がん患者はオピオイドの使用をためらうことが少なくない。患者の躊躇に関係した認識として,「麻薬中毒」になる心配,「徐々に効かなくなる」ことへの心配,鎮痛薬の「副作用が強い」ことへの心配,痛みが疾患の進行を予期させることによる不安,「医師は痛みについての話をよく思わない」との考えなどが挙げられる。患者がオピオイドの使用を躊躇する要因(barrier)を定量的に測定する手段として最もよく用いられるBarrier Questionnaire では,患者がオピオイドの使用をためらう要因として8 つの項目が抽出されている(表1)。
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終末期がん患者988 例を対象とした,痛みに関する治療についての米国の大規模調査では,がん患者の約半数が中等度以上の強い痛みを体験していたが,痛みの治療をさらに求めていたのは約30%にすぎなかった。その理由には,「麻薬中毒の心配」が約40%,「オピオイドの副作用の心配」が約30%などが挙げられ,疼痛治療では,単に痛みを緩和するだけでなく,患者のオピオイドについての誤解に働きかけることや,オピオイドの副作用と鎮痛効果のバランスに配慮することが重要であると結論している。また,実際に「いま」痛みを体験しており,オピオイドを使用する選択肢を初めて提示された患者18 例を対象とした質的研究では,「モルヒネは最後の手段である」,「モルヒネの使用により痛みは取れるが,体が動かなくなることで生活ができなくなり死を早める」と認識している患者が多かった。そのような認識の理由として,「死亡した家族や友人の経験」や「人から聞いた話」,「医師からの説明」が挙げられた。一方,患者は,オピオイドについて「少量から始めて,体にあわなければやめてもいい」と説明されることで,よりオピオイドを受け入れやすくなると述べていた。また,「麻薬中毒」や「徐々に効果がなくなる」ことへの心配を挙げた患者は少なかったことから,「いま」痛みを体験している患者におけるオピオイドの使用の主要なバリアは,オピオイドが「死に向かう過程を安楽に過ごすためだけの手段」と思われることであると指摘している。
以上より,海外の先行研究では,がん患者はオピオイドに対して,①「麻薬中毒になる」といった誤解をもっているため,誤解に対する説明が必要であること,②鎮痛効果とバランスの取れた副作用対策に配慮すること,および③「最後の手段」といった,死を連想させることに対する配慮が重要であることが示唆される。
患者のオピオイドについての認識に関して,日本でもいくつかの研究が行われている。
Morita らの一般人口5,000 名を対象とした全国調査では,約30%が「モルヒネは中毒になる」,「モルヒネは寿命を縮める」といったオピオイドについての「誤解」をもっていた。
Akiyama らは外来通院中の転移や再発のあるがん患者833 例を対象に質問紙調査を行った。73%の患者が「ほとんどのがんの痛みはオピオイドで和らげることができる」と認識している一方で,約30%の患者が「オピオイドは中毒性がある」,「寿命を縮める」と誤解していた。特に,男性患者がオピオイドに対する誤解を持っていた(p=0.03)。
近藤らは,がん疼痛のためモルヒネを経口投与している外来通院患者32 例を対象として,Barriers Questionnaire を用いた調査を行った。モルヒネに関する心配として頻度が高かったのは,「病気の進行への心配(「痛みがあるのは病気が重くなっているためである」など)」,「耐性の心配(「痛みが強くなった時に効かなくなる」など)」,「習慣性の心配(「痛み止めの薬は習慣性が起こるので危ない」など)」であった。
Morita らは,緩和ケア病棟に入院中にモルヒネを開始したがん患者50 例を対象としてモルヒネに関する心配を同定したところ,「精神症状の副作用がある」,「寿命を縮める」,「麻薬中毒になる」との心配が約40%に認められ,心配の数はオピオイドを開始するかどうかの意思決定に関係していた。
吉田は,がん疼痛で鎮痛薬を使用している49 例の患者を対象に面接調査を行った。その結果,患者は「痛みのコントロールに対する不満」をもっているが,「医療者に何もしてもらえないため痛みを訴えても無駄」と感じており,さらに,鎮痛薬の使用に関して「依存性に対する懸念」,「副作用への不安」をもっていた。
以上より,海外の研究と同様に,本邦においても,がん患者はオピオイドに対して,①「麻薬中毒になる」,「寿命を縮める」といった誤解をもっているため,誤解に対する説明が必要であること,②鎮痛とバランスの取れた副作用,特に眠気などの精神症状に配慮すること,および③「最後の手段」といった死を連想させることに対する配慮が重要であることが示唆される。
