパ球の腫瘍で,CD5 とCD23 の発現がみられ,日本では稀な腫瘍である。小リンパ球性リンパ腫(small lymphocytic lymphoma:SLL)は末梢血や骨髄への浸潤がないCLL と同一の細胞の腫瘍と定義され1),病期や治療の考え方は低悪性度B 細胞リンパ腫として扱うので他稿を参考にする。
多くは緩徐な経過を示すが,一部に進行が速く,予後不良なものがみられる。病期分類にて病期を決定し,治療開始規準に準じて治療を実施する。欧米ではリツキシマブ(R)(CLL では国内適応外)を併用するフルダラビン(FLU)を含む治療が標準治療であるが,染色体17p 欠失の症例は治療抵抗性で予後不良である2)3)。
1.病期分類
治療方針の決定に必須で,米国では改訂Rai 分類,欧州ではBinet 分類(表1)2)3)が使用される。診察所見と貧血,血小板減少だけで診断し,CT などの画像所見は用いない。
2.予後因子
1)病期分類
生存中央値は改訂Rai 分類低リスクは10 年以上,中間リスクは7 年,高リスクは1.5〜3 年, Binet 分類の病期A 期は10 年以上,B 期は7 年,C 期は1.5〜2.5 年である2)。
2)他の予後不良因子
①免疫グロブリン重鎖(IgVH)遺伝子変異陰性,②CD38 発現,③zeta-associated protein of 70kDa(ZAP-70)発現を示すものは予後不良で,これらの症例に予後不良の染色体異常[11q(ATM 座)と17p(p53 座)の欠失の染色体異常]を示すものが多い。その他,高齢,男性,びまん性骨髄浸潤,短いリンパ球倍加時間,Ki67 高発現,血清チミジンキナーゼ,β2 ミクログロブリ ンや可溶性CD23,TNFα高値,lipoprotein lipase 高発現,microRNA 発現変異,治療反応性が悪 い,もしくは短期間での再発である4)〜7)。
3.治療
CLL は経過の長い疾患であるため,治療関連死亡は避けるべきである。慎重な治療方法の選択の検討が必須であり,その概略を以下に示す。
- ①改訂Rai 分類の低リスク(Rai 分類病期0 期)やBinet 分類の病期A の患者は早期の治療は全生存期間を延長しないため経過観察する。
- ②改訂Rai 分類の中間リスク(Rai 分類病期Ⅰ,Ⅱ期)やBinet 分類の病期B の多くの患者は進行が緩徐であるので,経過観察する。
- ③改訂Rai 分類の高リスク(Rai 分類病期Ⅲ,Ⅳ期)あるいはBinet 分類のC 期または進行性B 期の患者は治療の対象である。CLL は治癒困難であるが長期生存が可能であり,また高齢者が多いため,一部の若年者を除き治癒を目指すより症状緩和や白血病の病勢のコントロールが目的である。
- ④治療開始規準(表2, 3):治療の開始時期はリンパ球の絶対数ではなく,ガイドライン3)〜5)8)を参考にする。
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以下の項目のいずれかに該当すれば,活動性(active disease)とし,治療を考慮する。
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4.治療効果判定
完全奏効(complete response:CR) 以下の基準をすべて満たす状態が,3 カ月以上継続すること
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部分奏効(partial response:PR) 以下の基準を少なくとも2 つ以上満たす状態が,2 カ月以上継続すること
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進行(progression) 以下の基準を少なくとも1 つ以上満たす状態
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安定(stable disease) CR やPR に達せず,進行にもあたらない場合 |
【参考文献】
1) Muller-Hermalink HK, et al. Chronic lymphocytic leykaemia/small lymphocytic lymphoma. In : Swerdlow SH, et al. Editors. World Health Organization classification of tumors. Lyon : IARC Press ; 2008. pp180-2.
2) Eichhorst B, et al ; ESMO Guidelines Working Group. Chronic lymphocytic leukaemia : ESMO Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow-up. Ann Oncol. 2010 ; 21 Suppl 5 : v162-4.(ガイドライン)
3) NCCN clinical practice guidelins in oncology. Non-Hodgkin’s lymphoma. version 2. 2012(ガイドライン)
4) Hallek M, et al ; International Workshop on Chronic Lymphocytic Leukemia. Guidelines for the diagnosis and treatment of chronic lymphocytic leukemia : a report from the International Workshop on Chronic Lymphocytic Leukemia updating the National Cancer Institute-Working Group 1996 guidelines. Blood. 2008 ; 111(12) : 5446-56.(ガイドライン)
5) Oscier D, et al ; Guidelines Working Group of the UK CLL Forum. British Committee for Standards in Haematology. Guidelines on the diagnosis and management of chronic lymphocytic leukaemia. Br J Haematol. 2004 ; 125(3) : 294-317.(ガイドライン)
6) Gribben JG. How I treat CLL up front. Blood. 2010 ; 115(2) : 187-97.(レビュー)
7) Gribben JG, et al. Update on therapy of chronic lymphocytic leukemia. J Clin Oncol. 2011 ; 29(5) : 544-50.(レビュー)
8) Cheson BD, et al. National Cancer Institute-sponsored Working Group guidelines for chronic lymphocytic leukemia : revised guidelines for diagnosis and treatment. Blood. 1996 ; 87(12) : 4990-7.(ガイドライン)
◆アルゴリズム
(※)CQ番号(ピンク色部分)をクリックすると,解説画面へ移動します
FC 療法:フルダラビン+シクロホスファミド療法, F 療法:フルダラビン療法, BSC:best supportive care
CLL の診断がなされた場合,早期のCLL[総論の表2 に示す活動性の病態がないBinet 病期分類A 期とB 期,および無症状の改訂Rai 分類病期低・中間リスク(Rai 分類病期0 期,Ⅰ期,Ⅱ期)]患者は,経過観察することが推奨される(CQ1)。活動性徴候がみられたり,進行期になった場合は多剤併用化学療法,免疫化学療法が可能かどうかを評価して,可能であればフルダラビン(FLU)を含む化学療法[FLU+シクロホスファミド(CPA)療法:FC 療法],およびそれにリツキシマブ(R)の併用療法(R はCLL では国内適応外)を実施する(CQ2)。これらの治療に反応がある場合でも,染色体17p 欠失のある場合は,予後不良であることが明らかであるため,同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation : allo-HSCT)を考慮する(CQ3, CQ4)。多剤併用化学療法が併存疾患などの存在で不可能であれば,FLU 単独療法(F 療法)や他のアルキル化剤などの単独療法や減量の多剤併用化学療法を考慮する(CQ2)。再発や治療抵抗性を示す場合は救援療法を実施後,部分奏効若年者や染色体17p 欠失を有する症例はallo-HSCT を考慮する。また,再発・難治例では欧米ではalemtuzmab 療法が標準治療として実施されている。alemtuzmab 療法は予後不良の染色体17p 欠失例にも有効性が示されているが,国内未承認薬である(CQ3)。自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は,ランダム化比較試験で全生存期間の延長を示さないため推奨されない。allo-HSCT は,若年者で,救援療法に反応がある場合には考慮する(CQ4)。
CQ1 | どのようなCLL 患者を治療すべきか |
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推奨グレードカテゴリー1
- 活動性の病態がないBinet 病期分類A とB,および無症状の改訂Rai 分類低リスクおよび中間リスク(Rai 分類病期0〜Ⅱ期)患者は,治療を開始しても生存の向上には寄与しないため,経過観察することが推奨される。
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推奨グレードカテゴリー2A
- 進行期(活動性病態のあるBinet A とB 期,Binet C 期,症状のあるRai 分類病期0〜Ⅱ期,Rai 分類病期Ⅲ〜Ⅳ期)の患者は治療を開始することを考慮する。
【解 説】
