麻薬及び向精神薬取締法(以下,麻向法)は,麻薬の濫用による保健衛生上の危害を防止し,一方でその有益性を活用するため,施用や管理について定められた法律である。医療用麻薬であるモルヒネ,オキシコドン,フェンタニル,コデイン,ケタミンおよびメサドンなどが,麻薬として規制されている。
医療用麻薬を取り扱う者は,事前に免許を取得する必要がある。医療用として用いられる麻薬の免許には,「麻薬小売業者」,「麻薬施用者」,「麻薬管理者」などがある。いずれも所在地を管轄する都道府県知事の免許を受けなければならない。医師または歯科医師が同一都道府県内の2 カ所以上の診療施設で麻薬を施用する場合には,主に診療に従事する施設について麻薬施用者免許を取得し,その他の診療施設については従として診療に従事する診療施設として届ける必要がある。また,同一都道府県内ではない診療施設で麻薬を施用する場合には,各々の都道府県で免許証を受けなければならない。(麻向法第2 条,第3 条)
麻薬の管理は,麻薬の受払いを記録する帳簿を備え,麻薬の受払いを記録する必要がある。2 名以上の麻薬施用者が診療に従事する麻薬診療施設では麻薬管理者を置き,麻薬管理者が麻薬の受払いの管理や帳簿への記録を行う必要がある。麻薬の保管には,鍵のかかる堅固な保管庫を使用する。麻薬保管庫には麻薬のほか,覚せい剤を一緒に保管することはできるが,それ以外の医薬品,現金及び書類等を保管することはできない。ただし,麻薬の出し入れを頻繁に行う施設にあって,1 日間の麻薬の出し入れを管理するための書類(いわゆる棚表)は除く。(麻向法第33 条,第34 条,第39 条)
麻薬施用者(医師・歯科医師)でなければ,麻薬の施用や麻薬を記載した麻薬処方せんの交付はできない。ただし,麻薬施用者から施用のために交付を受けた麻薬を患者自身が施用する場合や,麻薬小売業者(保険薬局)から麻薬処方せんにより調剤された麻薬を譲り受けた患者がその麻薬を施用する場合はこの限りではない。(麻向法第27 条)
古くなったり,変質等により使用しない麻薬,調剤過誤により使用できなくなった麻薬を廃棄する場合は,あらかじめ都道府県知事に麻薬廃棄届を提出し,麻薬取締員等の立会いのもとで処理される。ただし,麻薬処方せんにより調剤された麻薬は,麻薬管理者が麻薬診療施設の他の職員の立会いのもとで廃棄でき,廃棄後30 日以内に調剤済麻薬廃棄届を都道府県知事へ提出する。なお,施用残の廃棄については届け出る必要はないが,麻薬帳簿への記録は必要である。廃棄は焼却,酸・アルカリによる分解,希釈,他の薬剤との混合等,麻薬の回収が困難かつ適切な方法で処理する。(麻向法第29 条,第35 条)
アンプル注射剤の破損等による流出事故では,一部を回収できた場合でも医療上再利用できないため,麻薬事故届を提出する。また,管理している麻薬に滅失,盗取,所在不明,その他の事故が起きた場合は,麻薬事故届に必要事項を記載し,速やかに都道府県知事に届け出る。また,麻薬の盗取にあった場合は,速やかに警察署にも届ける。ただし,医療事故(過量投与や誤薬等)は,管理上生じた事故とは異なるため,施設ごとに決められた対応となる。(麻向法第35 条)
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麻薬の使用や疼痛状況について,自ら痛みの評価と記録ができ,自らの意思で服用できるなど自己管理可能と考えられる入院患者については,レスキュー薬や数日分の麻薬を自己管理し,施用することができます。その際には,服用状況等の記録をとり,使用後は必ず報告してもらう必要があります。また,患者が自己管理する麻薬を不注意で紛失等した場合は,麻薬事故届などを提出する必要はありませんが,紛失の経緯および自己管理継続の適否の評価をカルテに記載してください。なお,病院・診療所の管理に問題がなければそれ以上の対応は不要です。 |
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緊急に麻薬を施用する部署では,注射剤,各種内用剤,坐剤,貼付剤を定数保管することができます。定数保管する麻薬は専用の保管庫を用い,施用した際には施設で取り決めた時間内に定数の確認,補充をしておく必要があります。 |
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各地方厚生(支)局麻薬取締部に連絡の上,申請書類を入手し,出入国の2 週間前までに地方厚生(支)局長に申請書を提出して許可を受ければ患者自身が麻薬を携帯して日本を出入国できます。詳細については,地方厚生局麻薬取締部「麻薬取締官」のホームページ等を参考にしてください。ただし,この許可を受けても,郵送や知人などに託して麻薬を輸出入することはできません。渡航先への麻薬の持ち込みについては日本と異なる法規制が取られている場合がありますので,出発前に各国の在日大使館等に問い合わせください。 |
