膵がん 〜診療ガイドライン

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CQ目次:

診断

まえがき

膵・消化管 NET は機能性の場合と非機能性の場合で発見の契機や発見時の状態が異なる。機能性の場合は特異的な症状から診断されることが多く、比較的小さい腫瘍で見つかることもあり、その場合腫瘍の局在が見つけにくい。しかしながら、中腸由来NET によるカルチノイド症候群の場合のように、肝転移などを起こして初めて症状が出現する場合もある。

一方、非機能性の場合は特異的な症状なく進行する例が多く、大きくなった後や遠隔転移後に発見されることが多く、重大な問題となることがある。この場合の非特異的症状として腹部膨満感、腹痛、イレウス症状などが見られることがあるが、画像診断で偶然発見される場合もある。家族性の症例の場合があるので、特に多発性 NET の場合や十二指腸ガス トリノーマの場合には家族歴の聴取と血清カルシウム濃度の測定が推奨される。MEN1 の鑑別には、アルブミンン補正血清カルシウム濃度とインタクトPTH の測定が推奨される。多発性のNET の場合MEN1 を鑑別する必要がある。

CQ1-1 機能性及び非機能性NET の診断

CQ1-1-1 A インスリノーマを疑う症状は何か?
  B 次に推奨される検査は何か?

推奨

A 症状

空腹時の低血糖発作が主要な症状である。

自律神経症状、中枢神経症状が見られる。自律神経機能障害がある場合や、低血糖発作を繰り返す場合は自律神経症状を欠くことがある。また、低血糖症状が自覚されず、非典型的な症状(けいれん発作、認知症など)が初発症状のことがあ(グレードA)

B 検査

下記のステップで低血糖の鑑別診断を行うことが推奨される(低血糖の診断のフローチャートを参照)(グレードA)。インスリノーマの確定診断は、72 時間絶食試験や混合食試験が推奨される(グレードA)。局在診断のため、US、CT、MRI、EUS 検査が推奨される(診断CQ1-2参照)(グレードA)。画像検査で局在が確定診断できない場合に、カルシウム溶液を用いるSASI テストが推奨される(グレードA)。MEN1 の合併の有無を診断するために、補正血清カルシウム濃度測定とインタクトPTH 測定が推奨される(グレードA)

【解 説】
  1. Aインスリノーマの低血糖発作は空腹時が多いが、食後の低血糖の場合もある。中枢神経症状として複視、ものがかすんで見える、混迷、異常行動、健忘がある。進行すると意識障害、昏睡に陥り、長時間に及ぶと不可逆的脳障害が生じる。けいれんが見られることもある。自律神経症状として発汗、空腹感、虚脱、震え、嘔気、不安感、動悸がみられる。中枢神経症状に前駆して起こることが多いが、ない場合もある。低血糖症状が自覚されず、非典型的な症状(けいれん発作、認知症など)が初発症状のことがある1)。とくに自律神経機能障害がある場合や、低血糖発作を繰り返す場合2)は自律神経症状を欠くことがある。
    精神症状がいろいろであり、長期間診断にいたらないこともあるので注意が必要である(コラム参照)。
  2. B低血糖の鑑別診断は3)
    1. 1)Whipple の3 徴、①低血糖に合致する症状があり、②症状があるときの血糖値が低く、③血糖上昇処置により症状が改善することを確認する(グレードA)
    2. 2)血糖値が低下しているにもかかわらず(55 r/dL 未満、特異度をたかめるためには45 mg/dL(2.5 mmol/L)未満)、インスリンが検出される(測定感度以下に抑制されない)ことを確認する(グレードA)。血糖測定について、簡易法で測定した血糖値は誤差が大きいため判断に用いない。
    3. 3)外因性のインスリン、経口血糖降下剤、内因性のインスリン異常分泌(自律性のインスリン分泌)、インスリン自己免疫症を鑑別するため病歴聴取とC-ペプチドおよびプロインスリン測定を行う(グレードA)
    4. 4)確定診断のために低血糖を誘発する条件で検査を行う。空腹時低血糖を示す症例では72 時間絶食試験を行う。食後にのみ低血糖を示す症例では混合食試験(mixed meal test)を行う(グレードA)。72 時間絶食試験の実施が困難な症例で、Cペプチド抑制試験が有用なことがある4)(推奨グレードB)
      絶食試験などで否定されても低血糖を繰り返す例などに、カルシウム溶液を用いるSASI テストで最終診断がつけられることがある5,6)。原発腫瘍は膵に局在する。

低血糖の診断のフローチャート

低血糖の診断のフローチャート

  1. ※1薬物治療中の糖尿病患者では糖尿病の治療内容を調節し、低血糖を合併しうる他の病態(重篤な疾患、コルチゾール欠乏症、インスリノーマ以外の腫瘍、IGF-Ⅱ産生腫瘍など)の存在が疑われる症例では、Whipple の3 徴を確認後、各病態の診断・治療を行う。
  2. ※2誘発試験で否定されても繰り返し症状を呈して臨床的に疑わしい場合に、C-ペプチド抑制試験や、時にはSASI テストを用いてインスリノーマやNIPHS の診断が得られる場合がある。
  3. ※3C-ペプチドが抑制されず、経口血糖降下剤・インスリン抗体・インスリン受容体抗体が検出されないものが該当する。
  4. ※4Noninsulinoma pancreatogenous hypoglycemia syndrome(機能性のβ細胞障害)。
【文 献】

1) Service FJ, Dale AJD, Elveback LR, Jiang N-S. Insulinoma- Clinical and diagnostic features of 60 consecutive cases. Mayo Clin Proc. 1976; 51(7): 417-429.(レベルⅤ).

2) Cryer PE, Axelrod L, Grossman AB, Heller SR, Montori VM, Seaquist ER, Service FJ. Evaluation and management of adult hypoglycemic disorders: an Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2009; 94(3): 709-728.(レベルⅤ).

3) Cryer PE: Glucose homeostasis and hypoglycemia. Williams Textbook of Endocrinology 11th Ed. (Kronenberg HM et al ed.), Saunders Elsevier, Philadelphia, 2008, pp1503-1533.(レベルⅤ)

4) Service FJ, O'Brien PC, Kao PC, Young WF Jr. C-peptide suppression test: effects of gender, age, and body mass index; implications for the diagnosis of insulinoma. J Clin Endocrinol Metab. 1992; 74(1): 204-210.(レベルⅤ).

5) Placzkowski KA, Vella A, Thompson GB, Grant CS, Reading CC, Charboneau JW, Andrews JC, Lloyd RV, Service FJ.Secular trends in the presentation and management of functioning insulinoma at the Mayo Clinic, 1987-2007.J Clin Endocrinol Metab. 2009; 94(4): 1069-1073.(レベルⅤ)

6) Guettier JM, Kam A, Chang R, Skarulis MC, Cochran C, Alexander HR, Libutti SK, Pingpank JF, Gorden P. Localization of insulinomas to regions of the pancreas by intraarterial calcium stimulation: the NIH experience. J Clin Endocrinol Metab. 2009; 94(4): 1074-1080.(レベルⅤ)


CQ1-1-2 A ガストリノーマを疑う症状は何か?
  B 次に推奨される検査は何か?

推奨

A 症状

胃酸過剰分泌による消化性潰瘍や逆流性食道炎(出血、腹痛、胸やけ)と、膵酵素不活性化による下痢がある。潰瘍の特徴として、治りにくい、容易に再発する、多発性潰瘍、十二指腸下行脚以降の潰瘍、穿孔などがある(グレードA)

B 検査

鑑別診断のために、空腹時血清ガストリン濃度と、胃酸分泌測定検査あるいは24 時間pH モニター検査が必須であり(グレードA)、カルシウム静注試験またはセクレチン静注試験が有用である(グレードA)。MEN1 の合併の有無を診断するために、補正血清カルシウム濃度測定とインタクトPTH 測定が推奨される(グレードA)。局在診断のため、US、CT、MRI、EUS 検査(CQ1-2を参照)、SASI テストが推奨される(グレードA)

【解 説】

ガストリノーマでは消化性潰瘍が9 割以上の患者に認められ、1 p未満の単発性潰瘍が多い。十二指腸の球部(75%)、次いで十二指腸遠位(14%)、空腸(11%)に多く発生し、再発しやすい。腹痛、脂肪性下痢がよく見られる1, 2)

確定診断には、血清ガストリン濃度の高値と胃酸の過剰分泌が共存することを証明する。そのため空腹時血清ガストリン濃度の測定と胃酸分泌の評価を行う1)

高ガストリン血症を来す疾患・病態には、ヘリコバクター・ピロリ菌感染、慢性腎不全、萎縮性胃炎などによるG 細胞過形成、PPI 長期内服などがある。PPI や H2 受容体拮抗薬使用時の高ガストリン値については、診断の有用性はない。PPI 使用患者では、少なくとも1 週間前からPPI を中止して、血清ガストリン濃度を測定する必要があるが、潰瘍再燃などのリスクがあることを注意しなければならない(PPI 中止後に潰瘍再燃や胃酸過剰分泌症状が強くなった患者には H2 受容体拮抗薬を投与し、測定の48 時間前に中止して測定する)。血清ガストリン濃度は、ガストリノーマ患者の2/3 で正常上限値の10 倍以下である3)。1,000 pg/mL 以上の症例ではガストリノーマが強く疑われるが、胃酸分泌抑制薬服用がなく、萎縮性胃炎もない患者で血清ガストリン濃度が150 以上1,000 pg/mL 未満の症例では、鑑別のため負荷試験を行うことが望ましい34)。胃切除後の患者では80 pg/mL 以上で高ガストリン血症と判断する。わが国では販売が終了したセクレチン4)に代わりカルシウム静注試験5)が行われており、診断率はほぼ同等である。

胃酸測定は24 時間胃内pH モニタリングもしくは空腹時の胃内pH を測定し、24 時間モニタリングではpH<2 holding time が90%以上のとき、空腹時pH ではpH <2をもって過酸状態と判断する。ガストリノーマ患者の99 %で空腹時胃内pH が2 以下である6)。局在診断として画像診断(US、CT、MRI、十二指腸内視鏡)を行う(CQ1-2を参照)。微小なガストリノーマの機能性局在診断としてセクレチンあるいはカルシウム溶液を用いるSASI テストが有用である78)。原発腫瘍は膵、十二指腸に多いが異所性ガストリン産生腫瘍の報告もある。

【文 献】

1) Jensen RT, Cadiot G, Brandi ML, deHerder WW, Kaltsas G, Komminoth P, Scoazec JY, Salazar R, Sauvanet A, Kianmanesh R. ENETS consensus guidelines for the management of patients with digestive neuroendocrine neoplasms: Functional pancreatic endocrine tumor syndromes.Neuroendocrinology. 2012; 95(2): 98-119.(レベルⅥ)

2) Roy PK, Venzon DJ, Shojamanesh H, AbouSaif A, Peghini P, Doppman JL, Gibril F, Jensen RT. Zollinger-Ellison syndrome. Clinical presentation in 261 patients. Medicine (Baltimore). 2000; 79(3): 379-411.(レベルⅣb)

3) Berna MJ, Hoffmann KM, Serrano J, Gibril F, Jensen RT. Serum gastrin in Zollinger-Ellison syndrome: I. Prospective study of fasting serum gastrin in 309 patients from the National Institutes of Health and comparison with 2229 cases from the literature. Medicine (Baltimore). 2006; 85(6): 295-330.(レベルⅣa)

4) Berna MJ, Hoffmann KM, Serrano J, Gibril F, Jensen RT. Serum gastrin in Zollinger-Ellison syndrome: II. Prospective study of gastrin provocative testing in 293 patients from the National Institutes of Health and comparison with 537 cases from the literature, evaluation of diagnostic criteria, proposal of new criteria, and correlations with clinical and tumoral features. Medicine (Baltimore). 2006; 85(6): 331-364.(レベルⅣa).

5) Wada M, Komoto I, Doi R, Imamura M. Intravenous calcium injection test is a novel complementary procedure in differential diagnosis for gasrinoma. World J Surgery 2002; 26(10): 1291-1296.(レベルⅤ)

6) Roy PK, Venzon DJ, Feigenbaum KM, Koviack RD, Bashir S, Ojeaburu JV, Gibril F, Jenmsen RT. Gastric secretion in Zollinger-Ellison syndrome. Correlation with clinical expression, tumor extent and role in diagnosis - a prospective NIH study of 235 patients and a review of 984 cases in the literature. Medicine (Baltimore). 2001; 80(3): 189-222.(レベルⅣb)

7) Imamura M, Takahashi K, Adachi H, Minematsu S, Shimada Y, Naito M, Suzuki T, Tobe T, Azuma T. Usefulness of selective arterial secretin injection test for localization of gastrinoma in the Zollinger-Ellison sundrome. Ann Surg. 1987; 205(3): 230-239.(レベルⅤ)

8) Imamura M. Recent standardization of treatment strategy for pancreatic neuroendocrine tumors. World J Gastroenterol. 2010; 16(36): 4519-4525.(レベルⅥ).


CQ1-1-3 A グルカゴノーマを疑う症状は何か?
  B 次に推奨される検査は何か?

推奨

A 症状

遊走性壊死性紅斑、耐糖能障害や糖尿病、低アミノ酸血症、低アルブミン血症、体重減少、貧血などがある。また、静脈血栓症や精神神経症状(失調症状、認知症、視神経萎縮、近位筋筋力低下も認められる(グレードA)。遊走性壊死性紅斑がない場合もある。

B 検査

血漿グルカゴン測定と血中アミノ酸濃度測定が推奨される(グレードA)。MEN1 の合併の有無の診断ために、補正血清カルシウム濃度測定とインタクトPTH 測定が推奨される(グレードA)。局在診断のため、US、CT、MRI、EUS 検査が推奨される(CQ1-2を参照)。

【解 説】

グルカゴノーマの診断は症状から疑うことが推奨される1-3)。遊走性壊死性紅斑(80 %)は特徴的であるが、栄養障害、短腸症候群などのグルカゴノーマ以外の原因によっても起こる4)。診断には血漿グルカゴン値が有用である。グルカゴノーマ症例のグルカゴン血中濃度は500 pg/mL を超えることが多い。なお、血漿グルカゴン値は様々な原因で生理的範囲内の上昇が認められる。低血糖、空腹、敗血症、外傷、腹部手術、急性膵炎、クッシング症候群、 腎不全、肝不全などである。これらの場合、血漿グルカゴン値の上昇500 pg/mL 未満にとどまる事が多い3, 5)。原発腫瘍は膵に局在することが多い。

【文 献】

1) Parker CM, Hanke CW, Madura JA, Liss EC, Glucagonoma syndrome: case report and literature review. J Dermatol Surg Oncol. 1984; 10(11): 884-889.(レベルⅤ)

2) Soga J, Yakuwa Y, Glucagonomas/diabetico-dermatogenic syndrome (DDS): a statistical evaluation of 407 reported cases. J Hepatobiliary Pancreat Surg. 1998; 5(3): 312-319.(レベルⅤ)

3) Wermers RA, Fatourechi V, Wynne AG, Kvols LK, Lloyd RV. The glucagonoma syndrome. Clinical and pathologic features in 21 patients. Medicine(Baltimore). 1996; 75(2): 53-63.(レベルⅤ)

4) Mullans EA, Cohen PR. Iatrogenic necrolytic migratory erythema: a case report and review of nonglucagonoma-associated necrolytic migratory erythema. J Am Acad Dermatol. 1998; 38(5 Pt 2): 866-873.(レベルⅥ)

5) Wermers RA, Fatourechi V, Kvols LK.Clinical spectrum of hyperglucagonemia associated with malignant neuroendocrine tumors.Mayo Clin Proc. 1996; 71(11): 1030-1038.(レベルⅤ)


CQ1-1-4 A VIP オーマを疑う症状は何か?
  B 次に推奨される検査は何か?

推奨

A 症状

大量の水様下痢と低カリウム血症、低クロール血症、代謝性アシドーシスなどである。また、低カリウム血症や脱水による疲労感、筋力低下、息切れ、筋肉のけいれん、つり、その他に、吐き気、嘔吐、皮膚潮紅や高血糖、高カルシウム血症がある(グレードA)

B 検査

血漿VIP 濃度測定が推奨される(保険未収載)(グレードA)。鑑別診断に便のosmotic gap の測定が有用である(グレードA)。MEN1 の合併の有無の診断ために、補正血清カルシウム濃度測定とインタクトPTH 測定が推奨される(グレードA)。局在診断のため、US、CT、MRI、EUS 検査が推奨される(CQ1-2を参照)(グレードA)

【解 説】
  1. AVIP オーマの下痢は分泌性下痢で一日700 mL 以上である、絶食状態でも生じるのが特徴である。7 割の患者で一日3,000 mL 以上の下痢が起こる。便は紅茶色で、においがなく、osmotic gap が低いなどの分泌性下痢の特徴を示す。腹痛はないか、軽度である1-7)。腹部単純写真で拡張した腸管が認められる。
  2. BVIP オーマ原発腫瘍は、成人では膵尾部に3 cm 以上の腫瘍として見つかることが多い4)が、消化管にも発生する。小児では2-4 歳に多く、交感神経節や副腎に発生することが多い5)
【文 献】

1) Grier JF. WDHA (watery diarrhea, hypokalemia, achlorhydria) syndrome: clinical features, diagnosis, and treatment. South Med J. 1995; 88(1): 22-24.(レベルⅥ)

2) American Gastroenterological Association medical position statement: guidelines for the evaluation and management of chronic diarrhea. Gastroenterology. 1999; 116(6): 1461-1463.(レベルⅥ)

3) Fine KD, Schiller LR. AGA technical review on the evaluation and management of chronic diarrhea. Gastroenterology. 1999; 116(6): 1464-1486.(レベルⅥ)

4) Kirkwood KS, Debas HT. Neuroendocrine tumors: common presentations of uncommon diseases. Compr Ther. 1995; 21(12): 719-725.(レベルⅥ).

5) Davies RP, Slavotinek JP, Dorney SF. VIP secreting tumours in infancy. A review of radiological appearances. Pediatr Radiol. 1990; 20(7): 504-508.(レベルⅤ)

6) Krejs GJ. VIPoma syndrome. Am J Med. 1987; 82(5B): 37-48.(レベルⅤ)

7) Mekhjian HS, O'Dorisio TM. VIPoma syndrome. Semin Oncol. 1987; 14(3): 282-291.(レベルⅤ)


CQ1-1-5 A カルチノイド症候群を疑う症状は何か?
  B 次に推奨される検査は何か?

推奨

A 症状

下痢、皮膚潮紅、喘鳴、心不全(特に右心系)、ペラグラ症状(rough scaly skin, 舌炎, 口角炎)などがあり、昏迷を呈することもある(グレードA)

B 検査

セロトニンの代謝産物である尿中5-HIAA(24 時間蓄尿)の測定が推奨される(グレードA)。US、CT、MRI、EUS 検査が推奨される(診断CQ1-2参照)(グレードA)。MEN1 の合併の有無の診断ために、補正血清カルシウム濃度測定とインタクトPTH 測定が推奨される(グレードA)

【解 説】
  1. A活性アミン(セロトニン、ヒスタミン)、タキキニン、プロスタグランジンなどNET が産生、分泌する複数の生理活性物質によって多彩な症状が出現する1-3)。なかでも血管拡張による皮膚紅潮は特徴的で顔面前胸部を中心に出現し、発汗を伴わない(dry flushing)。
    長期化すると顔面の毛細血管拡張はチアノーゼ様となる。肝転移を伴う中腸由来NET では、上述の症状が多いが1)、胃NET はヒスタミンを産生するため痒疹を伴う非定型的な皮膚潮紅を示し、消化性潰瘍も多い2)。症候群を起こす原発腫瘍は、おもに気管支、肺、腸管に発生する。腸管では小腸が多いが虫垂、大腸などのNET でも発生する。他にも膵、性腺、甲状腺に発生することがある。
  2. B尿中5-HIAA 測定の感度は60-73%、特異度は90-100%である。ある種の食品(アボガド、バナナ、チョコレートなど)の摂取や薬品(アセトアミノフェン、アセトアニリド、カフェインなど)の服用によって偽陽性になることがあるので注意が必要である。血中クロモグラニンA 測定が有用であるが本邦では未承認である。
【文 献】

1) Norheim I, Oberg K, Theodorsson-Norheim E, Lindgren PG, Lundqvist G, Magnusson A, Wide L, Wilander E. Malignant carcinoid tumors. An analysis of 103 patients with regard to tumor localization, hormone production, and survival. Ann Surg. 1987; 206(2): 115-125.(レベルⅤ)

2) Ahlman H, Wangberg B, Nilsson O, Grimelius L, Granerus G, Modlin IM, Stenqvist O, Schersten T. Aspects on diagnosis and treatment of the foregut carcinoid syndrome.Scand J Gastroenterol. 1992; 27(6): 459-471.(レベルⅤ)

3) Pellikka PA, Tajik AJ, Khandheria BK, Seward JB, Callahan JA, Pitot HC, Kvols LK. Carcinoid heart disease. Clinical and echocardiographic spectrum in 74 patients. Circulation. 1993; 87(4): 1188-1196.(レベルⅤ)


CQ1-1-6 A ソマトスタチノーマを疑う症状は何か?
  B 次に推奨される検査は何か?

推奨

A 症状

体重減少、腹痛のほか、糖尿病、胆石症、脂肪便、下痢、貧血などがある。無症状の場合も多い(グレードA)

B 検査

血漿ソマトスタチン濃度の測定が推奨される(グレードA)。局在診断のため、US、CT、MRI、EUS 検査が推奨される(CQ1-2を参照)(グレードA)。MEN1 の合併の有無の診断ために、補正血清カルシウム濃度測定とインタクトPTH 測定が推奨される(グレードA)

【解 説】

ソマトスタチンの有する種々のホルモン分泌抑制作用に関連した症状が見られる。最も多い症状は腹痛と体重減少である。膵ソマトスタチノーマにおいて3 主徴である糖尿病、胆石症、下痢もしくは脂肪便が見られる1, 2)。一方、十二指腸由来のソマトスタチノーマでは典型的な症状は認められないことが多く、占拠性病変としての腹痛や黄疸などの症状が主である2-4)。神経線維腫症1 型(NF1; von Recklinghausen 病)で十二指腸ソマトスタチノーマが合併することがある2, 3, 5)

診断には、空腹時血漿ソマトスタチン濃度を測定する1, 2, 4)。160 pg/mL 以上である場合に疑われる。ソマトスタチノーマ症候群例では高値であるが、十二指腸ソマトスタチノーマでは正常範囲のことも多い。局在診断として画像診断(US、CT、MRI、十二指腸内視鏡)を行う1, 2)CQ1-2を参照)。腫瘍は膵と十二指腸の両方に局在する。

【文 献】

1) Krejs GJ, Orci L, Conlon JM, Ravvazzola M, Davis GR, Raskin P, Collins SM, McCarthy DM, Baetens D, Rubenstein A, Aldor TAM, Unger RH. Somatostatinoma syndrome. Biochemical, morphologic and clinical features. N Engl J Med. 1979; 301(6): 285-292.(レベルⅤ).

2) Soga J, Yakuwa Y. Somatostatinoma/inhibitory syndrome: a statistical evaluation of 173 reported cases as compared to other pancreatic endocrinomas. J Exp Clin Cancer Res. 1999; 18(1): 13-22.(レベルⅣb).

3) Garbrecht N, Anlauf M, Schmitt A, Henopp T, Sipos B, Raffel A, Eisenberger CF, Knoefel WT, Pavel M, Fottner C, Musholt TJ, Rinke A, Arnold R, Berndt U, Plockinger U, Wiedenmann B, Moch H, Heitz PU, Komminoth P, Perren A, Kloppel G. Somatostatin-producing neuroendocrine tumors of the duodenum and pancreas: incidence, types, biological behavior, association with inherited syndromes, and functional activity. Endocr Relat Cancer. 2008; 15(1): 229-241.(レベルⅣb).

4) Tanaka S, Yamasaki S, Matsushita H, Ozawa Y, Kurosaki A, Takeuchi K, Hoshihara Y, Doi T, Watanabe G, Kawaminami K. Duodenal somatostatinoma: a case report and review of 31 cases with special reference to the relationship between tumor size and metastasis. Pathol Int. 2000; 50(2): 146-152.(レベルⅤ).

5) Mao C, Shah A, Hanson DJ, Howard JM. Von Rechlinghausen’s disease associated with duodenal somatostatinoma: contrast of duodenal versus pancreatic somatostatinomas. J Surg Oncol 1995; 59(1): 67-73.(レベルⅤ).


CQ1-1-7 A 非機能性NET に見られる症状は何か?
  B 非機能性NET の診断に有用な検査は何か?

推奨

A 症状

症状としては、特異的なものはない(グレードA)

B 検査

US、CT、MRI、EUS 検査(CQ1-2を参照)と鑑別診断のために、組織診、細胞診(病理の項を参照)が推奨される(グレードA)。MEN1 の合併の有無の診断ために、補正血清カルシウム濃度測定とインタクトPTH 測定が推奨される(グレードA)

【解 説】
  1. A特異的な症状はない。腫瘍増大に伴う非特異的症状として腹部膨満感、腹痛、イレウス症状などが見られることがある1)
  2. B術前に組織診断を行う必要がある場合にはEUS-FNA が勧められる(病理の項を参照)。診断や経過観察については血中クロモグラニンA 測定の有用性が報告されている2)
【文 献】

1) Ito T, Sasano H, Tanaka M, Osamura RY, Sasaki I, Kimura W, Takano K, Obara T, M Ishibashi, K Nakao, R Doi, A Shimatsu, Nishida T, Komoto I, Hirata Y, Imamura M, Kawabe K, Nakamura K. Epidemiological study of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors in Japan. J. Gastroenterol. 2010; 45(2): 234-243. (レベルⅣb)

2) Modlin IM, Gustafsson BI, Moss SF, Pavel M, Tsolakis AV, Kidd M.Chromogranin A-biological function and clinical utility in neuro endocrine tumor disease. Ann Surg Oncol. 2010; 17(9): 2427-2443.(レベルⅥ)


CQ1-2 A 非機能性および機能性膵NET の局在診断に推奨される検査は何か?
  B 非機能性および機能性膵NET の画像所見の特徴は何か?

推奨

A 検査

US、CT、MRI、EUS検査が推奨される(グレードA)。機能性NET にはSASI テストが推奨される(グレードB)

B 特徴

非機能性膵NET は画像検査上、境界明瞭な、多血性充実性腫瘍としての特徴を示すことが多い。

【解 説】
  1. A体外式US の検出率は80%程度と報告されている。EUS を行えば検出率は92%まで向上する1)。腫瘍が膵尾部の場合にはUS では検出が困難な場合がある。CTではMDCTによる造影ダイナミックCT を行うことで83%の検出率が報告されている2)。特にヨード造影剤静注開始から約40 秒後に撮影する後期動脈相(膵実質相とも呼ばれる)の検出率が最も高い2)。MRI に関しては造影ダイナミックMRI が最も優れており、ダイナミックCT と同等の検出率が報告されている3)。機能性NET が画像検査で診断に至らない場合や、多発NET が見られ、局在診断が必要な場合にSASI テストが有用である。
  2. BUS では、境界明瞭な円型あるいは卵円形の低エコー腫瘤である。内部エコーは均一であるが、時に不均一となることもある4), 5)
    CT では、造影ダイナミックCT の動脈相から著明な腫瘍濃染を認め、平衡相まで造影効果を認める2,6)。大きな腫瘍では内部が不均一であり、嚢胞変性(cystic change)、壊死(necrosis)、石灰化(calcification)、線維化(fibrosis)を伴う頻度が高くなり、造影パターンも変化してくる5, 7)。5-10%の頻度で広範な嚢胞変性により単房性膵嚢胞性腫瘍の形態を示す8)。他の膵嚢胞性腫瘍との鑑別にはhypervascular rim (壁の強い濃染)の所見が有用である9)
    MRI では、T1 強調像で低信号、T2 強調像では膵管癌より高信号を呈する傾向にある10)。SRS(111In-octroetide、68Ga-DOTATOC/PET-CT)はNETと他の腫瘍との診断に有用な画像検査であるが、本邦では保険未収載である。FDG-PET(保険未収載)はNET (G1, G2)の膵内分泌腫瘍の検出率は低く、積極的に勧められる検査ではない。NECでは集積を認める11)
【文 献】

1) Bean SM, Baker A, Eloubeidi M, Eltoum I, Jhala N, Crowe R, Jhala D, Chhieng DC.EUS is still superior to multidetector computerized tomography for detection of pancreatic neuroendocrine tumors. Gastrointest Endosc. 2010; 73(4): 691-696.(レベルⅣb)

2) Fidler JL, Fletcher JG, Reading CC, Andrews JC, Thompson GB, Grant CS, Service FJ. Preoperative detection of pancreatic insulinoma on multiphasic helical CT. AJR Am J Roentgenol. 2003; 181(3): 775-780.(レベルⅣa)

3) Ichikawa T, Peterson MS, Federle MP, Baron RL, Haradome H, Kawamori Y, Nawano S, Araki T. Islet cell tumor of the pancreas: biphasic CT versus MR imaging in tumor detection. Radiology. 2000; 216(1): 163-171.(レベルⅣb)

4) Atiq M, Bhutani MS, Bektas M, Lee JE, Gong Y, Tamm EP, Shah CP, Ross WA, Yao J, Raju GS, Wang X, Lee JH. EUS-FNA for Pancreatic Neuroendocrine Tumors: A Tertiary Cancer Center Experience. Dig Dis Sci. 2012; 57(3): 791-800.(レベルⅣb)

5) Lewis RB, Lattin GE, Paal E. Pancreatic endocrine tumors: radiologic clinicopathologic correlation. RadioGraphics. 2010; 30(6): 1445-1464.(レベルⅤ)

6) Van Hoe L, Gryspeerdt S, Marchal G, Baert AL, Mertens L. Helical CT for the preoperative localization of islet cell tumors of the pancreas: value of arterial and parenchymal phase images. AJR Am J Roentgenol. 1995; 165(6): 1437-1439.(レベルⅣb)

7) Buetow PC, Miller DL, Parrino TV, Buck JL. Islet cell tumors of the pancreas: clinical, radiologic, and pathologic correlation in diagnosis and localization. RadioGraphics. 1997; 17(2):453-472.(レベルⅤ)

8) Volkan Adsay N. Cystic lesions of the pancreas. Mod Pathol. 2007; 20(suppl 1): S71-S93. (レベルⅤ)

9) Ligneau B, Lombard-Bohas C, Partensky C, Valette PJ, Calender A, Dumortier J, Gouysse G, Boulez J, Napoleon B, Berger F, Chayvialle JA, Scoazec JY. Cystic endocrine tumors of the pancreas: clinical, radiologic, and histopathologic features in 13 cases. Am J Surg Pathol. 2001; 25(6): 752-760.(レベルⅣb)

10) Thoeni RF, Mueller-Lisse UG, Chan R, Do NK, Shyn PB. Detection of small, functional islet cell tumors in the pancreas: selection of MR imaging sequences for optimal sensitivity. Radiology. 2000; 214 (2): 483-490.(レベルⅣb)

11) Rufini V, Calcagni ML, Baum RP. Imaging of neuroendocrine tumors. Semin Nucl Med. 2006; 36(3): 228-247.(レベルⅤ)


CQ1-3 A 消化管NET の内視鏡所見の特徴は何か?
  B 次に推奨される検査は何か?

