造血器腫瘍 〜治療ガイドライン

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目次:


III.骨髄腫

1
  多発性骨髄腫
(multiple myeloma:MM)

総論

多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)は,形質細胞の単クローン性(腫瘍性)増殖と,その産物である単クローン性免疫グロブリン(M 蛋白)の血清・尿中増加により特徴づけられる疾患である1)。わが国では人口10 万人あたり約3 人の発症率で,本邦での死亡者数は年間4,000 人前後である。全悪性腫瘍の約1%,全造血器腫瘍の約10%を占め,発症率,死亡率ともに年々増加傾向にある。国際骨髄腫作業部会(International Myeloma Working Group:IMWG)による診断規準が広く用いられている(表12)

この中で全身化学療法の対象となるのはCRAB(O)で称される臓器障害,すなわち高カルシウム血症,腎不全,貧血,骨病変,その他(過粘稠度症候群,アミロイドーシス,年2 回を超える細菌感染)のうち一つ以上を有している症候性骨髄腫(symptomatic myeloma)および症候性非分泌型骨髄腫患者であり,M 蛋白量は治療開始の指標としては用いないことに注意が必要である。ただし,2011 年の第13 回国際骨髄腫作業部会においてガイドラインの見直しが提案された。改訂事項としては,臓器障害を骨髄腫診断事象(myeloma-defining event:MDE)と称すること,「年2 回を超える細菌感染」はMDE から除外されたこと,アミロイドーシスや軽鎖沈着単独ではMDEとしないこと,腎不全の定義には血清クレアチニン値ではなく推算糸球体濾過率(estimated glomerular filtration rate:eGFR)を用い,①他に原因のない年35%以上のeGFR の低下,②他に原因がなくeGFR 50 mL/分未満,③腎生検によるlight chain nephropathy の診断,の何れかがMDE として用いられることになったことなどが挙げられる。症候性骨髄腫患者の診療において治療開始前のベースライン評価として勧められる検査項目を列挙する(表2)。

症候性骨髄腫に対して患者予後を推定するための病期分類として,血清β2 ミクログロブリン値とアルブミン値のみを用いる国際病期分類(International Staging System:ISS)の使用が推奨される(表33)。加えて染色体分析とFISH (fluorescence in situ hybridization)法を用いた病型の提唱が行われており,高リスク病型と標準リスク病型に分類され予後因子としての意義が示されている(表44)。しかし,現時点ではISS や染色体病型に基づく化学療法の層別化は実施されていない。

治療効果判定には,国際骨髄腫作業部会による統一効果判定規準(uniform response criteria)が広く用いられている5)。効果判定に必要な検査項目と判定規準を示す(表5表6)。また患者QOL の評価にはEORTC-MY20 や骨病変に対するBM22 などの評価表の使用が有用である6)7)

表1 IMWG による形質細胞腫瘍の診断規準
Monoclonal Gammopathy of Undetermined Significance(MGUS)
  • 血清M 蛋白<3 g/dL
  • 骨髄におけるクローナルな形質細胞の比率<10%
  • 他のB 細胞増殖性疾患が否定されること
  • 臓器障害がないこと
無症候性骨髄腫 Asymptomatic Myeloma(Smouldering Multiple Myeloma)
  • 血清M 蛋白≧3 g/dL

    and / or

  • 骨髄におけるクローナルな形質細胞の比率≧10%
  • 臓器障害がないこと
症候性骨髄腫 Multiple Myeloma(Symptomatic)
  • 血清and / or 尿にM 蛋白を検出
  • 骨髄におけるクローナルな形質細胞の増加(10%以上)または形質細胞腫
  • 臓器障害の存在
症候性非分泌型骨髄腫 Nonsecretory Myeloma(Symptomatic)
  • 血清および尿にM 蛋白を検出しない(免疫固定法により)。
  • 骨髄におけるクローナルな形質細胞の比率≧10%または形質細胞腫
  • 臓器障害の存在
骨の弧立性形質細胞腫 Solitary Plasmacytoma of Bone
  • 血清and / or 尿にM 蛋白を検出しない(少量を検出することがある)。
  • クローナルな形質細胞の増加によるただ1 カ所の骨破壊
  • 正常骨髄
  • 病変部以外は正常な全身骨所見(X 線およびMRI)
  • 臓器障害がないこと
髄外性形質細胞腫 Extramedullary Plasmacytoma
  • 血清and / or 尿にM 蛋白を検出しない(少量を検出することがある)。
  • クローナルな形質細胞による髄外腫瘤
  • 正常骨髄
  • 正常な全身骨所見
  • 臓器障害がないこと
多発性形質細胞腫 Multiple Solitary Plasmacytoma
  • 血清and / or 尿にM 蛋白を検出しない(少量を検出することがある)。
  • クローナルな形質細胞による1 カ所以上の骨破壊または髄外腫瘤
  • 正常骨髄
  • 正常な全身骨所見
  • 臓器障害がないこと
形質細胞白血病 Plasma Cell Leukemia
  • 末梢血中形質細胞>2,000/μL
  • 白血球分画中形質細胞比率≧20%

臓器障害related organ or tissue impairment(end organ damage)(CRABO 症候)

  • 高カルシウム血症:血清カルシウム>11 mg/dL または基準値より1 mg/dL を超える上昇
  • 腎不全:血清クレアチニン値>2 mg/dL
  • 貧血:Hb 値が基準値より2 g/dL 以上低下または10g/dL 未満
  • 骨病変:溶骨病変または圧迫骨折を伴う骨粗鬆症(MRI,CT)
  • その他:過粘稠度症候群,アミロイドーシス,年2 回を超える細菌感染
表2 治療前検査一覧
一般検査

検尿,便ヘモグロビン,血算・血液像,凝固検査,生化学・免疫検査(総蛋白,アルブミン,総ビリルビン,AST,ALT,ALP,LDH,アミラーゼ,アンモニア,尿酸,血糖,BUN,クレアチニン,ナトリウム,カリウム,カルシウム,蛋白分画,β2 ミクログロブリン,CRP),HBs 抗原,HBc 抗体,HBs 抗体,HCV 抗体,HIV 抗体,胸部X 線検査,心電図,動脈血酸素飽和度

M 蛋白の同定と定量

蛋白分画(血清,尿),24 時間尿蛋白定量
免疫電気泳動法(血清,尿),または免疫固定法
免疫グロブリン定量(IgG, IgA, IgD, IgM, IgE)
血清遊離軽鎖定量およびκ/λ比

骨髄形質細胞の増加,形質細胞腫の証明

骨髄穿刺・骨髄生検
フローサイトメトリーによる表面形質解析
染色体分析,FISH 法

臓器障害の診断

全身骨X 線検査(頭蓋骨:正・側,頸椎,胸椎,腰椎:正・側,肋骨:正面,骨盤骨:正面,左右の上腕骨:正面,左右の前腕骨:正面,左右の大腿骨:正面,左右の下腿骨:正面)
単純CT(頸部,胸部,腹部,骨盤部)
脊椎,腸骨MRI
FDG-PET
骨代謝マーカー(尿中デオキシピリジノリン,血清NTx,尿CTx,骨型アルカリホスファターゼ,オステオカルシン)(保険適用に注意)
クレアチニンクリアランス
心臓超音波検査

その他の検査(必要に応じ追加)

生検(皮下組織,骨髄,口唇,胃,あるいは腎),血液・血漿・血清粘稠度,眼底検査,チミジンキナーゼ,クリオグロブリン

表3 International Staging System
Stage 基準
血清β2 ミクログロブリン<3.5 mg/L
血清アルブミン≧3.5 g/dL
ⅠでもⅢでもないもの
血清β2 ミクログロブリン≧5.5 mg/L

注:Stage Ⅱには以下の2 つが含まれる。

  • 血清β2 ミクログロブリン<3.5 mg/L で血清アルブミン3.5 g/dl のもの
  • 血清アルブミン値にかかわらす血清β2 ミクログロブリン≧3.5 mg/L かつ<5.5 mg/L のもの

(Greipp PR, et al. J Clin Oncol 23(15):3412-3420, 2005 より引用)

表4 染色体所見による多発性骨髄腫の病型分類
高リスク群(Unfavourable risk)

FISH 法によるt(4;14),t(14;16)or t(14;20)
FISH 法による17p13 欠失
低二倍体(Hypodiploidy)
G バンド法による13 番染色体欠失,または異数性(aneuploidy)

標準リスク群(Favourable risk)

高リスク群としての異常所見がなく,下記の異常を認める

高二倍体(hyperdiploidy),FISH 法によるt(11;14)or t(6;14)

Plasma cell myeloma, WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues, IARC Press 2008
異数性とは,ある染色体の数に増減を認める状態をさす。

表5 治療効果判定のために必要な検査
M 蛋白量測定のための検査
  • 血清M 蛋白量は,血清蛋白電気泳動(serum protein electrophoresis:SPEP)を行いdensitometry で定量する。ただしIgA 型のようにM 蛋白がβ分画にあるような場合には,SPEP の信頼性が低いため,免疫グロブリン(IgA)の絶対値(nephelometry またはturbidometry にて測定)をM 蛋白量として用いる。
  • 尿中M 蛋白量は,24 時間尿の尿蛋白電気泳動(urine protein electrophoresis:UPEP)法で測定する。
    随時尿や24 時間尿を用いたκ,λ軽鎖の定量検査は信頼に値せず,推奨できない。
測定可能病変(measurable disease)の定義
  • すべてのカテゴリーおよび,CR を除くサブカテゴリーの効果判定には,下記の測定可能病変のうち,最低1 つを有する必要がある。

    血清M 蛋白 ≧ 1 g/dL
    尿中M 蛋白 ≧ 200mg/24 時間
    血清遊離軽鎖(free light chain : FLC)のκ / λ比が異常であり,かつM 蛋白に一致する(involved)FLC 値≧ 10mg/dL

  • CR の効果判定を行う際は,上記の3 つの測定可能病変のどれかを有することが必要であるが,stringent CR だけは上記3 つのどれも有さない場合であっても判定可能である。
PR もしくはSD 規準の判断のためのフォローアップ
  • 新規治療開始後1 年間は,月1 回のフォローアップ,そして1 年経過後は2 カ月毎のフォローアップが推奨される。
  • 測定可能病変を有する患者は,SPEP とUPEP 両者をフォローアップすることが必要である。
  • CR 判定を除き,SPEP のみでしか測定可能病変を有さない患者はSPEP のみでのフォローアップを,そして同様にUPEP のみでしか測定可能病変を有さない患者ではUPEP のみでのフォローアップを行えばよい。
  • SPEP もしくはUPEP,あるいはその両者の測定可能病変を有する患者では,これら2 種類のM 蛋白測定に基づいて効果判定を行うべきであって,FLC 測定に基づく効果判定は行わない。FLC を用いた効果判定は,あくまでSPEP やUPEP においてM 蛋白量測定が行えない患者に用いる場合と,stringent CR のカテゴリーを満たすか否かの判断に対して用いられるものである。
  • CR の判定には,必ず血清と尿の両者の免疫固定法(immunofixation)が行われ,治療前のM 蛋白量にかかわらず両者とも陰性であることを確認する必要がある。治療前にUPEP が陰性であった患者においてもCR の確認のためには再度UPEP 検査を行うべきである(light chain/Bence-Jones escape を除外するため)。
  • 全身骨の画像検査は,臨床症状がない限りは効果判定目的に行う必要はない。しかし一般臨床では,年に1 回は実施することが推奨される。骨髄検査は,CR カテゴリーの判断と非分泌型骨髄腫患者の効果判定に限って必要とされる。
表6 国際骨髄腫作業部会統一効果判定規準IMWG uniform response criteria
Response subcategory Response criteria
sCR(stringent CR) CR規準を満たすとともに下記の条件を満たす。
FLC(free light chain)比(κ/λ)が正常で,なおかつ
免疫組織化学または蛍光抗体法にて骨髄中にclonal plasma cell(PC)を証明しない。
CR(complete response) 免疫固定法にて血清と尿中のM 蛋白がともに陰性化,なおかつ
軟部形質細胞腫の消失,なおかつ
骨髄中PC が5%未満まで減少。
VGPR(very good partial response) 血清と尿中M 蛋白が免疫固定法では検出されるが,
蛋白電気泳動では検出されないか,または
90%以上にM 蛋白が減少し,尿中M 蛋白も100 mg/24 時間未満まで減少。
PR(partial response) 血清M 蛋白が50%以上減少し,なおかつ
24 時間尿中M 蛋白量が90%以上減少するか,200 mg/24 時間未満まで減少。
血清と尿中M 蛋白が測定可能病変でない場合(血清M 蛋白<1 g/dL,尿中M 蛋白<200 mg/24 時間)には,M 蛋白規準の代わりに血清FLC 値のinvolved/uninvolved FLC 比が50%以上減少する必要がある。
血清と尿中M 蛋白が測定可能病変ではなく,なおかつ血清FLC 値も測定可能病変でない場合(FLC<10 mg/dL)には,M 蛋白規準の代わりに骨髄中PC が50%以上減少していることを必要とする(ただし治療前の骨髄PC ≧ 30%の場合のみ)。
上記の規準に加えて,治療前に軟部形質細胞腫が存在した場合には測定可能病変の長径と短径の積和が50%以上減少していることも必要条件とする。
SD(stable disease) CR, VGPR, PR, PD のいずれの規準をも満たさない場合。
Relapse subcategory Relapse criteria
Progression#(PFS/TTP 評価目的の計算に用いる。効果判定としてのprogressive disease[進行]と,治療中または治療終了後のdisease progression[増悪] の両者の判定に用いる。またCR 到達後の増悪に対しても同じ規準を使用する。) 下記の項目の1 つあるいはそれ以上を満たす場合。
  • ベースライン値に比して下記の25%以上の増加
    血清M 蛋白値(ただし絶対値にして0.5 g/dL 以上であること)(ベースライン値が5 g/dL≧であれば1 g/dL のM 蛋白増加でよい)
    尿中M 蛋白量(ただし絶対値にして200 mg/24 時間以上)
    血清あるいは尿中M 蛋白値が測定可能病変でない場合はinvolved/uninvolved FLC 比(ただし絶対値で10 mg/dL 以上であること)
    骨髄中PC%(ただし絶対値で10%以上であること)(ただしCR からの再発では5%以上を用いる)
  • 明らかな新規の骨病変出現または軟部形質細胞腫の出現,または既存の骨病変や軟部形質細胞腫の明らかな増大
  • 高カルシウム血症の出現(補正血清Ca 値≧11.5 mg/dL で,純粋に骨髄腫に起因すると判断される場合)
Relapse from CR(エンドポイントがDFS の場合にのみ用いる) 下記の一項目以上を満たす場合
  • 血清または尿中M 蛋白が免疫固定法もしくは電気泳動法で陽性
  • 骨髄中形質細胞が5%以上
  • 上記以外の疾患増悪の症候がある(新規の形質細胞腫の出現,溶骨病変出現,または高Ca 血症の出現など)
Clinical relapse
(TTP/PFS 評価には用いない)
下記の項目の一つあるいはそれ以上を満たす場合(腫瘍進展に伴う臓器障害“CRABO 症候”の増悪を示す指標)
  • 新しい骨病変または軟部形質細胞腫の出現
  • 明らかな既存の骨病変や軟部形質細胞腫の増大(病変の長径が絶対値で1 cm 以上増大し,かつ長径と短径の積和が50%以上増大)
  • 高カルシウム血症の出現(補正血清Ca 値≧11.5 mg/dL)
  • Hb 値の2 g/dL 以上の減少
  • 血清Cre 値が2 mg/dL 以上に増加
  • すべてのresponse の判定には連続した2 回の判定が必要である(6 週間の間隔をあける必要はない)。
  • sCR,CR 判定の目的での骨髄検査は1 回の判定のみでよい。
  • Clonal PC の存在は,κ/λ比を下に判定する。最低100 以上のPC をカウントしκ/λ比が>4:1 または<1:2 である時には異常な比率と判断する。
  • すべてのprogression の判定には連続した2 回の判定が必要である(6 週間の間隔をあける必要はない)。# 原著によるサブカテゴリーの名称はprogressive disease(PD)とされており,その中に狭義のPD(進行)と治療中または治療後のdisease progression(増悪)を含むとの記載があるが,誤解を招きやすい表現であるため,両者をprogression と改称してまとめた。
  • これまでのMR 判定,near CR 判定,プラトーの定義は用いない。
  • 測定可能病変(measurable disease)の定義は,表1 を参照のこと。
  • CRABO 症候については,IMWG の診断規準の臓器障害(end/related organ damage)の項を参照。
【参考文献】

1) McKenna RW, et al. Plasma cell neoplasms. Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2008 : pp200-13.