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麻薬帳簿に患者氏名と受け入れ麻薬の品名および数量を,残量に加えずに記載するとともに,麻薬施用者がその継続施用の可否を判断してください。持参麻薬を継続施用する際には,新たに麻薬処方せんを交付する必要はなく,麻薬帳簿に払出しの記録をつけ,診療録には施用状況を記載してください。持参麻薬を継続施用せずに廃棄する場合は,調剤済麻薬の廃棄の手順に従ってください。 |
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あらかじめ管轄する地方厚生(支)局麻薬取締部に必要書類を提出し,麻薬小売業者間譲渡許可を受けた場合は,当該不足分を近隣の麻薬小売業者間で譲渡・譲受することができます。 |
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麻薬小売業者が麻薬卸売業者の業務所から遠隔地にある場合は,麻薬を書留便等の郵送により麻薬卸売業者から譲り受けることができます。ただし,遠隔地の範囲については各都道府県の薬務主管課の指示に従ってください。 |
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患者や患者家族等から依頼を受けた看護師,ホームヘルパー等にも麻薬を直接譲り渡すことができ,手渡した時点で交付したことになります。その際,その看護師等が患者等から依頼を受けた者であることを確認してください。また,交付された麻薬を患者が指示どおりに服薬していることを患者または患者家族等に随時,確認してください。ただし麻薬注射剤については,麻薬施用者から指示を受けた看護師に対してはアンプルのまま渡すことができますが,患者や患者家族,ホームヘルパー等には薬液を取り出せない構造で,注入速度の設定を変更できない状態で交付してください。 |
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ファクスにより送信された麻薬処方せんの内容に基づき,調剤を開始することができます。後刻,正式な処方せんを受領し,内容を確認してから麻薬を交付してください。患者等が受け取りに来ない場合は,調剤前の麻薬として再利用できますが,再利用できない液剤等を廃棄する場合は,麻薬廃棄届を都道府県知事に提出してください。 |
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在宅(介護施設を含む)で施用するために交付された麻薬は,患者等の責任のもとで取り扱うこととなります。介護施設であっても他の医薬品と同様に保管・管理して差し支えありません。そのため人目につかないところに保管すること,他の物と間違って使用しないように扉の閉まる棚等に他の物と区別して保管すること,製剤の安定性を考慮して直射日光を避けて保管することなどを患者や施設職員等に指導してください。また,患者宅等で紛失や盗難にあった場合には,交付された麻薬診療施設または麻薬小売業者に届け出るよう指導するとともに,特に盗難の場合には,速やかに警察に通報するよう説明してください。使用済みまたは未使用で不要となった持続注入器は,交付された麻薬診療施設または麻薬小売業者に持参するよう指導してください。 |
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飲み残しや不要となった麻薬は,交付を受けた麻薬診療施設または麻薬小売業者に持参するか,近くの麻薬診療施設,麻薬小売業者に持参するように指導してください。ご遺族等から麻薬を引き取った場合は,麻薬管理者または麻薬小売業者が,他の職員1 名以上の立会いの下に回収が困難な方法で廃棄し,廃棄後30 日以内に「調剤済麻薬廃棄届」により都道府県知事へ届け出てください。 |
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返却された持続注入器は使用の有無にかかわらず,施用残として取り扱ってください。その際,患者氏名,返却および廃棄の年月日,品名等を帳簿に記載する必要があります。もし,患者自身が廃棄したとの報告を受けた場合には,その旨を備考欄等に記載してください。 |
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院外麻薬処方せんのみを交付し,麻薬を保管・施用する予定のない診療施設では,必ずしも麻薬保管庫を設置する必要はありません。このような場合,ご遺族等から麻薬を引き取った際は直ちに調剤済麻薬として廃棄してください。また,麻薬診療施設内で麻薬を施用する必要が生じた場合には,施設内に麻薬専用の保管庫を設置するようにしてください(Q2 参照)。 |
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麻薬の取り扱い等で不明な点については,最寄りの保健所,各都道府県の薬務課もしくは地方厚生(支)局麻薬取締部にお問い合わせください。 また,麻薬を取り扱う際には以下の資料を参考にしてください。
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