皮膚悪性腫瘍 〜診療ガイドライン
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基底細胞癌(BCC)
■解説
皮膚癌は白人を中心に世界的に急増傾向にあり,基底細胞癌(BCC)も例外ではない。欧米では緯度の差によりBCC の罹患率が明らかに異なり,紫外線の影響がその主因と考えられている。
オーストラリアとドイツの症例対照研究では,危険因子としての紫外線暴露とBCC 発生との因果関係が示されているが,サンスクリーン剤の使用や帽子着用による予防効果は証明されていない1, 2)。オーストラリアの中でも最も皮膚癌罹患率が高い地域の一つであるNambour において大規模な介入研究が行われた3)。健常人1,621 人を対象としてサンスクリーン剤使用群と非使用群に割り付けたところ,観察期間4.5 年の時点ではBCC の新規発生患者数,病巣数ともに有意差がみられなかった。しかし,彼らはその後,多発生存分析(multifailure survival analysis)の手法を用いてBCC が多発・続発するまでの時間因子を加味した解析を行い,統計学的な有意差には至らなかったものの,サンスクリーン剤使用群においてBCC の二次発生リスクが減少傾向を示したと報告している4)。ただし,Nambour におけるBCC の罹患率は人口10 万人対数千という高いレベルであり,この介入研究の結果を日本人にそのまま適用するのは困難である。
日本人においてBCC の発生に関する記述疫学データは乏しく,紫外線との関連は明確にはされていない5〜7)。一方,全国8 大学病院の共同で行われた症例対照研究では,小児期(10 歳未満)の帽子着用習慣は予防因子として有意に至らなかったが,戸外労働者はオッズ比4.78(95% CI 2.39 〜 9.59)と有意にBCC 発生リスクが高かった8)。
以上より,紫外線による健康被害は皮膚癌だけでなく白内障,免疫抑制による感染症などもあるため,過度の日光浴を避けるという指導は必要であるが,BCC の発生予防のみを目的とした紫外線防御を強く推奨するだけの疫学的根拠は乏しい。
文献
1) Kricker A, Armstrong BK, English DR, et al: Does intermittent sun exposure cause basal cell carcinoma? A casecontrol study in Western Australia, Int J Cancer, 1995; 60: 489-494.(エビデンスレベルⅣ)
2) Walther U, Kron M, Sander S, et al: Risk and protective factors for sporadic basal cell carcinoma: results of a two-centre case-control study in southern Germany. Clinical actinic elastosis may be a protective factor, Br J Dermatol, 2004; 151: 170-178.(エビデンスレベルⅣ)
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4) Pandeya N, Purdie DM, Green A, et al: Repeated occurrence of basal cell carcinoma of the skin and multifailure survival analysis: follow-up data from the Nambour Skin Cancer Prevention Trial, Am J Epidemiol, 2005; 161: 748-754.(エビデンスレベルⅣ)
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6) Nagano T, Ueda M, Suzuki T, et al: Skin cancer screening in Okinawa, Japan, J Dermatol Sci, 1999; 19: 161-165.(エビデンスレベルⅤ)
7) Chuang TY, Reizner GT, Elpern DJ, et al: Nonmelanoma skin cancer in Japanese ethnic Hawaiians in Kauai, Hawaii: an incidence report, J Am Acad Dermatol, 1995; 33: 422-426.(エビデンスレベルⅤ)
8) 尾藤利憲,市橋正光,神保孝一ほか:全国8 大学皮膚科の共同による皮膚癌の発症因子と予防因子の症例対照研究及び皮膚癌検診10 年間の結果,太陽紫外線防御研究委員会学術報告,2004; 14: 13-19. (エビデンスレベルⅣ)
CQ2
基底細胞癌の発生予防を目的とした脂腺母斑の切除は勧められるか
推奨度
C1
基底細胞癌(BCC)の発生予防のために脂腺母斑を切除した方がよいという十分なエビデンスは存在しない。ただし,本母斑は,中年以降になって2 次性に各種の付属器腫瘍を生じることがあるので,整容面も勘案して適当な時期に切除を考慮してもよい。
■解説
従来,脂腺母斑(類器官母斑)は基底細胞癌(BCC)をはじめとする種々の悪性腫瘍の発生母地となるため早期の切除が必要とされていた。しかし最近,従来「脂腺母斑上に生じたBCC」と診断された病変の多くが良性の毛芽腫である可能性が指摘されている1〜3)。近年の切除された脂腺母斑すべての病理学的検討(100 例以上の報告)でも,脂腺母斑上に生じたBCC は0〜2.2%と極めて低い発生率となっている1〜4)。これらの報告症例は年齢を問わずに集積されたものであり,その発生率は調査対象となった年齢に影響されるため注意が必要である。16 歳以下の症例を対象とした757 例の脂腺母斑の解析でもBCC の発生は0%と報告されており,小児期に悪性腫瘍が発症する危険性は極めて低いといえる5)。一方,切除した脂腺母斑651 例に5 例(0.8%)のBCC を認め,その平均年齢が12.5 歳(9.7〜17.4 歳)であったことから,予防的切除を推奨する報告もある6)。
以上より,脂腺母斑からBCC が生じる可能性は低く,予防的な見地から小児期にこれを切除することは強くは推奨できない。しかし,脂腺母斑には中年以降になって各種の付属器腫瘍を生じてくることが知られているので,整容面も勘案して適当な時期に切除を考慮してもよい。
文献
1) Cribier B, Scrivener Y, Grosshans E: Tumors arising in nevus sebaceus: A study of 596 cases, J Am Acad Dermatol, 2000; 42: 263-268.(エビデンスレベルⅤ)
2) Kaddu S, Schaeppi H, Kerl H, et al: Basaloid neoplasms in nevus sebaceus, J Cutan Pathol, 2000; 27: 327-337.(エビデンスレベルⅤ)
3) Munoz-Perez MA, Garcia-Hernandez MJ, Rios JJ, et al: Sebaceus naevi: a clinicopathologic study, J Eur Acad Dermatol Venereol, 2002; 16: 319-324.(エビデンスレベルⅤ)
4) Jaqueti G, Requena L, Sanchez Yus E: Trichoblastoma is the most common neoplasm developed in nevus sebaceus of Jadassohn: a clinicopathologic study of a series of 155 cases, Am J Dermatopathol, 2000; 22: 108-118. (エビデンスレベルⅤ)
5) Santibanez-Gallerani A, Marshall D, Duarte AM, et al: Should nevus sebaceus of Jadassohn in children be excised? A study of 757 cases, and literature review, J Craniofac Surg, 2003; 14: 658-660.(エビデンスレベルⅤ)
6) Rosen H, Schmidt B, Lam HP, et al: Management of nevus sebaceous and the risk of basal cell carcinoma: an 18-year review, Pediatr Dermatol, 2009; 26: 676-681.(エビデンスレベルⅣ)
■解説
基底細胞癌(BCC)は臨床症状が多様であり,臨床診断の精度を高めるために補助的情報を加えることが必要である。日本人では90%が色素性基底細胞癌であるため,臨床的に鑑別すべき疾患として,メラノーマをはじめとする悪性腫瘍や,色素細胞母斑,脂漏性角化症,脂腺増殖症,毛芽腫などの良性の色素性病変が挙げられる。
ダーモスコピーは皮膚科特有の優れた画像診断法の一つとして評価が得られている。本機器においては,広く色素性病変(上皮系・メラノサイト系),脈管性病変,出血性病変を対象に,診断精度を高める検討が加えられている。
ダーモスコピーでBCC を疑う病変を観察する場合,まずpigment network の有無を検討する。これが存在する場合は悪性黒色腫や色素細胞母斑などのメラノサイト系腫瘍を考える。Pigment network が認められない場合は,陽性所見である以下の6 項目の所見の有無を検討する。①ulceration(潰瘍化),②large blue-gray ovoid nests(灰青色類円形大型胞巣),③multiple blue-gray globules(多発灰青色小球),④multiple leaf-like areas(多発葉状領域),⑤spoke wheel areas(車軸状領域),⑥arborizing vessels(樹枝状血管)。これらの所見が一つでも見出された場合,BCC である確率は93〜100%と報告されている1, 2)。ダーモスコピーはBCCと,他の色素性腫瘍や非色素性病変との鑑別においても有益である1, 3〜7)。