2) International Myeloma Working Group. Criteria for the classification of monoclonal gammopathies, multiple myeloma and related disorders : a report of the International Myeloma Working Group. Br J Haematol. 2003 ; 121(5) : 749-57.

3) Greipp P, et al. International staging system for multiple myeloma. J Clin Oncol. 2005 ; 23(15) : 3412-20.

4) Fonseca R, et al. International Myeloma Working Group molecular classification of multiple myeloma : spotlight review. Leukemia 2009 ; 23(12) : 2210-21.

5) Durie BGM, et al. International uniform response criteria for multiple myeloma. Leukemia 2006 ; 20(9) : 1467-73.

6) Cocks K, et al. An international fi eld study of the reliability and validity of a disease-specific questionnaire module (the QLQ-MY20) in assessing the quality of life of patients with multiple myeloma. Eur J Cancer. 2007 ; 43(11) : 1670-8.

7) 佐藤威文,他. 骨転移がん患者に対するEORTC QOL 調査モジュール-EORTC QLQ-BM22 日本語版の開発- 癌と化学療法. 2010 ; 37(8) : 1507-12.



アルゴリズム

症候性骨髄腫の前癌病態であるMGUS や無症候性骨髄腫は無治療経過観察(watchful wait)が原則であり,症候性骨髄腫に移行した時点で全身化学療法を開始する(無症候性骨髄腫:CQ1,CQ2エビデンスレベル1iiA)。MGUS は,年約1%の割合で症候性骨髄腫や全身性アミロイドーシスへ進行することが知られており,10 年後で12%,20 年後で25%,25 年後で30%の患者で疾患の進行が認められる1)。疾患進行のリスク因子として,①血清M 蛋白量1.5 g/dL 以上,②非IgG 型,③血清遊離軽鎖(κ/λ)比異常の3 因子が示されており,進行割合を予測するモデルが提唱されている(図12)。無症候性骨髄腫から症候性骨髄腫あるいは全身性アミロイドーシスへの進行は,診断後の5 年間は年10%,次の5 年間は年3%,10 年を超えると年1%に認められる3)。進行のリスク因子として①骨髄中形質細胞比率10%以上,②血清M 蛋白濃度3 g/dL 以上,③血清遊離軽鎖比の大きな異常(κ/λ比で0.125 以下もしくは8.0 以上)の3 因子を用いた予測モデルが提唱されている(図24)

図1 MGUS 患者の進展リスク

図1 MGUS 患者の進展リスク

図2 無症候性骨髄腫患者の進展リスク

図2 無症候性骨髄腫患者の進展リスク

骨の孤立性形質細胞腫や髄外形質細胞腫に対しては,40〜50 Gy(20〜25 分割)の局所放射線照射を行った後に無治療経過観察し,症候性骨髄腫に移行した場合にはじめて全身化学療法を考慮する。アジュバント療法としての化学療法は推奨されない(孤立性形質細胞腫・髄外形質細胞腫:CQ1エビデンスレベル3iiA)。なお多発性形質細胞腫に対しては,症候性骨髄腫と同様の治療方針が選択される。

現時点では,症候性骨髄腫は治癒を期待できる疾患ではない。しかし,治療介入により長期の生存が可能となっている疾患である。すなわち,良好な生活の質(quality of life:QOL)を維持しながら長期生存を目指すことが治療目標となる。一般に自家造血幹細胞移植併用大量化学療法 (high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)の適応となる65 歳未満の移植適応患者と,65 歳以上あるいは重要臓器の障害のために自家造血幹細胞移植の適応とならない移植非適応患者によって異なった治療戦略が選択される。65 歳という年齢はあくまで目安であり,日常臨床においては生物学的年齢を考慮した上で治療方針を決定する。移植適応患者では,化学療法および新規薬剤を用いた導入療法後の大量メルファラン(MEL)療法による完全奏効(complete response:CR)の達成が長期の無増悪生存期間,ひいては長期生存の代替えマーカーとなることが示されている6)7)。また移植非適応患者においても,新規薬剤を併用した化学療法によりCR 達成割合の増加が示されており,これまでゴールドスタンダードであったMP 療法を凌ぐ生存期間の延長が期待できるようになった8)

支持療法としては,ビスホスホネート製剤の併用によって骨痛や病的骨折などの骨関連事象発生の減少効果のみならず,生存期間の延長効果も期待できるようになった9)10)支持療法:CQ1エビデンスレベル1iiA)。また,我が国においては,腎障害のためにビスホスホネート製剤を使用しづらい場合にはヒト型抗RANKL(receptor activator of nuclear factor-κB ligand)モノクローナル抗体であるデノスマブの使用も選択可能である11)支持療法:CQ2エビデンスレベル1iC)が,重篤な低カルシウム血症をきたすことがあるため,注意深い血清カルシウム濃度のモニタリングが必要である。しかし,これらの薬剤は顎骨壊死(antiresorptive agent-related osteonecrosis of the jaw:ARONJ)などの特徴的な有害事象を有しており,治療介入により患者QOL を損なうことのないように適切な配慮が必要である(支持療法:CQ3)。また,骨髄腫細胞は放射線感受性が比較的良好であるため,限局性の溶骨病変や病的骨折部の除痛を目的とした場合や,脊髄あるいは神経根の圧迫が懸念される椎体病変に対しては局所放射線照射が有効である。さらに,骨髄腫に高頻度にみられる合併症である腎障害(支持療法:CQ4),原疾患および治療薬の副作用として現れやすい感染症(支持療法:CQ5),末梢神経障害(支持療法:CQ6)や血栓症(支持療法:CQ7)に対する予防や支持療法など,きめ細かい配慮が必要となる。

(※)CQ番号(ピンク色部分)をクリックすると,解説画面へ移動します

多発性骨髄腫のアルゴリズム CQ1 CQ2〜4 CQ6 CQ7 CQ5

*1 国内適応外

*2 導入療法にて非奏効の場合は,導入療法の変更,あるいは再発・難治例に対する治療を選択

*3 国内未承認

M(MEL): melphalan, P : prednisolone, B : bortezomib, T : thalidomide, L : lenalidomide,
C(CPA): cyclophosphamide, V : vincristine, A : doxorubicin, D : dexamethasone,
HDD : high-dose dexamethasone, d : low-dose dexamethasone, HDT : high-dose therapy,
AHSCT : autologous hematopoietic stem cell transplantation

1.移植適応のある初発症候性骨髄腫患者

65 歳未満で重要臓器機能の保持されている初発骨髄腫患者に対しては,効果が迅速で深い奏効を期待でき,かつ自家造血幹細胞採取効率に悪影響を与えない導入療法を施行(移植適応患者:CQ1エビデンスレベル1iiDiv)後,自家造血幹細胞移植を併用した大量MEL 療法を実施することが推奨される(移植適応患者:CQ2CQ3CQ4エビデンスレベル1iiA)。移植適応患者に対する導入療法としてMEL などのアルキル化剤やレナリドミド(LEN)の長期投与を施行すると,造血幹細胞採取効率の低下につながることが知られており注意が必要である。推奨導入療法としては,高い奏効割合が期待できるボルテゾミブ(BOR)とデキサメタゾン(DEX)併用の導入療法(BD 療法)があり,3〜4 コース施行後に自家末梢血幹細胞採取と保存を行う。より高い効果を期待できる導入療法として,新規薬剤を含む3 剤併用療法であるCBD 療法[BD+シクロホスファミド(CPA)]やBAD 療法[BD+ドキソルビシン(DXR)]があるが,同時に毒性も増強することに留意すべきである。腎障害を伴っていてもBOR は使用しやすい薬剤である。しかし,肺の間質影や末梢神経障害が存在する場合などのBOR による毒性が懸念される場合には,これまで標準的に用いられたVAD 療法(VCR, DXR, DEX)や大量DEX 療法(high-dose dexamethason:HDD)なども選択肢となる。自家末梢血造血幹細胞は,G-CSF 単独またはCPA 大量療法にG-CSF を併用して採取し,CD34 陽性細胞で2×106 個/患者体重(kg)以上の造血幹細胞を得ることを目標とし凍結保存しておく。大量MEL 療法は通常200 mg/m2 を2 日間に分けて投与するが,腎障害がある場合には70%に減量する。2 日目の大量MEL 投与の翌々日に凍結しておいた自家末梢血造血幹細胞を急速解凍して輸注する。早期からの新規薬剤の使用により大量MEL 療法を行うことなく同等の無増悪生存期間が得られるかどうかの臨床試験が複数行われているが,それらの結果が明らかになるまでは大量MEL 療法が65 歳未満の患者に対する標準治療である。1 回目の移植後の効果が最良部分奏効(VGPR)未満の患者においては,2 回目の移植(タンデム移植)を実施することで無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)の延長効果が得られることが示されている(移植適応患者:CQ5エビデンスレベル2A)。しかし最近の欧米の臨床試験では,1 回目の移植後の地固め療法や維持療法として新規薬剤が使用されており,PFS の延長効果に加えて,一部の臨床試験においてはOS の延長効果も示されている(移植適応患者:CQ6エビデンスレベル1iiDiii)。しかし,いずれの薬剤を用いた場合も至適投与法(投与量,投与レジメンや投与期間など)は確立されておらず,臨床試験での実施が望ましい。したがって,日常臨床においての地固め療法や維持療法は,薬剤耐性化や二次がんの発症を含めた有害事象のリスクと患者利益,そして医療経済的な側面をよく考えて実施するかどうかを決定する必要がある。さらに治癒を目指して,自家造血幹細胞移植後に骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植(ミニ移植)を実施する戦略も試みられているが,現段階では研究的治療の域を出ず,臨床試験としての実施が推奨される(移植適応患者:CQ7)。

移植適応のある初発症候性骨髄腫患者のアルゴリズム CQ1 CQ2 CQ3

*1 国内保険適応外

*2 従来の化学療法はプラトーまで継続して終了するが,新規薬剤レジメンでは至適投与期間に関するエビデンスはない。

*3 導入療法にて非奏効の場合は,導入療法の変更,あるいは再発・難治例に対する治療を選択

B:間質性肺炎,重篤な末梢神経障害を有する場合は不適
L:血栓症や進行性の腎障害を有する場合は不適
T:血栓症や重篤な末梢神経障害を有する場合は不適

2.移植非適応の初発症候性骨髄腫患者

移植非適応患者に対する標準治療は現在,MPB 療法(MEL, PSL, BOR)もしくはMPT 療法(MEL, PSL, THAL)などであり,40 年以上にわたって標準治療であったMP 療法(MEL, PSL)に比してPFS の延長効果のみでなくOS の延長効果も示されている(移植非適応の未治療骨髄腫:CQ1エビデンスレベル1iiA)。米国においてはLEN+少量DEX 併用療法(Ld)の有効性も報告されているが,MP 療法或いはMPT 療法とのランダム化比較試験の結果が未報告であり,厳密な意味で標準治療とは認識されていない。患者年齢や末梢神経障害,血栓症などのリスクや肺の間質影の合併の有無などを考慮して従来のMP 療法などの通常量化学療法の選択肢もある。MPB 療法やMPT 療法では,通常9 コースまで継続することを目標とするが,治療継続期間を比較検討した臨床試験は存在しない。MP 療法で代表される従来の化学療法の場合は,プラトー[安定(SD)/不変(NC)以上の効果判定がなされた時点を規準にしてM 蛋白量等の計測値の変化が±25%以内で3 カ月以上継続した場合]に至るまで継続して治療を終了することが一般的であり,それ以上の治療継続は患者利益に結びつかないことが示されている(移植非適応の未治療骨髄腫:CQ2エビデンスレベル1iiA)。また,LEN やTHAL などの免疫調節薬は,DEX との併用により相乗効果が期待できるが,高齢患者に対する大量DEX の投与は感染症や血栓症を誘発することが示されており,年齢に応じた減量が勧められる(移植非適応の未治療骨髄腫:CQ3エビデンスレベル1iiA)。移植非適応患者に対する導入療法後の維持療法については,無増悪生存期間の延長効果を示す試験結果があるものの,OS の延長効果を示した大規模試験は少なく,実施する場合は臨床試験の範疇で行うことが勧められる。

【多発性骨髄腫 アルゴリズム 第1.1 版追記コメント】

FIRST 試験では、持続Ld療法がMPT 療法に比し、全奏効率、奏効の質、PFS も有意に良い成績であり、患者QOL の向上に寄与することが期待できるため推奨される12)

移植非適応の初発症候性骨髄腫患者のアルゴリズム CQ2 CQ1 CQ3 CQ3 CQ1 CQ2

*1 自家移植後も含む。

*2 救援療法の選択:①初回治療終了時から 6 カ月以上経過後の再発・再燃であれば,初回治療を再度試みてもよい。②初回治療終了時から 6 カ月未満の再発・再燃に対しては,ボルテゾミブ,レナリミドミ,サリドマイドを中心とした初回治療以外の救援療法を選択する。

*3 自家造血幹細胞移植は 55 歳未満,初診時β2 ミクログロブリン 2.5 mg/L 未満,移植後奏効期間 9 カ月以上,CR 到達例などの例で有効性が報告されている。

表7 再発・難治性骨髄腫患者に対する新規薬剤を中心とした救援療法

BOR-based
BOR
BOR/DEX
BOR/PLD*1
BOR/CPA/DEX*2

BOR/IMiD-based
BOR/LEN/DEX*2
BOR/THAL/DEX*2

LEN-based
LEN/DEX
LEN/CPA/DEX*2
LEN/DXR/DEX*2

THAL-based
THAL
THAL/DEX
THAL/DEX/PLD*1

その他
High-dose CPA
DEX/CPA/ETP*1/CDDP*1(DCEP)
DEX/THAL/CDDP*1/DXR/CPA/ETP*1(DT-PACE)±BOR(BDT-PACE)

BOR(B):bortezomib, LEN(L):lenalidomide, THAL(T):thalidomide,
DEX : dexamethasone, PLD:pegylated liposomal doxorubicin,
DXR(A):doxorubicin, CPA:cyclophosphamide, ETP:etoposide, CDDP : cisplatin

*1 PLD, ETP, CDDP, bendamustine : 国内適応外

*2 わが国において第Ⅰ相試験が実施されていない併用療法については,原則として施設IRB の許可を得た上で被険者から文書による同意を得て実施する。

3.再発・難治性骨髄腫患者

再発・難治例に対しては,初回治療の最終投与日から6 カ月以上経過してからの再発・再燃であれば初回導入療法に対する感受性を有している場合も多く,初回導入療法を再度試みてもよいし,新規薬剤を含む治療レジメンに変更してもよい(再発・難治性骨髄腫:CQ1CQ2エビデンスレベル1A)。初回治療終了後6 カ月未満の再発・再燃や治療中の進行や増悪の場合,そしてt(4;14)転座などの高リスク染色体病型を有する場合には,新規薬剤を含む救援化学療法の選択が推奨される(表7)。薬剤選択においては前治療レジメンや患者の有する合併症や臓器機能障害の有無などを考慮する必要がある。移植適応のある60 歳未満の患者においては,救援療法が奏効した場合には2 回目の自家造血幹細胞移植併用の大量MEL 療法を行うという選択もある(再発・難治性骨髄腫:CQ3エビデンスレベル3iiiA)。同様に救援療法が奏効してHLA 適合ドナーがいる場合には,同種造血幹細胞移植という選択肢もあるが,移植後早期の死亡率が高く再発・再燃も高頻度であることから,臨床試験の範疇で行われることが望ましい(再発・難治性骨髄腫:CQ3)。

参考文献

1) Kyle RA, et al. A long-term study of prognosis in monoclonal gammopathy of undetermined significance. N Engl J Med. 2002 ; 346(8) : 564-9.