推奨

A 特徴

消化管NET の特徴的内視鏡所見は、類円形の粘膜下腫瘍様隆起であり、増大すれば中心陥凹や潰瘍形成を伴う(グレードB)

B 検査

内視鏡検査の次に推奨される検査は、内視鏡下生検、EUS、CT、MRI 検査である(グレードA)

【解 説】

消化管NET の内視鏡所見は発生部位により若干の差は認めるが、粘膜深層にある内分泌細胞より発生し膨張性に発育するため、典型的には表面平滑で類円形、無茎性の粘膜下腫瘍様隆起を呈する1-3)図1)。色調は黄色調であることが多いが、正常色調であることもある1-3)。増大に伴い、表面に中心陥凹や潰瘍形成を伴う1-3)。隆起の立ち上がりは無茎性であることが多いが、亜有茎性の立ち上がりを示すこともある1-3)。表面の拡張した血管透見も比較的よく見られる所見である1)
消化管NEC は概して進行した状態で発見され、2 型、3 型進行癌の形態をとる場合が多く、また、隆起部には粘膜下腫瘍様の要素を認める場合が多い。
内視鏡所見より消化管NET が疑われた場合は、診断確定のため内視鏡下生検を行う。NET は粘膜下腫瘍様の形態を示すが、粘膜深層から発生した病変であるため、内視鏡下生検による組織学的診断率は高い3)。生検で陰性の場合、EUS-FNA や、sm までにとどまる病変であれば、内視鏡的切除による治療的診断が検討される。
治療方針決定のため深達度診断、腫瘍サイズ計測が重要であるが、これにはEUS が有用である4)。EUS 上、消化管NET は境界明瞭な低エコーの腫瘤として描出され(図2)、深達度診断能は高い4)。リンパ節転移や遠隔転移の有無の診断にはCT が有用である5)。肝転移の個数の診断能を比較するとMRI が最も優れていた。

図1 直腸NETの内視鏡像

直腸NETの内視鏡像

図2 図1と同一症例のEUS像

図1と同一症例のEUS像
【文 献】

1) 小林広幸, 渕上忠彦, 津田純郎, 松本主之, 平川克哉, 田畑寿彦, 菊池陽介, 和田陽子, 八尾恒良, 岩下明徳, 工藤哲司, 飯田三雄, 八尾隆史, 大城由美. 直腸カルチノイド腫瘍の画像診断X 線・内視鏡・EUS: 転移例と非転移例の比較を中心に 胃と腸 2005; 40(2): 163-174.(レベルⅣb)

2) Kim BN, Sohn DK, Hong CW, Han KS, Chang HJ, Jung KH, Lim SB, Choi HS, Jeong SY, Park JG. Atypical endoscopic features can be associated with metasitasis in rectal carcinoid tumors. Surg Endosc 2008;22:1992-1996.(レベルⅣb)

3) Shim KN, Yang SK, Myung SJ, Chang HS, Jung SA, Choe JW, Lee YJ, Byeon JS, Lee JH, Jung HY, Hong WS, Kim JH, Min YI, Kim JC, Kim JS. Atypical endoscopic features of rectal carcinoids. Endoscopy. 2004; 36(4): 313-316.(レベルⅣa)

4) Ishii N, Noriki N, Itoh T, Maruyama M, Matsuda M, Setoyama T, Suzuki S, Uchida S, Ueyama M, Iizuka Y, Fukuda K, Suzuki K, Fujita Y. Endoscopic submucosal dissection and preoperative assessment with endoscopic ultrasonogoraphy for the treatment of rectal carcinoid tumor. Surg Endosc. 2010; 24(6): 1413-1419.(レベルⅤ)

5) Fujimoto Y, Oya M, Kuroyanagi H, Ueno M, Akiyoshi T, Yamaguchi T, Muto T. Lymph-node metastasis in rectal carcinoids. Langenbecks Arch Surg. 2010; 395(2): 139-142.(レベルⅤ)


CQ1-4 A どのようなNET でMEN1 合併を疑うか?
  B 推奨される検査は何か?

推奨

A 症状

CQ1-5参照。

B 検査

アルブミン補正血清カルシウム濃度とインタクトPTH 測定が推奨される(グレードA)MEN1 の項を参照)1)。高プロラクチン血症が疑われる場合は血清プロラクチン値の測定が推奨される2)。先端巨大症の症状が見られる場合は、血清GH とIGF1 の測定、糖負荷試験でのGH の底値の測定が推奨される3)

【解 説】
  1. A高カルシウム血症で偶然見つかる症例が多い。機能性NET の症状の他に腹痛や血尿などの尿路結石発作の症状や消化性潰瘍が見られることがある。高プロラクチン血症による無月経、乳汁分泌、性機能障害が見られることがある。GH 産生腫瘍やGHRH 産生腫瘍による先端巨大症や巨人症の症状が見られることがある。
  2. B血清カルシウム濃度測定はアルブミン補正を行うことが重要である。PTH 測定はインタクトPTH 測定がふさわしく、C 末端PTH の測定や高感度PTH 測定などは不適切である。
【文 献】

1) Brandi ML, Gagel RF, Angeli A, Bilezikian JP, Beck-Peccoz P, Bordi C, Conte-Devolx B, Falchetti A, Gheri RG, Libroia A, Lips CJ, Lombardi G, Mannelli M, Pacini F, Ponder BA, Raue F, Skogseid B, Tamburrano G, Thakker RV, Thompson NW, Tomassetti P, Tonelli F, Wells SA Jr, Marx SJ.Guidelines for diagnosis and therapy of MEN type 1 and type 2. J Clin Endocrinol Metab. 2001; 86(12): 5658-5671.(レベルⅥ)

2) 間脳下垂体機能障害に関する調査研究班 プロラクチン(PRL)分泌過剰症の診断と治療の手引き(平成21 年度改訂)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業平成21 年度総括・分担研究報告書, 2010 年3 月

3) 間脳下垂体機能障害に関する調査研究班 先端巨大症および下垂体性巨人症の診断と治療の手引き(平成21 年度改訂)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業平成21 年度総括・分担研究報告書, 2010 年3 月


CQ1-5 NET の転移の検索に推奨される画像検査は何か?

推奨

画像検査として 1) CT、2) MRI、3) US、4) FDG-PET が推奨される(グレードB)。肝転移検索目的のCTでは、動脈相を含む造影CTが推奨される(グレードB)

【解 説】

肝転移の頻度が最も高い、次いでリンパ節転移だが、骨転移も比較的頻度が高い1)

CT:肝以外の転移巣同定にはCT がSRS よりも優れており、肝転移の同定はCT とSRS で差がなかった2)。また、単純、動脈相、門脈相では、動脈相が最も腫瘍描出能に優れており、CT では動脈相施行が奨められる3)

MRI:NET の肝転移を同定できた個数は、MRI、CT、SRS の順番に多く、MRI での同定個数はCT、SRS より有意に多かった4)

US:肝転移同定率は46-68%と報告されているが、造影剤の使用により同定率が上昇する5)

FDG-PET(保険未収載):NET のように発育が遅い腫瘍の同定には向いておらず、肝転移巣を含む再発巣の同定率は低いが、未分化で増殖能力の著しいNEC の再発検索には有用である6), 7)。FDG-PET で陽性の腫瘍は急速に発育する可能性が高く、そのような腫瘍のSRS やCT による検出率はPET よりも劣る6)

SRS(ソマトスタチン受容体シンチグラフィー)(保険未収載):ガストリノーマにおいて、SRS 単独での肝転移の同定率は、MRI、CT など他の検査単独よりも高く、他の検査の組み合わせと同程度であった8)。また、SRS は、他の画像診断で同定できなかった転移巣を同定できた9)。再発巣同定の感受性、特異性、精度、すべてでSRS がCT とMRI の組合せよりも良好であった10)。このように単独検査ではSRS の高い転移巣同定率が報告されているが、本邦では保険適応が認められてない。

膵NET 肝転移の86-100%が多発性である5), 11)。画像診断上、MRI ではT1 強調画像で低信号、T2 強調画像で高信号の腫瘍、CT では造影早期に濃染される腫瘍、として捉えられることが多い3), 5)

消化管NET 肝転移症例において、CT により描出された転移数は単純、動脈相、門脈相、の3 相で差がなかったが、単純、動脈相、門脈相、の各相単独で描出された腫瘍数は動脈相で最も多く、動脈相の転移検出における有用性を示唆していた。消化管NET 肝転移症例のMRI 画像を検討したところ、全転移個数の75%はT1 強調画像で低信号、T2 強調画像で高信号であった12)

画像診断ではないが血中NSE とクロモグラニンA(保険未収載)の測定は再発の確認に有用である。

【文 献】

1) Kim SJ, Kim JW, Han SW, Oh DY, Lee SH, Kim DW, Im SA, Kim TY, Heo DS, Bang YJ. Biological characteristics and treatment outcomes of metastatic or recurrent neuroendocrine tumor: tumor grade and metastatic site are important for treatment strategy. BMC Cancer. 2010; 10: 448-458.(レベルⅣb)

2) Kumbasar B, Kamel IR, Tekes A, Eng J, Fishman EK, Wahl RL. Imaging of neuroendocrine tumors: accuracy of helical CT versus SRS. Abdom Imaging. 2004; 29(6): 696-702.(レベルⅣb)

3) Paulson EK, McDermott VG, Keogan MT, DeLong DM, Frederick MG, Nelson RC. Carcinoid metastases to the liver: role of triple-phase helical CT. Radiology. 1998; 206(1): 143-150.(レベルⅣb)

4) Dromain C, de Baere T, Lumbroso J, Caillet H, Laplanche A, Boige V, Ducreux M, Duvillard P, Elias D, Schlumberger M, Sigal R, Baudin E. Detection of liver metastases from endocrine tumors: a prospective comparison of somatostatin receptor scintigraphy, computed tomography, and magnet ic resonance imaging. J Clin Oncol. 2005; 23(1): 70-78.(レベルⅣb)

5) Hoeffel C, Job L, Ladam-Marcus V, Vitry F, Cadiot G, Marcus C. Detection of hepatic metastases from carcinoid tumor: prospective evaluation of contrast-enhanced ultrasonography. Dig Dis Sci. 2009; 54(9): 2040-2046. (レベルⅣb)

6) Pasquali C, Rubello D, Sperti C, Gasparoni P, Liessi G, Chierichetti F, Ferlin G, Pedrazzoli S. Neuroendocrine tumor imaging: can 18F-fluorodeoxyglucose positron emission tomography detect tumors with poor prognosis and aggressive behavior? World J Surg. 1998; 22(6): 588-592.(レベルⅣb)

7) Adams S, Baum R, Rink T, Schumm-Dräger PM, Usadel KH, Hör G. Limited value of fluorine-18 fluorodeoxyglucose positron emission tomography for the imaging of neuroendocrine tumours. Eur J Nucl Med. 1998; 25(1): 79-83.(レベルⅣb)

8) Gibril F, Reynolds JC, Doppman JL, Chen CC, Venzon DJ, Termanini B, Weber HC, Stewart CA, Jensen RT. Somatostatin receptor scintigraphy: its sensitivity compared with that of other imaging methods in detecting primary and metastatic gastrinomas. A prospective study. Ann Intern Med. 1996; 125(1): 26-34.(レベルⅣb)

9) Lebtahi R, Cadiot G, Sarda L, Daou D, Faraggi M, Petegnief Y, Mignon M, le Guludec D. Clinical impact of somatostatin receptor scintigraphy in the management of patients with neuroendocrine gastroenteropancreatic tumors. J Nucl Med. 1997; 38(6): 853-858.(レベルⅣb)

10) Scigliano S, Lebtahi R, Maire F, Stievenart JL, Kianmanesh R, Sauvanet A, Vullierme MP, Couvelard A, Belghiti J, Ruszniewski P, Le Guludec D. Clinical and imaging follow-up after exhaustive liver resection of endocrine metastases: a 15-year monocentric experience. Endocr Relat Cancer. 2009; 16(3): 977-990.(レベルⅣb)

11) Eriksson B, Arnberg H, Lindgren PG, Loerelius LE, Magnusson A, Lundqvist G, Skogseid B, Wide L, Wilander E, Oeberg K. Neuroendocrine pancreatic tumors: clinical presentation, biochemical and histopathological findings in 84 patients. J Intern Med. 1990; 228(2): 103-113.(レベルⅣb)

12) Bader TR, Semelka RC, Chiu VCY, Armao DM, Woosley JT. MRI of carcinoid tumors: spectrum of appearances in the gastrointestinal tract and liver. J Magn Reson Imaging. 2001; 14(3): 261-269.(レベルⅣb)


コラム

  1. 慢性反復性低血糖の非典型的な症状

    慢性に反復される低血糖では、低血糖に伴う交感神経刺激症状より中枢神経症状が前面にたつ。中枢神経症状には様々な表れ方があり、推奨文に記載したものの他に各症例個別の症状がある。朝の目覚めが遅れて遅刻する、記憶力が低下する、日中の強い眠気、傾眠状態、錯乱、いらいらして叫びたくなる、などの一見低血糖症状と気付きにくい症状が主症状の場合がある。低血糖発作の症状の多様性を知っておくことが重要である。

  2. SASI テスト

    インスリノーマの場合には、刺激薬としてグルコン酸カルシウムを使用するが、前値と比べて200%以上の上昇が見られたものを栄養動脈と判断する。非家族性インスリノーマはほとんどが単発性であるので、画像診断で腫瘍が描出されればそれがインスリノーマである場合が多いが、画像診断で腫瘍として何も描出されない場合(occult sporadic insulinoma)には、SASI テストは極めて有用である1)。その場合、切除標本に単発性のインスリノーマが見つかる場合の他に、微小インスリノーマが多発している場合やnesidioblastosis を伴うラ島の過形成や増生が見られる、いわゆるNIPHS に属する場合もある(コラム3.参照)。ガストリノーマでは、SASI テストで刺激薬としてグルコン酸カルシウムを使用するが、前値より20%以上の上昇があり、絶対値で80 pg/mL の上昇が見られた場合に栄養動脈と判断して局在診断する2)。最近、十二指腸ガストリノーマが膵ガストリノーマより頻度が高いことが明らかになっている。十二指腸ガストリノーマは、非家族性の場合は単発性が多いが、MEN1 の場合は半数以上で多発し、無数に発生している場合もある。

  3. Non-insulinoma pancreatogenous hypoglycemia syndromes:NIPHS

    非インスリノ―マ膵原性低血糖症。新生児のnesidioblastosis と類似するラ島の増生や新生などの病理学的変化により低血糖症状が成人において発症する場合がある3-5)。インスリン値の抑制のない低血糖を示すものの、画像診断でインスリノーマが描出されない場合に鑑別すべき疾患である。病理的には膵臓の内分泌細胞のびまん性の過形成やnesidioblastosis が認められ、成人型ネジディオブラストーシスあるいはNIPHS と呼ばれる。この場合には、腫瘍形成が見られないので、SASI テストが唯一の局在診断法として、異常ラ島増生部位の特定に有用であることが分かっている。SASI テストでは前値より 100%以上のインスリン値の上昇がある場合が多いが、50-70%以上の上昇にとどまる場合もあり、鑑別診断に苦慮することもある。専門医の診断を求めてほしい3-5)

【文 献】

1) Abboud B, Boujaoude J. Occult sporadic insulinoma:localization nd surgical strategy. World J Gastroentel. 2008; 14(5): 657-665.(レベルⅥ)

2) Imamura M, Komoto I, Ota S, Hiratsuka T, Kosugi S, Doi R, Awane M, Inoue N. Biochemically curative surgery for gastrinoma in multiple endocrine neoplasia type 1 patients World J Gastroenterol. 2011; 17(10); 1343-1353.(レベルⅤ)

3) ServiceFJ, Natt N, Thompson GB, Grant CS, van Heerden JA, Andrews JC, Lorenz E, Terzic A, Lloid RV. Noninsulinoma pancreeatogenous hypoglycemia: a novel syndrome of hyperinsulinemic hypoglycemia in adults independent of mutations in Kir6.2 and SUR1 genes. J Clin Endocrinol Metab. 1994; 84(5); 1582-1589.(レベルⅤ)

4) Raffel A, Krausch M, Anlauf M, Wieben D, Braunstein S, Kloppel G, Roher HD, Knoefel WT. Diffuse nesidiobalastosis as a cause of hyperinsulinemis hypoglycemia in adults: a diagnostic and therapeutic challenge. Surgery. 2007; 141(2): 179-184.(レベルⅤ)

5) Ouyang D, Dhall D, Yu R, Pathologic pancreatic endocrine cell hyperplasia. World J Gastroentel. 2011; 17(2): 137-143.(レベルⅤ)


病理

まえがき

WHO では2000 年に、1907 年以来使用されていたカルチノイドの名称をやめ、神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor; NET)の名称を初めて使用した。その後の2010 年の改訂では、膵・消化管NET をNET G1、NET G2、NEC、MANEC、Hyperplasia and preneoplastic lesions などに分類し、全体をNeuroendocrine neoplasia(NEN)と呼称することとした。NET G1、NET G2、 NEC の分類は、核分裂像、Ki67 指数によって規定され、それぞれNET G1(<2/10HPF、≦2%)、NET G2(2-20/10HPF、3-20%)、NEC(>20/10HPF、>20%)に設定している。TNM 分類(ENETS またはAJCC/UICC)も併用される。Preneoplastic lesion として、A 型胃炎に伴うNE 細胞の増殖は有名であり、MEN1、VHL、NF-1、TSC など膵NET/NEC のpredispositoin としてよく知られている。転移性膵・消化管NET/NEC の治療に関しては、オクトレオチド(ソマトスタチンアナログ)が用いられ、治療効果の予測のため、腫瘍細胞でのソマトスタチンレセプター(SSTR)の免疫組織化学的解析が推奨される。NET/NEC において病理診断の果たす役割は極めて大きい。

CQ2-1 膵・消化管NETに生検診断は必要か? 生検でどこまで分かるか?

推奨

膵・消化管NETの生検診断は、診断の確定のために推奨される(グレードB)
膵NET の生検による悪性度診断にKi67 指数が有用である(グレードC1)。採取した腫瘍量が少ない状況で、Ki67 指数が高い場合は再現性が高いが、Ki67 指数が低い場合の再現性は低い(グレードC1)

【解 説】

膵NETに対する生検の役割は組織診断、悪性度診断、予後予測が挙げられる。組織診断1-4)に関しては多くの報告がなされており、その感度は82.6-100%、正診率は83.3-93%と良好であり、膵NET か他の腫瘍かの鑑別診断が可能である。消化管NETは通常内視鏡下での診断率は60-90%と比較的高く5)、治療方針決定に有用である。

EUS-FNA 検体を用いた膵NETに対する悪性度診断や予後予測に関しては数編の報告がある。Ki67 指数を用いた検討では、手術検体と89-92.3%と高い一致率を示す報告6, 7)がある一方、2%をcutoff 値としても転移の有無の指標にならず、Cox 比例ハザードモデルでも、Ki67 指数は死亡のリスク因子にはならない8)との報告もある。その理由として、Ki67 指数は腫瘍内でばらつきがあり、必ずしもhot spotが穿刺されているわけではないことが挙げられており、現時点ではKi67 指数による悪性度診断はcontroversial と考えられる9)。手術検体から針で生検と同様の大きさの検体を取り出し、そのWHO2010 分類を比較した論文では、針生検3 本および1 本で判定されたWHO2010 分類の手術検体での再現性はそれぞれ64.7%、59.5%であり、生検組織で判定されたWHO2010 分類は過小評価されている可能性があり注意を要する。Ki67 指数以外の悪性度診断には、マイクロサテライトマーカーを用いたヘテロ接合性消失(loss of heterozygosity; LOH)の解析を用いた報告がある10)。分別対立遺伝子喪失(Fractional allelic loss; FAL)のcutoff 値を0.2 としたところ、無再発期間、5 年生存率ともに有意差を認めたと報告しているが、評価はまだ確定していない。予後予測に関しては、EUS-FNA 検体77 例をWHO2000 分類の診断基準を用いてWDNET 30 例、WDNEC 21 例、PDNEC 26 例に分けて予後を検討した結果、5 年生存率はそれぞれ、100%、68%、30%と有意差があったと報告がなされている2)が、WHO2010 分類における検討は未だなされていない。
消化管NET に対する生検による悪性度診断・予後予測に関する報告はなく、今後の課題である。

【文 献】

1) Ardengh JC, de Paulo GA, Ferrari AP. EUS-guided FNA in the diagnosis of pancreatic neuroendocrine tumors before surgery. Gastrointest Endosc. 2004; 60(3): 378-384.(レベルⅣa)

2) Figueiredo FA, Giovannini M, Monges G, Bories E, Pesenti C, Caillol F, Delpero JR. EUS-FNA predicts 5-year survival in pancreatic endocrine tumors. Gastrointest Endosc. 2009; 70(5): 907-914.(レベルⅣa)

3) Pais SA, Al-Haddad M, Mohamadnejad M, Leblanc JK, Sherman S, McHenry L, DeWitt JM. EUS for pancreatic neuroendocrine tumors: a single-center, 11-year experience. Gastrointest Endosc. 2010; 71(7): 1185-1193.(レベルⅣa)

4) Gornals J, Varas M, Catalá I, Maisterra S, Pons C, Bargallo D, Serrano T, Fabregat J. Definitive diagnosis of neuroendocrine tumors using fine-needle aspiration-puncture guided by endoscopic ultrasonography. Rev esp enferm Dig. 2011; 103(3): 123-128.(レベルⅣa)

5) 今村哲理, 黒河聖, 吉井新二, 安保智典, 本谷聡. 消化管カルチノイドの診断と治療 3)大腸. 胃と腸. 2004; 39(4): 592-600. (レベルⅥ)

6) Piani C, Franchi GM, Cappelletti C, et al. Cytological Ki67 in pancreatic endocrine tumours: an opportunity for pre-operative grading. Endocrine Related Cancer. 2008; 15(1): 175-181.(レベルⅣa)

7) Chatzipantelis P, Konstantinou P, Kaklamanos M, Apostolou G, Salla C. The role of cytomorphology and proliferative activity in predicting biologic behavior of pancreatic neuroendocrine tumors. Cancer Cytopathology. 2009; 117(3): 211-216.(レベルⅣa)

8) Alexiev BA, Darwin PE, Goloubeva O, Ioffe OB. Proliferative rate in endoscopic ultrasound fine‐needle aspiration of pancreatic endocrine tumors. Cancer Cytopathology. 2009; 117(1): 40-45.(レベルⅣa)

9) Yang Z, Tang LH, Klimstra DS: Effect of tumor heterogeneity on the assessment of Ki67 labeling index in well-differentiated neuroendocrine tumors metastatic to the liver: implications for prognostic stratification, Am J Surg Pathol. 2011; 35(6): 853-860.(レベルⅣa)

10) Fasanella KE, McGrath KM, Sanders M, Brody D, Domsic R, Khalid A. Pancreatic endocrine tumor EUS-guided FNA DNA microsatellite loss and mortality. Gastrointestinal Endoscopy. 2009; 69(6): 1074-1080.(レベルⅣa)


CQ2-2 膵・消化管NETを疑った場合に推奨される生検診断法は何か?

CQ2-2-1 膵 NET を疑った場合に推奨される生検診断法は何か?

推奨

診断能と安全性の面からEUS-FNA が推奨される(グレードB)

肝転移を疑う場合は、経皮的肝生検が有用である(グレードB)

【解 説】

膵腫瘍に対する術前の組織採取法としては、主にUS あるいはCT ガイド下経皮的穿刺吸引法(経皮的FNA)とEUS-FNA が挙げられる。これらの診断能についてランダム化比較試験を行った唯一の論文1)は、経皮的FNA とEUS-FNA の正診率は72% vs. 89%で両者に有意差は認めなかった(P=0.135)。また、Hartwing ら2)の膵腫瘍に対する術前組織診断における経皮的FNA 21 論文とEUS-FNA 28 論文のレビューでは、感度、特異度、正診率はそれぞれ87% vs. 83%、72% vs. 100%、84% vs. 88%であり、両者に大きな差は認めていない。一方、1050 例の膵病変に対するFNA の検討3)(EUS-FNA 843 例、US/CT ガイド 207 例)において、3 cm 以下の膵腫瘍に対しては経皮的FNA に比しEUS-FNA の方が有意に正診率が高かった。膵NETに限定した経皮的FNA とEUS-FNA との比較試験4)でも、症例数が少ないもののEUS-FNA がより高い診断率を示している。

また、合併症に関しては、FNA 後の腹膜播種の出現頻度を経皮的FNA とEUS-FNA で比較した膵癌の調査5)では、では、EUS-FNA が有意に低かった(16.3% vs. 2.2%、P<0.025)と報告している。

膵・消化管NET の肝転移巣からの生検診断に関しては少数例の報告があり6)、転移巣からの肝生検でもNET の診断が可能であり有用であると考えられる。

【文 献】

1) Horwhat JD, Paulson EK, McGrath K, Branch MS, Baillie J, Tyler D, Pappas T, Enns R, Robuck G, Stiffler H, Jowell P. A randomized comparison of EUS-guided FNA versus CT or US-guided FNA for the evaluation of pancreatic mass lesions.. Gastrointestinal Endoscopy. 2006; 63(7): 966-975.(レベルⅡ)

2) Hartwig W, Schneider L, Diener M, Bergmann F, Büchler M, Werner J. Preoperative tissue diagnosis for tumours of the pancreas. British Journal of Surgery. 2009; 96(1): 5-20.(レベルⅡ)

3) Volmar KE, Vollmer RT, Jowell PS, Nelson RC, Xie HB. Pancreatic FNA in 1000 cases: a comparison of imaging modalities. Gastrointestinal Endoscopy. 2005; 61(7): 854-861.(レベルⅣa)

4) Jhala D, Eloubeidi M, Chhieng DC, Frost A, Eltoum IA, Roberson J, Jhala N. Fine needle aspiration biopsy of the islet cell tumor of pancreas: a comparison between computerized axial tomography and endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration biopsy. Ann Diagn Pathol. 2002; 6(2): 106-112.(レベルⅣa)

5) Micames C, Jowell PS, White R, Paulson E, Nelson R, Morse M, Hurwitz H, Pappas T, Tyler D, McGrath K. Lower frequency of peritoneal carcinomatosis in patients with pancreatic cancer diagnosed by EUS-guided FNA vs. percutaneous FNA. Gastrointest Endosc. 2003; 58(5): 690-695.(レベルⅣa)

6) Gupta RK, Naran S, Lallu S, Fauck R. Fine needle aspiration diagnosis of neuroendocrine tumors in the liver. Pathology. 2000; 32(1): 16-20.(レベルⅣa)


CQ2-2-2 消化管NET を疑った場合に推奨される生検診断法は何か?

推奨

内視鏡下での組織生検が推奨される(グレードA)

内視鏡下で組織が得られなかった場合には、EUS-FNA が推奨される(グレードB)

【解 説】

消化管NET を疑った場合の生検診断法には確立されたものはない。消化管NET において頻度の高いNET G1 においては、通常内視鏡下での診断率は60-90%と比較的高い1-5)。しかし、内視鏡下生検にて診断が得られない場合には、EUS-FNA が勧められる。消化管NETに対するEUS-FNA の成績の報告はないが、胃SMT に対する成績では、83%で診断可能でその良悪性の正診率は95.6%と良好なものであ6)。EUS-FNA が行えない施設では、内視鏡的切除によって診断を行う。

【文 献】

1) 今村哲理, 黒河聖, 吉井新二, 安保智典, 本谷聡.消化管の粘膜下腫よう2004 各論2. 消化管カルチノイドの診断と治療 3)大腸. 胃と腸. 2004; 39(4): 592-600.(レベルⅥ)

2) Park HW, Byeon JS, Park YS, Yang DH, Yoon SM, Kim KJ, Ye BD, Myung SJ, Yang SK, Kim JH. Endoscopic submucosal dissection for treatment of rectal carcinoid tumors. Gastrointest Endosc. 2010; 72(1): 143-149.(レベルⅣa)

3) 片岡幹統, 原田明日香, 塚本咲貴子, 立花智津子,立花浩幸. 胃 GIST の粘膜切開生検法による新しい病理組織診断法. 消化器内科. 2010; 50(2): 108-111.(レベルⅣa)

4) de la Serna-Higuera C, Pérez-Miranda M, Díez-Redondo P.,Harranz T, Pérez-Martin E, Ochoa C, Caro-Patón A. EUS-guided single-incision needle-knife biopsy: description and results of a new method for tissue sampling of subepithelial GI tumors (with video). Gastrointest Endosc. 2011; 74(3): 672-676.(レベルⅣa)

5) 5. Lee CK, Chung IK, Lee SH, Lee SH, Lee TH, Park SH, Kim HS, Kim SJ, Cho HD. Endoscopic partial resection with the unroofing technique for reliable tissue diagnosis of upper GI subepithelial tumors originating from the muscularis propria on EUS (with video). Gastrointest Endosc. 2010; 71(7): 188-194.(レベルⅢ)

6) Mekky MA, Yamao K, Sawaki A, Mizuno N, Hara K, Nafeh MA, Osman AM, Koshikawa T, Yatabe Y, Bhatia V. Diagnostic utility of EUS-guided FNA in patients with gastric submucosal tumors. Gastrointest Endosc. 2010; 71(6): 913-919.(レベルⅣa)


CQ2-3 病理組織標本の取り扱い方法(A:固定法、B:染色法)

推奨

A 固定法
採取された検体はただちに十分な量の固定液で固定することが推奨される(グレードA)。
固定時間は8-36 時間が推奨される(グレードA)

B 染色方法
病理形態学的な評価はHE 染色を利用することが推奨される(グレードA)。神経内分泌分化を確認するためクロモグラニンA、シナプトフィジンの免疫染色を行うことが推奨される(グレードA)。神経内分泌腫瘍の組織形態を示し、クロモグラニンA、シナプトフィジンがいずれも陰性の場合には、その他の免疫染色(CD56 など)や電子顕微鏡による観察を追加することが推奨される (グレードB)。WHO 分類に基づいた診断のため、Ki67 の免疫染色を行うことが推奨される(グレードA)。治療効果予測のためSSTR の免疫染色が推奨される(グレードB)

【解 説】

A 固定法
採取された検体は採取後ただちに十分な量の固定液(10%中性緩衝ホルマリン液など)に入れ固定する。固定時間は、免疫染色が必須であることから、過固定を避ける。標本の固定時間としては8-36 時間が望ましい1)。適切な固定時間は検体の大きさによって異なる。生検検体のように小さい検体では、6-8 時間程度が望ましく、手術検体のような大きな検体においても48 時間以上の固定は染色性が低下する1)

外分泌系悪性腫瘍と同様に、腸管では、壁の深達度によって局所腫瘍進展度が規定されるため、検体のオリエンテーションが明瞭になるように固定する必要がある2, 3)。腸管(食道、胃、小腸、虫垂、結腸、直腸)では、腸管を長軸方向に切り開き、固定板上で引き延ばして固定する。切り開く方向は、原則としては、胃では大彎側、小腸および結腸では腸管膜の対側、直腸では前方とする。ただし、病変がこれらの部位にあたる場合には病変を避けて開く2, 3)。膵臓の膵頭十二指腸切除検体では十二指腸の両切除断端を閉鎖し、ホルマリンを注入して固定する。固定前に切開は入れず、固定後に行うことが望ましい4)

B 染色方法
神経内分泌分化を同定するのに、現在では免疫染色が主流である。免疫組織化学染色では、シナプトフィジン、クロモグラニンA のいずれかが陽性であることを確認する5)。NET G1、NET G2 では、いずれも陽性となることが多いが、NEC のように分化度が低くなるとクロモグラニンA の陽性度が低くなり、シナプトフィジンの染色が有用となるといわれている。CD56(NCAM)のみが陽性の場合には、電子顕微鏡によって内分泌顆粒を確認するなど、低分化癌と鑑別する必要がある。内分泌顆粒の有無の観察は電子顕微鏡によってのみ可能であり、免疫染色で神経内分泌分化が確認されない場合には有用である。Ki67 指数と細胞分裂数に基づくWHO2010 分類は生存予後と相関す6)。治療効果予測のため、SSTR などバイオマーカーの染色が極めて重要である7)

必要に応じて、脈管侵襲を判定する目的で弾性線維染色およびリンパ管浸潤のためにD2-40 の免疫組織化学染色を行う。

【文 献】

1) Goldstein NS, Ferkowicz M, Odish E, Mani A, Hastah F. Minimum formalin fixation time for consistent estrogen receptor immunohistochemical staining of invasive breast carcinoma. Am J Clin Pathol. 2003; 120(1): 86-92. (レベルⅣa)

2) 大腸癌研究会. 大腸癌取扱い規約 第 7 版補訂版. Edited by 金原出版, 2009.(レベルⅥ)

3) 日本胃癌学会. 胃癌取扱い規約 第 14 版. Edited by 金原出版, 2010.(レベルⅥ)

4) 日本膵臓学会. 膵癌取扱い規約 第 6 版. Edited by 金原出版, 2009.(レベルⅥ)

5) Wiedenmann B, Franke WW, Kuhn C, Moll R, Gould VE. Synaptophysin: a marker protein for neuroendocrine cells and neoplasms. Proc Natl Acad Sci USA. 1986; 83(10): 3500-3504.(レベルⅠ)

6) Pape UF, Jann H, Muller-Nordhorn J, Bockelbrink A, Berndt U, Willich SN, Koch M, Rocken C, Rindi G, Wiedenmann B. Prognostic relevance of a novel TNM classification system for upper gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors. Cancer. 2008; 113(2): 256-265. (レベルⅠ)

7) Volante M, Brizzi MP, Faggiano A, La Rosa S, Rapa I, Ferrero A, Mansueto G, Righi L, Garancini S, Capella C, De Rosa G, Dogliotti L, Colao A, Papotti M, Somatostatin receptor type 2A immunohistochemistry in neuroendocrine tumors: a proposal of scoring system correlated with somatostatin receptor scintigraphy, Mod Pathol. 2007; 20(11): 1172-1182.(レベルⅣb)


CQ2-4 切除標本における病理組織診断書に必要な記載項目は何か?