文献
1) Menzies SW, Westerhoff K, Rabinovitz H, et al: Surface microscopy of pigmented basal cell carcinoma, Arch Dermatol, 2000; 136: 1012-1016.(エビデンスレベルⅣ)
2) 高木裕子,古賀弘志,斎田俊明ほか:ダーモスコピーによる基底細胞癌診断基準の日本人患者における有用性の検討,日皮会誌,2006; 116: 2234-2236.(エビデンスレベルⅣ)
3) 楊 達,鈴木 正,土田哲也ほか:基底細胞癌におけるデルマトスコピー所見の検討,日皮会誌,1998; 108: 1249-1256.(エビデンスレベルⅤ)
4) Peris K, Altobelli E, Ferrari A, et al: Interobserver agreement on dermoscopic features of pigmented basal cell carcinoma, Dermatol Surg, 2002; 28: 643-645.(エビデンスレベルⅣ)
5) Demirtasoglu M, Ilknur T, Lebe B, et al: Evaluation of dermoscopic and histopathologic features and their correlations in pigmented basal cell carcinomas, J Eur Acad Dermatol Venereol, 2006; 20: 916-920.(エビデンスレベルⅤ)
6) Scalvenzi M, Lemdo S, Francia MG, et al: Dermoscopic patterns of superficial basal cell carcinomas, Int J Dermatol, 2008; 47: 1015-1018.(エビデンスレベルⅤ)
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CQ4
臨床的に基底細胞癌が疑われる病変を,診断確定のために生検することが勧められるか
推奨度
B
詳細な臨床的評価とダーモスコピーによっても基底細胞癌と診断を確定できない病変については,生検を実施して診断を確定することが勧められる。
■解説
基底細胞癌(BCC)が疑われる病変については,詳細に臨床所見を評価することが大切である。BCC にはさまざまな臨床病型が存在するが,日本人のBCC の基本的臨床像は,表面の角化傾向が乏しい,平滑で透明感のある灰黒色の結節である。潰瘍辺縁部に小結節が配列することもある(pearly border)。蛇行状の毛細血管拡張を高率に伴うことも診断の参考になる。鑑別疾患としては,メラノーマ,付属器腫瘍,色素細胞母斑,脂漏性角化症などが挙げられる。また,BCC は多発することや家族性発生もあるので,病歴聴取と全身皮膚の診察も必要である1)〜3)。
無作為抽出した健常人群を熟練皮膚科医がダーモスコピーなしで診察した場合の皮膚癌の診断精度は59〜65%であった4)。アメリカの大学病院皮膚科医による臨床診断精度は70%であり,臨床診断のみでは診断の難しいケースが少なからずある5)。最近,導入されたダーモスコピーはBCC の診断にも極めて有用である(BCC-CQ3 参照)。臨床所見,ダーモスコピー所見からBCC の診断が確定的な場合には,生検を実施する必要はない。しかし,これらの臨床情報のみでは診断を確定できない病変は積極的に生検し,病理組織学的に診断を確定する。BCC は原則として転移しないので,部分生検を行っても予後を悪化させる危険性はない。
文献
1) Orengo IF, Salache SJ, Fewkes J, et al: Correlation of histologic subtypes of primary basal cell carcinoma and number of Mohs stages required to achieve a tumor-free plane, J Am Acad Dermatol, 1997; 37: 395-397.(エビデンスレベルⅣ).
2) Sexton M, Jones DB, Maloney ME: Histologic pattern analysis of basal cell carcinoma, Study of a series of 1039 consecutive neoplasms, J Am Acad Dermatol, 1990; 23: 1118-1126.(エビデンスレベルⅣ)
3) 石原和之:基底細胞癌 全国アンケートの集計と説明, Skin Cancer, 1994; 9: 80-83. (エビデンスレベルⅣ)
4) Kricker A, English DR, Randell PL, et al: Skin cancer in Geraldton, West Australia: a survey of incidence and prevalence, Med J Aust, 1990; 152: 399-407.(エビデンスレベルⅤ)
5) Presser SE, Taylor JR: Clinical diagnostic accuracy of basal cell carcinoma, J Am Acad Dermatol, 1987; 16: 988-990.(エビデンスレベルⅢ)
■解説
基底細胞癌(BCC)の治療の原則は外科的切除と考えられており,極めて有用なことが実証されている。本邦ではほとんど行われていないMohs 手術(術中にすべての切除断端を凍結切片で確認しながら手術を施行する)を除けば,他の治療法(放射線療法,凍結療法,電気掻爬など)に比べ有意に局所再発を抑制できる1, 2)。
頭頸部の4 cm 以下のBCC 347 例について外科的切除と放射線療法を比較した試験では,4 年後の再発率は外科的切除が0.7%であるのに対して放射線療法では7.5%となり,有意に外科的切除が優っていた3)。整容面でも外科的切除は優れており,良好例が外科的切除87%,放射線療法69%であった3)。他方,外科的切除と掻爬+凍結療法を比較した2 つの報告(0% vs. 6.25%)4),(8.4% vs. 19.6%)5)ではともに局所再発率に有意差はなかったとしているが,外科的切除を推奨している。
欧米からの多くの報告では,Mohs 手術が最もBCC の局所再発を抑制できる治療法として推奨されているが,日本ではMohs 手術はほとんど実施されていない。しかし,近年Mohs 手術と永久標本で断端を確認する外科的切除で, 初回治療例に関しては再発率に有意差がみられなかったとする報告がなされた6, 7)。以上のことから,本邦ではBCC の治療の第一選択は外科的切除である。
文献
1) Thissen MR, Neumann MH, Schouten LJ: A systematic review of treatment modalities for primary basal cell carcinomas, Arch Dermatol, 1999; 135: 1177-1183.(エビデンスレベル Ⅰ)
2) Bath FJ, Perkins W, Bong J, et al: Interventions for basal cell carcinoma of the skin, Cochrane Database Syst Rev, CD003412, 2007;(1).(エビデンスレベル Ⅰ)
3) Avril MF, Auperin A, Margulis A, et al: Basal cell carcinoma of the face: surgery or radiotherapy? Results of a randomized study, Br J Cancer, 1997; 76: 100-106.(エビデンスレベルⅡ)
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6) Smeets NW, Krekels GA, Ostertag JU, et al: Surgical excision vs Mohs’ micrographic surgery for basal-cell carcinoma of the face: randomised controlled trial, Lancet, 2004; 364: 1766-1772.(エビデンスレベルⅡ)
7) Mosterd K, Krekels GA, Nieman FH, et al: Surgical excision versus Mohs’ micrographic surgery for primary and recurrent basal-cell carcinoma of the face: a prospective randomised controlled trial with 5-years’ follow-up, Lancet Oncol, 2008; 9: 1149-1156.(エビデンスレベルⅡ)
CQ6
基底細胞癌の原発巣は,肉眼的辺縁から何mm 離して切除すべきか
低リスクの基底細胞癌
推奨度
A
低リスクの基底細胞癌は,4 mm の切除マージンが強く勧められる。
高リスクの基底細胞癌
推奨度
B
高リスクの基底細胞癌は,5〜10 mm の切除マージンが勧められる。
■解説
外科的治療は基底細胞癌(BCC)に対する最も確実な治療である(BCC-CQ5 参照)1)。適切な切除マージンを設定するためには,病型,組織像,大きさ,部位など再発率に影響するリスク因子を考慮しなければならない。切除マージンに関する研究は主に低リスク症例を対象に行われ,アウトカムとしては切除断端陽性率もしくは再発率が用いられる。