表2 にオピオイドに対する患者の認識と臨床的対応をまとめた。がん患者がもつオピオイドの認識として,医学的事実と一致しない「誤解」(「麻薬中毒になる」,「寿命が縮まる」,「徐々に効果がなくなる」など)がある場合には,その認識に至った患者個々の背景などを十分に把握したうえで,がん疼痛やオピオイドについての情報を提供していく必要がある。
また,患者は痛みが取れることだけを希望しているわけではなく,「バランスの取れた疼痛治療」を希望していることを念頭に,副作用への配慮や対策を十分に行うことが必要である。
さらに,オピオイドが最後の手段や死を連想させることによる不安に対しては,疼痛治療を行うことは単に「楽になる」だけではなく,「いまできないことができるようになること」を伝えることや,「いったん始めても,具合が悪ければ相談してやめてもよいこと」,死の不安を念頭に置いた精神的なサポート(否認への配慮)が必要になる。
患者の認識 | 臨床的対応 |
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「麻薬中毒になる」, 「寿命を縮める」などの誤解 |
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副作用への心配 |
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「最後の手段」など,死を連想させること |
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(廣岡佳代)
1) Jacobsen R, Møldrup C, Christrup L, Sjogren P. Patient-related barriers to cancer pain management: a systematic exploratory review. Scand J Caring Sci 2009;23:190-208
2) Ward SE, Goldberg N, Miller-McCauley V, et al. Patient-relatied barriers to management of cancer pain. Pain 1993;52:319-24
3) Weiss SC, Emanuel LL, Fairclough DL, Emanuel EJ. Understanding the experience of pain in terminally ill patients. Lancet 2001;357(9265):1311-5
4) Reid CM, Gooberman-Hill R, Hanks GW. Opioid analgesics for cancer pain:symptom control for the living or comfort for the dying? A qualitative study to investigate the factors influencing the decision to accept morphine for pain caused by cancer. Ann Oncol 2008;19:44-8
5) Morita T, Miyashita M, Shibagaki M, et al. Knowledge and beliefs about end-of-life care and the effects of specialized palliative care:a population-based survey in Japan. J Pain Symptom Manage 2006;31:306-16
6) 近藤由香,渋谷優子.痛みのある外来がん患者のモルヒネ使用に対する懸念と服薬行動に関する研究.がん看護2002;16:5-16
7) Morita T, Tsunoda J, Inoue S, et al. Concerns of Japanese hospice inpatients about morphine therapy as a factor in pain management:a pilot study. J Palliat Care 2000;16:54-8
8) 吉田みつ子.痛みのある癌患者の日常生活の安寧感と痛みのコントロール.日本看護科学会誌 1997;17(4):56-63
9) Akiyama M, Takebayashi T, Morita T, et al. Knowledge, beliefs, and concerns about opioids, palliative care, and homecare of advanced cancer patients:a nationwide survey in Japan. Support Care Cancer 2012;20(5):923-31