2) Rajkumar SV, et al. Serum free light chain ratio is an independent risk factor for progression in monoclonal gammopathy of undetermined significance. Blood. 2005 ; 106(3) : 812-7.

3) Kyle RA, et al. Clinical course and prognosis of smoldering (asymptomatic) multiple myeloma. N Engl J Med. 2007 ; 356(25) : 2582-90.

4) Dispenzieri A, et al. Immunoglobulin free light chain ratio is an independent risk factor for progression of smoldering(asymptomatic) multiple myeloma. Blood. 2008 ; 111(2) : 785-9.

5) Weber DM. Solitary bone and extramedullary plasmacytoma. Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2005 ; 373-6.

6) Martinez-Lopez J, et al. Long-term prognostic significance of response in multiple myeloma after stem cell transplantation. Blood. 2011 ; 118(3) : 529-34.

7) Harousseau JL, et al. Achievement of at least very good partial response is a simple and robust prognostic factor in patients with multiple myeloma treated with high-dose therapy : Long-term analysis of the IFM99-02 and 99-04 trials. J Clin Oncol. 2009 ; 27(34) : 5720-6.

8) Gay F, et al. Complete response correlates with long-term progression-free and overall survival in elderly myeloma treated with novel agents : analysis of 1175 patients. Blood. 2011 ; 117(11) : 3025-31.

9) Berenson JR, et al. Efficacy of pamidronate in reducing skeletal events in patients with advanced multiple myeloma. Myeloma Aredia Study Group. N Engl J Med. 1996 ; 334(8) : 488-93.(1iDiii)

10) Morgan GJ, et al. First-line treatment with zoledronic acid as compared with clodronic acid in multiple myeloma(MRC Myeloma IX) : a randomized controlled trial. Lancet. 2010 ; 376(9757) : 1989-99.(1iiA)

11) Henry DH, et al. Randomized, double-blind study of denosumab versus zoledronic acid in the treatment of bone metastasis in patients with advanced cancer (excluding breast and prostate cancer) or multiple myeloma. J Clin Oncol. 2011 ; 29(9) : 1125-32.(1iC)

【第1.1版追記】

12) Benboubker L, et al. Lenalidomide and dexamethasone in transplant-ineligible patients with myeloma. N Engl J Med. 2014; 371(10):906-17.(1iiDiii)



【無症候性骨髄腫】

CQ1

無症候性骨髄腫患者に対して診断後直ちに化学療法を実施することは妥当か


推奨グレード
カテゴリー4
無症候性骨髄腫患者に対して診断後直ちに化学療法を実施することは,臓器障害発現時まで化学療法の開始を待つ戦略に比べて,生存期間の延長効果は認められず,高リスク群を対象とした臨床試験以外での実施は推奨されない。

【解 説】

無症候性骨髄腫(asymptomatic myeloma)の診断後,直ちに治療介入を行う場合(initial therapy:IT)と増悪まで待ってから化学療法を行う場合(deferred therapy:DT)のランダム化比較試験が行われている1)2)

  1. 化学療法:無症候性でDurie & Salmon(D&S)分類の病期Ⅰに相当する50 名の骨髄腫患者をIT 群とDT 群にランダム化してMP 療法(MEL, PSL)を行った試験では,DT 群における治療開始までの期間中央値は12 カ月であった1)。両群間の奏効割合,奏効期間,生存期間には有意な差を認めなかった。D&S 病期Ⅰの骨髄腫患者145 名(88%は無症候性)を2 群にランダム化してMP 療法を行った試験では,65 カ月のフォローアップでDT 群に割り付けられた患者の48%が増悪のため治療を開始し,増悪までの期間の中央値は13 カ月であった2)。生存期間中央値(MST)はIT 群で64 カ月,DT 群で71 カ月と有意差は認めなかった(p=0.64)。
  2. 免疫調節薬:THAL 投与の第Ⅲ相試験が報告されており,症候性骨髄腫に至るまでの期間(PFS)は延長するがOS 延長には寄与しなかった(Witzig TE, Leukemia 2013 ; 27 : 220-25. 1iiDiii)。高リスクの無症候性骨髄腫患者を対象としたLEN+DEX 療法群と無治療経過観察群のランダム化比較試験が実施され,症候性骨髄腫に至るまでの期間(PFS)を延長し,OS に関するベネフィットにも寄与するとの報告がなされているが,本試験の対象患者は極めて高リスクの無症候性骨髄腫患者であることに注意が必要である3)

無症候性骨髄腫に対する治療介入は,現時点では症候性骨髄腫への進展高リスク群を対象とした臨床試験の範疇での実施に限定されるべきである。

【参考文献】

1) Hjorth M, et al. Initial versus deferred melphalan-prednisone therapy for asymptomatic multiple myeloma stage Ⅰ ? A randomized study. Eur J Haematol. 1993 ; 50(2) : 95-102.(2A)

2) Riccardi A, et al. Long-term survival of stage I multiple myeloma given chemotherapy just after diagnosis or at progression of the disease : a multicenter randomized study. Br J Cancer. 2000 ; 82(7) : 1254-60.(1iiA)

3) Mateos M-V, et al. Lenalidomide plus dexamethasone for high-risk smoldering multiple myeloma. New Engl J Med. 2013 ; 369(5) : 438-47.(1iiDiii/1iiA


CQ2

無症候性骨髄腫患者に対するビスホスホネート製剤の投与は妥当か


推奨グレード
カテゴリー3
無症候性骨髄腫に対するビスホスホネート製剤の投与は,増悪時の骨関連事象の合併頻度を減少させるが,症候性骨髄腫に至るまでの期間や生存期間を延長させる効果は認められず,積極的な投与は推奨されない。

【解 説】

無症候性骨髄腫患者を対象としたゾレドロン酸4 mg の月1 回で1 年間の投与群と無治療群のランダム化第Ⅲ相比較試験(n=163)と,パミドロネート60〜90 mg の月1 回で1 年間の投与群と無治療群のランダム化第Ⅲ相比較試験(n=177)が実施されている1)2)。1 年間のビスホスホネート製剤の投与は実施可能なレジメンであるが,いずれの試験でも主要評価項目である臓器障害の出現で定義される症候性骨髄腫への進展までの期間(TTP)や全生存期間(OS)には有意差はなかった。症候性骨髄腫へ移行時の貧血,腎障害や髄外腫瘤形成などの発現頻度には両群間での差は認められなかったが,骨関連事象(skeletal-related events:SRE)の発現率はビスホスホネート投与群で有意に減少することが示されている(ゾレドロン酸55.5% vs 78.8%:p=0.041,パミドロネート39.2% vs 72.7%:p=0.009)。現在イタリアグループにより,無症候性骨髄腫患者に対する2 年間のゾレドロン酸投与と無治療群のランダム化比較試験が進行中である。

【参考文献】

1) Musto P, et al. A multicenter, randomized clinical trial comparing zoledronic acid versus observation in patients with asymptomatic myeloma.Cancer. 2008 ; 113(7) : 1588-95.(1iiDiii)

2) D'Arena G, et al. Pamidronate versus observation in asymptomatic myeloma : final results with long-term follow-up of a randomized study. Leuk & Lymphoma. 2011 ; 52(5) : 771-5.(1iiDiii)


【移植適応のある初発症候性骨髄腫】

CQ1

若年者症候性骨髄腫患者における移植を前提とした寛解導入療法では何が勧められるか


推奨グレード
カテゴリー1
移植を前提とした寛解導入療法としてボルテゾミブを含むレジメン,レナリドミドを含むレジメンが推奨される。

【解 説】

自家造血幹細胞移植適応症例における初期治療として,ボルテゾミブ(BOR)やレナリドミド(LEN)などの新規薬剤を用いた寛解導入療法が推奨される。BD 療法(BOR, DEX)やBAD 療法(BOR, DXR, DEX) はVAD 療法(VCR, DXR, DEX) との比較で,BTD 療法(BOR, THAL,DEX) はTD 療法(THAL, DEX) との比較で寛解導入および自家移植後の最良部分奏効(VGPR)以上の奏効割合が有意に優れていた1)2)。BTD 療法はTD 療法に比べgrade 3 以上の末梢神経障害(peripheral neuropathy:PN)が有意に多いが,BOR とTHAL の用量を減量したbtD はBD との比較で移植後のVGPR 以上の奏効割合は有意に高く,一方grade 2 以上のPN は有意に少なかった3)。LEN についてはLD 療法(LEN, DEX)がDEX 大量より有意に優れ4),さらにLEN と高用量DEX(LD)とLEN と低用量DEX(Ld)の比較で,4 コース後のPR 以上の奏効割合はLD が有意に優れていたが,1 年OS はLd が有意に優れていた5)。THAL については,TAD 療法(THAL, DXR, DEX)とVAD 療法との比較で自家移植後のVGPR 以上の奏効割合はTAD 療法が優れていたが,CTD 療法(CPA, THAL, DEX)とCVAD 療法(CPA, VCR, DXR,DEX)の比較では自家移植後のVGPR 以上の奏効割合に有意差はなかった6)7)。その他,CBD 療法(CPA, BOR, DEX)やBLD 療法(BOR, LEN, DEX)の報告もみられるが,第Ⅲ相試験の報告はない。以上より,BD,BAD,BT(bt)D,Ld 療法が推奨される。なお,本邦では新規薬剤の初発例に対する保険適用はBOR に限られる。

【参考文献】

1) Harousseau JL, et al. Bortezomib plus dexamethasone is superior to vincristine plus doxorubicin plus dexamethasone as induction treatment prior to autologous stem-cell transplantation in newly diagnosed multiple myeloma : Results of the IFM2005-01 trial. J Clin Oncol. 2010 ; 28(30) : 4621-9.(1iiDiv)

2) Cavo M, et al. Bortezomib with thalidomide plus dexamethasone compared with thalidomide plus dexamethasone as induction therapy before, and consolidation therapy after, double autologous stem-cell transplantation in newly diagnosed multiple myeloma : a ransomized phase Ⅲ study. Lancet. 2010 ; 376(9758) : 2075-85.(1iiDiv)

3) Moreau P, et al. Bortezomib plus dexamethasone versus reduced-dose bortezomib, thalidomide plus dexamethasone as induction treatment prior to autologous stem cell transplantation in newly diagnosed multiple myeloma. Blood. 2011 ; 118(22) : 5752-8.(1iiDiv)

4) Zonder JA, et al. Lenalidomide and high-dose dexamethasone compared with dexamethasone as initial therapy for multiple myeloma : a randomized Southwest Oncology Group(S0232). Blood. 2010 ; 116(26) : 5838-41.(1iiDiii)

5) Rajkumar SV, et al. Lenalidomide plus high-dose dexamethasone versus lenalidomide plus low-dose dexamethasone as initial therapy for newly diagnosed multiple myeloma : an open-label randomized controlled trial.Lancet Oncol. 2010 ; 11(1) : 29-37.(1iiDiv)

6) Lokhorst HM, et al. A randomized phase 3 study on the effect of thalidomide combined with adriamycin, dexamethasone, and high-dose melphalan, followed by thalidomide maintenance in patients with multiple myeloma. Blood. 2010 ; 115(6) : 1113-20.(1iiDi/1iiDiv

7) Morgan GJ, et al. Cyclophosphamide, thalidomide, and dexamethasone as induction therapy for newly diagnosed multiple myeloma patients destined for autologous stem-cell transplantation : MRC Myeloma IX randomized trial results. Haematologica. 2012 ; 97(3) : 442-50.(1iiDiv)


CQ2

若年者症候性骨髄腫患者に対する自家造血幹細胞移植併用大量メルファラン療法は通常量化学療法と比べて生存期間を延長させるか


推奨グレード
カテゴリー1
若年者症候性骨髄腫患者に対して自家造血幹細胞移植併用大量メルファラン療法は通常量化学療法と比べて無増悪生存期間を延長させることから推奨される。

【解 説】

65 歳未満の若年者骨髄腫を対象とした自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem cell transplantation:HDC/AHSCT)と通常量化学療法との第Ⅲ相比較試験が多数報告されている。その結果,HDC/AHSCT は完全奏効(CR)割合,無イベント生存期間(EFS),全生存期間(OS)のいずれもHDC/AHSCT が優れていた1)〜3)。しかし,その後報告されたUS Intergroup によるS9321 試験4)やPETHEMA 試験5)では,HDC/AHSCT と通常量化学療法でOS や無増悪生存期間(PFS)に必ずしも有意差はみられていない。S9321 試験では,化学療法群がIFM90 試験1)やMRCVII 試験2)と比較しより強力であるVBMCP 療法(VCR, BCNU, MEL, CPA, PSL)とシクロフォスファミド大量療法で行われ,一方では,移植群における移植前処置(全身照射を含むレジメン)が弱かった可能性が指摘されている。さらに,化学療法群の52%が再発・増悪時に自家移植を受けており,その結果OS で有意差がみられなかった可能性が考えられる4)。PETHEMA 試験は初期治療に奏効した症例をランダム化しているという点でIFM90,MRC Ⅶ 試験と異なっている5)

一方,これらの試験を含む9 つのランダム化比較試験による2,411 例のメタアナリシスが報告されている。対象年齢を70 歳までとした試験も含まれているが,HDC/AHSCT はOS で標準量化学療法と差はなかったが,PFS で有意に優れていた6)。OS で差がみられなかったことは再発時のHDC/AHSCT によるサルベージ効果で説明されている。以上より,65 歳未満の若年者においてHDC/AHSCT は,通常量化学療法よりPFS を延長させると考えられ推奨できる。ただし,治療関連死亡(TRM)のリスクが上昇するので注意を要する。

【参考文献】

1) Attal M, et al. A prospective, randomized trial of autologous bone marrow transplantation and chemotherapy in multiple myeloma. N Engl J Med.1996 ; 335(2) : 91-7.(1iiA)

2) Child JA, et al. High-dose chemotherapy with hematopoietic stem-cell rescue for multiple myeloma. N Engl J Med. 2003 ; 348(19) : 1875-83.(1iiA)

3) Palumbo A, et al. Intermediate-dose melphalan improves survival of myeloma patients aged 50 to 70 : results of a randomized controlled trial. Blood. 2004 ; 104(10) : 3052-7.(1iiA)

4) Barlogie B, et al. Standard chemotherapy compared with high-dose chemoradiotherapy for multiple myeloma : Final results of phase Ⅲ US intergroup trial S9321. J Clin Oncol. 2006 ; 24(6) : 929-36.(1iiA)

5) Bladé J, et al. High-dose therapy intensification versus continued standard chemotherapy in multiple myeloma patients responding to the initial chemotherapy : Long term results from a prospective randomized trial from the Spanish cooperative group PETHEMA. Blood. 2005 ; 106(12) : 3755-9.(1iiA)

6) Koreth J, et al. High-dose therapy with single autologous transplantation versus chemotherapy for newly diagnosed multiple myeloma : A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Biol Blood Marrow Transplant. 2007 ; 13(2) : 183-96.(1iiDiii)


CQ3

若年者症候性骨髄腫患者に対して寛解導入後早期に自家造血幹細胞移植を行うことは再発時に移植を行うよりも勧められるか


推奨グレード
カテゴリー1
若年者症候性骨髄腫患者に対して寛解導入後早期に自家造血幹細胞移植を行うことは再発時に移植を行う場合と比べて無症状・無治療かつ副作用のない期間を延長させることから推奨される。