BCC は不規則な病変の拡がりを示すことがあり,注意深く切除しても1/3 の症例では切除断端近接となり,もしくは陽性となる。組織学的な拡がりに関しては,凍結切片を用いる手術による研究が行われている。それによると20 mm 以下の境界明瞭なBCC においては,切除マージン3 mm で85%の症例で腫瘍の完全切除が可能であった。さらに4 〜 5 mm のマージンをとれば,約95%の症例で腫瘍の残存はない。境界明瞭な小さなBCC でも,約5%において4 mm 以上の潜在的な病変の拡がりを認める2, 3)。BCC 91 例(多くが結節型)に対するパラフィン切片を用いた同様の研究報告でも,切除マージンを4 mm と仮定した場合の完全切除率は96%と算出している4)。顔面で10 mm 未満の境界明瞭な結節型BCC 134 例を対象にして切除マージンを1,2,3 mm に分けた比較試験では,切除断端陽性率はそれぞれ16,24,13%であり,低リスク症例であっても4 mm 以上のマージンは必要と結論づけている5)。また,切除マージンに関する89 論文からなるメタアナリシスが最近報告され,斑状強皮症型や再発例を除くと,切除マージン5,4,3,2 mm での断端陽性率はそれぞれ5,5,5,8%,再発率は0.39,1.62,2.56,3.96%であった6)。以上より,低リスク症例に対しては4 mm の切除マージンで高い完全切除率と治癒率が期待できる3, 6〜9)。
適切な切除マージンは組織型によっても異なり,斑状強皮症型では,3 mm の切除マージンで66%の完全切除率が得られ,5 mm では82%,13〜15 mm 離せば95%の完全切除率であった2)。このタイプは組織学的に病変の拡がりが大きく,正常皮膚を含めた十分な切除を行う必要がある。再発例では全体の5 年治癒率が83%であり,さらに原発巣の直径が15 mm 以上,20 mm 以上,30 mm 以上に区分して調査すると,各々治癒率は88,83,77%と低下する8, 10)。腫瘍径20 mm 以上のBCC の組織学的浸潤度を計測し,7 mm 以上の切除マージンを推奨した本邦からの報告もある11)。
他方高リスク部位である口唇,鼻,鼻周囲,眼瞼周囲,耳,被覆頭部では57〜82%まで治癒率が低下する7, 8, 10, 12, 13)。612 例の顔面高リスク症例(408 例の原発巣と204 例の再発例)に対して,標準的な外科的手術とMohs 手術を選択して比較追跡調査を行ったところ14, 15),手術療法における5 年再発率は原発巣(199 例)と再発巣(102 例)で各々4.1%,12.1%であった。その中で,切除マージン3 mm で設定された手術療法における初回切除の断端陽性率は原発巣で18%,再発巣で30%であった。高リスク症例に対しては,辺縁の切除範囲を十分に確保し,術中迅速病理検査や二期的手術を併用して再発率の低下を図るべきである11, 16〜18)。
文献
1) Avril MF, Auperin A, Margulis A, et al: Basal cell carcinoma of the face: surgery or radiosurgery? Results of a randomized study, Br J Cancer, 1997; 76: 100-106.(エビデンスレベルⅡ)
2) Breuninger H, Dietz K: Prediction of subclinical tumor infiltration in basal cell carcinoma, J Dermatol Surg Oncol, 1991; 17: 574-578.(エビデンスレベルⅣ)
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4) Thomas DJ, King AR, Peat BG: Excision margins for nonmelanotic skin cancer, Plast Reconstr Surg, 2003; 112: 57-63.(エビデンスレベルⅣ)
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7) Dubin N, Kopf AW: Multivariate risk score for recurrence of cutaneous basal cell carcinomas, Arch Dermatol, 1983; 119: 373-377.(エビデンスレベルⅣ)
8) Silverman MK, Kopf AW, Bart RS, et al: Recurrence rates of treated basal cell carcinomas. Part 3: Surgical excision, J Dermatol Surg Oncol, 1992; 18: 471-476.(エビデンスレベルⅣ)
9) Bart RS, Schranger D, Kopf AW, et al: Scalpel excision of basal cell carcinoma, Arch Dermatol, 1978; 114: 739-742.(エビデンスレベルⅣ)
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11) 広瀬寮二,小出 隆,宿輪哲生ほか:最大径20 mm を超える基底細胞癌の切除範囲の検討, Skin Cancer, 1994; 9: 189-193.(エビデンスレベルⅣ)
12) Ceilley RI, Anderson RL: Microscopically controlled excision of malignant neoplasms on and around eyelids followed by immediate surgical reconstruction, J Dermatol Surg Oncol, 1978; 4: 55-62.(エビデンスレベルⅤ)
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14) Smeets NW, Krekels GA, Ostertag JU, et al: Surgical excision vs Mohs’ micrographic surgery for basal-cell carcinoma of the face: randomized controlled trial, Lancet, 2004; 364: 1766-1772.(エビデンスレベルⅡ)
15) Mosterd K, Krekels GA, Nieman FH, et al: Surgical excision versus Mohs’ micrographic surgery for primary and recurrent basal-cell carcinoma of the face: a prospective randomised controlled trial with 5-years’ follow-up, Lancet Oncol, 2008; 9: 1149-1156.(エビデンスレベルⅡ)
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17) Orengo IF, Salache SJ, Fewkes J, et al: Correlation of histologic subtypes of primary basal cell carcinoma and number of Mohs stages required to achieve a tumor-free plane, J Am Acad Dermatol, 1997; 37: 395-397.(エビデンスレベルⅣ)
18) Thissen MR, Neumann MH, Schouten LJ: A systematic review of treatment modalities for primary basal cell carcinoma, Arch Dermatol, 1999; 135: 1177-1183.(エビデンスレベル Ⅰ)
CQ7
基底細胞癌はどの深さでの切除が勧められるか
推奨度
B
多くの場合,皮下脂肪織を十分含めて切除することが勧められるが,組織型が高リスク(斑状強皮症型,浸潤型,微小結節型)もしくは腫瘍径が大きい場合にはより深部までの切除を要することがある。
■解説
基底細胞癌(BCC)の外科的切除において切除マージンを設定する際には,側方であれば皮疹の臨床的境界を見極めた上でそこから4〜10 mm 離して皮切することが勧められる(BCC-CQ6 参照)。しかし,深部方向については基準とすべき境界がないため,術前の切除範囲設定に苦慮することが多い。超音波検査による深部境界の評価もある程度は有用である。
BCC の深部浸潤を予測する因子としては,組織型と腫瘍径が挙げられる1)。組織型別にみると,通常の結節型のBCC の場合であっても33%は真皮内に留まらずに皮下へ浸潤するが2),Mohs 手術のデータでは78〜89%の症例が皮下脂肪織までの除去で完全切除に至っている3, 4)。他方,高リスクな組織型とされる浸潤型,微小結節型,斑状強皮症型の3 型での皮下浸潤率はいずれも50%を超えており2),前二者ではMohs 手術において皮下脂肪織レベルでの除去で完全切除できた症例は半数程度にすぎない3, 4)。また,51 例の斑状強皮症型BCC の検討では,7 例(14%)に軟骨膜,筋層などへの深部浸潤がみられた5)。
組織型以外にBCC の深部浸潤に影響する因子としては腫瘍径がある1)。腫瘍径が大きければ深部方向への組織学的浸潤subclinical extension も大きいので,それを考慮に入れた切除深度の設定が必要となる。また,BCC の好発部位である鼻部においては,鼻翼および鼻翼溝では筋層まで浸潤する例が多く,粘膜のみを残すか,場合によっては全層切除を要する6)。
以上より,BCC の完全除去に必要な切除深度を一律に規定することはできないが,結節型,表在型では脂肪織を十分含める深さで切除すれば,多くの場合で根治が期待できる。しかし,腫瘍径の大きな症例では脂肪織全層,または下部組織も含めた切除を要する場合がある。高リスク組織型である浸潤型,微小結節型,斑状強皮症型については,少なくとも脂肪織全層までの切除が必要であり,下床の筋層,軟骨等の合併切除を要する確率は結節型よりも明らかに高い。下床断端を確認するには術中迅速病理検査を併用するか,即時再建を行わず,完全切除を組織学的に確認してからの二期的手術とする方法も有用である。