精神依存(いわゆる「麻薬中毒*」)とは,自己制御できずに薬物を使用する,症状(痛み)がないにもかかわらず強迫的に薬物を使用するなどの行動によって特徴づけられる一次性の慢性神経生物学的疾患である(Ⅱ-4-1-13 精神依存・身体依存・耐性の項参照)。
オピオイドはがん疼痛に有効な薬剤であるが,がん患者にとってオピオイドの精神依存は大きな懸念であり,オピオイド導入への障害の一つの要因である。しかし,がん疼痛に対してオピオイドを使用した場合,精神依存が生じることはまれである。がん患者を対象にした4 つの研究における「精神依存」(研究によってaddiction など用いられた定義が異なっている)の発現率は,0/74 例(横断研究),0/148 例(後向き研究),2/100 例(後向き研究)であった。特に,オピオイドを使用したがん患者を追跡したコホート研究では,550 例中1 例(0.2%)がPortenoy のaddiction の基準を満たしたのみである(Højsted J)。
したがって,がん疼痛で精神依存を生じる可能性は非常に低く,がん疼痛に対して精神依存になる懸念がオピオイドの使用を控える理由とはならない。
*:麻薬中毒
医学的には「依存性とは関係なく,大量投与時あるいは慢性的に投与した時に現れる有害反応」,法律用語では「麻薬,大麻又はあへんの慢性中毒」をいう。
WHO 方式がん疼痛治療が普及する以前は,「痛みに対してオピオイドを定期的に投与する」ことは少なかった。したがって,がん疼痛に対して,「痛みが耐えられなくなってから」,全身状態の悪化している患者に「いよいよモルヒネの注射」を行うことが多かった。そのため,急激に血中濃度が上昇し,副作用を生じる場合もあったと推測される。このことが「モルヒネは死を早める」という印象を一般の人たちだけでなく医療従事者にも与えたと考えられる。しかし,WHO 方式がん疼痛治療法に基づき,痛みの強さに応じてオピオイドを定期的に鎮痛に必要な量で投与すれば,患者の生命予後に影響を与えないことを,3 つのコホート研究が示唆している。
Bercovitch らは,イスラエルの1 つの緩和ケア病棟の終末期がん患者453 例を対象に,オピオイドの使用量と入院から死亡までの生存期間との相関を検討した。入院中に投与された定期およびレスキュー薬のオピオイドの平均投与量をモルヒネ経口投与換算して300 mg/日以上の群と未満の群とでは,生存期間に有意な差はなかった(15 日 vs 14 日)。また,600 mg/日以上を使用した群,300〜599 mg/日を使用した群,300 mg 未満を使用した群の3 群で比較しても生存期間に有意差はなかった。したがって,オピオイドの投与量は生命予後に影響を与えないと結論した。
Morita らは,日本の1 つの緩和ケア病棟の終末期がん患者209 例を対象に,オピオイドの使用量と入院から死亡までの生存期間との相関を検討した。死亡前48時間にモルヒネ経口投与換算600 mg 以上を使用した群,240〜599 mg を使用した群,240 mg 未満を使用した群の3 群で比較して生存期間に有意差はなかった。また,オピオイドの投与量を生命予後の予測式に追加しても説明率の有意な上昇はみられなかったことから,オピオイドの投与量は生命予後に影響を与えないと結論した。
Portenoy らは,米国の在宅ホスピス13 プログラムでケアを受けた1,306 例のうちオピオイドの投与を受けた725 例(がん患者307 例,42%)を対象に,ホスピスプログラムに紹介されてから死亡までのオピオイドの最大使用量および最終のオピオイドの増加率と,生存期間との相関を検討した。モルヒネ静脈内投与換算200 mg/日以上を使用した群と,200 mg/日以下を使用した群とでは,モルヒネを大量使用しているほうが生存期間は長かった(47 日 vs 28 日)。生存期間を目的変数として,モルヒネ投与量を説明変数とした回帰分析を行うと,モルヒネ投与量は,原疾患の診断,意識水準,痛みの程度などと同様に生命予後の有意な説明要因であったが,どのモデルも説明率は10%未満であった。以上から,モルヒネの投与量は生命予後に相関したが,説明率は小さく,オピオイドを必要とした背景の要因(例えば呼吸困難など)の影響を受けている可能性があるため,「オピオイドが生命予後を短縮するかもしれない」との懸念はオピオイドによる鎮痛を差し控える理由にはならないと結論した。
以上より,既存の研究の対象は,専門的な緩和ケアを受けている終末期のがん患者に限られているものの,オピオイドの使用が生命予後を短縮するという根拠はない。「オピオイドを使用すると寿命が縮まる」懸念のために,鎮痛のためのオピオイドを差し控えることは妥当ではないと考えられる。
(林ゑり子)