【解 説】

自家移植を寛解導入療法後早期に実施すべきか,再発時に実施すべきかを無作為で比較検討した試験がフランスから報告されている1)。本試験ではOS には差はみられないが,早期に実施することで無イベント生存期間(EFS)(39 カ月 vs 13 カ月)およびTWiSTT(Time without symptoms,treatment,and treatment toxicity:無治療かつ副作用なく無症状の期間)(27.8 カ月 vs22.3 カ月)が延長することが示されている。一方,自家移植と通常量化学療法とのランダム化比較試験であるUS S9321 試験において両群間でOS に差はみられなかったが,これは化学療法群でも再発時に多くが自家移植を受けたことによると考えられ,このことは再発時の移植も有用であることを示している2)。自家移植と通常量化学療法とのランダム化比較試験のメタアナリシスでも同様のことが指摘されている3)。しかし,早期に移植を受けない場合は長期間化学療法が継続されることになり,その結果,臓器障害や長期のアルキル化剤曝露による二次性骨髄異形成症候群のリスクを高めることになる。したがって,OS に有意差がなくとも早期に自家移植を実施することが推奨される。近年,ボルテゾミブやレナリドミドなどの新規薬剤を用いた寛解導入により奏効割合の大幅な上昇がみられ,自家移植の実施時期についてはup-front で実施する群と新規薬剤による地固め・維持療法を実施し再発時に自家移植を行う群との新たな第Ⅲ相試験が進行中である。

【参考文献】

1) Fermand JP, et al. High-dose therapy and autologous blood stem cell transplantation in multiple myeloma : Up-front or rescue treatment? Results of a multicenter sequential randomized clinical trial. Blood. 1998 ; 92(9) : 3131-6.(1iiA)

2) Barlogie B, et al. Standard chemotherapy compared with high-dose chemoradiotherapy for multiple myeloma : Final results of phase Ⅲ US intergroup trial S9321. J Clin Oncol. 2006 ; 24(6) : 929-36.(1iiA)

3) Koreth J, et al. High-dose therapy with single autologous transplantation versus chemotherapy for newly diagnosed multiple myeloma : A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Biol Blood Marrow Transplant. 2007 ; 13(2) : 183-96.(1iiDiii)


CQ4

自家造血幹細胞移植における前処置として大量メルファラン療法は全身放射線照射を含む前処置と比べて優れているか


推奨グレード
カテゴリー1
自家造血幹細胞移植における前処置として大量メルファラン療法が推奨される。

【解 説】

65 歳未満の初発例を対象としたフランスのランダム化試験では,VAD 療法(VCR, DXR, DEX)による寛解導入後メルファラン(MEL)200 mg/m2 (MEL200)群とMEL 140 mg/m2+全身照射(8 Gy)群に割り付けられている1)。結果として,完全奏効(CR)割合は両群で有意差はみられなかった(35% vs 29%)がCR+最良部分奏効(VGPR)割合はMEL200 群で良好な結果であった(55% vs 43%,p=0.06)。各群20.5 カ月と20 カ月の観察期間で,45 カ月後の全生存割合(OS)は65.8%と45.5%でMEL200 群が優位に優れていた(p=0.05)。一方,無イベント生存期間(EFS)はそれぞれ20.5 カ月と20 カ月で有意差はみられなかった。好中球減少,血小板減少,入院期間,静脈内抗生剤投与期間はいずれもMEL200 群で短く(p<0.001),血小板および赤血球輸血はいずれもMEL200 群で少なかった(p<0.001)。口内炎(grade 3〜4)もMEL200 群で有意に少なかった(30% vs 51%,p<0.001)。以上より,MEL 200 mg/m2 が移植前処置として推奨される。

MEL200 をより強化したレジメン[MEL200+イダルビシン(IDR)42 mg/m2+シクロフォスファミド(CPA)120 mg/kg]とMEL200 との比較試験でも強化レジメンで有害事象が多くMEL200 に勝るものではなかった2)

スペインからはPETHEMA/GEM2000 試験の中でブスルファン(BU)12 mg/kg+MEL 140 mg/m2(BU/MEL)を受けた最初の225 例をその後のMEL 200 mg/m2 を受けた542 例と比較しているが,BU/MEL で肝中心静脈閉塞症による治療関連死亡(TRM)が優位に高い(8.4%vs 3.5%,p=0.002)こと,奏効割合は同等でPFS 中央値は有意に長い(41 カ月 vs 31 カ月,p=0.009)がOS に差はないとしている3)

最近,ボルテゾミブ(BOR)とMEL200 との組み合わせも検討されているが,現時点ではMEL200 が推奨される。

【参考文献】

1) Moreau P, et al. Comparison of 200 mg/m2 melphalan and 8 Gy total body irradiation plus 140 mg/m2 melphalan as conditioning regimens for peripheral blood stem cell transplantation in patients with newly diagnosed multiple myeloma : Final analysis of the Intergroup Francophone du myelome 9502 randomized trial. Blood. 2002 ; 99(3) : 731-5.(1iiDiv/1iiA

2) Fenk R, et al. High-dose idarubicin, cyclophosphamide and melphalan as conditioning for autologous stem cell transplantation increases treatment-related mortality in patients with multiple myeloma : Results of a randomized study. Br J Haematol. 2005 ; 130(4) : 588-94.(1iiDiv)

3) Lahuerta JJ, et al. Busulfan 12 mg/kg plus melphalan 140 mg/m2 versus melphalan 200 mg/m2 as conditioning regimens for autologous transplantation in newly diagnosed multiple myeloma patients included in PETHEMA/GEM2000 study. Haematologica. 2010 ; 95(11) : 1913-20.(3iiiA)


CQ5

若年者症候性骨髄腫患者に対して2 回連続自家造血幹細胞移植(タンデム自家移植)を行うことは1 回(シングル)移植と比べて生存期間を延長させるか


推奨グレード
カテゴリー3
タンデム自家移植は,初回移植で最良部分奏効に到達しない症例において無イベント生存でシングル移植より優れるが,治療関連死亡は増加する。新規薬剤が登場した現在,タンデム自家移植の有用性は低下している。

【解 説】

シングル移植とタンデム移植を比較した5 つの臨床試験が報告されているが,全生存期間(OS)でタンデム移植が優れていたのはIFM94 試験のみである1)〜5)。一方,無イベント生存期間(EFS)は4 つの試験でタンデム移植が優れていた。特に,初回移植で最良部分奏効(VGPR)(M 蛋白の減少90%以下)(IFM94 試験)1)あるいはnear CR に到達しなかった症例(Bologna96 試験)2)でタンデム移植の有用性が明らかにされた。2 回目の自家移植の時期については3 カ月程度をめどに実施されることが多い。一方,5 つの比較試験のメタアナリシスでは,無イベント生存期間はタンデム移植で優れていた(HR=0.79)が,後に撤回されたチュニジアからの報告を含む6 つの比較試験のメタアナリシスでは,タンデム移植で2 回目の移植における治療関連死亡はHR=1.71 と高くなることが示された6)。したがって,初回移植後VGPR 非到達例においてはタンデム移植を考慮してよいが,新規薬剤が使用可能となった現在ではタンデム移植の有用性は低下している。

【参考文献】

1) Attal M, et al. Single versus double autologous stem-cell transplantation for multiple myeloma. N Engl J Med. 2003 ; 349(26) : 2495-502.(1iiA)

2) Cavo M, et al. Prospective randomized study of single compared with double autologous stem-cell transplantation for multiple myeloma : Bologna 96 clinical study. J Clin Oncol. 2007 ; 25 (17) : 2434-41.(1iiDiv/1iiDi

3) Segeren CM, et al. Overall and event-free survival are not improved by the use of myeloablative therapy following intensified chemotherapy in previously untreated patients with multiple myeloma : A prospective randomized phase 3 study. Blood. 2003 ; 101(6) : 2144-51.(1iiDi)

4) Goldschmidt H, et al. Single versus double high-dose therapy in multiple myeloma : second analysis of the GMMG-HD2 study. Hematology J. 2005 ; 90 : 38 PL8.02.(1iiDiii)

5) Fermand JP, et al. Single versus double high dose therapy supported with autologous blood stem cell transplantation using unselected or CD34 enriched ABSC. Results of a two by two designed randomized trial in 230 young patients with multiple myeloma. Hematology J. 2003 ; 4 : S59.(1iiDiii)

6) Kumar A, et al. Tandem versus single autologous hematopoietic cell transplantation for the treatment of multiple myeloma : A systematic review and meta-analysis. J Natl Cancer Inst. 2009 ; 101 (2) : 100-6.(1iiDi)


CQ6

自家造血幹細胞移植における移植後の地固め・維持療法は生存期間を延長させるか


推奨グレード
カテゴリー2B
移植後骨髄腫に対する地固め療法・維持療法はサリドマイドによる無増悪生存期間,全生存期間の延長が期待できるが,長期投与による末梢神経障害の懸念がある。レナリドミドは無増悪生存期間を延長するが二次発がんの可能性が示唆されている。

【解 説】

移植適応患者で,自家移植後に新規薬剤による地固め療法,維持療法を行うことで,完全奏効(CR)の獲得や,無増悪生存期間(PFS)の延長が期待できる。自家移植後のサリドマイド(THAL)による地固め・維持療法の第Ⅲ相試験が5 つ報告されている1)〜5)。IFM9902 試験では,THAL 群がプラセボ群に対して無イベント生存期間(3 年EFS:52% vs 36%),全生存期間 (4 年OS:87% vs 77%)ともに優れていた1)。しかし,その効果は最良部分奏効(VGPR)に達していない症例においてのみ認められ,THAL が地固め療法的な役割を果たしていると考えられる。MRC Myeloma IX 試験でも同様の結果であるがOS に差はみられていない2)。ALLGMM6 試験では12 カ月のTHAL/PSL とPSL 単独との比較で,3 年EFS(42% vs 23%),OS(86% vs 75%)ともにTHAL 群が優れていた3)。TT2 試験では寛解導入から継続的にTHAL が投与されているが,EFS はTHAL 群が優れ,8 年OS はTHAL 群が優れる傾向がみられた(57% vs 44%)4)。HOVON 試験でもPFS はTHAL 群が優れる(34 カ月vs 25 カ月)がOS では有意差はみられなかった(73 カ月vs 60 カ月)5)。いずれの試験でもTHAL の長期投与による副作用として末梢神経障害が中止理由の一つとなっており,NCCN ガイドラインではcategory 1 として推奨しているが,必ずしも広く受け入れられる状況ではない。

一方,レナリドミド(LEN)については,IFM2005-02 試験,CALGB100104 試験でPFS の延長がみられ維持療法としての有効性が報告された6)7)。さらにCALGB100104 試験でOS の延長も報告されたが,一方で二次発がんが上昇するとの報告がある6)7)。この点が明確になるまで維持療法としての使用は慎重を要する。

ボルテゾミブ(BOR)についてはTHAL との比較が行われているが,各群で寛解導入療法が異なり維持療法としての評価は困難である8)

【参考文献】

1) Attal M, et al. Maintenance therapy with thalidomide improves survival in patients with multiple myeloma. Blood. 2006 ; 108(10) : 3289-94.(1iiDi/1iiA

2) Morgan GJ, et al. The role of maintenance thalidomide therapy in multiple myeloma : MRC Myeloma IX results and meta-analysis. Blood. 2012 ; 119(1) : 7-15.(1iiDiii)

3) Spencer A, et al. Consolidation therapy with low-dose thalidomide and prednisolone prolongs the survival of multiple myeloma patients undergoing a single autologous stem-cell transplantation procedure. J Clin Oncol. 2009 ; 27(11) : 1788-93.(1iiA)

4) Barlogie B, et al. Thalidomide arm of Total Therapy 2 improves complete remission duration and survival in myeloma patients with metaphase cytogenetic abnormalities. Blood. 2008 ; 112(8) : 3115-21.(1iiDi)

5) Lokhorst HM, et al. A randomized phase 3 study on the effect of thalidomide combined with adriamycin, dexamethasone, and high-dose melphalan, followed by thalidomide maintenance in patients with multiple myeloma. Blood. 2010 ; 115(6) : 1113-20.(1iiDi/1iiDiii

6) Attal M, et al. Lenalidomide maintenance after stem-cell transplantation for multiple myeloma. N Engl J Med. 2012 ; 366(19) : 1782-91.(1iiDiii)

7) McCarthy PL, et al. Lenalidomide after stem-cell transplantation for multiple myeloma. N Engl J Med. 2012 ; 366(19) : 1770-81.(1iiDiii/1iiA

8) Sonneveld P, et al. Bortezomib induction and maintenance treatment in patients with newly diagnosed multiple myeloma : Results of the randomized phase Ⅲ HOVON-65/GMMG-HD4 trial. J Clin Oncol. 2012 ; 30(24) : 2946-55.(1iiDiii/1iiA


CQ7

若年者症候性骨髄腫患者に対するタンデム自家/ 同種(ミニ)移植はタンデム自家/ 自家移植と比べて生存期間を延長させるか


推奨グレード
カテゴリー3
若年者症候性骨髄腫患者において,タンデム自家/ 同種(ミニ)移植はタンデム自家/ 自家移植と比べて優れているとの十分な根拠はなく研究的治療である。

【解 説】

若年者骨髄腫において,タンデム自家/同種(ミニ)移植とタンデム自家/自家移植を比較した試験が5 つ行われている1)〜6)。このうち,イタリアの試験2)とEuropean Group for Blood and Marrow Transplantation(EMBT)の試験4)でタンデム自家/同種(ミニ)移植の有用性が報告されているが,IFM の試験1)およびもっとも大規模な米国からの報告5)6)では両群間で有意差がみられていない。対象や同種移植における前処置が試験により異なるが,タンデム自家/同種(ミニ)移植が無イベント生存期間(EFS),全生存期間(OS)ともに優れていたとするイタリアからの報告では同種移植前処置がTBI 2 Gy となっている2)6)。しかし,同様の前処置で行われた米国からの大規模試験の報告では標準リスク,高リスク群いずれにおいてもタンデム自家/自家移植と同等の成績であった5)。EBMT からの報告では移植前処置はフルダラビン(FLU)+TBI 2 Gy であり,自家移植群はシングルあるいはタンデムであったが,PFS,OS ともにタンデム自家/同種(ミニ)移植が優れていた4)。一方,PTHEMA 試験では自家移植後near CR に到達しなかった症例をHLA一致同胞の有無でランダム化しているが,同種移植群で高いCR 率とPFS のPFS の延長がみられたもののOS には有意差がなかった3)。以上より,タンデム自家/同種(ミニ)移植がタンデム自家/自家移植よりOS において優れているとは言えない。

【参考文献】

1) Garban F, et al. Prospective comparison of autologous stem cell transplantation followed by dose-reduced allograft(IFM99-03 trial) with tandem autologous stem cell transplantation(IFM99-04) in high-risk de novo multiple myeloma. Blood. 2006 ; 107(9) : 3474-80.(2Div)

2) Bruno B, et al. A comparison of allografting with autografting for newly diagnosed myeloma. N Engl J Med. 2007 ; 356(11) : 1110-20.(2A)

3) Rosiñol L, et al. A prospective PETHEMA study of tandem autologous transplantation versus autograft following by reduced-intensity conditioning allogeneic transplantation in newly diagnosed multiple myeloma. Blood. 2008 ; 112(9) : 3591-3.(2Div)

4) Björkstrand B, et al. Tandem autologous/reduced-intensity conditioning allogeneic stem-cell transplantation versus autologous transplantation in myeloma : Long-term follow-up. J Clin Oncol. 2011 ; 29 (22) : 3016-22.(2Diii/2A

5) Krishnan A, et al. Autologous haemopoietic stem-cell transplantation followed by allogeneic or autologous haemopietic stem-cell transplantation in patients with multiple myeloma (BMT CTN 0102) : a phase 3 biological assignment trial. Lancet Oncol. 2011 ; 12(13) : 1195-203.(2A)