推奨

発生する臓器名(グレードA)、組織形態的および免疫組織化学的なNET の特徴(グレードA)、WHO2010 分類(グレードA)、TNM 分類 (グレードA)、リンパ節転移の有無、転移リンパ節の数、遠隔転移 (グレードA)を記載することが推奨される。腫瘍の切除断端について腫瘍露出の有無、断端までの距離を記載することが推奨される(グレードB)

【解 説】

膵・消化管NET は、原発部位によらず、細胞分裂数やKi67 指数によってG1、G2、NEC に分類される1-3)。細胞分裂数は、最も多く観察される領域10視野を観察し、その合計数とする。
Ki67 指数の測定に際しては、最初に弱拡大で観察した上で最も陽性細胞密度の高い領域、すなわちhot spotで少なくとも2,000 個の腫瘍細胞を測定して陽性細胞の割合を算出する。外分泌腫瘍成分が全体の30%以上の領域に含まれる腫瘍については、G1、G2、NEC とは異なりmixed adenoneuroendocrine carcinoma(MANEC)に分類される。脈管侵襲や壊死の有無は独立した予後予測因子としては十分なエビデンスが認められないことから、WHO2010分類を規定する因子とはならない。

ENETS のTNM 分類とAJCC/UICC のTNM 分類は異なっているため、誤解のないよう、いずれの分類を用いたのかを明記しなくてはいけない1, 2, 4)

【文 献】

1) Rindi G, Kloppel G, Alhman H, Caplin M, Couvelard A, de Herder WW, Erikssson B, Falchetti A, Falconi M, Komminoth P, Korner M, Lopes JM, McNicol AM, Nilsson O, Perren A, Scarpa A, Scoazec JY, Wiedenmann B: TNM staging of foregut (neuro)endocrine tumors: a consensus proposal including a grading system, Virchows Arch. 2006; 449(4): 395-401.(レベルⅥ)

2) Rindi G, Kloppel G, Couvelard A, Komminoth P, Korner M, Lopes JM, McNicol AM, Nilsson O, Perren A, Scarpa A, Scoazec JY, Wiedenmann B: TNM staging of midgut and hindgut (neuro) endocrine tumors: a consensus proposal including a grading system, Virchows Arch. 2007; 451(4): 757-762.(レベルⅥ)

3) Bosman F, Camerio F, Hurban R, Theise N: WHO classification of tumours of the digestive system. Edited by Lyon, IARC Press, 2010.(レベルⅥ)

4) Sobin L, Gospodarowicz M, Wittekind C. TNM Classification of Malignant Tumors. Wiley-Blackwell, Oxford, 2009.(レベルⅥ)


CQ2-5 術中迅速診断で明らかにできることは何か?

CQ2-5-1 迅速診断の目的は何か?

推奨

腫瘍細胞が含まれているか否かを確認することが目的である。(グレードB)

NET の迅速診断は、主として、原発巣や転移病巣に腫瘍細胞が含まれているか否かを確認することである (グレードB)。切除断端の迅速診断の評価は、病変が肉眼的に近接している場合に推奨される(グレードB)

【解 説】

一般的に、迅速診断の目的は、1)腫瘍組織診断、2)転移・播種の有無、3)切除断端の評価、などが挙げられる。このうち、NET では、その他と異なり、多くは比較的境界明瞭な病変を形成するため、切除断端の評価は必要でない場合が多く1)、病変が肉眼的に近接している場合に行われる。

【文 献】

1) Couvelard A, Sauvanet A. Gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors: indications for and pitfalls of frozen section examination. Virchows Arch. 2008; 453(5): 441-448. (レベルⅥ)


CQ2-5-2 迅速診断でどこまでが分かるか?

推奨

他の腫瘍との鑑別が困難な場合は、免疫染色を含めた永久標本での評価を行うことが、推奨される(グレードC1)

【解 説】

迅速病理診断において、NET と他の上皮性悪性腫瘍との鑑別は困難である1)。膵solid-pseudopapillary neoplasm や腺房細胞癌とNET の迅速病理診断による鑑別は困難であり、免疫染色を含めた永久標本での評価が必要である1)

NET のうち、悪性度の低い腫瘍の多くは、形態的に典型的な像を呈することから、術中迅速診断において診断が可能である。しかし、発生部位や、悪性度によって組織像が多彩であるため確定が難しい症例も認められる。特に悪性度の高いNET の場合には、細胞異型が目立ち、腺癌との鑑別を要する1, 2)。VHL 病における膵NET は、しばしば淡明な細胞質を有し、腎細胞癌や漿液性嚢胞腺腫との鑑別を要する。この他、膵NET で好酸性細胞質を呈する症例では腺房細胞癌と形態的な鑑別が難しいものもある3, 4)。消化管NET では、Brunner 腺腺腫や異所性膵との鑑別を要する。

【文 献】

1) Couvelard A, SauvaNET A: Gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors: indications for and pitfalls of frozen section examination, Virchows Arch. 2008; 453(5): 441-448.(レベルⅥ)

2) Bosman F, Camerio F, Hurban R, Theise N. WHO classification of tumours of the digestive system. IARC Press, Lyon, 2010.(レベルⅥ)

3) Hoang MP, Hruban RH, Albores-Saavedra J. Clear cell endocrine pancreatic tumor mimicking renal cell carcinoma: a distinctive neoplasm of von Hippel-Lindau disease. Am J Surg Pathol. 2001; 25(5): 602-609.(レベルⅤ)

4) Sugihara A, Nakasho K, Ikuta S, Aihara T, Kawai T, Iida H, Yoshie H, Yasui C, Mitsunobu M, Kishi K, Mori T, Yamada N, Yamanegi K, Ohyama H, Terada N, Ohike N, Morohoshi T, Yamanaka N. Oncocytic non-functioning endocrine tumor of the pancreas. Pathol Int. 2006; 56(12): 755-759. (レベルⅤ)


外科治療

まえがき

外科治療については、膵NET と消化管NET に分けてCQ を作成した。目的CQ を見つけやすくするために、膵NET については、インスリノーマ、ガストリノーマ、グルカゴノーマ、VIP 産生腫瘍、その他の機能性NET、非機能性NET の項目ごとにCQ を作成した。また、MEN1 に伴う膵・消化管NET の外科治療についてのCQ を設けた。膵NET については転移を伴う場合と、再発した時の外科治療に対するCQ をそれぞれ独立して作成した。

消化管NET の外科治療については臓器別に胃、十二指腸、小腸、結腸、直腸、虫垂のNET の項目ごとにCQ を作成した。消化管NET についても転移、再発時の外科治療に対するCQ をそれぞれ作成した。

さらに、外科治療に関連する重要な問題として術中迅速診断と術後の経過観察方法についてのCQ を追加した。膵・消化管NET についてのエビデンスを集積し、日常診療の参考となる推奨文と解説記述を心掛けた。

CQ3-1 膵NET の手術適応と術式は?

CQ3-1-1 インスリノーマの手術適応と術式は?

推奨

インスリノーマと診断された場合、インスリノーマ切除術が推奨される(グレードB)。術式は核出術や膵部分切除などの局所切除が推奨される。(グレードB)。悪性が疑われる場合、リンパ節郭清を伴う定型的膵切除術が推奨される(グレードB)

【解 説】

インスリノーマは約90%が良性腫瘍で膵に局在しており、手術による根治が期待できる1-5)。直径が2 cm 以下の病変については核出術が推奨される6-8)。腫瘍と主膵管が3 mm 以上離れている場合は、主膵管を損傷せずに核出術が可能である。しかし、腫瘍と主膵管の距離が近接しており、主膵管損傷の危険ある場合は膵部分切除術や分節切除術、膵尾部切除術などが推奨される。膵体尾部切除術を行う場合、腫瘍の被膜がはっきりしており、浸潤傾向がないなど悪性所見を伴わない場合は脾動静脈温存が推奨され6-8)。腫瘍多発、尾側膵管の拡張、周囲組織への浸潤、リンパ節転移などを認めた場合はリンパ節郭清を伴う膵切除術(膵頭十二指腸切除術/膵体尾部切除術)が推奨される6-11)

術前に画像診断法のみが行われていて、術中超音波検査などによっても腫瘍が確認できない場合は、盲目的な膵切除は推奨されない。一旦閉腹して、別途カルシウム溶液を用いるSASI テストをすることにより、微小インスリノーマ、ラ島過形成、nesidioblastosis などの局在を診断することができる6-10)

近年、腹腔鏡手術が急速に普及してきており、インスリノーマに対する腹腔鏡下手術も報告されている。経験のある術者であれば、腹腔鏡下超音波検査(LUS)で 85%以上の局在診断 が可能であり有用であるとする報告があ4, 12, 13)。本邦でも、2012 年春に腹腔鏡下膵切除術が保険適応となった。

【文 献】

1) Metz DC, Jensen RT: Gastrointestinal neuroendocrine tumors: Pancreatic endocrine tumors. Gastroenterology. 2008; 135(5): 1469-1492.(レベルⅥ)

2) Vanderveen K, Grant C: Insulinoma. Cancer Treat Res. 2010; 153: 235-252.(レベルⅥ)

3) de Herder WW, Niederle B, Scoazec JY, Pauwels S, Kloppel G, Falconi M, Kwekkeboom DJ, Oberg K, Eriksson B, Wiedenmann B, Rindi G, O'Toole D, Ferone D; Frascati Consensus Conference; European Neuroendocrine Tumor Society. Well-differentiated pancreatic tumor/carcinoma: insulinoma. Neuroendocrinology. 2006; 84(3): 183-188.(レベルⅡ)

4) Ekeblad S, Skogseid B, Dunder K, Oberg K, Eriksson B. Prognostic factors and survival in 324 patients with pancreatic endocrine tumor treated at a single institution. Clin Cancer Res. 2008; 14(23): 7798-7803.(レベルⅣa)

5) España-Gómez MN, Velázquez-Fernández D, Bezaury P, Sierra M, Pantoja JP, Herrera MF. Pancreatic insulinoma: a surgical experience. World J Surg. 2009; 33(9): 1966-1970.(レベルⅣb)

6) Kulke MH, Anthony LB, Bushnell DL, de Herder WW, Goldsmith SJ, Klimstra DS, Marx SJ, Pasieka JL, Pommier RF, Yao JC, Jensen RT. North American Neuroendocrine Tumor Society (NANETS). NANETS Treatment Guidelines: well-differentiated neuroendocrine tumors of the stomach and pancreas. Pancreas. 2010; 39(6): 735-752.(レベルⅥ)

7) Akerstrom G, Hellman P: Surgery on neuroendocrine tumours. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2007; 21(1): 87-109.(レベルⅥ)

8) Fendrich V, Waldmann J, Bartsch DK, et al: Surgical management of pancreatic endocrine tumors. Nat Rev Clin Oncol. 2009; 6(7): 419-428.(レベルⅥ)

9) Jensen RT, Niederle B, Mitry E, Ramage JK, Steinmuller T, Lewington V, Scarpa A, Sundin A, Perren A, Gross D, O'Connor JM, Pauwels S, Kloppel G; Frascati Consensus Conference; European Neuroendocrine Tumor Society. Gastrinoma (duodenal and pancreatic). Neuroendocrinology. 2006; 84(3): 173-182.(レベルⅥ)

10) Jensen RT, Berna MJ, Bingham DB, Norton JA. Inherited pancreatic endocrine tumor syndromes: advances in molecular pathogenesis, diagnosis, management and controversies. Cancer. 2008; 113(suppl 7):1807-1843.(レベルⅥ)

11) Grant CS: Insulinoma. In: Surgical Endocrinology 2001. Loppincott, Williams& Wilkins, Philadelphia: 345-360.(レベルⅥ)

12) Fernández-Cruz L, Blanco L, Cosa R, Rendón H. Is laparoscopic resection adequate in patients with neuroendocrine pancreatic tumors? World J Surg. 2008; 32(5): 904-917.(レベルⅣa)

13) Richards ML, Thompson GB, Farley DR, Kendrick ML, Service JF, Vella A, Grant CS. Setting the bar for laparoscopic resection of sporadic insulinoma. World J Surg. 2011; 35(4): 785-789.(レベルⅤ)


CQ3-1-2 ガストリノーマの手術適応と術式は?

推奨

ガストリノーマと診断された場合、切除術が推奨される(グレードB)。十二指腸ガストリノーマに対しては、リンパ節郭清を伴う十二指腸切除術が推奨される(グレードB)。膵ガストリノーマに対しては、リンパ節郭清を伴う膵切除術が推奨される(グレードB)

【解 説】

ガストリノーマは、切除術によってのみ、根治できる1-4)。ガストリノーマはその60-90%が悪性腫瘍と報告されている1, 2, 5)。肝転移・遠隔転移を伴わないと診断された場合は、切除術が推奨される。リンパ節転移率が60%以上と高いので、リンパ節郭清は必須である1-3)。血管など周辺臓器への浸潤がある場合も、合併切除が可能と判断される場合は切除術が推奨される2, 3, 5, 6)

ガストリノーマは十二指腸、膵の両方から発生することが知られているが、最近は、膵ガストリノ―マより、十二指腸ガストリノーマの発生率の方が高く、散発性の場合でも全体の50-88%を十二指腸ガストリノーマが占めている2, 7)。稀に、膵・十二指腸以外からの発生も報告されており2, 7)、術中の腹部全体の詳細な検索が不可欠であるために、開腹術による腫瘍の検索が推奨される2, 3, 8)

転移・浸潤所見が乏しい場合は、十二指腸、膵臓とも部分切除術や核出術で根治できる。微細なリンパ節転移巣は、術中の視診、触診では診断できないので、リンパ節郭清を伴う切除術が推奨される2, 3, 8, 9)

ガストリノーマの根治を目的とせず、消化性潰瘍の制御を目的とする胃全摘術や迷走神経切離術は推奨されない2, 3, 8, 10)

【文 献】

1) Metz DC, Jensen RT: Gastrointestinal neuroendocrine tumors: Pancreatic endocrine tumors. Gastroenterology. 2008; 135(5): 1469-1492.(レベルⅥ)

2) Jensen RT, Niederle B, Mitry E, Ramage JK, Steinmuller T, Lewington V, Scarpa A, Sundin A, Perren A, Gross D, O'Connor JM, Pauwels S, Kloppel G; Frascati Consensus Conference; European Neuroendocrine Tumor Society. Gastrinoma (duodenal and pancreatic). Neuroendocrinology. 2006; 84(3): 173-182.(レベルⅥ)

3) Norton JA, Jensen RT: Resolved and unresolved controversies in the surgical management of patients with Zollinger-Ellison syndrome. Ann Surg. 2004; 240(5): 757-773.(レベルⅥ)

4) Kulke MH, Anthony LB, Bushnell DL, de Herder WW, Goldsmith SJ, Klimstra DS, Marx SJ, Pasieka JL, Pommier RF, Yao JC, Jensen RT. North American Neuroendocrine Tumor Society (NANETS). NANETS Treatment Guidelines: well-differentiated neuroendocrine tumors of the stomach and pancreas. Pancreas. 2010; 39(6): 735-752 (レベルⅥ)

5) Fendrich V, Waldmann J, Bartsch DK, Langer P. Surgical management of pancreatic endocrine tumors. Nat Rev Clin Oncol. 2009; 6(7): 419-428.(レベルⅥ)

6) Norton JA, Fraker DL, Alexander HR, Venzon DJ, Doppman JL, Serrano J, Goebel SU, Peghini PL, Roy PK, Gibril F, Jensen RT. Surgery to cure the Zollinger-Ellison syndrome. N Engl J Med. 1999; 341(19): 635-644.(レベルⅢ)

7) Anlauf M, Garbrecht N, Henopp T, Schmitt A, Schlenger R, Raffel A, Krausch M, Gimm O, Eisenberger CF, Knoefel WT, Dralle H, Komminoth P, Heitz PU, Perren A, Klöppel G. Sporadic versus hereditary gastrinomas of the duodenum and pancreas: distinct clinicopathological and epidemiological features. World J Gastroenterol. 2006; 12(34): 5440-5446.(レベルⅣa)

8) Morrow EH, Norton JA: Surgical management of Zollinger-Ellison syndrome; state of the art. Surg Clin North Am 2009; 89: 1091-1103. (レベルⅥ)

9) Sugg SL, Norton JA, Fraker DL, Metz DC, Pisegna JR, Fishbeyn V, Benya RV, Shawker TH, Doppman JL, Jensen RT. A prospective study of intraoperative methods to diagnose and resect duodenal gastrinomas. Ann Surg. 1993; 218(2): 138-144.(レベルⅢ)

10) Franz RC, Penzhorn HO: Is total gastrectomy still a viable option in the management of patients with the Zollinger-Ellison syndrome? S Afr J Surg. 2007; 45(2): 58-60.(レベルⅣa)


CQ3-1-3 グルカゴノーマの手術適応と術式は?

推奨

グルカゴノーマと診断された場合、切除術が推奨される(グレードB)。術式は、リンパ節郭清を伴う膵切除術が推奨される(グレードB)

【解 説】

外科的切除が治癒させうる唯一の治療法であり1, 2)、グルカゴノーマの診断が確定した時点で外科切除を考慮する。また、診断時の平均腫瘍径は他の膵NET に比べて大きい3)。転移のほとんどが肝転移とリンパ節転移であり、特に肝転移の頻度が41-95%と高率であるが1, 3-6)、原発巣、肝転移ともに切除が可能な場合は、切除術が推奨される。

グルカゴノーマはリンパ節転移が高頻度であり、腫瘍切除に加えリンパ節郭清が必須である。原発巣の局在は90%以上が膵臓で、膵尾部、体部、頭部の順に局在頻度が高い1, 4-6)。術式は膵体尾部切除術、膵頭十二指腸切除術を基本とするが、原発巣の局在に応じて術式を変更する。

根治切除が不可能な転移巣が認められた場合であっても、原発巣の切除による腫瘍の縮小は、血中グルカゴン濃度を低下させ、合併する糖尿病、皮膚病変(遊走性壊死性紅斑)、貧血、高アミノ酸血症に対する改善効果がある1, 2, 6)

【文 献】

1) Wermers RA, Fatourechi V, Wynne AG, Kvols LK, Lloyd RV. The glucagonoma syndrome: clinical and pathologic features in 21 patients. Medicine (Baltimore). 1996; 75(2): 53-63.(レベルⅣb)

2) Chastain MA. The glucagonoma syndrome: a review of its features and discussion of new perspectives. Am J Med Sci. 2001; 321(5): 306-320.(レベルⅣb)

3) Kindmark H, Sundin A, Granberg D, Dunder K, Skogseid B, Janson ET, Welin S, Õberg K, Eriksson B. Endocrine pancreatic tumors with glucagon hypersecretion: a retrospective study of 23 cases during 20 years. Med Oncol. 2007; 24(3): 330-337.(レベルⅣb)

4) Eldor R, Glaser B, Doviner V, Salmon A, Gross DJ. Glucagonoma and the glucagonoma syndrome - cumulative experience with an elusive endocrine tumor. Clin Endocrinol (Oxf). 2011; 74(5): 593-598.(レベルⅣb)

5) Chu QD, Al-kasspooles MF, Smith JL, Nava HR, Douglass HO Jr, Driscoll D, Gibbs JF. Is glucagonoma of the pancreas a curable disease? Int J Pancreatol. 2001; 29(3): 155-162.(レベルⅣb)

6) Soga J, Yakuwa Y. Glucagonoma/diabetico-dermatologenic syndrome (DDS): a statistical evaluation of 407 reported cases. J Hepatobiliary Pancreat Surg. 1998; 5(3): 312-319.(レベルⅣb)


CQ3-1-4 VIPオーマの手術適応と術式は?

推奨

VIPオーマと診断された場合、切除術が推奨される(グレードB)。術式は、リンパ節郭清を伴う膵切除術が推奨される(グレードB)

【解 説】

機能性NET における手術療法の目的は、生命予後の改善とホルモン症状の緩和である。特にVIP オーマは膵性コレラといわれる多量の分泌性下痢を主体とするWDHA 症候群(watery diarrhea-hypokalemia-achlorhydria syndrome)を発症して診断されることが多く、症状緩和の重要性が高い。悪性腫瘍の割合は40-80%である1, 2, 4-6)。手術適応はホルモン症状、腫瘍の大きさ、局在、転移の有無などによって決まる1, 2, 4-6)

術前診断で肝転移・遠隔転移を伴わないと診断された場合は切除手術の適応となる。また、所属リンパ節転移、局所浸潤所見、肝転移が存在しても遺残のない切除(R0 手術)が可能と判断される場合は切除手術の適応となる1, 2, 4-6)。R0 切除が困難と判断される場合も、症状緩和の目的で減量手術を行うことは推奨される。腫瘍の90%以上の切除が可能であれば、減量手術による症状緩和が期待できる6-9)。手術が腫瘍減量手術にとどまった場合は、ソマトスタチンアナログ製剤などによる追加治療が推奨される。

術式は、膵部分切除術、膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術などの膵切除術が推奨される。腫瘍が小さく、浸潤・転移がない場合は腫瘍核出術も選択される1, 2, 4-6, 10)。リンパ節転移を伴う場合はリンパ節郭清が必要になる2)。VIP オーマは通常膵に発生するが、稀に十二指腸腫瘍が報告されており11)、膵内に腫瘍が発見できない場合は十二指腸の検索が必要である。(CQ1-1-4を参照)

【文 献】

1) Metz DC, Jensen RT. Gastrointestinal neuroendocrine tumors: pancreatic endocrine tumors. Gastroenterology. 2008; 135: 1469-1492.(レベルⅥ)

2) O'Toole D, Salazar R, Falconi M, Kaltsas G, Couvelard A, de Herder WW, Hyrdel R, Nikou G, Krenning E, Vullierme MP, Caplin M, Jensen R, Eriksson B; Frascati Consensus Conference; European Neuroendocrine Tumor Society. Rare functioning pancreatic endocrine tumors. Neuroendocrinology. 2006; 84(3): 189-195.(レベルⅥ)

3) Nikou GC, Toubanakis C, Nikolaou P, Giannatou E, Safioleas M, Mallas E, Polyzos A. VIPomas: an update in diagnosis and management in a series of 11 patients. Hepatogastroenterology. 2005; 52(64): 1259-1265.(レベルⅣb)

4) Akerstrom G, Hellman P. Surgery on neuroendocrine tumours. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2007; 21(1): 87-109.(レベルⅥ)

5) Fendrich V, Waldmann J, Bartsch DK, Langer P. Surgical management of pancreatic endocrine tumors. Nat Rev Clin Oncol. 2009; 6(7): 419-428.(レベルⅥ)

6) Abood GJ, Go A, Malhotra D, Shoup M. The surgical and systemic management of neuroendocrine tumors of the pancreas. Surg Clin North Am. 2009; 89(1): 249-266.(レベルⅥ)

7) Jensen RT, Niederle B, Mitry E, Ramage JK, Steinmuller T, Lewington V, Scarpa A, Sundin A, Perren A, Gross D, O'Connor JM, Pauwels S, Kloppel G; Frascati Consensus Conference; European Neuroendocrine Tumor Society. Gastrinoma (duodenal and pancreatic). Neuroendocrinology. 2006; 84(3): 173-182. (レベルⅥ)

8) Hodul P, Malafa M, Choi J, Kvols L. The role of cytoreductive hepatic surgery as an adjunct to the management of metastatic neuroendocrine carcinomas. Cancer Control. 2006; 13(1): 61-71.(レベルⅣb)

9) Akyildiz HY, Mitchell J, Milas M, Siperstein A, Berber E. Laparoscopic radiofrequency thermal ablation of neuroendocrine hepatic metastases: long-term follow-up. Surgery. 2010; 148(6): 1288-1293.(レベルⅣa)

10) Oberg K: Pancreatic endocrine tumors. Semin Oncol 2010; 37: 594-618. (レベルⅥ)

11) Kirkwood KS, Debas HT: Neuroendocrine tumors: common presentations of uncommon disease. Compr Ther. 1995; 21(12): 719-725.(レベルⅥ)


CQ3-1-5 その他の機能性膵NET の手術適応と術式は?

推奨

治癒切除術が可能な場合には、切除術が推奨される(グレードB)。術式は、腫瘍の局在を考慮して、リンパ節郭清を伴う膵切除術が推奨される(グレードB)。治癒切除が不可能な場合には、症状の緩和目的で腫瘍減量手術が許容される(グレードC1)

【解 説】

その他の稀な機能性膵NET としては、ソマトスタチノーマ(約70%)、GRF オーマ(約30%)、PP オーマ(10-60%)、ACTH オーマ(100%)、PTH オーマ(100%)、ニューロテンシノーマ(80% 以上)などがある。かっこ内に悪性の割合を記載したが、悪性の割合は高い1)。治癒切除が可能と判断した場合は、切除術の適応と考えられる1-5)。術式は、腫瘍の局在に見合った切除術に加え、リンパ節郭清が推奨される。ソマトスタチノーマは多くが十二指腸と膵に存在し5-7)、またPP オーマも多くが膵に存在するため1, 7)、膵頭十二指腸切除や膵体尾部切除を基本術式とする。転移が存在する場合も、切除が可能であれば切除が推奨される2, 3)

ソマトスタチノーマとPP オーマはホルモン過剰分泌による固有の症状を呈することが少ない1, 5, 7)。このような場合、治癒切除が不可能であれば減量手術による症状緩和を必要としない。GRF オーマでは末端肥大症を呈するため、腫瘍縮小による症状緩和が期待できる3, 5)。ACTH オーマはクッシング症候群を呈するため、原発巣が切除できない場合に両側の副腎切除による症状緩和が推奨される2)

【文 献】

1) Kuo SCL, Gananadha S, Scarlett CJ, Gill A, Smith RC. Sporadic pancreatic polypeptide secreting tumors (PPomas) of the pancreas. World J Surg. 2008; 32(8): 1815-182.(レベルⅣb)

2) O'Toole D, Salazar R, Falconi M, Kaltsas G, Couvelard A, de Herder WW, Hyrdel R, Nikou G, Krenning E, Vullierme MP, Caplin M, Jensen R, Eriksson B; Frascati Consensus Conference; European Neuroendocrine Tumor Society. Rare functioning pancreatic endocrine tumors. Neuroendocrinology. 2006; 84(3): 189-195.(レベルⅥ)

3) Doherty GM. Rare endocrine tumors of the GI tract. Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2005; 19(5): 807-817.(レベルⅣb)

4) Fendrich V, Bartsch DK. Surgical treatment of gastrointestinal neuroendocrine tumors. Langenbecks Arch Surg. 2011; 396(3): 299-311.(レベルⅣb)

5) Oberg K. Pancreatic endocrine tumors. Semin Oncol. 2010; 37(6): 594-618.(レベルⅥ)

6) Garbrecht N, Anlauf M, Schmitt A, Henopp T, Sipos B, Raffel A, Eisenberger CF, Knoefel WT, Pavel M, Fottner C, Musholt TJ, Rinke A, Arnold R, Berndt U, Plöckinger U, Wiedenmann B, Moch H, Heitz PU, Komminoth P, Perren A, Klöppel G. Somatostatin-producing neuroendocrine tumors of the duodenum and pancreas: incidence, types, biological behavior, association with inherited syndromes, and functional activity. Endocr Relat Cancer. 2008; 15(1): 229-241.(レベルⅣb)

7) Soga J, Yasukawa Y. Pancreatic endocrinomas: a statistical analysis of 1,857 cases. J hep Bil Pancr Surg. 1994; 1: 522-529.(レベルⅣb)


CQ3-1-6 非機能性膵NET の切除適応と術式は?

推奨

散発性の非機能性NET と診断された場合、リンパ節郭清を伴う膵切除が推奨される(グレードB)。2 cm 以上の非機能性NET に対しては定型的膵切除術が推奨される(グレードB)

【解 説】

膵に限局するNET は、手術をすることで予後が改善することが報告されている1)。また、NET の腫瘍径と悪性度が相関することが示されている。国際的には1 cm 以下の非機能性NET は肝転移率が低く、経過観察が可能であるとの意見もあった2, 3)。しかし、2011 年のNCCN ガイドラインにおいては散発性の膵NET はすべて切除術が推奨されており、本邦においても膵切除術が安全に施行できる施設では散発性非機能性NET に対して、早期の切除術が推奨される。

手術を行う場合には、術後の膵機能に配慮した適切な術式選択が必要である4)。術式は腫瘍の大きさや局在によって選択する。小さい腫瘍に対しては核出術、膵中央切除術など非定型的膵切除術の選択が考慮されるが、非定型的膵切除では合併症率が高くなる5-8)。核出術を行う場合には主膵管損傷に注意を払う必要がある。1 cm 以下の腫瘍を切除する場合には核出術、1-2 cm の腫瘍を切除する場合は核出術または膵切除術が推奨される。2cm 以下の腫瘍で非定型的膵切除を行う場合であっても、リンパ節転移の十分な検索が推奨される。2cm を超える腫瘍については、膵切除術とリンパ節郭清を行うことが推奨される。

【文 献】

1) Hill JS, McPhee JT, McDade TP, Zhou Z, Sullivan ME, Whalen GF, Tseng JF.: Pancreatic neuroendocrine tumors: the impact of surgical resection on survival. Cancer. 2009; 115(4): 741-751.(レベルⅣa)

2) La Rosa S, Klersy C, Uccella S, Dainese L, Albarello L, Sonzogni A, Doglioni C, Capella C, Solcia E. Improved histologic and clinicopathologic criteria for prognostic evaluation of pancreatic endocrine tumors. Hum Pathol. 2009; 40(1): 30-40.(レベルⅣa)

3) Bettini R, Partelli S, Boninsegna L, Capelli P, Crippa S, Pederzoli P, Scarpa A, Falconi M. Tumor size correlates with malignancy in nonfunctioning pancreatic endocrine tumor. Surgery. 2011; 150(1): 75-82.(レベルⅣa)

4) Smith JK, Ng SC, Hill JS, Simons JP, Arous EJ, Shah SA, Tseng JF, McDade TP. Complications after pancreatectomy for neuroendocrine tumors: a national study. J Surg Res. 2010; 163(1): 63-68.(レベルⅣa)

5) Falconi M, Zerbi A, Crippa S, Balzano G, Boninsegna L, Capitanio V, Bassi C, Di Carlo V, Pederzoli P. Parenchyma- preserving resections for small nonfunctioning pancreatic endocrine tumors. Ann Surg Oncol. 2010; 17(6): 1621-1627.(レベルⅣb)

6) Evans DB, Skibber JM, Lee JE, Cleary KR, Ajani JA, Gagel RF, Sellin RV, Fenoglio CJ, Merrell RC, Hickey RC. Surgery. 1993; 114(6): 1175-1181; discussion 1181-1182.(レベルⅣa)

7) Solorzano CC, Lee JE, Pisters PW, Vauthey JN, Ayers GD, Jean ME, Gagel RF, Ajani JA, Wolff RA, Evans DB. Nonfunctioning islet cell carcinoma of the pancreas: survival results in a contemporary series of 163 patients. Surgery. 2001; 130(6): 1078-1085. (レベルⅣa)

8) Falconi M, Mantovani W, Crippa S, Mascetta G, Salvia R, Pederzoli P. Pancreatic insufficiency after different resections for benign tumours. Br J Surg. 2008; 95(1): 85-91.(レベルⅣb)


CQ3-1-7 MEN1 に伴う膵・消化管NET の手術適応と術式は?