文献
1) Takenouchi T, Nomoto S, Ito M: Factors influencing the linear depth of invasion of primary basal cell carcinoma, Dermatol Surg, 2001; 27: 393-396.(エビデンスレベルⅣ)
2) 竹之内辰也,山田 聰,野本重敏ほか:基底細胞癌の組織型と深部浸潤,臨皮,2000; 54: 481-484.(エビデンスレベルⅣ)
3) Hendrix JD Jr, Parlette HL, et al: Duplicitous growth of infiltrative basal cell carcinoma: Analysis of clinically undetected tumor extent in a paired case-control study, Dermatol Surg, 1996; 22: 535-539.(エビデンスレベルⅣ)
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6) Terashi H, Kurata S, Hashimoto H, et al: Adequate depth of excision for basal cell carcinoma of the nose, Ann Plast Surg, 2002; 48: 214-216.(エビデンスレベルⅤ)
■解説
白人に生じる基底細胞癌(BCC)の多くは無色素性で,病理学的にも高リスク型の頻度が比較的高い。そのような背景から,色素性で低リスク病理型の多い本邦のBCC に比べ,術後再発率が高い。したがって,欧米ではMohs 手術(切除範囲を最小にし,かつ再発率を抑える手術法。術中にすべての切除断端を凍結切片で確認する手法。2 mm マージンから始め,2 mm ずつ追加が一般的。高度な技術と熟練したスタッフが必要。)が最も低い再発率を示し,推奨されている1, 2)。本邦ではMohs 手術はほとんど行われていないが,本邦での外科的切除症例(切除マージン3〜10 mm,永久標本で断端確認)と,米国でのMohs 手術症例を比較した報告がある(患者背景に関して,腫瘍色素の有無が81% vs. 20%以外は有意差なし)。切除範囲がMohs 手術4.6 mm に対して,外科的切除5.3 mm と有意に大きかったが,再発率は差がなかった3)。欧米でもMohs 手術よりも断端の確認箇所が少ない,本邦で行われるような術中凍結切片での断端確認の報告もある。その確認方法が報告毎に異なっているものの,切除面のすべてを検討するen face section technique を用いている報告が多い。臨床的境界から2 mm マージンで切除し全側方断端と中央部の深部断端を確認した術中迅速法を検討した報告では,高リスク症例の初発例で21%,再発例では45%という高い断端陽性率を示し,高リスク,再発症例に対しては術中迅速を併用すべきであると結論づけている4)。557 例を検討した報告では,術中長軸,短軸の4 方向で断端確認し,陽性であれば側方切除面全体の凍結標本を検討するという方法で,Mohs 手術に匹敵する再発率低下を達成できたとしている5)。眼囲の腫瘍で切除面のすべてを術中に検討する方法も再発率は低かった6)。永久標本を用いた術後病理検査による切除断端の確認によって,初回治療例ではMohs 手術と同等の低い再発率が示されているが,再発例では5 年後の再発率に関して明らかにMohs 手術の成績が良好であった7, 8)。
以上から,BCC,特に高リスク病変(再発,病理型,発症部位)の手術においては,術中凍結切片による切除断端の確認が推奨されるが,確認は可能な限り切除面の多数の部位を行うことが必要である。ただし,切除後開放創として,永久標本での断端確認後に再建する二期的手術に関してはBCC-CQ9 を参照。
文献
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■解説
基底細胞癌(BCC)の外科的治療においては,臨床的辺縁を越えた組織学的浸潤(subclinical extension)を完全に含めた腫瘍切除が必要である。欧米で広く行われているMohs 手術は,正常組織の犠牲を最小限にしながら全切除断端面の腫瘍消失を確認する手法であるが,切除時間の延長,専任の技師が必要などの事情から,欧米と比較して圧倒的に皮膚癌罹患数の少ない本邦での普及は難しい。
Mohs 手術の代替法として,ホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いて切除断端の組織診断を行い,完全切除を確認した上で二期的に欠損の再建を行う手術法が,欧米においても「staged surgery」や「slow Mohs surgery」などの名称で報告されている。顔面BCC 279 例(初発191 例,再発88 例)に対する二期的手術の再発率は平均5 年観察で3%1),頭頸部BCC 281 例で3.6%2)と示されている。高リスク部位に対象を絞った報告もみられ,眼囲BCC 93 例(初発86 例,再発7 例)に対する5 年再発率は初発例で1.2%,再発例で12.5%3),眼囲結節・潰瘍型BCC 31 例では平均3 年観察で再発率0%4),鼻部BCC 17 例に対して観察期間は2 年程度であるが再発率0%5)であった。また,slow Mohs と称して,通常のMohs 手術に準じて切り出した永久標本による診断後に再建を行った報告では,高リスク症例1,085 例での5 年再発率2.8%6),眼囲278 例に対しては0.54%7)であった。本邦からも主に顔面正中部のBCC 27 例を対象にした二期的手術の報告があり,2 年半〜9 年の観察で再発を認めていない8)。Mohs 手術もしくは術中迅速病理検査を併用した外科的切除との比較試験は行われていないが,いずれの二期的手術の報告も高リスク症例を対象にしていながら,Mohs 手術と遜色のない治療成績を示している。
二期的手術のメリットとしては,特殊な技術を要さないこと,永久標本による組織診断は断端確認だけでなく,他の皮膚腫瘍との鑑別の上でも正確であることが挙げられる。一方,複数回の手術を要すること,切り出し方にもよるがMohs 手術のような完全な断端確認はできないことがデメリットとなる。
以上より,高いレベルでのエビデンスは乏しいものの,高リスクBCC に対する永久標本を用いた二期的手術は,Mohs 手術が普及しにくい本邦においては推奨される手法である。
文献
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CQ10
手術で切除断端陽性の基底細胞癌に術後の追加治療を行うことは勧められるか
推奨度
B
高リスクの基底細胞癌は断端陰性になるように再切除を行うことが勧められる。不完全切除例で手術が困難かもしくは希望しない患者に対しては,放射線治療を考慮してもよい。
■解説
高リスク部位の基底細胞癌(BCC)においては,十分な切除マージンが確保できず,組織学的に腫瘍の残存が指摘される場合がある。この場合は不完全切除のBCC と定義され,再発のリスクも高く,追加治療を検討する必要がある。そこで実際に再発した症例も含めて(高リスク症例),追加治療を行うかどうかが検討される。不完全切除のBCC 43 例に再切除を行って組織学的に検討したところ,腫瘍細胞の残存はわずかに7%であったという報告がある1)。他方,78 例の不完全切除例をMohs 法で検討したところ,55%で腫瘍細胞の残存が認められたという報告もある2)。
報告されている不完全切除例の再発率については,不完全切除例60 例中の35 例(58%),34 例中の14 例(41%)であった。他方,再治療を行わなかった不完全切除例の3 分の2 以上で再発が認められなかったという報告もある。再発のリスクが高いのは,組織学的に腫瘍辺縁と深部端の両方に腫瘍細胞が残存している場合と,再発病巣に対してさらに不完全切除が行われた場合である。その研究によれば,腫瘍辺縁に残存すれば17%,深部断端陽性の場合は33%である。再発の多くは3 年以内に起こり,最初の5 年で82%,残り18%がその後の5 年に生じる3〜7)。
再発例および不完全切除の高リスクBCC に対しては以下のような対処法が考えられる。①再切除:速やかに追加治療を行う2〜4, 8)。これは外側辺縁のみに取り残しがあり,組織学的にも浸潤傾向がなく,さらに再発病巣でないこと,高リスク部位以外の症例に当てはまると考えられる9, 10)。速やかに再切除したBCC の10 年での非再発率は91%,臨床的に再発してからの切除後のそれは40%であった3)。残存病変の治療には二期的手術もしくは術中迅速病理検査を併用した通常の切除法が有効である。②放射線治療:適切な切除断端が確保されていない症例に対し術後早期に再切除や放射線療法を行うことで再発率を9%以下に抑えることができる11)。また,神経周囲浸潤が著明な症例,T4 症例,再発例に対しても術後放射線療法が考慮される。術後放射線療法のスケジュールとして,50 Gy/20 分割/4 週間または60 Gy/30 分割/6 週間が用いられる。③経過観察:残存病変があっても再発する確率が低いという理由から,もし深部断端陰性で活動性が低い組織型であれば,経過観察という選択肢も考えられる。しかし,このような保存的方針が適応となる対象患者の選択基準は不明である12)。
文献
1) Sarma DP, Griffing CC, Weilbaecher TG: Observation on the incompletely excised basal cell carcinomas, J Surg Oncol, 1984; 25: 79-80.(エビデンスレベルⅤ)
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■解説
基底細胞癌(BCC)は所属リンパ節転移や遠隔転移を生じることは稀であり,手術療法を中心とした局所療法によって90〜99%の症例が治癒する1〜4)。しかし,手術療法に伴う機能低下や整容性の低下が懸念される場合には放射線療法が行われ,90%以上の症例で局所制御が得られる1, 3〜7)。放射線療法は低侵襲で良好な成績を得ることができる治療法であるが,頻回の通院や二次発がんなどの問題もあり,遅発性有害事象を考慮し60 歳以上(または70 歳以上)の症例を中心に行うべきと考えられている8)。