6) Giaccone L, et al. Long-term follow-up of a comparison of nonmyeloablative allografting with autografting for newly diagnosed myeloma. Blood. 2011 ; 117(24) : 6721-7.(2A)


【移植非適応の初発症候性骨髄腫】

CQ1

移植非適応の初発症候性骨髄腫患者に対する新規薬剤併用療法はMP 療法に比べて生存期間を延長させるか


推奨グレード
カテゴリー1
MP 療法に新規薬剤(サリドマイド,ボルテゾミブ,レナリドミド)を併用した治療がMP 療法に比べて無増悪生存期間を延長するので推奨される。

【解 説】

移植非適応の初発症候性骨髄腫患者に対する寛解導入療法は,従来MP 療法(MEL, PSL)が標準療法であった。しかし,サリドマイド(THAL)やボルテゾミブ(BOR)などの新規薬剤が開発され,MP 療法に併用する臨床研究が行われた。THAL に関しては,4 つのMPT 療法(MP+THAL)とMP 療法のランダム化比較試験が行われた(GIMEMA,IFM,NMSG,HOVON)1)〜4)。MPT 療法は,すべての試験で全奏効割合の優位性が,また3 つの試験で無増悪生存期間(PFS)の優位性が示されたが,全生存期間(OS)の優位性が示された試験はIFM 試験のみであった。重大な合併症である深部静脈血栓症の予防は必須である。BOR に関しては,VISTA 試験において,MPB 療法(MP+BOR)がMP 療法に比し,全奏効割合,PFS,およびOS が有意に良い成績であった5)。update された結果では,3 年生存割合が68.5%と高く,また年齢,腎障害の有無,予後不良染色体[t (4;14),t (14;16),del (17p)]の有無にも影響されなかった。レナリドミド(LEN)に関しては,MM-015 試験において,MPL 療法(MP+LEN)がMP 療法に比し,奏効の速さ,全奏効割合,奏効の質ともに有意に良い成績であった。また,65〜75 歳の患者においてはPFS も有意に良かったが,75 歳以上の患者では差はなかった6)。以上より,特にMPT 療法とMPB 療法はPFS を有意に延長し,患者QOL の向上に寄与することが期待できるため推奨される。

【参考文献】

1) Palumbo A, et al. Oral melphalan and prednisone chemotherapy plus thalidomide compared with melphalan and prednisone alone in elderly patients with multiple myeloma : randomised controlled trial. Lancet. 2006 ; 367(9513) : 825-31.(1iiDiii)

2) Facon T, et al. Melphalan and prednisone plus thalidomide versus melphalan and prednisone alone or reduced-intensity autologous stem cell transplantation in elderly patients with multiple myeloma(IFM 99-06) : a randomized trial. Lancet. 2007 ; 370(9594) : 1209-18.(1iiA)

3) Waage A , et al. Melphalan and prednisone plus thalidomide or placebo in elderly patients with multiple myeloma. Blood. 2010 ; 116(9) : 1405-12.(1iDiv)

4) Wijermans P, et al. Phase Ⅲ study of the value of thalidomide added to melphalan plus prednisone in elderly patients with newly diagnosed multiple myeloma : The HOVON 49 study. J Clin Oncol. 2010 ; 28(19) : 3160-6.(1iiDiii)

5) San Miguel JF, et al. Bortezomib plus melphalan and prednisone for initial treatment of multiple myeloma. N Engl J Med. 2008 ; 359(9) : 906-17.(1iiDiii/1iiA

6) Palumbo A et al. Continuous lenalidomide treatment for newly diagnosed multiple myeloma. N Engl J Med. 2012 ; 366(19) : 1759-69.(1iiDiii)


CQ2

移植非適応の初発症候性骨髄腫患者に対して初回化学療法によってプラトーに到達した後も再発・再燃まで化学療法を継続すべきか


推奨グレード
カテゴリー4
化学療法をプラトー後に継続しても生存期間の延長には寄与しないため,推奨されない。

【解 説】

多発性骨髄腫に対してMP 療法(MEL, PSL)を中心とした初回寛解導入療法で30〜80%の症例に部分寛解以上の奏効が得られるが1)2),奏効後,M 蛋白が下がり止まって安定化(最大奏効時のM 蛋白量からの増減が25%以内に留まる状態が3 カ月以上持続し,その間臓器障害の進行を認めないことをプラトーという)した症例も早晩再発・再増悪する。そこで,プラトー症例に対して治療を継続した場合と,中断して再発・再増悪時に再開した場合では,どちらが生存期間延長に寄与するかは重要である。MRC(Medical Research Council)の報告では,MP 療法およびMP+ビンクリスチン(VCR)療法により寛解導入療法を受けた268 例中,226 例がプラトーに達した。これらを治療中止群111 例と継続群115 例に無作為割り付けし生存期間を比較したが,有意差は認めなかった3)。また,カナダの報告では,MP 療法後にプラトーに達した185 例を治療中止群92 例と継続群93 例に無作為割り付けしたが,それぞれの生存期間中央値は51 カ月と46 カ月で有意差は認めなかった4)。また,アルキル化剤による治療は,二次発がん,特に急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群をきたすことがある5)。その発がん率はアルキル化剤の投与期間に相関するとの報告もある6)。これらの結果より,プラトー到達後の化学療法の継続は推奨できない。

ただし,新規薬剤を含む治療レジメンでは至適投与期間に関するエビデンスはない。したがって,例えばMPB 療法(MEL, PSL, BOR)の場合には,pivotal study であるVISTA 試験で実施されたコース数である9 コースの実施を推奨している。

【参考文献】

1) Cohen HJ, et al. Comparison of two long-term chemotherapy regimens, with or without agents to modify skeletal repair, in multiple myeloma. Blood. 1984 ; 63(3) : 639-48.(1iiA)

2) Boccadoro M, et al. Multiple myeloma : VMCP/VBAP alternating combination chemotherapy is not superior to melphalan and prednisone even in n high risk patients. J Clin Oncol. 1991 ; 9(3) : 444-8.(1iiA)

3) Medical Research Council working Party on Leukemia in Adults. Objective evaluation of the role of vincristine in induction and maintenance therapy for myelomatosis. Br J Cancer. 1985 ; 52(2) : 153-8.(1iiA)

4) Belch A, et al. A randomized trial of maintenance versus no maintenance melphalan and prednisone in responding multiple myeloma patients. Br J Cancer. 1988 ; 57(1) : 94-9.(1iiA)

5) Bergsagel DE, et al. The chemotherapy on plasma-cell myeloma and the incidence of acute leukemia. N Engl J Med. 1979 ; 301(14) : 743-8.

6) Cuzick J, et al. A comparison of the incidence of the myelodysplastic syndrome and acute leukemia following melphalan and cyclophosphamide treatment for myelomatosis. A report to the Medical Research Council's working party on leukaemia in adults. Br J Cancer. 1987 ; 55(5) : 523-9.


CQ3

高齢骨髄腫患者にデキサメタゾンを投与する場合は少量投与法が推奨されるか


推奨グレード
カテゴリー1
少量デキサメタゾン療法は,大量デキサメタゾン療法に比べて副作用が少なく,生存期間も延長させるので推奨される。

【解 説】

初発症候性骨髄腫患者に対するデキサメタゾン(DEX)投与量の比較は,レナリドミド(LEN)に大量DEX 療法と少量療法を併用したECOG E4A03 試験で行われた。LEN は25 mg を21 日間経口投与し,1 週間休薬した。大量DEX 療法では,従来通り40 mg を第1〜4 日,第9〜12 日,第17〜20 日に投与し,少量療法では,40 mg を第1,8,15,22 日に投与した。そこで,1 カ月のDEX 総投与量は1/3 となる。1 年の中間解析時点で,少量療法の生存割合は96%で,大量療法群の87%に比して有意に良好であった。特に,65 歳以上の高齢者では,少量療法の94%は,大量療法の83%に比し有意に良好であった。これは,大量療法群では感染症を中心とした有害事象による死亡が多かったことによる1)。また,移植非適応例に対するMP 療法(MEL, PSL)とTD 療法(THAL,DEX)のランダム化比較試験の結果が報告されている。MP 療法では,MEL 0.25 mg/kg,PSL 2 mg/kg の4 日間投与を28〜42 日サイクルで投与した。TD 療法では,THAL 200 mg 連日,DEX 40 mg の第1〜4 日,15〜18 日投与を28 日サイクルで投与した。TD 療法の全奏効割合は,MP 療法に比し有意に高かったが(68% vs 50%),無増悪生存期間(PFS)は同等で,全生存期間(OS)は有意に短かった(41.5 カ月 vs 49.4 カ月)。これは有害事象がTD 群で有意に多く,特に75 歳以上の高齢者で発現頻度が高かったためである2)。以上より,高齢多発性骨髄腫患者には少量DEX 療法が推奨される。

【参考文献】

1) Rajkumar SV, et al. Lenalidomide plus high-dose dexamethasone versus lenalidomide plus low-dose dexamethasone as initial therapy for newly diagnosed multiple myeloma : an open-label randomized controlled trial. Lancet Oncol. 2010 ; 11(1) : 29-37.(1iiDiv/1iiA

2) Ludwig H, et al. Thalidomide-dexamethasone compared with melphalan-prednisolone in elderly patientas with multiple myeloma. Blood. 2009 ; 113(15) : 3435-42.(1iiDiii/1iiA


【再発・難治性骨髄腫】

CQ1

再発・難治性骨髄腫患者に対する新規薬剤療法は大量デキサメタゾン療法に比べて生存期間を延長させるか


推奨グレード
カテゴリー1
再発・難治性骨髄腫患者に対する新規薬剤療法は,大量デキサメタゾン療法と比較し,無増悪生存期間や生存期間を延長させるので推奨される。

【解 説】

再発・難治性多発性骨髄腫の治療においては, サリドマイド(THAL) やボルテゾミブ(BOR),レナリドミド(LEN)などの新規薬剤が導入され,治療成績の向上が報告されている。これまでに,BOR 単剤療法とLEN+大量DEX 併用療法は大量DEX 療法との第Ⅲ相比較試験が行われており,その有用性が示されている。

BOR 療法と大量DEX 療法とを比較したAPEX 試験では,部分奏効(PR)以上の全奏効割合(38% vs 18%,p<0.001),無増悪生存期間(PFS)の中央値(6.22 カ月 vs 3.49 カ月,p<0.001),1 年生存率(80% vs 66%,p=0.003)においてBOR 群が有意に優れていた1)。その後の追跡調査においては,BOR 群の全奏効割合が43%に上昇していることが明らかにされ,生存期間の中央値(29.8 カ月 vs 23.7 カ月,p=0.027),1 年生存割合(80% vs 67%,p=0.001)において大量DEX 群よりも有意に優れていることが確認された2)

LEN についてはLEN+大量DEX 併用療法がプラセボ+大量DEX 療法群と比較された(MM-009 試験,MM-010 試験)。2 つの試験の成績はほぼ同等で,全奏効割合やPFS,全生存期間(OS)においてLEN+大量DEX 併用療法群が有意に優れていた3)4)。その後の追跡調査の結果においても,LEN 群は全奏効割合(60.6% vs 21.9%,p<0.001),完全奏効割合(15.0% vs 2.0%,p<0.001),PFS(中央値13.4 カ月 vs 4.6 カ月,p<0.001),奏効期間(中央値15.8 カ月 vs 7.0 カ月,p<0.001)において有意に優れていることが明らかにされた5)。また,DEX 群では増悪時にLEN 治療が施行されたにもかかわらず,LEN 群の方がOS において有意に優れていた(中央値38.0 カ月 vs 31.6 カ月,p=0.045)5)

【参考文献】

1) Richardson PG, et al. Bortezomib or high-dose dexamethasone for relapsed multiple myeloma. N Engl J Med. 2005 ; 352(24) : 2487-98.(1iiA)

2) Richardson PG, et al. Extended follow-up of a phase 3 trial in relapsed multiple myeloma : final time-to-event results of the APEX trial. Blood. 2007 ; 110(10) : 3557-60.(1iiA)

3) Weber DM, et al. Lenalidomide plus dexamethasone for relapsed multiple myeloma in North America. N Engl J Med. 2007 ; 357(21) : 2133-42.(1iA)

4) Dimopoulos M, et al. Lenalidomide plus dexamethasone for relapsed or refractory multiple myeloma. N Engl J Med. 2007 ; 357(21) : 2123-32.(1iA)

5) Dimopoulos MA, et al. Long-term follow-up on overall survival from the MM-009 and MM-010 phase Ⅲ trials of lenalidomide plus dexamethasone in patients with relapsed or refractory multiple myeloma. Leukemia. 2009 ; 23(11) : 2147-52.(1iA)


CQ2

再発・難治骨髄腫患者に対する新規薬剤を含む併用療法は新規薬剤の単剤療法に比べて高い効果が期待できるか


推奨グレード
カテゴリー2A
再発・難治例に対する新規薬剤を含む併用療法は,新規薬剤の単剤療法と比較し,より高い奏効割合をもたらすが,毒性の増強が認められることなどに留意すべきであろう。生存期間の延長効果については今後の検討を待つ必要がある。

【解 説】

再発・難治例に対する新規薬剤としてボルテゾミブ(BOR),サリドマイド(THAL),レナリドミド(LEN)が使用されている。これらの新規薬剤は,単剤療法よりもデキサメタゾン(DEX)との併用療法として用いられ,高い奏効割合が報告されてきた。さらに,欧米ではこれらの新規薬剤とシクロホスファミド(CPA)やpegylated liposomal doxorubicin(PLD)などとの併用も試みられており,より高い奏効割合が得られている。

BOR においては,BOR+PLD との併用とBOR 単剤との第Ⅲ相比較試験が行われ,BOR+PLD 群における無増悪期間(TTP)の有意な延長(中央値で9.3 カ月vs 6.5 カ月,p=0.000004)と生存期間の延長(15 カ月の生存割合で76% vs 65%,p=0.03)が認められているが,同時にgrade 3 以上の有害事象の増加(80% vs 64%)も示されている1)。一方,BOR+DEX+CPA の併用療法のうち,CPA 50 mg/day(連日)の併用においては,全奏効割合(CR+PR+MR)は90%で,生存期間の中央値は22 カ月と良好な成績であった2)。また,CPA 500 mg/day(days 1, 8, 15)の併用療法(BOR+CPA+DEX)の後方視的解析では,全奏効割合(CR+PR)は75%に達し,BOR 単剤の27%,BOR+DEX の47%に対しての上乗せ効果が認められた3)

THAL においては,THAL+DEX+PLD(ThalDD)療法とTHAL+DEX(TD)療法の比較が行われており,全奏効割合はTD 群の63.5%に対し,ThalDD 群では92%と有意な改善を認めた(p<0.0001)4)。また,生存期間については中央値35.5 カ月vs 20 カ月とThalDD 群において有意な延長を認めた(p=0.0124)。

LEN においては,LEN+ドキソルビシン(DXR)+DEX(LAD)療法の第Ⅰ/Ⅱ相試験が行われ,全奏効割合は73%と優れていた5)。また,LEN+CPA(600 mg をday1, 8 に投与)+DEX の併用療法の第Ⅰ/Ⅱ相試験が行われており,全奏効割合は81%で30 カ月の全生存割合は80%であったことが報告された6)

このように,再発・難治性骨髄腫に対して新規薬剤とDEX や他の化学療法剤との併用療法が検討されており,その奏効割合や無増悪期間の向上が期待できる。しかし,併用によって毒性の増強が示されていること,また生存期間延長効果の有無については未確定であることから,現時点ではリスクとベネフィットを考慮した選択がなされるべきであろう。

【参考文献】

1) Orlowski RZ, et al. Randomized phase Ⅲ study of pegylated liposomal doxorubicin plus bortezomib compared with bortezomib alone in relapsed or refractory multiple myeloma : combination therapy improves time to progression. J Clin Oncol.2007 ; 25(25) : 3892-901.(1iiA)