海外の臨床試験1)2)とメタアナリシス3)の結果から,活動性病態がないBinet 病期分類A とB,および無症状の改訂Rai 分類低リスクおよび中間リスク(Rai 分類病期0〜Ⅱ期)の時期から治療を開始しても,10 年全生存割合が治療群44%,未治療群47%と生存期間の延長は得られなかった。これらのランダム化比較試験は国内未承認薬であるchlorambucil との比較試験であるが,すべての試験で生存期間の延長を示さなかった。また,治療群の二次がん発生率が上昇した4)。
これらのデータはすべて,現在の標準治療薬のフルダラビン(FLU)による結果ではないため,この状態における治療の有効性を検証する臨床試験が現在進行中である。この結果が明らかになるまで,この病期での治療は臨床試験でのみ実施されるべきである5)。
International Workshop on Chronic Lymphocytic Leukemia の治療開始規準[総論の表3 5)6)]が示されているが,他の低悪性度リンパ腫とは異なり,進行期の患者で,無治療経過観察と治療群とのランダム化比較試験が実施されたわけではない。しかしほとんどの患者が有症状であり,治療せずに経過観察をすることは不適切と考えられるため,治療を考慮すべきである。
【参考文献】
1) Dighiero G, et al. Chlorambucil in indolent chronic lymphocytic leukemia. French Cooperative Group on Chronic Lymphocytic Leukemia. N Engl J Med. 1998 ; 338(21) : 1506-14.(1iiA)
2) Shustik C, et al. Treatment of early chronic lymphocytic leukemia : intermittent chlorambucil versus observation. Hematol Oncol. 1988 ; 6(1) : 7-12.(1iiA)
3) Chemotherapeutic options in chronic lymphocytic leukemia : a meta-analysis of the randomized trials. CLL Trialists’ Collaborative Group. J Natl Cancer Inst. 1999 ; 91(10) : 861-8.(1iiA)
4) Gribben JG, et al. Update on therapy of chronic lymphocytic leukemia. J Clin Oncol. 2011 ; 29(5) : 544-50.(レビュー)
5) Hallek M, et al. International Workshop on Chronic Lymphocytic Leukemia. Guidelines for the diagnosis and treatment of chronic lymphocytic leukemia : a report from the International Workshop on Chronic Lymphocytic Leukemia updating the National Cancer Institute-Working Group 1996 guidelines. Blood. 2008 ; 111(12) : 5446-56.(ガイドライン)
6) Cheson BD, et al. National Cancer Institute-sponsored Working Group guidelines for chronic lymphocytic leukemia : revised guidelines for diagnosis and treatment. Blood. 1996 ; 87(12) : 4990-7.(ガイドライン)
CQ2 | 初発進行期CLL の最適な治療は何が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- 70 歳未満またはそれ以上の年齢でも併存症などの評価をして可能であれば,免疫化学療法が推奨される。
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推奨グレードカテゴリー2A
- 高齢者または若年者で併存症のある場合は治療強度を減じた治療が推奨される。
【解 説】
NCCN ガイドライン(2012,ver.2)では併存症などの評価はCumulative Illness Rating Scale (CIRS),その他Comprehensive Geriatric assessment としてMini-Mental State Examination (MMSE),1.5-item Geriatric Depression Scale, Barthel Index, instrumental activities of daily living (IADLs)を用いる1)。評価後,可能であれば免疫化学療法を考慮する。フルダラビン(FLU)療法群はchlorambucil 療法(国内未承認薬)より全生存割合が良好であるため治療薬としてはFLU を使用する2)。
FLU とシクロホスファミド(CPA)の併用療法はFLU 単独療法群と比べて生存期間は変わらなかったが,奏効割合や無増悪生存期間(PFS)を改善させ3)〜5),health-related quality of life(QOL)の増悪はみられなかった6)ことから標準治療の一つとされているため,実施可能であれば考慮する。
クラドリビンとCPA の併用療法7)やベンダムスチン8)も有効である。
リツキシマブ(R)はCLL 細胞表面のCD20 発現の弱いこと,血管内の腫瘍量が多いため早くに抗体が消失することなどが原因で単剤での有効性は限られている9)10)。R 併用化学療法は治療反応性が最も高い治療法で,標準治療と考えられるが,本邦では,R は国内適応外であり,また現時点ではすべてのCLL 患者の全生存期間(OS)を延長させるというデータはない11)。
高齢者の明確な定義はないが,70 歳以上(もしくは65 歳以上)と考えられている。通常量の治療が可能かどうかはガイドライン1)に従っていることが多い。また,高齢者患者だけを対象としたエビデンスの高い臨床試験はない。
年齢の制限がない大規模臨床試験では,年齢により治療成績の差はみられない4)5)11)。しかし,実際は高齢者や併存症がある患者では通常量での標準治療を実施することは困難であり,患者個々の状況をよく把握し,治療方法の選択をすべきである。
NCCN ガイドライン(2012, ver.2)にはchlorambucil±R,R 単独療法,R 併用ベンダムスチン療法,CPA+PSL ± R,alemtuzumab,FLU 単独療法,R 併用FLU 療法,クラドリビン単独療法,R 併用クラドリビン療法などが治療方法として挙げられている。65 歳以上の患者を対象にしたFLU とchlorambucil のランダム化比較試験でFLU の優位性は証明されず12),高齢者に対するFLU+CPA 併用療法はFLU 単独療法に比較して奏効割合は高いが,生存期間は延長せず,骨髄抑制などの有害事象の頻度が高い5)ため,欧米ではchlorambucil 単独療法が標準治療と考えられている。国内ではchlorambucil が使用できないため,FLU を中心とする治療が実施されるが,その用量は決定されていない。またR の併用に関しても明確なエビデンスはない。
FLU は主に腎排泄であること,年齢とともに腎機能,とくにクレアチニンクリアランスが毎年1%ずつ低下するため,高齢者ではFLU の代謝に影響を受けやすいことなどから,FLU,CPA を減量した臨床試験がいくつかあり,減量をすることで感染症を含めた有害事象が軽減し,奏功割合は変わらず有用であると報告されているが,いずれもエビデンスレベルは低い13)〜15)。
注1) R は国内においてはCLL の保険適用外であるが,CLL と同じ疾患であるSLL は低悪性度B 細胞リンパ腫であり,この場合は国内においても保険適用となっている。
注2) chlorambucil, alemtuzumab は国内未承認,ベンダムスチン,クラドリビンはCLL に対し て国内適応外である。
【参考文献】
1) Salvi F, et al. A manual of guidelines to score the modified cumulative illness rating scale and its validation in acute hospitalized elderly patients. J Am Geriatr Soc. 2008 ; 56(10) : 1926-31.(ガイドライン)
2) Rai KR. Long-term survival analysis of the North American Intergroup Study C9011 comparing fludarabine (F) and chlorambucil in previously untreated patients with chronic lymphocytic leukemia (CLL)Blood. 2009 ; 114 : 224(abstract #536)(1iiA)
3) Eichhorst BF, et al. German CLL Study Group. Fludarabine plus cyclophosphamide versus fludarabine alone in first-line therapy of younger patients with chronic lymphocytic leukemia. Blood. 2006 ; 107(3) : 885-91.(1iiA)
4) Flinn IW, et al. Phase Ⅲ trial of fludarabine plus cyclophosphamide compared with fludarabine for patients with previously untreated chronic lymphocytic leukemia : US Intergroup Trial E2997. J Clin Oncol. 2007 ; 25(7) : 793-8.(1iiDiii)