推奨

MEN1 に伴う膵・消化管NET のうち、ガストリノーマ、インスリノーマなどの機能性NET は大きさにかかわらず手術が推奨される(グレードB)。MEN 1に伴う非機能性NET は、通常2 cm 以上のNET が切除対象となる(グレードB)。しかし、1-2 cm で増大傾向が見られた場合には、切除術が推奨され、1p 以下では経過観察が推奨される(グレードB)。リンパ節郭清を伴う切除術が推奨される(グレードB)

【解 説】

MEN1 に伴う膵・消化管NET は十二指腸・膵から同時性・異時性に多発することが多い1)。ガストリノーマは十二指腸から発生することが多く、他のNET は膵発生が多い。機能性NET の頻度は、ガストリノーマが最も多い。複数の腫瘍が多発する場合には、ホルモン分泌の有無、腫瘍の大きさ、悪性度、異時性・多発性を考慮して治療する必要がある2, 3)。特に非機能性膵NET は、発生頻度が最も高く、小さな腫瘍として多発することが多い。微小な非機能性膵NET の手術適応に関してはコンセンサスがない。1 p を超える場合に切除を勧める という報告4)や、2 p までは観察が勧められるとする報告5)がある。2 p を超える場合と1 p以上で増大傾向が認められる場合は切除が推奨される。大きな膵NET を切除することにより転移、浸潤を予防することが手術の目的である6-8)

術式の選択に際しては、ガストリノーマやインスリノーマなどの機能性NET によるホルモン過剰分泌症状を有する場合、ホルモン症状の緩和が重要な目的となる。複数のNET を同時性に認める場合、どのNET がホルモン症状の原因となっている機能性NET であるかを、SASI テストなどで十分に検討した上で術式を選択する必要がある。

選択される術式は、腫瘍の数、局在、ホルモン症状の有無によって、膵頭十二指腸切除、膵体尾部切除、膵腫瘍核出術、十二指腸腫瘍切除術、膵温存十二指腸全切除術、膵全摘術などを選択する2, 3)。ただし、膵全摘はPS や術後血糖管理などを考慮して適応を決める。高率にリンパ節転移を来すことから、リンパ節郭清を行うことが推奨される9, 10)

散発性のNET と異なり、異時性膵・消化管NET と他臓器の腫瘍に対する配慮が必要である。初回手術時には、将来膵・消化管NET が再発生するか否かは不明である。したがって、初回手術時に予防的な追加膵切除は行うべきではない。また、MEN1 では副甲状腺機能亢進症や下垂体腺腫、副腎腺腫を合併するため、PS を十分評価した上で手術適応を考慮する必要がある。

【文 献】

1) Sakurai A, Suzuki S, Kosugi S, Okamoto T, Uchino S, Miya A, Imai T, Kaji H, Komoto I, Miura D, Yamada M, Uruno T, Horiuchi K, Miyauchi A, Imamura M; MEN Consortium of Japan, Fukushima T, Hanazaki K, Hirakawa S, Igarashi T, Iwatani T, Kammori M, Katabami T, Katai M, Kikumori T, Kiribayashi K, Koizumi S, Midorikawa S, Miyabe R, Munekage T, Ozawa A, Shimizu K, Sugitani I, Takeyama H, Yamazaki M. MEN Consortium of Japan. Multiple endocrine neoplasia type 1 in Japan: Establishment and analysis of a multicentre database. Clin Endocrinol (Oxf). 2012; 76(4): 533-539.(レベルⅣb)

2) 櫻井晃洋;MEN1 型の診断と治療.肝胆膵. 2011; 63(2): 285-291.(レベルⅤ)

3) Imamura M, Komoto I, Ota S, Hiratsuka T, Doi R, Awane M, Inoue N.; Biochemically curative surgery for gastrinoma in multiple endocrine neoplasia type 1 patient. World J Gastroenterol. 2011; 17(10): 1343-1353.(レベルⅣb)

4) 今村正之;NET 臨床の変遷:局在診断法の進歩と病態解明.医学のあゆみ. 2008; 224(10): 753-756.(レベルⅤ)

5) Plöckinger U, Rindi G, Arnold R, Eriksson B, Krenning EP, de Herder ww, Goede A, Caplin M, Oberg K, Reubi JC, Nilsson O, Delle Fave G, Ruszniewski P, Ahlman H, Wiedenmann B; European Neuroendocrine Tumour Society. Guidelines for the diagnosis and treatment of neuroendocrine gastrointestinal tumours. A consensus statement on behalf of the European Neuroendocrine Tumour Society (ENETS). Neuroendocrinology. 2004; 80(6): 394-424.(レベルⅥ)

6) Fraker DL, Norton JA, Alexander HR, Venzon DJ, Jensen RT.; Surgery in Zollinger-Ellison syndrome alters the natural history of gastrinoma. Ann Surg. 1994; 220(3): discussion 320-330.(レベルⅣa)

7) Norton JA, Fraker DL, Alexander HR, Gibril F, Liewehr DJ, Venzon DJ, Jensen RT.; Surgery increases survival in patients with gastrinoma. Ann Surg. 2006; 244(3): 410-419.(レベルⅢ)

8) Bartsch DK, Fendrich V, Langer P, Celik I, Kann OH, Rothmund M.; Outcome of duodenopancreatic resections in patients with multiple endocrine neoplasia type 1. Ann Surg. 2005; 242(6): 757-764.(レベルⅣb)

9) Norton JA, Alexander HR, Fraker DL, et al: Comparison of surgical results in patients with advanced and limited disease with multiple endocrine neoplasia type 1 and Zollinger-Ellison syndrome. Ann Surg. 2001; 234(4): 495-506.(レベルⅣb)

10) Norton JA: Surgery and prognosis of duodenal gastrinoma as a duodenal neuronedocrine tumor. Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2005; 19(5): 699-704.(レベルⅣb)


CQ3-2 転移を伴う膵NET の手術適応は?

推奨

外科治療、内科治療、集学的治療で制御可能な転移巣(肝転移・リンパ節転移)を有する膵NET は、切除術が推奨される(グレードB)。切除不能な肝転移を有する膵NET は,条件により原発巣の切除が推奨される(グレードC1)

【解 説】

外科治療で制御可能な肝転移(CQ3-3を参照)、リンパ節転移を有する膵NET は転移巣とともに手術適応である。米国のSEER(Surveillance Epidemiology and End Results)レジストリの大規模データで1)、領域リンパ節転移もしくは周囲臓器への浸潤を伴う症例や遠隔転移を有する症例に対する外科治療は予後を改善することが示されている。また、切除可能な肝転移やリンパ節転移を有する膵NET に対し、領域リンパ節郭清を伴う手術を施行した場合に、65-80%という良好な5 年生存率が報告されており2-6)、切除可能な肝転移や局所リンパ節転移を有する膵NET は転移巣とともに手術適応であると考えられる

転移巣を有する膵NET に対する手術術式は、通常の局所リンパ節郭清を伴う膵管癌に準じた手術を行う。すなわち、膵頭部の腫瘍に対しては膵頭十二指腸切除術を、膵体尾部の腫瘍に対しては脾臓摘出術を加えた膵体尾部切除術を施行するる7)

膵NET と肝転移の同時手術は、時に重篤な合併症を引き起こす可能性があり、手術侵襲が大きくなる場合は二期的手術を考慮する4, 8)。経験豊富な外科医がいる施設においては、膵体尾部切除術と肝転移に対する治療は安全に施行できると考えられる。しかし、膵頭十二指腸切除術と肝転移に対する治療を行う場合は、一期的、二期的治療にかかわらず高率に合併症が認められ、特に肝葉切除以上の治療を行う必要がある場合は、手術適応自体を慎重に判断する必要がある9)

切除不能な肝転移を有する膵NET の切除は、原発巣による胆道・消化管閉塞、出血、腹痛などの症状の改善やTAE やTACE などの肝臓を対象とした治療が選択しやすくなるという利点がある。また、切除不能な肝転移を有する膵NET の原発巣の切除が予後を改善するとの報告がある10-14)。一方、原発巣の切除の意義は症状緩和のみであるとする見解もあり15, 16)、膵NET 原発巣の切除の意義については結論が出ていない。

原発巣切除の適応を考慮する場合は、症状があるか将来出現し得る症例と、肝転移の程度や分化度からある程度の予後が見込める症例15, 17, 18)に限定するべきと考えられる。

【文 献】

1) Hill JS, McPhee JT, McDade TP, Zhou Z, Sullivan ME, Whalen GF, Tseng JF: Pancreatic neuroendocrine tumors: the impact of surgical resection on survival. Cancer. 2009; 115(4): 741-751.(レベルⅣa)

2) Norton JA, Kivlen M, Li M, Schneider D, Chuter T, Jensen RT: Morbidity and mortality of aggressive resection in patients with advanced neuroendocrine tumors. Arch Surg. 2003; 138(8): 859-866.(レベルⅣa)

3) House MG, Cameron JL, Lillemoe KD, Schulick RD, Choti MA, Hansel DE, HrubanRH, Maitra A, Yeo CJ. Differences in survival for patients with resectable versusunresectable metastases from pancreatic islet cell cancer. J Gastrointest Surg. 2006; 10(1): 138-145.(レベルⅣa)

4) Sarmiento JM, Que FG, Grant CS, Thompson GB, Farnell MB, Nagorney DM:Concurrent resections of pancreatic islet cell cancers with synchronous hepaticmetastases: outcomes of an aggressive approach. Surgery. 2002; 132(6): 976-983.(レベルⅣa)

5) Fendrich V, Langer P, Celik I, Bartsch DK, Zielke A, Ramaswamy A, Rothmund M: An aggressive surgical approach leads to long-term survival in patients with pancreatic endocrine tumors. Ann Surg 2006; 244(6): 845-853.(レベルⅣa)

6) Cho CS, Labow DM, Tang L, Klimstra DS, Loeffler AG, Leverson GE, Fong Y, Jarnagin WR, D'Angelica MI, Weber SM, Blumgart LH, Dematteo RP: Histologic grade is correlated with outcome after resection of hepatic neuroendocrine neoplasms. Cancer. 2008; 113(1): 126-134.(レベルⅣa)

7) 木村 理: 膵内分泌腫瘍の外科治療. 膵臓. 2008; 23(6): 703-709.(レベルⅥ)

8) Kianmanesh R, SauvaNET A, Hentic O, Couvelard A, Lévy P, Vilgrain V, Ruszniewski P, Belghiti J. Two-step surgery for synchronous bilobar liver metastases from digestive endocrine tumors: a safe approach for radical resection. Ann Surg. 2008; 247(4): 659-665.(レベルⅣa)

9) De Jong MC, Farnell MB, Sclabas G, Cunningham SC, Cameron JL, Geschwind JF,Wolfgang CL, Herman JM, Edil BH, Choti MA, Schulick RD, Nagorney DM, Pawlik TM. Liver-directed therapy for hepatic metastases in patients undergoing pancreaticoduodenectomy: a dual-center analysis. Ann Surg. 2010; 252(1): 142-148.(レベルⅣa)

10) Capurso G, Bettini R, Rinzivillo M, Boninsegna L, Delle Fave G, Falconi M. Role of Resection of the Primary Pancreatic Neuroendocrine Tumour Only in Patients with Unresectable Metastatic Liver Disease: A Systematic Review. Neuroendocrinology. 2011; 93(4): 223-229.(レベルⅠ)

11) Evans DB, Skibber JM, Lee JE, Cleary KR, Ajani JA, Gagel RF, Sellin RV, Fenoglio CJ, Merrell RC, Hickey RC. Nonfunctioning islet cell carcinoma of the pancreas. Surgery. 1993; 114(6): 1175-1182.(レベルⅣa)

12) Solorzano CC, Lee JE, Pisters PW, Vauthey JN, Ayers GD, Jean ME, Gagel RF, Ajani JA, Wolff RA, Evans DB. Nonfunctioning islet cell carcinoma of the pancreas: survival results in a contemporary series of 163 patients. Surgery. 2001; 130(6): 1078-1085.(レベルⅣa)

13) Fraker DL, Norton JA, Alexander HR, Venzon DJ, Jensen RT. Surgery in Zollinger-Ellison syndrome alters the natural history of gastrinoma. Ann Surg. 1994; 220(3): discussion 320-330.(レベルⅣa)

14) Franko J, Feng W, Yip L, Genovese E, Moser AJ. Non-functional neuroendocrine carcinoma of the pancreas: incidence, tumor biology, and outcomes in 2,158 patients. J Gastrointest Surg. 2010; 14(3): 541-548.(レベルⅣa)

15) Bettini R, Mantovani W, Boninsegna L, Crippa S, Capelli P, Bassi C, Scarpa A, Pederzoli P, Falconi M. Primary tumour resection in metastatic nonfunctioning pancreatic endocrine carcinomas. Dig Liver Dis 2009; 41(1): 49-55.(レベルⅣa)

16) Hung JS, Chang MC, Lee PH, Tien YW. Is surgery indicated for patients with symptomatic nonfunctioning pancreatic neuroendocrine tumor and unresectable hepatic metastases? World J Surg. 2007; 31(12): 2392-2397.(レベルⅣa)

17) Bloomston M, Muscarella P, Shah MH, Frankel WL, Al-Saif O, Martin EW, Ellison EC. Cytoreduction results in high perioperative mortality and decreased survival in patients undergoing pancreatectomy for neuroendocrine tumors of the pancreas. J Gastrointest Surg. 2006; 10(10): 1361-1370.(レベルⅣa)

18) Bruzoni M, Parikh P, Celis R, Are C, Ly QP, Meza JL, Sasson AR. Management of the primary tumor in patients with metastatic pancreatic neuroendocrine tumor: a contemporary single-institution review. Am J Surg. 2009; 197(3): 376-381.(レベルⅣa)


CQ3-3 膵NET の再発病巣の手術適応は?

アルゴリズムへ


推奨

膵NET の再発病巣(肝、局所、腹膜播種、肺など)は、切除により症状や予後の改善が見込まれる場合に切除術が推奨される(グレードB)

【解 説】
  1. 1)膵NET の肝転移再発の手術適応の条件は、下記の通りである。
    ・肝臓以外に再発が無い、または腹腔内再発が併存していても制御可能な状態である。
    ・肝切除後に肝予備能に応じた十分な残肝容積が確保できる。
    ・重篤な合併症が無く耐術可能である。
  2. 2)膵NET の局所再発は、他の再発病変の制御が可能で、切除が可能であれば手術適応である。
  3. 3)腹膜播種は、他の再発巣の制御が可能で、小範囲で切除可能な病変であれば集学的治療の一部として手術が考慮される。
  4. 4)膵NET 肺転移は、肺以外に転移巣がなく、切除後に十分な肺機能が保たれ、重篤な合併症がなく耐術可能であれば、手術適応がある。

膵NET の再発形式は肝転移が主体であり、肝転移に対する外科治療は内分泌症状の緩和や予後の改善が期待できるので重要である。膵NET 肝転移の症例を約30-50%含むNET 肝転移に関するいくつかの論文では、外科治療を施行した症例の5 年生存率は61-86%1-11)、ホルモン症候を含む症状の改善率は90-100%1,4-7,12-14)と報告されている。外科治療の成績が良好であることから1,5,15-17)切除可能なNET 肝転移の第一選択の治療として外科治療が施行されてきた。

膵NET 肝転移再発の手術適応は、肝臓以外に転移がないこと、予備能に応じた残肝容積が保証されるなど耐術可能であることが必要条件となる。

NET 肝転移に対する外科治療はR0 手術を目指して行うが、R0 とならなくても腫瘍がほぼ切除ができていればR0 手術と予後に差が認められなかったという報告があ3, 10, 11)、切除可能な病変は切除が推奨される。

ENETS のガイドライン18)では、肝転移の分布様式により、(A)一つの区域または隣接する二つの区域に肝転移が限局しており系統的肝切除で切除が可能、(B)一つの大きな肝転移巣と周辺に両葉にわたる小病変が存在している場合、(C)肝全体にびまん性に肝転移が存在している場合の三つに分類しており、この分類に応じた治療指針を提示している。

組織型が低分化型の場合は、原発巣、転移巣にかかわらず予後不良であることが報告されており7, 11, 19, 20)、術前に肝転移巣に対する生検を行い低分化型と診断された場合は、肝切除は推奨されない18)

NET 肝転移の外科治療後の再発率は5 年で80%以上と報告され4, 7, 8, 9, 11)、その多くは2 年以内に再発している4, 7, 8, 9, 11, 13, 15)。肝転移に対する外科治療の多くは、根治的意義は少ないと考えられている。再発部位としては肝、骨、肺、リンパ節、腹膜、脳などで、肝臓が全再発部位の80-90%を占める4, 7, 8, 9, 11, 13, 15)

90%の腫瘍切除を行う腫瘍減量手術は、内科的治療に抵抗性のホルモン症候を有する症例に対して行った場合、部分寛解・完全寛解を合わせると90%程度の症状寛解率が報告されている1, 4, 12, 21, 22)

NET の肝転移に対する肝移植は、転移が肝に限局している切除不能な肝転移に対して行われているが、再発率が高く一般的ではない18)。選別された症例においては膵NET に対する肝移植により予後の改善が得られる可能性が示唆されている。23-30)

NET に腹膜播種が合併する場合には、82-97%に肝転移を伴っており31, 32)、肝転移がより重要な予後決定因子となる32)。一方で肝転移の外科治療例の予後因子として腹膜播種などの肝外病変の存在が報告されている9, 11)

NET の肺転移の治療に関する報告は少なく33)、明確な治療指針を示すことは難しいが、肺以外に病変がなく、肺機能を損なわない範囲で切除が可能かつ耐術可能な症例において適応されるべきと考えられる。

局所再発に関しても、切除が可能であれば切除を行う。Schurr ら34)は、局所再発を含む再発病変に対して積極的に手術を行い、有意差はないが OS と DFS は再手術を施行した群で良好な傾向を認めたと報告している。

低血糖の診断のフローチャート

RFA; radiofrequency ablation, LITT; Laser-induced thermotherapy,
TACE; trans-catheter arterial chemoembolization, RPVE; right portal vein embolization,
RPVL; right portal vein ligation, TAE; trans-catheter arterial embolization, PRRT; peptide receptor radionuclide therapy

Steinmuller T, et al, Neuroendocrinology 2008 より改変

【文 献】

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31) Elias D, Sideris L, Liberale G, Ducreux M, Malka D, Lasser P, Duvillard P, Baudin E. Surgical treatment of peritoneal carcinomatosis from well-differentiated digestive endocrine carcinomas. Surgery. 2005; 137(4): 411-416. (レベルⅣa)

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33) Khan JH, McElhinney DB, Rahman SB, George TI, Clark OH, Merrick SH. Pulmonary metastases of endocrine origin: the role of surgery. Chest 1998; 114(2): 526-534.(レベルⅣa)

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CQ3-4 消化管NET の手術適応と術式は?

CQ3-4-1 消化管NET に推奨される手術適応と術式は?

A 手術適応

推奨

局所領域病変、内視鏡的治療困難、内視鏡的治療後の追加治療要因が存在する場合、切除術が推奨される(グレードB)

【解 説】

消化管NET の手術適応は、原発臓器により異なる。以下に臓器別の手術適応を示した。
胃NET の手術適応は、高ガストリン血症の是正を要するⅠ型、腫瘍径が2 cm を越えるか内視鏡的切除困難Ⅰ、Ⅱ型、肝転移の無いⅢ型である1, 2)。内視鏡的切除困難とは、腫瘍径が1 p を超えるか、あるいは腫瘍個数が6 個以上の場合とする1)

十二指腸NET の手術適応は、腫瘍径が 1 pを越える、固有筋層以深の腫瘍浸潤を伴う(疑う)、リンパ節転移を伴う(疑う)場合と、内視鏡的切除標本における切除断端陽性所見や脈管浸潤所見といった追加治療要因の存在、である3)。なお、ガストリノーマの手術適応ついてはCQ3-1-2 を参照。

小腸NET の手術適応は、局所領域病変である。局所領域病変とは腸管とその領域リンパ節にとどまる範囲での病巣進展とする2, 4, 5)

結腸NET の手術適応は、局所領域病変である。腫瘍径が1 cm を越え、固有筋層浸潤やリンパ節転移を伴う(疑う)場合と、内視鏡的切除標本における追加治療要因が存在する場合である2, 5, 6)。追加治療要因とは、固有筋層浸潤、切除断端陽性、脈管浸潤(ly)である。

直腸NET の手術適応は、腫瘍径が2 cm を超え、腫瘍径が1〜2 cm で固有筋層浸潤、脈管侵襲、リンパ節転移のいずれかを伴う(疑う)場合と、内視鏡治療困難な小病変である2, 7, 8)

虫垂NET は、全例が手術適応である2, 5, 9)

転移を伴う消化管NET の手術適応については、CQ3-5 を参照。

B 手術術式

推奨

リンパ節郭清を伴う定型的臓器切除術が推奨される(グレードB)。内視鏡的治療困難な比較的早期の小病変(T1)に対しては、局所切除術が推奨される(グレードB)

【解 説】

消化管NET の手術術式は原発臓器により異なる。以下に臓器別の手術術式を示した。

胃NET の手術術式には、局所切除術、幽門洞切除術、リンパ節郭清を伴う幽門側胃切除術・胃全摘術がある1, 2)

十二指腸NET の手術術式には、リンパ節郭清を施行可能な膵頭十二指腸切除術(幽門輪温存、亜全胃温存)と、腫瘍切除を目的とした膵温存十二指腸全切除術、十二指腸部分(分節)切除術、乳頭切除術、腫瘍摘出術・核出術、などがある1, 3)

小腸NET の手術術式は、小腸切除術と腸間膜内リンパ節郭清である2, 4, 5)

結腸NET の手術術式は、リンパ節郭清を伴う腸管切除術である2, 5, 6)

直腸NET の手術術式には、リンパ節郭清を伴う直腸切除(断)術と、局所切除としての経肛門的切除術・経仙骨的切除術がある2, 7, 8)

虫垂NET の手術術式には、リンパ節郭清を伴う結腸右半切除術、回盲部切除術と、虫垂切除術がある2, 5, 9)

腹腔鏡下手術は選択肢として許容される1)

【文 献】

1) 今村正之監修. 田中雅夫、平田公一編. 膵・消化管内分泌腫瘍(NET)診断治療実践マニュアル, pp128-147, 総合医学社, 東京, 2011. (レベルⅥ)

2) Clark OH, Benson AB 3rd, Berlin JD, Choti MA, Doherty GM, Engstrom PF, Gibbs JF, Heslin MJ, Kessinger A, Kulke MH, Kvols L, Salem R, Saltz L, Shah MH, Shibata S, Strosberg JR, Yao JC; NCCN Neuroendocrine Tumors Panel Members. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: neuroendocrine tumors. J Natl Compr Canc Netw. 2009; 7(7): 712-747.(レベルⅥ)

3) Scherübl H, Jensen RT, Cadiot G, Stölzel U, Klöppel G. Neuroendocrine tumors of the small bowels are on the rise: Early aspects and management. World J Gastrointest Endosc. 2010; 2(10): 325-34.(レベルⅥ)

4) Eriksson B, Klöppel G, Krenning E, Ahlman H, Plöckinger U, Wiedenmann B, Arnold R, Auernhammer C, Körner M, Rindi G, Wildi S; Frascati Consensus Conference participants. Consensus guidelines for the management of patients with digestive neuroendocrine tumors: well-differentiated jejunal-ileal tumor/carcinoma. Neuroendocrinology. 2008; 87(1): 8-19.(レベルⅥ)

5) Boudreaux JP, Klimstra DS, Hassan MM, Woltering EA, Jensen RT, Goldsmith SJ, Nutting C, Bushnell DL, Caplin ME, Yao JC. The NANETS consensus guideline for the diagnosis and management of neuroendocrine tumors: well-differentiated neuroendocrine tumors of the Jejunum, Ileum, Appendix, and Cecum. Pancreas. 2010; 39(6): 753-766.(レベルⅥ)

6) Yao JC, Hassan M, Phan A, Dagohoy C, Leary C, Mares JE, Abdalla EK, Fleming JB, Vauthey JN, Rashid A, Evans DB. One hundred years after "carcinoid": epidemiology of and prognostic factors for neuroendocrine tumors in 35,825 cases in the United States. J Clin Oncol. 2008; 26(18): 3063-3072.(レベルⅤ)

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8) Ramage JK, Goretzki PE, Manfredi R, Komminoth P, Ferone D, Hyrdel R, Kaltsas G, Kelestimur F, Kvols L, Scoazec JY, Garcia MI, Caplin ME; Frascati Consensus Conference participants. Consensus guidelines for the management of patients with digestive neuroendocrine tumours: well-differentiated colon and rectum tumour/carcinoma. Neuroendocrinology. 2008; 87(1): 31-39.(レベルⅥ)

9) Plöckinger U, Couvelard A, Falconi M, Sundin A, Salazar R, Christ E, de Herder WW, Gross D, Knapp WH, Knigge UP, Kulke MH, Pape UF; Frascati Consensus Conference participants. Consensus guidelines for the management of patients with digestive neuroendocrine tumours: well-differentiated tumour/carcinoma of the appendix and goblet cell carcinoma. Neuroendocrinology. 2008; 87(1): 20-30.(レベルⅥ)


CQ3-4-2 胃NET の手術適応と術式は?

推奨

Rindi分類に応じた手術適応と術式選択が推奨される(グレードB)

〈 Rindi 分類に応じた術式選択 〉
Ⅰ型; 内視鏡的切除困難 ⇒ 局所切除
  高ガストリン血症の是正 ⇒ 幽門洞切除(antrectomy)
Ⅱ型; 内視鏡的切除困難(腫瘍径>1 cm あるいは個数≧6 個)
    ⇒ 胃切除+リンパ節郭清、十二指腸ガストリノーマの切除
Ⅲ型; 肝転移なし ⇒ 胃切除+リンパ節郭清
  肝転移あり ⇒ CQ3-5
【解 説】

胃のNET は、A 型胃炎に伴う高ガストリン血症により生じるⅠ型、MEN1 に伴って発生するⅡ型、散発性のⅢ型に分かれる1)。一般的にⅠ、Ⅱ型には小病変が多発し、Ⅲ型では腫瘍径が大きく転移が高率である1)

1 cm 以上のⅠ型腫瘍は稀であるが、①内視鏡的に切除できない、②浸潤傾向を示す、③多発により内視鏡的完全切除が困難である、という場合には胃切除術を考慮する。高ガストリン血症の是正を目的として幽門洞切除が行われることがある。

Ⅱ型では多くの場合MEN1 を伴っており、十二指腸病変に対する外科治療が主体をなす。Ⅱ型に伴う胃病変は低頻度であるが、その場合は、1-2 cm の病変が多発し、時に4〜5 cm を越えることがある。この場合の治療はⅠ型に準じ、腫瘍径が1 cm を越えるか、脈管浸潤が示唆される場合は胃切除術を選択し、リンパ節郭清を付加する。

Ⅲ型においては、腫瘍は孤立性で2 cm を越えるものが多く、筋層を越えて胃壁へ浸潤するものが大半である。胃体部、胃底部に好発し、リンパ節転移を伴っていることが多い。外科治療としては、遠隔転移をともなわなければ広範囲リンパ節郭清を伴う胃切除術を考慮する2)

本邦におけるsm までの浸潤を伴う消化管カルチノイド1914 例の分析では、腫瘍径0.5 cm 以下の腫瘍の4.6%、1 cm 以下の腫瘍の7.9%、2 cm 以下の腫瘍の13.4%に転移が存在した3)。このことからリンパ節郭清を伴う胃切除の適応を腫瘍径>1 cm とすることは妥当である。腫瘍径による外科切除適応は、米国では2 cm 以上4, 5)、ヨーロッパでは1cm 以上6-8)とされており、地域により異なるが、筋層浸潤例に対するリンパ節郭清の付加については一致して推奨されている4-8)

本邦では、胃の悪性腫瘍に対する標準手術として2 群リンパ節郭清を伴う胃の2/3 以上切除が定着している。腫瘍径が1-2 cm の胃NET におけるリンパ節転移頻度が21%であること3)を考慮すると、腫瘍径1 cm 以上、sm 浸潤を伴う胃のNET に対しては、2 群リンパ節郭清を伴う(幽門洞を含めた)幽門側胃切除術、あるいは胃全摘術を施行すべきである。近年、腹腔鏡下胃切除術が普及しつつあり9)、治療の選択肢となり得る。

【文 献】

1) 清水伸幸、上西紀夫. 特集/消化器神経内分泌腫瘍の診断と治療.上部消化管における神経内分泌腫瘍の診断と治療. 日外会誌 2008; 109: 147-151. (レベルⅥ)

2) Akerström G, Hellman P. Surgery on neuroendocrine tumours. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab 2007; 21(1): 87-109.(レベルⅥ).

3) Soga J. Early-stage carcinoids of the gastrointestinal tract: an analysis of 1914 reported cases. Cancer. 2005; 103(8): 1587-1595. (レベルⅤ)

4) Clark OH, Benson AB 3rd, Berlin JD, Choti MA, Doherty GM, Engstrom PF, Gibbs JF, Heslin MJ, Kessinger A, Kulke MH, Kvols L, Salem R, Saltz L, Shah MH, Shibata S, Strosberg JR, Yao JC; NCCN Neuroendocrine Tumors Panel Members. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: neuroendocrine tumors. J Natl Compr Canc Netw. 2009; 7(7): 712-747.(レベルⅥ)

5) Kulke MH, Anthony LB, Bushnell DL, de Herder WW, Goldsmith SJ, Klimstra DS, Marx SJ, Pasieka JL, Pommier RF, Yao JC, Jensen RT. NANETS treatment guidelines: well-differentiated neuroendocrine tumors of the stomach and pancreas. Pancreas. 2010; 39(6): 735-752.(レベルⅥ)

6) Ruszniewski P, Delle Fave G, Cadiot G, Komminoth P, Chung D, Kos-Kudla B, Kianmanesh R, Hochhauser D, Arnold R, Ahlman H, Pauwels S, Kwekkeboom DJ, Rindi G; Frascati Consensus Conference; European neuroendocrine Tumor Society. Well-differentiated gastric tumors/carcinomas. Neuroendocrinology. 2006; 84(3): 158-164.(レベルⅥ)

7) Ramage JK, Davies AH, Ardill J, Bax N, Caplin M, Grossman A, Hawkins R, McNicol AM, Reed N, Sutton R, Thakker R, Aylwin S, Breen D, Britton K, Buchanan K, Corrie P, Gillams A, Lewington V, McCance D, Meeran K, Watkinson A; UKNET work for Neuroendocrine Tumours. Guidelines for the management of gastroenteropancreatic neuroendocrine (including carcinoid) tumours. Gut. 2005; 54 Suppl 4: iv1-16.(レベルⅥ)

8) Janson ET, Sørbye H, Welin S, Federspiel B, Grønbaek H, Hellman P, Mathisen O, Mortensen J, Sundin A, Thiis-Evensen E, Välimäki MJ, Oberg K, Knigge U. Nordic Guidelines 2010 for diagnosis and treatment of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumours. Acta Oncol. 2010; 49(6): 740-756.(レベルⅥ)

9) Hoshino M, Omura N, Yano F, Tsuboi K, Matsumoto A, Yamamoto SR, Akimoto S, Kashiwagi H, Yanaga K. Usefulness of laparoscope-assisted antrectomy for gastric carcinoids with hypergastrinemia. Hepatogastroenterology. 2010; 57(98): 379-382.(レベルⅤ)


CQ3-4-3 十二指腸NET の手術適応と術式は?

推奨

十二指腸NET は次の場合に手術が推奨される(グレードB)

腫瘍径が1cm を越える場合、
固有筋層以深の腫瘍浸潤を伴う(疑う)場合、
リンパ節転移を伴う(疑う)場合、
内視鏡的切除標本で切除断端陽性所見や脈管浸潤所見を伴う場合

術式は、リンパ節郭清を伴う切除術が推奨される(グレードB)

【解 説】

十二指腸NET は、本邦の消化器NET の16.7%を占め、直腸(55.7%)に次いで高頻度である1)。一方、欧米では全身のNET の3.8〜6.5%と稀である2, 3)。十二指腸NET の多くは非機能性でホルモン関連症状を伴わず、散発生で、高分化型(G1)を呈する4)。非機能性NET では腫瘍細胞がガストリンやソマトスタチンなどのホルモン分泌を示すものの内分泌症状を伴わないものや低分化型NET(NEC)などが含まれている 5)。機能性NET ではガストリノーマが60〜75%と大部分を占め、十二指腸ガストリノーマの50〜90%にリンパ節転移を伴うとの報告がある 5)

高分化型(G1)、非機能性、1 cm 以下の十二指腸NET は内視鏡治療の適応となる(CQ4-1-2を参照)。したがって手術適応は、①腫瘍径が1 cm を越える場合、②固有筋層以深の腫瘍浸潤を伴う場合、③リンパ節転移があるか疑われる場合、④内視鏡的切除標本に切除断端陽性所見や脈管浸潤所見がある場合、などとなる。手術術式は、腫瘍の局在と進展程度により、腫瘍摘除術、十二指腸切除術、膵頭十二指腸切除術(幽門輪温存、亜全胃温存)、膵温存十二指腸全切除術などがある。いずれの場合にもリンパ節郭清を行うことが大切で、膵頭十二指腸切除術は局所リンパ節郭清の点で最も優れている6)

【文 献】

1) Ito T, Sasano H, Tanaka M, Osamura RY, Sasaki I, Kimura W, Takano K, Obara T, Ishibashi M, Nakao K, Doi R, Shimatsu A, Nishida T, Komoto I, Hirata Y, Nakamura K, Igarashi H, Jensen RT, Wiedenmann B, Imamura M. Epidemiological study of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors in Japan. J Gastroenterol. 2010; 45(2): 234-243.(レベルⅣb)

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3) Ploeckinger U, Kloeppel G, Wiedenmann B, Lohmann R; representatives of 21 German NET Centers. The German NET -registry: an audit on the diagnosis and therapy of neuroendocrine tumors. Neuroendocrinology 2009; 90: 349-363.(レベルⅣa)

4) Scherübl H, Jensen RT, Cadiot G, Stölzel U, Klöppel G. Neuroendocrine tumors of the small bowels are on the rise: Early aspects and management. World J Gastrointest Endosc. 2010; 2(10): 325-334.(レベルⅥ)

5) Hartel M, Wente MN, Sido B, Friess H, Büchler MW. Carcinoid of the ampulla of Vater. J Gastroenterol Hepatol. 2005; 20(5): 676-681.(レベルⅥ)

6) Mullen JT, Wang H, Yao JC, Lee JH, Perrier ND, Pisters PW, Lee JE, Evans DB. Carcinoid tumors of the duodenum. Surgery. 2005; 138(6): 971-977.(レベルⅤ)


CQ3-4-4 小腸NET の手術適応と術式は?