2) Kropff M, et al. Bortezomib in combination with intermediate-dose dexamethasone and continuous low-dose oral cyclophosphamide for relapsed multiple myeloma. Br J Haematol. 2007 ; 138 (3) : 330-7.(3iiiDiii)

3) Davies FE, et al. The combination of cyclophosphamide, velcade and dexamethasone induces high response rates with comparable toxicity to velcade alone and velcade plus dexamethasone. Haematologica. 2007 ; 92(8) : 1149-50.(3iiiDiv)

4) Offidani M, et al. Thalidomide-dexamethasone plus pegylated liposomal doxorubicin vs. thalidomidedexamethasone : a case-matched study in advanced multiple myeloma. Eur J Haematol. 2007 ; 78(4) : 297-302.(3iiiA)

5) Knop S, et al. Lenalidomide, adriamycin, and dexamethasone(RAD) in patients with relapsed and refractory multiple myeloma : a report from the German Myeloma Study Group DSMM (Deutsche Studiengruppe Multiples Myelom). Blood. 2009 ; 113(18) : 4137-43.(3iiiDiv)

6) Schey SA, et al. The addition of cyclophosphamide to lenalidomide and dexamethasone in multiply relapsed/refractory myeloma patients ; a phase T/Ⅱ study. Br J Haematol. 2010 ; 150(3) : 326-33.(3iiiDiv)


CQ3

再発・難治性骨髄腫患者に対する自家造血幹細胞移植や同種造血幹細胞移植は生存期間を延長させるか


推奨グレード
カテゴリー2B
再発・難治性骨髄腫患者に対する自家造血幹細胞移植は適切な患者選択を行うことで生存期間の延長が期待できる。

推奨グレード
カテゴリー2B
同種造血幹細胞移植においては無増悪生存期間の延長が認められるが,生存期間の延長は明らかでない。

【解 説】

自家造血幹細胞移植の有効性は,初回化学療法に感受性を有する例と化学療法に抵抗例との比較において,1 年無増悪生存割合(PFS)では化学療法感受性群が83%,治療抵抗群が70%と有意差を認めなかった(p=0.65)1)。また,全生存期間(OS)においても有意差を認めなかったことから,自家移植は化学療法治療抵抗性例においても有効な治療法であると考えられる。また,初回自家移植後再発例に対する2 回目の自家移植の有効性は,再発後化学療法のみの群と比較すると,4 年生存割合は32% vs 22%で自家移植群において有意に優れていた(p<0.0001)2)。さらに,この検討では年齢55 歳未満,初診時β2 ミクログロブリン2.5 mg/L 未満,初回移植後の奏効期間が9 カ月以上,初回移植後の深い寛解例において,2 回目の自家移植による無増悪期間(TTP)やOS の延長効果が認められており,再発例における自家移植の意義が示されている。

一方,同種移植においては,近年,移植前処置を骨髄非破壊的にすることで,治療関連死亡(TRM)が減少してきている。自家移植後の再発169 例において,移植ドナーの有無によりその後の経過を比較した報告では,ドナーを有した75 例中68 例が骨髄非破壊的同種移植を施行し,2 年PFS ではドナーを有した群が42%,ドナーを有さなかった群が18%で,同種移植群が有意に優れていた(p<0.0001)3)。しかしながら,2 年生存割合ではドナーを有した群が54%に対し,ドナーを有さなかった群が53%と有意差はなかった(p=0.329)。同様に,自家移植後再発例における骨髄非破壊的同種移植のHLA 適合度による比較では,1 年後の非再発死亡率はHLA 非適合群の53%に対し,HLA 適合群では10%と有意に優れていた(p=0.001)4)。このように,骨髄非破壊的同種移植についてはTTP の延長効果が示されたものの,生存期間の延長効果については明らかにされていない。今後,HLA 適合ドナーの選択や移植後治療の進歩により,さらなる成績の向上が期待される。

【参考文献】

1) Kumar S, et al. High-dose therapy and autologous stem cell transplantation for multiple myeloma poorly responsive to initial therapy. Bone Marrow Transplant. 2004 ; 34(2) : 161-7.(3iiiDiii)

2) Cook G, et al. Factors infl uencing the outcome of a second autologous stem cell transplant(ASCT) in relapsed multiple myeloma : a study from the British Society of Blood and Marrow Transplantation Registry. Biol Blood Marrow Transplant. 2011 ; 17(11) : 1638-45.(3iiiA)

3) Patriarca F, et al. Allogeneic Stem Cell Transplantation in Multiple Myeloma Relapsed after Autograft : A Multicenter Retrospective Study Based on Donor Availability. Biol Blood Marrow Transplant. 2012 ; 18(4) : 617-26.(3iiiDiii)

4) Kröger N, et al. Unrelated stem cell transplantation after reduced intensity conditioning for patients with multiple myeloma relapsing after autologous transplantation. Br J Haematol. 2010 ; 148 (2) : 323-31.(3iiiDiii)


【骨髄腫の合併症と治療関連毒性に対する支持療法】

CQ1

骨病変を有する患者に対するビスホスホネート製剤の投与は骨関連事象の発生を抑制するか


推奨グレード
カテゴリー1
骨病変を有する骨髄腫患者に対するゾレドロン酸の2 年間にわたる反復継続投与は,骨髄腫骨病変に伴う骨痛の緩和とともに骨折など骨関連事象の発現抑制効果を認めるため推奨される。

【解 説】

D/S 第Ⅲ臨床病期で骨融解病変を有する患者に,化学療法に加えてパミドロネート90 mg を4 週毎に9 回にわたり点滴静注した群では,骨関連事象の出現頻度はプラセボ群の41%に対し24%にまで低下した1)。骨痛の減少も得られ,進行期骨髄腫患者においてQOL の改善効果が示された。さらに,第Ⅲ臨床病期で骨融解病変を有する患者に,化学療法に加えてパミドロネート90 mg を4 週毎に21 回点滴静注した長期観察において,21 カ月の時点での高Ca 血症を除く骨関連事象の出現割合は,プラセボ群の51%に対しパミドロネート群では38%と低値であった2)。次いで,骨病変を有する第Ⅲ臨床病期の骨髄腫と乳癌患者に対し,3〜4 週毎12 カ月間の投与でゾレドロン酸4 mg の15 分静脈内投与がパミドロネートの90 mg の2 時間点滴静注と同等の臨床効果を示すことが報告された3)。また,25 カ月間の投与でゾレドロン酸4 mg の15 分静脈内投与は,パミドロネート90 mg の2 時間点滴静注と同様の臨床効果を示し,腎障害出現等の安全性に問題はなく忍容性が確認された4)。ゾレドロン酸群ではパミドロネート群に比べ骨関連事象の出現が16%減少しており,ゾレドロン酸の有用性が確認された4)

これらの臨床試験ではいずれも,第Ⅲ臨床病期で骨融解病変を有する患者を対象とし,PS が3 以上,12 mg/dl 以上の高カルシウム血症あるいは血清クレアチニン値が3 mg/dl を超える腎障害などを有する全身状態の低下している患者は除外されている。また,ゾレドロン酸の投与群にはカルシウムやビタミンD を併用していることにも注意が必要である。したがって,ゾレドロン酸の投与対象患者,開始時期,投与期間や投与方法(維持療法の必要性)などに関しては明確でない部分が多く残されている。現在,新規発症骨髄腫患者に対するゾレドロン酸とクロドロネートの長期投与の効果を比較する大規模臨床試験(MRC Myeloma \ trial)が英国で進行中である5)。すでに本試験においては,クロドロネート投与群に対するゾレドロン酸投与群の無増悪生存期間(PFS)(HR=0.88:0.80-0.98,p=0.0179)および全生存期間(HR=0.84:0.74-0.96,p=0.0118)の延長効果に関する優越性についても示されている。

【参考文献】

1) Berenson JR, et al. Efficacy of pamidronate in reducing skeletal events in patients with advanced multiple myeloma. N Engl J Med. 1996 ; 334(8) : 488-93.(1iC)

2) Berenson JR, et al. Long-term pamidronate treatment of advanced multiple myeloma patients reduces skeletal events. J Clin Oncol. 1998 ; 16(2) : 593-602.(1iC)

3) Rosen LS, et al. Zoledronic acid versus pamidronate in the treatment of skeletal metastases in patients with breast cancer or osteolytic lesions of multiple myeloma : a phase Ⅲ, double-blind, comparative trial. Cancer J. 2001 ; 7(5) : 377-87.(1iC)

4) Rosen LS, et al. Long-term efficacy and safety of zoledronic acid compared with pamidronate disodium in the treatment of skeletal complications in patients with advanced multiple myeloma or breast carcinoma : a randomized, double-blind, multicenter, comparative trial. Cancer. 2003 ; 98(8) : 1735-44.(1iC)

5) Morgan GJ, et al. First-line treatment with zoledronic acid as compared with clodronic acid in multiple myeloma(MRC Myeloma \) : a randomised controlled trial. Lancet. 2010 ; 376(9757) : 1989-99.(1iiA)


CQ2

骨病変を有する患者に対するデノスマブの投与は骨関連事象の発生を抑制するか


推奨グレード
カテゴリー2B
骨病変を有する骨髄腫患者に対するデノスマブの投与は,ゾレドロン酸と同等の骨関連事象の発現抑制効果を認め,推奨される。しかし,生存期間に関してはゾレドロン酸に匹敵する効果が示されておらず,腎障害等によりゾレドロン酸の投与が困難な患者に限定して使用することが推奨される。

【解 説】

破骨細胞の形成・機能は,間質細胞や骨芽細胞に誘導される破骨細胞分化因子(receptor activator of nuclear factor-κB ligand:RANKL) と, そのおとり受容体で阻害因子であるosteoprotegerin とのバランスにより調節されている。骨髄腫では骨髄内でRANKL の発現が亢進し,osteoprotegerin の発現が低下している。デノスマブはRANKL に対する完全ヒト化モノクローナル抗体で,RANKL に結合することによりRANKL の作用を阻害し,骨吸収を強力に抑制する。

画像上,少なくとも1 ヶ所以上の溶骨性病変を有するビスホスホネート製剤の治療歴のない骨髄腫患者に対し,ゾレドロン酸4 mg の点滴静注またはデノスマブ120 mg 皮下注を4 週ごとに行う群に無作為に割り付けた二重盲検第Ⅲ相臨床試験(ゾレドロン酸群93 例,デノスマブ群87 例)では,初回骨関連事象発症までの期間は差がなく,デノスマブとゾレドロン酸の骨関連事象の発現抑制効果は同等と考えられた1)。また,忍容性や顎骨壊死の発症も同等であった。デノスマブは,投与経路が皮下注射と簡便で,ゾレドロン酸と比較し発熱や関節痛などの急性反応が少なく腎機能にも影響を与えにくいという利点を有する。しかし,治療開始早期から低カルシウム血症が起こりやすいため,カルシウムおよびビタミンD の補充が推奨されている。全生存割合(OS)においてはデノスマブ群がゾレドロン酸群に比べ劣っているという結果であった。本試験では解析患者数が少なく,予後に影響を与えるリスク因子や治療内容を加味した割り付けも行われていないとの指摘があり,現在進行中の骨髄腫患者に対する国際共同大規模第Ⅲ相臨床試験で再度,より詳細に解析される予定である。

【参考文献】

1) Henry DH, et al. Randomized, double-blind study of denosumab versus zoledronic acid in the treatment of bone metastasis in patients with advanced cancer (excluding breast and prostate cancer) or multiple myeloma. J Clin Oncol. 2011 ; 29(9) : 1125-32.(1iC)


CQ3

ビスホスホネート製剤を投与する患者に対する口腔内予防処置は顎骨壊死の発生を抑制するか


推奨グレード
カテゴリー2A
静脈注射用ビスホスホネートの投与前に歯科医師による口腔内のチェックを受け必要な歯科処置をまず行い,投与開始後は口腔内ケアを行うとともに侵襲的歯科処置を避け,担当医の許可なく歯科治療を受けないようにすることにより,ビスホスホネート関連顎骨壊死(BRONJ)発生が抑制される。

【解 説】

顎骨壊死の発症の頻度,特徴,危険因子を明らかにする目的で,1997 年以降ビスホスホネートを投与されている骨髄腫と骨転移を有する患者252 例を2003 年より追跡調査した報告では,全体で17 例(6.7%),うち骨髄腫患者では111 例中11 例(9.9%)に顎骨壊死が発症していた1)。顎骨壊死を発症した患者のビスホスホネートの投与回数は平均35 回であり,13 回の投与まででは発症者はいなかった。ゾレドロン酸の継続投与群ではパミドロネート群に比べ有意に発症者が多かった。また,ビスホスホネート関連顎骨壊死(bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw:BRONJ)は,静脈注射用ビスホスホネートの投与を受けた癌患者がほとんどである。BRONJ の多くが抜歯等の歯科処置や局所感染に関連して発現しており,ビスホスホネートの投与回数,総投与量が多くなると発症頻度は増加している。

口腔内予防処置として,①ゾレドロン酸の投与前に歯科医師による口腔内のチェックを受け,必要な歯科処置を行う,②侵襲的歯科処置の場合は処置後6〜8 週後に創傷の治癒が確認された場合にゾレドロン酸の投与を開始する,③ゾレドロン酸の投与開始後は口腔内ケアを十分に行い,担当医の許可なく歯科を受診し治療を受けないようにすることを行うと,ゾレドロン酸を長期に使用(6 回以上)している骨髄腫患者でBRONJ の発症は1/3 以下に減少し,重症例(stage 3)はなかったと報告されている2)。BRONJ は治癒が非常に困難な疾患と考えられていたが,BRONJ が治癒しなかった症例は24%で,12%が改善後再燃,62%が改善・治癒しているとの報告がある3)。また,治癒した12 例にビスホスホネートが再開され,6 例にBRONJ が再び発症している。

新規発症骨髄腫患者に対するゾレドロン酸とクロドロネートの長期投与の効果を比較する大規模臨床試験(MRC Myeloma Ⅸ trial)が英国で実施されたが,本試験では口腔内予防措置が行われた。本試験の中間報告4)では,口腔内予防措置を行っても年間約4%の患者にONJ が発生しているため,予防措置に加え注意深い観察とBRONJ の早期発見と対応が必要である。

【参考文献】

1) Bamias A, et al. Osteonecrosis of the jaw in cancer after treatment with bisphosphonates : incidence and risk factors. J Clin Oncol. 2005 ; 23(34) : 8580-7.(3iiiC)

2) Dimopoulos MA, et al. Reduction of osteonecrosis of the jaw (ONJ) after implementation of preventive measures in patients with multiple myeloma treated with zoledronic acid. Ann Oncol. 2009 ; 20(1) : 117-20.(3iiiC)

3) Badros A, et al. Natural history of osteonecrosis of the jaw in patients with multiple myeloma. J Clin Oncol. 2008 ; 26(36) : 5904-9.(3iiiC)

4) Morgan GJ, et al. First-line treatment with zoledronic acid as compared with clodronic acid in multiple myeloma(MRC Myeloma \) : a randomised controlled trial. Lancet. 2010 ; 376(9757) : 1989-99.(1iiA)


CQ4

腎障害を有する患者に対する新規薬剤の使用はデキサメタゾン単独投与に比べて腎機能の回復を期待できるか


推奨グレード
カテゴリー2A
腎障害を有する患者に対しボルテゾミブなどの新規薬剤を併用すればデキサメタゾン単独よりも早く高率に腎機能の改善が認められるため推奨される。