5) Catovsky D, et al. UK National Cancer Research Institute(NCRI) Haematological Oncology Clinical Studies Group ; NCRI Chronic Lymphocytic Leukaemia Working Group. Assessment of fludarabine plus cyclophosphamide for patients with chronic lymphocytic leukaemia(the LRF CLL4 Trial) : a randomised controlled trial. Lancet. 2007 ; 370(9583) : 230-9.(1iiA/1iiDiii)
6) Eichhorst BF, et al. German CLL Study Group. Health-related quality of life in younger patients with chronic lymphocytic leukemia treated with fludarabine plus cyclophosphamide or fludarabine alone for first-line therapy : a study by the German CLL Study Group. J Clin Oncol. 2007 ; 25(13) : 1722-31.(1iiC)
7) Robak T, et al. Comparison of cladribine plus cyclophosphamide with fludarabine plus cyclophosphamide as first-line therapy for chronic lymphocytic leukemia : a phase Ⅲ randomized study by the Polish Adult Leukemia Group(PALG-CLL3 Study). J Clin Oncol. 2010 ; 28(11) : 1863-9.(1iiDiv)
8) Knauf WU, et al. Phase Ⅲ randomized study of bendamustine compared with chlorambucil in previously untreated patients with chronic lymphocytic leukemia. J Clin Oncol. 2009 ; 27(26) : 4378-84.(1iiDiii)
9) Byrd JC, et al. Rituximab using a thrice weekly dosing schedule in B-cell chronic lymphocytic leukemia and small lymphocytic lymphoma demonstrates clinical activity and acceptable toxicity. J Clin Oncol. 2001 ; 19(8) : 2153-64.(3iiiDiv)
10) O’Brien SM, et al. Rituximab dose-escalation trial in chronic lymphocytic leukemia. J Clin Oncol. 2001 ; 19(8) : 2165-70.(3iiiDiv)
11) Hallek M, et al. International Group of Investigators ; German Chronic Lymphocytic Leukaemia Study Group. Addition of rituximab to fludarabine and cyclophosphamide in patients with chronic lymphocytic leukaemia : a randomised, open-label, phase 3 trial. Lancet. 2010 ; 376(9747) : 1164-74.(1iiDiii)
12) Eichhorst BF, et al. German CLL Study Group(GCLLSG). First-line therapy with fludarabine compared with chlorambucil does not result in a major benefit for elderly patients with advanced chronic lymphocytic leukemia. Blood. 2009 ; 114(16) : 3382-91.(1iiA)
13) Robertson LE, et al. A 3-day schedule of fludarabine in previously treated chronic lymphocytic leukemia. Leukemia. 1995 ; 9(9) : 1444-9.(3iiiA)
14) Marotta G, et al. Low-dose fludarabine and cyclophosphamide in elderly patients with B-cell chronic lymphocytic leukemia refractory to conventional therapy. Haematologica. 2000 ; 85(12) : 1268-70.(3iiiDiv)
15) Forconi F, et al. Low-dose oral fludarabine plus cyclophosphamide in elderly patients with untreated and relapsed or refractory chronic lymphocytic Leukaemia. Hematol Oncol. 2008 ; 26(4) : 247-51.(3iiiA)
CQ3 | 再発・難治性CLL の治療は何が勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- フルダラビンやアルキル化薬単剤治療の場合はフルダラビン+シクロホスファミド併用療法もしくは免疫化学療法を考慮する。
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推奨グレードカテゴリー2A
- 化学療法単独治療後の再発には免疫化学療法を考慮する。
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推奨グレードカテゴリー1
- 染色体17p 欠失やp53 遺伝子異常がある場合は通常の化学療法に対して難治性であるが,alemtuzumab が有効である(alemtuzumab は国内未承認)。
【解 説】
初発患者の治療と同様に,高齢者や臓器障害がある場合は減量などを考慮する。フルダラビン(FLU)やアルキル化薬単剤治療で再発,治療抵抗性の場合はFLU+シクロホスファミド(CPA)併用療法1)やリツキシマブ(R)併用FLU+CPA 療法2)が有効で,またFLU+CPA 併用療法後でもR 併用FLU+CPA 療法が有効である3)ので,これらの治療を考慮する。FLU 治療抵抗性・再発の場合,alemtuzumab(国内未承認)4)やR 併用ベンダムスチン療法5)が有効である。再発または難治性のCLL に対してR とは異なるエピトープを認識する新規抗CD20 抗体薬オファツムマブが国内承認された。そのため,フルダラビンやalemtuzumab 抵抗性の場合だけでなく,R 治療後でもオファツムマブが有効なことがある6)。
FLU 治療後の再発や治療抵抗性で, 染色体17p 欠失やp53 遺伝子異常がある場合はalemtuzumab が有効(奏効割合40%)である7)8)。その他,エビデンスレベルは低いが,CHOP 療法(CPA, DXR, VCR, PSL)やhyper-CVAD 療法(CPA, VCR, DXR, DEX)などリンパ腫救援療法と同様な治療がNCCN ガイドライン(2012, ver.2)にも記載されている。またこれらの治療にR が併用されることがある。
【参考文献】
1) O’Brien SM, et al. Results of the fludarabine and cyclophosphamide combination regimen in chronic lymphocytic leukemia. J Clin Oncol. 2001 ; 19(5) : 1414-20.(3iiiDiii)
2) Robak T, et al. Rituximab plus fludarabine and cyclophosphamide prolongs progression-free survival compared with fludarabine and cyclophosphamide alone in previously treated chronic lymphocytic leukemia. J Clin Oncol. 2010 ; 28(10) : 1756-65.(1iiDiii)
3) Wierda W, et al. Chemoimmunotherapy with fludarabine, cyclophosphamide, and rituximab for relapsed and refractory chronic lymphocytic leukemia. J Clin Oncol. 2005 ; 23(18) : 4070-8.(3iiiDiv)
4) Elter T, et al. Fludarabine plus alemtuzumab versus fludarabine alone in patients with previously treated chronic lymphocytic leukaemia : a randomized phase 3 trial. Lancet Oncol. 2012 ; 12 (3) : 1204-13.(1iiDiii)
5) Fischer K, et al. Bendamustine combined with rituximab in patients with relapsed and/or refractory chronic lymphocytic leukemia : A multicenter phase U trial of the German Chronic Lymphocytic Leukemia Study Group. J Clin Oncol. 2011 ; 29(26) : 3559-66.(3iiiDiv)