推奨

小腸NET が局所領域病変の場合、切除術が推奨される(グレードB)

術式は、リンパ節郭清を伴う小腸切除術が推奨される(グレードB)

【解 説】

小腸NET は、欧米では高頻度(全身のNET の22-34%)であるが本邦では低率である1)。本邦の消化器NET に占める小腸NET の割合は、空腸が1.6%、回腸が0.6%と報告されている2)

空腸、回腸のNET(G1、G2)は、原発巣の腫瘍径が小さい場合でもリンパ節転移をおこすリスクが高い。sm までの浸潤を伴う小腸カルチノイド94 例のうち37.2%に転移がみられ、腫瘍径別では0.5 cm 以下の17.2%、1 cm 以下の30.2%、2 cm 以下の34.2%、2 cm 以上の53.3%に転移が認められた3)。一般的に、腫瘍は原発巣よりもリンパ節転移巣が大きく、それらは腸間膜内で繊維化を伴っており、腸間膜を牽引・屈曲させることで血流障害の原因となる4)

小腸NET に対する手術適応は、根治切除可能な局所領域病変である。局所領域病変とは腸管とその領域リンパ節にとどまった範囲での病巣進展を指す。治療の原則は小腸切除と腸間膜内リンパ節郭清であり、可能な限りの外科切除を行う4-7)

小腸のNET は腸管内に多発することがあり、全小腸に対する検索が重要となる4)。従来、その方法としては術中の触診が多用されてきた4)。近年では、消化管内視鏡検査手技の進歩が著しく、スクリーニングを目的とした下部消化管内視鏡検査時における小腸検索の重要性8)や、ダブルバルーン小腸内視鏡(DBE)9)、カプセル内視鏡とDBE の併用による小腸NET の発見、診断率の向上の可能性10)が指摘されている。

【文 献】

1) 今村正之監修. 田中雅夫、平田公一編. 膵・消化管内分泌腫瘍(NET)診断治療実践マニュアル, pp128-147, 総合医学社, 東京 , 2011. (レベルⅥ)

2) Ito T, Sasano H, Tanaka M, Osamura RY, Sasaki I, Kimura W, Takano K, Obara T, Ishibashi M, Nakao K, Doi R, Shimatsu A, Nishida T, Komoto I, Hirata Y, Nakamura K, Igarashi H, Jensen RT, Wiedenmann B, Imamura M. Epidemiological study of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors in Japan. J Gastroenterol. 2010; 45(2): 234-243.(レベルⅣb)

3) Soga J. Early-stage carcinoids of the gastrointestinal tract: an analysis of 1914 reported cases. Cancer. 2005; 103(8): 1587-1595.(レベルⅤ)

4) Boudreaux JP, Klimstra DS, Hassan MM, Woltering EA, Jensen RT, Goldsmith SJ, Nutting C, Bushnell DL, Caplin ME, Yao JC. The NANETS consensus guideline for the diagnosis and management of neuroendocrine tumors: well-differentiated neuroendocrine tumors of the Jejunum, Ileum, Appendix, and Cecum. Pancreas 2010; 39(6): 753-766.(レベルⅥ)

5) Clark OH, Benson AB 3rd, Berlin JD, Choti MA, Doherty GM, Engstrom PF, Gibbs JF, Heslin MJ, Kessinger A, Kulke MH, Kvols L, Salem R, Saltz L, Shah MH, Shibata S, Strosberg JR, Yao JC; NCCN Neuroendocrine Tumors Panel Members. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: neuroendocrine tumors. J Natl Compr Canc NET w. 2009; 7(7): 712-747.(レベルⅥ)

6) Eriksson B, Klöppel G, Krenning E, Ahlman H, Plöckinger U, Wiedenmann B, Arnold R, Auernhammer C, Körner M, Rindi G, Wildi S; Frascati Consensus Conference participants. Consensus guidelines for the management of patients with digestive neuroendocrine tumors: well-differentiated jejunal-ileal tumor/carcinoma. Neuroendocrinology. 2008; 87(1): 8-19.(レベルⅥ)

7) Norlén O, Stålberg P, Oberg K, Eriksson J, Hedberg J, Hessman O, Janson ET, Hellman P, Akerström G. Long-Term Results of Surgery for Small Intestinal Neuroendocrine Tumors at a Tertiary Referral Center. World J Surg. 2012; 36(6): 1419-1431.(レベルⅤ)

8) Buitrago D, Trencheva K, Zarnegar R, Finnerty B, Aldailami H, Lee SW, Sonoda T, Milsom JW, Fahey TJ 3rd. The impact of incidental identification on the stage at presentation of lower gastrointestinal carcinoids. J Am Coll Surg. 2011; 213(5): 652-656.(レベルⅤ)

9) Bellutti M, Fry LC, Schmitt J, Seemann M, Klose S, Malfertheiner P, Mönkemüller K.Detection of neuroendocrine tumors of the small bowel by double balloon enteroscopy. Dig Dis Sci. 2009; 54(5): 1050-1058.(レベルⅤ)

10) Yamagishi H, Fukui H, Shirakawa K, Oinuma T, Hiraishi H, Terano A, Fujimori T, Nakamura T. Early diagnosis and successful treatment of small-intestinal carcinoid tumor: useful combination of capsule endoscopy and double-balloon endoscopy. Endoscopy. 2007; 39 Suppl 1: E243-244.(レベルⅤ)


CQ3-4-5 結腸NET の手術適応と術式は?

推奨

結腸NET は以下の場合に、切除術が推奨される(グレードB)

腫瘍径が1 cm を越え、固有筋層浸潤や局所リンパ節転移が疑われる場合
内視鏡的切除標本において追加治療要因が存在する場合

術式は、リンパ節郭清を伴う腸管切除術が推奨される(グレードB)

【解 説】

結腸NET は、盲腸に好発し、本邦の消化器NET の2.1%を占める1)。結腸NET は症状発現まで増大し、比較的大きな腫瘍径として発見されることが多い2)。したがって、腫瘍は局所過進展を呈することが多く2)、リンパ節転移(30-40%)や肝転移(20-40%)を高頻度に伴う3-5)

近年では、スクリーニングを目的とする下部消化管内視鏡検査時にNET の小病変が偶然発見される機会が増えている4)

結腸NET の手術適応は局所領域病変である。局所領域病変とは腸管とその領域リンパ節にとどまった範囲での病巣進展を指す。通常は、腫瘍径が1 cm を越え、各種画像診断にて固有筋層浸潤やリンパ節転移を伴う場合と、内視鏡治療後の切除標本に固有筋層浸潤、切除断端陽性、脈管侵襲、といった追加治療を要する因子を認めた場合である2, 6)

局所領域病変に対する術式選択は、リンパ節郭清を伴う腸管切除術である2, 6)

【文 献】

1) Ito T, Sasano H, Tanaka M, Osamura RY, Sasaki I, Kimura W, Takano K, Obara T, Ishibashi M, Nakao K, Doi R, Shimatsu A, Nishida T, Komoto I, Hirata Y, Nakamura K, Igarashi H, Jensen RT, Wiedenmann B, Imamura M. Epidemiological study of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors in Japan. J Gastroenteroll. 2010; 45(2): 234-243.(レベルⅣb)

2) Boudreaux JP, Klimstra DS, Hassan MM, Woltering EA, Jensen RT, Goldsmith SJ, Nutting C, Bushnell DL, Caplin ME, Yao JC. The NANETS consensus guideline for the diagnosis and management of neuroendocrine tumors: well-differentiated neuroendocrine tumors of the Jejunum, Ileum, Appendix, and Cecum. Pancreas. 2010; 39(6): 753-766.(レベルⅥ)

3) Konishi T, Watanabe T, Kishimoto J, Kotake K, Muto T, Nagawa H; Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum. Prognosis and risk factors of metastasis in colorectal carcinoids: results of a nationwide registry over 15 years. Gut. 2007; 56(6): 863-868.(レベルⅤ)

4) Buitrago D, Trencheva K, Zarnegar R, Finnerty B, Aldailami H, Lee SW, Sonoda T, Milsom JW, Fahey TJ 3rd. The impact of incidental identification on the stage at presentation of lower gastrointestinal carcinoids. J Am Coll Surg. 2011; 213(5): 652-656.(レベルⅤ)

5) Yao JC, Hassan M, Phan A, Dagohoy C, Leary C, Mares JE, Abdalla EK, Fleming JB, Vauthey JN, Rashid A, Evans DB. One hundred years after "carcinoid": epidemiology of and prognostic factors for neuroendocrine tumors in 35,825 cases in the United States. J Clin Oncol. 2008; 26(18): 3063-3072.(レベルⅤ)

6) Clark OH, Benson AB 3rd, Berlin JD, Choti MA, Doherty GM, Engstrom PF, Gibbs JF, Heslin MJ, Kessinger A, Kulke MH, Kvols L, Salem R, Saltz L, Shah MH, Shibata S, Strosberg JR, Yao JC, NCCN Neuroendocrine Tumors Panel Members. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: neuroendocrine tumors. J Natl Compr Canc Netw. 2009; 7(7): 712-747.(レベルⅥ)


CQ3-4-6 直腸NET の手術適応と術式は?

推奨

直腸NET は以下の場合、切除術が推奨される(グレードB)

腫瘍径が2 cm を超える場合
腫瘍径が1-2 cm で固有筋層浸潤、脈管侵襲、局所リンパ節転移の疑いがある場合

術式は、リンパ節郭清を伴う直腸切除(断)術が推奨される(グレードB)

内視鏡治療困難な小病変に対しては経肛門・経仙骨的切除術または直腸切除(断)術が推奨される(グレードB)

腫瘍径≦1 cm ⇒ 内視鏡治療(CQ4-1-3を参照)
腫瘍径≧2 cm ⇒ 直腸切除(断)術+リンパ節郭清
腫瘍径1-2 cm+固有筋層浸潤 または 脈管侵襲 または リンパ節転移あり
  ⇒ 直腸切除(断)術+リンパ節郭清
腫瘍径1-2 cm+固有筋層浸潤・脈管侵襲・リンパ節転移がなく、内視鏡治療困難な場合
  ⇒ 経肛門・経仙骨的切除または直腸切除(断)術
転移性病変 ⇒ CQ3-5
【解 説】

本邦における直腸NET の割合は、消化器NET の55.7%と高頻度である1)。直腸における好発部位は下部直腸と報告され2, 3)、80%の症例において歯状線から10 cm 以内に発生する3)

本邦では高度な消化管内視鏡診断・治療が整備されていることから、腫瘍径1 cm 以下の直腸NET に対しては、内視鏡・EUS 検査所見から、深達度sm 以浅の場合は内視鏡的一括切除を先行させることが一般的である(CQ4-1-3を参照)。切除材料の病理組織学的検索により固有筋層浸潤、切除断端陽性、脈管侵襲などが示唆された際は、リンパ節郭清を伴う根治術を適応する。腫瘍径2 cm 以上の場合、58-76%がリンパ節転移陽性である2-5)ことから、リンパ節郭清を伴う根治術の適応である。根治術とは進行直腸癌に対する根治術式に準じた、直腸間膜・結腸間膜内のリンパ節郭清を伴う直腸切除(断)術を指す。腫瘍径が1-2 cm の場合、リンパ節転移頻度が18.5-30.4%と高頻度である2, 3)ことから、原則としてリンパ節郭清を伴う根治術の適応となる。例外的に固有筋層浸潤・脈管侵襲・リンパ節転移を伴わない病変に関しては、内視鏡的あるいは外科的局所切除のみで治療を終了することが可能である6-8)

直腸NET におけるリンパ節転移の危険因子は、腫瘍径>1 cm 3-5)、腫瘍表面性状(陥凹、潰瘍形成)3)、脈管侵襲陽性3-5)であり、治療方針を検討する上で留意すべきである。また、本邦648 例の解析結果から、腫瘍径1.1-1.5 cm の病変であっても、sm 浸潤距離4,000 μm 未満であれば局所切除を先行させ、脈管侵襲の有無により根治術を適応するといった試みがある2)

外科的局所切除には、経肛門的切除術9)と経仙骨的切除術10)がある。経肛門的切除術はTEM と呼称され9)、腫瘍径が大きく、内視鏡的切除が困難な深達度sm 以浅の病変に対し適応となる。近年、内視鏡的治療の進歩に伴い、TEM の実施は減少している。一方、経仙骨的切除術は、局在が高位直腸のためTEM での到達が困難か、あるいは腫瘍径の大きな直腸病変の場合に推奨される7)。経仙骨的切除の特色は、直腸間膜内のリンパ節をサンプリングし、追加切除(根治術)の要否を、局所切除後の病理検索で可能な点である10)

【文 献】

1) Ito T, Sasano H, Tanaka M, Osamura RY, Sasaki I, Kimura W, Takano K, Obara T, Ishibashi M, Nakao K, Doi R, Shimatsu A, Nishida T, Komoto I, Hirata Y, Nakamura K, Igarashi H, Jensen RT, Wiedenmann B, Imamura M. Epidemiological study of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors in Japan. J Gastroenterol. 2010; 45(2): 234-243. (レベルⅣb)

2) 斎藤祐輔、岩下明徳、飯田三雄: 大腸カルチノイド腫瘍の全国集計. 胃と腸 2005; 40(2): 200-213.(レベルⅤ)

3) 樋口哲郎、榎本雅之、杉原健一. 大腸カルチノイドのリンパ節転移危険因子(アンケート結果). 武藤徹一郎監修. 大腸疾患NOW 2007, 日本メディカルセンタ-, 東京, pp121-128, 2007. (レベルⅤ)

4) Konishi T, Watanabe T, Kishimoto J, Kotake K, Muto T, Nagawa H; Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum. Prognosis and risk factors of metastasis in colorectal carcinoids: results of a nationwide registry over 15 years. Gut. 2007; 56(6): 863-868.(レベルⅤ)

5) Shields CJ, Tiret E, Winter DC; International Rectal Carcinoid Study Group. Carcinoid tumors of the rectum: a multi-institutional international collaboration. Ann Surg. 2010; 252(5): 750-755.(レベルⅤ)

6) Clark OH, Benson AB 3rd, Berlin JD, Choti MA, Doherty GM, Engstrom PF, Gibbs JF, Heslin MJ, Kessinger A, Kulke MH, Kvols L, Salem R, Saltz L, Shah MH, Shibata S, Strosberg JR, Yao JC, NCCN Neuroendocrine Tumors Panel Members. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: neuroendocrine tumors. J Natl Compr Canc Netw. 2009; 7(7): 712-747.(レベルⅥ)

7) Anthony LB, Strosberg JR, Klimstra DS, Maples WJ, O'Dorisio TM, Warner RR, Wiseman GA, Benson AB 3rd, Pommier RF. The NANETS consensus guidelines for the diagnosis and management of gastrointestinal neuroendocrine tumors (nets): well-differentiated nets of the distal colon and rectum. Pancreas. 2010; 39(6): 767-774. (レベルⅥ)

8) Ramage JK, Goretzki PE, Manfredi R, Komminoth P, Ferone D, Hyrdel R, Kaltsas G, Kelestimur F, Kvols L, Scoazec JY, Garcia MI, Caplin ME; Frascati Consensus Conference participants. Consensus guidelines for the management of patients with digestive neuroendocrine tumours: well-differentiated colon and rectum tumour/carcinoma. Neuroendocrinology. 2008; 87(1): 31-39.(レベルⅥ)

9) Kinoshita T, Kanehira E, Omura K, Tomori T, Yamada H. Transanal endoscopic microsurgery in the treatment of rectal carcinoid tumor. Surg Endosc. 2007; 21(6): 970-974.(レベルⅤ)

10) 藤田 伸. 直腸局所切除. 新癌の外科-手術手技シリーズ4, 大腸癌,pp45-51, メヂカルヴュー社, 森谷d皓 編, 垣添忠生 監修、2003, 東京. (レベルⅣ)


CQ3-4-7 虫垂NET の手術適応と術式は?

推奨

虫垂NET と診断あるいは疑われた場合、切除術が推奨される(グレードB)
術式は、腫瘍径や浸潤所見に則して選択するよう推奨される(グレードB)

腫瘍径が2 cm 以下かつ虫垂に限局する場合、虫垂切除術が推奨される(グレードB)
腫瘍径が2 cm を越える、あるいは1〜2 cm で浸潤所見やリンパ節転移がある場合、リンパ節郭清を伴う結腸右半切除術または回盲部切除術が推奨される(グレードB)

手術適応 ⇒ NET の診断あるいは疑診
腫瘍径≦2 cm かつ虫垂に限局 ⇒ 虫垂切除術
腫瘍径>2 cm あるいは1〜2 cm で浸潤所見やリンパ節転移がある
  ⇒ 結腸右半切除術または回盲部切除術+リンパ節郭清
【解 説】

虫垂NET に対する内視鏡治療は不可能であるため、全例が手術適応である。術式選択については、腫瘍径が2 cm 以下で、かつ虫垂に限局すれば虫垂切除術により根治可能であり、2 cm を越えるとリンパ節郭清を追加した根治術が必要である。ただし、腫瘍径1-2 cm の場合であっても、虫垂壁や虫垂間膜への浸潤、虫垂基部への進展、リンパ管侵襲、リンパ節転移を認める場合、あるいは組織型(goblet cell/adenocarcinoid)やKi67 指数によって追加治療の適応となり、リンパ節郭清を含む根治術の適応を考慮する1-3)。根治術とは、結腸右半切除術術または回盲部切除術を指し、いずれを選択するかについてはリンパ節転移の可能性により決定されるべきである。

本邦における虫垂NET は、欧米と比較して低頻度であり、大腸カルチノイドを対象とした多施設症例集積研究(n=1,069)では2.5%が虫垂原発であった4)。虫垂NET は、急性虫垂炎として緊急手術を施行中に、あるいは施行後に発覚することがしばしばである。急性虫垂炎として手術を行った連続1,485例において、虫垂NET は0.47%(7例)を占め、年齢の中央値は32.7 歳(20〜59)であった5)。このような場合、悪性腫瘍としての術式変更や二期的根治術の適応について、①術中にNET(カルチノイド)を疑った際は、腹腔鏡下から開腹へ移行する必要があるか、②虫垂切除術で終えてよいか、③腹腔鏡(補助)下手術は根治術として許容されるか、について慎重に考慮する。①については、小規模な後ろ向き研究によると、開腹あるいは腹腔鏡下虫垂切除症例の短期・長期予後はともに良好であった6)。本邦においても同様に腹腔鏡下虫垂切除による虫垂NET の治療例が増加しており、急性虫垂炎として腹腔鏡下虫垂切除を施行中にNET を疑った場合であっても、oncological resection が可能であれば開腹移行せずに完遂することは選択肢として許容される。②については、腫瘍径1 cm 以下の場合は問題とならないが、腫瘍径1-2 cm の虫垂NET に対して虫垂切除のみでは不十分なことがあり、前述の如く切除標本の病理組織学的所見から追加治療について検討すべきである。③については、結腸癌に対する腹腔鏡下手術が容認されつつある近年の現状と、腹腔鏡(補助)下右半結腸切除あるいは回盲部切除による虫垂NET の治療例が増加しており、選択肢として許容される。

虫垂NET のリンパ節転移頻度は対象集団により異なるが、悪性腫瘍のデータベースを基にした報告では24-49%であった7-10)。したがって、リンパ節転移を有する症例においては、広範囲かつ徹底したリンパ節郭清を要することがあり、標準手技による確実な根治術を目指すべきである。

【文 献】

1) Clark OH, Benson AB 3rd, Berlin JD, Choti MA, Doherty GM, Engstrom PF, Gibbs JF, Heslin MJ, Kessinger A, Kulke MH, Kvols L, Salem R, Saltz L, Shah MH, Shibata S, Strosberg JR, Yao JC; NCCN Neuroendocrine Tumors Panel Members. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: neuroendocrine tumors. J Natl Compr Canc NETw. 2009; 7(7): 712-747.(レベルⅥ)

2)Boudreaux JP, Klimstra DS, Hassan MM, Woltering EA, Jensen RT, Goldsmith SJ, Nutting C, Bushnell DL, Caplin ME, Yao JC. The NANETS consensus guideline for the diagnosis and management of neuroendocrine tumors: well-differentiated neuroendocrine tumors of the Jejunum, Ileum, Appendix, and Cecum. Pancreas. 2010; 39(6): 753-766.(レベルⅥ)

3)Plöckinger U, Couvelard A, Falconi M, Sundin A, Salazar R, Christ E, de Herder WW, Gross D, Knapp WH, Knigge UP, Kulke MH, Pape UF; Frascati Consensus Conference participants. Consensus guidelines for the management of patients with digestive neuroendocrine tumours: well-differentiated tumour/carcinoma of the appendix and goblet cell carcinoma. Neuroendocrinology. 2008; 87(1): 20-30.(レベルⅥ)

4)河内 洋、小池盛雄. 大腸カルチノイドおよび内分泌細胞癌(アンケート結果). 武藤徹一郎監修. 大腸疾患NOW 2006, 日本メディカルセンタ-, 東京, pp179-185, 2006.(レベルⅤ)

5)In't Hof KH, van der Wal HC, Kazemier G, Lange JF. Carcinoid tumour of the appendix: an analysis of 1,485 consecutive emergency appendectomies. J Gastrointest Surgg. 2008; 12(8): 1436-1438.(レベルⅤ)

6)Bucher P, Gervaz P, Ris F, Oulhaci W, Inan I, Morel P. Laparoscopic versus open resection for appendix carcinoid. Surg Endosc. 2006; 20(6): 967-970.(レベルⅣb)

7)McCusker ME, Coté TR, Clegg LX, Sobin LH. Primary malignant neoplasms of the appendix: A population-based study from the surveillance, epidemiology and end-results program, 1973-1998. Cancer. 2002; 94(12): 3307-3312.(レベルⅣa)

8)Landry CS, Woodall C, Scoggins CR, McMasters KM, Martin RC 2nd. Analysis of 900 appendiceal carcinoid tumors for a proposed predictive staging system. Arch Surg. 2008; 143(7): 664-670.(レベルⅣa)

9)Yao JC, Hassan M, Phan A, Dagohoy C, Leary C, Mares JE, Abdalla EK, Fleming JB, Vauthey JN, Rashid A, Evans DB. One hundred years after "carcinoid": epidemiology of and prognostic factors for neuroendocrine tumors in 35,825 cases in the United States. J Clin Oncol. 2008; 26(18): 3063-3072.(レベルⅤ)

10)Mullen JT, Savarese DM. Carcinoid tumors of the appendix: a population-based study. J Surg Oncol. 2011; 104(1): 41-44. (レベルⅣa)


CQ3-5 転移を伴う消化管NET の手術適応は?

推奨

画像評価で腫瘍遺残のない手術が可能であれば、リンパ節郭清を伴う切除術が推奨される(グレードB)

肝転移は、腫瘍減量効果が期待できる場合、肝切除術が推奨される(グレードC1)

画像評価で腫瘍遺残のない手術が可能であれば、肺転移、腹膜播種を切除することは許容される(グレードC1)

【解 説】

転移を伴う消化管NET に対する多臓器切除術は、手術侵襲が過大となることから、手術リスクと予後延長効果を慎重に予測したうえで判断することが推奨される。具体的には、原発及び転移巣が切除可能な高分化型NET で、周術期合併症発生率、手術関連死亡率が概ね他の消化器癌の根治術と同等あるいはそれ以下(合併症発生率30%以下、死亡率5%以下)であること、右心不全がない、腹腔外転移・腹膜播種がない、などが提唱されている1)

NET の肝転移は生命予後に影響を及ぼす因子となる。肝に限局した転移の場合、完全切除のみならず、90%以上の腫瘍減量は生命予後とQOLを改善する可能性がある1-5)。肝切除術式は、解剖学的切除に限らず、部分切除や様々な焼灼療法の併用が可能である。また、原発巣切除により切除不能肝転移巣のコントロールが有利となる可能性がある6)

腸間膜内の大きなリンパ節転移の取り扱いは注意を要する。このような転移巣は、腸間膜の線維性肥厚、腸間膜血流の低下、腸管の屈曲・閉塞の原因となる7)。治癒切除を行う上で重要なことは、腸管膜根部の脈管解剖に熟知した経験のある外科チームが行い、短腸症候群を回避するように腸管切除を最小限とすることが推奨される8)

肺転移ついては、他の転移臓器がコントロールされ、臨床的腫瘍遺残なく切除可能であれば適応となる8, 9)。腹膜播種に対する減量切除(と腹膜灌流化学療法)は、播種巣に関連した合併症を低減させる可能性がある10, 11)。骨転移に対しては通常、手術は推奨されないが、椎骨転移による脊髄圧迫や病的骨折に対する手術は推奨される11)

【文 献】

1) Eriksson B, Klöppel G, Krenning E, Ahlman H, Plöckinger U, Wiedenmann B, Arnold R, Auernhammer C, Körner M, Rindi G, Wildi S; Frascati Consensus Conference participants. Consensus guidelines for the management of patients with digestive neuroendocrinetumors: well-differentiated jejunal-ileal tumor/carcinoma. Neuroendocrinology. 2008; 87(1): 8-19.(レベルⅣ)

2) Steinmüller T, Kianmanesh R, Falconi M, Scarpa A, Taal B, Kwekkeboom DJ, Lopes JM, Perren A, Nikou G, Yao J, Delle Fave GF, O'Toole D; Frascati Consensus Conference participants. Consensus guidelines for the management of patients with liver metastases from digestive (neuro)endocrine tumors: foregut, midgut, hindgut, and unknown primary. Neuroendocrinology. 2008; 87(1): 47-62.(レベルⅥ)

3) Osborne DA, Zervos EE, Strosberg J, Boe BA, Malafa M, Rosemurgy AS, Yeatman TJ, Carey L, Duhaine L, Kvols LK. Improved outcome with cytoreduction versus embolization for symptomatic hepatic metastases of carcinoid and neuroendocrine tumors. Ann Surg Oncol. 2006; 13(4): 572-581. (レベルⅤ)

4) Sarmiento JM, Heywood G, Rubin J, Ilstrup DM, Nagorney DM, Que FG.. Surgical treatment of neuroendocrine metastases to the liver: a plea for resection to increase survival. J Am Coll Surg. 2003; 197(1): 29-37. (レベルⅤ)

5) Musunuru S, Chen H, Rajpal S, Stephani N, McDermott JC, Holen K, Rikkers LF, Weber SM. Metastatic neuroendocrine hepatic tumors: resection improves survival. Arch Surg. 2006; 141(10): 1000-1004.(レベルⅤ)

6) Givi B, Pommier SJ, Thompson AK, Diggs BS, Pommier RF. Operative resection of primary carcinoid neoplasms in patients with liver metastases yields significantly better survival. Surgery. 2006; 140(6): 891-897.(レベルⅤ)

7) Boudreaux JP, Klimstra DS, Hassan MM, Woltering EA, Jensen RT, Goldsmith SJ, Nutting C, Bushnell DL, Caplin ME, Yao JC. The NANETS consensus guideline for the diagnosis and management of neuroendocrine tumors: well-differentiated neuroendocrine tumors of the Jejunum, Ileum, Appendix, and Cecum. Pancreas. 2010; 39(6): 753-766.(レベルⅥ)

8) Clark OH, Benson AB 3rd, Berlin JD, Choti MA, Doherty GM, Engstrom PF, Gibbs JF, Heslin MJ, Kessinger A, Kulke MH, Kvols L, Salem R, Saltz L, Shah MH, Shibata S, Strosberg JR, Yao JC; NCCN Neuroendocrine Tumors Panel Members. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: neuroendocrine tumors. J Natl Compr Canc Netw. 2009; 7(7): 712-747.(レベルⅥ)

9) Kos-Kudła B, O'Toole D, Falconi M, Gross D, Klöppel G, Sundin A, Ramage J, Oberg K, Wiedenmann B, Komminoth P, Van Custem E, Mallath M, Papotti M, Caplin M; Palma de Mallorca Consensus Conference Participants. ENETS consensus guidelines for the management of bone and lung metastases from neuroendocrine tumors. Neuroendocrinology. 2010; 91(4): 341-350.(レベルⅥ)

10) Elias D, Sideris L, Liberale G, Ducreux M, Malka D, Lasser P, Duvillard P, Baudin E. Surgical treatment of peritoneal carcinomatosis from well-differentiated digestive endocrine carcinomas.Surgery. 2005; 137(4): 411-416.(レベルⅤ)

11) Kianmanesh R, Ruszniewski P, Rindi G, Kwekkeboom D, Pape UF, Kulke M, Sevilla Garcia I, Scoazec JY, Nilsson O, Fazio N, Lesurtel M, Chen YJ, Eriksson B, Cioppi F, O'Toole D, Palma de Mallorca Consensus Conference Participants. ENETS consensus guidelines for the management of peritoneal carcinomatosis from neuroendocrine tumors. Neuroendocrinology. 2010; 91(4): 333-340.(レベルⅥ)


CQ3-6 消化管NET の局所再発病巣の手術適応は?

推奨

画像評価にて腫瘍遺残のない手術が可能であれば、切除術が推奨される(グレードC1)

減量切除術により症状緩和が期待できる場合、切除術が推奨される(グレードC1)

消化管閉塞症状に対しては、症状改善を目的とした手術が推奨される(グレードC1)

【解 説】

消化管NET の再発病巣に対する手術適応は限定的である。孤立・散在性の肝・肺転移、腹腔内リンパ節転移巣に対する根治手術については、良好なPS の患者において他臓器の転移巣がコントロールされ、臨床的腫瘍遺残のない術式立案が可能である場合に限り適応となる1)

ホルモン症状や腫瘍による局所症状(消化管狭窄・閉塞、隣接臓器への圧排)に対する減量手術を施行する上で、これらの臨床症状(特に、ホルモン過分泌による症状)を改善させるには、90%以上の腫瘍量減量が必要である1)。腹膜播種や原発巣による諸症状(臓器の圧排、狭窄、閉塞)に対し、消化管閉塞の回避とQOL の改善を目的として消化管バイパス、播種巣切除、人工肛門・胃瘻造設などの適応を検討することは重要である2, 3)

【文 献】

1) Clark OH, Benson AB 3rd, Berlin JD, Choti MA, Doherty GM, Engstrom PF, Gibbs JF, Heslin MJ, Kessinger A, Kulke MH, Kvols L, Salem R, Saltz L, Shah MH, Shibata S, Strosberg JR, Yao JC; NCCN Neuroendocrine Tumors Panel Members. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: neuroendocrine tumors. J Natl Compr Canc NET w. 2009; 7(7): 712-747.(レベルⅥ)

2) Elias D, Sideris L, Liberale G, Ducreux M, Malka D, Lasser P, Duvillard P, Baudin E. Surgical treatment of peritoneal carcinomatosis from well-differentiated digestive endocrine carcinomas. Surgery. 2005; 137(4): 411-416.(レベルⅤ)

3) Kianmanesh R, Ruszniewski P, Rindi G, Kwekkeboom D, Pape UF, Kulke M, Sevilla Garcia I, Scoazec JY, Nilsson O, Fazio N, Lesurtel M, Chen YJ, Eriksson B, Cioppi F, O'Toole D; Palma de Mallorca Consensus Conference Participants. ENETS consensus guidelines for the management of peritoneal carcinomatosis from neuroendocrine tumors.Neuroendocrinology. 2010; 91(4): 333-340.(レベルⅥ)


CQ3-7 膵・消化管NET の推奨される術後経過観察法は?