BCC に対する治療法を直接比較したランダム化比較試験には,通常の切除とMohs 手術,手術と放射線療法,放射線療法と凍結療法を比較した試験などがあるが,試験デザインなどに問題点が指摘されており検証的試験としての位置付けは低い1, 4, 9〜11)。後ろ向き研究ではあるが良好な治療成績が得られていること,また患者に与える侵襲度や利便性などが考慮され主に手術療法が選択されるが,以下に示す条件に合致した場合には放射線療法が考慮される。
放射線療法を考慮すべき状況としては,腫瘍が大きく十分な切除断端が確保できない症例,T4 症例,再発を繰り返す症例,内科的理由により手術が困難な症例,手術拒否例,口唇や眼瞼,鼻,耳介周囲の腫瘍などが挙げられる3, 8, 12)。放射線療法の適応にあたっては悪性腫瘍を専門とする皮膚科医と放射線治療専門医による慎重な検討が重要である。現在では表在性腫瘍には主に電子線が用いられ,腫瘍の進展範囲や深さによっては超高圧X 線を組み合わせて治療する6)。過去の古い報告では1 回線量が高く短期間で照射を終了させるスケジュールが主に用いられていたが,1 回線量が高い場合には遅発性有害事象や整容性の低下が問題となる。NCCN *注)のガイドラインでは,2 cm 未満の腫瘍に対してはマージン1〜1.5 cm をつけた照射野で64 Gy/32 分割/6.4 週間,55 Gy/20 分割/4 週間,50 Gy/15 分割/3 週間,35 Gy/5 分割/1 週間のスケジュールが推奨されている。腫瘍径2 cm 以上の場合には1.5〜2.0 cm のマージンをつけた照射野で66 Gy/33 分割/6.6 週間と55 Gy/20 分割/4 週間のスケジュールが推奨されている。広範囲に照射する場合には1 回線量を2 Gy 程度に低下させたスケジュールが望ましい。
放射線療法の非適応としては,基底細胞母斑症候群,色素性乾皮症,疣贅状表皮発育異常症,強皮症をはじめとする膠原病,同部位に照射の既往がある症例などが挙げられ,放射線療法による二次発がんや重篤な有害事象が生じる可能性が高い(NCCN)。
*注)NCCN:National Comprehensive Cancer Network(Version 2. 2013)
文献
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CQ12
基底細胞癌の局所化学療法として5-FU 軟膏は勧められるか
推奨度
C1
低リスク部位の表在型基底細胞癌に対しては5-FU 軟膏が高い奏効率を示す。適応症例を厳選すれば,治療法として考慮してもよい。
■解説
基底細胞癌(BCC)に対する局所化学療法剤として,アメリカ食品医薬局(FDA)はチミジン合成阻害薬である5-FU 軟膏のみを承認している。過去40 年にわたる使用経験から,5-FU 局所治療は低リスク部位の表在型に限って適応があると考えられる。この場合は5% 5-FU 軟膏にて95%以上の治癒率が得られる1〜5)。表在型以外の組織型,再発例,高リスク部位については5-FU 軟膏による治癒率が低く,外用治療を行っても深部に腫瘍が残存する可能性が高い1〜4, 6〜8)。経表皮吸収を高めるためにphosphatidyl choline を基剤とした5-FU クリームの使用経験や,エピネフリン添加ゲルによる腫瘍内注入も試みられているが,十分なエビデンスはない4, 9, 10)。
一般には5-FU 局所投与は,5%製剤を1 日2 回,少なくとも3〜6 週間(臨床的反応によっては10 週間以上)継続する。十分な治療効果を得るためには,5-FU の濃度(1%のクリームないし溶液,2 ないし5%のクリーム,5%の溶液),使用頻度,ドレッシング法,臨床組織学的病型,患者のスキンタイプ,治療前後の日光照射の程度などの要因を考慮に入れる必要がある。
本剤の有害事象は第1 に投与部位における急性炎症反応である。局所の疼痛や熱感,紅斑・浮腫,浸出液を伴うびらん・潰瘍,二次感染が挙げられる。特に粘膜の近傍に塗布した場合は,これらの部位の感覚が鋭敏となるため注意が必要である。炎症反応自体は5-FU 外用の効果を示すものであり,むしろそれがみられないときは治療内容を変更しなければならない。第2 に炎症反応の治癒後に強い色素沈着が現れ,長期間にわたって美容的問題を生ずることがある。また高リスク部位に治療を施した場合の,肥厚性瘢痕も問題になる。その他に稀ではあるが,5-FU ないしその溶液に対するアレルギー性の接触皮膚炎,治療に伴う光線過敏症,一時的な爪甲剥離と爪甲萎縮,持続する血管拡張,薬剤性の類天疱瘡,虚血性心疾患,代謝酵素のジヒドロピリミジン脱水素酵素欠損症患者における全身毒性などが報告されている11)。
文献
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CQ13
基底細胞癌に対して凍結療法は勧められるか
推奨度
C1
結節型や表在型基底細胞癌に対しては凍結療法が再発率はやや高いものの,高い奏効率を示す。適応症例を厳選すれば,治療法として考慮してもよい。
■解説
凍結療法は簡便,安価で皮膚科施設ではどこでも行えるという利点がある一方,悪性腫瘍の再発率は高いと考えられている1)。
基底細胞癌(BCC)に対する凍結療法と放射線療法を比較したランダム化試験では1 年後再発率が凍結療法群39%,放射線療法群4%と報告されている2)〜4)。厚い病変では再発率が上がることが考えられたため,一旦病変を掻爬して薄くした後,凍結療法する方法が試みられている。外科的切除と掻爬後の凍結療法(凍結スプレーで2 サイクル)を比較した試験では1 年後再発率(手術0 %, 凍結6.25 %)(頭頸部, 表在型と結節型, 径2 cm 以下)5) と,5 年後再発率(手術8.4%,凍結19.6%)(表在型と結節型,径2 cm 以下)6)を比較した報告があり,ともに有意差はなかったとしているが,整容的結果を含め外科的切除が有益であると結論している。
表在型と結節型の両者を対象とした光線力学的療法photodynamic therapy(PDT)との比較試験で,1 年後の組織学的な再発率は凍結療法群15%,PDT 群25%で,10%の差はあるが有意水準には至らず,病型別にみても差は認められなかった7)。しかし凍結療法はPDT よりも治療後の整容面では有意に劣っていた。
報告者の多くが,凍結療法の対象を結節型および表在型のBCC としており,これら低リスク症例に限れば手術不能例では検討してもよいが,再発率,整容面を考慮すると強く推奨することはできない。安価で簡便な治療法であり,具体的には,液体窒素スプレーで最低2 回の凍結サイクルなどが推奨されている8)。しかし,境界不明瞭な斑状強皮症型,浸潤型や再発例など高リスク腫瘍に対してのエビデンスはなく,推奨できない。
文献
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4) Bath FJ, Perkins W, Bong J, et al: Interventions for basal cell carcinoma of the skin, Cochrane Database Syst Rev, 2007; CD003412.(エビデンスレベル Ⅰ)
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CQ14
基底細胞癌に対して光線力学的療法(photodynamic therapy; PDT)は勧められるか
表在型および結節型基底細胞癌
推奨度
C1
表在型および結節型基底細胞癌に対してはPDT が再発率はやや高いものの,高い奏効率を示す。適応症例を厳選すれば,治療法として考慮してもよい(2013 年12 月現在保険適用外)。
高リスクの基底細胞癌
推奨度
C2
高リスクの基底細胞癌に対してPDT は勧められない(2013 年12 月現在保険適用外)。
■解説
基底細胞癌(BCC)の標準治療は外科的切除であるが,非外科的治療として光線力学的療法(photodynamic therapy;PDT)が欧米を中心に導入され,本邦においても一部施設において行われている。光線感受性物質としてアメリカ,カナダ,日本では5-aminolevulinic acid(ALA)が,ヨーロッパ,オーストラリアではmethyl aminolevulinate(MAL)が現在用いられている。
BCC に対するALA-PDT の初期の臨床試験における完全奏効率は,表在型で80〜100%1〜4),結節型で10〜50%と報告されている1, 4)。大型例や多発例を対象とした表在型BCC の長期完全奏効率はそれぞれ78%,86%であった3)。
近年,他の治療法を対照としたランダム化比較試験が報告されるようになった5)。外科的切除を対照とした4 報告のうち,表在型BCC に対するMAL-PDT と外科的切除の比較試験での3 カ月完全奏効率はPDT 群92%に対して外科的切除群99%,奏効例の1 年後再発率はPDT 群9%,外科的切除群0%であった6)。結節型BCC に対するALA-PDT と外科的切除の比較は2 篇報告され,1 編は1 年完全奏効率が62% vs 79%で有意差に至らず7),もう1 編は3 年再発残存率で30% vs 2%でPDT では有意に治療効果が劣っていた8)。結節型BCC に対するMAL-PDT と外科的切除との比較試験では,5 年奏効維持率として76% vs 96%でやはり外科的切除の優位性が示されている9)。これら4 試験の内の2 つでPDT 群の方が整容面で優れていた。PDT と凍結療法の比較試験は2 編報告されており,いずれも再発率に有意差はみられなかったが,整容効果ではPDT が優れていた10, 11)。これらの臨床試験の結果を総括すると,PDT は外科的切除に比べて短期的な奏効はほぼ同等に得られるが,長期的な寛解維持効果は明らかに劣る。PDT と凍結療法とは治療効果はほぼ同等である。整容効果の点ではいずれの治療と比較してもPDT が優れることが示された。