6) Wierda WG, et al. Hx-CD20-406 Study Investigators. Ofatumumab is active in patients with fludarabinerefractory CLL irrespective of prior rituximab : results from the phase 2 international study. Blood. 2011 ; 118(19) : 5126-9.(3iiiDiv)
7) Lozanski G, et al. Alemtuzumab is an effective therapy for chronic lymphocytic leukemia with p53 mutations and deletions. Blood. 2004 ; 103(9) : 3278-81.(3iiiDiv)
8) Stilgenbauer S, et al. German Chronic Lymphocytic Leukemia Study Group. Subcutaneous alemtuzumab in fludarabine-refractory chronic lymphocytic leukemia : clinical results and prognostic marker analyses from the CLL2H study of the German Chronic Lymphocytic Leukemia Study Group. J Clin Oncol. 2009 ; 27(24) : 3994-4001.(3iiiDiv)
CQ4 | CLL に対する造血幹細胞移植は勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー4
- 自家造血幹細胞移植併用大量化学療法はCLL に対する治療として推奨されない。
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推奨グレードカテゴリー2B
- 同種造血幹細胞移植は,予後不良な染色体異常をもつ患者やプリンアナログ治療に抵抗性の患者で完全奏効/ 部分奏効(CR/PR)に達した場合は,長期予後を改善する治療法として考慮される。
【解 説】
CLL に対する自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)の有効性は,ランダム化比較試験で初発1)2)および再発1)患者で検証され,無イベント生存期間(EFS)や無増悪生存期間(PFS)はHDC/AHSCT 群が有意に優れていたが,全生存期間(OS)の改善はみられなかった。未治療あるいは再発のCLL 患者に対する地固め療法としてHDC/AHSCT を行っても,全生存期間を延長する効果は認められず,骨髄異形成症候群をはじめとする二次発がんの頻度が高まる危険があるため,CLL に対する治療としてHDC/AHSCT は推奨されない。
後方視的解析3)と前方視的解析4)の結果から同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation:allo-HSCT)を行うと移植片対白血病(GVL)効果が得られ,CLL 患者の長期生存が期待される。また多変量解析では,染色体17p 欠失の有無およびプリンアナログ治療に対する抵抗性は予後不良因子として検出されず,allo-HSCT を行うことでこれらの予後不良因子は克服されると考えられる。染色体17p 欠失を持つ場合は早期に化学療法抵抗性となるため,初回治療により完全奏効/ 部分奏効(CR/PR)に達した場合,allo-HSCT を行うことを考慮することが望ましい。また,プリンアナログ治療に抵抗性もしくは治療後1 年以内に再発する患者は,二次治療でCR/PR が得られた場合にallo-HSCT を行うことが推奨される。
非寛解期の患者および径5 cm を超えるリンパ節腫脹がある患者は,allo-HSCT を行っても再発する危険性が高く長期予後は不良である5)。
骨髄破壊的造血幹細胞移植では再発以外の原因での死亡率が高いため,大半の臨床試験では骨髄非破壊的造血幹細胞移植が実施されているが,両者の比較試験は行われていないため,どちらがよいかは不明である。
【参考文献】
1) Michallet M, et al ; EBMT Chronic Leukemia Working Party. Autologous hematopoietic stem cell transplantation in chronic lymphocytic leukemia : results of European intergroup randomized trial comparing autografting versus observation. Blood. 2011 ; 117(5) : 1516-21.(1iiDi)
2) Sutton L, et al ; Société Française de Greffe de Moelle et de Thérapie Cellulaire(SFGM-TC) and Groupe Français d’étude de la Leucémie Lymphoïde Chronique (GFLLC). Autologous stem cell transplantation as a first-line treatment strategy for chronic lymphocytic leukemia : a multicenter, randomized, controlled trial from the SFGM-TC and GFLLC. Blood. 2011 ; 117(23) : 6109-19.(1iiDi)
3) Schetelig J, et al. Allogeneic hematopoietic stem-cell transplantation for chronic lymphocytic leukemia with 17p deletion : a retrospective European Group for Blood and Marrow Transplantation analysis. J Clin Oncol. 2008 ; 26(31) : 5094-100.(3iiiA)
4) Dreger P, et al ; German CLL Study Group. Allogeneic stem cell transplantation provides durable disease control in poor-risk chronic lymphocytic leukemia : long-term clinical and MRD results of the German CLL Study Group CLL3X trial. Blood. 2010 ; 116(14) : 2438-47.(3iiiA)
5) Sorror ML, et al. Five-year follow-up of patients with advanced chronic lymphocytic leukemia treated with allogeneic hematopoietic cell transplantation after nonmyeloablative conditioning. J Clin Oncol. 2008 ; 26(30) : 4912-20.(3iiiA)
6
骨髄異形成症候群
(myelodysplastic syndromes:MDS)
(myelodysplastic syndromes:MDS)
◆総論
骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes:MDS)は造血細胞の異常な増殖とアポトーシスによって特徴付けられる単クローン性の疾患で,未熟な造血細胞に生じた異常が原因であると考えられている1)。1982 年のFrench-American-British (FAB)分類2)によって疾患概念が明らかとなり,現在はWHO 分類(2001)3)とWHO 分類(2008)4)を用いて取り扱われている。しかし,FAB 分類による取り扱いも併用されているのが現状である。単一あるいは複数系統の血球減少,形態学的異形成,骨髄における無効造血,急性白血病転化のリスクを特徴としているが,単一疾患ではなく複数の疾患からなる症候群の集まり(Syndromes)と捉えられている。したがって,現在の病型分類のみでは臨床的な対応を決定するには十分ではないと考えられる。MDS の半数以上に染色体異常があり,未分化な造血細胞に生じた遺伝子異常が発症に関与すると考えられている。さらに,染色体検査レベルでは確認できない新たな遺伝子異常が次々に同定されてはいるが,その全貌は未だ明らかになっていない。
一般に診断はWHO 分類(2008)に基づき,血球減少,末梢血と骨髄の芽球割合,造血細胞の異形成,染色体異常によってなされ,一部ではFAB 分類による診断も参考とされている。MDS は種々の血液疾患と境界を接しており,経過観察や他疾患の除外とともに,現在も診断の重要な部分は形態学的な判断に負うところが大きい1)。確定診断が得られた後は,診断に用いられた血液所見,骨髄所見,染色体異常などによって予後予測が行われ,治療方針が決定されていく。予後は,血球減少に関連した事象(感染症,出血など)と白血病化によって大きく決定されるが,本疾患は高齢者に多いことより,合併症など患者背景も予後に大きな影響を持っている。
現在でも根治療法は同種造血幹細胞移植のみであるが,患者集団の年齢などから同種移植の恩恵にあずかる症例は一部に限られている。一方,最近,MDS に対する新薬が開発され治療にも新たな展開がみられている。
【参考文献】
1) 小澤敬也編集 特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド 平成22 年度改訂版
2) Bennett JM, et al. Proposals for the classification of the myelodysplastic syndromes. Br J Haematol. 1982 ; 51(2) : 189-99.