推奨

定期的な診察による症状の観察と、画像検査・ホルモン測定が推奨される(グレードB)

【解 説】

腫瘍マーカー測定と画像診断が再発同定に有用である1, 2)。有用な腫瘍マーカーは、NET の種類によって異なる3)。膵機能性NET では、特異的に分泌が亢進しているホルモン(インスリン、ガストリン、グルカゴン、VIP)が有用であり、特にガストリノーマにおける空腹時血清ガストリン値とセクレチン負荷試験は、画像診断よりも早期に再発を診断できる3, 4)。NET の種類を問わず、最も有用と考えられているのは血中クロモグラニンA 測定である3, 5, 6)が、後腸由来のNET では上昇しないことが多い6)。また、血中NSE 測定は低分化型腫瘍の腫瘍マーカーとして有用である3)。腫瘍マーカーの測定は、3 ヶ月毎が望ましい1)

再発巣の同定に有用な画像診断については、CQ1-5を参照。画像診断は、術後一定の時期までは6 ヵ月ごと、その後は1 年ごとの施行が推奨される1)。長期間経過後の再発もあり得るため、少なくとも10 年間のフォローアップが望ましい1)

ガストリノーマ症例では、治癒切除により血清ガストリン濃度が正常化した後も比較的長期にわたって胃酸分泌亢進が持続するため、術前よりも低用量の酸分泌抑制剤の使用が必要となる7)

【文 献】

1) Kimura W, Tezuka K, Hirai I. Surgical management of pancreatic neuroendocrine tumors. Surg Today. 2011; 41(10): 1332-1343.(レベルⅣb)

2) Gibril F, Reynolds JC, Doppman JL, Chen CC, Venzon DJ, Termanini B, Weber HC, Stewart CA, Jensen RT. Somatostatin receptor scintigraphy: its sensitivity compared with that of other imaging methods in detecting primary and metastatic gastrinomas. A prospective study. Ann Intern Med. 1996; 125(1): 26-34.(レベルⅣb)

3) Oberg K, Janson ET, Eriksson B. Tumour markers in neuroendocrine tumours. Ital J Gastroenterol Hepatol. 1999; 31 Suppl 2: S160-162.(レベルⅣb)

4) Fishbeyn VA, Norton JA, Benya RV, Pisegna JR, Venzon DJ, Metz DC, Jensen RT. Assessment and prediction of long-term cure in patients with the Zollinger-Ellison syndrome: the best approach. Ann Intern Med. 1993; 119(3): 199-206.(レベルⅣb)

5) Nobels FR, Kwekkeboom DJ, Coopmans W, Schoenmakers CH, Lindemans J, De Herder WW, Krenning EP, Bouillon R, Lamberts SW. Chromogranin A as serum marker for neuroendocrine neoplasia: comparison with neuron-specific enolase and the alpha-subunit of glycoprotein hormones. J Clin Endocrinol Metab. 1997; 82(8): 2622-2628.(レベルⅣb)

6) Arnold R, Wilke A, Rinke A, Mayer C, Kann PH, Klose KJ, Scherag A, Hahmann M, Müller HH, Barth P. Plasma chromogranin A as marker for survival in patients with metastatic endocrine gastroenteropancreatic tumors. Clin Gastroenterol Hepatol. 2008; 6(7): 820-827.(レベルⅣb)

7) Pisegna JR, Norton JA, Slimak GG, Metz DC, Maton PN, Gardner JD, Jensen RT. Effect of curative gastrinoma resection on gastric acid secretary function and antisecretory drug requirement in the Zollinger-Ellison syndrome. Gastroenterology. 1992; 102(3): 767-778..(レベルⅣa)


内科治療・集学的治療

まえがき

膵・消化管NET に対する治療においては、腫瘍の機能性、進達度、転移の有無を正確に評価し、腫瘍の分化度および悪性度に合わせた治療が必要である。外科的切除による治癒を目指すのが標準であるが、切除不能例では、腫瘍増殖を抑制し生命予後を改善させることと、臨床症状の改善の両方を目的とした治療が必要である。本項目では内視鏡治療、内分泌症状に対する薬物療法、抗腫瘍薬療法、切除不能肝転移に対する局所療法、集学的治療および放射線療法についてのCQ に対する推奨および解説を記載している。膵NET に対する内視鏡治療は施行されていないので消化管NET のみの記載である。ただし、結腸に対する内視鏡治療に関しては全くエビデンスがなく記載していない。次に、膵・消化管NET に対する抗腫瘍薬に関して、本邦では化学療法は未だコンセンサスがなく、保険適応外レジメンが殆どである。一方、腫瘍分子生物学の発展によって、新規分子標的薬のエベロリムスとスニチニブが大規模臨床試験で有用性を示している。

CQ4-1 消化管NET に対する内視鏡的治療の適応および推奨される手技は何か?

CQ4-1-1 胃NET に対する内視鏡的治療の適応および推奨される手技は何か?

推奨

Rindi 分類Ⅰ型、Ⅱ型で腫瘍サイズ1 cm 以下、個数5 個以下、深達度がsm までに止まる胃NET は内視鏡的治療が推奨される(グレードB)。胃NET に対する内視鏡的治療として推奨されるのは、吸引法、2 チャンネル法などの内視鏡的粘膜切除術(EMR)である(グレードB)

【解 説】

胃NET の治療に関しては、エビデンスが少なく、まだコンセンサスが得られていない。Rindi 分類Ⅰ型とⅡ型は悪性度が低く内視鏡的治療の適応となり得るが、Ⅲ型は悪性度が高く基本的に適応とならない1)。一般的に、Ⅰ、Ⅱ型で腫瘍サイズ1 cm 以下、個数が5 個以下、深達度sm 以浅であれば、内視鏡的切除術が行われる2)。胃NET においては粘膜病変は少なく、内視鏡治療の適応となる病変の多くは深達度sm であるため、切除断端陰性率を上昇させる目的で、吸引法3)や2 チャンネル法4)によるEMR が行われており、有用である。内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)も有用である事が予想されるが、これまでの報告は症例報告や少数例の症例集積にとどまっており、まだ十分なエビデンスが得られていない。

【文 献】

1) Rindi G, Luinetti O, Cornaggia M, Capella C, Solcia E. Three subtypes of gastric argyrophil carcinoid and the gastric neuroendocrine carcinoma: a clinicopathologic study. Gastroenterology. 1993; 104(4): 994-1006.(レベルⅤ)

2) Ichikawa J, Tanabe S, Koizumi W, Kida Y, Imaizumi H, Kida M, Saigenji K, Mitomi H. Endoscopic mucosal resection in the management of gastric carcinoid tumors. Endoscopy. 2003; 35(3): 203-206. (レベルⅤ)

3) Hopper AD, Bourke MJ, Hourigan LF, Tran K, Moss A and Swan MP. En-bloc resection of multiple type 1 gastric carcinoid tumors by endoscopic multi-band mucosectomy. J Gastroenterol Hepatol. 2009; 24(9): 1516-1521.(レベルⅤ)

4) Higashino K, Iishi H, Narahara H, Uedo N, Yano H, Ishiguro S and Tatsuta M. Endoscopic resection with a two-channel videoendoscope for gastric carcinoid tumors. Hepatogastroenterology. 2004; 51(55): 269-272.(レベルⅤ)


コラム

<Rindi 分類>

Rindi ら1)は、胃NET を基礎疾患、高ガストリン血症の有無から以下の3 型に分類しており、腫瘍の悪性度や臨床経過とよく相関するため、汎用されている。

タイプ 基礎疾患 高ガストリン血症 悪性度
自己免疫性胃炎(A 型胃炎)
Zollinger-Ellison 症候群(MEN1 )
散発性

Ⅰ型は自己免疫性胃炎(A 型胃炎)、Ⅱ型はZollinger-Ellison 症候群を基礎疾患とするもので、高ガストリン血症を伴う。胃底腺のECL 細胞がその増殖因子であるガストリン刺激の増強により腫瘍化したもので、初期にはガストリンに反応性の状態が存在すると考えられる。胃底腺領域に1 cm 以下で多発することが多く、悪性度は低い。特にⅠ型は通常、良性の経過を示す。

Ⅲ型は基礎疾患を伴わない散発例であり、高ガストリン血症を伴わない。通常、単発であり、発見時1 cm 以上であることがしばしばである。胃体部のみではなく前庭部にも発生する。悪性度は高く、リンパ節転移、肝転移を来す確率が高い。

【文 献】

1) Rindi G, Luinetti O, Cornaggia M, Capella C, Solcia E. Three subtypes of gastric argyrophil carcinoid and the gastric neuroendocrine carcinoma: a clinicopathologic study. Gastroenterology. 1993; 104(4): 994-1006.(レベルⅣb)


CQ4-1-2  十二指腸NET に対する内視鏡的治療の適応および推奨される手技は何か?

推奨

腫瘍サイズ1 cm 以下、深達度がsm までに止まる十二指腸NET に対して内視鏡的治療が行われる事があるが、研究的段階である(グレードB)。十二指腸NET に対する内視鏡的治療として推奨されるのは、内視鏡的粘膜切除術(EMR)である(グレードB)

【解 説】

十二指腸NET の治療に関しては、エビデンスが少なく、まだコンセンサスが得られていない。一般的に、腫瘍サイズ1 cm 以下、深達度smであれば、転移率が比較的低いため1)、内視鏡的切除術を行う施設が見受けられる2, 3)。特に、十二指腸ガストリノーマのリンパ節転移率は60%あり、開腹手術によるリンパ節郭清は欠かせない4)

【文 献】

1) Soga J. Early-stage carcinoids of the gastrointestinal tract. An analysis of 1914 reported cases. Cancer. 2005; 103(8): 1587-1595.(レベルⅤ)

2) Yoshikane H, Goto H, Niwa Y, Matsui M, Ohashi S, Suzuki T, Hamajima E, Hayakawa T. Endoscopic resection of small duodenal carcinoid tumors with strip biopsy technique. Gastrointest Endosc. 1998; 47(6): 466-470. (レベルⅤ)

3) Dalenbäck J, Havel G. Local endoscopic removal of duodenal carcinoid tumors. Endoscopy 2004; 36(7): 651-655.(レベルⅤ)

4) Gibril F, Libutti SK, Norton JA, White DE, Jensen RT, Alexander HR. Management and outcome of patients with sporadic gastrinoma arising in the duodenum. Ann Surg. 2003; 238(1): 42-48.(レベルⅣa)


CQ4-1-3  直腸NET に対する内視鏡的治療の適応および推奨される手技は何か?

推奨

腫瘍サイズ1 cm 以下、深達度がsm までに止まる直腸NET は内視鏡的治療が推奨される(グレードB)

直腸NET に対する内視鏡的治療として推奨されるのは、吸引法、2 チャンネル法などの内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)および経肛門的内視鏡下マイクロサージャリー(TEM)である(グレードB)

【解 説】

悪性度の指標として腫瘍径、固有筋層への浸潤、中心陥凹・潰瘍形成、脈管侵襲、核分裂像、Ki67 指数高値などが挙げられる1-3)。腫瘍径1 cm 以下、深達度がsm にとどまり、中心陥凹・潰瘍形成を認めない腫瘍は転移率が低く、EUS やCT などの画像診断でリンパ節転移、遠隔転移の所見を認めない場合、通常、内視鏡的治療の適応とされる4, 5)。切除標本の病理組織学的診断で脈管侵襲、多数の核分裂像、Ki67 指数高値等を認める場合は、転移のリスクが高く2, 3)追加治療の検討を行う。

消化管NET は発見時に粘膜内にとどまっていることは少なく、内視鏡的治療の適応となる病変の多くは深達度sm である。通常の内視鏡的ポリペクトミーやEMR では切除断端が陽性となる可能性が高い。そのためEMR でも吸引法(食道静脈瘤治療用ligation device を用いたESMR-L や、内視鏡先端に装着したキャップ内に吸引するEMR-C など)や2 チャンネル法など、切除法に工夫がなされている4)。また、ESD の成績も良好で、それぞれ通常のポリペクトミーやEMR と比べて有意に高い切除断端陰性率が報告されている6-9)。なお、2012 年4 月に大腸ESD は早期大腸癌、大腸腺腫に対して保険適用となっている。

TEM も直腸NET の局所切除法として、特に近位側直腸の腫瘍に対する安全で低侵襲な治療法である。EMR 後の遺残症例を含めて、高い切除断端陰性率が報告されている10)

【文 献】

1) Soga J. Carcinoids of the rectum: An evaluation of 1271 reported cases. Surg Today. 1997; 27(2): 112-119.(レベルⅤ)

2) 岩下明徳,原岡誠司,池田圭祐,津田純郎,植木敏晴,岩崎 宏,九嶋亮治,八尾隆史,大城由美,栗原憲二.直腸カルチノイド腫瘍の臨床病理学的検索.胃と腸. 2005; 40(2): 151-162. (レベルⅣb)

3) Hotta K, Shimoda T, Nakanishi Y, Saito D. Usefulness of Ki67 for predinting the metastatic potential of rectal carcinoids. Pathol Int. 2006; 56(10): 591-596.(レベルⅣa)

4) ashimo Y, Matsuda T, Uraoka T, Saito Y, Sano Y, Fu K, Kozu T, Ono A, Fujii T, Saito D. Endoscopic submucosal resection with a ligation device is an effective and safe treatment for carcinoid tumors in the lower rectum. J Gastroenterol Hepatol. 2008; 23(2): 218-221.(レベルⅤ)

5) Park CH, Cheon JH, Kim JO, Shin JE, Jang BI, Shin SJ, Jeen YT, Lee SH, Ji JS, Han DS, Jung SA, Park DI, Baek IH, Kim SH, Chang DK. Criteria for decision making after endoscopic resection of well-differentiated rectal carcinoids with regard to potential lymphatic spread. Endoscopy. 2011; 43(9): 790-795.(レベルⅣb)

6) Ono A, Fujii T, Saito Y, Matsuda T, Lee DTY, Gotoda T, Saito D. Endoscopic submucosal resection of rectal carcinoid tumors with a ligation device. Gastrointest Endosc. 2003; 57(4): 583-587.(レベルⅣa)

7) Sakata H, Iwakiri R, Ootani A, Tsunada S, Ogata S, Ootani H, Shimoda R, Yamaguchi K, Sakata Y, Amemori S, Mannen K, Mizoguchi M, Fujimoto K. A pilot randomized control study to evaluate endoscopic resection using a ligation device for rectal carcinoid tumors. World J Gastroenterol. 2006; 12(25): 4026-4028.(レベルⅡ)

8) Zhou PH, Yao LQ, Qin XY, Xu MD, Zhong YS, Chen WF, Ma LL, Zhang YQ, Qin WZ, Cai MY, Ji Y. Advantages of endoscopic submucosal dissection with needle-knife over endoscopic mucosal resection for small rectal carcinoid tumors: A retrospective study. Surg Endosc. 2010; 24(10): 2607-2612.(レベルⅣa)

9) Lee DS, Jeon SW, Park SY, Jung MK, Cho CM, Tak WY, Kweon YO, Kim SK. The feasibility of endoscopic submucosal dissection for rectal carcinoid tumors: Comparison with endoscopic mucosal resection. Endoscopy 2010; 42: 647-651.(レベルⅣa)

10) Kinoshita T, Kanehira E, Omura K, Tomori T, Yamada H. Transanal endoscopic microsurgery in the treatment of rectal carcinoid tumor. Surg Endosc. 2007; 21(6): 970-974.(レベルⅤ)


CQ4-2 膵・消化管NET の内分泌症状に対して推奨される薬物治療は何か?

推奨

膵・消化管NET の内分泌症状の治療には、ソマトスタチンアナログと、その他の薬物療法が推奨される(グレードA)

【解 説】
  1. 膵・消化管NET の内分泌症状の緩和にはソマトスタチンアナログが推奨される1, 2)。有効性は疾患によって異なる。インスリノーマで、ソマトスタチンアナログのインスリン抑制が弱い場合は、グルカゴンなどの拮抗ホルモンの分泌を抑えるため却って低血糖を悪化させることがあるので注意が必要である3)
  2. ガストリノーマによる消化性潰瘍の治療、下痢などの内分泌症状に対しては高用量のPPI が推奨される4)
  3. VIP オーマによる急激な下痢による脱水症状に対して、電解質液の大量の補液が推奨される5)
  4. インスリノーマによる急性期低血糖に対して高濃度のブドウ糖補充が有効であるが、低血糖発作の頻度の抑制にジアゾキシド6)やエベロリムス7)が有効な事がある。
  5. グルカゴノーマによる遊走性壊死性紅斑にアミノ酸と脂肪酸の定期的輸注が有効である8)
  6. カルチノイド症候群の下痢に対してロペラミドなどの止痢薬が有効である。消化器症状に対してオンダンセトロンの有用性が報告されている(この目的では本邦未承認)9)。カルチノイドクリーゼが手術、麻酔、生検、腫瘍の触診、ストレスなどによって引き起こされることがあり、その際は血漿製剤の輸注とソマトスタチンアナログによる治療が推奨される10)、手術や麻酔、生検を予定しているカルチノイド症候群患者にはソマトスタチンアナログの術前使用が推奨される10)
【文 献】

1) Maton PN, Gardner JD, Jensen RT. Use of long-acting somatostatin analog SMS 201-995 in patients with pancreatic islet cell tumors. Dig Dis Sci. 1989; 34(3 Suppl): 28S-39S.(レベルⅤ).

2) Kvols LK, Moertel CG, O'Connell MJ, Schutt AJ, Rubin J, Hahn RG. Treatment of the malignant carcinoid syndrome. Evaluation of a long-acting somatostatin analogue. N Engl J Med. 1986; 315(11): 663-666.(レベルⅤ).

3) Stehouwer CD, Lems WF, Fischer HR, Hackeng WH, Naafs MA. Aggravation of hypoglycemia in insulinoma patients by the long-acting somatostatin analogue octreotide (Sandostatin). Acta Endocrinol (Copenh). 1989; 121(1): 34-40.(レベルⅤ)

4) Maton PN, Vinayek R, Frucht H, McArthur KA, Miller LS, Saeed ZA, Gardner JD, Jensen RT. Long-term efficacy and safety of omeprazole in patients with Zollinger-Ellison syndrome: a prospective study. Gastroenterology. 1989; 97(4):827-836.(レベルⅤ).

5) O'Dorisio TM, Mekhjian HS, Gaginella TS, Medical therapy of VIPomas. Endocrinol Metab Clin North Am. 1989; 18(2): 545-556.(レベルⅥ)

6) Gill GV, Rauf O, MacFarlane IA. Diazoxide treatment for insulinoma: a national UK survey. Postgrad Med J. 1997; 73(864): 640-641.(レベルⅤ)

7) Kulke MH, Bergsland EK, Yao JC. Glycemic control in patients with insulinoma treated with everolimus. N Engl J Med. 2009; 360(2): 195-197.(レベルⅤ)

8) Alexander EK, Robinson M, Staniec M, Dluhy RG. Peripheral amino acid and fatty acid infusion for the treatment of necrolytic migratory erythema in the glucagonoma syndrome. Clin Endocrinol (Oxf). 2002; 57(6): 827-831.(レベルⅤ)

9) Wymenga AN, de Vries EG, Leijsma MK, Kema IP, Kleibeuker JH. Effects of ondansetron on gastrointestinal symptoms in carcinoid syndrome. Eur J Cancer. 1998; 34(8): 1293-1294.(レベルⅥ)

10) Oberg K, Kvols L, Caplin M, Delle Fave G, de Herder W, Rindi G, Ruszniewski P, Woltering EA, Wiedenmann B. Consensus report on the use of somatostatin analogs for the management of neuroendocrine tumors of the gastroenteropancreatic system. Ann Oncol. 2004; 15(6): 966-973.(レベルⅥ)


CQ4-3 膵NET に対して推奨される抗腫瘍薬は何か?

CQ4-3-1 膵NET(G1/G2)に対して推奨される抗腫瘍薬は何か?

推奨

エベロリムスまたはスニチニブが推奨される(グレードB)。ストレプトゾシンを用いた化学療法も選択肢の1 つである(グレードC1)

【解 説】

膵NET(G1/G2)に対する抗腫瘍効果を目指した全身薬物治療は、切除不能例のうち増悪または臨床的に腫瘍量が多いと判断される場合において適応となる。NET G1/G2 は数年以上の経過において腫瘍増大が見られない症例が含まれているため、抗腫瘍効果を目指した全身薬物治療は、腫瘍増大が明らかな例や、腫瘍が広範に存在し腫瘍増大が起こると臓器機能や生命にかかわる恐れのある例が適応となる。ランダム化比較試験では最近エベロリムス1)、スニチニブ2)、ランレオチド(保険未承認)3)がそれぞれプラセボと比較して、有意な無増悪生存期間の延長を示している。ストレプトゾシン+ドキソルビシン(ドキソルビシンは保険未承認)4)も他の治療レジメンに比べて有意な生存期間延長を示しているが、1990 年代初頭の研究であり、臨床試験のクオリティに関する懸念も指摘されている。しかし、ストレプトゾシンは単独投与の国内第U相試験が実施されており、我が国でも保険承認が得られている。その他の抗癌剤(ダカルバジン5)、テモゾロミド±カペシタビン6)など)、インターフェロン7)なども一定の抗腫瘍効果が報告されている(いずれも保険未承認)が、膵NET を対象としたランダム化比較試験の報告はない。

表1 膵NET(G1/G2)に対する主なランダム化比較試験の成績

  症例数 無増悪生存期間 生存期間 報告者、報告年
中央値(月) p値 中央値(月) p値
Chlorozotocin 33     18 <0.003*1 Moertel C; 1992
Streptozocin + 5-FU 33     16.8 <0.004*2  
Streptozocin + Doxorubicin 36     26.4    
Sunitinib 86 11.4 <0.01   0.02*3 Raymond E; 2011
Placebo 85 5.5    
Evelorimus 207 11.0 <0.01   0.564 Yao JC; 2011
Placebo 203 4.6    
Lanreotide 101 NR <0.01     Caplin ME; 2014*4
Placebo 103 18.0      

*1 Streptozocin + Doxorubicin vs. Chlorozotocin

*2 Streptozocin + Doxorubicin vs. Streptozocin + 5-FU

*3 Sunitinib vs. Placebo は論文発表後の追跡調査では生存期間についての有意義は消失している。

*4 本試験には膵以外に中腸、後腸、原発不明のNET が含まれている。

【文 献】

1) Yao JC, Shah MH, Ito T, Bohas CL, Wolin EM, Van Cutsem E, Hobday TJ, Okusaka T, Capdevila J, de Vries EG, Tomassetti P, Pavel ME, Hoosen S, Haas T, Lincy J, Lebwohl D, Öberg K;RAD001 in Advanced Neuroendocrine Tumors, Third Trial(RADIANT-3)Study Group. Everolimus for advanced pancreatic neuroendocrine tumors. N Engl J Med. 2011;364(6):514-523.(レベルⅡ)

2) Raymond E, Dahan L, Raoul JL, Bang YJ, Borbath I, Lombard-Bohas C, Valle J, Metrakos P, Smith D, Vinik A, Chen JS, HÖrsch D, Hammel P, Wiedenmann B, Van Cutsem E, Patyna S, Lu DR, Blanckmeister C, Chao R, Ruszniewski P. Sunitinib malate for the treatment of pancreatic neuroendocrine tumors. N Engl J Med. 2011;364(6):501-513(.(レベルⅡ)

3) Caplin ME, Pavel M, Ćwikła JB, Phan AT, Raderer M, Sedláčková E, Cadiot G, Wolin EM, Capdevila J, Wall L, Rindi G, Langley A, Martinez S, Blumberg J, Ruszniewski P;CLARINET Investigators. Lanreotide in metastatic enteropancreatic neuroendocrine tumors. N Engl J Med. 2014;371(3):224-233.(レベルⅡ)

4) Moertel CG, Lefkopoulo M, Lipsitz S, Hahn RG, Klaassen D. Streptozocin-doxorubicin, streptozocin-fluorouracil or chlorozotocin in the treatment of advanced islet-cell carcinoma. N Engl J Med. 1992;326(8): 519-523.(レベルⅡ)

5) Ramanathan RK, Cnaan A, Hahn RG, Carbone PP, Haller DG. Phase II trial of dacarbazine(DTIC)in advanced pancreatic islet cell carcinoma. Study of the Eastern Cooperative Oncology Group-E6282. Ann Oncol. 2001;12(8):1139-1143.(レベルⅢ)

6) Strosberg JR, Fine RL, Choi J, Nasir A, Coppola D, Chen DT, Helm J, Kvols L. First-line chemotherapy with capecitabine and temozolomide in patients with metastatic pancreatic endocrine carcinomas. Cancer. 2011;117(2):268-275.(レベルⅢ)

7) Bajetta E, Zilembo N, Di Bartolomeo M, Di Leo A, Pilotti S, Bochicchio AM, Castellani R, Buzzoni R, Celio L, Dogliotti L, et al. Treatment of metastatic carcinoids and other neuroendocrine tumors with recombinant interferon-alpha-2a. A study by the Italian Trials in Medical Oncology Group. Cancer. 1993;72(10):3099-3105.(レベルⅢ)


CQ4-3-2 膵NEC(G3)に対して推奨される抗腫瘍薬は何か?

推奨

小細胞肺癌の治療に準じ,白金製剤をベースとする併用療法が推奨される(グレードC1)

【解 説】

 病理学的・臨床的に類似である小細胞肺癌でのエビデンスに準じ、白金製剤をベースとした併用療法(エトポシド+シスプラチン1)、イリノテカン+シスプラチン2):いずれも保険未承認)が用いられ、高い奏効割合が報告されているが、ランダム化比較試験は実施されていない。

表1 膵NEC に対する併用療法の成績
膵NEC に対するEtoposide+Cisplatin の成績

原発臓器 症例数 奏効率(%) 生存期間中央値(月) 報告者、報告年
消化管・膵 18 67 19 Moertel CG; 1991
消化管・膵 41 42 15 Mitry E; 1999
3 67 NA Fjällskog ML; 2001
肝臓・胆道・膵 21 14 5.8 Iwasa S; 2010

NA; 評価不能

膵NEC に対するIrinotecan + Cisplatin の成績

原発臓器 症例数 奏効率(%) 生存期間中央値(月) 報告者、報告年
消化管・膵* 15 7 11 Kulke MH; 2006
消化管・膵 19 58 NA Mani MA 2008

*NET G1/G2 を含む

NA; 評価不能

【文 献】

1) Fjällskog ML, Granberg DP, Welin SL, Eriksson C, Oberg KE, Janson ET, Eriksson BK. Treatment with cisplatin and etoposide in patients with neuroendocrine tumors. Cancer. 2001;92(5):1101-1107(.(レベルⅢ)

2) Kulke MH, Wu B, Ryan DP, Enzinger PC, Zhu AX, Clark JW, Earle CC, Michelini A, Fuchs CS. A phase Ⅱtrial of irinotecan and cisplatin in patients with metastatic neuroendocrine tumors. Dig Dis Sci. 2006;51(6):1033-1038.(レベルⅣa)


CQ4-4-1 消化管NET(G1/G2)に対して推奨される抗腫瘍薬は何か?
※ G1/G2 に限定

推奨

消化管NET(G1/G2)に対してはオクトレオチドが推奨される(グレードB)

消化管 NET(G1/G2)に対して他の治療選択肢がない場合には、ストレプトゾシンを用いた化学療法も選択肢の1 つである(グレードC1)

【解 説】

消化管NET に対する治療法を選択する際には、組織学的grade、肝転移の程度、内分泌症状の有無、患者の全身状態、使用可能な治療法などから見た総合的な判断が必要であ1)

  1. 1)ソマトスタチンアナログ療法

    ソマトスタチンアナログのオクトレオチドはNET の内分泌症状を改善する目的で用いられてきた(CQ4-2 を参照)。2009 年に中腸由来の転移性高分化型NET 患者を対象に前向き無作為化プラセボ対照二重盲検試験によるオクトレオチドLAR の抗腫瘍効果が検討された(PROMID 試験)2)。TTP(Time to Tumor Progression)の中央値はオクトレオチドLAR 群で14.3 カ月、プラセボ群で6.0 カ月とオクトレオチドLAR 群にて有意な延長を認めた。抗腫瘍効果は肝腫瘍量が10%以下の症例、原発巣の切除例で最も高く認められ、機能性・非機能性の別、血中クロモグラニンA 値、PS や年齢には寄らないことが示された。本邦でも消化管NET にオクトレオチドLAR が保険承認された。

  2. 2)消化管NET(G1/G2)に対する全身化学療法

    全身化学療法は、奏効率が低く、有意な無増悪生存期間や全生存期間に対する効果を示した比較試験はない(表13-5)。しかし、全身化学療法によって腫瘍縮小が得られる症例があり、「増悪を示し、かつ、他の治療選択肢がない場合」には選択肢の1 つとして検討する必要があると考えられる。

    海外ではフッ化ピリミジン製剤、ストレプトゾシン、ダカルバジン、テモゾロミドなどが用いられている。5-FU は古くからストレプトゾシンと併用され、比較的高い20〜30%前後の奏効割合が報告されている3-5)。最近の報告では、5-FU+ドキソルビシン vs. 5-FU+ストレプトゾシンの比較試験5)がある。奏効率はいずれも16%と差がなく、無増悪生存期間は4.5 カ月vs. 5.3 カ月であったが、全生存期間では5-FU+ストレプトゾシン群の方が良好であったと報告されている。最近、ストレプトゾシン単独投与の国内第Ⅱ相試験が実施され、我が国でも保険承認が得られている。

    様々な臓器由来のNET に対して、カペシタビンとオキサリプラチン併用試験(カルチノイド症候群を伴う症例にはオクトレオチド継続)が行われた6)。Low-grade 群(n=27)に対して奏効率30%、TTP 20 カ月などの良好な成績を示した6)(保険未承認)。S-1 のNET に対する前向きの臨床試験の報告はなく、消化管NET に対するゲムシタビンの効果も不明である。また、ダカルバジン5)、テモゾロミド7)が注目されているが、テモゾロミドとサリドマイドとの併用試験において、膵由来のNET では奏効率45%であったが、他のカルチノイドでは7%にすぎなかったと報告されている8)

表1:カルチノイドに対する殺細胞性の抗癌剤による比較試験
報告年 対象 レジメン 症例数 奏効率 mPFS MST 文献
1979 カルチノイド 5-FU + STZ
5-FU + CPA
42
47
33%
27%
-
-
27 週
46 週
3
1984 カルチノイド DOX
5-FU + STZ
81
80
21%
22%
6.5 ヵ月
8 ヵ月
12 ヵ月
16 ヵ月
4
2005 カルチノイド 5-FU + DOX
5-FU + STZ
25
27
16%
15.9%
4.5 ヵ月
5.3 ヵ月
15.7 ヵ月
24.3 ヵ月
5
【文 献】

1) NCCN Guideline for Treatment of Cancer by Site.
http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/f_guidelines.asp(レベルⅥ)

2) Rinke A, Müller HH, Schade-Brittinger C, Klose KJ, Barth P, Wied M, Mayer C, Aminossadati B, Pape UF, Bläker M, Harder J, Arnold C, Gress T, Arnold R;PROMID Study Group. Placebo-controlled, double-blind, prospective, randomized study on the effect of octreotide LAR in the control of tumor growth in patients with metastatic neuroendocrine midgut tumors:a report from the PROMID Study Group. J Clin Oncol. 2009;27(28):4656-4663(.(レベルⅡ)

3) Moertel CG, Hanley JA. Combination chemotherapy trials in metastatic carcinoid tumor and the malignant carcinoid syndrome. Cancer Clin Trials. 1979;2(4):327-334.(レベルⅡ)

4) Engstrom PF, Lavin PT, Moertel CG, Folsch E, Douglass HO Jr. Streptozocin plus fluorouracil versus doxorubicin therapy for metastatic carcinoid tumor. J Clin Oncol. 1984;2(11):1255-1259.(レベルⅢ)

5) Sun W, Lipsitz S, Catalano P, Mailliard JA, Haller DG;Eastern Cooperative Oncology Group. Phase Ⅱ/Ⅲ study of doxorubicin with fluorouracil compared with streptozocin with fluorouracil or dacarbazine in the treatment of advanced carcinoid tumors:Eastern Cooperative Oncology Group Study E1281. J Clin Oncol. 2005;23(22):4897-4904.(レベルⅡ)

6) Bajetta E, Catena L, Procopio G, De Dosso S, Bichisao E, Ferrari L, Martinetti A, Platania M, Verzoni E, Formisano B, Bajetta R. Are capecitabine and oxaliplatin(XELOX)suitable treatments for progressing lowgrade and high-grade neuroendocrine tumours? Cancer Chemother Pharmacol. 2007;59(5):637-642.(レベルⅤ)

7) Ekeblad S, Sundin A, Janson ET, Welin S, Granberg D, Kindmark H, Dunder K, Kozlovacki G, Orlefors H, Sigurd M, Oberg K, Eriksson B, Skogseid B. Temozolomide as monotherapy is effective in treatment of advanced malignant neuroendocrine tumors. Clin Cancer Res. 2007;13(10):2986-2991.(レベルⅤ)

8) Kulke MH, Stuart K, Enzinger PC, Ryan DP, Clark JW, Muzikansky A, Vincitore M, Michelini A, Fuchs CS. Phase Ⅱ study of temozolomide and thalidomide in patients with metastatic neuroendocrine tumors. J Clin Oncol. 2006;24(3):401-406.(レベルⅤ)


CQ4-4-2 消化管NEC(G3)に対して推奨される抗腫瘍薬は何か?