【解 説】

腎障害は進行期骨髄腫患者に比較的よくみられる。腎障害は多くの場合,骨髄腫に対する治療が奏効すれば改善するため,骨髄腫に対し積極的に抗腫瘍療法を行うことが大切である。ボルテゾミブ(BOR)などの新規薬剤を併用すればデキサメタゾン(DEX)単独よりも早く高率に腎機能が改善する1)。しかし,BOR により腫瘍崩壊症候群が惹起されると腎障害が悪化する可能性があるので注意を要する。また,サリドマイド(THAL)もごく一部腎排泄されるので,腎障害を有する患者に投与する時には腎機能の変化に注意する。レナリドミド(LEN)そのものには臨床上問題となる腎毒性は少ないと考えられているが,LEN の主要な排泄経路は尿中排泄であるため,腎機能障害を有する患者では血中濃度が増加し,LEN に関連した重篤な血液毒性などの有害事象が起こりやすくなる。そのため,クレアチニンクリアランスに応じて,LEN の推奨初回投与量が設定されている。クレアチニンクリアランス> 60 mL/分の患者では減量の必要はない。ビスホスホネート併用時は腎機能のモニタリングを定期的に行い,腎機能を把握しておく。脱水,高カルシウム血症,NSAIDs などの薬物が腎機能増悪因子となるため,LEN の用量の調節とともにこれらの増悪因子に対する対応が重要である。骨髄腫に対する治療が奏効すると腎障害が改善することが多いため,腎機能に応じた推奨投与量を遵守しLEN をうまく使用することが肝要である。

【参考文献】

1) Kastritis E, et al. Reversibility of renal failure in newly diagnosed multiple myeloma patients treated with high dose dexamethasone-containing regimens and the impact of novel agents. Haematologica. 2007 ; 92(4) : 546-9.(3iiDiv)


CQ5

ボルテゾミブ投与中の患者に対するアシクロビル内服は帯状疱疹の発生率を減少させるか


推奨グレード
カテゴリー2A
ボルテゾミブ投与中の患者に対するアシクロビルの予防内服は帯状疱疹の発生率を減少させるため推奨される。

【解 説】

ボルテゾミブ(BOR)投与中の患者では,帯状疱疹の発症が比較的早期に出現することが指摘されている。特に,デキサメタゾン(DEX)を併用する場合は注意が必要である。BOR 投与により神経障害性疼痛を合併している場合,帯状疱疹の発症は神経障害性疼痛症状を増悪させ,患者の生活の質をさらに低下させる。APEX 試験では,BOR 単剤およびDEX の併用群で331 例中42 例(13%)に帯状疱疹が発現し,DEX 単独群(5%)よりBOR 投与群で帯状疱疹の発症が有意に多かった1)。BOR とMP 療法(MEL, PSL)を併用したVISTA 試験では,MP 療法群に比べBOR 併用群で帯状疱疹の発症が高頻度であった(13% vs 4%)2)。また,アシクロビル(ACV)の予防内服をしなかった250 例では43 例(17.2%)に帯状疱疹が発現したのに対し,予防内服をした90 例では帯状疱疹発現が3 例(3.3%)のみに減少しており,ACV の予防内服により帯状疱疹の発生を減少させることが示された2)。また,ACV 200 mg/日の低用量の予防内服により帯状疱疹の発生を減少させることが示されている3)。しかし,長期間にわたる抗ウイルス薬投与による腎障害や神経障害にも注意が必要である。

【参考文献】

1) Chanan-Khan A, et al. Analysis of herpes zoster events among bertezomib-treated patients in the phase Ⅲ APEX study. J Clin Oncol. 2008 ; 26(29) : 4784-90.(1iiA)

2) San Miguel JF, et al. Bortezomib plus melphalan and prednisone for initial treatment of multiple myeloma. N Engl J Med. 2008 ; 359(9) : 906-17.(1iiA)

3) Aoki T, et al. Efficacy of continuous, daily, oral, ultra-low-dose 200 mg acyclovir to prevent herpes zoster events among bortezomib-treated patients : a report from retrospective study. Jpn J Clin Oncol. 2011 ; 41(7) : 876-81.(3iiiC)


CQ6

ボルテゾミブ投与中の患者に対するボルテゾミブの投与法の変更は末梢神経障害を軽減させるか


推奨グレード
カテゴリー1
適正使用ガイドによるボルテゾミブの用量調節により末梢神経障害の重症化が抑制され,また多剤併用療法においてボルテゾミブの静脈内投与を週2 回から週1 回に減量することや皮下投与に変更することは抗腫瘍効果を低下させずに末梢神経障害を減少させる。

【解 説】

ボルテゾミブ(BOR)静脈内投与の神経障害は,前治療による末梢神経障害の有無に関係なく出現するが,BOR の累積投与量と相関し前治療による末梢神経障害を有する場合は発現頻度が増し重症化しやすい。NCI-CTCAE のグレードにより記載された本剤の適正使用ガイド1)を目安に,日常生活が困難になる前に本剤を減量・中止する。このような処置により,再発骨髄腫患者に対するBOR の第Ⅲ相試験において,91 例のgrade 2 以上の末梢神経障害発現例のうち64%が改善・消失したと報告されている2)。しかしながら,末梢神経障害はBOR の継続投与を困難にしているため,BOR の週2 回と1 回の静脈内投与の有効性と副作用が比較された3)。メルファラン(MEL)+プレドニゾロン(PSL)+BOR+サリドマイド(THAL)療法にBOR+THAL による維持療法を行う群とMEL+PSL+BOR 療法群のうち,BOR の投与を372 例に週1 回,139 例に週2 回行ったところ,全奏効割合は同等であり,3 年の無増悪生存割合(PFS)はそれぞれ50%と47%,全生存割合(OS)はそれぞれ88%と89%と両者に差がなかった。Grade 3 以上の末梢神経障害は週1 回群で8%,週2 回群で28%と有意に週1 回群で減少していた。また,末梢神経障害のためBOR の投与を中止した例は週1 回群で5%,週2 回群で15%であった。次いで,BOR の週2 回投与の皮下注(2.5 mg/mL に溶解)と静脈内投与のランダム化比較試験が実施された4)。既治療1〜3 レジメンを有する再発・難治性骨髄腫患者222 名を対象にしたBOR+デキサメタゾン(DEX)療法において,観察期間中央値11.8 カ月で,全奏効割合は静脈内投与群(74 名)と皮下投与群(148 名) で42% vs 42%,1 年生存割合は76.7% vs 72.6% (p=0.504)と有効性に差はなかった。しかし,末梢神経障害の合併頻度が静脈内投与群と皮下投与群で53% vs 38%(p=0.044),うちgrade 2 以上が41% vs 24%(p=0.012),grade 3 以上が16% vs 6%(p=0.026)と皮下投与群で低頻度であった。このように,多剤併用療法においてBOR の静脈内投与を週2 回から週1 回にすることやBOR を同量皮下投与することは,抗腫瘍効果を低下させずに末梢神経障害を減少させることが示されている。

【参考文献】

1) 第4.0 版ベルケイド®適正使用ガイド. 2011 年9 月作成

2) Richardson PG, et al. Frequency, characteristics, and reversibility of peripheral neuropathy during treatment of advanced multiple myeloma with bortezomib. J Clin Oncol. 2006 ; 24(19) : 3113-20.(3iiiA)

3) Bringhen S, et al. Efficacy and safety of once-weekly bortezomib in multiple myeloma patients. Blood. 2010 ; 116(23) : 4745-53.(3iiA)

4) Moreau P, et al. Subcutaneous versus intravenous administration of bortezomib in patients with relapsed multiple myeloma : a randomized, phase 3, non-inferiority study. Lancet Oncol. 2011 ; 12(5) : 431-440.(1iiDiv)


CQ7

サリドマイド,レナリドミド投与患者に対するアスピリンの内服は深部静脈血栓症の発生を抑制するか


推奨グレード
カテゴリー2A
サリドマイドやレナリドミドを含む併用療法では深部静脈血栓症(DVT)発症の増加が認められ,低用量アスピリン(81〜100mg/日)の予防内服がDVT 発症の予防に推奨される。既存のDVT 発症の危険因子を有する患者ではより厳格な管理が必要である。

【解 説】

骨髄腫患者では深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)の発症が多い傾向がある。DVT をきたしやすい骨髄腫患者の危険因子として,高齢,先行する凝固異常やDVT の既往,エリスロポエチンの使用,高用量デキサメタゾン(DEX)の使用,ドキソルビシン(DXR)を含む併用化学療法,長期臥床,中心静脈カテーテルの使用,腫瘍量が多いこと,および感染や炎症の存在などが指摘されており,このような危険因子があれば,DVT 発症に対する予防策をとることがもともと推奨されていた1)

サリドマイド(THAL)やレナリドミド(LEN)を含む併用療法では静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)発症が増加する。未治療例に対するTHAL とDEX の併用とDEX 単独投与を比較したランダム化比較試験において,DEX 単独投与ではDVT の発症は3%であったが,THAL の併用で17%に増加した2)。再発難治性骨髄腫に対するLEN とDEX の併用とDEX 単独療法を比較したMM009,MM010 試験では,DVT の発症率は,LEN とDEX の併用群のほうがDEX 群より高率であった(それぞれ14.7% vs 3.4%,11.4% vs 4.6%)3)4)。腫瘍量が多いためか新規発症例の方が再発例よりDVT の危険が高く,DVT 発症はTHAL やLEN を含む治療開始後5 カ月以内に多い。THAL やLEN を含む併用療法ではVTE の発症予防に,DVT の発症リスクが低い患者に対しては低用量アスピリン(81〜100 mg/日)の予防内服が,またリスクが高い患者に対しては低分子へパリンの予防投与を治療開始から最低4〜6 カ月間行うことが推奨されている。THAL を含む寛解導入療法(MPBT,BTD あるいはTD)(n=220)の前方視的検討において,低用量アスピリン(100 mg/日)の予防内服がDVT の発症を最初の6 カ月間で6.4%に抑制した5)。なお,MM009,MM010 両試験におけるサブグループ解析では,LEN+DEX 群において血栓症の発症の有無および血栓症予防のための抗血栓療法の有無とOS,TTP などとの相関は認められなかったことが報告されている6)。したがって,上記の血栓症予防対策はLEN による抗腫瘍効果に負の影響は及ぼさないと考えられる。DVT のリスクには人種差があるため,本邦での大規模試験におけるエビデンスが望まれる。

【参考文献】

1) Palumbo A, et al. Prevention of thalidomide- and lenalidomide-associated thrombosis in myeloma. Leukemia. 2008 ; 22(2) : 414-23.(レビュー)

2) Rajkumar SV, et al. Eastern Cooperative Oncology Group. Phase Ⅲ clinical trial of thalidomide plus dexamethasone compared with dexamethasone alone in newly diagnosed multiple myeloma : a clinical trial coordinated by the Eastern Cooperative Oncology Group. J Clin Oncol. 2006 ; 24(3) : 431-6.(1iiA)

3) Weber DM, et al. Lenalidomide plus dexamethasone for relapsed multiple myeloma in North America. N Engl J Med. 2007 ; 357(21) : 2133-42.(1iA)

4) Dimopoulos M, et al. Lenalidomide plus dexamethasone for relapsed or refractory multiple myeloma. N Engl J Med. 2007 ; 357(21) : 2123-32.(1iA)

5) Palumbo A, et al. Aspirin, warfarin, or enoxaparin thromboprophylaxis in patients with multiple myeloma treated with thalidomide : a phase Ⅲ, open-label, randomized trial. J Clin Oncol. 2011 ; 29 (8) : 986-93.(1iiA)

6) Zangari M, et al. Survival Effect of Venous Thromboembolism in Patients With Multiple Myeloma Treated With Lenalidomide and High-Dose Dexamethasone. J Clin Oncol. 2010 ; 28(1) : 132-5.(1iA)


2
  多発性骨髄腫の類縁疾患

【骨の孤立性形質細胞腫・髄外性形質細胞腫】

総論

国際骨髄腫作業部会(International Myeloma Working Group:IMWG)の分類では,骨の孤立性形質細胞腫は,①血清および/または尿中にM 蛋白を検出しない(時に少量のM 蛋白を検出することがある),②単クローン性の形質細胞の増加による1 ヶ所のみの骨破壊,③非病変部の骨髄の所見で骨髄における形質細胞のびまん性増殖がなく多発性骨髄腫に相当しない,④全身骨X 線検査正常および脊椎と骨盤のMRI が正常,および⑤形質細胞の増殖に関連した臓器・組織障害がない(孤立性骨病変以外の臓器障害がない)ことと定義されている1)。また,髄外性形質細胞腫は,①血清および尿にM 蛋白を検出しない(時に少量のM 蛋白を検出することがある),②単クローン性の形質細胞による髄外腫瘤の存在,③正常骨髄,④正常な全身骨所見および⑤臓器障害がないことと定義されている1)。WHO 分類(2008)では骨および骨髄以外から発生した形質細胞腫を髄外性形質細胞腫としている。

髄外性形質細胞腫は鼻腔,副鼻腔,消化管,肺,甲状腺,眼窩,リンパ節などに発生する。80%以上が上部気道や上部消化管に分布し,上部気道では副鼻腔が多い。初発症状や臨床像は腫瘍の発生部位で異なる。孤立性髄外性形質細胞腫の経過は一般に緩慢で,多発性骨髄腫への進展は稀であるが,骨の孤立性形質細胞腫は多発性骨髄腫に進展しやすい。比較的最近の報告では,骨の孤立性形質細胞腫診断後5 年の全生存割合(OS),無病生存割合(DFS)はそれぞれ70%と46%であり,5 年で約半数が多発性骨髄腫へ移行していた2)。多発性骨髄腫へ移行した時期は診断から平均21 カ月であったとされている。いったん多発性骨髄腫へ進展するとその予後は,多発性骨髄腫の予後と同等に悪くなる。一般に多発性骨髄腫への進展が予後を決めると考えられる。また,米国で1998〜2004 年の間に診断された孤立性形質細胞腫患者1,472 例の予後を解析した報告では,若年群ほどOS,疾患特異的生存割合ともに高く,骨の孤立性形質細胞腫と髄外性形質細胞腫の予後を比較するとOS,疾患特異的生存割合ともに骨の孤立性形質細胞腫のほうが低値である3)。疾患特異的生存割合は,骨の孤立性形質細胞腫が50%,髄外性形質細胞腫が80%でプラトーになっており,両病型の間で治癒率に大きな差があることが示されている。

局所療法として放射線療法と外科的切除が主に行われる。また,病変の部位や治療経過により化学療法も検討される。一般に放射線感受性が高い腫瘍と考えられているが,症例が少ないこともあり放射線療法の至適照射量などの十分な検討が少なく,標準的治療法は確立されていない。予後良好因子として,若年者および腫瘍径5 cm 未満であること4)が,また多発性骨髄腫への進展を示唆する因子として,診断時の腫瘍の大きさや蛋白分画でのM 蛋白の存在等が挙げられている5)

【参考文献】

1) International Myeloma Working Group. Criteria for the classification of monoclonal gammopathies, multiple myeloma and related disorders : a report of the International Myeloma Working Group. Br J Haematol. 2003 ; 121(5) : 749-57.