日本人で大半を占める色素性BCC では,メラニンの存在により光線が吸収されるために有効性が劣る4)。その理由から,前述の6 つのランダム化比較試験のうち4 つにおいて色素性BCC は対象から除外されている。Itoh らはその点を考慮し,結節型BCC 16 病巣に対して掻爬+電気乾固療法とALA-PDT の併用療法を行い,14 病巣で臨床的な完全奏効を観察した12)。また,何川らは背部の表在型BCC 3 例と結節型BCC 2 例を対象としたALA-PDT 後の組織学的評価で,4 例の完全奏効と1 例の部分奏効を観察した13)。いずれの研究も長期観察はなされていないが,日本人でしかも色素性BCC を対象とした点では貴重な報告である。
以上より,BCC に対するPDT は長期的な根治性の点で外科的切除を上回るものではないが,大型例や多発例に対しての適応はある。しかし,日本人に多い色素性BCC を対象としたエビデンスが乏しいため,本邦ガイドラインとして現時点で高いグレードで推奨できる段階にはない。
文献
1) Wolf P, Rieger E, Kerl H: Topical photodynamic therapy with endogenous porphyrins after application of 5-aminolevulinic acid. An alternative treatment modality for solar keratoses, superficial squamous cell carcinomas, and basal cell carcinomas? J Am Acad Dermatol, 1993; 28: 17-21.(エビデンスレベルⅣ)
2) Soler AM, Angell-Petersen E, Warloe T, et al: Photodynamic therapy of superficial basal cell carcinoma with 5-aminolevulinic acid with dimethylsulfoxide and ethylendiaminetetraacetic acid: a comparison of two light sources, Photochem Photobiol, 2000; 71: 724-729.(エビデンスレベルⅡ)
3) Morton CA, Whitehurst C, McColl JH, et al: Photodynamic therapy for large or multiple patches of Bowen disease and basal cell carcinoma, Arch Dermatol, 2001; 137: 319-324.(エビデンスレベルⅣ)
4) Calzavara-Pinton PG: Repetitive photodynamic therapy with topical delta-aminolaevulinic acid as an appropriate approach to the routine treatment of superficial nonmelanoma skin tumours, J Photochem Photobiol B, 1995; 29: 53-57.(エビデンスレベルⅣ)
5) Bath FJ, Perkins W, Bong J, et al: Interventions for basal cell carcinoma of the skin, Cochrane Database Syst Rev, 2007; CD003412.(エビデンスレベル Ⅰ)
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7) Berroeta L, Clark C, Dawe R, et al: A randomized study of minimal curettage followed by topical photodynamic therapy compared with surgical excision for low-risk nodular basal cell carcinoma, Br J Dermatol, 2007; 157: 401-403.(エビデンスレベルⅡ)
8) Mosterd K, Thissen M, Nelemans P, et al: Fractionated 5-aminolaevulinic acid-photodynamic therapy vs. surgical excision in the treatment of nodular basal cell carcinoma: results of a randomized controlled trial, Br J Dermatol, 2008; 159: 864-870.(エビデンスレベルⅡ)
9) Rhodes L, de Lie M, Leifsdottir R, et al: Five-year followup of a randomized, prospective trial of topical methyl aminolevulinate photodynamic therapy vs surgery for nodular basal cell carcinoma, Arch Dermatol, 2007; 143: 1131-1136.(エビデンスレベルⅡ)
10) Wang I, Bendsoe N, Klinteberg CA, et al: Photodynamic therapy vs. cryosurgery of basal cell carcinomas: results of a phase Ⅲ clinical trial, Br J Dermatol, 2001; 144: 832-840.(エビデンスレベルⅡ)
11) Basset-Seguin N, Ibbotson S, Emtestam L, et al: Topical methyl aminolaevulinate photodynamic therapy versus cryotherapy for superficial basal cell carcinoma: a 5 year randomized trial, Eur J Dermatol, 2008; 18: 547-553.(エビデンスレベルⅡ)
12) Itoh Y, Henta T, Ninomiya Y, et al: Repeated 5-aminolevulinic acid-based photodynamic therapy following electro-curettage for pigmented basal cell carcinoma, J Dermatol, 2000; 27: 10-15.(エビデンスレベルⅣ)
13) 何川宇啓,福田知雄:LED 光源を用いたBCC に対するPDTの検討, Skin Cancer, 2009; 24: 442-449.(エビデンスレベルⅤ)
CQ15
基底細胞癌に対してイミキモド外用は勧められるか
推奨度
C1
表在型基底細胞癌に対しては5%イミキモドクリームが再発率はやや高いものの,高い奏効率を示す。適応症例を厳選すれば,治療法として考慮してもよい(2013 年12 月現在保険適用外)。
■解説
イミキモドは樹状細胞やマクロファージなどに発現しているtoll-like receptor 7 に直接結合し,自然免疫を活性化する日光角化症と尖圭コンジローマ治療薬である。基底細胞癌(BCC)ではプラセボとの比較試験が終了しており,米国で行われた試験では,表在型BCC に対し6 週間毎日または5 回/ 週の外用で,それぞれ81%,79%の病理学的消失率を示している1)。欧州でも同様の試験が行われ,表在型BCC に対し6 週間連日の外用で,80%の病理学的消失率を示している2)。5 回/ 週の外用治療後12 週後で臨床的消失を認めた163 例(病変消失89.6%,全182 例)のうち,5 年後までに臨床的に再発したのは18 例で,全症例の5 年後概算奏効率は77.9%と高い奏効率を維持していた3)。同様の5 年間の長期奏効率を示した報告もある4)。
結節型では12 週間連日1 回外用で76%(16/21)の奏効率を示したとする報告もある5)が,8 週または12 週の連日外用で病理学的消失率は2/3 以下であったことから治療後の全切除生検が必要と結論した報告6),Mohs 手術前の術前治療として施行した場合も完全消失率は42%であった報告7)など単独治療の限界を示すものが多く,結節型への適用は現時点では推奨できない。やはり腫瘍の厚みが増すにつれ奏効率が低下するようである8)。一方,掻爬・電気凝固後に使用すれば有用であったという報告や9),イミキモド外用数週間後に凍結療法を施行し,さらに数週間外用を続けるという方法で,再発例含む21 例全例で臨床的消失,18 カ月後までの観察で1 例のみに再発を認めたとの報告もある10)。
有害事象としては紅斑,びらん,潰瘍,局所刺激感などの局所反応が主体であり,安全に使用できるが,塗布部位の色素脱出の報告が多く8),本邦では問題になる可能性がある。
以上より,表在型BCC に限定すれば,5%イミキモドクリームの6 週間,5〜7 回/ 週の外用は有用かつ安全であり,手術が困難な症例においては考慮されてよい。
文献
1) Geisse J, Caro I, Lindholm J, et al: Imiquimod 5% cream for the treatment of superficial basal cell carcinoma: results from two phase Ⅲ, randomized, vehicle-controlled studies, J Am Acad Dermatol, 2004; 50: 722-733.(エビデンスレベルⅡ)
2) Schulze HJ, Cribier B, Requena L, et al: Imiquimod 5% cream for the treatment of superficial basal cell carcinoma: results from a randomized vehicle-controlled phase Ⅲ study in Europe, Br J Dermatol, 2005; 152: 939-947.(エビデンスレベルⅡ)