推奨

消化管NEC(G3)に対しては小細胞肺癌の治療に準じ、白金製剤をベースとする併用療法が治療選択肢となる(グレードC1)

【解 説】

消化管NEC は、特に遠隔転移を伴う場合には極めて予後不良であり、小細胞肺癌に準じた治療戦略をとることが推奨される。NEC に対しては白金製剤を含む併用療法が基本であるが、世界的にはシスプラチン+エトポシドが用いられることが多い(保険未承認)1)。本邦では小細胞肺癌に対してシスプラチン+イリノテカンがシスプラチン+エトポシドよりも優越性を示したことより2)、シスプラチン+イリノテカンが用いられることも少なくない(保険未承認)。本邦での多施設共同の後ろ向き研究によれば、消化管NEC 142 例に対するシスプラチン+イリノテカンによって奏効率51%、無増悪生存期間の中央値5.4 カ月、全生存期間の中央値13.4カ月と報告されている3)

さらには、タキサン系の薬剤を追加した3 剤併用療法(カルボプラチン+エトポシド+パクリタキセル)では、奏効率53%、無増悪生存期間の中央値7.5 カ月、全生存期間の中央値14.5 カ月と報告されているが、本邦での3 剤の推奨用量は確定していない4)。小細胞肺癌と同様にNEC は化学療法の感受性は高くいずれの治療でも高い奏効率が得られるが、治癒が得られることは極めて稀であり、増悪後の腫瘍進展速度は早く予後不良である。推奨される有効な二次治療はない。

表1 NEC に対する殺細胞性の抗癌剤による臨床試験
報告年 対象 レジメン 症例数 奏効率 mPFS MST 文献
1999 NEC CDDP + VP-16 41 42% 9 ヵ月 15 ヵ月 9
2006 NEC CBDCA + VP-16 + PTX 78 53% 7.5 ヵ月 14.5 ヵ月 12

CDDP:シスプラチン CBDCA:カルボプラチン VP-16:エトポシド、
PTX:パクリタキセル

【文 献】

1) Mitty E, Baudlin E, Ducreux M, Sabourin JC, Rufie P, Aparicio T, Lasse P, Elias D, Duvillard P, Schlumberger M, Rougier P. Treatment of poorly differentiated neuroendocrine tumours with etoposide and cisplatin. Br J Cancer. 1999;81(8):1351-1355(.(レベルⅤ)

2) Noda K, Nishiwaki Y, Kawahara M, Negoro S, Sugiura T, Yokoyama A, Fukuoka M, Mori K, Watanabe K, Tamura T, Yamamoto S, Saijo N;Japan Clinical Oncology Group. Irinotecan plus cisplatin compared with etoposide plus cisplatin for extensive small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2002;346(2):85-91.(レベルⅡ)

3) Yamaguchi T, Machida N, Morizane C, Kasuga A, Takahashi H, Sudo K, Nishina T, Tobimatsu K, Ishido K, Furuse J, Boku N, Okusaka T. Multicenter retrospective analysis of systemic chemotherapy for advanced neuroendocrine carcinoma of the digestive system. Cancer Sci. 2014;105(9):1176-1181.(レベルⅤ)

4) Hainsworth JD, Spigel DR, Litchy S, Greco FA. Phase Ⅱ trial of paclitaxel, carboplatin, and etoposide in advanced poorly differentiated neuroendocrine carcinoma:a Minnie Pearl Cancer Research Network Study. J Clin Oncol. 2006;24(22):3548-3554(.(レベルⅤ)


CQ4-5 膵・消化管NET の切除不能肝転移に対して推奨される局所療法は何か?

推奨

TAE およびTACE が、高腫瘍量の肝転移の局所治療として推奨される(グレードC1)。また、切除不能の肝転移巣を有するが、数が限られている場合には、腫瘍焼灼術が推奨される(グレードC1)

【解 説】

NET の肝転移は疼痛や腫瘍浸潤による症状、もしくは内分泌症状が認められるまで気付かれないことも多く、肝転移を伴った症例の80-90%は診断時、既に治癒切除が困難である。膵・消化管NET のQOL や5 年生存率の向上には肝転移巣の制御が重要であり、内分泌症状のコントロールにも寄与する1, 2)

NET の肝転移は血流が豊富であり、腫瘍への血流は90%以上肝動脈から供給されており、肝細胞癌と同様にTAE やTACE がNET の肝転移(特に高腫瘍量)の局所治療として有用である3, 4)。門脈腫瘍塞栓や腹水の存在は当治療の積極的な適応としない。周術期の抗生物質投与は少なくとも3日間は肝膿瘍の形成予防目的に行うことが推奨される5)。TAE の症状緩和効果については、部分的に改善した症例も含めると90%のresponse があり、効果は6-27 ヵ月持続し、TACE では症状緩和効果が50-90%の症例で認められ、6-53 ヵ月持続すると報告されている3)。TAE、TACE 後のTTP は消化管原発を含むNET で12-24 カ月、膵NET で10-19 カ月。TAE 後の生存率に関する報告は様々で5 年生存率が0-71%(中央値50%)、生存期間中央値も20-80 カ月と幅がある。一方、NEC のTAE 後の生存期間は15 カ月との報告がある。TACE 後の5 生率は40-80%、生存期間中央値は32-50 カ月と報告されている3, 6, 7)。カルチノイド症候群をきたすNET では塞栓術注や術直後にカルチノイドクリーゼをきたす例があり、術前のソマトスタチンアナログの投与が重要である。

切除不能の肝転移巣を有するが、数が限られている症例では、腫瘍焼灼が有用なことがある1, 2, 8)。実際には、焼灼法にはラジオ波焼灼術(RFA)が用いられることが多く、経皮的もしくは開腹下/腹腔鏡下に施行される8)。RFA に適した腫瘍サイズについては3 cm が予後を規定する重要な因子とされている8-10)。また、腫瘍サイズが<3 cm, 3-5 cm, >5 cm の各群におけるRFA 後の局所再発を比較すると<3 cm 群が有意に低かった11)。NET 肝転移巣に対する腹腔鏡下RFAは、腫瘍が両葉にわたり14 個以下の個数で腫瘍総ボリュームが全肝の20%以下にとどまっている患者が良い適応とする報告がある10)

NET 肝転移巣への単独治療としての肝動注化学療法の報告は稀で、NCCN12)およびENETS13)ガ イドラインでも抗癌剤の肝動注療法についての記載はない。最近、5-FU の肝動注療法を先行し、その後TACE を組み合わせる報告もある14)

【文 献】

1) Madoff DC, Gupta S, Ahrar K, Murthy R, Yao JC. Update on the management of neuroendocrine hepatic metastases. J Vasc Interv Radiol. 2006; 17(8): 1235-1249.(レベルⅣb)

2) Ramage JK, Davies AH, Ardill J, Bax N, Caplin M, Grossman A, Hawkins R, McNicol AM, Reed N, Sutton R, Thakker R, Aylwin S, Breen D, Britton K, Buchanan K, Corrie P, Gillams A, Lewington V, McCance D, Meeran K, Watkinson A; UKNETwork for Neuroendocrine Tumours. Guidelines for the management of gastroenteropancreatic neuroendocrine (including carcinoid) tumours. Gut. 2005; 54 Suppl 4: iv1-16.(レベルⅥ)

3) Vogl TJ, Naguib NN, Zangos S, Eichler K, Hedayati A, Nour-Eldin NE. Liver metastases of neuroendocrine carcinomas: interventional treatment via transarterial embolization, chemoembolization and thermal ablation. Eur J Radiol. 2009; 72(3): 517-528.(レベルⅣb)

4) Abood GJ, Go A, Malhotra D, Shoup M. The surgical and systemic management of neuroendocrine tumors of the pancreas. Surg Clin North Am. 2009; 89(1): 249-266.(レベルⅥ)

5) Kvols LK, Turaga KK, Strosberg J, Choi J. Role of interventional radiology in the treatment of patients with neuroendocrine metastases in the liver. J Natl Compr Canc Netw. 2009; 7(7): 765-772.(レベルⅥ)

6) Knigge U, Hansen CP, Stadil F. Interventional treatment of neuroendocrine liver metastases. Surgeon. 2008; 6(4): 232-239.(レベルⅥ)

7) Gupta S, Johnson MM, Murthy R, Ahrar K, Wallace MJ, Madoff DC, McRae SE, Hicks ME, Rao S, Vauthey JN, Ajani JA, Yao JC. Hepatic arterial embolization and chemoembolization for the treatment of patients with metastatic neuroendocrine tumors: variables affecting response rates and survival. Cancer. 2005; 104(8): 1590-1602.(レベルⅣa)

8) Lewis MA, Hubbard J. Multimodal Liver-directed management of neuroendocrine hepatic metastases. Int J Hepatol. 2011; 452343.(レベルⅥ)

9) Mazzaglia PJ, Berber E, Milas M, Siperstein AE. Laparoscopic radiofrequency ablation of neuroendocrine liver metastases: a 10-year experience evaluating predictors of survival. Surgery. 2007; 142(1): 10-19.(レベルⅤ)

10) Karabulut K, Akyildiz HY, Lance C, Aucejo F, McLennan G, Agcaoglu O, Siperstein A, Berber E. Multimodality treatment of neuroendocrine liver metastases. Surgery. 2011; 150(2): 316-325.(レベルⅣb)

11) Mulier S, Jamart J, Ruers T, Marchal G, Michel L. Local recurrence after hepatic radiofrequency coagulation: multivariate meta-analysis and review of contribute factors. Ann Surg. 2005; 242(2): 158-171.(レベルⅣb)

12) NCCN clinical practice guidelines in Oncology (NCCN guidelinesTM). Neuroendocrine tumors, Version I. 2011. NCCN.org. National Comprehensive Cancer Network, Inc. 2011.(レベルⅥ)

13) Steinmuller T, Kianmanesh R, Falconi M, Scarpa A, Taal B, Kwekkeboom DJ, Lopes JM, Perren A, Nikou G, Yao JC, Fave D, O’Toole D, and all other Frascati Consensus Conference participants. Consensus Guidelines for the Management of Patients with Liver Metastases from Digestive (Neuro)endocrine Tumors: Foregut, Midgut, Hindgut, and Unknown Primary. Neuroendocrinology. 2008; 87(1): 47-62.(レベルⅥ)

14) Christante D, Pommier S, Givi B, Pommier R. Hepatic artery chemoinfusion with chemoembolization for neuroendocrine cancer with progressive hepatic metastases despite octreotide therapy. Surgery. 2008; 144(6): 885-93.(レベルⅣb)


CQ4-6 膵・消化管NET (原発不明を含む)に対する集学的治療は何か?

推奨

腫瘍減量手術により症状や予後の改善が見込める場合、あるいは消化管・胆道通過障害に対するバイパス術の適応がある場合には、外科医との連携による集学的治療が推奨される(グレードC1)

【解 説】

膵・消化管NET の肝転移は生命予後に影響を及ぼす因子であり1)、その多くが切除不能多発肝転移で発見される。後ろ向きの解析ではあるが、完全切除不能肝転移に対する減量手術を含む集学的治療の有効性が報告されている2-8)。その際、90%以上の腫瘍減量が望める場合に肝切除術やRFA による減量手術の適応があると述べているものが多い4-6)CQ3-5CQ3-6を参照)。切除不能局所進行NET あるいは播種病変による消化管通過障害や閉塞性黄疸がある場合には、消化管切除術やバイパス術、胆道バイパス術、人工肛門造設などを考慮する9, 10)

切除不能転移巣が制御可能と思われる膵・消化管NET では、原発巣を切除した方が生命予後を延長するとの報告があるが7, 8)、膵切除などは侵襲が大きく合併症率も高いため、原発巣切除術に関しては原発巣の部位や患者の全身状態、期待される予後などを考慮した上で、慎重に適応を決定する必要がある。

転移性脳腫瘍に対して姑息的切除術や放射線治療が適応となる場合がある8, 11, 12)CQ4-8を参照)。転移性骨腫瘍が手術適応となることはほとんどないが、高カルシウム血症に対するビスフォスフォネートの投与、疼痛コントロールや病的骨折予防を目的とした放射線治療などを考慮する12)CQ4-8を参照)。

【文 献】

1) Madeiral I, Terris B, Voss M, Denys A, SauvaNET A, Flejou JF, Vilgrain V, Belghiti J, Bernades P, Ruszniewski P. Prognostic factors in patients with endocrine tumours of theduodenopancreatic area. Gut. 1998; 43(3): 422-427.(レベルⅣb)

2) Touzios JG, Kiely JM, Pitt SC, Rilling WS, Quebbeman EJ, Wilson SD, Pitt HA. Neuroendocrine hepatic metastasis: does aggressive management improve survival? Ann Surg. 2005; 241(5): 776-785.(レベルⅣb)

3) Hodul P, Malafa M, Choi J, Kvols L. The role of cytoreductive hepatic surgery as an adjunct to the management of metastatic neuroendocrine carcinomas. Cancer Control. 2006; 13(1): 61-71.(レベルⅣb)

4) Boudreaux JP, Klimstra DS, Hassan MM, Woltering EA, Jensen RT, Goldsmith SJ, Nutting C, Bushnell DL, Caplin ME, Yao JC. The NANETS consensus guideline for the diagnosis and the management of neuroendocrine tumors. Well-differentiated neuroendocrine tumors of the jejunum, ileum, appendix and cecum. Pancreas. 2010; 39(6): 753-766.(レベルⅥ)

5) Metz DC, Jensen RT. Gastrointestinal neuroendocrine tumos: Pancreatic endocrine tumors. Gastroenterology. 2008; 135(5): 1469-1492.(レベルⅥ)

6) Steinmuller T, Kianmanesh R, Falconi M, Scarpa A, Taal B, Kwekkeboom DJ, Lopes JM, Perren A, Nikou G, Yao J, Delle Fave GF, O'Toole D, all other Frascati Consensus Conference participants. Consensus guidelines for the management of patients with liver metastases from digestive (neuro)endocrine tumors: forgut, midgut, hindgut, and unknown primary. Neuroendocrinology. 2008; 87(1): 47-62.(レベルⅥ)

7) Givi B, Pommier SJ, Thompson AK, Diggs BS, Pommier RF. Operative resection of primary carcinoid neoplasms in patients with liver metastases yields significantly better survival. Surgery 2006; 140(6): 891-897.(レベルⅤ)

8) Yao KA, Talamonti MS, Nemcek A, Angelos P, Chrisman H, Skarda J, Benson AB, Rao S, Joehl RJ. Indications and results of liver resection and hepatic chemoemblization for metastatic gastrointestinal neuroendocrine tumors. Surgery. 2001; 130(4): 677-682.(レベルⅣb)

9) Kianmanesh R, Ruszniewski P, Rindi G, Kwekkeboom D, Pape UF, Kulke M, Sevilla Garcia I, Scoazec JY, Nilsson O, Fazio N, Lesurtel M, Chen YJ, Eriksson B, Cioppi F, O’Toole D, Palma de Mallorca Consensus Conference Participants. ENETS consensus guidelines for the management of peritoneal carcinomatosis from neuroendocrine tumors. Neuroendocrinology. 2010; 91(4): 333-340.(レベルⅥ)

10) Elias D, Sideris L, Liberale G, Ducreux M, Malka D, Lasser P, Duvillard P, Baudin E. Surgical treatment of peritoneal carcinomatosis from well-differentiated digestive endocrine carcinomas. Surgery. 2005; 137(4): 411-416.(レベルⅣb)

11) Kos-Kudla B, O'Toole D, Falconi M, Gross D, Klöppel G, Sundin A, Ramage J, Oberg K, Wiedenmann B, Komminoth P, Van Custem E, Mallath M, Papotti M, Caplin M, Palma de Mallorca Consensus Conference Participants. ENETS consensus guidelines for the management of bone and lung metastases from neuroendocrine tumors. Neuroendocrinology. 2010; 91(4): 341-350.(レベルⅥ)

12) Pavel M, Grossman A, Arnold R, Perren A, Kaltsas G, Steinmüller T, de Herder W, Nikou G, Plöckinger U, Lopes JM, Sasano H, Buscombe J, Lind P, O'Toole D, Oberg K; Palma de Mallorca Consensus Conference Participants. ENETS consensus guidelines for the management of brain, cardiac and ovarian metastases from neuroendocrine tumors. Neuroendcocrinology. 2010; 91(4): 326-332.(レベルⅥ)


CQ4-7 膵・消化管NET に対してR0 手術後の薬物・放射線療法は推奨されるか?

推奨

膵・消化管NET(G1/G2)に対してR0 手術が行われた場合の予後は良好であり、術後療法は推奨されない(グレードC2)

膵・消化管NEC(G3)に対しては、小細胞肺癌のレジメンに準じた術後薬物療法や放射線治療を行うことが推奨される(グレードC1)

【解 説】

NET に対してR0 手術が行われた場合の予後は良好であり、術後療法は一般的には行われていない。術後療法に関する臨床試験もなく、欧米のガイドラインでも術後療法は推奨されていない1-4)

一方、NEC は悪性度が極めて高く、R0 手術が行われても高率に再発するため、小細胞肺癌に準じてシスプラチンをベースとした併用化学療法が推奨されているが、特定のレジメンは決まっていない2-8)。その他にフルオロウラシルやゲムシタビン、ソマトスタチンアナログを術後療法として用いた症例報告が散見される。また、欧米のガイドラインでは、局所再発率が高い直腸NEC に対して術後化学療法とともに放射線治療を推奨しているが2-4)、エビデンスはなく、推奨される線量も決められていない。

術前化学療法や肝転移巣R0 切除後の肝動注塞栓・化学療法の効果を期待する意見もあるが、エビデンスはない3)

【文 献】

1) Boudreaux JP, Klimstra DS, Hassan MM, Woltering EA, Jensen RT, Goldsmith SJ, Nutting C, Bushnell DL, Caplin ME, Yao JC. The NANETS consensus guideline for the diagnosis and the management of neuroendocrine tumors. Well-differentiated neuroendocrine tumors of the jejunum, ileum, appendix and cecum. Pancreas. 2010; 39(6): 753-766.(レベルⅥ)

2) Strosberg JR, Coppola D, Klimstra DS, Phan AT, Kulke MH, Wiseman GA, Kvols LK. The NANETS consensus guidelines for the diagnosis and the management of poorly differentiated (high-grade) extrapulmonary neuroendocrine carcinomas. Pancreas. 2010; 39(6):799-800.(レベルⅥ)

3) Bajetta E, Procopio G, Ferrari L, Catena L, Vecchio MD, Bombardieri E. Update on the treatment of neuroendocrine tumors. Expert Rev Anticancer Ther. 2003; 3(5): 631-642.(レベルⅥ)

4) NCCN clinical practice guidelines in Oncology (NCCN guidelinesTM). Neuroendocrine tumors, Version I. 2011. NCCN.org. National Comprehensive Cancer NET work, Inc. 2011.(レベルⅥ)

5) Moertel CG, Kvols LK, O’Connell MJ, Rubin J. Treatment of neuroendocrine carcinomas with combined etoposide and cisplatin. Evidence of major therapeutic activity in the anaplastic variants of these neoplasms. Cancer. 1991; 68(2): 227-232.(レベルⅤ)

6) Mitty E, Baudlin E, Ducreux M, Sabourin JC, Rufie P, Aparicio T, Lasse P, Elias D, Duvillard P, Schlumberger M, Rougier P. Treatment of poorly differentiated neuroendocrine tumours with etoposide and cisplatin. Br J Cancer. 1999; 81(8): 1351-1355.(レベルⅤ)

7) Fjallskog MLH, Granberg DPK, Welin SLV, Eriksson C, Oberg KE, Janson ET, Eriksson BK. Treatment with cisplatin and etoposide in patients with neuroendocrine tumors. Cancer. 2001; 92(5): 1101-1107.(レベルⅤ)

8) Kulke MH, Wu B, Ryan DP, Enzinger PC, Zhu AX, Clark JW, Earle CC, Michelini A, Fuchs CS. A phase Ⅱ trial of irinotecan and cisplatin in patients with metastatic neuroendocrine tumors. Dig Dis Sci.2006; 51(6): 1033-1038.(レベルⅣa)


CQ4-8 膵・消化管NET に対して放射線治療は推奨されるか?

推奨

原発巣に対する外照射治療については、推奨できるだけの十分なエビデンスがない(グレードC2)

骨転移に対する疼痛緩和目的の外照射が推奨される(グレードA)。骨シンチ陽性の多発骨転移に対し89Sr による疼痛緩和目的の内照射が推奨される(グレードB)

【解 説】
  1. 1)外照射

    原発巣に対する外照射治療については、有用性を支持する少数の報告1)はあるが、これが予後を改善させるか否かについての科学的根拠は不十分であり、推奨できる明確な根拠がない。

  2. 2)骨転移に対する外照射、89Sr による内照射

    膵・消化管NET からの骨転移のみに対する疼痛緩和についてのまとまった報告はないが、骨転移に対する疼痛緩和目的の放射線治療は、多くの固形癌にて有効性が示されている。放射線治療の疼痛緩和に関しての有効率は75-90%と高く、8Gy/1 回照射、20Gy/5 分割、30Gy/10 分割、35Gy/14 分割といった複数の線量分割が有効である2-6)。ただし、1 回照射と分割照射では、寛解率や完全寛解率に差が見られないが、1 回照射において同一部位への再照射率が高いことが複数のメタアナリシスで一致しているため6-8)、予後予測に基づいた線量、線量分割の選択が必要である。

    放射線同位元素の89Sr は造骨性骨転移病巣のみならず、混合型あるいは溶骨性骨転移病巣の周囲に存在する骨形成部位にも集積し、放出されるβ線が周辺の細胞を照射する。疼痛緩和は40%から95%と高く、外照射では対応が困難な多発骨転移の疼痛緩和や、脊髄線量の制限がないため外照射後の骨転移などに特に有用である9)

  3. 3)Peptide receptor radionuclide therapy(PRRT)

    膵・消化管由来のNETがSSTRを高率に発現していることから、ソマトスタチンアナログに放射線同位元素を標識した薬剤を用いるPRRT が開発されてきた。海外においては、[90Y-DOTA0, Tyr3] -Octreotide10-14)や[177Lu-DOTA0, Tyr3]-Octreotate15),16)などを用いた複数の第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験にて良好な抗腫瘍効果(表1)、およびQOLの改善が報告されているが、未だにランダム化比較試験はない。わが国においては、放射性同位元素に対する法的規制の問題もあり、現時点では臨床試験も含めて使用されていない。

    表1
    報告者 使用核種 症例数 CR PR SD CR + PR(%)
    Valkema 10) [90Y-DOTA0, Tyr3]-Octreotide 58 0 5
    (9%)
    36
    (62%)
    9
    Imhof 11) [90Y-DOTA0, Tyr3]-Octreotide 1109 7
    (0.6%)
    371
    (33.5%)
      34.1
    Forrer 12) [90Y-DOTA0, Tyr3]-Octreotide 116 5
    (4%)
    26
    (23%)
    72
    (62%)
    27
    Waldherr 13) [90Y-DOTA0, Tyr3]-Octreotide 39 2
    (5%)
    7
    (18%)
    27
    (69%)
    23
    Swärd 15) [177Lu-DOTA0, Tyr3]-Octreotate 16 0 6
    (38%)
    8
    (50%)
    38
    Kwekkeboom 16) [177Lu-DOTA0, Tyr3]-Octreotate 310 5
    (2%)
    86
    (28%)
    158
    (51%)
    30
【文 献】

1) Contessa JN, Griffith KA, Wolff E, Ensminger W, Zalupski M, Lawrence TS, Ben-Josef E. Radiotherapy for pancreatic neuroendocrine tumors. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2009; 75(4): 1196-1200. (レベルⅣb)

2) Anderson PR, Coia LR. Fractionation and outcomes with palliative radiation therapy. Semin Radiat Oncol. 2000(3); 10: 191-199.(レベルⅥ)

3) Ratanatharathorn V, Powers WE, Moss WT, Perez CA. Bone metastasis: review and critical analysis of random allocation trials of local field treatment. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1999; 44(1): 1-18.(レベルⅠ)

4) Rose CM, Kagan AR. The final report of the expert panel for the radiation oncology bone metastasis work group of the American College of Radiology. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1998; 40(5): 1117-1124.(レベルⅥ)

5) McQuay HJ, Collins SL, Carroll D, Moore RA. Radiotherapy for the palliation of painful bone metastases. Cochrane Database Syst Rev. 2000;(2): CD001793.(レベルⅥ)

6) Sze WM, Shelley MD, Held I, Wilt TJ, Mason MD. Palliation of metastatic bone pain: single fraction versus multifraction radiotherapy-a systematic review of randomised trials. Clin Oncol (R Coll Radiol). 2003; 15(6): 345-352.(レベルⅠ)

7) Wu JS, Wong R, Johnston M, Bezjak A, Whelan T; Cancer Care Ontario Practice Guidelines Initiative Supportive Care Group. Meta-analysis of dose-fractionation radiotherapy trials for the palliation of painful bone metastases. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2003; 55(3): 594-605.(レベルⅠ)

8) Chow E, Harris K, Fan G, Tsao M, Sze WM. Palliative radiotherapy trials for bone metastases: a systematic review. J Clin Oncol. 2007; 25(11): 1423-1436.(レベルⅠ)

9) Finlay IG, Mason MD, Shelley M. Radioisotopes for the palliation of metastatic bone cancer: a systematic review. Lancet Oncol. 2005; 6(6): 392-400.(レベルⅠ)

10) Valkema R, Pauwels S, Kvols LK, Barone R, Jamar F, Bakker WH, Kwekkeboom DJ, Bouterfa H, Krenning EP. Survival and response after peptide receptor radionuclide therapy with [90Y-DOTA0,Tyr3]octreotide in patients with advanced gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors. Semin Nucl Med. 2006; 36(2): 147-156.(レベルⅣa)

11) Imhof A, Brunner P, Marincek N, Briel M, Schindler C, Rasch H, Mäcke HR, Rochlitz C, Müller-Brand J, Walter MA. Response, survival, and long-term toxicity after therapy with the radiolabeled somatostatin analogue [90Y-DOTA]-TOC in metastasized neuroendocrine cancers. J Clin Oncol. 2011; 29(17): 2416-2423.(レベルⅣa)

12) Forrer F, Waldherr C, Maecke HR, Mueller-Brand J. Targeted radionuclide therapy with 90Y-DOTATOC in patients with neuroendocrine tumors. Anticancer Res. 2006; 26(1B): 703-707.(レベルⅣa)

13) Waldherr C, Pless M, Maecke HR, Schumacher T, Crazzolara A, Nitzsche EU, Haldemann A, Mueller-Brand J. Tumor response and clinical benefit in neuroendocrine tumors after 7.4 GBq 90Y-DOTATOC. J Nucl Med. 2002; 43(5): 610-616.(レベルⅣb)

14) Kwekkeboom DJ, Kam BL, van Essen M, Teunissen JJ, van Eijck CH, Valkema R, de Jong M, de Herder WW, Krenning EP. Somatostatin-receptor-based imaging and therapy of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors. Endocr Relat Cancer. 2010; 17(1): R53-73.(レベルⅣa)

15) Swärd C, Bernhardt P, Ahlman H, Wängberg B, Forssell-Aronsson E, Larsson M, Svensson J, Rossi-Norrlund R, Kölby L. [177Lu-DOTA0-Tyr3]-Octreotate Treatment in Patients with Disseminated Gastroenteropancreatic Neuroendocrine Tumors: The Value of Measuring Absorbed Dose to the Kidney. World J Surg. 2010; 34(6) 1368-1372.(レベルⅤ)

16) Kwekkeboom DJ, de Herder WW, Kam BL, van Eijck CH, van Essen M, Kooij PP, Feelders RA, van Aken MO, Krenning EP. Treatment with the radiolabeled somatostatin analog [177Lu-DOTA0-Tyr3]octreotate: toxicity, efficacy, and survival. J Clin Oncol. 2008; 26(13): 2124-2130.(レベルⅣb)


MEN1 に伴う膵・消化管NET

まえがき

多発性内分泌腫瘍症1 型(MEN1)患者の約60%には膵・消化管NET が発生し、一方全膵NET 患者の10%では背景にMEN1 が存在する。膵・消化管NET 患者の中からMEN1 患者を診断する重要性として、1)MEN1 では散発例とは異なる診断法や異なる治療方針が求められる、2)MEN1 と診断した場合には、副甲状腺や下垂体など、他の併発病変の早期診断・早期治療を目的としたサーベイランスを行う必要がある、3)MEN1 は常染色体優性遺伝性疾患であり、ひとりの患者をMEN1 と診断することで、まだ診断されていない、あるいはまだ発症していない血縁者に対して関連病変の早期発見・早期治療を可能にする、ことがあげられる。しかしながら、すべての膵・消化管NET 患者に対してMEN1 を念頭においた検索を行うことは効率的ではなく、可能性の高い患者を適切に抽出する必要がある。

CQ5-1 MEN1 を疑う膵・消化管NET は何か?