1) Højsted J, Sjøgren P. Addiction to opioids in chronic pain patients:a literature review. Eur J Pain 2007;11:490-518
2) Bercovitch M, Waller A, Adunsky A. High dose morphine use in the hospice setting, A database survey of patient characteristics and effect on life expectancy. Cancer 1999;86:871-7
3) Morita T, Tsunoda J, Inoue S, et al. Effects of high dose opioids and sedatives on survival in terminally ill cancer patients. J Pain Symptom Manage 2001;21:282-9
4) Portenoy RK, Sibirceva U, Smout R, et al. Opioid use and survival at the end of life:a survey of a hospice population. J Pain Symptom Manage 2006;32:532-40
オピオイドの服薬指導の主な目的は,患者の抱えている誤解や懸念を解消しアドヒアランス*を高めること,痛みや副作用に対する適切な対処方法を習得させること,服薬指導時に得た薬物療法上の問題点などを多職種で共有し,その後の疼痛マネジメントに活かすことなどであり,これらを通じて個々の患者の痛みの軽減とQOL 向上に寄与することを目指すものである。
オピオイドに対する誤解や懸念は,がん疼痛治療を受ける患者やその家族にオピオイドの使用を躊躇させるなど,疼痛マネジメントの重大な障壁となる。実際,複数の系統的レビューや無作為化比較試験により,疼痛マネジメントについて患者教育を行うことは,痛みの改善に効果的であることが示唆されており,患者への情報提供や教育的支援は,がん疼痛治療の質を大きく左右すると考えられている。
オピオイドの服薬指導をどのように行うべきかについて,具体的な方法を比較検討した質の高い臨床試験は存在しない。したがって,実際に有効性が実証された教育プログラムを参考に,個々の患者に応じて複数の方法を組み合わせて患者教育を行うことになる。以下,先行研究の結果をふまえて,オピオイドの服薬指導の要点を示す。
*:アドヒアランス(adherence)
患者が主体となって治療方針の決定に参加し,その決定に従って治療を受けること。従来使われてきたコンプライアンス(遵守)よりも医療の主体を患者側に置いた考え方。
先行研究より,効果的なコミュニケーションは,患者の満足感,アドヒアランス,情報の想起や理解の促進,心理的ストレスの軽減などと関係することが示唆されている。服薬指導においても,良質なコミュニケーションに基づく医療者と患者との相互理解や信頼関係の構築が基本となる。医療者が患者とのラポールを形成するためには,基本的コミュニケーションスキルとして,温かさ,礼節,受容,傾聴,支持,肯定,保証および共感といった要素が重要である。特にがん患者においては,身体状態が日々変化し得ることを念頭に置き,個々の患者の状況やニーズにあわせて柔軟な対応を図るべきである。
オピオイドに関する説明に先立ち,痛みを緩和することの意義や痛みを我慢することの悪影響について伝え,患者・家族に除痛の必要性を認識してもらうことが重要である。痛みや治療効果の判定は,患者の主観的な訴えに基づいてなされるので,痛みの強さや性質を伝える方法を具体的に示し(「痛み日記」の記入など),医療者に積極的に痛みを伝えるように促す必要がある。誤解や懸念からオピオイドの使用に忌避感を抱いている患者に対しては,痛みに対してオピオイドを使用しても精神依存を生じることはなく,生命予後を短縮するという根拠もないことなどを説明する。その際,画一的な説明に終始するのではなく,患者の訴えを傾聴し,実際に心配していることを明確にし,その認識に至った背景など個々の患者のナラティヴ(語り)を尊重したうえで,正しい情報を提供し保証を与えることが望ましい。
疼痛マネジメントのための治療計画,オピオイドの使用方法,主な副作用とその対策などの詳細について,平易な言葉でわかりやすく説明する。
オピオイドの開始に際して,まず疼痛マネジメントにおける具体的な目標と治療計画の概要を説明する。
オピオイドの実際の使用方法として,がん疼痛のような持続的な痛みにおいては1 日を通じて痛みのない生活を送るために,鎮痛に必要なオピオイドの血中濃度(正確には効果部位濃度)を維持するよう,時刻を決めて一定間隔で使用することの重要性を理解してもらうことが必要である。