2) Knobel D, et al. Prognostic factors in solitary plasmacytoma of the bone : a multicenter Rare Cancer Net-work study. BMC Cancer. 2006 ; 6 : 118.(3iiiA)

3) Dores GM, et al. Plasmacytoma of bone, extramedullary plasmacytoma, and multiple myeloma : incidence and survival in the United States, 1992-2004. Br J Haematol. 2009 ; 144(1) : 86-94.(3iA)

4) Nanni C, et al. 18F-FDG PET/CT in myeloma with presumed solitary plasmocytoma of bone. In Vivo. 2008 ; 22(4) : 513-7.(3iiDiv)

5) Holland J, et al. Plasmacytoma. Treatment results and conversion to myeloma. Cancer. 1992 ; 69 (6) : 1513-7.(3iiiDiv)



CQ1

孤立性形質細胞腫において放射線療法による初期治療後の補助化学療法は多発性骨髄腫への進展を遅らせるか


推奨グレード
カテゴリー2B
孤立性形質細胞腫に対し局所放射線療法に加え,多剤併用化学療法の追加による多発性骨髄腫への進展抑制効果は示されていない。逆に二次性白血病などのリスクが高まることが懸念され,放射線療法による初期治療後の多剤併用化学療法による補助化学療法は推奨されない。

【解 説】

孤立性形質細胞腫から多発性骨髄腫への進展をきたすと予後が不良になる。孤立性形質細胞腫258 例(骨の孤立性形質細胞腫206 例,髄外孤立性形質細胞腫52 例)のうち214 例が放射線療法のみ,34 例が放射線療法と化学療法[22 例がMP 療法(MEL, PSL),7 例がVAD 療法(VCR,DXR, DEX),5 例がその他の多剤併用療法)を中央値で6 コース併用した観察で,平均観察期間が56 カ月で多発性骨髄腫への進行までの期間の中央値は21 カ月であった1)。10 年後の多発性骨髄腫への進展率は放射線療法単独群で64%,化学療法併用群で74%と化学療法を追加する有用性が認められていない。また,腫瘍径が4 cm 未満の場合が4 cm 以上に比べ予後良好であった。このように,孤立性形質細胞腫に対し局所放射線療法にMP 療法などの多剤併用化学療法を追加する有用性は示されていない。逆に二次性白血病などのリスクが高まることが懸念される。国際骨髄腫作業部会(International Myeloma Working Group : IMWG)の診断規準が出される以前の報告では,椎骨と腸骨のMRI の評価が行われていないため,現在試行可能なMRI やPET/CT で詳細な評価を行えば一部の症例が多発性骨髄腫と診断される可能性がある。また,これまでの報告では新規薬剤を用いた検討もない。今後,PET/CT やMRI などの画像診断にて孤立性かどうかのより厳密な診断を行った多数例で,診断時の孤立性腫瘍の大きさ,M 蛋白の存在や腸骨の骨髄穿刺での多発性骨髄腫の診断規準を満たさない単クローン性の形質細胞の存在等が多発性骨髄腫への進展へのリスク因子になるのかどうか,またこのようなリスク因子がある場合の新規薬剤を用いた補助化学療法が多発性骨髄腫への進展の抑制効果があるのかどうかなどの検討が望まれる。

【参考文献】

1) Ozsahin M, et al. Outcomes and patterns of failure in solitary plasmacytoma : a multicenter Rare Cancer Network study of 258 patients. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2006 ; 64(1) : 210-7.(3iiA)


【全身性AL アミロイドーシス】

総論

AL アミロイドーシスは,異常形質細胞より産生されるモノクローナル免疫グロブリン(M 蛋白)の軽鎖(L 鎖)に由来するアミロイド蛋白が全身諸臓器に沈着し,臓器障害をきたす疾患である1)2)。免疫グロブリン重鎖(H 鎖)に由来するものはAH アミロイドーシスと呼ばれるが極めて稀で,両者をあわせて免疫グロブリン性アミロイドーシスとも呼ぶ。多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症などの基礎疾患を伴わない場合を原発性,基礎疾患に伴う場合を二次性AL アミロイドーシスと呼ぶ。しかし,実際には両者の鑑別困難な症例もみられ, WHO 分類(2008)では両者をまとめて原発性アミロイドーシスとしている3)。また,病変が複数の臓器にわたる場合を全身性,一臓器に限局する場合を限局性と呼ぶ。本症は稀な病気であり,1998 年の全国疫学調査では推定患者数は約510 例である。アミロイド蛋白の沈着は心臓,肝臓,腎臓,消化管,末梢神経など多臓器にわたり,多彩な臨床症状を呈する。診断確定は病理学的所見に基づき,Congo red 染色で橙赤色に染まり,偏光顕微鏡下で緑色の複屈折を示すことが必須である。さらに抗免疫グロブリン軽鎖抗体を用いた免疫染色でアミロイドの病型を確定する。M 蛋白の検出には血清・尿の蛋白電気泳動,免疫電気泳動が行われるが,遊離軽鎖(free light chain:FLC)の測定は感度が高く有用である。本症の予後は不良であり,無治療例での診断からの生存期間中央値(MST)はおよそ13 カ月,特に心病変を有する症例は予後不良である。治療目標はアミロイド蛋白の原因となっているモノクローナルなFLC の産生を速やかに抑制し,臓器機能を温存することにある。自家末梢血幹細胞移植は臓器障害のため治療関連死亡(TRM)が高いので適応を慎重に検討し,リスクに応じた前処置の減量を考慮し実施することが重要である4)〜6)。自家末梢血幹細胞移植の適応のない症例ではMD 療法(MEL, DEX)あるいは減量DEX 療法(LD-DEX)が推奨されるが,最近では多発性骨髄腫に用いられる新規薬剤の有用性が検討され,国内ではBMD 療法(BOR, MEL, DEX)の臨床試験が進行中である7)〜9)

【参考文献】

1) Falk RH, et al. The systemic amyloidosis. N Engl J Med. 1997 ; 337(13) : 898-909.

2) Merlini G, et al. Dangerous small B-cell clones. Blood. 2006 ; 108(8) : 2520-30.

3) Mckenna RW, et al. Plasma cell neoplasms. Swerdlow SH, et al. eds. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon, IARC ; 2008 : pp200-13.

4) Jaccard A, et al. High-dose melphalan versus melphalan plus dexamethesone for AL amyloidosis. N Engl J Med. 2007 ; 357(11) : 1083-93.(1iiA)

5) Comenzo R, et al. Autologous stem cell transplantation for primary systemic amyloidosis. Blood. 2002 ; 99(12) : 4276-82.

6) Skinner M, et al. High-dose melphalan and autologous stem cell transplantation in the patients with AL amyloidosis : An 8-year study. Ann Intern Med. 2004 ; 140(2) : 85-93.(3iiiA)

7) Palladini G, et al. Association of melphalan and high-dose dexamethasone is effective and well tolerated in patients with in AL (primary) amyloidosis who are ineligible for stem cell transplantation. Blood. 2004 ; 103(8) : 2936-8.(3iiiDiv)

8) Kastritis E, et al. Bortezominb with or without dexamethasone in primary systemic(light chain) amyloidosis. J Clin Oncol. 2010 ; 28(6) : 1031-7.(3iiiDiv)

9) 島崎千尋,他.原発性AL アミロイドーシスに対するボルテゾミブ・メルファラン・デキサメタゾン療法の安全性と有用性に関する研究:臨床第T/Ⅱ相試験の進捗状況(Ⅱ).厚生労働省難治性疾患克服研究事業.アミロイドーシスに関する調査研究班.平成24 年度研究報告会プログラム・抄録集.2013;p70.



アルゴリズム

多発性骨髄腫の類縁疾患のアルゴリズム

MEL/DEX : melphalan/dexamethasone, LD-DEX : low-dose dexamethasone, BOR : bortezomib, LEN : lenalido- mide,
BMD : bortezomib/melphalan/dexamethasone, BCD : bortezomib/cyclophosphamide/dexamethasone,
CTD : cyclophosphamide/thalidomide/dexamethasone
*保険適用外

まず,自家移植の適応があるか否かを慎重に検討する(AL:CQ1エビデンスレベル2A)。自家移植の適応があればリスクに応じてメルファラン(MEL)の減量も考慮して実施する。完全奏効(CR)が得られれば経過観察する。移植の適応がない場合は,標準療法としてMEL/DEX,LD-DEX,が推奨される(AL:CQ2エビデンスレベル1iiA)。最良部分奏効(VGPR)未到達あるいは再発時はボルテゾミブ(BOR),レナリドミド(LEN)などの新規薬剤を検討する。



CQ1

全身性AL アミロイドーシスに対する自家造血幹細胞移植併用大量メルファラン療法は予後を改善させるか


推奨グレード
カテゴリー2B
自家末梢血幹細胞移植は適応を慎重に考慮しリスクに応じてメルファランを減量して実施することが推奨される。

【解 説】

AL アミロイドーシスに対する自家末梢血幹細胞移植の後方視的解析では,平均全生存期間(OS)は4.6 年,1 年以上生存かつ完全奏効(CR)例のOS は10 年を越えている1)。血液学的CR 割合は40%にみられ,それらの症例の66%で1 臓器以上の改善が得られている。本治療の有用性については,症例対照研究で標準化学療法より優れていると報告された2)。しかし,唯一のランダム化比較試験であるIFM の試験では自家移植とメルファラン(MEL)/デキサメタゾン(DEX)との比較が行われ,OS では移植群22.2 カ月,化学療法群56.9 カ月と化学療法群が優位に優れていた(p=0.04)3)。高リスク群ではOS に有意差はなく,低リスク群では3 年OS 割合がそれぞれ58%,80%であった。ただし,本試験では移植の適応規準がゆるく移植群に重症例が含まれていたこと,その結果移植群における治療関連死亡(TRM)が24%と高いこと,移植群における移植実施数が少ないこと,観察期間が短いことなど試験上の問題点も指摘されており,自家移植を否定する根拠になっていない。PS 2 以下,左室駆出率40%以上,酸素飽和度95%以上,仰臥位での収縮期血圧90mmHg 以上であることなどの移植適応規準を遵守し,リスクに応じた前処置MEL の減量を行うことによりTRM は5%程度に減少しており,経験豊富な施設において実施を検討すべきである1)4)5)

【参考文献】

1) Skinner M, et al. High-dose melphalan and autologous stem cell transplantation in the patients with AL amyloidosis : An 8-year study. Ann Intern Med.2004 ; 140(2) : 85-93.(3iiiA)

2) Dispenzieri A, et al. Superior survival in primary systemic amyloidosis patients undergoing peripheral blood stem cell transplantation : A case-control study. Blood.2004 ; 103(10) : 3960-3.(2A)

3) Jaccard A, et al. High-dose melphalan versus melphalan plus dexamethesone for AL amyloidosis. N Engl J Med. 2007 ; 357(11) : 1083-93.(1iiA)

4) Comenzo R, et al. Autologous stem cell transplantation for primary systemic amyloidosis. Blood. 2002 ; 99(12) : 4276-82.(レビュー)

5) Wechalekar AD, et al. Perspectives in treatment of AL amyloidosis. Br J Haematol. 2008 ; 140 (4) : 365-77.(レビュー)


CQ2

移植適応のない全身性AL アミロイドーシス患者にはどのような治療が推奨されるか


推奨グレード
カテゴリー2B
MD 療法(MEL, DEX)が推奨される。

【解 説】

移植適応のないAL アミロイドーシスに対する標準治療は確立されていない。MP 療法(MEL,PSL)とコルヒチンとのランダム化比較試験でMP 療法の優位性が明らかにされたが,平均生存期間は18 カ月であり推奨できるものではない1)。その後,VAD 療法(VCR, DXR, DEX)や大量DEX が行われてきたがビンクリスチン(VCR)による神経毒性,ドキソルビシン(DXR)による心毒性,大量DEX による毒性の問題があり推奨されていない,現在もっとも頻用されているのがMD 療法(MEL/ 低用量DEX)である。96 例を対象とした試験で67%に部分奏効(PR)以上の血液学的奏効がみられ,効果発現は4.5 カ月以内と早く,臓器効果も48%にみられている2)。本療法は忍容性が高く,その後の長期観察結果では平均生存期間5.1 年,無増悪生存期間3.8 年であった3)。MD 療法と自家移植とのランダム化比較試験でも,生存期間の中央値は56.9 カ月とその有用性が確認されている4)。しかし,重篤な心障害を有する症例に対する効果は限られている。最近では,サリドマイド(THAL),レナリドミド(LEN),ボルテゾミブ(BOR)などの新規薬剤が導入され,その有用性が報告されつつあるが,安全性も含めた十分なデータがない現状にある。

【参考文献】

1) Kyle RA, et al. A trial of three regimens for primary amyloidosis : Colchicine alone, melphalan and prednisone, and melphalan, prednisone and colchicines. N Engl J Med. 1997 ; 336(17) : 1202-7.(1iA)

2) Palladini G, et al. Association of melphalan and high-dose dexamethasone is effective and well tolerated in patients with in AL (primary) amyloidosis who are ineligible for stem cell transplantation. Blood.2004 ; 103(8) : 2936-8.(3iiiDiv)

3) Palladini G, et al. Treatment with oral melphalan plus dexamethasone produces long-term remission in AL amyloidosis. Blood. 2007 ; 110(2) : 787-8.(3iiiDiv)

4) Jaccard A, et al. High-dose melphalan versus melphalan plus dexamethesone for AL amyloidosis. N Engl J Med. 2007 ; 357(11) : 1083-93.(1iiA)


【POEMS 症候群】

総論

POEMS 症候群は,Polyneuropathy, Organomegaly, Endocrinopathy, M-protein, Skin lesion を主徴とする症候群である。病態の根底には,モノクローナルな形質細胞の増加がある。

診断規準を表1 に示す。

表1 POEMS 症候群の診断規準
Major criteria 1:多神経炎
2:モノクローナルな形質細胞増加
(ほぼ常にλ型のM 蛋白)
Other major criteria 3:キャッスルマン病
4:硬化性骨病変
5:VEGF 上昇
Minor criteria 6:臓器腫大
(脾腫,肝腫,リンパ節腫脹)
7:血管外体液漏出
(浮腫,胸水,腹水)
8:内分泌異常
(副腎,甲状腺,下垂体,性腺,副甲状腺,膵臓)
9:皮膚異常
(色素沈着,多毛,血管腫,先端チアノーゼ,発赤)
10:乳頭浮腫
11:血小板増加,多血症
Other symptoms and signs 太鼓撥指形成,体重減少,多汗,肺高血圧,限局性肺疾患,塞栓症,
下痢,ビタミンB12 低値

POEMS は,Major criteria をすべて満たし

Other major criteria を1 つ以上

Minor criteria を1 つ以上みたすもの

【参考文献】

1) Dispenzieri A. POEMS syndrome : 2011 update on diagnosis, risk-stratification, and management. Am J Hematol. 2011 ; 86(7) : 591-601.(レビュー)



CQ1

POEMS 症候群患者に対する治療介入は予後を改善させるか


推奨グレード
カテゴリー2B
POEMS 症候群患者に対する治療介入は予後を改善させる。

【解 説】

POEMS 症候群の治療は,形質細胞を標的とした骨髄腫に準じた治療が試みられてきた。しかし,これまでに,ランダム化比較試験は行われておらず,いずれの報告も対象群を伴わない後方視的研究にとどまっている。

治療法としては,①形質細胞腫が存在する場合は外科的摘出,②形質細胞腫への放射線照射,③骨髄腫に準じた化学療法,④幹細胞移植併用大量化学療法の4 つが報告されている。ほとんどは症例報告であるが,その中でDespenzieri らの報告が自験例を中心とした後方視的なものであるものの99 例を集積した最大のものである1)

それによると,①限局した骨硬化性病変(osteosclerotic lesion)には放射線照射が有効であり,照射施行群は,未施行群に比べて予後が良い。② MP 療法(MEL, PSL)は約40%の症例に効果を示す。③末梢血幹細胞移植併用メルファラン(MEL)大量療法27 例の検討では,全奏効割合は100%であり,5 年生存割合は80%以上である。この結果は,治療介入が予後を改善する可能性を示している。サリドマイド(THAL)による治療効果を報告した9 例の症例報告では,6 例に症状の改善がみられている2)

POEMS 症候群は世界的にも稀少疾患であり,本症にはガイドラインが存在しないため,無治療群と治療介入群の直接比較はできない。しかし,無治療であれば病状は進行するため,なんらかの治療介入は合理的である。エビデンスレベルは低いものの,放射線照射,アルキル化剤,幹細胞移植の三者を状況に応じて使用するのが合理的と思われる。今後,骨髄腫に準じたボルテゾミブ(BOR),THAL,レナリドミド(LEN)による治療例の集積が期待される。

【参考文献】

1) Dispenzieri A, et al. POEMS syndrome : definitions and long-term outcome. Blood. 2003 ; 101(7) : 2496-506.(3iiiA)

2) Kuwabara S, et al. Thalidomide reduces serum VEGF levels and improves peripheral neuropathy in POEMS syndrome. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2008 ; 79(11) : 1255-7.