3) Jaff e WS, et al, eds. World Health Organization classification of Tumours. Pathology and genetics, Tumor of Haematopoietic and lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2001.
4) Swerdlow SH, et al. eds. WHO classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2008.
◆アルゴリズム
(※)CQ番号(ピンク色部分)をクリックすると,解説画面へ移動します
MDS は多様な病態を有する疾患の集合体であり,治療方針を決定する上では診断と病型分類のみでは不十分である。そのため,主に臨床的な因子を用いて予後予測がなされる(CQ1)。複数の予後予測スコアリングシステムが提唱されており,それぞれに特徴がみられるが,臨床的な対応は低リスクと高リスクに分けて考慮されることが多い。頻用されるのはInternational prognositic scoring system(IPSS)におけるLow, Intermediate(Int)-1 を低リスク,Int-2, High を高リスクとするものである(CQ1)。
低リスク症例においては血球減少に対する対応,その改善を治療の第一目標とし,高リスク例では白血病転化リスクが高いことより,より積極的な治療方針がとられる。
血球減少に対しての基本的な支持療法は輸血であるが,赤血球輸血に伴う輸血後鉄過剰症はMDS の予後に関連している可能性がある。そのため,MDS の輸血後鉄過剰症に対しては適切な鉄キレート療法が治療の選択肢として考えられる(CQ2)。低リスク例の血球減少に対しては免疫抑制療法(CQ3,国内適応外),サイトカイン療法(CQ4,国内適応外),また,5 番染色体長腕の欠損を伴う5q- 症候群でみられる血球減少へのレナリドミド(LEN)(CQ5),一部の低リスク例に対するアザシチジン(AZA)投与(CQ6)などが行われる。それぞれの治療によって一定の血球回復がみられるが,この群についてはこうした治療によって生存期間の延長がみられるのか,明らかなエビデンスはない。
高リスク症例は予後が悪いため,積極的な対応がなされる。年齢や患者背景,ドナーなどの条件が許せば同種造血幹細胞移植(CQ7)の積極的な適応が考慮される。これまでのところ治癒が得られる治療法は同種造血幹細胞移植のみであるが,移植がなされない例に対してはAZA が選択される(CQ8)。AZA は前方視的試験によって高リスク症例の予後を改善することが示されている。5 番染色体長腕の欠損を伴った例ではLEN も投与可能である(CQ9)。一部の高リスク例に対しては白血病治療に準じた抗腫瘍薬投与も考慮される(CQ10)。
CQ1 | MDS の予後予測法,リスク分類として勧められるのは何か |
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推奨グレードカテゴリー2A
- 国際予後予測スコアリングシステム(International prognostic scoring system:IPSS)やWHO 分類に基づく予後予測スコアリングシステム(WHO classification-based prognostic scoring system:WPSS)のように複数の因子を組み合わせて予後を予測するスコアリングシステムが勧められる。特に,IPSS は頻用されている。
【解 説】
MDS は多様な疾患単位の集合体であり,単なる病型分類では十分な予後予測はできないと考えられている。造血細胞の形態的な特徴,特に芽球割合,血球減少の程度や減少している系統数,染色体所見は予後と関連する。そこで,それらをスコア化し,その合計点数でMDS の予後を予測する方法が開発された。IPSS と呼ばれるもので,MDS を骨髄芽球割合,血球減少の系統数,染色体グループという3 因子の点数によって4 群に層別化するものである1)。FAB 分類に基づいて作成されているため,現在のWHO 分類(2008)では急性骨髄性白血病に含まれる芽球20〜30%の例も取り扱っている。IPSS はこれまで多数の臨床研究で用いられている。
予後予測因子にWHO 分類(2001)と輸血依存性を採用したのがWPSS で,初診時ばかりでなく病期進展時にも適応できるという特徴がある2)。しかし,現在はWHO 分類(2008)が既に出ており,WPSS は十分な利用がなされていない。
【参考文献】
1) Greenberg P, et al. International scoring system for evaluating prognosis in myelodysplastic syndromes. Blood. 1997 ; 89(6) : 2079-88.(3iiA)
2) Malcovati L, et al. Time-dependent prognostic scoring system for predicting survival and leukemic evolution in myelodysplastic syndromes. J Clin Oncol. 2007 ; 25(23) : 3503-10.(3iiA)
CQ2 | 輸血による鉄過剰症への鉄キレート剤が適応とされる状態は何か |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 一年以上など一定の予後が期待されかつ,定期的な赤血球輸血を必要とするMDS で,輸血による鉄過剰状態に至った場合には鉄キレート療法を実施する。
【解 説】
一定量の赤血球輸血を受けたMDS 患者は鉄過剰状態に陥っており,MDS 患者で臓器不全を生じた例や死亡例では鉄過剰状態に陥っている場合が高い1)。組織の過剰鉄は活性酸素種の産生を亢進させることで組織障害を引き起こしていると考えられている。鉄キレート剤を投与することで体内の鉄過剰が改善され2)3),生存期間の延長に寄与する可能性が指摘されている4)。
鉄過剰症の診断規準や鉄キレート療法の開始規準と適応,実際の治療に関しては,「輸血後鉄過剰症の診療ガイド」として本邦の特発性造血障害に関する調査研究班より診療ガイドが出されている5)。それによると,赤血球輸血依存となった患者(月2 単位以上の輸血を6 カ月以上継続)のうち1 年以上の余命が期待できる例において,総赤血球輸血量が40 単位を超え血清フェリチン値が2 カ月以上にわたって1,000 ng/mL を超える場合に鉄キレート療法の開始が推奨されている。治療効果は血清フェリチン値でなされ,500〜1,000 ng/mL の維持が目標とされている。
しかし,MDS において輸血後鉄過剰症に対する鉄キレート療法が生存延長に寄与するかどうかは,前方視的なランダム化検証がなされていない。
【参考文献】
1) Takatoku M, et al ; Japanese National Research Group on Idiopathic Bone Marrow Failure Syndromes. Retrospective nationwide survey of Japanese patients with transfusion-dependent MDS and aplastic anemia highlights the negative impact of iron overload on morbidity/mortality. Eur J Haematol. 2007 ; 78(6) : 487-94.(3iiiDiv)
2) Gattermann N, et al ; EPIC study investigators. Deferasirox in iron-overloaded patients with transfusiondependent myelodysplastic syndromes : Results from the large 1-year EPIC study. Leuk Res. 2010 ; 34(9) : 1143-50.(3iiDiv)
3) Greenberg PL, et al. Prospective assessment of effects on iron-overload parameters of deferasirox therapy in patients with myelodysplastic syndromes. Leuk Res. 2010 ; 34(12) : 1560-5.(3iiDiv)
4) Rose C, et al ; GFM (Groupe Francophone des Myélodysplasies). Does iron chelation therapy improve survival in regularly transfused lower risk MDS patients? A multicenter study by the GFM (Groupe Francophone des Myélodysplasies). Leuk Res. 2010 ; 34(7) : 864-70.(3iiA)
5) 研究代表者 小澤敬也 輸血後鉄過剰症の診療ガイド 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業特発性造血障害に関する調査研究班 平成20 年度(ガイドライン)
CQ3 | 低リスクMDS の治療において免疫抑制療法は勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- MDS の一部の症例に対しては造血の回復に免疫抑制療法が勧められる。特にHLA-DR15,赤血球輸血歴の短い例,若年例での効果が期待される(国内適応外)。
【解 説】