フェンタニル貼付剤を用いる場合は,貼付方法を具体的に指導するとともに,発熱や運動による体温上昇,貼付部位の熱源への接触により,吸収量が増大し過量投与となる危険性について注意喚起を行う。入浴する場合は,熱い温度での長時間の入浴は避けるよう伝える。呼吸抑制,意識障害などの症状がみられた場合は,速やかに医療者に連絡するよう患者のみならず家族にも指導する。
突出痛に対しては,患者にレスキュー薬の意義や使用方法を説明し,積極的な使用を促すことが重要である。突出痛への適切な対処が可能となると,自己効力感*の向上に繋がる。使用に際してはレスキュー薬の効果発現時間,持続時間および使用間隔についても情報提供しておくとよい。体動時痛などの予測可能な突出痛に対しては,事前にレスキュー薬を使用することで予防可能な場合があるので,適切と判断される場合は使用方法を十分に説明する。
患者自己調節鎮痛法(patient-controlled analgesia;PCA)を導入する場合は,PCA の目的や機器の機能を理解してもらうことで,患者自らその時々の状況に応じたレスキュー薬の投与が可能となる。機器の具体的な操作方法,ボーラス投与後の過量投与防止のためのロックアウト時間などの設定について情報提供を行う。
*:自己効力感(self―efficacy)
自分が,ある具体的な状況において,適切な行動を成功裡に遂行できるという予測および確信。
オピオイドの開始時には,予想される副作用とその対策についての説明をあらかじめ行う。十分な説明がなされていない状況で副作用が発現すると,患者の不安が助長されアドヒアランスを損なうことがある。オピオイドの副作用としては,頻度の高い悪心・嘔吐,便秘および眠気を中心に説明することが実際的である。
[悪心・嘔吐] 患者にとって悪心・嘔吐は最も不快な症状の一つである。オピオイド投与初期あるいは増量時に生じやすく,数日以内に耐性を生じ,症状が治まることが多いことを説明し,悪心時あるいは予防的に使用する制吐薬の服用方法について指導する。また,悪心・嘔吐が生じた際の詳しい状況を報告してもらうと対策が立てやすくなる。
[便 秘] 便秘はオピオイドを投与された患者に高頻度に起こり,重度の便秘は悪心・嘔吐の原因となる場合も多い。また,耐性形成がほとんど起こらないので,下剤の継続的な服用が必要であることを説明する。排便の習慣は個人差が大きいため,もともとの排便習慣と比較し,排便回数,量,硬さおよび排便時の不快感などの変化を報告するよう促すとともに,下剤の自己調節方法を具体的に指導する。
[眠 気] オピオイド投与初期あるいは増量時に出現することがある。耐性が速やかに生じ,数日以内に自然に軽減ないしは消失することが多い。多くの場合,鎮痛用量よりも投与量が上回ると眠気を生じやすいので,不快な眠気が続いたり,日常生活に支障を来す場合には報告するよう伝える。
[その他の副作用] その他の副作用としては,せん妄,呼吸抑制,口内乾燥,瘙痒感,排尿障害およびミオクローヌスなどが挙げられる。注意深く副作用を観察し,状況に応じて適宜説明を加えていく。
患者が生活を営む在宅においては,医療者の観察が行き届きにくい状況で服薬や薬剤管理が行われるため,患者のみならず家族や介護者にも十分な説明を行う。
在宅における医療用麻薬の管理上の要点は下記のとおりである。まず,医療用麻薬の他者への譲渡は禁止し,乳幼児や小児,ペットの手の届かない場所に保管する。特にフェンタニル貼付剤は,使用済み製剤中にもかなりの量の薬効成分が残存しており,誤って皮膚や粘膜に付着すると致死的となる場合もある。使用済み製剤は家庭ごみとして廃棄できるが,粘着面を内側に貼りあわせ,専用の廃棄袋に入れて封をするなど,小児等が手を触れないように配慮して廃棄する。さらに,不要となった医療用麻薬は,交付を受けた診療施設または保険調剤薬局に持参するよう指導する(Ⅱ-5-2-3 在宅医療での取り扱いについての項も参照)。
服薬指導の最後には,説明内容を要約し,患者の理解度,気掛かりや疑問の有無を確認する。情緒的なサポートを交えて患者自身が語りやすい雰囲気をつくる。その場で質問がない場合でも,気掛かりや疑問が生じた場合にいつでも質問できることを伝えておく。患者・家族に対して,最後まで責任をもって薬物療法にあたる意思を明示することが重要である。
患者の痛みやオピオイドについての理解は一度で得られるものではなく,継続的な情報提供や教育的支援が必要である。なお,説明内容の要点を平易な言葉でまとめた文書として交付することは,情報の想起や理解の促進に有効である。
個々の患者の痛みを改善しQOL 向上に寄与することを目指し,良質なコミュニケーションと薬物療法に関する専門的視点に基づいて,患者の抱えている苦痛に寄り添いながら服薬指導を展開していくことが重要である。
(安田俊太郎,伊勢雄也)