3) Gollnick H, Barona CG, Frank RG, et al: Recurrence rate of superficial basal cell carcinoma following treatment with imiquimod 5% cream: conclusion of a 5-year longterm follow-up study in Europe, Eur J Dermatol, 2008; 18: 677-682.(エビデンスレベルⅣ)
4) Quirk C, Gebauer K, De’Ambrosis B, et al: Sustained clearance of superficial basal cell carcinomas treated with imiquimod cream 5%:results of a prospective 5-year study, Cutis, 2010; 85: 318-324.(エビデンスレベルⅣ)
5) Shumack S, Robinson J, Kossard S, et al: Efficacy of topical 5% imiquimod cream for the treatment of nodular basal cell carcinoma: comparison of dosing regimens, Arch Dermatol, 2002; 138: 1165-1171.(エビデンスレベルⅡ)
6) Eigentler TK, Kamin A, Weide BM, et al: A phase Ⅲ, randomized, open label study to evaluate the safety and efficacy of imiquimod 5% cream applied thrice weekly for 8 and 12 weeks in the treatment of low-risk nodular basal cell carcinoma, J Am Acad Dermatol, 2007; 57: 616-621.(エビデンスレベルⅡ)
7) Butler DF, Parekh PK, Lenis A: Imiquimod 5% cream as adjunctive therapy for primary, solitary, nodular nasal basal cell carcinomas before Mohs micrographic surgery: a randomized, double blind, vehicle-controlled study, Dermatol Surg, 2009; 35: 24-29.(エビデンスレベルⅡ)
8) Bath-Hextall FJ, Perkins W, Bong J, et al: Interventions for basal cell carcinoma of the skin, Cochrane Database Syst Rev, 2007; CD003412.(エビデンスレベル Ⅰ)
9) Spencer JM: Pilot study of imiquimod 5% cream as adjunctive therapy to curettage and electrodesiccation for nodular basal cell carcinoma, Dermatol Surg, 2006; 32: 63-69.(エビデンスレベルⅡ)
10) Gaitanis G, Nomikos K, Vava E, et al: Immunocryosurgery for basal cell carcinoma: results of a pilot, prospective, open-label study of cryosurgery during continued imiquimod application, J Eur Acad Dermatol Venereol, 2009; 23: 1427-1431.(エビデンスレベルⅣ)
■解説
一度再発した基底細胞癌(BCC)は,初回治療例よりも50%以上高い再発リスクを有するとされる1)。再発をきたしやすい因子は,病変の進展が臨床的に不明瞭,活動性の高い組織型,瘢痕組織での不規則・多発性の浸潤,などである。
再発性BCC を対象とした臨床研究としては,外科的切除102 例とMohs 手術100 例とのランダム化比較試験が行われている2)。5 年再発率は外科的切除群で12.1%,Mohs 手術群2.4%で,Mohs 群が有意に優れていた(p = 0.015)。また,非ランダム化比較試験ではあるが,再発性BCC 97 例を対象として外科的切除,Mohs 手術(固定法),放射線療法の比較を行った試験では,5 年以上の観察期間におけるそれぞれの再発率は5,12,11%と報告されている3)。オーストラリアにおける数千例規模のMohs 手術データベースによれば,再発性BCC に対するMohs 手術の5 年再発率は4%である4)。外科的切除後に,パラフィン包埋永久標本で断端陰性を確認してから再建を行う二期的手術の再発性BCC に対する治療成績は,5 年再発率で2.3%5),4.7%6)と報告されている。
非手術的な治療の報告としては,いずれも比較試験ではないが,放射線療法7, 8),凍結療法9),光線力学的療法10),イミキモド外用療法11)によるものがある。放射線療法では中央観察期間57 カ月での再発率9.8%7),平均42 カ月で8.8%8)と報告されている。凍結療法では再発率3.6%との報告があるが,その約半数の症例は観察期間が2 年以内と短い9)。また,放射線治療後の残存・再発に対して光線力学的療法を施行した報告での完全奏効率は80%以上と示されているが,症例数がやや少ない10)。これらはいずれも欧米からの報告であり,再発に至った前治療の内容としては電気凝固術,放射線療法,凍結療法が比較的多い。本邦においてはBCC の初期治療としてほぼ外科的切除のみが行われているのが現状であるため,これらの背景因子の違いを考慮する必要がある。切除後再発BCC 34 例に対して5%イミキモドクリームを週3 回,6 週間外用した最近の報告での3 年再発率は29.4%であり11),推奨できるレベルではない。
以上を総合すると,再発性BCC に対しては外科的切除かMohs 手術が推奨されるが,本邦においては種々の理由でMohs 手術の導入は困難な面があるので,本邦ガイドラインとしては外科的切除(特に二期的手術)を第一選択の治療法として推奨する。しかし高齢,合併症等の理由で手術が困難な症例に対しては,放射線療法,凍結療法等の非手術的治療の適応も考慮される。
文献
1) Silverman MK, Kopf AW, Bart RS, et al: Recurrence rates of treated basal cell carcinomas. Part 3: Surgical excision, J Dermatol Surg Oncol, 1992; 18: 471-476.(エビデンスレベルⅣ)
2) Mosterd K, Krekels GA, Nieman FH, et al: Surgical excision versus Mohs’ micrographic surgery for primary and recurrent basal-cell carcinoma of the face: a prospective randomised controlled trial with 5-years’ follow-up, Lancet Oncol, 2008; 9: 1149-1156.(エビデンスレベルⅡ)
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5) Niederhagen B, von Lindern JJ, Bergé S, et al: Staged operations for basal cell carcinoma of the face, Br J Oral Maxillofac Surg, 2000; 38: 477-479.(エビデンスレベルⅣ)
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7) Wilder RB, Shimm DS, Kittelson JM, et al: Recurrent basal cell carcinoma treated with radiation therapy, Arch Dermatol, 1991; 127: 1668-1672.(エビデンスレベルⅣ)
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9) Kuflik EG, Gage AA: Recurrent basal cell carcinoma treated with cryosurgery, J Am Acad Dermatol, 1997; 37: 82-84.(エビデンスレベルⅣ)
10) Soler AM, Warloe T, Tausjo J, et al: Photodynamic therapy of residual or recurrent basal cell carcinoma after radiotherapy using topical 5-aminolevulinic acid or methylester aminolevulinic acid, Acta Oncol, 2000; 39: 605-609.(エビデンスレベルVI)
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■解説
基底細胞癌(BCC)の治療を行った患者の経過観察法に関しては,その頻度や期間などの明確なコンセンサスはない。最近では低リスク症例で観察期間を短縮する報告もあるが,高リスク症例では従来通り5 年間の経過観察が勧められている1)。その主な目的は腫瘍の再発および新規病変の早期発見と治療にある。一般的には,術後の初年度は6 カ月ごとに,2〜3 年間は1 年ごとに経過を観察する。
第一の腫瘍の局所再発は,約50%が最初の2 年間に,66%が3 年間に,80%が5 年までに出現する2)。再発腫瘍の検出については,視診,触診,さらに患者の感覚変化などに注意し,疑わしい部位は積極的に生検で確認する必要がある。