MDS,特に芽球増加のみられない低リスク例の一部において,抗胸腺細胞グロブリン(antithymocyte globurin:ATG)によって造血回復がみられる1)。また,シクロスポリンを用いた免疫抑制療法も一定の造血回復効果を示す2)。両者の組み合わせによるランダム化比較試験でも有意な造血回復が得られたが,全生存割合(OS),無輸血生存割合は改善されなかった3)。
造血回復は,多変量解析によるとHLA-DR15,若年例,赤血球輸血歴の短い例でより効果が得られていた4)。国内の解析ではHLA-DRB1* 15:01 が造血回復と関連していた2)。その他,PNH (paroxysmal nocturnal hemoglobinuria)型赤血球の存在が治療反応性と関連する5)。
【参考文献】
1) Molldrem JJ, et al. Antithymocyte globulin for patients with myelodysplastic syndrome. Br J Haematol. 1997 ; 99(3) : 699-705.(3iiDiv)
2) Shimamoto T, et al. Cyclosporin A therapy for patients with myelodysplastic syndrome : multicenter pilot studies in Japan. Leuk Res. 2003 ; 27(9) : 783-8.(3iiDiv)
3) Passweg JR, et al. Immunosuppressive therapy for patients with myelodysplastic syndrome : a prospective randomized multicenter phase Ⅲ trial comparing antithymocyte globulin plus cyclosporine with best supportive care--SAKK 33/99. J Clin Oncol. 2011 ; 29(3) : 303-9.(1iiDiv)
4) Saunthararajah Y, et al. HLA-DR15 (DR2) is overrepresented in myelodysplastic syndrome and aplastic anemia and predicts a response to immunosuppression in myelodysplastic syndrome. Blood. 2002 ; 100(5) : 1570-4.(3iiiDiv)
5) Wang H, et al. Clinical significance of a minor population of paroxysmal nocturnal hemoglobinuria-type cells in bone marrow failure syndrome. Blood. 2002 ; 100(12) : 3897-902.(3iiiDiv)
CQ4 | 低リスクMDS の貧血に対してサイトカイン療法は勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- 血清エリスロポエチン濃度低値(200 または500 mU/mL 未満),環状鉄芽球15%未満,赤血球輸血依存のないまたは月2 単位程度の輸血を必要とする貧血を有するMDS に対してはエリスロポエチン(40,000〜60,000U 週1〜3 回投与)の投与が貧血を改善させる(国内適応外)。顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の併用は反応性を上昇させる。ダルベポエチン投与も同様の効果を示す(国内適応外)。
【解 説】
MDS の貧血に対するエリスロポエチン(EPO)投与は,一部の例で貧血を改善する。17 の試験における205 例のMDS に対するEPO 治療の統合解析では33 例(16%)に血球減少の改善が得られていた1)。反応性に関する因子の解析で非鉄芽球性貧血例,治療前血清EPO 200 mU/mL 未満,輸血必要のない貧血例において有効性が有意に高かった。
G-CSF とEPO との併用例ではその効果が39%と高く2),併用療法の第Ⅱ相試験の長期観察例を,多変量解析を用いて検定したところ治療例では非治療例と比較して有意に良好な生存を示していた3)。しかし,この治療法の生存に対する効果は前方視的第Ⅲ相比較試験での検証がなされていない。
持続性のEPO 製剤であるダルベポエチン300μg 週一回投与または500μg の3 週間おき投与にもMDS の赤血球造血促進効果がみられる4)5)。治療前血清EPO 500 mU/mL 未満の例を対象としたダルベポエチン300μg 週一回投与の第U相試験では62 例中44 例(71%)で反応が得られた。この試験でもEPO 低値と赤血球輸血非依存が治療反応性の有意な予測因子であった。500μg の3 週間おき投与試験では初回投与例の49%に赤血球造血促進効果がみられた。また,ダルベポエチン150μg 週一回投与試験では全体の有効率は40.5%であり,EPO 低値,赤血球輸血月2 単位以下,骨髄芽球割合,骨髄低形成が反応性予測因子であった6)。
両薬剤ともに有害事象は軽微であった。しかし,いずれの薬剤も国内ではMDS の貧血に対して保険診療としての適応がない。
【参考文献】
1) Hellström-Lindberg E. Efficacy of erythropoietin in the myelodysplastic syndromes : a meta-analysis of 205 patients from 17 studies. Br J Haematol. 1995 ; 89(1) : 67-71.(3iiiDiv)
2) Hellström-Lindberg E, et al. A validated decision model for treating the anaemia of myelodysplastic syndromes with erythropoietin+granulocyte colony-stimulating factor : signifi cant effects on quality of life. Br J Haematol. 2003 ; 120(6) : 1037-46.(3iiiC)
3) Jädersten M, et al. Erythropoietin and granulocyte-colony stimulating factor treatment associated with improved survival in myelodysplastic syndrome. J Clin Oncol. 2008 ; 26(21) : 3607-13.(3iiiA)
4) Mannone L, et al. High-dose darbepoetin alpha in the treatment of anaemia of lower risk myelodysplastic syndrome results of a phase Ⅱ study. Br J Haematol. 2006 ; 133(5) : 513-9.(3iiiDiv)
5) Gabrilove J, et al. Phase 2, single-arm trial to evaluate the effectiveness of darbepoetin alfa for correcting anaemia in patients with myelodysplastic syndromes. Br J Haematol. 2008 ; 142(3) : 379-93.(3iiiDiv)
6) Musto P, et al. Darbepoetin alpha for the treatment of anaemia in low-intermediate risk myelodysplastic syndromes. Br J Haematol. 2005 ; 128(2) : 204-9.(3iiiDiv)
CQ5 | MDS の治療としてレナリドミドは勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー1
- 5 番染色体長腕の欠失[del (5q)]を伴う低リスク MDSで赤血球輸血依存例に対してはレナリドミドが赤血球造血促進効果を示し,レナリドミドによる治療が推奨される。10 mg/日の21 日間投与を28日サイクルで実施する。
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推奨グレードカテゴリー2B
- del (5q) を伴わない赤血球輸血依存低リスク MDS に対しては,赤血球輸血非依存が達成される例がみられるが,現時点では第一選択薬としては推奨されない(国内適応外)。
【解 説】
レナリドミド(LEN)はサリドマイド(THAL)の誘導体で,免疫調節をはじめとして生体に対して多彩な効果を発揮する。5 番染色体長腕の欠失を伴うMDS で赤血球輸血依存例を対象とした第Ⅱ試験1),第Ⅲ相試験2)において赤血球輸血量の減少効果が明らかに認められている。また,国内でも少数例ながら第Ⅱ相試験が実施された3)。
米国を中心とした第Ⅱ相試験においては148 例が登録され,赤血球系改善が67%にみられ,さらに45 例で細胞遺伝学的寛解(CyR)が得られた1)。
LEN 10 mg/日,5 mg/日,プラセボによる二重盲検試験では26 週を超える輸血非依存達成はそれぞれ56.1%,42.6%,5.9%であり,有意にLEN 治療が優っていた(p<0.001)。細胞遺伝学的反応性もLEN 10 mg/日,5 mg/日群でそれぞれ50%,25%に観察された。白血病への移行は3 群間で差はなかった1)。有害事象も重篤なものはなかった。本試験では16 週での試験治療群クロスオーバーが一部で認められていたが,全生存割合(OS)では3 群間に有意差を認めなかった。