推奨

多発性膵・消化管NET (グレードB)、再発性膵・消化管NET (グレードB)、ガストリノーマ(グレードB)、若年のインスリノーマ(グレードB)、高カルシウム血症の併発(グレードA)、MEN1 関連腫瘍の存在(グレードA)、MEN1 関連腫瘍の家族歴(グレードA)が挙げられる。

【解 説】

MEN1 に伴う膵・消化管NET は見逃され易いので、上記のような特徴を有するNET 患者では積極的にMEN1 を疑うことが推奨される。

膵・消化管NET のうちMEN1 に伴うものは約10%を占める1-3)。膵・消化管NET の約80%は単発性NET であるが1)、MEN1 に伴うNET では単発性は26%に過ぎない4)。たがって、多発NET はMEN1 を強く疑うことが推奨される。遠隔転移を伴わない膵内再発と異時性新規発症の場合にはMEN1 を精査することが推奨される。

ガストリノーマの25%はMEN1 に伴うものであり1-3)、ガストリノーマは単独でMEN1 を疑う根拠となり得る。特にMEN1 のガストリノーマは全例十二指腸に発生しており、十二指腸原発のガストリノーマでは特にMEN1 を強く疑って検索を進める必要がある。ただし、十二指腸ガストリノーマと膵ガストリノーマが併存する場合もあるので注意を要する。また、MEN1 における膵・消化管NET の罹病率は約60%であるが、NIH の報告ではその40%はガストリノーマ関連症状で初発しており、45%ではそれが副甲状腺機能亢進症よりも先に出現している5)

インスリノーマは他の膵・消化管NET に比較して若年に発症する傾向がある6)。すべての膵・消化管NET のうち20 歳未満での発症は1%程度を占めるに過ぎないのに対し1)、本邦で最近集計されたMEN1 のインスリノーマでは診断時年齢の記載のある54 例中13 例が20 歳未満で診断されており7)、若年発症のインスリノーマではMEN1 が強く示唆されるので精査が推奨される。他の機能性・非機能性NET では、MEN1 の合併の有無にかかわらず、20 歳以前の発症は極めて稀である。

臨床的にはMEN1 家族歴が確認された場合、一病変の確定のみでMEN1 と診断することが推奨されている8)。また、MEN1 のうち約75%は家族歴がありで血縁者に罹患者が存在する4, 9)

【文 献】

1) Ito T, Sasano H, Tanaka M, Osamura RY, Sasaki I, Kimura W, Takano K, Obara T, Ishibashi M, Nakao K, Doi R, Shimatsu A, Nishida T, Komoto I, Hirata Y, Nakamura K, Igarashi H, Jensen RT, Wiedenmann B, Imamura M. Epidemiological study of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors in Japan. J Gastroenterol. 2010; 45(2): 234-243.(レベルⅣb)

2) Oberg K, Eriksson B. Endocrine tumours of the pancreas. Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2005; 19(5): 753-781.(レベルⅤ)

3) Plöckinger U, Rindi G, Arnold R, Eriksson B, Krenning EP, de Herder WW, Goede A, Caplin M, Oberg K, Reubi JC, Nilsson O, Delle Fave G, Ruszniewski P, Ahlman H, Wiedenmann B; European Neuroendocrine Tumour Society. Guidelines for the diagnosis and treatment of neuroendocrine gastrointestinal tumours. A consensus statement on behalf of the European Neuroendocrine Tumour Society (ENETS). Neuroendocrinology. 2004; 80(6): 394-424.(レベルⅥ)

4) Sakurai A, Suzuki S, Kosugi S, Okamoto T, Uchino S, Miya A, Imai T, Kaji H, Komoto I, Miura D, Yamada M, Uruno T, Horiuchi K, Miyauchi A, Imamura M; MEN Consortium of Japan. Multiple endocrine neoplasia type 1 in Japan: Establishment and analysis of a multicentre database. Clin Endocrinol (Oxf). 2012; 76(4): 533-539.(レベルⅣb)

5) Gibril F, Schumann M, Pace A, Jensen RT. Multiple endocrine neoplasia type 1 and Zollinger-Ellison syndrome: a prospective study of 107 cases and comparison with 1009 cases from the literature. Medicine (Baltimore). 2004; 83(1): 43-83.(レベルⅣa)

6) Trump D, Farren B, Wooding C, Pang JT, Besser GM, Buchanan KD, Edwards CR, Heath DA, Jackson CE, Jansen S, Lips K, Monson JP, O'Halloran D, Sampson J, Shalet SM, Wheeler MH, Zink A, Thakker RV. Clinical studies of multiple endocrine neoplasia type 1 (MEN1). QJM. 1996; 89(9): 653-669.(レベルⅣb)

7) Sakurai A, Yamazaki M, Suzuki S, Fukushima T, Imai T, Kikumori T, Okamoto T, Horiuchi K, Uchino S, Kosugi S, Yamada M, Komoto I, Hanazaki K, Itoh M, Kondo T, Mihara M, Imamura M. Clinical Features of Insulinoma in Patients with Multiple Endocrine Neoplasia Type 1: Analysis of the Database of the MEN Consortium of Japan. Endocr J. 2012; 59(10): 859-866.(レベルⅣb)

8) Brandi ML, Gagel RF, Angeli A, Bilezikian JP, Beck-Peccoz P, Bordi C, Conte-Devolx B, Falchetti A, Gheri RG, Libroia A, Lips CJ, Lombardi G, Mannelli M, Pacini F, Ponder BA, Raue F, Skogseid B, Tamburrano G, Thakker RV, Thompson NW, Tomassetti P, Tonelli F, Wells SA Jr, Marx SJ. Guidelines for diagnosis and therapy of MEN type 1 and type 2. J Clin Endocrinol Metab. 2001; 86(12): 5658-5671.(レベルⅥ)

9) Goudet P, Murat A, Binquet C, Cardot-Bauters C, Costa A, Ruszniewski P, Niccoli P, Ménégaux F, Chabrier G, Borson-Chazot F, Tabarin A, Bouchard P, Delemer B, Beckers A, Bonithon-Kopp C. Risk factors and causes of death in MEN1 disease. A GTE (Groupe d'Etude des Tumeurs Endocrines) cohort study among 758 patients. World J Surg. 2010; 34(2): 249-255.(レベルⅣb)


CQ5-2 MEN1 を疑う場合に推奨される検査は何か?

推奨

MEN1 関連病変の家族歴聴取(グレードA)と副甲状腺機能亢進症の検索(アルブミン補正血清カルシウム、リン、インタクトPTH )(グレードA)が推奨される。副甲状腺機能亢進症を伴わず,下垂体病変のみを合併する例は少ない(グレードC1)

遺伝学的検査は条件によりICを得たうえで行うことが推奨される(グレードA)

【解 説】

MEN1 の3 大病変である副甲状腺過形成、膵・消化管NET、下垂体腺腫の本邦での罹患率はそれぞれおおよそ95%、60%、50%である1, 2)。したがってMEN1 が疑われる場合はMEN1 関連の3 大病変である副甲状腺過形成、膵・消化管NET 、下垂体腺腫の有無についての検索が必須となる。手順として発端者の問診および家族歴聴取を行い、臨床症状を発端者と血縁者に分けて整理する。これによってMEN1 の病変が疑われた場合は多臓器にわたる検査が必要となる1-3)

副甲状腺過形成はMEN1 で最も頻度の高い中心疾患である.血液検査としてアルブミン補正血清カルシウム、リンおよび副甲状腺ホルモン(インタクトPTH)測定を行う。画像診断ではUS とTc-MIBI シンチが有用で、次いでCT、MRI を行う3, 4)。膵・消化管NET は、まずCT、MRI およびEUS を行い、機能性膵NET 検索として血中のインスリン・ガストリン・グルカゴン等を含めた膵ホルモン検査を行う。膵ホルモンが上昇していない場合も機能的膵NET を常に念頭におく必要がある5-8)。下垂体腺腫が疑われた場合、機能性腫瘍ではプロラクチノーマ、GH 産生腫瘍が大半を占めるため、まず血清プロラクチン、成長ホルモン、IGF-1 を測定する。さらに、非機能性腫瘍も念頭において視野検査、下垂体MRI などを施行する3, 4)

膵・消化管NET の患者で副甲状腺過形成はないが下垂体病変が見つかった場合、下垂体偶発腫(incidentaloma)を考慮するべきである。MRI で1 cm 未満のmicroincidentalomas と診断される割合は10〜38%と高い。

前述した3大病変以外のMEN1 に罹患率の高い病変として副腎皮質腫瘍(20%)と胸腺・気管支腫瘍(7%)が挙げられる1, 3)。これらの病変の検索のためには胸腹部CT、MRI およびUS を行う。またEUS は副腎腫瘍病変の診断率向上に寄与するとの報告もある9)。最終的にはMEN1 遺伝子の変異解析を行い、確定診断をつける必要があるが、検出率は家族歴のある例で約90%、家族歴のない例では約50%である1, 2)。遺伝学的検査についてはCQ5-6を参照。

【文 献】

1) Sakurai A, Suzuki S, Kosugi S, Okamoto T, Uchino S, Miya A, Imai T, Kaji H, Komoto I, Miura D, Yamada M, Uruno T, Horiuchi K, Miyauchi A, Imamura M. MEN Consortium of Japan. Multiple endocrine neoplasia type 1 in Japan: Establishment and analysis of a multicentre database. Clin Endocrinol (Oxf). 2012; 76(4): 533-539.(レベルⅣb)

2) 櫻井晃洋. 日本人における多発性内分泌腫瘍症の実態調査.日本内分泌学会雑誌. 2011; 87 Suppl: 73-76.(レベルⅣb)

3) 鈴木眞一. Multiple endocrine neoplasia type1(MEN1): 診断・治療から遺伝子カウ ンセリングまで.内分泌外科. 2008; 25: 81-88.(レベルⅤ)

4) Glascock MJ, Carty SE. Multiple endocrine neoplasia type 1: fresh perspective on clinical features and penetrance. Surg Oncol. 2002; 11(3): 143-150.(レベルⅣb)

5) Ito T, Sasano H, Tanaka M, Osamura RY, Sasaki I, Kimura W, Takano K, Obara T, Ishibashi M, Nakao K, Doi R, Shimatsu A, Nishida T, Komoto I, Hirata Y, Nakamura K, Igarashi H, Jensen RT, Wiedenmann B, Imamura M. Epidemiological study of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors in Japan. J Gastroenterol. 2010; 45(2): 234-243.(レベルⅣb)

6) Öberg K, Eriksson B. Endocrine tumours of the pancreas. Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2005; 19(5): 753-781.(レベルⅤ)

7) Plöckinger U, Rindi G, Arnold R, Eriksson B, Krenning EP, de Herder WW, Goede A, Caplin M, Oberg K, Reubi JC, Nilsson O, Delle Fave G, Ruszniewski P, Ahlman H, Wiedenmann B; European Neuroendocrine Tumour Society. Guidelines for the diagnosis and treatment of neuroendocrine gastrointestinal tumours. A consensus statement on behalf of the European Neuroendocrine Tumour Society (ENETS). Neuroendocrinology. 2004; 80(6): 394-424.(レベルⅥ)

8) 土井隆一郎. 膵疾患・神経内分泌腫瘍.消化器外科. 2011; 34: 1239-1246.(レベルⅤ)

9) Schaefer S, Shipotko M, Meyer S, Ivan D, Klose KJ, Waldmann J, Langer P, Kann PH. Natural course of small adrenal lesions in multiple endocrine neoplasia type 1: an endoscopic ultrasound imaging study. Eur J Endocrinol. 2008; 158(5): 699-704.(レベルⅣb)


CQ5-3 MEN1 の膵・消化管NET では散発性の場合と診断法が異なるか?

推奨

多発性の小膵NET が多く、CT やMRI で検出できないことが腫瘍存在の否定とはならず、EUS も行うよう推奨される(グレードB)。機能性膵・消化管NET の局在診断にはSASI テストが推奨される(グレードB)

【解 説】

MEN1 の膵・消化管NET の特徴は、1)多発性、2)小病変、3)肝転移の頻度が散発性に比べて高い点である1, 2)。膵十二指腸領域に発生するNET に関しては、病理学的に膵と十二指腸の間に多数の顕微鏡的な微小NET が多発している3, 4)。MEN1 の膵・消化管NET の約半数はガストリノーマであり、多くは十二指腸粘膜下に画像ではとらえにくい小腫瘍として発生し、その約半数が初診時に多発している3, 4)。MEN1 のガストリノーマは十二指腸腫瘍であることが多いが、膵内にも腫瘍が散発性に発生することもある。さらに散発例のインスリノーマは90%が単発性であるが、MEN1 では多発例が多いのが特徴である。したがって術前のCT、MRI 等で検出できない多発性の小病変もあり、そうした小病変の検出にはEUS が有用である。

MEN1 の膵NET の腫瘍径が3 cm を超えると肝転移の頻度が23%と高くなり、うち5%は死亡したとの報告もある5)。したがって、腫瘍径の大きい症例の経過観察は肝転移などの遠隔転移の危険が増大する。また、肝転移の局在には術前のCT、MRI およびUS だけでなく、術中US が有用であり、術前に検出できなかった小病変が検出される機会も少なくない。

機能性膵・消化管NET の局在診断には感受性および特異性が高いSASI テストが優れている2-4, 6, 7)。ただし、MEN1 に罹患率が高い副甲状腺過形成の存在時には高カルシウム血症によってガストリンやインスリンの分泌が亢進している。したがって、副甲状腺機能亢進症の存在自体がガストリノーマやインスリノーマの診断を難しくするので注意を要する1, 8)

【文 献】

1) 櫻井晃洋. MEN1 型の診断と治療.肝胆膵. 2011; 63(2): 285-291.(レベルⅤ)

2) Imamura M, Komoto I, Ota S, Hiratuska T, Kosugi S, Doi R, Awane M, Inoue N; Biochemically curative surgery for gastrinoma in multiple endocrine neoplasia type 1 patient. World J Gastroenterol. 2011; 17(10); 1343-1353.(レベルⅣb)

3) 今村正之. NET 臨床の変遷:局在診断法の進歩と病態解明.医学のあゆみ. 2008; 224(10): 753-756.(レベルⅤ)

4) Imamura M, Kanda M, Takahashi K, Shimada Y, Miyahara T, Wagata T, Hashimoto M, Tobe T, Soga J; Clinicopathological characteristics of duodenal microgastrinomas. World J Surg 16: 703-710, 1992. (レベルⅣb)

5) Gibril F, Venzon DJ, Ojeaburu JV, Bashir S, Jensen RT. Prospective study of the natural history of gastrinoma in patients with MEN1: definition of an aggressive and a nonaggressive form. J Clin Endocrinol Metab. 2001; 86(11): 5282-593.(レベルⅣa)

6) Imamura M, Takahashi K, Adachi H, Minematsu S, Shimada Y, Naito M, Suzuki T, Tobe T, Azuma T. Usefulness of selective arterial secretin injection test for localization of gastrinoma in the Zollinger-Ellison syndrome. Ann Surg. 1987; 205(3): 230-239.(レベルⅤ)

7) Imamura M, Takahashi K, Isobe Y, Hattori Y, Satomura K, Tobe T. Curative resection of multiple gastrinoma aided by selective arterial injection test and intraoperative secretin test. Ann Surg. 1989; 210(6): 710-718.(レベルⅣb)

8) Jensen RT. Management of the Zollinger-Ellison syndrome in patients with multiple endocrine neoplasia type 1. J Intern Med. 1998; 243(6): 477-488.(レベルⅣb)


CQ5-4 MEN1 の膵・消化管NET では散発性の場合と治療法が異なるか?

推奨

多発性の小膵NET が多く、肝転移率が高いため、術式の決定には腫瘍の数と局在を考慮することが推奨される(グレードA)

ガストリノーマは積極的な外科的治療のほうが肝転移発生率が低く,低侵襲の外科的治療が推奨される(グレードB)。多発腫瘍を認める場合も,小さい非機能性腫瘍の多くは経過が良好であり,膵全摘術はできるだけ回避することが推奨される(グレードB)。機能性腫瘍の多発例や肝転移例では再発予防や減量目的の膵全摘術も考慮される(グレードC1)

【解 説】

MEN1 の治療は外科治療が第一選択である.MEN1 の膵・消化管NET の特徴は、1)多発性、2)小病変、3)肝転移の頻度が散発性膵・消化管NET に比べて高い点であり、この特徴を考慮した合理的な外科治療が求められる1, 2)。腫瘍径1 cm 未満の非機能性NET は経過観察が推奨されているが、腫瘍径が1 cm を超える場合は手術を考慮する3)。特にMEN1 の非機能性膵NET の腫瘍径が2 cm から3 cm の場合は8 年間の経過観察で23%が肝転移をきたしたとの報告もある4)。また、MEN1 のガストリノーマ症例において積極的な外科治療を行った群の肝転移発生率が 3-5%であるのに対し、保存的治療を行った群では23-29%に達したと報告されている5-7)。最近Imamura ら2)は良好な外科手術成績を報告し、海外でも同様の成績が示されており、MEN1 のガストリノーマの治療は薬物によるホルモン抑制治療からより積極的な外科治療へとシフトしつつある1)。MEN1 患者に発生する機能性膵・消化管NET の多くは十二指腸に発生するガストリノーマであり、その主な根治術として従来は膵頭十二指腸切除が行われてきたが、近年は膵頭十二指腸切除より低侵襲で同等の長期予後が期待できる膵温存十二指腸全摘術の有用性が提唱されている2)

膵NET の腫瘍多発例では術後の重篤な膵性糖尿病を考慮して膵全摘術を極力回避することが推奨され、腫径1 cm 未満の非機能性腫瘍は経過観察が推奨される。一方、近年膵全摘術の外科治療成績は安定してきており、膵頭部から膵体尾部に散在する多発病変に対しては長期予後向上を目指し、適応を選択して膵全摘術を行う施設が増加してきている8, 9)。肝転移症例に対しては、原発巣の完全切除が得られる耐術可能症例では積極的な肝切除が推奨されており、根治的肝切除だけでなく、減量目的の肝切除による長期予後向上も期待される10)

切除不能な転移をきたした症例に対しては抗腫瘍薬、局所療法、支持療法が考慮される。その適応は基本的に散発例と同様である(内科治療・集学的治療の項を参照)。

【文 献】

1) 櫻井晃洋. MEN1 型の診断と治療.肝胆膵. 2011; 63(2): 285-291.(レベルⅤ)

2) Imamura M, Komoto I, Ota S, Hiratuska T, Kosugi S, Doi R, Awane M, Inoue N; Biochemically curative surgery for gastrinoma in multiple endocrine neoplasia type 1 patient. World J Gastroenterol. 2011; 17(10); 1343-1353.(レベルⅣb)

3) 今村正之. NET 臨床の変遷:局在診断法の進歩と病態解明.医学のあゆみ. 2008; 224(10): 753-756.(レベルⅤ)

4) Gibril F, Venzon DJ, Ojeaburu JV, Bashir S, Jensen RT. Prospective study of the natural history of gastrinoma in patients with MEN1: definition of an aggressive and a nonaggressive form. J Clin Endocrinol Metab. 2001; 86(11): 5282-593.(レベルⅣa)

5) Fraker DL, Norton JA, Alexander HR, Venzon DJ, Jensen RT; Surgery in Zollinger-Ellison syndrome alters the natural history of gastrinoma. Ann Surg. 1994; 220(3): discussion 320-330.(レベルⅣa)

6) Norton JA, Fraker DL, Alexander HR, Gibril F, Liewehr DJ, Venzon DJ, Jensen RT. Surgery increases survival in patients with gastrinoma. Ann Surg. 2006; 244(3): 410-419.(レベルⅢ)

7) Bartsch DK, Fendrich V, Langer P, Celik I, Kann PH, Rothmund M. Outcome of duodenopancreatic resections in patients with multiple endocrine neoplasia type 1. Ann Surg. 2005; 242(6): 757-764.(レベルⅣb)

8) Maeda H, Hanazaki K. Pancreatogenic diabetes after pancreatic resection. Pancreatology. 2011; 11(2): 268-276.(レベルⅤ)

9) Jethwa P, Sodergren M, Lala A, Webber J, Buckels JA, Bramhall SR, Mirza DF. Diabetic control after total pancreatectomy. Dig Liver Dis. 2006; 38(6): 415-419.(レベルⅣb)

10) Steinmüller T, Kianmanesh R, Falconi M, Scarpa A, Taal B, Kwekkeboom DJ, Lopes JM, Perren A, Nikou G, Yao J, Delle Fave GF, O'Toole D; Frascati Consensus Conference participants. Consensus guidelines for the management of patients with liver metastases from digestive (neuro)endocrine tumors: foregut, midgut, hindgut, and unknown primary. Neuroendocrinology. 2008; 87(1): 47-62.(レベルⅥ)


CQ5-5 MEN1 の膵・消化管NET の推奨される経過観察法は?

推奨

定期サーベイランスは診療による症状の観察と画像検査、ホルモン測定が推奨される(グレードC1)

【解 説】

MEN1 では膵部分切除後や核出術後にも残存膵から新規病変が出現する可能性があるため、手術後も定期的な経過観察が必要となる。膵部分切除術や核出術を受けた患者では16-20%で腫瘍の再発を認める1, 2)。異なる機能性NET が新規に発生する可能性があるので、経過観察では初発腫瘍の機能の有無にかかわらず、腫瘍の存在を確認する画像診断および機能性NET を検出する複数のホルモン測定の両者が必要である。

スクリーニング目的の画像検査としてはCT もしくはMRI が推奨される3, 4)。ホルモン測定・生化学検査としてはガストリン、空腹時インスリンおよび血糖は必須である。海外では非機能性NET の血清マーカーとしてクロモグラニンA や膵ポリペプチド測定が推奨されているが、わが国では保険収載されていない。ソマトスタチン、VIP については頻度が低く5, 6)、明確な臨床症状を呈するため定期検査で測定する意義は低い。

検査の頻度については、術後3‐6 ヵ月後に1 回、長期的には手術を行った腫瘍が機能性であった場合は関連ホルモンと生化学検査を術後3 年までは半年ごと、4 年目以降は年1 回測定することが勧められる7)。画像検査は、非機能性NET の経過観察を行っている場合は年1 回の検査を継続するのが妥当と考えられる。

定期検査の終了時期に関するコンセンサスはないが、膵NET の累積発症率は高齢に至るまで増加しており8)、生涯にわたるサーベイランスの継続が妥当である。しかしながら60 歳以降では新規発症は減少するため9)、患者の希望を考慮の上で検査間隔を延ばすことも検討し得る。

【文 献】

1) Gauger PG, Doherty GM, Broome JT, Miller BS, Thompson NW. Completion pancreatectomy and duodenectomy for recurrent MEN-1 pancreaticoduodenal endocrine neoplasms. Surgery. 2009; 146(4): 801-806.(レベルⅣb)

2) Kouvaraki MA, Shapiro SE, Cote GJ, Lee JE, Yao JC, Waguespack SG, Gagel RF, Evans DB, Perrier ND. Management of pancreatic endocrine tumors in multiple endocrine neoplasia type 1. World J Surg. 2006; 30(5): 643-653.(レベルⅣb)

3) Akerström G, Hessman O, Skogseid B. Timing and extent of surgery in symptomatic and asymptomatic neuroendocrine tumors of the pancreas in MEN 1. Langenbecks Arch Surg. 2002; 386(6): 558-569.(レベルⅥ)

4) Brandi ML, Gagel RF, Angeli A, Bilezikian JP, Beck-Peccoz P, Bordi C, Conte-Devolx B, Falchetti A, Gheri RG, Libroia A, Lips CJ, Lombardi G, Mannelli M, Pacini F, Ponder BA, Raue F, Skogseid B, Tamburrano G, Thakker RV, Thompson NW, Tomassetti P, Tonelli F, Wells SA Jr, Marx SJ. Guidelines for diagnosis and therapy of MEN type 1 and type 2. J Clin Endocrinol Metab. 2001; 86(12): 5658-5671.(レベルⅥ)

5) Lévy-Bohbot N, Merle C, Goudet P, Delemer B, Calender A, Jolly D, Thiéfin G, Cadiot G; Groupe des Tumeurs Endocrines. Prevalence, characteristics and prognosis of MEN 1-associated glucagonomas, VIPomas, and somatostatinomas: study from the GTE (Groupe des Tumeurs Endocrines) registry. Gastroenterol Clin Biol. 2004; 28(11): 1075-1081.(レベルⅣb)

6) Sakurai A, Suzuki S, Kosugi S, Okamoto T, Uchino S, Miya A, Imai T, Kaji H, Komoto I, Miura D, Yamada M, Uruno T, Horiuchi K, Miyauchi A, Imamura M; MEN Consortium of Japan. Multiple Endocrine Neoplasia Type 1 in Japan: Establishment and Analysis of a Multicentre Database. Clin Endocrinol (Oxf). 2012; 76(4): 533-539.(レベルⅣb)

7) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: Multiple endocrine neoplasia type 1.(レベルⅥ)

8) Triponez F, Dosseh D, Goudet P, Cougard P, Bauters C, Murat A, Cadiot G, Niccoli-Sire P, Chayvialle JA, Calender A, Proye CA. Epidemiology data on 108 MEN 1 patients from the GTE with isolated nonfunctioning tumors of the pancreas. Ann Surg. 2006; 243(2): 265-272.(レベルⅣb)

9) Marx S, Spiegel AM, Skarulis MC, Doppman JL, Collins FS, Liotta LA. Multiple endocrine neoplasia type 1: clinical and genetic topics. Ann Intern Med. 1998; 129(6): 484-494.(レベルⅥ)


CQ5-6 MEN1 の遺伝学的検査は推奨されるか?

推奨

以下に示す臨床像もしくは家族歴を有する患者に対しては、本人のIC を得たうえで行うことが推奨される(グレードB)

  • 副甲状腺機能亢進症もしくは下垂体腫瘍の合併
  • 膵・消化管NET の多発
  • ガストリノーマ,特に十二指腸粘膜領域に発生した場合
  • 20 歳未満で発症したインスリノーマ
  • MEN1 もしくはMEN1 関連病変の家族歴
【解 説】

家族歴を有する典型的なMEN1 症例の場合は、発症者本人の確定診断のためにMEN1 遺伝学的検査は必ずしも不可欠とはいえない。しかし、家系内の非発症者を発症前に診断するための情報として、遺伝子診断が必要である1)。一方、臨床的なMEN1 の診断基準(下垂体・副甲状腺・膵内分泌臓器のうちの2 臓器以上の病変あるいは1 臓器病変 + MEN1 家族歴)を満たさない場合でも、次の場合は確定診断のためにMEN1 遺伝学的検査が有効である。ガストリノーマ、多発性膵・消化管NET、多腺性副甲状腺病変、家族性副甲状腺機能亢進症、再発性膵・消化管NET、若年性(30 歳以下)の原発性副甲状腺機能亢進症、若年性(20 歳以下)インスリノーマなどはMEN1 を疑う根拠として重要である2-4)

血縁者のキャリア診断は、サーベイランスを効果的に実施する(あるいはしない)ことができるので強く推奨される。その情報を得るための家系内罹患者のMEN1 遺伝学的検査も強く推奨される。血縁者の発症前診断等を実施する場合、発端者の変異情報を確認してから血縁者の遺伝子診断を行う(非発症の血縁者だけでの遺伝子診断はできない)。これによりMEN1 家系構成員の変異保有状態が明らかとなる。変異を有する場合は、関連病変の早期発見治療に結びつくサーベイランスを実施する。変異を有しない場合は、サーベイランスは不要となる5, 6)

MEN1 遺伝学的検査は、通常610 アミノ酸からなる蛋白menin をコードする癌抑制遺伝子MEN1 のcoding exon 2-10 を周囲イントロンとともにPCR 直接シークエンス法で調べるのが一般的である。変異検出率は家族歴のある例で約90%、家族歴のない例では約50%である5)

他の遺伝子診断でも同様だが、アミノ酸の変化するミスセンス変異が見いだされた場合は、病的意義があるか慎重に評価する必要がある。既報であるか、他の種でも保存されているか、機能ドメインの変化か、3 次元構造に大きく影響するか、機能解析での機能はどうかなどによって判断されるので、遺伝学的検査を扱っている専門医に確認しておくことが望ましい。上記の方法で変異が同定されない場合、MEN1 遺伝子の大きな構造変化7)やプロモータ部位等の変化、他の遺伝子CDKN1B/p27、 p16、 p18、 p21 などに稀に変異が同定される場合がある(各々MEN1 遺伝子変異陰性例の0.5-1%程度)8, 9)。したがって、臨床的に強く疑われた場合以外はこれらの検索は通常行われない。むしろ、臨床的にMEN1 であることが否定できない場合、MEN1 変異が同定されなければMEN1 phenocopy であると考えられる2, 10)

【文 献】

1) Brandi ML, Gagel RF, Angeli A, Bilezikian JP, Beck-Peccoz P, Bordi C, Conte-Devolx B, Falchetti A, Gheri RG, Libroia A, Lips CJ, Lombardi G, Mannelli M, Pacini F, Ponder BA, Raue F, Skogseid B, Tamburrano G, Thakker RV, Thompson NW, Tomassetti P, Tonelli F, Wells SA Jr, Marx SJ. Guidelines for diagnosis and therapy of MEN type 1 and type 2. J Clin Endocrinol Metab. 2001; 86(12): 5658-5671.(レベルⅥ)

2) Tham E, Grandell U, Lindgren E, Toss G, Skogseid B, Nordenskjold M. Clinical testing for mutations in the MEN1 gene in Sweden: a report on 200 unrelated cases. J Clin Endocrinol Metab. 2007; 92(9): 3389-3395.(レベルⅣb)

3) Cardinal JW, Bergman L, Hayward N, Sweet A, Warner J, Marks L, Learoyd D, Dwight T, Robinson B, Epstein M, Smith M, Teh BT, Cameron DP, Prins JB. A report of a national mutation testing service for the MEN1 gene: clinical presentations and implications for mutation testing. J Med Genet, 2005; 42(1): 69-74.(レベルⅣb)

4) Kihara M, Miyauchi A, Ito Y, Yoshida H, Miya A, Kobayashi K, Takamura Y, Fukushima M, Inoue H, Higashiyama T, Tomoda C. MEN1 gene analysis in patients with primary hyperparathyroidism: 10-year experience of a single institution for thyroid and parathyroid care in Japan. Endocr J. 2009; 56(5): 649-656.(レベルⅣb)

5) Sakurai A, Suzuki S, Kosugi S, Okamoto T, Uchino S, Miya A, Imai T, Kaji H, Komoto I, Miura D, Yamada M, Uruno T, Horiuchi K, Miyauchi A, Imamura M; MEN Consortium of Japan. Multiple endocrine neoplasia type 1 in Japan: Establishment and analysis of a multicentre database. Clin Endocrinol (Oxf). 2012; 76(4): 533-539.(レベルⅣb)

6) Goudet P, Murat A, Binquet C, Cardot-Bauters C, Costa A, Ruszniewski P, Niccoli P, Ménégaux F, Chabrier G, Borson-Chazot F, Tabarin A, Bouchard P, Delemer B, Beckers A, Bonithon-Kopp C. Risk factors and causes of death in MEN1 disease. A GTE (Groupe d'Etude des Tumeurs Endocrines) cohort study among 758 patients. World J Surg. 2010; 34(2): 249-255.(レベルⅣb)

7) Owens M, Ellard S, Vaidya B. Analysis of gross deletions in the MEN1 gene in patients with multiple endocrine neoplasia type 1. Clin Endocrinol (Oxf). 2008; 68(3): 350-354.(レベルⅣb)

8) Georgitsi M, Raitila A, Karhu A, van der Luijt RB, Aalfs CM, Sane T, Vierimaa O, Makinen MJ, Tuppurainen K, Paschke R, Gimm O, Koch CA, Gundogdu S, Lucassen A, Tischkowitz M, Izatt L, Aylwin S, Bano G, Hodgson S, De Menis E, Launonen V, Vahteristo P, Aaltonen LA. Germline CDKN1B/p27Kip1 mutation in multiple endocrine neoplasia. J Clin Endocrinol Metab. 2007; 92(8): 3321-3325.(レベルⅣb)

9) Sunita K, Agarwal SK, Mateo CM, Marx SJ. Rare germline mutations in cyclin-dependent kinase inhibitor genes in multiple endocrine neoplasia type 1 and related states. J Clin Endocrinol Metab. 2009; 94(5): 1826-1834.(レベルⅣb)

10) Hai N, Aoki N, Shimatsu A, Mori T, Kosugi S. Clinical features of multiple endocrine neoplasia type 1 (MEN1) phenocopy without germline MEN1 gene mutations: analysis of 20 Japanese sporadic cases with MEN1. Clin Endocrinol (Oxf). 2000; 52(4): 509-518.(レベルⅣb)


コラム

  1. 1)MEN1 の他病変を合併している場合に推奨される治療順位は?

    複数のMEN1 関連腫瘍を有する患者における個々の病変の治療優先順位は、それぞれの患者の状況に応じて判断する必要があり、機械的な優先順位づけはできない。膵・消化管NET の外科治療を考慮する場合には、副甲状腺機能亢進症、下垂体腫瘍、胸腺腫瘍の存在とこれらに対する治療の順序が問題となる。原則として副甲状腺の治療を第一に行う。高カルシウム血症の是正が全身管理において重要と考えられるからである。しかし、副甲状腺機能亢進症が軽度で、膵・消化管NET の治療が急がれる場合(ガストリノーマやインスリノーマによる臨床症状が強度の場合、悪性例など)は膵の治療が優先されうる。下垂体腫瘍は通常緊急を要することは少ないが、膵・消化管NET に悪性を疑わせる所見がなく、一方で下垂体腫瘍の増大による視野障害や正常下垂体機能の障害が認められる場合(ACTH 分泌不全による副腎不全がある場合など)には下垂体の治療を優先する必要がある。胸腺腫瘍は悪性度が高いため、発見されれば治療の優先順位は高い。副腎皮質腫瘍は通常非機能性で、腫瘍径も経過観察を許容するレベルにとどまることが多い。また、病変や患者の身体状況を評価した上で複数病変の同時手術も考慮できる。

  2. 2)膵・消化管NET 未発症のMEN1 患者のサーベイランスはどうすべきか?

    MEN1 では発端者の遺伝子変異が同定されれば血縁者の発症前診断が可能となり、膵・消化管NET の発症以前からスクリーニングを開始して、腫瘍の早期発見、早期治療につなげることが可能となる。スクリーニングの開始時期と検査項目についてのコンセンサスはないが、2001 年に発表されたMEN 診療ガイドラインでは、インスリノーマについては5 歳から、他の膵・消化管NET については20 歳からのスクリーニングを推奨している。血液検査に関しては前者では空腹時インスリンと血糖値、後者についてはガストリン、クロモグラニンA、グルカゴンなどの年1 回の測定を推奨している。ただし、わが国ではクロモグラニンA 測定は保険収載されていない。また、インスリノーマについては臨床症状が現れやすいので、あえて定期検査を行わなくともよいという考え方もある。この場合は両親に低血糖症状についてよく説明しておき、疑わしい症状が認められた場合には早急に子どもを受診させるよう指導しておく必要がある。

    クロモグラニンA や膵ポリペプチドの測定が保険収載されていないわが国では、非機能性腫瘍の検出は画像検査が唯一の方法である。検査法はCT もしくはMRI が推奨される。遺伝子変異が確認された未発症者に対しては、20 歳以降3 年ごとの検査が推奨される。