第二の新規病変に関しては,1 つのBCC が発生した患者は他の皮膚癌や別のBCC を生じるリスクが高い3)。いずれも白色人種のデータであるが,初期治療後に引き続き有棘細胞癌を発症するリスクは5〜10%であり,メラノーマを発症するリスクは一般人に比べて約2〜4 倍と考えられている。さらに特筆すべき点は,1 つのBCC を発症した患者の約20%が1 年以内に,40%が5 年以内に別のBCC を発症する事実である4〜9)。複数のBCC を発症した患者はさらにリスクが上昇し,特に色白の肌(fair skin type)ではよりその傾向が強い。最初の2 年以内に最もリスクが高いが,年次ごとのリスクは5 年間を通して,一般人の10〜12 倍にもなる7)。早期に新規病変を発見することで,確実な手術治療が可能となり,代替療法も選択できる。治療による整容的・機能的側面も考えれば,治療に伴う副次的作用を軽減するため,早期の対処が望ましい。
文献
1) McLoon NM, Tolland J, Walsh M: Follow up basal cell carcinoma: an audit of current practice, J Eur Acad Dermatol Venereol, 2006; 20: 698-701.(エビデンスレベルⅣ)
2) Rowe DE, Carroll RJ, Day CL: Long-term recurrence rates in previously untreated(primary) basal cell carcinoma: implications for patient follow up, J Dermatol Surg Oncol, 1989; 15: 315-328.(エビデンスレベル Ⅰ)
3) 武石恵美子,土居剛士,佐藤伸一ほか:基底細胞癌術後フォローアップ期間に関する検討, Skin Cancer, 2005; 20: 291-295.(エビデンスレベルⅣ)
4) 村田洋三,熊野公子:基底細胞癌の複数発生について, Visual Dermatology, 2003; 2: 834-837.(エビデンスレベルⅣ)
5) Karagas MR, Stukel TA, Greenberg ER, et al: Risk of subsequent basal cell carcinoma and squmous cell carcinoma of the skin among patients with prior skin cancer. Skin Cancer Prevention Study Group, JAMA, 1992; 267: 3305-3310.(エビデンスレベルⅣ)
6) Robinson JK: Risk of developing another basal cell carcinoma. A 5-year prospective study, Cancer, 1987; 60: 118-120.(エビデンスレベルⅣ)
7) Marghoob A, Kopf AW, Bart RS, et al: Risk of another basal cell carcinoma developing after treatment of a basal cell carcinoma, J Am Acad Dermatol, 1993; 28: 22-28.(エビデンスレベルⅣ)
8) Schreiber MM, Moon TE, Fox SH, et al: The risk of developing subsequent nonmelanoma skin cancers, J Am Acad Dermatol, 1990; 23: 114-118.(エビデンスレベルⅣ)
9) Schinstine M, Goldnman GD: Risk of synchronous and metachronous second nonmelanoma skin cancer when referred for Mohs micrographic surgery, J Am Acad Dermatol, 2001; 44: 497-499.(エビデンスレベルⅣ)
BCC CQ1〜CQ17 一覧
CQ | 推奨度 | 推奨文 | |
---|---|---|---|
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C1 | 基底細胞癌の発生予防のための紫外線防御を考慮してもよいが,日本人に対する有益性は不明である。 | |
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C1 | 基底細胞癌(BCC)の発生予防のために脂腺母斑を切除した方がよいという十分なエビデンスは存在しない。ただし,本母斑は,中年以降になって2 次性に各種の付属器腫瘍を生じることがあるので,整容面も勘案して適当な時期に切除を考慮してもよい。 | |
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A | 基底細胞癌はダーモスコピーにおいて特徴的所見を呈し,十分な精度の画像検査として強く推奨される。 | |
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B | 詳細な臨床的評価とダーモスコピーによっても基底細胞癌と診断を確定できない病変については,生検を実施して診断を確定することが勧められる。 | |
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A | 基底細胞癌の治療の第一選択として強く勧められる。 | |
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低リスクの基底細胞癌 | A | 低リスクの基底細胞癌は,4mm の切除マージンが強く勧められる。 |
高リスクの基底細胞癌 | B | 高リスクの基底細胞癌は,5〜10mm の切除マージンが勧められる。 | |
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B | 多くの場合,皮下脂肪織を十分含めて切除することが勧められるが,組織型が高リスク(斑状強皮症型,浸潤型,微小結節型)もしくは腫瘍径が大きい場合にはより深部までの切除を要することがある。 | |
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B | 再発症例や高リスク組織型の基底細胞癌においては,凍結切片による術中迅速病理検査による切除断端の確認が勧められる。 | |
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B | 高リスクの基底細胞癌に対しては,永久標本により断端陰性を確認した上で再建する二期的手術は勧められる。 | |
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B | 高リスクの基底細胞癌は断端陰性になるように再切除を行うことが勧められる。不完全切除例で手術が困難かもしくは希望しない患者に対しては,放射線治療を考慮してもよい。 | |
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B | 機能や整容性を考慮した場合,放射線療法は基底細胞癌の根治治療の一つとして勧められる。 | |
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C1 | 低リスク部位の表在型基底細胞癌に対しては5-FU軟膏が高い奏効率を示す。適応症例を厳選すれば,治療法として考慮してもよい。 | |
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C1 | 結節型や表在型基底細胞癌に対しては凍結療法が再発率はやや高いものの,高い奏効率を示す。適応症例を厳選すれば,治療法として考慮してもよい。 | |
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表在型および結節型基底細胞癌 | C1 | 表在型および結節型基底細胞癌に対してはPDT が再発率はやや高いものの,高い奏効率を示す。適応症例を厳選すれば,治療法として考慮してもよい(2013年12 月現在保険適用外)。 |
高リスクの基底細胞癌 | C2 | 高リスクの基底細胞癌に対してPDT は勧められない(2013 年12 月現在保険適用外)。 | |
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C1 | 表在型基底細胞癌に対しては5%イミキモドクリームが再発率はやや高いものの,高い奏効率を示す。適応症例を厳選すれば,治療法として考慮してもよい(2013 年12 月現在保険適用外)。 | |
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A | 再発した基底細胞癌に対しては,外科的切除が強く推奨される。 | |
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C1 | 定期的な経過観察を考慮してもよいが,その頻度や期間についての基準は示されていない。 |
付3 基底細胞癌の再発に対する高リスク因子
部位/ 腫瘍径 | 高リスク部位(頬・前額以外の顔,外陰,手,足)で6 mm 以上 |
中リスク部位(頬,前額,頭,頸部,前脛骨部)で10 mm 以上 | |
低リスク部位(体幹,四肢)で20 mm 以上 | |
境界 | 不明瞭 |
再発歴 | あり |
免疫抑制状態 | あり |
局所放射線治療歴 | あり |
組織型 | 斑状強皮症型,硬化型,浸潤型,微小結節型 |
神経周囲浸潤 | あり |
* 上記の一つでも該当する場合は高リスク群とし,一つも該当しない場合のみ低リスク群とする
(NCCN:Clinical practice guideline in oncology. Basal cell and squamous cell skin cancers. V.2. 2013, BCC-A より一部改変)