国内の試験では低リスク11 例が登録され,赤血球系改善は全例に,CyR は3 例にみられた3)。
del (5q)を伴わない輸血依存低リスク MDS に対しては米国で第Ⅱ相試験が実施され,LEN 10 mg/ 日,21 日投与(28 日サイクル)の効果が検証された。赤血球輸血非依存達成率は26%で,これらの症例におけるヘモグロビン上昇中央値は3.2 g/dL,その持続期間の中央値は41 週であった 4)。この結果からLEN が del (5q) を伴わない MDS に対して一定の有効性を示すことが期待されるが,海外での第Ⅱ相試験までの結果しかなく,国内では試験が実施されていない(国内適応外)。
【参考文献】
1) List A, et al. Lenalidomide in the myelodysplastic syndrome with chromosome 5q deletion. N Engl J Med. 2006 ; 355(14) : 1456-65.(3iiiDiv)
2) Fenaux P, et al. A randomized phase 3 study of lenalidomide versus placebo in RBC transfusion-dependent patients with Low-/Intermediate-1-risk myelodysplastic syndromes with del5q. Blood. 2011 ; 118(14) : 3765-3776.(1iDiv)
3) Harada H, et al. Lenalidomide is active in Japanese patients with symptomatic anemia in low- or intermediate-1 risk myelodysplastic syndromes with a deletion 5q abnormality. Int J Hematol. 2009 ; 90(3) : 353-60.(3iiiDiv)
4) Raza A, et al. Phase 2 sutdy of lenalidomide in transfusion-dependent, low-risk, and intermediate-1-risk myelodysplastic syndromes with karyotypes other than deletion 5q. Blood. 2008 ; 111(1) : 86-93.(3iiiDiv)
CQ6 | 低リスクMDS の治療としてアザシチジンは勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 低リスクMDS に対してアザシチジンにより造血の回復は認められるが,生存期間延長を目的とした第一選択薬としての使用は推奨されない。
【解 説】
アザシチジン(AZA)は高リスクMDS に対する第V相臨床試験で生存延長効果が示されている1)。その試験では60%の例で造血回復が観察された。低リスクのみを対象としたAZA の試験はないが,74 例の低リスクMDS に対する後方視的解析ではAZA 治療によって45.9%の例で造血回復が観察された2)。その中で4 コース以上の治療を受けた64 例では51.6%の反応が得られ,治療反応を得られた例は非反応例と比較して生存期間が延長していた。
前方視的試験での検討は臨床試験の部分解析のみであり,生存に関する解析はない。
現時点で低リスクMDS の生存期間延長を目的とした第一選択薬としての使用は推奨されない。
【参考文献】
1) Fenaux P, et al. Efficacy of azacitidine compared with that of conventional care regimens in the treatment of higher-risk myelodysplastic syndromes : a randomised, open-label, phase Ⅲ study. Lancet Oncol. 2009 ; 10(3) : 223-32.(1iiA)
2) Musto P, et al. Azacitidine for the treatment of lower risk myelodysplastic syndromes : a retrospective study of 74 patients enrolled in an Italian named patient program. Cancer. 2010 ; 116 (6) : 1485-94.(3iiiDiv)
CQ7 | MDS に対する同種造血幹細胞移植の適応と適切な実施時期はいつか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- 高リスクMDS 患者では,できる限り速やかに同種造血幹細胞移植を行う。HLA 1 座不適合以内の血縁者間移植が最も望ましいが,血縁ドナーが得られない場合はHLA 一致非血縁者間移植も考慮する。
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推奨グレードカテゴリー2A
- 低リスクMDS 患者では同種造血幹細胞移植は推奨されない。しかし,リスクの悪化または悪化傾向がある症例,高度の輸血依存例,繰り返し感染症がみられる例,免疫抑制療法など他の治療法に反応がみられない症例は造血幹細胞移植の候補となる。
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推奨グレードカテゴリー2A
- 臍帯血移植は推奨されないが,骨髄・末梢血ドナーが得られない高リスクMDS 患者では考慮される。
【解 説】
MDS において治癒が期待できる治療は,現在のところ同種造血幹細胞移植のみである。
高リスクMDS では血球減少や白血病への進展リスクが高く,そのままでは予後不良である。このため,同種造血幹細胞移植が可能であれば原則として速やかにこれを実施する(表1)。55 歳未満の患者でHLA 血清学的1 座不適合以内の血縁ドナーが存在し,移植に耐えられる全身状態の症例が最も良い適応とされ,日本造血幹細胞移植学会データ(平成23 年度)によれば,16 歳以上のRAEB/RAEB-t 症例における血縁者間骨髄移植の5 年全生存割合(OS)は50%である1)。血縁者ドナーが存在しない場合は非血縁者間移植が行われるが,同データによると16 歳以上のRAEB/RAEB-t 症例における非血縁骨髄移植の5 年OS は42%と報告されており,一定の長期生存が認められている1)。
IPSS(risk) | 病型 | HLA 適合同胞 | HLA 適合非血縁 | 臍帯血移植*3 |
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Low | RA/RARS*1 | CO | CO | Dev |
Intermediate-1 | RA/RCMD/RS*1 | CO | CO | Dev |
RAEB-1*1 | CO | CO | Dev | |
Intermediate-2 | RA/RCMD/RAEB-1 | S | S | CO |
RAEB-2*2 | S | S | CO | |
High | RAEB-1/2*2 | S | S | CO |
S: standard of care,移植が標準治療である(合併症,QOL などの不利益についても検討した上で総合的に決定すべきである)。
CO:clinical option,移植を考慮してもよい。
Dev:developmental,開発中であり,臨床試験として実施すべき。
*1 血球減少高度で血液補充療法依存性あるいは重症感染症・出血ハイリスクの症例で,他の保存的治療法無効の場合。
*2 染色体異常がgood prognosis を示す一部の症例では移植適応を慎重に考慮する。
*3 患者年齢,臍帯血細胞数などによりCO またはDev となる。
低リスクMDS ではそのままでも比較的長期の生存が期待できるため,造血幹細胞移植の適応は慎重に考慮すべきであり,決断分析の手法を用いた移植時期の解析では,国際予後予測スコアリングシステム(IPSS)Low〜Intermediate-1 の症例は病期が進行してからの移植の方が望ましいことが示されている2)。しかし,輸血高度依存,感染症の反復など骨髄不全症状が顕在化している患者では合併症による死亡や生活の質(QOL)の著しい低下が予想されるため,十分な同意を得た上で移植を考慮することは可能である。
臍帯血移植は施行例数が少なく評価が不十分であり,現段階では標準治療としては推奨されない。血縁・非血縁者骨髄移植ドナーが見つからないか,時間的余裕がない場合に臨床研究の枠組みで行うべき治療と考えられる。
【参考文献】
1) 日本造血幹細胞移植学会 JSHCT データセンター,平成23 年度全国調査報告書 : http://www.jshct.com/report_2011/
2) Cutler CS, et al. A decision analysis of allogeneic bone marrow transplantation for the myelodysplastic syndromes : Delayed transplantation for low-risk myelodysplasia is associated with improved outcome. Blood. 2004 ; 104(2) : 579-85.(3iiiA)
3) 日本造血幹細胞移植学会 造血幹細胞移植ガイドライン 骨髄異形成症候群(成人).JSHCT monograph vol. 18, ガイドライン.
CQ8 | 高リスクMDS に対してアザシチジンは勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー1
- アザシチジンは,同種造血幹細胞移植が行われない高リスク症例では 第一選択薬剤である。
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推奨グレードカテゴリー2B
- 明らかな増悪や有害事象による中止を除いて,有効性の判定には少な くとも4〜6 コースの継続を要する。
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推奨グレードカテゴリー2A
- アザシチジンの移植前治療としての意義は確立していないが,ドナー の準備を待つ間のつなぎ治療(bridge)として施行を考慮してもよ い。
【解 説】
アザシチジン(AZA)はDNA に取り込まれてDNA のメチル化を抑制することで遺伝子発現を回復させ,またRNA に取り込まれることでタンパク合成を阻害して殺細胞効果を示す。
米国におけるAZA と支持療法の比較試験(CALGB9221 試験)ではMDS のすべての病型において白血病化が遅れ(AZA 21 カ月vs 支持療法13 カ月),生存期間が延長し(AZA 19.9 カ月vs 支持療法10.5 カ月),QOL が改善したことが示された1)。また,欧米における高リスクMDS を対象とした通常治療(支持療法,低用量化学療法,強力化学療法)との第Ⅲ相比較試験(AZA001 試験)では生存期間の延長(AZA 24.5 カ月vs 通常治療15.0 カ月)と白血病化までの期間延長(AZA 17.8 カ月vs 通常治療11.5 カ月)が示されている2)。
高リスクMDS においては,同種造血幹細胞以外にMDS の予後を有意に改善できる治療法,薬剤は存在しなかったため,移植を行わない症例ではAZA が第一選択薬と位置づけられる。
本剤の有効性は4 コース投与までに現れることが多いが,4 コース以降に効果が現れる症例も約25%みられるため,明らかな疾患増悪や有害事象による中止を除いて,有効性の判断は少なくとも4〜6 コース施行した後に行う必要がある3)4)。
AZA を移植前治療に使用した報告はあるが,その治療効果・意義は明らかになっていない。移植前治療として使用は可能だが,効果発現まで時間がかかることを考慮して治療計画を立てる必要がある。
【参考文献】
1) Silverman LR, et al : Randomized controlled trial of azacitidine in patients with the myelodysplastic syndrome : A study of the cancer and leukemia group B. J Clin Oncol. 2002 ; 20(10) : 2429-40.(1iiA)
2) Fenaux P, et al : Efficacy of azacitidine compared with that of conventional care regimens in the treatment of higher-risk myelodysplastic syndromes : A randomized, open-label, phase Ⅲ study. Lancet Oncol. 2009 ; 10(3) : 223-32.(1iiA)
3) Silverman LR, et al. : Further analysis of trials with azacitidine in patients with myelodysplastic syndrome : studies 8421, 8921, and 9221 by the Cancer and Leukemia Group B. J Clin Oncol. 2006 ; 24(24) : 3895-903.(3iiDiv)
4) Gotze K, et al : Azacitidine for treatment of patients with myelodysplastic syndromes (MDS) : Practical recommendations of the German MDS Study Group. Ann Hematol. 2010 ; 89(9) : 841-50.
CQ9 | 高リスクMDS に対してレナリドミドは勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2B
- 高リスクMDS に対するレナリドミドの使用は推奨されない。
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推奨グレードカテゴリー2B
- del (5q) を有する MDS においては,アザシチジン不応の場合,レナリドミドの使用を考慮してもよい。
【解 説】
現時点で高リスクMDS におけるレナリドミド(LEN)の有用性を明確に証明したエビデンスはなく,高リスクMDS への使用は推奨されない。
しかし,del (5q) を有する高リスク MDS 47例を対象とした臨床試験において,13 例(27%)に血液学的改善が認められ[7 例(15%)は完全奏効],5q 単独欠損9 例中6 例は完全奏効に入ったことが報告されている。アザシチジン(AZA)不応の del (5q) MDS では LEN は候補薬として考慮される1)。
【参考文献】
1) Ades L, et al : Efficacy and safety of lenalidomide in intermediate-2 or high-risk myelodysplastic syndromes with 5q deletion : results of a phase 2 study. Blood. 2009 ; 113(17) : 3947-52.(3iiiDiv)
CQ10 | 高リスクMDS において化学療法は勧められるか |
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推奨グレードカテゴリー2A
- 生存期間,白血病化までの期間を延長する化学療法の報告はなく,第一選択としては推奨されない(アザシチジンが推奨される)。
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推奨グレードカテゴリー2B
- 同種造血幹細胞移植が実施されない若年例で染色体異常,全身状態(PS),罹病期間などの予後不良因子のない症例では強力化学療法も候補となるが,化学療法はアザシチジンが使用できない場合に適応が考慮される。
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推奨グレードカテゴリー2B
- 強力化学療法と低用量化学療法の生存期間への影響はほぼ同等であり,その適応は症例ごとに判断する。
【解 説】
従来,高リスクMDS に対しては化学療法が行われてきたが,一部若年例で,染色体異常,PS,罹病期間などの予後不良因子のない症例では強力化学療法の有用性が示されているものの1),それ以外の症例では生存期間や白血病化までの期間延長を明確に示したレジメンは存在しない。このため,化学療法の適応はアザシチジン(AZA)が使用できない症例(不応・不耐)に考慮される。
MDS(RAEB-t および白血化症例を含む)における強力化学療法と低用量化学療法を比較したわが国の臨床試験(JALSG MDS200 試験)では,登録症例数が不十分で統計学的な比較がなされていないものの,寛解率では強力療法群が高かったにもかかわらず(強力化学療法64.7% vs 低用量化学療法43.9%),2 年無病生存割合(DFS)および2 年全生存割合(OS)ではほぼ同等であり(DFS;強力化学療法26.0% vs 低用量化学療法24.8%,OS;強力化学療法28.1% vs 低用量化学療法32.1%),MDS では寛解導入率が予後を必ずしも反映せず,強力化学療法と低用量化学療法はほぼ同等の成績であった2)。
【参考文献】
1) Kantarjian H, et al : Long-term follow-up results of the combination of topotecan and cytarabine and other intensive chemotherapy regimens in myelodysplastic syndrome. Cancer. 2006 ; 106 (5) : 1099-109.(3iiiDiv)
2) Morita Y, et al : Comparative analysis of remission induction therapy for high-risk MDS and AML progressed from MDS in the MDS200 study of Japan Adult Leukemia Study Group. Int J Hematol. 2010 ; 91(1) : 97-103.(1iiDi)